裁判員制度に関する検討会(第7回)議事録 1 日 時   平成23年9月27日(火)13:30〜15:48 2 場 所   最高検察庁大会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,酒巻匡,残間里江子,      四宮啓,島根悟,土屋美明,栃木力,前田裕司,山根香織 (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,甲斐行夫大臣官房審議官,和田雅樹刑事局      刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事局参事官 4 議 題  (1) 裁判員制度の実施状況等について(報告)  (2) ヒアリング    野上 誠氏    黒田 治氏    朱 韻菲氏    小林真美氏    池山拓治氏  (3) その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数       (制度施行〜平成23年8月31日)   資料2:平成22年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料   資料3:平成22年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料       (ダイジェスト版)   野上誠氏説明資料:「第7回裁判員制度に関する検討会 レジュメ」 6 議 事 ○西山参事官 予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第7回会合を開会させていただきます。 それでは,井上座長,お願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中お集まりいただきまして,ありがとうございます。 議事に先立ちまして,委員の交代について御報告があります。 人事異動に伴いまして,室城委員に代わりまして島根委員が,松並委員に代わりまして菊池委員が新たに委員になられました。 それでは,島根委員から簡単に自己紹介をお願いいたします。 ○島根委員 警察庁の島根でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上座長 よろしくお願いします。 次に,菊池委員からお願いします。 ○菊池委員 最高検の裁判員公判部の菊池と申します。どうぞよろしくお願いします。 ○井上座長 よろしくお願します。 また,事務当局でも刑事局長の人事異動がございましたが,御挨拶をお願いします。 ○稲田刑事局長 8月11日付けで刑事局長になりました稲田でございます。いろいろこれからお世話になります。よろしくどうぞお願いします。 ○井上座長 続きまして,本日の資料について,事務当局から御紹介,御確認をお願いします。 ○西山参事官 刑事局参事官の西山でございます。 本日の資料は議事次第,現在の委員名簿,インデックス付きの資料が1から3までと,本日ヒアリングを行います鑑定人野上誠医師から配布の御希望がありました第7回裁判員制度に関する検討会レジュメと題するもの1枚の資料がございます。 なお,資料2に正誤表を挟んでおります。資料1から3については,後ほど詳しく御説明をいたします。 ○井上座長 よろしいでしょうか。不足がありましたら,お申し出いただけますでしょうか。 それでは,議事に入りたいと思います。 まず,裁判員制度の実施状況等について,事務当局から御説明をお願いします。 ○西山参事官 それでは,裁判員制度の実施状況等につきまして,お配りしたインデックス付きの資料1から3までの資料に基づき御説明いたします。 まず,資料1「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」は,裁判員制度施行後,本年8月31日までの約2年3か月間における地検別・罪名別の起訴件数をまとめたものです。 左から2番目の赤字の記載の列の一番下にありますように,本年8月31日まで約2年3か月間の全国の起訴件数は,合計4,214件となっています。1か月平均約156件が起訴されていることになります。 罪名別では,多い順に強盗致傷1,033件,殺人883件,現住建造物等放火388件,覚せい剤取締法違反350件,傷害致死306件となっており,これら5罪種で全体の約70%を占めています。 また,検察庁別に見ますと,多い順に,千葉地検が460件,東京地検本庁が376件,大阪地検本庁が344件などとなっており,罪名別及び検察庁別の順序は,いずれも前回の検討会で報告いたしました施行後2年間の起訴件数の順序と変わりはございません。 一方,裁判員裁判の判決人員については,資料1の青枠に記載のとおり,本年8月31日までで,判決言渡し人員は合計2,576人となっています。 判決言渡し人員を件数に直しますと,2,878件になります。起訴件数は4,214件ですので,判決件数と比べてみますと,約68%について判決まで至っております。 次に,資料2「平成22年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料」は,最高裁判所が本年7月に公表した資料です。これは,裁判員法第103条において最高裁判所が毎年,裁判員裁判対象事件の取扱状況,裁判員及び補充裁判員の選任状況,その他,裁判員法の実施状況に関する資料を公表することとされていることに基づくもので,平成22年1月から同年12月末までの間の裁判員裁判対象事件を対象としております。 平成21年分については,昨年7月に公表され,第4回検討会で配布しましたが,今回はその平成22年版ということになります。 また,資料3は資料2の主な内容をダイジェスト版としてまとめたものです。 その主な内容について,これから資料2を参照いただきながら御説明いたします。 まず,この資料2の5枚目の目次を御覧いただき,この概要を御説明いたします。 内容は,平成21年版と同様,4部構成となっており,まず第1において,裁判員裁判対象事件の概況のほか,裁判員等の職務従事に関するデータが示されております。 次に,第2においては,裁判員の選任手続の流れに沿って,裁判員候補者名簿記載通知,調査票回答,呼出状送付,裁判員等選任といった各手続の実施状況に関するデータが示されています。 続いて,第3においては,裁判手続の流れに沿って,公判前整理手続,公判審理,評議,判決,控訴等の実施状況に関するデータについて,様々な角度からのクロス集計も交えて掲載されております。 そして第4は,弁護人や通訳,翻訳人に関する統計などです。 これから,103条公表資料独自のデータや分析を中心に主なものを御説明いたします。また,適宜,平成21年の103条公表データを御紹介して比較したいと思いますが,平成21年の判決人員が142人,平成22年の判決人員が1,506人と裁判の数に大きな差があるため,単純に比較して傾向を見て取ることが困難な面もあることに御留意いただければと存じます。 まず,裁判員等の職務従事時間について,8ページの図表9を御覧ください。 なお,職務従事時間の意味ですが,資料2冒頭の用語説明にあるとおり,選任手続期日,開廷時間及び最終評議にそれぞれ要した時間の合計であり,審理の合間に行う中間評議の時間を含みません。 職務従事時間の平均は,全体で21.4時間,自白事件で18.5時間,否認事件で26.5時間となっています。 平成21年では,全体で17.8時間,自白事件で16.8時間,否認事件で21.8時間でしたので,自白事件を含めいずれの時間も長くなっていることが分かります。 次に,20ページの図表16を御覧ください。 実審理予定日数別に選定された裁判員候補者数,呼出状を送付した裁判員候補者数,選任手続期日に出席した裁判員候補者数,出席率などが示されております。 選定された裁判員候補者数の平均を比較してみますと,実審理予定日数が2日以内で77.2人であるものが,実審理予定日数が5日以上となると96.0人となっており,実審理予定日数が長い場合には,より多くの裁判員候補者が選定されています。この傾向は平成21年においても同様ですが,平成21年では,実審理予定日数が2日以内で94.4人,実審理予定日数が5日以上で114.4人でしたので,平成22年では,全般的に選定候補者数が減少していることが分かります。 また,出席率ですが,実審理予定日数が2日以内で83.0%,3日で81.2%,4日で80.7%,5日以上で79.7%となっています。 平成21年では,実審理予定日数が2日以内で86.8%,3日で83.7%,4日で83.2%,5日以上で86.1%であり,平成22年では,2,3日という短期の実審理日数も含め,全体として平成21年より出席率がやや低下しているほか,平成21年では,審理日数と出席率の関連性が余り見受けられないのに対し,平成22年では,実審理日数が長くなると出席率が低下するという傾向が見て取れます。 次に,35ページの図表27を御覧いただきますと,実審理予定日数別の辞退率が示されております。実審理予定日数が2日以内の場合には,総数で48.5%であった辞退率が,実審理予定日数が5日以上の場合には55.9%に上がっており,実審理予定日数が長いほど辞退率が高いことが分かります。 また,辞退理由別の辞退率を見ますと,事業における重要用務と社会生活上の重要用務について,この傾向が現れています。 続いて,公判段階の状況についてですが,49ページの図表40では,審理段階別の平均日数がグラフで掲載されており,受理から公判前整理手続に付されるまで,公判前整理手続期間,公判前整理手続終了から第1回公判まで,第1回公判開始から終局までの各平均日数が掲載されており,総数については,受理から公判前整理手続に付されるまでが15.2日,公判前整理手続期間が160.5日,公判前整理手続終了から第1回公判までが49.9日,第1回公判開始から終局までが5.0日となっています。 平成21年の総数の各平均日数は,それぞれ8.9日,80.0日,53.0日,3.7日であり,公判前整理手続終了後から第1回公判までの日数以外はいずれも長くなっています。また,この傾向は,自白事件,否認事件のいずれについても同様です。 次に,53ページの図表46では,取調べ証拠数,これは取り調べられた書証,物証,人証の合計数ですが,その平均値が掲載されており,平均取調べ証拠数は,全体で29.5個,自白事件で27.3個,否認事件で33.4個となっています。 平成21年では,全体で23.8個,自白事件で23.4個,否認事件で25.3個でしたので,自白,否認事件ともに取調べ証拠数の平均数は平成21年より増えております。 次に,54ページの図表47−2を御覧いただきますと,証人尋問を行った証人数の平均が出ており,全体が2.1人,自白事件が1.5人,否認事件が3.3人となっております。 平成21年では,全体が1.6人,自白事件が1.4人,否認事件が2.4人であり,特に否認事件について増加している状況が見られます。 続いて,70ページの図表69を御覧いただきますと,自白否認別判決人員と控訴人員が掲載されております。 これによれば,自白事件の判決人員が971人,うち控訴人員が232人,否認事件の判決人員が535人,うち控訴人員が257人となっております。ここから控訴率を計算しますと,全体で32.5%,自白事件で23.9%,否認事件で48.0%となっております。 次に,75ページの図表73によりますと,控訴審が終局したのは260人,控訴棄却207人,破棄自判12人,控訴取下げが40人,その他1人となっています。その他1人は,被告人が死亡したことによる控訴棄却決定が出されたものです。 最後に,76ページに参考として,控訴審における終局人員の審級別平均審理期間の推移のグラフが掲載されております。 これによれば,第一審の平均審理期間は,裁判官裁判では,平成20年で11.2月,平成21年で11.1月であったのが,平成22年の裁判員裁判では7.6月となり,控訴審の平均審理期間については,裁判官裁判では,平成20年で4.9月,平成21年で5.1月であったのが,平成22年の裁判員裁判の控訴審では3.5月となっており,裁判員裁判の方が第一審及びその後の控訴審ともに平均審理期間が短縮し,公判の迅速化が図られていることがうかがえます。 もっとも,終局人員が平成22年の裁判員裁判では215人,平成20年の裁判官裁判では702人,平成21年の裁判官裁判では618人と対象終局人員に差があることなどを踏まえますと,今後の推移を見守る必要があると思われます。 以上で,私からの御説明を終わらせていただきます。 ○井上座長 ありがとうございました。 続きまして,前回,大久保委員から,裁判員裁判で保護観察付き執行猶予の判決が増えている状況の下で,保護観察制度がきちんと機能するよう対応できているのかという趣旨の御質問がありましたが,この点について,事務当局から御説明がございましたらお願いしたいと思います。 ○西山参事官 まず,平成20年4月から平成22年3月までに判決が出された裁判員裁判対象事件について,執行猶予判決が出された件数のうち,保護観察が付された件数の比率は,裁判官裁判では36.6%,裁判員裁判では59.2%であり,裁判員裁判の方が保護観察が付される比率は高くなっています。 一方,保護観察が付される人員数は,平成20年では2,927人,平成21年では2,916人,平成22年では2,968人と推移しており,全体としての増加数はそれほど大きくはありません。 このような状況での法務省の対応ですが,平成18年以降は,保護観察対象者の特性に応じた専門的処遇のために,性犯罪者処遇プログラムなどの専門的処遇プログラムを導入し,全国の保護観察所において実施するとともに,平成19年4月からは,凶悪重大な事件を起こした者等,処遇に特段の配慮を要する者については,保護観察官による直接面接指導等,保護観察官の関与を強めるなど,保護観察を通じた再犯防止機能の強化を図っています。 また,保護観察官の増員も認められ,実効性のある保護観察の実施に必要な体制整備に努めています。 さらに,平成20年度から保護観察対象者等との面接場所や保護司同士の情報交換の場,支援ネットワークの構築のための活動拠点である更生保護サポートセンターの設置を進め,保護司活動の支援を図るとともに,自治会関係者や民生・児童委員,教育関係者等を構成員とする保護司候補者検討協議会を全国的に設置し,保護司適任者の確保に努めています。 ○井上座長 ありがとうございました。 よろしいでしょうか。後の予定があるものですから,次に進ませていただきます。 次に,予定したとおり,法医鑑定と精神鑑定の各専門医からのヒアリングを行いたいと思います。各専門医から,まず御説明をしていただき,その後,質疑応答を行いたいと思います。 このヒアリングについて1点,議事の公開の件をお諮りをしたいと思います。鑑定人のヒアリングにつきましては,専門性の高い鑑定内容を裁判員に分かりやすく伝える取組などについてお聞きすることになるわけですけれども,そのために実例を御紹介いただく必要もあろうかと思います。そうしますと,鑑定人が実際に関与された具体的な事件の内容に説明が及ぶなどしますので,事件関係者のプライバシー等の保護を考えなければなりません。そのため,公開に適さない部分が生じると思われます。 そこで,鑑定人のヒアリングにつきましては,議事を非公開とさせていただき,議事録につきましても,可能な限度でその内容を掲載するにとどめるということにしたいと思うのですけれども,御賛同いただけますでしょうか。 (「異議なし」との声あり) 皆さんに異議がないということですので,鑑定人のヒアリングについては議事を非公開とさせていただきます。 (傍聴人退室) ○井上座長 それでは,最初に法医鑑定の野上誠医師からヒアリングを行いたいと思います。 (野上誠氏入室) ○井上座長 野上先生におかれましては,お忙しい中,当検討会にお運びいただきまして,誠にありがとうございます。 本日は,先生が実際に裁判員裁判に関与された御経験を踏まえまして,有益なお話を伺えるものと存じます。 それでは,まず,野上先生からお話しいただきます。よろしくお願いいたします。 ○野上氏 本日はヒアリングの機会を与えていただきまして,誠にありがとうございます。早速,本論に入りたいと思います。 私がやっておりますのは法医鑑定でありまして,具体的には,司法解剖を行いまして鑑定書を出す仕事をしております。鑑定の経験年数は約15年になります。 以下,配布資料の項目に従って実際に経験したときの話をいたします。 私が経験しました裁判員裁判例は,傷害致死事件でした。 (略) 被告人の主張としては,(略)暴力と傷害及び死亡の因果関係については争うということでありました。 また,裁判長からの御意向で,本件死因について普通の人には分かりにくいと思われるので説明をしてほしいということがありまして,公判で,解剖所見について説明をするということになりました。 実際にそのために準備をしたものが,このスライドにもありますが,この傷の図を用意いたしました。これは図と写真が交じっておりますけれども,全部解剖の写真にいたしますと,なかなか普通の人が見てショックを受けるようなところがありますので,図と写真が交じった状態になっております。 実際に作ってみますと,この図を用意するのにかなり時間と労力が必要でありました。各部位ごとに作りまして,通し番号をつけて整理をいたしました。実際の公判で,これを,このようにパワーポイントでモニターに映しまして説明をいたしました。 それから,もう一つ事前に準備をしたこととしましては,裁判長から指摘されていた,本件死因を分かりやすく説明する工夫について検討しました。(略) 要するに,普通の人が,疑問を持たれるであろうことについて,(略)説明をする用意をいたしました。 それから,裁判所からの要請で,数週間前に裁判所に呼び出されまして,論点整理というのをやりました。これは,裁判長,検察官,弁護人と証人予定の私が集まりまして,どういう尋問事項について質問するかという検討をしました。弁護人からは,事前に反対尋問で聞きたいことの案を紙で送られてきておりましたので,それについて質問を受けました。それから,実際に使われる法廷の下見などもいたしました。 実際の公判ではどうであったかといいますと,最初に検察官から主尋問というのがありまして,解剖所見の説明をしたわけでありますが,方法としては,プレゼンテーション方式あるいはプレゼン方式というものと一問一答方式とがあるのですが,プレゼン方式といいますのは,最初に何分間か話をして,それから質問に答えるやり方で,一問一答方式というのは,文字どおり問い・答えを繰り返していくわけです。 私はその後者の一問一答方式で行いましたが,実質的には余り違いは出なかったと思います。といいますのは,プレゼン方式ですと,例えば説明をするときに,このように,次にここの部位の傷を説明します,これこれの場所にこういう傷がありまして,というような説明をしていくわけです。それがプレゼン方式の場合ですが,一問一答方式ですと,出だしの部分が質問文に変わるわけで,例えば,頭の傷について質問します,頭にはどういう傷がありましたか,という質問に対して,スライドを御覧ください,頭にはここにこういう傷がありまして,というような説明をしていくので,実質的にはほとんど差が出ないのです。 解剖医は大体,大学の教員をしておりますので,授業でプレゼン方式には慣れていてやりやすいという先生はいらっしゃると思います。一方,プレゼン方式ですと,聞いている人が途中で分からなくなっても終わりまで話が進んでしまうのですが,一問一答方式ですと,途中の区切りで次の質問が入りますので,そこで分かりにくかったであろうことは質問が入れられるわけです。 それから,実際の資料はここにお示ししましたようなものでありますが,実際には,法廷ではこの図の部分は,各当事者のところに小さいモニターがあり,それから,裁判の部屋の壁に大きなモニターがありまして,そこにも表示されましたが,こういう遺体の部分については,大きいモニターには表示せず当事者のモニターにだけ映すような配慮がされていたと思います。 主尋問はそういうことで,反対尋問のほうは従前のものと大きな違いはありませんでした。事前に論点整理が行われましたが,実際の公判ではそのとき出なかったような質問がいろいろ出ましたので,答える側としては事前にカンファレンスをやって,準備ができたというわけでもありませんでした。質問する側は,恐らくいろいろ考えていたことの中で,どの質問は意味があるかというチェックをするのには,事前カンファレンスは役に立っていたかもしれません。 以上が公判のときの話ですが,この鑑定書についてちょっとお話ししますと,裁判員制度になってから分かりやすい鑑定書にするために何か違いがあるかということですが,もともと解剖の鑑定書といいますのはどういうスタイルが普通かといいますと,検査所見がありまして,これは解剖所見やその後行っていった検査のことが詳しく書いてあるわけです。生データが詳しく書いてあって,その後,必要に応じて説明というのが入ったり入らなかったりしますが,そして最後に結論部分が来るわけです。大体そういう形が従来のものです。 裁判員制度が始まるしばらく前に,検察官からの依頼で,これを1ページのものにしてほしいということがありました。実際,1ページにまとめて,2ページ目以後に図や写真を付けてほしいということでそのようにいたしましたが,実際にやってみますと,1ページにまとめるのはかえってかなり大変でして,検査記録は元々何ページかに及ぶものですので,これを圧縮して1ページの何分の1かのスペースに入れないといけない。これに合った図を作るというのは,実際にやってみるとかえってかなり手間がかかる作業となりました。 しばらくそういう形でやっておりましたが,そのうちに検察官のほうから,従来のスタイルのもので結構ですと言われるようになりまして,現在は元のスタイルに戻っております。大学によっては,元のスタイルでやっているところ,それから1ページのものでやっているところと,いろいろあるようであります。 裁判では,聞くところによれば,結論部分のところを使っているようでありますが,分かりにくい部分があれば,調書の形で説明を求められたり,あるいは,図を作ってほしいということで図を作って出したりすることがあります。ちょうど教室で骨格模型の標本を買いまして,刃物の傷ですと,この刃物の模型を骨格標本に刺した状態で写真を撮って,それを図に使うということもやったことがあります。それが鑑定書に関してであります。 それから3番目に,裁判員制度になりまして,鑑定書を迅速に作成するということになり,かなり早く鑑定書を出すようになっております。ただ,その場合に,もちろん診断が困難で苦慮している例はなかなか早く出せない場合があります。それから,中毒検査は実際,非常に時間と労力を要するものが多いので,これもなかなか短期間には出せない事例であります。 それから,3番目に書きましたが,状況について重要なことが後で判明する,それで話がひっくり返るという危険もないわけではありません。といいますのは,普通の人が考えますと,解剖というのは,開けて中を見た所見だけで答えが出るものと思われがちですが,実は,解剖所見で考えられる鑑別診断は複数挙げられるわけで,その後話を詰めようと思いますと,病歴ですとか,外力がどんなふうに働いたかといった所見,情報が必要になるわけですが,なかなか解剖時にはそういうことが詳しく分かっておりませんし,それから,短期間で鑑定書を出す場合には,なかなかそういうことまで分からないという点があります。 それから,中毒なども,遺体の解剖所見から中毒が疑われる例はむしろ非常に少なくて,何の所見も出てこないほうが中毒の場合には多いのですね。ですから,死因が分からないときは,逆に中毒を疑えと言われるぐらいで,むしろ状況のほうが中毒を疑うきっかけになるといったことがしばしばあるので,その点でも,状況に関して後から中毒を疑わないといけないようなことが出てくるというおそれもあるということです。 以上がこのレジュメに書いた点でありますが,実際に裁判員制度になりまして,仕事量などはどうなっているかということですが,解剖医の数はすぐには増える当てがない一方で,解剖数はどんどん増えておりますので,負担は増大しております。 解剖は医者一人でできるものではなくて,ほかのスタッフが必要なのですが,大体ほかのスタッフの数は減らされてきております。ですから,仕事量については,だんだん上限に達してきているわけです。裁判員制度に伴って鑑定書を迅速に出さなければいけないとか,あとは普通の人に分かりやすく説明する需要が増えるとか,出廷するについて必要な準備も従来に比べると非常に増えるということで,今後は解剖医の負担をいかに膨れ上がらないようにするかといった視点が必要になるであろうと思われます。 あとは,裁判員に分かりやすくするということと,本来の解剖医の判断とにギャップが起きることもありまして,例えば,裁判員向けに鑑定書を分かりやすいものにしてくれということで,従来は死後経過時間というのがあったのですが,これを死亡推定時刻というように変えるとかいうようなことが求められたりすることもあるかもしれませんが,実際には,死後経過時間は非常に幅を持ってしか推定できないわけです。ですから,どうも普通の人はテレビのドラマのイメージがあって,かなりピンポイントで死亡推定時刻が分かるように思われているのですが,実際には,例えば,死後,解剖開始時までに半日から1日内外とか,1日から2日内外というかなり幅を持った推定しかできないわけで,その辺は認識にギャップがあるというようなことがあるかもしれません。 大体以上です。 ○井上座長 ありがとうございました。 それでは,ただいまの野上先生の御説明につきまして,御質問等がございましたら御発言いただきたいと思います。どなたからでも,どうぞ。 ○四宮委員 四宮と申します。今日はどうもありがとうございました。2点ほど質問させていただきたいと思います。 最初に先生がおっしゃったように,裁判員が受け止めるショックも考えて,写真と図面とを交ぜる形でお作りになっているというふうに伺いましたけれども,これは写真を使うものと図面にするものというのをどのような御配慮で,あるいは基準で分けておられるのか。また,裁判所からも何かそういうことについては注文があるのか,あるいは,当事者からも注文があるのかどうかということについて伺いたいと思います。 2点目は,一般的なことですけれども,先生の御経験の中で裁判員に分かりやすい,効果があったなと,御自分でおっしゃるのも何かと思いますけれども,こういうやり方はよかったなという点,あるいは逆に,大変失礼ながら,ここは別な形でプレゼンテーションなり尋問に答えることをしたらよかったなというふうにお思いになる点がございましたら,お教えいただければと思います。 ○野上氏 1点目は,この図と写真,どのように使い分けをしているかということですが,特に裁判所からこうしてくれというような,あるいは,当事者から特にこうしてくれということはなかったのですが,写真と図は,先ほども申しましたように,一つには,写真が実際に中を開けた状態で撮っているようなものですと,普通の人にはなかなか見るに耐えないといったところがあります。 これは表面からなんですが,例えば,これは頭の中を開けてみたところの図です。これは図でないとちょっと見せられないであろうといったことです。あと,これは実際には頭皮内面の出血でして,頭の皮膚をぐるっと翻転させてむいて,中を出して得られた所見なんですが,それを写真で実際のものは見せられないので,こういう図で表示しているというように,大体,実際,中を開けてしまって分かるものはちょっと表示できないので,こういう図にしているということですね。 それから2点目,こういうのが役に立ったというのは,なかなかいい例を思いつかないんですが,昔ですと,スライドを作るのも大変でしたが,今はコンピューターを使って,パワーポイントで比較的容易に作れるようになって随分と助かっております。 あとは,コンピューターグラフィックスなどを試している先生もおられるのは承知しておりますが,これはなかなか簡単には作れませんで,まだそこまではいっておりません。患者さんの手術などで,インフォームドコンセントを取る説明をするための臓器のいろんな角度から図を作れるような市販のソフトなどがありまして,そういうのを買ってちょっと試したりはしております。 まずかったなという点は,特に気が付いた点はありません。 ○四宮委員 ありがとうございました。 ○酒巻委員 酒巻と申します。 今の前半部分に関連ですが,裁判員制度が始まる前は,専ら法律家だけだったわけですけれども,そのときには,例えば今おっしゃったような写真を,いわゆる生のままで,図にするというようなことは一切されておられなかったんでしょうか。裁判員制度が始まったのでこういう御配慮をされるようになったのか,そこをちょっとお教えください。 ○野上氏 これはもう裁判員制度が始まってからこういうものを作るようになりました。 以前は,書面あるいは冊子になった写真で解剖写真が出ていて,これは傍聴人には見えないような形でしたので,それだけでやっておりました。 ○酒巻委員 分かりました。 ○前田委員 前田でございます。2点ほどお尋ねいたします。 この御紹介いただいたケースで結構ですけれども,いつの段階で鑑定の依頼を受けて,鑑定書作成までどのくらいの時間がかかったかということが一つです。 もう一つは,論点整理という表現をされましたけれども,我々が事前のカンファレンスなどと呼んでいるのと同じだと思いますが,それはいつの時点で開かれて,どのくらいの時間をお掛けになったか。それと,鑑定人の立場でこの事前の論点整理に参加するということが有益だというふうに評価されるのかどうか,それをお伺いしたいと思います。 ○野上氏 1番目は,これは,司法解剖は大体亡くなられてそんなに時間がたたないときに依頼を受ける,もちろん起訴前ですね。それで,依頼を受けて鑑定書を作成するまでは,大体,このケースはちょっと正確には覚えていませんが,2,3週間以内には大体作らないといけない状況になっておりますね。2週間か,そうですね,そのぐらいですね。検察官から言われますのは,起訴をするまでには欲しいとか,あと,少なくとも第1回の公判前整理手続までには欲しいんだとか,そういうことをよく言われます。大体それに合わせています。 それから,2点目は論点整理でしたかね。論点整理を行いましたのは,公判があります3週間ぐらい前だったと思うのですが,それで,午後半日ぐらい掛けて行われました。事前カンファレンスというんですかね。 あとの,御質問はどういうものでしたか。 ○前田委員 弁護人や検察官,当事者の立場では,先ほど御指摘いただいていますように,どういう尋問を組み立てるかということでは非常に意味のあるシステムであるとの評価もありますが,鑑定人の立場ではどう思われましたかという質問です。 ○野上氏 裁判員の前で要領よく分かりやすく説明する準備になるのであれば非常にいいと思うのですが,実際には,反対尋問のときには,当日の法廷になって初めて出てくる質問がかなりあったように思いますので,それですと,余り準備にはならなかったなという気がいたします。 ○大久保委員 裁判員の方に与えるショックなどを考えまして,図を使ったり写真を使ったりミックスをするということを先ほど伺いましたけれども,そういうとき,最近は,この事件とは別かもしれませんけれども,刑事手続の参加制度を使って,その場に被害者や御遺族がいるという場合も増えていますけれども,そういうときにそういう犯罪被害者に対する配慮ですね,そういう辺りのところは現在どのようにしていらっしゃるのか,あるいは,余り考えていなかったのか,今後はその視点も持たなければいけないとお思いになるのか,という辺りをお聞かせ願えますでしょうか。 ○野上氏 結局,写真にせず図にするというのはその配慮の例なんですが,被害者の方が傍聴席におられるということも当然あるわけで,自分の肉親が解剖写真で映るというのは非常にショックもあるでしょうから,余りそういう心理的影響を与えないような範囲でということになりますと,部分的には写真,部分的には図というようなことでこういう形になっております。そういう範囲では配慮していると言えるとは思います。 ○山根委員 ありがとうございました。 裁判で結論を導くために,どの程度の暴力でどんな傷ができるのかとか,(略)そういうことの説明を伺って裁判員は判断する必要があるのだろうと思うんですけれども,傷なら傷を見て,これだったらどんな専門家が判断しても同じ結果というか,そういうふうに見えるものと,人によっては多少ばらつきが出るものといろいろあるだろうなと思うんですけれども,その辺りも何か説明を裁判員の方にはされるんでしょうか。すみません,分かりづらい質問で。 ○野上氏 実際には,鑑定人によって,かなり大胆に物を言う先生もいるかと思えば,慎重に,ほかの先生も納得してくれる範囲にとどめる先生,それは差があるんだろうと思いますが,仮に大胆なことをおっしゃる先生がいても,当然,反対尋問でそれはおかしいではないか,言い過ぎではないかということになりますから,それは反対尋問のときに指摘されるでしょう。私は,ほかの先生でも納得してもらえることしか言わないのですが。 あとは,実際には,先ほどもちょっと申しましたが,解剖医は解剖の時点では非常に限られた状況の情報しか耳に入りませんし,その後も短期間で鑑定書を出すので,余り詳しいことは耳に入らないで鑑定書を出しているのです。また,逆に余り詳しいことを聞きますと,予断や偏見を持っているのではないかと言われますので。 ところが,実際には,そういう外力の状況などについてある程度知りませんと,例えば,ある解剖所見から考えられる鑑別診断は複数考えられるわけで,それから,状況を聞かないと考えつかないようなものもあるわけで,したがって,ある程度は客観的にこういうことがあったらしいということは知っていないと,後で話がひっくり返されるというおそれもありますね。 ○井上座長 まだ御質問があるかと思うのですけれど,この後も予定が詰まっていますので,よろしければ野上先生のお話はこのぐらいにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。 野上先生,今日はお忙しいところ,ありがとうございました。 (野上誠氏退室) ○井上座長 それでは次に,精神鑑定の黒田治医師のヒアリングを行いたいと思います。 (黒田治氏入室) ○井上座長 黒田先生,お忙しい中,当検討会においでいただきまして,ありがとうございます。 本日は,先生が実際に裁判員裁判を御経験されたことを踏まえまして,有益なお話をお伺いできることと存じます。それでは,黒田先生からお話を頂きたいと思います。よろしくお願いします。 ○黒田氏 よろしくお願いします。東京都立松沢病院の精神科の医師で黒田と申します。今日は,このような場で発言の機会を与えていただきまして,どうもありがとうございます。 私は,精神鑑定について,裁判員制度導入後に2例だけなんですけれども経験いたしましたので,その個人的な経験から若干お話をさせていただきます。 まず,私は現在,松沢病院というところに勤めている精神科の医師です。精神科医になって23年です。これまで精神鑑定については,こういう形で経験しておりまして,実際に鑑定人として関わるようになったのはここ7,8年ぐらいのことです。それまでは,そばで助手をしたりとか,関与者として関わっておりました。 もう皆さん御存じのように,刑事に関する精神鑑定にはこれだけの種類がありまして,これぐらいの件数を経験しております。起訴後の鑑定については,11件程度です。決して多くはないと思います。そのうち,裁判員裁判の精神鑑定が赤い色をつけた2件です。この2件について,今日,少し御紹介いたします。 まず,被告人Aという方ですが,起訴罪名は強盗致傷等です。 (略) 被告人の主張は,犯行当時の記憶が,その前後のものを含めてほとんどないというもので, それを受けて,弁護側が犯行当時,飲酒及び服薬の影響で心神喪失ないし心神耗弱の状態にあったという主張をして,検察側がそれに反論するという形で,そこが争点になりました。 弁護側の主張の根拠としては,犯行前にアルコールと向精神薬を摂取していて,特に摂取した向精神薬には錯乱とか刺激興奮とか健忘などの副作用が生じる可能性があって,アルコールと併用すると,更に作用が増強されるなどというものでした。 (略) 通常,こういう精神鑑定の場合に,裁判所から鑑定人に命令される内容としましては,犯行時の精神障害があるかないか,あれば,どういう診断になるか,その重症度がどうかということ。それから,裁判の最中,現時点での精神障害に関して鑑定すると。それから,被告人がもし精神障害にり患している場合には,その精神障害と犯行との関係,犯行に与えた影響がどういうものかということを最終的に示すということになります。 鑑定書の変化ということですけれども,従来,皆様御存じのように,かなり膨大な量の,何十ページにもわたるような鑑定書が通常の形だったんですけれども,裁判員裁判になって,裁判員の方が数日間の公判の期日の中で読み込むということがありますので,分量を非常に制約するようにということが言われております。 このケースでも,鑑定主文のところだけを抜き取るような形で作りました。それから,その背景にある診断とか,精神障害が犯行に与えた影響などについて抜き出すような形で資料を作りました。 ということで,まず,鑑定書の変化としては,書式の簡略化ということです。裁判官や裁判員が既に別の資料を通じて知っていると思われるような情報は極力除外しました。それから,診断根拠や診断基準の利用の詳細についてですが,本来はそこをきちんと書いたほうがいいんだろうと思うんですが,既にその辺りは専門家である鑑定医に任されている領域だろうということで,あえて余りその辺に立ち入った説明をしないようにしました。 それから,裁判員裁判では口頭鑑定といいまして,法廷の中でこのようなパワーポイントなどのプレゼンテーションの資料を使って,口頭で説明をする形を行うことが多いです。プレゼンテーション方式というふうに言われています。時間に関しては,裁判所のほうから必要な時間を言ってくださいと言われることが多いんですが,長時間にわたることは難しいので,大体30分以内で終わるようにすることが多いです。 そのプレゼンテーションの後に,それ以前からあったような形で両当事者,それから裁判官,裁判員の方々から尋問が行われます。 プレゼンテーション用のスライドの実例,ごく一部を紹介いたしますけれども,余り文字情報が多くならないようにしています。それから,これは診断の根拠と診断名について説明している部分なんですけれども,その診断基準とか細かい当てはめについては,余り情報を組み込んでいないです。 それから,同じことなんですが,文字よりも図表を多く使うということで,この方は犯行の前に,薬,向精神薬とかアルコール類を摂取していたということなので,横軸が時間で,ここが本件犯行なのですが,この時間にこういう症状があったであろうというようなことを書き込んでいます。 それから,この方はアルコールを摂取した状態での犯行ということで,アルコールと酔いの関係についてまとめた表を利用したりしました。 それから,裁判員の方にアルコールの人への影響について説明する際に,やはり科学的な背景を若干御紹介しなければならないだろうということで,アルコールが体内でどういう変化を遂げるのかとか,あるいは,飲んだアルコールが血液中でどういう濃度の変化を時間経過の中でたどるのかとかということも説明をしました。 それから,(略)防犯カメラの映像が証拠として利用できました。特に飲酒した状態を評価する際に,血液中のアルコール濃度が分からないときには,やはり外見的な行動の状況を見て客観的に評価するということも必要になってきますから, その映像をアルコールのこの方へ与えた影響を類推する材料として利用しました。 それから,従来アルコールを飲んで酩酊状態で何か犯罪を行ったときに,古くからビンダーの三分法というのが使われているんですが,それは現時点では余り科学的な根拠がないと私は理解をしておりますので,その説明ではなくて,むしろ英米で使われているアルコール誘発性のブラックアウトの考え方について,裁判のプレゼンテーションの中で説明をしました。 それから,アルコールを飲んで記憶がなくなるというのは,皆さんよく経験されることだと思うんですが,その科学的な,あるいは心理学的な背景について図を用いて説明をしたりしました。 それから,結論部分なんですが,(略)診断内容として犯行にどういう影響があったかということを最後にまとめるような形でプレゼンテーションは終えております。 こういう資料を作るときに私が工夫したところとしては,まず,時間内に提示できる情報量が限られておりますので,提示する情報を絞り込むということと,不要な情報を排除する,それから,視覚的な情報をなるべく多く使うということ。それから,当然ですけれども,現在,科学的証拠に基づく医学ということが提唱されておりますので,客観的な情報に対応して,なるべくそういう根拠に基づいた説明をするということです。それから,その根拠と意見との間に,なるべく分かりやすい対応が示せるようにということを工夫しました。 2件目が,被告人Bという方で起訴罪名は殺人です。 (略) 弁護側は脳損傷に起因する症状による心神喪失の状態にあったんだという主張をされました。 (略)脳損傷の結果,衝動制御が著しく困難になって脱抑制を来したとか,被害妄想に直接的に影響された犯行であって,責任能力に問題が生じているんだというような主張です。 この主張を裏付ける根拠として,更に別の医師の意見書が添付されていました。 鑑定書は皆様のお手元に匿名化されて配られておりますけれども,先ほどよりは文字数が非常に多くなっております。その中で,先ほどと違う点としては,ルビを振ったり,専門用語について解説を付けたりというところが若干違っています。 この裁判でも同じようにプレゼンテーション方式で説明をして,その後で尋問を受けるという形になりました。 (略) この事件についてのプレゼンテーションに関しては,問題点も私自身は感じていました。それは何かというと,裁判員が前提として専門知識をほとんど持っていらっしゃらない方たちだということですので,そういう方に対して説明をする際に,逆に説明内容が煩雑になったり,冗長になったりする場合もあるということです。 例えば,診断が正しいんですよということを説明する際に,まず,原因などから入っていって,疾患の分類についてお示ししてというところからまず説明をし始めまして,この方の場合はどうかということで当てはめを行っていくということになりました。診断内容を説明するだけで,あれだけのスライド枚数を要したということです。 ということで,まだ2件しか経験していないということもありますので,今,試行錯誤の途中だというふうに御理解ください。 鑑定の方法としては,プレゼンテーション方式と,あと一問一答方式というのがあるというふうにお聞きしておるんですが,私自身は,一問一答方式はまだ経験していないです。ただ,プレゼンテーション方式のほうが,事前に鑑定医から説明できますので,鑑定医の意図が伝わる可能性が高いのかなというふうに想像はしております。 ただし,鑑定医の視点で説明しますので,法曹三者や裁判員が本当に聞きたかったことが説明から漏れてしまう可能性がある。それから,これは非常に問題が多いかと思いますが,プレゼンテーションの技能が高い人が鑑定医としても技能が高いのではないかという間違った印象を持たれる可能性もあるかもしれないということです。 それから,証人尋問などの事前準備として,法曹三者とカンファレンスを行うことが通例化しております。私自身は,これは必須だと思っております。カンファレンスの内容とか実施に関わる負担についてですけれども,一般的なやり方としては,鑑定メモを提出した後に,両当事者,それから,通常,裁判官も途中まで同席をされましてカンファレンスが行われます。 ただ,多くの場合,鑑定を始める前の段階で,なぜ鑑定が必要なのかという辺りから鑑定医に説明をしていただいて,ということでカンファレンスが行われることが多いです。 私の印象としては,当事者と直接面談をすることで,それぞれの主張の内容とか争点がはっきり理解しやすいと思いますので,非常に役立っているという印象を持っています。 それから,このカンファレンス自体は,私の理解では,医療観察法で審判が行われるようになってからこういうカンファレンスが定着してきたと思うんですが,それを経験している医師としては抵抗感なく参加できるというふうに思っております。 鑑定資料についてということで,起訴後鑑定について鑑定資料の選択などに関する運用や問題点があるかどうかということなんですが,起訴後鑑定,起訴前鑑定にかかわりませんけれども,鑑定資料が多いか少ないかとか,十分か不十分かということに関して,なかなか鑑定する側が客観的に判断するのは難しいです。事後的に鑑定資料が足りなかったということに気付かされる場合も,私自身は経験をしました。 それは,以前,起訴前嘱託鑑定をしたのですけれども,その後にその被疑者が起訴されて,公判で証人尋問を求められた際に,私が知らない情報が実はあったということが示されたことがあります。 公判前鑑定の場合は,裁判所での証拠調べを経ていない情報があるわけなのです。その情報にどの程度依拠して鑑定を進めていいかというのは非常に難しく,迷うところがあります。 それから,裁判員裁判に伴って生じた変化ですけれども,出廷の負担ですが,それ以前の場合は,しっかりとした鑑定書を書いていって,当事者間で特に疑義がなければ,法廷で証人尋問を回避できるという可能性があって,私も1回だけですが,そういうことがありました。ただ,実際はほとんど必ず証人尋問に呼ばれます。 鑑定期間については,通常2,3か月以内に行うようにしています。それまでは,ちょっと期間が長引くことがあったりしたんですが,裁判員裁判になって,その期間を延長することをなかなか裁判所にお願いしづらいという心理的抵抗感が生じています。 それから,鑑定を行ってから,実際に法廷に呼ばれてプレゼンテーションをしたり,証人尋問を受けたりする時点までの間が,それ以前よりも結構長くなっているような印象を持っています。これは,あくまでも印象です。 というところで,私の報告は終わります。 ○井上座長 ありがとうございました。 それでは,ただいまの黒田先生のお話について御質問等がございましたら,どなたからでも御発言願います。 ○酒巻委員 今日はありがとうございました。酒巻と申します。 精神鑑定に固有の問題だと思いますが,私の理解では,裁判員裁判が始まる前までは,鑑定人となられた精神科の先生に,いわゆる法律判断である心神耗弱なのか喪失なのかというところまで御意見を求めていたようにも思います。今日拝見した鑑定書は,いずれも,疾患と,それからその影響については主文のところに書いてありますけれども,最終的な耗弱とか喪失の御判断は特に書かれておりません。現状はそういうふうに変わってきたと理解してよろしいんでしょうか。あるいは,何か特にお考えに基づいてということなのかどうか,その辺のところをお聞かせください。 ○黒田氏 私の経験,あるいは私が知っている同僚の経験などからすると,裁判所で行われる公判鑑定に関しては,心神耗弱,喪失という最終的な意見まで言うなと,裁判官からは言われております。 ただ,御存じのように,起訴前の嘱託鑑定の場合は結論部分まで示せということが多いと思いますし,それから,これは若干矛盾しているかもしれませんが,裁判所で行われる医療観察法の鑑定の際に,責任能力に疑義があるというような場合には,最終的な意見まで示すようにというようなことを言われることもあって,まだ混乱しておりますけど,公判鑑定に関しては,結論部分まではむしろ言わないようにということが,一般的になっているのであろうというふうに思っています。 ○山根委員 今のところなんですけど,先ほど説明で診断の根拠などについては踏み込んでいないとおっしゃったのはそのことですか。ちょっとそこがよく私に分からなかったんですけど。 ○黒田氏 診断まではもちろん鑑定医の責任でやることなんですが,更に一歩進んで,法的な判断である心神耗弱,心神喪失に当たるかどうかというところまでの意見を,鑑定人が求められることがなくなってきたということです。 ○土屋委員 一般人にとって難しい専門用語のことなんです。先生の鑑定メモを拝見しますと,専門用語が書かれていて,ルビが振ってあって,丸括弧して説明がしてあるんですけれども,私は非常に分かりやすくていいんだろうなという感じは持ったんですが,専門用語を使わずにどこまで説明が一般の人に可能なのか,そして理解してもらえるのか,この辺りについて,先生,いかがですか。やはり,専門用語を使うことによって正確性も維持できるでしょうし,無用な誤解も招かないという面もあろうかと思うんですが,逆に言うと,一般の人が分かりにくくなってしまうという面もあろうかと思うので,その辺りはいかがでしょうか。 ○黒田氏 先生に今言っていただいたことは,我々にとっても本当にずっと課題になり続けていまして,まだこうすればいいということはなかなか定着していないと思います。おっしゃるとおり,分かりやすく説明しようとして,専門用語の定義から余りにも外れてしまうというか,かみ砕き過ぎてしまうと誤解のもとになってしまいますので,ある程度専門用語を使わざるを得ない場面はあるのだろうと思うのです。 その際に,私自身が感じているのは,私は病院で勤務している医師ですので,治療に来られた患者さんとかその御家族に病気の内容について説明することが多いんですが,その際にやっていることを少し応用できないかなと考えています。ただ,なかなかまだうまくできてはいないと思います。 ○前田委員 起訴前鑑定について,弁護人から情報を得たいと思う御経験をされたということはございますか。 ○黒田氏 弁護人と起訴前鑑定の最中に面談をして,意見交換をしたことはあります。 それから,これはほぼ毎回やっているんですが,起訴前鑑定の際に,被疑者の御家族にお会いしてお話を聞くときには,検察官よりも弁護士の先生を経由してアポイントメントを取ったほうがやりやすいですので,その辺りの関連で,情報を得るということかどうかはちょっと分からないんですが,弁護士の先生と連絡を取ることはよくあります。 ただ,特定の情報を弁護士の方が持っているかどうかというところまで,鑑定人は通常分からないです。弁護士の先生から積極的に御提示いただければ,それはもちろん利用したいとは思います。 ○前田委員 弁護人としては,まだ起訴前の段階では,確実な情報か否か,先生方に依頼をするにふさわしい情報かどうか,十分な吟味ができないものですから,弁護人として積極的に情報を提供していいのかどうかと悩むことがあるんですけれども,鑑定をされる先生方の立場からすれば,御家族などの情報は是非知りたい情報だと,こういうふうになりますかね。 ○黒田氏 そうですね。 ○前田委員 分かりました。 ○井上座長 1点私から伺ってよろしいですか。 さきほどの専門用語との関係ですが,今まで御経験されたのは2件だけということですけれど,公判廷で裁判員からここの点はよく分からなかった,もっと説明してくれなどと言われた経験がおありかどうか。あったとして,それは説明するほうにとって役立つ質問なのかどうかということをお伺いしたいのですが。 ○黒田氏 裁判員の方からの質問は何度かあります。そういう質問をしていただいたほうが,私のほうもきちんと対応ができたという感じがむしろしますので,多分,医者の一人よがりな説明というのが,分からないところがたくさんあると思いますので,むしろ積極的に聞いていただくのがいいんだと思います。 ○井上座長 分かりました。 ほかにおられますか。よろしければこのぐらいにさせていただきたいと思います。 それでは,黒田先生,お忙しいところ,本当にありがとうございました。 (黒田治氏退室) ○井上座長 それでは,これより議事を公開することにいたします。 (傍聴者入室) ○井上座長 では,次に通訳人の方々からのヒアリングを実施したいと思います。 (朱韻菲氏,小林真美氏,池山拓治氏入室) ○井上座長 皆さん,お忙しい中,御出席いただきまして,ありがとうございます。本日はこれから,皆さんが裁判員裁判で法廷通訳をなさった御経験などを踏まえて,貴重なお話がしていただけるものと期待しております。 まず,通訳人の方々から順番にお話を頂いた後に,最後に質疑を行うという形にしたいと思います。 最初に,北京語の通訳人であられる朱韻菲さんからお願いいたします。 ○朱氏 要通訳事件の裁判員裁判の事件は,模擬裁判からずっと御協力させていただきました。私もこの仕事を始めてから15,6年もなっているので,体がそういうふうになじんでしまいました,従来の法曹三者だけのそういう公判システムに。だから,使う言葉も全部,例えば,「異議あり」とか,「しかるべき」とかそういうような言葉にすっかり慣れてしまいまして。 逆に,当時裁判員制度がそろそろ施行するぞという段階から,そのような言葉がどうだろうというような声が聞こえてきまして,では,いずれ裁判では使わなくなるんだろうな,では,どういう言葉を使うんだろうというどきどきもあって,今の法廷では,まだそういう,法曹三者の言葉はそれほど変わっていませんけれども,ただ,やり方としては自分たちがドラマでよく見るプレゼンテーションにより近い形になって,自分たちの立場から見ると,特に自分が感じたのは,さほど専門用語は必要ではなくなったんだなという感じで,昔,専門用語に慣れるためにすごく勉強した覚えがありましたので,やっと頑張って覚えた言葉が余り活躍する場面がなくなったという,何かそういう感じがありましたけど。 かといって,すごく訳しやすい,ふだん慣れている言葉がすごくしょっちゅう使われますので。あと,検事の方も,弁護人の先生方たちもそういう裁判員の方たちに分かるように一生懸命訴えかけますから,だから,しゃべるスピードもすごく遅く,普通になりまして,通訳人の立場から見るとすごく訳しやすくはなりましたね。 昔は,前もって用意された書面を読み上げるだけですから,正直言って,2,3ページ遅れて,付いていけなくなったりすることもありました。今は,中国語は日本語より言葉が短いですから,場合によって,向こうはしゃべっているのにこっちはもう終わったというのもあって,その語尾の,終わるタイミングの調整とかは,新しい課題とは言えない程度のものですけれども,その調整をしたりする努力はしていますけどね。あとは,なるべくこちらが早く終わったことが分からないように,その前のところで止まったりして,そういうのは微調整したりはしますけどね。 あとは,もう一つ,従来のシステムと違って,こちらが大変だなと思うのは,前もっての書類の準備で,前は当たり前のように,前もって書類をくださいと言えたんですけれども,今は正直言って,主尋問と反対尋問は,その日時とか時間が近接していますから,場合によって,午前中は主尋問で,午後が反対尋問という,時間があるとしたらお昼休みだけ,そのぐらいの時間で反対尋問の質問事項を前もって書面でください,それはあり得ませんから,だから,本当にその場で引っ張り出されたらすぐ訳せるという努力はふだんからすごく要求されます。だから,だんだん通訳人の語学的なレベルがすごく要求されてきているんだなと思って。前は本当に紙で用意されたものを,それで訳せればもう仕事は完了。今はそのレベルでは対応できなくなりますので,だから,法廷以外のところで,個々の通訳人の努力がすごく要求されているんだなとか思ったりしますけどね。 私が感じた従来のシステムとの違い,自分たちの仕事の場面での違いは,特にこのぐらいのものなんですけれども。 ○井上座長 また後で質疑のところでお話しいただこうと思います。 それでは次に,韓国語の通訳人であられる小林真美さんからお話を頂きます。よろしくお願いします。 ○小林氏 よろしくお願いします。本当に15分もお話しすることはとても無理で,3分ぐらいで終わらせていただきたいと思います。 まず,経歴なんですけれども,韓国の通訳というのはもっと前からで,司法関係通訳は12年ぐらいたっております。 経験した裁判員制度の概要なんですけれども,傷害致死と,今やっているのが殺人です。被告人の国籍については,韓国国籍,それから中華人民共和国であり朝鮮族の方だと韓国語がより使われているようです。大概は否認事件になるので大変でした。 裁判員制度における工夫なんですけれども,通訳人はひたすら理解しやすいように通訳をします。それだけなんですね。弁護側と検察側が,前よりはより詳しく説明を忠実になさるので,それに沿って忠実に通訳をすることだけです。両側のほうであらかじめポイントなどを説明して,紙を配って,主な争点について,事件の内容を順を追って説明をするので,又は,事件の内容の動画を使った ときもありました。実は,実際話した言葉を使うときは“ ”を用いて引用をしますので,そのとおり,ただひたすら通訳をしました。 また,見取り図とか写真とかをすごくたくさん使います。警察官が事件現場に行って,その現場の状況をビデオで撮影して,そういうことを披露したりもしますので,そのナレーションも警察官がなさるので,それも忠実に通訳をしました。 弁護側も冒頭陳述をするのが普通の裁判とは違うところでした。やはり,その点も,前は本当に棒読みだったのです。事前に書いたものをそのままお読みになるんですけれども,裁判員裁判のときには,本当に話として聞いても面白いぐらいだったりもしましたので,それを聞いていると,事件当時の行動一つ一つがまるで画像を見るように分かるような,そういう説明の仕方をするので,それに沿って訳します。 証人も多く,証人尋問がありますから,その分仕事が増えたかなと思います。ですから,負担が増したというのは,証人尋問が増えた分だけです。 中には,専門性のある,例えば被害者がけがをしたとかそういう場合には,本当に人体の図面とか,骨の図面とかそういうものも出るのがありましたが,それについては事前に資料をいただけるので,そこで対応ができました。なので,そこまで負担がかかることはなかったです。 最後に,私の裁判員制度に対する意見ですけれども,とてもいい制度だと思います。なぜなら,今までは重い罪の裁判ですと,非常に長い時間かかるので,その間に検察官の方が代わってしまったり,書記官の方が代わってしまったりします。メンバーが代わってしまうと,何か,ここまで一生懸命やってきたのに,それが崩れたような感じも受けたりします。弁護人もそこまで一生懸命にならないような気もなくはなかったと思います。裁判員制度ですと準備を徹底してしますので,その分いいと思います。 裁判員が参加することにより,裁判官,検察官,弁護人,皆さん本当に国民が分かりやすくするために迅速な裁判をするように努めていると思いました。国民が本当に知ろうと思っているのはどういう点なのかというのもすごく明らかになるので,国民の理解しやすい,納得のいくものになると思われました。 その点で,私の意見としては,すごくいいと思います。一つ感じたのは,裁判員制度のほうが普通の裁判より,ちょっと甘いような気がするんですね。どこかで本で読んだんですけれども,“あなたが本当に罪がないなら裁判官の裁判を選択し,そうでなかったら裁判員裁判を選択しなさい”というのを思い出しました。 私より皆様のほうが詳しいので,後は省略させていただきます。 ○井上座長 ありがとうございました。 続いて,ペルシャ語の通訳人であられる池山拓治さんからお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。 ○池山氏 池山と申します。よろしくお願いします。 私は大体20年弱,裁判所で通訳をしてきました。今まで私が経験した裁判員裁判は,すべて薬物関係です。具体的に言いますと,覚せい剤ですね。業としての販売であるとか,輸入であるとか,そういうものです。 私はペルシャ語ですので,大体ペルシャ語の場合は国と一致しまして,イランになります。被告人はすべてイラン国籍の被告人です。ほとんどが自白事件で,否認している事件も2件ほどありました。通訳はすべて私一人でした。 裁判員裁判で,裁判員の皆さんに特に理解していただくように私が工夫していることというのは,裁判員裁判だからというのは特にはないんですが,普通の一般の裁判よりも少しスピードを落として話すようにはしています。 裁判員裁判になってから,通訳人の負担が増したかどうかという点についてですが,明らかに増しました。どういう点かと申しますと,一番大きいのは,調書の全文朗読です。それはかなり負担が大きいのですが,それだけではなくて,通訳に対して記録を出していただくということがかなり遅れることがほとんどです。2,3日前とかで。それで手元に入って,大急ぎで訳すという作業がありますので,かなり負担が増しています。 今までに,ある検察庁の検察官が,通訳は外部の方なので,記録をお見せすることはできませんと言われたことがあって,私は同時でも通訳はできるのですが,やはり手元にあったほうが断然訳しやすいです。裁判所のほうからも言っていただきました,通訳さんにあらかじめお貸ししていただけませんかと。でも,法的根拠がないということで拒否で,何度も裁判所のほうからお願いしていただいたので,では,内部で検討しますとのことで,結論から申しますと,出していただきましたけど,それも直前でした。検察庁まで取りに来てくださいと言われて,取りに行ったんですけど。ということもあって,大変それは負担になりました。 ですから,もう少し早目に出していただければ,とても助かりますけど,ただ,検察官はとてもお忙しいので,なかなか早く出してくださいというのは,私のほうからは申し上げることはちょっと気の毒というんでしょうか,申し訳ないなという気持ちで,余り私は強くは言わないんですが。 ただ,私が聞いた話で,日本でかなりまれな言語を母語とする,起訴された被告人がいまして,通訳を探すのにかなり苦労していることが今まで複数件あるんですね。裁判所で聞いた話です。もちろん,私が聞いている限りでは,その候補となる通訳は,一般の刑事裁判の経験も皆無なんです。裁判員裁判はもちろんですよね。そういう通訳を選任しなければいけない場合だと,私のようにかなり提出が遅れた場合はどう対応するんだろうなと考えると,かなり不安な気持ちになりますね。 また,裁判員裁判ですと,その裁判所によって,その事案によってまちまちですけど,結構,審理計画が綿密に立てられていて,早く審理が進むこともあります。その場合は,不慣れな通訳を選任しなければいけない場合は難しいかなと。ですから,通訳が不慣れかどうかということももちろんですけど,一般的に通訳に対して,検察庁に対してお願いがあるんですが,できるだけ早く書類を出していただければとても助かります。お忙しいのは分かるんですけど。 それから,通訳を一人選任するのか,複数を選任するのかという点に関してですが,先ほど申し上げたとおり,私は,今までの裁判員裁判では全て私一人です。実際の裁判所の私が接している一般的な運用は,担当書記官の方から一人を希望されますか,それとも複数を希望されますかという意向を尋ねられます。私はどちらでもいいですけどと言うことが多いんですが,一人でいいですよと。尋ねられないこともあるんですが,そういう感じですね。それで,私が一人になります。 複数を選任した場合の利点というのは,私は特に見当たらないと思います。一般的によく言われるのは,誤訳を防ぐことができるとかですけど,私はちょっとその指摘には違和感を感じます。というのは,多分,複数選任で誤訳を防ぐというのは,通訳の疲労を防ぐという趣旨だと思うのですが,疲労から生じる誤訳というより,能力不足から生じる誤訳のほうが圧倒的に多いと思うんですね。ですから,複数選任の利点というのは,余り私は見出せないです。むしろ,問題点のほうが目立つかなと私は思います。 私が思う問題点というのは,複数選任をするからといって,疲労を軽減することには余りならないんです。私は,東京地裁の公判前整理手続の第1号の殺人未遂の事件だったんですが,それで複数選任を経験しました。裁判員裁判ではありません。公判前整理の第1号です。二人でした。私を含めて二人です。もう一人いたということですね。 その場合は,速記の方は東京ですと45分で交代するので,速記2人分で通訳1人,だから,90分で通訳を交代するということにしたんですね。そのときだったんですが,やはり,外国語と日本語は1対1対応にはならないんです。一つの言葉が複数の意味を持つこともありまして,だから,結局,被告人とか証人とかがどういう言葉を使ったのかというのを知っておかないと,続けて交代して通訳に入ったときに少し訳しにくいこともあるんですね。ですから,結局,傍聴席で聞いているわけです。観察をして,どういう言葉が使われているのかなと。だから,休んでいることにはならないんですね。声を出していないという意味ではのどは休んでいますけど。ですから,休憩していることにはならないかなと。で,90分たったらまた交代するということになるのですが,私は,問題点は目立つけれども,余り利点は見出せないかなと思いました。 以上です。 ○井上座長 ありがとうございました。 以上,3人の方々からお話を伺いましたけれども,御質問等ございましたら,どなたからでも御発言いただきたいと思います。 ○土屋委員 一つずつ伺いたいと思うんですけれども。 朱さんから,今の法廷通訳の方の求められる能力,レベルが随分上がっているのではないかという御指摘があって,私も実は中国語,それからペルシャ語,ハングル,みんな外国人の被告の法廷を傍聴したことがあるんです。中国語の場合も非常に大変だなと思ったんですが,その求められるレベルというのはどのくらいなんでしょうか。同時通訳的要素が非常に強まっているというふうに感じていまして,言わば,実際にプロとして同時通訳の仕事をされるぐらいの力がないと,本当に法廷通訳はできないなというのが私の印象なんですけれども,その辺り,どのくらいが必要なのかということを聞かせていただけたらと思いました。 ○朱氏 土屋委員がおっしゃったように,本当に同時通訳の要素がすごく大きく,大幅に,ほとんど90%ぐらいは同時通訳になりましたね。だから,そこは同時通訳の力がないと,本当に裁判員裁判の通訳は務まらないんだなとか思って,もちろんそれが備えていなかったならば,裁判所では一字一句,検察官なり,弁護人先生に区切って,それで訳すことになりますけれども,だとすると,恐らくあと3日間は延ばさないとその法廷は終わらない。それは,時間的にはあり得ないことですから。 だから,私の持論は,通訳人は機械論,通訳人はイコール機械なんですよね。だから,その機械がそこに備わっているならば,出された言葉は全部訳せるのは当たり前という感じなので,だから,ふだんから正直言って,三流の週刊誌も読みますし,経済紙も読みますし,サイエンスの雑誌も読みます。 特に,例えば鑑定医の先生とか,この前なんか足跡の鑑定人の先生がお見えになって,その言葉は何を言っているのか全く分からなくて,だから,やはり,まずその事件の依頼を受けたときに,どういう類の事件か,否認か,認めるか,例えば否認だったら,動機についての否認か,程度についての否認か,そこらも当たってから,ではここは,そもそも動機とか,あるいは実行行為についての否認だったらば,そのような鑑定人あるいは証人が出るんだろうなという予測を立ててから,参考書をあさるんですね。だから,そのような努力をするというか,心構えです。 あるいは時間ですね,その法廷以外の時間がすごく掛かるようになりました。前は,正直,今日も裁判所でその話をしたんですけど,前は法曹三者だけですから,自分たちが多少の粗相があってもカバーしてもらえるんですよ。今は,裁判員が加わりましたので,自分たちが粗相すると,後ろも,えっ,何言っているの,分からない,という本当にざわめく雰囲気が背中で感じられますので,それが怖いんですよね。自分に対してまたそれなりのプレッシャーが出てきて,次の言葉もうまく訳せない可能性が出てくるのではないかと思って,そういうのは一切ないように,だから,前もって相当用意するようになりましたね。 だから,本当にマルチというか,浅く広くという,いろいろな知識を備えなくてはならなくなったんだなとか思うようになりました。 ○井上座長 ほかのお二人は今の点はいかがですか。同時通訳並みのレベルが必要になったのではないかという御質問なのですけれども。 ○小林氏 やはり,同時通訳のレベルがないと無理だと思います。時間的にいつも押してくる感じだったので,時間的にもそうですし,スピードだけではなく,内容も,今は日本語を全く分かりませんという被告人はなかなかいないんですね。ある程度はできて,私は通訳要りませんという被告人も中にはいらっしゃるので,だから,そこで自分がその被告人より負けては話にならないわけですね。ですから,事前に書類が必要だというのはその辺です。 もしも単語が一つ分からなかったら,それは恥かき大会ですよね。なので,絶対にあり得ない。なので,先に書類をと申し上げるんですけれども,やはり,それができるときとできないときがあるんです。ですから,それとやはり経験ですね。経験がないと,そこは難しいかなと思います。 ○池山氏 池山です。 確かにおっしゃるとおりで,レベルは上がっていると思いますが,裁判員裁判が始まったころの裁判員裁判と,最近の裁判員裁判とでは少し違いが出てきたように思います。最初のほうは,フリートークに近い形で,メモを片手に被告人席まで前に出てきて話すことが多かったんですが,最近の裁判員裁判は,従来の裁判と同じような感じになってきまして,あらかじめプリントアウトした書類を読み上げる形がほとんどです。 ですから,そういう意味では従来の裁判と変わらないわけですが,ただ,判決が判決の期日当日にでき上がることが多いので,与えられた書類を素早く訳す能力は以前の裁判よりも求められるかなと,そういう意味ではレベルが上がったかなと思います。 ○井上座長 読み上げるというのは,質問もプリントアウトしたものを読み上げる形に変わったということですか。 ○池山氏 尋問事項という意味ですか。 ○井上座長 ええ。 ○池山氏 それはその裁判によっていろいろですね。あらかじめ用意されている場合もあれば,全く用意されていない場合も,私に見せていただけない場合も含めて用意されない場合もありますけど,一般的には,尋問事項は通訳に見せないほうが多いです。 ○井上座長 そうすると,変わってきたのは,書証が使われることが多くなってきたということですか。 ○池山氏 論告・弁論ですね,冒陳も含めて。 ○井上座長 なるほど。分かりました。 ○土屋委員 本当に御苦労が多いなというのを改めて感じました。ちょっとまた質問させてください。 小林さんにお聞きしたいなと思ったのは,今の事前に資料がというお話なんですけれども,資料だけでなくて,公判前整理手続の中に入って,弁護人と検察官の間での争点の詰めだとかそういうところを聞ければ,もっと通訳さんは便利だと思うんですけれども,そういうことを言われる方が通訳さんの中にはいらっしゃるんですが,その辺り,通訳さんの事前の準備の在り方ですね,それはどうでしょうか。改善すべき点はありますか。 ○小林氏 私の場合は,ほかの方はまた違うと思うんですけれども,公判前整理手続のときは,余り通訳人がいてもどうかなと思うんです。被告人がどうしてもというのであれば,それはそうなんですけれども,そこで何か事前準備になるとは思っていないんですね。それならば,先に被告人の接見を一緒に同行させていただきたいなと思います。そっちのほうがより準備になります。 ○土屋委員 分かりました。ありがとうございました。 最後の質問です。池山さんに伺いたいと思ったのは,私が傍聴したイラン人の裁判で,訳の分からないやり取りがあったんです。確か傷害事件だったと思うんですけれども,故意で刺したかどうかというのが問題になったときに,神の声が聞こえて,刺せというような声が聞こえたという趣旨のことを通訳されたんです。恐らくペルシャ語でそういう,故意を認めるような意味ではなくて,神の声が聞こえたりとか,何かそのような言い訳めいた神に関する表現があったりして,それで日本語に直すと訳のよく分からない,故意を認めたのか認めないのか分からないような通訳になってしまっているのではないかと思われました。 恐らく,これは文化的な違いが背景にあって,そういう発言が出てくるんだろうなと思うんです。そういう応答というのは,実は故意を認定したりする上では非常に重要な発言だと思うんですけれども,その辺りがもし池山さんが御経験があれば,そういうときにどういうふうに対処されたのか,文化的背景まで遡って通訳人としては説明するわけにいかないんだと思うんですけれども,そのまま訳したの では,日本人には到底分からないだろうという場面もあろうかと思うんですが,そういうときは通訳さんはどうされるのですか。 ○池山氏 そのまま訳すということですね,やはり。心の中では,多分この発言は理解されないだろうなとは思うことはありますけど,通訳としては,解釈をするわけにはいかないんですよね。ですから,そのまま訳して,それが意味とか趣旨がよく分からないものであった場合,尋問側が聞けばいいと私は思っていますので,やはり解釈とか文化的背景を加えて訳すということはできないですね。 ○土屋委員 分かりました。ありがとうございました。 ○大久保委員 今の質問とちょっと関連してですけれども,先ほど池山さんは一つの言葉でも幾つもの意味があるとおっしゃいましたけれども,そういうとき幾つもの意味が頭に浮かんだら,それを伝える言葉として何を選ぶのでしょうか。 ○池山氏 例えば,三人称単数の言葉ですと,ペルシャ語では1種類しかないわけです。英語だと,彼,彼女,それ,とあるんですけど,1種類しかない言葉があって,その場合だとしょうがないので,すべてをカバーする言葉を探して訳すようにしています。 例えば,必ずしも重なるわけではないんですけど,本人であるとか,あとサイフとカバンが一緒であったりとか。そうすると,入れ物であるとかというふうに訳さざるを得ないので,心の中で,尋問側がもうちょっと詳しく聞いてくれればいいなと私は思いながら訳しているんですけど。 1対1対応のことで申し上げますと,さっきから検察庁にお願いすることが多いんですけど,調書で親戚に関する言葉が書いてあるときに,例えば,私のおじさんの息子といったときに,ああ,いとこねと,調書に「いとこ」とされてしまうと,言語によっては訳せないこともあるんです。「いとこ」という単語がないんですね。おじさんの息子としか言えないんですよ。で,いとこを見ると,おばさんの息子なのか,おじさんの息子なのか,息子なのか娘なのかも分からないですよね。 で,取調べのときに,私も最初のほうは裁判所の通訳と検察庁の通訳を兼ねてやっていましたので,そのときは検察官にお願いして,そのままお願いしますとお願いしていたんですが,もともとの意味が消えてしまう表現にされてしまうことがあって,多分,分かりませんけど,検察庁の通訳さんはおじさんの息子と訳しているのではないかと思うんですけど,それを消して,ああ,そういうことね,と日本人的感覚で書かれるととても困ります。 ○井上座長 韓国語も同じですよね。 ○小林氏 韓国語も一つありまして,妹と弟をはっきり言わない習慣があり,ただ下の兄弟と言います。日本ではどちらかちゃんと区別して言うので,下の兄弟が妹か弟かを聞き直すことになります。 ○四宮委員 四宮です。どうもありがとうございました。 一つ皆様に伺いたいのは,先ほど調書,書証,書類の証拠を読むのが大変だと。これは我々弁護人も検察官も最近も話題になっておりまして,反省しなければいけないことだと思うんですが,それ以外に,検察官,弁護人の法廷での活動で,通訳人として困ったことがあったら是非お聞かせいただきたいのが一つです。 それから,二つ目は,先ほど池山さんは,複数でやることは疲労の軽減にはならないとおっしゃっていましたが,今は集中審理になりまして,午前・午後続けて,休憩を挟みながらですけれども,やっていますが,これは皆様お一人で十分対応可能だという御実感なのかどうかを,池山さん以外の方にも承りたいと思います。 ○井上座長 まず,最初の点,どなたからでも結構ですけれども。 ○朱氏 私は,池山先生と同じ意見で,正直言って,二人を立てられたときは,のどは休んでいるんですけど,頭は休めないんです。それで,私も模擬裁判のときから,模擬裁判のときは二人でしたけれども,あれはやりにくいったらありはしないという感じでしたね。 なぜかというと,先生たちはよく御存じだと思います。今,通訳人の制度もないし,資格制度がないし,試験もありませんよね。だから,みんなそれぞれの独学で,スタイルもそれぞれなんですよ。だから,同じスタイルの人と一緒に組めば,例えば,私と池山さんが一緒に組むなら全く問題ないんですけれども,スタイルが違う人,あるいは経験が違ったりすると,本当にそれほど大変なんですよね。 主尋問と反対尋問。例えば,主尋問を聞いていなくて反対尋問に立ち会ったりすると,主尋問でその人が使っていた言葉は何なんだろうということや,その答えは何なんですということになります。その答えに対して反対尋問で攻められますから。だから,今攻めているのは,彼のあるいは彼女が答えた言葉の中のどの単語だろう,あるいは言葉全体だろうか,例えば,すごく遠回りで攻めてくるときは,こちらもぼやかして,なるべくオブラートに包んで反問を訳すんですよね。そうすると,無防備にぱっと答えたら突かれるではないですか。そういうのをやっているんですけど,それが主尋問を聞いていない限りは,できなくなってしまうんですね。 そこが気になってしょうがないから,逆に気疲れというよりは,肉体的に疲れたほうがよっぽど楽という感じで,一人でお願いしますという感じで裁判所にお願いするんですけど。確かに大変は大変ですよ,朝から晩まで。あと,お昼休みのときに弁護人の先生が仮監で接見とかしたりしますので,お昼も食べられませんよね,10分しか時間がなくて。私はこの前,4日間の裁判員裁判で体重が3キロ落ちましたから。 だから,それはいいダイエットになりますけれども,11月にまたその機会があって,楽しんでいます。今度何キロ落ちるかなとか,それで記録を作ろうと思っているんですけど。それもそうなんですけど,でも,それよりはやはり気苦労のほうが大変なんですよね。 あと,もう一人の通訳人が使っている単語層と自分が使いなれている単語層が一致しないと,被告人が混乱してしまいます。だから,それが2人立て,3人立てとするならば,裁判所がお互いのレベルを本当にぴったりと把握しない限り,疲れは取れないかなとか思って。 特に,弁護士先生や,検察官が法廷でなさったことで困ったということについては,自分は機械論ですから,その場で生じたことは全てインプットされて,アウトプットすべきというのが持論ですから,余り困ったりはしませんけれども,ただ,中国語はどうしても短くなるので,こちらが早く終わったとき,検察官が戸惑ってしまうんですよね。えっ,終わったのというか,あるいは,僕の言葉を今聞き取れていなかったのというか,そういう反応が,しょっちゅう,こっちの表情も見ながら,聞きながらあります。 だから,どうしても,この前終わった強盗致傷の事件みたいに,被告人がすごくデリケートな方で,逆送致の事件でしたし,すごく表情もデリケートな方で,それも表情に気を使わなくてはならない。検察官には気を使っていられないという感じで。だから,検事,お願いだから私のペースでやらせてください,止まっても気にしないでねとか,前もって検察官に言ったりお願いはしていますけどね。 ○小林氏 私もお二人と同じ,一人でやるのに賛成します。なぜなら,やはりずっと聞いていないといけないので,耳が疲れます。ということは,ここを離れるわけにはいかないので,ずっと一緒にいなければいけない。それから,言葉の違い,レベルの違いというのも気になりますし。やはり疲れるけれども,充実感というのも後から生まれるんですね。なるべく一人でやったほうがいいと思いました。 困ったことについては,弁護士の先生が私選の先生ですと,なるべく見せないように,見せないようにするんですね。通訳人は裁判所側の人だというふうに思われるんでしょうか。見せてくださらなくて,接見はおろか,ある先生は弁論要旨もなかなか送ってくださらない方もいらっしゃいます。 それと,被告人が,もちろん恥ずかしいんでしょうね,きっと。だから,小さい声で言うと聞こえないんですね。でも,一々,裁判官に承諾を得ないと勝手にお話しするわけにはいかないので,一々断ってやらないといけない。下を向いて小さい声で,聞こえないのが一番難しかったです。 ○池山氏 今おっしゃったとおりで,聞こえないのはもう通訳にとって致命的なんですね。大きな声ではっきりとおっしゃっていただければ,通訳としては困りませんが。 ただ,裁判員裁判の対応法廷ってタイルカーペットになりまして,以前の法廷ですと床がカーペットではなかったので,音の反射がよかったんです。聞こえやすかったんですね。今はタイルカーペットになって声が吸収されるようになりました。それで,以前だったら聞こえたものが,裁判員裁判の対応法廷だとちょっと聞こえにくかったりであるとか,話しているときに記録をめくったり,せき払いがあったりすると,そこで聞こえなかったりするところがあって,対応法廷ですと,もう少し大きく話していただくとありがたいということ。それと, 尋問する側が,一般的ではないんですが,時々整理せずに尋問を始める方がいらして,よく考えてから,ああでもないこうでもないと言いながら,試行錯誤を重ねながら尋問する場合があって,それはとても困ります。 ○四宮委員 基本が大事だということがよく分かりました。ありがとうございました。 ○井上座長 まだお聞きになりたい方がおられると思いますが,そろそろ速記者が代わるぐらいの時間が経ちましたので,あとお一人,お二人くらいと思いますがいかがですか。 それでは,山根さん,残間さんのお二人ということで,どうぞ。 ○山根委員 皆さんは,全国の裁判所にお出掛けになるんでしょうか。地域によって通訳人の数とかそういうのがばらつきがあるのかなというのを知りたかったので,教えていただきたいと思います。 ○朱氏 自分たちは東京高等裁判所管轄の1都6県という感じですので,そこの範囲だったら,呼ばれたらどこでも行きます。 ちなみに,私は長野県とか群馬県とか行ったことがありまして,あとしょっちゅう行くのは,今はしょっちゅうではなくなりましたけれども,水戸とかさいたま,横浜は,自宅から2時間以内に通えるところだと,どこでも行くという感じなんですけどね。 あと,地方の裁判所に行くと,たまたま,裁判所の依頼ではないんですけれども,弁護士先生の私選の事件で,どうも通訳がうまく訳せていないのではないか,傍聴席で座って聞いてくれという話で行きました。東京の被告人たちは恵まれているんだなというのは実感でした。やはり地方でばらつきはありましたね。 でも,東京の中で登録されている方もレベルはやはりまちまちでしたので,何回か自分は聞いたその人のしゃべっている中国語は,私でさえ理解できないというのも正直,あるマスコミが指摘したとおりのものも時々はありますけどね。でも,最近はそういう人の姿が見えなくなりましたけど,さすが,それは裁判員裁判の効果かなと思っていますけど。 ○残間委員 こういう領域の仕事をしていらっしゃる人たちがいらっしゃるということに,本当に感激し敬服しました。 酒巻さんと四宮さんに,ねえ,どのぐらいのギャラをもらっているのかしらと聞いたら,二人とも分からないから「聞いてみたら」と言うのでお聞きしますが,言えないのでしょうか。 ○朱氏 いや,それは言ったら・・・。 ○池山氏 きちんとしたものは,幾らというのは決まっていないんですよ。ある程度の幅がありまして,最終的には裁判所がその幅から判断することになっています。 ○朱氏 私は一応,民間の仕事もしていますので,民間ほどじゃないのは,それは言えることです。本当に言えるならば,陳情できるなら,もっとくださいよというのは,みんなそう思いますよね。法廷以外の時間がすごく大変なんです,特に裁判員裁判になってからね。 ○四宮委員 法廷以外はペイされないんですか。 ○朱氏 ないんですよ。だから,聞いた話ですよ。例えば2人立てだったら,待ち時間,自分が立ち会っていない時間は支払いはないんですよね。別に払われないから二人は嫌だということではないですよ。ただ,そういうのがあります。 だから結構,ボランティア精神ですね。あとはプライド,本当にここまでやって,私よりうまい人がいたら見せてくださいというプライドですね。それでないとやっていられないですよね。そういうのがありまして。 ○井上座長 よろしいですか。 まだいろいろお聞きしたいところですけれども,随分長時間お引きとめしましたので,このぐらいにさせていただきたいと思います。 お忙しい中,本当にありがとうございました。 (朱韻菲氏,小林真美氏,池山拓治氏退室) ○井上座長 以上で本日のヒアリングはおしまいにさせていただきたいと思います。 一応,予定した議事は以上ですが,その他全般について,この際何か御意見がありましたらお伺いしたいと思います, よろしいですか。 それでは,御相談があるのですけれど,次回の検討会の中身についてお諮りしたいことがあります。これまでの御議論の中でも話題に上がったところですけれども,裁判員裁判の実施状況やその在り方を検討する上では,刑事裁判というものといやおうなしに関わらざるを得ない犯罪被害者の方々の声を聞くことが不可欠だろうと思われます。 そこで,次回は,被害者団体の方々などから,裁判員裁判が始まって以降の御経験等も踏まえて,被害者の方々の視点から見た裁判員裁判に対する率直な感想や問題点,その他御意見をお伺いするということにしてはいかがかと思われるのですけれども,皆さんの御意見はいかがでしょうか。そういうことで用意させていただいて,よろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり) ありがとうございます。 それでは,次回は犯罪被害者に関するヒアリングを実施したいと思います。人選等につきましては,ただいまお諮りして御同意いただいたような趣旨に沿う形で座長に一任していただければと思いますが,それでよろしいでしょうか。 (「異議なし」との声あり) ありがとうございます。 では,本日予定の議事は以上でございますけれども,特に付け加えて何か御発言ございますか。 よろしいですか。 それでは最後に,事務当局から次回の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 次回でございますが,委員の皆様の日程調整をさせていただきました結果,12月13日火曜日,午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等は追って御案内申し上げます。 ○井上座長 それでは,本日の第7回検討会は,これで終了させていただきます。ありがとうございました。