裁判員制度の施行状況等に関する検討会(第5回)議事録 第1 日 時   令和元年7月4日(木)午前10時00分から午後零時13分まで 第2 場 所   東京地方検察庁刑事部会議室 第3 出席者    (委 員)大澤裕,大沢陽一郎,小木曽綾,島田一,武石恵美子,堀江慎司,山根香織,横田希代子,和氣みち子(敬称略)    (事務局)保坂和人大臣官房審議官,大原義宏刑事局刑事課長,東山太郎刑事局刑事法制管理官,是木誠刑事局参事官兼企画調査室長,河原雄介刑事局刑事法制企画官    (その他)戸苅左近最高裁判所事務総局刑事局第二課長 第4 議 題 1 裁判員裁判関係者からのヒアリング 2 その他 第5 配付資料 ・委員名簿 ・上村公一氏説明資料 ・最高裁判所説明資料 ・「最高裁判所」と記載された封筒 ・「東京地方裁判所」と記載された封筒 第6 議 事 ○河原刑事法制企画官 それでは,予定の時刻となりましたので,ただ今から裁判員制度の施行状況等に関する検討会の第5回会合を開催いたします。 ○大澤座長 本日は皆様,御多用中のところ,お集まりいただきまして,ありがとうございます。   まず,議事に入ります前に,委員の異動がございましたので,御紹介をさせていただきます。猪原誠司委員が委員を退任されまして,新たに田中勝也氏が委員となられました。田中氏は,本日は所用により欠席をされています。   また,本日は,菅野委員におかれましても,所用のため欠席をされています。   それでは,まず,事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○河原刑事法制企画官 本日の配付資料につきましては,議事次第,委員名簿,上村公一氏説明資料に加えまして,前回の会合で出された御質問,御要望に関連いたしまして,最高裁判所説明資料,「最高裁判所」と記載された封筒,「東京地方裁判所」と記載された封筒をお配りしております。 ○大澤座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,前回会合で皆様にお諮りをしたとおり,裁判員裁判関係者からのヒアリングを実施したいと考えております。   委員の皆様には,事前に事務当局からお伝えいたしましたが,本日は,医師上村公一さん,医師岡田幸之さん,強姦致傷事件の被害者御本人及び弁護士上谷さくらさんの4名の方にお越しいただき,お話を伺う予定としております。   手順といたしましては,それぞれの方々から,まず御説明をしていただき,その後,質疑応答を行いたいと思います。   ヒアリングに先立ちまして,議事の公開の件をお諮りしたいと思います。   議事の公開については,第1回の会合において,第三者の名誉,プライバシー等の保護のために公開に適さない場合及び公開すると円滑な議論に差し支えが生じると考えられる場合には,議事の公開を停止して,報道機関の傍聴を制限し,あるいは議事録に記載しない取扱いをすることがあり得るということを確認させていただいております。   岡田さんにつきましては,裁判員裁判における精神鑑定の在り方等についてお話しいただくに当たりまして,鑑定人として実際に関与された個別事件の具体的な内容に説明が及ぶ予定であると伺っておりますことから,事件関係者など第三者のプライバシー等の保護に配慮する必要があると思われます。   また,強姦致傷事件の被害者御本人及び上谷さんのヒアリングにつきましても,事案の性質上,御本人のプライバシー等の保護に配慮する必要があると思われます。   したがいまして,岡田さん,被害者御本人及び上谷さんのヒアリングにつきましては,議事を非公開とさせていただき,議事録につきましても,可能な限度で,その内容を掲載するにとどめるということにいたしたいと思いますが,御賛同いただけますでしょうか。 (一同了承)   委員の皆様においては,御異議なしとのことですので,そのような取扱いとさせていただきます。   それでは,最初に,医師の上村公一さんからヒアリングを行いたいと思います。御説明と質疑応答を含めて,おおむね30分から40分程度を予定しております。   なお,上村さんの御説明の中で,スクリーンに実際の解剖写真を映して御説明される予定があると伺っておりますので,あらかじめお知らせをしておきます。 (上村公一氏・岡田幸之氏(傍聴)入室) ○大澤座長 上村先生におかれましては,お忙しい中,当検討会にお越しくださいまして,誠にありがとうございます。検討会一同を代表いたしまして,心より御礼を申し上げます。着席させていただきます。   本日は,上村先生が実際に裁判員裁判に関与された御経験を踏まえて,お話を伺いたいと存じております。   それでは,早速ですが,上村先生,よろしくお願いいたします。 ○上村教授 ただ今御紹介いただきました東京医科歯科大学法医学分野の上村といいます。   今回,裁判員裁判の証人というか,執刀医とか司法解剖を行っていますので,法医の立場から,裁判員制度施行から10年たったということで,幾つかお話しして,個人的な意見ですけれども,付け加えていきたいと思います。  私は平成4年から法医解剖に携わっていまして,最初は京都,それから山口に行って,それから東京の方に来たという経過があって,地方と東京で,例えば,法医鑑定のやり方も大分違いがあるんですが,ここでは東京の経験と,一部茨城県の司法解剖も受けていますので,それも含めてお話しします。   これまでに,裁判員裁判になってから証人として出廷した数は,解剖鑑定,私自身が嘱託を受けて,鑑定書を出して,裁判所に呼ばれたというのが18件,その中で,東京が14件で,茨城県の司法解剖は4件です。その他8件というのがありまして,これは私の解剖ではなくて,他の法医の先生とか,それから,解剖事例ではなくて,傷害ですね,殺人未遂で,もちろん死亡されていないので解剖にはなっていないで,そういう形の傷の鑑定を依頼されて,裁判で証言したというのが8件入っています。   それで,先ほど言われていましたが,一部,解剖写真をちょっと出しますので,申し訳ありませんが,4枚ぐらい多分出てくると思いますので,よろしくお願いいたします。(注:解剖写真はスライドで映写したのみで,配付資料においては省略されている。)   最初は,ここに挙げた刺激証拠というのが,法医の方では問題になっていて,これまでの裁判では,普通どおり,鑑定書という形で,その中に解剖写真も貼り付けて使っていて,それで特に問題なかったんですけれども,裁判員裁判ということで,写真を出しにくいということで,この右側のイラストを実際の裁判では使っています。   基になったのが,左の本当は写真なので,ここに傷があって,これを出したかったんですが,このままでは駄目だということで,こういうイラストを使って裁判に出しました。ここに傷の形,場所とか,それから表皮剥脱という擦過傷のようなものがあるとか,それから変色というのは,普通皮下出血の,そういうものも,周りに色が変わっているところとかがあると。   それで,皮下というのは,これは,この写真のもっと下というか,皮膚の下に中等度皮下出血があったというのは,これは言葉で添えています。   普通であれば,司法解剖の鑑定書であれば,皮下出血のところ,皮膚をめくったところの出血も実際写真として出すのですが,裁判員裁判では出せないということで,言葉で補っています。   それで,次の写真も裁判で提示できなかった例です。   ここの目のところを,恐らく殴られているだろうということをお示ししたかったので,ここに変色があるというのを,こういうイラストで提示しました。色の濃淡とかも付けて,それから,ちょっと上の方には表皮剥脱,ここは皮下出血,変色ですか,そういうのがあると。それで,言葉で補って書いている。これで,右の目とか額のあたりを恐らく殴られたんだろうと。   それで,最終死因は頭蓋内損傷です。硬膜下血腫とか脳挫傷とか,そういう頭蓋内のもっと重症な傷があるんですが,司法解剖の鑑定書には,そういう脳の挫傷の写真とかもきれいに出しているんですけれども,とても裁判員裁判では出せないので,鑑定書には書いていますけれども,証言するときは,この皮膚面の,それもごく限ったところだけでお出しできるというような状況ですね。それで,足らない部分は言葉で補っていくということになりました。   もう一つは,これ,逆に写真を提示できた例で,これは実際に裁判員の皆さんにお見せしたんですが,これは首,頸部圧迫による窒息死例で,甲状軟骨といって,甲状腺の横にある軟骨ですね。そこを頸部圧迫すると,よく軟骨が骨折するので,その写真を,ここが,この辺が折れていますよとか,それが,左側から右側のここもひびが入っていますよとか,そういうのを実際出しています。   これは死蝋化というか,土の中にたしか埋められて,時間がたっているので,余り血液とかも付着していないので,それだけ刺激性が少なかったんだろうということで,一応お出しできたと。   ただし,これだけでは,裁判員の皆さんは分かりませんので,こういうイラスト,これは場所を示すための,突起のここの部分が折れていますよとかいうのを,ちょっとイラストを一緒に付けてお出ししたというところです。これは提示できた方の例ですね。   だから,かえって個人識別というか,どの人の誰というのが分からないような写真だと,かえって出せるのかなと。例えば傷口そのものとか,それから例えば,場合によっては心臓に刃物が刺さってできたような傷なんかも,そこの部分のアップだったら出せるのかもしれないなという。ただしこれも,そのときの裁判長の意見とかを聞きながら,つくっていくということになります。   刺激証拠をかなり使いにくい状態に,やはり法医側ではなっていますので,そのメリット・デメリット,当然,専門家の皆さんは御存じだと思うんですが,やはり法医としては,真実が伝わるかというところで,イラストだと,かなり情報が単純化されます。   もちろん,かえって分かりやすくなるという御意見もあって,そうなんですが,情報というのは一つの写真の中にたくさんあるので,それの見方というのも,専門家によっても意見が,法医の立場としても,これが重症であるか,それとも,そんなに死ぬほどではない,中等度のものであるかというのを,見る人によっては違うところがあるんですね。   イラストにすると,そういうふうな情報が全部落ちてしまって判断しにくい,イラストを描いた人の意向がほぼ反映されるのが,多分正しいイラストなので,それは法医としては,意見を言いやすくはなるんですけれども,実際の情報としては,かなり少なくなっている。別の見方をするのを制限してしまっている,ある意味では。   同じ写真を見せても,法医の先生によっては判断が違うということも,極端な場合はあるかもしれません。それをどっちが正しいか,やはり裁判で明らかにしていただきたいところでもあるんですが,それがイラストを出してしまうと,その方向の情報しか出せないというところで,ちょっとメリットかつ,逆にデメリットになっているなというところはあります。   法医学者でも重症度の判断は分かれていっている。僕たちは,重症度の判断,もちろん1枚の写真だけでするのではなくて,例えば打撲があったら,その下に皮下出血があって,骨折があって,例えば臓器の損傷,脳だったら脳の損傷がありますので,それらを全て解剖で明らかにして,客観的な事実を出す。それがお仕事だと思っていますので,それぞれについて,打撲の部位,皮下出血の部位,骨折の部位,臓器損傷の部位,全部写真を出します。出すというか,鑑定書にはきっちり出していますので,それで総合的に判断しているんですが,裁判では,これ全部,もちろん出せません。出しても,この打撲のところも,かなりマスキングしたようなものがちょこっと出せるかというところで,あとは言葉で補うしかないんですよね。   もちろん,鑑定書には真実を書いていますので,間違ったことは普通ないと思いますが,そこの重症度の判断などは,やはり見る人によって違うので,その大もとの根拠になる写真などを出せないというのは,ちょっと難しいなと,客観的事実の判断のところで制限になっているのではないかというような気はします。   次ですが,死因の説明で,これは裁判員裁判になりまして,プレゼン形式が多くなりました。ほとんどプレゼンですね,最近証人として呼ばれるときは。   その対極にあるのが一問一答方式です。これは昔からあるので,私は慣れているんですが,プレゼン形式に慣れるまで,ちょっと私も時間が掛かりましたけれども,最近は,こちらの方がスムーズにいくのかなというような気はします。   要するに,死因を説明してくださいと言われて,ある程度時間をもらって,打撲があったとか,頸部を圧迫されたとか,自動車と衝突したとか,そういう傷の出方を説明して,それから,死因そのものも,ある程度基礎の段階から,こういう形でダメージを受けて,臓器障害を受けてとか,そういう言い方をして,分かりやすく説明するということですね。   よくある死因の説明として,窒息死とか,それから,頭部外傷はよくあるので,ほとんど,いつも同じような説明を加えることが多いんですけれども,ちょっとお出しいたしますと,これ,実際に裁判で使った説明のところですね。   例えば,<窒息の説明の例>というところで,窒息という言葉自身が,なかなかお分かりにならない裁判員もいるので,窒息というのは,呼吸の機能が障害されて,体に酸素が入ってきませんよと。逆に,二酸化炭素が体に,普通は呼吸で外に出すんですけれども,それが体にたまってしまいますと。そこの過程が,何らかの原因によって邪魔されて死に至ることが,窒息死とか窒息ということです。   その原因として,鼻,口を押さえられた場合とか頸部,首を圧迫された,法医学的には縊頸とか絞頸とか扼頸とか細かく分かれるんですが,首を圧迫されたことによる窒息が起こりますというようなことを説明します。   実際,解剖のイラストですね,首を横から見たようなところを出して,このケースは猿ぐつわという,鼻,口をタオルで圧迫されて,空気が入らないようになった窒息死だったと,証言したんですけれども,猿ぐつわがここにきて,喉の奥が圧迫されていって,この辺の,これ舌なので,舌が後ろの方に圧迫されて,ここの空気の,この辺が,こっちですね,ここが空気,喉の奥を通って気管に入る空気の通り道なので,ここを圧迫されると,窒息になるというようなことを説明しました。   もう一つの説明は,<頭部外傷の説明の例>です。大体これは,頭部又は顔面を打撲したときによく起こるもので,多くは硬膜外という脳の表面側の出血が起こって,それによって脳が圧迫されて,ヘルニアという状態になって,呼吸とか心臓が止まるということになります。   あとは,頭の構造ですね。今,例えば,硬膜という言葉が出ているので,硬膜がどこにあるかというのを,こういう簡単なイラストを持ってきて,脳があって,その表面にくも膜があって,もう一つ外側に硬膜がありますと。その外側に頭蓋骨があるので,骨の内側で,脳の間の部分で出血するということがよくあります。頭部打撲をすると,よく起こります。   そういう,これは脳の解剖学的構造で,それを説明した上で,硬膜というところ,これでは,ここに血腫ができたと,硬膜の下側,脳の表面側に血腫ができて,脳を圧迫していって,脳幹部というのがここにあって,脳幹部を圧迫されると,心臓とか呼吸が止まるということになりますので,そういうイラストで,そこを説明しています。   これは,証言したケースの脳を,写真では出せないので,これもイラストにして,この方は,左側に硬膜下血腫,大きなものがあったので,右と比べると,ここがへこんでいますので,ここ,脳が実際に圧迫されて,へこんでいるというのをケースで説明しています。血腫の重量が100グラム,本当はここに大きな血の塊があるんですけれども,それは出さずに,脳がへこみましたというような証言をしました。   脳幹部が何で圧迫されるかというのは,脳の上の方の血腫なんですが,それが回り回って,脳の中心部を圧迫して,この延髄というところに呼吸の中枢とかがありますので,ここが圧迫されて,機能停止になって死に至るという説明に使っています。これは,そのときの主な死因の説明ですね。   実際,写真を出せたのは,脳の一部のへこんでいるというところの写真だけ,一部出せたので,「次項は被害者の脳の一部の写真です」という断り書きを出して,これは実際に,解剖時の写真なんですけれども,脳を下から見たところで,ここが圧迫,脳の中心部がここにあるので,そこに至るところに圧迫した跡が残っています。これ一部,血の塊が付いていますけれども,それで死に至ったというような説明をしました。   最終的に,死因は脳ヘルニア,脳を圧迫するというのが死因のときは,ヘルニアという表現をします。   法医学の専門用語が,なかなか分かりにくいと思うんですが,一応法医学会で,法医学用語集というのを出していまして,これはホームページに出ていまして,冊子体にはなっていないのがちょっと使い勝手が悪いんですけれども,一応そういうところから,キーワードですね,例えば表皮剥脱とか,ヘルニアとか,頸部圧迫とか,法医特有の言葉ですね。そういうのは,ここから検索ができて,一応簡単な解説が付けられています。   そういう,プレゼン形式のメリット・デメリットですが,これはかなり,メリットの方が大きいとは思ってはいます。羅列ですけれども,死因を統一的に説明できるというところ,それが裁判員の理解に多分役立っているでしょうと。もちろん,説明のレベルによりますけれども,時間があれば,詳しくというか,基礎からできますし,そこがないと,余りはしょってしまうので,分かりにくいかもしれません。   もちろん,だから,プレゼン形式は時間が掛かるという,冒頭に20分,30分いただいて,死因を説明してくださいという形で言われて,今のような説明をして,それから,その案件についての個別のことについても説明して,統一的に,死因がこういう形ですという説明になります。   もちろんデメリットもありまして,資料作成の準備が必要です。今みたいな頸部圧迫とか頭部打撲のようなもの,よくあるものだと,ある程度,こちらの準備もできているので,そんなに負担はないんですが,新たな,例えば刃物で刺されたとか,別の新たなものの説明になると,ちょっと準備が必要になります。   それから,さっき言った,どのレベルから説明,これはもちろん,裁判員の方の個性によるんですけれども,一応,一般的な方で分かるという,専門家でなくても分かるというレベル,生体の構造というか,解剖学的なものから説明していっています。もちろん,かなりはしょって,詳しいところは全部省いて,分かりやすいところだけ取り出して説明するということになっています。   一問一答形式,最近は少なくなったんですけれども,こちらは事前準備は比較的少ない,ポイントだけ聞かれますので。それから,出廷時も,ごく手短に終わる,時間もそんな掛からないということがメリットですが,裁判員の方が付いてこられるかなというデメリットも確かにこういう形式にはあると思います。   もう一つ,最近,カンファレンスの形式がありまして,これ,昔は全くなかったので,裁判員裁判になってから,こういうのが始まったのかなと思うんですが,要するに,争点整理の段階で,裁判になる前に呼ばれて,それから,弁護人と,それから検事さん,僕らは検事さん側の立場で出ますので,そこが打ち合わせするところに参加するというような形ですね。   僕,ここに挙げた3件に呼ばれまして,1件目が,水戸の茨城県の司法解剖だったんですけれども,家庭内暴力というか,弟から暴力を受けて,翌日死亡したと。それで,成傷器の推定について,要するに,殴ったのか,足で蹴ったのか,ハードカバーの本で頭を殴ったというような供述があったので,それによってできた傷なのかということが,多分問題になったと思います。   それで,実際にカンファレンスがあって,これは実際,水戸まで行って,立ち会ったというか,呼ばれて行ったんですけれども,裁判官は冒頭のところで退席されて,あとは弁護側と検察側,そこに私が参加するという,これ初めての経験なんですが,そういうところで,いろいろ質疑ですね。主に弁護側から聞かれますので,それに対して答えていきました。   それから,2件目は東京地裁で,これも傷害致死事件で,成傷器の推定,殴打か転倒,自分で転んでできた傷なのか,それとも,例えば車のドアにぶつけた自損事故なのかとか,そのあたりが問題になって,一応カンファレンスがありました。   このときは,裁判官の方も同席されて,ずっと話を聞いておられました。何か特にカンファレンスの形式って,決まってはいないのかなと思いました。   3件目は,また水戸なんですが,これは電話で,電話カンファレンスというんですね。水戸地裁に行かずに,何月何日に電話がありますのでということで,待機していて,裁判所で打ち合わせされていたので,裁判所から電話がかかってきて,その電話の向こうに弁護人の方,裁判官の方,検事さんが聞いている。それで,誰かが,順番に話をするという,これも裁判官の方も同席されていました。   そういう形で,争点を先に聞かれて,ある程度,争点を減らすことに役立つのかもしれないなというような印象を受けました。   私としては,この案件,カンファレンスをやったんですが,あわよくば,カンファレンスで全部解決していただければ,裁判所に呼ばれないのかなという期待があったんですけれども,いずれも呼ばれました。実際出ていきました。3件目は電話だったので,なかなかこれだけでは解決しないのかなと思っていましたけれども。   カンファレンスについては,まだ余り例数が少ないので,そんなには大きな感想はないんですけれども,争点整理に立ち会える,ただしこれらの,私たちは検事さん側と,割かしやり取りを,書類をつくる,鑑定書をつくる前に,例えば調書,検面調書ですかね,調書をとられたりするので,そこでいろいろ聞くことが多いんですね。それで,弁護側の主張がこうだけれども,執刀医はどう思いますかとかいうのも聞かれることがあるので,大体争点は分かっていることが多いんですけれども,実際にされて,争点整理がされているところに法医学者がいることで,その場で質問がすぐ来て,答えられたりして,争点をあらかじめ減らすことに役立てば,裁判員裁判の負担も減るかもしれないとは思いました。   ただし,この3件,呼ばれたけれども,結局同じ,争点整理されたけれども,実際は減っていないのではないかなという勝手な思い込みもあるんですが,結局,また裁判に行って,もう一回証言するというのは,余り変わらないのかなという。それで,法医学者の手間は,もちろん増えますので,なかなか,これからどうなるのかなと思っています。   それから,あと,鑑定人の負担の件,これが最後になりますけれども,裁判員裁判になって,裁判所に呼ばれる回数が増えて,負担が増えたのですかと,よく聞かれるんですね。これもちろん,執刀医の個性によるので,増えた人もいるし,多分減った人もいるのかもしれないですが,私自身の例でいうと,裁判員裁判が始まる前の8年間のうちに15件呼ばれたので,年間1.875件,それから,裁判員裁判が始まった後の10年間のうちに18件呼ばれたので,結局年間1.8件で,何か偶然ほぼ一緒になっていまして,何か印象的には,私自身も,よく呼ばれているなという印象はあったんですが,実際の自分の執刀例では一緒だなと。   増えたのは,この下に括弧内に書きました,司法解剖執刀以外の案件が8件も呼ばれていて,だから,自分の解剖ではないのに呼ばれてしまったという,これは当然,解剖でない事例も,検事さんが意見を聞いてきたりしますので,そのときに検面調書をとったりとか,場合によっては鑑定書という形で出して,それで裁判に呼ばれるというのが増えているのかなと。   これは,余り以前はなかったんですけれども,自分の執刀例以外でも,傷のでき方などについて意見を聞かれることがあって,それによって裁判に呼ばれるというケースがやはり増えているのかなということでした。だから,出廷回数は変わらないんですが,出る範囲が広くなったという感じですかね。   それから,プレゼンを新たにつくるのは,ちょっと負担になっていますが,慣れてきたら,以前の経験を生かして,時間短縮して,対応できるかなという気はいたしています。   それから,鑑定の精度は,これは別に,裁判員裁判とはちょっと別の話ですけれども,司法解剖の鑑定は,できるだけ精度を上げようとして,いろいろな新しいやり方を取り入れたり,それから,詳しく調べたりとかいうことで,ケース・バイ・ケースなんですが,鑑定にやはり時間が掛かります。最低で2か月と書いていますが,本当に最低ぐらいで,テレビドラマなんかでは,解剖終わって,すぐに死因が決まってというような形で,検査も,いろいろな薬物検査もできてというようなことになっていますが,そんなことはとてもなくて,最低でも2か月,それから,詳しい薬物検査をすると半年とか,それから,神経病理学の検査をすると1年掛かることもあります。   あと,脳の組織検査,例えば最近,頭部外傷が多いので,そのときにどういう傷害を受けるか。例えば,びまん性軸策損傷って,脳に余り出血がないんですが,すぐ意識不明になって,予後が悪いという病態があります。そういうときの診断は,病理学,組織検査ですね,病理の組織検査,詳しい検査までしないと,とても分からないので,これには2か月ではなくて,もっと3か月以上掛かりますというようなことなんですが,やはりそういうことを要求されているというか,そこが争点になってくるというようなケースも最近増えていて,それから,例えば,このびまん性軸策損傷は,診断基準がいろいろ変わってきて,かなり詳しいところまで検査しないと,診断できないというような話も出てきていますので,それだけ,やはり詳しい検査が必要になっています。その負担というんですかね,検査の負担というか,そういうものも日々掛かっています。   それから,薬物に関しても,昔ながらの睡眠薬とか覚せい剤以外に,危険ドラッグとか,新しい,外国から入ってくるような乱用薬物が増えていますので,それに対応して,検査法を確立してから測定に入るとかいうことで,やはり時間が掛かるというのは御理解いただきたいと思います。   もちろん,裁判員裁判のために,鑑定書そのものを分かりやすく書くというのも必要ですが,やはり根拠となる診断の鑑定の精度を上げるというところで,かなり時間が掛かります。   それから,人材難というか,法医に携わる人,そんな多くないので,法医の執刀医だけできるのではなくて,検査とか病理組織検査,薬物検査をする検査技師さんの人ですね。そういう人たちの協力がないと,できないということになっています。   以上ですね。ちょっと,いろいろな話になりましたけれども,私からのプレゼンは以上です。 ○大澤座長 上村先生,どうもありがとうございました。   ただ今の御説明につきまして,質問等ございましたら,どうぞお願いいたします。 ○大沢委員 貴重なお話ありがとうございました。非常に参考になりました。   先ほど,イラストのところで,脳の損傷というところで,イラストの左側に,ちょっとピンクのやつのイラストのを出していただいたと思うんですけれども,レジュメでいうと7ページの上の方のやつですかね。これは,普通で,例えば裁判官裁判であれば,通常,写真は出していたものなんでしょうか。 ○上村教授 そうですね,裁判官裁判のときは,確かに一問一答が多かったので,余りその時代は,プレゼン形式は余りなかった。もちろん,写真の方が分かりやすいけれども,つくる手間も省けますし,写真を出していたと思います。鑑定書にはもちろん,この写真が出ています。なので,裁判官の方,先に読まれていると思いますけれども。 ○大沢委員 あと,これは先生か,あるいは裁判所の方に伺えばいいのかもしれませんけれども,カンファレンスのところで,裁判官の方が同席されるときと退席されるときがあるというふうなお話だったんですけれども,それは,例えば裁判官が退席されるというのは,裁判員との情報量の関係なんですが,そこはどういうあれで,退席されたり同席されたりすることがあるのかというのを,ちょっと教えていただければと思ったんですけれども,これは,もしかしたら裁判所の方かもしれませんけれども。 ○大澤座長 どちらかというと,裁判所ですかね。 ○島田委員 では,島田から回答させていただきます。   鑑定人のカンファレンスを行う目的によると思います。裁判員裁判の場合に,法廷で鑑定人に鑑定の報告をしていただく,あるいは証言をしていただくときに,どういう点に御留意いただくのがよいのか相談します。それから,報告の中で,専門用語が使われますが,その部分について,分かりやすい言葉に置き換えていただきたいという依頼や,プレゼン方式がいいのか,一問一答方式がよいのかという報告の方式について相談する場合,これらは形式的な事項についてカンファレンスをするということになります。   さらに,報告の内容について,検察官,弁護人がどういうところに問題意識を持って,今回尋問をされるのかというところまで踏み込んでカンファレンスをする場合,この二つの種類がございます。   形式的な事柄についてカンファレンスする場合には,検察官や弁護人は,裁判官が出席することについて,特に反対意見がないので,比較的,裁判官が出席するケースが多いと思います。   他方,報告の内容面,実質的な面についてまで,カンファレンスするということになりますと,当事者,特に弁護人から,裁判官が出席することについては反対するという御意見が出されることがありますので,そういった場合には,裁判官は退席するという形で,カンファレンスを進めていることが多いと思います。 ○山根委員 証拠写真の刺激性が多いか少ないか,提示するかどうかというのを決めるときに,裁判長の判断が大きいのかなと思うんですけれども,ほかの裁判員裁判での状況とか,いろいろなことを考えながら,先生方と協議をしながら,決定をするということでよろしいんでしょうか。 ○上村教授 そうですね,これはもう確かに,全部出すわけにはいかない,もちろん分かっていますので,一応キーとなる,いわゆる致命傷になったような傷とか,本当の成傷器を推定するのに分かるような傷は,やはり実物を出したいというような欲求がありますので,できるだけ言うんですが,それが通るときは,さっきみたいに,一部でも出せるときと,それから,全く駄目と言われる,血が付いているようなものは駄目と言われるときは,イラストでということになります。 ○横田委員 今の点,ちょっと補足をさせていただきます。証拠の提出について,法医の先生と裁判官が直接協議をされるということはありません。裁判所と協議するのは検察官です。ただ今の上村先生のお話は,法医の先生と検察官が協議をして,これは是非出したいというのを裁判所に対して申し上げて,その中で採用してもらえるのが,全部ではなくて,数点になってしまうというようなことがあるということで,裁判官と直接協議をするのは検察官になります。 ○和氣委員 被害者側から申し上げたいと思うのですが,やはり被害者は,真実を知りたいという方がたくさんいらっしゃいます。画像を見ますと,確かに衝撃が強いと感じますが,だからこそ,それを多くの方に見ていただいて,悲惨な現状を知って判決を下していただきたいという思いが非常に強いです。   ですから,イラストですと分かりやすいというメリットがありますけれども,やはりリアルさに欠けてしまいます。裁判員の方々には,悲惨な現状に目をそらさずに見ていただきたいという思いをしておりますので,是非御検討いただければ有り難く思います。 ○武石委員 ちょっとストレートな御質問になるかもしれないんですが,イラストの場合と写真の場合とで,判断に影響が出るものなのでしょうか。そこら辺が,もしお分かりになれば,教えていただきたいと思うんですが。 ○上村教授 そうですね,執刀側は全て解剖して,解剖の,もっと臓器の損傷とか,いろいろなもの,情報ありますので,私たち実際は,1個の写真だけ見て判断しているのではなくて,総合的に判断するんですね。同じように見えても,実際は,傷の程度はそんな大きくないというような症例もあるし,やはりケース・バイ・ケースなので,それぞれ見ていくんですが,確かに,これ1枚だけで判断してくださいというのは,なかなか難しいですね。   だから,一応言葉で補う,表面の傷はこれですけれども,中の傷はこうなって,骨折もあって,大きな血管の損傷もできています,やはりこれが致命傷ですとかいうのを,統一的に話はするんですが,その一番のきっかけになる外表面の傷がこれでしたということを納得していただくために,写真として出しているというような理解ですね。 ○小木曽委員 横田委員と島田委員への質問ということになるかと思うんですが,先ほどの刺激証拠の話で,検察官と裁判官の間でやり取りをするということですけれども,そうすると,裁判官のところに,これを出したいと言って,検察官が行きました。裁判官がそれを見て,これは出さない方がいいだろうという判断をした。それで,別の,例えばイラストで裁判員に見せたということになると,裁判官は見ているけれども,裁判員は見ていないという証拠があるということですよね。 ○横田委員 そのとおりです。 ○島田委員 その場合,裁判官が見るのは,証拠調べの相当性あるいは必要性があるかどうかということを判断するために,提示命令をかけて,証拠を見せていただくと,写真を見せていただくということになります。 ○小木曽委員 そうしますと,これは先生への質問ですけれども,イラストを描くのはどなたでしょう。 ○上村教授 そうですね,実際は,写真を基に起こすのは,検察官に頼むことが多いです。それをチェックするのが私たちの仕事で,もちろん,それをつくる上で,こういうイラストを使ってくださいとか,こういう,例えば元データ,イラストにはいろいろな素材がありますので,本にはこういう解説が載っていますよというのをお示しします。   もちろん,私たちがやればいいんですが,とても時間的な制約で,そこまで全部つくることはほぼ不可能です,時間配分からして。なので,やはり検察側と相談しながら,鑑定書をできるだけ分かりやすく示すためのイラストということでつくっています。 ○横田委員 今の点に補足して御説明いたしますが,イラストは,絵の上手な検察事務官がいれば,その人が描くということで,検察庁内で何とかしています。イラスト制作を外部に外注するということは聞いたことがございませんので,内部的に,何とか頑張って作っているということです。   小さなイラスト一つ作るのでも,大体半日仕事になると聞いていまして,相当な業務負担になっているし,せっかく作っても,弁護側から,これ写真と違うではないかと言われて,書き直しというようなことになったり,弁護側は弁護側で,別のイラストを作ってこられたりして,結局法廷に,何か微妙に違うイラストが二つ出てしまって,きちんとした事実認定ができたのか,検察官としては悔いが残ったというような事例も報告されています。 ○島田委員 裁判所も,争点判断に必要な場合には写真を採用しているんですけれども,カラー写真でないと判断ができないような場合というのは,どういう場合でしょうか。もし法医の立場から御意見ありましたら,お伺いしたいと思います。 ○上村教授 そうですね,やはり出血の程度,色の変化で,やはり重症度が変わる,出血部は基本的には赤く見える。それがどの部分まで見えるか,皮膚に付いているのではなくて,皮膚の下の皮下組織まで出血が及んでいるかというのは,ある意味,専門家が見たらすぐ分かるんです。   私たちは写真1枚,もちろん表面の傷の判断なんかは,見たら分かります。見なかったら,言葉で言われても,なかなか信用できないとかいうことがあって,疑ってしまうんですけれども,写真を見たら反論できないでしょうというような形で,これは明らかに出血がある,ないというようなところですね。やはりそこが一番大きい。   それを白黒で出されると,もちろんそれが,色が多分血の色だろうというふうに推定はするんですけれども,本当にそうなのかというのが,ちょっと疑いが残ってしまうので,やはりそこはリアルなものを見たいという欲求があって,それを見たら,やはり納得するところは納得するので,専門家を納得させるという面もあります。   裁判員の方も,もちろん見ていただいてですが,確かに裁判員の方,慣れていないので,実際白黒でも,モノクロでも,余り判断できないのではないですかという意見があるかもしれませんが,それに関わる専門家の人に対しては,やはり真実なもの,リアルなものであれば,判断の役に立つと思います。 ○島田委員 今の点についてなんですけれども,法医の専門家でない裁判官あるいは裁判員がカラー写真を見たときに,これが出血かどうか分かるかというときに,私の担当した事件でも,ある専門家の方は,これは生前の出血であると。ところが,もう1人の専門家の方は,死後,細胞からにじみ出た液体の色であると,こういうような説明をされていて,果たして裁判官あるいは裁判員がその写真を見て,判断できるものなのかなと疑問に思ったことがございました。そういった例というのは,例外的なものなんでしょうか。また,そういう素人目の判断というのは,やはり危険性があるということになるんでしょうか。そのあたり,御意見伺えればと思います。 ○上村教授 そうですね,確かに,そういう生前の出血か,死後の出血かというのの見分け方は,一応法医的にはあるんですが,それは写真がきれい写っているということで,ちょっと,例えばピンぼけとかしていたら,もう判断できないと,幾らあっても。ということになるので,やはり僕らは写真命というところがあって,できるだけきれいに写真を撮りなさいと,最初に教わるんですよね。   それは,そういう微妙な判断に影響が出るというのも体感的に分かっているので,確かにちょっとぼけたような写真だと,単に血がにじんでいるだけ,後からちょっと付いて,そこに単にしみ込んでしまったというのと,生前にできた凝血というか,血の塊ですね,塊がこびりついているというような雰囲気は,やはり鮮明な写真でないと,多分判断できないと思う。 ○大澤座長 それでは,予定の時間でございますので,皆様よろしゅうございますでしょうか。   上村先生,本日はお忙しいところ,非常に有益なお話をちょうだいいたしまして,どうも誠にありがとうございました。 ○上村教授 ありがとうございました。 (上村公一氏退室) (岡田幸之氏講師席へ着席) ○大澤座長 続きまして,医師の岡田幸之さんからヒアリングを行いたいと思います。   御説明と質疑応答を含めて,おおむね30分から40分程度を予定しております。   冒頭に御了承いただきましたとおり,以降のヒアリングについては,議事を非公開とさせていただきます。恐れ入りますが,報道機関の方は御退室をお願いします。 (報道機関退室) ○大澤座長 岡田先生におかれましては,お忙しい中,当検討会にお越しくださいまして,誠にありがとうございます。検討会一同を代表いたしまして,心より御礼申し上げます。座らせていただきます。   本日は,岡田先生が実際に裁判員裁判に関与された御経験を踏まえて,お話を伺いたいと存じます。   それでは,早速でございますが,岡田先生,どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡田教授 御紹介ありがとうございます。東京医科歯科大学から参りました岡田と申します。本日は貴重な時間をちょうだいいたしまして,このような場でお話をさせていただけますことに,まずお礼を申し上げたいと思います。   それでは,時間が限られておりますので,本題に入っていきたいと思います。私からは,精神鑑定についてのお話をさせていただきます。   私自身が裁判員裁判に関連する尋問などを経験した流れを,お示ししております。御承知のとおり,2009年以降が裁判員裁判が始まっておりますが,実は法施行前から,精神鑑定自体が注目されて,準備もされてまいりました。  例えば模擬裁判が,2007年から行われていまして,この過程で,精神科医が法廷で説明することが注目を浴び,実際に新聞等で報道されています。いろいろな方法も検討されて,例えば,精神科医2名が法廷に出て,対質という形で意見を言ってみるのはどうなんだろうかというようなことも試され,それも報道もしていただいております。   実際の法廷でも,法施行前から,プレゼン方式を使った精神鑑定の報告については検討されておりまして,裁判員裁判ではないんだけれども,実際の事例で使ってみるというようなこともされましたし,法施行後も,高裁でも,プレゼンを使ったらどうなんだろうかということも試されています。そして,実際に裁判員裁判の中で精神鑑定のプレゼンテーションをしていくということが行われています。   きょうは,このような経験の中から,お話をしていきたいと思っています。   一つ一つの事件について御説明するのもいいかと思ったのですが,きょうは,あらかじめ委員の先生方から,こういうことについて話してほしいというリクエストをいただいておりましたので,それぞれについて,Q&Aの形でお答えしていきたいと思います。   一つは,鑑定結果を分かりやすく裁判員に説明するための工夫とか,難しさはないのかということでございました。   これにつきましては,法律家の先生方には当たり前のお話かもしれませんが,ちょっと基本的なところをお話しいたします。従来の責任能力鑑定では,その鑑定依頼事項として,精神障害の有無及び程度を問われ,そして,病気がある場合,その病気によって,事件時に,事物の理非善悪を弁識する能力,いわゆる事理弁識能力と,その弁識に従って行動する能力,いわゆる行動制御能力といったものが,障害されていたのかが問われ,特にそれらの能力が,失われているか,著しく障害されているのかを問われてきました。そして,鑑定によって能力が失われていると判断されたとき,裁判所はその鑑定を妥当だと考えるならば,心神喪失と判断する。鑑定によって著しく障害されていると判断されたとき,裁判所がその鑑定を妥当だと考えるならば,心身耗弱と判断する,というような流れで行われてきました。ですから,実質的に,ほとんど精神科医が法律判断まで踏み込んでいるような形になっていくというものでありました。   これに対して,裁判員裁判が始まってからは,この骨格自体が変わってきておりまして,鑑定人が,精神障害の有無及び程度について話すところまでは同様ですが,その先の言及は,精神障害が犯行に与えた影響の有無及び程度というようなところにとどめる説明になってきました。つまり,そのさきの,事理弁識能力や行動制御能力を当てはめて評価するところへの言及はなしにして,精神障害が犯行に与えた影響の有無及び程度のところまでの説明を丁寧にしようというような構造になったわけです。   さらに,先ほどお話ししたように,かつては事理弁識能力や行動制御能力が“著しく”障害されているかといった評価をしてきたので,能力の障害の程度ではなく影響の程度についての言及なのに“著しい”などと言うと,あたかも,事理弁識能力や行動制御能力の障害が“著しい”と言っているかのように聞こえてしまうので,“著しく”といった言葉が出るような影響の“程度”ではなく,影響の“機序”,つまり精神障害が事件に具体的にどういうふうに影響していたのかを説明することを求めるようになってまいりました。   これに対応して,私自身も,説明について工夫をするようにしております。まず,精神障害の有無及び程度に関していうと,病気があるとかないとか,この病気ですというようなことを答えるよりは,具体的に被告人の精神面にどのような特徴があったのか,これは正常も異常も含めて,そういった要素を説明するというところに焦点を当て,もちろん病名は出てくるんですけれども,「ちなみに,そういった特徴があることを,現在の精神医学では何とか病,何とか障害というふうに呼んでいます」と,ちなみに的に使うというふうになっていますとしております。   また,影響の機序についての説明ですけれども,精神面の特徴,先ほどお話しした異常も正常も含めてですが,そういったものが,犯行とどのような関係にあるのかということを説明するように力点を置いております。   ただ,このように精神障害が事件にどのように影響したかを見せられたときに,そこからどうやったら責任能力が判断できるのかなと思うと思います。その答えを導きだそうと評議でディスカッションをする中で,いろいろな問題点,疑問点が出てくるだろうということは,あらかじめ予想されますので,これまでの経験に基づいて,影響の機序について,法律的な評価をすることで,決定される責任能力の有無・程度には言及しないものの,その法律的な評価に当たって疑問になりそうな点をあらかじめ想定して,Q&Aの形などで解説をするというような工夫をしております。 (個別事件における精神鑑定について,裁判所において実施したプレゼンテーションの具体例を紹介した。)   ということで,鑑定結果を分かりやすく裁判員に説明するための工夫というものに関しては,今のような構造に当てはめていくわけですが,精神鑑定が扱う内容は,そもそも一般人の方にとっては,聞き慣れない話であったり,先入観を持たれがちな話であります。そのため,言うまでもなく,丁寧に伝えることが重要になるわけですが,実は精神科医にとって,ふだんの臨床で患者様とか御家族への説明をすること,あるいは講義を通じて学生とか非専門家に対して説明をするというのは,しばしばしていることなので,基本的には,ふだんの仕事にかなり近い作業です。だからその経験を利用して,精神医学を知らない人の視点を想像して準備をするということをしております。   ただ,その意味では,診察室や講義などと違って法廷では,個々の裁判員さんが,もともとどれぐらいの知識を持っているのかとか,例えば偏見であるとか誤解とか,そういうものをどういうふうに持っているのかということを双方向で確認できないというところが,ちょっとつらいなというふうには思っているところです。   このように,分かりやすさについて励むということは,私たちはとことんできるんですけれども,むしろ,正しさを差し置いて分かりやすさや説得力を第一の目的としないというようなところに注意を払っているといえます。   事を単純にすれば,分かりやすく伝わるんですけれども,時には,それによって,正しさが失われることというのがありますので,そこは,第一の目的はどっちなんだということを見誤らないようにしております。   また,分かりやすさを追求するとしても,図示したものの見た目とか説明の聞こえの印象によるメッセージは,できるだけ送らないようにするということに注意をしています。例えば,簡単に言って,「精神障害」と書いた円と,「犯行」と書いた円があって,前者から後者へ向かって矢印が書いてある絵があったときに,前者の円を大きく描いたら,途端に,精神障害がものすごく影響していたというような,言わなくても,そういう印象を与えてしまうわけですよね。でもその円の大きさが与える印象は正しいのか,その円の大きさはどう決定するのかという問題があるわけです。   だから,見た目が分かりやすいにしても,言外にこういうことを伝えてしまうことに,慎重でなければいけないと考えています。それで実際には,すごく,何というか,シンプルというか,できるだけ,つまらない絵に,落とし込もうとしています。そのかわりに,文章や言葉で,ちゃんと説明するということに重きを置いています。   また,自分はその法廷に登場する唯一の精神科医であるという点にも注意をします。時には,複数の精神鑑定人が登場するケースもありますけれども,多くの場合は精神科医1人でありますので,ここに注意しておきます。   例えば,聞き慣れない専門用語というのは印象に残ります。その法廷のキーワードとか,何でも説明してしまう魔法の言葉になりやすいですね。なので,そういうことにまず注意をする。過去の判例を見ても,詳しくは御説明しませんけれども,“二重見当識”という言葉が法廷で使われたケースがありました。これは,法律家の先生方の中では,よく知られたケースかと思うのですけれども,こうした言葉は結構インパクトがあって,そのケースでは,法廷がこの言葉を中心に動いていったようなところがあるんですね。そういったキーワード,聞き慣れない言葉の使い方には注意しなければなりません。また,一方の当事者が依頼者であったとしても,鑑定人自身は公正な立場に立つことも意識しなければなりません。自説の相対化,つまり,自分はこう思っているんだけれども,例えば,別の鑑定人が出てきたら,こういう部分を強調するかもしれませんよとか,自分は偏った立場かもしれないとか,全体の意見の中では,自説がどういう位置付けにあるのかということも説明するように心掛けています。   また,どこまで言えるか言えないかを伝えるということも重要だと考えていて,精神科医は何でも答えられるとか,精神科医がしゃべると,何でも科学的に聞こえたりするかもしれないので,そこには注意をする。そういう幻想を持っているようであれば,むしろそれを打ち砕くぐらいのつもりで,お話をさせていただいております。   裁判員であろうと法律家であろうと,基本的には精神医学の専門家でないということは同じなので,ある意味,従来の鑑定の報告と今お話ししたことというのは,実は変わらないとも言えるんですが,むしろ裁判員裁判では,法律の専門分野に関連する部分の方を気にしなければならないというふうに考えています。   具体的には,法律の専門領域で扱うべき点に踏み入れないようにしています。法律家ならば,精神科医のような素人法律家が法律の領域に踏み込んでお話ししても,そんな考え方もあるかもねと一歩引いたり,さらには聞く耳を持たないということも,できるかもしれないんですが,一般人である裁判員の方にとっては,どこからどこまでが精神医学の専門家としての話なのか,あるいは本来法律が判断すべきところまで踏み込んで話してしまっているのかの見分けが付かないということもあると思うので,そこの領域を注意しているというところが,裁判員裁判になって変わったところのひとつです。   次の質問に移ります。   あらかじめ公判日程が決まっている中で,鑑定書を仕上げ,公判でのプレゼン準備をしなければならないなど,裁判員裁判特有の苦労があるのではないですかと,気を使った御質問をいただいているんですけれども,正直なところ,いわゆる50条鑑定を行う場合でも,50条鑑定というのは,裁判員裁判において裁判所が採用して行う鑑定ですが,そのような鑑定であっても,基本的には,鑑定書を提出した後に公判廷の日程が決まるので,期日がいつまでなので早く鑑定してくださいというようにせかされたことは,今まではございません。   精神鑑定の鑑定期間というのは,以前から2か月程度ないし3か月というふうには言われていたので,そのペースで進めているという意味では,変わりは特にないと言えると思います。   ただ,上村先生の御報告でもありましたが,プレゼンをするケースでは,そのプレゼンの準備に時間が掛かったり,プレゼンをすることが負担だという精神科医もいることは確かです。しかし,プレゼン資料をつくることで,自分の説明がより整理されますし,法廷で能動的に説明することができる。上村先生のおっしゃった,一問一答式ではなくてプレゼンをするときのメリットの方が,ある意味大きいなというふうには感じています。   苦労という意味では,そういうことがあるのですが,負担という意味では,個々の鑑定業務の負担よりも,精神鑑定の数全体が増えているということの方が,精神科医全体にとっての負担になっていると言えると思います。   人口1万人当たりの刑法犯認知件数はどんどん減っているにもかかわらず,鑑定の数というのはどんどん増えています。つまり,精神科医が鑑定をやらなければいけない仕事というのは,すごく増えているんです。これが負担になっています。   負担になるだけではなくて,そもそも精神科医の大半というのは,鑑定業務をしたことがありませんし,精神鑑定の教育を受けたことはありません。これをお話しすると,結構びっくりするかもしれないんですが,精神鑑定を専門に勉強したりしてきている精神科医というのは,ごくごく一部です。   なので,このように数が増加すると,初めて独学で鑑定をする精神科医も多く出てきておるのが現状で,このため,鑑定人の育成や鑑定の均てん化(注:公平な結果が得られること)というのが課題になっていると言えると思います。   次の御質問です。   裁判員裁判の経験により証言方法等で改善した点などはあるかということですけれども,個人で心掛けている改善点については,さきにお話ししたとおりです。特に法律の領域への踏み入れには注意をしているということになりますが,制度全体で,むしろ改善点というか,改善,実際されているなと思う点をここで挙げます。   まず,プレゼンを積極的に採用するようになったこと,これは改善点といっていいかと思います。また,いわゆる証人テスト,先ほどの上村先生のお話の中でいうと,カンファレンスと言っていた,尋問に先行する鑑定人と当事者との面談部分ですが,これが,より多く,比較的丁寧に行われるようになったということは,私としては,改善されてきている点ではないかなというふうに思っています。   さらに,改善すべき点を挙げるとするならば,鑑定の均てん化,質の向上ですね。私たちの方の努力なんですが,例えば,病気の勉強的なプレゼン,病気の一般論をたくさん説明しても,これでは裁判員の頭がそれだけでぱんぱんになってしまうだろうなというプレゼンをされる先生も中にはおられます。また,一部の方の中には,法廷慣れしているせいか,表現ぶりで影響力を及ぼそうとするプレゼンですね,そういうことをされる先生も散見されます。こうした鑑定の質の違いがあることは,被告人あるいは被害者の方にとっても,法の下の平等を脅かすものだというふうに思います。   精神科医たちは良質な鑑定を行おうとすべきであるし,法律家の方も,プレゼンなどを鑑定人任せに放り投げて,お任せしますと,遠慮されるのかもしれないですけれども,結構こういうことは多いですね。鑑定人任せにしないということも必要であろうかと思っております。   次の御質問です。   裁判員からの質問を受けて気付かされた点などはあるかということなんですけれども,裁判員の方は,意外とよく理解してくださるんだなというのは,感想としてはあるんですが,それ以上に,ここでお話ししたいのは,基本的に心証開示を避ける刑事裁判官たちに比べると,裁判員からは,「これこれというような理解は精神医学的に正しいですか」というふうに確認を求めるような形式の質問が比較的多い印象があります。   この手の質問というのは,大体心証開示してしまうので,裁判官裁判だと,補充尋問の最後の最後に裁判長が,「念のために聞くんですけれども」みたいな形で,あるいは,起案をしなければいけない左陪席の方が,ちょっと確認したいなということで投げることが多いんですけれども,裁判員の方は,結構これをストレートに,単刀直入に御質問されることが多いという印象があります。   いずれにしても,こういった心証開示のある質問というのは,問題はあるのかもしれないんですが,私たち尋ねられる鑑定人からすれば,質問の意図がすごくよく分かるんですね。なので,直接的なので答えやすいし,説明もしやすいなというのが正直なところです。   ですから,従来の,尋問に受動的に答える一問一答式,あるいはプレゼンで能動的に解説するというような形式に加えて,今後は,こういう裁判体で形成されつつある心証についての精神医学的な妥当性を確認するような形式の,特に補充尋問に関連するような尋問の形の工夫ですかね,それを考えることも有益ではないかなというふうに考えているところです。   裁判員裁判において,鑑定人の証人尋問は,どれぐらいの時間を掛けて行っているものかという御質問ですが,恐らく半日か1日程度で行っているのが通常だと思います。このうち,プレゼンテーションが占めるのは,40分から1時間程度ということになります。私の今のお話が,大体25分ぐらいを経過しているところなので,これよりもうちょっと長目になるかなと思います。   被告人尋問を傍聴してから,鑑定人尋問を受ける場合とか,別の精神科医が登場して,その尋問を聞いてから,対質をするというような場合には,複数日にわたることもあります。それを求められることもあります。これは結構負担になるんですが,ただ,これはやはり,例えば,先ほどの上村先生のプレゼンを私,聞きながら,今この場にいるんですが,適宜引用したり,そういうことをすることもできるというようなことからもお分かりいただけるとおり,結構有用ではあろうかなと思います。   もっとも,これは裁判員裁判だから,こういうことが行われているというよりは,短期開催なので,効率を求めて,一々前の鑑定人の説明を調書化して,それを次の鑑定人に読んでもらってみたいなことをしないためにやっているのかなというふうには思っています。   また,次の質問ですが,こんなに説明したのに,裁判所,裁判員に理解されなかったなどの問題点などはないかということなんですが,正直なところ,私自身は,医学の評価をもとに,法律判断は更に別次元にあるから,別に私のイメージしている答えと裁判所の答えが違っても,余り不満とかは持っていないですが,中には,判決がおかしい,裁判所が理解していないというような,今御質問いただいたようなところを批判する精神科医の方もおられます。   私としては,そのような文句は,自分自身の力量の問題として捉えるべきだとは思っていますが,さまざまな立場があるということになります。   それよりも問題とすべきなのは,そもそも裁判所にどのように受け入れられたのかとか,受け取られたのか,理解されたのかということが,鑑定人にはフィードバックされない,分からないという点の方だと思っています。現状では,判決文をいただけるならよいほうで,多くは,結果の情報を当事者から伝え聞くというような程度であります。   例えば,プレゼンの資料というのは,特に評議室の中でも閲覧されることを前提としまして,分厚い鑑定書も読まれないんだなということを前提にして,資料を見ただけでも分かりやすく,しかも誤解も招かないようなものを用意しようというふうに,結構,私などは工夫しているつもりなんですが,それが実際に評議の場で,どのように読み解かれているのかということの情報はフィードバックされないということが,ちょっと残念に思っているところです。評議からのフィードバックについても検討していただけたらというふうに思います。   最後の御質問になりますが,今後の裁判員裁判が誤った方向に行かないように,忌憚ない御意見をお聞かせいただきたいということでありますけれども,裁判員裁判ではない事件なども,鑑定としては担当しているんですが,例えば,高裁に上がったような事件の控訴審で新たに精神鑑定を行ったときには,プレゼンはあまり必要ないように感じます。なぜならば,争点が非常に絞られていて,証言する鑑定人も,それを理解をしやすいし,そこに的を絞って回答することができるからだと思います。   ですから,このことから,私が思うのは,公判前整理手続がより洗練されて,争点が絞られているならば,今後,核心司法という方に進むのであればですが,鑑定人の尋問も,より簡潔で,分かりやすいものになるのかなというふうには感じています。   一方で,核心司法の考え方自体にも議論があるとおり,それに精神鑑定が追随していいのかという議論もあると思います。事の一部だけを見ればいいというのは誤っている,もっと精神医学というのは,全体を見て物を判断するものだという意見は強うございますので,そういったところもよく考えた上で,この後の鑑定の使い方というものも議論いただければと思います。   また,裁判員裁判非対象事件においても,後から考えると,プレゼンすればよかったなというふうに思うケースはあるので,そのところは工夫点かと思っています。   それから,随分前,もう1年,2年前に鑑定をした事件なのですが,いまだ公判前整理手続中のものがあります。なので,鑑定はもう既に,とうの昔に終わっているんですが,この公判前整理手続が余りにも長いために,私にとってもかなりブランクがあって,これ,また法廷に呼ばれても,結構困ってしまうかなと思っているところもあります。その点も,少し御配慮いただければなというふうに思っているところであります。   まとめます。精神科医側の努力によって,精神鑑定の均てん化を進めることが絶対的に必要であるというのが現状であります。しかし,それだけで,精神鑑定が法律判断の上で真に役立つようになるわけではありません。法律家側も,個別のケースにおいて,裁判員裁判での精神鑑定の利用方法について,精神科医にお任せというのはやめて,責任を持って主体的に関わるべきだと思っています。そのためには,法律家は法律判断の中で,精神鑑定の位置付けがどのようなものであるかということをもっと考えるべきであるというふうに,ちょっと偉そうな言い方なのですが,思っております。   あと,今回はお話ししませんでしたけれども,刑事責任能力の判断について,個別のケースに携わった裁判員の方がどのように感じ,特に刑法第39条について,どのように考えたのかということを蓄積していただき,そういったものを法廷の場というよりは,むしろ立法に反映させていくということも,是非重要であるかと思っております。   長くなりましたけれども,私の報告を終わります。御清聴ありがとうございました。 ○大澤座長 ありがとうございました。   それでは,ただ今の岡田先生の御説明について,御質問等ございますでしょうか。 ○堀江委員 鑑定人の育成とか鑑定の均てん化が大事であるというふうにおっしゃったかと思うんですけれども,現状で,同業の先生方の間で,例えば,先生が先ほどおっしゃられたような,鑑定に当たって注意している事項であるとか,あるいは,プレゼンの準備に手間が掛かるというお話もありましたけれども,そのノウハウといったようなことについて,意識の共有や情報交換などをされる場みたいなものはあるのでしょうか。 ○岡田教授 まず学会の方で,そういった努力はしておりまして,日本司法精神医学会では,5,6年前から,認定精神鑑定医という制度を始めていて,そこで,一定程度の経験を積んだ鑑定人というものを認定するようにはしております。粒は,必ずしもそろっていないというのも事実ではありますが,そういった努力をしております。   また,学会の中での,ワークショップとか教育講演なども,数多く開催されるようになってきております。   また,私自身,5年前までは国立精神・神経医療研究センターというところにいたんですけれども,そこは研究と臨床の場ですから,なかなか人材育成ができないということもあって,3年前に,今の大学の方に異動して,そこで,そういう専門的な教育をしております。まだ途上ではありますけれども,努力はしております。 ○山根委員 精神鑑定の数がどんどん増えているということは,裁判員裁判が始まって,そこでの必要性が増したからという理解でよろしいでしょうかということと,あと,重大事件の報道などで,よく,犯人には精神疾患の通院歴があったであるとか,○○障害であった可能性があるとか,そういう報道を目にするんですが,それについて,どうお考えかなというのをお知らせいただければ。 ○岡田教授 鑑定数についてですけれども,一つは大阪池田小学校事件があったときですね。このときには,責任能力について慎重な判断をするという方針からか起訴前鑑定が増えております。その後,しばらく落ちついたんですけれども,医療観察法といって,病気で事件を起こした人に専門的な医療を提供するという制度が走り始めたときに,そちらの制度に流すべきケースもあるのではないかということもあってか,起訴前鑑定のケースの増加もあるかと思います。   そして,その制度が始まったおかげで,医療観察法の鑑定というのが一つ増えてきたので,鑑定の絶対数が増えています。   それから,裁判員裁判の節目に,確かにおっしゃるとおり増えているので,これ,因果関係は,私は分析できていないですけれども,恐らくは関係しているだろうと。検察官の先生に御説明いただく方がいいかもしれませんが,おっしゃるとおり,裁判員裁判があるので,丁寧に鑑定をしておこうという流れがあるのではないかというふうな話は聞いたことがあります。   二つ目の点につきましては,報道に流れる診断名というのは,さまざまなパターンがありまして,実際に捜査機関が流しているらしいものもあって,それは,ある意味で正しい診断名の情報が流れていると思うのですが,それについては,一つ問題になり得るのは,やはり病気に対する偏見とか,そういうところは気になるところであります。   もう一つは,事件自体を知らないコメンテーターみたいな人が出てきて,これは何とか病ではないか,というふうに言うケースですね。あれは正直言って,実際にそのケースに当たっている者からすると,全然違ったりすることも多いんです。なので,やはりあれ,もう少し抑えていただければというふうには思っています。   お答えになっていますでしょうか。 ○山根委員 ありがとうございます。 ○横田委員 先生の御説明の中で,表現ぶりで影響力を及ぼそうとするプレゼン,そういうのはやめるべきだとおっしゃったんですが,私なりにこれを理解しますと,例えば,分かりやすさを優先して,巧妙な説明であるとかインパクトを与えて,聴衆を引き付けて,説得力を増すようなプレゼンのことなのかなというふうに思うんですが,もし具体例がありましたら,私の理解が正しいかどうか教えていただきたいです。また,相手方当事者の側の専門家証人が,そのような非常に上手な説明をされますと,正確性を犠牲にされているのではないかなと思いつつも,当事者としては,悲しいかな,専門家でないので,その場で反対尋問で崩すとか,そういうことできない場合が多々ございます。   そういうときに,どう対応していったらいいんだろうかということを,もしよければ,教えていただければと思います。 ○岡田教授 1点目につきましては,やはり当事者性を帯びる専門家というのはおられるようで,そういう先生の証言について言及したつもりです。 (実在の事例を例示して説明がなされた。)  レトリックというんですかね,表現ぶりで惑わせてしまうプレゼンもあるということです。しかし,精神科医でなくても,そういったレトリックの部分というのは,お気付きになると思うんですね。精神科医が話す内容には法律家では追及できないと思いがちかもしれませんが,そこはあくまでも表現ぶりの部分ですから,突っ込んでいただくべきではないかなと思っています。   2点目の御質問についていいますと,確かに専門家証人が1人しか出てこない場合には,なかなか突き崩しにくいし,確信も持ちにくいというのは分かるんですけれども,そのためにも,事前の証人テストやカンファレンスで,とことん鑑定人の方に突っ込んでいただいて,どのような問題,質問をすれば,どのように返ってくるのかとか,そういったことに当たりを付けていただくのが,一つの手掛かりになるのかなというふうには思っております。 ○大澤座長 おおむね予定した時間でございますが,いかがでしょうか。よろしゅうございますか。   岡田先生,本日はお忙しいところ,非常に有益なお話をちょうだいいたしまして,誠にありがとうございました。 (岡田幸之氏退室) ○大澤座長 続きまして,強姦致傷事件の被害者御本人及び弁護士の上谷さくらさんからヒアリングを行いたいと思います。御説明と質疑応答を含めて,おおむね30分から40分程度を予定しております。 (被害者御本人の希望により,議事録において匿名とすることについて,一同了承) (A氏及び上谷さくら氏入室) ○大澤座長 Aさん,そして上谷先生におかれましては,お忙しい中,当検討会にお越しくださいまして,誠にありがとうございます。検討会一同を代表いたしまして,心より御礼申し上げます。着席させていただきます。   本日は,Aさん,そして上谷先生が,実際に裁判員裁判に関与された御経験を踏まえて,お話を伺いたいと存じます。   それでは,早速ですが,Aさん,上谷先生,よろしくお願いいたします。 ○上谷弁護士 弁護士の上谷です。今日はよろしくお願いいたします。   まず最初に,私の方から,簡単に事案の概要の説明をいたします。 (事案の概要等について説明がなされた。)   事案の概要は以上です。   では,ちょっとAさんに,いろいろこの事件に関して伺っていきますね。   まず,警察に被害届を出した時点で,裁判になるという認識はありましたか。 ○Aさん はい,ありました。 ○上谷弁護士 裁判になること自体に抵抗はなかったでしょうか。 ○Aさん 被害届を提出するという覚悟を決めたときに,裁判になるということも分かっていたので,それを踏まえて,被害届を提出しました。 ○上谷弁護士 そのとき,積極的に裁判にして,事実を明らかをしたい,犯人を処罰したいという気持ちだったのか,裁判,仕方ないという気持ちだったのか,どちらですかね。 ○Aさん 犯人を処罰してもらうためには,裁判をするというのはしようがないと思っていましたが,裁判をしなくても犯人が永久的に刑務所に入ってくれるなら,したくないとは思っていました。 ○上谷弁護士 裁判員裁判になるかもしれないという発想は,そのときにありましたか。 ○Aさん いえ,特にはありませんでした。 ○上谷弁護士 裁判員裁判という制度自体は御存じでしたか。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 Aさんは,その裁判で,証人として証言することになったわけですけれども,証言する前,裁判員の前で証言するということを,どのように感じていましたか。 ○Aさん 裁判を行う前は,余りいい印象はありませんでした。   やはり被害者というのは,周りの目がすごく怖いので,知らない人たちの前で話さなければいけないということ自体が,すごく嫌だなとは感じていました ○上谷弁護士 証言した後は,印象変わりましたか。 ○Aさん はい。証言する前は嫌だったんですが,証言した後は,皆さん,裁判員の方々が,犯人に対して,一番突っ込んだ質問もしてくださったり,泣きながら私の証言を聞いてくださったりしていたというのを周りから聞いて,逆に,裁判員裁判でよかったなというふうに印象が変わりました。 ○上谷弁護士 証言する際に,ビデオリンクという方式は選ばずに,法廷で被告人との間と,あと傍聴席の間に遮蔽をするという方法を選びましたね。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 性犯罪の場合は,ビデオリンクを希望する人が多いんですけれども,Aさんがビデオリンクではなくて,遮蔽の方法を選んだ理由は何ですか。 ○Aさん やはりビデオリンクですと,一度カメラを通すので,自分の気持ちなどが直に犯人や裁判員の方々に伝わらないと思ったので,ビデオリンクという方法は,私の中ではとりませんでした。 ○上谷弁護士 近くに被告人がいるというのは分かっていますよね。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 そのことが非常につらい,同じ空気を吸いたくないという方もたくさんいらっしゃるんですけれども,その点はどうでしたか。 ○Aさん もちろんそれは嫌でしたが,どうしても自分の気持ちとか,被害に遭ってからつらかったことを,犯人にどうしても分かってもらいたいという気持ちの方が強かったので,同じ空間にいることを選択しました。 ○上谷弁護士 証言台に立つと,目の前に裁判官と裁判員がずらっと並んでいますよね。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 そのことについて,威圧感を覚えたりとか,それで緊張が高まったりするようなことはありましたか。 ○Aさん 緊張は,あったとは思いますが,正直今は余り覚えていないです。 ○上谷弁護士 自分の証言に集中して精いっぱいだったという感じですか。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 裁判員裁判が始まる前に,PEというPTSDの治療をしていますね。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 これは,簡単に言いますと,どんな治療なんでしょうか。 ○Aさん 事件のことを約1時間ほど,当日朝から事件の夜までを一通りしゃべって,それを1時間中ずっと繰り返し話をしていきます。帰ってからも,その録音したテープ,自分の声のテープを毎日聞くという治療法でした。 ○上谷弁護士 要するに,被害の再体験を日々繰り返すという治療になるわけですかね。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 それが数か月続いたということでいいですか。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 それは,かなり大変だったと思うんですけれども,どのあたりが一番大変だったでしょうか。 ○Aさん 一番大変だったのは,夜,帰ってきてから,毎日そのテープを聞かなければいけないというのが一番きつかったです。 ○上谷弁護士 治療の効果はありましたか。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 Aさんの場合,PEの治療が終わってから,裁判が始まったわけですけれども,治療が終わっていないうちに裁判員裁判が始まって,証言をしなければならなかったという仮定だと,どうだったでしょうか。 ○Aさん 証言はできたかとは思いますが,その後,裁判が終わってから,うまく心を立て直すというのには,かなりの時間を要したのではないかと思っています。 ○上谷弁護士 裁判員選定手続の際に,被害者の名前が裁判員候補者に分かってしまうということは,当時は御存じでしたか。 ○Aさん いえ,知りませんでした。 ○上谷弁護士 恐らく,名簿を事前に検事に見せられて,知り合いの人いませんかという手続を簡単に踏んでいるとは思うんですけれども,そのときは,余り意識はしていなかったですか。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 今,被害者の名前が裁判員の候補者に分かってしまうので,それをしゃべってはいけない,秘密にしなければいけないという法律ができているんですけれども,そういった法律ができることで,ほかに漏れるのではないかといった不安の解消にはなりますか。 ○Aさん そうですね,まず私は,裁判員裁判で来た裁判員の方々は,名前などの秘密は絶対厳守だと思っていたので,漏れる心配はないと勝手に思っていました。でも,今考えると,やはり一般の方なので,どこかでポロっとしゃべってしまうということもあるのかなという心配は,今はしています。 ○上谷弁護士 被害者特定事項の秘匿の点について,この事件は,Aさんはもともと楽器のホルン奏者だったんですけれども,そのホルンと事件が非常に強く結び付いていて,そもそもホルンのことで腰を痛めて,整体に通い始めたということと,事件後にホルンの舞台がありまして,演奏中にフラッシュバックが起きて,PTSDを発症したという経緯があって,事件とホルンが非常に強く結び付いてしまったということがあったんですね。   事件後に,人生をかけていたホルンに全くさわることもできなくなるということがあったので,その辺のことが,どうしても裁判に出てきてしまうんですけれども,ホルンというので,かなり被害者が特定されてしまうのではないかという心配をしました。   そこのところを,どうしようかというのを何度も相談しまして,私はちょっと,楽器と言い換えるかとか,ただ,楽器といっても,ホルンは演奏の仕方として,吹くわけですね。その中で,楽器を吹くといった時点で,ピアノとかバイオリンははじかれてしまうので,吹奏楽器であることが分かってしまうということで,楽器という言い方もやめた方がいいのではないかとか,いろいろな議論をして,結局最終的には,Aさん自身がホルンは出していくことを決断されました。さっき待ち時間にちょっとお話ししたら,そこの記憶が余りないということだったんですけれども,今思い返してみて,やはりそのあたり,余り覚えていないですか。 ○Aさん すみません,全く覚えていないです。 ○上谷弁護士 結局そのとき,私も何度も時期を変えて確認したんですけれども,やはり自分の一番大事にしてしまうものを駄目にされたという気持ちが非常に強くて,そこは知ってほしいし,別に自分が悪いわけでもないという気持ちと,あと,聞いてみると,意外と女性のホルン奏者って,たくさんいらっしゃるということと,そんなにそこだけが大々的に報道されたりするわけはないだろうということで,最後の最後まで,本当直前まで,「これ出していいの?」という話はしたんですけれども,ホルンは出すという気持ちが強くて,出すことになりました。今のところ,何かそれで,すごく話が広がったりとか,「あの事件はあなたではないの?」というようなことを言われたりということはないですか。 ○Aさん はい,ないです。 ○上谷弁護士 性犯罪が裁判員裁判で審理されることについて,どう思っていらっしゃるんでしょうか。まず,いいと思う点は,どんなところでしょうか。 ○Aさん 私の場合は,判決がかなり重くなったのではないかと思っているので,よかったのではないかと思っています。 ○上谷弁護士 どうして重くなったと感じていますか。 ○Aさん 裁判員の方たちが犯人に,先ほども言いましたが,一番突っ込んだ質問をしたりしてくださって,量刑が重くなったのではないかと思っています。 ○上谷弁護士 逆に,裁判員裁判で嫌だと感じた点はありましたか。 ○Aさん 嫌だと思った点は,やはり,知らない人たちの前で話さなければいけない。それが一番嫌だったと思っていたと思います。 ○上谷弁護士 ただ,裁判が終わった後は,そのことは,むしろよかったというふうに変わったということですかね。 ○Aさん はい。 ○上谷弁護士 後で質問がたくさん出ると思うんですけれども,最後に,性犯罪の被害者になって,一番大変だったことというのをお話しいただけますか。 ○Aさん 被害者になってみて,一番大変だったのは,やはり裁判までの道のりというのはとても大変でした。被害届を出すところから,警察に何度も話をし,その後も,犯人が捕まってからも,警察の方で,また更に話をし,また裁判所で,また事件のことを話をして,どんどん壁が立ちはだかるのが,どんどん多くなっていくという感じで,本当に裁判を終えてから,こんなに長い期間,大変な思いをするのであれば,ちょっと被害届出すのは難しいのではないかなというふうには思いました。   でも,都民センターの皆さん,弁護士の皆さん,また警察の方,検事さんも含めまして,皆さんが見守ってくださったおかげで,今回の裁判は終了することができたとは思っています。 ○上谷弁護士 ありがとうございました。   では,続いて私の方から少し,性犯罪についての裁判員裁判についての意見,感想などを申し上げたいと思います。   まず,1点,やはり裁判員裁判となると,公判前整理手続に時間が掛かりますので,公判が始まるまでに時間が掛かり過ぎるなと思っています。そのために,被害者の記憶がどんどん薄れるわけですね。   ただ,特に否認事件の場合,被害者としては,早く忘れたい気持ちが強いのに,記憶の保持に努めなければならないということで,被害前の生活に戻ることができません。   特に,PTSDを発症したりして,治療が必要な場合なんですけれども,公判で弁護人から,治療によって記憶が変容していると,上書きがされていると指摘されるおそれがあるので,治療のタイミングが難しくなってしまい,裁判が終わるまで治療は控えてほしいと言われることがあります。   今治療していいのか,タイミングをどうするか,というのは,検事とも話をしますし,治療する心理士さんとも相談をした上で,今治療を始められるタイミングでいいのか,そういう環境があるのか,刑事裁判に悪影響はないのかということは検討するんですけれども,公判が終わるまで控えてほしいということになると,裁判員裁判の場合,被害者の被害回復が非常に遅れてしまいます。せっかく裁判をして,被告人が適正に処罰されるといっても,自身の回復が図られないということになってしまうので,この点は非常に問題だと思っています。   公判前整理手続も大変なのは分かりますし,皆さん,弁護士も検察官も,たくさん仕事を抱えている中でやらなければいけないのは分かるんですけれども,もう少しスピードアップして,この期間を縮められないのかなというのは,日頃から思っています。   次に,公判前整理手続に被害者本人又は参加弁護士を,傍聴でもいいので参加させてほしいなと思います。   これは,性被害には限られないんですけれども,公判前整理手続で証拠の提出の有無が決まって,大体裁判の流れが決まってしまうわけなんですね。これも,被害者からすると,知らないところで台本がつくられていて,本番の裁判は台本に従って進んでいくだけだという印象を持ちます。   そこに,台本段階に被害者が関われないということは,被害者に疎外感を味あわせて,司法に対する不信感につながっていくおそれがあります。検察官とか被害者参加弁護士から進行状況を聞かされても,被害者はよく分からないんです。公判よりも更に,非常に分かりにくい手続なので。   法曹三者だけで何やら打ち合わせをしていて,被害者は,関わることもできずに待たされ続ける。しかも,裁判で証言する可能性があるから,事件のことは忘れてはいけないと思いながら,毎日を過ごすこと自体,被害回復を大きく阻害することになります。   公判前整理手続に被害者が関わることで,検察官も弁護人も裁判官も,いい緊張感が出るのではないかなと私は思っています。参加,傍聴を禁止する条文はないのですから,せめて傍聴だけであれば,問題ないのではないかなと思っています。   それから,先ほどAさんの話にもありましたけれども,性犯罪の被害者が証言する場合は,大体ビデオリンクか遮蔽措置が施されます。それぞれにメリット・デメリットがあると思うんですけれども,性犯罪の場合はビデオリンクで行われることが多いです。   ビデオリンクは,皆さん御存じだと思いますけれども,被害者は別室で,モニターに向かって証言するので,どうしても仕事みたいな感じになって,淡々と話す感じになるんですよね。それで,事実をきちんと話せるということは,とても大事なんですけれども,感情のところ,苦しみとかつらさが伝わりづらい。実際にモニターに映っているときは,きちんと普通に,本当にお仕事みたいに話されるんだけれども,「終わります」といって電源を切った途端に,わっと泣き出す被害者の方って,たくさんいらっしゃるんですね。そこを誰も知らないんですよ。   もしかして,そこに立ち会っていた裁判所の事務官さんとか書記官さんから,事実上,裁判官に話は伝わっているかもしれませんけれども,あそこで大きく泣き崩れる様子というのを裁判員の人が直接見るのと,それを知らない,または単に耳で聞いただけというのは,かなり量刑に影響するというか,被害者さん,意外と平気なんだな,と思われることが,非常に,ちょっと違和感があるところです。   それから,性犯罪は裁判員裁判の対象から外すべきかという議論は,従前からあるところだと思います。   結論からいいますと,私は,外すべきではないと考えています。被害者さん本人からも,特に,あれが特に嫌だったんですという話は,私自身は聞いたことがありません。   裁判員裁判になって,性犯罪の量刑は上がったなというのが私の肌感覚です。   一般的に性犯罪というのは,口にすることもタブーだし,逆に世論として,大したことないとか,男女トラブルの延長と思われている節があると思います。それから,被害者に対する偏見,落ち度がある,派手だとか,露出している格好をしているとか,異性関係が乱れているとか,非常に強い偏見があるんですね。   それが裁判員裁判になって,実際に被告人と被害者を見て,証拠も見て,本当にこんなひどい暴力があっていいのかという事実に,裁判員の人は直面して,本当,打ちのめされているというのを実感します。そして,性犯罪の量刑の軽さに驚いた。その結果,量刑が重くなったと私は考えております。   プライバシーとの関係についても,ちょっとここでお話ししますけれども,プライバシー保護というのは,もちろん十分に図られるべきであって,裁判員裁判でない裁判でも,それは同様だと思います。   ただ,この点については,例えば,裁判員候補者の名簿の話は,ちょっとまた後でしますけれども,性犯罪の場合は,特定の傍聴マニアみたいな人がいて,必ずこの人いるなという人たちが複数いるんですよね。今,あらゆる方法で情報発信できるので,その人たちがおもしろおかしく何かを書かないかということは,非常に私たちも心配をします。ただ,それを制限することはできません。   そこに,単に第三者でマニアの人というだけではなくて,加害者の知り合いで,被害者のこともちょっと知っている人とかも来ている可能性は十分あるわけですね。その人たちの口を封じる手段は,今のところないわけです。   それを考えると,裁判員裁判の候補者に対して名前が知れるという,そこの話だけ特有なものではない,ほかの裁判員裁判ではない裁判についても,同じ問題が生じているのかなと思います。   最近は,いろいろ機械が発達していますから,こっそり録音している人もいるのではないかなと,私は実は思っています。いつか被害者の音声がネットで流れたらどうするんだろうという不安は非常に強いです。   ある裁判所の職員から聞いたんですけれども,弁護士で傍聴席で録音している人を見付けて,注意したことありますというのがあって,びっくりしました。多分,メモがわりに録音していただけだとは思いますが,ちょっと全体的に,そういうモラルというか,認識が弱くなっている気がしますので,その点については,裁判員裁判に限らず,注意が必要なところではないかなと思っています。   裁判員候補者に,被害者特定事項についての守秘義務を課したところで,どのくらい効果があるのかなという気はしています。罰則まで付けると効果があるかもしれませんけれども,そうすると,なかなか来ていただけないという問題も,多分出てくるのだと思います。   裁判員だけに名前が知られてしまって,守秘義務を課すというのであれば,実際に審理に参加していただいて,真剣に考えると思うので,守秘義務は守らなければいけないという自覚も芽生える可能性は強いのかなと思います。ただ,それも人によると思うので,万全かどうかは分かりません。   東京では,知り合いの人がいるということは余りないかもしれないですけれども,地方の場合では,候補者の中に知り合いが何人もいるという可能性は確かにあって,その人たちは守秘義務を守れるのかなという気がします。   そのときは自覚があっても,例えば,被害者の方が将来有名人になったときに,あの人,あのときの人だというふうになったりしないかとか,性犯罪被害者は若い女性が多いんですけれども,最近は,非常に特徴的な名前の人が多いので,印象に残りやすいと。そのときに,将来的なことはどうなってしまうんだろうという不安は,やはり消えないわけです。   ただ,そのことについては,先ほど言いました,一般の裁判員ではない事件の傍聴席のことについても同じですので,そこだけ取り上げて,性犯罪被害を裁判員から外した方がいいとは私は思っていません。   時間的な問題もあるかもしれないんですけれども,裁判員に選ばれた人だけに名前を知らせて,そこで知り合いではないかどうかの確認をとって,そこで知り合いだということであったら,そこで外れていただいて,また新たに選任するとか,そういうことはできないのかなと思っています。   それから,被害者が証言する際ですけれども,被害者の証言は,正に被害の再体験です。一旦治まったPTSDが再発する可能性があって,精神科医によっては,証言自体させるべきではないとおっしゃっている人もいます。ですが,現行法上,どうしても証言が必要になるということは避けられないと思いますので,ただ,弁護人とか裁判員の方が質問で,立証趣旨から外れていたりとか,明らかに被害者を侮辱するような質問が来た場合は,裁判官の方で意識して制限をしてほしいと,積極的に制限してほしいなと思います。   裁判員裁判になるような罪名の被害者というのは,本当に人生そのものが変わってしまうような大きな荷物を背負わされています。もちろん裁判員の分かりやすさとか,そういったことは大事なんですけれども,裁判員の方は実際に被害に遭っているわけではないです。いろいろなショックを受けるかもしれないけれども,被害を疑似体験しているにすぎないわけですから,実際の被害者の方を優先していただきたいなというのが私の考えです。   また,裁判員には,24時間対応のメンタルヘルス相談があったり,5回まで無料の対面のカウンセリングなどがあります。被害者には,こういったサポートがありません。裁判員のメンタル面,健康を大事にするのは,重要なことだと思いますけれども,実際に被害に遭った被害者にも,せめて同等の何らかのケアをお願いしたいと思っています。   私からは以上です。 ○大澤座長 ありがとうございました。   それでは,ただ今のお二人の御説明について,質問等ございますでしょうか。 ○和氣委員 上谷先生,ありがとうございました。私も全く先生のご意見と同じです。   それから,Aさん,本当に勇気をもってこの場に来ていただいたこと,本当に感謝申し上げたいと思います。   1点お聞きしたいのですけれども,裁判が始まる前に,裁判員の方の名簿は見せていただけたんでしょうか。   私は,全国被害者支援ネットワークの理事をさせていただいており,各センターの方々と意見交換をする場合があります。その中で特に性犯罪被害者の方で,名簿を見せていただいた方と,いただけなかった方がいるというようなことも伺っていますので,地方では,やはり狭い場所ですし,人口も多くありませんので,事前に名簿確認は必要かなと思っているんですけれども,いかがだったでしょうか。 ○上谷弁護士 多分見ていないと思います。 ○和氣委員 そうなのですね。   東京ですと,人口が多いので,名簿を見ても,知っている方がいるかどうか分からないので見せてもらえないのでしょうかね。 ○上谷弁護士 そんなことはないと思うんですけれども,そうですね,やはり検察官の意識にもよると思うんですよね。聞いたときには,もう終わりましたと言われることもあったりしますし,東京だとまず,ばったり,顔見知りが偶然ということはないだろうということで,その辺がちょっと緩いかもしれません。 ○和氣委員 ありがとうございました。 ○島田委員 質問ではないのですけれども,裁判員候補者に被害者の氏名が知られているかどうかという点で,裁判員選任手続についてお話しさせていただきます。   裁判員候補者に対し,事案の概要を説明して,事件と関係があるかどうかお尋ねをします。性犯罪の場合には,私の経験,それから,私の知っている限りでは,被害者の名前を仮名にして,Aさんという形にして,事案の概要を説明し,それ以外のところで,何らかの形で,この事件を知っているかどうか,日時とか場所とかですね。そういった形で,事件との関係性を裁判員候補者にお尋ねしています。   そして,裁判員,補充裁判員が選ばれた段階で,そこで初めて,今日,上谷先生がおっしゃったとおり,被害者のお名前を告げて,この被害者の方を知っていますかという形で,事件との関係性を再確認して,もし知っている人がいたら,そこで解任という形をとるようにしております。 ○大澤座長 ほかに御質問等ございますでしょうか。よろしゅうございますか。   予定の時間も過ぎておりますので,それでは,ここまでということにしたいと思います。   Aさん,そして上谷先生,本日はお忙しいところ,非常に有益なお話をちょうだいいたしまして,本当にありがとうございました。 (A氏及び上谷さくら氏退室) ○大澤座長 本日予定をしたヒアリングは以上でございます。   続きまして,前回会合において御質問等があった件につきまして,最高裁判所及び島田委員から資料の御提供をいただいておりますので,御説明をお願いしたいと思います。   それでは,まず,戸苅課長からお願いいたします。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 最高裁判所の戸苅でございます。前回の検討会での御議論,御質問を受けて,若干御説明させていただきます。   最高裁からは,2種類の資料を御用意いたしました。   まず,「最高裁判所説明資料」を御覧ください。   前回,大沢委員の方から,裁判員メンタルヘルスサポート窓口の利用状況についてお尋ねがありました。裁判所では,メンタルヘルスの専門知識を有する民間業者に委託をしまして,裁判員メンタルヘルスサポート窓口を開設しております。   制度施行後,本年5月末までの数字になりますが,利用件数は,電話相談,メール相談,面接を合わせて,延べ430件となっております。   その他,本資料には,相談内容の内訳の詳細とか,あるいは年度別の利用状況等も記載しておりますので,御参照ください。   時間の関係もありますので,続きまして,裁判員候補者名簿記載通知時の送付物について御説明させていただきます。   「最高裁判所」と記載された黄色い封筒を御覧ください。2つある黄色い封筒の小さい方になります。前回,山根委員の方から,裁判所から裁判員候補者にお送りする書類について,お尋ねがございました。裁判所から候補者にお送りする書類としては,裁判員候補者名簿記載時,つまり,名簿に載ったときに,最高裁からお送りするものと,具体的事件で実際に裁判員候補者に選ばれた際に,その事件を行う裁判所,各地裁からお送りするものがございます。   今回,この「最高裁判所」と記載された黄色い小さい方の封筒は,前者の方になりまして,昨年11月,平成30年11月の裁判員候補者名簿記載のときに,最高裁からお送りしたもののサンプルになります。全部で7点の種類等が同封されております。   なお,後者の方,具体的事件で裁判員候補者に実際に選ばれた方への送付物については,後ほど島田委員の方から,東京地裁の例を説明させていただくこととさせていただきます。   まず,封筒の中を取り出していただきまして,カラフルな,「裁判員候補者名簿に登録された方々へ」というA3判両面のパンフレットを御覧ください。   これを開いていただきますと,「同封物について」という記載が2ページにございます。これに沿って,御説明させていただきます。   まず,「最高裁判所長官からのごあいさつ」というものです。   これについては,裁判員制度が導入された社会的な意義とか,あるいは制度の実施状況を候補者の方々に直接お伝えし,積極的に参加しようというお気持ちになっていただければとの思いから,同封しているものでございます。   続きまして,「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」を開いていただきますと,「調査票」というのも付いております。これは一体化されております。   候補者の皆様には,「調査票」部分を記入していただいて,その後,切り離して,最高裁に御返送いただくということになっております。   それとは別に,「調査票(③ページ)の記入のしかた(おもて)」というのも,カラーでA3の両面で同封しております。これは,「調査票」の画像イメージを表示して,これに即して,例えば辞退事由,それから就職禁止事由ごとに説明を加えて,御提出いただく資料を御案内しているものでございます。   さらに,「よくわかる!裁判員制度Q&A」という冊子がございます。これは漫画になっておりまして,この小冊子は,質問と回答を見開き1ページにして,イラストを用いて簡潔に説明したものでございます。裁判員制度に関し,疑問に思われるのではないかという点について,気軽に目を通していただける内容となっております。   そのほか,青い返送用封筒,これは調査票を最高裁に御返送いただく際に御使用いただくものです。   さらに,バーコードシールというのも入っております。これは,この返送用の封筒とか,あるいは調査票とともに,何か資料を提出する際に貼っていただくものです。このバーコードシールを貼ることで,住所とか氏名の記載を省略いただくことができるものになっております。   簡単でございますが,最高裁からの資料の説明は以上になります。 ○大澤座長 ありがとうございました。   続きまして,島田委員から御説明をお願いいたします。 ○島田委員 それでは,東京地裁の島田から,裁判員等候補者に送付している書類のサンプルについて,御説明を申し上げます。   「東京地方裁判所」と記載された黄色い大きい封筒の中の書類を取り出して御覧ください。   これらの書類をまとめまして,具体的な事件の裁判員等候補者に選定された皆様に,選任手続の6週間前までに送付をしております。   まず,「裁判員等選任手続期日のお知らせ」を御覧ください。   これは,法律の規定による呼出状に該当する書類です。ただし,呼出状というかたいタイトルは用いておりません。【注意事項】の3番のところに,この書類が「呼出状」であるということを一言付記してございます。   この「裁判員等選任手続期日のお知らせ」に,御参加いただく選任手続の日時と場所が記載されております。裏面には,東京地裁の図面が書いてございます。   続きまして,「スケジュール(予定)」という書類を御覧ください。   こちらには,選任手続のほかに,審理,判決,そして,途中の評議を要する日について記載があります。   なお,一番下には,裁判員候補者あるいは裁判員に選ばれた方から,服装はどうしたらいいんですかという質問が多いものですから,スーツやジャケットなどの用意は必要はございませんと,服装は自由ですというふうに記載があります。   続きまして,「必ずお読みください」という書類には,封筒に入れてある書類のリストと「質問票」などの回答の手順,お問い合わせ窓口について記載がございます。   そして,返送用封筒と,あと「質問票」という書類と「旅費等の振込先の届出」という書類が一体になっておりますが,裁判員等候補者には,「質問票」と「旅費等の振込先の届出」という書類に御記入いただいて,裁判所に返送していただきます。   裁判員になることができない事由や辞退事由については,第2回の検討会で御説明したとおりですが,これらのことについて,裁判員等候補者にあらかじめお尋ねする書類が,この「質問票」になります。   「質問票」の中には,裁判員になることができない事由,辞退の希望の有無,そして,辞退を希望する場合には,その事情について,簡潔に記載してもらう形式になっております。   そのほか,「質問票」の1枚目の下の部分に,お体が不自由な方について,お手伝いを必要とする内容についても,お尋ねをしているところでございます。   続きまして,白い紙ですが,「回答要領」が入っております。これは,「質問票」の回答方法について記載をしたものです。   それから,「旅費(交通費)・日当などのお知らせ」という書類があります。裁判員,裁判員候補者に対しては,交通費・日当のほか,宿泊が必要な場合には宿泊料が支給されます。その説明書になります。   そして,最後になりますが,「小さなお子さんがいらっしゃる候補者の方へ」,その裏面には,「介護が必要なご家族等がいらっしゃる候補者の方へ」という書類,そして,カラー刷りのもので,「裁判員になることに不安を感じている皆様へ」という書類,「裁判員候補者の雇用主・上司の皆様へ」という書類も,裁判員候補者の方に対してお配りをしております。   これらの4つの書類は,第2回の検討会の際に,資料としてお配りしたものと同じです。裁判所として御参加しやすい環境整備に関する御案内や,雇用主などの方に対する御協力を依頼する書面になっております。   東京地裁からの説明は以上のとおりです。 ○大澤座長 ありがとうございました。   それでは,ただ今の戸苅課長及び島田委員の御説明について,質問等ございますでしょうか。  ○和氣委員 東京地裁の方にお伺いしたいんですけれども,裁判員の方々の服装は自由なんですか。 ○島田委員 はい。 ○和氣委員 これについては,申し訳ないのですけれども,私の体験からですが,刑事裁判のときには喪服で行ったのですよ。被害者側は,そういう気持ちなのです。   ところが,全国の被害者支援センターの相談員の方々に伺いますと,裁判員の方々の服装が,余りにも軽装で,被害者の心情と違うのではないかというような意見もございました。   やはりここは,常識ある服装でお願いしたいです。ネクタイまではしなくても結構ですけれども,中にはTシャツや派手な色合いの方もいらっしゃったということを伺っています。被害者側は喪服で行くのに,片や裁判員の方々はTシャツ等の軽装というのは,被害者心情とはかけ離れたものではないかと思います。 ○島田委員 服装につきましては,裁判員の方の良識に委ねて,御判断いただくということにしております。   事件によっては,裁判員の方,特に御遺族の方が法廷にいらっしゃるということに気が付いて,Tシャツはさすがに避けようということで,きちんとした服装でいらっしゃる方も多いと思っております。 ○大澤座長 書類の実物を見せていただきまして,本当にありがとうございました。   それでは,最後に,次回以降の進行について確認をさせていただきます。   次回会合においても,引き続き,裁判員裁判関係者からのヒアリングを実施したいと思います。具体的な人選や実施方法等については,現在検討中でございますので,後ほど,できる限り速やかに,事務当局を通じて,委員の皆様にお知らせすることとさせていただきたいと思います。   本日予定した議事は以上でございますが,この際,何か御発言がある方はいらっしゃいますでしょうか。   では,最後に事務当局から,次回以降の日程について,確認をお願いいたします。 ○河原刑事法制企画官 次回会合は,7月25日木曜日午後3時から開催する予定としております。場所につきましては,追って御案内を申し上げます。 ○大澤座長 本日の会議の議事につきましては,冒頭にも御了承いただきましたとおり,プライバシー等の保護のために公開に適さない部分については,議事録に記載せず,非公表としたいと思います。   具体的に非公表とする部分等については,座長に御一任いただきたいと存じますが,よろしいでしょうか。 (一同了承)   それでは,そのような取扱いとさせていただきます。   本日は,これにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-