性犯罪に関する刑事法検討会 (第1回) 第1 日 時  令和2年6月4日(木)   自 午後2時27分                       至 午後4時16分 第2 場 所  法務省第1会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 大臣挨拶         2 座長及び委員の自己紹介         3 議事の公開等について         4 意見交換 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田刑事法制企画官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第1回会合を開催いたします。 ○井田座長 本日は,皆様,御多用中のところ御出席くださり,誠にありがとうございます。本検討会の座長を務めさせていただきます井田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。   まず,本検討会の開催に当たりまして,森法務大臣から御挨拶を頂きます。 ○森法務大臣 法務大臣でございます。委員の皆様方には御多忙中のところ,性犯罪に関する刑事法検討会に御参加いただき,誠にありがとうございます。法務省にペーパーを作っていただいたのですが,今日はちょっと自分の言葉でお話をさせていただきたいと思います。   女性が7割います。この検討会でございます。そして,被害者団体の方が初めて入った検討会です。これには思いがあります。この性犯罪に関しては,私は就任前から強い関心を持っておりました。ですので,法務省のワーキンググループはそれまでも続いておりましたが,就任後,私の下に私的勉強会を立ち上げて,大臣室で毎週1回,頻繁に,被害者本人の方を中心に勉強を重ねてまいりました。そこには,毎回,性犯罪に関わってくる弁護士の方,そして,女性医師の方,研究者の方,海外法制に詳しい方をお呼びして勉強を重ね,私自身もこの問題に関する知見を深めてまいりました。そして,法務省のワーキンググループからの詳しい報告を頂きながら,私自身の判断で法務省の担当者を海外に調査に派遣をするよう指示いたしました。3月末には法務省のワーキンググループを取りまとめて本検討会を設置しました。   いよいよ始まるというときに,コロナの状況の下で皆様方が一堂に会する会議が難しくなりました。そこで,オンラインの会議をしようと思ったら,何と法務省には有識者の皆様を招くオンラインの会議システムがなかったのです。それには理由がありまして,法務省は省庁の中でも取り分けセンシティブな,セキュリティーがかかる情報を多く取り扱っております。しかし,今般初めて,私が指示をして,今は高度な技術が進んでおりまして,セキュリティーを保持しながら,今日のように有識者の方々も参加するオンラインのシステムというのを初めて整備いたしました。ですので,皆様は法務省で,正に開始されたばかりの有識者オンライン会議のメンバーでいらっしゃいます。   それまでも何も議論していなかったわけではなく,4月と5月は皆様方から自己紹介を兼ねた詳しい御意見を頂きました。私は全て目を通させていただき,大変勉強になりました。その中でも取り分け,座長の井田先生のペーパーは,皆様もお読みになったと思いますが,大変すばらしく,この問題に関して,被害者の支援を前に進める,その要請と,無罪推定を始めとした刑事法の様々な原則とのバランスを図っていく,その中で,得意分野に関しては他の先生方にも寛容な態度を取り,そして,自分の知らない分野も勇気を持ってどんどん発言してくださいという温かい言葉があり,このメンバーでこの座長の下で大変すばらしい議論が進むと強く期待をしたわけでございます。   女性を多く入れたのには訳があります。被害者は男性もLGBTの方もいらっしゃいますが,多くは女性の方です。それなのに,今まではなかなか女性が多い検討会がありませんでした。女性の被害者に寄り添ってきた法曹関係者,検事,弁護士,裁判官の方が入りました。被害者団体の方も入りました。多くの被害者に寄り添った皆様方の現場の御意見を頂いて,議論を進めていただきたいと思います。   その上で,私の思いは,一言で言うならスピードアップです。これまで性犯罪に関する我が国の政策は,諸外国に比べても決して胸を張れるものではございませんでした。後れを取ってまいりました。今この瞬間もあらゆる場所で,あるいは家庭で,学校で,職場で,本来なら安心していられる場所で,安心していられる相手から,魂の殺人とも言われる性被害を受けている方がこの瞬間もいらっしゃると思うと,本当に胸が詰まる思いです。その方々が,この国には訴える手段もない,泣き寝入りをせざるを得ないと思っていると思いますと,これもまたつらい気持ちです。   ですので,この検討会において私がお願いしたいのは,スピードアップです。論点はたくさんございまして,3年前から積み残しの課題がたくさんあります。その中には賛否が分かれている問題もあるでしょう。そして,他の論点と関連性が深い論点もあるでしょう。そういったものはもちろん慎重に議論していただきたいと思います。ただ,賛否がそれほど分かれていない論点もあると思います。そして,ほかの論点と関連性が低い論点もあると思います。そういったものは,被害者の保護に必要であれば,切り出していただいて,この検討会の終結を待たずに,中間地点で私の方へ御報告を頂きたいと思います。そうしましたら,私が,適宜適切に,法整備が必要なものについては法制審に諮問をするなどして対応してまいりたいと思います。   これからのこの検討会の議論が充実したものになることを期待をして,私からの挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡田刑事法制企画官 法務大臣は,ここで公務のため退席されます。 (法務大臣退室) ○井田座長 本日は,検討会の第1回目でございますので,委員の皆様方に簡単に自己紹介をしていただきたいと思います。   まず最初に,私の方から自己紹介と,また,一言御挨拶,簡単なお願いをしたいと思います。   私は,刑法学を専攻しておりまして,今,中央大学の法科大学院で教員をしております。この度は,本検討会の議論の言わば交通整理と取りまとめに力を尽くせ,こういうミッションを頂戴いたしました。   先ほどの森大臣の御挨拶にもございましたけれども,この検討会のテーマは,社会的注目度が極めて高いものがあり,かつ,スピード感を持って法改正に向けての具体的な指針を打ち出すことを求められています。しかも,先日頂きましたが,委員の皆様の御意見をまとめたものを拝見しますと,かなり厳しい見解の対立が予想されるような論点もずらりと並んでおります。   これは,もちろん,委員の皆様が御自分の意見をもう最初から固定してしまって一ミリも動かさない,ただ発言する,そして,ここに出たものの多数意見だけ出して,少数は切り捨てて,何とか全体をモザイクのようにつなぎ合わせるということであれば,それほど難しい作業ではないのかもしれません。そうではなくて,理解し合える部分があれば理解し合う,お互いに条件を付して,妥協ができるところがあれば合意可能なところで合意する。よく,個人の主張については妥協はないけれども,立法は妥協であると,有名な言葉もあるところであります。   また,本当に難しい論点であれば,議論を集約して考え方を整理して,大きな二つくらいの選択肢にまとめ上げるということもあり得るかもしれません。そういったことがもしできれば,我々がこれから投入する時間と労力が無駄にならない,それに見合ったものが出来上がるのではないかというふうに思います。私も議論の集約のためには身を粉にして働くつもりでございますので,委員の皆様にも御協力賜りますようよろしく申し上げる次第であります。   次に,委員の皆様から一言ずつ御挨拶,自己紹介を頂きたいと思います。今,私はいろいろしゃべってしまいましたけれども,委員の皆様にはこの後でまた御意見をお伺いする機会もございますので,ここではまずお名前と御所属,御専門等の自己紹介を簡潔にお願いいたしたいと思います。   なお,本日,池田委員と木村委員のお二人は,所用のため欠席されていらっしゃいます。   それでは,委員名簿の順に指名させていただきますので,指名されましたらマイクをオンにして御発言いただきたいと思います。御発言が終わりましたら,恐縮ですが,マイクをオフにしてください。   それでは,金杉委員,お願いします。 ○金杉委員 京都から参加しています,弁護士の金杉と申します。京都弁護士会所属です。一応,日弁連の推薦としては刑事弁護センターの枠から出させていただいています。ただ,もちろん性犯罪の刑事弁護は多く担当させていただいていますが,例えば,無罪を争う事件ですとか,無罪判決を取ったということではありません。ですので,皆さんの御意見も伺いながら,また,是非,刑事弁護の,その点の専門家という方にもお話を聴いていただきながら進めていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○上谷委員 弁護士の上谷さくらと申します。よろしくお願いいたします。第一東京弁護士会所属で,犯罪被害者支援をライフワークとしております。犯罪被害者支援は,性被害に限ったわけではなく,殺人とか交通事故関係も多いのですけれども,やはり件数としては性被害が一番多いという感じです。今回,皆様の意見を聞きながら,共に,どのように改正していけるかということは,私も一生懸命考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○川出委員 東京大学の川出でございます。大学では刑事訴訟法と刑事政策を担当しております。どうかよろしくお願いいたします。 ○小島委員 弁護士の小島でございます。所属弁護士会は仙台弁護士会です。日弁連の両性平等委員会から出していただきました。また,ジェンダー法学会の設立以来の理事でございまして,前期は理事長を務めております。ジェンダー法学の視点も併せて意見を言わせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小西委員 武蔵野大学の小西でございます。所属は人間科学部ですが,精神科医で,犯罪被害者の,特に心理的なケアは25年ぐらいやっております。医者としてはPTSD臨床の研究というのが専門でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○齋藤委員 目白大学の齋藤と申します。臨床心理士,公認心理師として,被害者支援都民センターで犯罪被害の被害者及び遺族の精神的ケアの実務に携わっております。専門は,性被害やそのほか犯罪の被害に遭われた方の精神的なケアを専門としております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○佐藤委員 北海道大学の佐藤陽子と申します。刑法を担当しております。性犯罪も研究テーマの一つでして,日本法及びドイツ法を中心に研究をしておりますけれども,それ以外の外国法につきましても一応それなりの勉強をしているというつもりでございます。とはいえ,まだ未熟な点もたくさんございますので,どうぞ御指導いただければと思います。頑張りますので,よろしくお願いいたします。 ○中川委員 大阪地方裁判所の裁判官の中川綾子と申します。裁判官になって25年目になりますけれども,大半の期間,刑事裁判に携わっており,性犯罪の事件も担当しております。この検討会には今回からの参加となります。どうぞよろしくお願いいたします。 ○橋爪委員 東京大学で刑法を担当しております橋爪と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○羽石委員 警察庁の刑事企画課から参りました羽石と申します。平成10年に警察庁に入りまして,ほとんど警察庁で,一部都道府県警察,警察署で勤務をしてまいりました。何かお役に立てることがあればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○宮田委員 弁護士の宮田桂子と申します。第一東京弁護士会に所属しております。私は,日弁連の刑事弁護センターの委員でございます。私は,保護司もしておりまして,犯罪をした人の社会復帰支援がライフワークです。今,駒澤大学法科大学院でも刑事の実務を教えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本委員 こんにちは,山本潤です。私は現在,性被害当事者らの団体である一般社団法人Springで代表理事をしています。また,SANE(セイン),性暴力被害者支援看護師として被害者支援にも携わっています。SANEというのは,性暴力被害者支援に特化した40時間の研修を受けた保健師,助産師,看護師,医療職のことです。産婦人科での緊急対応以外にも,精神科での中長期的な被害者支援など医療現場での被害者対応を行っています。私自身も被害当事者であるので,被害者として,また,支援者として,この検討会で意見を述べさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。 ○和田委員 東京大学の和田でございます。専門は刑法,刑事実体法です。主に刑法学の理論的見地から議論に参加したいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○渡邊委員 東京地方検察庁の渡邊でございます。検事を24年務めてまいりました。その間,一橋大学ロースクールに3年ほど,実務家教員として派遣されておりました。あと,最近では司法研修所で,裁判教官の方と,刑事弁護教官の方と,刑事実務についての教育をやってまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,続きまして事務当局の出席者の方にも自己紹介をお願いしたいと思います。 ○保坂官房審議官 刑事局担当の官房審議官をしております保坂と申します。法務省刑事局として,こういったウェブ会議を使っての会議というのは初めてのことでして,準備も含めて,いろいろ皆様にも御不便をおかけしたと思います。事務当局としては,この検討会での議論について,会議の設営ですとか,あるいは資料の準備等も含めて,充実したものにできるように努めてまいりたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉田刑事法制管理官 刑事局の刑事法制管理官の吉田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡田刑事法制企画官 刑事局刑事法制企画官の岡田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,事務当局のほか,最高裁判所事務総局刑事局の市原課長と,また,法務省特別顧問の井上先生にも御出席いただいておりますので,それぞれ自己紹介をお願いします。 ○市原最高裁判所刑事局第二課長 最高裁刑事局第二課長の市原と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上特別顧問 法務省特別顧問を務めております井上と申します。刑事訴訟法の研究者でございます。よろしくお願いします。 ○井田座長 よろしくお願いいたします。   それでは,自己紹介は以上としまして,次に,不測の事態に備えて座長代理をあらかじめ指名させていただきたいと思います。   座長代理につきましては,木村委員にお願いしたいと思います。木村委員は本日御欠席ですけれども,事前に御了承いただいております。   次に,議事録の取扱いを含め,議事の公開の方針についてお諮りいたしたいと思います。   本検討会につきましては,会合自体は公開いたしませんが,発言者を明らかにした逐語の議事録を作成し,その議事録を法務省のホームページにおいて公表するとともに,本会合で用いた資料につきましても法務省のホームページにおいて公表することを,原則としたいと思います。その上で,プライバシーに係る内容のものなど,公表することが適切でない,そういう議事の内容や,あるいは資料がございましたら,その都度,皆様にお諮りさせていただいた上で,例外的に非公表の扱いとしたいと思います。このような方針でよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   続きまして,本検討会の趣旨につきまして,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○岡田刑事法制企画官 本検討会を開催する趣旨についての御説明をいたします。   性犯罪の罰則については,平成29年刑法一部改正法により改正が行われましたが,同法附則第9条において,「政府はこの法律の施行後3年を目途として,性犯罪における被害の実情,この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し,性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」とされております。   同法に基づく検討につきましては,政府全体としての検討結果を示す必要がありますが,本検討会は,そのうちの刑事法に関する施策の在り方,すなわち,性犯罪に係る事案の実態に即した刑事実体法と刑事手続法の在り方について,法務省として検討を行うため,法務大臣の指示に基づき,法改正の要否・当否について幅広く意見を伺って論点を抽出・整理し,議論を行うために開催するものでございます。   同条に基づく検討に当たっては,性犯罪の実態を十分に踏まえることが必要であるため,法務省では,平成30年4月から「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を開催し,ヒアリングや各種調査を行って,性犯罪に係る事案の実態把握に努めてまいりました。その結果につきましては,本年3月31日に報告書を公表しており,委員の皆様にも事前にお配りしたとおりですので,その報告書にも記載されている性犯罪の実態を十分に踏まえ,御議論いただければと思います。   なお,この報告書には,被害者支援や加害者の再犯防止,教育・啓発等に関することも記載されておりますが,それらの具体的な在り方については,別の場で検討されることになりますので,この検討会では,刑事実体法と刑事手続法に関する御検討をお願いしたいと考えております。具体的な検討の項目等につきましては,皆様の御議論によりお決めいただきたいと考えております。   どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田座長 それでは,次に,配布資料について,事務当局から御説明をお願いします。 ○岡田刑事法制企画官 まず,資料の確認ですけれども,法務省以外の場所で御参加の委員の皆様におかれましては,事前にお送りした「性犯罪に関する刑事法検討会第1回 資料」というラベルが貼られた緑色のファイルに,配布資料と参考資料がつづられておりますので,そのファイルをお手元に御用意ください。また,第1回会合の開催前に御提出いただいた自己紹介と御意見をまとめた書面につきましても,事前にお送りしておりますけれども,その書面も併せてお手元に御用意ください。法務省会場で御参加の委員の皆様につきましては,ただ今申し上げました資料と書面を机上に御用意させていただいておりますので,御確認ください。   配布資料につきましては,配布資料目録にございますとおり,資料1から資料8までございます。また,このほかに参考資料として2点をお配りしております。   まず,配布資料について御説明をいたします。   資料1は平成29年の「刑法の一部を改正する法律」附則第9条,以下「附則第9条」と申し上げますけれども,附則第9条と,同法律案に対する衆議院法務委員会及び参議院法務委員会における附帯決議です。附則第9条は,政府に対し,同法の施行後3年を目途として検討を行うことを求めておりまして,先ほども申し上げましたとおり,本検討会は,この附則第9条に基づく検討を行うため開催されることとなったものでございます。   附帯決議は,同法の施行に当たって格段の配慮をすべき事項として,衆・参の法務委員会から示されたものでございまして,被害者の心理等に関する調査研究や研修,二次被害の防止,起訴・不起訴の処分の際の被害者の心情への配慮,男性や性的マイノリティーへの配慮,被害児童に配慮した取組の推進などが求められております。   次に,資料2から資料4までは,平成29年の刑法一部改正に関する資料でございます。   資料2は,前回改正に至るまでの検討経緯をまとめたものであり,平成16年の刑法等改正の際の衆・参法務委員会における附帯決議,平成22年の刑法等改正の際の衆・参法務委員会における附帯決議及び第3次男女共同参画基本計画において,性犯罪の罰則の在り方等についての検討が求められたこと,それらを踏まえ,「性犯罪の罰則に関する検討会」が開催されたこと,その後,法制審議会での調査審議を経て国会審議へと進み,平成29年6月に「刑法の一部を改正する法律」が成立したことなどが記載されております。   次に,資料3は,ただ今申し上げました「性犯罪の罰則に関する検討会」の取りまとめ報告書です。この報告書は,同検討会における各論点の検討状況等を取りまとめたものであり,前回改正が行われなかった事項に関するものも含め,当時の議論の状況が分かるものです。   資料4は,平成29年の「刑法の一部を改正する法律」の概要をまとめた資料でございます。   続きまして,資料5から資料7までは,附則第9条に規定されている「性犯罪に係る事案の実態」に関する資料でございます。先ほども申し上げましたが,法務省では附則第9条に基づく検討に資するよう,性犯罪の実態に関する各種調査研究を着実に実施すること等を目的といたしまして,平成30年4月,関係部局課の担当者を構成員とする実態調査ワーキンググループを設置いたしました。この実態調査ワーキンググループでは,約2年間にわたり,計14回の会合を開催し,関係者からのヒアリング等を実施するとともに,各種調査研究を実施しました。その結果を取りまとめたのが資料5-2でございまして,その概要版が資料5-1です。   資料5-2の内容について御説明いたします。   資料5-2の1ページ以降の「第1 性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループについて」という部分,それから,別紙1から6までの部分には,実態調査ワーキンググループの設置経緯や活動状況等が記載されております。   また,3ページ以降の「第2 調査結果」の部分につきましては,「1」の部分に,性犯罪被害の概況と被害者心理等に関する研究についての記載がなされております。12ページ以降の「2」には,刑事実体法に関する事項が記載されており,前回改正に至る検討経緯や現行法の規定についてまとめた上で,実態調査ワーキンググループにおいて行った各種調査の結果が記載されております。具体的には,改正後の規定の施行状況についての調査,裁判例調査,不起訴事件調査,海外法制調査などです。調査の詳細は,別紙9から12までに記載されております。また,実態調査ワーキンググループのヒアリングにおいて指摘された事項が,項目ごとにまとめて記載されております。   52ページ以降の「3」の部分には,刑事訴訟手続に関連する事項が記載されております。このうち,特に刑事手続法の改正の要否等に関係するものとしては,(3)の公訴時効制度,(4)の司法面接的手法を用いた聴取,(5)の起訴状等における被害者の氏名秘匿が挙げられます。それぞれについて,現行法の規定や現在の運用状況等を紹介いたしました上で,ヒアリングにおける指摘事項が記載されております。   実態調査ワーキンググループでは,刑事法の在り方に関する事項だけでなく,加害者の再犯防止や被害者支援の在り方に関する事項など,幅広く性犯罪に関する実態把握を行っており,68ページ以降の「4」の部分には加害者の再犯防止に関する事項,83ページ以降の「5」にはヒアリング等において指摘されたその他の事項についての課題等が,それぞれ記載されております。   なお,この配布資料とは別に,実態調査ワーキンググループの各回の議事録につきましても,本検討会に先立って配布させていただきましたので,こちらも御参考にしていただければと思います。   次に,資料6は,前回改正後の規定の施行状況に関するものです。前回改正により,従来は強制わいせつ罪で処罰されていた肛門性交や口腔性交が,性交と同じく強制性交等罪の対象とされました。また,強制性交等罪の被害者の性別を問わないこととされました。また,監護者わいせつ罪と監護者性交等罪が,新設されました。資料6は,これらの新たな類型の運用状況をお示しするという観点から,改正法の施行後,令和元年12月31日までに報告のあった事件で,肛門性交,口腔性交のみを実行行為として起訴されて第一審判決が言い渡された事件の起訴人員と件数等,また,男性を被害者として起訴して一審判決が言い渡された事件の起訴人員と件数等,さらに,監護者わいせつ,監護者性交等罪の起訴人員,不起訴人員などの件数等がまとめられてございます。また,前回改正により非親告罪化された罪の不起訴理由に関する統計等についても記載されております。   次に,資料7ですが,資料7は性犯罪の量刑に関する資料です。資料7-1と7-2がございますが,資料7-1は,平成11年から令和元年までの間の量刑の推移に関するグラフと表,資料7-2は,平成27年から令和元年までの間の量刑の推移に関するグラフと表であり,最高裁判所から提供を受けた第一審で有罪判決の言渡しのあった性犯罪事件に関する量刑の統計を基に作成したものです。資料7-1のグラフは,3年ごとの人員を基に作成し,資料7-2のグラフは,単年ごとの人員を基に作成をしております。   資料7-1の3ページの強制性交等罪のグラフを御覧いただきますと,平成16年頃までは,2年を超えて3年以下の量刑の割合が高くなっておりますが,その後,3年を超えて5年以下の割合が増えておりまして,平成23年から平成25年までの3年間の量刑を見ますと,3年を超えて5年以下の割合が最も高く,全体の30%程度を占めております。また,平成26年から平成28年までの3年間の量刑については,3年を超えて5年以下の量刑の割合が高まっており,全体の40%程度を占めるに至っております。平成29年から令和元年までの3年間の量刑につきましても,3年を超えて5年以下の量刑の割合が40%程度を占めておりますので,改正の前後で量刑の傾向は大きく変わっていないということがうかがえます。   続きまして,資料8は,性犯罪に関する諸外国の法制に関する資料であり,アメリカのミシガン州,ニューヨーク州,カリフォルニア州,それから,イギリス,フランス,ドイツ,韓国,フィンランド,スウェーデン及びカナダの性犯罪に関する規定を抜粋し,法務省において仮訳したものでございます。   以上が配布資料でございます。   次に,参考資料について御説明をいたします。   参考資料1は,令和2年3月30日に「性犯罪・性暴力対策の強化について」という議題で書面審議により開催されました「男女共同参画会議・女性に対する暴力に関する専門調査会」の第105回会合の資料でございます。   また,参考資料2は,国連の各人権委員会による最終見解等のうち,性犯罪の罰則等に言及した部分を抜粋したものです。   配布資料及び参考資料の御説明は以上となります。   なお,平成29年の刑法改正以降に被害者支援団体等から法務省に寄せられました要望につきましても,事前に委員の皆様に送付させていただいております。   事務当局からは,以上でございます。 ○井田座長 ただ今,資料について事務当局から御説明がありましたが,何か,この際,御質問ございますでしょうか。特によろしいでしょうか。 (一同 発言なし)   それでは,意見交換に進みたいと思います。本日は第1回目の会議でありますので,皆様から今後の検討に向けた総論的な御意見を頂ければと考えております。具体的には,御意見いただきたいと思うポイント,三つぐらいあるのではないかと思います。   まず第1点としては,今後の議論全体についての視点,あるいは留意点といったもの,あるいは議論の進め方についての御意見。第2点としては,平成29年改正の改正後の施行状況に対する評価や意見。第3点としては,本検討会で検討すべき論点についての御意見。この三つの点,もちろん全てについてでなくても構いませんので,御発言いただければと思います。   事前に御提出いただいた意見書は,既に委員の皆様にも配布されておりますので,この場でその内容の全てを改めて御発言いただく必要はございませんし,また,意見書に記載されていない内容について御発言いただいても構いません。もちろん,意見書の記載の一部について特に御発言していただくということでも構いません。各論点についての具体的な検討は今後行うことになりますので,本日は,これから議論をスタートするに当たって,全体的な問題意識というものをお聞かせいただいて,それを委員皆で共有したいというふうに考えております。   なお,今説明のあった配布資料の資料5-1,これはワーキンググループの取りまとめ報告書の概要でありますけれども,その7ページのところに,ちょうどそこで指摘された刑事実体法,刑事手続法に関する論点が一覧で掲げられています。これは,様々な論点を俯瞰するにはとても便利なものだと私は考えますので,御発言いただく際にはこういうものも踏まえて,重点的に取り上げるべき論点はこれではないかとか,あるいは更にこういった論点も取り上げるべきであろうというような,そういう発言をしていただければ,とても分かりやすいのではないかと思っております。   先ほどと同じように,委員名簿の順番に指名させていただきますけれども,委員の皆様全員に御発言していただく時間の限りがございますので,今申し上げた点について1人当たり3分程度でもって御発言を頂ければと思っております。よろしくお願いいたします。   それでは,金杉委員,いかがでしょうか。 ○金杉委員 委員の金杉です。意見書につきましては,意見を書かせていただいたとおりです。   今後議論するべき事項につきましては,刑事実体法に関する事項及び刑事訴訟手続に関する事項の中で,特に議論する必要がない,議論するまでもないという論点については,ないのではないかと考えています。皆さんのいろいろな御意見を伺って,議論はしていただければと思います。   ただ,もちろん,時間は有限ですので,軽重は必要であろうと思います。意見書を拝見しましても,私の方は慎重なというか,反対という意見を述べさせていただきましたけれども,やはり暴行・脅迫要件の撤廃,不同意性交罪の創設といった辺りが大きな論点になろうかと思います。この辺りについては,一巡ではなく何巡かするという形で議論を進めていただければと思います。   この際に,ワーキンググループの方の資料を拝見して感じたことを述べさせていただきます。先ほども申し上げましたとおり,もちろん犯罪被害者の側,犯罪被害者を支援する立場の方々の御意見というのは傾聴すべきだということは十分理解しています。ただ,ワーキンググループの際には,刑事弁護をする立場の弁護士等からの聴取がなされていませんでした。この点につきましては,刑事弁護センターから2名の委員が,私と宮田先生ということで日弁連からは入らせていただいていますが,是非,刑事弁護,特に性犯罪の無罪事件ですとか,そういったことを多く担当された弁護人の意見も聴いていただきたいと強く希望します。   その他,議論の進め方というか,資料の点につきまして要望がありますのは,今回,各国の性犯罪についての規定等を入れていただきました。各国,性犯罪に関していろいろ社会的な背景も相違があると思います。現状でのくくりということだけではなくて,どのような変化があったのか,どういう経緯でこの現状に至ったのか,また,現在どういうふうに運用されているのかといった点につきましても,資料を頂いた上で実情を比較検討していただきたいというふうに考えています。 ○上谷委員 弁護士の上谷です。まず,この検討会で留意したいこと,自分が大事にしたいと思っていることについて述べます。性被害は暗数がとても多いことは,弁護士として相談を受ける中で実感しております。各種統計に認知件数などの様々な数字が出てきますが,それは正に氷山の一角であって,そこに表れない被害の数は膨大です。裁判になっても,被害実態はほんの一部しか明らかになりません。ですから,今回の検討会に当たっては,被害者の生の声に謙虚に耳を傾けることがとても重要で,法務省が行った実態調査ワーキンググループの結果,各団体からの要望書の内容を尊重し,重く受け止めなければならないと思っています。   もちろん,法律の立て付けをどうするかということも,同じようにとても重要です。ただ,現状は法律論が先行し,被害実態が置き去りにされていると感じることも少なくありません。例えば,起訴状の匿名化問題について,法律家の多くは起訴状に被害者の名前が出るのは当たり前と考えていないでしょうか。しかし,被害者は,犯人に名前が知られるかもしれないと知ると,例外なく驚愕し,絶望します。法律家の意識が国民感覚とずれていることの一例だと思います。法律は,国民が幸せに生きていくためのツールだと思いますので,法律を知らない国民が勉強不足だなどといった発想を捨てて,謙虚に真摯に議論することが必要だと思っています。   次に,前回の改正の評価,影響などについて述べます。非親告罪となったことは,被害者にとても大きな良い影響を与えています。告訴することで加害者から逆恨みされるのではないかという恐怖心から解放されたこと,自分からお願いしなくても警察が捜査して検察が起訴してくれるのだ,国家が自分を守ってくれるのだという安心感は,その後の回復に大きく影響します。一方で,被害者が事件化したくないという場合に,無理に捜査や起訴がなされたという例は聞いておらず,特に不都合は生じていないようです。   また,性交が3類型になったことについて,私自身は肛門性交のみの事案は扱ったことがありませんが,口腔性交のみの事例はかなりあります。新たに加わった2類型について,被害者の苦痛は従来の膣性交と何ら変わりないですし,場合によっては膣性交以上ということもありますので,性交が3類型になったことはむしろ当然かと思います。肛門性交の報告件数が少ないのは,女性以外の被害が多く,被害を訴えにくいという実情が影響していると思われますが,今後増えるのではないかと予想しております。   また,監護者の罪が創設されました。監護者による18歳未満の者に対する性交が暴行・脅迫要件なしに禁止されたことの意義は,とても大きいと感じています。ただ,監護者の範囲が狭いので,同様の状態に置かれた被害者を救済できていません。また,性的同意年齢が13歳ということもあり,13歳から17歳までの未成年で,従来の暴行・脅迫要件の壁を越えられずに理不尽な目に遭っているケースが相当あります。その事案をどう救済するか,未成年を守る立場の大人として真剣に考えなければならないと思っています。監護者の罪を創設したことで,地位・関係性に着目した罪の創設,性的同意年齢の引上げという二つの論点が,改めて明確になったと考えています。   最後に,是非議論していただきたい論点として,盗撮罪の創設をお願いしたいと思います。今日配布された各団体からの要望書の7番目に,VSフォーラム,犯罪被害者支援フォーラム,私が所属する弁護士団体ですけれども,そこが提案している盗撮罪の創設があります。スマホの普及で盗撮は飛躍的に増えています。国民が毎日カメラを持ち歩いて生活している時代ですので,各都道府県条例でばらばらに規制するのではなく,刑法として統一的な処罰が必要と考えています。また,性加害の現場で犯行状況を撮影することが増え,これがインターネットに流されたり,加害者が任意提供を拒む場合に対応できていないという現実があります。このような画像の存在は,被害者の回復を著しく阻害しますので,没収についても検討をお願いします。 ○川出委員 川出でございます。私からは,提出しました意見書を補足する趣旨で,この検討会で取り上げるべき論点について意見を申し上げたいと思います。本検討会の設置の根拠でもある,先ほど御紹介のあった附則9条においては,性犯罪の被害の実情,それから改正後の規定の施行の状況等を勘案して,施策の在り方について検討を加えるとされております。   このうち改正後の規定の施行の状況に関して申しますと,刑事訴訟法につきましては,前回の改正で,性犯罪について非親告罪化がなされております。そして,その際には,非親告罪化がなされた後も,検察官には捜査や処分の決定に当たって被害者の意思を丁寧に確認し,その心情に適切に配慮した運用を行うことが求められるということが言われておりました。その観点から,改正法の施行後の運用を見てみますと,配布資料6の8ページになりますが,平成30年においては,強制わいせつ,強制性交等のいずれについても,不起訴理由としまして,親告罪における告訴の欠如というのがほぼなくなる一方で,起訴猶予及び嫌疑不十分,とりわけ起訴猶予が,件数,割合ともに増えております。そして,この増加分には,恐らく被害者の方が起訴を望まなかった事例が含まれていると推測されます。そうだとしますと,非親告罪化については,施行後の運用状況を見る限り,当初想定された被害者の方の意思を想定した運用がなされていることになりますので,改正後の規定の施行の状況を踏まえて更に見直しをする必要はないということになろうかと思います。   そうしますと,刑事訴訟法に関しましては,今回は,前回の改正の際には検討されたものの実現には至らなかった点,あるいは,そもそも検証の対象とされていなかった点の中で,検討の必要があるものを取り上げるべきだということになると思います。意見書には,そういう趣旨で,そのうち特に検討が必要と考えられるものを挙げさせていただきました。   そこで挙げた項目のうち司法面接に関しましては,宮田委員から,子供や障害者等の供述弱者の供述獲得の問題は,性犯罪だけではなく他の犯罪でも同様に生じることと,検討すべき点が多岐にわたることから,この問題をこの検討会で扱うことに疑問が出されております。確かに,司法面接というのは,性犯罪に限って用いられる手法ではないのですが,しかし,性犯罪は密室で行われることが多く,犯罪の立証のために,被害者の供述の信用性の確保が重要であるという点や,被害者が供述を繰り返し求められることによる二次被害の防止の必要性が高いという点において,性犯罪に関してその有用性が特に認められるものだと思います。したがいまして,この検討会で一定の結論が出せるかどうかはともかくとして,司法面接をめぐる問題の所在を明らかにするという意味においても,この検討会で取り上げるべきものであると考えております。 ○小島委員 小島から意見を申し上げたいと思います。法は社会から立ち上がってくるというのは,私の恩師で法社会学者の広中俊雄先生の言葉です。今日,性被害を受けた当事者自らがその被害実態を語り始め,国家社会に対し自らの尊厳の回復を求めており,これが人々の共感を集めています。性暴力の撤廃という社会的要請がかつてないほどに高まっていると言えましょう。昨年3月に立て続けに登場した性犯罪に関する無罪判決に対し,批判の声が上がり,性暴力を許さないとするフラワーデモが全国で展開されたことは周知のとおりです。刑事法も市民社会の法として,このような社会的要請を切り捨てるのではなく,これを受け止めるべきだと考えています。   その際,留意すべき点としては,近代法は対等・平等で自由な個人を前提としていますが,我々の社会において,人々は,様々な権力関係の磁場の中にあるということです。相手の性的要求に対して明確に拒絶の意思を示せない場合があるということ,これを前提に法を組み立てていかなければならないと考えています。セクハラ裁判における不法行為法の発展は,人と人との間に伏在する権力関係や抑圧構造を重要な要素としています。性犯罪における暴行・脅迫要件,抗拒不能要件も,このような権力関係や抑圧構造という観点から,再検討を迫られているのではないでしょうか。   平成29年に刑法改正で監護者性交等罪が創設され,順調に施行されている点は評価できます。また,強制性交等罪が創設されて,セクシュアルマイノリティーの方々の被害が犯罪とされてきたということについても評価できますが,やはり,これだけでは十分ではないと考えています。暴行・脅迫要件を撤廃し不同意性交罪を導入したヨーロッパ諸国等の法制度を参考に,性犯罪の構成要件を検討していただきたい。不同意性交罪の創設,不同意が推認できる状況における性交等を犯罪化して刑法の条文に列挙して,処罰の対象にすること,例えば,威力とか威迫,偽計,不意打ちによる性交等,薬物の使用,被害者の知的障害等の状況にある場合の性交等を処罰の対象とすること,上司と部下,教師と生徒の間など,地位・関係性を利用した性犯罪を創設すること,性交同意年齢の引上げ,公訴時効の撤廃・延長・停止,配偶者性交罪の明記などの点を検討していただきたいと思います。 ○小西委員 まず,今後の議論の留意点ということですが,私は,一言で被害者の実情に沿った議論と言われていますけれども,本当に実情を分かった上でやっていただきたいと思います。どうしてそう思うかといいますと,私は,臨床で性犯罪の被害者,性暴力の被害者の方をたくさん診ていますけれども,今回の改正でたくさんの人が被害のことを言えるようになったかというと,決してそうではないです。むしろ,今でも,大体,私の臨床は比較的重篤な方が来られるところですけれども,そういう具合が悪くなった方でさえ4分の1ぐらいの方しか警察に相談していませんし,その中で,また半分ぐらいの方しか警察が扱って捜査するというところに行っていませんし,この前頂いた資料を見ますと,その中の半分以上の方が不起訴になっている。それは,まあ,私の臨床の実感と非常に合っています。   では,その訴えない方たちは,先ほど,起訴の希望がないというふうに言われましたけれども,どうしてそうなるかというと,これは,別に自分が訴えたくないと自由に決めているわけではありません。例えば,訴えると二次被害がある,あるいはプライバシーを侵される,社会的な制裁を受ける,やってもいいことが何もないという理由から,相手に対して何か制裁を加えてほしいということを諦める人がたくさんいるわけです。   こういうことをお話しすると,一つの主張のように取られてしまうことが,実際に前回の,私,法制審議会に参加させていただいたのですけれども,そういうところで扱われているような気がしたのです。誤解かもしれませんけれども。ただ,それは主張ではなく事実です。例えば,被害を受けた方のたくさんの人が,一生が変わってしまうというのも事実だし,例えば,被害を受けたときに抵抗ができない人がある程度いるというのも,科学的に示されている事実なわけです。確かに,日本の中では,そういうことが十分検証されているとはいえないかもしれませんけれども,世界各国で,共通な研究の結果がありますし,自分の経験でもそうだと思います。せめてそういう実情を理解して,その上に立って議論が行われるということを私は望んでいます。   施行状況に対する意見ですが,これは二つあります。一つは,さっき言いましたように,まだ変わっていない,被害のことを言える人は非常に少ないということが一つです。でも一方で,刑法改正は,社会的には大きな影響があったとも言えます。刑法改正の問題だけではないけれども,社会的な情勢と両方が相まって,被害者の実情がようやく表に出るようになって,もう一つ言いますと,例えば,子供の被害とか男性の被害というのが自らの声で語られることは非常に少なかったのですが,それがやはり出てくるようになっていると思います。これは,本当に改正の大きな影響だというふうに思っています。   本検討会でどういうことを検討したいかということですが,申し上げたことからしますと,実際に被害を受けたときに,本当に普通に抵抗できない人もいるし,死に物狂いで体を使った抵抗をする人は割と少数であるということは,実際の経験から,あるいはいろいろな海外の論文からなんかでもよく分かり,日本でも幾つか出ています。そういう点では,暴行・脅迫要件という,被害者の側の言動が犯罪の要件になるのであれば,被害者のことは,是非はっきり分かって考えてほしいなと,私は法律の専門家ではありませんけれども,そう思っています。   それから,もう一つ,関係性を利用した犯罪というところで,監護者性交等罪ができたことで,今まで明らかにならなかったことが明らかになってきていることも事実だと思いますが,同じような関係性を持った加害の中で,例えば,スポーツのコーチとか,学校の教員とか,そういう人からの被害というのも,被害者の側は,監護者性交等罪の場合と同じように感じて何もできないということが多いわけです。これについて,地位・関係性利用類型の罪の創設,拡充というところでは議論していただきたいと思います。   それから,なかなか言えないだけではなく,被害の後は,もう全くそのことについて考えることもできない人が多いです。そういうことからすると,刑事訴訟手続の方では,是非,公訴時効の問題を扱っていただきたいと思っています。 ○齋藤委員 検討会の議論全体に対することについて,まず,今まで様々な委員からも出ておりますが,意見書に書いておりますとおり,性被害の実態を知った上で議論していただきたいということは,本当にそう思っております。性犯罪のほとんどは警察に届け出られていないということは,既にもう度々言われておりますが,ましてや,裁判まで行く事例は,性犯罪の中のほんの一握りです。自戒を込めて申しますが,被害者支援もし,当事者団体にも関わり,様々な場所で性犯罪の被害者,性暴力の被害者の方にお会いしてきましたが,それでも私の見えていない被害というのもたくさんあります。法改正という大切な議論に当たっては,できる限り見えていない被害が少ない状態で,性犯罪の実態を広く知った上で議論をしていただきたいと考えています。ワーキンググループでもヒアリングは行われておりますが,多様な被害の実態を把握するにはまだ不十分であると思われますし,検討会の委員の皆様に,資料を読むだけではなく,直接ヒアリングを行っていただくことも重要だと考えております。   次に,改正法の施行状況に対する意見ですけれども,第一に,監護者性交等罪ができたことで,資料6にありますとおり,徐々に家庭内の性虐待が起訴されるようになったとは思います。その中には,これまで刑法で罪に問うということは難しかった事案も含まれているのではと思います。私自身の臨床の実感としましても,監護者性交等罪ができたことで,既に時効で罪に問うことはできないとか,今,警察に行く勇気は持てないとか事情はあるけれども,少なくとも自分の身に起きたことが被害だったのだと認識した性虐待の被害者の方がいらっしゃいます。   また,口腔性交,肛門性交が強制性交等罪となったことの影響かと思うのですけれども,明らかに男児の被害が支援機関につながるということが増えたと感じています。強制性交等罪で起訴された男性被害者の事件は,資料によると口腔性交が多く,男性とか男児の受ける被害に対応いただけるようになってきたのかなとも思います。先ほど,他の委員もおっしゃっていましたが,非親告罪化につきましても,被害者の意思を無視して起訴されてしまうという懸念が,以前,表明されておりましたが,被害者の意思は今でもしっかりと尊重されていて,そうしたマイナスの影響は耳にしてはおりません。   ただ,一方で,監護者に含まれない祖父母や兄弟からの被害は,いまだに届出されないことも多いですし,男性や男児の被害は,起訴はまだごく僅かで,暗数が膨大であるということは推察されます。性別の記載が撤廃されたとはいえ,例えば,女性が女性に器物を挿入する形の性暴力など,器物挿入を伴う性暴力は強制性交とはなりません。特に,性的マイノリティーの受ける性暴力は,現在の既存の法体系の中で明確に捉えにくく,警察及び司法関係でも対応が遅れているということを実感としても思いますし,様々耳にもしております。   最後に,今回の検討会で具体的に取り上げるべき論点ですが,これは,既に意見書に様々書かせていただきましたとおり,現状の性暴力被害の実態が適切に捉えられる法律ということを望みます。性交の不同意や暴行・脅迫要件,抗拒不能に関すること,地位・関係性に関すること,監護者等の範囲,いわゆる性交同意年齢や公訴時効,器物挿入に関することなどです。   意見書には書いておりませんが,より届出されにくい,起訴されにくいパートナー間の性暴力であるとか,障害者への性暴力も重要な問題だと認識しております。性暴力の問題は山積しておりまして,全て複雑に絡み合っている問題と思いますので,しっかりと検討会の中で議論が尽くされるということを願っております。 ○佐藤委員 佐藤でございます。まずは,前回の改正法についてですけれども,前回,2017年の刑法改正法におきましては,ほとんど同じ時期,2016年に行われましたドイツ刑法の改正と比較すれば,改正された範囲というのは僅かであったように思われます。もちろん,もともと処罰範囲の違いがございますので,単純比較はできませんし,当時この改正に関与されていた先生方がどれだけ慎重に議論を重ねて難しい御決断をなさったのかという点につきましては,私もよく存じ上げております。   その上であえて申し上げますと,2017年の改正は,実質的には,本来処罰されていたものを厳罰に処せるようになったという意味合いの強い改正であったように思われます。口腔性交,肛門性交は,いずれも強制わいせつ罪などで処罰可能でしたし,監護者性交等罪につきましても,これまで準強姦罪や準強制わいせつ罪,児童福祉法でほとんど処罰可能な範囲であったかと思います。このような改正は,改正の第一歩目として,また適切な処罰を目指すという点で,とても優れていたものだと思うのですけれども,恐らく,今から我々が関与することになる第二歩目の改正につきましては,昨今の社会情勢に鑑みますと,それにとどまらないものになるのであろうというふうに考えております。   今後の具体的な論点につきましては,先生方が既に意見書で挙げられておりますし,私自身の関心事も挙げておりますので,ここで申し上げませんけれども,本検討会におきましては,より積極的に,これまでの法制度では対処が難しかった事案に犯罪が成立するような形での検討を行うべきかというふうに思っております。   しかし,これは全体の進行に関する意見なのですけれども,これらを議論するにおきましては,刑法という最も人権を侵害する効果を有し,また,スティグマ的な要素の強い法律の性質上,どのような場合においても臨機応変に対応できる条文を作るという方向性は目指したくないなと現段階において考えております。刑法がシンボル的に,あるいは社会的なメッセージを送るために用いられるということについては,慎重であるべきだと考えます。それゆえ,何でも処罰できる構成要件を指向するのではなく,そもそも特別法も含めて,現行法の全体を観察して,今何が足りないのか,それが刑法の改正によって解決できるのかということを確認した上で,何を補う必要があるのかを考えなければいけないというふうに考えております。   具体的には,意見書で和田先生が書かれていた,こぼれた部分を拾う構成要件を作るかどうかは,これは議論の余地があるなとは思うのですが,上下関係の作出・利用を類型化するという方法については,非常に興味深く思っております。   以上でございます。よろしくお願いいたします。 ○中川委員 先ほど,自己紹介で,刑事裁判官として性犯罪も担当しているというふうに申しましたけれども,性犯罪の審理に当たりましては,被害者特定事項の秘匿ですとか,証人尋問の遮蔽措置といった制度を活用して,様々な配慮をして審理を行っております。また,司法研修所では,この中にも複数の委員の方々に講師としてお越しいただきましたけれども,司法研修所での専門家の医師,臨床心理士の先生方ですとか,あるいは性犯罪被害者御本人を講師とする各講演で語られた性犯罪被害者の方の声も踏まえながら,裁判手続を行っているところです。裁判官としての経験を踏まえ,法律を適用する立場から検討し,皆様の御意見もしっかり伺いながら議論していきたいというふうに考えております。   そのほかは意見書に記載したとおりです。 ○橋爪委員 私の方からは,まず,今後の議論全体に関する視点について意見を申し上げた上で,さらに,平成29年の改正に向けた議論に参加した人間の一人としまして,改正法の運用状況について若干の感想を申し上げたいと存じます。   まず,議論全体に関する意見です。この検討会では,性犯罪に関する被害の実態を謙虚かつ正確に把握し,処罰の間隙が生じていないかを検証した上で,これに対する刑事法的対応を検討することが重要な課題であると承知しております。もっとも,処罰の間隙が生じているとしましても,まずその原因を見極めることが重要であると考えています。   すなわち,現行法の罰則自体に不備があり,それが原因で処罰の間隙が生じている場合もあり得ますが,大変失礼ながら,場合によっては実務における運用に問題がある可能性もあり得ますし,あるいは社会における教育や問題意識の欠如,あるいは被害者の方に対する支援・サポートの不十分さが原因となっている場合もあり得ます。もちろん,これらの要因が複合的に作用している場合もあり得ますが,まずは,原因関係,背景事情の分析によって,刑法の改正によって実現できること,それ以外の方法によって実現すべきことの区別を意識しながら,刑法の改正の要否について検討する必要があると考えております。   また,この点と密接に関係しますが,刑法における性犯罪処罰の規定は,相互が密接に関係し合っている点を重視すべきです。もちろん,具体的な検討においては,暴行・脅迫要件,性交同意年齢,あるいは抗拒不能の要件など個別の論点について具体的な検討が必要でございますが,個別の論点に関する検討を深めつつ,かつ,同時に,全体としての性犯罪処罰に関する制度設計や構造について,意識を払う必要があると考えます。端的に申し上げますと,一部の論点だけ先行して結論を出そうとするのではなく,一つの論点がほかの論点の議論にも影響を持ち得ることを十分意識する必要があると考えます。   続きまして,平成29年改正の運用につきまして,3点,簡潔なコメントを申し上げたく存じます。   まずは,性交等の範囲が拡大され,肛門性交,口腔性交が強制性交等罪の処罰範囲に含められたことは,性被害の重大性,更に男性に対する性被害を考えた場合,必要かつ正当な法改正であったと考えますが,これらの類型が実務的にどのように処罰されているかについては,更に具体的な検証が必要であると考えます。本日の資料6では,これに関する調査報告を頂いておりますけれども,これを拝見しただけでは,性交を伴わず肛門性交または口腔性交のみの事案が,性交を伴う事案と比べた場合,同程度の量刑で処罰されているのか否か,また,従来の強制わいせつ罪での処罰からどのような変化があったかについては,必ずしも十分には把握できないようにも思われます。無理なお願いを申し上げるつもりはございませんが,もし可能であれば,これらにつきまして,更に資料等を頂戴できますと幸いです。   第2点でございますが,法定刑の引上げでございます。強制性交等罪の法定刑の引上げにつきましては,法制審議会刑事法部会の議論におきましても,法改正によって厳罰化を図る,つまり,現在の量刑傾向の変更を迫るという趣旨ではなく,むしろ,改正前において既に量刑傾向と法定刑のギャップが存在していたところ,現実の量刑傾向に対応する形で法定刑を修正するという議論があり,私もそのように考えておりました。今回の改正後の量刑傾向の資料を拝見いたしまして,正に実務もこのような方向で動いていることを確認できたと考えております。   最後になりますが,監護者性交等罪の規定でございます。これでもなお現実の被害状況を十分には反映していないのかもしれませんけれども,家庭内の性暴力・性虐待の一定数について,確実に同罪が適用されているという印象を持ちました。この点につきましても,部会の際に議論いたしましたけれども,本罪につきましては,被害者の意思内容や影響の有無・程度を個別に問題とすることなく,監護者としての地位と関連して性行為が行われれば足りると理解しております。そして,本罪のこのような構造は,実務における立証の負担の軽減という観点から大きな意義があったように考えております。 ○羽石委員 私からは,主に,警察におきます平成29年改正法の施行状況について発言をさせていただきます。   前回の刑法改正におきまして,構成要件と法定刑の見直しが行われました強制性交等罪につきましては,資料5-1にありますとおり,平成29年以降,認知件数,検挙件数ともに増加しております。また,新設されました監護者性交等罪や,男性を被害者とする強制性交等罪につきましても一定数の検挙が見られるところですので,改正刑法の趣旨等につきましては,全国の都道府県警察に浸透してきているのではないかと考えております。   また,附帯決議におきまして,警察官に対して性犯罪被害者の心理などについて研修を行うことや,被害者のプライバシー等への配慮,二次被害の防止に努めることなどが定められました。これについては,警察大学校等におきまして,臨床心理士等の専門家の方や,実際に性犯罪被害に遭われた方などによる講義を実施しておりますほか,被害者が希望する性別の警察官によります対応ができるよう,男性警察官,女性警察官の双方を性犯罪指定捜査員に指定するなどの取組を行っています。   また,捜査の現場からは,これまで立件が困難であった家庭内の性的虐待等の事案について監護者性交等罪での立件ができるようになったり,強制わいせつ罪での立件にとどまっていた口腔性交・肛門性交の事案や男性の被害について強制性交等罪での立件ができるようになったりするなど,より事案の実態に即した対処が可能となり,被害者の思いに応えることができるようになったと感じるなどの声がある一方で,長期間にわたって継続して被害を受けていた監護者性交等罪の事案におきましては,やはり,被害事実の特定などに困難を生ずる場合があるという声も聞かれるところです。警察としましては,これからも改正刑法の趣旨を踏まえまして,被害者の方の心情に配慮した捜査や対応に努めてまいりたいと思います。   また,最後に,本検討会における検討に際しての留意点ということで1点だけ申し上げますと,警察における性犯罪捜査には全国で多くの捜査員が携わっておりますので,これらの捜査員が適切な判断ができるように,性犯罪の構成要件はなるべく明確なものであることが望ましいと考えておりますので,御留意いただきますと幸いです。 ○宮田委員 まず,今後の視点というか,留意点,あるいは共有していただきたいことを4点,あとは施行への評価に関することを1点,計5点を述べたいと思います。   まず1点目,被害者の心情に対する理解が進んだ,研修が進んだ,これは,私は非常に望ましいことだと思います。しかしながら,性犯罪の取扱いの実態には,逆強姦神話とも言われるような,捜査官や裁判官が,被害者がつらく恥ずかしい,とても普通だったら言いたくないことを話してくださったということで,安易にその供述が信用できると判断してしまう場合があるということです。   意見書で,氷見事件や大阪の再審無罪事例を紹介しました。大阪の事件については本当に真っ白な無罪の事件ですが,被害少女の供述が全面的に信用され,被告人の供述は不合理なものだと一蹴されました。是非もう一度,意見書を御覧になっていただきたいと思います。被害者の視点での無罪事件や不起訴事件の検討だけでよいのだろうかというのが,私の考えでございます。今回の検討に際して事務局が収集した数々の無罪事件,嫌疑なし・嫌疑不十分の不起訴事案について,加害者とされた人たちの事件の見方はまた全く違うものがございます。是非そういうものを共有させていただければ有り難いなと思います。   また,ちょっと話がずれてしまうのですけれども,被疑者が無罪になる事件には,供述弱者である被告人が被疑者段階で虚偽供述を強いられたという案件が結構あります。知的障害がある方,精神に問題がある方等の事例です。このような事例について司法面接が極めて有効だということは,私たちも考えているところでございます。供述弱者の問題については,もちろんこの検討会で取り上げることは駄目だと私は言っているのではなく,被害者だけではない,多岐にわたる問題があるということを共通認識としていただければと思います。   2点目です。被告人の証拠収集というのは,本当に難しいということです。真っ黒だ,有罪だと証明するのは検察官で,灰色であれば無罪になります。しかし,被告人がその無罪の可能性,灰色だと言うための証拠収集すら非常に難しいのです。弁護人には令状捜査の権限はありませんから,証拠を持っている人に出しませんと断られればおしまいです。多くの事件は,費用もほとんどありません。検察官による証拠開示にしても,制度上の漏れがありますし,検察官が自分の手元になければ証拠の存在に気づきませんし,証拠が隠されたのではないかと疑われている事件さえあります。   是非,諸外国の刑法の条文だけではなくて,刑事裁判の中で犯罪事実がどのように構成されて,その立証がどういうふうに行われているのかということについても,資料を集めていただければと思います。また,このような証拠へのアクセスの困難という問題については,被告人が,自分が無罪だと言うときの証拠にも関わってきます。時効について考えるときに,もちろん被害者について考えることも大事なのですが,被疑者,被告人とされる人の人権を害さないという面からもお考えいただければと思っております。   三つ目は,外国の法律についての問題です。現実に判決で宣告される刑,あるいは刑務所に収容される期間というのは,刑法の条文では分かりません。資料8を頂戴いたしましたが,これらの国や地域の刑の上限を見ますと,死刑廃止,あるいは死刑執行の停止によって,死刑はないと考えてもよいかと思いますし,スウェーデンには無期懲役すらありません。上限は21年です。各国の刑法の条文だけではなくて,具体的にどんな処分がされているのかということについても,事務局に実態的な資料を集めていただきたいというのが私の切なる希望です。   四つ目です。報告書は,同意なき性交罪を作るなど新しい構成要件が必要だという御主張と感じましたし,先ほどの法務大臣の御意見も,そういう強い御意見と感じました。しかしながら,現実を見ますと,178条を用いて上下関係にある者での上の者からの被害,あるいは児童や障害者の被害について,これは抗拒不能だと認定して有罪にした例が存在します。抗拒不能というのは,その人が抵抗できたかどうかではなく,客観的に見て,こんな状況に置かれたら抗拒ができるかどうかという価値判断です。そして,177条の暴行・脅迫の要件にしても,被害者が恐怖感などから抵抗できない状態にあったではないかということで,性行為に伴う,当然性行為をするのだったらやるような,手を押さえるとか,体に覆いかぶさるといった行為を暴行と認定した例もあるのです。是非,事務局には,有罪判決もたくさん集めていただいて,報告書でこれは罰することができないのだとされているものが,本当に罰することができないのかどうかということも,検討のそ上に載せていただければと考えます。   五つ目です。これは,私の施行への評価というか,施行された新法に対する評価に当たる部分です。資料7-1の「-3-」からは,強制性交等罪についてほぼ今までの刑が維持されているという見方が紹介されましたけれども,私ども弁護をしている者の実感としては,被害者との示談ができ,被害者から執行猶予でもいいよ,あるいはもう処分については裁判所に任せて,軽い刑で構わないよ,社会内で処遇しても構わないよという御意見を頂戴しても,実刑になることが増えています。現在,裁判では,犯罪の危険の程度や動機などの犯情といわれている,事実の中の犯罪にまつわる部分によって,刑の大方が決まってしまいます。そうすると,被害者との示談だけでは,大幅な刑の減軽は困難になります。   私は,意見書で,起訴猶予の理由を示してほしいと申し上げましたが,この趣旨は,かなり重い犯情のものでも,起訴猶予になっているということであれば,一旦起訴されるとほぼ実刑になるということとの差が大きすぎるのではないかという問題意識を示したものでございます。   私は,刑事弁護からの視点を申し上げておりますが,被害者のことを無視しろと言うつもりは毛頭ございません。しかしながら,こいつは悪いやつではないか,そう疑いをかけられた人の立場というのを言う者がいないと大変だという思いで発言しております。 ○山本委員 山本です。よろしくお願いします。   私からはまず,御礼を申し上げたいと思います。前回の検討会については,議事録で拝見させていただきました。そのときに,性犯罪か否かを判断するために暴行・脅迫の要件は必要だということであまり省みられなかったのかなという印象を受けました。しかし,今回,不同意性交等罪の新設も考えることの意見を述べている方もいましたし,反対の方もいましたけれども,様々な委員の方が,その可否も含めて言及してくださったことがすばらしい前進だと思っています。また,法務省の皆様がワーキンググループを開いてくださって,様々調査を重ねてくださったことにも,感謝しています。   この検討会に私が期待するのは,今まで見えてこなかったものを積み上げて,それぞれの立ち位置も交換しながら,実態を見て議論していただきたいということです。   具体的な項目については,意見書の方に書きましたので,今回は意見書に追加する点と補足する点を申し述べたいと思います。その前に,先ほどの宮田委員の発言に一言言わせていただければと思います。   逆強姦神話があるのではないかというお話だったのですけれども,安易に被害者を信じて加害者の言い分に耳を傾けないというようなお話だったかと思います。そして,それと逆に,安易に被害者の陳述,被害者の言い分に耳を傾けないという状況も,多く発生しています。私自身は実父からの性被害経験がありますが,それ以外にも20代のときに不同意の性交をされた経験があります。暴行・脅迫はなく,意識不明だったわけでもありませんでしたが,私は「やめて」と言い,同意はしていませんでした。心は荒れて心身不調にもなりましたが,警察には行けませんでした。私の言うことは信じてもらえないだろう,罪にはならないだろうと思っていたからです。でも,本当にそれが罪ではないのか,不同意とは何なのかということを,ずっと考えてきましたし,この検討会を通し,考えていきたいと思います。   一方が性交に同意していない,イエスと言っていないのに性行為をされることは,自分の心身を一方的に侵害されて,相手が好きなことを好きなようにできる道具として扱われることだと私は思います。しかし,被害当事者の支援をする中で,また,当事者の話を聞く中で,現行法では,暴行・脅迫がないから,あるいは程度が足りないから,警察で門前払いをされ,検察で不起訴になる話を聞きます。そのとき,被害当事者は何を思うかというと,日本という国は私たちを守ってくれないのだと思います。そういう安全でない社会で生きることの困難を日々感じながら生きているのが,被害当事者の日常です。   裁判所によっても判断が分かれるような状況がありますので,何が同意なのか,同意でないのかということを,類型化し,明確にしていただきたいと思います。意見書で述べた,「明示的な意思に反して」以外にも,脅迫,威迫,不意打ち,偽計,欺罔,監禁など,同意でないことが推測される規定を定めるべく議論を尽くしてほしいと願っています。   第2に,監護者性交等罪の認定についてです。監護者の範囲が限定されていて,兄弟やおじ,祖父などの親族,あとは母親の恋人とか同居していない父親とかも,施行後の実行の中で監護者として認められないということも起こっています。それ以外にも,監護者性交等罪の大きな壁があります。それは,日常生活の中で加害が繰り返されるため,犯行日時の特定が困難になることです。私も13歳から20歳まで実父からの性被害の経験があります。家の中で行われたので,場所は言えますが,日時は分かりません。このような長期にわたって繰り返し行われる加害に対しては,ひとまとまりの被害として起訴,有罪が認定できるような規定を作っていただければと思います。   第3に,私の意見書のグルーミングについて,補足したいと思います。グルーミングは,手なずけるという意味ですが,児童を手なずけて性的関係に持ち込む性犯罪を禁止するために,イギリスでは,16歳未満の児童であって性的グルーミングを行う罪,ドイツでは,子供に情報若しくはコミュニケーション技術を用いて影響を及ぼした者を規定する法律を定めています。今までの見知った大人が子供に性加害をするケース以外でも,インターネットの進展に伴い,見知らぬ大人が見知った大人になって,子供に性加害を行うケースが後を絶ちません。被害者の多くは13歳以上であり,暴行・脅迫もなく性的行為をさせられています。不眠や自傷行為などの心身の症状が悪化し,望まない性的行為を強いられ,また,それを録画撮影され,更に脅されたりしていることに気付いたときにも,逃げられない状況に陥っていることが多いです。子供に性的目的で近付くことを防止する議論も必要と思います。   最後に,検討すべき項目は非常に多いと思いますが,私は,不同意の性行為,性交同意年齢,監護者の範囲,地位・関係性,配偶者間や障害者,2人以上による性加害などの様々な性暴力の実態と,また,それは同じ罪ではなく,加重する必要があるのかなどの加重要件,性交等の定義,器具などが含まれるのか,そして,公訴時効,盗撮,記録の没収処分,また,司法面接,加害者の治療教育についても,議論していただきたいと思います。また,加害についてですが,もし加害行為を全くしていないのであれば,それは無罪であるべきだと思いますが,性加害をしているのに無罪になるということは,加害者の人生にもマイナスの影響を及ぼすと思います。加害行為を手放して,是非更生していただきたいと思っています。   最後に,この法律上の問題だけではなく,被害者保護を進め,被害者が訴えやすく,二次被害がなく支援をされる。そういう日本を作るためにどうすればいいのかということを,どうすればこの性暴力を根絶することができるのかということを,この検討会の議論で進めていただければと切に願っています。なので,ヒアリングについても,被害者の様々な実態,教師に恋愛関係だと思わされた方や,2人以上の者からの被害,セクシュアルマイノリティーや男性の性被害などについても聴いていただき,また,人間に対しての理解を深めるために,神経生理学的な視点から話ができる専門家などの意見も聴いていただければと思って言います。   私の意見は以上です。どうもありがとうございました。 ○和田委員 和田でございます。私は,我が国の現行刑法,刑事実体法は,平成29年改正の内容も含めまして,基本的にはうまくできていると考えています。すなわち,比較的大まかに規定を置いた上で柔軟な解釈によって合理的に処罰範囲を定めていくというやり方は,大きな枠組みとしてはうまく機能していると思います。したがいまして,その大枠は維持したままで,立法上,あるいは解釈のぶれに起因して処罰範囲が十分でないところがあるのであれば,そこに個別に対応するというのが,基本的な進め方になると考えております。その際に,特別法も含めた性犯罪規定の相互関係に注意を払うべきであることはもちろんです。   しかしながら,他方で,性犯罪の領域には,ほかの犯罪領域とは異なる特殊性があると思います。それは,性犯罪の法益を人格権的な利益であると考える場合に,国が十分な処罰を用意できないといたしますと,その不作為が,単に必要な処罰を取りこぼすということを越えて,積極的に法益侵害的に働いてしまうという特殊性です。よい例えかどうか分かりませんが,国家権力自体がDV夫のように振る舞ってしまうこと,あるいはそのように受け取られてしまうことは,避けなければならないことだと思います。   以上のような基本的な考え方に基づきまして,処罰の間隙,漏れがどこにあるのかを見極めつつ,刑法の原則や一般的な考え方を完全に維持しながら対応することができるのはどの範囲なのかということを明確にして,その上で,場合によっては性犯罪の特殊性に着目し,我が国の刑法の一般的な考え方に修正を加えることも視野に入れながら検討する必要があるかと思います。そのような修正が必要であると現時点で積極的に考えているわけでは全くありませんが,この検討会で視野の広い議論をすること自体には,大きな意義があると考える次第です。 ○渡邊委員 検察庁の渡邊でございます。私の方からは,捜査公判の現場で実際に事件処理をしている立場から,まず,平成29年改正法の施行状況について,2点感想を申し上げたいと思います。   まず1点目は,監護者性交等罪についてです。私自身も経験した事案として,長年,親が実子に対して性交行為を繰り返していて,非常に暴行・脅迫等の立証に苦慮して,最終的に児童福祉法違反で起訴したという事案がございました。そういった実態に見合わない処理をしていたということがございましたけれども,この新法によりまして,それがしなくて済むようになったことが一つございます。そして,この監護者性交等罪は,被害者の供述から性交の事実さえ立証できれば,あとは監護者であることによる影響力に乗じてという点については,その他の御家族の供述等で立証できるということがありまして,被害者の方の取調べの負担,それを軽減することができるということを,捜査の現場で実感をしておるところです。   もう一点は,非親告罪化についてでございますけれども,1点,私ども捜査をしていて本当にやるせないなと思ったような事案としまして,例えば,被害者の母親が,自分の交際相手が自分の娘に暴行・脅迫あるいは性交を強いるというようなことに関して,告訴をしないとして協力しないことで起訴ができないというような事案がございました。これについては,前回の御議論で,そういったものについて適正な処罰が実現できるのではないかというような御意見があったと聞いておりますけれども,実際に検察の現場で,改正後,こういった事案について適正な処理ができるようになったという声を聞いているところでございます。   また,この非親告罪化によって,意に沿わない,被害者の意に反した起訴がなされるのではないかというような御懸念につきましては,様々な委員から,必ずしもそのような実態はないのではないかというようなお話を頂いたところですが,私ども検察の現場で,被害者の方の意向を最大に尊重するということが一番大切なことだと思っていまして,そのことは,やはり実際の事件処理の数値的なデータにも表れているのではないかと思っています。   さらに,次の点としまして,この検討会で議論すべき論点ということについて,1点だけ申し上げたいと思います。既に御意見として出ておるところですけれども,この検討会で司法面接を論点として取り扱うかどうかという点についてでございます。確かに性犯罪以外についても司法面接による手法は用いられるわけでございますけれども,川出委員のお話にございましたように,性犯罪というのは,一対一で,しかも密室,そして,例えばけが等の証跡が残らない場合が多いというようなことがございまして,供述の重要性が非常に重い事案かと思います。また,そもそも司法面接という,そういった手法が発展した,そのきっかけというのは性犯罪であったというふうに聞いておりまして,やはりこういった性犯罪について議論する検討会で,是非御議論いただきたいと思っております。 ○井田座長 ありがとうございました。   委員の皆様から,それぞれのお立場からの専門的な知見を踏まえた様々な御意見をお聞かせいただきました。今後,どういう視点を持って,また,どのようなことに留意しながら,また,どういう論点について検討を進めていくかについて,認識の共有を図ることができたのではないかと思います。ありがとうございました。今の御意見を踏まえ,今後,幅広い観点から充実した検討をしていきたいと思いますので,よろしくお願いいたしたいと思います。   次に,次回以降の検討の進め方についてお諮りしたいと思います。   今伺いました委員の皆様の御意見,また,事前に提出いただいた意見書の内容,こういったものを踏まえますと,委員の皆様が,ここに問題があるのだという問題意識をお持ちの,その分野について,詳しい知見,専門的な知見をお持ちになっている方々から御知見を開示していただく,つまり,そういう方にヒアリングを行って,いろいろとお教えいただくということが有益なのではないかと思います。委員の間での意見交換に入る前にヒアリングを行い,いろいろな実態とその分野での専門的知見というものを,我々,共有するということがとても大事なのではないかということを感じました。ヒアリングを行うということでいかがでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,次回以降ヒアリングを行うことにいたしたいと思います。   そのヒアリングの対象につきましては,委員の皆様から事前に御提出いただいた意見書にもそれについての御意見がございますし,ほかにも事務当局に対して御意見が寄せられているとも伺っています。そこで,まずは事務当局から,その内容について御説明をお願いしたいと思います。 ○岡田刑事法制企画官 委員の皆様からは,本検討会においてヒアリングを行うべき対象につきまして御意見を頂いております。具体的に申し上げますと,性犯罪被害の当事者の方のほか,男性や性的マイノリティーの性被害について研究や支援をされている方,あるいは児童の性被害の実態に詳しい実務家や心理の専門家の方,障害者の性被害に関する啓発活動等を行う団体の方,児童の供述特性や司法面接についての研究者の方,性犯罪の被害者支援に携わる方,弁護士の方などを含むものですが,それから加害者の臨床に携わる専門家の方,また,性犯罪の刑事弁護についての経験豊富な弁護士の方など,多数の候補について御意見を頂いているところでございます。 ○井田座長 事前に事務当局にお伝えいただいた御意見以外に,ヒアリングについて何かここで御意見のある方はいらっしゃいますか。今思いつかれたということで結構ですので,御発言いただけますでしょうか。 ○齋藤委員 ヒアリングについて,事前に意見を述べているのですけれども,ちょっと補足をさせていただきたく存じます。私,男性の性暴力被害と性的マイノリティーの性暴力被害のヒアリングを望んでいるのですけれども,それを再度強く希望します。希望する趣旨としまして,男性の性暴力被害を知るというのは,暴行・脅迫要件とか地位・関係性を考える上で,とても重要だということがございます。私自身の行った調査では,女性は被害時のフリーズなどが相談行動に影響している一方で,男性は深刻な身体的暴力を伴った場合でないと性暴力・性犯罪について相談行動が取られにくいということがございます。もちろん,身体的暴力を伴わない性被害が多く存在するにもかかわらず,そうした傾向があるということです。つまり,男性被害者にとって暴行・脅迫要件のハードルは女性の被害者以上に高いものだという可能性があります。   性犯罪が発生するプロセスは本当に様々でして,男性の被害や女性の被害,多様なセクシュアリティの被害で態様や被害者の抵抗を抑圧する背景要因等が異なるものと思われますので,法律の要件を検討する前提として,実態を理解する必要があるのではないかと思っておりますし,特に性的マイノリティーの被害では,現状の法律では,どのような性器でどのような挿入であったかということが問題になり被害が捉え切れていないところがあるがゆえに,多くの被害が潜在化しているということがございますので,性犯罪に関する刑事法について考える場合,こうした見落とされてきた被害,潜在化している被害について,実情を知って検討を行っていただきたいなというふうに考えております。 ○井田座長 御推薦,御提案いただいた御趣旨をより敷衍してお述べいただいたということで,十分にそれを踏まえて検討していきたいと思います。   そのほかに何かございますか。   それでしたら,続きまして,ヒアリングの対象の確定の仕方というか,選定の方法といいますか,そういうことについてお諮りしたいと思います。   具体的な団体・個人の選定につきましては,幅広い観点からの検討を実施するということがとても大事だと思われますので,法務省の実態調査ワーキンググループで既に実施したヒアリングとか,あるいはこの検討会の各委員の専門分野となるべく重複しない形で,必要なヒアリングを実施できるように選定するというのがよいのではないかと考えています。そこで,今申し上げたところから,委員の皆様の御意見を踏まえ,ヒアリングの対象の一案を私の方で事務当局にも手伝ってもらって作成し,それをなるべく早く事務当局を通じて皆様にもお示しして,更に御意見を賜ることにしたいというふうに考えていますけれども,いかがでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。御意見をお伺いした後で,頂いた御意見を踏まえて,最終的なヒアリング対象者を決めさせていただくということにしたいと思いますけれども,何しろ先方の御都合もあることでございますので,最終的な決定につきましては,私に御一任いただけますでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのようにさせていただきます。ヒアリングの対象者が決まりましたら,委員の皆様には,事務当局を通じて御連絡させていただきたいと思います。   本日予定していた議事につきましては,これで終了いたしました。ウェブ会議というのは通常の会議よりもはるかに疲れるということがあります。休憩なしにここまで来ましたので,お疲れになったのではないかと思います。御協力ありがとうございました。   本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと考えますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料と参考資料につきましても,公表することとしたいと思います。そのような扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   では,次回の予定について事務当局から説明いただきます。 ○岡田刑事法制企画官 第2回会合は,6月22日月曜日午前10時からの開催を予定しております。次回会合の方式につきましては,追って,事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。