法制審議会 第186回会議 議事録 第1 日 時  令和2年2月21日(金)   自 午後2時02分                        至 午後3時41分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題    自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問第109号について    公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号について    民事裁判手続のIT化に関する諮問第111号について 第4 報告事項    民法・不動産登記法部会における審議経過に関する報告について 第5 議 事 (次のとおり) 議        事 ○丸山司法法制課長 ただいまから法制審議会第186回会議を開催いたします。   本日は,委員20名のうち19名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○森法務大臣 法制審議会第186回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席をいただき,誠にありがとうございます。また,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は御審議をお願いする事項が三つ,部会からの報告事項が一つございます。   まず,本年1月に諮問いたしました,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問第109号」についてでございます。   この諮問については,本年1月以降,刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会において調査審議が重ねられ,本日,その結果が報告されるものと承知をしております。いわゆる「あおり運転」による死傷事犯について,事案の実態に即した対処をするため,早急に罰則の整備を行う必要があると考えておりますので,できる限り速やかに答申をいただけますようお願い申し上げます。   次に,「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号」についてでございます。   昨年来,保釈中の被告人や保釈を取り消された被告人,保釈中に実刑判決の宣告を受けて保釈が失効した後に刑が確定した者などが逃亡する事案が相次いで発生しており,昨年末には,外国人の被告人が保釈中に国外へ逃亡する事案も発生しました。このような逃亡事案は,ひとたび発生すると,国民の皆様の間に多大な不安を生じさせるだけでなく,適切に対処できなければ,刑事司法制度に対する国民の信頼を大きく損ねることにもなりかねません。安全・安心な社会を実現していく上で,このような逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保することは,喫緊の課題となっております。   そこで,今般,保釈中の被告人等の逃亡を防止し,公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備についての御検討をお願いするものでございます。   次に,「民事裁判手続のIT化に関する諮問第111号」についてでございます。   我が国における民事裁判のIT化につきましては,平成16年に民事訴訟法が改正され,オンラインでの申立てを可能とする規定が整備されましたが,最高裁規則等が整備されていないため,いまだオンラインでの訴え提起等が認められておりません。もっとも,諸外国の状況を見ますと,欧米諸国やシンガポール,中国などでは裁判手続のIT化が広く普及・定着しており,また近年の情報通信技術の飛躍的な進展,さらには5G,AIの時代が到来しつつあることを踏まえますと,民事裁判のIT化を実現することは,正に喫緊の課題であり,AI化も含めて,未来の課題と捉えていく必要があると思います。   政府は,昨年6月に閣議決定された成長戦略において,民事裁判手続の全面IT化の実現を目指すこととしています。具体的には,オンライン申立て,訴訟記録の電子化,ウェブ会議等を用いた関係者の出頭を要しない期日等を実現するため,2022年中の民事訴訟法改正を目指すこととしています。   この改正を行うに当たっては,法制審議会の御意見を賜る必要があると考えられますので,御審議をお願いするものでございます。   最後に,部会からの報告事項は,民法・不動産登記法部会における部会審議の途中経過でございます。   民法・不動産登記法部会におきましては,昨年3月以降,精力的な調査審議が行われ,昨年12月に中間試案が取りまとめられました。本年1月から,この中間試案についてのパブリックコメントの手続が行われておりますが,今後その成果も踏まえ,更に調査審議が進められるものと伺っております。本日は,これまでの審議の経過について,同部会の山野目章夫部会長から報告がされるとのことですので,これに関しましても,委員の皆様方から御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,これらの議題等についての御審議,御議論を本日はよろしくお願いをいたします。 ○丸山司法法制課長 法務大臣は公務のため,ここで退席させていただきます。           (法務大臣退室) ○丸山司法法制課長 ここで報道関係者が退室しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○丸山司法法制課長 では,岩原会長,お願いいたします。 ○岩原会長 岩原でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。   まず,審議に先立ちましてお諮りしたいことがございます。   本日,国会対応等の都合により,竹内関係官が急遽欠席となったところ,今回の議題の内容に鑑みて,堂園民事法制管理官及び村松民事第二課長に関係官として審議に参加していただきたいと考えておりますが,よろしいでしょうか。           (一同異議なし)   それでは,堂園民事法制管理官及び村松民事第二課長に関係官として本審議会の審議に参加していただくことといたします。席の移動をお願いいたします。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣挨拶にもございましたように,本日は議題が三つございます。   まず,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律の一部改正に関する諮問第109号」について御審議をお願いしたいと思います。   初めに,刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました井田良委員から御報告いただきたいと存じます。   それでは,井田部会長,報告者席まで御移動をお願いいたします。 ○井田部会長 刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会の部会長の井田でございます。   私から,同部会における審議の経過及び結果を御報告いたします。   諮問第109号は,自動車運転による死傷事犯の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処をすることができるよう,罰則を整備するため,要綱(骨子)についての意見を求めるというものでありました。   去る1月15日に開催された法制審議会第185回会議におきまして,この諮問については,まず部会において検討させる旨の決定がなされ,この決定を受けて,刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会が設けられました。同部会では,2回にわたって,諮問に付された要綱(骨子)について集中的に調査審議を進めて議論を重ねた結果,全員一致により,配布資料の刑1としてお配りしている要綱(骨子)のとおり法整備を行うことが相当であるとの結論に達しました。   それでは,まず,要綱(骨子)の一について,議論の概要を御報告いたします。   要綱(骨子)の一は,読み上げますと,「車の通行を妨害する目的で,走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為」を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することとするものです。   この要綱(骨子)の一について議論となった主な点は,前回の総会でも御指摘,御意見があったところですが,被害者車両が「重大な交通の危険が生じることとなる速度」で走行していることをこの罪が成立するための要件とすること,すなわち,被害者車両に速度要件を設けることの妥当性と,これを設けることとした場合にこの規定振りが適切かどうかということでありました。   この点について,被害者車両に速度要件を設けることは必要だとしても,あたかも被害者車両が危険を生じさせるかのような誤解を招きかねないため,その規定振りには配慮する必要があるといった御意見がありました。   これに対しては,通行妨害目的で加害者車両が被害者車両の前方で停止するなどしても,被害者車両が低速度で走行している場合には,重大な死傷結果が生じる危険性が類型的に高いとはいえず,この罪で処罰すべきものではないから,被害者車両に速度要件を設けるのが適当であるという御意見,また,被害者車両が通常の走行をしていたとしても,加害者の運転行為によっては重大な死傷の結果が起こり得る危険性を有する速度であることを意味する文言として,「重大な交通の危険が生じることとなる速度」と規定しているものであって,要綱(骨子)の一の文言は,規定振りとして適切であるといった御意見が出され,大勢を占めました。   続きまして,要綱(骨子)の二について,議論の概要を御報告いたします。   要綱(骨子)の二は,読み上げますと,「高速自動車国道又は自動車専用道路において,自動車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の前方で停止し,その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより,走行中の自動車に停止又は徐行をさせる行為」を行い,よって,人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し,人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処することとするものです。   要綱(骨子)の二について議論となった主な点は,これらの道路であっても,渋滞のために同一方向に進行する自動車が停止・徐行を繰り返しているような場合に,要綱(骨子)の二に掲げる行為が行われ,死傷結果が生じたときに,要綱(骨子)の二の罪による処罰の対象とすべきかどうかという点でありました。   まず,結論として,高速自動車国道等であっても,渋滞のために同一方向に進行する自動車が停止・徐行を繰り返しているような場合には,そのさなかで要綱(骨子)の二に掲げる行為が行われ,死傷結果が生じたとしても,要綱(骨子)の二の罪による処罰の対象とすべきでない場合があることについては,異論は見られませんでした。その上で,案文の文言でその旨を明記すべきかについては,当罰性のある場合を過不足なく捕捉することができる限定要件を設けることは困難である一方で,停止・徐行を繰り返しているような場合には,解釈の問題,あるいは事実認定の問題として,要綱(骨子)の二の罪が予定する危険な運転行為と死傷結果との間の因果関係が否定されるために,要綱(骨子)の二の罪による処罰の対象にならない場合があると考えることが適当であるという御意見が出され,大勢を占めました。   以上のような審議に基づき,諮問第109号については,諮問に付された要綱(骨子)のとおり法整備を行うことが相当である旨の決定がなされたものであります。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。   よろしくお願いいたします。 ○岩原会長 御報告ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承りたいと思います。   御質問と御意見を分けまして,まず御質問がございましたら承りたいと思います。   いかがでしょうか。   特に御質問はございませんでしょうか。 ○橋本委員 今いただいた御説明で,ほとんど了解しましたが,確認のために質問させてください。   私が要綱を読んで思ったのは,危険運転致死傷罪は,特に危険なものに関して重罰化を図るというものですが,構成要件が,その趣旨を反映した限定のある形で書かれているかというと,読み方によっては,広めに処罰範囲が当たってしまう,形式上はこれに当たってしまうというものがありそうだということでした。こういうものについて,先ほど実質的な観点から,それを処罰するのは適当でない場合があるとの意見が多数を占めたという御説明だったと思うのですが,その際の説明の仕方,理屈の立て方等について,先ほど因果関係ということを言われたのですけれども,具体的な議論をもう少し紹介していただければと思います。 ○井田部会長 最初に申し上げたいことは,今回の要綱(骨子)の一・二の規定振りと,現行の危険運転致死傷罪のそれぞれの危険運転行為の類型のそれとを比べたとき,要綱(骨子)がより不明確であるとか,処罰の範囲を不相当に拡大するものであるとか,そういうことは全くないということです。現行の規定と比較したとき,その明確性の程度において,決して遜色はないと私どもは考えております。   それから,後者の点でございますけれども,要綱(骨子)の二に関しまして,渋滞のために停止・徐行が繰り返されている状況等で,形式的にはその文言に当たりそうな行為が行われても,この類型で処罰すべきでない場合があるという点では意見の一致がございました。ただ,そのようなケースで,要綱(骨子)の二の類型に当たらないことをどう説明するかについては,異なった考え方があり,部会においても,理論的見地から種々の御意見が出されたところです。   もう少し詳しく申し上げますと,そういう場合にはそもそもこの類型が予定している実行行為に当たらないとする考え方もあろうが,それには理論的・実際的な難点もあり,個別的に因果関係を否定するという考え方の方が適当ではないか,という有力な御意見が示され,それをめぐり,相当に立ち入った議論が行われたところです。   この問題は,どこまで法によって細かく規定するか,どこからは解釈に委ねるかという線引きの問題とも関連しております。それは一方における立法と,他方における裁判所等による解釈との間の役割分担の問題でもあり,正しい線の引き方のルールがあらかじめ存在するわけではありません。私どもが部会で検討した過程においては,規定振りないし文言の問題としては,これ以上に言葉を補い,踏み込んで規定して,より明確化を図るということは難しいのではないかという意見が大勢を占めました。今後どんな事案が生じてくるか,その予測はなかなかできないわけですし,今の段階の知見でもって決めてしまって,法適用の段階で不都合が生じてきてしまう,というのも困るわけです。ある程度解釈の余地というものを残しつつ,実務における運用に委ねるという態度も必要だと思うのです。そういう観点からするとき,要綱(骨子)の二の危険運転行為の類型についても,現時点でできる限りの明確化はなされており,あとは解釈に委ねてよいのではないか,こう考えたわけです。危険運転致死傷罪という犯罪類型の趣旨からして,この類型に当たると解すべきではないと考えられるケースが生じたとき,それを適用外とすることは,現場における実質的な法解釈に委ねるということです。   その際の実質的解釈の指針としては,先に申し上げましたとおり,実行行為性は認めておいて,しかし危険の現実化という意味での因果関係を否定する,という考え方がより適切ではないかという意見が有力でありました。それは,議事録に残りますし,また立法に至る過程でも,そういう説明がなされれば,それが将来の実務における一つの指針として役立つであろうと思います。   こうして,条文の可能な限りの明確化と,部会の議事録や法案の説明等を通しての実務における解釈へのガイドラインの提供とを併せ勘案しますと,規定振りが明確性に欠けるという批判を受けることは全くないという印象を私は持っておりますし,部会の委員・幹事の先生方の御意見もそうであったと思っております。 ○岩原会長 ほかに何か御質問ございますでしょうか。   よろしいですか。   それでは,続いて御意見を承りたいと思います。いかがでしょうか。   御意見ございませんでしょうか。   よろしいですか。   特に御意見はございませんようですので,原案につきまして,採決に移りたいと存じますが,御異議ございませんでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○岩原会長 特に御異議ないようでございますので,そのように取り計らわせていただきます。   諮問第109号につきまして,刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会から報告されました要綱案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。           (賛成者挙手) ○岩原会長 それでは,事務当局において票読みをお願いします。   手を下ろしていただいて結構です。 ○渡邊参事官 それでは,採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び部会長を除くただいまの出席委員数は17名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○岩原会長 どうもありがとうございます。   採決の結果,全員賛成でございましたので,刑事法(危険運転による死傷事犯関係)部会から報告されました要綱案は,原案のとおり採択されたものと認めます。   採択されました要綱案につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   井田部会長におかれましては,短期間で多岐にわたる論点につきまして調査審議をいただきましたことに厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。   次に,「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号」について御審議をお願いしたいと存じます。   初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○鷦鷯刑事法制企画官 刑事局刑事法制企画官の鷦鷯でございます。   諮問事項を朗読させていただきます。   諮問第110号   近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○川原幹事 刑事局長の川原でございます。   諮問第110号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   平成21年から平成30年までの直近の10年間の統計を見ますと,刑法犯を始めとする犯罪の認知件数は毎年減少し,勾留状を発付された被告人の人員も減少を続けていますが,その一方で,保釈を許可された被告人の人員は約1.4倍に増加し,保釈率,すなわち勾留状を発付された被告人の人員に対する保釈を許可された被告人の人員の割合も約2倍に増加しています。保釈されたものの,公判期日に出頭せず,あるいは所在不明となるなどして保釈が取り消される者の数も,先ほど申し上げた10年間に約3倍に増加しています。   昨年来,保釈中の被告人や保釈を取り消された被告人,刑が確定した者などが逃亡し,その間,近隣の住民に多大な不安を与える事態となった事案が相次いで発生し,また,外国人の被告人が保釈中に国外へ逃亡する事案も発生しました。このような逃亡事案は,一たび発生すると国民の間に多大な不安を生じさせるばかりでなく,適切な対処がなされなければ,公判審理の遂行や刑の執行を危うくし,刑事司法制度に対する国民の信頼を損なうことにもなりかねません。そのため,それらの者の逃亡を防止する適切な方策を講じることは,喫緊の課題であります。   そこで,こうした近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,関係する刑事法の整備を早急に行う必要があると考え,今回の諮問に至ったものであります。   次に,諮問の趣旨等について御説明いたします。   今回の諮問は,近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備について御審議をお願いするものであります。これらの者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための方策については,近時の身体拘束をめぐる様々な事情を踏まえながら,第一審の公判中,上訴審の公判中,判決の確定から刑の執行に至るまでの刑事手続における各場面ごとに対象者の立場や手続の性質の違いを考慮しつつ,有効かつ適切な方策の在り方について,幅広い観点から御検討いただきたいと考えております。   この問題は喫緊の課題であり,必要な法整備の具体的内容等について十分に御議論いただいた上で,できる限り速やかに要綱をお示しいただきますようお願いいたします。   以上でございます。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   続きまして,配布資料につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○鷦鷯刑事法制企画官 配布資料の説明をさせていただきます。   番号刑3は,先ほど朗読いたしました諮問第110号です。   番号刑4は,本諮問に関連する刑事訴訟法及び刑法の参照条文です。   番号刑5は,近時の主な逃亡事案の概要を記載したものです。   番号刑6は,事務当局からの説明の中で概要を申し上げた平成21年から平成30年までの直近10年間の各種統計です。   第1表は,刑法犯の認知件数の推移を表したグラフであり,刑法犯の認知件数は毎年減少しています。   第2表は,同じ期間の通常第一審における勾留状発付人員,保釈許可人員,保釈率の推移を表したグラフです。まず,一番上のグラフのとおり,勾留状を発付された被告人の人員は,平成21年には7万68人であったものが,減少傾向が続き,平成30年には4万8,190人となっています。次に,その下のグラフは,保釈を許可された被告人の人員の推移を表したグラフであり,保釈を許可された被告人の人員は,平成21年には1万924人であったものが平成30年には約1.4倍の1万5,493人となっています。そして,その下のグラフは,保釈率,すなわち勾留状を発付された被告人の人員に対する保釈許可人員の割合を表したグラフであり,平成21年に15.6%であった保釈率は,平成30年には約2倍の32.1%となっています。   第3表は,通常第一審における保釈取消人員を表したグラフであり,平成21年に40人であった保釈取消人員は,平成30年には約3倍の127人となっています。   配布資料の御説明は以上です。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のございました諮問第110号につきまして,まず御質問がございましたら承りたいと存じます。   いかがでしょうか。 ○古城委員 統計を示していただいて大変分かりやすいと思います。それについての質問ですが,保釈許可人員が,平成29年と平成30年とを比べますと,増えております。それで,第3表の保釈取消人員を見ますと,平成29年と平成30年とで,かなり増えているんですけれども,何らかの理由が考えられるものなのでしょうか。 ○保坂関係官 保釈の取消事由というのは,逃亡に限らず,例えば保釈の条件違反ですとか,罪証隠滅等々ございまして,私どもが今持っている統計におきましては,取消しがなぜされたのかという原因の内訳が把握できておりませんので,そのため,御指摘の取消人員数が増えている原因も,この場で申し上げることは難しいということで御理解いただければと思います。 ○岩原会長 ほかに何か御質問ございませんでしょうか。   特にございませんか。   それでは,御意見がございましたら承りたいと存じます。   いかがでしょうか。 ○橋本委員 ありがとうございます。   今回の諮問は,昨今の逃亡事例を契機に,改めて出頭確保の方策の必要性や相当性について検討されたいというものだと思います。その意味で,逃亡を防止して,出頭の確保をするために有効な方策とその問題点について,おっしゃるとおり刑事手続における各場面に焦点を当て,また逃走理由や保釈許可の実態,許可取消しや,許可条件の実態などの検証を含めて,できるだけ部会できめ細かく議論をしていただければと思います。   その際に,言わずもがなでございますけれども,この問題は保釈制度の在り方に関する問題の一つでございますので,審議に当たりましては,無罪の推定と公正な裁判を受ける権利を保障するという保釈制度の本来の趣旨を十分に踏まえた議論を行っていただきまして,適正な保釈制度の運用の在り方を見据えた答申をお願いできればというふうに思っています。   例えば,保釈中の被告人に対する出頭確保の手段としては,GPSなどの方策が昨今言われており,またそれ以外のものも幾つかあり,それらが案として恐らく議論されることになるとは思いますが,その場合には,その前提として,保釈制度に関しては,2016年の刑訴法改正において,衆参両院の法務委員会で被告人が否認や黙秘をしているということを過度に評価して,不当に不利益な扱いをすることにならないよう留意することを求めるという附帯決議がなされていることに,十分に配慮をしていただきたいと思います。   GPSの装着などの方策が単なる出頭確保の観点から,保釈の条件として追加されるという出口論にとどまらないで,適正な保釈制度の運用という観点からも議論をしていただきたいと考えるところでございます。   以上,意見を申し上げました。 ○岩原会長 ほかに何か御意見ございますでしょうか。   特にございませんか。   私個人の感想を申しますと,日本においては裁判所の命令や決定をきちんとエンフォースするということが非常に不十分です。この問題は刑事だけでなくて,民事でもそうだと思っていまして,民事の仮処分などについても,それに違反したときのエンフォースメントがきちんと法整備されてないということが非常に大きな問題だと思っています。   例えば,会社法上,裁判所によって新株発行差止めの仮処分が出されても,それを無視して会社が新株を発行するというケースが後を絶ちません。ところがそれに対して株主の方が新株発行無効の訴えを起こしたところ,最高裁は3対2という僅差でやっと新株発行無効を認めたわけでありまして,2人の裁判官はたとえ仮処分違反の新株発行であっても有効であるという反対意見を書いているわけです。そのように日本においては,裁判所の決定に対するエンフォースメントが非常に弱い。   アメリカであれば,刑事であれ民事であれ,裁判所によるインジャンクションに反した行為というのは,コンテンプトオブコート,裁判所侮辱罪で刑事罰になるわけであります。それは民事についても変わらないのでありまして,本当はこの問題は刑事だけでなくて,私としては民事を含めて裁判所の命令がきちんとエンフォースされるような制度を今後考えていただきたいと思います。   やや権限を逸脱して発言させていただきましたけれども,よろしいでしょうか。   それでは,皆様特に御意見がなければ,続きまして,「民事裁判手続のIT化に関する諮問第111号」について御審議をお願いしたいと存じます。   初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○大野参事官 民事局参事官の大野でございます。   諮問事項を朗読させていただきます。   諮問第111号   近年における情報通信技術の進展等の社会経済情勢の変化への対応を図るとともに,時代に即して,民事訴訟制度をより一層,適正かつ迅速なものとし,国民に利用しやすくするという観点から,訴状等のオンライン提出,訴訟記録の電子化,情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。   以上でございます。 ○岩原会長 どうもありがとうございます。   続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○小出幹事 民事局長の小出でございます。   諮問第111号につきまして,諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等を説明申し上げます。   まず,我が国の民事訴訟手続におけるITの活用に関する現状について説明いたします。   平成8年に成立した現行の民事訴訟法では,争点整理手続に電話会議システムが導入され,また遠隔地に居住する証人について,テレビ会議システムを利用した証人尋問が認められるようになるなど,世界的に見ても早期に通信技術を利用した取組が行われてまいりました。また,平成16年にはオンライン申立て等を可能とする第132条の10という規定が設けられ,平成18年には支払督促手続について,オンライン手続を可能とする督促オンラインシステムが導入されております。しかし,現在訴えの提起や準備書面の提出などにつきましては,最高裁判所規則が整備されていないため,オンラインで行うことができない状況にございます。   他方で,諸外国の状況を申し上げますと,例えばアメリカを始めとする欧米諸国や韓国,シンガポールなど,アジア諸国においても,民事裁判手続のIT化が急速に進められているものと承知しております。これらの諸外国では,オンラインによる訴えの提起はもちろんのこと,手数料の電子納付,準備書面のオンライン提出,争点整理期日のオンライン参加など,ITを利用した本格的な取組が進展しており,我が国の民事訴訟手続におけるITの活用は,これらの諸外国と比較して後れている状態にあります。しかし,我が国においても近年の情報通信技術の飛躍的な進展に伴い,多くの分野でITの活用が進み,これが国民生活に一定程度浸透しております。そのため,民事裁判手続においても,ITの活用により,国民の司法アクセスを向上させるとともに,民事裁判手続をより一層適正かつ迅速なものとすることが喫緊の課題となっております。   このような状況の下で,近時訴状などのオンライン提出を可能とするe提出,また訴訟記録を電子化した上で,訴訟の当事者がいつでもオンラインで訴訟記録の閲覧等をすることができるようにするなどのe事件管理,訴訟関係者が裁判所に現実に赴くことなく,ウェブ会議等を通じて裁判手続に参加することを可能とするe法廷という三つのeの実現を求める指摘がされており,平成30年6月に閣議決定された未来投資戦略2018や昨年6月に閣議決定された成長戦略フォローアップにおいても,これらの実現による民事裁判手続の全面IT化に向けた取組を進めることとされ,令和4年中の民事訴訟法改正を視野に入れて取り組むこととされております。   そこで,民事訴訟のIT化等の実現に向けて,具体的にどのように民事訴訟法等の規律を見直すべきかについて,法制審議会で御検討いただく必要があると考え,今回の諮問に至ったものでございます。   訴えの提起から判決に至るまで,御検討いただきたい項目は民事訴訟制度全般にわたりますが,時代に即して民事訴訟制度をより一層適正かつ迅速なものとし,国民に利用しやすくするという観点から,民事訴訟制度を見直すことについて法制審議会の御意見を頂きたく存じます。   諮問第111号についての説明は以上のとおりです。どうかよろしくお願いいたします。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のございました諮問第111号につきまして,まず御質問がございましたら承りたいと思います。   いかがでしょうか。   特に御質問はございませんか。   それでは,続いて御意見がございましたら承りたいと思います。   いかがでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。   今回,この見直しというのは,国民に利用しやすくするという観点が入っており,当然これは経済界としても是非進めていただきたいと思います。ただこれは単に国民一般ということだけではなくて,法曹実務に関わる皆様方の働き方改革にもつながるものになるはずですので,そういう観点でも是非進めていただきたいということです。   あともう一つ,こういう電子化の話をするときには,当然電子化がメジャーであって,電子化できるということではなくて,電子化を基本にするという見直しであるべきだと思います。その意味で,一連の手続の中で,あるところが結局は変わらないと何の意味もない。例えば,先ほど話が出ておりました手数料のところで,そこだけが印紙を貼るということになると,全くそこだけ電子化されないということになりますので,そういう意味では,今回民事訴訟制度ということに限っていますが,ここは全体を見るよりは,とにかくまず民事訴訟制度について,率先してそういう観点で電子化に取り組んでいただければと思います。   以上です。 ○山根委員 ありがとうございます。   民事訴訟をもっと市民が利用しやすいものにする,身近なものにするということはずっと課題にされてきたことでありますし,望まれることだと思います。ただし,IT化で個人情報の漏洩等を心配して逆に利用をためらうようになったり,IT利用の環境にない人が置き去りになったり,もっと言えばそのあたりで好ましくない商売をしようというようなことが出てきたりしないように,十分な整備に向けた検討をお願いしたいと思います。 ○小杉委員 ありがとうございます。   IT化は時間や場所にかかわらずアクセスできる,また,非常に効率化が図れるということで,基本的には進めるべきだという認識を持っておりますが,ただその場合,今,山根委員の御意見にもございましたとおり,十分にそれにアクセスできないような情報弱者に対しての対応というのは,きちんとしければいけないのではないかと思います。既に先行している各国の状況なども鑑みまして,きちんと誰もが公平にアクセスできるような環境というのを整えつつ進めていただきたいと思います。   それからもう一点,今は情報が非常に価値のある時代です。正にこれまでの記録も含めて,情報はどんどん電子化が進むと思いますが,電子化された情報というのは非常に価値があるもので,それを誰がどう使えるかということも併せて考えなければいけなのではないか,誰に対してどこまで開示できるのか,あるいは匿名化して何らかの形で経済活動に利用できるのか,そうした今正に情報というのは価値の塊ですので,それをどう活用していくかということも含めて御検討いただかなければいけないかと思います。   以上です。 ○高山委員 皆さんがおっしゃったことに,一つ追加させていただければと思うのですが,IT技術の進展のスピードが,大変飛躍的に進んでいる中で,不正技術の進化も著しくなっているかと思います。ですので,高度なIT技術を逆に利用した不正な裁判手続の利用ということも,視野に入れなければならないのではないかと思っておりまして,そういった場合の罰則規定等も,検討事項の中に入れていただけたらと思います。   その意味でも,御検討いただく際には,IT技術の分野に詳しい方もメンバーに入れていただいて,進めていただければと思います。   以上です。 ○内田委員 この諮問の背景の事情として,例えばe法廷ということも検討されるという御説明があり,そういったIT化自体は大変結構なことだと思うのですが,ただ現状は,例えば弁論準備の期日などが次回の日程を決めるだけで終わってしまうというやや形式的に行われている面もあると思います。IT化によって,何かそれが更に促進されてしまわないかという懸念があります。もちろんこれはIT化の問題ではなくて,別の問題だと思いますけれども,IT化,電子化することによって生ずるマイナスの効果はないかということにも十分御配慮いただいた上で,期日は実質化する方向で,その妨げにならないような形でのIT化を是非御検討いただければと思います。   以上です。 ○岩原会長 それでは,ほかに御意見ないようでございますので,ここで諮問第110号及び諮問第111号の審議の進め方について御意見があれば承りたいと思います。   いかがでしょうか。 ○高田委員 今回の2件の諮問,諮問第110号及び諮問第111号につきましては,いずれにつきましても専門的,技術的な事項が相当含まれておりますので,通例にならいまして,それぞれについて新たに部会を設置し,調査審議をしていただき,その結果の報告を受けて,本総会で改めて審議をするという手順を踏むことが適切ではないかと思いますので,そのように御提案申し上げます。 ○岩原会長 ただいま高田委員から部会設置等の御提案がございましたが,これにつきまして御意見はございませんでしょうか。   それでは,特に御異議もないようでございますので,諮問第110号及び諮問第111号につきましては,新たに部会を設けて調査,審議することといたします。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してでございますが,これらにつきましては,会長に御一任いただきたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○岩原会長 それでは,この点は会長に御一任願うということにいたします。   次に,部会の名称でございますが,諮問事項との関連から,諮問第110号につきましては,「刑事法(逃亡防止関係)部会」,諮問第111号につきましては,「民事訴訟法(IT化関係)部会」という名称にしたいと存じますが,いかがでございましょうか。           (「異議なし」の声あり) ○岩原会長 それでは,特に御異議もございませんようですので,そのように取り計らわせていただきます。   ほかに部会における審議の進め方も含め御意見はございませんでしょうか。   特にございませんか。   それでは,諮問第110号につきましては,「刑事法(逃亡防止関係)部会」,諮問第111号につきましては,「民事訴訟法(IT化関係)部会」で御審議いただくこととし,部会の御審議に基づいて総会において更に御審議を願うことといたしたいと存じます。   本日の議題は以上でございますが,引き続き現在調査審議中の部会からその審議状況等を報告していただきたいと存じます。   本日は民法・不動産登記法部会の部会長である山野目章夫臨時委員にお越しいただいておりますので,部会における審議状況等の御報告をしていただき,御報告後,委員の皆様から御質問等をお伺いしたいと存じます。   それでは,山野目部会長,報告者席まで御移動をお願いいたします。 ○山野目部会長 民法・不動産登記法部会の部会長を務めております臨時委員の山野目と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。   初めに,資料の確認を申し上げます。   席上皆様のお手元に資料番号民2-1として民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案と,資料番号民2-2として民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明といういずれも白黒刷りの資料2点をお配りし,さらに資料番号民2-3として,カラー刷りのものでございますけれども,所有者不明土地問題の解決に向けた民法・不動産登記法の見直しという資料,これを含めて合計3点を配布しております。   本日は時間の制約から,御紹介申し上げました3点の資料のうち,最後に御案内いたしましたカラー刷りのもの,この資料を中心に御報告を差し上げることといたします。   このカラー刷りの資料,資料番号民2-3でございますけれども,その1ページをまず御覧ください。   所有者不明土地問題とは何かについて,改めて御説明を差し上げますと,いわゆる所有者不明土地とは,不動産登記簿を見ても所有者が直ちには判明せず,又は所有者が判明したとしても連絡がつかない土地を呼んでおります。所有者不明土地の規模など,悉皆的に調査したデータはございませんけれども,そこに参考1及び参考2として,白抜き点線枠部分に記しましたように,法務局が実施した登記所備付地図作成作業における土地所有者等の所在確認調査や国土交通省が実施した地籍調査における土地所有者等に関する調査によりますと,不動産登記簿のみでは所有者の所在を確認することができない土地が約20%存在したという調査結果が出ております。   資料右上の問題点の例のところに記しましたように,所有者不明土地が存在しますと,例えば公共事業の実施や民間取引に当たり,買収交渉の相手方が不明で交渉が滞ったり,復旧・復興事業において,戸籍や住民票の調査等による所有者探索に膨大な時間と費用が掛かったりするなど,様々な社会的問題を生じさせます。今後,相続が繰り返される中で,ますます深刻になるおそれもありまして,所有者不明土地問題の解決は政府全体で取り組むべき喫緊の課題とされております。   そこで,御案内のとおり,昨年2月,民事基本法制の抜本的な見直し,具体的には民法及び不動産登記法の改正について,法務大臣から法制審議会に対して諮問が行われ,民法・不動産登記法部会が設置されました。   おめくりいただきまして,資料の2ページを御覧ください。   諮問事項は大きく分けて2点ございます。   一つ目は所有者不明土地の発生を予防するための仕組みであり,また二つ目は所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みでございます。下の段に記しましたとおり,諮問におきましては,具体的な検討事項が例示されており,まず一つ目の相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組みにおきましては,相続登記の申請を土地所有者に義務づけることなどの不動産登記情報の更新を図る方策と土地所有権の放棄を可能とすることなどの所有者不明土地の発生を抑制する方策が挙げられてございます。   また,二つ目の所有者不明土地を円滑かつ適正に利用するための仕組みにつきましては,民法の共有制度を見直すなどの,共有関係にある所有者不明土地の円滑かつ適正な利用を可能とする方策,それから民法の不在者財産管理制度等を見直すなどの所有者不明土地の管理を合理化するための方策,さらに民法の相隣関係に関する規定を見直すなど,隣地所有者による所有者不明土地の円滑かつ適正な利用を可能とする方策が挙げられてございます。   資料の最も下の段のところに御案内しておりますとおり,これまで12回にわたる部会の会議を行ってまいりました。昨年12月に本日お配りしております中間試案を取りまとめ,先月10日から3月10日までの2か月間にわたりパブリックコメントを実施しているところでございます。   1枚おめくりいただきまして,資料の3ページを御覧ください。   ここから中間試案の内容につきまして,あらましの御説明を差し上げることにいたします。それぞれの項目につきまして,項目ごとに中間試案における該当ページを示してございますから,必要に応じて御参照いただきますようお願い申し上げます。   まず,3ページの左側は所有者不明土地の発生を予防するための仕組みの一つの方策として,不動産登記情報の更新を図る方策について案内をしてございます。具体的内容として,少し飛びますけれども,資料の5枚目のところに別紙を用意して,やや詳しい御説明の用意をしてございます。   別紙1といたしまして,表題として「相続登記・住所変更登記の申請の義務化等について」というタイトルを記しているものでございます。これを御覧いただきたく存じます。   そもそも所有者不明土地が発生してしまう原因は,登記上所有者とされている人が死亡して相続が開始しているにもかかわらず,相続登記などがされず放置されていることにあると言われております。相続登記がされない要因は,資料の緑色の部分の左側に①から⑤まで掲げておりますとおり,様々なものが考えられます。例えば,相続登記をしないことが法律上許されていること,①でございますが,これが相続登記がされないということの大きな要因であると言われております。この点につきましては,相続登記の申請を義務化する方向での検討を部会において進めているところでございます。   また,義務を課したとしても,手続それ自体が負担であるという②の問題がありますと登記が進まないことになりますから,相続人申告登記という全く新しい手続で,手続負担が軽く,報告型の簡易な登記を設けることも検討しております。   そのほか,相続登記に要する費用が負担であるという③の要因に対しましては,これは民事基本法制そのものの検討課題ではございませんけれども,登録免許税などの費用軽減の議論が必要になりますし,登記の必要性の理解が不十分であるという④の要因に対しましては,登記所が他の公的機関から死亡情報を入手し,相続人への登記の促しの取組につなげていくことを検討しております。   さらに,実際に相続が起こった際に,⑤の問題でございますが,相続人が被相続人の所有不動産を全ては把握し切れていないという事例が実態上観察されます。このような事例に対応する観点から,被相続人の所有していた不動産を一覧的に証明する所有不動産目録証明制度を新しく設けることも検討しているところでございます。   以上申し上げましたことのほかに,同じページの左上の欄で原因の②とお示ししておりますように,実態を見ますと,所有者不明土地の発生原因は住所変更を不動産登記に反映させていないということも相当数を占めてございます。   そこで,登記官が事前の申入れに基づいて住所の変更を行うという簡便な仕組みを設けた上で,住所の変更の登記を義務づけることなども取り上げております。   資料の3ページに戻っていただき御覧いただきますようお願いいたします。   3ページの左下のところでございますけれども,不動産登記制度に関する今まで申し上げたこと以外のその他の見直し事項といたしまして,外国に居住する所有者の所在を容易に把握するため,国内の連絡先を登記する制度の新設や登記の際に提出する住所確認書類の見直し,また登記簿などの附属書類の閲覧の運用基準の合理化などのほか,更に補いますと,配偶者の暴力,いわゆるDVの被害を受けている人などに係る登記情報の提供における工夫など,関連する見直しを併せて検討しているところでございます。   続きまして,資料の3ページの右側を御覧いただきたく存じます。   所有者不明土地の発生を予防するためのもう一つの方策として,所有者不明土地の発生を抑制する方策についても検討しております。具体的には,土地所有権の放棄について検討しているほか,遺産分割に期間制限を設けることとし,遺産分割がされずに長期間を経過した場合において,遺産を合理的に分割する制度を設けることなどについても検討を進めております。   申し上げました事項のうち,土地所有権の放棄につきましては,これまで多くの報道がされておりますから,いささか詳しく御報告を差し上げることといたします。   少し後ろの方に飛びますけれども,別紙2というもので詳しい説明を用意させていただいております。この色刷りの資料の最後のところでございましょうか,右肩に別紙2と掲げておきまして,タイトルとして「土地所有権の放棄について」というふうに記しているものでございます。   この資料の別紙2の上の段に掲げておりますとおり,土地の所有権を放棄することができるかどうか,現行法上必ずしも明らかではありません。そこで,現在は適切に管理されている土地が将来に管理不全状態になることを防止するとともに,相続による所有者不明土地の発生を予防するという観点から,一定の要件を満たす場合にのみ土地の所有権を放棄することを認め,土地を国に帰属させる制度を創設することを検討しております。   放棄を認める具体的な要件といたしまして,資料の中ほど①から⑤として掲げているとおりでございます。これらの要件を国の行政機関が審査し,放棄を認可することにより,国庫帰属の効果が発生することを想定しております。所有権放棄の手続のイメージといたしましては,その別紙2の下の方に図で御案内しているとおりでございます。放棄された土地の管理にはコストが掛かり,それを国が負担しなければならないことから,市場に流通させることが可能である土地については,できるだけ市場に流通させ,民間で利用することが望まれます。   そこで,土地所有者は所有権の放棄を求める手続の前に,土地の譲渡などをするための努力をしてもらい,それでも土地を引き受ける機関などを見いだすことができなかった場合において,公的審査機関に対して認可申請をするという流れを構想しているところでございます。   また,申請を受けた公的審査機関は,要件審査をする前の段階で,その土地が所在する地方公共団体や国の管理担当部局に土地の情報を提供し,それらが土地の取得を希望する場合には,所有者との間で贈与契約の締結をできるようにする段取りも検討してございます。   このように,市場への流通を試みてもできず,地方公共団体や国と所有者との間で贈与契約も締結されなかったという段になって初めて,放棄の要件を満たしますならば,公的審査機関が所有権放棄を認可し,これによって所有権放棄の効果が発生し,土地が国庫に帰属する仕組みを検討しているところでございます。   別紙2はそこまでといたしまして,前の方にお戻りいただきたく存じます。今度は資料の4ページになります。   4ページは,「所有者不明土地を円滑・適正に利用するための仕組み」という題を掲げましたオレンジ色のものでございます。   そのオレンジ色の部分の左上に掲げてありますとおり,所有者不明土地を円滑・適正に利用するための仕組みの一つの方策として,共有関係にある所有者不明土地の利用を円滑にすることを目的として,民法の共有制度の見直しを検討しております。具体的には,共有者の一部が不明な場合であっても,土地の利用,処分を円滑に行うことができるように,公告制度等の利用により土地の利用を可能にする制度や供託制度の活用により,共有関係の解消を図る制度の創設,短期の使用権の設定を共有者の持分の過半数で可能とするルールの明確化,管理者を選任する制度の創設などが検討されているところでございます。   同じページの右上におきまして,所有者不明土地を管理する方策として,土地の管理に特化して,土地の共有者のうち複数名が所在不明である場合であっても,1人の管理人の選任を可能とする制度の創設をお示ししており,その検討も進めているところでございます。   さらに資料の下の段に御案内しておりますところですが,隣地所有者による所有者不明土地の利用管理の円滑化を狙いとして,民法の相隣関係規定の見直しを検討しております。具体的には,ライフラインの導管等を設置する目的で他人の土地を使用することができる制度,管理不全となっている土地の所有者に対し,管理措置を請求することができる制度の創設などに向け,これらの検討を進めているところでございます。   以上が民法・不動産登記法等の改正に関する中間試案の概要でございまして,御覧いただいたとおり,大変盛りだくさんの内容になってございます。民法・不動産登記法部会におきましては,所有者不明土地問題の解決に向けた民事基本法制の見直しをするべく,御案内申し上げましたようにパブリックコメントの結果を踏まえ,また本日委員の皆様から頂戴する御意見を十分に参酌し,引き続き調査審議を継続してまいる所存でございます。   中間試案に関する御報告は以上でございます。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   ただいまの山野目部会長からの審議経過報告につきまして,御質問,御意見がございましたら御発言をお願いいたします。   いかがでしょうか。 ○大石委員 丁寧な説明をありがとうございました。   資料番号民2-3の別紙1なのですが,左側に発生要因が五つほど書いてあって,右側にそれに対する対処が書いてあるのですが,最初の相続登記の申請の義務化という議論と4番目のところに出てくる相続人への登記の促しという議論は,論理的には両立可能だということなのでしょうか。登記の申請を促すということの意味が事実上のPR活動というのなら分かるのですが,登記の申請を義務づけるのだったら,しかも罰則,制裁まで含めるのだったら,登記の申請を促すということの意味がどうもはっきりしないんですけれども,お教え願えれば幸いです。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   大石委員が御案内のとおり,義務化という法律概念と,促すという取組は,それは理屈で考えていくと,必ずしもぴったり同じではないものでありますから,それを同時にするということは,法理として矛盾する側面があるものではないかという御懸念からのお尋ねをいただいたと受け止めます。もっともな御指摘を頂戴いたしました。   部会で検討しているところを御案内申し上げますと,ここは色刷りの資料でございますから,簡略に相続登記一般についての申請の義務化,幅広く義務化をしていくというふうな書き方をしてございますけれども,細かく考えてまいりますと,相続登記と一言で申しましても,様々な形態のものがございます。   法定相続が始まって,法律が定めている持分に従って単純な登記をするという事例から,遺産分割協議が行われてその成果を反映する登記,あるいは遺贈がある,さらには遺言で遺産分割方法の指定がされているところを踏まえて,それを反映する登記をするなど,様々なものがございまして,御案内いただいているページで言いますと,④のところで促していくということについて申し上げれば,今私が幾つか申し上げたものの全てについて,国民に登記を履践してほしいと考えているところでございます。   これは広く投網をかけるようにというふうに申したらよろしいでしょうか,とにかく相続に関連する登記ですからしてくださいというお願いをしていくことになりますし,その中でも取り分け今後の権利関係の錯綜等を出来させ,土地問題について混乱を引き起こすおそれが程度として著しいという局面については,今度は促しではなく,何らかの法的効果を伴うものとして義務化をしていきますということをしなければいけないと考えるところでございます。   例えて申し上げれば,促しをするという大きなお皿の上に,局面によっては法的な義務づけをさせていただきますという小さなお皿を載せるという二枚重ねの構造で,この問題についての国民の協力をお願いしていこうということを構想しているところでございます。   大枠はそういうことでございますけれども,いささか難しく,部会でも悩んでいるところは,では,その義務づけというものは,どの範囲ですることがよろしいかということについて,政策としての実効性を一方では見つつ,他方では相続に係る民法の実体的な規律の理論的な検討,理論的な整理も踏まえ,説明に遺漏のないものにしなければなりませんから,そういったことに悩みながら,この小さなお皿の大きさをどの程度にしたらよろしいかということでございまして,引き続き悩んでまいりたいと考えているところでございます。 ○岩原会長 ほかに御質問,御意見ございませんか。 ○白田委員 この④のところに関係して,ちょっと質問をさせていただきます。   登記については,必要性の理解が不十分であるということは,十分にあり得ることだと思います。このケースが多いのではないかと考えております。   そこで,課税の問題について以前もお伺いしたことがあるかと思うんですが,質問させていただきます。一つは遺産分割協議で相続税は払いました。しかし,不動産登記を名義変更する必要について理解が十分ではなく,あえて法務局に届出をしなかった。その結果,例えばこういう促すようなシステムが出来上がったときに,一定期間の固定資産税等の未払が生じる可能性があると思われますよね。その税金への扱い,例えば未払期間が短くても,それなりに税側から若干の金利とか,そういうものが生じる可能性もある。そういった固定資産税等の支払,市区町村が管理している固定資産税との関係について,何か部会の方で議論されていることがあれば教えていただければと思います。 ○山野目部会長 どうもありがとうございます。   白田委員が御指摘のとおり,相続登記の促しということは,単に促すというかけ声をかけることだけでは政策としての実効性を確保することができません。正に,今,委員から御案内いただいたとおり,税制との適切なハーモニーということを追求しなければならないと考えられますところ,一口に税制と申しましても,御案内のとおりある人が死亡したときに問題になる課税関係は,一般論として申し上げましても,相続税,場合によっては譲渡所得課税,御案内の地方税としての固定資産税のほか,取り分けここで調査審議していることとの関係で申しますれば,不動産登記の申請をしたときの登録免許税ということで,これだけ可能性としては税金のことを気にしなければなりませんし,これらが全てここで進めようとしている相続登記の促しとの関係で,良い調和が得られて,こういうふうな税制上の工夫をしましたから,相続登記してください,と国民に政府の側が胸を張ってお願いすることができる環境が調えばよろしいというところまでは,私は強く感じますし,正に委員に今御指摘いただいたとおりでございますが,ここからはいささか困ったことを申し上げますと,申し上げた税制事項の全てが財務大臣又は総務大臣の所掌事項でございまして,法務大臣の諮問を受けて民事基本法制の調査審議を進めている私どもといたしましては,そこについてあれこれアイデアは頭をよぎりますけれども,少なくとも答申の中できっぱりとこういうふうにすべしということを述べることはできませんし,またそれに関連する論議を進める上でも,府省間の連絡調整を踏まえて,慎重を期するべき側面がございます。   そうは申しましても,税制との関係をきちんと考えることが重要であるに決まっております。ですから差し当たっては,ここで不動産登記制度の見直しを検討しておりますから,少なくとも登録免許税についてはここでこういう見直しをすることが望ましいという制度の趣旨が明確に説明できるようなものを努力して調えていき,答申でできることはそこまでですけれども,その後答申を受け取った法務省事務当局がまた府省間の連絡調整として税制の問題について活路を見出していただけるように,そういう応援をしていくということが私たち部会の委員,幹事の仕事であろうと考えております。   加えて,委員が御指摘の地方税である固定資産税との関係も,不動産の土地の問題の処理で必ず登場してくるものでございますから,地方税法第343条という規定が不動産登記制度の今般の見直しとの関係で適切な運用が得られるよう,引き続き努力してまいりますという決意を述べさせていただき,お答えに代えさせていただければと存じます。 ○岩原会長 ほかに何か御質問,御意見ございませんでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。   土地所有権の放棄というのは,農地についても同様に適用される制度になっていくと,こういうことでしょうか。 ○山野目部会長 土地の種別について,取り立てて分け隔てをして民事法制上の規律を構想するということは考えてございません。 ○佐久間委員 逆に農地法の適用は,放棄に関してはなくなるということなんでしょうか。 ○山野目部会長 それは必ずしもそうなるとは限らないのではないかと考えます。農地には農地法を代表とする委員が御案内のとおりの規律がございます。農地についての権利移動についての農地法が既に与えている規律は,特段の法制上の措置を講じない限りは今後も続くと考えますから,もしそれで何か実質的,実際上の不都合が生ずるということが懸念されるのであれば,今般この部会で検討している土地所有権の放棄についての,恐らく個別法になると存じますが,その個別法の成案が見えてきた段階で,農地政策,農地法を所管している方面とのまた連絡調整を重ねていかなければならないと感じるところでございますから,委員から御注意を頂いたところも念頭に置いて,今後の調査審議を進めてまいりたいと考えます。 ○佐久間委員 結構です。特にこの売却努力のところの問題が出るのではないかと考えております。 ○山野目部会長 農地であるという現況が変わっていなければ,農地法第3条又は第5条が定めている規律が働くということを前提とし,要件を充足して,ここで述べている売却をしてもらわなければいけないというところは変わらないと理解しておりますから,先ほど申し上げましたように,そこで何か支障が生ずるのであれば,またその問題をもう少し克明に認識した段階で,検討を進めてまいるということになると考えます。 ○岩原会長 ほかに何か御質問,御意見ございませんでしょうか。   よろしいですか。   私からもよろしいでしょうか。   別紙1のところで,相続登記の申請の義務化ということですけれども,先ほど私が発言させていただきましたエンフォースメントの関係で言うと,義務に違反した場合のペナルティが過料による制裁ということでは,これは実際上あまり効果は期待できないのではないかという懸念がございます。より実効性のある義務化の検討は必要ないのでしょうか。 ○山野目部会長 現在部会で検討しているところを御案内申し上げますと,恐らく10万円以下の過料か,5万円以下の過料が考えられるところでございます。もちろん論理的には様々な罰則が考えられます。過料も広い意味では罰則でございますが,行政罰たる過料のほかに,科料であるとか,さらにはもっと重い罰則であるとか,理屈上は考えられますけれども,現在のところの部会の審議が先ほどのようなところになっていることの背景には,既存の法制における罰則とのバランスということを気にしなければならない側面がございます。   現在,不動産登記法の第164条が相続登記のような権利に関する登記ではなく,表示に関する登記について罰則を置いているところは,10万円以下の過料でございます。また,戸籍法や住民基本台帳法に基づいて,しかるべき届出をしなかったときに用意されている罰則も過ぎるという字を書く方の罰則であって,類似の程度のものでございます。   そういったものを勘案しますと,会長が御示唆のとおり,エンフォースメントをきちんとせよというお話は,それ自体は一般的な要請として誠にごもっともなお話でございますけれども,なかなかそこから踏み出して,より重いものを考えるというところについては,勇気が要るところでございまして,何か会長において御示唆ないし御教示があれば承った上で,部会の調査審議を進めることにいたしますけれども,何かお教えいただくことがおありでいらっしゃいますでしょうか。 ○岩原会長 別に罰則に限らず,私法的な制度を含めて,より実効的に相続登記をやっていただく,場合によっては強制的な登記というのもあるのかもしれませんけれども,私法的な制度を含めて,単に罰則だけではなくて,本当に実効的なものにするにはどうしたらいいかということは,是非部会で御検討いただきたいと思います。 ○山野目部会長 かしこまりました。 ○岩間委員 質問になるんですけれども,簡易な相続人申告登記を新設するということは,2種類の登記制度が併存するということになるのだとすれば,かえって混乱を招くようなことになるのではないかと思いますので,むしろ全体を簡易化する方向で進める方がよいのではないかという気もしますので,その辺りはいかがでしょうか。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   そこには相続人申告登記(仮称)と簡単に書いてございます。いささか説明が足りなかったことをおわび申し上げます。   戦後の日本の相続制度が共同相続に改まったことを踏まえて,一般論として言いますと,ある人が亡くなったことによって始まる相続は,相続人の数が複数,又は場合によっては多数に上るということが考えられるところでございます。例えば,兄弟が5人いて,5人が相続人であるというときに,その中の誰かとは連絡がつかないし,場合によってはもっと極端に不明な状態が深刻になっているということがあるときにも,一緒に暮らしていたり,付き合いがあったりする5人のうちの例えば我々3人は間違いなく相続人であるということが分かるときにも,現在の制度ですと,本来のといいますか,従前どおりの相続登記をしようとすれば,5人全員と連絡を取った上で,この5人が相続人であり,5人のほかには相続人がいないということが登記官に確実に分かるだけの資料を用意して,申請しないと相続登記の申請を受理,実行してもらえないという制度になってございます。   そうしますと,ここのところが国民に対して相続登記を促そうとしても,意識の問題とはまた別に手続の負担の重さということがございまして,かつての共同体が壊れていない日本社会であれば,5人の中の誰かが全く音信不通であるとか,あるいは全く分からなくなっているというようなことは,さほど深刻な問題ではなかったかもしれませんけれども,人口減少社会が進行し,また地域の様々なコミュニティが消えてきている現下の社会経済情勢に鑑みますと,今申し上げたように一部と連絡がつかないということになって,連絡がつかない限りは資料がパーフェクトに調わないということになりますから,正規の相続登記を履践することができないという困難に直面することになります。   この状態で先ほど一つ前にお話があった過料なのか,ほかの制裁なのか分かりませんけれども,制裁を用意して義務づけるということだけをするということになりますと,義務づけを受けた国民の側にとっては,かなりお困りを感ずる状況になるものではないかということを私どもの部会で検討いたしました。   そこで,従来の5人と連絡が取れ,また5人以外に相続人がいないという登記の制度も,今後とも権利変動を公示するという観点から維持して,運用していかなければなりませんけれども,それとは別に言わばレポートを出していただくということを差し当たってお願いするということにしましょう,というアイデアを考えてみたらどうであろうか,というお話になってまいります。それは,連絡のついた人で,確実にその方々は相続人であるけれど,ほかのことはよく知らないというお話で結構ですから,登記をしていただけませんか,という登記の制度を新たに作り,少なくともそれは期間内にしてください,という制度設計にしていこうということが現在構想されているところでございます。   このような制度の立て付けを考えていくに当たっては,委員が御指摘のとおり,登記簿の一覧性という言葉を用いますけれども,いろいろな登記が登記簿にされて,よく分からなくなってしまうのではないかという弊害も当然のことながら,委員,幹事の中で部会においては指摘があったところでございます。   そういたしますと,相続登記の促しは進めていかなければならないという一方の政策的要請があり,他方において,しかし正規の登記制度しかメニューとして用意していない中で,義務化ということをすることがいささか乱暴であるという問題状況があり,これらを調和させていくためには,どうしても相続人申告登記のようなものを考えていかなければならないところでございますけれども,委員から今御注意を頂いたとおり,そのことで非常に分かりにくい登記簿になっては困ります。ある種,最後はテクニカルな登記簿の見栄えの問題であるかもしれません。   今,亡くなった方がそれまで所有権の登記名義人として登記簿の権利部甲区というところに登記されていますけれども,その方が亡くなったときに,ここでいう相続人申告登記をどのようなレイアウトで登記上公示していくかということを考える際,御心配のようなことを踏まえ,何かよく見てもさっぱり分からないみたいなものにはしないということでありましょう。これは不動産登記の世界では記録例というモデルを示し,一線の事務に提示して,これでしてくださいというふうな案内をする段取りが施行段階においては求められるものでありますけれども,そのときまでこの問題意識を忘れないようにしておいてしっかり処していくことではないかとも感じているところでございます。 ○大沢委員 今回のこの相続登記の義務化というのも,非常に大事なことだと思うんですけれども,一方で一般の人からすると,相続登記をするというのは,一生にそう何度もあることではないと思うんですよね。しかも相続するということは,要するに誰か大切な家族が亡くなった中でやっていくというようなこともあると思うんですね。   ですから,そういう一般の人がやりやすいというか,手続の負担とか,そういうのはなるべく減らしていただく方策を是非考えていただきたいと思いまして,簡易な手続とか,そういったメニューを用意するということも一つ大事でしょうし,それから,そういう登記をしやすいような環境整備とか,そういったものも是非視野に入れながら,法整備をしていただければというふうに希望します。 ○内田委員 土地所有権の放棄について質問をさせていただきたいのですが,自然人だけができて,法人はできないという理由として,相続による所有者不明土地問題が生じないようにするためと説明されています。しかし自然人も法人も民法上の法主体であり,所有権は最も基本的な物権で,法主体は物権の主体になり得るという原則の下で,相続による所有者不明土地の発生を防止するためということが,民法上の区別の理由として十分なのかどうかという点は,何か議論はありましたでしょうか。 ○山野目部会長 格別の議論は今のところしておりません。しかしながら,それとともに,もちろん問題の発端が自然人が所有している土地について発生した相続のことでありますから,専らというよりは,主として自然人所有の土地についての放棄,そのほか相続が起きたり,起きなかったりする土地の問題について,考えられる方策のそれぞれの是非を考えていこうという方向での検討がなされているところでございます。けれども,法人についての議論をもうしないということで部会で検討しているというものではございません。現に今般の中間試案におきましても,そのことは論点として忘れないでおこうという方向での検討を進めているところでございます。   さらに委員の今の御注意を踏まえて,いろいろ考えを巡らせていきますと,自然人と法人とを隔てた扱いで本当にうまく規律がワークするかということが心配な局面もございます。法人と自然人が共有している土地の放棄はどうするかとか,そういうふうな問題になってきたときにも,解釈上の混乱とか疑義が起きないようにしながら問題を考えていかなければならないという側面がございますから,今,委員からも御注意を頂いたところでございますので,法人が所有する土地の放棄の可能性についても,引き続き部会で検討していかなければならないと感ずるところでございます。 ○内田委員 一言だけ補足ですが,法人が所有する場合も放棄したければ代表者に譲渡して自然人所有にして放棄するという手もあるのかもしれません。また,私自身は民法の中にいろいろな個別政策を盛り込むということに抵抗はなく,したがって民法が政策立法であっても構わないと思っている者です。とはいえ,所有権の放棄という物権法の根幹に関わる部分で,所有者不明土地問題の発生を防止するためというだけの理由で,法人と自然人とで区別することが理論的に正当化できるのかということが気になりました。更に詰めて御議論いただければと思います。 ○岩原会長 ほかに何かございますでしょうか。   特にございませんか。   それでは,特にほかに御質問,御意見はございませんようですので,山野目部会長,どうもありがとうございました。引き続き部会において御審議のほどよろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 承りました。 ○岩原会長 これで本日の予定は終了となりますが,ほかにこの機会に御発言いただけることがございましたらお願いいたしたいと存じます。   いかがでしょうか。   特にございませんか。   それでは,ほかに御発言もないようでございますので,本日はこれで終了といたしたいと思います。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みて会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することとしたいと思いますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○岩原会長 よろしゅうございましょうか。   それでは,本日の会議における議事録につきましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日御発言をいただいた委員等の皆様に議事録案をメール等にて送付させていただき,御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトに公開したいと思います。   最後に事務当局から何か事務連絡がございますでしょうか。 ○金子関係官 次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。   法制審議会は2月及び9月に開催するのが通例となっております。次回の開催につきましても,現在のところは本年9月に御審議をお願いする予定でございますが,具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただきたいと存じます。   委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,今後の御予定につき御配意いただきますよう,よろしくお願い申し上げます。 ○岩原会長 どうもありがとうございました。   最後に私の法制審議会委員としての10年の任期がこの4月に満了いたしますので,本日が私にとりましては最後の法制審議会における審議ということになります。   そこで,恐縮ですが,一言御挨拶を申し上げさせていただきたいと存じます。   私が会長に就任いたしましたのは,昨年6月20日でございましたから,会長としては僅か1年未満の大変短い期間でございましたが,皆様に支えていただきまして,会長の務めを果たさせていただきましたこと,心より御礼申し上げます。   私が法制審議会に関与いたしましたのは,最初に部会幹事に任ぜられました昭和58年からでございまして,37年にわたって法制審議会の審議を手伝わせていただきました。その中でも忘れられないのは,平成9年頃に法制審議会に対し立案が遅く,不十分であるなど,非常に強い批判が高まって,法制審議会廃止論が論じられたことでございました。結局,政府全体の審議会の制度の改革に合わせて,委員の任期を10年とするとか,あるいは永続的な部会に代わって,立法のたびに部会を立ち上げるといったような変革を行うことで,法制審議会は存続することになりました。しかし,この経験から,法制審議会はその役割の重みをわきまえ,社会のニーズに適切に応えていく必要があるということを大変痛感した次第であります。   私は会長,法制審議会委員を退任いたしますが,法制審議会が今後とも社会の負託に応えていかれることを切にお願いして,最後の御挨拶とさせていただきます。   どうも長いことありがとうございました。   それでは,以上をもちまして散会とします。 -了-