性犯罪に関する刑事法検討会 (第3回) 第1 日 時  令和2年7月9日(木)  自 午前9時47分                      至 午後0時32分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 ヒアリング         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第3回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 本日は,御多用中のところ御出席賜りまして,誠にありがとうございます。   なお,本日,木村委員におかれましては,所用のため欠席されています。   まず,議事に入る前に,第1回及び第2回会合を御欠席された池田委員に自己紹介をお願いしたいと思います。 ○池田委員 京都大学の池田です。刑事訴訟法を専攻しております。これまで二度にわたり出席がかなわず,申し訳なく思っております。これからどうぞよろしくお願い申し上げます。あわせて,初回に座長からお示しいただいた項目3点について,重複を避けて手短に意見を申し上げます。   まず,今後の議論全体についての視点・留意点についてですが,性犯罪被害の実情並びに改正法施行後の運用の実情を踏まえつつ,実体・手続双方において処罰の適正を確保する具体的な方策の当否を検討することが必要と考えております。この検討会で示される様々な御意見につきまして,それらを真摯に受け止めて理解することを通じて,それぞれの立場にとって現状の改善をもたらす具体的な方策につなげていければと考えております。   次に,平成29年改正後の施行状況に対する評価や意見といたしまして,特に性犯罪の非親告罪化につきまして,起訴猶予の件数の推移などを拝見いたしますに,非親告罪化において懸念されていた,被害者の起訴を望まないという意思を無視する,訴追ありきの対応ということには至っていないことがうかがわれ,その点において評価できようかと思います。一方で,これまでの指摘にもあったところですが,起訴を望まないことは,処罰を望まないこととイコールでは必ずしもなく,手続にまつわる負担その他のもろもろの懸念を考慮した苦渋の御判断であるという可能性にも思いを致す必要があるものと考えております。   以上を踏まえた上で,本検討会で検討すべき論点を指摘するとすれば,様々なものが考えられるところではありますが,刑事手続の実施に伴い被害者の方にもたらされる負担のうち,取り除く,あるいは和らげることができるものがあるのであれば,その可能性を検討するということが挙げられようかと思います。   中でも,性犯罪の公訴時効期間については,様々な事情から被害自体の認識に時間がかかる,また,被害を認識しても加害者等との関係のために公にすることが難しいという性犯罪被害の実情との関係で,公訴時効期間の長さ,あるいはその存在そのものが訴追にとって妨げとなっているとの指摘があり,時効期間の延長,廃止は具体的な課題となるものと考えます。   この点は,前回の法改正に先立つ,性犯罪の罰則に関する検討会で取り上げられた内容でもあり,その間の議論も改めて見返しております。この点の検討を行う上では,仮に長期間経過後に裁判を行うとした場合に,これに備えて証拠の散逸を防ぐ,あるいは,適時適切に証拠を保全する体制を整備し得るかが大変重要な意義を持ってまいります。特に,密室で行われる性犯罪を念頭に,事実の立証を供述に依存せざるを得ない場面を想定しますと,証拠保全及び立証の双方の局面において,司法面接の活用が課題となります。加えて,司法面接は,被害者に供述を繰り返し求めることの負担の軽減にもつながるものであることも考慮の上で,既存の証拠法則との整合性を考慮しつつも,その可能な形式について検討を加えることが必要であると考えております。 ○井田座長 次に,本日お配りした書面につきまして,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 本日皆様にお配りしている書面は,議事次第のほか,ヒアリング関係の書面といたしまして,ヒアリング出席者名簿,ヒアリング出席者略歴等,ヒアリング出席者からの提出資料でございます。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,お配りしたヒアリング出席者名簿に記載されている4名の方からヒアリングを行うことといたします。4名の方の御略歴,御専門等につきましては,お手元の「性犯罪に関する刑事法検討会 ヒアリング出席者略歴等」と題する書面に記載されておりますので,御参照ください。   本日の進行としましては,ヒアリング出席者名簿の順にお一人ずつ15分程度御意見等を述べていただいた後に,10分程度,委員の皆様からの御質問にお答えいただくという流れで進めさせていただきたいと思います。 (石田氏入室)   1番目の方は石田郁子様です。教員からの被害についてお話しいただきます。   石田様には,御多用中のところをお越しいただき,誠にありがとうございます。本検討会の座長を務めております井田でございます。ヒアリングに御協力いただき,心から感謝申し上げます。   本日は,まず石田様から15分程度お話をいただいて,その後,委員から質問があれば,10分程度御質問させていただきたいと思います。それでは,よろしくお願いいたします。 ○石田氏 本日お話しする内容については,一部非公表としたい内容がありますので,配慮をお願いします。   お配りした資料に言いたいことをほとんど書いているので,本日は,おおよその被害の内容と,補足・強調したいこと,そして,刑法がこうあってほしいと私が思うことをお話しします。   私は,中学3年生,15歳のときに,中学校の美術の先生から被害を受けました。私は,私立高校の美術科を受けるために,その先生から時々実技の指導を受けていて,最初はその先生に興味はありませんでしたが,自分の絵がうまくなっていって,どんどんその先生に絵を見せて褒められたいと思うようになり,そのうち冗談も話すようになって,絵を描くのが面白くなるにつれて,美術室に毎日遊びに行ってその先生としゃべるようになり,しゃべってみたら面白かった,そういう関係でした。   卒業式の前日に,美術館のチケットがあるから行こうと言われて,私が頑張っているから連れていってくれるのだと思って,一緒に美術館に行って,そのとき生理痛でおなかが痛くなって,その帰りに,「じゃ,休もうか」と言われました。札幌駅まで車で送ってもらえるのかなと思っていたら,先生の自宅に連れていかれて,うどんを食べさせてもらったり,画集を見せてもらったりして,ちょうど気持ちが一番リラックスしているときに,突然キスされました。最初,キスをされそうになったときに,資料3に書いたとおり,スローモーションのように感じました。そのときはよけて,ただ,その後,いきなり,「キスしようとしたんだ。実は好きだったんだ」と言われて,頭が空っぽのような状態になりました。そのときは,それから交際をするような流れになっていたのですが,その教師から「交際してください」と言われたこともないですし,どさくさに紛れてというか,ちょっと不意打ちのような形で被害に遭いました。ただ,相手のことを好きだと思っていて,目の前にいるのが,さっきまで一緒に画集を見ていて,リラックスして一緒にいた相手なので,まして学校の先生が悪いことするとは思えないという状況で被害が始まって,その後も,例えば,美術準備室で抱きかかえられてキスされるとか,車の中で服を脱がされたり,性行為をさせられたり,19歳まで,そういう形で被害が続きました。   被害については,最初は,キスをする,上半身を触るというものであったのが,服を脱がされたり,性行為をされたりするようになり,一つ一つのことが突然起こったのではなくて,やはり段階的に被害のグレードが上がっていく感じで,当時の私は,その状況についていくので精いっぱいで,自分がされていることやさせられていることに対して全く評価ができない状態,自分がそれをしたいとか,不快だとか,楽しいとか,そういう評価が全くない状態,もうその場にいるので精いっぱいでした。結局,大人になってPTSDの治療をする過程で思ったのは,当時の自分にとっては,自分一人の周りにだけ大地震とか津波が来ているような状態で,ちょっと自分では越えられない大きいものが来ていて,何もできない,でも,目の前にいるのは自分が好きな学校の先生,何かそのギャップがあって,長い間,それが何か分からないでいました。   被害は,そういう疑似恋愛のような形で続いていて,結局,その先生は,私が大学2年生,19歳のときに同僚の女性の先生と交際を始めて,私と会わなくなって,被害が終わったという形になります。   被害に気付いたきっかけですけれども,資料5に書いたように,例えば,22歳のときに教育実習に行ったときなど,気付きそうなきっかけはぽつぽつあったのですが,犯罪に当たるという認識まではできなかった。やはり,まず自分が犯罪の被害に遭うという発想がもともとないし,周りの人も,自分の身の回りで犯罪が起きるという発想がない。「何かちょっと珍しい恋愛だね」というのが周りの見方で,私は恋愛だと思い込まされていたので,「あなたは好きだったんでしょう」,つまり,私がその先生といることを選択したとみなされてしまう。   事前に頂いた質問で,恋愛と性暴力の違いというものがありましたが,恋愛というのは主体的な行動です。私は,自分がこの人と一緒にいたいと思っていると,恋愛だとずっと思い込まされていて,資料5に書いたように,裁判を傍聴して被害に気付き始めてからも,先生と付き合っていた間にされたことはわいせつ行為だったと思うと人に話すと,「好きだったんでしょう。付き合っていたんでしょう」と言われ,結局,いろいろなところに相談に行くうちに,「恋愛と思い込まされていた」という言い方を聞いて,ああ,そうか,そう言えばいいのかとやっと気付いたくらいで,こんな簡単な言葉もなかなか浮かびませんでした。付き合っているという,つまり,自分が主体的に選んでいるというような,本当に自分がそう思っていなくても,そういう言葉を使っているだけで,そうなのかなという勘違いをずっと長い間していました。今は,思い込まされていたとか,従属的,支配的だと分かっているので大丈夫ですけれども,被害を受けているというのは当時はなかなか気付けない。   私が強調したいのは,未成年というのはやはり非常に脆弱で,教員という立場も非常に強かったと思いますけれども,まず子供というのはとても世界が狭くて,15歳の私だと,そうですね,JRでせいぜい札幌駅ぐらいまでしか行ったことがありませんでした。教師というと準保護者のような存在で,まして自分の好きな教科で憧れている人でした。私が大人になってから被害のことを人に話したときによく言われたのは,「中学生なら分かるだろう。高校生なら分かるだろう」というものでした。私がよく例えで言っているのは,例えば,学校で遠足に行くときに,「何月何日にどこに遠足に行きます,何を持ってきてください」と先生から一方的に言われます。そのときに生徒が,「先生,私はこれを持っていきたい」とか,「私はもっと遅い時間がいい」とか,「私はどこそこに行きたい」と言うことはないですよね。先生が言うことは一方的で,子供は,面倒くさいなとか文句は言うけれども,結局,行く。行かないのであれば,せいぜいサボるとか。生徒には反抗期もありますけれども,結局従わなければならない存在だから反抗しているので,先生と生徒は,結局,先生が一方的に指示をして生徒が従うということにお互い慣れているということです。   資料5にも,地位を利用した犯罪のことは書きましたが,地位がある者は,相手方に苦痛を強制させられると,ちょっと強い言い方をしていますけれども,例えば,跳び箱を跳べない子供にも,跳び箱を跳べる子供にも,跳び箱が好きでない子供にも,先生は同じことを同時にさせる。つまり,その生徒の意思だとか感情というのを無視して,させる。それは,生徒の学力などの向上のためにやっているわけですけれども,ただ,そうさせることについて先生も慣れているし,させられることについて生徒も慣れている。つまり,生徒は先生との関係で,苦痛だとか楽しくないことにも,そういう楽しくない時間を先生と一緒にいるということにも結構鈍感で,慣れてしまっているので,私だけではなく,教員からの被害に遭っても被害であると気付けない理由は,その楽しくない時間とか,自分が望んでいないことをするという時間に生徒が慣れてしまっていることにあると思います。もちろん,先生は悪いことをするはずがないと,先生を疑う発想がもともとないということもあります。これはおそらく,子供だけではなく,大人もそうで,例えば,去年,恩赦がありましたけれども,そのときに医師は資格の復権の対象だったと思います。これは,医師が社会的に貢献するとか,役に立つとか,そういう概念があるから復権という発想が出てくるわけで,大人ですらそう思っているので,情報が少ない子供であればまして,そうだと思います。   もう一つ,私の被害で言うと,先生は,「好きだったんだ」と言って加害をしてきたわけですけれども,資料3に書いたとおり,上半身を裸にされたときに,「郁子ちゃん,とてもかわいくてきれいだよ」と言いました。そのときに,「かわいい」とか,「ちゃん」という愛称で呼ぶ,褒めてくれている,だから喜ばなければならないのかなと思うのですが,私はその直前までびっくりして,シャツを押さえていて,シャツを脱がされた後はうなだれていて,どうしていいかが分からない。記憶はすごく鮮明なのですが,あれをどう評価したらいいか分からない,自分は上半身裸にされて,ちょっと情けないような状態になっているのに,「かわいくてきれいだよ」と言われ,目の前にはその信用していた先生がいる。こういう加害のときというのは,「かわいいね」といった褒める言葉が使われることもあるので,私としては,喜ばなければならないのかなと思ってしまう。また,美術の世界だと,女性の裸はきれいだとか,ヌードの絵も描いたりするので,そういう情報も知っていたので,変に混乱しました。このように,ポジティブな言葉を使われることで,逆に,自分が苦痛であるとか異議を言いにくい状況にされているということがあるので,この辺も参考にしてほしいと思います。   それから,未成年者が脆弱であるということで言いたいのは,例えば不安とか違和感を感じていたとしても,言語化をする力が非常に弱くて,私も,今思うとあれは違和感だったとか,いろいろ,資料3に書いている自分の感情とか感想というのは,大人になって振り返って,やっと言語化できたことで,当時は感じているけれども言葉にできないものでした。目の前の先生というのは,何も言わないけれども,何か余裕のある態度でいつも私の前にいるわけです。余裕があると,その人は正しいと思わせるので,何か私が間違えているのではないか,何か私が変なのではないか,楽しんでいない私が変なのではないかと思ってしまいます。当時の私は,その教員に合わせなければならないとか,ついていかなければならないという発想でいました。   先ほども言ったように,相手が自分の信用している教員だとか,言うことを聞いてしまう関係性がある上に,未成年者は被害の認識も難しいし,それを言葉にする力もない。言葉にできなければ,当然大人の人にも言えない。そのような意味で非常にハンディがあると思います。それは,15歳でもそうですし,私は19歳まで被害を受けていたので,これだけ長い期間受けていると,何か人形みたいになるというか,大人の言うことさえ聞いていればいいやと感覚が麻痺してしまうので,年齢だけで区別するというのも,私はちょっと厳しいのではないかと思っています。   ちなみに,18歳の高校生でも,例えばテレビで野球のドラフトとかで高校生を見ますけれども,かなりしっかりした子供たちでも,監督とか親御さんに,どこのチームに行こうかと相談をしますし,アパートも一人で借りられないですし,やはりしっかりしていても18歳は18歳で,できることが限られている。刑法を変えることで未成年者の性的な行為をする自由を侵害しないかと心配されている方もいるようですけれども,私としては,未成年者を守る観点で刑法を考えてほしいと思います。   もちろん,児童福祉法とか,ほかの法律も関係すると思いますけれども,今の法律は,余りに未成年に負わせる負担が大き過ぎるし,未成年が守られていない。守られていないから,自治体の青少年健全育成条例というのがなければならない。お互いが同意していたらどうかという問題もありますが,未成年者の同意は非常にあやふやです。私が実施したアンケートでも,同意していたから仕方がないという回答があったのですが,私は,実は「同意」というものを結構疑っていて,先生と生徒はそんなに簡単に対等にはなれないので,本人は同意していた,対等だったと思っていても,やはり未成年者はちょっと大人ぶるとか,「私,こんなこともできるのよ」と思うところもある。そういう自分を後で責めてしまったりすることもあります。   また,私は,15歳のときに,私の親とかがその先生のことを悪く言うと,先生がかわいそうだと思っていました。何でかわいそうだと思うかというと,被害前の中学校の普通の美術の楽しい先生だったときの記憶もあるので,先生をかばうような気持ちになってしまう。結局,未成年者はどんなに頑張っても大人に依存しなければ生きていけない存在,例えば,アパートも一人で借りられない。ですので,やはり子供を守るという観点で考えてほしいと思います。   それから,資料1・2のとおり,私はインターネットでアンケートを実施したのですが,このアンケートをしようと思ったきっかけは,一部の記者の方が学校での性的な被害について「スクールセクハラ」というすごく軽い印象を与える言葉を使っていて,私はそれが非常に嫌で,その言葉を潰して自分で違う言葉を作ろうと思ったことです。その言葉を作るに当たり,アンケートをやったらいいのではないかというアドバイスをもらって,それなら実際にどのような被害があるのかについてもアンケートで調べてみようと思って,やってみました。   そのアンケートの結果を見て思ったのは,まず,学校の教員以外の教育者については,立場に余りに幅が広過ぎるので,一概には言えないですけれども,学校について思ったのは,衣食住全般にわたって非常に間接的な形で加害をしてくる。例えば,体育の授業や健康診断でそういう被害があるというのは想像しやすいと思いますけれども,そうではなくて,例えば,先生が口に入れたものを口に入れさせられたとか,授業の中で何か性的な言葉を書かされたとか,本当にこんなことがあるのかというくらい,本当に被害が多くて,学校は安全な場所だと親も思っていて,子供もそう思っているから伸び伸びしているけれども,逆に子供は非常に無防備になっていて,本当はその無防備が保障されなければならないのに,それをよいことに教員が自分の信用を利用して,また,子供だから分からないだろうと,聞こえていないだろうと思って加害をしているんだろうなと予想しています。   また,普通,性犯罪というのは密室で人のいないところで行われるというイメージがあると思いますけれども,びっくりしたのは,学校で,例えば授業内だと,プールの授業のときに,女子だけ長時間,水着を着たまま走らされ,男子はすぐプールに入らせてもらったというものがあり,女性の裸に近い体を先生が見たかったから,だから大勢の生徒が同時に被害に遭ってしまっている。大勢いるからといって,みんなで,例えば,「先生,それはやりたくない」とか声を上げられるかというと,全然そうではない。   アンケートで回答があったものとしては,このような授業内でのものだけではなくて,複数の女生徒がレイプの被害に遭っていて,別の先生がそれを知ってどうにかしようとしていたら,被害者の一人が,「私,卒業できなくなるから黙っていて」と言うわけですね。それで,その先生は黙ってしまったという話がありました。私が思ったのは,結局,それは高校3年生ぐらいの生徒だったので,卒業を意識して言ったことで,高校生だと,それまでに経験したのは,小学校と中学校での生活くらいなので,いろいろな人生の選択肢というものを知らない。それで,卒業ということがその子にとっては非常に大きなことになってしまう。本来は,その子がレイプの被害を受け続けるということと卒業できるかどうかというのは,実は全然イコールではない,全然見合わないことなのに,その子にとっては卒業ということが大きいことなので,卒業できないと困るからレイプをされるという,すごく妙な状態になって,かつ,周りの先生も実は気付いているのに何もしていないということが起きている。学校というのは閉鎖的で,また,それが地位利用に関係すると思いますけれども,結局,学校の先生は一人で仕事をしていて,例えば,誰かに「もっとこうやったらいいのではないか」と指摘されるような関係性がない。互いに先生,先生と呼ぶように,お互い意見を言ってはいけないような,ちょっと遠慮する文化ではないかと私は想像していて,多分それは医師とかもそうではないかと思っています。ですので,学校での被害については,アンケートや,私が人から聞いたことから,感想として思ったのは,教師を始めとする大人が被害を隠してしまうとか,見て見ぬ振りをしてしまうということが起きているということです。先ほどの女子生徒がレイプされている件も,本来なら誰かが警察に言えばいいはずで,少なくともその子が卒業できなくなるなんてことは本当はないはずなのに,救いがない。つまり,子供がレイプされていると分かっていても,大人が助けないので,全然救いがないのですよね。   性犯罪を防止するにはどうしたらいいかという話題のときによく言われるのは,子供に性教育をしようというものです。それは必要なことですけれども,アンケートを見て思ったのは,性教育をする側の教師がこれだけの加害行為をしていて,周りの先生も全然注意をしている感じがしないのです。まず,大人が大人を管理していない,そこを変えないと,子供の管理なんかできるわけがないと思います。   最後に,私が刑法に望んでいることについて話します。資料6・7として,USAチャイルドとCNNニュースの記事を出しています。これは,子供の被害認識と開示は非常に難しいので,55歳まで民事訴訟を提起できるようにしたという法律ですけれども,私は,やはり公訴時効をなくしてほしい。性交同意年齢も,私は理想的には18歳ぐらいまで上げた方がいいのではないかと思っています。例えば飲酒と喫煙は20歳まで禁止しているのに,性行為は,子供ができるかもしれない,性病になるかもしれないというリスクが大きい行為なのに,なぜこんなに性交同意年齢が低いのか,むしろ喫煙や飲酒よりも性行為の方がリスクも非常に高いと思うので,私としては,例えば,子供が生まれても精神的にも経済的にも責任が取れそうな18歳が妥当ではないかと考えています。   あと,公訴時効についてですけれども,アンケートでも,20年前,30年前の被害のことを書いている人がいる。また,被害のことをこのアンケートで初めて書いたという人もいる。時効があるから被害を言うのを諦めてしまうという面もあると思うので,やはり時効をなくしてほしい。私のように,実際,被害に気付くのには時間がかかるし,学力とか,教育では,被害に時間がかかる点をカバーできない,人間が心理的に自分を守るために被害に気付かせないようにしている部分もあるので,やはり時効はない方がいいと思います。私は,時効のメリットというのは加害者にしかないと思っていて,私が厳しい状況で加害者の先生を民事訴訟で訴えた理由というのは,教員という立場にある人なので,同様の犯罪がまた見逃されてしまうというのが耐えられないと思ったからです。法律というのは,人に刑罰を科すことには慎重になる必要があるかもしれないけれども,やはり治安維持の意味があるので,私としては時効は撤廃してほしいと思います。   また,性犯罪の定義についても,例えば物を盗むことだったら,100円の物を盗んでもそれは窃盗だけれども,性犯罪だと,それは冗談だろう,セクハラだろうと,人を傷つける言葉でも簡単に済まされてしまうので,やはり性犯罪というか性暴力の定義自体が非常に狭いのではないかと思います。もう少し性犯罪の定義を広げて,いきなり厳しい刑罰を科すことに抵抗があるなら,例えば罰金刑からでもいいので,もう少し,こういうことも良くないことだと分かるように定義が変わってほしいと思っています。   また,地位を利用した犯罪について,私は,資料5で,教師と医師という地位を強調していますけれども,そのほかにも,芸能人のような仕事の人も多分,地位利用をしやすいだろうなと思っています。 ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,御質問のある方はいらっしゃいますか。 ○山本委員 石田さん,今日はどうもありがとうございました。とても貴重なお話でしたし,アンケートの結果も紹介していただき,よかったです。   一方的な上下関係の中で,選択する自由もなく,また,未成年であり,その能力もなかったということから,自分自身の意思がない状態だけれども,加害者からは恋愛と思い込まされるような状態が発生していたということをお話を聞いてよく理解することができました。成長・発達の過程で性加害に遭われて,その後の人生における困難などもあったと思いますけれども,お話しできる範囲で結構ですので,どのような精神的な影響があり,人生に影響が残ったか,この被害がどれほどのものか,大したことではないのでは,と思われがちな現状の中で,そうではない経験もされてきたかと思うので,もしよければお話ししていただければと思います。 ○石田氏 私の人生における大きな影響は,性的なことと親密さを区別することが,今も克服できていないということですね。一応,治療を受けて,例えば,罪悪感を感じるとか,ネガティブに考えてしまうといったPTSDの症状は大分克服していますけれども,(被害後の生活への影響について説明)この教員からの被害の問題を考え始めて,結構,自分のこれまでの行動が腑に落ちてきたということがあります。   また,異性との性的な関係,例えば好きな人ができても,自分が適切な距離を持てるのかが自信がまだ持てないということもありますね。今,異性の話をしましたけれども,これは異性関係に限った話だけではありません。最初の被害のときに,何が起こるか分からない恐怖をすごく感じていて,何が起こるか分からない恐怖を避けなければならないとそのとき思っていたわけですが,それ以外の場面でも,私のこれまでの就職とか進学は,自分の力の範囲内で済むことを選んでいるということに気付きました。この大学なら合格するとか,これならできると自分で判断してしまい,つまり,ぎりぎりまで頑張ってみるということができなくなる。無意識に自分でブレーキをかけているので,アクセルを踏みながらブレーキがかかっている状態なので,自分の力を完全には発揮できないし,やはり何かそこで悩むわけですね。でも,それがこの教員による被害と関係しているとは,なかなか一人では気付けませんでした。異性に対することや性的なことはダイレクトに影響が出ていますけれども,それ以外でも,就職とか仕事とかのパフォーマンスとか,いろいろなことに影響していると思います。 ○小西委員 石田さん,どうもありがとうございました。今のお話が単なる個人的な経験だと思われてしまうと誤解があると思うので,私から補足しておきたいと思います。   ティーンの人たちというのは,性的被害に遭いやすい好発年齢であるにもかかわらず,本当に石田さんのおっしゃったとおりで,事件のことを考えられないし,考えないし,言語化する力が乏しいし,でも親の影響下にあるし,とても難しい年齢です。そのような年齢の子が学校で被害に遭うというケースはたくさんあって,アンケートで出していただいたケースは,臨床の場で,こういう人いたなと思うケースばかりです。そういう点では,このような被害は非常に一般的だということが一つです。   それから,今お話しされたような行動は,専門用語では性的過活動という言い方をしますけれども,この年齢の被害者への影響として,すごく多いです。例えば,性風俗でアルバイトをしているティーンの中には,被害の経験がある子がたくさんいます。また,再び性的な被害に遭いやすくなり,抵抗も難しくなることがあり,それこそ人生全体に深刻な影響を与える形になっていくケースも多いということを補足として申し上げておきたいと思います。 ○石田氏 一言,よろしいでしょうか。  先ほど山本さんに聞かれて思い出したのですけれども,私は,加害者を懲役何年にしてほしいとかそういうことには余り興味がないのですけれども,ただ,被害を受けたそのときだけではなく,関係性を壊される犯罪で,多分,体を触られたということだけが大事なのではなくて,やはり信用している人にこういうことをされたというのは一番こたえるので,それで10年,20年と長い時間苦しむ。被害者の身にそうしたことが起こっているということを考えてほしいというのはありますね。特に加害者の懲役を延ばしてほしいというわけではないのですけれども,そのあたりを考慮してほしい。今は加害者と被害者の状況がアンバランスであるというのが私の意見です。 ○井田座長 ありがとうございました。私どもにとって大変示唆に富むお話をたくさん頂戴いたしましたし,また,詳細な資料も頂きまして,誠にありがとうございました。この内容につきましては,今後の我々の議論に役立たせていきたいと思っております。検討会を代表して,重ねてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。 (石田氏退室) ○井田座長 ただ今のヒアリングについて,石田様から,御自分の被害のこと,関係者のプライバシーにわたるお話,資料につきまして,一部非公表としてほしいという御要望がありました。また,石田様からは,事前に皆様にお配りした略歴等についても一部非公表にしてほしいという御要望を伺っております。いずれにつきましても,プライバシー保護の観点から該当部分は非公表にしたいと考えておりますので,本日の議事が終了してから,この点について皆様にお諮りしたいと考えております。   2番目の方は島岡まな様です。フランス刑法の性犯罪規定についてお話しいただきます。   島岡先生には,御多用中のところ御出席いただき,誠にありがとうございます。本検討会の座長をしております井田でございます。ヒアリングに御協力いただき,心から感謝申し上げます。   本日は,まず島岡先生から15分程度お話をお伺いし,その後,委員の方から質問があれば,10分程度質問させていただきたいと思います。   では,お願いします。 ○島岡氏 大阪大学大学院法学研究科の島岡と申します。本日はよろしくお願いいたします。早速始めさせていただきます。   「フランス刑法における性犯罪処罰の基本的考え方」という配布資料の1ページ目がタイトルです。本日は,フランス刑法における性犯罪処罰の基本的考え方について報告させていただきます。   2ページ目に,「はじめに-基本的視点」ということで,フランス刑法の3本柱を挙げさせていただいています。まず1番目に,性犯罪は,性差別に基づく最も卑劣な人権侵害であるという認識がフランスにあること。2番目に,人権宣言の国フランスにふさわしい人権尊重刑法を目指していること。ジェンダー平等,弱者保護の視点が特徴的です。3番目に,他方で,人権宣言8条で,罪刑法定主義を宣言し,9条で無罪推定原則も宣言しているのですが,ヨーロッパへ広めたフランスにふさわしく,冤罪を生まないような配慮も周到になされております。   3ページ目にいきまして,フランスの性犯罪に対する処罰規定の概要について御説明します。まず,特徴ですが,たくさんあるのですけれども,ここには2点だけ挙げさせていただいております。まず,日本と異なり,性犯罪について,特別法や条例でばらばらに規制するのではなく,未成年者の保護も含めて全て刑法典の中の処罰規定として統一的に整備されているという点です。それから,日本と異なり,強制性交等罪と準強制性交等罪に当たる行為を全て強姦罪や性的攻撃罪の中に取り込んでいるという点です。ここに挙げなかったですけれども,資料を御覧になっていただければ分かりますように,パートナーによる強姦を加重事由にしているとか,様々な細かい規定で冤罪を生まないような工夫がされているという点がフランス刑法の特徴です。   では,4ページ目に移りまして,(2)の全体構造についても,大変複雑ですので,分かりやすくするために大きな2本柱で考えていただければいいと思います。1番目がいわゆる日本の刑法典の中にあるような心身の完全性に対する侵害,性的攻撃罪関係になります。ここでは,保護法益を,身体的,精神的な完全性,統合性,人格権といいますか,そういう非常に広いものと考えており,しかも,92年のフランス新刑法典の頃から,つまり28年も前からこのような保護法益を考えているという点が,私は非常に進んでいると思っています。   その中に,広義の性的攻撃罪がまず規定されていまして,御存じだと思うのですが,暴行,強制,脅迫又は欺罔とあります。赤字で書かせていただいたのは,不意打ちというふうに従来訳されていまして,私もそういうふうに訳してきたのですけれども,判例等をよく調べてみましたら,どうもやはりこれは「欺罔」と訳した方が適切ではないか,そしてまた,更にこの資料を作った後に,「欺罔」は強過ぎるかなと思って,「偽計」がいいのではないかと今は思っております。そういう手段をもって実行される全ての性的攻撃行為というふうに大きく定義して,その下に強姦罪と,その他の性的攻撃罪,すなわち,強姦罪より軽い類型のもの,日本で言えば強制わいせつ罪と同等のものが規定されています。   (2)の後半の方ですが,先ほどとは別の章で,未成年者及び家族に対する侵害関係というものがありますが,こちらの方は,暴行,強制,脅迫又は欺罔・偽計を伴わずに,成人により15歳未満の未成年者に対して行われる性的侵害が,軽い法定刑で処罰されているという点が特徴です。これは15歳未満ですけれども,次の227の27条に,18歳未満の場合でも一定の場合,尊属等による場合とか,あるいは地位関係性をもっと利用した権限のある者によって行われるような場合は,こういう手段要件を伴わずに軽い法定刑で処罰される規定がございます。   そして,細かい条文は,全部説明していると時間が経過してしまいますので各自で御覧いただければと思いますが,5ページ目は,最初の心身の完全性に対する侵害関係を表にまとめたものです。先ほど説明したように,左側に共通の規定があって,強姦,性的攻撃があって,刑罰が非常に重いという点が特徴かなと思います。強姦罪は重罪という,フランス刑法でいう最も重い罪に規定されている。   6ページ目ですが,フランス刑法の特徴として手段要件をきっちり規定するのですけれども,誤解のないように,強制というのが物理的でも心理的でもあり得ることや,未成年者に対して行われた場合は,心理的強制及び偽計は,被害者と行為者の間の年齢差,及び行為者が被害者に対して行使し得る法律上又は事実上の権力によって生じ得ることだとか,裁判官にとって指針となるようなものを細かく規定しているという点が特徴です。   そして,一番下は,2018年に新設されたものですが,15歳未満の未成年者に対して行われた場合,心理的強制及び偽計・欺罔は,当該行為のために必要な分別のない被害者の脆弱性の濫用により特徴づけることができるという規定を設けています。日本では性交同意年齢をようやく定めたみたいに紹介されていますが,そのように一律に15歳未満はすぐ強姦が成立するのだというふうにしてしまわないで,こういうことがあり得るのだということを裁判官に示して,でも反証は許していると思うんですね。このような規定があることで,そのような濫用がない,中学生同士の恋愛だとか,年齢差のないような場合は自動的に排除されるように,より配慮された規定になっているかと思います。   7ページ目以降も,条文のことなので細かくは説明できないのですけれども,加重事由,20年以下の重拘禁になるような場合が細かく規定されていて,裁判官の恣意に走らないような配慮がなされている点が特徴だと思っています。このうち,「3の2」は,2018年に新設されたものですが,経済的若しくは社会的状況の不安定さから生じる脆弱性若しくは依存性が明白である者に対して行われると,より重くなるのだというもので,弱者の保護が非常に特徴づけられているかなと思っています。この点に,性的マイノリティーの方ですとか,様々な弱い立場にいる人たちをより強く守るという姿勢が表れているかなと思っています。   8ページ目も後で御覧ください。9ページ目ですが,配偶者又はパートナーにより実行された場合は,単に強姦が成立するというだけでなく,より重い悪質な犯罪なのだということが,2006年に明文化されている点も特徴かと思います。そして,9ページ目の13番から15番について,文字の色を変えているところは2018年に新設された加重事由なのですけれども,13番についていうと,売春活動の実施において強姦が結構されるのだという社会問題を早急に取り入れていく,刑法典に明文化して立法していくというのが非常にフランスらしいというふうに思っています。15番についても,レイプドラッグが日本でも問題になっていますけれども,そのような行為をいち早く加重事由とし,抑制や抑止力になるよう,明文化することによって,社会に対してこのような行為は許されないのだということを宣言するという姿勢がはっきりと見て取れる,非常に注目すべき規定だと思っています。   10ページ目は,重い結果的加重犯等があるのだという説明で,11ページ以降も,性的攻撃罪の加重事由が4種類ぐらい細かく規定されていて,恣意を許さないというか,明文化されている点が特徴なので,15ページまでは後でゆっくり御覧いただければというふうに思っています。   16ページですが,先ほど言ったように,レイプドラッグの普及を受けて,性的攻撃目的の物質投与罪という独立犯罪を新設しているという特徴があります。   17ページ以下は,未成年者及び家族に対する侵害関係で,こちらは,先ほど言った,暴力,強制,脅迫又は欺罔・偽計を伴わない性的侵害ですので,刑罰を見ていただくと,7年以下の拘禁刑及び10万ユーロ以下の罰金とか,3年以下の拘禁刑とか,軽い類型とされており,こういう手段要件を伴わないような,ちょっと語弊があるかもしれないけれども,性的不同意罪というようなものは,やはり軽い刑罰でしか処罰できないのだということが,ここから見て取れるのかなというふうに私は思っています。   18ページ以降が,事前に頂いた質問等に答える形で書いてあるものです。フランスは,なぜイスタンブール条約等で要求されているような不同意性交罪そのものを立法せずに,暴行,強制,脅迫又は偽計・欺罔をもって実行される全ての性的撃行為という性的攻撃罪を維持しているのかという御質問を頂いていたのですけれども,今までの説明でお分かりのように,やはり罪刑法定主義とか無罪推定の原則も他方で非常に重視している国ですので,性的不同意といっても,本当にそのものを実質的に処罰できるかというと,むしろ曖昧になって,処罰すべきものが入らなくなることもあるのではないかという考慮があると思うんですね。ですから,細かくこういう場合が不同意なのだということを裁判官に示すように,法律できちんと規定しているという点が,フランス刑法の特徴かなと思っています。   だから,18ページの(1)にも書いているのですが,強姦罪・強制性交等罪の本質は,被害者が同意していない,不同意の性交の強制であるということが,ナポレオン法典以来,19世紀の判例に出てくるんですね。不同意性交がまさに本質だと,それは常識なわけです,フランスでは。だから,わざわざ不同意性交罪というのを作らなくても,それを処罰しているのだという意識は既にあるんですね。19ページに書きましたように,他方で,罪刑法定主義や無罪の推定も非常に重要な刑法の基本原則だという意識も浸透しているので,誤解を生まないような細かい手段要件を規定しているというのがフランス刑法の特徴だと思います。   20ページですが,「そのため,被害者の不同意を裁判官が間違いなく認定できる外形的要素として,「暴行,強制,脅迫又は欺罔(不意打ち)」という手段要件が誕生した。」ということです。1)の「暴行,脅迫」は,明らかに不同意を認定できる場合で,2)の「強制」は,それだけでは余り明らかではなく,物理的なものや心理的なものがあって,心理的な場合は,フリーズとかいうこともあるので,抵抗しないからといって心理的強制がないというわけではないということを規定しており,21ページの方でも,未成年者に対しては特に気をつけなさいよということを規定しているのが特徴かと思います。   22ページなのですけれども,15歳という性交同意年齢を定めたというところについて,どういう事件があったのですかという御質問を事前に頂いていました。報道もされているかもしれませんが,14歳の教え子と31歳の元教師が同意と見られるような状況で性交関係を持ったとか,あるいは11歳の少女がSNSで知り合った28歳の男性と性交を行って,親が告訴したという事件がありました。23ページの方にいきまして,加重強姦罪で起訴しようとしたのですが,どうも暴行,強制,脅迫,欺罔の立証ができないということで,先ほど紹介しました,未成年者及び家族に対する侵害という軽い方で処罰されたという事件がありました。当時は,未成年者及び家族に対する侵害の法定刑は5年以下の軽拘禁又は7万5,000ユーロ以下の罰金だったのですが,これはやはり軽過ぎるということで,2018年に,7年以下の拘禁刑及び10万ユーロ以下の罰金刑に引き上げられたのが特徴です。2018年の法律も,真ん中辺りに書いてありますが,性的暴力との闘いだけではなくて,「性的暴力及び性差別的暴力との闘いを強化する2018年8月3日の法律」というふうに,法律のタイトルにも,性犯罪の背景には性差別があるのだということを明確に示している点がフランスの特徴かなというふうに思っています。   あとは読んでいただきたいのですが,24ページにいくと,最後に不意打ちの要件を少し詳しく説明しておりまして,surpriseは驚きとか不意打ちというふうに訳されていましたけれども,その元になる動詞はsurprendre,だまし取るという言葉で,様々な偽計を用いて性交に導くというような場合も,やはり不同意なのだと,それはよく考えれば不同意性交の形態なのだということをはっきり示している判例が既に出ていますし,2001年には,日本の最高裁に当たる破毀院でも,surpriseとは,行為者が被害者の同意をだまし取ることに重点があり,被害者の驚き,サプライズを示したものではないとはっきり示した判例も出ております。   それから,25ページに,昨年,破毀院で非常に注目すべき判例が出たので,細かく紹介しているのですが,余り時間がないみたいで,もう読んでいただいたかなと思うのですけれども,日本の準強制わいせつ罪とか準強制性交等罪の心神喪失とか抗拒不能の要件よりはよほど広い,もっと広く不同意の性交を処罰するのが,このsurprise,欺罔とか偽計とか不意打ち要件だと思うんですね。33歳の成人の女性がだまされて,男性は68歳で,25から26ページに書きましたけれども,こういうことを何度もやっていて,それで告訴した人がいっぱいいたけれども,これは無理だというふうにずっと皆,泣き寝入りをさせられてきた。2009年から2015年までの6年にもわたって,分かっているだけでも複数の女性が被害に遭っていた。それでもまだ,2018年の段階では,エクサンプロヴァンス控訴院は,告訴人は自由意思で被告人宅へ行き,リスクを冒して目隠しのまま性行為を行ったのだから,強姦罪は成立しないとしたのですけれども,昨年1月の破毀院刑事部判決は,行為者のアイデンティティは,正に,同意するかどうかの基礎となる,そういう情報なのだと。そういう情報を偽ってだまし取って性交を行う行為は,まさに偽計による強姦を構成し得るとはっきり述べたんですね。私は,画期的な判決であり,フランスがほかの国より進んでいるというふうに思った次第です。27ページに書きましたように,この判例を正しい方向と支持する者もいるし,やはりこれが認められると,恋愛を成就するための計略がいろいろあるのに,これが全部強姦罪になるのはいけないというふうに,割と年配の刑法学者が批判しているという状況があります。   あと,4番目,28ページですが,公訴時効の撤廃又は停止についても御質問がありました。フランス刑法では,既に2015年に,未成年時に行われた強姦等については成年に達してから30年,その他の性的攻撃罪については成年に達してから20年,48歳,38歳までというふうに既に規定されていたのですけれども,2018年に更に延ばされ,全部が30年になって,強姦だけではなく,その他の重罪も時効期間が延ばされたという状況があります。   最後に,29ページに,「おわりに」と書かせていただいたのですけれども,ジェンダー平等,弱者保護の視点を取り入れ,かつ冤罪の危険も防止するという,これらの要請が両立するのだということがフランス刑法を見るとはっきり分かります。どちらか一方ではないんですね。対立するのではない,性犯罪被害者の保護と冤罪危険の防止というのは両立し得るというのを見せられていると思います。それから,性犯罪をめぐる問題は,人権問題であるという視点を皆さんに持っていただきたいと2014年にも申し上げたのですが,本日も同じことを申し上げたいと思います。最後に,私は,ジェンダーギャップ指数が153か国中,121位の不平等国家の改善と刑法の改善は,表裏一体だと思っています。差別をなくすことが,やはり性犯罪被害の手厚い保護につながるのではないかなと思っています。   御報告は以上です。御清聴どうもありがとうございました。 ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,御質問のある方はいらっしゃいますか。 ○小島委員 島岡先生,どうもありがとうございました。フランスの状況について大変詳しく御説明いただき,ありがとうございます。   私からの質問なのですけれども,現行刑法の改正に関しては,種々議論があるところでございます。暴行・脅迫要件の撤廃・緩和,不同意性交罪の創設,地位関係利用型の犯罪の創設・拡充,性交同意年齢などについて議論があるところでございますが,先生は,これらの改正論議について,どんな御意見を持っていらっしゃるのかということを伺いたいと思います。暴行・脅迫要件の撤廃ではなく,所定の手段要件を外形的要素として加えるフランス型を御提案されるのかなとは思うのですけれども,先生がどのようにお考えになっていらっしゃるかということを聞きたいというのが1点でございます。   それから,もう一点は,未成年者に対する公訴時効の停止等について,結局,最大48歳ぐらいまで延長するという大きな改正がありましたが,証拠の散逸とか,立証が困難ではないかとか,冤罪の防止という観点から,反対意見があったと伺っています。反対意見をどのように克服して,どういう思想で改正が実現したのか,また,施行後の実例等がございましたら教えていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○島岡氏 その改正に関しての意見は,小島先生御推察のとおり,やはり私は,性的不同意罪でスウェーデンのようにばんと出して,それでちゃんと本当に性犯罪被害者が救われるのならば,それが理想ではないかというふうに思っているのですが,スウェーデンは,ジェンダーギャップ指数が1位とか2位の国なんですよね。そういう国で,裁判官にもそういう意識が全部浸透した国でそういう規定を作ったら,それはうまくいくと思うのですが,日本のように,やはり,一方で冤罪事件がいまだに問題になっているような,そういう事件や死刑もあるような国でそれをばんと出したら,やはりうまくいかないのではないかと思うわけです。   そうすると,やはり裁判官の恣意を許さない,罪刑法定主義や無罪の推定原則もちゃんと守れるようなフランス刑法のような規定にしておく方がいいのではないか。一方で,暴行・脅迫要件の撤廃まで行かなくても,緩和は必要だと思うんですよね。やはり,今の要件のような,抗拒を著しく困難にするという,非常に限定されたものにする必要は全くないと思っていまして,そういうことをいろいろ緩和しつつ,今言った「偽計」のようなものも加えていただければ,私は非常にいいのではないかと思っています。   それから,公訴時効も,やはり批判はいつもあります。2015年に既に38歳までというのがあって,そのときに41歳で思い出したという人が出まして,それで,告訴できないのは問題ではないかと社会問題になって,やはりそういう,弱者を守れない刑法ではいけない,刑事訴訟法ではいけないということで,これを延ばされて,全部30年になったのです。それに対して批判があって,やはり無罪の推定の要請がすごく強い国なので,有罪にできない可能性が非常に高いという意見が物すごくあって,そうすると被害者は二度傷つくのではないかと,被害で傷ついて,それで告訴したけれども,相手が無罪になってしまうというので,むしろよくないのではないかという意見は今でもあります。だけれども,やはり,自分は告訴できて,裁判所でちゃんと調べてもらった上で無罪になるのだったら,被害者はむしろ納得するのではないかという意見の方が強いんですね。それはやるべきことはやったという,それさえもやらないで門前払いされてしまう方が被害者にとってはつらいのだという,そちらの意見がやはり世論において上回ったということです。 ○井田座長 宮田委員,それから佐藤委員から御質問がありますので,まとめて質問をしていただき,それから島岡先生に最後,お答えいただくということでよろしいでしょうか。 ○宮田委員 どうもありがとうございました。   3点教えていただきたいことがあります。未成年及び家族に対する侵害関係という類型ですが,これについては,いわゆる心身の完全性に対する性的な攻撃罪関係とは別に規定が置かれている,虐待やDVなどの関係でまとめられているという理解でよろしいのかということが1点。   もう一つが,刑法典と「性的暴力及び性差別的暴力との闘いを強化する2018年8月3日の法律」がどのような関係にあるのかということ。   もう一つは,フランスの場合には,私人が起訴して,そして予審判事が裁判を受けるかどうかを決めるという構造であるかと思うのですが,先生の言われている,告訴したために起訴されたというのは,裁判所が裁判を受け付けたかどうかという話であって,日本のような検察官の起訴とは全く概念が違うという理解でよいのかどうかの確認,その3点です。 ○佐藤委員 貴重なお話,ありがとうございました。   資料の24ページ以下について,2点質問させていただきたいのですけれども,この欺罔類型ですが,多分,本来的には英語のサプライズを意味する単語だと思うのですけれども,ドイツでも2016年の改正でサプライズ類型,つまりユーバーラッシュング類型が処罰されるようになりまして,本来的には,いきなり触る場合とか,そこからびっくりして動けなくなったような,日本の準強制わいせつ罪に当たるようなものを一部含むような形にもなっているのですが,質問としては,フランス刑法においてもこの「準」類型がここに含まれているのか,サプライズの概念がどんどん広がっていって欺罔まで行ったというイメージで受け取っていいのかということと,その過程にどういう議論があったのかというのが1点目。2点目としまして,欺罔の具体的な内容として一つ例を紹介してくださっているのですが,ほかにも,イギリスとかだと,相手が男性だと思ったらトランスジェンダーの女性だったみたいな,そういう場合も処罰している例とかもあるのですけれども,フランスではほかにどういう欺罔の例があるのかという点についてお聞かせいただければと思います。 ○井田座長 金杉委員も御質問があるようですので,続けて金杉委員,お願いできますか。 ○金杉委員 今日はありがとうございます。   2点ございます。フランス法に対する理解がなくて申し訳ないのですけれども,基本的なことですが,全て欺罔や権限の濫用等についても,被告人の故意は要求されるということでよろしいのでしょうか,ということが1点。   それから,2点目に,運用として,実際,客観的に欺罔があった,あるいは客観的に権限を濫用したということだけではなくて,被告人にその故意があったかどうかということについて争われるケースが見られるかどうかという点について教えていただけますでしょうか。 ○島岡氏 宮田委員の,1番目の,家族に対する侵害は別建てかという質問ですが,別建てです。別の章に規定されています。   それから,2番目の,2018年法と刑法との関係は,2018年法によって刑法が改正されて,その条文が刑法の中に取り込まれたという関係にあります。   それから,3番目の点ですが,先ほどおっしゃっていたとおりです。私人にも告訴権があって,100%それが訴追されますので,それを検察官が形式的に引き取って起訴という形もあると思うんのですけれども,とにかく裁判所が受けたと,予審判事が受けたというこということになります。   次が,佐藤先生の御質問に関して,サプライズに準強制わいせつ罪のような事案が含まれるかですが,不意打ちと訳されていたぐらいで,急に,いきなりレイプするというようなのももちろん入っています。ただ,2001年に,そういうのばかりではなくて,surprendreという元の動詞がだまし取るということだから,よくよく考えればそれは不同意,全体的に考えれば不同意であり,いろいろな偽計等で同意をだまし取ったような場合がむしろここに入るのだということがはっきり示されました。去年の最高裁などもそういう事例だったと思います。だから,余りそういう事例は実は多くなくて,どちらかというと,今までずっと,不起訴だったり無罪になってきたので,フランスでもやはりこういうのは広過ぎるのではないかという議論があったのだけれども,時代が変わってきて,もうちょっと広げる方向にフランスは行っていると思います。   あと,もう一点は何でしたか。 ○佐藤委員 欺罔の内容として,一つ挙げていただいているもの以外にどういうものがあるのかという質問です。 ○島岡氏 今言ったような,驚いたような場合とか,準強制性交等に当たるようなものは,ずっと入っていました。医療者がだまして患者をレイプしたりとか,教会の牧師による虐待のような,日本でもよく言われているようなものが入っていました。  次に,金杉先生の御質問に対してですが,もちろん故意犯です,この性的侵害罪は。だから,偽計も故意が必要です。それを争うというのは,もちろんフランスでもあります。ただ,日本と比べると,やはり裁判官が,いや,これは無理もないよねと考えて加害者側に行くのか,それとも,それは通らないだろうと考えて被害者側に行くのかという違いがフランスと日本の大きな違いではないかと思うのです。幾ら本人が知らなかったとか,同意だったと思ったと主張しても,やはり故意の認定は,別に主観ではなくて,客観的状況を踏まえた裁判官による認定ですから,いや,こういう状況で,先ほどの68歳の男性とか,目隠しして,それで何人もやっているではないか,それで自分は知らなかった,同意だったとか言うのはおかしいだろうというふうに裁判官が考えてそれを有罪にするという点が日本と違う。故意犯であっても,故意ではなかったという言い訳をなかなか聞かないというところが違うと思っています。 ○井田座長 ありがとうございます。橋爪委員,お願いします。 ○橋爪委員 本日はありがとうございます。1点だけ,簡単に質問させていただきます。未成年に対する性行為の処罰ですが,222-22-1条第3項は,15歳未満の者に対する性行為を一律に処罰しているわけではなくて,弁別能力を有しない被害者の脆弱性の濫用が認められる場合に限って処罰をしていると理解いたしました。これらの要件は検察官が証明するのでしょうか。つまり,弁別能力や濫用性の有無については,原則どおり,検察官が証明責任を負うという理解でよろしいでしょうか。   他方で,227-25条では,15歳未満の者に対する性行為の全てが一律に処罰されているように見えます。弁別能力や濫用性の有無にかかわらず,例えば,真摯に交際しているケースであっても,本条の罪は成立するという理解でよろしいでしょうか。 ○島岡氏 最初の質問ですけれども,検察官が証明するのが原則なのですけれども,このような規定ができた,222-22-1条第3項なんかは,やはりそれを緩和する事実上の効果があるというふうに言われています。つまり,推定規定のようになっているので,それは,心理的強制や欺罔が弱くても,被害者に及ぼす権限とか年齢を踏まえ,15歳未満の場合は,そういう脆弱性の濫用があるというふうに推定されるというか。ただ,はっきりと挙証責任の転換と言っていないところがフランス刑法の両方に配慮しているところで,両説あるんですね,これは推定規定だから加害者側が立証しなければいけないのだという学説と,いや,検察官がこれも証明するのだというのと,両方あるのです。なので,ちょっと,どっちかというのは申し上げられないということです。   2番目の点ですが,やはり性的侵害は軽い類型なので,これは一律に,手段要件なくても処罰するというふうになっています。 ○井田座長 よろしいでしょうか。これで終了とさせていただきたいと思います。   島岡先生には,本日,お忙しいところ,先進的なフランス刑法の規定について,大変明解な,分かりやすい御説明をいただきまして,また,資料も充実したものを頂きまして,誠にありがとうございました。お話しいただいた内容につきましては,今後の議論に役立たせていただきたいと思います。検討会を代表して重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました。 ○井田座長 3番目の方は原田隆之様です。加害者臨床の観点からお話しいただきます。   原田先生には,本日,お忙しいところ,お時間を割いていただきまして,誠にありがとうございます。検討会の座長をしております井田と申します。よろしくお願いします。ヒアリングに御協力いただきまして,心から感謝申し上げます。   まず,原田先生から15分程度お話をいただきまして,その後,委員の方から質問があれば,10分ほど質問させていただくという進め方で行きたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○原田氏 ただ今,御紹介にあずかりました原田と申します。今日はこのような大変貴重な機会にお話しさせていただきますこと,非常に有り難く思っております。   今,御紹介がありましたように,私は,性犯罪の加害者に対する臨床を長いことやっておりまして,法務省での性犯罪の再犯防止プログラムの策定,もう15年前になりますけれども,それに関わったり,あるいは,今は民間のクリニックで性犯罪者の人たちの治療を行っております。その中から幾つかお話をしたいと思います。盛りだくさんになっておりますので,早口になりますけれども,御容赦ください。齋藤先生からあらかじめ御質問いただいておりますので,それも盛り込んでスライドを作っております。   【性犯罪者の現状:スライド2枚目】(以下,原田氏発言部分中の【 】内は,全て同資料のスライド番号)内容は三つなのですけれども,まず,性犯罪者の実態ということで,加害者のいろいろな問題点ですとか特徴についてお話をします。これは一般的なお話になりますので,その後,少々,多様性があるのだといったこともお話ししたいと思います。三つ目は,今,私が実際やっております再犯防止の取組なのですけれども,これは,本検討会の議題とは少々外れますし,時間もありませんので,資料を御覧いただければ,それでよろしいかと思います。お話をする時間は,ちょっとないように思います。   【スライド4枚目】では,まず,性犯罪者の実態ということでお話をいたします。これは,私が現在病院で治療しております人たち,全体で167名のデータなのですけれども,比較的軽微な,といいますか,刑法ではなくて条例違反の人が多く,例えば,痴漢が40%弱です。それから,風俗というのは,風俗店通いがやめられなくて,いろいろ生活に支障を来している,借金ができたりしているという方,これは,犯罪ではないわけです。「痴漢」と「その他」というところに,一部,刑法犯,強制性交であったりとか,小児性愛であったりとか,そういった人たちが含まれている,こういう内訳になっております。   【スライド5枚目】この人たちのバックグラウンドの変数を見てみますと,例えば,年齢は大体30代半ば,全体で30代,40代の方が4割近くを占めるという状況で,それから,大卒の人の割合が大体50%程度ということです。それから,フルタイムで仕事をしている方が3分の1程度になりますが,これは,事件をきっかけに解雇されたという人が多いので,このような割合になっております。次の,「婚姻状態(未婚)」と書いてあるのですけれども,これは,今,婚姻状態にないという方です。これが7割を占めておりますのも,事件を機に離婚に至ったというケースが非常に多いということです。それから,前科があるという方も7割に上っております。次の重複障害,これは,いろいろな精神的な疾患があるという方で,数パーセントぐらいおられる。それから,痴漢が一番の問題行動であるという方が4割。初発の年齢は,結構早くて,20代前半ということです。最後の「Static(スタティック)-99(ナインティナイン)」というのは,今日お話できませんが,性犯罪者の再犯リスク,これを我々が開発して数値化できる,そういったアセスメントのツールがあるわけですけれども,そのスコアが平均で3点以上,大体,低から高リスクという,再犯リスクがその程度という人が平均しているということになります。   【スライド6枚目】この加害者に共通する性犯罪のリスクファクターというものも,我々はいろいろな研究で導き出しているわけなのですけれども,これは,まず,本質的には,一般の犯罪と大きく変わらないということが分かっています。例えば,性犯罪をする人の中には,再犯で別の,窃盗であったり傷害であったりという,そういう犯罪に及ぶ人も相当な数いるわけですし,ほかのいろいろなリスクファクターは,かなり,ほかの犯罪者,一般犯罪者と変わらないです。ただ,性犯罪特有のリスクファクターもあります。これは,この後,詳しくお話をするところなのですけれども,例えば,よく認知のゆがみなどということを申しますけれども,性的な認知が逸脱している,あるいは性的な衝動に逸脱がある。これは,例えば,同意をしないような暴力的な性犯罪であったり,子供に対する性的な衝動であったり,そういったいろいろな性的なファンタジーや衝動を持っているというところが,性犯罪特有のリスクファクターであると言えるかと思います。   【スライド7枚目】このスライドは,一般犯罪のリスクファクターということなのですけれども,主なもので八つあります。これを,セントラルエイトというふうに犯罪心理学では呼ぶわけですけれども,こういう八つが,一般犯罪にも性犯罪にも共通するリスクであるということです。過去の犯罪歴とか,パーソナリティとか,本人の価値観とか態度ですね。それから仲間関係。それと家族の質,教育や雇用,薬物使用,これはアルコールも含みます。あとは,健全な余暇の活用ができないこと。この八つが,主なリスクになるわけなのですけれども,今日は,特に心理学的な,このパーソナリティについて焦点を当ててお話ししたいと思います。   【スライド8枚目】パーソナリティというのは,心理学では主に三つの要素に分けるのですけれども,行動と情緒,それと認知,この三つです。一般犯罪,性犯罪を問わず,反社会的なパーソナリティというものがリスクになるということですけれども,その中の行動的な特徴としては,社会のルールを軽視して,これを破ることにためらいがないということであったりとか,衝動性,無責任性,虚偽性,うそをつくということですね,こういったことが挙げられます。   それから,感情面の特徴としては,冷酷であって,残忍性があったり,あるいは,共感性の欠如,これは,性犯罪者にも非常に目立つ特徴で,相手の気持ちが分からないということですね。あとは,良心の呵責も欠如しているというところも挙げられようかと思います。   それと,先ほど申しました,この認知のゆがみ,認知の特徴としては,先ほどもありましたけれども,社会規範の軽視,これは,要は,本人の頭の中でも社会規範,ルールというものを重要視しないという,ちょっとぐらいは破ってもいいのではないか,見つからなければいいのではないか,こういう考え方,認知をするということです。あるいは,暴力に対しても非常にハードルが低い,暴力を容認するような価値観とか物事の捉え方をする。それと,敵意帰属バイアスといいますけれども,他者の何げない言動に敵意をたやすく感じてしまうという傾向もあります。反社会的な認知のゆがみというところは,特に性犯罪の場合は問題になってくるわけです。   【スライド9枚目】では,この性犯罪者の認知のゆがみにはどういうものがあるのかというのを,もう少し具体的に御説明します。それが,このスライドなのですけれども,よく,加害者は,こういったことを言うわけです。向こうも望んでいたとか,向こうから誘ってきたのだとか,あるいは,露出の多い服を着ているのは,誘っている証拠だとか,あるいは,食事に応じたということは,もうその後,性交渉をしてもオーケーという意味だとか,こんなにも酒を飲んでいるのは向こうが望んでいるのだとか,嫌だと言わないのは同意のサインだとか,嫌と言っても,別に言葉の上だけだというふうに捉えたり,あるいは,女性というものはもともと襲われたい願望を持っているだとか,親密な間柄であればもうセックスをしてもいいのだとか,それから,一度セックスをしてしまえばこっちのものだという考え方ですとか,子供にも性的な欲求があるのだとか,こういう,人によって様々ですけれども,いろいろなゆがんだ認知というものを持っているということがいえます。   【スライド10枚目】それで,ここで私が強調したいのは,こういったものは,もちろん性犯罪者特有なのですけれども,やはり,一部,社会の中にも,こういったゆがんだ認知が共有されている,場合によっては,法執行機関ですとか司法関係者の中にも,こういう認知をある程度共有している人がいるかもしれないということです。例えば,世間でも,被害者を責めたりとか,あるいは多少のことで騒ぎ立てるなと言ったりとか,もっと抵抗すべきだったのではないかとか,今頃になって何で騒ぎ立てるのかとか,あるいは,被害者というのはよくうそを言うのだと。実際,うその申告とか,あるいは,大げさに被害を言うという人もいるのですけれども,ごく少数であって,これは,別に性犯罪に限ったことではなくて,ほかの犯罪も同様だということも分かってきています。まさに,この本当にごく少数の人たちであるわけですけれども,それを一般化してしまうということです。ですから,今後,例えば,刑法の改正で不同意性交罪などができたとしても,それに対して,先ほど申し上げたような加害者の心理状態,それから,一般の人の心理状態,こういったものをよく理解して,一般の人にもこういうものを啓発するということが重要なのではないかというふうに考えます。   【スライド11枚目】そして,犯行に至る際の心理なのですけれども,やはり,加害者といえども,発覚を恐れるというのは当然のことです。そして,加害行為を成功裏に遂行するために,いろいろなことを行います。それが,主なものを三つ書いてありますけれども,段階的な犯行,それから,被害者の選択や関係作りということ,それから,中和や合理化ということです。これを簡単に御説明します。   【スライド12枚目】まず,段階的な犯行というのは,これは,全員が全員そうではないのですけれども,軽微な犯行から徐々にエスカレートしていくことです。言葉は悪いですけれども,比較的軽微な行動でまず犯行を練習してみる,これでばれなかった,では,大丈夫だということでまた次へ進んでいって,より刺激的な行動を求めるという傾向が,一部の人にはあります。   そして,その中で,自分の中で成功した性行為を反芻するといいますか,その後でも何度も思い返して,それでマスターベーションしたりとか,ファンタジーにふけるということがあるわけです。ほかにも,アダルトサイトなどで自分のそのファンタジーを強めていくという,そういった傾向もあります。このアダルトサイトとかポルノというものは,犯罪自体を喚起するというよりは,もともとそういった認知のゆがみであるとか,犯罪傾向がある人を,より実行に至らせるリスクが大きいということが言われています。   それから,先ほどセントラルエイトで申しましたけれども,仲間集団がいることが,よりリスクを高めます。これは,現実の仲間関係ということもありますけれども,オンラインでいろいろ情報交換をしたりとか,あるいは,自分の犯行を自慢したりとか,こういう仲間がいることは,非常に危険であるということが言えます。   【スライド13枚目】それから,被害者の選択ということに関しましては,やはり,多くの場合,見知らぬ人に加害行為をするというよりは,何らかの関係性を作る,その関係性の中で加害をするということが,非常に多いということも分かっています。そこで,被害者の弱みに付け込むということがあるわけですけれども,例えば,何らかの障害を持っている方にその障害に付け込んで加害行為をするとか,あるいは,未成年者,十分な判断力のない子供に付け込むとか,それから,自分の力関係や社会的な立場を悪用したり,あるいは,被暗示性の強い相手,非常に自分の言いなりになりそうな人を上手に見分けて,そして,一種のマインドコントロールのような形で相手が抵抗できないようにする,心理的な支配をするということです。それから,おとなしい相手とか,セックスワーカーといった人たち,そういう人たちの弱みに付け込むということも,よくあるケースです。そうすると,この場合も,そもそも被害者には同意ができないということ,それから,はたから見ると,一見,同意をしているけれども,それが本当に自由意思による同意なのかということが,極めて疑わしい場合もあります。こういうところも,それぞれの事件の中できちんと見ていかなければ,その同意というものの意味を取り違えてしまう。そういう危険があるのではないかというふうに考えています。   【スライド14枚目】この多様性ということなのですが,【スライド15枚目】たくさん列挙しましたけれども,認知のゆがみには,二つぐらいのパターンがあるということも分かっております。これは,本人が心からそう思っているというか,心理的には病理が非常に深いわけなのですけれども,先ほど言ったような,相手が悪いのだとか,相手が誘っているのだということを,本心からそう思い込んでいるような場合があるわけです。そうすると,取調べとか裁判の過程で,本人はそういうふうに言うわけですけれども,本心からそう思っているわけですから,非常に迫真があって,周りも,「ああ,そうなんだ。」というふうにだまされてしまうケースというのはすごく多いのではないかと。こういうタイプは,相手の表情やノンバーバルなサインが伝わらない,相手が嫌がっていたり恐怖を感じていたりとかしても,それ自体も分からないというタイプがいます。   もう一つの中和の技術というのは,自分の罪悪感を中和するというタイプですけれども,自分が悪いことをしているということを分かっていて,それを意識的に,あるいは,無意識的に打ち消そうとして,先ほどの認知のゆがみを悪用するというタイプもあります。   【スライド16枚目】非常にリスクの高い性犯罪者の中には,先ほども少し言いました,相手の表情が分からない,恐怖とか不快とか拒絶みたいなものの表情が分からない。我々一般の人々は,それが分かれば,自分の暴力的な行為にストップがかかるというふうな,脳の仕組みができているわけですけれども,特に粗暴な犯罪者の中には,そもそも相手の表情を読み取れない,そして,ストップがかからないというふうな,これは,共感性の欠如とも言えると思いますけれども,そういった脳機能の異常があるのだということも言われているわけです。   【スライド17枚目】このように,いろいろな性犯罪者のタイプ,特にこの四つに分けた中で,上の二つは,割と自分の問題にも気づいていて,もう性犯罪をやめたいと思っている。病院に通ってこられている方は,上の二つのタイプだと思いますけれども,下の二つのように,パーソナリティやいろいろなゆがみが大きくて,なかなか治そうとも思わないし,そもそも,自分が間違っているとも思わない,こういうタイプもいる。これが,もちろん,よりリスクが高いということになるわけです。   非常に早口で駆け足になりましたけれども,以上で用意していましたプレゼンテーションは終了いたします。 ○井田座長 先生,ありがとうございました。   それでは,委員の中で御質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○齋藤委員 原田先生,今日は本当に貴重なお話をありがとうございました。   1点お伺いしたいのですけれども,先ほど加害者は被害者について,未成年者であるとか,マインドコントロールしやすそうな相手であるとかを選んでいるというお話がありましたが,これは,加害者は,自分がその人を利用しやすそうだと思って意識的に選んでいるのか,それとも,余り意識していないけれども,結果的にそういう人たちを選んでしまうのかというのは,どちらになるのでしょうか。 ○原田氏 ありがとうございます。これも,やはり性犯罪者の多様性ということになるかと思いますけれども,例えば,痴漢をするような人は,周りにたくさん人がいる場面でやるわけですから,なかなか発覚しそうにない相手,おとなしそうな人,制服を着ている学生さんのような人を,やはり,意識的に選ぶということが多いかと思います。性犯罪者と接したときに,その者から言われるのは,やはり,「自分の好みの相手がいた。」とか,「おとなしそうな人がいたから。」というふうな,これは無意識的にではあっても,やはり,何らかの選択をしているのだろうということで,ただ,もちろん無意識的にという場合もありますけれども,やはり,多くの場合は,何らかの選択ということが働いているし,ここで関係作りということを申しましたけれども,性犯罪に至る前に,言葉は悪いですけれども,そのターゲットを定めて,そして,いきなりというわけではなくて,それなりの人間関係をある程度作った上でということもかなりあるかと思いますので,多くのケースにおいて,こういうふうな,無意識的にではあるかもしれませんが,被害者の選択ということはなされているのではないかなというふうに考えます。 ○宮田委員 どうもありがとうございました。一つ質問させていただきます。認知のゆがみのパターンについて御説明をいただきました,情緒的に非常に問題があるタイプについて,感情が動かない,共感性の欠如,あるいは表情を読み取れないという原因として考えられるもの,先生のレジュメの中には,大脳辺縁系の扁桃体の機能異常ということを書かれていましたけれども,私たちが弁護をやっていて感じるのが,発達障害,知的障害があるケース,あるいは加害者自身が虐待を受けるなどして,共感性が非常に乏しくなってしまっているケースを見たりするのです。認知のゆがみで,本心からそう思っているタイプの,認知のゆがみが生じる原因について,もう少し詳しく教えていただければと思い,質問させていただきました。 ○原田氏 これも,やはり,今,先生も幾つか列挙されたように,非常に多様であると思います。一番重いケースを私は申し上げたのですけれども,これは,ある程度生来的なものになりますが,あるいは,虐待とかそういったところでも生じるかと思いますけれども,大脳辺縁系の機能異常ということですね。これは,一番重いケースであって,そうではなくても,例えば,その本人が生育していく中で,孤立していて人との深い接触がないという場合にも,なかなか表情を読み取れない,共感性が育たないということもあります。ですから,これも本当にグラデーションみたいな形になっておりまして,一番重いのが,そもそもの脳の機能障害があるというタイプで,そこから,いろいろ,発達障害の方であったりとか,あるいは,病的なものはないけれども,非常に対人関係が苦手で人との接触がなかったからそれが育たなかったという,いろいろな原因なり,パターンなりがあるかと思います。 ○金杉委員 本日はありがとうございます。一点質問です。性犯罪の重罰化や,あるいは,これまで刑罰とされていなかった行為が刑罰化されるということに抑止力があるかどうかという観点から,教えていただきたいと思います。加害者が発覚を恐れて,加害行為を成功させるために様々なことを行うというお話がありましたけれども,その発覚を恐れるという部分に,刑罰を受けることを恐れてという意識が加害行為の当時に加害者にあるのかどうか,先生が臨床の経験の中で,その点を意識されているな,あるいは平成29年の改正によって刑が重くなった,だからますますやめないといけないのだというようなことがあったかどうか,その点についてお聞かせいただけますでしょうか。 ○原田氏 これも,やはり,グラデーションがあるといいますか,やはり,一番重い,非常に心理的な問題の大きな人は,もちろん頭の中で分かっていても,自分は大丈夫だというふうな,これも一種の認知のゆがみですけれども,見つからないだろう,うまくやれば大丈夫だろうということで,非常に刑というものを軽く考える。なかなか発覚しないだろうと。発覚を恐れていろいろなことはやるのですけれども,それでも発覚しないだろうという,非常に悪い意味の楽観性みたいなものが,やはり,問題性が大きくなるほど強くなるかと思います。ですから,こういう人ほどなかなか抑止力というものが効きづらいという面も,残念ですが,あるかというふうに思います。 ○山本委員 貴重なお話をありがとうございました。資料の15ページの認知のゆがみのパターンについてお伺いしたいと思います。本心からそう思っているタイプで,相手の意図を理解できない場合,加害者は同意だと思っている,それが,加害者の誤解であっても,加害者は本心からそう思っていて,被害を受けた人にとっては全く同意もなく強制されているものとして扱われたというようなことである場合,たとえ裁判にかけられて有罪になったり無罪になったりしても,本人の中では認識は変わらない,変わり続けられないものなのか,それとも,裁判や治療教育などの結果,認識が変わっていく可能性があるのかということについて,お伺いしたいと思いました。 ○原田氏 やはり,先ほどから申し上げているようなグラデーションの一番重いタイプ,この人たちは,例えば,反社会性パーソナリティ障害であったり,サイコパスというふうな,そういう診断もつくようなタイプの人であれば,なかなか今おっしゃったような問題性の変容というものは,現時点では非常に難しいという現状がございます。ただ,そういった人たちは数としては極めて少ないので,それ以外の人,先ほど発表の中では飛ばしてしまったのですけれども,例えば,共感性とか表情を読み取るスキルというものは,ある程度,教育は可能です。   ですから,これも今日お話しできなかったところですけれども,刑罰に加えて,刑務所の中,あるいは,外に出てから,何らかの治療を施すということ,それによってこの本人の問題性をなくしていかなければ,なかなか再犯というものは防止できないというふうに,私はかねがね考えております。その点で,非常に問題性が重い一部の人を除けば,この問題性の改善というものは,時間はかかるケースもありますけれども,ある程度はできるのではないかというふうに思います。 ○山本委員 ありがとうございます。加害者にとって,性加害が利益のある行動であるうちは,なかなかその行為を手放すことが難しいかなと思いました。出所した後の治療や,見つかった後の治療が大事ということは,そこで,性加害行動を手放した方がよいという加害者にとってのベネフィットが与えられ続けていくことが重要ということで理解してもよろしいでしょうか。 ○原田氏 そうですね,おっしゃるとおり,本人の中の価値観であったりとか,そのベネフィットと,プラスとマイナスのいろいろな価値の構造を変えていくということが,非常に重要になってくるかと思います。 ○上谷委員 分かりやすいお話,ありがとうございました。   先生に頂いたスライドの17枚目なのですけれども,犯行パターンが四つあるのですが,まず,この四つで,下に向かっていくに従って治療が難しいという理解でいいのかというのが1点と,それぞれのパターンについて,割合ですね,何々型は大体何%というのがもし分かれば,教えていただきたいと思います。 ○原田氏 そうですね,下に向かって行くほどというふうな,きれいなグラデーションではないのですけれども,大きく分けて上の二つは,本人の中にも問題性が理解できて,そして,治療に対するモチベーションというものも湧きやすく,下の二つは,難しいタイプであり,この二つの中では,一番下のが,やはり,一番問題性も大きくて,それを改善することも難しいと思います。   割合ということについては,ちゃんとした数字に分けて検討したデータがありませんので,なかなか一概には申し上げられません。やはり,問題性が大きい人は,先ほども少し言いましたけれども,割合にしては,それほど多くないという程度のことしか,今のところは,具体的なデータがありません。 ○井田座長 それでは,時間もまいりましたので,これで終わりとさせていただきたいと思います。   原田先生には,本日,お忙しいところ,私どもにとって大変示唆に富むお話を頂戴いたしまして,誠にありがとうございました。お話しいただいた内容につきましては,今後の議論で大いに活かしていきたいと思っております。検討会を代表して重ねて御礼を申し上げます。ありがとうございました。 ○井田座長 4番目の方は,後藤貞人様です。刑事弁護の観点からお話をいただきます。   後藤先生,本日は,御多用中のところ御出席賜りまして誠にありがとうございます。検討会の座長をしております井田と申します。よろしくお願いいたします。 ○後藤氏 こちらこそよろしくお願いいたします。ありがとうございます。 ○井田座長 ヒアリングに御協力いただき,心から感謝申し上げます。本日は,まず後藤先生から15分ほどお話を頂戴いたしまして,その後,委員の方から質問があれば,10分程度御質問させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○後藤氏 【刑事弁護人の立場から見た各論点への懸念:スライド3枚目】(以下,後藤氏発言部分中の【 】内は,全て同資料のスライド番号。)どのような犯罪でも,無罪を訴える人たちの弁護がたやすかったことは,今まで一件もありませんでした。取り分け,その罪が性犯罪である場合には,最も困難な弁護となります。性犯罪は憎むべき犯罪です。起訴される事件の多くは,被告人とされた人自身が犯行を認める事件です。しかし,「私は無罪です。」と訴える依頼人がいます。そして,その訴えが真実ではないかと思われる事件があります。ところが,そのような依頼人を救うのは至難の業です。その困難さを理解してもらうために,私が弁護人となった例を簡単に紹介したいと思います。   【スライド4枚目】ある少女が,14歳のときに,同居の親族から強姦や強制わいせつをされたと告訴しました。少女によれば,11歳のときから強姦や強制わいせつをされていたというのです。依頼人は,「架空の話だ。私はそんなことはやっていない。」と強く否定していました。   【スライド5枚目】一審判決は,ここに記載したとおりです。弱冠14歳の少女がありもしない被害をでっち上げてまで告訴するということ自体,非常に考えにくい。そして,そのような希有なことがあるとすれば,特殊な事情がなければならないけれども,本件全証拠を子細に検討しても,そのような事情は一切認められない,こう言われたのです。   【スライド6枚目】そして,言語道断な犯行を犯しながら被害者を誹謗中傷していると強い口調で非難いたしました。懲役12年の判決でした。   【スライド7枚目】控訴審判決も同じでした。上告審は三行半でした。判決確定から3年後,少女は成長いたしました。そして,強姦や強制わいせつが虚偽であったことを,親族に告白します。彼女は,私にこういうふうに説明してくれました。どうして虚偽の話をするようになったのか。実は,おばに,依頼人からお尻を触られた,依頼人本人に聞いてみると,実際は叩いたということですけれども,そういうふうに言ったところ,それを伝え聞いた母親から,ほかにされたことはないか,ないかと責め立てられて,だんだんと強制わいせつや強姦をされたことになったと説明してくれました。   再審の申立てをしました。検察官の調査によっても,動かし難い証拠があったとされ,それで少女の被害申告が虚偽であったことが明白になりました。逮捕から6年半後,ようやく依頼人は刑務所から出ることができました。   もう一つ,ある会社の課長代理による業務提携先の従業員に対する監禁強制わいせつ事件とされる事件がありました。仕事上優位な立場にあることを利用して脅したり,腕をつかんで引っ張るなどしてラブホテルに連れ込んで監禁し,その室内で強制わいせつ致傷をしたとして起訴されました。依頼人は,否定していました。第一審の判決は監禁罪,強制わいせつ致傷罪ともに有罪でした。腕をつかんで引っ張って連れ込んだ様子に関するホテルの従業員の証言もありました。   控訴審で別の従業員が証言しました。ホテルの入口でもめていたら鳴り続けていたはずのブザーが,その日,それほど鳴り続けていなかったということを,その日のフロント係が明らかにしてくれました。控訴審判決は,出勤表,従業員の証言等を基に,被害者の供述に誇張の疑いを認めました。そして,監禁罪を無罪としました。しかし,室内での強制わいせつ致傷罪は一審のままでした。   【スライド8枚目】二つの事件は何を教えているのか。少女の事件は,存在しなかった強姦が刑事事件とされることもあり得ることを教えています。そして,それが全くのうそであったとしても,一旦少女によって語られると,そのうそを見抜けないことを示しています。起訴した検察官,そして,地裁,高裁,最高裁,合計12名もの検察官と裁判官が少女のうそを見抜けなかった,そういうことです。ホテルへの監禁の疑いがあるとされた事件は,被害者が誇張をして申告することがあり得ることを教えています。うそや誇張で有罪となってしまった人がこの2人だけだとは到底思えません。どのような犯罪でもえん罪がありますけれども,性犯罪もその例外ではないのです。   【スライド9枚目】次に,不同意性交罪についてお話ししたいと思います。   【スライド10枚目】暴行・脅迫は,内心の出来事ではありません。被害者が認識できます。加害者も認識できます。しかし,内心は外部には見えません。【スライド11枚目】内心が不同意でも気付けない場合があります。事実は不同意だったのだと内心についてうそをつかれても,証拠に基づく反論が困難です。外部的な行為の存否ではなくて,内心だけで決することは,えん罪を生む危険性があります。   【スライド12枚目】それでは,不同意の内心を外部に表示した場合は,暴行や脅迫と同じかというのが次の問題です。注意すべきは,不同意を表す言葉は,暴行や脅迫のようにそれ自体が犯罪であると何人にも認識されるような行為と同質ではありません。不同意性交罪は,犯罪の成立を被害者の内心に係らせようとするものです。【スライド13枚目】人の内心ですから,受け入れるという気持ちと受け入れたくないという気持ちが同時に存在したり,条件付きで受け入れるという気持ちになっているときの条件が曖昧であったり,出来事の途中に気持ちが変化することもあります。もし,不同意性交が罪とされるようになると,同意の有無について客観的な証拠が乏しい事案がむしろ多くなることが想定されます。客観的な証拠が不十分であるにもかかわらず,検察官が被害者の供述を信用して起訴に踏み切る,そして,裁判官も同様に被害者の供述を信用し,被告人の供述の信用性を否定して有罪とする危険は少なくないと思われるのです。少女の事件は,そのことを示しています。   【スライド14枚目】次に監護者要件の緩和についてお話をしたいと思います。   【スライド15枚目】スポーツのコーチと選手,学校の教師と学生,職場の上司と部下等の一定の関係性がある場合に,その関係性を利用して性的行為に及ぶことは相当数ある,そうだとは思います。ただし,関係を利用するといっても,その利用は千差万別です。これらの人の間に,恋愛感情が生じることもあるのです。暴行・脅迫要件を外した上で,このような関係性に伴う影響力に乗じたというだけでその性的行為を犯罪とすれば,処罰の対象は広がるでしょう。その関係にある人が合意の上で性的行為をしたと思っていても,関係性に乗じて性的行為をされたと申告され,起訴されると,関係性は簡単に立証されます。そうすると,実際の裁判では,その行為が関係性を利用していないことを被告人とされた側が立証しなければならない,そうなります。立証責任が,被告人・弁護側に移るようなものです。   前回の改正で,監護する者が影響力に乗じた場合に限定しました。監護者,例えば親の,被監護者,例えば子に対する性交は,類型的に不同意が推認される,あるいは擬制されると言った方が正確かもしれません,そういう関係にあります。しかし,これに対して,コーチや教師の場合はそうとはいえません。   【スライド16枚目】次に,司法面接についてお話をしたいと思います。   【スライド17枚目】司法面接には,大きくいうと二つの問題があります。一つは,そもそも司法面接が理想的であり得るのかという問題です。もう一つは,司法面接を主尋問に代替すると,主尋問と反対尋問が同時にされないということが起こります。これが弁護上どういう問題を起こすか,事実認定上どういう問題を起こすかは,深刻な問題だと思われます。   【スライド18枚目】実際にどういうふうな司法面接が今までの裁判に表れているかということを,簡単に御紹介したいと思います。もちろん,出来事のあった3日後にされた優れた例も紹介されています。しかし,司法面接まがいと酷評されているのも出てきているのです。問題は,事前にある程度,警察官が捜査をすることです。そういう捜査情報を知った検察官が面接をします。そのときに,検察官は,客観的証拠と違っていたらすり合わせをしようとする,矛盾部分が生じたときにそれを修正しようとする,そういうことがどうしても起こってしまう,そういう実例が報告されています。   【スライド19枚目】それでは,理想的な司法面接は実現できるかです。ちょっと考えてみたら分かるのですけれども,年少者が強姦の被害に遭ったとします。多くの場合,その被害は,最も身近な母親等に相談するでしょう。相談をされた母親が何をされたかを聞くはずです。再審無罪となった少女の事件の母親がその例です。面接までに汚染が避け難いのです。汚染と言って,皆さん,お分かりいただけると思います。しかも,この司法面接以前の状況が可視化される保証はどこにもないのです。司法面接自体を考えても,幾らプロトコールを厳密に定めても,それが守られる保証はありません。裁判所に表れた司法面接なるものの実情は,先に触れたとおりです。そもそも,中立的な機関ではなく捜査官が,その捜査官のうちの検察官が行う司法面接なるものが,公正なものかという問題もあると思われます。   【スライド20枚目】もう一つの問題は,司法面接の時期と反対尋問の時期が違うことから来ます。通常の刑事裁判では,主尋問のすぐ後に反対尋問をするのが原則です。例えば,「あなたは先ほど何々と言いましたね。本当ですか。本当はこうではありませんか。」,こういうふうに聞いていく。それによって,事実認定者に,この人がうそを言っている,あるいは,この人が客観的な事実と反することを言っている,この人が前に供述したことと違うことを言っている,ほかで言ったことと違うことを言っていることを示す。そういう聞き方が,反対尋問の基本的な技術の一つとされています。   もし,主尋問と反対尋問を同時にしているときに,主尋問で記憶があるとして話していたのに,反対尋問で,「いや,記憶がありません。話したくないです。」と言えば,普通は,それ自体が不自然な供述で,主尋問で言ったことも信用されないということになるでしょう。ところが,主尋問を司法面接で代替すると,反対尋問では,「司法面接時に何を言ったかの記憶がない。」と答えられることも想定されるのです。さらに,「事実そのものの記憶がない。」,「思い出したくない。」,「思い出せない。」という証言になる例も,多数想定されます。反対尋問に対して,「思い出したくない。」と言うだけならまだしも,「今はよく覚えていないけれども,司法面接でありのままのことを話しました。」「思い出したくないから忘れるようにしていたので,今ははっきり言えませんが,司法面接ではありのままのことを話した。」,このように答えることが起こります。これでは,法が予定し裁判制度が予定した,真実をあぶり出すために反対尋問がいかに重要であるかとされている反対尋問が機能いたしません。   【スライド21枚目】司法面接で語られたことが真実であることを前提にすれば,被害者の負担を軽減することになります。それはそうなるべきかもしれません。しかし,真実が語られていない場合は,真実を語っていない負担を軽減すべきではないのです。少女のうそによって,無罪を訴えたけれども,それが言語道断と非難された依頼人は,証人の精神的負担の軽減なるものを受け入れることはできないでしょう。   証人の供述のみによって立証される事実に関する限り,それは,公判で被告人と面と向かい,被告人の存在する場所で証言し,そして,被告人に反対尋問の機会を与えられた証人によってのみなされるべきであるのが原則です。ビデオリンク方式でもその原則に反しないというのが最高裁の判例です。しかし,法廷外の場所で過去に行われた面接をそのまま主尋問として証拠能力を認めるというのは,この原則に反することになる,この原則を否定することになると思います。   訴えられている被害の凄惨さに目を奪われて,被害者に精神的負担をかけまいという思いが,厳しく吟味しないまま信用性を肯定して起訴し,有罪ということにつながるということが否定できません。少女の事件がそのことを示しています。しかし,性犯罪についても虚偽の申告がないと言うことはできません。えん罪が作られても仕方がないと言うことはできないのです。 ○井田座長 ありがとうございました。   それでは,御質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○上谷委員 先生,どうもありがとうございました。   司法面接についてちょっと伺いたいのですけれども,司法面接は,そもそもえん罪がきっかけとなり,えん罪を防ぐためにできた制度と理解しているのですが,今,何度も繰り返し供述調書を取るという手法が取られていることと比較しても,司法面接の方が,記憶の汚染,供述の汚染を防ぐという面では優れているのではないかというふうに私は思っているのですが,先生は司法面接の有用性ということについてはどのようにお考えなのでしょうか。 ○後藤氏 まず,えん罪を防ぐためにというのは,それは少し違うと思うのですよ。二つの意味があるのですね,負担の軽減と,えん罪を防ぐというか,事実を聞くという二つの側面があるのですね。えん罪を防ぐと言われた,そちらの方にしたら,私は,基本的に今の御意見に賛成です。しかし,問題は,それに証拠能力を付与してしまうということなのです。私が申し上げたかったのはそういうことです。司法面接的手法,あるいは司法面接で早い段階で,むしろ捜査官ではなしに他の福祉施設の人などが事情を聞いて,それを基にして,これを刑事事件とすべきかどうか,どういう事件にすべきかどうかというところに使うこと,それは非常にいいことではないか,そういうふうに思います。 ○小島委員 ありがとうございました。まず,性的行為には,自由意思との関係で,暴行・脅迫による性的行為,暴行・脅迫はないけれども相手の明確な拒絶がある場合,拒絶が明確ではない性的行為,完全に合意がある場合と,四つの類型があるのではないかと考えています。先生の今回のお話で,相手による明確な拒絶がある場合の性的行為について,暴行・脅迫という外部的行為がなければ処罰の対象にすべきではないという御意見なのでしょうかというのが第1点です。   それから,第2点としては,拒絶が不明確であったとしても,自由な意思形成を阻害する事由がある場合,例えば,威迫による場合,偽計による場合がある。あるいは,強制された合意による場合。民法学者の内田貴先生はこのような場合を,「強いられた同意」型のセクシュアル・ハラスメントとして類型化しています。いずれも,社会的,法的には有効な合意があるとはいえない場合です。合意が形成されるプロセスに注目すると,合意に瑕疵がある場合には,意に反する性的行為であるといえる。これは違法で不当な行為だと思うのですけれども,このような場合であっても,内心は分からないから,処罰の対象とすべきではないという御意見なのでしょうか,というのが第2点目です。   第3点は,性被害を受ける人々というのはバルネラブルな人,つまり,脆弱性を有する人々がいます。構造的にバルネラブルな人として,子供だとか障害者だとか,セクシュアルマイノリティーの人々だとか,社会関係的にバルネラブルな人として,雇用関係とか教育関係,教師と生徒の関係とか,親子関係,そういうバルネラブルな人々がいる。現行の刑事法の内容や手続では,こういう人々の被害がこぼれ落ちてしまうのではないか,これをやはり刑事法の中にすくい上げて処罰の対象にすべきではないかと思います。   先生は,現行刑法の改正については,えん罪を生む危険があるということで,こういう構造的,関係的バルネラブルな人々の性被害について,刑事法というのはこれを考慮の必要がないということなのか。被疑者・被告人の利益が最優先だというお考えなのか。その辺のところを伺いたいと思います。バルネラブルな人々の立場,状況を考慮に入れた手続こそが適正手続ではないかと考えているので,お答えできる範囲でお話しいただければと思います。 ○後藤氏 前提として,刑事裁判の実務に携わっていて,そういうバルネラブルな人たちが完全に取り残されて,そういう人たちに対する性犯罪が処罰されていないかというと,決してそのようなことはありません。それは,どの本にも書いてありますけれども,暴行・脅迫要件という,外部に明白に分かる要件を満たすかどうかという観点からではあるけれども,目に見えて誰もが暴行・脅迫と思えるようなものでなくても,実際に四囲の状況とかによって暴行と判断できることはあるというのが判例の立場であるし,実務の立場です。   だから,意思が明確でなければ,あるいは明確に外部に表示されていなければ処罰されなくてもいいと私は言っているわけではありません。もちろん,不同意の性交がよくないことは当たり前の話です。倫理的には許されません。しかし,それを内心に係らしめると,どうしても不明確な領域が出てしまう。それを非常に明確にできるのなら,それは考えることはできるでしょうが,どうしても内心をターゲットにすると不明確なところが出てしまうのです。今の刑法は,外をやっているわけですよね。暴行・脅迫。ただし,実際には暴行・脅迫と思えない,例えば,私がやった事件でも,服を脱がせるというのが暴行とされることがありました。普通であれば服を脱がせるというのは性行為に伴うでしょう。自分で脱ぐこともあるでしょうけれども,相手が脱がせることもある。それを暴行だと。それが何で暴行かというと,四囲の事情を見ていったらそうなる,そういうふうに判断されます。それでも,そっちの方がまだしも明確だと。私は,境界が非常に明確な定め方をできるのであればいいけれども,本当にそうなるのかということを考えるべきだとは思います。   それから,2番目のお話は何でしたかね。 ○小島委員 拒絶が不明確であったとしても,相手方の自由な意思形成を阻害するような形で合意が取られる場合,例えば,威迫だとか偽計だとかそういう場合について,合意が形成されるプロセスでいうと,真の合意ではないわけです。そういう場合について,処罰の対象とすべきではないでしょうか。 ○後藤氏 そういう場合であっても,内心を対象にするのではなしに,外部的な行為を対象にして,その中に考慮されるというのは当然出てくると思います。そちらの方がより明確だと僕は言っているのですよ。内心を対象にするか,外部的な行為を対象にするか,どちら側からも近づいていくわけです。内心を対象にするといったって,私は拒否していましたと言っただけで,はい,終わりというわけでは,もちろんないですよね。当時の状況とか,いろいろ出てくるわけです。暴行・脅迫といっても,殴ったり蹴ったりしませんでした,はい,終わりというわけではないのです。そういう意味で,どちらの方が境界が明確になるかということを,私は申し上げているのです。   それから,3番目の点については,一番最初に私が申し上げたとおりです。答えになっているかどうか,よく自信がありませんけれども。 ○小島委員 不同意性交というのはドイツ型を考えていらっしゃるのですか,先生のイメージとしては。 ○後藤氏 いや,ドイツ型でもイギリス型でもありませんけれども。 ○井田座長 あと3人ほどの委員の方の御質問がありますので,まず3人の委員の方に続けて手短に質問していただいた後で,後藤先生にまとめてお答えを頂くということにしたいと思います。   小西先生,川出先生,齋藤先生の順で,御質問をお願いできますでしょうか。 ○小西委員 私は,ちょっと別の観点から伺いたいと思います。虚偽の訴えというのがほかの犯罪と同じぐらいの割合,2%から6%と本には書いてあったりしますけれども,あるというのはそのとおりだと思いますし,そういうものは防がなくてはいけないと思うのですが,この14歳の子供の例は大変バルネラブルであるというふうに思うわけです。私は,精神科医であり,被害者の心理について考えているのですけれども,先ほどもちょっとこの会でお話ししましたが,非常に回避的で,かつ親との関係が微妙で,服従しているところもあり,反抗しているところもあり,事件のことについても,考えるのが嫌だったり,それから,考えるのを避けたり,そういうことが非常に多く起きてくる年齢で,難しいと思うのですね。こういう年齢で,しかも,扱いが困難なケースということになった場合は,その周りにいる全ての人が,やはり,専門家としての知識を持っていないといけないと思うのです。今,司法面接が話題になっていますけれども,司法面接だけではなく,司法面接が万能なわけではありません。それは,単なる法曹資格ということだけではなく,裁判官も検察官も弁護士さんも警察官も含めて,こういう年代の子供で,被害に遭ったかもしれない子供が一体どういう心理にあって,どういう行動をして,どういう言語を使って話すのか。それから,どういうことに脆弱なのかということを知らなくてはいけないと思うのです。実際に専門の人が必要だとするようなガイドラインなどもございますね。そうだとすると,そのことについて,こういう専門の人たちを準備するということについて,先生がどう思われるかということと,こういう困難なケースについて,弁護士会でどういうふうに専門的な研修をしていらっしゃるのかということについて伺いたいと思います。 ○川出委員 後藤先生,どうもありがとうございました。司法面接に関して,1点お伺いしたいと思います。スライド資料の中で,司法面接を主尋問に代えると,信用性判断に必要な反対尋問ができないということをお書きになっておられます。司法面接の対象となるような年少者については,時間がたってしまうとよく覚えていないという事態が生じるということが,司法面接という手法がとられる理由の一つとして挙げられます。そうだとしますと,そのような年少者について,主尋問を仮にやったとしても,スライド資料の反対尋問のところに書かれているような,結局よく覚えていないというふうな答えにならざるをえないように思います。そうではなく,そのような答えになるのをを避けようとすれば,証人となる年少者に主尋問前に司法面接の録音・録画記録を見てもらって,記憶を喚起してもらうことになりますが,その場合,証人は,過去の出来事について記憶を喚起するというよりも,録音・録画記録に記録されていることを自分が言ったということを思い出して主尋問に答えるということになるように思います。そうすると,前者のように,主尋問で覚えていないという答えをした場合は,結局,2号後段で録音・録画記録が出てくるということになるでしょうし,後者の場合は,主尋問では,録音・録画記録どおりのことを証言するわけですから,いずれの場合も,結局,司法面接の結果を主尋問に代えているのと実質は同じことになってしまうように思います。そうだとしますと,反対尋問の有効性という観点から見て,司法面接が行われた事案で,主尋問を行うことが,司法面接の結果を主尋問に代えることとどのように違うのか,弁護人のお立場から,お考えを聞かせていただければと思います。 ○齋藤委員 貴重なお話を本当にありがとうございました。質問の観点は,小西委員と大分似ているかなと思うのですけれども,質問の前に1点お伝えさせてください。先ほど,脆弱性のある人たちが取り残されているかというと,そうではないというお話もありましたが,支援側からすると,取り残されている事案をたくさん知っております。そして,多くの事案が取り残されていることは,司法判断について個人の判断で境界が変わっているところによるのではと思うので,もっと境界について,明確な要件を他にも具体的に考えていきたいということについては共通しているのではないかなということを感じました。14歳の少女の事件について繰り返しお話をされておりましたけれども,これは前回の刑法改正より以前の事件で,ということは,刑法というよりは手続の問題が大きかったのではないかと考えるのですが,小西委員がおっしゃっていたように,きちんと知識を持って関わるということも大事でしょうし,それ以外にこういう手続があったならとか,こういうことが違ったならばえん罪が防げるのではないかということについては,どのようにお考えでしょうか。 ○後藤氏 手続的な,私の最も専門とする領域の話からしたいと思います。川出先生のお話ですけれども,これは,結局,どういう視点で見るかですよ。私は弁護士です。弁護人です。国家から一人の人が,私は無実なのに,それを有罪だとされて逮捕され,起訴されている。その人をいかに救うか,その場面で,反対尋問をきちんとやれるかという問題です。先生がおっしゃるように,年少者が司法面接から時を経て,主尋問でよく覚えていないと言われることはもちろんあるでしょう。しかし,それは誰の問題ですか。被告人の責任ではありませんよ。被告人が責めを負うべきではありませんよ。それを2号後段書面で出てくるではないか,そう言われますけれども,それ自体,私は強い懸念を持っています。2号後段でそんな簡単に出てきていいのかと。そもそも,我が国で,2号後段でどれだけのえん罪が生まれているかと,私はそう思いますよ。生まれていると思いますよ。そういう問題があると。   それから,さらに,司法面接と称して非常に優れた,例えば,仲真紀子先生が司法面接をやってくれて,それを見せてくれたら,「ああ,これは分かった。」「君,それは駄目だね。」「あなたは,これ,争っているけれども,やはり,こっちの方が本当ではないか。」と言って,本人とも話はできることもあります。しかし,どんな司法面接でもそうかというと,決して,そうではないです。だから,2号後段書面で出てきたら,その特信情況を争うということになると思います。それは汚染の問題であったり,面接の手法であると思います。   しかし,少なくとも主尋問として初めから証拠能力があるのと,よく分からない,覚えていないと言って,特信情況について争われてそれが出てくるのでは,全然証拠としての価値が違うと思うのですよ。だから,私は主尋問に代替するなんてとんでもない,それは,あなたがやったと指弾するその人の前で,本当に私の目の前で私を罪に陥れるうその話をあなたはできるのかという被告人の権利,古典的な権利,それから遠く離れてしまうのではないか。もちろん,年少者,それで弱い人を保護するというのは大事なことです。私は,それは全然反対しません。そうすべきです。社会全体がそうすべきです。しかし,ありもしない架空の事実で指弾されて懲役何年も行かねばならない人に,どうしてそれを,あなたは我慢しなさいと言うべきなのですかというのが私の考えです。   それから,最初の御質問に弁護士会でどうするのですかという質問がありました。私も弁護士会の一員です。しかし,それは私の務めではありません。女性を平等にすると,女性を差別しない,あるいは,こういう被害者がいると,不同意性交といわれるような分野における被害者がたくさんおられる,それは分かります。それを何とかしなければならない,援助もしなければならない,そういうことは分かります。しかし,私の申し上げたいのはそういうことではありません。そういうことで話をするのなら,別の話で私の意見もあります。しかし,私が申し上げたいのは,刑法を改正してどうしようか,刑訴法を改正してどうしようかというときに,それが,この少女の事件の依頼人のような人を必ず含んでいる,その人がそのまま有罪とされてしまう,そういうことが更に強まるような制度だけにはしてほしくない,こう思って話をしているのです。   刑事弁護は被告人とされた依頼人を救うとおっしゃいましたけれども,これは,そのとおりなのです。私たちは,それで社会を救うわけではありません。しかし,そういうふうな依頼人,被告人を全力で救うことができる,そういう法制度を持っている社会こそが,私たちが望む社会ではないのでしょうか。ある国へ行けば,被告人の権利なんて全然ないのです。反対尋問権なんてないのです。そうではない法にしてほしいというのが,私の今日申し上げたところです。   それから,最後に齋藤先生がおっしゃいましたけれども,手続の問題としていろいろ改良すべきところがある,それは特に私は捜査というところについて思うのです。だから,司法面接の手法というのを,検察官もちゃんと学んで,初めからそういうふうにしていれば,あるいは,少女のときに初めから心理学者を呼んでこの手続をしていれば,ひょっとしたらうそが見破れたかもしれないのですよ。それから,もう一つは,検察官がもっと客観的な証拠を探していって集めたら,診断書が出てきたのです。病院の診療録も出てきたのです。そういうことをしていないというのがあります。しかし,私がこうすべきだと言っても限界があるのです。だから,私は,飽くまでも被告人とされた人を弁護する立場から,少なくともここは譲ってはいけない,少なくともこうしたら駄目だということを,今日申し上げた。ほかの改良すべき点は,またほかで話をする機会があれば話したいと思います。 ○井田座長 後藤先生,ありがとうございました。時間がまいりましたので,これで終わりとさせていただきたいと思います。   後藤先生には,本日,お忙しいところ,非常に有益なお話をお聞かせいただきまして,誠にありがとうございました。この内容は,今後,検討会の議論に役立たせていただきたいと考えています。代表して御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。 ○後藤氏 こちらこそ,皆さん,ありがとうございました。今後とも慎重な協議をお願いいたします。本当に今日はありがとうございました。 ○井田座長 以上で,本日のヒアリングを終了したいと思います。   次に,今後の議論をどういうふうに進めていくかということについてお諮りいたします。やはり,立ち入った議論に先立って,まずは検討すべき論点を明らかにしておかなければならないと考えます。そこで私の方から御提案いたしたいと思います。第1回の会合でも委員の方々にはいろいろと御意見いただきましたし,それ以前に意見書という形で御意見を頂戴しています。また,前回と今回のヒアリングの過程でも,ヒアリングの対象者から様々な御意見を頂いたところであります。ですので,こうした幅広い多様な御意見を踏まえて,どのように我々が検討すべき論点をまとめていくかにつきましては,非常に難しいことではあると思うのですけれども,私の方で事務当局とも相談の上,論点のリストアップと整理をさせていただき,次回の会合までに論点整理の案を委員の皆様方にお示しして,次回の会合で,ここは要らないのではないか,ここはこういう論点を加えた方がいいのではないかという形で,過不足ある部分につき御検討いただいた上で,論点とすべき事項を確定していくと,こういう段取りで進めていってはいかがというように私は考えております。いかがでしょうか。 ○山本委員 本日のヒアリングを聞いて,私は法律の専門家ではないので,こういうことが話し合われるといいなと思い提案させていただきます。加害者の誤信についてなのですけれども,加害者が誤解したからということで,故意がなかったとして無罪になるという問題がありますよね。先ほどの原田先生のお話で,やはりどうしても認知のゆがみから難しい人がいるということに関して,それをどのように認定していくのかということは,今後の検討会の項目の中で,是非話し合っていければと思ったのですけれども,いかがでしょうか。 ○井田座長 性犯罪の要件を考えていくときには,当然,それに対応する故意がなければいけませんので,故意として,どういう内容のものが要求されることになるのか,あるいは,その要件に当たる事実について誤信,誤解があったときにどのように扱うべきか,これは要件を考える場合には併せて検討すべきテーマです。客観的要件だけ考えて,これに対応する故意のことを一切度外視するということはあり得ませんので,客観的要件の検討の過程で併せて検討されていくのだろうと思っております。今のような御意見も含めて,私どもの方で論点のリストといいますか,整理した案のようなものをお示しして,それで更に御意見をお伺いするという進め方でよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのようにさせていただきたいと思います。   本日予定した議事はこれで終了いたしました。   先ほども申し上げましたが,石田様の御発言,資料,それから略歴等の一部につきましては,非公表としたいと考えています。また,他のヒアリング出席者につきましても,御意向を改めて確認したいと思いますが,それぞれの方が,ここのところは非公表として欲しいということもあるかもしれませんので,プライバシー保護等の点で非公表とすべき発言,あるいは資料がある場合には,該当部分を非公表としたいと考えています。それらの具体的な範囲や,あるいはどのような形で議事録や資料の中に示すかということにつきましては,ヒアリング出席者の方々との調整もありますので,私の方にお任せいただけますでしょうか。よろしいでしょうか。 (一同了承)   それでは,そのような扱いとさせていただきたいと思います。   では,次回の予定について事務当局から説明してもらいます。 ○岡田参事官 第4回会合は,7月27日月曜日,午前10時から開催を予定しております。次回会合の方式については,追って事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会とします。私の不手際で時間が大幅に伸びてしまい,大変申し訳ございません。どうもありがとうございました。