法制審議会 民法・不動産登記法部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  令和元年11月19日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時29分 第2 場 所  法務総合研究所第一教室 第3 議 題  民法・不動産登記法の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法・不動産登記法部会の第10回会議を始めます。   委員,幹事,関係官の皆様におかれましては,御多用の中,御参集を賜りまして,誠にありがとうございます。   本日は,阿部委員,増田委員,衣斐幹事が御欠席です。   事務当局から配布資料の説明を差し上げます。 ○有本関係官 今回,部会資料19から24までを事前送付しております。   事前にも御案内申し上げておりますとおり,前回会議の際に送付させていただいた部会資料19は,今回お送りした部会資料19に差し替えとさせていただきます。   本日は,部会資料19から24までのほか,参考資料5をお手元に配布させていただいておりますが,お手元にないようでしたら,お知らせいただければと存じます。 ○山野目部会長 内容に入ります。   最初に,部会資料19「中間試案のたたき台(不動産登記制度の見直し)」に盛り込まれている内容を審議事項といたします。   初めに,この部会資料19の中の第1,相続の発生を登記に反映させるための仕組みの部分について,お諮りを致します。   内容については,御覧いただいておりますとおり,登記所が他の公的機関から死亡情報を入手する仕組み,いわゆる情報連携の今後の在り方についての方向付けをお示ししていることに加え,相続登記の申請の義務付け,相続等に関する登記手続の簡略化,さらには,所有不動産目録証明制度の創設などを題材としております。   この第1の部分について,御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○今川委員 公的機関から死亡情報を入手する仕組みについては,個人情報に配慮した上で行うということを前提として,基本的に賛成です。   登記官の照会頻度ですが,定期的に行うというのは,どのようなイメージなのかな,と思っております。今後検討されていくんだろうと思うんですが,統計によりますと,相続登記は年間100万件というふうにいわれておりますので,死亡情報も相当な数になると思われますので,相当にしっかりしたシステムを構築することが必要かと思います。   死亡情報の公示についてですが,これも個人情報,プライバシー保護という観点は非常に重要ですけれども,今,所有者不明土地に関する特措法においては,登記官が相続人調査を行って,その成果を職権で付記登記を行うことになっています。こういう事例もありますので,相当なコストを掛けて死亡情報を入手するのであれば,その後の手続について,費用対効果も含めて,死亡情報を公示していくということも前向きに検討されてよいと思います。   過渡的な権利関係の公示について,新しい考え方が提示されております。前回の資料では,注書きに書いてあったと思うんですが,今回,本文に上がってきている。法定相続分で登記をすることについては,持分が登記されると,有利に働く人もいれば,不利に働く人もいるということで,持分を記載しないということは一つ考えられるということに加えて,そもそも,勝手に住所や氏名を他人に登記されると困るという人もおられるとは思われますので,是非この新しい制度については,前向きに検討していただければと思います。   それと,これは質問ですが,この過渡的な公示のための申出というか,登記申請をした場合でも,法定単純承認にはならないということでよろしいんですね。そこは確認です。   相続に関する登記手続の簡略化,3の(1)遺贈による所有権の移転の登記手続の簡略化ですけれども,補足説明の(注3)にあるように,特定財産承継遺言がある場合に,遺言執行者の単独申請は認められるということになっていますが,これと同様に,相続人が受遺者である場合の遺贈の場合にも,遺言執行者の単独申請を認めるという規定を置くことが予定されていますけれども,遺言執行者にも登記申請義務が課されるというふうに考えていくのかという点について,御回答いただきたいと思います。   3の(2)の法定相続分で登記がされた場合における登記手続の簡略化で,③と④について,通知をするということが,(注2)で挙がっておりますが,これは必要なのかと若干疑問に思っております。   元々③は,法定相続分による登記を入れていなければ,単独でできたものでありますし,④についても今回,同様に規律をすることが予定されているということと,登記原因証明情報については,法定相続を入れた場合と入れない場合,どちらも遺言書によるということになっていて,真性担保が図られておりますので,単独申請をそのまま認めてもいいのではないかと思います。   遺言書の無効等の主張については,法定相続分による登記を入れるか入れないかにかかわらず,それはそれとして,別途,無効を主張する人が争っていくということになるのではないかと思います。   それと,法定相続分による登記は,相続人の1人の保存行為として行われる場合があって,というか,その方が多いので,元々あずかり知らないところで,法定相続分による登記がされているという情況は,法定相続分の登記を入れずに,遺言書によって取得した人が直に登記をするという状況と,ほぼ変わらないので,通知はなくてもよいのではないかということであります。 ○山野目部会長 多々の御意見を頂きました。   お尋ねを頂いた点があって,過渡的な権利状態を公示する登記をすると,法定単純承認にならないかというお尋ねは,法定単純承認にならないと村松幹事がうなずいて,発言者も了としていましたから,そこはある程度,お答えをお示ししたかと考えますが,遺言執行者が特定財産承継遺言に係る権利変動を公示する旨の登記を公法上義務付けられることになるかどうかについての,現段階での部会資料の作成意図を尋ねるという質問がありましたから,この部分を中心に,村松幹事の方から,お考えがあったらお願いいたします。 ○村松幹事 そういう意味では,公法上の相続登記の申請義務というものをどの範囲に課すのかという,その趣旨とも関わるところですけれども,補足説明にございますように,これは基本的に相続人にまず課しますというのを前提に,その中でも,実際に不動産の物件を取得した方に絞って課していくという整理で,義務を課したらいいのではないのかというのが,基本的な発想ですので,その意味では,遺言執行者があるケースということになっても,公法上の義務が課されるのは本人である受益相続人という整理にするのが,差し当たりは,その整理学としては,明快なのではないかなと思います。 ○蓑毛幹事 日弁連のワーキンググループでの意見が,おおむねどうであったかということを御紹介したいと思います。   まず,部会資料2ページの第1の1について,登記所が他の公的機関から死亡情報を入手する仕組みについては,今川委員の意見とほぼ同じで,個人情報の保護に留意することを前提として,賛成できるという意見が多数です。   ただし,これは部会資料にもあるとおり,相続登記の申請の義務付けと密接に関係するものですので,相続登記の申請義務をどのように考えるかということによっては意見が変わり得るということを申し上げておきます。   部会資料3ページの(2)について賛成です。   部会資料4ページの2,相続登記の申請の義務付けですけれども,遺産分割があった場合の当該遺産分割の結果を踏まえた相続登記及び(注1)の法定相続分での相続登記に加えて,今回(注2)に,過渡的な権利関係を公示する登記,すなわち法定相続人の氏名及び住所を記録し,持分を記録しない登記を創設することについて検討する,とあります。この登記については後で,報告的な登記あるいは予備的登記という説明がありますけれども,是非,このような登記を創設していただきたいと思います。そして,この登記をすれば,相続登記の申請義務が果たされるというふうにすべきだと考えています。   部会資料11ページ,相続登記の申請義務違反の効果については,繰り返し申し上げているとおり,日弁連のワーキンググループでは,過料の制裁を科すべきではない,訓示的な規定にとどめるべきというのが多数意見ですが,一部の委員からは,先ほど申し上げた(注2)の登記,過渡的な権利関係を公示する登記で相続登記の申請義務が果たされるのであれば,義務違反に対して過料を科すことも容認できるという意見も出ています。   それから,13ページの(3)ですけれども,ここに書かれている方法で相続登記ができることになれば,登記義務者の負担は相当程度軽くなりますので,先ほどの(注2)にある,過渡的な権利関係を公示する登記の創設とともに,(3)の方策を設けていただければと思います。   なお,この場合の登録免許税がどうなるかについて,お尋ねしたいと思います。日弁連のワーキンググループでは,この過渡的な権利関係を公示する登記の登録免許税は,非常に低い金額あるいはゼロでもいいのではないかという意見が出ていますので,登録免許税がどうなるかを,教えていただければと思います。   それから,14ページの(4)のその他ですけれども,不動産登記制度の見直しが行われることにより,何か一律に不利益が課されるということではなく,それぞれの法制度において生ずる法律上又は事実上の効果を個々の法律ごとに併せて考えるということであれば,よろしいのではないかという意見がある一方で,ここで記載されていることの趣旨が明らかでなく,何か一律に不利益が課せられる懸念がある,こういう二つの意見が出ていました。   16ページの3については,基本的に賛成という意見が多数でした。   19ページの(2)は,先ほどの,今川委員の意見と少し異なり,③と④については,わざわざ法定相続分の登記をしたという事実を踏まえ,また,法定相続人が関与しないところで,③や④の登記がされる場合には,トラブルが起こる可能性が高いということから,登記官が登記義務者に通知した方がいいのではないかということで,(注2)の考え方に賛成するという意見がありました。   最後に,22ページの4については,基本的に賛成です。 ○山野目部会長 登録免許税についての御要望に関わる御質問の趣旨の部分もございましたから,村松幹事からお話をもらいます。 ○村松幹事 登録免許税に関しては,いずれにしても,民事法制が出来上がったところで,税制の改正の話になりますけれども,申し上げておくとすれば,この過渡的な権利関係の公示は,移転登記ではないということになりますので,理屈からいえば,移転登記と同じような課税には,登録免許税はならないというのが,基本的な方向性だと思います。   ちょっと資料に書き漏れていたので,分かりにくかったかもしれませんけれども,これは付記登記によるということを想定していますので,付記登記,現状だと1,000円かと思いますけれども,そういった位置付けを踏まえて,どうしていくのかというところ,またさらに,義務化をするという話も踏まえて,どうするのかというところを,また先々,私どもの方でもやってまいりたいと。 ○山野目部会長 村松幹事の御発言にもあったところでありますけれども,過渡的な権利関係を公示する登記という制度が設けられるかどうかは,引き続き御議論いただく必要があるとして,それが設けられる際,仮に過料の制度を設けるかどうかも御議論がありえます。仮にそれが設けられる際には,過渡的な権利関係を公示する登記をすれば,過料の制裁が外されるという組合せが,一つの合理的な制度イメージとして考えるものでありますが,そのような仕組みを通じて,国民に対して,相続開始に伴う権利関係に関わる情報提供をお願いするという施策を講じておきながら,その局面で,例えば1,000分の4の登録免許税を徴収するということは,困惑せざるをえないことでありますし,義務付けをするということと整合性を図られた仕方で,登録免許税の課税の在り方があってしかるべきであります。   義務付けられるから登録免許税が別な扱いを受けるという,登録免許税法の本則の本来的な考え方の見直しになるか,土地政策の観点を踏まえた租税特別措置として考え,政策誘導的な効果を持つものになるかはともかくとして,検討する必要がありますから,法務省事務当局において,当部会における審議の動向を見据えながら,税制を所管する当局と,中間試案の以後の議論の状況などを踏まえつつ,更に検討を深めていただきたいと感じます。 ○佐久間幹事 今までの発言と全く反対の立場になってしまうんですが,私は,過渡的な権利関係というのには,ものすごく違和感があります。   ここでいう過渡的な権利関係というのは,恐らく遺産共有の状態のことをいっており,遺産分割の手続が終わるまでの状態だということですよね。しかし,それをいえば,それ以外の共有関係だって,共有物分割手続が通常控えていますが,共有物分割が終わるまでを過渡的な権利関係とはいわないと思うんですね。   遺産分割も必ずされるのかというと,されないまま終わることだってあるわけでして,これは過渡的な権利関係では,やはりないのではないか。遺産共有という確定的な権利関係であって,それを解消していくのが遺産分割の手続なのではないかと思います。   遺産共有の権利関係において,ではその持分はということが,通常の共有と違って問題となるわけですけれども,これは異論もあるところだと思いますけれども,判例に従うと,遺言がなかったら,ということですけれども,法定相続分に従った持分であるということになっているはず。ですから,これは,法定相続分に従った共有関係が一旦出現しているというふうに,私は捉えるべきだと思っています。そういうわけで,まず言葉の問題として,過渡的な権利関係ということを使われるのは,ものすごく違和感がありますということを申し上げたいと思います。それが一つです。   もう一つは,過渡的というかどうかはともかくとして,遺産共有の状態は,長期にわたることだってあるわけです。しかも,今は,長期にわたってしまう場合を問題としていると思いますので,御提案になっている過渡的な権利関係としての氏名等だけの,死亡事実とですね,それはあってもいいと思うんですけれども,それだけがいつまでもあるという状態は,やはり望ましくないのではないかと私は思います。   ですから,法定相続登記ですね,これを直ちにせよというふうにならないのかもしれませんけれども,飽くまで例えばですが,遺産分割の期間が10年と決まったといたしますと,まず最初にすべきことは,相続人による被相続人の死亡の事実の届出であり,遺産分割が,10年はちょっと長いと思いますが,しかるべき時期までに整えば,その結果を登記すればよい。ただ,例えば3年,5年と遺産分割がされないままの状態が継続しているとなると,これは出口がなかなか見えないということになるというふうにも見ることができると思いますので,そのときには,法定相続の登記が一旦されるべき状態なのではないかと私は考えています。   特に,そういうふうに思いますのは,今般の所有者不明土地の問題の解決のためにも必要だと思いますが,私は,遺産分割の促進というのも,それはそれとして図った方がいいのではないかと思っております。その場合,法定相続登記はしなくていいです,ただ死亡情報の届出等の簡易な届出はしてください,遺産分割についてはその後にゆっくりどうぞ,ということになりますと,簡易な届出をしたことによって,落ち着いてしまうということが起こるのではないか。被相続人の死亡から例えば3年,5年と経ってもなお遺産分割が成り立っていないときは,法定相続登記をしなければいけないんですよということになっていれば,遺産分割しなければいけないんだという動機付けを,また途中の段階でも挟み込むことができるのではないかと,私は思っております。これが2番目の点です。   もう1点ありまして,よく分かるけれども何となく違和感があります,ということだけを申し上げたいんですが,遺贈のうち,相続人が受遺者であるときだけ別出ししましょうという点についてです。これは,相続させる旨の遺言の場合の解釈は,本当は遺産分割方法の指定なのか,遺贈なのか,どっちか分からないよねと。分からないのに,どっちなのか決め撃ちをして,遺産分割方法の指定だとなった場合だけ,何というか,軽減措置というか,を図るんだけれども,遺贈は違うんだよ,というのはおかしいよね,ということですよね。それは本当によく分かる,それはそのとおりだなと思うんですけれども,他方でやはり,どうしても気になるのは,遺贈が,相手方が相続人である場合と相続人でない場合とで,ここで違いを設けるというのが,ほかのところに本当に波及しないんだろうかという点です。そこがすごく気になります。   今日の段階で,賛成するか反対するかを申し上げられないんですけれども,何かすごく気になるということだけ発言しておきたいと思います。 ○山野目部会長 佐久間幹事がおっしゃった御意見のうちの前段におきまして,この部会資料の中で,遺産分割が未了の間の過渡的な権利関係を公示する登記として話題提供を差し上げているものは,この提案の採否を措くとして,果たしてこのようなラベルで呼ぶことがよろしいかという疑義の御指摘がありました。誠にごもっともなことであります。   恐らくは,相続が開始した事実及び知れている相続人を報告的に登記する予備登記であるとみることが適切であろうと思われます。   次の部会資料以降は,佐久間幹事の御指摘を踏まえて,より適切な,誤解のない表現に改めてまいらなければいけないと考えますが,本日のところは,部会資料のあちこちでこの表現が用いられておりますから,委員,幹事におかれまして,あるいは,いわゆると付けた上で,過渡的な登記というふうな形で御議論いただくことも妨げないということのお許しを頂きたいと望みます。   佐久間幹事の御発言の後段でおっしゃっていただいた,相続人が受遺者である場合の遺贈の登記の手続の簡略化については,違和感とおっしゃいましたが,しかし意見を頂いたというふうに受け止めますから,これについては引き続き,ここで御議論いただきたいと望みます。 ○水津幹事 今回の提案では,相続人が受遺者である遺贈による所有権の移転の登記は,登記権利者が単独で申請することができるとされています。しかし,私も,佐久間幹事と同様に,この提案について若干の疑問を感じております。   3点申し上げます。   第1に,この提案は,相続人が受遺者である遺贈による所有権の移転の登記について,登記の申請を義務化することと関連付けられています。しかし,登記の申請を義務付けるべきかどうかという問題と,共同申請主義の例外として単独申請を認めるべきかどうかという問題は,明確に区別して扱った方がよい気がします。両者の問題が関連付けられるとしたら,売買や時効取得による所有権の移転の登記について,仮に登記の申請を義務付けるとしたときは,そうである以上,売買や時効取得による所有権の移転の登記についても,単独申請を認めるべきであるということとなりそうです。しかし,それとこれとは,別の問題であると思います。   このように,両者が別の問題であるとすると,遺贈を相続人に対する遺贈と第三者に対する遺贈とのカテゴリーに区別し,相続人に対する遺贈は相続を原因とするものではなく,遺贈を原因とするものであると整理した上で,しかし第三者に対する遺贈とは異なり,単独申請が認められるとすることについては,18ページの(注2)にあるように,慎重であるべきである気がします。  第2に,この提案は,所有者不明土地問題の解決を図るという政策的な要請や,遺贈であるか,特定財産承継遺言であるかの判断を避けるといった実務上の要請に応えたものであるとされています。しかし,この提案は,共同申請主義の例外として,相続人が受遺者である遺贈による不動産の所有権の移転の登記一般について,単独申請を認めようとするものですので,所有者不明土地問題の解決だけから正当化するのは難しい気がします。他方で,単独申請が認められるのは,不動産の所有権の移転の登記に限られています。そのため,この提案によっても,所有権以外の権利の移転の登記や,登記・登録制度のある船舶,自動車等の所有権の移転の登記・登録については,単独申請が認められるかどうかを判断するために,やはり遺贈又は特定財産承継遺言のいずれに当たるかを判断しなければなりません。   登記の申請の義務化のところでは,国民にとって分かりやすいかどうかという視点が示されていました。この視点から,登記の申請の義務化の範囲は,特定財産承継遺言がされたときと,相続人が受遺者である遺贈がされたときとで一致することとされています。これに対し,単独申請が認められる範囲は,特定財産承継遺言がされたときと,相続人が受遺者である遺贈がされたときとで異なります。しかし,不動産の所有権の移転の登記についてのみ,単独申請が認められ,その他の財産権の移転の登記・登録については,原則どおり,共同申請主義が適用されるというのは,国民にとっては分かりにくいような気がします。   第3に,この提案のように,相続人が受遺者である遺贈による所有権の移転の登記について,単独申請を認めるのであれば,18ページの(注3)にあるように,相続人が受遺者である遺贈による債権の移転の対抗要件についても,特別な規律を設けるべきではないかなどについて,慎重に検討する必要があると思います。 ○山野目部会長 御意見を承りました。   松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   先ほど,佐久間幹事が問題提起された点について,部会資料19・13ページの持分を記録しない登記でありますけれども,私はちょっと違った観点から,この提案を承りました。結論的には賛成の意見であります。   持分を記録しない登記をするということは,単に手続の問題にとどまらずに,やや実体的な問題にも影響を与えるのではないかという気がいたします。その点の確認も含めてですが,一つは,持分の記録をしない登記をした上で,遺産分割の結果を反映した登記をするときに,それは実体法上も,持分の移転ではなくて,ストレートに遺産分割の結果を反映した登記ということでよろしいかどうかという点です。   もしそうだとすると,今回提案されております特定財産承継遺言についての登記手続も,権利取得者が単独でできるということと,相続人のうちで遺贈によって財産を取得した者も単独で登記ができるということと,整合的に考えることができるのではないかと思われるからです。これは今,水津幹事もおっしゃった点に関わると思いますが,その点の問題です。   それから,もう1点は,持分を記録しない登記をしたときに,共同相続人が個々の共同相続財産について,持分を処分したり,あるいは相続人の債権者が持分を差し押えるということがブロックされるかどうかということであります。   仮にそれがブロックされるということになると,それ自体は,できるだけ早く遺産分割の結果を反映した登記をすべきという方向に促すものとして,政策的な意味が出てくるのではないかという意味で,全体としては,佐久間幹事がおっしゃいましたように,できるだけ遺産分割を促進する形で用いることができるのではないかと承りました。   そういう形で,この持分を記録しない登記ということにも,非常に重要な意味があるのではないかというふうに考えました。ただ,ここは私の誤解もあるかもしれませんので,もし間違っているとすれば,正していただきたいと思います。これが第1点です。   それから,第2点ですが,部会資料19の22ページ以下についても今意見を述べてよろしいでしょうか。   22ページにございます所有不動産目録証明制度についても,相続人が相続登記をする際に財産を探索する負担を軽減するために非常に重要な制度で,こういう制度を設けることについて賛成したいと思います。   実際,相続登記がされない様々な原因の一つとして,ここにも指摘されておりますように,一体どこにどんな不動産があるのか分からないということがあります。自分が居住している土地・建物については分かるけれども,ほかに畑があるとか山があるとか,そういうことが分からないときに,どうやって探索するか,戸惑ってしまうということがあると思います。   したがって,被相続人である登記名義人が,他にどれだけの不動産を持っているのかということについて,一覧して,一括して知ることができる準備がされていると,相続登記が非常に促進されるのではないかと思われますので,この制度は大いに活用されるようにすべきではないかと考えました。   その上で,この証明制度を使えるのは,一つの登記所が管轄している不動産に限られるのか,あるいは,登記所をまたいで,同じ登記名義人が持っている不動産について証明が可能になるようなことも,制度としては考えられているかどうかという点を,お教えいただければと思います。   また,この問題とも若干類似しているのですが,25ページ,26ページの登記名義人の氏名,住所等が変わった場合の変更の登記,それから,27ページの方では,そもそも氏名,住所等を申し出るものとするということですけれども,これについても,同じ登記名義人が1回申し出れば,その登記名義人が持っている不動産については,連動して変更の登記や申出がされることになるのか,それとも,個々の不動産について一個一個申し出なければいけないのかということの確認です。   この点は現時点ではどのように考えられているでしょうか。将来的な制度設計も含めて,できるだけ簡易な形で,1回申し出れば,関連する不動産については,連動して申出なり変更なりができるという仕組みが可能かどうか,お教えいただければと思います。 ○山野目部会長 所有不動産目録証明制度の運用の実際像についてお尋ねがあり,関連して,今御意見をお願いしている事項の次のところになりますけれども,住所の変更の登記について,類似の感覚による運用があり得るかというお尋ねも頂いたところであります。   現時点でのお考えがあるとすれば,お話しいただければと考えます。 ○村松幹事 まず,住所変更の申出の関係ですけれども,これは,これから制度を作るというところなので,ちょっとまたいろいろとあるかも分かりませんけれども,基本的には恐らく,言われているように,余り管轄に縛られて,あちこちに個別に申出をするというような形にはしないようにできるといいなという印象は持っております。実際それが実現できるのかどうかというところはありますが,いわゆる登記の申請とは少し違う手続に位置付けることにはなろうかと思いますので,それを踏まえてできるかどうかというところかなと思います。   それから,すみません,目録のところ,もう一度御質問を確認させていただいてよろしいでしょうか。 ○松尾幹事 22ページの目録のところですけれども,ここでは,①と②とありまして,①の方は,自分が所有している不動産について,その不動産の目録を証明した書面を請求できるもので,②の方は,相続が生じた場合に,自分の被相続人がどこにどんな不動産を持っていたのかを一括して知りたいという目的で,この目録の証明を申請するんだと思いますけれども,これについても,一つの登記所の中で,同じ登記名義人が持っている不動産についての目録に限られるのか,登記所をまたいで,それを取得することが可能かどうかということであります。 ○村松幹事 こちらの方は,またぐ方向でやらないと,意味がないかなとは思っております。 ○松尾幹事 ありがとうございました。 ○山野目部会長 今後のシステム開発その他で,またいろいろ支障とか課題が出てくるかもしれませんが,今のところ,村松幹事が披瀝した方向を,理想というか狙いとして進めていくという考えのようです。   松尾幹事,よろしゅうございましょうか。 ○松尾幹事 是非その方向でお願いしたいと思います。 ○道垣内委員 私の勘違いなのではないかと思うのですが,いわゆる過渡的な登記について少し伺いたいと思います。この部会資料だけを読みますと,誰かが死んだときに,誰が行っても,その人の名前が付記登記に書き込まれるということなんでしょうか。つまり,対象となる不動産の登記名義人について,相続が開始した。申出人本人が私です。そして,私が,「当該登記名義人の法定相続人の1人です」と申し出れば,私の名前が書き込まれるのですか。 ○山野目部会長 道垣内弘人先生のお母様が不動産をお持ちでいらっしゃるという仮定で御話をしますと……。 ○道垣内委員 違います,違います。 ○山野目部会長 お持ちであるときに,道垣内弘人先生のお母様がお亡くなりになった旨の戸籍の証明と,道垣内弘人先生がそのお子さんである旨の戸籍の証明の2点を持って行くと,法定相続人のところに,道垣内弘人というふうに付記登記がされるというイメージです。 ○道垣内委員 そうすると,ここに書いてある,当該登記名義人の法定相続人の1人であることの申出というのは,単に申し出るというのではなくて,戸籍が必要であるということなんでしょうか。   そうすると,戸除籍謄本等の添付情報というときに,全部を集めて,徹底的にやらなければならないということではないということが明らかになるというのはそのとおりですけれども,基本的な戸籍謄本は提出するということが前提になっているような気がするんですね。   そうすると,全部又は一部と書いてあるからいいともいえますが,「提供することなく」とだけ表現してしまうと,単に,「私は法定相続人の1人である」とだけ言えばいいのではないかという感じがしてしまって,若干修文の必要があるのではないかなという気がしました。 ○山野目部会長 村松幹事から今,精密な説明を差し上げますけれども,私から露払いで,感覚的な御案内を差し上げますと,この予備登記の制度に関するイメージを是非,委員,幹事の皆様方に採否を御検討いただく前提として,抱いていただきたいと考えるものです。   司法書士の業務の現場において定着した言い方ですが,“あること証明”と“ないこと証明”という言葉がありまして,平仮名で「ないこと」と書いて証明と付け,平仮名で「あること」として証明と付けます。現在の法定相続分をもってする登記は,持分を記録した上で,フルサイズの相続による所有権の移転の登記にしなければならないものですから,登記の申請に際し,法定相続人の1人であってもすることができるとはいっても,法定相続人が今示しているリストの人たち以外にはいないという,ないこと証明を提出しなければなりません。   ないこと証明という確実な証明が求められる見地から,基本的には被相続人の生まれた時から死亡するまでが連続してつながっている戸籍の証明を漏れなく収集し,その他,そこから窺知される事実に関連して,必要となる戸除籍の証明についても,漏れなく収集して提出しなければいけません。   これを私人一般に対して,せよというふうに要求しておきながら,場合によっては過料を科するということになると,これは非常にハードな制度になります。弁護士会の先生方が一貫して,その制度の運用の姿が危惧されるとおっしゃってきたところは,正にこの点に関わるわけであります。   それに対し,ここで御案内している,いわゆる過渡的な権利関係を公示する登記は,ないこと証明を申請人に対して要請することをせず,あること証明で構わないとするものです。被相続人について,死亡により相続が開始したときに,被相続人が複数回婚姻していて前婚の子があり,あるいは嫡出でない子がいるなどの,そのような事情がある場合であったとしても,そちらの方の消息については,もはや交流がなく,承知いたしませんということで構いません。しかし,少なくとも,自分や自分と同居している親族のこの人とこの人は,オープンなリストの中に含まれるにとどまりますけれども,相続人であるということの最小限の説明が可能であれば,あること証明のレベルで申請して受理をしてもらい,報告的な予備登記をしようということが考えられています。   制度のイメージはそのようなものでありまして,更に精密に,これをもし仮に採用して運用していくとすると,どうなるかといったようなことについて,村松幹事から説明があります。 ○村松幹事 今ほとんど,私がしゃべれることを説明いただいてしまったところなので,あとは,そういう意味で,あること証明という形になるにせよ,法務局の側で,では,あとさらに,何か連携するような形も含めて,工夫ができないのかというところは,若干ふわっとしていますので,その意味で,添付情報の全部又は一部を提供することなくという書き方になってしまっています。確かに,ちょっと,過渡的な権利関係を公示する登記という表現も含めて全体に分かりにくかったかなと,反省しておりまして,元々この過渡的な権利関係を公示する登記というのは,法定相続分での登記も含める形で,4ページぐらいのところでは使っておったので,そういう意味では,うまく書けていないなと,今見て反省しました。最初は,過渡的な権利関係を公示する登記という中に二つのものを入れるようなつもりで,かつ,法定相続分での登記については,現状もあるものですが,これを更に簡略にするというイメージの新設登記を作ってはどうかというのを13ページに書いていたものですから,それとの対比でいうと,法定相続分での登記であれば出生から死亡まで全部戸籍が要るけれども,新設登記についてはその一部が要らなくなるというような表現にしていました。これは言い訳ですが,非常に確かに分かりにくいですし,佐久間先生おっしゃるように,そもそも過渡的な権利関係の公示の登記という表現も,法定相続分での登記について適切ではないという御指摘がありましたし,少なくとも新型登記の方は,権利関係の公示ではないという説明をする方が適切でありますので,ちょっと,同じ袋に今,ぱっと入れてしまったんですけれども,入れた結果がずれてきてしまったので,書き直した方がいいという点は非常によく分かりますので,修正いたします。   もう1点,この登記を使うことでは,確かに,例えば100年間にわたって登記がされておらず,100人ぐらい相続人が存在しているケースというのが現状ありますけれども,そういったものにも,一朝一夕に,この手当てで解消につながるわけではないというのは,御指摘のとおりだとは思っております。   ただ,まずはこれ以上,相続未登記を増やさない,あるいは,現状,相続未登記に移っていきそうなものについても相続登記をしていただくというこの施策についても,結構,何をどうやっていくのかと,非常に難しいところがございますので,これで全部というわけではありませんし,おっしゃるように,ほかのいろいろな施策との組合せで,これから相続未登記になる予備軍か,もう既にひどい状態なのかと,こういったものも含めていろいろな状態にある土地について,その状態に応じた手当てを設けていくというのを,試案全体ではお考えいただく必要があるのかなというふうに,一応事務局としては,そう思って作っておりました。 ○道垣内委員 ありがとうございます。   私も,誰かが死亡したときに,関係のない私が行けば付記登記ができるとは思っていません。ただ,14ページのところに,自分が相続人の1人であるということだけの戸籍謄本を持って行けばよいということは書いてあるのはたしかですけれども,一般に一読するときには,ゴシックのところだけが対象とされることが多いので,ゴシックのところだけでも誤解が生じないようにすべきであると思います。そして,今,村松さんの方から,全体としてどのようなことが必要かというのを,もう少し分かりやすく書くというふうにおっしゃっていただいたので,私の申し上げたいことは全て解決しています。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   全部又は一部を提供することなく,の,この全部という文言は要らないものではないでしょうか。一部として,かなり簡略に,という,イメージでしょう。 ○村松幹事 そうですね,現実的にというところを含めて,そこも検討いたします。 ○山野目部会長 全部を省くことは,今の法務局の人員体制ではあり得ない発想でありますから,そのような実質的な観点も,考えなければなりません。民間人の私が法務局の人員を心配し,村松幹事がありそうだとおっしゃる絵は,立場が逆であるかもしれませんが,私は法務局の現場のことが心配です。 ○沖野委員 2か所について,教えていただければと思うことがあります。   一つ目が,4ページの遺贈の場合の取扱いについてです。   相続人である受遺者に限るということについて,その根拠や正当化の問題ということがあるとともに,これは,相続人たる地位というのが変動する可能性があります。相続人であり,かつ受遺者であるという状況が事後に作られるとか,事後に解消するとか,そういったことが出てくる可能性があります。一旦は相続人になるけれども,相続放棄をして,遺贈の方は放棄をしないというような場合ですとか,当初は相続人ではなかったはずなんだけれども,ほかの者が次々と相続放棄をした結果,自ら相続人になったというような場合があります。   そういった場合に,どういうふうに考えたらいいのかということが,元々,なぜ相続人かつ受遺者であれば,この義務が課されるのかということを,恐らく整理しておく必要があるのではないか。基本的には相続人であって,その場合には,言わば相続人の義務の一環として,自らの意思に関わりなく,被相続人の死亡を契機として,その相続財産に当たる部分を一部取得するというような場合には義務付けるのだということになりますと,一旦相続人たる地位を取得した以上は,そのままそれが継続するというような考え方もあり得るかもしれません。   他方,この説明に書かれておりますように,特定の不動産の,いわゆる相続させる遺言,特定財産承継遺言との機能的類似性や区別の困難さということになりますと,それと同等のものに限ればいいということになりますし,その観点からは,例えば,孫に対して遺贈をしたところ,代襲相続で相続人になったというような場合ですと,これはもう遺贈でしか,本来はあり得ないというようなことにもなってきますので,そういったものを含むのか含まないのか,多分,どちらかに純化するわけではないんだろうと思うのですけれども,この義務が一体どこまで掛かってくるのかというのは,考え方とともに,整理をしておく必要があるのではないかと思うところです。そして,それが適切かという問題は,更にあるかとは思います。   もう1点は,これは本当に,ちょっと分からないから教えていただきたいということであるのですが,19ページの,一旦法定相続分での相続登記がされた場合に,③,④で,特定財産承継遺言あるいは遺贈による所有権の取得について,単独申請という場合に,私自身は通知をした方がいいのではないかと思っているのですが,例えば,既に遺言の効力が争われているというような場合において,争っている法定相続人の方で,こういった単独申請をブロックするような手法というのは,何かそもそもあるのかどうかというのを教えていただければと思うのですが。 ○山野目部会長 前段で御意見としておっしゃっていただいたところは,4ページの①,②,③のような仕方で御提示申し上げていることについて,考え方が固まってきた段階では,その上で,沖野委員から幾つか,細目にわたる御指摘を頂いた諸例について,疑義が生じないように検討を深めなければならないものとして受け止めます。   後段でお尋ねを頂いたところについては,現在の登記実務に関する事実関係のお尋ねを含むと認められます。沖野委員が御示唆になったことは,喩え話で戸籍の制度で述べると,離婚届不受理申出みたいな,ブロックしてしまうような仕組みが,不動産登記制度にはないものですか,という問題提起でありましょう。24条の運用として行われる不正登記防止申出は少し趣旨が異なりますから,ご示唆にズバリ当てはまるものは現行制度上は見当たりません。そうすると,そういうものも,もしこの19ページの制度を入れるのであれば,最終的に本当に必要かどうかはともかく,おっしゃったような相続人間に遺言の効力等をめぐって紛議がある事例等を視野に置いて,検討する必要があるという御示唆の御意見として,むしろ受け止めなければいけないかもしれませんし,いずれにしても,部会資料を作成するに当たって事務当局の方において想定していなかった論点でございますから,検討させていただくということで,本日のところはよろしゅうございましょうか。ありがとうございます。 ○中田委員 これまで出た論点ですが,3点申し上げたいと思います。   第1点は,遺贈により取得した相続人の登記の義務付けの根拠を示すことについてです。特定財産承継遺言の機能との近似性ですとか,法定相続分が確保されているからインセンティブが低いとかという,割と実質的な話が多いと思うんですが,なぜここで切れるのかということについて,契約の場合には義務付けをすべきでないことの根拠が29ページの第3以下で論じられておりますが,それとの対比で,なぜあちらは義務付けるべきではなくて,こちらは義務付けるべきなのかということを説明できると,より分かりやすいのではないかと思いました。   第2点は,新型の登記と法定相続分による相続登記との関係についてですが,過料が科されるかどうかということとの説明は理解できたのですが,両者の実体法上の関係がよく分からなかったんです。   先ほどの村松幹事の御説明を伺って,だんだん理解できてきたのですけれども,先ほど松尾幹事から,新しい登記をすると,共同相続人の処分や債権者の差押えをブロックされるのではないかというような御発言があったと思うんですが,そうだとすると,非常に影響が大きいような気がしました。特に相続人の債権者が差押えできないということになると,非常に影響が大きいと思いますので,多分,そこまでは考えていらっしゃらないのではないかと思うんですけれども,実体法上の効力,新型の登記と,それから法定相続分による相続登記との関係について,整理していただいた方がよろしいのではないかと思いました。   それから,3点目ですが,所有不動産目録証明制度について,これは有益なものであるという御意見が続いておりまして,私もそうは思うのですけれども,他方で,23ページの2の(1)に記載されておりますように,第三者から提出を求めるという実務が,この制度を設けることによって,形成されていくのだろうと思います。   そのことについて,どのように評価するのかというのは,これは立場によっても違うと思うんですが,一つの検討課題であるとは思いますので,中間試案をパブリックコメントに付する際に,そこに課題があるということは提示していただいた上で,どのように考えるのかということの意見が返ってくるような形が望ましいと思います。   一番はっきりするのは,ゴシックの下に注を付けて,登記名義人の死亡の場合に限るという意見もあるという注を付するというのが意見が出てくる上で,はっきりはしますが,そこまで無理であるとしても,せめて説明の中で,意見が出やすい形にしていただければと思います。 ○山野目部会長 中田委員から3点,御指摘いただいたうちの第1点と第3点は,次回部会において,中間試案及びその補足説明における内容を充実させていくに当たっての御注意を頂いたものと受け止めますから,事務当局において,それを反映させるべく,努めるようにいたします。   第2点で御指摘いただいたところも,同様ではないかと感じます。   第2点で御指摘いただいたことでありますけれども,いわゆる過渡的な権利関係を公示する登記がされたときにおいて,松尾幹事から相続人の債権者の差押えの可能性についての問題提起も頂いておりました。   この報告的な予備登記がされるとされないとにかかわらず,相続人の債権者が差押えを行うということ自体は,言わば執行法の実体的な理解としては妨げられないものと感じますが,その上で,行われる執行処分の登記上の公示を考えるに当たっては,従来と異ならないものでありまして,過渡的な権利関係の公示の登記それ自体が何かの役割を果たすものではなく,差押債権者の申立てによって差押命令が発令される後の話がうまくいくためには,前提として,法定相続分に係る登記を従来どおり代位申請でしてもらい,それに基づいて行われた通常の法定相続分の持分に対する差押えの公示として,差押登記が嘱託されるという手順を踏んでいただかなければいけません。今までもそうでしたし,これからもそのように考えられていくであろうというつもりで,部会資料を作成いたしました。   やや補足を致しますと,これは,報告的な予備登記でございますから,民法の先生方は御記憶がおありでしょうか,平成16年法律第123号によって,不動産登記法が一新される前に,予告登記という制度がありまして,あれもまた,情報提供としての意味合いしか持たない報告的な登記というふうにされていましたが,にもかかわらず,学説上は,あの予告登記がされると,民法94条2項の類推解釈や民法96条3項の適用関係等において,何か意味を持つものではないかという議論があり,しかし,報告的な情報提供の登記だから,意味を持たないのではないかという議論もあり,あそこでそういうふうな議論が戦わされていて,何か決定的な議論になる前に,あの制度がなくなったものでありまして,その議論の雰囲気といささか似ているところがございます。   その関係のことも含めて,なお精査せよという,中田委員からの御注意いただいたものと受け止めました。 ○中田委員 今,部会長がおっしゃいましたとおり,正に私も予告登記との関係を考えておりました。あそこで実体法上の効力の有無について,やや紛糾があったかと思いますので,そのようなことのないように,明確にしていただく必要があるのではないかと思いました。 ○山野目部会長 どうもありがとうございます。   藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   以前の部会で,土地を取得したり,利用したりしようとする事業者にとっては,死亡情報が公示されているだけでも,登記手続きを進める上で非常に助かるという話をさせていただきました。   今回の中間試案のたたき台の中では,引き続き検討する,ということになっているのですが,一方で,過渡的なというか,持分を記録しない登記という提案もなされていますので,この持分を記録しない登記がきちんとワークするようになってくれば,こちらの方に収れんされていく話なのかなと思った次第です。   ただ一方で,やはり今,いろいろと出ている意見を伺っておりますと,どこまで相続登記の義務化が,登記申請の義務化が徹底されるのか,この持分を記録しない登記ですら,どこまで普及するかというのは,まだちょっと見えないところもあるかなと思っておりますので,現時点では,やはり死亡情報の公示という選択肢も,まだ残しておいていただければなという意見です。   あと,それと関連いたしまして,第1の2の(1)の(注6)のところに,規定の施行時に所有権の登記名義人が既に死亡している不動産についての本文の規律の適用の在り方というところで御指摘がなされているかと思います。   実務的には,ここのところは,かなり大きい部分でございまして,これからの相続登記に関しては新しいルールでやるということになったとしても,今現に,かなり古い登記がそのまま放置されているというような状態について,適用するのがなかなか難しいので,ちょっと対象から外しますということになってしまうと,今起きている問題を解決する上では,なかなか厳しいところがあるかなというふうに考えておりますので,例えば,持分を記録しない登記を申請せよとまでは,余り強く言えないとしても,だったら,そういう場合は,死亡情報の公示等で対応するとか,そういった組合せも,今後の選択肢として御検討いただければと思っております。 ○山野目部会長 2点にわたる御意見を頂きました。ありがとうございます。   平川委員,どうぞ。 ○平川委員 ありがとうございます。   相続登記に関わる義務化の方向性はいいと思います。また,それに伴っての手続の問題ですが,登録免許税の問題等含めて,過料を設けるほどの義務として制度化できるかどうかということに関しては,部会長の方で整理されてしまいましたので,その方向でいいのではないかと思います。   ただ,義務化の根拠として,相続に関わる登記の手続の促進という側面と,もう一つは,戸籍や住民票との情報連携との根拠という位置付け,この二つの側面があるような気がします。ただ,その場合,相続登記だけが義務化されるということに対して,その他のいろいろな手続に関して,影響が出るのではないかなと思いました。   第2の項目にも関わってしまいますけれども,例えば27ページに書いてあるとおり,登記官が住民基本台帳ネットワークを通じて得た氏名,住所の情報に基づいて,氏名,住所の変更の登記を行うということでありますが,そもそもこの登記が,相続に伴っての登記なのか,それとも,その他の,遺贈に伴っての登記なのかというのは,区別が付けられるのかどうか。その取扱いがどう変わっていくのかというのは,どうもよく分からない面があります。   その辺,今後どうしていくのかという点について,質問させていただきたいと思います。 ○村松幹事 今の御指摘は,住所の変更の義務化に関しては,基本的には所有権の登記名義人になられている方で,義務が掛かる範囲自体は,現に生きていらっしゃる方でという意味になるかもしれませんけれども,現に権利者である方が正に登記名義人になっているようなケースを想定し,その方に関しては義務を課すという整理かなと思っておりますが,それと,相続登記の関係と……ちょっとすみません…… ○平川委員 すみません,申し訳ないです。   義務化の根拠の一つとして,他の情報との連携,例えば戸籍なら戸籍の制度,住民基本台帳なら住民基本台帳の制度があって,それとの連携の根拠として,登記の義務化というのが一方あると思うんですよね。それが,相続については義務化としてあり,遺贈については,努力義務なのでしょうか。 ○村松幹事 遺贈に関しては,相続人である限りにおいては,通常の義務を課そうというのが,第1次提案にはなっておりますが。 ○平川委員 ただ,その他の登記については義務ではない。 ○村松幹事 そうですね,そういう意味では,第三者が遺贈されたようなケースであるとか,死因贈与であるとか,売買であるとか,それ以外のものに関していいますと,それへの名義移転を義務付けて,それをしなさいという提案にはなっておらないというところになります。   ただ,それらと別の切り口として,住所や氏名に関しては,登記名義人である方に関して,変更を義務付ける規定というのを,それはそれで,また別途設けてはどうかというのが,第2の方の提案になっておりまして,そこは住所,氏名の義務化の範囲の方が,ある意味広いわけですね,元々。   相続登記で,相続をして,相続登記が入れられて,所有権の登記名義人になった方に,必ずしも限られてはいないものですから,第2の方はですね。そういう意味で,元々義務の範囲は,第2の方で広く掛けてあるというぐらいのイメージだったんですけれども。 ○山野目部会長 第2を御議論いただくときの状況を踏まえて,また平川委員から御発言いただけますかね。 ○平川委員 はい。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 すみません,多少細かい点になってしまいますけれども,よろしいでしょうか。   4の所有不動産目録証明の関係で,ゴシックの部分等について,特段異論等はございません。発言させていただこうと思いましたのは,資料ですと23ページの(4)その他の部分の記述に関してでありまして,ここで,一方で破産管財人について,請求人,請求権者の範囲に含めることが考えられるという記載があり,この点は私,そのとおりかなというふうに考えております。破産者は元々,重要財産の開示義務も課されておりますし,管財人の方に調査権も付与されているということですので,この制度の利用者として,加えることはあり得るのかなと思います。   他方で,代位債権者の関係について,これは含まれないものとすべきであると,代位権の客体にはならないものとすべきだという趣旨の記載がされておりまして,この点について,私自身は,特に反対だということではありません。ただ,その説明として,(注)のところで,最近の民事執行法の改正との関係が記述されているところかと思いますが,民事執行法の改正での情報取得制度は,これは元々,債務者自身も,このような所有者目録というものを取得できるという前提がない中で,全く新たに作られた制度ということでありまして,仮にこの情報取得制度が施行されて,かつ,こちらの方で債務者自身も,その種の目録を取得できるという制度が整備されたときに,債務者自身もそういう情報を取得できるし,有名義債権者は第三者からの情報取得という形で情報は取得できると。   そのときに,代位債権者はできないのですという規律が当然のものかということについては,これは両論あり得るのかなという感じもいたします。もちろんプライバシーの保護等の観点から,代位権の客体にはしないという規律は,あり得る規律だとは思われますけれども,民事執行法の改正の経緯から,当然に代位権の対象とならないというふうにいえるかどうかという点については,若干疑問の余地もあるかなと思われますので,可能であれば,少し表現ぶりについて,御検討いただくとよろしいかなと感想を申しました。 ○山野目部会長 岩崎幹事,どうぞ。 ○岩崎幹事 ありがとうございます。   実際に業務を取り扱う側から検討したところで,2点ほど,1点は,質問というか,お考えを教えていただきたいと思うんですが,それは11ページの相続登記の申請義務違反の過料の関係です。   12ページの3を見ると,この規定を設けて,実際にこれを使っていくというような形で書かれているのかなと思っているんですが,これも12ページの注意書にも書かれております,表示に関する登記については,実際に規定があるものの,運用がされていない。この辺の考え方,今後この制度を作って,本当に使っていくように考えているのかどうか,現時点の考え方を教えていただきたいなというのと,もう1点は,先ほどから出ておりますけれども,22ページの目録制度の関係です。   これは,お願いになろうかと思うんですけれども,24ページの3の注意書にも書いてありますとおり,現在,実態上,同一人であっても,住所が違っていたりだとか,氏名の字体が違っているということになると,同一人という判断が恐らくできないと思います。ですので,この証明を作る際には,利用する方が飽くまでも,情報と検索キーが一致したものであるものに限って証明しているんだというものを,これは明確に示していただきたいと,これはお願いでございます。 ○山野目部会長 前者のお尋ねの部分について,村松幹事からお願いします。 ○村松幹事 過料の制裁を実際どう科していくのかというのは,非常に難しい部分があるということは,部会資料の方にも記載したとおりです。   結局,形式的審査主義の下で,添付されるべき書類から読み取れることには限界があるというところございますので,なかなかちょっと,現状では要件の把握が難しいという部分が非常にありますので,その意味では,この過料の制裁を積極的にどんどん発動して,それの威嚇に基づいて登記をしていただくというような建付けというよりはこういう過料というものは用意はされているけれども,そういったものも含めた登記の義務というのがありますということを国民の皆さんに分かっていただく,あるいはこれを前提にして,様々な簡易化の方策であるとか,場合によってはインセンティブ等々も考えながら,なるべく任意に,自ら自発的に登記申請をしていただくという方向性を目指すのかなという気はしております。   少なくとも,これまで,100年にわたって義務化はしておりませんでしたので,その中で,やはりやってくださいという話をする以上は,かなり方向性としては,変わる,激変というところになります。ですので,運用としては,そういったものを考えるというのが適切なのではないかという気はしております。   また,この制度ができて,ほとんどの方が相続登記をきちんとされていますという時代になったときに,どうしていくのかというのは,それはまた先々の問題ですけれどもあるかと思います。ただ,まずは,増えつつある相続未登記をどうするのかといった観点から,今申し上げたようなところを目指すのではないかと思います。   目録に関しては,これは正におっしゃるとおりでして,基本的には検索をした結果をお示しするというものになりますが,しかし,それでもかなり有用だろうというところで,そこは誤解のないようにということは考えてまいりたいと思います。 ○山本幹事 2点ほど申し上げます。いずれも細かいことで,本質的なことではございませんけれども,3ページの死亡情報の公示の点でございまして,これは第8回ですか,相続人の個人情報に該当し得ることを前提とした検討が必要という指摘があったということでございますけれども,結論的には,こういった制度が正当化できるのではないかと思います。   現在でも,相続があったということが,登記された場合に,それを相続人がブロックすることはできないわけですし,今回,相続登記を義務化するということが,更に事情として加わります。したがって,相続人が自分の個人情報であるから,それを公示しないように求めるということは,なかなか難しいのではないかと思います。   先ほど御意見がございましたけれども,ここの部分と,相続登記の義務化の話とは,関わってはいるのですけれども,イコールではないと思います。こういった制度を正当化する場合の一つの要素として,義務化ということが加わるという関係になるのではないかと思います。   それと若干関わるのですけれども,11ページ以下で,相続義務違反の効果として,過料の話が出てまいります。確かに,義務違反の履行手段として,一番直接的なものは過料になりますので,これが中心に書かれるような感じもするのですけれども,これは前回も申し上げたかもしれませんが,実際上は,今の情報連携の話と,それから,先ほど少し出てまいりました,15ページにある通知の話が,かなり大きいであろうと思います。   そのような観点からすると,義務は一般的なものであって,正当な理由がある場合という要件が加わるのは,飽くまで過料を科す場合というふうに整理し,基本的な義務と過料が科される場合の要件とを分けて考えた方が,考え方としては分かりやすいと思いました。   ただ,これを実際法文に書く場合にどうするかは,また別の話だと思いますので,そこは今後,整理していただければと思います。 ○山野目部会長 御意見はよく分かりました。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 今回提案されている,いわゆる過渡的な権利関係を公示する登記について,質問です。  この登記は数次相続が起こった場合でもできるのでしょうか。つまり,例えば私の祖父が不動産の所有権の登記名義人で相続が開始して,私の父が法定相続人の1人であったと。しかし,登記名義を変えることのないまま,私の父について,相続が開始して,私が父の法定相続人の1人という場合には,祖父名義の所有権の不動産について,私が直接,付記登記などで,この,いわゆる過渡的な権利関係を公示する登記をすることができるのかどうかについて,お考えがあれば,お聞かせいただければと思います。 ○村松幹事 数次相続のケースについても,対応はせざるを得ないのではないか,非常に見ばえが悪くなりますけれども,対応は必要になるだろうと思っておりますので,その辺りの細かい,付記登記,付記登記と簡単に言いますけれども,どういうことがあり得るのかというのは,ちょっとパブリックコメントの期間中に考えたいとは思っております。今言われたのは,あれですかね,中間を飛ばして,自分だけみたいなところを伺われた……。 ○蓑毛幹事 ごめんなさい,ちょっと質問がわかりにくかったですね。先ほど申し上げたようなケースでは,直接私の名前で付記登記をするという方法も考えられますし,いったん,私の父の名前を付記登記した上で,その付記登記として私の名前を登記するという方法も考えられると思います。いずれにせよ,何らかの形で,数次相続が起こった場合でも,対応できる仕組みにした方がいいという意見です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   國吉委員,どうぞ。 ○國吉委員 ありがとうございます。   この相続の登記の義務化には,おおむね賛成でございます。ただ,2の(1)の(注5)の部分,それから10ページの(4),いわゆる表題部所有者の部分なんですけれども,今般,表題部所有者不明の,一応法律が通りまして,変則型登記については大分,解消の方向に向かっていくと思うんですけれども,やはり表題部所有者を残しておくというのは,ちょっと気掛かりだなとは思います。できましたら,表題部所有者の死亡の部分についても,御検討のほどをお願いしたいと思います。   ただこれは,後ほどありますけれども,遺産分割のところで,この表題部所有者,いわゆる未登記の物件についても,恐らく何かの手当てをされるんだと思いますけれども,その手当ての場合においても,やはりこの表題部所有者の部分についても,今後,御検討いただけたらと思っております。 ○村松幹事 検討の方向性は,義務を課した方がいいという御趣旨ですね。 ○國吉委員 はい。 ○山野目部会長 どちらにしろ,引き続き検討する事項です。ありがとうございます。   いかがでしょうか。よろしゅうございますか。 ○山田委員 一つ質問で,一つ意見を申し上げます。これまでの御意見と重なるところもあるかもしれません,お許しください。   数次相続というのが,二つ前の御発言で出てきたかと思いますが,相続登記の申請の義務,これ,数次相続があって,2代前の人の登記名義があるというときに,どういう立場に立つのか。公法上の義務を相続するというようなことにはならないのではないかなと思いましたので,質問させていただきます。   そして,それと,実体上は重なるんだと思いますが,11ページのところについて申し上げます。(5)でこれ,四つか五つ前の御発言で,積極的な御意見があったところですが,私もこの部分,施行時に所有権の登記名義人が死亡している不動産について,どうするかという点について,三つ目のパラグラフの,その一方でのところに書かれているのは,施行時に所有権の登記名義人が死亡している不動産については,新たな規律を適用しないとすることも考えられるがと書いてありますけれども,これには反対であって,原則的な考え方としては,遡及適用の面倒な問題がクリアできる限りで,遡っていくのがよいだろうと思います。   ただ,具体的には,この最後のパラグラフに書いてありますけれども,施行日の,例えば前の月に亡くなった人というような方々に,軽く扱う必要はないように思うのですが,30年前,50年前,あるいはさらに,質問で申し上げましたが,数次の相続が生じているときに,遡ることはあってよいという立場を採った場合にも,何か現実的に実現,極めて困難というような状況にはならないようにしないといけないというふうに考えますので,この(5)については,少し丁寧にお考えいただいて,しかし,施行時に所有権の登記名義人が死亡している不動産についても,新しい考え方を,できる範囲でですが,及ぼしていくという方向で考えていくのがいいのだろうと思います。 ○村松幹事 数次相続のケースについては,数次相続によって,ある意味,所有権が段階的に移転してきているという状態になっていますので,公法上の義務の相続という理解は,確かにちょっと難しいような気がしておりますので,むしろ直接的に,その方が今現在,その不動産の所有権の一部分を取得していることを前提に直接適用といいますか,そういう適用になるのではないかなというふうに理解しています。   その上で,前に部会でも申し上げましたけれども,基本的には遡及適用,つまり施行時において既に生じてしまっているものに関しても,何らか義務を課す必要があるだろうというふうには思っておりますが,特に数次相続のケースなどのように,自分1人だけで,そう簡単に登記をすることができるのかどうかという部分がございますし,新型登記を入れたときに,では実際,どこまで簡略にできるのかなという部分も,またあるとは思いますけれども,ただ,いずれにしても,「えっ,この人って自分の曽祖父なんですか」といった想定事案に関していうと,正直,それを全部調べて,認識してくださいということ自体も難しいケースもありますので,観念的には,そういったケースについては義務違反が,そもそも要件上,主観的要件を掛けますので,生じないということにはなってくるわけですけれども,ただ,観念的には,そういう方も一応義務は掛かって,義務は掛かるんだけれども,何というか,要件は満たしていませんという言い方にはなってくるような気はしておりまして,そういった義務を課すかどうか,また,もうちょっと具体的に言うと,過料を科されるおそれがあるのかどうかといったところに関していうと,やはり数次相続については,そう簡単に,義務違反になってくるとは言いにくい。だけれども,しかし,登記をやっていただくという総じた方向性はあるので,それを前提にした各種の施策は,そういった過去の数次相続の方についても,取りこぼしなく適用はしていきたいという,ちょっともたもたした言い方ですけれども,そういうイメージではないかと思います。 ○山野目部会長 吉原委員,どうぞ。 ○吉原委員 ありがとうございます。   13ページの,いわゆる過渡的な権利関係を公示する登記について,賛成いたします。このような手続き負担を軽減した多様な選択肢が国民に提示されることは,望ましいと思います。その上で,この手続の呼び名については,国民に分かりやすい名称を付けることが大切かと思いました。   先ほど,実体法上の効力は,これは持たないという論点がございましたけれども,ふだん法律になじみのない国民が,この登記をしたことで,相続登記をやったつもりになったり,あるいはこれを閲覧した人が,この付記登記されている人のみが権利を継承していると勘違いして現場で混乱が起きないように,飽くまでもこれは,先ほど報告的な予備登記という言葉もございましたけれども,移転登記ではないということが,法律になじみのない人にも分かるような名称の工夫が必要かと思いました。 ○山野目部会長 吉原委員も何かお言葉が浮かんだら,アイデアをお寄せください。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,続きまして,第2,登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組みの部分,それから,併せて第3,相続以外の登記原因による所有権の移転の登記申請の義務付け,ここまでのところについて,御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○今川委員 すみません……第4も含めていいんでしょうか。 ○山野目部会長 第2と第3です。御案内を差し上げればよかったものですが,第2は,住所の変更に関わる情報連携の仕組みの構築可能性や,それを見据えながら,住所の変更の登記の申請を義務付けることの適否等についてのお尋ねをしており,第3においては,相続や遺贈以外の原因による所有権の移転が生じた場合の,所有権の移転の登記の義務付けを公法上の義務付けとして考えるかどうかをお尋ねするものでございます。御意見をおっしゃってください。 ○今川委員 ここの時点では,今のところありません。すみません。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 先ほど,うまく表現できなかったんですが,29ページの第3の「相続以外の登記原因による所有権の移転の登記申請の義務付け」についてですけれども,これは,必要となる登記の申請を公法上義務付ける規律は設けないということになっています。   先ほど言いましたように,義務付けの一つの効果としては,住民基本台帳ネットワークとの情報連携というのがあるかと思いますけれども,相続以外の登記については,住民基本台帳ネットワークとの連携というのができない,連携する根拠があるのかないのかということが少し分からないので,その辺どうなるのか,教えていただければと思います。 ○山野目部会長 平川委員から前に御質問いただいたところを改めておっしゃっていただいたものと受け止めます。   村松幹事,発言をお願いしてよろしいですか。 ○村松幹事 住民基本台帳との連携で,特にこの住所,氏名もあるかもしれませんが,住所に関する情報を連携する根拠というのは,私どもの理解としては,第2の1のところの不動産の所有権の登記名義人というのは,氏名や名称や住所に変更が生じたら変更申請しなくてはいけないよという,こういうルールを掛けますので,基本的にはこの部分が,住所に関する連携の根拠,後ろ盾になっているのではないかと思っております。   それで,ちょっと言葉を足しますと,そもそも全体について,第3の方にありますけれども,一応登記の義務付けというものをやるかやらないかというのは一つ選択肢ですけれども,仮に登記義務を課さない場合の説明としても,そういったケースで,では何が想定されるかというと,基本的には売買とか,贈与とか,そういったものになってくるわけです。しかし,部会の議論でいいますと,そういったケースに関して言えば,ほぼ登記は行われているではないですか,現状,義務を課すまでの状態には至っていないのではないか,というところが,前提としての事実認識ですし,実際に調査をしてみても,大方そういうことになっております。そうしますと,基本的には,登記名義人の氏名,登記名義人自体は,ある程度きちんと登記されている売買等と,それから,今はずれてしまっているけれども,相続したら相続登記を入れなさいという義務の規定と併せれば,全般的には,登記を見れば,所有者は分かる。しかし,住所のずれに関しては,ずらしてしまっていいというルールになってしまっているのはよくないので,それら全体に対して,住所の変更の義務というのを全般的に課していく。   その全般的に課す中で,今度は自然人と法人と,全般に課しましたので,両方出てきますけれども,自然人については,住基との連携で,住所情報を把握して,簡単に直す方策につなげていくということになりますし,法人に関しては商業法人登記との連携を,こちらがもっと連携したらいいのではないかというのが,これまでの御議論だと思いますが,そういった形で,全体に登記を見ることで所有者が分かるようにしていくということになるかと思います。   そういう意味で,直接的な根拠は,氏名,住所の変更の義務規定だと思います。 ○平川委員 分かりました。少しちょっと考えてみたいと思います。意見というか懸念として言わせていただきました。   それから,もう一つ,別な観点ですけれども,附属書類の閲覧制度の見直しのところで……。 ○山野目部会長 それはまだです。この後に説明しようと思っています。 ○平川委員 すみません。では後で……。 ○山野目部会長 今,第2,第3について,ほかに御異論や御意見がないかどうかを確かめようとしています。いかがでしょうか。 ○山本幹事 29ページの第3の部分で,強い意見があるわけではございませんけれども,この点に関しては,何か規定を置くと,それが私法上の関係に何か跳ね返る部分があるのではないかという御懸念があったのではないかと思います。   そういう点から申しますと,もし規定を設けるとすると,30ページの一番下に書かれていますけれども,実体法上の権利関係に合致するように申請あるいは協力をする責務を国民が負うとか,あるいは努力義務でもいいのかもしれませんけれども,そのような形で抽象的な責務規定に近い形にし,なるべく私法関係,取引関係という表現は使わない形で書くというのであれば,あり得るかとは思います。かなり技術的な話になりますので,これぐらいにしておきたいと思います。   あと,先ほどの26ページの住所の問題につきましても,結局,過料よりは,情報連携の根拠にするとか,あるいは通知の場合に一つの考慮要素にするというところに,実際上の強い意味があるとすれば,義務規定を置き,過料の規定も置くけれども,しかし実際上,過料が機能することは想定しないというのが,一つの線ではないかと思います。   確かに,実体法上,義務だけ定めがあり,何も制裁がないという制度もないわけではないので,そういった可能性を検討する余地もあるとは思いますけれども,かなり難しいように,直感的には思います。 ○山野目部会長 前段,後段でおっしゃっていただいた御意見を受け止めます。   前段でおっしゃっていただいた29ページの第3のところについて,御意見を承りつつ申し上げるといたしますと,注記は中間試案の段階では,このような仕方でパブリックコメントをし,一般の意見を問うてはどうかという提案でございます。   山本幹事が今,親身に御心配になっておっしゃっていただいたとおり,この注記のような規定を設けることの適否は,大いに考え込む必要がございます。中間試案からパブリックコメントに向かっていく段階で,土地基本法の改正を政府提出の法律案の内容として,どのようなものにするかについて,まだ政府が決定に至る段階になりませんから,その内容が明確にはなっていないという状況で検討を進めなければなりません。   土地基本法において,土地の所有者は境界と登記についてケアをする責務を負うという法文が入るとすると,それとほとんど文体,内容が同じ規範になりますから,同じものを重ねて民事基本法制に置くことの疑問はますます大きくなります。そのような整理が可能なときには,注記のようなことをあえてする必要はないということになるかもしれません。   一応,中間試案の段階では,このようなことでお尋ねしてみようというふうに考えておりますが,山本幹事の御懸念はよく分かりましたから,受け止めさせていただきます。   國吉委員,どうぞ。 ○國吉委員 ありがとうございます。   また,先ほどと同じ話なんですが,登記名義人の氏名,名称及び住所ということは,表題部は想定されていないということなんでしょうか。 ○村松幹事 そこは検討いたしますが,記載が漏れておりまして,失礼いたしました。 ○國吉委員 よろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 書いておりませんけれども,お許しください。全部について最後に表題部のことを精査することをお約束します。國吉委員のお気持ちは痛いほど理解をしております。ありがとうございます。   ほかに,第2,第3,いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 部会資料25ページの第2の1ですけれども,日弁連のワーキンググループでは,過料の制裁を科さないことを条件として,このような規律を設けることについて,引き続き検討することに賛成という意見が多数です。   相続登記の場合と比べ,氏名あるいは現住所の情報等は,個人のプライバシー,個人情報に関わるものですので,氏名または住所の変更登記の申請について,過料の制裁をもって義務化することについては,非常に強い反対の意見があります。   登記申請義務について,訓示的な義務であることを前提として,部会資料26ページの2については,このような仕組みを作ることは有益だと思いますので,引き続き,これも検討することに賛成するという意見が多数です。   3の被害者保護のための住所情報の公開の見直しについても,賛成意見が多数です。   部会資料29ページの第3については,本文について賛成,(注)の別案については反対という意見が多数でした。 ○山野目部会長 御意見の分布をお教えいただき,ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,このような仕方で,次回に整理をし,中間試案に盛り込んでよいかどうかということを改めてお諮り致します。   続きまして,第4及び第5についてお諮りすることになります。   第4のところは,登記義務者の所在が知れない場合等における登記手続の簡略化の観点から,二つの問題提起を差し上げています。   一つ目は,現行の不動産登記法70条の規律を見直す方向について,部会で御議論のあった内容を盛り込み,しかしながら,まだそれで決め撃ちする段階に至っていないと見られますところから,引き続き検討するという内容として,意見公募に進むということをお諮りしようとしています。   それから,もう一つは,法人としての実質を喪失している法人を登記名義人とする担保権に関する登記の抹消手続の簡略化については,そこにお示ししている,部会資料33ページにお示ししているような意見に賛同する御意見を多数承ったところでございますから,このようなものを採用することはどうかという仕方で,中間試案に進むということの問題提起を差し上げております。若干あと補足説明を,その他として添えました。   第5のところにつきましては,登記名義人の特定に係る必要な登記事項の見直しとして,会社法人等番号を登記事項として追加するということは見通した上で,その他の論点について,引き続き検討するというふうに申し上げてございます。   36ページの外国に住所を有する登記名義人の住所を把握する方策につきましては,連絡先を書き添える登記を可能とする方向を打ち出しており,さらに,その余の点についての検討の必要を示唆してございます。   37ページの3,附属書類の閲覧制度の見直しについては,正当な理由ということを要件として,法律において指針を明確化した上で,必要な実務上の対処が適切にされる方策等について,一般の意見を尋ねるという方向を打ち出しているところでございます。   この第4及び第5の部分につきまして,御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○今川委員 第4の登記手続の簡略化の1ですけれども,買戻しの登記が,補足説明5の(注2)にあるように,元々,公示催告手続をとらない方法が本文に書かれていたのが,今回は(注)になっているんですが,司法書士の中では,やはりこの簡略化は,元々,前回の資料で本文に書いてあったように,公示催告の手続をとらずに単独で抹消するということを引き続き検討していただきたいという意見があります。   これは買戻しが,例えば譲渡担保的に利用されている場合も考慮されて,このようになったのではないかという意見もありますが,この辺りは,こちらもまだ十分検討をしていませんが,是非,買戻しについては御検討いただきたいと思います。   それから,第5の1の登記名義人の特定に係る必要な登記事項の見直しですけれども,これは,所有権の登記名義人以外の登記についても,会社法人等番号を追記していくということについては賛成です。   それに加えて,以前の部会でも申し上げましたけれども,自然人の場合,現行,所有権の登記名義人以外の場合は,住所を証する情報を提出していませんが,虚無人名義を防ぐためにも,所有権以外の名義人となる登記についても,住民票の写し等を付けていくということの検討を頂きたいということであります。 ○山野目部会長 ありがとうございます。御意見を承りました。   ほかにいかがでしょうか。 ○平川委員 37ページから38ページの「附属書類の閲覧制度の見直し」の関係です。   これにつきましては,本文の書き方としては,こういう書き方になると思うんですけれども,38ページの②の「正当な理由」であるとか,「必要であると認められる部分に限り」という部分については,39ページに,様々なケースについて記載が書いてあります。   ただ,住民票などの情報につきましては,閲覧について相当の制限を掛けているということもあります。住民票の方で制限を掛けて,こちらの登記簿の方で情報が筒抜けになってしまうということについては,そうならない対応というのが必要ではないかというふうに考えているところであります。こうした点については,住民票上の対応と整合性がとれるような仕組みというのが必要だと思います。 ○山野目部会長 御注意は誠にごもっともですから,アクシデントが起きないような仕組みをどう作るか,引き続き事務局の方で精査いたします。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本幹事 非常に細かいことですけれども,38ページの3の本文①についての部分で,申請人が提出した書類の閲覧の話が出てきまして,個人情報保護の観点,趣旨に反しないと書かれているのですけれども,むしろ個人情報保護の考え方からいうと,自己に関する情報を開示するように求めることができるというのが基本的な考え方ですので,その意味では,むしろ積極的に開示をする方向に,考え方としてはなると思います。   公益上の支障がある等の場合であれば別ですけれども,むしろ個人情報保護の観点からいえば,閲覧を認める方が基本ではないかと思います。 ○蓑毛幹事 第4以下について,日弁連のワーキンググループでは,大きな方向性としては,それほど大きな反対はなく,この方向で検討を進めるのがよいという意見が多数でした。   ただ,細かな点では,幾つか異論があります。例えば,部会資料の32ページで,買戻期間の経過している買戻特約はいいんですが,それ以外の登記された存続期間の満了している権利,地上権,永小作権,賃借権,採石権について,権利の消滅が強く推認される類型であると記載されているのですが,果たしてそうなのかという意見があります。例えば賃借権ですが,賃貸借契約では,更新の条項が設けられることはよくあることで,果たして,賃借権の当初の期間が満了しているからといって,権利の消滅が強く推認されるといえるかについては,疑義があるところです。   それから,法人としての実質を喪失しているものについて,当該法人が解散した日から30年とあるのは,もう少し短くてもよい,という意見がありました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,今,部会資料19について,ずっと順番にお諮りをしてまいりましたけれども,何か御意見として,御指摘の漏れをお持ちの方がいらっしゃいますか。 ○中村委員 1点だけ確認させていただきたいと思いますが,部会資料37ページの一番下の3項,附属書類の閲覧の見直しの②の部分の正当な理由がある者の範囲についてなのですが,被害者情報の保護との関係で,正当な理由というのをどのようにいうかによって,加害者である人を排除し切れない場面が出てきはしないかという指摘が,日弁連のワーキングでございました。   被害者である人が,自分の住所,氏名を登記面上に表さないようにという申請をするときに,加害者の住所,氏名まで届け出ることになっていたかどうか,そこまでの記載はなかったように思いますけれども,申請のときにそのようなものがないと,正当な理由があると称する人が,排除されるべき加害者と同じ人かどうかということが確認できないのではないかというのが一つと,仮に,例えば加害者が友人などをかたって,当該不動産の取引関係に入ろうとしている者を装って閲覧請求に行くなどという場面というのが考えられますので,何らかこの部分については,被害者支援の専門家の意見を聞いて,詳細を詰めるというような形で,中間試案というふうにしていただくのがよろしいのではないかと思いましたので,申し上げます。 ○山野目部会長 御懸念はごもっともでございますから,受け止めて,事務局において,また可能な対応を考えますが,中村委員が御心配になっておられることはごもっともでありまして,部会資料の40ページに掲げられている,参考としてお示ししている平成27年の民事第二課長通知に基づいて,現在,法務局,地方法務局の各庁において行われている非常に厳重な取扱いが,今後も,この不動産登記法の規定見直しがあったから,かえって緩むということではなくて,同じ取扱いがされるというイメージで,当然のことながら考えています。   37ページ,38ページの法文のイメージでいうと,何か被害者保護の必要がある人に係る情報の提供が求められたとき,人によって出したり出さなかったりするようなことになってしまいそうな印象を与えますが,そうではなく,27年民事第二課長通知以来,法務局の全部がそうかどうか分かりませんけれども,その人の附属書類に関しては,別な棚に置き,きちんと紐を掛けて分け,外に出さないようにしています。その件については,誰から求められても,機微に触れる,出してはいけない部分は出しませんという扱いになっていますから,その扱いが,今後もこの抽象化された法文の中で,しかし特出しでは続けていかなければなりません。39ページの一番下の行の「加えて」から,次のページの最初の4行のところは,そのことを最後まで忘れないようにし,政省令や通達で,ここは特別に忘れないように規律上,運用上明確化するという意識の下で,この段階でも補足説明に残しておこうということを考えました。   中村委員にお叱りを受けるだろうと思って,ここの規律は補足説明で,特に強調して入れておいたところでございますから,なおきちんと意見公募の手続等も通じ,御注意を踏まえて,事務当局において対応いたしますけれども,そのことを忘れないで,引き続き進めるというつもりでおります。よろしくお願いいたします。 ○中村委員 分かりました。ありがとうございます。 ○平川委員 制度外の話になるんですけれども,こうしたう不動産登記制度の見直しによって,法務局への手続に訪れる方が大変多くなる可能性もあります。一つは私は,連合出身でありますので,法務局の実施体制含めて,しっかりと対応していくべきだということを意見として言わせていただきます。   それともう一つ,住民にとって利便性の問題に関して言わせていただきますけれども,例えば,全ての離島に法務局があるわけではありませんし,北海道でも,旭川と稚内の間は二百何十キロありますけれども,その間に法務局はありません。こうした地域の住民に対しての利便性,手続に対しての利便性をどうしていくのかということも,引き続き,様々な形で検討していただければと思います。意見として言わせていただきます。 ○山野目部会長 平川委員の前段及び後段の御意見を受け止めさせていただくことは,もとより当然として,御案内申し上げますと,2018年5月22日の衆議院国土交通委員会における質疑において,議員から,所有者不明土地問題に対する施策が積み重ねられていくことは当然であるとして,法務局,地方法務局の現場の職員の労務環境について,十分留意されたいという質問があり,それに対する質疑応答の経過の中で,もとよりもっともであるということが,国会の質疑において確認されております。   ただいま,その方面のことから,更に留意を望むという御指摘を平川委員から出していただいたものというふうに受け止めます。ありがとうございます。   後段の離島や遠隔地等において法務局,地方法務局の事務を利用する国民の利便のことを考えなさいという御指摘も,ごもっともなものとして受け止めさせていただきます。ありがとうございました。   ほかに御意見等おありの方がいらっしゃいますでしょうか。いかがでしょうか。   そうしましたら,部会資料19の不動産登記制度についての一連の審議事項につきましては,本日頂いた御意見を反映させる仕方で,次回会議におきまして,中間試案の原案となるものをお示しするという手順に進むということにいたします。   不動産登記制度に関する御審議を頂きまして,ありがとうございました。多数の論点があり,ややお疲れでいらっしゃるかもしれません。休憩といたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   続きまして,審議事項のうち,実体法の部分の審議に進むということにいたします。   部会資料20をお取り上げください。部会資料20におきまして,「中間試案のたたき台(土地所有権の放棄)」ということを審議事項といたします。   部会資料20の1ページ目にありますとおり,第1のところで,土地所有権の放棄を認める制度の創設についての大綱的な方向を提案させていただいております。併せて,第1のその後の部分におきまして,御覧いただくとおり,土地所有権の放棄の要件と手続,それからさらに,少し性格が異なる問題になりますけれども,現行の民法255条が扱っております共有持分の放棄の要件についてもお諮りをしているところでございます。   これらを含めて,部会資料20で御提示申し上げている内容につきまして,一括して御意見を承ることにいたします。どうぞ,それでは,御発言をお願いいたします。 ○佐久間幹事 3ページの土地の所有権の放棄の要件及び手続の第2のところで,伺いたいことが2点と,ちょっとお願いというか,意見が1点ございます。   まず,放棄の要件なんですが,放棄を認めるにあたって,登記がきちんとされているということは求めないのかということを伺いたいと思います。あるいは,①の土地の権利の帰属に争いがなくというところに,登記がきちんとされていますということも含められているのかもしれません。その前提が採られていないんだったら別ですが,大事なことだと思うので,登記がされていないと,この手続は採れませんということを何らかの形で書いた方がいいのではないかと思います。これが1点目です。   2点目は,要件なんですが,モラルハザードを防ぐという視点が強調されていると思うんですね。それは誠にもっともだと思うんですが,そうだといたしますと,要件の中に,当該所有者による管理が困難となっているということを表す要件は要らないんだろうかと思いました。   一定の費用を負担せよというのが④にございますけれども,どちらかというと,定型的な定め方をするというようなことが,補足説明に書かれていたと思います。そうしますと,大変富裕な,財産のある方が,この土地要らないからということで,放棄しようというような場合に,現状の要件では,それを防げるようにはなっていないと思います。そういう場合でも放棄として受け入れますというのであれば結構ですけれども,そうでないとすると,管理の困難を表すような要件が要るのではないかと思ったというのが2点目です。   あとはちょっと,説明の仕方として,要望があるんですが,3ページの基本的視点のところです。前も一度申し上げたことなんですが,土地の所有者は自由に土地を処分する権利を有しており,権利の濫用は駄目なんだよね,というふうな書き方がされているんですが,民法206条の立法がされた当時から既に,これとは違う考え方が示されていたところでして,実は調べてきたんですけれども,梅謙次郎の「民法要義」を見ましても,民法206条で定められているのは物の処分についてであって,権利の処分は入っていないというふうに書いてあるんですね。   権利の放棄は入っていないということが書かれていて,この考え方を採るべきだというふうには私は申しませんけれども,やはり考え方は二つあるはずなので,もし工夫できるのであれば,中立的な考え方というんでしょうか,権利の放棄をすることができるという考え方もあれば,そうでない考え方もあると。しかし,一定の事情の下では,放棄に当たることを認める必要はありますよねというふうな,ざっくりですけれども,そういう書き方が,もしできるのであれば,私はそうしていただいた方がよいかと思います。権利の放棄ができるということを前提に,今回の制度が組まれるということになると,後々ちょっと,波及効果もあるのかなと心配しますので,私はそう望みますということを申し上げます。 ○山野目部会長 1点目はお尋ねでしたし,その他の点についても,もし所見があれば,大谷幹事の方からお願いします。 ○大谷幹事 ありがとうございます。   1点目の登記がされていることが前提だというのは,我々もそう思っております。今正に御指摘のあった,帰属に争いがなくというところだとは思っておりまして,登記名義人でない人が放棄をしに来たところで,それはやはり,あなたが放棄できる人かどうか分かりませんということになるかと思いますので,登記がされていることが前提となるというふうに考えております。   補足説明にどういうふうに書くかということも含めて,考えたいと思いますが,また,2点目の管理困難,本人にとって管理困難なことを要件としないのかというところでございますけれども,やはり元々の制度の趣旨として,現在きちんと管理されている土地を将来にわたって管理をできるようにするということから考えますと,富裕な人であっても,それは放棄ができるという方向が一つあるのではないかと。もちろん,管理の手数料等の負担があるということが前提ですけれども,それは放棄が可能だということで,ここでは提案をしております。   三つ目,補足説明の1段落目のところでしょうか,基本的に自由に認められるとも考えられるというところが,そうでないということも考え方として,十分あるということを書こうとしておったのですが,工夫ができるかどうか,ちょっと考えてみたいと思います。 ○山野目部会長 2点目は,富裕な人かどうかという話でしょうかね。その土地の管理が難しくなっているという観点が肝心であり,放棄をする人が金持ちか貧しいかという問題ではなく,むしろ,土地の所有者としての責務を果たすことに困難が生じている場合には,公共が代わって責を引き受けるものとするという,国土審議会の土地政策分科会特別部会の取りまとめの考え方を忠実に受け止めるような要件というものは入らないのですかということを,恐らく佐久間幹事はおっしゃろうとしたものと想像いたしますけれども,可能な限り受け止めて,引き続き検討していただければ有り難いと考えます。   佐久間幹事,よろしゅうございましょうか。 ○佐久間幹事 はい。 ○蓑毛幹事 今回の土地所有権の放棄を認める制度の創設の提案ですが,当初,様々な類型のものが取り上げられていましたが,要件について,ある程度絞り込んだと理解しました。   日弁連のワーキンググループの議論では,もう少し別の類型についても,放棄を認めてよいのではないかという意見がありました。例えば,知らないうちに,相続で崖地を相続してしまったけれども,その管理が困難になっている,といったものについて放棄を認めていいのでは,という意見もありました。   ただ,一方で,これまでの議論の過程で,財政的な問題や,市区町村の問題等含めて,様々検討した結果であれば,このような方向で,引き続き検討するということでよろしいという意見も多数ありました。   あとは,細かな点ですけれども,放棄を認める主体を自然人に限ることについては,意見が分かれています。部会資料の2ページにも書かれていますが,所有者不明土地が発生するのは,相続等を契機となっていることが多いので,これを抑制するという観点からすると,土地所有権の放棄を認める主体を自然人に限るというのも分からないではない,という意見もありました。一方で,破産であるとか,あるいは,少子高齢化の問題も絡んで,中小零細企業の廃業が多く起こっているということからすると,法人の所有する土地の管理が困難になっている場面もあるので,法人が土地所有権を放棄することも認めるべきだという意見もありました。   それから,3ページの第2については,基本的に(注)も含めて賛成です。土地の所有権を放棄した場合には,最終的に国に帰属する。一方,その前段階で,自治体等が必要としていて,取得を希望する場合には,贈与,寄附をするという(注3)の考え方を入れて,制度設計をするのがよいという意見が多数でした。   大筋はこのように賛成ですが,細かなことを幾つか申し上げます。第2の要件で,①の筆界の特定について,例えば国との間の筆界は特定されていなくても,特段問題はないので,放棄を認めてよいという意見がありました。また,(注4)で,樹木があったら全部駄目ということでは,狭過ぎるという意見がありました。ただし,これらの事柄は法律の要件を具体的に定めるところで議論すればよく,中間試案に当たっては,部会資料の考え方でよいという意見が多数でした。   第3の共有持分の放棄も,基本的には,これでよろしいのですが,共有者が不明な場合は,同意が取れませんので,何か手当てを考えるべきだという意見がありました。 ○山野目部会長 弁護士会の先生方の意見を御紹介いただきまして,ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 まず,佐久間さんがおっしゃったところで第3番目になるところですが,民法206条を引用するのは,ちょっとまずいのではないかと思います。   と申しますのは,所有権が放棄できるのであれば,地上権も放棄できるはずですが,民法265条には,地上権の内容として「処分ができる」という文言はありません。そうしたとき,民法206条の「処分」という言葉が,放棄のことも含んでいると考えますと,所有権だけが放棄できるということにもなりかねなくて,それはおかしいわけです。仮に放棄ができるとすると,それは一般理論によって放棄ができるのであって,206条の文言によって放棄できるわけではないと考えられますので,私はまずいかなと思います。   2番目に,蓑毛さんがおっしゃったことに関連して,幾つか申し上げたいんですが,第1に関して,相続をきっかけにしているということになりますと,法人が含まれなくてもいいという考え方があり得るということですが,それはそうかもしれないと思います。しかし,そうなると,今度は,自然人の放棄に関しても,きっかけの限定を付さないと,おかしくなるだろうと思います。   自然人による放棄に関しては,所有権というものの性格といいますか,一般論として放棄ができるのだという考え方があり,それを前提としながら,一定の要件を課すという形になっているのであり,そうしますと,法人については相続が生じないので放棄が認められないというのは,理論の作りとしては難しいのではないか。もちろん,第2のところで,時期的な要件というものや,きっかけ的な要件を課して,そのうえで自然人に限るということは,考えられないわけではないのかもしれません。   最後,共有持分の放棄については,これは,こういうことで仕方がないかなという気はするのですが,所有権の放棄と整合的なのかなというのは若干気になっています。共有持分を放棄したら国が共有持分権者になるというのが,あるいは整合的なのかもしれないと思ったりもするのですが,しかしそれはあまり面倒だと思われますので,第3の1というのは,もっともかなという気がしております。 ○山野目部会長 やはり梅謙次郎先生は偉かったということであり,206条の説明はやはり駄目だよという,お二人の先生からのお叱りを頂きましたから,補足説明は十分に考えることにいたします。 ○今川委員 私は,まず第1のところで,ランドバンクについては,今回,現実的ではないということで,外されていますけれども,この部会で検討することではないのかもしれませんが,ランドバンクについては継続して検討していただきたいと思います。   当該土地だけを捉えた場合に,利用等が難しい場合でも,一定の地域で集約をするとか,何らかの工夫をすることによって,新たな利用が生まれる場合もあると思います。それは,民間に任せていては,なかなかできない部分もありますので,最終帰属先をランドバンクとすることを必須とするのではなく中間的な機関として置くことも含めて,ランドバンクというものを,検討はしていただきたいと思っております。   繰り返しますが,ここの部会で詳細な部分まで検討することではないのかもしれませんが,それは希望として申し上げておきます。   それと,放棄の要件ですが,この要件を全て満たさなければならないということだと思いますが,山林などが特に,放棄をしたいという要望が多いとは思うんですが,山林について,筆界の特定が絶対要件になっていると,ちょっと厳しいと感覚として思います。そこは検討いただきたいということと,それから,個人の事情については,余り考慮しないということでしたけれども,やはり様々な事情により,土地の管理が継続できないというような場合もあり得るので,それも検討の範囲に入るような形にしておいていただきたいと思います。   それと,第3の2のその他,賠償責任等ですが,土地の瑕疵というのは当然,隠れた瑕疵であるということが普通は多いと思いますので,長年にわたって責任を負うということになると,負担が大きいと思いますので,例えば期間の経過により責任が免除される等の検討もしていただきたいと思います。 ○山野目部会長 御意見を頂き,ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   松尾幹事,お願いします。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   土地所有権の放棄によって権利が国庫に帰属するまでのプロセスについての確認ですけれども,仮に要件が満たされて,放棄が認められると,無主不動産になって,国庫に帰属するというプロセスの途中で,認可という手続が入っております。部会資料20の7ページですけれども,認可を介して放棄へという,このプロセスを確認すると,土地所有権を放棄した人は,放棄の申出をして,その認可があると,それによって無主不動産になって,それで239条2項で国庫に帰属するというプロセスなのかなと思います。そうなると,これは本来的な土地所有権の放棄を認めるものではなくて,特殊な土地所有権の放棄といいますか,認可によって初めて認められる土地所有権の国庫帰属のプロセスを定めたものという理解でよろしいかどうかという点の確認です。   そのことと関連して,登記手続は,所有権放棄の申出に対する認可があれば,それは嘱託登記ということになるということでいいのかどうかという点も併せて伺えればと思います。   それから,もう1点は,賠償責任の話で,部会資料20の9ページ,10ページに出てまいりますが,第三者に対して国が不法行為責任を負った場合に,放棄者に対して賠償責任を追及するというときに,認可の取消しの在り方と併せて検討するということで,例えば,土地所有権放棄の申出を認可した後で,第三者から土地所有者に対して賠償責任が追及されたというときに,例えば717条が例に挙がっていますが,例えば717条3項の原因者に対して求償請求していくことは,認可を取り消さなくても可能かと思いますが,ここも認可の取消しとの関連性について確認できればというのが,第2点でございます。 ○大谷幹事 3点御質問を頂きました。   1点目の所有権の放棄のプロセスですけれども,御指摘のとおりで,所有権の放棄の申請をして,認可がされたというときに,所有者のないものになって,直ちに国庫に帰属するということを考えておりましたので,そこは御指摘のとおりでございます。   それから,それで国庫に帰属した場合の登記の在り方ということ,これも当然,考えないといけないことだと思っておりますけれども,どのような機関が審査をするのかと併せて考えていくことになるのかなとは思っております。もちろん,国の機関に対してアクセスをしていくことになると思いますので,登記の手続については,比較的容易にするということになるのではないかと思っております。   それから,最後の点の不法行為責任等,一般ルールとしては,717条の求償というようなことも,もちろんあり得るんだとは思いますけれども,ここで取消しとの関係というふうに書いておりますのは,瑕疵が何らか発見されて,要件が元々なかったということが分かったときに,直ちに取り消して返してしまうのか,何らか除去を求めるのかと,あるいは持っておいて賠償請求するのかということは,いろいろな選択肢があろうかと思いますので,この辺りも今後,関係する機関,いろいろございますので,協議しながら考えていきたいと思っているところです。 ○山野目部会長 松尾幹事が第1点でおっしゃったような,やや特殊な,変則的な官庁公署への所有権の移転のプロセスを定める手続でございますから,この度,補足説明で,今までそういう問題提起を差し上げておりませんでしたが,民法の改正ではなく,個別法で処するということも,法制事項ですから,これからよく考えなければいけませんけれども,あり得るという問題提起を差し上げているところです。   それから,第2点目の登記の手続の問題は,職権による登記というアイデアもお出しいただいて,承りましたけれども,恐らく官庁である国が取得することになりますから,国が登記権利者になる所有権の移転の登記手続は,既に不動産登記法の116条1項で嘱託をすることができます。登記義務者の承諾証明情報を提供して,嘱託をすることができますから,特にそれ以上,難しい手続を作る必要がなく,それで賄うということであるかもしれません。   3点にわたる松尾幹事の御提案,ありがとうございました。 ○山本幹事 基本的な制度が大体決まった後の話になると思いますが,本日の8ページの,5の認可の取消しとか,あるいは10ページの最後の賠償責任の問題は,これから更に検討していかなくてはいけない事項かと思います。   一言だけ申しますと,認可の取消しに関しましては,8ページに,一般法理を踏まえてと書かれていますけれども,原則は遡及的に原状回復をしなくてはいけない,ただし,信頼保護の要請から,それを制限するというのが一般法理であろうと思います。   そのような観点から申しますと,恐らく三つぐらいの問題がありまして,一つは,今,遡及的にと申しましたけれども,遡及効を発生させるか否かという問題があろうかと思います。   それから,二つ目は,人的な範囲の問題で,第三者が絡んだ場合,例えば国に財産が帰属した後に,第三者に譲渡が行われた場合のように,第三者が登場した場合も取消しをするか,あるいは,第三者に対しても取消しの効果を及ぼすかという問題があろうと思います。   それから,三つ目は,取消しの期間の問題で,長期間がたちますと,それだけ信頼保護の要請は増しますので,どれぐらいの期間がたったところで,取消しはやめるか,あるいはやめないかといった時間的な問題があろうかと思います。もしも,制度の大枠が決まれば,こうした点について,更に検討することになるのではないかと思います。   10ページのところは,先ほどもお話がございましたように,結局のところ,これはかなり特殊な,鍵括弧付きの放棄の制度になろうかと思います。このような場合に,元の所有者と国との間に,どのような法律関係が成り立つかということについては,実は私も考えたことがありませんでしたし,それほど参考になる直接の類例があるわけでもないと思います。この点はさらに,実体法関係ですけれども,検討する必要があろうかと思います。そもそも,こういう担保責任が観念されるかどうかというところから考える必要があろうかと思います。 ○山野目部会長 誠にありがとうございました。御意見承りました。   藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。   1点だけ,3ページの第2の土地の所有権の放棄の要件のところ,③のところで,以前出ていた資料では本文に書かれていた「現状のままで土地を管理することが容易な状態であること」の具体的内容が今,(注4)に落ちているという状況かと思います。   この(注4)に書かれている内容は,基本的には,これまで出ていた項目だとは思うのですが,以前の部会で審議された際にも申し上げたとおり,やはりこのアからエまでの中で,ウの「土地に埋設物や土壌汚染がないこと」の証明というのが,ちょっと極端に重たいというか,本当にないことを証明しようと思うと,かなりコストが掛かる話になってくるのかなと思っておりまして,加えて,現状のままで土地を管理するという前提で考えると,埋設物とかが本当に土地の管理の妨げになるのかどうかというのは,突き詰めて考えていくと判断が難しいところではないかと思います。土地を用途変更するとか,そういった段階になってくると,どうしても埋設物や土壌汚染の問題も出てくると思うんですけれども,この「現状のままで」という本文のフレーズと,(注)に書かれている具体的な中身のところで,ちょっとギャップがあるように感じられたところもございますので,例えば,現状ですら管理することが難しいくらい,埋設物とか土壌汚染の影響があるという状態を想定しているのであれば,そういうふうに書いた方がいいのかなと思ったところもございますし,逆に,そうではなくて,埋設物,土壌汚染というのは別の話でこれらがある以上は土地所有権の放棄を認めない,ということであれば,③の本文でのまとめ方が,若干ミスリードになるのではないかなと,これはもう感想レベルではございますが,思った次第です。   結果的に,この要件があることで,要件へのあてはめを厳格にやろうとすると,相当所有権放棄が認められる範囲が狭くなる,ということは,賛否を抜きにして,いろいろな会社からも意見をもらっているところですので,その観点から申し上げた次第です。 ○山野目部会長 ありがとうございます。よく分かりました。   潮見委員,お手をお挙げになりましたか。 ○潮見委員 放棄のところは,前も休んでいましたし,中身については特に言うことはないのですが,先ほどから問題になっている,一番最後の10ページの2のところの記述は,個人的には極めて簡素というような印象を受けました。   先ほど,山本幹事のお話にもありますけれども,結局,一方で,土地を放棄したい,土地の所有権を放棄したい人がいる。他方で,国がそれを取得している。特別な関係はありますけれども,しかし契約関係といったようなものではない。その場合に,行政処分の取消しということで,全部一元的に処理するのであれば,それはそれでいいですが,そうではないとした場合に,なぜ損害賠償請求権というものが正当化されるのかという辺りについては,しっかりと考えておいていただきたいという感じがいたします。   それから,ここで国に不法行為が成立するということで,民法の709条しか書いていないと。ほかにも国家賠償法2条とか,いろいろなものがありますから,その辺りは書いていただきたいし,それから,担保責任という言葉が余りにも軽々しく使われているのではないかという感じがいたします。   補塡をするという意味であれば,担保責任でもよろしいのかとは思いますけれども,担保責任という言葉については,民法上では,ある種独特の意味合いを持って使われるところがありますから,少しその辺りは,誤解のないような表現の仕方をしてほしいというふうにお願いしたいところです。   それから,全般に,これから後の中間試案のたたき台にも関わることなので,一言申し上げます。   今回も拝見していたときに,(注)のところで,「前提としている」という書き方をしている部分が多々ございます。その中には,この部会では恐らく異論を見ないというような形での前提というのもあろうかと思います。しかも,その前提となっていることに,極めて基本的なルール,方針というものが書かれているものが少なくないようにも思います。   もちろん,法制局的に考えたときに,条文に落とす必要はないから,ゴシックの本文に入れなくていいという配慮も働いたのかとは思いますけれども,例えば,先ほどの1ページ目の(注3)とか,この辺りにあるというのは,極めて微妙なところがありますけれども,パブリックコメントというのは基本的に,皆さんがどういうふうに考えるのかというところの意見を問うところですから,ここの部会で,ほぼ異論がない前提として認められた部分であり,かつ,先ほど申し上げました基本的な事柄に係る事項については,できましたら本文に組み込めないかというところを,是非検討をしていただきたいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   損害賠償責任に関して御指摘いただいたこと,関連して,担保責任という概念といいますか,言葉を慎重に用いてほしいという御注意,いずれも承りました。   また,ここに限らず,中間試案の全体の見ばえといいますか,文体の問題を考えたときに,工夫をしてほしいという御要望も頂きました。お役所の文書の常として,大事なことは注記で小さな活字で書くという嫌いは,法務省に限らず,なきにしもあらずでありますけれども,そうであってはならないというふうに感じられます。   潮見委員が御指摘になったように,法制的なことも少しは考え始めなければいけませんから,(注)にするか,本文にするかは,もう1回検討しなければなりませんけれども,いずれにしても,例えば前提にしているという言葉遣いが,場所ごとにやや異なる意味で用いられているような嫌いもありますから,仮に(注)に置いておくとしても,そういう言葉遣いについて,意見公募に対応してもらう国民各層から見て,理解がしやすいものに,よりなっていくように,事務当局において努めることにいたします。ありがとうございます。   引き続き,いかがでしょうか。 ○中田委員 内容のことではなくて,表現だけなんですけれども,読んでいて,ちょっと分かりにくいところがございました。   3ページの第2の(注4)の㋐を拝見しますと,土地の性質に応じた管理を阻害するという言葉が建物に係っております。他方で,5ページの上から10行目ぐらいでしょうか,アというところでは,今の言葉は有体物の方に係っていて,建物に係っておりません。したがって,建物が一体どうなるのかというのがちょっとよく分からなかったんです。   さらに,そのアの最初のパラグラフで,土地上に建物がある場合には,基本的に土地所有権を放棄することはできないと書いてありますので,基本的にということは,例外もあるのかなというふうに読んでしまいました。その御趣旨がなにか,少し明確にしていただいた方がよろしいかと思います。   取り分け,その次の次のパラグラフで,「しかし」以下のことが出ているんですが,この意味もちょっと分かりにくくて,最終的にさらに,譲渡を試みる際に,建物があった場合にどうこうという話がありますが,そうすると,更地にした上で,もう一遍譲渡の努力をすることが必要なのかどうかも明確ではないように思います。そこで,この建物がある場合についての規律を,もう少し明確にしていただいた方がいいのではないかと思いました。 ○山野目部会長 今の御注意をいずれも受け止めるということにいたしますが,現時点で何か,大谷幹事の方からお話がおありでしょうか。 ○大谷幹事 確かに,少し表現が揺れているところがあるのかと思います。基本的に,建物はないということを求めたいというのは元々思っておりましたけれども,管理を難しくするような有体物がないということですので,5ページのアの方が正しい書き方かなと思いますけれども,この表現に合わせる形で作り直しをしたいと思います。   また,建物がある状態で,放棄をしてもいいのではないかということに関する補足説明がございますけれども,これも,建物がある,上物がある状態で一度売却を試みたんだと,譲渡を試みたのだということで,それで相当な努力が払われた,その後,取り壊して放棄をしたということでもいいのではないかということを書きたかったわけですけれども,取り壊した後に,またさらに,売りに出すということではなくてですね。ということもでいいのではないかというふうに書いておりましたが,少し表現については考え直したいと思います。 ○山野目部会長 松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 すみません,2点ほど付け加えて,お伺いしたいこととコメントです。一つは,今回の土地所有権の放棄の制度化は,所有者不明土地の発生予防を図る,所有者不明土地になる土地の予備軍をできるだけ減らすという,そういう制度的位置付けをするという背景があったように思います。   所有者不明土地の発生予防機能を果たすためには,ある程度放棄を認めることになりますが,その要件をどれだけ絞るかということと連動していて,要件を厳しくすればするほど,発生予防機能,所有者不明土地の発生予防ということは難しくなるのではないかと思います。   要件については,部会資料20の3ページの①から⑤に書いていただいてありますが,とりわけ②と③,特に③の要件をどれだけ厳しくするのかということも,非常に重要な問題です。その際,制度全体としては,所有者不明土地,あるいは誰にとっても管理が難しくなっている土地を,どうやって国全体として管理していくことが,全対としてのコスト削減とか負担の公平につながっていくかという観点から,やはり考えて検証していく必要があるのではないかと思います。そういう点から見ると,これらの要件のうち,とりわけ③をどれだけ厳しく考えるかということが,実質的には重要な問題になってくるのかなと思います。   ③のように,現状のままで土地を管理することが容易な状態であることというときの,容易なということが,誰にとって容易なということを想定しているかということがちょっと気になります。この前の案では,受け皿として,地方公共団体等も念頭に置いていましたので,地方公共団体が受け皿になっても大丈夫だということが,その背景にあったと思うんですね。   今回は,地方公共団体等については,前回のヒアリングもありまして,地方公共団体としては,土地所有権の放棄については非常に慎重に考えているということがありまして,今回も地方公共団体等を担い手とすることは控えて,贈与が成り立てばそれに止めるということになっています。そうすると,受け皿は国ということを考えたときに,国にとって管理が容易かということを前提に考えることになるのかなと思います。   その場合に,③の具体的な内容として,4ページの一番下から6ページに挙げていただいている要件ですが,余りにここを厳格にすると,制度が本来目的にしていたことが達成できるかどうかということも踏まえて考えるべきかなと思います。非常に難しい問題ですけれども,そういう印象を受けました。   それから,もう1点は,土地所有権放棄の申請があったときに,その情報をどうやって,ほかの人に伝えるかということです。具体的には,3ページの(注3)に出てまいりますが,例えば地方公共団体等で,それならうちがもらい受けましょうというところも出てくる可能性もあると思います。現在の(注3)の案では,当該土地が所属する地方公共団体に通知することになっておりますけれども,その他の,例えばランドバンクや地域コミュニティや,場合によってはNPOで引き受けるという可能性があることを考えると,何らかの形で情報を一般的に開示するとか,公示するとか,そういう仕組みもあってもいいのではないかと思います。それをここにどのように組み込むかということも,是非お考えいただきたいと思いました。   あるいは,これについては既にお考えあるかもしれませんので,その場合には,お伺いできればと思った次第です。 ○山野目部会長 御意見を承りました。   吉原委員,どうぞ。 ○吉原委員 ありがとうございます。   今の松尾先生のお話にも少し関連しまして,3ページの(注3)土地の所有権の放棄の申請,許可申請を受けた審査機関はというところについてですけれども,この許可申請の行い方について,所有者が地方公共団体を通じて,審査機関に申請をするのはどうだろうかと考えております。   これは,土地政策における国と地方の役割分担の問題でもあります。土地を国庫に帰属させるとしても,自治体の役割がなくなるわけではなく,むしろ地域のどのような人が,どのような土地を手放したいと考えているのかを把握するのは,地方公共団体にとって,地域の土地政策を作る上での大前提の基本情報だと思います。それが,自治体が知らないまま,所有者が審査機関に申請をして,そして,審査機関から自治体に通知が来て初めて,うちの地域の所有者がこういうことを考えていたのかということを知るというのは望ましくないと思います。   地方公共団体では,受入れを非常に,難しいとおっしゃっていますけれども,まず実態,どういうニーズがあるのかということを少なくとも把握して,地域でどういうことができるのかを考えることが,自治体が担う役割だと思います。その意味では,住民と審査機関をつなぐ役割は,自治体が担うべきではないかと考えます。   そのプロセスを踏むことによって,地域で担当窓口が置かれ,所有者から相談を受け,もちろん審査機関につないでいくわけですけれども,その前段階として,どういうところに売却の相談をしたんですかとか,もし森林組合にまだ相談していなかったら,聞いてみたらどうですかとか,あるいは地域のNPOで,土地の再利用の活動をしているところがあるから,ここにも聞いてみたらどうですかというふうに,自治体の窓口で担当者が所有者とやり取りをするという,そういうコミュニケーションを図るということも,地域の土地利用にとって大事ではないかと思います。   今年2月の国土審議会土地政策分科会特別部会のとりまとめでは,地方公共団体は,土地所有者や地域住民が土地の利用・管理に関するそれぞれの役割を担うことを地域の公益を実現する観点から支援・促進していくことがうたわれております。それにのっとれば,いきなり所有者が国の審査機関に個別に連絡をするのではなくて,地方自治体が支援する役割を果たすことが望ましいと思います。かつ,その段階で,もし自治体で何らかの方策を採り得るのであれば,そこで地域で再活用ができると思います。   この点は,要件の⑤にも関わってくるのですが,⑤の相当な努力が払われたと認められる方法というのは,例えば地域の高齢者とか,あるいは都会に出て,地域を離れている相続人などにとっては,具体的にどうすればいいのか,すぐには分からないこともあると思いますので,相当な努力を払うためにも,自治体が窓口となって支援をしていくことが必要ではないかと思います。 ○山野目部会長 3ページの(注3)について,複数の御意見を頂きました。いずれも,本日お出しいただいた意見を今後の検討に反映させることにいたします。   考えてみますれば,放棄の認可申請をしたいという志を抱く私人がいるときに,そのような事案が存在するということを当該地域において情報共有するということは,重要な意義を有するものでありまして,今川委員からランドバンクの構想について引き続き諦めないで考え続けてほしいとおっしゃっていただいた点とも関連いたします。   恐らくは,ここで検討している基本法制が構築される見通しができてきた段階で,それを言わば骨といたしますと,それに対する肉付けとして,その情報を地域において更にいろいろ多様な仕方で共有していきましょうということが,土地政策を担っている政府の諸部門の協力によって追加して充実させていくということになると予想します。   地方公共団体に限らず,都市再生法人であるとか,地域でまちづくりの活動を担っているNPOとかに知らせ,いろいろ考えましょうというふうな候補になる団体はたくさんありますけれども,ひとまず公法的な,あるいは行政手続としての通知の手順を考える際,今,地方公共団体というものに限って出していますけれども,更に制度の発展的契機をいろいろ考えていく余地はあるかもしれません。   また,この認可申請をどこに出してもらって,どのような手順で手続を始めるかは,御提案を踏まえて検討していくとともに,法制的に行政手続の仕組み方として,きちんと成り立つものにしていかなければならないという要請もありますから,それらの諸要素をにらみながら,検討を進めていかなければならないと感じられます。   いずれにしても,お二人の委員及び幹事から御提案,御指摘を頂きまして,ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 私,吉原委員がおっしゃったことは,非常にそれとして,非常によく分かるところであり,大変勉強になる御指摘だったのですが,考え方として,この土地所有権の放棄という制度は,土地所有権の放棄ができるという権利を土地の所有者に与えるという制度なのか,ある種の裁量的な要素を持って,土地の所有権の放棄を認めてあげる場合もあるよねという制度なのか,どういうふうにして作るのかということと密接に関係しているように思います。   というのは,吉原委員がおっしゃった制度ですと,例えば土地の所有権を放棄したいといったときに,恐らく手続が始まるまで,異様な時間が掛かると思います。つまり,当該土地が所在する地方自治体の窓口が,なかなか認めてくれない。こういうのもありますよ,こういうのもありますよ,こういうのもありますよ,行ってごらんなさい,行ってごらんなさいというふうにいったら,なかなか進まない。しかるに,国に対して届出をすると,それで手続がスタートし,その後に地方自治体に回ってくるというシステムにしますと,スタートはするんですね。しかし,スタートさせるべきなのかどうなのかというポリシーの問題は,実は,よく自分でも判断が付きかねているところがあります。   ただ,もし仮に,これは土地の所有権というのは放棄できるのが原則で,それを放棄ではなくて,国への譲渡だという話もありましたが,そういうことが,手放すことができるというふうなのが原則で,それに一定の手続・要件をかませようというだけだとしますと,恐らく,最初から国に申し出るという手続にすべきなのだと思います。しかし,どちらがいいか,私は分からない。 ○山野目部会長 ただいま,道垣内委員がおっしゃっていただいたことがあるからこそ,私,先ほど,行政手続として,この(注3)のところをどう仕組むかということについての法制的な観点からの検討の要請があって,それは無視することができないということを申し上げました。   そのような法制面のお話とともに,しかし松尾幹事,吉原委員からお出しいただいたように,放棄を望む者がいるという情報を地域が共有した方がよいという実質は,そちらはそちらで,それに御異論のある方はおられないであろうと考えますから,硬い手続の仕組み方,柔らかいスキームの構築の仕方,それぞれを考えていくということになるでしょうし,だんだんこの(注3)のところの検討が深められていけば,山本幹事と御相談したりして,今出ているような諸要請がなるべく調和するような仕方での行政手続の仕組み方を考えていくことになるであろうと感じます。 ○山田委員 3ページの第2の③について,意見を申し上げたいと思います。   既に議論も幾つか発言があったところで,土地の管理コスト,モラルハザードなどがキーワードになるんだと思いますが,ここで示されている考え方は,一定の合理性はあるのだろうと思います。しかし,中程度に負担があって,手放したいという人は,この③の容易な状態というふうに認められたら手放せるということになります。しかし,高い程度で困っている人は,あなた,そのまま所有を続けなさいという制度になるように思います。   (注4)を見ますと,例えば土壌汚染というのがウにあって,土壌汚染の原因を作った人ならば,高い程度に手放したいと思っていても,それはあなたが原因を作出しているでしょうというような理由は,私もよく分かるのですが,ただ,崖とか,所有者に起因しない原因で管理が困難な状態にある,高い程度に管理が困難な状態にあるような場合には,あなた頑張って,あなたの相続人も持ち続けなさいということにまずなって,そしてここでは,何か補助金などで頑張ってねと,補助金なども考えましょうという作りになっているんですが,どうもその哲学が腑に落ちないところがあります。   どうもこの③というのが,この場で出ている議論はうまく取り入れて,整理したことになっているように思うのですけれども,困っている人を救うための制度ではないということは私も理解しているのですけれども,しかし,困った人に手を差し伸べないままでいくと,所有者不明になって,管理不全になって,それはやはり公共の利害に関わりますねというところで考えていくと,この③については,もう少し工夫をしていただくか,やはりうまく腑に落ちるような哲学を,この部分を維持する際には,考えていただくということが必要になってくるのではないかなと思います。   私には,すみません,提案はありません。 ○山野目部会長 今,山田委員がおっしゃったことが,実は勘どころをなす問題であるからこそ,しばらく前に,御意見をお出しいただく最初の段階で,佐久間幹事が,管理が困難な状況になっているということを観点として入れなくてよろしいかということをおっしゃったものであって,それに対し,事務当局が富裕かどうかをいうことをおっしゃったから,富裕かどうかはあまり関係なくて,正に山田委員が今おっしゃったような観点について,確かにお話しになっておられるとおり,難しい問題で,一つの思想のみ正しいというふうに決め撃ちすることができる問題ではないかもしれないですけれども,そうであるからこそ,なるべく明瞭な考え方,あるいは考え方のモデルが複数あるということを国民に分かってもらうような仕方で,問題提示をしていかなければならないと感じます。   12月3日の会議までに,山田委員が,我々全体が悩むべきこととして確認されたことを,どこまで文章表現として受け止めることができるかどうか,考え込まなければいけませんけれども,努めることにいたします。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○潮見委員 山田委員がおっしゃったことの別の面だと思うんですけれども,先ほど,冒頭に佐久間幹事が言われた,土地の所有権はその所有者が自由に放棄でき,そのコストとか管理面での負担を自由に回避できるのだという観点から,この制度を作るのでしょうか。この場合には,放棄をするということを制約するのは,それなりの理由が要ります。例えば,これは民法でなくても,特別法であってもそうだと思います。   他方,説明の文章というのは,どちらかといったら,本来は土地の所有者が,その管理のコストを負担するべきであるところ,それを一定の要件を満たし,一定の手続を踏むことにより,はじめて国がそれを負担することでリスク転嫁をすることが許されるという観点から立てられています。   後者の場合には,さらに,どういう要件がというところで,山田委員がおっしゃったところも関わるし,考え方はいろいろあると思うんですけれども,どの要素を考慮に入れて,どの要件を実体法上で仕組んで,手続をどう踏むかを,先ほど吉原委員がおっしゃったようなことも含めて,補足説明を少し工夫していただいきたいと思います。   もう一つ前に道垣内委員が言われた考え方も,見方によっては,基本的に同じところを言っているのかもしれません。よろしくお願いします。 ○山野目部会長 先ほどの山田委員の御意見とともに,承りました。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,部会資料20についての審議を頂きました。   私から,細かなことですけれども,2点申し添えますと,放棄を望むという立場に立つことができる主体を仮に自然人に限った場合において法人と自然人が共有する土地は放棄することが可能であるかという問題について,疑義がないような解決を得ておく必要があると感じます。   それから,部会資料の8ページで問題提起を差し上げている民法255条の見直しの方向についてでございますが,本日余り,ここにたくさんの御意見を頂いておりません。このまま中間試案はこういうふうにすることも考えられますけれども,最終的に255条の改正の見直しを考えなければならない作業の段階になったときに,案じられる部分はあります。なぜ不動産についてのみ,こういうふうな規律を設けるかということについては,説明が要ると感じます。   なお,共有者の同意を得た上でする放棄というものも,なにかヘンですね。放棄というものが単独行為であるはずであるとすると,そこの議論は,土地所有権の本体については,場合によっては個別法で処することによって,民法の体系そのものの中では,放棄の概念をめぐる紛議を避けることができるような工夫ができそうな見通しも出てきておりますが,ここで,同意を得た上で共有者が放棄をすることができるという概念が登場してきますと,では,ほかの放棄の概念の考え方との整合性はどうなるかというような問題に波及していくおそれがございます。   それらをどう整理していくかにもよりますけれども,255条の中から,共有持分の放棄の規律の部分を消すという方向が,一つの明快な在り方として考えられます。そこから少しずつ退いていったときに,理論的にも実際の結果としても適切なものが奈辺で得られるかといったようなことも,今後考えていかなければならないと感じます。   部会資料20について御審議を頂きまして,ありがとうございました。 ○道垣内委員 申し訳ございません。山野目さんの御発言に触発されてですが,不動産の所有権放棄,あるいは土地の所有権放棄について,要件をいろいろ定めるということは,動産の所有権放棄について何らの影響を及ぼさないという解釈は,可能は可能だろうと思うんですね。   ところが,共有のところに関して,不動産に関してだけ特殊なことを書きますと,動産に関しては現状の規律がそのまま適用されるということ,あるいは,不動産とは違うのだということになるのでしょうが,やはり危険物とか有害物たる動産の共有などを考えますと,やはりそう簡単に,持分権のある人に放棄されると,残りの人にコストが大変掛かって,困ることは多々あるんだろうと思います。   そうなると,この部会のタームズ・オブ・レファレンスが不動産の話であるから,動産については口出しできないというのは,それはそうなのかもしれませんが,ここの部分に関して,動産に口出ししないで,不動産に関してだけ関係した制度を置きますと,ちょっと動産への跳ね返りが大き過ぎて,ここは動産を含めて考えるというふうなことにしてもよろしいのではないかという気がします。山野目さんの発言に対する,全くの蛇足です。 ○山野目部会長 貴重な御意見を頂きました。ありがとうございます。   それでは,部会資料20について御審議を頂きました。引き続き,部会資料21をお取り上げくださるようにお願いいたします。   「中間試案のたたき台(財産管理制度の見直し(1))」について,お諮りを致します。   これについては,中身を御覧いただくとお分かりのとおり,所有者不明土地管理制度と,それから,それと区別されるものとしての管理不全土地管理制度と,この二つを題材としてお示ししているところであります。   どうでしょうか,一括して御議論をお願いするのと,この二つの制度を分けて御議論をお願いするのと,どちらがよいものでしょうか。全部ということは乱暴かもしれませんね。   話が他に及んでもよろしいということを前提として,差し当たり,所有者不明土地管理制度,第1の部分について,御意見をお尋ねすることにいたします。   ここについては,部会資料21の1ページ,土地管理人による管理を命ずる処分の基本となる事項をお出ししていることに加えて,その後,御覧いただくとおり,管理人の権限や義務,それから建物についての制度の適用可能性,それから土地の上の動産の扱い等について,問題提起を差し上げております。   1ページにお戻りいただくとすると,第7回会議で御審議いただいたときからの大きな変更点は,共有地について,この制度の発動がされる場合において,知れている共有者については,そのまま従前どおり,権限を行使してもらうものとし,管理人の権限が及ぶ範囲は,土地全体ではなくて,共有持分とする扱いに改めているというところに特徴がございます。   以上の御案内を差し上げた上で,第1の部分について,御意見を承ります。どうぞ御自由に御発言ください。 ○蓑毛幹事 日弁連のワーキンググループでは,今回提案されている所有者不明土地管理制度は,いわゆる土地単位での財産管理制度の新設として有意義であるとして,基本的には,賛成意見が多数です。   ただし,幾つか申し上げることがあります。  まず,そもそも,所有者不明土地とは何ぞやということです。所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができない土地という要件について,(注1)によると,合理的な範囲の方法で調査をしても,なお氏名又は住所を知ることができないとあるのですが,もう少し具体的に,自然人の場合にはどのような調査をするのか,法人の場合にはどのような調査をするのか,その結果,どのような場合に,所有者不明土地に該当することになるのかを,なるべく明らかにしていただきたい。これが一番重要な要件ですので。   次に,先ほど部会長から御説明のあったように,今回の提案では,共有地について,共有持分を対象とする管理命令が発令された場合,土地管理人の権限は土地全部に及ぶのではなくて,共有持分にだけ及ぶことを前提とすると。その点について,補足説明などで,もう少し分かりやすく,説明していただければと思います。   今,申し上げた,共有持分を対象とする土地管理人の権限について,確認と質問があります。部会資料を読む限り,共有持分を対象とする土地管理人の場合,保存行為は土地管理人が単独でできる。管理行為については,当該対象となった共有持分で過半数に達している場合には,単独で管理行為ができるけれども,過半数に満たない場合には,他の判明している共有持分権者と協議等をして,それで決することになる。また,処分行為等は他の共有者全員の同意がないとできないと,このように理解しましたが,それでよろしいですよね。   その上で,さらに質問ですが,例えば,この土地管理人は,他の判明している共有持分権者に対して,共有物分割請求ができるのでしょうか。あるいは,他の判明している共有持分権者との間で,共有持分の売渡しや買取りができるのでしょうか。また,別の箇所で提案されている,不明共有者がいる場合の同意取得の方法や,不明共有者に対する売渡請求,こういった制度は,この土地管理人が選任された場合には,できなくなるという理解でいいのか。その辺りのところを,教えていただければと思います。 ○大谷幹事 まず,その前提でおっしゃった共有持分の管理者なので,共有持分,その本人,不明の方が過半数に満たない場合には,保存行為しかできないと,その辺りのことは,おっしゃったとおりだというふうに考えております。   その上で,共有物分割請求ができるのかとか,持分を買うことはできるのかという点でございますけれども,恐らく,管理の在り方をめぐって,共有者と,それから管理者との間で話合いをして,うまく話が付かないというときに,では共有関係を解消してしまいましょうかということが,そういう共有物分割請求とかいうときには,想定されるのかなとは思いますけれども,共有物分割請求をすること,あるいは持分を買うことが排除はされないと思います。それは可能なんだろうと思いますが,一方で,誰がコストを負担するのかというか,管理者が買い取ろうと思ったときに,誰がお金を出すのかというような問題がどうしても出てくるのかなと思っておりまして,実際上,なかなかそういう形になるの,難しいのかもしれないと思っておりますが,理屈上は,それは排除されないだろうと思っております。   一方で,管理者が選任された場合には,もう管理人がおりますので,本人の代わりに同意をする人がいるということになりますので,その同意取得に関する催告や抗告での特殊な方法というのは,こちらでは使えなくなるというふうに理解をしております。 ○蓑毛幹事 分かりました。   その上で,さらに,質問ですが,ここでいう共有者が不明な場合というのは,通常共有の場合だけではなくて,遺産共有の場合を含むのでしょうか。遺産共有の場合であっても,土地管理人を選任し,保存行為は単独で,また,管理行為や処分行為は不明共有者の法定相続分に基づいて,行うことができるということでよろしいでしょうか。遺産共有の場合には,通常共有の場合の共有物分割請求に対応して,遺産分割の申立てができるということにはならないように思いますが,その点はどうか。その辺りの整理が必要かと思います。遺産共有の場合でも,土地の共有持分を対象とした土地管理人の制度は使えるのかどうかについて,教えていただければと思います。 ○大谷幹事 遺産共有者の場合の一部が所在不明になっているという場合でも,使えるというふうには考えております。   もっとも,遺産分割については,相続人自身ではないので,遺産分割の申立てを積極的にやっていくということはできないというふうに考えられると思います。 ○山野目部会長 遺産共有に適用されるということは,大谷幹事が述べたとおりですが,遺産分割の申立てができるかということになると,管理人の権限は,基本的には民法103条の権限の範囲内でございますから,疑義はあるところであり,恐らくできないということを,このまま何の規律も設けなければ考えなければならないかもしれません。   同じようにして,通常共有の場合の共有物分割請求も,かなり処分行為に近い性質のものでありますから,民法103条の権限の範囲を超えるものであり,これを土地管理人ができるということは,今の段階で余り決め撃ちしない方がよくて,もし御議論があるんとすれば,それは引き続き,ここで中間試案の前又は後において,議論を深めていくべき事項ではないかと感じられます。   お続けください。 ○蓑毛幹事 すみません,今回初めて,共有持分を対象とした管理人という概念が出てきて,その権限や義務について検討が不十分なように思います。この制度については,共有持分の土地管理人がどのような権限を有しているかを明らかにし,その次のステップとして,土地管理人は,その権限・職務に応じて,どのように職務を果たすべきか,どのような義務を負うのかということを,中間試案の後も含めて,議論しなければいけないと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   それから,蓑毛幹事が冒頭におっしゃった,1ページの中で,所有者を知ることができないというのは,どのくらい調べなければいけないかという問題を,もう少し明らかにしてほしいという御要望も承りました。   一応,1ページの(注1)で,そこの理解を促すような記述にしているつもりではありますけれども,なお明らかにせよというお話であるというふうに受け止めますから,事務当局において努めることとにいたします。ありがとうございます。 ○佐久間幹事 今の蓑毛幹事と大谷幹事,部会長とのやり取りにも関係するんですけれども,3ページにあります2,土地管理人の権限等の(2)のところで,これ,表現は難しいと思うんですが,今は,当該命令の対象とされた土地又は共有持分,ちょっと飛ばしまして,の管理及び処分をする権利というふうにありますよね。   そういたしますと,共有持分の処分をする権利が入ってくるとなると,分割の申立ても一種の処分の権利の中に入るのではないかというふうな印象を受けるところがありまして,その処分という言葉の使い方が気になります。処分としか表現しようがないのかもしれませんけれども,この射程を,場合によっては画する必要があるのではないかと思います。それが一つです。  もう一つ,同じところなんですが,その後,及びの後に,その管理,処分その他の事由により,土地管理人が得た財産の,やはり管理及び処分とあります。これについて,例えばですけれども,当該土地が賃貸されることになりました。賃料が得られましたと。あるいは,場合によっては売却もあり得ると思うんですが,売却しました,売買代金が得られましたと。それらについても,管理及び処分をする権利が専属するということでいいのか,よくないのか。   賃料ですと,それを得た後に,その後の管理のための費用をそこから捻出するということ,それに充てるということもあるはずなので,その意味では,処分はやはり入っていないと駄目なのかなと思うんですが,先ほどと同じで,処分というのが無制限に認められるんだろうか。それは,先ほど蓑毛幹事もおっしゃった,権限があって,次,義務を考えるんですよねというお話につながって,そこは義務を課しているので,権限としては与えておいて,実際上,権限を行使すると義務違反になることがありますと,行使の仕方によってはですね。そういうふうに読むのか。どちらでもいいと思いますけれども,何か,もうちょっと分かりやすく書いてあるといいかな,というふうに私は感じました。   もう一つありまして,(4)もちょっと気になっています。権限外の行為については無効であると,それはよく分かります。そのうえで,ただしの後で,わざわざ土地管理人はと書いてあるのが,ちょっと,何でかなと思いました。土地管理人以外の人は善意の第三者に対抗することができるんでしょうか。いや,そうだったら,それでいいんですけれども,いいというか,何でかな。この後考えようと思うんですが,ここについてお教えいただければと思います。 ○山野目部会長 事務当局から今,答えさせますが,佐久間幹事がおっしゃった前段を受け止めると,2の(2)と(3)の関係が不明瞭であると感じます。ここを正して説明していくようにいたします。   それから,(4)ただし書は,土地管理人はこれをもって,ではなくて,恐らく,この無効はこれをもって,善意の第三者に対抗することができない,であろうと考えます。   事務当局から補足してください。 ○大谷幹事 そのとおりと思います,すみません。もう少しきちんと考えてみたいと思います。   今の処分のことは,基本的には管理というものの中に,前回も御議論いただきましたけれども,主体が変わっていくということも,その土地の管理として,あり得ることなんだということを前提に考えたときに,売却ということもあり得るのだろうと。その場合には,もちろん基本的な権限が保存行為と利用改良行為ですので,それを超える分については,裁判所の御判断を頂いてということになるのかなとは思っておりましたので,その処分ということについて,売却は入るのだろうという前提で,もう少し考えてみたいと思います。 ○山野目部会長 佐久間幹事,今日のところはよろしいですか。   道垣内委員,お願いします。 ○道垣内委員 すみません,佐久間さんが先ほど,所有権の放棄のところで,「処分」という言葉に敏感に反応されたのにもかかわらず,今回,ここの「処分」ということに対しては何も言わないで議論を続けられたことが,ひどく違和感があるんですね。   つまり,206条の処分というのは,立法過程上は壊すことなんですね。壊すのも自由ですというのが,206条にいう処分の意味で,移転のことは入っていない。では,民法全体で,処分という言葉はどういうふうに使われているかというと,保存行為とか,そういうものに対応する言葉として,処分行為という,それは一つの範囲を示しているとともに,また,物上代位とか,遺言執行者の話とか,相続財産管理人のところを見てみると,必ずしも処分という言葉が使われているわけではなくて,滅失によって得られたとか,そういうふうな言葉で表現をしているのではないかなという気がするのですけれども,いや,抵当権の処分という言葉もありますから,簡単ではありませんね。結局,佐久間さんと最終的には一緒なんですけれども,何ができるのかというのが,処分という言葉で曖昧になってしまうというのは曖昧であり,それを処分という言葉の解釈でやろうとされた佐久間さんに対しては,206条の解釈についての佐久間さんの見解と,どのような関係にあるのかと聞きたいような気もしますが,そのことをここで議論しても仕方ありませんので,まあ,曖昧だということですね。 ○山野目部会長 それは,佐久間幹事に責めのあることではなく,(2)と(3)の関係が不明瞭であって,処分という言葉が必ずしも世の中では一義的に使われていないために多様な理解を招くおそれがあるから正してくださいと,佐久間幹事は事務当局に要望なさったものではいでしょうか。部会資料の建て付けがよくできていなかったことは事実ですから,佐久間幹事の意図するところを受け止めていただければよいことでありますし,伺いますと道垣内委員も内容的には同じ御意見の方向であるというお話ですから,いずれにしても事務当局の方で,ここの文章の(2)と(3)の論理的優先前後関係がよく分からなくなっているところについて,表現や,あるいは配列,順番ですね,等をきちんと見直した上で,次回お諮りすることにいたします。 ○中田委員 佐久間幹事のおっしゃった2の(4)のただし書で,土地管理人はというのが不要ではないかという御指摘でございますが,これは,表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の21条3項に倣ったものだと思います。同法では,ただし,特定不能土地等管理者は,これをもって善意の第三者に対抗することはできないとありますので,それとそろえたんだと思います。その上で,しかし,両法,二つの法律の関係はどうなのだろうかということが,むしろ疑問に感じました。   二つお聞きしたいのですけれども,適用対象が重なることがあるのかないのかということが一つです。   それから,もう一つは,構造が同じかどうかということです。つまり,本人がいるということを前提とするのか,それとも,本人に対応する者がいないのかということを知りたいということでございます。   先ほど大谷幹事から,本人という言葉がちょっと出たように思ったものですから,そこをまず,お教えください。 ○山野目部会長 2点,御質問いただきました。 ○大谷幹事 表題部所有者の不明土地の場合と被る場合があり得るのかというのは,恐らく理屈上は,あり得るのだろうというふうには思います。表題部所有者の場合には,表題部の所有者不明,表題部登記が特殊な登記になっているというもののみを対象として,探索の上で管理をするという仕組みですけれども,その場合に,所有者が分からないということがあり得るところで,そこに管理人が関与する。   こちらの管理制度においても,所有者を捜しても分からない,あるいは所在が不明であるという場合と分からないという場合がございますので,論理的には,それは被る場合があるのかなとは思っております。   表題部所有者不明土地の場合,特殊な登記がされたものについて,特殊なものであるので,それを解消するということで,新たな仕組みを作ったわけですけれども,それをさらに,土地に関しては,所有者が分からないということが管理を阻害する要因になるということで,新たに所有者不明土地の管理人の制度を作るということで,一部被っている部分があるのかなというふうには認識をしております。   多くの場合は,表題部所有者の不明土地とは違って,権利の登記もされている場合ということになりそうですので,権利者という者がいるだろうと。いて,それがどこにいるか分からないという場合が主な適用対象になってくるのかなと思いますので,その不明,所在がいないという場合には,本人というものが観念できるということになろうかなと思っております。 ○中田委員 そうしますと,表題部所有者不明の場合よりも,より多く本人が実在している可能性を想定するということになりますと,土地所有者の管理処分権が大きく制限されるということになりますので,財産権の保障との関係で,手続的保障を更に考える必要があるのではないかと思います。抗告とか,不服申立制度とか,もうちょっと手厚いのが必要ではないかなと思いました。   それから,同じく,土地所有者を想定するとなると,供託した場合の還付請求権について,土地所有者に対する債権者が,それを差し押える可能性があるのではないかと思うんですけれども,そのことも,できるのであれば,それを明記していただいた方がよろしいかなと思いました。   それで,もう一度,佐久間幹事の御指摘の2の(4)に戻りますけれども,土地管理人はというのを入れるのは,ほかの法制から見ると,何かやはり変な感じがしたんですね。破産法を見ますと,78条5項で,主体を示していないというのがございまして,多分そっちの方がスムーズだと思うんですが,ここでいう善意の第三者というのは,土地管理人の取引の相手方を含んでいるのかいないのか,それはいかがでしょうか。 ○大谷幹事 取引の相手方を含んでいるというふうに考えておりますけれども。 ○中田委員 相手方を含むとすると,やはり本人と土地管理人とがいて,第三者というのが相手方になるんだろうと思いますが,そこもちょっと不明確だなというふうに感じました。 ○大谷幹事 なるほど。 ○山野目部会長 中田委員から御注意いただいたうち,非訟事件手続の細目を手続保障に留意して整備することは,本日は中間試案のスケルトンのみ示すというイメージでお出ししていますから,当然のことながら,御指摘を踏まえ,きちんと整えていかなければならないと考えます。供託の手続についても同じであろうと感じます。   また,表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の後半のところの管理命令の手続に関する部分は,もしかするとということでありまして,検討してみなければ分かりませんけれども,今般,ここで検討をお願いしている法制が成り立つ際には,関係法律整備の中で,あそこの管理の制度を整理するということをした方が,むしろ明快になっていく可能性もあるであろうと考えますから,ただいまの御指摘のようなものをヒントとして,引き続き,その関係法律整備の仕事等を見据えながら,考えてまいりたいと思います。ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○潮見委員 確認の質問が2点です。   一つは,先ほどから問題になっている2の(4)ですけれども,次の部会資料の22の方に関わりますが,不在者財産管理人が権限を超えて行為をした場合に,その効果は,これと同じようになるというふうにお考えなのでしょうか。   民法28条には,権限を超えてした場合にどうなるのかということは一切書かれておりません。不在者財産管理人の場合には,当然,財産全て管理することになり,その中に土地というのもあるはずです。   そういう場合に,土地以外の不在者財産管理人がした行為の効果が,この規定によって影響をされるのかされないのか,あるいは,不在者財産管理人のところによく似た規定を設けることになるのか。先ほどの土地管理人がという主語を,その行為はとか,その行為の無効はとか,そんな形で置き換えるということになると,ある意味では,一般化することが可能なような趣旨にも捉えることができますので,確認をさせていただきたいところです。   それから,もう一つは,4ページ目の3の(2)ですけれども,そこに対応する説明というのは,6ページの3の(2)にあります。   3の(2)のところの説明というのが,極めてこれは限定的な,土地の共有,共有持分権者の複数人が所在不明の場合を想定して,これら複数の所在不明者の共有持分を対象として選任されることもあり得るという説明をしておられます。   他方,3の(2)の本文の方は,これは非常に一般化して,お書きになっておられる。この本文は,広い意味で考えられているのかと思います。   こういう誠実公平義務,権限行使義務というものを,ここだけに置いていいのですかということも含んだ確認の質問ですけれども,御教示いただければ有り難いです。 ○大谷幹事 私どもも,不在者財産管理制度の場合には,こういうような規定がないというところで,今恐らく,不在者財産管理人が元々の権限を超えて行為をした場合には,無権代理になり,あるいは表見代理になるということで,第三者が保護されるということになるのかなと思われます。   こちらの,一般的に破産管財人であるとか,あるいは,表題部所有者不明土地でもそうですけれども,この種の第三者保護規定を別に置いたりするというものは,調べた限りでは,管理処分権が専属しているような職務者が権限を超えた場合について規定されているということで,ちょっと我々も調べ切れておらなくて,そこの違いも,一般的な無権代理の法理の方で,第三者の保護が必要であれば,そちらにすればいいという考え方もあるのかもしれないのですけれども,専属させるということから,こういうふうな規律が必要なのかなということで書いているところでございます。   もう一つの,3の(2)の誠実公平義務,今御指摘のあったように,元々ここで考えておりますのは,共有者の複数が不明になっているというときに,1人の管理者を付けるというときに,そこに,要は特化したような形で必要ではないかということで入れております。   一方で,利益相反の元々の108条の規律でもいいのではないかということが,別途,不在者財産管理のところでも少し,同じようなことがあって,書いておりますけれども,ここも,他の,今までの民法でない,ほかの法律の例によって,こういうものを入れているというところでございまして,それは法制的にどのように整理されるのかというのは,今後検討していく必要があるのかなと思っております。 ○潮見委員 1点だけ,よろしいですか。   前者の方ですけれども,そうであるならば,ここの場合に,破産管財の話もありましたが,土地管理人に権限が専属するというところが大きな意味を持ち,それが,(4)のところに波及してくるという枠組みになるというというところを明確に書いていただきたいし,さらに,不在者財産管理人の場合は,先ほど大谷幹事がおっしゃられたように,無権代理や表見代理という枠組みで捉えていくということと,こちらの(4)は,表見代理ではありませんよね。枠組みとしては違ったことになるということは,説明のところに書いていただきたいなと思います。   要するに,ここの規定をこのように設けたからといって,民法28条は,特にこれによって影響を及ぼすことではない。ここに置いたことが,そこでの解釈に波及することはあるかもしれないけれども,それは解釈問題だというふうに受け取ったらいいという,そういう理解でよろしいでしょうかね。 ○山野目部会長 潮見委員の御指摘の前段は,民法の不在者財産管理の規定の解釈に影響しないというつもりで部会資料をお出ししていますから,疑義のないように,御提案のとおり,補足説明等で工夫をすることにいたします。   後段でお話しいただいている注意義務は,表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律の中に既に設けられているものと同じ規律を整備しようとするものでございます。恐らく,法制的にみると,ここでもこれを置いておくことが安定に資すると感じますから,御注意は承った上で,さらに,この説明に努めてまいりたいと考えます。ありがとうございます。   引き続き,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 ちょっとすみません,物思いにふけっていたものですから,話が出たのかもしれませんが,善意って,何についての善意ですか。 ○山野目部会長 3ページの一番下の行の善意ですよね。 ○道垣内委員 はい。 ○山野目部会長 3ページの一番下の(4),ただし書の善意の内容は,何かというお尋ねです。 ○大谷幹事 (3)の行為の範囲を超える行為をしているのに,裁判所の許可を得ていないということについて,知らないと。 ○道垣内委員 つまり,裁判所の許可を得たと思っているということですか。 ○大谷幹事 これは,裁判所の許可が必要な行為かどうかが分からないので,裁判所の許可を得たかどうかも確認しなくていいということであったかと思いますけれども。 ○山野目部会長 いずれにしても,(3)の規律に違反のある行為であるということを知らないということが善意の内容であるということが,道垣内委員に対する,恐らくお答えになって,そして,潮見委員が問題視しておられたことは,それと相応する問題の構図は,不在者の財産の管理についてもあるはずであるにもかかわらず,そちらについての規定整備が今までなかったし,今後もないとすると,ここに問題状況の齟齬が生ずるけれども,従来の民法の解釈に影響は与えないという趣旨ですねという御確認を頂いたものです。そのとおりですと申し上げ,誤解のない補足説明に努めてまいりますということを,先ほど,道垣内委員が物思いにふけっておられる間に申し上げました。 ○道垣内委員 ちょっと物思いにふけっていたのは,保存行為に限られるというのは,法の定めによる権限の制約ですので,一般には善意者が保護されるわけではないのだろうと思うんですね。   そうすると,善意の内容というのは,例えば保存行為だと思ったというのと,あるいは,裁判所の許可を得られたと思ったという話で,結構複雑なんですが,それを全部解釈論に任せて,善意の第三者という言葉でいいといえばいいんですけれども,内容はそう簡単ではないなということです。 ○山野目部会長 利用,改良のところは,概念についての疑義として,それらに実際上当たるか当たらないか,という仕方で問われるかもしれませんね。   いずれにしても,これも表題部所有者の法律のところにあった規律が,土地管理人は,と書くかどうかはともかくとして,善意の内容に関する議論は共通しますから,道垣内委員の問題提起はごもっともでありますけれども,こちらの方だけ何か,善意の内容を細かく書き下すようなことは,いささか法制的にしにくいというふうに感じます。しかし,仰せは承りました。ありがとうございます。 ○中村委員 確認させていただきたいと思います。   1ページ目の第1の1項ですが,利害関係人の申立てによりというふうになっておりまして,「利害関係人」というのは,3ページの小さい3項ですね,申立適格のところに記載があるように,土地について利害関係を有する者と想定されておりますし,また,先ほどの1ページのところに戻りまして,「必要があると認めるとき」の要件についても,同じく3ページの今の3項の少し上に,「土地又はその共有持分の管理の必要があると認めるとき」というふうに定義されているということになりますと,両方ともかなり広いと思います。   例えば物権的請求権ですとか,これまで検討されてきました相隣関係に基づく管理措置請求などの場合ですと,請求権者は,この近隣の物件を持っている者という限定がありますし,また,守るべき権利というものもはっきりしていますから,誰が申立権者になるのか,また,どういう範囲の申立てになるのかということについても,それなりの限定が掛かっていると思うのですけれども,今回検討しているこの制度については,利害関係人の範囲も広いし,それから,「必要があると認めるとき」がどの程度になるのかというのも,とても広い概念のようです。そうしますと,これをどのぐらいの制度だというふうに見るのかのイメージが,まだもう一つつかめないということが,日弁連の中での議論でもございました。   部会資料3ページの先ほど見た,「必要があると認めるとき」の例として,二つの例が挙がっておりますけれども,一つ目の,土地に生育している樹木についてうんぬんというところは,これは,物権的請求権や相隣関係で対応できるかと思うのですけれども,二つ目の,土地を買収して,その管理を行いつつ事業を実施したいという場合に,売買契約を締結するために申し立てることという例になりますと,本制度を使わないと,なかなか進めることは困難だと思われるのですけれども,それはそのとおりでよろしいのでしょうか。   そうしますと,本制度の立て付けとしましては,3ページの本文2項(3)にありますように,保存行為と,それから,土地の性質を変えない範囲の利用,改良を目的とする行為というのが原則になっていて,それを超える場合には,裁判所の許可というふうになっているのですけれども,先ほど挙げられた例というのは,裁判所の許可を得なければ進めることのできないものということになるわけですよね。 ○大谷幹事 売却の……。 ○中村委員 はい,売却などについて。   そうしますと,一部の報道にありますように,この制度を,売却して何とか有効活用するとか,きちんと管理しようという方向に使えるというものとして歓迎されるということになりますと,原則形態ではなくて,裁判所の許可を得る必要のある管理行為というのが,この制度を設ける主眼になってくる可能性があると思います。   このときに裁判所は,何を基準として,許可をするかしないかをお決めになるのかということが,分かりにくいので,  この制度趣旨が,本人,不在者になっている人の権利を守るというよりも,利害関係人の申立てによって,これを何とか利用していこう,管理していこうという方向に主眼があるとすると,裁判所は一体どうやって許可をするかしないかをお決めになるのだろうかということについての手掛かりをここに示していただけると,有り難いと思います。 ○山野目部会長 手掛かりを示すために,事務当局として努めます。恐らく,この制度の申立てをする利害関係人の範囲,意義,理解,それから必要と認めるときの概念等は,民法で従来運営されてきた不在者の財産の管理の,あれ自体は,1人の人の財産の包括的全体を管理する制度ですが,それの縮小版という言い方が当たっているかどうか分かりませんが,それらの概念の適用を当該土地のところについてのみ考えることにし,その余の部分については,しかし,不在者の財産の管理と,本質的に異なるものを作る趣旨ではないという感覚があるものでありましょう。   したがって,申立権者も,利害関係人という同じ概念を用いているところですし,売却処分ができるかどうかも,中村委員御指摘のとおり,原則としてできないけれども,裁判所の許可があったらできるという,その辺りの制度の構図は全部,不在者の財産の管理と同じになっております。その上で,不在者の財産の管理は,民法の規定の趣旨,理解としても,正当な理解としては,不在者の財産を売り払うための制度ではないということは,これは間違いありません。   それはそれとして,事業を行う現場の人たちの感覚から見ると,不在者の財産の管理を用いて売却処分までつなげるという,そういうツールであるという見方で,この制度を用いてきた人がいるということは,これもまた事実であろうと感じます。その見方は,今回新しく作られるこの制度に対しても,そのような見方をする人が,事実として,引き続きいるであろうということは,現象としては予想されることです。   ただし,従来の不在者の財産の管理にしても,裁判所は,売りたいというふうに言ってきた人の権限外許可の申立てをノーチェックで,どんどん売ってくださいとやってきたものではありません。事案ごとに,その不在者の財産の管理の適正な運用であるかどうかということを考えてしてきたものであって,これからも裁判所は,この制度がもし実現するならば,同じ気構えでしていただけるであろうと予想します。   そのことを裁判所は適正に運営しているというふうに評価してもらえるか,事業者の一部の方々が見る感覚でこれを見るかということは,なお事実問題として残るかもしれません。   中村委員,どうぞお続けください。 ○中村委員 ありがとうございます。   この制度の対象は,所有者を知ることができず,又はその所在を知ることができない土地となっておりますが,これを知ることができないというのは,飽くまでも利害関係人の側からのことであって,不在となっている本人は,別に放置して行方をくらましているつもりではないということもあり得るわけですよね。   そのような人が知らないうちに,不動産を売却されているという事態が生じるという可能性が出てまいりますし,その代金が供託されてしまうということになりますと,供託金の還付請求権が消滅時効に掛かるということもあるかもしれませんので,所在不明となっているということで,知らないうちに所有権を失うという制度になる可能性がありますので,何らかの配慮が必要だろうかと。   まだ,きちんと申し上げることができなくて,申し訳ないのですけれども,そのような観点が必要ではないのかということが一つと,あとは,後の方に供託の問題が出てまいりますけれども,弁済供託などと違って,本来ですと,時効に掛からないはずの所有権が形を変えたお金ということになりますので,時効の問題を別様に考えるということはできないだろうかと。つまり,10年で消滅時効に掛かってしまうのではなくて,何らかの別の供託制度にするということはできないだろうかというようなことも考えました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   中村委員が今,前半でおっしゃった,売り払われてしまうという結果が非常に不当な形で起こるということの危惧があるからこそ,蓑毛幹事が少し前におっしゃったように,所有者が分からないというものをどの程度調べれば,そういうふうに扱ってもらえるか明瞭にしてほしいという弁護士会の先生方の御意見が出るわけですし,それから,手続保障の観点からも,中田委員から御話があったとおり,非訟事件として仕組むときの権利保障の在り方には留意して,その点の細目を整えてほしいという御指摘もあったところであります。   それから,供託については,実は表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律を制定し,立案する際に,中村委員がおっしゃった感覚と,かなり近いものがあると考えますが,所有権の代替物である供託について,何か別途の規律を考える余地はないかということは,意識されはしたと思いますけれども,必ずしも,そういうものが明瞭に実現していないという仕方で推移してきています。   必ずしも,簡単な論点ではないかもしれませんけれども,御指摘を踏まえて,事務当局がもう少し検討してくれるのではないかと感じます。ありがとうございました。   松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 ありがとうございます。   この所有者不明土地管理人の制度の機能を明確化するための質問なんですが,後で出てきます管理不全土地管理人との関係についてです。例えば一例として,部会資料21・5ページの(1)の2段落目にも取り上げていただいているんですが,所有者不明土地について時効取得を主張する人が現れた場合です。例えば,この土地の登記名義人がAになっていて,Bがこれについて,何らかの原因で,ずっと占有を続けてきたということで,時効取得を主張したいと考えたとします。けれども,所有者が特定できないというときに,この土地管理人の選任を申し立て,この者を被告にして時効取得を理由とする所有権確認請求や移転登記手続請求の訴えを提起するということができるでしょうか。4ページの4行目,2の(5)にある,土地管理人を原告,被告とする例として,こういうケースがあり得るでしょうか。   また,仮にその訴えの提起が認められたときに,土地管理人をCとしますと,Cはどのように行動すべきかでしょうか。特に4ページの8行目,3の(2)の誠実かつ公平に権限を行使しなければならないという義務の内容として,いろいろ調べてみたら,時効取得の要件は確かに満たされているということが分かった場合に,淡々と訴訟を進めるということでよいのかどうか。そもそもそういうケースに,この土地管理人の制度を使うということは予定していないのでしょうか。予定していないとすると,所有者不明土地について,登記名義人が現在の所有者とはおそらく異なっていて,例えば数次相続が生じていて,所有者が特定困難というときに,そもそもこの制度が使えないとすると,問題解決の有力な手段を失いそうな気もします。本来,そういう所有者不明問題に対して,何らかの制度的な措置を設けることを考えたときに,どういう制度を使えるのか,はたしてこの所有者不明土地管理人の制度をそういう場面に使えるのかどうかということは,ちょっと明確にしたいと考えました。   5ページの(1)の2段落目でも,これについて書いていただいてあり,土地管理人にどういう管理処分権が帰属しているかということに関して説明を加えていただいているんですが,いま一つここが明確でないように思われます。所有権登記名義人を土地管理人としてというふうに説明していただいたんですが,そもそも登記名義人がずっと前に亡くなっている人で,現在,所有者が特定不能という場合はどうするのかという点について質問させていただきました。   それから,もう1点は,4の報酬についてですけれども,所有者の特定困難という場合も想定して,土地管理人の報酬をどういうふうにして捻出していくのでしょうか。   最終的には,管理対象になった財産から,裁判所が認める額の費用の前払いおよび報酬をということなんですが,なかなか処分が難しい財産だとすると,報酬を制度的にどういうふうに確保していくことが想定されるのか。この2点について,質問させていただきたいと思います。 ○大谷幹事 1点目,所有者が,今想定された,数次相続が発生して,たくさんの人が共有状態になっているというときに,ここでお示しをしておりますのは,そのうちの何人かが共有持分権者が不明になっているというときに,その不明の方に土地管理人を付けて,土地管理人も被告として,所有権移転登記手続請求訴訟を起こすことができるようにするということをここに書いておるつもりでございます。   一般的には,相続人が多数いて,一部不在になっているというときには,公示送達をして判決を取るということも可能だと思いますけれども,そういう,あるいは何らかの事情で,本当に所有者が特定できないようなときということもあるのかもしれませんけれども,そういうときでも土地管理人というのを付けることができるようにするとして,その登記名義人を土地管理人にするということにすれば,所有権の移転登記というのを登記簿上も,土地管理人から時効取得者が取得するという形で移転登記ができるというふうに考えましたので,こういう形で一つ,やるとすれば,こういうことがあるのかなというふうなことを書いておるところです。   報酬の点については,やはりなかなか,どのように確保するかというのは,これも以前に御議論いただいたことがありましたけれども,土地を賃貸をするであるとか,売却をするとかいうことで,一定の金銭を得ることができるのであれば,そこが原資となるということになるのかなと思いますけれども,それが得られないということであれば,部会資料の方にも括弧書きで,確か書いてありましたけれども,予納金の方から報酬を出すということにならざるを得ないのかなというふうに考えていたところです。 ○山野目部会長 松尾幹事,よろしいですか。 ○松尾幹事 はい,ありがとうございます。分かりました。 ○佐久間幹事 私,大きな勘違いをしているのかもしれないですけれども,今の松尾幹事と大谷幹事のやり取りのところで,大谷幹事がおっしゃった5ページの,これ,土地管理命令の発令後は,所有権の登記名義人を土地管理人としてというところを御説明になったんですよね。   土地管理命令が発令されたら,土地管理人を所有権の登記名義人にできるんですか。実体法上は違いますよね。実体法上は不明所有者のものであるのに,土地管理命令が発令されただけで,登記名義を移転するんでしょうか。   いや,そんなものなんだと言われたら,ふん,そうなのかと思いますけれども,何か所有権のない人に所有権の名義を与えるというのは,あり得るんですかね。 ○大谷幹事 所有権なんですね,移転登記の請求訴訟をするときに,管理人という者がどういう立場になるのかというのが,なかなか難しいなと。所有権の移転登記請求訴訟の相手方として,できるのだろうかというのは問題があって,管理処分権が専属するものとして,本人に代わって管理処分権を持つ者としての登記をするという形にして,そこから移転登記をするということがあるのかなということで,一応書いておりますけれども,そうする以外に,どういう形で移転登記の請求をできるようにするのかなというのが,難しいところがあるかなと思って書いております。 ○山野目部会長 5ページのこの部分は,土地管理命令が出された場合の管理人の適切な行動が実体上行われたとしても,登記の手続との関係で,更に手続が整わなければ,画餅に帰するではないかという危惧の思いで書かれている記述であります。佐久間幹事が御心配になったように,最終的に登記手続として,こう仕組むことができるかは,もう少し検討してみなければいけないと感じます。   登記手続の関係で心配が起こりそうだと思われる局面を一つ,二つ申し上げれば,時効取得などの紛争で被告になるような場面に関していえば,土地管理人が被告として訴訟を遂行することができるということが,別な規律で明らかになっていればよろしいですから,何も所有権の登記名義人になる必要はありません。   それから,売却処分がされたときの売却処分の相手方への所有権の移転の登記は,現在の不在者の財産の管理の実務では,権限外許可の審判確定書を添付情報として出せば,不在者財産管理人を登記名義人としなくても,従来の登記名義人を登記義務者とする所有権の移転の登記が可能でありますから,その観点からも,これをする必要はなく,登記手続との関係で,本当にここまでしなくてはいけないかという佐久間幹事の御心配はごもっとものことですから,引き続き考えるということにさせていただきます。   藤野委員がお手をお挙げになったでしょうか。 ○藤野委員 ありがとうございます。   新しい土地管理制度を設ける,ということ自体には,以前から賛成の意を示させていただいていたところで,中間試案のたたき台の段階になっても入っているということで,非常に有り難いなと思っておりますけれども,今回,所有者不明土地の管理制度の話と管理不全土地の管理制度が,以前の部会でのご提案の時と比べてより明確に分かれたということで,これ,念のため確認なんですが,所有者不明かつ管理不全というような状況があるときは,いずれの制度も選択できるという理解でよろしいのかどうかというのは,1点教えていただければと思います。   あと,建物の取扱いについては,かなり土地と違うところもあり,難しい面があるというのは,これまでの議論の中でも出てきたので,今のように甲乙丙の3案を併記して中間試案に載せるということに関しては,特に異論はないのですが,やはりどうしても,土地上の建物を何とかしてほしいというニーズは,実務上はかなりあるものですから,例えば,もうこれ,建物の管理制度という形で制度を創設するのは難しいとしても,そうしたら,では今度,土地管理人の方で何かうまくできないかとかというところとか,土地管理人の権限の範囲内で,建物の取り壊し等をできる方法はないかとか,そういったところも,これは今後の話かと思いますけれども,ちょっと御検討いただければなというところは思っているところです。   また,債務の弁済に関しても,一般的な土地所有者の財産から支出するというのは,この制度の性質上難しいというのは,非常によく理解できるのですが,例えば,土地の処分に際して,どうしても必要な土地を取得したい第三者がいる場合に,抵当権を抹消するところまで見込んで対価を決める,という場合も,ないわけではないんですね。そういう場合に,仮に,土地を売却する代金で,抵当権までセットで消した上で売却する,というようなスキームがもしあったとして,そういうときでも,債務の弁済だからできないというふうに,一律に切られてしまうと,ちょっともったいないなという気はいたしますので,今部会資料に書いていただいているように,カテゴリカルに,これは難しいというふうな説明をされるよりも,ほかの書き方の方がいいのではないかなというところは,ちょっと思ったところです。感想みたいな言い方になってしまいますけれども,申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 三つのことをおっしゃっていただきました。いずれも検討させていただいて,どういうふうに中間試案及びその補足説明に反映させたらよいかを考えてみることにいたします。ありがとうございます。 ○山田委員 これまでお話が出ている土地管理人の地位というんでしょうかね,それに関する質問を,多分共通なんだと思いますが,三つお伺いしたいと思います。   一つは,形式的なことなんですが,訴訟の原告又は被告になれるということが書かれています。その他の面でも,管理人をどう表示するのかということで,それは今,法律で決めることではないのかもしれませんが,どんなイメージなのかということです。   次のようなものかなと思ったので,例を挙げさせていただきます。東京都千代田区霞が関1丁目1番土地管理人というふうに表示されて,それを私が裁判所から任命されたならば,山田誠一というふうに書くということになるんでしょうかということです。   それから,二つ目は,この管理人選任が,土地管理人が選任されると,管理処分する権利は土地管理人に専属すると書いてあるところから,あるいは補足説明から理解したところですが,不明である所有者の管理処分権限は剝奪されているのかなと思います。そうすると何か,SFの世界なのかもしれませんが,我々の生きている世界からは隔絶されてしまっているところで,しかし元気に生きている不明所有者がいるとします。その人1人ではなくて,やはりそこにも社会があって,そこで,その土地の売買が行われるということを考えると,剝奪されているから,売却できないのかなと思いました。   しかし,登記がどうなるかというのは,検討事項なのかもしれませんが,登記がそのままになっていると,その登記ができそうな感じがします。そうすると,登記が持っている,誰が所有者かということを公示する機能というのが,大きく減殺されているということになります。   したがって,私は,先ほどの話題でいうと,土地管理人に所有権移転登記をするというのは反対なんですが,しかし,何らかの形で登記を見たら,アナザーワールドから,パイプを通ってきて,パイプというか抜け道で,登記だけしようというのが出ても,登記には何か,土地管理人が選任されているので,管理権剝奪されているから駄目なんだということが分かるような仕組みは,極めてレアケースだと思うんですが,やはり考えておくといいのではないかなと思います。これは意見ですね。   それから,三つ目は,こういうふうに伺ってくると,不在者財産管理人という制度が既にあります。110年の歴史があるんだと思います。そして,この所有者不明土地管理制度というのが設けられて,土地管理人というのが中核に置かれると。   この部会の議論ですから,余り重くはないのかもしれませんが,物に限ったスポットの不在者管理人のような制度があるといいのではないかという御発言があったと記憶しています。私も,その流れで理解をしている部分もあります。しかし,細かく言うと,大分違うものができるのかもしれないなと思っています。   不在者管理人の方は,恥ずかしながら自信がないのですが,いろいろな考え方があるのかもしれませんが,代理であるという考え方があるんだと思うんですね。しかし今回は,代理からは切り離して,職務者というふうに整理して立案,立法しようとしていると思います。そうすると,似たような制度なんだけれども,法律家が気が付くところで,細かく考えていくと,随分違ったところもあるということになります。それはなぜなんですかということに,答えられるようにしないといけないのではないかなと思います。   実は,不在者管理人についても,今,白地から制度を作るならば,職務者として仕組む方がうまくいくのかもしれない。しかし,これは100年以上の歴史があるので,それを大胆に手を付けようとはしていない。しかし,こちらは,参考にはしたかもしれないけれども,新しく制度を作るので,今一番いいものを作ろうというふうに考えていらっしゃるようにも思われる。   それはそれでいいのですが,何でそうなるのかというのは,今一番いいものを作ろうと思ったらこうなりましたでは,なかなか,制度が二つ,この立法がもし幸いにも出来上がって,進んでいったときには,その説明は,経緯の説明ではありますけれども,理屈の説明にはなり難いと思うんですね。ここも,このように今作られているものに,私は賛成なんですが,うまく説明を中間試案の段階でもできるといいのだろうなと。   職務者というのが,物から始まる,他人が行う管理処分だから,職務の方が,あるいは職務者の方がよい制度ができるんだという説明ができるならば,いいかなと,不在者は人から出発していると。しかし,私の知恵では,それは簡単には見付からないなと思っているところです。   最初と最後ですね,もし今のところで,御説明いただければ幸いです。 ○山野目部会長 1番目は,どういうふうに呼ぶことになるかということは,恐らくこの法律の運用が始まってから,まだ法令事項でないかもしれませんけれども,実務上の運用のモデルとして,あるいは法務省が,そういうものを参考として出すというような啓発の仕方が考えられるのかもしれません。いずれにしても,中間試案の段階で決め切ることではないかもしれません。   それから,2点目は,頂いたヒントを踏まえて,土地の管理人が選任された旨を登記上明らかにするということは,恐らくというか,かなり,一つのアイデアとして,あり得るものではないかということを,今,山田委員のお話を伺いながら,感じたところですから,事務当局の方で検討いたします。   3点目は,不在者財産管理の明治以来の姿を参考にしている部分も大きゅうございますが,恐らく直近の表題部所有者の法律に設けた管理の制度を参考にしている部分も大きい,あるいは,そちらがウエートとしては,少し大きいかもしれません。そうすると,そのような法制の変遷ということを踏まえ,つまり直近の法制の建て付けを重視して,参考にしたという説明も,ある意味では経緯でしかないかもしれませんが,しかし,立法府が直近に適切と認めたアイデアを踏まえて行政府が立案したという論理自体は,少なくとも不自然であるとはいえないでしょうから,それではまだ説明が足りないかもしれないけれども,そういったことを足掛かりにして,また事務当局の方で検討させていただくということにしたいと感じます。   アナザーワールド,なにか幻想的ですらあるお話であったというふうに感じます。松本清張の「ゼロの焦点」という小説が,同じ男性が東京と北陸で異なる結婚生活を送って,それぞれの妻が真相を知らないという状態で話が進んでいき,やがて悲劇が起こるというプロットであったことを伺っていて想い起こしました。 ○垣内幹事 今の職務者か代理かという問題点につきましては,なかなか非常に難しい問題かなと思いますけれども,今の最近の立法の例ということもありますし,山田先生の御発言の中にもあったかとも思いますけれども,基本的には,やはり不在者財産管理人というのは,ある特定の不在者という人の財産全般について,その人に代わって管理をするということが明瞭な関係であるのに対して,こちらの場合というのは,代表される人というのが複数であり得て,かつ,一つのものに着目してというところですので,ある特定の人を完全に1対1で代理しているという関係には,どうも立っていないという辺りが,少し違うというところはあるのかなと。   だからといって,例えば不在者財産管理人の制度を職務者と構成することがあり得ないのかといったら,それはあり得るかもしれませんし,こちらが代理で,どうしても駄目なのかというと,そこは両論あるのかなという感じもいたしますけれども,違いを求めるとすれば,実質的な違いはその辺りに求めていくことになるのかなと,今のところ,私自身は理解をしております。   それから,その件とは別に,これは大変細かい話で,時間のない中,恐縮なんですけれども,資料の4ページの一番上のところ,項目としては2の(5)の記載ということになるかと思います。管理人を原告又は被告とするということなんですけれども,現在のこの記載を素朴に読みますと,いついかなる場合でも,土地に関する訴えについて,土地管理人が単独で原告又は被告になるという感じに読める気がするんですけれども,今日の資料で示されている複数の共有者がいるという場合に関しては,それとは恐らく異なることを想定されているのではないかなと思いますので,仮にそうだとすれば,その点が分かるような記載を,本文あるいは補足説明等でしていただくということがいいのかなという感じがいたします。 ○山野目部会長 3ページから4ページの2のゴシックのところの文章は,土地の全体について管理人が選任された場合のイメージで書いておりまして,目的が共有持分である場合の読替えみたいなものを精密に書き込んでおりませんから,今の御注意を受け止めて中間試案では正すことにいたします。ありがとうございます。 ○畑幹事 既に出ている点と重なるところもあると思いますが,一つは,中田委員等がおっしゃった,広い意味での手続保障の点です。これは,最初の方で,私も申し上げたことがあったかと思いますが,訴訟に限らないので,広い意味での手続保障ということになりそうですが,かなり重要な点ではないかと思います。中間試案の段階で細かく固めることは,部会長がおっしゃっておられるように,難しいと思いますが,そういう問題があるということは,注なり補足説明なりには書いていただければと思います。   それから,これも中間試案の段階でどうかというのはよく分からないのですが,制度の運用のイメージのようなものを共有できるなら,した方がいいかなという気はしております。   例えば,3ページに必要があると認めるときの例として,二つのパターンが挙がっているのですが,この二つで,全然話は違うような気がいたします。   恐らくは,この樹木の伐採の話だと,管理人を選任して,伐採について,同意をするしないという話になり,その話が終われば,恐らく,管理命令を取り消すということをイメージするのではないかと思いますし,土地の買収の話だとすれば,これも売買契約が終わって,代金を,先ほどの話だと,供託でしょうか,それをしたら,管理命令を取り消すということになるのだろうと思います。ほかにどういう必要があるのかというのは,ちょっと分からないのですが,そういうイメージを可能な限りで共有する方がいいのではないかなと思いました。   今の話との関連で,ついでに言えば,管理命令の取消しのようなことも,多分,実際,規律を作る上では必要になると思いますので,これも中間試案に書くには細かいかもしれませんが,今後は考えていく必要があると思います。   それから,もう一つ,これも先ほど出た話ですが,報酬とか費用の話もちょっと,今後は詰めていく必要があるかと思います。   今の土地管理人の話だと,報酬等という話になっているのですが,この後出てくる管理不全土地管理制度だと,費用となっていて,きれいに対応していないのですが,呼び名はともかく,実質をもうちょっと整理する必要があって,例えば先ほど,最終的には予納金でという話があったのですが,では,そうすると,予納した人は,それをずっと負担するのかとか,何らかの形で回収を図ることができるのかというようなことも含めて,報酬・費用関係は,これも中間試案の段階で,どこまでやれるか分かりませんが,少なくとも今後は,もう少し詰めていく必要があるだろうというふうには思います。 ○山野目部会長 都合4点,承りました。ありがとうございます。   沖野委員,どうぞ。 ○沖野委員 ありがとうございます。   山田委員と畑幹事の御指摘になったところの一部だけに関連するところで,気になっているんですけれども,先ほどのアナザーワールドの例なんですけれども,それで,具体的に問題になるのは,実は土地を売っていた,その売却の登記をするために,買主が現れたというようなときには,もはや所在も確認でき,あるいは,いたということが分かるという状態になったときには,これはやはり,土地管理人による管理は終了するということでいいのか,そのときの終了の方法というのは,管理命令の取消しであるのかということですが,そこが,一つ確認をさせていただきたいということと,畑幹事がおっしゃったところかと思いますけれども,今のゴシックの3の注記のところに,土地管理人の辞任・解任等に関する規律についても引き続き検討するということですので,この中には,任務終了に関する規律というのも入ってくるのではないかというふうに考えておりますので,それを確認させていただければと思います。まずは,山田委員のおっしゃった場面においては,そういうときには,当然終了するんだから,当然終了するから取り消すのかということはあるかと思いますが,終了するということでよろしいかということを,取りあえずは確認させていただければと思います。 ○山野目部会長 山田委員がおっしゃったアナザーワールドは,本人が別な遠隔の,かつ知れない場所で生活を現実にはしていて,連絡調整が取れませんから,どこにいるかが分かりませんが,しかし,その人が登記手続を,こちらと連絡を全く取らないままして,所有権の移転の登記が実現してしまうということがあるものではないかということでしょう。そうすると,紛糾が起こるでしょうというお話をおっしゃったものであろうと理解します。そうすると,土地の管理人が選任された旨の登記がされていれば,本人による登記ができなくなりますから,それが一つの対処になるものと思われます。   その上で,本人と不在者財産管理の手続との間で連絡調整が取れた場合には,所在が明らかになるということになりますから,それは畑幹事が御注意いただいた,管理命令の取消し又は任務終了の規律をどういうふうに細目を組み立てるかというお話になって,そのことの重要性は,今,沖野委員からも指摘いただいたところであります。   お続けください。 ○沖野委員 いえ,今の説明で結構です。 ○山野目部会長 よろしいですか。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   そうしましたら,恐縮ですが,続けさせてください。   その次の第2,管理不全土地管理制度の創設について御意見を承ります。これについては,管理不全の状態になっていて,他人に損害を及ぼし,又は及ぼすおそれがある場合について,利害関係人の申立てを受け,管理人の選任その他の必要な処分を命ずることができる制度として,従来この部会において育ててきたものでございます。   注記で御案内しておりますけれども,相隣関係のところの管理措置請求権制度との関係で整理を要しますが,中間試案における扱いとして,この部会資料の提案では,両方とも並べて,一般の意見を問い,最終的な整理をその後に持ち越すということを考えております。   それから,権限外許可の制度などを入れて,土地の処分まですることができるように,こちらの管理制度でできるかどうかということについては,引き続き検討するという問題提起をしております。   併せて,この管理不全土地管理制度の場合には,所有者が知れていることが想定されますから,それにもかかわらず,この制度の手続を発動するということになりますと,現にいて,知れている所有者との間で紛議が起きるおそれがあります。   制度は非訟事件手続として組むことを考えているところではありますけれども,同じ非訟事件手続といっても,争訟性が乏しいと認められる局面と,そうでないところとは,おのずと異なるものでありまして,ここの局面については,補足説明で触れておりますが,場合によっては,借地条件の変更等の裁判手続と同様の,少し判決手続的な性格を持った非訟事件の手続を,かなり細かく整備しなければならないということになるかもしれません。   この管理不全土地管理制度の創設について,御意見を頂きたく存じます。いかがでしょうか。 ○山本幹事 基本的なことの確認ですけれども,今の管理不全土地制度と,それから前の所有者不明土地も同じですけれども,地方公共団体も申立権者に含まれるという理解でよろしいのでしょうか。   これは,あとの不在者財産管理制度の資料の中には,その旨の記載があるのですけれども,資料22の2ページの下の部分ですね。それと同じように,所有者不明土地あるいは管理不全土地,いずれの制度についても,そのように理解してよろしいのでしょうか。   それから,私も先ほどの藤野委員と同じで,両制度の関係が,つまり,所有者不明で管理不全というときにどうなるかという点は,ちょっと気になりました。その点は,また詰めていただければと思います。 ○大谷幹事 まず,地方自治体との関係ですけれども,後ろの方,管理不全の場合には,権利を侵害されている者というものを想定しておりますので,もちろん,地方公共団体が権利を侵害されていれば,可能なんでしょうけれども,それと関係のない立場として,必ず利害関係にあるということではないというふうに考えております。   一方で,所有者不明土地の方では,場合によってはあるのかもしれないと思いますが,それは土地の適切な管理ができていない,それで自治体の方で利害関係があるというときには,認められるのかなと思っておりました。それは,不在者財産管理等でも同じことかなと思っておりました。   両方の制度について,要件が満たされているとき,どちらでもできるのかと,それはどちらもできるんだろうというふうには思っておりますけれども,恐らく,不明土地の方が争訟性がないというところからいえば,手続的には,比較すれば,不明土地の方が軽いことになるのかなということになるとは思っておりますけれども,どちらも成立するとは思います。 ○潮見委員 11ページの3ですが,その余の諸般の事情を考慮してという箇所が,どうしても引っ掛かります。   諸般の事情をどういう観点から考慮するのか,その背後にある考え方は何かとかいうことが,補足説明のところを見ましたら,書かれていない。公平の観点からとか,公平性を害するとかいう視点が出ているだけなので,むしろ,どういう観点から,費用負担というものの在り方を考えていくのかということを少しでもいいですから,明らかにしていただきたいと思います。   非訟ということになったら,この辺りのところは,裁判官にお任せすればいいというようなところかもしれませんけれども,こういうルールの立て方自体がどうかということを考えた場合に,大丈夫かなという感じがします。   それから,先ほど権限の専属という話が出ていました。これも,補足説明には書かれておりますけれども,この場面では,本人がいますから,不在でも不明でもありませんから,その部分については,差別化という方向で,(注3)のような形で考えていくのがいいかとは思います。 ○山野目部会長 後段は承りました。前段は,少しだけでもと優しくおっしゃっていただきました。少しだけ,可能なら努力を致します。   従来の裁判例における相隣関係規定の運用のところで,費用の割合的折半を主文の中で宣言した裁判例もありますから,どのような事情を考慮して,どういうふうな措置を採ったかといったようなことは,ここと局面が同じではありませんけれども,参考になる側面もありましょうから,そういうものを探し,適切なものがあれば国民一般に検討してもらう題材として掲げるといったような努力を試みたいと考えます。ありがとうございます。 ○蓑毛幹事 管理不全土地管理制度の創設について,日弁連のワーキンググループでは,これを中間試案に出して,パブリックコメントに付することについては,異論がありませんが,この制度の創設に賛成するか反対するかについては,現時点で意見が分かれています。土地管理人の選任という今までにない制度を設けることで,管理不全土地に対する適切な対応が可能になると前向きに捉えて,賛成するという立場がある一方で,この制度は,所有者が判明している場合にも適用されるということですので,土地所有権に対する過度の制約になるのではないかという意見もあります。   幾つか確認と質問があります。まず,この制度と物権的請求権との異同についてです。先ほどの質問にもありましたが,当初は,この制度の申立てができる利害関係人には地方公共団体が含まれることになるだろうと考えていて,そのことが,この制度のメリットになると思っていたのですが,そうではなく,利害関係人は権利侵害を受けている者を想定しているということですので,その意味で,物権的請求権と申立ての主体は変わらないと。では,この制度で何ができるかというと,裁判所は,管理人の選任その他必要な処分を命ずることができる,とあります。この必要な処分の中身が,補足説明を読んでもよく分かりませんでした。管理人の選任は分かりますが,それ以外で,妨害排除や妨害予防など物権的請求権の類型にはない何らかの行為を,必要な処分として考えているのか否か。それとも,管理人の選任だけが,物権的請求権の類型と異なるということになるのかを教えていただければと思います。   それから,この制度の創設に反対の方からは,例えば,部下資料10ページの第2,1の要件をすっと読むと,土地の所有者が,土地に草を生やしてしまった結果,虫がたくさん発生し,周囲に悪影響があるような場合は,管理人の選任が認められる。そうすると,当該土地の管理処分権限は全て土地管理人に移ってしまって,所有権者は,管理も処分も一切できなくなると読めてしまう。恐らく,土地所有者が草を生やしただけで,土地の管理処分権が奪われるような実務になることは想定していないだろうけれども,部会資料の書きぶりからすると,そうなってしまうのではないか。もう少しきめ細かく,例えば管理人を選任する際に,土地の管理処分権を土地管理人に専属させるのではなく,土地管理人に限られた権限を与えるような方法があってもいいのではないか,という意見もありました。ただし,そうすると,土地管理人と土地の所有者との間の権限の分属がどうなるかという難しい問題も生じそうです。  いろいろと申し上げましたが,土地管理人選任の要件と効果について,適切な土地管理と,土地所有権者に対する過度の制約にならないかという2つの観点から,バランスよく定めるべきだと思います。 ○大谷幹事 何点か御指摘を頂いたと思いますけれども,今,最後の,多分,草木の生茂というところから始まっているところに,多分問題があるのかなという気がいたしまして,これは少し,書き方をきちんと考えた方がいいなと思っております。いかにも美観の感じがいたしますので,そうではないというふうに書きたいと,これも前回の管理措置請求のときに,同じような表現を採っておりましたけれども,そこに一番の問題があるのかなという気がいたします。そこからさらに,どういうふうに絞れるかというのは,時間の制約がある中で考えたいと思いますけれども,そこのところは工夫をしたいと思います。   それから,物権的請求権と比べての違いといえば,それはおっしゃるとおり,管理人選任のことなんだろうという,それだけが違うということになるんだろうと思いますけれども,ただ,不法行為に基づく損害賠償請求権が現行法では認められるけれども,管理の措置を求めることは,今できていないということがあるんだとすれば,それは損害賠償請求権を持っている人が,きれいにしてくださいという方向に,別の救済方法ができるということになるのかなとは思っております。 ○山野目部会長 蓑毛幹事,いかがですか。現時点での事務当局の所見を差し上げました。 ○蓑毛幹事 ここから先は,私の個人的な意見になりますけれども,管理不全土地管理制度と物権的請求権との違いが管理人の選任だけだとすると,管理人の選任については(注2)の②の要件で絞り込んだ方がよいと思います。 ○山野目部会長 今の点は,引き続き検討していくということにいたしましょう。 ○水津幹事 先ほど潮見委員と部会長が取り上げられたところについて,意見を申し上げます。部会資料では,管理に必要な費用について,管理不全状態が不可抗力によって生じたものであるときは,諸般の事情を考慮して,申立人にもその費用を負担させることができるとされています。   このような規律が,物権的請求権一般についても影響を与えないかどうかが気になっています。例えば,Aの所有する自転車が台風で飛ばされて,Bの所有する土地の上にある場合において,BがAに対し,土地の所有権に基づいて,その自転車の撤去を求めたときは,その費用については,争いはあるものの,一般には,自転車の所有者であるAが負担すると考えられているように思います。少なくとも,諸般の事情を考慮して負担を決めるという考え方は,一般的なものではありません。   前に扱った管理措置請求制度は,相隣関係の内容として定められているため,相隣関係特有の原理に基づいて,その費用負担について,特別な規定を設けることを正当化することができるような気がします。他方,ここで扱っている管理不全土地管理制度は,相隣関係の内容とは切り離されていますので,管理措置請求制度と同じようにとらえることはできません。管理不全土地管理制度についても,その費用負担について特別な規定を設けるのであれば,その位置付け等について,物権的請求権一般の議論との整合性を意識した説明をしていただけたらと思います。 ○佐久間幹事 2点ございまして,1点は,先ほど蓑毛幹事と大谷幹事がやり取りされた点なんですが,管理措置請求及び物権的請求と,この管理不全土地管理制度,これは事実上,余り違わないだろうということだといたしますと,13ページの一番上に書かれていることが気になります。要するに,管理不全土地があって,所有者が分かっていると。その所有者に,あれこれしろと言っているんだけれども,所有者は聞く耳を持たない。その聞く耳持たないときに,物権的請求なり管理措置請求なりすれば,所有者相手にですね,すればいいところを,(注2)の必要性,適切な管理が実現できないというのは,どの場合にあるのか分かりませんが,こいつを相手にしていてもしょうがないから,管理人を選んで,その人にやらせてしまおうというふうなことで使える,何かいかにもそういう制度に思えまして,それはよろしいのでしょうか,ということをすごく疑問に思います。   つまり,相手側というか,管理措置の請求とか物権的請求をする側が都合よく相手を選べる,請求の相手を選べる,何かそういう制度になってしまわないのかなということが,すごく気掛かりだというのが1点です。   もう1点に関しましては,権限外行為の許可としての土地の処分に関連して,これはちょっと,そこまでする必要は全くないのではないかと私は思うのですが,それはあり得るとして,あり得る理由の説明として,13ページの3段落目に,なお書で区分所有のことが書かれておりますよね。   これ,確かにこの規定はあるんですが,この区分所有の共同生活の妨げになるようなことを繰り返している人がある場合に,区分所有建物ですから当たり前ですけれども,建物全体については共用部分があって,運命共同体でしかあり得ないという人たちとの関係での区分所有権と,それぞれ独立の土地を所有している人同士の関係は,随分違うと思います。ですから,このなお書の段落と,その次の段落のこの説明だけで,権限外許可の根拠になると書かれているわけでないのは分かりますが,ちょっと弱過ぎるのではないかなという気がいたします。 ○山野目部会長 前段の御意見は承りました。後段は,権限外許可で処分権まで与えるかどうかは,いろいろ御意見はあると思いますが,引き続き検討する扱いで,中間試案で意見を問うてはどうかという提案を差し上げました。   今,佐久間幹事からは,それに対して御異論が出されたものではありません。また,御自身もおっしゃっていただきましたが,建物の区分所有等に関する法律59条を引き合いに出すことが正当化根拠として十分だというふうに,ここにおられるどなたも,これで完璧な説明だというふうに考える人はいないでしょうし,むしろ,佐久間幹事がおっしゃったように,生活事象として異質であるという側面があります。   加えて申し上げれば,59条の手続は判決手続で,この結果を実現しますが,こちらは非訟事件手続で実現しようとしておりますから,そこも考え込まなければいけない点でありまして,多々相違はあります。   引き続き,意見公募の後で,また考えていくことになろうと考えます。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 いや,そうなんでしょうかというのがよく分からなくて,パブコメに付して,これから議論をいろいろ喚起するのだから,広く処分権も検討するというふうに書けばいいというものではなくて,やはり書くことに正当性がないと思いますけどね。   私は,(注3)は削除というのが,方向としてはいいのではないかと思います。 ○山野目部会長 いや,そうなんでしょうかというお話ですが,私が,この(注3)の内容でいくことが正しく,これに決めようと申し上げているものではなくて,(注3)は引き続き検討する事項としてお出ししていますから,御意見をお出しくださいという御案内で,道垣内委員からは,(注3)削除という御意見を頂いたというふうに受け止めました。 ○道垣内委員 はい。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   (注3)のところが今,話題になりました。これについて,御意見がおありの方がおられたら承ります。 ○佐久間幹事 (注3)をもし単純に削除すると,処分権もあるということになってしまわないですか。ですよね。だから,道垣内先生がおっしゃったのでいうと,これは,土地管理人とは違うということを,(注3)では明記しないといけないということではないですか。 ○道垣内委員 ごめん,そうですね。 ○山野目部会長 まあまあ,皆さん,穏やかにいきましょう。ここは要するに,意図するところはおっしゃったとおりであって,(注3)を形式上,単純に削るということではなくて,売却処分の可能性を認めるという提案の示唆はやめるか,きわめて慎重にする,その理解,方向はお二人において共通しているはずです。 ○道垣内委員 謝ります。 ○山野目部会長 いいえ,どなたも謝っていただく必要はないと考えます。   では,今の点,どういたしましょうか。こちらの第2のタイプで売却処分まで可能性としてあり得るということを国民に問うことは,やはりそれは,元々私どもの全体の提案として,行き過ぎなではないかというふうに皆さんお考えになるならば,これはもうここは考えを改めて出していくということになりましょうけれども,いかがですか。 ○畑幹事 売却というか,先ほどの土地管理人と基本的に同じというところに,やはりちょっと難しい面があるような気がします。   例えば,先ほどの土地管理人と同じだとすれば,管理が悪いので,こちらの管理人が選任されましたと。そうすると,当該土地について,所有権を主張する人が管理人を被告として,移転登記手続請求を起こすというようなことができることになってしまいそうなのですが,それはそれで,過剰なことになっていないかという感じがいたします。   実は,先ほどの土地管理人についても,木の伐採のために選任された人が,所有権移転登記手続請求の被告になるというのも,ちょっとどうかなという感じも,本当はしないではないのですが,こちらは取り分け,管理不全を何とかするという目的に特化した管理人なので,より問題が鮮明に表れるのかなという気がいたしますので,この10ページの2のところの書き方は,もう少し弱くというか,検討を要するという趣旨が出た方がいいのかなという気はいたします。 ○山野目部会長 この10ページの,今畑幹事が御指摘になった最後の下から3行目から下から2行目に掛けての2の柱の文章が問題ですね。注記がどうのというよりも,2の柱の文章自体が,少しアバウト過ぎるというか,無責任な問い掛けになっているかもしれません。   所有者不明土地管理制度における土地管理人の権限と基本は同じであるというふうに書いてしまうと,いささか書き過ぎというか,あるいはその中身がはっきりしていないというか,その憾みがあります。むしろ,こちらの管理不全土地管理制度における管理人の権限及び義務等は引き続き検討するといったような基調の文章にしておいて,引き続き検討する中身としては,これこれの論点などについて,幾つか悩んでいかなければなりませんというふうに例示するような文体が考えられるし,ほかに工夫もあるかもしれませんし,ここは次回までに,事務当局の方で努力をお願いしたいと考えます。論点が明らかになったと思います。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○畑幹事 管理人の権限,義務についての,別の話なのですが,管理人が管理不全土地を何とかしたいというふうに考えて,その土地に行ったところ,先ほど話題になった13ページの上の方にある,所有者はそこに住んでいてというケースなのですが,このときに,どうやって管理を実現するのかということも考える必要があるように思います。   つまり,所有者が邪魔してきたり,ということをどのように排除するのかということも考える必要があるかと思います。執行官とか破産管財人ですと,警察上の援助とか,そんな規定がありますけれども,そういう話になるのかどうかという辺りも,考えておく必要があるかなと思います。所有者が行方不明とかいうのとは,また違う難しい問題があるということだと思いますが。 ○山野目部会長 御指摘をいただき,ありがとうございます。   必要な処分を命ずる,この命ずる裁判には,多分,多様な形態のものがあって,一概には言えなくて,事案の個性に応じて裁判所が対処していくということでありましょう。ある人にこれこれの権限を与えるという形成の裁判であったり,ある者に対して,作為を命じたり,あるいは不作為を命じたりするような多様な給付の判決もあり得るところであって,それらの多様なものがあるということをにらみながら,出された給付の裁判の態様ごとに,そこから先は,しかし,もし物理的な抵抗や妨害があるときには,ここ自体について,何か特殊な執行の制度を定めるというようなことは法制的に相当重いことになるでしょうから,あとは,作為又は不作為を命ずる給付の裁判を実現するための一般的な民事執行法制が機能するということを期待して,そちらと連結していくといったようなことが,恐らく考えられるものではないでしょうか。   担保不動産収益執行のときに,執行官が管理人に任命されることが,事例として非常に多いものですから,執行官自体が一般的な執行官法制で認められている権限を行使すればよいではないかという感覚になってきて,何かそうすると,割と自身が威力を用いたりすることができるような雰囲気になってまいりますけれども,こちらの管理人は多分,執行官が出てくるということは考えにくいものがあって,むしろ弁護士とか司法書士の先生とかがおやりになるわけですから,そのときに,御自分で威力を振るってくださいということは難がありますし,御自分で警察を頼む,つまり民事執行法6条のような仕方で警察の出動を要請するということも,直ちにそこにつながるという解決も,何かおかしな気がいたしますから,今,畑幹事から御指摘いただいたところを踏まえて,現実の実現というか,法運用がどうなるかということを,中間試案まで間に合う範囲で,また,間に合わないものはそれ以降,また検討していくということになりましょうか。   御注意いただきまして,ありがとうございます。 ○道垣内委員 部会長がおっしゃることは,大変よく分かるのですが,最後の方に,非訟ではやるんだが,土地の所有者の手続保障の観点からうんぬんかんぬんという話が書いてありますけれども,(注1)にあるように,土地の所有者に対して,あることを命じるというのも,必要な処分の中に入るということになりますと,当事者そのものになるわけであって,かなりそのときには,訴訟というか,非訟なのかもしれませんが,構造が変わるのではないかという気がします。これが第1点です。第2点として,部会長がおっしゃること,誠にもっともで,今回は,ごみを片付けろと,あるいは木を切れというふうに,特定された処分であるということも十分にあり得るということなんですが,そうしますと,補足説明においては,特定が難しいというのをすごく前面に押し出して書いてしまっており,だからこそ管理人の制度なんだというわけですね。しかるに,特定の行為を具体的に命じることもあり,そのときには執行官が来たりするかもしれないよねということになりますと,ここの(1)の書き方が,少し変わってくるのではないかという気がいたします。部会長がおっしゃっていることに反対をしているわけではないんですが,幾つか跳ね返る部分があるのではないかと思います。 ○山野目部会長 御注意はよく分かりました。補足説明の推敲等において注意を致します。   平川委員,お願いします。 ○平川委員 ありがとうございます。   法制度上の話と全く関係ない話になるかもしれませんが,管理不全土地の発生する原因というのは,例えば,土地を持っている方が認知症だったり,精神疾患の方がいたりするなど,そういう状況もかなり多いのではないかと思います。   そうした点について,どういうふうにパブコメで意見が出てきて,それにどう対応するかということに対する意見は,全く私は持ち合わせていないんですが,管理不全土地の管理人として,もしも様々な権限を発揮する場合は,そういう個々の事情についても,何らかの形で配慮した形での運用というのがあるのではないかと思いました。これは意見として言わせていただきます。 ○山野目部会長 承っておきます。   垣内幹事,どうぞ。 ○垣内幹事 ありがとうございます。   今までいろいろな形で出てきたお話かなとも思うんですけれども,やはり印象として,前回でしたか,管理措置請求制度ですね,相隣関係上の。これと,今日のこの管理不全土地管理制度との関係というのが,なかなか理解が難しいというか,はっきりしないような感じがありまして,一方は相隣関係上の制度で,こちらはそうではないという軸が一つあるとともに,相隣関係上の方は,一定の請求権ですね,個別特定の措置の請求の権利を与えるということで,その行使方法については,基本的には判決手続が出発点ということであるかと思うんですけれども,こちらの方は,管理人を選任するということによって,一定の管理人の裁量権の行使の中で,適切な管理を,かつ一定の期間継続して,1回的なものでなくて,継続してやってもらうということが意味を持つような場合を想定しているのかなという印象を持っているんですけれども,組合せの仕方としては,相隣関係上のものに限らず,措置請求権を付与するということも考えられますし,相隣関係上の制度として,管理人の選任を認めるということも,論理的にはあり得るのかなとも思われまして,幾つか組合せがある中で,どういうものが必要で,適切な制度として考えていくのかということに,恐らくなっていくのかなと思います。そのことは既に(注)等で,差し当たり併存するのかどうかも含めて,今後また考えるということで,抽象的には示されているかとは思うんですけれども,その異同の内容について,もう少し補足説明等で整理をしていただいた方が,ちょっと読む側として,見通しがよくなって,何を考えればいいのかということが分かりやすくなる部分が,まだ残っているかなという感じもしますので,引き続きちょっと,その点は御検討いただければ有り難いというふうに感じております。 ○山野目部会長 よく分かりました。ありがとうございます。   大体よろしゅうございますか。   それでは,部会資料21についての審議を了しました。   休憩といたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   引き続きまして,部会資料22をお取り上げください。「中間試案のたたき台(財産管理制度の見直し(2))」を審議事項といたします。   その内容は,大きく二つに分かれておりまして,まず,第1,不在者財産管理制度の見直しについてお尋ねを致します。御覧いただいておりますとおり,不在者財産管理について,様々な御議論を頂いてきたところでありますけれども,この部会資料におきましては,ゴシックの本文において,不在者財産管理人による供託と,その選任の取消しに限って規律を設ける方向を提示してございます。   そのほかに御議論いただいた論点はたくさんあったものでありまして,第3回会議及び第4回会議において御議論いただいたことも重要なものでありますから,論点を絞った上で,それらを注記に移して掲げるという取扱いをしてございます。   この不在者の財産の管理のところについて,まず御意見をおっしゃっていただきますようにお願いいたします。いかがでしょうか。 ○宇田川幹事 今回の第1の(注1)に記載されている不在者財産管理人の職務内容をあらかじめ定めることができることを明確にすることについて,申立ての段階でどこまで職務内容の明確化ができるかというところです。2ページの補足説明の3の(1)の下から4行目のもっとも以下でも記載されていますが,申立て当初の時点では,申立人が提出する資料以上の事情を把握できませんので,どういった職務内容を不在者財産管理人に行わせることが不在者の利益に合致しているのか,特定の行為だけをさせることが不在者の利益に反することにはならないのかということを家庭裁判所がきちんと判断できるかという点が難しいところでございます。   この点については,不在者財産管理制度が不在者の財産全体に対する利益を保護する制度であることを踏まえて検討する必要があると考えておりまして,その不在者財産管理制度の趣旨についても,盛り込んでいただけたら有り難いと思っております。 ○山野目部会長 承知いたしました。ありがとうございます。 ○蓑毛幹事 日弁連のワーキンググループでは,この不在者財産管理制度の見直しについては,いずれも賛成,(注1),(注2),(注3)もその方向で検討することについて賛成という意見が多数でした。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,不在者の財産の管理の制度はよろしゅうございましょうか。   4ページにお進みください。   第2といたしまして,「相続財産管理制度の見直し」という問題提起をしております。相続財産管理の制度について,そこで,ゴシックで①,②というような形でお示ししているような形での新たな整理をするということの問題提起をしております。   これにつきましては,第8回会議における部会資料14におきまして,管理放棄されている相続財産に属する土地について,利害関係人が管理を求める例,あの資料では例1と呼んでおりましたが,それや,第三者が相続財産に属する土地について時効取得に基づく所有権の移転の登記を求める例,これを例2-1としておりましたが,これらを想定しながら,4ページでお示ししているような制度を設けることは,意義がないものではないという御議論があったと整理いたしましたから,そのような観点から,この資料を作ってございます。   反面,第8回会議において話題といたしました例2-2でございますが,第三者が相続財産に属する土地について,金銭債権に基づく強制執行を求める例や,それから例3としておりましたが,共同相続人の1人が他の相続人による相続財産に属する土地の持分の売却の防止を求める例などにつきましては,この二つではやや背景が異なりますけれども,それぞれ難点をこの席において御指摘を頂き,それらを想定しながら相続財産の管理の制度について何か新しい規律整備に挑むということが必ずしも相当ではないとみられるという御意見があったところでありまして,それらを踏まえて,4ページを中心とする問題提起を差し上げているところでございます。   この部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○潮見委員 内容にわたることではありませんけれども,先ほど言ったことですが,(注1)とか(注2)に書かれていることを本文ゴシックに書き込めないか,御検討いただけないでしょうか。これも,部会で異論はなかったのではないかと思います。特に,(注1)の前半の共同相続人間で遺産分割がされていないということが前提になっているという箇所は,実体法上のルールとしてはかなり重要であって,アの部分に入れておいたほうがよいという感じもしないわけではありませんし,(注2)については,この二つの相続財産管理の関係を,どこかで明らかにしておくことが,特にパブリックコメントを求めるときには大事ですし,その後,実際にどのように規定を整備するかというところでも,ある意味では重要になってくるのではないかという感じがいたします。   今の二つの点について,本文ゴシックに上げられないかということを御検討いただければ有り難いということを,特にこだわりませんけれども,意見として申し上げました。 ○山野目部会長 (注1)及び(注2)は,文章を推敲して上に上げる可能性を検討してみます。   (注3)はいいですよね。   (注)の性格によって,潮見委員から御注意いただいたように,国民一般が読むときの分かりやすさという観点から,もう少し活字を大きくしたほうがいいところがあるかもしれません。ありがとうございます。   4ページで問題提起を差し上げている事項について,ほかにありませんか。 ○宇田川幹事 前回示された案から5ページに記載されている,1の(1)の①と②のケースを主に想定すると整理をしていただいているところ,②の第三者が積極財産である相続財産に対して権利行使を求めるケースとして,時効取得による所有権移転登記を求める例が記載されていますが,ほかにどういった例があるのかが少し分からないところです。もしかしたら,次の共有制度の見直しのところで出ている,部会資料24の筆界確定の関係の訴訟なども含まれてくるのではないかと思われるのですが,その広がりがどういうものか分からない部分があって,もう少し具体的に御説明いただけたら有り難いなと思っております。   そのように広がりがあることを前提にすると,前回議論がされたときにも,今の熟慮期間中といった限定された場面ではなく,広く一貫して相続財産管理人の選任を認めることになると,複数の相続人がいるけれども,単純承認をしている相続人がいて,権利を相続することは確定している相続人もいる中で,そういった相続人の手続保障をどのように確保するか,相続財産管理人はどのように関与していけばいいのかということを整理していく必要があると思われます。そういった点も課題であるということも明記していただくとよいのではないかなと考えております。   5ページの末尾に記載されている②のケースについて,数人の相続人が明らかになっていて,この者らを相手に第三者が権利行使するのに支障がない場合には,その選任の申立ては認められないものと考えられるという記載があります。相続人が確定している場合に,例えば,所在不明の方が相続人の中にいる場合が,ここに当たるのかが分からないのですが,手続保障の観点から,その相続人ら全員を被告として訴えを提起して,所在が不明であれば公示送達等の手続をとる方が適当ではないかという考え方もあるところでございます。相続人が確定している場合に,本規律がどのような場面を手当しようとしているのか,どのようなニーズがあると捉えるのかについては,改めて詰めていかないといけないところではないかと思っており,そういった問題提起も必要ではないかと考えております。   逆に,相続人が未確定の場合には,現行法上の918条の熟慮期間中ということでほぼ手当されているということも考えられるのではないかとも思われ,どの場面を手当するのかというところを,もう少し整理していく必要があるのではないかと考えております。   また,実際に申立てをするときに調査することが難しいので,申立てを認めるということになったとしても,手続保障の点も含めて考えると,相続財産管理人が相続人の有無や所在,相続人が熟慮期間中か否か,相続放棄の有無も含めて,調査をしなければならないことになって,手続として簡便になるかというと,申立人がやるべきことを全て相続財産管理人がやることにもなりかねないところです。費用についても,申立人に予納していただく必要があるとも考えられますし,逆に,相続財産から支出することも考えられますが,申立人の権利行使のために,相続財産から支出することはいいのかということも問題になると思われ,少し検討が必要ではないかと考えております。パブコメにおいても,より問題点を明示する形で記載することが望ましいと思っております。 ○山野目部会長 補足説明の記述の充実をお求めいただいた点は,今,多岐にわたって御指摘いただいた点を文章に反映させるようにいたします。   内容の面では,この後で審議を予定しております部会資料24の後半で取り上げている内容と関連する部分があって,そちらとの関係にも注意しながら,議論を進めなければいけないということを理解することができました。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 今の宇田川さんの御発言にほとんど全面的に賛成なのですが,補足説明に書けばいいということではなくて,私は,かなり根本的な問題があるような制度のような気がして,それこそ(注)にいろいろな問題点というのを書くべきではないかと思います。   ただ,これは最終的なまとめ方がどういうふうになるのかというのは,技術的な問題もあろうかと思いますので,今絶対にそうすべきだと強く主張するものではございません。 ○山野目部会長 分かりました。どのレベルの文章で取り上げるかを,検討することにいたします。 ○畑幹事 補足説明ということになるかと思うのですが,今回いろいろと議論を整理していただいて,結局5ページの上の方の管理放棄されている場合と所有権移転登記手続を求める場合というのが,例として出ているわけですが,この二つが例だとすると,実は,先ほどまで検討していた話とかなり重なるということになるような気がします。つまり,管理不全土地という話と,そのもう一つ前の土地管理の話と,かなり重なるところが出てきているように思われます。   5ページでは,通常の共有とは異なるという説明もありますが,それがどのくらい説得的かということには議論の余地もありそうですし,①とか②の例だと,問題になっているのは特定の土地であるのに,相続財産管理というのは,相続財産全体を管理する人を想定しているのだと思うので,ちょっと過剰なことになってはいないかという印象もないではありません。したがって,私の希望としては,先ほどの土地管理や管理不全土地の制度との重なりもあるというようなことも,補足的に説明していただければと思います。 ○山野目部会長 休憩前に議論した幾つかの制度と機能が重なる面があるということに注意しましょう,ということを補足説明に記すということは,畑幹事御注意のとおりしなければいけないと感じます。   その上で,内容の面で検討を進めなければならないとすると,確かに,この①の例も②の例も,例えば,①の例などは,管理が適切になされていない土地の管理命令の制度を用いるということも並行して考えられて,そちらの要件も満たすと思います。そう考えたときに,そちらの制度を用いて選任された管理人のための費用といいますか報酬を,土地の管理制度の場合には,その土地のみを原資として捻出しなければならないのに対して,こちらの相続財産の管理の制度でいったときには,遺産を構成するある土地の管理が不全であるということをきっかけとして,選任された管理人のための報酬ないし費用を,当該土地ではない遺産を構成する別な財産を原資として支弁するということが可能になってくるものでありまして,そのこと自体は,事態の成り行きの理解としてそうですが,そうなるから,それはおかしな役割分担であってやめたほうがいいと考えるか,いや,そういうこともあっていいと考えるかということは,それは意見が分かれるところでありましょう。ここで御議論をしていただいてもよろしいですし,両論あるということであれば,正にそれを一般に意見を問うということかもしれません。   内容面でそういう整理を要求されるという側面があることも,畑幹事から御示唆を頂きました。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○宇田川幹事 質問でございますが,今回,債務についての管理はしないと整理されているのですが,可分債務の管理については,金銭債務で当然相続人に帰属して分割承継されるので対象とならないのは分かるのですが,不可分債務の管理については,どのように整理されるのかという点と,部会資料の7ページの4の(2)の費用について,各相続人の固有財産からも支弁することについて引き続き検討すると記載されていますが,何か具体的な仕組みを想定されているのであれば,教えていただきたいなと思いました。 ○大谷幹事 この債務のところは,金銭債務であれば,承継されてしまうからということもあるのでしょうけれども,そもそも債務というものを,保存に必要な処分として選任される相続財産管理人が,相続財産の保存のために債務を弁済するということがあるのかどうかというところかなと思っておりまして,事務当局としては,これを考えたときに,結局相続財産管理人がここへ出てくる場面というのは,積極財産を保存したいという場面ぐらいしか使い道がないのかもしれないと思いまして,そういう意味では,相続財産管理人は相続財産全体を管理するにしたって,債務を弁済するようなことはしないということになるのかなと考えて,作っておりました。 ○宮﨑関係官 2点目にお尋ねになった,7ページ目の(2)の管理に要した費用は,固有財産からも支弁することについての,何か仕組みを設けるのかというふうなお話だったと思うんですけれども,現行法の民法885条の相続財産に関する費用について定めている規律の解釈でも,この規定で言っている相続財産の中から支弁するということ自体は,遺産債務に準ずるという意味だと解すべきでなかろうかというふうな指摘もありまして,そんなふうに解すれば,相続に応じた範囲内では,各相続人の固有財産からも支弁すべきだというふうなことについて,特段の記述を設けるということまでは必要ないのかなとも考えておりました。 ○宇田川幹事 2点目についてお答えいただいたところでは,仕組みとして,誰が回収するのか,相続財産管理人が回収する形になるのか,それ以外のことが考えられるのか,相続財産管理人が回収することになると,回収に掛かるコストや手続の負担も含めて,報酬を考えなければならないのかなと思ったところです。むしろ回収の根拠,固有財産が回収できることの根拠ではなく,回収の仕組みをお聞きしたかったところでございます。   また,債務の関係について,例えば,賃貸人の地位,契約上の地位がある場合に,賃借人が修繕の請求をするというような場合,修繕債務は不可分債務になると思うのですが,そういったものはどういう形になるのか,権利行使ということで管理の対象になってくる形になるのか,こちらも整理ができていないところですが,詰めていく必要があるのではないかと考えているところでございます。 ○山野目部会長 御注意を頂いた上で,事務当局では推敲を続けるということでよろしいですか。 ○宮﨑関係官 はい。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き,ここのところについていかがでしょうか。   よろしいですか。   それでは,次のことをお尋ねいたします。   部会資料のその後でございますけれども,7ページの「2 民法952条以下の清算手続の合理化」というところでございまして,相続人不存在の場合について,現在の民法の規定では,ある種類のことを待つのにある期間が定められ,それが経過すると,また別な種類のことを公告して,待つのに若干の期間を要するというような複数のものが連結されるという形になっております。これについて,合理化を図る余地がないかということについて,従前より御提示申し上げてきたところを踏まえ,当面の中間試案における提示の仕方を御提案申し上げております。   これについては,併せて,本日机上に参考資料をお届けいたしておりまして,法務省事務当局からの要請を受けた最高裁判所事務総局において,東京家庭裁判本庁と大阪家庭裁判所本庁の皆様を煩わせ,事実関係において知り得る限りのところをまとめた書面を作成いたしました。参考資料としてお配りしておりますから,御意見を仰せになる際,これを参考としておっしゃっていただいたりすることも,あってよろしいと感じます。   それでは,この2の部分についての御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 この公告が,実務上重いということがありますので,このような形で合理化し,公告を順次行うのではなく,同時進行で行うということでよろしいと思います。   期間については,現在の通信交通手段の発達等を踏まえれば,相続人探索の期間は3か月でよいと思います。それから,②の点については,現行の期間を延ばす必要はなく,2か月でよいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか。   それでは,これでパブリックコメントに諮るということにいたします。   併せて,パブリックコメントそのものではありませんけれども,それを経た上でのその後の法制の整備を考えた際の場面において,私の方から事務当局において御検討いただきたいことを申し添えるとことにいたします。   それは,ここに限りませんけれども,例えば,今御議論いただいたところにも公告というものが登場してまいります。それから,およそこの部会で扱っている事項が,一般的に,何にせよ,現下の社会経済情勢を反映して,行方が分からなくなった人に対して,共有や財産管理のその他の場面で何かを問い掛けて,そのリアクションのあるなしを踏まえて事が進むという建て付けになる部分が,非常に多うございます。   ところが,この公告なるものについて,現在の民事法制の規律を眺め回してみますと,二つほど問題があって,一つは,国民から見ての規範の透視性に欠ける部分があるように感じます。どのような方法で公告をするかについて,ある事項は民法の本条が定めており,ある事項は非訟事件手続法が定めており,ある事項は家事事件手続規則が定めているとバラバラになっていて,なぜそういうふうに法令の異なるところで定められているかということについて,合理性が必ずしも感じられません。   それから,公告の方法ですけれども,情報通信技術が発達した現代に即応した公告の仕方というのが,もっと考えられていってよいかもしれません。現在,法務省などが関連して民事手続等のIT化の検討とそれに隣接する課題の検討が行われておりまして,これそのものは裁判手続におけるIT技術の活用の問題であって,今お話しした公告の話とは異なるものでありますけれども,隣り合った主題である側面があるものではないかと感じます。   既に行政府の手続におきましては,行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律5条の定める縦覧や閲覧において,様々な情報通信技術の活用が進められているところであります。このようなことは,司法裁判所が主宰する手続においても,もっと前進させていってよい側面が,検討を加えればあるのかもしれません。この機会に,是非人々が行方不明になっているという事象に正面から取り組んだ,この部会の一つの発展的な作業として,この公告の在り方について,改めて法制的な整備を考えてみるということにも,意を用いていただければ有り難いと考えます。   ほかになければ,その部会資料の最後の論点についてお尋ねを致します。   8ページでございますが,「第3 相続放棄をした放棄者の義務」という論点でございます。   これについて,甲案と乙案をお示ししております。ここまでの審議におきまして,現在の940条1項の規律に不明瞭な部分があり,又は,内容が合理性を疑わせる側面があるということは,委員,幹事の間に広く共有されてまいりました。その上で,今後に向けてどのような在り方がよいかということについて,中間試案においては,甲案と乙案を提示して示してみせるということではどうかという提案を差し上げておりますが,これについての御意見を承ります。 ○潮見委員 甲案と乙案を並べて聞くということ自体に,私は異論を申し上げるつもりはございません。   ただ,この甲案と乙案の書き方が分かりにくい。9ページの説明の方が分かりやすい。義務の範囲は甲案は保存で,乙案は保存より狭いんですよね。でも,見方次第では,甲案は,保存をすれば足りると書いている。乙案は,そこの記述はないんですよね。つまり,自己の財産におけるのと同一の注意を怠って,その財産を滅失又は損傷したときはという書き方になっているんです。そういう書き方からすると,甲案の方が義務の範囲が狭そうに見えるんです。そういう捉え方がされかねないのは,乙案でどのような義務を負うのかという義務の内容が書かれていないからなんです。注意を怠ってとしか書いていないんです。損傷,滅失というのは,結果にすぎません。ですから,仮に,乙案を問うのであれば,補足説明で書かれていること,つまり義務内容を落とし込むことで書かないと,まずいんではないかと思います。   御検討いただければと思います。 ○山野目部会長 承りました。   甲案の方が,放棄者にとっては重い責務,義務を課していると映りますが,そこを読み取ることができないではないかという御指摘でした。なるべく読み取りやすくするように努めることにいたします。   ほかにいかがでしょうか。 ○中村委員 日弁連のワーキングの中での議論では,この甲案,乙案というのは,従前よりも940条の趣旨を踏まえて,前向きにいろいろ御検討いただいた結果と思いますけれども,なおそれでも甲,乙,いずれにも反対という意見もございました。また,乙案賛成という意見もございましたので,御報告しておきます。 ○山野目部会長 お尋ねですが,甲,乙,いずれにも反対というのは,940条をそのまま残すということですか。 ○中村委員 いえ。そうではなくて,放棄者には責任を課さないという方向です。 ○山野目部会長 よく分かりました,ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐久間幹事 この御提案は,940条第1項全体についてだから,当たり前ですけれども,土地に限らない問題ですよね。そうすると,動産を占有している人につきまして,甲案だと,どうすれば終了できるかについて考えなければいけませんねということが,10ページでしたっけ,そうそう,10ページの最後で保存義務を免れるための方策うんぬんというのが書かれているんですが,乙案の場合も,土地のように立ち去ればいいものや,建物もいいのかもしれませんが,占有していることによって保存されている,放ったらかしにしたら,恐らくは,滅失はないのかもしれませんけれども,損傷する危険性がかなり大きいというものについても,どうすればいいのかを,全然案は持ち合わせないんですが,ひょっとしたら考える必要があるのかなと思いました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 潮見さんが抽象的におっしゃったので,更にこれ以上言う必要はないのかもしれませんが,甲案と乙案の違いとして,乙案は保存義務を負わないで,積極的に滅失,損傷をしてはならないという義務を負うにとどまると書いてありますね。ところが,佐久間さんもおっしゃったような気もするんですが,例えば,腐りそうなものといったときに,乙案だったらどうなるのかというのがよく分からなくて,積極的にそれを処分しなくてもいいのかもしれないんだけれども,腕組みをして腐っていくのを見ているということなのかなという感じもします。しかし,やはりそういうときは,冷蔵庫に入れたり,処分したりしなければならないということですと,甲案と一緒ではないかという気もします。甲案と乙案を気持ちは分かるんですけれども,やはり潮見さんおっしゃるように,何かうまく表現できていないのではないかなという気がします。 ○山野目部会長 事務当局にお尋ねしましょうか,評判が悪いですけれども,何かコメントがありますか。 ○大谷幹事 なかなか,確かに難しい,前回の御議論があって,保存の義務でいいんではないかという御議論と,壊しちゃいけないという御議論があったので,それを字にしてみたということなんで,なかなか。あれでしょうか,甲案と乙案で,実質的には余り変わらなくなっていくでしょうか。だとすると,甲案だけでもいいのかもしれないと,今お聞きをしていて思ったのですが,そうでもないのでしょうかね。もう少し軽いものがあるべきだということかもしれませんけれども。 ○山野目部会長 あらためて整理してみると,甲案と乙案とで実質が変わらないかもしれません。変わらないならば,どちらにしますかと国民を悩ませることは迷惑ですから,一本化して出すべきかもしれません。そこは,検討しなければなりません。   それからもう一つ,弁護士会の先生方の御議論の中で,言うなれば民法940条1項単純削除説という御意見が出ていたということを承って,いささか感動しました。それはすごく,お気持ちが分かるような気がいたします。   ただし,仰せいただいた先生方にお伝えいただいて,また引き続き弁護士会で御検討いただきたいことですが,940条1項の規律を単純になくしたとしても,事実として,遺産の一部を構成する土地を占有している者に対して,土地工作物責任の民法717条の適用があることは妨げられないと考えますし,それから,占有していたものを放り投げていってしまったものの,その放り投げる行為が,民法709条の一般の不法保行為の注意義務違反を構成すると認定されれば,不法行為の損害賠償責任が成立するということも,恐らく何か特別のルールを設けない限り,否定はされないと思うのですね。加えて,民法191条の占有者に対して課せられている損害賠償責任といいますか,一種その前提となる注意義務というものも,特段の規律を設けなければ免れないことになると考えられれますから,940条1項の規律を単純に全廃するということをしたときにも,717条,709条,191条などの一般的な規律の適用関係がどうなりますかという問題は残ることでしょう。それらが残りますが,しかし,それは別に一般的規律でそうなるものですから,もうそのような一般的な規定の通則的な処理に戻してあげるのですという規律編成の選択はあるでしょうという御意見としては,なお成立可能な意見でありますから,その辺のところも引き続き検討を深めていく必要があるものではないかと感じます。   ほかに御意見はおありでしょうか。いかがでしょうか。 ○中田委員 この規律が一般的に適用されるということについて,何人かの方から御意見がありましたが,私は,この規律を前に見たときは,家にある馬が相続財産である場合を考えたんですね。馬をどうするのかということです。そうすると,甲と乙とあんまり変わらないのかなという気もいたします。   他方で,この第3の規律が,この部会に与えられた任務との関係で,どのようにつながるのかということを説明していただいたほうがよろしいのかなと思いました。多分,馬の例よりも,今部会長がおっしゃった工作物責任とかの方が,ぴんとくるとは思うんですけれども,広い規律ですので,そこの説明を付加していただいたらなと思いました。 ○山野目部会長 補足説明で,今のところが明瞭になるような説明を加えなければいけないと考えます。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,部会資料22の審議をしていただいたという取扱いにいたします。   それで,委員,幹事,関係官の皆様方にお願いでございますが,部会資料23及び部会資料24が審議未了でございます。次回,これを御持参いただきたいというお願いをさせていただきます。   本日予定した議事の内容のうち,ただいま御紹介した部会資料23及び24に係る部分を除き,御協力のお陰を持ちまして審議を了しました。   次回会議の日時や進め方等について,事務当局から案内があります。 ○大谷幹事 次回の日程は,2週間後,12月3日の火曜日ということになります。時間は,いつもとおり1時から6時ですが,本日と同じように,6時半まで延長する可能性があるということを御理解いただければと思います。   場所は,東京地検の15階の1531号室,これも,前使ったことがあるかと思いますけれども,東京地検の15階の方になります。   次回のテーマは,主に中間試案の案というものを再度,本日の御議論も踏まえてお示しをして御検討いただく,また,この積み残しになっている23,24についても,扱い方,その資料の作り方,また考えますけれども,取りあえずお持ちを頂いて,それについても御検討を頂ければと思っております。 ○山野目部会長 委員,幹事,関係官の皆様方,また,傍聴でおみえになって審議に協力をいただいている皆さんも含め,本日は長時間にわたる審議に御協力を賜りまして,誠にありがとうございました。お疲れのお残りにならないよう,お祈り申し上げます。   これをもって,第10回会議をお開きといたします。どうもありがとうございました。 -了-