法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  令和元年5月16日(木)   自 午前 9時59分                        至 午前11時45分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○羽柴幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第16回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日は,御多忙のところをお集まりいただきまして,ありがとうございます。   審議に入る前に,関係官の出席の承認についてお諮りします。   法務省特別顧問に就任されました井上正仁先生に,関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,井上特別顧問,よろしくお願いいたします。 ○井上関係官 2月に「刑期」を全部果たして社会へ戻ったつもりだったのですが,このような形で戻ってくることとなりました。また勉強させていただきたいと思いますので,よろしくお願いします。 ○佐伯部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   なお,本日は,酒巻委員,白川委員,手嶋委員,廣瀬委員,福家幹事におかれましては,所用のため欠席されています。また,大橋幹事,保坂幹事は,所用のため,遅れて出席される予定です。   まず初めに,事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○羽柴幹事 本日,配布資料として,配布資料25「道路交通法違反等の処分状況」を配布しています。配布資料の内容につきましては,後ほど御説明します。   また,参考資料として,「部会第8回会議から第15回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」を配布しています。この資料は,事務当局の責任において,当部会第8回会議から第15回会議までにおける各委員,幹事の御意見の要旨をまとめたものです。   また,第12回会議で配布した配布資料21「検討のための素案」及び参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案-」並びに第14回会議で配布した参考資料「遵守事項に違反したときの施設収容についての課題」を再度机上に置いています。   なお,本日も,前回までの配布資料はファイルにとじて,机上に配布しています。   続きまして,配布資料25について御説明します。   これまで,刑法犯及び特別法犯について,処分状況の統計資料を配布していましたが,配布した資料には,道路交通法等違反と過失運転致死傷の処分状況の統計が含まれておりませんでしたので,今回,これらについての統計資料をお配りするものです。   各統計について,簡潔に御説明します。   まず,1ページを御覧ください。   「第1」は,平成29年における少年の処分状況等です。「1」は,家庭裁判所における少年の処分状況です。2ページの「2」は,検察庁における少年の処分状況です。なお,この受理人員総数には,他の検察庁からの送致等による受理も含まれています。3ページの「3」は,少年院新収容者,「4」は,1号観察開始人員の各人員数です。   次に,4ページを御覧ください。   「第2」の「1」は,平成29年の検察庁における全年齢の処分状況です。「2」は,平成29年の裁判所における全年齢の処分状況であり,通常第一審事件の終局人員数及び略式事件の人員数です。   配布資料25の説明は以上です。 ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   前回部会におきましては,「検討のための素案」に盛り込まれている制度・施策のうち,「若年者に対する新たな処分」について意見交換を行い,他の制度・施策についても,まだ検討課題が多く残されている事項や検討に時間を要する事項について意見交換を行いました。   これらの事項につきましては,前回までの部会での意見交換を踏まえ,更に議論を深めていく必要があると考えられますので,本日も,前回と同様の進め方で意見交換を行いたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,最初に,「若年者に対する新たな処分」について,意見交換を行いたいと思います。   配布資料21「検討のための素案」の該当部分は,24ページ以下になります。   まずは,前回と同様,全般的な在り方について,総論的な意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○今井委員 まず,全般的な在り方について,意見を申し述べたいと思います。   これまでの部会におきまして,今検討しております新たな処分が,「保安処分」の性質を有するのではないかという御意見が幾つか出されたところでありますけれども,前々回の部会において,井上前部会長から御指摘がありましたとおり,「保安処分」という言葉は様々な意味で用いられておりまして,新たな処分が,そういった「保安処分」に当たるか否かという検討を概念的にしたとしても,さして議論が深まるものではないと私も思います。   例えば,これまで御意見にありましたように,犯罪者などに対して,犯罪防止のために課す刑罰以外の保護,教育,矯正,治療などの強制処分を,仮に「保安処分」と呼ぶとしますと,少年法の保護処分も同様に「保安処分」に当たることになると思われますが,保護処分について,問題があるとはされておりません。   仮に,新たな処分に問題があるということであるならば,それが抽象的・概念的に「保安処分」だとした上で進められる形の議論ではなく,どの点にどのような問題があるのかということを踏まえて,すなわち具体的・実質的な点で議論を進めることが有益なのではないかと思います。   また,新たな処分につきましては,対象者の再犯の可能性という危険性を根拠に課される処分であるのではないかとの御意見や,実際には保安や社会防衛上の必要性の観点が優先されてしまって,対象者の行為責任の範囲を超える処分が行われてしまわないかという御意見もあったと思います。   しかしながら,新たな処分は,対象者の改善更生を目的として課されるものであり,ここまで,いろいろと御意見が出ておりますが,行為責任の範囲内でのみ正当化され得るものです。その範囲内においてのみ処分を行うものでありまして,実際にも仕組みとしては,裁判所において,対象者の犯罪事実を認定し,その上で処分が課されるものとして想定されています。   裁判所において,このような枠組みに従って,対象者の犯罪事実を認定し,その行為責任に照らして許容される範囲内で処分をするというものが,想定されていると理解しております。   したがいまして,新たな処分においては,対象者の改善更生という目的が重視されますが,対象者の行為責任を超えた処分がなされるおそれがある制度ではないと私は考えておりますが,意見が分かれるところかもしれませんので,更に疑問があり,あるいは問題があるということであるならば,繰り返しになりますけれども,懸念される点を個別具体的に御指摘いただいて議論を続けることが,今後有益ではないかと思ったところです。 ○山﨑委員 今井委員の御発言に関して,具体的な問題点を議論すべきであるという点については,私も同感ですので,本日以降の議論でも,各論点において,その点を踏まえた議論をしたいと考えております。   先ほどおっしゃった中で,「保安処分」の定義によっては,少年法の保護処分も「保安処分」に当たるという考え方もあり得るという点,そのような学説もあるということは承知しておりますけれども,その場合でも,飽くまでそれは,対象が少年であるということ,さらには,健全育成という目的が設定されている中での制度ですので,今回検討されている新たな処分については,成人に対して,健全育成という目的ではない上で,こういった処分を入れるということになりますから,それ自体が認められるのか,必要性があるのかといった点は,別途検討されるべきことであろうと考えております。   それに関連して,対象者についても意見を述べたいと思いますが,前回の部会で橋爪委員から,対象者に関して,行為責任を上限とした範囲の処分であり,責任を超えた処分を課すことにはなっていないので,侵害原理ないし行為責任の枠内で,理論的には正当化することが可能であるという御趣旨の下で,18歳,19歳に限らず,成人一般について新たな処分を導入しても,理論的には説明が付くという御発言がありました。   しかしながら,侵害原理に基づくという場合に,行為責任を上限とした範囲の処分,あるいは責任を超えた処分を課すことにはならないということだけで許容されるのかという点については疑問を持っております。むしろ,行為責任に応じた処分,行為責任に比例した処分が求められるということになるのではないかと考えております。   この点,検察官が訴追を必要としないため,公訴を提起しないとした事案について,従来であれば,刑事手続から解放されていた成人の対象者について,あえて,その要保護性といったものに着目して,家庭裁判所での調査や鑑別など,相当程度の手続負担を課した上で,刑罰とは異なる新たな処分を行うという制度が,18歳,19歳のみならず,20歳以上にまで正当化できるかという点については,根拠として,まだ不十分なのではないかと考えます。   仮に,20歳以上に対しても可能な制度として検討するのであれば,これまでの議論とは前提が異なるため,改めて,より慎重な検討が必要になるのではないかと考える次第です。 ○青木委員 今の山﨑委員の発言とも多少重複するところがありますけれども,よくよく考えた結果,私は,この新たな処分には,やはり正当化根拠はないのではないかと思っております。   今想定されている手続は,少年法の手続とほぼ同様の手続になっておりますが,少年法の手続は,保護処分の手続であって,健全育成目的の下で行われているものだからこそ,正当化されていると考えております。   そうしますと,成人であるという前提で考えた場合に,そもそも起訴もされない,応報的非難に値しないような事案にもかかわらず,調査や審判の手続の負担を負わせること自体,あるいは,正式な有罪認定前に,例えば,以前に山﨑委員が引用されていました少年審判規則の第11条に基づいて,遺伝関係等まで含まれるような,非常に深くプライバシーに踏み込んだ調査が行われて,教育的な働き掛けということで,実質的な処遇まで行われるというのは,成人の手続として考えた場合に,行為責任との関係で,あるいは元々の成人の手続の在り方との関係でいうと,正当化できないのではないかと思います。   仮に,新たな処分のようなものを正当化できるものとして理論的に構築するのだとすると,18歳,19歳について,保護処分的な要素が一切ないという前提ではなく,保護処分的な要素が含まれるものとして,健全育成目的,類似の目的を定めて,本人の利益にもなるのだということを前提として構築するのであれば,まだ正当化できるのではないかと思いますが,その場合には,起訴されない事案についてだけ,そのような目的が入っているのは,おかしいことになりますので,起訴される事案も含めて,18歳,19歳については特別な配慮が必要であるとして,民法上の未成年と同様ではないにしろ,成人とは違った特別な制度が必要になるのではないかと思います。   仮に成人一般の制度として考えるのであれば,理論的には,刑罰の中に応報的要素が極めて低い社会内刑罰というようなものを設けることにして,例えば前科にはならない,実質的には保護観察のような社会内刑罰を設けることにして,公判手続よりは簡易な裁判所での手続を経て,その手続も二分して,有罪認定をした上で問題性の調査をして,社会内処遇をする,処分というか刑罰を科することは,理論的には考えられるだろうと思います。   ただ,そもそも起訴されないような事案について,裁判所での手続にのせるということに関しては,宣告猶予についての議論の中でも,そのような事案について,わざわざ裁判所の手続にのせて負担を負わせるのかという議論もあったように,そこまでして社会内処遇に付するという制度が必要なのかどうかという別途の問題はあると思いますが,理論的に正当化できるものとして考えるのであれば,その二者になるのではないかと思います。   今の新たな処分というのは,何となく,今まで保護処分の対象になっていた18歳,19歳だからと,ほぼそれと同じで大丈夫だろうという形で進められているように思いますが,成人であるという前提で考えた場合に,目的が単に改善更生というところでは,正当化できないのではないかと思っております。 ○大沢委員 この「若年者に対する新たな処分」について,法理論的な正当化根拠について,様々な議論があることは承知しております。非常に勉強になっているのですが,一方で,もし「若年者に対する新たな処分」を設けるとして,こういった処分について国民の理解が得られるかどうかということも,また考えてみる必要があるのではないかなと思います。   飽くまで仮にですけれども,少年法の適用年齢を下げて,18歳,19歳が成人になった場合,軽微な犯罪に及んだけれども,まだ犯罪傾向が進んでいないという段階の18歳,19歳に対して,それを放置してしまうのではなくて,何らかの改善更生の働き掛けをするということの重要性というのは,いろいろ異論はあるでしょうけれども,私も含めて,多くの一般の方が理解するのではないかなと感じています。   その働き掛けや調査について,これまでの御指摘の中で,強制的な不利益処分,あるいはプライバシー侵害という御意見があって,確かにそういう側面もあるなとも思うのですが,前回武委員が御指摘になっていたとおり,初期の段階できちんと働き掛けをして,その後の犯罪のエスカレートを防ぐという,そういう目的というのは,多くの人が,また理解するのではないでしょうか。   特にそれは,対象者,若年の18歳,19歳の本人のためにもなるということは,それはまた,多くの人が理解するのではないかと思います。 ○田鎖幹事 まず最初に,大沢委員の御発言を受けて述べます。その前の青木委員,山﨑委員の指摘とも関連しますが,18歳,19歳については,初期の早い段階で手当てをすることによって,その先の再犯を防止していくということで,国民の理解が得られるという御指摘が以前にもありましたが,そうすると,起訴されない者にだけ,そのような要請が生じるのではなくて,初めての行為だけれども,行為責任としては比較的重い行為に出てしまった,そういった若年者に対しても,同じような要請が生じると思います。そこを起訴されるかされないかというところだけで分けるということの合理性は,きちんと考えないといけないと思います。   また,国民の理解というのは,私は,理論的正当化の根拠というものがきちんとできた上で,その後に付いてくるものであろうと考えております。   それから,制度の目的あるいは性質に関わることで,青木委員からも御指摘ありましたけれども,そもそもこの新たな処分というものがどういうものなのか。山下幹事からは,刑事処分でもない,保護処分でもないといわれるが,刑事処分としかいいようがないのではないかという御発言もありました。   私も,改めて第二分科会の議論等を確認しましたが,その中でも,応報目的がないということで,刑罰を教育刑と捉える立場からは,新たな処分も一種の刑罰というような整理になるだろう,ただ,我が国では,刑罰をそのようなものとは捉えていないので,刑罰ではない,刑事処分とはいえないというような整理がされていたと思います。   そういう意味では,どちらでもない新たな処分というよりは,新たな社会内刑罰,教育目的,改善更生目的の刑罰のようなものを導入するということになると思います。これは,現状では存在しない,全く新しいものを導入するということですので,それについては,単純に政策的必要性のみで,18歳,19歳には妥当するとして,深い議論をしないで,その部分の議論を飛ばしてしまっていいのか。これは,私は,断じてあってはならないと思います。   ですから,処分の性質・目的について,もう一歩深めて議論をする必要があると思います。 ○橋爪委員 御批判がありましたので,お答えを兼ねて,1点申し上げたいと思います。   まず確認させていただきますが,私は,成人一般について,新たな処分を拡張すべきだと申し上げているわけではございません。飽くまでも理論的な可能性として,成人一般について,新たな処分を拡張することも,理論的には正当化可能であるという趣旨を申し上げました。その上で,いかなる年齢層に対して,新たな処分を適用すべきかについては,特に必要性・相当性の観点から,更に吟味が必要と考えております。   先ほど,むしろこの問題については,新たな刑罰制度を設けることで対応すべきという御提案がございました。しかし,成人に対して,再犯防止,改善更生という観点から不利益処分を課す可能性を,常に刑罰に一元化する必要はないと考えております。   すなわち,刑罰とは,飽くまでも,その本質は非難ないし応報であり,非難ないし応報を正当化の根拠としつつ,その限度で,再犯防止,改善更生を目的とする処分と解されます。すなわち,刑罰というレッテルを貼ること,それ自体が対象者に対する非難・応報の契機を含んでいるわけです。   そうしますと,刑罰というレッテル貼りの不利益を回避しながら,再犯防止,改善更生を実現することも十分に可能であり,このような意味からは,刑罰とは異なった処分として新たな処分を制度設計することは,理論的には問題がないように思われます。これも対象者に不利益を課すものでありますが,責任主義ないし侵害原理の範囲内であれば,この点も正当化可能であると考えます。   さらに,責任主義という言葉の意味合いでございますけれども,先ほどから議論を伺っておりますと,いろいろな意味で,この言葉が使われているような印象を受けました。   私の理解では,責任主義は,飽くまでも実体法的な処分の内容について,責任との比例性を要請するものでありまして,直ちに手続的な負担との関係についてまで,責任に基づく制約を含むものではないと考えます。   もちろん,いかなる手続をとるかという問題は,対象者に対する負担という観点から,別途検討する必要があると思いますが,まずは処分の内容との関係で,責任主義の原理を理解することが適当ではないかと考える次第です。 ○田鎖幹事 今の御発言を受けまして,1点,私として気になったこと,懸念されることを申し上げますと,確かに責任主義というところから,直ちに手続的な負担が否定される,あるいは,比例性がそのまま求められるわけではないというのは,そのとおりだと思いますが,一方で,例えば無罪の推定が働く状況において,審判が確定した後の処分の先取りのような処遇をしてはならないということ,そのようなことが手続の過程で起こってはならないということも,また真実だと思います。   そういった点も含めて,今の制度設計というものを見ますと,かなり手続的な負担が先取られている,例えば調査や,あるいは働き掛けといったものなどは,正にそういった意味での負担が重くなっているのではないか。そのような指摘も含めたものと私は理解しております。 ○佐伯部会長 手続については,また後でまとめて議論していただきたいと思います。 ○青木委員 先ほどの議論に関連して,若干補足しますと,手続的負担というだけではなくて,介入の限度といったことに関しても,成人と少年では違うはずであり,正当化根拠の点でも,どこまでの介入が許されるのかは,常に意識して議論しなければならないと思います。 ○佐伯部会長 総論的な問題について,ほかには御意見ございますでしょうか。   いろいろと関連していますので,次のところで,また関連して御発言いただいても結構です。   それでは,総論的な意見交換はこのぐらいにいたしまして,次に,「一 対象者」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○田鎖幹事 今の最初の部分で触れられたことの確認です。   つまり,起訴されるかされないかというところで線引きをするのかどうかという,これは新たな処分の制度設計そのものというよりは,それ以外の制度の在り方を考えるのかということとも絡む点でありますけれども,一応この問題は,形式的には対象者に関連することであると指摘させていただきたいと思います。   それとの関係で,恐らく青木委員は,先ほどは,刑罰としての制度を積極的に提案する趣旨ではないのではないかなと私は理解しました。少なくとも私は,新たな処分の課題ということで先ほど発言をさせていただきまして,新たな刑罰の導入,提案という趣旨で申し上げたのではありません。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,次に,「二 手続」について,意見交換することとします。既にいろいろ御意見も出ておりますけれども,「二 手続」の点につきまして,御意見ある方は挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 「二」の「1 調査」について,無罪推定の原則との関係はどうなのかという御意見が過去にも出ておりましたし,先ほどもありましたが,無罪推定の原則は,国側が犯罪なり非行なりの成立要件を合理的な疑いを超えて立証しなければ,裁判として刑罰や不利益処分を言い渡してはならないというものですから,ここで想定されている,起訴猶予になった人々を対象に,犯罪予防の処分なり措置をするという場面で,それが適用される原則であるのかを意識しながら論じるべきだろうと思います。 ○川出委員 これまでの部会において,成人である新たな処分の対象者について,裁判所によって正式に犯罪事実の認定がなされる前に,少年法上の社会調査に当たるような調査を行うことは許容されないのではないかという御意見が出ておりましたので,第二分科会でこの案を考えた立場から,その点について意見を申し上げたいと思います。   御意見の中では,そうした調査が許されない理由として,先ほど小木曽委員から御指摘があったように,無罪推定の原則に抵触するという点が挙げられておりました。無罪推定の原則というのが,どのような内容を持ったものかについては,様々な見解がありますが,仮に,この場面で無罪推定の原則を持ち出すということであれば,その内容は,犯罪を行ったことが裁判所によって正式に認定されていない段階で,犯罪を行ったことを前提になされる量刑や,その他の処分の決定に関する調査を行うことはできないということになろうかと思います。   しかし,現在の刑事手続においても,公判において有罪判決を言い渡す前に,量刑に関する審理は行われており,その中で,いわゆる一般情状に関する証拠調べが行われますし,また,それ以前の捜査段階でも,犯罪事実だけではなくて,公判段階で言えば一般情状に当たる被疑者のプライバシーに関わるような事情についても取調べが行われています。そして,このような運用が無罪推定の原則に反するから許されないとは考えられていませんので,無罪推定の原則というのは,先ほど述べたような内容を含むものとは,少なくとも実務上は理解されていないということになります。   そうすると,問題は,犯罪を行ったことが裁判所によって正式に認定されていない段階で,一般情状に関わる事項の調査をすること自体ではなく,プライバシーに深く関わるような事項を詳細に調査するという点にあることになります。これまで出されている反対論も,そういった調査を念頭に置いているのだと思います。   もっとも,無罪推定の原則という観点からは,問題となるのは調査の内容であって,その程度や詳細さではないはずですから,この場面で,裁判所による有罪認定前の調査を否定すべき根拠は,無罪推定の原則との抵触ということではなく,犯罪を行ってもいないのに,対象者のプライバシーに深く関わる事項を詳細に調査するということになると,対象者に対して不必要かつ重大な権利侵害をもたらすという点にあることになります。   こういう考え方自体は,十分に成り立つものだと思いますが,その一方で,前々回の部会で澤村幹事から御説明がありましたように,現在の少年審判手続においては,まず,裁判官が記録に基づいて法的調査を行い,非行事実が存在することについての蓋然的な心証が得られた場合に,家庭裁判所調査官に対して調査を命じ,それを受けた調査官によって社会調査が行われています。そこでは,審判で正式に非行事実を認定した後に社会調査が行われているわけではありません。   今回の新たな処分に関する調査の手続は,この運用を取り入れることを想定しています。そうしますと,現在の少年審判手続での運用も不当であって,これを改めるべきだというのであれば,それはそれで一貫した考え方であると思いますが,そうでないのであれば,なぜ,少年審判手続では認められることが,新たな処分に関する手続では認められないのか,その根拠を示していただく必要があると思います。   その根拠として,前回までの部会では,少年については健全育成という目的が妥当するのに対して,新たな処分は成人を対象とするもので,それが妥当しないという点が挙げられておりました。ここで言われている健全育成目的というのが,具体的にどういうことを意味しているのかが必ずしも明らかではないのですが,ひとまずそれを置いて,現在の少年審判手続において,先のような運用がなされている根拠は何かということを考えてみますと,それは,なるべく早期に調査を開始し,必要な働き掛けをすることが,少年の改善教育にとって効果的である一方で,少年が非行事実を行っていない場合には,少年に対して不必要な権利侵害をもたらすことになりますので,そのバランスをとるという観点から,非行事実が存在することについての蓋然的な心証が得られることを要求しているということだと思います。   そうだとしますと,今回の新たな処分の対象者である18歳,19歳の者についても,なるべく早期に調査を開始し,必要な働き掛けをすることが,その者の改善更生にとって効果的であるということは,同様に妥当しますので,少年の場合と同様の運用をするということは,十分に正当化できるだろうと思います。   以上のように,新たな処分に係る手続において,家庭裁判所が正式に犯罪事実を認定する前に社会調査に当たる調査を行うこととしても,問題はないと思います。 ○山下幹事 「二 手続」の「4 罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束の措置」について,意見を述べたいと思います。   前回,この問題について,廣瀬委員から,緊急同行状で家庭裁判所の少年を連れてきた後,必要な場合には観護措置をとって対応しているので,緊急同行状で連れてきた後に調査・審判するための期間を確保することが必要であるという御意見がございました。   現在,この「検討のための素案」においては,「4」の「B案」として,罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とした身体拘束について,これができるという立場として,2週間を超えることはできないが,1回に限り延長ができるという,そういう見解が「B案」として提示されているところです。   その解説では,理由として,罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とする収容措置の期間は,審判が継続している間になると考えられることから,現在の実務を踏まえると,28日間程度を要すると考えられることから,このように決めたということが記載されているところです。   これは,少年法第17条第3項と同様の期間を定めるものということになりますが,他方,「若年者に対する新たな処分」において,収容鑑別の期間については,10日間という提案がされているところであります。   少年法上の観護措置というのは,鑑別のためという側面と罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とするという側面の両方を併せて,観護措置の期間を原則2週間,最大4週間と定めているわけですけれども,新たな処分については,鑑別のための収容は10日間,罪証隠滅又は逃亡の防止を目的とする身体拘束については,原則2週間,最大4週間,そういう提案がされているということになりますが,この二つの期間に,なぜこれほどアンバランスが生じているのかが,私としてはよく理解できないところです。   現在の少年法においては,全件送致をされた上で,その中には重大な事案も含むと考えられますが,「若年者に対する新たな処分」については,比較的軽微な事案で,訴追を必要としないために,検察官が公訴を提起しないこととされた事件について行われるということになりますと,現在の少年審判と同様に,送致後に3,4週間掛けて調査・審判を行うという必要はないと考えられるところです。   そういたしますと,「B案」として提案されている原則2週間,最大4週間という期間は,余りにも長過ぎるということであって,過剰な権利制約であり,妥当ではないと考えます。              (保坂幹事 入室) ○山﨑委員 「手続」の全般に関わることなのですが,適用年齢の基準時との関係で不都合が生じないのか,あるいは,どういう対応が必要なのかという点について,意見を述べたいと思います。   例えば,ケースとして,17歳の者が18歳に近い時期に,万引きなどの軽微な事案で家庭裁判所に少年事件として送致をされたというケースを考えますと,家庭裁判所での調査・審判を受けますが,処分の決定時までに18歳を迎えてしまうという場合ですと,検察官に送致されることになると思います。   そして,18歳になった者として,検察官によって取調べ等の捜査を受けた上で,公訴提起の必要性なしとされれば,再び家庭裁判所に送られて,今度は「若年者に対する新たな処分」の手続の対象となり,そこで再び調査・鑑別を受けて,最終処分に至るということになるのではないかと思われますが,果たしてこういった取扱いが,18歳を成人としながら妥当なのかという点は,慎重に議論しなければいけないと思っています。その上で,そういう場合に,最初の少年事件の手続と後の新たな処分の手続との関係をどう考えるかという点も問題になると思います。   それぞれ家庭裁判所調査官の調査が行われるわけですが,少年法上の調査と新たな処分における調査,さらには働き掛けといったものの,先ほども出ましたが,内容や程度といったものが同じと考えるのか,どのように違うのか。対象者の保護者に対する扱いについては,同じように扱うのか,違うのか。鑑別についても,理論上は,少年事件での鑑別に加えて,新たな処分の手続で必要であれば,再度鑑別がとれるということになるのかといったような具体的な問題が生じ得る可能性があると思いますので,その辺も意識して検討する必要があるのではないかと思っています。 ○山下幹事 「6 検察官・弁護士の関与」のうちの「(二)」について意見を述べたいと思います。   前回の部会におきまして,審判に対する検察官関与の問題について,橋爪委員から,現行少年法の趣旨は新たな処分についても同様に当てはまり得るので,一旦起訴を見送った事件について,検察官が再度関与することも直ちに矛盾するわけではないため,可否のレベルではなく,要否や当否という政策的な観点から,更に検討を加える必要があるとの意見が述べられました。   少年法の検察官関与については,基本的には事実認定の適正化を図るということが,一番大きな主たる目的であると考えられます。これに対して,「若年者に対する新たな処分」の対象となるのは,比較的軽微な事案で,訴追を必要としないため,検察官が公訴を提起しないこととされたものであり,要するに,この制度については,非難可能な行為がなされたことをきっかけとして,対象者の特別予防を目的として行う処分であると説明されてきたところであり,嫌疑がないとか嫌疑不十分を理由として不起訴になるような事件については,その前提からすると,新たな処分の対象にはならず,したがって,家庭裁判所に送致されることもないと考えられます。   そうすると,家庭裁判所に送致された事件について,事実認定の適正化を図るために検察官を関与させる必要がある事件というのは,非常に考えにくいのではないかと思われます。   もっとも,捜査段階では被疑事実を全部認めていた対象者が,家庭裁判所に送致された後に,事件を全面的に否認して争って,審判不開始や不処分を求めるということが,全くないとはいえないとは考えられます。しかしながら,家庭裁判所としては,比較的軽微な事案であることも踏まえると,捜査段階での刑事記録を前提として,必要な証拠調べをした上で,自ら判断することは十分に可能であると考えられ,わざわざ検察官の立会いを求める必要はないと考えられます。   したがって,私は新たな処分については,検察官の関与の制度を設ける必要はないと考えます。 ○田鎖幹事 先ほど,私が言及したことに関連して,川出委員から御発言がありましたので,まだ全く考えがまとまらないのですが,一言申し上げます。   成人の刑事手続との対比において,新たな処分で,少年の手続と同様の調査等を行うことは問題ないのではないかという御指摘があったのですが,そもそも,18歳,19歳が仮に成人となったとして,成人に対する手続であることを前提として考えなければいけないということと,かつ,ここでの調査というものが,通常の成人の刑事手続とは異なり,審判が開始されるのに先立ち,しかも,裁判所が必ず調査しなければならない必要的なものとなっていて,それを裁判所が職権で行うものです。ですので,余りにも内容を抽象化して,成人に対してできていることとどこが変わらないのか,と議論するのは,適切ではないのではないか。今はまだ整理ができていないのですが,もう少し細かく分析して,どこが違って,どこが共通しているということを,丁寧に検討する必要があるのではないかと思いますので,引き続き,この点については勉強して,次回以降,述べさせていただきたいと思います。 ○佐伯部会長 「二 手続」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「三 処分」について,意見交換を行いたいと思います。   この点に関しては,前回の部会において,遵守事項に違反した場合の施設収容処分を検討するに当たっては,どのような処遇を行うのかという点も考慮する必要がある旨の御意見がありました。   そこで,現在の少年院処遇とは異なる処遇が考えられるとすれば,どのようなものがあり得るのか,大枠やイメージでも構いませんので,現時点で事務当局から御説明いただけるところがあれば,説明をお願いします。 ○小玉幹事 お尋ねの点ですが,仮に施設収容中の処遇について,部会におけるこれまでの御指摘を踏まえまして,施設内処遇に保護観察官が関与することとした上で,さらに,少年鑑別所や少年院における処遇のノウハウや人的・物的資源を活用することを考えた場合,対象者につきましては,例えば少年鑑別所や少年院に併設するなどした施設に収容した上で,保護観察官による処遇のほか,心理技官や法務教官を活用した処遇を実施することが考えられます。   また,対象者に実施する処遇内容については,従来の保護観察の状況を把握しており,施設収容処分の終了後に再び保護観察を担う立場にもある保護観察官と協議した上で,遵守事項違反によって示された個々の対象者の問題性に応じた個別的なカリキュラムを策定するといったことが考えられます。   その上で,施設収容中に心理技官や法務教官を活用して行うことが考えられる処遇内容としましては,もとより個々の対象者の問題性や収容期間などに応じて異なり得るものではありますが,おおむね次のようなものが考えられるのではないかと思います。   まず,一,二か月程度の収容処分となる者については,ごく短期間の収容であることに加えまして,収容中に鑑別又は鑑別に類する各種調査を滞りなく実施できるとともに,対象者の円滑な社会復帰にも資する立地条件の良さなども考えますと,少年鑑別所に併設するなどした施設に収容することが考えられます。   その上で,対象者については,鑑別又は鑑別に類する調査として,心理技官等により,遵守事項違反に至った対象者の問題性の把握のため,また,その問題性に対応して,施設内で実施する処遇に関する処遇指針の策定,さらには,収容処分終了後の社会内処遇に関する処遇指針の策定等のための各種調査等を実施することが考えられます。   また,収容処分終了後の効果的な社会内処遇の実施を図るため,遵守事項違反によって示された個々の対象者の問題性等に焦点を当てた施設内における指導として,例えば,ワークブックなどを用いた各種プログラムや面接指導などを実施することが考えられます。   加えて,これは対象者のニーズ等に応じてということになりますが,学習支援や修学支援として,例えば基礎学力が乏しい者に対する学習指導や,進学等を希望する者に対する修学情報の提供等を行うほか,就労支援として,職業上の資格の種類や取得方法,ハローワークの活用方法等に関する情報提供を行うなど,現在の少年鑑別所の観護処遇に類するような処遇を実施することも考えられます。   このような調査や指導,あるいは支援は,施設収容中の処遇については,保護観察によって改善更生を図ることが困難になった者を施設に収容し,その後の保護観察によって改善更生を図ることができるようにすることを目的として行うという考え方によるものです。   次に,これは仮にということですけれども,一,二か月を超える期間の収容処分が設けられるとした場合は,一定の期間があることを踏まえまして,少年院に併設するなどした施設に収容することも考えられます。   ただし,この場合でも,収容開始時に鑑別又は鑑別に類する調査を円滑に実施する観点や,収容終了後の円滑に社会復帰に資する観点を踏まえると,収容開始時には,まずは少年鑑別所に併設するなどした施設に短期間収容して,先ほど申し上げたような各種調査等を実施し,その各種調査等の終了後は,少年院に併設するなどした施設に移送し,保護観察官による処遇のほか,法務教官を活用して,少年院の矯正教育に類するような処遇を実施した上で,収容期間の終期に,元の施設に戻して退所させるということも,一案としては考えられるのではないかと思います。   少年院に併設するなどした施設で実施する矯正教育に類する処遇内容についても,遵守事項違反によって示された個々の対象者の問題性等に応じて,様々なものが考えられるところではありますが,例えば,その問題性に応じた指導プログラムの実施,就労や職場定着のために必要な知識や技能を習得させるためのプログラム,これは現行の少年院で行っている職業生活設計指導に相当するようなプログラムという趣旨ですが,そうしたものの実施などが考えられます。   このような調査や指導等につきましても,この施設収容中の処遇については,保護観察によって改善更生を図ることが困難になった者を施設に収容して,その後の保護観察によって改善更生を図ることができるようにするということを目的として行うという考え方によるものです。   このような対象者を収容する施設や処遇内容については,いずれも差し当たり考えられるところを申し上げたものですが,このような収容施設の法的性格や,少年鑑別所や少年院等の,既存の矯正施設に併設するなどした施設に対象者を収容することとした場合に,併設元の在所者や在院者等との間で必要とされる分離の程度等も含め,この部会の場で御議論いただければと存じます。 ○大塲幹事 先ほど小玉幹事から御説明のあった内容のうち,少年鑑別所や少年院に併設するなどした施設に収容した上で,保護観察官が関与して行う処遇について,補足して申し上げます。   施設内において,法務教官等が実施することが考えられる処遇の中でも,例えば遵守事項違反によって示された個々の対象者の問題性に焦点を当てた指導プログラムや面接指導等は,現在,保護観察官が社会内において保護観察対象者に対して実施し,効果を上げているものでもあります。   また,保護観察官が,対象者の状況に応じて日常的に行っている家族や引受人との面会を通じた家族関係の調整,金銭管理指導,SSTと呼ばれている社会生活技能訓練等についても,施設退所後の社会内処遇の中で,改善更生を果たしていく上で有用であると考えられます。   遵守事項違反があったときの施設収容処分における処遇に保護観察官が関与するとした場合には,今申し上げたようなものを実施していくことが考えられます。 ○佐伯部会長 ありがとうございます。   ただいま,矯正局の小玉幹事,保護局の大塲幹事から御説明がありましたので,御説明いただいた点についての御質問や御意見でも結構ですし,その他,「三 処分」のいずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いいたします。 ○太田委員 今,不良措置としての施設収容処分について,想定される施設内処遇と,それから社会内処遇の内容について御説明をいただきましたが,考えられる遵守事項違反というのが,恐らく再犯ではないでしょうから,というのも再犯の場合には,恐らく今度は起訴ということになってしまうからですが,考えられる遵守事項違反の内容からすると,まず施設内処遇の方の内容というのは,不良交友からの遮断や,不適切な保護環境,親等からの遮断,規則正しい生活習慣の醸成等といったものが基本になるだろうと考えられますし,これに加えて,矯正局から説明がありましたように,本人の元々の犯罪の内容や,本人の問題性,それから遵守事項違反の内容に応じて,例えばSSTや,認知行動療法等といった処遇が行われることになるだろうと思います。   ただ,収容期間が一,二か月以内の場合と,一,二か月を超える場合という分け方で御説明いただきましたが,その点に関して,やはり不良措置としての施設収容処分の期間が最長どのくらいの期間になるのかということと,いかなる場所で処遇を行うかということについて,検討しておく必要があるだろうと思います。   特に場所について,今,想定できる一つの可能性として,少年鑑別所という話が出ておりましたけれども,少年鑑別所であれば,全国至るところにありますが,少年院に併設するということになると,少年院の所在地というのはかなり限られております。特に,短期処遇を行っている少年院は限られていますので,本人の収容前の住所だとか,退院後の帰住先との関係から,遠方で処遇を受けるということにもなってしまいます。   そうすると,かつて特修短期の少年院で起きたような問題が出てくる可能性もありますし,保護観察を担当していた保護観察官とか保護司さんとの関係も,また切れてしまう。すごく遠い少年院に併設した施設だと,そのような関係も切れてしまいますので,今,少年鑑別所,少年院,少年鑑別所と収容場所をサンドイッチのように移すという提案がございましたけれども,そのようにするとしても,余り短い期間にあっちに行ったりこっちに行ったりで,人がどんどん替わってしまうというのがいいかどうかということについて,少年の心情の安定化という観点から考えても,検討しておく必要があるように思います。   それから,今,保護局からも説明がございましたけれども,新たな処分の社会内処遇中の対象者の状況や,遵守事項違反の状況を最もよく分かっているのは,保護観察官あるいは保護司さんであると思いますので,そういった情報や経験をいかせるように,保護観察官が主体的に施設内処遇に関わることができるような制度や仕組みにする必要がありますし,人的な体制もかなり重要になってくるだろうと思います。   それから,また,収容期間が短いということになりますと,退院後に向けた施設収容中からの生活環境調整が,かなり重要になるだろうと思います。   そこで,保護観察官が関与する処遇の内容に関連して,お尋ねをしたいのですが,現在,自立更生促進センターでは,対象者が就労などの社会生活を営みながら施設に居住して,そこで処遇を受けるということになっております。   そこでの処遇内容は,社会内処遇ではありますものの,保護観察官による宿泊を伴う濃密な処遇ということを行っているということなので,新たな処分における施設収容の際の処遇でも参考になるものと思われます。そこで事務当局に,自立更生促進センターでの保護観察官による処遇内容について,御紹介いただければと思います。 ○大塲幹事 自立更生促進センターは,国が自ら宿泊場所を整備し,保護観察官による濃密な処遇を行う場として設けられており,現在は,北九州自立更生促進センターと福島自立更生促進センターが設置されております。   各センターでは,更生保護法第51条第2項第4号に基づき,例えば,薬物再乱用防止プログラム等の専門的処遇プログラムを実施しているほか,各センターにおいては,独自に開発した処遇プログラム等を実施しております。   例えば,福島自立更生促進センターにおいては,同センターが独自に開発した「再犯防止プログラム」を実施しており,あらゆる罪種,犯罪傾向の者を対象に,犯罪につながる思考や行動パターンを改善するための種々の働き掛けを実施しております。   また,福島大学,福島刑務所と協定を結び,「窃盗更生支援プログラム」を開発しており,福島刑務所において,同プログラムのカリキュラムの第1段階を実施した者を対象に,第2段階以降のカリキュラムを同センターにおいて行っております。 ○山﨑委員 先ほどの考えられる処遇の御説明に関して,可能であればお答えいただきたい質問があります。収容期間が一,二か月を超える場合に,少年院に併設する施設での処遇も考えられるということでしたが,実際に処遇を行う場面において,通常であれば他の少年院在院者と集団的な処遇を行うのが原則になるのではないかとも思われますが,併設する施設といいますと,少年院とは別の建物で,かつ,教官も個別に,保護観察の遵守事項違反をして収容された者にのみ対応するというイメージになるのかどうか。   恐らく,この制度ができたとしても,実際に収容される者は,かなり数が少ないのではないかと思われますので,職員の配置や他の在院者との分離が具体的にどのようなイメージになりそうか,現時点で,イメージがもしあれば,お答えいただきたいと思います。 ○小玉幹事 先ほど御説明した内容は,差し当たり考えられるところとして,考えられる処遇内容,あるいは収容する施設について申し上げたものでして,例えば少年院に併設するなどした施設に収容するとした場合に,本来の在院者との分離の話や,教官の配置の話ということをおっしゃっていたと思うのですが,何か現時点で特定の考え方を持っているものではございません。   ただ,分離をどうするかということについては,今回の施設収容処分の対象者の法的位置付けや,あるいは収容する施設の法的位置付けなどにも関わる部分かと思いますので,そういったところは,むしろこの部会の場でも,御議論いただければと思っています。 ○山﨑委員 これからよく考えたいと思いますけれども,やはり数が相当少ないということも含めて考えた場合に,少年院とは違い,少年院法とは異なる法律の下で行われる処遇ということになると思いますので,そこに具体的にどのように職員を配置するのか。他の在院者との分離が原則になるとすれば,集団的な処遇が全く行われないということで果たして効果が上がるのかといった様々な問題があるように感じております。今後また検討したいと思います。 ○田鎖幹事 保護観察の処遇の見直しのための措置に関連して,遵守事項に違反した場合の施設収容処分との関連で述べたいと思います。   以前に,処遇の見直しのための措置としての収容鑑別を設けるべきかどうかというところで,少なくとも収容鑑別というものは,遵守事項違反を要件とすべきではないか,あるいは,回数についても一定の限度を設けるべきでないか,こういった御意見もありました。   今現在,遵守事項に違反した場合の施設収容処分についての御説明の中でも,当然のことながら,最初には鑑別,あるいは,それに類する調査を行うのだというイメージで御説明がありました。   そうすると,処遇の見直しのための収容鑑別というものと遵守事項に違反した場合の施設収容処分との関連,全く別個に並列に置いておくのかどうかということ,あるいは,今のように,遵守事項に違反した場合には,施設収容処分の中で鑑別を実質的に行っていくということであると,それとは別に,独立して,収容鑑別による処遇の見直しというものを置いておく必要があるのか。   その前の手続のところとも関わってきますが,元々,収容,身体拘束がなされる場面がかなり多いということを考えると,処遇の見直しのための措置としては,ここでいう「B案」の処遇見直しのための収容鑑別の措置は設けないということも,十分考えられると思います。              (橋爪委員 退室) ○大沢委員 今,事務当局から説明があった施設のイメージということで,大分イメージが湧いてきたのですが,社会との接点を持ちやすいという地理的な要素等を踏まえると,やはり少年鑑別所の方が向いているのかなと,私は感じました。   それから,期間については,飽くまで遵守事項違反をした人に対する措置ということであるわけですから,余り長期というよりも,一,二か月というのが,短期の方がいいのではないかなと,これも飽くまで感覚ですけれども感じます。   それで,前々回に申し上げたのですが,こういう処遇を作るときは,ただずっと閉じ込めておくというのではなくて,その後の,また社会内処遇に戻すということを考えれば,少し行き来できるような,そういう中で,保護観察に戻す準備を積ませるような柔軟な仕組みも,できれば,考えていただけたらと感じました。 ○山﨑委員 保護観察の遵守事項違反があった場合の施設収容に関しまして,前回までに川出委員から,様々整理して,御説明をいただいているところですが,前回,家庭裁判所の判断の仕方として,2種類あるということで,施設収容する場合の期間の定め方について御説明いただきました。仮に,そのような考え方をとった場合に,一度収容された対象者が,社会に戻った後に再び遵守事項違反をした場合の収容期間というのが,どのような形で判断されるのか。あるいは,上限は最初に決められた枠内で,何度でもできるという考えになるのか。その辺りについては,川出委員の方で,何か整理されている点があれば,教えていただければと思っております。 ○川出委員 御質問の点については,現時点で特定の意見を持っているわけではありませんので,それを部会で具体的に検討する段階になったときに,改めて意見を申し上げさせていただきたいと思います。 ○山﨑委員 分かりました。   それはそれとしまして,この遵守事項違反の場合の保護観察処分について,行為責任との関係で,果たして許容されるのかという点が,やはり私にはまだ疑問が残っております。   この新たな処分については,行為責任が上限なので許容されるという説明がされておりますけれども,それが制度として担保されているのかどうかという点を,しっかり考えないといけないと思っております。   新たな処分において,当初からの施設収容処分を設けるかという点については,様々御意見ありますが,やはり行為責任に照らすと,それを認めるのは困難ではないかという意見の方が多数かと感じているところですけれども,他方,保護観察処分について,遵守事項違反の場合の施設収容を認めるということになりますと,やはり結果として,行為責任を超える処分が課されるおそれが大きくなるのではないかと考えております。   遵守事項違反があった場合に施設収容を認める保護観察処分ということになりますと,不良措置のない単なる保護観察処分にしか付せないような行為責任に相当する犯罪を行った者は,本来対象にならないということになるかと思います。その点に関して考えますと,この制度の対象となる事件といいますのは,基本的に検察官が,罰金にさえ当たらないと判断したような軽微な事件,重ねて申し上げますけれども,処分の比率で考えるならば,現行だと審判不開始や不処分とされているような件がほとんどであると考えられます。   そうすると,行為責任の観点で見た場合に,仮に条件付きであっても,施設収容があり得るような保護観察処分が許されるのは,対象となる事件のごく一部にとどまるのではないかと思われます。   そして,特に,新たな処分として,遵守事項違反の場合に施設収容がある保護観察処分という1種類しか認めない,つまり不良措置のない保護観察処分は設けないということになりますと,不処分は相当でないけれども,単なる不良措置のない保護観察処分が相当であるような行為責任に対応するような事件について,果たしてこれを不処分とすることに,現実的になるのかどうか。   実際には,裁判官としては,不処分とするのは心配だということで,やはり不良措置の付いた保護観察処分を選択せざるを得なくなるのではないかと考えております。   そうなりますと,実質的には,対象事件の程度に照らし,行為責任を超えるような処分が行われるおそれが大きく,そのおそれをなくすような制度的な担保が不十分ではないかと考えております。 ○山下幹事 今の山﨑委員の意見に関連して,同じ問題で,「4」の「(四) 遵守事項に違反した場合の施設収容処分」に関して意見を述べます。   今,山﨑委員からもありましたが,この間,これについて,二つ説明の仕方があるということで,その二つ目として,当初の審判において,保護観察処分と併せて,遵守事項違反があったときに施設に収容されることを言い渡しておくという二つ目の考え方が,川出委員の整理で説明があったところでございます。   そうしますと,この仕組みというのは,当初の審判において,保護観察とともに,遵守事項違反を条件とする停止条件付き施設収容処分を言い渡すということになると考えられます。   結局,対象者が将来,遵守事項違反するかどうかというのを予測するのは極めて困難ですので,先ほど山﨑委員からもありましたが,保護観察を言い渡す場合には,常に遵守事項違反があったときの施設収容処分についても言い渡すことになると考えられます。そうだとすると,当初の審判において,施設収容処分を見込んだ処分をすることになりますので,行為責任が処分の上限を画すると考えることとの関係で,やはり問題となると思います。   取り分け,当初審判では保護観察しかできない。しかし,遵守事項違反の場合には施設収容処分ができると考えた場合には,なおさらといいますか,そのバランスから見て,行為責任が処分の上限を画するということとの関係で,非常に問題になると考えられます。   これは,この新たな処分というものがそもそも,検察官が公訴を提起しない比較的軽微な犯罪を対象とするということとの関係で,そういう問題があると思いますので,やはり遵守事項に違反した場合の施設収容処分を認めること自体に問題があると考えます。 ○佐伯部会長 「三 処分」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,最後に,「四 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」及び「五 家庭裁判所への移送」について,意見交換を行いたいと思います。   いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,どの点かを明示していただき,御発言をお願いいたします。 ○山﨑委員 制度全般についてですが,前回,この制度の対象者について,池田幹事から,18歳,19歳は相対的に可塑性に富むことが多い,改善更生を図る余地が総体的に大きいという御説明があり,それは私も理解できるところではあるのですが,仮にそういう特性を重視して,本当に改善更生を図ろうとするのであれば,再三出ておりますけれども,公訴の提起の必要なしとされる軽微な事案に限らず,より重い事案についても,その特性に応じた手続が必要ではないか,特に,調査・鑑別というものは不可欠ではないかと考えています。   今回のこの制度,侵害原理に基づいた説明が行われているわけですが,やはり制度全体を見ておりますと,保護原理に基づく少年審判手続とほぼ同様でありまして,実質的には,前回の発言にも出ておりましたけれども,パターナリスティックな介入を認める制度になっているように思われます。   しかも,刑罰が相当な事案については刑罰で対応するのが原則であるという建前があるものですから,公訴提起されない場合だけ,突然,保護原理的な制度を採用するかのようになっており,軽微な事案にのみ調査や鑑別が行われ,より必要と考えられる比較的重い事案には調査や鑑別が行われないという不備・不均衡が生じているのではないかと考えており,やはり制度全体として,よく考える必要があるのではないかと思います。   また,実際にどのような問題が生じ得るかという点で,実務の中から考えた事例としては,一度私,申し上げたことがあるのですが,示談の有無によって検察官の公訴提起の要否の判断が分かれるような事案を想定した場合に,示談の時期によって取扱いの差異が生じることにならないかという問題意識がございます。   先ほど申し上げたような事案で,捜査段階で示談が成立した場合には,公訴提起はされずに,家庭裁判所における新たな処分の手続に付されて,そこでは調査・鑑別が行われ,保護観察処分がなされ得るということになり,しかも,保護観察の不良措置として施設収容があり得るということになりますと,その手続や処分は,それなりに重いものになると思うのです。   他方で,捜査段階で示談が成立しない場合には,公訴提起されることになると思われますが,その場合には調査・鑑別は行われませんし,初度からの保護観察付き執行猶予がどこまで活用されるかという問題があり,従前どおりの量刑ですと,単純執行猶予で終了するというケースがほとんどではないかと思われます。   このように,示談成立の時期の先後によって,取扱いがこれほど異なるということも想定されますので,そういった不均衡も含めて,制度の在り方を検討すべきではないかと考えています。 ○武委員 教えていただきたいことがありまして,健全育成という言葉が何回も出てくるのですけれども,私たち,少年犯罪で子供を殺された家族なのですが,健全育成という言葉にとても苦しめられました。   もちろん,加害者の健全育成が大事だということは分かります。だけれども,少年法がそれをうたっているので,そのことだけを言われて,被害者は我慢をしなさいというところが今まで強かったわけです。   この健全育成って,どういう意味なのかなと,本当の意味が分からないのと,20歳を超えた大人が犯罪を起こした場合,健全育成ってないのでしょうか。悪いことをした人たちを健全に社会に出すために,いろいろなことをするのだと思っているので,言葉は違うかもしれないですが,大人の犯罪であっても,健全育成に代わるような言葉をうたってはいないのでしょうか。それを教えていただきたいです。   それと,もう一つは,山﨑委員が先ほど17歳で例を挙げられたのですが,万引きとか軽い犯罪を起こした場合,誕生日が来て,処分を受けるときに20歳を超えていた場合,それだと,大人と同じような扱いになるわけですよね。そのときに,どのような問題が生じてきたのでしょうか。   それと,処分のときに大人になった場合,少年のときに調査とか,家庭裁判所で多分いろいろなことをされていたと思うのですが,それはどのように使われてきたのか知りたいです。   それが本当に,年齢が引き下がったとき,18歳19歳の少年がもし軽犯罪を起こした場合に問題が生じるとは私には思えないのです。今まではどのように問題を解決してきたのか,どのようなことで頭を抱えてきたのかを教えていただきたいです。 ○佐伯部会長 どなたにお答えいただいたらいいのか分かりませんけれども,まず,1点目の健全育成の概念についてですが,どなたかいかがでしょうか。   指名して恐縮ですが,山﨑委員,いかがですか。 ○山﨑委員 健全育成の概念については,これまでの部会の中でも説明されてきたとおりだと思いますけれども,20歳以上にもそれがないのかという御質問については,罪を犯した方にきちんと立ち直っていただくことが誰にとってもいいという意味では同感なのですが,私の理解ですと,少年法における健全育成という目的は,やはり少年が未成熟であるということに着目して,国がかなり強度な介入をすることも認められるという意味で使われていて,成人に対しては,それはこれまで認められていなかったという点において,やはり違いはあるということだと思います。   これは年齢引下げの是非に関わる論点かと思いますけれども,対象者の自律性ですとか,そういったものをどこまで,国との関係で保障されるべきかという問題について,少年と成人では異なるという理解をされてきたと考えております。 ○吉田委員 健全育成というのは,大人に対して,どのように言い表されるかという点ですけれども,この流れを汲む言葉としては,成人全般の場合に当たる再犯防止,改善更生というものでくくられるのではないかなと考えています。   もう一つの質問で,現状で19歳の少年が20歳になる間際に罪を犯した場合に,どのように処理されているのかということですけれども,実務的には,20歳になる間際の少年が逮捕されて,検察庁に送られてきた場合に,年齢切迫の少年という形で,早く家庭裁判所に送致する手続をします。少年法の手続の方が少年に有利だという考えの下に,できるだけ成人になる前に家庭裁判所に送るということです。   そして,恐らく家庭裁判所は,少年の段階で判断しようということで,処分が必要ない者は不処分にしたり,保護観察にするなど,できるだけ判断をしようとすると思います。   しかし,成人になる2日前ぐらいに検察官が家庭裁判所に送致した場合には,それもできないとなると,恐らく家庭裁判所は,20歳になった時点で,年齢超過ということで検察庁に逆送することになります。そうなると,検察庁としては,成人として処理をするということになります。このように,20歳の間際のところは年齢切迫という形で対応しているというのが実務の運用です。 ○武委員 そうすると,18歳に年齢が引き下がった場合でも,そういうことがいえるわけでしょうか。 ○吉田委員 恐らく,18歳になりそうだということが,今度は年齢切迫ということになると思います。 ○武委員 ありがとうございます。 ○佐伯部会長 よろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」につきましては,この程度にいたしまして,それ以外の制度・施策のうち,これまでの議論を踏まえ,まだ検討課題が残されている事項や検討に時間を要すると考えられる事項について,新たな御意見,あるいは,これまでの御意見を敷衍した御意見等を中心に,御発言を頂きたいと思います。御発言のある方は,挙手をお願いいたします。 ○太田委員 目次でいいますと,「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」について,質問をさせていただきたいと思います。   特別遵守事項の設定について,第14回部会で,1号観察の保護観察処分少年には,保護観察所長の判断で,更生保護施設への宿泊を義務付けられるという御発言があったように思いますけれども,その点について,誤解があるといけませんので,事務当局に対して,質問させていただければと思います。   現在,各号種の保護観察対象者に対する,宿泊の義務付けという言い方がいいのか分かりませんけれども,これについて,どのような手続になっているのか御説明いただければと思います。 ○大塲幹事 宿泊の義務付けも含め,特別遵守事項は,更生保護法において,保護観察対象者の改善更生のために,特に必要と認められる範囲内において設定されることとされており,その設定は,その者の経歴や家庭環境等を十分に考慮して,相当な限度で行われることとされております。   その上で,特別遵守事項は,仮釈放者や少年院仮退院者については,地方更生保護委員会が合議体の判断で設定することとされており,保護観察処分少年や保護観察付き全部猶予者については,保護観察所の長が裁判所の意見を聞き,その意見の範囲内で定めることとされております。   なお,宿泊義務付けの特別遵守事項については,義務付けの対象となる宿泊施設が「法務大臣が指定する」ものであることや,宿泊が「一定の期間」に限定されることなどの要件も規定されており,その設定に当たっては,これらの要件を満たす必要があります。              (大橋幹事 入室) ○太田委員 ただいま御説明いただきましたように,現行の更生保護法というのは,保護観察の種別の違いに応じて異なる手続とか,それから要件というのが適正に設けられておりまして,1号観察の保護観察処分少年や,それから4号観察の保護観察付全部執行猶予者につきましても,保護観察所長の判断のみで宿泊の義務付けを行うわけではなくて,裁判所の意見を聞いて,その意見に基づいて設定しています。   ですから,裁判所が意見を述べなかった事項を特別遵守事項として設定することはできないわけでありますから,裁判所が特別遵守事項の外枠を定めているとはいえるかと思います。   実務についても,宿泊の義務付けといいますか,私は用語としては,一定の場所に宿泊して指導監督を受けるという,「宿泊を伴う指導監督」と呼んだ方が,更生保護法の規定の仕方とか趣旨に合致していると思いますが,この特別遵守事項の設定には不当な結果が生じているということは,聞いたことはありません。これは恐らく,保護観察処分少年や保護観察付全部執行猶予者についても,一定の状況においては,そうした特別遵守事項を設定するということが,対象者の社会復帰や更生において,極めて適切かつ重要だからであろうと考えます。   すなわち,社会の中で更生の努力を続けるような処分とか刑罰というようなものを受けた場合でも,行った非行や犯罪の情状,対象者を取り巻く環境,特に適切な監護者がいないような者の場合,更に共犯者や,非行集団がいるような場合には,不適切な監護者の下とか,単身での生活を送らせるのではなくて,そうした不良環境からは切り離した上で,適切な生活指導や,更生に向けた指導や援護を行う者が常駐しているような環境の下で生活を送るということが,円滑な社会復帰にとって,極めて適切かつ有効であるからであろうと思います。   社会の中で更生を認められたからといって,自由に好きなところで自由に生活をさせるということだけが,本人の利益に結び付くともいえないと思います。   これは,第13回部会で指摘させていただいたことでありますが,こういう宿泊を伴う指導監督の遵守事項を設定された保護観察対象者に限らず,全ての保護観察対象者は,居住場所を定めて,そこに定住するということが義務付けられております。   この宿泊を伴う指導監督の遵守事項を設定された保護観察対象者は,指定された施設で居住することにはなりますが,そこを拠点に,就職活動したり,就労したり,就学をするという社会生活を送りながら,必要な処遇を受けているということになっているわけです。   これらのことから,保護観察処分少年や,保護観察付全部執行猶予者についても,今後,更生保護施設への宿泊を伴う指導監督を遵守事項とする運用を開始したとしても,現行の更生保護法に規定された手続等に基づいて,必要かつ相当な場合に宿泊を義務付けるような,宿泊を伴う指導監督の遵守事項の設定が適切に行われて,更生に向けた必要な処遇が行われることが期待できると思われますので,現行法の規定を見直すという必要はないであろうと考えます。 ○山﨑委員 私は,罰金の保護観察付き執行猶予の活用について意見を申し上げます。   この点については,運用上のものではあるものの,活用が実際に進むかどうかには疑問があるという意見が出されているところですが,保護観察という,その法的性質といいますか,刑の付随処分とされていることからも,活用がどこまで進むか疑問に思っております。   保護観察は,施設収容はされないものの,年単位という長期間にわたって,対象者に一定の行動の制約を科すものといえると思うのですが,今回の議論ですと,さらに,保護観察の処遇の見直しのために,最大10日間の収容鑑別を認める,あるいは,特別遵守事項として,宿泊義務付けをするといったことが検討されており,これらが採用されますと,保護観察にはより強度の自由制約が認められ得ることになると思います。   他方で,保護観察付き執行猶予における保護観察は,社会内刑罰ではもちろんなく,飽くまで刑の付随処分であるところ,主たる刑が財産刑である罰金刑において,その付随処分である保護観察について,さきに述べたような収容鑑別ですとか宿泊義務付けという,かなり程度の高い自由の制約を認めるということが,果たして許容されるのかという点は,慎重に議論する必要があると思っております。   実務におきましても,そのような観点といいますか,感覚も含めて,裁判所が実際にこの制度を運用するとして,実際そういう判決を出すことがどれほどあるか,活用されるかという点については,先ほど申し上げような点からも,やはり疑問があるのではないかと思っています。              (大沢委員 退室) ○田鎖幹事 今の点に関連して,お願いがあるのでございますが,以前にも述べましたように,更生保護施設への宿泊義務付けの関連で述べたことですが,確かに特別遵守事項の設定自体が,裁判所の意見を聞いて,その範囲内で行うことになっているのですが,私の理解では,チェックシートのようなものがあって,特別遵守事項として設定すべき項目を裁判官がチェックする。それに基づいて,より具体的に定めるということだったと思うのですが,更生保護法の第51条第2項第5号の関係でどうだったかとかいうことが,2年近く前に,確か実際の記録など一式見せていただいたと思うのですが,個別にこの点に着目して拝見しておりませんでしたので,まずその書式のひな形を,是非資料として御提示いただけないかということが1点です。   それを踏まえて,これは前にも述べたことですが,その意見の聞き方によっては,裁判所の意見というものが非常に抽象的で概括的なものとなって,それに基づいて,かなり長期の宿泊義務付け等もできると,かなりフリーハンドにできるようになるということだと,特に保護観察対象者の地位等によっては,大きな問題が出てくると思います。後半については意見です。 ○佐伯部会長 今の資料の点については,事務当局で検討いただきたいと思います。 ○羽間委員 全く別のトピックについて意見を申し上げます。前回の部会も含め,これまでの部会におきまして,少年院出院者と若年の刑事施設出所者の再入率を比較するなど,統計を用いて処遇効果等に言及する趣旨の御発言がいくつかなされてきたと承知しております。   この点について,統計は具体的な数値で表されるため,統計を引用することによる発言のインパクトは大きいものである反面,統計学的な裏打ちがない場合には,ミスリードにつながりかねない怖さがあると考えております。   そこで,既に御承知の方もいらっしゃるとは思いますけれども,改めて統計学上の考え方を申し上げたいと思います。これは,個人的な見解ではなく,統計を扱う研究者が前提としているものです。   統計を用いて,ある条件の効果を測ろうとするならば,比較をするグループについて,当該条件以外の他の条件が同じである必要があります。例えば,施設内での何らかの処遇について,再入率等の統計を用いて,その効果を測ろうとするのであれば,その処遇を受けたグループと受けていないグループとの間で,他の条件,すなわち罪種,収容期間等に相違がないということでなければ,統計的な比較はできません。   この観点でいいますと,少年院出院者と若年の刑事施設出所者に関しては,この両グループの処遇内容以外の条件,例えば罪種,収容期間を始めとする重要な属性に大きな相違がございます。   そこで,これらの条件を一致させずに,両グループの再入率について統計的な比較を行うということは,論理的に成り立ち得ず,不可能です。つまり,そういった比較は,統計的に裏打ちされた比較とはいえないということになります。   もし,少年院出院者と若年の刑事施設出所者の再入率の比較をもって,処遇効果等を統計的に測定しようとするのであれば,両グループの中から,罪種,収容期間などの重要な属性に相違がない者を無作為に同数抽出して,比較をする必要があります。   今後の議論に資するものと思いましたので,以上申し上げました。 ○武委員 先ほどの遵守事項違反の話のことですけれども,私たちの事件の加害少年の場合,死亡事件を起こす前に軽い犯罪を起こしていて,その保護観察中に死亡事件を起こしていることがあります。例えば,無銭飲食をして捕まったけれども,保護観察になって,その後に死亡事件を起こしていることがあるのです。   そのときに,加害少年は,保護観察中にどんな生活をしていたのだろうと思うわけです。そこで約束を守っていたのだろうかと思うわけです。でも,そういうことは,私たちは分かりません。   ですから,この遵守事項を守らなかった場合,それ以前よりも少し重たいような内容になってしまうのは,私は当然あることだと思うのです。なぜなら,前にも事件を起こしていて,そして,あなたは保護観察にしましょうということを言われたのに,それを守らないわけです。それならば,そこで,少しどこかに収容するとか,そういうことをしてくださったら,死亡事件は,もしかしたらなかったかもしれないと私たちはいつも思うのです。前より少し厳しいような内容になっても,それはあり得ることだし,必要なことだと私たちは思っているので,是非そういうこともしっかり考えていただきたいです。 ○山﨑委員 先ほどの羽間委員の御発言とも関連して,私が前回発言したことについての発言をいただいておりましたので,その点を述べたいと思います。   私も再入・再犯に関する数値の処遇効果との関連付けにつきましては,先ほど羽間委員からお話しいただいたのと全く同じ認識でおります。ですので,確かに再犯・再入の数値というのが,処遇効果を評価するための一つの指標とはなり得るものとはいえるとは思いますけれども,少なくとも,両施設の再犯・再入に関する数値,それ自体を根拠に,少年院での処遇との対比において,刑事施設における処遇も再犯防止に一層の効果を上げているという評価まですることについては,やはりミスリードにつながるのではないかということを申し上げたつもりでございます。   更に言いますと,前提とされました再入・再犯の数値に関して,これまで部会に提出された統計資料のみをもって,少年院と刑事施設とでは大きな差はないという評価すること自体無理があるのではないか,他の統計資料なども併せて,数値についても,より慎重に検討する必要があるのではないかと考えている次第です。   さらに,私の発言に対しまして,今井委員から,私が引用した報告に関して,18歳以上の者とそれ未満の者の人数,調査の母数について,お尋ねがあったかと認識しております。   法務総合研究所の研究部報告58「青少年の立ち直り(デシスタンス)に関する研究」の報告書によりますと,調査の対象者は806名,このうち,出所時の年齢が18歳以上であった者は426名,18歳未満の者が372名とされております。   なお,出院時18歳以上の者につきましては,このうち,20歳及び21歳の者が144名含まれており,18歳及び19歳の者についていえば,282名になります。 ○奥村委員 最後になりましたけれども,先ほど事務当局から御説明のあった点について,一つお願いがあります。   新たな処分について,既存の施設を使うということについては私も賛成ですが,その場合,先ほど山﨑委員からも御指摘のあった在院者とのすみ分けができるかどうかということもさることながら,今後,同じ建造物内に在院者用の施設と新たな処分の対象者用の施設とができる。その場合,既存の施設とそこで行われている処遇のノウハウをいかすということでした。   18歳,19歳に対する新たな処分について,そのノウハウをいかす場合に,具体的にどういうことができるかということについては,まだ真っ白だということで,今後この部会で議論するということでおっしゃったと思うのですが,恐らく,叩き台になるようなものがおありになると思いますので,できればそういうものをいただければ有り難いと思います。 ○今井委員 先ほどの,羽間委員と山﨑委員からの御発言,ありがとうございました。私も,基本的には同じように考えております。   羽間委員が言われましたのは,コンパリゾン・グループを作るときの属性の設定ということが,どれだけ大事かということでありまして,ここにいる方は皆さん御存知のことかと存じますが,改めてその点を指摘されたのは,大変結構なことだと思います。   その上で,山﨑委員,前回のリクエストにすぐお答えくださいまして,ありがとうございました。その中で,山﨑委員も,処遇効果を考える上での一つの指標と言われたと思いますけれども,私も前回,そのような趣旨で申し上げております。   今日御提示いただきましたのは,18歳以上の方の年齢の偏差とその人数,18歳未満も同様でありましたけれども,そこが,先ほど羽間委員の御指摘にあったように,どのような,例えば無銭飲食とか窃盗,詐欺について,どういう傾向があるのかというのを調べれば調べるほど,より細かな処遇対策を練ることが可能になると思います。けれども,それを法律的な制度にまとめ上げる際には,一つの指標という言葉に表れておりますように,まず可能性のある施策の中で,どれをとり得るのかという,また違った判断も必要になろうかと思います。この意味で,両委員と私も同じ,基本的な発想を持っておりますし,それがここでの意見であるならば,今後もそのようなスタンスで,今提示されている処分について検討を進めればよいなと思った次第であります。   改めて御礼申し上げます。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。   本日はこの程度でよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議は,これで終了したいと思います。今後の具体的な議事等につきましては,私の方で検討し,事務当局を通じてお知らせすることにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   次回の日程について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○羽柴幹事 次回の日程につきましては,追って,皆様にお知らせしたいと思います。 ○佐伯部会長 引き続きよろしくお願いいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましては,そのようにさせていただきます。   本日の会議は,以上で終了いたします。   本日はどうもありがとうございました。 -了-