法制審議会 民法・不動産登記法部会 第22回会議議事録 第1 日 時  令和2年12月1日(火)自 午後1時00分                     至 午後3時07分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  民法・不動産登記法の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法・不動産登記法部会の第22回会議を始めます。   本日は御多忙の中御出席を賜りまして,誠にありがとうございます。   本日の審議のタイムスケジュールにつきましては,部会資料52の審議が終わり次第,終了ということにする予定です。   本日は,阿部委員,佐保委員,潮見委員,衣斐幹事が御欠席です。   事務当局から配布資料の確認を差し上げます。 ○小田関係官 今回,部会資料52を事前送付しております。部会資料52につきましてお手元にないようでしたら,事務局にお知らせいただければと存じます。 ○山野目部会長 御案内を差し上げましたとおり,部会資料52をお手元に用意くださるようにお願いいたします。   本日の審議に入ります。   本日は前回に引き続き,要綱案のたたき台について審議をお願いいたします。部会資料52をお開きいただきますとお分かりのとおり,第1として相隣関係を取り上げておりますけれども,本日はこの相隣関係として二つの題材,隣地使用権及び管理措置の問題を取り上げるということにいたします。二つの事項の性質がやや異なりますから,分けて審議をお願いいたします。   まず,隣地使用権,民法209条の改正構想の関連につきまして御意見をお伺いすることにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。 ○中村委員 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでの議論について御紹介したいと思います。   部会資料の御提案に賛成する意見がありました一方で,第21回部会でも御紹介いたしましたように,承諾請求構成ではなくて,隣地を使用することができるという構成を採ることについて反対するメンバーからは,現行の209条の下でも,例えば所有者の長期不在ですとか,介護施設に入所中などといった事情のある隣地に無断で立ち入って使用するといった事案が相当数見られるということから,部会資料の提案の構成を採ることになれば,更に問題が頻出することは避けられないのではないか,自力救済を排除することは一層難しくなるだろうという強い懸念が示されました。このように意見の分かれる中で,部会資料の提案をベースに幾らかの手当てをすることで,今申し上げました懸念を少しでも払拭する方策を採ることができないかという議論をいたしましたので,少し長くなりますけれども,御紹介させていただきたいと思います。   部会資料1ページの1項の①から④に関しまして,少し手当てをするという案といたしまして,まず本文②につきまして,①に掲げる目的によっては,現に使用する者に影響が大きい場合だけではなくて,土地所有者に主に影響する場合も考えられることから,②の「隣地のために」という文言を,隣地の使用者及び所有者のためにとしてはどうかという提案が一つございました。   それから,本文③について,大きく分けて2点あるのですけれども,一つは通知の内容についてです。前回の部会で中田委員,國吉委員からも御提案がありましたように,③で求める通知の内容をより具体的にする,すなわち③が定める通知の内容を「その旨並びにその日時及び場所を」という現在の定め方から,②に基づいて選択した使用方法と理由なども併せて通知させるというのではどうかという提案が一つございました。   その理由としましては,②の要件に基づいて,隣地にとって損害が最も少ないものとしてこのような方法を選びましたというようなことを通知の内容として含むことによって,通知を受けた者が,隣地使用権者が何をしようとしているのかということを具体的に知ることができますので,異論がある隣地所有者は返答をせずに放置するというのではなく,それでは困るとか,別の方法にしてくれないかという返答をすることになるなど,円満な隣地使用のためのコミュニケーションの契機ともなし得るものではないのだろうか,そのような理由が背後にございます。   もう1点は,通知の相手方についてです。①で選択される隣地使用の態様の如何によっては,使用者が負担を受けるケースと,主に所有者が負担を被るケースが考えられますので,現に使用している者だけではなくて隣地所有者をも通知の相手として含める,又は,第一次的には現に使用する者とし,現に使用する者がいない,又は通知することができない事情がある場合には,所有者を相手にするといったことを考えてはどうかという提案がございました。   さらに,さきにお伝えした懸念を払拭するために,より踏み込んだ修正をしたいとの提案もございました。本文①に,その必要性のみならず相当性の要件を加えてはどうかという提案が一つです。「次に掲げる目的のため必要な場合に,使用方法その他の事情に照らし相当な範囲で」といった文言を加えてはどうかというのが今の提案でございます。   もう一つは,更に理論的な考察を必要とするのですが,本文③と④の間に次に申し上げる2点を加えるという提案です。一つは,現行の234条2項を参考に,隣地使用者は使用の中止,変更を求めることができるといった規定を置くことはできないかという提案です。もう一つは,③の通知を受けた隣地所有者が日時,場所,使用方法につき異なる定めをするように求めることができる,とすることはできないかという提案でございました。   いずれにしましても,何とかこの提案をいかしつつも,懸念を払拭する道を探るということで,幾つか御報告させていただきました。長くなりました。 ○山野目部会長 弁護士会の先生方が熱心に御討議を頂いた成果を御紹介いただき,誠にありがとうございます。   引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 今,中村委員から弁護士会の意見を申し上げましたが,それを補足する形で,確認と質問をさせていただきます。   今回の209条の改正によって,現在の実務と何が変わるのかについて関心があります。1点は,違法な自力救済が増えるのではないかという懸念ですが,これについては先ほど中村委員が申し上げました。もう一つ気になるのは,隣地使用権の行使を拒絶した隣地所有者ないし隣地使用者に不法行為責任が発生するのかという点です。   今回の改正の内容によると,本文①及び②の要件を満たせば,実体法上,隣地使用権が発生する。そして,③の通知によって行使要件も満たされます。このとき,隣地所有者ないし隣地使用者が,隣地使用権の行使を拒絶した場合には,故意,過失,損害との因果関係などの要件を満たせば,不法行為が成立するのでしょうか。   現在の実務がどうかについて,必ずしも網羅的に調査はできていないのですが,この点に関する裁判例として,例えば東京地裁平成15年7月31日,判例タイムズ1150号207ページがあります。その判旨を少し読み上げますと,「被告は原告らが民法209条の相隣関係上の義務を履行しないことを理由に損害賠償請求をする,しかし,民法209条は,土地の所有者が建物築造等のために必要な範囲においては,隣地の使用を請求することができることを定めているが,同条による隣地使用権は,その文言より,隣地の使用を請求することができる権利を規定しているにとどまり,土地使用に当たっては隣地所有者の承諾ないしはこれに代わる判決が必要であると解するのが相当である,そうだとすると,原告らが承諾等をしていない本件にあっては,原告らは被告に対し原告土地を使用させる義務を負っているということはできない。」とされ,原告の主張は前提を欠き,理由がないという判断がなされています。これは,現行の209条について請求権説に立ち,隣地所有者の承諾ないし承諾に代わる判決がない限り,隣地使用権の行使を拒絶しても,不法行為は成立しないことを明らかにした裁判例だと理解できます。もちろん,これは下級審判決の一つにすぎませんし,この裁判例の読み方も様々だとは思いますが,今回提案されている改正により,隣地の所有者が隣地使用権の行使を拒絶した場合について不法行為が成立するのかという点について,現在の判例実務が変更されることになるようにも思われますので,確認のための質問を差し上げる次第です。 ○山野目部会長 お尋ねを頂きました。大谷幹事から事務当局の考えを御案内いたします。 ○大谷幹事 ありがとうございます。今,蓑毛幹事から御指摘いただいた現行法の下級審判例の読み方,正におっしゃいましたけれども,いろいろな読み方があるのだろうと思っております。確かに承諾又は承諾に代わる判決がないという段階では通行権がないと,したがって不法行為は成立しないというような書き方がされておりますけれども,現行法でも,承諾に代わる判決を得られるということは,相手方に承諾をする義務があるのだろうと思われまして,その義務違反についての判示をしているものとも読めまして,いろいろな読み方があるのだと思っております。   したがいまして,現行法上,隣地使用の請求を実際に受けたけれども,それを拒んだというときに,それについて不法行為が全く成立しないのかというと,そういうことでもないのではないか。一方で,現在提案しております規律によった場合には,御指摘のとおり,使用権があるということになりますので,それを拒んだ場合には不法行為が成立し得るということになりますけれども,ただ,事前に通知を受けて,その日時,場所,方法等について争うケース,例えば必要性がないので隣地使用すべきでないという形で隣地使用者が争った場合に,それで直ちに過失があるとは限らないのだろうと思っております。要件について疑いがあるから正当に争ったというときに,使用を拒んだから直ちに不法行為になるということではないと考えられます。 ○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けください。 ○蓑毛幹事 よく分かりました。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○今川委員 私は御質問なのですけれども,補足説明の(2)で,「隣地使用者が通知を受けても回答をしない場合には,黙示の同意をしたと認められる事情がない限り,隣地使用について同意しなかったものと推認され,土地の所有者としては,隣地使用権の確認や隣地使用の妨害の差止めを求めて裁判手続をとることになると考えられる。」という説明があります。単に回答しない場合や同意がない場合に,勝手にやってしまうと違法になるということで,非常に慎重になると思います。そして,黙示の同意があるかどうかということを判断するのは,かなり難しいと思います。結局,きちんとした回答がない限り使用しない,使用に躊躇するだろうと思います。実務上は,普通は,一定期間内に回答を下さいというような形で通知をするのだろうと思うのですが,例えば,一定期間内に回答がないものは同意したとみなして使用させていただきます,というような通知も実務上あり得るのかどうか,もし見解があれば教えていただければと思います。 ○大谷幹事 今の点,2ページの補足説明に書いてあるところでございますけれども,これまでの御議論でも明らかなとおり,隣地使用者の利益というものを無理に奪ってしまっていいような権利だとは考えておりませんので,黙示の同意があると認めるためには,ケース・バイ・ケースではありますけれども,慎重に判断される必要があるのだろうと思っております。したがいまして,隣地を使用しますよという通知をして,それに対して答えなかった場合には同意したものとみなしますよと言っても,それは勝手にそういうふうに言っているというだけであって,だから同意したものとみなされるというわけではないのだろう。黙示の承諾があったと簡単に認めるわけにはいかないだろうと思っております。 ○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。 ○今川委員 はい,ありがとうございます。 ○道垣内委員 日弁連の方から,第1の1について濫用が懸念されるのではないかということであり,懸念されるということ自体に反対をするつもりはないのですけれども,例えば,それの方策として,1の②のところを,隣地所有者とか隣地使用者という文言を入れますと,この隣地使用権の性格というものがかなり変容するのだと思うのです。つまり,相隣関係というところに第1と書いてありますが,日本民法上の相隣関係というのは所有権と所有権の調整の関係として出来上がっているわけであって,ある土地の現在の所有者と,隣地の現在の所有者,現在の使用者の間の調整規範として存在しているわけではないのだろうと思うのです。そういうふうな土地と土地との関係の話として規定するのではなくて,所有者対所有者の話として考えるのだということならば,そのように性質決定を変容するというのも,それが絶対駄目だというつもりもないのですけれども,少なくとも,かなり大きな変容であるということは認識すべきなのだろうと思います。   また,現在の所有者,現在の使用者という概念を出しますと,損害が最も少ないとかというふうなものの評価の仕方も実は変わってくるのであって,現在の使用者の使用形態というものを考えながら判断することになりそうです。実際にはそういうふうなことは判断せざるを得ないのでしょうが,建前の問題として,そのような現実の利用形態との関係が判断の基準になるのか,それとも,土地そのものの損害という概念で話をするのかによって,やはり違いは出てき得るのだろうと思います。   したがって,両方出せば調整がうまくいくという性質のものではないのではないかと思いまして,若干懸念するところがありますので,申し上げる次第であります。 ○山野目部会長 弁護士会からの御提案の一部について,それを受け止めての御発言を道垣内委員から頂きました。ありがとうございます。 ○佐久間幹事 今の道垣内委員がおっしゃったことと同じことを一つは申し上げようと思っていました。②のところの弁護士会がおっしゃった,「隣地のために」を,「隣地の使用者及び所有者」か,「又は所有者」のためにといたしますと,性質が変容するということと,考慮要素が変わってきてしまうということは思いました。   ただ,現実の使用者又は所有者の利益をより考慮しなければいけないのではないかというのは,私もそうかなと思っておりまして,それは③のところで酌むべき事情なのではないかと思いました。つまり,②は今,道垣内委員がおっしゃったとおり,相隣関係の性質上,このように客観的に二つの土地の状態から判断すべきであるところ,しかし,現実に使用するとなると,それはその時点の判断となるということから,③をより工夫する方が私はいいのではないかと思いました。   その上で,③について2点,意見,あるいは質問がございまして,1点は,「現に使用している者」の概念について,少し分からないところがございます。つまり,例えばですけれども,私は今ここにいるわけでして,土地を例えば京都に持っていたといたしますと,現に今,使用は正にはしていないわけです。宅地であるということだといたしますと,それはまあ宅地なのだから,一旦留守にしている程度だったらともかくということになるかもしれませんが,遊休地を持っているというときだったらどうなのかということが分からないと思いました。あるいは,今の私でしたら短期ですけれども,例えば別荘として使っている人などですと,不定期に行くことはあるけれども,それほど頻度は高くない,あるいは季節ごとにまとまって利用するけれども,そうでない期間の方が長いというふうなことになりますと,一体この「現に使用している者」としてどこまでを含むのかをある程度見通せるようにしておきませんと,なかなか困った問題も起こるのではないかと思いました。それと,弁護士会の方でおっしゃった,隣地の使用によって不利益を受けるのは使用者とは限らない,所有者であることもあるのではないかというのはそのとおりだと思うのです。そうであっても,現に使用している者が所有者でないときは,使用者に了解を取ることによって,それほど大きな問題にはならないような気もしてはおります。しかし,そのような者がいないときには,所有者にやはり連絡を取るということが求められるのではないかと思っています。ですから,現に使用している者は,これは別に文言を変えてくれということではありませんけれども,これだけで足りるのか,場合によっては所有者を,及びなのか又はなのかは分かりませんが,入れることがあっていいのではないかと思いました。   さらに,使用請求をする側からいたしましても,現に使用している人が,仮に別荘使用のような場合で,どこにいるか分からないときは,なかなか捜しようがないのに対し,所有者でしたら,例えば登記を見るとかいうことをすれば所在もつかみやすいというので,連絡するときに所有者が入っている方が便利な場合もあるのではないかと考えました。   さらにもう1点,すみません,長くなりまして,「あらかじめ」のところなのですけれども,これを,例えば「一定の期間を設けて,あらかじめ」とできないのかなとも思いました。どのぐらいの期間が適当かは分かりませんけれども,よほどの緊急性を要する場合を除けば,例えば一か月程度は定めて,「あらかじめ」というふうなことにすれば,先ほど弁護士会がおっしゃった,立入りは認めるのだけれどもその日はやめてくれ,こうしてくれというような事実上交渉だってするはずなので,その期間を確保するという意味でも,その方がよいのではないかと思いました。 ○山野目部会長 前段の方で,現に使用している者の概念について,現段階の事務当局の考えがあれば聴いておきたいという部分がお尋ねでございました。後段の方でおっしゃった,通知をする相手方についても何らか事務当局としての所見があれば,付け加えていただいてもよいかもしれません。 ○大谷幹事 現に使用する者という中には,恐らく所有者が使用しているものというのも入っていると考えておりまして,どういう場合に現に使用しているというのか,それは正にまたケース・バイ・ケースということになってまいりますけれども,例えば,建物を建てて所有していて,塀に囲われている土地があるとして,そこに常に住んでいるわけではないというようなときに,やはりそれはその建物を,土地を使用していると評価するのではないかと思われますので,そういう場合には所有者の連絡先を調べて,所有者に対して通知するということになるのではないかと思います。季節的に使うときもあれば使わないときもあるというのも,これもやはりケース・バイ・ケースになりますけれども,現に使用していると評価されることも多く考えられるのではないかと思っております。   それから,「あらかじめ」については,隣地使用の目的の中にいろいろな場合が書かれておりますけれども,例えば工作物の修繕などというときに,急いでやらなければいけないということもあり得るところから,決まった日時,決まった期間を置いて通知をするということを規律するのはなかなか難しいかなと考え,このような形にしているところでございます。 ○佐久間幹事 後段の方は,そういうこともあるかなと思いました。 「現に使用している者」について,今の答えは,それはそれでもよろしいのかとも思いますけれども,しかし,そうだとすると,例えば建物を所有していて,それこそほったらかし,何年も放置しているというような場合もここに含むということでしょうか。「現に使用している」ということで。私は,それだったらそれで別にいいと思うのですけれども,案外,今までの議論とか,今回の資料の補足説明で,使用している人の言わば現実の利益を守るのだというふうな形での説明からすると,そういうのは余り入らないのかなと思っていました。ですから,それだったらそれで分かりましたと思いますが,本当にそれでよろしいのですか,というとあれですけれども,もう一度確認させてください。 ○大谷幹事 今のも,やはりどういう場合を念頭に置くかによっていろいろ変わってくるように思います。ずっと放置をしていて,物は置いてあるけれども実際に使用していないと評価できるような,朽ちた元建物みたいなものがあるだけだとか,そういうようなときに使用していると評価するのかというと,それは評価しないということはあり得るのではないかと思っています。 ○佐久間幹事 そうだとすると,念のため所有者は入れておいた方がいいのかなと,やはり判断が難しい場合があると思うのです。お隣を使用している人はいなさそうだな,あるいは余りいないなということは分かっても,その人が現に使用しているのか,していないのかというのは調べてみないと分からないところだってあるわけなので,「及び」なのか「又は」なのかは,私はどちらもあるかなと思っているのですけれども,所有者を入れておいた方が,場合によってはいいのではないかと。あるいは,現に使用している者がどういう権限で使用しているかというのも,立ち入りたい方からすると,本当には分からないことがあるのではないかとも思います。強い意見ではありませんけれども,そういうふうに思うということです。 ○山野目部会長 佐久間幹事の問題提起を理解しました。現に使用している者の概念との関係で,所有者の扱いをどうするかについて,本日の部会においても引き続き,委員,幹事に御意見をおっしゃっていただきたいと望みます。藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。これまでこの第1の1の隣地使用権の③の表現に関しましては,催告という文言が使われるなど,いろいろな変遷を経てきておりましたが,前回の部会資料からは,通知という表現になっておりましたので,これが届くかどうかという問題はあるものの,実際に到達すれば,それで要件を満たすのではないかと思っていたところはございます。   ただ,先ほど今川委員からも御質問があったとおり,補足説明の2の(2)のところで,通知を受けた隣地使用者が回答するかどうか,要は同意したと認められるかどうかというところがかなり重たい要件として書かれているように見受けられるところもございますので,これを前提に,この場面においての隣地使用者の同意の意義について,今,事務局の方でどのような位置付けでお考えなのかというところを改めて確認させていただければと思っております。   隣地使用権の内容として挙げられている使用態様は,基本的には類型的に隣地との関係を調整するために必要な最低限のものということで限定列挙されているわけでございますし,例えば,隣地の所有者が鉄条網を張って,絶対に立ち入らないでくださいと言っているようなところに,それを切って乗り越えて入るとかという話になってくれば,それはもう完全に平穏を害するということなので駄目だ,というところは,209条の解釈として,現在でもそういうことになっていたかと思うのですが,そういう平穏を害するような態様ではないというときに,どこまで明示的な同意というものにこだわる必要があるのかという点については,正直,実務的な感覚からすると少し疑問を感じるところでございます。実態としては,お隣さんの関係の中で,お互い黙示の同意が成立しているような場面の方がむしろ多いのではないかというところがございまして,外形上明らかに隣地所有者に拒む意思がないといえるような場合であってもなお,通知に対する明示的な回答,同意というものを求めるのかどうかというところは,少し確認をさせていただきたいというところでございます。   あと,隣地使用権の規律を改めることで紛争が惹起されるという御意見は,前回から伺っていて,なるほどと思うところもある一方で,逆に,今こういう規定がないことによって,常識的に考えればここは日常的な土地の管理のために何かできることを少しだけやっておきたいというような場面でも立ち入れないとか,あるいは長年の慣習の中で,お互いに隣地を暗黙の同意の中で使っていたのに,ある日突然,隣地の方が態度を変えて,自分の土地の中に踏み込んでいたではないかといって紛争になるとか,そういったような,今提案されているような調整規定がないことによるトラブルというのも現にあるのではないかと思っています。したがいまして,紛争を惹起するかどうかということに関しましては,新たな規律を設けることによって惹起される紛争もあるかもしれませんけれども,逆に,規律がないことによって惹起されている紛争も現にあるわけで,それが,裁判所まで持ち込まれるような話かどうかというのは別といたしまして,私自身もそういう事例を経験したことはございますので,その点については中立的に考える,ということで良いのではないかと思っているところです。   いずれにいたしましても,この隣地使用権そのものが,通常,土地を管理していく中で,必要最低限のことを,なるべく重たい負担,手続負担なくできるようにすべきではないか,というところから出発している話だと理解しておりますので,そういった考え方に沿った形で条文が作られて,解釈がなされるという形が望ましいのではないかと思っております。 ○山野目部会長 後段の意見は承りました。前段において,黙示の同意ないしは同意という概念が補足説明で用いられていることとの関連でのお尋ねがありました。 ○大谷幹事 この隣地使用権の成立につきましては,現在提案しております①と②の要件を満たしておれば隣地使用権自体は発生をし,③の手続的な行使要件を満たせば適法に使用できると考えられるところでありますけれども,これも自力救済との関係について補足説明で書いておりますが,隣地使用者がいるときに,明示の承諾がなく隣地使用権が発生し,行使要件を満たしたので無理やり立ち入ることができるかというと,そういうことではないのだろうと。承諾なく入る場合には違法な自力救済と評価されて,不法行為ということもあり得るところでございまして,そのようなことがないように,使用の平穏を害さないように入っていく必要があるだろう。その意味で承諾をしている,同意をしているというのは,不法行為が成立しないように平穏に入っていくために必要で,法律上必要なものというよりは,自力救済との関係で必要だということと理解をしております。 ○山野目部会長 今,大谷幹事の言葉の中に,法律的な意味ではなくてという表現がありましたが,正にそのとおりで,ここの同意は法制上の概念としての同意ないし承諾ではなくて,立入りないし隣地使用を阻む意思を有しないということを伝えるという契機をある種,比喩的に述べている側面があり,少し議論を混乱させたかもしれません。藤野委員,よろしゅうございますでしょうか。 ○藤野委員 はい,今の御説明で非常によく分かりました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。 ○中田委員 ありがとうございます。今回これがテーマになっていますので,少し調べてみました。恐らく皆様よく御存じのことだと思うのですけれども,私は知らなかったものですから,念のため御紹介したいと思います。   この209条は明治時代から非常に激しい議論があった条文でして,旧民法は,隣地に立ち入ることを求めることができる,と規定していたのですけれども,現在の民法に改める法典調査会で,隣地に立ち入ることができる,という原案が示されました。しかし,激しい議論がありまして,結局旧民法と同じく,隣地に立ち入ることを求めることができるに戻されました。正確に言うと,立入るを求むることを得,ですけれども。この表現が最終段階の整理会で,隣地に立ち入るだけではなくて,足場を設けたりすることもあるからということで,使用を請求することを得,に修正され,これが現在の規定になっているわけです。   この経緯を振り返りますと,今回の提案は三つほど特徴があると思います。一つは,使用請求を改めて,使用することができるにしたということです。これについての議論は,法典調査会の原案の段階での議論と同じようなものだと思います。   2番目は,法典調査会の当初の議論は,立ち入ることができるとするのか,それとも,立ち入ることを求めることができるとするのかという,立入りという一時的で定型的な行為についての議論だったわけですが,今回の提案は,その後,立入り請求から使用請求に広がった後の規定を前提として,当然に使用することができるとするものでありまして,より広がっていると思います。   それから,三つ目に,明治時代の建物の築造工事と現代の建物の築造工事とでは規模や期間も大きく異なっておりますので,隣地所有者の負担が大きくなり得るということがあります。  そういう目で今回の提案を拝見しますと,今回の提案では,いつどのような権利が発生しているのか,あるいはいないのかが不明確になっていると思います。これは現行の209条の下でも,「必要な範囲内で」という要件に多様な要素を読み込もうという解釈がありますが,多様な要素が入るのだけれども,使用請求というプロセスが入ることで調整されるということが期待できたわけです。   今回の御提案でも,「次に掲げる目的のため必要な範囲内で」とあるのですけれども,しかし,立入りではなくて使用とし,かつ,請求ではなくて当然にということにしたために,要件の明確化が一層必要になっていると思います。実際,各種の法律に類似の規定があるわけですが,例えば道路法とかですね,かなり要件を絞って,手続も慎重にしています。その対象も,他人の土地の立入りと一時使用とか,こういうように限定しているわけです。それに対して,今回の提案は非常に広いものですから,要件か効果か手続か,どこかで絞った方がいいのではないかと思います。   例えば要件ですと,先ほど弁護士会の方から相当性という御提案がありましたけれども,例えば,「次に掲げる目的のために必要があるときは,相当の範囲内で」とするとか,あるいは,先ほど大谷幹事からお話のございました,①と②が要件であるということでしたけれども,②が要件なのかどうかというのは少し分かりにくいところがあるので,むしろ②を積極的に要件の形で取り入れるとするとか,あるいは効果ですと一時使用にするとか,あるいは手続ですと,請求構成にした上で隣地所有者に承諾義務を課するとか,いろいろなやり方があると思うのですが,特に,要件が不明確であるために,その権利があるかないか自体がはっきりしないという,それが一番大きな問題ではないかと感じております。 ○山野目部会長 ありがとうございます。中田委員におかれては,起草時の事情を御紹介いただき,それを踏まえて具体的な提案,御注意を頂きました。御礼を申し上げます。松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 ありがとうございます。前回の第21回会議でこの点について,隣地が所有者不明だった場合を前提にして質問させていただきましたので,その点との関係で1点確認をさせていただきたいと思います。   前回の部会資料51の提案と違って,今回の部会資料52の提案は,通知の相手方として,隣地を現に使用する者のみとされ,隣地の所有者が削除されています。これは,所有者不明の場合を前提にすると,誰にも通知することなく使えると読めてしまいますけれども,それでいいかどうかという点の確認です。   例えば,建物を建築する足場として隣地を20平方メートル,1か月間使いたいが,賃料相当額だと5万円相当だというような場合,隣地を使用している者が見当たらず,所有者も不明という場合において,明らかに財産上の不利益を与えているときも,何ら通知をすることなく使っていいかどうかということについては,既に議論が出ておりますけれども,私も少し引っ掛かりを覚えます。   前回,通知の相手方が隣地の所有者及び隣地を現に使用する者となっていましたので,所有者不明の場合でも公示による意思表示でいいだろうということで確認をした点ですけれども,今回,その点は,何ら通知をしなくても使えるということに変更されたように見受けられます。もちろん,隣地使用権の制度が所有者不明の場合に使いづらいものになってしまっては,本末転倒です。この点も十分考慮して,実行可能な手続を通じてきちんとやるべきことをやっていれば使えるのだというルールを設けることについては,全く賛成でございます。その手続として,さほど大きな負担を課すものでなければ,通知の相手方に所有者を入れておく方がよいのではないかと思いました。 ○大谷幹事 ありがとうございます。前回,確かに所有者に対する通知ということを求めて,それを今回,外しておるわけですけれども,前回,実務的にもなかなか所有者を全部捜すというのは大変だという御意見があったことも踏まえて,こういう形にいたしました。また今日,お話を伺っておりますと,所有者に対する通知が必要だという御意見が複数あるようでして,もう少し検討したいと思います。   中田委員から御指摘がございました起草時のお話,それから,この解釈の在り方,立法の在り方ということですけれども,今回の209条の改正の趣旨としては,元々ずっと御審議をお願いしておりました,隣の土地の所有者が所在不明になっているようなときでも,裁判を使わずに隣の土地が使えるようにするということを一つの眼目として検討をお願いしてまいったわけでございます。現行法の書き方,隣地の使用を請求することができるとしたときに,それは裁判をしないと絶対に駄目なのかどうか,これは恐らく議論の余地があって,先ほども少し御紹介がありましたけれども,実際には裁判をせずに入っている場合もあるのではないかというような御指摘もございました。その辺りをどのように考えるのかが現行法でははっきりしないだろうということで,これをきちんと規律を設けるとすれば,そして,現行法の精神を害さないような形で設けるとすればどうなるかということで,御提案を申し上げているところでございます。   使用することができるとしたところで,必ず隣地使用者,所有者かもしれませんけれども,一定の事項を通知しなければならないという形で,現行法よりも具体的に通知を行う,通知を受けた相手方としては,それは嫌だと思えば差止めを求めることができますし,拒絶することもできるということだろうと思っております。ですので,必ずしも現行法の規律を緩めるというようなことで考えているのではなくて,より具体的に規律を設けて,隣地の使用者,所有者についても争う道を現行法よりも広げるという方向で考えてはどうかということで御提案を申し上げているところでございます。  いずれにしましても,中田委員から複数の御提案を頂きましたので,また検討させていただきたいと思います。 ○山野目部会長 松尾幹事,よろしゅうございますか。 ○松尾幹事 ありがとうございます。隣地使用権という制度を請求権ではなくて文字どおり使用権と構成した場合には,一種の強制使用権を設定する要素もありますので,その場合は,例えば公共事業の場合でも,所有者に対する一定の手続をとっていることとのバランスも考える必要があると思いました。ただ,大谷幹事がおっしゃった,今回の提案の趣旨ということについては十分理解しているつもりです。   ちなみに,部会資料52の4の管理措置権のところでは,不明所有者に対する手続的配慮もされていますので,やはりそれとの関係でも少しバランスをとった方がいいのではないかと思って,発言をいたしました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。   隣地使用権について,ほかに御意見はおありでしょうか。 ○國吉委員 ありがとうございます。私ども土地家屋調査士の場合ですけれども,隣地を使用させていただくということの目的,第1の1の①に書いてありますけれども,この目的のために使用するということが大前提なわけです。この目的というのは,恐らく相隣関係の基本だと思うのですけれども,当然ながら,こちら側の所有者の利用を考えると同時に,隣地の方のための利用も考えていかなければいけないということだと思います。それは何かというと,当然ですけれども,争いをなくしたいということの大前提だと思っています。   ですので,いろいろ弁護士会さんの意見などもありますし,私どもも目的とか,特に,最終的な,例えば境界標の調査であれば,所有者さんに境界の確認,承諾,同意を得るという最終的な目的があるわけですので,その辺の最終的な目的のために,紛争を生じさせないとか,そういったものを是非考慮に入れていただいて,今後また議論を進めていただければと思っています。 ○山野目部会長 御注意を承りました。   ほかに御意見はおありでしょうか。隣地使用権について,部会資料52でお出ししている範囲について,引き続き御意見を承ります。 ○藤野委員 すみません,先ほどの発言の機会に申し上げられなかったのですが,通知の相手方を隣地所有者にするか,現に使用している者にするかということにつきまして,前回の部会の際には,所有者だと手続が重すぎるのではないかと申し上げた次第で,今回それが反映されて,このような案が非常によいなと思っておりました。今日は所有者を通知の相手方にする方がいいのではないかという御意見も多いようですが,実務的な,本当に現場レベルの実務の感覚で言うと,やはりここの隣地使用権のところに関しては,所有者ではなくて,現に使用している者を通知の相手方とする,ということでよいのではないか,結局,現に隣地を使っている人の平穏を害さないというところに重点を置くべきではないかと思っていますので,そこを改めて申し上げたかったのと,次で議論されるであろう管理措置請求との比較の観点からも,要は,隣地の所有者に対する制約の程度の違いによって,通知が土地の所有者にまできちんと届くようにするか,あるいは現に使用している者に通知すれば足りるか,ということを使い分ける方が,むしろ制度趣旨が明確になるのではないかと感じているところでございます。以上,意見として申し上げました。 ○今川委員 所有者への通知というお話が出ています。我々の検討チームの中でも話をしていたのですが,補足説明では,実際に隣地を使用する者がいない場合でも,紛争を防止するために,隣地所有者への通知がされることが多いだろうと説明されています。しかし,規律として所有者への通知が入っていないとすると,実務的な問題としまして,佐久間幹事も少しおっしゃったかもしれませんが,その所有者を捜すという作業ができないのではないか。つまり,念のためにということでは,公的な資料の調査をする権限がないのではないかと。ですから,ここで書いている隣地所有者への通知というのは,単に登記簿上の住所,氏名に宛てて形式的に通知をすることでしかないので,実際に隣地を現に使用する者がいない場合は,そのまま使用することが多くなるのではないかという意見が多かったです。 ○山野目部会長 司法書士会の御意見を承りました。   ほかにいかがでしょうか。部会資料52で提示申し上げている隣地使用権については,本日段階でお寄せいただく意見を受け止めたと考えてよろしゅうございますか。   そうしましたならば,部会資料52の第1の「1 隣地使用権」の項において提示申し上げている,使用権として考えるという法的構成を基本とする提案については,委員,幹事の御議論を受け,それを理解していただいている側面も大きゅうございますけれども,それとともに,繰り返しませんけれども,なお心配を抱く点が種々あるということが分かってまいりました。中田委員に観点を整理していただきましたように,仮にこの使用権構成で進むということになる場合におきましても,その細部を更に点検し,要件,手続,効果のそれぞれの観点から見て適切な絞りを与えることができるかどうかをなお探る必要があると感じます。新しい部会資料を用意した上で,引き続き委員,幹事の皆様に御審議を頂く機会を設けたいと考えます。隣地使用権についての本日段階の審議をここまでといたします。   続きまして,部会資料3ページから始まっております「4 他の土地等の瑕疵に対する工事(いわゆる管理措置)」についてお諮りをいたします。以前の部会資料におきましては,管理措置請求権というラベルで呼んでまいりました。そちらの方が思い起こしていただきやすいかもしれません。しかしながら,他の土地等の所有者に対して何かの行為を請求するという法的構成ではないものを本日は御提示申し上げておりますところから,管理措置請求という「請求」という言葉を入れて呼ぶことが内容を適切に表現していないと考えられるため,この部会資料において括弧書きで,いわゆる管理措置というふうな仕方の御案内をしているところでございます。これにつきまして,委員,幹事の皆様方の御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○中村委員 日弁連のワーキンググループでは,これについても賛否が分かれました。賛成意見がありましたけれども,これについても,従前お伝えいたしましたことの繰り返しになりますが,瑕疵という用語をもう少し分かりやすくできないかですとか,瑕疵との語の代わりに,例えば,管理が社会通念上不相当であることにより,などとしてはどうか,などの指摘がなされておりました。   反対意見では,要件,効果が抽象的にすぎ,自力救済を誘発するのではないか,隣地使用権よりも更に懸念が大きいとの指摘がありました。資料49で,甲案,乙案のほかに(注1)として挙げられていた請求権構成に近い形の方がよいのではないかというような意見でした。また,第20回の部会の議論では,資料49の甲案を採る場合,今回,甲案ベースですけれども,その場合には要件,効果をしっかりと絞る必要があることの指摘がかなり出ていたかと思いますが,今回御提案は,例えば急迫,緊急の場合に限定するようにはなっておらず,一般的に働き得る大きな作りになっているわけですが,要件,効果に絞りが掛けられていないように見受けられますので,引き続きここのところの工夫ができないかという意見がございました。   また,手続に関する②につきましては,これも先ほど議論しました1との対応もありますが,1の②と同じように,日時,場所のほか,工事の内容なども通知したり,土地所有者の変更提案への対応も検討してはどうかなどといった提案もありました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   引き続き承ります。いかがでしょうか。 ○今川委員 我々司法書士の中でも,先ほど弁護士の方がおっしゃったように,工事の日時及び場所と内容も通知するという規律を置くべきではないかという意見がありました。   それから,先ほど佐久間幹事がおっしゃったのですが,②であらかじめ通知をするということになっていますが,大きな工事がされる場合もありますので,そのあらかじめの期間について一定程度の規準を示すべきではないかという意見があります。それと,補足説明では,原則として土地の所有者が工事を行うべきと考えられるので,その機会を与える趣旨も含むという説明がされています。であれば,やはりそこで一定の期間というものを置くべきではないか,例えば,一定の期間内に回答してくださいというような通知を実際はすべきではないだろうかと思います。規律では単にあらかじめとしか書いてありませんので,期間も規律した方がいいのではないかという意見がありました。 ○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。こちらのいわゆる管理措置につきましては,前回申し上げた瑕疵の対象の表現の部分を含めて,今回,反映していただき,非常によいものになったのではないかと思っております。   確かに要件の絞りといった点に関しては,より要件を明確にすべきだという御意見はあるとは思うのですが,実際のところは,やはり土地に損害が及び,又は及ぶおそれがあるときは,という要件が,かなりここでは重たいというか,重要な意味を持つものになると思っていますので,そういう場面である限りは認められるべき,というか,それ以上厳格にすると,かえって予防できるものを予防できなくなるというところも懸念されるのではないかとは思っております。通知先に関しても,基本的にはきちんと土地の所有者に通知するというのが原則となっておりますし,そういった点や,管理措置が適切に採られなかったことによって起きる弊害の大きさも考えますと,これくらいの規定の方が好ましいのではないかと考えているところでございます。 ○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。 ○佐久間幹事 ありがとうございます。前回これと同様の提案が審議されたときに,私は物権的請求や占有の訴えとの関係からすると,前回の甲案,今回のこの案は適当ではないと思うと申し上げました。今回の整理は相隣関係上の規定として専ら考えるということですので,前回そう申し上げましたけれども,私はこれでもいいのかなと思っています。   ただ,物権的請求や占有の訴えが可能な状況を規定の対象とするということは変わりがないはずだと思うのです。そうだとすると,資料にも書かれていますけれども,占有の訴えは明らかと思いますが,物権的請求の内容が行為請求であるということを例えば前提といたしますと,多分それで一般的にはいいと思うのですが,そうだといたしますと,まずは普通に考えたら,行為請求がされた,物権的請求でされた,けれども相手が応じないというときに,相隣関係上の権利として発動するというか役に立つ,これはそういう規定なのだろうと思います。そうだとすると,②のところが,補足説明にも書かれていますけれども,相手に対応する機会を言わば与える役割を持っているということに私はなると思いますので,この②がその役割をきちんと果たせるようにすべきだと思います。   「あらかじめ」ということについては,先ほどの1の隣地使用権のところで,期間を明示することは難しいという大谷さんからのお答えがあって,それは分かりましたと申し上げましたが,ここもきっとそうなのだと思うので,期間は明示するのは難しいのかもしれないですけれども,どう言ったらいいのか分かりませんが,好ましいというか,本来そうすべきであるということで言えば,かちっとした期間の定めはないけれども,相手方が対応する十分な期間をもって,という意味で受け取るべきであろうと思っています。相手がそれでも対応しないということになると,①の要件は,繰り返しになりますが,物権的請求なども可能であるという状況なのであるのだから,そのことを前提として,余り詳しく書き込むことは難しいし,適当ではないのではないかと思っています。 ○山野目部会長 松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 ありがとうございます。この通知の意味に関して,先ほどの隣地使用権の場合と共通する部分かもしれませんけれども,再確認させていただきたいと思います。この通知ということについて,隣地の所有者及び使用者の何らかの回答を求めるべき性質のものなのかどうかということの再確認です。   回答,あるいは確答を求めるべき催告のような意味を持つのだとすると,やはり何か返事は必要で,通知をしたけれども何ら返事がないのに勝手に使ってしまうのはまずいということであれば,これは確答を求めるということを期待した通知であると思われます。そういうことになると,これも先ほど来,議論されておりますように,相当の期間を定めて催告をして,確答がないときには,反対しないということを擬制するのか,反対すると擬制するのかが問題になります。この場合,管理不全土地についての管理措置権ということであれば,相当期間内に確答がないときは反対をしないものと擬制をするというルール作りもあり得るかなとは思いました。いずれにしろ,この通知の法的な意味がやや曖昧なので,そこはいずれ明らかにせざるを得ないのではないかという気がいたします。   しかし,いずれにしても重要なのは,これが紛争を回避するためのルールだということです。つまり,隣人との間なのだからなるべく円満に使えるようにしたい,だからなかなかはっきり書けないという事情もあると思うのですけれども,そういう趣旨を活かして,このルールをもう少し明確に書けないかというところが重要なところだと思いますし,現在の議論の焦点なのではないかと思います。   例えば,この通知において,先ほど来出ていますように,期間とか場所だけではなくて,使用目的とか方法を書くということについて,私は賛成ですが,例えば所有者も使用者も容易に見つからないので,使用目的,方法,場所,期間を書いた看板を現場に設置し,相当期間,例えば1か月経っても何も言ってこない場合は管理措置をしうるというようなやり方では駄目なのか,あるいはそういうやり方もあり得るのかという形で,隣人との紛争を回避しつつ,しかし必要に応じてこの土地を利用していけるような,そういうルール作りができないものかと思いました。その意味で,この通知の法的な意味について少し確認したいという質問でございます。 ○大谷幹事 通知の法的な意味については,少し補足説明の中で,催告的な意味があるということ,相手方がまずは工事を行うべきであると考えられるから,その機会を与えるということを書いておりますけれども,やはりこの管理措置の工事権というのは①の要件があれば発生するし,②の通知をすればそれが適法に行使できるということになる,この意味では先ほどの隣地使用権と同じような構造かなと思っておりますので,確答を求めるというような趣旨ではないし,嫌だと言われれば,やはり同じように違法な自力救済は許されないという方向になると理解をしています。   先ほどから,隣地使用権における通知の内容とこちらの通知の内容が違うという御指摘,同じようにすべきではないかという御指摘がございました。こちらの提案の趣旨といたしましては,隣地使用権の際には自分の土地を一定の目的のために使用する際に,隣の土地を使わなければならないという場面でございますので,自分の土地で工事をする際にどの程度相手方の土地に入らなければならないのかとかいうことが自分である程度分かるということに対して,こちらの管理措置の場合には,相手方の土地の中でどこにその瑕疵があるか明確には必ずしも分からないという中で,場所等をきちんと特定して相手方に通知するのが難しいというところもあるだろうということで,そういう趣旨も含めまして,規律の内容を変えて提案をしているというところでございます。 ○山野目部会長 松尾幹事,お続けください。 ○松尾幹事 失礼しました,期間とか場所とかというのは,私は先ほどの隣地使用権の方が少しまだ頭の中に残っていて,そちらを前提に話をしてしまったので,この管理措置権に相応しい内容の通知という意味では,必ずしもこの二つの通知の内容は同じでないということについては納得いたしました。その上で,しかし,通知の法的な意味については,やはり共通の問題があるのではないかと考えています。 ○中村委員 今の②の通知について,1と同じように考えてはどうかと先ほど申し上げましたところ,今,大谷幹事から御説明があったところなのですけれども,大谷幹事の御説明自体は理解できるところなのですが,そうは言いましても,では最初に立ち入るのはいつなのか,そこで事情を把握した上で,どのぐらいの範囲,期間になるのかというようなことを,隣地に通知していくべきだろうと考えて,先ほどは申し上げました。 ○山野目部会長 佐久間幹事,どうぞ。 ○佐久間幹事 ありがとうございます。今の,何を通知するのか,隣地使用権と同じようにした方がいいのではないかということに関連するのですけれども,この原案にはありませんけれども,確か弁護士会からの御提案で,1の③については目的も書くということでしたよね,確か立入りの目的みたいなものも記してはどうかということでしたよね。 ○山野目部会長 使用方法や理由を述べて,と。 ○佐久間幹事 そうです。それで,使用方法や理由を述べるというのは,隣地使用権の場合は①で権利が発生するわけですから,その権利発生の根拠を示すということに多分なるのだと思うのです。それだけではありませんが,そういう面もあるのだと思うのです。そうだとすると,4の②の通知のところも,①が権利発生の要件で,私はそれでいいと思うのですが,その要件は何かというと,「瑕疵がある」ということが一つで,その瑕疵は,大谷さんがおっしゃったとおり,行ってみないと分からんというのはあると思うのですけれども,「自己の土地に損害が及び,又は及ぶおそれがある」というのが,もう一つ要件であって,これは自分のところで分かっていることだと思うのです。だから,私はこれを明示することにした方がいいのではないかと思っています。そうすることが結局,先ほどの私自身の発言につながってしまうのですけれども,物権的請求や占有の訴えで,本当はこの損害の除去,又は損害発生の防止を自分はしてほしいのだというときに,何をしてほしいかを求めるということをはっきりさせるという意味もあり,かつ,それが相手によって実現されないときは,自分が入っていって瑕疵を調べ,除去しますということにつながるので,そのようなことを盛り込むことは考えられるのではないかと思います。 ○山野目部会長 引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。   大体この4の管理措置について,御意見をお出しいただいたと認識してよろしゅうございますか。   そういたしましたならば,一つ前に御審議を頂きました隣地使用権について所要の見直しをして再度の提案を差し上げるに当たっては,当然のことながら,それと関連させながら整合性をとれるような仕方で,今し方御審議を頂きました4のいわゆる管理措置につきましても,改めて提案を調える必要があると感じられます。次の機会に,またそのようなものを盛り込んだ部会資料をお示しするということにいたします。   先に進みます。部会資料52の4ページでございますけれども,共有持分の放棄につきましては,現行法の規律を維持するという方向を御提示申し上げております。これについての御意見を承ります。中村委員,どうぞ。 ○中村委員 ありがとうございます。日弁連のワーキンググループでは,今回の現行法を維持するという御提案について,特段の反対はありませんでした。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   ここは特段,そのほかに御意見がなくていらっしゃると受け止めてよろしゅうございますか。   それでは,先に進むことにいたします。同じく部会資料52の5ページから第3として,所有者不明土地管理命令等についてお諮りをしているものでございます。補足説明も含めますと,部会資料の12ページの前半のところまでその話が続いてまいります。所有者不明土地管理命令等と「等」が入っている理由は,所有者不明建物管理命令も含まれているからでございます。建物についての御議論を取り立てて小分けにしてお願いする必要はないと感じられますから,所有者不明建物管理命令を含む第3の所有者不明土地管理命令等について御意見を承ることにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。 ○蓑毛幹事 範囲は12ページ前半までで,管理不全土地管理命令についての意見はその後でしょうか。 ○山野目部会長 その後でございます。 ○蓑毛幹事 分かりました。   第3の1の所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令について,日弁連のワーキンググループでは特段大きな反対はありませんでした。3点,確認とお願いがあります。   1点目は,部会資料5ページ(1)の③で,一旦所有者不明土地管理命令が発令され,取り消された場合において,再度発令されることがあると。このような発令がなされる場合として,部会資料6ページでは,供託金の還付請求の相手が特定されないために,所有者不明土地管理人を選任する必要があるということが書かれているのですが,なぜ,このような場合に所有者不明土地管理人を選任しなければならないかが分かりにくいと思いますので,説明を補足していただければと思います。   それから,2点目ですが,9ページの所有者不明土地管理人の義務についてですが,前提として(5)等で,裁判所は所有者不明土地管理人の選任・解任ができ,辞任についての判断もできるとされており,つまり,所有者不明土地管理人は裁判所の監督下に置かれるということだと思います。そこで,裁判所の監督を実効あらしめるため,裁判所は,所有者不明土地管理人に対し,報告を求めることができる旨の規定を設けてはどうか,という意見がありました。   それから,11ページ(8)の所有者不明建物管理命令について,内容に特段異存はありませんが,前回の部会でも申し上げたとおり,所有者不明土地と所有者不明建物にそれぞれ管理人を選任しようとしたときにおいて,土地と建物の所有者が違う場合に何か注意すべき点がないのかであるとか,所有者不明建物について,どういった場合に取り壊すという判断にまで至るのか,そういったことについて補足説明等で説明をして欲しいという意見がありました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。3点にわたっておっしゃっていただいた中には,質問ないし事務当局への要望が含まれていたと受け止めます。お願いいたします。 ○大谷幹事 5ページの(1)③の趣旨についてお尋ねがございました。所有者不明土地管理命令が出される場合には,土地の所有者が所在不明であるという場合と,土地の所有者が特定できないという場合,両方があり得るところです。所有者不明土地管理命令が出されて,管理人が,例えば裁判所の許可を得て土地を売却して,その売得金を供託したというときに,土地の所有者が所在不明である場合には,その所有者が出てきたときに,自分が権利者であるということで供託金の還付を受けることも比較的容易だろうと考えられる一方で,特定できない所有者,自分が所有者であるということを後で確認を求めてくるという場合には,誰を相手方として供託金の還付請求権の確認を求めればいいのかという問題が出てまいります。所有者が全く特定できないという場合であると,民事訴訟の当事者が特定できないということになりかねないところから,そういうことを避けるために管理人の選任を可能にしたという趣旨でございます。 ○山野目部会長 蓑毛幹事,いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 よく分かりました。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。蓑毛幹事からお尋ねがあった3点のうち,今の1点目については大谷幹事から説明を差し上げました。   御参考までに御案内しますと,この③は,表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律19条5項においても同様の趣旨の規律を置いているところでございまして,その見合いもあって,ここに設けることを提案しているところでございます。趣旨,内容は大谷幹事が申し上げたとおりでございまして,現実に運用していくとき,これが度々難しい問題を引き起こす局面かというと,そうではないかもしれませんけれども,規律を置いておくという趣旨で,部会資料の中に含めてございます。   それから,裁判所の監督の在り方について,9ページの管理人の義務の履践を適切ならしめることや,管理人の選解任の在り方と関連させて,蓑毛幹事から問題提起を頂いたところであります。御指摘はごもっともである側面がございますから,改めて,裁判所がこの種の管理人ないしそれに類似のものを選任する際の監督の在り方について,選解任のところの規律のみを置くか,それとも監督の規律も併せて置くかかといったところを精査した上で,考えていく必要があるであろうと感じられるところでございます。   監督の規定を置いて報告聴取とかということを入れると,裁判所の皆さんは執務の仕方が真面目ですから,いつこういう報告を取ったというのを全部つづっておかなければいけないことになります。面的,線的に監督が続いていなくてはいけないという規律にしたときの裁判所のストレスと,選解任事由があるかないかが時間的にポイントで問われたときに,そこを適正に権限を行使すればよいというふうな扱いにするのとでは,見掛けは同じようなことであっても,種々,運用の点も含めて,考え込まなければならない側面があります。蓑毛幹事から御指摘を頂いたところでありますから,改めて従前の類似法制場面との比較検討を踏まえて,検討を続けてまいりたいと考えます。 ○宮﨑関係官 今御指摘いただいた報告聴取の規律ですが,これは実は既に前の部会資料の中で取り扱っておりまして,部会資料の33になるのですけれども,具体的に言いますと18ページ目のところで,補足説明の中で取り扱ってございます。報告聴取の規律については,おっしゃったような御指摘もあり得ようかと思いますけれども,所有者不明土地の管理命令については,一定の場合には裁判所が確認を求めることが想定され,このこと自体は規律を設けるまでも明らかであるというようなことですとか,遺言執行者などほかの特定の財産のみの管理を前提とする類型の財産管理制度についても,報告聴取の規律などを設けられておりませんので,そういうこととのバランスなどを考えて,今回のような,特段それについては規律を設けないというふうな御提案を差し上げているところです。このときの部会でも,特段ここについては御異論なかったのかなとは認識しております。 ○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,引き続き今のような案内を弁護士会の先生方にお伝えいただいて,また当方でも検討いたしますけれども,御検討いただければ有り難いと思います。よろしくお願いします。   引き続き承ります。いかがでしょうか。 ○沖野委員 すみません,これも細部で申し訳ないのですけれども,10ページの報酬等について確認をさせていただきたいと思います。   ①,②では,恐らく三つのことが書かれていると思われまして,まず②の方は費用・報酬が所有者負担であるということ,したがって管理する対象の財産以外の所有者の財産も引当てにできるということと思います。それから,①の方では,管理下にある所有者不明土地等から直ちに一定のものを受けられるという点,自分の管理にある財産についてそこから出せるか,特に報酬などは出せるかという問題が,利益相反の話としてありますので,それはできることを示すものです。三つ目が,それとともに費用の前払や報酬についての額は裁判所が定めるという,この3点が書かれていると思われます。   そうしたときに,お伺いしたいことというのは,これも多分これまでに議論があったのだろうと思うのですが,フォローしいていなかったものですので,お伺いしたいのですが,費用,報酬と出ると,常に出るのが損害,管理者が過失なくして被った損害というものの填補を受けられるかという点ですが,これは受けられるということなのか,受けられないということなのか。受けられるとしたら,費用に含んでいるということなのかということを確認させていただきたいと思います。場合によっては,明確にするならば,書き出した方がいいということも考えられるものですから,御質問させていただきます。   それから,2点目は,所有者不明土地等から受けることができるという場合に,今のような損害の話も入るかということが併せて出てくるのですけれども,気になっておりますのは,費用の前払に限っている点です。費用の前払というのは多分,自分の管理下にあると,必ずしも前払という形で取り分ける必要もない局面が出てくるかと思いますけれども,信託の場合なども同じような問題が出てくるかと思いますけれども,それは措きまして,前払に代えて自分の固有財産から立て替えるという方法もあり得ると思われます。一旦立て替えて,費用の償還を受けるという局面が想定されます。ところが,ここでは所有者不明土地等,つまり管理下にある財産から直ちに受けることができるものというその対象は,費用の前払と報酬だけになっていまして,費用の償還が入っておりません。これはどういう趣旨なのかということで,もし利益相反的な要素もあり,管理者が管理下の財産からそれらを受けることができるのだということを明示するのであれば,やはりそれも書いた方がいいのではないかと思われるものですから,趣旨についてお伺いしたいと思います。 ○宮﨑関係官 1点目に頂いた損害についてなのですけれども,所有者不明土地管理人に管理の過程で発生した損害のようなことをイメージしておられるのかなと。 ○沖野委員 過失なくして受けた損害について,委任ですとか,あるいは過失なくして受けた損害に限りませんが信託の受託者などでも規律がありますので,そういうことを考えています。 ○宮﨑関係官 なるほどですね。場合によってはこの費用の中に入るというふうな解釈もあるのかなとも思っております。今回のこの規律というのは,ほかの類型の管理人などでも置かれている類似の規律の書きぶりを参考にしておりますが,そこでの解釈なども参考になるのかなと思っております。   もう1点の,管理人が立て替えた場合について,所有者不明土地等の負担にできるのかという御指摘を頂いたかと思うのですけれども,立て替えた分については,少なくともこの②の規定で,特に前払に限らず,必要な費用については所有者不明土地等の所有者の負担とするというふうな規定を置いていますので,こちらで,その立て替えた分についても所有者の財産に負担させることができるのではないかとは考えておりました。 ○沖野委員 よろしいでしょうか。そうすると,1点目ははっきりしないということだと確認をしていただいた方がいいのかなと思います。事務管理と委任とで違うかなどの話がありますし,そういう問題もあるかもしれませんので,それを踏まえて,この管理人の場合はどうかということを,少し横断的な検討も含めて明らかにしていただければいいのではないかと思います。規定上,書くのかどうかというのは,あるいはほかの制度の書きぶりとも関係してくるかと思いますので。   2点目にお答えいただいたことは,所有者の負担とするのはもう明らかというか,負担にするので,そして,その財産から取るためには,もし所有者不明土地等の財産から取るためには,やはり本来の方法である強制執行とかそういうことを掛けていくために,判決を取ってということから行くのだと思うのです。それが言わば自力救済的に,自分の管理下にあるところから取れるというのはどういう場合かというのが,他人のために財産管理を委ねられている者がそれをできるのかという問題ですので,②に含まれているので①は関係ないということには多分ならないと思いますので,①の趣旨がどういうことなのか,裁判所が定めるものに限っている,その趣旨はどうかということかと思います。場面がないということなのか,特にこのときだけということなのか。ただ,規定はあった方がいいのではないかと思うものですから,御検討いただければと思います。 ○山野目部会長 事務管理や委任に関して置かれている類似局面の規律に関わる発想や,実際の法文の文言の書き方,それから,不在者財産管理や相続財産管理に関する規律についての同様局面の書き方で,もしかすると従来の例において不ぞろいがあるかもしれません。ただいま沖野委員から御注意を頂きましたから,従来のものを精査した上で,ここの太文字の部分,すなわち法文にする想定の個所で何かを考え込んでいくか,法制上の考慮も含めて,そうはしないけれども,説明等において明らかにするよう考え方を整理するかということを再び検討してみることにいたします。ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   そうしましたならば,所有者不明土地管理命令等につきましては,本日段階の御意見を頂いたと受け止めるということにいたします。   先に進みます。12ページから後に,管理不全土地管理命令についての御議論をお願いする用意をしているところでございます。それから,管理不全建物管理命令についてのお話もここに含まれておりまして,部会資料の最後のページでございますけれども,これも取り立てて小分けにして御議論をお願いする必要はないと考えますから,この際,管理不全建物管理命令を含む広い意味での管理不全土地管理命令について,委員,幹事の皆様からの御意見を承るということにいたします。どうぞ御随意に御発言を下さい。 ○蓑毛幹事 管理不全土地管理命令と管理不全建物管理命令について,日弁連のワーキンググループは基本的に賛成で,特段大きな反対はありませんでした。その上で,4点,確認ないし質問をさせていただければと思います。   まず1点目ですが,12ページの(1)管理不全土地管理命令で,(注)に,裁判所の手続に関しては所要の規定を整備するということが書いてあります。この点に関連して,これまでの,例えば部会資料50では(注)で,この裁判をするためには,対象である土地の所有者の陳述を聴かなければならない旨の規律,あるいは裁判に対する即時抗告に関する規律を設けるということ書かれていたのですが,今回落ちています。恐らく,書き漏らしだと思いますが,この点の確認が1点目です。   2点目は,これまで申し上げていることの繰り返しになりますが,13ページの補足説明で,相当性の要件は別途掲げることはしないということが書かれています。恐らく法制上の問題であろうと理解していますが,この管理制度の発令に当たっては,必要性とは別に,所有者が対象の土地・建物を実際に利用しているか否か,あるいは,所有者の管理人選任に対する意見,そういったものも勘案しながら相当性を判断するし,後に相当性がなくなった場合は管理命令が取り消されるという,ほかの管理制度にはない特徴があります。そこで,このような特徴を具体的に要件として条文に盛り込み,相当性に関する要件として定めた方がよいという意見がありました。   3点目ですが,部会資料15ページにある,管理人が管理の妨害を受けた場合についての確認です。これは,前回の部会での議論を整理していただいてものと理解していますが,所有者が管理を妨害している場合と,占有権原のある賃借人が管理を妨害している場合,この2つの場合に分けて考え方の確認をさせていただければと思います。   まず,所有者については,部会資料13ページに,所有者が当該土地を実際に利用しているケースにおいては,仮に管理命令が発せられたとしても,管理不全土地管理人による管理を継続することが相当でないとして取り消されるということが書いてある一方で,括弧書きで,管理人が不当な妨害を受けた場合には妨害禁止を求めることができるということが書いてあります。そこで,所有者が管理命令の対象である土地または建物を実際に利用しているケースで,管理人による管理を拒絶して妨害した場合には,それが不当な妨害だといって妨害排除が認められることになるのか,それとも,管理人による管理が相当でなくなったとして,管理命令が取り消されるのかを教えて下さい。   次に,賃借人が管理の妨害をしているケースについての質問です。今回の制度の趣旨は,所有権者ができる範囲で管理をすることにあり,賃借権自体の管理制度ではないという説明がありました。そうすると,この管理人は,管理の妨害をする賃借人に対して何ができるのか。この管理人は,物の管理人ですので,賃貸借契約に基づく権利そのものは行使できないようにも思われます。また,所有権者として何かしようとしても,賃借人から,自分は賃借権を有していて,占有を排除されるいわれはないと主張された場合に,どのようにして管理人は賃借人の妨害を排除することができるのか,前回の部会でも同様の質問をしましたが,改めてこの点について御説明頂ければと思います。   4点目は,大した話ではなくて,17ページの管理不全土地管理制度における供託の制度で,この制度を設けることに特段反対ではないのですが,管理不全土地管理制度の場合は,通常は土地の所有者が分かっていますので,金銭になった場合は,土地の所有者に金銭を引き渡せばいいので,供託をする必要はないようにも思われます。そこで,ここで供託の制度を設ける趣旨について教えていただければと思います。 ○大谷幹事 ありがとうございます。4点御質問を頂きました。   一つ目の形式的な,陳述聴取などの規定は手続的に入れるのですよねと,これはそのとおりでございます。前回の部会資料50で(注)でお書きしていたような規律を設ける方向としております。   ②の相当性の要件を入れてはどうか,これも前回も議論を頂きました。相当性が必要だということについては,恐らく前回も我々の方向をそのようにお答え申し上げて,ただ,その規律の置き方として,手続的に相当性を欠いたときには取り消すというようなことがあったりし,必要性以外に相当性という文言まで必要かというと,そこまで必要はないのではないか,必要性という形で,相当であるということも読み込めるのではないかと理解をしておるところです。もちろん管理不全土地管理命令,管理不全建物管理命令独自の性質があるところでございますけれども,そのような制度の下での必要性,相当性というのは,やはり必要になってくるとは思っておりますし,相当性を欠いても発令ができるのだという意味でないことは共通の理解だと思っております。   それから,3点目の点でございますけれども,所有者との関係で,所有者本人が土地を利用しているという場合には,これは管理命令の発令が相当でないということで管理人は選任されないということを想定しています。もっとも,例えば,当初は全然利用していないで放置をしている,陳述聴取をしても何も答えないで関心を寄せないということで管理人が選任されたけれども,その後で所有者が管理を妨害してくるというようなときはどうかということを,前回の部会資料でもお書きをしていたと思いますけれども,そういう場合には,管理人の方から所有者に対して,妨害をするなという形で差止めを求めるということも,管理権侵害という形で,あり得るのではないかと考えております。いずれにしても,当初から実際に利用していて,当初から自分で管理をしようとしている方がいる場合には,管理命令が発令されないという方向ではないかと思っております。   それから,賃借人との関係,これも前回から御議論いただいている難しい問題だと思っております。管理不全土地管理人が付くという状態になっているということは,恐らくは所有者も関心を寄せずに,賃借人がどういう使い方をしているか,いろいろなケースがありそうですけれども,賃借人が非常に望ましくない使い方をして周りに迷惑を掛けているというような状態かと思います。その場合に,管理不全土地管理人が賃借人に対して何も言えないという結論になるのは望ましくない感じがいたしまして,何らかの形でその状態を是正できるようにするという解釈をすべきではないかと思っておりますが,大きく二つぐらい考え方に筋道がありそうな気がいたします。ひとつには,管理人が与えられる管理権自体に基づいて,土地に対して損害を与えるような行為をしている賃借人に対しては,その行為を防ぐような措置をとることができるという考え方,管理権そのものに基づくという考え方もありそうですし,その一方で,賃貸人として賃借人に対して一定の権利を持っているという場合には,管理人がその管理権に基づいて,土地の所有者に対して是正をすることを求めることができる,それを根拠として,賃借人に対して代位的な形で措置を求めていく,そういう両方の構成があり得るのかなと思っておりますけれども,これらも含めて,今後,検討してまいりたいと思いますし,その辺りについて御意見を賜れればと思います。 ○山野目部会長 蓑毛幹事,お続けになることがあれば,おっしゃってください。 ○蓑毛幹事 ありがとうございます。最後がよく聞き取れませんでした。所有者が賃貸人の場合には,その所有者が賃借人に対して有する権利に代位する,とおっしゃったのですか。 ○大谷幹事 はい。 ○蓑毛幹事 代位して管理人が行使するという法律構成が考えられるのではないかということですか。 ○大谷幹事 はい。 ○蓑毛幹事 分かりました。よく考えてみます。ありがとうございました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   松尾幹事,どうぞ。 ○松尾幹事 ありがとうございます。一つ確認させていただきたい点は,この管理不全土地・建物管理人が選任されたときには,所有者不明土地・建物管理人と同じように,その土地について,あるいは建物について,選任の公告がされるかどうかです。   既に議論が終わっておりますけれども,所有者不明土地管理人については,部会資料52の7ページの(2)の(注)で,管理人が選任されたときには,対象となるその土地又は共有持分について,所有者不明土地管理命令の嘱託の登記をしなければならないことになっています。これは所有者不明土地・建物管理人が選任されると,その者に土地・建物の管理権が専属するからということにもよるのだと思うのですけれども,その場合に限らずに,管理不全土地・建物管理人の場合にも,同じようにこの嘱託の登記がされるのかどうかという点の確認です。   そのことと若干絡みますけれども,これも既に議論になった点ですが,部会資料52,14ページの(2)②の第三者ないしは相手方の保護要件として,この管理不全土地・建物管理人の権限外行為の場合には,第三者保護の要件として,善意かつ過失がないということを要件にしている一方で,所有者不明土地・建物管理人が権限外行為をした場合には,善意の第三者に対抗することができないということが,7ページの(2)②に記載があって,その違いは,15ページの(2)の最後の方に説明してあるように,管理不全土地・建物管理制度の場合には,その管理権限が管理人に専属するというものではないので,やはり所有者の権利の静的安全をより配慮すべきだという理由が挙げられています。しかし,私はどちらも自分の土地・建物として管理・処分するのではなく,他人の土地・建物であることを前提に管理・処分しますので,その権限の有無・範囲について第三者は確認すべきであるという意味で,善意・無過失の第三者ということでそろえるということもあり得るのかなという感じがいたしまして,それとも絡めて確認させていただければと思います。 ○大谷幹事 管理不全土地管理人の場合には,選任された場合に登記を嘱託するということは考えておりませんので,その意味では所有者不明土地管理人の場合とは違う扱いになってまいります。   今御指摘のあった,善意なのか善意無過失なのか,第三者の保護の在り方について,これも両様の考え方があり得ようかと思いますけれども,所有者不明土地管理の場合と管理不全土地管理の場合では,所有者自身の利益を保護するべき度合いが違うのではないかということで,ここでは管理不全土地管理人の方には無過失を求めるということにいたしております。 ○山野目部会長 松尾幹事,お続けください。 ○松尾幹事 ありがとうございます。そういう公示の上での違いがあるという点については理解いたしました。その上で,そういう点に違いがあることに直結するわけではないですけれども,所有者自身の利益を保護すべき度合いが違うことから,第三者保護要件についても違ってくるということですが,管理不全土地・建物管理人の場合にも,少し気になるのは,土地や建物の管理が不適切だという意味では所有者にも少し帰責性が高くて,その価値判断としては,第三者との利益衡量は結構難しいなと思いまして,その点で所有者不明という場合と管理不全という場合を比較したときに,なかなか第三者との利益調整の問題は難しいものがあるなと感じました。一方,他人の土地・建物として管理・処分がされる点では,いずれの場合も第三者に善意・無過失を求めても重過ぎる負担ではないように思います。 ○山野目部会長 藤野委員,どうぞ。 ○藤野委員 ありがとうございます。今回,管理不全土地管理人,管理不全建物管理人の両方に規律として新たに入れられております,例えば14ページの(2)③のところですね,保存行為等を超える処分に関して,所有者が異議を述べない場合に限り,裁判所が許可をすることができるという規律について,これは管理不全土地の所有者が現に存在して明示的に争っているというような場合であれば,こういう手続を踏んだ方が当然いいだろうなと思う一方で,所有者が所在不明の土地の場合はどうなるのか,という点が気になります。今考えられている制度間の整理では,所有者の所在が不明だからといって,常に所有者不明土地管理人制度を用いなければいけないということでもなかったと思いますので,例えば管理命令を請求できる利害関係人の要件とか,あるいは疎明のやりやすさという観点から,最初から土地とか建物の所有者が分からない状態で管理不全土地建物管理制度を用いることもあると思いますし,あるいは,最初に管理命令を請求したときは所有者と連絡が取れたのだけれども,その後,行方が分からなくなって連絡できなくなったというような場合もあり得ると思います。その場合に管理人に求められる行為として特にありそうなのは,売却とかというよりは,むしろ建物を取り壊すとかそういったことではないか,と思っていますが,この場合,例えば,土地や建物の所有者が連絡が取れない状態になってしまっていたときに,これはもう所有者が積極的に異議を述べていないから,このまま裁判所と進めていいというふうな話になるのか,それとも何らかの手続を更に重ねた上でやっていくということになるのかということを,今お考えがあれば教えていただければと思います。 ○大谷幹事 そのような所有者との連絡が付かないということで,管理人の方で所有者の異議を述べる気があるかどうか確認できないということであれば,異議を述べていないということになるでしょうから,その趣旨も踏まえて,裁判所の方で適切に判断をするということになろうかと思います。 ○山野目部会長 よろしいですか。 ○藤野委員 ありがとうございます。そういうことであれば,特に何か,途中で所有者がいなくなったときは所有者不明土地・建物管理制度に切り替える方が良い,とかという話でもないわけですね。合理的に手続の中で裁判所に判断していただけるということですね。 ○大谷幹事 はい。 ○藤野委員 ありがとうございます。 ○大谷幹事 1点だけ,そういえば蓑毛幹事から4点目の供託の御質問というのにお答えするのを忘れておりました。すみません。   供託の場合,御指摘のとおり,管理不全土地管理の場合には,所有者自身がいて連絡も付くと,そして,もし異議なく建物,土地を売却することができて,その売得金ができたというときには,その所有者に対してお渡しすればいいと思われるわけですけれども,一方で,今,藤野委員が御指摘になったような,所有者がいないような場合があったりして,連絡がうまく付かないということもあり得る。供託の規律は,ものすごくよく使われることになるかどうか分からないところがありますけれども,所有者不明土地管理制度と異ならせて,あえてこちらには設けないというほどの積極的な理由もないだろうということで,供託の規律も置いておくというような趣旨でございます。 ○山野目部会長 蓑毛幹事におかれては,併せて弁護士会の先生方に御紹介いただければと思います。佐久間幹事,どうぞ。 ○佐久間幹事 ありがとうございます。14ページの(2)について,2点ございます。   1点は松尾幹事と,結論は違うのですけれども,同じような意見でして,今,藤野委員もおっしゃったことで,管理不全土地管理人と所有者不明土地管理人,建物もですけれども,は,隣接した制度といって差し支えないと思うのです。所有者不明土地管理人の方は所有者が不明のときしか使えませんけれども,管理不全土地管理人の場合は所有者が不明であってもなくても使えるということになっていると思います。その上で次に,松尾幹事が先ほど,両方の制度における所有者の責められるべき程度というのはそれほど違うのか,というふうなことをおっしゃったように思うのです。そこもそう思いまして,さらに私は,第三者から見て,専門家ばかりがこの土地管理人を相手にするのであれば,どちらがどちらというのは当然区別できるでしょうし,すべきなのかもしれませんが,土地管理人の取引相手となるのが必ずしも専門家とは限らないということを考えますと,第三者から見て,よく似た土地管理人の制度が二つあり,そのどちらかを区別しなければならないというと言いすぎかもしれませんが,どちらかによって自分の保護の在り方が違うというのは,なかなか難しい問題があると思うのです。   そこで,ここは松尾幹事と同じ考えなのですが,二つの場合で第三者保護要件はそろえておく方がいいのではないかと思っています。そろえる上で,結論は松尾幹事と違って,私は両方善意だけでいいという,前回申し上げたことですけれども,そういうふうに考えています。最後の善意か善意無過失かはともかく,両方そろえた方がいいのではないかというのが基本的に申し上げたいことの1点目です。   2点目は,③についてなのですが,これって,処分しますよというときに駄目ですと一言言えば,それで処分を見合わせてもらえるということですよね。しかし,処分をしないと事実上,所有者がまともに対応しないために管理不全状態を解消することができないというときは,結局,妨害排除とか,もう一回,別に本人相手にやれということになるのだろうと思うのですが,この制度は,それをできるだけ避けて,簡易にというと少しおかしいかもしれませんけれども,管理人を選んで,もうその人を相手にすればいいようにしましょうというものではないかと思うので,単に異議を述べただけで一切裁判所が許可を出せないというのがいいことなのかどうか,やや疑問に思っています。端的に言えば,異議こそが広い意味での管理の妨害に当たる場合だってあり得るのではないかということです。特に管理不全建物の方に行くと,これはもう壊すしかないではないかというようなことは結構あるのではないかと思うので,強い意見ではありませんけれども,これでいいのかどうか,やや疑問に思う,異議があれば,それを考慮して裁判所が許可するかしないかを決めるということにするのでよいのではないかと思うということを申し上げます。 ○山野目部会長 佐久間幹事から前段,後段とも御意見にわたる御発言を頂きました。   前段で話題提供をいただきました,相手方の方の要件がどう在るべきかということに関しましては,部会資料52で提示している方向は,所有者不明土地管理命令の場合と管理不全土地管理命令の場合とで,第三者保護の主観的要件をそれぞれに考えることにする,すなわちその帰結が同じになっていないというものを御提示しておりますが,そろえるべきではないかというお話を松尾幹事と佐久間幹事から頂いたところであります。   今後の立案の参考とするために,ここの点について何か御意見がおありでいらっしゃれば,この段階でお教えを頂きたいと望みます。民法の先生方におっしゃっていただくということを,何かあればお願いしたいですし,もちろんそのほかの委員,幹事の皆さんも含めて,感ずるところがあればお教えいただきたいと考えますけれども,いかがでしょうか。   佐久間幹事がおっしゃったように,相手方になる第三者の側から見ると,不ぞろいだと安定感がないものではないかという話もごもっともであるとも感じます。 ○水津幹事 所有者不明土地管理制度と管理不全土地管理制度とで,第三者保護要件が異なることの理由付けとして,両制度では,管理人に土地の管理処分権が専属するかどうかが異なることが挙げられています。しかし,管理人に土地の管理処分権が専属するかどうかは,土地の所有者は,管理人が選任された後も,その土地を管理処分する権限を有するかどうかという問題とかかわるものです。他方,管理人がどのような行為をする権限を有しているのかは,別途規律されます。このことについて,両制度は,管理人が保存行為等の範囲を超える行為をするときは,裁判所の許可を得なければならないという共通の規律を置いています。管理人がこの規律に反して,裁判所の許可を得なければならないとされている行為を裁判所の許可を得ないでした場合において,第三者をどのように保護すべきかが,ここでの問題です。そうであるとすると,管理人に土地の管理処分権が専属するかどうかが異なるということをもって,第三者保護要件が異なることを正当化するのは,難しいように思いました。 ○山野目部会長 水津幹事のおっしゃった御疑問の向きをよく理解することができます。   引き続き,その点について御意見を承ります。いかがでしょうか。   今,部会資料でお出ししているような差異が生ずるということで,むしろこのまま進むことでよいという御意見でも結構ですし,改良を要するという御意見でももちろんよろしゅうございますが,おありでいらっしゃれば御遠慮なく御指摘ください。いかがでしょうか。   それでは,今伺ったような点を参考にしながら,引き続きここのところをもう少し調査検討をさせていただくことにいたします。ありがとうございます。   それから,佐久間幹事からの先ほどの御発言で,後段の方でも御意見を頂いておりまして,14ページの(2)③のところに登場してくる,処分を裁判所が許すに当たっての許可を与えるかどうかを審理,判断をする際に,所有者が異議を一言述べると,その許可がもうできないことになるということでよろしいものですかという御疑問の提示がありまして,取り分け非常に荒廃した建物のような局面を考えると,そのことは現実社会的にも深刻ではないかという問題提起を頂いたところであります。   ここについて何か御意見がおありの方がいらしたら,お話を承ることにいたしますが,いかがでしょうか。 ○蓑毛幹事 日弁連のワーキングの議論では,部会資料の規律に賛成するというのが多数意見でしたが,少数意見として,佐久間幹事と同じように,一定の要件の下に,所有者が異議を述べても,③で裁判所の許可に基づき処分できるとした方がよいという意見もありました。   ただし,仮にそのような意見を容れるとしても,③の規律だけ改めるのはよくないと思います。今の規律は,対象となる不動産を比較的広くとらえる代わりに,発令の段階では,所有者がその建物に現に居住していて,管理人の選任に反対している場合には,そもそも発令されず,また,管理人がなし得るのは,原則として保存行為のみで,所有者が異議を述べると処分できないという,いわばマイルドな制度設計になっています。所有者としては,そのような仕組みになっているのだったら,管理人が選任されてもよいと思って選任に反対しないでいたところ,最後の段階では,所有者の異議があっても,管理人が処分できるというのでは,バランスを欠くと考えます。   考え方として,この制度を,所有者の意思にかかわらず,管理人が建物の取壊しも含めて行えるという,いわば激しい制度設計で作ることもできるかもしれませんが,その場合は,入り口段階から,所有者の権利保護要件を含めて検討し直し,どのようなケースで発令され,命令が維持され,処分に至るのかを考える必要があると思います。たとえば,居住者がいない空き家で,管理不全による他人の権利または利益の侵害の程度が甚大といった場合に限るであるとか。最後の処分のところだけ修正するのでなく,発令のところから,全部をどのような仕組みにするかを検討しなければならないと思います。 ○山野目部会長 処分についての所有者の異議について,蓑毛幹事からも御発言を頂きました。   ほかにいかがでしょうか。 ○今川委員 先ほどの蓑毛幹事の質問において,選任をするときに所有者の陳述を聴くという規定が入ることは理解しました。それで,(2)の③の処分に関する異議ですが,この異議に関しても具体的な手続を規定されるということだと思います。今までの議論は,所有者が単に拒絶して妨害をするというような観点から述べられています。が逆に,土地所有者にとって不意打ちになって,所有者の権利保護に欠けるということがあってはいけないという観点も重要だと思います。したがって,その具体的な手続は規定されるのか,という質問と意見です。 ○山野目部会長 非訟事件手続法において予定されている規律の概要について,御案内ください。 ○大谷幹事 当初にその陳述聴取をするというのもそうですし,この土地を売却するか,処分するかどうかということに関しても,改めて土地の所有者に対して陳述聴取をするという形を想定しております。 ○山野目部会長 今川委員,よろしゅうございますか。 ○今川委員 はい。 ○山野目部会長 ただいま御議論いただいている点について,ほかに御意見がおありでしょうか。   佐久間幹事に問題提起を頂いた事柄,(2)の③の所有者の異議に関わる点については,蓑毛幹事,今川委員から御意見をお出しいただきましてありがとうございました。引き続き検討しなければならないことであると感じます。   御参考までに,心配な点を2点申し上げますと,1点は,憲法上の疑義ですけれども,本当にその家が荒廃していて,隣地やその周辺に損害が及び,又は損害が及ぶおそれがあるということになるのであれば,この局面は,再々御確認いただいているように,物権的請求権の行使が機能として要件の上でも重複する場面です。物権的請求権が行使されてきて,こちらの土地に迷惑が掛かるから壊してくれとか,妨害が生じないような工事をしてくれということを正面から請求していくのであれば,所有権に基づく妨害排除請求権を訴訟物とする判決手続が始まって,弁論において当事者権を保障する手続が進んでいって,その結果,裁判所が必要やむを得ないと認める場合において,極端な事例にあっては,建物の取壊しを含む所用の作為を給付の訴えの判決として言い渡すということがあるかもしれませんけれども,ここの③は非訟事件手続でありまして,それでそこまで,異議があるにもかかわらず,異議はあるけれども裁判所は実際の事情を勘案して壊してよいという許可を出しますということをしたときに,財産権保障と裁判を受ける権利の保障との関係で,本当に憲法適合性の観点から,法制審査を克服することができるかということについては深刻な心配が残ります。そのことに留意しながら,ただいま御指摘いただいた点も含めて,検討を続けてまいります。   もう1点は,そのような特定の隣地などが被る損害のことなども民事の紛争としては考えていかなければなりませんけれども,そうしたサイズを超えて,さらにその地域一帯にとって,その荒廃した家屋が大変に危険な状況を呈しているということになった場合には,これは引き続き,ここの管理不全土地管理命令の機能として引き受けるべき局面もあるかもしれませんけれども,抜本的な対応は,やはり空家等対策の推進に関する特別措置法が定める特定空家の問題として,市町村が費用を負担し手続を進めるという覚悟の上で,その地域の問題を乗り越えていかなければいけない,そういう契機もございます。それらを考慮に入れた上で,管理不全土地管理命令としてやれることは,この③で今提示しているところが限界であるかもしれないという気持ちでお出ししているところではありますけれども,なお本日,御注意があり,活発な御議論を頂いたところでありますから,引き続き検討をするということにいたします。ありがとうございます。   管理不全土地管理命令の制度について,引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。よろしゅうございますか。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。大変細かい点で恐縮なのですけれども,16ページの説明のところで,管理人の訴訟遂行権限と申しますか,に関する記載に関してなのですけれども,16ページの(3)の上の二つ目の段落というのでしょうか,「また」という言葉から始まる段落に関してですけれども,管理不全土地管理人は土地の処分権を有するけれども,許可を得なければ行使することができないので,処分権があることを前提に当事者適格を認めることはできないということで,他方,裁判所の許可があれば当事者適格を有するという説明をされているかと思います。   この辺りは恐らく,法律が仮にできたとして,その後の解釈の問題ということに実際にはなるのかなと思いますけれども,私自身は結論としては,裁判所の許可があれば訴訟遂行ができるはずであるし,許可がなければ適法に訴訟遂行はできないのだろうというところは,そのとおりではないかと考えているのですけれども,許可があれば当事者適格があり,ない場合には当事者適格がないという形で,当事者適格の存否という形で理論的に説明することがよいのかどうかという点については,若干,悩ましいと感じているところがあります。   と申しますのは,この処分権を行使するのに許可が必要だというのはそのとおりなのですが,そのこと自体は所有者不明土地管理人の場合もほぼ実体権限そのものは,若干,過失の問題等,パラレルでないところもありますけれども,基本的には管理処分権があって,しかし保存行為等を超える行為については許可が必要であるという構造を同じくしておるわけですけれども,恐らく所有者不明土地管理人の場合には,別途,訴えについて原告又は被告とするということで,一応,当事者適格は一般的にあるけれども,訴え提起等の行為について更に許可が必要かどうかということが解釈上,問題になるという整理になっているのかなと思われますので,その場合とこの場合とで,どこまでパラレルになって,どこからずれてくるのかというような問題があるのかなと考えております。理論的な説明の問題ということになると思いますので,このゴシックの部分の当否等に関わるものではありませんけれども,御説明の際に,その辺りの問題についても可能な範囲で配慮していただくとよろしいのではないかと感じました。 ○山野目部会長 ありがとうございます。部会資料16ページのところで議論をお示ししている,管理不全土地管理人の訴訟遂行権の根拠付けの問題について,所有者不明土地管理人の場合における訴訟遂行との関係において,向こうでも同じなのに,少し説明が不ぞろいですよねというような問題が起こらないように,精密な説明に努めてほしいという御要望を頂きました。事務当局において,ここの補足説明の改良に努めることにいたします。ありがとうございます。   引き続き御意見を承ります。いかがでしょうか。   管理不全土地管理命令について,御意見を承ったと受け止めてよろしゅうございますか。   それでは,本日は部会資料52を用意いたしまして,その中身について順次御審議を頂いたところでございます。本日の審議をここまでといたします。   次回の会議等につきまして,事務当局から案内を差し上げます。 ○大谷幹事 本日もありがとうございました。次回の議事日程について御連絡をいたします。   次回の日程は,2週間後,12月15日火曜日,午後1時から,また終了時間未定という形ですけれども,この法務省地下1階の大会議室ということになります。   取り上げるテーマといたしましては,不動産登記法の見直しの関係,それから,いわゆる土地所有権の放棄に関する提案の関係を取り上げたいと思いますし,また,今日,引き続き検討するという部分もございましたので,必要に応じてそちらも取り上げさせていただければと思っております。 ○山野目部会長 次回の第23回会議についての御案内を差し上げました。その点も含めて,この際,部会の運営などにつきまして,委員,幹事からお尋ねや御意見がありますれば承ります。いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,本日も熱心な御審議を頂きましたことに御礼を申し上げます。これをもちまして,民法・不動産登記法部会の第22回会議をお開きといたします。   どうもありがとうございました。 -了-