法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第27回会議 議事録 第1 日 時  令和2年7月22日(水)   自 午前10時01分                        至 午後 0時26分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について         2 その他           第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第27回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日は,御多忙のところを,お集まりいただきまして,ありがとうございます。   まず初めに,本日の会議についてですが,大沢委員,太田委員,奥村委員,酒巻委員,武委員,池田幹事にはウェブ会議システムを通じて御出席をいただいております。   なお,大沢委員は所用のため,途中で一時離席される予定です。   それでは,事務当局から資料について説明をお願いいたします。 ○玉本幹事 本日は,前回と同じく新規の配布資料はございませんが,参考資料として,配布資料31「検討のための素案〔改訂版〕」,A3判の「犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備-検討のための素案〔改訂版〕-」,「部会第8回会議から第23回会議までの意見要旨(年齢関係)」,「部会第8回会議から第23回会議までの意見要旨(制度・施策関係)」,「部会第21回会議から第24回会議までの意見要旨(「別案」関係)」を配布しています。   ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   本日は,事務当局を通じてあらかじめお知らせしましたとおり,まずは「少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること」について,取りまとめに向けた御議論をいただき,その後,前々回及び前回の会議における御議論に関する補足的な意見交換を順次行いたいと思います。   初めに,「少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること」について御議論をいただきたいと思います。   それでは,御意見がある方は挙手の上,御発言をお願いします。 ○大沢委員 私は,少年法の適用年齢に関しては,選挙権年齢や成年年齢を引き下げる以上,適用年齢を引き下げるのが自然な流れに感じるとこれまで申し上げてきました。また,新聞社の世論調査において,引下げに賛成する人が80%を超えているということも紹介させていただきました。   国民の理解,納得という観点から考えますと,年齢区分を考えるときに,公職選挙法や民法という基本的な法制度において,有権者としての権利を付与されて自立的な判断能力を有する存在と位置付けられた18歳,19歳を,従来と同じく少年と位置付けるのは無理があると私は思っています。   一方で,改善更生や再犯防止という観点,あるいは前回の部会で酒巻先生が御指摘されたように,これまでの法の扱いとなるべく連続性のある仕組みを考えるという視点などを踏まえますと,少年法の適用からは外れる18歳,19歳を中間層と位置付けて,改善更生に資する制度を構築するというこの部会の大きな方向性については私は異論がありません。   ただ,その場合,前回の繰り返しになって申し訳ないのですけれども,18歳,19歳は可塑性が高く,更生の可能性が高いのだということ,あるいは家庭裁判所や少年院を中心とする保護処分の効果が見込まれるということについては,やはりきちんと根拠を示すことが,中間層という区分を設けるにしても,国民の理解を得るには不可欠なのではないかと思っています。   なぜこの点に私がこだわっているかと申しますと,確かに当部会において様々な少年司法に携わる方のヒアリングなどを通じて,少年司法に対して多くの人が関わって,大変な御努力をされているということを改めて感じました。本当に頭の下がる思いをしております。ですが,その一方で,武委員から再三御指摘があるように,手厚い処遇を受けたはずの加害少年から被害者遺族の方に謝罪すらなく,被害者遺族の方が苦しい思いを続けているという話も,ずっとこの部会を通じて私は聞いてきました。更生の出発点となる謝罪をそもそもしない,あるいは被害弁償もされないという現実を一方で突き付けられていますと,これまでの少年司法と同じ取組で本当にいいのだろうかという疑問が湧くのも禁じ得ないところです。ですから,中間層を設ける根拠,理由に加えて,家庭裁判所における手続や少年院の処遇の効果というものを,やはり何らかの形で分かりやすく示していただきたいと私は思っております。 ○山﨑委員 私は18歳及び19歳の者については少年法の対象として,飽くまで少年として位置付けるべきであり,その上で,18歳及び19歳の者が民法上は成年とされるということとの関係については,例えば保護者の規定ですとか,更に必要があればぐ犯の規定などについて,必要に応じて条文の修正を加えればよいと考えています。今回の諮問事項に即して言えば,少年法における少年の年齢を18歳未満とすることには反対です。少年法の適用年齢について,言い換えれば18歳及び19歳の者を少年法上どのように扱うべきかについて検討するに当たっては,最も重要なのは有効に機能している少年法に変更を加えなければならないほどの立法事実があるのかという観点であると思います。   私は,これまでも述べてきましたとおり,現実には現在の18歳,19歳は未成熟であり,その大半は学生であって親の監護下にあることや,行動制御能力をつかさどる脳の部位の発達は20歳半ばまで続くという脳科学の知見等を重視すべきであって,現行少年法の適用年齢を引き下げる実体的な立法事実はないものと考えています。これに対して,適用年齢の引下げに賛成される方々からは民法の成年年齢等との整合性,さらには国民の理解,寛容といった点が主たる理由として挙げられていると理解しております。   しかしながら,少年法の保護原理を国親思想のみによって説明するのは相当でなく,民法改正による親権からの離脱という点は18歳,19歳に対する保護原理に基づく国家の介入を否定する根拠とまではならないと考えます。さきに述べたとおり,親権からの離脱に対応する条文の修正を行えば足りるものであると考えております。   また,国民の理解,寛容について言いますと,約3年半に及ぶこの部会での審議期間においても,新聞等の各種報道や他領域の研究者による論文,さらには当部会に提出された多くの意見書等を拝見しますと,少年法に関わる法曹関係者だけではなく,少年矯正の現場の方々からの貴重な御意見に加え,精神医療,あるいは児童虐待問題に携わっている方々,さらには消費者団体等も含めて非常に幅広い分野において,現行少年法の有効性及び,今後も18歳,19歳を少年法の対象とすることの必要性が広く理解されてきたものと感じております。   さらに,民法改正で成年とされたことにより,18歳及び19歳は自律的判断能力を有するものであるとする政策的判断がなされたという説明もされているところではありますけれども,今回の民法改正の趣旨が18歳,19歳の成熟度や判断能力に着目したものではなく,また,民法と少年法とでは問題とされる能力や適用場面が異なることから,そのような考え方に賛同することはできません。ですが,仮にそのような考えをとり得るとしても,少年法が有効に機能していることとの関係において,民法等との整合性をどこまで強く考えるべきなのかということが検討されるべきだと思います。   そして,実際にこの間の審議においては,制度としての有効性を検討してきた結果として,18歳及び19歳の者を20歳以上の成人と同様に扱うことでは,十分な制度が構築できないことが明らかとなり,いわゆる「若年者に対する新たな処分」についても,対象となる18歳及び19歳の者の未成熟性や可塑性に鑑み,その対象事件を拡大するなど,「別案」においてはかなり現行少年法の手続や保護処分に近い内容となってきたことは否定できないと思われます。そのようなことを考えたとき,18歳,19歳が自律的判断能力のあるものと位置付けられたとして,民法との整合性を図るべきという考え方についても,有効性を犠牲にしてまで現行少年法に変更を加えるほどの立法事実にはなり得ないのではないかと考える次第です。   なお,最後になりますが,私は「若年者に対する新たな処分」の「別案」に賛成することはできませんけれども,仮に「別案」のような制度を採用する場合であっても,それはやはり対象者の健全育成を目的とする少年法の下でなければ,理論的にも正当化し得ないのではないかと考えております。この健全育成という目的は,対象者の成長支援,あるいは成長発達権の保障と言ってもよいかと思いますけれども,すなわち「若年者に対する新たな処分」の制度では,対象者に対し,犯罪事実の認定手続前に教育的働き掛けを含む家庭裁判所調査官の調査を実施することや,犯罪事実の認定手続そのものについても非公開の審判で,伝聞証拠排除法則等に基づく厳格な手続によらずに行うことが予定されています。   しかし,このような手続は保護原理を介入原理とし,対象者の健全育成を図り,成長を支援するために,対象者の利益となる処分を決定するということで正当化されてきたものであり,そうではなく,応報に基づく刑罰ではないと説明するにしても,少年法と異なり,侵害原理に基づく不利益処分を決するための手続であるということになりますと,やはり憲法上,適正手続の要請から許容され得ないのではないかと考えている次第です。 ○山下幹事 私も,少年年齢の引下げに反対する立場から意見を述べたいと思います。   18歳及び19歳の年長少年は,いまだ成長発達途上にあって可塑性に富んでおり,理解力や思考力が相応に発達した年代であることから,適切な教育的働き掛けによって大きく変化し,改善更生する可能性が高いと考えられ,罪を犯した18歳及び19歳の事件が家庭裁判所に全件送致され,その抱える問題性について,専門家である家庭裁判所調査官による科学的調査を経た上で保護処分に付されるという現行の少年法のシステムは極めて有効に機能しているということでありまして,この点については,この部会においても異論なく確認されているところであります。   これまで,「若年者に対する新たな処分」が検討され,その「別案」も提示されて議論を重ねてまいりましたが,「別案」をめぐる議論を踏まえても,まだ現行少年法の年長少年に対する調査・処遇と比較すると見劣りがするばかりか,むしろ弊害も大きいと考えられますし,推知報道禁止の規定が一旦は全て外れるということになることなど,いろいろ問題があります。したがって,少年法における少年年齢の引下げはすべきでないと考えるところであります。   第26回会議におきまして,18歳及び19歳の中間層について,18歳及び19歳の者が民法上成年となるということによって,17歳以下の者と異なる法的地位を有することになり,法制度全体の整合性という観点から,18歳及び19歳の者に対しては保護原理に基づく介入はできないため,「若年者に対する新たな処分」においてもぐ犯を対象とすることはできるとか,行為責任の範囲内という枠がなくなるということにはならないという意見が述べられました。しかし,この見解は,法制度全体の整合性や,国法上の統一という観点を媒介として,あたかも民法上成年となれば刑事法,少年法上も成人となるかのような議論をしていると思われます。   例えば,刑法第41条は刑事責任能力を14歳以上の者について認めていても,民事責任はこれとは別に扱われているのと同様に,民法上成年となり,自律した存在として扱われるということは飽くまで民事上のことでありまして,刑事責任についてはこれとは別の観点から判断されなければならないと考えられます。そうであるとしますと,民法上の成年である18歳及び19歳の中間層を観念するとした場合に,直ちに保護原理に基づく介入ができないことが理論的に導かれるというものではないと考えます。18歳及び19歳の中間層というものを観念するのであれば,それは民法上成年だけれども,18歳未満の少年に近い存在であり,保護原理に基づく介入が認められるという方向で議論するのでなければ,あまり積極的な価値は認められないと思います。   したがって,法制度全体の整合性とか国法上の統一という観点を入れて,民法上成年となることによって17歳以下の少年とは質的に異なるという見解をとるのであれば,そのような中間層を認める意味や実益はないと考えられますので,やはり少年法における少年年齢の引下げはすべきではないという結論にならざるを得ないと考えます。              (大沢委員離席) ○田鎖幹事 私も少年の年齢は引き下げるべきではないという立場から発言をさせていただきます。   先ほどの山﨑委員の御発言とも一部重なりますが,親権に服さない18歳,19歳の者に少年法の保護原理が妥当しないという考え方の基礎には,保護原理の根拠を国親思想により説明する考え方があります。そして,このような考え方に対しましては,歴史的には国親思想に淵源があることは確かであるとしても,現代においては子供の成長発達権を保障し,本人の最善の利益を図るために国による後見的な介入が認められると考えるべき,このような意見が出されてまいりました。私も同様に考えるものです。   もっとも,このような考え方に立ったといたしましても,何歳の者について国の後見的な介入を認めるかというのは政策的な判断であって,この政策的判断には法制度全体を通じた整合性が認められるというところ,その判断の基本をなすのは結局のところ民法であって,民法改正によって18歳,19歳を親権の対象から外し,自律的な判断能力を有するものであるとする政策的判断がなされた以上,18歳,19歳の者を保護処分の対象とすることが法制度全体としての整合性という観点から説明できるのかを検討する必要があると,このような御指摘がなされてまいりました。   そこで,改めてこのような政策的判断の基本をなすのが民法であるべきなのか否かという点に立ち返って考える必要があろうと思います。   民法以外に,少年の健全な成長のために国が後見的介入を行う法領域といたしましては,公営ギャンブルに関する競馬法,自転車競技法,モーターボート競走法等が挙げられます。これらの法では18歳,19歳の者に対して,親権から離脱した成年者となるにもかかわらず公営ギャンブルを禁止しております。この禁止は飲酒,喫煙の禁止とは異なりまして,本人の健康被害の防止,あるいは生命身体を保護するためといったパターナリスティックな制約とは言えません。これは端的に,20歳未満の者の判断能力が未成熟であるということを理由とする制約介入であります。すなわち民法改正においては,自立的な判断能力を有するという政策的判断がなされた18歳,19歳の者が,競馬,競輪,競艇等においては自立的な判断能力を有する者とはされなかったということでありまして,かつ18歳,19歳に対しても後見的介入を行うことが必要かつ相当と判断されたということになります。   また,平成28年の児童福祉法改正によりまして,18歳,19歳に対する支援,保護も拡大されました。従来,18歳,19歳に対しては,既に施設に入所措置がとられている児童について,18歳を超えても措置を継続することができるということにとどまっていました。これが改正によって,一時保護中に18歳を過ぎても,新たに施設入所等の措置をとることができるようになったもので,この点は今般の民法の成年年齢が引き下がったことによっても変更はございません。これは,民法上は自立的な判断能力を有する者との政策的判断がなされた18歳,19歳の者を,児童福祉法においては,なお国家が施設入所を含めた権限を行使し得る対象としていることにほかなりません。   以上のような立法がなされている状況において,18歳,19歳を保護処分の対象とすべきか否かという政策的判断に当たって,あえて民法を基本とした考え方をとることが法制度全体の整合性という観点から適切なのか疑問が湧きます。実際,憲法,民法,少年法,児童福祉法など,広く子供に関わる法を対象とする,いわゆる子供法の研究者からは,少年法は親権よりも子供の福祉を優先し,時に国家機関等が強制的に介入し親権を制限する点で児童福祉法と共通するものであり,少年法適用年齢引下げを考えるに当たって少年法が視野に入れるべきは,民法よりむしろ児童福祉法であるとの指摘もなされておりまして,これは極めて説得的であると考えます。法制度全体としての整合性という観点からも,18歳,19歳をなお保護処分の対象とすることは十分に説明可能だと考えます。 ○青木委員 年齢の引下げ問題に関して,私も同じように,少年法の適用年齢を引き下げるべきではないと考えておりますけれども,この部会が始まった当初は,年齢問題というのは18歳,19歳を20歳以上と同じように扱うという前提で議論をされていたと思います。けれども,20歳以上と全く同じ法制度の下で行うということでは,刑事政策的にいかにも劣るものになってしまうということで,結局,20歳以上の者とも区別をするということで話が進んできたと思っております。   そうしますと,年齢引下げ問題といいましても,単純に成人か少年かということではなくて,少年として位置付けるとしましても,先ほど山﨑委員も言われましたように,少なくとも民法上成年となったということによって修正が必要になってきますし,成人としてカテゴライズをするとしましても,まだ18歳,19歳は20歳以上と比べて成熟度も低いということを考えて,何らかの修正を加えるということを行ってきているということだと思います。したがって,いずれにしても修正を加えるということで,それでは少年にカテゴライズして修正を加える方がよいのか,20歳以上の成人にカテゴライズして修正を加える方がよいのか,それは刑事政策的に見てどうなのか,法制度全体の整合性との観点から見てどうなのかということを検討する必要があるのだろうと思います。   刑事政策的にということで申し上げますと,先ほど山﨑委員が言われましたけれども,18歳,19歳にとって現在の少年法が有効に機能していることは恐らく異論のないところであろうと思います。このことに鑑みれば,刑事政策的には現在の少年のグループに属するものとして修正を加える方が有用であることは明らかであろうと思います。特に成人のグループに属するという前提であるとしますと,これまでさんざん言われてきましたように,「別案」をとるとしてもぐ犯は対象とならず,行為責任の範囲内での処分しか認められないということによって,これまで行われていた18歳,19歳にとって有効な処遇のうちのかなりの部分が行えなくなることになってしまうのではないかと思います。   ぐ犯については,実際問題,18歳,19歳の場合に非常に問題になるのは,交際相手が犯罪性のある人であって,正に犯罪と隣り合わせにいるというような状況の者というのが考えられます。先ほど児童福祉法の話にもありましたように,まだ18歳,19歳は自らの力で,そういうところから逃れるということはできないわけですので,そこで手が差し伸べられて,ぐ犯として,言わば最後のセーフティーネットとなり,明日犯罪に手を染めてしまうかもしれないという状況の者を,まだ犯罪ということが証明はできない,例えば犯罪性のある交際相手との共犯が疑われても,その証明ができないとか,交際相手が薬物を使用していて,その本人も薬物を使用している可能性はあるけれども,証明はできないというような状況の者が,今は救われています。そういう人たちが,では,児童福祉法の網で救われるかというと,なかなかそうはならないわけで,こういう今の少年法がセーフティーネットになっているというようなものも,成人としてしまうと,今後はそれができなくなってしまうというのは,やはり大きな問題であろうと思います。法制度全体の整合性ということを考えても,民法上の成年年齢が変わったことに伴う修正を加えるということで整合性を図ることは可能であろうと思います。   婚姻による成年擬制の場合に,親権者というのは観念できないわけですけれども,それでも少年法が適用されるということに関して,民法が本人の成熟度とは別個の観点から認めた例外であって,少年法が適用される実質的根拠が失われることにはならず,依然として少年法が適用できることになるということで,飽くまで特殊な場合に例外として認められているものであり,これをもって民法上の成年者を一般的に保護処分の対象とすることが正当化できるものではないと思われるとの御意見が出されました。しかし,今回の民法改正も,先ほど山﨑委員が言われたように,18歳,19歳の成熟度が上がったことを理由とする改正ではないのであって,婚姻による成年擬制の場合と同様に,実際の成熟度とは別個の観点からなされた改正です。数として婚姻擬制というのは例外的であったとしても,理論的には同じ考え方で捉えることもできるわけですから,少年法は民法上成年となった者であっても適用され得るということを法自体が許容しているとも言えると考えます。   一方で,「若年者に対する新たな処分」の「別案」においては,成人であるという前提に立ちながら,20歳以上の成人とは異なって,公開の裁判による犯罪事実の認定を経る前に家庭裁判所の犯罪事実が存在することの蓋然的心証が得られれば調査ができ,調査の中で教育的措置もとられ,試験観察も行えるというようになっています。少年の場合には保護処分優先で,そのような調査等は処遇選択につながるものとして存在していて,その一環として教育的働き掛けなども行われているものですけれども,これまで成人についてはそのような制度はございません。かつて,成人について判決前調査制度の導入について検討されたことがありましたけれども,これについては,事実認定手続と量刑手続を二分せずに,事実認定手続前に調査が開始されることへの懸念,あるいは関係者のプライバシー侵害への懸念,直接主義,口頭主義に反することになるのではないかというような懸念などから,導入されておりません。   「若年者に対する新たな処分」は保護処分でもないとされ,保護処分優先ということも,そういう意味ではないわけで,調査後に結局刑事処分に付されるという場合には,調査は判決前調査と同じようなものであることになります。「若年者に対する新たな処分」を受けるのは成人であるとすると,判決前調査については同じ問題が今も指摘されるはずです。問題が指摘されて導入には至っていない判決前調査よりも更に踏み込んだ調査,試験観察等が家庭裁判所の蓋然的心証のみで行えるというのは,成人の制度ということで考えると,これまでの制度と整合性のある制度と言えないのではないかという疑問もあります。   そういうことで,全体として刑事政策的側面,法制度全体の整合性というようなことを考えたときに,成人としてカテゴライズするよりは少年としてカテゴライズする方が,どちらの意味においても適切なのではないかと考えます。 ○橋爪委員 先ほど公営ギャンブルの問題に関する言及がございましたので,それを契機として思うところを申し上げます。   直感的な印象ですが,公営ギャンブルの禁止の問題と少年法の適用年齢の問題は次元が異なり,同一には論じられないように思います。すなわち,公営ギャンブルは賭博罪の構成要件に該当するわけです。原則として禁止される行為であって,それを一定の範囲で例外的に刑法第35条の正当行為として違法性阻却していることになります。つまり,原則的に禁止されるべき行為をいかなる範囲で反対利益との比較衡量によって正当化するかというのは,すぐれて立法政策的な判断であり,したがって,一般成人についても一定の範囲でこれを禁止することも十分に可能であると考えます。   繰り返しになりますが,原則として禁止される行為をいかなる範囲で禁止を解除して正当化するかという問題が公営ギャンブルの問題です。他方,少年法適用年齢の問題は,本来であれば侵害原理,責任主義が妥当し,法益を侵害しない限り国家が介入できないところ,例外的にいかなる範囲で国家の介入を正当化するかという問題であり,原則介入できないところに,いかなる範囲で例外的に介入するかという問題です。このように両者の問題はベクトルが全く違いますので,公営ギャンブルの問題と少年法の適用年齢の問題は切り離して検討するべきだと思います。 ○奥村委員 少年法の適用年齢引下げ自体の賛否両論があり,今まで賛成,反対論が続いていましたけれども,賛否両論の根拠について検討してみたいと思います。   第1に,公職選挙法とか民法等の国法の統一性の観点につきましては,確かに法律の適用年齢が統一されている方が規範として国民に分かりやすいわけですけれども,反対論が指摘するように,各法律の立法目的などから一律でなければならないわけではないと思います。しかし,刑法上は現行の20歳未満を維持しますと,民法上18歳で成年になって親権から独立した者に対して保護処分を行う理論的説明が困難になるという指摘があり,これは大変重要であります。   これに対して少年法は,年少ゆえの特性に着目して特則を定めるものであって,国親思想とか教育可能性から再犯防止に向けた有効な矯正を施す刑事政策的合理性によって基礎付けられることから,民法上の親権に制約されないとする反論が見られます。しかし,親権は,制限行為能力者であります未成年者を,その親が健全育成のために保護する義務で,少年法は非行に走った未成年者を国が健全育成のために保護することを第一義としているわけです。   民法上,18歳で成年になりますと,親の親権がなくなって,行為能力が認められて,自己決定権を有して,契約その他の権利義務の主体となるわけです。それにもかかわらず,未成年者として監護教育する権利義務の対象でない者に国家が刑事上は保護的,教育的処遇を加えるのは,対象者の行為能力,自己決定権を否定するものでありまして,リーガルパターナリズムの強制にほかならないのではないかと思います。さらに実体刑法の解釈論としても,いささかバランスに欠ける感が否めない問題があります。   例えば,未成年者略取・誘拐罪の刑法第224条の客体は未成年者であります。未成年者は,刑法上定義がないために民法上の定義に従って,現行法では20歳未満の者を言うわけです。本罪は,心身の発達が未成熟な未成年者を成年者より手厚く保護するという観点から,被拐取者の自由,身体の安全のほか,親権者等の監護権も保護法益として,他の拐取罪と異なって,営利等の特別の不法目的が成立要件とはなっていないわけです。しかし,民法上の成年年齢が18歳以上に改正されますと,本罪の客体は18歳未満の者となるでしょうね。   ところで,少年法の適用年齢を引き下げない場合,例えば18歳の少年が,19歳の成年被害者を拐取する行為は,本罪は構成しないことになりますから,営利等の特別の不法目的がない限り,いかなる拐取罪も成立しないことになってしまいます。その結果,18歳と19歳の保護の視点は本罪の主体には及ぶが客体には及ばないということになって,加害者保護は図られるものの,被害者保護の視点は欠けるという問題が起こってくると思うのです。略取はともあれ,誘拐を手段とする場合は問題であると思います。   もっとも18歳未満の少年を拐取した場合にも,成年擬制の本罪適用により既婚の未成年者を客体から除外し,本罪の適用はないとする見解も有力です。確かに,一定の判断能力を備えた年齢である18歳程度に達すれば同意能力は肯定され,その者の意思の有意性が認められるため,本人の意思に瑕疵がない場合は本罪の適用は不要であります。しかし,婚姻により心身の未熟さが解消されるわけではありませんので,成年擬制の本罪適用に関しては慎重であるべきです。   第2に,少年非行の増加,凶悪化について,反対論の指摘のとおり,統計では減少している事実があるとしても,再犯率についても低くはなく,再犯防止は喫緊の課題であります。   第3に,被害者等への配慮についてですけれども,被害者は,基本的に年齢引下げの賛成論に立っているわけです。その根拠は,少年法は非行少年による犯罪行為について,重点がどのような非行を犯したかではなく,少年自身の健全育成のためにどのような保護を施すかについてのみ検討していることを疑問視して,殺人や傷害致死等の故意に人の生命を奪う重大,凶悪な犯罪行為を惹起した加害少年には少年法を適用すべきではなく,相応の刑事責任を取らせるべきであるとしているわけです。それで,事件の真相を知るためには被害者参加制度を利用して,少年審判では認められない被告人質問や証人尋問が必要なことが挙げられているわけです。   これに対して,反対論からは,現行少年法は,原則非公開の少年審判で被害者等による記録の閲覧,謄写,審判の傍聴を可能としているとして,被害者への配慮はしているという反論をするわけですけれども,被害者等への配慮の視点という意味ではこれは不十分です。反対論が積極的根拠として挙げている点ですけれども,確かに少年法の適用年齢を引き下げますと,窃盗等の軽微事犯の被疑者の大半が起訴猶予処分の対象になる可能性があります。ただ,18歳と19歳の年齢層には,精神的成熟度が低い者も少なくないと言っても,これには個人差があって,20歳を境に精神的成熟度が高くなるわけでもないわけです。一方で,年長少年のぐ犯事由がある場合にも,社会に放り出されて保護処分を受けられなくなって,その結果,健全育成に向けた教育的環境調整的な保護の機会を失ってしまい,かえって再犯が増加するおそれがあるという主張について,確かにそのような懸念はあると思います。   そこで,「若年者に対する新たな処分」の創設の提案に注目するわけですけれども,この提案は,少年法の適用年齢の引下げに賛成の立場から,少年と成人の中間的な年齢層として18歳,19歳について,成人とも少年とも異なる対応をするということの提案であります。それで,こういう一定の層という年齢幅の18歳,19歳の特別扱いということについて議論の余地がありますけれども,これは反対論も賛成論も,その点については特別な修正が必要であるという点では一致しているわけです。   もっとも18歳,19歳の者が成人となると親権の対象ではなくなるわけなので,保護処分を行えなくなるのではないかということです。捜査段階で成人に対し詳細な調査を行う制度を取り入れるに際して,起訴前調査は無罪の推定原則に反対するおそれはないのか,手続確保の点も疑問があります。   そこで,私としては賛否両論を検討しまして,有意性かつ被害者の視点から見ましても,やはり反対論ではなくて,賛成論を支持したいということです。 ○武委員 最初に話をされた大沢委員,そして奥村委員と同じで年齢引下げに賛成です。   先ほどから18歳,19歳の少年の未熟さとか可塑性に富んでいるという話が出てきますが,私の一般的な市民感覚で言いますと,14歳,15歳の少年たちの未熟さとか可塑性とか,そういうことを言うのであればまだ理解ができるのですが,18歳,19歳でも,その未熟さとか可塑性をすごく大きく考えて議論するというのがどうしても理解できないです。その未熟さというのはどういうものなのか,教えていただきたいです。14歳,15歳の,友達に誘われて万引きをするとか,本当に守らなければいけない未熟さと,18歳,19歳の未熟さというのがどのように同じなのか,分かるならば教えていただきたいです。   そして,選挙権が付与され,民法が変わるということの整合性とよく言われますけれども,整合性というのがどういうものか私は分かりませんが,選挙権も与えられる,そして民法上も成年として,18歳以上は大人として扱われるのだということになれば,やはり悪いことをしたときもそれに合わせて下げるというのが一般市民感覚なのです。けれども,何度も言いますように,本当にその中で酌み取ってあげないといけない人が,やはり犯罪によってはあると思うのです。そのような人は救ってあげないといけないと思いますし,そのために保護処分が必要というのは理解ができます。でも,そのことを理由に公職選挙法,民法が変わり大人となっても,悪いことをしたときだけ年齢が引き下がらないのかというのはどうしても納得いかないし,私の周りのたくさんの人に話を聞いても,それはやはりおかしい,理解ができないというのが,一般市民の感覚なのです。だから,もう一度そこをしっかり考えていただきたいです。   ○酒巻委員 年齢区分について,意見を申し上げます。   これまでの部会の議論を振り返りますと,当初から,いわば二分法で,18歳及び19歳の者を「少年」とすべきという意見と,「成人」とすべきという意見が大きく分かれてきたところであり,それゆえに,この年齢問題をひとまず措いた上で,18,19歳の者に対する制度・施策の在り方の検討を進めようという方法で,これまで議論が行われてきました。   そういう中で,特に最近の会議におきましては,「若年者に対する新たな処分」をはじめとする18歳及び19歳の者に対する制度は,これらの者を20歳以上の者とも,また17歳以下の者とも異なる,「中間層」ないし「移行期」にある者として位置付けるものにほかならないから,年齢区分自体も二分法ではなく端的に三区分とすることも考えられるとの意見が複数示されてきています。この年齢区分自体を二つではなくて三つにする,三区分とするという考え方は,それ自体それなりの合理性を持っているので,当部会でも徐々にそういう考え方が共有されてきているように感じられます。   そこで,今後の取りまとめに際しても,いろいろな立場の違いを超えて,二つではなくて三つの年齢区分は,幅広い支持を得られる可能性があるものではないかと感じているところです。   もっとも,その上で,仮に三つに区分した場合に,18歳と19歳の者についてどのような名称,「呼称」を付けるかについては,これはまたいろいろな考え方があり得るだろうと思います。   一方で,18歳と19歳の者が,まだ十分成熟しておらず,可塑性に富むことを重視する立場からは,これらの者は17歳以下の者に近い存在であるとして,例えばこれまで使われてきた言葉ですと,やはり「少年」のうちの「年長少年」といったように,その呼称においても,「少年」という語を用いるべきだという意見が想定されます。   他方で,18歳,19歳の者は,選挙権が付与され,また,特に民法上は「成年」として重要な権利,自由を与えられたことを重視する立場からは,これらの者は20歳以上の者に近い存在であるとして,例えば「若年成人」といったように,その呼称においても少年ではなくて「成人」という語を用いるべきとの意見が出てくるだろうと考えられます。   さらに,これらの者が17歳以下の者とも20歳以上の者とも異なっている「中間層」であることを文字どおり徹底して,その呼称においても「少年」でも「成人」でもない何か別の呼称とすべきであるとの考え方もあり得るだろうと思います。   こうした呼称の在り方は,単に名前の問題ではない。結局そこに,呼称についてこだわり出しますと,寄って立つ立場の理念だけでなかなか一義的に決まるという性質のものではなく,あえて現段階で名前を決めようとすると,結局二分法的な争いに戻ってしまうということがあり得ます。これは,広く国民一般の意識や社会通念など,様々な事情,観点も踏まえて適切なものを決定することが最終的には求められるものですが,当部会のこれまでの議論の状況や,18歳と19歳の若者の呼称についての考え方の違いが,これらの者の法的・社会的位置付けに関する見解の相違に深く根差したものであると考えられることからしますと,この部会において,幅広く合意が得られるような形で18歳,19歳に特定の呼称を付けるということに意見を集約するのは,相当困難であろうと感じているところでございます。   そこで,もう一度翻って考えてみますと,この18歳,19歳の若者に対する刑事司法制度の在り方を考える上で一番大事なことは,18歳,19歳に適したいかなる制度を設けて,具体的にどのような取扱いをするかを決めることにあります。18歳,19歳の者の呼び方は,もちろん可能であれば併せて決めるのが本来望ましいとは思いますが,この部会の課題として必ずしも不可欠な要素ではないと考えます。   そうであるとすれば,当部会におきましては,最近の議論状況に合わせて,年齢区分を二分法ではなくて三区分とし,18歳と19歳の者を,17歳以下の者とも,20歳以上の者とも異なる,その間の言わば「中間層」として位置付けるべきという限度で皆さんの意見の取りまとめを行い,18歳,19歳の若者に対する具体的な呼称につきましては,今後の立法のプロセスにおける様々な検討に委ねるということも,次善の策としてはあり得るのではないかと考える次第です。   要するに全体を三区分に頭を切り替えて,「中間層」にふさわしい適切な制度を設定するということです。以上が,私のこれまでの議論を伺った上での意見でございます。 ○廣瀬委員 今,酒巻委員から建設的な御意見がありましたが,私も基本的には賛成であります。   18歳,19歳を少年法上どう位置づけるかについては,私も,二分法ではなく,実際に合わせて三分法で考えていくのが正しいと思います。その論拠としては,少年から成人への発達過程の実際を考えてみても,突然に大人になるわけではないからです。人の成長発達には段階的,中間的なところがあり,大人と子供の中間といいますか,大人子供というか,子供大人というか,ある面では大人っぽいけれども子供っぽいところもある,逆に子供っぽいようでしっかりしているところもあるという一定の年齢層があります。その範囲を18歳,19歳に設定するかどうかは,国により,制度によって違いがあるわけですが,刑事法的な,少年法的な規制の問題としても,そういう前提に即した扱いをしていくということに合理性があると思います。そうすると,そういう方向にそれなりにコンセンサスができてきたという酒巻委員の評価を伺うと,そういう方向で進めていいのではないかと思います。   今日もいろいろな議論が出ていますが,それぞれ御指摘の点には,いずれも論拠があるところだと思います。けれども,少年法の制度・運用を考えるときの根本的な問題として踏まえておくべき点があると思います。少年法では,確かに少年の特性に見合った最適な処分をして,少年の改善更生を図って立ち直らせる,健全育成を図るということが目指されています。しかし,それだけで済むのかという問題があります。少年であっても罪を犯し,社会に不安を生じさせたり,被害者を出したということに対しては,少年なりにきちんと責任をとらせる,犯罪に対する対策,被害者の心情や一般社会の正義観念に応えなければならないということがあるわけで,それに対する対策もきちんと講じなければいけないのだと思います。   少し大きくみれば,世界の少年法でも同じ問題,少年に対する教育や処遇の有効性の問題と犯罪対策の問題をどうやってバランスをとるのかということで,どこの国でも苦労しています。日本でも正にそういう議論がこれまでにも闘わされてきているわけです。そういうことを考えると,この中間層についても,成人並みにきちんと責任を取らせる必要性の高い重大凶悪事件の問題が一方であり,少年の反省,謝罪・弁償等の対応によっては被害者も一般市民も納得してもらえるという程度の犯罪事件で,教育や処遇の有効性を追求するべきであるものと,両方あると思うのです。これまでに出てきた別案は,この両方の要請に応えようという形になってきているわけですから,こういう方向で三分法的に取りまとめていくのが,私は正しいのではないかと思います。   中間層のネーミングの問題をここで決めるのは難しいだろうという御指摘があり,私も同感です。しかし,そうはいっても名前は非常に象徴的な意味も持つわけで,重要なところでありますから,あえて言いますと,どちらかと言えばという程度ですが,「若年成人」として位置付けた方がいいのではないかという気がしております。 ○山下幹事 1点だけ,保護者の概念について意見を補足したいと思います。   従来,現行少年法第2条第2項の保護者について,民法上,18歳及び19歳の者が成年となる関係で保護者がいなくなることが,少年法の年齢を引き下げないということに対する障害になるのではないかという御意見がありました。この点につきましては,第24回会議におきまして,18歳及び19歳の者の親等につき,包括的に少年法上の保護者と同様の法的地位を認めるのではなく,少年法上の保護者が担っている手続上の役割を個別に検討し,家庭裁判所の手続に乗った18歳及び19歳の者の権利を擁護するという観点から,必要と考えられるものについて,その内容ごとに,それに適するものに適する役割を与えるという方法が提案され,こういった形での権利の付与というのは対象者に対して法的な監督権限があるかどうかとは切り離して認めることはできるので,この方法であれば,18歳及び19歳の者が民法上成年となったということと整合性する形で,その親等の地位を位置付けることができるのではないかとの意見が述べられています。   この見解も検討を要するとは思いますが,こういう解決の方法もあるということでありますと,少年法の第2条第2項の保護者の概念との関係は,少年年齢を引き下げないということの障害にはならないと考えられますので,やはり,私は少年の年齢引下げには反対です。 ○山﨑委員 三区分を前提に名称をどうするかというのは,確かに難しい議論だと思いますが,先ほど廣瀬委員から,どちらかと言うと,という御意見が出ましたので,その点について述べます。18歳,19歳の者が20歳以上の者とは違うという理由については,繰り返し言われているような未成熟性,可塑性ということがありますけれども,それに加えて,18歳,19歳の者は従前保護処分の対象とされてきたという長年の蓄積があるわけですので,その点においては,20歳以上とは明らかに異なるということになると思います。この点はしっかり明確にしておく必要があると考えますので,ここで改めて申し上げたいと思います。 ○佐伯部会長 それでは,次に,前々回の会議における「非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方」のうち,「若年者に対する新たな処分」以外の制度,施策についての御議論に関する補足的な意見交換を行いたいと思います。   ○奥村委員 前々回の第25回会議におきまして,武委員から被害者に対する謝罪や被害弁償の実行を特別遵守事項に組み入れるべきであるとの御発言がありました。続けて,私も被害弁償につきまして,武委員の意見を支持する発言をいたしました。これに対して,加害者が損害賠償や謝罪に向き合うということは,被害者だけでなく加害者にとっても大変重要であるという点については意見を我々と同じくするけれども,損害賠償や謝罪を特別遵守事項に組み入れることは適当でないという御発言がありました。そこで,当部会の審議が取りまとめに向けた段階に入っているこのときに,一言意見を申し上げたいと思います。損害賠償に限定して申し上げます。   慎重論の根拠の第1に,賠償それ自体を遵守事項として義務付けることは,本来,民事手続で解決されるべき債務の履行を,刑罰の執行の威嚇効果に結び付けられた遵守事項違反を理由に強制することになり適当でないとされています。第2に,遵守事項違反の有無を明確に判断することは困難であるとされています。確かに債務の履行という民事手続で解決すべき事柄を刑事罰の威嚇効果で強制することになるのは適当ではないという趣旨は分かりますし,取り分け我が国では民事手続と刑事手続とは訴訟の審理原則や証拠法則が異なり,手続上,明確に区別するべきであるとする考え方が根強くあります。   現に,2007年に導入されました損害賠償命令は,刑事手続と絡めつつも有罪被告人に対する特別な手続に位置付けられています。損害賠償命令は申立料が安価であることもありまして,被害者の負担軽減の効果があると期待されました。しかし,現実は,損害賠償命令で裁判所から被告に対して,被害者に対する賠償が言い渡されて被害者が債務名義を得ましても,支払資力がないとか,支払資力があっても資産を隠蔽したり所在不明になったりして支払われないケースが多く,被害者側は紙切れ同然の債務名義を有するだけになり,結局,損害賠償命令は画餅に帰す存在になって,実効性に乏しい制度に成り下がっているのが現状であります。これでは被害者は,刑事司法に対する信頼を持てないというおそれがあります。   2004年に制定されました犯罪被害者等基本法第12条では,国及び地方公共団体は,被害者の行う損害賠償請求について,援助と必要な施策を講じるべきであると規定しています。損害賠償請求は被害者の極めて重要な権利であるにもかかわらず,その権利利益が満たされていない状況にあると思われます。   前回会議で太田委員から,損害賠償に関する保護観察官や保護司の指導に応じた行動内容の申告や資料の提出の限度で遵守事項とするという御意見がありました。しかし,そのような手立てだけで足りるのでしょうか。民事の損害賠償請求に応じない者に対しまして,強制執行を掛けるだけではなく,刑罰を科することによって実効性を担保することは必要であると思います。一般の債権について,債権の回収の実効性を担保する民事執行法が改正され,罰則の強化が図られています。民事の請求について,刑事の罰則によって実効性を担保することは何ら問題ではないと思います。したがって,これは民刑分離の原則に反することではなく,また,欧米では懲罰的な民事賠償もありますので,私は特別遵守事項に入れるべきであると思います。被害者にとっては,被害者参加制度,被害者の精神的・心理的な支援,経済的支援,この三位一体の一角を遵守させるものでありますので,是非御検討いただきたいと思います。 ○武委員 今の奥村委員の御発言は,本当にそのとおりだと思いますし,本当にそうなってほしいなと私たちも願っています。私たち遺族が抱えている問題は,損害賠償そして加害者側からの謝罪がないというところに行き着くのです。それはどうしようもない,私たちが頑張っても,例えばみんなで励まし合っても解決できない問題なのです。やはり法律の中に入れてもらうことでしか解決できない問題だと私は思うので,しっかり考えていただきたいと思います。   私はいつも思うのですが,それは加害少年のためでもあるし,もちろん社会のためでもあります。犯罪の抑止力にもつながるし,そして加害少年がこれから社会で堂々と,人として社会の一員として生きていくためのスタートだと思うのです。しっかりそのことを盛り込んでいただきたいです。それにはやはり指導する側の人たち,施設に入っているときの法務教官,保護観察中の保護観察官,保護司,そういう方たちに,やはりそれは重大なことなのだと,自分たちがそれを加害少年に,社会に出るために,出るまでに教えなければいけないのだと思っていただきたいのです。それを思ってもらうためには,やはり法律の中にしっかりと明文化する,盛り込んでいただくということが大事なことだと思うので,しっかりそれはしていただきたいです。 ○田鎖幹事 今の論点に関しまして,私も分科会での議論に参加したという経緯もございますので,一言申し上げたいと思います。   武委員,奥村委員の御発言,御主張の趣旨というのは私も十分理解しているつもりでございます。ただ,先ほどの奥村委員の御発言の中にもありましたように,そもそも賠償を実現していくためには,対象者に資力があるということが前提として必要になります。現実問題といたしまして,加害者の側に資力が十分でないケースというのが多々あると思います。また,通常,受けられた被害が大きければ大きいほど,賠償の額も大きくなって,それに掛かる時間というものも長期間にわたるということになると思われますが,保護観察期間というものがそもそも限定されるという意味におきましても,特別遵守事項によって賠償に努めさせることにはどうしても限界があることは否定できないと思います。そのように考えますと,被害回復の問題,弁償の問題については,別途正面から取り組むことが必要ではないかと私は考えます。   例えば,日本弁護士連合会は2017年10月に,「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」というものを採択しておりまして,その中において,このように提言しております。「国の機関が犯罪被害者による強制執行を代行する制度,あるいは国の機関が加害者に代わって被害者へ賠償金を支払い,おって加害者へ求償する制度の創設についても議論を深めるべきである」というものです。私といたしましては,こういうことを踏まえますと,どうしても実効性に当初から限界があることが分かっている制度をこの部会で議論するよりも,むしろ場を改めて,この問題を直接的なテーマとして徹底して議論する,そのようなことが適切であり,かつ必要なことではないかと考えます。 ○山下幹事 これまでと少し論点が変わりますけれども,「検討のための素案〔改訂版〕」の「1 自由刑の単一化」と,「2-3 若年受刑者に対する処遇原則の明確化等」の2点について意見を述べます。   自由刑の単一化につきましては,第25回会議において,青木委員から,改正刑法草案では拘置するということと矯正に必要な処遇を行うということを項を分けて規定していたということを指摘した上で,それは自由刑の本質的な要素である拘置ということと行刑の目的に資する処遇というものを区別したものではないかと思われ,それなりの理由があったものと考えられるので,刑法に書くとしても,せめて項を分けて書くべきであるとの意見が述べられました。   私も以前に同様の意見を述べていますが,矯正処遇が刑罰の内容に取り込まれて義務化されると,矯正の前提にある人格変容や治療が刑罰に取り込まれるおそれがあり,それは相当ではないと考えられますので,そうでないことを明確にするためには,刑罰の内容と処遇の内容とは区別して,項を分けて規定すべきであると考えます。   次に,若年受刑者に対する処遇原則の適用する対象者について,第23回会議においておおむね26歳未満とするとの意見が出されているところでありまして,それについては特に異論はありません。ただ,対象者を議論するに当たっては,その下限も議論する必要があると考えます。現行少年法上は,14歳以上の少年が検察官送致されて自由刑を受ける可能性があるところで,少年法第56条第3項は,16歳未満の少年は少年院で刑の執行ができるという規定がございますが,実際にはほとんどこの規定は利用されていないという現状を考えますと,その下限というのは14歳以上の者になると考えられるところでございます。 ○武委員 先ほど田鎖幹事がおっしゃったことは分かるのですけれども,今回やはりこの議論の中に入れていただきたいということを私はやはり強く思います。といいますのは,できないことだから,例えば損害賠償は多額だからもう払えない,そういうことを話し合ってもとおっしゃるのですが,私たちは多額を払ってもらおうとは思っていないです。謝罪もない,払おうとする姿勢もないということが本当に一番の問題なのです。   先ほどから18歳,19歳の少年たちは可塑性があるとか,未熟さがあるとか言います。だったら,指導で私はいくらでも変わると思うのです。そういう少年たちというのは,指導の仕方で,何かを感じ取り,行動も変わると思うので,可能性はすごくあると思うのです。だから,保護観察中にだけではなくて,施設に入っているときから,例えば少年刑務所,少年院に入っているときから,指導内容に,賠償金のこと,謝罪のこと,被害者と向き合うこと,そういう教育を取り入れてもらいたいのです。それは今回のこの議論にやはり入れてもらいたいです。              (大沢委員着席) ○奥村委員 資力のない加害者に対する損害賠償命令は実効性のないものなのだと当初から分かっていると,おっしゃいましたけれども,民事賠償制度についても,実効性のないことは分かっているわけです。それで,刑事手続で比較的に額の少ないものについて,民事の損害賠償請求を,刑事裁判の公判で開いて解決するという簡易迅速な制度として,平成19年の法律改正で導入されたわけです。   ところで,実効性の点ですけれども,私は平成19年の改正に関する見直しに参加しており,実効性について,最高裁判所の事務当局に聞いたところ,実効性があまりないという話でした。そのときにあすの会の弁護士の先生が,実効性がなくても,被害者の満足度は高い,被害者参加が目的であり,お金が取れないというのは元から分かっていたことだとおっしゃったのです。でも,それは被害者に対して嘘を言っていることになります。被害者は期待しているわけで,被害者の方に対して,簡易迅速な損害賠償命令の制度について,実効性はあるというように嘘を言っていることになります。資力がなければ,これは画餅に帰すことは当然の明々白々なので,それは許せないことになります。だから,御案内のように,最新の犯罪被害者等基本計画の見直しがされているわけです。したがって,緊急の課題として,実効性あらしめるように改正しなければいけないので,先ほどの田鎖幹事の御発言で,正面からやっていくというのは私も賛成です。この部会も,刑罰制度や刑事政策の在り方についても,検討する態勢になっているわけですので,民事罰の問題についても民刑の分離の原則を維持しながら是非御検討いただきたいと思います。 ○酒巻委員 保護観察に関わることについて意見を申し上げます。   これまで,現行の更生保護法上の保護観察の対象者については,その問題性を的確に把握して処遇を見直すことができるようにするために,鑑別のための収容制度を設けるべきだという意見がありました。この鑑別のための収容というのを考えてみますと,これは今ある留置制度等の既存の仕組みとは確かに目的が違うということからしますと,正面から別途新たな制度を設けるのが本来の筋であろうと思いますし,望ましいことだとは思います。   もっとも,あえて新たな制度を設けなくとも,更生保護法上の留置制度など,ほかの仕組みによって保護観察対象者の身体を拘束した場合に,必要に応じて鑑別を行い,それによって,同じ目的を達成できるのではないかという趣旨の御意見もありました。あるいはまた,鑑別のための収容という制度を新たに設けることによって,保護観察制度が全体として権利制約的色彩の強いものとなることが懸念されるという趣旨の御意見も示されてきたところであり,そういう意見が出てくるのも理解できるところです。   「8-3 保護観察における少年鑑別所の調査機能の活用」のところには新たな立法案として記載されていますが,既存の留置制度について,現在は執行猶予の取消し等による施設収容に向けたものになっているのですけれども,これとは異なり,留置中に鑑別を行って,その結果を活用して社会内処遇を充実させるという発想でこれを運用するという対応がもしできるのであれば,そのことを前提にして,取りまとめとしては,新たな収容制度をあえて設けることまではしなくてもよろしいのではないかと,そういう意見です。 ○池田幹事 今の点に関しまして,私からは以前,鑑別のための収容について,留置制度等の既存の仕組みとは別に,新たな制度を設けるべきとの意見を申し上げたことがあるのですが,ただいまの御指摘にあったように,その趣旨が既存の制度の運用を改めることによっても実現し得るというのであれば,私としては新たな収容制度を設けること自体にこだわるものでございません。その上で,そのような考え方に立って,仮に現行更生保護法上の保護観察の対象者について,鑑別のための収容制度を別立てでは設けないということとする場合には,それとの均衡から,「若年者に対する新たな処分」における保護観察の対象者についても,鑑別のための収容制度を別立てでは設けないとすることとなるのではないかと考えられます。そしてその場合,遵守事項に違反しても施設収容の可能性のない保護観察については,施設収容の可能性を前提とする留置や,家庭裁判所の審判の仕組みを設けることはできない以上,対象者の収容鑑別を行う余地はなくなることになるものと考えます。   この点についても,前回の会議において私は,施設収容の可能性のない保護観察についても,鑑別のための収容制度を設けることが望ましいと申し上げました。ただ,これは飽くまでも施設収容の可能性のない保護観察処分の内容が,不良措置がないことを除いては,現行の更生保護法上の保護観察と同様のものとなることを想定して申し上げたものです。他方で,前回の会議において御意見があったように,仮に施設収容の可能性のない保護観察は,問題性が非常に小さい者に限って選択され,処遇期間も6月程度の短期間にとどまるということになるのであれば,類型的に見て,収容鑑別を行うまでの必要性は非常に小さいということになるでしょうし,またそもそも収容鑑別を活用して処遇の見直しを行い,新たな処遇を実施する時間的な余裕も乏しいと考えられることからすると,鑑別のための収容制度を設けなくとも特段の弊害は生じないとも言えるように思うところです。 ○太田委員 「10 起訴猶予となる者等に対する就労支援・生活環境調整の規定等の整備」の中の「一 起訴猶予処分前の者に対する更生緊急保護」及び「二 勾留中の者に対する更生緊急保護」について,いずれも表現ぶりに関することでありますけれども,一言申し上げたいと思います。   まず,「一 起訴猶予処分前の者に対する更生緊急保護」については,起訴猶予処分を受けることが想定される者が処分保留のまま釈放された場合を念頭に置いて議論をされてきたところでありますけれども,「検討のための素案〔改訂版〕」の記載では,この点が必ずしも明瞭となっていないように思われます。   そこで,今後の取りまとめにおきましては,例えば表題を「起訴猶予処分が見込まれる者に対する更生緊急保護」とした上で,内容につきましても,端的に刑事上の手続による身体の拘束を解かれた被疑者であって,起訴猶予処分が見込まれるものについて更生緊急保護を行うことができるようにするなどと記載することとしてはいかがかと考えます。   次の「二 勾留中の者に対する更生緊急保護」についてですが,ここで重要なのは,勾留中の者に対しても保護観察所長が釈放後の住居,就業先その他の生活環境の調整を行うことができるようにすることでありまして,この点についてはおおむね異論がないものと考えられます。他方,これを更生緊急保護の一環として位置付けるか否かについては,両様の考え方があり得るところでありますけれども,この点は単なる整理の問題でありまして,具体的な制度化の段階で立法技術的検討に委ねれば足りるようにも思われます。   そうしますと,今後の取りまとめにおきましては,実質面に着目しまして,例えば表題を「勾留中の者に対する生活環境の調整」として,内容につきましても,端的に勾留されている被疑者については,釈放後の改善更生に必要と認められるときは,その者の同意を得て生活環境の調整をすることができるようにするなどと記載しておくことがよいのではないかと考えます。 ○田鎖幹事 先ほど山下幹事から御発言がありました自由刑の単一化について,私も同様の趣旨で簡単に述べたいと思います。   従前から青木委員を中心にして,新自由刑の下で作業を矯正に必要な処遇として位置付けるのであれば,現行の懲役における刑の内容としての作業とは意味は異なるということを明確にする必要があると意見がございました。私もこれに賛同いたします。   法改正に当たって,旧法下における規定と文言として全く同じ用語が新法においては異なる意味内容を持つものとして規定されるということは,新旧の異同が明らかになるように示さないと,解釈上の誤りを誘発することにもなりかねないと考えます。作業については,明治から続く懲役刑の内容とは異なるものであるということを示そうというのであれば,最低限の要請として刑事施設に拘置するという内容と,作業を行わせることその他の矯正に必要な処遇を行うという内容とは書き分ける必要があると私も考えます。 ○佐伯部会長 それでは,次に,前回の会議における「若年者に対する新たな処分」についての御議論に関する補足的な意見交換を行いたいと思います。   御意見がある方は挙手の上,御発言をお願いいたします。 ○石山委員 前回会議におきまして,原則逆送事件の範囲に関し,強盗罪についての御指摘があった点につきまして,検察官としての実務経験を踏まえ,若干の意見を申し上げたいと思います。   まず,前回会議におきまして,刑事裁判における終局時年齢20歳及び21歳の者の強盗罪の処分結果を見ると,約5割が全部執行猶予となっており,強盗罪を原則逆送の対象とするのは妥当ではないとの御意見があったと記憶しております。改めて部会配布資料4,8,22及び32を見ますと,終局時年齢が20歳及び21歳の者のうち,強盗の罪名区分で実刑となった者の割合,言わば実刑率は,平成26年から平成30年までの5年間の合計で約49%となっていることが確認できます。   私の検察官としての実務経験から申し上げますと,20歳及び21歳の者には前科のない者が多く,それにもかかわらず実刑率が約5割に達するというのは相当に高い水準であると思います。実際,終局時年齢が20歳及び21歳の者の全事件での罰金刑を除く懲役・禁錮の実刑率を見ますと,同じ5年間の合計で約21%となっておりまして,強盗の実刑率に比べ半分以下の水準となっております。これらのことからすれば,法定刑の重さのみならず,裁判実務におきましても強盗罪が類型的に重大性,悪質性の高い犯罪として取り扱われていることは明らかであろうと思います。   そして,今般,原則逆送事件の範囲の拡大が検討されている理由の中核が,選挙権を付与され,民法上の成年とされた18歳,19歳の者について,取り分け重大事件を犯した場合に刑事処分となる範囲が17歳以下の者と同じでは,被害者の方々を含む国民の理解,納得を得難いという点にあることに鑑みますと,強盗罪を原則逆送の対象に含めるべきとの御意見には十分な合理性があると考えております。   次に,前回会議におきましては,万引きを発見され,逃げる際に店員を振り払った場合にも事後強盗となる可能性があるなどとして,強盗罪については犯情の幅が相当に広いことから,これを原則逆送の対象とするのは妥当ではないのではないかとの御意見もございました。強盗罪が成立するか否かにつきましては,検察実務においても相当に慎重な検討ないし判断がなされておりまして,例えば強盗罪と恐喝罪は,暴行・脅迫の程度が反抗を抑圧する程度に至っているか否かによって区別されるわけですが,実務上,警察からの送致罪名が強盗であっても,検察官におきまして事実関係を慎重に吟味した結果,恐喝罪を認定するという事例も少なくありません。また,例えば警察からの送致罪名が事後強盗であっても,暴行・脅迫が相手方の逮捕意思等を抑圧する程度に至っているか疑問があるという場合には,窃盗・暴行を認定することも実務上,しばしば経験するところでございます。そして,強盗罪の成否につきまして慎重な判断が行われていることは,裁判所においても同様と思われることからしますと,警察,検察による捜査段階及び家庭裁判所による調査・審判を経て強盗罪が成立すると判断された事案には,類型的に相応の重大性,悪質性が認められるといってよいと考えます。   もちろん強盗罪が成立すると判断された事案の中でも,例えば暴行・脅迫の態様,被害金額の多寡,共犯者としての主従関係等の個別的な事情により,比較的犯情が軽いと判断されるものもあると思いますし,刑事処分相当性の程度も個々の事案によって異なるものと思われます。しかし,それは現行の原則逆送対象事件におきましても同様に当てはまることでありまして,それゆえに原則逆送には一定の例外が認められているのでありますから,仮に強盗罪を原則逆送の対象とした場合にも,この例外規定の適用を含め,家庭裁判所において適切な判断がなされることは十分に期待できると考えております。 ○小木曽委員 私も逆送範囲の拡大についての考え方に関して,3点申し上げたいと思います。   まず,前回会議で18歳及び19歳の者について原則逆送の範囲を拡大することは,現行少年法の原則逆送規定の設けられた趣旨と整合するのか確認する必要があるという御指摘がありました。その趣旨は,原則逆送の対象は人を故意に死亡させる重大事件に限定されているところ,それより軽い罪に対象を拡大するのは法の趣旨に反するのではないかというものであると理解いたします。   しかし,少年の刑事手続にも少年法の基本理念が及ぶと理解されておりますし,少年法第20条第2項の立法趣旨は,当部会で事務当局から御説明もあったところですけれども,故意の犯罪行為によって人を死亡させる行為は,自己の犯罪を実現するため人命を奪うという点で反社会性,反倫理性が高い行為であって,そのような重大な罪を犯した場合には少年であっても刑事手続,刑罰の対象となるという原則を示すことが,事案の真相を明らかにし,行為者にその責任に見合った制裁を科すことによって,社会や被害者の納得を得,また同時に,少年の規範意識を育て,健全な成長を図る上でも重要であるというものであったと考えます。   今般,当部会において原則逆送の拡大が検討されておりますのは,18歳及び19歳の者が選挙権や憲法改正に係る国民投票の投票権を付与され,民法上も成年とされて,17歳以下の者とは別の法的,社会的な位置付けを与えられるに至ったことを踏まえたものであります。社会の構成員として,そのような重要な権利を認められるに至った18歳,19歳の者については,社会的に重大と評価される一定の犯罪に及んだ場合には,17歳以下の者よりも広く刑事処分の対象となるという原則を明示することは,その自覚や規範意識を高め,責任ある行為主体として社会に参加することを促進するために有益であると考えます。そのように考えますと,原則逆送範囲の拡大の趣旨は現行法のそれに反しないと理解することができると思います。   次に,今,石山委員から御発言もあった点ですが,別の視点から申しますと,強盗罪を原則逆送対象とすることについて,少年審判であれば少年院送致か保護観察になることが多いのに対して,逆送され,起訴・有罪とされた場合は執行猶予が付されることが相当程度見込まれるということを理由に消極の意見があったわけであります。執行猶予になりますと,保護処分に相当する処遇が期待できないという趣旨だと理解しますけれども,原則逆送は元々保護処分ではなく,保護不適又は保護不能としてあえて刑事手続に乗せることによって,さきに述べましたような目的を達成しようとするものですから,保護処分相当の処遇がないのは言わば織り込み済みであって,両者を比較してどうかというものでもないのではないかと思います。また,刑の執行猶予は対象者の行い如何によって刑の執行を免除することで違法行為からの離脱を図り,罪を犯した人々の社会復帰を促進しようとするもので,それ自体,刑事政策上,相応の意義・効果を有するものであると思います。対象者の改善更生のためにより積極的な働き掛けが必要であるということであれば,保護観察に付することも考えられるわけで,当部会におきましても若年者に対する処遇を一層充実させるための施策の中で,執行猶予者に対する保護観察の活用・促進が検討されているところであります。   最後に,原則逆送の範囲を拡大した場合,家庭裁判所における家庭裁判所調査官の調査が形骸化され,社会調査の質が低下するのではないかという御指摘もありました。しかし,以前の部会におきまして,現在の原則逆送事件について,少年が根深い問題を抱えている事例も少なくないことから,丁寧な調査が必要となることが多いということや,裁判官はその調査結果を踏まえて処分を決していることの御説明が最高裁判所の幹事からありました。恐らくそうした調査の結果も考慮されて,実際に原則逆送事件の相当数が保護処分となっているものだろうと思います。このことからして,原則逆送対象事件の範囲の拡大が調査の形骸化や社会調査の質低下につながるといった指摘は当たらないのではないかと思います。 ○山﨑委員 今のお二方からの御意見もありましたけれども,いわゆる原則逆送の対象事件の拡大について,改めて意見を述べたいと思います。   前回会議において,その範囲の拡大が妥当であるとした上で,強制性交等罪や強盗罪を含まないと狭きに失するという御趣旨の御意見があったかと思います。確かに,強制性交等罪や強盗罪はいずれも重大,凶悪な犯罪と位置付けられていますし,その点について私としても異論はございません。問題は,これらの犯罪をいわゆる原則逆送の対象とすることが法的に見て相当なのかどうかということであって,その点を検討するに当たっては,当該犯罪及び処分の実情を踏まえて,実務上でも不都合が生じないかという点も含めた検討が必要だと考えております。   まず,強制性交等罪についてですけれども,強制性交等罪が被害者の人格や尊厳を著しく侵害し,その心身に長年にわたり多大な苦痛を与え続ける悪質・重大な犯罪であるという点については,私も全く同感でございます。ただ,これをいわゆる原則逆送の対象に加えるべきかどうかということになると,慎重に検討する必要があるのではないかと思っております。   まず,家庭裁判所における処分結果を見ますと,18歳及び19歳による強制性交等罪について,検察官送致とされた数は極めて少ないのが現状です。すなわち,第24回会議配布資料32の統計資料6,資料番号6-9「平成30年一般保護事件の終局人員-終局時年齢18歳及び19歳の非行別及び終局決定別」によれば,強制性交等罪の総数が43,このうち保護観察が14,少年院送致が23,検察官送致が4となっており,検察官送致となった数は全体の1割にも及んでおりません。また,直近の統計で見ても,第25回会議配布資料44「少年保護事件(刑法犯)の非行別・終局決定別既済人員(終局処分時18歳・19歳,令和元年12月~令和2年2月)」によれば,強制性交等罪の総数は16,このうち保護観察が6,少年院送致が4,検察官送致はゼロとなっております。   このような処分結果がどのような理由によるものであるかについては十分な資料がありませんけれども,いずれにせよ18歳及び19歳による強制性交等事案については,現状において刑事処分よりも保護処分による処遇が相当であると判断されているものがほとんどであるということを踏まえる必要があると思います。   他方で,成人の刑事事件に関する処理の実情を見ますと,強制性交等罪についてはそもそも検察官が起訴猶予としているものが相当な割合を占めております。すなわち2018年検察統計年報の第8表「罪名別 被疑事件の既済及び未済の人員」によれば,致死や集団を除く強制性交等の総数は860ですが,このうち公判請求されたのは283,一方で起訴猶予が167,嫌疑不十分277,嫌疑なし1となっております。したがって,公判請求と起訴猶予の合計450のうち,起訴猶予の167は37.1%を占めており,全体の4割弱が起訴猶予となっているということになります。   この点に関連しまして,実務においてどのような事案が起訴猶予とされているのかについては,以前にこの部会の第10回会議において,六つの類型が示されておりました。これを強制性交等罪について考えますと,被害者との間で示談が成立した,あるいは被害者が宥恕しているという場合ですとか,被害者が公判への協力に難色を示している場合などが考えられるのではないかと思われます。   このうち示談が成立した,あるいは被害者が宥恕しているという事案について,仮にこの強制性交等罪をいわゆる原則逆送の対象とした場合について考えますと,20歳以上の成人であれば起訴猶予相当という事案であったとしても,18歳及び19歳の者による事案であれば家庭裁判所に送致され,対象者の要保護性も小さくなく,いわゆる原則逆送の対象であるとして逆送されますと,起訴強制によって起訴せざるを得なくなってしまい,必然的に20歳以上の者よりも厳しく処分せざるを得ないという不合理が生じるのではないかと考えられます。   また,被害者が公判への協力に難色を示しているような場合も,同様に18歳及び19歳の者による事案であれば,嫌疑がある以上は家庭裁判所に送致され,いわゆる原則逆送の対象であるとして逆送されますと,起訴強制によって,検察官としては公判維持が困難であるのにもかかわらず起訴をせざるを得なくなるという不合理が生じる可能性があるのではないかと考えられます。   以上のとおり,強制性交等罪をいわゆる原則逆送の対象とすべきか否かにつきましては,現状では大半の事案が保護処分を相当とされていることや,起訴猶予が相当な事案をも起訴せざるを得なくなるという実務上の不合理が生じかねないということも含めて,慎重に検討される必要があると考えております。   次に,先ほども出ました強盗罪について,前回の発言を付言して補足して述べたいと思います。   前提として,私も強盗罪が一般的に軽微な犯罪であるとか,路上強盗がそれほど重い犯罪ではないと主張するものではない,ということをまず申し上げておきたいと思います。   その上で,家庭裁判所における処分結果を見ますと,18歳及び19歳による強盗罪については,先ほどの強制性交等罪と同様に検察官送致とされるのは極めて少ないのが実情です。さきに挙げた配布資料32の資料番号6-9によれば,強盗罪の総数は49であり,このうち保護観察が18,少年院送致が25,検察官送致は2となっており,18歳及び19歳による強盗事案について検察官送致となった数は全体の1割にも達しておりません。また,これもさきに挙げました配布資料44を見ても,総数は14,保護観察が4,少年院送致が10,検察官送致はゼロとなっております。   このような処分結果の理由も必ずしも明らかではありませんが,例えば2004年に出された法務総合研究所研究部報告25によれば,少年による強盗事犯の特徴として,侵入強盗は少なく,必ずしも犯行の計画性があるとは限らないこと,単独犯が少なく,大半が共犯を伴うことなどが挙げられており,また,強盗に及んだ少年の特徴として,事後に犯行内容が予想以上にエスカレートしたと認識する者が約半数を占めていること,自らの行為の意味や結果を十分に踏まえないまま犯行に至っている実態が示されたとされており,集団場面で気分が高揚し,慎重に行動を選択しなくなること,家族機能が満足に働いていない場合が多く,無職,あるいは学校や職場などで何らかの不適応状態にあることなどと分析されております。加えて,共犯事犯の中には犯罪への関与が極めて従属的であったり,あるいは被害が少額であるなどの事案もございますので,そのような様々な事情を考慮して,保護処分が選択されているものと考えられます。   いずれにせよ,18歳及び19歳による強盗の事案では,ほとんどの場合で刑事処分よりも保護処分による処遇が相当と判断されているという現状を踏まえた検討が必要であると考える次第です。   他方,強盗につきましても,刑事裁判での処分結果を見ますと,20歳及び21歳による強盗罪については,有罪とされても刑の全部執行猶予となる事案が半数以上に上ります。これについても部会でこれまでに配布された統計資料によりますと,平成27年から平成30年までの4年間における被告人の終局時年齢が20歳及び21歳の終局人員のうち,強盗の罪名により実刑となった総数は合計で57,全部執行猶予となった総数が62,有罪人員中の全部執行猶予の割合は約52.1%となっています。   このように,20歳及び21歳という若年者による強盗罪については,刑事裁判においても刑の全部執行猶予が相当であるとされる事案が過半数を占めております。それにもかかわらず18歳及び19歳の強盗罪を,いわゆる原則逆送の対象とするのは,やはりいわゆる原則逆送規定の趣旨に反することになるのではないかと考えます。   また,先ほど小木曽委員からは,執行猶予にも刑事政策的な効果があるという御発言もありましたけれども,そもそも今回,「若年者に対する新たな処分」等の制度を検討してきたのは,出発点として,18歳,19歳の者の犯罪に対し,刑の全部執行猶予では刑事政策的に不十分な点があるということがあったはずであります。しかしながら,そのような観点で「若年者に対する新たな処分」など,その制度を設ける一方で,過半数が刑の全部執行猶予を相当とされている強盗罪についても,「若年者に対する新たな処分」ではなく逆送を言わば原則化するということになれば,明らかにそれは矛盾であって,「若年者に対する新たな処分」の制度を新たに設ける趣旨にも反するのではないかと考える次第です。   以上のような観点で見たときには,18歳及び19歳による強制性交等罪及び強盗罪について,一般的に悪質・重大な犯罪類型であることを理由に,その罪名を基準として一律に刑事処分が原則と扱うことについては,やはり行為責任の観点からも,要保護性の観点からも問題があり,先ほど申し上げたように実務上も不都合を生じさせるおそれが大きいのではないかと考えます。現在の少年法第20条第2項に定められている故意の犯罪による被害者死亡事案とは異なり,犯情の幅が非常に広い強盗罪等についてまで,いわゆる原則逆送の対象とした場合には,前回も御発言がありましたけれども,結果として家庭裁判所の審判において逆送されないという場合が相当割合に上ることも予想され,そうなれば,制度の趣旨に反した運用ではないかとの批判をも生じさせかねません。したがって,いわゆる原則逆送の対象事件の範囲を現行以上に拡大することについてはすべきでないと考える次第です。 ○山下幹事 推知報道の禁止に関して意見を述べます。   第26回会議におきまして,18歳及び19歳の者について,捜査段階及び家庭裁判所係属中は推知報道を禁止するものの,逆送されて検察官が公訴提起した後は禁止を解除するという方法が考えられるとの意見があり,公訴提起された場合であっても家庭裁判所へ移送される可能性が残っているという点について,それは飽くまでも例外的な事象であり,そのような余地が制度上残されているからといって,刑事裁判で有罪判決が確定するまで推知報道を解禁しないとするのはやや過剰な対応であるとの意見が述べられました。   しかしながら,公訴提起後に刑事裁判所から家庭裁判所に移送されて保護処分とされる例は一定数存在しているところであり,その場合,既に公訴提起後に刑事裁判所から家庭裁判所に移送されて処分を受けるということまでが今回の「若年者に対する新たな処分」の制度設計であると考えますと,そのような場合を例外として保護しないというのは,改善更生を目的とする「若年者に対する新たな処分」の趣旨を没却するものであり,国民感情を理由にそのような対象者を保護しないというのは許されないと考えられます。したがって,18歳及び19歳の者については推知報道を禁止することをどの段階においても適用すべきであると考えます。 ○橋爪委員 原則逆送事件の範囲について,少し異なった観点から意見を申し上げたいと思います。   結論から申し上げますと,この問題は法定刑を基準として一律に判断すべき事柄であって,個別の犯罪ごとに判断することは相当ではないと考えます。前回の部会におきまして,池田幹事から,短期1年以上の懲役,禁錮に当たる罪という,正に法定刑を基準とした御提案がございましたが,これに対して,法定刑による区別を基本としながらも,個別の罪ごとにきめ細やかな検討を加え,必要に応じて罪の除外,あるいは追加をすべきとの御提案もあったところです。これについて,1点,意見を申し上げたいと存じます。   原則逆送事件の範囲を決定するに際しては,対象者が18歳,19歳,すなわち選挙権等を付与され,民法上の成年とされた者であることを十分に考慮した上で,刑罰を科すのが原則とされるべき重大な事件を適切に判別することが重要であると考えます。そして,重大事件か否かを判断するに際しては,正に法定刑が当該犯罪の重大性に関する立法者の意思・評価である以上,法定刑を基準とする以外の選択肢は考えられないように思います。もちろん法定刑による区別を基本としながらも,さらに個別の罪ごとに除外や追加の要否を判断することも,理論的にはないわけではないと思います。ただ,法定刑以外の観点から,追加,除外に関する明確かつ客観的な判断基準を示すことは,極めて困難であるように思います。   例えば,犯罪の法益侵害性に比べて法定刑が重すぎる,あるいは軽すぎるといったコンセンサスがあるならば,そのような理解を前提として除外,追加の対象を個別に検討することもあり得るのかもしれません。しかし,そういったコンセンサスを得ることは極めて困難である以上,法定刑以外の事情を考慮して対象犯罪を決定することは,実際には困難であるように考えております。 ○今井委員 先ほど山下幹事から推知報道について御意見がありましたので,私からも推知報道の禁止につきまして,前回御発言をさせていただきましたが,改めて意見を申し上げたいと思います。   前回は,捜査段階及び家庭裁判所係属中は推知報道を禁止するものの,逆送されて検察官が公訴を提起した後は禁止を解除するという方法が考えられるのではないかと申し上げました。そうしたところ,仮にその段階で推知報道の禁止を解除するとしても,略式手続がとられた場合の取扱いや罪名等による事件の限定について,更に検討が必要ではないかとの御指摘があったところでございます。それらの点について,意見を申し上げたいと思います。   第1に,略式手続がとられた場合の取扱いについてでございます。いわゆる略式起訴がなされる事案も,家庭裁判所で刑事処分相当と判断されて逆送され,公訴を提起されるものである以上は,その段階で推知報道の禁止を解除し,実際に報道するか否かは報道機関の判断に委ねるということも考えられるところであります。しかし,略式手続は一定の比較的軽微な事件について公開の法廷ではなく,非公開の場で書面により審理を行う手続でありまして,同手続において被告人の住所,氏名,年齢,職業,容貌等が公にされることは予定されておりません。   また,当部会の配布資料40「罰金刑の執行状況」によりますと,18歳及び19歳の者が略式起訴される事件のおおむね90%以上は,道路交通法等違反であります。これは定型的かつ比較的軽微な犯罪類型でありまして,実際上,そういった事件につきまして社会の関心事となり,被告人を特定した形での報道がなされるという事態はほとんど想定されないのではないかとも思われるところであります。   そうしますと,18歳及び19歳の者が略式起訴された場合に限っては,それらの者の更生,社会復帰の促進という観点を報道の自由や国民の知る権利よりも優先し,推知報道の禁止を解除しないとする余地もあるように思われます。   他方で,公判請求された場合に,さらに法定刑の重さや罪名により推知報道を解禁する事件の範囲を画するということにつきましては,明確かつ適切な基準を設けることが極めて困難であり,現実ではないと思われます。公判手続中に訴因変更が行われたり,裁判所が訴因とは異なる認定をする場合も十分に想定されますが,仮に法定刑や罪名を基準として推知報道を解禁するか否かを決するといたしますと,そうした場合の取扱いについても必要な制度的手当てを設けなければならず,大変複雑で分かりにくい制度となってしまうように思われます。   さらに,報道機関において,ある事件についての推知報道が許されるか否かを判断するためには,起訴状の記載内容を確認したり,公判手続の動向を常に把握しておかなければならないということになりますが,それでは円滑な制度運用という観点からも課題が残るように思われます。 ○山﨑委員 今の御発言にもありました推知報道について,前回の発言を補足して述べたいと思います。   私は,18歳及び19歳の事件についても推知報道の禁止は維持すべきであるという立場ですけれども,事件が起訴された場合には推知報道の禁止を解くという考えに立つ場合であっても,今,今井委員からお話ありましたように,全ての罪名について禁止を解くべきかどうかという問題は十分考える必要があると思っています。   例えば,実務においては,家庭裁判所が刑事処分が相当であると判断して検察官に送致する事件には,被害者が死亡するなどの重大な事件だけではなく,中には窃盗や詐欺などの比較的軽微な事犯も含まれます。いわゆる保護不適ではなく,例えば少年院での処遇を受けながら,少額の窃盗を繰り返してしまうという場合など,いわゆる保護不能として検察官送致となる場合もあります。18歳及び19歳について,その未成熟性や可塑性を考慮して,その対象者の改善更生,再犯防止を図るという見地から制度設計をするのであれば,その中で,今言ったような軽微な事案についてまで,果たして推知報道禁止の対象外とする必要があるのかどうかという点については,別途慎重に検討する必要があると思われます。   また,禁止の時期について,前回部会では,家庭裁判所の移送決定は例外的であるので処分決定時まで推知報道を禁止するのは過剰な対応である,という御意見もありました。   しかしながら,先ほど述べたような,いわゆる原則逆送の対象ではないような窃盗,詐欺等の比較的軽微な事件では,逆送後の刑事裁判所で家庭裁判所に移送されるということも一定数あり,また,仮にいわゆる原則逆送の対象事件の範囲を拡大した場合には,さきに述べたとおり,従来であれば執行猶予相当とされていた事案も相当程度含まれることになると考えられますので,刑事裁判において家庭裁判所への送致とされる事案が更に一定数出てくるのではないかと考えられます。そのような事案については,移送後には非公開の手続により,「若年者に対する新たな処分」の対象となるということからしますと,やはり起訴の時点で推知報道を解禁するということには問題があるのではないかと考えております。   このような問題については,特にインターネットが発達した今日,一旦推知報道がなされれば,実名や写真等がネット上で削除されないまま残ってしまい,いつまでも誰もが容易に検索可能であるという状況に置かれ続けることになるということを前提にする必要があると思います。対象者を推知させる情報が長期間,ネット上に残り続けることによって,その対象者の社会復帰が疎外され,ひいては再犯のリスクを高めるということにもつながりかねないということを十分に念頭に置いて,慎重な検討がなされるべきであろうと考える次第です。 ○大沢委員 推知報道の件について幾つか御意見が出たので,もう一度申し上げておきたいと思います。   推知報道の件については,以前申し上げたとおり,我々の報道機関の立場からすると,そもそもこの少年法にある推知報道禁止の規定というのは,表現の自由,報道の自由を制約する極めて例外的な規定であるという受け止めを持っております。そういう意味で言いますと,今回この制度設計で18歳,19歳を中間層と捉えて,重大事件については起訴をして公開の法廷で審理されるということになりますと,公開の法廷で行われている出来事まで匿名化するというのは,やはり国民の知る権利に応える意味でも,国民の理解を得る意味でも,考えられないのではないかという説明を重ねて申し上げたいと思います。   一部の委員・幹事の御指摘もありましたけれども,家庭裁判所に戻る可能性があるからといって,全ての公開の法廷での出来事を匿名化してしまうというのは,やはりおかしいと思います。   それから,先ほどインターネット上のことをおっしゃいましたけれども,一言付言しておきますと,報道機関は実名にするかどうかというのは,かなりいろいろ慎重な検討を踏まえた上で,日々,一つ一つの事件に向き合っています。事案の悪質性とか,その後の更生の可能性とか,そういったこともできる限り考慮して,これは新聞社によると思いますけれども,場合によっては紙面では実名にするけれども,ネット上に流すときは実名を出さないという選択をとることもあり得ます。ですから,報道機関は実名にしたらそれを全部インターネットにも載せているかというと,一つ一つ,その事案に応じて判断を重ねているのだということは,皆さんに御理解いただければと思います。   それから,先ほど略式起訴について御意見もありました。そういった御意見も,十分分かるのですけれども,やはり報道機関の立場からすると,そういった軽微な事案についてはそもそもこれを報じるべきなのかどうかということを一つ一つ,やはりこちらもまた慎重に検討しているわけです。ですから,それを一律に,推知報道の禁止という形で法により規定されるということには非常に違和感を覚えます。そこはやはり報道機関を信頼していただいて,その自主的な判断に委ねていただきたいというのが私の偽らざる思いです。   それから,もう一つ,原則逆送事件の対象の話がいろいろ出ていたのですけれども,強盗事件についての一般の人の受け止め方はこうなのではないかということは前回申し上げましたので繰り返しませんけれども,強制性交等事件について,これはやはり国民からすると非常に重い犯罪だと思います。これは被害者にとってみれば魂の殺人と言われることもあるぐらいで,一生心に残り,トラウマも残るわけです。ただ,あまりにそれは被害が大きいために,そもそも被害者が声を上げられなかったという現状もあるのだと思います。ですから,これまでの統計数字を御指摘された御意見もありましたけれども,国民の目からすると,これまでの刑事司法の在り方というか,強制性交等事件についての在り方が本当に被害の実態と合っているのだろうかと,そういう疑問を多くの国民が持っているのだと思います。そういったことは,直接は結び付かないかもしれませんけれども,裁判員裁判対象事件の中で,国民の目が入って以降,性犯罪事件に対する量刑が重くなっているという事実もあると思います。それはやはりこういった事件について国民が重く受け止めているからだと思います。ですから,強制性交等事件に対する国民の考え方というのは,そういうふうに皆さん見ているのではないかなということを一言付言しておきたいと思います。 ○武委員 先ほど,路上で行う強盗や強制性交等罪などの話が出ました。私はいつも思うのですが,被害に遭う人というのは準備をしていないのです。突然そういう事件に遭ってしまいます。例えば金額が少なかろうが,そのときに大きなけがを負わなかったとしても,その恐怖というのはなかなか消えないものです。何年も持ち続けます。特に強制性交等罪なんていうのは,本当に何年も何年もトラウマになったりすることだと思うので,これを外すというのはやはりおかしいと思います。   先ほど数字を並べられました。それは少年法の枠組みで今まで処分をした上での,例えば逆送が少ないとか,保護処分が多いとかという話なのですが,それは少年法を基準にしているので,なるべくならその子たちの将来を考えて保護処分の方がいいのだということが軸にあるから逆送にならなかったりしたのだと思います。私たち遺族,被害者,そして一般市民から見てみると軽いなと,何でそれほど軽く済むのだろうとずっと思っていました。   それで,今回,民法が改正になります。18歳で大人扱いとなるわけです。一般市民はそう思うわけです。そうしたら,そうなった上でも,路上で行うそれほど大したことのない強盗だからとか,強制性交等罪にも何らかの理由があるからとか,そういうことで原則逆送の対象から外してしまうというのは,やはり一般市民としても,被害者としても,納得できないですし,分かりにくいです。やはりそこはきちんと入れていただきたいです。そしてその後の教育とか,そういうフォローは必要だと思います。   それから,強盗罪とか強制性交等罪といった犯罪というのは繰り返す可能性が高いと思うのです。だから,しっかりとこれは犯罪として扱って,しっかりと刑事裁判にしていただきたいです。もちろん裁判になった後や,その前に被害者が示談をしたとしても,やはりこれは犯罪なのだということをきちんと示すべきだと思います。それだけでも被害者にとっては違うと思うからです。   それと,推知報道についてです。推知報道のことを言われるときに,それは悪いと言われることが多いです。例えば名前や顔が出たことで社会復帰が難しくなるとか,そして職に就きにくくなるのではないか,いろいろなことを言われるのですが,今は受け入れる会社も増えています。そういうことを法務省でも考えられているし,受け入れようとする会社は多くいると思うのです。でも,就職しても続かないという現状があるので,そこには,本人にも問題があるのではないかと思います。だから,名前が出たとか顔が出たとしても,社会復帰ができにくいということには私はならないと思います。大きく言えば,抑止力につながります。例えば犯罪を起こすような加害少年の周りには予備軍がいるのです。私たちはそれを見てきました。予備軍は名前が出て顔写真も出るのだなと,しっかりと見ているのです。それから広く一般市民にも,大人扱いになって犯罪を起こしたら名前も出て顔も出るのだということは当然なこととして理解が得られると思います。だから,推知報道が悪いわけではないです。推知報道されたことによって抑止力につながるし,一件でも犯罪が減ればうれしいなと私は思っています。   それから,今までも20歳以上の犯罪を見ていても,名前が出ないこともありました。それから,最初は名前が出ていても,途中から名前が出ない場合もありました。大人であっても,事件によっては,こういうことがきちんと考えられているのだなというのをいつも思っていました。そういうことはきちんとされていると思うので,推知報道が悪いことばかりではないです。いいこともたくさんあると思います。 ○田鎖幹事 手続の点について,ごく手短に前回の補足をしたいと思います。   これまでにも「若年者に対する新たな処分」を,成人に対して不利益を課す処分というように位置付けるのであれば適正な手続が必要であって,現状の制度設計ではそれを満たさないと述べました。冒頭の年齢のところの議論でも,山﨑委員から,このような制度とするのであれば,それは健全育成を目的とする少年法の下でなければ,適正手続の要請に反して正当化はできないのではないかと,そのような御意見もありました。私も同様に考えます。   したがいまして,これは年齢区分の議論とも関わってはまいりますけれども,仮に三つに区分するとしても,では,ベースをどうするのか,これは青木委員からも発言がありましたけれども,やはりベースのところは成人なのだというように捉えるのであれば,それは適正手続が必要であると,今の状況では足りないと思います。でも,これでいいのだと,適正手続は一般の成人と同様に満たされなくてもいいのだと考えるのであれば,それはもうこの手続の対象者というのは成人ではなくて,大きく見れば少年の方に分類すると整理せざるを得ないということになると私は考えます。 ○佐伯部会長    本日,予定していた議事は以上で終了しました。   ここで,今後の進め方について皆様にお諮りします。前々回会議から本日までの3期日にわたり,それぞれの検討事項について取りまとめに向けた意見交換を行いました。そこで,次回までの間に「検討のための素案〔改訂版〕」と,これまでの御議論を踏まえまして,どの制度,施策を採用するか,どのような形で採用するか等について,事務当局に一つのたたき台を作成してもらうことにしたいと思います。もとより,飽くまで,議論のたたき台であり,方向性を決めるものでも,議論の対象を制約するものでもありませんが,最終的な取りまとめに向けて議論を行う材料となるようなものを用いた方が,充実した議論に資すると考えております。   以上の次第で,次回は,たたき台を用いて更に議論を進めていくこととしてよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは,御提案させていただいた形で,今後の審議を進めさせていただきます。   次回の日程について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○玉本幹事 次回第28回会議については,8月6日午前9時30分から,場所は本日と同じく法務省地下1階大会議室を予定しております。 ○佐伯部会長 引き続きよろしくお願いいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   議事録の取扱いにつきましてはそのようにさせていただきます。   それでは,本日の会議は終了いたします。   どうもありがとうございました。 -了-