裁判員制度の施行状況等に関する検討会(第3回)議事録 第1 日 時   平成31年3月28日(木)午後1時30分から午後3時26分まで 第2 場 所   法務省第1会議室 第3 出席者    (委 員)大澤裕,大沢陽一郎,小木曽綾,島田一,菅野亮,武石恵美子,堀江慎司,山根香織,横田希代子,和氣みち子(敬称略)    (事務局)保坂和人大臣官房審議官,大原義宏刑事局刑事課長,東山太郎刑事局刑事法制管理官,是木誠大臣官房付兼企画調査室長,宮崎香織刑事局参事官    (その他)戸苅左近最高裁判所事務総局刑事局第二課長 第4 議 題 1 裁判員制度の運用における法曹三者の取組について   2 その他 第5 配付資料   ・最高裁判所説明資料   ・島田委員説明資料   ・菅野委員説明資料   ・横田委員説明資料 第6 議 事 ○宮崎参事官 ちょうど予定の時刻となりましたので,ただ今から裁判員制度の施行状況等に関する検討会の第3回会合を開催いたします。 ○大澤座長 本日は皆様,年度末のお忙しいところ,お集まりいただきありがとうございます。   本日は,全ての委員に御出席をいただいております。   それでは,まず,事務当局から資料について説明をお願いいたします。 ○宮崎参事官 本日お配りしている資料は,議事次第,最高裁判所説明資料,島田委員説明資料,菅野委員説明資料,横田委員説明資料です。 ○大澤座長 それでは,議事に入りたいと思います。   まず,前回会合における御質問等を踏まえまして,最高裁判所に補充の説明資料を作成していただきましたので,お手元に配布させていただいております。資料の内容について簡単に御説明をお願いできますでしょうか。   戸苅課長,お願いいたします。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 それでは,最高裁の方から,前回御質問,御要望いただきました資料について御説明をさせていただきます。   まず,「最高裁判所説明資料」の1枚目でございます。この中で,上の「控訴審における終局人員及び破棄人員」という表を御覧ください。裁判員裁判対象事件の中の主要15罪名について,裁判官裁判時代からの破棄率の推移をこの表に示しております。平成21年から平成30年までの第一審が裁判員裁判の事件の破棄率は,一番右の方の,括弧内に書いてありますが,9.8%となっております。各年の数値を見ましても,年によって変動がございますが,平成18年から平成20年までの第一審が裁判官裁判で,裁判員裁判対象事件と同じ罪名の控訴審の破棄率が左の方の括弧内に書いてあります17.6%ですが,この17.6%というものを全ての年において下回っております。これは,控訴審の在り方に関する議論というのは,これからも深められていくとは思われますけれども,データで見る限り,現在までの大きな傾向としては,裁判官裁判時代よりも事後審の徹底,言い換えれば,第一審を尊重している,第一審尊重が図られているものと見てよいものと思われます。   この点につきまして,下の表も御覧ください。「控訴審における終局人員に占める破棄理由別人員の割合」という表でございます。第一審判決が破棄された理由に注目して分けてみたものですが,上から,「事実の誤認」,「量刑不当」,それから,一番下が「判決後の情状」,いわゆる2項破棄と言われているものでございます。これを見ますと,特に量刑不当を理由として破棄される割合について,裁判官裁判の事件よりも裁判員裁判の事件の方がかなり小さくなっている,そういう傾向が続いていると言えるかと思います。この点からも,第一審の量刑判断が尊重されている傾向というのが見てとれると思われます。   それでは,2枚目の表について御説明いたします。辞退について,辞退理由の割合についての表でございます。「辞退が認められた裁判員候補者数及びその辞退事由別の内訳」というものです。こちらは前回,口頭で御説明した数値になりますが,改めて資料としてお示しするものでございます。「総数」の欄を御覧いただきますと,辞退事由としては,裁判員法16条1号から7号に該当する辞退,これは,例えば70歳以上とか,あるいは学生であることなど,これが最も多くて35.7%,次に,事業における重要用務が29.7%,その次に疾病傷害が12.0%と続いていることが分かるかと存じます。   続きまして,3枚目は「裁判員裁判対象事件の平均開廷時間の推移」を表にしたものでございます。「平均開廷時間」というのは,制度施行当初の平成21年が526.9分,約8時間47分でしたが,その後,平成22年から平成30年までは600分から660分程度,約10時間から11時間前後で推移していることが分かるかと存じます。   続きまして,「裁判員の構成」,4枚目が職業別,5枚目が年代別,6枚目が性別でございます。これも前回,御要望がございましたので,用意させていただきました。こちらも前回,口頭では御説明しましたが,改めて資料としてお示しするものです。裁判員の職業,年齢,性別の各構成比を国勢調査の結果と比較してみたところでございます。これを見ますと,国勢調査の結果と大きくはかい離しておらず,おおむね国民の縮図と言ってよいのではないかと,その範囲ではないかというふうに考えております。   続きまして,最後,7枚目の表になります。「裁判員が参加した合議体により審理及び裁判された事件の出席率・辞退率(平成30年)」という表でございますが,これは庁別の平成30年の出席率,辞退率をお示ししたものでございます。御覧いただければ分かるかと存じますが,庁によって数値にばらつきが見られます。その原因についてははっきりはしませんけれども,取り分け小規模庁の場合には事件数が少ないために,事件一件一件の個性が出席率,辞退率に反映しやすいのではないかということは推測できるところでございます。   本日御用意した資料の説明は以上になります。 ○大澤座長 ありがとうございました。   それでは,ただ今の御説明について,どうしても聞いておきたいという御質問があればおうかがいいたしますが,いかがでしょうか。 ○大沢委員 一つだけ,もし分かればなんですけれども,「辞退が認められた裁判員候補者数及びその辞退事由別の内訳」という2枚目なんですけれども,その一番下の,「その他精神上又は経済上の不利益」というのがあるんですけれども,これは,なかなか個別にというわけではないですが,どういう類型がここに入ってきているのか,もし教えていただければ。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 個別具体的な事情を踏まえて判断されますので,一般論をお示しするところは難しいところがございますが,例えば島田委員の方から,いかがですか。 ○島田委員 例えば,経済上の不利益というものに当たるものとして,海外旅行を予約していたところ,もしそれをキャンセルするとなると多額のキャンセル料が必要となるといったような場合が当たるかと思います。 ○武石委員 すみません,私は前回欠席で,もしかすると御説明があったかもしれないのですが,控訴審について,裁判官裁判のときが17.6%の破棄率で,裁判員裁判になってからが平均すると9.8%ということで,第一審が尊重されているというお話がありました。この尊重されているということの言葉がよく分からなくて。裁判員が参加するということで,その控訴審において,そこを気持ちとして尊重しているのか,あるいは,裁判員裁判での判決というか,第一審の判決がある意味,妥当性が高まっているというふうに考え,客観的な事実として妥当なのか,そのあたり,尊重しているという御説明だったんですが,どういうふうに解釈したらよろしいんでしょうか。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 控訴審の在り方というのは,今でも議論が続いているところでございまして,これがこうだというところまでなかなか言いにくいところはあるんですけれども,例えば,最高裁の平成24年2月13日の判決というのがございまして,そこではこのようなことが言われております。控訴審が第一審判決に事実誤認があると言うためには,第一審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要があると,こういうことを判示しているところでございます。裁判官裁判の破棄率と裁判員裁判の破棄率を比べると,先ほど申し上げましたように,やはりかなり明確な差があるということからしますと,裁判員も加わって判断した第一審,これをもし破るのであれば,先ほど申し上げましたように,第一審の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示さないといけないんだというハードルといいますか,そういうところはいろいろ控訴審の方も考慮しているのではないかというふうには推測はできるところでございます。 ○武石委員 ありがとうございます。 ○大澤座長 それでは,戸苅課長,どうもありがとうございました。   今日はかなりメニューが盛りだくさんでございますので,先に進ませていただいて,何か更に聞きたいこと等ございましたら,事務当局の方へ申し出ていただければと思います。   それでは,裁判員制度の運用における法曹三者の取組について,裁判官,弁護士,検察官の立場からそれぞれ,島田委員,菅野委員,横田委員に御説明をいただきたいと思います。各委員の御説明の後に,それぞれ質疑応答の時間をまず設けます。また,全ての説明を聞いた上で,更に横断的な質問や補充的な質問もあるかと思いますので,最後に改めまして総括的な質疑応答の時間を設けることとしたいと考えております。   それでは,まず初めに,島田委員に裁判官のお立場から,裁判員制度の運用における取組について御紹介をいただきたいと思います。   島田委員,どうぞよろしくお願いいたします。 ○島田委員 では,東京地裁の島田から,裁判員制度の運用における裁判所の取組について御説明いたします。レジュメに沿って,おおむね25分を予定しております。   まず第1,公判前整理手続についてですが,公判前整理手続は充実した公判審理を継続的,計画的かつ迅速に実施するために,争点と証拠を整理し,審理計画を立てるために行います。裁判員裁判では,公判前整理手続を必ず行うこととなっております。公判前整理手続期間の推移につきましては,前回,最高裁の係官から説明がありました。長期化の原因として,当事者の準備の遅れや裁判所の進行管理の甘さなど,いろいろな事情が指摘されているところです。   ところで,事件の発生から時間がたてばたつほど証人や被告人の記憶が薄れてしまい,適切な審理ができなくなるおそれがあります。そこで,公判前整理手続の主たる目的が,分かりやすい適切な審理を行うために争点を定め,必要な証拠の採用決定をして審理計画の大枠を決めることにあるということを念頭に置いて,公判前整理手続をスムーズに進めていく必要があると考えております。   そこで,公判前整理手続の長期化を防ぐための取組について,この10年間で定着してきた運用上の工夫について御説明いたします。   まず一つ目,早期の打合せを行っていることです。その前提として,東京地裁では起訴の後,速やかに公判前整理手続を行う決定をしています。そして,検察官の証明予定事実記載書と証拠調べ請求書の提出期限を起訴のおおむね14日後に定めています。その上で,起訴後約1週間程度の早い段階で,検察官,弁護人,裁判官の三者で打合せを行っております。この打合せでは次のようなことをしております。まず,裁判所から,公判前整理手続の進め方に関する方針を説明し,特に検察官に対して証拠の任意開示の協力を依頼しております。そのほか,追起訴があるのかどうか,公訴事実に対する釈明があるかどうか,証拠開示の進め方をどうするか,早めに任意の開示を希望する証拠があるのかどうかといった点を確認しています。また,この時点で弁護人が回答できる場合には,暫定的な争点を確認し,それに応じた証拠の任意開示がスムーズに進められるようにしております。   2番目に,公判期日の仮予約という点です。公判前整理手続がある程度進んで,審理に必要な大まかな日数,例えば3日間とか5日間とか決まったら,公判前整理手続の途中で公判期日について仮の予約をしています。これによって,公判前整理手続における争点及び証拠の整理が計画的に進められることになります。   3番目に,柔軟な証拠開示をしていること,そして,当事者と裁判所との間で証拠の必要性や関連性に関する議論がこれまで以上に活発にできるようになったことが挙げられます。まず,証拠の開示についてですが,法律上3種類あります。1つ目は,取調べを請求する証拠の開示,2つ目として,その証拠の信用性を検討できるようにするための類型証拠開示,3つ目として,弁護人の主張に関連した主張関連証拠開示という制度があります。そのほか,法律には規定がありませんが,任意開示というものが実施されております。この証拠開示に時間が掛かりますと公判前整理手続の長期化につながるため,柔軟な証拠開示はとても重要です。また,証拠について,取調べの必要性や事件との関連性について議論することによって,法廷で調べる証拠書類や証人を適切に絞り込み,分かりやすい審理を実現しようとしております。   4番目に,精神鑑定の採否の決定を早期に行うという点です。精神障害を理由に責任能力が争点となる場合,精神鑑定を実施することが多々あります。精神鑑定それ自体,時間がかかりますが,問題なのは,精神鑑定をするかどうか,その判断をするまでに当事者の意見の応酬や裏付け資料の収集などに長い時間が掛かっておりました。そこで,最近は,捜査段階で精神鑑定が実施されている場合は,具体的な問題点がなければ,その鑑定をした人を証人として採用し,取り調べる例が多くなっています。他方,捜査段階で精神鑑定を行っていない事件で,弁護人が精神鑑定を請求する場合に,その資料として医師の意見書は必要とせず,これまでの被告人の精神病院への入通院の記録とか,弁護人の目から見て被告人の行動や考え方におかしな点があることに関する報告書など,比較的容易に手に入れることができる資料を基にして,精神鑑定を採用するかどうか判断するようになりました。   5番目に,公判前整理手続終結前の公判期日指定という点です。裁判員候補者には選任手続の6週間前までに公判期日を通知することになっておりますが,公判前整理手続が全て終わった時点で公判期日を指定するということになりますと,その後,選任手続までの6週間余りが空白の時間になってしまいます。そこで,公判前整理手続がまだ終結していなくても,先ほど申し上げた仮予約した日程で審理ができるということが分かったら,その時点で公判期日を指定するようにしております。そして,その後の選任手続期日までの期間を利用して,争点と証拠整理の最後の詰めを行うということにしております。   以上申し上げた5点につきましては,公判前整理手続の長期化を防ぐための工夫になります。引き続き今後とも,公判前整理手続をその事案に見合った合理的な期間内に終えて,できる限り早期に公判審理に入れるよう取り組んでいきたいと思っております。   次に,課題として,判断対象の適切な設定ということを挙げてみました。公判前整理手続では争点を整理します。その際,私たちは法律家であるため,法律用語を使って争点を整理してきました。しかし,審理や評議を見据えた場合,裁判員にとって,自分たちが判断すべきテーマが何であるのか,そのことを分かった上で審理の内容を理解してもらう必要があります。そうすることによって,評議において裁判員と裁判官が真に対等な立場で十分に議論することが実現しやすくなると思われます。そこで,どのような形で判断すべきテーマを設定するのがよいのか,これまでの経験の蓄積を踏まえて,現在,裁判所の中で検討を続けているところです。   続きまして,第2,審理に移ります。目で見て,耳で聞いて分かる裁判の実現に向けた取組という点ですが,このような標語を聞いたことがございますでしょうか。裁判員が評議で自分の意見を述べるためには,審理の内容を十分に理解できていることが前提になります。これまでの裁判員裁判の中で実際に取り組んできている点について,幾つか御紹介いたします。   まず一つ目,連日的開廷,集中審理という点です。審理が飛び飛びになってしまいますと,証拠調べの内容などについて記憶を保っておくことが難しくなります。そこで,裁判員裁判では文字どおり,連日的開廷による集中した審理が行われています。多くの事件は審理期間が3日から5日程度で,評議を含めても6日程度で終わっています。   2番目に,検察官と弁護人が行う冒頭陳述についてです。裁判所からは検察官と弁護人に対して,主張と証拠の区別がつくように,簡潔な冒頭陳述をしてもらうように要請してきました。冒頭陳述は,事案の概要と判断すべきテーマを示し,それらと証拠との関係を示すために行います。証拠調べの道しるべとも言われています。最近は簡潔な冒頭陳述が増えております。証拠の具体的な内容に触れることを避けながら,証拠の中の重要なポイントに注目するように指摘する試みも行われています。このような冒頭陳述は,裁判員からも,証拠調べのポイントが分かりやすいと評価されています。   続いて,具体的な証拠調べのやり方についてです。裁判所は,証拠書類ではなくて法廷における証人や被告人の供述を中心とした審理を行うように働きかけてきました。そして,当事者もこの点を理解してくれています。証拠書類については厳選する取組が進んでおり,争いのない事実に関しては記載の内容を大幅に圧縮した統合捜査報告書という書類が活用されています。また,被害者の御遺体の写真など,いわゆる刺激的な証拠についても,その事案の判断に当たって本当に取り調べる必要があるのか,当事者の意見を聞きながら十分に吟味をしており,仮に採用する場合には,その立証事項に応じて白黒の写真やイラストにしてもらうなど,裁判員への衝撃を緩和する工夫をしてもらっているところです。そして,公訴事実に関して争いがない事件であっても,犯行状況など重要な事実に関して証人尋問を実施するようになりました。例えば,被害者や共犯者,目撃者などから直接,法廷で犯行の状況について話を聞くという運用が一般化しております。公判中心主義,直接主義の実現に向けて取り組んだ結果です。もちろん,事案によっては被害者の方の御負担などを考慮して証人尋問の実施を控えることもあります。   続いて,精神鑑定など専門家による報告は,専門的な内容を裁判員が正しく理解できるようにするため,一問一答の尋問ではなく,まずは鑑定人にプレゼンテーションソフトを使って,スライドを示しながら20分ないし30分程度の説明をしてもらっています。その上で当事者及び裁判所から尋問を行うスタイルが定着しております。また,精神鑑定については,精神科医と法律家の役割分担を意識した報告を求めるようになりました。従来は精神科医に対して,責任能力の有無,程度という法律判断まで求めていたことがありましたが,精神科医に本来お話しいただくことは,被告人に精神障害があるのかどうかと,精神障害がある場合に,それが犯行にどのように影響しているのかという点です。そこで,この2点を鑑定事項として定めるようになりました。裁判員を含む裁判体は,専門家である鑑定人の報告を基本的に尊重しつつ,社会常識に照らして,責任能力の有無,程度を判断するようになっています。   それから,被告人の供述については,法廷にいる被告人から直接話を聞くことにして,捜査段階で作成された被告人の供述調書は必要がなければ採用しないという運用が定着しています。   論告弁論では,証拠調べの結果を踏まえ,評議や判決を見据えて,公判前整理手続で整理された判断の枠組みに沿った主張がなされるようになりました。特に,量刑に関しては,被告人が犯した罪の内容に見合った刑罰を科すという行為責任の原則を意識して,同じような事案の社会的類型を基にして整理された量刑検索システムのグラフを利用して量刑の大枠を示した上,本件犯行の内容に照らして,その中でどのあたりに位置付けられるのか,相対的な位置付けを当事者から意見を述べてもらっています。そして,最後に,一般情状事実によって調整した具体的な求刑がなされております。弁護人からも同様の方法で具体的な事情を指摘した上で,量刑意見を述べてもらうことが多くなってきました。   レジュメの2枚目に移ります。審理の課題として2点挙げました。1点目は,先ほど統合捜査報告書の活用について述べましたが,逆に,証拠が詳細になりつつある傾向も見られるというところです。例えば,共犯者がいる事件では携帯電話の通話履歴やメールなどが重要な証拠になることがあります。ただし,その分量が膨大であったり,非常に詳しい形で示されると,法廷で一度説明をいただいても,それぞれの内容や位置付けが,裁判員はもちろん裁判官にも十分理解できないということがあります。事案の判断に当たって本当に必要な情報が何であるのかを常に意識して,法廷に提出する情報の取捨選択を行う必要があると考えております。   また,証人尋問や被告人質問を中心にした審理を行うといっても,その内容に問題があれば,審理はかえって分かりにくいものになってしまいます。例えば,争点と関係の薄い事情を長々と聞き出そうとしたり,捜査段階の供述調書とささいな食い違いを指摘したりする尋問というのはまだまだ残っております。立証すべきポイントを押さえた上で,尋問事項を十分に整理し,簡潔で分かりやすい尋問を実現するために,法曹三者が引き続き協力して取り組んでいく必要があると考えております。   第3に,評議について御説明いたします。まず,裁判員と裁判官の実質的協働というテーマを掲げております。裁判員裁判においては,法律の専門家である裁判官と,法律の専門家ではなく,また,年齢や職業,家庭の状況,社会的経験などの異なる裁判員が意見交換をして,法律家の専門性と国民の視点や感覚を交流させることによって,その成果を判決に反映させることが期待されています。裁判員には,法廷で調べた証拠の内容と,判断に必要な法律の規定やその意味を正しく理解した上で,主体的,自主的に裁判手続に参加して,結論を決める評議では,裁判官と対等な立場で十分に議論をすることが期待されています。他方,裁判官は評議において,裁判員に適切な説明をするとともに,裁判員と裁判官がお互いに影響し合えるような意見交換を十分できるように適切に振る舞うことも期待されています。その際の裁判官の留意点として3つ掲げさせていただきました。   1点目は,本質に立ち返った法律概念の説明です。法律の専門家ではない裁判員に,その事件で問題となっている法律の制度や要件を理解していただく必要があります。例えば,正当防衛とか責任能力とか共謀といった意味,要件を説明することになりますが,これを分かりやすく説明することは簡単なことではありません。しかしながら,それぞれの法律概念について本質に遡って説明することによって,裁判員に,ああ,そういうことかと理解していただき,そうであれば今回の事件ではこういう結論になるはずだとふに落ちていただく必要があります。この説明は大学の法学部における講義とはかなり違うように感じております。そして,法律用語について初めからいきなり詳しい説明をしても,混乱してしまう可能性が高いと考えられますので,まずは概要について簡単な説明を行い,審理や評議の進行状況に応じて段階的に説明を加えたり,あるいは,重要な事柄については何度か繰り返したり,裁判員の反応を見ながら説明の仕方を変えるなど,確実に理解してもらえるような工夫を心掛けております。なお,この法律用語の説明は裁判官だけが行うものではなくて,まずは法廷で当事者が説明することが予定されています。そこで,公判前整理手続の段階で,法曹三者であらかじめどのような説明をするのか協議をして,説明内容に食い違いがないようにしておくことが必要であると考えております。   次に,裁判員の意見を十分に引き出すための工夫についてです。評議の司会を担当する裁判官は,法廷で見聞きした証拠の内容と当事者が論告弁論で述べた意見に基づいて議論を進めていきます。ただし,最初のうちは遠慮や不安,緊張などがあって,裁判員から意見が出にくいこともあります。何について発言したらいいか分からないという裁判員の方もいらっしゃいます。そこで,評議をスムーズに進めるための前提条件として,裁判員が話しやすい雰囲気をつくっておくことはとても重要です。その上で裁判官は裁判員の意見を聞くのにふさわしい問題提起をして,裁判員から積極的に意見が述べられるような状況設定をします。そして,まずは裁判員の方から先に意見を述べてもらうようにしています。もちろん裁判官も意見を述べます。ただし,特に裁判長の意見は影響力が大きいので,発言のタイミングに十分配慮をしているところです。司会進行役の裁判官は,評議の初めはファシリテーターとして意見を聞き出す役に徹するようにしております。そして,裁判員の発言の趣旨が明確でないときには,その意図を正しく取り上げて言葉にまとめるなどして,議論のそ上にのせることによって,ほかの人との意見交換が成り立つような,そういった媒介する役割も果たしております。   続いて,説明事項と協働事項を区別する意識ですけれども,裁判官が法律用語を説明するときに,どこまでが説明でどこからが意見交換する場面であるのか意識しておく必要があります。裁判官が説明をし過ぎてしまって,裁判員と意見交換して判断すべき事項にまで及んでしまったら,それは説明ではなくて裁判官の意見の押し付けになってしまいます。   以下,事実認定と量刑について,それぞれ意識している点について御説明いたします。まず,事実認定についてですが,犯罪事実を認定できるかどうか検討する場合には,公判前整理手続と法廷における審理を経て明らかになった判断の分岐点を意識して,裁判員と議論をしております。当事者の言い分が食い違う点がたくさんあったとしても,結論を左右するような肝となる事実,判断の分岐点を見失うことなく,この点に焦点を当てて集中的に議論するように心がけております。   次に,裁判員が加わったことによる判断の厚みについてですが,裁判員と議論をすることによって,多角的な観点から異なる意見が出され,裁判官と相互に影響し合えるような意見交換が行われます。6人の裁判員が加わることによって,裁判官だけでは気が付かなかったような多角的な視点からの検討や批判がなされることによって,判断の厚みが増すのであって,仮に結論が同じであったとしても,より安定的で説得力のある判断過程を示すことができます。これは,事実認定だけでなく量刑の判断でも同じだと思っております。   量刑については,先ほども述べた行為責任の考え方に従って,重要な情状事実の指摘と,その意味の検討を行います。量刑の評議については,論告弁論で述べたことがほぼそのまま当てはまるわけですけれども,刑の重さを左右するような重要な事実は何か,なぜその事情が刑を重くしたり軽くしたりする方向に働くのか,その意味について,被害の結果や行為の危険性など,事案の客観的な重さや意思決定に対する非難の程度を検討します。そして,その上で,量刑検索システムによる過去の裁判員裁判の量刑グラフを参考にして,同じような社会的類型の中で今回の事件は中間的な部類なのか,それとも重い部類に属するのか,軽い部類に属するのか,大まかな位置づけをします。その上で一般情状事実を考慮して最終的な刑を決めていきます。   課題として,従来の法律家の判断枠組みを所与のものとせず,柔軟に再構築する場合があるのではないかという問題を掲げました。最近,裁判官の中では,法律の解釈や判断の枠組みについて,これまでの法律家の発想を裁判員に理解してもらおうという意識が強過ぎたのではないかという議論がなされております。もちろん法律の解釈を軽々しく変更すべきではありません。しかし,争点や判断の枠組みなどについて,裁判員に法律家と同じ発想を求めると,もしかしたら裁判員が自由に意見を述べることを難しくしてしまい,ひいては国民が刑事裁判に参加する重要な意義を損なうことがあるかもしれません。そこで,事案や事柄によってということになりますが,裁判員の視点や感覚が裁判の内容に十分反映されるような判断枠組みを構築していこうということが必要になる場合もあるように思っております。   最後,判決についてですが,事実認定の場面でも量刑の場面でも,評議で示された裁判員の視点,感覚に基づく意見を取り込んだ判断が積み重ねられてきているように感じています。事実認定の場面で,裁判員の方々の日常的な経験や社会常識に基づく意見が,ある事実の有無を判断する上で貴重な視点となることがあります。また,量刑に関しても,行為責任という量刑の本質に基づいた形で,量刑の傾向を踏まえながら,その事件でどういった事情をどの程度重視するのかという点について,その時々の国民の視点や感覚が発揮されているように思われます。量刑の傾向について変化が出ているということは,前回,最高裁の係官から説明があったとおりです。重い方向にも軽い方向にも幅が広がっているように感じております。   そして,判決書についてですけれども,事実の認定や量刑の判断の理由として,判断の分岐点を意識して,結論を導いた理由を端的に示すことが重要であり,それで足りると考えられます。裁判員との実質的協働の結果を判決書に的確に反映させるという意識の下,判断過程を簡潔に示すものが増えてきているように感じております。   以上,裁判所の取組について御報告させていただきました。 ○大澤座長 ありがとうございました。   それでは,ただ今の御説明につきまして,御質問等ございますでしょうか。 ○小木曽委員 レジュメの2ページの一番頭の部分,2の課題で,証拠の詳細化とありますが,その理由について,聞き逃しかもしれませんが,もう一度教えていただけますでしょうか。 ○島田委員 特に共犯者がいるような事件の場合に,携帯電話の通話履歴とかメールが共謀を立証するためにとても重要な証拠であるといったケースがございます。そういうときに,かなり広範囲,そして時間的にも長時間の範囲,期間としても長い期間内の履歴やメールなどが証拠として請求されることがあります。その量がかなり膨大になってくるということが実際に生じているということが一つ,問題かなと思っております。 ○小木曽委員 それは,特に裁判官裁判の時代と裁判員裁判の時代で何か違うということなのでしょうか。 ○島田委員 裁判官裁判の場合にもそういった証拠は出てくるんですけれども,裁判官の場合には,証拠を法廷で調べた後,もう一度裁判官室に戻って,丁寧にその内容を確認することができるんですけれども,裁判員裁判ですと,そのような作業を行うということが大変難しいので,より簡略な形で示していただけると有り難いというふうに思っております。 ○小木曽委員 ありがとうございました。もう1点,よろしいですか。第3の評議のところの2番目の事実認定についてというところです。結論を出すときに,例えば殺人事件において,殺意があったか,なかったかというような認定の具体的な方法なんですけれども,一人一人の裁判員に,あったと思いますか,なかったと思いますかというふうに聞いていくのか,それとも,全体で話し合って,こういうことでよろしいですか,みたいになるのか,その辺りはいかがなんでしょうか。 ○島田委員 最終的な意見の取りまとめの段階でしょうか。 ○小木曽委員 はい。 ○島田委員 少し御説明させていただきますが,評議では,裁判員も裁判官もそれぞれ意見を述べますし,ほかの方の意見も聞きます。その過程で意見を変えることも自由です。十分に議論を尽くして評議が熟したら,結論の取りまとめを行うわけですが,その結論の取りまとめは,裁判員6名と裁判官3名の投票によって多数決で決めております。評議の仕方や最後の取りまとめの仕方は,恐らく裁判官によって様々であると思いますし,ほかの裁判官のやり方を余り見る機会がないので,私の一般的なやり方について説明いたしますけれども,まず,今御指摘のあった,殺意の有無,あったのかどうなのかといったような点ですと,事実認定については,議論を十分に尽くしていけば,次第に全員の意見が集約されていくことが多いように感じています。その場合,常識に照らして間違いなく殺意があったと認定できるのかどうか,ほかの裁判体の中には,もしかしたら紙に書いて投票してくださいという方もいるかもしれませんが,私の場合には,先ほど言ったとおり,ほぼ全員の意見が集約されていくので,手を挙げてくださいというふうな形で,被告人に殺意があったと思う方はいかがでしょうかという形で手を挙げてもらって,その後に,被告人には殺意がなかったと思う方は手を挙げてください,こんな形で投票してもらっています。逆に,一人一人の意見を聞いている段階で,まだまだ意見が大きく分かれるときには,まだ議論が不足していると思いますので,更に意見交換を続けるということになります。 ○小木曽委員 ありがとうございました。 ○大澤座長 かなり時間が押してきておりますが,この際ということで御質問があればどうぞ。 ○山根委員 大変丁寧にやっていただいているというふうに思っております。1点,一般市民が悩むところで,精神鑑定のあたり,とても難しいことだと思うんですけれども,プレゼンテーションというのを実施していただいているということなんですが,ここでいうプレゼンというのは,精神鑑定とはどういうものかとか,責任能力というものをどういうふうに考えるのかとか,そういう全体像というか,そういうものも中立的な立場で説明いただけるという意味なんでしょうか。 ○島田委員 責任能力とはどういうものかというのは,法律用語の説明になりますので,それについては裁判官が主に説明することになります。精神鑑定をしたお医者さんにお話しいただくのは,被告人に精神障害があるのかどうかという点や,仮に精神障害がある場合には,今回の犯行に影響しているのかどうか,影響しているとしたら,どのような形で影響しているのか,こういったことを分析してお話しいただくことになっております。 ○山根委員 それを基礎的なところから2,30分かけて丁寧に説明してくださるというようなことですね。 ○島田委員 そうですね。 ○山根委員 分かりました。 ○大澤座長 それでは,また総括的な時間も取りますので,ひとまず島田委員のお話についての質疑はここで終えまして,続いて,弁護士の立場から菅野委員に御紹介をいただきたいと思います。   それでは,菅野委員,お願いいたします。 ○菅野委員 では,これから10分ほどお時間を頂いて,お話をしたいと思います。資料は1枚用意させていただきました。見出しは,「裁判員裁判に関する日本弁護士連合会の取組について」という内容になっております。日弁連だけでなく,各単位会や,私自身が裁判員裁判を多く担当しているので,実情をお話します。なお,意見については個人の意見ということでお話しさせていただきたいと思います。   まず,裁判員裁判が始まり,10年たって,いろいろ事件の経験もたくさん弁護士の中では蓄積してきているところではありますが,まだまだ頑張らなければいけないなというのが私個人の正直な感想です。その中身はこれからお話ししたいと思います。私としては,日弁連の目指すもののうち,弁護活動の質の向上を頑張っていかなければいけないところではないかと感じており,これからも努力していきたいと思っております。   制度的な課題というものも多くあるかとは思いますけれども,ここでお話しするということは考えていません。この10年で裁判員裁判を経験した方から,できるだけ生の声を聞いて,制度的な課題があれば,日弁連としても建設的な提言をしていきたいと考えているところです。   弁護活動の質の向上についてお話ししたいと思います。まず,これを知る資料が何なのかということです。私どもは,裁判員裁判が1件終わりますと,裁判員のアンケートというものを裁判所から頂いているところです。それにはいろいろな項目が書いてあったり,自由記載欄もあったりするので,弁護人の活動とか検察官の活動についての裁判員の生の声を聞くことのできる非常に貴重な資料になっております。中身は,そのままお見せするわけにはいきませんが,裁判所では,裁判員にこのようなアンケートをとっていて,これを弁護士会でお借りしています。このアンケートは,弁護人がちゃんと裁判員,裁判官に伝わるような訴訟活動ができているのかというところは1つヒントになる,大変貴重な資料かなと思っております。統計的に見ても,裁判所は非常に話しやすかった,検察官も非常に分かりやすかった,となっており,これと比べて弁護人の弁護活動に対する評価は非常に厳しい評価です。要するに,分かりにくいという御指摘が多数寄せられています。個々の弁護人がこのアンケートをどの程度活用しているか分からないので,私どもではこの全国のアンケートを分析して,弁護人がどういうふうに見られているのか,考え直すべき点を整理した論文などを出したりもしています。   実際,私が,「我々の弁護活動は裁判員の心をつかんでいるのか」という論文を,自由と正義という弁護士全員に配る雑誌に書かせてもらいました。その論文では,アンケートの自由記載欄に記載された,弁護人への印象,声の大きさとか,資料の出来具合,尋問の内容についての評価等を整理して,弁護人が気をつけるべき点を書きました。それだけでなく,アンケート結果等も参考に,配布資料の「弁護士会としての取組」1のところに書かせていただいていますけれども,どういう弁護活動があり得るのかという研究活動を日弁連でしています。具体的には,書籍を出したり,研修を実施したり,各弁護士会に情報提供したり,講師を派遣したりしています。裁判員裁判を多く担当している優れた弁護人の中には法廷での活動も分かりやすいと評価され,かつ実績を上げている弁護人も多くいます。そうした講師を各単位会に派遣して,1日あるいは2日間,模擬記録を使った研修などを実施しているところです。私自身も今月だけでも5回,旭川から北九州,仙台,東京,そして千葉と研修に行きました。日弁連では,裁判員裁判経験豊富な弁護士で,研修チームにいる講師を,各地に派遣して,底上げを図っているところです。   個々の弁護士会の取組は全て把握できているわけではありませんが,研修の実施は単位会ごとにもやっております。法曹三者で勉強会を実施しているところが多いとは思います。模擬評議もここ数年は各地で取り組まれています。実際の記録を使って法曹三者で,評議を見る,そういう模擬評議を実施しています。我々は,評議をふだん見られないものですから,その評議の中で我々の主張がどういうふうに受け止められているのか,あるいは受け止められていないのかを見るのは非常に貴重な機会です。裁判官あるいは検察官にも非常に協力していただいているところかなと思っております。各地の弁護士会で,研修受講歴とか経験年数を裁判員裁判の名簿要件にするかどうかは,まちまちなんですけれども,やはりちゃんとした弁護人が,難しい事件なのであれば,ついてほしいというところがあります。裁判員裁判をやるためにはこういう研修を受けてください,あるいは,複数国選が認められる場合の2人目は経験年数が多い人を選んでくださいと,こういうような取組をしている単位会も多いところです。   制度的課題の検討については,日弁連でもえん罪を防止するためのグランドデザインや裁判員制度に関する意見書とかを出しています。先ほど申し上げたとおり,ここはできるだけ生の裁判員経験者の声を聞いて,改善できるところがあるのであれば,また持ち帰って,建設的な提言をさせていただきたいと,このように考えているところです。   最後に,私の方で裁判をやるに当たって,研修でも申し上げている内容ではあるんですが,どういうところに気を付けているかというところを若干お話ししたいと思います。今,長期化が公判前でも問題になっているところです。裁判所からは早めに打合せしましょうとか,早めに期日入れましょうというお話はありますので,私は呼ばれたら,行きますという話をして,早期打合せにも参加することにしています。もちろん事件によっては,この事件は争いますとか,この事件は認める方向ですと言える事件もあるので,そういった意味で事件の見通しを言える事件であれば,裁判所に伝えて,なるべく事件をうまく処理していくと,そういったところに協力できるところはあるのかなと思っています。   他方,証拠開示という制度が充実してきたことは望ましい反面,かなり証拠のボリュームが増えています。例えば私が担当する事件でも証拠だけでも3000点,4000点あるという事件はそれなりにあります。そうすると,それを見るにはやはり時間が掛かるというのは正直,あるところです。あとはやはり最近,科学的,専門的な証拠というのも増えています。そうすると,例えば精神科医,学者,そういった方の書いた,もともと難解な鑑定書を解読するのにも,やはり自分が勉強しなければいけない,そして,その鑑定した人にお話を聞かなければいけない,基礎データも見なければいけない,あるいは,その専門分野に詳しい別の専門家にお話を聞いたりしなければいけないということで,すぐにこういうふうにやります,みたいなことが弁護人側でもなかなか言えない事件も増えているのかなと,こういうふうに感じているところです。   また,検察庁から証拠の一覧表というものをもらえるようになったので,それをOCRの機能が付いたもので読み込んでエクセルデータにして,証拠管理をするんですけれども,そもそも証拠の一覧表が紙でしかもらえなくて,送致順に証拠が記載されているだけなものですから,データベース的に管理しようと思うと,自分たちでデータで読み込んで,かつエクセルとかでちゃんと仕分けをして,という作業を全部,一から弁護人がやっているものですから,そういったことに不慣れな弁護人にとっては,証拠の管理も簡単ではないという課題もあるように思います。   ここは検察庁と弁護人が最後,苦労すればいいというところかもしれないんですけれども,証拠は,ベストエビデンスを出していこうということは,私もなるべくそういう方向で協力したいとは思っている反面,やはり検察官が考える,必要だという部分と,弁護人が考える,必要だと考える部分が違ったり,あとは,分かりやすくて不正確になってもいけないというところで,生の事実をずっと絞っていったり,分かりやすくすることによって,何か違った意味を持ってきてしまわないかというところも考えます。分かりやすく,ベストエビデンスは何なんだろうということは,正直言って,私も常に事件で悩んでいるところです。   検察官も大変御苦労されていると思うんですけれども,弁護側と検察側がどうしても公判前の準備が遅れ,最終的な公判前整理手続が終わる段階で,まだ,実際取り調べるべき,統合証拠と業界的には言うんですけれども,その統合証拠がもうぎりぎりにならないとできていないんですね。そうすると,検察官から,統合証拠をぱっと渡されても,今日公判前整理手続がおしまいですというときに渡されるものですから,本当にそれが必要なのかどうかという議論をもうその段階ではなかなかできないというような現実的な問題が今,あるかなというふうに感じています。   ベストエビデンスを考える,なるべく人の話を聞いて分かりやすく伝えていくということは,恐らく検察庁も弁護人も裁判所も同じところを見ているのかなと思っておりますので,今後ともそういった検討を続けていきたいというふうに思っています。裁判員ならではの視点というのも,感じるところです。1点御紹介しますけれども,これはある交通事故の関係の事件だったんですけれども,検察官が被告人に,現場に花も添えないのか,何をやっているんだ,みたいなことを指摘した事件だったんです。私はそれは,検察官がそういうことを言うのも分かるなと思ったんですけれども,裁判員アンケートを見ると,現場に花が添えられたのを見て子供たちがどんな気持ちになるか理解していない質問だと思った,きっと検察官は幼少のころ,そんな現場を見ずに両親に送り迎えしてもらって登下校して,恵まれた環境にあったんだろう,みたいな結構厳しいことが書いてありました。こういう考え方もあるんだなと感じました。我々がもう当たり前なこととしていた常識が,こうした御意見を踏まえて,また量刑って何だろう,みたいなことを考える,そういういいきっかけになっているのではないのかなと思っています。私としては裁判員裁判が与える刑事裁判へのプラスの面を多く感じているところです。   以上です。 ○大澤座長 ありがとうございます。   それでは,ただ今の御説明について質問等ございますでしょうか。 ○堀江委員 弁護活動の質の向上というところに関連してお聞きします。法曹三者の中では弁護士会というのは組織的に対応することが比較的難しいところなのかなという印象を持っております。そうした中でも研修を実施したりするなど御努力されているということだと思いますが,組織的に弁護活動の質の向上を図るという点で,一つ考えられるのは,最初の段階といいますか,司法研修所での刑事弁護修習ではないかと思います。そこで,刑弁修習において,裁判員裁判への対応をどのようにされているのか,そしてまた,刑弁修習と弁護士会でされている研修との連動あるいは連携が図られているのか,そういった点について,お教えいただければと思います。 ○菅野委員 私は司法研修所の刑事弁護教官を3年務めてまいりました。卒業して2年ぐらいたちますが,比較的最近だとは思うんです。私が入ったころからの3年間の研修所でどういうことを教えていたかというと,やはりもう,裁判員裁判ができるような実務家を育てたいということで,カリキュラムの多くが裁判員裁判を意識したカリキュラムになっていました。例えば,裁判員に限りませんけれども,証拠意見を考える際に,やはり単に有利だから同意とか,不利だから不同意とかというのではなくて,これを人が話すのと,書類を朗読するのと,どっちが分かりやすくて効果的なの,みたいなことを常に修習生には考えるように伝えてきたつもりです。私が担当したクラスでは,弁護士会の研修で今,ケースセオリーをよく考えよう,みたいな研修をよくやっているんですけれども,全く同じ内容の授業を研修所でも行ってまいりました。   ただ,やはりロースクールであるとか予備試験であるとか,出自もいろいろ,研修所に入った時点で,刑事訴訟あるいは刑事裁判,刑事弁護というものの理解について,かなりばらつきがあります。そうすると,ついてこられているのかなというところは正直,ありまして,ロースクールによっては刑事弁護という科目がなく,研修所へ来て初めて弁護人的な発想を学んだ,みたいなことをいう修習生もいました。そういう修習生にとってはなかなか,裁判員裁判をいきなりやれと言われても,かなりハードルが高かったかもしれません。私が教官をしている時代に,神山啓史先生という非常に有名な刑事弁護人が研修所の教官になられたんですけれども,そこからは,研修所で教えていることも弁護士会で教えていることも,これが刑事弁護の最先端なのであるということで,共通の教え方になりました。卒業した後,弁護士会の研修を受けたら同じことを聞くというような,そういった連動性があるような形には今,なっているとは思います。 ○大澤座長 それでは,また三者全て聞いた後に総括的な質問の時間も設けますので,先に進ませていただきたいと思います。   菅野委員,ありがとうございました。   続いて,検察官のお立場から横田委員に御紹介をいただきたいと思います。   横田委員,お願いいたします。 ○横田委員 東京高等検察庁の横田でございます。裁判員制度の運用における法曹三者の取組につきまして,検察官の立場からお話をさせていただきます。お手元に,本日お話しする要点をまとめた,「横田委員説明資料」という表紙のついた一枚紙を用意しておりますので,適宜御参照いただきながら聞いていただければと思います。また,参考資料として,「証明予定事実記載書面の一例(イメージ)」,「冒頭陳述要旨」,「論告要旨」,これを今,事務当局に依頼してお配りさせていただきましたが,こちらは実際の事件を題材に作成しておりますので,プライバシー保護等の観点から,後ほど回収をさせていただきたいと思います。説明の時間はやや長くなりますが,約30分程度を予定しております。   検察官は立証責任を負う立場から,適正な事実認定と量刑を実現するため,裁判員に分かりやすい審理となるように,様々な努力と工夫を重ねております。本日はこのような検察官の取組について御紹介しつつ,検察官の立場から考える課題や問題意識についても若干触れたいと思います。   まず,公判前整理手続の迅速化についてお話しさせていただきます。裁判員裁判の運用をめぐる問題点として,公判前整理手続の長期化が指摘されることが少なくありません。本検討会の第2回の最高裁の御報告においても,近年は若干の改善傾向にあるものの,公判前整理手続が長期化する傾向にあると指摘されていました。検察官はこの公判前整理手続の迅速化のために様々な取組をしております。   まず,検察官は公判前整理手続の出発点となる証明予定事実記載書面という,検察官が法廷で証拠により証明する予定の事実,これを記載した書面をできる限り起訴後2週間以内で提出するようにしております。また,その内容についても,例えば,比較的争いのない事件では物語式の簡潔なものを迅速に提出したり,争点があらかじめ明確な事件では争点に関する主張立証に焦点を置いた証拠構造型の書面を提出するなど,事案の性質に応じた対応をするようにしております。   お手元に証明予定事実記載書面の一例として,物語式書面と証拠構造型書面のイメージをお配りしております。事案は,被害者方に侵入し,被害者からつぼを強奪してけがをさせたという住居侵入・強盗傷害事件です。物語式の書面とは,御覧の書面の上段がその例で,被告人がなぜ犯行を思い立ったか,どう準備したか,どのように犯行を行ったかなどを時系列で記載したものです。強盗を思い立って包丁を購入して,Bさん方に侵入して,Bさんを脅迫し,逃げようとするBさんにつかみかかって転倒させ,つぼを奪って逃走したと,そして,Bさんが意識不明の重傷を負いましたという,時系列の流れに沿った書面となっているので,物語式で分かりやすいということがお分かりいただけるかと思います。   一方,証拠構造型の書面というのは,下段がその例でございまして,例えば,こういう証拠からこういう事実が認定できます,このような事実を総合すれば,被告人が犯人であるということが認定できるという論理過程を記載した書面でありまして,この例では,被告人が犯人であるということを立証するための事実が4つ挙げてあります。こういった書面を使い分けて,証明予定事実記載書面を提出しているということでございます。   次に,証拠開示の点についてお話しさせていただきます。検察官は証明予定事実記載書面と同時に,検察官が立証に必要だと考えて,これは裁判に提出したいと考えている証拠,これを検察官請求証拠と言いますけれども,これは速やかに弁護人に開示をいたします。また,検察官はある一定の類型に該当する証拠,先ほど島田委員の御発言の中で類型証拠とおっしゃっていましたけれども,例えば証拠品などの証拠なんですけれども,これらのものについては,自らが裁判に証拠として提出する予定はなくとも,弁護人の請求があれば,それを弁護人に開示しなければならないというルールになっております。そこで,弁護人からの類型証拠の開示請求があった場合には,要件に当たるものを速やかに開示していますし,最近では,弁護人からの開示請求を待たずに先に任意に開示するようにもしております。これらの検察官の努力というのは,証拠を早期に開示することによって弁護人にも弁護方針を早期に確定してもらって,検察官と弁護人との間でどこが争いになるのか,早期に争点を明確化するためのものです。争点が明確となり,検察官と弁護人の言い分が法廷で主張と反論というようにかみ合っているのでなければ,実際の裁判が裁判員にとって分かりにくいものになってしまいます。そこで,公判前整理手続において早期に争点を明確にした上で充実した準備を行うために,検察官は早期に証拠を開示するようにしております。   さて,弁護人は検察官から類型証拠の開示を受けた後には,予定主張を明らかにするよう刑事訴訟法で求められているわけなんですけれども,弁護人によっては,どこに問題意識を持っているのかを明らかにしないまま類型証拠の開示請求を何度も行ったり,また,いつまでも予定主張を明らかにしなかったりという場合があるということは否定できません。また,裁判所の方でも,弁護人を督促して予定主張を促すことをしないまま,争点整理に向けた積極的な行動を起こさないなど,十分な進行管理ができていない場合があります。もちろん多くの弁護人や裁判官がそうだと言っているのではなくて,そのような場合もあるということですので,誤解のないようにお願いいたします。   公判前整理手続の長期化は証人の記憶の減退等をもたらすもので,その弊害が大きいことは言うまでもありませんけれども,検察官は証明予定事実等の作成と並行して,開示漏れのないよう細心の注意を払いながら証拠開示を行う必要があるなど,その事務量は多大なものとなっておりまして,公判前整理には事案に応じた適切な期間の設定と進行管理が必要であろうと考えております。もちろん検察官といたしましても更なる努力を重ねる所存でありまして,法曹三者が協力し合って公判前整理手続の迅速化に努めていく必要があろうと思っているところです。   次に,分かりやすい公判の実現について,公判段階における分かりやすい主張立証の努力と工夫について述べたいと思います。まず,冒頭陳述や論告でございますが,冒頭陳述や論告は,事案に応じてビジュアル化したA3ないしA4の配布資料を活用するなどして,内容を理解しやすいものとするように創意工夫を凝らしております。   お手元にお配りしました冒頭陳述要旨,A4のものです,それから,論告要旨はA3のものですが,実際の冒頭陳述,論告を基に作成した例でして,イメージを持っていただくために準備させていただきました。検察官によって違いますので,全部が全部こうというわけではありません。事案は,先ほどの証明予定事実記載書面とは異なり,被害者の頭部をブロックで殴打して殺害し,所持金を強奪するなどした強盗殺人等事件で,殺意の有無,すなわちブロックでの殴打行為について,被害者を死亡させる危険のある行為と分かって行ったかどうかが争点となったものです。冒頭陳述は,検察官立証のロードマップ的なものというイメージをつかんでいただけるかと思いますし,論告は検察官の立証を総まとめしたものというイメージをつかんでいただければと思います。   このように,冒頭陳述については最近,極めて簡潔なものが少なくありません。裁判員裁判における検察官の公判活動というのは冒頭陳述から始まりますが,ほとんどの裁判員は刑事裁判に関与するのが初めてのことでいらっしゃるので,裁判員の経験談などを伺いますと,審理の冒頭では頭が真っ白になってしまったですとか,初日は説明が頭に入ってこなかったなどの感想を述べられる方が大勢いらっしゃいます。そこで,審理の冒頭に検察官がいきなり詳細な説明をしても,これを全て消化して理解してもらうことは困難であろうとの配慮に基づくもので,このような簡潔なものにしております。争点が多岐にわたらない事件では情報量を減らして,このようにA3ないしA4サイズで1枚程度の紙にまとめることによって一覧性をもたせたり,冒頭陳述はいわば映画の予告編のように,事件の概要と注目すべきポイントを説明するにとどめるといった試みが行われております。   また,論告は証拠調べが終わった後に述べる検察官の意見ですけれども,そこでは検察官が立証してきたことについての総まとめと,被告人の情状に関する意見を手際よく記載して,評議の際に,ああ,検察官の意見はこうだったなと一覧していただける工夫をしています。このように,情報量を減らしつつ要点を簡潔にまとめた上,ポイントを外さず,しかも事実関係を正確に伝えるというのは,なかなか難しく,右から左に流れ作業でできるというようなものではないことは御理解いただければと思います。   次に,証拠についてでございます。裁判員裁判における証拠は,裁判員に対する分かりやすさの観点から,提供する情報をできる限り絞り込み,厳選しております。実際の事件現場で捜査官が事件の関係者に指示説明をしてもらいながら見分する捜査のことを実況見分と申しますけれども,実況見分を実際に行う際,捜査官は多いときには数十枚から100枚を超えるような写真を撮影しまして,それを実況見分調書という書類にまとめます。裁判員裁判の導入以前は,このような実況見分調書を1冊丸ごと証拠として提出して,裁判官に事件の実像をつぶさに見てもらっておりました。しかし,裁判員裁判では全ての証拠を法廷で見てもらうことが原則とされておりますので,大量の写真を見ていただく時間的余裕もありませんし,裁判員の集中力も続きません。そこで,検察官立証に必要不可欠な写真に絞り込んで厳選し,実況見分調書の数十枚の写真を僅か数枚に絞り込むという作業も珍しくありません。このように捜査の過程で作成された第一次的な証拠に盛り込まれた情報を絞り込んで,要点を分かりやすくまとめた第二次的な証拠を統合捜査報告書と呼んでおりまして,裁判員裁判では,この統合捜査報告書を裁判官,裁判員の前に置かれた画面に映し出して検察官が証拠の内容を説明するという方法で証拠調べを行っております。統合捜査報告書というものは1通ではなくて,例えば犯行場所に関する統合捜査報告書,被害者の負傷状況に関する統合捜査報告書など,立証すべき事柄ごとにまとめていることが多いんです。   それから,被害者や目撃者の供述を証拠とする場合には,被害者や目撃者から話を聞いて書面にまとめた供述調書を読み上げるという方法もあるのですけれども,読み上げられる内容を聞くよりも,実際の証人にその場でしゃべってもらった方が裁判員も理解しやすく,印象にも残りやすいので,起訴した事実に争いのある事件はもちろん,争いのない事件であっても,分かりやすさの観点から,供述調書の読み上げなどではなくて,あえて被害者や鑑定人等の証人尋問を行う場合もございます。ただ,証人の出廷に伴う御負担に配慮する必要があり,そのことは後ほどお話をいたします。   検察官の法廷における説明の分かりやすさについては,裁判員制度施行以来,分かりやすいと回答した方の数が6割を割ったことがなく,分かりやすかった,普通と答えた人の合計は平成29年度で94.7%となっております。これらの数字は,裁判員がこれまで刑事司法や事実認定に携わった経験のない方たちであること,そして,検察官が裁判員と直接対話してその疑問にお答えするというようなことはできない,そういう中での数字であることを考えれば,望ましい数字であり,先ほど述べたような検察官の取組の成果であると思われます。   次に,課題でございますけれども,これまで述べたような,裁判員のために分かりやすさを追求した公判立証を行うことに対しては,検察官の立場から,様々な課題があることも指摘をしなければなりません。第1に,証人尋問を行うに当たっては出廷していただく証人の負担が大きいということです。裁判員裁判においては,事実関係に争いがない事件で弁護人が供述調書に同意意見を述べている場合であっても,裁判員にとっての分かりやすさのために,裁判所から証人尋問による立証を促されることがあります。実際,一人の証人尋問もないと,裁判員が思い描いていた裁判と違いますねと言ってがっかりするから,証人尋問を行うようにと端的に言われた経験もございました。検察官としては,証人尋問による分かりやすい立証の重要性は認識しつつも,他方で証人の負担についても十分に配慮しなければならないと考えております。この点,性犯罪被害者の精神的負担と二次被害のおそれに言及されることが多いですけれども,一般の方であっても裁判に証人として出廷することの精神的負担は大きく,年少者,高齢者等ではなおさらですし,病弱であったり御高齢の証人には精神的負担のほか身体的,物理的負担が大きい場合もあります。また,医師や鑑定人などの専門家証人の場合には,例えば多数の患者を担当されている臨床医であるなど,裁判出廷の時間を捻出するのが大変困難な方もいらっしゃいます。裁判員裁判では裁判出廷の時間を余り動かせませんので,余りに裁判出廷の負担が重いと次回から司法への協力を拒まれることもありますし,そのような時間調整上の負担と将来の協力確保への支障についても適切に考慮する必要があるわけでございます。   このような証人の負担については,裁判所にもある程度理解していただいているとは思いますけれども,裁判員裁判ではどうしても裁判員の都合が優先されがちです。例えば,審理が長引いて証人尋問が予定時間内に終了しなかった場合,裁判員の時間的都合で閉廷時間の延長ができず,証人が追加でもう一日出廷しなければならなかったというような事案もございました。検察官としては,証人として出廷することも,裁判員として裁判に参加することも,いずれも同様に一般市民の方の御協力によりやっていただいているものであることを踏まえまして,事案の内容,供述証拠で立証すべき事項の性格,裁判員に適切に理解してもらえるかどうか,証人の負担はどうかなどを考慮しながら,供述調書と証人尋問を使い分けることにより,証人尋問の積極的活用について意識的かつ柔軟に取り組んでいきたいと考えております。   続きまして,いわゆる刺激証拠の取扱いについても御説明したいと思います。裁判員が御遺体の写真や被害者が助けを求める音声を見聞きしてPTSDになった旨の新聞報道以来,遺体や犯行現場の写真,犯行状況などが記録された動画や音声などのいわゆる刺激証拠について,裁判所は裁判員に与える精神的な負担等に配慮されて,検察官が立証しようとする事実が何であり,それとの関係でその証拠が真に必要不可欠なものかどうかを慎重に検討するとの姿勢が顕著です。例えば,カラー写真であれば白黒写真やイラスト,犯行状況が映った動画であれば静止画像,凶器であればその写真等の代替証拠を用いるよう求めることが常態化しております。最近では遺体の写真だけではなく,床に落ちた血痕を黒く画像処理したり,塗りつぶしたり,亡くなっていない負傷した被害者の傷口の写真もイラスト化を求められたり,血のついた凶器のブロック片も同種のブロック片で代替するよう求められたりしております。   確かに,これまで刑事司法に携わったことのない裁判員の方の精神的負担を考えれば,配慮は必要であると思います。しかしながら,これは余り報道されておらず,また報道の際にも強調されていないことなのですけれども,オリジナルの証拠というのは本来,証明力の点では最良の証拠のはずであるにもかかわらず,裁判で有罪・無罪や量刑を判断するための証拠として採用されないということとなるので,刑事司法に携わることが職務であるプロの裁判官も,その証拠を判断材料として見ることができないのです。つまり,精神的負担に配慮する必要のないはずのプロの裁判官も含めて,全く裁判の判断材料とされなくなってしまうという事態が生じているのです。裁判員と裁判官が審理に臨むに当たって,生の事実を見ることなく,血の色を赤から緑に加工した証拠であるとか,多数回被害者を殴打している動画を静止画のみにするなどの加工された証拠を見ることになれば,事案の真相を明らかにするという刑事訴訟法の目的からもかい離し,現実に凄惨な被害に遭われた被害者や御遺族の心情にも反するのではないかなどの懸念を指摘せざるを得ません。無論,検察官においても,立証すべき事実は何か,その事実との関係で,オリジナルの証拠の刺激性の強さや,これが与える裁判員への精神的負担の観点も含め,十分な検討を加えた上で証拠調べ請求を行う必要があると考えております。   最後に,検察における業務負担について少し述べさせていただきたいと思います。検察においては,裁判員裁判の特性を踏まえた,さきに述べたような様々な対応を可能とするため,その支援等を目的に中核事務官というポストを新設して配置するなど,体制を整備して臨んでいるところでありますが,その業務負担は重いものとなっております。その原因の1つは,これまで刑事司法に携わった経験のない裁判員に対して検察官の主張を分かりやすく示し,しかも,審理時間の制限のある中で,直接に対話せずにそれを行わなければならないということです。難解な専門用語を使わずに易しく解説することはもちろん,裁判員と直接問答をする機会はないのですから,裁判員が検察官の説明を誤解,曲解することのないよう,冒頭陳述,統合捜査報告書,論告の作成のみならず,法廷での説明内容についても細心の注意を払って準備しております。また,事実認定についても,演繹的な推論を組み合わせなければ説明できない場合もありますけれども,これを分かりやすく,「見て,聞いて,分かる」裁判で実現しなければならないので,主任検察官は限られた時間の中で,検察官の主張を正確に分かりやすく手際よく,しかも誠実に説明する能力が求められております。   検察官の業務を過重にしているもう1つの原因に,捜査段階で被告人が黙秘し,公判前整理手続でもなかなか被告人の弁解や主張が明らかにならないということがございます。被告人の弁解や主張が明らかにならないと,検察官の主張立証のテーマ,すなわち何を重点として裁判員に分かりやすく説明するかという点が決まらず,検察官の準備時間が削られていきます。それに加えて,公判前整理手続の段階で被告人が新たな主張や弁解を行った場合,それに対して補充捜査をする必要も出てきます。検察官は全ての弁解を予定して起訴をしているはずだから,補充捜査など必要ないだろうと思われる方もあるかもしれませんが,そんなことはありません。例えば,被告人が新たなアリバイを主張した場合,被害者供述の信用性を減殺するような新たな事実を主張した場合など,被告人の主張が真実かどうか,補充捜査を行う必要があります。   最近,裁判所は公判前整理手続の短縮に努力され,検察官の公判請求直後から両当事者に公判前整理手続に要する見込みを聞いて,早め早めに審理の日程を押さえるということをしています。それ自体は問題ないのですが,弁護人がいつまでたっても予定主張を明らかにされない場合など,公判期日は迫るけれども,検察官立証のポイントを決められず,結局,期日直前になって著しい量の業務が発生するという事態になりかねません。検察官としては,充実した法廷での審理を実現するため,公判準備に十分な時間を使えるよう,裁判官,弁護人と協働して公判前整理手続の進行に努めてまいりたいと考えております。   最後になりますが,裁判員制度に関しましては,なお様々な実務上の課題がありますけれども,検察としては日々の捜査,公判の実践の中で,柔軟な発想で知恵を絞り,裁判所,弁護人の理解を得つつ,裁判員制度がより充実した制度となるように引き続き努力していきたいと考えております。   私の説明は以上でございます。 ○大澤座長 ありがとうございました。先ほど横田委員からお話がありましたとおり,横田委員が御説明に使用した要回収資料については,後ほど事務当局に回収をしてもらいます。その点,御留意ください。   それでは,ただ今の御説明につきまして質問等ございますでしょうか。 ○堀江委員 少し細かなことですけれども,お配りいただきました冒頭陳述要旨と論告要旨について確認ですが,これは紙で配っておられるのか,それともモニター画面に表示しておられるだけなのか,特に論告要旨については,評議の場にも持ち込まれるのでしょうか。それから,これは後でお聞きした方がいいのかもしれませんが,弁護の方も同じようにしておられるのでしょうか。 ○横田委員 紙で提出させていただけるかどうかは裁判体の御判断によりますが,おおむねこれは紙で提出させていただいている場合が多いと思います。それから,その紙の提出の時期なんですが,これも裁判体でまちまちで,論告が終わってから出しなさいというような場合もありますし,論告を述べているときに既に見ていていいよというような場合もあるかと思いますが,一般的にはこれをお手元に置いて説明をさせていただく場合が非常に多いというふうに認識しております。 ○大澤座長 弁護についても御質問がありましたので。 ○菅野委員 多分,全員そうというわけではないと思いますが,弁護人はなるべく1枚の書面を冒頭陳述,そして最終弁論の前,あるいは後に配布しているということが多いです。私自身も,A4のペーパー1枚を配布しながら実際に説明させていただいていることが多くて,一切紙を出すなと言われたことはありません。出すならコンパクトなものを出してねというふうに裁判体から言われているケースが多いように思います。ただ,私が控訴審の記録を見ると,いわゆる読み上げ原稿のような長大な,本当に口頭で全部読むようなものが記録にとじられている一方,配布用のメモがないので,もしかすると読み上げるもの全てを文字化したものを配布している弁護人もいるかもしれません。 ○大澤座長 それでは,全体を通じまして,いろいろまだ御質問もあるかと思いますので,島田委員,菅野委員の御報告に対するものも含めまして,何かございましたら,どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽委員 今の刺激証拠の話ですけれども,例えば,要回収資料のA3のものを見ますと,勢いよく3回振り下ろすとか,量刑のところで,それが残酷な犯行態様であるとかというようなことに,例えば,被害者の傷であるとか写真であるとかというものが関係してくるんだろうと思いますけれども,そういうものを,例えばイラストにするということについて,弁護人や裁判所としてはどのようなふうにお考えなのかということを伺いたいんですが。 ○横田委員 前提として,今,検察官としても,いかに残酷かということを立証するために傷口を御覧いただくということはやっておりません。例えば,傷口がこうなっているからこの角度で刃物が入ったんだとか,このような強さで押したから殺意が認められるのではないかというような場合に,傷口の写真を見ながらお医者さんに証言していただくということなのですが,そのような場合であっても,イラスト化してほしいなどと要望される場合があるのです。いわゆる凄惨さとか悲惨さを立証するためにオリジナルの証拠を用いたいという趣旨ではございませんので,そこのところを御了解いただければと思います。 ○島田委員 できる範囲でお答えいたしますが,例えば,犯行態様がどういうものであったかによって殺意の有無に影響するといった場合に,亡くなられた方の傷について法医解剖がなされておれば,その法医の先生が,この傷はどういう原因でできたであろうかと,それについてどのくらいの力が加わったんだろうかというような形でもし立証することが可能であれば,その傷口についての写真を見なくても済むかもしれない。もちろん法医の先生自体は実際の御遺体の様子を十分御確認されているでしょうから,それに基づいた御証言をいただければ足りるのかなというふうに考える場合もあると思います。そこで立証すべき事実と,刺激証拠といわれている御遺体の写真を本当に法廷で調べる必要性があるのかどうか,そこのところを当事者と十分議論した上で採用決定,あるいは却下決定をしているというところでございます。 ○菅野委員 弁護人の立場からすると,例えば,正に今回の模擬事例であれば,争いますと,そもそもそんなことをしていませんという主張をするような事件に仮になったとすれば,検察官は傷口に関する証拠でどういう行為があったのかというのを立証するのは当然だと思います。その場合,弁護人とすれば傷口に関する証拠の関連性はあるから証拠とすることには異議はない,という意見になるんだと思います。逆に,例えば,殺害後に遺体が埋められて,遺体の写真が,腐って,例えば,すごくじゅくじゅくで,遺体の写真を見ても傷口の形状が分からない事件であれば,そういう遺体写真を見ても事実認定にも量刑判断にも意味がなく,関連性も必要性もないという意見になってくると思うんです。なので,弁護人とすれば,争点にとって必要なものであればやむなしと,ただし,何でもかんでも必要だということではありません。従来の裁判だと,人が亡くなっている事件だと,鑑定書は同意しておこうとか,写真は客観的な証拠だから全部同意でいいと漫然と考えていたところがありますが,今は,本当にその事件で必要な情報って何かなということを考えるようにはしているつもりです。 ○武石委員 いろいろ教えていただいて大変参考になったのですが,島田委員にお伺いしたいのが,評議の,先ほど,量刑のところで,意見が出尽くしたところで,裁決ではないですけれども,どっちが多いかというのを出すというお話があって,手を挙げてやるのと,投票用紙のようなものでやる,両方のやり方があるというお話があって,私はそれはびっくりしたというか,そういうのが統一されていないのかなというのが率直な感想でした。やはり手を挙げるというのは,抵抗があるのではないのかなという気がしたのですが,このあたり,実際の実務でどうなんでしょうか。 ○島田委員 例えば,意見が割れる場合として,量刑についての結論を決めるとき,これはピンポイントで全員一致になるということはむしろ珍しくて,裁判員,裁判官含めて幅のある意見がいろいろ出てきます。なぜかといいますと,やはりそれはそれぞれの方の価値観とか人生観とか世界観とか,そういったものが量刑というものに影響されてきます。そこで,先ほどちょっと説明が足りなかったかもしれませんけれども,量刑についての結論の取りまとめのときには私自身も投票用紙を使って,そこにそれぞれ無記名でそれぞれのお考えを,懲役5年とか6年とか7年とか,そういう形で書いてもらうようにしております。 ○武石委員 そうすると,手を挙げるというのはどういう場面に。 ○島田委員 事実認定について,殺意があったかどうかというところが争いになっているときに,皆さんで議論をしていると,大体,最終的な意見をそれぞれ述べているときに,同じような方向の意見が多くなってくるんです。そうですと,最終的に投票用紙まで使わなくても,皆さんそれぞれ自分でもう意見を述べているわけですから,最終的な結論を決めるときに,手を挙げてくださいということでも十分賄えるということで,そういうときにはそのような処理をしているということでございます。 ○堀江委員 公判前整理手続の点で,前回の御説明にもありましたけれども,長期化が進んでいる,最近は若干改善傾向もあるものの,10年全体で見ると長期化が統計の数字に出ているということなんですが,それは一般的な現象なのか,それとも,一部の事件について非常に長時間掛かっていて,それが統計でとった場合に全体の数字を押し上げているということなのか,そのあたり,法曹三者の方々の実感をお聞かせいただければと思いますが,いかがでしょうか。 ○大澤座長 統計的なものもあるかもしれませんが,むしろ実感としてどんなあたりかということで,もしお答えいただければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○島田委員 これは本当に事件によって違うとしか言いようがないところでございますけれども,多くの事件では検察官,弁護人の御協力によって,本来公判前整理手続に必要な合理的な期間内に公判前整理手続が終わっているというふうに感じております。他方,一部の事件ではかなり長期化しているものもあると。その件数が増えたり,あるいは長期化する期間が長くなったりすることによって,全体の数字が少しずつ上がってきていたのかなというのが私の実感でございます。 ○菅野委員 私も実感としては,全体が延びているというよりは,自分の事件では,大体これぐらいかなと思った事件はそれなりのところに収まっていく印象です。統計で見たような5年とか4年とかというのはそもそも経験したことがありません。どういう事情があってそうなったのかなというのは非常に興味深いです。例えば,亡くなった人が3人いて,全部否認事件で,ほかの事件もたくさんあって,裁判員裁判を3か月やる,みたいな事件でも,公判前整理手続であれば2年とか2年半ぐらいで終わっているものもあったので,自分の中ではそんなに全体が長くなっているという印象はありません。長くなる事件については,どうしても長くならざるを得ない事情があったのではないかと思っています。 ○横田委員 私の実感といたしましても,公判前整理手続の長短については,事件それぞれだと思います。ただ,公判期日の入り方はタイトになっている。例えば,前の裁判員裁判が終わって判決があったら,翌日にもう別の裁判員裁判が始まるというようなことがあるやに聞いておりますので,そういう意味では公判期日の入り方が非常にタイトになっていて,それが公判前整理手続の進行管理が厳しくなっている結果なのかなというふうには感じているところです。 ○大澤座長 一つ,私からも,細かなことで恐縮ですけれども,いわゆる証拠開示の関係で一覧表というものができたわけですけれども,一覧表の請求はほとんどすべての事件でされているのでしょうか,あるいは一部の事件に限られているのでしょうか。また,一覧表の作成がどのくらい大変なのかというあたりはいかがでしょうか。立法過程では,あれは大変だと言われたような気がしますが,今,運用がどうなっているのかというあたりについて,お聞かせいただけたらと思うのですが,横田委員,何かお答えいただけることはございますか。 ○横田委員 ほとんどの公判前整理手続に入った事件については,一覧表というものは作成しているというふうに思います。作成しない例はほぼないのかなと思いますけれども。 ○大澤座長 一覧表の開示の請求のあるなしにかかわらず,初めからということでしょうか。 ○横田委員 というか,開示の請求がない場合はほとんどないのではないかなと思っております。裁判員裁判の公判前整理手続で,特に証拠の一覧表の開示を要求されない,たまにはあるかもしれませんけれども,すごくレアなケースなのではないかなというふうに思います。   それから,作るのが大変かと言われますと,大変です。漏れがないように作るということにとても気を使います。それから,一覧表を作るというのも大変ですが,開示のための証拠に,事件に関係のない被害者のプライバシー情報でありますとか,第三者の方のプライバシー情報が入っているのを全部マスキングするという作業がございまして,開示に伴う準備手続は非常に大変になっております。 ○大澤座長 菅野委員の御認識としても,同じでしょうか。 ○菅野委員 一覧表は弁護人がまず,交付を求めます。求めると,すぐ出てきているというのが実感です。ただ,その後が結構,弁護人と検察官のやり取りが多くなります。一覧表には,その時点で送致されていないものも後で送致されたりして,何回かリニューアルされていくものです。検察官からは随時,更新した一覧表が出てきます。一覧表に記載される証拠の範囲は,弁護人の証拠開示の範囲とは必ずしも一致しないので,証拠開示請求したときに取り寄せて,また一覧表に載せたり,更新されていくものですから,最初から全ての証拠が掲載されているものではないという悩みもあります。あとは,実際,番号はついているんですけれども,開示された証拠が一覧表で何番の証拠なんですかというところが書いてあるわけではありません。そのことを検察官に質問したりして,教えてくれたり教えてくれなかったりするので,その辺は検察官と弁護人によってはやり取りがスムーズに行っていないようなケースもあるようです。 ○大澤座長 何か島田委員の方から補足されることはございますか。 ○島田委員 そうですね,公判前整理手続の段階で弁護人から証拠のリスト,ほぼ開示の請求がなされているように感じております。 ○菅野委員 島田委員に1点,質問です。難しい法律用語とかをどう分かりやすく裁判員に説明して,納得して協働作業を進めていくことは,非常に難しい作業だと思うんですね。私が最近感じているのは,例えば,責任能力が難しいということで,大審院の昭和6年の判例を説明しても分からない,あるいは昭和58年,59年あたりの最高裁決定をそのまま説明しても分からない。弁識能力,制御能力って,刑法学者が議論した中で整理されてはいますが,判例,通説的なものがなかなか本質的に理解されにくいということから,裁判所は多分,すごく説明の仕方について工夫されているとは思うんです。他方で,例えば弁識能力,制御能力という言葉を使わないで,では,病気の影響が圧倒的だったかどうかで決めましょうとか,あるいは,責任能力判断は,意思決定を非難できるかどうかなので,本人の意思決定の能力がどれぐらいあったかを考えてみましょうとか,多分,分かりやすさを求めて説明方法を工夫されていく中で,それが法解釈としてそこまで言っていいのかというのは時々気になることがあります。法解釈にわたるような判例,学説の議論というのが分かりにくいとしても,裁判所が法を作ってはいけないような気もしているものですから,その辺りは当事者と公判前整理手続でどういう議論をしているのかとか,裁判所としては判例とか実務で言われていたことを踏まえて,どういう苦労をされているのかというのを聞ければなと思いました。 ○島田委員 法律概念の中でも,特に責任能力とか正当防衛とか,非常に難しい概念がございます。それで,裁判員の方に判例が示している定義をお伝えしてもなかなか伝わりませんし,刑法の教科書に載っているものを御説明してもなかなか伝わらないというところで,その観点から難解概念に関する司法研究というものが裁判員裁判が始まる直前頃に1回行われて,本になっているところです。ただ,それも実際に裁判員の方に,そこで紹介されている言い換え,あるいは中間概念といわれているものなんですけれども,そういったものを示してもなかなか伝わらないというケースもあります。そこで,更にもう一段階工夫ができないものかというところで今,考えているところなんですけれども,裁判官だけが法律を勝手に言い換えてしまうというのは問題だろうと,それはそのとおりですので,公判前整理手続の中で,こういう説明をしたらどうでしょうかという形で検察官と弁護人に提示して,それで更に御意見を伺って,こういうふうに修正してほしいとか,法律の意味から相当離れているので,それは注意が必要だとか,そういう御意見もありますので,そのあたりを踏まえて,裁判員の方に説明する概念を一つ一つ,その事案の解決のために必要な概念として作っていくというような形で整理をしているところでございます。   この作業はまだまだ本当に,こうすればすぐ終わるということではなくて,一つ一つの事件で,この事件では何が問題になっているのか,責任能力だとして,いわゆる完全責任能力と心神耗弱というところの境目が問題になっているのであれば,それにふさわしい言葉で説明の案をつくることが必要かなというふうに考えております。 ○小木曽委員 横田委員の御報告の中に業務負担の話が出てきたんですけれども,今,裁判員裁判の対象事件というのは決まっているわけですが,それが,例えば否認事件もその中に入れるべきであるという意見があるとして,対象が広がった場合の業務負担というのは当然増えるだろうと思いますが,法曹三者,特に検察,弁護で,対象事件が広がった場合に予想される大変さというか,ちょっと漠然とした聞き方ですけれども,そのあたりはどのように感じていらっしゃいますか。 ○横田委員 対象事件が広がれば件数も増えますので,その分,加算される分があろうかなと思います。それから,今でも結構,裁判員裁判対象事件でなくても,例えば強盗傷害と恐喝など,対象事件ではない恐喝が強盗傷害との併合罪で裁判員裁判と同時に審理されるというような場合もありまして,結構,裁判員裁判対象事件以外のものについても裁判員裁判向けに準備をしなくてはいけないものもございますので,それを考えますと,対象事件が広がったら大変な業務量が増えるんだろうなというふうに直感的に感じるところでございます。 ○菅野委員 弁護士によっても違うかもしれませんけれども,私は,裁判員裁判が負担だと感じているわけではありません。裁判員裁判は集中して連日的にやるものですから,その間,記憶もフレッシュで,尋問の記録を,もう一回読み直すとか,資料をまとめ直すみたいな作業が必要ではないんですね。他方で,1か月に1期日ずつ否認事件が続いていますと,1か月前,どんな話をしていたかな,みたいなのをその都度読み直したり,1年後に論告弁論をやるときにはもう一回記録や調書を全部読み直していたりするものですから,そういう意味では,そういう集中的でない審理の方が私どもにとってはかなり負担も大きくて,集中的な,記憶がフレッシュなうちに口頭でそれぞれの当事者が核となる主張をし合う裁判というのは,ある意味,今まで弁護人がやっていた刑事弁護よりも負担が軽くなる側面もあります。むしろ,裁判員裁判以外もできるだけ集中的に審理して,記憶がフレッシュなうちにその事実認定につながった方がいいと考えている弁護士も多いと思います。 ○大沢委員 刺激証拠の関係でちょっと伺いたいんですけれども,検察官の横田委員に伺いたいのは,検察官の方で,やはりどうしても立証に必要不可欠なんだというふうな結論というか考えをまとめて,裁判所にお願いしたんだけれども,裁判所は,いや,それは白黒にしてくださいとかという,そういうケースがかなり実感としてあるのかどうかということと,島田委員に伺いたいんですけれども,逆に,裁判所の方からすると,余り必要ないと思うのに証拠請求するから,だから直させているというか,白黒にしてくださいとかそういうふうなことにしているんだという,若干,検察官の方と裁判所の方と認識が少しずれてくるというか,そういうこともあるのかなと思ったんですけれども,それぞれのそういう感覚的なところを伺えればと思ったんですけれども。 ○横田委員 もう血の色が赤というのはほとんど駄目ですね。今はほとんど白黒にしたり緑にしたり,それから,裁判体によるんですけれども,普通に市販されている解剖図がございますね,アトラスというようなもの,あれも血管の色が赤だから駄目ですとか,そういう裁判員に少しでもインパクトを与えるようなものは一切駄目とおっしゃる裁判所が増えているように感じております。例えば,皆さん,刺激証拠というと,もう二目と見られぬというようなすごく刺激的なものを想像されると思うんですけれども,そうではなくて,例えば動画で,被害者の姿は見えないんですが,たたいている姿が,17回たたいていると見えると,17回もたたいているインパクトが強過ぎるので,それは静止画にしてください,17回というのがそれでしか立証できないんだったら,多数回に訴因変更すればいいではないかというようなことをおっしゃられる例もあります。それから,滴下されて,血がぽたぽた落ちているというのを,刺激的だからということで真っ黒に塗りつぶしたところ,裁判員が評議の際に,それではどこに落ちているか分からないから見せてくださいと言われて,裁判員の御要望で証拠採用されるというようなこともありました。それから,イラストに変えてくださいというようなことがあって,イラストはどうしても不正確ですので,証人が法廷の場で,「写真だったらはっきり分かるんですけどね」と言いながら証言をされるとか,それは鑑定人の先生ですけれども,そういう例もありますので,非常に謙抑的過ぎる,裁判員にちょっとでも血の色が見えると裁判員が動揺されるのではないかというような慎重な裁判所が多いのではないかなというのが実感でございます。 ○島田委員 刺激的な証拠につきましては,先ほど申し上げたとおり,立証すべき事実とその必要性をまず十分に考えて,やはりこの証拠を採用しないと判断ができないといった場合には採用いたします。ただ,採用した場合に,もともとのオリジナルの血がたくさんついているというような状況のものを本当に裁判員の方に示して,体調を悪くされてしまうようなことがあってはいけないというふうに考えておるので,色を変えてくださいというお願いを,検察官あるいは弁護人にお願いをして,白黒にしてもらったり,セピア色にしてもらったり,あるいはイラストにしてもらったりという形で代替証拠を準備してもらっているというところでございます。裁判員の方の中に,もちろんそういった写真を見ても平気な方もいらっしゃるとは思うんですけれども,一番精神的に弱い方を想定した上で,イラスト化とか,色を変えてもらうとか,そういったことを考えております。 ○大澤座長 そろそろ予定の時刻になっておりますが,いかがでございましょうか。   それでは,本日は島田委員,菅野委員,横田委員,本当にありがとうございました。 ○宮崎参事官 ここで,右上に要回収と書かれた横田委員の関係の要回収資料を回収させていただきますので,係の者にお渡しいただきますようにお願いいたします。 ○大澤座長 それでは,続きまして,次回の第4回会合の進行について委員の皆様にお諮りしたいと思います。   本検討会においては,現行の裁判員制度の枠組み及びその運用に関わる事項を中心に検討することになりますが,具体的にどのような事項を取り上げて検討するのか,その項目について,次回,皆様に御協議をいただきたいと考えておりますが,いかがでしょうか。             (一同了承)   それでは,第4回会合についてはそのようにさせていただきます。   本日予定した議事は以上でございますが,この際,何か御発言がある方はいらっしゃいますでしょうか。   では,最後に事務当局から,次回の日程について確認をしていただきます。 ○宮崎参事官 次回,第4回会合は5月23日木曜日午前10時から開催する予定としております。場所につきましては,追って御案内を申し上げます。 ○大澤座長 それでは,次回は5月23日木曜日午前10時からということで,よろしくお願いをいたします。   それでは,本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-