法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  令和4年12月2日(金)   自 午前 9時58分                        至 午前11時58分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第5回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も、御多忙のところ、お集まりいただき、ありがとうございます。   本日、安田委員、吉崎委員、くのぎ幹事はオンライン形式により出席されています。   なお、池田委員におかれましては、所用のため遅れての御出席となる予定であり、その際、オンライン形式により出席される予定です。また、川原委員、井上関係官におかれましては、本日は所用のため御欠席と伺っております。   続いて、事務当局から、今日の配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、新たな配布資料はありません。参考資料として、配布資料8「考えられる仕組み・検討課題(諮問事項「二」関係)」を配布しています。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   前回の会議においては、配布資料8「考えられる仕組み・検討課題(諮問事項「二」関係)」のうち5ページ・6ページの「3 裁判所の手続への出席・出頭」の検討課題「1 映像・音声の送受信による公判前整理手続期日等への出頭等に関する規律」まで議論を行いました。   そこで、本日は、それに引き続き、検討課題の「2 映像・音声の送受信による公判期日への出頭等に関する規律」から議論を行い、配布資料8に記載された項目の全部について、一巡目の議論を終えることを目指したいと思います。   配布資料8の「考えられる仕組み」と「検討課題」については、前回事務当局から説明してもらっていますので、早速、「2 映像・音声の送受信による公判期日への出頭等に関する規律」について御意見を伺います。「2」については、映像・音声の送受信による出頭等の主体が異なる「(1)」と「(2)」に分けて順に議論していくのが効率的だと思いますので、まず、「(1)被告人・弁護人の出頭」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 被告人・弁護人について申し上げます。   検討会、当部会を通じまして、被告人は公判期日に対面で出頭するのが原則であるということについては異論がないものと思います。これは、公判期日は当事者の攻撃・防御の場であって、当事者である被告人自身を出廷させることがその権利保護のため必要であると同時に、裁判所が訴訟指揮権等を適正に行使するため、さらには、およそ裁判というのは法廷という場で行われることが社会的にも期待されているといったことが、その理由であると考えられます。刑事訴訟法第286条も、被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができないことを原則としております。したがって、これが議論の出発点であると思います。   その上で、刑事訴訟法第286条は、同法第283条から第285条に規定する場合のほか、と定めており、これらの条文には、軽微事件においては被告人が公判期日に出頭することを要しないということや、判決の宣告以外の場合には、被告人の権利保護の観点から重要でなければ、裁判所は被告人が出頭しないことを許すことができるということが定められております。このほか、在廷しないことについて被告人に帰責性のある場合に、そのまま手続を進めることができると定めた条文もあります。こうした条文の存在は、被告人のリアルな在廷を原則としながらも、一定の政策的な判断、例えば同法第286条の場合は、軽微事件、すなわち言い渡される刑罰の軽重を、被告人がリアルに在廷することを要するかどうかという立法政策上の考慮要素としてよいという現行法の立場を示していると思います。   ところで、昨今のように感染症が社会に大きな影響を及ぼすような事態におきましては、被告人が感染症に罹患してしまって、公判廷に在廷させることにより感染の拡大を招くおそれがある場合ですとか、それ以外にも、被告人が入院中でその症状により外部に移動することが困難であるといった場合も考えられます。こうした、被告人を法廷に出頭させることが困難であったり、出頭させた場合に別の利益が害されるおそれがあったりする場合で、そのような状況が長期にわたり継続することが見込まれて公判手続が遅延するような事態を想定しますと、これを回避するということも立法政策上の考慮要素となるのではないかと思います。   そうしますと、こうした事態に対処するため、被告人を映像・音声の送受信により公判期日に出頭させることができるとすれば、今申しましたような懸念される事態を避けつつ、被告人を実質的に公判期日の手続に参加させ、その権利の保護と審理の適正を図りながら公判手続を進めることができると考えられます。したがって、「考えられる仕組み」にあるような措置を講じておくことが検討されてよいと思います。   なお、その際、対象をどの範囲にするかということが問題になると思いますが、被告人を映像・音声の送受信により出頭させる場合には、被告人は公判手続を認識できるわけですので、その範囲を刑事訴訟法第284条が定めるような、被告人が出頭することを要しない場合と一致させる必要はないかもしれません。 ○成瀬幹事 ただいまの小木曽委員の御意見を踏まえ、私は、具体的にどのような要件の下で被告人を映像・音声の送受信により公判期日に出頭させることができるものとするかという点について、意見を申し上げたいと思います。   公判期日においては、証人尋問や被告人質問など心証形成に向けた手続が行われ、訴訟の帰すうが決せられることに鑑みると、被告人が証人や訴訟関係人の表情や挙動等を直接観察し、訴訟関係人が被告人の表情や挙動等を直接観察する必要性や、被告人を現実に在廷させることにより公判審理の適正を確保する要請は、相当程度重視すべきであり、そうした必要性や要請について制度上一定の配慮をすることも必要になると考えます。また、そうした必要性や要請は、法定刑が重い重大な事件であるほど類型的に高くなり、現実の出頭がより強く求められるとも考えられます。   そのような観点からは、先ほど小木曽委員からも御指摘がありましたように、被告人の公判期日への出頭については、飽くまで、法廷に出頭させることを原則とするのが適当であると思います。そして、映像・音声の送受信による出頭は、第1に、被告人を法廷に出頭させることが著しく困難であり、かつ、期日の延期等によって対応することもできないなど、やむを得ない事情がある場合であって、第2に、被告人の防御にも公判手続の円滑な進行にも支障がなく、相当と認めるとき、という二つの要件を満たすときに限り可能とすることが考えられます。なお、重大な事件は映像・音声の送受信による出頭に類型的になじまないと考えるのであれば、一定の法定刑以下の事件に限ることもあり得るでしょう。   その上で、現行法が被告人を出頭させて公判期日を開くことを原則としているのは、被告人の権利利益の保護だけでなく、訴訟関係人の必要性や公判審理の適正をも理由とするものであり、被告人の権利利益に直結しないものも含まれていることを踏まえますと、被告人が映像・音声の送受信により出頭することに同意している場合、すなわち、法廷に出頭する権利を放棄している場合であっても、被告人を法廷に現実に出頭させることが原則となると思われます。   他方、現行法が、被告人が不在のまま公判期日を開くことができる場合を認めているように、被告人が法廷に出頭する権利も絶対的な保障を受けるものではないと考えられますので、映像・音声の送受信による出頭が許される場合が、先ほど申し上げたように、必要性が特に大きい場合であって、かつ、被告人の防御にも公判手続の円滑な進行にも支障がないときに限定されるのであれば、映像・音声の送受信による出頭の適否の判断は、裁判所においてなされるものとし、必ずしも被告人の同意を要件とする必要はないという考え方も成り立ち得るとは思います。もっとも、この場面での被告人の意向は、映像・音声の送受信による出頭の適否を判断する際に相応に重視すべき事情ですので、その位置付けについては、具体的な要件の在り方の中で、更に検討する必要があると考えております。   以上を前提に、先ほど言及した第1要件と第2要件の内容について更に敷衍したいと思いますが、第1要件については既に小木曽委員から具体的な場面が示されておりますので、私は、第2要件である相当性の判断における考慮要素について申し上げます。   まず、当該期日において行われる手続の内容は考慮することになると思います。   また、法廷外から公判期日に参加する被告人の所在場所によっては、その場所に第三者がいたり、法廷の状況が無断で録音・録画されたりするおそれがあるなどの理由で、証人が供述をためらい、手続を進められなくなったり、事案の真相解明が妨げられたりすることもあり得ますので、そのような事態を防止できる状況が確保されているかどうかも考慮要素となると思われます。   さらに、被告人を映像・音声の送受信により出頭させる場合に、弁護人による援助が適切に確保されるかどうかも考慮事情になると思われます。なぜなら、刑事訴訟法第289条は、一定の事件については、「弁護人がなければ開廷することはできない」と規定しているところ、その趣旨は、それらの事件には必ず弁護人がいることを確保することにより、被告人の権利保護及び当事者主義の強化を図ると同時に公判審理の公正を確保する点にあるとされており、この趣旨に照らせば、単に弁護人が選任されているだけではなく、弁護人が被告人の近くにおり、その援助が直ちに受けられる状態にあることが確保されることも、手続の進め方として、法の要請するところと考えられるからです。   以上をまとめますと、裁判所が第2要件である相当性を判断するに当たっては、訴訟関係人の意見を聴き、手続の内容や被告人の所在場所のほか、弁護人の人数等も考慮し、被告人の防御にも公判手続の円滑な進行にも支障がなく、相当と認められるかどうかについて慎重に判断することになると考えられます。 ○久保委員 ただいま、小木曽委員、成瀬幹事からも御指摘がありましたように、やはり刑事裁判の公判期日は、原則として、ビデオリンク方式の出頭によって現実の出頭に代替させるべきではないと考えております。これは、被告人だけではなく、弁護人、検察官、裁判官、いずれもそうであるべきだと思っております。その上で、結論としては、現行法で被告人の意思により不出頭とすることが認められているケース、例えば、刑事訴訟法第284条、第285条に該当するような場合において、ビデオリンクという選択肢を追加するという限度では賛同できるものと考えております。ですので、被告人の意思に反しないということが最も重要だと考えているところです。   先ほど、現行法において被告人が在廷しない場合としては、この刑事訴訟法第284条、第285条以外にもあるという御指摘もありました。ただ、現行法上、同法第284条、第285条以外に被告人が在廷しない場合の中には、必ずしも被告人に帰責性がない場合も含まれていると思います。例えば、同法第281条の2ですとか第304条の2は、証人に圧迫のおそれがあるというような場合において被告人が退廷させられる場合ですので、このような場合は、必ずしも被告人の帰責性がない中で意思に反して退廷する場合だと承知しております。そのような場合には、むしろ今回、ビデオリンクを仮に拡大するのであれば、被告人がビデオリンクの形で出頭するということを加えるという選択肢を考えてもよいのではないかと、意見を伺っていて思ったところです。   この点について、初めに刑事訴訟法上でビデオリンクが導入されたときの議論の経過を拝見したところ、平成12年のときの議論の際に、ビデオリンクを導入するに当たって、ビデオリンク方式には、被告人以外の訴訟当事者が証人のいる別室に移動し、その目の前で尋問するアメリカ式と、被告人以外の訴訟当事者も法廷にいて、別室にいる証人を映像上で見て尋問するイギリス式の2種類のやり方がある、というような議論が行われていたと拝見しました。それに近いような形で、弁護人や検察官はその証人の前で尋問をし、被告人はそれを映像で見るというような選択肢が、現行法上の第284条、第285条以外で、被告人の意思に反して退廷させられる場合には、むしろ追加するというような議論がなされるべきであり、現行法で必ずしも被告人の在廷が想定されていない場合があるからといって、被告人の意思に反してビデオリンクを強制させられるようなことがあってはならないと考えております。 ○向井委員 裁判所の立場から考えますと、刑事裁判手続は、被告人の有罪・無罪を判断して、有罪の場合には量刑を決めるという手続です。そして、被告人は、訴訟の当事者として、事実上・法律上の主張を行うとともに、法廷での供述が証拠方法にもなるという主体でありますので、そのような被告人の特性からすれば、被告人が公判廷に現実に出頭することは、単なる被告人の権利という側面を超えた意義があると考えております。これは、成瀬幹事がおっしゃったとおりだと思っております。   また、現行法においては、法定刑の軽い事件に限って被告人の出頭義務が免除されているにすぎないことのほか、今後も、裁判体につきましては、裁判員も含めて、公判廷への物理的な所在が引き続き必要になると考えておりますところ、裁判員裁判対象事件のような法定刑が重い事件、取り分け死刑求刑が予想されるような事件において、裁判員を含めた裁判体が被告人と対面しないまま審理を行い、判決に至ることは相当でないように思われます。   このように考えますと、仮に被告人の出頭について映像・音声の送受信による方式を導入することにした場合であっても、これを認めるのは、高度の必要性が認められ、かつ、法定刑や手続の内容に照らして映像・音声の送受信による出頭を許容することが可能な、極めて例外的な場合に限るべきであり、そのことが条文上も表れているべきではないかと考えております。 ○酒巻部会長 これまでの御意見に対する質問でも結構ですし、ほかに御意見がある方はいらっしゃいますか。よろしいですか。   それでは、続いて、検討課題の「2」の「(2)被害者参加人・その委託を受けた弁護士の出席」について、御意見のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○𠮷澤委員 現行法において、被害者参加人・その委託を受けた弁護士が公判期日に出席する場合、映像・音声の送受信によりすることが現在は認められていないことの趣旨ですが、これは、被害者参加制度というものが、そもそも被害者参加人が公判期日に出席し、いわゆるバーの内側に入って、直接訴訟活動を行うということ自体を認めるものであったからという経緯によります。ただし、被害者参加の事例が集積する中で、例外的な場合にオンラインによる被害者参加の必要性が認められるようになったという点については、これまで述べてきたとおりです。   そして、被害者参加人・その委託を受けた弁護士について、どういった要件を満たす場合にオンラインによる出席を認めるかという点についてですが、先ほどの趣旨からしますと、被害者参加人が望まないのにオンラインによる参加を強制するものではいけないということは大前提であると考えます。そもそも、被害者参加制度創設の経緯として、バーの中に入り、直接訴訟活動を行うことが悲願であったわけですから、それを被害者の意に沿わない形で後退させるようなことは許されるべきではないと考えます。ですので、被害者参加人からの申出があることを大前提として、その申出があり、かつ、訴訟運営上の支障の観点から相当である場合というような要件の立て方がよいのではないかと考えています。   そして、そのとき被害者参加人が在廷する場所についても少し述べますが、裁判所構内のほか、これまで述べていますように、その場所がセキュリティが守られ、設備の適合性などを備えていることが前提ではありますが、検察庁や地方自治体の建物といった公的施設や、可能であれば被害者支援センターの建物内など、例えば、被害に遭われて病院に入院されている方であればその病院内など、できる限り広く、被害者の負担にならない場所において参加ができるような選択肢を残しておけるよう、定めておくことが望ましいと考えています。 ○小木曽委員 今、𠮷澤委員から、制度趣旨ですとか、その後の運用を重ねるうちに被害者参加人がビデオリンクで手続に参加するニーズがあるということの御説明がありました。そのとおりと私も思います。したがいまして、当部会では、被害者参加人等が映像・音声の送受信により公判期日に出席することを可能とするための法制上の仕組みについて、具体的に検討するべきであると思います。   これを条文として定めることをイメージして具体的な要件を考えますと、今、𠮷澤委員からも御意見がありましたが、例えば、「裁判所は、被害者参加人から申出があり、相当と認めるときは、被害者参加人を映像・音声の送受信により出席させることができるものとする」といった定めを置くことが考えられますし、委託を受けた弁護士についても同様の条文を設けてよいのではないかと思います。この際の、「相当と認めるとき」の判断においては、例えば、犯罪の性質、被害者参加人の年齢・心身の状態、被告人との関係のほか、審理の状況、希望する訴訟行為の有無・内容、申出をした者の数などが考慮事情となるのではないかと思いますので、こうしたことを例示的に条文に定めるということもあり得ると思います。   この点につきまして、第2回会議で、𠮷澤委員から、希望する訴訟行為の有無・内容を考慮事情の一つとすることについて、例えば、当初は被害者参加人が積極的な訴訟行為を予定していなくても、当日の被告人の供述内容などによって急遽発言の機会を求めるということもあるので、柔軟な対応を阻害することがないよう慎重に検討するべきであるという御意見があったと思います。ただ、一般論としまして、希望する訴訟行為の有無・内容という要素がオンライン参加の考慮事情にならないというのは考えにくいので、𠮷澤委員の御意見の趣旨を今一度確認させていただければ幸いです。              (池田委員入室) ○𠮷澤委員 私が、第2回会議で、訴訟行為の有無・内容を考慮要素とすることについて慎重であるべきとお話ししたのは、そう明記することで硬直的な判断が現場においてなされてはいけないという懸念があったからなのです。例えば、被告人質問や証人尋問を予定している場合、例えば、予定しているというだけでオンラインが不可とならないか、また逆に、例えば、当初予定していなかったのでオンラインになったけれども、当日の被告人や情状証人などの発言内容によって急遽対応が必要となったときに、オンラインだから事実上難しいというふうに事実上の制限が掛かってしまわないかと、そういう懸念がありましたので、慎重であるべきと申し上げました。当初予定される訴訟行為の有無・内容を考慮事情の一つとして入れること自体については、飽くまで柔軟な対応がなされることを前提として、仕方がないことと考えております。 ○小木曽委員 ありがとうございます。当日、被害者参加人等との意思疎通を図る必要が生じたときに、それをすることのできるような環境が整ったり、あるいは、一旦オンライン相当と判断されてもリアル参加に切り替えることができるような運用がされたりすれば、希望する訴訟行為の有無・内容を考慮事情とすることは差し支えないと受け止めました。   あわせて、𠮷澤委員からは、裁判所の構内以外の場所からも出席することができるものとすべきであるという御意見がありました。   具体的にどのような場所から映像・音声の送受信による出席を認めるかについては、その場所で、無断で録音・録画が行われないようにすることが可能かといった点のほか、訴訟指揮権等の行使や検察官との意思疎通を十分に図ることができるようにするといった観点から、裁判所が、相当と認められる場所を判断して、その指定する場所から出席させることができるようにするべきであろうと思います。 ○久保委員 まず、被害者参加人等がビデオリンクにより参加するという制度を作ること自体について反対するものではございません。ただ、やはり第三者の影響が排除されること、録音・録画が行われない状況を担保するということは非常に重要だという観点で、場所につきましては、やはり被害者の方の御負担を踏まえてもなお、裁判所に限るべきだと考えております。 ○向井委員 被害者参加人等の映像・音声の送受信による出席の必要性につきましては、なるほどと理解したところです。他方で、導入に当たっては幾つかの課題もあると思われます。検討会の方で裁判所委員から述べたところの繰り返しになるところもありますが、手続を執り行い、訴訟運営に責任を持つ裁判所の立場から、改めて幾つか指摘させていただきたいと思います。   まず、被害者参加人が映像・音声の送受信により参加する場合も、証人等への尋問の場合と同様、被害者参加人に対する様々な配慮を含め、訴訟指揮権や法廷警察権の行使が十分に確保されている必要があります。また、訴訟関係者のプライバシー確保の観点から、先ほども言及がありましたけれども、無断録画等の事態を防止する必要もあります。裁判官が法廷で訴訟指揮を行いながら、常にモニターを観察してこのようなことを行うというのは、実際上、難しいところがあり、特に複数の場所を同時に確認するということになりますと相当な困難があります。   また、職員の立会いということに関して申し上げますと、証人尋問と異なり、被害者参加は公判審理全体を通じて行われるため、その立会いが相当長時間にわたり、裁判員裁判などでは連日、朝から夕方まで行われます。このような長時間にわたり必要な人員を常に立ち会わせるという場合、裁判所のみでその役割を担うことはなかなか難しいということも御理解いただきたいと思います。   さらに、審理運営上の課題として、被害者参加人や被害者参加弁護士と検察官との間の意思疎通に関する点も指摘しておきたいと思います。被害者参加の制度は法律上、検察官と被害者参加人等との緊密な意思疎通が前提となっている制度です。実務上も、被害者参加人等は検察官との間の緊密な連携を図っており、事前に打合せを行っていたとしても、例えば、公判廷における被告人等の実際の供述内容等に合わせて、法廷で追加の質問事項等の打合せを行っている様子はしばしば目にするところです。被害者参加人等が映像・音声の送受信により参加している場合、その打合せのために頻繁に休廷を挟むとなりますと、円滑な審理運営を妨げる可能性があります。   このように考えていきますと、仮に被害者参加人等について映像・音声の送受信による参加制度を導入する場合には、これらの課題を踏まえた制度設計や運用を考える必要があります。別室での職員の立会いについて、被害者参加弁護士や検察庁の職員等も含め、関係者全体で協力して態勢確保に御協力いただく必要があると思われますし、円滑な訴訟運営という観点から、例えば被害者参加弁護士が付いていないなど、被害者参加人御本人と検察官との頻繁な意思疎通が必要な場合には、直接法廷にお越しいただくということも考えられるところです。   なお、𠮷澤委員から御指摘のありました裁判所以外の場所につきましては、ほかの部屋に音声等が漏れる可能性も含め、何らかの形で録音・録画されている可能性がないかどうかを完全に確認することは、仮に裁判所職員を当該場所に派遣したとしても困難と言わざるを得ません。特に、審理全体を通じて撮影している場合、ある特定の手続の場面に限った場合以上に、録音・録画されたり中継のような形でインターネットに流れたりするおそれがあることから、手続の実施に責任を持つ裁判所としては、特に慎重に検討せざるを得ないと考えております。 ○𠮷澤委員 今、いろいろお話しいただいた点に関してなのですけれども、まず、訴訟指揮権・法廷警察権にとって支障があってはいけないということは、私ももちろん理解しておりますし、それが大前提であると考えています。特に、今、向井委員がおっしゃられました場所に関してなのですが、検討会のときからも職員の立会いをお願いしてきたところなのですけれども、その場所については、久保委員は先ほど裁判所の構内に限るべきとおっしゃっていましたが、構内でなくても、そのほかの場所でも、職員の方に立ち会っていただいて訴訟指揮権・法廷警察権というのを及ぼしていただければいいと考えています。   場所については、セキュリティの問題であったりとか、録音・録画が絶対になされないこと、第三者の立会いがないなど、そういう条件を満たすのは必須であるということも私は理解しておりますが、そういう場所というのは、例えば、公的施設、検察庁であったりとか、そういう場所であれば満たすことは可能なのではないかと、今からそれを全て排除するような建付けではなくて、そういうことも全て含めて、今後、オンライン化がどんどん進んでいく中で、あちこちのそういう公的な役所などであれば特に、セキュリティに配慮したり、そのようなオンラインでのやりとりに特化した部屋ができないとも限りませんので、今後そういう可能性も見据えて、全ての事情をきちんと判断して、裁判所が適切と認める場所というような形で広く捉えられるように、今の段階では考えておいていただけないかと考えます。   また、訴訟活動の関連についても少し述べますが、被害者参加人からしても、訴訟活動を十分に円滑に行いたいという希望は当然にあります。それをするために参加弁護士として入りますので、それは十分に円滑に行いたいというのがあるのですが、ただ、本当に急遽、当初はそれほど予定していなかったことが起こるということは、やはり生の事件ではあり得ます。   一方、これは検討会のときに佐久間委員もおっしゃっていましたが、被害者参加人が、例えば証人尋問や被告人質問を行うことを当初から予定しているときには、事前に、入念に検察官と協議をして臨むわけなのですけれども、それで本当にこの被告人質問、情状証人の尋問については、元々、現場での緊密な連携が必要であるということが予想される場合は、当然在廷を望んで行うわけです。被害者御本人は、仮に、例えばオンラインで参加するとしても、弁護士は在廷して、それで十分に行いたいということになるのではないかと思っておりますので、そういったところも柔軟に対応していただけるような形で、場所も含めて、制度設計を立てていただきたいと考えています。 ○久保委員 まず、先ほど向井委員がおっしゃった、モニター観察をしながら尋問を執り行うことには相当な困難があるという御指摘について伺っていて、なるほどと大変思ったところです。同じところに在廷しながら管理をするということと、モニターに意識を取られるということは、やはり大きな違いがありまして、モニターに意識が向いた結果、証人の表情だったりとかということをきちんと観察できないということになると、それはそれで大きな問題があると思いますので、やはり要件の立て方については慎重な検討が必要だと思いながら聞いていたところです。   その上で、場所につきましては、これも向井委員が御指摘のとおり、どこまでいっても、裁判所以外であれば、録音・録画をしている可能性だったりとかということを排除することは不可能ではないかと思っておりまして、場所についていろいろなことを想定して幅広い選択肢をというような御趣旨の御発言も𠮷澤委員からあったところではありますが、これはやはり要件としても裁判所に限定するべきというのが私の考えでございます。 ○酒巻部会長 検討課題の「2」の「(2)」に関し、ほかに御意見あるいは御質問はございますか。活発に御意見ありがとうございました。では、先に進みます。   次に、検討課題の「3 映像・音声の送受信による裁判員等選任手続の実施に関する規律」について御意見を伺います。「3」についても「(1)」と「(2)」がありますが、分けて議論するのが良いと思いますので、まず、「(1)裁判員候補者の出頭」について、御意見をお願いします。 ○成瀬幹事 初めに、映像・音声の送受信により裁判員等選任手続を実施する意義について申し上げたいと思います。   仮に、裁判員候補者を映像・音声の送受信により裁判員等選任手続期日に出頭させることができるものとすれば、裁判所までの移動に長時間を要するなどの裁判員候補者の個々の事情に応じた対応が可能となり、負担の軽減につながると思われます。また、感染症の大規模拡大や大災害によって、安全確保のため移動が制限されたり、交通の途絶等が生じたりして、裁判員等選任手続の行われる裁判所への移動に困難が伴う状況においても、裁判員候補者となった国民の安全を確保しつつ、手続を滞りなく進行させることも可能となります。   これらの意義を念頭に置いた上で、裁判員法の規定を確認してみると、同法第27条第1項は、裁判所は、裁判員等選任手続期日を定め、同項各号に当たる者を除き、当該期日に裁判員候補者を呼び出さなければならないこととしています。これは、期日においては、不公平な裁判をするおそれの有無といった不定型な不適格事由を判断する必要があり、そのための質問や裁判員候補者の回答、これを踏まえた更なる質問などを即時的に行うことを考えると、対面で手続を行うことが適切かつ効率的であると考えられたものと思われます。また、同法第33条第1項は、裁判員等選任手続を公開しないこととしていますが、その趣旨は、質問やその回答が裁判員候補者自身や事件関係者のプライバシーにわたる事項にも及び得ることから、その保護を図ることにあると思われます。   以上を踏まえて、裁判員候補者に映像・音声の送受信による出頭を認めた場合にこれらの趣旨を害するような弊害があり得るか、また、あり得る弊害に対してどのような対応が考えられるかについて検討します。   まず、裁判員等選任手続期日において、裁判員候補者とのやり取りを通じて、欠格事由等に該当するかどうかや更なる質問の要否を裁判官、検察官、弁護人等が判断するに当たり、裁判員候補者の表情や態度を対面でつぶさに観察するまでの必要はないと思われますので、そのような観点からの要件を設ける必要はないと考えます。   他方で、手続が非公開とされている趣旨を害することがないようにする観点から、裁判員候補者が映像・音声の送受信により出頭する際の所在場所は、周囲に第三者が所在することなどにより手続の状況が第三者に漏えいするおそれがない場所でなければならないと考えられ、裁判員候補者の所在場所については、そうしたことを考慮し、裁判所が指定するものとするべきであると考えられます。   以上の検討をまとめる形で、裁判員候補者に映像・音声による出頭をさせる手続や要件のイメージを申し上げますと、裁判所に呼び出す場合の規定に加えて、例えば、「裁判所は、検察官及び弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、裁判員等選任手続期日の行われる場所と映像と音声の送受信により相互に相手の状態を認識しながら通話をすることができる方法により接続された場所であって、裁判所が指定する場所に裁判員候補者を呼び出すことができる」という規定を設けることが考えられます。そして、ここでの相当性は、当該裁判員候補者が裁判員等選任手続期日の行われる場所に出頭することが困難な事情や、利用可能な施設・設備の状況等を考慮して、裁判所が判断するものとすることが考えられるでしょう。   その上で、裁判員候補者の意思に係らしめるか、すなわち、裁判員等選任手続が行われる裁判所の構内に現実に出頭するか、それとも裁判所が指定する別の場所に出頭するかを裁判員候補者が選択できるようにすべきかという点につきましては、どのようなケースで映像・音声の送受信による手続を行うことを想定するかや、実務的にどのような対応ができるのかなどに関する裁判所の委員・幹事の皆様の御意見も伺いながら、更に検討していく必要があると思います。 ○向井委員 裁判員等選任手続につきましては、個別に候補者の健康状態や御家族の介護等に関する事情などの辞退事由に関わる機微にわたる事情についてやり取りをしたり、選任手続で裁判所が明らかにする当該事案の概要等に関して候補者が不安に感じていることについてやり取りすることもありまして、それらの際には候補者の様子を観察しながら丁寧に行っているところがあります。   このように、候補者の方に実際に手続を行う裁判所にお越しいただいて対面で手続を行うことには重要な意義があると考えておりまして、基本的には現実にお越しいただくのが原則であろうと考えております。したがいまして、映像・音声の送受信による選任手続への出頭の制度を導入するとしましても、具体的にどのような目的・必要性を前提に導入するのかといった点を整理し、現実にお越しいただくことの意義を上回る必要性が認められる場合に導入するといった観点からの検討も必要であろうかと思います。   このような観点から申し上げますと、例えば出席率の向上という点を導入の意義として捉えるのであれば、裁判所として、遠隔地に居住する候補者の出席率が他の地域に居住する候補者に比べて目立って低いといった事情を把握しているわけではありません。なお、特に転居して他の都道府県に在住する裁判員候補者につきましては、そもそも審理についても参加が困難であるとして辞退の申出がされ、辞退が認められることが多いのが実情です。   そういたしますと、候補者の利便性の向上を目的とするということが考えられますが、実際には、候補者によってニーズは多種多様です。例えば、遠方であっても、むしろこの機会に自身の用事なども兼ねて裁判員裁判を実施する庁に直接出頭したいという方や、勤務先が近いという方も少なからずおられます。個々のニーズに広く対応するということになると合理的ではなく、出頭いただくのが原則という考え方にも沿わないと思われます。   なお、候補者の方にとっては、特に選任されなかった場合に、映像・音声の送受信による方法で簡便に出頭できればよかったとの感想をお持ちになることが考えられます。この点につきましては、候補者の呼出し人数について、選任されない人数が多くならないように実務上配慮しているという実情も併せて紹介しておきたいと思います。   その上で、候補者等が裁判員等に選任された場合という視点からも申し上げます。選任された場合には、手続後に裁判所から法律上説明が必要な事項の説明、いわゆる39条説明を行うほか、法廷や評議室で着席位置や動線等を実際に確認していただいたり、緊張を解くような会話をお互いに交わしたりするなどしており、このような配慮は、裁判員等の不安を取り除き、円滑に審理に臨めるようにするために重要な役割を実務上果たしております。また、映像・音声の送受信による出頭の方が選任されたという場合に、公判期日に実際にお越しいただけるのか見通せないという面もあります。   以上のほか、実務的な問題としましては、出頭場所についてはプライバシー保護等の観点から裁判所にお越しいただく必要があると思われるところ、庁によっては連日のように行われることもある選任手続の全ての日について、各裁判所が映像・音声の送受信による出頭の場所として人的・物的態勢を整えておくというのは現実的ではなく、日程等の調整の必要のため、迅速さにももとるという問題もあります。   このように様々な課題があることも踏まえ、現実的・合理的な制度としてどのような仕組みが望ましいかということを検討していく必要があると考えております。 ○近藤幹事 私からは、向井委員に補足して、感染症拡大下における選任手続の実情について申し上げたいと思います。   各地の裁判所におきましては、現在、コロナ禍においても、幅広い裁判員候補者や裁判員の方に安心して参加していただけるよう、政府の取組や専門家による助言も踏まえつつ、様々な感染症防止策を講じた上で手続を円滑に実施しているものと承知しております。   したがいまして、映像・音声の送受信による選任手続によらなくても、感染症対策を講じることは可能であると考えております。 ○久保委員 まず、弁護人の立場としましては、裁判員の不選任請求に当たっての情報収集に支障がないということが最も重要だと考えておりますので、導入の要否自体について積極的に反対するものではありません。   ただ、現実的な流れを考えた場合に、現在、裁判員裁判の日程を決める際には選任期日も含めて数か月先の日程をまず決めることになっております。候補者というのはその後に決まることになりますが、どこにその候補者がいるのかということは、呼び出す候補者が決まった後になりますし、さらに、実際に来る人がその時点においてどこにいるかというのは、その選任の直前まで分からないということになります。   当然のことながら、大規模災害ですとか感染症というのは直前まで分からないということが、特に災害についてはそういうことが想定されるわけでして、数か月先に日程を決めていたものについて、例えば、候補者全てをカバーできるような場所というのをあらかじめ準備するということが現実的に可能なのだろうかということがなかなかイメージできないというところでもありまして、裁判所が指定した場所に呼び出すということであればよいというものではなく、やはり裁判員候補者が大規模災害ですとか感染症に合わせて、個別の候補者に合わせて、実際に裁判を行う場所以外に呼び出すということが、なかなかイメージが持てないというのが率直なところです。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「3」の「(1)裁判員候補者の出頭」について、御意見等はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、「3」の「(2)被告人の出席」について、御意見を伺いたいと思います。 ○成瀬幹事 被告人の出席について意見を申し上げます。   裁判員法第32条第2項が、被告人は、裁判所が必要と認めるときにのみ裁判員等選任手続に出席させるものとし、必要的な出席者としていないのは、裁判員等選任手続では裁判員候補者のプライバシーに関する事項が明らかにされるため、被告人が終始出席しているのは相当でなく、弁護人が出席しているため、被告人が終始出席する必要もない一方で、裁判員候補者が被告人の同居人であるなどと述べ、弁護人ではその事実を確認できず、被告人にその裁判員候補者の顔を見させて確認させる必要があるときなどには、個別に出席させることが必要になることが想定されることによるものとされています。   そうであるとすると、被告人が現実に対面する形で裁判所に所在せず、映像・音声の送受信により出席するとしても、裁判所が被告人を裁判員等選任手続期日に出席させる目的を達することができる場合もあると考えられます。そして、目的を達することができるかどうかは、被告人を出席させる目的に照らし、裁判所が適切に判断することができるものと考えられ、例えば、被告人に裁判員候補者の顔を見せたり声を聞かせたりする必要があるものの、映像・音声の送受信によっても画質や音質に支障はなく事足りる場合には、その方法による出席で足りる一方で、利用できる設備の性能等の制約により十分な環境を準備できないときは、現実に出席させるといったように判断することが考えられます。また、映像・音声の送受信により出席させる場合の被告人の所在場所は、先ほど申し上げた裁判員候補者の場合と同様に、裁判所が指定できるものとすべきでしょう。   検討会では、裁判員等選任手続に被告人を映像・音声の送受信により出席させるニーズが果たしてどの程度あるのかという御指摘もあったところですが、仮に制度として設けるのであれば、その手続や要件についての規定のイメージとしては、例えば、「被告人を出席させる必要があると認める場合において、検察官及び弁護人の意見を聴いて、相当と認めるときは、裁判所は、その指定する場所から映像・音声の送受信の方法により被告人を出席させることができる」などとすることが考えられます。   なお、第2回会議において、久保委員から、被告人の所在する場所にも弁護人がいる必要があるという御意見が示されたところですが、仮にそれを要件とすると、国選弁護人の場合には、裁判員等選任手続に出席する弁護人とは別に、被告人の傍らにいる弁護人を、そのためだけに追加して選任するという事態にもなり得ます。   御指摘の点については、検討会でも、刑事弁護の立場から河津委員が同様の意見を述べておられましたが、さきに申し上げたとおり、被告人の出席は、裁判員候補者の容貌等を確認させて、その者と既知の関係にあるかなどを確認させるために裁判所が求めるものであり、被告人はその有無等について述べれば足りることからすれば、仮に、被告人がその回答をするに当たり弁護人と打合せをする必要が生じたとしても、弁護人以外の者が同席しない場所で弁護人と被告人がビデオリンクで打合せをすることでも足りるように思われます。よって、被告人の傍らに弁護人がいることを要件とするまでの必要はないと考えます。 ○久保委員 ただいま、私が以前申し上げた意見につきましては成瀬幹事から御紹介いただきましたので、その上で、成瀬幹事から御指摘のあった被告人と弁護人との意思疎通の点についてなのですけれども、先ほど、正にビデオリンクで意思確認ができればよいのではないかという御指摘があり、確かにこの裁判員候補者の様子を見るという点では、既知の者かどうかということを確認できればよいという面もあると思います。仮にそのような仕組みとするのであれば、正に裁判員の選任手続と同時並行で被告人と弁護人がビデオリンクできる仕組みということが必要になるのではないかと思った次第です。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   検討項目の「3 裁判所の手続への出席・出頭」について、検討課題として明記されていない点に関するものを含め、ほかに追加で御意見等はございますか。よろしいですか。ほかに御意見がないようですので、「3」についての議論はひとまず終えることにしたいと思います。   それでは、先に進みまして、「4 証人・鑑定人の尋問及び通訳等」についての議論に入ります。   議論に先立ち、配布資料8の「4」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料8の8ページ・9ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」の「①」として、証人尋問を映像・音声の送受信により実施することができる場合として、「ア 現行法と同様の映像・音声の送受信によることの必要性を示す要件を満たす場合」及び「イ 当事者に異議がなく、裁判所が相当と認める場合」という二つの場合を追加して規定することを記載しています。   また、「②」として、鑑定人尋問・通訳を映像・音声の送受信により実施することができる場合として、証人尋問よりも広い要件で実施することができるものとする規定を設けることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「①」に関係する検討課題として、映像・音声の送受信による証人尋問ができる場合に関する規律を記載しています。   そのうち、「(1)映像・音声の送受信による証人尋問ができる場合の追加・拡大」では、現行法において映像・音声の送受信による証人尋問ができる場合が限定列挙されている趣旨や、その趣旨に照らし、「イ」の「ⓐ」から「ⓔ」までに掲げる証人について、映像・音声の送受信により証人尋問を実施することができるものとするか、実施することができるものとする場合、その要件として、どのようなものを規定するか、「考えられる仕組み」「①」「イ」の場合における裁判所による相当性の判断は、どのような点を考慮してどのようにして行われることとなるかなどの点が、また、「(2)証人の所在場所」では、現行法上、証人の所在場所が、公判が行われる裁判所又は他の裁判所の構内に限定されている趣旨や、その趣旨に照らし、証人の所在場所を裁判所の構内に限定しないものとする場合に、どのような規律が必要となるかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   「2」には、「考えられる仕組み」の「②」に関係する検討課題として、映像・音声の送受信による鑑定人尋問・通訳等ができる場合に関する規律を記載しています。   そのうち、「(1)鑑定人尋問」では、鑑定人尋問を映像・音声の送受信により実施することについて、どのような要件を満たす場合に実施することができるものとするかや、その場合における鑑定人の所在場所について、どのような規律が必要となるかなどの点が、「(2)通訳」では、通訳を映像・音声の送受信により実施することについて、どのような要件を満たす場合に実施することができるものとするかや、その場合における通訳人の所在場所について、どのような規律が必要となるかなどの点が、「(3)検証」では、検証を映像・音声の送受信により実施することについて、何らかの法制上の措置を採る必要があるかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容について、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは早速、議論に入ります。   まず、検討課題の「1 映像・音声の送受信による証人尋問ができる場合に関する規律」について御意見を伺います。この項目につきましては、「(1)」と「(2)」は相互に関連しますので、どちらの点について御発言いただいても結構です。御意見等のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 総論的な意見を申し上げたいと思います。   まず、被告人には、検察官の主張立証に反論する機会として、証人審問権が憲法で保障されております。証人の証言は、宣誓と偽証罪による威嚇を前提として、相手方当事者及び事実認定者による観察や反対尋問に耐えてこそその供述内容が証拠となる、というのがその権利を支える理由であると思います。しかし、取り分けその事件の被害者が証人となるような場合、公判廷で証言し、反対尋問にさらされることによる心身への負担が二次被害として認知されるようになりますと、証人審問権の実質的内容を保障しつつ、被害者保護の観点から、証人尋問の方法に工夫を加える方策が模索されるようになりました。   御案内のとおり、その一つがビデオリンクによる証人尋問であります。当初は、公判廷で証言することに起因する精神的負担を回避・軽減するため、性犯罪の被害者等、法廷で供述すると圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある者を対象として、法廷と同一の裁判所構内にある場所とを接続してビデオリンクを実施することだけが定められておりましたが、後に、公判期日が開かれる裁判所に出頭することにより精神的圧迫を受けたり、出頭時に加害行為等がなされたりするおそれがある場合などは、法廷と同一構内ではない場所とを接続して証人尋問を実施することも可能とされました。証人尋問は言語情報だけが伝達されれば足りるというものではなく、証人の表情等の観察や法廷という場の持つ意味によって供述の真摯性や真実性が担保されることも含めて証人審問権の内容となると解されるために、対面によって行われることを原則とするわけですが、現行法は、その権利の実質的な内容が保障されることを前提に、ほかに実現ないし保護すべき利益がある場合に限って、ビデオリンク方式による証人尋問を認めたものと解されます。その利益として現行法が想定するのは、一言で申しますと、証人保護の必要がある場合と、証人が遠隔地に居住するため出廷が著しく困難な場合であります。   そこで、今ここで検討すべきは、ビデオリンクによる証人尋問を必要とするそれ以外の利益の有無だと思います。例えば、検討課題の「1」「(1)」「イ」に記載されている外国所在証人、専門家証人、入院中の重症患者、刑事施設等に収容中の証人といった類型の証人は、それぞれ裁判所への出頭が困難な事情がありまして、証人尋問をビデオリンク方式により実施することで、適正な事実認定に資する証言を適切な時期に得るという公益が認められるわけですが、現行法ではこれらの証人のビデオリンクによる証人尋問は制度的に予定されておりません。したがいまして、当部会においては、現行法のビデオリンクに関する定めについて、類型の追加拡大の是非や、その方法を検討するべきであると思います。 ○𠮷澤委員 これは、今まで述べてきたところでもあるのですけれども、当時ビデオリンク方式が導入された当時よりも、現在は相当技術も進んでおりまして、リアルでの尋問に比べ、映像・音声による供述態度の確認の難易ということにつきましては、差異は当初よりも小さくなっているのではないかと考えられ、この検討会でも、ビデオリンクによる尋問の対象を拡大するべきではないかということで議論がされてきたと理解しています。   五つの類型が挙げられておりますうち、「ⓔ」についてなのですけれども、現行刑事訴訟法の第157条の6第1項第1号・第2号では、一定の性犯罪の被害者であることが列挙されているのですが、こういった犯罪被害者については、類型的に同一構内に在廷し証言をすることが非常に困難であることが認められた結果、このような条文列記になっていると思います。   ただ、DV、ストーカー、身体的虐待を受けた児童につきましても、加害者に対する恐怖であったり、同一の法廷に所在し、精神の平穏を害される程度というのは、これらの性犯罪と変わらないと考えられます。現在、ストーカーなどの被害者は、同一構内でのビデオリンクであれば、同項第3号ですくうしかないのですが、実務の運用上かなり厳格に判断されておりまして、実際はビデオリンク方式によることが必要だと思われるケースでも、実施できていないケースもあるというのが実情です。そこで、現在、同項第1号・第2号で定められている罪種と同等の保護の必要性があるものとして、DV事案に起因する刑法犯や特別法犯、ストーカー事案に起因する刑法犯・特別法犯、身体的児童虐待についても、例えばこの第1号・第2号の後に追加するなどの方法で明記していただくということが考えられると思います。   また、被害者が重傷を負って入院中であり、裁判所に行くことができないという、遠隔地でなくても出頭自体が不可能という「ⓒ」のケースも考えられますので、そういった場合は、この場所とも関連しますが、入院中の病院に所在したままオンラインにより証人尋問を行うということで、被害者の協力を得る選択肢を設けることも必要だと考えています。そして、そういった場合にも証人尋問ができるようにする要件立てなのですけれども、実際、今後もオンラインによる手続に関する技術が進歩し、現在よりも一層国民の生活にオンラインが定着していくということも予想される一方で、必要性についても現在認識されないニーズが将来的に生じる可能性も十分ありますので、そういったときにも柔軟に対応できるよう、ある程度包括的な規定で定めておくこともよいのではないかと思います。   ですので、要件としましては、例えば現在あります刑事訴訟法第157条の6第1項第1号・第2号の条文列挙の後に、先ほどのDV、ストーカー事案などに起因する類型を加えまして、それとまた別にバスケットクローズな規定を整理し、裁判所に出頭することや在廷することが困難である場合について、ある程度判断要素を列挙し、包括的に定めるのがよいのではないか、また、場所についても、先ほどの、「ⓐ」から「ⓓ」ですね、そういった場合についても柔軟に対応できるよう、セキュリティが守られ、設備の適合性などを備えていることを前提とし、裁判所が相当と認める場所というように広く規定することがよいのではないかと考えています。 ○佐久間委員 考えられる仕組みの「①」「ア」により補捉すべきと思われる証人は、当部会及び検討会における議論も踏まえますと、差し当たり、皆さんがおっしゃったような、検討課題「1」「(1)」「イ」に掲げられた類型に分けられるということは妥当だと思います。また、この中で「ⓔ」については、ただいま𠮷澤委員が述べられたところに譲りますが、ここでは、「ⓐ」から「ⓓ」について、検察の立場から、その必要性について述べてみたいと思います。   まず、「ⓐ外国に所在する証人」については、刑事訴訟法第157条の6第2項第4号に該当し得るものの、現行の刑事訴訟規則が構外ビデオリンクによる証人尋問の際の証人の所在場所を裁判所の構内に限定している結果、構外ビデオリンク方式による証人尋問の実施はできませんが、外国にいる証人が本邦に渡航することは必ずしも容易ではなく、そのために事案の真相解明に支障を来すこともあり得ることからすれば、これを実施できるようにする実務上の必要性はあると思われます。   ただし、検討会でも指摘させていただいたところですが、外国に所在させたまま証人の尋問を行う場合には、偽証をした場合に、その者が我が国内に入国するか、条約等に基づいて我が国に引き渡されるなどしない限り、我が国において偽証罪によって処罰することはできないため、そのことを認識している証人にとっては偽証罪で処罰されるという威嚇力が劣ること、また、当該証人が外国に所在し続けていることなどを理由に、信用性判断に資する資料の収集や事実関係の解明を行うことができていない場合も考えられることなどの点で、国内所在証人のビデオリンク方式による証人尋問とは、供述の信用性の担保やその判断との関係で、類型的な相違点があることには留意する必要があると思われることから、これを導入することについての検討に当たっては、それらの点についての十分な措置の検討も必要になることは、前提として併せて指摘しておきたいと思います。   次に、「ⓑ専門家証人」については、医師や大学の教授など様々な方が考えられますが、特定の事件の争点に関して専門的知見を有し、適任と考えられる方は、実際には限られる上、そうした方は、同時に多忙であることが多く、勤務場所から長時間離れることはできないが、証言のための一定の時間は確保できるということがあっても、ビデオリンク方式を利用できないため、日程の調整が困難であることも少なくありません。そのような場合に、ビデオリンク方式による尋問が可能となれば、日程調整が容易となり、審理の迅速化に資すると思われます。   その上で、そのような現実のニーズに対応することができるようにするため、多忙等の事情により、出廷を求めたのでは日程の調整が困難で証人尋問の迅速な実施が困難となる場合などには、ビデオリンク方式により証人尋問を実施できるように、既存の類型を改めて対応したり、新たな類型を追加したりすべきであると思われます。   次に、「入院中の重症患者等裁判所への出頭が困難な証人」については、裁判所への移動自体が困難な場合のほか、物理的な移動自体は可能でも、そのための人的・物的負担が大きく、そのために日程調整に困難が伴うことも少なくありません。このような証人を入院先等から移動させず、必要な医療体制の下で、ビデオリンク方式で尋問を行うことができれば、証人の身体等の安全を危険にさらさず、日程調整に困難を伴うこともなく、円滑迅速な手続を実現することができるものと思われます。   そうした現実のニーズに対応することができるようにするため、病気・けがの重症度や出廷に伴う身体等への危険の内容・程度等を考慮して、先ほどのような必要性が認められる場合には、ビデオリンク方式による証人尋問を行うことができるように、既存の類型を改めて対応したり、新たな類型を追加したりするべきであると考えられます。   次に、「刑事施設等に収容中の証人」については、死刑確定者、少年院在院中の少年など、収容中の施設の外に出して公開の法廷に出頭させると、その心情の安定を害し、特殊な法的地位に伴う処遇の在り方等に回復し難い弊害が生じるおそれがあるため、配慮を要する者などが考えられるところであり、さらに、施設外への移動に際して、奪還や襲撃の危険を想定した多大な人的・物的態勢をとらなければならない場合もあります。また、受刑者一般についても、出廷の準備として一時的に別の施設に移送することが必要となる結果、継続中の処遇プログラムや矯正処遇を中断・終了せざるを得ない場合もあり得ます。   刑事施設等に収容中の証人は、被告人の共犯者であるなど、特に対面で信用性を吟味すべき者が多いとの指摘もありましたが、そうした個々の証人の立場や対面による尋問の必要性は、ビデオリンク方式による証人尋問の実施の相当性の判断において考慮されるべきものであり、一律にビデオリンク方式の活用を認めないとする理由にはならないように思われます。   そうであるとすると、刑事施設等に収容中の証人について、裁判所に出頭することが困難な事情があり、かつ、相当であれば、ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるものとすることには十分な合理性があると考えられます。   そこで、先ほど述べたようなニーズに対応するため、必要性の要件を適切に定め、既存の類型を改めて対応したり、新たな類型を追加したりすべきであると考えます。 ○成瀬幹事 ただいまの佐久間委員の御意見の中で、「ⓐ外国に所在する証人」については、実務上の必要性が認められる一方で、国内所在証人とは供述の信用性の担保やその判断との関係で、類型的な相違点があることに留意する必要があるという御指摘がございました。この点に関しては、私も検討会で意見を申し上げておりましたので、一部繰り返しになってしまい恐縮ですが、当部会でも改めて意見を述べさせていただきたいと思います。   まず、外国に所在する証人の尋問を実施するに際しては、その証人が偽証をした場合に、我が国の偽証罪の制裁を科すことが困難であることなど、国内に所在する証人に証言させる場合とは証言の信用性を判断する際の基礎となる状況が異なるという点は、佐久間委員の御指摘のとおりであろうと思います。   この点に関して、英国やドイツでは、外国からの要請で自国内の証人を当該外国の裁判所がビデオリンク方式で尋問する際に、自国の裁判所を関与させるという共助を行い、それにより、当該証人が偽証をした場合には、自国における偽証罪等により処罰することで、処罰の実効性を担保する制度があるとのことであり、そうした枠組みを適切に利用することも、佐久間委員が指摘された国内所在証人との類型的な相違点を踏まえた対応策の一つとして検討に値すると考えます。この枠組みによる場合には、外国での証言は、当該外国においても偽証罪による処罰の対象となる一方で、この枠組みによらない場合には、偽証罪の制裁による実効性が劣ることになります。   また、外国に所在する証人について証人尋問を実施する場合にも、証人が我が国の国内にいる場合と同様に証人尋問が適切に実施され得ることが確保される必要があり、そのためには、証人の所在地国の政府機関や裁判所の協力を得つつ尋問の実施に向けた調整を行うことが必要となるのが通常であると思われ、その間、公判手続が進まないという事態にもなり得ます。   以上のことを踏まえますと、外国に所在する証人についてのビデオリンク方式による証人尋問は、当該証人が審理に不可欠であることなど、その証人の尋問を実施する必要性が特に高い場合に限るべきであると考えられます。 ○久保委員 結論として、外国所在証人で出廷が困難な者に限定する形でビデオリンクを可能とするということには、その規定の仕方や運用の在り方による面はありますが、それを制度化するということにつきまして賛同ができます。それ以外につきましては、基本的に刑事訴訟法第157条の6第2項でカバーできるものばかりであり、更なる拡大の必要性はないと考えております。   もちろん、外国所在証人であったとしても対面の尋問が原則であるべきであり、まずは来日をしていただくように試みることが原則となるものと考えます。そうすると、結局のところ、この類型にあるようなものはいずれも、出廷が困難な場合に相当するのかどうかという判断に集約されるものであり、同法第157条の6第2項第4号に該当するようなものであるとも言えますので、そういったケースで外国所在証人についてもビデオリンクを使用できるようにする手当てを考えるべきだと考えております。外国所在証人以外の四つの類型につきましては、現行法で、既に平成28年の際に議論をされた上で改正をされ、カバーされているものと考えております。   ビデオリンクにつきましては、やはり伝達される情報の質と量が現場で得られる情報より制限されたものであるということ自体は共通認識だと承知しております。反対尋問につきましては、証人の顔色や視線の向きですとか、全身がどのような動きをしているのかといったことを観察しながら行っております。現在のビデオリンク制度自体が憲法の証人審問権を侵害しないという位置付けにあるということは承知しておりますが、違憲ではないということが、すなわちビデオリンクと直接の尋問が同じだけの価値を持っているということを意味することにはなりません。   この点、検討会では、笹倉委員も、被告人を目の前にしてはその人に不利なうそを容易に述べることはできないという心理的な効果があるのではないかといった御指摘ですとか、公判廷に所在することの効果として、重厚な造りの公判廷で裁判官や裁判員、被告人を含む訴訟関係人が列席する厳粛な雰囲気の中で証言するという状況設定自体が証言の信用性を高める作用を持つのではないかなどといった御指摘をされておりました。   やはりビデオリンクは飽くまでも例外であるべきであり、この点は平成12年にビデオリンクが導入された際にも繰り返し確認されていたところでありますし、平成28年の改正の際にも、反対尋問権の保障と証人保護の要請をいかに調整するかということを長期間にわたり相当の議論を経た上で、一定の要件を満たす場合に限定した形で拡充されたものと承知しております。これを更に拡大して、対面で反対尋問をする権利を奪うということは、仮に証人の負担を軽減するという利点があるとしても、やはりビデオリンク方式が直接の尋問より後退したものである以上、控えるべきであって、その結果として罪を犯していない人を処罰するという取り返しのつかない事態を招く可能性があるということを意識されるべきだと考えております。   その上で、この五つの類型について更に補足していきたいと思いますが、まず、「外国に所在する証人」につきましては賛同できると申し上げましたが、その前提として、弁護側が請求する場合にも尋問の実施に向けて尽力がされるということが前提であるべきだと考えます。やはり一個人である弁護人が、外国の関係機関と調整をして、外国機関による尋問の場所を設定するということは、想像したとしても不可能であり、出廷に際しては検察庁の協力が相当程度不可欠となるのではないかと思います。そうした場合に、尋問はやってもいいけれども協力はできないというようなことがあってはならないと考えます。   私自身の事件では、例えば、覚醒剤の密輸の共犯者と思われるようなやり取りではないかと検察官が主張している人物に連絡を取ったところ、そのような密輸の指示はしていないし、単なる友人だという供述を得られたことから、それを証拠化して請求をしたことがありますが、その本人自身は、日本に来ると共犯者と疑われて逮捕されるリスクがあるので来られないとおっしゃっている中で、検察官は、私の方で証拠化したビデオレターのようなものを、その人かどうかを判断できないし、反対尋問ができないので同意ができないという意見をおっしゃり、結局、証人尋問はもちろん、その証拠も採用されないという出来事もありました。   弁護人が作成した供述的な証拠の証拠能力は、検察官面前調書に比してはるかに力が弱いという現実がありますので、弁護側が求めた証人につきましても、制度はあるけれども、結局実質的に利用ができない制度となれば、片面的なものとなって問題がありますので、やはり弁護側の証人につきましても尋問を行うよう尽力がされるものでなければならないと思います。   他方で、検察官面前調書が存在するか否かによっては、検察官請求証人についても尋問実施に向けた尽力がどの程度なされるのかといった疑問もあると考えております。仮に、オンライン上で供述調書を作成し、それにいわゆる2号書面としての効力を認めるような場合には、検察官としては尋問実施に協力しなければ2号書面採用の道が開けるというような構造となりかねません。オンライン上で被害届や供述調書を作成し、しかし、外国にいて尋問がビデオリンクでも実施できないというような対応になり、その結果として当然に、オンライン上で作成された供述調書が2号書面としての効力を持つような事態となることには非常に問題があると考えております。   次に、「ⓑ専門家証人」という類型について申し上げますが、これはやはり専門家証人の多忙という理由で便宜を図るものであり、そのような理由で、反対尋問を対面で行うということができないとすることには問題があると考えております。やはり体験した事実を証言する証人の方が対面して反対尋問を行う必要性が高いことが多い傾向にあることは否定はいたしませんが、専門家証人も対面して尋問する必要性は高いものと考えております。対面で反対尋問する権利よりも専門家証人の多忙が優位するということは、やはりあり得ないと考えております。唯一許容され得るとすれば、被告人自身が迅速な裁判を優先する判断をした場合ですとか、弁護人において対面で反対尋問するまでは不要だと考えた場合ですので、結局、これは当事者が同意した場合にビデオリンクを実施するという類型を新たに作るかどうかという議論に集約されるべき問題だと考えます。   また、「ⓓ刑事施設等に収容中の証人」につきましても、収容施設に多大な御負担を掛けるということは否定いたしませんが、そのような人的・物的態勢の負担が反対審問権に優位するということはないと考えております。現在は、やはり受刑者、それは死刑確定者も含めて、希望をすれば適切に行えているという現実がありますので、そのような特別な類型を設けることによって、今までは対面により尋問を行えていたものがビデオリンク方式になるのではないかと懸念しております。   私自身は、死刑確定者の尋問は3名やったことがありますが、いずれも東京地裁の法廷において対面で実施をしました。その際も、特に支障はなく実施できました。一方で、証人自身が対面で行うことに不安を覚えたという死刑確定者の場合には、東京拘置所において設備を整え、その場所で所在地尋問を行ったという事例も承知しております。死刑確定者も含めて、受刑者や死刑確定者を特別に扱うべきではないという議論は平成28年の改正の議論の際にも行われており、それを踏まえて刑事訴訟法第157条の6第2項が制定されているものと承知しておりますので、この点についても特別な類型を新たに設けるべき必要性はないものと考えております。   また、「ⓔ」のストーカー事件・DV事件等につきましても同様に、平成28年の議論の際に、ストーカーやDV事件を想定した上で、それをカバーするために、刑事訴訟法第157条の6第2項が設けられたという議論経過がありました。罪名で追加するという御提案もありましたが、取り分けDVというのは罪名が傷害や暴行となると思われますので、罪名により規定するということは難しく、例えば、具体的に継続的な暴行が家庭内で行われていたのだというような疎明が、実際の公判が始まる前に検察官において具体的に裁判所に対して書面の形で行われるのは、予断を生ぜしめるので問題があるものと考えます。結局のところ、起訴されていない余罪についてあらかじめ裁判所に伝えるような事態となりかねませんので、このようなDVですとかストーカー事件、児童虐待事件について、それ自体を新たな類型として設けることは、必要性もなく相当でもないと考えているところです。   「ⓒ入院中の重症患者等裁判所への出頭が困難な証人」につきましても、現行法でカバーできるものですし、そもそもこのような重症患者につきましては、ビデオリンクを設けることで出頭することが可能になるのかということがそもそも疑問ですし、必要があれば所在地尋問ということでもできますので、これについても拡大の必要性はないものと考えます。 ○保坂幹事 1点だけ質問ですが、資料に書いてある「ⓑ」、「ⓒ」、「ⓓ」に関して、現行の刑事訴訟法第157条の6第2項各号でカバーができるものばかりである、つまり、これらの要件の下でビデオリンク方式の証人尋問は実施できるのだから対象に加える必要性がないのだと、最初の方、あるいは終わりの方でもおっしゃったように聞こえたのですが、例えば、精神の平穏を害するとか、加害のおそれがあるとか、遠隔地に居住してうんぬんという現行の要件に当たらないものについて、対象に加える必要性が指摘されているので、当たるから必要がないというのはよく分からなかったのですが、どういう意味でしょうか。 ○久保委員 では、補足をさせていただきます。そもそもこういった「ⓑ」、「ⓒ」、「ⓓ」に当たるものについてビデオリンクを導入するかどうかということは、平成28年の議論の際にも議論をされた上でこのような規定がなされました。そもそもビデオリンクが例外であるという位置付けを前提に、なおやはり証人保護ですとかそういった観点からビデオリンクの制度を導入するということで、要件を絞るということが議論され、この規定ができたものと承知しております。   そうである以上、この規定に該当しないものにつきましては、そもそもそれは要件を満たさない以上、ビデオリンクを希望したとしても、それが認められないという結論になった場合は、それはそれとしてやむを得ないものであり、さらに、それを要件を緩めて拡大するということは適切ではないと考えております。やはり相当な議論を経て要件を絞っている以上、更にこれを緩めるべきではないと考えております。   やはり要件を絞る以上、要件に該当しないものが出てくるのは当然のことです。ビデオリンクを希望すれば必ずそれを実施しますという制度になれば別ですが、それは当然のことながら、例外である以上、問題がありますし、例外という位置付けであり、要件を満たしたものだけがビデオリンクとなる以上は、必ず、希望したとしてもビデオリンクが実施できない場合というのは出てまいります。当然のことながら、ビデオリンクを希望したけれども結果としてそれが認められなかったケースというのは、弁護人がビデオリンクの実施に反対をしているというケースであり、ビデオリンクを実施しないと判断されるべき理由について具体的に弁護人において指摘され、裁判所が、弁護人の指摘には理由があると判断された上で、ビデオリンクを実施しないと判断をされているものですから、ビデオリンクが実施できないケースがあるということは必要性を基礎付ける理由にはならないと考えます。 ○池田委員 私からは、映像・音声の送受信により証人尋問ができる場合を追加・拡大するとした場合の要件の在り方について、意見を申し上げます。   先ほど、小木曽委員、𠮷澤委員から、ビデオリンク方式による証人尋問の要件の在り方について御意見があり、𠮷澤委員や佐久間委員からは、検討課題に挙げられた類型について実務の状況を踏まえた具体的なニーズをお示しいただきました。それらの御意見を念頭に、これらの類型について、現行法が定める類型と同程度にビデオリンク方式による証人尋問を実施できることとする必要性を示す要件を設けることとした場合に、どのようなものが考えられるのか、飽くまでイメージとしてではあるのですが、検討してみたいと思います。   まず、「ⓐ外国に所在する証人」については、ビデオリンク方式による証人尋問のニーズはある一方で、外国の機関に協力を求めなければならず、先ほど成瀬幹事が指摘されたように、その調整に当たる間、公判審理の停滞が余儀なくされるとの懸念もあります。そのため、この場合にビデオリンク方式での尋問を実施するのも、そのような懸念に照らしてもなお実施すべき特に高い必要性がある場合とすることが考えられます。そのような場合であることを示す要件としては、例えば、当該証人の本邦への渡航自体が困難であるか、又は渡航を求めたのでは日程の調整が困難であるために証人尋問の迅速な実施が困難となる場合であり、かつ、審理の状況等に鑑みて、当該尋問をビデオリンク方式で行う必要性が特に高いことなどとすることが考えられます。   続きまして、「ⓑ専門家証人」については、先ほど佐久間委員が述べられた実務における具体的ニーズを踏まえつつ、相応の必要性が認められる場合に限定する観点から、例えば、当該証人の職業、勤務地、職務の内容、職務上の地位、多忙等の事情により、当該証人がやむを得ず適切な日時に出廷することができず、それにより証人尋問を適時ないし迅速に実施することが著しく困難であることなどとすることが考えられます。   次に、「ⓒ入院中の重症患者等裁判所への出頭が困難な証人」については、健康上の理由から出頭自体が困難となる場合です。そして、そうした問題の有無は遠隔地に居住しているかどうかによって左右されませんので、裁判所との地理的関係にかかわらず、ビデオリンク方式による証人尋問を認めるべきであると考えられます。そこで、例えば、証人の病気・けがの重症度のほか、出廷に伴う身体等への危険の程度、必要な医療体制等の事情により、当該証人が出廷のために移動すること自体が著しく困難であることなどを要件とすることが考えられます。   そして、「ⓓ刑事施設等に収容中の証人」については、先ほどの佐久間委員からの御指摘を踏まえると、その中でも更に死刑確定者であったり、施設外への移動に際して、奪還や襲撃の危険が想定される者であったりするなど、その置かれた境遇等に鑑みて、心情の安定や移動時の襲撃等への対処等について特段の配慮を要する者について特にビデオリンク方式により証人尋問を実施する必要性が高いことがうかがわれます。そうした現実のニーズを踏まえて要件を考えるとすると、例えば、当該証人が収容されている理由、年齢、収容前に所属していた組織、施設内における処遇の状況、精神状態等を踏まえ、収容中の施設の外に出して公開の法廷に出頭させた場合には、その心情の安定を著しく害し、あるいは、移動に伴い過大な警備等を要することになることなどを要件とすることが考えられるものと思います。   なお、言うまでもないことですが、いずれの類型についても、必要性の要件が充足されればそれだけでビデオリンク方式の尋問を行うことになるのではなく、現行の定めと同様に、裁判所が相当と認めるときに限り行われるべきものと考えます。   他方で、要件の定め方としては、今まで述べてきた類型化された必要性を示す事情を要件として示すという方策のほかにも、別の在り方を考える余地もあり得るように思われます。   特に、現行法上ビデオリンク方式による証人尋問ができる場合が限定されている理由として挙げられる対面による場合と比較した場合の事実認定において生じる事実上の差異についても、𠮷澤委員から御指摘があったように、近時の情報通信技術の進展により、映像・音声の質が向上し、縮小しつつあることや、オンライン・ミーティングなどによるコミュニケーションが社会生活に浸透し、多くの人にとって違和感が小さくなっていることなどに鑑みますと、そうした差異は相当に相対化され、今後もその傾向は強まると思われます。そのように考えますと、先ほど挙げた類型にとどまらず、柔軟にニーズに対応する余地を設けておくことも正当化され得るのではないかとも思われるところです。参考までに申し上げれば、本年5月に成立した民事訴訟法等一部改正法では、民事訴訟手続においてビデオリンク方式による証人尋問ができる場合として、当事者に異議のない場合のほかに、証人が裁判所に出頭することが困難である場合と、証人が裁判長等の在席場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合の二つの類型を設けていまして、こうした例を参考にすることも考えられないものではないものと思います。   ただし、さきに述べた類型を定める方向での議論では、それぞれの類型との関係で必要性を支える事情は相応に多様であり、恐らく相当性においても考慮すべき事柄は様々と考えられます。したがって、必要性のレベルで類型化を行わないこととしても、具体的な事案において必要性を認めるに当たって考慮されるべき事情が適切に考慮されることを担保し得るような手当てとして、さきに示した規定ぶりで足りるのか、そうでないとすれば、加えてどのようなものが考えられるかも、併せて検討する必要があるものと考えております。 ○向井委員 考えられる仕組み「①」「イ」の、「当事者に異議がなく、裁判所が相当と認める場合」を類型に追加することに関して、若干意見を申し上げたいと思います。   証人尋問は、裁判所の心証形成を通じた真実発見のために重要な手続でありまして、対面と非対面との間で証人の証言態度の観察の程度には事実上の差異があるということは、今までも指摘されているとおりであり、非対面の場合、対面と比較して、心証形成をして信用性の評価を行う上で一定の制約があるといえます。したがいまして、特に必要があるという場合以外には、法廷において対面で証人尋問を行うのが相当であると考えております。   このような観点からしますと、民事訴訟のIT化において新たに設けられた規定と同様の規定を設ける場合であっても、現行法と同様、映像・音声の送受信による尋問を行う必要性が高い場合を定めた類型の一つと位置付けるのが適切であると考えており、必要性が高い場合に許容される類型であるということが条文上も表れているということが必要であると考えております。   なお、映像・音声の送受信による尋問に対する当事者の価値観や考え方には様々なものがあり得て、例えば、罪体を立証する重要な証人の場合であっても、当事者は当然ながら飽くまで当事者としての立場から、様々な観点から意見を述べることが想定され、その意見は必ずしも裁判所が行う心証形成過程等への個別具体的な影響について十分考慮されていない場合もあり得ます。そのこと自体は、当事者としての立場からの意見である以上やむを得ないものであるということを踏まえますと、裁判所としましては、当事者の反対尋問権の保障の観点とは別に、訴訟運営や事実認定について最終的な責任を負う立場として、裁判所の心証形成や証言の信用性担保の観点から、対面で尋問を実施するか否かについて慎重な検討を行う必要があるということは指摘させていただきたいと思います。   そうしますと、ここでいう「相当と認める場合」というものをどのように判断するのかが重要ということになりまして、相当というのは具体的にどのような場合を想定した規定であるかが条文上も文言として表れていることが必要であると考えております。もう少し具体的に申し上げますと、「相当と認めるとき」との規定は、現行の映像・音声の送受信による証人尋問の規定にもありまして、現行の刑事訴訟法第157条の6第1項各号又は第2項各号所定の映像・音声の送受信による尋問の要件を満たす場合は、原則として相当性が認められるという解説もされており、裁判所が相当性を欠くと判断するのは、反対当事者から反対意見が述べられ、その内容を踏まえて判断するような場合であります。実際、これまでの経験上、反対当事者が映像・音声の送受信による尋問に異議がない場合に、現行法で映像・音声の送受信による尋問の要件を満たす場合には、映像・音声の送受信によるべき必要性が高いことが既に前提となっていることから、付け加えて裁判所が独自に相当性要件を欠くと判断することは余り考えられません。   これに対しまして、配布資料8の考えられる仕組み「①」「イ」に示されている案の場合、同じ「相当と認める場合」とはいっても、先ほど申し上げましたとおり、裁判所として心証形成や証言の信用性の担保を踏まえて問題がないかどうか、映像・音声の送受信によることが本当にふさわしいのかどうか、正に相当かどうかを実質的に判断する必要があると思われ、これまでの刑事訴訟法第157条の6の場合とは異なる判断を行うことになると思われます。この場合、陳述書等であらかじめ証言内容を裁判所が把握できる民事訴訟手続と異なり、刑事訴訟手続では、争点整理手続を経た事案であっても、裁判所はあらかじめ証拠を見ていないのですから、当該証人の大まかな立証事項や位置付けを把握するにすぎず、証人の証言内容等について持っている情報が当事者よりも少ないため、裁判所が証人の証言内容等を手掛かりとして独自に具体的な検討を行って、映像・音声の送受信による尋問がふさわしいのかどうか、その相当性を判断するということは困難です。そうしますと、予想される証言内容から相当性を判断するということは余り考えられず、むしろそれ以外の事情から判断を行うことになるのではないかと考えられます。   いずれにしましても、そうした相当性判断の考慮要素が条文上に表れていない場合には、裁判所が映像・音声の送受信による尋問の相当性を実質的に適切に判断していくことが困難となり、相当性の要件を定めた意味が乏しくなりかねないことから、相当性を適切に判断するための考慮要素を条文上も明らかにしておく必要があると考えます。当事者双方に異議がないという場合であっても、裁判所としては、当該証人について映像・音声の送受信による尋問を行う必要性というところは、考えられる仕組み「①」「イ」における相当性判断に際しての重要な考慮要素の一つとして位置付けられるものと考えております。   御参考までに、必要性や相当性に関して現時点で考えられるところを申し上げますと、例えば、罪体の認定に係る重要な証人について考えますと、仮に当事者が異議を述べていない場合であっても、現行の刑事訴訟法第157条の6第2項各号の類型的要件に匹敵するような出頭困難性についての具体的事情があるために必要性が高いといえない限り、基本的には法廷に出頭していただいて対面で尋問をすることになるでしょう。他方、例えば、専門的知見やそれに基づく評価を述べていただく鑑定人や鑑定受託者といった専門家の場合には、自己の体験を記憶に基づいて供述する証人の場合とは心証形成の有り様なども異なるところもあることから、現実の出頭とすると期日が相当先になってしまうなどの場合には、映像・音声の送受信による尋問を行うことを検討する余地も大きくなるのではないかと考えます。 ○池田委員 私からも、当事者に異議がなく、裁判所が相当と認める場合を追加することについて、意見を申し上げます。   ただいま向井委員からも御指摘があったとおりですけれども、民事訴訟法でも同様の規定が追加されることとなっておりますし、検討会の議論でもこの点については意見としては一致が見られたところでありました。事実認定を行う上で、対面とビデオリンク方式の間に事実上の差異はあるということではありますけれども、そうであるとしても、当事者双方が対面尋問による利益の実現を求めず、かつ、手続を主宰し、証人尋問の結果に基づいて判断を行う責任を負う裁判所において支障がない、相当であると判断する場合には、ビデオリンク方式による尋問を実施し得るとすることについて大きな問題はないものと思われます。   その上で、この場合、向井委員から今、必要性と相当性についての考慮事情について詳細な御指摘があったところですけれども、裁判所としては、まずは、御指摘があったように、立証すべき事柄等に鑑みて、ビデオリンクによって尋問することが適切な心証形成の妨げとなることがないかということを考慮することになると思われますし、加えてその場合に、訴訟指揮権や法廷警察権を十全に行使できるか、あるいは、それらの観点から見て証人の所在場所が適切かといった点を考慮しつつ、相当性を考慮することになるものと考えられます。   その上で、現行規定によりますと、必要性が認められることを前提に相当性が否定されることはほぼないけれども、この異議のない場合の類型というのはそういう場合ではないので、相当性の判断内容について明確にしておく必要があるという御指摘を頂いたところです。そのような御意見に鑑みますと、例えば、審理の状況等にも鑑みて、裁判所の立場から見てもビデオリンク方式によることの必要性があるといえることを相当性の判断に含めるという趣旨を明記することが考えられまして、それ自体に問題はないものと思っております。 ○成瀬幹事 私は、検討課題の「(2)証人の所在場所」について意見を申し上げます。   刑事訴訟規則第107条の3が証人尋問を同一構内以外の場所との間で映像・音声の送受信により実施する際の証人の所在場所を「尋問に必要な装置の設置された他の裁判所の構内にある場所」に限定しているのは、裁判所による訴訟指揮権・法廷警察権の十全な行使や回線のセキュリティの確保の必要性などが考慮されたものであるとされています。   もっとも、検討会でも指摘されたとおり、それらを確保する方策は、証人の所在場所を裁判所の構内に限定することに限られるものではないと思います。訴訟指揮権・法廷警察権の行使が必要となる蓋然性やその具体的内容は、個々の証人の性質や証言する内容によっても異なると思われ、想定される事態の内容に応じ、例えば、必要なときは証人の所在場所に裁判所書記官等を所在させて必要な事務を行わせることなどによって、訴訟指揮権等の十全な行使を確保することができると考えられます。また、昨今の情報通信技術の進展やその普及の程度に鑑みれば、適切な機器やシステムを利用することによって、回線のセキュリティを確保することは十分に可能でしょう。   そうであるとすれば、そうした措置が講じられるときは、裁判所以外の場所に証人を所在させてビデオリンク方式による証人尋問を実施することもできるような制度とすることは可能であると考えます。   その上で、証人をどのような場所に所在させ、どのような措置を講じた上で実施するのが適切であるかについては、裁判所が、証人の性質、証言する内容、証人の所在場所の状況等を考慮しつつ、事案に応じて適切に決定することができるものとすることが適当であると考えます。   なお、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会が取りまとめ、法制審議会で採択された民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱では、ウェブ会議等により証人尋問を行う場合における証人の所在場所について、民事訴訟規則を見直し、裁判所以外の場所に証人を所在させることを認めることとした上で、部会のこれまでの議論も踏まえ、その際の所在場所の要件を定めるものとするとされていますので、今後定められると思われる民事訴訟規則の規律も参考になると思います。 ○久保委員 先ほどの池田委員と今の成瀬幹事の御指摘に関わるところでもあるのですけれども、まず1点目として、映像や音声が発展してきているので、対面で尋問することと遜色がなくなっているのではないかという御指摘もあるのですけれども、やはりビデオリンクでの尋問を考える際には裁判所の設備というものを想定しておりますので、最新の映像・音声の設備が備えられたものであるということを想定するということは前提が異なっているのではないかと思っているところです。   2点目に、池田委員と成瀬幹事から今、民事訴訟の新たな規律を参照するというような御意見がございました。特に池田委員からは、民事訴訟法の改正において、「証人の住所、年齢又は心身の状態その他の事情により、証人が受訴裁判所に出頭することが困難であると認める場合」という規定、これは改正後の民事訴訟法第204条第1号を指しているものと思われますが、これを紹介されておりました。もちろん民事訴訟法の規定と同じ規定を設けるべきだという御趣旨での発言ではないと思われますが、やはり刑事訴訟法と民事訴訟法は制定の過程ですとか趣旨も異なっておりますので、民事訴訟法がこのように改正されたからそれを参照するということは、必ずしも妥当しないのではないかと思われます。   改正後の民事訴訟法第204条第1号といいますのは、元々民事訴訟法にあった遠隔地の場合のビデオリンクの規定を改正する形で規定が制定されたものと承知しております。民事訴訟法においては元々、平成8年にこの遠隔地に関するビデオリンクの規定が置かれました。これは旧民訴から新民訴への大改正の際に、迅速な裁判という観点で、費用対効果の観点から、重要性の低いものにつき遠隔地から参加をするという観点で平成8年に設けられた規定であり、遠隔地であるということだけが要件となっていたものと承知しております。   その後に、刑事訴訟法では平成12年にビデオリンクが導入されましたが、その際には、やはり対面での尋問が重要であり、このようなビデオリンクの規定を置くことは飽くまでも例外であるということを前提とし、当時の部会においても、飽くまでも証人の便宜のためのものではないということが確認されていたものであり、民事訴訟法上、遠隔地の規定が置かれてもなお、民事訴訟と刑事訴訟の違いがあることを前提に、この遠隔地の規定が置かれたものと承知しております。もちろん民事訴訟法においても尋問が重要ではないということではなく、直接主義の観点で尋問においても重要性が認められているものと思われますが、民事訴訟法はそもそも証拠の規律が異なります。   先ほど向井委員からも御指摘があったとおり、民事訴訟においては、まず陳述書が提出され、それを確認し、補足するような形で尋問が行われますので、その重要性という観点では、やはり刑事訴訟法上のものと民事訴訟法上のものとでは位置付けが異なります。民事訴訟では、弁論の全趣旨も証拠の原因となりますし、証明度につきましては自由心証主義が採用されております。また、弁論主義は適用されず、検察官は争いのない事実についても立証責任が置かれております。そういった原理原則的な部分も含めて民事訴訟法と刑事訴訟法は異なっておりますし、また、新しい民事訴訟法第204条第1号の要件は、従来の遠隔地という規定を違う規定にするという観点で議論が行われ、制定をされました。最初、法務省から出てきた案が抽象的なものであったことについて、余りに拡大されるのではないかという意見が相次いでいたということを、法制審議会の前の商事法務研究会における検討会の議論で確認をされておりまして、ですので、抽象的な意見ではなく、幾つか例示を置くべきであるという観点でこのような規定が置かれたものであり、この新しい同条第1号は、元々あった遠隔地、しかも費用対効果の点で重要性を鑑みて、対面での尋問が必ずしも適切ではない、必要ではないのではないかと思われる場合の規定などを想定して、遠隔地に関する条文を改正されたものであり、刑事訴訟法上の位置付けとは異なるものと考えます。   取り分け民事訴訟においては、当事者のいずれかが訴訟費用を負担することになる一方で、刑事訴訟におきましては憲法第37条第2項で、「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する」とありますので、取り分けこの費用対効果を考える上でも、考えることが異なってくると思われます。そのため、民事訴訟法あるいは民事訴訟規則が改正されるとしても、それをそのまま参照することは適切ではなく、やはり刑事訴訟法におけるビデオリンクの規制を考えるに当たっては、刑事訴訟法の規律を前提に考えるのが適切だと考えます。 ○池田委員 今、久保委員から御指摘を頂いた第1点目ですけれども、将来の技術の進展を踏まえて、予測される技術の進展にも対応できるような規律を設ける、そういう視点を持つべきだというのは、検討会以来、共有されてきたところだと理解しておりますので、現在の裁判所の設備を前提に議論しなければならない必然性はないと考えております。   2点目の、民事訴訟法を参考にすることですけれども、もちろん刑訴と民訴が全く同じである必然性はないわけで、私の意見の中でも、幅広の要件設定も考えられるけれども、そこで考慮されるべき事柄が適切に考慮されるようにするための規律の在り方は、更に検討を要すると指摘しているところです。 ○向井委員 証人の所在場所について、若干意見を申し上げます。   証人の所在場所を考えるに当たりましては、まず、証人が何らの影響も受けず、自己の記憶にのみ基づいて証言を行える状況であること、それから、訴訟指揮権・法廷警察権の十全な行使が確保されること、さらには、証言内容に関するプライバシーが確保されることが必要であると考えられます。   もっとも、証人尋問といっても様々な類型のものがありますため、証人の所在場所の拡大の可否について一般論として検討するのはなかなか難しいところがありまして、これは後に議論される鑑定人等にも関わる話ですけれども、証人等の属性等に応じて、具体的な場面を念頭に置き、類型ごとに検討する必要があると考えております。   例えば、証人の中でも第三者等からの影響を受けるおそれが類型的に高い証人もいれば、さほど高くないと評価できる証人もいるところ、少なくとも第三者等から影響を受けるおそれが相応にある証人につきましては、基本的には裁判所にお越しいただいて証人尋問を行うのが相当であると考えられます。このほか、想定される訴訟指揮の内容や程度などの事情も、裁判所にお越しいただくのが相当かどうかの考慮要素になるのではないかと思われます。仮に証人の所在場所を拡大するということであれば、今述べましたような状況が確保される規律を設ける必要があると考えられます。   それから、裁判所の職員を派遣してというお話もありましたけれども、裁判所が裁判所外に職員を派遣して訴訟指揮等の補助に当たらせるということはこれまでしてきておらず、そもそも実効性のあるものとして行えるのかどうかが定かではありませんし、また、検討会でも裁判所委員が述べておりますとおり、仮にそのような方法を採るとしましても、そのためには、個別に調整し、その態勢を整える必要があり、証人尋問を機動的に実施するということが難しくなるという側面があります。 ○酒巻部会長 証人尋問につきまして、大変活発な御意見を頂きましたが、ほかに御意見等はありますか。よろしいですか。   途中になってしまいましたけれども、終了時刻が近づいておりますので、本日の議論はひとまずここまでとさせていただきまして、次回は、「4 証人・鑑定人の尋問及び通訳等」の検討課題の「2 映像・音声の送受信による鑑定人尋問・通訳等ができる場合に関する規律」についての議論から再開し、その議論を終えた後、検討項目の「5 公判審理の傍聴」についても議論を行い、更に諮問事項「三」に関する議論を行いたいと思います。   諮問事項「三」に関する議論についても、本日と同様に、資料を事務当局に準備してもらい、その資料に沿って進めていくこととしたいと思います。   それでは、次回の予定について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回の第6回会議は、令和4年12月27日午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日は、項目の途中までになってしまいましたけれども、充実した御意見を頂き、ありがとうございました。これで閉会といたします。 -了-