裁判員制度の施行状況等に関する検討会(第10回)議事録 第1 日 時   令和元年12月17日(火)午前9時57分から午後零時5分まで 第2 場 所   東京地方検察庁会議室 第3 出席者    (委 員)大澤裕,大沢陽一郎,小木曽綾,重松弘教,島田一,菅野亮,武石恵美子,田野尻猛,堀江慎司,山根香織,和氣みち子(敬称略)    (事務局)大原義宏刑事局刑事課長,吉田雅之刑事局刑事法制管理官,鈴木邦夫刑事局刑事法制企画官    (その他)戸苅左近最高裁判所事務総局刑事局第二課長 第4 議 題  1 検討事項に関する意見交換等について  2 その他 第5 配付資料  資料1-1:検討事項  資料1-2:裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)に対する附帯決議(衆議院法務委員会・参議院法務委員会)  資料1-3:ヒアリングにおける発言要旨  資料1-4:「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書  資料2-1:最高裁判所説明資料  資料2-2:最高裁判所説明資料  資料3  :事務当局説明資料「裁判員制度の施行状況等に関する検討会に対する報告」  資料4  :裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)の概要  資料5  :最高裁判所説明資料 第6 議 事 ○鈴木刑事法制企画官 それでは,予定の時刻となりましたので,ただ今から,裁判員制度の施行状況等に関する検討会の第10回会合を開催いたします。 ○大澤座長 本日は皆様,御多用中のところ,お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   まず,事務当局から,配付資料について,説明をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 本日お配りしている資料は,議事次第,資料1-1「検討事項」,資料1-2「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)に対する附帯決議(衆議院法務委員会・参議院法務委員会)」,資料1-3「ヒアリングにおける発言要旨」,資料1-4「裁判員制度に関する検討会取りまとめ報告書」,資料2-1「最高裁判所説明資料」,資料2-2「最高裁判所説明資料」,資料3「裁判員制度の施行状況等に関する検討会に対する報告」,資料4「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律(平成27年法律第37号)の概要」,資料5「最高裁判所説明資料」です。資料に不足のある方はいらっしゃいますでしょうか。   それでは,各資料につきまして,その概要を御説明いたします。   資料1-1は,前回会合において配付した資料1「検討事項(案)」から「(案)」を削ったものであり,資料1-2は,前回会合でお配りした資料を改めてお配りするものでございます。   資料1-3は,当検討会でこれまでに実施したヒアリングの対象者の方々の御発言の内容の要旨を事務当局の責任において取りまとめた上,検討事項ごとに分類したものです。   前回会合では,委員の皆様から,「検討を行うに当たっては,めり張りをつける必要がある。検討事項のうち,ヒアリングで様々な御指摘をいただいたものについては,重点的に検討すべきである。」という趣旨の御意見をいただきました。資料1-3におきましては,こうした御指摘を踏まえ,同じ内容の御発言が複数あった場合には,原則として,それを一つの御意見として記載するものの,御発言をされた方のお立場が異なる場合や,結論は同じでも理由付けが異なる場合,また,御意見の内容に共通する部分があるとしても,それと併せて,異なる内容の御発言もしている場合などにつきましては,それぞれ御発言を記載することとしております。   各検討事項ごとのヒアリング対象者の方々の御発言内容の概要につきましては,各検討事項について意見交換を行う際に,その都度,紹介させていただきます。   資料1-4は,第1回会合で配付をいたしました「裁判員制度に関する検討会」取りまとめ報告書を改めて配付するものです。   資料2-1,資料2-2及び資料3は,裁判員裁判の実施状況等に関する資料であり,後ほど,最高裁判所及び事務当局から内容の説明がございます。   資料4は,前回会合でお配りをいたしました資料を改めてお配りするものです。   資料5は,検討事項1「平成27年改正法により設けられた制度の在り方」に関係するものであり,その検討事項について意見交換を行う際に,最高裁判所から内容の説明がございます。 ○大澤座長 それでは,早速議事に入らせていただきます。   前回会合において,皆様にお諮りし,御了承をいただいたとおり,本日は,資料1-1に記載の各事項について,順次,意見交換を行いたいと考えておりますが,その前提として,裁判員制度の施行状況等に関連する最新の統計データ等の御説明を受けるのが有益ではないかと思われます。   そこで,まず,資料2-1及び資料2-2について,最高裁判所から御説明をお願いしたいと思います。   それでは,戸苅課長,お願いします。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 それでは,最高裁の方から,裁判員裁判の実施状況に関する最近の統計数値について,簡単に御説明させていただきます。   お手元にあります資料2-1「裁判員裁判の実施状況について(制度施行~令和元年10月末・速報)という資料を御覧ください。   この資料は,第2回検討会でお配りした資料の最新版ということになります。   かいつまんで申し上げますが,初めに事件数の状況でございますが,表1,1ページ,「罪名別の新受人員の推移」を御覧いただきますと,令和元年10月末までの新受人員,これは起訴された被告人の数ということになりますけれども,延べ1万4623人となっております。   なお,今年の1月から10月に限っては,延べ908人ということが,一番右の欄を見れば分かるかと思います。   また,次のページ,表2ですけれども,「庁別の新受人員,終局人員及び未済人員の推移」という表ですが,表の左上,「累計」の中の「終局」とある列の一番上の「総数」の行を御覧いただきますと,1万2593人となっております。これは,令和元年10月末までに,判決などで事件が終局に至った被告人の実人数,これが1万2593人ということになります。   なお,表の右上,一番右上を御覧いただきますと,今年の1月から10月末までに限っては,終局人員というのは822人ということになっております。   続きまして,選任状況に移らせていただきますが,5ページを御覧ください。表4です。   表の下の方にある,イロハニホヘトのワですね,一番下から2番目,ワ及び,一番下のカの欄を御覧いただきますと,令和元年10月末までの累計で,実際に裁判員に選任された方は7万992人,補充裁判員に選任された方は2万4113人となっております。   今年の1月から10月末までに限って見ますと,裁判員に選任された方が4585人,補充裁判員に選任された方が1533人となっております。   それから,出席率を見てみますと,表のリの欄の下段,ト分のチを御覧ください。   平成30年は67.5%でしたけれども,今年の1月から10月末までは69.1%となっており,選任手続期日への出席率の改善傾向が続いていることが分かるかと存じます。   辞退率を御覧いただきたいのですが,表の下の方にありますルの(b)を御覧いただきますと,平成30年は67.1%でしたが,今年の1月から10月末までは66.3%に低下しております。   今後,例年の傾向からしますと,年末にかけて,出席率の数値はやや下がったり,辞退率の数値は,やや上がったりする可能性というのがあるかと思います。ただ,今年は裁判員制度の施行10年ということで,裁判所としても,積極的な広報活動に努めてきたところでございまして,その成果が数値に表れているのではないかとも思われるところでございます。   以上が選任状況の関係です。   続きまして,平均審理期間を御覧いただきたいのですが,6ページです,表5を御覧ください。   まず,自白事件について御覧いただきますと,平均審理期間は,平成29年は7.9か月,平成30年は7.7か月,今年の1月から10月までは,平成29年と同じく7.9か月となっております。   それから,公判前整理手続期間を見ますと,自白事件ですと,平成29年が6.4か月,平成30年が6.1か月,今年の1月から10月までは6.3か月,このようになっております。   続きまして,否認事件を見ますと,平均審理期間は,平成29年は12.1か月,平成30年が12.3か月,今年の10月末までは12.3か月となっております。   公判前整理手続期間は,否認事件では,平成29年,平成30年が10.0か月,今年の10月までは10.3か月となっております。   続きまして,破棄率,これは,資料2-2を御覧ください。   これも,第3回検討会でお配りした資料の最新版ということになります。その前提で御覧ください。   上段,「控訴審における終局人員及び破棄人員」という表を御覧ください。   裁判員裁判対象事件のうち,主要15罪名について,平成21年から令和元年10月末までの,第一審が裁判員裁判の事件の破棄率というのは,累計で9.9%となっております。今年の1月から10月末まででは11.6%となっており,これは平成30年の12.0%を下回っております。   平成18年から20年までの第一審が裁判官裁判の事件の破棄率を一番左の方に載せましたけれども,これは17.6%でして,裁判員裁判の破棄率というのは,これを下回る状況が続いていることが分かるかと存じます。 ○大澤座長 それでは,ただ今の最高裁判所からの御説明につきまして,何か質問等ございますでしょうか。 ○武石委員 資料2-1の6ページの表5ですが,平均審理期間,公判前整理手続期間の推移というところで,平成27年から平成28年にかけて,いろんな数値が,例えば審理期間ですとか,公判前整理手続期間とかが,何か延びているような印象があります。全体的に,ここで結構大きく数値がジャンプしている気がするんですが,これは,何か背景があるのでしょうか。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 そうですね,ちょっとすみません,具体的な理由というのは。 ○武石委員 何か制度が変わったとか,そういうことではないですね。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 ないです,はい。 ○武石委員 そうですか。はい,分かりました。 ○大澤座長 もしまた,情報が分かれば,お願いしたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。今のところとしては,よろしいでしょうか。   それでは,続きまして,もう一つ,資料3につきまして,こちらは事務当局から説明をお願いいたします。 ○大原刑事課長 資料3について御説明申し上げます。   事務当局,法務省刑事局刑事課長の大原でございます。よろしくお願いいたします。   今後,委員の皆様方におかれまして,裁判員制度に関する様々な事項について,検討を行っていただくことになりますが,その前に,私の方から御報告をさせていただきたいと思っております。   本検討会につきましては,改めて言うまでもないことですが,平成27年に成立した,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律の附則に基づく検討に当たり行われているものであります。   この法律の成立に際しましては,衆議院の法務委員会において,資料1-2にも記載されているんですけれども,「裁判員制度施行後における殺人罪及び強盗致死傷罪等の起訴率の低下と制度の影響との因果関係について,本法の附則に基づく検討までに検証を行うこと。」との附帯決議が付されているところです。本日,その検証結果につきまして,この検討会で御報告させていただければというのが,資料3でございます。   検討結果の詳細につきましては,この資料3の報告のとおりでございますけれども,概要を簡潔に口頭で御説明いたします。  本検証の対象になりますのは,殺人罪及び強盗致死傷罪,いずれも未遂を含むものでございますけれども,それを対象として行ったものであります。いずれの罪名についても,報告書の末尾に資料がついておりますが,起訴率は低下傾向にあると思っております。   もっとも,起訴率につきましては,検察当局が個別具体の事案に即して,法と証拠に基づいて,起訴又は不起訴の判断をした結果の集積にすぎないということと,発生する犯罪の傾向等の社会情勢の変化や,刑事司法手続全般の法制度や運用等のあらゆる事柄が関わり得るものですので,一概に,その低下傾向の原因を明らかにすることは困難であると考えます。   ただ,報告書に記載しておりますとおり,殺人罪,強盗致死傷罪,いずれにつきましても,平成22年以降の被疑者不詳とされる件数が,それ以前と比べて,急増していることがうかがわれるところでございますので,そういった事件におきます不起訴案件の増加が,起訴率に相当な影響を与えているものと推察されるところであります。   資料3の中の,さらに資料3という表がございますので,そちらを御覧いただきますと,例えば強盗致死傷につきまして,平成27年以降,被疑者不詳の件数が急激に減少しております。これは,平成16年の刑事訴訟法の改正によりまして,公訴時効の期間が,強盗致死傷罪については,それまで10年でありましたのが,15年に延長されたことに基づくものではないかと推察されるところであります。   繰り返しになりますけれども,このように,殺人罪や強盗致死傷罪の起訴率が低下しているのは,この被疑者不詳とされる事案の件数が増加しているという事情が影響を与えていると思われる一方で,殺人罪や強盗致死傷罪の起訴率は,平成16年ないし19年ころから低下傾向が始まっておりますし,一般刑法犯全体を見ましても,こちらの方は資料4になりますけれども,起訴率は低下傾向にありますので,殺人罪や強盗致死傷罪の起訴率の低下の原因が,裁判員制度によるものと結論付けることは困難であろうと考えているところであります。 ○大澤座長 それでは,ただ今の事務当局の説明について,何か質問等ございますでしょうか。 ○堀江委員 確認ですが,罪名落ちというんですか,強盗致傷で捜査をしていて,最終的に起訴はしたけれども,恐喝と傷害で起訴したというようなケースは,この分析の中には出てこないんですね。 ○大原刑事課長 今,堀江委員がおっしゃっていただいているのは,恐らく認定が落ちたという関係の話かと思いますが,附帯決議において求められている事項として,「起訴率の低下と制度の影響との因果関係」ということになっておりまして,起訴率につきましては,検察統計等において,起訴人員数と不起訴人員数を足したものが分母になって,そのうち,起訴人員数を分子として算出しておりますので,いわゆる認定落ちといわれるようなものは,起訴率の算定には直接影響しないものでございます。   この認定落ちにつきましては,どのような罪名で受理されて,どのような罪名で処理されるのかというのが,様々な事柄に関連して行われることですので,一概に結論を導き出すのが,そもそも困難ということがございます。その上で,先ほど御説明したとおり,裁判員制度が起訴率の低下に影響を与えているとは認められない中で,別途,認定落ちを検証することの意義が,なかなか乏しいというふうにも考えられたので,今回の検証報告の対象とはしていないというところでございます。 ○大澤座長 ほかに御質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,お手元の資料1-1の各検討事項について,まず,1番目「平成27年改正法により設けられた制度の在り方」から順に,意見交換を行いたいと思います。   この検討事項1について,意見交換を行うに当たり,参考として,事務当局から,平成27年改正法により設けられた制度の概要のほか,その国会審議の際の衆議院法務委員会,参議院法務委員会における附帯決議の内容及び当検討会におけるヒアリングでの発言の要旨のうち,この検討事項に関連するものについて,御説明をお願いします。 ○鈴木刑事法制企画官 それでは,検討事項1「平成27年改正法により設けられた制度の在り方」に関し,平成27年改正法の概要,衆議院法務委員会・参議院法務委員会による附帯決議の内容について御説明するとともに,資料1-3に記載のヒアリングにおける発言要旨のうちこの検討事項に関連するものについて,御説明をいたします。   まず,平成27年に成立した裁判員法一部改正法の概要について,資料4に沿って御説明をいたしますので,資料4を御覧ください。   資料4のとおり,平成27年改正法による改正内容は四つあります。   1点目は,審判期間が著しく長期にわたり,あるいは公判期日が著しく多数となり,裁判員の選任等が困難な事案については,裁判員裁判の対象事件から除外し,裁判官のみで審判を行うこととしたものです。   これは,審判に要する期間が著しく長期にわたる事案等においては,裁判員の負担が過重となる場合が生じ得ること,また,そのような事案においては,裁判員の選任等に要する期間も長期に及ぶ場合が生じ得るところ,その結果,被告人とは無関係な事情で,公判が長期にわたって開始できない事態等が生じかねず,迅速な裁判を受ける被告人の利益を損なうことにもなりかねないことなどから,そのような場合には,裁判官のみで構成される合議体による審判を行うことを可能としたものです。   2点目は,重大な災害で被害を受け,生活再建のための用務を行う必要があることを裁判員の辞退事由として明記したものであります。   これは,辞退事由を定める政令において,裁判員の職務を行うこと等により,自己又は第三者に重大な不利益が生じるおそれがあることが辞退事由として定められていたものの,重大な災害によって被害を受けた場合を明確に辞退事由として規定したものがなかったところ,東日本大震災の経験などに鑑みれば,重大な災害により,生活基盤に著しい被害を受け,その生活の再建のための用務を行う必要がある者については,裁判員となることについて辞退が認められるのが相当であると考えられることから,これを法律上明確に規定することとしたものです。   3点目は,著しく異常かつ激甚な非常災害で,交通が途絶するなどした地域に住居を有する裁判員候補者について,呼出しをしない措置をとることができることを明記したものであります。   これは,そのような被災地域に住所を有する裁判員候補者又は選任予定裁判員は,裁判員の職務を行うなどすることが困難であることが明らかであり,辞退の申立て等があれば,これが認められることとなることも明らかである上,交通が途絶するなどした状況においては,そもそも辞退等の申立てを行うこと自体が困難であるのが通常であることなどから,そのような著しく異常かつ激甚な非常災害の被災地域に住所を有する裁判員候補者等について,例外的に裁判員等選任手続に呼び出さないことを可能としたものです。   4点目は,裁判員等選任手続での被害者特定事項の保護のため,裁判官,検察官,被告人,弁護人は,裁判員候補者に被害者特定事項を正当な理由なく明らかにしてはならず,裁判員候補者又は裁判員候補者であった者は,裁判員等選任手続で知った被害者特定事項を公にしてはならない旨の規定を設けたものであります。   これは,裁判員等選任手続において,裁判員候補者が事件に関連する不適格事由を有しないかなどについての質問が行われ,その際に,被害者の氏名等の被害者特定事項が裁判員候補者に伝わる事態が想定され得るところ,裁判員等に選任された者以外の裁判員候補者には守秘義務が課されていなかったため,被害者の立場から,大きな懸念がある旨の声が聞かれるなどしていたことから,被害者の権利利益の保護に万全を期するなどの目的のため,先ほど御説明した各規定が設けられたものです。   平成27年改正法の概要は,以上のとおりです。   次に,資料1-2を御覧ください。   平成27年改正法に対する衆議院・参議院の両法務委員会の附帯決議のうち,検討事項1と関連するものは,衆議院法務委員会の附帯決議の第1項及び第2項,そして,参議院法務委員会の附帯決議第1項です。   これらの附帯決議におきまして,長期間の審判を要する事件等の除外決定は,裁判員制度の趣旨に鑑み,極めて例外的な措置であることなど,改正法の趣旨の周知徹底に努め,その趣旨に沿った的確な運用がなされるよう,周知徹底に努めることなどが求められております。   続きまして,資料1-3を御覧ください。   検討事項1に関連するヒアリングでの発言の要旨は,配付資料1-3「ヒアリングにおける発言要旨」1ページに記載されているとおりであり,裁判員等選任手続での被害者特定事項の保護に関し,裁判員候補者に守秘義務を課すことの意義について御発言があったところでございます。   なお,発言要旨末尾にある「(犯罪被害者等)」という丸括弧の表記につきましては,その御発言をした方のお立場を記載したものであります。   「犯罪被害者等」という記載につきましては,犯罪被害者,その御遺族,それらの方々の支援等に携わる弁護士及び公益社団法人の職員の方々を指すものでございます。検討事項1についての事務当局からの御説明は以上です。 ○大澤座長 ただ今の事務当局の説明について,何か質問等ございますでしょうか。それでは,続きまして,平成27年改正法により設けられた制度の運用状況及びこれに関係する資料5について,最高裁判所から御説明をお願いします。   それでは,戸苅課長,よろしくお願いします。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 それでは,最高裁の方から,平成27年改正法の運用状況等について御説明いたします。   先ほどの事務当局の資料4に沿って説明させていただきます。   まず,資料4の「①非常に長期にわたる事件の対象事件からの除外」についてでございますが,改正法施行,つまり平成27年12月12日から今年の10月末までに,裁判員法3条の2第1項に基づく除外決定,これがされた例はございません。   なお,今回の検討会に当たりまして,裁判員制度施行から,今年10月末までに終局した裁判員裁判対象事件について,実審理期間が長かった上位3件の裁判員の選任手続の状況を調べてみましたので,御紹介いたします。これが,お手元の資料5になります。   最も長かったのは,平成30年11月8日に神戸地裁姫路支部で判決が言い渡された事件で,処断罪名は殺人,実審理期間は207日です。この事件で選定された裁判員候補者数は700人で,選任手続に出席した候補者数は77人,辞退が認められた候補者数は614人ということでした。   次に長かったのが,平成31年3月15日に,同じく姫路支部で判決が言い渡された事件で,処断罪名が殺人,実審理期間は166日です。この事件で選定された裁判員候補者数は800人,選任手続に出席した候補者数は63人,辞退が認められた人数が698人ということでした。   3番目が,平成28年11月2日に名古屋地裁で判決が言い渡された事件で,処断罪名は殺人,実審理期間は160日となります。この事件で選定された裁判員候補者数は400人,選任手続への出席した裁判員候補者数は85人,辞退が認められた裁判員候補者数は286人ということになります。   以上が,資料4の①に関係するものの御説明になります。   「②災害時における辞退事由の追加」,それから「③非常災害時における呼出しをしない措置」について御説明いたします。   災害時における,まず,辞退事由の追加でございますが,改正法施行,先ほど申し上げた平成27年12月12日から,今年の10月末までに終局した事件のうち,災害時における辞退事由,法律でいいますと,16条8号ホになりますが,これに基づく辞退が認められた裁判員候補者数は,45人となっております。   また,③の方です。非常災害時における呼出しをしない措置,法律でいいますと,27条の2ですが,呼出しをしない措置をされた裁判員候補者数というのは,167人となっております。   これらの辞退とか呼出しをしない措置の原因となった具体的な災害についてまで,統計として,こちらの方で把握しているわけではございませんが,裁判所の所在地などからすると,東日本大震災とか熊本地震などではないかと推測されるところでございます。   また,これらの統計の数値というのは,事件が終局した時点を基準にするものですので,例えば,今年の秋の台風の災害を理由に辞退などが認められたとしても,それは事件が終局しないと,今言ったような報告の数値という形になって,計上されてこないので,今回お示しした数字を御覧いただく場合には,その点を御留意いただければと思います。   災害時につきましては,今申し上げたような規定による辞退とか呼出しをしない措置を行うほかに,例えばですけれども,災害直後だけではなくて,災害が予測される時期に裁判員選任手続が予定されている場合には,指定された期日をあらかじめ取り消して,手続全体を延期したりとか,あるいは災害後に,その後,ある具体的事件で,呼出状を送付するに当たって,お見舞いの書簡を同封して,被災により裁判員裁判への参加が難しい場合には,質問票に御事情を記載していただくようにお願いするといった取組なども行っていると聞いております。   このほかの実務上の工夫などにつきましては,後ほど島田委員の方から御紹介いただきたいと存じます。   先に,私の方の説明だけさせていただきますと,資料4の④番になりますけれども,裁判員等選任手続での被害者特定事項の保護についてでございます。   今回の検討会に当たって,調べてみましたところ,改正法の施行,平成27年12月12日から,今年10月末までに終局した事件のうち,裁判員等選任手続において,被害者特定事項が明らかにされた被害者というのは,20人となっております。   各事案の詳細については把握しておりませんが,第5回検討会におきまして,島田委員の方から,裁判員等選任手続における被害者のお名前の取扱いの実情について説明していただいたところでございますので,改めて島田委員から,実務の状況については御紹介いただきたいと存じます。 ○大澤座長 今お話にありましたように,運用面に関しまして,島田委員から御発言があるというふうに伺っております。 ○島田委員 それでは,まず,1点目の災害時における対応についてですが,今年の9月9日月曜日の未明に,台風15号が関東地方を直撃し,公共交通機関の一部が計画運休になりました。   東京地裁では,午前10時開始予定の裁判員裁判,それから裁判員選任手続がありました。このうち,裁判員裁判については,開廷時刻を午後に変更することとし,朝のうちに裁判員,補充裁判員に,その連絡をいたしました。また,裁判員選任手続について,計画運休のため出頭できないと御連絡をいただいた方については,出席を求めない対応をいたしました。   また,以前,私が担当した事件で,台風が近づいているため,夕方以降の交通機関が止まってしまうおそれがあるといったことがございました。このときには,裁判所と検察官,弁護人との間で相談をした上,審理の計画を変更して,午後の審理を早めに切り上げて,残りの証拠調べを翌日に回したということもございました。   このように,災害時には,辞退や呼び出さない措置のほかにも,裁判員候補者や裁判員に無用な負担をかけないような工夫をしているところでございます。   それから,もう1点,裁判員等選任手続における被害者特定事項の秘匿についてですが,第5回の検討会の際に,裁判員候補者と事件との関係性の有無を尋ねる方法について御紹介をいたしました。もう一度御説明をいたします。   通常の事件では,裁判員候補者に対し,被告人や被害者の氏名のほか,犯行の日時,場所,内容などによって,事案の概要を示し,裁判員候補者に事件と関係しているのかどうか,その点の御判断をしてもらっています。しかし,性犯罪の場合には,被害者のプライバシー保護の観点から,その名前を仮名にして,事案の概要を説明します。例えば,被害者Aさんという形にして,事案の概要を説明します。   そして,裁判員候補者には,事件との関係性について,被告人の氏名,犯行の日時,場所,内容などの情報によって,一次的に関係しているかどうか,御判断いただきます。そして,裁判員,補充裁判員に選ばれた段階で初めて,被害者の実際の名前を告げて,事件との関係性を再度確認してもらいます。   もし裁判員,補充裁判員の中に,被害者を知っている人がいたら,そこで解任をするということになります。解任された方も,一旦は裁判員等に選任された以上,職務上知り得た秘密,被害者のお名前ですが,これについて,守秘義務を負うことになります。   そして,先ほど御紹介のあった,平成27年に改正された裁判員法33条の2は,裁判員候補者に被害者特定事項を明らかにした場合に,守秘義務を課す規定です。しかし,この規定ができたからといって,被害者特定事項,特にお名前を裁判員候補者に対し,広く告げてよいということではありません。この規定は,仮に被害者特定事項が告知されたとしても,法律上,裁判員候補者に守秘義務が課されることを担保することによって,被害者の精神的負担を軽くするための規定であるというように理解されております。   したがって,運用上は,先ほど御説明したとおり,被害者のお名前を明らかにしない形で事案の概要を説明しており,被害者の名前を知ることになる人を最小限にとどめるような工夫をしているところでございます。 ○大澤座長 それでは,ただ今の戸苅課長及び島田委員の御説明,御発言につきまして,質問等ございますでしょうか。 ○田野尻委員 戸苅課長に一つ質問がございまして,先ほど20名,特定事項が明らかにされたということでしたけれども,これは名前が明らかにされたということなんでしょうか。それ以外のものも含めた数字なんでしょうか。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 すみません,被害者特定事項ということでしか,こちらの方では把握しておりません。 ○堀江委員 資料5についてお聞きします。長期の事件を具体的に3件挙げていただいているんですけれども,この中で,選定された裁判員候補者数というのは,選任手続への呼出しをかけた人数ではないんですよね。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 そうですね,選定数になりますので。 ○堀江委員 呼び出した人数とか,呼び出したけれども来てくれなかったという意味での欠席率とか,そういうのは分かるでしょうか。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 呼び出した人数。 ○堀江委員 資料2-1の表4でいうところの,リの出席率の下段の方ですかね。これらの長期事件について,これに対応するような数字は,お分かりでしょうか。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 堀江先生の問題意識としては,出席率という趣旨でよろしいですかね。 ○堀江委員 そうです。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 お出しできるかどうか,次回までに検討させていただきます。 ○山根委員 長期にわたる事件の除外のところなんですけれども,先ほど,今までに例がなくてというお話は伺ったんですけれども,この除外を決める,別の合議体という説明がありましたが,それに直接関わっていない裁判官の合議体で議論するというようなお話だったと思うんですが,その判断というのが,どこでどんなふうに,誰がどういう基準で決めるのかというようなことにつきまして,分かっている範囲で教えていただければと思います。 ○島田委員 島田から御説明いたします。   まず,どの合議体が除外の判断をするのかについては,それぞれの裁判所において,事務分配を決めておりまして,それの順番に従って,どの裁判体が判断するのかということが決まっていくことになります。   それから,判断の基準についてですが,これまでの例がないものですから,なかなか説明がしにくいところではありますけれども,一番重要なのは,やはり日数だろうと思います。   今回,除外するかどうかの対象となる事件よりも少し短い類似の事件があったときに,そのときに,どれだけの弊害が生じているのか。例えば,裁判員,補充裁判員を選ぶ手続において,辞退をする方がどのくらいいらっしゃるのかとか,審理が始まった後,解任された方,仕事だとか,家族の介護などで解任,辞退になった方がどのくらいいらっしゃるのかとか,審理の在り方自体について,例えば,共犯者がたくさんいるために長期になりそうだということであれば,それを,共犯者を別のときに審理することはできないのかとか,審理の在り方自体も,いろいろ工夫をする余地がないのかと,こんなことも検討した上で,除外するかどうかについての判断をしていくんだろうと思います。 ○山根委員 今までは,そうした議論は,まだされていないということですよね。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 実際にそのような議論がなされているかは把握できていません。 ○大澤座長 この条文を作るときの法制審に関与していた立場として申し上げますと,いろいろな事情が挙がっているかと思いますが,他の事件における裁判員の選任又は解任の状況ということで,今,恐らく島田委員が言われたのは,そこの要素について言われたと思いますが,もう一つ,27条第1項に規定する裁判員選任手続の経過その他の事情を考慮しというのが入っていて,これまでに多分,除外をした例というのがあると,他の事件との関係で,非常に比較がしやすいんですが,現状では,そういうものがございませんので,恐らくは,むしろこの2番目の要素が効いてきて,まずは選任手続をやってみて,うまく回らないということになって初めてという,運用になっていく,法制審では,そういう議論が当時はされたというふうに記憶をしております。 ○大沢委員 いろいろ説明ありがとうございました。   災害時の辞退事由のところで,恐らく東日本大震災や熊本地震ではないかというふうなお話があったんですけれども,一般の,これから裁判員になるかもしれない国民の立場からすると,どういった規模の災害だったら,こういうのが適用されるのかなというのは関心事だと思いますので,何らかの形で,もし,こういうものであったら辞退が認められたんだということを,もし,今後の報告書とか,そういうところで明記できるんであれば,記した方が,理解は進むのではないかなというふうに,ちょっと,質問というより意見ですが,感じた次第です。   それからちょっと,それの,同じような流れでいうと,先ほど,特定事項を明らかにした20人については,どういうものですかという御質問があったと思うんですけれども,この法律を見ると,正当な理由なく明らかにしてはならないということだから,恐らく何らかの理由があって,出したんだと思うんですけれども,では,どういうケースだったら,どういった情報が出るのか。なかなか,それこそ個別は言えないと思うんですけれども,そういうことを少し示してあげた,示せるものは示した方が,やっぱり被害者の方の立場からすると,どういったケースだったら出る可能性があるのかなということは,ある程度,予測可能にはなると思うので,少し,それもなかなか難しいことだと思うんですけれども,もし明らかにできるものがあれば,明らかにした方が,理解は進むのかなというふうに,ちょっと感じた次第です。   もう1点,ちょっと,すみません,この検討の前の,法務省の方の説明のところに,ちょっと戻ってしまって,恐縮なんですけれども,先ほど堀江委員がおっしゃった認定落ちのことが,ちょっと御質問されたと思うんですけれども,恐らく,附帯決議のところの衆院の8番のところで言われていた,こういうことが付されたということの背景は,ちょっと私の理解が間違っていたら,正していただきたいんですけれども,要するに,裁判員制度になることによって,例えば,本来だったら,裁判員制度対象事件になるような罪で起訴するのをわざわざ避けて,裁判員制度を避けて,そういう認定落ちをしているんではないかみたいな,そういう何か,何というのかな,議論があったように記憶しているんですね。   ですから,私は少なくとも,取材をしていて,そういう感覚は全く持っていないんですけれども,恐らくそういう,疑念というとおかしいですけれども,そういう見方があったんではないかというふうに私は記憶しているので,もしそういう,認定落ちというものが余りないんであれば,ないといってあげた方が,やっぱりそれは,そういう誤解とか,そういうものも生まないと思うので,もしそういうものが,もし,もう結構ですけれども,調べられてもよかったのではないかなというふうに,ちょっと感じた次第です。   それもまた,飽くまで私の感想ですので。 ○田野尻委員 ちょっと事務当局では答えづらいかもしれませんので,私の個人的な経験から申し上げますと,ちょうど平成21年に裁判員法が施行される前の平成20年から2年間,地検の次席検事として決裁をする立場にありまして,裁判員法が施行される前後に,この事件が裁判員裁判になるかどうかを決裁するという経験をいたしました。   確かに,裁判員法が施行されたちょうど最初のころでしたので,裁判員が審理するとなると,しっかり証拠を見てもらえるのかということを,多少なりとも意識することはございましたけれども,そうはいっても,裁判官も入っておりますし,かつ,検察官としてやるべきことは同じでありますので,特に最初のころは,意識はしておりましたけれども,実感として,そこで判断が違っていたかというと,そういうことはないというのが実感でございます。   その後に,地検の捜査の決裁官もしましたが,その頃には裁判員制度も始まってから,もう数年経っておりましたので,裁判員裁判だからという意識は,かなり薄まっておりまして,その間,裁判員の方々に御努力していただいて,きちんと運用していただいているということも認識しておりましたので,そういった点について,どんどん意識が薄くなったなというのが実感です。   認定落ち,例えば今,強盗致傷の話が出ておりましたけれども,強盗致傷が認定落ちするときというのは,恐喝と傷害に分かれるんですけれども,この関係は,むしろ強盗致傷の法定刑が変わりまして,昔は7年以上の懲役だったんですね。それで,酌量減軽しても執行猶予がつかないという状況がありまして,そうなってくると,裁判官,裁判所の中で,異論があるかもしれませんけれども,我々検察官の立場から見ておりますと,執行猶予にするために,やや無理をして,恐喝と傷害に落としているんじゃないかというような裁判例もありまして,その意味で,強盗と恐喝の境目のところが,検察官から見ると,ちょっとでこぼこしていたというのが実感でございました。   ただ,その後,強盗致傷の法定刑が6年以下とされたことで,酌量減軽さえすれば執行猶予が付くということになりましたので,それ以来,強盗と恐喝の分かれ目というのは,以前より整合性のある判断になっているというのが実感でありまして,認定落ちのところに裁判員制度が影響しているというのは,感じないところでございます。 ○大澤座長 それでは,1番目の「平成27年改正法により設けられた制度の在り方」について,意見交換の方に入っていきたいと思います。御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○小木曽委員 今,事務当局からも御紹介ありましたとおり,附帯決議では,除外制度を設けるけれども,安易に対象事件から外れることがないようにということが言われていたわけですが,今,実際の数字の御紹介がありましたとおり,除外事件はこれまでにないということでもあり,また,災害時にも裁判員が出席しやすいような工夫がされているということでしたので,裁判員裁判の関係各位,もちろん裁判員の皆さんの御努力で,適切な運用が行われていると評価できるのではないかと思いますので,どうか引き続き,よろしくお願いしたいと思います。 ○大澤座長 ちょっと質問のような形になって恐縮ですけれども,今の超長期事件の除外の関係で,資料として出されたように,非常に頑張っておられるという印象を受けるわけですが,逆に,これだけ審理期間が長いと,補充裁判員もかなりの数を選任しながら,やっておられると思いますけれども,実際,裁判員の皆さんは,最後の段階まで,しっかりお務めになられているのか,途中で出席できない方が出て,人数的にかなり際どい状況まで生じているのかといったあたりは,いかがでしょうか。 ○島田委員 私の経験ですが,審理の開始から判決まで,約5週間かかった事件がございました。このときには,裁判員6名のほかに,補充裁判員4名の態勢で臨みました。   審理が進んでいくに従って,補充裁判員の方の負担を軽くするために,解任することもできるわけですが,希望を聞いたところ,ここまでやったんだから,最後までやりますという形で,その事件のときには,判決宣告の直前まで全員が,補充裁判員としての仕事を担当していただいたということがございました。   かなり難しい事件で,御負担はあったんだろうと思いますけれども,みんなで協力して結論を出したということによって,補充裁判員の方も,達成感というか,満足感があったのかなというふうに感じております。   それから,補充裁判員が裁判員に繰り上がったものの,それでも裁判員の人数が足りなくなってしまったということは,これまでにも,全国の事件を見ると,何回かあるようでございます。例えば病気ですとか,仕事の関係で,どうしても参加できなくなったということで,補充裁判員を使い切ってしまって,5人になってしまったので,審理を続けられないということは,実際にあるようでございます。ただそれは,日数が長いかどうかとは全く別の問題として,そういった事態が生じているようでございます。 ○和氣委員 現在,裁判員裁判対象の被害者支援をしているのですが,1年近くかかっています。殺人事件・殺人未遂事件の裁判でして,被告人が6人おります。その被告人ごとに裁判が開かれており,その都度,裁判員の方々が替わられています。1裁判につき,おおよそ5日から10日前後で開かれていまして,被害者支援の立場から見ていますと,裁判員の方々に対する配慮がされているなと感じます。   1年近く裁判員であるとなると相当大変な日数ですから,大変な作業だったと思うのですけれど,被告人それぞれ負担が大きくなり裁判員の参加者に影響が出てしまう可能性があると思いますが,被告人ごとに裁判員の選任をされていたということで,裁判員の方にはありがたいことだと感じます。ただ被害者側は,同じ事件なのにその都度,裁判員の方々が入れ替わると同じストーリーを繰り返され,証人尋問も同じことを何度も繰り返して発言されていたところが,被害者の立場からすると,また同じことをしているというように感じるという意見もありました。その辺は,両方の意見があり,難しいところではあると思いますが,裁判員の方にとってはとても配慮されてよかったのではないでしょうか。 ○堀江委員 改正法の運用状況としては,今のところ適用例はないということで,改正のときの趣旨に則って運用されているというふうに思います。その点で,基本的に小木曽委員のおっしゃったことと同意見であります。   ただ,除外決定せずに,かなり長期間かけて審理をする場合に,今もちょっとお話がありましたけれども,裁判員の方の負担が過剰にならないように,きめ細かな配慮をする必要があるということは,やはり強調しておくべきだろうと思いまして,発言させていただく次第です。   具体的に,比較的短期間で終わる事件と比べて,この三つの事件だとか,あるいは,ここまで長期ではなくても,例えば30日を超えるような事件の場合に,審理を行う際の裁判員の負担軽減のための工夫,一般的な事件とは異なるような工夫や配慮をしておられるという例があれば,お聞かせいただきたいと思います。 ○島田委員 長期間の審理を必要とする場合に,裁判員が参加しやすくする工夫について,以前にもお話ししたことがございましたが,裁判への参加と,あと仕事や家庭生活を両立できるような審理計画を立てること,これが大事だろうと思っております。   例えば,審理と評議,そして判決宣告まで4日程度で終わるということであれば,連続して期日を指定して,裁判員の方に裁判所に来ていただくということをしても,大きな問題はなかろうというふうに思っております。しかしながら,審理や評議などを含めて,裁判所に来ていただく回数が多数回に及ぶ場合には,その負担を軽減するために,1週間の平日のうち,1日あるいは2日間は裁判を開かない日を設けて,裁判所に来なくてもよい日を設ける形で,審理計画を立てるということが多くなっております。 ○菅野委員 1点,よろしいですか。   堀江先生の質問に,直接の答えになるか分からないですが,複数の事件が起訴されて,併合される事件の場合に,区分をして,裁判員対象事件については裁判員裁判で審理し,非対象事件を,裁判官裁判でやるやり方もあります。裁判が幾つか存在することになるので,トータルの期間は長くなりますが,全然関係のない事件が幾つか起訴されているときなどには,区分審理を弁護側から求めていくときもあります。   今日御報告があった事件も,恐らく複数の事件が係属している事件だと思われます。ただ,事件相互に関係性がある事件ですと,検察官は,区分せず一緒にやってほしい希望を述べます。共通する証拠がどれだけあるのかによって,区分できるかどうかというのは,事件ごとに違ってきますが,そういった取組もされていると思います。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 堀江先生の御質問の関係で,ちょっと御紹介だけさせていただきますが,最高裁のホームページにも載っている10年総括報告書で,裁判員として参加した感想を,全事件の裁判員と実審理日数30日以上の裁判員で分けて聞いてみたグラフが載っているんですけれども,実審理日数30日以上の裁判員というのは,実審理期間でいえば,いずれも2か月を超えるものなんですが,非常によい経験と感じたというのが74.3%で,全事件の裁判員でとると,それが58.2%です。   非常によい経験と感じたと,よい経験と感じたを合わせますと,実審理期間が2か月以上の場合については,97.2%になります。全事件の場合が95.8%ですから,これと比べても,ちょっと高くは出ております。   参考までに御紹介させていただきます。 ○島田委員 先ほど菅野委員から,区分審理というお話がありましたので,どういうものか,簡単に御説明をさせていただこうかと思います。   例えば,ある被告人について,殺人事件と放火事件と強盗致傷事件,三つ起訴されたとします。そして,それぞれの事件について,多くの証人尋問が必要になって,一つの事件だけでも約1か月間かかるというような見込みの場合ですね。このようなときに,最初から最後まで,全て同じ裁判員の方に担当してもらうということになると,3か月間拘束されるということで,大変な御負担になろうかと思います。   このような場合に,裁判員法が規定している区分審理というものの活用が考えられます。   まず,1件目の殺人事件については,Aグループの裁判員の方に審理を担当してもらって,有罪か無罪の判断と,有罪の場合は,殺人事件についての重要な情状事実に関する判断をして,それを部分判決という形で言い渡します。   2番目の放火事件については,別のBグループの裁判員の方に審理を担当してもらって,有罪,無罪の判断と,有罪の場合には,放火事件についての重要な情状事実に関する部分判決というものを言い渡してもらいます。   そして,3件目の強盗致傷事件については,別のCグループの裁判員が審理を担当して,それの有罪,無罪の判断と,あと,仮に1件目,2件目の殺人事件と放火事件が有罪の場合には,その部分判決を判断資料に加えて,有罪となった事件全体の量刑について判断をしてもらおうと,こういう制度でございます。そういうふうに分割することによって,裁判員の方の御負担を軽減するということが可能になっております。   また,菅野委員から御紹介のあったとおり,裁判員裁判の対象事件でない部分,例えば,強盗事件がほかに3件ありましたといったような場合には,これは裁判官だけの区分審理を行うということで,更に裁判員の負担を軽減するということも可能な制度でございます。 ○武石委員 全体に,法の施行状況として,適切な運用ということでよろしいかと思います。ただ,長期間の審判というものが,今まで除外されたのが0件ということで,最初の1件がいつ出るかという気がいたします。資料5を拝見すると,これまではかなり長い期間でも,頑張って裁判員裁判をやっているのは,すばらしいんですが,どこかに無理があるかどうかという視点からも,チェックしておく必要があるのかなという気がします。除外規定があることは,それなりに意味があったことだと思うのです。ただし,裁判員になった方の感想が非常に高評価だということで,それだけのことをやれる人だったから評価が高くて,できない人たちがたくさんいたと思うので,その結果だけを見て,よかったというのも,ちょっとミスリードになるような気がするんですね。   なので,やはり,相当な負担がある場合には,除外があるんだということでの運用もあり得るのかなという感想を持ちました。 ○堀江委員 これは除外の判断の際の考慮要素になるものではないかもしれませんけれども,参考までにお示しいただきたいんですが,比較的長期の事件における裁判員の構成ないし属性が,全体と比べて違いがあるのかどうか。特に職業とかの構成ですね。そのあたり,お教えいただければと思います。 ○戸苅最高裁刑事局第二課長 先ほど少し触れました,最高裁のホームページに載っています裁判員制度10年の総括報告書というものの図表9に,先ほど申し上げたように,長期審理事件,実審理日数30日以上としていますけれども,と全事件の場合と分けて,裁判員の構成とか職業,それから年齢,性別,これを載せています。いずれも,大きな偏りはないということが言えるかと思います。後で御覧いただければと思います。 ○山根委員 先ほどの武石委員の御意見に賛成です。   長期ということで,辞退をするという方も多くいらっしゃると思いますし,この制度がきちんと,このままうまく続くために,やはり除外のところは,きちんと話し合っておく,次の準備じゃないですけれども,そういう検討の必要があるというふうに思っています。 ○大澤座長 それでは,検討事項1「平成27年改正法により設けられた制度の在り方」についての意見交換は,ひとまずこの程度といたしまして,次の検討事項である「対象事件の範囲の在り方」について,意見交換を行いたいと思います。   この検討項目2について,意見交換を行うに当たり,参考として,事務当局から,現行法における対象事件の範囲,その在り方に関して,平成27年改正法の国会審議や附帯決議で指摘された事項のほか,当検討会におけるヒアリングでの発言の要旨のうち,この検討事項に関連するもの,過去の検討会におけるこの検討事項に関連する議論の概要について,説明をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 それでは,検討事項2「対象事件の範囲の在り方」に関し,現行法における対象事件の範囲や,その在り方に関して平成27年改正法の国会審議や附帯決議で指摘された事項のほか,資料1-2に記載のヒアリングにおける発言要旨のうちこの検討事項に関連するもの及び「裁判員制度に関する検討会」におけるこの検討事項に関連する議論の概要につきまして,御説明いたします。   裁判員制度の対象事件は,裁判員法第2条第1項におきまして,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件,裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件,すなわち,いわゆる法定合議事件であって,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るものと規定されております。性犯罪につきましては,強制性交等致死傷罪,強制わいせつ致死傷罪などが,この対象犯罪に含まれます。   裁判員制度の対象事件の範囲の在り方につきましては,平成27年改正法の国会審議の際にも御指摘を頂きました。具体的には,性犯罪に係る事件は対象事件から除外する,あるいは,被害者が裁判員裁判で審理することとするかどうかを選択できるようにするべきではないか,否認事件については,被告人が請求するときは裁判員裁判の対象とすべきではないかなどといった点につきまして,御指摘を頂きました。   そうした議論を踏まえまして,資料1-2のとおり,衆議院法務委員会の附帯決議では,7項におきまして,性犯罪についての対象事件からの除外等の論点について,引き続き裁判員制度の運用を注視し,十分な検討を行うことを政府に求めております。   また,参議院法務委員会の附帯決議におきましても,6項のとおり,裁判員制度の対象の範囲につきまして,十分な検討を行うことが求められております。   次に,ヒアリングにおける発言の要旨のうち,検討事項2に関連するものにつきましては,資料1-3の2ページを御覧いただきたいと思います。   この検討事項に関しましては,犯罪被害者等の方々から,「性犯罪事件は裁判員裁判で審理されることにより,量刑が上がったのではないかと思われ,良かったのではないかと思っている。被害者からも,裁判員裁判の対象となることが特に嫌だったという話を聞いたことはない。」といった御意見を頂いているところでございます。   また,対象事件の範囲等につきましては,「裁判員制度に関する検討会」においても議論がなされ,性犯罪に関する事件を対象事件から除外するべきではないか,あるいは,被害者が裁判員裁判で審理するか否かを選択できるようにするべきではないかという点や,否認事件については,被告人が請求するときは裁判員裁判の対象とすべきではないかといった点につきましても議論がなされましたが,いずれも消極意見が大勢を占めたところでございます。   同検討会における対象事件の範囲等に関する議論の概要につきましては,資料1-4の4ページから13ページに記載されております。   検討事項2についての事務当局からの御説明は以上です。 ○大澤座長 ただ今の事務当局の説明について,質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,検討事項2「対象事件の範囲の在り方」について,意見交換を行いたいと思います。   先ほどの事務当局の説明にもありましたとおり,裁判員制度の対象事件の範囲の在り方に関しては,平成27年改正法についての国会審議や附帯決議においても,性犯罪に係る事件を対象事件から除外すべきではないか,否認事件を対象事件に加えるべきではないかといった点について,特に指摘があったところであります。   そこで,ここでは,これらの事項を含めて,裁判員制度の対象事件の範囲の在り方についいて,意見交換を行うこととしたいと思います。   それでは,御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○和氣委員 被害者の立場から申し上げますと,犯罪被害者等全体でもありますが,特に性犯罪被害者の方たちは,今までなかなか声を上げられる日本の社会ではありませんでした。しかし,それでは安全安心な社会にならないことに気付き,心を震い立たせ,心身共にボロボロになりながらやっと声をあげられる様になってきたところです。加害者が生まれなければ被害者は生まれませんから,二度とこのような犯罪が起こらないようにしていただきたいという警鐘の意味でも性被害を除外はしないでいただきたい。 ○小木曽委員 今の発言に加えてということで,当初懸念されたような,被害者の名誉保護が十分でないというような事態が把握されていないとすると,除外する積極的な理由はなかろうと思います。それから,平成25年の検討会の際にも出ていたようですが,性犯罪については,裁判官裁判と,裁判員裁判で量刑が違っている。裁判員の裁判では,性犯罪については,量刑が若干重くなっていることが確認されていますので,それが,この種の犯罪についての国民の意識が反映されたものと理解しますと,むしろ外すべきではないということになるのではないかと思います。 ○山根委員 すみません。重なりますけれども,性犯罪に関しましては,被害者のプライバシー保護という,そこの徹底が前提であって,その配慮が十分なされるという確認の下で,引き続き対象事件として,市民の感覚を反映させるようにというふうに思います。   それと,ここのところ,全体でよろしいんですか,対象事件の。 ○大澤座長 はい。 ○山根委員 市民感覚を生かすということでいいますと,そもそも,もっと暮らしに身近な事件を対象にすべきだという意見は,制度発足のころからあったと思います。もちろん簡単ではなくて,難しい議論になるのは分かるんですけれども,例えば公害訴訟であるとか,薬害であるとか,労働問題,あと行政訴訟といったところへ,今後広げるための検討というのは,なされるべきであるというふうに思います。   そのことは,これまでの審議会等々でも述べられてきたと思いますので,10年の節目でありますし,改めてここで,今後の検討課題であるということも確認できればというふうに思います。 ○大澤座長 今おっしゃられたのは,刑事事件以外でもということでしょうか。 ○山根委員 刑事事件としてではなくてです,はい。ちょっと外れた意見かもしれませんけれども,でも,10年の見直しということでは,そういった視点も,将来的な課題という言い方になるかもしれませんけれども,意見としてはあったということの方が,ふさわしいというふうに思っています。 ○大澤座長 その点は,また後に,御意見を伺う機会があるというふうに認識しております。 ○山根委員 分かりました。 ○田野尻委員 また,ちょっと性犯罪の関係に戻ってしまうんですけれども,和氣委員がおっしゃったとおりで,性犯罪の被害者の方々,やはりそれぞれに御意見をお持ちで,性犯罪を裁判員裁判で審理をするのかについて,それぞれの方の御意見があるんだと思いますので,なかなか,これが正解というものはないのかなと思っております。   ただ,もう既に,小木曽委員,和氣委員からも,あるいは山根委員からも御指摘ありましたけれども,従前,裁判官裁判であったものが,裁判員裁判の対象とされたことで,より国民の感覚を反映した量刑等が実現されているということで,従前よりも,より良くなった面が認められるんだろうと思いますし,それに際しての,被害者の名誉,プライバシーの保護というところも,運用も含めて,それなりに,きちんとした運用がされているんだろうというふうに認識しております。   そういったところからすると,やはり性犯罪について,裁判員裁判の対象として,今後も維持することが適当なんだろうと思っております。   また,性犯罪について,被害者の方の選択制という御意見も,もちろんあるわけですけれども,この点については,先ほど来の御指摘もありますけれども,以前の「裁判員制度に関する検討会」でも議論されまして,被害者の方の選択という点は,一つの考え方だとは思うんですけれども,他方で,当時の議事録など拝見しますと,被害者支援をされている弁護士の御意見でも,裁判員裁判にすると量刑が重くなるんですよというような説明を受けると,これは裁判員裁判を選択しないといけないんじゃないかというようなプレッシャーがかかるとか,あるいは,選択をしなかったら,弱い被害者と思われてしまうんじゃないかという自責の念を感じる,そういったような問題点も指摘されていたようでございますし,また,そういった,いずれかを選択しても,それでよかったのだろうかということで悩み続けるというような御指摘もあったようでございます。   先般,刑法が改正されまして,性犯罪について,告訴がなくても起訴できるようにするという,非親告罪化の立法がなされたわけですけれども,その際の理由についても,被告人を,犯人を処罰するかどうかについての判断を迫られることが,被害者にとっての心理的な負担になるというようなことが理由で,非親告罪化の立法をしたところでありますので,やはり選択制については,同様の問題もあるんだろうと思っておりますので,正解はない中でも,現状はベターな選択なのではないかなというふうに思っております。 ○菅野委員 性犯罪の関係に,特段異論はございません。   否認事件について,対象事件に加える検討を始めてもよいのではないかという意見を持っております。   裁判員制度施行から10年たちまして,比較的安定し,いい制度に育ってきていると思います。当初は,国民の関心も高い重大事件に限ってスタートしたという経過もありますが,市民的な感覚を加えるべきなのは,重い事件に限られたことではありません。例えば,痴漢事件は,比較的刑は軽いかもしれませんけれども,その判断について,市民の感覚を取り入れていくと,そのような意義はあるようにも思われます。   したがって,否認事件を裁判員裁判の対象にすることを,検討する時期にきているのではないかと思っております。   裁判員裁判対象事件というのは,全体の刑事事件の中では,恐らく3%にいくかどうかぐらいの割合です。否認事件に広げた場合,かなり事件は増えるので,本当にやっていけるのかどうかという問題はありますが,まずは全体の事件からすると,比率がそれほど高くない否認事件について,裁判員裁判とすることを検討していくことがあり得るのではないかと思います。   逆に,認めている事件について,なぜ対象としないのかということですが,認めている事件も対象にするという考え方があってもいいように,私自身は思っています。   ただ,現在,認めている事件ですと,起訴されて,大体1か月半後ぐらいに第1回の裁判が開かれまして,それからほどなく,1週間あるいは2週間ぐらいで判決が出されます。つまり,大体二月以内に判決が出て,多くの事件は,初犯であれば,執行猶予付きの判決で社会に戻れている現状ですので,裁判員裁判のための準備をするとなると,執行猶予付き判決で社会に出られるような人が,なかなか裁判の結論を受けることができないというような事態も生じます。なので,まずは否認事件から対象にしていくことが考えられるのではないかと考えております。 ○小木曽委員 今の否認事件の件ですが,まずは確認というか,今の御発言の趣旨について質問させていただきます。否認事件を加える目的ですけれども,裁判員裁判を設けた趣旨は,法の1条にあるように,司法への国民の理解と信頼の増進,向上ということになっているわけですが,裁判員を加えて事実認定をした方が,国民の裁判への信頼が高まるとして,その理由ですが,それは,裁判官の事実認定よりも,裁判員裁判の事実認定の方が正確だからということなのか,それとも,否認事件であれば社会の関心も高いし,一般の国民感覚が反映された事実認定であれば,社会や被告人の納得が得られやすいと,ひいては理解と信頼につながるという,そのどちらなんでしょうか。 ○菅野委員 私の個人的な感覚は後者です。裁判員裁判が,裁判官裁判より事実認定として優れているという実証的な研究があるとは,私自身は考えておりません。   むしろ,今は非常に重大な事件だけ,極めて限られた人だけが裁判員になっているのが現状ですけれども,もう少し身近に起きている事件に参加していただくことで,より身近な司法,そして信頼できる司法への在り方へ変えていけるのではないかと,そういう趣旨で提案させていただきました。 ○田野尻委員 今,否認事件を対象とすべきというような,菅野委員からの御意見がございましたけれども,この問題は,裁判員法が立法された当時から議論をされてきた論点だと認識しております。当時も,否認とは何なのか,どういった場合が裁判員裁判の対象となるのか,ならないものとするのか,その辺の切り分けが本当にできるのかということが,相当議論されたと記憶しておりまして,そのあたりで,まず対象事件の範囲をどの程度クリアカットに切り分けることができるのかという問題もあるんだろうと思います。   また,今,小木曽委員からの御質問の関係もありましたけれども,裁判員が加わることで,事実認定について,より理解が高まるということであれば,否認事件以外のものについても,同様の趣旨は当てはまるんだろうと思いますので,そういった場合に,否認事件というものがクリアに切り出せるとして,否認事件だけを取り上げて対象にするということが,特に制度趣旨との関係で一貫性が保たれるのか,非常に疑問です。なかなか否認事件を対象とするというのは,適当ではないんじゃないかなというふうに思っております。 ○堀江委員 先ほどの菅野委員の御発言の中で,施行から10年がたって,比較的安定していると。全体的に見れば,安定して運用されているという点については,私も同意見でありますが,ただ,裁判員の方のアンケート結果,あるいは前々回までのヒアリングなどでも,ところどころ厳しい御意見などもあったのではないかと思っております。訴訟関係人の活動,訴訟活動の分かりやすさといった点で,とりわけ弁護人の活動が分かりにくかったという御意見が,比較的多く目に付くのではないかという印象です。その点で,もし否認事件全般に拡大した場合に,本当に対応できるのかというところは,やはり現実問題として心配になります。   もし拡大をした場合に,事件数がどれくらい増えるのかといった見通しも重要で,その点は,当事者側が実際対応できるかということとともに,裁判員の選任の手続の在り方,候補者をどれくらい見込んで名簿に登載しておかないといけないのかということにも関わります。そういったあたりで,現在の運用よりも,かなり不安定な面が生じてくるのではないかというふうに思います。比較的安定しているとはいえ,まだもう少し現行の制度を,より確実に,安定的に運用を続けることに注力すべき時期なのではないかと個人的には感じております。 ○小木曽委員 先ほどの,否認事件をどう切り出すのかという話です。被疑者・被告人の認否が変わることがあるわけですが,裁判員裁判ですから,捜査段階で否認しているということが,第一には考えられるわけですけれども,捜査段階で認否が変わった場合だとか,それから,公判にいって否認した場合だとかということを考えたときに,否認事件というものを,どのようにイメージするのかということについて,アイデアがありましたら,教えていただきたいのですが。 ○菅野委員 公訴事実の一部あるいは全部に争いがあることが,一般的には否認事件であると,私は考えています。供述が変化して,認めたり,あるいは否認したり,時期によって,主張自体が変わってくることもあります。   私が,今考えているのは,否認事件として裁判員裁判の対象とするには,まず,公判前整理手続を第一段階として行い,例えば,私は犯人ではありませんとか,そういった確定した主張がなされた事件に限って,裁判員裁判の対象とすることを考えています。公判前整理手続の中で,事件について争う主張をしないということになれば,当然その段階で,通常の事件で処理することになります。   このように,公判前整理手続の中で,主張を確認し,裁判員裁判にふさわしい事件を,選別していくことはできると思います。もちろん,裁判が始まってから,認める事件も,あると思いますが,公判前整理手続の中で,確定した主張を前提にすることで,対象事件を,選別できると考えています。 ○小木曽委員 続けてよろしいですか。   とすると,今は,裁判員裁判にかかる事件は公判前整理にかけるという条文の書き方になっていると思いますが,今のお話ですと,公判前整理を先にやっておいて,そこで否認されると裁判員になるという,そういうことですか。 ○菅野委員 はい,争いがある事件ですので,弁護人から,若しくは職権で公判前整理手続に付して,その後,主張を固めた段階で,裁判員裁判とするかどうかを判断する,そのようなイメージで考えておりました。 ○田野尻委員 今の点の質問なんですけれども,事案によっては,公判前整理手続では争いがなかったのが,公判の途中で急に否認が始まるという例も,時々,あるわけですけれども,そういった場合は,どうされるようなお考えなんでしょうか。 ○菅野委員 実際,そこまで深く考えていませんが,公判中に主張が変わったとなれば,そのままやってしまうような法制度もあるでしょうし,否認した段階で,市民の判断を経ましょうということで,裁判員裁判するという,両制度,考えられると思います。私の個人的な意見は,審理の中で変わったときは,一旦選択した制度で判決まで至るというようなことが,一番,訴訟経済に資すると思っています。 ○大澤座長 菅野委員の否認事件は,否認事件全てということじゃなくて,選択制を念頭に置かれているんでしょうか。 ○菅野委員 そうです。否認事件の中には,公訴事実のごく一部だけ争いがある事件であるとか,やはり刑が非常に軽いので,早く終わりにした方が,依頼者にとってもよいという事件類型もございます。もし今,裁判員裁判になる事件以外の否認事件を対象にした場合には,被告人の選択制というオプションも,私どもとしては,考えるべきではないかと考えています。   ただ,もちろん選択制については,いろいろな御議論があったことは承知しておりますので,そこの御批判があるところかとは思っております。 ○大澤座長 この段階としては,これくらいでよろしいでしょうか。   それでは,検討事項の2番目,対象事件の範囲の在り方についての意見交換は,ひとまずこの程度といたしまして,次の検討事項であります3「公判及び公判前整理手続の在り方」について,意見交換を行いたいと思います。   この検討項目3について意見交換を行うに当たり,参考として,事務当局から,平成27年改正法の国会審議や附帯決議で指摘された事項のほか,当検討会におけるヒアリングでの発言の要旨のうちこの検討事項に関連するもの,過去の検討会におけるこの検討事項に関連する議論の概要について,説明をお願いします。 ○鈴木刑事法制企画官 それでは,検討事項3「公判及び公判前整理手続の在り方」に関し,平成27年改正法の国会審議や附帯決議で指摘がなされた事項のほか,資料1-3に記載のヒアリングにおける発言要旨のうちこの検討事項に関連するもの及び「裁判員制度に関する検討会」におけるこの検討事項に関連する議論の概要につきまして,御説明をいたします。   平成27年改正法の国会審議においては,裁判員裁判の公判及び公判前整理の在り方についても,様々な御指摘がありました。   具体的には,審理日程や審理時間に気を遣う余り,真相解明に必要な審理を十分に行うことができていないのではないかといった御指摘や,来日外国人が急増し,日本語を話さない者が裁判員裁判の被告人となることも増える中で,連日開廷に対応する必要がある法廷通訳人の負担は大きく,法廷通訳人の数や質を確保し得る体制の構築や,研修の充実などが必要となるのではないかといった御指摘があったほか,いわゆる刺激証拠の取扱いについて,裁判員の心情に対する配慮も必要である一方で,裁判員が事件の内容を的確に把握するという観点からは,実際の写真に代えて,イラスト化等を利用することについては,その是非を慎重に検討するべきである旨の御指摘などがありました。   そうした議論等を踏まえ,資料1-2のとおり,参議院法務委員会の附帯決議では,3項において,裁判員の心理的負担を緩和するための方策の推進に取り組むこと,5項において,改正法の附則に基づく検討の場を設けるに当たっては,法廷通訳人の意見が反映されるようにすることなども取り上げられております。   次に,ヒアリングにおける発言の要旨のうち,検討事項3に関連するものにつきましては,資料1-3の3ページから7ページに記載されております。このうち,3ページ前半には,検討事項3のうち,「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の論点に関する御発言を記載しております。   3ページの途中から7ページまでには,検討事項3のうち,「証拠調べの充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の論点に関する御発言を記載しております。   この点につきましては,ヒアリングにおいて,多岐にわたる多くの御発言があったことから,内容ごとに,更に三つに分類いたしました。   まず,3ページの途中から5ページの途中までには,このうち,「分かりやすい公判の在り方」についての御発言の要旨を記載しております。   次に,5ページの途中から6ページの途中までには,「裁判員裁判における法廷通訳の在り方」についての御発言の要旨を記載し,6ページの途中から7ページまでには,「いわゆる刺激証拠の取扱い」についての御発言の要旨を記載しております。   それでは,今申し上げた区分のそれぞれにつきまして,ヒアリングにおける発言の要旨を順に御説明いたします。   まず,3ページの「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の点につきましては,犯罪被害者等,裁判員経験者等及び鑑定人経験者の方々から,公判前整理手続が長期化することにより,証人の記憶が減退し,また,犯罪被害者にとっても負担が大きくなるなど,その弊害を懸念する御発言がございました。   なお,各発言要旨の末尾に付された「裁判員経験者等」とは,その発言が裁判員経験者,補充裁判員経験者,又は裁判員等経験者の関連団体関係者によりなされたことを示すものでございます。   次に,「証拠調べの充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の点についての発言のうち,「分かりやすい公判の在り方」につきましては,裁判員経験者等の方々から,当事者の意見や証拠調べの内容等の訴訟活動について,分かりやすかったとする御発言があった一方で,準備不足や分かりにくさを指摘する御発言もありました。そのほか,証拠調べの際,裁判員が証明の内容を理解しているかを裁判官が確認するなど,適切な配慮がなされたことにつきましても,御発言がございました。   また,公判で取り調べられた証拠に関し,犯罪被害者等の方から,裁判員が専門用語を理解していないのではないかとの御発言があったほか,裁判員経験者等の方々から,証拠の量が少ないのではないかといった御発言もございました。   次に,「裁判員裁判における法廷通訳の在り方」につきましては,法廷通訳人の方々から,裁判員裁判では連日公判が行われるため,準備が難しいという御発言があったほか,連日開廷に対応するため複数の法廷通訳人が関与する場合には,通訳人相互の密な連絡が重要であり,それを可能とする必要があるといった御発言,また,法廷通訳人のレベルにばらつきがある旨の御発言がありました。   次に,「いわゆる刺激証拠の取扱い」につきましては,鑑定人経験者の方から,専門家にとっては,イラストや白黒写真ではなく,実際のリアルなものを見た方が判断の役に立つ旨の御発言があったほか,犯罪被害者等の方々からは,重大な結果を端的に表すのは写真のはずであり,実際に触れずになされた判断では,どんな結果であれ,犯罪被害者として受け止める前提を欠いてしまうなどの御発言がございました。   また,裁判員経験者等からも,血のついた服の実物を証拠として見た際には,少し衝撃を受けたが,あらかじめ,そのような証拠が出る旨を伝えてもらっていたため,心構えはできていたという御発言や,見せる必要があるものは,裁判員でも本当のものを見る義務があると思うなどの御発言がございました。   この検討事項3に関しましては,前回会合におきまして,菅野委員から,「いわゆる手続二分論」を検討事項とすることの御提案をいただいているところ,「いわゆる手続二分論」につきましては,「裁判員制度に関する検討会」においても,手続二分論の運用を積極的に行うべきではないかという点について,議論がなされております。   この点に関しましては,同検討会で議論を行うことも含め,様々な御指摘がなされているところ,その議論の状況につきましては,資料1-4の29ページから30ページまでを御覧いただければと思います。   検討事項3についての事務当局からの御説明は以上です。 ○大澤座長 ただ今の事務当局の説明について,何か質問等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,この検討事項3「公判及び公判前整理手続の在り方」について,意見交換を行いたいと思います。   進め方でありますが,先ほどの事務当局の説明にもありましたとおり,この検討事項3については,ヒアリングでも多くの御発言があったところであり,検討項目3に含まれる内容を整理しつつ,分かりやすい形で議論を進めるという観点からは,資料1-3の3ページから7ページまでの分類に沿って,検討を進めるのが適切ではないかと思われます。   そこで,検討事項3については,資料1-3において整理された順序に沿って,まず,「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」の点について協議し,次に,「証拠調べの充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」という点について,「分かりやすい公判の在り方」,「裁判員裁判における法廷通訳の在り方」,「いわゆる刺激証拠の取扱い」,これらの点について,順次協議をすることとしたいと思います。   そして,それらについて意見交換を行った後,前回会合において,菅野委員から御提案のあった,「いわゆる手続二分論」の点を含めて,公判及び公判前整理手続の在り方に関わるその他の事項や,あるいは,この検討事項に関する全般的な事項についても意見交換を行うこととしたいと思います。   そのような進め方をさせていただくということでよろしいでしょうか。 (一同了承) 〇大澤座長 それでは,まずは,公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているかについて,意見交換を行いたいと思います。   この点につきまして,御意見のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○和氣委員 被害者側からしますと,一番ここの部分が不透明であり,犯罪被害者等には情報がないことが苛立ちや不安になっています。被害者の方々から,いつ裁判が開かれるのでしょうかという相談が,随分寄せられているところです。   この公判前整理手続中に,被害者が参加したいという方もおられますけれども,まずは公判前整理手続中の進捗状況を,検察側や弁護士の方々から被害者の方にお知らせするだけで,被害者の方々は安心をするし,今後の対応なども考えられると思われますので,その辺を改善していただき,被害者への配慮をお願いします。 ○大澤座長 今の問題点は,検討事項の6番のところとも関わってくる問題点ということかと思います。ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○島田委員 公判前整理手続の充実と,あと時間の問題が,二つあろうかと思っております。   実際の事件の処理を通じた実感といたしまして,公判前整理手続が長期化しているという御指摘については,確かに否認事件の割合が増えてきていることや,電子メールや防犯カメラなどの証拠が増えていて,その証拠開示,あるいは統合捜査報告書の作成,それに対する弁護側の検討といったところに,時間や手間がかかっている印象はございます。   とはいえ,一部の事件で,確かに長くなってはいるのですけれども,多くの事件では,争点と証拠の整理を行うために必要な,合理的な期間内に収まっているように,裁判所としては感じております。ただし,もちろん短縮化の方向で,更に努力をしなければならないということも考えているところです。   その工夫の例といたしまして,これも既にお話をさせていただいたところではございますが,公訴提起があった後,比較的早い段階で,法曹三者の打合せを行っております。また,公判前整理手続がある程度進んで,審理に必要な大まかな日数が決まった段階で,公判期日の仮予約というものを行っています。   また,先ほど申し上げた証拠開示の点では,法律上定められている請求証拠の開示,類型証拠の開示,そして弁護人の主張関連に関する証拠開示のほか,検察官による任意開示が柔軟に行われることが必要であり,実際にその方向で,現在進められているんだろうというふうに思っております。   また,長期化要因の一つとして,責任能力が争われた場合の精神鑑定の請求,それに対する裁判所の判断が遅れていたというところもございましたが,この点についても,比較的柔軟にといいますか,捜査段階で精神鑑定が行われている場合には,その鑑定人を基本的に調べることとし,他方,捜査段階で精神鑑定が行われていない場合には,弁護人の方で容易に手に入る疎明資料に基づいて精神鑑定を請求してもらって,その必要性について,裁判所がなるべく早い段階で判断をしていくと,このような形を現在,取り組んでいるところでございます。   そして,公判前整理手続が全て終わる前の段階で,審理日程が,おおむねこの方向でいけるなということが分かった場合には,早い段階で公判期日を指定して,そして,裁判員の選任手続に必要な事柄を同時並行的に行うという形で進行させているところでございます。 ○田野尻委員 まず,和氣委員がおっしゃられた,被害者の方々,あるいは遺族の方々が,公判前整理手続の進捗状況がどうなっているのかと不安に思われるというのは,そのとおりだと思いますので,その点につきましては,まず検察官が,手続に関わっている立場から,しっかりと情報提供に努めていかないといけないと思った次第でございます。今後とも,そのように指導してまいりたいと思っております。   公判前整理手続の状況なんですけれども,今,島田委員からも御発言がありましたとおり,多くの事件は合理的な期間内で進んでいるんだと思いますけれども,残念ながら,非常に長期化をして起訴から5年も6年も公判前整理手続が続いているという事件もございまして,そういった事件における取組が課題だろうと思っております。   そういった事件を見ますと,まず,率直に言って,検察官にも問題のある対応が認められるところでありまして,最初に検察官が証明予定事実記載書面を出すんですけれども,その内容が非常に詳し過ぎて,それに対する弁護人側からの反論を誘発するということもありまして,そのために争点整理が複雑になった事案,あるいは,そういう詳細な証明予定事実記載書面を手掛かりに,非常に幅広く網羅的に,弁護人から類型証拠の開示請求を招いてしまったというような事例も見受けられるところでありまして,そういった点については,検察官としても反省すべき点があるかなというふうに思っております。   ただ,やはり長期化の原因は,今申し上げましたが,類型証拠開示請求が何度も何度も繰り返し行われる,その中で,検察官が開示していない証拠があるという場合に,裁定請求ということになるんですけれども,それも裁定請求が繰り返される,あるいは,例えば開示請求に対して,回答してから1年ぐらいたってから,突如として裁定請求が出るというような事例もありまして,そういう類型証拠開示請求,あるいは裁定請求に時間が掛かる。それで,そこで開示された証拠が,また膨大なものですから,その検討時間が必要だということで,予定主張の明示,公判における主張を明示する手続に,また時間が掛かるというような事例が見受けられます。   被害者を始めとしまして,証人の方々の記憶が明確なうちに裁判を行うということは,真実の発見のために非常に重要だと思います。また,今回の検討会に私が参加させていただくようになる前のヒアリングの内容を議事録で拝見しまして,やはり衝撃だったのは,PTSDの治療を始められない,治療によって記憶が変わるかもしれないということで,PTSDの治療を待っていただくというような事例もあったということでありまして,これは本当に極めて深刻な問題だなと受け止めたところでございます。   公判前整理手続の迅速化を実現するためには,先ほど来申し上げている,類型証拠開示請求ないし裁定請求,あるいは予定主張の明示,ここを,当然必要な期間がありますので,そこをいかに合理的な期間内に収めるかというのが課題だと思っておりまして,その対応策としまして,当然,検察官としても,適切に対応する必要があるとは思っておりますけれども,やはり裁判官が証拠開示の進捗状況を把握し,類型証拠開示請求あるいは裁定請求について,合理的な段階で期限をしっかりと定めていただく,また,そういった証拠の量等も含めて,合理的な検討期間というのを確保した上で,予定主張を明示すべき期限を定めていただくということが有効だと思いますし,それ以外に,手続がずるずると流れることを止める手だてはないだろうと思っております。   実際の事例では,検察官の方から裁判所に対して,そういう期限設定を上申するわけですけれども,弁護人の主張に押されて,裁判所が,そういう期限を設定しなかったり,遅れがちになるというような例も見受けられるところであります。この点については,裁判所におかれて,適切に,そういった職権を行使していただくことが非常に重要だろうと思っております。 ○大澤座長 今,チャイムが鳴りましたけれども,予定の時間がきておりますが,この公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているかについて,本日議論を完結させるということは,なかなか難しいかと思います。   次回に継続せざるを得ないということを前提に,この際,今日御発言ということで何かあれば,お願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○小木曽委員 裁判員裁判の場合に,公判前整理が義務的に行われるということで,公判前の長期化の問題がいわれるわけです。ただ,裁判員裁判でなくても公判前整理は行われるわけで,その問題と,ここでの議論との関係といいますか,つまり長期化が,裁判員裁判の運用を阻害するほどのものになっているかどうかということが,ここでの関心の焦点かと思う次第です。 ○島田委員 先ほど田野尻委員から,進行管理について,裁判所の進行管理が十分でないという御指摘がありましたけれども,その点は裁判所も,きちんと反省して,対応していかなければならないと,このように考えているところでございます。 ○菅野委員 1点だけここで述べさせていただきます。   田野尻委員がおっしゃったとおり,弁護人が手続に不慣れだったり,無駄なことをやっていて,手続が無駄に長期化しているのであれば,早く裁判をやった方がいいと思います。証人に,フレッシュな記憶を聞けるという意味もありますし,身体拘束期間が長期化することも考えると,無駄に長期化しているのであれば,改善,反省すべきと思っています。   他方で,控訴審の事件を受けたときに,一審弁護人が証拠開示どころか,証拠の謄写もしていない事件もあります。何で,証拠開示や証拠の検討をしていないのか疑問に思う事件もあります。   証拠をきちんと検討したら判決が変わった控訴審事件を経験したこともありますので,やはり,一審弁護人は,ちゃんと証拠開示して,開示された証拠を検討してほしいと思います。任意開示であれ,類型証拠開示であれ,証拠開示を求め,きちんと弁護人が検討しなければならないはずです。今日はその点だけ述べさせていただければと思います。 ○大澤座長 それでは,時間も過ぎておりますし,本日はここまでということでよろしいでしょうか。   それでは,本日は,検討事項3「公判及び公判前整理手続の在り方」のうち,一つ目の「公判前整理手続の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか」について,途中まで意見交換を行ったということにさせていただき,次回は,その続きから意見交換を行わせていただくということにさせていただきたいと思います。   それでは,最後に事務当局から,次回の日程について,確認をお願いいたします。 ○鈴木刑事法制企画官 次回,第11回会合の日程につきましては,令和2年2月10日月曜日,午前10時から開催する予定としております。場所につきましては,追って御案内を申し上げます。 ○大澤座長 ありがとうございます。   2か月空く進行としては,ちょっと終わり方がよろしくなかったのは,私の不手際ですので,おわびを申し上げます。それでは,本日はこれにて閉会といたします。ありがとうございました。 -了-