性犯罪に関する刑事法検討会 (第4回) 第1 日 時  令和2年7月27日(月)  自 午前 9時57分                       至 午前11時40分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 論点の整理について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第4回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 本日は,御多用中のところ御出席くださり,誠にありがとうございます。   本日は,木村委員におかれては,所用のため欠席されています。   初めに,配布資料について,事務当局から確認をお願いします。 ○岡田参事官 本日は,議事次第のほかに,配布資料として資料10と11をお配りしております。  では,配布資料について御説明いたします。   まず,資料10について御説明します。資料10は,第1回会合でお配りした資料6「平成29年刑法改正後の規定の施行状況についての調査結果等」の補充資料であり,肛門性交・口腔性交のみを実行行為とする事件の量刑の推移に関するグラフと表が記載されております。このグラフと表は,平成29年刑法一部改正法が施行された同年7月13日から令和元年12月31日までの間に各地方検察庁から受けた報告を基に作成しております。なお,資料10の4ページには,参考として,性交を含む強制性交等の量刑のグラフを付けております。   次に,資料11は,本検討会において今後検討すべき事項を整理した論点整理の案であり,座長の御指示により作成したものです。その内容につきましては,後ほど御説明いたします。   資料の説明は以上でございます。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明について,何か御質問はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,本検討会で検討すべき論点の整理を行いたいと思います。   まず,事務当局から資料11の「論点整理(案)」について説明をお願いします。 ○岡田参事官 資料11の「論点整理(案)」について,御説明をいたします。   この「論点整理(案)」は,座長の御指示により,本検討会で検討すべきと考えられる論点を整理したものです。   この「論点整理(案)」の作成に当たっては,委員の皆様から第1回会合前に書面で御提出いただいた御意見,第1回会合で述べられた御意見,第2回・第3回会合でヒアリング出席者及び委員の皆様から述べられた御意見を精査いたしまして,その中から本検討会で検討すべき事項として指摘されたものを抽出した上で整理いたしました。もとより,これは,飽くまでたたき台として作成したものであり,議論を方向付けたり,議論の対象を限定する趣旨のものではありません。   論点整理に当たっての視点や各論点の内容について,補足して御説明いたします。   まず,「第1」では,刑事実体法上の論点を八つに分けて記載しております。   第1の1は,「現行法の運用の実情と課題(総論的事項)」であり,罰則に関する個々の論点を議論する前提として位置付けられるものです。   法整備の要否やその在り方等について議論を行うに当たっては,平成29年改正で新設ないし改正された規定を含め現行法がどのように運用されているか,処罰の間隙が生じているか,生じている場合にはどのような対応策があり得るかといったことを検討する必要があるという趣旨の御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   次に,第1の2は,「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」です。   強制性交等罪や準強制性交等罪においては,これらの要件が規定されており,判例上,「被害者の抗拒を著しく困難にさせる程度」のものであることが必要とされているところ,こうしたことが原因で適切な処罰がなされていないのではないかとの問題意識の下,複数の観点から御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   そのうち,一つ目の「○」は,これらの要件を撤廃することについて,二つ目の「○」は,これらの要件を残しつつ,その程度を緩和することについて,三つ目の「○」は,これらの要件の内容をより明確化する観点から,それ以外の手段や状態を加えるなどすることについて,それぞれ論点とするものです。   四つ目の「○」は,これらの要件の内容とは別に,その立証の負担の軽減を図る観点から論点とするものであり,五つ目の「○」は,これらの要件と関連する,被害者が性交等に同意していないことについて行為者が故意を欠く場合にどのように対処すべきかという観点から,主観的要件の在り方についても論点とするものです。   次に,第1の3は,「地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」です。   現行法上,地位・関係性を利用した犯罪類型として監護者性交等罪があり,また,準強制性交等罪も適用され得ますが,それらの要件が限定的であるために適切な処罰がなされていないのではないかとの問題意識の下,複数の観点から御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   そのうち,一つ目の「○」は,被害者が一定の年齢未満である場合に,被害者の同意の有無を問わずに処罰する罪を創設することについて,二つ目の「○」は,被害者の年齢にかかわらず,当罰性が認められる場合を類型化することについて,それぞれ論点とするものです。   また,三つ目の「○」は,継続的な性的虐待の事案において,個々の具体的行為の日時・場所の特定に困難を伴うことが多いという立証上の問題に対処する観点から,継続的な行為を全体として一罪とすることのできる罪の創設について論点とするものです。   四つ目の「○」は,地位・関係性を利用した犯罪類型の前段階として行われることの多い,いわゆるグルーミング行為,手なずける行為を処罰する規定の創設について論点とするものです。   次に,第1の4は,「いわゆる性交同意年齢の在り方」です。   現行法上,13歳未満の者に対して性交等をした場合には,暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず,強制性交等罪が成立することとされていますが,被害の実態に照らし,その年齢を引き上げるべきではないかとの御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   次に,第1の5は,「強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」です。   現行法上,膣・肛門・口腔内に陰茎を挿入する行為が「性交等」として強制性交等の罪の対象とされていますが,陰茎以外のものを体腔に挿入する行為も身体への侵襲という意味では性交等と同様であるとの御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   第1の6は,「法定刑の在り方」です。   現行法上,法定刑が5年以上の有期懲役とされている強制性交等の罪について,悪質性が高いものについては加重類型を設けるべきであるとの問題意識の下,複数の観点から御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   そのうち,一つ目の「○」は,2名以上の者が現場において共同した場合について,二つ目の「○」は,被害者が一定の年齢未満の者である場合についてそれぞれ論点とするものです。   他方,三つ目の「○」は,実務上,強制性交等罪の暴行・脅迫の要件は緩やかに解釈されているにもかかわらず,その法定刑が5年以上の有期懲役とされている我が国の刑法は諸外国と比較して刑が重いのではないかなどの御意見が示されていることを踏まえ,論点とするものです。   次に,第1の7は,「配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」です。   現行法上,行為者と被害者が配偶者や内縁の関係にある場合に適切な処罰がなされていないのではないかとの御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   第1の8は,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」です。   他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為については,都道府県の条例などで処罰される場合がありますが,条例によっては私的な場所での撮影が処罰されないこととなり,不当ではないかとの御意見などが示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   そのうち,一つ目の「○」は,法律上,そのような行為を処罰する規定を設けることについて,二つ目の「○」は,現行法の没収に加えて,性的な姿態の画像の没収又は剝奪を可能にすることについて,それぞれ論点とするものです。   次に,「第2」では,刑事手続法上の論点を四つに分けて記載しております。   第2の1は,「公訴時効の在り方」です。   現行法上,強制性交等罪などの公訴時効期間は10年とされ,犯罪行為が終わった時から進行することとされていますが,性犯罪の被害者は,被害認識を持つことや被害申告をすることができるまでに時間がかかるとの問題意識の下,複数の観点から御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   そのうち,一つ目の「○」は,強制性交等の罪全般につき,公訴時効を撤廃し,又はその期間を延長することについて,二つ目の「○」は,被害者が一定の年齢未満の者である場合につき,公訴時効期間を延長し,又は一定期間は公訴時効が進行しないこととすることについて,それぞれ論点とするものです。   第2の2は,「起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方」です。   現行法上,起訴状の謄本が被告人に送達される制度となっており,この点は,起訴状に被害者の氏名が記載されている場合も同様であるところ,被害者が被告人に氏名を知られることを恐れてその訴追を諦めている実情があるのではないかとの御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   次に,第2の3は,「いわゆるレイプシールドの在り方」です。   現行法上,被害者の性的な経験や傾向に関する証拠の取扱いについて明文の規定はありませんが,被害者保護のためにそのような規定が必要ではないかとの御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   第2の4は,「司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」です。   現行法上,聴取結果を記録した録音・録画記録媒体は,被告人の同意がある場合などを除いて証拠とすることができず,被害者などが法廷で証言することが原則とされていますが,若年の被害者を始めとする証人の負担軽減のため,司法面接的手法による聴取の場合にはその記録媒体を証拠とすることができるようにすべきではないかとの御意見が示されていることを踏まえ,論点として記載しているものです。   なお,この「論点整理(案)」では,強制性交等罪など,性交等を実行行為とする罪について記載しておりますが,性交等以外のわいせつ行為を実行行為とする強制わいせつの罪についても同様に問題となるものがございます。   「論点整理(案)」の説明は以上でございます。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明について,何か御質問はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,「論点整理(案)」について御意見を伺っていきたいと思います。   御意見を伺うに当たっては,まとまった論点のグループごとに伺った方がよいかと思います。論点整理(案)を見ますと,「第1 刑事実体法について」と「第2 刑事手続法について」に分かれておりますけれども,さらに,第1の中では,「1」の「現行法の運用の実情と課題(総論的事項)」が,「2」以下についての議論を行う前提となる,という意味で,言わば総論的な位置付けとなっています。また,「2」の「暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」から「4」の「いわゆる性交同意年齢の在り方」までは,性交等について処罰すべき行為の範囲とその要件をどのように定めるかという点で相互に関連性を有すると考えられます。これらのことを踏まえますと,本日の議論の進め方としましては,「論点整理(案)」に記載された論点を四つのグループに分けて議論してはいかがかと存じます。   具体的には,まず,第1グループとして,第1の「1 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)」について議論し,次に,第2グループとして,第1の「2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」から「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」までについてまとめて議論をし,続いて,第3グループとして,第1の「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」から「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」までについてまとめて議論し,最後に,第4グループとして,第2の「1 公訴時効の在り方」から「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」までについてまとめて議論をする,このように議論を進めるのが適切ではないかと思われます。   そして,それぞれの論点について御議論いただく際には,各論点そのものについての御意見は,もちろんたくさんあると思いますし,それは後日存分に披れきしていただきたいと思うのですが,今日は主として,各論点を議論することの要否や当否,また,各論点のうち,これは重要性が高いとか,これは重要性が若干低いというようなことについて御指摘いただきたいと思います。   それから,各論点の表現の仕方がこれでよろしいかどうかという問題や,ほかに取り上げるべき論点があるのかという問題,こういった点についても御意見を頂きたいと思います。   また,ここにいまだ挙がっていない論点で,委員の皆様がお考えになっている検討項目の中には,「論点整理(案)」のうちのどこに位置付けるのが適切かが必ずしも明らかでないものもあるかもしれません。そうしたものについては,「第1 刑事実体法について」の最後のところ,それから「第2 刑事手続法について」の最後のところで,それぞれ「論点整理(案)」に記載がないものについて御意見を伺うという時間も設けたいと考えておりますので,その際に御発言いただければと思います。   その上で,最後に,議論を進めていくに当たっての検討の順序など,今後の議論の進め方について御意見を伺いたいと思います。   本日は,そのような進め方をさせていただきたいと思うのですけれども,よろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのように進めさせていただきます。   それでは,まず,「論点整理(案)」の第1の「1 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)」について,御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○小島委員 この総論のところが,非常に重要な論点だと思っておりまして,この点について十分議論することが,第1の2以降の論点につながると認識しております。   この中で,2017年改正法の影響の効果というのは非常に重要な部分ではないかと思います。法の運用に,その改正がどのような変化を生んでいるのか,実証的な,社会学的な検討が必要だと思っております。特に重要なのは,この法改正が人々の意識や行動にどのような変化を生じさせているのかという辺りで,行為規範に与える影響ということについての調査というのは,必要ではないかと思っております。   それから,2点目といたしまして,「現行法の運用の実情と課題」で総論を論じるときに,構成要件を論じる前提として,三つの点を論じておかなくてはいけないのではないかと思っております。   第1点として,強制性交罪等の罪の保護法益というか,性被害というのは一体何の被害なのか,何を侵害しているのかという点について論じる必要があるのではないかと思っております。   第2点として,不同意の性交というのが問題になっているけれども,不同意の性交,同意があったとはとても言えない性交というものには,どのような行為類型があるのかということが問題になり,そして,その不同意性交の様々な類型のうちの全てを処罰対象にするのか,あるいは,一定範囲のものを処罰対象にするのかという,そういう価値判断があって,限定するのなら,なぜなのかという話があった上で,処罰すべきものが現行法の解釈運用の中で漏れているのかを論じるという手順で議論したらいいのではないかと,私は,この総論を検討する手順について,そのようなことを考えました。 ○井田座長 今の御意見についてでも,あるいはそれとは別の御意見でも,どちらでも構いませんので何か御発言はございますか。 ○宮田委員 先般のヒアリングで後藤弁護士が話したように,暴行・脅迫の要件については,現在かなり緩和されている状況であるというのが,実際に刑事事件を担当している者の感想です。暴行・脅迫要件が有名無実化しており,被害者の置かれた環境や被害者の特質などが考慮されて強制性交等罪が成立することが認められているという例が,かなりの数ございます。また,準強制性交等罪についても,今問題になっております生徒と教師の関係,スポーツのコーチとその指導を受けている人との関係,上司と部下の関係,宗教者と信者の関係などでも,幅広く適用されている例がございます。しかしながら,それを適用しない裁判所もあり,その辺の解釈がどうして分かれているのだろうかというところもあるかと思います。   もっとも,最近,個人情報の問題が非常に重要になっておりますし,性犯罪については,被害者のプライバシーの問題に非常に大きく関わってきますので,性犯罪についての事件が公刊されないことが,非常に増えています。公刊というのは,出版して一般の人の目に触れる,あるいは裁判所がインターネット等を通じて判決が出たことを発表することですけれども,そういうことがされない例がかなりあるということです。そういう意味で,現行法の運用について,処罰されるべき行為が適切に処罰されない事態が生じているか否かを検討するについては,ぜひ事務当局に,現に言い渡された判決の実態について調査していただき,実際に解釈により処罰できているのであれば,処罰できていない事案では,なぜそれができないのかを考えていく必要があると思っております。現行法の運用については,公刊されていないような判例についても,ぜひ,この検討会のそ上に上ってくるような形で題材を与えていただければと考えています。その際に,外部に出すのが不適切,不適当であるということであれば,例えば裁判所の名前を消すような形も可能であると考えております。 ○岡田参事官 ただ今宮田委員から御指摘いただいた点につきましては,事務当局としてできるだけ資料の準備をさせていただきたいと考えております。 ○井田座長 この第1の1について,ほかに御意見ございますか。 ○上谷委員 今のお話を受けてなのですけれども,暴行・脅迫要件が有名無実化しているのではないかという話でしたが,たくさん被害者から相談を受けている身からすると,どこの世界の話だろうというのが実感です。そもそも,私の性犯罪に関する仕事は,どうして警察は被害届を受理しないのか,検察官はなぜ起訴しようとしないのかという抗議や要請等,そして,それが結局事件化できないことについての被害者に対する説明の時間,これが大半を占めているわけなのです。結局,やはり法律の立て付けが原因で捜査がしづらい,検察官が起訴をしにくいところがあると思いますので,そこのところは,具体的に掘り下げて議論する必要があるのではないかと思っています。   この性犯罪の暴行・脅迫ですとか,そういった点については,国民の常識と法曹の意識との間に相当なかい離が見られるところだと思いますし,男女差や個人差も激しいところだと思いますので,ぜひ法律論だけに拘泥することなく,国民意識と被害者の実情を酌み取った議論をしていただきたいなと思っています。 ○山本委員 私も,被害者支援の現場で活動をしている中で,同意がない性交の被害を受け,支援を求めて警察に行っても被害届を受理されないという現状もあり,なかなか幅広に救済されているとはいえないと思っています。   「現行法の運用の実情と課題」については,「性暴力」は同意のない性的な言動の全てですが,「性犯罪」は法律の規定の下に処罰が決まっています。同意がないということを刑法の性犯罪の規定の中に含めるのであれば,何が性暴力で,そのうち何が性犯罪として処罰されるのか,明らかにしてほしいと思います。同意がない傷つけられた行為を性犯罪として処罰してほしいと私たちが望んでいても,それがかなわないこの現状をどのように解決することができるのかを検討いただければと思います。   また,被害者保護についてなのですけれども,刑法が改正されたり,MeToo運動やフラワーデモなどの無罪判決に対して抗議する動きが盛り上がってきているとはいっても,司法に自分の被害を訴えるということがどれほど被害者にとってハードルが高いことか知っていただきたいと思います。ハードルも高く,被害者を適切に保護し,証人として適正な証言ができるようなシステムになっていない現状の中で,一体どの程度,被害が捕捉されているのか,この「現行法の運用の実情と課題」の中で,埋もれている被害についても目を向けた議論をしていただければと思っています。 ○小島委員 現行法の問題点という議論になりますと,暴行・脅迫要件が緩和されているから,これはもういいのだと,現行法の解釈でカバーされているし,抗拒不能要件もかなり広くなっているのだという意見があって,いや,緩和されていない,緩和されているという議論になってしまいます。   昨年問題になりました四つの無罪判決,そのうちの2件は二審で逆転有罪判決になっております。抗拒不能のハードルが高かったり故意が否定されたりした点について判断が分かれている。解釈上要件が緩和されている,緩和されていないということよりも,裁判体や論者によって様々なばらつきが出ているということが,大きいのではないかと思います。   ジェンダーにセンシティブな方で,被害者の状況について分かっている方は,その部分を事実認定に盛り込んで有罪という結論を出すのですけれども,必ずしも,みんながみんなそうではありません。実際問題,このような状況というのは,現場で捜査する方も困ってしまうと思います。私は,緩和されている,緩和されていないということよりも,裁判体によるばらつき,法の適用についてばらつきが生じていて非常に混乱している,被害者の方もとても困っている,その状況はやはり何とかしなければいけないと思います。刑法の構成要件について,もう少し明確化すると,少なくともこの点については改正をしていただかないと,困るのではないかと思います。だから,実際問題として緩和されているか,緩和されていないかということが大事なのではなく,やはり本来処罰されるべきものがきちんと処罰されているのかどうか,構成要件を明確化していくということを目指して,今回はぜひ刑法の改正をお願いしたいと思っております。 ○小西委員 今の御議論について意見を述べたいと思います。   私は被害者支援といいますか,臨床の立場から,自分の被害が事件として起訴される人も,不起訴になった人も,あるいは訴えられない人も,みんな見ているわけですけれども,その立場から言うと,先の法改正ですごく大きく変わったとはとても言えない状態だと思っています。実際に警察に行っても,暴行・脅迫要件を満たさないからということで,門前払いされてしまう患者さんというのは結構いるわけです。現実はどうかということをもし話し合うのだとしたら,こんなにも被害の実態が表に出ていない,法律で救えていない状態であるということを考慮に入れない限り,正確な議論ができないのではないかというふうに思っています。   もう一つ,今,四つの無罪判決の話がありましたけれども,こういうような事件について,例えば,専門家が被害者の心理をよく説明することで,抗拒不能といえるかといった法律的評価が変わることが実際にありますが,そういう場合には,精神医学的な病理というよりは,被害を受けた人が通常陥るノーマルな心理状態の説明を依頼されることが非常に多いわけで,ノーマルな心理を事件ごとに常に説明していかないといけないような法律というのはどうなのだろう,そういうことをやれる専門家の数も非常に少ないのに,今の状態が良いとはとても思えないわけです。そういう問題も含めて,広い視野で見ていただくことを私は希望します。 ○金杉委員 「第1 刑事実体法について」全般についてなのですが,この中で,刑罰が重いのではないかという方向の論点は,「6」の「法定刑の在り方」の3番目,法定刑の下限を引き下げるべきかという論点のみになっています。この意味で,バランスの面からはどうなのかという問題意識がございます。処罰の範囲を拡大する,あるいは重罰化傾向の改正ありきではなくて,謙抑的・抑制的な観点からの議論もお願いしたいというふうに考えています。   その意味で,今問題となっている「現行法の運用の実情と課題」の部分についてなのですが,今後の議論のために処罰されるべき行為が適切に処罰されない事態が生じているかということが問題になっているので,このような論の立て方をされているということは理解しています。ただ,この運用状況について検討するに際しては,やはり同様に,平成29年の改正によって,これまでと余りに不均衡に重く処罰される事例が生じていないか,あるいは法定刑の下限の引上げによって,もっと軽く処罰すべき事案が軽く処罰できないという事態が生じていないかという方向の検討もぜひお願いをしたいと考えています。 ○井田座長 ほかにございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,論点整理(案)の第1の1についてはこの程度といたしまして,次に移りたいと思います。   第1の「2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方」から「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」までについて,御意見がある方は,どの事柄からでも結構ですけれども,どの事柄についての意見であるかを明示していただいた上で,御発言いただきたいと思います。 ○山本委員 第1の2は,多分,今回の改正の中でも非常に重要な論点になってくるかなと思います。初めにあるので,最初の方に重点的に話し合われるのかなと思うのですけれども,それ以外の性交同意年齢であったり,地位・関係性,加重類型についてなど,様々な議論が進んだ後にも,もう一度振り返って,この論点について整理してもよいのではないか,2回行ってもよいのではないかと思います。 ○齋藤委員 今,山本委員がおっしゃっていたように,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件をめぐる問題というのは,本当に非常に重要だと思いますので,重点的に話し合っていただきたいです。   そのほか,3点確認をさせていただきたいのですけれども,まず,障害者への性犯罪については,心神喪失・抗拒不能の要件の在り方の論点の中に入るという理解でよいのか,あるいは,被害者の脆弱性ということに含まれているのかということです。それから,日時が特定できないことにつきまして,お話を聞く感じだと性的虐待ということが意識されておりますけれども,子供の被害というのは,親とか親族からの継続的な被害だけでなく,近所の人であるとか塾の先生であるとか,教師からも継続的な被害が多いと考えられますので,継続的な性的虐待という表現ではなく,もう少し広げて,ほかの表現を考えていただけると有り難いなと思っております。海外では,性的虐待という言葉は親や親族に限らず広く捉えられておりますけれども,日本だと性的虐待というと親や親族に限られる懸念がございますので,御検討のほど,お願いいたします。   最後に,追加のヒアリングの希望についてです。性交同意年齢について,可能ならば,思春期の精神状態や思春期の脳の発達などについてのヒアリングが実施できないかということをお願いしたいと思います。また,子供の継続的な被害,性的虐待について,野坂先生もお話しくださいましたけれども,性的虐待に重点を置いたヒアリングというのも必要なのではないかと考えております。 ○岡田参事官 まず,最初の障害者に関する御質問の点ですけれども,御指摘のとおり,心神喪失・抗拒不能の点に関する検討の中で,被害者の障害という観点も含まれてくるものと考えております。また,第1の「3」の二つ目の「○」の中に被害者の脆弱性という言葉が入ってございますけれども,ここにおきましても,被害者の障害という観点は含まれてくるものと考えております。   次に,「性的虐待」の点につきましては,齋藤委員のおっしゃるような親以外による継続的な性被害というものも含まれ得るものと考えておりますけれども,表現については,検討させていただきたいと思います。 ○井田座長 齋藤委員の方から,何か対案のようなものの御提案はございますか。 ○齋藤委員 この継続的な性的虐待は,子供に限定するのか,どの年齢まで限定するのかということもちょっと不明確だなとは思っております。すぐに対案というのが出てこなくて申し訳ないのですが,よろしくお願いいたします。 ○金杉委員 これは議論の進め方に入るかもしれないのですが,第1の2の一つ目の「○」から五つ目の「○」までと第1の3の一つ目の「○」から四つ目の「○」までといった小項目は,それぞれ関連する論点であると思います。例えば第1の2の一つ目の「○」と四つ目の「○」ですとか,第1の2の二つ目の「○」と三つ目の「○」ですとか,第1の2の一つ目の「○」と第1の3の一つ目の「○」とかですね。ある論点について議論をしているときに,ほかの論点についての意見が入ってくるということが必ずあると思います。その点については,切り分けをせずに,有機的な議論ができるように,それについては次回,次の論点でやりますということではなく,重複した議論ができるような進行をお願いしたいと思っています。 ○宮田委員 特に第1の2に関してでございますけれども,同意なき性交についての議論について拝見していますと,今の条文を同意なき性交に変えてしまって5年以上の懲役刑とする趣旨であるのか,それとも,現行法に付加するような形で,より軽い類型と言ったら怒られるのかもしれませんけれども,より侵害性の低いものをそちらでカバーするという意味なのか。つまり,どのように処罰をするのかというところとの関連が明確でないと,同じことを論じているようであっても,結果としては全く違った効果が出てしまう可能性があると考えています。ですから,その辺のところは議論のときにはもう少し整理がされるべきではないか,処罰についての考え方についてと連動して,もう少し整理が必要なのではないかと考えております。   また,性交同意年齢の在り方についてでございますけれども,野坂先生のヒアリングのときに私が質問したのは,加害者が兄弟であり,未成年であるという場合などがある,あるいは,学校の中でそういうようなことが,同級生,あるいは先輩と後輩の中で起こるという場合に,加害者もまた未成年であるという点について配慮は不要なのだろうか,その点についての議論は必要ないのだろうかということです。つまり,性交同意年齢のところで,被害者の教育が十分でないとのことでしたが,加害者にも十分な性的な教育がされていないがゆえに事件が起きてしまう面もあるので,特に,若い年齢のそういう人の行為については,加害者として処罰がされないように性交可能年齢のようなものを考えることができるのかどうか,あるいは,その年齢差を考慮するというようなことができないのかという議論は,必要なのではないかと考えております。   あとは,子供の被害については,監護者系,あるいは地位・関係性のものと,子供がそういう関係がない人から受ける被害とに分かれるようにも思われるので,これは,先ほどの齋藤先生の御意見にも重なるのかもしれませんけれども,子供の被害については,もう少し整理して議論することが必要なのではないかと感じております。 ○井田座長 宮田委員のお考えは,この論点整理の表現ぶり等に変更が必要だということではなく,議事を進めるに当たって,そのような考慮が必要だということでしょうか。あるいは,論点整理の文言自体を変えた方がよいという趣旨でございましょうか。 ○宮田委員 必ずしも文言自体ということではなく,議論をするに当たって,その辺りの認識の一致といいますか,問題意識の一致がないと,かなり議論が混乱するのではないかと感じているということでございます。 ○小島委員 子供の性被害,性交同意年齢は,非常に重要な論点だと思っております。諸外国でも,やはり子供の性被害をどうするかということについて重要な問題になっていると認識しております。   先ほど宮田委員がおっしゃったように,年齢差を設けるとか,加害者を成年にするとか,その点については,諸外国でもいろいろ工夫をしているのではないかと思いますので,諸外国ごとにどのような議論でそのような年齢になっていて,特に,年齢差等についてどのような状況になっているのかについて,もう少し詳しい資料があれば議論しやすいかと思いました。 ○井田座長 これは事務当局,お願いしてよろしいですね。 ○岡田参事官 ただ今の御指摘を踏まえまして,事務当局としまして,できる限り資料の準備をさせていただきたいと思います。 ○羽石委員 第1の3の三つ目の「○」に関して,継続的な性的虐待の具体的な日時・場所の特定が難しいということにつきましては,第1回の検討会の場でも,捜査現場で,そういう困難な点があるということを御紹介した次第です。事務当局から配布していただいた資料5の2の中にも,やはり,監護者性交等罪については,嫌疑不十分と判断した理由としてそれが挙げられていることからも,現実としてそういう困難があると思いますので,中には児童福祉法違反で立件された例ですとか,運用で対処できているものもあるとは承知しておりますけれども,運用の問題としてだけではなくて,諸外国の例なども参考に,立法措置として何かできることがないかについて,ぜひ御議論いただければと思っております。 ○川出委員 議論の進め方にも関わることですが,第1の2の四つ目の「○」で,被害者が性交等に同意していないことについて,被告人に立証責任を転換すること,あるいは推定規定を設けることが論点として挙がっております。立証責任の転換規定であれ,推定規定であれ,被告人の刑事責任を基礎付ける事実については検察官が立証責任を負うという刑事手続上の基本原則の例外をなすものですので,それが認められるかどうかについては,その必要性と合理性の両面から厳密な検討が必要とされると思います。   その観点から考えてみますと,そもそもこのような規定を作る必要性があるかどうかは,強制性交等罪についてどのような構成要件とするかによって変わってきますので,その意味では,まず,第1の2の一つ目の「○」から三つ目の「○」までの問題について議論を十分に尽くすということが求められると思います。その上で,特定の構成要件を前提にしたときに,立証責任の転換規定や推認規定を設ける必要があるといえる場合には,さらに,その内容が合理性を有するかを検討するという順序で議論していくということが必要になると思います。 ○小島委員 第1の2の論点ですが,暴行・脅迫要件と心神喪失・抗拒不能要件を,二つセットで議論しています。基本的に現行法を前提にすると177条が基本規定で,178条は準強制性交等なので,補充的な規定という位置付けになっているのではないかと考えていたのですけれども,両方併せてという議論の仕方というのは,177条,178条の規定の位置付けというか,この二つの関係というか,それについて,何か一定の考え方の下に,こういう論点整理をなさっていらっしゃるのかどうか,その辺のところを少し確認したいと思いました。 ○井田座長 私の考えでは,現行法は,基本的には一つのものを二つの条文に分けて規定していると理解することができます。つまり,被害者の意思に反する場合を,大きく,暴行・脅迫を用いる場合と,心神喪失・抗拒不能の場合とに分けて類型化しているということです。異なった二つの場合があるというより,基本にあるものは一つで,被害者の意思に基づかずに性交等を行う場合とはどういうケースであるかということであって,それが二つの規定に分かれて類型化されているということです。   更に言えば,13歳未満という類型もありますから,それも含めて現象形態としては三つに分かれて類型化されているといってもよいと思います。もちろん,実際に議論する中では,根本は一つのものであるにせよ,それぞれの現象形態を具体的にどのように類型化していくかが問題になると私は理解しております。ただ,177条と178条の相互の関係をめぐってはいろいろな考え方が十分あり得るところで,それも検討の対象とされていくのであろうと思います。 ○和田委員 グルーミングについてですが,現在共有されている一般的な刑法の考え方を基にする限りは,グルーミングというのは,言わば予備行為に属するものということになると思いますので,まずは,先ほどの立証責任の転換の話と同様に,コアになるところの要件を定めた上で,それを前提として,更にそこからどこまで前倒しした処罰が可能かという順で考えるのが通常の考え方,検討の仕方だろうと思います。   もっとも,総論的事項にも関係しますけれども,そもそも,そこで前提にしている現在共有されている刑法の基本的な考え方を維持するのかどうかというところも,問題になり得ると思います。最終的に意思に反した性交やわいせつ行為が行われたところが一番被害が重くて,そこからどこまで手前に処罰が前倒しできるのかという発想ではなく,そもそも,被害者の意思に反した性的行為を行う意思を持って行動すること自体を処罰対象にするという考え方をとるとすれば,かなり手前まで同様の処罰が可能だという見方もあり得なくはないと思います。ただ,それは,現行の刑法の考え方を大きく変えることになりますから,そういうことまで視野に入れて議論するのかどうかということ自体,総論的には問題になるかと思います。   なお,この検討会は,一応,1年弱の期間をめどに,現行法に不備があるところについて,それを補う改正をすることを目的に議論をするということだと思いますが,そこで完全に理想的な性犯罪処罰規定が出来上がればいいですけれども,恐らく,残念ながらそうはならず,その先も更に何段階か改正が進んでいくのではないかと予測します。そうしたときに,差し当たりこの検討会で1年弱の間に結論が出せない事柄であっても,もっと長期,5年とか10年の単位で考えたときに,こういう方向を目指すべきだといった議論もどこかでやり続けることには価値があると思うのですが,そのような議論をする場としてこの検討会以外にふさわしいところがあるかと考えると,なかなか難しい問題があると思いますので,この検討会で最終的に具体的な解決までたどり着けないと見込まれるものであっても,長期的にこういうことは問題にすべきだ,そういう問題意識を持ち続けるべきだという話題自体は,この検討会の場で広く寛容な心で受け止めていただければと思っているところです。 ○井田座長 各論点についての検討のときに,現段階ではこうであるかもしれないが,将来こういうことも考えられるというような問題意識も披れきしていただければ大変ありがたいと思います。   ほかに,ここまでのところで何かございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 続いて,第1の5,つまり,「強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」から「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」までについて,同じように,どの事項についての御意見であるかを明示していただいた上で,御意見をお願いしたいと思います。 ○齋藤委員 幾つかあるのですけれども,まず,案の中の身体の一部や物を被害者の膣・肛門・口腔内に挿入する行為を含めるべきかという点につきまして,出来事の具体的な想像がつきにくい委員もいらっしゃるのではと思います。既にもうヒアリングをしていただいておりますけれども,どのような被害が想定されるのかというようなヒアリングが必要なのではないかと考えたのが1点です。また,量刑を考えるときに,刑務所の中とか出所後にどのような更生プログラムが適用されるのかということは,非常に重要だと思っております。それはこの検討会で検討すべき内容ではないのかもしれませんが,性犯罪者の処遇プログラム等の検討会も開かれているということを聞いておりますので,そちらの検討内容も踏まえた上で議論が行われる必要があるのではないかと考えます。   残りは2点ございまして,一つは,配偶者間等の性的行為ということの「等」に,同性パートナーについて含まれているかどうかということの確認です。   最後に,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についてです。アダルトビデオ出演の強要でありますとか,盗撮だけではなく,同意なく撮影する行為も幅広く含まれるのかという点が一つです。また,この撮影に関する問題で,強制性交等の間に撮影されているということではなく,例えば,いわゆる盗撮について,よく被害者は盗撮では傷つかないのではないかという質問を受けることがございます。そのようなことは全くなく,被害者は大変傷つくわけですが,こういった誤解が生じないよう,同意なく撮影されることについて,どのように被害者が傷つくのか,この処罰規定で何を守るべきなのかということについては,よくよく議論が必要なのではないかと思っております。 ○岡田参事官 配偶者等に同性パートナーが含まれるかどうかということですが,そのような関係にある者も含めて検討課題であると認識しており,その点も含めて御議論いただければと思っております。   それから,性的姿態の撮影行為に関して,アダルトビデオの出演の強要のような場合についても含まれるのかという観点の御質問ですけれども,どのようなものを処罰の対象とすべきかというところから,この検討会で御議論いただくべきものと考えております。その際に,同意なく撮影をされるということについての被害がどういうものであるかですとか,何を処罰しようとするのかという観点からも,御議論を頂ければと思っております。 ○山本委員 第1の7の配偶者間等の「等」に,同性パートナーが含まれるということなのですけれども,もし含まれないとなると,これはセクシュアルマイノリティーへの差別だと思いますので,ぜひ検討課題に含めて議論していただきたいと思います。   第1の8の「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についてなのですけれども,やはり,私も,アダルトビデオ出演強要は,人身取引も含めて非常に問題だと思っています。デジタル化が進み,画像が拡散・拡大していくような問題をどのように解決していくのかということについても,議論していただければと思います。画像等が拡散していくので,没収や削除が非常に難しく,被害がデジタルタトゥーとして永遠に記録されているということ自体が,被害者にとって,忘れられない烙印として残ってしまっているという問題があります。アダルトビデオ出演強要は契約の問題というふうにも言われ,非常に難しいところはあるのですけれども,自分の性的な姿態が録画され,それを後から取り消すことができないということの問題や,また,だまされたり,脆弱な立場に乗じるなど,その他の強制力によって,性的な行為を撮影・録画された映像が拡大していくという問題について,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」に,ぜひ含めていただければと思っています。 ○上谷委員 第1の8の一つ目の「○」の性的姿態の撮影行為に関するところで補足させていただきたいのは,撮影だけでなく,譲渡とかインターネットに載せる行為など,盗撮に関してどこまでの行為を処罰するのかということについても,ぜひ検討をしていただきたいなと思います。一旦インターネットに載せられてしまうと,それが拡散し,被害者にとって,一生おびえながら生活することになってしまうという実態がありますし,今,こういう盗撮をしている人は,かなりコピーを取っていたりもしますので,その下の「○」の没収のところにも関わりますけれども,そういったもののコピーの没収,あとデジタルコピーの消去まで含むような形で議論していただけたらなと思っています。   そして,これは,現場の警察官や検察官から聞く話ですけれども,うまく適用できる没収規定が今は十分にないので,被疑者・被告人に所有権放棄をしてもらうというのに非常に苦労している,そういう事例では,被疑者・被告人に返す,返さないなどの議論がたくさん行われているというふうに聞いていますので,そもそもそれを所持すること自体が違法だと思いますから,そこのところは簡単に没収できるようにしていただけたらなと思っています。 ○岡田参事官 事務当局から補足して御説明をしたいと思います。   ただ今御指摘のありましたような,性的な姿態を撮影した画像の譲渡や拡散行為につきましても,第1の8の一つ目の「○」の論点のところで御議論がなされるものと思っております。 ○井田座長 インターネットに拡散するなどという話になると,私事性的画像記録に関する処罰規定も別途ありますし,あるいはその種の行為に名誉毀損罪の成立を認めた裁判例もありますので,そういうこととの関係もまた議論の対象となるのだろうと思います。 ○小島委員 この性的姿態の撮影の問題は深刻だと思っておりまして,重要な論点だと思っております。   これについても,やはり同じような問題が諸外国でも起きているのではないかなと思いますので,このような事例があるとか,このような規制をやっているというようなことが分かると議論しやすいのではないかなと思います。諸外国の実例等を御紹介いただけるとよろしいのではないかと思いました。 ○岡田参事官 資料については,事務当局において検討させていただきます。 ○和田委員 第1の7の配偶者間等の性的行為に関する論点ですけれども,この検討会の目的とも関係しますが,まずは処罰の取りこぼしを防ぐというところに優先的な目的を置くのであれば,配偶者間等についても,ほかの場合と同様に,強制性交等罪,強制わいせつ罪ともに要件を満たせば犯罪は成立すると,特に配偶者間であるからといって犯罪が成立しないという見解は現在ではないと考えられますので,その意味では,優先順位はおのずと,相対的には低くなるのかなと思います。   しかし,これについても,もしかすると捜査段階では処罰抑制的に働いていることがあるのかもしれませんので,そのようなところまで含めて検討しますと,やはり国が性犯罪について厳格な態度を示す象徴的な意味のある条文を作るということもあり得なくはないのかなと考えるところです。   それは,現在共有されている刑法,あるいは刑事立法における基本的な考え方にそぐわないことではありますけれども,やはりそういう従来の考え方にとらわれずに対応していくことにも意味があるかもしれないと思いますので,優先順位が低いかもしれないが,しかし,独自の意味があるかもしれないところだというふうに考えているところです。 ○井田座長 ほかにはどうでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 これで,第1の実体法に関する論点については一通り御意見をお伺いしたということになりますので,これ以外に刑事実体法について論点として追加すべきことがもしあるということであれば,御意見をお伺いしたいと思います。論点としては大体カバーされているか,あるいはもっとこういうのがあった方がいいのではないかという御意見があれば,ぜひお聞かせください。   なお,過去に開催された性犯罪の罰則に関する検討会では,刑法における性犯罪に関する条文の位置を変更すべきではないかという御意見もあり,その点についての検討も行われました。この検討会では,これまで御意見は出ていないようですけれども,もし御意見があればこの点についてもお伺いしたいと思います。 ○宮田委員 この論点整理自体の問題ではなくて,資料の問題ですが,最初の意見書でも申し上げたとおり,不起訴になっている案件についての資料を,ぜひ,この第1の1の関係で共有させていただければ有り難いということを先ほど言い忘れましたので,付け加えさせていただきます。 ○岡田参事官 資料につきましては,事務当局において検討させていただきます。 ○小島委員 配偶者間の性暴力の明記というのは,私,論点として最初に提起した者でございますので,先ほどの和田委員から御意見ございましたが,まだまだこの配偶者間の性的な暴力というのは潜在化していて,特にセクシュアルマイノリティーの方々について,カップルにおける性的暴力は表に出にくいということがございます。ぜひ明文化ということで,条文を入れ込んでいただきたいと考えております。 ○井田座長 この点は,注釈刑法の中で和田委員が詳細に検討されているところでもありますけれども,和田委員,何かありますでしょうか。 ○和田委員 その意見の本体については,議論が始まってから申し上げたいと思いますけれども,先ほど座長がおっしゃった条文の位置との関係で,条文の位置を変える必要性が高いとは思っておりませんが,そのことも含めて,性犯罪についての特別法を作って,児童福祉法だとか児童買春法だとか各種条例だとかも含めた,総合的に統一的な検討をした上で,それを全て特別法に盛り込むというようなことが超長期的には課題になり得ると思っております。この1年弱でそれをやる必要性・相当性があるとは思っておりませんが,そういうことも視野に入れたらよいのではないかと思います。それぐらい大きな話の一部を,この1年弱でやろうとしているのだという意識は共有するといいかなと思っているところです。 ○齋藤委員 小島委員と同じ意見になってしまいますが,先ほどの和田委員の処罰の取りこぼしを防ぐことが優先的だという意見を踏まえるならば,それならなおさら配偶者間とかパートナー間の性的行為は取りこぼされている現状があると思いますので,やはりきちんと議論を頂けると有り難いと思っております。 ○佐藤委員 全体に関わる話だと思うのですけれども,多分,刑法というものに対する意識が,それぞれ異なるのではないかと考えています。つまり,刑法を使ってみんなにこういうのは駄目なんだよと伝えたいという人と,実用的な使える刑法にして,この範囲は処罰できるようにしたいという発想を持っている人,換言すると,シンボル的に使いたいという人と,実効性のあるものとして考えている人という違いがあると思うので,そういう基本的な考え方の違いについても,少し考慮に入れておく必要があるのではないかというふうに思いました。 ○井田座長 いかがでしょうか,実体法についてはそのぐらいでよろしいですか。 (一同了承) ○井田座長 それでしたら,第2に移りまして,「1 公訴時効の在り方」から「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」までについて,これも同じように,どの事項に関するものかをお示ししていただいた上で,御意見を頂戴できればと存じます。 ○小西委員 「1」の「公訴時効の在り方」についてですけれども,実際に,この時効が被害者の実際上の認識とか回復の在り方と全く合っていないケースが多々あるということは事実だと思います。本当に,私の臨床で経験する方の中でも,このために訴えることを諦めてしまったり,まだ安全に話せる状態ではないのに無理をしてしまうというようなことがよくありまして,時効については,ぜひ早く議論して,変えることができるように考えていただきたいというのが,私の希望です。まず,それを一つお願いしておきます。   それから,2番目が司法面接の件なのですけれども,もう既にいろいろ議論になってはいますが,どのようなやり方でも,例えば,反対尋問があれば内容がよくなるのか,それもそうとは言えませんし,司法面接自体の技術ということも影響するわけです。この件について,法律だけで何か解決することはできないのかもしれませんけれども,少なくとも,司法面接の重要性ということについてはどこの国でも認められていることだと思いますので,議論していただくようにお願いします。 ○池田委員 私からは,第2の2の「起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方」について意見を申し上げます。   起訴状等における被害者の氏名の取扱いというのは,端的に言うと,その秘匿が念頭に置かれているわけですが,訴訟手続における被害者のプライバシーを保護するという観点から重要な意義を有する論点だと考えております。他方で,問題となりますのは,主として訴因の特定や被告人の防御の利益といった訴訟手続固有の問題でありまして,実体法上の要件をめぐる議論とは関連性が低いことなどからすると,他の論点とは独立して検討することが可能であるように思えます。また,被害者のプライバシー保護の観点から,一定の場合に被害者の氏名を被告人に知られないようにする必要があるということ自体には争いがないように思われまして,そのほかの論点と比較しても,相対的に見れば課題は少ないと言ってよいように思います。   その上で,この論点については,平成28年の刑事訴訟法の改正法附則9条3項において,政府が検討すべき事項として明示されているところですけれども,この検討会の配布資料5-2「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ取りまとめ報告書」によりますと,その検討のために開催されている「刑事手続に関する協議会」において,既に起訴状等における被害者の氏名の秘匿について複数回の協議や意見交換が行われておりまして,議論が一定程度進んでいると承知しております。この点に鑑みますと,そのように先行している議論を踏まえた検討が可能であると考えられる点で,この検討会での検討の必要性については,他の論点とは異なる状況にあるのではないかというふうに考えております。 ○井田座長 ほかの会議体でかなり検討もされているとのことでもあり,本検討会で新たにゼロから独自に検討するテーマでは,どうもないようだという御指摘だと思いました。 ○川出委員 刑事手続法については,四つの論点が挙がっております。このうち,「3」の「いわゆるレイプシールドの在り方」,具体的には,そこに記載されていますように,被害者の性的な経験とか傾向に関する証拠を公判に顕出できるかという問題なのですが,これについては,現在の刑事裁判においても,証拠の関連性ないしは証拠調べの必要性という枠組みの下で,証拠とすべきでないものについては証拠としないという対応が可能ですし,現にそのような運用がなされていると思います。ですから,他の三つの論点とは違って,新たな規定を設けなければ対処ができないというものではありません。その意味では,先ほどの配偶者間の性的行為に対する処罰規定の在り方と同様に,他の三つの論点と比べると,優先度は落ちるように思います。もちろん,これについても,現在の運用を明確化するという意味で明文規定を設けることを否定するものではありませんが,議論の順序及び密度という点からは,他の三つの論点を,まず優先的に議論するのがよいのではないかと思います。 ○山本委員 この刑事手続法の中にどれくらい含まれるか分からないのですけれども,被害者の保護と訴追は強く関連しているということを,ぜひ知っていただければと思います。   公訴時効についてですけれども,自分自身が回復し,そして,証言できるまでに精神状態を強く持っていけるまでにすごく時間がかかります。私の知り合いで10代前半のときに強制わいせつの被害を受けて,何度も事情聴取を受けて証言しようとしましたけれども,そのたびに体調が悪くなるので,とても時効完成までに証言ができず,時効を過ぎてしまったという事例もあります。   また,イギリスなどでは,裁判所の中に証人サービスがあって,ふだん行かない裁判所はどういう構造なのか,事前に見学できたり,また,どのような流れで裁判が進んでいくのかという手続を説明されたり,他の裁判所からでもビデオリンクができたり,つい立があったりとかという制度があり,それが100パーセント,被害者を適正に,動揺なく,加害者を見ても恐怖に震えることなく証言ができるように,サービスとして提供されているということを視察してきました。   一方,日本では,そのようなことをしてくれる検察官も裁判所もありますけれども,そうしてくれない場合や,対応もあります。また,そのために,すごくたくさんの書類を出さなければいけないということも聞いています。どうやって被害者が精神的にダメージを受けず,適正に,平静に証言できるのか,そのために一体どのような司法運用の在り方が必要なのかということを考えていただければと思います。   「3」のレイプシールドの在り方とも関係すると思うのですけれども,殊更に被害者の性的な経験や傾向に関する証拠を公判に顕出するということで,被害者をおとしめるような戦術が取られることもあります。奔放な女性というレッテルを貼るということ自体で被害者の信用性を失わせようとすること自体が女性に対する偏見のまなざしが共有されているからだと思います。女性は貞淑,貞潔でなければいけないとか,落ち度があれば被害を受けることになったとしても,やむを得ないこととか,それらのまなざしが存在していないかということも含めて,被害者の保護について,女性だけではなく,子供や男性,セクシュアルマイノリティーも含むと思うのですけれども,どのように証言が担保されるのかということ自体も議論していただければというふうに思っています。 ○井田座長 何か論点としてこれを加えるべきだということではなくて,論点を検討する過程でそういうことも考慮してほしいというふうに理解すればよろしいですか。 ○山本委員 はい。 ○上谷委員 まず,起訴状の氏名秘匿のところなのですけれども,既にかなり議論がされているというふうに聞いていますので,その内容を私たちも共有させていただいて,それをベースとして議論できたらいいなと思っています。   これについては,起訴状だけではなくて,逮捕状とか勾留状も統一したやり方をしないと,結局名前は加害者側に知れてしまいますので,その点も含めて議論していただきたいというのと,この検討会でやれるかどうかはちょっと私には分からないのですけれども,有罪判決が言い渡された後に行われる損害賠償命令のときに,匿名だと,決定が出たときの債務名義をどうするのかという問題があります。結局,民事調停や訴訟の場合はどうするのかという話は無理だと思うのですけれども,せめて,損害賠償命令の場合に,それをどうすればいいのかというところまでは議論に含めていただきたいなと思っているところです。   それから,レイプシールドについてですけれども,やはり相変わらず法廷で被害者の性的な経験や傾向に関してわざと聞くというようなセカンドレイプが行われているなというのは,実感としてあります。事前に協議して,この点については触れないという合意をしていても,それを必ずしも全員が守ってくれるわけではありません。裁判官にも訴訟指揮がかなりきっちりしている人と弱い人がいて,はっきり言って何もしない裁判官もいます。現状として,そういったことが守られていないということがありまして,そういうことがあると,やはり被害者は被害申告をちゅうちょしてしまう。せっかくそこまで頑張ってきたのに,最後に大きく傷つくということになりかねませんので,私としては,レイプシールドについても重要性を持って議論していただきたいなと思います。   これも,裁判官から話を聞くと,やはりこういった性的な経験や傾向については,国民の中にも強い偏見を持った人たちが一定割合いるわけです。その人たちが裁判員として入ってくると,非常に議論がしにくいということも聞いておりまして,そういった人たちが裁判員に入っているときに,そのような証拠を公判にあえて顕出するということがなされますと,そういった方に非常に悪い影響を与えてしまうということも現実に起きているようですので,ここのところはきちんと議論をしていただけたらなと思っています。 ○小島委員 レイプシールド法ですが,セクシュアルマイノリティーの方々についてアウティングの禁止が条例化されたり,パワハラ防止法でアウティングの禁止が指針に入る状況になっており,このような状況を踏まえて検討すべきかと思います。   先ほど,運用でカバーしているから十分なのだという御意見もありましたが,運用というとばらつきが出てまいりますので,ある程度きちんとした基準というか,そういうものを設けていくと,皆さん,安心して裁判に臨めるというか,被害申告ができるようになるのではないかと思うので,十分な議論をお願いしたいと思います。   それから,起訴状における被害者氏名の点につきましては,早急に進めていただいて,被害者の負担を軽くしていただきたいと思いました。   公訴時効の点も,重要な論点だと思っております。糸魚川の事件なのですが,13歳のときから義父による性的虐待を受け続けて妊娠を繰り返し,二度嬰児を殺害しておりますが,最後の殺害後に自首をしたことで発覚しました。子供の性的虐待は発覚するまで時間がかかり,支援も届きにくいことが指摘できます。公訴時効については速やかに対応していただき,特に子供の被害について訴えられるようにしていただきたいと思います。   未成年の間は公訴時効の進行が停止するということにすると,成人後何年という方向なのか,2022年から成人年齢が民法上18歳になるという前提で,被害認識までどのぐらいの年月が必要なのか,その辺の調査研究とか,資料とか,データとかというのがあると,議論しやすいのかと思いました。 ○山本委員 「4」の司法面接についてなのですけれども,子供や障害のある方が対象として含まれるかなと思います。しかし,大人も証言が難しかったりとか,また,何回も事情聴取を受ける,何時間も繰り返し受けるということが非常に苦痛であるということに鑑みて,大人も司法面接の対象に含めるか議論をしていただければと思います。   あともう一つ,これは別の話にはなるのですけれども,どうして警察でも,検察でも,何時間も何回も同じ話を繰り返しし続けないといけないのか。これが被害者にとってどれだけ苦痛であり,負担を与えているかについては,運用の中でもっと考えられてもいいと思います。アメリカはSART(Sexual Assault Response Team)性暴力対応チームを作るなどとして,警察官,医療職者など多職種が連携し,1か所で1回で聴き取りを済ますこととされています。このようなことがなぜ日本でできないのか,そのことによってどれだけの被害者の方たちが諦めているのか。訴えると自分自身が壊れてしまうので無理だというふうに諦めているのかということも含めて,こちらは刑事手続法について話し合う場ではあるのですけれども,運用の在り方についても,疑問を持っているということをお伝えしたいと思いました。 ○井田座長 ほかに御意見ございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 第2に記載された論点について一通り御意見を伺ったということで,それ以外に刑事手続法に関わる問題,あるいは論点として,ここに追加すべきだということがあれば御意見を伺いたいと思います。何か追加の御意見はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,第1,第2全体で言い忘れた,あるいは指摘し忘れたということがあれば,言っていただいて結構ですが,よろしいですか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,最後になりますが,今後の議論の進め方について,御意見を頂戴できればと思います。今後の議論の進め方,こうあるべきだ,こうすべきだということがもしございましたら,ぜひ御意見いただきたいと思います。 ○橋爪委員 特に実体法の進め方について,2点申し上げたいと思います。   実体法関係については多数の課題が示されており,本日,議論を伺っておりましても,その重要性を改めて痛感するわけですが,ただ拝聴しておりますと,論点の重要性についてはおのずから差があるようにも思われ,また,議論に要する時間についても長短があるような印象を受けました。したがいまして,議論に際しましては,重要性が高く,かつ議論に時間を要する論点については,議論を2巡,3巡と行うなど重点的に検討を加える必要があると考えますが,それ以外の論点につきましては,場合によっては1巡目のみの議論で終えるなど,議論のウエートについては濃淡をつける必要があると考えます。   それでは,何が重要な論点かと申しますと,もちろんこの点につきましては,今後の議論の中で更に検討する必要があると考えますが,私なりの意見を申し上げますと,やはり刑法の性犯罪処罰の基本構造や体系に関わる論点が最も重要であると思います。例えば,暴行・脅迫要件の意義,心神喪失・抗拒不能の要件の意義につきましては,正に性犯罪処罰の根幹に関わる論点でございますので,これについては,2巡,3巡と議論を重ね,十分な議論をする必要があると考えます。また,性犯罪の処罰範囲を変更する可能性がある論点につきましても,これも重要な論点として,十分な時間を取って慎重な検討をすることが必要であると考えます。   これに対しまして,処罰範囲を具体的に変更するわけではなく,一定の行為の可罰性を確認したり,社会に対するメッセージとして,言わばシンボリックな観点から法改正を行うべきかという論点につきましては,相対的には,その重要性は低いと思われます。例えば,先ほど議論がございましたけれども,配偶者間における性犯罪の処罰につきましては,その典型だと考えています。恐らく専門家の中では,配偶者間でも性犯罪を構成する点について見解の一致はあると思うのです。したがって,そのような専門家の共通了解を,社会に対して立法によって発信すべきかということが,恐らく検討すべき事柄であるように感じます。   さらに,もう一点申し上げますと,先ほどこれも御指摘がありましたが,実体法の論点の中には,相互に関連性が強い論点が多数含まれております。例えば,第1の3の地位・関係性を利用した性犯罪の処罰を考える際には,当然ながら,第1の2の三つ目の「○」の抗拒不能要件をめぐる議論が密接に関係してまいります。あえて申しますと,抗拒不能要件の検討では十分にカバーできない場合に限って,この問題が顕在化するということもできます。また同様に,この問題は,性交同意年齢の在り方にも関係してくると存じます。これらの論点につきましては,相互の関連性を意識しながら,複数の論点を行ったり返ったりしながら,重複をいとわずに議論することが重要と考えます。この点についても確認しておきたいと存じます。 ○小西委員 法的な観点とは違うのですけれども,今,犯罪としてきとんと捉えられておらず,さらに,被害の重大さということも十分に理解されていないものの典型が性的虐待だと思います。法律と実体が合っていないと思います。性的虐待がどのような被害を与えるのか,皆さん御存じなのでしょうか。1回だけでも大変なものが,繰り返し,繰り返し起こって,その繰り返しということがまた大きな影響を与えるわけです。例えば時効のことなどを考えても,最初は,被害に遭ったことさえ分かっていない,加害者に感謝をしている被害者だってたくさんいます。外から見たら,多分,元気のいい子供だ,何でもないというようなことがすごくよく起きます。   実際に治療しようと思うと,最初は,本人に被害があったことを認識してもらうところだけで,何年も治療が必要だったり,解離などがよく起きるので,コントロールするだけですごく大変なのです。しかも,そういうことが,経験した人の貧困や自殺や次の再被害や犯罪や,それから薬物乱用などにも全部影響してきます。   今の法律がそういうことを捉えているかというと,全くとは言いませんけれども,うまく捉えられていないのが今の問題なので,子供のことと性的虐待のことというのは,そのようにまだ何が大変なのかが捉えられていないというところから,議論していただきたい。それを法律的にどういうふうに言うのかはよく分からないのですけれども,今の法律で絡め取れる範囲の中をきちんとするだけでは足りないということを申し上げておきたいと思いました。 ○井田座長 小西委員,今の御発言は,いずれかの個別の論点についてということではなく,全体に関わる御指摘でしょうか。 ○小西委員 今,例えば重要な論点と,そうでない論点というのをおっしゃって,いや,それはそのとおりだろうと思ったのですが,例えば性的虐待に関しては,今整理されている構造そのものが合っていないと私には思えるので,重要な論点として扱ってくださいという希望です。 ○井田座長 承りました。   ほかに御意見はございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 本日,委員の皆様からは,この「論点整理(案)」について様々な御意見を頂きました。そこで,今日頂いた御意見を踏まえて,この「論点整理(案)」の修正を検討してまいりたいと思います。具体的な修正の内容につきましては,私が責任を持ちまして,事務当局に協力してもらって修正案を作成し,次回までに皆様にお示ししたいと考えています。そのようなことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのようにさせていただきます。   また,議論の進め方につきましても,頂いた御意見を踏まえて検討し,併せて案をお示ししたいと考えています。   次回の会合では,修正後の「論点整理(案)」を皆様にお諮りして,御異論がなければ論点を確定し,そして,引き続いて具体的な論点の検討に入りたいと思います。そのようなことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのように進めさせていただきたいと思います。   少し早いのですけれども,本日予定していた議事は,これで終了いたしました。   本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容のものはなかったと思われますので,発言者名等を明らかにした議事録を作成して公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料についても,公表することとしたいと思います。そういう扱いでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 では,そのような取扱いとさせていただきたいと思います。   次回の予定について,事務当局から説明をお願いします。 ○岡田参事官 第5回会合は,8月27日木曜日午後1時30分から開催を予定しております。次回会合の方式については,追って,事務当局から御連絡を差し上げます。 ○井田座長 本日はこれで終了といたします。   どうもありがとうございました。