裁判員制度に関する検討会(第3回)議事録 1 日 時   平成22年6月15日(火)15:00〜16:15 2 場 所   東京高等検察庁第2会議室 3 出席者 (委 員)井上正仁,大久保恵美子,酒巻匡,残間里江子,四宮啓,    白木功,土屋美明,角田正紀,前田裕司,室城信之,山根香織                            (敬称略) (事務局)西川克行刑事局長,甲斐行夫大臣官房審議官,落合義和刑    事局刑事課長,岩尾信行刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事    局参事官,田野尻猛刑事局参事官 4 議 題 (1) 裁判員制度の実施状況等について(報告) (2) その他 5 配布資料 議事次第 委員名簿 資料@:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数 資料A:裁判員裁判の実施状況について (制度施行〜平成22年1月末・速報) 資料B:裁判員裁判の実施状況について(特別集計資料) 資料C:量刑分布等について 資料D:裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書 (平成21年度) 資料E:裁判員裁判の実施状況等について(要約) 資料F:裁判員制度の運用に関する意識調査 6 議 事 ○西山参事官 それでは,予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第3回会合を開会させていただきます。 井上座長,よろしくお願いします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,皆様お集まりいただきましてありがとうございます。  議事に先立ちまして,委員の交代がございましたので御報告いたします。  人事異動に伴い,稲葉委員に代わりまして白木委員が新たに委員になられました。簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○白木委員 ただいま御紹介いただきました最高検察庁裁判員公判部に勤務しております検事の白木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上座長 事務当局のほうでも交代がありましたので,簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○田野尻参事官 刑事局参事官の田野尻でございます。加藤に代わりまして出席させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上座長 次に,本日の資料について御確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 刑事局参事官の西山でございます。  本日の資料は,議事次第,委員名簿,配布資料目録及びインデックス付きの資料が@からFまでございます。資料@からFについては後ほど詳しく御説明申し上げます。 ○井上座長 それでは,議事に入りたいと思います。  本日は,まず裁判員制度の実施状況等について事務当局から御説明をいただくことにしたいと思いますので,よろしくお願いします。 ○西山参事官 それでは,裁判員制度の実施状況等につきまして,お配りした資料に基づき御説明いたします。  まず,本日お配りしているインデックス付きの資料@からFまでについて,どのような資料かを簡単に御説明した上で,各資料を御覧いただきながら,裁判員制度の実施状況等を御説明したいと思います。  資料@「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」でございますが,これは法務省作成の資料でございまして,昨年5月21日の裁判員制度施行後,本年5月20日までの1年間における地検別,罪名別の起訴件数をまとめたものです。  資料AからDは,最高裁判所作成に係る裁判員裁判の実施状況等に関する資料です。これらは,本年4月に最高裁判所で行われた第7回裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において公表されたものです。  資料Aと資料Bは,いずれも裁判員裁判の実施状況に関する各種統計資料です。資料Aが本年1月末までの実施状況をまとめたものであるのに対し,資料Bは,そのうち特に国民の関心が高いと思われる項目について本年3月末までの実施状況をまとめた特別集計資料です。そのため,数値がすべて概数となっておりますし,一部,本年2月末までのものがありますことに御留意いただきたいと存じます。  資料Cは,平成20年4月から本年3月末までの裁判官裁判及び裁判員裁判の判決を対象とした罪名別の量刑分布表です。  資料Dは,「裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書(平成21年度)」です。これは,昨年の8月3日から12月末までの間に実施された裁判員裁判を対象とし,その裁判員及び補充裁判員並びに裁判員候補者に対して行ったアンケート調査の結果を集計したものです。  続いて資料E「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」は,ただいま御説明いたしました最高裁判所から公表された資料AからDまでの主な内容を法務省において要約して1枚にまとめたものです。  最後に資料F「裁判員制度の運用に関する意識調査」は,最高裁判所において,裁判員制度施行後の裁判員制度に対する国民の意識を把握するため,一般の方々約2,000名を対象として,本年1月下旬から2月上旬にかけて実施した調査結果をまとめたものであり,これも第7回有識者懇談会で公表された資料です。  続いて,それぞれの資料の内容について,更に御説明いたします。  まず,裁判員裁判の起訴件数・判決人員・量刑等について御説明します。  裁判員制度施行後1年間の裁判員裁判対象事件の起訴件数等については,資料@を御覧いただきたいと思います。左から2番目の欄に,赤字で罪名別起訴件数が記載されており,その一番下が合計欄で,本年5月20日までの全国の起訴件数は合計1,881件となっています。また,罪名別では,多い順に強盗致傷465件,殺人419件,現住建造物等放火172件,傷害致死130件,覚せい剤取締法違反125件となっております。  また,検察庁別に比較的件数の多いところを見ますと,東京が164件,千葉が175件,大阪が163件,名古屋が97件などとなっています。千葉地検や大阪地検では,覚せい剤取締法違反事件がそれぞれ49件,28件と多くなっていますが,これは成田空港や関西空港を抱えていることが影響しているものと思われます。  一方,裁判員裁判の判決人員については,資料@の右にある二つの青枠の下のほうを御覧いただきたいと思いますが,5月20日までで判決言渡し人員は合計530人となっています。また,起訴件数のうち,判決が出された件数は合計571件となっています。起訴件数が1,881件ですので,約30%について判決まで至っていることになります。  判決人員は,最高裁の資料では,資料Bの3頁 に掲載されておりますが,本年3月末の時点で判決人員の総数が444人となっています。罪名別では,やはり強盗致傷が115人で最も多く,殺人の100人,覚せい剤取締法違反の47人がこれに続いています。  そして,罪名別に判決内容をまとめたものが資料Bの9頁の表になります。判決人員444人について,一番右の欄の無罪となったものはなく,すべて有罪となっています。 なお,御承知のように,6月9日,初めて一部無罪の判決が言い渡されたところです。  また,死刑判決はなく,無期懲役が7人などとなっており,7年以下5年超が一番多くて104人となっています。また,3年以下の懲役が言い渡され,執行猶予が付された者が80人となっており,このうち44人が保護観察に付されています。  次に,控訴率については,資料Bの10頁に掲載されております。この表は本年2月末までの統計ですが,この時点までの判決人員308人中99人が控訴しており,控訴率は32.1%となっています。 なお,控訴したのはこれまではすべて被告人側であり,検察官が控訴したものはないと聞いています。  控訴した結果がどうなったかというのが同じ資料Bの12頁です。 この表は本年3月末までの統計で,控訴審が終局したものが18人ですが,このうち控訴棄却が12人,残り6人は取り下げており,この統計の対象期間中に高裁で破棄された裁判員裁判の判決はありません。 なお,本年5月26日,裁判員裁判の控訴審で初めて一審判決が破棄されております。  次に,量刑分布の状況についてもう少し詳しく,かつ,裁判官裁判と対比してまとめたものが資料Cとなっています。1枚めくっていただいて,例えば別紙1は殺人の量刑分布ですが,左上の表の黄色い部分が裁判官裁判,青色部分が裁判員裁判の結果となっています。まだ件数が多くありませんので,現時点で裁判員裁判の量刑の傾向は論じにくいと思われます。  同じく別紙4は強姦致傷,別紙5は強制わいせつ致傷,別紙8は強盗致傷,別紙10は強盗殺人,別紙14は現住建造物等放火,別紙16は危険運転致死,別紙17は覚せい剤の営利目的輸入罪について,それぞれ量刑分布が掲げられています。  また,資料Cの最後の頁には,執行猶予判決がなされた者のうち保護観察に付された割合が掲載されており,裁判官裁判では36.6%であるのに対し,裁判員裁判では59.2%となっていることが分かります。  次に,裁判員裁判の実施状況,裁判員等経験者のアンケート結果について御説明いたします。  まず,裁判員候補者の選任については,資料Bの5頁,上の表に掲載されております。裁判員候補者名簿に登載された方の中から,実際に個別の事件で裁判員裁判を行う段階で,くじで裁判員候補者を選定しますが,「表4参考」と書いた表の上段にあるとおり,本年3月末までで選定された裁判員候補者の数は4万1,047人となっています。この段階で調査票の回答により欠格事由等がある方や辞退が認められる方がいますので,これを除いた3万220人に呼出状が送付されました。  さらに,呼出状の送付後に辞退等が認められる方がいますので,選任手続に出席を求められた方は2万38人となっており,実際に出席された方は1万6,600人ですので,出席率は82.8%となります。一方,5頁,下の表によると,選定された裁判員候補者数4万1,047人のうち,辞退が認められた候補者数は2万1,435人であり,辞退が認められた割合は52.2%となっています。  また,この表によれば,辞退の理由について,70歳以上などの定型的辞退事由を除くと,辞退が認められた事由として,「事業における重要用務」,「疾病傷害」,「介護養育」の順に多くなっています。  次に,裁判員候補者が裁判所に出席された期日に選任手続が行われます。資料Bの6頁の中段の「表7参考」の表を御覧いただきますと,本年3月末までで選任された裁判員は2,565人,補充裁判員は1,029人となっています。これに対し,同じ頁の上段の表を見ていただきますと,不選任決定がされた方は1万2,771人となっています。その内訳は,不公平な裁判をするおそれがあるなどの理由で選任されなかったのが86人,辞退が認められたのが1,833人,検察官又は弁護人から理由を示さない不選任の請求をされたのが1,997人で,くじにより外れて選任されなかったのが8,855人となっています。  次に,裁判員裁判のために要する期間等について,資料Bの7頁,8頁を御覧ください。7頁上段の表と中段の表では,公判前整理手続期間と公判前整理手続期日の回数が自白,否認別にまとめられており,本年3月末現在で,公判前整理手続の平均期間は4.2か月,公判前整理手続期日の平均回数は3.7回となっています。  開廷回数については,7頁下段の表にあるとおり,本年3月末現在の平均開廷回数が3.5回となっており,開廷回数が3回又は4回の事件が全体の86.3%になっています。自白,否認別の平均開廷回数を見ますと,自白事件が3.3回,否認事件が4.2回となっています。  次に,資料Bの8頁では,上段の表が受理,すなわち起訴から終局までの期間である審理期間,中段の表が第1回公判から終局までの期間である実審理期間,下段の表が評議時間について,それぞれ自白,否認別にまとめられています。本年2月末現在の平均審理期間は全体で6.0か月であり,自白事件につき5.8か月,否認事件につき6.8か月となっています。また,本年3月末現在の平均実審理期間は全体で5.5日となっており,最も多い3日が44.8%,次に多い4日が32.2%となっています。さらに,評議時間については,本年2月末現在で,平均評議時間が425.7分,すなわち約7時間となっています。  次に,資料Bの11頁には被害者参加の状況が罪名別にまとめられており,本年2月末現在で,参加を許可された被害者等は41人となっています。  次に,裁判員等経験者のアンケート結果について御説明いたします。資料Dの1頁を御覧ください。  このアンケート調査は,平成21年8月3日以降,同年12月末までに行われた138件の裁判員裁判に関し,裁判員及び補充裁判員並びに裁判員候補者に対し,裁判所においてアンケートの協力をお願いし,5,054名から回答が得られたものです。  まず,5頁を御覧いただきますと,「問3 審理内容の理解のしやすさ」については,70.9%の方が「理解しやすかった」と回答されています。また,「問4 法廷での説明等の分かりやすさ」については,検察官の説明につき80.3%,弁護人の説明につき49.8%,裁判官の説明につき90.7%の方が「わかりやすかった」と回答されています。  次に,6頁に移っていただき,「問6 評議における話しやすさ」については,83.1%の方が「話しやすい雰囲気」であったと回答されています。また,「問7 評議における議論の充実度」については,75.8%の方が「十分に議論ができた」と回答されています。  次に,「問9 裁判員に選ばれる前の気持ち」では,「積極的にやってみたい」あるいは「やってみたい」という裁判員になることに積極的な方は30.1%にすぎないのに対し,「問11 裁判員として裁判に参加した感想」を見ると,「非常によい経験と感じた」と回答された方が57.0%,「よい経験と感じた」と回答された方が39.7%であり,合計96.7%もの方が積極的な回答をされています。  資料Dの9頁から12頁には,補充裁判員及び裁判員候補者に対するアンケート結果の要約も掲載されています。また,資料Dの121頁から180頁には,裁判員及び補充裁判員並びに裁判員候補者ごとに,アンケートにおける自由記載の回答内容が掲載されていますが,詳細は省略させていただきます。  以上の実施状況,アンケート結果については,資料Eにおいて主な内容をまとめておりますので,こちらも御参照いただければと思います。  最後に,資料F「裁判員制度の運用に関する意識調査」について御説明いたします。  この調査は,最高裁のほうで一般の方に対する意識調査を実施され,2,037人から回答を得たものです。資料Fの5頁から7頁までは裁判員制度の周知状況についての調査結果の概要です。5頁のQ1によりますと,裁判員制度が開始されたことを「知っている」とされた方は98.2%に上ります。また,資料Fの10頁のQ4では,我が国の刑事裁判について,裁判員制度が始まる前の印象として多かったもの(「そう思う」と「ややそう思う」の合計数が多かったもの)は,「裁判に時間がかかる」88.0%,「裁判の手続や内容がわかりにくい」77.2%,「裁判所や司法は近づき難い」76.4%などとなっています。これに対し,31頁のQ7で,裁判員制度の実施後の変化の印象として多かったものとしては,「裁判所や司法が身近になった」64.0%,「裁判結果に国民感覚が反映されやすくなった」62.6%,「自分の問題として考えるようになった」59.1%などが挙げられます。  最後に,資料Fの43頁には「裁判員として刑事裁判に参加したいと思いますか」という質問への回答が掲載されていますが,「参加したい」が7.2%,「参加してもよい」が11.3%,「あまり参加したくないが,義務であれば参加せざるを得ない」が43.9%となっており,参加意思をお持ちの方は,これらを合計して62.4%となっております。  以上で私からの御説明を終わらせていただきます。 ○井上座長 どうもありがとうございました。  それでは,ただいまの御説明につきまして何か御質問等ございましたら,どなたからでも御発言願います。 ○大久保委員 資料Bの11頁に,被害者参加をした方の数が掲載されてありますけれども,申出をしても許可されなかった方というのはどういう方なのかということと,証人尋問をした方がとても少ない理由について,もしお分かりでしたら教えてください。 ○井上座長 お分かりですか。 ○西山参事官 1点目の不許可についてなんですが,ちょっとその理由まではこちらでも把握をいたしておりません。 ○大久保委員 被告人質問や意見陳述等をされた方はそれなりにいらっしゃるようですが,証人尋問をされた方の数が17名と少なかったのは,もしかしたら,なかなか被害者の方が制度そのものを十分に理解できていなかった,あるいは被害者等に弁護士が付いていなかったというような理由があるのでしょうか。 ○西山参事官 この点の理由についても我々は子細をちょっと把握しておりません。 ○酒巻委員 全く想像ですが,証人尋問だけが少し少ないというのは,新しい制度では,情状証人に対する尋問のみが認められているため,もともと情状証人がいないということもあるのではないかなという気はします。 ○大久保委員 ありがとうございました。 ○酒巻委員 現状では検察官の上訴がゼロであることは興味深く感じております。従来の普通の事件でも検察官上訴はそれほど多くありませんが,量刑が求刑よりずれた場合,検察官は,かなり微妙なずれでも上訴していたと思います。それが裁判員になってからまだ一つも上訴がないというのは,恐らくいろいろなお考えがあるのでしょうけれど,興味深いなというのが一つです。  それから,控訴審で1件だけ破棄された事例があるとおっしゃいましたけれども,あれは確か,2項破棄だったので,一審段階での量刑や事実認定が間違っているから破棄されたというものではなかったと思います。  以上です。 ○井上座長 あれは原判決後に示談が成立したというのが理由でしたですよね。  ほかの方,御質問等いかがでしょうか。 ○落合刑事課長 先ほどの被害者参加が認められなかった件ですが,私が承知している限りですと,法律上の罪名の縛りがありますので,その罪名に当たらなかったというのもあったように記憶しております。 ○井上座長 なるほど。大久保さん,今の説明で分かりましたでしょうか。 ○大久保委員 ということは,裁判員裁判の対象ではあっても,被害者参加制度の対象ではなかったということですね。分かりました。 ○井上座長 ほかの方,どうぞ。 ○山根委員 資料のBの8頁で審理にかかった期間のことを御説明いただきました。平均が3日が44.8%,4日が32.2%というふうに伺ったのですが,これは新聞などで,複雑な事件がこれから増えると,日数も増えていくというふうに伺っていますけれども,例えば半年後とかに同じような集計をした場合,かなり平均日数が変わってくるのでしょうか。  それと,実際に裁判が始まる前に予定が3日かかりそうですとか4日ですという御案内があると思うのですが,それが実際やってみて延長になるということはどれぐらいの確率であるのかも分かれば教えていただけますでしょうか。 ○西山参事官 最初のお尋ねのところに関しては,今後も裁判の実施状況,審理状況を見ていって,それで数値がどうなるのかというのはまた検証していく必要はあるとは思っています。 ○井上座長 審理期間が延びた事例を把握していますか。 ○西山参事官 ちょっと記憶で恐縮でございますが,ほとんどの審理が予定どおりに進行しているとは言えると思いますが,正確に1件残らずすべて予定どおりだったかどうかまでは把握しておりません。 ○井上座長 角田委員,何かお分かりですか。 ○角田委員 この資料の対象になっているのは今年の2月,3月までの事件ですので,おおむね自白事件だろうと思うのですね。ですから,審理予定の範囲内には間違いなくおさまっているということだと思います。東京地裁についても,昨日の時点までの事件で予定を延ばしたという事例はまだありません。ただ,これから東京地裁の場合は,7月から9月ぐらいにかけて,審理予定期間が1週間から10日ほどかかる,そういった公判期日の指定が入ってきていますので,そうなると今までのようなことを維持できるかどうか分からないと思います。 ○井上座長 ほかにいかがでしょうか。 ○前田委員 本来は裁判所にお尋ねする内容なのですけれども,公訴棄却,移送等が10件あるというのが資料Aの3頁にございますよね。これはやはり併合事件でどこかの裁判所に回すというケースなのでしょうかね。意外に多いなと思ってびっくりしたのですけれど。これは,西山さん,お分かりになりますか。 ○西山参事官 申し訳ありません。そこまでは私どもは把握していません。 ○前田委員 裁判員裁判が別々の裁判所に係属したということなのですか。 ○角田委員 「その他」の数字についてですよね。   一つの理由は,同じ被告人の事件が別々の庁に係属した場合,審判併合というのですけれども,一方の裁判所に移してしまうことがあります。その場合,事件を移した裁判所としては,1件既済ということになりますが,中身は何もやらないことになります。これぐらいの件数であればそれかもしれないと思います。 ○前田委員 それしか考えられないですね。 ○角田委員 それしか考えにくいですね。正確に確認したわけではないので,責任を持ってお答えはしにくいのですけれども,恐らくそうかと思います。 ○前田委員 そうかなとは思ったのですけれども,意外に多いなと思って。 ○井上座長 ほかにいかがでしょうか。   後でまた御意見を伺う時間がありますので,先に進めさせていただきますと,前回の検討会で御質問があった点なのですけれども,一つは子育て中の裁判員への保育支援の状況,もう一つは裁判員選任手続の待ち時間中に流される映像についてでしたが,これらの点について,角田委員のほうから御説明いただければと思います。 ○角田委員 前回の議論の中で,山根委員からの御質問だったのではないかと思いますが,子育て中の裁判員候補者ないし裁判員への保育支援の問題を聞かれましたので,調べてまいりました。   これは東京地裁に関してというお答えになりますけれども,去年の5月21日の施行前,その1年ぐらい前から,東京地裁では,地方自治体としての東京都,それから23区すべての保育担当のセクションに職員のほうで実際に足を運びまして,この点の協力依頼,裁判員候補者が自分の居住地に近い場所で一時保育の支援を得られるようにとのお願い,働きかけをしました。その結果,大部分の区で裁判員候補者に必要な保育時間,審理が9時過ぎから4時,5時ぐらいまで想定されるということだとすると,午前8時ごろから午後6時ごろまでになりますが,この時間の一時保育の施設が用意される形になっております。例えば渋谷区の居住の方ですと,渋谷区の保育施設ということが一番いいわけですけれども,例えば千代田区を希望する場合もあるわけですが,区民以外の広域入所,これはそれぞれの向こうの保育施設の条件の問題ですのでなかなか難しいのですけれども,一部認めていただいたところもあるようです。それから,この点についての情報提供を一元的にする必要があるということで,東京地裁の裁判員係の方で半年に1回位情報を更新し,裁判員候補者からの問い合わせがあれば,どの区の方にでも一時保育施設の担当窓口を紹介できるように用意をしております。   また,保育料の問題ですが,こちらは施設側の判断の問題になりますが,23区の半分以上で,一応,裁判員候補者が一時保育施設を利用される場合には無料化するという方針を打ち出していただけたようです。   これらに関しては,選定が終わって呼出状を各候補者に送付する際,呼出状を入れた封筒の中に「小さなお子さんがいらっしゃる候補者の方へ」という用紙を入れて情報提供をしているということです。 実際の利用例ですけれども,これは統計をとっているわけではないのではっきりとは分かりませんが,裁判員係の話では,結構な数の照会があるので,実際に利用されている方もいるのではないかということでした。   それからもう一点,これは残間委員からの御質問だったと思いますが,待ち時間に流す映像の件がありました。私は前回,自分の経験しかなかったもので,裁判と関係ないものは流していないのではないでしょうかというお話をしたと思いますが,確認してみますと,これは各裁判体の判断でやっていることなので,裁判とは関係のない自然の情景を流す,あるいはクラシックの音楽だけ流している,待ち時間にはそういう形の部のほうが最近は多いということでした。アンケートでこの点の反応はどうかということですけれども,もっと裁判にかかわるものを流してもらったらという御意見ももちろんあるわけですが,リラックスできて非常によかったという御意見も少なくなく,この辺りはどちらかが良いかの判断は難しいところがあるという印象を持っております。   とりあえず私からの御説明は以上です。 ○井上座長 ただいまの角田委員の御説明について,更に御質問等がございましたら御発言願います。 ○山根委員 候補者としても利用できる地域が多いし,その後,実際に裁判員になっても引き続きそこで保育をお願いする可能性は高いわけですよね。 ○角田委員 そのとおりです。ただ,例えば,「満員のために受入れが難しいと言われたのですが,どうしたらいいでしょうか」という問い合わせもなくはないようですけれども,その場合,原則として,その方が住んでおられる区の別の施設を探していただくことになると思います。 ○井上座長 その結果については,裁判所のほうでフォローアップをされているのですか。 ○角田委員 そこまでは,なかなか難しく,やっていないということでした。 ○井上座長 なるほど,分かりました。   残間委員,いかがですか。 ○残間委員 結構です。 ○井上座長 ただいまの御説明をも踏まえまして,全体の実施状況を基に現時点での裁判員制度の運用について御意見,御質問等がございましたら,御発言いただきたいと思います。   どなたからも御発言がありませんので,私の方で質問させていただきますが,報道等にもありましたけれども,起訴された裁判員裁判対象事件のうち,実際に公判が開かれ,判決まで出た事件は,半数に達していないということですね。これは,公判前整理手続を入念にやっているためだと思うのですけれども,公判前整理手続を入念にやり,争点・証拠を整理して,きちんとした審理計画を立て,公判ではそれに従って充実し,集中した審理を行うというのは,制度本来の理念にほかならず,そのとおりにやっておられるということだと思うのですが,従前の裁判官による裁判と比べて,全体としての期間は,長くなっているのか,全体として縮減されているのか,その辺はいかがなものですか。まだ争われていないというか,自白事件がほとんどということなので,この先どうなるか分からないのですけれども。 ○角田委員 これは,法曹三者それぞれがお答えすべき質問だと思いますが,まず裁判所のほうから数字だけ申し上げますと,東京地裁本庁では,本日の時点で係属事件が120件,判決が既に終わっているという事件が61件で,要するに181件のうち61件の言渡しが終わっております。また,係属事件120件のうち53件については既に公判期日が指定ないし予定されているということです。   井上座長の御質問は,しばらく前に,公判前整理手続に少し時間が長くかかって,長期化の傾向があるのではないかという趣旨の報道がありましたので,その点に絡む御質問かなと思いますが,これは実は,今年の2月ごろに東京地裁の方でも,例えば鑑定が必要であるとか,追起訴が重ねられているような事件について時間がかかるのはやむを得ないですけれども,典型的な争いのない自白事件について,4か月も5か月もかかるのは,やはり問題ではないかという問題意識を持ったところであります。この点につきましては,統計的な分析,それから各部の実情の意見交換をかなり精力的に行った結果,一言で言いますと,とにかく短期間の陪審の経験を除くと100年に1度の大改革のようなことで絶対に失敗できないというのが法曹三者共通の意識で,非常に慎重になっていたということが間違いなくあると思います。その反映として,検察庁からの報告もあるのでしょうけれども,例えば自白事件でも最初の手続のスタートの証明予定事実記載書面の提出が2月の時点で確か起訴から25日くらい,1か月近くかかっていたということで,慎重にやればもちろんそういうやり方もあるわけですが,やはり好ましくなかったと思います。この点,検察庁のほうも最高検の裁判員公判部等の働きかけもあったのだと思いますが,現在は起訴から2週間程度で出そうということでやっていただいております。これは別に自白事件だけでなくて,争いのある事件も含めて,起訴から2週間程度で原則,最初の書面を出していただいているわけです。   もう一つの問題は,証拠開示の制度により,多くの証拠が開示されることはいいことだと思っておりますが,証拠開示について,検察官,弁護人の当事者間の調整に任せるという意識の部分もかなりあって,それは間違いということではないわけですけれども,ただ,争いがあって調整が付かなければ,それは裁定という仕組みも制度の中に準備していただいているわけで,なるべく状況を速やかに把握して裁定すべきものはどんどん裁定していくと,あるいは任意開示も大分やっていただいているということがありますので,それをうまく活用すると,こういったことで裁判所のほうも証拠開示に積極的に関与していくということを始めております。その結果,やはり統計的に公判前整理手続がこれだけ短くなりましたとまだ示せるだけの資料はないわけなのですけれども,感覚的には,明らかに長過ぎるという事件は減ってきているのは間違いないと思います。先ほど申し上げましたように,制度施行からまだ1年1か月程度なわけですが,181件のうち既に61件が判決済みで,残り係属中の120件についても,半分近くの53件について既に公判期日が予定,指定されているという状況は,一応,滞留とか問題のある停滞というところに陥る前に手を打ったことによって何とか動き出しているのではないかと,暫定的な感じとしてはそういうふうに考えております。 ○井上座長 白木委員,前田委員の方で,補充していただくことはありますか。 ○前田委員 確かに,裁判官裁判ですと,全く争いのない事件に関しましては,起訴をされて1か月半とか2か月先には判決の言渡しが行われてきたというのが一般的な裁判の進め方でしたよね。それと比較すると,裁判員裁判ですから,公判前整理手続が入って争点の整理をし,証拠の整理をする。それから,一定の期間をおいて連日的開廷をすると。要するに,直接主義・口頭主義に基づいてやりましょうということですから,準備のための期間がかかるということで,制度の設計自体がそういう従来の裁判官裁判の起訴から終結までの予定と比較するとやはり長目になってしまうというのは,これは制度設計上致し方のない側面があるのかなと私自身は思ってはおります。ただ,先ほど角田委員御指摘のとおり,だれもがまだ習熟していないといいますか,慣れていないところがありまして,慎重に構えていこうということで,弁護人もそうでして,自分たちの弁護活動のまずさでそれが被告人の不利益になってはいけないというのが基本的なスタンスですので,慎重にやってきたということはあろうかと思いますけれども,やはり公判前整理手続における証拠開示のやり取りが,弁護人の立場からすれば時間がかかっているかなと,あそこをもう少しうまくやれないのかなというのが大体共通した弁護人の認識なのですね。 ○井上座長 白木委員,何かありますか。 ○白木委員 井上座長のほうから先ほどお尋ねがあった審理期間,つまり全体でどうなのかという話がございましたけれども,今日いただいた資料Bの8頁の一番上,「審理期間(受理から終局まで)」というのがございまして,要は私どもの立場で言うと起訴から判決までということになるのですが,2月末現在で,平均6か月という数字が出ているようでございますが,他方で,これも最高裁のほうで調査されたと記憶しているのですが,その調査結果によると,平成20年,まだ裁判員裁判が実施される前に行われた裁判員裁判対象事件のうち公判前整理手続が行われた事件では,起訴から判決まで平均7.1か月だったというふうに聞いておりますので,全体で見ると,要は1か月ぐらい平均期間が短くなっているのかもしれません。ただ,数が非常に少ないので何とも言えないところだと思いますし,他方で自白事件が若干全体として長くなっているのではないかということは前田委員のほうからお話があったとおりかと思っております。   それで,私ども検察のほうでは,角田委員のほうからも御紹介いただきましたように,できるだけ早く公判前整理手続を進めるということで,証明予定事実記載書面という話が今出てきましたけれども,検察官が証拠によってどういう事実を証明しようとする予定なのかということを書いた書類をできるだけ早く裁判所と弁護人に提出していきたいと考えています。また,証拠開示という話もございましたけれども,私ども検察としては,仮に法律上の要件を満たさないものであっても,開示して弊害がない,第三者のプライバシーを害したりしないというようなことであれば,積極的に開示していきましょうという姿勢で臨むことによって,できる限り充実した争点整理が迅速にできるようにというふうに考えているところでございます。 ○井上座長 ありがとうございました。 ○酒巻委員 公判前整理手続と,全体の審理期間に関連してですけれども,制度の基本的な設計として,公判前整理手続ではそれなりに時間がかかっても,実際の公判期日はほぼ連日開廷になりますので,そこが以前の審理形態と圧倒的に違います。その結果として,争点と証拠があらかじめよく整理されていれば恐らく起訴から判決までの期間は従来より短くなっていくのではないかと思っておりまして,現状も少しそういう傾向が現れているのではないかと思います。   比較的単純な自白事件については,以前であれば,裁判官による公判審理でほぼ一瞬にして量刑の結論は出ていたかもしれません。これに対して裁判員の方々が入り,自白事件であっても,量刑等について,事件や被告人をめぐる様々な事情の持つ意味を意識したすごく充実した評議が行われていることはアンケートなどからも分かりますので,その準備としてやや公判前整理手続が延びたとしても,それ自体は悪いことではないと思います。すべては審理と評議を裁判員の皆さんがやってよかったと感じる,充実したものにするのが目標ですから,そういう意味では目的を達しているのではないかと思います。   それから,一時期,公判前整理手続が延びると,裁判員裁判対象事件は権利保釈の除外事由になる事件であるため,身柄を拘束される期間が延びてしまうのではないかという議論がありました。しかし,最近私が報道で見た数字では,我々法律家のこれまでの常識からは,驚くほど裁量による保釈の率が昔に比べて上がっているのですね。つまり,公判前整理手続期間は長いかもしれないけれども,その終わりごろに,すなわち第一回公判期日前に,被告人が身体拘束から解放されている事件が増えているようですね。専門的事項ではありますが,公判前整理手続で証拠が整理され争点が固まれば証拠隠滅のおそれという危険が具体的には下がりますので,裁量保釈の率が上がる結果になっているのだと想像しているのですけれども,これも付随的ではありますが,とても大きな変化ではないかと感じているところです。 ○前田委員 最高裁からもらったわけではありませんが,新聞記者の方から教えていただいて,裁判員裁判対象事件の保釈許可率が75%であるそうですね。  従前の保釈率が4%か10%であると教えていただいたのですが,ただ実際そうなのかどうか私は確認していないのではっきりしたことは分かりません。 ○西山参事官 今のデータの件で申しますと,裁判員制度が実施された後で,裁判員裁判対象事件の判決人員444名である本年3月末までのデータですと,保釈許可率が約75.4%というのが出ております。保釈請求人員が57名で,判決前の保釈許可人員が43名ということです。 ○井上座長 角田委員,どうぞ。 ○角田委員 今御紹介になった数字等は正しいと思いますけれども,ただ前提問題として,裁判員裁判対象事件は重い類型の事件が対象になっていますので,そもそも保釈請求しても保釈許可がもらえないだろうということで,保釈請求自体をあきらめてしまう件数が非常に多いわけですね。今の保釈許可率というのは,これなら何とかなると弁護人も考えて,しかも保釈保証金が準備できるということで請求してきたもののうちの75%が許可になっているということを示している数字です。ただ,この75%という数字は従前と比べると激変した数字で,昔は余り保釈するという発想がなかったのだと思いますけれども,公判前整理手続の導入で,争点及び証拠の整理ができて,しかも公判前整理手続が終わると新しい証拠調べ請求ができなくなるということがありますので,罪証隠滅のおそれが類型的に低くなるということで,許可の判断をしやすくなっているということは間違いありません。最近でも,例えば傷害致死罪で実刑になるような事案で,保釈を令状部で許可して,準抗告審でも維持されたという事例もありますので,ちょっと補足して御説明いたしました。 ○井上座長 今の点でも結構ですし,ほかの点でも結構ですが,御質問,御意見ございましたら御発言願います。 ○大久保委員 保釈率が75.4%ということですが,ただ今お話がありました傷害致死のほかにはどういう人が保釈されているのでしょうか。被害者の立場になりますと,例えば,なぜそれだけの罪を犯しながらお金さえ払えば保釈されるのかという気持ちになってしまうのですね。それは法律上そうではあっても,被害者の心情としてどのように受け止めればいいのか分かりませんでしたので。 ○角田委員 なかなか難しい問題提起を含んでいると思います。まず罪名で申し上げますと,一番重い類型の事件ですから,実際に保釈許可になっているのは,例えば殺人未遂とか,それから強盗致傷とか,強盗が人をけがさせたという類型事件ですね。それから,先ほど御紹介した傷害致死,あるいは強制わいせつ致傷という罪名も時折ありますね。そのような罪名の事件で保釈になった場合に,被害者の方がどういう受け止め方をするかというのは,市民の感覚としては一つの問題としてあると思いますね。ただ,もともと裁判をする上で,被告人が重い罪を犯したけれども,逃げるおそれも余りない,それから証拠隠滅をしていくようなこともない,例えば,重い罪は犯しているけれども,裁判には正々堂々と出てきて,自分の言い分は言って,刑を宣告されたらそれに服しますと,そういう姿勢で臨んでくる被告人ももちろんかなりいるのですね。そういう被告人について,判決あるいは刑が決まるまでの未決のこの身柄拘束というのは,もともと裁判をするための身柄拘束で,それ自体が制裁ではありませんから,それを被害者感情だけを根拠にして,身柄を拘束したまま裁判をやっていくというのは,やはり筋が違うところがあるということで,法律家の判断としては,そこは迷わず保釈が相当と判断すれば保釈をしていきます。実際に保釈になった被告人の裁判も今まで大分あるわけですけれど,被害者は傍聴に来られて,あるいは判決を見て,被告人が身柄を拘束されていない状態で裁判を受けている様子を見ているわけですけれど,そのことでどうして身柄を拘束されていないのですかというような疑問は余り聞かないと思います。 ○大久保委員 ただ,被害者支援センターにおりますと,なぜ保釈されたのかということで,とてもつらいという訴えをしてくる被害者の方がかなりいらっしゃるものですから質問をさせていただきました。 ○角田委員 第一感,直感としてはそういうふうに被害者側が感じるというのはよく分かります。だから,今のような内容の説明をして,それである程度は分かっていただけるのではないかと思っております。もちろん保釈して本当に問題があるような事例では許可しないという判断に大体つながっているはずだと思っています。 ○酒巻委員 やはり一般の方あるいは被害者の方にとっても,刑事司法制度の中での保釈というものについての理解が,まだ社会の常識になっていない。保釈というのは,それなりの理由があって,原則は権利として認められている。しかし例えば被害者の方に,自由の身になって,裁判中に不当な働きかけをするようなおそれが認められる場合は保釈はされないというシステムにもなっていますので,そのあたりのことがきちんと法律家からもっと丁寧に説明をすれば御理解いただける面は多いのではないかと思っております。未決段階の勾留は,刑罰として悪いことをしたから閉じ込めているのではなくて,まだ裁判中で有罪の判決を受けた人ではありませんので,そこは直感的,感覚的には許せんと思われる方も多いかもしれませんけれど,むしろ法律家が説明をしないといけないところだと思っています。 ○大久保委員 そこら辺の説明は十分に被害者のほうにはされているのでしょうか。 ○酒巻委員 問題はそこだと思います。ですから,むしろそういうチャンネルも使わないといけないということなんだと思います。 ○井上座長 ほかに,今の点でも結構ですし,その他,全般について御意見等ございましたら出していただければと思いますが。 ○四宮委員 意見というより感想です。   私が大変驚いたのは,この裁判員に選ばれる前の気持ちと裁判員を経験した後の意見というのが非常にドラマティカルに変わっているという点なのですね。先ほども西山さんから御報告があったように,「非常によい経験と感じた」と「よい経験と感じた」という方を合わせると96%ぐらいになっているということで,非常に励まされる数字でした。これは御案内のとおり検察審査員を経験された方も同じようなビフォー・アフターという言葉で言えば意見の変化をおっしゃっているわけで,その類似していることに私は感銘を大変受けているところです。いい方向へ変わったことについては,恐らくは今日の説明を伺いますと,審理内容が大変分かりやすかったというのも94%ぐらいになっていますし,評議も大変分かりやすかった,意見が述べやすい雰囲気だったし,意見を述べることができたという方も大変高い割合になっているわけですね。スタートから短い時間ですし,件数もまだそれほど多くありませんけれども,弁護士として言うのもなんですけれども,法律家たちもかなりの努力をしてきたように思います。とりわけ,裁判員の方のアンケートを読んでみると,裁判官,それから裁判所の職員の方々に対する感謝の気持ちというのは非常に色濃く出ています。もちろん,短い時間で件数も少ないので,これからいろいろな課題が出てくるとは思いますけれども,少なくとも国民からはスタートの段階ではいい評価をいただいているということで,これを運営する側としては勇気付けられるところだと思います。ですので,またいろいろな裁判員の経験者などの皆さんからの意見を聞きながら,よりよいものにしていくというスタート台としてはとてもいいスタートなのではないかというふうに印象を持っております。 ○井上座長 四宮委員も御存知のように,アメリカの陪審員などでも,参加する前に尋ねたら,やりたくないという人が多いわけですが,やってみると非常によかったという感想を持つ人がほとんどなので,わが国でもそういうことになるのではないかと予想していたのですけれど,それが実際に,更に顕著な形で現れているように思いますね。   ついでに,身柄拘束の関係で申しますと,アメリカの陪審制度の下などでも,結構公判開始まで待ち時間が長く,保釈の対象から除外される事件や保釈保証金を払えないで保釈されない場合などには,かなり長い期間,ときには1年も2年も,被告人が身柄拘束されたまま待っているという例もないわけではない。もちろん,わが国の場合それに比べればまだいい方だというわけではないのですけれども,関係者は準備や審理を丁寧にやろうとすれば,それだけ準備期間とか審理日数を要するわけで,ある程度はやむを得ないところがある。それをできるだけ合理的なものに縮めていくということなのだろうと思うのですね。   ほかに御意見等ございませんでしょうか。 ○土屋委員 一つだけ質問です。制度設計のときの議論を思い起こしているのですが,裁判体の構成で,被告人が公訴事実について争わないというような事案について,裁判官1人,裁判員4人という合議体を作ってもよろしいというような制度設計が行われました。公訴事実について余り争いのない事件から始まって1年が過ぎた段階で,そういう小さな裁判体でやろうというような審理計画が立てられた地裁,支部はちょっと聞かないのですが,どこかそういうところはありましょうか。 ○井上座長 その実例はまだないというふうに聞いていますけれども。 ○土屋委員 まだないですね。分かりました。 ○井上座長 あれは検討会で議論して設けたものではなく,立法までの間にいろいろな意見を反映して導入されたものでしたね。 ○土屋委員 個人的な意見を言いますと,慎重に裁判をするというためには,裁判員6人で裁判官3人という原則的な合議体でスタートしたのが良かったと思うんです。けれども,1年たつとそろそろそういう動きも出てくるのかなと思ったりもしていたものですから,どこかでそんな動きがあるのか気になりました。 ○井上座長 ほかにいかがでしょうか。 ○山根委員 裁判員を充実感を持って終えられた方でも,その後,何かの拍子に心理的なストレスを感じたりとかいうことがあると聞きます。そういったことに関してのアフターケアとか,何かまた情報を集めたりだとか,そういうことは今はされていないように伺ったんですけれども,今後,必要にもなってくると思うのですが,その辺何か伺えればと思います。 ○井上座長 裁判所の方にそういう問題が持ち込まれるというようなことは実際にあるのでしょうか。 ○角田委員 全国的なことは把握していないのですけれども,東京地裁では今のところまだそういう問題は起こってきていないと思っています。というのは,例えば自白事件でも殺人事件のようなものもあるわけですが,立証の仕方をどうするかという公判前整理手続の議論の中で,例えば非常に残虐な写真だとか,場合によっては検察官のほうは,こういう事件の性質を分かってもらうためには我慢して見てもらわなければいけない,これを証拠として使いたいと,こう言われる場合があるのですが,しかし裁判員の心の問題を考えると,そこまでしなくてもこの事件の判断はできるのではないかということで,弁護人が反対したり,あるいは裁判所のほうから介入して,その必要性について議論することはかなりあると思います。今のところうまく収まっている状況なのだろうと思います。   これからもその辺のところの問題意識を法曹三者がみんな継続的に持っていき,そこの言わば予防のところで処理できれば一番形としていいのではないかと考えています。ただ,もしそういう実際に不安定な気持ちになられた方がいましたら,それは照会をしていただいて,最高裁の方で整備している制度のほうに紹介することになろうと思います。 ○井上座長 どうぞ。 ○酒巻委員 これも,どこかで読んだのですが,裁判員経験者の方で,先生がおっしゃったように精神的な不安やストレスを感じたときには,確かどこか指定されたところへ電話すれば,カウンセリングを受けられるような,そういう体制を裁判所は作っていたように思うのですが。 ○角田委員 それが最高裁のほうで対応しているメンタルヘルスサポートといったと思いますが。 ○酒巻委員 そういうのがあるはずです。 ○西山参事官 報道を通じてこちらの把握しているところでは,最高裁はカウンセリングの相談を受ける窓口を昨年の6月に設置しているそうで,裁判員メンタルヘルスサポート窓口というのを設置されていて,24時間体制で裁判員あるいは補充裁判員からの電話やメールでの相談を受け付けるそうです。希望者には臨床心理士らとの面談によるカウンセリングを全国の約150か所で受けてもらう体制をとっているというふうに聞いております。 ○山根委員 今のところ,そこへたくさん問い合わせが来ているというようなことはありますか。 ○西山参事官 これもまた報道を通じて我々も把握しているところなのですが,4月末現在で23件,相談件数が全国であったというふうな報道がなされてはおります。 ○井上座長 さらに今後また何か分かりましたら御報告いただきたいと思います。   それでは,今日はこの程度にさせていただきたいと思います。   次回の開催予定の検討会は,東京地裁で初めて裁判員裁判が始まってからちょうど1年余りが経過するという時期ですので,次回の検討会では,法曹三者の各委員の方々からそれぞれのお立場でこの1年間の実際の裁判員裁判の運用を振り返って御意見あるいは御報告を伺いたいというふうに考えております。また,次回の検討会までに,今恐らく日程の調整をさせていただいていると思いますが,各委員が裁判員裁判の傍聴をされる予定であり,事務方のほうでそういう準備を進めていただいているというふうに伺っておりますので,私も,制度づくりには参加したのですが,実際にはまだ見せていただいておりませんので楽しみにしておりますけれども,その御感想なども伺えるかと思っております。次までには1件か2件かしか御覧いただけないと思うのですけれども,幾つかいろいろな種類の裁判員裁判を見ていただいたら本当はいいのではないかと思っていますが。 ○大久保委員 たまたま今,裁判員の方たちの精神的ケアの必要性ということでも,24時間体制をとって面接も無料でできて,なおかつ23人の方の利用があったということから,翻って考えていただきますと,裁判員の方というのは,数回その事件と間接的にかかわっただけで,やはり相談を必要とする人が出るということだと思うのですね。それを考えますと,実際に被害に遭って,なおかつまたその裁判員裁判でそこの場に出る,あるいは傍聴する被害者の方たちのダメージというのは,想像を超える大きなものがありますので,せめて刑事裁判において,更に傷を深くしたり,あるいは回復を遅らせるというようなことがあってはならないことだと思うのですね。ただ,この裁判員制度ができましたおかげで,被害者の人たちが置かれる状況は,今までは,ほとんど知ろうともしない,分からない,宙ぶらりんの状態に置かれていたけれども,ある程度裁判員の方たちも,被害者も大変だということをいろいろなコメントでも出してくださる方もおりまして,裁判員制度が果たす役割はとても大きいものがあると思いまして,私自身もこれはもっともっとしっかりと社会の中で広めていかなければいけない重要なものだと思っています。ただ,一方で裁判員の方には手厚い体制があるのにもかかわらず,被害者には実は今ほとんど何もなく放置されていまして,その後,自力で回復をしていかなければいけないという状況にありますので,その点も是非含めて考えていっていただきたいということを今感じましたので,今ここですぐにお返事をとか,そういうものではありません。ただ,先進国では,裁判所を入りますと,すぐ左手のほうに被害者の相談に乗る,それもケースワーカーがしっかりと常駐でいるというような状況も整っておりますので,そういう辺りのところも是非考えていっていただきたいと思っています。   以上です。 ○井上座長 今の御意見は,必ずしも裁判員裁判特有の問題というよりは,刑事裁判一般にかかわる問題だと思いますが,御意見として伺っておきたいと思います。被害者の精神的ケアについては,大久保委員も参加されている被害者等基本計画推進会議でも検討されていますね。 ○大久保委員 そこには裁判所は,最高裁は入っておりませんので。 ○井上座長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,本日予定された議事は以上でございます。   最後に,事務当局から次回の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 次回でございますが,各委員の先生方の日程調整をさせていただきました結果,11月16日火曜日午前10時からとさせていただきたく存じます。場所等は追って御案内申し上げます。   以上です。 ○井上座長 それでは,第3回の検討会をこれで終了いたします。   どうもありがとうございました。 以上