法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第17回会議 議事録 第1 日 時  令和元年7月31日(水)   自 午後 3時03分                        至 午後 4時49分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第17回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日は,御多忙中のところ,また,大変暑い中お集まりいただきまして,ありがとうございます。   議事に入る前に,前回の会議以降,幹事の異動がございましたので,御紹介させていただきます。  猪原誠司氏,羽柴愛砂氏,東山太郎氏が幹事を退任され,新たに田中勝也氏,南部晋太郎氏,吉田雅之氏が幹事に任命されました。   新しく幹事に任命された方々から一言ずつ御挨拶をお願いします。   田中幹事は,本日欠席されていますので,南部幹事,お願いします。 ○南部幹事 法務省刑事局で刑事法制企画官をしております南部と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐伯部会長 吉田幹事,お願いします。 ○吉田(雅)幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の吉田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐伯部会長 ありがとうございました。   なお,本日,田中幹事のほか,伊藤委員,小木曽委員,奥村委員におかれましては,所用のため欠席されています。また,羽間委員,酒巻委員,武委員は所用のため,遅れて出席される予定です。   それでは,初めに,事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,配布資料として,配布資料26「保護観察付全部猶予者調査票」を配布しております。内容については,後ほど説明がございます。   また,参考資料として,「部会第8回会議から第16回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」を配布しています。   この資料は,事務当局の責任において,当部会第8回会議から第16回会議までにおける各委員,幹事の御意見の要旨をまとめたものです。   また,第12回会議で配布した配布資料21「検討のための素案」及び参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案-」並びに第14回会議で配布した参考資料「遵守事項に違反したときの施設収容についての課題」を再度机上に置いています。   なお,本日も,前回までの配布資料はファイルにとじて,机の上に配布しています。 ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   本日も,前回までと同様に,「検討のための素案」に盛り込まれている制度・施策のうち,検討課題が多く残されている「若年者に対する新たな処分」を中心に意見交換を行い,その後,その他の制度・施策について意見交換を行いたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,最初に,「若年者に対する新たな処分」について,意見交換を行います。   配布資料21「検討のための素案」の該当部分は,24ページ以下になります。   「若年者に対する新たな処分」については,他の制度・施策と比べ,検討を要する事項が多いことから,ここ数回の会議において,全般的な事柄から各論的事項について意見を重ねてきたところです。   今回の会議では,参考資料として配布している「意見要旨」,該当部分は15ページ以降となりますが,そちらも参照いただきながら,新たな観点からの御意見のほか,これまでの意見交換を踏まえ,これまでの御発言を整理した形での御意見や補足する御意見などについても御発言いただきたいと思います。   最初に,検討課題のうち,前回までの意見交換を踏まえ,制度の全般的な在り方について,総論的な意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。              (武委員 入室) ○山﨑委員 私は,保安処分との関係について意見を述べたいと思います。   前回の部会会議において,今井委員から,保安処分の定義によっては,少年法の保護処分も保安処分に当たることになるが,保護処分について問題があるとはされていないといった趣旨の御発言があったかと思います。   確かに,少年法の保護処分を保安処分と位置付ける見解も存在しますが,そのような立場からも,少年法の保護処分について,問題があるとはされていないというのは,私も同じ認識です。   その理由としては,少年法の保護処分が対象者を未成熟な少年に限定しているということ,少年法の目的が少年の健全な育成とされて,その手段としても,目的達成のために教育的な方法がとられているなど,処分の対象や目的,手段,こういったものが限定されているということから,我が国の法制下でも正当化されているのではないかと考えられます。   これに対して,今回検討されている「若年者に対する新たな処分」については,その対象が少年ではなく成人ということになりますし,その制度の目的も,少年法の健全育成とは異なる目的となると考えられます。その目的の設定の仕方,あるいはその解釈の在り方によっては,実質的に治安維持等の目的が入り込むおそれも否定できないかと思います。また,そのこととも関連して,目的達成のための手段としても,少年法の保護処分のように,教育的方法に限定されなくなるという可能性が存在するのではないかと思っています。   こういった点に関しましては,公益社団法人の日本精神神経学会からも,本年6月11日付けの「少年法「改正」に関する声明」において,将来の危険を防止するために,刑罰に代えて自由の制限を行うという保安処分に当たるのではないかといった懸念が示されているところです。   このように,少年法に対する保護処分とは異なり,今回検討されている「若年者に対する新たな処分」については,成人に対する保安処分として許容されないのではないかという問題が残ると考えられ,具体的な制度の目的や手続,処分の内容など,具体的な点について,極めて慎重な検討が必要であろうと考えています。   特に,この新たな処分の中で定められる処分について,行為責任の範囲内でのみ正当化されるという形で説明がされていますが,その点が実際に制度として,しっかり担保されているかどうかという点が重要かと思いますので,そういった観点で,手続,処分について検討する必要があると考えています。               (酒巻委員 入室) ○青木委員 「若年者に対する新たな処分」の正当化根拠に関連して,意見を述べたいと思います。   「若年者に対する新たな処分」に関しては,処分の内容について,正当化されるのかという問題とともに,手続の過程で行われる様々な働き掛け,殊に家庭裁判所調査官の調査の過程で行われる教育的措置のようなものに関して,試験観察に際して行われるものなどを含め,単なる調査の域を超えて,処遇的な側面も相当程度あることから,正当化されるのかどうかということが問題となると思います。   今現在20歳以上の成人と全く同じ成人の制度として考えた場合には,正当化されないのではないかということは,これまで述べてきたとおりです。   仮に,少なくとも18歳,19歳に関しては,18歳,19歳を少年法適用年齢を下げることによって成人としたとしても,家庭裁判所調査官による調査が正当化されるのだとすると,現在ここに出されている制度概要案では,家庭裁判所調査官の調査は,起訴されない者についてのみ行われるという案になっていますが,全ての18歳,19歳について正当化されないとおかしいのではないか,起訴される者にも調査があってよいのではないかとも考えられます。   私自身は,少年法の適用年齢を引き下げず,18歳,19歳を成人とするべきではないと考えておりますので,以下に申し上げることは,私自身が,このようにするのがよいと思っているという趣旨ではないのですが,仮に今検討されている枠組みを前提としても,家庭裁判所調査官の調査に関しては,これから述べるような形で考えることができるのではないか。そして,そうすることによって,少なくとも,今検討されている案よりは,諮問にある「処遇を一層充実させるため」という要請には適合する案なのではないかと考えまして,述べたいと思います。   現在の制度概要案では,まず,略式命令請求も含め,検察官が起訴するか否かの判断をした後に,起訴しない者についてのみ,家庭裁判所に送って調査をすることになっていますが,まず検察官が起訴するか否かの判断をするという枠組みは変えずに,検察官において,起訴するか否かの判断をした上で,処分は保留のまま,全件を家庭裁判所に送るということが考えられるのではないかと考えました。   そして,家庭裁判所では全件について,これまで「若年者に対する新たな処分」における調査として検討されてきたのと同様の調査を,18歳,19歳の全ての事件について行い,家庭裁判所は,その調査を行った上で,その調査結果を付けて,また全件,検察官に送り返します。   その際に,仮に検察官が起訴しないこととするのであれば,家庭裁判所としては,新たな処分を付すための審判はせずに,審判不開始にすると判断した者についてのみ,そのような意見を付けて,検察官に送り返し,それ以外は,調査結果だけを付けて送り返すことにします。   そして,検察官は,家庭裁判所から再び送られてきた事件について,当初家庭裁判所に送った時点で,家庭裁判所に伝えてはいないものの,起訴するかしないかの判断は,既にしているわけですから,速やかに起訴する者は起訴して,起訴しない者については,また家庭裁判所に送り返すことになります。   ただ,家庭裁判所から審判不開始の意見が付けられてきた者については,起訴しないのであれば,家庭裁判所に送り返さずにそのまま起訴猶予とし,その後,何も処遇はなしとします。   そして,家庭裁判所は,検察官が起訴せずに送られてきた者について,審判を開いて,処分をし,あるいは不処分とする,というようなことは考えられないのかということです。   検察官が起訴した後,どのような裁判手続をとるのかに関しては,ここでは触れるものではありません。   家庭裁判所の調査結果,調査票は,刑事裁判になる場合には,必要に応じて,検察官,弁護人が,18歳,19歳の処遇を決めるための証拠として,提出するということができると思います。   特に,罰金相当事案について,家庭裁判所調査官による調査が行われていれば,保護観察付執行猶予を求めるか否かの判断材料にもなるでしょうし,調査において教育的な働き掛けが行われて,それで,それなりに処遇効果があるということであれば,あえて保護観察付執行猶予にする必要がないというものも多くなるかもしれないと思います。   このようにすることによって,今考えられている制度案よりは,全体として,処遇の充実を図ることができるのではないかと考えます。そして,現在の制度案だと,家庭裁判所調査官の調査は,起訴されないことが決まってしまった後のものということになりますが,このような形をとれば,まだ処分が決まっていませんから,本人たちからすると,どのような処分になるか分からない状態で調査を受けることになり,調査機能がより果たせることになるのではないかと考えました。 ○大沢委員 一つ質問なのですけれども,私は法律の専門家ではないので,教えていただければと思ったのですが,先ほどから,保安処分という言葉が出てきて,それについて,いろいろ御議論されていますが,そもそも保安処分とはどのような概念なのか,教えていただければと思います。 ○保坂幹事 以前の部会で,改正刑法草案のときに批判があった,いわゆる保安処分といわれたものについて,御紹介させていただいたことがあったと思いますので,資料が見つかり次第,御紹介します。 ○今井委員 今の大沢委員の御質問と関連してではありますが,先ほど山﨑委員がおっしゃったことについても関連して意見を申し上げます。   私も前回,あるいはその前にも申し上げてきましたが,保安処分というものは恐らく,基本的には将来の犯罪を抑止するということに重点があるのだろうと思っています。その場合に,今回想定されている制度は,若年者が行った犯罪的な行為について,その行為責任の範囲内で,犯罪的な行為の抑止に向かって,必要な限りにおいての措置を取るということですから,その内容が無限定になるという理解は,少なくとも私はとっておりません。   現行の少年法における教育的配慮というときにも,その言葉の内容が重要だと思います。それは,健全な少年として社会に戻すということを意味するのでしょうが,その中には,当然,犯罪を繰り返さない,少なくとも,少年として犯したかもしれない犯罪について,再犯に至らないということが,コアの要素として入っていると思います。そうしますと,保安処分という定義,あるいは教育的配慮ということを,言葉の定義の上で偏差があったとしても,ここで考えられていることは,対象者の属性に応じて適切な措置を下すことによって,同種の犯罪の抑止をするという点に重点があるのでありまして,そうした措置が無限定になるものではないと考えています。 ○佐伯部会長 今の保安処分の点につきましては,後ほど,もう一度御説明いただくことにしまして,総論的な意見は,この辺でよろしければ,個別の検討課題について意見交換を行いたいと思います。   それでは,最初に検討課題のうちの「一 対象者」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。   「一 対象者」については,よろしいでしょうか。   それでは,「二 手続」について,意見交換を行いたいと思います。   いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いいたします。 ○山﨑委員 手続の中で調査に関してですが,有罪認定の手続の前に調査を行うことが,無罪推定原則等に反するのではないかという問題について,前回部会で川出委員から御見解が示されたと思います。その点について意見を述べたいと思います。   まず,プライバシーに関わる事情について,どこまで調査が許されるかといった問題についてですが,私は,調査において,どの程度プライバシーに関わる事項が対象とできるかについては,その手続や処分の目的によって規定される,特に健全育成の目的の有無によって,やはり変わるのではないかと考えています。   具体的には,家庭裁判所調査官による調査は,少年に対して,その健全育成を図る見地から,どのような処遇が最も有効・適切であるかを明らかにするために,その対象者の要保護性に関する判断のために行われていると説明されていると思います。   このために,対象者の家庭及び保護者との関係や教育の程度及び状況,不良化の経過や性向などについて,さらには,少年のみならず,対象者の家族及び関係人についても,その経歴や教育の程度,性向や遺伝関係等についても,できる限り調査を行うものとされており,プライバシーへの関わり度合いが強いところまで調査が認められているのではないかと考えています。   これに対して,前回部会での御説明で挙げられた,例えば刑事事件の裁判や捜査における,一般情状に関する取調べは,少年法の健全育成目的下における処遇選択とは異なり,飽くまで刑の量定に関わる限度で行われるものであって,少年審判における家庭裁判所調査官の調査と比べると,プライバシーへの関わり度合いが,相対的に低い範囲に限定されていると考えるべきではないかと思います。   また,公判における一般情状に関する証拠調べは,当事者主義の訴訟構造下において,伝聞証拠排除の法則などの原則がある中で,かつ黙秘権が保障され,さらには弁護人が付いた状態で行われるものであり,また,捜査段階の取調べにおいても,対象者には黙秘権が保障されています。これに対して,今回検討されている新たな処分における家庭裁判所調査官による調査というものは,まず,伝聞証拠の排除等の証拠法則がない中で裁判所が一件記録の全部に目を通し,蓋然的な犯罪事実の心証が取れれば,調査命令を発して,開始されるものとされています。そして,その調査については,黙秘権の告知や弁護士の選任が必ずしも保障されないことがある中で行われるのではないかと考えられます。   さらには,調査が職権主義の構造下で,犯罪事実の認定を行う裁判所の機関である家庭裁判所調査官によって行われるものですので,以上に述べたような点では,公判における一般情状の証拠調べや捜査段階の取調べとは,大きく異なるのではないかと思います。   このような意味を持つ,あるいは位置付けをされている家庭裁判所調査官の調査というものが,裁判所による犯罪行為の認定手続前に行われることについては,成人に対する手続として,適正手続の保障という観点から問題がないのか。やはり問題が残ってしまうのではないかというのが私の考えです。   そもそも,これは家庭裁判所調査官による調査の問題だけに限らないと思いますが,新たな処分の手続全体について,保護主義が適用されず,制裁原理に基づいて,成人である対象者に不利益な処分を課すという手続でありながら,なぜ刑事裁判類似の手続ではなく,少年審判に準じた手続でよいとされるのか,適正手続の観点から問題はないのかという点について,いまだ十分な説明がなされていないのではないかと感じています。成人に対する防御権の保障として,不十分な点はないかという観点からの疑問に対しては,明確に答えを出す必要があるのではないかと考えています。   最後になりますが,家庭裁判所調査官の調査には,情報や資料の収集という側面とともに,これまでも言われているように,教育的な働き掛けを行う保護的措置としての側面も有しているとされています。そして,今回検討されている「若年者に対する新たな処分」でも,ここでいう調査は,現行の少年法の家庭裁判所調査官の調査と同様のものが想定されていると思います。   繰り返しになりますけれども,制裁原理に基づいて,成人に対して不利益な処分を課す手続として,犯罪事実の認定手続の前に,このような働き掛け,実質的な処遇というものが許容されるのかどうかという点についても,適正手続の観点から,やはり疑問が残るのではないかと考えています。              (羽間委員 入室) ○川出委員 ただいまの山﨑委員からの御指摘について,まず,前回の発言の趣旨を改めて申し上げたいと思います。前回,現在の刑事手続においても,公判で一般情状に関する審理が行われているし,捜査段階でも起訴するかどうかの判断のために一般情状にあたる事項の取調べ等も行われるということを申し上げたのは,新たな処分の決定のための調査が,無罪推定の原則との関係で問題があるという御指摘があったので,それに反論する文脈においてです。つまり,この場面で無罪推定の原則というものを持ち出すとすれば,その内容は,裁判で正式に有罪認定がなされる前の段階で,有罪であることが前提となる量刑や処分の決定のための調査,資料収集をすること自体が,無罪推定の原則に反するということになります。しかし,そのような調査は,現在も捜査や公判で行われており,それが許されないとは考えられていないわけですので,そうだとすれば,無罪推定の原則が先のような内容を含むものとはいえず,それゆえ,今回考えられている新たな処分を決定するための調査が無罪推定の原則に反するとはいえない,そのような趣旨で,刑事手続における例は出したものです。  このように,新たな処分を決定するための調査自体が無罪推定の原則に反するものではないとして,その上でどの程度の調査が許されるのかは,それとは別の問題です。その程度や内容は,調査の目的との関係で決まってくることになりますが,この関係では,比較すべきは,刑事手続における捜査や公判審理ではなくて,少年保護手続における調査になると思います。   先ほど山﨑委員が御指摘になったとおり,現在の少年保護手続では,少年の健全育成を図るという目的に照らして,少年の要保護性に関する判断のために必要であることから,プライバシーに深く関わるような様々な調査がなされます。そうだとしますと,今回の新たな処分についても,対象者の改善更生を図るために,その要保護性に応じて処分を行うわけですから,その判断を行うためには,同程度の調査が必要となるだろうと思います。そうすると,調査を行う目的という観点からは,現在の少年保護手続における調査と同程度のことが,新たな処分における調査についても可能ということになります。   それから,適正手続の問題ですが,これは,御指摘のとおり,調査だけの問題ではなく,新たな処分の手続全体に関わる問題です。ただ,その場合に,新たな処分が,侵害原理に基づき制裁として課されるという点を根拠に手続の在り方を問題とするのであれば,それが妥当するのは,犯罪事実の認定の部分であろうと思います。これに対し,新たな処分における対象者の要保護性というのは,むしろ,それがなければ処分を課されないという意味で処分を限定する役割を果たすものですので,少なくとも,その調査について御指摘のような議論は妥当しないと思います。 ○大沢委員 これも確認なのですが,山﨑委員から,今回の新たな処分が,制裁原理に基づくとの御発言があったのですが,私は,元々この新たな処分というのは,29ページに書いてあるとおり,比較的軽微な罪を犯して,刑事処分がなされない者に対して,改善更生に必要な処遇や働き掛けを行うことを可能とすることを目的とすると捉えていたので,それを制裁原理に基づくものというのは,やや疑問だったので,どのように捉えたらいいのかを教えていただきたく発言しました。 ○山﨑委員 申し訳ありません,侵害原理と言うつもりで,制裁原理と言ってしまったので,言い間違いです。保護主義とは違って,侵害原理に基づいて課される不利益処分であるけれども,このような手続,調査でよいのだろうかという趣旨でございます。 ○大沢委員 侵害というのは,人権を侵害するとか,そういう侵害という言葉ですか。一般の言葉ではないと思うので,侵害原理について,教えていただければと思います。 ○山﨑委員 保護原理とは,本人の利益を守るために処分をするという発想で,侵害原理とは,他人の権利を侵害したことを理由に処分を行うという原則と理解していますが,研究者の方から,正確な定義を言っていただければ助かります。 ○今井委員 侵害原理とは,ハーム・プリンシプルというもので,他人に害悪を加えたときに初めて,強制的に,広い意味での処分を課すことが正当化されるという原理です。   ですから,狭い意味での人権にのみ関連する原理ではないのですが,財産権であるとか,自分の生命でありますとか,身体の完全性ですとか,そのような広い意味でその人に属している利益を侵害したときに初めて,国家権力が制裁を課すことができるという意味を持つ原理です。そうした侵害原理から,何か一定の結論が出てくると,ストレートに導かれるとは必ずしもいえないので,ここで考えられていることに即した,もう少し具体的な議論をしないと,やはり今のような御質問が出てくるのではないかと思いました。 ○山下幹事 先ほどの山﨑委員と川出委員のやり取りの関係で,発言したいと思います。少年法における調査というのは,先ほど山﨑委員も言っていましたけれども,健全育成目的に基づく保護主義,又は保護原理に基づく手続の中で,要保護性を判断するために行う調査であるというのに対して,今回の「若年者に対する新たな処分」というのは,これまでの説明だと,保護処分でも刑事処分でもないという位置付けになっているので,そこは目的が少し違うと思います。   先ほど川出委員も,目的によってという話はされたんですけれども,現在の少年法における目的と,現在の新たな処分の目的がほぼ同じであるかのような説明をされたと思いますが,今回の提案というのは,保護処分でも刑事処分でもないという位置付けの下で議論していて,改善更生又は再犯防止の目的のために行う処分で,そのための調査ということですので,やはり目的が違っていると思います。   現在,少年法第1条が規定している健全育成の目的というのは,少年自体の成長・発達権とか,そのような説明もありますけれども,少年のために行われる面が強いと思いますが,新たな処分は,改善更生又は再犯防止の目的よりも,社会防衛的というか,社会に対して危険を及ぼさないためというような面が強くて,少年法が目的としている健全育成の目的とは違う目的と捉えざるを得ないので,そうでなくても目的が違うので,同じようには考えられません。少年法の手続における調査は,どこまでいっても少年のために行う,健全育成のために行うのに対して,新たな処分は,どちらかというと,社会防衛的な観点が入っているので,目的が違うと思います。   私は前にも発言していますけれども,要保護性という概念を使うこと自体が,保護処分ではないので,適当でないと思っていますけれども,要保護性の判断についても,当然程度が違ってしかるべきであって,目的が違うので,やはり程度は違うと思います。新たな処分の方が,もう少し限定的にならざるを得ないのではないかと考えております。 ○川出委員 調査の程度が目的によって決まってくるという場合に問題となる目的は,処分の最終的な目的ではなくて,調査を何のために行うかという目的だと思います。保護処分の場合は,少年の改善更生のために,どのような処分をすることが必要かという意味での要保護性を明らかにするために調査をするわけですが,新たな処分についても,最終的な目的が,本人のためではなく,社会防衛のためだとしても,対象者を改善更生し,再犯を防止するためにどのような処分をすることが必要なのかを明らかにするために調査をするという意味において,保護処分の場合と調査の目的は同じです。調査の目的が同じであれば,調査の程度は同じになるはずで,最終的な処分の目的と調査の程度は,必ずしもつながってこないと思います。 ○山下幹事 厳格に見たらそうかもしれませんが,最後にやる処分といいますか,保護処分又は新たな処分を行うために調査をするので,最終的な目的である処分のための調査なので,目的が違えば,やはり調査の程度といいますか,どこまで調査ができるかというのは,おのずと異なるべきであると考えます。 ○川出委員 最終的な処分の目的が健全育成なのか社会防衛なのかで,どうして調査の程度が違ってくるのですか。 ○山下幹事 最終的な処分のために調査が正当化されているわけですから,最終的な処分が,保護処分の場合の健全育成目的に基づく少年のための処分であるからこそ,ある程度深い,プライバシーにわたる調査が許されるのに対して,新たな処分というのは,極端に言えば,社会防衛的な,再犯防止的な目的が強いので,そのための調査がどこまでできるかというと,それはやはり限定的にならざるを得ないと思います。しかもこれは,成人に対する調査ですので,おのずと少年の場合とは異なると考えます。 ○川出委員 それは,少年の場合には,少年を改善教育し,再非行を行わないようにするための措置以上のことができるので,それに見合った調査もできるということですか。つまり,再非行の防止ということを超えて,少年を社会的に望ましい人間にするための措置,その前提としての調査もできるから,成人の場合とは異なるということでしょうか。 ○山下幹事 そのようなことを言っているわけではなくて,一つは,対象が少年であるということで,少年にとっての健全育成というものについては,ある程度,生育歴とか,プライバシーにわたる部分まで入れて,要保護性を判断する必要がある。   それに対して,新たな処分は,若年者ではありますけれども,成人に対する処分ですので,やはり少年の場合とは違う。しかも健全育成という目的ではなく,社会防衛的な,再犯防止という目的のためということなので,正にそこの目的が異なるがゆえに,調査ができる程度,深さというのも違うと考えています。 ○武委員 法律のことが余り分からないので,教えていただきたいのですが,今の少年法というのは,少年の保護,そして健全育成,そのようなものを考えながら,少年をこれからどのように社会に出すかを考えるわけですよね。   その中には,再犯防止も入っているはずです。今回新しいものを作って,目的が再犯防止,社会のためとおっしゃいますけれども,本人のためでもあると思うのです。本人が一番,再犯を起こしてはいけないわけなので,言葉を換えているだけで,目的は一緒だと思います。そのための調査をなぜしてはいけないのかが分かりません。   それは,その少年のためなのです。だから,その調査にそれほどこだわって,プライバシーを侵害するとか,生育歴ということまで深く入ってはいけないとか,なぜそのようなことをいつも言われるのかが分からなくて,それは,悪いことをした少年のために,その子をこれから社会に出すためにはどうしたらいいのか,その子に責任を教えるのにはどうしたらいいのかと考えるために必要な調査だと思います。   ですから,そこまでプライバシーや人権侵害を気にするというのが,よく分からないのですが,なぜそこまで考えなければいけないのか教えていただきたいです。 ○太田委員 ここで今検討している新たな処分は,本人の改善更生や,それを健全育成といってはいけないというお話ですけれども,そのようなことを全く考えない,社会防衛のためだけに全く調査もしないで,ただ身柄拘束だけをしておくとか,そのような制度を検討しているわけではないので,本人の改善更生,それを健全育成というか,改善更生というかは言葉の選択の問題だろうと思うのですけれども,これを通じて,結果的に社会の安全に寄与するということであって,その本人の改善更生を無視した,何か社会の安全を守るためだけの教育も処遇もしない処分を検討しているわけではないということは,確認しておく必要があると思います。 ○橋爪委員 私も同感でして,改善更生,再犯予防と健全育成を,全く異なる概念と捉える必要はないと思います。   先ほど,川出委員からも御発言がありましたけれども,健全育成といいましても,人格高まいな人間になるように,すばらしい人間になるように教育をするという意味ではなくて,飽くまでも犯罪傾向の解消に重みがあると思います。   確かに,改善更生,再犯予防と健全育成では,多少ニュアンスは違ってくるかもしれませんが,基本的な方向性として,両者の間に大きな違いがあるわけではないように感じますし,両者を極端に異質な概念として捉えることは,議論の混乱を招くものであり,適切ではないと考えます。 ○田鎖幹事 今,議論が盛んにされていたのは,調査の詳細さとか深さという点だと思いますが,川出委員にお尋ねしたいのですが,その前の段階で,現行の少年事件における家庭裁判所調査官における調査の中で行われる教育的措置,そこに着目した意見というのも,これまで繰り返し出されてきたと思います。   部会でヒアリングも行いましたけれども,実際,体験学習とか,グループワークですとか,セミナーとか,就労・学習支援といった,そういったプログラムのようなことが教育的措置として,現状では行われているのですが,川出委員のお考えですと,仮に実現する場合,「若年者に対する新たな処分」の要保護性を明らかにするための調査において,そういったことも十分できるし,行うべきなのだということになるのでしょうか。 ○川出委員 対象者がそれに任意に応じることが必要ですが,それが満たされるのであれば,そのような措置を行うこと自体を否定する理由はないと思います。 ○佐伯部会長 先ほどの大沢委員からの御質問について,ここで回答をお願いします。 ○保坂幹事 部会の第14回会議で御紹介させていただいたのですが,保安処分という言葉そのものに定義があるわけではありませんが,昭和49年の改正刑法草案で,保安処分といわれたものが二つありまして,一つは治療処分というもの,もう一つが禁絶処分というものでした。   いずれも禁錮以上の刑に当たる行為をしたということが前提ですが,心身喪失者あるいは心身耗弱者に対する治療処分と,アルコール・薬物中毒者に対する禁絶処分がありまして,いずれも再犯のおそれがあって,保安上必要があると認められるときには,一定期間,保安施設に収容する処分ができるというもので,また,必要があれば,裁判所の決定によって,収容期間を更新することができるとされておりました。したがいまして,これが保安処分といわれたところですけれども,その内容というのが,行為責任の有無とか,あるいはその軽重ということに関わりなく,対象者の将来の危険性を基礎として処分を行う,収容処分までを行うというものをもって,保安処分だという批判を受けたというものだと理解をしております。 ○大沢委員 ありがとうございます。議論するときは,そのようなものだということを前提に議論していただかないと,保安処分というもののイメージがやはり,いろいろな方によって違うので,御議論される際は,その辺を提示していただけると有り難いと思います。 ○佐伯部会長 「二 手続」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,「三 処分」について意見交換をすることとします。   いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いいたします。 ○池田幹事 私は,「検討のための素案」の27ページにあります遵守事項違反時の施設収容処分について,実務上の取扱いについて,質問させていただきます。   この遵守事項違反時の施設収容について,そもそもの新たな処分が念頭に置いている行為責任を前提にすると,余り対象者がいないのではないかという御指摘がこれまでになされておりますところ,本当にそうかということを伺いたいという趣旨です。   本日,再配布されている「遵守事項に違反したときの施設収容についての課題」を御覧いただければと思いますが,そのうちの「②の仕組み」を前提に伺います。   こちらでは,保護観察に付するとともに,遵守事項違反があったときには施設に収容し得ることを内容とする処分,これは以下,便宜,条件付き収容処分と申し上げますが,これは当初の審判で言い渡されても,対象者は直ちには施設に収容されず,遵守事項違反がなければ,施設収容がなされずに処分が終了するという点では,成人に対する刑の全部の執行猶予と類似する処分であるといえます。   その上で,実刑と執行猶予付きの刑とを比較して,行為責任はどちらが軽いかという点について,例えば,同じ懲役1年でも,実刑と執行猶予付きとを比べますと,後者の執行猶予付きの方が軽い刑事責任に対応するというのが,実務上とられている考え方ではないかと思います。   その理由を考えてみますと,執行猶予付きの刑は,宣告されても直ちに収容されず,猶予期間中に再犯に及んだり,遵守事項に違反して執行猶予が取り消されたりしない限りは収容されないという点で,刑期を同じくする実刑よりも不利益性が小さいといえることによるものではないかと思います。   これと同様に考えると,条件付き収容処分も,当初の審判で言い渡されるものの,直ちに収容されず,遵守事項違反がなければ収容がなされずに処分が終了するという点で,当初からの施設収容よりも軽い行為責任に対応する処分ということができるのではないかと思います。   そうすると,条件付き収容処分は,少なくとも全部執行猶予付きの懲役又は禁錮が相当とされる程度の行為責任の行為との関係で,これを設ける余地があるのではないかと思われます。   これまでの部会における議論では,起訴猶予とされるものには,当初から施設収容処分を課すことが正当化されるようなもの,つまり行為責任の程度から見ると,懲役又は禁錮の実刑が相当とされるものは,ほとんど含まれないのではないかという議論がされてきましたが,そのこととの対比でいうと,全部執行猶予付きの懲役又は禁錮が相当とされるものは,それらのものに比べれば,起訴猶予とされたものの中に,相対的には多く含まれているのではないかと思います。   他方で,先ほど申し上げましたように,新たな処分の対象者は,基本的にはかなり軽微な行為責任の者なので,条件付き収容処分が正当化される者は,ほとんどいないのではないかという御意見も出されています。そこで,お伺いしたいのですが,新たな処分の対象として念頭に置いている,起訴猶予となる事案の中で,全部執行猶予付きの懲役又は禁錮が科される程度の行為責任のものがあるのか。また,あるとして,どの程度あると考えられるのかという点が重要と思われますので,検察の実務について,吉田委員にお伺いできればと思います。 ○吉田委員 まず,起訴・不起訴の判断の在り方については,これはかなり個別具体的な事情を考慮して判断するということで,一般的な傾向ですとか,どのくらいの割合がそうだとかいうことは,なかなか申し上げられないということを,まずお断りしておきたいと思います。   その上で,私の検察官としての実務経験を踏まえてということで,これまでこのようなことを考えて起訴するという判断をしたということとか,起訴猶予にするにはこういうことを考えていたということをお話ししたいと思います。   起訴猶予は法律上,刑事訴訟法第248条に規定された,諸事情を考慮して公訴を提起する必要がないと判断された場合に,することができるということになっています。実務上,まず犯罪の軽重,つまり行為責任の程度を考慮して,その上で,犯罪後の情状等を含めた一般情状を考慮して判断するのが一般です。これは,裁判所の量刑判断において,行為責任の原則ということがいわれますけれども,これと同様の考え方をしていると言っていいと思います。   そうすると,行為責任の程度が基礎的な考慮要素ということになりますが,起訴するか,又は起訴猶予ということも考えられるという,そのような事案を取り扱った場合に,判断の一つの目安となるのが,検察官として実刑を求める程度の行為責任があるか否かということだと思います。   つまり,犯罪の軽重を考慮した結果,行為責任の程度からすれば,懲役又は禁錮の実刑が相当であるような重大事案については,これは公判請求するのが通常であると。一般情状等を考慮して,起訴猶予というような判断をするというのは,極めて例外的なケースということになってきます。   他方で,それよりも行為責任の程度は軽いという事案については,行為責任の程度だけではなく,様々な事情を総合考慮した結果,起訴猶予とするケースも出てきます。そして,そのような事案の中には,正確な割合を示すことはできませんが,池田幹事が指摘されているような,行為責任の程度だけを見れば,全部執行猶予付きの懲役・禁錮が相当とされるものが相当数含まれると思います。   実務において,なぜこのような運用がされているかということを考えてみますと,実刑が相当だと考えられるような行為責任の重い事案については,やはり刑罰を科すべきという要請が強いため,起訴・不起訴の判断の際に,一般情状等を考慮するとしても,これらの事情を処分結果に反映させる余地が相対的に乏しくなるということがいえます。そのような事案で,起訴猶予とする,すなわち刑罰を科すまでの必要はないと判断されるのは,かなり例外なケースということになってきます。   これに対して,そのような事案より行為責任の程度が軽いと考えられる事案については,直ちに刑罰を科すべきとの要請は弱くなり,その反面,一般情状等を考慮して,処分の結果に反映させる余地は,比較的大きくなります。そして,総合考慮した結果として,当該事案については,起訴して刑罰を科すまでもない,つまり起訴猶予と判断するケースも生じてくるということではないかと思います。   もちろん,直ちに実刑を求めるほどの行為責任がないと判断した事案についても,例えば全部執行猶予付きの懲役又は禁錮を見越して公判請求することもありますし,罰金を求めて略式命令を請求することもありますが,起訴猶予処分も含めて,これらをどのような処分にするかは,行為責任の程度と様々な一般情状との兼ね合いによって決まってくるものだといえます。   例えば,起訴猶予とされた者は,罰金にさえ当たらない軽微な犯罪を犯した者とランク付けをしたり,類型化するということはできないのではないかと思います。 ○池田幹事 ありがとうございました。   今の吉田委員から伺いました御説明を前提にいたしますと,起訴猶予となったことが前提となる新たな処分の対象者の中には,条件付き収容処分が許容される程度の行為責任の者が一定数含まれるのではないかと考えられるところであり,そうだとすると,この処分を設けることには,十分な合理性があるのではないかと思います。 ○太田委員 今,池田幹事と,吉田委員から説明がありましたが,私もこの処分の内容というのを考えた場合に,起訴猶予となる者の中には,行為責任が一定程度重い者も入っているでしょうし,それから,行為責任が比較的軽い者でも,処遇の必要性が高い者がいることは間違いないでありましょうから,当初は保護観察処分とするものの,保護観察期間中の行状によっては,今,池田幹事は条件付き収容処分という,条件付きというお話がありましたけれども,猶予されていた施設内処遇に一時的に切り替えるという制度とするということは,十分に可能だと思います。   それから,社会内処遇の実務を考えても,保護観察官や保護司が,対象者が遵守事項に違反して,指示に全く従わない場合にも不良措置を当初から一切とることができないという社会内処遇の制度は,設けるべきではないと思います。   この間から出ておりました制度の設計としましては,家庭裁判所が不良措置としての施設収容の上限を決めておくという話がありましたが,その上で,保護観察処分を言い渡しておいて,実際に保護観察中に問題行動が認められたとすれば,そのときの処遇の必要性といいますか,要保護性といいますか,それは当初の処分を言い渡すときよりも,更に高い問題性になっているわけですから,当初の施設収容の上限の範囲内で,改めて家庭裁判所の判断で,条件といいますか,猶予していたといいますか,施設収容に一時的に切り替えるということが正当化できるという場合はあるであろうと思います。 ○山﨑委員 今までの意見と関連しますが,別の側面から意見を述べます。遵守事項違反があった後の施設収容に至るまでの手続に関して,その要件をどのように設定することが考えられるのかという点です。   類似した制度として,今の少年法で,施設送致申請という手続があり,そちらでは,更生保護法の第67条で,保護観察所の長が対象者が遵守事項を守らなかったと認めるときには,まず警告を発するとされており,その警告を受けた対象者が,なお遵守事項を守らないときで,かつ,その程度が重いと認めるときには,裁判所への申請をすることができるとされています。   そして,これを受けた裁判所は,審判を開いて,その遵守事項の違反があったこと及び,警告を受けたにもかかわらず,なお遵守事項を守らなかったことを認定して,その程度が重く,かつ,その保護処分によっては,本人の改善及び更生を図ることができないと認めるときに,施設収容を認めるという作りになっているかと思います。   これに対して,現在検討されている,遵守事項違反の場合に施設収容を認める保護観察処分については,この施設送致申請に関する手続と同じような要件付けが考えられるものなのか,あるいは違う点が出てくるのか,その点は検討する必要があると思われます。事務当局ですとか川出委員におかれて,何か考えられているところがあれば,お聞きしたいと思います。 ○保坂幹事 今のような考え方も成り立つと思われますし,成人の保護観察付き執行猶予であれば,執行猶予を取り消して収容するという,別の手続もありますので,いろいろ考え方はあろうかと思います。むしろ,何か違うところがあって,ここの点に留意すべきだという御提案があるのであれば,それを御発言いただければと,事務当局としては思います。 ○山下幹事 今の点ではありませんが,同じく遵守事項に違反した場合の施設収容について,前回の部会において,小玉幹事と大塲幹事からそれぞれ,具体的なイメージについてお話を頂きました。   そこでは,1,2か月程度の収容処分となる者と,それから,1,2か月を超える期間の収容処分が設けられる場合,二つに分けて説明がありまして,1,2か月程度の場合には,少年鑑別所に併設する施設に入れて,調査とか様々な処遇をする。それから,1,2か月以上を超える期間の収容処分の場合には,まず少年鑑別所に収容して調査した上で,少年院に併設する施設に収容して,少年院に類するような処遇を実施した上で,収容期間の終期に元の施設に戻して退所させるというような案がございました。   この間,遵守事項に違反した場合の施設収容を認めるべきかどうかという議論があったと思いますが,第2分科会の第6回会議から第8回会議におきまして,このことが何度か議論をされているところでございます。   そこにおいては,処遇効果を上げるために必要な収容期間については,通常の矯正教育課程の基準期間は11月又は12月程度と,短期課程でも20週ないし11週程度が必要であるといわれているところで,この1,2か月というような期間というのは,処遇をするには非常に不十分といいますか,短か過ぎる期間ではないかということが指摘をされておったところでございます。   更に言うと,1,2か月程度の収容というのは,いわゆる短期自由刑の弊害という議論がございますけれども,1,2か月程度という短期の収容というのは,やはり弊害が大きいと考えられることもあります。   では,1,2か月以上の長い期間の収容ならいいのかとなりますと,今日の議論にもありましたが,元々行為責任によって上限を画すると,その範囲内で行われるということですから,長期の収容は認めるべきではない,正当化されないと考えられるところでございます。   先ほど池田幹事の方から,全部執行猶予付きの懲役又は禁錮刑と非常に似ているのではないかという指摘がございました。ただ,全部執行猶予付きの懲役又は禁錮刑というのは,まず,主刑としては懲役又は禁錮刑,懲役何年何月とかがあった上で,ただし何年かその執行を猶予するという判決であるのに対して,こちらの遵守事項違反の場合というのは,いわゆる条件付きの保護観察ということであれば,主刑は飽くまで保護観察であり,ただし,遵守事項に違反した場合には,施設にどれだけ収容するという形なので,全部執行猶予付きの懲役又は禁錮刑の場合とは少し違い,同じとは考えられないので,それをパラレルに考える議論というのは,適切ではないのではないかと考えます。 ○太田委員 今の点ではないのですが,私も,この不良措置としての施設収容処分の期間をどうするかという問題があると思います。これは,基になる保護観察処分の期間がどれぐらいになるかということとの関係もあるでしょうけれども,新たな処分というのは,飽くまでも社会内処遇を基本とするものでありますから,施設収容を余り長期に及ぶものにするということは適当でないと考えます。   前回,矯正局と保護局から,施設内処遇のイメージを御紹介いただきましたが,重要だと思うことは,不良措置としての施設内処遇を行うとしても,それまで行っていた保護観察との連続性が失われてしまうような施設内処遇であってはいけないということです。ですから,保護観察の連続性を保ちながら,かつ施設においても,矯正施設の職員と,それから保護観察官ないしは保護司とが協働して処遇を行うことができる仕組みである必要があるだろうと思います。   それから,これは以前にも申し上げましたが,施設内処遇が終わった時点で処分の期間が全部終わってしまうということは適当でないだろうと思いますので,施設を退所した後,一定期間,保護観察をまた行えるような仕組み,技術的には,仮退所の方法とか,いろいろな方法があると思いますので,そのいずれをとるかはまた検討いただくとしても,一定期間,施設退所後の保護観察期間を確保できるような制度,若しくは仕組みというものを設ける必要があると思います。 ○池田幹事 先ほど山下幹事から御指摘を頂いた点について,補足させていただきたいのですが,全部執行猶予付きの刑と条件付きの収容処分を比較しましたのは,条件付き収容処分の対象となる行為責任の者が,起訴猶予とされた者の中にはいないのではないかという指摘があったことから,本当にそうなのかということを確認する趣旨で,例として挙げたまででありまして,そのような趣旨を明確にさせていただきたいと思います。 ○羽間委員 別の観点ですが,前回の部会で,道路交通法違反等による保護観察処分の状況について質問させていただきました。お調べいただいて,数値を教えていただきましたが,この数値について,本日配布がされていないようですけれども,一言申し上げたいと思います。   頂いた数値によりますと,平成29年,に交通事件を起こして交通短期保護観察に付された人は,1年で約5,000人ですが,18歳,19歳だった人は,そのうち約4,400人だったということです。   また,交通事件で交通短期保護観察以外の保護観察処分を受けた人,保護観察の実務では,交通一般と呼びますが,この人たちは,約2,300人でしたが,そのうち,18歳,19歳だった人が約1,400人だったということです。つまり,交通の保護観察に付されている18歳,19歳の人は,年間で約6,000人ということになります。   若年者が交通事件を起こした場合,その再犯を防ぐためには,少年の認知能力や判断力の成熟の程度を踏まえた丁寧な対応をすることが重要です。単に交通違反について,罰を与えるというだけではなく,交通事件による刑事・行政・民事の責任について,しっかりと教育をするとともに,運転態度の改善を一定期間見守るということが有益だと思います。   一方,最新の犯罪白書を見ますと,過失運転致死傷の検察庁における処理の状況は,平成29年では,86.2%が不起訴で,9.6%が略式命令請求となっていることが分かりました。また,道路交通法違反については,39.2%が不起訴,53.6%が略式命令請求となっています。つまり,9割以上が不起訴や略式命令請求となっていることになります。   今後,仮に,少年法の適用対象年齢を引き下げるとした場合には,交通事件を起こした若年者について,その特性に応じた処遇を漏れなく実施するように,制度設計を行っていく必要があると考えます。 ○佐伯部会長 「三 処分」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,最後に,「四 犯罪被害者等の権利利益の保護のための制度」及び「五 家庭裁判所への移送」について,意見交換を行いたいと思います。   いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○武委員 私たちが今望んでいることは,加害少年が少年院や少年刑務所に入った時点から,被害者の声を反映させて,教育にいかしてほしいということがあります。なぜなら,私たちの会には35の家族がいますが,加害者からの謝罪がないのです。民事裁判を起こしても支払われないのです。そのような現状で,すごく苦しんでいる人がたくさんいます。   特別遵守事項の中に,謝罪をする,損害賠償をきちんと支払う,そういうことは入っていません。ですから,私が改めてお願いしたいことは,特別遵守事項の中に,謝罪をするとか被害弁償するということを是非この機会に入れていただきたいと思っています。   なぜなら,守られないときに,何らかのペナルティーというか,少年に何かが降り掛からない限り,実行されないことが多いからです。生活行動指針というのには入るだろうということは聞いているのですが,それでは足りないです。しっかりと特別遵守事項の中に,それを盛り込んでいただきたいです。   最近,保護司の方,保護観察官の方,実は昨日も保護司の方といろいろ話をしてきたのですが,そうなると,その人たちの指導の仕方も変わってくると思いました。しっかり,特別遵守事項の中に,弁償するとか謝罪をするということを盛り込まれたなら,今までと違って指導の仕方がより適切にできるようになると思うので,是非この機会に,特別遵守事項の中に入れていただきたいです。   多くの被害者にとって,審判記録を閲覧できるとか,意見が言えるとか,いろいろなことが盛り込まれて,それも大事です。けれども,例えば最近事件に遭った人も,私のように20年前に事件に遭った人も,何の謝罪も受けていないと同じことを言っており,それがどうしてもやり切れないわけです。だから,振り返ってみて,教育がされていないというのがすごくはっきり分かるのです。   それについて尋ねると,やはり特別遵守事項の中に被害者に対する弁償や謝罪が盛り込まれていない。今までは,生活行動指針の中にもそれはなかったということなので,指導に項目が入っていなかったということがすごく浮き彫りになったのです。だから,この機会に,それをしっかり文章に入れていただいて,それを少年院や少年刑務所に入った時点から,被害者の声を,被害者の状況を反映させていただきたいと思います。   私は,たくさん泣いている被害者を見ています。私たちは,自分たちの力で一生懸命生きています。本当に,愚痴もこぼさず,一生懸命生きているのです。だけれども,心のどこか,折り合いが付かないのです。それは,加害少年は少年法で守られ,その上に謝罪もない,被害弁償もされない,どこにも希望を持てないわけです。せめて少しだけ希望を与えていただきたいです。   加害少年たちは,少年審判や刑事裁判,そして民事裁判の中でほとんどの人が言います。自分は一生償います,一生謝り続けます,そして弁償もしていきますと言うのですが,それが守られないのです。ですから,これを機会に,私たち被害者,そして遺族に,もう少し希望を与えていただきたいと思います。検討をお願いします。 ○佐伯部会長 それでは,「若年者に対する新たな処分」についての本日の意見交換は,この程度といたします。   次に,その他の制度・施策について,意見交換を行いたいと思います。   本日,更生保護施設における宿泊の義務付けに関して,資料26「保護観察付全部猶予者調査票」を配布しております。   前回の会議において,更生保護施設における宿泊の義務付けに関する意見交換の中で,保護観察付全部執行猶予者の特別遵守事項の設定の在り方について御議論がありました。   そこで,この点に関する現在の実務の運用について認識を共有しておくことが,今後の意見交換に資すると思われることから,資料を配布することとしたものです。   まず,資料の内容及び裁判所における実務の運用について,福家幹事から御説明を頂き,続いて,保護観察所における実務の運用について,事務当局から説明をお願いします。   配布資料21「検討のための素案」の該当部分は,18ページ以下になります。   それでは,福家幹事,御説明をお願いします。 ○福家幹事 お手元に配布しております資料26「保護観察付全部猶予者調査票」について御説明します。   この調査票とその取扱いについては,最高裁判所事務総局刑事局長通達に定められているものです。   保護観察に付する旨の判決の宣告があったときは,関係機関との連絡や保護観察の資料となるべき情報を共有するために,裁判所書記官において,事件記録に基づき,裁判長の指示を受けて,保護観察付全部猶予者調査票を作成し,更生保護法第52条第5項に定められた特別遵守事項に関する意見を記した書面を添付して,保護観察所の長に送付することとなっております。   表紙をおめくりいただいて,1ページから2ページまでが,保護観察付全部猶予者調査票の書式になります。   この調査票には,保護観察を受けるべき者の氏名,年齢,住居,罪名,判決の主文,犯罪事実の要旨及び宣告の年月日のほか,刑の全部の執行を猶予した情状,生活歴,家族関係・生活状態等の保護観察を実施する上で参考になる事項を記載することとなっております。   続いて,3ページから4ページまでが,保護観察に付する旨の判決を宣告した裁判所が,特別遵守事項に関する意見を述べるための項目のひな形になります。   これらのうち,特別遵守事項として設定すべきと考える事項にチェックを入れて,保護観察付全部猶予者調査票に添付することとなりますが,ここに掲げられた項目以外の事項を特別遵守事項と定めるべきであるという意見を述べる場合には,保護観察付全部猶予者調査票の該当欄に当該事項を記入することとなっております。   私からの説明は以上です。 ○佐伯部会長 ありがとうございます。   続きまして,大塲幹事,お願いします。 ○大塲幹事 保護観察付全部猶予者調査票が送付されてから,保護観察所長が特別遵守事項を設定するまでの手続について御説明いたします。   保護観察付全部猶予者の特別遵守事項の設定手続は,更生保護法第52条第5項に定められております。そこでは,保護観察所の長は,「保護観察に付する旨の言渡しをした裁判所の意見を聞き,これに基づいて,特別遵守事項を定めることができる」とされております。ここでいう「裁判所の意見」は,先ほど最高裁判所の福家幹事から説明のありました資料26「保護観察付全部猶予者調査票」により通知されております。   保護観察所の長は,法務省令に基づき,その意見の範囲内で,特別遵守事項を定めることとされています。つまり,裁判所の意見が付されていないものは設定できないことになっており,実際にも設定されておりません。   裁判所から,資料26の3ページから4ページまでにおける保護観察付全部猶予者の特別遵守事項,標準設定項目の表に列記された標準設定項目のうち,「裁判所の意見」として示された項目にチェックがなされた通知を受けたときは,法務省保護局長通達に基づき,保護観察所の長は,その中から必要と認めるものを選択し,各標準設定項目に対応する標準設定例を参考として,具体的文言を定めることとされております。   また,保護観察所の長が保護観察開始後に特別遵守事項を定め,又は変更するときは,更生保護法第52条第6項に基づき,裁判所に対して,定めようとする,又は変更しようとする特別遵守事項の内容を書面により示し,意見を求めるものとされており,裁判所から不相当の意見が述べられた場合には,設定も変更もできないこととされております。   この標準設定項目の表には,更生保護法第51条第2項第5号に掲げる,特定の宿泊場所での一定期間の宿泊と指導監督を義務付けることに係る項目は設けられておりません。これは,保護観察付全部猶予者に対しても,当該項目を設定することは,法的には可能ですが,特定の宿泊場所として法務大臣が指定する施設が現在,北九州自立更生促進センター及び福島自立更生促進センターの2か所しか存在せず,運用上,保護観察付全部猶予者は入所の対象者から除外されているためでございます。 ○佐伯部会長 それでは,ただいまの説明に関する御質問,あるいは御意見等がございましたら,御発言のある方は,お願いいたします。              (大沢委員 退室) ○田鎖幹事 確認をさせていただきたいのですが,本日お配りいただいたのは,私がお願いしたのが保護観察付全部猶予者に関する資料でしたので,それを配布していただいたのですが,仮釈放者についても,標準設定項目としては,更生保護法第51条第2項第5号に該当する標準設定項目というものは設けていないと伺ったことがあるのですが,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○大塲幹事 仮釈放者の標準設定項目についても,同様の標準設定項目ということでございます。これに関しましては,個別具体的に調整した上で設定しているということでございます。 ○田鎖幹事 自立更生促進センターは,北九州と,福島しかなくて,かつ,原則として3か月ということがあるので,具体的には,何年何月何日から何月何日までの期間ここに宿泊すると,そういう内容になると思うのですが,それはそれでよろしいですか。 ○大塲幹事 今おっしゃっていただいたとおり,何年何月何日から何年何月何日までといったような期間の定め方になっております。 ○田鎖幹事 その上で,これは質問というよりは意見になるのですが,執行猶予の判決を出して,その際に保護観察を付す場合に,宿泊の義務付けというものを,例えば更生保護施設等を定めて行うという場合に,具体的には,裁判所はどうすればいいのかと考えたときに,想像が付かなかったのです。   というのは,仮釈放者の場合であれば,行く先は限定されておりまして,いつ頃仮釈放になるという時期も分かっていて,調整も可能ですが,保護観察付きの執行猶予判決を出すというときには,例えば,現状を前提とすればですけれども,東京都内のどこの更生保護施設に今空きがあるとか,どこが体制が整っているとかが分かった上で,判決が出されるわけではないので,どのようなイメージになるのだろうかということが,私としては疑問に思いました。つまり,実際問題として,設定が難しいのではないかということです。   また,今の点に関連して,今,保護局などで,何か検討されていることがあれば,教えていただきたいと思います。 ○大塲幹事 今の御質問ですが,「仮に」ということですので,お答えを控えさせていただきたいと存じます。 ○田鎖幹事 現行法上は,法の規定としては可能なことになっていて,ただ,法務大臣が指定する施設が限られているので,運用としては仮釈放者と,受入れ先は2施設に限定されているという御説明なのですが,それを活用しようという場合に,どのようなイメージを持たれているのかを,どなたでも結構ですので,もしあれば,教えていただきたいと思います。 ○太田委員 新しい施策についてのイメージというよりも,現在の保護観察付全部執行猶予の場合の運用ですけれども,更生保護法に,保護観察付全部執行猶予の判決が出た場合は,確定する前から生活環境調整を始めることができるという規定がありますので,連絡表が裁判所から保護観察所にきますので,直ちに更生保護施設に連絡して,最終的に受入れ可能になった場合に,そこを帰住先とするような運用が行われていると思いますので,恐らく,新しい施策についても,そのような制度設計がなされる可能性はあるだろうとは思っております。   ただ,その運用については,もう少し細かく御説明いただけたらと思います。全部執行猶予の場合には,判決確定前から生活環境調整をいろいろやられているということだと思いますが,間違ってはいませんでしょうか。 ○大塲幹事 それは,判決確定前の生活環境の調整が行われているかという御質問でしょうか。 ○太田委員 帰住先がないという人の場合には,直ちに更生保護施設を探さなければいけないと思いますが,その場合はどうでしょうか。 ○大塲幹事 御指摘のとおりです。その日から暮らすことが困っているような方々に,裁判の確定前から本人の住居等の生活環境の調整を行っております。 ○田鎖幹事 一方で,仮釈放者は今,基本的に期間としては3か月で,場合によって延長となっているわけですが,では,これを保護観察付全部執行猶予者に行うとした場合に,保護観察の期間というのは,通常仮釈放の人の仮釈放期間よりもずっと長いことがほとんどだと思いますので,そういった中で,裁判所がどこまでの意見を述べるのでしょうか。   法令上は別に,期間については縛りはありませんので,理論的には,かなり長期にわたっても宿泊義務付けができるということになり,裁判所の意見を聞くという趣旨にそぐわないということになりますので,それはやはり裁判所で,きちんと一定の範囲を定めなければいけないだろうと考えます。   そうすると,それを裁判所が,裁判に出てきた証拠資料に基づいて,どこまで判断できるのかということになると,私としては疑問に思います。裁判所で何か,現時点でお考えとか,もしもあるのであれば,お聞かせいただきたいと思います。あるいは,こういうものがないと困るとか,そういったことも含めて,もしもあれば,教えていただきたいと思います。 ○福家幹事 裁判所としては,定められた制度に沿って運用するということになりますので,今の段階で,御指摘の点について申し上げるのは難しいと思っております。 ○山﨑委員 本日頂いた資料は,成人の刑事裁判で保護観察付全部執行猶予の判決が下された場合の資料ということになると思いますが,少年の保護観察処分が下された場合に,同じようなものがあるのかと思いますので,そちらの方も御提出いただいて,その上で,裁判所の方でなさっている手続と保護観察所の方でなさっている手続について,御説明いただければ有り難いと思っています。   併せて,少年院からの仮退院者の場合に,先ほどの仮釈放の場合と対比して,どのような手続がとられているのかについても,御説明いただければ有り難いと思います。 ○玉本幹事 次回以降,対応させていただきます。 ○吉田委員 これまで余り取り上げられていなかったこととは思いますけれども,検討項目のうちの検察官による関係機関に対する協力依頼について意見を述べたいと思います。   「検討のための素案」の36ページ,「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」とあるうちの「三 検察官による関係機関に対する協力依頼」についてです。   この項目は,検察庁において従前から取り組んでいる起訴猶予者等を福祉的支援につなぐ,いわゆる入口支援と呼ばれる関係の項目であり,主に検察庁の実務に関わる部分だと思います。   この素案では,検察官は,被告人又は被疑者が身体の拘束を解かれる際に,その者の改善更生及び再犯防止を図るため,必要があるときは,公務所又は公私の団体に対し,必要な協力を求めることができるとあり,その旨の協力依頼規定を設けるとされております。   素案が作成された段階では,このような協力依頼規定を設けることも検討課題となっていたように思いますが,その後,実務において,入口支援は進展し,環境も整備されつつありますので,そのような現在の現場の状況等を踏まえて,今一度,このような協力規定を設ける必要があるかどうかを判断すべきではないかというのが私の考えであります。   そこで,入口支援の現在の現場の状況でけれども,平成28年12月に再犯の防止等の推進に関する法律が公布・施行されております。この法律には,地方公共団体においても,地方再犯防止推進計画を策定すべき努力義務等が規定されています。   釈放される被告人又は被疑者の改善更生及び再犯防止のためには,必要に応じて適切な福祉サービス等を円滑に利用できるよう,地方公共団体等の関係機関と連携を図るということは大変重要なことであり,全国各地において,地方再犯防止推進計画の策定に向けた動きの中で,各地の関係機関における再犯防止の取組に対する認識・理解は着実に広がっているといえます。   そして,検察庁においても,入口支援の更なる充実のため,引き続き各地において,関係機関との協議会等に積極的に参加するなど,相互理解や信頼関係の醸成・進展に力を注いでいるところであり,今後もそのような取組を続けていくこととなっています。   このように,最近,入口支援に係る関係機関との連携・協力関係の構築は着実に進展しており,そのため,現時点においては,法律上の根拠がないために,そこに支障が生じているというような状況にはないというのが私の実感です。   また,関係機関相互の連携は,これまで地域や各機関の実情等に応じて,現実的かつ円滑に対応可能な範囲で,着実に理解と協力を得ながら,その充実が図られてきているところであり,関係機関に対して,検察官が法律上の権限を有するかのような規定を設け,これに基づいて協力を求める,分かりやすい言い方で言えば,上から目線で協力を求めるということになると,かえって関係機関との相互理解,信頼関係が損なわれてしまうおそれもあると考えます。   なお,少年の上限年齢を引き下げる場合,起訴猶予となって釈放される18歳及び19歳の者については,家庭裁判所が適切な調査を経た上で,「若年者に対する新たな処分」に付することが検討されていますから,この制度の下での検察官の役割を考えても,協力依頼規定が必要とされる状況にはないと思います。   このような現状から考えると,検察官による関係機関に対する協力依頼規定の新設については,今回の諮問への対応としては,見送ることでよいのではないかと考えています。 ○太田委員 先ほどの田鎖幹事のお話について,私の言いたかった趣旨を,確認させていただいてよろしいでしょうか。   裁判所としては,更生保護施設等の情報がないために,どのように指定されるのかという御趣旨の質問だったかと思いますが,私が申し上げたかったのは,裁判所として,どこが空いているとか,どういう施設があるかということの情報を得た上で決めるということよりも,裁判所としては,更生保護施設等に宿泊して,一定の指導・監督を受けなさいという遵守事項が適当だという形で,そこの項目にチェックを振ることになったとすると,その場合は,判決が出た後に確定する前から,本人の同意を得た上で,現在やっているように,直ちに生活環境調整に入って,本人の同意を得ながら,いろいろなところに関係調整を掛けて,更生保護施設を探して,最終的にそこが宿泊場所として指定されると,そのようなイメージだろうと申し上げたかったのです。   現在は,そのように,宿泊場所を指定して指導・監督を受けるというのは,保護観察付執行猶予についてはやっていませんので,実例はありませんけれども,そのようになった場合は,現在の,本人の同意を得た上で,いろいろな更生保護施設を直ちに探して,指定されることになるだろうというイメージをお話ししたかったということでございます。 ○田鎖幹事 その点については,私も理解しております。   ただ,太田委員もお分かりの上でおっしゃっているように,それもなかなか大変だろうということと,それ以前の問題で,どういう項目を作って,それにチェックをするのかと。期間について,自由に記載できるようにするのか,1か月とか3か月とか,そういった中から選ぶようにするのか,様々なバリエーションが考えられると思いますが,そのことについては今,白紙だと思いますし,法律上,その点が特に規定がないからといって,ここで全く議論しないで,あとは現場にお任せということでは,私は,よろしくないのではないかという趣旨で,後半については発言いたしました。 ○酒巻委員 先ほどの吉田委員からの,検察官による関係機関に対する協力依頼規定の整備は見送った方がよいという御意見,御提案については同意見です。さらに,その前提として,そもそも,やはり検察官がこういうことをできるという規定を作ることのまた根拠になる,検察官の仕事は何であるかというのは,やはりきちんと考えるべきです。基本は,検察庁法のどの仕事なのかということがあると思いますが,刑事政策に関わることについて,これは検察官の仕事かもしれないという直感的な感覚はよく出てくるわけですが,そもそもこの規定は,本当に検察官の仕事だったのかどうかということもあり,似たようなことは今後もあり得るので,国家機関,あるいは官庁としての検察官の仕事の範囲というのは,慎重に考えた上で,提案するのがよいという意見でございます。 ○佐伯部会長 この程度でよろしいでしょうか。   それでは,その他の制度・施策についての本日の意見交換は,この程度といたします。   本日の審議は,これで終了となります。   ここ数回の会議では,各種の制度・施策の中でも検討課題が多く残されていた「若年者に対する新たな処分」を中心に意見交換を行ってきました。現時点で考えられる検討課題については,大体一通りの御意見を頂くことができたのではないかと思います。   他方で,これまでにおおむね認識の共有がなされていると考えられる制度・施策についても,実際の法整備や運用を想定した場合に,技術的な点も含めて,当部会において,更に詰めておくべき点はないかという観点から,検討を行うことも重要ではないかと思われます。   そこで,次回の会議では,「検討のための素案」に記載されている制度・施策について,幅広い意見交換を行うこととし,ただいま申し上げたような観点からのものも含めて,御意見を頂きたいと考えておりますが,それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。   それでは,次回の日程について,事務当局から説明をお願いします。 ○玉本幹事 次回,第18回会議につきましては,9月26日木曜日の午後1時30分から,場所は本日と同じ法務省大会議室を予定しております。 ○佐伯部会長 引き続き,よろしくお願いいたします。 ○山下幹事 今,部会長から言われた今後の進行のことですけれども,次回は今言われた内容だと思うのですが,それ以降のスケジュール感をもう少し明らかにしていただくことはできないでしょうか。 ○保坂幹事 その点につきましては,先ほど部会長から御説明があったように,次回は「検討のための素案」の施策全体について,今言ったような観点も含めて御議論いただいて,それも踏まえて,次回以降,どのように議論を進めればいいかということは,事務当局としても,部会長と相談しながら考えてまいりたいと思っております。   現時点では,こういうことをやりますということは,申し上げられないということで,御理解いただければと思います。 ○山下幹事 分かりました。 ○佐伯部会長 それでは,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましては,そのようにさせていただきます。   本日の会議は,これで終了といたします。   本日は,どうもありがとうございました。 -了-