法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第25回会議 議事録 第1 日 時  令和2年6月10日(水)   自 午前 9時59分                        至 午前11時46分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第25回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日は,大変な状況の中,また御多忙中のところ,お集まりいただきありがとうございます。   まず初めに,本日の会議についてですが,奥村委員,武委員,池田幹事にはテレビ会議システムにより御出席いただいております。   議事に入ります前に,前回の会議以降,委員,幹事の異動がございましたので,御紹介をさせていただきます。   吉田誠治氏が委員を退任され,新たに石山宏樹氏が委員に任命されました。また,大塲玲子氏,小玉大輔氏,澤村智子氏,古田康輔氏が幹事を退任され,新たに生駒貴弘氏,坂元文彦氏,戸苅左近氏,宮田祐良氏が幹事に任命されました。新しく委員,幹事に任命された方々から一言ずつ御挨拶をお願いします。 ○石山委員 最高検察庁検事の石山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○生駒幹事 保護局観察課長を拝命しました生駒と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○坂元幹事 矯正局参事官の坂元です。よろしくお願いします。 ○戸苅幹事 最高裁家庭局第一課長の戸苅でございます。よろしくお願いいたします。 ○宮田幹事 大臣官房審議官の宮田祐良と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐伯部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   なお,本日,大沢委員におかれましては所用のため欠席されています。   それでは,初めに事務当局から資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日,配布資料として配布資料43「いわゆる原則逆送事件のうち検察官送致決定がなされなかった事件の概要」,配布資料44「少年保護事件(刑法犯)の非行別・終局決定別既済人員(終局処分時18・19歳,令和元年12月~令和2年2月)」をお配りしています。配布資料の内容については後ほど御説明します。   また,参考資料として,奈良少年院作成の「奈良少年院の処遇について」,東京保護観察所作成の「少年院仮退院者に対する保護観察の実情について」のほか,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」,A3判の「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案〔改訂版〕-」,「部会第8回会議から第23回会議までの意見要旨(年齢関係)」,「部会第8回会議から第23回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」,「部会第21回会議から第24回会議までの意見要旨(「別案」関係)」を配布しています。   最後に,御欠席の大沢委員から,本日の意見交換に関し意見書の提出がございましたので,席上に配布しております。 ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   本日は,事務当局を通じて事前にお知らせしたとおり,まず,前回会議に引き続き,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」の「9 若年者に対する新たな処分」についての意見交換を行うこととします。   そして,その後,当部会は相当期間にわたって審議を重ねてきており,そろそろ議論を収れんさせて一定の結論を得なければならない段階に差し掛かってきていると考えられますので,取りまとめに向けた意見交換に入っていきたいと思います。   「若年者に対する新たな処分」に関しては,前回会議に引き続き,「別案」の「三 刑事事件の特例等」についての意見交換を行った後,本日配布した奈良少年院及び東京保護観察所作成の参考資料について事務当局から説明を受けることとしたいと思いますが,そのような進行とすることでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   まず,事務当局から配布資料43及び資料44の説明をお願いします。 ○玉本幹事 まず,配布資料43について御説明します。配布資料43は,少年法第20条第2項が定める,いわゆる原則逆送事件のうち,検察官送致決定がなされなかった事件の概要をまとめたものです。当部会の第24回会議において,平成26年当時の調査結果を御紹介したところですが,今般,事務当局において最高裁判所の御協力を得て改めて調査を行ったことから,その結果を御報告するものです。   平成29年1月1日から令和元年12月31日までの3年間に家庭裁判所において終局処理された原則逆送対象事件において,検察官送致決定がなされなかった少年は19人であり,それらの者の事件の概要は,資料の「2 各事件の概要」に記載のとおりとなっています。   次に,配布資料44について御説明します。配布資料44は,令和元年12月1日から令和2年2月29日までの3か月間に家庭裁判所において終局した刑法犯の少年保護事件のうち,終局時18歳又は19歳であった者の人員を非行別,終局決定別にまとめたものです。当部会の第21回会議における配布資料30「現行法における主要な事件区分の例」には,主要な事件区分ごとに,検察官による処理時18歳及び19歳の刑法犯の家庭裁判所送致人員等を記載していましたが,今般,事務当局において,最高裁判所の御協力を得て,家庭裁判所における終局処理人員についても調査を行ったことから,その結果を御報告するものです。   資料の見方ですが,例えば,「罪名」欄の上から10番目の「殺人」の記載がある行を見ていただきますと,殺人については,条文は「刑法199条」,法定刑は「死刑,無期・5年以上の懲役」であること,資料に記載されている全ての事件区分に該当すること,終局時18歳又は19歳であった人員の総数は3名で,その全員が検察官送致決定を受けたことが分かります。必要に応じて参考にしていただければと思います。   配布資料についての御説明は,以上です。 ○佐伯部会長 次に,前回会議において,現行少年法において,いわゆる原則逆送対象事件が行為時16歳以上の少年に係るものとされている理由について御質問がありましたので,事務当局から回答をお願いします。 ○玉本幹事 前回の部会において,少年法第20条第2項の原則逆送の対象とされる事件が,「その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの」に限定されている理由についてお尋ねがありました。御承知のとおり,この規定を設ける改正は,内閣提出法案ではなく,議員提出の法案によって行われたものですが,その理由について事務当局で把握しているところを御説明します。   同項が設けられた平成12年の少年法改正に係る国会審議においては,提案者から,「原則逆送については,14歳,15歳の少年は精神の発育も十分でない上に,義務教育の対象年齢であり,いかに人の貴重な生命を奪うという重大な犯罪を起こしたとしても,なお保護処分をとることが相当と認められる場合が多いと考えられることから,原則逆送とすべき者の範囲を16歳以上としたもの」であるとの説明がされています。   なお,この改正の際,併せて,検察官送致が可能な年齢,すなわち刑事処分可能年齢の下限について,それまで16歳とされていたものを,刑事責任年齢に合わせて14歳に引き下げる改正が行われているところです。 ○佐伯部会長 配布資料の内容やただいまの説明及び回答に対して御質問のある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○山﨑委員 資料43について質問を3点させていただければと思います。   まず1点は,この対象期間中,すなわち平成29年1月1日から令和元年12月31日までで,いわゆる原則逆送事件のうち検察官送致決定がなされた人数は何人だったかを教えていただければと思います。   2点目ですけれども,この事件の概要に記載されております各事件について,少年の性別を教えていただければと思います。   3点目ですけれども,事件の概要に記載されております「⑭」と「⑱」の事件が,家庭裁判所で検察官送致決定がなされた後,公訴提起され,刑事裁判所で家庭裁判所への移送決定が出たという事案かと思います。この2件について,当初の家庭裁判所の検察官送致決定と刑事裁判とで判断が分かれた点がどういう点であったかというのが分かれば,簡単にで結構ですので,教えていただければと思います。 ○玉本幹事 順次お答えいたします。   まず1点目の,検察官送致決定がなされた人員数についてですが,平成29年1月1日から令和元年12月31日までの3年間に,いわゆる原則逆送事件について検察官送致決定がなされた人員数は24人です。   次に,資料に記載されている各事件の概要における各少年の性別についてですが,今回の調査は,この資料にも記載のとおり,審判書及び決定書に基づいて調査をしたところであり,性別については審判書及び決定書に記載がないことから,事務当局としては把握していないところです。   3点目ですが,家庭裁判所と刑事裁判所で判断が分かれた事件について,その理由ということですけれども,これについても同様に,今回の調査は保護処分又は不処分の決定に係る審判書及び審判不開始決定に係る決定書を基に行ったものですので,お尋ねの点については事務当局として把握しておりません。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。御質問がないようでしたら意見交換に入りたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,意見交換に入ります。「別案」の「三 刑事事件の特例等」について,前回会議における御議論を踏まえ,追加の御意見がある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いいたします。 ○山下幹事 私からは,推知報道に関して意見を述べたいと思います。   少年法第61条は,少年についての推知報道を禁止していますが,少年年齢が引き下げられ,少年法第2条第1項の少年の定義が18歳に満たない者と改められるとすると,この規定のままでは18歳以上20歳未満の者には少年法第61条は適用されないということになります。ただ,少年法第61条の立法趣旨が,少年及びその家族の名誉,プライバシーを保護するとともに,これにより罪を犯した少年の更生を図るという刑事政策的な観点に立ったものであるということからしますと,理論的にこれを割り切る必要はなく,刑事政策的な観点から柔軟に判断することが可能であると考えられます。   これによりますと,最近のこの「別案」に関する理解について,18歳及び19歳の者については刑事司法制度上,20歳以上の者とも,また18歳未満の者とも異なる,これらの中間層ないし中間類型として位置付け,18歳及び19歳の者を20歳以上の者と18歳未満の者との中間類型であると捉えるという立場に立つとしますと,少年年齢の引下げがなされたとしても,当然に18歳及び19歳の者に推知報道の禁止が及ばなくなると考える必要はないと考えられます。   取り分け,「若年者に対する新たな処分」において,家庭裁判所に送致されて審判を受ける対象者については,非公開の審判を受けるわけですから,少年法第61条の趣旨からすれば当然に推知報道は禁止されるべきであると考えられます。また,公判請求された18歳及び19歳の者についても,その者の更生を図るという刑事政策的な観点からすれば,推知報道禁止の対象とするのが妥当であると考えられます。   そうしますと,仮に少年年齢の引下げを行う場合には,少年法第61条が少年を対象としている条文の書きぶりを改める必要がありますので,少年法第61条の書きぶりを改めた上で,18歳以上20歳未満の成人についても推知報道禁止を認めるべきであると考えます。 ○今井委員 資格制限に関する特則について,一言意見を申し上げたいと思います。   当部会の第22回会議で,資格制限の排除について,これまでの当部会や第1分科会でなされた議論は,18歳及び19歳の者が少年法上の成人となった場合を想定したものであるので,これらの者を20歳以上の者とも,また18歳未満の者とも異なるものとして位置付けるという場合には,これまでの議論は直接当てはまらないのではないかとの御意見があったものと理解しております。   ただ,この点については,これまでもかなり議論が繰り返されてきているところでありますけれども,資格制限を定めている法律は多くございます。個々の資格制限規定は,それぞれの法律において,それぞれの行政目的を実現するために設けられたものでありますから,その目的よりも対象者の改善更生や社会復帰といった刑事政策上の目的を優先させることが相当かは,本来は個々の法律の趣旨,目的を踏まえて個別に検討を要すべき事項であると考えます。   したがいまして,罪を犯した18歳及び19歳の者につきましては,民法上の成年として一般的に自立的な存在であると法的に位置付けられたという点を重視し,罪を犯した場合には,それにより生じる社会的な責任を負うべきであるとの観点から,18歳未満の者とは異なる取扱いをするというのでありますならば,18歳及び19歳の者につきまして,刑事政策上の目的を個々の資格制限に係る行政目的に一律に優先するような一般的規定を設けることの当否に関しては,やはり十分な検討が必要であります。そのことは,これらの者に成人という名称を付するか否かによって左右されるものではないことを指摘しておきたいと思います。   また,この点の検討に当たっては,「若年者に対する新たな処分」について,仮にですが,この「別案」をとることとする場合には,具体的な制度設計にもよりますが,これまでの議論の前提を更に考え直す余地が生じていると思います。   すなわち,従来の案による場合には,検察官が起訴,不起訴をまず判断し,起訴猶予とする者だけが家庭裁判所での手続処分の対象となることになっておりましたけれども,「別案」におきましては,多くの者は家庭裁判所において処分され,刑事処分の対象とされるのは罪状や情状に照らして刑事処分が相当であると判断された者のみとなると思われます。   そのため,従来の案をとることとする場合に比べますと,家庭裁判所において処分されるために刑事処分による資格制限の対象とはならない者がより多くなることが見込まれます。そういたしますと,刑事処分の対象となり資格制限に関する特則の対象となり得る者は相当程度限定されることとなるという点にも留意して,更に議論を尽くすべきであろうと思います。 ○青木委員 今の資格制限に関する特則について,私も意見を申し上げたいと思います。   第24回会議の配布資料32の統計資料6の10の9ページから12ページによりますと,公判請求されて平成30年に終局した事件で,終局時18歳,19歳で全部執行猶予となった少年が一定数おり,その多くが単純執行猶予です。これらの少年は,現状では,保護観察付き執行猶予の場合も含めて,執行猶予の言渡しが取り消されない限りは資格制限を受けることはありません。   少年法の適用年齢を下げないのが一番良いのですけれども,仮に18歳,19歳には少年法は適用されないということになって,資格制限について,18歳,19歳についても20歳以上の者と同じ扱いであるということになりますと,これらの者は資格制限を受けることになります。   一方,「別案」では,同じような罪責のものについても,この言葉を使うのが適切かどうか分かりませんが,括弧付きで,要保護性が高いということになると,刑事処分ではなく「若年者に対する新たな処分」に回る可能性もあって,その場合には,今,今井委員がおっしゃったように,資格制限を受けることにはなりません。   最初にあった案のように,刑事処分とすべき者は刑事処分とするという線引きであれば,「若年者に対する新たな処分」を受ける者には資格制限はなく,刑事処分になる者については資格制限があるということは一応の説明は付くかもしれませんが,刑事処分とするべき者は刑事処分とするという線引きをやめて,20歳以上の場合と異なって,同じような罪責であっても,また,むしろ,より罪責の重い者であっても,刑事処分にはならずに「若年者に対する新たな処分」に回る可能性もあるということになりますと,刑事処分になる者についてのみ資格制限があるというのは不均衡,不平等であって,合理的説明は付かないように思います。   加えて,部会第2回会議の東京少年鑑別所長の小山参考人によりますと,「成人近くまで全く非行と関係のない比較的健全な社会生活を送っていた過失運転致死事件の少年のように,再非行の危険性が低く,改善すべき問題点がほとんど見当たらず,社会的成熟度も比較的高く,保護処分による矯正の必要性が低い場合等,むしろこういった場合には,厳正な刑事処分を通じて社会人としての自覚を深めたり,本件に対する責任の念を深めたりする方が適当であるという考えから検察官送致の判定が行われることもある」ということでした。そのような観点で本来は刑事処分がふさわしいと判断される場合に,資格制限が付くということになると,それがちゅうちょされることも出てくるのではないかという懸念もあります。   「別案」との関係では,これまで述べてきたこと以外にも,今述べたような問題もありますので,資格制限に関しては,20歳以上とは区別して,18歳,19歳も少年法と同様にすべきであると考えます。 ○山﨑委員 まず,事務当局に質問させていただきたいのですけれども,先ほど今井委員から御発言があった,各法律の目的があるので一律に排除するのはいかがかという点に関して,確か分科会の議論においては,再犯防止推進計画の下で,各法律について各省庁でその点を検討されているというような御説明があったかと思うのですけれども,その状況や結果について教えていただければと思います。 ○宮田幹事 資格制限の在り方についての検討状況について,御報告させていただきます。平成29年12月に再犯防止推進計画が策定されておりまして,その中に,法務省は犯罪をした者等の就労の促進の観点から需要が見込まれる業種に関し,前科があることによる就業や資格取得の制限の在り方について検討を行い,2年以内をめどに結論を出すということにされていたところでございます。   この計画に基づきまして,翌年の平成30年に,協力雇用主に対して,出所者等の雇用に際し資格制限が問題となっているかについてアンケート調査を行っております。また更にその翌年,令和元年には,各府省庁に対して,業界団体からの要望を含めた刑務所出所者に対する資格制限の見直しのニーズの有無についてのアンケート調査を実施したところでございます。   その結果でございますけれども,前者の協力雇用主に対するアンケート調査につきましては,問題となっていると回答した協力雇用主が2.7%にとどまっており,後者の各府省庁への調査につきましては,具体的なニーズは把握されませんでした。   以上の調査結果からは,資格制限を直ちに見直す状況にはないということでございましたけれども,資格制限の在り方につきましては,再犯防止推進計画の趣旨に鑑みまして,引き続き刑務所出所者の希望する職種あるいは職業適性の状況を丁寧に確認するなどして,必要な検討をしてまいりたいと思っております。 ○山﨑委員 今の御説明を受けての意見になりますけれども,今御説明いただいた調査検討というのは,飽くまで刑務所からの出所者を前提としたものであって,年齢層としても,今回問題になっている18歳,19歳とはかなり違う,比較的上の年齢層が対象となっているのではないかと考えられます。また,協力雇用主への聞き取りというのがありましたけれども,協力雇用主というのは雇用できる方々,業種ということになろうかと思いますので,むしろ資格制限が壁となって就業できない業種の方は,たくさんほかにもいらっしゃるということにもなろうかと思います。   先ほど青木委員からもありましたように,今回18歳,19歳について「若年者に対する新たな処分」について「別案」のように考えるということになりますと,やはり18歳,19歳が,公訴提起はされたけれども刑の全部執行猶予になったというような場合に,果たして資格制限を受けるということでいいのかどうかという点は,改めて検討するべきテーマではないかと思います。   特に,この18歳,19歳は20歳以上の成人とは異なり,類型的に未成熟かつ,特に可塑性が高いということを考えますと,さらには,この年代が高校生あるいは大学生,専門学校生という年代でもあることを考慮しますと,社会復帰のために資格制限が壁となるようなことがないような制度設計が必要なのではないかと考えております。 ○田鎖幹事 先ほども山下幹事からございましたが,私も推知報道について発言したいと思います。   御承知のとおり,この規定については少年を特定する内容の報道が禁止されるにとどまっておりまして,それ以外の報道については認められております。そして,現に事件の内容が実に詳細に報道されているわけでございます。また,判例によりましても,推知報道として禁止される範囲というのは,それ自体に対する評価は置くといたしましても,かなり限定されていると承知しております。   他方で,たとえごく軽微な事案でありましても,一旦実名で報道されることによる社会生活上の支障といいますのは,特にインターネットが発達している現代の社会において,ますます大きくなっていると思われます。   未成熟で可塑性に富む若年者の社会復帰に支障が生じることを防ぐという必要性は,仮に18歳,19歳が本来の少年とは異なるという取扱いを受けても,変わらず従来と同じように妥当するものと考えます。 ○山﨑委員 私も推知報道について意見を述べます。   今の山下幹事,田鎖幹事と同意見です。この点に関しましては,元少年院長等の有志の方から当審議会にも意見書が提出されておりますけれども,その中でも,18歳というのは高校3年生も少なからずおり,こういった人生選択の大きな岐路に立っている少年に対して,少年院においても将来のために高卒認定資格を取得したいと希望する者が少なくない,そうした人生の岐路に立っているにもかかわらず,推知報道の禁止から外され,氏名等がマスコミ等によって巷間に,あるいはネット上に流布されることになると,将来の選択をする上で大きな阻害要因となる可能性がある,それは将来の夢を剝奪し,更なる転落やスティグマを与えることになりかねず,社会にとっても大きな損失になるのではないかという意見が述べられております。18歳,19歳の処遇の現場で長年努力してこられた方々のこういう御意見は尊重されるべきではないかと考えております。   そして,私自身は推知報道の禁止は従来どおり規定すべきだと思っておりますけれども,前回までの議論の中で,理論的に考えられる制度としては,家庭裁判所に事件が係属している間は推知報道を禁止するけれども,検察官送致により公訴提起がされた場合には推知報道を認めるという案も考えられるのではないかという御発言もあったかと思います。しかしながら,公訴提起された事件についても,先ほどの事案の御報告でもありましたとおり,家庭裁判所移送の決定により,改めて家庭裁判所に係属して「若年者に対する新たな処分」が付される,あるいは不処分となるというようなこともあり得るわけですので,そういった点を考えますと,公訴提起の時点で推知報道を認めるという制度にもやはり問題が残るということは指摘しておきたいと思います。 ○佐伯部会長 「別案」の「三 刑事事件の特例等」については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に,奈良少年院及び東京保護観察所作成の参考資料について,事務当局から趣旨の説明をお願いします。 ○玉本幹事 奈良少年院作成の「奈良少年院の処遇について」及び,東京保護観察所作成の「少年院仮退院者に対する保護観察の実情について」について御説明します。   これらの資料は,「若年者に対する新たな処分」の制度設計を検討するに際しては,現行制度において保護処分に付されている18歳及び19歳の少年のうち,犯罪的傾向が進んでいて施設収容の処遇を受けている者の実情を把握しておくことが有益ではないかと考えられたことから,部会長と御相談の上,当部会における議論の参考とするため,奈良少年院及び東京保護観察所に作成してもらったものです。 ○佐伯部会長 これらの参考資料については,あらかじめ事務当局から皆様に配布しており,御質問をいただいているところですので,事務当局から回答をお願いします。 ○坂元幹事 御説明いたします。参考資料「奈良少年院の処遇について」に関し,多数の御質問を頂きました。資料に掲載のスライドに沿って御説明させていただきます。   まず,スライドの4及び18に関連しまして,第2種少年の特質や矯正教育上の工夫についての御質問を頂きました。スライド18に記載された第2種少年と第1種少年との違いが形成される過程は,個々の在院者に応じて異なるところですが,これまでの生育過程で培われてきたところが大きいと考えられます。その抱える問題性によっては矯正教育の実施が困難な場合もありますが,少年院の職員は,在院者の処遇を適正かつ効果的に行うために必要な教育学,心理学,社会学等の知識及び技能を習得し,向上させるために必要な研修及び訓練を行っております。   奈良少年院においては,知的障害や発達障害等の精神障害を抱えている者の新収容者に占める割合は,平成15年では約2%にとどまっていたところ,平成30年では約19%と長期的に見て増加傾向にあるほか,被虐待経験のある者は平成31年度新収容者のうち約4割となっている状況にあります。矯正局が発出しているガイドラインやトラウマ対策の手法を踏まえ,少年の特性に応じた処遇を実施しているところであります。   続きまして,スライドの5に関連しまして,奈良少年院の組織体制や在院者数の詳細についての御質問がありました。奈良少年院の組織は,院長,次長,庶務課,医務課及び教育部門の体制で,定員は46名となっております。奈良少年院の寮は6棟ありまして,新入寮が1棟,第1種集団寮が2棟,第2種集団寮が1棟,単独寮が1棟,出院準備寮が1棟あります。令和2年6月8日現在の在院者数は,新入寮が5名,第1種集団寮がそれぞれ12名と14名,第2種集団寮が5名,単独寮が5名の合計41名となっております。   次に,スライドの11及び12に関連しまして,第1種少年と第2種少年の家族関係に違いが生じている理由等について御質問がありました。この点につきましては,奈良少年院の第2種少年の母数が6名と少なく,また,全国的に見ても,第2種少年の母数が,例えば平成30年の新収容者数では30名となっておりまして,非常に少ないものですから,一般的な傾向の違いとして比較することは難しいと考えております。飽くまで奈良少年院の現状の参考とお考えいただければと思います。   次に,スライドの16に関連しまして,在院期間の分布の要因等について御質問がありました。家庭裁判所により矯正教育の期間に関する処遇勧告が付されない場合,第2種少年院の矯正教育課程では基準期間の12か月に沿った個人別矯正教育計画が作成され,その処遇経過等に応じて仮退院の申出や収容継続の申請等を行うこととなりますが,その結果,多くの者が基準期間の前後で仮退院に至るものと考えられます。他方,非行内容等から問題性が大きいと判断され,家庭裁判所により相当長期間等の処遇勧告が付される場合,少年院ではその処遇勧告を踏まえて処遇を実施することになるため,相応の教育期間が予定されることになります。   また,少年院の処遇に段階を設けていることに関し,在院者の更生意欲に対する効果についても御質問がありました。処遇の段階は,その向上に伴って社会生活により近い処遇環境を設定することによって,在院者の自覚に訴えて改善更生の意欲を喚起し,その自律的,自発的な改善更生を促すための制度です。処遇の段階は成績の評価に応じて順次向上し,あるいは低下するものとされており,少年が自らの現状や変化を成績評価によって担任職員から個別具体的にフィードバックされることにより,自らの成長を認めることができるとともに,取り組むべき目標が明確になるため,更生に向けた意欲を高めることにつながっているものと考えられます。   次に,スライドの19に関連しまして,在院者の日課等についての御質問がありました。在院者の日課等については法令に基づき定められておりますので,当部会の第2回や期日外施設における多摩少年院の日課等の説明事項と大きく異なるところはございません。食事や入浴等の時間等についても,在院者の生活を見守り,その安心・安全を守るとともに,食育や食事マナーなど必要な指導や働き掛けを行っているところです。土日や祝日においても,体育や学習その他,様々な生活の場面で職員が在院者と場を共にしながら見守り,矯正教育を行っておりまして,状況に応じて個別指導や集団指導も実施していますが,矯正教育の適切な実施に支障のない範囲内で,なるべく長い時間を余暇に充てるべき時間帯として定めております。   次に,スライド20から23に関連した御説明をします。生活指導において,寮担任等による在院者との個別面接にどのような意義や効果があるのかについてお尋ねがありました。個別面接を通して在院者の課題解決や出院後の生活等についてきめ細かい指導を行うことができるとともに,在院者にとって身近な大人として関わることを通じて他者に対する信頼感を醸成することにもつなげられると考えられます。   また,育児プログラムや現在作成中の虐待防止プログラムについての詳細についてお尋ねがありました。育児プログラムにつきましては,主に処遇の後期に当たる1級生の在院者を対象に,子育てや育児について学ぶことで保育や家族生活に関する関心を深めることや,将来親となるのに必要な考え方や態度について考えさせることを目的としているほか,出産や子育てに伴う愛情にも目を向けさせ,自らもそれを親から受けてきたことに気付き,自尊感情を育むことなどを目的としております。現在作成中の虐待防止プログラムについては,在院者が社会復帰後,父親になったときのことを想定し,子供の特性や父親としての健全な在り方について在院中に教育し,もって虐待を未然に防ぐことを目的として実施予定となっております。   続きまして,スライド24に関連して,マイ畑指導の詳細についてお尋ねがありました。マイ畑は少年一人一人に個人単位で与えた畑のことであり,作付計画から収穫に至るまで自己責任において自主的に管理させております。職員は,飽くまでも少年一人一人のサポート役として,各自の作業進行状況を把握しながら見守っております。この取組を通じて,在院者には自分で考え行動することを通じて自主性が養われるとともに,自分に課された責任を果たすことを通じて責任感などが養われています。また,自分で野菜を作ることで嫌いな野菜を食べるようになるなど,食育としての効果も期待されています。   また,スライド25に関連して,少年院で取得した資格が就労につながっているのかについても御質問がありました。奈良少年院で取得した資格が全て関連した分野における就労につながっているというわけではございませんが,資格取得に向けての取組や努力,取得によって得た自信は,少年の社会復帰後の健全な社会生活につながるものと考えております。   続きまして,スライド27に関連して,体育指導と運動との違い等についてお尋ねがありました。少年院における体育指導は矯正教育として実施されるものであり,在院者の身体的な能力の向上のみならず,集中力,忍耐力,持久力等の精神力の涵養,集団競技等を通じた協調性,規範意識の向上等を目的とするもので,在院者が体育指導を受けることは義務であるため,少年院の長は,在院者が矯正教育の時間帯に体育指導を正当な理由なく拒んだ場合は,遵守事項違反として懲戒を行うことができます。なお,体育指導中に職員が少年とともに活動することがありますが,これには,在院者に職員との一体感を感じさせ,体を動かすことの楽しさを伝えるとともに,職員との信頼関係を築かせる等の目的・効果があると考えられます。これに対しまして,運動は在院者にその機会が与えられるものであって,在院者に運動の義務はなく,強制することはできません。これは刑事施設における運動と同様ですが,少年院の場合は1日に1時間以上とされているのに対し,刑事施設の場合は1日に30分以上とされています。   他方,個別体育指導の意義についても御質問がありましたが,これは,集団生活になじめず単独寮で生活している在院者に対して,個別処遇の一つとして,担任職員が一緒に体育を行うことを通じて,面接だけでは難しい少年との関係形成を一つの狙いとしております。   次に,スライド33から36に関連して,これらに記載されております処遇例①及び②の詳細について,より具体的な説明を求める御質問がありました。資料にも記載しておりますとおり,処遇例①及び②は,奈良少年院における代表的な事例につき,その本質を損なわない範囲で再構成したものであり,詳細を御説明することは困難なところがございますが,用語等について御説明を致します。   スライド34に記載されておりますSST,ソーシャルスキルズトレーニングとは,具体的な場面を想定してロールプレイ等の方法を用いて社会的スキルを学ばせ,行動のレパートリーを広げさせるための訓練のことです。社会的スキルとは,社会的な行動,つまり,相手に対して目的を持って働き掛け,相手から期待した反応が得られるように行動する対人的な能力のことです。   スライド35に関連して,反則行為があった場合の対処についても御質問がありましたが,必要に応じて単独室に収容した上で調査を行い,審査会を開催し,懲戒に付すかどうか,付す場合は懲戒の内容を決定しております。懲戒は,少年院の規律及び秩序の維持を主たる目的としつつ,当該在院者の規範意識を喚起する教育的機能を持つものです。懲戒には厳重な訓戒と20日以内の謹慎の2種類があります。謹慎中であっても謹慎の趣旨を踏まえて矯正教育が実施されます。   スライド36の職員全員で処遇を行う体制については,情報を日々のミーティング等により職員間で共有し,組織的な対応を行うことにより困難を解消することを指しますが,その具体的な在り方は個々の事例に応じて異なります。また,動機付け面接は面接技法の一種であり,対話を通して在院者に対し,処遇に前向きに取り組ませるための動機付けをすることを目的とするものですが,その態様や頻度は個々の在院者の状況に応じて様々なものとなっております。   次に,スライド37のまとめについて御質問を多数頂きました。まとめは一般的な方向性についての記載でございまして,その意味合いや実施状況はケース・バイ・ケースとなるため,逐語的な説明を行うことは困難ですが,先ほど御説明の処遇例①や②から,職員は,在院者とのコミュニケーションを図りながら信頼関係を築き,在院者の成長や変化に応じて様々な働き掛けを行ったり,時には見守ったりしていることを読み取っていただければと思います。   奈良少年院では,第2種の少年だけでなく第1種少年も処遇していますが,いずれにしても,未来,希望,自立を旗印に,心身ともに健康で心豊かに生活できる若者,自律心に富んだたくましい若者を育てることを目標に矯正教育を行っております。   その他の質問としまして,一日の日課の中で職員と在院者がどのように関わり,その情報がどのように職員間で共有されるのかについて御質問がありました。職員と在院者の関わり方について,第1種少年に対する関わり方と第2種少年に対するそれとで大きく変わるところはございません。奈良少年院においては,各寮に5名の寮担当が配置されており,個々の在院者には所属する寮の寮担任のうちの一人が個別担任に指定されています。寮担任は交代で寮における夜間の当直任務に着くほか,日中は特定生活指導,職業指導,教科指導,体育指導等を担当しています。在院者は,日中の矯正教育プログラム受講時は,所属する寮の寮担任ではない教官の指導を受ける場合もあります。個々の在院者の細かな情報については個別担任等から寮担任間で共有されますが,必要に応じて幹部職員にも共有されるとともに,毎朝の職員ミーティング等の場で職員全体に共有されております。   最後に,女子少年院の在院者の特性及びその処遇の在り方などについても御質問がありました。まず,女子在院者の特性につきまして,平成30年の少年院新収容者の統計から概要を説明します。年齢につきましては,女子少年の場合は年長少年及び中間少年がそれぞれ約4割,年少少年が約2割となっているのに対し,男子少年の場合は年長少年が約5割,中間少年が約3.5割,年少少年が1割強になっております。教育程度に関しては,男子少年,女子少年ともに割合の多い順に,高校中退,中学卒業,高校在学となっています。保護者の状況に関しては,男子少年,女子少年ともに割合の多い順に,実母,実父母,義父実母,実父となっています。知的障害又は発達障害を有する者の割合は,女子少年,男子少年ともに2割程度となっています。また,被虐待経験を有する在院者は,令和元年度犯罪白書によれば,平成30年の新収容者では女子少年が51.4%,男子少年は33.8%となっています。   次に,非行の状況について,平成30年の少年院新収容者の統計から御説明します。非行名に関しては構成比率の多い順に,女子少年の場合は窃盗,暴行・傷害,覚せい剤取締法違反,詐欺,ぐ犯となり,男子少年の場合は窃盗,暴行・傷害,詐欺,強制性交等,強制わいせつ,道路交通法違反となっております。過去の少年院入院歴がない少年が,女子少年が87.4%,男子少年が81.4%となっております。   また,出院の状況について,平成30年の少年院出院者の統計から御説明します。出院までの日数では,女子少年の方が男子少年よりも平均的に多くなっておりまして,例えば短期の矯正教育課程対象外の仮退院者の数字で見ますと,平均在院日数は女子少年が平均在院日数407日,男子少年が385日となっています。出所時の引受先に関しては,女子少年,男子少年ともに割合の多い順に,実母,実父母,実父となっています。   続きまして,処遇の在り方についてですが,女子少年院においても男子少年院と同様に,個々の特性に応じた矯正教育の計画を立て,信頼関係を育みながら体系的な処遇を行っている点において変わるところはございません。もっとも,収容人数の規模や施設の組織,体制の問題もあり,年長少年であったり犯罪的傾向の進度であったりといった観点から,処遇の在り方をことさらに区別することはしておりません。   女子在院者の全般的な特性としまして,自己表現力が乏しく適切に問題解決できないこと,自己イメージが悪く逃避や依存で問題を回避しがちであること,被害経験によるトラウマなどの内面の不安定さがあることが挙げられ,また,摂食障害や自傷に至る者がいることも特徴であることから,こうした女子在院者特有の処遇ニーズに対応するため,女子少年院在院者の特性に配慮した処遇プログラムの開発と試行が行われています。このプログラムは,原則として全ての女子在院者に実施する基本プログラムと,特に自己を害する程度の深刻な問題行動に対応した摂食障害,自傷及び性問題行動の三つの特別プログラムからなり,基本プログラムと特別プログラムを必要に応じて組み合せ,女子在院者の多様な問題性に応じた処遇を実施しております。   矯正関係の御説明は,駆け足でしたが,以上でございます。 ○佐伯部会長 ありがとうございます。   続いて保護局からお願いいたします。 ○生駒幹事 東京保護観察所の資料に関する御質問を2問頂いておりますのでお答えいたします。   まず,少年院仮退院者と比較したとき,仮釈放者に対する保護観察の実情において困難が生じているのはどのような点かという御質問を頂いております。これにつきまして,個々の保護観察対象者によって処遇上の課題は様々ございますので,少年院仮退院者と仮釈放者のそれぞれの保護観察の困難さについて,一概に比較して申し上げることはできません。ただ,制度の違いから処遇に影響し得ることとしましては,仮釈放者の保護観察期間は全般に少年院仮退院者よりも短く,釈放後の生活状況や心情の変化等を見極められないまま終了してしまったり,また,生活上の危機に直面しても既に保護観察が終了間際であったりするなど,十分な社会内処遇の期間を確保できない場合というのがございます。実際に平成30年における少年院仮退院者の保護観察開始時の保護観察期間を見ますと,6か月を超える事案は全体の約7割である一方,同年における仮釈放者の保護観察開始時の保護観察期間は,6か月を超える事案が約2割ということになっておりまして,相当な開きがございます。   次の御質問でございますけれども,更生保護法第59条で規定されております保護者に対する措置の具体例について御質問を頂きました。保護者に対する措置の具体例といたしましては,まず,少年の生活実態等を把握して適切にその監護に当たるべきことや,改善更生の妨げになると認められる保護者自身の行状を改めるべきことを指導助言するということがございます。また,少年との接し方を学ぶためのハンドブックの提供や,講習会や保護者会を保護観察所で開催するなどの例がございます。さらに,例えば発達障害者支援センターなど外部の社会資源との関わりを保護観察所が仲介するということも行っております。   保護局からは以上です。 ○佐伯部会長 ありがとうございました。   事前に多数の御質問を頂き,ただいま事務当局から詳しい御説明を頂いたところですが,本日特に御質問があるという方がいらっしゃいましたらお願いします。               (質疑なし)   よろしいでしょうか。もし更に御質問があれば,また事務当局にお伝えいただければと思います。   次に,取りまとめに向けた意見交換に入りたいと思います。   本日の残りの時間で,「非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方」のうち,「若年者に対する新たな処分」以外の制度・施策について意見交換を行い,「若年者に対する新たな処分」及び「少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること」については,次回会議において意見交換を行いたいと考えております。そして,本日の意見交換の進め方としては,まずは,当部会における検討事項全般に関わることや,取りまとめの方法なども含めた総論的事項について御意見をお伺いし,その後,「検討のための素案〔改訂版〕」に記載されている制度・施策を四つのまとまりに分けて順次意見交換を行うことが円滑な議事に資するのではないかと思われます。   具体的には,「検討のための素案〔改訂版〕」の目次に沿って申し上げますと,一つ目のまとまりとして,「1 自由刑の単一化」から「4 外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」まで,二つ目のまとまりとして,「5 刑の全部の執行猶予制度の拡充」から「7 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進」まで,三つ目のまとまりとして,「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」から「8-4 更生保護事業の体系の見直し」まで,四つ目のまとまりとして,「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」の,以上四つに分けて議論したいと思います。   以上のような進行とすることでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   そのような形で進めたいと思います。   初めに,総論的事項について意見交換を行います。御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いします。 ○小木曽委員 意見の取りまとめに向けた議論を進めていく前提として,総論的な観点から年齢区分の考え方について確認的な意見を申し上げておきたいと思います。   これまでの議論を振り返りますと,18歳及び19歳の者を対象として「若年者に対する新たな処分」の制度を導入する場合,従来案又は「別案」のいずれを採用するとしても,罪を犯した18歳及び19歳の者については,20歳以上の者とも17歳以下の者とも異なる取扱いをするということで検討が進められてきました。   具体的には,従来案では18歳及び19歳の者について,17歳以下の者とは異なり,刑事処分を科すことを原則としつつも,起訴猶予処分とされた場合には,20歳以上の者とも異なり,何らの処分を受けないというのではなくて,家庭裁判所の調査・審判を経て,刑罰とも保護処分とも異なる「若年者に対する新たな処分」の対象とすることが検討されてきました。   また,「別案」では,18歳及び19歳の者について,刑罰を科される事件であっても,20歳以上の者とは異なり,家庭裁判所に送致され,刑罰ではない「若年者に対する新たな処分」の対象とされる一方で,逆送の範囲,刑事事件の特例及び推知報道の禁止等については17歳以下の者とも異なる取扱いをする可能性が検討されてきたところであります。   このように,今回の検討は,18歳及び19歳の者を従来の少年と成人の中間層ないし移行期にある者として捉えようとしてきたと言えると思います。このことは,議論の中でも何回か言及されておりますし,議事録を見ても確認できるところであります。   そうしますと,今後取りまとめに向けた議論を進めるに当たりましては,現行少年法の少年の年齢を引き下げて18歳及び19歳の者を従来の成人として区別することを仮定し,あるいは前提とした上で検討するといった必要性は乏しいのではないかと思います。また,かえって議論が先に進まないというおそれがあり,適切でないのではないかと思います。   すなわち,18歳及び19歳の者がなお未成熟で可塑性を有する存在であることを認識しつつ,しかし他方で公職選挙法の改正によって選挙権を付与され,国民投票法で憲法改正についての意見を表明することができるようになり,さらに民法の改正によって成年とされたことなどに照らして,端的にその年齢層の者にふさわしい制度,施策の在り方を個別具体的に検討していくことが建設的な議論ではないかと思います。そのようにして18歳及び19歳の者に対する実質的な処遇の在り方について検討した上で,それを踏まえて,17歳以下の者,18歳及び19歳の者,20歳以上の者の年齢区分の名称をどうするかを議論するというのが取りまとめの議論としては適切なのではないかと考える次第です。 ○今井委員 私からも「検討のための素案〔改訂版〕」に記載されております各制度,施策につきまして,総論的な意見を申し上げたいと思います。   「若年者に対する新たな処分」の従来の案では,18歳及び19歳の者は20歳以上の者と同様に起訴されて刑罰を受けることが想定されておりますので,刑に処せられた18歳及び19歳の者に対する処遇が不十分なものとならないようにするという観点からも,「若年者に対する新たな処分」の導入と併せまして,刑に処せられた18歳及び19歳の者に対する刑事政策的措置を充実させるべき必要性が高いと言えるわけでございますが,「別案」の下では,18歳及び19歳の者に刑罰を科すのは,先ほども申しましたが,相対的に限定されると見込まれますので,このような観点からの措置の必要性は相対的には低下することになると思われます。   もっとも,「検討のための素案〔改訂版〕」に記載されています各制度,施策につきましては,第23回会議で小木曽委員からも御意見がありましたけれども,罪を犯した18歳及び19歳の者を対象として検討されている「若年者に対する新たな処分」を除きますと,18歳及び19歳の者に限られない,一般的に罪を犯した者の改善更生や円滑な社会復帰を図ることが期待されるものになっております。   例えば,自由刑の単一化によって,教育等を十分行う必要がある者に対しましては,作業を大幅に減らして,改善指導や教科指導を行うなど,個々の受刑者の特性に応じて柔軟な処遇を行うことが可能となります。また,犯罪被害者等からの心情等を聴取し,それを矯正処遇等にいかす仕組みによって,被害者等の心情等が受刑者の処遇に活用されることとなり,受刑者の改善更生のための働き掛けの充実が図られるということにもつながると考えられます。   また,外部通勤作業及び外出・外泊の活用等を推進するとともに,保護観察における新たな処遇手法の開発や,保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用によりまして,保護観察対象者につきましても鑑別の対象とすることなどにより,施設内処遇から社会内処遇への円滑な移行が一層促進され,社会内においても充実した処遇が実施されることになるものと考えられます。   このように,これまで当部会で検討されてきました様々な制度,施策のうち,「若年者に対する新たな処分」を除くものにつきましては,罪を犯した18歳及び19歳の者に限らず,犯罪者一般の改善更生,社会復帰に大きな意義を有するものであります。そして,当部会第23回会議で,これも小木曽委員から御指摘がありましたし,また,本日の会議では先ほど宮田幹事からの御指摘もあったところでありますけれども,我が国におきましては再犯防止の必要性・重要性が改めて認識され,それに向けた施策がとられています。   平成28年12月に制定された再犯の防止等の推進に関する法律の下,再犯防止対策の一層の充実推進に継続的に取り組んでいくことが必要な状況であることなども踏まえますと,これらの制度・施策は,罪を犯した18歳及び19歳の者の取扱いや年齢区分に関してどのような結論をとるのかに関わらず,それ自体として再犯防止対策の観点から積極的に推進されるべきものと考えます。   この点は非常に重要な点だと思われます。また,再犯防止対策の重要性自体に特段の異論はないものと考えられますので,当部会の議論の取りまとめにおきましては,ただいま申し上げましたような趣旨を是非とも明記していただきたいと考えるところでございます。 ○橋爪委員 私からは,当部会における意見の取りまとめの方法につきまして,1点,僭越ながら御提案を申し上げたいと存じます。   これまで当部会では3年以上の時間を掛けまして,多様な刑事政策的な制度・方策について綿密な議論を重ねてまいりましたが,その中には,相当程度具体的な検討を行ったにもかかわらず,幾つかの理由から今後の課題とされたものも含まれております。例えば,考試期間主義の導入,あるいは保護観察の本解除の制度の導入等でございます。これらの制度につきましては,将来必要に応じて改めて検討を加える可能性があると考えますが,その際に全く一から検討し直すというのではなく,当部会における議論を踏まえつつ更に検討を加えるというのが,当部会における成果の活用という見地からも,また議論の効率性という見地からも好ましいように思われます。   このような観点からは,当部会で議論された今後の検討課題とすべき制度につきましては,各回の議事録に残すだけではなく,当部会の取りまとめ文書にもその旨を明記して,当部会における議論の概要を将来活用できる形で明確に記録しておくことが有益であると考えます。このような方針につきまして,今後,御検討をお願いしたく存じます。 ○佐伯部会長 総論的事項についてはこの程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に「1 自由刑の単一化」から「4 外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」までの制度・施策について意見交換を行います。いずれの点からでも結構ですので,御意見がある方は挙手の上,どの制度・施策に関するものかを明示していただいた上で御発言をお願いいたします。 ○青木委員 自由刑の単一化について意見を申し上げたいと思います。   「作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うこと」というのを刑の内容として刑法に書き込むということについての問題点は,ずっと申し上げてきたことでありまして,それについての意見は変わらないのですけれども,仮に刑法に書くとしても,項を分けて書くべきであるということについて述べたいと思います。   「検討のための素案〔改訂版〕」においては,拘留についても,「拘留は,刑事施設に拘置して,作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うものとする。」というものが書かれました。この部会の第5回会議で配布していただきました改正刑法草案の解説を見ますと,改正刑法草案においても,「拘留に処せられた者に対しては,矯正に必要な処遇を行う。」ということが規定されております。   ただ,改正刑法草案では,この「検討のための素案〔改訂版〕」のように,「拘留は,刑事施設に拘置して,作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うものとする。」という形でつなげて書くのではなくて,項を分けて,「拘置する」ということと,「矯正に必要な処遇を行う」ということは分けております。その分けた趣旨について,この解説を読みますと,直接的に何か説明があるというわけではありませんけれども,拘置するということに関しては,「自由刑としての懲役刑の本質的な要素をなす自由のはく奪」ということが書かれておりまして,矯正に必要な処遇を行うということに関しましては,刑事施設における矯正処遇が受刑者の改善更生,すなわち社会復帰を目的とするものであること,ということが書かれております。ということで,自由刑の本質的な要素である拘置ということと,行刑の目的に資する処遇というものを区別したのではないかと思われます。   改正刑法草案そのものについて,それがいいとか,あるいは,その解説に書かれていることについて,それが全てもっともであるということを言うつもりはないのですけれども,このように改正刑法草案において項を分けたということにはそれなりの理由があったものと考えられますので,刑法に書くのであるとしても,せめて項を分けて書くべきであると考えます。 ○佐伯部会長 「1 自由刑の単一化」から「4 外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」までの制度・施策については,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に「5 刑の全部の執行猶予制度の拡充」から「7 刑の執行猶予中の保護観察の仮解除の活用促進」までの制度・施策について意見交換を行います。この点についても,いずれの点からでも結構ですので,挙手の上,どの制度・施策に関するものかを明示していただいて,御発言をお願いいたします。               (発言なし)   次にまいりたいと思います。次は,「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」から「8-4 更生保護事業の体系の見直し」までの制度・施策について,意見交換を行いたいと思います。いずれの点からでも結構ですので,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○羽間委員 「検討のための素案〔改訂版〕」の9ページの「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」に関して,でございます。この保護観察処遇における新たなアセスメントツールの開発及び新たな処遇手法の開発については,法務省保護局で新たなアセスメントツールを開発中であると承知しておりますが,現在の開発状況について事務当局にお尋ねしたいと存じます。 ○生駒幹事 御指摘のアセスメントツールでございますけれども,保護観察処遇におきましては,アセスメントによって見いだされる保護観察対象者の問題と,また改善更生を促進する要因の把握ということが非常に重要でありますので,平成30年3月以降,保護局におきまして専門家の御意見なども踏まえて開発をしてまいりました。このツールは,保護観察対象者が犯罪や非行に至った要因に焦点を当てるとともに,改善更生を促進する要因にも目を向けまして統計的なリスク評価を加味したものでありまして,これらの要因の分析結果に基づいて保護観察の実施計画を定めることを想定しております。現在,保護観察所におきまして,このアセスメントツールを試行的に導入しているところでございまして,更に最終的な調整を行った上で,本年度中をめどに全面実施することを予定しております。 ○羽間委員 ありがとうございます。今の御説明によりますと,保護観察処遇における新たなアセスメントツールは既に開発され,試行的に導入されており,本年度中に全面実施する予定とのことですので,現在のこの素案のアセスメントツールを開発するとの記載は,新たなアセスメントツールを活用して効果的な処遇手法を推進していく,などの内容に修正する必要があるかと存じます。   一方,アセスメントの結果を踏まえた処遇状況が前刑から後刑に引き継がれるための方策を充実することや,それから,施設内処遇と社会内処遇の処遇手法を連続性のある内容とすることにつきましては,引き続いて取り組んでいくべきものですので,「検討のための素案〔改訂版〕」の記載を修正する必要はないと考えます。   また,このアセスメントツールを活用した処遇の積極的な推進を担保するためにも,保護観察処遇の実施計画に関する規定を整備することが望ましいと考えます。少年院法には,個々の在院者について個人別矯正教育計画を策定すべき旨の規定が置かれています。また,いわゆる刑事収容施設法にも,個々の受刑者について矯正処遇の実施要領である処遇要領を定めるべき旨の規定が置かれています。一方,保護観察処遇の実施計画につきましては,更生保護法に基づく規則に定められているにすぎません。保護観察における実施計画が矯正施設における教育計画等と同様の意義,重要性を有することを踏まえますと,このたびのアセスメントツールの開発を機に,保護観察の実施計画を定め,それに基づいて処遇を行うべきことを法律上明記することも検討に値するのではないかと考えます。 ○太田委員 私も「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」のうちの「三」の更生保護施設における宿泊を伴う指導監督について,一言申し上げます。   これまでの部会の議論におきましては,この施策について様々な観点から,消極的な意見もございましたけれども,この施策の必要性・相当性自体を否定する説得力のある指摘は示されていないものと認識しております。   もっとも,全国に103あります更生保護施設は,その全てが民間の法人によって運営されておりまして,施設によって職員体制等には差がありますことから,現実の問題としては,直ちに幅広く新しい運用を開始することは困難であると思われます。また,国の行政機関が進める施策である以上は,大きな地域的な隔たりが生じるということは望ましいとは言えず,ある程度の規模での運用が可能となる体制を確保した上で取組を進めていくということが求められることは否定できません。   こうした実務上の課題があることは確かではありますけれども,これまで申し上げてきたとおり,この施策は,再犯可能性が高い状況であるような場合に一定期間,保護観察対象者を問題のある環境から遮断をして濃密な処遇を行うことによって,その行状の改善を図ることができるという点で大変有意義なものであるということに変わりはなく,まずはその実現に向けた環境整備が十分に推進されるべきであると考えます。 ○武委員 今までにも何度か話をしてきたことですが,被害者に対する謝罪や被害弁償を実行することを特別遵守事項に加えてほしいということをもう一度お願いしたいと思います。   加害者の多くは,少年審判でも刑事裁判でも,一生,罪を償います,一生を掛けて被害弁償しますと言います。ですが,私たちの会の人たちには,加害者が音信不通になり被害弁償も謝罪も一切受けられなくてつらい思いをしている人が多くいます。裁判所で裁判官の前でした約束というのは守らなければならないはずです。逃げ得を教えてはいけないです。国は守らせる義務があると思うのです。   加害者に対して謝罪や弁償を求め続けていくことは,被害者にとってとても大きなエネルギーが要ることです。無視されたり,時には借金取り扱いをされて邪魔にされ,邪険にされ,疲れ果て,絶望し,諦めていく被害者がほとんどなのです。私は,被害者が一家族で悩まないように,苦しまないようにと会を作り,頑張ってきました。でも,たくさんの人たちがこの問題に行き着き,苦しみを抱えてしまうことをたくさん見てきたのです。私たちが支え合っても,何度も何度もカウンセリングを受けても,この問題だけはどうしても解決できないのです。どうかこの機会にしっかり考えてください。   被害弁償を義務付けるといっても,私たちはすごく大きなお金を1回で全部払えと言っているわけではありません。日々の暮らしの中で一生懸命仕事を頑張って,例えばパチンコやたばこや携帯代など,少し我慢をして,毎月3,000円ずつでも,きちんとお金を被害者に支払ってほしいのです。どう頑張ってもそれすら無理なときには,被害者に,来月はきちんと払います,ごめんなさいと連絡をして,きちんと罪と向かい合っているという姿を見せてほしいのです。それすらなく,ただただ無視されるということは,被害者の気持ちを踏みにじる行為です。   少年院や刑務所を出た後,保護観察期間というのは,加害者に国が関わることができる最後のタイミングです。そして,刑務所を出た後の保護観察の期間は,大抵の場合,とても短いです。その短い期間の中で,誠意をもって被害者に謝罪や被害弁償するということをきちんと保護観察官・保護司が指導してほしいのです。そして,加害者は自分がやったことの責任を果たした上で堂々と生きていく,それが本当に立ち直るということではないでしょうか。そのためには生活行動指針では足りないのです。特別遵守事項の中に謝罪や被害弁償を実行することを加えてほしいと強く願います。特別遵守事項にすることで保護観察官や保護司の関わり方もきっと変わると思うのです。加害者の更生や再犯防止につながると思います。もしこのことで保護観察官の人数不足が関係するのであれば,そのことも今,考えてほしいです。   ありがとうございました。 ○奥村委員 武委員の先ほどの被害弁償の件ですけれども,私も何度も申し上げていますように,受刑した人たちの多くは,国家から自由を剝奪されて刑務所に入るということによって,自分たちは自由を拘束されているということで,もうそれでお務めを果たしたという,義務を果たしたという,そういう認識が強くて,弁償していかなければいけないという意識が希薄であるということは非常に少なくないということを見ています。   そこで,武委員がおっしゃるように,私は被害者の施策というのは,三位一体と言っているのですけれども,一つ目は経済的支援です。犯罪被害給付金制度と損害賠償命令がありますけれども,不十分なところがあります。それから,二つ目は物理的・心理的なサポート,三つ目は刑事手続の参加制度など,手続上の権利利益の擁護,この三つです。三位一体という形,三つそろう必要があると思うのですけれども,その中でも特に被害弁償に関しては強い意識でやっていかないといけないということでありまして,特別遵守事項の中に是非とも私も入れていただきたいと思います。これは幾ら言っても,払えないものは払えないということで,そのうちうやむやにしてしまうということになりかねないので,そういうことがないように,武委員がおっしゃるように,3,000円でも5,000円でもいいから毎月支払っていく,義務化するということを心がけていくようにしていただきたいと思います。 ○池田幹事 以前述べたことの繰り返しになってしまうのですけれども,加害者による被害者に対する損害賠償や謝罪を特別遵守事項として設定できるようにするということについては課題があるという指摘があります。この点について改めて申し上げますと,まず,損害賠償に関しては,賠償それ自体を遵守事項として義務付けることは,本来は民事の手続で解決されるべき債務の履行を刑罰の執行に結び付けられた遵守事項違反という形で強制することになり,適当ではないとの意見があります。また,弁償そのものではなく,被害弁償に努めることを遵守事項とするとしても,今度は努めたのかどうかが不明確となってしまい,違反したかどうかの判断が難しく,本人にも不利益になりすぎるおそれがあるため,慎重にすべきではないかという御意見もございました。   次に,謝罪についてですが,意思決定の自由あるいは内心の自由の保障との関係で適当かという点が問題となり得ます。また,これに加えて,被害者に謝罪することや,あるいは謝罪そのものではなくて,謝罪に努めることを遵守事項としても,いずれの場合も,それらが謝罪を行う者の内面に関わるものであることから,何をもって謝罪したことになるのか,あるいは努めたことになるのかを明確に判断するのは難しいと考えられることを指摘させていただいたところです。   以前も申し上げましたように,私自身,加害者が損害賠償や謝罪に向き合うということが被害者のためのみならず,加害者本人あるいはその周辺の者にとっても非常に重要であるということについては意見を同じくするところではありますが,これまでの部会の議論を踏まえますと,被害者に対する損害賠償や謝罪を直接的に強制することになるような特別遵守事項の設定は難点が多いものと考えます。 ○太田委員 私も「8-2 犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実等」について,何点か申し上げます。   まず,被害者等に対する損害賠償につきましては,「検討のための素案〔改訂版〕」におきまして,生活行動指針の内容を拡充することにより保護観察における指導の充実を図ることが記載されています。もっとも,この点につきまして検討を行いました分科会においては損害賠償のみを念頭に検討が行われていたものの,当部会におきましては被害者等に対する謝罪を含めて議論が行われて,損害賠償と併せまして被害者等に対する慰謝の措置に向けた指導の重要性が指摘されたことからしますと,当部会の取りまとめにおきましては,生活行動指針の設定により充実化を図る指導の対象に被害者等に対する謝罪に向けた指導も含まれることを明記することが適当であると考えます。   他方,今出ておりました被害者等に対する損害賠償や謝罪に関しましては,今も武委員や奥村委員からお話がございましたけれども,これを特別遵守事項として設定できるような法整備を行うという御意見も当部会で主張されてきましたし,これに対しては,ただいま池田幹事から御発言がありましたように,不良措置の威嚇効果をもって損害賠償や謝罪を強制するようなことが適当でないことや,その違反の有無を明確に判断することが難しいなどの問題点が指摘されてきたところであります。   また,この点については,以前,私から,現在の一般遵守事項の中にあります支出やその収入の状況等に関する事実の申告やその資料の提示を活用することで,保護観察対象者の損害賠償の状況などを確認でき,被害者に対する損害賠償の実効化に資するのではないかということを申し上げました。   しかし,よく考えてみますと,この規定は飽くまで対象者の生活の実態を示す事実という基礎的な事実の申告等を義務付けたものでありますので,保護観察官等による具体的な指導に応じて,被害者に対して取った個別の行動の申告等まで義務付けるものと当然読むことができるかどうかは,少し検討が必要であると考えます。   他方,例えば,被害者等に対する謝罪や被害弁償,損害賠償を行うこと自体を遵守事項の内容とするのではなくて,保護観察官又は保護司の指導に応じて取った行動の内容を保護観察官又は保護司に申告をしたり,それに関する資料を提出したりと,そういう限度で遵守事項として定めるのであれば,具体的かつ実効的な指導が可能となる一方で,指摘されているような問題点を克服できる可能性もあるのではないかと考えます。そうであるとすれば,このテーマにつきましては,このような保護観察官又は保護司に対する申告や資料提出の限度で遵守事項による義務付けを行うという可能性も含めて,更に検討すべきではないかと思います。   その他,「検討のための素案〔改訂版〕」の「8-2 犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実等」につきまして,更生保護法第3条の運用の基準に,被害者等の被害に対する心情,被害者等が置かれている状況その他の事情を考慮するよう努めなければならないものとすることを盛り込む案が示されているところでありますが,単なる表現ぶりの問題ではありますけれども,考慮するよう努めるというのは,やや回りくどく分かりにくいことから,端的に考慮するものとするとするのが適当であると考えますことも併せて申し添えたいと思います。 ○今井委員 私からは,「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」に関して意見を申し上げたいと存じます。   この施策は,保護観察においてアセスメントを行うときや処遇方針を策定等するときに,少年鑑別所が行う調査を活用することにより,処遇のために必要な情報を得て,その充実を図るため,保護観察所の長が仮釈放者又は保護観察付執行猶予者について,少年鑑別所による鑑別を求めることができることとするものでありますが,改訂前の資料21,「検討のための素案」におきましては,当該対象者の鑑別対象年齢につきまして,年齢を限定する必要はないとの考え方と,高い効果が期待できる若年者に限定すべきだとの考え方が示された上で,少年鑑別所の組織,体制にも関わる事柄であり,実務的な観点からも,調査検討を行った上で確定する必要があるとの意見が記載されております。   私は第23回の部会におきまして,「2-2 若年受刑者に対する処遇調査の充実」のうち,少年鑑別所における鑑別の対象となる受刑者の上限年齢を20歳未満から引き上げることに関しまして,実務的な事情についての事務当局からの御説明を踏まえ,少年鑑別所において増加する業務の状況や,その知見・ノウハウを活用する有効性の高い年齢層を対象とするという観点から,このような受刑者の上限年齢を設けるとするならば,おおむね26歳未満とすることも考えられるのではないかと申し上げたところでございます。   保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用における鑑別対象者の年齢を考えるに当たりましても,同様の観点から検討するのが適切ではないかと考えております。そして,今般検討されております刑事政策的措置の実施により,少年鑑別所の業務量は相当増加することが見込まれること,少年鑑別所の知見・ノウハウは少年の保護事件に関する業務が中心であることからいたしますと,やはり若年層に対して特に有効な活用が期待できるものであると言えることに加えて,少年鑑別所の施設規模も踏まえた現実的な運用可能性も考慮する必要があります。   そうしますと,仮釈放者又は保護観察付執行猶予者に対する鑑別につきましては,差し当たり対象とする上限年齢を設けて,鑑別の高い効果が見込まれる年齢層に限ることとするのが合理的で現実的な政策判断ではないかと思います。その場合,具体的な上限年齢につきましては,鑑別対象受刑者の上限年齢について申し上げたのと同様でございますけれども,おおむね26歳未満とすることが考えられると思います。 ○田鎖幹事 「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」と「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」について,従来も述べてきたことですけれども,最終的な取りまとめということですので,確認的に述べさせていただきます。   まず,「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」の「三 更生保護施設における宿泊の義務付け」につきましては,先ほど太田委員からも御意見がございまして,これを消極的に捉える意見には説得力がなかったというような御指摘もあったのですけれども,私といたしましては,従前述べてきたとおり,更生保護法第51条第2項第5号の対象は仮釈放者に限定すること,自由刑の保護観察付執行猶予者については,必要性があるということであれば,別規定として,かつ遵守事項違反を要件として期間の上限も法定すること,罰金の保護観察付執行猶予者,保護観察処分少年,少年院仮退院者及び仮に「若年者に対する新たな処分」が制度化された場合の保護観察対象者については,義務付けの対象外とすることが相当と考えます。   これについては,総論のところで橋爪委員から,今後の検討課題についても整理しておくことが望ましいのではないかという御意見がございました。私は,この点のみならず更生保護関係については,対象者の号種,法的地位の違いを意識した改革,制度の仕切り直しというものが必要ではないかということも述べてきたわけですけれども,総論で先ほど御発言があったこととの絡みで申し上げますと,仮にこのような意見が通らないとしても,将来的な課題としてはそれは取り上げていただきたいという気持ちがある一方で,どれを今後の検討課題として,どれは掲載しないということになると,それはそれでまた一つの大問題になるなということで,先ほどからいろいろ考えておりました。   「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」につきましては,保護観察の処遇を見直す場合の収容鑑別についてでございます。これについても,私は仮釈放者と執行猶予者とで規定を書き分けた上で,特に執行猶予者については,施設収容を回避するために不可欠な場合に用いられるという趣旨が明らかとなるようにすること,具体的には,少なくとも遵守事項違反があることを条件とすることが相当と考えます。 ○太田委員 今の田鎖幹事のお話ですけれども,宿泊を伴う指導監督を含む特別遵守事項の規定は,更生保護法上,全ての種別の保護観察に適用される保護観察の通則に置かれておりまして,法制度として,宿泊を伴う指導監督が類型的に全ての種別の保護観察対象者との関係で,処遇上必要かつ相当な措置であるということは,実務のお話を聞きましても明らかであろうかと思います。御指摘はいずれも,このような現行の更生保護法の規定ぶりとは整合しない前提に基づくものでありまして,相当でないと考えます。仮に現行法を改正すべきということであるとすれば,そもそも現行法自体に問題があるのではなく,現行法の施行後に具体的に何か問題が生じたという立法事実を示すべきであろうかと思いますけれども,それは示されていないと考えます。 ○池田幹事 「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」の「二」,「三」について意見を申し上げます。   仮釈放者及び保護観察付執行猶予者に対する保護観察において,対象者の問題性が大きく指導による改善が困難な状況が生じた場合に,保護観察の実施計画や特別遵守事項の内容の見直しを行うためには,その対象者の心理的,あるいは資質上の問題を的確に把握することが重要であり,そのための手段として収容を伴う鑑別の制度を設ける必要性は高く,社会内処遇の一層の充実にも資すると考えます。   また,鑑別のための収容は,社会内処遇を見直す必要がある場合に,裁判所が必要性及び相当性を判断してこれを認めた場合にのみ行われることとされ,収容期間も効果的な鑑別を行うために最低限必要な10日間とされていることから,必要かつ相当と認められる手続的負担として許容されるものと考えます。もちろん,身体の拘束という強い制約を伴う以上,その要件はできる限り外形的・客観的なものとすることが望ましいといえ,そのような観点からすると,先ほども御指摘があったところですけれども,処遇内容を見直す必要性を外形的・客観的に示すものとして,対象者に遵守事項違反があったことを収容の要件とすることが適切であると考えます。   なお,この点に関連して第3分科会では,鑑別のための収容の措置を設けるのであれば,現行の留置制度と組み合わせた制度とすることが考えられるとの意見もございました。しかし,現行の留置制度において仮釈放者の留置が認められるのは,遵守事項を理由とする仮釈放の取消しの申出などにより取消しの審理を開始する場合とされています。また,保護観察付執行猶予者については,遵守事項に違反し,その情状が重いときなどに,執行猶予の取消しの申出を行うか否かについての審理を開始する場合とされ,実際上も留置された場合の多くが執行猶予の取消しに至っていると伺っております。   このように,現行の留置制度は仮釈放又は執行猶予の取消しについての審理を行うに当たり,対象者が所在不明となることを防止しつつ,留置期間中に必要な手続調査等を行う制度として構築されており,社会内処遇の見直しに向けて行われる鑑別のための収容とは目的が異なるものであることからすると,鑑別のための収容の仕組みは留置制度とは別個に設けることとするのが適当であると考えます。   また,この制度の対象者について,対象者の問題性が大きく,指導による改善が困難な状況が生じた場合に,対象者の心理的あるいは資質上の問題を的確に把握して処遇を見直すことにより社会内処遇の充実化を図るというこの制度の趣旨は,保護観察処分少年及び少年院仮退院者にも同様に妥当するものと思いますので,これらの者も対象者に含めるということになるのではないかと考えます。 ○山﨑委員 私も「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」に関して確認的に意見を述べたいと思います。   これまで,この制度の対象者として,仮に少年の年齢を引き下げた場合の18歳,19歳の者について,刑事処分が原則となることから,保護観察付執行猶予者が増加することが見込まれ,その場合には保護観察開始時に得られる資料が少ないことから,保護観察において少年鑑別所の調査機能の活用が必要かつ有効だという御意見もございました。   しかしながら,「若年者に対する新たな処分」について「別案」を採用する,あるいはそもそも年齢を引き下げないということですと,18歳,19歳の事件は家庭裁判所に係属をして,そこで家庭裁判所による調査,少年鑑別所による鑑別が行われるということになります。したがって,この制度の当否はともかく,少なくとも18歳,19歳について言えば,保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用という場面は相当考えにくいのではないかとも思われますので,この制度については,誰をどういった場面で対象とするのか,これまで議論されておりますけれども,改めてその点をしっかり明確にする必要があるのではないかと考えています。 ○佐伯部会長 「8-1 保護観察における新たな処遇手法の開発,特別遵守事項の類型の追加等」から「8-4 更生保護事業の体系の見直し」までにつきましては,この程度でよろしいでしょうか。   それでは,次に「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」について意見交換を行います。御意見がある方は,挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○太田委員 「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」について,一言申し上げます。   この部会におきましては,起訴猶予処分前の者や勾留中の者に対する更生緊急保護について議論が行われてきましたけれども,更生緊急保護の活用を図るという観点からは,刑務所出所者が出所後直ちに更生緊急保護の措置を受けられるようにするため,収容中から保護観察所が必要な調整を行うことができるようにするための手続を整備することも同じ趣旨であり,問題もないと思われますので,併せて検討されてよいのではないかと考えます。   また,以前に申し上げましたけれども,保護観察を終了した者やその家族等が,保護観察を担当していた保護司などに対して支援を求める場合が相当数あると伺っていますけれども,犯罪者の改善更生,社会復帰の観点からは,こうした求めに保護観察所が積極的に応じることができるようにすることも重要な課題であると考えます。   少年院におきましては少年院法第146条で,少年院の長が退院者等からの相談があった場合には,相当と認められるときには職員に相談に応じさせることができるとの規定が置かれております。この規定は,平成26年の現行少年院法制定の際に,それ以前は,退院者やその保護者等からの相談の求めは相当数あったものの,その対応の在り方は個々の職員に委ねられており,法令上の根拠がないこともあって,退院者等からの相談に積極的に応じることは差し控えられていたという実情を踏まえて,積極的な対応が可能となるようにするために設けられたものと承知しております。   そうしますと,保護観察所におきましても同様の事情が認められると思われますため,この機会に同様の観点から,保護観察所が関係機関と連携をしつつ,保護観察や刑の執行を終了した者,その家族に対する支援を積極的に行うことができるよう,更生保護法にも規定を設けることも検討されてよいのではないかと思われます。 ○玉本幹事 冒頭にも御紹介しましたが,本日御欠席の大沢委員から,本日の意見交換に関して,「出所者の相談支援について」というタイトルで意見書の提出を頂いております。ただいまの太田委員の御発言と関連するものと思われますので,改めて御紹介させていただきます。 ○佐伯部会長 「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」につきましては,この程度でよろしいでしょうか。   本日の審議はここまでとさせていただきたいと思います。   次回も本日に引き続き,取りまとめに向けた意見交換を行いたいと思います。   次回会議の日程につきましては,本日の御議論の状況を踏まえて早急に検討し,事務当局を通じて皆様にお知らせすることにさせていただきたいと思います。引き続き,よろしくお願いします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましてはそのようにさせていただきます。   本日の会議は終了といたします。どうもありがとうございました。 -了-