法制審議会 仲裁法制部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和2年10月23日(金)自 午後1時31分                      至 午後5時20分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○福田幹事 予定していた時刻になりましたので,法制審議会仲裁法制部会の第1回会議を開会したいと思います。   本日は御多忙の中,また,こちらに御参集の方につきましてはお足元の悪い中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   私は,法務省民事局で参事官を務めております福田と申します。   本日は,この部会の第1回会議ですので,後ほど部会長の選出をしていただきますが,それまでの間,私が議事の進行役を務めさせていただきたいと思います。   では,まず本日はウェブ会議も併用して行うこととしておりますので,この点に関する注意事項について御説明をさせていただきます。   御案内のとおり,新型コロナウイルスの感染拡大防止のため,今般,法制審議会においては,十分な感染症対策を施した上で部会を開催し,部会長を除き希望される方につきましては,ウェブ会議の方法による出席を認めることとされました。   事務当局におきましては,ウェブ会議による運営に不慣れなところがあり,皆様に御不便をお掛けすることもあるかもしれませんが,可能な限り円滑な進行に努めたいと考えておりますので,御協力のほど何とぞよろしくお願いいたします。   ウェブ会議を通じて参加されている皆様については,ハウリングや雑音の混入を防ぐため,御発言をされる際を除き,マイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願い申し上げます。   私の説明に対して御質問がある場合や,審議において御発言をされる場合は,このマイクロソフトTeamsの手を挙げるという機能をお使いください。この機能は,画面の下側に表示されるコントロールバーの中にある手のひらマーク,こちらをクリックすることにより,使用することができます。それを見て,私の方で適宜指名をさせていただきますので,指名されましたらマイクをオンにして御発言をお願いいたします。   御発言が終わりましたら,再びマイクをオフにして,同じように手のひらマークをクリックしていただくと,手を下げることができます。   なお,御発言の際は,こちらにいらっしゃる方も含め,皆様必ずお名前をおっしゃってから発言されるようにお願いいたします。   ウェブ会議の方法で出席されている方には,こちらの会議室全体の様子が伝わりにくいため,会議室にお集まりの方々には特に御留意を頂きたく思います。   続きまして,配布資料の確認をさせていただきます。   まず,部会資料1-1「仲裁法制の見直しにおける検討事項の例」及び部会資料1-2「仲裁法等の改正に関する論点の検討(1)」がございます。こちらについては,後ほど審議の中で事務当局の方から説明をさせていただく予定にしております。   次に,参考資料がございます。   参考資料は3点ございまして,まず参考資料1-1は,JCAジャーナル2007年6月号に掲載されました三木浩一委員御執筆の御論考から抜粋させていただいたものでございます。UNCITRALのモデル法の平成18年改正条項の英文と和訳,これが並べて記載されたものになります。   参考資料1-2は,山田文委員から御提供いただいた和訳を基に作成した資料で,シンガポール条約の英文と和訳とを並べて記載したものになります。   なお,この資料につきまして1点修正をお願いしたい点がございます。5ページをお開きいただきたいと思います。   5ページの冒頭,2と書かれたところ,1行目ですけれども,調停合意というくだりがありますが,ここを和解合意と訂正を頂きたいと思います。訂正箇所はこの1点になります。   それから,参考資料1-3は,「諸外国等における仲裁法制等の比較表」になります。   また,本日は今後の日程も配布しております。差し当たり,今年度中の日程をお示しさせていただきましたが,具体的な進行については,御議論の状況を踏まえつつ随時お諮りをしたいと考えております。来年4月以降の日程については追ってお知らせをいたします。   それでは,まずこの部会で審議される諮問事項と部会の設置決定について簡単に御報告をいたします。   本年9月17日に開催されました法制審議会第187回会議におきまして,法務大臣から仲裁法制の見直しに関する諮問がされました。お手元の資料のうち,右肩に諮問第112号と記載されたものを御覧ください。   諮問事項は,ここに記載されておりますように,経済取引の国際化の進展等の仲裁をめぐる諸情勢に鑑み,仲裁手続における暫定措置又は保全措置に基づく強制執行のための規律を整備するなど,仲裁法等の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたいというものであります。   この諮問を受け,法制審議会総会では,その日の会議におきまして専門の部会を設置して調査審議を行うのが適当であるとして,この仲裁法制部会を設置することを決定したものであります。   以上のことをまず御報告いたします。   続きまして,審議に先立ち,事務当局を代表いたしまして,民事局担当の大臣官房審議官である堂薗委員より挨拶をさせていただきます。よろしくお願いします。 ○堂薗委員 民事局担当の審議官をしております堂薗でございます。   本来であれば,民事局長の小出から御挨拶をすべきところでございますけれども,本日は所用により会議の冒頭出席することができませんので,私から御挨拶をさせていただきます。   皆様には,それぞれ御多忙の中,法制審議会仲裁法部会の委員・幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。   我が国の仲裁法は,UNCITRALが策定した国際商事仲裁モデル法に準拠して平成15年に整備されたものであり,その内容は国際的な動向に照らして遜色ないものと評価し得ると考えております。   しかしながら,平成18年にUNCITRALにおいてモデル法の一部が改正され,暫定保全措置に基づく強制執行について新たな規律が設けられましたが,我が国の仲裁法ではこれに対応する規律は整備されておりません。   他方,国際仲裁はグローバル化が進む現代社会において国際的な紛争を解決する手段として広く普及しており,その件数は世界的に増加しているにもかかわらず,我が国における国際仲裁の取扱い件数は依然として低調に推移しているところでございます。   このような現状を改め,我が国の国際仲裁を活性化させるためには,最新の国際水準に見合った法制度を備える必要があると考えられるところでございます。   また,国際仲裁の活性化の観点からは,仲裁判断の取消しや執行等の仲裁手続に関して裁判所が行う手続につきまして,事件の管轄集中を前提に当事者が書証の訳文を提出することなく手続を利用することができるようにするための規律などについても検討する必要があります。   さらに,近時,国際商事紛争の解決手段として,世界的に国際調停の有用性が注目され,国際仲裁と国際調停の相互利用が図られるなど,裁判外で行われる調停による和解合意にも執行力を付与する必要があるという機運が高まっているところでございます。   本年9月12日には,調停による国際的な和解合意による国際連合条約,いわゆるシンガポール条約が発効したところでございます。我が国においても,国際仲裁の活性化に向けて,国際仲裁と国際調停の効果的な連携の必要性が指摘されておりますが,その一方で,裁判外における当事者の合意に執行力を付与することの妥当性や国内法制との整合性等についても検討する必要があるという指摘もされているところでございます。   こうした中,本年7月17日に閣議決定がされた成長戦略フォローアップでは,国際仲裁の活性化に向け,仲裁関連法制度の見直しの検討を加速させるということが,さらに,同日に閣議決定がされた経済財政運営と改革の基本方針2020,いわゆる骨太の方針でございますが,この中では国際仲裁等の紛争解決手続へのアクセスを強化することがそれぞれ盛り込まれたところでございます。   以上のような仲裁をめぐる諸情勢に鑑み,仲裁法等の見直しを行うことについて法制審議会で調査審議していただくべく,今回の諮問がされたものでございます。   私ども事務当局といたしましても,本部会における調査審議が充実したものとなるよう努めてまいりますが,委員・幹事の皆様におかれましては,より望ましい仲裁法制の構築のため,御協力を賜りますよう是非ともよろしくお願い申し上げます。 ○福田幹事 続きまして,委員,幹事及び関係官の方々に自己紹介をお願いいたします。お名前と所属等を御紹介いただければと思います。委員の方々,幹事の方々,関係官の方々の順番でそれぞれ50音順でお名前をお呼びいたします。お名前を呼ばれましたら,マイク機能をオンにして御発言をお願いします。御発言が終わりましたら,マイク機能をオフにしていただきたいと思います。   (委員等の自己紹介につき省略) ○福田幹事 どうもありがとうございました。  本日は,衣斐幹事と渡邊関係官が御欠席,小出委員,門田委員及び吉岡幹事が遅参されると伺っております。   この機会に,関係官につきまして補足して御説明をいたします。   法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は,会議に出席し,意見等を述べることができるとされております。この部会でも,従前どおり関係省庁に対して審議への参加を求めていこうと思っております。そのため,当省の事務当局のほか,当省大臣官房司法法制部の渡邊参事官,豊澤部付,最高裁判所事務総局民事局の西澤局付に関係官として御参加を頂いております。   それでは,ここで部会長の選任に移りたいと思います。   法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき,会長が指名することとされております。この部会は本日が第1回会議ですので,まず初めの手続として,部会長を互選していただく必要がございます。   それでは,ただいまから部会長の互選をしていただきますが,自薦又は他薦の御意見などはございますでしょうか。 ○高杉委員 よろしゅうございますでしょうか。私は,山本和彦委員を推薦いたします。山本和彦委員におかれましては,本部会に先立ち開催されました仲裁法制の見直しを中心とした研究会の座長として様々な議論を取りまとめられました。また,学界における指導的立場にもあることから,山本和彦委員が適任であると思いますので,山本和彦委員にお願いしてはいかがと考えます。よろしくお願いいたします。 ○福田幹事 ほかに御意見はありますでしょうか。 ○手塚委員 手塚です。   ただいま,他の委員から部会長は山本和彦委員が適任であるとの御発言がございましたが,賛成いたします。私も山本和彦委員が学会で残された数多くの御業績,御経歴に照らしますと,山本和彦委員にお願いをすることが適切と考えます。 ○福田幹事 ありがとうございます。   ほかに御意見はありますでしょうか。   ただいま,高杉委員及び手塚委員から,部会長として山本和彦委員を推薦するとの御発言がありました。ほかに御意見がないようでしたら,部会長には山本委員が互選されたということになろうかと思いますが,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   では,ほかに御意見がございませんので,部会長には山本和彦委員が互選されたものと認めます。その上で,本日は法制審議会の内田貴会長に御出席を頂いております。内田会長におかれては,いかがでございましょうか。 ○内田会長 ただいま山本委員が互選されましたけれども,民事手続法の分野における御業績あるいはお人柄に照らしましても,私も山本委員が適任であると思います。互選の結果に基づきまして,山本委員を部会長に指名したいと思います。 ○福田幹事 ありがとうございます。   ただいま内田会長から山本和彦委員を部会長に指名していただき,これをもちまして山本委員が部会長に選任されました。   山本委員におかれましては,部会長席への移動をお願いいたします。   では,山本委員には以降の進行役をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 ただいま部会長に指名されました山本でございます。一言御挨拶を申し上げたいと思います。   先ほど堂薗審議官からもお話がありましたとおり,国際仲裁の活性化等の観点から,仲裁法あるいはそれに関連する制度についての見直しが,その必要性が高まっていると私も思っておりますが,他方で,理論的,実務的に検討すべき課題も多々あろうかと思います。   この仲裁法につきましては,司法制度改革の中で議論がされて,現行法が制定されたという経緯があり,法制審議会において仲裁法について議論をするのは今回が初めてなのではないかと思います。理論的,実務的な観点から議論を深めていっていただければと思います。   また,是非その間,その際においては自由闊達な御議論を頂ければと思います。法制審議会はどの部会でもそうかと思いますが,取り分け民事手続法関連の部会におきましては,そのような自由闊達な議論に基づいて建設的な審議を行っていただくという伝統があるのではないかと私自身は思っております。   私といたしましても,このような司会は大変不慣れではありますけれども,そのような皆様の御議論に基づき調査審議が円滑に進むよう,誠心誠意,部会の運営に努めてまいりたいと思いますので,委員,幹事,関係官の皆様の御協力のほど,どうかよろしくお願いを申し上げます。   なお,今後,部会長である私が会議に出席することがかなわない場合に備えて,部会長代理を指名させていただきたいと思います。私としては,高田委員を指名したいと思いますが,高田委員におかれましては,お引き受けいただけますでしょうか。 ○高田委員 部会長の御指名でございますので,謹んでお受けいたします。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本部会長 よろしくお願いいたします。   なるべく御迷惑をお掛けしないように,体調には気を付け,3密を避けて過ごしたいと思いますので,どうかよろしくお願いいたします。   それでは,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いにつきましてお諮りをしたいと思います。   まず,現在の法制審議会での議事録の作成方法につきまして,事務当局から御説明を頂きたいと思います。 ○福田幹事 それでは,福田から御説明いたします。   法制審議会の部会の議事録における発言者名の取扱いにつきましては,かつては発言者名を明らかにしないで逐語的な議事録を作成していた時期もございますが,平成20年3月に開催された法制審議会の総会におきまして,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに部会長において部会委員の意見を聴いた上で発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという取扱いに改められております。   御参考までに申し上げますと,この総会の決定後に設置された民事法関係の部会では,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。したがいまして,この部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとするかどうかを御検討いただく必要があるのではないかと思います。   以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの福田幹事からの御説明につきまして,御質問,御意見がございましたら,お願いいたします。   特段の御意見はございませんでしょうか。部会長の私といたしましては,今御紹介がありました最近の部会の状況,それから当部会における審議事項の内容等に鑑みますれば,発言者名を明らかにした形での議事録を作成していただくということが適当ではないかと思いますけれども,それでよろしゅうございましょうか。   ありがとうございます。それでは,当部会におきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにさせていただきます。ありがとうございました。   それでは,本日の中身の審議に入りたいと思います。   本日は,第1回の部会ということでございますので,まず,皆様に仲裁法制の見直しについて全体像を共有していただくという観点から,最初に若干のフリートークをさせていただき,その上で個別のテーマの方に移っていきたいと考えております。   そこで,まず事務当局から部会資料1-1に基づいて説明をお願いいたします。 ○福田幹事 それでは,部会資料1-1につきまして,福田から説明をさせていただきます。   部会資料1-1を御参照ください。   部会資料1-1は,仲裁法制の見直しを検討するに当たって論点となる項目を網羅的に記載したものであり,今後,この仲裁法制部会におきまして皆様に議論していただく全体像を明らかにしたものでございます。   まず,第1では「仲裁に関する事項」を取り上げております。   「1 基本的な視点」で記載しましたとおり,我が国の仲裁法は平成15年にUNCITRALの国際商事仲裁モデル法に準拠して整備されたものですが,このモデル法は平成18年に一部改正がされております。この一部改正の詳細につきましては,参考資料1-1を参照していただければと思いますが,仲裁合意の書面性や暫定保全措置に対する執行力の付与等,幾つかの改正項目を含んでございます。   部会資料1-1では,このうち中心的な項目である暫定保全措置に関する部分を取り上げ,改正モデル法の規律に対応した形で仲裁法を整備するという視点から,考えられる論点を記載しております。   続いて,第2では「調停に関する事項」を取り上げております。ここでいう調停とは,裁判外で行われる調停を指すものでございます。   「1 基本的な視点」で記載しましたとおり,近年,国際的な商事紛争の解決手段として国際調停手続が世界的に注目を集めており,本年9月12日にはシンガポール条約が発効するなど,調停による和解合意に執行力を付与すべきとの機運が高まっています。   他方,我が国においては,調停による和解合意に対する執行力の付与について,平成16年のADR法制定時より議論がされてきたものの,これまで見送られてきたという経緯があります。   そこで,この仲裁法制部会におきましては,国際調停ひいては国際仲裁の活性化の観点から,調停による和解合意に対する執行力の付与について御議論を頂き,その中で国内法制における議論の際に指摘された課題等,国内法制との整合性も含めた御議論を頂ければと考えております。   なお,念のために申し上げておきますが,この仲裁法制部会では,シンガポール条約の締結の是非について御審議いただくものではございませんので,この点について御留意を頂きたいと思います。   最後に,「第3 その他」として,仲裁手続に関して裁判所が行う手続に関する事項を取り上げております。ここでは,当事者の負担軽減等といった観点から,管轄の見直しや外国語資料の訳文添付の省略などが考えられないかという論点を記載しております。   以上,第1から第3まで多岐にわたる項目を記載しておりますが,これらの項目については部会資料1-2で取り上げた暫定保全措置に対する執行力の付与と調停による和解合意に対する執行力の付与の二つの論点を除き,次回以降の部会において順次取り上げる予定としておりますので,本日の部会におきましては,論点についての当否も含め,その一つ一つについて御議論いただくことまでは予定しておりません。   なお,論点を提示する際の表現につき,ところどころ一定の方向性を前提としたような記載もございますが,もちろん他の考え方を排除するという趣旨ではございません。また,こちらの部会資料では,代表的な論点を取り上げたものにすぎませんので,こちらに記載のない論点を今後取り上げないという趣旨でもございません。   したがいまして,フリーディスカッションの際には,この部会資料1-1を参照していただきつつ,今後の進め方やこのほかに取り上げるべき論点等について,皆様からの積極的な御発言を頂ければと考えております。   私からの説明は以上でございます。 ○山本部会長 ただいま福田幹事から,平成18年にUNCITRALのモデル法が一部改正された旨の御説明がありましたけれども,この改正作業には政府代表として三木委員が携わられていました。そこで,皆様からの御意見等をお伺いする前に,まず三木委員からモデル法改正経緯等について御紹介を頂ければと思いますが,三木委員,よろしいでしょうか。お願いいたします。 ○三木委員 御指名いただきましたので,UNCITRALにおける国際商事仲裁モデル法の2006年改正におけるポイントについて,かいつまんで御説明を申し上げます。   まず,そのバックグラウンドから申し上げます。   御案内のとおり,UNCITRAL仲裁モデル法は1985年に制定されました。2006年改正は,仲裁モデル法が制定されて以来,初めての改正となります。そして,現在のところは,まだその後の改正は行われていませんので,最初で最後の改正ということになっております。   この改正作業ですが,2000年3月から2006年7月まで,UNCITRALの作業部会におけるプロジェクトとして行われました。私は,ほかの作業部会にも参加しておりますが,UNCITRALの作業部会における1個のプロジェクトとしては,7年余を要したという異例の長期に及びました。ただ,このように審議期間が長期に及んだ理由は,審議内容が多岐にわたったからであるとか,あるいは審議内容の骨格となる重要な部分について意見が対立したからというわけではありません。2000年に始まったプロジェクトの最初の会期では,作業部会として取り上げるテーマの選択が話し合われましたが,最終的に選ばれたテーマは,仲裁合意の書面要件の実質撤廃,暫定保全措置に対する執行力の付与,それから調停モデル法の制定という三つでした。   このうち,調停モデル法の制定につきましては,実質的には1年少々で早々に成案が得られました。そして,2002年6月のUNCITRAL総会において,UNCITRAL国際商事調停モデル法が採択されました。このように,調停についてはスムーズに作業が完了したのに対し,仲裁合意の書面要件と暫定保全措置につきましては,当初の予想をはるかに超えて審議が難航しました。   しかし,先ほども申し上げましたが,審議がこのように難航したのは,二つのテーマともに,改正が向かうべき方向性あるいは改正の中心的な論点について,意見が大きく分かれたからではありません。むしろそうした大きな方向性や重要な論点に関する限りは,日本も含めて,最初から意見の対立はほぼ皆無でした。つまり,仲裁合意の書面要件を実質的に撤廃すること及び仲裁廷が発令する暫定保全措置に執行力を付与することについては,全てのメンバー国及びオブザーバー国において完全な意見の一致があったということであります。   以下,簡単に内容上のポイントを申し上げます。   まず,部会資料の最初に取り上げられている暫定保全措置ですが,執行力を付与する方法については,基本的には2006年改正モデル法では,仲裁判断に対する執行力の付与とほぼ同じスキームが採られております。すなわち,裁判所は原則として仲裁廷が発令した暫定保全措置を尊重するものとし,限定列挙された拒絶事由がある場合に限って承認又は執行を拒絶することができるというものです。   また,暫定保全措置に執行力を付与するということになると,執行力の付与に値する暫定保全措置が出されることを法として担保する必要がありますので,改正前のモデル法にはなかった発令要件に関する規定を設けるということにしております。   以上が2006年改正における暫定保全措置に関する主要な規律です。そして,先ほど来申し上げておりますように,2006年改正の本来の目的である執行力の付与につきましては,作業部会における審議の中で大きな意見対立はなく,スムーズに審議が進みました。   大きな意見対立が生じたのは,いわゆる密行性を要する事件において,相手方を審尋せずに保全命令を発令することができるのか,すなわち,一方審尋による発令の可否という問題であります。これにつきましては,イギリスを中心とする一部の国々とその他の国々の間で大きな議論が起こり,2006年改正が非常に長い時間を要した理由の一つとなりました。   最終的には妥協案として,暫定保全措置それ自体については飽くまでも双方審尋による発令しか認めないものとし,他方で,暫定保全措置とは別個の概念として予備保全命令という概念を創設するということで落着しました。   一般的にモデル法を各国が国内法として採用する場合には,世界からモデル法の採用国として認知を受けるために,なるべくモデル法の個々の規律に忠実に国内法を作ることが望まれるわけですが,今まで述べた経緯に照らして,予備保全命令についてはこの部会においても慎重な議論が必要となるものと考えられるところです。   次に,本日の部会資料には上がっておりませんが,2006年改正のもう一つの柱である仲裁合意の書面要件の実質撤廃について申し上げます。   仲裁合意の書面要件は,1958年のニューヨーク条約によって世界的に浸透し,1985年の仲裁モデル法にも採用されました。しかし,現在,既に当時とは時代背景や人々の意識が大きく変化しており,この2006年の作業部会の時点において,既に,時代遅れといいますか,もはや必要のない規律となっているということについては,メンバー国及びオブザーバー国のいずれにおいても異論がありませんでした。したがって,改正の方向としては,書面要件の緩和というよりも,実質的な意味での撤廃を目指すという結論に異論はありませんでした。   議論が紛糾したのは,目指す結論というよりは,それを達成するための方法というテクニカルな点です。約半数の国は,最も端的な手段としてモデル法から書面要件そのものを削除するべきだという意見を述べました。しかし,これに対しては残りの約半数の国々が反対をいたしました。その反対意見の主たる理由ですが,書面要件の実質的な撤廃には賛成するが,ニューヨーク条約との整合性を維持するために,書面要件という言葉自体は残しておくべきだということであります。   ただし,書面要件を実質的に撤廃するという立場は同じですので,書面要件を文言上維持するとはいっても,合意内容が記録されていれば,口頭による合意も書面とみなす,あるいは行為による合意も書面とみなすという,みなし規定を入れるという案が提案されました。   このように,いずれの案を採っても結論は大きくは変わらないのですが,最後まで双方が譲らなかったために,結局,モデル法という仕組みからすれば異例のことですが,オプションⅠとオプションⅡという二つの選択肢が設けられました。各国は,いずれのオプションを採用しても仲裁モデル法の2006年改正法を採用したと認定を受けるという立て付けになっております。   オプションⅠは,仲裁合意の書面性を形式的には維持しつつ,3項で口頭あるいは行為による合意も書面とみなすということで,実質的には書面要件の撤廃に等しい内容になっております。他方,オプションⅡは,仲裁合意の方式には全く言及しない条文となっており,仲裁合意は書面要件を含むいかなる形式をも要求しない非様式行為であるという立場に立つものです。   最後に,こうしたUNCITRALモデル法の2006年改正と我が国の現行の仲裁法との関係を念のために確認しておきたいと思います。   まず,暫定保全措置に対する執行力の付与についてですが,我が国の現行の仲裁法は2003年の制定であり,当然のこととして,UNCITRALモデル法の2006年改正は反映されておりません。   他方,仲裁合意の書面要件の実質撤廃の方ですが,こちらについては,一部について先取り的に2006年改正の内容が取り込まれております。すなわち,我が国の仲裁法の13条4項は,電子的な記録を書面とみなすという規定ですので,2006年改正の7条4項と近い内容になっています。   これは我が国の現行仲裁法を制定する際に,当時のUNCITRALの作業部会における議論状況を勘案して,モデル法の改正において予想される規定を先取り的に置いたものです。   このように,仲裁合意の書面要件については一定の対応がされているわけですが,これで十分かというと,そうとは言えないように思います。理由を3点ほど挙げたいと思います。   第1に,2006年改正は,オプションⅡはもちろん書面要件の文字どおりの撤廃ですが,オプションⅠも実質的には書面要件の緩和ではなく撤廃です。それは,先ほど申し上げましたようにオプションⅠの3項で,仲裁合意が記録されていれば口頭,行為又はその他の方法でも書面によるものとみなすという規定が置かれているからです。   この3項は,オプションⅠにおける仲裁合意の方式に関するUNCITRALモデル法の基本的な考え方を示すものであり,現在ではシンガポール条約にも取り入れられている「書面から記録へ」という基本スキームの転換を表した原則規定となっております。現行の日本法は,この原則規定を置くことなく,書面とみなされる場合の例示の一つである電子的な記録に関する規定のみを置いているという状態になっております。したがって,2006年改正の対応がなされているとは言えないばかりか,仲裁合意の方式に関する基本スキームに関する規定が存在しない状態となっております。   第2に,現実的に現行の日本法では,2006年モデル法のオプションⅠと比較して異なる結果が生じる可能性があります。それは,例えば昨今のZoom等を利用した自動録画を使ったオンラインによる会議のやり取りで仲裁合意をした場合,モデル法のオプションⅠでは仲裁合意は有効に成立しますが,日本法では要件を欠くことになります。   また,身体障害者とか,そういった多様性への対応ということが世界的に大きな関心事となっておりますが,2006年モデル法では手話による仲裁合意は有効となりますが,現在の日本法では無効となります。   更に言えば,日本法には電子的記録について,「電子計算機による情報処理の用に供されるもの」という日本独自の限定が付いておりますが,近年になって急速に普及したスマートフォンによる文字のやり取りがこの電子計算機による情報処理の用に供されるものなのかについては,疑問が呈される余地もないとは言えないと思われます。   第3に,以上に述べた実質もさることながら,各国がモデル法を採用することの意義に照らして,現状のままでは問題があると思われます。そもそも一国がモデル法を採用する一般的な意義としては,主として外国のユーザーに対して世界標準を採用しておりますということによる安心感を与えることが大きいと思います。つまり,外国からの見え方の問題です。そうすると,2006年モデル法を採用するに当たり,わざわざ暫定保全措置に関する部分のみを切り取り,仲裁合意による書面要件の実質撤廃の部分についてはこれを採用しないということになりますと,そこに何らかの意図を邪推されるおそれがないとは言えません。   また,2006年モデル法を採用した各国を見ても,書面要件の部分のみを外した例というのは余りないのではないかと思います。   以上,やや長くなりましたが,UNCITRAL仲裁モデル法の2006年改正についての私からの御説明といたします。ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   2006年のモデル法改正の経緯,またその内容につきまして,大変詳細に,また分かりやすく御説明を頂いたのではないかと思います。   それでは,今のような御説明を踏まえまして,部会資料1-1につきまして,皆様から御質問あるいは御意見がありましたら,お伺いしたいと思います。どなたからでも,どの点でも結構ですので,御自由に御発言を頂ければと思います。 ○古田委員 古田でございます。   部会資料1-1を拝見いたしました。私は,弁護士として国際的な企業間の紛争処理を主にやっております。日本企業を代理して,外国企業との紛争について,いろいろな訴訟ですとか仲裁,調停等を行うことがあるのですけれども,やはり日本企業の立場から見ると,紛争処理手続を日本国内で行うのか外国で行うのかというのは,実務的に相当負担感が違います。日本の訴訟に対応する労力と外国の訴訟に対応する労力,あるいは日本での仲裁に対応するための労力と外国における仲裁に対応するための労力というのは相当違っています。これは手続的な相違という問題だけではなくて,やはり実体的の結論にもある程度影響し得ると思っております。サッカーの試合でいいますと,ホームでの試合とアウェーでの試合ぐらいの違いが実務上あるのではないかと感じております。   そういう観点からしますと,特に日本企業の立場からは,日本で紛争処理ができる環境を整えるというのは非常に重要です。これは,大企業にとっても重要ですけれども,特に中小企業にとっては,紛争処理の場が外国というだけで実際上対応が不可能になってしまい,先方の言うがままの示談をするという例もあります。そういう意味で,日本における紛争処理の環境整備というのは重要だと思っています。   環境整備という場合には,もちろん法制度だけではなくて,ハード面もあるでしょうし,あるいはそれに対応できる人材の育成というのもあろうかと思いますが,この法制審の部会では,法制度という観点から日本での紛争処理が円滑に進むような環境,特に外国の当事者から見たときに,紛争処理の場所を日本にしてもそれほど心配はないというふうに見てもらえる環境を作っていく必要があると思っております。そうしますと,三木委員もおっしゃいましたけれども,例えば仲裁法制については,やはりUNCITRALのモデル法に準拠しているというのは一つの大きな指標になっておりますので,2006年の最新のモデル法に準拠をした仲裁法が日本にあると世界に言えるような,そういう方向での改正作業というのは重要だろうと思います。   また,国際調停につきましても,最近はビジネス紛争を私的な調停で解決するという機会も増えてまいりました。そうしますと,部会資料1-1にも書いてございますけれども,シンガポール条約が締結されて効力を生じ,今後加盟国も増えていくことが見込まれる中で,日本の調停に関する法制度もシンガポール条約と整合的であるということは,やはり日本を調停の場に選んでいただくための一つの大きな支えになるんだろうと思います。   部会資料は,第3で裁判手続のことも書いてございます。仲裁関係の裁判手続というのは,件数は非常に少なくて,訴訟案件に比べると,多分訴訟案件が年間11万件ぐらい日本はあると思うんですけれども,仲裁関係の手続は多分10件ぐらいです。1万件に1件ぐらいの割合ですので,これは一般の裁判官にとってみると一生に1回担当するかどうかぐらいの事件数ということになります。   他方で,やはり専門性が高い分野ですので,裁判所の中でも経験を蓄積していくことは重要だと思っておりますので,そういう意味で,例えば東京地裁ですとか大阪地裁に事件を集中させるということは重要だろうと思います。また,国際仲裁については,近時,英語で手続を行うことはかなり一般的になってきております。英語で仲裁をやった後に,日本で例えば仲裁判断の取消しですとか仲裁判断の執行するときになると日本語の全訳が要るというのは,やはり相当の負担感があります。ですので,一定の場合に外国語資料の訳文添付を省略していいという方向の改正というのは,合理的なのかなと思っております。   もちろん法改正ですから,いろいろな弊害や濫用のおそれ等もあるのかもしれませんけれども,それについては一定の対応をしながら,しかし基本的には部会資料に書いてあるような方向での法改正を進めていくことは,日本の国益にもかなうのではないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○髙畑委員 古田先生と同じ論点ということにもなりますけれども,日本企業のインハウスの立場から,やはりここ10年ぐらいいわゆる国際仲裁の活性化ということを二つの角度から見ておりまして,つまり,一つは世界最大のFDIを持つ日本企業が,外でこれだけの取引量がありながらも,なかなか実際にトラブルが起こったときにきちんと国際仲裁で戦うということをやってこなかったこの10年間,そこを何とかしたいということと,あともう一つは,やはり日本で国際仲裁ができる環境を作っていく。その意味で,確かにUNCITRALのモデル法に準拠している,先ほど委員の方がおっしゃられていたように,外国企業から見て日本でもきちんと国際標準での仲裁ができるという安心感を与えるという以上に,私どもインハウスの立場から言うと,やはり取引がボーダーレスになっている中で,紛争解決手続自体も余りどこでやるということを意識しなくてもできるようにやりたいと。   つまり,先ほど古田委員がおっしゃったように,訴訟の件数に比べて極端に仲裁が少ないというのはどういうことかというと,やはり国内でも仲裁件数を増やしていって,国内の仲裁であっても国をまたいで海外での仲裁案件であっても,同じようにできるということであれば,皆さん別にそれほど日本企業にとっても同じ感覚でできるということであれば,国内案件(訴訟)に流れるかもしれないものを国際仲裁というフォーラムを使ってやれるようになるのではないかと。そういった意味で,必ずしも海外の投資家というか,外の,日本国外の企業(日本企業の在外現地法人や日本に現地法人がある外資系企業)にとって日本でも仲裁ができることのメリットというのは,恐らく日本企業にとっても大きなメリットではないかと考えております。   先ほど裁判所の仲裁に関わる部分だけでも英語でという話がありましたけれども,国によっては,アムステルダムとか,もう既に国内の普通の商事の裁判手続でさえ英語でやっていますので,日本企業等でもオランダ国内訴訟手続きへのハードルが下がっているといえます。  その辺りも含めて考えていければ,いろいろな意味で,日本企業が国外でも,国内でも国際仲裁でも戦える,そういう風土を作っていけたらと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,原田委員,お願いいたします。 ○原田委員 原田です。   日本の産業界あるいは企業の立場については,古田委員や髙畑委員から御紹介のあったとおりでございまして,全く同感でございます。例えば,企業において海外で契約交渉等をしておりますと,これまでは,日本での紛争解決を提案しても,その理由をなかなか説明しにくい状況がございまして,そういった交渉時に説明のできる環境づくりが行われることは,企業にとってプラスの話だと思っております。その意味で,モデル法を取り込んでいくことには,基本的に賛成でございます。   仲裁法という世界になってきますと,私どもの実務も非常に限られ,かつ専門的なところがよく分からない人間にとっては,モデル法の何をどこまで反映していくと,ほかの仲裁先進国と言われているところなどの水準に達すると言えるのかどうか,暫定保全措置の適用となりますと,現実的には日本の企業に適用されることが多いと思います。そういたしますと,予備保全命令などを含め,その内容,発動条件が日本企業にとって一方的に不利になることがないかどうかといった疑問が出てきますので,いろいろ細かいところを,この場で専門家の方々から教えていただいきたいと思いますし,確認していきたいと思っております。   調停の動きについても,先ほど委員の方々がおっしゃったとおりでございます。  最後の裁判所が行う手続きのところですけれども,一定の裁判所に事例やノウハウを蓄積していけば,利便性の向上,あるいは内外における信頼感の醸成につながると思いますし,さらに日本における調停・仲裁の振興につながると思いますので,大変結構な話かと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○手塚委員 手塚でございます。   実務の中で,一昔前までは日本企業が仲裁を選ぶ大きな理由の一つとしては,アメリカでの訴訟を避けたいからというのがございました。それは,ディスカバリーであるとか,あるいは陪審員制度,これを避けたいというようなことで,その対応としては,訴訟だけれども被告地主義にして,米国企業から訴えられるときは日本の裁判所にしてほしいという対応と,それからあとは仲裁でやるというのがございました。   ところが,この10年ぐらいを見ますと,アジアの経済成長に伴って,アジアを中心とする途上国との取引が非常に増えたという中で,被告地主義的な裁判管轄合意ではワークしないということが認識されてきたように思います。例えば中国あるいはインドネシア,タイ,こういうところとの取引で,先方から訴えられるときは日本の裁判所だけれども,こちらが訴えるときには相手国の裁判所に行かなければいけないということになりますと,なかなかその国によって司法制度に対する信頼感というのが乏しいために,アメリカとの関係で好まれていたような被告地主義的な裁判管轄合意というのがワークしないということから,仲裁でやろうという動きが非常に増えたと思います。   その際に,仲裁をやるにしても相手国でやりますと,これは取消手続が相手国の裁判所に結果として行ってしまうということで,日本でやる,あるいは第三国,シンガポール,香港等でやるというようなことを交渉するわけなんですけれども,どうも日本の企業の皆様方に伺ってみると,そういう場合でも,日本でやりましょうと言っても,相手国から日本の仲裁ってよく分からないと,なので,第三国でやりましょうということで,近時はシンガポール,場合によっては香港,それからあとアジアの国との間でもロンドンとか,そういうところ,第三国で仲裁をやるということが多くなってしまっております。   日本企業が日本の仲裁が不便であるとかよくないと思っているかというと,やはり相手国の当事者がのんでくれない。そのために第三国に行っているのかなというのが私の印象です。なので,日本における仲裁を活性化し,件数を増やしていくというためには,日本企業にとって有利だとか便利だということを余り強調して,外国企業にとっては不便だというイメージになってしまっては,相手のある話でございますから,やはり外国の当事者,代理人から見ても,日本の仲裁制度やそれに連なっているところの仲裁関連の裁判制度,これが外国当事者にも公平で便利なものであるという,そういうものにしていくことが大事であろうと思います。   第三国仲裁地としての日本という立場が,余り今までは夢のような話というか,そういうものを追求するという動きが少なかったのかなと思っておりますが,シンガポールなどは,シンガポール企業の事件が多いのではなくて,第三国としての仲裁が圧倒的に多いわけなんですね。それで,例えば韓国と米国の仲裁ということですと,シンガポールよりも日本の方がはるかにアメリカ,取り分け東海岸との交通の便はいいわけですので,取り分け大陸法が準拠法になっているような事件について,大陸法系の仲裁人が選任しやすいとか,いろいろなセールスポイントはあるはずなんですけれども,どうも今までそっちの方の努力というのが余り行われてきておらず,かつ,私もICCの関係等で仲裁人の推薦委員会みたいなところで日本人の仲裁人の候補者を議論したりすることもあるんですが,いかんせん,日本人で仲裁人経験を持っている人がまだ少ないということがありますので,第三国仲裁地としての日本というものを増やしていくことで,日本での仲裁人の数も増えて,それが,日本企業が日本で仲裁するときも,仲裁人が選びやすい環境にもなるという,そういうつながった問題なのかなと思っております。   2点,調停とその他の第3について本当に簡単に申し上げたいんですが,調停での合意についての執行力なんですけれども,先ほどシンガポール条約への加盟の有無はここでは論点にしないということがございましたが,私としては,ここでの議論の結論が,結果としてシンガポール条約に加盟しようとするときにそれと不整合になってしまうという結論にはならないようにだけは注意すべきだと思います。例えば,日本はADRについて認証制度というのがありますが,国際的な調停についても認証調停機関の調停での和解にだけ執行力を認めるというようなことにしてしまいますと,これはシンガポール条約とは不整合になってしまいます。ですので,そこは加盟の是非とは別の論点ですけれども,もし加盟するときに不都合がないようにするということは大事かと思います。   最後に,長くなって恐縮ですが,第3の3,ほかの検討事項なんですけれども,是非,仲裁関連の事件の対外的な送達,これについて,私の理解では決定手続なので,正式送達は必ずしも不要だと思うのですが,裁判所の実務としては正式な送達をやってくださいと言われることが結構多くて,そうすると,仲裁判断の取消しだとか,あるいは執行ですか,そういう手続に送達だけで半年かかるとか,そういうのはできれば避けられるように考えていっていただきたい。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 日本を国際仲裁,国際調停の場として売り出していくということを国としても考えていただいているわけでございまして,そのときに誰にそのことを訴えかければいいのかというと,紛争解決といいますか,何といいますか,争訟系の弁護士さん,外国の弁護士さんではなくて,ドラフティングをする人たち,ですからもう一般的な全ての国の弁護士,あるいは企業内の法務担当の方々に,日本という国は,別に特別である必要はないんですけれども,やりにくい,そういう紛争解決の場としてはふさわしくないというふうにだけは思ってほしくない。   ともすると,そういうイメージが,かつてそういうことが流布されたこともありまして,まだそのようなイメージがあるかもしれないところを,それを何とか打破したいと思っていまして,そのためにですけれども,第1と第2の話は全く売り込みにはならないといいますか,ようやくスタートラインの同じレベルになりましたねと。やはり売り込むためには,シンポジウムをしたりセミナーをしたり,あるいは雑誌に論文を書いたりして,日本はこうなりましたと書かなければいけないわけですけれども,あるいはしゃべらなければいけないわけですが,この二つではとても書けないといいますか,アピーリングではない。ですので,第3のところを是非しっかりやっていただいて,今おっしゃったその他のその他に更に加えていただくのは有り難いところでございますけれども,ここがないと,変わりましたというふうにはならないのではないかと思うんですね。   ちょっと私,気になっているのは,細かい話をここですべきではないかもしれませんが,第3の2を実現するためには,第3の1は競合管轄ではまずいのではないかと。裁判所の体制が,どこが来てもいいですよということになればいいのですけれども,第3の2を実現,まずこれは是非やっていただきたいんですが,そうでないと,せっかくビジネスがシームレスに取引をし,紛争解決をしていて,ですから,そういう場合は英語でやっていて,ところが何かあると日本語で全て直さなければいけないということでは非常に困りますので,是非第3の2は実現していただきたいと。そのためには,第3の1は民訴法の6条の特許等に関する訴えのように,東京・大阪の日本二つに分けて専属にしていただきたいなと思っています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井でございます。今まで何人かの方から出たことと重なってしまうかもしれませんが,第1回なのでフリーディスカッションということでお許しください。   この場は法制審議会ではございますが,やはり法制の背後にある政策というものを考えながら議論をしないといけないんだと思います。これまでも何人かの方から紹介あったように,日本における国際仲裁,さらには国際調停の活性化を図るというのが,これは閣議レベルでも方針になっているものでございますし,私ども日本弁護士連合会でも国際仲裁,国際調停の活性化というのは長年追求してきたことでございますので,是非そういう政策的な背景の下に議論をすべきだと私は思っております。   とはいえ,日本に仲裁地を持ってくるというのは,これは非常にいろいろなハードルがありまして,法制だけでは駄目だし,それから物的施設,今,私が携わっている日本国際紛争解決センター,施設があるだけでも駄目ですし,やはり人材も必要です。そういう総合的なもので進めていかなければならないと思います。   ただ,少なくとも法制面で日本がちょっと変わった国だねと,だから日本を仲裁地とする仲裁合意はちょっとどうなるか分からないからやめておこうと,そういう議論にならないような最低限の下地だけは法制面の手当てとしてやっておくべきではないかと思っています。   その観点から申し上げますと,これまでも何人かの方から御指摘あったように,日本の仲裁法はUNCITRAL準拠と言われていながら,2006年の改正がいまだに反映されていなかったと,これは私からすると議論が遅きに失した感があるかと思っておりますけれども,この機会にアップ・ツー・デートなUNCITRAL準拠と言えるような法制化を図るべきであると考えております。   現仲裁法の制定のときもそうでしたが,モデル法に規定があるものは,内容的に不適というものを除いてはできる限り盛り込む。そのまま直訳ということではありませんけれども,できる限り盛り込むという方向で検討すべきであると思っております。   仲裁法制に関しましては,仲裁法制が世界標準のものであるということはもちろん,今回の資料でいきますと第3の部分ですね,裁判所の手続,裁判所がやはり仲裁にフレンドリーと言ってしまうとちょっとバイアスがかかってしまうかもしれませんが,裁判所のところでもうスタックしてしまって,そこから先が使いづらくなるから,やはり日本を仲裁地にするとこういう問題が起こるんですよということが言われないようにすることが大事であると思っております。その観点では,第3の1,2いずれも重要であると思っております。   それから,調停に関しましては,これもADR法の制定時とそれから施行後5年後の見直しですかね,そのときにも議論をされて先送りになっていた問題が,この調停での和解合意に執行力を付与するかどうかという問題でございます。   ADR法制定時にはそもそも民間のADRというのがなかなかなじみがなかったというのもありますが,その後10年間,ちょうど10年ですかね,10年間で認証ADR制度というのもそれなりの定着を見せておりますし,それから,認証ADRだけではなく,私どもの第二東京弁護士会を始め東京の三つの弁護士会は,ADR法の制定前から弁護士会ADRをやっております。二弁は今年30周年ということでございますが,それらのいろいろな営みがありますので,それらを踏まえて現時点でこの調停での和解合意,和解あっせんでの和解合意に執行力を付与することがどうか,付与する場合にどういうニーズがあって,どういう弊害があるのかというところをしっかりこの機会に,せっかくの機会ですから検討をするということが必要だと思います。   手塚委員から,シンガポール条約との関係のお話がございました。これも冒頭,当部会ではシンガポール条約に加入するかどうかを議論するものではないと,それはこの法制審部会のジュリスディクションとしてそのとおりであると思いますが,やはり私も手塚委員と同じで,シンガポール条約に加入するのに妨げとなるような国内法,措置になるのは,できれば避けるべきではないかと思っております。やはり,それが日本における国際調停の活性化,これは国際調停,国際仲裁は密接に関わる問題でございますので,それにつながっていくことであると思っております。   一つだけ中身について申し上げますと,シンガポール条約は,これは後で紹介あるのかもしれませんが,国際的な商事性を有する調停における和解に執行力を認めていくと,そういう内容,規律の条約です。シンガポール条約に入る国内法制化としては,したがってシンガポール条約の対象事項である国際的な商事調停ですかね,それについて措置をすればいいわけですが,ただ,法制審で議論する場合は最初から国際とか商事に限るのではなくて,そもそも調停における和解合意に執行力を付与することのニーズ面,それから弊害面両方を検討し,そのニーズ面,弊害面から,国際とか商事に絞るべきだと,そういう議論になるのであれば,そういうことでいいと思いますが,やはり国際と国内,あるいは商事と非商事,そこが執行力を与えるかどうかについて説明ができるような区別ができるかどうかと,そういう議論を是非この場ですべきであると思っております。   すみません,最後に一つだけ,第3のその他のところ,これは重要なところで,既にもう措置をされたところが一つあって,国際仲裁手続,あるいはそれから調停手続の代理の問題ですね。代理の問題については,既に外弁法の改正で措置をされておりますので,それと同じような考慮というか,政策的な考慮でこの「第3 その他」のところは検討すべきであると思っております。   その観点で一つだけ申し上げると,現在こういうコロナの蔓延の状況があって,国際仲裁,国際調停がどういうことになっているかというと,みんながこういう形で集まっての審問とか手続というのが,国際的なものはほぼできなくなっています。国内の調停でもなかなかできなくて,第二東京弁護士会の和解あっせんでは,基本的にもうウェブでやっているという,そういう状況なんですね。何を申し上げたいかというと,リモートで行う,みんなが集まるのではなく,一部の人だけが集まって行うような手続会合,あるいは,さらには審問ですね,仲裁法の言葉でいうと口頭審理ということになりますが,それがリモートで行えるということが,これからは恐らく大事になってくると思います。   仲裁法を見ますと,口頭審理は当事者の求めがある場合には必ず適切な時期に行わなければならないというふうになっています。仲裁法の32条1項の口頭審理の概念なのですが,解釈論になってしまうかもしれませんが,私などはリモートでも相手の顔が見える状態であれば,それは口頭審理の概念に入れてよいのではないかとは思っておりますが,実は仲裁法制定後に立法担当者が書かれたコンメンタールでは,口頭審理というのはこう書かれているんですね。「特定の場所で,仲裁廷及び双方の当事者が一堂に会して…行う手続をいう」という,これは立法担当者の解説ですけれども,そういうふうに書かれていて,これを読むと,リモートは駄目なのかなというふうにも解されるところです。もちろんこの条項は,次に当事者間に別段の合意がない限りとなっておりますので,オプトアウトというか,オプトダウンはできることになっています。   手続合意をしてリモート審問を可能にすることは恐らくできるんだと思いますし,それをタームズ・オブ・レファレンス等で合意することも可能なんでしょう。ただ,問題は一方当事者がいやどうしてもリモートでやりたくないというときに,仲裁廷の決定でやれるか,プロシーディラル・オーダー,手続命令とかでやれるかどうかというところでまだ疑義が残るので,できればこの機会にそこも対処する検討はすべきではないかと思っております。この時期だからこそ,そこははっきりさせておいた方がよいかと思って申し上げました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 今の出井委員の問題提起について,逆にちょっと部会の問題意識を整理していただきたいと思っているのは,恐らくこの仲裁法は,今の民事訴訟法で公開法廷でやるのと,仲裁廷でやるのは,ある意味パラレルに議論していたときの産物で,リモートとかウェブというのは全く想定していないと。民事手続については,今,IT化の方の議論が別途走っているというふうに理解しておりますけれども,この仲裁法全体のIT化みたいなのは,民事訴訟法のIT化をした後にもう一回やるという前提で議論するのか,それとも,今出井委員がおっしゃったような,ここで手当てできそうなものは手当てしていくということなのか,ロジスティクスの問題なんですけれども,どちらのイメージなんでしょうか。 ○福田幹事 では,事務当局の福田の方から今の点について御説明いたします。   現時点で事務当局としての定見はございませんけれども,少なくとも仲裁手続の中で裁判所が関与する部分,この部分については,やはり民事裁判手続のIT化の進捗状況を見据えてやっていかなければいけない事柄であると認識しております。他方,仲裁廷が行う手続については,現時点では,まだ整理ができていないところでございます。   先ほど出井委員から御発言があったところですけれども,口頭審理というものについて,御指摘のコンメンタールの記載があることは承知しております。しかしながら,仲裁法ができた平成15年当時と現在とでは,テクノロジーの進展等いろいろございますので,一堂に会しているのと同じような状況と考えていいかというのは,そのような点も踏まえて検討する必要があろうかと思っています。   また,口頭審理そのものもそうですし,あとは仲裁法にも出てまいります「出頭」という概念をどのように考えるのかというところも,やはり検討しなければいけない事柄ではないかと,現時点では思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○吉野委員 既に企業間の仲裁あるいは国際的な仲裁を進めていくという立場から,UNCITRALにのっとった改正という方向づけについて御意見がたくさん出たわけですが,そうすると,企業性あるいは商事性に係るものに限って議論すればいいのかというと,恐らくそうではないのだろうと思います。仲裁法は広くいろいろな事件を対象としていますし,国内仲裁も含まれています。   私どもの民間総合調停センターが扱っている事件の中に,国内の事件ですけれども,例えば,境界確定事件があります。そうすると,その種の事件にも当てはまるような改正という視点を忘れてはならないのだろうと思います。無論,UNCITRALの考え方を基本的に導入していくということに反対するものではありませんが,そういう全体を見据えた議論というものも必要なのだろうという気がしています。   それから,調停合意についての執行力付与ですが,これは私どもの方でも設立当初から,法務省に対して希望を出しているところですので,今回も改めて希望を申し上げるところですが,個人的には,検討を要する点もあるだろうと思っています。   裁判手続の関係では,ここに挙げられているだけではなく,もっと広く,取り上げていく必要があるのではないかという意見は,そのとおりであろうと思います。ただ,先ほど送達に関して意見が出ましたけれども,恐らく日本の裁判所は今の送達手続をもっと簡易にしろということはなかなか採用しにくいだろうと思います。   無論,企業間の紛争において現在の重い手続が国際的に合っているのかと言われると,そうかもしれません。私の経験したところによりますと,例えば東ヨーロッパのある国に対する送達で半年かかった例があります。それから,何十年も前の話ですが,イラン・イラク戦争当時又は直後のイランに対する送達は2年かかると言われたことがあります。そのようなことが現在の情勢に合わないということは分かりますし,そういう例外的な場合は別の問題だと言われればそのとおりだと思いますが,現実に送達手続を簡単に改めることはできないだろうと思います。   ただ,企業間の紛争ですと,恐らくメールのやり取りで済んでしまうでしょうから現在に合った規定を仲裁に関する手続の中に入れていくということは可能かもしれません。恐らくそれは裁判手続とは別の配慮なのだろう,別の考え方に基づいて定めればいいのだろうという気がします。   まだ考えがまとまっておりませんけれども,意見を述べさせていただきました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○春田委員 連合の春田です。   私は,法律の専門家ではないのですが,皆さんの意見を聞いて,資料も読ませていただきました。一つ言えるのは,我が国の仲裁法は,やはり国際水準から見て遅れている,というのは感じているところです。したがって,UNCITRALに準拠していく,国際水準に見合った法整備を備えていくということは重要と思っています。   また,我が国の国際仲裁活性化を皆さん述べていますが,国際水準に見合った法整備をするということだけで,本当に我が国の国際仲裁が活性化していくのでしょうか,やはり我が国における国際仲裁の優位性というのが,どこにあるのかがポイントになってくると思っています。   そういう意味では,それが仲裁規律,規則ということだけなのか,先ほど「総合的に」と述べていた方がおりましたが,やはり日本の法令遵守,文化,それから当然人材面もありますし,様々に総合的な観点から,日本で国際仲裁をする優位性を見い出していかないといけないのではないでしょうか。活性化につなげていくというのは,国際水準に見合った法整備だけではないとは思っています。   そういうところを含めて,この場で,どこまで議論するのか,というのはあるかと思いますし,考えていかないといけないと思っているところです。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○北澤委員 北澤でございます。   今,いろいろな委員の先生方のお話を伺っておりまして,日本での仲裁の活性化のためには外国から日本の法制度がどのように見えているかという分かりやすさも大切であることが分かりました。日本が果たして紛争解決の場としてふさわしいかということを考えたときに,仲裁に関しては最新のモデル法に準拠しているということ,こういうことが少なくとも法整備の基盤があるという意味では非常に重要だということを認識した一方で,それだけでは日本での仲裁の活性化にはならない,すなわち,第3の論点のところで扱われているような,まだほかにも議論すべき点があるということは,お話を伺っていていろいろと理解いたしました。先ほど三木委員のお話にありましたように,外国からの見え方ということからすると,モデル法の個々の規定に忠実な規定を設けるということは,これは先ほど道垣内委員がおっしゃったようなスタートラインといいますか,最低限の法整備の基盤としては大変意味のあることなのではないかと考えております。   この審議会に先立って研究会の報告書にも一通り目を通させていただきました。この研究会の報告書で非常に網羅的に取り上げられている論点が,今回の審議会の検討事項としてこの1-1の資料に載っており,こういったことを今後の検討事項とすることに,私自身は賛成しております。   一方で,三木委員のお話にありましたように,モデル法の個々の規定に忠実に規定を設けるといったときに,暫定保全措置についてのみ切り分けて規定を設けるということで本当にいいのだろうかとも思いました。今回の議論を聞いていて仲裁合意の書面性の要件であるとか,ほかにも重要な論点となりそうなものがあることを認識しましたので,そういったことも検討対象として考えられると思っております。   このモデル法の規律に沿ってという言葉が,1-1の資料によく出てくるのですが,どんな規律を採用し,どんな規律を採用しないかは,やはりとても重要だと思います。そういった際に,第1の4の予備保全命令についてはモデル法の一部改正のときにも大変議論があったということも先ほどお話にございましたし,また第1の8の暫定保全措置の承認というような論点につきましても,これはモデル法の第17条H条でしたでしょうか。承認と執行について定められている規定で,研究会の報告書では,承認のところは規定を設けずに,依然として解釈に委ねるという整理だったかと思います。今回の第1の8のところでは,最後の3行のところにそういった記述があります。   モデル法の規定を見たときに,承認と執行という両方の言葉が出ておりますので,仮に承認だけ外すとなると,それなりの理由とか根拠付けというのが恐らくこの審議会でも必要になってくるかと思います。これは,これそのものを論点として取り上げるのか,実際には暫定保全措置について執行力を付与するモデル法の第17条H条に照らしたような具体的な規定の文言を検討する際に,そういったことについても詰めていくのでしょうか。モデル法には書かれているけれども,あえて規定としては設けないという,そういう方向性での議論をしなければならない場面もあるかと思いますので,そういったところも論点として詰めていってほしいと考えております。   それから,第3の1のところですが,仲裁手続に関して裁判所が行う手続管轄の見直しで,東京地裁,大阪地裁に競合管轄を認めるなどの見直しをすることとしてはどうかということがありました。競合管轄だったらどちらを選ぶのだろうという問題も出てきますので,ここで高度に専門的な事件処理体制をもし構築するということでしたら,専属管轄といった議論もこれから尽くしていっていただければ有り難いということを現時点では考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○有田委員 有田です。   皆さんの御意見,それから三木委員の御説明の中で,そもそも2006年に改正されたモデル法が日本の仲裁法に反映されていないという事を伺い不思議に思いました。正に,出井委員がおっしゃった,モデル法に不具合がある場合は除いてという御発言の不具合部分を明らかにして,モデル法に合わせて行くべきだと思います。先ほど暫定保全措置に関していろいろ御意見も出ていました。三木委員から,このことに関しては慎重であるべきという御発言もありました。御説明で十分分かったつもりですが,もう少し明らかにして比較をしていただきたい。今,日本の仲裁法にモデル法が反映されていないわけですから,モデル法に合わせられない部分,合わせた場合の不具合などを出していただきたい。御意見の中では,ほとんどの方はそれに合わせるべきだとおっしゃっていたと思いました。それからもう一つは,出井委員が執行力と,国際商事に合わせて弊害があるとしたらどうしたらいいかということも考えるべきだというふうに御発言があったと思います。そこももう少し事務方の方で情報を出していただけないかと思いました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小川委員 東京地裁の小川でございます。   資料を拝見しますと,暫定的保全措置,国際的調停の調停条項,いずれについても裁判所が執行力を付与していいかを最終的に判断することになるのかと思います。暫定的保全措置についてはある程度要件が絞られていますが,他方で,特に国際調停については,裁判所は,濫用的なものであることをうかがわせる何らかの端緒がないと,執行力を付与すべきではないとの判断をすることは難しいと思われますが,濫用的なものも含めて,全部執行力を付与してしまうと,制度に対する信用が低下することになってしまうと思います。その点を含めて議論していただければ有り難いと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 1点追加ですけれども,第3の3の他に検討すべき事項はあるかという点に関連して,仲裁人あるいは調停人の資格と弁護士法72条との関係については,できれば整理した方がいいのではないかと思います。弁護士法72条は非弁活動の禁止を規定しているのですけれども,条文をそのまま読むと,弁護士以外の方が日本国内で仲裁人を務めたり,調停人を務めると,非弁活動になって刑罰の対象になるように読めるのです。一般的な整理としては,その場合は弁護士法72条の構成要件には該当するけれども,刑法35条の正当業務行為として違法性を阻却するという説明がされています。しかし,それを明言した最高裁判例もないものですから,どこまでその説明が妥当するのかというのははっきりしないところがあります。今回その点について,立法するかどうかも含めて,これは多分事務局へのお願いということになるかと思いますけれども,考慮いただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 話題が出ましたので,今の点につきまして,国連のUNCITRALにおける議論あるいは各国の認識について御説明をしておきたいと思います。   日本の弁護士法が非弁護士に仲裁人資格を認めていない明文規定を置いているというのは,世界的に悪名が高い状況です。つまり,世界的に知られていないわけではないということです。私がUNCITRALの日本政府代表を務めた10年間で,二度ほどUNCITRALの場で,日本が批判を受けたことがあります。   そのときのUNCITRAL事務局の説明では,国連加盟国が200か国近くありますが,事務局が調べた限りでは,非弁護士が仲裁人を務めると非弁活動になって処罰のおそれもあるというような国は世界で3か国しかないということでした。そのうちの1か国が日本です。   その後,3か国のうちの1国は,そうした規定を改めているということです。従って,事務局の説明が正とすれば,現在こういう規定を持っているのは,日本ともう1か国だけであり,その1か国がもし既に改めていれば,世界で日本だけということになります。このことが,外国人が日本で仲裁人になることを,どの程度妨げているのかは知りませんけれども,少なくとも世界的には批判の対象となっております。従って,この機会に検討の余地があるのであれば,是非していただきたいというのが希望です。   弁護士の古田委員からそういう発言が出たのは,私としては大変心強いところです。当時,日弁連の方々に聞くと,この規定は死守するということを言われていた時代からすると,多少なりとも変化の余地があるのかなと感じております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○渡邉幹事 最高裁民事局の渡邉でございます。   先ほどからその他でほかに検討すべき事項がないのかというお話がございましたので,て,勇気を出して1点御提案させていただきたいと思います。仲裁手続に関しまして,この第3の1のところで書かれているとおり,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所にも競合管轄を認めるという点は検討事項の例として挙げられておりますが,これに関連いたしまして,民事調停法に基づく調停事件の管轄についても御検討いただきたいと考えてございます。   具体的に申し上げますと,本部会に先立つ研究会の報告書の177ページにも記載がございますが,国際仲裁に関しては和解の契機を確保することを目的として仲裁と調停を組み合わせる手法が活用されているとお聞きしているところですが,調停手続に関しましては,東京,大阪の両地方裁判所には専門的知見を有する調停委員が確保されており,両裁判所の調停手続においては専門家調停委員から意見書を提出してもらうなどして,専門的知見の獲得が可能となってございます。   そこで,これは必ずしも仲裁に絡むことには限られるものではございませんが,専門的知見が必要となる調停事件についても,東京,大阪の両地方裁判所においても事件処理が可能となるといったような方策について,この機会に是非御検討いただきたいと考えております。よろしくお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。 ○高杉委員 高杉でございます。   もう既に先生方から全て意見が出ておりますけれども,私の方からも同じようなことで申し訳ございませんが,日本における仲裁等の活性化という観点から,外国から見て日本の法制度の信頼確保ということを考えると,日本として特別の不都合がない限り,やはり世界標準に即した方向で検討すべきだろうということを考えております。   そうすると,今度は吉野委員が御指摘されたとおり,国内はどうなんだと,こういうふうな問題が出てくるかも分かりません。外国・国際と国内とでは事情が違うとか,あるいは世界標準のものには妥当していないようなものも国内ではあるかも分かりませんが,他方で,オンライン等の調停あるいは仲裁等がございますので,そこら辺についてどういうふうに考えるかというのも極めて重要になってくるのかなと考えた次第でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかが。 ○山田委員 ありがとうございます。山田でございます。   先ほど,裁判所の方からも少し御指摘がありましたので,調停に関する第2の2とか3に関連することについて,一言補充をさせていただければと思います。   シンガポールの調停条約においては,調停人の資格や手続への関与について,直接に規定したものではないというのは,この部会資料がおっしゃるとおりであります。ただ,仲裁手続においても,仲裁判断の拒絶事由の中に手続的な理由というものが,46条が準用する45条2項,4号,6号等にあるわけですけれども,もちろん調停においては合意による手続ですので,同列には議論できませんけれども,しかし,どのような手続が想定されているのかということが一定明らかになっているということが,当事者にとっても手続の透明性及びそれに基づく積極的な手続関与という点で重要だという認識はあったところでございます。   それを反映させる形でシンガポール条約の5条の(e),(f)辺りは,拒絶事由の中で適用されるであろう調停規範ということに言及をしております。法制場面でどのように考えるのか。直接仲裁法のように書き込むのか,それとも当事者の合意や機関規則に授権のような形で規定をしていくのか,様々な規定の方法というのはあると思います。議論の仕方もいろいろあると思いますけれども,これまでほぼ白紙であったこの手続,調停の手続の在り方ということについても,政策論あるいは規範論として議論の場がありますと,大変有り難いなというふうに考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○三木委員 やや各論的な話ですが,出井委員が御指摘になった点についての私の認識を少し申し上げたいと思います。   出井委員から,昨今オンラインによる審問が進んでおり,現行の日本の仲裁法の文言からすると疑義の余地がある,あるいは当時の立法担当官が書いた解説には,オンラインによる審問を想定していない記述があるという御指摘がありました。そのこと自体は,そのとおりだと思います。   従って,もちろん,オンラインによる審問に対応ができるようにする必要があるのですけれども,日本法が独自の規定を設けることによって,何らかの意味でモデル法から離れたと見られるような事態に陥ることだけは,避けなければならないと思います。つまり,モデル法採用国である以上,モデル法そのものとの関連性は常に意識していかなければいけないということになります。   また,そもそもオンラインで審問ができるかどうかという問題は,仲裁法の立て付けからいうと,仲裁法を改正して対処すべき問題ではなく,各仲裁機関の仲裁規則によって対応すべき問題ではないかと思います。モデル法は手続について,そのほとんどが任意規定となっており,当事者の合意が法に優先するというのが仲裁法の仕組みです。当事者の合意というのは,現実の実務では当事者が選択した仲裁機関の仲裁規則によって自動的に合意されるということになっているわけです。   したがって,仲裁法の改正でそこの手当てをするという発想には慎重な態度が必要であると思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,大変活発なフリーディスカッションを頂けたかと思います。特に第3の3の点につきましては,更に追加的に検討すべき事項を具体的に幾つか御提案を頂きましたので,今後,これをどのような形で本部会で取り上げていくか,事務当局において更に御検討を頂ければと思います。   それでは,ここで若干の休憩を取りたいと思います。   若干時間が押しておりますので,恐縮ですけれども,45分まで,10分強ということになって恐縮ですが,45分に再開したいと思います。それまで休憩します。           (休     憩) ○山本部会長 それでは,議事を再開したいと思います。   先ほど委員,幹事,自己紹介を頂きましたが,その後,小出委員,門田委員,吉岡幹事が御参集されましたので,自己紹介をお願いしたいと思います。   (委員等の自己紹介につき省略) ○山本部会長 ありがとうございます。   それでは,引き続きまして,総論的な論点である執行力の付与につきまして,部会資料1-2に基づいて,一読目の検討をしたいと思います。   まずは一つ目の論点として,「第1 暫定保全措置に対する執行力の付与」の部分につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○福田幹事 それでは,福田から説明をさせていただきます。   部会資料1-2は,「暫定保全措置に対する執行力の付与」と「調停による和解合意に対する執行力の付与」の二つの項目について取り上げたものでございますが,いずれの論点につきましても,本日の部会について執行力を付与する,又は付与しないといった結論まで出していただきたいという趣旨ではございません。暫定保全措置,調停による和解合意のいずれについても,第2回部会以降において各論を議論していただく予定にしておりますので,本日の部会におきましては,第2回以降に向けた検討の方向性について御議論を頂ければと考えております。   では,まず,部会資料1-1の説明と重複する部分もございますが,「暫定保全措置に対する執行力の付与」について説明をさせていただきます。   国際仲裁の活性化を進めるに当たっては,先ほどから出ておりますように,最新の国際水準に見合った法整備を行う必要があるとの指摘が多数されていることを踏まえますと,暫定保全措置に対する執行力の付与については,当事者の利便性や,その実効性を確保するという観点からも,基本的には,UNCITRALモデル法の一部改正に対応した規律を設ける方向で検討することとしてはどうかという提案をしております。   ただし,説明の1及び5に記載しましたように,平成15年の仲裁法制定時には暫定保全措置に執行力を認めるかどうかについて議論がされたものの,検討すべき課題が残されているとして,これが見送られたという経緯がございますので,これらの課題にどのように対応していくかといった点の検討は不可欠であると考えております。   また,暫定保全措置に執行力を認めることについては,その必要性のみならず許容性についても議論をしていただきたいと考え,説明の3で取り上げております。ここでは仲裁合意という当事者の意思の合致を手掛かりとして,紛争解決の在り方に関する私的自治の保障という観点からの検討を試みております。その上で,説明の4において,暫定保全措置に執行力を付与することができる根拠を,今,説明したような当事者の合意に求めることができるとの考え方を前提に,我が国において暫定保全措置の強制執行を許すべきではない事由の有無については,裁判所による審査に委ねることが相当ではないかとの方向性を提案しております。   以上の点につきまして,活発な御議論をお願いしたいと考えております。私からの説明は以上でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   そのようなことですので,次回以降,多分次回にはより詳細な要件等,この2ページの4の辺りの点については具体的な提案が恐らく資料として出されると思いますので,本日のところはどちらかといえば総論的な点ですね,2の必要性とか3の許容性とか,この辺りについて御意見を頂戴できればと思っております。   どなたからでも結構ですので,お願いいたします。 ○古田委員 仲裁事件において,仲裁廷が暫定保全措置を発したときに,当事者が任意に従うことが多いのはそのとおりです。しかし,先ほど前半でも話が出ましたけれども,UNCITRALモデル法の2006年改正で暫定保全措置の執行に関する規定が入り,日本の仲裁法もモデル法の最新版に即したものであるということが日本における仲裁の振興という観点からも重要だということになりますと,それに沿った規定を置くということが基本的な方針になるのかなと思っております。   ですから,部会資料1-2の第1についても,基本的にはモデル法に従った規律をしていくことになるのかなと思います。具体的な執行拒否事由についてはモデル法上の執行拒否事由を参考に規定することになっていきますし,我が国の裁判所での手続としては,現行法上,仲裁判断の執行について裁判所の執行決定という手続がございますので,それと同じような手続を用意するのが合理的なのであろうと思います。   以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○手塚委員 手塚です。   今までの実務で,仲裁廷の暫定保全措置というものを求めた事例,あるいは考えた事例というのが幾つかあります。   それで,一つは継続的供給契約があって,こちらが供給を受ける側,その事件は薬ですけれども,これについて契約を解除されてしまったということで,その件においては,その薬の継続供給を受けないと,病院等で継続的に利用している患者の方が困ってしまうというような緊急の必要性もあったわけですけれども,そのときには結局二つの要素,一つは仲裁廷が構成されるまでは,仲裁廷による暫定措置というのはもらえないということで,裁判所の方に仮処分の申立てをして止めてもらったということがありました。それで,タイミング的に仲裁廷の構成に時間が掛かるので,それを待っていられなかったということに加えて,仲裁廷が構成された後も裁判所の保全処分に代えて仲裁廷に暫定保全措置を出してもらうということも考えたんですけれども,それについてはやはり執行力がないので,仲裁廷の保全措置に切り替えても,それに対して違反されたときにどうなるのかという問題があったので,そのときは裁判所の保全処分だけとるということになりました。   ただ,裁判所の保全処分をとるに当たっては,これは国際裁判管轄の立法のところで問題になった保全管轄の議論に絡むんですけれども,スイスでの仲裁条項が入っていたので,本案裁判所の管轄がないではないですかという論点があり,その件では係争物所在地管轄というのでしょうか,そういう継続的供給契約という法律関係があるのが日本だからというようなことで,地裁,高裁とも管轄は認められたんですけれども,そこについては恐らく最高裁の確定判例とかがないと思いますので,事件によってはそれが争われてしまう可能性もあるのかなと思いまして,そのときに思ったのは,やはり執行力のある仲裁手続での暫定的保全措置で,特に緊急仲裁人という,今いろいろな仲裁機関で取り入れている仲裁廷が構成されるよりも前の時点で仲裁機関が選任した1人の緊急仲裁人が迅速に出した,そういう保全措置。シンガポールなどではこれについても,仲裁廷ですね,Tribunalの保全措置と同様に執行力を認めておりますので,実務的には緊急仲裁人の出した緊急命令についても保全措置を認めていただければ,今申し上げたような緊急を要する件においては非常にメリットがあると思います。その件では,日本の裁判所の保全処分を出すための保証金が数千万円になりまして,これは相当な額だったんですけれども,私が今まで見聞きしている,そういう緊急仲裁人の保全命令というのはそれほど高い保証金を要求しないので,そういう意味では利用価値は高いと思います。   あと,もう一つだけ申し上げますと,日本での仲裁で,アジアの発展途上国の企業が相手の件で,これはどうやら日本の仲裁条項はあるんだけれども,相手方は別件等でのいろいろな対応から見て,いろいろな理由で相手国での裁判所で,その取引の相手方を,仲裁条項があってもとにかく自国の裁判所で訴えるということを非常にやりそうな件でしたので,それについて,仲裁廷の構成を待って直ちに,いわゆるアンタイ・スーツ・インジャンクション,仲裁合意に反した訴訟手続を起こしたり,あるいはそれを進めてはならないという仲裁廷としての暫定的保全処分,これを申し立てました。その時点のJCAAの仲裁規則では,暫定保全措置の類型として本案の権利の保全に必要なものだけではなくて,そういう仲裁手続のインテグリティーといいますか,仲裁手続の妨害になるようなことを防ぐ,そういうものも申し立てられるという規定が,確か2014年の改正で入っていました。   しかし,日本の今の仲裁法ですね,当時もそうなんですけれども,それは2006年改正前の文言に基づいているので,そういう仲裁手続を妨害するような行為を禁止する保全処分が,仲裁廷が出せるという明文規定が法律の方にはないわけですね。それは法律にないからできないのだというのが相手の主張でしたが,その件の仲裁廷は,それはそうだけれども,できなかったわけではなくて2006年モデル法改正で明文化しただけで,JCAAの規則にも入っているからそれはいいんだというようなことで,アンタイ・スーツ・インジャンクションの禁止命令を出してもらいました。なので,二つ論点としてあるんですけれども,是非今回,出せる暫定保全措置の類型として,権利の保全のためだけではなくて仲裁手続の妨害を禁止するということも含まれるということを是非明確化していただきたいということと,その件は確かにそういう形で仲裁廷の命令は出たんですが,やはり執行力がないので,相手方もいろいろ,取り下げるところまではいかず,いろいろと理由を付けて,それでこちらはそういうのが出ているから,裁判所に対して進めるのはやめてくれということは言いましたけれども,相手方が諦めて取り下げたり,停止させたりというところまではいかなかったんですね。それも,もし執行力さえあれば相手方もさすがにそこまで抵抗しなかったのかなと思いますので,そういう意味で,執行力がある保全処分を出せるということは有益だと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○髙畑委員 手塚先生のおっしゃるところと非常にかぶるところではあるんですけれども,やはり実務上は暫定保全措置に執行力を付与することの必要性ということですけれども,必要と言えば必要。,もうちょっと言うと,暫定保全措置自体の管轄というか,準拠法的な,講学上は仲裁合意の準拠法というふうに言われていると思うんですけれども,そこら辺の線引きがクリアでないがために,仮に仲裁廷により暫定保全措置が出されたとしても,当事者は大抵の場合任意に執行しますので大丈夫ですけれども,執行するときに,では,果たしてどこで執行できるんだろうというと悩むことになります。あとは,タイムラインとの関係でSIACのような緊急仲裁人みたいな話がない限り,なかなか暫定保全措置が認められるタイミング,仲裁廷が出した暫定保全措置については,もし仮に執行力を認めるとしても,もうちょっとタイムラインを意識して,もっと手前の段階でも,例えば,一応,緊急仲裁人という制度があったりとかして,それがきちんと仲裁廷だと認められていてという何段階かの時間が経過してしまう手続を,どういうふうに迅速に効果のある暫定保全措置とするかという,そういう課題があるのかなというところは,理論的にも,実務的にも,非常に難しいところかなと思っておりますけれども。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○古田委員 ちょっと質問です。資料3ページに,裁判所における保全処分との関係については,両者の関係に関する規律を設ける必要性の有無について別途検討することとしてはどうかという記載があるのですけれども,具体的にはどういう規律の必要性があり得るということなのか,事務当局の方から御説明いただければと思います。 ○福田幹事 福田からお答えいたします。   まず,仲裁法制定時の議論といたしまして,裁判所に対して保全処分の申立てができることとの関係で,どちらが優先されるのかというようなことが問題になったと認識しております。ですので,裁判所に保全処分を申し立てた場合に,その後,仲裁廷に対して暫定保全措置を申し立てることはできないとの考え方や,それとも,裁判所に行く前に仲裁廷で暫定保全措置を申し立てるべきとの考え方などいろいろな考え方が一応あり得ると理解しております。   事務当局としましては,この点について,必ず何らかの規定を設けるべきだとまでは考えていないところですけれども,暫定保全措置に執行力を付与するのであれば,この点について,残された課題として,やはり検討しておくべきではないかと考え,このような形で書かせていただいて次第です。 ○古田委員 今の点,私の意見を述べてよろしいですか。 ○山本部会長 どうぞ。 ○古田委員 訴訟の場合には,二重起訴の禁止という原則があるのですけれども,仮処分の場合には一般的にそういう規律があるとは承知しておりません。したがって,今,事務局がおっしゃられた点,仲裁廷に暫定保全措置を申し立て,同時に裁判所に仮処分の申立てをするという点についても,これを特に禁止する必要はないのではないかと個人的には思っております。仲裁廷が先に暫定保全措置を出した場合には,それは日本の裁判所に対する民事保全申立てとの関係では,保全の必要性の判断の中で考慮されることになり,それで足りるのではないかと思います。ですので,法律上の規律として,どちらかを先にやれとか,どちらかをやったら片方はもうできないとか,そういうことまでを法律で規律する必要ないと個人的には思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか。 ○垣内幹事 すみません,資料の1ページのところの冒頭の説明で御説明いただいている従前の議論状況ということで,いろいろな内容の保全措置が考えられるところ,我が国の強制執行制度の枠組みに適合しないものをどのように取り扱うべきかといったような点も,過去,指摘されていたという御説明があるんですけれども,今回これから議論をしていくに当たって,先ほど実際に裁判所で仲裁廷の命令について執行力が認められないために裁判所に申立てをせざるを得なかったというような例の御紹介もあったかと思われますけれども,現在,普通に給付を命ずるような命令であって,普通に裁判所に行けば執行できるというものについて執行力を認めるというお話と,ここで指摘されているような,我が国の強制執行制度の枠組みに必ずしも適合しないようなものがあるのかどうかと。それで,あるけれども,それについてもニーズがあるので,何か整理をする必要があるのか,先ほどのアンタイ・スーツ・インジャンクションみたいなものをどう考えるかというような問題があるのかもしれませんけれども,その辺りについては,今後,更に必要があれば検討していくというような理解でよろしいのでしょうか。その点ちょっと御確認のための質問ということです。 ○福田幹事 では,福田からお答えいたします。   今,垣内幹事から御指摘のあった点につきましては,第2回以降で各論として議論をしていきたいと考えております。 ○垣内幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○山本部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか。 ○出井委員 次回以降の各論の議論になるのかと思いますが,今,垣内幹事がおっしゃったこととの関係では,日本の裁判所の保全処分と,今回検討しようとしているUNCITRAL2006年改正に基づく暫定保全措置,さらにはその執行力ですかね,そこで若干はみ出す部分があるのが,先ほど手塚委員から御指摘のアンタイ・スーツ・インジャンクション的なもの,先ほど三木委員の説明の資料でいくと5ページの17条の2項の(b)の「仲裁手続に対する妨害」,ここのところですかね。これが日本の裁判所の保全処分とは若干違っているかもしれないところです。それからもう一つが,(d)の「紛争の解決に関連し,かつ重要である可能性のある証拠を保存する措置」と。これは民事訴訟法上は証拠保全のところで同じような機能を果たすものはあるわけですが,民事保全法に基づく保全処分とはなっていないので,この二つが若干違うところではありますが,私はこれらも含めて,UNCITRALの2006年改正に準拠した形で日本法に無理のない形ができるのであれば,法制化していただきたいと思っております。   それから,これも手塚委員からお話のあった緊急仲裁人ですか,仲裁廷構成前の処分,措置についてどうするのか。これはUNCITRALのモデル法上,どういう位置付けなのかというのは,ちょっと次回きちんと検討をしなければいけないと思いますが,ここについていろいろな考慮要素があると思いますので,そもそも法制化するかどうかというところも含めて検討しなければいけないと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   次回以降,詳細に御議論いただくことになろうかと思います。   ほかにはいかがですか。   よろしいでしょうか。   この第1の部分については,先ほどの前半のフリーディスカッションでもかなり御議論を頂いたところかと思いますので,よろしければこの程度にして,引き続き「第2 調停による和解合意に対する執行力の付与」の部分について,これもまず事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○福田幹事 それでは,続きまして,福田の方から説明をさせていただきます。   部会資料1-2の「第2 調停による和解合意に対する執行力の付与」につきましては,この資料にも書かせていただきましたとおり,積極的な意見のみならず,消極的な意見も有力であると考えております。したがいまして,事務当局といたしましては,慎重な検討が必要であると考えております。   部会資料の構成としましては,第1の「暫定保全措置に対する執行力の付与」と同様に,従前の議論の状況,必要性,許容性,強制執行を許すための手続という順に記載しております。これらについての詳細は,繰り返しになりますが第2回以降で提示をさせていただきたいと思いますけれども,第1の暫定保全措置の部分と対比しながら御議論を進めていただければ分かりやすいのではないかと考えております。   なお,ここでポイントとなりますのは,調停による和解合意というものと,先ほどの仲裁合意というものとの比較という点にあるかと思います。つまり,調停手続を経て成立した和解合意というもの,この当事者の合意にどういった意味を持たせることができるのかといった視点,この点は重要ではないかと考えております。   説明の5としましては,今後の検討の方向性を提案しております。先ほど申し上げたように,この論点については積極的な意見,消極的な意見,様々あるかと思います。調停による和解合意に対して執行力を付与するのであれば,その必要性及び許容性というものが認められることがもちろん大前提でございます。これらが認められるということを前提としつつ,やはり消極的な意見として懸念される弊害をできる限り排除するためには,一体どのような制度を構想すればよいのかという観点から,第2回以降の個別の論点の検討を進めてはどうかというのが事務当局からの提案でございます。   以上の点につきまして,活発な御議論をお願いしたいと考えております。私からの説明は以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは,この第2の点につきまして,どなたからでも結構ですので御意見を頂ければと思います。 ○三木委員 ただいまの事務局の御説明で,調停における和解合意の執行力については,仲裁の暫定的保全措置に対する執行力の付与と対比しながら議論を進めていってはどうかという御説明があったと理解していますが,そういう御説明の理解としてよろしいでしょうか。   そのことについてですが,対比しながらということのもちろん意味にもよるのですけれども,私は二つの理由によって,単純な意味での対比しながらの議論というのはそもそも適切ではないというふうに考えています。   一つは,仲裁合意というのは,仲裁によって紛争を解決しましょうという合意で,調停の場合は,それに対応するものとして調停で紛争を解決しましょうという合意があるわけですが,そこは対応関係にある意味ではあるのですけれども,調停の方はもう一つ,審理が終わって紛争解決についての合意というのがあるわけで,つまり調停における合意というのは二つの合意があります。そのことから,単純な対比は許されないというのが1点であります。   それからもう1点は,これは次回以降で正面から議論になると思いますが,今回の調停による和解合意に執行力を付与するということとの関係で,シンガポール条約に将来日本が加入した場合の国内執行法的なものとして国際性と商事性の要件を課すのか,課さないのかという議論が出てくるわけです。その議論を先にしないと,執行力の付与についての正当性であるとか,強制執行を許すための手続をどうするかとかといった議論は,そもそもできないのではないかと思います。   わが国の調停には,各種各様のバリエーションがあり,非常にバラエティーに富んでいます。それに対し,国際商事調停は,事実上,均質なものと言えます。この両者では正当性の問題とか強制執行の手続とかは,かなり違った枠組みにならざるを得ないと思われます。従って,シンガポール条約との関係について最初に決着付けておかないと,きちんとした議論はできないというふうに思います。 ○出井委員 ちょっと三木委員がおっしゃったことと重なるのかもしれませんが,福田さんの御説明の中で,二つの執行力を並べてというお話がありましたが,それは今御指摘のあった点ですが,もう一つ,ここはちょっと私が正確に聞き取っていなかったんですが,仲裁合意と調停合意のパラレルに考えるということでしたか。 ○福田幹事 調停による和解合意です。 ○出井委員 仲裁合意と調停の中で成立した和解合意ということですか。それをパラレルに考えるという意味は,調停における和解合意は,調停の出口ですよね,要するに調停で成立した和解。仲裁合意というのは,仲裁手続に乗るかどうかの入口の合意なので,この二つをパラレルに考えるというところの意味がよく分からなかったので,ちょっとそこを御説明いただけますか。 ○福田幹事 福田から改めて御説明いたします。舌足らずで失礼いたしました。   私が申し上げたかったことは,次のとおりでございます。   まず三木委員,それから出井委員御指摘のとおり,仲裁合意というのは基本的には紛争が起こる前に,契約書等で,この件について紛争が生じた場合には裁判ではなく仲裁という形で解決をしましょうという合意であると考えられます。さらに,裁判を除外したという意味のみならず,構成された仲裁廷の判断に従いますと,こういう意味合いがあるかと思います。その意味で,この仲裁合意というものは,紛争解決に関する私的自治の保障といった観点からは十分尊重に値するだけのものであり,ひいては仲裁廷が出す暫定保全措置というものに執行力を与える一つの根拠となり得るもの,こういう形で整理したものが,この部会資料第1-2の第1の部分ということになります。   第2の調停の部分につきましては,これが全く同じものであるとは我々も考えてはございません。一つ,当事者の紛争解決に対する私的自治の保障という文脈で申し上げますと,調停における当事者の合意というものをどこまで尊重することができるのか,執行力を付与するための正当化根拠としてこれで十分というふうにいえるのかというところにおいて,仲裁合意と比較して議論をしていただければいいのかなと考えた次第です。もちろんこの調停による和解合意というものは,紛争が生じた後に,こういう形で決着を付けましょうという最終的な紛争解決の合意であるというところまでしっかりと担保できるのであれば,その後に任意に履行されない場合であっても,執行力を付与しましょうという正当化根拠としては十分働き得るのではないかと思います。   ただし,三木委員や出井委員が御指摘のとおり,調停による和解合意が一体どういう点について合意がされたものか,当事者間のどういう関係性で成立したものかといった点について,国際商事調停とそれ以外のものとを単純に同じ土俵で考えていいのかという問題点があることは承知しております。その意味で,対象の範囲を絞るというような考え方も一つありますでしょうし,執行拒絶事由というところで議論をするということもありますでしょうし,いろいろな制度設計があり得るのではないかと考えているというところを申し上げたいと思います。 ○出井委員 大分分かってきたような気がしますが,あえてパラレルに考えるとすれば,私は,調停における和解合意と,仲裁における出口は仲裁判断なので,その仲裁判断のベースが仲裁合意であるということになると思うので,執行力との関係で言うと,対比すべきは,恐らく調停における和解合意と仲裁における仲裁判断ではないかと思います。ただ,この議論がどれだけ意味のある議論かどうか分からないので,それは今後各論の中で,また議論をしていきたいと思います。   それから,この議論の順序の問題なんですが,三木委員からは,最初に対象事項を確定しないと議論がなかなか進まないのではないかという御指摘がありました。確かに,我々が理解するところの国際商事調停,それがシンガポール条約のサブジェクトマターになっているわけですが,それと国内,あるいは非商事も含めた調停一般と,それは確かにイメージとしてはかなり違っているものではあります。なので,最初からそこを切り分けられれば,そういう議論が効率的なのかもしれませんが,私は,結局そこは一回全て議論した上で,また戻ってくる議論なのではないか,前半に申し上げたように,初めから国際,国内,商事,非商事を分けるのではなく,やはり一度は調停において成立した和解合意に執行力を認めることのニーズ,問題点ということを全般的に議論した上で,やはり国際の方を措置すべきではないか,あるいは商事を措置すべきではないかという切り分けができれば,そういう措置を議論すると,私はそういう議論の仕方でよいのではないかと思います。三木委員がおっしゃったことを否定するわけではなくて,そういう要素ももちろんあるということを踏まえてのお話です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 今,お二方の議論を聞いていて,私なりにちょっと咀嚼していたんですけれども,私の経験上,ADRで企業対企業の和解あっせん事件のときは,訴訟と同じように準備書面をかなり長く書いたり証拠も一杯出して,あっせん人の方も1人でやることもありますけれども,大きな事件だと3人ぐらいで合議体で和解案を考えて,実体的正義に近いようなところで和解案を出すという作業をやっていて,そういうときには時間も結構掛かりますし,1年も掛からないにしても,通常のADRよりは2倍か3倍時間が掛かることもあると,そういうパターンの場合は,せっかくそこまで当事者が一生懸命やって,それが和解までいったのにうまく履行されなくて,最後もう一回訴訟になるとすると非常にエネルギーの無駄ということもあって,そういう場合には何らかの形で条件は付くのでしょうけれども,執行力を認めた方が公平に資するような場面も当然あろうかと思っています。   他方,割合簡単な小さい案件で,余り準備書面も出さなくて,口頭のやり取りでさくさくと決まってしまうような和解事案というのもないわけではなくて,それについて,ただ,そういう場合でもきちんと合意まで達したんだから,きちんと執行させる方が実体的正義だという議論も一方であるとは思いながらも,ただ,それはその当事者が証拠も一杯,両方で出して,それで判断する側も,時間をかけて判断して出した和解合意に対する信頼とは,ちょっとやはりレベルが違う場面もあるのかなという気はしておりまして,そこで三木委員のおっしゃるように,そもそも国際とか企業間での議論を先にした方が議論はしやすいとも思う反面,でも,どうやって議論したらいいのかというのは,出井委員おっしゃるように,鶏と卵的なところも確かにあったりして,ただ,私もどっちがいいのか分からないですけれども,一つ皆さんに御理解いただきたいのは,和解合意といっても,すごくお互い証拠をぶつけ合って決めたものもあれば,そうでもなくて,割合ふわっと話合いで決まってしまったようなものもあって,それに手続的正義とか実体的正義とかどこまで認められるのか,合意したんだからいいじゃないかって,本当に言い切れるのかどうかというところを検討する必要はあるのではないかなとは思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○髙畑委員 今の出井先生のお話ともかぶるんですけれども,正に今,多分,執行力を付与しなければいけないと言われて,必要性があると言われてちょっと思い付いたのが,私の経験から言うと,海外でやはり仲裁機関の附属みたいなところでやっている調停の手続ですね。やはり先ほどほかの委員の方がおっしゃられたように,きちんとしたリーガルプロフェッションの方が何人も来て,結構分厚い書面も一杯出してきます。もうちょっと言うと,技術のエキスパートであるとか,いろいろな専門家が出てきて,本当に1年とか1年半近く掛かって,最終的には調停による和解合意という形式になるわけなんですけれども,それを実際に,例えば日本に持ってくるときには執行力はないわけですよね。なので,そういう不都合というのはすごくあると思うんですよね。何でそこで,仲裁機関での仲裁を選ばずに調停を選んだかというと,お互いある程度資金力のある企業さんで,さすがに合意したら,それを反故にすることはないだろうという勢いでやっていますし,その方が恐らく仲裁をやるよりは時間も費用も軽くて済むというふうな認識がある中で調停手続を選ぶわけなんです。それは正に仲裁廷でやるのと同じぐらいの証人を呼んだりとか,書面の提出をしたりするので,そういったものについて,やはり執行力がないだけというのはちょっとどうかなというところはあります。そうすると,先ほど言った国際,国内,商事,非商事という区分けから言うと,必然的にそういった,国際絡みで商事絡みというものについて執行力を付与していくのが必要性もあるし,許容されるべきだろうという議論になるのかなと思います。ちょっとこの先の議論に任せるというか,私も今まで,国内で民事の調停をやったことがないので何とも言えないんですけれども,冒頭のところでスクリーニングを掛けるというか,定義するのは非常に難しいんですけれども,手続を決めていく中で,要件を決めていく中で,必然的に国際商事に流れていくのかなという感覚は持っています。 ○原田委員 企業としては,調停による和解について執行力が与えられないとなれば,企業間の紛争における解決手段としては,選択肢としてなかなかとりにくくなるのではないかと思います。   ただ,資料の5ページに,当事者間の交渉力の格差等が認められる場合と記載いただいておりますけれども,企業と個人,あるいは企業と企業でも,これらの間に格差があるような状況は確かに想定されるので,事務局の方で具体的にこういったケースがあるのではないか,もしそういう参考事例があるのであれば,御紹介いただければ,次回以降の検討の参考になると思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○福田幹事 福田からお答えいたします。   今の点について,具体的なケースということではございませんけれども,シンガポール条約では,先ほどから出ております商事性というものが要件になっておりまして,個別労働紛争,それから消費者契約に関する事件,それから家事関係の事件が対象から除かれているという規律になっております。このうち,やはり個別労働紛争や消費者関係の事件は,こういった交渉力の格差というものが一定程度認められる事件類型ではないかと考えております。 ○山本部会長 参考資料の1-2の2ページ,1条の2項の(a)と(b)ですね,(a)が消費者関係,(b)が家族法,相続法,雇用法,労働関係ということで,これが除外されているという今の御説明であったかと思います。 ○手塚委員 今日は各論ということではないと思いますので,大きなところで,なぜ特に国際的な事件での調停合意について執行力が必要とされることが多いのかというところについての私なりの考え方を述べさせていただきたいと思っております。   それで,一つは,調停での和解合意によって終局的に紛争が解決したはずではあるんですが,履行確保ができないと第2の紛争が始まってしまうということがあり,仲裁の場合であればニューヨーク条約があるので,いろいろな国で執行が可能だという前提で終局的な解決策に仲裁判断がなっているわけですが,単なる調停における和解合意ということになりますと,もちろん和解契約として一種の,日本法で言うところの既判力的な,つまり錯誤無効だとか,そういうことは実体的には言えないという効果はありますが,それを履行させようと思ったら,新たな裁判なり仲裁手続を起こし,裁判であれば送達をしたりとか,仲裁であれば仲裁人を選び直すという,そういうすごく手間が掛かってしまいますので,仲裁合意がそのまま執行手続に乗っていくということが履行確保の上では極めて便利だからということがあると思います。   他方,国内の場合は,実はそういう需要として,例えば分割払いの和解ですとか,そういう形で,あるいは明渡し,建物の明渡しを内容とする和解のように,履行してくれない場合にすぐ執行のために裁判所の手続ができないと実効性が低いというような状況の場合は,例えば即決和解を使うとか,いろいろな裁判所の援助を求める手続も利用可能だと思うんですが,なかなかそういう日本の裁判所の手を借りて執行力を付与するというような形のことを国際的な事件で外国の当事者が納得するかというと,これは難しいというのがあろうかと思います。   それなら,では,日本の裁判所の調停を選べばいいではないかと,それだったら調停の和解については執行力があるということになるかもしれませんが,これは調停人,この人に頼むということを選べるわけでもありませんし,やはり日本語でやるという言葉の壁もありますので,国際的なものについて当事者の合意したものが執行力が付与されるということの実務的な必要性が,国際事件においては高いことが多いというふうに私は考えております。   他方で国内は,いろいろなタイプの調停事件というのがあると思っておりまして,私が聞いているところでは,強制執行になるというような前提だったら,逆に和解合意に至らないのではないかということを懸念される,そういう向きもあるようでした。例えば近隣紛争とか,強制執行なんて考えていないと。だからこそ,お互いグッドフェイスで合意したという前提だから和解ができるんだみたいな,そういう意見も聞きます。   それから,あと業界団体の関係者がいつも調停人になるような,そういう調停規則があるとして,それを消費者との契約等で定型文書で入れていたという場合に,見掛け上は業界団体の人が業界寄りの調停案を出して,それをのむかどうかは消費者が決めることなのかもしれませんけれども,やはりいろいろな紛争処理への対応能力等で,情報格差等で,そういう場合に消費者に不利な調停案が出され,でも,しようがないからのんでしまうというような弊害もあり得ると思いますので,それについて,消費者は別であると,あるいはシンガポール条約的な,調停人に適用される規範の違反があるから執行しないとか,そういうレベルで対処するということなのかというと,私はちょっと,それはもう国内で問題になるものだと思うんですけれども,私が最初に述べたような国際的な調停事件で典型的に履行確保の必要がある,執行力の付与の必要性が高い事例と全く異なる類型だと思うので,それを一緒くたにして議論するというのはちょっとどうかなという,そういう印象を持っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○道垣内委員 各論にわたることかもしれませんけれども,ただ重要な問題で,「調停による」という言葉を使われているわけですが,この議論の中で「調停における」というふうにおっしゃった方もいらっしゃり,また,シンガポール条約ですとリザルティング・フロム・ミディエーションという,調停の結果としての和解といいますか,そういう言葉遣いをされていて,いろいろ多分お考えになって「による」という言葉を使われたと思うんですけれども,その背景をちょっと教えていただきたいのですが,どういう議論があるのかという。   それはどういうことかというと,要するに,あらかじめもう合意はできていて,執行力をもらうために調停手続を行うということが可能なのか,可能ではないのか,この粗製濫造会社みたいなことは困るということからすれば,それは考えていませんということなのか,しかし,それは実際には判断を非常にしにくいことだと思うんですね。だから,同じようなことは実は仲裁判断においても,和解ができた後で仲裁判断をくださいと言ってくる例もあるわけで,それは構わないだろうというのは,JCAAの規則なんかですといいですということになっているわけですが,議論がなくはないところでございまして,そういうあらかじめできた合意に執行力を与える手段として使うということを排除するため,排除するんだということだとして,そういう適切な言葉遣いというのはどうお考えなのか,ちょっと伺いたいと思います。 ○山本部会長 それではお願いします。 ○福田幹事 今の点につきまして,福田からお答えをいたします。   非常に重要な御指摘を頂いたものと思っております。現時点では,あらかじめ合意ができていて,後にそれを執行するために調停をするというものを除くという文脈で用いているものではございません。つまり,部会資料の第1-1の4ページ,「3 調停の定義」という論点に基本的には関係することになろうかと思いますが,この部分をどのように定義をするのかというところとも関係してくるものと理解をしております。おっしゃるように,濫用のおそれという懸念を払拭するためには,そういったものを排除した形で考えるというのも一つの考え方ではあると思います。この辺りは第2回以降について御議論を頂きたいと,現時点では考えております。   つまり,「調停による」という言葉は,基本的には誰か第三者である調停人に入ってもらい,裁判手続ではなく,その調停手続で成立した合意という意味合いで今回は使わせていただいております。 ○道垣内委員 ちなみに,英語で言うと何て言うんでしょう。 ○山本部会長 ちょっとそれはあれですね,研究していただくことに。   道垣内委員,よろしいですか。 ○道垣内委員 ええ。 ○吉野委員 今,議論が行われたような手続は,私どもでは行っています。仲裁手続の中で合意が成立した場合に,和解手続に移行するわけです。他方で,和解あっせんの手続の中で,仲裁合意が前提となりますけれども,仲裁手続に移り,仲裁判断をすることができると,手続運営規則に定められています。いわば,両方行き来できるという定めでして,現実に利用されています。今問題にされている執行力の付与という観点から,和解あっせん人において仲裁判断が望ましいと考えた場合に,仲裁合意を取り付けた上で和解的仲裁判断をするということも,現実に行われていまして,実は仲裁申立て件数と同じぐらいの件数の和解あっせん事件においてそのような処理が行われています。   したがって,私どもの手続が問題だと言われると,困ったことになりますので,その点は避けていただきたいと思います。この処理は手続運営規則に基づいて行っているものですし,履行に不安があるという場合に,和解あっせん人において当事者の不安を払拭するために仲裁判断を行っているということです。そういう実情があるということを述べさせていただきます。 ○古田委員 今,議論になっている和解合意に執行力を付与することの正当化根拠については,和解をした場合に当事者が実体法上拘束されるということの正当化根拠と,その合意に執行力という手続法上の効力を与えることの正当化根拠は,一応,別に考える必要があるのではないかと思います。   現行法上,当事者間の和解合意に執行力という手続法上の効力を与えている例としては,一つは裁判上の和解があり,もう一つは公正証書のうち執行証書と言われるものがあるわけです。裁判上の和解は,給付義務であれば義務の種類を問わず,かつ当事者が執行を認諾したかどうかにかかわらず執行力があるという制度設計になっているのに対して,公正証書の方は,給付義務のうち金銭その他の代替物の給付に限るという限定があるのと,当事者が執行を認諾する旨を明示した場合に限るということになっています。そうすると,日本の現行法においては,実体法上の拘束力は民法に基づいて等しく発生するわけですけれども,執行力については,裁判上の和解であれば当然に発生するけれども,執行証書については実体法上の和解合意に加えて,執行を受け入れるという当事者の意思というのを要求していることになります。そうすると,資料4ページの3で書いていただいているところも,当事者間の和解に実体的正当性が認められるから直ちに執行力を付与して良いということには多分ならなくて,裁判上の和解の場合には,当事者が裁判上の和解をすれば和解調書に基づいて執行されることを当然予見すべきなので執行力の付与が正当化されるということになるのでしょうし,執行証書の場合には,実体法上の和解合意に加えて執行を受け入れるというところまで意思表示したのだから執行力の付与が正当化されるというところまで言わないと,正当化根拠の説明にならないと思います。   そのように考えていくと,調停によるリザルティング・フロム・ミディエーションの和解合意についても,仮にこれに執行力を与えるのであれば,当事者が執行を受け入れることを明示的に表示したのだから執行力の付与が正当化されるという整理と,あるいは調停による和解合意についても当然執行力が発生することを前提として和解したんだから,執行力を付与も正当化されるという整理と,両方の方法があると思うのです。この正当化根拠については,調停事件が国際的なものであるのか,国内的なものであるのかによって,理論的には違いは多分ないと思うのです。  けれども,今議論しているのは,これからどういう制度を導入しようかという立法論を議論しているわけです。立法論に当たっては,一方では立法の必要性,メリットを検討し,他方では,そういう立法をしたときに予想される弊害とか懸念事項を検討して,そのバランスの中で決めていくことになります。この観点からは,今まで議論にも出てきましたけれども,やはり国際調停の局面と国内調停の局面とでは,実際上の必要性ですとか懸念のおそれというのはかなり違うのではないかなと思います。例えば,現行法上も,和解に執行力を付与したければ執行証書にすればいいではないかとか,即決和解にすればいいではないかという話がありますけれども,これは手塚委員がおっしゃったように,国内調停だと割と現実的な選択肢なのですが,国際調停の場合には,それまで英語で交渉してきたけれども,和解合意に執行力を付与するためには,日本の弁護士を選任して,日本の裁判所で日本語で即決和解しなければならないというのは,相当違和感のある手続ということになります。ですから,必要性の観点で国際と国内はかなり違うと思います。あとは弊害のおそれとして,資料の3ページでも御指摘がありますけれども,債務名義を粗製濫造するような会社が出てくるのではないかとか,執行力の存在によって利用者が萎縮するのではないかということが指摘されています。これも国内調停ではある程度そういうことはあり得るのかもしれませんけれども,国際的なビジネス紛争の調停でそういう懸念は余り当たらないと思っています。そうすると,理論的な区別というよりは,実際上の必要性,それから弊害のおそれという観点で,国際と国内を区別するというのは一応あり得る方策なのかなと思います。 ○増見委員 すみません,増見でございます。   今,手続面ですとか濫用の懸念というような様々な議論があったのですが,まず,企業の立場から申し上げますと,仲裁の場合であっても調停であっても,ADRというのは裁判手続を経るよりも,より迅速に早く当事者が救済され得る,当事者の早期解決を実現するための手段であって,その執行力というのも当然その一部なのではないかと考えておりまして,執行力が伴わない紛争解決というのは余り意味がないことになってしまいますので,企業の立場から申しますと,もちろん自分が執行される側になる場合もあり得るわけですけれども,ただ,やはり当事者は,また追加の申立てですとか,追加の裁判手続等なしに,早期に救済され得るという意味では,企業のみならず,多くの方たちにとってメリットもあるものになり得るのではないかと思いまして,仲裁,調停,両方に簡便な執行力を付与する方向性というのは是非とも進めていただきたい方向かと考えております。   それから,もう1点ちょっと追加をさせていただきますと,先ほど河井委員の方からもお話ありましたけれども,調停に関して執行力を持たせることについて,仲裁よりも,その必要性や納得性が低いのではないかというようなとか,範囲を限定するべきではないかというお話がありましたが,企業の立場から申し上げますと,たくさんの選択肢がある中で,裁判でやってもいいし,仲裁でやってもいいという中で,わざわざ調停を選択したということは,当事者間でフレキシブルなディスカッションをして早期に解決したいと,本当に最終合意をしたいという意思に基づいて調停を行い,かつ調停に納得がいかなければオプトアウトをいつでもできる,いつでも離脱できるものでもあるにもかかわらず,任意で合意をして,合意に至ったというところまでいったにもかかわらず,その内容が履行されないというのは,仲裁判断が履行されないよりも更に納得性が低いというか,よりこれは強く執行の手段を認めてほしいというニーズがあり得るのではないかと思っておりまして,それは和解というものに合意するためには,会社の中では当然その上部までオーソライズが必要であり,会社として責任のある決断をして契約を結んだわけですので,これは早期に執行されてしかるべきなのではないかというふうに企業としては考えるというところも加味していただいてもいいのではないかと思います。これは一般の方が参加される調停においても,いつでも本当に離脱できて,全く受け入れる必要がないという,かなりフレキシブルな性質のものだということが正しく理解されていれば,同様に執行を求める方もいらっしゃるのではないかと思いますので,そういう意見でございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 よろしいでしょうか,垣内です。   この問題,大変悩ましいというか,難しい問題だなと思って,私自身はどういう解決が一番いいのかということについて,なお考えているということなんですけれども,理論的な観点から申しますと,先ほど福田幹事の方から御説明がありましたように,一つには,仲裁の場合には仲裁判断に執行力が認められるということとの関係で,調停の場合どうかという観点からの検討というのは,当然一つの観点としてあるかなと思っています。ただ,三木委員からも御指摘がありましたように,仲裁の場合とかなり違うところもあるということですし,私としては,もう一つ別の観点としまして,これは先ほどの古田委員の御発言とも重なるところがありますけれども,同じく当事者が最終的に合意に至ったという場合,紛争について解決合意に至ったという場合でも,調停による場合と,相対交渉で合意に至る場合とがあるということなわけですけれども,差し当たりシンガポール条約は調停から生じた合意というものを対象にしていて,相対交渉だけで最初から最後までということは対象にはしていないということだと思いますし,ここでの議論も基本的には調停を前提としたものを考えているということかと思われますけれども,理論的に,その両者の違いというのはどこに求められるのかという観点から見ましたときに,今日配布されている資料1-2の4ページの3のところで書かれている正当化根拠というのは,これは一応,調停人の関与の下で合意をしたということは含まれているということではあるのですけれども,なぜその場合に限って執行力が認められる,執行力が正当化されるのかという点についてはいろいろ考え方が理論的にはあり得るところなのかなというように思います。   その際,一つの観点としましては,調停の場合にはまず中立的な第三者が関与して,その関与の下で合意をしているというところに着目するということで,更に言えば,そうした中立的な第三者の関与を基礎付けるような調停手続の利用合意というものが第1段階としてあるというところに,何か理論的な区別の根拠を求めていくというような検討の方向が一つあるのかなというように思います。その場合には,シンガポール条約そのものは,第三者の資格とか能力等について特段の限定を付していないということで,要するに,第三者が関与して調停がされたということであればよいという形で,非常に広く考えているということですけれども,当該合意に執行力を認めるかどうかが問題となる分野とか局面,その周辺の環境によっては,もう少し第三者の関与に実質的な,より質的に保証がされたものが必要なのかではないかといったような観点が生ずる場面もある。中立的第三者なら誰でもいいということなのか,一定の質を持ったものであればいいと考えるのか,そこは様々な観点があり得るところなのかなというように思います。   他方で,もう一つ,このシンガポール条約などを見ていますと,この前文のところでいろいろ書かれているところは,要するに国際的な商事紛争の解決にとって調停という手続は非常に高い利便性,価値を持っているということで,これを後押ししていくための一つの方法として執行力を広く認められるようにしていこうという政策判断というものが窺えるように思われまして,そうした調停というものが,相対交渉は相対交渉で有用だとしても,紛争が深刻化した段階では第三者に入ってもらって解決するということに非常に有意な価値があるというところに着目しているといたしますと,そうした有用性に着目したところで,どういう紛争解決,手続を政策的に後押ししていくかというような観点から,どういうものに執行力を付与するのかというものを考えるという方向のアプローチもあり得るのかなというような感じがいたします。   後者のアプローチからしますと,これは正にどういうものを有用として促進していくかという政策的な判断ですので,これはかなり柔軟に,国際的な商事において特に有用性が高いということであれば,そういうものに着目するということも考えられますし,その他の分野,例えば一部の家事紛争でニーズがあるのではないかですとか,そういったことがあれば,そういったものも考慮に値するかもしれない。ただ,局面ごとにどういった条件が整っていれば,それが必要であり,かつ相当でもあるといえる形で執行力が制度化できるのかということは,具体的な規律の内容が変わってくる余地はあるかと思いますので,その辺りを各論の中で更に検討していくという必要があるのかなと思っております。   そのこととの関係で,特に国内の文脈ですと,従来,ADR法の下での認証制度というものが導入されて10余年を過ぎているわけですけれども,そうしたADR法の下で民間の紛争解決手続の一定の質の確保ということが目指されてきたということとの関係で,執行力を付与するに当たって,国際商事は別として,国内の純然たるドメスティックな紛争で一定の場合に執行力を,しかし,付与することができるのではないかと考えたときに,そうした従来の認証制度との関係なんかについても,どういう形で組み合わせるのか,あるいは認証制度を一部,これまでとは異なった形のものにする必要があるのかといった点も含めて検討していく必要があるのかなというふうに感じております。   それから,当事者の意思に基づいて執行力を制度化するという,古田委員から御説明があった点にも関わりますけれども,その点については,先ほどの御指摘は正にそのとおりかなというふうに伺っておりまして,公証人の下で公正証書を作るという場合はもちろんそうですけれども,訴訟上の和解の場合でも,これは当事者としては裁判外で和解をして取り下げるという選択肢もある中で,裁判上の和解という形で意思表示をするということで執行力を付けるということですから,一定のそうした手続的な意思というものが反映されていると見ることは可能なんだろうというように思います。   そうした観点から見ましたときに,シンガポール条約ですと,注目される規定としまして8条の1項の(b)というものがあるかと思います。これは今日お配りいただいている参考資料の1-2ですと,8ページの一番上のところですけれども,条約に対する留保の内容として,和解合意の当事者が条約の適用に合意した限りで適用するというオプションを用意しているということかと思いますけれども,この当事者の合意というのが二段階考えられるわけですので,手続,利用合意をした段階で合意をすれば適用があって執行力が付くということなのか,あるいは更に個別的な合意が必要だというふうな判断をしていくのかといった辺りも,一つ論点になっていくのかなと。あるいは全く合意なくて,全てこの客観的な要件に当てはまるものであれば執行力を付与するというのも選択肢としてあるのかもしれませんけれども,その辺りを検討していくことになるのかなというふうに考えているところです。   長くなりまして失礼いたしました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 垣内委員に理論的な整理をしていただいた後で,なかなか発言するのは心苦しいのですが,大きなところで言いますと,前半にも申し上げたように,ADRの拡充・活性化,その中での和解あっせん調停の拡充・活性化,これはもう政府の方針になっておりますし,また,弁護士会もそれを推進すべきであるという立場でございます。   それで,これは増見委員から御指摘あったように,この執行力,和解があれば当然司法上の拘束力はあるわけですけれども,それに執行力が担保されるのかどうかという点は,やはりADR,調停和解あっせんの拡充・活性化の制度的な大きな要素であるというふうに考えております。したがって,前半でも申し上げたように,この点はこの機会に正面から検討すべきであるというふうに考えております。   今日は各論には入らないということでしたが,皆さんの御議論を聞いていて,とはいえ,やはり和解合意に執行力を与える,調停における和解合意ですね。調停における和解合意に執行力を付与する方向で検討するといっても,やはりその範囲,あるいは要件はかなり慎重に検討した方がよいのではないかと思っています。   一つは,古田委員,垣内幹事がおっしゃったような,そもそも調停において和解合意をしたということだけではなく,やはり執行力を付与することについての別段の合意というもので要件を掛けていくというのは一つの在り方かなと思います。   それからもう一つ,またこれも商事,非商事,あるいは国際,国内の問題に戻っていくわけですが,中身で分けるとすると,商事と非商事というのは,これは割と分けやすい話だと思います。先ほど増見委員からもニーズのお話がありましたけれども,やはりそれは念頭に置かれているのは企業間の紛争ではないかと思います。やはり企業間の紛争とBtoC,あるいはCtoCは,これは紛争の中身として,あるいは当事者の属性としても違っていますので,そこは一緒にして考えるのはなかなか難しいかもしれません。一方,国際と国内は,これは私も実務上,皆さんがおっしゃったことと大体同感で,国際的なものについてはやはりニーズは,純粋な国内のものに比べてはニーズは高いのではないかと思いますが,一方,弊害あるいは懸念という点について,あるいは代替手段があるかという点について,本当にすっきり切り分けられるのかという点については,慎重な検討が必要ではないかと思っています。   それから,次回以降の検討になりますが,1点,先ほど道垣内委員がおっしゃったことですかね,調停手続がなく和解合意をして,それでその後,形式的に調停を行ったようなことにして,それで執行力を与えていくと,これが認められるのかどうかというところは,確かに非常に難しい問題です。次回以降,その辺りを整理して議論していただきたいのですが,まず,和解あっせんの手続をやっている中で和解が成立し,それに執行力を与えるために,その段階で仲裁合意をして仲裁法38条1項決定を行うと,これは従前から,弁護士会も含めて行われている手続です。和解が成立しているときに仲裁合意をするというのは,そもそも紛争があるのかということが議論になりましたが,執行の問題を当事者間で残していて,その執行の問題を解決したいというニーズがある以上は,その部分については紛争ありと考えて,仲裁合意の適格があるのではないかと,そういう整理であったかと思います。そこを今から動かすと実務的に大変なことになるので,そこはそのままにしておいてほしいのですが,これから議論しなければいけないのは,恐らくその更に先の問題です。そもそも和解あっせん手続,調停手続がなくて,当事者間の相対交渉で和解が成立し,それに執行力を与えるために調停手続に乗せたりするようなことが認められるかどうかと,手続に乗せるといっても,ほとんどもう手続はやることはないんですけれども。   それで,今日の資料の1-2の3ページですか,先ほども出てきましたが,債務名義作成会社,これが濫用例として挙げられているのだと思いますが,これがどういうことを想定されているのか,今,私が申し上げたようなことを想定しているのか,あるいはそもそも中身的に和解の内容自体が一方的だとか,そういうことを想定されているのか,その辺りを整理して,次回以降,議論していただいた方がいいと思います。それと,この点で国際調停と国内調停で,果たして違うのか,実態としては,ここで想定されているのは国内調停のことを想定されているのかもしれませんが,国際調停でもそういうのが果たしてないのか,そこは整理して議論をしていただきたいと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 これまで調停合意に執行力が付与されなかった理由というのが何かということだろうと思います。既に御説明であったわけですが,ADR法ができたときに,ADR機関にいろいろなものが出てくるだろうと,認証を受けるものもあるし,受けないものもあるだろうと,これらを一律に扱うのか,扱わないのか。認証機関だけに認めるということも余り適切ではない。ただ,どんな団体が出てくるか分からない,調停人はどのような人が選任されるかも分からないので,しばらく様子を見ようという理由もあったのではないかと思います。恐らくその辺りが,一番問題になったのではないかという気がします。   そうすると,この10年少したって,その状況が変わってきているのか。ADR機関がどこまで成長しているのか,していないのか,問題はないのかということが把握できているのかですね。恐らく法務省では認証機関については把握しておられると思いますけれども,それ以外について,どういう団体が調停を実施しているのか,概略は分かると思いますけれども。このようないろいろな問題をクリアした上で,次の議論に入るということが必要なのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがですか。 ○竹下幹事 一橋大学の竹下でございます。   今の先生方の御意見を伺っていると,やはり国際と国内を区別して扱うべきではないか,私自身の理論の観点からの考え方としては,国内とは異質なものが国際の方にはあって,国内とは区別して扱うというのが一つの考え方ではないかなと現時点では考えております。外弁法改正のときにも国際と国内の区別ということの議論があったのではないかと思われ,もちろんあの基準を国際調停の執行,国際と言ってはいけないですね,調停による和解合意の執行の関係で用いることができるかはもちろん別問題ではございますが,区別が大変であったとしても,これから審議会の中で丁寧に議論していかなければならないかなとは考えているところでございます。   ただ,少し気になるのは,区別して考えるにしても,国内のところについて,この法的な措置,立法の措置が不要か,という点です。確かに現時点において見えているニーズ,これが国際のところにあるというのは間違いないのだと思います。他方で,仲裁であるとか調停であるとかADRの活性化という観点から見ると,見えていないニーズを掘り起こすような立法という可能性も十分にあり得るのではないかと。従来は恐らく日本企業同士の紛争なんかですと,非常に信頼の高い裁判所に駆け込んで紛争解決するということが比較的多かったのではないかと思いますが,日本におけるADRの活性化ということを考えるとするならば,そういった実務の動向自体を変える可能性というものも十分射程に入れて,審議会では議論をした方がいいのではないか。もちろんこれは学者が勝手なことを言える点ではございませんので,企業から御参加いただいている委員の先生方などに,実際変わったら企業にとってどうなのかということを丁寧にヒアリング等,情報提供いただきながら御議論いただければということではございますが,今見えているニーズだけに着目するのではなくて,潜在的といいますか,法改正によって国内の事案でももっとADRが活用されるようにする,そういった視点というものは大切だと思いますし,その結果,国際と国内,特に商事性のあるものについて執行との関係で区別をしなくてよいということになれば,それはそれで区別なしで立法することもあり得るのではないかと思いますので,一言発言させていただきました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○古田委員 竹下さんがおっしゃった点なのですけれども,本日の参考資料の1-2で山田委員の仮訳が配布されていますが,例えば国際性については,2ページの1条でシンガポール条約上の定義があります。もちろん今回の法制審は日本の立法を検討する場であって,シンガポール条約への加盟の是非自体は議論の対象ではないということですけれども,日本で調停関係の立法をするときに,国際調停の範囲をシンガポール条約1条より狭く定義をしてしまうと,シンガポール条約に加盟するときに問題が生じることになりますから,そこはちょっと注意をして議論する必要があると思います。また,カーブアウトする紛争類型についても,シンガポール条約1条2項でカーブアウトされる紛争類型が規定されていますので,日本の立法でこれより広いものをカーブアウトすると,それはそれでまた問題になってくるだろうと思います。   なお,先ほど話題になった,あらかじめ合意ができている案件を調停に持って行くのはどうかという点にも関連するのですけれども,シンガポール条約2条3項に,調停とは何かという定義がありますので,リザルティング・フロム・ミディエーション,すなわち調停による和解合意の規律を日本法でするときにも,シンガポール条約2条3項に入るものが外れてしまうような規律は避けた方がいいと思います。   ちなみに,即決和解であっても執行証書であっても,いずれも既に合意ができている案件を裁判所や公証人に持って行って執行力を付与してもらうことになります。したがって,日本法の法体系として,あらかじめ合意ができている案件について執行力を付与することが一般的に排除されているわけではないという理解です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。 ○竹下幹事 今,古田先生に1条の御指摘を頂きましたので,もちろんこの1条から,これよりも狭めるという可能性は,多分シンガポール条約との関係を考えてもあり得ないと考えております。他方で,では,1条の規定を日本の立法としてそのまま規定をすることができるかというのはまた別問題であるようにも思われまして,この点で,やはり結局国際と国内と区別するとしても,日本の立法の観点から独自の区別を行うことはあり得るのではないか,もちろん条約よりも国際の範囲を狭めることはできないとは思うんですが,これよりも一つ広げるといったことはあり得るのではないかと思います。例えば,ここの中では全く出てきていないところでございますが,準拠法の点などは考慮の要素となり得る可能性もあるように思います。仮に国際と国内を区別するということであれば,シンガポール条約よりも狭めることはもちろんできないというのは古田先生御指摘のとおりかと思いますが,果たしてシンガポール条約よりも広げる立法を行って問題があるかというと,多分それはないかと思いますので,やはりこの国際性の概念は検討,つまり日本としてここまでのところに執行力を与えるといった検討の必要性があり,区別をするときにもシンガポール条約どおりでそのままということで本当にいいのかは,慎重に考えなければならないような気がしております。 ○山本部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○春田委員 連合の春田です。   皆さんの議論を伺い,非常に参考になると思って聞いていました。けれども,このシンガポール条約の位置付けというのは,最初の事務局の説明ですと,別にシンガポール条約の締結は意識しない,ということだったんです。しかし私たちは,やはり議論をする時,この整合性というのは常に意識して議論するという,この方向でよろしいのでしょうか。シンガポール条約に対して,どういう考えを持てばよいのか。これを広げる方にいくのか,それよりも狭まるのが駄目なのかどうか。その辺りの考え方を整理して,物事を進めた方がよいというのが1点です。   それと,やはり国際,国内,それから紛争の類型は様々ありますし,それをきちんと整理しながら議論していくべきというのは,皆さんの意見を聞いて感じたところです。ありがとうございます。 ○福田幹事 では,今の点について,現時点での事務当局の考えを御説明いたします。福田でございます。   今回の部会資料を作成するに当たりまして,我々としても非常に悩んだ点ではございます。今回の部会資料を見て,ちょっと混乱を生じさせた点があるとすれば,おわび申し上げたいと思います。   先ほど説明したとおり,この調停による和解合意に対する執行力の付与というのは,国内における議論としては平成16年のADR法制定時から議論がされてきたという経緯があります。そこに今回,シンガポール条約という国際的な商事調停について執行力を付与するという議論が非常に高まってきて,条約が発効したという経緯があります。今回は国際的な切り口からこの仲裁法制部会が設置されたと説明しましたけれども,やはりそういった機運の高まりの中にあっても,国際的な部分だけを議論するのではなく,これまでの国内法の議論も意識して議論をせざるを得ないのではないかというのが事務当局の考えでございます。   今日の議論では,やはりシンガポール条約の規律を意識した方が議論としては分かりやすいのではないかという意見も大分出ておりました。そういったところを踏まえて,第2回以降の資料については,もう少し分かりやすい,議論をしやすいような形で作らせていただきたいと思っております。 ○山本部会長 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。 ○道垣内委員 先ほど英語のことを申しましたけれども,この立法は,仲裁も調停も外国向けに発信しなければいけない情報ですので,立法段階から英語も意識して,後で訳すのにどうしようとかというのではなくて,そこは同時に進行していただければと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。   それでは,そろそろ予定された時間ですので,この第2の点については様々な観点から,議論の仕方等も含めて御指摘を頂いたところでありますので,次々回ぐらいになるのでしょうか,それ以降の資料の作成に反映をしていただければと思います。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   次回の議事日程等について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田から説明いたします。   次回の日程は,令和2年11月20日金曜日,午後1時30分からを予定しております。場所については,追ってお知らせをいたします。   次回は,今回御議論いただいたうちの仲裁に関する事項について御議論を頂く予定でおります。 ○山本部会長 それでは,これにて法制審議会仲裁法制部会の第1回会議を閉会させていただきます。   本日は,熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-