法制審議会 刑事法(逃亡防止関係)部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  令和3年10月8日(金)   自 午後 1時30分                        至 午後 2時15分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会の第14回会議を開催します。 ○酒巻部会長 本日も御多用中のところ御出席いただき,ありがとうございます。   河瀬委員,藤本委員,菅野委員,小笠原幹事,くのぎ幹事,笹倉幹事及び和田幹事には,オンライン形式により御出席いただいております。   重松幹事におかれましては,所用のため,欠席されています。   まず,事務当局から資料について確認をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日,配布資料として,配布資料38「要綱(骨子)案」を配布しております。   また,参考資料として,配布資料37「取りまとめに向けたたたき台」と「要綱(骨子)案」の変更点が分かるように,「「取りまとめに向けたたたき台」(配布資料37)からの変更点」という表題の資料も配布しております。   なお,縦書きで「要綱(骨子)案」を作成したことに伴い,「要綱(骨子)案」と「参考資料」とでは,項目番号の振り方に違いがありますので,御留意ください。   これらの資料がお手元にない方は,いらっしゃいますでしょうか。 ○酒巻部会長 それでは,早速,本日の議事に入りたいと思います。   前回会議の後,配布資料38「要綱(骨子)案」を事務当局に作成してもらいましたので,前回の会議でも申し上げたとおり,本日は,これに基づいて,採決も念頭に置きつつ,最終的な詰めの議論を行いたいと思います。   それでは,まず,事務当局から,配布資料38「要綱(骨子)案」の内容について説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 配布資料38「要綱(骨子)案」について,御説明します。   「要綱(骨子)案」は,これまでの当部会の御議論を踏まえて,当部会における取りまとめに向けた案として作成したものです。その内容は,前回までの御議論で用いた「取りまとめに向けたたたき台」とおおむね同様ですが,変更している部分もありますので,実質的な変更点を中心に御説明します。参考資料としてお配りしている「「取りまとめに向けたたたき台」(配布資料37)からの変更点」も適宜御参照ください。なお,これからの御説明では,「取りまとめに向けたたたき台」を単に「たたき台」と呼んで御説明します。   まず,「要綱(骨子)案」1ページ及び2ページの「第一 保釈中又は勾留執行停止中の被告人に対する報告命令制度の創設」を御覧ください。   この「一」「2」は,裁判所が定める事項の報告を命じる場合において必要があるときに,裁判所が指定する日時及び場所に出頭して報告することを命ずることができるものとしています。この点について,「たたき台」では,裁判所の指定する日時及び場所に出頭することと,裁判所の定める事項を報告することの一方又は双方を命ずることができるものとし,出頭だけを命ずることもできるものとしていましたが,前回会議において,被告人に出頭だけを命じて何らの報告も求めないことは実際上想定し難いことから,そのことを踏まえた制度とすることを検討してはどうかとの御指摘があり,それに対して特段の御異論は示されなかったことを踏まえ,先ほど申し上げたような内容に変更し,出頭だけを命ずることとはしないものとしたものです。   また,前回会議までの御議論を踏まえ,被告人が命令に違反した場合の罰則は設けないものとしています。   そのほか,1ページの「一」「1」「(一)」及び「(二)」において,あらかじめ時期を定めて報告を命ずる方法と,所定の事由に変更があったときに報告することを命ずる方法とをそれぞれ記載し,また,「3」において,裁判所が検察官に通知すべき事項について,報告等があった場合となかった場合とで,それぞれ書き分けて記載しています。   続いて,2ページから7ページまでの「第二 保釈中又は勾留執行停止中の被告人の監督者制度の創設」を御覧ください。   この「要綱(骨子)案」では,前回会議までの御議論を踏まえ,監督者が裁判所の命令に違反した場合の罰則は設けないものとしています。   そのほか,2ページの「一」「2」において,裁判所は,監督者として選任する者からその同意を得るに当たっては,監督者の義務及び責任を理解させるために必要な事項を説明しなければならないものとしているほか,3ページの「二」「2」「(一)」において,監督者に対して「被告人と共に出頭すること」を命ずるのは,被告人自身が召喚を受けるなどして出頭義務を負う場合であることを明らかにするとともに,これに伴い,4ページの「二」「4」にはただし書を付さないこととし,3ページの「二」「2」「(二)」「(1)」及び「(2)」において,先ほど御説明した「第一」の制度と同様に,あらかじめ時期を定めて報告を命ずる方法と,所定の事由に変更があったときに報告することを命ずる方法とをそれぞれ記載し,また,「3」において,裁判所が検察官に通知すべき事項について,報告等があった場合となかった場合とで,それぞれ書き分けて記載しています。   続いて,7ページから10ページまでの「第三 公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設」を御覧ください。   この「第三」については,8ページの「三」において,保釈等が取り消された場合だけでなく,禁錮以上の実刑判決の宣告により保釈等が失効した場合についても,「1」の出頭命令の対象とし,その命令に反して出頭しない行為を「2」の罰則の対象としています。   続いて,10ページの「第四 逃走罪及び加重逃走罪の主体の拡張等」を御覧ください。   この「第四」については,「たたき台」からの変更はありません。   続いて,10ページから18ページまでの「第五 GPS端末により保釈中の被告人の位置情報を取得・把握する制度の創設」を御覧ください。   この「第五」については,10ページの「一」「1」において,GPS端末の構造について,人の身体から取り外すことを困難とするものであることを要するものとしているほか,11ページの「2」「(一)」「(3)」や14ページの「二」「3」において,用語の平仄を合わせるなどの技術的な変更をしています。   続いて,18ページの「第六 禁錮以上の実刑判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化」を御覧ください。   この「第六」では,本文が適用されない場合の要件を,「保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるとき」と記載しています。この要件の具体的な書きぶりについて,「たたき台」では「A案」と「B案」の二つの規定案を記載していましたが,「要綱(骨子)案」は,前回会議における御議論を踏まえ,「たたき台」の「A案」に基づいて記載しています。   続いて,18ページから20ページまでの「第七 控訴審における判決宣告期日への被告人の出頭の義務付け等」を御覧ください。   この「第七」については,「一」のただし書は,「重い疾病又は障害その他やむを得ない事由により被告人が公判期日に出頭することが困難であると認めるとき」のみとし,「二」のただし書として,「刑の執行のためその者を収容するのに困難を生じさせるおそれがないと認めるとき」と記載することとしました。これは,前回会議において,「たたき台」の「1」ただし書の記載について,被告人に判決宣告期日への出頭を命ずる義務が解除される要件として,「公判期日に出頭することが困難である」ことと「刑の執行のためその者を収容するのに困難を生じさせるおそれがない」ことの双方を求めるとすると,後者の要件を満たさない場合には,公判期日への出頭が困難であるとしても出頭を命じなければならないこととなり,適切ではないのではないかとの御指摘があったことを踏まえ,「刑の執行のためその者を収容するのに困難を生じさせるおそれがないと認めるとき」を「一」のただし書の出頭命令の例外の要件としないこととしつつ,被告人が出頭しない場合でも判決の宣告をすることができる範囲に異同を生じさせないため,公判期日への出頭が困難であるため出頭を命じなかった被告人について,「二」の「1」から「3」までの判決以外の判決を宣告することができることとなるための要件としたものです。   続いて,20ページ及び21ページの「第八 保釈等の取消し及び保釈保証金の没取に関する規定の整備」を御覧ください。   この「第八」については,「たたき台」からの変更はありません。   続いて,21ページから30ページまでの「第九 禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者に係る出国制限制度等の新設」を御覧ください。   この「第九」についても,「たたき台」からの変更はありません。なお,この「第九」については,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けて「一」の出国制限の対象となった者や,罰金の実刑判決の告知を受け,あるいは同裁判が確定し,「二」の出国禁止の命令を受け,あるいは,「三」の出国禁止の命令を受けた者については,出入国管理及び難民認定法に規定する退去強制令書が発付された場合であっても送還しない措置を執ることが可能となることを前提としています。また,判決宣告による出国制限や出国禁止命令の対象となった者について,同法に規定する出国確認の留保の対象となることを前提としています。   続いて,30ページから34ページまでの「第十 裁判の執行に関する調査手法の充実化等」を御覧ください。   31ページの「四」については,「裁判の執行」に関して必要があると認めるときに行い得るものとしています。この点については,「たたき台」では,「裁判の執行」に関して必要があると認めるときに行い得るものとする案と,刑の執行や追徴の執行に関して必要があると認めるときに限るものとする案を記載していましたが,「要綱(骨子)案」は,前回会議における御議論を踏まえ,前者の案に基づいて記載しています。   その上で,34ページの「七」において,裁判所又は裁判官が指揮すべきこととされている裁判の執行に関して必要があると認めるときは,差押え等の強制調査をすることができるものとしています。これは,刑事訴訟法第472条第1項ただし書において,急速を要する場合の勾引状や勾留状の執行など,裁判所又は裁判官が指揮すべき場合があることが規定されていることのほか,同法第507条において,裁判の執行に関して必要な公務所等への照会は,裁判所や裁判官もすることができることとされていることからすれば,「要綱(骨子)案」の「四」の差押え等についても,裁判所や裁判官が行うことができることとするのが合理的であると考えられるためです。   最後に,34ページの「第十一 刑の時効の停止に関する規定の整備」を御覧ください。   この「第十一」については,「たたき台」からの変更はありません。   配布資料38についての御説明は以上です。 ○酒巻部会長 それでは,「要綱(骨子)案」について議論を行いたいと思います。   ただいまの事務当局からの説明に対する御質問も含めて,この「要綱(骨子)案」について御意見,御質問等がある方は,挙手の上,どの点に関するものかを明示していただいた上で,御発言をお願いします。 ○菅野委員 「第五 GPS端末により保釈中の被告人の位置情報を取得・把握する制度の創設」について,2つほど事務当局に質問をさせてください。   まず,1点目ですけれども,GPS端末装着命令は,身体拘束の継続よりは制限的でないとしても,被告人のプライバシーや行動の自由を制限する制度である以上,その必要性がなくなったときは,請求により又は職権で取り消さなければならない旨の規定を設けるべきではないのかという点です。   2点目は,GPS端末装着命令について,この部会では,身体拘束の継続より制限的でない勾留の代替手段として,国外逃亡防止以外の目的でも用いることができるようにすべきであるという意見もありました。「要綱(骨子)案」では,被告人が本邦外に逃亡することを防止するため必要があると認めるときと対象を限っているわけですけれども,GPS端末装着命令制度の対象については,この制度の施行後,実施状況を検証して,更に検討を加えるべきではないのかと考えています。   以上の2点につき,事務当局にお尋ねします。 ○鷦鷯幹事 1点目は,GPS端末装着命令の必要性が事後的になくなったときにおける取消しの規定を設けるべきではないかという御提案と伺いました。GPS端末装着命令を発したものの,その後にその必要がなくなった場合には,裁判所の判断によってその効力が失われるようにするべきことは当然であると考えられますが,その旨の規定を設ける必要があるかどうか,また,どういった規定の仕方をするかということについては,法案化作業の中で検討したいと思っております。   2点目は,GPS端末装着命令制度の対象について,制度が施行された後の実施状況を検証すべきではないかといった御指摘だったと思いますが,「要綱(骨子)案」に沿った制度が仮に施行されることとなった場合の話ではありますが,その場合,一定程度の事例が蓄積された段階になりましたら,制度の対象者も含めて,制度の在り方について,施行の状況を勘案しながら,また,この部会で幾つか指摘された課題もありましたので,そういった課題も踏まえつつ必要な検討を行うこととなると,そのように考えております。 ○菅野委員 「第六」についても何点かお尋ねしたいことがあるので,質問させていただいてもよろしいでしょうか。   お尋ねしたい点の1点目ですが,この「要綱(骨子)案」の「第六」の趣旨は,飽くまで現行法の要件を明確にすることであり,立法によって裁量保釈が認められる場合を限定しようとするものではないと理解してよろしいでしょうか。 ○鷦鷯幹事 この「第六」は,飽くまで禁錮以上の実刑判決宣告後の裁量保釈の判断の在り方を条文上明確にするものでありまして,現行法の下で認められるべき裁量保釈の範囲を殊更に限定しようとする趣旨ではないものと考えております。 ○菅野委員 2つ目の質問です。この「第六」のただし書の「当該判決の宣告にかかわらず,保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるとき」に該当するのは,どのような事情がある場合なのか,その点を質問させてください。 ○鷦鷯幹事 「第六」のただし書に該当するかどうかは,個別の事案ごとに判断されるものですが,その際の考慮要素としては,宣告された刑の長短などのほか,被告人のそれまでの訴訟における言動や対応,特に公判期日への出頭の状況,さらには判決宣告後に新たに講じられた逃亡を防止するための措置などが考えられ,そうした諸事情を考慮しつつ判断されることとなるものと考えております。 ○菅野委員 更に質問があるのですが,「第六」のただし書に該当する場合は本文が適用されず,現行の刑事訴訟法第90条が適用されると理解してよろしいでしょうか。 ○鷦鷯幹事 ただし書に該当する場合には,本文は適用されないということになりまして,刑事訴訟法第90条の要件の下で保釈の適否が判断されることとなると,そのような構造と理解しております。 ○菅野委員 本文に戻りますが,「第六」の本文にある「不利益の程度が著しく高い場合」の「著しく」とは,どのような意味に理解すればよろしいのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 「著しく」の意義についてお尋ねですが,実刑判決宣告後において裁量保釈を許すことが適当と認められるためには,保釈を許さなかった場合の不利益の程度が,当該判決の宣告によって逃亡のおそれの程度が一般的・類型的に高まった状況においてもなお,保釈を適当と認め得る程度に高いものでなければならないと考えられるところであり,「著しく」とは,不利益の程度がそのような程度に及んでいることを表す趣旨です。 ○菅野委員 最後の質問ですが,今事務当局の方から説明していただいたような内容,特にこの「第六」についてですけれども,これらはいずれ立案担当者の解説などにおいても書いていただけるものなのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 仮定の話にはなりますが,「要綱(骨子)案」に係る法整備が行われて,立案担当者による解説が作成されることとなったときには,今申し上げた内容も踏まえた記載となるよう,留意されるものと考えています。 ○小笠原幹事 「要綱(骨子)案」に含まれる罰則の制定あるいは重罰化についての意見を述べさせていただきたいと思います。   「要綱(骨子)案」の「第三」の「一」の「召喚を受けた公判期日への不出頭罪」及び「二」の「制限住居離脱罪」の新設には反対です。刑法の謙抑性からしますと,単にそういう処罰を作れば威嚇効果があるというだけで刑罰を科すことは許されないと考えます。また,実際に法益侵害の結果が生じた場合に処罰する侵害犯を原則とすべきであり,危険犯については侵害される法益の重大性と法益侵害が現実化する危険性とを考慮して,刑罰を科すのは必要最小限にとどめるべきであると考えますし,法益侵害を回避するために有効なほかの代替手段がある場合には刑罰を科すべきではないと考えます。   公判期日不出頭罪も制限住居離脱罪も,その保護法益は国家の拘禁作用とされており,諸外国のように,不出頭についての裁判官への侮辱とか,法廷侮辱罪とか,そういうものではないということですので,保護法益の観点からすると,公判期日の不出頭や制限住居からの離脱が生じただけでは,いまだ逃亡の危険性が高まっているとはいえない場合も多いと考えます。実際に私の経験などから見ましても,仕事の多忙とか転勤を理由としての不出頭や,あるいは制限住居の変更を届け出なかった例,あるいは刑事裁判に対して不安を生じているということで,家にはいるのだけれどもなかなか裁判には出られなかったという例もあると聞いています。このような場合,保護法益である国家の拘禁作用の侵害の程度は極めて低いのではないかと思いますし,そもそもこの保護法益自体,直接国民の生命・身体・財産への損害を生じさせるものではないことからすると,この時点で罰則を課すことを制定するのは行き過ぎであると考えます。   また,これらの違反につきましては,従前同様,保釈条件違反として保釈の取消しや保釈保証金の没取で威嚇すれば足り,その後,保釈取消し後の出頭命令違反とか,あるいは単純逃走罪等の他の罪を犯した場合に改めて刑事責任を問えば十分足りるのであって,その点では他の代替手段も確保されているといえます。   「要綱(骨子)案」は,「正当な理由がなく」との要件を設けることによって処罰範囲を制限しているようにも見えますけれども,そもそも「正当な理由」というだけでは,いかなる場合にこのような理由が認められるかが不明確,不明瞭であり,国民の予測可能性が害されます。また,公判期日に出頭することが急に不安になりましたということで出頭せずに制限住居に籠もっているような場合にも「正当な理由」があるとはなかなかいえないのではないかとなりますと,先ほど述べた刑法の謙抑性の点からしても,「正当な理由がなく」との要件を設けたからいいということではないと思います。   他方,「第三」の「三」から「五」までの「保釈又は勾留執行停止の取消し・失効後の出頭命令違反の罪」,「勾留執行停止期間満了後の不出頭罪」及び「刑の執行のための呼出しに係る不出頭罪」につきましては,罰則を設けること自体には反対ではないのですが,法定刑の上限は懲役1年程度とすべきであると考えます。これらについては,拘禁の必要性も高まっておりますし,出頭してこないということになると,逃亡の危険性がそれなりに高まっているとは思われます。しかしながら,現行法の単純逃走罪のように現実に法益を侵害しているものではなく,飽くまで危険犯というところからしますと,自ら進んで身体拘束を受けるために出頭するということは期待可能性が高いとはいえないのではないかと思われ,そういう責任論の観点からしますと,法定刑の上限としては現行法の単純逃走罪と同じ懲役1年程度であるのが妥当ではないかと思います。   次に,「第四」の「逃走罪及び加重逃走罪の主体の拡張等」についての意見です。まず,「要綱(骨子)案」では,単純逃走罪の法定刑の上限を懲役1年から懲役3年に引き上げるとされていますけれども,これは重過ぎるので,せめて懲役2年とすべきではないかと考えます。また,単純逃走罪の主体として,「法令により拘禁された者」となっていますけれども,これは極めて広いと考えます。これまで部会の中でも幾つか類型が出ていたと思いますけれども,その中で主体となるべきものは,①勾留状や勾引状,収容状の執行を受けたけれども施設に収容される前の被疑者・被告人等,あるいは②逮捕状による通常逮捕,又は緊急逮捕されて逮捕状が発付されているという人たちで施設に留置する前という,この二つに限るべきであると考えます。単純逃走罪が従来,比較的軽い刑罰であったのは,適法行為の期待可能性が低く,そのため責任非難が小さいなどの理由によるものであることは,現在でも立法事実として変わらないものであります。また,諸外国,例えばドイツなどにおきましては,単純逃走につき,自己庇護罪ということで,自分のための証拠隠滅などと同様に不処罰としている法制もあると聞いております。そうしますと,今までの法定刑の上限の3倍である懲役3年に引き上げるのは,やはり責任以上の刑を科すものであって妥当ではないと考えます。   保護法益は,先ほど言ったとおり,国家の拘禁作用ということですけれども,これは最終的には刑の執行の確保を目的とするものでありますので,刑の執行が予定されていない者,例えば勾引状の執行を受けた民事の証人であるとか,更生保護法とか少年法とか,それらの対象者については,刑の執行をするものではないので,処罰対象に含むべきではないと考えます。また,現行犯逮捕された者及び緊急逮捕された者であって逮捕状発付される前の者についても,いまだその逮捕の正当性が明らかではないので,処罰対象とすべきではないと考えます。   以上が私の意見になります。 ○大澤委員 聞き間違えていたら申し訳ないのですが,先ほど菅野委員から,「第六」に関して,ただし書の「相当な理由があるときは,この限りでない」のうち「この限りでない」の意味は,刑事訴訟法第90条に戻るというものかという趣旨の御質問があり,事務当局から,そうだという趣旨の回答があったように伺いましたけれども,それは間違いないですか。 ○鷦鷯幹事 結構でございます。 ○大澤委員 「第六」の本文というのは,「刑事訴訟法第九十条の規定による保釈を許すには」としているので,本文が適用される場合の本文も刑事訴訟法第90条の適用の話を規定しているわけで,ただ,禁錮以上の実刑判決宣告後という状況に即した具体的な要件をもう少し明示するという規定だろうと思うのです。ですから,ただし書が満たされた場合に「この限りでない」,つまり,本文が適用されなくなるとき,刑事訴訟法第90条に戻るというのが事務当局の答えであったとすると,少し不正確なやり取りだったかなという気がしました。 ○鷦鷯幹事 先ほどの菅野委員からの御質問に対する私の回答が,戻る前,すなわち,本文が適用される場合の裁量保釈の判断が刑事訴訟法第90条によらないものであるかのように聞こえていたとすれば,それは誤解を生じさせるような表現でした。御指摘のとおり,「第六」の本文も,刑事訴訟法第90条の適用の在り方を示すものであり,その趣旨でお答えしたものです。 ○酒巻部会長 ほかに御意見,御質問等はございますか。   よろしいでしょうか。これまでの御意見,御議論の状況を踏まえますと,本諮問に関する議論は,尽くされたように思われます。そこで,部会としての意見の取りまとめに移らせていただければと思いますが,その前に是非とも発言をしておきたいということがありましたら,これまでの御発言と重複しても構いませんので,お願いしたいと思います。   よろしいでしょうか。ほかに御意見等はございませんか。   それでは,これから部会としての意見を取りまとめたいと思います。   諮問第110号は,「近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであり,これを受け,当部会において調査審議を重ねた結果として,本日,「要綱(骨子)案」が示され,これについて,更に議論を重ねたところです。   「要綱(骨子)案」の「第一」から「第十一」までの各制度は,刑事手続全体を通じて,被告人等の逃亡を防止し,公判期日への出頭を確保するという一つの目的のため,一体として機能するものとして審議が重ねられてきたものと理解しております。   そこで,部会としての意見を取りまとめる方法としては,この配布資料38「要綱(骨子)案」の全部を一体として,一括して採決をすることにしたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは,御異議がなかったので,「要綱(骨子)案」について,一括して採決したいと思います。   配布資料38「要綱(骨子)案」を当部会の意見とすることに賛成の委員の方は,挙手をお願いいたします。オンラインで御出席の委員の方は,その場で挙手していただき,そのことが画面上で確認できるようにお願いいたします。   ありがとうございました。それでは,事務当局から採決の結果を報告してもらいます。 ○鷦鷯幹事 事務当局からただいまの採決の結果を御報告いたします。   全ての委員が賛成でした。   本日の出席委員総数は,部会長を除いて13名です。 ○酒巻部会長 ただいま,事務当局から報告がありましたとおり,採決の結果,「要綱(骨子)案」については全員一致で可決をされました。   当部会の意見としては,諮問第110号については,配布資料38「要綱(骨子)案」のように法整備を行うことが相当であるとして,来るべき法制審議会総会において,部会長の私から報告をさせていただくことになりますが,これについては,私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   どうもありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   この際,事務当局から何かありますでしょうか。 ○川原委員 法務省の川原でございます。事務当局を代表いたしまして,一言,御挨拶を申し上げます。   委員,幹事,関係官の皆様方には,御多忙のところ,今回の諮問につきまして,全部で14回,1年5か月にわたり熱心に御議論をいただき,厚く御礼を申し上げます。   また,酒巻部会長には,議事の進行,意見の取りまとめに格段の御尽力を賜りまして,誠にありがとうございました。   本諮問につきましては,この部会の第1回会議において申し上げましたとおり,近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑の確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると考え,諮問に至ったものでございます。   本部会において,委員,幹事の皆様方からは様々な観点から御意見等を頂戴いたしました。皆様方の御尽力により,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備について幅広く御議論いただき,このような「要綱(骨子)案」を取りまとめられたことは,大変意義深いことであると考えております。事務当局の法務省といたしましては,必要な法整備を速やかに実現するため,その準備作業を進めてまいりたいと考えております。   今後のスケジュールでございますが,本日の部会における諮問第110号に関する御決定は,今後開催される法制審議会の総会に部会長から御報告いただき,速やかに答申を頂戴したいと考えております。   その上で,法案の立案作業を進め,できる限り早期に関連する法律案を国会に提出したいと考えておりますので,委員,幹事,関係官の皆様方には,今後とも引き続き,御支援,御協力を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。   最後となりますが,本部会におきまして熱心に御議論いただき,誠にありがとうございました。改めて,厚く御礼を申し上げます。 ○酒巻部会長 川原委員,どうもありがとうございました。   委員,幹事,関係官の皆様におかれましては,精力的に御議論いただきましてありがとうございました。この機会に何か御発言があればお願いしたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○天野委員 私は「要綱(骨子)案」に賛成しました。この「要綱(骨子)案」は,逃亡防止のための方策として,被告人に対して新たに義務を課したり,罰則を強化することなどを中心に取りまとめられたと思います。これらの新たな制度ができたときには,逃亡防止のために機能したらよいと思うのですけれども,他方で,被害者等へ与える影響という視点からすると,もう少し,より直接的に逃亡を防止できるような仕組み作りが期待されるのかなとも思っております。   GPSが万能でないことは承知しているのですけれども,「要綱(骨子)案」の「第五」でGPS端末装着命令が国外逃亡防止のため必要があるときと限定されたという点は非常に残念に思っております。先ほども御意見,御質問等があって,事務当局からは,まずは国外逃亡が懸念される事案に絞って開始して,施行の状況を勘案しながら,改善できるところは改善して,必要に応じて対象を広げることも検討していくということでしたので,いずれは目的を限定せず,もっと積極的に,被害者や証人に対する接触を防止する必要がある場合についても含められるようになることを期待しております。運用状況を見ながら,被害者等への接触防止とか,具体的には特定の場所や区域への立入を禁止するような保釈条件と絡めて活用できるようになればいいかなと思っております。 ○酒巻部会長 天野委員,どうもありがとうございました。   ほかに委員,幹事,関係官の皆様におかれまして,この機会に何か御発言があればと思いますが,よろしいでしょうか。   それでは,最後に私から一言御挨拶させていただきたいと思います。   この部会におきましては,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための法整備について審議し,本日,具体的な制度案を示すことができました。   この審議事項は,一定の合理的根拠と司法判断に基づくとはいえ,人の身体・行動の自由を剝奪するという重大な基本権の制約と,他方で健全・適正な刑事司法の作動の確保という目標との合理的な調整を図るという,正に慎重かつ多角的な検討を要するものでした。   幸い,優れた法律専門家の皆様に御参加いただきまして,基本的な事項から新たな仕組みについてまで十分に議論を行うことができたと考えております。ここに皆様の深い見識に基づく貢献に心より御礼申し上げたいと思います。   私からは以上でございます。どうも本当に皆様,ありがとうございました。   なお,会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表することとさせていただきたいと思います。また,配布資料・参考資料につきましても公表することといたしたいと思いますが,そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。   それでは,以上をもちまして,当部会は終了いたします。皆様の御協力に改めて感謝申し上げます。どうもありがとうございました。事務当局の皆様も,御協力本当にありがとうございました。 -了-