法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和2年7月30日(木)   自 午後1時31分                        至 午後3時42分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 それでは,予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は,御多忙中のところお集まりいただきありがとうございます。   本日,向井委員は所用のため欠席されております。   事務当局から配布資料等についての説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,新規の資料はありませんが,参考資料として配布資料6「検討のためのたたき台・その1」を席上に配布させていただいております。 ○酒巻部会長 前回の会議におきましては,配布資料6の「第1 保釈中・勾留執行停止中の被告人の逃亡を防止するための方策」と,「第2 判決宣告後の被告人の逃亡を防止するための方策」のうちの「1 禁錮以上の実刑判決の宣告後の裁量保釈(再保釈)について,同判決の宣告前の場合と比較して,要件を厳格なものとすること」について議論を行いました。その際,このたたき台に記載のない事項についても御意見・御提案を頂きましたが,議論の進め方としましては,まず,このたたき台に基づく議論を第3まで行った上,その過程で頂いた御意見も踏まえて,考えられる制度の仕組みや検討課題を改めて整理,修正補充した上で,次の段階の議論に進むのが効率的で円滑な議論に資するものと考えられます。   そこで,本日は,前回に引き続き,配布資料6に沿って,第2の「2 控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けること」から順次議論を進めていきたいと思います。このような進行方法でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,そのようにさせていただきます。   まず,第2の「2 控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けること」について御意見を頂ければと思います。 ○森本委員 控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けることの必要性などにつきまして,現状を踏まえ意見を述べさせていただきます。   禁錮以上の実刑判決の宣告がございますと,保釈や勾留の執行停止は失効いたします。もっとも,現行法上,控訴審においては,第一審と異なりまして,被告人には判決宣告期日を含め公判期日への出頭義務がないこととされておりますので,判決宣告のときに被告人が在廷しているとは限らないということになります。そこで,実務上は,通常は,判決宣告期日後に,被告人に対して日時を指定して検察庁に出頭するように求めて,その出頭してきた被告人を刑事施設に収容するという取扱いをしております。   しかしながら,実際のところは,この呼出しに応じず出頭してこない被告人も相当数いるのが現状であります。例えば,ある高等検察庁が調べたところですと,平成30年度にその高検に対応する高裁で保釈中に実刑判決が宣告されて保釈が失効して,再保釈がなかった場合,そのような被告人のうち4人に1人が指定された出頭日には出頭しなかったということも確認できております。   このような状況がございますので,まずもって,第一審と同様に,控訴審の判決宣告期日への出頭を被告人に義務付けることが,その後の速やかな収容にとって大変重要であると考えるところでございます。 ○佐藤委員 ただいまの森本委員の御発言のとおり,刑事訴訟法390条本文により,控訴審において,被告人には,判決宣告期日を含め公判期日への出頭が義務付けられておりません。これは,御案内のように,控訴審が事後審であって,その審理が控訴趣意書に基づく弁論が中心となることから,弁論能力のない被告人を常に出頭させる必要性は乏しいためだと解されております。この点,同条ただし書は,裁判所は,一定の事件を除いて,「被告人の出頭がその権利の保護のため重要であると認めるときは,被告人の出頭を命ずることができる」と規定しますが,今回問題となる,刑の執行確保のために控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付けることは,このただし書とはその目的を異にしており,禁錮以上の実刑判決が言い渡された場合について被告人の身柄拘束に意を用いている法の趣旨からいたしますと,343条によって保釈等が失効した場合について,控訴審においても,被告人に対して直ちに勾留の裁判を執行し,その身柄を確保できるようにすることが要請される,と考えることが妨げられるわけではありません。そして,その343条による保釈等の失効は,判決の宣告によって生じることとなりますので,被告人の身柄を確保する上では,正にその保釈の失効という法的効果が生じる判決宣告期日に被告人を出頭させておくことが最も確実かつ合理的な対応といえると思います。こうした法の趣旨を全うするという観点からは,被告人に判決宣告期日への出頭を義務付けることは,刑事訴訟法390条との関係で,出頭義務が被告人にないとされていることや,権利保護のために重要と認めるときはその出頭を命じ得るとされていることと特に矛盾したり,整合性を欠いたりするものではないと考えることができると思います。 ○酒巻部会長 御意見は,390条のように個別に出頭を命じるのではなく,一般的な規定として,判決宣告期日に被告人の出頭を義務付ける形とするということですね。 ○佐藤委員 はい。そうすることについて相当性も認められるであろうということです。 ○酒巻部会長 義務付けるというのは,結局,呼び出すことになるわけですね。 ○佐藤委員 はい,そうです。そして,被告人を呼び出すに当たっては,出頭義務の対象となる者の範囲と義務を告知する方法が問題になると考えております。まず,出頭の義務付けというのは,その目的に適合的な範囲で行われるべきですので,禁錮以上の刑に当たる罪で起訴されている被告人であって,保釈されている,又は勾留の執行を停止されている者が対象となると考えます。そして,その義務を告知する方法としては,出頭義務を課すこととの関係で,その旨を明記した召喚状を送達して被告人を召喚しなければならないというように,273条2項に対応するような形とするのが適切ではないかと考えております。   そして,たたき台にある,(3)の義務違反に対する効果に関する点ですが,被告人の不出頭について,前回会議では,第1の3につき,新たに罰則を設けることが議論されたところでありまして,当該期日における手続の進行には結び付けないで,裁判所は,そのまま判決を宣告することができる,とする対応も考えられますが,ここで,保釈されている被告人にその判決宣告期日への出頭義務を課すのは,飽くまで禁錮以上の実刑判決の宣告によって保釈等が失効した被告人について刑の執行を確保するためであって,出頭しなかった被告人について,そのままその手続を進行する,判決を宣告することができるものといたしますと,言い渡された判決が確定した場合には,刑の時効が進行することとなってしまいますので,出頭義務を課すこととの関係では,徹底を欠くきらいがあるように思われます。出頭義務に違反して判決宣告期日に出頭しない被告人については,刑事手続から意図的に離脱をしたと見ることができますので,そのことを考慮しないで刑事手続を先に進めてよいかは検討を要する問題であるように思います。   では,その出頭義務に違反した場合の効果を具体的にどのようなものとするかということについて,私自身確たる考えを持っているわけではございませんが,いくつかの可能性を申し上げたいと思います。   まずは,保釈等をされている被告人が出頭義務に違反して判決宣告期日に出頭しない場合には,少なくとも禁錮以上の実刑判決を宣告することはできない,とすることが考えられると思います。第一審の手続については,343条において,禁錮以上の実刑判決を宣告した場合に保釈等の効力が失われることとされていますので,それと平仄を合わせる形で,そうした内容の判決について宣告をすることができない,とするわけです。第一審と控訴審との間で,判決の宣告直後に保釈等が失効した被告人の身柄を確保する要請について,本質的な違いがあるわけではないと考えられますし,また,控訴審において実刑判決を宣告された場合の方がそうした要請の程度は高いといえるようにも思います。したがいまして,不出頭の場合には,少なくとも禁錮以上の実刑判決の宣告をすることはできないものすることが,差し当たりの議論の出発点として考えられるのではないかと思います。   ただ,不出頭のままでは告知することができないとする裁判を実刑判決のみとする場合には,被告人としては,あえて出頭しないでおいて,当該公判期日に判決が宣告されるかどうかによって,それが実刑判決であるか否かを事実上知ることができることになってしまいます。このことが,実刑が言い渡されることを知った被告人の逃亡をかえって誘発することにつながるとすれば,出頭義務を課している以上,被告人不出頭の場合は全ての裁判の告知が制限されるようにすることにもなお一定の理由があるといえるように思われます。   被告人の不出頭が手続にどのような影響を及ぼすと考えるべきか,その効果に関しましては,ただいま述べたもの以外の整理があり得ると思いますので,ここでは様々な可能性があるということを指摘するにとどめたいと思います。 ○小笠原幹事 判決宣告期日への出頭を義務付ける場合,被告人がどうやってそこまで行くかというところまで考えなければならないと思っております。というのは,岩手や青森の場合,控訴審裁判所が仙台高裁となると,新幹線で2万円とかかかる。お金がなくて犯罪しているような人がそこまで行けないときはどうするのですかということは,きちんと考えておかなければならないのかなと思います。一審判決は,基本的には,そこに住んでいる人が捕まったり,あるいは,仮に遠くの人が保釈で出ているとすれば,出頭する手段があっての話だろうと思うのですけれども,控訴審に送られて,それで自宅に戻っているだけなのに,そこに行くのにかなりの旅費や時間がかかることについては,どうするのですかというのは,弁護人をやっていると思います。   もう1点,保釈後に入院して治療を受けている場合もあるんですけれども,依存症などの場合ですね,そういった事例のときに,実際は出頭できないような場合に例外をどこまで認めるのか,そういう点も議論をするべきではないかと思いました。 ○角田委員 控訴審に関しても判決宣告期日については被告人に出頭義務を課するというのは,第1回会議で私も項目だけは問題提起をしたところであり,これまで出ている御意見に基本的には賛成したいと思います。一言で言いますと,一審の場合は,出頭義務が課されているために,被告人が判決宣告期日にも出頭してきます。そこで,実刑判決の宣告によって保釈が失効した場合には,勾留状謄本を準備しておいてその場で身柄を確保する,つまり,実刑収監をその場で行うので,逃亡の機会が全くないということになるのです。   ところが,控訴審では,被告人の公判期日への出頭義務自体がないものですから,出てこない場合も多いですし,実務では,出頭してきた場合でも収監しません。それは上告と同時にまた保釈請求が出てくるかもしれないので,検察官は,それを見極めてから身柄を確保する手続をとります。今までこれでよかったのは,多分,性善説というか,普通は逃げるまいという発想が法曹三者の中にあって,これで運用していたわけですが,先ほど御紹介があったような,ある高検管内では4人に1人が呼び出してもなかなか出てきてくれないとか,逃亡事案が現に発生してこの法制審議会の立ち上げが必要だという状況になったことなどを考えると,ここはもう,一審と同じようにするために,少なくとも判決宣告期日については出頭義務を課するというのは,一番端的な手法であり,賛成したいと思います。   ただ,問題は,むしろ出頭義務の違反があった場合の効果,出頭してこない場合にどうするかという問題だと思います。今ここで議論しているのは,被告人をなるべく逃亡させない,あるいは逃亡した場合にどうやって身柄を確保するか,そのためにはどういう手当が必要か,そういう問題なのですが,出頭義務をかけたのに出てこない場合に,判決の宣告をしない,あるいは延期するという措置が,一体全体身柄を確保するとか,あるいは逃亡防止のために何か意味があるかというと,それはほとんど関係がない,意味がないことだろうと思うのです。出頭義務があろうがなかろうが,そもそも出頭の権利はありますから,今でも召喚状を出して被告人を召喚しているわけなので,召喚をし,しかも事件は判決に熟した状態になっているのに,それを被告人の考え,恣意でもって判決宣告期日を左右させるのが良いのかどうか,そこは刑事手続の在り方として非常に大きな問題を孕んでいるような気がします。現状を考えると,控訴審の構造から言って,事件が判決宣告に熟している以上,被告人が不出頭でも判決をすることを現にやっているわけですから,それを変えるような理由というのが,私は,ないのではないかと考えます。   技術的な観点で条文を見てみると,刑事訴訟法286条の2は,少し特殊な場合なのですが,被告人に出頭義務・出廷義務を課しているのに出てこない場合でも審理をできる,判決だけではなくて審理もできるという条文がありますが,これは被告人側に帰責事由がある場合の話なのです。被告人に帰責事由まであるものだから,出廷してこない場合でも審理もできるし,判決宣告だってできるということになっています。今回,仮に控訴審で出頭義務をかけたのに判決宣告期日に出てこない場合の利益状況や問題状況というのを考えてみると,それはもう被告人としては当然,出頭しなければいけない義務までかけられているのに,あえてそれに反して出てこないというわけなので,少し場面は違いますけれども,286条の2の利益状況と似ているような面がないわけではないので,出頭義務を課してあっても,出てこなければ審理できる,判決宣告もできるというように,むしろこちらの考え方でやらないといけないのではないかという気がします。   何か別の要素もあるかもしれませんので,もう少し考えてみたいと思いますが,私の意見は,現時点では以上のとおりです。 ○酒巻部会長 今の点も含めて,控訴審の判決宣告期日への出頭の義務付けにつきまして,ほかに御意見はございますか。 ○佐藤委員 ただいま,判決に熟した状態になっているにもかかわらず,判決を宣告することができないものとすることにつき,御指摘がありました。   まず,刑事訴訟法286条の2の規定につきましては,現に勾留されている被告人が対象として規定されておりますので,その被告人が公判期日に出頭しないまま,当該期日の公判手続を行っても,最終的に,刑の執行の確保には問題が生じない場面であると理解できるように思いました。   また,判決の宣告をすることができないものとすることが出頭確保のために役立つのかという点につきましては,判決が宣告されると,弁護人等の対応にもよりますけれども,判決が確定してしまって刑の時効が進行するという流れも考えられるところです。先ほどの発言の繰り返しとなって恐縮ですが,判決宣告期日に出頭しないということによって,刑事手続から離脱をするという態度が明らかになるわけですので,そうした被告人との関係で,判決を宣告しても差し支えないということとなりますと,刑の執行の確保を考える場面で,みすみす刑の時効の進行を許すことになりかねないことから,それをどのように評価するのかという問題はやはり残るように思います。もとより,判決を宣告することができないとすることに伴う難点もあると思いますけれども,まずは,判決の宣告を控えることを述べた,先ほどの私の発言を補足させていただきます。 ○髙井委員 結論的には,私は義務付けに賛成です。義務付けが必要であろうと考えます。ただ,出頭しなかったときどうするか。時効がそのまま進むけれどもそれでいいのかということなど,問題はあるとは思うのですが,仮に判決できないということになると,有罪・無罪が決まらない状態がずっと続くことになるわけで,刑の時効が進むことの不利益と比べると,余計に法が不安定になる,社会から見て不安定な状態が続く,法的安定性を欠いた状態が続くことになると思うので,刑の宣告ができない状態が続く方がかえってまずいのではないかと思います。ですから,私としては出頭しなかったときでも刑の宣告はできるとすべきだと考えております。 ○角田委員 先ほど述べたことに若干補足したいと思います。出頭義務をかけたのに出てこない場合の取扱いを,判決宣告をできないとする方法,逆に現行の取扱いを維持する方法のほかに,判決宣告をすることもできるし,しなくてもいいという形にするという,そういう選択肢もあるとは思います。後者は,裁判所の裁量に委ねるという考え方になるわけですが,いずれにしても宣告はできないとしてしまうと,やはり弊害が出てくるかなと思います。   それと,先ほどの刑事訴訟法286条の2については,言われるとおり場面はもちろん全然違うのですけれども,大きく考えると,被告人側に帰責事由があるような場合にこういう取扱いもあり得る,つまり,出頭義務をかけていて出てこない場合でも手続を進めることができるという思想に乗った条文ではないかと,そういう意味で申し上げたので,場面が違うというのは,それはそのとおりであります。 ○保坂幹事 議論の整理のため質問したいのですが,一審においては被告人に公判期日への出頭義務があって,判決宣告期日に被告人が出頭しない場合には判決が宣告できず,被告人が出頭して実刑判決が言い渡されると,保釈が失効してその場で収容できるということになっていて,要するに一審では保釈が失効したのに被告人を収容できないという事態が起きないようになっています。控訴審でもそれと同じようにしましょうという発想に立った場合,控訴審でも同じように判決の宣告をすることができないものとするというのが考えられるかと思うのですけれども,判決をするに熟しているのに判決ができないという事態に問題があるとすると,それは一審でも同じように問題があるけれども,先ほど申し上げたとおり,一審では被告人の出頭がなければ判決を宣告できないため,保釈が失効するや確実に収容できるようになっているのです。その上で,一審の場合と控訴審の場合とで,判決ができないことによる弊害にもし違いがあるのであれば,それはどういうものかということをお伺いしたいと思います。 ○角田委員 一審の場合には,直接的には条文でもって公判期日への出廷義務を定めており,というよりも,被告人が出廷しないと開廷できないという条文が置かれています。この点は,実質的に考えると,第一審中心主義というのか,刑事裁判の場合には,一審は中身の審理を全部きちんとやって判決まで持って行く,そういう言わば刑事裁判を通じての本質的な部分が一審にあるわけです。控訴審の場合は,大分趣が違って,既に一審判決でその事件は一応こうだという判断が出ていて,したがって無罪推定なども大分後退して,その一審判決自体の当否を事後的に審査して,そこに瑕疵があるかないかに焦点を合わせて判断するという性質のものです。そのことから,手続の中身というか構造が大分違うので,被告人の出頭を求める程度もおのずから違ってくると。ですから,今回の控訴審で判決宣告期日だけ出頭義務をかけるというのは,むしろ身柄の確保の問題をやはりある程度念頭に置いて,そのような観点から原則的には出廷義務がない点を修正する,そういう位置付けになるのではないかと思います。 ○保坂幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○大澤委員 出頭義務を課して,出頭しなかった場合に判決を言い渡せないようにするのかどうかについては,私も今のところ腹が決まっているわけではありませんが,先ほど来,刑事訴訟法286条の2との対比というお話が出ておりましたので,そのことについて一言申し上げると,第一審の場合に被告人に出頭義務が課せられているのは,説明としては,被告人の利益を保護するという面と,裁判の公正を確保するという面という二つの面から,被告人が出てこないと開廷できないという制度設計になっているということだろうと考えられます。それに対して,286条の2という例外規定が置かれているのは,元々,被告人の出頭がないときに開廷できないとしているのは,被告人の利益を後見的に保護しているという側面があることから,被告人に帰責事由がある場合には,その点については,ある種の被告人の利益の放棄として見て,手続を進められることとするということだろうと考えられます。   控訴審は,そういう被告人の利益の保護とか,裁判の公正とかを考えても,その構造的な観点から,被告人が必ずいなければならないわけではないということになっているのだと思いますが,今回むしろ,実刑判決が言い渡された場合の刑の執行を確保するという観点からの出頭義務を考えましょうということだとすると,それについて被告人に帰責事由があるから判決を言い渡していいということになるのかどうかですね。286条の2とはやはり少し考え方が違うものを入れようとしてきているので,286条の2と似た状況だという議論は,私は成り立ちにくいのかなという気がいたします。 ○菅野委員 確認させていただきたい点があります。今議論されているのは,一審で実刑判決が出て,控訴して,控訴審でも保釈が出た方を念頭に置いた議論であったと思うのですけれども,一審では無罪だったけれども,検察官が控訴して,もしかしたら逆転されるかもしれない,あるいは一審では執行猶予が付いたけれども,検察官が量刑不当で控訴した結果,場合によっては実刑判決が出て執行が必要になるかもしれないと,こういった方も理論上はいらっしゃって,もちろん勾留されていないので全然理論状況は違っていると思いますけれども,義務付けが必要だという議論だけ見ていますと,そういった方も対象になるようにも思われるので,そういった方とは全然違って,飽くまで実刑が宣告された方の保釈の場合なのだということなのかどうかを確認したかったのが1点です。   もう1点,私の意見を述べさせていただきます。今までは,控訴審でも保釈が出る類型というのは比較的,実刑が宣告されても軽めの刑のケースでした。したがいまして,上告をした場合にも保釈が認められるケースというのはそれなりにあります。しかし,今議論されているのは,控訴審の判決宣告期日への出頭の義務付けの話でして,実際,上告審というのは判決の言渡しの期日も何もありませんから,控訴審で議論しているような話というのは担保措置としては採れません。そうすると,私の懸念は,上告審になると,もうその措置が採れない,出頭義務も課せないから,今まで上告審において保釈が許可されていた人たちが許可されにくくなる,そういった影響があるならば,そこまで意図した議論をこの場でしているものなのかどうかというのが,私としては少し気になっています。   検察官の委員から,4人に1人が出頭しなかったというお話がありましたけれども,最終的に4人に1人が逃げているのかというところは,統計情報などで明らかになっていません。正直なところ,保釈が取り消されて通知が来るのも結構遅かったり,一方的に通知が来て無視したのか,あるいは,連絡してちょっと行けませんという話なのか,出頭しなかった方が4人に1人と言いますけれども,それが逃亡という実態を有するものなのかどうか,もう少し細かくお聞きしたいところです。そうでなければ,意見も言いにくいと感じました。 ○酒巻部会長 2点目は御意見として伺って良いですか。 ○菅野委員 そうですね,意見になります。結局,上告審とのバランスで,そこを全然手当てしないとなると,高裁段階でもう止めなければいけないのではないか,みたいな影響まで意図するものなのかどうか。結局,高裁の段階に出頭を義務付けることが,要するに,今まで上告審において保釈が許可されていた人が出にくくなるというところに影響するのかどうかを率直に聞きたいと思いました。上告審の保釈もあって,そこでは控訴審のような制度はできないわけですから,そうすると,義務付けを肯定される方は,今まで認められていた上告審での保釈の実務に影響するというイメージで語られているのか,いや,それはそれで義務付けるだけで,余り上告審の保釈に対する意見というのはないということなのか,そういった点についても,義務付けを肯定される方にお聞きしたいと思いました。 ○酒巻部会長 1点目の質問は,どなたに確認をしたいという御趣旨ですか。 ○菅野委員 皆さん,出頭の義務付けに賛成だとか,判決をどうするかという議論をされていたのですが,一審で実刑が出た後の保釈のケースが対象であって,一審は無罪とか執行猶予なのだけれども検察官が控訴した事件などは射程外だとして述べられているということなのであれば,私も全然問題ないのかなとは思っていますが,その射程がそういった一審で無罪や執行猶予となり検察官が控訴したケースにも及ぶという御意見があるのであれば,お聞きしておきたいと思った次第です。 ○酒巻部会長 それは,両方あり得るように思われますが,いかがでしょうか。 ○髙井委員 私は,両方という前提で申し上げています。 ○酒巻部会長 ほかに,この点についてよろしいですか。   大変活発な御議論を頂いた結果として,更に多くの議論すべき点があることがよく分かりました。ここで決着を付ける話でもありませんので,取りあえず先に進ませていただいてよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,次の第2の「3 禁錮以上の実刑判決の宣告後,被告人が現に逃亡した場合における制裁(保釈の取消し及び保証金の没取)を強化すること」の議論に移ります。この点について,御提言・御議論がある方は,挙手をお願いします。 ○小木曽委員 1回目の会議でも申しましたけれども,保釈の制度は,対象者の自由な活動を維持しつつ公判期日等への出頭を確保する手段であります。これが効果的に機能するには,刑訴法93条2項が定めるように,被告人の出頭を保証するのに相当な額の保証金が設定された上,逃亡や条件違反があったときには適宜適切に保釈の取消しと保証金の没取がされる必要があると思います。保証金額の設定については,前回教えていただきました。そのような観点で刑訴法96条1項を見ますと,柱書は,保釈の取消し等を裁判所の裁量に委ねています。その要件として,逃亡に関しては,2号で,被告人が逃亡し又は逃亡を疑う相当な理由のあるときとされておりまして,実際に逃亡したときと,そのおそれのあるときが同列に扱われています。保証金の没取については,同条2項で,保釈を取り消す場合には,裁判所が,これも裁量によって保証金を没取することができるとされています。様々な個別事情に応じて柔軟に運用するのが立法趣旨だと思われますけれども,制度の作り方として,実際に逃亡した場合にも保釈の取消し等が裁量的であるという制度で,逃亡への抑止力が十分であるかどうか疑問があります。   そういう意味では,刑訴法343条は,禁錮以上の刑の宣告があったときは保釈等の効力が当然に失われると定めていまして,これは,刑の宣告によって逃亡のおそれが類型的に高まることを理由とするものと思われます。このことに応じて,再保釈の判断を慎重にすることや保証金の上積みがあることも前回教えていただきましたけれども,刑の宣告を受ければ,その執行を確保する必要性も高まるわけですから,元々保釈は必要な場合には出頭することを約束して身体拘束を解くという制度であることに鑑みますと,この約束に反した場合に不利益が課されるのは理不尽なことではないと思います。   ただ,これも,前回,保証金の出どころが身元引受人である場合が多いことも教えていただき,身元引受人の監督義務の話もありましたけれども,逃亡のおそれの高まる禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた後の逃亡,これには保釈されていた者の保釈が失効した後で逃亡する場合と,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた後に保釈された者が逃亡する場合があると思いますが,これらの場合については,保釈の取消しとそれに連動した保証金の没取をそれぞれ義務的にするということが制度の実効性を高めるために検討されるべきではないかというのが1点であります。   ついでに,刑訴法96条の関係で申しますと,これも1回目の会議において申しましたように,96条3項は,刑が確定した後の逃亡についての定めで,刑の宣告後に逃亡しても,その確定前に逃亡状態が解消されていれば保証金の没取はできないというのが判例であります。刑の執行確保を目的とした制度ということで刑の確定を要件としたものと思われますけれども,保証金没取の威嚇力をもって刑の執行を確保するというのであれば,確定前であっても逃亡の事実があれば保証金を没取することにしておかなければ,抑止力の実効性が低いと思います。したがいまして,同項については,文言を改める必要があるのではないかと思います。 ○天野委員 私も,今の御意見に賛成でして,何のために保釈保証金があるかといえば,外に出ていても逃げたりしないようにするというためのものであるのに,それが,そういう逃亡の事実があるのに,保証金が結局没取されないというと,やはりそれは一般的な社会常識や感覚からずれると思いますし,もちろん被害者の視点からも,何であの人は,一旦逃げて,自分はそのときに不安な気持ちになったのに,お金も取られないで済まされるのですか,ということになってしまうと思いますので,私もこの点に関しては賛成です。 ○酒巻部会長 この点について,ほかに御意見はございますか。それでは,第2の「4 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者の出国による逃亡を防止する仕組みを設けること」について,御提言・御意見を頂ければと思います。 ○森本委員 私が理解している範囲の出国の仕組みなども含めて,禁錮以上の実刑判決を受けた者の出国による逃亡を防止する仕組みの必要性について意見を述べたいと思います。   禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者が国外に逃亡した場合,外国には我が国の主権が及びませんので,その所在を把握することは当然困難ですし,仮に所在が分かったとしても,身柄を確保するためには逃亡犯罪人引渡しの手続が必要となります。しかしながら,必ずしも当該外国がこの手続に応じるとは限りませんし,かなり時間を要します。そこで,なるべく禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者が出国する前に何らかの手当てができないかということを考えることになるわけですが,今の出入国管理及び難民認定法の仕組みと,刑事訴訟法上の仕組みと,両方の兼ね合いの問題があると思います。   現在の出入国管理及び難民認定法上の仕組みですが,一つは,まず,入国審査官による出国確認という仕組みがございます。これは,本邦から出国しようとする者は,外国人であると日本人であるとを問わず,入国審査官による出国確認を受けなければ出国してはならないとするものであり,この出国確認を受けることなく出国すると,罰則の対象になります。その上で,その出国確認の留保という仕組みもございまして,一定の者について,あらかじめ関係当局から出入国管理当局に通知しておけば,その者が出国確認の手続を求めたときに,入国審査官は,24時間に限り,出国確認を留保することができることとされています。   しかしながら,この出国確認の留保の対象になる者が,現在は,長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪で起訴された外国人や,禁錮以上の実刑判決が確定した外国人などに限られています。そこで,一つの方向性として,この出国確認の留保の対象となる者の範囲を広げ,例えば,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者であれば,確定前であっても,あるいは日本人であっても,出国確認の留保の対象とすることにすることが考えられます。そのようにすれば,24時間でございますけれども,禁錮以上の実刑判決が宣告された者が出国しようとした場合について,出国確認を留保することができることとなります。   もっとも,これは24時間に限っての留保ですので,この時間内に,例えば,現行法による勾留が認められなかった場合には,結局は出国できることとなります。そこで,更に,刑事訴訟法において,その24時間以内に,勾留なり,何らかの身柄拘束ができるようにする方向での手当てが必要になるのではないかと思うところでございます。 ○笹倉幹事 ただいまの点について,私も意見がありますので,申し上げます。   今,御言及がありましたけれども,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者については,逃亡のおそれが類型的に高まっていると認められます。現行法上,禁錮以上の実刑判決の宣告があった場合には,保釈されている者や勾留が執行停止になっている人については,保釈や勾留執行停止が当然に失効することとされ,また,勾留期間の更新の制限や必要的保釈に関する規定も適用が排除されることとされていますが,これも,実刑の宣告があった場合には逃亡のおそれが類型的に強まることを前提にしていると考えられます。取り分け,森本委員がおっしゃったとおり,外国に逃げてしまいますと我が国の主権が及ばないことから,所在把握等が極めて困難になりますので,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者について出国を防止する仕組みを設けることが適切であろうと考えます。   もっとも,身柄拘束されていない者には,憲法上の海外渡航の自由があるわけですが,第一審での有罪判決ということであれば上訴で覆る可能性が残ってはいるものの,一たび禁錮以上の実刑判決の宣告があると,無罪の推定は一応破れ,それに相応する権利制約は許されるのではないでしょうか。もとより,だからといって,実刑判決の宣告それだけをもって自動的に勾留できるかといえば,そういうふうにはなっていないわけですから,出国防止の措置を実刑の宣告に連動させることについては異論があるかもしれません。けれども,国内で所在が分からなくなる場合と,外国に逃げてしまった場合とは,やはり異なるわけでございますので,そのようなことを考慮しますと,適切に制度を仕組むことができれば,憲法上の出国の自由との抵触は避けられるのではないかと考えます。   勾留をするまでもないが,国外逃亡を防止する必要がある者が対象ですので,具体的には,例えば,裁判所がその都度個別に判断して出国制限をかけるというのも一つの考え方だろうと思います。しかし,第一審で有罪判決,しかも実刑に処する判決が出たことで,無罪の推定が一応破れており,しかも,現在でも,禁錮以上の実刑判決が宣告されたときは保釈や勾留執行停止が当然に失効するということとされていることに表れているとおり,刑訴法は,そのような判決があった場合には,そのことをもって逃亡のおそれが類型的に高まるという価値判断をしていると考えられます。そうであるとすれば,禁錮以上の実刑に処する旨の有罪判決が出た場合には,その効果として,当然に出国制限が作用するという制度設計もあり得るかと思います。   いずれにいたしましても,制限をかける以上は,その制限の実効性を確保する必要があるわけですが,例えば,保釈の場合と同じように,海外に渡航しようとする場合には事前に届出をさせ,保釈保証金と同じような保証金を納付させて,もし戻ってこなければそれを没取するという仕組みが考えられます。また,黙って出国しようとすることもあり得るわけですが,それにつきましては,既に存在している出国確認留保の制度の適用対象について,現在では外国人だけになっているわけですけれども,それを,日本人の禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者も対象に含めるという形にし,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた被告人については,そのことを入国審査官に通報しておくことで,もし被告人が出国しようとする動きがあった場合には,直ちに察知した上で,入国審査官が被告人の出国確認を留保している間に,刑事手続上の必要な措置をとるという仕組みとすることが考えられます。   出国制限に違反した場合の効果ですけれども,一つは,先ほど申し上げたとおり,出国を許可する場合に納付させた保証金を没取する,それから,許可を受けずに出国をしようとしたことが現に明らかになった場合は,これは逃亡のおそれが現実化したわけですから,そのことを捉えて勾留することができることとしてはどうかと考えております。制度設計の具体的な中身については様々な考え方があると思いますが,一案として申し上げました。 ○酒巻部会長 ありがとうございます。   教えてほしいのですが,森本委員と笹倉幹事も述べられたとおり,今は日本人には出国確認の留保の制度がなくて,外国人だけが対象とされています。それを日本人にまで広げた方がよろしいというのがお二人の意見だったと思いますが,日本人が出国確認の留保制度の対象とされていない理由を説明していただけますか。 ○鷦鷯幹事 事務当局から説明をさせていただきます。出国確認の留保制度が外国人のみを対象とし,日本人を対象としていない理由については,過去に国会での答弁等がございまして,出国確認の留保の条項に定められている留保事由は,旅券の返納命令の対象となる事由として旅券法に定められており,日本人については,旅券返納命令制度の対象となって旅券がなくなれば出国できないということで,出国確認留保の対象とはされなかったものと承知しております。 ○小笠原幹事 質問なのですけれども,森本委員から刑訴法の改正で24時間以内に勾留できるようにすべきという御意見があったと思うのですけれども,どういう場面なのかがよく分からなかったので,教えていただければと思います。というのも,保釈の方については,実刑判決が宣告されれば即座に収監できるわけで勾留の手続は必要ないわけですし,在宅の方について実刑の言渡しがあった後に裁判所が裁量でもって勾留をしなかったときのための話と聞いてよろしいのか,その辺が少し分からなかったので,お願いしたいと思います。それとも,先ほどの広げた訴追のときに勾留されていない者について改めて勾留するために,短くてもできるようにすべきだという趣旨だったのか,そこを少し教えていただければと思います。 ○森本委員 例えば,在宅の被告人でありますとか,いろいろおりますので,そういう場合についても,出国確認の留保をしている間に勾留できるようにすることが考えられるという趣旨でございます。 ○酒巻部会長 重要な御指摘を頂き,ありがとうございました。   複数の法分野にまたがる難しい問題ではありますけれども,更に御意見・御提案いただければと思います。いかがでしょうか。 ○角田委員 質問なのですが,今まで出てきた御意見は,入管法25条の2の問題を,たたき台の第2の4の問題として議論されていたと思うのです。ということは,判決宣告後の被告人の逃亡防止という観点からの御意見だと思いますけれども,問題としては,例えば一審で傷害致死罪で訴追されて保釈中だとか,そういう場合の問題,要するに,たたき台でいうと第1でも同様の問題があるのではないかと思います。この第2の4の問題というのは,判決宣告後の被告人の逃亡防止だけの問題として捉えて議論をされているように受け取ったのですけれども,それでいいのかどうかです。この問題は,どうももう少し広がりがあり,論理的には一審で傷害致死,殺人などの事案でも保釈になる場合もありますから,そういう場合にもこの入管法25条の2の出国確認留保の制度をかぶせておくということも論理的には考えられるように思います。たたき台第1の今のようなケースと同第2の判決宣告が終わった状態とは大分場面が違うから,後者に絞って25条の2を考えるのだという考え方もあろうかとも思いますけれども,その点はどういう理解をすればよろしいでしょうかということを質問というか,確認させていただきたいと思います。 ○吉田幹事 御指摘の点も議論の対象になり得ると思っておりまして,第2の4に関連するものとして,御指摘についても御議論いただければと思っております。 ○角田委員 分かりました。 ○小笠原幹事 あともう1点,これは前回もお話ししていたのですけれども,とん刑者の中で出国となっている人がいるのですが,そもそもそういった人たちに在留資格はあるということを前提としてよろしいのかということを確認させていただきたいと思います。訴追されただけで在留資格がなくなるとは思えないのですけれども,実刑が確定する前にも当然にはなくならないし,かつ裁量でもなくなることはないということでよろしいのですかということです。在留資格がないのだとすると,留め置いた後にどうするのかが少し分からなかったものですから。 ○酒巻部会長 在留資格の件については,事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 前回の部会の際に御質問のあったところでしたので,事務当局において出入国在留管理庁に確認をしましたところ,実刑判決を言い渡された被告人やそれが確定した被告人の在留資格や在留に関する取扱いについては,出入国管理及び難民認定法上は,在留資格を有する外国人被告人が刑事裁判において実刑判決の宣告を受けたことそれ自体を理由として直ちに在留資格に基づいて我が国に在留することができなくなるものではないということでした。   他方で,入管法24条におきまして,例えば,集団密航に係る罪などの入管法違反の罪,覚醒剤取締法違反等の薬物事犯,傷害や窃盗等の刑法犯などの特定の犯罪によって有罪判決を受けたこと,無期又は1年を超える懲役若しくは禁錮の実刑に処せられたことが退去強制事由とされております。そのため,在留資格を有する外国人被告人が,先ほど御説明したような有罪判決が確定しまして,退去強制手続においてその事実が確認されて退去強制事由に該当すると認められたときには,その者に在留の特別許可がなされるような場合を除いては,以後は在留することができないこととなります。 ○酒巻部会長 活発に御議論いただきましたけれども,大分時間がたちました。ちょうど第2が済みましたので,10分ほど休憩し,2時45分から再開したいと思います。           (休     憩) ○酒巻部会長 休憩前に引き続き,審議を行います。次は,「第3 確定した裁判の執行を確保するための方策」について審議しますが,これについても,第1や第2についての審議のときと同様に,この資料に記載されていない事項について,関連して御意見・御提案があれば伺いたいと思います。あるいは,第1や第2に入るものでも結構ですが,いかがでしょうか。 ○天野委員 前回,電子監視について検討することになりまして,私も議論することに賛成でしたので,テーマになってよかったと思っているのですけれども,少し視点の補足として発言させていただければと思います。   私個人としては,今なら逃げても犯罪にならないから逃げようと思って逃亡している人というのはいないのではないのかと思っています。前回,髙井委員から,強い決意を持って逃亡しようと思っている者について御発言がありましたが,私も,大抵は,それが罰かどうかは別にして,逃げれば何らかのペナルティーがあるだろうと思っていても,それでも逃亡しているのではないかと思っています。もちろん,新たな罰則であるとか制裁などの議論も重要だと思うのですけれども,もっと直接的に逃亡できないようにする仕組みも検討されるべきと思っていたので,電子監視について検討することとなってよかったと思っています。   私は,最初の会議で,被告人などの逃亡が被害者に与える影響という視点もお持ちいただければと発言いたしましたが,被害者にとってみれば,逃げられてしまった後では遅くて,そもそも逃げられないようにする仕組みというのが保釈に対する信頼というか,保釈の大前提であると思っています。性犯罪でも,強制わいせつなどでは保釈が増えているところでありまして,保釈が増えること自体には異論を差し挟むつもりはないのですが,被害者の中には,被告人が保釈され,身柄を解放されていることについて,とても不安に感じる方というのも,相当数いらっしゃいます。そういうときには,もちろん,私からは,制限住居の説明であるとか,被害者への接触禁止などの遵守事項があるという説明をして,不安感を和らげているわけなのですけれども,それが逃亡されてどこにいるのか分からない状況になれば,本当に大きな不安を与えることになると思います。幸い,私の担当した事件では,保釈された後に逃亡してしまったということはないのですが,本当にその場面を想像するだけで少しぞっとするというか,そんな感じもしています。   そこで,逃亡を防止するためのより直接的な手段として,GPSを含む電子監視も検討されていいと思っていました。プライバシーの問題など,すごく多くの論点を含むものですので,それこそリアルタイムで位置を追跡できるものとするのか,あるいはまた同意などの要件をどうするのかとか,コスト的に可能なのかとか,その辺も含めて一度,本格的に議論がなされてもいいと思っていたので,その点だけ補足として発言させていただきました。 ○小木曽委員 先ほども議論がありましたけれども,入管行政との関係,取り分け退去強制手続との関係で,意見があります。   前回お配りいただいた資料でも,上訴係属中の出国事例がありました。現在の出入国管理行政では,対象者について刑事訴訟法上の身体拘束がされている場合は退去強制令書の執行は停止されることになっていますが,刑事訴訟の対象となっている者であっても身体拘束されていない場合は,強制送還手続は停止されないようであります。入管行政としては,退去強制事由がある者はそもそも本邦にいるべきではないので,速やかに退去させるのが筋であると,ただし,刑事手続で身体拘束を受けていれば,そちらを優先するというか,退去させたくてもできないということのようであります。退去強制の対象者は,自費で出国することもでき,この場合は,自費で出国するというのですから,逃亡のおそれが高まったということで勾留を認めるということがあり得ると思いますけれども,退去強制の対象者に実刑が言い渡されても,勾留されていない場合には,退去強制手続が進められ,国外に出されてしまって,仮にその者の刑が確定したとしても,その執行が不可能になるということがあり得るわけです。   入管行政についてはこの部会の権限外であるということであれば,日本国の強制退去手続によって日本国の刑罰の執行ができなくなるという事態を避けるためには,例えば,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者については,そのことを刑事訴訟法上の勾留理由として身柄の確保を可能にしておくといったような手当てをすることが考えられるのではないかと思います。第2の4において,退去強制との関係で御議論いただければと思います。 ○小笠原幹事 今の関連で私も意見を述べさせていただきます。勾留すると,事実を争っているような場合であっても,一審で執行猶予判決が出されたような場合でも退去強制されたりするという例も出ているのだとすると,むしろ正面から,裁判中は本邦にいられるよと,いなければならないということの裏返しだと思うのですけれども,必ず在留の資格が出るような形,要は退去強制ができないような形にしないと駄目なのではないかと私は思います。 ○笹倉幹事 第2の4に関する先の私の発言についてですが,趣旨は酌んでいただけているものと存じますけれども,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者の出国を制限するということの意味は,裁判所の許可がない限りは出国できないという制度を作るということです。それをあたかも当然の前提にしていろいろなことをしゃべってしまいましたが,そこの説明が多分,落ちていたと思いますので,補足させてください。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。もしほかになければ,第3に入りたいと思いますが,よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   では,第3の「1 捜査段階における強制処分と同様の調査権限を,刑の執行段階についても整備すること」についての御議論・御提言を頂ければと思います。 ○森本委員 刑の執行段階における調査権限の強化というところですが,実務的にはこのようなことが可能になると大変有り難いというのが実情でございます。例えば,収容状を執行しようという場合,まずは,その対象となる刑が確定した者の所在を突き止める必要がありますが,現在は,刑訴法507条の公務所又は公私の団体に対する照会に関する規定,これは,公務所照会と呼ばれているもので,相手方に任意で応じていただく必要があるものですが,この規定を使いながら,所在捜査などをしているところです。身柄を収容するためにその者の所在を調査する場合もありますし,財産刑の執行が必要な場合ですと,強制執行のため,財産状況の把握などが必要になるわけですが,いずれにしましても,現在は,この公務所照会を活用しているところです。   ところが,この公務所照会によって個人情報の開示を求めるような照会を致しましても,守秘義務の関係などがございましてなかなか開示に応じていただけないケースが大変増えております。また,携帯電話の通話履歴ですとか,基地局情報ですとか,対象者の所在を把握するため,捜査段階であれば収集することができる基礎的,基本的な情報の収集などは,強制的な権限がないとすることができません。   そこで,既に刑が確定し,収容が必要な段階ですので,捜査段階における強制処分と同様の調査権限が刑の執行段階でも整備されることが望ましいと思うところです。やはり,一番基本的な,通話履歴ですとか基地局情報ですとか,そういう所在や動きが分かるような情報を入手できるよう,差押えや検証といったものについて,刑訴法上の規定の整備が進むことが望ましいと考えるところです。 ○酒巻部会長 これは,「捜査」ではないけれども,刑の執行のために所在等,必要な事項を調べるということですから,裁判の執行,刑の執行という刑訴法の分野ということでしょうね。 ○森本委員 位置付けとしてはそのように考えられるかと思います。 ○笹倉幹事 酒巻部会長がおっしゃるとおり,刑訴法1条は,刑事事件につき事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正かつ迅速に適用,実現することを目的とすると規定しており,刑罰を執行するところまでを含めて刑訴法であるはずです。現在は,捜査段階では強制処分の権限がある。民事で例えれば債務名義を得るところまでは強制処分の権限があるのですが,その後の強制執行の部分になると途端に権限が弱くなるという立て付けになっており,それはバランスが悪いであろうと考えます。   森本委員から,もし執行段階でも捜査と同じような権限があれば非常に助かるというお話がありました。具体例もおっしゃっていましたので,立法事実はあると思います。具体的にどのような強制処分を認めるべきかということですが,森本委員がおっしゃった実際上の必要性ということからしますと,差押えや捜索を認めることが考えられます。   強制処分ですので,当然,手続についても考えなければならないわけですが,捜査段階と同様,裁判所又は裁判官の発する令状を得てそのような処分を行うことにするのが適切であろうと考えます。その主体については,刑の執行は検察官が指揮することになっておりますので,検察官を処分の主体とした上で,令状の発付を得て処分を行うこととするのが整合的であろうと考えます。 ○菅野委員 質問を1点させていただきます。強制処分みたいなものができるとしたら,やはり弁護人的な立場の人たちも出てきて,捜索差押えに対する不服申立てみたいなことをしたりすることになるのか,あるいは,確定後の段階なので,そんな人たちがいる余地はないということになるのか,イメージがあれば教えていただきたいと思います。 ○笹倉幹事 先ほど例に挙げられた基地局情報の取得のように,強制処分の被処分者は,必ずしも刑の執行を受けるべき本人に限られるわけではないと思います。そして,その被処分者が不服申立てにより救済を受けるということは,当然あり得ます。例えば,準抗告の規定などは,この段階でも使えるというふうに制度設計することも考えられます。御質問の趣旨がよく分からなかったのですが,そこで弁護人が介在することがあるかないかというのは,具体的にはどういうことを想定されているのでしょうか。 ○菅野委員 もう判決が確定しているので,弁護人という言い方も変なのですけれども,処分を受けて不服申立てをする代理人的な弁護士の活動みたいなものもあり得るのかというところが,少し素朴に気になりました。 ○笹倉幹事 逃走した者が自分の代理人として準抗告をしてほしいと元弁護人に依頼してくる事態は実際には想定しがたいかもしれませんが,当該強制処分を受ける人物,権利主体が刑の宣告を受けた人であったとしても,その人の利益のために法律専門家が準抗告をすることは一般論としてはあるのだろうと思います。 ○髙井委員 御意見をいろいろお聞きしていましたが,例えば,準抗告を認めるとか,あるいは弁護人的な人を認めるということになると,当然,迅速な所在の確認であるとか迅速な身柄の確保はなかなか難しくなるわけですよね。今回のこの問題は,もう有罪が確定した被告人の話ですので,果たしてそういう手続を用意して,有罪が確定している,実刑判決が確定している被告人の人権に配慮する必要がどこまであるのかについては,やや疑問に思います。ただし,全く関係のない第三者が強制処分の対象になったときに,その人の利益をどうやって守るかというのは,また別途議論をしなくてはいけないと思いますけれども,被告人に関しては,当然,捜査段階,確定前とは違う考え方で対処してしかるべきではないかと思います。 ○天野委員 今の点とも少し関わるのですが,次の「2」のところで,収容を免れるために逃亡する行為に罰則を設けるとなると,それが仮に犯罪になるのであれば,その捜査として強制処分が認められるわけですよね。なので,「2」のところの犯罪化が行われるとすると,この「1」のところの議論する対象というのは狭まるという認識でいいのですよね。 ○吉田幹事 議論の整理のために申し上げますと,「2」のところでは,どのような行為に対する罰則を設けるかが議論されることになると思いますけれども,その罰則の対象となる行為の定め方如何によって,この「2」で捕捉できる部分が広くなったり狭くなったりすることとなり,それに伴って,その犯罪の捜査として行えるかどうかが変わってくるという関係になるかと思います。それとの関係で「1」をどのように設定するのかという点も,御議論があろうかと思います。ただ,議論の性質としては,「1」は飽くまで刑の執行のための調査であり,他方,「2」はどのような罰則を設けるかに関する議論で,その罰則に伴うものとして犯罪捜査の権限が付いてくるというような関係に立つのだろうと理解しております。 ○天野委員 分かりました。ありがとうございます。 ○小笠原幹事 質問なのですが,強制捜査の手法を執行段階にも取り入れるという話がありましたが,強制捜査は,捜査段階だと警察が主にやっているのではないかと思います。そうすると,先ほど笹倉幹事から,強制処分の主体は検察官という話があったのですが,実際には警察に協力をお願いしてやることになるのでしょうか。それと,実際上,今どのように警察の助力等を得て刑の執行を行っているのか,実態が分かれば教えていただければと思います。 ○吉田幹事 この第3の1の調査権限を設けることとした場合に,その権限行使の主体を誰にすべきかというのも御議論の対象となるものと考えておりまして,その点は御意見を頂ければと考えております。その上で,例えば検察官がその権限を持つこととした場合に,司法警察職員に対して嘱託等をすることができるようにするかという点についても,それもまた制度の構築に係る話だと思いますので,御議論を頂ければと思います。 ○酒巻部会長 御質問の後半は,実際に現在,刑の執行のために事実上,警察にどのような助力を頂いているかという質問でしたが,重松幹事から説明をお願いします。 ○重松幹事 実刑判決の宣告を受けた者の収容につきまして,検察庁から協力の依頼を受ける場合がございます。こういった場合は,被収容者の身上ですとか経歴とか,あるいは捜査公判段階における言動等を考慮して,検察庁とよく協議をして,どういう準備をしていくべきか,どういう体制で行くべきかということを十分検討した上で対応しているということでございます。一時期,少し逃げられた事案等がございましたけれども,それを踏まえて,更に連携して対応しているところでございます。 ○森本委員 元々,刑の執行は検察官の権限でございまして,収容状も検察官が発して指揮をしていくことになりますので,その関係で,この強制調査権限というのも,一義的には検察官を中心として動ける仕組みとするのが適切ではないかと思うところです。 ○小笠原幹事 それを前提として,意見ということになるのですけれども,民事訴訟の場合,先ほど比較がありましたけれども,警察官の助力が法律で決められているのですね。だとすると,こちらについても検察事務官との協力体制とか,何ができるのかというのは法律で決めてもいいのかなと思いました。 ○酒巻部会長 今までの点について,更に御提言・御意見がありましたら,御発言をお願いいたします。よろしいですか。   それでは,次に,2番目の「実刑判決が確定した者が収容を免れるために逃亡する行為に対する罰則を設けること」について御意見・御提言があればお願いします。 ○和田幹事 刑事訴訟法上,禁錮以上の実刑判決が確定した者について拘禁がなされていない場合には,検察官がこれを呼び出して収容することとされています。そして,対象者が呼出しに応じないときは,検察官が収容状を発して,これを執行して収容することとされているわけですけれども,現行法上は,それ以外に収容対象者に対して収容を免れないように促す仕組みが用意されていません。そこで,刑の執行を免れるために逃走する者が現にいるということであれば,収容状による収容という直接強制と併せて,収容を免れる行為を処罰する罰則を設け,それにより収容の実現をより強く図ることが有効だと基本的には考えられます。   そのような罰則を設ける場合の保護法益についてですが,現に収容された後は国家の拘禁作用が逃走の罪で保護されることになるわけですので,それに先立って収容を免れる行為についての罰則は,言わば刑の執行としての拘禁に向けた国家の身柄拘束作用,あるいは収容作用,これが保護法益であろうと考えられます。そのように考える場合には,禁錮以上の刑の執行のために収容されるべき者だけではなくて,労役場に留置されるべき者も主体に含めることが考えられるかと思います。   具体的に罰則の対象とする行為についてですが,先ほども少し話題に出ていましたけれども,収容のために出頭すべき日時・場所が検察官による呼出しの際に送付される呼出状によって初めて収容対象者に告知されることになっていますので,罰則の対象は,検察官による呼出しを受けたにもかかわらずその呼出しに応じない行為に限定するのが適切であろうと思います。これに関しては,現行法上,既に規定されている真正不作為犯のほかの規定の規定ぶりが参考になるかと思います。例えば,刑法130条は,住居侵入罪と併せて不退去罪を規定していますが,ここでは要求を受けたにもかかわらず退去しなかった場合が処罰対象にされていますし,それから,刑法107条の多衆不解散罪につきましても,権限のある公務員から解散の命令を3回以上受けたにもかかわらず,なお解散しなかったときが処罰対象とされているところです。それらとも平仄が合うような規定が考えられるということです。   そのような規定を設ける場合に,それを設けることの相当性をどう考えるかにつきましては,大きく分けて二つのことに注意する必要があろうかと思います。一つは,期待可能性ですけれども,先ほどのような罰則を設ける場合,それは逃走の罪の処罰対象にならない行為,その手前の行為を処罰対象にすることになるわけですが,拘禁された後逃げないことが期待できるということであれば,それに先立って呼出しを受けて以降,同じように期待可能性を肯定するということが,合理的な政策判断としてあり得ようかと思います。ただ,この点については,保釈の場合も併せて更に議論する必要があろうかと思います。   それから,二つ目がこの犯罪に特有の問題で,これはきちんと考える必要があると思うのですけれども,インセンティブの仕組みとして合理的かという問題があります。それは,刑の執行を免れるために逃走する者というのは,刑罰から逃れようとしてそういう行為に出るわけですので,その逃れる行為に更に刑罰を用意しても,より一層強く逃走を促してしまうのではないかということが考えられます。先ほど申し上げたように,処罰範囲を検察官による呼出しを条件に限定するということにしますと,呼び出されないように,より一層早く逃げるということを強く促す仕組みになってしまい,不合理ではないかということが問題になろうかと思います。   それに対しては,そのようにインセンティブの仕組みとしては不合理であるとしても,刑の執行を免れようとする行為に対して否定的な評価を下しているということを象徴的に表し,そのようなメッセージを発することに意味があるのだという考え方は,一つあるかもしれません。本当にそういうことだけで罰則を新たに設けてよいのかということは,当然問題になりますので,もう一つの対応方法としては,収容に応じない行為を罰するのではなくて,むしろ素直に収容された者について刑を割り引くと,そういう制度も理論的には考えられるかと思います。もちろん,現行法上のその他の既に存在している制度との関係で,そのようなことが直ちに認められるとは思えませんけれども,このような新たな罰則を設ける際には,そのようなインセンティブの仕組みとしての合理性というものを真剣に考える必要があるのではないかと思う次第です。 ○小笠原幹事 呼出しに応じない行為が真正不作為犯だというお話がありましたけれども,これは,正当な理由なくというのが付くということでよろしいのでしょうか。というのは,やはり病気であったりとか,あるいは,入管による退去強制手続により収容され,呼出しに応じたくても応じられないときに罪になるというのも,何か不合理というか不経済な感じもするので,正当な理由なくとか,そういう文言が付くという理解でよろしいでしょうか。 ○和田幹事 そこは,もう少し詰めて考えたいとは思いますけれども,実質的には,そういう調整なり考慮というのは当然必要だと思います。 ○酒巻部会長 ほかに御意見・御提言はございますか。それでは,次の第3の3「刑が確定した者が国外にいる間,刑の時効は,その進行を停止するものとすること」ついて御意見・御提言を頂ければと思います。 ○北川委員 私が第一回の会議で発言したこととの関係で,この点についての意見を述べさせていただきたいと思います。   第一回の会議でも申し上げましたように,刑の時効については,公訴時効と異なりまして,国外にいる間もその進行を停止しないことになっています。それはなぜだろうかということを文献を見ましても明らかでなく,推測を含めて申し上げますが,まず刑の時効の場合,刑の執行が妨げられる理由が,刑の確定者が所在不明になってしまい,国外にいるのか国内にいるのかも分からないという状態にあって,一定の期間経過してしまうと,処罰しなければならないという社会の規範感情が薄れてしまったり,あるいは一定期間の社会的事実としての現状を尊重するという趣旨で,刑の時効の制度というものが設けられているわけですが,そうした趣旨を踏まえて,刑が確定してしまった者に対する刑の執行に関する時効制度として,国内で逃亡している者と国外に逃亡した者の取扱いをこのまま同一にしていてよいのだろうかということを今回考える前提として,恐らく今までこの規定を改正する提案がされてこなかった理由を推察しますと,一つには,実際に大問題として社会的に取り上げられるような事案がさほどなかったのではないか,特に刑が確定した者でも宣告刑が重かったらそもそも勾留されていますし,一旦刑務所に収容されてしまえば,そこから脱獄するのは非常に難しいという実情があったので,これまでは大きな問題が生じる余地が小さかったのではないかと思います。   しかし,この先もこのままでよいのかと見直したときに,前回事務局の方で御用意いただきましたとん刑者についての統計資料を見ますと,実際にとん刑となった理由が出国であったという事例が10件程あり,そのうち刑の時効が完成したものが3分の1くらいあったという実情があり,これからも,勾留されずにあるいは保釈中に実刑判決が確定した者が国外に逃亡する事案が想定されることに鑑みますと,国外逃亡犯の扱いをこのままにしておくことには疑問があるので,国外逃亡を理由とした刑の時効停止規定を設けるといった見直しの必要性はあるのではないかと思いました。   国内で逃亡している場合と異なり,国外に逃げたときは,逃亡先に日本の執行管轄権が及びませんので,逃亡先の相手国に逃亡犯罪人として引き渡してくれということになりますが,相手国が必ずしも我が国の要請に応じるか分からないという状況もあります。そうした状況下で,日本に戻ってこない,引渡しされないという状態にある期間を考慮せずに,時効を進行させたままでは刑の執行の適正さに問題が生じます。公訴時効と同様,刑が確定した者に対する刑の時効についても,国外にいる間は刑の時効の進行を停止させるというのが,日本の執行管轄権と相手国の執行管轄権が競合する場合の調整の在り方の一つとして考慮でき,国外にいて我が国の執行管轄権が及ばない期間は刑の時効の進行を停止させて,もしその後我が国に戻ってきた場合については刑の執行をできるような状態に保っておく必要性があるのではないかと考えます。   なお,先ほど,刑の時効制度の趣旨について,社会の規範感情が一定の時間経過すると低下するであるとか,事実状態が尊重されるという点に触れました。これは,とん刑者がどこにいるか分からなくなって,そういう状態で一定期間経過したら事実上の状態を尊重しましょうということなのですが,この点との関係で付言しますと,国外にいて日本の官憲が手を出せない状況にいるときについてまで,果たして社会の規範感情が低下するという状況が生まれるのだろうか疑問に思います。国外にいて我が国の執行機関が手出しできない状況の中で構築された事実状態というものを刑罰の執行制度上尊重する必要はむしろなく,この点からも,国外にいる間は刑の時効の進行を停止させることについて合理性があるように思います。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。刑の時効の停止の必要性,根拠についての御説明を頂いたのですが,この点について,ほかに御意見・御提言はございますか。   それでは,4番目の「罰金の裁判の告知を受けた者に対する労役場留置の執行が可能となるまでの間に退去強制されることを防止する仕組みを設けること」について,御提言・御議論いただければと思います。 ○森本委員 先ほどまでは,禁錮以上の実刑判決が確定した場合の執行確保の場面の議論が多かったのですが,罰金の裁判の告知を受けた場合でありましても,罰金が支払えない場合に労役場留置という形で執行を行うこととなります。罰金の裁判の場合は,仮に勾留されていても,その裁判の告知により勾留が失効してしまいますし,このときに,例えば,退去強制事由がある場合には,身柄が拘束されていないと退去強制手続の方が進んでいってしまうという状況にございます。労役場留置というのは,罰金の裁判が確定した後30日以内は,本人の承諾がなければ執行することができないこととなっており,裁判の告知から労役場留置の執行ができるようになるまでに一定の期間が空いてしまっておりますので,この期間に,例えば,退去強制手続などが進んでいってしまうことを考えますと,この労役場留置の執行を確保するための方策というのも考える必要があるのではないかということで問題提起をさせていただきたいと思います。 ○佐藤委員 対応の必要性について,ただいまの森本委員の御発言を前提とした場合,労役場留置の執行を確保するために対象者を留め置くことは,労役場留置という刑事法上の要請に基づいて必要とされるものでありますし,また,後で述べますように,出国によって刑の執行を免れるおそれというのは,退去強制の対象となる者以外の者についても考えられますので,入管法制との調整の必要性を踏まえつつも,刑事法の問題として対処するのが相当であろうと考えます。   まず,労役場留置の執行を確保するために留め置く対象者については,罰金の言渡しを受けた者のうち,退去強制事由に該当するおそれがあって,かつ,罰金を完納することができないおそれのある者を対象とする,ということになるものと思います。その上で,罰金の言渡しからその裁判の確定までの間と,罰金の裁判が確定した後,労役場留置の執行が可能となるまでの間という二つの局面に対応した対処を分けて考える必要があるのではないかと思います。   罰金の言渡しから,当該裁判が確定するまでの間については,退去強制がなされて罰金が完納されないおそれがあるということを理由に,その者を勾留するということが考えられると思います。身体拘束の必要性が類型的に減少している場面となりますので,刑事訴訟法345条に対する例外的措置という前提で考えることとなるのだろうと思いますが,従来の逃亡のおそれの理解に関して,退去強制手続によって強制送還され得ること自体をもって勾留が認められるかどうかという点には議論がございますので,その点にも配慮しつつ検討する必要があるものと考えております。   一方,裁判確定後については,先ほど森本委員から御指摘がありましたが,刑法18条5項では,裁判確定後,労役場留置の執行が法律上可能となるまでの期間が30日間とされている,そのことを踏まえまして,労役場留置の執行の確保のために身体拘束をするという場合には,最長で30日間という期間を設けることが考えられるのではないか,その上で,対象者の負担を必要最小限の範囲にとどめるという趣旨で,身体を拘束された日数については金銭に換算して罰金額に算入する,あるいは罰金が完納された場合には直ちに拘束を解くといった仕組みを設けることが考えられるように思います。   繰り返しになりますが,裁判確定前であれば身体拘束については勾留という形式によることが可能ですが,裁判が確定してしまうと現行法の勾留では賄えないだろうと思われますので,こちらは新たな身体拘束の形式を用意する必要があるのではないか,と考えております。   それから,対象とする者の範囲につきまして,まずは,退去強制事由に該当するおそれがあり,罰金を完納することができないおそれがある者を対象とすることが出発点となると思いますが,これに加えて,出国によって刑の執行を免れるおそれというのは,日本人が自らの意思で出国する場合にも生じ得るものですので,日本人についても,本邦から出国して,それによって労役場留置の執行が困難となるという事態を観念することができます。したがいまして,退去強制事由がなくても,国外に逃亡するおそれがあり,かつ,罰金を完納することができないおそれがある者についても,その対象とすることを検討してもよいのではないかと思います。   なお,罰金額の多寡によって対象者の範囲を画するということも考えられますが,刑事訴訟法60条3項では,一定の軽微事件についても勾留自体は可能だとしておりますし,また,罰金額が少ないからといって労役場留置の対象から除外されるわけでもありませんので,裁判確定の前後を通じて,罰金刑の多寡によってその対象を限定する必要はないのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。   立法事実としては,森本さんがおっしゃったように,外国人で身柄が拘束されていない状態だと退去強制になってしまうという問題があるわけですね。ところで,何故,刑法18条5項は,罰金が確定した後30日間は本人の承諾がなければ労役場留置を執行できないこととしているのでしょうか。 ○吉田幹事 言い渡されている刑は飽くまで罰金刑ですので,罰金を完納できる限りにおいては,そちらで刑を執行するのが本来的な姿であるということを前提として,本人が罰金額を準備するための一定の機会を認めようということで,30日間は,労役場留置という形での,いわゆる換刑処分は行わないことにしていると理解しております。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。この点に関して更に御意見・御提言はございますか。よろしいでしょうか。それでは,以上で本日予定していた項目については,一通り議論を行いましたので,次回以降の審議の進め方についてお諮りをしたいと思います。   前回と今回の会議で,委員・幹事の皆様から,考えられる対処策,あるいは制度の案について,具体的な御意見を頂き,議論すべき点が明確になってきました。今後の審議をより充実したものにするという観点からは,これまで頂いた御意見を整理した上で,この「たたき台・その1」に記載されている事項や,さらに,例えばGPS装着など新たに取り上げられた事項について,それらの御意見をも踏まえつつ,より一層具体的な制度の枠組みや検討課題を整理し,それに沿って議論を深めていくのが適切ではないかと思います。   そこで,次回までに,部会長である私の責任の下で,事務当局にそのような議論のための資料を準備してもらい,その資料に沿って,議論を進め,深めていきたいと考える次第です。このような進行方法でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきたいと思います。事務当局におかれては,次回までに,これまでの当部会における議論を整理し,次回の審議における更に具体的な議論の土台となるような資料の準備をお願いいたします。   それでは,ほかに御意見等がなければ,本日の審議はこれで終了したいと思います。   次回の日程につきまして,事務当局からお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回,第4回会議は,令和2年9月4日金曜日の午前10時からを予定しております。場所は,本日と同じ法務省地下1階の大会議室です。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容はなかったと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して公表することにさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは,そのようにさせていただきます。これで本日の審議を終了します。どうもありがとうございました。 -了-