法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和2年9月11日(金)自 午後1時30分                     至 午後5時55分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 所定の時刻になりましたので,法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会,第3回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   なお,本日は垣内幹事が御欠席と聞いております。   まず,前回の部会後に委員等の交代がございましたので,御報告をいたします。   竹内委員が退任され,堂薗幹事が委員として就任されるとともに,新たに内野幹事が就任されました。また,川村関係官が退任され,新たに伊藤関係官が就任されました。さらに,福田関係官が退任され,新たに波多野関係官が就任されました。   このたび新たに就任された内野幹事,伊藤関係官及び波多野関係官におかれましては,簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。その場でお名前と御所属の御紹介をお願いいたします。 (幹事等の自己紹介につき省略) ○山本(和)部会長 よろしくお願いいたします。   次に,本日の審議に入ります前に,まず配布資料の説明を事務局からお願いいたします。 ○大野幹事 御説明いたします。   本日は,部会資料5「口頭弁論,争点整理手続等,特別な訴訟手続,証人尋問等」を配布しております。部会資料5については,後ほど審議いただく中で事務当局から説明をさせていただく予定でございます。なお,部会資料5には別表がございます。こちらは,部会資料5のうち「第3 特別な訴訟手続」に関係するものでございますので,該当箇所について御議論いただく際に適宜御参照いただければと存じます。   次に,参考資料9として「民事訴訟手続のIT化に向けた取組」と題する資料を配布しております。こちらは,現在いわゆるフェーズ1として現行法の下で行われている取組の状況につきまして,最高裁事務総局が作成された資料でございます。内容につきましては後ほど富澤幹事から御紹介を頂く予定でございます。   また,本日は部会の今後の日程について,現時点での最新版を配布しております。第1回で御案内した日程に加え,来年度の日程の一部をお示しさせていただきました。その後の日程については,御議論の状況を踏まえつつ,追って御案内させていただく予定でございます。   配布資料は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,部会資料5についての検討に入る前に,現在行われているフェーズ1の運用状況について,最高裁判所からお話を伺いたいと思います。   それでは,富澤幹事からお願いいたします。 ○富澤幹事 最高裁の富澤でございます。   それでは,私の方からウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用について簡単に御説明の方をさせていただきたいと思います。   参考資料9を御覧いただきながら,説明の方を聞いていただけると幸いです。   第1回部会でも法務省の方から御説明がありましたとおり,ITを利用した本格的な取組が急速に進展しているという諸外国の状況を踏まえ,我が国におきましても民事訴訟手続のIT化を更に進めることが重要な課題とされております。   現に,未来投資戦略2018では,司法府には2019年度,すなわち昨年度から現行法の下でのウェブ会議等を積極的に活用する争点整理等の運用を開始した上で,争点整理等の充実を図ることを期待するとされていたところでございます。   このような御指摘も踏まえて,最高裁におきましては全国の地方裁判所に民事訴訟手続のIT化に関する検討体,ITPTと申しておりますけれども,そのような検討体を設置いたしまして,パソコン等を配布してウェブ会議を活用して争点整理を充実したものにするための検討を進めてまいりました。   そして,これらのITPTにおける検討結果を踏まえまして,本年2月3日から知的財産高等裁判所及び高等裁判所所在地の地方裁判所本庁8庁の合計9庁におきまして,次いで,本年5月11日から横浜,さいたま,千葉,京都及び神戸の地方裁判所本庁5庁におきまして,新たな運用を開始したところでございます。   なお,東京地裁及び大阪地裁につきましては,非常に規模の大きい庁であるということもありまして,まずは一部の部から運用の方を開始したところでございます。   この新たな運用につきましては,ウェブ会議,すなわち一般のインターネット回線を介したビデオ通話機能を活用し,当事者が裁判所に出頭することなく裁判官や相手方当事者の顔を見ながら争点整理を行うというものでございます。アプリはマイクロソフト社のTeamsを使用しております。   なお,ウェブ会議では,音声や映像だけでなく文字やファイル等を用いてリアルタイムのコミュニケーションを図ることができるというところがございますので,このような機能も活用して争点整理を進めるといったことも行っているところでございます。   この新たな運用における手続のイメージにつきましては,お手元の資料の写真の方を御覧いただければと思います。下のところにある2枚の写真でございます。この2枚の写真で使用しております機材は実際の運用で使っているものと同じものでございまして,カメラ内蔵のノートパソコン,大型ディスプレイ,マイクスピーカー及び広角カメラを利用しております。   広角カメラはこの写真では見にくいですが,大型ディスプレイの上部中央付近に取り付けられております。   双方当事者がウェブ会議の方法により手続に関与する場合のイメージが,左側の写真でございます。左側の写真の左の方を見ていただきますと,女性の写真が写っているかと思いますが,こちらが裁判官役になります。その奥の男性が書記官役ということになります。双方当事者は裁判官の手元のパソコン及び大型ディスプレイに表示されております。裁判官はこの画面を見ながら当事者と協議をするということになります。   裁判所側の映像はパソコンの内蔵カメラ又は広角カメラを通じて双方当事者の手元の端末に表示されるということになります。このイメージ写真では,パソコンと大型ディスプレイとに同じ画面,すなわち当事者の顔が見えるビデオ会話画面を映しておりますけれども,例えば当事者の顔を大型ディスプレイに映し,裁判官の手元のパソコンにはファイルのデータを表示するといった使い方も可能でございます。   次に,一方当事者のみがウェブ会議の方法により手続に関与する場合のイメージが,右側の写真になります。先ほどと同様に,左側の女性が裁判官役,その奥の男性が書記官役になります。さらに,右側の男性が出頭している当事者役ということになります。   一方当事者が出頭している場合につきましては,出頭している当事者にもウェブ会議で関与している相手方当事者の顔が見えている必要がございますので,大型ディスプレイに相手方当事者を映すということになります。   また,ウェブ会議の方法により手続に関与する当事者にも,裁判官だけでなく裁判所に出頭している当事者の顔が見えている必要がございますので,パソコンの内蔵カメラではなく,先ほども申し上げました広角カメラを利用して出頭当事者を含む裁判所側の映像を広角で映すことを想定しております。   なお,当事者に準備していただくものですが,一般的に使用されているカメラ内蔵のパソコンとインターネット回線のほか,Teamsのアプリをダウンロードしていただく必要がございます。もっとも,この手続で利用する限りではアプリの利用は無料です。   既に運用を開始した14庁では,現在に至るまで大きなトラブルはなく,順調に運用が進められております。利用した裁判官から聞いたところによりますと,裁判所に出頭することなく裁判官や相手方当事者の表情を見ながら協議することのできるウェブ会議は,利便性が高いと当事者から好評であるというように聞いているところでございます。   4月及び5月は緊急事態宣言の影響もありまして,一時的には利用が落ち込みましたけれども,緊急事態宣言が解除されてからは,ウェブ会議の利用が新型コロナウイルス感染症の感染対策としても有用であるという認識が高まったこともありまして,代理人の方からウェブ会議の利用を希望するケースも増えていると聞いております。   本年の8月31日時点で報告を受けた件数で申し上げますと,6月の1か月間では全国で合計601件,7月の1か月間では合計1,431件の訴訟手続で利用されております。最高裁としましても,新たな運用が円滑に進むよう,引き続き環境整備等に努めてまいりたいと思います。   今後は,現在運用を開始している14庁における運用の状況も踏まえまして,お手元の配布資料では令和2年度中にと書いておりますけれども,本年12月14日には残りの地方裁判所本庁37庁にこの新たな運用を拡大し,更に来年度以降も支部等へと順次展開をしてまいりたいと考えております。   最高裁からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの富澤幹事からの御説明につきまして,御質問等がありましたらお願いいたします。 ○湯淺委員 湯淺でございます。どうも御説明いただきましてありがとうございました。   運用上問題が生じていないのかということで二,三点御質問,お尋ねをさせていただきますが,まず1点目は,裁判所でない場所について,従来からプライバシー性,あるいはその話の内容が外に漏れるというような秘匿性の問題等々が指摘されてきたかと思いますが,今このTeamsを使った試行において,そういう問題点は生じていないのかということを最高裁の方で御存じの範囲で教えていただければ幸いでございます。   それから2点目が,正に音声及び映像だけではなくて,文字やファイル等を用いてリアルタイムにコミュニケーションできると,いわゆるチャット機能のことを御説明いただいたわけでございますが,このチャットを使う分については,映像として捉えられているのか,それとも電話の代替ということになるのか,その法的な位置付けも含めてお考えをちょっと伺わせていただきたいと思います。   それから3点目でございますが,マイクロソフトのTeams,今非常に企業,私ども大学などでも非常に広く普及しているツールでございますけれども,試行ですからこの後制度設計がなされるのかもしれませんが,Teams上のデータの管理あるいはTeams上のデータは,その後一定期間後に消去するということになっているのか,そのデータの扱いについて伺わせていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,富澤幹事からお願いできますか。 ○富澤幹事 3点御質問を頂きました。   まず,1点目のウェブ会議の接続先の状況については,湯淺委員からも御指摘ありましたとおり,裁判所としましても非常に関心のあるところでございます。民訴規則第88条第1項には,裁判所は「通話者及び通話先の場所を確認しなければならない。」という規定がございます。この規定に基づき,第三者が不当に介入をしていないか,プライバシーが守られた場所で手続が行われているかといったところを確認しているところでございます。実際には代理人の法律事務所で行われているケースがほとんどであり,下級裁からの報告等を聞いている限りでは,プライバシーが守られていないような場所で手続が行われているケースはないようでございます。先ほども申し上げましたとおり,この点は重要なところでございますので,今後も適切な運用が行われるように努めてまいりたいと思います。   次に,2点目のメッセージ機能やファイル編集共有機能について映像として捉えているのか,電話の代替として捉えているのかという点でございます。これらの機能については現時点ではまだ試行中であるため,明確に整理ができているわけではありませんが,やはり文字情報のようなものを交換することになりますので,電話の代替と同じように整理するのは若干難しいのかなと個人的には考えているところでございます。その点については,更に今後も整理をしていきたいと思います。   3点目のTeams上のデータ管理につきましては,データをずっとクラウド上に保存していると流出のおそれが高まりますので,相当ではないと考えております。したがって,現在の運用では,事件が終局をしましたら,チームごとデータを削除する取扱いをしているところでございます。 ○山本(和)部会長 湯淺委員,よろしゅうございましょうか。 ○湯淺委員 よく分かりました。どうもありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,また今日の審議内容には,ウェブ会議に関するものもかなり入っておりますので,もしそのときにそれと関連して御質問等していただいても結構ですので,取りあえず今の富澤幹事の御説明は承ったということにさせていただければと思います。   それでは,部会資料5の検討に入っていきたいと思います。   幾つかの論点に分かれておりますけれども,まずは一つ目の論点,「第1 口頭弁論」の部分を取り上げたいと思います。資料の1ページから6ページぐらいまでのところであります。   事務当局から一括して該当箇所についての説明を頂いた後,各項目に分けて御議論を順次していただきたいと思います。   それでは,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   まず,1ページの(前注)を御覧ください。   本部会資料におきましては,ウェブ会議,テレビ会議,電話会議という3種類の会議のうち,映像付きの通話である前2者を「ウェブ会議等」と呼び,音声のみの通話である電話会議も含める場合は「電話会議等」と呼ぶことにして,これらを厳密に使い分けております。   さて,「第1 口頭弁論」の1におきましては,民事裁判手続をより利用しやすくするために,口頭弁論期日について,法廷に現実に出頭するほかにウェブ会議等を利用した手続への関与を許容することを御提案しております。   2ページの2(1)におきましては,電子データによる準備書面について,電子訴状と同様に事件管理システムを利用した提出を許容することを御提案しております。ここでは,電子準備書面の提出は事件管理システムに記録して行うという部分のみを記載しておりますが,電子訴状に関する具体的な規律が定まりましたら,電子準備書面についても同様の規律とすることを想定しております。   次に,(2)におきましては,書類の電子化に伴い,現行のファクシミリによる当事者間の直送の制度に代わるものとして,事件管理システムを利用した直送の制度を設けることを御提案しております。   また,これに関連して,3ページの(注1)におきましては,裁判所から当事者への送付もファクシミリからシステム送達と同様の規律のものに置き換えることを御提案しております。   そのほか,(注2)にお示ししたとおり,電子書類の直送方法の許容範囲と条件についても併せて御議論いただきたいと考えております。   5ページの3におきましては,民事裁判手続のIT化後もプライバシー等に配慮いたしまして,口頭弁論の裁判所による公開は,引き続き現実の法廷において行うこととし,インターネット等で裁判所が中継することに関する特段の規律を設けないことを御提案しております。   私からの説明は以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,順番に御検討いただきたいと思いますが,まず,「1 ウェブ会議等を利用した口頭弁論の期日の手続」の部分について,どなたからでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○阿多委員 第1の1の口頭弁論について,提案の「(1)の手続に関与した当時者は,その期日に出頭したものとみなす」という表現がいいのかです。ウェブでの関与それ自体は賛成なのですが,少し言葉の意味について質問させていただきたいと思います。   今回,口頭弁論が取り上げられていますが,口頭弁論は通常,訴訟について当事者双方を対席させて,受訴裁判所が公開法廷において口頭かつ直接に主導する手続と説明され公開法廷という概念を前提にしているかと思います。   ところで,この(2)では出頭したものとみなすという形になっているのですが,この出頭をみなした当事者が物理的に所在する場所も「法廷」という概念に入るのでしょうか。というのは,平成8年に電話会議を導入した手続は弁論準備期日という形でした。他方,電話会議が認められていない口頭弁論期日や準備的口頭弁論期日はリアルな法廷への出頭であることが前提の期日だったわけです。ですから,弁論準備期日のときには開催場所は法廷とは限らないので,外から接続しても場所の意味はあまり問題なかったかと思うのですが,口頭弁論という形になって法廷という概念を前提にするときに,この「みなし」という形の言わばリアルではない当事者が所在する場所も法廷に含まれる扱いになるのか,それともやはりリアルな場所だけが法廷であって,ウェブ会議等での外部からの関与者は法廷にはいないという扱いになるのか,その点についてまずお考えを頂きたいと思います。   というのは,後の方の資料でも紹介いただいています少額訴訟における規則226条では,証人は法廷外にいることが前提と言うと不正確なのかもしれませんが,音声の送受信の通話の方法による証人尋問を認めていて,つまり証人はリアルには法廷に所在しないのですが,証人尋問は公開法廷で実施するはずなので,「法廷」という概念をどこまで意識していたのかがよく分かりません。そのような意味では,今までリアルに当事者が出頭している,リアルな法廷だけを考えればよかったわけですが,バーチャルな関与をする当事者が所在する場所は法廷に入るのか,入らないのか。定義によっては,法廷警察権等が及ぶのか,及ばないのかという点に関連するかと思います。   もう1点は,公開の意味です。口頭弁論は公開法廷で実施されますので,関与者がプライバシーが守られる場所で関与していても,それを非公開の法廷だとは言わないとは思うのですが,むしろ後で出てきます弁論準備手続においては非公開であることが前提に議論されてきたかと思います。   今まで,弁論準備期日における電話会議での関与でしたので,余りこれも意識されなかったわけですが,口頭弁論ではウェブ会議等の接続場所がどのような場所なのかということについて,それも併せて公開か否かを判断するのか,飽くまでも裁判官が所在するリアルな場所だけを前提に公開を判断し,であって,あとは裁判所がウェブ会議での関与者がどのような場所で接続されているのかという確認をするだけであって,それはそのような関与者がどこにいるかというのは,公開・非公開の判断に影響しないのかが問題になるかと思います。   そのような意味では,口頭弁論については出頭したものとみなすという形で対応されていますが,それで全てが処理できるのかどうかということが少し分かりませんので,事務当局でどのように整理されているのかについてお教えいただけたらと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○大野幹事 まず,法廷の範囲について,お答えいたします。   部会資料5の第4でも触れておりますが,民事訴訟規則123条においては,テレビ会議を利用した尋問に関する規律がございます。この規定につきましては,当事者が出頭している裁判所の法廷が受訴裁判所の法廷であって,裁判所と当事者が一堂に会して受訴裁判所で期日を開いており,そこに証人が映像と音声によって出頭してくるという考え方に立っているという指摘がございます。この指摘に基づいて考えますと,証人が出頭した他の裁判所の法廷にテレビカメラが設置してあって,証人がそのカメラの前で証言をしていたとしても,その裁判所の法廷というのは受訴裁判所の法廷ではないということになろうかと思います。 ○阿多委員 結構です。   ただ,物理的な場所に限定し,今後出てくるようないろいろな場所で関与される場合を法廷外だという形で整理した場合に,ウェブで関与している当事者以外の第三者が同じ場所に存在する場合に,裁判所はその第三者に退廷などを命じることができるのですか。今までですと訴訟指揮権という言葉を使っていたかと思いますが法廷外にいる第三者に対して裁判所の支配領域から出ていけというようなことが言えるのかということも含めて議論を整理していただけたらと思います。   公開の点についても,もしよろしければお教えいただけたらと思うのですが。 ○大野幹事 部会資料5では,5ページの第1の3「口頭弁論の公開」という項目を立てております。ここでは,現実の法廷を基準とし,そこでの公開をもって憲法上の公開の要請が満たされているという前提に立っております。 ○山本(和)部会長 阿多委員,よろしいですか。 ○阿多委員 了解しました。 ○日下部委員 今,少し難しい御議論があったかなと思うんですけれども,私からは,前提としている状況について確認をさせていただきたいと思っています。   今の部会資料の第1の1で言われているウェブ会議等を利用した口頭弁論の期日の手続の状況というのは,裁判官は公開法廷,今行われているその裁判所の法廷ですね,そこにいて,裁判所及び当事者双方が映像と音声の送受信により通話しているという状況を一般人がその公開法廷で傍聴することができるということが前提であると,このように理解をしております。そのような理解でよいのかどうかという点をまず確認したいと思います。   それからもう一つ,今議論しておりますここでの規律は,人証調べを行わない口頭弁論期日の規律であるというような理解をしているところですが,その点についても確認を頂ければ幸いです。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○大野幹事 前提としている状況は,日下部委員御指摘のとおりでございます。また,人証調べをしない口頭弁論かどうかという御質問がございましたが,ここは,口頭弁論期日における当事者の出頭に関する規律でございます。また,人証調べについては別途ウェブ会議等を利用した人証調べに関する規律の御提案を部会資料5の第4でしており,そちらについては,そのときに御議論いただければと存じますが,人証調べをする口頭弁論期日については,これらの規律の双方が合わさってウェブ会議等が利用されるということも考えられるという前提でございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか,日下部委員。 ○日下部委員 ありがとうございます。私もそのように理解をしておりました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,ほかにこの第1の1の部分について。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。   先ほど最高裁の民事局からの説明で,ウェブ会議の様子,実際に行われている様子がありまして,湯淺委員からも御質問がありましたとおり,私も懸念していたことが少しは分かってまいりました。   ただ,これがもっと一般的に行われるようになったときに,例えば個人と事業者が当事者になった場合に,消費者問題の裁判などでは,多くの味方を集める力がある事業者がより有利となるような状況が起きかねないかという懸念がございます。先ほどはウェブ会議の参加の場所が現在は弁護士のいる法律事務所などで行われているというお話でございましたが,弁護士事務所で行われることが前提になるのか,又は個人の自宅も許されるようになるのか,又はその事業者の事務所も許されるようになるのかということで,本当に当事者のみでウェブ会議が行われるか大きな懸念が生じます。そういった一方に不利益となるというか,差がつかないような対策を十分にとっていただいて,できる限りのデメリット対策をしていただいての導入にしていただきたいと思っております。   また,公開の話ですけれども,今の御質問にもありましたが,これまでの公開とIT化導入後の公開は違うものであると考えられます。一旦何らかの情報がウェブ上に残り,また参加している方もそれを何らかの形で撮影するようなことが可能な場合に,思いがけない形で公開されてしまい,プライバシーの侵害や個人情報の漏えい,又は内容が外に漏れるということが懸念され,またそれがインターネットで拡散して大きな別の問題になるというようなことも十分考えられますので,そういった対策をしっかりとっていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○富澤幹事 今,藤野委員からお話があったところとも重なりますが,ウェブ会議を利用して口頭弁論の期日の手続を行うことができるようにすることはもちろん賛成ですけれども,ウェブ会議の状況を当事者が無断で録音・録画するようなことはあってはならないと思います。裁判所が取り扱っている情報には,プライバシーや営業秘密に関わる情報が多く含まれておりますので,ウェブ会議の状況を当事者が無断で録音・録画することは法廷における秩序維持の見地からは相当ではなく,それを抑止するための措置を講ずることも検討した方がいいのではないかと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 今の藤野委員の御質問に関連しまして,ちょっと私からも質問とコメントを申し上げたいと思いますが,現行も民事訴訟規則で勝手に録音・録画をしてはいけないと,その許可がなければしてはいけないのだから,それで抑止に足るという考え方もあるかと思いますが,法廷ではない遠隔地でありますので,許可なく録音・録画されていないことを保障する,あるいはそれを確認するということはかなり困難でございます。   仮にその動画をいわゆるストリーミング形式で配信したとしても,別のカメラを見えないところに設置して録音・録画するということは可能でありますので,民事訴訟規則に違反して違法な録画が行われる可能性はゼロではないと考えます。   お尋ねしたいのは,そのような違法な録音・録画が行われていたというときに,それをどう把握するかということです。それから,違法に録音・録画されたものが,藤野委員も御懸念されていましたようにインターネット上に流出する,あるいは動画投稿サイト,ユーチューブのようなものに投稿されてしまうというようなことが考えられます。この場合,これは違法なコンテンツとして裁判所がプロバイダ責任制限法等に基づく対応を自ら行われるということになるのか,それとも削除要請,あるいは場合によってはその違法に投稿した者の開示請求等の手続は,基本的にはそれは当事者にやっていただくということになるのか。これらの懸念を払拭しないと,藤野委員が先ほど指摘されたような特に本人訴訟,個人で訴訟を提起されるというような方々からの御懸念を解消することができないと考えますが,その点についてどのようにお考えかということをお伺いしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。では富澤幹事。 ○富澤幹事 まず,現在の運用を御説明させていただきますと,冒頭の説明でも申し上げましたとおり,アプリとしてはTeamsを使っております。Teamsの機能にも録音・録画機能がございますが,録音・録画機能を使っているときには画面上に録音・録画していることが分かるマークが出ます。裁判所では,録音・録画機能の使用を許さないという形で運用として制限をかけているところでございます。   他方で,湯淺委員の問題意識でもあると思いますけれども,Teams自体の機能ではなく,パソコンのスクリーンショットや録音・録画機能を使って無断で録音・録画することは完全に排除することができないという問題意識も踏まえて,録音・録画が無断でされた場合の制裁規定を設けることは必須ではないかと考えております。   さらに,実際にインターネット上に録音・録画されたデータがアップロードされた場合に,そのデータの削除要請を裁判所が行うのかという点については,まだ十分に整理できていないところですが,先ほどの御指摘も踏まえて法務省とも連携して検討していきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。貴重な問題提起をいただいたかと思います。日下部委員,どうぞ。 ○日下部委員 私からは2点,意見を申し上げたいと思います。   まず一つ目ですけれども,ウェブ会議等を利用して口頭弁論期日を行うということになった場合であったとしても,当事者が自ら法廷に出頭して,裁判官に直接口頭で弁論するという機会は保障されるべきだと思っております。先ほどのお話ですと,そのウェブ会議等を利用する場合であったとしても,裁判官は公開法廷にいるということですから,今申し上げたような当事者の要望が容れられないということはない,法廷に出ることはもちろん許容されるものであると考えておりますし,そのような前提でないといけないと考えています。   もう一つは,先ほど議論のなされておりました無断によるウェブ会議の状況の録音・録画に関してです。   現在の民事訴訟規則77条では,法廷における録音・録画,そのほかもありますが,これらは裁判長の許可を得なければすることができないとされておりまして,そこでの法廷の意味というのはある程度幅を持つものとして解釈されていると理解をしております。   お尋ねしたい点としましては,ウェブ会議等の接続先も,そこで言うところの,つまり民訴規則77条で言うところの法廷と観念して,その場での録音・録画を裁判長の許可にかからしめるということが解釈として想定されているのか,あるいはその点,民訴規則の改正も視野に入れているのか,お尋ねしたいと思います。   いずれにしましても,無断での録音・録画をすることについては,先ほど富澤幹事の方からも御指摘ありましたが,私も制裁を設けるということを考えるべきではないかと考えています。   仮に例えば過料のような制裁を考えるのであれば,その制裁規定だけではなく,裁判長の許可を要するという規定も,規則ではなく法律で定めることを考えなければいけないのではないかと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは,笠井委員。 ○笠井委員 先ほどから阿多委員や日下部委員がおっしゃっていることに関連しますが,私も法廷警察権とか法廷概念というのは以前から気になっているところです。裁判所法にも法廷という言葉はありまして,法廷の秩序維持というのが71条にあって,法廷外という言葉が72条に出てきたりして,その法廷というのはどこまでのことで,どこからが法廷外なのかという辺りは,少なくとも解釈がきちんとできるようにしておくべきではないかと思います。   それからもう一つ,今,日下部委員がおっしゃった規則の解釈で問題が生ずることとかも含めて考えますと,やはり必要があれば立法とか規則を変えるとか,その辺を明確にするような措置が今回必要ではないかと考えておりますので,更にその辺りも検討できればと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○長谷部委員 長谷部です。   私は,2ページ目の説明のところについてちょっと伺いたいのですけれども,三つ目のパラグラフに当たると思いますが,「また,ITの発展の状況に鑑みると,ウェブ会議等を利用する場合であっても,当事者が口頭弁論の期日に現実に出頭して手続に関与する場合と同等に手続に関与することができるものと考えられる」とあり,そうであるので,ウェブ会議を許容しても,口頭弁論の諸原則との関係で問題が生じないというような記載がされています。確かにウェブ会議を利用した授業などで実際に対面でしているのと同じような感覚を持つこともありますけれども,やはり何か伝え切れないところがあるとか,あるいはウェブ会議だと発言がしにくいというような学生の声というのも聞いておりまして,幾らIT技術が発展したとしても,空間を共有して一つの目的のために話合いをしていくということが,果たしてウェブ会議でうまくできるのだろうかということを感じます。   そういったことは,実は我が国だけではなくて,今回のコロナ禍でアメリカ合衆国などでもウェブ会議を使って弁護士と裁判官が議論をするというようなことをやっているということでありますけれども,そこでも,対面で話をしているのとは違う,意見交換の実感がないというような指摘もされているところであります。そういったことも含めて,先ほどの裁判所の方で実際にウェブ会議をされているご経験などから,法廷での口頭弁論と同じような,あるいは後ほど出てくる争点整理でもそうだと思うんですけれども,同じ空間を共有しているときと同じようなかっ達な議論というのができるのかどうかということについて,何らか感想あるいは今までの御経験というのをお教えいただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,富澤幹事。 ○富澤幹事 フェーズ1の運用が開始してから大体半年ぐらい経過した中で,下級裁判所の裁判官や弁護士から伺っていることを若干御紹介させていただければと思います。   運用当初は,長谷部委員の方からも御指摘があったとおり,対面のやり取りとは若干違うというようなお話も出たところでございます。確かに,現在でもそのような側面が全くないわけではありませんが,他方で,運用が広まってきた後でお話をお伺いしますと,実際に対面で協議をしているのとほぼ遜色のない形で協議ができている,むしろ,ウェブ会議を用いた方が,かえって議論が活性化するといったお話も出ているところでございます。   日下部委員からも御指摘がありましたとおり,全ての事件で一律にウェブ会議を用いて手続を行うことは,裁判所も,相当ではないと考えております。当事者の意見も聴きながら,ウェブ会議の方法で口頭弁論の期日の手続を行うのが相当なものはウェブ会議を利用するというように,柔軟に選択していくということになると思います。また,今後,技術の進展が更に進んでいくものと思いますので,なるべく審理を柔軟かつ円滑に行うことができるように運用していきたいと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   長谷部委員,よろしいですか。 ○長谷部委員 どうもありがとうございました。 ○阿多委員 裁判所から運用状況のお話がありましたので,利用当事者である代理人の立場からもですが,長谷部委員の御質問の言わば等価,同価値であるとまで言えるかについては,代理人は必ずしもそのような理解はしていません。いわゆるデジタル化されることによって捨象される情報というのは一定あるとは思っていますが,期日の入りやすさや裁判所に出頭する困難さといった利便性と併せて考えると代替する価値があると考えています。そもそも出頭するのとウェブで関与するのが等価であるという前提で理解はしていないと思います。   ですから,必要に応じて選択をしているというのが現在の利用状況と認識しています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 笠井委員の御発言とほぼ等しいんですが,現行の民訴規則を前提に議論するということは,余り生産的ではないと思います。つまり,今回,法改正するわけですから,法改正に伴って規則改正が十分視野に,射程に入っているんだろうと思いますし,法廷の秩序維持に関する法律についても同様のことが言えるんだろうと思いますので,現行の規律でうまくいくのかという問題設定はしても余り生産的ではないので,むしろ現行の規定をどう変えるべきかという議論をする方が有意義な成果につながるのではないかと思いますので,発言させていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   小澤委員,どうぞ。 ○小澤委員 口頭弁論について,御提案の趣旨に賛成いたします。   要件となる相当と認めるときについては,条文で示すことはなかなか難しいと思われますので,改正法成立時におそらく公表されるであろうQ&Aですとか一問一答などで具体例をお示しいただければと考えております。本人訴訟の当事者であってもウェブ会議を積極的に活用できるような運用にしていただければと考えています。   1点確認させていただきたいのですけれども,システム登録をしていない当事者が,ウェブ会議等を利用した口頭弁論を希望した場合にも排除されるものではないという理解でよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 では,事務当局からお願いします。 ○大野幹事 事件管理システムへの登録とウェブ会議等の利用とは,本来的には別の概念だと思います。ただ,先行して行われました研究会の報告書でも言及があるとおり,本人確認の関係で,事件管理システムに登録している方であれば,その段階で本人確認ができているだろうという点で,事件管理システムと連携をさせていくのは一つの考え方であるとも考えております。この点につきましては更に御意見を頂戴できればと思っております。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○渡邉幹事 先ほど阿多委員から,ウェブ会議を用いて口頭弁論の期日で手続が行われるようになりますと,期日が入りやすくなるのではないかという御指摘を頂きました。正にそのとおりと思っておりますが,それに関連して,細かい話ではございますが,若干申し上げたい点があります。  期日の指定というのは,現在,裁判長の権限で行っておりますが,一度指定された期日を変更しようとすると,厳密には,期日を一回取り消さなければならないのですが,この期日の取消しは裁判所の権限で行うこととなっております。つまり,期日の指定は,裁判長が一人で行うことができますが,これを変更しようとすると当該期日を取り消さなければいけないので,合議体で審理を行っている場合には,合議体の構成員全員で変更決定を行わなければならず,これが手間となっております。   そこで,裁判所の事務の合理化として柔軟に期日を変更する観点から申し上げますと,期日の変更,更には期日の取消しにつきましても,裁判長だけで行うことができるような制度としてはよいのではないかと考えております。この点も御検討いただければと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○服部委員 服部でございます。   私からは,障害者保護の観点から若干意見を申し述べさせていただきます。   ウェブ会議などを利用した口頭弁論期日ということになりますと,移動に困難を抱える障害者の方が裁判手続を利用する機会を確保できますので,その点からも賛成ができますし,障害者の方にとっては,自分が安心できる場所でウェブ会議で参加できるという点でもメリットがあると考えております。   ただ,この手続を改めるに際しては,障害者の方が期日で行われる手続の内容を十分に理解するための方策ですとか,第三者から不当な影響を受けないための環境の確保も併せて考えなければいけないのではないかと思われるところです。   例えば,これらの要請への対応への幾つかの案として,現行法の60条で認められている補佐人の制度を積極的に活用してはどうかという点,これは運用の問題かもしれません。加えて,通訳人の立会いなどを定めています現行法の154条とは別に,この意思疎通に困難を有する障害者の方に対して,意思疎通に関する補助者を置くようにすることができる規定を設けてはいかがかと考えております。   また,証人尋問で現在付添いを認める現行法203条の2がございますけれども,これを口頭弁論の場でも準用してはどうかということも考えられるかと思います。   第三者から不当な影響を受けないという環境の関係で,場所について,この後,部会資料の第4のところで証人尋問での証人の所在場所に関しての規律を設けてはどうかという御提案の中で,適切な尋問を行うことができる場所,通信環境が整備され,かつ不当な第三者による影響を排除することができる場所として,最高裁規則で定めてはどうかという御提案がございますけれども,これを口頭弁論の場面でも同様に適用することを検討していただいてもいいのではないかなと考えております。   障害者保護の観点からのいろいろな検討事項はほかにもございますけれども,それはまた横断的に検討する機会を頂ければと考えておりますので,よろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   幾つかの点で宿題が残ったかと思いますが,事務当局においては引き続き御検討を頂ければと思います。   それでは続きまして,資料の第1の「2 オンラインによる準備書面の提出等」,2ページ以下の部分に入りたいと思います。 ○笠井委員 ちょっと細かいことで,(注)のことで申し訳ないんですけれども,システム直送以外の直送の方法というのがあって,①②というのが3ページの(注2)というところに載っていて,ファクシミリで送るのがわざわざ外されているような気がするのですけれども,これはなぜなのか。システム直送はファクシミリに代えてと書いてあるんですけれども,できない場合にファックスを使うなという理由が積極的にあるのかどうかがよく分からなかった,素朴に分からなかったので伺いたいと思います。 ○大野幹事 部会資料5ではファクシミリに代えてという表現をさせていただいておりましたけれども,これはIT化の下における直送はシステムを使ったものが中心になるということを表現したものでございまして,ファクシミリを使った直送を禁止する趣旨まで含んでいるものではございません。その点につきましては,御意見を頂戴できればと考えております。 ○笠井委員 (注2)についても,その方法「等」というところに入っていると,要するに直送で,印刷したものを書面で送るというのができるんだったら,ファックスもできるんだろうなと思うんですけれども,ちょっとそれだけ何か事務局から御発言があればお願いします。 ○大野幹事 (注2)もファクシミリを特に排除する趣旨ではございません。 ○笠井委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ファックスという機械がいつまであるのかという問題はありますが。 ○富澤幹事 ファクシミリの取扱いについては,民事裁判手続等IT化研究会の中で,もうなくしていくべきではないかという発言をさせていただいたと記憶をしております。今回提案されているシステム直送の規律にはもちろん賛成でございまして,直送の方法がファクシミリの場合もあればシステム直送の場合もあることになりますと,裁判所も同じですが,当事者としても対応する機械を用意しておかなければならず,負担が重くなるのではないかと考えております。  今,山本部会長からも御指摘があったとおり,今後,ファクシミリがいつまであるのかということも考えますと,ファクシミリの利用はなくしていった方がいいのではと思っております。他方,複合機であればファクシミリの機能もずっと残る可能性もあると思いますので,この点については御議論いただければと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 今の点で何かコメントがおありの方がいれば。 ○増見委員 システム送達に関してなんですけれども,やはり一度このシステムを作り,一旦使い出したら全てみんなシステム送達を利用することが前提となると。なので,事件が始まっているのに,直送という手続をあえてわざわざとらなければいけないということが発生し得るということ自体が,かなり不便であるというふうに当事者としては思いますので,基本的にはこれを利用するという前提で,そうでない場合は,よほど何か事情がある場合に限るというような,この利用をしっかり促進する仕組みというのも構築していただくのがいいのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今回,システム直送という名称の仕組みが提案されていて,これは事件管理システムを通じて自動的になされる相手方当事者への通知によって電子準備書面を送付するというものですけれども,このような方法で電子準備書面の送付をすること自体には賛成でございます。   ただ,ちょっと名前がいかがなものかと感じております。と申しますのは,電子準備書面の提出をする当事者から相手方当事者に対して直接の連絡がなされるわけではないのに,システム直送という名前を付けるというのは,かなり利用者に混乱を招くのではないかなという気もいたします。これは恐らく裁判所書記官による事務取扱が介在しないので,裁判所による送付とは言い難いと。あわせて,現行法下でのファクシミリを用いた直送に代わるものであるので,直送という言葉を使われているんだと思うんですけれども,考え方を少し整理した方がよいのではないかなと思いました。   方法として一つには,この自動的になされる送付であったとしても,観念的には裁判所書記官が事務取扱を担う裁判所による送付と整理をしてしまう。そうすれば,直送という概念自体はもう不要になるだろうと考えています。   先ほど山本克己委員からお話がありましたけれども,裁判所書記官が事務取扱を担うというのは,これは規則の定めでございますので,それを前提にしなければ,そもそもこのような今システム直送と言っているものも裁判所による送付であると概念整理することも不可能ではないようにも思います。   仮にそれができないんだということであれば,これは名称だけの話になってしまいますけれども,「当事者によるシステム送付」というような名前を付けて,それと「裁判所によるシステム送付」を区別するというような考え方もあってもよいのではないかなと思いました。   その関係でもう少し中身のある意見を申し上げたいと思っています。今のこのシステムを使った送付の方法というのは,事象としてはシステム送達に近いものになるだろうと理解をしております。その関係で,法の161条の3項の適用関係が部会資料の中でも挙げられているところです。ここでは,準備書面が送達されたか,受取り側の方から受領書が提出されたという場合でないと,その受領当事者の方が出てきていない,出頭してきていない期日で提出された準備書面に記載された事実の主張ができないという,こういう定めでございます。   受領書の提出に代えてシステムへのアクセスに基づく規律にするという案が示されておりまして,そのことには私,賛成をしております。気になりましたのは,いつまでも受領書の代わりになるシステムへのアクセスをしない当事者がいたという場合にどうするのかという話です。   システム送達につきましては,みなし閲覧の定めを置くということで一定の手続の安定を図る考え方がされております。それに照らし合わせますと,システムを使った送付の場合であっても,裁判所のシステムから通知がなされたのであれば,一定期間が経過したところで法161条3項との関係では受領書の提出がなされたものと同様に扱う,あるいはシステムにアクセスしたものと同様に扱うということも検討されてよいのではないかなと思いました。   もちろん,そのような扱いというのは,受取当事者側の手続保障との関係で懸念が生じ得るところではありますけれども,システム送達のときに議論されたような重大な問題というのは,総体的には生じにくいと思いますし,適切なタイミングで電子準備書面を提出した当事者の期待と手続の安定を重視するという,そういう制度的な判断もあり得るのではないかなと考えている次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 今回,システム直送という概念が用いられて,システム送達と先ほど来対比の話が出てきたのですが,現状の送達,直送を言わばシステムに置き換えたという形での制度設計になっているかと思いますが,第1回の部会でも申し上げましたように,なぜ送達,直送に振り分けられたのかという平成8年改正の際の議論からもう一度考える必要があると思います。   平成8年当時は,名宛人への送達によって訴訟上の重大な効果が生ずるか否かで区別をして,そのような効果が生じない場合には,送達による手間と費用が掛けない方法にするべく,送達ではなくて直送や裁判所からの送付と切り分けをして概念を整理したと思います。ですから,直送は当事者間で交付またはファクシミリ方式でされているわけですが,法改正は,送達も直送も事件管理システムにいずれにしろ記録する形になりますので,費用の問題,手間の問題も含めて,平成8年当時なぜ切り分けたのかという,切り分けの理由がなくなっているのではないかと思います。   であるならば,あえて切り分けてしていたものについて,従前は送達一つだったわけですから,元に戻って事件管理システムに記録して裁判所が同じような形で処理するべきではないかと考えます。書記官事務の関与という,先ほど日下部委員は機械関与も含めての裁判所の関与という概念を提案されていましたが,関与の概念は提出されたものの確認とか,それが必要なものと必要でない書類の区別があり得るかとは思いますが,いずれにしろ,もう一度元に戻って,一元的な取扱いを考えいただければと思います。   実際,実務でも,代理人が就いている場合にはこの直送がされていますが,本人訴訟等の場合には,必ずしも直送ではなくて,一旦当事者が裁判所に書類を提出して裁判所が相手方に次回期日までに直接交付をする,若しくは郵送をするという形で実施されていて,代理人が就いていない事件のかなりの割合では書記官が関与するという意味で送達と似た扱いがされていると理解しています。   他方,現状の直送においても,裁判所からよく指摘される直送のトラブルは,本来送達しなければいけない書類を代理人が誤解をして直送したために,典型的には訴えの変更とか反訴とかいう場合ですが,タイトルが準備書面になっていて中には訴えの変更や反訴が書かれているときに,再度送達をやり直させるとかいうような実務があるわけです。このトラブルは,二つに分けているから起こっているわけで,元に戻って一元管理になれば解消するはずで検討いただけたらと思います。   それから,弁護士会内でいろいろ意見があるかと思いますが,161条3項については,現状は少なくとも受領書等で直送されたことが確認できることを前提に取り扱っていると認識をしています。裁判上の書類の効果として,送達,送付は分けていますが,準備書面としての実体法上の効果としては,解除の意思表示だとか,いろいろな効果が生じる場面というものがあるわけで,相手方に直送されたか否かの確認ができない場面にみなしという扱いでいいのかについては慎重に検討をする必要があると思います。   2点意見を述べさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 こういうコンテクストになるといつも保守的なことばかり言っているので,またもやと思われるかもしれませんが,ファックスを直ちになくすべきかという問題については,私はネガティブで,やはり存置すべきだと。やはりファックスしか使えない人というのが国民の中でかなりの量ありますし,ファックスが嫌われる一番の理由は,ファックス機が印刷をしている間,受信・印刷している間,電話回線も塞がってしまうというのが一番嫌われる理由なんですが,ファックス自体がもしかしたらもう印刷をしないファックスというのもあり得るわけですよね。送られてきたデータをPDF化してどこかストレージに蓄積しておいて,見たいときにそれを開くというようなタイプも,それがファックスと呼び続けられるかどうか分かりませんけれども,そういういろいろなIT技術の進展というのはあり得るわけなので,ファックスを一義的に今の段階で排除するというのは,私は適切ではないのではないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 先ほどシステム直送というネーミングにいかがなものかという意見を申し上げたんですけれども,そのシステム直送という前提で意見を更に申し上げたいと思います。   部会資料によりますと,現行法下で直送を要する準備書面を念頭に,受取側の当事者が事件管理システムの利用登録者になっていない場合と,なっているけれども一時的に事件管理システムを用いた送付ができなくなっている場合に,事件管理システムを用いない直送をどうするのかということが議論されていると思います。   そもそも論なんですけれども,そのような場合に,受取当事者に対して送付をする主体が準備書面の提出当事者であることが妥当なのかということも,立ち返って考える必要もあるのではないかなと感じた次第です。これは先ほど阿多委員の方が言われたことにも通じているのではないかと思います。   実質的に考えましても,受取当事者側が事件管理システムの利用登録者ではないという場合には,提出されたものが電子訴状であるという場合には,裁判所においてプリントアウトして,被告に対して送達をすることが想定されていると思いますが,そうであれば,提出されたものが準備書面であったとしても同じ扱いをするということも考えられなくはないようにも思います。   また,何らか一時的な事情で事件管理システムを用いた送付ができないというふうになった場合に,その送付に係る負担,追加的な負担を提出当事者側の方が,つまり準備書面の提出当事者側が負うことが当然であるとも思い難いところであります。   もちろんこうしたプリントアウトと送付を裁判所の事務としますと,裁判所に負担を多く掛けるということになるわけですけれども,例えば日本郵便との連携で事務処理を合理化する,追加的に生じる費用については事件管理システムの利用登録者となっていない方の当事者に負担を求めるというような設計もあり得るのではないかなと思いました。   なお,それにもかかわらず受取当事者側の方に対して従来型の直送をするという場合に,どういう方法を採ることが適切なのかということも併せて意見を言いたいと思いますが,基本的にはやはり紙を郵便なり交付なりの方法で直接渡すということが原則にならざるを得ないのではないかと思っています。   しかしながら,それ以外の方法も許容されてしかるべきでありまして,具体的な方法としましては,法律なり規則なりで具体的に特定をするというよりは,受取側の当事者が受入可能であると認めたほかの方法にもよることができるというふうな形にしておくのも一つの手ではないかなと考えています。   その他の方法としましては,部会資料に挙げられているような電磁的記録媒体の交付のほかに,例えばeメール,これは対象電子文書を添付するケースもあれば,クラウド上にアップロードされたものを伝えるという意味でのeメールもあるかもしれませんし,先ほど来意見がいろいろ言われておりますファクシミリも考えられ得るのではないかと思います。   こうした方法については,法制上は特定をしないで,ただ受領当事者には方法の如何を問わず受け取った場合には受領書を裁判所に提出するということを義務付けておくというのも一つの制度的な在り方としては考えられてよいのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 私も重ならない範囲で意見を述べたいと思います。   訴状の送達のときに,相手方が事件管理システムを利用する状況にない場合,副本は誰が作成して被告に送るのかということについて,裁判所で準備し裁判所が発出すべき,訴状の元々の発出は裁判所ですから,裁判所において副本を作成されるべきという意見を述べさせていただきましたが,ここも同じで,事件管理システムの利用登録をしている,言わばIT化に積極的に参加している当事者であるにもかかわらず,別に紙の準備書面を作成して相手方に交付させる登録者に負担させるということ自体が,この制度を言わば進めていく意味を考えたときに,政策的に問題があるのではないか。むしろ制度を進めるのであれば,書面は裁判所が作成しますという方向で考えないといけないのではないかと思います。   また,逆にシステム登録していない当事者から相手方に書面が提出されたときに,誰がその書面をデータ化するのかということを考えたときに,当事者間で書面の交付がされたからといって,システム登録を利用している当事者方が相手方の書面を登録するというのはおかしな話だと思いますし,そうなりますとやはり一旦は裁判所を介して裁判所に書面が出れば,裁判所でデータ化し,それを相手方に提供していただくことが必要なのではないかと思います。そうすることによって,原本・副本の中身が違うといったトラブルも回避されます。全て裁判所をキーポイントというか支点にして手続を組むべきと考えます。 ○富澤幹事 前回も同じような話をしておりますが,日下部委員からも御指摘がありましたとおり,IT化を進めていく上では,裁判所の負担も考えていただく必要があると思っております。   阿多委員から御指摘があったとおり,オンラインで提出したにもかかわらず,その副本を裁判所に別途提出しなければならないというのは不合理であるという点は理解できないわけではございませんが,他方で,以前にも御紹介させていただきましたとおり,現在のプラクティスを前提にしますと,訴状は様々な体裁で提出されておりますので,全て裁判所で書面を印刷して,相手方に送達等をするというのが果たして合理的かという点は,議論いただければと思います。また,裁判所において送達等をする場合には,当然郵便代が掛かりますので,裁判所が無償で行うことは当然ないわけですけれども,それに加えて,書面を印刷する費用も掛かりますので,その費用をどのような形で負担をするのかという点も今後検討していかなければならないと思ったところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○湯淺委員 今の御議論を聞いておりまして,要するに事件管理システムに当事者が,その当事者の責に帰さない事由でアクセスできなくなるという事態はやはり考えておく必要があるかと思います。典型的には,それは当事者が一時的に海外出張をしている場合でございまして,昨今いわゆるブロッキングを導入する国が増加しつつあって,特定のサイト,特定のドメインに一時的にアクセスできないという事態が生じます。   また,あるいは事件管理システムの連絡用のメールアドレスに例えばグーグルのGmailを登録してしまったというようなケースでありますと,そもそもある国ではGmailには特殊な装置を用いないとアクセスできないので,海外出張中には連絡すら受け取ることができないという場合はあり得ます。   ですので,私自身はファックスを廃止すべきかどうかというのは,専門の先生方の御議論に委ねたいと思いますが,本人の責に帰さない事由で一時的に事件管理システムにアクセスできなくなることは想定されるということを前提に御議論いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしければ,それではいろいろな御意見を頂いたところですので,これもまた宿題ということになろうかと思いますが,続きまして,3の「口頭弁論の公開」の方に移っていただければと思います。資料5ページ以下であります。既にこの点に関わる御意見,これまでも出していただいているかと思いますが,更に御意見あれば頂きたいと思います。 ○阿多委員 重ならないことを発言したいと思います。   一つは,規則77条も含めての改正だと思うのですが,形式的な面として,規則には「放送」という言葉が使われています。ウェブによるインターネットでの接続は,放送法や著作権法等いろいろなところで言葉が使われていますが,むしろここは「通信」に分類される話で,今の規定ぶりだと拾えないのではないかと危惧しています。   それと,制裁として過料の制裁が考えられますが,規則に違反して法律で過料を科すのはいささか問題かと思います。違反を法律事項にする必要があると考えます。加えて,過料の制裁だけで実効性が確保できるのかも危惧しており,それ以外の制裁,何ができるのかというと難しいのですが,今後ウェブ会議への参加を制限するとか,制裁についていろいろ考える必要があると思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤野委員 藤野でございます。   先ほども意見を申し上げたんですけれども,5ページから続くところでインターネット中継によって行うことを許容したり禁止したりする規律は設けないこととしてはどうかという,この規律を設けないことという辺りに対して,これでよろしいのかということの疑問がございまして,それが今まで議論のある過料のこととか制裁のこととかだとの理解でよろしいでしょうか。この辺りは何らかの対策を考えなければいけないという考えを持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   事務当局から御説明お願いできますか。 ○大野幹事 部会資料5の第1の3は,裁判所が主体となった公開についてのものです。そのため,先ほど来議論になっております当事者がウェブ会議等を利用してされた手続を何らかの形でインターネット上に公開してしまうおそれがあるのではないかという懸念とは別の問題だと御理解ください。もっとも,当事者がウェブ会議等の画面をカメラなどを使って撮影して,更にそれをインターネット上に公開してしまうのではないかという懸念も重要な問題だと思っております。その点については,先ほど来御意見を頂いておりますので,事務当局としても考えてみたいと思います。 ○山本(和)部会長 よろしいですか,藤野委員。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,以上で第1の部分については御議論を全て頂けたかと思いますので,続きまして,二つ目の論点,「第2 争点整理手続等」についての議論に移りたいと思います。資料の6ページから15ページ辺りまでですかね,これもまず事務当局から一括して御説明を頂きたいと思います。 ○西関係官 それでは,部会資料5の「第2 争点整理手続等」について説明をさせていただきます。   本部会資料では,現行法上設けられている弁論準備手続,書面による準備手続,準備的口頭弁論,これらについて,IT化に伴う所要の見直しを行うことを提案しております。   まず,資料の6ページ「1 弁論準備手続」については,手続を利用しやすくするという観点から,現行法上の要件のうち遠隔の地に居住しているときとの要件を廃止することを提案しております。   また,現行法上,電話会議等を利用した手続を行うときには,少なくとも当事者の一方は実際に裁判所にいなければならないとされていますが,このような制限も撤廃することを提案しております。   以上のほか,最高裁規則では,ウェブ会議の実施に係る細目的事項について定める必要があると思いますが,どのような規律を設ける必要があるかということにつきましても,御議論を頂戴できればと考えております。   次に,資料の9ページ,「2 書面による準備手続」については,現行法上,双方不出頭という点に大きな特徴があるものですので,弁論準備手続について双方不出頭の手続を認めることとした場合には,書面による準備手続,これ自体を維持すべきかどうかということも問題となり得るものと思われます。   もっとも,書面の提出のみによって争点整理を行うことに適した事件もあると考えられるため,本部会資料ではこの手続を維持することとした上で,現行法上の遠隔地の要件を廃止するということを提案しております。   また,併せて,書面による準備手続の主宰者についても一定の見直しを行うことを提案しており,この点についても御議論を頂戴したいと考えております。   資料の12ページ,「3 準備的口頭弁論」については,口頭弁論に関する規律が適用されるため,先ほど御議論いただきましたとおり,口頭弁論についてウェブによる参加を認めることとした場合には,その規律が準備的口頭弁論についても及ぶこととなります。   したがいまして,準備的口頭弁論については特段の規律を設ける必要はないと考えられます。   また,同じページの(後注)では,争点整理手続の一本化についても記載をしております。IT化に伴う見直しを行うこととした場合には,現行法上3種類の手続が認められている争点整理手続について,これを整理し,一本化することも考えられますが,この点については,現行法の規律を改める理由の有無を検討する必要があろうかと思います。皆様におかれましては,この点を踏まえた御議論を頂戴したいと考えております。   以上のほか,資料の13ページ以下,「4 進行協議」,「5 専門委員制度」についても現行法上一定の場合に電話会議等を利用できる旨の規定がございますので,こちらについても弁論準備手続等に関する規定と併せまして,見直しを行うことを提案しております。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,順次御議論を頂きたいと思います。   まず,資料6ページの「1 弁論準備手続」について,どなたからでも結構ですので,御質問,御意見を頂きたいと思います。 ○日下部委員 また最初に確認のようなお尋ねをさせていただきたいと思います。   現在,フェーズ1と呼ばれる現行法の下で可能なウェブ会議による争点整理手続が行われているところでございますけれども,裁判官がいる場所は裁判所の準備手続室,呼び方はいろいろありますが,手続の準備の部屋でございまして,当事者がそこに出頭することを希望する場合には妨げられない運用がなされていると思います。   仮に今回の法改正によって当事者双方がウェブ会議などの方法で裁判所外から弁論準備手続に関与することになったとしても,当事者がやはり裁判所に出頭できるようになったので出たいと考えた場合には,裁判所の手続準備室に出頭して期日に参加することは妨げられないという,そのような前提でよいのかという点を確認させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○大野幹事 現実の運用については,最高裁から補足するところがあれば,適宜補足いただきたいと思いますが,事務当局としては,当然そのような前提でございます。 ○山本(和)部会長 裁判所は何かございますか。富澤幹事。 ○富澤幹事 現在の運用の御紹介ということで若干コメントさせていただきますと,弁論準備手続につきましては,当事者双方の意見を聴いておりますので,当事者の一方又は双方が出頭したいという場合において,ウェブ会議の方法で参加しなさいと強制するようなことは当然ながらしておりません。   したがって,当事者が出頭したいと希望する場合には,裁判所と一方当事者が出頭し,他方当事者はウェブ会議の方法で参加する運用を行っており,このような運用は今後も同じであると考えているところでございます。 ○日下部委員 ありがとうございます。   お尋ねをさせていただいたのは,ウェブ会議等の方法で弁論準備手続を行うということに決まった場合に,ウェブ会議等で参加するつもりだった当事者が,都合がよくなって当日裁判所に出頭することができるということになった場合に,場所が確保できていないから出頭されても困ると,ウェブで参加してくださいというように強要されてしまうようなことはないということを確認させていただきたかったという趣旨でございます。   今の御説明では,そのようになるというのは,出頭が妨げられることはないというふうに理解をしているところでございます。ありがとうございました。 ○富澤幹事 個人的な経験ですが,例えば,書面による準備手続に付した上で,双方当事者が不出頭の状態で電話会議の方法による協議を行う予定であったところ,一方の代理人が出頭することができるようになったというケースでは,改めて弁論準備手続に付した上で,実際に来ていただいて期日で手続を行ったこともございます。後ほど議論になると思いますけれども,そういった場合に,書面による準備手続を一旦取り消して,弁論準備手続に付する手続が非常に煩さであるという声を今でも聞いておりまして,これだけが理由というわけではありませんけれども,争点整理手続の一本化を実現していただきたいと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ほかに,この1の部分,いかがでしょうか。 ○日下部委員 細かい点も入っておりますので申し訳ございません。部会資料の8ページの第3段落の説明の部分を読みますと,当事者が合理的な理由を有しているかどうかを問わず,裁判所が相当と認める限りという,このような説明になっております。ちょっとこの説明にはやや疑問を感じておりまして,例えば当事者が裁判所に出頭することが困難とまでは言えないけれども,交通に要する時間をかけないで済ませられるならその方がよいと考えることというのは当然あり得まして,それはそれで合理的なものだというふうにも言えるかと思います。   今の説明の仕方ですと,当事者側に合理的な理由がないのに,裁判所が相当と認めて電話会議等の方法によるとの決定をすることもあり得るというように読めますので,そうしますと,恐らく不本意な反対論を誘発する可能性もあるのではないかなと感じました。説明の仕方の問題かと思いますが,その点は再考をしていただければと思います。   もう1点,電話会議等の実施に係る細目的事項についてです。   基本的にそうした細目的な事項を最高裁規則に委任するということは相当だと考えております。部会資料では接続先のインターネット環境等の確認,裁判所が相当でないと認める場合の場所の変更命令が挙げられておりますけれども,それ以外にどういったことを規定する必要があるのかということをあれこれ考えてまいりました。恐らく目的としましては,プライバシーの保護,なりすましの排除,それから非弁活動の排除の観点から,接続先の場所とそこでの出席者の確認をすることは,最低限必要だろうと考えております。弁論準備手続についていえば,そこにおける出席者の確認をするのは,傍聴の許可を与えるかどうかの判断の前提としても必要になるだろうと考えております。   また,それから先ほど無断による録音・録画の問題が挙げられておりましたが,現在規則で定められている事項ですけれども,制裁をどうするのかということを考えますと,規則ではなくて法律事項になるのかもしれないなということは先ほど申し上げたとおりです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 先ほど日下部委員が指摘された規則ですが,弁論準備手続についての規則88条4項は,書きぶりが第1項及び前項に規定するほか,弁論準備手続の調書について準用するという形で定められていますが,弁論準備手続はそもそも非公開手続ですから規則77条を想定しているのかがよく分からない書きぶりですし,先ほど裁判所の方は裁判所主体の公開の問題として整理されていると説明ありましたが,非公開手続である弁論準備手続についても録音・録画についての制限を検討いただく必要があると思います。   ここでも古い話をさせていただく必要があると思いますが,今回の整理として,口頭弁論は映像と音声の送受信が前提ですが,弁論準備は,音声の送受信を定めて,ウェブ会議システムだけではなくて電話会議システムも想定してという形での整理になっているかと思います。弁論準備手続での電話会議システムも平成8年改正で入ったわけですが,当時は,時代状況として電話会議システム自体が画期的で,双方出頭しなくても片一方だけ出頭してくれば他方は電話会議での関与で構わないと整理しました。当時の議論は(説明)の3に記載されているとおり,裁判所以外に誰も現実に出頭していない期日というのは期日として観念し難い等と説明されたのですが,この8年の改正を見直すに際し,なぜ電話会議なのかという問題があると思います。   私自身は,映像が映らない場合に期日を実施しない,取り消すべきとまでは考えませんが,優先順位としては,ウェブ会議システムで双方が参加することを原則とし,接続環境等やむを得ない理由がある場合に電話会議システムでも許されるというように順位付けが必要だと考えます。電話会議システムで足りるのではなく,時代に合わせた形で検討いただければと思います。   以上2点でございます。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○湯淺委員 先ほど日下部委員が相手方及びその所在する場所の確認というところで,なりすましの防止,それから非弁の防止ということを御指摘されました。私もそれは非常に重要なポイントだと思っております。   他方で,今日最高裁から御紹介いただいた事件管理システムの使用においては,基本的には弁護士御本人の方にアクセスしていただくという運用になっていると伺っておりますが,このシステムが定着してきたときに,ドキュメントのアップロードであるとか,種々事務的なことまで全て弁護士の先生御本人でなければ絶対に行うことができないというシステムもまたいささか考えにくいところであります。   あるいは,テレビ会議にしましても,今後頻繁にこれが用いられるようになってきたときに,その接続チェックだとか,そこも全て弁護士の先生御自身がやることが前提で,生体認証,バイオメトリクス認証を用いるというような厳格なアクセスコントロールをすればするほど,逆にこのシステムの利便性が低下をするという非常に困難な問題があります。したがって,これはもしかしてアクセス権限に関わる全体的な問題かもしれませんが,この事件管理システム,あるいは電話会議等のシステムのログインの権限と,実際にそこでこの電話会議等に参加する方の本人確認の問題,あるいはその準備のために本人でなければ絶対ログインできないのかというシステムへのアクセス権限の問題を,切り離して検討するわけにはいかないのではないかという気がいたしております。   ですので,この場で申し上げるのは適当かどうか分かりませんが,いずれにしましても,アクセス権限の適切な設定の問題とこの問題は切り離せないということを意見として一つ申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   富澤幹事。 ○富澤幹事 非常に重要な御指摘をいただいたと思っております。前回や前々回にも申し上げましたけれども,現在,最高裁判所においては,専門業者の知見も得ながら,システムの全体化計画の策定を進めているところでございます。その中では,システムにアクセスすることができる者を弁護士等の士業者に限定するのではなく,湯淺委員からも御指摘いただいたような事務職員などにも何らかの形でのアクセス権限を付与する必要があるのではないかという検討もしているところでございます。   その場合に,不当な第三者の関与の問題など様々な考慮をしなければならず,なかなか難しいところはありますが,しっかりと検討していきたいと考えております。   もう1点,阿多委員の方から,電話会議とウェブ会議との関係について,ウェブ会議を原則として,やむを得ない場合に電話会議を利用するという御指摘があったかと思います。本日,ウェブ会議の運用状況について御紹介をさせていただいたとおり,やはり顔の表情も見ながら議論をすることができるウェブ会議は,争点整理をする上では非常に有用であって,できる限りウェブ会議を活用していくのがあるべき姿だろうと思っております。   他方で,現状を申し上げますと,電話会議であれば裁判所から電話をかければ当事者は電話料金を負担することにならないわけですけれども,ウェブ会議であれば,裁判所のみならず当事者も通信料金を負担することになります。このような事情も,阿多委員が御指摘したようなやむを得ない事由で考慮することができるのであれば特段問題はないのかもしれませんが,裁判所としましては,電話会議かウェブ会議のいずれかと言われれば,なるべくウェブ会議を利用するのが相当であるとは思いますけれども直ちに電話会議の方法をなくすということは相当ではなく,当事者の意見も聴いていずれかを柔軟に選択することができる方が望ましいのではないかと思うところでございます。 ○笠井委員 今,富澤幹事のおっしゃった点に関して,阿多委員が先ほどおっしゃった音声の送受信では特に要件が満たされない限りは駄目なのではないかという,そういう規律にした方がいいのではないかという御意見については,私は疑問に思っております。私は,これはやはり利便性を高めるという,そういう改正を考えているわけですから,今よりもハードルが高いことを定めるには,より積極的な説明が要るのではないかなと思っております。   ですから,今音声でできるものについては,これはもう音声のみでもできるという,そういうままに置いておいて,今,富澤幹事もおっしゃったように,運用でウェブでできる場合はできるだけやっていこうという,そういう規律と,かつ運用でいいのではないかと思っています。これが書面による準備手続が残るかどうかは別にしまして,仮に一本化される場合でもその辺がベースになるんだろうと思いますので,音声によるということで,それをベースに考えておく。要するに,ウェブが原則で一定の要件がないと音声のみは駄目という規律までする必要はないのではないかと考えました。 ○阿多委員 実務の状況を踏まえて補足しますが,代理人ではない本人訴訟の場合,弁論準備手続ではなくて通常の口頭弁論で手続が進められることが多く,また,電話会議システムが本人訴訟の場で多用されているのかというと,先ほど日下部委員から説明があった本人かどうかの確認が難しいということで,必ずしも利用されていないと理解しています。そこで,弁論準備手続も顔が確認できるウェブ会議システムを原則とすれば本人であることの確認が容易になりますので,本人訴訟でも弁論準備手続を利用のしやすくなるのではないと考えます。また,書面による準備手続との一体化については,私は書面による準備手続は廃止し,弁論準備手続にまとめてはどうかと思います。   むしろ質問は,書面による準備手続が一定の場合に必要として書面による準備手続を残しつつ,また,電話会議システムの利用を残すという点です。なぜ残すのか。接続が可能であれば電話会議,できなければ書面という提案かと思いますが,電話会議での接続が可能であれば,弁論準備手続を利用すれば足りるのではありませんか。 ○山本(和)部会長 弁論準備はおおむねよろしいですか。1については。   それでは,2の「書面による準備手続」の方に移りたいと思います。今の阿多委員の御質問は2についてだったと思いますが,事務当局の方から。 ○大野幹事 弁論準備手続の期日において,当事者双方が不出頭で,電話会議やウェブ会議を利用して手続に関与することができるということになりますと,御指摘のとおり,書面による準備手続が当初想定していた部分も,弁論準備手続の利用に流れていくということはあり得るものと思っています。   そこで,では書面による準備手続はどのような位置付けとなるのかということを改めて検討したところ,書面の交換によって争点整理を行うことができる類型の事件も一定数はあるだろうと考えられたことから,書面による準備手続を維持する意義はなおあるのではないかと思われたところです。また,ウェブ会議であっても対応が困難な方の存在も想定されるところであり,そういった方のためにも書面による準備手続を維持しておく必要があるのではないかとも思われます。そこで,以上のような観点から,書面による準備手続はなお維持するという前提で御提案をさせていただきました。   そして,阿多委員がお尋ねの協議の点でございますが,確かに書面による準備手続を書面交換で争点整理をするものだと純化をしていくと,協議はもう必要はなくなるので廃止するということも一つの御意見だろうと考えております。もっとも,事務当局といたしましては,協議について,わざわざ廃止せずに残しておくことで,なお有益な場面もあり得るだろうと考えまして,部会資料5では,どのように考えるかという形で問題提起をさせていただいたというところです。 ○山本(和)部会長 阿多委員は要らないのではないかという御意見なんですね。 ○阿多委員 という提案です。 ○日下部委員 三つの手続の統合問題も絡んでしまうんですけれども,日弁連の意見としましては,争点整理手続は現状どおり三つがよいという,こういう意見を言っているということをまず申し上げたいと思います。   その上で,書面による準備手続を見たときに,それを維持することの適否ということなんですが,個人的には反対はしないというくらいな感じでおります。賛成するとまで強く個人的には申し上げていないのは,部会資料の10ページで挙げられております書面による準備手続がなお必要と考えられる2種類の事案が,本当にそれほどのニーズを生んでいるのかというところに疑問を感じるからです。   二つの事案というのが,まず一つ目は「期日を開かずに,準備書面の提出等によって迅速に争点等の整理を行うのに適した事案」というものですけれども,そういった事案が果たしてこれまで実務的に認知されてきたんだろうかという点で疑問を感じているところです。訴訟代理人を何年もやっておりますけれども,正にこういう事案は書面による準備手続に適するよねというようなものに触れたということは,私は個人的にはございません。   それから,もう一つの事案が,「当事者の一方又は双方が電話会議等を利用することが困難な環境にある者である事案」とされています。そういう者って具体的にどういう人なのかということで挙げられるのは,刑事施設の被収容者が当事者である事案くらいしかないのではないかと言われることが多いと思います。   ただ,本筋としては,そうした者にも電話会議等による期日への関与を認めるようにしておくべきように思われますし,仮に書面による準備手続が維持されることになったとしても,それを理由に刑事施設の被収容者の扱いが現状のままでいいのだという形に議論が進んでしまうのはおかしいのではないかと感じております。   あと,仮にですけれども,書面による準備手続を残すというふうになった場合の主宰者,手続主宰者についての御提案に関して,1点疑問を持ったところであります。今回の御提案では,判事補のみが受命裁判官となって書面による準備手続を主宰することはできないという提案になっているところです。ただ,特例付の判事補の場合には,単独体として裁判所を構成して,自ら書面による準備手続を主宰することができるように思われますので,そうしますと,特例判事補の扱いについては一貫していないようにも思われました。   したがって,単独で受命裁判官となって書面による準備手続を主宰することができないのは,特例が付いていない判事補とすべきではないかなと感じたところであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   最後は,趣旨はそういう趣旨だと思います。法令上は判事補というふうに書かれていて,ただ,特例判事補は特例でそれが判事の職務ができる判事補ということになりますので,それはそういう前提だろうと思っています。 ○日下部委員 分かりました。ありがとうございます。 ○笠井委員 まず,書面による準備手続という,この書面という概念がまずどういう意味なのかなというのを,そもそも書面を廃していこうというこの話のときに少し気になったので,その辺りを伺いたいと思うんですが,先ほど日下部委員も御紹介になった12ページの上の方にある書面による準備手続が利用される場面はというところのうちの,一つ目の準備書面の提出等のみにより争点等の整理を行うのに適した事案というと,これは多分もう書面ではなくて電子的なやり取りというのがむしろこれからは念頭に置かれるのかなと思いますので,書面という言葉が適当かどうかということ自体,何か問題があるような気がします。   その次に,電話会議等を利用することが困難な環境にある者,刑事施設被収容者を主に念頭に置くと思いますけれども,これについて見ると,紙の書面というのがもしかしたら予定されているのかもしれないという辺りで,名称自体についてもいろいろ検討が必要かなと思うとともに,日下部委員がおっしゃったように,そういう刑事施設被収容者についてもやはり電話会議等についてアクセスができるように,ここは法務省の別の組織の話かもしれませんけれども,考えていくべきだというのは,前から,研究会の頃から思っているところでございます。   それから,これも研究会の頃から思っていることですけれども,やはり私も阿多委員などと同じように,この書面による準備手続というのは改めて置く必要はなくて,もう廃止してしまって,弁論準備手続と統合した新しい一本化された争点整理手続を作るのがよいと思っております。先ほど富澤幹事もおっしゃった取消しをいちいちしなくてもいいといったメリットがあろうかと思います。ただ,手続を一本化しますと,結局どういう運用をするのかということについて裁判所の裁量を強めるという,そういう側面があると思いますので,そういった理論的に考えなければいけないこととかはあると思うのですけれども,この場面では裁判所の裁量に一定の期待をしてもよいと考えております。 ○長谷部委員 ありがとうございます。長谷部です。   今,日下部委員とそれから笠井委員の御発言の中で共通に出てきた電話会議システム等を使うことが困難な人と,10ページと12ページそれぞれ書いてあると思うんですけれども,専ら刑事施設に収容されている者というのが具体例に出てくるんですが,それだけなんだろうかと思うのです。例えばコンピュータにアクセスすることができない環境にあるとか,あるいは電話会議であっても,自宅で電話で話をしていることを同居者に知られるとそれは非常に困るということで使えないという,そういうような人が想定されるとするならば,書面による準備手続のみでするということも意義があるのかなと思います。もちろん可能性ということで今申し上げているわけですけれども,実際に書面による準備手続を使っておられる利用者の方というのがどういう方で,どういう事件で使われているのかということをもう少し資料があると,有り難いかなと思っております。   専ら刑事施設に収容されている人しか具体例が出てこないというのは,ちょっと狭いかなというふうな感じを持っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   その具体的な資料というお話がありましたが,裁判所の方から富澤幹事。 ○富澤幹事 書面による準備手続がどのように利用されているのかというお尋ねがありましたので,現状の方を御報告させていただこうと思います。   フェーズ1の新たな運用が始まるまでは,本日も御議論をいただいたとおり,刑事施設被収容者が当事者となっている事件において,書面による準備手続に付した上で,書面を交換した上で,最後に第1回口頭弁論期日を開いて,書面をまとめて擬制陳述して審理するような例が多かったところでございます。   ただ,フェーズ1の新たな運用が始まりますと,このような場合以外にも,書面による準備手続,すなわち双方当事者が不出頭の状態で争点整理を行う事案がかなり増えてきております。本年の8月31日時点で報告を受けた直近の7月で御紹介の方をしますと,ウェブ会議が利用された訴訟手続の合計1,431件の中で書面による準備手続で争点整理が行われた件数が966件であり,書面による準備手続がかなり利用されているというところでございます。   ただ,本日の議論にもありましたとおり,今後,弁論準備手続が双方不出頭で行われることになりますと,書面による準備手続で協議を行うというパターンは,ほぼ弁論準備手続に集約されることになろうかと思います。書面の交換で争点整理を行う場合はあり得ますので,書面による準備手続そのものは残してもいいのではないかなとは思うところですが,書面による準備手続における協議の規律まで残す必要はないと思うところでございます。   確かに,書面による準備手続において書面の交換は,現在,先ほど申し上げたような刑事施設被収容者の例を除けば,それほど使われていないわけですけれども,今後IT化が進む中で,例えば提出された電子準備書面の内容についてメッセージ機能を使って釈明をした上で,次の電子準備書面を相手方に提出してもらうという形で協議を行っていく可能性もあります。今後は,様々なプラクティスを行っていく可能性はあると思いますので,そのような意味で準備書面の交換に特化した手続として書面による準備手続を残すことはあり得るかなと思います。ただし,後ほど御説明いたしますとおり,争点整理手続についてはこれを一本化する方が相当と考えておりますので,一本化された争点整理手続の中で同じような手続が実現できればと思っているところでございます。 ○阿多委員 書面による準備手続は私も廃止論ですが,電話会議による協議を残すという点について,期日外釈明との関係をどのように整理するのかという問題があると思います。期日外釈明も平成8年改正で導入しれたときには,期日外,期日間に実施する際には,裁判所が当時は必ずしもトリオフォンを義務づけるわけではなくて,一方当事者に電話等で接触をし,重要事項について釈明し,回答がえられた場合には,記録に残して相手方に通知するという制度として導入されました。   ただ,現在のウェブ会議システム,従前のトリオフォンを使った電話会議システムの当時から,裁判所が期日外釈明をする場合でも双方が関与している限り,相手方に通知をする必要はないとして運用されています。他方,書面による準備手続における電話会議は実際は双方への期日間釈明であって重要事項について釈明や回答があっても双方情報共有ができていることからあえて調書も残さない運用がされています。そうであるなら,書面による準備手続での電話会議での協議を残さなくても,双方に電話会議システムやウェブ会議システムでのアクセスを要件とすれば,書面による準備手続に電話による協議を残す必要はないと整理ができると思います。   後で一本化の話をしますが,弁論準備手続と書面による準備手続については,期日概念があるかないかという違いだけですので,むしろ笠井委員がおっしゃったように裁判所の裁量が広くなるかと思いますが,どのような形で期日を設定するのかと整理をする方分かりやすいのではないかと思います。 ○日下部委員 先ほど長谷部委員の方から法改正がなされて弁論準備手続において当事者双方がウェブ会議等で関与することができるようになった後,書面による準備手続を利用することになる,電話会議等を利用することが困難な環境にある者ってどういう者なのかというお尋ねがあったと思います。   刑事施設の被収容者というのはよく挙げられるものですが,それ以外に考えられるものとして,商事法務研究会における裁判IT化研究会のときに挙げられましたのは,感染症にり患していて,隔離病棟にいる人,そういう人が当事者の訴訟ってどういうものなんだろうというのはちょっと考えにくいところもあるんですが,そういうものが挙げられました。   あともう一つ挙げられましたのは,こちらはもう少しあり得るかと思うんですけれども,外国に所在している当事者が本人訴訟で代理人を使っていないというケースで,その外国から例えば電話会議などで手続に関与するということが,仮にその外国の主権侵害の問題を惹起するんだということであるとすると,法制上の問題として,あるいは国家間の問題として,電話会議等を利用することが困難な環境にある者というものに該当し得るという,そういう見方もあるのではないかという話は出たことはございました。   観点が異なりますが,電話会議等を利用した協議を書面による準備手続の制度の中に残しておくのかどうかということについては,私自身は残すことにはこれまた反対はしないという程度の意見でございます。元々書面による準備手続は今後利用場面が非常に限定されるだろうと思われますし,更に電話会議等を利用した協議をしなければならないという局面も輪をかけて限定されるように思いますので,それをその制度として残しておく必要がどれほどあるのかということについては,疑問を持っています。   そもそも先ほど話の出ておりました電話会議等によって手続に関与することができない者が当事者である事案であれば,この電話会議等を使った協議をすることはそもそも見込めないわけですから,制度を残す必要性については疑問はなしといたしません。   ただ,期日を開かずに,書面によって争点整理をするのに適した事案で書面による準備手続を行っていて,その中で協議をすることが必要になったというケースが仮にあったという場合に,この協議ができないのであれば,書面による準備手続を終了させて弁論準備手続に付して期日を設定してというプロセスを踏まなければいけないということになるのだろうと思います。   裁判所の事務をささやかながら効率的に保つという観点からは,この書面による準備手続における電話会議等を利用した協議という制度を残しておいてもよいのではないかなと思っております。 ○山本(和)部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○佐々木委員 すみません,先ほど最高裁の事務総局の方からウェブ会議の利用実績,フェーズ1の利用実績を御説明いただいたんですけれども,書面による準備手続のところ,966件ということで,比較的多いなという印象なんですが,これは,何でしょう,書面による準備手続がふさわしい中で電話会議等を利用した協議というのが必要になったものについてウェブ会議を利用したのか,そもそも双方出頭できないから書面による準備手続,ウェブ会議を使った書面による準備手続というその形式を利用したのかと言われると,どっちなんでしょうか。 ○富澤幹事 御質問のお答えにきちんとなっているか若干不安はありますが,当事者の意見を聴いた上で,書面による準備手続,すなわち双方当事者が不出頭で争点整理を行うことがふさわしいと裁判所が判断しているのでございまして,当事者が物理的に出頭することが困難な場合に限られるものではないということになります。 ○佐々木委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですかね。 ○阿多委員 利用者サイドからの話ですが,元々フェーズ1の試みが始まった段階では,弁論準備手続での利用で一方当事者は裁判所に出頭するということを考えていたのですが,コロナ禍での出頭回避という事情があって,裁判所も利用者も裁判所への出頭はできるだけ控えるという意識が芽生え,弁論準備手続がより適切と認識しつつ,便法として書面による準備手続プラス電話会議システムないしはウェブ会議システムを使って争点整理を実施しているのが実情になります。 ○富澤幹事 統計上の数字を若干御紹介いたしますと,運用を開始した当初であれば,2月は弁論準備手続が97件,書面による準備手続が32件と弁論準備手続の方が多かったところでございます。  他方,今,阿多委員からも御指摘がありましたとおり,その後,新型コロナウイルス感染症の問題が生じたこともありますし,一方当事者が出頭するよりも,双方当事者が出頭せずに手続が行われる方が公正だと受け止める当事者も多いという話を聞くこともあります。さらに,それほどまだ件数は多くありませんけれども,ファイル共有機能や画面共有機能を使用する場合には,双方当事者が不出頭で手続をした方がよりスムーズであることもありまして,書面による準備手続が増えてきているのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 佐々木委員,いかがですか。 ○佐々木委員 ありがとうございます。   もう1点なんですが,書面による準備手続が純粋に本当に書面だけということになれば,それを残すことには意味もあるのかなとは思いますけれども,実際,現在の運用ですと,これはちょっと分からないので教えていただきたいんですが,書面による準備手続をやったときというのは,電話会議等を利用した協議というのが実際にはもうセットで行われるという運用になっているんでしょうか。その点について教えていただければなと思います。 ○富澤幹事 現在ではほぼセットで利用されており,書面による準備手続に付しておきながら協議をしないことは,一部の例外を除き,ほとんどないと認識しているところでございます。 ○佐々木委員 ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 よろしいですか。   ほかに。 ○高田委員 平成8年改正の時点でこの手続が入った段階では,恐らく先ほど来出ておりますように書面の交換と期日間釈明だけで争点整理ができる事案もあるだろうと,諸外国にそうした制度があるということもあって,こうした制度を準備しておくことが選択肢を増やすという点で望ましいだろうということで出来上がった制度だというのは,そのとおりだろうと思います。ただ,協議としていかなることを想定していたかどうかというのは別問題でありまして,期日外釈明を,電話会議を介してでありますけれども,双方が存在する場で行うということの効率性ということもあり得るということで,入ったものと理解しております。   しかし,現在セットで使われているということは,結局電話会議等と申しますか,当事者間,当事者ないしは訴訟代理人のかっこつきの対席の下で行う方が争点整理には適しているということについて,共通の認識ができているということであり,その中で,準備書面の交換プラス期日外釈明のみで争点整理を行うのに適した事案が,先ほど来出てまいりますように,電話会議が利用できないという消去法でしか語られなくなっているという事態をどう評価するかということだろうと思います。   その上で,なお準備書面プラス期日間釈明で適切な準備ができる,取り分け第1回口頭弁論期日前にそれを行うことによって,口頭弁論期日自体を節減することができるというメリットを感じるかどうかということを踏まえて御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 すみません,ありがとうございます。   今伺っていて,なぜこの3種類の手続が併存し続けなければいけないのかという理由が分からなくなっておりまして,要は,争点整理が迅速かつ効率的にできればいいということであって,その方法がどのような形でもいいのではないか,その三つがどのように併存してもいいし,どれか一つでもいいのではないかということで,今より選択肢を減らす必要があるという合理性も思いつきませんでしたし,自由に組み合わせてフレキシブルに使えるような運用にしていただくのが最も関係者の利益に資するのではないかなと思いましたので,一本化して,中ではフレキシブルに運用できるという形にしていただくのがいいかなと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ここで若干休憩を取りたいと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは,再開したいと思います。   次は,資料12ページ,3の「準備的口頭弁論」,これは維持するということでどうかということですが,その後,(後注)で先ほど来議論が出ている争点整理の一本化ということについてどのように考えるかと,この点も御一緒に御議論を頂きたいと思います。   それでは,御発言をお願いします。 ○日下部委員 先ほど申し上げたと思うんですけれども,この点についての日弁連の意見は,3種類の争点整理手続を維持すべきというものでございます。   ただ,三つの争点整理手続を一つのものにまとめたとしても,内実として三つの方法を適宜選択するということであれば,利用者の観点からは実質的な違いはないとも考え得るところかなとも個人的には思っているところです。   その一つに統合するということの適否,是非については,主として裁判所における手続,これを煩さなものではなく,かつ手続の遺漏が生じないような形にシンプルにするというところに大きなメリットがあるのかなというふうに理解をしております。その観点でいいますと,手続主宰者がそれぞれ異なっているという問題をどのように解消していくのか,あるいは解消しないまま気を付けて運用していくのかというところについては関心を持っております。   また,観点が異なって恐縮ではあるんですけれども,利用者の目線,あるいは国民の目線で見たときに,今の仕組み,今の立て付けがとても分かりづらいのではないかという問題意識は持っております。現行法上,争点整理手続が3種類もあり,しかもそれぞれの名前を耳にしても,それが何を目的としているのかというのはいずれも示されていない。そういうことでありますと,現在の民事訴訟の構造が,争点整理をして実質的な争点の絞り込みをし,その後に集中証拠調べをして,迅速で効率的な手続を進めていくんだという,こういう構造を一般的に理解をしてもらうことが難しい,その一因にもなっているのではないかなという気もいたします。   そういう目で見ますと,司法を国民に開かれたものとするという観点からは,争点整理手続を一つに統合して,その名前も目的をずばり示す「争点整理手続」といった名称にするということは,国民目線ということでは若干その表層的ではありますけれども,そのこと自体にも価値はあるのではないかなという気もいたしました。 ○阿多委員 まず,日弁連意見は日下部委員がお話ししたとおりですが,いろいろな意見があるということで,私自身はこの(後注)にあります手続の一本化に賛成したいと思います。何度も申し上げていますが,今回の改正というのは平成8年の改正のいろいろな意味での見直しであり,ある意味では当時は理念にかなり重きを置いて改正したのですが,20年たった実情も踏まえて検討をする必要があります。三つの手続が設けられた経緯については,従前は口頭弁論しかなく,準備手続という非常に例外的なものがありましたが,口頭弁論を中心に手続を進めていたわけですが,より迅速なまた中身を充実するという観点から手続を準備的口頭弁論という,口頭弁論を本質的口頭弁論と準備的口頭弁論に分けた上で準備的口頭弁論という手続を一つ,弁論の準備という形で弁論準備手続,更には書面による準備手続をある意味では理念をかなり重視し,口頭弁論を裁判手続の中心に考えて整理してきたかと思います。   今日は冒頭で口頭弁論は何なのかと議論をさせていただきましたが,従前は,双方当事者が出頭して裁判所を中心に法廷で顔を合わせて議論をするということで口頭弁論概念を位置付けてきたわけですが,これが一定の情報は制限されるにしても,ウェブでの関与で代替できるという評価が可能なのであれば,あえて三つの手続に拘泥する必要はなく,本来の争点整理に着目して手続を整理してはどうかと思います。   ただ,準備的口頭弁論や口頭弁論では全ての証拠調べ手続が基本できるが,弁論準備手続は書証の取調べを除いてできないという形で整理をされていますが,それ以外の証拠調べが本当にできないのかということも含めて,あるべき争点整理及び証拠の整理という手続を議論していく必要があるのではないか,実際の手続の利用状況も踏まえて検討する必要があると思います。   利用状況ですが,準備的口頭弁論が導入された当初は,当時の裁判所では法廷が足りないということで,やむを得ず法廷以外の場所で手続を進められる弁論準備手続が利用されていました。当時,裁判所では,法壇がある対席型の法廷とラウンドテーブル法廷を順次配備していったので,法廷における準備的口頭弁論を実施できる設備状況が整えられてきたのですが,その後もラウンド法廷であっても,弁論準備手続が実施され準備的口頭弁論が実施されるということはありません。私自身に関して言うならば,弁護士登録も30年たつわけですが,生涯数度しか経験しておりません。   そのような状況にある準備的口頭弁論を残すのかということは考えていただく必要があり,理念だけではなくてより実効的な争点整理の実現を目指して改正すべきと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○門田委員 今,阿多委員から実情を踏まえた検討というお話がありましたが,現行法の下では,争点整理の過程において,民訴法に定められた準備的口頭弁論,弁論準備手続,書面による準備手続に,民訴規則に定められた進行協議期日を加えた4種類の手続が用意されているところ,IT化の取組が始まるまでの実務では,大半の争点整理は弁論準備手続で行われ,たまに進行協議期日を挟むというのが通例であったと思われます。   今年の初めからフェーズ1の運用が始まり,現状の使い分けとしては,双方又は一方の当事者が出頭される場合には弁論準備手続で行い,双方当事者が不出頭の場合には書面による準備手続の協議,あるいは事実上の打合せという形で行うというように,使い分けられるようになっています。IT化の取組はまだ始まったばかりではありますが,IT化を契機として争点整理の姿が変わりつつあるといえます。   一方で,争点整理の内容面から見ますと,正式な争点整理の期日とその準備段階といえる協議の場で行われるものを分けて考えた方がよいと思われることがあり,期日と協議という二つの手続をシームレスに行き来できれば使い勝手がいいというのが実務の感覚のようにと思われます。   そこで,現在ある争点整理に係る手続を再構成して,新しい時代の争点整理の在り方に即したものとするためにも,争点整理手続の一本化ということを考えていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 ありがとうございます。   一本化のイメージが全然湧かないのですけれども,これは非公開法廷で人証の取調べができることを一本化と呼んでいるのでしょうか。結局,その問題が一番重要なんですけれども,そこを含めて一本化というふうにおっしゃっているのかどうかだけお伺いしたいと思います。阿多委員を含め賛成された方,順番に。 ○阿多委員 私の発言の趣旨は,現状の争点整理を経た上での集中証拠調べに移行するという,その前段階の争点整理手続と言われているものについて,三つのルートは必要ないだろうという形で,集中証拠調べを含めた人証取調べというのは公開法廷で実施されるものだと考えています。 ○山本(和)部会長 争点整理手続段階で人証を調べるということは想定していないという理解ですか。 ○阿多委員 私自身の提案は飽くまで準備的口頭弁論の廃止を考えています。 ○山本(和)部会長 ほかの方。 ○門田委員 私も本格的な証人調べは集中証拠調べで行うべきと思っておりますので,争点整理手続で人証を調べることを想定しているか否かということになりますと,想定していないということになります。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,いかがですか。 ○山本(克)委員 それなら準備的口頭弁論をなくす意味というのはどこにあるんでしょうか。準備的口頭弁論でメリットがあるのは,大規模訴訟等で当事者がどうしても在廷で,公開法廷で争点整理をやりたいと希望するときとか,簡単な人証調べをちょっと挟んだ方が便利なときというようなことを考えていたと思うんですね。   前段についてはどう,まだニーズが残っているのかどうかよく分かりませんが,後の方のニーズというのは,もう切り捨てるということですね。 ○阿多委員 山本克己委員がおっしゃる想定していた事例は,通常の口頭弁論で対応されていますし,大規模訴訟とか政策形成訴訟については準備的口頭弁論自体で手続が進められていることはないと理解しています。   それから,山本克己委員がおっしゃる集中証拠調べではなくて途中途中に証人に話を聞くという手続運営が必要な場面があるのではないかということについては,むしろ現在はそのような証人尋問を挟む整理がほとんどされていません。釈明処分等で一定の情報収集は可能だとは思いますが,証人尋問については集中証拠調べでという形が今の実務の運営だと思います。 ○山本(和)部会長 山本克己委員,更に御発言ありますか。 ○山本(克)委員 いや,先ほど書面による準備手続をなくさなくてもいいのではないかという議論と同じで,なぜなくさなければいけないのかが分からないということです。 ○富澤幹事 議論の御参考までに統計上の数字を御報告いたしますと,既済事件を前提にすると,一度でも準備的口頭弁論が使われたという事件が平成31年度で13件となります。既済事件の合計が13万件余りありますので,阿多委員からも御指摘があったとおり,準備的口頭弁論はほぼ使われていないことになります。その理由は,政策形成訴訟なども含めまして,口頭弁論で争点整理をするケースがほとんどであるということになろうかと思います。 ○山本(和)部会長 それでは,ほかにこの点について御意見があれば。 ○小澤委員 私もこの統合については賛成をします。   今日頂いた資料を見ますと,やはり弁論準備手続の代わりに書面による準備手続が利用されているということが推測できますし,そうであれば弁論準備手続の代替手続として書面による準備手続が利用されているという実態があるということですので,両手続を区別する実益が余りないのではないかなと思います。   利用者である皆さまからも御意見がありましたが,利用者である国民にとって分かりやすい手続を目指すという意味からも,積極的に統合の方向で検討をしていただければと思いました。 ○山本(和)部会長 よろしいでしょうか。 ○高田委員 引き続き準備的口頭弁論について,山本克己委員の御発言とほぼ同じ趣旨なんですけれども,弁論準備手続を使わずに口頭弁論で争点整理をしているという実務があるというのは,そのとおりだろうと思います。ただ,その場合,それにもかかわらず準備的口頭弁論という制度を設けたのは,164条から167条までの規定を準備することによって,争点整理の実を上げようということだったろうと思うのですけれども,実質的にこれを使うということはどうかとは別にいたしまして,通常の口頭弁論ですとこの規定の適用が落ちてしまうということを意味するわけですけれども,その点はそれでよいという御判断をされるということでしょうか。 ○山本(和)部会長 いかがですか。 ○富澤幹事 一本化された場合の争点整理の運用のイメージについて裁判所内で議論したところを御紹介させていただきます。   現在,争点整理手続であれば,準備書面の陳述や証拠調べを行う中で,記録化をする正式な期日のほかに,その準備段階に相当する協議を行うことがございます。これらは手続を行ったり来たりすることも想定されているところですし,さらに,正式な期日については公開で行うものと非公開で行うものが考えられるところでございます。このような考え方もあって,現在でも準備的口頭弁論や非公開で行う弁論準備手続といったものがあるのだろうと思います。しかし,手続を主宰する裁判所としましては,これらの手続をできるだけ柔軟に使い分けたいというニーズがございます。本日,日下部委員等からも御指摘がありましたとおり,当事者にとっても争点整理手続で一つにまとめられた方が分かりやすいですし,システムとしてもシンプルになると思うところでございます。   このような問題意識を踏まえ,イメージとしては,争点整理の準備段階で行われるいわゆるノンコミットメントルールの下での口頭議論や書証の原本確認,現場の紛争対象物の確認等は,正式な期日ではない協議で行うことが考えられるかと思います。   こうして準備が整った段階で,準備書面の陳述や書証の取調べを行うために,正式な期日を指定し,書記官が記録化を行い,さらに,この正式な期日については,公開か非公開のいずれで行うかを当事者と協議をしながら裁判所が選択するということになろうかと思います。更に必要があれば改めて協議を設定し,再び正式な期日を開く。こういった進行も考えられるところでございます。   なお,合議事件の場合には,公開される期日においても受命裁判官で手続を行うことができることも前提になると考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 高田委員,よろしいですか。 ○高田委員 取りあえず。 ○大谷委員 大谷でございます。   この一本化につきまして,やはり国民への分かりやすさということを皆様がおっしゃいますので,分かりやすいものにしていただけるのであれば,可能ではないかと思うのですけれども,実際に訴訟を利用している利用者の立場としては,この弁論準備手続というのは,非公開性ということが原則になっておりますので,その点でいうと非常に使い勝手のいい争点整理の方法だと考えているところでございます。   特に,IT関係の複雑な訴訟で,書証が多岐にわたる中で,双方の主張が乱れているというような状態のときに,次回期日が弁論準備手続だということが分かりますと,それに備えた準備をして,その期日に向けての進め方などについての方針が非常に立てやすいということで,弁論準備手続があとどのぐらい続くのかといったことの予見可能性といったものがこの争点整理の中ではポイントになってくるかと思っております。   ですので,弁論準備手続に含まれているこの非公開であるという,その特徴を損なわないということを是非御配慮いただきまして,柔軟な受命裁判官の立場での選択というのが,利用者の双方にとってメリットになるのであれば,差し支えないものと思いますけれども,その次回がどのぐらい非公開が続くのかというような訴訟遂行上の予見可能性ということについて,余りにも柔軟だと,次は公開になってまた非公開に戻ってということが続いてきますと,方針が立てづらいということにもなりかねませんので,そういう懸念を払拭するような形で御検討いただけるのであれば,現実的な選択肢になってくるのではないかと思われます。   他方,準備的口頭弁論ですけれども,利用者の立場としては,口頭弁論の一種だと受け止めておりまして,ここで行われるのは争点整理ではありますけれども,ある意味口頭弁論の中に統合されても,その中で争点整理ができるということが明確になっているのであれば,それで十分ではないかと思います。   そして,簡易な手続としての書面による準備手続というのが弁論準備手続の中に統合され,それが期日であるのか期日でないのかなどについて,ここは一本化することがもしかすると可能ではないかと思っておりますけれども,現在コロナ禍で多用されている状況を考えますと,メリット・デメリットをもう少し検討して,慎重に一本化のイメージを探ることが必要ではないかと思っております。   ということで,非常に中途半端な意見でありますが,国民から見た分かりやすさの観点で御意見させていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 すみません,何度も。私は別に準備的口頭弁論を廃止したり,書面による準備手続を廃止することについては,それほど懸念を持っていませんが,一本化の名の下において,弁論準備手続のフォーマリティが更に緩められて融通無碍な手続になってしまうということについては,大きな懸念を持っております。   結局,裁判手続はやはりフォーマリティというものをある程度維持していることが西欧近代の国家の仲間入りをしようとした日本にとって重要なことであり,それはなお重要な事柄だろうと思っております。   西欧近代の国家の価値観の中には,やはり,裁判手続はフォーマリティのあるものであるということも私は含まれているべきものだと思っておりまして,そこを抜きにして利用者に単に便宜だからと,便宜性だけを考えるのであったら,もう裁判所が好きに便宜にやればいいという1条,1か条を置いて,民訴法のほとんどを要らないということになってしまいますので,余りにもフォーマリティを放棄して融通無碍な手続を作ることに対しては反対です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 いろいろお話をお伺いしていますと,この一本化の適否については,一本化した後のものがどういうものなのかということについて,人によって大分受け取り方が違うのかなということは浮き彫りになったように思います。その状態で是か非かという議論をしてもかみ合わないように思いますので,できますれば,次に検討する機会のときには,一本化したときの争点整理手続というものはどういうものになるのだという,案として具体的なものをお示しいただいて,その中でここはこうしたほうがいい,ここはこうしたほうがいいというような形で議論ができるようにしていただけると,有り難いなと思います。 ○高田委員 山本克己委員の御発言に驥尾に付してということになると思いますけれども,平成8年改正のときは直前の弁論兼和解という手続の,どう言えばいいんですか,悪しき記憶があったということで,山本克己委員の趣旨を別の表現で表せば,裁判所の選択をするに際し,選択の幅を一定程度に制限するという目的があったように思います。それが現在の3本ないし4本の制度だと思います。   したがって,一本化については引き続き御議論いただければいいと思いますけれども,一本化した場合においても,その選択肢の制限と申しますか,フォーマリティを維持するという観点からの検討が必要だと思いますので,今の日下部委員の御発言にも関係しますけれども,その点も含めたご検討をお願いしたいと存じます。 ○藤野委員 私も一本化というよりは,一つ一つこれがマルでこれがバツという整理ではなく,この三つをもう一度考え直すということで整理していただきたいと考えます。そして,これとITを活用するというのは,実は関係ないかもしれないという思いもございまして,ただ,社会状況を鑑みて,この御時世でITを活用する場合には,やはりそれに対するルールも踏まえ,三つのやり方を整理していただきたいということを希望いたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 一本化の議論につきましては,引き続き御検討いただきたいと思いますけれども,争点整理全般について発言させていただきます。   冒頭に最高裁からフェーズ1の運用について御紹介がありましたけれども,現段階ではウェブ会議に慣れるというような段階かと思います。今回の法改正によって広くウェブ会議を利用して争点整理手続が行われるということになりましても,それだけでは現在の電話会議が関係者の顔が見える手続に代わるだけということで終わってしまう懸念があります。   平成30年の内閣官房の裁判手続等のIT化検討会の取りまとめでは,今後,我が国が目指すべき裁判手続のIT化とは現行の民事裁判手続を単にITに置き換えることで満足するものではあってはならないとされています。   その意味で,今後,法改正を踏まえて争点整理手続をいかに充実させるかという運用の改善が重要になってくるものと思います。   先ほど,最高裁からも争点整理のモデルの御紹介がありましたけれども,日弁連においても日下部委員が中心となって現在の実務の改善の取組を検討しているところでございます。この点で1点要望させていただきたい点があります。争点整理手続というのは,本来当事者が事前に提出した準備書面を基に期日において争点,証拠を整理するというものです。   争点整理期日の前に準備書面が提出されて,それを裁判所や相手方当事者が検討して期日に臨むということが予定されているわけですけれども,残念ながら,現在の実務上,準備書面が定められた提出期限に提出されていないということが問題として指摘されています。最高裁の裁判の迅速化に係る検証に関する報告書でも,平成23年にこのことが指摘されておりまして,改善提案なども出されています。日弁連や弁護士会のシンポジウムでも度々取り上げられている問題でございます。   日弁連では,2018年1月に,民事司法改革のグランドデザインというものを公表しておりますけれども,この中にも民事裁判における運用の改善として,主張,証拠の期限内提出の徹底などの民事訴訟の改善により積極的に取り組むことが記載されているところでございます。   このように,準備書面の問題というのは大分以前から問題として指摘されて,改善策等も模索されているわけでが,なかなか改善される見込みがございません。したがって,この点についてはもう立法で手当てするほかないのではないかと考えられます。   端的に結論を申し上げますと,研究者の方から争点整理における口頭審理の活性化の観点からの提言の一部になりますけれども,当事者又はその代理人が定められた期間内に正当な理由なく殊更準備書面を提出しないときは,裁判所は決定で一定金額以下の過料に処するという規律を設けることが提案されています。是非,この機会に民事訴訟法にこのような規律を設けることを御検討いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○長谷部委員 私の意見は,皆さんの御意見と大体重なっておりまして,特に手を挙げている間にいろいろ御意見が出て,もうほとんど言うことはないなと思っているんですけれども,一つだけ申し上げたいのは,国民に分かりやすい,そのために一本化を考えてはという,最初はそういうような議論の流れがあったと思うんですけれども,いろいろお話を伺っていますと,争点整理手続の中でどういうものにするのかということについては,やはりいろいろな手続の有様があっていいと,そういう御意見もありましたので,そうなると,一本化のイメージを今後考えていただくときにやはり重要なのは,まずその期日が公開なのか非公開なのかとか,それからその期日で何ができるのか,証拠調べをするとしても,書証のみなのか,それとも人証調べまですることを予定するのかとか,あるいは手続の主宰者は誰なのかとか,それから,もちろん現在の165条で規定されているような証明すべき事実の確認等を行うという,そういうことは必要でしょうし,それは通常の口頭弁論とは違う手続として,どの手続にも必要なことだと思うんですけれども,それぞれのメニューで何を予定しているのかということを少し具体的に示していただいた方がよいかと思うのです。   実際に,立法化するなり手続を提供するときには,この手続だったらこういうことができますよということを示してこそ,国民に分かりやすいものになると思いますし,規定された手続以外のものに何となく広がっていってしまうというようなことになりますと,先ほど山本克己委員がおっしゃった手続のフォーマリティが崩れていくと思いますので,その辺り,きっちりとした何かメニューというのを提示していただければと思う次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○渡邉幹事 争点整理手続の一本化ではなく,先ほど大坪幹事から御指摘のあった準備書面の提出期限の管理の関係で若干補足させていただきます。  現在,より充実した争点中心型の審理を実現できるよう,裁判所の方でも様々な取組を行っておりますが,先ほども御紹介がございましたとおり,裁判所と双方代理人が膝を突き合わせてきちんと議論をしようとすると,事前にお互いの主張が分かっている必要があるため,事前に準備書面がきちんと提出されており,かつ,それを検討した上で相手方もきちんと準備をする期間がなければ,その先に進めないことになりますが,実務では直前に準備書面が提出されてしまい,お互いに咀しゃくできない状態で期日に臨んでいるがために,期日が空転してしまうということが実際には相当数生じているかと思っております。それで,先ほど大坪幹事から御指摘のあった立法政策が唯一の解かどうかは,私からなかなか申し上げられないところではございますが,何らかの立法的な手当てをして,準備書面の提出期限を守らない当事者に対する武器を与えていただきたいと考えております。   例えば,先ほどの提案内容より少し後退した印象があるかもしれませんが,提出期限を徒過した場合の理由の説明を必ず行う義務を課す,あるいは提出期限を徒過した場合には提出命令を発するといった制度も考えられるかなと思っております。我々としても,これがいいと言えるような知恵はないところはございますが,是非,一つの重要な論点として御検討いただければと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはよろしいでしょうか。 ○品田委員 準備書面の提出期限の管理の関係で,特に付け加えることはないのですが,実務を運用している実情をみてもそのとおりであると考えております。期限を徒過して提出というだけでなく,期日の当日に準備書面を持参してこられるというのが一番よくないパターンとしてございます。期日の当日に持参するために期日が空転するだけでなく,提出期限を遵守している反対当事者の方から裁判所に対して厳しい対応をしてくださいと求められ,裁判所としても対応に苦慮してしまうことも時にはございます。このような観点から,充実した争点整理の前提となる準備書面の提出期限を遵守するための規律の創設について,是非御検討いただければと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   おおむねよろしいでしょうか。 ○竹下幹事 国際私法の竹下でございます。今,一本化の議論がされているところでございまして,私から何か特に付け加えることということではないのですが,1点だけ注意喚起ということで言えば,当事者が外国にいる場合に,どの手続によるか,現在の手続それぞれを見てみますと,これはやはり外国主権との関係性というものが若干異なり得るのではないか,この点についてはまだまだ検討しなければならないところでございますので,何か今,この時点で定まった結論を出すわけではないのですが,三つの手続,公開か非公開か,期日を指定するかしないか,更には証拠調べをする,しないといったところが,外国に当事者がいる場合にどこまで実施できるかというのは,若干変わり得るようにも思われます。もちろん,これは一本化を否定する議論ではなく,一本化した場合にも,裁判官の方に適切に判断をしていただいて,外国主権の侵害などがないようにということは十分できるかとは思いますが,他方で,今行われている区別といったものが若干そういったところに影響があり得る可能性があるということは,少し注意喚起として発言させていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは,よろしいでしょうか。かなり多様な意見を頂きました。第2の1,2,3,それぞれの手続についての提案についても,いろいろな観点から御意見を頂いたと思いますので,それを精査して次の段階に進む必要があるということとともに,(後注)の一本化についても相当多数の委員から賛成する意見も出されたと思います。他方で,具体的な手続がどういう形になるのかが分からないと議論がしにくいのではないかという御意見も出ましたので,その辺りを事務当局に御勘案を頂いて,次の議論のときまでに整理をしていただくとともに,準備書面の提出の在り方という新しい論点も御指摘があったところですので,その点も踏まえて,次の議論に臨んでいただければと思います。   それでは,第2の4の進行協議,5の専門委員制度を併せて御議論を頂ければと思います。進行協議,専門委員,何かございましたら御発言を頂ければと思います。   特段よろしいですか。   それでは,原案について特段の御異論等は出されなかったと認識させていただければと思います。   以上で第2については御議論を頂けたと思いますので,引き続きまして「第3 特別な訴訟手続」,部会資料の15ページ以下についての議論に入りたいと思います。   事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 それでは,15ページの「第3 特別な訴訟手続」について説明させていただきます。   本文では,ITツールを十分に活用することを前提として,裁判が公正かつ適正で充実した手続の下でより迅速に行われるようにするため,新たな訴訟手続の特則を設けることについてどのように考えるか,検討をお願いしております。   説明の1でございますが,裁判が公正かつ適正で充実した手続の下でより迅速に行われることは,国民の司法に対する期待にこたえるものでございます。もっとも,現在の民事裁判が社会の求めるスピードや効率性にそぐわなくなっていることや,事前に民事裁判の終局までの期間を予測することができないことが民事裁判の利用をちゅうちょする要因ではないかとの御指摘もございます。   民事裁判手続のIT化がされた後においては,極めて柔軟で機動的な期日の指定やその運営,当事者及び裁判官相互のより緊密で即応性の高い口頭議論,争点整理手続が実現されるところでございます。   そこで,一定の事件において,当事者が望む場合には,IT時代の新たな審理モデルとして,終局までの期間や期日の回数を制限するなどの訴訟手続の特則を法定することについて検討することの提案をするものでございます。   16ページの2において,仮に民事裁判手続のIT化に伴いまして新たな訴訟手続を創設する場合の規律として検討すべきと考えられる項目について御検討をお願いしております。   現行法上,通常の民事訴訟手続との関係で,特則等である手形・小切手訴訟及び少額訴訟並びに労働審判手続の概要につきましては,別表に記載したとおりでございまして,手続の対象となる権利の特質と,特則となる訴訟手続の目的を踏まえ,手続上の規律が設けられているところでございます。   また,民事裁判手続等IT化研究会の報告書における新たな訴訟手続に関する規律の提案は,17ページから19ページまでに記載しているところでございます。   部会資料ですが,19ページの(2)から22ページの(9)までに,新たな訴訟手続の規律として検討すべきと考えられる項目を記載しております。順に,請求の関係,主張の関係,立証の関係,手続の開始の関係,通常訴訟手続への移行の関係,不服申立ての関係,審理期間等の関係,審理する裁判所の関係でございます。この(2)から(9)までの各項目は,それぞれ重要でございますが,新しい訴訟手続の目的と各項目を組み合わせた新たな訴訟手続全体像について御意見を賜りたいと存じます。   私からの説明は以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   この部分は,少しほかの部分とは資料の作り,体裁が違うような形になっております。15ページのところでは,やや抽象的な,特則を設けることについての御意見を伺うということで,17ページ以下で,研究会で提案された具体的な手続のモデルというのが示されていますが,これは一つの例示というような位置付けになっているのかと思いますけれども,いずれにしましても,この点について,どなたからでも結構ですけれども,全体について御意見,御質問を伺えればと思います。 ○井村委員 説明の中で言及されている労働審判制度は,調停成立率が70%を超えており,審判となった場合も含めれば,全体でおよそ85%がこの制度で解決しています。本制度に創設から運用まで関わってきた労働組合・連合の立場からすると,個別労使紛争の解決に大きく寄与しており,司法制度改革最大のヒットである,と高く評価をしています。その理由は,主に3点あると考えています。   1点目は,労働審判制度の迅速性です。労働審判手続では,期日・回数の制限の下に,口頭議論による充実した論点整理がされており,ほとんどが実際の運用においても3回以内,6か月以内の終結,平均すれば80日程度で終結しています。当事者の満足度の高さも調査で明らかとなっています。   2点目は,原則3回の審判の中で迅速に争点整理がなされて,心証が形成されるということです。当事者の参加意識が高められていることも成功している理由に考えています。   3点目は,労働審判に異議申立てがあれば通常訴訟に移行することです。一般的に裁判というのはハードルが高く,公開の法廷に立たなければいけない,というプレッシャーが,少なからず審判の受入れにつながっているのではないか。以上3点を連合として評価しているところです。   これらを踏まえて,この特別訴訟手続について,裁判の迅速性という点では理解ができます。一方で,労働審判は調停的な役割が中心で,審判員という一般の市民が参加する制度であり,更に通常訴訟への移行というステップがありますが,今回の検討されているものは裁判であり,当事者以外は職業裁判官と弁護士という構成の違いも考慮する必要があります。   労働審判の場合は,限られた期日の中で審理を尽くしていますが,特別な訴訟手続では回数が制限された主張書面での審理となり,あらかじめ司法手続の準備を進めていた原告側が有利になるのではないのかと考えています。例えば,解雇などの個別労使紛争において,使用者側があらかじめ主張及び有利な証拠を集めておいて,労働審判ではなく,特別の訴訟手続を一気に進めることも,労働組合として懸念しています。   また,労働審判はIT化とは別な理由で迅速性を生んでいるわけですので,この特別な訴訟手続も,民事裁判のIT化という当部会の論議とは直接関係がないのではないか,ということを最後に付け加えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○門田委員 IT技術のめざましい発展によって企業活動や人々の生活は一変しており,そのような中で,裁判所に対しても,企業活動等の中で生じた紛争を速やかに,かつ予測された期間内に解決することへのニーズがこれまでに増して高まっていると認識しております。新たな訴訟手続は,即時に情報の共有等が可能となるITツールの特性もいかしながら,審理期間についての当事者の予測可能性を高めるとともに,争点中心の集中かつ充実した審理を実現し,併せて手続の透明性を高めようとするものです。   民事訴訟手続の審理の充実,迅速化を図り,併せて手続を可視化,透明化することを企図した制度としては,現行法の下でも計画審理の制度が存在します。しかしながら,この計画審理は,審理すべき事項が多数であり又は錯綜しているなどという要件があるなど,複雑な事件を対象としたものである上,訴えが提起された後に,裁判所の方で主導して,当事者双方と協議をして,その結果を踏まえて審理の計画を定めるというものですので,訴え提起の前の段階から,あるいは初期の段階から,審理期間の予測可能性が十分に担保されているとは言い難い状況にあります。訴え提起の前,あるいは初期の段階から,審理期間にどの程度を要するかについての予測を可能とすることのニーズは,複雑な事件に限らず存在すると考えられますので,審理期間をあらかじめ法定して,当事者が手続の利用に同意することを条件として,法律の定める審理期間内に審理を終えることとする制度を設けることには意味があると考えております。   現行法の計画審理が,裁判所に対して,当事者と協議をして審理の計画を定める義務を負わせるという,言わば裁判所主導型,協議型であるのに対して,新たな訴訟手続は,当事者に対して法定された審理を利用するか否かの選択権を与えて,裁判所と当事者が法律で定められた審理計画に基づいて審理を行うという,当事者主導型,法定型と言えるのではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。裁判が迅速に行われること,また結論が出るタイミングが見えているのはとても大事なことですが,具体的にどういう場合に必要なことなのか,裁判所や弁護士など,多くの裁判を扱う専門家のお立場からお聞かせ願えればと思います。この御説明にはITツールの活用を繰り返していますが,先ほど井村委員の御発言の中にもありましたが,この内容がこのIT化部会の場で審議される必要性があるのかも少し疑問に思っております。   また,裁判の迅速化を目指すということが大きな目的でございますが,今ほど社会のIT化が進む以前のお話ですが,裁判の迅速化を目指して,福岡地方裁判所で10年ほど前に社会実験的な迅速トラックという取組が行われたことがあるという話をお聞きしました。その実証実験の結果,迅速化が図られたのか,どういう面で有効であったのか,またどんな課題があったのか等を参考資料としてお示しいただいて,その迅速化の問題を考えてみたいと思っておりますが,いかがでしょうか。   また,消費者問題が消費者と事業者との裁判となる場合,これまでも申し上げてきましたが,証拠の偏在や資金的な差が大きく,消費者が不利なために,なかなか消費者が勝てないという現実がございます。今回,甲案,乙案等の案のお示しもございますが,特別の訴訟手続は,相当に周到な準備で臨めばともかく,素人とプロとの戦いのような場面に迅速という面を強調されて臨んでしまったけれども,あれよあれよという間にプロに押し切られてしまうような結末も想像に難くなく,反訴の禁止も盛り込まれており,大きな懸念があります。この辺り,もし特別な訴訟手続の目的が迅速化というよりは,ITを活用して,もっとうまい裁判の方法がないかということであれば,話は分かるのですけれども,この内容がいまひとつ見えてこないところがございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○横田委員 横田でございます。今,藤野委員から御発言がありました,福岡地裁における迅速トラック,ファストトラックとも言われていますけれども,その実証実験があったということは御指摘のとおりでございます。   新たな訴訟手続の対象事件としてどのようなものが適切かという観点からいえば,まず一つ,福岡地裁で取り組んでいたようなファストトラックで対象となった,比較的争点が少ない事件の事案,例えば交通損害賠償請求事件ですとか,不貞による損害賠償請求事件などが考えられると思います。   もう一つ考えられるのは,例えば,複雑な事件で,通常の訴訟で審理すると非常に審理期間が長期化するような事案,例えば企業間の取引の事件ではこのような類型の事件が多いのですけれども,普通に審理すると長期間を要するけれども,当事者双方が重たい審理手続を望まず,むしろ早期解決を望んでいるようなBtoBの事案で事前交渉があるような事案が考えられると思います。   更にもう一つ考えられるのは,例えば,現時点では潜在的なニーズがあるだけにとどまっていて,各種ADRが利用されて紛争が解決されているような事案について,今後,そのニーズが顕在化するようなことも考えられます。先ほど井村委員の方から,労働審判の制度が非常に成功しているという御説明がありましたけれども,労働審判についても導入当初は,ここまで審理対象が拡大するとは想定していなかったのですけれども,制度が始まった結果,潜在的なニーズが顕在化して,運用が広まったということもあります。このように制度が設けられることによって将来的にニーズが顕在化するということもありますので,このような可能性も視野に入れた議論をしてもいいのではないかと思っております。   先ほどからIT化とは直接関係ないとの御指摘がありましたけれども,やはりITツールをできるだけ活用する中で争点整理を迅速に行い,口頭議論も充実させることも重要ですので,このような観点からも,この部会で是非御議論いただければいいのではないかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○阿多委員 日弁連は先般,意見書を提出しましたが,今回の資料の17ページで引用されています研究会報告書での提案であった特別な訴訟手続については賛成できないという意見を述べました。今回の部会資料での提案自体は,むしろ要件を分析分類されており,従前のような一つの形を示された上での提案ではありませんが,なぜ日弁連が従前の提案に反対したのか,賛成できないのかについて背景を含め説明させていただきます。   その前提として今日の部会資料5の15ページの説明の1で,「新たな訴訟手続の特則の創設について」という形で,言わば提案理由について説明を頂いていますが,この提案理由が必ずしも特別な訴訟手続と結び付く理由にはなっていないのではないかと感じています。   (1)では,事件数の減少等を指摘された上で,一定の期間かつ終局的な期間の予測可能性を高めることによって,国民が民事裁判を利用しやすくなると考えられると説明していますが。この期間の予測可能性というキーワードは,ある意味では非常に怖いところであって,本当に予測可能なのかという疑問があります。   先ほど計画審理を例に挙げられ,裁判所が主導して計画する場合と説明され,今回の提案は当事者側に選択権を与える提案だという説明もありました。弁護士,代理人が紛争に接し一番考えますのは,どのような解決が当事者の利益に本当に適うかという点にあります。終局までの期間の予測については,証拠が全面的に開示されているわけではない状況で,曖昧な見込みをつけることが当事者の利益に適うとは考えません。つまり,当事者に不利益が及ぶ可能性がある段階で期間の制限のあるこの手続を選択することは,必ずしも当事者の利益にはかなうものではないと考えます。   さらに,(2)では,現在の裁判の状況を漂流型審理の増加を懸念する指摘がされている紹介されています。更には20ページの(3)主張の関係でも,少し読ませていただきますと,当事者間において,真の争点と関係が希薄な主張が記載された大部の主張書面の交換が何度もされると,真に必要な争点に絞った適切かつ迅速な審理が阻害される,との指摘がありますが,大半の事件がこのような漂流型審理や大部の書面の交換が行われているかのごとくミスリードする記載がされています。しかし,大半の事件では,代理人はその時点で可能な情報に基づいて適切に対応しているのであって,実情と異なります。また,ここで書かれている内容は訴訟制度の全般的な問題であって,一定の類型の制度創設をすることの合理的な説明になるのか自体に非常に疑問を感じます。   さらには,御指摘されている提案では代理人はある意味手足を縛られたような状況で裁判を行うことになり,裁判所に提出できる主張,証拠も制限され,裁判所としてもそれに基づく判断になりますので,本来の充実した主張や証拠に基づく場合に比べてラフジャスティスという言葉がいいかどうか分かりませんが,不十分な裁判所の判断にならざるを得ず,結果として,司法に対する信頼を損なうのではないかと,そこまで我々は危惧しているわけです。   将来リスクを必ずしも確実に把握できない状況において,当事者の選択という自己責任化されるのは,現在の当事者に提供されているもろもろの情報等を考えると問題があるというのが我々の意見です。   そのような意味では,選択の入口で一旦選択してしまうとそのバイパスから降りられない手続設定は疑問があり,途中で引き戻すというか,本来の手続に戻ることが担保されていない提案は賛同し難いと考えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○笠井委員 私自身は研究会のメンバーでもあって,研究会でこの話は出ておりましたので,ここで,基本的にはこういう制度を入れていいのではないかという立場からお話をしたいと思っているのですけれども,それは,当事者の合意を基礎に迅速な審理をするという選択肢を法律が示すという方向に賛意を覚えるからです。そういう意味では,甲案か乙案かという意味では,乙案の方がいいのかなと思っておりますけれども,それは一応前提といたしまして,ただ,この研究会の提案の内容をそのまま,それでいいと思っているかというと,そうでもありません。例えば主張書面は3通までとすると書いてありますが,その3通までという制限に余り合理的な根拠はないと思っておりまして,こういう制限をするというのは,何か特則性を無理やり作っているという印象が,正直なところ,あるわけでございます。   それから,もう一つ,大きな問題としては,先ほどの予測可能性の話にも関係しますけれども,やはり裁判所が判決をいつ言い渡すかということについては書くべきなのではないかと思っております。これは納期を示すという意味で,審理終結後の判決までの期間についても,今,251条1項で2か月というのが訓示規定的に書かれていますけれども,それより短い一定の期間,2週間とか,長くても1か月なのだろうと思いますけれども,そういうものは示す必要があると思います。それがないと,当事者が合意をして,それで裁判所に6か月プラス,その2週間なら2週間の期間に判決をもらいましょうということで,そういう法律を作ったのだという意味までないと,きちんとした制度にならないかなという感じがしております。計画審理の場合については納期についても一応あるということで,先ほどのそれとの対比という意味で行くと,やはりそこも,裁判所主導か当事者主導かと言われるのであれば,そこまで示すべきではないかなと感じております。   それから,もう一つ,これは先ほどからの御意見で,井村委員や藤野委員のお考えで,少し心配であると,そういう当事者側の立場の方から御意見があるわけなのですけれども,一応,双方に訴訟代理人がついている,弁護士ないし,簡裁の場合は司法書士も含むかもしれませんが,訴訟代理人がそういうふうについている場合を念頭に置いた制度として考えたわけでございます。それでも本当に駄目なのかどうかという辺りについては伺いたいと思います。   この話で思い出しますのは,司法制度改革のときに一つだけ実現しなかった,弁護士費用の敗訴者負担というのがあるのですが,あれも,双方に弁護士がついていて合意をすればいいではないかという制度として提案されたのですけれども,結局,反対が強くて,それは駄目なのだということになりました。私自身は,この特別な訴訟手続について,代理人に弁護士ないし司法書士がついているのであれば,合理的なインフォームドコンセントとしての自己決定という意味で,認めていいのではないかというふうに,ある種,理念先行かもしれませんが,思っております。ですから,弁護士がついていてもやはり駄目だということについては,当事者側の方で御意見がありましたら,伺いたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 日下部です。先ほど阿多委員の方から,日弁連の意見書に示された考え方についての御紹介があったところです。私自身もその日弁連の意見に反することを申し上げるつもりは毛頭ございません。その前提ではあるのですけれども,そこで示されている問題意識を分析して,それを今,提案されている中でどのように考えていくのかということについては建設的に議論をするということは,この場にいる委員として必要なことだろうと考えています。若干長くなるかもしれませんが,部分,部分で話をするというよりは,一貫したコンセプトを持ってこういう手続を考えるべきでないかと思っておりますので,ある程度お時間を頂ければとは思っています。   まず,前提として,この新たな訴訟手続の特則を作るということについて,説明の中の1のところに問題意識が示されておりますが,それには私は賛同するものです。問題意識には賛同はしております。一体どういう事案においてこういう手続を使う必要が出てくるのだということで,ぴんと来ないという御意見もあろうかと思います。   私自身の一つの経験として申し上げますと,これはBtoBの事案ですけれども,部品の製造業者と,それから完成品の製造業者の間での紛争というのが一つの例としてあります。部品を納入して完成品がでてきて,でも部品に不具合があって市場でリコールになってしまったというケースです。完成品の製造業者が部品の製造業者に求償請求をすると。争点はいろいろあり得るのですけれども,すごく大きいのが,過失相殺をどうするのかというところが問題になることがあります。これは,対象となっている部品が実際は共同で開発をしたというようなケースに出てくる話です。過失相殺の議論をしますと,結局,何年にもわたる開発の状況について細かいところまで含めると,当事者間の主張立証というのはほぼ際限がないという状態になります。だんだん細かいところに行ってしまうと,裁判所による判断への影響というのは徐々に少なくなっていくと思うのですが,ないとは言い切れないので,いつまででも続くということになりかねない。裁判官の方が,この辺りでいいでしょうと言ってくれればいいのですけれども,お互い主張を尽くしてくださいねというふうになると,それこそ2年,3年,やり続けるなんていうことにもなりかねないわけです。ただ,当事者は当然,大変疲弊します。早く終わらせる方が会社の判断としては当然いいわけであって,でも,訴訟代理人としては自分の依頼者に対して,もうこの辺でやめていいですよとはやはり言えないものですから,このまま行ってしまうと,こういう悲惨な状況というものも私自身も経験をしているところです。   これは一つの例にすぎませんけれども,そういったことも念頭に置きながら,商事法務研究会における裁判IT化の研究会では,かなり具体的な手続を構築して一つのパッケージとして提案されてきたものだったわけです。それに対して日弁連の意見は,先ほど申し上げたとおりなわけですが,今回の部会資料では,具体的な手続をパッケージとして提案するというのではなくて,様々な要素,切り口に立ち返ってフラットな検討を求めていらっしゃるということは,私個人としては,それは歓迎はしているところです。   対象事件についてですけれども,類型的にこういう事件がこの手続に合致しているのだ,沿っているのだと判断をする,類型化するということは,私は難しいといいますか,無理なのではないかと思っています。これは事案ごとに,正に個別性がすごく高いところでありまして,事件類型の観点からの規定というのは私は無理と考えています。むしろ,その判断が最も適切にできるのは,事件のことを十分に理解している両当事者の訴訟代理人であると思いますので,両当事者の訴訟代理人が担当している事件が新たな手続になじむのであると判断するかどうかということが,最も信頼に足る基準になるだろうと思っています。   ただ,先ほど来出ておりますとおり,例えば消費者と事業者の間の紛争のように,一般的に証拠の偏在が認められて,その是正のためには終局までの期間を制限することは相当ではないと考えられる事件類型というものはあるのではないかと思っています。そう考えますと,この手続の対象とする事件を規定するのではなくて,この事件の対象から除外されるべき事件の類型というのを規定していくという制度設計はあるのではないかと感じていた次第です。   似ている立法例ということで考えますと,例えば仲裁法の附則の3条と4条では,消費者仲裁合意と個別労働関係紛争を対象とする仲裁合意の効力について特別な定めを置いておりますけれども,こういったものも一つ,参考になるのではないかと思いました。   なお,訴訟上,合意によって手続を採ることができない類型になったのだとしても,例えば消費者と事業者の間の契約,約款も含めてですが,そこにおいて,この手続を採ることに合意をするということが私法上の義務として消費者に課せられてしまうということになりますと,そのような合意をしなかった場合に債務不履行の問題が発生し得るかなというふうにも懸念されるところですので,私法上の効果についても配慮をするということが必要ではないかと思いました。   あと,主張の関係,立証の関係,審理期間等の関係というのが(3),(4),(8)というところに挙げられていますが,これらについてはまとめて意見を申し上げたいと思います。ここでは攻撃,防御活動の制約のパターンを一つに制限するといいますか,1種類だけ挙げるということが予定されていると思いますが,私は,その制約できる事項は限定する必要があるけれども,その事項の中で具体的にどの事項を制約するのか,またどのような内容,どのような程度に制約をするのかということも当事者の合意に委ねるという設計もあり得るのではないかと思っています。もちろん裁判所が適正な判断を下すことが合理的にできなくなるような制約を認めるというわけにはいかないので,一定の限度は設ける必要があると思っています。例えば,具体的には,主張書面の通数については3通以上で当事者が合意する通数,審理期間については6か月以上で当事者が合意する期間といったような具合を考えておりました。   ただ,常にそういった細目について合意がなされないとこの手続を使うことができないとなりますと,これはまた当事者間の合意が難しくなるということになりますので,特定の,この新しい手続を使うという場合のデフォルトとしてのパッケージは用意しつつ,そこを少しカスタマイズした合意も認める,そういう設計はあってよいのではないかと思った次第です。   それから,この訴訟手続の開始に当たってどういう要件が必要なのかというところは最大の肝だと思っています。先ほど来,藤野委員からも御懸念が示されたところで,弱い立場の者が十分な攻撃,防御ができない状態で審理されてしまったら困るというのは,誠にごもっともだと思います。この手続を利用するのに合意が必要だということは,少なくとも必要で,その合意も,きちんと,この手続を利用することの帰すうや影響を理解しているということが必須だろうと思います。   そのためには,両当事者に訴訟代理人,これは法律専門家である訴訟代理人がついているということと,その合意が明示的で,かつ確定的になされている,具体的には,書面か書面データによってなすということが必要だと考えるべきだと思いました。具体的には,訴状の記載と答弁書の記載による合意,あるいは両当事者が共同で提出する書面,あるいは両当事者がそれぞれ提出する申述書などが考えられるかと思います。裁判所の示唆によって,それを口頭や黙示で合意したというのでオーケーというふうに判断するのは,私はよろしくないことだと思っています。   この手続に移行する期間については,当事者がどのような期間設定をするのかということによって判断されるべきもので,裁判所の目から御覧になって,それはとても無理だと思われるような場合であれば認めないという判断をすれば,それでよいのではないかと思いました。   あとは,通常手続への移行の関係で言いますと,これは各当事者に特段の理由を要さず,いつでも通常の手続に戻すことのできる権能を与えるということが必要だと思います。こういった権能がなければ,自分自身が訴訟代理人であると想定したときに,依頼者にこの手続の利用を勧めることは危険が大きすぎて,とてもできないだろうと思います。依頼者から,何が起きても弁護士の責任は問わないという責任免除のレターでも出してもらうことができれば,まだ考えられるかなと思いますが,そういったものを出してくれと依頼者に持ち掛けること自体,依頼者の信頼を損なうことになりますので,この自由に戻れるという権能がない限りは,恐らくこの手続は導入してもほとんど使われない,空文に近いものになってしまうのではないかと私は大変危惧をしているところです。   あと,不服申立てについては,時間を改めて,また後で,今の話を前提に少し意見をさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○富澤幹事 先ほど笠井委員の方から判決に関する御指摘がありましたので,それに関連して発言をさせていただきます。   特別な訴訟手続につきましては,研究会でも議論がされたところです。研究会の中では,審理期間を6か月以内にするという議論をしていたと思いますので,それを前提にしますと,当事者には主張立証活動を精力的にしていただく必要があり,他方,裁判所でもしっかりと審理をすることが当然の前提になっております。そのため,このような制度を新たに創設した場合には,当事者ももちろんですけれども,裁判所も覚悟を持って対応していくということになるのだろうと思います。そういたしますと,判決についても,争点中心の集中かつ充実した審理を実現した下に,集中した形で判決の言渡しをしていくことになりますので,現状と同じような形ではなくなり,速やかに判決をすることになるのだろうと思います。   また,今日の議論では,迅速という側面に若干,重点が置かれていたかと思いますが,特別な訴訟手続は,先ほども申し上げましたとおり,当事者と裁判所が努力をすることで争点中心の集中かつ充実した審理を実現する点に肝があると思っています。このような審理の中で,例えばメッセージ機能やファイル編集共有機能などのITツールを活用することも付け加えた上で,しっかりと充実した審理を実現し,予測可能性も高めていく制度にしていくことが重要であると思っているところでございます。 ○大坪幹事 先ほど来,井村委員,藤野委員から,裁判のIT化とは関係がないのではという御意見がありましたが,日本労働組合総連合会,主婦連合会からも委員として参加されていました2013年の民事司法を利用しやすくする懇談会の,民事司法を利用しやすくする懇談会最終報告書というのが出ています。この中のアクセスの拡充という項目で,迅速で使いやすい裁判手続ということが記載されておりまして,ここには,権利救済手続の多様化のため,事件の規模,類型等に応じて,当事者の選択により,当事者の個別のニーズに即した,迅速で,使いやすい裁判手続を創設することの是非を検討しますと,また,近年のIT技術の進展及びインターネット利用者の増加に伴い,IT技術を利用した裁判手続の整備も検討する必要がありますというふうにされております。要するに,IT化と同じ文脈で裁判の迅速な手続についても記載されているところです。   この特別な訴訟手続については,最高裁の平成23年の裁判の迅速化に係る検証に関する報告書の施策編においては,民事訴訟事件一般に共通する長期化要因のうち,主に争点整理の長期化に関連する要因に関する施策ということで,迅速手続の検討が挙げられているところでございます。ここでは,紛争当事者のニーズや事件規模,事件類型等に応じて必要性,有効性を吟味した上で,一定の事件に関して審理期間を短くする手続について,既存の手続,制度との関係も考慮しつつ検討を進めるとされて,具体的な手続のイメージも記載されているところでございます。   日弁連でも同じような問題意識を持って,2010年ぐらいから検討を内部でしてきているところでございまして,最終的には日弁連の意見に関し,先ほど阿多委員から御紹介もありましたが,研究会の報告書の提案には賛成できないとされておりますけれども,迅速化のための立法施策を検討することには問題がないという記載になっておるところです。   藤野委員から福岡の迅速トラックについてのお話が出ましたけれども,私は詳細を御報告する能力はありませんが,現時点では廃れているのではないかと個人的には思っております。それは恐らく,こういう取組は裁判官の個性というか,裁判官次第というところが大きくて,結局運用に委ねられているところで,裁判官がやる気がある人がいるとそういう取組がなされることが現実に行われています。争点整理全般に,争点整理が充実するかしないかというのは裁判官によるところも大きいわけですけれども,迅速トラックとか,そういう運用に関しても,裁判官が異動してしまうと続かないというようなところがございますので,何らかの立法を実現するというのは必要なことではないかと考えられます。   具体的に立法政策としてどのようなことが考えられるかですけれども,これまでの議論を踏まえますと,特別な訴訟手続というのは大きな方向性として二つあるのではないかと思います。一つは今,研究会の報告書で提案されている,手形・小切手訴訟とか少額訴訟のような,商事法務の研究会で提案されている一定の審理期間を定めて主張や証拠を制限するという特別な訴訟手続です。他方でもう一つ,主張も証拠も制限することなく短期間で集中して弁論を終結するというような手続,こういうものも考えられるのではないかと思います。仮にこれを集中審理手続と言いますと,これらの二つの方向性については,別に二者択一でいずれかを採用するというものではなくて,それぞれの選択肢に応じて,代理人なり当事者が望ましい解決の手続を選択すればよいのではないかと考えられます。   集中審理手続と仮に言いましたけれども,どういうものかといいますと,原告,被告,訴訟代理人の選択に基づいて,一定の回数の期日においてそれぞれ主張,証拠を出し合って,争点,証拠整理期日で提出された書証を基に集中的に争点整理を行うと,その上で証人調べを経て,早期に弁論を終結しようという手続です。一定の回数としては,争点整理期日4回,集中証拠調べの期日1回と,最大5回というのが現実的かなと思われます。   更に細かく言うと,対象となる事件については特に制限する必要がなく,通常の訴訟と同じですけれども,審理期間に関して,期日は最長5回を限度とするけれども期間については制限を設けないと,判決の言渡し期日については,現状の民事訴訟法251条1項に基づいてする。さらに,弁論終結後の弁論再開というのは認めるという手続にして,期日5回ということで,その中で集中して審理をするというのが考えられるのではないかと思っています。   現在の民事訴訟の手続というのは,言わばサッカーの天皇杯というものみたいで,プロとアマが一緒に参加できるような手続になっています。それにはそれなりにいいところも悪いところもあるのだろうと思いますけれども,それとは別にプロだけが参加するような,高い訴訟技術が要求される特別の訴訟手続というのも考えられてもいいのではないかと思います。   先ほどの5回の集中審理手続ですけれども,やる気のある原告,被告双方の訴訟代理人と裁判所がその気になれば,4回の期日で争点整理をして5回の期日で結審するというのは十分に考えられることだと思います。そのような集中審理手続を設けて,それに全ての弁護士が対応できるとは思われないのですけれども,そういう手続をやりたいと思う多くの志のある弁護士がそういう手続に参加することになれば,野球のメジャーリーグではないですけれども,かなり世界にも誇れるような特別な手続になるのではないかと,それによって,審理が終結するまでの期間の予測も容易にできて,かつ充実した審理による公正な手続というのが実現できるのではないかと思います。   一つのアイデアですけれども,そういうことも御検討いただけるとよろしいかなと思いました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○佐々木委員 少し細かいところは置いておいて,この審理期間を限定した特別な訴訟手続というのを設けるというのは私としては賛成なのですが,あと,経団連の中で幾つかの企業に意見照会をしたときも,反対はしないというような意見でございました。   実際に社内で企業としてどういう需要があるかというのを検討いたしましたので,そのお話をさせていただければと思いますが,まず,私どもの会社に特有といいますか,多い訴訟ではあるのですけれども,発信者情報開示請求の訴訟がございます。これに関しては実際,任意に開示するというのは非常に抵抗はあるのですけれども,公権的な判断がされれば,裁判所の判断がされれば,それに応じて開示をするというのは全然抵抗のないところです。これに関しては,当社としては早く結論を出してくれればそれでいいという考えでおりますので,典型的な需要としてはそれが挙げられると思います。   そのほかにも,基本的にはBtoBで紛争になれば,訴訟外で相当な期間,交渉をします。最終的に証拠といいますか,主張を裏付けるものもそろって,あとは,例えば過失割合ですとか損害額ですとか,その程度が合意に至らないということは多々あります。そうした場合に,裁判にということが考えられるわけですけれども,そこからまた1年,2年と掛かるというのは本当に困る話で,それが6か月で一定の判断が出るということであれば,我々としても利用しやすいと考えております。恐らく,それは争っている相手方の企業としても同じ意見ではないかと思いますので,企業にとってはメリットのある話ではないかと考えております。   それから,これは労働者との紛争,企業として解雇をした場合なんかの紛争ですけれども,解雇するからにはあらかじめ,訴訟になったときに備えてひとそろい,もう証拠というのはそろえておく,それから解雇するというのが通常だと思いますので,そういう場合も,仮に労働者から訴えられたとしても,短期間で結論が出るというのは我々としては助かることではあります。ですので,一定の需要はあると御了解いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○小澤委員 小澤です。確かに,例えば代理人がついて徹底的に争って判決を求めていくような事案にそぐわないということは私も十分理解しているつもりなのですけれども,実際には,やはりそのような事案ばかりではないと思っていますし,そうであれば,このような選択肢が増えるということについて特段違和感はありません。特に,やはり皆さまから意見が出ているようにBtoBの事件については一定のニーズがあると私も感じています。例えば,法人間の建物の賃貸借における用法違反による建物明渡し請求事件であるとか,あるいは法人間の建物賃貸借契約修了後の退去後の原状回復請求事件のようなものなどは,原告,被告とも早期に裁判所の判断を希望するような事案も多いように感じています。   また,代理人が徹底的に争って判決を求めていくような事案ではなく,むしろ本人訴訟にこそニーズがあるような感じも受けています。ITツールのスキルに長けているというのは,法律家だからということではなく,むしろ法律の専門家でなくても,本人訴訟の当事者であって,ITツールを十分使いこなせる,そういう方は多くいらっしゃると考えていますので,代理人が就任している事案に限定しない方向での制度設計が望ましいのではないかという意見を持っています。   ただ,少し懸念しているのは,この制度が創設されますと,140万円を超えた地裁事件と60万円以下の少額訴訟については審理が迅速になるということになるのかもしれませんが,60万円を超え140万円未満の事件は何らの特則がないというような状態にもなるので,そう考えますと,簡易裁判所の通常事件においても利用できる制度にするというのが考えられるのではないかとも思います。   また,説明にもありました,一定の訴額を下回る事件を対象にするという考え方の指摘もされていますけれども,利用者である国民にとってはとても分かりやすいということで,一考に値すると考えています。例えば300万円以下の訴額の事件を対象にするということがあってもいいのかもしれないという意見を持ちました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   なお複数の発言希望を把握しておりまして,誠に恐縮ですけれども,少なくともこの部分については審議を終えたいと思っておりますので,若干の時間の延長をお許しいただければと思います。 ○井村委員 冒頭に発言させていただいたとおり,裁判の迅速化は我々も望むところですので,この特別な訴訟手続について,全般にわたって反対ということではありません。一方で,個別労使紛争に関しては,労働審判制度で大部分が満足度の高い解決を見ており,その先に通常の訴訟があるわけですが,2階建てになっている部分が,特別な訴訟制度によって3階建てになったときに,ベースとなる労働審判から,特別な訴訟制度にどのくらい移行してしまうのだろうか,という懸念は先ほど申したとおりです。結構ニーズはあるのではないか,という委員からの発言を聞いてしまうと,更にその懸念が深まった,ということは申し添えます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○服部委員 先ほど大坪幹事から話がありましたとおり,日弁連としても審理の迅速化を図るということの重要性は述べているということですけれども,阿多委員からも話がありましたとおり,IT化研究会が提案されたものについては,やはり賛成できないという意見を述べているところです。   それに加えまして,懸念する意見として日弁連内部でよく出ておりますのは,民事訴訟法の243条では,裁判所が「訴訟が裁判をするのに熟したとき」に終局判決をするということにしておりますけれども,期間先にありきで,この「裁判をするのに熟したとき」に至っていなくても審理終了して判決に至ってしまうという事態が生じるのではないかという懸念,そして,それに対してまた異議の申立てをして,更に控訴をしてということでは,結局長引くということでの懸念が示されております。   富澤幹事からの,双方が,裁判所も含めて,充実した審理を行って,予測可能性もつく制度にしていくという御提案がありまして,それは正に理想なのでございますけれども,現場に置き替えたときに,直ちにそう行くのかというところの懸念が示されております。   また,阿多委員からありました予測可能性の問題ですけれども,やはり訴訟係属前とか訴訟係属当初で,訴訟代理人が相手方当事者の反論の内容を十分に把握しているとはいえない部分が結構あると。やはり,それは弁護士の代理人であっても同じというか,弁護士であっても正にそうだということがよくございまして,期日が進行していくに当たって,想定していなかった主張や証拠が提出されるなど,当初の予想と違う,特別な訴訟手続というものを利用しようとしたときに想定したこととは違う展開になるということは十分に考えられるわけでして,そうしますと,やはり審理が進んだ時点でそういった状況になったときに,通常訴訟への移行が必要となるということの,きちんと手続的な保障が確実に必要なのではないかと意見が述べられております。   また,審理期間や証拠提出の方法の制限は,早く済むということではいいのですけれども,やはり主張立証の制限ということで,訴訟当事者に不利益に働くということも考えられますので,やはりこの点が訴訟の帰すうに与える影響というのをきちんと本人が認識できるのかというところ,また,被告になる当事者にとって不利益な手続になるのではないかという懸念もあるところでございます。   そういった総合的な部分での懸念を申しました上で,部会資料の19ページ以下の各論についても,懸念とか手続保障の観点から若干申し上げたいと思います。   これは弁護士の委員の意見とも少しかぶる部分があるのですけれども,事件類型を積極的に定めるということ,これは私も無理であろうと考えておりますし,手形・小切手とか労働審判のように限定的にということ自体の取扱いは無理だろうと考えております。   また,藤野委員から消費者保護の観点での懸念が示されておりましたけれども,そうしますと,逆に消費者保護の観点からは,消費者保護法令に関連する訴訟については,これはもう対象から外すなどの方法も考えてよいのかもしれないと思います。また,対世効のある事件類型は不適切だと考えますので,向かない事案というのは結構あるのではないか,類型的に向かないという事案はあるのではないかと思っております。   訴額での制限ですけれども,訴額が低ければ早期解決ということでの費用対効果の側面は無視できないですけれども,訴額の高低と争点の多寡というのは必ずしも比例しないとも思われるところです。そして,反訴とか弁論の併合の禁止についての質問もございますけれども,反訴や弁論の併合を認めると争点が拡散する可能性がある一方で,関連事件を一括で処理できるというメリットもあるわけです。例えば交通事故の事件ですと,債務不存在確認などの反訴を提起するというのはよく行われていることでもございますので,そういった事案まで排斥してしまうというのは,必ずしも適切ではないのではないかと考えられると思います。   また,準備書面の通数制限や期日の回数制限につきましては,これは当事者が主張,反論を尽くす機会を制限することになってしまうということに加えて,今回の御提案の中では,限られた審理期間内にITツールを活用してウェブ会議などで柔軟,機動的に期日を指定適用するということも述べられておりますので,そうすると,そもそも回数制限ということ自体がこの御提案の趣旨となじまないのではないかと思われるところでございます。   立証の関係は,やはり終局判決を前提とする以上は,書証のみとすることについては少し懸念がございます。人証調べも認める必要があるのではないかと。即時取調べの状態ということ,なるべく短期間で尋問できるような状態にすれば,迅速化の方向性と反しないのではないかと思われますし,あと,労働審判で回数制限がありますけれども,あれは大体,当事者が同行して,裁判官が出席当事者に直接質問をする,事実上そういう手続で進んでおりますので,この訴訟手続において人証調べ的なものを制限するという必要はないのではないかと考えられます。   それと,通常訴訟手続への移行については,日下部委員からも御提案がありましたとおり,やはり当事者の一方のみで通常訴訟への移行を求めることはできないとなると,最初に申し上げました手続保障の面で問題があるだろうと考えられます。また,移行を求める時期について,例として第1回期日終了までというのが挙げられているのですけれども,これは裁判の迅速性の要請からという趣旨でのご提案であることを理解はしておりますけれども,通常訴訟への移行を求めたい状況が生じるというのは,第1回期日ということではなくて,より審理が進んでからであることの方が多いものですから,第1回期日終了までと制限するのは,実際には移行を求めるべき事案ができないということになってしまうという懸念があるかと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。 ○大谷委員 大谷でございます。先ほど,佐々木委員だと思いますけれども,実際にこの特別な紛争解決手続が利用できる例というのを御紹介いただきましたので,それについて少しコメントをさせていただければと思います。   幾つか取り上げていただいた例の中には,適しているものもあるかもしれませんが,一例として挙げられた発信者情報の開示請求について,迅速化が求められる請求であるということは,通信のログの保存期間が限定的であることから,社会的な要請にもなっているところですので,うなずけるところではございます。ネットで誹謗中傷などが起こっておりますので,現に非常に今,議論されているところではありますが,ただ,この手続がふさわしいかどうかということですと,既に仮処分などで迅速化が図られている,この分野に特に強い訴訟代理人などは,仮処分でコンテンツプロバイダからIPアドレスを聞き出すのに,2,3回もそれほど期日を重ねないで迅速にできているというのが実務の状況であるということからしますと,特にこの新しい手続というものを利用される可能性というのは,比較的少ないのではないかと思っております。   そして,迅速化を損ねている主因というのは,端的に言いますと,SNSサービスなどを提供している外国の事業者,具体的な社名は3社ぐらいだと思いますけれども,そこが全て外国の事業者であることに伴いまして,訴状の送達に時間が掛かるなど,そもそも手続が難しいというところが,スタートラインに立ちづらいというところが迅速化を損ねている主因だと思いますので,その点から考えましても,この新たな特別な訴訟手続といったものにフィットするかというと,必ずしもそうではないものではないかと思いますので,申し上げました。   また,ITツールを活用することによって,それが助けになるかということも,なかなかイメージしづらいところでして,また他方でプロバイダ責任制限法におきまして,いろいろ改正の動きが並行して進められている中で,非訟手続も含めた迅速な解決方法について,特に送達を早められる手続について検討が進められているところからしても,発信者情報の開示請求を想定して,これが非常に企業にニーズがあるものなのかというと,なかなかそれは一概には言えないところがあるのではないかと思っておりますので,一言コメントをさせていただいた次第です。   特に,一般の個人の方からしますと,通信ログの保全そのものの迅速化を図りつつ,開示そのものについてはじっくり検討してほしいという考え方もあり,迅速化の要請はあると思いますけれども,様々な制約がある中でこれを選ぶよりは,一般の仮処分手続で必要な証拠を保全しながら手続を進めていくニーズの方が現在のところ,高いのではないかと思われます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 特別な訴訟手続に一定のニーズがあるということは分かりましたが,既に民事裁判手続とIT化研究会の報告書においても指摘されているように,計画審理との関係が問題になるかと思います。計画的かつ適正,迅速に紛争を解決する方法としては民事訴訟法147条の3の審理計画があるので,この要件を,例えば当事者の合意があるときというように拡大することがまず考えられますが,恐らくそれでは十分ではないということでの御提案かとも思いますので,機会がありましたら,その辺りを御教示いただければと思います。   質問ではなく意見を申し上げました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○増見委員 迅速な手続になります,この新たな訴訟手続の創設について,余りニーズがないのではないかというコメントもございましたので,少し民間企業の立場から意見を述べさせていただきたいのですけれども,大本の問題意識であります,現在の民事訴訟手続が,例えば産業界の求めるスピードや効率性と今,合っていないのではないかという問題意識については,全くそのとおりだと考えておりまして,ビジネス環境,非常に変化の激しい中で,限られたリソースをいかに効率的に配分して利益を上げていくかということを日々考えている立場から申し上げますと,いつまで,例えば複数年度にわたって延々と金銭と人的リソースを拘束され続けるというのは,結構耐え難い負担でございまして,そんなことに振り分けるリソースがあるのであれば,新しいビジネスにつぎ込んだ方がいいというのが産業界の基本的な考え方でございまして,やはりそれが訴訟をためらう一つの大きな要因になっていると考えます。   ですので,短い期間で公的な判断を出していただけるという,こういった新しい手続が創設されることは,全く歓迎すべきことだと思っておりまして,できるだけ広くこういったものが認められることこそが我々の希望になるかなと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 私,少し長々とお話をしてしまったので,その後,そこで言い漏らしていたことと,今までお伺いした御意見について思ったコメントをお話ししようと思います。少しばらばらな感じになるかもしれませんが,御容赦ください。   まず,先ほど,個別労働紛争の場合に労働者の立場から見たときの御懸念というのがありましたけれども,これは,先ほど私が申し上げた中で言いますと,仲裁法の附則の4条で個別労働紛争に関わる仲裁合意が無効とされるというような扱いになっているということも一つ参考として,この特別な訴訟手続を利用することができない範ちゅうとして構想していくということは考えられるのではないかと思いました。   それから,先ほどの別の方の御意見で,訴訟代理人がついていない場合,本人訴訟にこそニーズがあるのではないかというお話もございました。ただ,私はそれには反対でございます。これは,ITを使える人が当事者であるからこの手続を使って構わないのだという問題ではなく,この手続を使うことがどのような法的な影響を与えるのか,それから,十分な審理をしていく上で,法律のプロとして審理を進めていく力がある人がついているのかどうかというところが肝なわけでありまして,訴訟代理人がついていないけれども使っていいというような制度としてここを考えるわけにはいかないだろうと思います。   それから,部会資料の中で反訴や弁論の併合を禁止したり時期を制限したりすることはいかがかというような問題提起もなされておりますが,私は,そのような制約を課すというふうにしますと,なおのことこの制度の利用が嫌われてしまう原因になると思いますので,反訴や弁論の併合についての制約は課さないというのが適切だろうと思います。その上で,通常の訴訟手続と新たな訴訟手続の弁論が併合されたという場合には,自動的に通常の訴訟手続に一本化するべきだと思いますし,そうでない場合であったとしても,いずれかの当事者が通常の訴訟手続に戻すことが適切だと考えれば,それ以上の理由を問うことなく通常の手続に戻すことを認めるべきだと思います。私は一貫して,各当事者に理由を問わずいつでも通常の訴訟手続に戻すオプションを設定するべきだという考えですので,今のように申し上げた次第です。   ただ,こういう考え方をしますと,幾つか,それは制度的にどうなのかという御疑問が当然出てくるのだろうと思います。例えば,各当事者がいつでも通常の訴訟手続に戻ることができるということだとすると,この手続の利用というのは非常に土台がゆるゆるのものになってしまって,制度の実効性を失わせてしまうのではないかという御批判があろうかと思います。   ただ,それでも,当事者双方がひとたびこの手続でやっていこうと考えれば,少なくとも審理の最初の段階,途中までの段階では,各当事者が積極的に事実主張や証拠提出をする,出し惜しみはしないということが合理的に期待できるのであって,審理の後半になってから何らかの事情で通常の訴訟手続に戻ることになったとしても,全体としては審理の迅速化に資するのではないかと感じております。また,両当事者の代理人が共に迅速な審理に向けて,つまり共通の目的を持って訴訟活動をするということは,実務的には和解に向けた雰囲気を醸成するという副次的な効果を生み出すこともあるのではないかと思いました。   また,ほかの考え得る批判として,両者が合意をしてスタートしたのに,一方当事者が通常の手続に戻すことができるというのでは,相手方当事者の信頼が損なわれるのではないかというものが考えられるかと思います。しかしながら,元々制度としてそのようになっている,いつでも一方当事者の判断で通常の手続に戻すことができるという制度設計になっているのであれば,相手方当事者の信頼がそれほど損なわれると考える必要も別段ないのではないかと思いますし,この手続が両当事者の合意を基盤として成立するものであるということであれば,一方当事者が通常の手続に戻ることを選択すれば,その基盤が失われるので,通常の手続に戻ることは,むしろ一貫しているのではないかと思います。   計画的進行を定める147条の2,それから審理計画を定める147条の3との関係はどうなのかという御疑問も出てきたところかと思います。少なくとも現在の147条の3の審理計画の定めの文言では,十分捕捉はし切れないだろうと思います。私自身はこういうケースですと,この訴訟手続を利用する場合の一定の行為準則を規定として当事者と裁判所に対して求めていくことも検討すべきではないかと考えている次第です。例えばですけれども,一般論として,所定の期間内に目標を達成するためには計画的な行動をすべきですので,この訴訟手続が利用されることになったときには裁判所に審理計画の策定を義務付けることも考えられると思いますし,争点整理の過程で,必要な範囲で暫定的な心証の開示を積極的に行うべきことを求めてもよいのではないかと思います。転じて,当事者の方に対しては,主張及び証拠の早期提出を積極的に行うべきことを規定するということも考えられるのではないでしょうか。   各当事者に理由を特段問うことなく通常の手続に戻す権能を与えることを前提としますと,不服申立ての方法につきましては,通常の訴訟手続に戻らないまま,つまり,両当事者ともその権能を行使しないまま結審し判決が出たという場合には,不服申立ての方法は,異議申立てではなく控訴で十分ではないかと考えております。これは両当事者が十分な主張立証をする機会というものを持っていたけれども,その必要はないと考えて,その権能を行使しなかったと整理されるからでございます。残る問題としては,多分,そのようにして出された判決が控訴されたときの控訴審の負担をどのように考えるのかという問題が別途出てくると思いますので,それについては引き続き考えていきたいと思っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。大変長時間にわたって御議論いただきました。15ページに書かれてあるような,ITツールを十分に活用することを前提として,裁判が公正かつ適正で充実した手続の下でより迅速に行われるようにするための新たな訴訟手続の特則を設けることという,この抽象的なレベルにおいては,一定のニーズがあるという御意見が複数あったかと思います。   他方では,消費者の立場,あるいは労働者の立場から,その当事者の手続保障の観点等について疑問が呈されたものと理解をしました。それに対しては,それらを適用対象から除外したらどうかというような御意見もあったように伺います。   他方では,このITツールを十分に活用することを前提とし,という部分が,余り具体的にイメージがつかないというような御意見も複数の委員から提示されたように理解しました。この辺りは,もう少し具体的に,ITツールを活用しながらどういうふうに手続を迅速かつ充実なものとして進めていくのかというようなイメージが持てるような,何らかの資料などがあると,今後の審議にとって有用かなと思いました。   具体的な手続のところでは,委員,幹事の御発言は,研究会が提示した案に対して多様であったような印象を持ちます。ここから出発して,ある程度これを修正していくというようなスタンスでの御発言もあったように思いますし,他方では,これとはかなり違った側面からの手続を考えることができないかというような御意見もあったように伺いました。   この論点について引き続き検討することについては恐らく御異論はなかったように伺いましたので,次回の検討の際には,より具体的な提案をして,皆さんの御意見をもう一回伺うということになろうかと思います。   それでは,本日の審議についてはこの程度にさせていただきます。   次回の議事日程等について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○大野幹事 次回の日程でございますが,10月9日金曜日,午後1時半からでございます。場所につきましては,改めて御連絡を差し上げます。   次回は,本日の積み残しとなりました証人尋問のほか,書証,その他の証拠方法,訴訟の終了,土地管轄,上訴,再審,手形・小切手訴訟,簡易裁判所の手続について御議論を頂きたいと考えているところでございます。大変恐縮でございますが,次回は,本日お配りいたしました部会資料5につきまして,改めて御持参いただくようお願い申し上げます。   以上でございます。 ○山本(和)部会長 次回も大変盛りだくさんになりそうですけれども,引き続きよろしくお願いいたします。   それでは,本日の会議はこれにて閉会させていただきます。   熱心な御審議を賜りまして誠にありがとうございました。 -了- - 3 -