性犯罪に関する刑事法検討会 (第10回) 第1 日 時  令和2年12月25日(金)  自 午後1時33分                        至 午後4時22分 第2 場 所  法務省集団処遇室(オンライン会議システムを使用) 第3 議 題  1 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲について         2 法定刑の在り方について         3 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方について         4 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方について         5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○岡田参事官 ただ今から性犯罪に関する刑事法検討会の第10回会合を開催させていただきます。 ○井田座長 本日は,年末の御多用中のところ,御参加くださいまして,誠にありがとうございます。   初めに,お配りしている資料について事務当局から確認をお願いします。 ○岡田参事官 本日,議事次第及び「意見要旨集(第7回会議分まで)」をお配りしております。今回の意見要旨集は,本日御議論いただく論点についての一巡目の検討における委員の皆様の御意見を整理して記載したものを一まとめにしたものであり,第1回会合前に書面で御提出いただいた御意見のほか,第1の「5」から「7」までについては第6回会合まで,第1の「8」については第7回会合までに述べられた御意見を抽出した上で,分類・整理しております。 ○井田座長 それでは,議事に入りたいと思います。   本日は,意見要旨集の1ページの「5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」,4ページの「6 法定刑の在り方」,9ページの「7 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」について議論し,その後,意見要旨集12ページの「8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」のうちの「(1) 他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流通させる行為を処罰する規定を設けるべきか」について,議論することとしたいと思います。   本日も,基本的に意見要旨集に沿って進めることで,かみ合った意見交換を行い,一巡目よりも更に一段も二段も検討を深めることを目指したいと思います。   また,この機会に,委員の皆様には,座長として是非お願いしたいことがございます。   本検討会が設置された趣旨は,第1回会合でも説明があったとおり,法改正の要否・当否について論点を抽出・整理し,議論を行うことにあります。   前々回会合から二巡目の議論に入っており,一巡目の議論で多く示された被害の実態を踏まえた法改正の必要性に関する御意見を踏まえつつ,法改正を行う場合の法的課題について,最終的なゴールとなり得る具体的な規定の在り方も意識しながら議論を行っているところです。   当然のことながら,法的な課題を乗り越える方策としてどういったものが考えられるかについても,詰めていく必要がございます。その検討に当たっては,刑事法の条文は大枠のようなものにすぎないから,細かな問題は全部実務に任せればいい,というわけにはいきません。   そのため,二巡目の議論では,前回会合でもそうであったように,特に刑事法を専門とする委員の方々から,そのような規定にするとこのような法的課題がある,といった御意見が数多く述べられているわけですが,これは,そのような規定を作ることに最初から反対だという趣旨の御発言ではなく,最終的なゴールとなり得るかもしれない規定を検討するに当たっての法的課題を指摘するものです。   ですので,そのような法的課題があるとすれば,では,どのような規定にすればよいか,例えば,どのような表現を用いれば,あるいは,どのような文言を補えば,その法的課題を解消できるのかという点に検討を集中し,その点に知恵を出し合いながら御議論いただきたいというふうに考えております。   この検討会が始まるときに書面で提出した意見でも書かせていただいたことですけれども,それぞれの分野の専門家の集まりらしく,質の高い議論を展開することにより,我が国におけるこの種の議論の模範を示すことができればと考えております。切に御協力をお願いする次第です。よろしくお願いいたします。   さて,本日の会合ですけれども,あらかじめ進行における時間の目安を申し上げておきたいと思います。   まず,「強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」について30分程度,「法定刑の在り方」について45分程度,それぞれ御議論いただいた後,午後3時頃から10分程度,休憩を取りたいと考えております。   そして,休憩後,「配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」について20分程度,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」について45分程度,それぞれ御議論いただくことを予定しております。予定している時間については,その都度申し上げますので,御協力のほどお願い申し上げます。   早速,「強制性交等の罪の対象となる行為の範囲」についての検討に入ります。この項目につきましては,一巡目の検討では,お配りした意見要旨集の1ページから3ページにありますように,「① 被害の実態」,「② 身体の一部や物を膣・肛門・口腔に挿入する行為を含めることの要否・当否」,「③ 現行法の下での対応」,「④ 考えられる規定の在り方」という観点から御意見を頂いております。   前回同様,発言いただくに当たっては,どのような観点からの御意見であるかを明示して御発言いただきたいと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いします。最大で30分程度の時間を予定しております。 ○小島委員 意見要旨集の2ページの一番上の「○」について,意見を述べます。   強制性交等罪の保護法益ですが,秘匿されるべき性的な領域に土足で踏み込まれて開示を迫られるという点にあると思っております。そこで害されるのは,人格の統合性だとか性的人格権である,と。そのような観点から言いますと,強制性交等罪の対象となる行為を,男性器の挿入に限定する理由はないと思っております。ただし,強制性交等罪として処罰するということになりますと,性交等と同程度の行為でなければならないと考えます。そこで,身体の一部や物の挿入行為の全てを強制性交等罪の対象とするかについては,検討を要すると考えております。膣や肛門への挿入は,それ自体に性的意味があると思いますので,何を挿入するかにかかわらず,強制性交等罪と同様に当罰性があると思います。   一方で,口腔の場合は,入れる物に性的意味合いがある場合に限定されるのではないか。例えば,性具を入れる行為は当罰性があるけれども,口腔内に指を入れるとか,バナナを入れるという行為は除外されるのではないかと考えております。   以上のような限定の下では,男性器の挿入より被害が軽いとはいえないので,法定刑については,現行法と同じでよいと考えております。 ○橋爪委員 この問題は,端的に申し上げますと,性犯罪の中で特に重く処罰すべきものと一般的な規定によって対応すべきものをどのような観点・基準によって区別するかという問題に尽きます。   したがいまして,検討会の議論としましても,まずは,現実の性被害の実態を十分に把握し,理解した上で,それを法的な議論に落とし込んでいく作業が必要になると思われます。そして,現実の性被害の実態につきましては,意見要旨集にもまとめられておりますけれども,第6回の検討会におきまして,齋藤委員から,性器に手指や異物を挿入された場合であっても,膣性交,口腔性交,肛門性交の場合と精神的な被害には大きな相違がない旨の分析結果の御報告があったところであり,これは現実の性被害の実態を把握する上で重要な価値があると思います。   今回,更に法的議論を進める上で,この内容につきまして,改めて2点質問させていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。   まず,1点目でございますが,性器に手指や異物を挿入された場合の被害については,素人の印象で恐縮なのですけれども,その全てが同様の精神的被害を惹起するわけではなくて,挿入された物の物理的な性状であったり,あるいは,挿入の仕方,態様によって,精神的にも身体的にも被害の程度に差があるようにも思うのですが,齋藤委員の調査では,挿入された物や挿入の態様について分類した調査結果があるのかについてお尋ねしたいと思います。   あるいは,この点に関連しまして,齋藤委員の御知見がございましたら,御教示をお願いいたします。 ○齋藤委員 簡単にお答えしますと,暴行・脅迫があったかどうかですとか,加害者が一人だったか複数だったかを尋ねている程度で,そのほかの細かな状況であるとか挿入された物を細かく聞くということは,質問紙という調査者の目の届かない形で聞くこと自体が回答者にとって深刻な精神的負担になるおそれがあると思いましたので,聞いておりません。ですから,状況を推測することは難しいです。   ただ,質問を並べた順番というのがありまして,「性器に手指や異物を挿入された」というのは,「キスをされた」と「口腔性交(オーラルセックス)をされた,させられた」の間ですので,おおまかな状況として,性交等に近い状況での性器への手指や異物の挿入というのが回答には多かったのかもしれないとは思うのですが,そこは推測になりますので,確実なことは言えません。   ただ,臨床的な知見で考えますと,やはり体の一部あるいは異物の挿入という被害でありましても,重篤なPTSDを示すことは珍しくありません。状況であるとか,挿入された物が,例えば指1本なのか,2本なのか,陰茎なのかということ自体が,精神的反応を大きく変えるという認識は持っておりません。 ○橋爪委員 ありがとうございます。もう1点の質問です。ただ今,性器に手指や異物の挿入がある場合の被害について御説明いただいたわけですが,手指や異物の挿入がある場合と,挿入は伴わないが,性器への直接的な接触などがある場合とで,精神的な被害に有意な相違が生ずるかについて質問したいと存じます。   例えば,指や性具などで性器を触ったり,性器をなめたりする行為は,挿入を伴わない場合であっても,重大な精神的被害が生ずるような印象を持つわけですが,やはり挿入を伴う場合と,それ以外の性被害の場合には本質的な相違があるのでしょうか。   もし,その点につきまして齋藤委員の御知見がございましたら,この機会に御教示をお願いいたします。 ○齋藤委員 もちろん,実際の臨床の場面で,例えば,二人きりで押し倒されて,性器を触られて,なめられたけれども,体の境界線を越えて侵襲していないというような被害と,体の境界線を越えて侵襲したという被害が本当に違うのかというと,それはやはりケースによって大分違い,比較して一概にいうことは出来ません。しかし,何百,何千人を対象としたような精神医学であるとか心理学の調査では,手指や異物の挿入に関して,陰茎の挿入と同じカテゴリーで調査がされているということがあります。先ほど小島委員がおっしゃっていたように,性犯罪を身体の統合性であるとか性的な領域が土足で踏みにじられることであると考えるならば,体の境界線を越えて侵襲されるということは,意味があるのではないかというふうには考えております。 ○小西委員 これを精神医学的に説明するのは,大変長くかかるのですけれども,順番に申し上げたいと思いますが,一番大きく性的被害を捉えるのは疫学研究ですね。疫学研究で捉えた場合に「sexual assault」(性的暴力)という形でまとめられているときの定義としては,例えば,「any sexual contact」(性的接触)で同意がないものという形のまとめや,それから,無理強いされた性的な接触とか,そういう形でまとめられていることが多いわけです。   今ここで話題になっているような手指と男性器が違うのかとかいうことは,正直,あまり精神医学では問題にしていないのですね。なぜかというと,性的な被害というのはトラウマを非常にもたらしやすいものであり,レイプで約50%弱の人にPTSDが起きていて,戦闘体験や交通事故や災害などより高いということが,専門領域では常識なのですね。   そういう意味では,そこにあまり関心を持たないのは,差をつけても,臨床的な研究をしたり,治療の研究をしたり,あるいは,実際に治療したりということに意味がないということを示しているということは言えると思います。   ここからは,少し経験的なことにもなるのですけれども,電車内の痴漢で,下着の上から性器を触られたというケースと,手指を性器の中まで挿入されたというケースについて,たくさんの例を採って比べるとしたら,PTSDの発症率,正確には関連する有病率ですが,やはり違うと思います。起きたことの重さによる違いというものは全体的に見れば大まかにはあります。   しかし,有病率が違うということと,ゼロ百で,ある個人にある,ないということは違いますので,それはどんな状況で行われたものでも,発生の割合が非常に高いものと相対的に低いものは当然ありますが,犯罪の形態だけで決まるわけではない。視点が大分違うのですよね。被害を受ける側にとっては,今ここで話されている行為というのはそれほど大きな違いではないと思う人もいるでしょう。   ですから被害としての精神障害の大きさは,加害の行為に比例していて,本当に全部一緒ですかと聞かれたら,全部同じですとか,例えば全部50%ですというふうには言えないです。そもそも発症の要因は多様なので,それは多分,どのような犯罪に関わる精神障害もそうだと思いますけれども,発症の要因は多要因であって一つの要因だけで発症率を決めることができない。   これでお答えになったかどうか分からないのですけれども,多分,十分な資料が精神医学の中で見つからないのは,少し乱暴な言い方ですが,そういうことを気にしても仕方がないくらい具合が悪いからだということだと思います。 ○井田座長 現行法は,性的侵害行為を重い類型と少し軽めの類型との二つに分けていて,その大きな二つ類型の間の線引きが大きな問題となるわけです。そのときに,精神医学的観点からすると,その線引きがどうあるべきかということはなかなか言えないということでしょうか。 ○小西委員 どこかで線を引かなくてはいけないのでしたら,例えば,本来は疫学的な研究をして,何パーセントで引くかという話になるのですけれども,やはりそれは恣意的ですね。疫学研究では「rape」(レイプ)と「sexual molestation」(強制わいせつや痴漢)を分けている研究もあります。そうしますとPTSDの関連有病率は,やはり違います。さきほど申し上げたとおりです。被害を受ける側にも様々な要因があるのですが,世の中で生活している方は,皆さんそれぞれ違うパーソナリティーや,それぞれ違う精神的な健康度を持っているわけですから,そのような人を全部混ぜて考えるということになると,今申し上げた疫学的なところしかお答えができないということになります。 ○橋爪委員 ありがとうございます。大変参考になりました。 ○池田委員 今,被害については同等で,線引きをすることが難しいというお話がありましたけれども,それを踏まえて,意見要旨集の「②」の2ページの上から2番目の「○」について意見を申し上げたいと思います。   こちらにありますように,身体の一部や物を体腔内に挿入する行為として想定される類型,つまり,何を何に挿入することを想定するかについて,その中には,強制性交等罪における性交等と同じく,わいせつ性を備え,かつ,それらと同等の悪質性・当罰性を有するものも考えられるわけですけれども,他方で,それらの全てが同じ程度の当罰性を有するかについては,なお検討が必要であると指摘されているところです。   例えば,いわゆる性玩具を口腔内に挿入する行為ですけれども,それ自体は先ほどの小島委員の御指摘にもありましたように,わいせつ性を備えるということはできると思いますけれども,他方で,それを単体として見たときに,それ自体を性交等,つまり,性交,肛門性交,口腔性交と同等の法益侵害があると言えるかについては,議論の余地もあるのではないかと思います。   また,膣や肛門に身体の一部や物を挿入する場合についても,議論があると思いますけれども,挿入する物の形状や挿入の態様によっては,わいせつ性を備えるかの評価について分かれ得る場合もあると思いますし,行為の悪質性・当罰性の程度は様々であるということを考えますと,それらの全てを強制性交等の罪と同等の悪質性・当罰性があるということは難しいのではないかと思われます。   こうした点を踏まえて考えてみますと,身体の一部や物の体腔内への挿入を強制性交等罪に含めることの要否・当否を検討するに当たりましては,当罰性のある行為を切り出すという観点からは,更に行為の意味や行為態様の明確化を図ることについて,検討の必要があるのではないかと思っております。 ○宮田委員 先ほども出てまいりましたし,意見要旨集の1ページの「①」,「②」にたくさん出てきている被害者の精神的なショックや被害者の与えられたダメージだけで立法理由を考えてよいのかという観点から意見を述べさせていただければと思います。   私も被害者の相談などを受けますけれども,精神的なショックを受けたということを考えれば,いわゆるオーラルセックス,177条の口腔性交とは異なって,唇や舌を用いて性器,乳房などをなめるような行為であっても,被害者のショックは,ものすごく大きい。性器をなめられるのも,性器に挿入されるのも,ショックは同じなのではないでしょうか。刑事立法をする場合には,被害者側の事情も考える必要がありますけれども,犯罪となる行為の集合をどうやって作るかに際しては,その行為の類型としての同一性を考えて,更にその行為の処罰の必要性についても考えていく必要があると思っています。   そういう意味では,177条,178条に規定されている男性器の挿入行為というのは,最もよく起こりがちな性的被害であって,それによって処女膜裂傷とか肛門の裂傷といった傷害結果が生じやすく,女子の被害であれば,妊娠の危険性があるなど,非常に被害が大きくなる可能性もありますし,また,刑法によって,男性器にまつわる行為を犯罪とするということで,加害者が自分の身体で快楽を得る行為を禁圧するというメッセージを与えることにより,一般予防の効果が上がるという意味があると思うのです。   ですから,私は,男性器の挿入行為と,ほかの物の挿入行為を分けるということは著しく不合理とはいえないと思っているのです。   また,特に指や舌などの場合には,挿入したのか,触れただけなのかという,つまらない争いが必ず起こります。強制性交等罪なのか,強制わいせつ罪なのかという争いが起きるというのは非常に不毛だと思います。   強制わいせつ罪は非常に刑の幅が広いですから,法定刑の中で,相当重い刑を言い渡すことはできるのです。さらに,手指の挿入,舌の挿入,あるいは器物の挿入によって非常に精神的なショックを受けたという事例の中で,例えばPTSDを発症したということであれば,それを傷害と評価して,強制わいせつ致傷罪での処罰も可能になり,更に処罰を重くするということが可能と考えています。   以上,私は,立法するときのターゲットの定め方について,被害者の被害感情だけでよいのかという点から,消極的な意見を述べさせていただきました。 ○和田委員 意見要旨集の2ページの「④」の一つ目の「○」との関係での意見です。   性的な挿入行為の中に,性交等と同じ当罰性を有するものがあることは間違いないと思いますので,それについては,可能な限り類型的にも重い法的評価を与えて対応していくことを追求すべきであろうと思います。   しかし,他方で,それを重い処罰の対象にするときに,同じカテゴリーに入ってくる行為の中には,やはり性交等と同じ評価を与えるには足りないものもどうしても出てきてしまいます。規定の仕方として,きれいに性交等と同等のものだけ切り出せればいいわけですが,それがなかなか難しいというところに問題があるかと思います。   そうしますと,わいせつ行為であることを前提に,挿入を伴うような行為に関して,重い方については性交等と同じ評価を与えつつ,軽い方については性交等と同じとまではいえないということを同時に表す規定の仕方として,新たな犯罪類型を設けた上で,法定刑の上限を強制性交等罪と同じ20年の懲役としつつ,下限については5年の懲役よりも下げて,懲役3年あるいは2年というような形とする方法もあるのではないかと思います。規定の仕方に関する一つの提案として意見を述べさせていただきました。 ○井田座長 現行法は,言わば二分法なのだけれども,それに一つ新しい類型を加えて,三分法に移行する,と言いますか,第三類型を設けて,法定刑の上限は強制性交等と同じだけれども,下限は軽くすると,こういう御意見だったと思われます。 ○齋藤委員 先ほどの意見の補足なのですけれども,膣や肛門への手指・異物の挿入を心理学の研究でどこで区切れるかということを考えたときに,研究でどういう聞き方をしているかというと,諸外国で多いのは,膣,肛門,口腔への陰茎の挿入と,膣,肛門への手指・異物の挿入を同じカテゴリーで尋ねることなので,心理学の面から見れば,それは分けていないと考えられます。   なぜそうなっているかと言いますと,先ほど小島委員が言ったことと重なるのですけれども,少なくとも膣や肛門に手指や異物が挿入されるのは,加害者の意図がどうであれ,被害者にとっては,わいせつ性が備わっている性的な侵襲性を伴うものであるということがあります。これに対し,口腔に何かを挿入するということは,それが伴わない場合もある。挿入される物が食べ物ということもありますので,私は,少なくとも膣や肛門への手指・異物の挿入というのは,性交等と同じぐらいの法益が侵害されていると考えております。 ○井田座長 齋藤委員にお聞きしたいのですが,例えば,先ほど小島委員がおっしゃったような性具を口腔に入れる類型について,それは強制性交等よりも軽い類型でよいとお考えですか。あるいは,現行法だと強制わいせつに当たる類型ですけれども,キスをして無理やり口の中に舌を入れるというのは,やはり軽い類型でよいとお考えですか。 ○齋藤委員 軽い類型の方でいいかと言われると,心理職としては,その質問にお答えするのは難しいです。心理職は,その人の精神的な傷つきについて考えますが,皆さん,性暴力により深刻に傷ついていることは同じです。ただ,今まで何度も質問されてきたように,法的にどこかで区切らなければならないということを考えたときに,心理学の研究などに基づくならば,そこで区切ることができるのではないかと考えたということです。 ○井田座長 よく分かりました。 ○金杉委員 基本的には,身体の一部や物を被害者の膣,肛門,口腔内に挿入する行為を強制性交等罪の対象に含めるということには反対の意見です。現状においても,強制わいせつ罪や,あるいはその致傷罪の中で,身体の一部や物を被害者の膣,肛門等に挿入する行為があれば,重く処罰されているということは確実に言えます。それを超えて,法定刑の下限が5年に引き上げられた強制性交等罪の中に全て一律に入れるというのは必要性が乏しいと考えています。   先ほど,膣や肛門等の中に挿入する行為については,身体の一部であろうが,物であろうが,一律に強制性交等罪に入れていいのではないかという議論がありました。しかし,そうしますと,例えば,電車の中で指を被害者の膣内に挿入したという行為についても,強制性交等罪で処罰されるということになります。そうしますと,まず実務的な考え方としましては,権利保釈の規定に引っかかり,裁量保釈しか許されないということになります。   また,未遂の問題も生じると思います。例えば,電車の中で下着の中に手を入れて,膣の中には挿入しなかったけれども,性器周辺を弄んだという事例について,例えば,強制わいせつで処罰するよりも,強制性交等の未遂の方が重くなるわけですけれども,強制性交等の犯意があったと考えられれば,強制性交等の未遂になるのかという問題も生じます。   一律に,どのような行為が性交類似行為として重く処罰されるべきなのかということを規定することは現実的には難しいと考えます。強制わいせつ罪の中で重く処罰されるという現状で十分ではないかと考えます。 ○井田座長 これまでの議論で触れられていないことについてですが,平成29年改正で,刑法177条について,ジェンダーニュートラルの観点から,挿入する行為と挿入させる行為を同じ扱いにすることとされたわけですが,そうすると,身体の一部や物の挿入についても,挿入させる行為を挿入する行為と同じに考えられるかという論点は出てくると思うのです。このように,現行刑法は,性交等については,挿入する行為と挿入させる行為を同じように扱い,同じ評価としているのですが,そうすると,わいせつ行為について,身体の一部や物を挿入させる,例えば,性具を自分の膣内に挿入させる行為,手指を挿入させる行為,舌を入れさせる行為のような行為を果たしてどう扱うかということは大きな法的問題であると思います。この点も含めて,是非御意見を頂ければと思います。 ○木村委員 委員の方々の御指摘のとおり,現行法との関係でいえば,どこで線を引くのかということを考えざるを得ないのかなと思っています。現在では,強制性交等は男性器の挿入に限定しているわけですけれども,被害という意味では,先ほどから委員の方々のいろいろなお話を伺っていると,男性器には限られないというふうには思います。ですから,男性器の挿入という点では拡大する必要があるだろうと思います。   ただ,和田委員もおっしゃっていましたけれども,強制性交等と同等の重さで処罰することを前提にするのであれば,やはり性器に関わる部分への挿入に限定するというのは,ある程度意味があるのかなと思います。肛門を性器類似と見るかどうかというのは議論の余地があるかもしれませんけれども,強制わいせつ罪がある以上,どこで線を引くべきかとすると,性器とそれ以外というのは一応の区別としてあり得るのではないかというふうに思います。   ただ,その場合は,今,井田座長がおっしゃったとおりで,女性器への挿入に限るというような話になってきますので,ジェンダーで差をつけるのは問題があるというような議論はあるのかもしれません。 ○小西委員 一つは,「sexual contact」(性的接触)という概念で考えると,挿入するものと挿入されるもののどちらかはやはり性的なものでなくてはいけないというか,そうでないとなかなか成り立たないだろうなとは思うのですね。   先ほど類型で差がつけられないと言いましたけれども,やはりぼんやりとは差がついていて,齋藤委員が言われたような「sexual assault」(性的暴力)を統計的に捉えるときにどこで切るか,あるいは,レイプと言ったときにどこで切るかというのを精神医学上の慣例で言うと,物の挿入,手指の挿入,性器の挿入というのはみんな一緒に扱っているというのはおっしゃっているとおりだと思っています。   それから,例えば,先ほどの男性器を挿入させる問題についてなのですけれども,この被害は,現実的には,子供対象のもの,あるいは,いじめの中での男性への性的な攻撃というときのものとしてしか私は頭に思い浮かばないのですが,そういう場合に,そういうことをされることは,やはり重い類型に属するというふうに考えられると思います。 ○佐藤委員 いろいろな方と話が重なってしまうのですけれども,私も,前提としては,物の挿入の場合も,性交等と同じぐらいの被害があるために同じぐらいの重さで処罰すべきような場合があり,行為態様の面でも,性交等と同じぐらい悪質な場合もあるというふうに思っています。   ただ,先ほど和田委員がおっしゃったように,三分法にするというのがよいのではないかと考えておりまして,この点につきましては,先ほど井田座長がおっしゃったのですけれども,現行法下では,挿入する行為だけでなく,挿入させる行為も強制性交等罪の対象になっています。例えば12歳の男子と20歳の女性が性交する場合,20歳の女性が12歳の男子に性器を挿入させるというのが177条の対象になります。   もし,強制性交等に物の挿入も入れるとし,かつ現行法と同じように,挿入する行為もさせる行為も対象としますと,例えば12歳の少年に性具を持たせて20歳の女性の性器に挿入させるという場合も,女性側に強制性交等が成立するということになります。しかし,これは果たして性交と同じぐらいの被害なのかといわれると,悩ましいところではないかと思います。   ですから,物を挿入する行為と挿入させる行為を同様に処罰するような規定の仕方は少し無理があるのではないかと思っており,かといって,現行法の形を変えて,性器や物を挿入する場合に限り処罰するとすれば,今まで処罰されていた,女性器等に男性器を挿入させる行為などが強制性交等から落ちてしまうという問題が生じることになります。それもやはり問題でしょうから,ここでは挿入する行為もさせる行為も処罰する現行法と同じ形の強制性交等と,挿入する行為のみを処罰する,物等を利用した場合の処罰規定で分けておけば,現在,強制性交等罪で処罰しているものは引き続き処罰できるし,反対に,強制性交等と同じぐらい悪いと言われているような物を挿入する行為についても,同じ法定刑で処罰できるという解決ができるのではないかと考えているところでございます。 ○山本委員 三分法にした場合の懸念点についてお伝えしたいと思います。   12月21日に,12歳の実子への強姦事件に問われ,一審で無罪となった被告人が東京高裁で懲役7年の逆転有罪判決を受けました。私は裁判の傍聴をしていたのですが,高裁の公判では,撮影していた被害者の身体の画像を検察官が証拠請求して,鑑定医が処女膜に損傷があることや,相当な頻度で男性器の挿入が行われたと考えられることを証言しました。一方,弁護側は,かなり強く,タンポンの挿入や自慰行為で起こった損傷の可能性があると主張していました。   私は,聞いていてとても酷なやり取りだと思いました。被害者にとって,何を入れられたかを聞かれること自体が耐え難いことですが,12歳の子供が同意なく膣や肛門に物を入れられたことに関して,それが男性器であるのか,物であるのかというのを証明しないといけない。それを証言して,有罪の証拠として採用されないと,懲役刑に問うことが難しくなってしまうことは,被害者に相当な負担です。被害者を中心に考えて,入れられるものが何であれ,被害者にとっては同じ被害だと認識していただければと思っています。   また,資料34にもあるのですけれども,指の挿入が軽い類型のように考えられているような印象を受けました。指の挿入の事案では,年少の被害者も多いですし,年長の被害者は整体師やマッサージ師など本来なら安心できる状況で受ける被害が多く,加害者には常習性もあります。性具を挿入しているケースというのは本当に悪質で,撮影なども行われている当罰性が高いものというふうにはいえるのではないかと思うのですけれども,そういう物の挿入の事案が軽いということはいえないと思いますし,挿入された物を被害者が証明しなければいけないという問題をクリアしていただきたいと思っています。 ○井田座長 それでは,この第1の「5」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきます。現行法上,重い類型としての強制性交等罪と軽い類型としての強制わいせつ罪の二つに分けられている二分法の枠組みを基本的に維持すべきだという御意見もありましたけれども,重い類型と軽い類型の線引きを修正すべきであるといった御意見も出されました。また,新たに第三類型を設けて三分法とするべきだという御見解も披れきされました。どのように修正するにしても,なかなか困難な法的な課題が幾つも出てきて,それをどう解決するかということが問われることになるのではないかと思われます。   次に,「法定刑の在り方」についての検討に入りたいと思います。   この論点については,まず,加重類型に関するものとして,意見要旨集の4ページ以下の第1の6の「(1)」及び「(2)」についてまとめて議論することにしたいと思います。この項目のうち,2名以上の者が現場において共同した場合については,一巡目の検討では,意見要旨集の4ページの「(1)」にありますように,「① 被害の実態」,「② 量刑の実情」,「③ 加重類型を設けることの要否・当否」,「④ 考えられる法定刑」という観点から御意見を頂いています。   また,被害者が一定の年齢未満の者である場合については,意見要旨集の5ページの「(2)」にあるように,「① 被害の実態」,「② 量刑の実情」,「③ 加重類型を設けることの要否・当否」という観点から御意見を頂いているほか,「④ その他」としてありますように,治療・教育や再犯防止の取組などについての御意見も頂いております。   先ほどと同様に,どのような観点からの御意見であるかを明示した上で御発言いただきたいと思います。   また,前回の会合における議論の際に,同一の被害者に対して継続的な犯行に及んだ場合に,より重い法定刑とすることについて御意見がございましたので,そのような場合の加重類型を設けるべきかどうかについても御意見があれば,併せて御発言いただきたいと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いします。この論点については,30分程度を予定しておりますので,よろしくお願いいたします。 ○小島委員 意見要旨集の4ページの「③」の最初の「○」の問題と,法定刑の下限を上げるという点について意見を述べます。   2名以上の者が現場において共同した場合の加重類型ですけれども,集団による強制性交等罪というのは,類型的に悪質性,凶悪性,常習性がある犯罪であって,集団で行うことによって被害者に与えるダメージが単独犯の場合とは全く違う犯罪だということを強調したいと思います。法文上もこの点を明らかにしていただきたいという強い気持ちでおります。被害者の方も,集団強姦罪がなくなったということについては非常に強い危機感を持っておりまして,残念だという声が強い。集団による強制性交等罪を通常の強制性交等罪と異なる犯罪類型として設けていただきたいと思います。   この場合に問題になりますのが,集団強制性交等罪の法定刑の下限を6年,集団強制性交等致傷罪の法定刑の下限を7年としてしまうと,前回の改正のときも問題になったようなのですけれども,致傷の場合について執行猶予が付けられなくなり,問題が出てくると。例えば,単なる見張りなど,関わり方が軽微である者についても,共同正犯になってしまうので,酌量減軽しても執行猶予が付かない。そうすると,加功が少ない者,特に年少者などについてどうなのだろうかと。執行猶予が全く付かない犯罪というのでは使い勝手が悪いという意見があったと思います。   そこで,少し中途半端かもしれませんけれども,集団強姦罪を復活させて,法定刑の下限を6年とし,致傷罪については,法定刑の下限を7年ではなく6年としつつ,上限については無期懲役とするというような形にしたらいかがかと思いました。   集団強制性交等罪について加重類型を復活させ,致傷罪についての執行猶予の点については今言ったような形でカバーしたらどうかというのが私の意見でございます。 ○池田委員 意見要旨集の(1)の「③」の二つ目の「○」や(2)の「③」の三つ目の「○」にあるように,また小島委員からも御指摘がありましたが,加重類型を設ける場合には,下限を引き上げる,そして上限を更に引き上げるということが考えられるわけですけれども,下限の引上げの場合には,加功の態様には様々なものがあり,被害者の宥恕の感情なども様々なものがあり得て,酌量すべき事情があるにもかかわらず執行猶予が付けられないという問題があるという御指摘がありまして,下限の引上げはなかなか難しいのではないかという御指摘があるところです。   他方で,上限を無期懲役にするということについてなのですけれども,現在の量刑の傾向を見てみますと,2名以上が現場で共同した事案でありますとか,被害者が子供である事案で,致死傷の結果が生じていないものについて,これが法定刑の上限に張り付いているという実情は必ずしも見られないところでありまして,有期の懲役では足りず,無期懲役を科さなければ十分な量刑とはいえないというほどの事情が生じているとは直ちにはいえないのではないかとも思われるところです。   ただ,小島委員の御意見も含めて,これまでの御指摘を踏まえて改めて考えてみますと,集団で行われる性犯罪が単なる複数人の共同というのにとどまらず,例えば,高度に組織化され,役割分担を伴って行われ,犯罪遂行を一層容易にしているといった場合などは,その態様において悪質であり,類型的に見て特段の当罰性を有するものと評価することも可能ではないかと思われます。   そうした点に鑑みますと,加重類型を設けることの検討に当たっては,特に集団についてですけれども,集団で行為に及んだということに加えて,集団で行為に及ぶことによって実現される,あるいは,実現が容易となるような,類型的に当罰性を高める事情がある場合に,特に重く評価するという考え方も成り立ち得るのではないかと思っております。 ○宮田委員 意見要旨集の(1)の「④」の二つ目の「○」について,先ほど小島委員からも御意見があったところではありますが,無期懲役が法定刑にある罪名というのは,人の死の結果について故意を必要とする殺人罪であるとか,その犯罪の結果,致死傷の結果を生じさせるような強盗致死傷罪,強制わいせつ致死傷罪や強制性交等致死傷罪などのほかに,たくさんの人が死ぬ危険がある現住建造物等放火罪や列車転覆罪等といったものもあります。   もちろん,薬物事犯の大量輸入なども多数の人たちの命に関わるということで無期懲役が設けられていますが,このような犯罪類型と同じように無期刑を定めてもよいのだろうか。もちろん,性犯罪は魂の殺人と言われるものですけれども,致死の結果そのものを生じさせるものではないということです。   そして,性的被害によって精神的に負ったダメージについては,PTSDである等の診断を下すことによって,致傷罪としての評価が可能です。そうであれば,無期懲役を科すことが可能です。   継続的被害についても,強制性交等罪の併合罪の場合には,懲役30年までの刑を科すことが可能です。そして,精神症状を致傷と見れば,無期懲役も科せるのです。   法定刑の上限を無期懲役に引き上げたときの問題として一つ考えなければいけないのは,裁判員裁判になることです。被害者のうち,少なからぬ人が裁判員裁判になるのは嫌だと表明し,致傷から認定を落として強制性交等罪で起訴した例もあるやに聞いています。強制性交等致傷罪において,不起訴,特に起訴猶予となっている案件だと,そういう被害者の御意向が働いている可能性は相当程度に高いかと思います。   東京等の大都市ならまだしも,地方での,裁判員裁判で自分の事件が取り扱われるということの被害者の抵抗感や苦痛を考えておく必要があるかもしれません。これは,今ある制度と刑罰と,主客が逆転しており,おかしいと言われるかもしれませんけれども,そういう問題も起きてくることは考えておかなければならないのではないでしょうか。 ○上谷委員 私も同じ「④」の法定刑のところなのですけれども,下限については,確かに御指摘のとおり,いろいろなケースがあって,6年以上とする,致死傷だと7年以上にするというときには,実情にそぐわないケースが出てくるのかなというところはうなずけるところであります。   ただ,上限を無期懲役にすることについては積極的な意見を持っておりまして,やはり集団による独特な問題というのが単独犯とは違うと思われることと,今,宮田委員からも,PTSDを発症するのだから,致傷としてできるのではないかという意見がありましたけれども,PTSDを発症していても,因果関係の立証などが難しくて,見送られているケースの方が圧倒的に多いと思います。まずは,事件の前から精神的に健康であったことの立証がなされないといけない。その事件によってPTSDにり患したことが間違いないということがなかなか立証できないということで,結局,PTSDを捉えて致傷がつくケースというのは,むしろごく少ないというのが実態だと思います。それにもかかわらず,致傷がつかない案件でも実際はPTSDを発症していることが非常に多いという現実もありますので,下限を現状に据え置いたまま,上限を無期懲役にして,弾力的な運用をするというのが一番いいのではないかと思っています。 ○小西委員 これは,英語だと「gang rape」(集団強姦)に当たると思うのですけれども,「gang rape」(集団強姦)に関しては,量は少ないですけれども,単独のレイプに比べて,PTSDの発症が多いとか,その後の適応が悪いという論文はございます。 ○小島委員 先ほどの私の説明が分かりにくかったと思うのですけれども,集団強姦罪を復活させて,法定刑の下限は6年にすると。上限を無期懲役にするというのは,若干ちゅうちょがございます。上限については,現行の有期懲役の幅で対応できるのではないかというふうに考えているのです。   一方,集団強制性交等致死傷罪については,法定刑の下限を7年にすることによって,執行猶予が付かなくなる問題点,これは確かにおっしゃるとおりだと思うので,下限を6年のままにとどめるのは,妥協的なのですけれども,やむを得ないかと思っております。 ○和田委員 前提として,事務当局に教えていただきたいことがあります。性犯罪者の中には,同じような手口で性犯罪を反復累行するという傾向を持った性犯罪者が現にそれなりの数いるというイメージがあるわけですけれども,統計上,そのようなことが言えるのかどうかということについて,もし分かれば教えていただきたいと思います。 ○岡田参事官 今お尋ねの点ですけれども,まず,性犯罪について,同様の手口で反復累行することが多いかどうかということにつきましては,性犯罪について手口別の統計というものが見当たらず,一概には申し上げられないところでございますけれども,例えば,本検討会の中でも御指摘されていたようなスーパーフリーの事件やリアルナンパアカデミーの事件のようなものは,同種手口の犯行を繰り返していた事案と言えるのではないかと思います。   それから,再犯という観点から申し上げますと,例えば,令和2年の犯罪白書では,強制性交等及び強制わいせつで検挙された成人の有前科者のうち,同一罪名の前科を有する者の割合は,強制性交等では3.0%,強制わいせつで7.6%となっておりまして,一般刑法犯全体では14.8%となっておりますので,一般刑法犯より低いということになります。   他方で,刑事施設への再入という観点から,刑事施設に入所するのが二度目以上の者について見ますと,平成27年の犯罪白書なのですけれども,再入の罪名と前刑の罪名が同一である者の割合というのが,強姦については27.7%,前刑が強制わいせつであるものを含めると35%になります。強制わいせつについては,同じ罪名のものが32.3%,前刑が強姦であるものを含めると45.5%となっておりまして,この割合というのは,例えば窃盗ですとか覚せい剤取締法違反とかというものは70%以上ありますので,こういったものよりは低いのですけれども,傷害は23.8%,強盗は13.5%,殺人だと8.6%となっているので,こういったものよりは強姦や強制わいせつの方が高いということが言えるかと思います。 ○和田委員 ありがとうございます。   少なくとも,再入者については,再度性犯罪によって受刑する割合がそれなりに高いということかと思います。そうであれば,単純な集団強制性交等という観点ではないのですが,暴力行為等処罰に関する法律には,常習傷害罪とか常習暴行罪というのがありますし,それから,盗犯等の防止及び処分に関する法律に常習特殊強窃盗罪が規定されています。   ですから,それらを参考にして,常習として強制性交等罪を犯すような行為について,重い犯罪類型を設けるという方法があるのではないかと思いました。   常習特殊強窃盗罪には,常習性だけでなく,特殊な方法・手口による場合が重い処罰の対象になるように規定されていますけれども,その中には,2人以上,現場において共同して犯したときという条件が入っていますので,そういう形で,常習性と集団性をセットにした加重類型を設ける方法もあるかと思いましたので,述べさせていただきました。 ○井田座長 そのような類型だと,法定刑に無期懲役を加え,あるいは,下限を引き上げて執行猶予が付されないようにすることも考えられるという御趣旨だと伺いました。今の点について御意見はございますでしょうか。   また,被害者が子供の場合についての御意見をあまり伺っていないような気がするのですけれども,いかがでしょうか。 ○和田委員 補足というか確認ですけれども,常習性で捉えれば,同一の被害者に対する犯行でなくても拾うことができるという前提でございます。 ○橋爪委員 刑を加重する根拠については,犯人が常習性を持って複数の性行為を反復したという犯人の悪質性に基づく観点と,同一の被害者が複数の性被害によって重大な被害を受けたという被害の重大性の観点の二つがあるように思いました。   和田委員からは,先ほど,前者について御意見があったところですが,後者についても,特に児童については,例えば家庭内で継続的な性被害を受ける場合などを想定した場合,継続的な性行為によって心身に重大なダメージを受ける場合が多いと思われますので,このような観点からの加重も,立法論的にはあり得るように思います。   例えば,監護者性交等罪につきましては,継続的な性行為が行われるなど,特に被害が重大なものをうまく切り取ることが可能であれば,加重類型を設けて,例えば無期懲役を法定刑に加えるということも選択肢としてはあり得るように思います。 ○川出委員 今の橋爪委員の御指摘と重なりますが,同一被害者に対して犯行を繰り返したような場合について,それを加重類型とするかどうかについても検討する必要があると思います。前回は,こういった継続的な性的行為について,個々の行為の日時や場所を特定しなくても有罪とできるようにするための法的手当てという観点から,新たな罪を創設すべきかどうかが議論されたわけですが,立証の緩和とは別の問題として,このような行為の悪質さですとか,被害の大きさといった実態に着目して,加重類型を設けることが考えられます。   その場合に,法定刑の下限を引き上げるのか,上限を引き上げるのかという点については,下限を引き上げるという方法については,先ほどから指摘がなされていますように,致死傷の結果が生じた場合に,そうでない場合よりも刑を重くするということになると,法定刑の下限は7年以上となりますので,執行猶予を付すことができなくなるということについてどう考えるかという問題が出てきます。   もっとも,この点については,同一被害者に対して性的行為を繰り返した上で,死傷の結果を生じさせた場合に,それでも執行猶予としなければ不当だと考えられる事案が本当にあるのかという疑問もあります。共犯者間で役割が異なる集団による強制性交等の場合とは違って,一人の犯人が継続的に同一被害者に対して性的行為を行っているわけですから,そういう場合について,死傷の結果が生じた場合に,なお実刑を回避しなければならないというような事案が本当にあるのかということを検討する必要があるのではないかということです。   他方で,法定刑の上限を引き上げる場合については,ここでは行為の悪質さや被害の大きさを根拠として加重類型を設けようとするわけですから,法定刑は単なる併合罪の場合よりも重くすることになろうかと思います。具体的には,例えば懲役35年とか40年という特定の刑期とするか,あるいは,無期刑を設けるということになります。   先ほどの集団による強制性交等についての議論の中で,現在の量刑を見ると,無期懲役刑を科さなければ不十分というような状況は必ずしも存在していないのではないかという御指摘がありました。その観点から考えてみますと,ここで問題としている同一被害者に対して繰り返し性的行為が行われているような事案,典型例は,橋爪委員が指摘されたように,監護者が何年にもわたって継続的に子供に性的行為を繰り返した場合ですけれども,こういった事案については,現在の実務では,そのうちの確実に立証できる1回ないし数回の行為を起訴し,長期間にわたって性的行為が繰り返されたという事実は,量刑事情の一つとして判決の中で認定されているということだろうと思います。   そうしますと,現状では,同一被害者に対して長期間にわたって繰り返された性的行為が全て起訴され,そのことを前提に量刑がなされた事案というのは恐らく存在しないだろうと思いますので,その意味では,先ほどの集団による強制性交等の場合とは異なり,現在の量刑を手掛かりに,無期懲役刑を加える必要性の有無を検討することはできないということになるかと思います。   そうしますと,この類型については,無期懲役が定められている他の犯罪と比較しつつ,同一被害者に対して繰り返し性的行為が行われたという事案の中に,死傷の結果を伴わない場合であっても,無期懲役に値するだけの違法性を持つものがあるかどうかという観点から,無期懲役刑を加えるかどうかを検討する必要があるいうことになろうかと思います。 ○井田座長 非常に示唆的な御意見をたくさん頂いたと思います。ちょうど予定の時間を経過しましたので,次に,意見要旨集の7ページの第1の6の「(3)」,法定刑の下限の引下げの問題についての検討に入りたいと思います。   この項目については,一巡目の検討で,意見要旨集の7ページ及び8ページにありますように,「① 捜査・公判の実情」,「② 法定刑の下限の引下げの要否・当否」という観点から御意見を頂いております。   先ほどと同様,どのような観点からの御意見であるかを明示して御発言いただければと思います。15分程度で議論いただけますと大変幸いです。 ○宮田委員 意見要旨集の8ページの下から二つ目の「○」にあるように,量刑資料に基づいた御意見が以前あり,また,下から三つ目の「○」にあるように,量刑傾向と法定刑の間のギャップがあったことが立法理由だという点についての意見です。果たして,それが立法理由たり得たかどうかという話について述べたいと思います。また,執行猶予が統計的に減っていないという下から二つ目の「○」にも関連するところでございます。   覚醒剤事犯のように,何グラム持っていたら大体何年というように,件数が多くて非常に統計処理になじむ犯罪類型がございます。しかしながら,殺人,放火,性犯罪といった事件は,各事案の個別性が非常に高い。各罪名には法定刑が定められておりますが,法律上,加重減軽の理由が定められており,それを適用した上で処断刑が決められ,更に個別事情を考慮して,宣告刑が決められます。   殺人の場合には,正当防衛のように,違法性が全くなくなってしまう事件もあります。あるいは,過剰防衛で違法性が減じるとか,あるいは,えい児殺とか介護殺のように心神耗弱下で起きる事件も多数あります。放火事件の中には,障害のために心神耗弱となる例も非常に多いです。そして,殺人事件などの場合には,被害者が加害者を虐待していたなど,情状酌量の余地が大いに認められる事件も少なくありません。刑法の各構成要件ごとに定められた法定刑を単純に適用して刑が言い渡されているわけではありません。法律的な加重減軽がされているのですから,量刑傾向と法定刑の間にギャップがあるかないか,という議論は非常に粗い議論であり,ギャップがあるのはある意味当然なのではないでしょうか。   そして,海外の法制を見てみますと,ドイツでは5年以上の自由刑となっているのは177条8項で,行為者が,行為の際に,凶器若しくはその他の危険な道具を使用した場合,行為の際に,被害者を身体的に著しく虐待した場合若しくは行為により死亡の危険にさらした場合としています。韓国では,刑法では強姦や強制わいせつで致傷の結果を生じたときに5年以上の懲役です。特例法の3条1項では,住居侵入等をして強姦等を行った者や,あるいは,4条1項で凶器の携帯や2人以上が合同して強姦をした者を5年以上の懲役とするなど,この5年以上となる罪というのは,海外の法制を見てみると相当に悪質なものです。悪質という意味では,スウェーデンでも,5年以上の拘禁刑であるのは,犯罪が重大だと判断された場合というふうに法律上明示されております。   そうすると,我が国においては,構成要件が解釈によって相当緩和され,例えば強制わいせつであれば,わいせつ行為自体が暴行になりますし,強制性交等であっても,性交等に通常伴うような行為を暴行として認定して,明示的な暴行や脅迫がなくても,177条の該当性を認めています。あるいは,178条の抗拒不能の要件も,諸外国では認めていない,欺罔まで広げているような裁判例もあります。   このような状況の下で,法定刑の下限が5年というのはむしろ異常なのではないでしょうか。少なくとも,従前の3年まで戻すべきだと思いますし,構成要件の明確化の作業をするということであれば,諸外国が重大で悪質としているものについてのみを5年以上とし,そうでないものは例えば,2年以上の刑とするのが妥当だと思います。   そして,私が実務の感覚としてはこうだとしか意見が言えないのは,具体的な資料がないからです。私は,事務局の方に,不起訴,特に起訴猶予となった事例の具体的な犯行態様などについて教えてほしい,また,判決についても全件見せてくれとお願いをしました。一弁護士はそのようなものを集めることはできません。   事件は会議室で起きているのではない,現場で起きているのだというドラマがありましたが,事件というのは統計になってしまったら,見えないことが多いのです。具体的な事件がどういう事例だったのか,どういうところが酌量されたのか,どういうところが量刑判断のポイントだったのか,そこを比較検討しなければ,全く意味のないものになるのではないでしょうか。   私は,判決の中でも,どこが判断のポイントになっているのかを比べることなく,統計上の数字が何となく重なっているから,それでオーケーというものではないと思います。   そして,最後にもう一つ。海外では,性犯罪の類型を分けて,刑罰が重いものもあり,軽いものも置いています。そして,そればかりでなく,処罰について,刑罰のプログラムが非常に多様であるということです。日本では,懲役と禁錮と罰金と拘留と科料という非常に少ないメニューしかなく,懲役刑等を執行猶予にするかどうかという判断までしかできません。海外では,刑務所への拘束について,夜間拘禁や週末拘禁のような方法,あるいはGPSを使って社会内で監視を受けることによって,刑務所に収容しない方法であるとか,治療を義務付ける,あるいは,その治療をするということを選択することによって,懲役刑を回避するような方法が認められている等,非常に多様なプログラムがあるということです。   今の日本の刑罰体系の中で,刑罰を重くするということが,果たして大きな犯罪防止の効果を上げるものなのかどうかということには疑問なしとしません。 ○橋爪委員 ただ今,宮田委員から,恐らく私の発言だと思うのですが,量刑傾向と法定刑のギャップが立法理由になるかについて御批判がありましたので,私の発言の趣旨を改めて明確にしておきたいと思います。   私が申し上げましたのは,前回の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会での資料からも明らかなとおり,平成29年の改正前におきましても,法定刑の下限が5年であった強盗罪や放火罪よりも,当時3年であった強姦罪の方が,全体としての量刑傾向が有意に重かったという事実です。このような意味において,既に改正前においても,強姦罪については法定刑に必ずしも対応していない量刑判断が行われており,このような法定刑と量刑傾向のギャップを修正することが,正に平成29年改正の一つの重要な根拠となっていたわけです。このような発言の趣旨を,改めて確認しておきたいと存じます。 ○池田委員 意見要旨集の8ページの下から二つ目の「○」の意見についても,宮田委員が言及されておられましたので,若干補足として意見を申し上げたいと思います。   これについても,前回の法改正の際に,今,橋爪委員から御指摘があった事情を踏まえて,下限が引き上げられたわけですが,併せて,下限を引き上げることによって,当然に執行猶予が付けられるというわけではなくて,更に特段の事情がなければ,執行猶予を付すべきでないという評価も述べられていたように思われます。   ですから,個別の事案を見なければ,実情が分からないということですけれども,現状,法改正後も執行猶予が付されているということは,そのように実情に即した評価が行われていることの帰結だろうと思います。   統計については,前回,私の方から指摘をしたところで,強姦と強制性交等の改正前後の量刑傾向を比べても,執行猶予を付された率には変化がないということを申し上げておりますし,また,資料7の2の4ページには,強制性交等罪の統計が出ていますけれども,平成30年度は159件中の32件,20.1%で執行猶予が付されている。令和元年は223件中の45件,20.2%で執行猶予が付されていて,横ばいといいますか,若干執行猶予が付される率も上がっている状況であります。   したがいまして,法定刑の下限の引上げが実際の量刑評価において不合理な帰結をもたらしているかというと,従前と大きく変化しているわけでもなく,また,それは実情に即した評価をされた帰結であると見てよいのではないかと思っております。 ○上谷委員 宮田委員が実務の感触ということでお話しされたので,私は,被害者の立場から実務の感触を申し上げたいと思います。   平成29年に下限が5年に引き上げられたときに,これでもう基本的に強制性交等をすれば刑務所に行くのだということで非常に心強く思ったのですけれども,実際に改正されてみると,意外と酌量減軽がされるなというのが実感です。   ですので,被害者としても,一応下限は5年にはなっているのだけれども,酌量減軽というのがあって,執行猶予が付く可能性はあるのだという説明は必ずしなければならないし,そういったプレッシャーというのは,まだまだ生きているということで,私からすると,酌量減軽によって不当に軽くされているなという印象はありますけれども,恐らく,全体を客観的に見れば,そういう意味で,実情に応じて柔軟に裁判所が判断しているという見方もできると思われますので,現状の5年のままで問題ないというのが実感です。 ○小島委員 私も,現行の法定刑を下げる必要はないというふうに考えております。被害者に生じた苦痛や被害の状況というのが評価されて,5年ということで改正になっており,現行の運用についても特に問題が生じているというわけではないと考えておりますので,法定刑を下げる必要はないというのが私の意見でございます。 ○金杉委員 刑事弁護の立場としては,法定刑の下限が5年というのは重いということは,既に前回申し上げたとおりです。ただ,その重いというのが,私の場合は,どちらかというと,これが本当に強制性交等なのかというぎりぎりの事案まで強制性交等に押し込められるということについての重さです。   ですから,一旦議論をして,引き上げられたものを何の留保もなく引き下げるのが難しいという事情も分かりますけれども,せめて軽い類型を作る,暴行・脅迫によって著しく抵抗困難にさせたとまではいえないような類型については,軽い処罰が可能な類型を作るということを是非考えていただきたいという意見です。 ○井田座長 それでは,この論点についても,委員の皆様の御意見を一通りお伺いできたと思われますので,この辺りで一区切りとさせていただき,今から10分間,休憩したいと思います。 (休     憩) ○井田座長 会議を再開いたします。   次に,「配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に入りたいと思います。   この項目については,一巡目の検討では,意見要旨集の9ページから11ページにありますように,「① 被害の実態」,「② 捜査・公判の実情」,「③ 配偶者間等でも犯罪が成立することを明示する規定を設けることの要否・当否」,「④ 考えられる規定の在り方」という観点から御意見を頂いているほか,「⑤ その他」としてありますように,いわゆるDV防止法による支援の充実についての御意見も頂いております。   先ほどと同様,どのような観点からの御意見であるかを明示して御発言いただければと思います。   御意見のある方は御発言をお願いします。20分程度で御議論いただけますと幸いです。 ○上谷委員 意見といいますか,1点,補充と修正をお願いしたいところがありまして,意見要旨集の10ページの「③」の下から二つ目の「○」なのですけれども,この私の意見の後半のところで,「DVを受けている妻であっても夫の子供を授かったことには感謝しているという例もあり」とありますけれども,これは,別にレイプされても,夫婦で妊娠したことを喜んでいるというわけではなくて,そういった場合に中絶をするということは当然許されてしかるべきことであって,ここは,そうであっても,子供が生まれて育っていくということ,現実に生まれてきてくれたということについてという趣旨ですので,その点について少し補充と訂正をお願いしたいと思います。 ○小島委員 強制性交等罪の保護法益が何かということが重要であると思いました。性というものが,人間性の最も深い部分に関するものであること,それに対して,そのような領域に土足で踏み込み,強引に,無遠慮に開示を迫ることが性被害の本質ではないかと思っております。性的領域が侵害されるとき,侵害されるのは端的に言って人格の統合性であり,人間の尊厳だというふうに思っております。性的人格権と言われる場合もございます。   婚姻関係は,このような性的人格権を放棄し合うような関係ではあり得ないと。夫婦間の強制性交等も,他人間と全く変わりなく認められるという全面的肯定説に立った立場で考えるべきだと私自身は思っております。   しかしながら,いまだに,婚姻関係に入ったことについて,性交要求権が認められるとか,あるいは,婚姻が実質的に破綻している限りで性交要求権が制限されるとする学説も散見される現状でございます。また,裁判例を見ましても,配偶者間において強姦罪の成立を認めた裁判例として,婚姻が実質的に破綻していることが客観的に認められた場合の事例が公刊されており,実際問題として,同居中などの事例について,判例集等に載っているという状況ではありません。判例が,夫婦間の強制性交等について,他人間の場合と全く同様に認められるという全面的肯定説の立場を取っているのかどうかということについては,必ずしも明らかな状況ではないと思います。このような現状の下で,前回申し上げましたように,DV事案における性犯罪,配偶者からの強制性交等についての検挙件数というのは,毎年一桁にとどまっています。   被害者自身が,夫婦の間でも強制性交等罪が成立するのだと,別居していようが,別居していまいが,調停になっていようが,なっていまいが,夫婦の間で強制性交等罪が成立する,たとえ夫婦であったとしても,相手方の同意をきちんと取って性交しなくてはいけないのだということについて,必ずしもそういう意識になっていない。強制性交等罪の条文の中に,配偶者間であっても犯罪が成立するということを明記する必要がある,是非そうしていただきたいと考えております。   具体的な条文の在り方については,意見要旨集の11ページの「④ 考えられる規定の在り方」のところで,いろいろ御指摘がありますが,被害者について,「者(婚姻関係にある者を含む。)」と括弧書きを入れる規定の方法が提案されています。事実婚,パートナー,性的マイノリティー同士が排除されるおそれがあるのではないかという心配もございます。この点については,夫婦であることによって性交要求権があると考え,犯罪が成立しないのだ,そこが壁なのだというところに焦点を当てるなら「(婚姻関係にある者を含む。)」という規定もあり得るかと思います。あるいは,176条,177条について,当事者が婚姻関係にあるか否かを問わず成立するという条項にするか。いずれかだと思っています。 ○和田委員 意見要旨集の10ページの「③」の一番下の「○」の中に,「解釈上の疑義を解消するために明文規定を設けることも選択肢としてはあり得る」とあり,その条件として,「実務・学説の見解の一致が見られない状況であるならば」と記載されていますので,学説の状況について若干情報提供しておきたいと思います。   前にも概略はお話ししたことがありますけれども,夫婦間における強制性交等罪の成否に関しては,伝統的なものも含めると,大きく分けて三つの考え方があります。   一つは,夫婦間であれば,完全に強制性交等罪が成立しないという全面否定説です。これは伝統的な通説ですけれども,現在では絶滅したというふうに考えられます。   その対極にあるのが,現在多数説あるいは通説と考えられる夫婦間でも全面的に強制性交等罪は成立するという見解です。これは,夫婦関係,婚姻関係があることは,強制性交等罪の成立要件との関係では何の意味も持たないという考え方で,赤の他人の場合と同じ要件の下で成否を考えていくという考え方です。これがほぼ通説だというふうに考えられますので,そのことを条文上明らかにすることに一定の意味があるだろうというわけですが,完全に意見が一致しているのであれば,むしろ,そのような条文は不要だというふうにも考えられるところ,第三の考え方として,中間的な見解もまだ少数ながら残っています。それは,婚姻関係があるからといって,そのことだけで強制性交等罪が完全に排除されるわけではないけれども,婚姻関係があることが一定の意味を持って,強制性交等罪の成立を一定の範囲で限定するという限定否定説です。   具体的な中身を見てみますと,大きく分けて3種類あると考えられますけれども,一つ目は,婚姻制度と全く相入れないような行為態様で行う場合,この場合には性犯罪を認めてよいが,婚姻制度と相入れるような行為態様で行われる場合には,相手の意思に反していても性犯罪は成立しなくなるという考え方です。   二つ目は,性行為を拒絶するときの理由に着目して,婚姻制度と全く相入れないような理由では拒絶できないという見解があります。   それから,もう一つは,性的行為の危険性に着目しまして,性行為によって性病感染等の危険があるのであれば,婚姻関係があっても拒否できるけれども,そういう危険がないのであれば従わないといけないという考え方です。   これらは,婚姻関係があるからといって,そのことだけで自動的に性犯罪が成立しなくなるとするわけではありませんけれども,婚姻関係に性犯罪を限定する一定の意味を見出している見解も少数ながらまだ残っているということになりますので,学説の見解の一致が見られない状況であるならばという点に関して,具体的な状況を若干説明申し上げました。 ○木村委員 今の点なのですけれども,意見要旨集の10ページの「③」の上から四つ目の「○」,これは,私が発言したことに関連してのことなのかもしれないのですけれども,やはり海外からはかなり批判が強い部分で,単なる誤解なのかというふうに一時的に思っていたことがあったのですが,やはり実際に立件数がこれだけ少ないとなると,単なる誤解ともいえないのではないかというふうに思っております。   さらに,日本の中でも,今,和田委員から刑法学者の見解を示していただきましたけれども,刑法学者以外の方,例えば社会学者の方が書かれたものの中では,日本では配偶者間の強制性交等は成立しないというふうに明示されているようなものも読んだことがありまして,そのような理解が社会的に一般にされているのだとすると,これはもう明文を置くしかないのかなと思いました。   それで,明文の置き方ですけれども,11ページの一つ目の「○」のところで,客体について,「者(婚姻関係にある者を含む。)」というふうに書く書きぶりなのですけれども,これは先ほどの御指摘のように,確かに,それ以外のパートナーに関してどうなるのかという問題があるのかもしれないですが,婚姻関係にある者を含むと書いてあるだけで,それ以外を排除するという趣旨ではないので,その辺りはきちんと説明すれば御理解いただけるのではないかというふうに思いました。 ○橋爪委員 これまでの御発言の内容と若干重なりますけれども,まずは私個人の刑法の理解から申し上げますと,配偶者間であっても,意思に反する性行為であれば,それ以外の場合と全く同様に,性犯罪を構成するのは当然ですので,本来はこのような明文の規定を設ける必要はないはずだと考えています。   もっとも,先ほど,木村委員,和田委員から御紹介がございましたように,民法上,性交渉の拒否が婚姻を継続し難い重大な事由に該当するとされていることから,刑法の議論においても,配偶者間においては,少なくとも一定の範囲では性交に応ずる義務があり,それゆえ,配偶者間については性犯罪の成立範囲が限定され得るという理解が一部に存在することは否定できません。   このような議論を封ずる必要があるのであれば,法律上の疑義や問題を払拭するために,明文の確認規定を設けるということも選択肢としては十分にあり得るように思います。   このような前提から,大変せん越ではございますけれども,規定ぶりについて御提案申し上げたいと思います。   例えば,現行法の規定を前提にしますと,「暴行又は脅迫を用いて性交等をした者は,婚姻関係の有無にかかわらず,強制性交等の罪とし」という規定ぶりなどが考え得るように思います。   意見要旨集の11ページの「④」では,婚姻関係だけではなくて,他の親密な関係性全般について規定すべきという御意見が示されています。しかし,今回,あえて婚姻関係に限った規定ぶりを御提案した趣旨について3点理由を申し上げたいと存じます。   第1点ですが,これは,先ほど木村委員,小島委員からも御指摘がございましたけれども,このような確認規定を設けますのは,かつては,法律上の婚姻関係については,性交に応ずる義務があり,性犯罪の成立が限定されるといった理解が一般的だったことから,そのような理解を封ずるためには,正に性交に応ずる義務が問題とされてきた婚姻関係に絞った規定を設けることが有効と言えるからです。   第2点ですが,法律上の婚姻関係がある場合でも性犯罪が成立することを確認的に規定すれば,それ以外の親密な関係性の場合についても性犯罪が成立することは,あえて明文の規定を設けなくても,当然解釈として導くことができます。すなわち,婚姻関係に限って規定しているから,他のパートナーシップについては適用がないという反対解釈はおよそ採り得ないということです。   さらに,第3点ですが,親密な関係性と申しましても,多様なものがあり得ることから,これら全てを網羅的に列挙することは不可能であり,また,親密な関係性やパートナーシップという表現を使うと,刑法の条文としては内容の明確性,具体性が乏しいという問題が生じます。   これらの点に鑑みまして,私としましては,「婚姻関係の有無にかかわらず」という規定ぶりを御提案申し上げたいと思います。 ○齋藤委員 今の橋爪委員や木村委員の意見に関してなのですけれども,「婚姻関係にある者を含む」と書かれるよりは,「婚姻関係の有無にかかわらず」と書かれた方がよいのではないかと考えています。   今,橋爪委員が御説明くださったことではありますけれども,婚姻関係がないパートナーシップの場合には非常に立件されにくいという事実がございます。委員の御発言意図は婚姻関係が最も強力に法律などで限定され得るということだと理解していますが,その法律で限定された婚姻関係でさえ,同意のない性交等は性犯罪になるということを示すことで,それ以外のパートナーシップにおいてももちろん同意のない性交等は性犯罪になるということについて,報告書などに確実に明記いただきたいなと考えております。 ○井田座長 具体的な規定ぶりと言いますか,文言まで御提案いただきました。「婚姻関係にある者を含む」とするか,「婚姻関係の有無にかかわらず」とするか,それとも「それ以外のパートナーも含む」とするか,その点について御意見があれば,お願いしたいと思います。 ○山本委員 齋藤委員の「婚姻関係の有無にかかわらず」という意見に賛成します。先ほど橋爪委員がおっしゃいましたように,親密な関係についてはなかなか規定することが難しいのではないかという懸念があるということは分かりますけれども,やはり,婚姻関係にあることによって除外されているということは,恋人であったり,同棲するパートナーであったり,性的マイノリティー同士のパートナーであったりでも,実務的に同じであると考えています。   支援現場でも,付き合っている,交際関係にある,同棲している人たちは被害を訴えにくく,また,それが犯罪とも認められないという実態があります。そういう実情を加味していただければと思っています。 ○井田座長 ほかに御意見はございませんか,よろしいですか。   それでは,第1の「7」についての議論は,この辺りで一区切りとさせていただきたいと思います。配偶者間でも性犯罪が成立するということを確認する何らかの規定が必要だという意見が改めて表明されたというふうに思いました。   それでは,次に,「性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方」についての検討に入りたいと思います。   この論点については,本日は,意見要旨集12ページの第1の8の「(1)」,すなわち,「他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流通させる行為を処罰する規定を設けるべきか」という項目について議論を行うことにしたいと思います。   この項目については,一巡目の検討では,意見要旨集の12ページから14ページにありますように,「① 被害の実態」,「② 新たな罪の創設の要否・当否」,「③ 新たな罪の保護法益」,「④ 新たな罪の処罰対象とすべき行為」という観点から御意見を頂いているほか,「⑤ その他」としてありますように,性的な情報について被害者が消去を求める権利の拡大とその実現についての御意見も頂いているところであります。   どのような観点からの御意見であるかを明示して御発言いただきたいと思います。45分程度の時間内で御議論いただければ大変幸いです。 ○山本委員 意見要旨集の13ページの「③ 新たな罪の保護法益」についてなのですけれども,個人法益としての性的自己決定権を損なう犯罪として位置付ける必要があるという御意見がありました。   私はそれに付け加えて,公序良俗に反するものとして,社会法益を考える必要もあるのではないかと思っています。小島委員から以前,盗撮画像がネット上にあふれかえっているということも報告していただいていますけれども,私もそのような実態を見て,被害を受けた人の話を聞いているので,私自身も公衆トイレに入るときに,周りを見て必ずカメラがないかなどを確認しております。どうして安全に安心して公共空間を利用できないのかということに関しては,非常に理解に苦しむところがあります。公序良俗に反するものとして,社会法益も含めた観点を持っていただければと思っております。   個人法益ももちろん大切なものですので,性器や胸,臀部などの身体の一部,自分自身が写っている性的姿態の画像は本人に帰属するということを明確にしていただきたいと思っています。   さらに,同意というのが,そのとき同意しても,後ほど解除の対象になるということも踏まえていただければと思っています。性的姿態を撮られた人が自分の性的な姿態をどのように用いるかということについて権利があるということを明確にしていただき,同意の解除ができる,撤回ができる,画像の取戻しができる,これは後ほどの没収に関わってくると思うのですけれども,そのようにして権利が守られるとよいのではないかと思っています。   さらに,被害者支援団体からは,性的画像の撮影自体を違法とする必要があるのではないかという意見があります。その中で,違法にして,契約書などで同意を取り交わしたものを合法にしていく,そこまでしていかないと,もう既に氾濫し,拡散している性的画像の生成と盗撮画像の販売,拡散などを止められないという意見もありましたので,述べさせていただきました。 ○小島委員 私は,意見要旨集の13ページの「④ 新たな罪の処罰対象とすべき行為」の中の四つ目の「○」の中で整理していただいている新たな処罰規定を設ける必要があると指摘される類型の中で,「③」のアダルトビデオ出演強要の類型について意見を述べます。   この点につきましては,検討会の第6回会合で配布されておりますが,国際人権NGOヒューマンライツ・ナウさんが要請書を出しています。アダルトビデオの出演強要というのは非常に深刻な人権侵害をもたらしています。被害者の方が自分の同意している範囲以上の形で引きずり込まれまして,被害を受けている。被害者に事前に性行為や裸体の撮影であるということを告知しないまま,だまして撮影場所に連れ込んで,恐怖や困惑の中で撮影に応じざるを得ない状況に追い込んで性的姿態を撮影し,インターネットで頒布・販売して多額の利益を得ている業者がおります。   若い女性が被害に遭っておりまして,一旦契約したのだから,仕事なのだから,仕事を断れば違約金を払わなければいけないから,親にばらすぞと脅されて,やむを得ず出演させられているという現状があります。これは,性的姿態の撮影行為の類型としては特殊な類型だと思います。要請書では,性的姿態及び性器の全部又は一部を露出した人の姿態を同意なく撮影する行為を処罰することと,併せて,アダルトビデオ出演強要について,性的行為の強要自体を処罰することを求めています。   アダルトビデオ出演強要に関する撮影については,強制性交等の犯行を撮影した場合とは異なり,撮影者と性的行為を行う者は別人です。撮影者は,業者です。商業的な性的画像記録の販売・頒布について一定の規制を考える必要があります。   一旦被害に遭ってしまいますと,違約金で法外なお金を請求されたり,撮影された映像が海外に流されたりなどの深刻な被害を被るという現状がございますので,アダルトビデオ出演強要による撮影行為についても御検討いただければと思います。 ○上谷委員 私も,意見要旨集の13ページの「③」の保護法益と,「④」の新たな罪の処罰対象とすべき行為の一番下の「○」のところについて,自分の意見を述べたいと思います。   処罰規定を設ける必要があるという類型として,三つ挙げられているのですけれども,私は,四つ目があると思いまして,撮影自体には同意しているけれども,撮影方法に同意がないという類型です。アスリートの盗撮問題のようなことかと思います。普通にユニフォームで運動していて足を開いたりという行為があるけれども,そこのアップだけを殊更に写すということには同意がないという類型もあるのかなと思いました。   アスリートの盗撮というのは,非常に今日的で象徴的な盗撮事案かなと思っていまして,アスリートだけではなくて,もちろん,中学生や高校生のスポーツ選手も同じような目に遭っていますし,街を歩いている,例えば高校生の女の子などの胸のアップばかり撮っている写真などもあるわけです。   そうすると,保護法益は,遡ってどうなるのだろうということを少し考えまして,このようなものは,最初に保護法益を確定すべきで,それを確定して,そこから導かれる行為を処罰するというのが本来的なことなのかもしれませんけれども,撮影の罪は新しく作るものでありますし,保護法益は少し広くして,個別の条文で縛りをかけていけたらいいのではないかというふうにも考えました。   今挙げられている保護法益というのは,性的自由と性的プライバシーの2点ですけれども,私は,性的尊厳という保護法益からアプローチできないのかということを考えてみました。性的尊厳という考え方は現行法にはないと思うのですけれども,今の刑法が制定されたのは100年以上昔ですので,新しい保護法益が出てくるのはむしろ当然で,従前の枠組みを維持する必要はないと思います。   保護法益を狭く従来どおりのものと解した結果,処罰すべき行為が処罰されないということになると,論理としては美しいかもしれませんけれども,被害実態を無視することにつながって本末転倒ではないかとも考えました。   むしろ,この撮影に関する罪は全く新しく作っていくものですので,新たな保護法益も積極的に考えていくべきではないかと思っています。   また,刑事事件が時効になっていたり,刑事事件として立件されることは望まないけれども,性的画像自体は没収や消去をしてほしいという要請についても,保護法益が性的尊厳であるということになじむのかなとも感じています。   条例の話になりますけれども,最高裁の決定がありまして,御存じの方もたくさんいらっしゃると思うのですが,ショッピングセンターで女性の後ろを約5分間,40メートルあまりにわたって付け狙って,その女性の背後の約1メートルから3メートルの距離から,デジタルカメラで,女性の細身のズボンのお尻の部分を約11回撮影したという事件で,最高裁は北海道の迷惑防止条例の卑わいな言動に当たるというふうに判断しています。   その決定理由の中で,被害者が撮影に気付いておらず,被害者の着用したズボンの上から撮影したものであっても,撮影されたことを知ったときに,被害者を著しく羞恥させ,被害者に不安を覚えさせるものといえると述べています。   条例の保護法益は生活の平穏にありますので,現在,刑法について議論していることと論点が一致しないのかもしれないのですけれども,この事案も性的尊厳が保護法益だとしっくりくるように感じました。   アスリートはユニフォーム自体開示しているのであるから,卑わいに見えるアングルも自ら開示しているということで議論を終わらせてはいけないのではないかと感じました。 ○和田委員 撮影行為を処罰するときの保護法益について,性的尊厳という捉え方をしていくことは基本的に妥当な線だと私も思います。その場合には,どこを撮影するかとの関係で性的尊厳を害することになる場合と,撮影の行為態様が性的尊厳を害することになるパターンと二つあるのではないかというふうに思います。そのうち,撮影対象の方について,これまでの議論よりも,もう少し具体的なことについて意見を申し上げたいと思います。   何を撮影した場合に処罰するのかをきちんと検討する必要があるわけですけれども,今話に出ましたように,条例では,現在,卑わいな言動の類型として撮影行為が処罰対象になっていますが,そこでは,人の通常衣服で隠されている下着又は身体というような文言が使われているかと思います。そのような文言を刑法に規定すると,明確性の観点から,それで十分かという問題もあると思いますし,それとは別に,行為態様に着目した処罰を設けるのは別論として,性的自己決定権という観点から見たときには,それで妥当といえるか,処罰対象が広過ぎることになり得るのではないかという問題もあるかと思います。   そこで,児童ポルノの定義だとか,あるいは私事性的画像の定義というのは既にありますので,それを参考にいたしますと,撮影対象として考えられるのは,例えば,性器等の性的な部位を直接撮影するものであるとか,あるいは下着を撮影するもの,さらには,性交等をしている姿態を撮影するものなどが具体的な撮影対象として考えられると思いますので,意見として申し上げます。 ○井田座長 撮影対象という見地から大変示唆的な御発言だったと思います。性器等の性的な部位を直接に撮影する,下着を撮影する,性交等をしている姿態を撮影する,こういうような形で対象をある程度捉えられるのではないかという御意見だったと思われます。 ○橋爪委員 性的な部位の撮影行為につきましては,何を撮影するかに着目する規制と,どのように撮影するか,つまり,撮影の客観的・外部的態様に着目する規制があり得るのだろうと考えています。これまで,この検討会では,前者の立場から基本的に罰則の検討が行われてきましたが,ただ今上谷委員からは,後者の観点からの規制の可能性について御発言があったものと理解いたしました。   上谷委員御紹介の平成20年11月10日の最高裁決定については,私も,撮影行為態様に着目した規制方法を考える際の参考になり得ると思い注目しておりました。   本決定は,ショッピングセンターで,衣服の上から女性の臀部を撮影する行為が卑わいな言動に該当するとして,北海道迷惑防止条例違反の罪の成立を肯定した判例でありますが,これは撮影対象が女性の臀部であるという事実に加えて,被告人が約5分間,執拗に被害者を背後から追跡し続けて,その背後の至近距離から多数回の隠し撮りを行ったという行為態様の執拗性・異常性を重視して処罰を肯定したものであり,犯罪成立という結論を導く上では,撮影行為態様が客観的にも異常であったことが重要な意義を有したと理解しております。   また,迷惑防止条例の保護法益については議論があり得ますが,撮影したという事実だけではなくて,撮影に至る行為態様を処罰の根拠とするわけでありますので,個人的法益だけではなくて,社会全般の生活の平穏を併せて保護したものと解されます。   このように,撮影行為の異常性という客観的な行為態様に着目した罰則,規制を設けるべきかについては,これらの視点からの理論的な検討が必要になると思われます。 ○佐藤委員 これまでの話とかなり重複することになるのですけれども,発言の趣旨としましては,意見要旨集の13ページの「④」の四つ目の「○」の三分類のうちの「①」に関してで,内容としては,迷惑防止条例との関係に関わっているのですけれども,今も迷惑防止条例だと幾つかの行為,例えば,浴室にカメラを隠して撮るとか,トイレにカメラを隠して撮るとか,あるいは,住居でカメラを隠して性交等の姿態を撮るというような行為が処罰されているかと思います。これについては,条例は各地方で異なる処罰がされているというのもあって,全国で一律に規定することに価値があると思いますし,それに加えて,そもそも保護法益を専ら個人法益とできることにメリットがあると思っています。迷惑防止条例の保護法益としては,生活の平穏があるという話が先ほど出ていましたけれども,この生活の平穏という保護法益はそれ自体重要なのですが,これがあることによって,恐らく条例では撮影場所が限定されてしまうということがあります。つまり,公共に対する罪になってしまうと,公衆がたくさん集まるような場所と,写真などを撮る行為の二つのものが合わさって処罰が正当化されるという状況になるのだと思います。   現在,場所はどんどん広がっていっているのですけれども,やはり保護法益が生活の平穏というところからスタートしているので,場所の限定が常にかかっているという状況にあるかと思います。   もし,刑法に新たな罪を設けるのだとしたら,その保護法益を専ら個人法益だときちんと定めることによって,場所から解放されるといいますか,場所を特定せずに,先ほど和田委員がおっしゃっていたような部位を特定して,この部分を撮っては駄目ですよと。例えば隠されている下着の部分とか,あるいは,人の目にさらされないことが期待されているような部分や性的な姿態などという形で規定することで,条例とはある程度切り分けができるというふうに考えております。   ここからは先ほどの上谷委員の話とも重なるのですが,そのように,人から見られない部位というふうに対象を特定してしまうと,今度は水着姿の撮影や,ユニフォーム姿の撮影のときのように,人の目にさらされている部分ではあるのだけれども,露骨に性的な部分を強調するような形で撮っているものが処罰対象としてうまく捉えられないということになりますので,これは,先ほど上谷委員がおっしゃった第四の類型ということで,別に規定する必要があり,その場合には,写真を撮る態様や性的な意図とかで絞るとか,この辺はまだ正解が全く分からないのですけれども,そういう形で,類型として違うものを考えないと難しいのではないかと思っております。 ○宮田委員 行為の絞り込みの点と,転々流通の点の二つの点について意見を申し上げます。   正に今,佐藤委員がおっしゃったように,合法な撮影と違法な撮影の客観的に区別がつかないような事態は起きるのだろうと思います。スポーツイベント,あるいはパブリックな場所での撮影のように,自由に撮影が許されているような場所での撮影行為自体は取り締まることが困難になります。そういう意味で,撮影対象を絞るとともに,保護法益を個人法益と考え,被害者が羞恥を覚えるようなものであれば処罰の対象に含めていくことが考えられるのではないか。   例えば,着替えを撮っているときに,バストは映っていない,下着は映っていないのだけれども,背中が思い切り映っている。着替えているところを映されること自体がものすごく恥ずかしいことです。処罰の対象を性的な意図を持ってやるものとするか,それとも,被害者の性的な羞恥心を害するようなものと捉えるのか,それによって条文の在り方がかなり違ってくるのではないかと思っています。   私は,積極的に処罰を推進するという考えは採らないので,あまり良い知恵がないのですけれども,行為を考えるときに,保護法益を個人法益と考えて,被害者の性的自由や性的な羞恥心に着目するのであれば,児童ポルノ法にあるような性器だとか性的な姿態というよりも,もっと撮影の客体を広げなければいけないような気がします。   また,撮影場所を限定することは問題があるのではないかという佐藤委員のお考えもありましたが,明らかにプライベートな場所で,どう考えてもここであったら抵抗なく裸になるだろうという場所,浴場の脱衣所とか,自分の家の中,家に帰ったら裸になって歩き回っている人も中にはいるみたいですから,そういうプライベートな空間での撮影というような立法は,対象を絞り込む上で有効な方法ではないかと感じます。プライベートな場所で,性的なことも含めて,自分の行動を自由に行うという自己決定の問題ですから,どういう対象を撮るかというだけではなくて,こういう場所だったら絶対駄目といった定め方もあるのではないかと思っています。この辺は私には良い知恵がございません。   この盗撮の場合に問題なのは,先ほど小島委員がおっしゃったように,それが転々流通して,ネット上に掲示されてしまう,言ってみれば,頒布とか陳列の問題だと思います。これが,性器が映ったものであれば,175条のわいせつ物の頒布等でいけるのです。いっそのこと,刑法第22章を個人法益に対する罪として再構築してみてはどうだろうか。174条の公然わいせつについて,見たくない人が見ないで済むようにする権利と考える。ストリップや乱交パーティーが同条で取り締まられますが,金を払ってストリップを見に行っている人,参加したくて乱交パーティーに参加している人を保護する必要はない。そうではなくて,見たくない人が見ないで済む権利にする。同様に,175条についても,性的な姿態等が公開されて困るという被害者の権利の方から再構築し直すということが可能なのではないかと思うのです。   175条の法定刑は,2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料であり,懲役と罰金の併科が可能な条文になっており,刑の面から見ても,条例と比べて重過ぎることはなく,刑の重さの妥当性という意味でも,この条文の再構築というのは考えられるのではないかと思うのです。   盗撮に限らず,人の性的な情報を頒布,公然陳列した者を処罰する規定というふうに再構築することはできないのかということは,文献等もなく,私の思い付きなのですけれども,申し上げてみた次第です。   それで,今,電磁データについては没収ができません。そういう意味では,これは盗撮画像なのだから消去しなさいと裁判所等の機関に命じる権利を与え,命令されれば大概の人は消去するので,その命令に従わずに消去しなければ処罰するというような規定を置くならば,これが盗撮の画像だと知らなかったという人に対しても画像の消去に持っていくことが可能だと思うのです。   この場合,刑について,盗撮の画像と知りませんでしたという場合には非常に軽くすることも考えられるし,あるいは,命令されても消去しないのだから,そのような人は,もう頒布したり公然に陳列している人と同じだという価値観で,上記の175条程度の刑でもいいのかもしれない。とにかく撮影されたものがいかに効果的に消去されるかという実質的な側面から条文の在り方を考えてみたらいいのではないかなというふうに思います。   没収,電子データの消去についての捜索・押収を含めた刑事法全体の改正まで望んでいたら,大変時間がかかる危険があるので,画像を自主的に消させるようなインセンティブをいかに与えるかという視点から罰則を考えてみたらいかがかなというふうに考えた次第です。 ○池田委員 私もこの(1)の「④」の四つ目の「○」を手掛かりに意見を申し上げたいと思います。   類型が三つ挙げられているうちの「①」についてなのですけれども,処罰すべき撮影態様として,被害者に気付かれずにひそかに撮影することが挙げられているわけですけれども,ひそかに撮影する場合でなくても,例えば,浴室や更衣室など,人が衣服を身に付けないでいる場所に侵入し,面前でいきなり撮影するということも考えられます。そして,性的な部位や姿態を撮影されない自由を保護するという意味では,そうした撮影行為も処罰対象から除外すべきではないと思われますので,撮影されていることについての被害者の認識を要件とはしないことが考えられます。   他方で,撮影について,どの部位を撮るかといった態様も含めて認識し,かつ,これを任意に明示的に承諾している場合には,そのような撮影まで処罰の対象とする必要はないと考えられます。   したがって,そのことを明示する必要がありますけれども,それをどのような文言で規定するかについては,更に検討が必要であると思います。   以上を踏まえて,こうした撮影される者の承諾を得ずに一定の性的姿態を撮影する行為についての処罰規定の在り方を検討した上で,引き続いて,「④」の中の三つの類型のうちの二つ目の強制性交等罪の犯行状況を撮影する類型や,三つ目のアダルトビデオ出演強要の類型についても,その規定を適用することで足りるのか,あるいは,更に別の要件を設けるなどする必要があるかということを考えていくことになるものと思います。 ○和田委員 このブロックについては,撮影行為を罰するところに重点が置かれがちなので,流通との関係で,もう少し具体的に踏み込んだ検討をする必要があるということとの関係で幾つか申し上げたいと思います。   他人の性的な画像などを流通させる行為としての処罰対象として考えられるのは,児童ポルノ禁止法における児童ポルノに関する規制なども参考にしますと,同意なく性的な姿態等を撮影する行為によって得られた画像あるいは記録物を,一つ目には提供する行為,二つ目には公然と陳列する行為が考えられるかと思います。   提供行為については,さらに,特定かつ少数の者に提供する場合もありますし,あるいは,不特定又は多数の者に提供するという場合も考えられるところです。それらを全て処罰対象にするのか,あるいは,一部を処罰対象とするのかという辺りを検討する必要があるだろうというのが第一です。   それから,この犯罪の保護法益を性的自己決定権と考えるのか,あるいは,性的尊厳と考えるのかにかかわらず,実質として,自己の性的な姿態をほかの機会に他人に見られない利益と結び付けて考えますと,撮影自体には同意していたけれども,その後,撮影者以外の者にそのデータを提供することについては同意していないという場合についても処罰対象にするかということを検討する必要があると思います。当初同意があったけれども,その後の行為については同意がないという場合については,既に私事性的画像記録の提供等の罪が用意されていますので,それとの関係を踏まえながら検討する必要があろうと思います。   逆に,撮影行為自体には同意していないが,その後,事後的な提供行為の時点では提供行為に対する同意があるという場合も理論的には考えられると思いますので,そのような場合をどう扱うかということも含めて法的整理をする必要があろうと思います。 ○井田座長 御意見をお伺いしてきて,第1の8の「(1)」の問題については,大きく言えば,撮影行為をどう考えるかという問題と,撮影されたものというのでしょうか,それの提供,流通,陳列,そういう行為をどう捉えるかという大きな二つの問題があり,さらに,撮影行為については,撮影の対象をどう考えるべきか,撮影の態様をどのように考えるか,撮影する場所を何らかの形で限定するかという問題があり,撮影されたものの提供等については,同意の有無の問題をどう考えるかという問題もあり,それらの問題の根本には保護法益をどう考えるかという問題があるとお聞きしました。まだ具体的な処罰のイメージが湧かない感じはしますけれども,だんだんと本来考えるべき,到達すべきゴールに一歩ずつ近付いているといった印象を持ったわけであります。   ほかに御意見はございますか。例えば,海水浴場で水着姿でいる場面,あるいは競技場でユニフォームを着た選手が競技をしている場面を撮影するというときに,例えば,赤外線カメラを使って撮影をした場合は,これは明らかに処罰すべき行為に入ってくるのだろうと思うわけですけれども,そのようなカメラを使用せずに単に映しているというときに,家に帰ってから撮影したものの一部をトリミングするつもりで撮影したときの撮影行為をどう捉えるべきなのか。海水浴場でただ風景を普通に撮って,家でそれをトリミングしようとする行為との比較の問題もあろうかと思いますが,この点に関連して,御意見はございますか。 ○佐藤委員 先ほどから話が出ているように,選手の写真を撮るというのは規制すべきだとは思うのですが,難しいと思う点は座長がおっしゃった点にあると思っていまして,つまり,そういう特別なカメラで性的部位を強調するような写真を撮っているのであれば,あなたはそういう変な撮り方をしたのですからアウトですよという形で,行為態様で規制できると思うのです。しかし,そのときは普通に撮って,後から性的な部位だけアップにして,それを切り取ってSNSに載せたり,卑わいな言葉をプラスして載せたりということを規制しようと思うと,それは後からの行為,撮影とは違う行為を加味しないといけないことになって,撮影時に処罰するのが非常に難しくなってくるのではないかと思います。   後からの行為をプラスして処罰しようと思った場合には,窃盗罪における不法領得の意思などが正にそうですけれども,後からこうするつもりだったという主観面を撮影時に要求する,例えば「性的な意図をもって」という文言を加えるといった方法があるのではないかと思うのですが,それを証明するのが難しいという問題はあるかなと思います。 ○和田委員 関連して一つ御紹介ですけれども,カナダ法における盗撮罪は三つの類型で構成されていて,一つ目は,撮影の対象,どの部分を撮影するかに着目する類型,二つ目が,どういう場所か,正に裸になるのが普通でそれが合理的に予測されるような場所において撮影する行為を処罰対象にする類型で,三つ目が,直前で議論になりましたような行為を捕捉するために,撮影行為が性的目的で行われていれば,それもまた不法な撮影罪で処罰対象にするという形で規定されています。やはり,処罰対象にすべき場合を全て捕捉しようとすると,いろいろな類型を具体的に定めて,複数の観点から処罰範囲を決めていくこととするしかなく,そうすれば,一定の対応は可能なのだろうと思います。   ただ,性的目的というのが出てきますと,証明が難しいという問題も一方ではあるし,他方で,かなり無理をして性的目的を認定して,無理な処罰が行われるという危険も出てくるかもしれませんので,その辺りを慎重に考える必要があろうと思いました。 ○井田座長 ほかに御意見はございますか。撮影があり,一方で提供,陳列があり,さらに,取得,保管,所持のようなものも考えられますので,そこまで処罰の必要があるとお考えでしょうか。 ○宮田委員 児童ポルノ法のように,児童を守る,児童の健全な生育を守るという観点とは若干違うので,所持まで処罰するべきかどうかというところには疑問がございます。所持罪があると取締りが簡単になるということがあるかもしれませんし,性犯罪に及んだ人の所から大量にそういうものが出てきたりすることがあるので,少し刑を重くするためにはいいのかもしれませんけれども,私はそこまで広げる必要はないのではないかと考えております。   撮った画像を,例えば性的な部位を特にアップしてSNSに載せる,卑わいなコメントを付けるようなことですけれども,韓国では,そういう対象者の意思に反した性的欲望や羞恥心を誘発することができる形に編集,合成,加工したものの頒布等の禁止の罪が確かあったかと思うのですけれども,例えばそのような形で,編集した者に対しての処罰が考えられます。   スポーツ選手の姿態を撮影する,これは合法な目的で撮影しているのか,違法な目的で撮影しているのかは分からない。これは,海水浴場での撮影も同じですから,これはやはりどこかでその人がその画像をアップするなり,誰かに譲渡するなり,何かなければ発覚しないような類いのものではないかと思うのです。ですから,処罰の対象に,加工した画像などに関することも含める方法も考えられるのではないかと思います。   ただ,赤外線カメラでの撮影の場合には,裸体を撮影しているわけですから,事後的にそれが分かったという場合には,処罰自体は,先ほどの性的な対象,性的に羞恥心を覚えるような対象物を撮影したということでいけるのだとは思うのですけれども,それは事後的に見つかったから出てくるという形になるのかなというふうに思っています。 ○佐藤委員 先ほど所持という話が出たので,所持についても私の考えを述べさせていただきたいのですけれども,現在の市場においては,やらせの盗撮ビデオというものもありまして,やらせの盗撮ビデオとそうではない盗撮ビデオというのは,多分これは一見区別が難しい。だからこそ,やらせのビデオを欲しがる人がいるのだと思うのです。そのように考えると,形式的には処罰の対象となるような所持してはいけないもの,取得してはいけないものを明確に定めることはできても,実際にどれがそれに該当するのかというのを一般の人が判断するときにかなり難しくなるのではないかと思います。   そのようなやらせの盗撮ビデオを欲しがるような人の権利はどうでもいいという考え方ももしかしたらあるかもしれませんけれども,だとしても,故意の問題として,やらせのビデオだと思っていましたと言われた場合に,いや,そんなことないでしょう,分かっていたでしょうという証明が難しくなるという問題はあるのではないかと思います。   ただ,だからといって全く無意味かというと,それはそうではないかなと思っていて,実質的に没収等ができるようになるというのと,かなり限定的な範囲になりますけれども,未必でもいいので,盗撮ビデオであることを認識していたというのをしっかり証明できた範囲で処罰できるという意味は一応あるのではないかと思います。   ただ,これはあくまで,そのような規定があると,このような処罰ができますよ,あるいは,没収ができますよという話であって,そのような処罰をすべきなのか,そのような形の没収をすべきなのかというのは,これはまた別の話だと思っていて,それはまだ私の中では結論が出ていないという状況でございます。 ○金杉委員 私は,同意なく性的姿態や裸体等を撮影する行為及びそれを流通させる行為については処罰する必要性があるだろうと考えています。ただ,その所持については,対象が広範囲になり過ぎるので,処罰すべきではないという考えです。   理由につきましては,先ほどの佐藤委員の意見と重複するのですけれども,やはり,その中身を見たときに,これが同意なく撮影されたものであるのかということは分からないというのが現状です。例えば,意見要旨集13ページの「④」の四つ目の「○」の中の「①」と「②」の類型のうち,「①」の類型については,特に被害者に気付かれずに撮影をしていたということは,例えば公衆浴場やトイレ等での姿態も入るのだろうと思われます。ただ,その場合も,個人的法益が保護法益ではあるけれども,被害者の特定ができないということもあり,被害者不詳のまま処罰されることもあろうかと思います。その場合は,「②」に比べると,同意があったかどうかということは推測しやすい,その行為の問題で見れば,それは同意なく撮影されているのではないかと思われるかもしれませんけれども,例えばその点についても,やらせのトイレの盗撮とか,やらせの更衣室での着替え,全てエキストラでやるということも考えられるわけで,やはり動画等を見ただけでは,それが同意なく撮影されたものであるかどうかという認識は必ず問題になると思います。その部分も捕捉していくというのは少し難しいと思いますから,所持については処罰せず,同意なく撮影及び流通させる行為に絞るべきだというふうに考えます。 ○木村委員 所持については,私もかなり困難だろうというふうに思います。現に,単純所持罪で処罰されるのは覚醒剤であるとか銃器であるとか,あるいは,児童ポルノの所持についてもかなり議論があった上で所持罪が認められたという経緯があったと思います。その理由ですけれども,やはり,製造と違いまして,どのような形で所持しているか,様々な場合があり得るので,それを一律に処罰するというのはかなりハードルが高いというふうに思います。それだけ客体として非常に侵害性が大きいというか,危険性が重大なものだということを説明する必要があるというふうに思います。 ○上谷委員 所持についてなのですけれども,私も,児童ポルノと比較した場合に,児童ポルノの場合は製造過程自体が犯罪ですので,単純所持であっても処罰というのは正当化されると思うのですけれども,確かに,やらせの盗撮のビデオのようなものがたくさんあるという状況の中で,それが実は盗撮を装っているけれども,実は撮影に同意があったものとそうでないものの区別というのは難しかろうとは思います。   ただ,本当に盗撮していたビデオだと知って取得しているのに,これはやらせだと思いましたという弁解で処罰を免れていくだろうなということを思うと,結局,そのビデオは流通してしまうおそれがあって,一旦拡散すると,これは回収が困難という同じ問題が生じてしまいます。今は,だからこうすればよいのではないかという意見が言えるわけではないのですけれども,何らかの規制をかけていく必要があると思いますし,もしかすると,それを処罰はしなくても,没収はできるようにするといった政策的な規定を作るということも考え得るのかなと思っています。 ○山本委員 先ほど児童ポルノのお話も出ていましたけれども,医師二人が画像を見て,これが児童であるというように認定すれば,これは児童ポルノであるというふうに認定されると聞いています。   盗撮については,この検討会での議論に含めるべきかは分からないのですけれども,プロバイダの責任はどうなるのかということを考える必要があると思います。盗撮用のプラットフォームを作り販売して,行政の指導で削除要請が出れば,プラットフォームを削除して,また,別のプラットフォームを作り,同じように画像を掲載して,そのことによって商業的な利益を得ているというのが実情としてかなりあるところです。   アメリカにおいてはプロバイダの責任制限法などもあり,削除だけではなくて,確信犯的にプラットフォームを作り続けていれば,規制の対象にするという議論もあると聞いています。   盗撮の問題は,もはや個人と個人ではなく,社会的に広がっていて,商業的な利益を上げるようなものとして拡散していますので,刑法の中で規定するかどうかというのはよく分からないのですけれども,実情として考えていただければと思います。 ○井田座長 ほかに御意見はありませんでしょうか。ちょうど予定した時刻になりましたし,この論点についても,一通り御意見は頂けたようですので,本日の議論はここまでとさせていただきます。   本日議論を行った論点については,本日述べられた御意見や他の論点についての二巡目の検討結果を踏まえて,三巡目以降の進め方を考えたいと思います。   次回の会合では,撮影された性的姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設けるべきか,公訴時効の在り方,いわゆるレイプシールドの在り方,司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方についての論点の検討を行いたいと考えております。そのような進め方ということでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 ありがとうございます。それでは,そのように進めさせていただきます。   次回の会合で取り上げる論点に関しましても,本日同様,一巡目の検討における委員の皆様の御意見を整理したものを会合に先立って委員の皆様にお送りして,前もって御検討いただくようにいたします。   本日予定していた議事はこれで終了いたしました。本日の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったかと思われます。非公表としたいという御要望もなかったのではないかと思いますので,発言者名を明らかにした議事録を作成して,公表することとさせていただきたいと思います。そのような扱いとすることでよろしいでしょうか。 (一同了承) ○井田座長 では,次回の予定について事務当局から説明をお願いします。 ○岡田参事官 第11回会合は令和3年1月28日木曜日,午前10時から開催を予定しております。次回会合の方式については,追って事務当局から御連絡申し上げます。 ○井田座長 本日はこれにて閉会といたします。   思えば,半年に10回というハイペースで議論してまいりました。改めて御協力にお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。皆様,よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願いいたします。