法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第22回会議 議事録 第1 日 時  令和元年12月13日(金)   自 午前10時00分                         至 午前11時05分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第22回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日は,御多忙中のところお集まりいただき,ありがとうございます。   本日,今井委員,奥村委員,小山委員,川出委員,酒巻委員,武委員,手嶋委員,くのぎ幹事におかれては,所要のため欠席されています。また,羽間委員,保坂幹事におかれては,所要のため遅れて出席される予定です。   それでは,初めに事務当局から,資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日は,前回会議において配布した配布資料29「別案の検討のためのたたき台」,配布資料30「現行法における主要な事件区分の例」を再配布しています。また,参考資料として,「部会第21回会議の意見要旨(「別案」関係)」を配布しています。この資料は,事務当局の責任において,前回会議における各委員・幹事の御意見の要旨をまとめたものです。   なお,本日も,配布資料21「検討のための素案」,参考資料「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案-」,「部会第8回会議から第18回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」を机上に置いています。              (羽間委員入室) ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   本日は,前回会議に引き続き,「若年者に対する新たな処分」について,配布資料29「別案の検討のためのたたき台」に沿って,意見交換を行いたいと思います。   初めに,「3 刑事事件の特例」の全体について,総論的な御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 現行少年法は,第1条で,その目的の一つとして,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを規定しており,第3章として少年の刑事事件の章,第4章として雑則の章を設けた上で,手続や処分の在り方等について種々の特例措置を定めております。そこで,18歳及び19歳の者についても,これらの特別措置を設けるべきか否かが問題となると思います。これについては,前回の部会でも度々言及されておりましたが,18歳及び19歳の者の位置付けをどのように考えるのかということを,今一度確認しておく必要があると思います。   当部会では,仮に少年法における少年の年齢が引き下げられて,18歳及び19歳の者が保護処分の対象から外れることになった場合に,刑事処分の対象とならないこれらの者について,改善更生に必要な処遇や働き掛けを行うことを可能にするための措置として,「若年者に対する新たな処分」の創設が検討されてきました。当部会において,このような特別な制度の創設を検討してきたということは,すなわち,18歳及び19歳の者については,仮に18歳未満の者とは類型的に異なる取扱いをするべきであるとしても,その可塑性からすれば,20歳以上の者と全く同様の取扱いをすることもまた適当ではないという認識を前提とするものであると思います。言い換えますと,18歳及び19歳の者については,18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる者として,言わば,従来の少年と成人の中間層,ないし少年と成人の移行期にある者として位置付けて,議論をしてきたということであると思います。   そうしますと,刑事事件の特例についても,18歳及び19歳の者について,単純一律に少年と同様に特例の対象とすべきであるとか,成人と同様に一律にその対象としないといった結論を出すのではなくて,それぞれの特例ごとに,その趣旨に沿って18歳及び19歳の者について特例措置を設けるべきか否か,設けるとした場合にどの範囲で設けるべきかといったことを,個別に検討していくことが良いのではないかと考えております。   ただ,前回の部会で,そのような取扱いをすることが分かりにくいという御意見もありましたので,その点について配慮が必要であるということも,併せて申し上げたいと思います。 ○佐伯部会長 総論的な御発言は,ほかにはございませんでしょうか。   それでは,次に,「3 刑事事件の特例」の「(1)起訴強制」について意見交換を行います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○池田幹事 起訴強制について意見を申し上げます。   今回新たに検討の対象としております「別案」におきましても,家庭裁判所から刑事処分相当として逆送された事件について,起訴強制の仕組みを設けるか否かが問題となるところであり,先ほどの小木曽委員の御指摘に倣いまして,制度趣旨も踏まえて検討したいと思います。   現行少年法第45条第5号は,家庭裁判所から逆送を受けた事件について,検察官に対して,犯罪の嫌疑がある限り,原則として公訴を提起することを義務付けています。この趣旨といたしましては,少年事件については,起訴・不起訴の決定を検察官の刑事政策的な判断ではなく,専門的・科学的な調査を経る家庭裁判所の判断に委ねる方が,少年の健全な育成に資するとの考えによるものと理解されております。   これに対して,今回の「別案」においては,「1 家庭裁判所への送致」の「(1)基本的な枠組み」に関し,全件送致の例外を認めるA案と,家庭裁判所への全件送致とするB案とが示されています。そこで,家庭裁判所に事件を送致することの意味が,後に触れる逆送の在り方次第では,その理解は異なり得るものの,差し当たり,事件処理に関する判断を家庭裁判所に委ねることにあるとしますと,その対象には刑事処分相当性も含まれる以上は,その判断に際しても,対象者の改善更生,再犯防止の観点から,専門的・科学的な調査を実施した上で,家庭裁判所が処分を選択する方が,検察官が処分を選択するよりも望ましいということになります。そうしますと,「別案」においても,家庭裁判所から刑事処分相当として送致された事件については,現行少年法の起訴強制の仕組みの趣旨が妥当すると言えるので,同様に原則として検察官に公訴提起を義務付ける仕組みとすることが考えられます。   他方で,「2 手続・処分」の「(1)検察官送致(逆送)」で,全ての事件を必要的に逆送することとするA案や,一定の事件を必要的に逆送することとするB案を採用した場合に,これらの仕組みによって逆送される事件については,家庭裁判所が刑事処分相当という処分の選択を行ったものとは言えないので,検察官に公訴提起を義務付ける前提には欠けるものと考えることになると思います。   それぞれの案の趣旨に照らして検討してみた結果,以上のように整理できるのではないかと考えます。 ○山下幹事 今,御意見があった,この制度趣旨に関しては,全くそのとおりでございますので,それを前提に,私の意見を述べます。   今回のこの案は,飽くまで18歳及び19歳の者が成人とされることを前提にされていて,その場合の逆送された事件について起訴強制とするかどうかという問題でございます。これまで検討されている,「若年者に対する新たな処分」において,家庭裁判所の調査については,現在認められている少年法上の調査とは少し異なる点がございまして,収容鑑別の期間が10日間とされているとか,一応成人に対する調査ということになるということなどを考えると,調査の内容が異なると考えることも可能ですし,健全育成という理念が外されるということなどを考えると,起訴強制を認める必要性がなくなるということも考えられます。   また,少年法第45条第5項の起訴強制については,送致された少年が成人になった場合にも,起訴強制の効力が存続するかということについての議論があるところでありまして,対象者にとって,起訴猶予処分を受けられるのは,刑事手続から解放する方向であるということで,これを消極的に解する,つまり起訴強制は及ばないという消極説も有力に主張されているところであります。   先ほどの御指摘のように,確かに前提となる論点について,どの説をとるかによって変わる面がございますけれども,現在の少年法における起訴強制の場合と今回の成人となった18歳及び19歳の者について起訴強制が及ぶかという問題については,調査の在り方などに今述べたような違いがあることからすると,起訴強制は適用されないと考える余地もあると思います。ただ,これについては,先ほど議論があったように,前提となる論点において,いずれの説をとるかによっても変わってくるので,更にこの点についての検討が必要であると考えます。 ○佐伯部会長 次に,「3 刑事事件の特例」の「(2)家庭裁判所への移送」について,御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○池田幹事 家庭裁判所への移送について意見を申し上げます。   これについては,少年法第55条が規定を置いておりまして,家庭裁判所で一旦刑事処分相当と判断されて逆送された上で起訴された事件であっても,刑事裁判所において,少年の被告人について保護処分が相当であると認めるときには,家庭裁判所に事件を移送しなければならないとしております。その趣旨は,少年が可塑性に富み,要保護性が変化するという特性を持っておりますので,その状況の変化に応じて手続処分の選択が変更できることが望ましいということから,刑事訴訟手続に付された事件を,再び少年法の手続に戻して処理することを認めたものだとされております。   これを踏まえて,18歳及び19歳の者について,家庭裁判所への移送の仕組みを設けるべきかということについてですけれども,18歳及び19歳の者が社会的な実態としてはいまだ成長の過程にあり,可塑性及び教育可能性に富む存在であることを理由として,これらの者による事件を家庭裁判所へ送致して,改善更生,再犯防止の必要に応じて処分を行うという仕組みを設けるのであれば,逆送された場合であっても,刑事裁判の手続が進む中で,改善更生,再犯防止の必要が変化し得るということも当然想定される以上は,それに柔軟に対応できるように,家庭裁判所への移送の仕組みを設けておくということも考えられようかと思います。   ただ,この点につきましても,家庭裁判所への送致や検察官の逆送について,どのような仕組みとするかということと関連してまいります。「1 家庭裁判所への送致」の「(1)基本的な枠組み」のA案の考え方は,一定の事件については,刑事処分を優先するという趣旨のものであると考えられます。その上で,直接の起訴を認める一定の事件について,検察官が起訴したにもかかわらず,なお刑罰ではない処分の余地を認めるというのは,一貫しないとも考えられます。そのことからすると,仮にA案をとるとした場合には,検察官が直接起訴する一定の事件は,移送の対象からも除外するということが考えられます。   もっとも,このような事件であっても,個別具体的な事情を考慮して,刑罰ではなくて家庭裁判所による処分が相当と考えられる場合に,適切に対応できるという余地を制度として残しておく必要があるとして,これも含めて移送の対象とするという考え方もあり得ようかと思います。そして,このことは,仮に「1 家庭裁判所への送致」の「(1)基本的な枠組み」では,B案の全件を家庭裁判所に送致する案をとった上で,「2 手続・処分」の「(1)検察官送致(逆送)」でもB案の,送致された事件のうち,一定の事件については必要的に逆送する案をとった場合も同様でありまして,必ず逆送しなければならない一定の事件を移送の対象としないという考え方と,一定の事件も移送の対象とするという,二つの考え方があり得るのではないかと思われます。 ○山﨑委員 現行の家庭裁判所への移送の制度趣旨は,先ほど池田幹事がおっしゃられたように,可塑性に富み,要保護性が変化する少年の事件であることから,その状況の変化に応じて手続処分の選択が変更できることが望ましいという点に加えて,検察官送致決定に対する不服申立てが認められていないということから,この家庭裁判所への移送の申立てによって,刑事裁判所の職権発動を促し,刑事裁判所に刑事処分相当性の審査を事実上求めることができるというところにも意義があるとされておりまして,この点も,実務上は大きな点ではないかと思っております。   家庭裁判所が要保護性を判断する段階で見落とされていた事情や軽視されていた事情などが,刑事裁判において明らかとなり,それに光が当てられることで,要保護性の判断そのものを変更することが相当とされるような場合もあるということは,実務上も私は実感しております。   こういった点を考えますと,今回,18歳及び19歳の者について,20歳以上の者と比較して,類型的に未成熟で可塑性に高いということを理由に,20歳以上の成人とは異なる特別な取扱いをするということでありますと,未成熟で可塑性の高い18歳及び19歳の者の事件については,その者の要保護性の変化に対応して手続処分の選択を変更できるようにするために,家庭裁判所への移送が認められるべきではないかと思われますし,検察官送致で必要的な逆送をしないとき,あるいは,逆送する場合であっても,家庭裁判所の検察官送致決定に対する不服申立てが認められないこととの関係では,刑事裁判所による家庭裁判所の移送というものが認められるべきという考え方になるのではないかと考えております。 ○佐伯部会長 次に,「4 その他」の「(1)不定期刑」について,意見交換を行います。   御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○橋爪委員 先ほど,小木曽委員からも御指摘がありましたが,今回の「別案」は,18歳及び19歳の者を,従来の少年と20歳以上の者の中間層,中間類型として位置付けることを意図したものと言えます。すなわち,18歳及び19歳の者は,20歳以上の者に比べますと,なお精神的に未熟であり,可塑性に富む場合が多いことから,その改善更生,社会復帰を支援するために,特別の取扱いをすべき場合があり得るのに対しまして,その反面,18歳及び19歳の者も飽くまでも成人である以上,自らの行為については法的責任を負うべきであるという側面も否定できないところです。   このように,不定期刑を含めまして,少年に対する刑罰につきましては,このように相反する二つの観点をどのように調整するかという点が,重要な課題であると思います。このような観点から,配布資料の「4 その他」の「(1)不定期刑」について,若干申し上げたいと存じます。   御承知のとおり,現行少年法第52条は不定期刑について規定しており,少年について,有期の懲役又は禁錮をもって処断すべき場合については,長期と短期を定めて刑を言い渡すとされております。不定期刑の趣旨については議論がありますが,刑の長期が行為責任に対応する刑罰であり,短期は刑の執行後の少年の改善の度合いに応じて,刑罰を縮小するためのものとする説明が一般的であると理解しているところです。したがいまして,18歳及び19歳の者を不定期刑の対象にすべきかという問題は,このように将来の改善可能性に期待した上で,刑期を短縮した短期の刑を設けることが正当化できるかという点に帰着すると思います。   この点につきましては,18歳及び19歳の者は,たとえ成人であるとしても,精神的に未熟であり,可塑性に富む場合が多いということを重視した場合,不定期刑の趣旨が同様に当てはまることから,18歳及び19歳の者に対しても不定期刑を設けることも十分に可能であると考えます。   一方,飽くまでも18歳及び19歳の者は成人であり,刑事責任を負う場合には,自らの罪にきちんと向き合うべきであり,刑の執行後の改善更生の可能性については,仮釈放の判断として検討すれば足りるという理解もあり得るところです。このような理解からは,短期としても,責任を大幅に下回る刑期を認めることは適当ではなく,不定期刑を設けないという理解もあり得ると考えております。   個人的には,いずれの理解もあり得ると考えておりますけれども,最終的には,18歳及び19歳の者の位置付け,すなわち,先ほどは中間層,中間類型と申し上げましたけれども,これを飽くまでも成人であって,20歳以上に近い存在として位置付けるか,それとも,社会的な実態ないし生物学的な成熟性という観点から,少年に近い存在として理解するかという観点が,重要であると考えます。 ○田鎖幹事 ただいま,橋爪委員に議論を整理していただいたわけなんですけれども,18歳及び19歳の者の位置付けについて,中間層とか移行期という言葉も出てまいりました。そこでも,既に内容としては出ていたわけですけれども,やはり事実として,18歳及び19歳の者の未成熟性や可塑性についての評価が変わったというわけではないという意味において,中間層とか移行期というのは,18歳未満と違う面があるという点ではそのとおりですけれども,むしろ大きいのは,民法の成年年齢が下がるというところを大本として,20歳以上と全く同じにはできないという評価が出てくることだと思います。   つまり,18歳及び19歳の層に対する見方や評価が変わったわけではないということを考えますと,やはり,いまだ成熟はしていない,そして可塑性に富むというところを重視することになろうかと思います。その点を踏まえますと,そもそも少年に対する不定期刑が,人格がまだ発達の途上にあって,可塑性に富んでいると,そして教育によって十分に改善更生が期待できると,そういった配慮に基づいて設けられているということを考えますと,18歳及び19歳の者についても同様のことが考えられると思います。 ○太田委員 刑事政策的には,18歳及び19歳の者に不定期刑の制度を設けることも設けないことも可能だと思いますけれども,ただ,不定期刑を18歳及び19歳の若年者に適用するかどうかについては,現在,少年に対して不定期刑の運用がどのようになっているかということを踏まえた考察が,やはり不可欠であろうと思います。   といいますのは,本来,不定期刑については,短期での刑の執行終了や仮釈放の特則といったものが非常に意味のある制度なわけですが,こういったものが現在ほとんど行われていないという現実を見た上で,不定期刑をどうするかを判断すべきだろうと考えます。 ○大沢委員 今議論されている点は,やはり前回,武委員もおっしゃっていたんですけれども,18歳及び19歳の者をどう捉えるかによって,かなり違ってくるということと,一般から見ると分かりづらいというのは,確かに私もそうだと思います。ですから,もしこの不定期刑を設けることになると,18歳及び19歳の者は少年に近いか,成人に近いかというと,少年に近い存在だということに,多分なるのだと思います。ですから,そのような制度をとるとすれば,本当に18歳,19歳というのは,可塑性があって,非常に未熟であるということが一般の人にも分かるような根拠をある程度示していただかないと,なかなか分かりづらいと思います。特に,被害者の方には,自分の家族を殺された場合にでも,加害者に対して不定期刑があり得るということについて,納得を得られないのではないかと思います。 ○佐伯部会長 不定期刑については,このぐらいでよろしいでしょうか。   それでは,次に,「(2)換刑処分の禁止」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○山下幹事 少年法第54条は,換刑処分の禁止ということで,刑の言渡し時に少年に対して労役場留置の言渡しをしないと定めていますけれども,この立法趣旨は,労役場留置が教育を目的としない短期の自由拘束であり,少年の情操に与える悪影響を考慮して設けられたと説明されています。   そのような立法趣旨を踏まえますと,換刑処分の禁止というのは,少年法上,少年が20歳未満から18歳未満になったということで直ちに適用されなくなるのではなくて,18歳及び19歳の者が少年法上の成人と仮にされたとしても,先ほどから未成熟であるとか,可塑性に富むという話もありましたが,その実質的な観点から未成熟さに着目すると,やはり情操に悪影響を与えるという観点から,換刑処分の禁止を定めることは可能であると考えます。 ○橋爪委員 私からも換刑処分の禁止について,1点申し上げたいと存じます。   今,山下幹事から御説明ございましたように,少年法第54条は,少年に対して労役場留置の言渡しをしないこととしており,罰金刑について,換刑処分を禁止しています。   このような労役場留置の禁止は,短期の自由拘束の弊害を防止するという観点に着目した規定であると,私も理解しております。このような短期の自由拘束の弊害という観点を重視した場合は,先ほど御指摘がございましたように,18歳及び19歳の者に対しても同様の規定を設けて,換刑処分の禁止をするということは,十分にあり得ると思います。   もっとも,これは,現行少年法に対する問題の指摘なのかもしれませんが,第54条の規定により,少年は,罰金を支払わなくても,事実上そのままで済んでしまうという問題があることも事実です。そして,18歳及び19歳の者が成人として法的責任を負うことを考えますと,このような事態はなおさら容認し難いようにも思われます。このような理解からは,労役場留置か否かはともかくとしましても,少なくとも18歳及び19歳の者に対しましては,罰金を納付しない場合について,これらの者に適した何らかの換刑処分を設けることも,検討課題となるように考えます。 ○佐伯部会長 次に,「(3)仮釈放に関する特則」について,御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○橋爪委員 少年法第58条は,仮釈放が可能な時期につきまして,少年については,その期間の短縮を規定しております。また,第59条は,仮釈放後,その処分を取り消されることなく経過すれば,刑の執行を受け終わったものとする期間についても,一般の成人に比べて短縮しております。このような寛大な取扱いを18歳及び19歳の者に対しても適用すべきかが,具体的に問題になり得るところです。   このような特例が設けられている趣旨は,一般に,少年に対する刑の減軽の一環であり,少年が可塑性に富み,施設内における教育の効果がより多く期待できることから,成人よりも早い段階での社会復帰を可能にするものと解されます。そうしますと,先ほどの議論の繰り返しになりますが,18歳及び19歳の者についても,少年同様,精神的に未成熟であり,可塑性に富む者が多いことを考慮しますと,同様の規定を設けるべきという議論も十分にあり得ると思います。   もっとも,飽くまでも18歳及び19歳の者は成人であり,自らの犯罪に対する法的責任に真摯に向き合うべきであること,また,改善更生の進展に対応することは,現行の刑法典における成人に対する仮釈放の制度の枠内においても十分に可能であることを考えますと,このような特例を設けるべきではないという理解もあり得るところかと思います。   この点も繰り返しになりますが,18歳及び19歳を刑事司法全体の中でどのような存在として位置付けるかという視点から,更に検討する必要があると考えます。 ○太田委員 少年法第58条の仮釈放の要件である法定期間の特則を設けるかどうか,それから,第59条の仮釈放期間の特則を設けるかどうかということについては,不定期刑を採用するかどうかの問題と直結しておりまして,不定期刑を採用した場合にのみ意味がある規定なわけでありますけれども,これについては,不定期刑の採否についての検討と併せて検討する必要があるだろうと思います。また,不定期刑を採用しないとなった場合に,問題は,仮釈放の期間に関して,残った残刑の期間だけでは非常に短い場合が想定されることです。若年者については,社会の中での指導監督,補導援護の期間が一定期間確保できることが,社会復帰と改善更生にとって望ましいと思いますので,不定期刑を採用しなかった場合には,やはり一定期間,社会内処遇の期間を確保できる制度の採用といったものが必要であろうと思います。また,不定期刑を採用した場合にも,第59条第2項の適用は理論的・構造的にほとんどあり得ない要件になっておりますし,実際に今の実務でも,短期を経過した後で仮釈放になっている少年がほとんどであるということを考えますと,若年者についても,不定期刑の長期に近いところで仮釈放になる可能性が高くなります。そうしますと,残った仮釈放期間が相当短いことが想定されますので,こういう場合はどうするかということについても,併せて検討する必要があるのではないかと思います。 ○山﨑委員 仮釈放と不定期刑との両方に関連しますが,少年に対する不定期刑に関しては,平成26年の少年法改正に至る法制審議会の議論の中でも,その存否も含めて議論されたところかと思います。この点を今後議論するということであれば,その際の議論も踏まえた検討が必要ではないかと思っています。   また,少年に対する仮釈放の実態についても,執行率がその後も含めてどのような現状になっているかという点も含めた検討が必要になるのではないかと考えています。              (保坂幹事入室) ○玉本幹事 ただいまの御指摘の点については,事務当局としても対応を検討させていただきたいと思います。 ○佐伯部会長 次に,「4 その他」の「(4)推知報道」について,御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○小木曽委員 少年法第61条は,家庭裁判所の審判に付された少年及び少年の時犯した罪により公訴を提起された者について,当該事件の本人であることを推知することができる記事又は写真の出版物への掲載を禁止しております。その目的は,少年の特定に通ずる情報が広く社会に伝わって,少年の社会生活に影響を与えることを防ぎ,その更生に資することにあるなどと説明されており,その適用範囲は,条文にあるように,少年の保護事件係属中又は少年の時犯した罪による公判事件係属中のほか,条文の文言にも特に制限がなく,また,その趣旨からしても,各事件の終了後にも及ぶと解されております。また,本条は,直接的には家庭裁判所又は刑事裁判所への事件係属後について定めるものですが,捜査中の事件について推知報道がされてしまうとその趣旨が達成できないことから,捜査段階においてもこれを準用する,又は,その趣旨を尊重すべきであると解されております。   これを前提とした上で,18歳及び19歳の者についての推知報道の在り方については,推知報道の禁止により,その年齢の者の社会生活に影響を与えることを防いで更生を図るということに重きを置きますと,20歳以上の者とは区別して推知報道を一律に禁止することが考えられます。他方で,18歳及び19歳の者は,20歳以上の者と同様に,罪を犯した場合には,それにより生ずる社会的な責任を負うべきであると考えますと,推知報道を禁止しないとすることも考えられないわけではありません。   もっとも,後者のような立場にあっても,家庭裁判所の審判が非公開であるということに照らしますと,事件が家庭裁判所に係属している間は推知報道を禁止して,公訴提起以降に限って推知報道を認める,といった考え方もあろうかと思います。 ○大沢委員 報道に携わる者として,意見を申し上げたいと思います。   この推知報道の問題については,やはり今日の議論でも出ているとおり,「若年者に対する新たな処分」を設けるに当たり,18歳及び19歳の者がどのような存在として位置付けられるかということ,それから,それに伴ってどういう制度になるかということにも,かなり大きく影響すると思います。   その上で,報道の立場から私の考えを申し上げますと,少年法の適用年齢が引き下げられて,18歳及び19歳の者が少年法の適用から外れるということを踏まえると,やはり推知報道を一律に禁止するというのは,おかしいのではないかと思います。私が当部会の第2回会議で申し上げたとおり,事件や犯罪の実態を国民に正確に伝えるために,報道では実名報道が原則であるということを申し上げたいと思います。   もっとも,18歳及び19歳の者の更生への影響は当然考えなければいけない要素であると思います。ですから,その事案の悪質性とか処分の内容などを勘案して,実名か匿名かを検討するという場面は当然出てくると思っています。ただ,それは法規定ではなくて,報道機関側の自主的な判断に委ねられるべき問題ではないかと報道に携わる者としては考えております。   一つ申し上げておくと,この報道を禁止する少年法第61条は,やはり表現の自由とか報道の自由を制約する,極めて例外的な規定なのだと理解しています。これ以外に,報道を直接禁止する規定を設けた法律はないのではないかと思っております。また,この例外的な第61条においても,日本国憲法で表現の自由が保障されたことを踏まえて罰則は設けられていないという点も,御理解いただければと思います。 ○山﨑委員 この推知報道の禁止の趣旨については,先ほど御説明がありましたが,それに加えて,少年及びその家族の名誉,プライバシーを保護するとともに,それを通じて,過ちを犯した少年の更生を図ろうとするもので,広く刑事政策的な観点に立ったものであり,報道の規制,制限というのは,諸外国にも共通するとも言われております。取り分け,傷付きやすく,可塑性に富み,将来のある少年に対して,非公表の原則を定めたものと説明している文献もございます。   このような趣旨に鑑みれば,今回,18歳及び19歳の者について,20歳以上の者と比較して,類型的に未成熟で可塑性に高いということを理由に,20歳以上の成人とは異なる特別な取扱いをするということであれば,やはり現行少年法第61条と同様に,本人推知報道は禁止すべきものではないかと考えております。   また,今回,先ほども小木曽委員からも御指摘ありましたが,仮に「若年者に対する新たな処分」の対象拡大という前提に立って検討するということであれば,「若年者に対する新たな処分」の手続は,家庭裁判所において非公開で行われるということからしましても,本人推知報道を禁止しなければ,制度上矛盾が生じることになるのではないかという観点も,十分検討する必要があると考えています。 ○佐伯部会長 次に,「4 その他」の「(5)その他」について,意見交換を行いたいと思います。   御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○池田幹事 少年法に規定のある勾留の特則について申し上げたいと思います。   少年法第43条第1項は,少年事件において,勾留に代わる家庭裁判所調査官の観護ないし観護措置を定めておりまして,同条第3項は,やむを得ない場合でなければ,勾留を請求することはできないと規定しております。また,関連する規定として第48条があり,勾留状は,やむを得ない場合でなければ,少年に対して,これを発することはできないとし,また,同条第2項は,勾留する場合には,少年鑑別所にこれを拘禁することができるという規定を置いております。これらの特則は,少年は発達途上で心身ともに未熟であるために,情操が害される危険に配慮して,保護,福祉的観点から,できる限り身体拘束を避け,身体拘束をする場合にも処遇上の配慮を行うという趣旨と考えられております。   これを踏まえて,18歳及び19歳の者が未熟で可塑性に富む場合が多いということを重視するならば,なお身体拘束による情操の悪影響に配慮する必要性があるということで,特則を設けることも考えられようかと思います。   他方で,18歳及び19歳の者が,民法上の成年として親権の対象から外れて一般的に自立的な存在であると法的に位置付けられたということを重視する,あるいは,そのような者について,犯罪の嫌疑があって,罪証隠滅や逃亡のおそれ等の勾留の理由及び必要があると認められるにもかかわらず,保護ないし福祉の観点から特別扱いをするというのでは,国民の理解を得られないと考えるのであれば,特別な配慮はもはや必要ないものとして,特則は設けないということにもなり得ようかと思います。 ○山﨑委員 勾留に関する特則を考えるときには,勾留場所の現状も踏まえた検討が必要ではないかと思います。   実務上,少年事件をやっておりまして,警察の留置場に入っている場合と少年鑑別所に入っている場合とでは,大きく異なると感じています。留置場ですと,他の成人の被疑者と,房こそ違いますけれども,声が聞こえたり,様々な影響を受けるということもあるように感じております。   ですので,単に勾留か,観護措置をどうするかという問題も別途あるかとは思いますけれども,その勾留場所の実情ということも踏まえた議論が必要であろうと思います。 ○青木委員 人の資格に関する法令の適用,資格制限についても,検討の対象となるのではないかと思います。   少年法第60条で,資格制限について規定がありますが,その趣旨としては,少年のときに起こした犯罪については,その可塑性,教育可能性というのを考慮して,できるだけ早期にその制限の適用を受けないものとしていて,これによって,広く更生の機会を与え,社会復帰を容易にすることを目指すものであるとされております。   罪を犯した人が再び罪を犯すことなく社会生活を送る上においては,仕事に就くということが非常に重要であること,仕事に就くに当たって,資格があるということは非常に有利であることは,言うまでもないと思います。この資格制限一般について,少年,成人にかかわらずどうするかについても,見直しが必要であると思っていますけれども,それは別としまして,特に高校生,大学生も多く含まれる18歳及び19歳の者にとっては,資格を取得できるまでにかかる年数の持つ意味というのは,非常に重いわけでありまして,先ほど申し上げたような趣旨というのは,民法上成年となる18歳及び19歳にもそのまま当てはまるものと考えますので,少年法第60条についても,検討は必要であると思います。 ○太田委員 懲役,禁錮あるいは新自由刑の執行の分離について,意見を申し上げたいと思います。   現行少年法の第56条第1項は,懲役又は禁錮の言渡しを受けた少年に対しては,特に設けた刑事施設又は刑事施設若しくは留置施設内の特に分界を設けた場所において,その刑を執行することとされておりますが,実際には,この規定を受けまして,特別な刑事施設として,全国6か所に少年刑務所が設置されております。そこで,18歳及び19歳の者の懲役,禁錮あるいは新自由刑の執行をする場合にも,このような特則を設けて,20歳以上の者と分離すべきかどうかが問題になろうかと思います。   例えば,18歳及び19歳の者については,民法上の成年として親権の対象から離れ,一般的に自立的な存在であると法的に位置付けられたということを重視して,あるいは,そのような者が刑事裁判で実刑判決を受けた場合にまで特別な扱いをするというのは,国民の理解が得られないと考えるのであれば,受刑段階における情操の保護というものは,もはや必要ないものとして,20歳以上の者と同様に取扱いをして,刑の執行分離についての特則を設けないということも考えられます。   しかし,現行法におきまして,このような刑の執行の分離の特則が設けられている趣旨は,一般に少年が発達途上で,可塑性に富んで,他からの悪い影響や感化を受けやすい傾向にあるということを考慮して,その情操保護のために,受刑段階において少年と成人を分離するということとしたものと解されております。   以上の点を踏まえ,18歳及び19歳の者の特例としまして,刑の執行の分離の規定を設けるべきかを考えてみますと,例えば,刑事裁判で実刑判決を受けて,懲役,禁錮ないしは新自由刑の執行を受けることになった18歳及び19歳の者であっても,まだ未熟で可塑性に富む場合が多いという点を重視するのであれば,20歳以上の者から何らかの悪い影響,感化を受けないようにして,受刑段階での情操保護を図る必要性はなお認められるとしまして,刑の執行の分離の特則を設けるということが考えられるかと思います。   さらに,1点付け加えますと,現行では少年刑務所での分離収容となっており,舎房については分離されておりますが,矯正処遇の過程においては,成人と分離せずに行うこともあるようでございますので,これにつきましては,事務当局の方から実務について御説明をお願いしたいと思います。この若年者の分離収容に当たっては,そうした処遇の分離をどうするかということも,併せて検討する必要があるものと考えます。   なお,別の角度から見ますと,このような検討に当たりましては,我が国ではまだ留保しておりますものの,児童の権利に関する条約第37条におきまして,児童が18歳未満の者であることを前提とはしますけれども,自由を奪われたすべての児童は成人とは分離されないことがその最大の利益であると認められない限り成人とは分離されるとされていることにも留意が必要であると思われます。 ○小玉幹事 少年受刑者につきましては,今,太田委員からもありましたように,少年法第56条第1項の規定を受けて,男子の少年受刑者については,全国に六つある少年刑務所に収容しています。各少年刑務所では,少年受刑者以外にも,いわゆるY指標が付される26歳未満の者などの成人受刑者を収容していますが,少年が他者から影響を受けやすく,情操を保護する必要があることを踏まえて,成人受刑者とは居室を別にして収容しています。   ただし,少年受刑者の数は,平成30年末時点で全国で8名といったようなことで,極めて少数でありまして,少年受刑者だけで適正な集団編成を行うことは困難であるために,施設によって実情は異なりますが,居室外における矯正処遇その他の処遇については,職員が受刑者らの動静を把握しているという前提の下で,少年受刑者と成人受刑者とを集団で処遇することも行われています。   なお,女子の少年受刑者につきましては,少年刑務所ではなくて,指定された女子刑務所において収容していますが,男子の少年受刑者よりも更に数が少ないことから,成人受刑者とは居室を別にしつつ,居室外における矯正処遇その他の処遇については,職員による動静把握の下,成人受刑者と集団で処遇をしているのが一般であるということになります。 ○佐伯部会長 「(5)その他」について,勾留,資格制限,刑の執行分離といった点について御意見を頂いておりますけれども,この点,あるいはその他の点について,御意見があれば,更にお願いいたします。 ○小木曽委員 先ほど出ました資格制限の点です。少年法第60条の趣旨・目的ですが,これは,少年の教育可能性を重視して,その改善更生を期待するという少年法の趣旨が,刑罰の効果についても及ぼされるべきであることから,少年時の犯罪については,その可塑性を考慮し,できるだけ早期に刑による資格制限の適用を受けないことにして,広く更生の機会を与えて社会復帰を容易にするためであると解されていると思います。   ですので,18歳及び19歳の時に犯した罪により刑に処せられた者についても,同様の特則を設けて資格制限を緩和することになるのかどうかということが問題となるのだろうと思いますけれども,この点については,当部会や第1分科会において議論があり,先ほどの青木委員の御指摘のような考え方が示された一方で,個々の資格制限規定は,それぞれの行政目的を実現するために設けられたもので,罪を犯して刑の言渡しを受けた者について,対象者の改善更生,社会復帰という目的が常にそうした行政目的を凌駕するかのような一般規定を設けることがよいかどうかということは,慎重に検討すべきであるという御意見もあったと承知しております。   そのため,資格制限の点については,配布資料21「検討のための素案」には記載されていないということのようでありますので,そのような議論の経緯にも留意して考える必要があるだろうと思います。 ○青木委員 今の点に関してですけれども,後半の部分で小木曽委員がおっしゃったのは,それは,成人についてということだと思います。これまで検討してきた「若年者に対する新たな処分」の段階では,刑事処分にされる者については,全くの成人扱いということだったのですけれども,今の議論は,20歳以上の成人とも違う,少年とも違う,では,18歳及び19歳の者をどう考えるかということだと思いますので,先ほどまでの議論にあったように,少年に近い方向で考えるのか,それとも成人に近い方向で考えるのかという議論を,やはりこの資格制限の場面でもする必要があって,18歳及び19歳の者の実態,特に高校生でもあるということなどを踏まえて,十分に検討する必要があると思いますので,成人についての議論の経緯というのは,ここでは直接関係しないのではないかと思います。 ○池田幹事 先ほど,太田委員から執行の分離についての御指摘があったのですけれども,関連する問題として,取扱いの分離に関する少年法第49条について申し上げたいと思います。   これは,手続における少年の被疑者,被告人の分離を定めた規定でありまして,同条第1項は,他の被疑者又は被告人と分離する,同条第2項は,手続において,妨げない限り,その手続を分離しなければならない,同条第3項は,成人と分離して収容しなければならないという規定を置いております。これも,既に指摘があるように,少年が発達途上で可塑性に富み,ほかから悪い影響,感化を受けやすい傾向にあることを考慮して,情操保護の観点から取扱いの分離を定めたものであり,保護教育的な配慮の表れだとされております。   18歳及び19歳の者について,同様の特則を設けるかということに当たっては,これまでの議論と同様に,18歳及び19歳の者の未熟さや可塑性に富むということを重視して,同様の取扱いとするのか,あるいは,民法上,一般に自立的な存在とされたことを捉えて,もはや特別扱いは不要であると考えるのかということが,問題になろうかと思います。 ○佐伯部会長 「4 その他」の議論については,このぐらいでよろしいでしょうか。   それでは,「若年者に対する新たな処分」の対象事件,対象者を拡大することについて,配布資料29に沿って一通り意見交換を行ってきましたが,前回扱いました「1 家庭裁判所への送致」及び「2 手続・処分」について,更に御意見,御発言がある方は,挙手をお願いします。 ○太田委員 「1 家庭裁判所への送致」について,A案をとった場合に,検察官が,家庭裁判所の判断を経ないで公訴を提起することができる一定の事件,対象事件をどうするかということについて,前回,「現行法における事件区分の例」といった資料を配布していただきましたけれども,これを見ますと,対象事件については,大きく件数が違ってくるわけであります。恐らくこれは,若年者の事件のうちの約40%強ぐらいを占める窃盗と詐欺を含めるかどうかということが,かなり大きな分かれ目になるように思います。すなわち,この事件区分のうちの「1 裁判員制度対象事件」から「4 長期10年超の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」までと,「7 原則検察官送致対象事件」もそうだと思いますけれども,窃盗や詐欺は含まれないのに対し,「5 長期3年超の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」と「6 長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」には含まれることになりまして,これが対象事件の件数の差となって表れているかと思います。   考えてみますと,窃盗や詐欺というのは,犯情の点でかなり差があるものがあり,万引きや,額によってはかなり悪質なものもあるかのように伺っていますけれども,無銭飲食といった犯情の軽微なものが含まれている一方,窃盗でも侵入盗とか,詐欺でも特殊詐欺といったものなど,かなり犯情の悪いものも含まれております。もしこれらを全て対象事件から除外するとなると,検察官としては,当初独自に起訴,不起訴というものを決定できなくなるわけでありまして,全て家庭裁判所に送致しなければならなくなるかと思います。その後で,家庭裁判所が逆送の対象とすれば,その時点で初めて訴追が可能となることになりますけれども,犯情がかなり悪くとも,家庭裁判所が新たな処分相当だと判断すれば,検察官としては訴追ができないということになるわけであります。   これは,先ほどから出ているように,少年法の適用年齢を引き下げることの意味とも関連いたしますけれども,もし18歳及び19歳の者は基本的に成人であって,処罰の対象であるということを前提とするならば,検察官の当初より訴追可能な範囲もやや広めにとるべきだと思います。その場合,窃盗や詐欺も一律家庭裁判所の判断に委ねるのではなく,まずは検察官が刑事処分相当かどうかということを判断することが適当であると思います。   ただ,一方で,確かにできるだけ家庭裁判所送致人員を大きくして,手厚い調査と,それから処分決定を行うべきだということになりますと,対象事件は「1 裁判員制度対象事件」から「4 長期10年超の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」までや「7 原則検察官送致対象事件」のように極めて限定して,多くの事件が家庭裁判所に行くようにすべきことになろうかと思います。ただし,仮に「5 長期3年超の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」と「6 長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」のように,窃盗,詐欺を含め,対象事件を多くとったとしても,検察官が起訴猶予とした者は全部家庭裁判所に行くわけですので,「5 長期3年超の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」,「6 長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪の事件」を家庭裁判所送致の事件から外したからといって,家庭裁判所に送る人員が直ちに少なくなるというわけでもないように思われます。 ○山﨑委員 今の太田委員の御指摘に関しましては,窃盗と詐欺に関しては,犯情によってかなり差があるということと,量的な数の差が非常に大きいということに着目された御意見だったと思うのですけれども,それより重い事件についても,やはり犯情においてはかなり,実際は差があるというのが実務的な感覚であります。ですから,数的にどこで大きな差があるから,ここで線が引かれるということではなくて,各罪名の中でも,どういった事件が実際にあり,どのような犯情の幅があるのかということについて,丁寧に検討する必要があると考えます。 ○大沢委員 今の事件の区分のところで,教えていただきたいのですけれども,区分するときに,明確な被害者がいらっしゃる事件と,例えば汚職などの国民全般を揺るがすようなものではあっても,明確な個々の被害者がいない事件との区別をどこかですることはできるのでしょうか。 ○玉本幹事 法技術的な観点から,更に考える必要がありますが,理論的にできないということはないように思われます。 ○佐伯部会長 配布資料29の「別案の検討のためのたたき台」の一巡目の議論としては,このぐらいでよろしいでしょうか。 ○小木曽委員 もしそれについて個別の御意見がないようでしたら,次回の検討のためにお願いしたいことがありますが,よろしいでしょうか。 ○佐伯部会長 お願いします。 ○小木曽委員 ここまで「別案の検討のためのたたき台」について,個々の課題ごとに議論されてきたわけですが,これまでの議論の中でも指摘があったように,「別案」に記載されている課題の中には,例えば,家庭裁判所への送致と検察官送致のように,相互に関連していることから,一方でどのような考え方,選択肢をとるかということが,他方の考え方,選択肢に影響するものがあります。個々の課題にだけ焦点を当てて議論をしておりますと,全体としてどのような制度になるのかということが見えづらくなりますので,今後の議論のためには,これまでの議論を踏まえた上で,そうした関連し合う課題については,全体を見渡しながら個別の課題の議論を深めることができるよう,事務当局で選択肢の組合せの案をお作りいただけるのであれば,議論が円滑に進むのではないかと思います。組合せの案というのは,恐らく一つではなくて,複数できるかと思いますが,御高配いただければ幸いです。   また,配布資料21の「検討のための素案」ですけれども,これは,当部会の第12回会議で配布されたもので,それ以降,これに基づいて議論が進んできたわけですが,「別案」に関する組合せの案を作成いただく際に,これまでの議論も含めて,この「検討のための素案」の方も改訂していただければ,今後の議論に資すると思いますので,よろしくお願いいたしたいと思います。 ○佐伯部会長 ただいまの小木曽委員からの御提案に関しまして,御意見,御発言がある方は挙手をお願いいたします。   特に御意見はないということでよろしいでしょうか。   それでは,ただいま小木曽委員から御提案がありましたように,今後の議論を効率的なものとするため,事務当局において作業をお願いしたいと思います。その上で,次回の議事につきましては,私の方で検討し,早急に事務当局を通じて御連絡させていただくこととさせていただきたいと思います。   それでは,本日の意見交換は,この程度とさせていただきます。   次回の日程について,事務当局から説明をお願いします。 ○玉本幹事 次回,第23回会議につきましては,12月25日午後3時から,場所は,法務省1階,東京保護観察所会議室を予定しております。 ○佐伯部会長 引き続き,よろしくお願いいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましては,そのようにさせていただきます。   それでは,本日の会議は終了します。   どうもありがとうございました。 -了- - 1 -