性犯罪に関する刑事法検討会 (第6回) 第1 日 時  令和2年9月24日(木)  自 午前9時27分                       至 午後0時34分 第2 場 所  法務省大会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲について 2 法定刑の在り方について 3 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方について 4 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方について 5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 それでは,ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第6回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 本日は,御多用中のところ御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,小西委員におかれましては,所用のため欠席されています。   初めに,本検討会において検討すべき論点に関して,事務当局から説明があります。 ○岡田参事官 御説明いたします。   本検討会において検討すべき論点については,前回会合において,資料12「検討すべき論点」に記載されているとおりとすることで御了承いただいたところですが,このうち,第2の「2 起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方」については,先般,主として訴因の特定や被告人の防御の利益といった訴訟手続固有の問題であり,実体法上の要件をめぐる議論とは関連性が低く,独立して検討を進めることができるように思われること,平成28年刑事訴訟法等の一部を改正する法律附則第9条第3項において,政府は,この法律の公布後,必要に応じ,速やかに,起訴状等における氏名の秘匿に係る措置等について検討を行うこととされ,その検討を進めるために,法曹三者及び警察庁による「刑事手続に関する協議会」を開催し,協議が行われてきたところであり,それらを活用することも可能であると思われることなどの理由から,法務大臣の指示により,別途,法改正に向けた具体的な検討を加速して行うこととなりました。   今後,この論点については,法務省において検討を進めていくこととなりますが,法改正に向けた方向性が定まりましたら,本検討会において,委員の皆様に御報告したいと考えております。検討すべき論点に関する事務当局からの説明は以上でございます。 ○井田座長 検討会の論点に含めたところではございますけれども,法務省の方で切り離して法改正に向けて手続を進めたいということですので,検討会としても問題ないのではないかと思います。   今の説明につきまして何か御質問はございますでしょうか。 ○宮田委員 質問というよりは,意見です。   私は,冒頭で,この件については,別の協議会で協議していることについて御指摘申し上げました。そのような状況を踏まえた上で,この検討会において,多数決で,起訴状における氏名秘匿の件はここで検討しようということになりました。つまり,被害者の方々の生の声をここで明らかにするという御趣旨であったかと思います。   そのように,この検討会で多数決によって入れた論点を,後から大臣の方でひっくり返す。検討会が自律的に議論すべきところについて,大臣が論点を変えさせる進行の仕方そのものに対して,私は疑義を持つものでございます。もちろん,早く進行すること自体が悪いというつもりはありませんが,手続の問題として,これはいかがなものかと考えた次第でございます。 ○岡田参事官 御意見については,事務当局として受け止めさせていただきます。このような形で進めさせていただきますけれども,先ほど申し上げましたとおり,法務省における検討が進みましたら,また御報告をさせていただきたいと思っております。 ○井田座長 その報告を受けた後,御意見があれば,この検討会でも存分に御意見を言っていただくということになろうかと思います。   よろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 次に,配布資料について,事務当局から確認をお願いします。 ○岡田参事官 本日,議事次第及び配布資料目録記載の資料34から45までのほか,上谷委員及び齋藤委員からの提出資料,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。また,前回会議でお配りした配布資料12「検討すべき論点」につきましても再度お配りしております。   さらに,本日御欠席の小西委員から提出のあった意見書もお配りしております。   配布資料の内容につきましては,個々の論点の検討を行う際に,各論点に関するものを御説明いたします。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,資料の12「検討すべき論点」のうち,第1の「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」から「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」までについての検討を行うことを予定しております。   早速,第1の「5」の検討に入りたいと思いますので,まず,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関連する資料について説明をお願いします。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」に関連する資料は,資料34及び35です。   資料34は,第一審で有罪判決が言い渡された強制わいせつ・準強制わいせつの罪の事件で,令和元年7月1日から同年12月31日までの間に起訴され,判決書の罪となるべき事実において陰部又は肛門への手指の挿入が実行行為として認定された事件,平成30年1月1日から令和元年12月31日までの間に起訴され,判決書の罪となるべき事実において陰部又は肛門への物の挿入が実行行為として認定された事件について,それぞれ判決書を把握できた範囲で収集し,認定された事実や量刑等の調査を行った結果を取りまとめたものでございます。   資料35は,諸外国における性犯罪規定のうち,性犯罪の対象となる性的行為の内容に関する規定の概要を取りまとめたものであり,主に,第1回会合で配布した資料8を基に作成したものです。   例えば,アメリカのニューヨーク州,韓国等は,手指等の人の身体の一部又は物を性器又は肛門に挿入する行為について,性交の場合よりも軽い法定刑としていること,イギリス等では,手指等の人の身体の一部又は物を性器又は肛門に挿入する行為について,性交の場合と同じ法定刑としていること,アメリカのミシガン州・カリフォルニア州,フランス等では,性交と,手指等の人の身体の一部又は物を性器又は肛門に挿入する行為とを区別せずに「性的挿入」などとして,一つの行為類型として処罰する規定が設けられていることなどが記載されております。   資料34及び35の御説明は以上です。 ○井田座長 ただ今の事務当局の説明について,何か御質問はございますでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。この論点について御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○山本委員 先ほど申し遅れてしまったのですけれども,刑事手続法の「2」(起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方)について一言申し上げてもよろしいでしょうか。 ○井田座長 どうぞ。 ○山本委員 被害当事者の立場からすると,加害者に知られていない氏名が起訴状によってわざわざ知らされてしまうこと自体が二次被害です。知られることによって訴えられないということになってしまいますので,そのような氏名の取扱いについては,起訴状に載って,加害者,被告人に知らされることがないように速やかに取り計らっていただければと思います。それが希望です。 ○井田座長 承りました。 ○山本委員 では,改めまして,「5」の強制性交等の罪の対象となる行為の範囲について意見を述べさせていただければと思います。   以前の「性犯罪の罰則に関する検討会」の議論を読ませていただいたのですけれども,法律家の皆さんの議論を読んでいると,何を言っているのだろうというふうに理解できなくなることが私にはよくあります。   私が被害当事者であり,支援者であることから,被害者側の気持ち,状態の方から物事を見ているので,余計そう感じるのだと思いますが,被害者にとっては,同意なく身体に挿入されること自体がレイプです。それは,男性器であろうが指であろうが,性具や様々なものであろうが変わりがありません。   前回の改正で口腔,膣,肛門への男性器の挿入が強制性交等罪と定められたのは大きな前進だと思います。そのときに,膣や肛門に対しては性交類似行為として考えられるのではないかというような意見も多数あり,指や物の挿入も議論に入っていました。   一番問題になったのは,口に対する物や指などの位置付けだったかと思うのですけれども,性被害としては,どういう関係性でどういう状況でそれが行われたのかということが大きく影響します。だから,そもそも物を人の体に入れることが性的な暴行として行われているのだということを理解することが大切だと思います。   通常,体に入れられることがないペンとかのりなどの文房具とか,木刀や靴べらやビール瓶や電球や瓶やモップの柄などを身体に挿入する被害というのはずっと起こっていて,被害者が自分の体に許可していない異物を挿入されることに対して拒否する権利を何も持ち合わせていない,無力で価値のない存在であるということを知らしめるために行われている行為だと思います。これは,加害者側の権力を確立して支配をする手段として行われているのであって,そこに何を入れようが,それが口腔であっても膣であっても肛門であっても,同意のない身体的な侵襲を加えられているということを認めて,強制性交等罪としていただきたいというのが私の意見です。 ○小島委員 私も,強制性交等罪として重く処罰する行為を男性器の挿入に限る必要はないと考えております。諸外国の法制を見ますと,性器以外の身体の一部である指とか,物を性器や肛門に挿入する場合も性交と同程度に処罰している国が多いように思われました。   少なくとも膣と肛門への物や指の挿入行為を強制性交等罪の処罰の対象となる行為とすることを検討するべきだと考えております。 ○齋藤委員 平成29年改正前の検討会でこの議論が出たときに,そもそも膣への挿入と,肛門,口腔への性器の挿入とで,被害者の精神的影響に差があるかないかという話があったと思います。男性器以外の体の一部とか物を挿入する被害というのは,男性器を挿入する被害とどう違うのかという話になったときに,そもそも心理学とか精神医学の調査においてレイプといった場合には,体の一部や異物の挿入を含むということが一般的で,影響の差について示しにくいとお話ししましたが,しっかりとそれをお示しできるように,その後自身で調査をした結果が,今日提出させていただきました資料(齋藤委員提出の「性被害類型別の精神的反応について」と題する資料)になります。   これは,私が自分で,男女約3,000人ずつに行った調査でして,その中で異物挿入や様々な被害に遭われた方のデータを取っております。その男女各3,000人のうち,現在の日本の強制性交等の罪の「性交等」の定義に当てはまるような被害に遭った方というのは女性7.7%,男性2.9%でした。これは,それぞれ内閣府の「男女間における暴力に関する調査」などと大きく変わりのない数字であろうというふうに思っております。   また,配布した資料の2ページ目にグラフも載っておりますが,基本的に,肛門や膣への手指・異物の挿入と口腔・肛門・膣への男性器の挿入との間には,精神的反応に差が見られないということが分かりました。   皆様がこれまで見聞きしてきたレイプが被害者に与える精神的影響というのは,海外の調査結果を基にしていることが多いので,皆様は,体の一部や異物の挿入を含んだ調査結果をずっと見聞きしてきたということになります。   そもそも,やはり先ほど山本委員も言っていましたけれども,性的侵襲とか身体への侵襲という観点で考えたときに,挿入されるものを問う必要があるのかということは疑問に思います。一定年齢の場合,もちろん膣に陰茎が挿入されることで妊娠のリスクなどがあり,それは本当に重大な問題だと思います。肛門に陰茎を挿入された場合,性感染症や炎症,臓器の損傷のリスクなども生じます。でも,もちろん指を挿入されても傷がつくリスクはありますし,鉄パイプとか割箸でしたらほぼ間違いなく傷つきますし,臓器が著しく損傷するリスクがあります。   被害者支援やスクールカウンセリング,HIVカウンセリング等臨床上の経験でも,臨床以外の場で当事者の方々からお話を伺った経験からも,腕や拳,足,鉄パイプ,割箸,木刀,角材,瓶など,挿入されるものは様々です。これは実際に生じている被害の話です。ペニスバンド等の男性器を擬した性具,バイブレーターなどが使用されたときに,それを果たしてレイプではないというのかということですとか,加害者が被害者の男性器をくわえた場合には強制性交等になりますが,加害者が被害者の膣に舌を入れること,肛門に舌を入れることというのは強制性交等の罪にはならないのかですとか,疑問に思うことはたくさんあります。   自分が性的に侵襲されているということに何の変わりもないのに,成立する罪が変わってしまうということは,どうなのだろうなと思っています。   集団レイプでは異物挿入が行われることもあります。その集団レイプの中で,例えば,ある加害者は男性器を挿入し,ある加害者はビール瓶を挿入したという場合に,前者は強制性交等罪,後者は強制わいせつ罪というのは,おかしな話だと思います。   いじめの一環で異物を肛門や膣に挿入するということもありまして,性的な意図がどうかということも以前の議論では出ましたけれども,いじめの一環で異物を肛門や膣に挿入するということは,性暴力ですし,相手を性的におとしめる意図を持ったもので,被害者にとって性的に虐げられたこと,性的なモノとして扱われたことに違いはありません。   強制わいせつの罪で処罰することも可能だという,委員の皆様の中でもそういった意見があることも承知しているのですけれども,第2回会合のヒアリングでいらしてくださった岡田さんなども述べていたように,強制わいせつ罪の中で実質的に重く処罰してほしいということではなくて,体への侵襲とか性的な侵害ということを考えたときに,何ら変わらないと思われていることがなぜ分けられているのだろうということを,心理職としては大変疑問に思います。   そのため,この強制性交等の罪の対象となる行為に体の一部や物を被害者の膣,肛門に挿入する行為を含めるべきかという点については,再び様々な観点から検討が行われることを望みます。また,諸外国の法律の文言と比較する際に,ただ文言を比較するのではなくて,なぜ性的侵襲という非常に深刻な精神的後遺症をもたらすことが分かっている行為について,日本では一部がレイプに当たらず,諸外国ではその一部を含めてレイプとされているのか,その背景も含めて議論する必要があるのではないかと考えております。 ○宮田委員 性的侵襲としたときに,性的という色彩があるのかないのか,その辺の区別をどのようにつけていくのか。強制性交等の罪の場合には,男性器というものがあるわけですけれども,それに比べて,およそ物,およそ人体の一部というふうな形で規定をするということで果たしてうまく対応ができるのかというところに,まず一つ疑問を持ちました。   そして,量刑の問題なのですけれども,強制わいせつ罪は法定刑の上限が10年ですし,今,齋藤委員のお話にありましたとおり,異物挿入の場合にはけがをする可能性が非常に高いですから,強制わいせつ致傷の罪になるということになると,更に加重することが可能です。そういうときに,検察官が被害者の精神的な苦痛も含めて丁寧な立証を行えば,もちろんそれがなぜレイプではないのだという疑問は残るにせよ,量刑的な問題については解決ができる,つまり,新たな構成要件が策定されなくても,実質的な解決は可能なのではないかというのが私の意見でございます。 ○橋爪委員 この問題につきまして,前回の「法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会」での議論を踏まえた上で若干の意見を申し上げたいと思います。   御承知のとおり,平成29年改正によって,膣性交に加えて肛門性交,口腔性交が強制性交等罪の処罰対象に追加されました。ここでは,肛門性交,口腔性交のいずれもが強制わいせつ罪を構成する性的な侵害行為であることを前提にした上で,かつ,これらが体腔内への性器の挿入という意味において濃厚な性的接触の強要であり,被害者の性的利益を重大に侵襲する行為であるという観点から,これらの行為には,強姦行為と同程度の法益侵害性を肯定できるとして,強制性交等罪の処罰範囲に含められたものです。   すなわち,ここでは,そもそも性的な侵害行為であり,改正前においても強制わいせつ罪を構成する行為であったことを前提にした上で,かつ,強姦行為と同程度の重大性,悪質性があるかという観点から加重処罰の可否について検討がなされたわけです。   このような前提からは,処罰対象の拡張を論ずるに際しては,二つの観点が重要であるように思います。   すなわち,第1に,強制性交等罪が強制わいせつ罪の加重類型であることから,まずは性的な侵害行為であり,少なくとも現行法において強制わいせつ罪を構成することが前提になるべきです。逆に申しますと,行為態様に性的な意味が乏しく,そもそも現行法でも強制わいせつ罪を構成しない行為態様を強制性交等罪の処罰対象に追加することは,正当化できないと思われます。   このような観点から具体的に検討した場合,もちろん膣への指や性具の挿入のように性的侵害性が明らかなものもある反面,口腔への異物の挿入,指の挿入のように性的意味が乏しい行為も存在します。このように,性的意味が乏しい行為までを強制性交等罪の処罰対象に含めることは,およそ正当化し難いように考えております。行為態様を追加する場合でも,飽くまでも性的な意味が明らかであり,性的な侵害行為と評価できる場合に限定することが必要になると思われます。   第2点ですが,強制性交等と同程度の重大性,悪質性が必要になると思われます。現行の強制性交等罪の法定刑の下限は5年です。法定刑の下限が5年というのは,殺人,放火,強盗など極めて重大悪質な犯罪に限定されております。ここでは,強制性交等罪が極めて悪質な行為であり,その当罰性が高いという評価が立法者によって示されているわけです。したがって,強制性交等罪の行為態様を追加するとしても,その追加されるべき行為態様が強制性交等と同程度の悪質性,当罰性を有することが前提になるように思われます。   ここで注意すべき点は,異物挿入行為などの中には,強制性交等と同程度に悪質な行為が含まれているという観点だけでは不十分であり,追加すべき行為態様全てが強制性交等と同程度の悪質性,当罰性を有することが必要になるという点です。すなわち,追加される行為態様のうち最も軽微な事例であっても,現行法の強制性交等罪と同程度の処罰がふさわしく,酌量減軽を行うとしてもなお2年6月以上の懲役刑で処罰することが相当といえることが必要になると思われます。   膣や肛門への異物や指の挿入行為の当罰性につきましては,先ほど貴重な御意見を頂きました。もちろん,その中には現行法の強制性交等罪と同程度の当罰性を有する行為も多数含まれていると思われます。もっとも,私には,その全ての行為類型,行為態様が現行法の強制性交等罪と同程度の当罰性を有するかについては,なお若干の疑問を覚えております。もう一度申し上げますけれども,強制性交等罪の対象を拡張するとしても,その場合には当罰性,悪質性において強制性交等の実行行為に匹敵する行為類型のみを処罰対象に含めるべきであり,平成29年改正では,正にこのような観点から口腔性交,肛門性交のみが追加されたと理解しております。   このような前提からは,処罰対象を拡張するとしましても,その範囲はある程度限定的に考えざるを得ないと思います。例えば,膣への異物又は身体の一部の挿入を伴う性的行為であり,かつ,その法益侵害性が重大な類型に限って,強制性交等罪と同等の法定刑で処罰をするという可能性について,更に具体的に検討することが有益であると考えます。 ○池田委員 手指,異物の挿入については,現在でも強制わいせつ罪として処罰の対象となっておりまして,先ほど宮田委員からも御指摘があったように,量刑評価の適切性が問題になるように思います。   本日配布していただいている資料34を見ましたところ,現状,手指や異物の挿入を伴う強制わいせつについては,行為が複数回にわたって長期化している,あるいは致傷の結果があるというものは,それに応じて重く処罰されていることが分かります。他方で,飽くまで現状ではということですけれども,2年あるいは3年又は執行猶予付きの事件も相応に存在しておりまして,それらについては,強制わいせつ罪の法定刑の枠内で評価をされているということに留意をしておかなければならないと思います。   つまり,量刑傾向として,上の方に張り付いているとか,下の方はおよそないというわけでは必ずしもなくて,そのことは現在の法定刑の範囲内で適正な量刑が困難になっているということでは必ずしもないという点に留意する必要があろうかと思います。その上で,推移等も考慮して検討を更に重ねていく必要があるものと考えております。 ○和田委員 これまで出てきた御意見はそれぞれごもっともだと思います。恐らく,現行の強制性交等罪で拾えない部分に,それに匹敵する犯罪性のある行為がまだ残っているということについては,大きな意見のずれはないのではないかと思いますが,それが新たな規定を用意することによってうまく拾えるかどうか,そこが問題で,そこが拾えなくても量刑上問題ないという見方が一方であるでしょうし,しかし,それでは不十分で,やはり犯罪の名前として強制性交等罪と同じような評価をしていくということにも意味があるという考え方が他方であるということは,十分理解できるところです。   ここで,その強制性交等罪で拾えていない部分に強制性交等罪と同等のものを広げていくための具体的なやり方を考えたときに,やはり今幾つかの御意見で出てきたように,単に身体への異物の挿入という書き方をしてしまうと,性的でない行為も拾ってしまうというところが一つ問題になるわけですので,条文の書き方として,強制性交等罪に含めるか,それと並べた別の形にするかはともかく,わいせつな行為であって,かつ,身体への侵入を伴う行為を処罰する類型を新たに作ることとすれば,これまでに挙げられた懸念のうち多くの部分は解消するのではないかと個人的には考えているところです。   ただ,それが強制性交等罪と同じ重さで強制性交等罪の中に含めて処罰できるのかどうかということは,更に問題になり得ますので,強制性交等罪の概念の中にわいせつな行為であって,かつ,身体的侵襲を伴うものを含めるというやり方とは別に,強制性交等罪の条文の横にわいせつな行為であって身体への侵襲を伴う行為を処罰する別の類型を別途用意して,それに強制性交等罪と同じ法定刑を規定するということもあり得るでしょうし,強制わいせつ罪と強制性交等罪の間の法定刑を規定するということもあり得るかもしれませんし,その辺りについて,具体的な規定の置き方という観点からも更に検討を深めていく必要があるのではないかというふうに考える次第です。 ○齋藤委員 補充なのですけれども,特に,例えば性的マイノリティーの方などを考えたときに,恐らく皆様の想定されているものと異なる性交の在り方が多く行われているということがございます。そうしたときに,皆様の考える性交の在り方のみが性的な侵襲であるというような前提に立った議論というのは,少しどうなのかなと思っています。   そして,今まで体の一部の挿入とか異物の挿入が強制性交等とか強姦に含まれてこなかったことによって,重大な侵襲であり被害者は深刻な精神的な影響を受けているにもかかわらず,それが社会的に軽いものだというふうに捉えられ,量刑ですとかいろいろなことに反映されてはこなかったのかということも一つ疑問に考えているところです。 ○山本委員 私も齋藤委員と同じように,性的ないじめとか,あとはDVの中で虐待的に物を挿入する行為というのは,必ずしも事前にわいせつな行為,性的な行為を伴うわけではないということを現場の支援から把握しています。それは,性的な辱めのような形で行われるのであり,被害を受けた人も,自分がレイプ被害を受けたということをなかなか認識しづらいという場合もあります。加害者は,優位性に立っておとしめる目的でやっているにもかかわらず,なかなかそれを罪として認識しづらいという問題もあります。   齋藤委員の資料にあったように,PTSDの範囲としても,カットオフポイントを超えるぐらいの値を示しているのですから,そのダメージが同じだということを司法の中でも認めていただきたいと思っています。 ○佐藤委員 委員の方々がおっしゃることは非常にもっともだと思うのですけれども,立法の技術の問題として一点気になっているのが,例えば177条に「身体への挿入」というふうに規定をしてしまうと,現在だと性交とか肛門性交とか口腔性交とか,挿入する方もされる方も,加害者にも被害者にもなり得るというふうな類型になっているのに対して,物の挿入の場合には,物を挿入する側が性交等の被害者と同じぐらいの被害を受けるという点の説明が少し難しいように思います。   挿入される方が同じようなダメージを受けるというのはおっしゃるとおりだと思うのですけれども,挿入する側には疑問があって,こういう点を考えると,和田委員やあるいは橋爪委員がおっしゃったように,一旦別類型として切り分けるというふうに,性交等と一緒に入れたいというお気持ちはすごくよく分かるのですけれども,別類型として,例えば膣内あるいは肛門に物を挿入する行為で性的な性質を持つものとか,そういうふうな形で少し区別をして規定する方が良いのではないかと考えております。   そういうときに法定刑をどうするかというのは,これはまた別の問題だとは思うのですが,いずれにせよ177条に一気に規定してしまうのは無理ではないかという意見でございます。 ○山本委員 刑法の専門家ではないので,どのように法律を作っていくのかということは分からないのですが,そもそもどうして男性器のみをそれほど特別扱いするのかが私には分かりません。海外の性犯罪規定に関する配布資料などを見ても,特に,例えばアメリカのミシガン州においても,人の体の一部若しくは物による他の人の体の性器若しくは肛門の開口部の侵入というふうに,やはり同列に扱っているところが多いと思うのですね。どうしてそのことに関して男性器のみを取り出して判別しないといけないのかということに関しては,私の理解が難しいのかもしれないのですけれども,そこはやはりもう少し考えていただければと思っています。 ○井田座長 差し当たり御意見も出尽くした感じがいたします。なかなか議論の状況をまとめるのは難しいのですけれども,一方では,2017年改正後の現行法の強制性交等罪と強制わいせつ罪の切り分けの仕方が基本的に妥当でないという御意見がありました。取り分け,男性器に限らず手指それから物等の挿入行為,こういうものも含めて強制性交等罪の範囲を広げるべきだという御意見がありました。また,広げるべきだという御意見の中にも,口腔については少し別で,膣と肛門への挿入行為に限って重い類型に含めるべきだという御意見もありました。   他方で,2017年改正後の切り分けで基本的に合理的なのではないかという御意見もあり,ただ,基本的に妥当な切り分けを前提としつつも,一定の行為,これもやはり口腔への挿入行為を除いた膣と肛門への挿入行為だと思うのですけれども,手指,物のそういう挿入行為の扱い自体は検討に値する,強制性交等罪の中に含めるか,あるいは別類型を作って三類型とするなど,法的な扱いをどうするかは検討に値する論点ではあると,こういう御意見もあったように思われます。   一巡目の議論としてはこのぐらいにいたしまして,二巡目以降の更なる検討に任せたいというふうに考えます。   それでは,この第1の「5」についての議論はこの辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。   次に,第1の「6 法定刑の在り方」についての検討に進みたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち主にこの論点に関連するものについて,説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「6 法定刑の在り方」に関連する資料は,資料36及び37です。   資料36は,強制性交等罪や強制わいせつ罪等の性犯罪の法定刑の改正経過等をまとめたものです。   明治40年に現行刑法が制定された際の法定刑は,強制わいせつ罪が6月以上7年以下の懲役とされ,強姦罪が2年以上の有期懲役とされていたこと,平成16年刑法改正により,強制わいせつ罪の法定刑の上限が懲役10年に,強姦罪の法定刑の下限が懲役3年に,それぞれ引き上げられたことや,加重処罰類型として集団強姦等の罪が創設されたこと,平成29年刑法改正により,強姦罪の構成要件が改められて強制性交等罪とされ,その法定刑の下限が懲役5年に引き上げられるとともに,集団強姦等の罪が廃止されたことなどが分かるものとなっております。   資料37は,二人以上の者が現場において共同して行った性犯罪の量刑に関する資料です。平成29年刑法改正による集団強姦等の罪の廃止後である平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に第一審で有罪判決の言渡しのあった二人以上の者が現場において共同して行った強制性交等及び準強制性交等の事件の判決書を収集し,量刑分布をグラフと表にしたものであり,集団強姦等の事件の量刑についても掲載しております。   二人以上の者が現場において共同して行った強制性交等罪及び準強制性交等罪の量刑分布の表を御覧いただきますと,3年以下の量刑のものはなく,3年を超えて5年以下の量刑のものが最も多くなっております。   なお,第1の「6」については,第1回会合で配布いたしました資料7「性犯罪の量刑に関する資料」や,第5回会合で配布しました各種事例資料なども適宜御参照ください。 ○井田座長 ただ今の事務当局の説明について何か御質問ございますでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。この第1の「6」には,「〇」で示した項目が三つありますので,順に議論していきたいと思います。   まず一つ目の「〇」の「2名以上の者が現場において共同した場合について加重類型を設けるべきか」について御意見のある方は,御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 私には,集団強姦の被害を受けた友人が三人います。警察に届けられたのは一人だけです。警察に届けられなかった別の方なのですが,彼女は前回の改正で集団強姦罪の規定がなくなったことに関して,自分が受けた被害の罪名がなくなってしまったことにとてもショックを受けているということを繰り返し伝えてくれました。   先ほど御説明いただいたように法定刑が4年から5年に上がるのだからという理由で廃止されたことに対しては,私自身も,集団によって性加害がなされるという質の違う悪質さへの理解がなかったことを非常に残念に思っています。   集団強姦罪は,同意がない性交を強いる相手が一人でもショックなのに,それが複数人いること,複数人いることで逃げにくいこと,そもそも逃がさないように薬物や飲酒を用いたり,組織的に見張り役をつくったり,なだめ役をつくったりして,計画的に行われているケースも多いという悪質さを厳しく処罰するために作られた罪だと理解しています。   2003年に大学生のサークルを利用して行われたスーパーフリー事件が社会に衝撃を与えましたが,近年もリアルナンパアカデミーの事件が起こったように,このような集団による性加害というものが全く撲滅されていない。撲滅というのは強い言い方ですけれども,このような組織的・計画的に性的暴行を行うことに関して,上限を無期にするなど,重い法定刑を科しても良いと私自身は思っています。スーパーフリーの主犯格で14年,リアルナンパアカデミーの主犯格で13年の懲役刑が出されていますけれども,被害者の心情からすれば軽過ぎると言わざるを得ません。   1997年に帝京大ラグビー部の集団強姦事件の被害者の方の対談が今年8月に「創」という雑誌に掲載されていました。被害者は,PTSDに苦しみ,23年後の今も自宅療養でひきこもり状態で,自分の子供を育てることもできない,そういう状態で生活をされています。加害者が一人の場合の被害と複数の場合の被害とでは,その精神的影響について,被害の悪質性とか,周囲からサポートを受けられたかなどの要因も関わってきますけれども,集団で性加害をすることが悪質であるということは間違いないと思います。   加えて,複数人から被害を受けたこと自体が被害者に不名誉な評価を与えるという社会に私たちは暮らしているということも考えた方がいいと思います。被害を知られて,周囲の友人だと思っていた人から,おまえ何人にもやられたのだなと脅されて,性被害を受けるということが実際に起こっています。集団による被害を受けたことが脅しとして使われてしまうような状態であるのならば,複数人で行ったことが罪となるような集団による被害という,集団強制性交等罪として構成要件を復活させてほしいと望んでいます。 ○齋藤委員 大変難しい問題かと存じています。私は,海外の心理学関係の論文を調査していたのですけれども,加害者が一人の場合と複数の場合とで被害の実情や被害者のその後の精神的反応がどのように異なるかを比較した文献というのが幾つかございます。   GidyczとKossによる1990年の論文によると,精神的反応に差がないという結論が出た論文もありましたが,Ullmanの2007年の論文によると,精神的反応は加害者が複数の場合の方が重篤であるという結果が出ておりました。   ただし,いずれの論文であっても,加害者が一人の場合と複数の場合とでは出来事の性質が大きく異なるというふうに述べられております。海外の調査ではありますけれども,加害者が複数の場合は,脅迫,身体的暴力,薬物の使用を伴う場合が多く,膣への性器挿入だけではなくて,異物挿入,口腔や肛門への挿入も多かったということです。   私自身の臨床経験からも,複数人による加害の方が暴力的であることとか,加害者が常習的で悪質である場合が多くみられる印象があります。また,加害者に加害意識が薄いということも特徴です。撮影が容易であることから,被害者の状態を撮影しているということも多くございます。先ほど山本委員からリアルナンパアカデミーの件がありましたけれども,典型的でして,お酒を使用したり薬物を使用したりして集団でレイプをするということを常習的に繰り返し,仲間内でそれを共有するといったことがあります。   加害者が一人か複数かということは,質の異なる被害ではないか,特に集団で常習的に行われているものは随分質が異なるのではないかと考えておりまして,その性質が異なる犯罪であるというのは明確に示される必要があるのではないかなと考えております。   それは,もちろん被害者にとって,という意味もありますが,その加害意識が薄い中で,被害者に甚大な影響を与える行為が繰り返される社会に対して,そういった質の異なる犯罪であるということが示される必要もあると考えております。 ○小島委員 私も,山本委員や齋藤委員と同様に,集団強姦罪が規定されたときの経緯等や被害の甚大さを顧みますと,加重類型として集団強姦罪というものを設けておくべきだと考えております。   集団強姦罪の規定というのは,皆様御承知のとおりスーパーフリーのメンバーによる集団強姦事件,いわゆるスーパーフリー事件を契機に創設されたということでございます。やはり集団強姦罪というのは暴力犯罪として凶悪性が強く,常習性もあると。集団として行うことによって,被害者にダメージを与えるということがあって,加重類型が設けられております。悪質的な行為であり,許されない行為であるということを明確にする必要があるという観点から,加重類型を設けるべきだと考えております。   なお,スーパーフリーのメンバーによる集団強姦事件をきっかけに,集団強姦罪が設けられた点につきましては,沖縄大学准教授である髙良沙哉さんがこの間の経緯について沖縄大学の紀要に論文を書いておりまして,特にスーパーフリー事件に触れております。主犯に対する量刑事由の中で,集団強姦を,貞操をじゅうりんし,陵辱の限りを尽くし,性的自由を徹底的にじゅうりんする犯行だと捉えており,重い刑罰を科していると指摘しています。立法の経緯を振り返り,集団強姦罪については規定を設け,加重類型とするべきだと考えております。 ○井田座長 加重類型を設けるとすると,法定刑は6年以上の有期懲役で,上限は無期懲役とか,そういうイメージですか。 ○小島委員 そういう形になります。 ○池田委員 集団による強制性交等が,これまでにも御指摘があったように非常に悪質な犯罪であるということは,かつて集団強姦の罪が一般の強姦よりも法定刑の下限の高い罪として設けられていたことにも表れておりまして,その評価自体は現時点で否定すべきものでもないと考えております。   他方で,資料36には,この集団強姦罪を廃止した改正時の経緯が示されておりますけれども,そこでは,強制性交等罪の法定刑の下限が引き上げられたことから,集団強姦罪を廃止しても,先に述べた集団による強姦という悪質性については,引き上げられた法定刑の範囲内で量刑上適切に考慮することによって適切な科刑が可能となると説明されておりました。   また,致傷の結果を伴うものについては,平成16年に集団強姦致死傷罪が設けられた際に,その法定刑の下限について,およそ酌量減軽をしても執行猶予を付し得ないとすることには問題があるとして,執行猶予を付し得る限界である懲役6年とされたとされており,その趣旨は,平成29年の時点でも妥当すると考えられるとして,集団強姦罪を維持して致傷の結果を伴うものの下限を懲役7年以上のものとすることは適当でないという考えで現状に至っております。他方で,現状が以上の議論において想定されていたところと異なっているのであれば,改めて別途の対象を検討すべき理由と必要があると考えます。   そこで,資料の37を見ますと,実際の量刑の状況が示されておりますが,2名以上の者が現場において共同した事案の量刑分布では,3年以下の量刑のものは見当たらず,強制性交等罪全体においては3年以下の量刑のものも相当数存在するのと比べますと,相当重いものになっております。このことは,実務上,個別の量刑において集団による犯行が行われたという事情は類型的に相応に重いものとして評価されていると見る一つの根拠となるのではないかと思います。この点については,実務の現状を踏まえた議論も必要かと思いますので,実情についてどなたかから御教示を頂けると大変有り難く存じます。 ○宮田委員 実情についてまではお話はできないので申し訳ないのですけれども,集団強姦の罪が作られたとき,被害者の告訴が強姦罪については訴訟要件であったと。集団強姦は非常に悪質なので告訴は要らないことは非常に意義があったと思います。   現在,告訴は要件とされてはおりません。   そして,集団での性交の場合には,複数人による犯行ですから,被害者が反抗を抑圧される典型的な場合,あるいはたくさん人がいるのだから大丈夫だということで被害者が安心してその場にいる,そこで酒を飲まされるなどする,ある意味において抗拒不能の典型的な場合ということが言えるのではないかと考えられます。   そういう意味で,当然これが重い類型であるということは私も否定するものではございませんが,現在の構成要件の中で重く処罰をするということは可能であり,現行の規定に集団的な行為を別に構成する形であえて重くし下限を引き上げ,そして上限を無期まで引き上げることまでして加重する類型を作るべきなのかというと,それはそうではないのではないかと思います。   また,このように集団で行われる事件の場合には,集団の中での役割,単なる見張りだけの者,あるいは実際に首謀した者というふうな形で非常に役割が違うことがあります。そういう中で,非常に関わり方が軽微だった者,計画についてもよく知らずに,現場にいたので共同正犯にはなるのだけれども,補助的な役割の者というのもおります。   そういうことを考えますと,やはり現行程度の法定刑でなければまずいのではないかと考えるのでございます。   さらに,被害者の精神的な影響については,細やかな立証が検察官に求められているのではないかというふうに考えます。 ○渡邊委員 実務の状況ということですので,御説明をしたいと思います。   検察官の立場から見ると,二人以上の者が共同して強姦をしたというのは,もうそれ自体で非常に重要な情状だと考えています。検察官は,この幅広い法定刑の中で,犯行態様がどうか,共犯事案であれば役割分担がどうか,さらには被害結果がどうか,そして被害後の状況として,示談ですとかそういったものがあるのかどうか,あるいは被告人の反省状況等の更生可能性に関する事情,それらを総合考慮して判断しておりますけれども,その中で,やはり二人以上共同してそういった犯行をするということは,それ自体悪質ですし,また,先ほど来お話が出ていますように,常習的な犯行であることが多い,あるいはその場でエスカレートしやすく,結果として受ける被害が甚大であるということがよく見られます。先ほどスーパーフリーのお話が出ましたけれども,そういった事例に繰り返し接してまいりまして,そういうことを強く考えるようになっております。   ですので,正直申しまして,集団強姦罪がなくなったということで,例えば量刑,求刑が変わるということはありません。   そういう意味で,先ほど裁判例が幾つかお話に出ておりましたけれども,検察官としてもき然たる態度をもってそれらを評価して求刑をしていて,また,いろいろ社会問題化しているということが背景にあって,裁判所でも相当程度受け入れていただいているというふうに現状としては思っております。   これは,平成29年改正前後というよりは,ここ10年とか,あるいはここ5年とか,そういったスパンで社会の理解が得られるようになってきているのかなと実感しておるところです。 ○中川委員 裁判所の立場からも御説明したいと思います。   量刑というのは,個別の事件の事実関係に基づいて決められるものですので,一概には言えないところはあるわけですけれども,皆様からも御意見が出ていますとおり,一般的に性犯罪が集団で行われたような場合には,一人の相手からであっても恐怖ですくんでしまって抵抗できない被害者がほとんどである中,二人がかり,三人がかり,それ以上の人数でということになりますと,やはり一般的には悪質性が高いということで量刑が重くなる事情として評価されることが多いと思います。   もちろん役割分担ですとか,いろいろなことがありますので,それは考慮した上でということになりますが,一般的には,皆様がおっしゃったとおり,非常に悪質な犯罪だと評価されているというふうに考えております。 ○上谷委員 私は,リアルナンパアカデミーの事件の被害者の方3名の代理人をした経験から少し意見を述べさせていただきます。   やはり皆さんどの人も,複数人からの被害に遭ったということのつらさを訴えていらっしゃって,先ほどどなたかおっしゃったように,やはり相手が複数だからまさかそのようなことはしないだろうという気持ちがあったというところにだまされたとか不意打ちのような感じもあり,また,そうなったときに相手が複数だから逃げられないという,そういう絶望感なども訴えられていました。   どの被害者も法廷の意見陳述でそのようなことをおっしゃっていましたし,検察官の論告にもその事情は入っているし,裁判所の事実認定の中にもそこは指摘されているのですけれども,どうも被害者から見ると,それによって量刑が重くなっていないというような感覚があるのですね。私もそう思うのですけれども,集団だからそんなに刑が変わっているかというと,余り変わっているという実感がないのです。検察官とお話しすると,例えばこれまでの量刑の基準からして,1年求刑を高くするのも結構決裁を取るのが大変なのだとか,いろいろなそういう話は聞くわけですけれども,実情に比べて求刑が余り厳しくなっていない。判決もそれに合わせるかのように,余り厳しくなっていないというのが被害者の実感ではないかと思い,私も同じような印象を抱いています。 ○井田座長 御意見はいろいろあるようでございますけれども,時間の関係もありますのでこのぐらいにし,二巡目の議論に委ねたいと思います。   2名以上の者が現場において共同した場合について加重類型を作るべきだという強い御意見もありましたし,現状のままで合理的ではないかという御意見もありました。   それでは,第1の「6」の一つ目の「〇」についての議論はこのぐらいにいたしまして,二つ目の「〇」,「被害者が一定の年齢未満の者である場合について加重類型を設けるべきか」について御意見のある方,御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 被害者が一定年齢未満の場合というのは,恐らく子供への性被害を想定して,それを何歳に設定するのかというお話だと思うのですけれども,性暴力被害では,子供でも大人でも長期間にわたって何十回も何百回も性加害が繰り返された人が予後が最も悪いということが分かっています。もちろん,単回の性被害であっても,本人の主観的に深刻な状況であって,なおかつサポートを受けられていない場合でも予後は悪く,一概には言えないので,私の個人的な意見ですけれども,被害者の年齢よりも加害者の行為により焦点を当てた方が良いのではないかと思います。どういうことかというと,加害者が繰り返し性加害を行う,そういう傾向を持っている人の場合,出所してまた性加害して捕まって,また刑務所に入所してまた出所してというような,加害を繰り返している人もいますし,また人に知られずにそういう犯行を繰り返しているという人もいます。   問題の一つは,出所をするときに性加害行動を手放しているのかどうかというアセスメントがされていないことです。再び加害を起こす傾向が高い人に対して,対策を取るなどの措置が司法のシステムの中でまだまだ取られていないのではないかと思います。   大阪などでは,子供を性犯罪から守る条例などを制定して,支援員を置いてフォローしている場合もあるのですけれども,それも出所してから,そして出所した人が自分からつながった場合と限られており,出所時に専門的にアセスメントするということがなされていないと思います。   イギリスなどでは,医療チームがアセスメントを行っていると聞いています。また,保護観察のときに再犯の性犯罪防止・治療教育プログラムなども設定しているかと思うのですけれども,やはりこのような加害者が再び加害を起こさないような行動を命令として実施してもらうような形を取った方が,より効果的なのではないかと思います。どう作っていくのかは,この検討会での話を超えるのかもしれないのですけれども,関係性の病とも言われる性暴力加害に関して,治療教育とか再犯防止制度をより活用して,加害を防止するという視点を持っていただければと思いました。 ○齋藤委員 私も,子供のときの被害と成人になってからの被害,それぞれ被害の内容は様々ですので,単純に比較するのは困難だと思っております。しかし,子供のときに被害に遭った人がその後再度性被害に遭うリスクが高くなることや,成人になってからの被害において被害後に精神的後遺症が深刻になるリスク要因の一つに,子供時代に性被害に遭っていることというのは確かにあります。   もちろん,子供時代に被害に遭うのは,人格形成にも影響を及ぼすので,被害の影響が甚大です。ただ一点,山本委員とも似ているのですけれども,子供を対象とした性犯罪の重大な問題として加害者の常習性が高いということが挙げられます。単純に刑を重くするかどうかというと,その観点の議論だけでは少し不足しているのではないかと思います。再犯を防ぐという意味で,今は刑務所の中では再犯防止のプログラムが行われ,保護観察で5回のプログラムも行われていますけれども,性犯罪については,目の前に被害者となり得る対象がいる社会内での再犯防止プログラムを継続することが何より大事です。ここの議論ではないかもしれないのですけれども,法定刑に関しては再犯防止の取組と併せて考える必要があると考えております。 ○池田委員 この点も,この類型に当たる行為が特に悪質であるということは,そのとおりであろうと思っております。法定刑の引上げの要否を検討するに当たっては,先ほどの議論と同様に,現在の強制性交等罪や監護者性交等罪の法定刑の幅の中で適切に評価されているかどうかということが問題になるように思います。   第1回の配布資料7-2の量刑傾向を見ますと,監護者性交等罪は強制性交等罪よりは明らかに重く処罰されておりまして,このような見方が反映されているという評価にもつながるのではないかと思います。こちらについても,このような事情が実務上どのように評価されているのかということについて,実情をお話しいただけると有り難く存じます。 ○小島委員 実情ではないのですけれども,この論点についての意見を申し上げたいと思います。   子供に対する性犯罪というのは長期間にわたって子供を苦しめて,その後の人生に重大な損害を与える行為だということは皆様御承知のことかと思います。成人が被害者の場合より重く処罰することを考えるべきではないかと思います。ただし,未成年者が行為者であるなど子供同士の場合は加重類型としないということも検討するべきであろうと考えております。   先ほど齋藤委員からも御指摘がございましたが,この問題については,量刑の在り方を論じる際に,併せて施設内・施設外における性犯罪の再犯防止教育の在り方とか保護観察における治療プログラムへの参加などの義務化なども,特に子供に対する性被害については併せて検討することが重要ではないかと考えております。 ○中川委員 実情をということでしたので申し上げますが,性暴力の被害が被害者に深刻な影響を及ぼすというのは,大人にとってもそうだと思うのですけれども,特に子供の性被害の場合は,成長過程にあって被害者のその後の人生に長期にわたって深刻な影響を及ぼすというのは,皆様おっしゃっているとおりだろうと思います。   量刑の本質というのは,被告人の犯罪行為に見合った刑事責任を被告人に与えると,そういう分量を明らかにするというところにありますが,一定年齢未満の年少者に対して性犯罪に及んだ場合,やはりその結果の重大さ,つまり被害児童の今後の成長に対する悪影響は量刑を重くする事情として十分考慮しているというふうに思います。   また,先ほどもありましたが,被告人が低年齢の抵抗できない被害児童に対して理解力の差とか力関係の差を利用して継続的に性的虐待に及んでいるような場合については,常習性があるとか,犯行態様が悪質であるとかといった点が量刑を重くする事情として評価されているように思います。 ○渡邊委員 今,中川委員からお話がありましたとおり,実務では,被害者の方が子供だということになりますと,被害結果が甚大だということもありますし,やはり子供が抵抗しないものですから,こういう言い方は適当ではないかもしれませんが,犯人にとっては,犯行に及びやすい,安易に犯行に及ぶというような傾向がありまして,結果,繰り返すことがある。一方で,繰り返すことの立証が難しいことがありまして,そういったことも踏まえて求刑も考えておるところです。実際に,私は,今,東京地検の公判部というところにいて,常時2,000件ほどの事件がその部にはあるわけですけれども,その量刑傾向を見ますと,やはり被害者が子供の場合には重くなっているというのが実感でございます。 ○宮田委員 この法定刑を上げるということになると,上限を無期に上げる,あるいは下限を6年,致傷の場合には下限を7年に上げることが考えられるかと思うのです。けれども,例えば,暴行・脅迫をしようと思ったときに致傷行為が発生した,しかし,姦淫行為には至らなかった事件のように,現在執行猶予が付いているような事案があります。あと,一定年齢未満の被害者の事例については,加害者が知的障害を持っているというような,加害者自身の持っている特性に配慮して刑の量定をすべき事案が結構あります。   そう考えたときに,執行猶予が付かなくなるような形で下限を上げてしまうことについては,問題があると感じています。特に,加害者もハンディキャップを負っている事例も結構あるというところを指摘申し上げたいというところでございます。 ○橋爪委員 確かに児童に対する性犯罪は,被害者の心身に対する侵害性が類型的に重大であることから,これを重く罰する必要性があることは十分に共感できるところですが,そのような考慮は現行法の法定刑の範囲内においても,被害状況を十分に考慮した上で,量刑判断において対応できる問題でありますし,現に実務上,対応されていると認識しております。   また,日本の刑法典では,被害者が年少者である点に着目して刑を加重する規定は設けられてはいないと思います。したがって,仮にこのような加重類型を設ける場合には,実は性犯罪だけではなく,それ以外の犯罪類型についてもこのような加重類型の要否について検討する必要が生じてまいりますが,具体的にいかなる犯罪類型について被害者が年少者であることに基づく加重類型を設けるべきかの判断は,必ずしも容易ではないようにも思われます。   もちろん,このことは,性犯罪について加重類型を設けるべきではないという積極的な根拠を示すものではありませんけれども,この問題が性犯罪だけではなく,他の犯罪類型についても波及し得る問題であることだけ,指摘しておきたいと思います。 ○和田委員 被害者が年少者の場合に,加重類型を設けるという方法以外に,年少者に対する性的行為を対象とする犯罪類型を別途作って,通常の性犯罪規定とは保護法益が違うという説明が可能であれば,被害者が年少者のときには二罪成立して観念的競合というように処理する。量刑でうまく処理すれば,そこは現状どおりの対応が可能でしょうし,成立する犯罪名において被害者が年少者であることが示せる。そういう方法もありかなと思います。少し小手先の話かもしれませんけれども,通常の強制性交等罪の下限がもう十分重いので,生じている問題を回避する一つの方法としてあり得るかなというふうに思っております。 ○上谷委員 この問題は,確かに被害者が年少者である場合などは,その被害結果の重大性というのはもう明らかだと思っているのですけれども,ほかの論点ともかなり絡んでいて,例えば,地位関係性によるものを作るのかとか,性的同意年齢を何歳にするのか,また,司法面接の在り方など,複合的に議論がなされるべき論点ではないかと思っています。   例えば,年齢の中でも未就学児と10歳以上の子供というのはかなり違うのではないかという気もしていますし,もしかして違わないのかもしれないという気もしておりまして,この点については,そう結論を急がずに,もっと横断的に議論ができたらなというふうに思っています。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。  加重類型を作るべきだという御意見もあったのですけれども,むしろ刑の引上げよりも処遇の問題なのだという御意見もありましたし,また刑法が年少者をどう扱うか,もっと広い視点から見ていかなければいけないという御意見もあったと思います。 ○山本委員 様々な御意見を拝聴していて考えたのですけれども,長期間繰り返し加害が行われているということで,監護者性交等罪と比較してより重い罪となるような規定は私も賛同するところです。   一方,子供への性被害に対して,もう少し性加害の科学的な知見も私たちは学んだ方が良いのではないかと思っています。小児性指向障害とも言われるペドフィリアの問題があって,子供を性的な対象とする人たちというのは,やはり一定数生まれている。その中で一部の人が性犯罪までに至るということも研究調査により知られているところです。加害が起こるということ自体が罪であり,それを重く処罰していかなければいけないということは,非常に大切なことではあるのですけれども,一方,子供に対する性加害というのが,どのような形でどういうふうに起こるのかということ自体に関して,まだ資料なり,あるいはヒアリングなり,知見が足りていないのではないかと思います。   というのも,私も,子供への性加害をした人とかに面談というか,会ったことがあるのですけれども,一人の人は,自分自身が非常に弱く,いじめられやすいような,そういう体験を持っている人で,子供は自分にとって近づきやすくて慕ってもくれて,自分の欲求というのも受け入れてもらえるように見えた。それは,彼の勝手な思いなのですけれども,そういうように加害行為をしてしまったときはまだ20歳になっていなかったのですが,悪いことだと思っていなかったのです。治療を受けて思えるようになったとのことでした。あるいはもう本当に子供にしか性的なし好を持ち得なくて,自分ではもうそれを止めたいのだけれども,なかなかそのことを止めることができず,ブラックアウトしては加害を繰り返してしまうというような人もいました。   このことは,この刑事法の検討会の中で議論するのは非常に難しいかもしれませんけれども,第3回のヒアリングで加害者の治療教育をされた方にも来ていただいたように,やはり子供への性加害とペドフィリアの問題というのをもっと深く検討して考えないと,子供への加害だからより重く罰するという,より何か心情的な方向に入っていってしまうのも,私としては懸念をしているところなので,是非ペドフィリアに関しての資料とか知見とかヒアリングもまた次の議論のときまでに出していただければと思っています。 ○井田座長 検討させていただきたいと思います。   それでは,この二つ目の「〇」についてはこのぐらいにして,三つ目の「〇」の「強制性交等罪の法定刑(5年以上の有期懲役)の下限を引き下げるべきか」についての検討に進みたいと思います。   御意見のある方,御発言をお願いします。 ○宮田委員 恐らくこの議論をすべきだというのは,私一人なのではないかと思っているのです。   実は起訴猶予についての資料を出してくれということをお願いしたのですけれども,その辺は難しいと。起訴猶予になるのは被害者が起訴を望んでいない案件であるというふうな形で事務局の方からは御説明を頂戴しました。   しかしながら,現行どういうふうな形で量刑が決まっているかというと,先ほどの集団的な行為や一定年齢未満の被害者の話のところで,中川委員や渡邊委員が御説明になったとおり,その犯罪行為が持っている性格,その行為類型はどういうものか,そしてそのような行為類型の中でこの行為が重いものかどうかということから量刑が決められていくというのが今の基本的な考え方ですので,犯罪の後になされた示談というのは,極めて今はウエートが低い。量刑判断の中でウエートが低いものになっているので,示談ができて起訴猶予になるという案件は結構ございますが,一旦起訴されると,起訴された後に示談がされても実刑になってしまうことになります。   現在,弁護人が被害者にアプローチしようとするときには,検察官に被害者の連絡先を教えていただけませんかと言います。そして,検察官が被害者の連絡先を教えてくれた場合に初めてアクセスできるということになりますけれども,起訴前にそれを教えていただけず,起訴された後に連絡先を教えていただいた場合に,被害者からどうしてもっと早く連絡をくれなかったのかと言われたという案件は結構ございます。   捜査を担当する検察官の被害者に対するアプローチの仕方,御方針が非常に大きいのではないかというふうに私は考えておりまして,それによって被害者にアクセスできない,その結果,示談ができないという事例がある。そうなると,起訴されればほぼ実刑になってしまう。つまり,犯情の部分で酌量すべき部分がほとんどない性犯罪については起訴されればほぼ実刑ということになってしまい,このような差があるということは極めて不当というか,この埋め難い差はどうなのかという疑問を持つものでございます。   そして,被害を訴え出ても被害を聞いてもらえないという案件があるのは,もしかするとこの量刑が上がったことによって,非常に立証のハードルを高く設定して,こんな証拠では薄過ぎるよ,あるいはこのような記憶の剝落があったら無理だよということで,立証のハードルが上がっている可能性はないだろうかと思います。   また,177条,178条の解釈についての様々な事例をお出しいただきましたけれども,以前の「性犯罪の罰則に関する検討会」のときに出てきたものに比べると,その幅が若干狭くなっている印象を持ちます。ある意味において,量刑が重くなったことによって,検察官あるいは裁判官は,やはりここまで重い類型なのだから,解釈を広げることによってこの規定を適用することに対するちゅうちょのようなものが生まれているのではないだろうかという仮説を私は立てているのですけれども,この辺はうまく立証できないところでございます。   私は,刑の下限が3年であったということに合理性はあったのではないかと思っています。もちろん被害者にとって,殺されるも同然の精神的な損害,大きな被害が与えられる犯罪類型である,性犯罪がそういう類型であるということは私も重々承知はしておりますけれども,そこから被害者の方がどう回復していくか,そこをどうやって支援していったらいいかということこそ考えられるべきことで,それを人が死んだ事件と同じに扱う形に量刑を上げたことに関しては,私は政策としていかがだったのだろうかという考えを持っているものでございます。 ○金杉委員 同じく刑事弁護の立場からは,5年というのは非常に重いなという強い印象を持っています。本来,性交というのは,性交自体が違法であって真の同意があって初めて違法性が阻却されるというような考え方に立たない限りは,合意があれば自由であるはずのものと考えています。それに対して,今,暴行・脅迫要件が非常に柔軟に解釈されているということとあいまって,真の合意に向けた努力というか,それは被害者側からしたらもちろん許されないことなのかもしれませんけれども,一定程度合意に向けた口説き落としとか,そういった行為をして同意が得られたと思って性交したつもりであったものが,真の同意がないという形で,例えば,服を脱がせるとか,足を開くとか,通常,性交に付随するような行為まで暴行・脅迫というような認定がされて,強制性交等罪になっているという現状からすると,非常に重いなというふうに考えています。仮に,法定刑の下限が3年のままであったのであれば,先ほどの論点とも絡みますが,強制性交等の罪の対象となる行為に身体の一部や物の挿入といった行為を含めるということも考えられたのかなとは思うのですけれども,引き上げられた上に暴行・脅迫が柔軟に解釈されているという現状では,それも難しいのかなと考えています。法定刑の下限が引き上げられたことによって,より強い縛りがかかっている,性交等を柔軟に解釈するということに対する縛りがかかっているのかなと思います。 ○齋藤委員 通常,性交に付随するような行為までというようなお話がありましたが,性被害に関する臨床に携わっておりますと,被害者の認識と加害者の認識は大きく違っておりまして,加害者側は口説き落とすようなことをしていたと言っていても,被害者にとってそれが言語的な強制であったということが多くみられます。そして,もちろん被害者は精神的な回復ということを目指してはいきますけれども,WHOなどの研究の中で,精神的な影響によって死に至る可能性のある,生命に関わる被害である,生命に関わる暴力であるということが言われているとおり,性被害というのは自殺企図であるとか自殺未遂であるとかも多く,また適切なケアを受けない場合に何十年と苦しみ続けることが多い本当に重篤な被害であるということがあります。   法定刑の下限が5年に引き上がったから立証のハードルが高くなっているということは,性被害の重大性がむしろ社会にまだ浸透していないがために起きているのではないかと考えております。その点だけ少し言わせていただければと思いました。 ○池田委員 これまで宮田委員,金杉委員から御指摘があった点について,意見を申し上げたいと思います。   まず,強制性交等罪の法定刑が引き上げられた結果,解釈論において成立を認めるのが難しくなったのではないかという御指摘があったわけですけれども,現在の法定刑は,従前の強姦罪の成否の判断において,用いられた暴行自体の強度のほかにも,様々な事情を考慮して,結論としては強姦罪の成立が認められてきたことによって形成されてきた量刑傾向が考慮されて決まったものでありまして,非常に幅広い行為態様を含むものであり,そのことは従前もそうであったし,現在もそうであると理解されているわけですので,法定刑の引上げの判断が成立範囲の縮小をもたらすことにはならないのではないかと思います。   また,法定刑の下限が引き上げられたために,行為類型の拡張を認めることに困難が生じているのではないかという御指摘があったわけですけれども,手指・異物の挿入を強制性交等罪の対象とすべきである,あるいは別類型として設けて強制性交等罪と同等の処罰の対象とすべきであるという主張については,これは現状の強制性交等罪の当罰性に相応する当罰性のある行為だという主張であり,より低いものとして含めるという議論は,これとは整合しないのではないかと思います。   最後ですけれども,示談が認められるかどうかで非常に取扱いの差異が甚だしいという御指摘がありました。示談の成否は,量刑判断に当たって考慮される情状事実の一つではあるわけですけれども,それがあるから当然に執行猶予になるというものでもないことは御承知のとおりだと思います。   これも若干前の資料なのですけれども,資料7-2には強姦罪・強制性交等罪の執行猶予が付された事件の数が4ページに載っておりまして,これで過去5年間の執行猶予が付された事件の割合を見てみたのですけれども,平成27年が17%で28年が14.6%,順次13.6%,15.5%,19.2%となっておりまして,法改正の前後で全部執行猶予が付される率が必ずしも減少しているわけではないように思います。また,この間,肛門性交,口腔性交の事案が含まれておりますけれども,これらの類型については一般の強制性交等罪よりも執行猶予率が低く,これらを加えたから執行猶予率が上がったということにもなっておりません。   そうしますと,全体としての量刑傾向,取り分け執行猶予の付され方を見る限り,改正後に執行猶予の付され方に明確な変更があったようにはうかがわれないのでありまして,そのことを理由に法定刑の下限を引き下げるということにはならないのではないかと思います。これは,実務上の運用に何か変更があったかどうかということとも関わってまいりますので,この点も御存じのところがありましたら,御教示いただけると有り難いと考えております。 ○橋爪委員 実務的なことは全く申し上げようがないのですが,平成29年改正の段階の議論を簡単に御紹介した上で,私個人の意見を簡単に申し上げたいと存じます。平成29年改正における法定刑の引上げにつきましては,前回の「法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会」で議論があったところですが,これは,法改正によって厳罰化を図る,つまり現在の量刑傾向の変更を迫る趣旨ではなく,むしろ,改正前においても既に量刑傾向と法定刑のギャップが生じていたことから,法定刑を現実の量刑傾向に対応する内容に修正したものと理解しております。つまり,あえて申し上げますと,法的な評価の変更の決断があったわけではなく,改正前の実務の運用に対応するための改正を行ったものと評価できようかと存じます。   このような前提からは,その後,実務の運用や社会通念に大きな変化がない以上,今回法定刑を引き下げるだけの十分な根拠は乏しいと考えております。 ○山本委員 被害者の心情をお伝えさせていただければと思います。法定刑に関して被害者の所感を聞いてきたのですけれども,多くは,一生刑務所に入っていてほしいというのが被害者の希望です。5年であっても軽過ぎるというふうに感じたり,10年以上にしてほしいと言われる無理やりの性交の被害者の人もいます。それは,齋藤委員が言われたように,レイプ被害によって人への信頼感や世界の見方が大きく損なわれて,以前に送れていたような生活を送ることができなくなってしまう。だから,ある被害を受けた方は,加害者は10年で出てくるけれども,被害者は終身刑を受けているようなものだと,言われていました。   そのぐらい重い罪だということを示すためにも,5年というのは妥当であると思いますし,やっと上がったものをなぜ下げる議論がされるのかということに関しても疑問に思います。 ○中川委員 先ほど池田委員から実務の状況をということでしたので,分かる範囲で御説明したいというふうに思いますが,平成29年の改正によって法定刑の下限が強制性交等罪だと懲役3年から5年に引き上げられております。他方で,執行猶予にするためには3年以下に下げなければいけませんので,法律上の減軽事由があるか,あるいは酌量減軽ということが必要になってまいります。   ですので,法定刑の下限が引き上げられたことを踏まえ,酌量減軽すべき事情の有無を検討,もちろん法律上の減軽があるかどうかもそうなのですけれども,ない場合は酌量減軽の事情があるかどうかを検討するということになります。   その上で,そのような事情が認められた場合に執行猶予を付すかどうかを検討しているというところですので,酌量減軽があるかどうかを適切に評価しているということになろうかと思います。 ○渡邊委員 起訴段階の関係のお話もございましたので,一言申し上げたいと思います。   私,捜査部の決裁官も担当したことがありますが,やはり平成29年改正後に起訴猶予が増えたというのは,第1回の会議でも申し上げましたけれども,起訴・不起訴に関して,被害者の方の意向を確認することが非常に重要であるということが実務に徹底しているために,訴追を望まない被害者の方がおられて,そのようになっているというのが実感でございます。   また,被害者の連絡先を教えていただけるか,いただけないかが検察官によって違うというお話がありましたが,示談を受けるのは被害者の方の権利,実際に損害を受けておられるわけですから権利ですので,弁護側から申出があった際には,検察官は,必ず被害者の方に連絡を取ります。御了解を取らないで被害者の方の個人情報を伝えるということは,被害者の方の二次被害になりかねませんので,実務としてそういった運用をしておるところで,被害者から御了解が得られて初めて弁護人の方から被害者にじかに御連絡を取っていただくということになります。 ○和田委員 せっかく法定刑の下限を上げたものを下げる意味があるのかというのは全くそのとおりだと思いますけれども,今回,強制性交等罪の手段の要件を少なくとも条文の文言上広げるという話が出てきていますし,それから,性交等の概念自体を広げるという話も出てきていますし,さらに,集団による強制性交等や,その他の類型についても,加重類型を設けるべきだという話が出てきています。現行の強制性交等罪の刑の下限が5年で,それが事実上障害になるということもありますので,そのような重罰化あるいは処罰の拡張とセットで,通常の強制性交等罪については,例えば法定刑の下限を5年から4年に引き下げるということは,ほかの重罰化あるいは処罰の拡張をよりスムーズに持っていくための方法としてはあり得なくはないというふうに考えております。 ○宮田委員 池田委員,橋爪委員の方から統計的なところで変わっていないではないかという,現状を維持しているではないかという御意見を頂戴いたしました。   しかしながら,現場で実際に示談をやって,例えば,被告人がきちんとお金を支払って被害者に誠意を示し,さらに,再犯防止のために入院治療等をきちんとするということを約し,被害者の方もそういうことであればということで執行猶予でも構わないという御意思を明確に示していただいているような場合であっても,今や執行猶予は付かなくなりました。   そういう現場の現実,現場での体感のような話を一言させていただきたかったということです。 ○井田座長 それでは,この第1の「6」の三つ目の「〇」についても,御意見を一通りお伺いしたということで,ここで一区切りとさせていただきまして,開会から時間も経過しましたので,10分の休憩を取りたいと思います。   (休     憩) ○井田座長 会議を再開いたします。   休憩前に引き続きまして,第1の「7 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に進みたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関連する資料について説明をお願いします。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「7 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」に関連する資料は,資料38から40までです。   資料38は,平成25年1月1日から令和2年6月30日までの間に起訴され,第一審で有罪判決が言い渡された強制性交等・準強制性交等・強姦・準強姦の事件のうち,判決書の罪となるべき事実において,被告人から見た被害者の立場が配偶者であることが明示された事件の判決書を把握できた範囲で収集し,認定された事実や量刑等の調査を行った結果を取りまとめたものです。   資料39は,公刊物に登載されている配偶者間における強姦罪の成立を認めた裁判例等について,事案の概要及び裁判所の判断をまとめたものです。   資料40は,諸外国における性犯罪規定のうち,性的行為が配偶者間等で行われた場合に関する規定の有無及びその内容を取りまとめたものであり,主に,第1回会合で配布した資料8を基に作成したものです。例えば,アメリカのミシガン州,フランス,カナダでは,配偶者間でも性犯罪が成立することを明示する規定が設けられていること,アメリカのカリフォルニア州では,強姦罪の成立要件について,相手方が配偶者か否かによって別の規定が設けられていること,他方,アメリカのニューヨーク州,イギリス,ドイツ,韓国では,配偶者間でも性犯罪が成立することを明示するような規定は設けられていないことなどが分かるものとなっております。   資料38から40までの御説明は以上です。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明について,何か御質問ございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。   この論点について御意見のある委員は,御発言をお願いしたいと思います。 ○山本委員 前回改正前の検討会の配偶者からの被害に関する意見を読み直していたのですけれども,通常の性交の延長上に起こることを想定された発言が多かったように感じました。端的に言って,私から見ると,DVなどの恐怖に支配されて性暴力,性的虐待を経験したことがない幸運な人たちによる議論だというふうに思っています。   判例でしか被害の状況を知ることがないので仕方がないのかもしれませんけれども,配偶者・パートナーからの被害を受けるということは,信頼関係の裏切りであり,最も安心できる場所である家庭内での安全感を消失させることになります。日本では,構成要件に相手方については配偶者を除くという言葉が書かれていないから明記する必要はないという問題ではないと思っています。   恐怖によって,親密な相手を支配するDVの中での性暴力,性虐待を踏まえた議論をしてほしいと思っています。私は,DVシェルターで看護師として勤務していたことがあります。 (具体的事例を紹介)   世界保健機構(WHO)の調査でも,パートナー以外からの性暴力によりうつ病になる女性は,うつ病になる割合がうつ病にならない女性の2.6倍,一方,パートナーからの被害の女性は,うつ病になる割合がうつ病にならない女性の2倍と,余り差がないことが調査からも明らかになっています。特に,パートナーからの性暴力の問題は,性的な関係を伴う関係であり,接触しやすく,加害を与えることが容易な立場にあるということが非常に問題です。ヒアリングで島岡まな先生が,フランス刑法では被害者の配偶者,被害者と内縁関係にある者,また民事連帯契約を結んでいる者からの被害は加重事由としてより重い罪になるというふうに説明していただきましたけれども,このように配偶者からの加害をより重い罪として罰するぐらいの規定を設けても良いのではないかと思います。解釈や運用で解決されるという議論もありましたけれども,パートナー間であること,付き合っていること,配偶者間であるということで性加害をしてもレイプにならないというような認識があります。   昨年,警察に講演に行ったとき,アメリカの裁判官への研修の中で使われるチェックシートを用いて意識を聞いたことがあります。その設問に,親しい間柄での性交はレイプになり得ない,マルですか,バツですかというふうに聞くものがあります。警察官の7割の方が,親しい間柄での性交はレイプになり得ないと答えていました。   このような認識は警察官だけではなく,一般社会でも広く共有されているのではないかと思われます。夫だから,パートナーだから,付き合っているから,彼氏だから,性加害ではないと言われることは,非常に多いです。そのように力によって支配して良いという社会を作り出しておいて,文言に書いていないから,そこにわざわざ記載する必要はないということ自体が,非常に被害者にとっては不条理なことだというふうに思っていますし,フランスのように,この配偶者,パートナーからの加害をより重く罰するということは合理的なのではないかと考えています。 ○齋藤委員 以前のお話にもありましたが,少なくとも司法関係者の皆様や刑法学者の皆様で配偶者や内縁などの関係にある者の間でも当然強制性交等罪などが成立すると考えていらっしゃるということについては理解したのですけれども,では,なぜ私たち支援者が接している配偶者や内縁などの関係にある方からの被害のほとんどの届出がされなくて,届け出ても被害届が受理されず,受理されたとしても起訴されず,起訴されたとしても無罪になるのかということがあります。   それは,立証の難しさであるという意見も聞いておりますが,届出さえされていないその背景に,先ほど山本委員も言っていましたけれども,パートナー間,配偶者や内縁などの関係にある場合には同意があるはずだというバイアスとか,それらの関係においても強制性交等罪などが成立することが明示されていないことが影響しているのではないかと思うことがあります。これは一般社会だけではなく,司法関係者の方々にもということです。   先ほどの山本委員の事例とほぼ同じような事例を私も経験したことがあります。ですから,恐らく,それは,日常的に起きていることなのだろうと思います。心理的なDVを受け,思考力や判断力を奪われた上で性交を強要される,理不尽なことで長時間罵られてその末に性交を強要される,何度か肋骨が折れるほどの暴力を受けていたけれども,性暴力の以前しばらくの期間は身体的なDVがなく,それがレイプだとはみなされなかった,などがありました。警察に届け出られていない被害も多かったです。また,これは配偶者間ではなく,交際関係の事例でしたけれども,一審で有罪でしたけれども二審は無罪となりました。それは,身体的なDVの立証ができなかったとか,事前に相手に好意があるという内容のメールを送っていたということがありましたが,DVでこれ以上の暴力を振るわれないために相手に好意のあるという内容のメールを送るということは普通に生じます。洗脳されたような状態になっていることも普通です。それは,多くの事例でそうですし,研究でも理解されていることですが,立証が難しいと罪にならないのだということをそのときに感じました。   丁寧に捜査がされたり,暴行・脅迫要件や抗拒不能の要件が変更されると起訴されるようになるかもしれませんが,要件が変更されたとしても,関係性に関するバイアスが社会や司法関係者,多くの人の間にあったならば状況は変わらないのではないかということを危惧しています。   性暴力は,もちろん被害者と加害者の関係性のいかんにかかわらず発生して,そして,被害者に深刻なダメージを与えますが,親密な関係性において,それは多くは裏切りとか,ほかのDVの暴力を伴っていて,かつ,継続的に行われていて,被害者の自尊心や人生に与える影響が重大で,そのような深刻な暴力のほとんどが犯罪として扱われていないという現状について,真摯に考える必要があるのではないかと思っております。   また,最後に,WHOを始め様々な機関では,現在,研究においてもそうですけれども,基本的にIPV(Intimate Partner Violence)という親密な関係性における暴力という言葉が使われています。それは,現在の社会において法的に規定された配偶者という関係性以外にも,同棲するパートナーであるとか,結婚という枠組みに入らない内縁関係,性的マイノリティー同士のパートナー間等であるとか,様々な親密な関係性が存在するために,IPVという言い方が,現在,行われているということもまた一緒に考えていただきたいなと思っております。 ○小島委員 被害が潜在化しているということを申し上げたいと思います。内閣府の「男女間における暴力に関する調査」というのがございまして,平成29年の調査では,無理やりに性交されたことがあった女性は7.8%,うち約4分の1は加害者が配偶者,元配偶者でした。一方で,配偶者からの暴力については,警察が相談を受けております。警察の相談件数は,昨年8万2,000件になっております。その中で犯罪として検挙された件数は,約9,000件に達しています。   暴行罪・傷害罪というのは検挙件数が非常に多いのですけれども,配偶者からの強姦についてはたった6件です。6件というのはどう考えても少ないと思います。私の実務経験の中でも,夫にレイプされ,何度も妊娠中絶をしたという被害者の女性が相当数おります。6件は少な過ぎると思います。   配偶者間の性犯罪については,DV法が制定されて対策が進んでいる割には,それほど進展していない分野だと認識しております。   意に反する性交を婚姻関係の存在だけで正当化することはできません。婚姻というのは,性的自由や性的統合性という性犯罪の保護法益,人格的利益を放棄する関係ではないと考えております。DVに対する厳格な対応が求められている今日において,夫婦間の強制性交等というのも他人間の場合と同様に処罰の対象になるのだということを条文に明記していただいて,配偶者間の性犯罪についての法的実践が進展することを期待したいと思います。 ○橋爪委員 まず,私個人の刑法解釈の理解を申し上げますと,配偶者間等のパートナー間の性行為であっても,構成要件の要件を満たす場合には,それ以外の場合と全く同じように強制性交等罪を構成すると考えております。すなわち,暴行・脅迫によって性交等を行えば,相手が配偶者であったとしても強制性交等罪が成立することは当然であると考えておりますし,私はこれが現在の学説における共通認識であると信じております。   このように,学説・実務において,配偶者間でも性犯罪が成立することが当然の共通了解になっているのであれば,これを,あえて刑法典に明文の規定として掲げる必要性は乏しいように思います。もちろん,先ほど御指摘がありましたように,夫婦間であれば性交に応じる義務があるという誤った認識があり,パートナーからの被害を被害者の方が十分に認識できないという事態があるならば,深刻に受け止めるべきですし,このような誤解を解消するための措置を講ずる必要があることは当然です。   もっとも,社会に対して一定のメッセージを発して誤解を解消するということは,刑法の役割を超えているような感じがします。刑法の改正作業に一般国民に対してメッセージを発する機能までを担わせるべきかについては,更に検討が必要であるように思います。むしろ,このためには,広報や研修等,別の方法を検討すべきであり,正に,この検討会自体が社会に対してメッセージを発信する重要な契機となっていますので,この検討会の取りまとめとして一定のメッセージを提示することも十分に考えられる選択肢だと思います。   ただ,先ほど,私は,配偶者間においては性犯罪が成立することは実務・学説の共通了解であると申し上げましたけれども,この点については,実は更に慎重な分析が必要かもしれません。と申しますのは,この機会に改めて裁判例を読み直したのですが,資料39の事例2として挙げられている東京高裁の判決を改めて確認いたしますと,趣旨が必ずしも明確ではないところもありますが,裁判所の判断として,婚姻中の夫婦については,互いに性交渉を求め,これに応ずべき関係があり,性交を求める権利の行使として違法性が阻却される余地についても言及があるなど,結論として強姦罪の成立を認めつつも,ある程度限定説に配慮しているような印象を与えます。   そして,このような判示内容を強調した場合,配偶者間では一般の場合と比べて,解釈論としても性犯罪の成立範囲が限定されるという理解が生ずる余地が全くないわけではないようにも思われます。   これは先ほど申し上げた私の認識に反しますが,仮に,実務・学説において,なお限定説が主張される可能性があり,この点について見解の一致がみられない状況であるならば,このような解釈上の疑義を解消するために,明文の規定を設けることも選択肢としてはあり得るように思われます。したがって,この点につきましては,まずは,現在の実務・学説に関する正確な分析が必要になると考えます。 ○和田委員 現行の刑法は明治時代に作られたものです。作られた当時から戦後ある程度の時期までは,伝統的な考え方として夫には性交する権利がある,妻には性交に応じる義務があるという考え方に立って,婚姻関係があるということだけで強姦罪を完全に排除するという強姦罪全面否定説と呼ばれる考え方が通説であったとされています。   現在は,橋爪委員御指摘のとおり,そのような考え方は一切ないというふうに考えられます。一切ないというのは,婚姻関係があるということだけで直ちに強制性交等罪が全く成立しなくなるという考え方は取られていないと思います。取られていないと思いますけれども,伝統的にそのような考え方があったことを引きずっていることは間違いなく,全面的に否定するという見解はないとしても,やはり,婚姻関係があることによって何らかの限定が生じる,そういう考え方,あるいはそういう印象や感覚を持っている人はいると考えられます。   婚姻関係があることだけで強制性交等罪が成立しなくなるという見解はありませんけれども,婚姻関係をある程度特別扱いする見解はまだ少数ながら残っているということになります。   そういう状況を前提にいたしますと,やはり,伝統的な刑法の専門家の感覚からすると,こういう場合は当然犯罪が成立しますという規定を置くことは極めて不自然であり,ほかに刑法典の中には例がないものですので,極めて強い違和感を覚えるところではありますけれども,結論としては,私は,ここに限っては,婚姻関係があることによって解釈論上の影響を受けないということが条文上分かるような,そういう規定を設けるべきだと思います。   それは,単にメッセージという意味もありますけれども,啓蒙やその他の方法によるより条文に書くのが一番強いメッセージになるわけですので,その機能を,やはりここでは重視すべきだと思いますが,それを超えて法的な議論としても,橋爪委員御指摘のとおり,婚姻関係があることによってどういう影響が性犯罪との関係であるのか,それは実務上どうなっているのか,解釈論上真にどう考えるべきなのかということを改めて確認した上で,その疑義を払拭するということを強く目指して,そういう規定を置くべきだろうというふうに考えます。   どういう規定の仕方にするかということが,更にその先,問題になりますが,強制性交等罪の客体の中に「(婚姻関係にある者を含む。)」というふうに書く方法もあるでしょうし,あるいは,別途規定を設けて婚姻関係があることによって176条,177条の罪が成立しないものと解することはできないというような条文を置くこともあるでしょうし,ほかの方法もあるでしょう。実際,具体的にどういう規定を置くかということ自体,かなり多様であり得ると思いますので,先ほど言いましたような前提となる法的議論の整理をきちんとした上で,結論としては何らかの形でそのような規定を設けていくという方向で考えて,具体的な規定の置き方について,細かく議論するというのが良いのではないかというふうに考えております。 ○渡邊委員 実務の状況につきまして,簡単に御説明したいと思います。   まず,検察・警察におきましても,御案内のとおり,配偶者だから強制性交等罪が成立しないというような考え方は取っておりません。現に起訴例があるというところから見てお分かりかと思います。ただ,実際に起訴例が少ない理由ですけれども,加害者の側から同意があった,あるいは,同意があると思ったという弁解がなされることが極めて多いですね。同意がなかったということについては,被害者の方によくお話を聞くことで,ある程度,立証可能な場合が多いわけでございますけれども,同意があると思っていたという弁解を覆すに足る,つまり,加害者側の方はそのように思っていたということが不合理であるということを立証することが困難な場合があるということが,起訴例が少ない理由ではないかと思います。   そういう意味では,加害者側の人たちの意識が変わっていくことが恐らく必要なのであって,そのことが条文に書くことによって,直ちに影響力があるのか,それ以外のより直接的な方法,教育,広報とかそういったものがより効果的なのか,その辺は検討の余地があるのではないかと思います。 ○中川委員 全ての裁判官に聞いたわけではないので,多くの裁判官の感覚として私が理解している限りで申し上げたいというふうに思います。   強制性交等罪の条文上,被害者と行為者の間に婚姻関係や内縁関係などの関係性がないことが要求されているわけではないので,実際に配偶者間でも強制性交等罪が認められた裁判例もあります。   事例自体少なくて,一般的な考え方を御紹介するのはなかなか難しいのですけれども,婚姻関係や内縁関係があること自体が強制性交等罪の成立を妨げる事情になるというような考え方は取られていないというふうに思われます。 ○羽石委員 先ほど,山本委員から警察官へのアンケートの中で親しい間柄での性行為はレイプになり得ないということで,7割の警察官が丸を付けたという御紹介がありましたけれども,少し質問が難しいのではないかという気もしていまして,親しい間柄での性行為ということでまとめて読んでしまうと,性行為のときにも親しい,仲の良い関係が続いていたという意味で丸を付けた警察官もいたのかなと思います。例えば,親しい間柄であっても暴行・脅迫を用いた性行為は犯罪であるという問いに対しては,多分全ての警察官が丸であるというふうに回答すると思いますので,言いたいことは先ほど渡邊委員からもおっしゃっていただきましたけれども,警察も検察と同じで,単に被害者の方が加害者の方の配偶者であるという理由だけで,被害ではないとして,被害届を受理しないということはないと思っております。   起訴の件数も有罪になった件数も少ないということが先ほど御紹介されましたけれども,確かに,警察から検察官に送致した事件も大体年間に数件程度なので,立件されているものは,数としては少ないですけれども,それは,構成要件を満たさないから排除しているということよりも,立証が難しいことですとか,被害者の方の被害申告の意思ですとか,いろいろな事情が絡み合っての結果ではないだろうかというふうに思っております。 ○木村委員 配偶者の件なのですけれども,私も,橋爪委員や和田委員と似た感覚を持っておりまして,刑法をやっている人間からすると,強制性交等罪の相手方に配偶者等が入るのは当たり前ではないかというふうに今までは思っていたのです。ただ,この資料38の裁判例の少なさであるとか,先ほどから伺っている実態を考えると,これは何らかの手当てが恐らく必要なのだろうなというふうには思っております。   それと,もう1点,これは,国際的にはかなり批判の対象になっている事項なのではないかと認識しております。海外とは立法の形式が違いますので,先ほど御紹介いただいたような配偶者が入るのだとわざわざ書くかどうかというのは国によって違いはあるのだと思うのですけれども,比較的この分野も国際的に承認されることが重要ではないかと思うので,書かざるを得ないというのも一つあるのではないかと思います。ただ,これは,和田委員がおっしゃったように,書き方はかなり慎重に検討する必要があると思いますけれども,何らかの形で配偶者を排除していないのだということは示す必要があると思います。 ○上谷委員 私は,この論点が出たときに,非常に難しいといいますか,立証が難しいだろうなということで,明示してもしなくても余り現状が変わらないかもしれないという気持ちがあったので,どうすべきなのだろうと思っていました。今回頂いた資料39の裁判例を読んで,配偶者間の性被害でこういった公判になった経験がなかったのでびっくりしたのですけれども,性交に応じる義務があるとか,あと婚姻関係が破綻しているかどうかというのを刑事事件の中で検討していたりとか,そういうのを見て,いろんな違和感を覚えました。   ここで少しお話ししたいのは,私は,離婚事件も多くて,常時10件ぐらい抱えているのですけれども,そういった中で,やはり,性の問題というのは,離婚理由にすごく大きく影響を与えていまして,性の不一致というのが,かなり夫婦関係に影響を与えているのは間違いないのですね。例えば,DVを受けている人でも,妻側の話を聞くと,あの人のことは嫌いだったけれども,子供を授けてもらったことには感謝しているというような話が結構あって,やはり,子供を授けて育てていくということと絡んでいるので,なかなか,大胆に刑法が入ってくるというのも難しい面があるかもしれないと思っています。   また,最近は,仕事が忙し過ぎるとかそういうこともあるのかもしれないのですけれども,夫が妊娠に協力的ではないということで,妻の方が非常に積極的に迫っていて夫が拒絶することで夫婦仲が悪くなっていくというようなことも結構あります。妻の方からいろいろなことをして,押し倒したりしているのだけれども応じてくれないというような話もあり,男女逆転していたら普通にレイプだなと思える場面も,実はそれほど少なくないなということを感じています。   ですので,もしかすると,事例的な調査が足りていないのかもしれないですけれども,民法上の問題もあるところで,あと裁判実務とか,捜査の実務などについてももう少し詳しく知りたいなと思ったところです。 ○宮田委員 渡邊委員から立証の問題について御指摘がありましたけれども,これは,同意があると言われた場合の立証だけではなく,証拠そのものがないという問題があると思います。被害に遭ったときに夫と妻が同居している場合に,直ちに被害申告ができないというような場合も多かろうと思います。そうなったとき,暴行や傷害であれば,診断書によって,事後的でもある程度の被害を証明し得るわけですけれども,レイプのところについては,なかなか証明できないことはあるかと思います。そういう意味で,本当に困っている配偶者を救うためには,例えば,DV防止法の充実,そこでの支援の充実等を図ることの方がむしろ重要なのではないだろうかと考えました。   また,証拠を要求する必要性という点でございますけれども,これは,一般化できるかどうかは別としても,子供への虐待とか自分に対する強制的な性行為があったということで離婚調停を有利に進めようとして,場合によっては警察を利用するというふうな案件なども存在しています。そういう意味で,配偶者の間の事件というのは,夫婦が離婚しようとするなど,様々な新しい夫婦間の関係を作っていく事情が出てきたときに虚偽が述べられる可能性のあるものであり,ある意味において警察が慎重に捜査をする,検察官が慎重に起訴するかどうかを判断するということは,十分に合理性があることなのではないかと思います。   そして,配偶者という形で明示するというお考えを和田委員が示されましたけれども,例えば,デートレイプという言葉もありますし,あるいは,先ほどの山本委員からの紹介等では,親しいパートナーの間でのレイプの問題,もともと親しかったパートナーの間の,あるいは,元恋人などの間のレイプのお話などもあったかと思います。そうすると,もともと親しい関係であった者の間のレイプということを考えたときに,ここで特に配偶者だけを取り出して条文上明示するということが得策なのかなということを考えたところでございます。 ○山本委員 警察の研修の中での設問に関してなのですけれども,「親しい間柄での性交」になりますので,そこは聞き取りづらかったかもしれないので,訂正させていただきます。   あと,DVの中での性暴力・性的虐待・IPV(Intimate Partner Violence)の中でのということを齋藤委員がおっしゃられていたのですけれども,このような権力・支配構造の下で被害が起こっているということが評価されるような考えがあっても良いのではないかなというふうに思っています。というのは,やはり,暴行・脅迫がなくても,加害者は加害をすることが非常にたやすい状態になっている。それは,被害を受けた人が恐怖によって支配されているからであるし,そのような恐怖を与えることを虐待的に行って,その関係性を完成させてしまっているからということであるのですね。それを,暴行・脅迫のみで評価するというのは非常に難しいと思います。被害を受けた人の中には婚姻関係もなく,子供もなく,内縁関係もなく,デートDVのような形であったのにもかかわらず,何年間も加害者によって苦しめられて,望まない妊娠も強いられて,かなりひどい性的な暴行を継続的に受けていたというケースもあります。   それを,DV防止法だけで裁けるのかといえば,疑問です。私としてはすごく重い犯罪だというふうに思うのですね。どうしてこのような,人を虐待的に使用して,支配して,加害をしていることを刑法の罪として裁けないのかということに関しては,罪として刑法の中に入れてもらいたいと思いますし,被害者の方もそれを望むのではないかなということが,支援してきた私からの考えになります。 ○井田座長 この論点についても一通り御意見をお伺いできたと思います。時間の関係もございますので,次の第1の「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に移りたいと思います。   まず,事務当局から,本日の配布資料のうち,主にこの論点に関係するものについて説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 本日の配布資料のうち,主に第1の「8 性的姿態の撮影行為に関する処罰規定の在り方」に関連する資料は,資料41から45までです。   資料41は,警察庁の資料を基に作成した盗撮事犯の検挙件数等に関する資料です。各都道府県のいわゆる迷惑防止条例違反のうち,盗撮事犯については,令和元年の検挙件数は3,953件であり,10年前の平成22年と比べて2倍以上であったこと,令和元年に検挙された盗撮事犯のうち,2,871件,つまり,約7割の事件でスマートフォンが犯行に用いられていたことなどが記載されております。   資料42は,公刊物に登載されている裁判例のうち,性的な画像の記録媒体等の没収,還付等が問題となったものについて,事案の概要及び裁判所の判断をまとめたものです。   資料43は,諸外国の法制に関する資料であり,アメリカ合衆国法典のほか,カリフォルニア州・ワシントン州・バージニア州,イギリス,フランス,ドイツ,韓国及びカナダの性的姿態の撮影行為等を処罰する規定を抜粋し,法務省において仮訳したものです。   資料44及び45は,第1の「8」の論点と関係すると思われる条文を抜粋したものであり,資料44には,刑法の没収に関する規定,刑事訴訟法の押収物の還付や没収物の処分に関する規定,その他性的姿態の撮影等の処罰に関連し得る特別法の規定を記載しており,資料45には,各都道府県におけるいわゆる迷惑防止条例の性的姿態の撮影行為に関する規定の例として,東京都,大阪府,広島県の各条例を記載しております。   なお,各条例を見ますと,人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影する行為がどのような場所で行われた場合に処罰対象とするかについて違いがあり,「公共の場所」,「公共の乗物」については,東京都条例,大阪府条例,広島県条例のいずれにおいても処罰対象とされておりますが,事務所やタクシーなど,「不特定又は多数の者が利用し,又は出入りする場所又は乗物」については,東京都条例及び大阪府条例においては処罰対象とされる一方,広島県条例においては処罰対象とされておらず,「住居」については,東京都条例においては処罰対象とされる一方,大阪府条例,広島県条例においては処罰対象とされておりません。   資料41から45の御説明は以上でございます。 ○井田座長 ただ今の事務当局からの説明について何か御質問ございますか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。第1の「8」には,「〇」で示した項目が二つあります。これを順番に議論していきたいと思います。   なお,本日御欠席の小西委員から提出されている意見書は,第1の「8」に関連するものでありますので,適宜御参照いただければと思います。   それでは,一つ目の「〇」の「他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流出させる行為を処罰する規定を設けるべきか」について,御意見のある方は,御発言お願いしたいと思います。 ○上谷委員 私が所属する任意団体であります犯罪被害者支援弁護士フォーラムの方で,盗撮罪が必要だということで条文案を作って,数年前から法務省の方にお願いをしていたところですので,少し説明させていただきます。   まず,このいわゆる盗撮罪という規定を設ける必要性についてですが,今,事務当局から説明された資料にもありますように,駅,トイレ,学校,会社,塾など様々なところで盗撮が行われています。主に都道府県条例で規制されているのですけれども,そもそも,これらの条例は,現代のように一人1台スマートフォンなどのカメラを持ち歩いていることが想定されていない古い時代に作られたものであって,その後,改正が重ねられてはいるものの,規制対象や刑の重さが異なるため,不都合が生じています。よって,全国一律に規定する法律が必要だと考えています。   軽犯罪法で取り締まることができる場合もありますが,これは,とても刑が軽い。また,建造物侵入罪で処罰されることもありますが,この場合は,盗撮された人が被害者にはならないという問題点があります。   最近は,スマートフォンや様々な機器の発達によって,極めて広範囲に盗撮が行われています。私の方から航空連合という航空業界を代表する労働組合のアンケートを提出させていただいています。また,航空連合から盗撮罪創設の要請書も法務大臣宛てに提出されています。航空業界では,客室乗務員,いわゆるCAさんに対する機内での盗撮が非常に問題となっているのですけれども,空を飛んでいるために犯罪地の特定が難しく,どの条例を適用するかが定まらないために,盗撮犯罪を取り締まれないという弊害が起きています。また,このほかにも,平成29年3月の男女共同参画会議の資料も提出しているのですけれども,アダルトビデオ出演強要問題のところでも意に反する契約を結ばされて,同意なき撮影がされてビデオが売られるという問題も生じています。そしてまた,最近では,スポーツ界でも盗撮が問題となっていて,トップアスリートから中高生の競技者に至るまで,いわゆる透視ですね,赤外線カメラなどで撮影する行為などや,殊更に胸やお尻を強調した写真を撮って,それにわいせつなコメントをつけてネット上にさらすといった行為が問題になっております。   私個人の経験としては,塾や学校,マッサージ店などでの盗撮事案はとても多いと感じています。機器の発達で,盗撮がより巧妙になる一方で,簡単に画像が流出されて回収が非常に困難であるということから,被害結果が極めて重大となっており,法律の創設の必要性を実感しているところです。   性的な姿態の範囲については議論となると思われるのですけれども,ここで1点言わせていただくと,構成要件としてわいせつ目的を必要とはしないでいただきたいなと思っております。強制わいせつ罪でもわいせつ目的は不要とされておりますし,撮影された被害者であれば,わいせつ目的かどうかにかかわらず,被害結果の重大性は変わりませんので,目的犯とはしないでいただきたいなと思います。   同意なく撮影する行為というのも,大きく分けて現在の条例で規制されているような,いわゆる盗撮と,強制性交等などの場面を撮影する行為の二つの場面があるのかなと思っています。画像を流出させる行為というのは,場合によっては盗撮そのものよりも悪質で,被害者の被害回復を妨げる大きな要因になっていることは明らかであるので,このような行為についても是非とも法律で規制していただきたいと思っています。 ○山本委員 様々な団体からの要望書,そして,事例にあるように,盗撮罪というのが,今この日本で必要とされているであろうというところは,皆さんも一致されているのではないかなと思います。私からは,知らずに盗撮される行為と,他人に見られたくない姿態の撮影をされて,それを加害者が持っていて,脅して被害者をコントロールする行為の悪質さを強調したいと思います。   動画を撮ったり,撮影をして,それを基に脅すというのがほぼセットのようにかなり多く行われているという実態があります。ある被害者の方ですけれども,取引先の相手から同意のない性行為を強いられて,その様子を知らない間に写真と動画に撮られるという被害を受けていました。このことはもうなかったことにしたいと思っていたので,誰にも相談せずに出社していたのですけれども,ある日,オフィスに置いていた社内用のスマートフォン,加害者とも前に連絡を取っていたからなのですが,そのスマートフォンがピコンと鳴って,見てみると自分の性的な画像が送られてきていて映っていた。顔を上げると,そこに加害者がいた。こっちを向いてにやにや笑っていた。もう非常にパニックになったと語ってくれました。   加害者は,彼女を待ち伏せ,画像をばらされたくなかったらと自宅に連れ込み,被害者は,再度被害に遭い,同意のない撮影をされました。その後も,加害者の指示どおりの場所に行くように言われ,彼女は,会いに行ったら被害に遭う,また撮られるかもしれないと思いながらも,混乱し,加害者の指示どおりにせざるを得ない状況になり,数万円ずつ財布から抜き取られるというような,経済的な被害にも遭っていましたし,生活もだんだんとコントロールされていきました。被害者は,また呼出しがあったらと恐怖を感じますし,また被害の画像が送られてきたりしたら,それを見るということ自体も非常にショックですし,スマートフォンを見たくない,触りたくない,加害者に会いたくない,だけれどもメッセージを受け取らなければ,そういう何をするか分からない相手が,どう出てくるか分からない。そういう恐怖の中で諦めと無力感で何年も過ごされて,あることをきっかけにその後逃げることができたのですけれども,警察に訴えるということはもう難しかった。   だから,画像を使う脅迫・強要行為,そして,それがセットで脅しに使われているということに関して,もっと議論され,より悪質な行為として取り締まっても良いのではないかなというのが私の意見です。 ○齋藤委員 盗撮が被害者にどういう影響を与えるのかということについて意見をお話いたします。性的姿態というのをいつどこで誰に見られるかというのは,自分が決めて良いことのはずだと思います。私は,時々,気付かないうちに撮られたものなら被害者の心理に余り影響しないのではないかとか,トイレなどで顔が写っていない状態なら被害者だと分からないのだからショックが少ないのではないかと尋ねられることがあるのですけれども,そんなわけはなく,顔が写っていなくとも被害者にとってそれは自分の写真であって,自分の同意のある相手にしかさらさない体の部分を知らない他人が見ているとか,自分の体が知らない間に他人に性的に利用されているというのはとても気持ちが悪く,恐怖を抱く現象です。   ましてや,それが拡散されたならば,外に出ることが怖くなるほどの恐怖で,その写真や動画を見る人がいる限り,被害者は被害にさらされ続けるということになります。同意のない撮影とか,その画像や動画が他人の手の中に存在するというのは,被害者を苦しめることで,尊厳を侵害することだと言えると思います。 (具体的事例を紹介)   例えば,町中で声をかけられてアルバイトに行って,最初は普通に撮影したけれども,年上の男性たちに囲まれて下着を見せてと言われて,結果的に脅されてアダルトビデオの撮影をされるというようなこともあります。生徒や学生たちが複数人の同級生に囲まれて撮影されながらレイプされるということもあり,そして,その動画を同級生たちに拡散された場合,その地域で生きること自体ができなくなります。今や性被害の多くは撮影がセットになっています。同意のない撮影には,性行為にも撮影にも同意していないとか,性行為に同意して撮影に同意していないとか,トイレとか階段とか塾とか大学内で盗撮されるとか,脅迫を用いて撮影することに同意させられるとか,いろいろなことがありますけれども,いずれにしても同意なく性的姿態を撮影されるということ自体が,被害者の尊厳を侵害すると,被害者心理の専門の立場からは考えています。   少し分けて言うことができないので,まとめてお話することになってしまうかもしれないのですけれども,性的姿態をいつどこで誰に見られるかはその人が決めて良いことだと考えるならば,性的姿態の画像が同意していない相手の手の中にあるというのは,最初にも言ったとおり,被害者は被害を受け続けるということになりますし,動画も画像も拡散が現在容易で,LINEとかSNSを通じて本当にいろいろな人に送られてしまうということがあります。なので,是非,没収とか消去まで含めてきちんと検討いただきたいなと思っております。 ○小島委員 私も全国一律の処罰規定を設けるべきだと考えております。いわゆるリベンジポルノ法というのがございますけれども,これは,盗撮自体が犯罪とされていないことや,先ほど齋藤委員からも御指摘ありましたように,拡散された動画の回収や削除という方法がございません。没収の論点とも重なりますが,性犯罪の状況を撮影したビデオだとかスマートフォンだとか,そういうものについては物の没収はできるのですけれども,例えば,クラウドに移動されてしまうともう何もできないと。現状としては,被告人から,放棄を取り付ける形でやっていますが,被告人が放棄しない場合はそれが残ってしまう。没収の問題も非常に深刻だと考えております。   先ほど,上谷委員もおっしゃいましたように,トップアスリートのスポーツ選手たちも盗撮の被害に遭っております。盗撮のサイトを委員の方々にお見せしたいくらいなのですけれども,本当に目を覆うような無数の被害が出ておりまして,トップアスリートがサイト上で侮辱されております。これは,何とかしなければいけないと思っております。確かに条例はございますけれども,種々限界があって,都道府県によって内容がばらばらでございます。刑罰もやはり軽いと思います。この問題については,是非,今回議論をまとめて,刑法の犯罪規定として設けていくということを検討していただきたいと思います。   この件については,伊藤和子弁護士がデジタル性暴力ということで,動画の流出について,これを防止する法改正を求めるということで,記事を書いておりますので,御覧になっていただければと思います。 ○橋爪委員 私も,性的な姿態を同意なく撮影する行為については,撮影されたデータが固定され,それが拡散する危険性があることに鑑みますと,被害者の利益を重大に侵害する行為であり,条例レベルの対応では必ずしも十分ではなく,刑法典としてこれを処罰する必要性が高いと考えております。特に,撮影されたデータやその記録媒体を没収・消去の対象にするためにも,その前提として撮影行為を処罰対象に含める必要性は高いと思います。以下,3点,簡単に思うところを申し上げます。   まず,第1点目ですが,具体的に刑罰法規を検討するに際しましては,処罰根拠,すなわち保護法益を明確にすることが必要であると思います。まずは保護法益を確定することによって,それに基づいて構成要件の内容を具体化することが可能になります。   現段階の私なりの理解を申し上げますと,ここでは性的な姿態が撮影され,それがデータとして固定化されることが本人の性的な自己決定を大きく損ない,ひいては本人に羞恥心,屈辱感,重大な不安などの感情を引き起こす危険性が類型的に高いことを重視する必要があると考えます。   すなわち,立法論としましては,プライバシーを侵害する犯罪という観点から撮影行為を規制することもあり得ると思うのですが,むしろ問題となる被害の実態に鑑みますと,プライバシー侵害という観点ではなくて,性的な被害を惹起する犯罪としてこれを位置付けるべきであるように思います。そして,処罰規定の内容につきましても,飽くまでもこのような処罰根拠・保護法益に基づき,撮影対象,撮影場所,行為態様などに関して,被害者の性的な利益を侵害する行為といえるかという観点から個別具体的に検討する必要があると思います。   第2点目ですが,撮影という行為の侵害性に着目する必要があると考えます。すなわち,他人の性的姿態を同意なく見るだけではなく,性的な姿態を本人の同意なく撮影することによって,視覚的情報が固定化され,また,データが拡散する危険性が生じます。このような危険性は,単に見る行為からは類型的に生じません。このように,撮影行為には性的姿態を見るだけの行為とは異なる次元の法益侵害性が認められる以上,撮影行為に着目した処罰規定を検討する必要があると考えます。   第3点目として,アダルトビデオの出演強要問題について簡単に言及しておきたいと存じます。問題を正確に理解していないかもしれませんが,この問題は,盗撮の問題とは異なる側面を有する問題であるような印象を持っております。と申しますのは,盗撮行為であれば,性行為については同意があるけれども,撮影行為については同意がないというケースがままあり得るわけであり,それゆえ撮影行為を独立に処罰することの要否が問題となるわけです。   しかし,アダルトビデオの出演強要につきましては,性的行為と撮影行為が密接不可分な関係にあることから,性行為については同意があるけれども,撮影に限って同意がないというケースはほとんど考え難いような気がしまして,むしろ,性行為自体についても同意の有無について疑問が生ずる事件が含まれているように思われます。そのような事例につきましては,むしろ,強制性交等罪や準強制性交等罪の適用についても問題にする余地があると思います。例えば,被害者が抗拒不能の状態にあることに乗じて,被害者に服を脱ぐように命じて,裸の写真を撮影するような行為は,服を脱がせて撮影する行為全体を評価した上で,準強制わいせつ罪の適用を検討する余地があると思われます。   このように,アダルトビデオの出演の場合,性的行為に応ずることと撮影に応ずることは同一の意思決定によって行われる場合が多いことから,まずは性的行為自体についての同意・不同意の限界を明確化する作業が必要になりますし,このような意味においては前回の検討会で議論しましたように,暴行・脅迫要件や抗拒不能要件の意義についての議論を踏まえながら,更に性的行為自体に関する同意・不同意の限界について検討する必要があると考えます。 ○宮田委員 同意がないような状態での撮影が,今,問題になっているわけですけれども,同意があっても,瑕疵がある場合はあります。例えば,顔は写さないと言っていたけれども,顔まで写された。あるいは,自分が個人で持っておくからと言われて撮影に応じたら拡散されたというような場合に,これを同意と言うのか,言わないのかという問題が生じる。また,リベンジポルノ法では,本人の同意があったものであっても,それが意に反して拡散された場合には処罰されるということになっておりまして,同意があれば処罰の対象にならないものになってしまうのかという議論もあり得ると思います。   今,橋爪委員が,アダルトビデオについて,性行為の強要まであれば強制性交等罪等の成立があるのではないかとおっしゃいましたけれども,その辺についての了解もある,撮影についても了解がある,しかしながら,その販売範囲などについて説明が全然違っていたというふうな事例,つまり,こんなに広く拡散されるとは思わなかった,特定の人物にしか見られないと思って撮影に同意したようなことも起こり得ます。   そういう意味で,性的画像については,私は,同意なく撮影される盗撮が当罰性がないと言うつもりはありませんけれども,例えば,本当に性的な行為に及んでいない,写真の中で顔だけ別人の顔を張り付ける,そういう合成写真の技術なども非常に発達しておりますので,自分が性的な対象物としていつのまにかインターネット上に情報がさらされているということなども頻繁に起きてくることでございますので,まず,今般,デジタル庁もできることですし,個人情報のコントロールという意味において,個人を特定できる情報,取り分け性的な情報に対して,それを加害と言おうが言うまいが,これは被害だと思った人,こんな情報をさらされてはかなわないと思う人が容易にアクセスできるような方策を直ちに充実させることの方が重要であるように思っています。   そういう意味で,犯罪として処罰するというよりも,いや,犯罪として成立するか否かを考える前に,被害者の救済がどうやったらできるのかというところをもっと本当は考えなくてはいけないのではないかと思っているというところです。 ○川出委員 一定の盗撮行為を処罰の対象とすべきだということについては,ほぼ異論のないところだと思います。その場合の保護法益を,性的自己決定権とするかプライバシーとするかについては意見が分かれるところだと思いますが,いずれの捉え方をするにしても,他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為には,撮影場所,撮影態様,撮影対象等において多様なものが含まれます。それゆえに,そのうちのどのような行為を処罰対象とすべきなのか,また,処罰規定を設ける場合に,他の現行法上の規定との関係をどのように考えるかということを丁寧に検討する必要があると思います。   これまでの御意見の中で処罰規定を設ける必要があるとされる様々な事案が指摘されていますが,それらは大きくは三つの類型に分けられるのではないかと思います。   第1は,被害者に気付かれることなく密かに性的姿態を撮影する類型です。この場合は,被害者には撮影されていることについて認識がないわけですが,仮に認識していたとすれば同意しなかったであろうと推定されるという意味で,同意のない撮影ということになります。ここには,典型的な盗撮のほか,性行為には同意しているけれども,それを撮影されているとは思っていなかったという事案なども含まれることになります。   第2は,強制性交等罪等の犯行状況を撮影する類型です。この類型には,被害者が撮影を認識している場合としていない場合の両方がありますけれども,被害者は性交等について同意しておらず,そうである以上は撮影についても当然に同意しておりませんので,同意のない撮影ということになります。   それから第3は,アダルトビデオの出演強要のような事案で,欺罔や威迫によって,性的な姿態を撮影することに同意させられるという類型になります。この類型につきましては,先ほど橋爪委員から御指摘があったように,欺罔や威迫による性行為等についても広く強制性交等罪等が成立するという規定を設ければ,第2の類型として処理することが可能なのですが,性行為等については,そこまでカバーする処罰規定を設けない場合には,撮影について同意に瑕疵があるということで,同意のない撮影として処罰の対象にすることも考えられるのではないかと思います。また,この類型は,第2の類型とは違って,性行為等を行う者と撮影する者が別で,撮影者の主目的は撮影自体にありますので,第2の類型とは別個の類型として考えた方が実態に合うようにも思います。   ここでは三つの類型を挙げましたが,これ以外の類型も考えられるかもしれません。いずれにしましても,処罰規定の創設を検討するに当たっては,処罰すべき類型を抽出した上で,その類型ごとに要件等を検討するという手順を踏む必要があるかと思います。 ○井田座長 もう時間がまいりましたし,この論点についてもかなりいろいろな御意見をお伺いできましたので,本日の議論につきましてはここまでとさせていただきたいと思います。   この後検討することを予定しておりました第1の「8」の二つ目の「〇」,「撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか」については,次回,第7回の会合において議論することとし,次回の会合では,第1の「8」に加えて,第2の「1 公訴時効の在り方」,「3 いわゆるレイプシールドの在り方」,「4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方」についての検討を行いたいと思うのですけれども,そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのようにさせていただきます。   これで,本日予定しておりました議事は全て終了いたしました。   本日の配布資料のうち資料の34及び38は具体的事例の内容に関するものでありますので,関係者のプライバシー保護の観点から非公表とさせていただきたいと思います。   また,齋藤委員の方から提出された資料については,公表を希望されないということをあらかじめ承っています。また,御発言の中に一部非公表としたいということがございました。また,小西委員の意見書に記載されている事例については,関係者のプライバシー保護の観点から,これも非公表とさせていただきたいと思います。   また,山本委員の御発言のうち,一部非公表としたい旨の御発言がございました。その他,委員の皆様の御発言の中で職務上取り扱われた事例に関する御発言もございましたので,委員の御意向を確認させていただいた上で,非公表とすべきものがあれば,該当部分については非公表としたいと思います。   その具体的な範囲や議事録上にどういうふうに記載するか等については,委員の方との個々の調整もございますので,私に御一任いただきたいと思います。   そのようなこととでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのような取扱いとさせていただきます。   では,次回の予定について,事務当局から説明いただきます。 ○岡田参事官 第7回会合は,10月20日火曜日午前9時30分から開催を予定しております。   次回会合の方式については,追って,事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会といたします。長時間にわたり,本当にありがとうございました。