性犯罪に関する刑事法検討会 (第9回) 第1 日 時  令和2年12月8日(火)  自 午前10時01分                       至 午後 0時39分 第2 場 所  東京地検1531会議室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方について 2 いわゆる性交同意年齢の在り方について 3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第9回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 本日は,お忙しいところ御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   和田委員におかれては,所用のため遅れて出席される予定です。   初めに,お配りしている資料につきまして,事務当局から確認をお願いします。 ○岡田参事官 本日,議事次第及び配布資料59,「意見要旨集(第6回会議分まで)」をお配りしております。本日お配りした意見要旨集は,本日御議論いただく論点についての,一巡目の検討における委員の皆様の御意見を整理して記載したものを,一まとめにしたものであり,第1回会合前に書面で御提出いただいた御意見のほか,第1の「3」と「4」については第5回会合まで,第1の「5」については第6回会合までに述べられた御意見を抽出した上で,分類・整理しております。これらのほかに,山本委員からの提出資料,前回配布後に新たに団体から法務省に寄せられた要望書をお配りしております。また,配布資料12「検討すべき論点」についても再度お配りしております。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,まず,意見要旨集の「3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」のうち,「(3) 被害者の年齢を問わず,行為者が被害者の脆弱性,被害者との地位の優劣・関係性などを利用して行った行為について,当罰性が認められる場合を類型化し,新たな罪を創設すべきか」,そして,「(4) 同一被害者に対して継続的に性的行為が行われた場合において,個々の行為の具体的な日時・場所を特定しなくても,個々の行為を包括する一連の事実について1個の犯罪の成立を認めることができるような罪を創設すべきか」について議論を行い,次いで,一巡目の検討では議論を行わなかった,配布資料12の「検討すべき論点」の第1の「3」の四つ目の「○」,すなわち,「一定の年齢未満の者に対し,性的行為や児童ポルノの対象とすることを目的として行われるいわゆるグルーミング行為を処罰する規定を創設すべきか」について議論し,その後,意見要旨集の「4 いわゆる性交同意年齢の在り方」,そして,「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」について,議論することとしたいと思います。   本日も,基本的にこの意見要旨集に沿って議論を進めることで,議論の繰り返しを避け,一巡目よりも更に突っ込んだ議論を意見のかみ合う形で行うことを目指したいと思います。前回も申し上げたところでございますけれども,時間に制限がありますので,できるだけ多くの委員の方に御発言いただけるよう,意見要旨集にあるこれまでの御意見を支持していただくとか,重複を避けていただくとか,以前表明された御意見との関連性を明確にしていただきながら御発言いただけますと,効率的な議論ができるのではないかと考えております。   また,これも特にお願いしたいことなのですけれども,被害の実態についての御指摘はもちろん大変重要なのですが,既にかなりお伺いしたということもありますし,本検討会の最終的なゴールを意識して,そろそろ,条文化するときの要件をどうするのかといった議論に比重を移していきたいと思います。その際,関連する規定との整合性であるとか,規定の明確性であるとか,あるいは,そういう要件を規定したときに立証の点でどういう問題が生じるかといった点についても御配慮いただいた上で御発言いただければ幸いでございます。   早速,「地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方」についての検討に入ります。この論点については,まず,意見要旨集2ページの第1の3の「(3) 被害者の年齢を問わず,行為者が被害者の脆弱性,被害者との地位の優劣・関係性などを利用して行った行為について,当罰性が認められる場合を類型化し,新たな罪を創設すべきか」という項目について議論をしたいと思います。   この項目については,一巡目の検討では,意見要旨集1ページの「(1)」にありますように,「① 地位・関係性を利用した被害の実態」,それから,「② 監護者性交等罪では処罰されない被害」という観点から総論的な御意見を頂くとともに,「(2)」にあるように,「① 子供の被害の実態」,それから,「② 被害者の同意の有無を問わない新たな処罰類型を設けることの要否・当否」という観点から,関連する項目に関する御意見を頂いております。また,特にこの項目に関する御意見として,2ページの「(3)」に記載されている御意見を頂いているところです。   さらに,前回の第8回会合でも,この点に関連する,あるいは,この点に言及する御意見も表明されたところです。それらの御意見の中から少し抽出してみますと,例えば,教員については,親と同様に子供の生活をかなり支配しているので,青少年の保護という側面も含めて刑法で保護すべきであるという御意見がありました。また,教師,コーチ,施設の職員,きょうだい,祖父母,おじ,おばなどとの関わりの濃淡には様々なものがあり,その影響力の程度は被害者の年齢に応じても変わり得るのではないかと思われるという御意見もありました。さらに,教師の生徒に対する性的行為については,早期に加害者を発見して懲戒解雇の対象とし,教育現場に戻さない措置を採って再被害を防止することの方が重要ではないかという御意見も頂いたところであります。   御発言いただくに当たっては,これまで出された御意見とどう関わるのかや,どのような観点からの御意見であるのかを明示していただいた上で,他の論点と関わる場合には,その点についても御指摘いただいた上で御発言いただきたいと思います。   それでは,御意見のある方は,御発言をお願いします。 ○山本委員 意見要旨集の第1の3の「(3)」の三つ目の「○」の後見人,教師,指導者などなのですけれども,これだと地位・関係性の上位にある者の地位しか明示されていないように思えまして,例えば,教師同士でもいじめなどがありますが,この場合の地位・関係性は,上位者と下位者,すなわち,教師・指導者と生徒,雇用者と被雇用者,上司と部下,施設職員と通所者・入所者などかと思います。そのような明示がなくても皆様が理解可能なのかは分からないのですが,私はそういう明示があった方がよいと思いました。また,障害がある人は,健常者の3倍被害に遭いやすいというデータも海外で出ていますけれども,施設職員と障害者の間の被害というのはかなり頻繁に起こっていますし,明示できるのではないかと思います。施設職員と障害者というような規定が追加であってもいいかと思いました。 ○井田座長 分かりました。この意見要旨集の補充あるいは明確化という御趣旨でよろしいですか。 ○山本委員 はい,入れていただければと。よろしくお願いします。 ○橋爪委員 ただ今御指摘がありました被害者に障害があることに着目した規定を設けるべきかという問題につきまして,意見を申し上げたいと存じます。   障害を有する方が自由な意思決定ができない状況に付け込んで性的被害を与える行為は極めて卑劣な行為であり,これを性犯罪として処罰する必要性が高いことは当然であろうと思います。実際,現行法においても被害者に重度の障害がある場合には,準強制性交等罪の心神喪失や抗拒不能の要件に該当し,同罪によって処罰されているものと承知しております。もっとも,このような場合を超えて,被害者が障害を有することを根拠として,一律に処罰規定を設けることは,結論において適当ではないと考えます。   障害と申しましても,その程度や種類は多様ですので,全ての障害について一律に処罰の根拠とすることは適当ではありませんし,また,障害の内容や程度を問わず,障害を有する方との性行為全てを処罰するのでは,かえって障害者の性的自由を不当に制約するおそれがあり,問題があるように思います。更に申しますと,自由な意思決定や抵抗が困難となるような重大な障害の程度や内容を具体的かつ明確に規定するというのも,障害の内容が極めて多様であることに鑑みると,現実的ではないように思われます。   ここでは,一律の判断ではなく,具体的な事例ごとの個別の判断が不可欠であり,例えば,被害者の障害の程度や内容,行為者と被害者の関係性,被害者の意思決定に対する影響力などの具体的な事情に基づいて,被害者の自由な意思決定が困難な状況にあったか否かを個別の事案ごとに検討することが絶対に必要であると考えます。その意味では,現行法のように心神喪失や抗拒不能の要件に該当するか否かによって処罰の可否を決するというのは,基本的に適切な方向性であるように思います。   恐らく,障害を根拠とする処罰規定を設けるべきという御主張の背景には,心神喪失や抗拒不能の要件が具体的ではなく,障害を有することがこれに該当するか否かが明確にされていないという御懸念があるものと思われます。このような疑問を解消するためには,心神喪失,抗拒不能の要件解釈を明確化することによって,その適用の可否を安定化させることが重要であると考えます。   第8回の検討会の際ですが,私は強制性交等罪について,被害者の自由な意思決定を困難にすることを要求した上で,その行為態様を具体的に列挙するという選択肢があると申し上げました。このような理解を準強制性交等罪についても敷えんするのであれば,例えば,抗拒不能性を根拠付ける具体的な事情を例示列挙することも可能であり,その一類型として,被害者の重大な障害に付け込む行為などを規定することもあり得るように思われます。 ○井田座長 今,橋爪委員から,被害者が障害を有する場合について具体的な御意見を頂きました。この点は大変重要な論点ですので,他の委員の皆様にも,この点に関連する御意見をお伺いしたいと思います。 ○小西委員 基本的には今の橋爪委員の御意見に賛同するものです。障害はゼロ,百で決まるものではありませんし,被害に至る要因についても,そもそも事件があっても何が行われているか分からないというレベルもあれば,例えば発達障害を含むコミュニケーションの障害では,非常にだまされやすいというような側面もあったりして,本当に様々です。身体障害のある方も当然障害は様々です。そういう意味では,これは一つの被害者の脆弱性の要因にもなる,それから,被害者との地位の優劣関係にも影響を与えるということをどこかに記載した上で,個別に判断できるように,要件としては明確化していただきたいのだけれども,ゼロ,百にならないようにやっていただくというのを私は希望します。   具体的な例示の中で,先ほど,施設職員というのをおっしゃったのですけれども,これも監護者ということと類似していると考えますと,入居施設の職員と障害者というような関係性が入ってくるかと思いますが,実は教員というものと同じように考えていくと,フルタイムで通所しているような障害のある方とそこの指導職員というような関係性も同等であると考えられると思うので,この施設職員というのも様々であることを考慮して,そういうところまで入ってくるような形にしていただければというふうに思っております。 ○井田座長 今の橋爪委員と小西委員の御意見を総合すると,被害者に障害があるという場合,障害の種類や程度等が様々であるため,年齢のようにかちっとした類型化は難しく,むしろ178条の要件を具体化していく中で,当罰的な場合を組み込むことができるような規定を考えていくべきだということになるかと思います。それに対しては反対であると,むしろ独立の規定を設けるべきなのだと,この領域に固有の問題があるのだという御意見はありますでしょうか。 ○上谷委員 私も,確かに障害者というのは定義が難しいと思ってはいるのですけれども,多分,山本委員がおっしゃったのは,施設職員であれば,そこに通っている人たちは相当重度の障害があるのだろうという前提でおっしゃられたような気がします。障害者に限らず,三つ目の「○」に挙げられているような,雇用者とか上司とか指導者による地位・関係性を利用した性暴力というのはすごく多くて,私が相談を受けている肌感覚でいうと,そういった類型が一番多く,しかも,全て不起訴になっているという実感があります。   ですので,今の178条もそのままでいいとは思っていませんけれども,やはり優越的地位とか関係性を利用したというくくりの新しい規定を創設していただきたいと思っています。もし,関係性が列挙できないのであれば,優越的な地位を利用したというような,少し抽象的な概念にならざるを得ないのかもしれません。そうするとどうしても解釈が入ってきますが,いずれにしても,そこの関係性については,どのような規定にしても,解釈が入ってくるところだと思いますので,そういった観点からも検討していただけたらなと思います。 ○井田座長 上谷委員にお伺いしたいのですが,橋爪委員がおっしゃったように178条の要件を明確化した場合に,それでも178条に該当せず,どうしても処罰できない,非常に不当であるという事例として,どういう例があるか,少し教えていただけますか。 ○上谷委員 178条にどういうものを列挙するかという,そこの文言にもよるかと思うのですけれども,例えば,雇用先とか,取引先とか,大人になってからの先輩というのは,地位がその人にあるというだけで,大体,女性側は抵抗がほぼできていない,客観的状況からすれば明らかに女性は嫌がっているだろうと思われるけれども,男性の「黙っているから合意だと思いました」という抗弁が通ってしまうというケースがとても多いです。そういうケースを178条で心的抗拒不能ということで拾えるのかというと,非常に疑問があると思います。 ○井田座長 障害を持った被害者の問題に限らないという話ですか。 ○上谷委員 はい。 ○小島委員 障害がある場合について,地位・関係性利用の一類型として,被害が生じやすい場,特に施設内の職員と障害者の関係について,地位・関係性を利用した犯罪として類型化していくことに意義があるのではないかと考えています。確かに177条,178条でカバーできるという御意見もあるかと思いますけれども,被害が生じやすい場に着目して,地位・関係性利用型の一類型として条文に載せる意味があるのではないかと考えております。 ○井田座長 それは,現行の177条又は178条で処罰できるか,できないかということよりも,条文にはっきり書いた方が良いという趣旨ですか。 ○小島委員 明示しておく方が良いのではないかという趣旨でございます。 ○齋藤委員 基本的に橋爪委員,小西委員の御意見に賛成なのですけれども,障害の程度について,障害には幅があり,グレーゾーンの方の被害までを捉えていただきたいと思っています。グレーゾーンを捉えるためには178条に何らかの言葉を追加するということがいいのではないかと考えています。どのような言葉が良いかはまだ分かりませんが,障害という言葉を明示することと,障害というものは利用されやすいものである,そこに脆弱性が関わっているのだということが分かるように,言葉を考えていただければと思っております。 ○山本委員 例えば知的障害があるような方でIQ70ぐらいの方だと,やはり路上で声を掛けられて被害に遭うということがよくあります。ナンパという形態で接触されて,この子は少し判断力に問題がある子だということが分かると,付け込まれて被害を受けるということは,被害者支援の現場で非常によく起こっていることです。齋藤委員がおっしゃったように,障害を明示し,脆弱性があるということを178条に明示すると,障害に乗じたということで,救えるかもしれないと思います。ただ,施設職員と入所者という関係でしたら,やはり施設職員がそういうことをしてはいけないということを明示するとともに,入所したり,ショートステイでお泊まりしているときに施設職員からわいせつ行為や性交の被害を受けた本人や家族が,これは被害なのだと認識し,声を上げやすくなることもあるので,両方で捕捉して,二重にカバーしていただければと思っています。 ○宮田委員 障害者が脆弱で被害に遭いやすい類型としては,今,正に山本委員がおっしゃったように,ナンパされる,売春などに誘引されるといった施設の外のものと,施設の中のものがあります。施設といっても,小西委員御指摘のとおり,様々な施設があり,介護が主のものと,リハビリテーションや作業などの教育が主のものがあります。そういう意味で,障害者の被害,障害者の施設,入所ということだけでも,定義がなかなか難しいという問題があります。橋爪委員がおっしゃった抗拒不能の中で考えていくという考え方に加えて,そこからこぼれ落ちそうなものがもしもあるとすれば,障害者の問題については,障害者虐待防止法があります。障害者の性的な虐待というのは虐待の中でも最もひどいものです。障害者の尊厳を守る,障害者虐待防止法などの法律の方の充実も考えなければならないと思っています。 ○池田委員 脆弱性が問題となる類型として,ほかに,前回の議論とも若干重なるのですけれども,若年者を対象とする場合があります。被害者が一定の年齢未満であるということは,やはり類型的にその立場が弱いということを示す事情だと思われます。前回は,およそ不同意といえるような地位・関係性を要件化するのは難しいという意見を申し上げたのですけれども,地位・関係性に加えて,意思決定への働きかけや影響を及ぼしたことをも併せたものとして要件化するという方向性も考えられるのではないかと思います。   先ほど申し上げたような意味で,若年者は類型的にその立場が弱く,判断能力等がないわけでもないが低いために,一定の影響力を有する者からの働きかけに対しては適切な判断や拒絶等の行動を取ることが困難な場合があり,そのために,通常の大人であれば意思決定の自由を奪うほどではない働きかけであっても,その対処能力が低いために自由な意思決定によらない性交等が行われる類型といえるのではないかと思います。このような行為には当罰性があると考えられ,およそ不同意という地位・関係性を要件化することは難しいとしても,成人を念頭に置いた抗拒不能の規定とは別に,ここでいうところの「(3)」の下から二つ目の「○」と重なるかと思いますけれども,一定の地位・関係性に加えて,行為態様や意思決定に対する影響があったことを要件とする類型として処罰規定を設けることが考えられます。   その場合に課題となるのは,どのような地位・関係性を対象とすべきか,特に年少者,若年者の場合は被害者の年齢を何歳未満とすべきか,追加するべき行為態様や手段の要件をどのように規定するべきかといったことについて,178条の準強制性交等罪における抗拒不能の要件の在り方との関係や,いわゆる性交同意年齢を何歳未満とすべきかといった他の論点との関係を踏まえながら検討する必要があるように思います。   なお,以上述べたところとは若干方向性が異なるのですけれども,一つの考え方として,若年者であって判断能力が不十分であり,更に一定の影響力を及ぼされたことによる同意であったけれども,性交同意年齢に達している以上は,その同意には類型的に瑕疵があるとは言えても,およそ無効として扱うことにもならないという考え方も成り立ち得るように思います。だからといって,そういった瑕疵ある同意に基づく法益侵害がおよそ当罰性に欠けるということにも直ちにはならないと思いますけれども,同意が完全に無効とされる場合と同列ではない類型として位置付ける可能性もあり得るように思います。 ○井田座長 池田委員の御意見は,若年者を対象とする場合について,177条,178条とは別の独立した新しい規定が必要ではないかという御意見と承りました。一定の年齢未満の若年者の被害者について,加害者との間で一定の上下関係,従属関係があるような場合に,そのことを前提として,任意の意思により同意された場合を排除するような一定の具体的な要件を加えて,一つの新しい類型とする。ちょうど現行の児童福祉法の「児童に淫行をさせる行為」の処罰規定が対象としているような状況だと思うのですけれども,そういう部分について新しい規定が必要ではないか,こういう御意見だったと思います。   この点も大変重要な御示唆だと思いますので,この点についても是非御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○佐藤委員 その点に関係しまして,私の考えですと,表面上相手が同意しているように見えるのだけれども,上下関係,あるいは状況の利用に基づいて実際は抵抗できないような状況で意思に反して性的行為が行われたような場合の処罰というのは,177条とか178条において,可能にするべきだというふうに思っています。少なくとも現行法では解釈的にできるとされていますし,裁判例もあります。今回の改正ではそれを明確にして,揺るぎないものにするということが目指されているというふうに理解しています。   そうすると,177条,178条とは別個に,新たに地位・関係性利用の条文を作ることでどういうものが処罰されるようになるのかを考えると,177条,178条では処罰できないような,実際の事案において,抵抗できないほどではないのだけれども,あるいは,そういう証明ができないのだけれども,このような関係性ではおよそ意思に反して性的行為を押し付けられたと考えてもいい,という類型だと思われます。この点で,行為客体が未成年者の場合,未成年者は判断能力が未熟ですので,客体がそもそも脆弱であるということを前提にして,何らかの手段あるいは地位・関係性があるということをプラスして,実際には,被害者がその状況で比較的容易に性的行為を拒絶できたとしても,その行為を押し付けられたというふうに考えていいですよねという条文が,最も作りやすいのではないかと思います。   これに対して,被害者が成人の場合は,脆弱性がないので少し難しくなって,関係性だけで処罰しますよと言ってしまうと,むしろこの関係性で性的行為はやめましょうという社会倫理的な規範になってしまう恐れがあるのではないかと思います。それを避けるためには,もう少し実質を見る必要があって,その場合に比較的厳格な行為手段を入れたりとか,あるいは,177条,178条に任せたりとか,そういうふうな工夫が必要になるのではないかと思われます。   いずれにせよ,地位・関係性利用の条文を作ろうとする際には,177条,178条が定めた状況以外で,脆弱な未成年者を特別に保護するという規定が,最も考えられる,考えるべき類型ではないかというふうに思います。 ○井田座長 池田委員と同じ方向の御意見だったというふうに承りました。 ○小西委員 法的な論点なので,なかなか私には難しいところですけれども,子供が被害者の場合は,性交同意年齢の話も絡んできて,一つにお話ができない状況だとは思いますが,結局,被害者の脆弱性が非常に表に出てくる場合と,地位・関係性の要素が表に出てくる場合とで,二つ立てた方がいいのか,あるいは一つでいいのかという御議論のように理解しています。そうだとしたら,二つ要因があるのであれば両方欲しいというのが私の意見です。どちらもやはりあり得る,典型的なケースがあり得るからということです。 ○宮田委員 今,脆弱性のある未成年という類型について,池田委員の御発言があったわけですけれども,18歳が成人で婚姻も可能であれば,婚姻の前からの交際も認められることになると思います。婚姻については,年齢差は問題にはならない。また,先生と生徒,部活などの指導者と指導を受ける学生という関係を考えた場合に,例えば塾の先生,部活の先輩,家庭教師というような類型では,大学生の指導者の方もいらっしゃいます。そのような年齢差であれば,恋愛関係になる場合もあります。民法の改正で,18歳が成人になってしまうので,大学生はおよそ成人なのです。そうすると地位のある成人との関係がおよそ禁止されるということに不合理を感じてしまいます。   また,177条,178条の性交には,性交をさせる行為が含まれてくる。そうすると,10代の中学生,高校生ぐらいの男子,そのぐらいの歳の男子という意味で,就職している子なども含みますけれども,そういう子供たちは,一般的に女子よりも性的興味が非常に強い。そういう男子が同意の下で成人女性と関係を持った場合に,その成人女性が処罰されてしまうとすれば,それは不当だと感じます。   そうすると,男性は被害者にならないとするのか。しかし,それは177条,178条の被害者に男性を含めたという趣旨には反してくる気もします。完全ではないとしても性的な自己決定の能力はあり,ある程度性的な興味に対して近付いていくことも一つの権利であるという面を考えると,立法で,地位・関係性を定めるといっても技術的に非常に難しい問題をはらんでいるように思われます。   18歳未満の方との性的行為,絶対的な性交同意年齢よりも上で未成年という方たちの性的行為については,海外でも処罰はかなり軽く,スウェーデンでは,養育責任がある者が性交した場合であっても2年以上6年以下の拘禁刑であるという資料も頂戴しております。そういう意味では,未成年の類型を作るとしても,どのような刑にしなければならないのかも含めて考えていく必要があるのではないでしょうか。 ○木村委員 先ほど池田委員,あるいは佐藤委員がおっしゃっていたことに基本的には賛成で,やはり一定の類型をくくり出すべきだというふうに思います。先ほどから御指摘があるように,178条では必ずしもカバーし切れていないのですね。解釈でできるかというと,不可能ではないのだと思うのですけれども,なかなかそれが実現していないという現実があるので,やはりくくり出す必要はあるだろうというふうに思います。   その際のくくり出し方なのですけれども,先ほど佐藤委員がおっしゃったように,脆弱性があることが重要なポイントになると思いますので,例えばですけれども,被害者が義務教育下にあるような場合ですね,そのような限定をある程度最初は付けなければいけないかとは思うのですけれども,そのように,いわゆる監護者をくくり出したのと同じように,明らかに問題性が大きいというものについてくくり出すというのは,一つの方法かと思います。 ○小島委員 未成年者について,池田委員や木村委員がおっしゃったような形で,被害をくくり出すということについては全く異存がございません。ただ,先ほど,未成年者については脆弱性が肯定できるけれども,成人については脆弱性という観点はいかがなものかという御意見がございましたので,その点について,雇用上における地位・関係性利用型について論点を出したいと思います。職場における性的被害というのが非常に深刻になっております。皆様御承知かと思いますが,とあるジャーナリストの方が自分の雇用上の地位を利用して,性交の強要をしたり,性交には至らない身体接触をしたということで,去年の年末来,ジャーナリズムで取り上げられておりまして,職務上の地位・関係を利用して行われたということを検討委員会が検証しております。   学校とか職場とか施設とか,そういう閉ざされた政治空間,すなわち,権力が支配する領域の中で,なかなか拒絶の意思を表し得ない。性的要求を拒めば職場を追われるのではないか,仕事も続けられないのではないかと考え,明確に拒絶の意思を示せないような状況にある場合,177条とか178条に威迫とか偽計といった要件を追加して,処罰すればいいではないかという考え方があります。しかし,職場における性被害等が集中して問題になっているこの現状に対して,刑事法として応えていかなければいけないのではないか,というのが私の考えでございます。そして,被害が集中して不同意性交が起きやすい場として,職場とか学校とか施設があり,そういう場で上下関係を利用・濫用して性的行為を行った場合については,成人についても,やはり性犯罪としていくべきだと考えております。   条文をどうするのかという点ですが,例えば,「地位・関係性を利用・濫用し」とする。そうした場合,職場の上司・部下になったら全部が性犯罪になるのかという御批判があると思いますけれども,それに対しては,列挙をした上で,「地位・関係性を利用・濫用し」というような構成要件でやむを得ないのではないかと思っております。あとは解釈に委ねていくことになるのかもしれませんけれども,この問題について是非対処をお願いしたいと考えております。 ○齋藤委員 池田委員,佐藤委員の御意見に異論があるわけではございませんが,成人と未成年を分けた場合に,先ほどから問題になっている障害の問題がありまして,成人でも未成年と同程度の知的能力,認知能力しかないというような方々に関して,どのようにお考えなのかということを確認したく思っています。 ○上谷委員 私は,小島委員が言われたことに趣旨として非常に賛成なのですけれども,雇用先で,例えば母子家庭であって,その会社を絶対に辞められない人が狙われたりとか,会社の機密に関わることがあるので人に聞かれたら困るからといって密室に呼ばれて,仕事の話をしようと言われて襲われたというようなケースはあるわけで,そういったケースは,これまで177条とか178条では全然救われていません。私は,正直に言って,今の177条とか178条の運用の在り方に対して不信感があるというか,何も拾ってくれないのだなという気持ちがありまして,そこにどこまで書き込むかという場合に,例えば脆弱性というところだけに着目して,未成年者ですとか障害がある人というのではなくて,大人であってもそういった立場に置かれれば,表面上は同意ができる状況にあるように一見見えたとしても,そうではないのだという,やはり優越的な地位の濫用とかそういったことを入れないと,多数起こっている性暴力を救うことにはならないなと思っています。結局,大人の社会人で働いている女性であれば,そこで明確に嫌だと言って,これまでみたいに全身の力を振り絞って抵抗しなさいというのと同じ話になってしまうのではないかという気がとてもします。そういう立場にある人はきちんと自分で断って逃げなさいとか,そういう話ではなくて,きちんと手当てをしてほしいと思っています。条文の立て方とか列挙の仕方とか,その考え方については,小島委員と大体同じです。 ○金杉委員 先ほどの地位・関係性という点について意見を申し上げます。   小島委員や上谷委員がおっしゃったような当罰性が高い類型について,密室の職場等において明確に拒否の意思が表示できないという状況において,本当に自己決定権が侵害されているにもかかわらず,処罰がされないという問題意識は共通して持っています。   ただ,その反面,そういったシチュエーションでも,例えば女性,男性,どちらでもそうなのですが,立場が弱い側からの働きかけ,積極的な同意というものがないのかと言われると,一律におよそあり得ないとしてしまうのは,やはり危険だと思います。そして,仮に新しく作られた類型で地位・関係性を利用したとして起訴され,その被告人が,「いや,向こうから働きかけられたのだ。」という主張をした場合,およそそれがあり得ないというふうにされてしまって,働きかけがあったということを主張したくても,基本的には恋愛の最初の時期なので,録音・録画しているとか,一筆書かせていることは想定できないわけです。その場合に,被害者とされる側からの積極的な働きかけが本当になされたにもかかわらず,その立証ができないがゆえに犯罪になってしまう,有罪になってしまうということは容易に考えられます。一般的にその部分というのは,同意していると思っていた,あるいは,あっちから誘ってきたのだということが,典型的な勘違いというか,そういうこと自体が許せないという考え自体もよく分かるのですけれども,真に処罰されるべきではない,積極的に被害者の側から働きかけて性行為等に至ったけれども,例えば期待した利益が得られないということで意思に反していたのだと言い出す,そういうケースについてまで一律に処罰する規定を設けるということについては,やはり抵抗があります。 ○井田座長 いろいろと御意見お伺いしてきましたが,時間の関係がございますので,この辺りで一区切りとしたいと思います。   議論をお伺いしていて,三つのグループの議論がありそうだと思いました。一つ目のグループは,被害者に障害がある場合に,これを178条で対応するか,外に出すべきかという議論です。二つ目のグループは,性交同意年齢はクリアしている,その少し上ぐらいの年齢層について独立の規定を設けるべきではないかという議論です。三つ目のグループは,それ以外に,年齢に関わりない,会社の上司,取引相手,雇用者等々との関係で何らかの規定が必要なのではないかという議論であったかと思います。これらの三つのグループについて御意見をお伺いしたということで,次の項目にまいりたいと思います。   意見要旨集3ページの第1の3の「(4)」,すなわち,「同一被害者に対して継続的に性的行為が行われた場合において,個々の行為の具体的な日時・場所を特定しなくても,個々の行為を包括する一連の事実について1個の犯罪の成立を認めることができるような罪を創設すべきか」についての議論に移らせていただければと思います。この項目については,一巡目の検討で,意見要旨集の3ページ及び4ページにありますように,「① 現行法の解釈による対処の可否」,「② 新たな罪の創設の要否・当否」,「③ 新たな罪を創設する上での実体法上の検討課題」,「④ 新たな罪を創設する上での手続法上の検討課題」という観点から御意見を頂いておりますほか,4ページに「⑤ その他」としてありますように,罰則の新設以外の方法により対処した方がよいのではないかという観点からの御意見も頂いているところでございます。   先ほどと同じように,どのような観点からの御意見であるかを明示した上で御発言いただきたいと思います。取り分け,要件論といいますか,そういう点について御発言いただければ幸いでございます。 ○渡邊委員 (4)の「②」の一つ目の「○」と四つ目の「○」について,実務の実情を御説明したいと思います。   まず前提として,一つ目の「○」に,日時が特定されていないということでこの種の同一被害者に対して継続的に性加害が行われているようなケースについて,訴追が困難であるというような御指摘がございます。ただ,実務の実情としましては,例えば何月上旬頃,あるいは何月頃といったような日時の特定で起訴する例もございまして,ぎりぎりと日時が特定できないから起訴できないということではございませんで,以前,中川委員がおっしゃいましたように,他の事実と識別できるかどうか,そういう観点からの日時の特定ができているかというところがまず問題になっています。   私ども捜査官,あるいは公判で立証する者として,こういった同一被害者に対して継続的に性加害が行われているようなケースについて非常に苦慮しますのは,ほかの事実等との識別ができているのかという点でございます。継続的に被害を受けているために,被害者自身,ほかの事実との識別がはっきりできないような場合に,裁判でその被害者の供述の信用性がし烈に争われるということが予想されるわけです。つまり,被害者の記憶として,ほかの事実と区別できなかったときに,実際にその被害者の方がどんな被害に遭ったのかということについて,合理的疑いを超える程度に立証ができるのかということが問題になるわけです。性犯罪は,通常,密室で行われ,加害者と被害者が一対一になりますし,また,傷害罪のように何か結果が目に見えて残るということでもないということもございまして,供述の信用性が専ら争点になります。そういう意味で,被害者の方の記憶に従うと,ほかの事実との区別が難しいような場合には,例えばその被害が強制性交等なのか,あるいは強制わいせつなのかといったレベルでも問題になりますし,致傷結果との因果関係があるのかないのかとか,そういったところも,検察官に立証責任が全てある関係で問題になるおそれがあります。   もちろん,こういった継続的な被害の案件でも,例えばメール等でその被害がある程度分かるといった場合には,現状でも一生懸命捜査をして,訴追をして立証していくということになろうかと思います。そういった辺りが実情でございます。 ○井田座長 現行法の下でも,今,渡邊委員が詳しく御説明くださったような,それだけの立証ができれば,併合罪として処罰可能だということですけれども,現行の下で立証が難しい,できないという事案について,うまく全部を処罰の対象とすることができるというような規定がそもそも考えられるものかどうか,その辺りを少し御説明いただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○橋爪委員 手続法の問題に入る前に,言わばその前提として,実体法の観点から,1点意見を申し上げておきたいと存じます。継続的な性的行為について,個々の行為の具体的な日時や場所を特定しなくても,全体を包括した一罪を法定できるかという問題につきましては,実体法の問題としましても,複数の犯罪を包括して一罪と評価できるかという観点から検討することが必要であると思いますので,まずはこの観点から意見を申し上げます。   この点につきましては,既に一巡目のときも申し上げまして,私の意見は,3ページの「①」でまとめていただいておりますが,改めまして,性犯罪固有の事情に即しまして,包括一罪としての処理の当否について意見を申し上げたいと存じます。   既に一巡目のときに申し上げましたように,複数の犯罪行為を包括的に評価した一罪として処理するためには,原則として,同一の意思決定による行為であり,かつ同一の被害者に対する法益侵害であることが必要であると解されます。この点,性犯罪につきましては,仮に継続的な性被害が生じている場合であっても,1回ごとの性犯罪は,その都度,別個の意思決定によって行われている場合が多いと思われます。   もっとも,近時の最高裁判例は,継続的な暴行の事案について,意思決定の一回性に言及することなく,同一の人間関係を背景として共通の動機から繰り返し犯意を生じ,暴行を反復累行した事件について,傷害罪の包括一罪の成立を肯定しておりますので,このような判例の理解を前提とした場合,性犯罪についても,取り分け監護者性交等罪のように,同一の人間関係を前提とした上で,同一被害者に対して,共通の動機から性犯罪を反復累行した場合については,個別の行為の日時・場所,行為態様などを立証しなくても,全体を包括一罪として処理することは現行法においても可能であり,また,このような観点から新たな罰則を設けることも理論的には可能であるようにも思われます。   もっとも,恐らくこれまでの実務においては,同一の関係性を前提とした性犯罪であっても,性犯罪を包括評価することは困難であり,個別の性犯罪ごとに立証し,併合罪として処理すべきというのが一般的な理解であったと承知しております。そこでは,性犯罪というのは個別の行為ごとの侵害性が重大であり,また,その都度,被害者は別の内容の被害を被ることから,個別の行為の個性を抽象化して包括的に評価することが困難であるという感覚が実務的には一般的であったように思われます。   したがいまして,この点につきましては,性犯罪の法益侵害の実質をどのように考えるべきかという点とも関連付けながら,複数の性被害の包括評価の可否,あるいはその限界について,更に検討することが有益であると考えます。 ○川出委員 ただ今の橋爪委員の御意見を踏まえて,先ほど井田座長が御質問された点について考えてみますと,同一被害者に対して継続的に性的行為が行われた場合について,それらの行為を一罪と評価することが,実体法の理論として正当化でき,かつ,個々の性的行為を相互に識別するかたちで特定することはできないけれども,継続的に性的行為が行われたことについては合理的な疑いを超える立証ができる事案があるということであれば,現在は処罰ができていない事案を処罰できるようにする規定を設けることは可能であろうと思います。   その上で,まず,最初の実体法の問題ですが,橋爪委員から御紹介があった傷害罪に関する最高裁判例において一罪性を認めるにあたって指摘されているのは,行為の一体性と被害法益の一体性ですので,そうだとすれば,例えば,監護者から被監護者に対して一定期間にわたって継続的な性的行為が行われたという事案も,同一被害者に対する同種行為が繰り返し行われているものですから,これを包括一罪として処理することは可能であろうと思います。もっとも,これまでの実務は,おそらくは橋爪委員から御指摘のあったような考え方に基づき,併合罪として処理してきたのでしょうが,私自身は,判例の考え方は性犯罪についても妥当するのではないかと考えます。   ただ,このように,継続的に行われた性的行為について既存の判例の考え方によって一罪性が基礎付けられる場合があるのだとすれば,そのような事案について包括一罪として処理することは,新たな罪を創設しなくても,現行法の下で解釈として可能だということになります。したがって,立証の緩和だけが目的であるならば,あえて新たな罪を創設する必要はなく,継続的に行われた性的行為について,解釈上,包括一罪が成立し得ることを確認した上で,個々の事案において,継続的に行われた複数の性的行為が相互に識別できる形で特定できるかどうかによって,検察官が併合罪として起訴するのか,それとも包括一罪として起訴するかを決めるという運用を行うことで足りるはずです。   もちろん,言わば確認的な意味で新たな罪を創設するということはあり得るわけですが,仮にそういう罪を設けたとしますと,継続的に行われた複数の性的行為が他と識別できる形で特定できる場合であっても,その罪が成立し,これまでのように併合罪として処理することはできないという解釈が生じる余地があります。そうした場合,創設される新たな罪の法定刑が単純一罪の場合と同じであると,かえって処断刑が軽くなってしまうことになり妥当ではありませんので,新たな罪を創設して,現在,併合罪として処理される事案を含めて,それを適用するということであれば,その法定刑は,少なくとも現行法の強制性交等罪とか監護者性交等罪の法定刑に併合罪加重をしたもの以上にする必要があります。   継続的な性的行為というのは単回の行為とは質の異なる,より悪質重大な被害を生じさせるものですので,単回の場合よりも法定刑を重くすることはもちろん,単なる複数回の行為で併合罪加重がされる場合よりも重い法定刑にすることも十分考えられると思います。他方で,現在はこのような事案で複数回の行為が起訴されている場合には,併合罪加重をした枠内で,同種行為を繰り返していたということを情状として考慮した上で,相応に重い量刑がなされているのだと思います。そうだとしますと,新しい罪の法定刑については,併合罪加重をした場合よりも重い刑とする必要性があるのかという観点からも検討する必要があると思います。   それから,法定刑とは別に,新たな罪の具体的な規定の仕方ですが,これについては,現行法の常習犯ですとか営業犯の規定が参考になろうかと思います。もっとも,現行法上の常習犯や営業犯についての実務上の訴因の構成や立証の実情を見ますと,少なくとも1個の事実については,具体的場面を描写し得る程度の立証が必要であるというふうに考えられているようです。なぜそのような運用になっているかが問題なのですが,もしそれが,少なくとも1個の事実について,具体的場面を描写し得る程度の立証ができない場合については,全体としての犯罪事実の存在について合理的疑いを超える立証がそもそもできないという理由によるものだとすれば,性犯罪について同様の規定を設けたとしても,そもそもの出発点であった立証の困難性という問題は解決できないということになります。したがって,理論上新たな罪を設けることが正当化できるかということとは別に,意見要旨集の3ページの「②」の最後の「○」に示されているように,こうした立証ができる場合が本当にあるのかを検討する必要があるだろうと思います。実務上はこれまで全て併合罪として処理してきたということなので,恐らくこうした観点からの検討はされていなかったと思うのですが,立証の緩和ということも目的の一つとして新たな罪を創設するということであれば,その検討が不可欠であると考えます。   ○井田座長 なかなか要約は難しいのですけれども,新しい規定を作ったとしても,立証の軽減になるかどうかというのは難しいといいますか,なお検討が必要であるという御趣旨かと伺いました。また,新しい規定を作って刑を重くすることは可能だけれども,現行法で強制性交等罪の併合罪の場合,上限が懲役30年までいきますので,それ以上となると上限を無期懲役とするかという話になります。こうした法定刑の引上げの要否・当否,また,そのための要件が問題となるということだと私は理解いたしました。   できれば今の点に関連して,新しい規定の必要性という観点から御発言いただきたいのですけれども,いかがですか。 ○小西委員 併合罪で十分に対処できるのではないかという御意見というふうに伺ったのですけれども,実際には性的虐待のケースなどは100回以上被害があるということも全くまれではないわけです。今,100回以上あることが全部きちんと起訴状に載っているかというと,全く載っていないことの方が多いわけで,それだけで十分といえるかというのは非常に疑問があると思います。処罰されているケースでも,全体の被害の中のごく一部分ということが多いわけです。   包括一罪という形で処理することに御参考になるかと思って申し上げるのですけれども,医学的,心理学的には,世界保健機構(WHO)の国際疾病分類(ICD-11)の中では,繰り返し起こるトラウマ体験,特にこういう子供の虐待で繰り返し起こるものに関しては,複雑性PTSDという新たな診断基準を設け,そういうトラウマ体験に対して一つの診断を作るという形で変更が行われています。被害という点で,被害者の方の体験としてどうかということを考えれば,これは当然,包括的に考えないと,本人が受けた被害全般に対して対応できるものではないということを御参考に申し上げておきたいと思います。 ○齋藤委員 私も小西委員とほとんど同じなのですけれども,包括一罪として処理するという案が今ありますが,記憶のことを考えると,確かに適切だと思っております。橋爪委員が,個性を抽象化して包括的に評価することが困難であるという感覚が現場にあるのではということを仰っていましたが,性的虐待は正に何度も繰り返されるので,個々の行為の個性が溶けていきまして,本人が識別するということは大変困難になるということがあります。 ○井田座長 ちなみに,包括一罪と併合罪というのは現行法の解釈でいうと,包括一罪の方が処断刑が軽くなってしまうのですね。併合罪の方はぐっと重くできるということがありますので,実務が併合罪にしているのは,それも一つの理由ではないかと思っております。 ○和田委員 私は,継続的な一連の行為全体を対象にした新たな罪を設けて法定刑を重くするという案は十分にあり得ると考えています。その際には,保護法益の問題と時効の問題の二つがポイントになると思います。一つ目の保護法益との関係では,性犯罪の保護法益を性的自由と考えますと,単回の行為がそれぞれの時点で自由を侵害する,それが複数回重なっていくという見方になって,併合罪として処理していくというのが自然になるかもしれませんけれども,性犯罪の保護法益を人格的統合性,あるいは性的尊厳と考えるのであれば,複数回の行為によって,その保護法益がより重大に害されていくという包括的な見方が自然になっていくのではないかと思います。そのように考える場合には,継続的な行為を処罰対象にする犯罪類型においては,単回の行為を処罰対象にする類型よりも法定刑の上限を重くして,強制性交等罪であればその上限を無期懲役とすることを視野に入れることが十分にあり得ると考えるところです。   もう一つ,それぞれの行為を個別に処罰対象にして併合罪処理するのは,それぞれの行為が処罰可能であることが前提ですけれども,時効にかかる行為については,当然処罰範囲から外れることになります。これに対して,全体を継続的な一連の行為として処罰対象にする場合は,その開始の時点が幾ら古くても,全体がつながっていれば,最終行為が時効にかかっていない限りは全体を処罰対象にすることができると思いますので,これは時効を延長するのであれば消える論点ではありますが,そのような問題も検討に値するのではないかと考える次第です。 ○宮田委員 傷害罪の包括一罪と性犯罪を果たして同じに考えられるのかという問題について述ベます。傷害罪については,傷害の結果と,傷害の結果を生じさせるであろう暴行の因果関係が相当程度はある。しかも,傷害を発生させる暴行の期間というのもそれほど長いものではない。性犯罪の被害の場合には,数か月,場合によっては数年に及ぶ非常に長いものも存在します。恐らく被害者の方や被害者の支援をされている方々は,そのような非常に長いスパンをお考えだと思います。しかしながら,そうなってくると,先ほどの包括一罪の判例の射程が本当に性犯罪に及ぼされてもいいのかという問題は生じてくるように思います。   また,常習犯などについて,1個は具体的な行為を必要としているのは,やはり何らかの行為が審判対象として切り出せることが必要だという考え方があると思います。先ほど検察の起訴実務についてのお話であったように,ある程度の幅を持った場所や日時であっても起訴は可能である,しかも併合罪としての重い処罰は可能であるということになります。そういう意味で,このような規定をあえて作らなければならないのかに,私は疑問を持っています。   また,繰り返しそういう被害が起きることでの精神的な被害については,一つの性的な被害が立証できたならば,そことの因果関係にある傷害結果と評価して強制性交等致傷罪で処罰する可能性もあり得ますし,あるいは,継続的にそのような加害が行われてきたということを,刑を重くする量刑要素として考慮することは十分に可能なのではないかと考えています。   そういう意味で,立証するのも防御するのも,この包括的な罪を作ることにはかなり問題が起きてくるのではないかと考えます。 ○金杉委員 2点申し上げます。1点目は,まず保護法益等の関係です。先ほどの橋爪委員の御指摘と重複するのですけれども,例えば同一被害者,同一加害者の間の性交渉であっても,このときには気分が乗らなかったから真の同意はしていないけれども,このときについては同意をしていたということが観念できるわけです。そうすると,やはり基本的には一つ一つの行為について検討する必要があるだろうと思います。そういう意味で,包括一罪等を考えるのであれば,同意等が観念できない,それこそ監護者性交等のように一定の意思決定や人間関係に基づいて継続,反復して行為が行われるという場合になるのだろうと思います。   2点目は,その場合ですけれども,例えば監護者性交等の場合を念頭に置きますけれども,継続して反復して行われた犯罪行為について,個別にどの日時かということを特定できないとしても,それが犯罪行為,そういう性的な行為が行われたということそのものの立証のハードルを下げていいということにはならないことはもちろんです。立証の緩和というのは,飽くまで個別の日時が特定できないということについてであるべきです。しかし,「②」の四つ目の「○」のところに書いてあることなのですけれども,日時・場所の特定は困難だけれども,継続的な性的行為が行われたこと自体が確実に立証できるという事案が本当にあるのかという疑問があります。例えば,1回については何か動画が残っているということであれば,それを核にして立証すればいいわけで,こういう場合というのは,本当に何も特定する手掛かりがなくて,性的行為を行ったということは被害者が一貫して述べているだけというような事案だと思います。   基本的に,その被害者供述の信用性ということになるわけですけれども,そのときに,やはり個別の,いつ頃行われたということがなければ,例えば,被害者がそういう行為をされたと述べている時期には,家に来客が1週間滞在していて,隣の部屋にいて,そういうことがあり得ないとか,被告人側としては具体的な日時・場所を手掛かりに,被害者が述べている供述が信用できないということを反証していくということになるわけですが,そういったことが一切許されなくなる。とにかく日時・場所を全く特定できないけれども,反復継続して行われたのだということが立証可能なのかどうかということは,慎重に考えるべきだと思います。   立証のハードルを下げるという観点からの,日時・場所が特定できない場合についても包括一罪で犯罪を形成することになるということに,刑事弁護の観点からは,慎重に判断していただきたいという反対の意見です。 ○山本委員 少なくとも1個は特定して立証する必要があるというときに,被害当事者がどういう記憶を持っているのかということを考慮に入れていただければと思うのですけれども,繰り返し性的な虐待を受けた人の海馬は,複数の調査で5%から15%縮小しているというふうにいわれています。そのように,虐待経験者は記憶の保持,そして記銘力,ワーキングメモリーの機能にやはり問題を抱えているということが多い。ですから,被害を受けたということは分かっているけれども,それがどういう日時,どういう場所で起きたのかということを明らかにすることが非常に難しいということを考えて,包括的なものにしていただければと思っています。もし,1個特定して立証できるのであれば良いと思いますし,もしそれが難しい場合には,被害に遭ったにもかかわらず,何一つ救えない,司法の中で認められないということがあってはいけないと思いますので,包括するというような形で救っていただければと望みます。   もう1点なのですけれども,例えば,最初にレイプがあって,それから,これは愛だと言い含められたり,「おまえがかわいいからしているのだよ」などと言って,恋愛だと洗脳させることは,起こり得ることです。最初にレイプがあり,被害のダメージで自己決定権が失われている状態であるときに,その後に同意のように見える性行為があったとしても,被害の後なので同意があったとは,なかなかいえないと思います。   また,監護者の場合なのですけれども,親等からの性交等であっても,被害者が18歳以上の場合には,監護者性交等罪に問うことはできません。しかし,18歳未満の時から繰り返し被害を受けたことによって,もはや抵抗できない状態になり,25歳とか30歳まで,被害を受け続けているということはあります。過去の10年,20年の被害を包括一罪で捉えられるのか,についても教えていただきたいと思います。 ○井田座長 ほかに御意見ございますか。新しい規定を設けて,立証の困難さのハードルを下げることができるのかという問題について,それが仮にできなくても,刑の加重の観点から,そういう規定を設けることが考えられるという御意見もあったように思われます。 ○橋爪委員 先ほど小西委員から御指摘がありましたように,例えば継続的な性的虐待によってPTSDを発症する場合ですけれども,現行法でも,仮に複数の性行為を包括一罪とできる場合には,複数の性行為の集積によってPTSDを発症した場合については,監護者性交等致傷罪の成立を肯定した上で,181条2項に従って加重処罰が可能となります。この場合には,現行法を前提としても,無期懲役での処罰が可能となりますので,その点,付言いたします。 ○井田座長 それでは,この論点につきましても,ひとまず御意見をお伺いできましたので,このぐらいといたしまして,開会からかなり時間も経過しましたので,ここで10分休憩したいと思います。 (休     憩) ○井田座長 会議を再開したいと思います。   ここからは,一巡目の検討では議論を行わなかった項目について,議論を行いたいと思います。   配布資料12の「検討すべき論点」の第1の「3」の四つ目の「○」,すなわち,いわゆるグルーミング行為を処罰する規定を設けるべきかについて議論したいと思います。   まず,事務当局から,主にこの論点に関連する資料である配布資料59について説明をお願いしたいと思います。 ○岡田参事官 資料59について御説明いたします。資料59は,諸外国の法制に関する資料であり,イギリス及びドイツのいわゆるグルーミング行為に関する処罰規定を抜粋し,法務省において仮訳したものです。   例えば,イギリスでは,1ページの第15条にあるとおり,18歳以上の者が,16歳未満の児童と事前に会い,又は連絡を取った後,当該児童に対して,レイプ罪等の関係犯罪の遂行を伴う何らかの行為を行う意図を有して故意に会う行為などを処罰する規定,2ページの第15A条にあるとおり,18歳以上の者が,16歳未満の児童に対し,性的満足を得る目的で故意に性的な連絡を取る行為を処罰する規定などが置かれており,ドイツでは,4ページの第176条第4項第3号にあるとおり,14歳未満の子供に対し,行為者との性的行為を行わせるため,文章,情報,コミュニケーション技術を用いて影響を及ぼす行為を処罰対象とする規定などが置かれています。   御説明は以上でございます。 ○井田座長 今の説明について,何か御質問はございますでしょうか。 (一同,発言なし) ○井田座長 それでは,議論を行いたいと思います。御意見のある方は,お願いします。 ○山本委員 グルーミング自体が聞き慣れない言葉なので,少し説明し,事例を挙げさせていただきたいと思います。グルーミングは,被害者本人が性的に虐待されているという事実さえ認識できない恐ろしい犯罪と言われています。単回のレイプ被害と異なる点として,手なずけと洗脳操作という独特の加害者戦略があります。加害者は子供に寄り添いながら近付き,日頃から子供の愚痴を聞くなど,味方を演じるところから関係性が始まり,少しずつ性的な話題に持ち込みます。その後,性虐待の犯行に至り,子供の罪悪感や羞恥心などを利用し,子供を手なずける行為といわれています。   このグルーミング被害を受けた方の許可を頂いたので,読み上げさせていただければと思います。14歳当時,中学3年生になってから通い始めた塾の教師から,君はほかの子とは全然違うね,頭が良くて大人と対等に話せるよ,かわいいね,特別だ,というような言葉が掛けられるようになりました。一流大学の学生で,みんなのお兄さん的な立ち位置の明るい人気教師であったということです。特別に勉強を教えてあげるという名目で,教師から自宅に呼び出されるようになり,最初は複数人で呼ばれていたのですけれども,回数を重ねるごとにだんだん人数が減っていき,3人から2人になり,気が付いたときには被害者一人になったという形で,被害が起こりました。突然の被害に混乱して,自分よりも年上の男性に逆らえず,塾講師は巧妙に,「これは恋愛だけれども,こういう関係は余りほかの人には言えないと分かっているよね」というふうに言い含めたということです。内心はすごい恐怖を感じていたのですけれども,その後も,呼び出されては性的な行為をされ続け,受けていた行為を恋愛だというふうに思い込むようにした。こんなことはよくあることなのだ,自分が先生の家に来てしまったから自己責任なのだ,先生が言うように,既に大人の恋愛らしき行為ができるのだと14歳の子供なりに必死に頭を働かせて,自分を納得させて,わい小化しようとあがいていたと伝えていただきました。この後,数年間にわたり教師との関係が続き,教師が転居したことで終わったということですが,その後,精神的に不安定になって,心療内科に通うようになり,ずっと生きづらさを抱えていたと語られていました。#MeToo運動や,教師からの性被害を訴えた方の報道があって,これが性暴力だったのだと気付いたということなのですけれども,もしそういうことがなかったら,今でも性的虐待に遭っていたことに気付かなかったとも言われていました。   アメリカ法曹協会のグルーミングの定義としては,標的を絞り込んで,接近手段を確保し,被害者を孤立,隔離させ,被害者からの信頼を得て,その関係性をコントロールし,隠蔽する。この方は対面というか,リアルでしたけれども,インターネット経由で何百人もの児童に接し,そして児童を勧誘しておびき出すということが実際に起こっています。このような,被害者本人すら気付きづらく,そして,膨大な被害者を出していく被害に対して,よく理解する必要があると思います。接触のプロセスから始まり,会ったときにはもう加害が仕掛けられ行われる,性的な接触が行われたり搾取が行われるという可能性が非常に高い。現実に被害は起こっているし,継続することにより,より搾取されていき,被害を受けた児童は心身ともに有害な影響を受けるということを加味して,グルーミングという行為について法的な規制を掛けていただければと望んでいるところです。 ○井田座長 大変貴重な情報提供をありがとうございました。 ○齋藤委員 山本委員の説明に少し補足しますと,大きくグルーミングには,オンライングルーミングと,リアルで近しい関係からのグルーミングと,それほど近しくない人からのグルーミングというのに分けられるのかなと思います。一つ目の類型は,SNSなどで徐々に子供の信頼を得て,実際に会う約束をしたり,画像や動画を送らせて性交に及ぶであるとかがあります。二つ目の類型は,近しい関係の人が肩もみとか,膝に乗せるとか,マッサージといった行為から入って,徐々に体を触っていって断りにくくしていくであるとかが存在します。三つ目の類型である近しくない人であれば,公園などで声を掛けて徐々に親しくなっていくなどがあります。   私は,子供が大人に好意とか信頼を持つこと自体は別によいことだと思うのですけれども,大人が子供の好意や信頼を利用してわいせつ行為をするということは駄目だろうと考えています。規定を創設すべきかという点について,グルーミングそれ自体を罰するかどうかについては,結論としての賛否は留保しますが,山本委員も言っていましたけれども,わいせつ行為や強制的な性交等が行われたときに,最初の手なずけのところから捜査機関に理解していただきたいと思っていますし,加害者のグルーミングのプロセスを適切に評価していただきたいと思っています。それが今後,より具体的に検討される177条とか178条で捉えられるようになると良いのですが,グルーミングは16歳,17歳の子供たちももちろん同様で,子供たちは誰かに認められたい欲求というのが利用されやすいため,それを捕捉できる法律,それを理解した上で捜査上の判断をしていただけるようになってほしいと思っております。 ○井田座長 現行法上,強制性交等罪は,予備は処罰されていませんけれども,刑の同じ強盗罪についても予備があるわけだから,当然,強制性交等罪にも予備を作るべきだ,こういう御意見などもあるかもしれませんが,特に法律関係の委員の方の中で何か御意見はございますでしょうか。 ○佐藤委員 予備の話ではないのですけれども,まず1点,資料59についてなのですが,イギリス法の15A条は,恐らくグルーミングに分類されるものではなくて,児童と性的なコミュニケーションをする罪ということで,また別罪のものだと思われます。ドイツ法だと176条4項4号に児童と性的なコミュニケーションをする罪がありまして,これはグルーミングとは別罪で,こういう罪が要るかどうかについては,また別個考える必要があると思います。その上で,グルーミング自体につきましてはドイツ法は176条4項3号,イギリス法では15条が参考になるかと思います。   グルーミングは私の研究テーマの一つですので,ここで必要だと言ってしまうと,研究テーマだからだろうと言われそうですし,要らないと言ってしまうと,研究テーマの否定になってしまうので,結論は留保したいのですけれども,仮に作るとした場合に,イギリス法とドイツ法がちょうど資料59にありますので,作り方によってかなり処罰の方向性が違ってくるという意見を言わせていただければと思います。   詳細につきましては,先日,成文堂から公刊された「性犯罪規定の比較法研究」の54ページ,あるいは306ページにあるのですけれども,それぞれの条文の特徴がありまして,イギリスは,グルーミングをした後に,なおこのグルーミングというのは性的な語りかけである必要はなくて,単にお友達みたいに仲良くなることで子供と偽りの信頼関係を築くことでいいのですが,そのグルーミングの後に性的な行為をする目的で子供と実際に会う行為,会う準備をする行為などが処罰の対象になっています。これは,グルーミングそのものではなく,目的とされている性的な虐待にかなり近いところまできて初めて処罰ができる条文になっています。   これに対しまして,ドイツではグルーミングそのものが処罰対象になっていまして,端的に言うと,児童に性的な虐待行為を行う目的でネット等でその児童とコンタクトを取れば,それでもう処罰されるというふうな規定になっています。   ドイツはかなり早めに処罰時期を設定していますので,こちらの方が犯罪予防効果が期待できるのではないかと思われるかもしれませんが,実は実効性がない規定だと言われていました。それは,ただチャットで連絡をしている段階で性的虐待目的を証明するのがかなり厳しいことが理由でして,いわゆるシンボル立法,こういう行為はやめてくれというふうに社会にアピールする立法だと言われています。このシンボル立法の問題点は,これで実際には処罰できないことが分かると,もはやシンボルにもならないということにありまして,どんどんこの規定の意味は失われていったかと思われます。   これに対してイギリスは,比較的処罰時期を後ろの方にずらしていますので,会うときに,例えばポケットにコンドームが入っていたとか,あるいは,かばんの中に潤滑油が入っていたとか,そういうことで性的な虐待目的を立証することができることになります。この条文形態だとそれなりに実効性があるので,ある程度処罰ができる規定になっています。   これが基本的なドイツ法とイギリス法の作りの違いです。ただ,更に一点補足したいのは,先ほど,ドイツはシンボル立法だと言ったのですけれども,実は,つい最近の改正で,1か所改正することで非常に使い勝手のいい条文になりました。つまり,グルーミング規定の一部の未遂を処罰するという条文がプラスされまして,簡単に言うと,行為者が子供にグルーミングをしているつもりだったのだけれども,実は相手が大人だったという場合でも,未遂犯として処罰しますという規定が新たに挿入されました。これによって何ができるようになったかというと,おとり捜査で警察官が行為者とかに働きかけて,それに返事が返ってきて,会おうとしているというときに,やり取りの中で上手に性的な目的も引き出せますから,そのまま潜在的な犯罪者を逮捕するという使い方ができるようになりました。これによって,昔は全然使えなかったものが,かなり有用な一般予防のできる条文になると言われています。   このようにグルーミング規定を作る場合には,どういう規定にするのかが重要になるかと思います。ほとんど処罰できないのだけれども,やめてねというふうなメッセージを送るためにグルーミングそのものを規制するか,あるいは,処罰の時期を実際の加害行為の直前まで我慢して,ある程度実効性のある規定にするか,あるいは,現行のドイツ法のように,基本的におとり捜査で捕まえるための条文に,これが日本で許されるかどうかは分かりませんが,するかとか,いろいろな選択肢があって,そこは決定しなければいけない問題なのではないか思っております。 ○井田座長 御専門の見地から大変詳細な興味深い情報を頂きました。 ○宮田委員 今の佐藤委員のお話には,考えていなかったこともありました。   グルーミング行為を考えるについて,例えば,チャットなどで呼び出して子供が監禁される事件等も起きております。監禁とか未成年者誘拐,あるいはわいせつの目的の誘拐の未遂となる場合もあるかもしれませんが,事案によってはそれよりも更に前の行為になる。そうすると,先ほど井田座長が正におっしゃった予備行為ということになるわけです。殺人罪や強盗罪には予備罪があり,確かに殺人罪や強盗罪と強制性交等罪の刑が下限5年という点では同じだといえるかもしれませんけれども,グルーミング行為の目的は性的行為であっても,強制性交等に向けられたものとは限らない,強制わいせつ目的である可能性もある。強制わいせつの予備なのか強制性交等の予備なのかというのは外形的には見分けがつきません。   そもそも声を掛けるだけ,連絡をしただけということであると,子供に対して違法な行為をしようとしているのか,単に声を掛け,連絡しようとしているのかとの区別がつかず,やはりその定型性には問題があるように思われます。正に最初に山本委員が御紹介になった事案は,本当に子供に勉強を教えてあげたいと思っている若い先生の行為と,このような悪い心を持っている人の行為というのが,外形的には区別がつかない。性的な行為が起こって初めて分かる。グルーミング行為が見つかるのは,性的な犯罪をした人が,そういえばあの人はほかの子供たちにも声を掛けていたねというように,あるいは,自分が被害に遭ってしまったというときに事後的に,そういえばそういう行為があったということなのではないかと思われます。   それならば,そのような行為がある,ほかの人にもたくさん声を掛けていた,この子にも手なずけを行っていたということが,例えば178条の抗拒不能の状況を作り出すことについて非常に悪質だというように,情状として取り扱われることは十分に可能となりますし,性的な犯罪をすることに計画性があったという裏付けにも間接事実として使えるようにも思います。   さらに,性的な満足を得るための連絡のようなものについては,今,いわゆる自撮りに関しての条例であるとか,児童ポルノ法で児童ポルノの製造,送信をさせた場合の処罰,あるいは,児童売春のあっせん,すなわち,子供に性的な行為をさせることをあっせんするために子供に連絡を取ることが処罰されている,このように様々な条文などもあります。このような法令をどの程度活用できるのかなどについても十分な検討が必要なのではないかと思います。 ○和田委員 今,佐藤委員,宮田委員にそれぞれ御指摘いただいた点はごもっともだと思います。予備罪を作るという可能性は理論的にあり得ると思いますけれども,実際どれほど適用可能なのかという点については,かなり限界があるのではないかと思いますし,作るとすれば,やはり強制性交等の罪を犯す目的の場合に限定することになると思います。予備罪を作る意味を考えてみますと,実際に適用する必要がある場面があるというよりは,強制性交等の罪が殺人や強盗よりも格段に軽い犯罪として扱われているわけではないということを象徴的に示すという意味がメインになるのではないかと思います。その意味で,シンボル的な立法にならざるを得ないのではないかというふうに感じる次第です。 ○橋爪委員 私からも,宮田委員の御意見に即して1点申し上げますけれども,現実に適用し得るかどうかはおくとしましても,罰則を設ける以上は刑法理論の観点から正当化できるかという観点からの検討が不可欠です。刑法の一般的な理解を申し上げるならば,法益侵害又はその危険性を惹起したことが処罰の根拠とされることから,法益侵害の危険性が認められない行為を処罰することは正当化できません。そして,法益侵害の危険性というのは本人の主観的意思,目的だけによって根拠付けられるものではなく,客観的な行為態様それ自体が一定の危険性を有することが必要であると解されます。   イギリスやドイツのグルーミングの処罰規定は,基本的に目的犯の構造を採用しており,一定の目的の下,客観的な実行行為を行うことを要求しています。このような目的犯におきましても,法益侵害の危険性が必要であることについては変わりがありません。   現行法で申し上げますと,例えば通貨偽造罪は行使の目的をもって通貨を偽造する行為を処罰しております。ここでは,行使の目的の下,通貨を偽造する行為が,偽造通貨が社会に流通し通貨に対する信頼を損なう危険性を有することに着目して偽造行為を処罰対象にしておりますが,この場合でも行使の目的という主観面だけが危険性を根拠付けているわけではなく,通貨を偽造するという客観的な行為それ自体が危険な行為であることから,これが処罰の前提となっていると解されます。   このような一般的な理解からグルーミング行為の処罰の可否を検討した場合,子供と仲良くしたり面会を求める行為については,もちろん,それが一定の危険性を徴表する場合もあると思いますが,それ自体が常に客観的に性的な危険性をはらむわけではないようにも思われます。そして,このように客観的には十分な危険性を示しておらず,価値中立的な行為を,行為者の主観的な目的を根拠として処罰対象にするということは,結局のところ行為者の主観面だけを根拠に処罰することになりかねず,理論的には正当化が困難であるようにも思われます。仮にグルーミング行為を処罰する場合でも,その場合には行為態様それ自体が客観的・外形的にも性犯罪の危険性を示していると評価できる場合に限定する必要があるように思われます。   また,グルーミング行為の処罰におきましては,行為者が一定の働きかけを行ったが子供がこれを無視した,あるいは,そもそも行為者の働きかけを認識していないような場合をどのように評価すべきかが問題となります。性犯罪に対する危険性を重視する観点からは,子供が一定の反応や応答をするなどして性犯罪に対する危険性が高まったことを要求するべきであるようにも思われます。この点,ドイツ刑法176条4項3号が子供に影響を及ぼすことを要求している点も参考になるように思います。 ○井田座長 かなり踏み込んだ御意見を頂いたと思います。 ○金杉委員 先ほど宮田委員,橋爪委員がおっしゃったことと同様なのですけれども,本来正当な行為が違法な目的を有しているということによって処罰されるという規定の在り方には,やはり反対です。これは,ともすれば内心を処罰するということになりかねません。先ほどの佐藤委員の御指摘のように,例えば,実際に子供に会ったときにポケットの中にコンドームであるとかジェルが入っていたというような場合であれば分かるのですけれども,この目的というのが,規定が設けられた以上,後から分かったということではなくて,例えば性犯罪の前科前歴を有する方に対して,このグルーミングの処罰規定だけで逮捕されるということがあり得ると思います。その場合に,内心あるいは過去そういう性犯罪の前科前歴のある方について保安処分的に働くという危険性も十分考えられますので,慎重に御判断いただきたいと思います。 ○木村委員 確かに今の御指摘のように,正当な行為が目的だけで処罰されるというのは非常に慎重な検討が必要だと思うのですけれども,以前にも弁護士の委員の方からお話があったかと思いますが,SNSなどを見ると非常に危険な書き込みなどが氾濫しているという状況があるかと思います。ですから,それをグルーミングと呼ぶかどうかは別の問題があるかもしれませんが,そういった書き込みの中にはもう児童買春に直結するような危険性を持っているというものもあるように思います。ですから,そのようなものはある程度類型化して取り出せる余地はあるのではないかと思っております。 ○井田座長 もし規定を設けるとすると,目的ももちろん勘案しなければいけないのでしょうけれども,それ自体として当罰的なものをうまく類型化する必要があるのだと,こういうふうに多くの委員の御意見はまとめることができるのではないかと思いました。   それでは,議論の尽きないところではありますけれども,次のテーマに移りたいと思います。「いわゆる性交同意年齢の在り方」についての検討を行いたいと思います。ここからは再び二巡目の議論になりますので,改めて意見要旨集を御覧いただきたいと思います。   一巡目の検討では,意見要旨集の5ページ及び6ページにありますように,「① 被害の実態」,「② いわゆる性交同意年齢を引き上げることの要否・当否」,「③ いわゆる性交同意年齢を何歳とするか」,「④ 行為者の年齢に関する要件の要否・当否」という観点から御意見を頂いておりますほか,6ページに「⑤ その他」とありますけれども,教育や支援についての御意見も頂いているところであります。   先ほどと同様,どのような観点からの御意見であるかということを明示した上で御発言いただきたいと思います。 ○橋爪委員 性交同意年齢の引上げにつきましては,意見要旨集5ページの「②」にありますように,一巡目の議論におきましては,基本的には必要性を指摘する御意見が多数であったように承知しております。私自身,児童の性的保護の強化という観点からは,このような必要性が高いと考えておりましたし,また比較法的に見ましても,日本の性交同意年齢が低いことも事実です。もっとも,国内法の立法課題として改めて考えてみますと,現時点において性交同意年齢を引き上げる正当化根拠をどのように考えるべきなのか,また,引上げを必要とするような立法事実は何かについて,更に詰めた議論が必要であるように思われました。ある意味,児童の性的保護の強化という言葉がマジックワードとなっているところ,内実を更に詰めて検討する必要性があるように思われます。また,この問題は,ある意味,児童の性的な行動の自由を制約するという側面もあることから,この点も意識しながら更に議論することが必要であるように思われます。   本来これは一巡目の議論のときに申し上げるべきことでありましたけれども,この機会に改めて私なりの疑問点を申し上げた上で,また,もし可能であれば委員の皆様の御意見をお伺いできますと幸いでございます。   第1点でございますが,現時点において性交同意年齢を引き上げる立法事実,すなわち法改正を必要とする事情が何かを改めて明確にしておく必要があると思います。例えば,平成29年の刑法改正におきましては,男性に対する性犯罪が十分に処罰されていない,あるいは,強姦罪の法定刑が現在の量刑傾向から乖離しているなどの事情が重視され,それが法改正の前提事実となったものと承知しております。それでは今回,現時点において性交同意年齢を引き上げる必要性を根拠付ける事実は何かという点が第一の問題意識でございます。すなわち,青少年の性行動に関する調査結果を見る限りでは,キスや性交を経験する年齢は全般的な傾向としては若年化する傾向があるようでして,これを見た限りでは,現時点において児童の性的保護を直ちに強化すべき喫緊の立法事実が認められないという理解もあり得るところです。このような状況下において,どのような事情が法改正の必要性を根拠付けるかという点につきまして,改めて御意見をお伺いしたいと存じます。   第2点は,性交同意年齢を引き上げる場合の引上げの根拠です。性交同意年齢を引き上げる根拠としましては,児童は性的行為の社会的意味や妊娠や感染症のリスクを十分に理解して性的な意思決定を行うことが困難であることから,このような能力を十分に有する年齢まで性交同意年齢を引き上げるという議論があったものと承知しております。もっとも,このように児童の性的な意思決定の困難性という観点から仮に性交同意年齢を16歳未満に引き上げた場合,15歳の児童は性的行為に関する意思決定を行う能力が乏しいと評価されるわけですので,相手が誰であっても,その意思決定には瑕疵があり,性的行為は犯罪を構成することになるはずです。すなわち,15歳同士の性的行為であっても,お互いの意思決定に瑕疵があることには変わりがないため,両者を共に処罰する,あるいは,少年法上の保護処分を科すという結論に至らざるを得ないように思われます。もちろん,このような結論が適切ではないという理解のもと,性交同意年齢を引き上げたとしても,性交の相手方が一定の年齢の場合については処罰をしないという御提案もなされているわけですが,このような選択をする場合には,性交同意年齢を引き上げる根拠をいかなる点に求めるべきか,また,それにもかかわらず性的行為の相手方が一定の年齢の場合には処罰を否定する理論的根拠は何かという点について,きちんと整理しておく必要があるように思います。この点につきましても委員の皆様方の御意見をお伺いできますと幸いです。 ○井田座長 今の御意見は法的な観点から大変重要な御指摘を幾つか含んでいると思いますので,その点を少しクローズアップしてといいますか,その点に議論を集中させたいと思います。一つ目は,実際上の理由というのではなくて,年齢引上げの理論的根拠は何かということであり,二つ目は,例えば,調査によれば14歳,15歳の者も一定数,性交やキスを実際に経験しているにもかかわらず,そういう行為を全て違法としてよいのかどうか,国として,それは違法なのだという評価にしてよいのかどうかということであり,三つ目は,ほぼ同年齢同士でそういう行為があったときに,それを犯罪とするということはどうなのかという問題提起であったかと思います。これらの点について,どういうふうに考えればよいかという辺りについて御意見をお伺いしたいと思います。 ○池田委員 今,橋爪委員が御指摘になった論点のうちだと2番目と3番目に当たるものかと思いますが,同世代の者の性交についてどのように考えるべきかということについての意見を申し上げたいと思います。   先ほど御指摘があったように,性交同意年齢を引き上げますと,14歳,15歳の者の同世代の性交やキスが互いにとっての犯罪を成立させ,保護処分や処罰の対象となり得るという帰結を招くことについては,意見要旨集の「④」のところを見ても,おおむねそれは適切ではないという理解には異論はないのではないかと思われるところです。先ほどの橋爪委員の御指摘にもありましたように,こうした同世代間の行為を処罰対象から除くためには,行為者の年齢を一定年齢以上とするか,あるいは,行為者と被害者との間の年齢差の要件を設けることが考えられますけれども,それが理論的にどのように正当化されるかといったことや,被害者は同じ未熟な年齢なのに,行為者の年齢が被害者の年齢と近い場合は処罰されず,一定年齢以上の者が行う場合,あるいは,年齢差がある場合に処罰されるというのをどのように考えたら良いかが問題となります。   この点については,先ほど地位・関係性を利用する類型について述べたところとも重なり合うのですけれども,この年代の者については性的行為について適切に理解し同意する能力が一応はあるけれども,若年者にとっては年齢が上であるということが重要な意味を持っており,一定年齢以上の者から性的行為を働きかけられた場合には,対等な関係性ではなくて,一種の優越的な地位の利用のような状況が生じ,自由な意思決定をゆがめられるということが一つ考えられるのではないかと思っております。   ただ,そのように考えたとしても,年齢要件の設定次第では,例えば被害者の年齢を16歳未満,行為者の年齢を18歳以上とすると,18歳と15歳の普通の交際関係に基づく性的行為も処罰対象となり得ることになりますけれども,それでは処罰範囲が広過ぎるということもあり得るのではないかと思います。行為者が一定年齢以上であることや年齢差があることだけで,性的行為をすれば一律に犯罪を成立させることができるのか,そのような年齢として何歳とするのが適切なのか,そして,そういった行為の当罰性に対する評価や法定刑が,強制性交等罪と同様のものと考えることになるのかといったことについては,私自身もなお慎重に検討する必要があると考えております。 ○井田座長 今,法的な要件論に落とし込むところの非常に重要な論点に差しかかっていると思いますので,是非この点をもう少し深めたいと思います。 ○小西委員 13歳までの性交同意年齢の必要性というものと,今まで言われていた性交同意に関する必要性と,14歳からというか,医学的にいえばティーンの年代の生物学的な脆弱性による性交同意の問題というのは,少し違うと思っています。多分,今までというのは,身体的に性交が可能かどうか,そういうことも大きくあったように思いますが,今の発達という点から見たときに,ティーンが,情動や性的な行動能力については成人に達するのだけれども,恐らく法律と一番関係がある,理性とか情動のコントロールの点においてすごく未熟であるということは,今は,脳科学で分かってきていると思います。そういう人たちに一定の保護を与えようという考え方はできるのではないかと思います。   一方で,関係性の方の議論で,義務教育という話が出ていますけれども,こちらはむしろサイコソーシャルですよね,心理社会的にその子たちが応えることができないという状況を特別に扱いたいということから,幾つか,私の立場から言うと,違う視点の議論が出ているように思うのです。   ティーンの子たちが実際に被害を受けたときに,うまく行動することができないということは,様々なデータに表れていると思います。例えば,性的な過活動といいますけれども,被害を受けた後,売春をしたり,非常に性的な関係がむしろ盛んになってしまったりという行動がPTSDの症状としてありますけれども,これがティーンの被害者には多いです。そういう意味では,10代の人たちの行動については,その保護を考えるということがあってもいいように思います。ただ,それが13歳までのこれまで考えられていた保護と同じでいいかどうかということは,また議論の対象として,あるのかなと思っています。意見要旨集でいうと「②」の二つ目の「○」の議論と比較的似たところがあるのですけれども,私の立場からはそういうふうに思っているということを申し上げたいと思います。 ○齋藤委員 今,小西委員がお話しされて,私は,法律的なことが適しているかどうかがよく分からないのですけれども,同世代同士の,先ほど,キスと性交を混ぜた話がずっと続いていると思いますが,キスなどの強制わいせつに該当するような行為への同意及び同意をする能力と,性交への同意及び同意をする能力というのは異なるのではないかと考えています。それを分けて性交同意年齢を考えるということができないのかということを刑法学者の委員の方々に少しお伺いしたいなというふうに思っております。 ○山本委員 保健的なことをお伝えしたいと思うのですけれども,14歳,15歳で性交してもいいと言っているようにも聞こえ,違和感を持ちます。キスや性的接触とは違って,性交すると妊娠と性感染症に罹患する可能性があるわけです。日本の中学生は学校教育の中でコンドームの装着方法も教わっていませんけれども,正しく装着できたとしてもコンドームの避妊率は87.7%,7回に1回は妊娠する。回避するには99.7%の避妊率がある低用量ピルを毎日服用しないといけないわけです。1か月に2,500円,性感染症にかかったら数万円,人工妊娠中絶をするのだったら,妊娠12週未満の初期中絶で十数万円,妊娠22週目になったら中期中絶になるので四十万円から五十万円が必要になる。若年の性交渉自体が子宮頸がんの発がんリスクを高めますし,妊娠,出産においてもティーンエイジャーはハイリスク妊婦です。高い経済的困窮と生活保護受給率,高い非嫡出子率,さらに,シングルマザーとなる割合も少なくなく,15歳以下は産科異常が大きいので,医療的にも問題になっているということも踏まえて,性的な自由を制限するかどうかというわけではなく,自由に対する責任をちゃんと果たせる年代であるのかということを考えて,保護を掛けるということを議論していただければと思っています。 ○井田座長 強制性交等と強制わいせつを区別する観点があるのではないかということに対するお答えとして,区別すべきであるという御意見として理解してよろしいでしょうか。 ○山本委員 そうですね,私自身の考えが整理できていないところもありますが,やはり性交については,人生,心身に与える影響が妊娠や性感染症で大きくなることを考えれば,分けて考えることもできるのかなと思います。 ○橋爪委員 ただ今の山本委員の御発言の趣旨について確認してよろしいでしょうか。   山本委員が御指摘になっている児童の性交に伴う弊害は,私もそのとおりだと思うのですが,このような観点を処罰の根拠とした場合,同世代間の性交であっても,そのような危険性を惹起している点には変わりはありませんので,年齢差を問わずに違法と評価し,処罰すべきということになるように思われますが,その点はいかがお考えでしょうか。 ○山本委員 どう影響があるのかというのが非常に難しいと思うのですけれども,16歳未満でも先輩・後輩という優越的な地位の利用があるわけですよね。そうなると,177条,178条を適用し,それが難しい場合には,「優越的な地位を利用して」とか「信頼ある立場に乗じて」などの他の規定を創設し,より実態を踏まえて考えていただければと思っています。 ○井田座長 今のお答えをお聞きしていると,能力がないというのではなくて,能力が若干劣っているので,別のファクターを考慮した上で保護に値するかどうかを判断するという御意見だと思われました。性交同意年齢の問題というのは,絶対的なもので,その年齢未満の者については能力がないのだという,その線引きの議論だと思うのですが,お聞きしていると,それとは異なった観点のものが入ってきている感じがします。   また,齋藤委員からの問題提起で,いわゆる性交等と,それ以外のわいせつな行為とを区別するような観点,あるいは議論があり得るのではないかというのは,正にそのとおりなのですが,それはここで深めるというよりは,また後日の議論として,まずは性交同意年齢について少し認識を深めるというふうにしていきたいと思いますので,齋藤委員,その点についてはよろしいでしょうか。 ○齋藤委員 もちろんです。 ○和田委員 先ほどの橋爪委員の問い掛けに対する答えの前に,今の点について,性交等とそれ以外の性的行為を分けることはあり得ると思いますけれども,その場合に1点だけ注意が必要だと思うのは,実際に行った行為は性交等に至らない性的行為だけであっても,性交等の目的があると,その未遂という可能性がありますので,その可能性も含めて検討する必要があることです。性交等とそれ以外とを分ける場合には,そのような問題が新たに生じると思います。   橋爪委員の問い掛けの2点目,3点目との関係で,成人についての保護法益を性的自由と考える場合には,若年者については,その同意の能力があるかどうか,それがないから同意の有無にかかわらず処罰するという話になる,そういう整理になるのが自然だということだと思いますけれども,成人について性的統合性だとか性的尊厳が保護法益だと考える場合には,それに伴って,若年者に対する性犯罪の保護法益は健全な人格的統合性の形成であり,それに対する阻害行為が処罰対象なのだという見方にもなり得ると思います。そのような見方をすると,これまで13歳未満についても同意能力がなかったのではなくて,仮に同意があったとしても,そのような行為が被害者との関係で人格的統合性の形成の阻害の影響を持つから処罰対象になっていたと考えられ,そのような影響が及ぶ年齢の基準を引き上げるという問題として整理し直されるのではないかと思います。そのような見方をする場合には,同年代同士の行為であれば,それは人格的統合性を形成するに当たって阻害的な行為ではないという評価が実質的に可能であって,それゆえ処罰対象から外されるという説明が一応可能なのではないかと考えています。   ただ,何歳に引き上げるかということが正に問題ですが,それを考えるときに重要な観点だと思われるのは,今まで何か所かで指摘されていますけれども,この年齢というのは,一律にその年齢未満の者に対しては誰との関係でも犯罪行為として扱うと,そういう基準年齢になりますので,例えば18歳にその基準を設けたとしますと,高校3年生が被害者になり得て,地位・関係性利用の場合も含めて例を挙げれば,大学卒業したての新任の教師に対して,高校3年生の側が積極的にアプローチをして,強制性交等罪が成立しない程度に,しかし,かなり強い力で働きかけることで教師に対して性的行為を行ったというような逆転現象が生じる可能性があることです。その場合にも教師側に犯罪の成立を認めるとすると,教師側に,相手が18歳未満であれば絶対的に拒絶する義務を課すということになるわけですから,そのような義務を課してよいといえるような相手の年齢が何歳かということをきちんと考える必要があろうと思います。そういう観点から,18歳というのはさすがに高過ぎると思いますので,性交等とそれ以外の性的行為を分けるかどうかという問題ももちろん別にありますけれども,仮に引き上げるとしても,義務教育の年齢というのが限度なのではないかと感じているところです。 ○木村委員 そもそも同意年齢と言ってしまうので,どうしても自己決定ができるかどうかといった議論に引っ張られてしまうかと思うのですけれども,今,和田委員がおっしゃったように,保護法益は必ずしも性的自由と限る必要はないので,そうだとすれば,ある程度年齢を上げるということもあるのかなと思います。そのときに,どこまで上げるかという議論ですけれども,恐らく100年以上前にできた刑法の時点では,義務教育は12歳程度までだったと思います。それで13歳というのは一定の合理性があったのかなと思うのですけれども,それと同様に考えれば,今であれば15歳ぐらいということでしょうか,15歳とか16歳とか,義務教育が一つの線として引けるかなと思います。現在では,恐らく教師であるとか,あるいは,お話に出ているような脆弱性を利用して被害を受けてしまうというようなことが一番,立法事実としてはあると思うのです。ですから,一般的な同意年齢の引上げと,類型を括り出す方法のどちらを優先するかといえば,後者を優先させるべきで,同意年齢は必ずしも上げる必要はないのかもしれないです。優先順位というのはあるのかなと思いました。 ○宮田委員 配布されている各国の立法についての資料8をざっと拝見したのですが,13歳未満としている例は日本だけではなく,ミシガン,イギリス,韓国もそうであったと思います。ほかの国も13歳より上でも14歳だったと思います。   性交同意年齢以上の未成年にはかなりグラデーションがある。絶対的にこの年齢未満なら同意があろうがなかろうが処罰するという規定を置いたとき,それ以上の年齢の未成年については,正に,先ほどの脆弱性の議論になってくるのだろうと思います。つまり,一律にこの年齢であれば性交してはいけない,あるいは性的な行為をしてはいけないということになりますと,先ほども申しましたけれども,18歳が成人で結婚できるのだったら,その前から付き合っていて,性的な行為があってもおかしくないし,成人女子との性的な行為によって,男子が強制性交等の被害者になる場合もあります。性的な興味を持った同世代の男女の行為が処罰される,男子に対して行為をした成人が一律に処罰されてしまうというのは,やはりおかしいのではないかと思います。ですから,性交同意年齢については,私は13歳でいいと思うのです。脆弱な未成年に対してはどのように保護を図っていくかという先ほどの議論に,個別の事情を考えながら戻っていく方が,私は妥当ではないかと考えます。   あと,オランダでは絶対に同意がないと考える年齢が12歳としていると聞いたのですけれども,これは本当なのか,もしも可能であれば,資料があると拝見したいなと思いました。 ○佐藤委員 先ほどの宮田委員の御意見とかなり重複するかと思うのですけれども,今,何を話しているかというと,およそ性的な接触が許されない,つまり同意があろうとなかろうと,いかなる関係だろうと,年齢差があろうとなかろうと,性的に触れれば意思に反する性的行為だとして強制性交等とか強制わいせつと同じように扱われるのは何歳かという話かと思われます。   これも,先ほど紹介した「性犯罪規定の比較法研究」の本書解題のⅢ,76ページ辺りを御覧いただけると分かるのですけれども,およそ何の条件もなく行為客体が一定の年齢であるというだけで処罰を基礎付けるというのは,カナダやオーストリアでは12歳未満,なお,オーストリアは14歳未満を一律に保護する規定の中に,年齢差がないことなどを理由とする処罰阻却事由がありまして,その処罰阻却事由がおよそ適用できない年齢が,性交・性交類似行為の場合は13歳未満,いわゆるわいせつ行為の場合は12歳未満になっています。それから,韓国だと13歳未満,ドイツでは14歳未満という規定があります。また,条文にはなくて,判例法理上で日本の13歳未満と同じように同意能力が皆無だとみなされているのが,フランスでは6歳未満というのがございます。これがいわゆる,およそいかなる性的接触も意思に反する性的行為として処罰される年齢になりまして,これだけ見ると,日本の13歳未満というのは必ずしも低過ぎるということはないかと思われます。   では,どうして日本でこんなに問題があるように感じられるのかと考えますと,これは皆様既に御指摘のとおり,諸外国には相対的に厚く保護される中間層,中間年齢層のようなものがあって,この規定が少なくとも日本の刑法典には存在しないというところにあるのではないかと思います。絶対的に保護されないのだけれども相対的に保護される年齢層というのは,例えばカナダだと14歳未満,16歳未満,18歳未満の条文がそれぞれあって,あるいはフランスだと15歳未満とか,そういう条文があって,これは国によって違うのですけれども,共通しているのは,処罰するために行為客体の年齢以外に一定の条件が付されていて,それは,例えばかなり緩めの地位・関係性要件だったり,年齢差要件だったり,年齢差に基づく脆弱性の利用要件だったりとか,そういうふうな形で一定程度の要件がプラスアルファで付されています。   また,ここで参考になると思うのは,ドイツでは一定の年齢,つまり14歳を超えた場合には性的なお試し期間が必要だという考え,具体的に言えば,一定年齢になると同じくらいの年齢の者と性的に触れ合いながら性的側面でも成長していく過程が必要だという考え方があります。つまり,無菌状態で一切性的接触は駄目ですと言われて,いきなり18歳になって,「はい,御自由にどうぞ。」と言われると,むしろそれ以降で失敗する可能性が高いので,その前に同じ年齢の人たちと性的にも触れ合って,そこで人格的にも切磋琢磨しつつ性的にも成長しましょうというような期間を用意していて,それが14歳以上18歳未満だというふうなことになっています。   ですから,絶対的保護というと,現行法の13歳未満で問題ないと思われて,逆に中間層を保護する規定については別個に考えなければならないと思っています。一応,児童福祉法や青少年保護育成条例はあるのですけれども,刑法典にもこの中間年齢層用に一定の要件をプラスして処罰するというふうなものを考える方向性でいくといいのではないか考えております。 ○金杉委員 今までの委員の御意見と重複するのですけれども,意見要旨集の修正も含めて,発言させていただきます。意見要旨集5ページの「③」の二つ目の「○」,「刑事責任年齢と同じ14歳まで引き上げることにはさほど抵抗はない」というのは,多分前回の私の意見かと思います。ただ,ここに挙げられていることが主眼ではなくて,私が申し上げたのは,14歳より上に引き上げることは相当でないという意見でした。と言いますのは,先ほどからも出ていますように,何らの同意も許さず,同意の有無を問わず,構成要件上違法とされるというのはやはりおかしいと考えています。刑事責任が問われ得るのに,性的自己決定については全く能力がないとされることは,理論的にも整合しないのではないかということです。   むしろ,皆さんが先ほどからおっしゃっておられる観点は,やはり同年齢同士のというよりは,自己決定能力があるけれども脆弱であることは否めない,そこに付け込んで地位や関係性だけではなく,この年齢について利用して行為を行った場合,その青少年の保護という観点から処罰規定を設けるべきだというお考えの方が多いのかなと思います。そして,私の申し上げたかったのもそういうことで,年齢差を利用して,一定の年齢以上の者が,あるいはその年齢差の要件を設けるなどして,脆弱性を利用して行為を行った場合について,新たな規定を設けるかどうかという観点で検討すべきかと思います。 ○小島委員 私は基本的に,性交同意年齢としては義務教育の期間,義務教育で線を引いて,義務教育が終わるまでは性交同意能力がないということで考えていいのではないかと思います。ただ,立法事実ということで言いますと,やはり力関係において地位・権限を利用・濫用する,例えば学校の先生とか,塾の先生とか,クラブの先生とか,そういう力関係を利用・濫用して子供が多数被害に遭っていることをどうするかということ,これが一番のポイントではないかと思います。年齢差も確かに問題かもしれませんけれども,この部分を何とかしたいと。少なくとも中学生レベルについては,やはりそういう力関係を利用・濫用された場合に,同意があるとかないとかという話に持ち込まれるというのはいかがなものかと,そういう立場でございます。性交同意年齢を16歳未満とすれば,その部分がかなりカバーできるのではないかと思います。ただし,地位・関係性の利用・濫用型の性犯罪を設け,子供の保護について十分だと考えられる新しい規定ができるのであれば,それでカバーできる部分もあるかと思っています。 ○井田座長 小島委員は,14歳や15歳同士が,相互に好きになって関係を持ったというケースについては,どのように考えていらっしゃいますか。 ○小島委員 私は,性交同意年齢を16歳とした場合であっても,子供同士のそういう関係について全て処罰をするという立場ではございませんので,そこは例外規定を設けていく,処罰をしないという規定を何らかの形で設けていくべきだと思っております。 ○井田座長 ということは,性交同意年齢という能力の問題ではあるけれども,その年齢層については,言わば,先ほど佐藤委員がおっしゃった相対的保護というのでしょうか,やはり関係性の中で判断すると,そういう御趣旨でございますか。 ○小島委員 はい,そういう趣旨です。 ○川出委員 これまでの御意見とかなり重なりますが,そもそも性交同意年齢を引き上げるべきだという意見の実質的な理由は,例えば16歳までそれを引き上げるとした場合,13歳から15歳までの者について,13歳未満の者と同様に性行為に対する同意能力がないからというよりは,その年齢層の者は,同意能力はあるけれども,それがなお不十分であり,それに付け込んで,これらの年齢層の者を言わば食い物にするような行為がなされているので,それを処罰すべきだという点にあると思います。先ほど御指摘があったように,そういった行為が地位・関係性利用の類型で全て捉えられればそれでよいのですが,捉え切れない部分が残るということであれば,単純に性交同意年齢を引き上げるということではなくて,保護法益に,性的自由だけではなく,一定年齢の者の健全育成,あるいは和田委員の御意見にあった健全な人格的統合性の形成といったものを加えた上で,例えば児童福祉法の淫行をさせる罪ですとか,青少年保護育成条例における淫行処罰規定などの解釈を参考として,その保護法益を侵害する行為を切り出す形にするのが,一つの方法ではないかと思います。そういう形にすれば,一定の年齢層の者同士の対等な関係での性的行為ですとか,あるいは,年齢の上の者による真摯な交際に基づく性的行為といった処罰すべきでないものというのを処罰対象から除外することができますし,また,性交同意年齢を引き上げるべきとする意見のもともとの目的にも合うのではないかと思います。 ○井田座長 ありがとうございます。   まだまだ御意見があるかもしれませんけれども,時間がもう過ぎておりますので,意見要旨集の第1の4についての御意見は伺えたということで,それ以外につきましては,三巡目の議論に委ねたいというふうに考えます。   それでは,既に予定されていた時刻を過ぎておりますので,本日の議論はここまでとさせていただきまして,強制性交等の罪の対象となる行為の範囲につきましては,次回ということでよろしいでしょうか。 ○山本委員 法律論が難しいので,こういう場合も大丈夫でしょうかということをお伺いしたいのですけれども,大阪で24歳の男性が14歳の女子中学生に対して,知り合って二日目の付き合った当日に,少女が「今日は早すぎる。やめておこう」と言ったのだけれど,性交された事件がありました。強姦罪で起訴されて,裁判で同意していなかったことは認められたけれども,強い抵抗が示されなかったと認定され,加害者が少女が性交を受け入れたと誤解したなどとして,無罪になりました。そういう地位・関係性がない場合の成人からの被害というのを救える規定になるのかを確認したいと思いました。 ○橋爪委員 恐らく山本委員の御懸念は,地位・関係性が乏しく,いきなり会ってナンパされたような場合について,仮に性交同意年齢を絶対的に引き上げない場合,十分に児童の性的保護を図ることができるのかという点だと思います。この点につきましては,もちろん被害者の同意に瑕疵がある場合には,それに基づく処罰の可能性もあり得ますし,本日の議論においても,一定の年齢の被害者については,年齢差に基づく処罰規定を設けたり,あるいは,誘惑的・困惑的な行為態様までを拡張した処罰規定を設けるなど,仮に性交同意年齢を一律に引き上げないとしても,言わば中間類型の年齢の被害者の保護を強化する方法はあり得るように思われます。この点は更に議論していければと思います。 ○山本委員 ありがとうございます。 ○井田座長 ほかに御意見のある委員もいらっしゃるようですが,ここで議論は終わらせていただきます。次回の会合ですけれども,本日検討することができなかった強制性交等の罪の対象となる行為の範囲についての議論を行った後に,法定刑の在り方,そして,配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方,性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方について,検討を行いたいと考えております。そのような進め方でよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。次回会合で取り上げる論点に関しましても,本日と同様に,一巡目の議論における委員の皆様の御意見を整理したものを会合に先立って皆様にお送りし,前もって御検討いただくことができるようにしたいと思います。また,本日行った論点については,本日述べられた御意見や他の論点についての二巡目の検討結果を踏まえて,三巡目以降の進め方を考えたいと思っております。   本日予定していた議事はこれで終わりましたけれども,委員の御発言の中で具体的な事例に関する御発言などもございましたので,御発言なさった委員の御意向を改めて確認の上,非公表とすべき発言がある場合には,該当部分を非公表としたいと思います。具体的な範囲や議事録上の記載の方法につきましては,委員の方との調整もありますので,私に御一任いただきたいと思います。そのような取扱いでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 それでは,そのように取り扱わせていただきたいと思います。   では,次回の予定について事務当局から説明をお願いします。 ○岡田参事官 第10回会合は,12月25日金曜日,午後1時30分から開催を予定しております。次回会合の方式については,追って,事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会といたします。