法制審議会 民法(親子法制)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和2年2月25日(火)自 午後1時31分                     至 午後5時18分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  参考人等ヒアリング         嫡出推定制度の見直しに伴う生殖補助医療により生まれた子の父子関係等         の規律の可否についての検討(フリーディスカッション)         懲戒権に関する規定の見直しについての検討(二読)(続き) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定しておりました時刻になりましたので,法制審議会民法(親子法制)部会の第7回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,また時節柄,外出を控えるべしという状況の下で御出席を頂きまして,誠にありがとうございます。   なお,窪田委員,山本委員,それから垣内幹事は,本日御欠席でございます。   それから,最高裁事務総局の澤村智子幹事が異動のために,代わりまして,家庭局第二課長の宇田川公輔幹事が参加されるということなのですけれども,本日は御欠席でございますので,また改めて御挨拶等を頂きたいと思っております。   続きまして,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきたいと思います。事務当局の方でお願いいたします。 ○小川関係官 説明します。   今回の配布資料は,事前にお送りいたしました部会資料7,参考資料7-1から7-5まで,それから,厚生労働省からの御説明の資料,それから,本日席上配布いたしました,参考人として御説明いただきます苛原先生からの御提供の資料という形になります。   配布資料の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,本日の審議の予定についてでございますけれども,前回の積み残しが多少ございますが,それは分量は少ないので,最後にさせていただくことにいたしまして,本日はまず,嫡出推定制度の見直しに伴う検討事項として,生殖補助医療により生まれた子の父子関係等の規律を設けることの可否について,御議論を頂こうと思っております。   初めに,事務当局の方から,この部会におけるこの問題の取上げ方について,御説明を頂きたいと思います。 ○平田幹事 本部会では,無戸籍者問題を解消する観点から嫡出推定制度の見直しを検討していただいているところではございますが,嫡出推定制度の見直しの検討に当たっては,生殖補助医療により夫婦間に生まれた子の父子関係も視野に入れた検討が必要であるとも考えられ,これまでの部会においても,委員等から検討の必要性について御指摘があったところでございます。   そこで,詳細は,部会資料に関して後ほどご説明しますが,嫡出推定制度の見直しに伴う限度で,生殖補助医療により生まれた子の父子関係の規律を設けることの可否について,御意見を頂戴したいと考えております。   これは,嫡出推定制度の見直しに伴う検討ということになりますので,主として,生殖補助医療により夫婦間に生まれた子と母の夫との父子関係や,生殖補助医療への精子提供者の法的地位といった点を中心に御議論を頂戴したいと考えております。   もっとも,第三者提供の配偶子による生殖補助医療により生まれた子の親子法制の整備につきましては,既に平成13年に法制審議会に諮問され,生殖補助医療関連親子法制部会において検討がされておりましたが,現在,休止中となっております。   当時,厚生省において検討されていた医療行為規制立法の条件整備の一環として行為規制立法がされることを前提に親子法制も検討がされておりましたが,行為規制立法の在り方については実に様々な意見があり,法律の制定には至っておらず,現在も政府部内ではその見通しは立っておりません。   この部会に先立って開催された,嫡出推定制度を中心とした親子法制の在り方に関する研究会においても,行為規制立法がない現状の下で,親子法制を整備することの可否について議論がされましたが,いろいろと難しい問題があることも指摘されたところです。   さらに,この問題につきましては,その困難性に鑑み,議員立法の検討がされており,現在も,早期に国会提出を目指す動きがあるところです。   このような状況ですので,今回は,厚生労働省子ども家庭局の小林秀幸母子保健課長と徳島大学大学院医歯薬学研究部長の苛原稔先生から,生殖補助医療の現状について御説明を頂いた上で,フリーディスカッションとして,委員・幹事の皆様の御意見を賜り,この問題について審議を進めるか否か,進めるとしてもどのような範囲について,どのようなタイミングで行うことが適切かといった点を含めまして,論点を整理する上での参考にさせていただけないかと考えております。   もっとも,本日御説明をしていただく予定であった小林課長が,用務のため御出席できないことになりましたので,代わって同課課長補佐の知念関係官から御説明をしていただく予定でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような次第で,生殖補助医療に関わる親子関係につきまして,本日,フリーディスカッションをしていただきたいと考えておりますけれども,まず段取りといたしましては,部会資料7につきまして御説明を頂き,その後,参考人の方々にお話を頂きまして,その上で,フリーディスカッションに入るという形で進めさせていただきたいと思います。   通常の場合と同じで,議論の途中で休憩を挟ませていただこうと思っております。   では,部会資料7の説明ですね。お願いを致します。 ○小川関係官 それでは,御説明いたします。   部会資料7を御覧ください。   嫡出推定制度の見直しに伴って,生殖補助医療により生まれた子の父子関係等の規律の可否について検討する際に問題となり得る論点について,この資料に基づいて御説明いたします。   まず,第1について御説明します。   生殖補助医療技術が発展し,不妊治療が普及した現代社会においては,生殖補助医療を受けて子をもうける夫婦も一定数存在します。そのため,本部会において,嫡出推定制度の見直しを検討するに当たっては,生殖補助医療により生まれた子の父子関係,特に嫡出推定の規定が適用されるのか否かや,精子提供者が認知をすることができるのか否かといった論点について,検討する必要があるとも考えられます。そこで,規律を整備することの必要性も含めて,検討する必要があるものと考えられます。   2ページですが,第2では,先ほど申し上げた部分とも重複いたしますが,生殖補助医療により生まれた子の親子法制に関する検討の経緯等として,1で政府,国会等における検討の経緯を,2で近時の最高裁判例等を挙げております。   旧厚生省の生殖補助医療に関する専門委員会において,生殖補助医療を実施するための条件整備の一環として,生まれた子の親子関係に関する法整備の必要性が提言されたことを受け,法務省では平成13年2月から,法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において検討を開始しました。   同部会は,厚生労働省の生殖補助医療部会における行為規制の在り方の検討と並行して行い,行為規制の方向性に合わせ,平成15年7月には,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案を取りまとめました。   もっとも,行為規制については,生殖補助医療部会が同年4月に,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書を取りまとめた後,これに対して様々な意見があり,現在,法制化には至っていないという状況になります。行為規制の法制化が中断されたことから,法制審の部会についても,同年9月以降,検討を中断しているということになります。   その後,日本学術会議が法務大臣及び厚生労働大臣の依頼を受け,平成20年に報告書を取りまとめました。また,議員立法において,法案の早期提出を目指す動きがあるといった状況になります。   次に,4ページの第3についてですが,第3では,検討すべき論点を挙げております。   まず,1では,婚姻中の夫婦の間に第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の父子関係について,まとめております。   前提となる問題状況についてですが,まず,現行法では,これについて,明文の規律はございません。学説の多くは,夫の同意の下で生まれた子は民法第772条の嫡出子となると解しており,裁判例にも,母から親子関係が存在しないことを前提とする主張をすることは許されないとしたものがございます。   夫の同意なく行われた場合について,夫からの嫡出否認の訴えを認めたものがある一方で,夫の同意があった場合については,現在のところ,適切な裁判例等は見当たりません。   次に,平成15年の法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会が取りまとめました中間試案の内容を,4ページの下の部分から引用しております。   この規律を見るに当たっては,厚生科学審議会の生殖補助医療部会の報告書に基づいて,同意の方式や同意書の保管に関する定めなど,行為規制の立法がされることが前提となっていたということに留意する必要があると思われます。   ウでは,行為規制立法がない現状での日本産科婦人科学会による自主規制の内容をまとめておりますが,詳細は後ほど,厚生労働省から御説明がございますので,省略をさせていただきます。   以上を踏まえて,行為規制立法が存在しない現状において,中間試案と同様の規律を置くことに関して,御意見を頂戴できればと思います。その際には,夫の同意の位置づけ等の論点についても検討する必要があると考えられますので,併せて御意見を頂戴できればと思います。   次に,2では,生殖補助医療に関する精子提供者の法的地位について,まとめております。   前提となる問題状況についてですが,母の夫との父子関係に嫡出推定が及ぶという裁判例等に照らせば,夫婦間の同意の下で行われた場合については,母の夫が子の父となりますので,その限りで,精子提供者が認知請求を受けることはないと考えられます。他方で,それ以外の場合については,何らの規定がない以上,精子提供者の認知は可能であるということになると考えられます。   中間試案と,その前提となった生殖補助医療部会報告書の内容は,記載させていただいたとおりになります。   行為規制の枠組みの中で行われた精子提供については,認知を不可とするとともに,行為規制の枠外で行われたものであっても,例えば検査目的で提供された精子が生殖補助医療に使われた場合など,提供者の意思に反する用いられ方をされた場合も,認知を不可としています。   また,これらについても,精子提供者の同意書の保管に関する定めが置かれていたほか,出自を知る権利に配慮する形で,行為規制において,一定の年齢に達した子が情報の開示を請求することができる旨の規定が置かれることとされていました。   行為規制や認知を不可とする規律がないことから,現在,精子提供者が将来,扶養義務などの法的トラブルが生ずることを恐れ,精子提供者の確保が困難となっているとの指摘もございます。他方で,行為規制がないことによって,夫の同意なく,提供精子による生殖補助医療が実施されるおそれは高くなり,そのような子についても認知制限の規律を設けた場合には,父がいない子が生まれるという問題も生じると考えられます。   以上を踏まえまして,まず,行為規制がない現状で,中間試案と同様の規律を置くことの可否について,御意見を頂戴したいと考えております。   最後に,9ページの第4からですが,その他の検討事項として,まず1では,その他の嫡出推定制度の見直しに伴う検討事項として,生殖補助医療関連親子法制部会では検討対象とされてこなかった論点についても議論することが考えられますので,その例として,二つ論点を挙げております。   次に,2では,生殖補助医療により生まれた子の母子関係に関して,これに関しては,行為規制そのものの内容について,価値観の対立があり,その議論の結果を待たないことには,それにより生まれた子の母子関係を整理することも難しいと考えられます。また,母子関係については,代理懐胎を含め,最高裁判例によって,分娩者を母とするとの判断がされており,現時点で,これを明文化する現実の必要性はないとも考えられます。   そこで,この部会では,生殖補助医療により生まれた子の母子関係については,検討の対象としないということが考えられますが,この点について,御意見を頂戴できればと思います。   部会資料7の説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   中で指摘されている論点,あるいは,その前提となる規律の必要性につきましては,後で御意見を頂くということにいたしまして,今の段階では,資料について,何か御質問等があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,もし質問がございましたら,後で御意見と併せて,改めて伺うということにいたしまして,先に進めさせていただきたいと思います。   続きまして,先ほど申し上げましたように,参考人の方々にお話を頂きたいと思っております。生殖補助医療の現状につきまして,お二人の方からお話を頂くということを予定しております。   まずは,厚生労働省子ども家庭局母子保健課の小林課長に代わりまして,母子保健課の課長補佐,知念関係官から御説明を頂戴したいと思います。どうぞよろしくお願いします。 ○知念関係官 失礼いたします。厚生労働省子ども家庭局母子保健課の知念と申します。どうぞよろしくお願いいたします。   お手元にお配りしております「生殖補助医療を巡る現状について」,厚生労働省と書かれた資料を御覧ください。   まず初めに,生殖補助医療についてということで,大ざっぱな御説明を書いております。   まず,一つが人工授精という方法,そして,二つ目に体外での授精,三つ目に代理懐胎,四つ目にその他という形で分類しております。   皆様方御案内のとおり,1の人工授精や2の体外授精に関しましては,本邦で広く実施されているものでございまして,厚生労働省におきましても,助成のような形で支援しているといったような状況でございます。   続いてのページでございますが,これまでの生殖補助医療に関する検討経緯でございます。   それぞれの部会等での内容については,次以降のページで御説明いたしますが,まず検討の経緯だけ,簡単に御説明いたします。   生殖補助医療に関する議論の高まり等を受けまして,平成13年7月から約2年を掛けて,厚生科学審議会生殖補助医療部会におきまして,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書が取りまとめられました。   こちらの方で,一定程度の見解が示されたわけでございますが,生殖補助医療につきましては,医療の範ちゅうのみにはとどまらない多数の問題を含んでいるとしまして,平成18年に法務大臣及び厚生労働大臣の両名によりまして,日本学術会議に生殖補助医療に関する検討を依頼させていただいております。これを受けまして,日本学術会議におき,平成19年から約1年間を掛けて,生殖補助医療の在り方検討委員会が開催されたといったような経緯がございます。   それぞれの部会等での内容について,3ページ以降で御説明させていただきます。   まず,平成15年,生殖補助医療部会報告書で整理した主な事項でございます。   一つ目に,精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者の条件としまして,こうした技術を受けることのできる者の共通の条件につきましては,子どもを欲しながら,不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限るとするとともに,施術別の適用条件を示しております。これに当たって,代理懐胎については禁止という形で報告がされております。   また,胚提供及び代理懐胎につきましては,日本産科婦人科学会におきまして,会員を対象とした会告で実施を禁止しているという状況でございます。卵子提供に関する会告はございませんが,精子提供につきましては,人工授精については容認し,学会への登録・報告を求めているという状況でございます。   続いての条件としまして,精子・卵子・胚の提供を行うことができる者の条件とし,提供者については,年齢の上限,こちらは精子提供者については,満55歳未満の成人,卵子提供者につきましては,既に子どものいる満35歳未満の成人としております。また,採卵回数の上限を3回として示すとともに,ある提供精子等により生まれた子が10人に達した場合は,以後,当該精子等を使用しない,これは近親婚の防止などについて示しております。   三つ目に,提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施の条件でございます。   まず一つ目に,対価,実費相当分や医療費を除きましては,対価の授受を禁止するとされております。また,提供は匿名とするとともに,生まれた子の出自を知る権利を認め,15歳以上になれば,提供者に関する情報を開示請求できるとしております。   提供精子等による生殖補助医療により生まれた子は,近親婚とならないことの確認を公的管理運営機関に求めることができること,また,提供者が死亡したときは,精子等を廃棄することについても報告がなされております。   実施医療施設,提供医療施設につきまして,実施医療施設等の指定制度や指導監督,また,施設への倫理委員会の設置が必要と示されております。また,出自を知る権利に関する情報開示業務や,精子・卵子・胚のコーディネーション,マッチング業務等を行う公的管理運営機関についても報告がなされております。   以上が,平成15年の厚生労働省における部会報告書で示された主な事項になります。   続きまして,こうした報告書を受け,更に幅広い議論で御審議いただいた日本学術会議の報告書について,4ページ目にまとめております。   こちら,経緯のところでも申しましたとおり,生殖補助医療につきましては,医療の範ちゅうのみにとどまらない,倫理的,法的,社会的に重大な問題である代理懐胎問題の政策決定までも行政に委ねることは適当ではないとされ,代理懐胎を規制するのであれば,国民の代表機関である国会が作る法律によるべきであると考えられるとされております。   具体の結論につきましては,まず,1,代理懐胎実施の適否については,代理懐胎については法律による規制が必要であり,それに基づき,当面,代理懐胎は原則禁止とすることが望ましいこと,また,営利目的で行われる代理懐胎は処罰することと結論付けられております。   二つ目に,代理懐胎の試行的実施については,対象を絶対的運用,例えば子宮を持たない女性などに限り,厳重な管理の下に施行,臨床試験として行うこと,施行に当たっては,登録,追跡調査,評価などの業務を行う公的運営機関を設立するべきであり,一定期間経過後に,医学的安全性や倫理的妥当性などについて検証し,容認若しくは施行の中止を決定するということになっております。   三つ目の親子関係につきましては,代理懐胎者,すなわち分娩者を母とすること,代理懐胎を依頼した夫婦と生まれた子については,養子又は特別養子縁組によって親子関係を定立させることとされております。   その他,出自を知る権利についても,重要な検討課題であることや,卵子提供の場合や夫の死後,凍結精子による懐胎など,議論が尽くされていない課題があるため,これについては,引き続いての検討課題という形でまとめられております。   5ページ目以降につきましては,産科婦人科学会が出された会告になっております。後ほど,産科婦人科学会の苛原先生の方からも御説明があるかと思いますので,こちらの方は,紙面での御報告をもって省略させていただきます。   厚生労働省としましては,このような経緯を受けまして,現在,国民の代表機関である国会が作る法律によるべきという見解を受け,国会議員,国会の場等で議論がなされているものと承知しているところでございます。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   御質問もあろうかと思いますけれども,後ほどまとめていただくことにいたしまして,続きまして,徳島大学医学部の苛原稔先生から御説明を頂戴したいと思います。   まず,事務当局から,苛原先生の御経歴等の紹介をお願いいたします。 ○平田幹事 それでは,私の方から,苛原先生の御経歴をごく簡単に御紹介させていただきます。   苛原稔先生は,産科婦人科学,不妊症学,生殖内分泌学が御専門の医師で,徳島大学病院長,徳島大学医学部長を歴任され,現在,徳島大学大学院医歯薬学研究部長をされておられます。また,日本産科婦人科学会の専門医指導医でもあり,同学会常務理事,同学会倫理委員長,日本生殖医学会長といった要職も歴任されておられます。   本日は,大変お忙しいところ,本部会に御参加いただけることになり,生殖補助医療の現状を知る貴重な機会になろうかと存じます。   それでは,苛原先生,どうぞよろしくお願いいたします。 ○苛原参考人 ただいま御紹介いただきました,徳島大学の苛原でございます。本日は,このような機会を頂きまして,本当にありがとうございます。   今,経歴の御紹介を頂いたように,私,ずっと生殖畑というか,不妊治療畑をずっとやってまいりました。その間,生殖医学会という不妊治療の一番大きな学会の理事長もさせていただき,また一方では,産婦人科関係の医療を統括している日本産科婦人科学会の倫理委員長を6年間務めさせていただきまして,ここに出てくる中の一部の見解は,私の時代に作らせていただきました。   そういう立場から,生殖補助医療の現状につきまして,十分ではないかも分かりませんけれども,御説明をした上で,是非,御質問がありましたら,賜りたいというふうに思っております。   それでは,始めさせていただきます。   お配りした資料の,ページが付いていないのが非常に申し訳ないんですけれども,まず1枚目を開けていただきまして,その下の側,3ページ目に当たるんでしょうか,生殖補助医療技術の発展というところで,御覧いただきますと,今日,多分問題になります,いろいろな技術の中で,生殖補助医療は主に,人工授精と体外受精及び体外受精の関連の技術である凍結,あるいは顕微授精(1匹だけの精子を卵細胞内に放り込む)という,こういうものが入ってこようかと思います。   この中で,時代的な背景をいいますと,人工授精は,1797年に初めて世界的に報告をされておられまして,200年以上の歴史がございます。それから,1978年,昭和53年だと思いますが,世界で初めての体外受精がイギリスで行われました。その後,5年ぐらい遅れて,日本でも体外受が行われて,成功しております。同時期に,凍結という一旦受精させた胚を特別な機械で凍らせて,マイナス193度で保存をするという技術が開発をされました。   それから,1992年には,顕微授精という,精子1匹を卵子に放り込むという技術が開発されました。これによって,非常に重症な精液異常の男性の不妊が相当数改善したというふうに考えられます。下の方は,ほとんどが薬物療法なので,これはカットしていただいて結構かと思います。   こういうことで,1978年に英国で初めての体外授精児が生まれました。ルイーズちゃんというんですけれども,この方は実は,30年ぐらいたって,最近,体外受精に頼らずに自分の子どもを分娩しましたので,我々としては,体外授精児が特別な存在ではないというふうに今は思っております。すなわち,体外受精という方法で生まれても,普通の妊娠・分娩が可能だということで,体外受精は問題ないだろうというふうに考えております。   2010年に,そのことを受けて,エドワード博士という体外受精の第一人者で初めて妊娠分娩に成功された先生が,ノーベル医学・生理学賞を受賞されました。   その次のページを見ていただきますと,不妊症の原因と標準的な治療法となっておりますが,不妊の原因というのは大きく,女性の卵管に問題がある場合,これが約3分の1ぐらいを占めます。それから,女性の内分泌因子,これは排卵に問題があるとか,生理が順調にこないとかいう方でありまして,これも3分の1ぐらいございます。そして,男性不妊,男性側に理由があるのが最近分かってきまして,多分40%近くあるのではないかと。これは飽くまでも,単発に書いてありますが,複数持っておられるカップルもいらっしゃいますので,そういう目で見ていただけたらと思います。   ですので,これを総合しまして,ではどんな治療を今やっているかというと,例えば卵管因子だと,定期的に生理食塩水を膣の方から通す,そういう治療とか,手術で卵管をつなぎ直すとかいうことをされておられましたが,最近は,ほとんどが体外受精に頼るということになっております。それから,内分泌因子は排卵誘発剤を使うことになります。   男性因子については,最初の比較的軽症の治療については,夫婦間の通常の人工授精をやりますが,それで妊娠しない場合には,顕微授精,先ほど言いました,1匹だけ放り込むという顕微授精を使っているということが多いと思います。   それ以外は,比較的頻度は少ないんですが,御覧のように,卵管因子も男性因子も,あるいは下にある原因不明というのは,幾ら調べても,原因はあるんでしょうけれども,原因がはっきりしないものについても,体外受精を適用されているというのが現状で,これが一般的に,ほとんどなっているというふうに考えていただいていいかなと思っております。   次のページを御覧いただきたいと思います。   体外授精の大体の内容を模式図にしたものです。数字の1と書いてある,まず最初,過排卵刺激,これは外来で,排卵誘発剤をどんどんどんと打ちまして,多数の卵胞を,卵子の入った袋を卵胞と申しますが,それを大きくしてやるということで,左の図の卵巣のところに卵胞と書いてあるのがそうですが,中に卵子を含んで大きくなった,直径が2センチぐらいまでになります。そして,中の卵子は,100ミクロンから1ミリぐらいまでの間ありまして,目で見ても分かります。人間で一番大きな細胞が卵細胞であります。   卵胞の中に卵子が入っておりまして,全体が2センチぐらいまで大きくなりますので,これは外から見ても,超音波で分かります。そうすると,ある程度の大きくなった卵胞から,2,採卵と書いてありますが,膣腟の方から卵胞を長い針で超音波で見ながら突いて,内溶液を吸引しますと,内容液とともに卵子が外側に吸引されます。そういう仕組みで,若い方なら10個ぐらい,年齢がいきますとだんだん減ってきますが,採卵できるわけです。   その後,培養します。これは試験管ベビーといわれたんですけれども,決して試験管でやっているわけではございませんで,シャーレでやっております。採卵する直前に,御主人にも協力していただいて,精子を別途,マスターベーションで採っていただいた上で,精子と卵子を一緒にしてシャーレに入れて,孵卵器に入れておきますと,うまくいけば,受精して分割するのが分かります。   分割卵をある程度のところで取り出して,この4,胚移植と書いてありますが,注射器で液ごと子宮内に返すこと,これを胚移植といいます。以前は,4細胞あるいは8細胞の時期で返していたことが多いんですけれども,今は,もっと後の16細胞,32細胞になった胚盤胞という状態で子宮に返します。4周期,8細胞の頃ですとどの細胞が赤ちゃんになって,どれが胎盤になるかが分からない時期ですけれども,胚盤胞になってきますと,それぞれの細胞塊ができて,これは将来胎盤になるだろう,これは将来子どもになるだろうというのが分かるような時期になった上時期で返すということが増えております。その理由は,妊娠率が良いから,すなわち胚盤胞移植は妊娠率がいいということであります。  良い理由は,大体,胚盤胞までいくのに5,6日インキュベーターの中で培養します。5,6日培養するということは,元々自然の妊娠でも,左上の子宮の図を見ていただくとわかりますが,排卵した後,卵管を通って,卵子は子宮内に転げ混んで着床する時期が6,7日なので,その時期と胚盤胞の時期がほぼ一致しますので,妊娠率がいいというふうに考えられています。それまで,4期,8期の場合は,やはりちょっと早い時期に返していたので,胚盤胞よりは妊娠率が悪かったという理由でございます。   次に,日本の年次別生殖補助医療(Assisted reproductive technology:ART)周期に移りますが,左の方が周期数です。FETというのは,一旦凍結した凍結周期を示します。一旦凍結した胚を返す周期です。ICSI周期とうのは,顕微授精をした周期です。それから,通常のIVF,要するに,ICSIもせず,それから,凍結もしなかった周期を青で示しております。御覧のように,1992年から日本産科婦人科学会がデータを集めておりますが,右肩上がりに非常に大きくなっておりまして,2016年,実は2017年も,去年の11月頃に発表していますが,ほぼ変わりませんので,これを出させていただきますが,総周期数が44万7790周期,通常周期が約9万で,顕微周期,凍結周期,凍結周期に至っては20万周期ぐらいいっております。   御覧いただきますと,ざっと見れば,3分の1ずつということになりますが,日本においての特徴は,凍結周期が多いというのが,世界的にも特徴でございます。それは,凍結の技術が,日本が最も進歩して,非常に高い成績を示しているからでございます。   左の方は周期数を表していまして,実に45万周期ぐらいいっております。それから,ただし,1人の方が何回かやりますので,多分,これは飽くまでも推定で,正確なデータを持っていませんが,体外受精を受けられている方は,10万人弱ぐらいではないかというふうに推定をしております。同じ方が何回も治療を受けますので,これは飽くまでも周期でございます。   右側が,生まれた子どもさんたちの数を示しております。総出生数,2016年の値でありますが,色は先ほどと一緒ですが,御覧のように5万4110人生まれております。2016年は多分,日本の総出生数が100万人ぐらいだと推定しますので,100万分の5万4000,この当時は18人に1人ぐらいかなというふうに推定をしております。   その中で,特徴的なのは,凍結周期が4万4678児を産んでいるということです。緑が非常に多いですよね。ですから,現在,これも日本の特徴でございます。   日本は,日本の体外受精児は,もう既に17,18人に1人ということです。30人クラスの小学校では,一つのクラスに2人ぐらいは必ずいるだろうと。さらに8割が一旦凍結された子どもたち,要するに,一旦凍結して,それを返した子どもたちだということでございまして,これが特徴的です。   そして,2008年ぐらいから急速に,凍結が増えてきているのが分かると思います。それは,先ほど知念先生がおっしゃったことにも関係するんですけれども,日本産科婦人科学会の見解で,2000年過ぎに,不妊で多胎児をたくさん作って,NICUというか,赤ちゃんの重症を扱うケアユニットを満床にし,たらい回しが起こったことが,相当批判をされまして,それで,2008年に,私ども,移植胚数を1個にするようにしたのです。   要するに,1個返したら,多くても双子にしかならないことが多いので,1個返すと問題のある多胎妊娠はなくなるだろうということで,見解で1個にしてくれと決めました。ただし,35歳を超えたら2個でもよろしいですよということはいっているんです。1個に限定したのたくさん取れた場合には凍結が増えているんですね。だから,たくさん取れると,1個だけ返すんですけれども,凍結して保存しておくと,そういう状態が一般になっていますその結果,多胎は相当減りました。だから,最近余り,新聞とかマスコミで,多胎で文句をいわれることはなくなったというふうに思っておりますが,そういうことで,一方では,日本産科婦人科学会の見解はよく守られているというふうに御理解を頂くと,有り難いかなと思っております。   次のページは,日本産科婦人科学会の見解において,全ての体外受精をする施設は登録を義務付けておりまして,これもちょっと古いんですが,ほとんど変わりませんので,現在全国で600強の施設が体外受精を全国で行っております。顕微授精は,ちょっと少なくて570ぐらいですね。それから,もう一つ,AID,今日も問題になるんでしょうけれども,提供精子を用いた人工授精に関する登録は12施設ぐらいでありまして,非常に少ないんですが,これは裏がありまして,実はアングラでやっているところがございます。アングラは結構たくさんやっておられる施設がありますが,日産婦に登録をしていただいているのは12施設ぐらいです。   その次が,不妊治療の現状でありますが,これはエコチルという,環境省がやっている長期の予後を見る中で,不妊治療の状況を調べていただいたものを少し拝借をしてお話ししますと,まず,左の方は,不妊治療をどれぐらい受けているかということで,年がいくほど不妊治療,たくさん受けているんですが,その内容を見ますと,右の方がそうです。人工授精は,年齢がいくに従って,だんだん少なくなってきますが,IVFとICSIを足した体外授精については,全体として40%,40歳以上は実に70%ぐらい,要するに,40歳以上が非常にたくさん不妊治療を受けるんですけれども,それの7割は体外授精を受けているという現状がございます。年々増えていっているというのが現状でございます。   次を御覧いただけたらと思います。   次は,これは別に,医療的なので問題ないんですけれども,女性が現在,ライフスタイルが非常に変化してきておりまして,なかなか結婚をする年が,だんだん上に上がっていっています。そして,子どもを希望する年齢も上がっているんですね。   年齢が上がると妊娠率が低下します。知らない方が一杯いらっしゃるんですけれども,女性は年齢が上がると妊娠率が下がります。その理由は,卵子の老化であります。卵子が老化する,老化という意味は,染色体異常が増えてきて,そして,染色体異常のある卵子は,授精卵は生着しないという傾向にありますので。   ただ,女性だけではなくて,男性も実は40歳を超えると,妊娠させる力も落ちてくる可能性があって,別に女性だけではございませんので,別に女性をやゆしたものではございません。しかし,一番大きな理由は,女性の妊娠率の低下によることが多いです。   それから,年齢がいくと,やはり異常妊娠が増えたり,女性の特有の合併症,筋腫などの合併症を持った不妊患者が多くなったり,特に最近は,白血病になったりとか,30ぐらいで乳がんになった患者,あるいは子宮がん,この三つのがんが結婚する前に起こって,子宮を取らざるを得ないとか,やはり長い間の治療が必要になったりと,そういう状況が起こっています。そのために,だんだん高齢者になっていきますと,先ほども言ったように,妊娠率が下がります。   次のページは,2016年のART周期数でありますが,御覧いただきましたら一目瞭然で,そういう中で,日本では40歳前後,たくさん体外受精やっているんですね。その右の方を見ていただきますと,妊娠率を,どれを見ていただいたらいいかというと,緑ですが,緑がやはり,20%ぐらいの妊娠率を占めているのが,35歳ぐらいを境に低下してきます。妊娠率も生産率も。一方で,右肩上がりに紫の流産率が上がってきます。   この流産率上がるというのは,先ほど申したように,年齢がいくと,染色体の異常が起こって,流産してしまうということなので,我々としたら,別にそれがどうこうではないんですが,うまく妊娠するのが,普通と同じようにいくには,やはり35歳までが一つのタイミングだろうというふうに思っていますので,先ほど知念先生がお話しになった生殖補助医療部会で,卵子を提供した場合に,35歳までの成人と言われたのは,これを根拠にしているものというふうに思っております。   それから,その下は,急速に周期数が増えているということと,40歳以降が増えているということを示しておりまして,こういうような形になっております。   ですので,実は私たちの施設でも,45歳を超えて,体外授精で妊娠した人はいません。それから,現在,日本全国で,50歳を超えて分娩をされる方が,多分数百人いると思います。それは,ほぼ外国で卵子を提供されて,体外授精をされた方というふうに推定をしております。   いろいろな報告がありまして,女性自身が自分で妊娠できる卵子をうまく使えるのは,45~47歳ぐらいまでというふうに論文でもなっていまして,それ以上いった人は大体,どこかで卵子提供を受けているというふうに思うんですが,卵子提供は海外でされると,私たちの範ちゅう外になりますので,その辺りは,特にどうこうするわけではなく,淡々と日本の国内で分娩をしていただいているというのが現状であります。   次に,課題についてに移りたいと思います。少し時間を頂きますが,申し訳ございません。生殖医療の課題であります。生殖医療が特別であるということを,少しお話ししたいと思います。一般治療医学,産婦人科でも,がんの患者を扱うことがございまして,産婦人科はがんが多い診療科でありますが,それと生殖と,どこが違うかということですが,一般治療医学は,どうしても目的が人命を救うことというので,多分ほぼ,倫理学者は一致をしておりますが,生殖医学は,やはり人命を救うというよりは,命を創ることというふうになると思います。   そうすると,医学的な適応と倫理的妥当性の関係が,一般治療医学ではほとんど矛盾しません。なぜかというと,人命を救うために,一杯,スパゲティー症候群みたいにつないで薬を投与することと倫理的なことは,余り矛盾をすることはないんですが,生殖医学の場合は矛盾する場合があります。どんな場合かというと,妊娠したお母さんが,お母さんの命が危なくなったら,たとえ不妊治療していても,それは,救うために中絶をしないといけない。目的は,子どもを作るために不妊治療したんですけれども,母親の命を救うためには,こうしないといけないというふうなことが起こってきます。だからそれは,どうしても矛盾する場合があります。   だから,そういうふうな意味で,倫理的な妥当性と医学的適応が結構矛盾することがありまして,子どもが欲しいということのみが,個人の希望をかなえてあげるということが正しいかどうかというのは,これは私たちもよく分かりません。よく,いろいろなクリニックの先生から問われるんですね。私は素答えようがないんですけれども,憲法では個人の自由が保障されている,要するに,幸福追求権が保障されているんだというふうに訴えてこられまして,そして,幸福追求するためには,妊娠のために何してもいいんだということを主張されます。例えば代理懐胎とか,いろいろな禁止をしていることがあるんですけれども,何でしてはいけないんですか。それは患者が,幸福を追求する権利って憲法で認められているでしょうというふうに言ってくるんですけれども,それはちょっと物が違うのではないですかということで,今は逃げていて,私たちが正確に答えるわけにいきませんので,そういうふうなこともあります。   いろいろなことで,それから,社会的な影響のところに,生殖医学は地域や宗教で多様性があるという意味は,例えば世界的にいうと,ヨーロッパとアメリカと東洋では,妊娠とかに関係する考え方が大分変わってきているようです。それから,国内でも,今日本の全体の傾向は,実は女の子が欲しいんですよね。子どもさんに女の子を希望するカップルが多いんですけれども,沖縄は男の子を希望されます。沖縄は中国に近くて,男子継承というんですかね,男の子を希望されることが多いです。   何でこういうことを言いますかというと,私たち,胚を調べたら性別は明らかに分かりますので,今は,性別は絶対に公表するなということで禁止しておりますけれども,男,男,男3人,子どもさんができて,4番目に女の子が欲しいというカップルもいれば,反対もいらっしゃるので,そういう希望がぼんぼん出てきて,非常に苦慮するところであります。   あとは,非常に問題になってくるのが,第三者が関与する,今日お話になるような,生殖補助医療をどう考えるかというのが問題になろうかと思います。   次のページを御覧いただきたいと思います。   生殖医療を規定する枠組み,大体この三つに集約されるのではないかと思います。法令に基づく規制,代表的なのはクローン技術,これは法律で禁止され,クローンを造ることは禁止されていると思います。それから,行政のガイドラインでは,ES指針とかよく言われているものがございます。これは,厚労省の指針,あるいは文部・厚労まとめで指針が出ております。それと,日本では長い間,学会見解による自主規制を行ってまいりました。どれがいいかというのはよく分からないです。世界的には,法令で決められている規則が多いように思います。しかし,例えばドイツなどは,昔の優生的な考え方から,非常に慎重な法律を立てているところもありますし,それから,イギリスのように,監督官庁から公的な機関を作って,そこが行政のガイドラインを示すところがあります。  日本は長い間,見解による自主規制を行ってまいりました。日本のように,法律ができると,なかなかその法律を変えることが時間掛かる国では,今の医療技術に付いていくためには,法令ではなかなか難しかったのではないかと,私自身は思っております。   それで,日本産科婦人科学会は,その下にありますように,せっせせっせと見解を作ってまいりました。この見解は,どういうふうに作るかというと,倫理委員会の方で見解案を作りまして,それを理事会に出して,理事会の意見を聞いて,了解されましたら,2,3か月,学会内の書面,雑誌あるいはホームページでパブリックコメントを求めております。そして,そのパブリックコメントを精査した上で,毎年1回開く総会に掛けて,総会決定で見解を作っております。それですので,総会を通った見解は,全員が遵守することというふうに明確にしております。   ですから,以前,見解に違反したということで,学会を除名した例がございます。体外受精に関係するのは,例えば生殖補助医療の実施,登録の見解とか,体外授精に関する見解とか顕微授精,ほとんど体外授精に関する見解を出しております。下の方に,着床前診断,代理懐胎,胚提供,これはこちら,知念先生が準備していただいた,この内容にあれですけれども,またこういうものであります。   ただ,最近になりましてこの見解について,私たちのレベルを超えるような事態が現在,発生しているのも事実でありまして,今後これをどう考えていくかということを考えていかないといけないと思います。   次に,少し順番を追って御説明したいと思いますが,現代の女性の晩産化・少産化が進んでおりまして,もう既に35歳の分娩が,これ,2014年で27.6%ですが,現在は30%が35歳以上の分娩になっております。結婚年齢も上に上がっております。   そうしますと,先ほども言いましたように,35歳を境にして,体外受精をしたとしても,生産率は落ちて,流産する率は上がるわけです。一方で,右の図のように,ダウン症候群というのが増えてまいりまして,40歳だと,100人に1人ぐらいがダウン症になります。先ほど,35歳までにしようと言ったのは,こういうこともあって,35歳で区切っているというのが理由であります。   一方では,こういう生産率の低下,流産率の上昇,ダウン症の増加が,原因としては高齢による,高齢というのは言葉が悪いんですが,高年齢による授精卵の遺伝子異常につながるということで,子宮に返す前に,着床前の遺伝子診断をしてくれという要望が高いということで,今我々は,それに対応するべく準備をしているところであります。   次は,第三者が関与する生殖補助医療で,例えば,どんなものがあるかと推定すると,精子とか卵子の提供による体外受精,それから,まだそ上には載っていませんが,AIDですかね,AID,これは提供精子を用いた人工授精ですが,AIDというよりも,精子を提供されたものを体外授精に使うというものがあります。ドナー精子を用いたART,D・ARTと一般的にいわれていますが,それもどうするかということも考えないといけない時代になりました。それから,禁止をしておりますが,胚の提供による体外受精ですね。それから,代理懐胎がございます。   現場では,法律で禁止されているものは別として,希望する患者があるのに,それを否定できるのか,先ほど幸福権の追求というのがありましたけれども,そういうことに関する議論があります。それから,提供者の告知をどうするということで,いわゆる出自を知る権利の保障をしないといけないのが世界的な流れでありますが,日本で本当にできるのかという問題があります。   AID(提供精子を用いた人工授精)というのは,数限っておる理由は,余りにもたくさんのところがやり始めますと,近親で結婚する可能性がゼロでなくなるので,できる限り限られたところでやってもらいたいということで,今一番たくさんやっているのは,都内のある大学の病院であります。年間に2~3,000件されていると思います。   私たちは,AIDは見解で了承しているんですけれども,その理由は,AIDは,もう既に30年以上の歴史があって,今さらこれを禁止すると,それまでに生まれた子どもに対して問題が発生するだろうということです。AIDは提供されるものの中で認めております。そうでないと,今までの人たちの,言えば,人格を傷付けてしまうところがありますので。   ただ,出自を知る権利というのを保障するという点で,現在,先ほどの大学において,出自を知る権利を保障することを前提にすると,精子の供給が相当減っております。その理由は,やはり将来,出自を知る権利を主張された場合に,自分の名前が出てしまうというのを嫌がるということが大きいようです。ですから,出自を知る権利を認めないといけないんですが,提供者が減っている,ではこれをどうしていくのかも問題になっています。   今,外国でも同じような状況があるようなんですが,これをカバーするために,商業主義の精子の売買会社がございまして,日本に参入しようとしています。東洋人,日本人,最低でも血液型とか,いろいろなことを付けて,売り込んできているようです。   それから,闇サイトでは精子の売買をしております。1件何十万かで,精子を御自宅に送っていくという,そういうサービスをしているようです。精子の由来は分かりません。   私たちは昔,精子を人工授精して,エイズ問題が発生して,起こったことがあるので,必ず半年間以上,凍結しておいたものを使ってくださいというんですけれども,そういうふうにして売買されるものは,どんな精子かよく分からないのが現状ですが,最近,なかなか結婚しない女性が増えていまして,子どもだけ欲しいという方が多いので,結構買われている事実はございます。   それから,もう一つ,出自を知る権利をどこで保障,監督するかということで,本来どこかの機関,行政機関の出先がいいとは思うんですけれども,そういうところで確保してほしかったんですけれども,なかなか特別なところはございません。やはりなかなか難しい面を持っております。   それから,生まれた子どもの法的地位,これは,また後で御相談,お話があるんだろうと思います。   それから,商業主義の規制,これもなかなか,私どもだけでは難しいと思います。非常に商業主義がはびこりやすい理由は,保険適用になっていないからであります,健康保険のですね。だから,自由診療ですので。ちなみに,最近,未婚の女性で年齢がいくために,卵子を保存しておきたいという希望が増えてきまして,卵子預かりますよというのがあるんですね。ピンからキリまでですけれども,年間1個1万円以上取っているところがあります。そうすると,10年間ぐらいで何百万も取っているところもございまして,これをどうしたらいいのか。しかし,現在,保険適用になっていない以上は,非常に問題があって,我々も規制ができないというところであります。   それともう一つ,産婦人科以外,医師免許があれば何でもできますので,私たちの学会員でなくても手が届いてしまうという現状がございます。   国レベルの検討は,先ほど御案内があったとおりでありまして,平成20年ぐらいから,ぱたっと止まってしまっているんですね。それはそういう状況であります。   次に,配偶子・卵子・組織の,先ほど言った,保存しておりますので,やはりこれに対して整備が必要かと思います。何か指針を出さないといけないので,今準備中でありますが,ここにやはり,卵子提供,精子提供の問題が必ず出てきます。   卵子提供は,限られた施設だけで今,少しやっております。JISARTという,体外授精のトップのクリニックが30個ぐらい集まった施設で,その中でも手を挙げるところだけで,きちんとした倫理委員会を通してやっていただいていると。   私どもも,産婦人科学会会員には,卵子提供についてはやらないようにということは言っておりますが,それは禁止という形ではなくて,やらないで,ちょっと待って,厚労省,法務省の方から,きちんとお話があるまで待ちましょうというお願いをしているところでありまして,そのお願いの範ちゅうでございます。   それから,4番目が,先ほど話した代理懐胎なんですね。   代理懐胎は,民法特例法案がどうか分かりませんけれども,一番問題だったお母さんが誰かということは,最高裁の判例で出ているのではないかと思いますが,トラブルも多い医療であります。しかし,これでないと,子どもが産めない女性もいるということも事実であります。   次のページを御覧いただきますと,同じように,今問題になっています子宮移植というのがございまして,これの対象となるロキタンスキー症候群というのは,別に遺伝疾患ではないんですけれども,先天的に子宮がない女性がいます。卵巣はあるんですけれども子宮がない。ということは,自分のDNAを持った子どもは作れるんですけれども,産んでくれる人,産む装置を持っていないという女性がいます。この人たちに対しては,可能性があるのではないかということがあります。この辺りと,前の代理懐胎の兼ね合いが難しいところであります。   子宮移植については,現在,全世界で70例ぐらいの実施例があって,子どもももちろんできておるわけであります。しかし問題点は,長期間,妊娠中に免役抑制剤を使うこと,あるいは,提供する側,ドナーというんですけれども,提供者の方の手術が大きいことです。子宮に血管を十分残して取らないといけないので,骨盤すれすれに子宮,血管付けて取ってこないといけませんから,その手術は非常に高度な技術が必要であります。一つ間違うと,骨盤壁の血管を傷付けます。そうなると,もう止めようがないんですね。骨盤壁は骨ですから,つまんでも止まらないんです。骨盤から出てくるやつは止まらないんですね。特に骨盤は,御存じのように,人間の血液を作っている臓器ですので,血液が豊富です。そうすると,困るので,非常に難しい手術になります。   それから,最近は,いわゆる性同一性障害の方々が子どもを産みたいということで,子宮を持っていない方,あるいは,というようなことがありますし,逆に提供者が,要するに男性になりたい女性で,子宮要らないという人が提供するかも分かりません。これは問題があります。非常にハードルが高いです。   もう一つは,現在の臓器移植法,それに伴う厚労省の指針ですかね,移植の指針に関しては,子宮は入っておりませんので,命に関わる臓器ではないということで。ですから,現在の臓器移植法では,守ると,生体移植しかございません。   生体移植になりますと,先ほども言いました,非常にドナーのハードルが高いということと,値段もあるんですが,これは子宮移植も現在話が進んでおりまして,その前の代理懐胎とセットになって今考えられていますが,これ,別々でないかと,代理懐胎は代理懐胎,子宮移植は子宮移植ではないか。それからもう一つ,脳死判定の脳死移植法の中で,やはり,死体から子宮を取るということも考えるべきではないかという,法的にそういうことを考えるべきではないかという意見がございます。   6番目が,だんだん子供を産む女性の数が減ってきておりまして,多分,妊娠・分娩数も減ると思いますが,そのため不妊治療を受ける方も,少しずつは減ってきているだろうと思います。それが現状でございます。   最後に,生殖医療のレギュレーションの問題です。日本産科婦人科学会が,いわゆる自主規制という立場で,すなわち学会見解というところでやってまいりました。体外受精という単純な技術だけだったら,これで十分でしたが,技術の進歩というよりか,適用の範囲の拡大で,第三者が関与しても可能な状況になってきた以上は,学会の範ちゅうを超えている部分もあるのではないかというふうに考えておりまして,今後,行政とか学会とかが様々参加をするような医療機構の必要性もあるのではないかというふうに考えております。   ちょっと長くなりまして,申し訳ございませんでしたが,以上でございます。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。大変有益なお話を頂きまして,感謝をしております。   お二方からお話を頂きましたけれども,まず最初に,お二方の御説明について,御質問があれば,御質問いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○棚村委員 苛原先生,分かりやすくお話を頂きまして,どうもありがとうございました。   私も1990年代から2000年ぐらいに掛けて,生殖補助医療についての規制の在り方について,厚労省なんかにも呼ばれて,アメリカを中心に調査をさせていただきました。   そのときに,海外の調査の結果を見ると,かなり議論の蓄積と進展が見られたということで,大まかに分けると,大陸法的な形で,法律でかなり厳しく,これは家族とか社会に大きなインパクトもあるので,安全性もありますし,人間の尊厳とかというので,法律でがちっとやる国と,それからアメリカとか,コモンウェルスの国なんかもそうなんですけれども,個人の生殖の自由というのをかなり尊重し,契約で,当事者の合意で決めることについては,できるだけ国は余り口出しをしない,ただ,最小限のところはやはり法律で決めようというようなことで,両方の規制モデルのいずれによるかで相当議論がありました。   それで,最終的に,先生にお聞きしたいのが,やはり先端科学技術とか医療が進歩していくときに,医療行為として,どういう実施機関が,どんな人を対象に,どんな手続でやるかということが問題になってきます。その個人情報・医療情報の管理とか保存という問題もありますし,そういうときに,2003年4月の厚生科学審議会の生殖補助医療部会の検討も,かなりいろいろな議論を踏まえた上で提案がされていました。   この報告書についてなんですけれども,大分議論があって,中断をしているということなんですけれども,やはり自主規制みたいなものも重視しながら,最低限のところは,やはり法律でもって規制する,大枠は規制していきましょうという趣旨であったかと思います。2003年の報告書は,現在,医療技術が格段に進んだり,社会の状況も大分変わっていく中で,あそこでの報告書で大枠示されたものは,今やはり見直さないといけないと考えられているのか,医療行為の実施体制とか,現状からもみたら少し見直した方がいいと先生はお考えなのか,いや,あれ自体は今も,やはり大枠としては,立法化の方向としてかなりいい制度なのかという点について,御意見を専門家の立場からお伺いしたいなと思います。 ○苛原参考人 よろしいでしょうか。ありがとうございます。   本当に,このような機会の中で御質問いただきまして,ありがとうございました。   私も生殖補助医療部会の報告書を,その場でどんな議論があったかというのは,文書でしか分からないんですけれども,内容を拝見しますと,改定をしないといけないというか,少し直さないといけない部分はあります。基本的には,例えば,公的管理運営委員会を作ること,それから卵子提供,精子提供を可能にすること,例えば何回までとか,どうするかというのは別として,大枠の問題ですが。それから,代理懐胎についての御意見,これは学術会議と若干異なるかも分かりませんが,そういうものも検討すべきです。それから,先生がおっしゃったように,大枠は個人の自由としても,一部やはり法律でという,その考え方は,大きく変わっていないのではないかというふうに,私自身は考えております。   先ほど,大陸型と,それ以外のお話をされました。代表的なのが,大陸型は,フランスとかドイツとか,そういうところがされているのと,イギリスのような国,アメリカのような国がありますね。アメリカなんか,何でもありのような国。それ,日本には多分適さないんだろうと思っています。   一番近いのは,僕はイギリス型ではないかなと思っていまして,監督官庁というより,公的な管理運営機関的なものがあって,そこがいろいろなものを管理しながら,しかしそれは,法律というよりは,行政の指針的なものでやっていくと。法律は基本的なところだけカバーをしてというのが,日本には合うのではないか。なぜかというと,なかなか日本は,一旦法律になると,こういう生殖補助医療のようなものに見向きもしてくれないような状況が起こり得て,それで,技術の進歩に付いていけなくなってくるのではないかなと。   現実に,例えば今,並行して行われているゲノム法制にしても,同じような雰囲気があって,やはり,余りにもきつくやると,多分進歩が止まってしまうだろう。だから,進歩を上手に取り入れながらできる,しかし,きちんとした明確な方向をするとしたら,やはりイギリス型の方が非常にいいのではないかと,私自身は考えております。   すみません,答えになっているかどうか分かりませんが。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○木村幹事 本日は貴重なお話,どうもありがとうございました。   苛原先生に2点お伺いしたいと思います。まず1点目ですが,提供精子を用いた場合の人工授精と体外授精の両方があるとして,人工授精については,会告の方で明確なルールがあるけれども,体外授精については,現在のところ,会告として何も設けておられないということでした。この点について,人工授精の場合と体外授精の場合では,産科婦人科学会の方で,医療的な面や倫理的な面で,どのような位置づけの違いがあるのか,この点を踏まえて,なぜ会告が,体外授精についてはまだ整理されていないかについて,教えていただければと思います。 ○苛原参考人 ありがとうございます。   まず,先ほども少し申し上げましたように,AIDの中,AIDについては,体外授精でない方,通常の人工授精である方は,2000年頃にこの話題が大きく出たときに,もう既に30年も歴史のあるAIDを,一学会がここで,これは間違っていましたよということには,やはりいかないだろうと。やはり,今生まれて,何万人,1万人,2万人生まれてきている子どもがいる中で,その医療を否定するようなことはできないだろうということで,これは残すことにしました。   しかし,一方で,体外受精については,新しく考えるということだったんですけれども,ここに矛盾があるというのは重々承知であります。精子提供を,人工授精で認めているなら,体外授精でも認めるというのが本来だろうと思うんですが,一方で,卵子の提供は認めないということにすると,精子は認めて卵子は認めないという方も,これは問題だろうということなるんですね。   どちらかというと,その2000年ちょっと後ぐらいに,先ほどの生殖補助医療部会の報告で,卵子提供,精子提供については,きちんと法律で決めるので,ちょっと待ってくださいという通達を母子保健課から頂いているんですよね。なので,それを踏まえて,卵子と精子は,やはり平等に扱うべきではないかという意見が強かったんですね。   それで,卵子提供を待ってくれといっているのに,精子提供による体外授精をするというのは,男女平等とは,精子と卵子に平等があるかどうかと,難しい問題ですけれども,そういうつもりで,これは両方ともやめておこうと。現在は作っておりません。   だから,AID,要するに提供精子の普通の人工授精については,過去に遡ったものについての影響で,これは会告を見解を作りましたが,それは二つは作っていないというのは,そういう事情がございます。よろしいでしょうか。 ○木村幹事 ありがとうございます。   それとの関係で,現在,体外授精で提供精子を用いた形で行われている実施数は,産婦人科学会で把握をされておられるんでしょうか。 ○苛原参考人 提供精子による体外受精については,正直言うと,把握はしておりません。 ○木村幹事 ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでしょうか。   それでは,御質問と,それからお答えを頂きましたけれども,お二人の参考人の方々は,この後も時間が許す限りで,この場に残っていただけるということでございますので,意見交換,フリーディスカッションの中で,お二人の方に,この点はどうかという御質問が出るようであれば,またその際に御質問していただき,お答えを頂くということで進めさせていただきたいと思います。お二人の参考人におかれましては,大変恐縮ですけれども,またこの先,しばらくお付き合いを頂ければと思います。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほど事務当局の方から,議論のために現状を整理するという性質の資料を提示していただきまして,論点などについても御説明があったところですけれども,本日はフリーディスカッションということで,何をどの順番にというようなことは申しませんので,どの点からでも御自由に御発言を頂ければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。   どなたからでもどうぞ。 ○棚村委員 先ほど,厚労省の方の知念課長補佐の方に,ちょっとお尋ねしたかったなというのがあったんですけれども,よろしいですか。   というのは,先ほどの2003年4月の生殖補助医療部会の報告書ですが,それは,大枠として,医療行為面で,生殖補助医療について,どういうような形でもって取り組むかというか,規制をすべきだろうかということを示されたのですが,これについて,立法が中断をしたまま,動いていません。もし可能であれば,なぜ動いていないのか,その背景とか何か,また,どういう議論があって,そういう状況になったのかというのを,簡単に教えていただければというふうに思っています。○知念関係官 御質問ありがとうございます。   先ほど御説明させていただいた資料の2ページ目が,今頂いた御質問についての,ざっくりとした回答になろうかなと思っております。   平成15年の生殖補助医療部会で,このような形で報告書をまとめた結果,一定程度の枠が示されたわけでございますが,このことについては,やはり医療の範ちゅうにとどまらない問題をはらんでいると。倫理的,法的,社会的に大きな問題があるということで,改めて学術会議における議論をお願いしたいということで,厚労大臣,法務大臣,両名において,検討を依頼させていただきました。   その結果,繰り返しになりますが,学術会議においても一定程度の見解が示され,その中で,政府が法律を定めるものではなく,国会が作る法律によるべきではないかといったような御提言されたことを踏まえまして,今現在も国会議員の方で,様々な議論がされていると承知しておりますので,その議論を今見守っているというところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○棚村委員 ありがとうございます。 ○大森幹事 今の点で,追加で質問させてください。   日本学術会議の報告書で,代理懐胎の法規制については,国会による法律によるべきだという報告があったと,先ほども御説明いただきましたが,代理懐胎以外のものについては,そのような報告はされていないと思われます。そこで,代理懐胎を外して,ほかのところを立法化するといったことについては,御検討はされたのでしょうか。その辺りをお聞かせいただければと思います。 ○知念関係官 ありがとうございます。   その他につきましても,例えばAIDの問題等,長年実施されてきた経緯を踏まえて,重要な今後の検討課題であるといったようなことでございますとか,卵子提供等について,まだ議論が尽くされていない課題があると。これについては,引き続きの検討課題だということで,そちらについても,学術会議の方で,そのような報告がなされていることもございまして,厚生労働省単独で議論を進めるというよりは,こうした様々な議論の場を今,見守っているといったような状況でございます。 ○大村部会長 大森幹事,よろしいですか。   そのほかは,御発言いかがでしょうか。 ○棚村委員  苛原先生にも御質問させていただきたいと思います。私が,この報告書の後の立法が動かないというところで,厚労省の当時の方たちからお聞きしたものは,産科婦人科学会の中でも,ある意味では,積極的に推進されたい方々と,非常に慎重にあるべきだという方々との間で,かなり意見の対立があったというお話を聞いたことがあります。それから,もう一つの質問は,海外でもそうなんだと思いますけれども,先生が先ほどおっしゃったように,一つは研究,先端科学技術研究と,もう一つが臨床の場面,そして親子関係というのがあって,法律家の方は,我々は親子関係,家族の問題として考えているわけですけれども,研究規制というのが,ある意味では,国際間の競争とか,先端科学の研究開発の促進とを考えると,余り抑制すべきではないとも考えられます。逆に,医療というのはやはり,安全とか安心というのを確保しなければいけない。健康面,生命に関わる問題ですから。   そのときに,基本的には,私も先ほど先生もおっしゃった,イギリスのHFEAですか,ああいう独立行政機関みたいなところが,ガイドラインとか実施の指針みたいなものを作りながら,間接的に規制を加えていくということが望ましいと思います。だから,ある程度弾力性があったほうがよく,法律で全部ガチガチに決めてしまうと,ある部分は,先端科学医療の進歩とか技術革新にブレーキをかけてしまい他の国にちょっと追い付けない可能性があるので問題がでてきます。かといって,全く規制を外してしまうと,自主規制とか自由になってしまうと,商業主義とか,お金もうけに走る,暴走するなどいろいろな問題も起こってしまうことになりかねません。その辺りのところで,医療の皆さんの方で,あの報告書というのは,ほかの国もいろいろ考えた上で,当時の日本の一番妥当な提案として,一応出されたと思います。   あの報告書が大枠のルールを決めて実施をされていくと,親子関係の問題も,それから,ある意味では研究という側面も,医療行為の規制がある程度議論されていくと,整理されていくのではないかなと思いました。それがなぜ滞ってしまっているのか。医療行為規制がないために,親子関係を議論することもすごく難しくなってきてしまうという感じもあります。   その辺りを,苛原先生に,産科婦人科学会というレベルでも,それがなぜ今滞ってしまっているのかというのをお話しいただけると助かります。 ○苛原参考人 ありがとうございました。   十分でないかも分かりませんが,私が知る限りのところで。   まず一つは,今先生がおっしゃいました内容については,日本産科婦人科学会で大きく,例えば,意見が異なるということは多分ないと思います。今まで私が倫理委員あるいは倫理委員長をしている間も,これに関しましては全く議論はありませんで,私はどちらかというと,この内容で法律なり,それから指針なりが作られるものだというふうに思っていまして,それを待っているというのが,今の日本産科婦人科学会の現状であります。   待っているのに,一方ではどんどん医療が進んで,そのギャップが出てきまして,どうしようもなくなっているのが現状だというふうにお考えを頂ければというふうに思います。   2番目は,内容については,先生と本当に一緒で,全て,僕は,どこの国がベストだというふうなことは,なかなか言えないんですが,日本に合うのは,今,HFEAのようなイギリス型の公的な機関があって,そこが様々なものを出していくというのが適切ではないかと,日本的にはですね。それは,多くの研究者あるいは医療関係者が多分,特にこの生殖補助医療に関連するような研究する方,あるいは実際に臨床をやっている先生方も多分,同意をしていただける内容ではないかなと思います。   法的な規制でがちがちにされるというのも拒否感がありますし,一方で,何もない状況で,自分の自主的な判断でやれるというのには,なかなか日本人,難しいところがあって,右に倣えが非常にやりやすいところがありますので,そういういろいろな意味からも,きちんとしたところが監督する必要があると思います。しかし,法的に身動きができない状況が続くのは,ちょっとやめてほしいという意見で,先生のおっしゃる方向が適切ではないかなというふうに私は感じますし,私自身はそう思っております。多分,日本産科婦人科学会のこれからについても,方向性を決まるのを待っていると思います。   なぜ,では難しい,今までできなかったのかということなんですが,本当5,6年前に,明日にでも法制化が進むのではないかということで,学会内にもいろいろな委員会を作って対応しようと思いまして,準備をしました。   特に,いわゆる生殖補助医療を特別不妊治療という形で,普通の不妊治療は保険適用,あるいは一般的に,体外授精はですね。こういう第三者が関与するようなものは特殊なものとして,ここに特別な網を掛けるという点については,我々は,それについては,もろ手を挙げて賛成をしているということで,準備をしておりましたが,やはり,私自身はやはり,国全体のこういう生殖医療,多分これは,不妊の発生率を見ますと,大体10%なんですよね。全カップルの10%ぐらいが不妊症なんですよね。決してメジャーではないわけでありますし,若い方の疾患であって,決して年寄りの疾患でも何でもないわけでして,やはり優先順位の中では,難しい面を持っているのではないかなと,ちょっと思っているところでありますが,是非そういう意味では,そういうのをのけて,早く作ってもらいたいと思いますし,現在,卵子とか精子とか胚の提供を研究に使うということ自身も,相当やはりハードルが高くなってきておりますので,非常に複雑な手間を掛けて研究,研究する意欲がなくなるぐらいハードルが高くなって,いろいろなものを出さないといけない。そういうのを,やはり解決をしていただきたいというふうに考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○髙橋委員 すみません,厚労省の知念さんの方にお伺いしたいと思うんですけれども,今日の部会資料7の10ページの真ん中よりやや下に,議員立法で検討されているという段落があると思うんですが,ここは,前半は母子関係ルールについて書いてありますけれども,そこの4行目辺りから,附則の検討規定において,生殖補助医療及びその提供に関する規制の在り方等について,おおむね2年を目途として検討が加えられ,その結果に基づいて,法制上の措置等が講ぜられるものとするとされているということで,何か議員立法の方は,行為規制について,2年掛けて,生殖補助医療の在り方について作るような想定であるように読めるんですけれども,こういうのって,どこで対応することになりそうなんでしょうか。お答えにくいかもしれないんですけれども。 ○知念関係官 すみません,頂いた今の御質問は,どこでもって立法化がされるべきであろうかといったような御質問でございましょうか。ありがとうございます。   先ほど事務局の方からも少し御案内いただいたところですが,これまでに,関係の議員の先生方が様々な,立法に向けての調整をされてきたというふうには承知しておりまして,その動きが今現在もなされているというふうに伺っております。   ですので,どの党がやるべきですとか,そういったようなことではなく,問題意識を持った先生方が中心になって,今現在も取り組まれておりますし,その動きの中で,今後の立法化に向けた動きがされていくのかなというふうに考えております。 ○大村部会長 高橋委員がおっしゃったのは,この法律ができた後のことをおっしゃっているのでしょうか。 ○髙橋委員 議員立法ができて,2年間掛けて生殖補助医療の行為規制を整備すると書いてあるんですけれども,国会だけで全部やるという御趣旨に理解されているということですか。 ○知念関係官 いえ,あくまで立法自体は国会の中でされると解していますが,その後の執行と申しますか,どういった形で適正に運用されていくのが望ましいかといったような議論は,行政府である厚生労働省,あとプラス,関係の省庁の方々と連携してやっていくことになるというふうに考えておりますので,全て国会の中だけで完結するべきものと思っているわけではございません。 ○髙橋委員 分かりました。ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほかいかがでしょうか。たくさんの御質問,寄せられておりますけれども,御質問と併せて,委員,幹事の方々の御意見も伺えればと思います。 ○大森幹事 知念関係官に,今の点について重ねての質問をさせていただきたいと思います。   議員立法の中でも,行為規制について,2年を目途にということが一応想定されていること,また,今日,苛原先生から,産科婦人科学会においても,現実とのギャップが進んでいて,少なくとも大枠については,きちんと法律で法制化をというニーズがあるという話が出ていること,さらに,この法制審議会においても,行為規制がない中で,親子法制について何がどこまでできるのだろうかという点について非常に苦慮されるという話が出ていることが明らかになっています。こうしたことをふまえて,今,あるいは今後,厚労省の中で,行為規制について検討をされる予定,あるいは考えについて,お伺いできればと思います。 ○知念関係官 ありがとうございます。   繰り返しの御説明になってしまって,大変恐縮ですけれども,今,行為規制について,立法措置が必要であるといったような方向性が示されたことを踏まえて,今現在,全く動きが止まっているわけではございません。ただ,私の方から詳細を説明する立場にはないので,具体的なことは申し上げられないのですけれども,今正に,議員の先生方の中で,様々調整されている最中というふうに理解しております。それを踏まえた上で,法律が成立された曉には,当然執行に向けた検討を,厚生労働省が恐らく中心になって,やっていくことになるだろうというふうには考えております。 ○大村部会長 なかなか答えにくいところがあると思いますけれども,取りあえず議員立法という形で,今,立法の準備が進められているとことについては,皆さん理解されたのではないかと思います。   法律ができて更に細かな制度化を図るときに,さらに立法が必要とされるのではないかという前提で,髙橋委員も大森幹事も,御質問になっているように思います。   この議員立法が成立したとして,その次の立法はどうなるのか,厚労省は,これについて何かお考えがあるのでしょうかという質問かと思いますけれども,可能な範囲で,もしお答えが頂けるのであれば,お願いいたします。 ○依田委員 よろしいですか。   委員の一人ですけれども,私も厚生労働省でもありますので申し上げますが,恐らく,この議論は多分知念関係官に言っても,これ以上の答えは多分出ないのではないかなと思います。   この事務局資料にある議員立法の動きは,恐らく水面下で関係の議員の先生方が御議論されている状況で,どういう形に最終的になるのかというのもまだ定かでないところもあります。そういう中で,何らかの草案をベースに記されているのかもしれませんけれども,今の現状としては,なかなか我々行政府としては固まったものでなく,また,例えば今出ている2年等の行為規制等の検討の枠組み自体もまだ明確なものではありません。そういう前提の中,いろいろな過去の議論の積み重ねの中で,やはり立法府の中でもこの問題は非常に難しい問題であり,一朝一夕にすぐ議員立法ができるかというと,やはりいろいろな御意見があって,集約化していく中で,またいろいろな御意見もあるでしょうから,我々事務方として,そういう動向も注視しながら,研究はしているところです。そういう状況について,御理解を頂いて,御審議賜れればということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   髙橋委員,大森幹事,よろしいですか,今の点については。   その他の点,いかがでございましょうか。 ○山根委員 御説明,今日はありがとうございました。   法律や指針の整備が急がれるというふうには感じました。   質問なんですけれども,厚労省や学術会議の検討や取りまとめに向けての中で,専門家の方々ではない,一般の市民というか,子を望む親であったり,子育て中の親たちであったり,そういった方々への意見の調査とか集約というのはされたんでしょうかということをお聞きしたいと思います。   法整備等,取りまとめが進んだ後,一般の方へパブコメ募集というのはあると思いますけれども,今の段階でいろいろ,そういった社会の声というのは,どうやって集めたのかなということをお伺いできればと思います。 ○大村部会長 御質問はどなたに対してですか。 ○山根委員 お二人にお伺いできればと思います。 ○大村部会長 では,苛原参考人,それから知念関係官の順でお願いします。 ○苛原参考人 すみません,十分なお答えになるか分かりませんけれども,私が,AMEDって御存じでしょうか。日本医療器研究機構という,厚労省の外郭団体になるんですかね……政府全体の。各省庁からも,多分,経産省から文科とか,全部来ていると思うんですけれども,そこから研究費をもらいまして,一般の方々に,これは特に第三者に関する,第三者監視,例えば代理懐胎,卵子提供,精子提供,どれぐらいの方々に,非常に単純な聞き方ですけれども,了解されているのか,あるいは希望されるのか,やはりまだ,余り希望されていないのかを,患者さんと,それから,患者さん外というか,全く関係でない方のカップルに聞いたというのはございますが,せいぜい何百何千の,本当それぐらいの程度なので,それが全てを表すわけではないんですけれども,例えば同じようなことを,2000年ぐらいでしたかね,ちょっと年代ははっきり忘れました,1990年代の終わり頃に一度調べて,その後ずっと経過を見て,また調べても,当時から大きな変化はなく,例えば容認というのが,やはり3割程度,代理懐胎,あるいは,そういうものはあります。半分ぐらいの方が,分からないというか,自分に関係しないで分からないということでありました。   そういうデータはありますが,非常に大規模なデータを集めたということは,学会としては,申し訳ありませんが,なかったということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○知念関係官 御質問ありがとうございます。   今の苛原先生のお答えと重複するのですが,厚生労働省としても,こうした研究の中でございますとか,調査事業の中で何度か,こういった第三者の関与する生殖補助技術に関する意識調査等を実施しております。   直近で申しますと,平成26年に,おられる苛原先生の研究班の中でされたものがございまして,こちらは2,500人を対象としたアンケート調査になっております。ただ,こちらはインターネット調査になっておりますので,すなわち,割と回答の意思が明確な方が回答した可能性が高いのではないかといったようなバイアスは,一定程度あろうかと思っております。その中での回答だけ,かいつまんで御紹介いたしますと,まずは第三者の精子を用いた人工授精について,利用したいと答えた方は約25%,ただ,配偶者が望んでも利用しないと答えた方は75%という形でございます。   また,第三者の卵子を用いた体外授精や胚移植については,こちらも利用したいと答えた方が約27%,配偶者が望んでも利用しないと答えた方が73%,代理懐胎や借り腹については,こちらも利用したいの回答が29%,配偶者が望んでも利用しないの回答が70%という形でなっておりまして,比較的,利用したいと回答した方は,さほどは多くないといったような回答が得られております。   こうした大まかな傾向と申しますか,それはこれまで,今整理している範囲で,過去4回されているわけでございますが,若干年度によって,少しばらつきもございまして,恐らくその時期,時期で,ニュースになったりですとか,身近な方の関係性であったりですとか,そういったところで,若干左右されているのかなというふうに考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでしょうか。 ○苛原参考人 今の知念先生のに,ちょっとだけ付け足しでいきます。   調べた結果はそのとおりなんですけれども,実際には,私のそのときの,皆さん方の,これは医療関係者だけの話ですが,やはり一般の方々に聞くと,今みたいなあれが出てくるんですけれども,今度逆に患者に聞くと,全然変わってくるんですね。   だから,自分がその疾患,あるいは不妊であるという方々を対象にすると,もっと要請が,要請というか,容認がたくさんなるということなので,これは飽くまでも,一般の方々にしたということをお考えいただいておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ずっと質問が続いて,質問のセッションのようになっておりますが,まだ質問があるという方がいらっしゃったら,引き続き質問を頂きまして,もし特に質問がないということであれば,一旦中断しまして,休憩を挟んで,後半はむしろ,委員,幹事の方々の御意見を伺うという方向に重心を移していきたいと思っております。   その前提で,何か御発言があればお願いいたします。 ○中田委員 どうもありがとうございました。   苛原先生に教えていただきたいんですが,従来は,行為規制を先に決めて,その後,親子法制を考えるというふうにやってきたわけです。ところが,それがなかなか進まないという現状で,今,行為規制と切り離して,親子法制を検討するということが果たして可能なのかどうか。もし切り離して親子法制を検討する際に,行為規制の方に跳ね返りが出てくるかもしれないんですけれども,何か注意しておくべき点があるかどうかについて,お教えいただければと思います。 ○苛原参考人 ありがとうございます。ちょっと十分理解していないかも分かりませんが,まず,切り離すということの方についてですが,現在,いわゆるメディカルツーリズムで,外国に行かれる方が非常に多くて,日本で禁止したりしても,はっきり言うと,ざるになっています。海外に行って,代理懐胎を受けて帰ってくる方が結構,現実にございます。   それから,卵子,精子の提供も,台湾が生殖医療には何でもありの国になりました。台湾はいわゆる出生率が1を切るような時代になって,危機感を感じていまして,そういうことで緩めているんですね。その台湾に日本からの希望者が一杯いっているんですね。中国人と日本人,結構,見た目には区別が分からないので,卵子や精子の提供医療がされておられます。   そういう前提を考えると,日本国内の行為規制というよりは,やはり,それにまつわる親子法制が必要ではないかなというふうに思っていますし,それがないと,私たちの産婦人科医に,これをやってはいい,これをやってはいけないという話を持って行くのに,非常にハードルが高くなってしまう。法律でこうなるので,あなた方,これは無理ですよということは言えても,こういうことは規制しますからねというので,それに法律がというものはちょっと,現在ではそぐわないのではないかなというふうに思っています。   それから,もう一つの方については,分離する前の問題点,例えば先生,どんなことがあるでしょうか。 ○中田委員 切り離すという言葉が,ちょっと強く聞こえたかもしれませんが,別々に考えるというのではなくて,行為規制が固まらない間も並行してといいますか,親子法制を考えるということについてです。例えば,法律上の夫婦に限るというような親子法制を作ったときに,何か影響するかとか,あるいは,夫の同意がある場合とない場合とで違ってくるというときに,それが行為規制の方に跳ね返ってくるのかという,そういった辺りについて知りたかったんです。 ○苛原参考人 分かりました。   例えば,今例を挙げていただいた夫婦,本当の婚姻中の夫婦だけに限るということでありますが,実は今から数年前に,体外授精を,事実婚に認めることにいたしました。その理由は,事実婚というのが,日本国内で広がっているということを,私たちも不妊患者を見ていて,そういうふうに思います。事実婚の夫婦で,子どもを持ちたいという方が結構おられまして,それが体外受精でしかできないという患者に対しては,積極的にしてあげたいというふうに思っております。婚姻夫婦でないと体外受精は駄目ですよというのは行為規制になるんですかね。そうすると夫婦というのはこうなんだということを決めていただくのが良いと思います。  決める決めないが我々がやることについて影響するかというと,影響するものと影響しないものとあると思うんですが,今挙げたようなものについては,やはり,事実婚は大きな問題と思うんですが,その他にもいろいろありまして,例えば,ここに載っていないんですけれども,死後生殖の問題とか,行為そのものもよりも,先にそれが認められるかどうかを知りたいですね。私たちも相当,これは,死後生殖認められるんだったら,どうしたらいいんだろう,ためている卵子を欲しがった場合に,どうしたらいいんだとかいうことの,そういう,いわゆる行為の方に影響してきますので,一緒に進める中で,関係するものと関係しないものがあるということではないかなと,ちょっと言いにくいんですけれども,そういうふうに思いました。 ○中田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○大森幹事 苛原先生に二つ質問させていただきたいと思います。   先ほど,日産婦の見解に基づく登録施設の御説明を頂きましたが,様々な生殖補助医療については施設の数が相当数あるのに対して,AIDについては12施設と少なくなってしまっている理由をお聞きしたいというのが一つです。  もう一つは,数年前に報道で,クローズした産婦人科医院が増えて,カルテなどが廃棄され,医療記録が散逸してしまっているといった問題点が取り上げられていたと記憶しています。この登録の意味合いとして,この法制審では,例えば同意の保存をどうするか,個々の産院がクローズしてしまった場合は,どう担保するかという点にも関連してくるのではと思うのですが,学会の中で,登録した施設に対する義務などとして,今申し上げたようなカルテなどの保存等については,何か定めておられるものがありましたら,御教示いただきたいと思います。 ○苛原参考人 ありがとうございます。   まず2番目の方から,登録についてでありますが,これ,医療法に基づいた施設ですので,医療法に基づいた対応してくださいということを明確にしております。ですので,カルテの保存は最低5年ですね。それは,やはり閉院するときも,医療法に基づいてやってくださいという形で,お願いをしているところであります。   よくあるのが,閉院して,そこにたくさん卵子をためていて,授精卵をためていて,それがどこに行くかというのが大きな問題になって,ここ数年,そのことも大分問題になりました。   例えば,近隣ですと,急に担当の院長が亡くなって閉院せざるを得ないとか,あるいは,開業されていたんですけれども,後継者がなく,やめてしまうとかありました。そのときは,責任を持って,適切な施設に移してくださいと。もちろんそのときは,患者さんのデータも持って移してください。それから,閉院に当たって,そういう,誰かがいるところはいいんですけれども,急に亡くなって駄目な場合には,各都道府県に,我々,日本産科婦人科学会の倫理関係の責任者を置いてありますので,そこと相談をして,適切な近くの施設を紹介してもらって,そこに移してほしいということで,それは見解というよりは,内規的なもので決めてあります。   今後は必要なのは,そういうものをきちんとした見解にまとめて,会員全員が知る,今は生殖医療だけやっている人たちが知る範囲内ですけれども,そういうふうにしたいというふうに考えております。ですから,多くは,まず問題なく,今のお話はやられているのではないかなと思います。   これ全部答えたでしょうか。よろしいでしょうか。 ○大森幹事 一つ目の質問であるAIDについて12施設にとどまっている理由についての回答をお願いします。 ○苛原参考人 すみません。   AIDのソース,精子を提供している,提供してくれる人たちが非常に限られているんですね。結果的には,大学の医学部の学生が中心になっているんです。だから,大学の医学部の学生,聞いた話では,クラブの先輩,後輩なんかのつながりを重視して,アルバイト的にやらせているということのようです。  ですので,精子を提供していただけるところがたくさんあれば,もっと増えると思うんですけれども,精子の提供をリクルートできないので,余り増えていないのが現状です。   それから,もう一つ,これは,本当に正しい情報か分かりませんが,先日,先ほども言いましたように,都内のある大学でも,出自を知る権利を保障しないといけないということで,将来,精子の提供者が減るためにAIDができなくなりますということをホームページに上げた途端,私が提供しますという,善意か善意でないかの,分かりませんが,ボランティアの方が相当,その大学に名乗りを上げたそうです。   だから,もし将来的に,どうしても駄目な場合,そういう善意のボランティアを募るということもありかなとは思うんですけれども,その辺りはまだ考えておりません。だから,数が少ない理由は,提供者のリクルートの問題というふうにお考えいただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○井上委員 すみません,ありがとうございます。   先ほどの大森幹事の質問のところと関係するのですけれども,医療機関の閉鎖のところについては,先ほど苛原先生からお話があったのですが,今日の部会資料7の5ページのところに,実施医療機関は,夫婦それぞれの書面による同意を得て,その同意書を公的管理運営機関に提供し,そして,80年間それを管理する,保存をするという記載があるのですけれども,そもそも80年間というか,まず,公的管理運営機関というのはどういうところで,そして,同意書をどのように保管をし,あるいは廃棄だとか,管理方法だとかが重要になってくると思うのですけれども,そういう運用状況やチェック体制とか仕組みとか,当時どういう議論が,この生殖補助医療部会報告書のところであったのかというのを,もし分かれば,教えていただければと思います。 ○苛原参考人 すみません,私自身は,この会議には全く参画していませんでしたので,聞くだけであります。それに基づいてお話ししますと,80年間というのがでてきたのは,多分,諸外国のいろいろな報告を聞いた上で,このぐらいが適当かなと,人生80年間でありますが,当時はですね。今は100年かも分かりませんが。そういうことが一つです。   公的管理運営機関というのは,そもそも長く医療機関として存在するのは,例えば国立病院だとか,大学病院だとか,そういう,いわゆる政府が関係ができる病院でないと駄目なのではないかなと思っていますので,今は暗礁に乗り上げています。   なので,その次の案として,私たちが持っているのは,先ほども言いましたように,先生がおっしゃったように,棚村先生がおっしゃったように,そういうHFEAのような,そういう機関で80年間保存してくれるのがいいのではないか。   どんなやり方が適当かというのは,まだ,例えば,同意をもらわないといけないとしても,電子媒体的なものがいいのかどうかというの,私もちょっと分かりませんので,先ほどちょっとお話があったように,法律ができて,2年間,いろいろな指針等の整備をする間に,私たちも現場の意見として,その中に意見を出させていただいて,こういうふうにした方が現実的であるとか,様々なものを,そういうふうにさせていただければと思っています。   それから,現在,日本産科婦人科学会では,全ての体外受精,一件一件報告を求めています。そのために,44万何件というのが把握できるんですけれども,それは全部,電子媒体というより,画面で上げてくれると,そこにクリックして入れていくだけで,大学が集められる,ないし学会が集められるシステムを構築していますので,そういうシステムを用いた管理を考えるというのも,一つの方法かなというふうに思っています。   ちょっと答えになっているか分かりませんが,すみません。 ○大村部会長 ありがとうございます。よろしいですね。 ○髙橋委員 苛原先生にお聞きしたいんですけれども,今,親子法制の議論をしていて,例えばDNA鑑定で,親子かどうか判定するというような話があって,そこで血縁がどうこうというような議論があるんですけれども,精子提供や卵子提供すると,それがずれてくるという話になるんですが,私,ちょっと何かで読んだんですけれども,アメリカだったと思うんですが,精巣とか卵巣とかの移植をやっていると。   そうすると,精子提供,卵子提供ではなくても,それを体に取り込んでしまうということだと思うんですけれども,そういう実情について,何か御存じでしょうか。もし何かありましたら,お教えいただければと思うんですけれども。 ○苛原参考人 まず,精子提供,あるいは別に,精巣とか卵巣を移植するということでありますが,例えば,別の人の卵巣とか精巣を移植するとなると,これは,私も詳細は分かりませんが,拒絶問題とかがありまして,なかなかまだ,そこまでいっていないのではないかと思います。   一方で,自分の卵巣を外に出して,そして,それを活性化させて,もう1回おなかに返すということは行われております。ただし,その際は,これは再生医療法との関係で,一旦外に出したものを加工して元に返すことは,これ,再生医療に関係するので,厚労省の方もなかなか,それを,はいそうですかとは今,認めてくれない現状があって,余り日本では,技術は持っているんですけれども,一般化はまだしていません。それは,レベルが低い,まだ妊娠率も低いので,一般化していないのが現状です。   ただ,ほかの方々の,要するに,組織をもらってというのは,まだ一般化していない,研究段階ではないかなというふうに思いますし,特にハードルは,拒絶反応のことが非常に大きいだろうというふうに思います。 ○髙橋委員 先生,付け足しでちょっと,変なことなんですけれども,今,クローン規制法で,日本ではクローンの移植できないということになっていますけれども,アメリカですかね,犬や猫のクローンを造るというのは,もう既に商売になっていますけれども,技術としては人間に可能なのか。あるいは,これを海外で,どこか行う可能性というのはあり得る話なのか,あり得ない話なのか,ちょっと答えにくいかもしれませんけれども。 ○苛原参考人 研究的な立場で,先生,よろしいでしょうか。   医療とは全く関係ない範囲なので,それ,聞き流していただきたいと思いますが,まず一つ,生殖現象は,人間は……すみません,生殖現象について,人間は,ほとんどの方が,最も動物として高等だというふうに思われていると思うんですが,それは高次機能が高等なのであると思うんですが,生殖現象は決して,人間が一番難しいわけではありません。豚とか牛とかの方が,ずっとずっと難しいんです。   なので,豚とか牛で,今,豚とか牛は,農学部の先生もいらっしゃるかも分かりませんが,産業として,いいもの同士を掛け合わせて,いい受精卵を作って,それをかえして,たくさんいい肉を取ったりとか,産業になっております。そういうことは簡単にできるようになっている。その技術は,人間では,いとも簡単にできるだろうと推定します。   クローンも,ドリーちゃんを始めとして,羊でできました。ほかのものもできておりますが,人間でやろうとしたら,先ほども言いましたように,決して生殖が,動物の中で最も難しいわけではないので,動物でできることは,多くは可能ではないかなと思っております。これは研究的な要素です。   やっていいかどうかというのは,全く別問題でありますので,そういうところで,先生,よろしいでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほか,よろしゅうございましょうか。   それでは,随分多様な難しい質問が出されましたが,参考人のお二人には大変丁寧に答えていただきまして,大変感謝しております。   ここで15分休憩しまして,先ほど申し上げましたように,再開後は,委員,幹事の方々の御意見を是非頂ければと思います。4時から再開いたします。   では,中断いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開したいと思います。   先ほど会議の冒頭で,部会資料の7に基づいて御説明がありました。この7を御覧いただきますと,4ページの下の方に「記」ということで,父子関係についての中間試案の内容が記されております。さらに,7ページを御覧いただきますと,やはり「記」という形で,中間試案における精子提供者の地位に関する規律が挙げられております。こうしたものが従前の法制審の中間試案としてはあるわけですけれども,事務当局の御説明からございましたが,このようなものについて立法することの是非と,それからこの内容そのものと,双方につきまして,皆さんの自由な御発言を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。   もちろん,2つの点に限りませんけれども,この2点を含めて御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○水野委員 7ページの今の御指摘のところではなくて,すみません。お手元にある資料に,日本学術会議の議論がございますので,これに参加をしておりました関係で,当時どういう状況だったか,簡単に御紹介したいと思いますが,よろしいでしょうか。   学術会議では,この委員会で,1年数か月議論をいたしました。当初は,代理懐胎の判決を受ける形で,マスコミの報道は,代理懐胎を認めるべきだという傾向が圧倒的でした。法務大臣と厚労大臣からの要請を受けて,学術会議で議論することになったのですけれども,毎回公開でこの議論を行いました。そして,1年数か月後に原則禁止という報告書を出しました。記者の方方々も,ずっと会議を聞いておられましたので,生殖補助医療というのは,そう簡単な話ではない,何でも自由に認めたらいいというものではないということがお分かりいただいたようで,報告書の評価は,妥当な結論だという報道でした。あの会議の前後で,報道の態度ががらっと変わりましたのを,印象的に記憶しております。   学術会議の内部での議論は,やはり文科系の人間が最初に口を切りますので,当初は,法学や倫理学の委員が,積極派と消極派とで分かれて,議論をしておりました。先ほど苛原先生が幸福追求権について触れられましたが,積極派はそういう主張もされました。消極派からは,どんなに強い望みであっても,希望が自動的に権利になるものではないという意見など,あれこれ言われました。私は消極派でしたが,最終的な結論が原則禁止の方にいきましたのは,文科系の委員の議論のせいではなかったと思います。当初は御自分の意見を余り言われなかった理科系の先生方が,いざ口を開かれると,実は全員代理懐胎禁止の御意見でした。   特に医師の委員たちは,妊娠,出産というのは,人が死ぬリスクがあることです,現在の最高水準の医療のもとでの分娩でも,一定の割合で母体は死にます,と言われました。そして,卵子提供は,そのリスクを子どもが欲しい人が負うので,まだ受け入れ可能だけれども,代理懐胎はそのリスクを第三者に負わせることなので,これは医者としては絶対に受け入れられないという御意見でした。それから,生物学者の委員は,妊娠,出産については,まだ分かっていないことがたくさんあるのですと言われました。なぜ免疫寛容という事態が起きて,母体が異物である胎児を維持するのかというメカニズムも,まだ今の生物学は解けていない。そして,代理懐胎であったとしても,半分母胎由来の通常妊娠の胎児と違って完全な異物であるにもかかわらず,免疫寛容ができるということは分かっていますけれども,そのことが,母体と胎児に与える影響はわかっていない。妊娠中には母体と胎児との間で多量の体液交換が行われ,そして,エピジェネティック変化という言葉を,私は,そのとき覚えたのですが,胚が胎児の形になっていくときの外界の条件がもたらすエピジェネティック変化がどのように胎児に働き,また,それがどのように母体に影響するかということについても,生物学的にはまだ分かっていない。安全だというエビデンスも,問題があるというエビデンスも出ていないけれども,生物学者としての直感から,安全であるはずない,問題がないはずはないと思いますと,だから代理懐胎には反対ですとその委員は,おっしゃいました。   そういうふうに,代理懐胎を中心に,かなり突っ込んだ興味深い議論がなされた結果,それでも,やはり認めるべきだという委員もおられましたので,少し留保はつけた形で原則禁止ということになりました。   それから,代理懐胎以外の生殖補助医療についても,少しは議論いたしました。AIDはもう長年行われておりますし,簡単な施術ですので,オーケーだということになっておりますけれども,問題は抱えております。学術会議の委員会とは別の機会ですが,オフスプリングの会という,AIDで生まれた子どもたちが作っておられる会の方々にもお目にかかりまして,ご意見も伺いました。AID児の苦しみは,自分の父親が分からないという苦悩ではないんです,自分が誰だか分からないという苦悩ですと言われました。そして,このような生殖補助医療は,できれば禁止してもらいたいというご意見を伺いました。産婦人科医と一緒にそういう意見を聞いた後,その医師が,これは超長期的予後の問題ですねとおっしゃったのが印象的でした。   生殖補助医療の問題は非常に複雑で,幸福追求権というようなテーゼで,簡単に議論ができるような問題ではないのだと思います。当然反対派も賛成派もいるでしょうけれども,その妥協として,行為規制法が何らかの形ででき上がってくれれば,それを前提に親子法も動かしていくことはできるのでしょうけれども,行為規制法がない段階で親子法を議論するのは,非常に困難です。ただ,困難ではありますけれども,先ほど苛原先生がおっしゃいましたように,現実にそういう生殖補助医療技術の利用が起きているときに,やはりそれを視野に入れて,生まれてきた子どもたちの存在を配慮した立法を考えなくてはならだろうとは思います。ただしそれは単に生殖補助医療の実施を追認するような親子法であってもならないだろうと,私自身は考えております。   どうもありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   学術会議のときの御議論も含めて御紹介していただくとともに,水野委員の御意見も伺いました。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○棚村委員 先ほどもちょっと振り返ったときに,2003年の段階で,一つはやはり厚生科学審議会の生殖補助医療部会,そこで医療行為としての規制というものをきちっとまとめていくということでした。その前提に立って,法務省の方でも,親子関係について規律が必要だというので,中間試案みたいな形で出しました。だから,そういう意味では,水野委員も先ほどおっしゃっていたのですけれども,行為規制があって,それを前提として中間試案において,どこまで親子関係について取り上げて対応できるかということもあったと思いますけれども,少なくとも,一般的に使われる生殖補助医療技術を用いて生まれた子どもについても,当時の最低限のルールみたいなものは一応示されたものだと思います。   私は,先ほどの中田委員からの苛原先生に対する質問もそうだと思うのですけれども,行為規制というものがきちっと前提にならないで,親子関係についてだけ決めるべきだろうか,決められるんだろうかというときに,やはり実際には紛争が起こっているわけです。生まれてきた子どもたちが,非常に不安定な状態に法的には置かれているということについては,これを放置できないのではないかと思います。もちろん行為規制がきちっと決められて,それなりの実施レベルでの法的枠組みができるという中で,特に一番問題になってくるのは,AIDの出生子のときに,772条が適用されるかというときも,夫の同意があればというのですけれども,その同意の内容とか,あるいは方式とか,それからどういう形で誰が立証するんだとか,そういうことも含めて,ある程度医療関係とか医療機関の協力も得た上で,本来だったら医療の実施レベルでのものをきちんと確定していかなければいけない作業が出てくると思います。   それから,否認権の行使についても,例えば,母とか子どもに認めた場合も,同意があったかないかも含めて,あるいは親子関係があるかないかも含めて,そういう意味ではかなり,精子提供なんか受けた場合には,血縁上のつながりはないのだけれども,法的親子関係の成否にはそれに代わって同意があったかないかが非常に重要なメルクマールになってくると思います。当然,提供者には認知請求が制限されるとか,あるいは禁止されるとかということも,かなり行為規制とも関連してきます。   結論的に言うと,私自身は,水野委員がおっしゃっていたように,行為規制があることがやはり望ましいのですけれども,それがなくても,今,紛争になっている子どもたちの法的な地位というのを必要最小限の範囲では議論する必要があるのではないかと考えています。その議論をした結果,本当にそれがきちっとした改正のためのルールに結び付いていくかどうかというのはまだペンディングにさせていただければ幸いです。結論を言えないところはあるのですけれども,少なくとも紛争があって,特に凍結受精卵なんかも,保存していたものを,例えば,離婚とか,あるいは別居とか,そういうような事態が起こったときに無断で使った場合にどうなるんだという問題は,裁判にまでなって,最高裁までいっていますので,正に,嫡出推定を御夫婦の間で,あるいは御夫婦であった人の間で適用されるかどうか,お子さんがどういう立場になるのか,誰との間に法的親子関係を認めるべきかというので争いにもなっていますので,議論する必要はあると思います。もっとも,議論はするけれども,明確なルールみたいなものを,どういうような形で示していくかというのは,なかなか難しいかもしれません。   今,感想みたいな感じはあるのですけれども,行為規制がなければ,親子関係についてのルール化は議論できないというところまでは踏み切れないと考えています。やはり議論は必要ではないかと思いますが,どこまでできるかということは,死後生殖もそうですけれども,なかなか難しい問題があるので,ルール化についてどこまでコンセンサスが得られるかというのは,厳しい問題なのかなという感じは持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   必要性と,それから困難さについては,水野委員と棚村委員と双方から,多少ニュアンスの差はあったかもしれませんが,御指摘があったと思います。その上で,議論するとして,どこまでを視野に入れてやるのかという問題もあるのではないかという御指摘も,今頂いたと理解いたしました。   そのほかの委員,幹事の方々,いかがでございましょうか。 ○髙橋委員 今,議員立法の動きがあるということがあったんですけれども,ただ,その動きもまだあんまりはっきりよく見えないところもあって,それが進んだとしても,また具体的なことが決まるのに時間が掛かって,この間15年間中断したのが,やはり様々な医療だけではなくて,倫理的な問題だとか様々な観点の対立があって,なかなか進まなかったということを考えると,これから急にそれほど早く果たして進むのかどうか,そこもあんまりよく見えないように思います。   今回,嫡出推定の規定を変えて,要は否認しやすくなるように,もしもなるとすると,DNA鑑定で,生殖補助医療で生まれた子が非常に不利な立場になってしまう。その事態の方がやはり先に先行して問題が起きてしまうと,行為規制ができるのを待っていようというようなことで,やはりいいのかな,と思います。   ただ,水野先生,棚村先生がおっしゃられたように,行為規制がないとうまくいかないであろうということは,私もそれは理解しています。だけど,やはりまず議論して,やれそうなことはないかというようなことは,議論したほうがいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   嫡出推定,嫡出否認を見直すということで,従来に比べると,少なくとも観念的には嫡出推定が覆る場合が増えるとすると,問題がより顕在化するのではないかというのが,今の髙橋委員の御指摘で,それに対応するということが,この際必要だろうという御指摘だったかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 ただいまの髙橋委員のおっしゃいました,問題が顕在化するということ,意識する必要があると思うんです。私たちの任務は,まずは嫡出推定制度の見直しということですが,その際に,それが潜在的には生殖補助医療の方に影響を及ぼすだろうということを,常に意識しながら考えていくということは最小限必要だろうと思います。   それから,ここで何ができるかなんですけれども,ある制度の根拠とか価値とかを検討するということは,できるのではないかと思うんです。例えば,夫の否認権の制限と,拡張された子の否認権の制限をどう考えるかという際に,それぞれの価値,根拠を考えると思うんですが,そうすると,今度認知についても,認知権と認知請求権と一旦区別して,それぞれを制限する価値は何なのか,根拠は何なのかということを検討するという,物の見方といいますか,検討の仕方ということがあると思います。あるいは,出自を知る権利についても出てくるわけですけれども,それについて,身分と結び付くのか,それとも,それとは分離できるのかという議論があるようですけれども,そういったことで,ぼんやり言うのではなくて,少しその根拠を突き詰めていくということは,ここでできるだろうと思います。その上で,しかし,具体的な立法提案までいくかというと,それは非常にハードルが高いかもしれませんけれども,ある程度のところまでは議論できるのではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   棚村委員も先ほど触れておられましたけれども,最終的に,この場でどこまでのことが対応可能なのかは,それはやや不明瞭なところもありますけれども,嫡出推定否認の見直しに伴う問題から出発して,生殖補助医療に関連する問題を視野に入れたときに,どう考えるのかということについて,この場で,少なくとも一定程度の議論しておくことに意味があるのではないかという御発言を,二つ頂いたと理解しました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○棚村委員 苛原先生もいらっしゃいますので,やはり,先ほど言った先端的な研究という側面と,それから医療,特に臨床を前提とした医療としてどういうことができるか,それから,親子関係の問題です。特に家族とか社会にとっては非常に重要な要素になってきますから,そこのやはり法的親子関係がどういうふうな規律になって,誰との間に認められるか。それが明らかでないと,例えば,AIDの議論,提供者の減少という問題もありますけれども,やはり医療現場としても,それを本当にやっていいのだろうかどうかということで,現場での混乱が起きてくるのではないかと思います。   そういう意味では,医療行為についても是非決めていただきたいというのは,私の考えでもあるのですけれども,もう一方で,やはり現実に紛争が起こったり,あるいは医療行為規制と親子関係は相互に影響し合うので,先ほども言いましたように,研究をどうするのか,それから医療行為としてどういうものは妥当でできるのか,それから,親子関係というのは密接には関連するのですけれども,やはりきちっとその辺りが相互に影響し合うので,親子関係についても決める,あるいは議論をするということが,研究の促進ということも一方で配慮しつつ,もちろん全体としては議論するわけです。ここは,民法の親子法制,特に嫡出推定や嫡出否認を中心として見直しをするということなので,無戸籍ももちろんあるのですけれども,無戸籍以外にも,親子関係でのきちっとした規律や明確なルールが示されるということによって,ほかのところにも波及してくるのではないかという意味で,是非議論は進めていただきたいと考えています。   特に,中間試案については,大村先生なんかもかなり関わっておられて,同意ということで積極的に親子としての効果を認めようという考え方と,それから,そうではなくて,同意があることによって親子関係を否定できないという消極的な効果に着目して考えるのか。これは非常に重要な指摘だと思っていて,そのときに,積極的な効果を与える同意というのは一体何なのかというので,病院について1990年代の終わりですけれども,私も調査したときに,医療行為として同意を取っているのか,あるいはその結果として生まれてくる子どもに対しては法的責任を負うという内容の同意なのかというのは,結構曖昧にされていました。そういうようなことも含めて考えると,やはり親子関係が,誰との間にできるかということについても,医療ももちろんそれに沿って,どういう責任を果たしてもらうか,どんな説明をするか,どんな文書を取って,どういうふうにフォローしていくのかということも,非常に重要だと思うのですけれども,やはり今回,是非中間試案について,あの示された大枠についてもう一度議論が必要だと感じています。海外の調査をしても,確かに認可された医療機関なり医師が行ったもので,しかも書面による同意がきちっとあれば,夫が,血縁関係はなくても,父となるというような規定を置いているところがあります。精子提供者は,父にならないという規定を,法律できちっと定めているところあるんですけれども,それを,医療機関を介さないでやるケースとかが問題になっています。それから,今,現にLGBTの人たちなんかは,実際にはAIDを,キットみたいなのを使って,医療機関を介さずに設けて子育てをされているということも聞いたりしています。先ほどの代理懐胎もそうなんですけれども,いろいろな手段でもってそういうことが行われたときに,やはり親子関係を認めないという制裁的なことを科して,そういう行為を抑止するという考え方へいくのか,それとも,そういう医療のルールとかに違反して生まれてきた子どもについて,親をどう決めるのかというのでは,海外でも,実はAIDについても,アメリカでも医療機関を通さないでやったケースについての判断は分かれています。そういう意味では,医療としてこういう行為を守らなかったペナルティーと親子関係を認めるか認めないかのペナルティーについても,やはり我々としてはきちっと考えなければいけないと思います。   そういう意味で,長くなりましたけれども,親子関係についてと医療行為規制というのは,無関係ではないのですけれども,一旦それとは別に議論することは可能だし,逆に,医療行為としてできないことでも,やってしまった場合の親子関係というのは常に問題にはなってくるので,そういう議論が可能なのかなとは思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   親子のルールを定めること自体に,この問題全体に対する意味があるのではないかという御趣旨の御発言だったかと思います。   先ほど中田委員から,そういうルールを定めたときに,医療の方にどういう影響が及ぶのだろうかといった御発言もありましたので,併せて考える必要があろうかと思いますけれども,貴重な御指摘として承りました。   そのほかに,いかがでしょうか。 ○木村幹事 行為規制ルールが現在ないという前提で,親子法制ルールをどう考えるかということが議論になっているかと思うのですが,AIDのような場合と代理懐胎の場合では,行為規制ルールがないということの意味合いが,必ずしも同じではないと思っております。   AIDのような場合は,事実上,歴史的な経緯も踏まえて,現在は産婦人科学会でも法律上の夫婦に限っては許容されているということになっているので,実際にその行為自体は,一定のルールの中で許容はされている。そのうえで,例えば,同意のとり方などについて,行為規制ルールが具体化されていないということが問題になっていると思います。   他方で,棚村先生が先ほどおっしゃっていたのは,その医療行為自体が許容されているかどうかということ自体が問題になっている領域もあることを前提とした議論だと思います。この点,少なくともAIDについては,現在一定の医療行為として許容されている中で,実際親子として存在している人たちがいるのであれば,その人たちについて親子法制をどのように定めるのかということ自体は,法整備として行う必要があると思っています。したがいまして,親子法制の検討にあたって,同意の内容やその立証方法などについてある程度理論的に詰めることができ,また詰めるべきであって,そのうえで具体的な運用ルールとしてどのようにセッティングするかということは,別のところでの議論も踏まえて整備していくということが可能ではないかなと思います。   これに対して,代理懐胎のような場合が典型的でしょうが,現在許容できるかどうかグレーなものについてまでは,そこまで踏み込んでここで議論できるかどうかについては,私としては,少し難しいのではないかなと思っています。   としますと,前者のような,現在許容されている一定程度の利用行為については,親子法制ルールを一定程度作ることが可能ではないかという前提で議論していく。そのことが,行為ルールの具体化を促すことにもなるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   問題の中に性質の異なるものがあるのではないかという御指摘だったかと思います。   今回,資料の中で,直接御意見を伺おうとしているのは,AIDを中心とする父子関係の話で,これは一定程度まで行われていることについてはコンセンサスがあるので,あとは,民事ルールを作ったときに,それが実効的に行われるような手当をどこまでできるかという問題になる。それは,民事ルールの外に出てしまうところがあるかもしれないけれども,あるところまでは対応ができるのではないか,こういった御指摘だったかと思います。これ以外の問題については,また別途考える必要があり,そこについては,なかなか積極的になるのは難しいという御意見かと思います。   そのほかはいかがでしょうか。 ○井上委員 すみません。感想めいたところの発言で恐縮ですが,発言させていただきます。   中間試案と同様の規律等を設けるとした場合と仮定したときなのですが,仮に同意の撤回,また否認権を認めるとすると,2段階にわたって否定のタイミングができることになるのではないかと思うのですね。同意の撤回のタイミングは,生殖補助医療の実施前のため,当然子どもは生まれていませんが,生まれてくるかもしれなかった子ども,また生まれてきた子どもの立場からすると,非常に何かどうなのだろうなという,何か素朴に,親子関係のところの感想なのです。そういう印象がどうも出てきてしまうのですね。   今言ったように,同意の撤回と否認権を認めるという2段階の否定のタイミングができることになるのかなと,今読んでいたらちょっと思ったので,そのときの子どもの立場というのを考えたときの親子関係というのは,どのようになるのかなという,素人的な素朴な感想です。 ○大村部会長 御発言のうちで,同意の撤回という問題は,それをどのように捉えるかということもありましょうが,同意の撤回を認めるとしたら,どういう手続を組んでいくのかということも考えなければいけない。どういうものを組むかによって,今,井上委員がおっしゃった問い掛けに対する答え方というのも違ってくるところがあるのかと思って,伺いました。   いずれにしても,同意というものを中核に据えて制度を作るということになりますと,その辺りは,どこかで検討する必要があるということになると思います。同意が必要であると,同意があればよいと書いてあるだけで済まない問題も,いろいろあるのだろうということの一環かと思います。   今の点も含めて実務的な問題も出てくるかと思いますけれども,そうした御感触も含めて御発言を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○大森幹事 複数の先生方から御意見ありましたように,行為規制がないまま議論することが難しい論点もありますが,そうではない論点もあり,同意については正にその1つに当たるのではないかと思います。   どういう場合に父子関係を認めるかということは,正にここで議論ができる話ですし,同意がある場合に,その同意した夫と父子関係を認めるのが適当であるという結論自体は,恐らく異論がない。そうした場合に,具体的には,同意とは何の同意なのかという同意の内容の問題,その同意はどの時点で必要なのか,同意は要式行為であることを要するのか,またその具体的なものはどう考えるのか,撤回についてはどう考えるのか,同意の立証責任はどう考えるのかなど,今申し上げたものについては,正に親子関係の規律をどうするかということで,ここで具体的に議論,検討をすることができるだろうと思いますので,そこを皆さんで議論させていただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   同意の問題について,議論すべき事柄を幾つか挙げていただきましたけれども,そのほかいかがでしょうか。 ○水野委員 同意の問題は,非常に大事だとは思うのですけれども,より全体像の設計を考えなければならないと思います。   一番単純化した制度設計の選択肢ですと,DNAで親子関係は全部分かるのだから,DNAで基本的には親子関係を決めることにし,もし,生殖補助医療を受けてその子が生まれていたことが立証できたのならば,そのDNAでの親子関係が覆るという制度設計が考えられます。この制度設計が一番よくない,と私は思っております。   なぜなら,DNA上の親子関係は,その子のプライバシー中のプライバシーであって,アイデンティティが根底から覆る可能性もありますから,本人ですら安易に触れるのは危ないからです。また,自分が生殖補助医療の結果生まれたのだということを立証しなければ,自分の身分が守れないという地位に子どもを置くべきではないと思います。ですから,できるだけ自然生殖で生まれた子どもたちの地位が守られる枠組みの中で,生殖補助医療で出生した子どもの地位も守られるという形の制度設計が,全体像としてはいいだろうと考えております。   現行法の訴権で,立法で封じなくてはならないと私が考えておりましたのは,嫡出否認です。1年の間は嫡出否認の提訴権がありまして,その夫の提訴権には,要件がかかっておりません。そうすると,夫はAIDに同意をしておきながら,1年間はいつでも父子関係を覆せることになってしまいます。それでもAIDに同意していながら1年以内に覆すような例は非常に少ないだろうと,まあ安心をしていたのですけれども,この審議会の前の研究会で,裁判官の委員からそういう例はありますと言われて,驚きました。実際に子どもが生まれてみると,乳児の存在で生活は激変しますし,自分にも似ていないしということで,夫が嫌になってしまい,母親も嫌ならいいわよとそれを認めてしまって,嫡出否認が成立してしまう例があるのだそうです。AIDで生まれたその子の将来は,父親が一生手に入らないということになるわけですから,そういう事態にならないように,やはりこの穴を埋めなければならないと思っておりました。今度は,更にその1年がいろいろな形で延びることになると,その子の身分を守れるように,かつ,自分が生殖補助医療で生まれたことを立証してはじめて守られるという残酷な防御策ではない形にして,親子法の設計を考えなくてはならないだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   二つの御指摘があったようにと思います。一つは,子どもの地位は現行の限定的な嫡出否認制度によって守られているが,現行法の下でもそれが覆されるということが現に起こっている。先ほど御指摘ありましたけれども,そういうケースが,今回の改正によって更に増えていく可能性があるので,それに対する対応が必要であるということ。髙橋委員だったでしょうか,先ほどおっしゃったのと同じ方向かと思います。   それからもう一つ,こちらは先ほど棚村委員がおっしゃったことですけれども,4ページの下の「記」というところで,妻が夫の同意を得て,夫以外の男性の精子を用いた生殖補助医療により子を懐胎したときは,その夫を子の父とするものとするとされている。これは,一般に分かりやすいようにということで,こういう形で中間試案を取りまとめたわけで,結果としてはこうなるわけですが,積極的に生殖補助医療によるということを証明して初めて父になるのか,それとも,そうではなくて,嫡出否認によって守られるのだけれども,否認の訴えが起こされて親子関係がないとなったときに,しかし同意があるのだからということで,その子どもが守られるのかという問題があります。当時,中間試案では,甲案,乙案というような呼び方をしていたと思いますけれども,そこのところもかなり重要な意味を持つのではないかという御指摘かと思って伺いました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○棚村委員 先ほどちょっと木村幹事からの御意見と同じなのですけれども,生殖補助医療においても,特に代理懐胎とか卵子提供,これについては,やはりなかなか,医療行為としての妥当性とか,いろいろなことについての議論もかなりあるんだろうと思います。ですから,その辺りは,母子関係については,今回,分娩した者は母ルールというのは,一応いろいろ出されたり,議論はされてきたんですけれども,今回は対象にしないでやっていくべきなのかなという感じをもっています。水野委員も相当学術会議のとき御苦労されたお話もずっと聞いてきましたし,その辺りのところが,やはり医療行為としてかなり一般的にコンセンサスというか容認されてきたもの,あるいは繰り返し行われたものと,そうでない問題については区別して考えるべきではないかと思います。今後どう評価するかということで,見解が激しく分かれている部分,特に母子関係については,議員立法なんかで積極的に特例みたいなもの作ったりして代理懐胎も容認しようとする動きもかつてはありました。しかし,学術会議の報告書にもありましたように,代理懐胎などの問題について,今親子法制を行為規制と切り離して立法化できるかどかうかというと,まだやはり議論とか蓄積が足りないのかなという感じを持っています。   そういう意味では,今回は,嫡出推定,嫡出否認の制度の見直しということに絡んで,生殖補助医療,特に父子関係が問題になりそうな場面に限定をして,ルール化がどこまで図れるか,議論ができるかという辺りに絞っていただくといいのかなという感じを持っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   木村幹事の御発言を踏まえて,更に敷衍していただいたと受け止めました。   そのほかいかがでございましょうか。 ○木村幹事 仮に,AIDについて考えるとしたとしても,精子提供に対して同意をした父の法的地位の話と,6ページの2に書いてある精子提供者の法的地位の二つの議論があり,いずれの点も当然に検討すべきだと思います。  ただ,後者の生殖補助医療に対する精子提供者の法的地位というのは,行為規制,つまりAIDについてどのように法整備全体として扱うのか,という点に密接に関わっていると思います。具体的には,今回の部会資料でも書いてあるように,実際,その精子提供者について,義務を負わせないとすることには,ドナーの確保も考慮されているように考えられ,その意味で,AIDという医療技術に関する価値的評価が組み込まれているように感じます   他方で,こうした処理により,AIDを用いた一定の場合については,法律上父親が存在しないということが確定してしまう子どもも出てきてしまうという指摘もふまえると,親子法制において,そういったリスクをはらむAIDを許容することが許されるのかという点も問われるのではないかなと考えます。したがいまして,精子提供者の法的地位の問題に関しては,夫の法的地位よりも,よりセンシティブに,慎重に議論したほうが良いように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   父子と母子とは相当違うのではないかという御指摘が先ほどから出ておりますけれども,父子関係に伴う問題についても,嫡出推定に直接に関わる問題と,それから,その外に落ちる問題との間で,全く状況が同じわけではないため,そこは段階を設けて考える必要がある。どこまでできるかという話が先ほどから出ておりますけれども,特に必要がある,それをやることに大きな問題ない一方で,かなり効果が得られるというような問題から,順次手を付けていこうというお考えとして伺いました。 ○磯谷委員 私は,この問題については特段知見があるわけではないので,本当に難しい問題だと思って聞いておりましたが,一つどうしても腑に落ちないのは,例えば,今後,子どもが父親だとされている人が本当の父親ではないということを気付く機会というのは,多分増えてくるのではないかと思うのです。というのは,今,遺伝子検査がとても簡単になっており,頬っぺたの組織を採って業者に送れば簡単に遺伝子の型なんかも出てくるような時代になっているからです。   そういう状況で,先ほどから,法律上父がいない子どもができてしまうというふうな表現がありますけれども,本当に子どもとして,明らかに血がつながっていない父親だということが分かった後で,なおやはり父親でいてほしいと思うのか,それともそうでないのか,その辺りというの,実際当事者の子どもたちというのはどう考えているんだろうかというところが,とても,私としてはよく分からないなと思います。もし,今日講師で来ていただいた方で,何かその辺りのお話が聞けると,とても有り難いなと思うんですけれども。   それで,少し思うのは,もう父親ではないということが明らかになっているのに,なお法律上父親だとして周りが曲げないということが,子どもたちにとって,それが本当にハッピーなのかどうか。法律上父親というのを早期に確定しておきたいというニーズが,実は父親としての責任を果たさせたいということだとすると,父親だという地位と,それから父親としての責任を果たさせるということとを,分けて考えるということができないのかどうかと,本当に素朴な話で申し訳ないですけれども,思いました。   要するに,ちょっと父親ではないということが分かった,例えば,AIDなんか正にそうだと思いますけれども,そういった子どもたちがどういうふうに考えるのかというところについて,もし今日何かお話が聞ければなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   磯谷委員が今おっしゃった問題は,生殖補助医療に関わらずに,一般的に考えて,父子関係が維持されることが常に望ましいのかという問題につながっているのだろうと思います。   この部会では,子どもの側からの否認権の問題も検討しているところですけれども,そうした中で,父がいなくなるという事態について,常に必ずマイナスの評価をする必要があるわけでもないという御意見として伺いました。   御指名がありましたので,苛原参考人,もし何かおありでしたら,ごく簡単にお願いいたします。 ○苛原参考人 多分,非常に難しい問題で,我々も,現場においても,こういう結論というか,これがいいだろう,あるいはこうだろうということは,全く五里霧中です。そのために,やはり精子とか卵子を提供されて行われた子どもの人たちに,できるだけ早くから出自を知るための,順番を踏んで,本当の3歳,4歳ぐらいからそういう段階を踏んだお知らせをしていって,急に二十歳過ぎて知るというのではなくて,もう,という努力はするべきではないかということを,特にカウンセラーの皆さん方を中心に動いているところです。   ただし,やはり実際にそれの治療を受けた方々のアンケートをとると,相当な数,教えたくないというのも事実であります。それから,都内の大学の方の長い間の研究の中で,やはり一般的よりは,こういう関係で子どもができた場合のその後の夫婦の関係というのが壊れる率というのは,結構高いように聞いております。こういうのを総合しながらやっていかないといけないのかな。   具体的に,先生,お答えではないんですけれども,現状は,そんな感じで模索しているところであります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   医療の現場での取組や御感触について,貴重な御指摘を頂いたと思います。   そのほか,いかがでしょうか。 ○久保野幹事 私も,AIDが現に行われているということを踏まえて,そのことを視野に入れた父子関係ルールについて,ここで検討すべきということについて,そうすべきと思っております。   その検討の仕方の中で,何か幾つかの恐らくアプローチが出てきているんだと思うんですけれども,思いましたのは,部会資料で,中間試案と同様の規律等を設けることについて,どのように考えるかという形で問は立てているわけですけれども,同意というものは,行為規制や実務上の扱いとかなり絡んで,その有無の問題については,仮にルールを作ったとしても,実務上の問題という側面が大きいのではという印象を持っております。それを検討すべきでないとまでは思っていませんけれども,ただ,より大事ではないかと思いましたのは,中田委員からの御指摘だったでしょうか,あるいは髙橋委員からの御指摘ということかもしれませんけれども,繰り返しの同じことですが,ここで嫡出推定制度を変えることによって,現に行われているので,AIDで生まれてきている子どものケースについて,どう影響がありそうかとか,どういう紛争が起こり得るかといったようなことについて,検討するということがとても大事なのではないかと,改めて感じた次第です。   例えば,子どもが否認できるとすると,既に行われているAIDについて紛争になる可能性を考え,それを踏まえつつ嫡出推定・否認についてどう考えるかといったようなことが大事なのかなと思います。そのような検討をすることによって,価値とか概念とかを詰めていくことはできるのではないかという御指摘もあったように思いますけれども,それに共感を覚えた次第です。   そのように詰めていった結果,ルールに結実するということもあると思いますし,仮にそれが難しいとなったときでも,やはり新しい制度の下での裁判といいますか,問題が起きたときに,やはり指針になり得るものになるんだと思いますので,議論しておくということは,非常に有益なのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   立法したとしたときに生ずる影響を,一方で考える必要はあるということと,立法できないとしても議論した内容が役に立つことがあるかもしれないということと,両面の御指摘があったと理解いたしました。   そのほか,御発言ありますでしょうか。いかがでしょうか。 ○水野委員 先ほどの磯谷委員の御質問を受けて,AIDで生まれた方々のお話を聞く機会が何度かありましたので,少し発言させていただきます。先ほど苛原先生が,御夫妻が壊れてしまう例が多いとおっしゃいましたけれども,私がお話を伺った方々も,やはり,ご家族の抱えている問題を自覚しておられる方が多く,AIDの事実を知らなかった頃から,このうちには何かすごい秘密があると思っていましたと言われました。結婚してなかなか子どもに恵まれない,調べてみると夫が不妊症だったとわかる,すると,夫は自分が不妊症であることを誰にも知られたくないし,妻も夫の希望で真の理由を口に出せないまま周囲から子どもはまだかと言われることになると,AIDに踏み切ることになるのだそうです。けれども,そうして生まれた子の立場から見ても,結局は,AID利用によってそういう夫婦が抱えている問題は解決しなかったと思います,という発言をなさる方がおられました。   それから,先ほどの,幼いうちの告知が必要だという議論につきましても,一言申し上げます。この議論は,例えば,養子をとったような場合に,まだ幼くて,親に大きく依存している段階で,告知,テリングをしておくほうがよいという方法論です。その告知も,実親の実情が悲惨な産み捨てであったとしても,美しい言葉で,ママは自分のおなかが壊れていたので赤ちゃんが産めなかったのだけれども,あなたの実のお母さんが産んでくれて,でもお母さんは育てられなかったので,ママが育てられることになって,それでママはとっても嬉しかったのよ,というような優しい言葉で語っておいたほうが,その後の親子関係がよくなるというアドバイスです。カウンセリングの実務から生まれた,そういう養子についてのアドバイスは,これは広く受け入れられている方法論だと思うのですけれども,AIDの場合は,ちょっとそれとは違う要素があるように思います。つまり,養子の場合は,既に生まれてしまった子どもを養親が育てるものですが,AIDは,親が望むので作った子どもです。この場合には,子どもはどうして自分をそういう手法で作ったのかという思いを抱えるようです。そして,それはアイデンティティが崩壊する大きな苦悩で,ある方は,AID子であることを知ってから,何年か,狂いましたといわれました。また,大学病院で生まれたということで,自分が受胎された頃のその大学の医学部生の卒業アルバムを全部取り寄せて,自分が似ている人を必死で探したといわれる方もおられました。AID子であることを知るのは,ものすごい苦悩で,父が誰か分からなくなるのではなく,自分の過去が,半分の過去が全然分からなくなるのは,自分自身が分からなくなるのです,とその苦悩を語られました。   だからこそ,その苦悩を和らげる手段として,出自を知る権利が強く言われるわけですけれども,逆に,制度設計全体から考えると,ヨーロッパでは,出自を知らされない権利が守られなければならないということも言われます。つまり,知らされてしまうと,そういうすさまじい苦悩を抱えることになるので,出自を知らされないで,このお父さんの子だと,安心して生涯を全うする権利もあり,それは,出自を知る権利のように本人が声高に主張するものではないのだけれども,社会が,そのような権利を守れるように配慮した制度を作るべきではないかという議論が,ヨーロッパではかなり有力です。   いずれにせよ単純な話ではないのだと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   出自を知る権利につきましては,これまでにも何度か議論になりましたけれども,直接親子法制の中で何かを定めるということではないと思いますが,例えば,同意に関するルールを組むときに,出自を知る権利について,どういうスタンスを採るかということによって,同意の仕組みの作り方が違ってくるというような形で,影響が及ぶのではないかと思いますので,御指摘も踏まえて,もしこの問題について更に議論をするということであれば,検討していくということになろうかと思います。   ほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   ありがとうございます。   本日は,生殖補助医療に関する御意見を伺ってきましたけれども,この問題につきましては,このぐらいにさせていただきたいと思います。   本日の御議論を踏まえますと,一方で,生殖補助医療によって生まれた子どもの親子関係,特に父子関係,更に言うと,嫡出推定に関わる問題については,立法する必要があるのではないかという意見が一定数あったと理解いたしました。他方で,同時にというべきかもしれませんけれども,行為規制の方がどうなるのかということが分からない状況では,やはり親子法上の規律も難しい問題を抱え込まざるを得ないのではないかという御指摘も多かったと理解しております。   これらの問題点につきましては,更に事務当局のほうでも,今日の御意見を踏まえて整理をしていただくということが必要かと思っております。   それから,この問題の取扱いについてですけれども,現在,議員立法の動きがあるということで,これがどうなるのかはなかなか分からないところもあり,当面,その動向を見守らざるを得ないということもあろうかと思います。その状況に応じて,必要な議論をここで更に続けていくという取扱いにせざるを得ないのかと思って伺っておりましたけれども,今のようなことで,今日のところはよろしゅうございましょうか。   また,どの段階でどのように次回お諮りするかということにつきましては,事務局と私の方で調整をして,皆様にお諮りするということにさせていただきたいと思っておりますけれども,それでよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。それでは,今のようにさせていただきます。   苛原参考人は,この辺りで御退席と伺っております。本当に今日はありがとうございました。   それでは,残りの時間を使いまして,前回積み残しとなっておりました,懲戒権規定の在り方に関する検討の最後の部分,懲戒権規定の見直しに伴う検討事項という点について,御議論を頂きたいと思います。   部会資料は前回の資料ということになりますけれども,部会資料6の第2になります。8ページの「第2 懲戒権に関する規定の見直しに伴う検討事項」という部分ですが,この部分につきまして,事務当局から改めて御説明を頂くということにしたいと思います。   資料をお持ちでない方がおられませんか。大丈夫ですか。   それでは,御説明お願いします。 ○濱岡関係官 今回,懲戒権に関する規定の見直しに伴う検討事項です。前回お配りした部会資料6の8ページの第2に記載しております。   まず,親権者の一般的な権利義務を定めた民法第820条を見直すことについてですが,義務の側面をより強調するように規定ぶりを改めることも含めて,民法第820条の規定の在り方を検討すると,幅の広い議論になることが想定されますが,懲戒権に関する見直しに伴い,どこまで見直しをすべきものであるかについて,御意見いただければと存じます。   また,懲戒権に関する見直しに伴うものとしましては,居所指定権を定める民法第821条及び職業許可権を定める民法第823条を見直すことについても,どのように考えるか御議論いただければと存じます。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   懲戒権に関する規定ということで,現行の822条について議論をしたわけですけれども,親権に関する一般規定である820条の書きぶりを,この際改めるべきではないかという御意見,あるいは821条,823条が,822条と並んで親権に関する各則規定という形で置かれておりますので,併せて検討する必要があるのではないかという意見があるわけですけれども,その点について御意見を賜りたいということでございます。   どちらの点でも結構ですので,御意見を頂ければと思います。 ○磯谷委員 まず,820条につきましては,事務局の御提案のとおり,これは,引き続き検討をしていく必要があるのではないかと思っております。   ここに,部会資料の方に書いていただきました様々な問題があるというふうなところで,時間も要すると思われる一方,この間の議論でも,822条の懲戒権規定を改正するに当たって,例えば,子どもの人格の尊重であるとか,そういったものを今,盛り込むことについて議論がされておりますけれども,そうすると,必然的にこの820条も極めてリンクしてくる話だと理解をしております。端的に言えば,820条の方にいろいろと書き込むということもあり得るのだろうとも思っておりますので,そういう意味で,この820条の在り方というのは,懲戒権規定とリンクするものですので,併せて議論をしていただければと思っております。   一方,居所指定権と職業許可権につきましては,専らこの子どもの虐待防止という実務をやってきた立場からしますと,率直に申し上げて,この点を急いで改正しなければ子どもが守れないとか,そういう問題ではないのかなと。例えば,子どもの就職等について妨害をするというような場合に,親権停止等の方策で対応ができているということもございますので,現場として,何としても変えてほしいというほどのニーズはないのかなとは思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2の1と2とで分けて書かれておりますけれども,1については,820条の議論との関わり合いもあるので,少なくとも見直すということを,なおテーブルに載せておく必要があるのではないかという御意見だったと思います。   821条,823条の方については,実務的にはそれほど大きな要請があるわけではないということを伺いました。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○棚村委員 前の繰り返しにもなるわけですけれども,児童の権利に関する条約でも,結局子ども自身がどこに住むかという問題と,それから,どんな職業なり,移動の自由とかというのは,憲法との関係もあって,いつから自分が決められるかという問題と,もし決められないんであれば,誰がどういう形で決めるかということとリンクしていると思います。それから,子どもの奪い合いとか連れ去りの問題についても,やはり居所指定権がどういうふうに使われるかということで,リロケーションという形で,親の都合で,例えば,子どもが転居したいといったときに,一体どういうふうなルールを設けておくのかというのは,海外でも非常に多く議論されています。その意味では,居所指定権についても単純になくすとか不要だとかということよりは,むしろ,この職業許可とか,あるいは仕事の在り方とか,あるいはどこに住むかということについて,やはり現代のニーズとかの中でルール化を議論する必要があって,一挙にこれは不要だからなくしていいとか,議論しなくていいということではないのではないかと思っています。   それから,1についての懲戒権の規定との関係では,正に磯谷委員がおっしゃっているように,その監護・教育権みたいなものに適切な指導とか,ある程度注意をしたりという,そういうことで,子どもの行動を監視したり,コントロールするという意味合いを設けるのかどうかが問われています。当然,懲戒権,要するに,監護・教育という中にもうそれが入っているんだという考え方もありますけれども,どこまで監護・教育っていうものの中身を広げられるかということも含めて,今後,やはり懲戒権の規定をなくす場合についても,それを,例えば,人格の尊重とか体罰の禁止というのは,ある意味では,監護・教育の在り方を,要するに,消極的な側面から,こういうことはやっていけないということを盛り込むということもあり得るので,少し引き続き検討をする必要があるのではないかと考えます。   つまり,820条については,全く同じことになりますけれども,822条との関係で,議論をもう少し進めていく必要があると思います。それから,821条とか823条については,できたのは随分前ですが,120年以上も前の話になるわけですけれども,今その規定が不要かといわれると,むしろ新しい形で紛争は起こっていますから,これについて,親がどのように子どもについて支援できるのか,応援できるのかという観点から,居所指定権とか職業許可権については,もう一回考え直す必要があるんだろうと思います。特に,アルバイトなどを考えると,労働法制みたいなものとの関連もありますので,親がやれる部分と,それからチェックすべき部分とそうでない部分について,きちっと議論した上で,どういうふうに民法の規定ぶりを改めるかというのは,時間が必要なんではないかと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   私のまとめ方がよろしくなかったのかもしれませんけれども,第2の2について,磯谷委員は,規定を削除するという御趣旨ではなくて,現状の規定で特に大きな実務上の支障はないという御指摘であったかと思います。   その上で,棚村委員から,居所の問題や職業の問題は,子どもにとってはかなり重要な事柄であるので,この際,子どもがどの段階から決めることができるかという問題も含めて,検討しておく必要があるのではないかという御意見を頂いたと思います。しかし,時間が掛かるという御指摘も頂いたと理解しました。   1の方については,基本的には磯谷委員と同じように,検討する必要あるのではないかという御指摘だったかと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○幡野幹事 この前の回に,この居所指定権のことを議論した際に,窪田委員の方から,監護権という概念がありながら,なぜより具体的な居所指定権というものをフランスやドイツで残しているのかという点について,外国法の状況を伺いたいという話がありました。前回,石綿先生からの御報告もあり,私自身の調査もまだ十分ではないのですが,私の知る限りで,フランス法の概要について,少しお話をさせていただきたいと思います。   前回の資料で,石綿先生が御作成の懲戒権に関する調査,フランスというところの最後の部分に,フランスの現行法の規定があります。実は,親権に関する基本的な規定である371-1条の2項は,「親権は,子の人格に対し払われる敬意の中で,子をその安全,健康及び精神において保護するために,その教育を保障し,かつ,その発達を可能にするために,子の成年又は未成年開放まで父母に属する」と規定しています。これが基本的な条文ですが,この条文の中に,監護という言葉がありません。2002年の法律までは監護という概念があったのですが,この2002年の法律改正により監護という概念がなくなっております。改正前の規定というのが,石綿先生の資料でいうと,1ページ目の注の3というところにありまして,「父母は子に対して監護,監督及び教育の権利及び義務を有する」というものでした。もっとも,この規定の監護,監督,教育,その3者の関係について,様々な争いがあるとともに,解釈上の混乱もありました。2002年改正の,先ほども読み上げた条文というのは,親権の行使をする目的として,保護と教育が二つの柱になりますが,その二つの目的を示す形で,このような目的に沿った形で親権を行使しなければいけないという形で,規定がし直されております。   今の話が,居所指定権の話とも関わってきます。改正前は監護という概念の中で,その中心的なものの一つとして居所指定がありました。監護という概念を,今申し上げたような形で規定から外したために,371条の3で,フランスにおける居所指定に関する規定が置かれることとなりました。つまり,監護という概念がなくなったがために,この規定を置かないといけなくなり,子は父母の許可なしに家族の家を去ることができず,法律に例外がある場合ではないと,その家族の家から子どもを引き離すことができないこととなります。親に対して,ある程度強い権利を認めているわけですが,このようなことはやはり明示しておかないと,先ほどの371条の1第2項の規定だけでは,必ずしも十分に導かれないということで,この規定の存在意義があります。これが,現在における居所指定権の位置づけの在り方についての多くの学説の理解となります。   ただ,日本法の規定ぶりと違って,家族の家を去ることができないと書かれております。家族の家といいますと,やはり,例えば,婚姻している夫婦でいうと,同居義務とか,そういうものにも関わってきます。つまり,居所指定権というのは,親と子の関係だけでなくて,夫婦間の同居の,婚姻における同居義務とか,そういうものにも結び付き得る概念であるということも,日本法を考える際にも意識する必要があると思います。   もう一点,フランス民法1242条第4項という,改正前は1384条という条文ですが,子の所為に対する親の責任に関する規定があります。その条文を読むと,一緒に暮らす親は責任を負うと,ナポレオンの原始規定からそのような規定になっていますが,一緒に住むということが条文上明記されております。この点は,久保野先生の方がお詳しいかとは思いますけれども,しかし,その後,一緒に暮らしていなかったケースでも親の責任を認めるという形で,判例法は発展してきてはおります。いずれにせよ,居所指定権と監護している親の責任というものとの関係というのも意識する必要があります。このように,居所指定権というのは,様々なところに結び付き得る権利であるということを意識すると,やはり単純に削除というのも慎重に考える必要があります。様々な,日仏の間で相違はありますけれども,親の責任,あるいは夫婦の同居義務といった,その周辺の制度との関連も考えながら,削除するかということを検討する必要があるであろうというのが,フランス法を調べてみた際に抱いた感想になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   規定が重複するのではないかという御指摘を踏まえて,今のような御紹介いただいたということかと思います。結論としては,現在のフランス法では重複はしていない,むしろすみ分けているということでしたが,日本法の下では,フランス法とは事情が違うので,選択肢としては,居所指定権を削除するという可能性はあるということが,御発言の前提にはあるのだろうと思います。   しかし,居所指定権がカバーする範囲が,フランスと日本で違うというようなことも併せて考えなければならない,どこまでのものを居所指定権がカバーしているのかということを十分に考えないで,これに手を付けることは難しいのではなかろうかという御意見として承りました。   ほかにはいかがでしょうか。特に御発言ございませんか。   よろしいでしょうか。   それでは,1については,822条と関わる点も大きいということで,先ほど事務当局の方からお話があった,権利と義務の順番をどうするかとかという問題,また822条との関係に尽きない問題もあるのですけれども,その点も含めまして,820条につきましては,引き続き検討をする必要があるのではないかという御意見であると承りました。   そして,821条,823条の見直しにつきましては,削除すべしという御意見は特にないけれども,この際,再検討する必要があるという御意見,差し当たり現状維持でよいのではないかという御意見,それから,見直すとすると,慎重な対応がそれなりに必要ではないかという御意見がありました。まとめてしまいますと,慎重に検討するということでどうかということになってしまうのですけれども,慎重に検討するということの幅について,御意見を頂いたと理解いたしました。   そのようなことで,この問題は引き取らせていただきたいと思います。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,今の点につきましては,本日はこの程度にさせていただきたいと思います。   以上で,前回の積み残し分も含めまして,本日予定していた議事については終わったということになります。そこで,次回の議事日程等について,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○平田幹事 次回の日程につきましては,令和2年4月14日火曜日の午後1時30分から午後5時30分まで,場所につきましては,地下1階の法務省大会議室になります。   次回は,嫡出推定制度の見直しについて御議論いただきたいと考えております。   嫡出推定制度につきましては,第3回から第5回までと今回と,合計4回にわたって御議論いただきまして,一読目の議論は終えることができたと考えておりますので,二読目の議論を開始させていただきたいというように考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   次回,嫡出推定についての二読に入るということですけれども,これについて何かございますか。よろしいでしょうか。   それでは,嫡出推定について二読の議論を始めるということにさせていただきたいと思います。   それでは,以上で,法制審議会民法(親子法制)部会の第7回を閉会させていただきます。本日も大変熱心な御審議を賜りまして,誠にありがとうございます。閉会いたします。 -了-