法制審議会 少年法・刑事法 (少年年齢・犯罪者処遇関係)部会 第29回会議 議事録 第1 日 時  令和2年9月9日(水)    自 午後1時31分                        至 午後2時46分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○玉本幹事 ただいまから法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の第29回会議を開催します。 ○佐伯部会長 本日も御多忙中のところお集まりいただきまして,ありがとうございます。   本日は,奥村委員,池田幹事にはウェブ会議システムを通じて御出席いただいております。   議事に入る前に,前回の会議以降,幹事の異動がございましたので,御紹介させていただきます。   村上尚久氏が幹事を退任され,新たに山下恭徳氏が幹事に任命されました。   山下恭徳幹事から一言御挨拶をお願いします。 ○山下(恭)幹事 ただいま御紹介いただきました,警察庁少年課長の山下でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○佐伯部会長 なお,本日は,今福関係官は,所要のため,遅れて出席される予定です。   それでは,事務当局から資料について説明をお願いします。 ○玉本幹事 本日は,配布資料として,配布資料46「取りまとめ(案)」を配布しています。資料の内容については,後ほど御説明します。また,本日の会議における御発言の際の補助資料として,青木委員ほか3名の委員,幹事の連名で,「取りまとめ(案)に関する意見」と題する書面が提出されていますので,参考資料として配布しています。 ○佐伯部会長 それでは,審議に入ります。   前回会議の後,配布資料45「取りまとめに向けたたたき台」を改訂して,配布資料46「取りまとめ(案)」を事務当局に作成してもらいましたので,本日はこれに基づいて,最終的な詰めの議論を行いたいと思います。   そして,できれば,本日,総会に報告すべき答申案を決定したいと考えております。   まず,事務当局から配布資料46「取りまとめ(案)」について説明をお願いします。 ○玉本幹事 配布資料46「取りまとめ(案)」について,御説明します。   「取りまとめ(案)」は,部会長の御指示に基づき,事務当局において,当部会における取りまとめに向けた御議論に資するため,配布資料45「取りまとめに向けたたたき台」に前回の会議での御議論を踏まえて修正を加えたものです。「取りまとめに向けたたたき台」からの実質的な修正点について御説明します。   まず,「取りまとめ(案)」の1ページの下段から2ページにかけて,新たに「第3 附帯事項」の項目を設け,「別添1」から「別添3」までの制度及び施策のほか,再犯を含む犯罪防止の観点から実施が望まれる事項として,18歳及び19歳の者の犯罪の防止に重要な機能を果たしていると考えられる行政や福祉の分野における各種支援についても充実した取組が行われること,罪を犯した者の改善更生及び社会復帰を促進するため,前科があることによる就業や資格取得の制限の在り方について,再犯防止推進計画に基づいて検討が行われているが,早期に必要な措置が講じられることを記載しました。   これは,前回の会議において,これらの内容を取りまとめに明記しておくのがよいのではないかとの御提案があり,それに対して特段の御異論が示されなかったことから,新たに記載することとしたものです。   次に,「取りまとめ(案)」の2ページの「第4 今後の課題」の「1」において,「別添1において示した制度は,18歳及び19歳の者に対する刑事司法制度上の取扱いの変更を伴うものであり,施行後,一定期間の運用の実績が蓄積された段階で,よりよい制度とするための検討を行うことが相当である。その場合には,制度の運用状況はもとより,成年年齢引下げに係る改正民法の施行後における社会情勢や国民意識の変化等も踏まえつつ,多角的な検討がなされることが望ましい」との記載を追加しました。   これは,前回の会議において,「別添1」の制度について,施行後一定期間経過後に見直しを行うべきことを取りまとめに明記すべきである旨の御意見があり,それに対して特段の御異論が示されなかったことから,新たに記載することとしたものです。   「取りまとめ(案)」についての御説明は以上です。 ○佐伯部会長 それでは,資料の内容及びただいまの事務当局からの説明について,御質問のある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○山﨑委員 ただいま御説明いただいた変更点に関するものではないのですけれども,「別添1」の要綱(骨子)の記載について,1点確認をさせていただきたいと思います。   「別添1」の要綱(骨子)の「二 手続・処分」のうち「4 処分の決定」に関する点です。   この「(一)」では,「処分は,犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないものとする」とされており,この記載に関しましては,前回会議で玉本幹事から,犯した罪に対応する責任を超えない範囲内で処分を行うという趣旨であるという御説明がありました。この点に関しまして,「4 処分の決定」の「(三)」の記載を見ますと,「イ」及び「ロ」におきまして,「犯情の軽重を考慮して」1年以下,あるいは3年以下の期間を定めなければならないものとするとされているだけで,相当な範囲を超えない限度においてとの記載がありません。このため,読み方次第によっては,いわゆる処分の上限だけでなく,処分の下限についても犯情の軽重による制約があるようにも読めてしまい,例えば,犯情が重い事案では,一定の期間以下の処分は許されない趣旨であるかのように誤解されてしまうおそれがあるのではないかと考えられます。   そこで,確認をさせていただきたいのですが,この「(三)」の記載は,「(一)」の記載を受けてのものであり,飽くまで処分の上限が犯情に応じた責任を超えてはならず,裁判所はその範囲の中で期間を定めなければならないという趣旨にとどまるものであって,裁判所が定める処分の期間の下限についてまで,犯情の軽重による制約を設ける趣旨ではないという理解でよろしいでしょうか。この点についての確認をさせていただきたいと思います。 ○玉本幹事 お答えいたします。   「取りまとめ(案)」の3ページの「4 処分の決定」の「(一)」の記載は,この「4 処分の決定」の全体に係るものという趣旨で記載しているものです。したがいまして,「4 処分の決定」の「(三)」の「イ」又は「ロ」の期間についても,犯した罪に対応する責任を超えない範囲で,これを定めることになるものと考えています。 ○佐伯部会長 ほかにはいかがでしょうか。   御質問はないということでよろしいでしょうか。             (発言なし)   それでは,次に,資料の内容及び先ほどの事務当局からの説明について,御意見のある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○山﨑委員 本日,参考資料として配布していただきましたが,青木委員,田鎖幹事,山下幹事及び私の4名において,今回の「取りまとめ(案)」のうち,「第2 結論」の「1」,すなわち,18歳及び19歳の者に対する処分及び刑事事件の特例等に関する部分について,連名での意見を書面で提出しました。時間の関係もありますので,私からその要点について発言をさせていただきます。   まず,当部会における議論の経過と全件家庭裁判所送致の仕組みの採用について述べます。   当部会における検討では,当初は,18歳及び19歳の者には刑事処分を原則とし,検察官が訴追を必要としないため公訴を提起しないこととされたもののみを家庭裁判所に送致して「若年者に対する新たな処分」の対象とする案が検討されてきました。   これに対し,今回の「取りまとめ(案)」では,罪を犯した18歳及び19歳の者について,検察官が犯罪の嫌疑があるものと思料する場合には,全ての事件をまず家庭裁判所に送致しなければならないとした上で,家庭裁判所調査官の調査及び少年鑑別所の鑑別を実施し,その結果を踏まえて,審判により施設収容処分,保護観察処分等を決定することとし,刑事処分が相当と認められる場合には,検察官に送致して起訴するという手続を採用しており,現行少年法に近い枠組みとなっています。   現行少年法において,全件家庭裁判所送致の仕組みは,対象者の問題性を早期に発見して適切な処遇を行うために,事案の軽重にかかわらず全ての事件について,科学的な調査・鑑別を経て処遇選択を行う専門的機関である家庭裁判所へと集中させるという点で,極めて重要な役割を果たしています。今回の「取りまとめ(案)」において,現行少年法と同様に全件家庭裁判所送致の仕組みを採用していることは,罪を犯した18歳及び19歳の者の立ち直り及びその結果としての再犯防止を図る観点からしても,相当であると考えます。   次に,18歳及び19歳の者の位置付けについてです。   今回の「取りまとめ(案)」では,18歳及び19歳の者について,18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる取扱いをすべきであるとした上で,18歳及び19歳の者の位置付けやその呼称については,今後の立法プロセスにおける検討に委ねるのが相当であるとしています。   この点,まず,18歳及び19歳の者を,類型的に未だ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在であると捉えた上で,20歳以上の者とは異なる取扱いをすべきであるとしている点については,相当であると考えます。しかしながら,その位置付け及び呼称について,今後の立法プロセスにおける検討に委ねるとしている点については,少年法の「少年」の年齢を18歳未満とすることについて意見を求める今回の諮問事項に対する当部会の取りまとめとして,不十分なものであると言わざるを得ません。   「取りまとめ(案)」が採用する手続及び処分は,18歳及び19歳の者の特性に着目し,その内容も現行少年法に近い枠組みとなっていることからすれば,対象者の立ち直りのために,国家が後見的に介入するものと理解されるのであり,そうである以上,18歳及び19歳の者については,飽くまで少年法の対象として,少年として位置付け,少年法の目的である健全育成の理念が及ぶことを明確にすべきであると考えます。   さらに,今回の「取りまとめ(案)」には,以下に述べるような問題があり,これらを許容することはできません。   まず,ぐ犯を対象としていない点です。   実務において,発見された時点では罪を犯していないものの,反社会的集団に引き込まれるなどして犯罪に及ぶおそれがある18歳及び19歳の者は一定数存在しており,これらの者が保護観察や少年院送致の処分を受ける中で健全な生活を取り戻して立ち直っていく例は,決して少なくありません。そのような実情があるにもかかわらず,18歳及び19歳の者について,ぐ犯としての扱いを認めないということは,これらの者にとっての,言わばセーフティーネットの役割が失われることを意味し,対象者を保護して,その立ち直りを図る見地から,相当ではありません。理論的にも,18歳及び19歳の者について,20歳以上の者とは異なり,類型的に未成熟で,成長発達途上にあり可塑性に富む存在であることを認める以上,保護原則に基づく介入が全くできないと解するべきではなく,要保護性に応じた処分を可能とすることが,必要かつ相当であると考えます。したがって,18歳及び19歳の者によるぐ犯についても,手続・処分の対象に加えるべきであり,ぐ犯を対象外とすることには賛成できません。   次に,家庭裁判所の下す処分に,犯情の軽重による上限が設けられていることについてです。   「取りまとめ(案)」では,「処分は,犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないものとする」としています。しかしながら,18歳及び19歳の者が,類型的に未成熟で,成長発達途上にあり可塑性に富む存在であるとして,現行少年法に近い枠組みを採用する以上,18歳及び19歳の者に対する処分については,現行少年法の保護処分と同様に,健全育成を目的とした利益処分の側面を有するものと考えられ,要保護性に応じた処分が認められるべきであって,犯情の軽重によって処分の上限が画されるべきではありません。   実際にも,そのような上限を設けた場合には,対象者の改善更生の状況に関わらず,裁判所が定めた期間に達すれば,必ず処遇を終了しなければならなくなり,処遇施設などにおける処遇の効果を十分に上げられない事態が生ずるおそれがありますし,裁判所が処分を選択する上においても,対象者の要保護性がいかに大きく,その必要性が高い場合であっても,被害の結果が小さい事案においては,施設収容処分を選択できないという事態が生じ,適切な処遇選択を制約することにもなりかねません。したがって,処分に犯情の軽重による上限を設けることには賛成できません。   さらに,いわゆる原則逆送の対象事件の範囲について,「取りまとめ(案)」では,犯罪行為時に18歳又は19歳の者が死刑又は無期若しくは短期1年以上の新自由刑に当たる罪の事件を犯した場合にまで拡大するとしていますが,この点は極めて問題であると考えます。現行少年法第20条第2項では,対象事件を故意の犯罪行為により被害者を死亡させたという重大な生命侵害事案に限定していますが,これを「取りまとめ(案)」のように拡大することは,犯情の幅が極めて広い事件類型についてまで,検察官送致を原則化するよう求めることになり,家庭裁判所において諸事情を考慮した上で,対象者の立ち直りに向けた処分をきめ細かく行うという現行少年法の趣旨を没却し,その機能を大きく後退させることになります。   例えば,18歳及び19歳の者による強盗罪について言えば,万引き現場を見つかり,制止を振り切ろうとして軽微な暴行に及ぶ事後強盗事案や,成人の主犯が通行人に対して突然始めた強盗場面に合わせて,一緒に被害者を取り囲んだ従犯の事案など,犯行態様には様々なものが想定されますし,被害金額が少額であるなど,犯罪の結果が軽微なものも相当数含まれ得るのであって,強盗罪における犯情の幅は相当に広いものといえます。刑事裁判における終局時20歳及び21歳の者による強盗罪を見ても,刑の全部執行猶予とされている割合は5割を超えており,従犯,未遂あるいは酌量による刑の減軽が認められることが多い犯罪類型であることが示されています。また,強制性交等罪については,検察官により起訴猶予とされている事案が全体の約2割を占めており,犯情が比較的軽微な事案や,被害者の意向を考慮して起訴をしない事案が,一定程度含まれているものと考えられます。   このように,短期1年以上の新自由刑に当たる罪の事件については,現行の故意による被害者死亡事案とは異なり,犯情の幅が極めて広い犯罪類型が含まれることになりますので,かかる事件にまで,いわゆる原則逆送の対象範囲を拡大するならば,家庭裁判所に対して刑の全部執行猶予が相当な事案や,あるいは成人であれば起訴猶予が相当である事案までも含めて,原則として検察官送致をするよう求めることになり,検察官に送致された事件については起訴が強制される制度が想定されていることからしても,不当な結果を招くことは明らかであると考えます。したがって,いわゆる原則逆送の対象事件の範囲拡大については,到底許容することができず,強く反対するものです。   また,「取りまとめ(案)」では,公判請求された場合には,推知報道の禁止が及ばないとしていますが,この点についても問題が大きいと考えます。   現行少年法第61条は,未成熟で発達途上にある少年及びその家族の名誉,プライバシーを保護するとともに,そのことを通じて,過ちを犯した少年の更生を図ろうとするものであり,極めて重要な規定です。特に,近時のインターネットの発達により,一旦,推知報道がなされれば,仮に,それが当初は紙媒体等によってなされたとしても,その内容がインターネットのウェブサイト上で取り上げられれば,当該情報がインターネット上に残り続け,不特定多数の者が容易に検索し得る状態が半永久的に続くことになります。そのような観点からしても,推知報道の禁止が持つ意義は大きいと言えます。   これに対し,「取りまとめ(案)」のように,公判請求された場合には推知報道の禁止が及ばないとすれば,本人及びその家族のプライバシー等が保護されないだけでなく,対象者が更生を図ろうとしても,就職,住居の賃借など,更生を図るために極めて重要なことに直面するたびに,社会から拒絶されるリスクを高めることとなり,社会復帰の妨げとなりかねません。このような状況は,報道あるいは情報発信に伴う,言わば社会的制裁としての効果を容認することにもつながりかねず,また,対象者自身の更生意欲や対象者の更生を支えるべき家族等の社会資源にも深刻な悪影響をもたらすおそれがあり,結果として,対象者の立ち直りを阻害し,再犯の可能性を高めることになりかねないこと等から,決して許容されるべきではないと考えます。したがって,公判請求された場合には推知報道の禁止が及ばないとすることについても,やはり許容することはできず,強く反対するものです。   さらに,「取りまとめ(案)」では,不定期刑の適用も除外しており,この点でも問題があります。   現行少年法の不定期刑に関する規定は,少年が未成熟で可塑性に富み,教育による改善更生が期待できることから,処遇に弾力性を持たせることにしたものですので,18歳及び19歳の者が類型的に未成熟で発達途上にあり,可塑性に富む存在とする以上は,不定期刑の適用を除外する理由はないものと考えます。仮に不定期刑の適用を除外した場合には,18歳及び19歳の者に対する有期刑の上限は30年となります。長期受刑については,受刑期間中の社会情勢の著しい変化に対応できず,出所後の生活に支障を来す,あるいは,親族等との関係が希薄化されてしまい,出所後の生活が不安定になりかねないといった深刻な悪影響が指摘されていますが,取り分け社会内で生活した期間が短い18歳及び19歳の若年者にとっては,その弊害がより顕著に現れ,社会復帰を著しく困難にしかねません。18歳及び19歳の者に対し,不定期刑の適用を除外することについては,そもそも立法事実が十分とは言えず,その一方で弊害が大きいと言わざるを得ませんので,この点についても反対です。   最後に,現行少年法が定める資格制限の排除規定の適用を除外していることも問題であると言わざるを得ません。   現行少年法の資格制限排除規定は,対象者の教育可能性を重視し,広く更生の機会を与え,社会復帰を容易にすることを目指すものであるところ,18歳及び19歳の者についても,20歳以上と異なり,類型的に可塑性に富む存在と位置付ける以上,そしてまた,今日の18歳及び19歳はほとんどが学生であるという現状からしても,現行少年法と同様に資格制限を排除する特則を設けるべきであると考えます。特に再犯防止が重要な課題とされている今日,再犯防止のためには,就労の可能性を広く保障することが重要であることに異論はないと思われます。刑の全部執行猶予判決を受けた若年者の円滑な社会復帰にとって,資格制限を一律に排除する少年法の特則が持つ意義には,大きいものがあります。したがって,18歳及び19歳の者に対し,一律に資格制限の排除を認めていない点においても,「取りまとめ(案)」には賛成することができないものです。   以上のとおり,今回の「取りまとめ(案)」の「第2 結論」の「1」については,罪を犯した18歳及び19歳の者に関して,全件家庭裁判所送致を採用した点については相当であると考えますが,18歳及び19歳の位置付け及び呼称に関する内容は,なお不十分であると言わざるを得ません。さらには,ぐ犯の除外,いわゆる原則逆送の対象事件の範囲拡大,推知報道の禁止の一部適用除外など,大きな問題を含むものとなっています。したがって,私たちとしては,今回の「取りまとめ(案)」に賛成することはできず,反対の意見を述べるものです。 ○佐伯部会長 ほかに御意見はございませんでしょうか。   配布資料46「取りまとめ(案)」について御議論は,この程度でよろしいでしょうか。             (発言なし)   それでは,意見の取りまとめに入りたいと思います。   諮問第103号は,「日本国憲法の改正手続に関する法律における投票権及び公職選挙法における選挙権を有する者の年齢を18歳以上とする立法措置,民法の定める成年年齢に関する検討状況等を踏まえ,少年法の規定について検討が求められていることのほか,近時の犯罪情勢,再犯の防止の重要性等に鑑み,少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること並びに非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備の在り方並びに関連事項について御意見を賜りたい。」というものであり,これに対して,配布資料46「取りまとめ(案)」が示されておりますので,取りまとめの方法としては,配布資料46「取りまとめ(案)」について採決することとしたいと思いますが,いかがでしょうか。            (異議なし)   それでは,配布資料46「取りまとめ(案)」について採決します。   配布資料46「取りまとめ(案)」について,部会の意見とすることに賛成の委員は挙手をお願いします。           (賛成者挙手) ○佐伯部会長 次に,反対の委員の挙手をお願いします。           (反対者挙手) ○佐伯部会長 事務当局から採決の結果を報告してください。 ○玉本幹事 ただいまの採決の結果を御報告いたします。   賛成として挙手をした委員は16名であり,その内訳は,会議場における出席委員が15名,ウェブ会議システムによる出席委員が1名でした。   反対として挙手をした委員は2名であり,その内訳は,会議場における出席委員が2名でした。   なお,出席委員総数は,部会長を除きまして,18名であり,その内訳は,会議場における出席委員が17名,ウェブ会議システムによる出席委員が1名でした。 ○佐伯部会長 ただいま御報告がありましたとおり,「取りまとめ(案)」については,賛成多数により可決されました。   以上で採決を終わり,諮問第103号につきましては,配布資料46「取りまとめ(案)」の内容を,当部会の意見として総会に報告することに決しました。   なお,「第1 議論の経過」において,「●」が書かれているところは,後ほど順に,「計58回」,「令和2年9月9日」と記入させていただきたいと思います。   また,当部会の意見につきましては,部会長から総会に報告いたしますが,部会長報告につきましては,慣例どおり部会長に御一任をお願いしたいと思います。   いずれもそのような取扱いとすることでよろしいでしょうか。             (異議なし)     それでは,本日予定しておりました議事は全て終了しました。   当部会での会議は本日で最後になりますので,この機会に御発言のある方がいらっしゃるようでしたら,お願いします。 ○太田委員 部会が終わるに当たりまして,一言だけ申し述べさせていただきたいと思います。   先ほどの採決で決定されました取りまとめの中には,被害者に関する施策が複数含まれておりますけれども,これらの施策が,被害者の真の利益とともに,犯罪者の再犯防止につながるよう制度化され,適正かつ円滑に運用されることを希望します。   また,満期釈放者に関する施策につきましても,満期釈放者が必要な援助や助言を受けることができれば,再犯防止に大きく資することから,早期の実現を希望するものであります。 ○武委員 私は,今回の改正案に賛成はしましたが,十分だとは思っていません。その理由について,今までの繰り返しになるかもしれませんが,もう一回だけ聞いていただきたいです。   少年法の「少年」の年齢が18歳に引き下げられなかったこと,改正民法で大人になるのに,子どもとして扱われ,全てを家庭裁判所に送ること。逆送の範囲が広がることは一歩前進ですが,家庭裁判所は,少年には保護処分がよいとの判断を下す意識が高いところなので,逆送の範囲が広がっても,逆送にしないことも出てくるのではないかと心配です。   私は,息子が事件に遭うまで,少年法のことは知りませんでした。でも,漠然と,国は,たとえ少年事件であっても,きちんと刑事裁判をして,罪に合った罰を与え,加害者は被害者にきちんと謝っていると思っていました。多くの人たちは,今も恐らくそう思っています。   でも,事件に遭って経験したことは,当然あるべきものが何もないということだったのです。殺される理由もなく,突然に大切な息子の命を奪われたことだけでも,抱えきれない苦しみなのです。なのに,国の法律,少年法に絶望し,更に苦しみを抱えたのです。   私は,この24年間で35家族の会の人たちだけでなく,たくさんの遺族,被害者の人と出会い,自分だけではない,その現状を見てきました。残された家族も,これから先生きていかなければならないのに,家庭裁判所での扱いから始まり,加害者からの謝罪・被害弁償がないことまで,二重,三重の苦しみで,生きる力さえ奪われてしまっている現状があります。多くの人は,声を上げることもできずに我慢をして,必死で生きているのです。国は,それを分かっていても何もしてはくれませんでした。なぜ,国の法律は,このように本当に弱い立場の人を救ってくれないのか,守ってくれないのかと,怒りが込み上げてくるのです。少年法を改正してもらうことで,せめて,本来誰もが持っている生きる力だけは取り戻せるようになってほしいと,これまで活動を続けてきました。これまで多くの被害者が,加害少年は刑事裁判では少年法で減刑され,民事裁判では親の責任が認められないという,矛盾に苦しんできました。   今回,年齢引下げが認められなかったことで,民法改正で18歳,19歳が大人になるのに,罪を犯したときだけ少年として扱われるという,この大き過ぎる矛盾にまた苦しまなければならない被害者が生まれることを心配しています。到底納得できる結果ではありません。   その上で,今回の取りまとめについて,事務当局に質問とお願いがあります。   「第4 今後の課題」の「1」に,「施行後,一定期間の運用の実績が蓄積された段階で,よりよい制度とするための検討を行うことが相当である。」と書かれたことに,本当に安心しました。でも,このことは,どのぐらいの期間を想定しているのでしょうか。2年先,3年先,もっと先なのか,この機会に教えていただきたいです。   「別添1」から「別添3」には,たくさんの内容が書かれていて,その中に,被害者等の気持ちを保護観察処遇にいかすことが明記されるなど,被害者関係のものが含まれたことは,本当によかったと思っています。   そこで,質問とお願いがあります。   「別添2」には,犯罪被害者等に関係することがいろいろ入っています。「別添3」の「5」にも,「犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実」が入っています。先ほども話をしましたように,たくさんの苦しい思いをしている被害者たちが,自分で生きる力を出せるようになるため,いずれも早急に実現していただきたいことです。加害者が被害弁償や謝罪を通じて事件と向き合い続けていることを被害者が感じられることは,事件から一歩も前に進むことができないたくさんの被害者にとって,少しでも生きる力を回復するために,絶対に必要なのです。   「第3 附帯事項」には,加害者の社会復帰支援については,「早期に必要な措置が講じられること」と,「早期」という言葉が書かれています。もちろん加害者の支援は重要ですが,被害者への謝罪や被害弁償などを必ず行わせるように働きかける矯正教育についても,同時に考えてほしいのです。謝罪や被害弁償なくして,社会復帰はないと思うのです。   「別添1」,「別添2」,「別添3」にあるたくさんの内容の中で,もし優先されるものがあるのであれば,是非,犯罪被害者等関係のものもそこに入れていただきたいです。必ず早期に行ってほしいのです。このことは,いつ法律にされて,実際動かされることになるのでしょうか,教えていただきたいです。   8月28日の夜,福岡市で,15歳の少年が見知らぬ女性を刺して死なせる事件が起きました。その少年は,少年院から退院して更生保護施設に移ったばかりで,そこから無断でいなくなった後のことでした。私たちは,この残忍な事件を知ったとき,少年院での矯正教育はどうだったのか,更生保護施設で何とか止められなかったのかと,どうしても思ってしまいます。命が奪われてからでは遅いのです。大切な命は,もう二度と戻ってこないからです。ですから,もっと矯正教育,保護観察に力を入れていただくよう,しっかり考えていただきたいです。   私たちは,反対されるような難しいことを言っているのでしょうか。悪いことをしたら,警察が逮捕し,きちんと捜査をする,重大犯罪は刑事裁判になり,事実認定をして罪に見合った罰を与える,加害者はきちんと謝り,被害弁償の約束を守る,人として大切なことを言っているだけです。矯正教育の中で,加害者が自分の犯した罪としっかり向き合うようにすることは,被害者のためだけではなく,加害者がこれから社会に出て,胸を張って堂々と生きていくために,私はとても大切なことだと思うのです。   私は,現在警察庁で行われている犯罪被害者等基本計画の会議にも出席をしています。被害者等のことが,国全体の基本計画で検討されています。この法制審議会での結果が,必ず早期に実現するように,法務省として国全体の計画にも必要なことを盛り込んでいただきたいです。   最後になりましたが,専門のことを勉強してきたわけでもない私が,この3年半の間,法制審議会の委員として関わらせてもらえたことに,心から感謝をしています。突然に命を奪われた子供たちは,悔しい,死にたくない,加害者が憎いとも言わずに死んでいったのです。私は,いつもその無念を思います。そして,苦しい思いをしている会員の人たち,被害者の人たちのことを思います。一緒に頑張ってきたのに,悔しさを残して死んでいった仲間たち,そして,主人のことも思います。ですから,これからも言い続けなければならないのです。   そして,この先,悲しいことに犯罪被害者になった人が,私たちのような苦しい思いをしないように,これからも頑張りたいと思います。この会議が終わっても,どうぞこれからもよろしくお願いいたします。   本当にありがとうございました。 ○玉本幹事 2点御質問を頂いたと理解しました。   まず,「第4 今後の課題」の「1」に書いてある「一定期間」が,どの程度の期間をイメージしているのかということです。   この点につきましては,法制審議会の答申が得られた後に,法律案を作成する段階で,具体的な期間を定めるということを考えておりますので,現時点で具体的な期間について確たるお答えをするということは,なかなか難しいところもございますが,「別添1」の制度について充実した検討を行うためには,成年年齢引下げに係る改正民法の施行後における社会情勢や国民意識の動向といったものをしっかり見極めるとともに,新たに導入される処分による処遇効果も含めて,制度の運用状況に関する十分な資料を収集するということが前提となると考えられます。そういった観点から,必要な期間を具体的に定めていくことになるものと考えています。   次に,配布資料46「取りまとめ(案)」の「別添1」から「別添3」までの制度・施策の実現の時期についての御質問を頂きました。   これにつきましては,法制審議会の答申が得られた場合には,法務省として,いずれもできる限り早期に実現できるように取り組んでまいる所存でございます。 ○保坂幹事 武委員からの御質問につきましては,今,玉本幹事から説明があったとおりです。そのほかにも,武委員から,事務当局に御要望,御指摘を頂きました。その点につきましては,今後,法律案の立案や,あるいは施策の遂行に当たりまして,重く受け止めさせていただきたいと思っております。 ○羽間委員 私は,これまで部会や分科会におきまして,現行の少年法の見直しが行われた場合であっても,刑事政策的な後退を生じさせないよう,可能な範囲で最大限の処遇効果が得られるような制度選択がなされるようにという観点から,意見を申し述べてきました。   今回,部会の取りまとめが採択されましたが,事務当局が取りまとめに基づき,具体的な制度化をしたり,運用を図っていったりするに際しては,新たな制度や施策が最も効果的なものとなるよう努めていただきたいと思います。   特に,今回の取りまとめでは,不良措置をとり得ない社会内処遇を「保護観察(仮称)」とする記載が残っております。このことについて,私は,不良措置をとり得ない社会内処遇については,保護観察とは異なる名称とすべきという意見を複数回述べてまいりました。仮に不良措置をとり得ない社会内処遇の名称が,最終的に「保護観察」とされるようなことになれば,保護観察では遵守事項を遵守しなくても何らの不良措置はないという誤った情報が,非行のある人たちの間で即座に広まり,保護観察官や保護司の指導に応じようとしない者が出てきてしまう結果を招きかねず,ひいては,保護観察制度一般に対する信頼を損なうことになりかねないと,私は考えております。   今後の立法プロセスにおいては,保護観察制度一般に対する信頼を損なう結果につながることがないよう,事務当局においては,不良措置をとり得ない社会内処遇の名称や位置付けについて,十分に検討するよう強く求めたいと存じます。 ○廣瀬委員 今の羽間委員の御指摘,結論的に私も賛成です。   「取りまとめ(案)」でも,「仮称」とされておりますから,別の名称を考慮していただけるのだと思っておりますけれども,今,羽間委員が御指摘になったような観点に加えて,次の点からも別の名称とした方がよいと思います。まず,処分を多様化して,個々の対象者の問題性により適切な処分の選択をしていくという観点からも,名称自体を異なるものにした方がいいと思います。次に,私は少年審判官としても十数年の実務経験がありますが,その実務感覚に照らしても,別の処分として名称自体も区分けされている方が,実際に家庭裁判所で調査,審判をして処分の選択をしていくというプロセスの中でも,より積極的に処分が選択され,適切な運用に結び付きやすいのではないか思います。是非,羽間委員の御指摘のような方向で,進めていただくように,念のため,申し上げておきます。   別の問題ですが,この「取りまとめ(案)」の附帯事項に関して,先ほど山﨑委員の御意見の中で,ぐ犯を外して各種の支援措置を充実するのではうまくいかないという趣旨の御指摘がありました。私は,直ちにそうなるとまではいえないと思いますが,ぐ犯を,18歳,19歳について外してしまうと,実際に必要な対応が十分にできなくなるという問題点は確かにあるわけです。それに応えるため,「犯罪の防止に重要な機能を果たしていると考えられる行政や福祉の分野における各種支援についても充実した取組が行われること」を一つ目の○に明記していると思います。この記載は,ぐ犯との関連で,現在ぐ犯でいろいろ対応しているような調査,措置などを補うような形でそれの充実を求めるのだと,そういう趣旨であるのだということは,確認しておきたいですし,そういう方向で是非やっていただきたいと思います。   最後に,先ほど玉本幹事から,「取りまとめ(案)」の要綱(骨子)を「別添1」,「別添2」,「別添3」と分けているが,いずれも早期に実現するのだというお話がありましたから,大丈夫だとは思いますけれども,この点について意見を言わせていただきます。「別添1」と「別添2」,「別添3」を書き分けたことは,18歳,19歳に直接関わるものと,より広く適用されるものということで分けたものとして合理性があると思います。しかし,元々は,18歳まで少年年齢を引き下げた場合に,18歳,19歳に対する代替措置というか補充措置として,刑罰全体の改革もしようということで出発したものだったと思います。少年年齢の引き下げという前提は変わってきてはいますが,原則逆送が拡大されて,刑事処分になる18歳,19歳の者が増えるということは見込まれるわけです。そうするとやはりセットとして,「別添2」,「別添3」についても,「別添1」と併せてやっていく方が,より望ましいのは明らかなわけです。その趣旨から外れないように,先ほどもできる限り早期に実現するというお話がありましたので,大丈夫だとは思いますが,成立・施行される時期が多少ずれることはやむを得ないにしても,大幅にずれるというようなことのないように,是非,事務当局に御留意,御努力をいただけたらと思っております。 ○山﨑委員 私からは,「別添1」の要綱(骨子)に関して,大きく二つの点について発言をさせていただければと思います。   まず,採決の前に確認させていただいた,処分は,犯情の軽重を考慮して相当な範囲を超えない限度において行わなければならないとする点についてですけれども,今後法案の立案作業を進められる場合においては,先ほど御説明いただいたような趣旨が明確になるよう,換言すれば,処分の下限についての制約でもあるかのような誤解を招かないような,法文上も明確な表現ぶりを検討していただきたいと思っております。   二つ目ですけれども,当部会の議論は約3年半という長きに及んだわけですが,その間,現行少年法が18歳及び19歳の者に対しても有効に機能しているという点について,ほぼ一致した認識に基づいて議論が行われたということの意義は,極めて大きいと,改めて考えております。また,取りまとめにおいて,罪を犯した18歳及び19歳の者について,全件家庭裁判所送致の仕組みが採用された点では,相当な結論が得られたと感じております。   今後の課題について,今回の取りまとめでは,施行後一定期間の運用の実績が蓄積された段階で検討を行うことが相当であるとされました。この検討は,よりよい制度とするためのものであり,また多角的な検討を行うのが望ましいとされていることからすれば,あらかじめ一定の方向性を持って検討されるものではないということは,当然だろうと思います。18歳及び19歳の者に対する手続・処分等に関して言えば,今回取りまとめた内容をそのまま維持すべきなのか,あるいは,より20歳以上の者に関するものに近づけるべきなのか,それとも,やはり18歳未満の者に関するものに近づけるべきなのか,それらについては,言わばフラットな形で検討がなされることが必要であると考えます。   また,その検討に当たっては,これまで長年にわたり現行少年法が有効に機能してきたということも踏まえながら,また,取りまとめに記載されている制度の運用状況,あるいは成年年齢引下げに係る改正民法の施行後における社会情勢や国民意識の変化などとともに,その時点における18歳及び19歳の者の実情,さらには彼ら,彼女らが置かれている社会的な状況なども十分に踏まえた議論がされることを期待したいと思います。   私としては,先ほど述べましたとおり,今回の取りまとめの内容について,特に,いわゆる原則逆送対象事件の範囲拡大,あるいは推知報道の禁止の一部適用除外について,対象者の立ち直りやその結果としての再犯防止を図る見地からは,重大な懸念を禁じ得ないところですので,一定期間経過後の検討においても,それらが実際にどのような影響をもたらしているのか,しっかり検証をした上で,十分な検討がなされることを望みたいと思います。 ○山下(幸)幹事 推知報道の一部解除の点について,本日当部会の意見とすることとされた取りまとめにおいては,18歳及び19歳の者については,公判請求された場合にはそれが一部解除されるということが記載されていますが,その運用の在り方について意見を述べたいと思います。   18歳及び19歳の者は,類型的にまだ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在であると,そして20歳以上の成人とは異なるということが,今回の取りまとめにおいても確認されているところでございます。したがって,検察官に逆送されて公判請求された事件について,現在の成人のように,どのような事件についても推知報道がされるのは相当ではないと考えます。推知報道すべきかどうかについては,報道機関において,事件ごとに当該犯罪行為の内容などを踏まえて,対象者の更生を妨げることになる不利益の程度と報道する側の社会的な意義や必要性を,個別具体的に比較検討して,慎重に判断されるべきであると考えます。   報道関係者におかれましては,今後は,この推知報道の一部解除の運用に当たっては,抑制的に運用されることをお願いしたいと思います。 ○田鎖幹事 私は,罪を犯した18歳,19歳の者に対する処分の手続の在り方に関連して述べたいと思います。   本日の取りまとめにおいては,18歳,19歳の者の位置付けについては,今後の立法プロセスに委ねるのが相当とされまして,そのプロセス如何によっては,18歳,19歳の者が成人の一類型として位置付けられる可能性も,完全に否定することはできません。私といたしましては,採決の前に山﨑委員から代表して意見が述べられたとおり,そのような事態があってはならないと考えるものですが,そのような可能性も排除をすることができない以上,その場合の18歳,19歳の者に対する調査や審判の手続の在り方と,それがもたらす影響について懸念がございまして,そのような懸念を決して現実のものとさせないためにも,一言述べたいと思います。   取りまとめにおきましては,18歳,19歳の者が,類型的にいまだ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有するという,言わば18歳未満の少年と共通する特性を有することから,20歳以上の者と異なる取扱いをすべきとしています。18歳,19歳の者に対して,少年保護手続と類似の手続を取り得るとすれば,それは正に,この年齢層の者が類型的に有する未成熟性,可塑性のためにほかなりません。18歳,19歳の者が長年にわたって少年保護手続の対象とされてきたという事実は,動かすことのできないものでありまして,罪を犯した18歳,19歳の者と20歳以上の者との間に,未成熟性,可塑性の点で類型的に違いがあることは,今後18歳,19歳の者の位置付けや名称がどのように定められようと,変わるものではありません。   したがいまして,仮に18歳,19歳の者が成人の一類型と位置付けられるようなことがあった場合であっても,18歳,19歳の者に対する手続の在り方如何が,20歳以上の成人に対する厳格な適正手続の要請に影響を及ぼす余地はない,すなわち,20歳以上の成人に対する適正手続の要請を弛緩させるものではないということについて,確認しておきたいと思います。 ○青木委員 私からは,取りまとめの「別添2」の要綱(骨子)の「1 自由刑の単一化」から「4 刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度」までの部分と,「別添3」の要綱(骨子)の「1 若年受刑者を対象とする処遇内容の充実」から「3 外部通勤作業及び外出・外泊の活用等」までの部分に関連して,意見を述べさせていただきたいと思います。   取りまとめでは,懲役刑と禁錮刑が単一化され,単一化された新自由刑に処せられた者には,改善更生を図るため,必要な作業を行わせ,又は必要な指導を行うことができるものとすることとなりました。平成15年12月22日の行刑改革会議提言の7ページから8ページにかけて,行刑の基本的理念として,「罪を犯して服役した者の一人でも多くが,人間としての誇りや自信を取り戻し,再犯に至ることなく健全な状態で社会復帰を遂げるよう矯正の実を上げることが望まれるところである。」,「受刑者が,このような意味で,真に改善更生した上で社会復帰を遂げるためには,受刑者自らが,その犯した罪を十分に自覚し,あるいは,自らが犯した罪による被害者等に対して十分に思いを致した上で,自発的に改善更生及び社会復帰の意欲を持つことが大切であり,行刑に当たる職員としても,受刑者がこのような意識を持つことができるような行刑運営を心がけるべきである。」ということが書かれています。   必要な作業を行わせ,必要な指導を行うに当たっても,受刑者が自発的に改善更生及び社会復帰の意欲を持って取り組めるように,作業内容や指導内容を工夫し,懲罰をもって強制することは極力避けて,受刑者本人が納得する形で処遇が進められる運用を望みたいと思います。   今回の取りまとめにおいては,処遇調査の充実や処遇原則に関して,若年受刑者についてのみ取り上げられることとなりました。しかし,処遇調査を充実させることや,個々の受刑者が罪を犯してしまうに至った個々の事情を踏まえた処遇が必要なことは,若年受刑者に限られるものではありません。自発的に意欲を持って取り組めるようにするためにも,高齢者を含めた全ての年齢層において,処遇調査を充実させ,個別処遇の原則を更に進める運用を望みたいと思います。   また,刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度についても定められることとなりました。これにより,一定の場合に,被害者等の心情が受刑者等に伝達されることとなります。このことに関連して,思い出す話があります。   刑務所や少年院でこれまでいろいろな話を聞いてきましたけれども,その中で印象に残っていることの一つが,受刑者等が,実は自らが心を傷付けられた経験を持っていることが多く,それを,自分自身でも認識して言葉に表すすべを持たず,また,自己の人格を認めてもらってほめられたり,尊重してもらった経験にも乏しく,人に甘えるとか,困ったときには人に頼るといった経験もせずにきていることも多い。そのような者に対して,まずは,傷付けられた心に寄り添い,傷を癒やし,自らが尊重される体験をさせて,初めて被害者等の心情に思いをはせ,被害者等の心の痛みを理解できるようになり,被害者等他者をも尊重することができるようになるのだという話でした。受刑者等の中には,自分の言うことを真摯に聞いてもらったこともないという者も多く,自分の言うことを,自分の目を見て真剣に聞いてもらって,自分のことを気にかけてくれる人がいるという経験を積み重ねていくことによって,自らが犯してしまった罪にも正面から向き合うようになっていったというような話も聞きます。   受刑者等が行刑改革会議提言にいう真の改善更生を遂げるためには,受刑者等が被害者等の心情を真摯に受け止めて,被害者等の心の痛みを少しでも知り,理解し,自らの犯した罪,それによって被害者等にもたらした結果の重大さを認識することが,不可欠であろうと思います。そのためには,受刑者等が被害者等の心情を受け止められるだけの力を持っていなければならず,そのためには,受刑者等が自分の人格が尊重されていると感じられ,自己の痛みを分かってもらえていると感じられる状況が作られ,被害者等の心の痛みを理解し,被害者等他者を尊重することができるようにするための丁寧な処遇が必要となります。受刑者等が行刑改革会議提言にいう,受刑者自らがその犯した罪を十分に自覚し,あるいは,自ら犯した罪による被害者等に対して十分に思いを致した上で,自発的に改善更生及び社会復帰の意欲を持つためには,受刑者の人格を尊重し,受刑者が納得する形で,受刑者の問題性に合わせた処遇をしていくことが必要になるのです。   このように,個々の受刑者等に対して丁寧な処遇を行っていくことには,多くの人材を必要とし,そのための予算も確保する必要がありますが,結果として,真の改善更生,社会復帰につながることであり,トータルで見たときに,そこに注力することは,社会全体の利益になることでもあると考えられますので,受刑者等が減少しているからといって,今ある人的,物的資源を減少させることなく,むしろ手厚くする方向で進めていってほしいものだと思います。   受刑者に対する社会復帰支援も明確化されることとなりました。受刑者等が社会復帰を遂げるために,支援が実効性のあるものとなることを望むものですけれども,同時に,刑務所等と社会との垣根をできるだけ低くし,罪を犯した者が再び社会の一員として復帰することを可能とするために,過ちを犯してしまったとしても,努力すればやり直せるように,受け入れる社会の側の意識を変えていくことも必要であり,そのための努力もしていかなければならないと考えます。   最後に,可塑性という尺度で見たときに,若年であればあるほど,それは高いのかもしれませんが,何歳になっても人は変わり得るのであって,類型的に未成熟で,成長発達途上にあり可塑性に富む存在である者はもちろんのこと,そのような者に限ることなく,罪の内容も問わず,年齢も問わず,罪を犯した者が真の意味での改善更生を果たし,社会に復帰して,再び社会の担い手となって社会を支える一員となっていくことを促進する制度となっていくことを,強く望みます。 ○大沢委員 私からは,報道に関することについて,最後に一言述べたいと思います。   今回,18歳,19歳のときに罪を犯した人は,検察官に逆送され,その後の捜査の結果,公判請求された場合は,推知報道禁止の対象にはならないという取りまとめになりました。   これは,18歳,19歳が選挙権を付与された上,保護者から独立し,自律的な判断能力を有する存在になるという法的な位置付けの大きな変化を踏まえ,国民の関心が高い,社会的に重大と評価される犯罪で,公開の法廷で審理されることになった人については,推知報道禁止の制限が外れると,私は理解しております。   報道機関にとって,実名報道というのは原則です。一方で,これまで繰り返し申し上げてきたとおり,報道機関は,個々の事案の悪質性を始め,改善更生への影響など,様々な要素を検討して,その事案を報じるべきなのかどうか,実名を出すべきなのかどうかを,日々判断しています。また,新聞紙面とインターネット上で同じ扱いにするのか,それとも,インターネット上は匿名を選択すべきなのかということも,絶えず検討しています。ですから,今後,この取りまとめの方向で仮に法改正がなされた場合,18歳,19歳のとき罪を犯した人が公判請求された場合に,その事案を取り上げるかどうか,また,実際に実名の選択をするかどうかに関しては,個々の報道機関が,今申し上げたように様々な要素を考慮して,それぞれ判断をしていくことになると思っております。             (今福関係官入室) ○佐伯部会長 ほかにございませんでしょうか。   ほかにないようでしたら,平成31年1月に開催されました第14回会議まで部会長を務められ,その後は関係官として御出席いただきました井上関係官から,御発言をお願いいたします。 ○井上関係官 御指名ですので,一言御挨拶申し上げたいと思います。   平成29年3月に当部会での審議が開始されてから3年半に及ぶ審議であった上,特に最終段階は,新型コロナウイルス感染拡大のために,ウェブ会議システムを通じて出席せざるを得ない方々も出られるなど,非常に変則的な会議となったことも加わりましたので,ほかの部会にも増して,皆様,本当にお疲れのことと思います。   御承知のように,途中まで私は部会長を務めさせていただきましたが,その段階では審議も半ば,まだ五里霧中という状態で,佐伯現部会長に後を託して退任させていただきまして,令和になって以降は,関係官という形で,皆様の熱心な議論を,度々はらはらしながら,また時には,内心ひそかに楽しみながら,拝聴してまいりました。   委員,幹事の皆様,それぞれの理念や熱い思い,あるいはお立場の違いもありまして,御意見が様々に異なる中で,本日ようやく取りまとめの採択にたどり着け,大変感慨深い思いがします。これは,ひとえに皆様の真摯で熱心な取組のたまものであり,また,取り分け佐伯部会長の御人徳と,穏やかで巧みな部会運営によるものにほかならないと存じます。   また,この間,審議を支え,様々に準備してくださった事務当局の皆さんの御献身も,忘れてはならないと思います。すべての方々に,心から感謝申し上げる次第です。   本日採択された取りまとめの内容につきましては,これに賛同された方も,完全には満足されていないかもしれませんし,反対された方も,すべてを否定するものではなく,賛同され,あるいは,かなりそれに近い部分も実は少なくないように,私なりに推察しております。その上,この取りまとめには必ずしも結び付きませんでしたけれども,今回の審議を通じまして,皆様それぞれが学ばれ,あるいはお考えを深められたことは,実に多かったのではないかと思います。   それらをも踏まえて,今回の取りまとめが総会において答申として採択され,それが,そう遠からず法律化された後も,それぞれのお立場で,新たな制度,あるいは運用も含めて,立派に育て,さらには,それを不断に見直しつつ,よりよいものにしていくよう,引き続き御尽力くださるようお願いし,かつ,期待させていただきたいと思います。   長い間,本当にお疲れさまでした。 ○佐伯部会長 次に,事務当局から御発言がありますでしょうか。 ○川原委員 刑事局長の川原でございます。事務当局を代表して,一言御挨拶を申し上げます。   佐伯部会長,井上前部会長を始め,委員,幹事,関係官の皆様方には,今回の諮問につきまして,約3年半の長期にわたり,分科会を含めて計58回の会議を通して,幅広い事項について大変活発な御審議を頂き,ありがとうございました。意見が分かれる困難な課題につきましても,部会としての意見の集約を目指して,様々な知恵を出していただきながら,粘り強く御議論を重ねていただいた結果,本日大変充実した内容の答申案を取りまとめていただきました。この間の皆様方の大変な御尽力,御労苦に対しまして,心より御礼申し上げます。   本日取りまとめていただいた諮問第103号に関する答申案は,できる限り早期に,法制審議会の総会におきまして,部会長から御報告を頂き,答申を頂戴したいと考えております。その上で,法務省として,法整備を要するものについては,法律案の立案作業を進め,関連する法律案を国会に提出してまいりたいと考えております。運用面で対応するものについても,必要な取組を進めてまいりたいと考えております。   皆様方におかれましては,今後とも引き続き御支援,御協力のほど,よろしくお願い申し上げます。 ○佐伯部会長 最後に,私から一言御挨拶を申し上げたいと思います。   約3年半にわたる長期間の審議の結果,本日,取りまとめを行うことができましたことに,感無量でございます。井上関係官から部会長を引き継ぎましてから,私の部会の運営には,至らぬ点が多々あったと思いますが,皆様には,円滑な議事の進行に御協力いただき,立場の違いを超えて,真摯でフェアな充実した議論をしていただきましたことに,心よりお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。   最後となりますが,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (異議なし)   それでは,そのようにさせていただきます。   以上をもちまして,当部会は終了いたします。皆様の御協力に改めて感謝を申し上げます。   ありがとうございました。 -了-