法制審議会 担保法制部会 第30回会議 議事録 第1 日 時  令和5年2月14日(火) 自 午後1時30分                      至 午後5時20分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  参考人ヒアリング 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第30回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は、幹事の衣斐さんが御欠席ということで、同じく幹事の藤澤さんが少し遅れられるということです。また、幹事の青山さんが途中で退席の予定と伺っております。   また、前回の部会の後に委員の交代がございましたので、報告させていただきます。委員の鈴木さんが退任され、新たに仁科さんが委員に就任されました。そこで、仁科さんにおかれまして、簡単に自己紹介をお願いいたします。 (委員の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   皆様御案内のとおり、前回の部会の後、中間試案につきましてパブリックコメントの手続が開始されております。   本日の審議に入ります前に、まず事務当局から、その点に関する説明をしていただきまして、また併せて本日の配布資料と進行予定について説明をしていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。   まず、パブリックコメントについてですけれども、既に御案内のとおり、昨年12月6日の会議において取りまとめられた中間試案について、本年1月20日にパブリックコメントの手続を開始いたしました。パブリックコメントの期間は3月20日までの2か月となっており、現在その手続期間中となっております。   次に、本日の配布資料についてです。本日のヒアリングの参考資料として、田中参考人提出の委員等提出資料30−1、公益社団法人リース事業協会提出の委員等提出資料30−2、橋本参考人提出の委員等提出資料30−3をお配りしております。内容については、後ほどの御報告で各参考人から御紹介を頂きたいと思っております。   本日の進行予定につきましては、参考人のヒアリングとして、まず、東京大学社会科学研究所教授の田中亘様から、次に、公益社団法人リース事業協会法制委員会委員長の山田周一様及び同協会事務局長の加藤建治様から、続いて丸紅株式会社法務部法務第二課長の橋本知也様から、それぞれ質疑応答を含めまして1時間程度のお時間を頂戴して御意見を頂く予定となっております。   説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。   まず、東京大学社会科学研究所の田中亘教授から御意見を頂きたいと思います。   田中さんは会場での御参加になります。私も、田中さんに会うのは何年ぶりかという感じですね。   田中さん、よろしくお願いいたします。 ○田中参考人 御紹介にあずかりました東京大学社会科学研究所の田中亘と申します。   質疑応答を含めて1時間ということでしたので、私の方から40分ぐらいお話しさせていただければと思います。   レジュメに沿ってお話しします。第1の「自己紹介」ですが、私は、商法を専門とする研究者であり、主に会社法を中心として企業法に関する研究をしていますが、担保法制については、特に倒産法制との関係で、担保権の制限の意義とか課題に関して、経済学の知見なども用いた研究を公表したことがあります。   それから、この部会の審議事項との関係では、事業担保についても最近論文を書いたことがあります。こういった経歴も踏まえて、今日は呼んでいただいたのではないかと思っております。   そういうことから、この報告では、まず商法に関係することということで、主に商法で扱われている財産権について、それを目的にする「新たな規定に係る担保権」について何らかの規定を置くとすれば、どういうことが課題になるのかといった論点についてお話しします。それから、残りの時間で担保権に関する制約についての論点を報告したいと思います。その他、事業担保についてもコメントしたいと思っていましたが、ちょっと時間的な制限もあると思うので、余裕があれば簡単にコメントしたいと思います。   そこでまず、レジュメ第2の「動産及び債権以外の財産権を目的とする担保について」です。中間試案を読みますと、主には動産と債権、しかもそれは指名債権を想定して、それを目的にする新たな規定に係る担保権について議論されているようですが、それ以外の財産権を目的とする担保権について規定を設けるか、また設けるとして、動産や債権を目的とするものと共通する規定としてどういうものがあり、どのような範囲で独自の規定を設けるかなどについては、引き続き検討するということになっています(中間試案第27)。つまり、何らか規定を設けるかどうかということも含めて検討事項になっているかと思います。   そこで、今後検討されそうな財産権として、私が知っているものを中心にお話ししたいと思います。商法ですと、手形・小切手、あるいは株式などが債務の担保目的で譲渡されることがあります。それらについて、中間試案で提案されているような規律を適用することが、必ずしも適切とは限らない場合もあるかと思いまして、その点に関して慎重な検討が必要になると考えます。   まず、手形と小切手についてですが、これについては、特に手形割引が重要と思います。手形割引というのは、実質は、手形を譲渡担保とした融資ではないかという見解が、商法学説では古くから有力に主張されています。しかし、最高裁の判例は、レジュメに挙げている昭和48年4月12日判決で、基本的には手形の売買であるとしています。ただ、ちょっと詳しい説明は省略しますが、事案によっては、実質的に担保付きの融資であると解する余地を残している判例ではないかと思いますが、基本的には、手形の売買であると述べています。   今回の中間試案のような内容が仮に立法化された場合、手形割引の性質決定についての従前の解釈に影響を与えないかという問題があります。というのは、中間試案では、債務を担保する目的で動産の所有権や債権を譲渡する場合は、新しい法律の規律が及ぶことを想定しているので、手形に関しても債務の担保目的の移転とされる場合には規律が及んでいく可能性があるのかなと思っております。   ただ、その手形割引について申しますと、従来、これは手形の売買で、手形を担保とする融資ではないということで、たとえ譲渡人が法的倒産手続に入ったとしても、手形については譲受人(所持人)がそのまま回収できるという理解で実務はやってきていると思います。これは、基本的に手形というのは、所持人に早期確実に流動性を提供する、つまり、余り原因関係などに煩わされることなく、満期になったら手形金が入ってくるようにするということが、手形(および小切手)の重要な機能になっているということがあります。そういう点からすると、手形の割引については幾らか形式的ではありますが、手形の売買と割り切って、手形金の回収を認めていることにも理由があるのではないかと思っております。   このように、譲渡人の倒産があっても所持人はそのまま手形金の回収ができるということによって、手形の価値が上がり、ひいては、手形割引によって譲渡人が受けられる代金も上がるという形で、間接的には、債務者も利益を得ているという側面がありますので、新法ができたとしても、こういった手形割引に関しては、従来どおりの効果を認めてほしいと考えております。   それから、電子記録債権については、もし法改正がされた場合に適用されることになるのかわかりませんが、電子記録債権は、基本的には手形と同じ規律になっており、実務も「電子手形」という理解で動いているので、やはり手形と同様に処理していただきたいと思っております。   レジュメの2ページ目へいきまして、商業手形担保貸付けというものがあります。これは、契約上も、手形を担保にして貸し付けると規定されているので、こちらの方は現在の倒産実務でも、手形の譲渡担保であると捉えて、手形譲渡人が更生手続に入ったときには更生担保権にしているというのが支配的であると物の本には書いてあります。恐らくその解釈もよいのだろうとは思いますが、ただこれも、実質的にどこまで貫徹されているのか分からないところもあります。仮に更生担保権になるとすれば、更生計画では、ほかの担保権付き債権は、10年とかそれ以上の期間で分割弁済になるのが普通ですが、商業手形担保貸付けの場合には、更生計画において、所持人が手形金を回収し、債権に充当できるような処理になっているようです。だからこそ、所持人も更生担保権説を争わないという面もあるのではないかと思います。だからこの辺り、実は解釈はまだ明確ではないようにも思います。ただ結論的には、契約上担保と言っている以上、商業手形担保貸付けは譲渡担保ということになるのかなとは思っております。   以上が手形、小切手に関することです。次に株式についてですが、比較的最近、最高裁平成17年判決というものが出ております。これは、非公開会社の株式の譲渡担保の事例ですが、判決は、株式を譲渡担保に供した場合の株主共益権の帰属については、その株式の内容、譲渡担保契約に至る経緯、契約の内容等諸般の事情を考慮して、契約当事者の合理的な意思解釈によって決すべきであるという一般論の下に、当該事案では当事者は共益権も譲渡担保権者に移転するという意思であったとしました。この事件は、譲渡担保設定者が、自ら株主であると称して株主総会を開催し、取締役の選解任をしてその旨の登記をした事例ですが、判決の理解では議決権も既に譲渡担保権者に移転されているので、これは虚偽でなる、公正証書原本不実記載罪になるとしたものであります。つまり、共益権まで含めて株式を譲渡担保権者に移転する意思であったと認められますと、譲渡担保権者の方が株主になったということになるということであるわけであります。   株式譲渡担保の場合、いろいろなケースがあって、名義書換をせずに、ただ株券を譲渡担保権者が預かるだけの場合もありますが、会社に対する対抗要件をも備えて、譲渡担保権者の方が株主になる場合もあります。後者の場合は、譲渡担保権者が、議決権を含めた共益権も確保する、つまり会社経営のコントロール権を確保することが、担保目的物の価値を維持するという観点からも重要性を持つ場合なのだろうと思います。特に非公開会社の支配株式を担保に供する場合を考えますと、株式の共益権が設定者に残っていますと、どういう会社経営をされるか分からない、それで株式価値も影響を受けてしまうので、確実に担保価値を維持するという観点からも、議決権も譲渡担保権者に移してしまう、つまり、譲渡担保権者が完全に株主になってしまうということが、合理性を持つ場合もあるのかなと思います。   中間試案の場合、特に動産譲渡担保については、担保権者はその価値を把握する一方、使用収益権は設定者に残るという、そういうルールを考えていると思います。このルールは、動産についてはそれでいいのかもしれませんが、株式の場合は、むしろ対会社関係でも譲渡担保権者の方が株主になってしまって、議決権なども全部譲渡担保権者が持つということに合理性がある場合がありますので、改正法ができたとしても、株式についてこのような譲渡担保のスキームは残るようにしてもらいたいと思います。   それから、中間試案の第1・5の(2)で、担保目的動産の真正譲渡の可否ということが論点になっています。「真正譲渡」とは、この文脈では、譲渡担保に供した動産を譲渡担保権の負担付で設定者が譲渡するということですが、これについて、できるようにするべきという説と、しなくていいという説の両案が併記されています。   株式譲渡担保に関して、この論点について考えますと、現行法における株式譲渡担保とは、対第三者対抗要件を備えた場合は、基本的に設定者は株式を譲渡できなくなります。具体的には、株券発行会社では、株券の移転が(会社以外の)対第三者対抗要件になりますので、株券は譲渡担保権者が持って行ってしまい、設定者はもう株式の譲渡はできなくなります。それから、株券不発行会社の場合は、株主名簿の名義書換が対第三者の対抗要件なので、その場合は対外的にも譲渡担保権者が株主になってしまうので、設定者はもう株式を譲渡できなります。振替法上の振替株式の場合も、対第三者対抗要件を備えるとすると、もう設定者は株主でなくなってしまうので、譲渡できなくなります。   株式譲渡担保において、対第三者対抗要件まで備えるときは、設定者に株式を譲渡させたくないがゆえにそうしているという面があるように思います。譲渡担保権者にとっては、知らない人が株主になってしまうと、それはそれで困るということがあると思うので、少なくとも、株式譲渡担保の場合に、設定者が株式を当然に真正譲渡できるというような規律にすると問題があるのかなと思います。   他方で、株式譲渡担保について、何かオプションを用意する、つまり、譲渡担保設定者が株式を譲渡できないようにすることもできるし、両当事者が合意すればこういう真正譲渡ができるようにするという、そういうオプションを作るというのは、少なくとも理論的にはあり得るところだと思います。   ただ、これは実務上ニーズがどの程度あるかということにも依存しており、ニーズがないのだとすれば、余り制度を複雑にしなくてもいいのかなという感じは受けております。   ちなみに、ちょっと今の話とは論点がずれるのですけれども、中間試案で検討されている事項で、私がこれはニーズがあるのではないかなと思ったのは、むしろ証券口座を目的にする担保という案です(中間試案第30)。これは、口座の中にある株式については、設定者は譲渡ができる、しかもこれは、担保権の負担付というのではなくて、完全に株式を譲渡することができる。そのようにして、債務者(設定者)が事業を継続している間は、口座の中にある株式はどんどん入れ替わるのですが、債務者(設定者)が倒産した場合は、その口座上に設定された担保権を第三者にも対抗でき、担保権者は、口座内の株式からから優先弁済を受けられるという制度で、これはあり得る制度かなと思います。これは一種の浮動担保であり、浮動担保が使える領域を現行法よりも広げようという話だと思っていまして、これはニーズはあるのではないかと思います。ただ、どうも中間試案ではこういう制度は作らないことにしたとされているので、もうこれ以上検討されないのかもしれませんが、将来的には十分検討課題になり得るのではないかと思います。   レジュメ2ページ目の4のところに参ります。株式等の有価証券に対する規律の仕方ということで、結局、特別の規定を設けるのか、解釈に委ねるのかということで、私もちょっと必ずしも結論は出ていないんですが、もしも「新たな規定に係る担保権」を、株式やその他の有価証券に適用していくとすれば、今言ったように、それらの権利の譲渡担保には必ずしも動産とか指名債権の譲渡担保にはない特性がありますので、そういった特性を踏まえて、適切な特則を設けていく必要があるように思います。   ただ、この報告の依頼を受けたときにお伺いしたところでは、部会では、動産や指名債権以外の財産権の担保化については、それほど議論は進んでいなかったということです。もし、特則について検討する時間的余裕がないのであれば、いっそこれに関しては規律を設けないで、現行法の解釈に委ねるということもあり得るのではないかと考えております。   以上が第2の部分です。レジュメ3ページにまいりまして、第3のところです。   ここから、倒産状況における担保権の制約に関する話をしたいいと思いますが、その前に、「担保権の『過剰』利用」ということについて少しお話ししたいと思います。   これは、法学の世界においても、担保権が過剰に使われるとか、そのおそれがあるという議論がされるようになってきていると思います。ただ、それは、私がこれまで理解してきたような、経済学において担保が過剰利用されるという話とは少し違って使われているのではないかという印象を持っております。担保権の経済分析において、担保が過剰に利用されるというのは、主に、レジュメに書いてある二つの場面を想定しています。いずれも担保権が利用されることで非効率が生じるようなケースを考えています。   一つは、担保権を利用する費用が便益を上回っているので、社会的効率性の観点からは、担保権を利用しない方がいいにもかかわらず、担保権が利用されてしまうという話で、ハーバードロースクールのルシアン・ベブチャックとジェシ・フリードという有名な学者が、1996年に書いた論文というのはこういうことを問題にしています。   もう一つの場面は、私が自分の論文で書いたのはこちらの場面ですが、担保権があることで非効率な事業が行われてしまう場合です。事業が正の割引現在価値(ネット・プレゼント・ヴァリュー)を生まない、つまりリスクに見合うリターンが得られないので、効率性の観点からは行うべきでないにも関わらず、担保権を利用することにより、債務者が資金を調達することができ、そういう事業を行えてしまう。これがもう一つの担保権の過剰利用です。   ここで担保権が過剰利用されてしまうというのは、いずれも、担保権は一般債権者の取り分を減らして、担保権者の取り分を増やすという機能がある、経済学でいうところの負の外部性を持っているわけです。負の外部性を持つ行為は、概して、本来行われる水準以上に行われてしまうということがあります。つまり、担保権者は、一般債権者の不利益の下により多くのリターンが得られるので、担保権を利用しない方がいい場合でも利用されてしまう。あるいは、本当は事業など行われない方がいいときでも、担保を利用することで資金を調達でき、事業を行えてしまう、そういうことになるということであります。   この担保権の過剰利用があるときには、少なくとも理論上は、担保権の効力を法的に制約することで、過剰利用が抑えられるために効率性を改善する可能性があります。これがベブチャックとフリードが論じている話なわけです。ただ、法と経済学の研究者の中でも、過剰利用というのは、確かに理論的にはあり得るけれども、現実問題として、そういう問題がどこまで深刻なのかよく分からないとも考えられています。レジュメに書いてあるジョン・アーマーという学者は、ヨーロッパの担保法制を論じている論文の中で、過剰利用というのは余りないのではないかということを言っています。   もしも担保権の制約をする必要がないのに法が担保権の効力を制約してしまうと、融資条件が債務者に不利になるなど、債務者に負担が及ぶこともありえます。レジュメに引用しているダビデンコとフランクスの論文は、割と有名な実証研究で、イギリス、ドイツ、フランスの銀行融資の条件を個票データに遡って研究したですが、これによると、フランスは、他2国と比べて融資条件が厳しい。具体的に言うと、担保の掛け目が低くなるんです。担保の評価額に対して得られる融資額が、イギリスやドイツに比べて低くなる傾向があるらしい。これは、フランスは、倒産法制が非常に担保を制約するので、そういうことを融資者も計算に入れて、最初から債務者に不利な条件で融資しているんだと、そういう解釈になっていまして、この解釈がどこまで適切さは私にはよくわかりませんが、一般的にはこういった問題が確かにあり得ると思います。   以上が、経済学で論じられている担保権の過剰利用の話ですが、これに対して、中間試案が問題にしているように見える担保の過剰利用というのは、中間試案の第3−1の補足説明の中に書かれています。それは、集合物譲渡担保において、在庫一切というような特定方法を認めるかどうかという議論の文脈の中で、もしもそういう包括的な特定方法でもいいということになると、担保の目的財産の価値が相対的に大きくなることで、@担保目的財産の価値が被担保債権を大きく上回る場合が生じやすくなる。A担保目的財産の価値が債務者資産の総価値の大きな部分を占める場合が生じやすくなるなどの弊害も指摘されていると書かれています。   私が言いたいのは、ここに書かれている@やAというのは、少なくとも経済学が考えている過剰とは違うということです。@についていうと、担保財産の価値が被担保債権額を上回るというのも、集合物譲渡担保というような浮動担保の場合、担保価値というのは上下に変動しますので、ある時点において担保価値が被担保債権額を大きく上回るということは、むしろ十分起こり得ることではないかと思います。   それから、Aの、担保財産の価値が債務者資産の総価値の大きな部分を占めるというのも、単一の融資者が債務者の事業のニーズに単一で応えるか、それとも複数の融資者が応えるかという選択の問題であって、前者つまり、単一の融資者が債務者の資金調達のニーズに応え、同時に債務者のモニタリング活動を集中的に行うような融資形態も合理性はあり得ます。その場合には、融資者は、債務者財産の大きな部分、場合によっては全財産を担保にとってもおかしくないでしょう。ですので、Aのようなことがあるからといって、それが弊害であるということには必ずしもならないのではないかなと思います。   この話が中間試案にどう関係するかというと、一つには、特定性の要求についてどう考えるかということがあります。現在の議論では、集合物譲渡担保の場合には、種類や所在(場所)、量的範囲の指定、その他の方法による特定を要求すると、そういう方向のようです。ただ、在庫一切のような包括的な特定の仕方を禁じて、こういった方法による特定を要求したとしても、債務者の在庫一切が含まれるような形で、種類や所在、場所、量的範囲を特定していくことは可能でしょう。目的物がある所全部ですね。それらをいちいち指定していくということはできるのではないかと思います。その場合、後で設定者に物の場所を移転される恐れがあるわけですが、そういったことは、コベナンツにより、無断で場所を移転することを禁止することは可能でしょう。そうすると、結局、在庫一切というような形の特定を認めたのと同じになって、むしろ在庫一切のような包括担保をとるという目的を、コストの掛かる形でやることを強制するようになってしまうのではないかなという感じがいたします。   以上のように、担保権が過剰な利用さえ恐れるというのは可能性としては確かにあるのですが、こういった、特定の方法についての規制というのは、過剰利用の防止に必ずしも役立たないのではないかという感じがしております。   レジュメ4ページにいきまして、これは皆さまには釈迦に説法と思いますが、米国法では、UCCのルールを多くの州が採用していますので、UCCの規定により、在庫一切のような特定方法もできるわけです。過剰利用の問題は、確かに可能性としてはありませんが、その辺りは、アメリカ法が実際にやっているように、将来取得財産に対する担保権の効力の制約とか、そういった形で対処する方がいいのではないかと、現在は考えているところであります。   それで、レジュメ第4の「将来取得財産」に移ります。いわゆるアフター・アクワイアド・プロパティーに対する担保権の効力制限ということですが、アメリカは、昔から集合物とか集合債権に対する担保設定を広く認めてきたわけですけれども、一方で、倒産法制の下では、結構それについての優先効を制約しているわけです。   特に重要なのは次の二つのルールで、一つは否認に関するものです。基本的にアメリカの倒産法だと、危機時期が倒産の申立て前90日間になりますが、その危機時期に債務者が権利を取得した財産に対する担保権は、否認の対象になることになります。その際、担保権の設定契約と対抗要件具備は、危機時期前に行われたとしても、債務者による財産取得が危機時期に行われている限りは、否認は免れないことになっています。ただし、在庫品と売掛債権については特則がありまして、これが、アセット・ベースド・レンディングの実務に配慮したものなわけですが、基本的には危機時期の初日、つまり倒産申立て日の90日前の日と、倒産の申立て日とを比較して、担保権者の地位が他の債権者の不利益の下に改善していない場合には否認を免れるという、そういうルールになっています。   この意味するところは、危機時期に、債務者の担保に入っていない財産を減らして、担保の目的になっている在庫品を増やしていくという行為を規制するということです。例えば、倒産申立日の90日前は、在庫品が例えば1万ドルあったところが、債務者の他の財産を減らして担保物を増やしていって、倒産申立日には2万ドルまで増えましたということをすると、差額1万ドル分否認されるということであります。ただ、これは、他の債権者の不利益の下に担保価値を増やしたのでなければいいので、例えば市況が非常によくなったため、持っている担保物の時価が増えたとか、そういうことであれば、これは否認の対象にはならない、そういうことです。   それから、2番目として、倒産手続開始後の取得財産に対する規制があります。これは以前から日本でも紹介されていると思いますが、アメリカの連邦倒産法では、倒産手続開始後に債務者が取得した財産については、担保権の効力は及ばないことになっています。ただし、いわゆる担保物の代り金、それには効力が及ぶので、例えば倒産手続開始時点で担保の目的になっていた在庫品を売った場合、その売った代金には担保権の効力が及びいます。   それから、もう一つ重要な点は、倒産手続開始前に債務者が取得したために担保の目的物になっている在庫品については、倒産手続において債務者は勝手に売却することができません。(レジュメ5ページに行きまして)担保権者の同意又は裁判所の許可が必要になってきます。そして、裁判所は、許可を与える条件として、担保権者に対して十分な保護を与えなければならない。つまり、担保の価値を維持するのと同じだけの保護を与えなければならないわけです。その結果、債務者が担保の目的になっている在庫品を処分しようとする場合、その条件として、新たに買ってくる在庫品について担保権を付けると、そういう形で、倒産手続開始後もアセット・ベースド・レンディングは続いていくというのが通常であると認識しています。   こういったルールの意義についてですが、もしも、将来取得財産に対しても担保権の効力が無制限に及んでいくことになりますと、債務者の事業再建が困難になるおそれがあります。事業再建が困難になることは、もちろん債務者にとって不利益ですが、一般債権者にとっても不利益となります。この点に負の外部性がありまして、つまり、債務者にとっては、担保権を設定し、それによって融資を受けた上で、事業が成功すれば、自分の利益になるわけですが、事業が失敗したときには、失敗のコストは自分だけではなくて、一般債権者も言わば道連れみたいな状態で負担させることになります。ここに、担保権の負の外部性があって、その結果として、債務者は、初めに担保権を設定して融資を受けるときに、将来事業が失敗したときに、担保権のせいで事業再建が困難になるかもしれないというコストは、本来考慮すべき水準に比べると、十分に考慮しない危険があるということです。そういうわけで、将来取得財産に対する担保権の効力については、債務者と担保権者との間の契約の自由に任せないで、法的規制を課すことに合理性があるということかと思います。   他方において、アセット・ベースド・レンディング(ABL)のような合理的な融資スキームが、倒産手続によって阻害されないように配慮する必要もあるわけであります。アメリカ法は、基本的には、債務者企業の倒産時にもABLの継続は阻害しないが、担保の目的物以外の財産を減らして担保価値を増やすというような形の利用は制約しているということかと思います。一つの合理的なバランスを実現しているようにも見えます。   そこで、以上を参考にして日本法の規律をどのようにするかということですが、一つは、レジュメ5頁の(1)のところで、動産・債権を担保権の目的範囲に加入させるという、そういう加入行為についての否認ということが、中間試案では提案されています。これは、現行法の下でも、支払不能になった後の加入行為は否認の対象になり得るのではないかと思いますが、その際には、債権者の認識などが要件になることが、一つのネックになるかと思います。基本的には、支払不能になっている債務者が、債権者を害することを知りながら、担保の目的でない財産を減らして担保価値を増やすような加入行為をする場合は、そのことが証明できる限りは、否認の対象にしてよいのではないかと考えております。   それからもう一つ、倒産手続における担保権の取扱いが、恐らくより重要な論点になってくると思いますが、先ほど言ったように、アメリカ法のルールは、基本的には合理的だと思っておりまして、それを参考に制度設計をするのがよいと思います。ただ、倒産手続における担保権の取扱いは日米で異なっていますので、そういう点にも留意しながら合理的な制度設計をする必要があると思います。   6ページにいきまして、まず、倒産手続開始後の取得財産に対する担保権の効力についてでは、中間試案では、いろいろな選択肢が挙げられていますが、私としては、米国法を参考に、手続開始後の取得財産には担保権の効力は及ばないものとすべきであると思います。これは、先ほど言ったようにアメリカ法のやり方だということだけでなくて、現在の実務とも整合的であると理解しています。(注)12で引用した文献でも、現在の実務は手続開始後の財産については担保権の効力は及ばないものとして、担保権者の間で担保権協定を結んでいるという指摘がされています。このような規律は、いわゆる固定化概念の適用というよりも、将来取得財産に対する担保権を無制限的に認めると、債務者の事業再建が困難になったり、非効率な清算が起こり得ることに鑑みて、倒産手続において政策的に担保権を制約するものであると理解した方がよいと思っています。この観点からは、集合物と集合債権譲渡担保とで特段の区別をすることなく、規律を設ける方がいいと思います。実際、集合物と集合債権で取扱いを異にしますと、例えばアセット・ベースド・レンディングにおいて、手続開始後に取得した在庫品については担保権の効力は及ばないけれども、その在庫品を売って売掛債権にするとそれに対しては及んでいくとか、そういうこともあり得て、余り合理性のある規律にならないのではないかと考えております。   その上で、手続開始後の財産は担保の目的にならないとすると、開始前に担保の目的になっていた財産を、管財人が、DIP手続の場合には債務者が処分していくと、担保価値がどんどん目減りしてしまうということになります。この問題に対応する規律は考えていく必要があると思います。   ただ、ここは私、民法の解釈をよく知りませんが、現行法の下でも、管財人・債務者には担保価値維持義務があるので、代替物に担保権を設定するというような担保権者のための保護措置を何ら採ることなく、ただ担保の目的物を売却して、担保価値を目減りさせていくということは許されないのではないかと思います。アセット・ベースド・レンディングをしているケースでは、恐らくは、管財人・債務者と担保権者の間の協定によって、現在ある在庫品は売却する代わりに、新たに生じる在庫品に担保権を設定するという形で、担保価値を維持しつつ、アセット・ベースド・レンディングを続けていくというのが、現在の実務においても行われているのではないかと思います。   ただ、現行法の下での課題としては、今いったような協定が、担保権者と管財人・債務者との交渉が難航するなどして、必ずしもスムーズには締結されないケースがあり得るかと思います。その場合、在庫品は適時に売却していかないと価値が維持できないため、売っていかなければならないわけですが、そのときに協定が成立していないと対応に困るということがありえます。したがって、この点については、アメリカ法のように、管財人・債務者は、代替の担保権の設定を含む「十分な保護」を担保権者に与えることを条件にして、裁判所の許可を得て、担保の目的物を売却できるという規律を設けることがよいように思います。   それから、中間試案では、民事再生手続などの倒産手続について、様々な改正を提案していますが、それらは合理的なものかと思います。特に、担保権実行中止命令に関して、適用の範囲を拡大したり規律を整備することは、非常に合理性があると思っております。   ちなみに、中間試案の第17−4で、担保権実行を中止する際に、担保権者の利益を保護するための手段を設けた上で中止を認めるという規律が提案されていまして、これは、実行中止命令の文脈に限ってですが、アメリカ法のような「十分な保護」(アデクエイト・プロテクション)のルールを設けるものであると思います。こういった規律を、先ほど言ったような、担保の目的物の売却に際しても、同じように設けていくのがいいのではないかと思います。   最後に、レジュメ7ページの「事業担保」についてですが、予想どおりもう時間がなくなっておりますので、コメントは省略します。ただ、私は、この話題について論文も書きましたけれども、事業担保には、個別の担保権の積み上げによっては得られないメリットがあると思っております。特に、担保権実行を、継続事業価値を維持しつつ行うことができる制度的仕組みを設けることは、一つのメリットであると思っております。この事業担保の制度は、どちらかというと、この部会よりも金融庁の方に審議の舞台が移っているのかもしれませんけれども、いずれにしても、引き続き制度の創設を前向きに検討してよいと考えております。   大体40分ほどお話ししましたので、私の報告は以上とさせていただきます。 ○道垣内部会長 どうも田中さん、ありがとうございました。   それでは、田中さんからの御意見につきまして、御質問等がございましたらお願いいたします。   片山さん、お願いいたします。 ○片山委員 どうもありがとうございます。慶應義塾大学の片山でございます。   田中先生、詳細な、的確な御報告、誠にありがとうございました。   まず、第2のところ、「動産及び債権以外の財産権を目的とする担保について」ということです。それについて質問をさせていただければと思っております。   今回の中間試案では、その点を規律するかどうかというところからオプションになっておりますので、今後、この法制審でどこまで議論ができるかということはまた別としまして、3の株式のところに関しまして、平成17年の最高裁の判決を、共益権の帰属がどうなるのかということに関しましては、基本的に当事者の合理的な意思解釈の問題であるということであり、かつその事案では、譲渡担保権者に移転していると解すのが妥当だという趣旨の判決として援用されていらっしゃいますが、これを仮に新しい立法の中で規律していくということになりますと、当事者の合理的な意思解釈を前提とするとしましても、やはり原則をどちらにするのか、その上で、別途の合意がある場合には例外を設けるという形で、原則と例外の補足を設けるという形での規律をしていかざるを得ないということになるかと思うのですが、その場合にどちらを原則とするのが妥当なのかということをお伺いしたいと思っております。   そこでも引用されておりますとおり、動産の譲渡担保に関しては、使用収益権を設定者が持つことが原則ということになっておりますし、集合債権譲渡担保の規律に関しましても、中間試案によると9ページの第3−4のところですけれども、基本的に取立権は設定者のところに残すという形で、いわゆる非占有型の担保権の設定ということを原則として考えられています。このように、設定者のところに残すというのが原則というのが、他の動産とか債権の規律の仕方ということになるわけですけれども、この共益権に関しましては、むしろ譲渡担保権者が株主となるということの方が、その担保目的物の価値を維持するという点からも合理性があるというような御指摘もなされているところです。そうしますと、株式について新しい規律を他に設けるという場合には、共益権の帰属についてどちらを原則としておくことが合理的とお考えかということを御教授いただければと存じます。何とぞよろしくお願い申し上げます。 ○田中参考人 どうもありがとうございます。   この最高裁の平成17年判決については、実は、若干イレギュラーなケースだったと思えることがあります。この事案は、非公開会社ですから、振替制度とかはないので、株主名簿の名義書換をすることにより、対会社対抗要件を満たすことになります。もしそうした場合には、会社との関係でも、もう譲渡担保権者は株主になります。ですので、譲渡担保権者が、議決権その他の共益権を行使したいと思うなら、名義書換をすればいいわけです。   ところが、この事件では、なぜか判決は名義書換の話には触れていないのですね。恐らくですが、非公開会社は、往々にして株主名簿をきちんと整備していないことがあるので、この事件もそういうことがあったのではないかなと思います。そうすると、もしもこの事件で名義書換をしていないのであれば、対会社対抗要件を満たしていないため、譲渡担保権者は議決権を行使できない、議決権を行使するのは設定者だ、ということになるはずです。そういうことで、実はこの判決に対する会社法学者による判例評釈の中には、これはおかしな判決ではないかと言っているものもあるのです。ただ、実は、これについても昔から判例があるのですけれども、名義書換は対会社対抗要件でしかないので、名義書換がされていなくても、会社の側で、株式の譲渡がされたと認めて、譲受人の方を株主として扱うことはできると解されています。そして、この最判平成17年の事件は、会社も譲渡担保権者の方を株主として処理していたという事実があるので、このことから、対会社関係でも譲渡担保権者が株主となり、議決権を行使できるということになる。  というように、この事件は、名義書換をしていない(判決で認定していない)ので、当事者の意思解釈が問題になっているのですが、逆に言えば、きちんと名義書換までしていれば、余り当事者の合理的意思とかを問題にする必要はかったのではないかと思います。実務上は、譲渡担保権者が議決権まで行使しようと思うなら、名義書換をするし、そうではなくて、単に株券だけ預かっていればいいと考えるなら、名義書換はしない。その場合は、設定者が議決権を行使することになるんですよね。   ですから、デフォルト・ルールとしては、むしろ、担保権者が対会社対抗要件まで備えたかどうかが重要になるわけです。これを備えていれば、通常は当事者の意思がどうであったかが大きな争いになることはないのではないかなという感じもしております。 ○道垣内部会長 片山さん、よろしいでしょうか。 ○片山委員 はい、どうもありがとうございました。大変勉強になりました。 ○道垣内部会長 それでは井上さん、お願いいたします。 ○井上委員 井上です。   田中先生、いろいろな点にわたって御説明、御解説いただきまして、どうもありがとうございます。幾つも聞きたい点はあるんですけれども、今の点に関連して、株式の担保について2点質問と、一つコメントをしたいと思います。   一つ目は、先ほど御説明くださったように、株式の担保については株式自体の換価価値をつかまえるというよりは、むしろ支配権をつかまえて、場合によっては役員を替えてでも言うことを聞かせるということも、効果としてはあり得ると理解しておりまして、そういう観点からは、議決権が非常に重要であるということは御説明のとおりだと思います。   その上で、今回の担保法改正により何らかの影響、特に悪影響が生ずるかという問題提起については、現在行われている、いわゆる略式質、略式譲渡担保と言われるものと、もう一つ、登録質、登録譲渡担保と言われるもの、これは券面がある場合だけでなく、上場会社の振替株式の場合にも、特別株主制度を使って略式譲渡担保ができるため、両方の選択の余地がある制度を前提にすれば、特段悪影響はないと理解しているのですけれども、それで先生の御理解とも合っているでしょうか、というのが一つ目の御質問です。   二つ目の質問は、これは口座の担保についてのニーズというところで、どういう設計をお考えなのかをお尋ねしたいんですけれども、イメージとしては、振替法上のルール、すなわち口座に記録されている証券は、その口座の名義人に帰属する、具体的には顧客口座の保有欄に記録されている振替株式は、その顧客に帰属するというルールは、これは動かさないでおいたままで、その証券口座を名義人以外の人に担保目的で移すという御趣旨でしょうか。そして、担保を実行するという段になると、口座の名義を書き換えて、その口座自体の契約上の地位が移転することによって担保権者の口座になり、そのときに口座の中にあった有価証券が担保権者のものになると、そういうようなイメージで口座の担保というものを捉えておられるのか。検討すべき出来上がりのイメージをお聞かせ願えればというのが二つ目です。   三つ目は、これはコメントになるんですけれども、先生からは、先ほど設定者が担保の負担付で株式を譲渡するオプションという、一つの検討課題をお示しいただきましたが、もう一つ、実務的に検討すべきかなと思っておりますのは、同順位の担保設定を可能とするような振替制度を準備すべきではないかというお話です。   現在、一般の譲渡担保について、先順位、後順位にしろ、同順位を複数付けるにしろ、複数設定することについて、譲渡なのにできるのか?という問題意識があるわけですが、それについては、現時点までの担保法改正の議論に基づいて、譲渡担保についても先順位、後順位の設定ができるんだという方向で議論されています。だとすると、同順位で複数設定することもできると考えてもいいのではないか。所有権概念のようなものに拘束されずに、そういった設計ができるのではないかと理解しておりますが、それを前提としても、振替証券については、現在、振替制度上の制約により、同順位の担保設定は譲渡担保だとうまくいかないし、質権の設定についても当事者による工夫として連名口座を作って、その連名口座の質権口に移すということをしているわけですけれども、それは、債権譲渡などによって担保権者が替わる度に連名口座を作り直さなければいけないなど、必ずしも便利な状況ではないので、そういう意味では振替制度の問題になってしまうのかもしれませんけれども、同順位譲渡担保あるいは同順位質権の設定がスムーズにできるような振替制度のニーズもあろうかと思っておりまして、それを併せて検討課題にすべきなのかと思います。これが三つ目です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   田中さん、よろしければお願いします。 ○田中参考人 ありがとうございます。   第1点目の現在の制度では、略式の譲渡担保と、一般に登録譲渡担保というものが利用可能で、略式にすれば議決権など共益権はその設定者に残り、登録譲渡担保の形にしますと、対会社対抗要件も満たすので、議決権なども担保が譲渡担保権者に移転できます。となると、私もこの制度があれば、あえてこの関係で何か新しい規律を設ける必要はないのかなとも思っています。   今日こういうお話しをしたのは、中間試案の中で、譲渡担保権というものは、利用権は設定者に留保されるものであるというよう理解が示されていまして、それは、動産の場合はそれでいいのかもしれませんが、株式だと必ずしもそうではないのではない、議決権など共益権も含めて株式に関する一切の権利を譲渡担保権者に移転するという場合もありますので、そういうオプションは残してほしいという形で申し上げました。そして、そのオプションについては、現行法の下で存在しておりますので、あえてそのために新法を作る必要はないのかなという気がしております。   それから、振替口座についてですが、私がイメージしていたのは、今、井上先生がおっしゃったとおりで、口座に対して担保権を設定し、設定者は、その口座の中にある株式については譲渡できるので、したがって担保権を設定している期間中、口座の中身は入れ替わっていくのだけれども、いざ担保権を実行するときには、言わば口座が凍結されたような形になりまして、その時点で口座に残っている株式について、担保権者に優先的な権利が与えられるというような制度を想定しておりました。   それから、3番目のコメントについては、非常に勉強させていただきました。確かに現在の、例えば振替制度を利用しない会社ですと、譲渡担保というのは株式の譲渡という形の名義書換しかできないという限界があります。したがって先順位、後順位の譲渡担保権とか、あるいは同順位みたいなものも、現行法では設定が難しい。その辺り、これは実務のニーズとの兼ね合いだと思うんですけれども、株式についても、正面から先順位、高順位の譲渡担保権の設定を認めるルールを作る、そうして、井上先生が言われるような同順位譲渡担保というような形の担保設計のオプションを認めるということは、十分考えられるのではないかと思います。そういったニーズがあるのであれば、それについては、確かに現行の法制の改正も必要になってくるかなと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、ほかに何かございませんでしょうか。   倉部さん、お願いいたします。 ○倉部委員 ありがとうございます。法政大学の倉部です。   田中先生、今日は大変貴重な御報告を賜りましてありがとうございました。大変勉強になりました。   5ページで御指摘をされている中黒の二つ目のところです。将来取得財産に対してもというところですけれども、特にこの部分で御指摘されている担保権の効力を債務者と担保権者との間の契約の自由に任せず、法的な規制を課すことには合理性があるという御指摘がされている点、私も非常に共感しておりまして、ちょっと場面は異なりますけれども、以前2017年の民訴学会でのシンポジウムで、別除権協定について正に同じような問題意識で報告をさせていただいたことがあります。ですので、大変ちょっと心強いなと思いながら拝聴しておりました。   その後の部分で、アメリカで倒産した場合でも、ABLの継続を阻害しないでうまく活用しているということを御指摘されているんですけれども、今日、田中先生が御指摘されている点も、もちろんうまくアメリカでABLが支えられているという点であると思うんですけれども、それに加えて、やはりアメリカではオートマチックステイがございますし、それから、いわゆるバイファケーション、債権の二分化がされますので、担保権、いわゆる会社更生でいえば更生担保権として扱われる部分と、更生債権として扱われる部分というのが、倒産手続の開始時で二分化がきちんとされていますので、いわゆる担保権として保護される範囲というのが、倒産手続の開始時で明確であるというところが、やはりアメリカ法の特徴ではないかなと考えています。   それがあるからこそ、いわゆる適切な保護、アディクテッド・プロテクションもうまく機能していて、その後の、いわゆる担保替えみたいなものも、この範囲で担保を入れ替えるということがスムーズにできているのではないかなと考えております。   その点で、我が国の場合どう考えていくのかということになるわけですけれども、田中先生の御報告ですと、もう一切、アメリカ法も参考にということで、将来取得財産に対する担保権は基本的には認めないという前提で、6ページのところで、担保価値維持義務の点を挙げたりですとか、その後代替の担保権の設定を含む十分な保護を与えるということで、裁判所の許可を得て現在の担保目的物を売却するという仕組みもよいのではないかという御提案をされていまして、特に後者の裁判所の許可を得て代わりの担保を、現在の担保を、担保目的物を売却して、いわゆる担保の付け替えをする。この裁判所の許可を挟むということは、去年、民訴学会で慶應の高田賢治先生が同じような御提案をされていまして、そこで特にポイントとして高田先生が御指摘されていたのは、やはり担保目的物の、どの時点かという問題はありますけれども、担保権の保護をする範囲を明確にするために、どこかの段階で評価が必要であるということ。その評価をするために、裁判所を介在させるというのがポイントであるというような御報告されていました。   恐らく今日の田中先生の御報告のこの辺りの御提案というのは、高田先生のその御報告ともちょっと共通する部分があるのかなと感じたんですけれども、その点、田中先生がどのようにお考えなのかなということと、私は高田先生の御報告を拝聴したときに、実はちょっと反論をさせていただきまして、こういった動産債権が担保目的物となっていて、特に再建型の倒産手続に入ったときには、担保目的物の担保価値の目減りという点も御指摘されていましたけれども、目減りはもう前提であると。事業を継続するためには、どうしても目減りはしていくので、それをいかにスムーズに補填をしながら、担保目的物の事業継続のための活用を一方で促しつつ、けれども担保権者の保護をするのはどういう仕組みなのかというのを、スムーズに考えるべきなのかなと思っておりまして、むしろ担保権の効力は及ぶけれども、保護される範囲というのをきちんとどこかの時点で評価をして、いわゆるバイファケーションに相当するものをするべきなのではないかなと考えております。   ですので、ちょっと前提が異なってしまうんですけれども、そういった事業継続の、スムーズに進めるといったことも含めると、何かいちいち裁判所の許可を得るというのは、かえって煩雑になってしまうのではないかなという私の問題意識もございまして、そういった点も含めてちょっと御教授を賜ることができましたら有り難いです。よろしくお願いいたします。 ○田中参考人 どうもありがとうございます。   倉部先生の論文もお読みして、大変勉強させていただきました。   これは、再建法制、倒産法制の基本構造をどう考えるかということにもつながる問題であると思います。アメリカ法ですと、倒産申立によって基本的に担保権実行は止まります。そして、担保権も倒産手続に取り込んでいくということですから、日本でいえば会社更生手続の同じルールが、全ての倒産手続に当然似適用されるような感じなわけです。これに対して、日本は、会社更生手続はアメリカに近いルールなんですけれども、会社更生事件は、年間にほんの僅かな件数しかなくて、法的再建手続は通常、民事再生手続でやっているので、その点、確かに日米で法制の基本構造が違っているということはあると思うんです。   ただ、私、基本構造の違いは、余り強調しなくてもいいのではないかと思うところがあります。特に、現行の民事再生手続では、債務者は、担保権実行中止命令の申立ができ、さらに、担保権消滅請求手続も利用できます。このことを考慮しますと、アメリカの再建手続、つまりチャプター11と、民事再生手続の違いは、アメリカでは、ステイ(担保権の実行停止)は自動的だけれども、日本は個別的になっているというところと、それから、担保権者と債務者との間の交渉が成立しなかったときに、アメリカではクラムダウンの手続が使えますので、担保権者に対して分割弁済ができる。これに対して、日本では、担保権を消滅させるためには担保価値を一括で弁済しなければいけない。この違いに、煎じ詰めれば尽きると思っています。   日本が、担保権に関してアメリカのルールをそのまま採用していないのは、それなりに制度を作るときに議論した上で、こうなっていると思います。担保権を倒産手続に取り込むことは手続を重くするし、それから、担保権実行を当然に止めるというのは、債務者に対する規律(モラル・ハザードの防止)という観点からも、いいことばかりではないと思います。アメリカの場合、ステイ(実行停止)はオートマチックなんだけれども、担保権者は、ステイを外せという申立ができ、そこで、ステイを外すべきかを巡っていろいろな事件も起きるし、そこを裁判所がチェックしていかなければいけない。この、ステイを外すべきかというところをきちんと裁判所が判断できる制度にしていないと、倒産手続において半永久的に担保権を止めることになりかねず、そうすると、債務者のモラルハザードを起こす恐れがあると思います。   現行の民事再生手続では、日本は、担保権実行を当然には止めないので、担保権者と債務者の交渉でまずは解決してくださいということになっていて、それでも解決できないときは、一時的だけれども担保権実行を止めるという担保権実行中止、それから、担保権の消滅請求手続を設けています。担保権消滅請求手続をする場合には、裁判所の担保価値の評価がどうしても必要になります。そうしますと、「十分な保護」を条件にして担保物の処分を認めるという制度を設けるということは、これまでは、裁判所は、担保権消滅請求のときに担保価値を評価するだけだったのが、それに加えて、「十分な保護」に関する事件において、今ある担保物の価値を維持するだけの保護が提供されるかどうかを判断するために、担保物の評価をする必要がある。つまり、裁判所が担保物を評価しなければならない場面が、今よりも増えることにはなります。ただ、逆に言えばそれ以外の場面では評価しなくていいわけです。アメリカの制度だと、担保物は全部評価しなければいけませんから、それがいいかどうかというのは、議論の余地があると思います。最初から倒産手続に担保権を取り込むよりも、取り込まないで、必要に応じて裁判所が出てくるという方がいいかもしれない。これは、担保権の取扱いにとどまらなくて、倒産手続全体の基本構造をどうするかということになってくると思いますが、アメリカのやり方をすっかり採り入れるという選択肢ももちろんあり得ると思うんですけれども、日本の制度の中でより合理的に制度を改善していくという方法もあると思います。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   どの部分で調整を図っていくかというのを、担保権の目的物の範囲の特定の問題のところでやるとか、効力の問題としてやるとか、倒産のところでやるという、まあ各国違うわけですが、いずれにせよ全体として、それらの手段をうまく組み合わせて、適切な形になるように、外国法も十分に参考にしながら考えていかなければならないんだろうと思います。   まだまだ田中先生にはお伺いしたいこともありますし、また、事業担保につきましても御発言の時間を十分に取っていただくことができませんでして、こちらとしては大変申し訳なかったんですけれども、時間の関係もございますので、田中さんからのお話と質疑応答というのはここら辺で終了させていただければと思います。   田中さんにおかれましては、大変お忙しい中、当部会の調査・審議に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。どうもありがとうございました。   それでは、次の参考人の方にお願いをしたいと思います。   では、公益社団法人リース事業協会法制委員会委員長の山田周一さん、同協会事務局長の加藤建治さんからの御意見を伺いたいと思います。お二人も会場にお見えくださっております。よろしくお願いいたします。 ○山田参考人 よろしくお願いいたします。   私、リース事業協会法制委員会の委員長を務めております山田でございます。最初に御挨拶をさせていただきます。   ファイナンスリースが我が国に導入されて50年以上がたっております。業界団体でありますリース事業協会も50周年を経過して、時を刻んでおるところでございますけれども、私は民間のリース会社で執務をしております。専従ではございません。   今日は専従の事務局長の加藤と共に参上した次第でございます。   まず、法制審議会の担保法制部会におかれまして、担保法制の見直しに関する中間試案を公表されて、この中でファイナンスリースに関する規定の要否及び在り方と、これを検討することが示され、我々も議論の進捗等についてずっと注視してまいりましたが、ファイナンスリースを利用権設定契約として民法に規定するというようなことが提案されているということで、我々にとっても非常に大きな影響があり、意見を述べさせていただく機会を設けていただいたことに大変感謝をしております。   まず最初に、協会の概要とリース業界とリースの実態について加藤から説明をさせていただきたいと思います。 ○加藤参考人 それでは、資料の1ページ目を御覧いただきますと、「リース事業協会の概要」を記しております。会員会社は230社のリース会社でございます。先ほど山田から説明がありましたとおり、1971年に設立されて、2013年に公益社団法人に移行しているということでございまして、事業者団体としては公益社団に移行するというのは比較的珍しいと言われております。リース取引においてはお客様、それと関係先が非常に多岐にわたるため、リースに関わる問題というのは影響が及ぶ範囲が広いということにより、公益性を持った団体として各種調査研究等の事業を行っております。   資料の2ページ目に移っていただきまして、「リース産業の概況」でございます。   1963年に我が国にリースがアメリカから導入されましたが、アメリカのリースをそのまま日本に導入したのではなく、日本の制度に合わせた形で日本に導入されました。   当時を知る人間に聞いたところ、アメリカのリース契約書はそのまま使用できず、ドイツの契約書を参考として日本の法制に合わせた契約書を作ったということでございます。産業としては今年60年を迎えます。   左上にあります会員会社数、協会ができた当時、1971年19社ですが、先ほど御説明したとおり、現在230社となります。   従業員数でございますが、1971年1200名余りだったところ、現在では8万3000人超ということでございます。   企業のリースの利用率は、1974年時点では4割程度でございましたが、現在では9割近い企業さんで御活用いただいています。   市場規模については後ほど御説明をいたします。   左下に総合リース業の位置付けを記載しております。勘違いされる方が結構いらっしゃいますが、我が国のリース業は、不動産業・物品賃貸業に位置付けられています。これは日本標準産業分類という統計上の区分ではございますが、我々がここに位置付けてほしいということではなくて、客観的な第三者の評価として物品賃貸業という独立した業種として評価されているということでございます。不動産業と物品賃貸業が一緒になったのは2007年の改正、それまではサービス業として位置付けられていましたが、その整理としては設備の賃貸、リースが終わった後の売買、リース物件の管理といった点で、不動産業に物品賃貸業は近いということで、不動産業と物品賃貸業が大分類として区分されました。先ほど申し上げましたとおり、これがリース業に対する客観的な評価と認識をしております。   3ページ目にまいります。   3ページ目は「リース取引の現状」でございまして、リース取扱高の推移を1970年度から遡って、途中までは5年刻みでございます。これもよく勘違いされる方が多いところですが、ここに示している数字は所有権移転外ファイナンスリースという取引で、リースが終わったとしても所有権はお客様に移転しない、リース会社に基本的には返していただくという取引とオペレーティングリースの二つを合わせた数字でございます。   数字を見ていただきますと、1990年代はリース取扱高、これはリース契約額の総額を表しますが、1990年代がピークで、2006年から2007年、2008年、2009年、2010年を見ていただくと、大幅に取引が減少しています。その横に原因を記載していますが、リース会計基準と税制の変更により、上場企業を中心にリースの使い勝手が悪くなったといったこと、併せて当時リーマンショックといったものがあって、設備投資が減退したことが要因となります。リーマンショックの影響は緩和されてきている中で5兆円ぐらいで推移し、2019年に盛り返し始めましたが、残念ながら新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあって、取引額が減少しているという状況でございます。   4ページ目は、どういった物件をリースで取り扱っているかといったことをお示しした数値でございます。構成比で表しておりますが、最も多いのが情報通信機器でございまして、パソコンを始めとする情報機器ですとか、ウェブ会議のネット通信機器とかもリースで行われています。最近ですと全国の小・中学生に1人1台パソコンを整備する事業といった中でもリースが活用されていまして、その理由としては、行政における手続面での利便性といったことでリースを御活用いただいているということです。   次に多いのが、輸送用機器、自動車でございますが、近年ですと脱炭素を目指す企業において、電気自動車、それと併せて再エネ設備といった御要望も増えてきているところです。   産業機械・工作機械は特に中小企業の製造業の方に御活用いただき、商業・サービス関係設備に関しては大企業から中小企業まで御活用いただいているところです。   中ほどにある図は、企業規模別、実際にリースを使っていただいているお客様の企業規模を示しています。中小企業の定義は資本金1億円以下となりますが、中小企業が半分。残りは大企業と官公庁という状況です。   リースの利用率は先ほど御説明いたしましたので、割愛いたします。   5ページ目は、我々が企業1万社を対象としてリースをどう評価いただいているのかといったことをお示しした数字で、複数回答となっております。最も多いのが、設備導入時に多額の資金が不要であるといったことに加えて、コストを容易に把握できるとなっています。後ほど山田の説明に出てきますが、リース料は毎月均等、定額でお支払いいただくということで、コスト把握が容易であること、所有に伴う事務管理の省力化が図れるといった点、これら三つが最も多い評価でして、設備の使用予定期間に合わせてリース期間を設定できる、法定耐用年数というものが日本にありますが、その枠を超えて実際の使用期間に合わせてリース期間を設定できること、近年高くなってきているのが、環境関連法制に適正に対応できること、これは、リース会社が環境関連法制に適正に対応して、リースが終わった物件を環境関連法制に適正に準拠して処分をしているということであり、資料の右横にございますとおり、リースの多様なメリットをユーザーに御評価いただいているということでございます。   6ページ目の「リースの機能」について御説明をさせていただきます。   中ほどにリース会社、左側にユーザーとありますが、実際にリース物件を使っていただいている企業さんでございますが、リースの機能としては設備投資促進、付加価値提供というものがあり、企業にとって競争力の維持ですとか、脱炭素投資、あるいは省力化といったことにリースを活用いただいています。   一方、サプライヤー、メーカーさんでございますが、製品の販売促進ですとか代金の早期回収という機能があり、そのメーカーさんの成長若しくは技術開発、特にコンピューターに関しては相当リース業界がコンピューターの発展に寄与しているのではないかと考えております。最近ですとベンチャー企業さんの技術開発も支援しているところです。   特にリースの中で重要と思われる機能としては、資源循環といったことがございまして、リースが終わった物件については、メーカーに還元していくということです。資料の中ほどにプラスチック資源循環促進法ガイダンスとありますが、どのような物件でもプラスチックは使われていますが、その資源循環を促進するためのリース業界としての取組となります。リースは、物を所有し、それを回収していくといった機能があり、業界団体として初の取組でございますけれども、金融とは言えないような取組をしているということでございます。最近ですとデジタル投資、グリーン投資、我が国にとって重要な戦略でございますが、そういった中でリースの活用が非常に期待されているといったことがございます。そういった取組を阻害するような法制度の改正ではないかと考えているところでございます。   7ページ目以降は山田から説明します。 ○山田参考人 それでは、当協会の意見について、山田から説明をさせていただきたいと思います。   7ページでございます。   五つほどまとめておりますが、中間試案の御提案について協会として反対意見を述べさせていただきたいということでございます。   まず1点目でございますけれども、ファイナンスリースに関する規定が適用される範囲が非常に不明確であります。多くの貸借型の取引に負の影響を及ぼすおそれがあると、こういうふうに考えております。   その結果として、Aでございますけれども、新たな商品開発の阻害要因になるのではないかということです。   さらに、会計制度、税制度に波及することによって、利用者の利便性、これが損なわれるのではなかろうかということ、さらに、利用権の価値についての評価方法というのが全く明確ではなく、借り手の設備調達手法を狭めることになってしまわないかと、といったことを懸念しております。   最後、各種法令等との関係性、これが全く今の段階ではどういうふうにお考えになられているのか分からないということでございます。   当然ながら、今日述べさせていただく意見のほかに様々な論点があります。これらにつきましては、改めて中間試案の提案の内容を我々で精査させていただいた上で、協会の意見書として御提出することを考えております。   それでは、今申し上げました問題点として掲げた5点について、簡単に御説明差し上げます。   8ページを御覧ください。   ファイナンスリースに関する規定が適用される範囲が不明確、多くの貸借型取引に負の影響を及ぼすおそれがあるということです。そもそも中間試案の御提案が、担保権取引としての特徴を有するファイナンスリースを抽出して規定すると補足説明の中で説明されておりますが、その要件は、適用される取引の範囲が不明確である上に、多くの貸借型取引、例えばファイナンスリースはそうですけれども、ファイナンスリース以外のリースであるオペレーティングリース、さらに通常の賃貸借、レンタル、シェアリング、サブスクリプションといったものに当てはまる可能性があるのではないかと考えております。後ほど述べさせていただきますが、負の影響を及ぼす可能性があるということでございます。   中間試案の御提案として、この三つの要件、ファイナンスリースの要件と示されているものにつきまして、書き出してございますけれども、例えば1点目の利用権設定者が利用権者に対し目的物の使用収益を認容するものであること。これは、幅広く賃借型の取引に共通することであろうと思います。   2点目、利用権者が利用期間に利用権設定者に対して支払う利用料の額が、目的物の取得の対価、金利その他の経費等相当額を基に算出されていること。この相当額を基に算出されているという、これが非常に不明確だということです。賃借型の取引において、利用期間に応じて投下資本、これを回収できるように利用料を設定するということは、必ずしもファイナンスリースだけの特性ということではなかろうと。多くの貸借型の取引においてもこういう要件を満たすと評価される余地があるということでございます。   さらに、利用権者による目的財産の使用及び収益の有無及び可否にかかわらず、利用料債権が発生することとございますけれども、これはどこまで広げて解釈するかということによるのかと思いますが、実務上、中途解約のためには、残存の賃貸借期間の賃料相当の解約金の支払が義務付けられているようなケース、こういうような特約付の賃貸借契約も数多く存在します。では、このような場合というのは、このBの要件に該当するのか、しないのか。こういう問題があると、こういうふうに考えております。   次のページ、9ページでございますけれども、@で御指摘させていただいた問題点によって、新たな商品開発の阻害要因になると、こういうふうに考えております。中間試案の提案が掲げているファイナンスリースに関する規定が適用される取引の特徴、これは多くの貸借型の取引に当てはまり得ると考えております。そうしますと、中間試案の提案を前提として法制化がなされた場合、リース会社及びユーザーとしては、フルペイアウト方式によるファイナンスリース以外のリース、これはフルペイアウト方式以外のリースと単純に言いますけれども、これはファイナンスリースに係る新規規定の適用又は類推適用される可能性があることを念頭に置いて行動しなければならなくなるだろうということです。   ところが、先ほどもお話し申し上げましたけれども、リース業界ではユーザーのニーズに合わせて多種多様な商品が日々開発をされております。ここには残価付リース、メンテナンスを付したリース、変動リース料、特約付リースという形で表現してございますけれども、様々な商品開発をしております。これらリースが、果たしてファイナンスリースに係る新規規定が適用されるのかどうなのか、判断することは非常に困難であろうと。すなわち予見可能性が極めて低いと、指摘せざるを得ません。すなわちファイナンスリースに係る規定を新設する場合、実務においてリース会社及びユーザーがフルペイアウト方式以外のリース、これを取り扱うことを差し控えるようなこと、これは極論だと言えば極論かもしれませんけれども、このような萎縮効果が働くことによって、リース商品の開発及び普及が阻害されて、ひいては企業の設備投資の後退につながること、これもあり得るのではなかろうかと考えております。   ここで申し上げている新規商品の開発ということで言えば、先ほど加藤からもお話ししましたように、持続可能な社会の実現に資するための商品開発ということで、私どもの会社でも、例えば電力売買契約(PPA)モデルといった形での太陽光発電設備の提供、実際にはファイナンスリース的な要素を組み込んで取り扱っていたりですとか、つい最近もプレスリリースをしてございますけれども、超小型のバイオガスプラントです。これは、食品残渣をガスに変えるというプラントなんですけれども、こういうものを工場に併設いただくという際に、ファイナンスリースの仕組みを組み合わせた形で御提供しようという研究をスタートしています。こういう形での商品開発が行われているということでございます。   それでは、次にまいります。   10ページでございます。   問題点B、会計制度、税制度に波及、ユーザーの利便性が喪失しますということを御説明します。先ほどのリース取扱高の統計で御説明を差し上げました、大企業に関して、リース会計基準、税制の変更があって、大きく取扱いが減ぜられたというところでございますけれども、リース取引自体が日本の税制と会計処理を踏まえて、そもそも存在していた賃貸借という取引、これを前提としながら、企業の設備調達需要に応じる取引として今まで発展してきた歴史的背景があります。税務・会計の問題と非常に直結した取引だということでございます。中間試案の提案において、利用権設定契約を設ける趣旨、これは補足説明で示されておりますとおり、当該契約を金融と事実上同一視しているということにあるのではないかと理解しております。   このような考えの下で、民事の基本法である民法に利用権設定契約と規定された場合、貸借型取引の会計制度、税制度に影響が及ぶということは、非常に強く懸念されると考えております。利用権設定契約とされた貸借型取引、これはリース会社及びユーザーともに金融取引類似の会計処理とすることが公正妥当な会計処理とされて、それが更に税制にも及ぶということになると、ユーザーの経理処理、税務処理が複雑となって、貸借型取引の利便性が著しく損なわれることになることを懸念しております。貸借型取引のうちファイナンスリースは、中小企業等にとって重要な設備投資手段と自負してございますけれども、その利便性が著しく損なわれることによって、中小企業等の設備投資手段が狭まり、結果として我が国の経済に負の影響、これが及ぶのではなかろうかということで、現状と中間試案を用いたときの比較で図に表してみましたが、現在、リース料が定額経費と処理されているものが、元本部分と利息部分に分けた処理ということが強いられることになることが懸念されます。   こうなりますと、先ほど申し上げましたリースのメリットであるところの、特に過半のユーザーから支持を得ている三つのメリットのうち、コストを容易に把握できる、事務管理の省力化が図られるという二つのメリットが喪失してしまうということです。これは、業界としてゆゆしき問題ではなかろうかと考えておるところです。   次にまいります。11ページです。   問題Cです。   利用権価値の評価方法が明確でなく、借手の設備調達手法を狭めます。について御説明します。中間試案及び補足説明においては、利用権価値の評価方法等に関する記述がありませんが、利用権価値の評価に関する定説、客観的な手法というものは存在しておりません。現時点では利用権の市場での流通性もないため、市場価値の形成も不透明であることから、利用権価値の評価をめぐって無用の混乱が生じ、借手の設備調達手法を狭めるとともに、迅速な再生手続に資さないおそれがあるのではないかということでございます。   実際に現状では、別除権又は更生担保権とされた場合、事業者にとって設備の必要性、更に物件の価格、リース料の残額などを考慮して、個別具体的な事案の特性に応じながら、別除権又は更生担保権の評価がなされているところでございますけれども、仮にファイナンスリースが法制化された場合、利用権価値の評価方法が不透明、不確定であるため、従来のような臨機応変にというか、柔軟な取扱いができなくなり、結果として迅速な再生手続が阻害されることにはならないか、ということでございます。こちらについても、簡単に資料の図で表しているところでございます。   次にまいります。12ページでございます。   問題Dとして記載させていただいた各種法令等との関係が全く考慮されていないということです。   ファイナンスリースが我が国に導入された1963年以来、リース会社はファイナンスリース又はファイナンスリースに関与する当事者が、各種法令等に定める賃貸借、賃貸、賃借若しくは賃貸業又は賃貸人若しくは賃借人に該当するものとして、各種法令等の規律に従ってファイナンスリース業を営んでまいりました。民法上の担保権の項目にファイナンスリースに係る規定が新設された場合、我が国の設備投資に大きく貢献しているファイナンスリースが、賃貸借とは異なる概念の取引であると理解されて、ファイナンスリース又はファイナンスリースに関与する当事者が、各種法令等に定める賃貸借、賃貸、賃借若しくは賃貸業又は賃貸人若しくは賃借人に該当するのか否か、これは疑義が生じるのではなかろうか、又は強まることにはならないかということでございます。   我々の方でデータ検索で調べたところ、2022年10月13日時点でこのような用語が使用されている法令が126存在していました。この影響というのは、実務上必ずしも小さいとは言えず、当然これを解消するためには、行政府の解釈では法的安定性というのは欠くので、きちんとした形での立法措置が必要になろうかと考えますし、もしそういう動きが現実化すれば、当然我々としてはそうしていただかないと困るということですが、これらについて、特に議論にも上がっていないということで、懸念を抱いているところです。資料に掲げているのは、犯罪収益移転防止法と、消費生活用製品安全法と、刑法、地方自治法です。13ページ、14ページに抜粋して記載させていただいておりますけれども、この場で御説明するのは、時間的な制約もございますので割愛させていただきますけれども、こういうことについて、我々、逆にこういうことで縛られているけれども、こういう法律に定められている貸手の立場は、お客様でなくて我々が担っているということです。実はこれが商品としてのサービス、アピールポイントになっているというのは、先ほど加藤の方から説明した中でも出てきているところかと思います。   最後、「参考」ということで示させていただいております15ページでございますけれども、リース事業協会がどのような活動をしているのかということで、当然ながら業界としてリースという取引自体がきちんと利用されて、逆に言うと悪用されたり、経済の今の流れの中に逆行するような形で業者等が動かないようにということで、いろいろとガイドラインを設けながら活動しております。   ここに代表的な、我々が策定しているガイドラインを三つほど挙げさせていただいております。例えば冒頭の小口リース取引に係る自主規制規則というものは、かなり古い時代と我々は考えておりますが、10年以上前に小口リースと呼ばれる、専らベンダーというかサプライヤー、物を提供する業者とリース会社が提携して取り組む小口のリース取引なにおいて、サプライヤー、ベンダーの不適切な販売行為でお客様に御迷惑を掛けるという事件が多発したということで、自主的ないろいろな取組を行って、うまく鎮静化ができているということでございます。先般の大阪高裁の判決でも、この自主規制規則に反する対応を取った会社について、それは問題であるという、裁判の中でもこの自主規制規則の重要性というものが評価された事象でございます。   そのほかには、銀行等金融機関でも取り組んでおられる経営者保証に関する対応ですとか、自然災害の発生があったときの対応、こういうものについてのガイドラインを設けて対応してございます。   以上、駆け足で御説明させていただきました。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、参考人の山田さん、加藤さんからの御意見につきまして、御質問等があればお願いいたします。   それでは阿部さん、お願いいたします。 ○阿部幹事 幹事を務めております東京大学の阿部と申します。御説明ありがとうございました。   問題点の@、資料の8ページに関して御質問させていただきたいと思います。   中間試案の提案の中で、担保権取引としての特徴を有するファイナンスリースの要件の中のBとして、利用権者(ユーザー)による目的財産の使用及び収益の有無及び可否にかかわらず利用料債権が発生することに対する御批判として、実務上、中途解約のためには残存賃貸借期間の賃料相当の解約金の支払が義務付けられる旨の特約付の賃貸借契約が多く存在しますということが述べられているわけですけれども、そのような特約、つまり、どの時点で中途解約をしたとしても、残存賃貸借期間のリース料を全て支払わなければならないというような特約を結ぶということはなぜ必要なのか。また、それがリース料の賃料、すなわち目的物の使用収益の対価という性質と矛盾するものでないのかということについて、御説明いただければと思います。   とりわけ、もし不動産の賃貸借であれば、例えば予告期間というものを設けて、その予告期間を十分空けた状態での解約を申し立てれば、その解約金は生じないと。これに対して、その予告期間を十分に空けずに解約を申し出た場合には、その予告期間分の賃料相当の解約金が生ずるというような取引が行われていると思うのですけれども、これと違ってリース取引においては、いつ解約をしたとしても、残余期間のリース料全て、その解約金として払わなければならないとされているのはどうしてなのか。また、それがリース料の賃料としての性質決定と矛盾しないのかという点について御説明いただければ幸いです。 ○山田参考人 今の御質問の趣旨が私もきちんと掌握できているかというのは自信がありませんが、いわゆるファイナンスリースであれば、当然その物件を購入し、保有し、それに要する費用をほぼ全部賄うような賃料設定をさせていただく。要はそれをもって途中でやめたと言われても、全額回収できないようなことになると、リース会社が損害を被ってしまうということになります。では、その全額なのかどうなのかということで、そのようなペナルティーが、ファイナンスリースと呼ばれる契約以外でどうなのかということについて言うと、事例として見られるということで、我々の理解ですけれども、例えば不動産の賃貸借取引においても、それは何らかの事情をもってそういう特約を付されているとは思いますが、例えば定期借地、定期借家、こういうものを組み合わせた形で、一定期間そこで賃貸で運営するといったようなケース、これはほぼほぼペナルティーとして残賃料を全額頂戴するというような特約が付されていると理解をしてございます。   これは一例でございますけれども、それぞれの事情に基づいてということだろうと思います。ただ、動産のファイナンスリースについて言えば、冒頭申し上げましたとおり、リース会社の投下資金をきちんと回収するためにということではあります。リース物件は、リース会社が所有権を有していますので、その返還が得られれば、その物件を再利用することによって、投下資金が回収できる余地があるわけで、それはあらかじめ当初から見込んでおいて、いわゆるフルペイアウトでない形の残価リースですとかオペレーティングリースと言われる取引の類型があります。そういう形で残リース料を全額頂くとは言いながらも、投下資金は全然回収できない契約の内容になっている取引も多々ございます。   むしろ、今、そういう取引をいかに拡大していくかというところに、いろいろ頭を悩ませているというか、知恵を使っているという状況でございます。 ○道垣内部会長 まだ井上さん、沖野さんからも手が挙がっているんですが、ちょっと阿部さんの質問との関連で、私からも一つ伺いたいのです。目的物が滅失したときにどうなのか、ということです。阿部さんの質問の根本は、いずれにせよ全額払わなければいけないということは、目的物の使用と月々なら月々の支払が対価関係に立っていないということを意味しているのではないかということだったわけですけれども、賃貸借契約、例えば家屋の賃貸借契約において、目的物が、例えば台風によって壊れてしまった。あるいは落雷によって燃えてしまったといった場合には、約定期間内でも賃料支払義務はなくなりますよね。ファイナンスリースはいかがですか。 ○山田参考人 ファイナンスリースですと、賃料という形での支払義務ではなくて、損害金という形でのペナルティーの発生ということが契約上は規定されております。   ただ、これが専らそのリース会社の債権保全の目的ではないかという言われ方もしますが、法律的に解釈しようとすると、そのように整理されてしまうものの、実際にはリース物件に対しては例外なく保険を付保してございます。基本的にその保険で賄って、お客様からはペナルティーを徴求しないというのが「基本的なリースの仕組み・スタイル」ということにはなっております。 ○道垣内部会長 保険が掛かるということが性質決定にどう影響するのか私はよく分かりませんが、ほかの方も手が挙がっていますので、井上さん、お願いいたします。 ○井上委員 井上です。   道垣内先生がお尋ねされたことを正に尋ねようと思ったのが一つです。あとは、もう一つ別の質問をしようと思っていました。まず、今の道垣内先生の質問との関係で、ちょっと最後の方は音声が悪くて聞き取れなかったので、重なるかもしれませんけれども、中間試案の提案として、本日の資料の8ページに挙げている三つの要素だけだと、先ほどの御説明によれば、担保取引としての特徴を欠くもの、担保取引ではないものまで混じってしまうのではないかと、例えば賃貸借がここに混じり込むのではないかという御懸念を示されたように受け取りました。   ただ、今ほど、阿部先生、道垣内先生から御質問があったように、三つ目の要素もある賃貸借というのが、本当にそれほどあるんですか。逆に言えば、この三つ目の要素が入っているものを、リース業界では賃貸借とお考えになっているのか、ということが一つ目の質問です。   敷えんすると、三つ目の要素というのは、ここに挙げられている単なる中途解約の場合だけではなくて、滅失の場合、とりわけ何らユーザーに落ち度のない天災による滅失、それも、例えば地震など全額が保険でカバーされないような滅失があった場合であっても、当初予定されたリース料と同額の、それを損害金と呼ぶかどうかは別として、全額の支払を要するという内容を持った契約が、一般的に賃貸借と考えられている契約の中にそれほどたくさんあるのでしょうか。   あるいは逆に言うと、そういう条項が入っているものも賃貸借だとお考えなのか、というのが一つ目の質問です。   二つ目は、全体として御懸念を必ずしも理解できなかったのでお尋ねしたい、あるいは確認したいのですが、現在、債権法改正のときと違って、リース契約を典型契約として定めようということを考えているのではなくて、そういう意味ではファイナンスリース契約とはこれこれである、例えば、ファイナンスリース契約とは利用権設定契約である、という定めを置くことは、全く考えていなくて、中間試案を見ても、提案されているのは、基本的にはどういう取引をしたら担保権と扱うか、ということですので、基本的には、リースとかファイナンスリースとかという言葉を使う必要もないと思っています。   本日の資料の8ページの三つの要素があれば担保と扱う、という一般的なルールを示すべきかどうかが、担保法改正における検討の対象として挙げられていると私は理解しているのですが、現在、何らかの立法的手当てをしていない状態の下で、リース会社がやっておられるリース取引が全て双務契約としての賃貸借契約であると考えている人は、それほど多くないのではないかと理解しておりまして、その意味では、現在リース会社がやっておられるリース取引の中に、担保取引とされるものと賃貸借取引とされるものが両方あるとすると、その境界が必ずしも明確ではないという状況は、現時点で存在している状況ではないかと思っております。すなわち、今、提案されている「一般的にはこういう要素があれば担保と扱う」というルールが定められることによって生ずる問題ではないように思います。したがって、8ページ以下に挙げられている問題のほとんどは、担保法の改正で、現在、中間試案で提案されているような担保目的取引規律型的なルールが入ることによって生ずる問題ではなく、現在既に存在している不明確さから生ずる問題ではないかと思うのです。その観点で、今、ファイナンスリースを定義して、それがすべて担保契約と取り扱われるというルールではなく、飽くまでも、こういう要素が入っているものは担保と扱うというルールを考えるとすると、いざ倒産手続が始まったら、これは担保なのだろうか賃貸借なのだろうかという判断をしなければいけないときの、一つの評価基準といいますか、ガイダンスとなるルールを定めるという以上のものではないと思うのですが、それで本当に弊害があるとすると、それはどこにあるのかをもう少し敷えんしていただければというのが二つ目です。 ○加藤参考人 協会の加藤でございます。   井上先生、御質問ありがとうございます。   全て的確にお答えできるかどうかですけれども、今回示された要件は、井上先生のおっしゃることであれば、予見可能性が全くなく、倒産のときに初めて担保付取引だと評価されるということをおっしゃっているということでよいのでしょうか。 ○井上委員 予見可能性が幾らか増すのではないかというのが私の理解です。どのリース取引を見た瞬間にも、それが担保か賃貸借かどちらかと分かるというほど、ものすごく明確なルールは、およそ立てられないのではないかと私も思うのですが、何もない状態よりは、一定のルールが示されている方が予見はしやすいのではないかと考えます。 ○加藤参考人 ただ、そこは多分解釈が違ってきて、我々が新しいビジネスを展開している中で、契約自由の原則の中で賃貸借をベースとしつつ、様々な、ファイナンスリースだけではなくオペレーティングリース、残価付取引、いろいろメンテナンス、役務を組み合わせたリース、それぞれ取引を開発しているという状況の中で、逆に今の方が柔軟な取引が組みやすいということです。予見可能性が低いルールが作られるということが、新たな商品開発の阻害要因になると考えています。 ○山田参考人 よろしいですか。   付け足しで申し上げますと、少なくとも現在でもそういう問題があるのではなかろうかという御指摘に関して言うと、今、オペレーティングリースと言われているものと、ファイナンスリースと称されているもの、これは実際には取扱いは多分違うはずです。特にオペレーティングリースは残価付のリースと呼ばれるもので、最終的に投下資金とか物件代金の8割も、半分しか回収できないような条件でリースを組む。こういうケースはあります。これはオペレーティングリースという形でファイナンスリースとしての扱いは受けません。ただ、こういうケースでも、物に関する危険負担といいましょうか、期間中に不可抗力によって滅失した場合、我々は最終的に物を返していただいて、それをうまく活用して投下資金を回収しようと考えているので、返すことができなくなったということに対するペナルティーは頂くような条件設定はしてございます。   ですから、それがこの法制化によってどう変わるのかというのは、正直分からないし、不安だと考えておるところです。 ○道垣内部会長 井上さん、いかがですか。 ○井上委員 まず、柔軟に商品設計できるかどうかは、予見可能性が高いか高くないかということとは別の問題だと思います。また、現在の状況が、予見可能性が高い状況にあるとすれば、商品設計の段階で、新しく作るこのリース商品のこの部分は担保と扱われるだろうけれども、ここの部分は賃貸借と扱われるだろうなということを予見して設計できるわけですが、現時点で予見可能性が高いかというと、そうではないと思いまして、そういう意味で、立法によってそれを幾らか高めることの価値自体はなくならないのかなと感じました。 ○道垣内部会長 それでは沖野さん、お願いいたします。 ○沖野委員 ありがとうございます。   委員の沖野でございます。   実務の立場からの考え方をお示しくださいましてありがとうございます。   私自身は3点をお伺いできればと思っておりましたのですけれども、1点目は既に阿部先生、井上先生から御指摘のあった点ですので、重複することになるのですけれども、お伝えするだけお伝えしたいと思います。   スライドの8ページのBの要素について、今、目的物が滅失してしまってなくなってしまった場合ということが例として挙げられているのですけれども、そのような状態ではないけれども、使えない状態にあって修理が必要であると、修繕が必要なために、現在使えない、動かないというような状況になっているときに、一般の賃貸借であれば使用収益ができない以上、その対価である賃料というのは、対応して取れないということになるのではないかと考えられますし、また、貸している側というのは修繕しなければいけないと、そういうサービス提供を負うんだと思うんですけれども、ファイナンスリースはそうではないのではないかと理解しております。利用、使用及び収益の有無、可否にかかわらずリース料を払うということだと理解しておったのですけれども、その理解は誤っているのかどうかというのが1点目です。   それに関連しますので、2点目として、この中で、ファイナンスリースもあればオペレーティングリースもある、ほかいろいろあるということで、こういうような要素を取り出されると、ファイナンスリースを念頭に置いておられるとしても、オペレーティングリースだとか様々なものが入ってきてしまうという御懸念をお示しくださいました。   そうしたときに、ファイナンスリースとオペレーティングリースなど諸種あるというとき、二つのカテゴリーあるいは多くのカテゴリーを前提としてお考えだと思うんですけれども、そこで言われるファイナンスリースとされるものとオペレーティングリースとされるものとは、どういう違いがあるとそもそもお考えであるのかということです。   今、途中で残価が非常に高くて、到底そんな全額を回収するものではないというようなものがオペレーティングリースという一つの例を挙げていただきましたが、もしそうだとすると、やはりAがその場合は要求を満たさないということになると思うのですが、そもそもオペレーティングリース、ファイナンスリースというものがありますというときに、この両者の違いは一体どこに一番あるとお考えなんだろうかという点が二つ目です。   3点目ですけれども、このファイナンスリースの金融取引の側面、あるいは担保の取引の側面というのを重視して、それにふさわしい規律内容を用意すると。それが法律関係の安定にもつながると考えられるのではないかと思っておるのですけれども、そういった扱い自体は、例えばアメリカですとかドイツでも見られるところです。本日大変興味深く思いました一つに、我が国におけるファイナンスリース契約の展開の中で、アメリカの契約書ですとかドイツの契約書を参考に工夫をしてこられたということを伺ったんですけれども、例えばアメリカなどでは、そのファイナンスリースというのは、これはファイナンスリースということであったとしても担保取引だということで、UCCの第9編の規律が一気に係ってくるということは恐らく確立していると思われます。そういった取扱いをすることが、新たな商品設計を非常に困難にするとか、非常にマイナスの影響が市場に及んで、このタイプの契約や取引を萎縮させるという状況は、アメリカなどではないのではないかと思われるのですけれども、しかしながら、日本の場合はそれが懸念されるということだとしますと、どういうことが日本にはやはり特徴的にあって、それが問題であるとお考えであるのかということにつきまして教えていただければと思います。   以上3点です。お願いします。 ○加藤参考人 協会の加藤でございます。   沖野先生、ありがとうございます。   3点、適切な御回答ができるか心配でございますけれども、御回答します。   最初の御質問でございますけれども、賃貸借とファイナンスリースの違いということで、ファイナンスリースにおいて使用収益の対価関係にないのではないかということかと思いますが、このファイナンスリースというのは、先生の御理解されている典型的なファイナンスリースもありますし、賃貸借に限りなく近いファイナンスリース、例えばリース会社が保守修繕義務を負っているようなリース契約というのは実際にあります。それがすごく多いと言っているわけではありませんが、バリエーションがあることは確かです。ですから、必ずしもこれがファイナンスリースしかないということではなくて、お客様の御要望に応じて限りなく賃貸借に近いファイナンスリースといったものもあるのは事実というのが1点目です。   2点目でございますが、法律で言うファイナンスリースと、我々が言っているファイナンスリースとオペレーティングリースというのは、すれ違っているところがあるかと存じます。取引先の中心は企業であり、企業の会計基準、この部会の中でも紹介されていたと思いますが、ざっくり言ってしまうと、おおむね投下した資金の90%をリース料として回収するものがファイナンスリースで、それ以外の取引はオペレーティングリースということで、用語を使っています。ですから、フルペイアウト方式のファイナンスリースとか、ノンフルペイアウトのファイナンスリースというのは、一般的な実務で使わなくて、会計基準のファイナンスリースかオペレーティングリースかということが産業界にとってなじみがある区分けでございます。   3点目でございますが、歴史の発展過程なので、評価がすごく難しいと思います。ただ、冒頭申し上げましたアメリカとかドイツとかの契約書は参考としつつも、やはり最後、日本の賃貸借をベースとしつつ、特約とかで賃貸借の要素を排除していったということであります。当時、リース創成期に、リースというのは、そもそもどういった取引かといった議論がありましたが、1960年代に、税制との関係で最終的に着目されたのは、物の貸し借りである賃貸借をベースとした取引と整理されたことです。アメリカの発展形態と諸外国との発展形態と違います。沖野先生のお答えに直接御回答できなくて申し訳ありませんが、そこは発展過程の違いではないかと考えます。 ○山田参考人 付け足しで、3点目の問題でいいますと、私も触れましたけれども、リースという取引自体が会計制度ですとか税制税務、この世界において、日本においていかにお客様にメリットのある形で商品化できないかという形で今までに至っているということで、例えばアメリカとの比較について言うと、これはアメリカの会計制度と税制度がどうなっているのか、それと法制度との法律上の扱いとの連動がどうなっているのかという辺りが、米国と日本では一致しているわけではありません。特に会計と税務のところの扱いがかなり違いますので、その中で日本はいかにリースに、日本の制約の中でメリットのある取引に仕上げるか、仕立てるかという形で、今までの歴史を歩んできていたというところがあるので、一概に比較論では言えないのかなと思っております。   それと、冒頭のところで、修繕義務のことについて言及いただきましたけれども、これも正に加藤から御説明申し上げましたとおり、いわゆるメンテナンスです。これを付加した、でもファイナンスリースですみたいな、メンテナンス付ファイナンスリースみたいなものも、そういう言い方は我々あえてはしませんけれども、そういう取引が幅広く行われております。   ですから、そういう意味では、この境界の部分が不明瞭になるということについて、非常に危惧を抱いていると、こういうことでございます。 ○道垣内部会長 では、沖野さん、お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。詳細に御説明くださいましてありがとうございます。   1点目について、念のため確認させていただきたいのですが、修繕義務、あるいはメンテナンスの義務を負うものもあるということですが、その場合には、修繕がされるまでの間はリース料は取れないという理解でよろしいでしょうか。つまり、使えない以上は取れないという、そういう商品だということになりますでしょうか。 ○山田参考人 自分の会社で取り扱っている商品となりますが、使えない間というよりも、使えない状態を作らないで、仮に物件が使えない場合は代替機を御提供するという、サービスというか、リースの取引がございます。ですけれども、すべからくそういう取引だということではありません。そういう取引があるということでございます。 ○沖野委員 よろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 いや、ちょっと時間の制約がありますので、先に山本和彦さんお願いできますか。また時間がありましたら沖野さんに戻ります。 ○山本委員 すみません、沖野さんが話した方が有益なんだろうと思うので、一言だけ、1点だけ簡単な質問ですけれども、今日のお話の中には、最高裁判所の判例のお話は一切出てこなかったように思ったんですけれども、これまで御質問された皆さんが御指摘になっているような、要するにリース料の支払とリース物件の利用に対価関係が基本的にはないという前提で、賃貸借とは違う契約類型なんだということを前提とした判示というものをした判例というのは幾つかあるように思うんですが、そのような判例との関係で、今日の御発表というのはどういうことになるのかということをちょっとお尋ねできればと。まあその最高裁判所の判断にそもそも反対なのだという御趣旨なのかもしれませんけれども、今回の立法は、私の理解では判例法理を立法していくというか、ある程度明確にしていくという、井上さんも言われましたけれども、そういう趣旨のものなのかなと理解していたものですから、ちょっとその判例についてのお考えというのをお教えいただければと思います。 ○山田参考人 少なくともリース会社及びユーザーが、このリースを取り組むに当たって、担保権を設定しているという認識というのはございません。ましてそれが、利用権が担保になるんだと、こういうことに関しましては、最高裁もそこまで判決の中で容認をされているとは理解をしていません。   この利用権を担保にするという御提案に対して非常に驚いているというのが、我々の認識でございます。 ○山本委員 最高裁に反対されているわけではないということですか。 ○山田参考人 個別の裁判例に反対という立場ではないと理解しております。 ○道垣内部会長 そうすると、利用権が担保の目的となっているという文言を除けば、内容的にはこのままでよろしいということでしょうか。 ○加藤参考人 その点はまだ御提案として示されていないのでノーコメントです。 ○道垣内部会長 分かりました。   すみません、後回しにしてしまいましたが、沖野さん、手短にお願いいたします。 ○沖野委員 ありがとうございます。   実は井上先生がおっしゃった点を繰り返すだけのことでした。要素として、これらの要素を満たさないのであれば、これらの要素を満たさないというだけで、およそファイナンスリースはということよりも、このような要素があるものについてはこういった扱いをしますというのが提案の内容かと思いますので、それをもう一度申し上げるというつもりでした。それだけでしたので、結構です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   時間も大体まいっていますが、どなたかほかに御発言はございますでしょうか。   それでは、まだまだ山田さん、加藤さんにお伺いしたい点もあろうかと思いますが、時間の関係がございますので、残念ながらこれで終了させていただければと思います。   山田さん、加藤さんにおかれましては、大変お忙しい中、当部会の調査、審議に御協力いただきまして、大変ありがとうございます。どうもありがとうございました。   それでは、ちょっと開始から長時間が経過しておりますので、ここで少し時間を、休憩を取らせていただければと思います。15分ほど、4時まで休憩といたします。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○道垣内部会長 お戻りでしょうか。予定をしておりました16時になりましたので、会議を再開したいと思います。   ここからは、丸紅株式会社法務部法務第二課長の橋本知也さんに参考人として御意見をお伺いしたいと思います。   橋本さんはウェブ会議での御参加となられます。もう接続はしてくださっておりますので、よろしくお願いいたします。 ○橋本参考人 丸紅法務部の橋本でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。   スライドの方、事前に、すみません、直前になりましたが、お送りしていまして、こちらTeamsの方で御共有を、事務局の方、いただけますでしょうか。ありがとうございます。   今日はお時間ありがとうございます。   簡単に自己紹介させていただきますと、私、丸紅に入社してから25年弱、法務部で国内の債権回収とか担保取引などをやってまいりました。ただ、ずっとこの国内担保だとか債権回収だけやってきたわけではなくて、今は主に弊社の方の電力事業部だとかエネルギー、金属といった、そういうプロジェクト系のところをやっています。25年近く総合商社にいまして、法務部の中で繊維取引だったりだとか、あるいは食品取引だったりだとか、その辺のあらゆる分野の一応取引は見てきたつもりですので、その辺の全般的な実務の面で今日はお話しさせていただければと思っています。   では、すみません、スライドの方、次のページをお願いできますでしょうか。   今日、私の方からお話しさせていただく内容です。   まず一つ目が、「商社における債権保全・回収の実務」、それから2番目が「担保権実行の実務」、こちらは債権譲渡と動産譲渡担保、こちらのところを話させていただければと思っております。   それから、三つ目、一番メインになるかと思うんですが、今回の「中間試案に対する私見」ということで、簡単にお話をさせていただこうと思っています。   もちろん3番目のこの中間試案のところがメインになるわけですが、それ以前に総合商社を始めとする、いわゆる商取引を行う一般債権者、こういった者たちが、一体今、担保取引をどのように行っているのか、この20年くらいの変遷も含めてちょっとお話しさせていただいた方がいいかなと思って、1番と2番目の方を入れさせていただきました。   それから、担保取引といっても各種担保はございますが、現状は商社のような、我々のような者が国内で担保取引をやるとなると、どうしても債権譲渡担保、それから集合物の譲渡担保、この辺が中心になりますので、この辺のところの実務と中間試案に対するコメントと、この債権譲渡と動産譲渡担保、ここを中心にお話しさせていただこうと思っています。   お話のポイントとしては、もうごく簡単に言ったら二つでして、一つは昨今、少なくとも総合商社においては、国内取引における担保取引、債権回収事案というのは昔と比べるとかなり少なくなってきているという点です。   それから二つ目、今回の中間試案に対しては、少なくとも総合商社の法務担当の目線から見ると、実務上著しい支障が出るような点は特に見当たらないかなと考えております。この辺の2点をお話しさせていただければと思っています。   それから、前半のお話は、東京弁護士会の倒産部会のお話だとか、ちょっといろいろなところで似たようなお話をさせていただいていますし、別冊NBLのナンバー178の方で私の寄稿の方をさせていただいておりまして、そちらの内容とかぶる部分もございますが、どうぞその点は御容赦ください。   では、次のスライドをお願いします。   「商社における担保取引・債権回収の事案の変遷」ということで、もうここのポイントは先ほど述べたとおり、一つは商社における担保取引、いわゆる担保を裏付けとした与信供与取引というのがかなり減ってきています。それこそ昔は金融機関の付けた後に、不動産担保を付けて、国内の担保取引をしておりましたが、現状はもうものすごく減っているということです。それから、特に2000年代前半以降、2000年ぐらいから急激に担保取引は減少してきたというのが肌感覚であります。この辺の要因については、ちょっと次のスライドでお話ししたいと思います。   次のスライドをお願いできますでしょうか。   左の方に年代を書いて、右の方にポイントになることを書いておりますが、1980年代、この頃というのは皆様御存じのとおり、担保、金融機関の次に付けておけば、自然と不動産価格が上がったので、おこぼれにあずかれて、銀行の後順位でも、実行するときにはもしかしたら余剰が生まれていると、そういったこともあって、商社始め各民間の取引業者というのは金融機関の次に担保を付けていた時代だと思います。   これが1990年代前半になってきますと、不動産担保に頼った与信というのは大きく方向転換になった時期かなと思います。当然バブルがはじけて不動産価格が下がったということもございますが、この頃は中小企業の資金調達の多様化の要請というのがちょうどあって、債権譲渡担保だとか動産譲渡担保、こういったものがより活発に不動産担保に代わって商社のような商取引を行う担保権者、こういった一般商取引債権者の間で使われるようになってきたかと認識しております。   その後、2000年前後、1990年後半、この頃になると、特に繊維業界を中心にものすごく倒産事案が多かった時代でした。私もちょうどこの1990年代後半に会社に入って、国内の債権回収事案というのはかなり多くやってきたんですが、この頃から、ここにも書いたとおり、債権譲渡担保、特に未登記の、いわゆる商社が使っていたような停止条件型だとか、あるいは予約完結権行使型だとか、そういった債権譲渡の担保に対する相次ぐ否認の判例が相次いだ時代でした。   それから、ここにも書きましたが、倒産法改正です。特に和議廃止、民事再生導入、こういったいろいろな時代背景もあって、非常にこの頃から急激にやはり債権譲渡担保、特に債権譲渡担保です。これもだんだんと漸減してきたようなイメージがございます。   この2000年前半から、今、2023年ですが、この間を振り返ってみますと、最初にもあったとおり、この担保取引というのはものすごく減ってきているんですが、この理由としては、この債権譲渡担保の否認の判例だとか倒産法改正以外にも、例えばこの取引信用保険の利用拡大が進んだりだとか、あるいは企業側で与信管理手法の変化、昔は、いわゆる不動産担保を取ったりだとか、そこの担保の裏付けとして幾ら与信できるかと、そういう与信管理をやっていたものが、いわゆる倒産確率の手法の導入だったりだとか、あるいはスコアリングと呼ばれるものです。こういったもので与信管理手法自体も担保に頼るものから、いわゆるもうちょっと統計的な、数字的なもので管理するように変わってきたというようなこともあるのかと思います。   これは御参考までですが、この与信管理の手法というのは、当然民間の会社で会社によっては違うので、一概にどの会社がどういう手法をやっているかというのは、これは言えませんが、一般的には倒産確率だとかスコアリングというのを用いた与信管理をするというのが、国内の会社では一般的かなと考えております。   それから、これは総合商社だけの話になると思いますが、総合商社の収益源、それからビジネスモデルの変化、特に国内トレード案件の減少というものも、商社が昔行ってきた担保取引というのが減ってきた理由の一つではあるのかなと考えています。   次のスライドをお願いします。   続きまして、これは「商社取引における物的担保一般」ということで、簡単に表にまとめましたが、具体的にどういったものを、いわゆる商取引で担保に取っているのか、詳しくお話はしませんが、簡単にですがちょっとまとめました。   左側に担保の目的物、不動産、土地建物、定期預金、売掛金、あと在庫商品、上場株式、これがあって、この真ん中に担保の種類ですが、簡単に書いています。   不動産は先ほどお話ししたとおり、2000年ぐらいまでは取っていましたが、今はもうほとんど取っていません。それから、定期預金です。これも定期預金質権ということで、取引先から定期預金を開いてもらって、これを質権で担保に取るというようなことも昔はよくやっていたんですが、これもここ10年ぐらいはほとんど見ないです。ただ、土地だとか不動産を購入するような取引で、例えば前渡金だとか手付金なんかを支払って、その保全手段として定期預金を開いてもらって質権に取るような、そういう特殊取引では使うことはありますが、いわゆる一般的な売買取引に、取引先から与信の担保として定期預金の担保を取るということはほとんどなくなっています。   それから、売掛金の債権譲渡担保、これはもちろん今でも取っています。取っていますが、くどいですがかなり件数は減ってきているという状況もあります。   それから、譲渡担保、それから所有権留保、これも後ほどお話ししますが、簡単に言うと総合商社、特に当社の場合だと、余り所有権留保というのは担保価値を見込んでいません。この辺が、いろいろなところでお話ししていてもちょっと温度差があるところかなと思うんですが、はっきり言ってしまうと所有権留保はもう駄目元で取っているような感覚でやっております。自分たちが売った商品でも、これに価値を見いだして、担保価値を見ようとすると、所有権留保ではなくて、むしろ改めて譲渡担保を設定してやっているケースの方が、当社の場合だと多いです。   それから、次、上場株式、これも担保に取っていることは、今でも多少はあります。当然株券不発行制度になってから、これは昔は質権か譲渡担保か、実務上は明確にしないで担保に取っていたんですが、今は当然この質権か譲渡担保か明確にしなければいけなくなっていますので、どちらか決めてやっています。   それから、特許権だとか、いわゆる産業財産権を質権で取るというようなことが、ほかの会社さんではあると思うんですが、総合商社、特に当社の場合だとほとんどありません。私も、もう会社に入って25年弱この法務でやっていますが、産業財産権を質権で取ったことというのは見たことがありません。   それから、現金担保です。これは、いわゆる保証金で取ったりして、これも後ほどお話ししますが、一部の業界ではまだ残っています。   それから、枠外に書きましたが、それこそ2000年ぐらいまでは、取引先の経営者の方から生命保険で質権を設定させてもらったりだとか、ゴルフ会員権担保を譲渡担保で取ったりだとか、この表に記載していないような担保というのも存在しましたが、現状はほとんどこういった担保もなくなっているのが実際のところでございます。   債権譲渡担保と譲渡担保が一般的というお話を冒頭でもしましたが、これはやはりABLのみならず、一般商取引でも担保実務においては現状はやはり債権譲渡担保、それから動産譲渡担保というのが中心になっているのかなというのはあります。   それから、今、産業財産権のところの担保、全くないとお話ししました。この補足をすると、私が知っている限りだと、例えば地銀さんなんかが、いわゆる知財融資とかをされているところがあると認識していて、そういったところでは使われているのは認識しておりますし、あとはスタートアップ投資とか弊社でもいろいろやっていますが、スタートアップ投資で、今、産業財産権とか担保に取るということは、商社がスタートアップ投資に投資するような場面で全く使われていないですね。ここはちょっと補足ということです。   次のスライドをお願いできますでしょうか。   先ほど担保取得、債権譲渡担保と集合物譲渡担保、これが中心ですよというお話をしましたが、業界別ではちょっと特色がありますので、御参考程度に紹介しておきます。   まず一つ目、業界による違いありと、業界慣習、歴史、取引先との力関係の影響。2000年代前半までは、繊維業界でやはり担保取引が非常に盛んだったと思います。特に今はほとんどやっていませんが、在庫融資とかというような商社金融がこの時代は旺盛だったんですね。これは何かというと、例えば毛布を作っている会社があったら、例えば夏場に商社が冬の在庫を一気に買い上げて、いわゆる在庫融資というようなものをしたり、又は在庫を譲渡担保で取って融資したりだとか、そんなような、いわゆる商社金融と呼ばれたようなもの、これを20年ぐらい前まではやっていました。ただ、こういった取引は架空取引だったりだとか、循環取引だったりだとか、そういった別の問題、リスクをはらんでいたので、今はほとんどそういうことはやっていません。   それからもう一つ、特色として挙げられるのが、それこそ2、30年前は総合商社の取引先でも個人資産を潤沢に有するオーナー企業との取引というのはたくさんあって、個人の方から担保提供してもらうというのは、国内取引だと多くありました。これが国内トレード取引の減少とともに、あとは時代の流れもあって、こういった個人資産を有するオーナー企業との取引というのが減少したということも、一つ冒頭の方で述べたとおり、担保取引が減ってきている理由の一つだと思っています。   次に食品業界ですが、消費期限などの関係から、この業界は債権譲渡担保以外はほとんど使われないと認識しています。お菓子だとか賞味期限等が長い商品であっても、これを譲渡担保に取るとかということは、少なくとも商社、総合商社の実務だとやっておりません。   もう一つ、ここの資料にも書きましたが、鉄鋼、スクラップ業界、こちらの業界では、昔からですが、所有権留保だとか集合物譲渡担保、これは広く活用されています。これも昭和の時代から平成にかけて、商社が当事者になる裁判で、集合物譲渡担保の数多くの判例というのは作ってきたところですが、そういった業界の特色があるのも一つかなと考えております。   それから、石油製品取引、特に、例えばガソリンスタンドを経営している会社さんに、総合商社が軽油を売るとか、そういった国内の石油業界の取引は、今でも銀行保証だったりだとか、あるいは保証金、こういったものが業界の特色として非常に多く使われているということがあります。   それから参考までに、私の方は米国の取引なんかもいろいろやっていたことがあるので、いろいろこの中間試案の検討に向けてUCCファイルの話なんかも出てくるので、参考までにお話しさせていただくと、アメリカで商社がいろいろトレードをやっていますが、UCCファイリングを実際に使っているのは、鉄鋼、アルミ、自動車部品、この取引がほとんどです。例えば弊社なんかだと、アメリカでも化学品の取引とかというのをものすごく多くやっているんですが、例えば化学品の業界だとUCCファイルとかというのはほとんどやっていないですね。むしろ、下の方にも書いていますけれども、取引信用保険というのがアメリカだと非常に進んでいまして、これは業界の違いが非常に顕著に表れていまして、アメリカでも鉄鋼業界とかの取引だとUCCファイリングは使うと。一方で石油製品の取引とかだとUCCファイリングは使わずに、取引信用保険でやっているというような特色がございます。   それから、アメリカ以外のところでも書きましたが、これは私もシンガポールに駐在していたことがあって、東南アジアの与信管理、法務だけではなくて与信管理も見ていた時代があったので、そこの話もしますと、非常に特定の業界、特に化学品の業界です。いわゆるポリオレフィンとかプラスチックの原料になるようなトレードを、総合商社というのはどこもやっていますが、そういった取引だと、ここもやはり担保ではなくて、取引信用保険、これが非常に浸透している業界です。   御参考までにお話しすると、この取引信用保険というのは、特に海外の場合は一社一社に掛けるというよりも、例えば取引先が100社あったら、上位1社から下位100社までという形の保険の掛け方をして、与信上問題がないところもあるし、問題があるところも入れてということで、いわゆるポートフォリオ的にテーラーメイドで保険会社に作ってもらうので、ですから、取引先、与信先として問題があるところだけ、例えば10社選んでここに保険を掛けてくださいと、保険会社は保険を掛けてくれなくて、いわゆるアトランダムに上位100社とかを選んで、そこで保険会社の方が査定をして、それでどの程度のリスクを引き受けるかという計算をして、個別に保険商品を設定してもらうというようなことをやっております。   次のスライドにいっていただけますでしょうか。   「債権譲渡担保取得の実務」ということで、ここももう皆さんよく御存じのところだと思うので、簡単に言いますと、総合商社の今現在、実務上取る債権譲渡担保、類型はもう三つです。第三債務者承諾型と、それから登記型、停止条件型もありますが、もう2000年頃の停止条件型と予約完結権行使型、もうこの辺、危機否認だとかあらゆる否認形態でも使えなくなっていますので、実務上はほぼ使っていません。   資料の方の最後、三つ目の印のところに書きましたが、潰れた場合には否認権行使されることが分かっていても、駄目元でどうしても取らなければいけないというときは使うことがありますが、ほとんどないです。   それから、債権譲渡契約を結んで、取得と同時に通知するということももちろん考えられるんですが、実務では、もう即通知する通知型というのはほとんど使っていません。なぜかというと、通知できるのであれば承諾が取れるだろうということで、むしろより簡便な、もう第三債務者から承諾を取ってしまう承諾型の方が、少なくとも弊社の場合には多く活用しています。   次のスライドをお願いします。   担保の概要のところでもお話ししましたが、ここでは「動産譲渡担保と所有権留保の使い分け」について、当社の考え方をお話ししておきたいと思います。   一般的には自社が売ったものは所有権留保で、それ以外のものは譲渡担保で担保に取るというようなことが言われていますが、所有権留保にするのか、あるいは譲渡担保で取るのか、これはケース・バイ・ケースです。資料の方に書いてあるとおり、所有権留保したとしても、私ども総合商社がやっているものは、商品によっては他社さんが売ったものともうごちゃ交ぜになって、自分たちが売ったものがどれか峻別できなくなるというケースが非常に多いんです。そういった場合には、もう所有権留保だと、もう本当に絵に描いた餅になってしまうので、そういった場合には取りません。ここにも書いてあるとおり、建設機械だとか設備機械、こういった番号が打ってあって、明認方法だとか、あるいはもう峻別が容易なもの、こういったものであれば所有権留保を取ることはありますが、それ以外の場合だと、譲渡担保で取るという方が一般的には多いと言えます。   それから、所有権留保は駄目元的なものですということで、少なくとも当社の場合、その程度にしか考えていませんとお話ししましたが、どこの会社でもそうだと思いますが、いわゆる裏面約款、定型書式を作っていて、その中では当社が売主になるようなものでは、デフォルトの条項で所有権留保条項を入れています。これは、国内の取引でもそうですし、英文のボイラープレート条項でもそのようにしております。一般的に相手方からの要請で、この所有権留保を外してくれと言われれば、一般的には外したりして、この辺は柔軟に対応しています。   それから、この中間試案の議論を見ていますと、いわゆる拡大された所有権留保のお話もいろいろされているんですが、これもいろいろなところでお話ししているんですが、少なくとも私の認識だと、実務上は余りこの拡大所有権留保について、実務上意識して契約のドラフトをするとか、それが問題になった事案というのは余りないと認識しています。正直申し上げると、実務の世界、企業実務の現場では、所有権留保といったときに、この拡大所有権留保のところは余り意識していないというのが率直なところだと思います。   もちろんこれは、総合商社、少なくとも当社の立場で物を申させていただいていますので、当たり前ですがリース会社さんだとか、それから一般的に担保を取引せずに所有権留保を頼りに与信取引されている債権者の方も世の中には多く存在するということは御認識いただければと思います。   次のスライドの方、いっていただけますでしょうか。   続いて譲渡担保の話です。   総合商社の場合には、特定物の譲渡担保、設備機械とかを取るよりも、むしろ集合物、これを取る方が多いです。そのため括弧して集合物譲渡担保ということで書きました。今日、この後お話しする譲渡担保の原則として、私が譲渡担保といったときには、集合物譲渡担保のことをイメージしているケースが多いので、集合物譲渡担保の方を念頭に置いてお話を聞いていただければと思います。   当社の場合、一般的に使っているのは、3類型です。一つが非登記型で、占有改定プラス明認方法、もう一つが指図占有移転と明認方法、これは、担保設定者が自社で保管しているものではなくて、倉庫とか営業倉庫なんかに商品を入れている場合、そういった商品を譲渡担保で取る場合、これは指図による占有移転の方法。登記型もありますが、これも簡単に言うと、登記しているものはもうほとんど数件しかございません。今も。何で登記しないのかというと、これも世間一般で言われているとおり、引渡しによっても対抗要件を具備できていることと、それから、登記をなかなかさせてもらえないケースが多いということ。それから、私のNBLの論考でも書きましたが、やはり登記している事実が明るみになると、例えばほかの同じような商品を売っている同業他社のサプライヤーが所有権留保して、集合物譲渡担保の方に組み込まれないようにしたりとか、そういったことをされたりすることもあるので、一般的には登記を無理にしなくてもいいだろうという考え方が、少なくとも当社にはあります。   個人的には、登記できるものなら登記した方がいいとは考えているんですが、一言で言うと、現状そこまで登記にはこだわっていないというところもあります。   資料の方の一番下に、倉庫等第三者が保管する場合には、担保契約上、留置権の不行使を明記と書きましたが、特に重要な点ではなくて、いろいろ譲渡担保のところで議論されているようなことというのは、留置権の行使とか不行使とか含めて、契約上契約内容の方でリスクヘッジをしている、対応しているというのが現状だという御紹介までのことで、ちょっと資料の方に記載しました。   次のスライドにいっていただけますでしょうか。   続いて、「担保権実行の実務」ということで、債権譲渡の実行と、それから集合物譲渡担保のところ、特に商社の、いわゆる商取引を行う担保権者の目線から見て、実務上重要だと考えているポイントを簡単にお話しさせていただきます。   まず一つ目が、譲渡通知発送のタイミングの見極めです。これは、ここにも書いてあるとおり、中間試案のところで、設定者の再生手続申立、それから更生手続開始を理由に、その取立て権限を喪失させられなくなるというようなことを議論されていますが、少なくともここは譲渡通知発送のタイミングの見極めというところで影響が出てくるとは思っています。なぜ発送通知のタイミングの見極めが重要かというと、我々が債権譲渡担保に取るような場合というのは、当然金融機関にも債権譲渡されたりだとか、あるいは他社のサプライヤーさんの方に譲渡されたりだとか、やはり二重、三重に譲渡されているケースがほとんどです。そういった場合に、いかに対抗要件を早く具備するかということで、その譲渡通知の発送のタイミング、この見極めというのが実務上非常に重要になってくるというのがあります。余り早く送り過ぎて、倒産の引き金になることも、はしごを外して倒産の引き金になることも、我々は避けなければいけないので、そういったことで、非常に実務上はこの譲渡通知発送のタイミングというのは気を遣っています。   それから、競合した場合の回収方法、これももう皆さん御案内のとおり、一般的には通知を発送しても、担保協定を結んで金融機関なんかと一緒に回収させていただいて、回収残高に応じて和解で分けるとか、あるいは破産の場合でも、破産管財人と早めに担保協定を結んで、回収に協力する、あるいはしてもらう。こういったことが昔から一般的です。現状の実務でもこのようにやっています。   最後に書きましたが、昔はそれこそ債権譲渡担保の効力が否認された判例ができた頃は、非常にあの頃は微妙だったので、いわゆる破産事件で商社が債権譲渡通知を送って、それで管財人の先生が否認権を行使すると。そこで交渉して、では、破産管財人の先生と、例えば7・3で分けるとか、5・5で分けるとか、そこがもう、いわゆる商社が交渉をやってきて、そこで回収確率を高めてきたというような、20年前はそういう交渉をやっていましたが、現状はもうほとんどそういう債権回収の交渉は減ってきています。   それから、集合物譲渡担保の話ですが、これも債権譲渡のところとほぼ一緒ですけれども、実務上のポイントとなるのは、明認方法の徹底、それから担保物件の保全のタイミングの見極め、実務上はここかなと考えています。明認方法、これは契約では明認方法を施せとなっていますけれども、実務上、いわゆる平常時には、設定者の方で商社のために明認方法を施してくれる人、ほぼ皆無です。実際は、いわゆる倒産の兆候が近づいてきたりとか信用不安が流れてきたりとか、その段階になっていよいよまずいぞという段階になって、特に集合物譲渡の場合には、他社が売った商品ときちんと分けてもらって、立て看板を立てて、明認方法を施してもらうとかするのが現実です。   それから、担保物件の保全、債権者の占有下に移すということを括弧書きで書いていますが、これは総合商社特有だと思うんですが、本当に集合物譲渡担保を取っていて、本当にちょっといよいよまずいぞと、取引先が倒産したぞと、しそうだぞという場合になると、例えば我々が管理している倉庫に商品を移してもらうとか、あるいは担保設定者、すなわち債務者の手元に置いておくとちょっと心配だということになると、我々が倉庫料を払ってでも、第三者の倉庫の方に商品を移させてもらって、そこで入出庫の管理などはさせてもらうと、そこまで管理することも実務ではあります。   それから、所有権留保との競合です。これも実務上は、やはり所有権留保との競合というのが集合物譲渡担保の場合には一番問題にはなります。   それから、倉庫業者が留置権を主張した場合の対応です。これも書いてあるとおりで、実際には倉庫業者からは、もう留置権は行使しないというような、留置権を放棄した承諾書を取るようなケースもあるんですが、もちろん全部取れるわけではないので、未払の倉庫料があると、当然留置権を行使されます。こういった場合には、金額にもよりますが、大半のケースで我々商社が未払の賃料も払って留置権を解除してもらうということが実務的には多いです。ただ、この辺は未払の金額と担保価値との比較ということに、当然ですがなります。   次のスライドをお願いします。   ちょっと前置きが長くなりましたが、ここからは「中間試案に対する私見」ということで、今回の中間試案を拝読させていただいて、債権譲渡担保、それから集合物譲渡担保のところを中心に、気になったところをコメントさせていただければと思っています。   まず一つ目が、「担保法制見直しの方針・方向性について」ですが、一言で言うと、冒頭にも述べたとおり、商取引を行う担保権者及び一般取引債権者の立場としては、実務上大きな支障は出ないのではないかと私は考えております。   それから、これ、一つ目の方、資料に書いていますけれども、これは研究会資料、これは商事法務研究会の研究会資料のことを意味していますが、こちらの方で銀行以外の貸主が担保を活用する場合についても意識すべきであり、例えば企業間信用、特に商社や問屋金融などの与信手段として担保が活用される場合のニーズを踏まえるべきと。この考え方自体は非常に有り難いと思っていまして、この担保法改正に、特に企業間での信用取引、担保取引が活性化されれば、これに越したことはないとは考えています。   ただ、現状では、前半にお話ししたとおり、この20年、30年で急激に担保取引が減っています。この中間試案に基づいて担保法が改正されても、昔のように我々みたいな総合商社が、昔のように担保取引をより活性化させるかというと、そうはならないのではないかと個人的には考えています。これは時代の流れもありますし、与信手法が変わったとか、冒頭に述べたような理由が一つあります。   それから、あとは最後の方にお話しさせてもらいますけれども、事業権担保、これが認められるようになった場合には、いわゆる事業権担保で金融機関に全部取られてしまうと、我々みたいな商取引担保権者が取る担保というのも、まあ現状既にそうですけれども、もう取るものがないので、なかなかこの担保を使って与信をまたしていくというのは難しいのではないのかなと感覚的には思っております。   話は変わりますが、債権法の改正のときも、債権法改正で施行前は、実務がどう変わるんだということで、実務上の対応ということで、右往左往していたような部分はあるんですが、実際に債権法が改正されて蓋を開けてみたら、実務上の感覚としてはそれほど大きな影響はなくて、改正法の蓋を開けてみたら、大きな変革や混乱もなく現在に至っているというのがあって、正直肌感覚としては、この担保法改正の後も、契約書の実務、契約書の改定とかその程度の変更で対応できて、それほど大幅に商社の目線から見ると変わらないのではないかなと考えているところがございます。   もちろん今、私、この商社の立場ということでお話ししていますが、私ども商社というのは、いわゆる担保を取って、金融機関さんと同じように準金融機関の立場で与信する場合もありますし、あるいは全く担保を取らずに、本当に一債権者として物を納入しているような立場もあります。そういったことで、資料の方にも商取引を行う担保権者、これは準金融機関のような立場になる場合の目線、それから、一般取引債権者、これは何も担保を取らずに、ただ所有権留保だとか、あるいは留置権だったりだとか、そのあとは法定担保権、これだけを頼りに与信をすると、こういった立場はいろいろありますが、そういった観点でも商社の立場では大きな影響はないのではないかなと考えています。   それから二つ目、「『新たな規定に係る動産担保権』について」のところですが、ここからは特に個別論の、雑感というかコメントのお話をさせていただければと思っていますが、中間試案第1−6のところに記載がございます担保権者の権限のところです。新たな規定に係る動産担保権の処分等の、この全部又は一部とするか。ここの議論については、一部譲渡、全部譲渡を認めるかという議論、商社の目線からすると、これは非常にニーズはあると思います。これは、中間試案の補足説明の方も拝見させていただいて、そちらの方にも記載されていましたが、特に我々みたいな商社が、資材とかのメインサプライヤーになっているケースというのがあるんです。そういった場合に、与信の関係で、例えば当社がメインサプライヤーになっているけれども、与信上の都合でほかの商社にメインサプライヤーを変更するとかというようなとき、こういったときというのは、多分担保を取っていると、そのまま担保も移管しますので、こういった場合には、全部譲渡とか一部譲渡というのが法律上明確に認められると実務上やりやすいのかなと考えています。   不動産担保の一部譲渡、全部譲渡と一緒です。昔、それこそ不動産担保を取っている時代はメインサプライヤーである商社が不動産担保を取っていて、では、それをほかの商社にメインサプライヤーを代わってもらうときに、まずは根抵当権の一部譲渡で共有しておいて、全部債権が消えたら、それを全部譲渡に変えてというような担保の移管というのをよくやっていましたので、同じようなイメージで使われるのかなと考えております。   それから、二つ目のところで、中間試案第1−9で、担保権極度額の要否の議論のところ、ここも補足説明の方を拝見しましたが、私どもの会社だと、集合物譲渡担保の場合でも、極度額を入れているケースが多いので、実務の感覚としては極度額をもう既に入れているのが一般的かなと、根担保の場合には考えております。   それから、次、三つ目、「債権譲渡担保権について」のお話ですが、この中間試案第3−4の(2)のところに記載されている、設定者が権限の範囲を超えて取立てした場合の譲受人及び第三債務者の保護に関する特別の規定は設けないというところ、これ、中間試案では集合債権を目的とする債権譲渡担保の場合、設定者は通常の事業の範囲内で、その特定された範囲に含まれる債権の取立てをする権限を有するものとすると。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、その定めに従うものとするとなっていますが、この辺のところ、中間試案どおりになったら、雑感にすぎませんが、譲受人の保護がされないということは、契約上の規定で補うことになるのか。現状の実務と変わらないのかなとここは考えております。   次のスライドにいっていただけますでしょうか。   続いて、「新たな規定に係る動産担保権の対抗要件等」ということで、いわゆるここの部分は登記優先ルールのお話だと思うんですが、ここは一つ目のところで、まず中間試案の方で、登記をすることができ、登記がされたときは、引渡しがあったものとみなすと。所有権留保との優劣の問題が解決される限りにおいては、対抗要件の登記の一本化をしても、商取引を行う担保権者の立場としては特に不都合はないのではないかと。むしろ次の点を考慮すれば、登記に一本化されるべきではないかと書いていますが、中間試案とは離れて、私個人の考えとしては、実務の感覚として、今、引渡しと、それから登記、これは対抗要件が二つありますが、登記に一本化した方は実務上でいうとやりやすいと昔から思っています。いっそのこと一本化してしまってもいいのではないかという思いが昔からはありました。それを書いているだけです。   それから二つ目で、中間試案第2章第4(2)エ、ここも登記優先ルールのことを書いていますが、ここはいわゆる総合商社、いわゆる担保取引を、商取引を行う担保権者、金融機関以外の商取引を行う担保権者の目線で言うと、実際問題、登記優先にしてしまうと、金融機関には登記をさせるけれども、それ以外にはさせないということが現実にはあります。そうすると、結局は金融機関だけが登記できて、現状と変わらず我々商社みたいなところはやはり譲渡担保をなかなか活用するには至らないということにつながるのかなと考えております。   それから、続いて5のところに書いていますが、「新たな規定に係る動産担保権の実行」の話です。   ここは、中間試案の、どっちかというと内容というよりも、コメントのところをちょっと切り抜いて書きましたが、これは実行後に特定範囲に加入した動産に対する再度実行の可否のところのお話です。中間試案の注記に、プロジェクトファイナンス実務に影響があるか、事業担保等のほかの制度の関係についても留意しつつ、引き続き検討するという注記がございましたので、私自身、国内の電力とかのプロジェクトファイナンス、今現在いろいろと担当しているんですが、それ以外でも弊社の海外での電力事業だとかやっていますので、海外のプロファイでの経験を踏まえてお話しすると、少なくとも国内ではプロファイ案件、少なくともプロジェクトカンパニーがデフォルト、債務不履行をして、レンダーがステップインライトを行使して入ってきたりとか、あるいは担保を実行したりというケースは、国内案件だと私は少なくとも見聞きしたことはございません。   海外のプロファイ案件では、そのプロジェクトがうまくいかなくなって、プロジェクトカンパニーがデフォルトを起こしたケースというのは、これは幾つも見てきたことはあるんですが、この海外のプロファイ案件でも、現実としては担保権が行使された事例というのは見たことがありません。現実としては、レンダーに、いわゆるウエーバー、猶予してもらって、ウエーバーレターで、債務不履行であってもそのウエーバーで延ばしてもらって、その間にレンダーと交渉して事業の立て直しを図ったりとすることがあるので、何が言いたいかというと、プロファイ案件で取っている担保が行使されるということは、現実的に余りないのではないかということをちょっと申し上げたいなと思って、コメントをさせていただきました。   次のスライドにいっていただけますでしょうか。   続いて、6、「債権譲渡担保の実行」ということで、いわゆる譲渡実行通知から1週間経過後の取立て、物件戻入れの機会を与えるかどうかということが議論されていますが、これも中間試案の補足説明にも書いてあるとおり、特に商社の立場でいうと、悪意のある設定者、第三債務者による債権消滅等の懸念が残るというところだけは申し上げておきたいというところです。ここのところは一番懸念があります。   それから、直接取立て以外の実行で帰属清算と処分清算、これを認めていただけるのは、選択肢が増えるという点で非常にウエルカム、歓迎されることではあるんですが、現実的には直接取立てが主流のままではないかなと考えています。   帰属清算をどういう場合に使うのかと、ちょっと自分なりに考えてみたんですけれども、例えば何か相殺ができるとか、そういう特別なケースに限られるのかなと考えています。   それから、最後になりますが、「倒産手続開始申立特約の効力」のところです。債権譲渡のところもでもお話ししましたが、譲渡通知の送付のタイミングが非常に実務上キーになりますよというお話ですが、これはそのとおりで、設定についての再生手続、更生手続開始の申立てを理由にする設定者が、新たな規定に係る担保権の目的の範囲に存する動産の処分権限や債権の取立て権限を喪失させる契約条項を無効とするような明文規定と、ここの部分は、この資料に書いたとおり、実行通知送付のタイミングの点で、実務上少なくとも、少なからず影響が出るのかなと考えています。   続いて、次のスライドをお願いします。   最後になりますが、「事業担保権」のところです。これも先ほどちょっと偉そうにプロファイのところをお話しさせていただきましたが、ここもプロファイをいろいろやっていますので、そこの目線からのお話になりますが、これは事業担保権がもし認められた場合、懸念点ということで、このコーポレートローンとか、一般商取引、国内取引でも、取引というのが、いわゆるプロジェクトファイナンス化するのではないかと考えています。   資料に書いたとおり、プロジェクトファイナンスの基本的な考え方というのは、会社に対する融資ではなくて、当然事業に対する融資です。レンダー、貸手の金融機関が、そのリスクというのを取引先、プロファイだったらスポンサーだとか、スポンサーというのは、いわゆるエクイティー、出資をするスポンサーです。スポンサーあるいはプロジェクトから出てくる製品の引取り、オフテーカー、こっちにリスクをヘッジするというのがプロジェクトファイナンスの契約の世界での考え方です。すなわち事業担保が認められると、何でもかんでも担保に取って、いわゆる納入業者だとかそっちの商取引を行う取引先の方の契約にもいろいろな影響が出てくるのではないかと、当然金融機関はそういったリスクというのをプロファイと同じようにヘッジしてくるので、結局そのしわ寄せというのが一般取引債権者の方にいかないかなという懸念は、ちょっと商社の目線からあります。   もう一つは、これはプロファイルでもそうですけれども、全部担保に入れているので、契約を変更するときというのは、プロファイ案件というのは全部レンダーの承認が必要になるんです。これも事業担保権が導入されたプロファイと同じように、その担保に入っている資産に関する契約の変更というのは、当然担保権者の金融機関さんの承諾が必要となるだろうなと。その辺を我々みたいな商社の目線からすると、逐一そういった事業担保で担保に取っている金融機関の承諾を取ることになるということで、その点、実務上影響だとか支障が出てこないかというようなことが、若干ですが個人的には心配をしております。   すみません、長くなりましたが、以上が中間試案に対する私見ということで、債権譲渡担保、それから集合物譲渡担保、この辺のところを中心にお話しさせていただきました。   私からのお話は以上になります。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、橋本さんからの御意見につきまして、御質問等がありましたらお願いいたします。   では、沖野さん、お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。   実務の状況を詳細に御説明くださいましてありがとうございました。   二つお伺いしたいことがございまして、一つ目は、スライドの12に関してなんですけれども、動産についての登記と、それから占有改定に関してなんですが、(1)の方では、むしろ登記に一本化した方がいいのではないかというお考えが示されていまして、他方で(2)では、なかなか登記は結局応じてくれないという話が書かれているのですが、この両者の関係につきまして、占有改定が残ると、占有改定でいいでしょうという話になるけれども、登記に一元化されれば、占有改定では駄目なので、やはり登記には応じてもらえるというか、当然登記になりますよねと、そういうふうに人の行動が動くという、そういうことなんでしょうかというのが一つ目です。   もう一つは、債権に関しての現状との関係ですけれども、スライドの7のところで、債権譲渡担保取得の実務とあるところですけれども、第三債務者承諾型と登記型を使い分けておられるということで、第三債務者承諾が非常に簡便であるという場合もあるいうことだったんですが、第三債務者承諾型の場合は、これは単なる承諾ではなくて、確定日付ある証書で、例えば公正証書などで承諾を取られるということでよろしいんでしょうかというのと、この両者の使い分けというのはどういうことでやっておられて、これは結局中間試案等の下でもここは変わらないですねということになるのかというのが二つ目です。   以上、教えていただければと思います。 ○橋本参考人 承知いたしました。   まず、1点目のスライド12のところのお話ですが、お話しいただいたとおり、登記に一本化されれば、もう登記しないと意味がないので、登記してくださいと言いやすいので、そういう意味です。やはり引渡しが残っていると、登記しなくてもいいでしょうとやはり言われてしまうので、登記にしてもらった方が、もう譲渡担保を取るのであれば、もう登記しかないという方が分かりやすいというだけの話です。   それから、2点目の御質問のところ、債権譲渡担保です。   承諾を取る場合には、公正証書までは作っていません。いわゆる契約書の中に、第三債務者も入れて三者間契約でやって、そこで承諾を取って、公証人役場で確定日付を取ってというようなことを実務はします。それから、別冊で、契約書とは別に承諾書を取って、承諾を取っておくというようなこともします。公正証書までやるというケースはほとんど当社の実例では見たことはありません。   それから、承諾型と登記の使い分けですが、第三債務者の承諾が取れるケースというのが、例えば担保提供者と、いわゆる債務者です。債務者と第三債務者が親子関係にある場合だとか、そういったケースです。実際問題、今、現実に債権譲渡担保、有効債権譲渡担保が取れているケースというのは、そういうふうに債務者と第三債務者が親子関係にあるとか、同じグループ会社とか、そういうケースに限定されております。   以上で回答になっていますでしょうか。 ○沖野委員 はい、ありがとうございました。 ○道垣内部会長 それでは阿部さん、お願いいたします。 ○阿部幹事 幹事を務めております東京大学の阿部と申します。御報告ありがとうございました。   一つ目は、先ほど沖野委員とのやり取りを伺っていて思ったことですけれども、登記に一本化すれば登記させてもらえるのではないかという見通しをお示しいただきましたが、他方で、登記できないのであればもう担保取引をやめてしまおうという、そういうシナリオも何かあり得るような気がして、そうはならないとお考えなのかどうかというのを一つ伺いたいと思いました。   取りあえず、では、これについてお答えいただけますか。 ○橋本参考人 はい。その御指摘のとおり、もう登記に一本化されて、もう登記してくれないというのだったら、もう担保を取らないと思います、少なくとも当社の場合は。まあ現状でもそうなっていますし。   むしろやはり金融機関の方の目から見ても、金融機関としたら当然登記をしたいんだけれども、その前に、例えば商社なんかの引渡しで対抗要件を備えていて、そういった隠れた譲渡担保があるのは嫌だなんていうようなお話を伺いますが、登記に一本化されればそういった金融機関の方からの懸念とか問題点も解消されるでしょうし、我々の商取引債権者からしても、少なくとも総合商社の立場からすると明確になるので、これは登記させてもらえないというのであれば諦める、あるいは登記して、その後順位での登記が認められるのであれば、後順位でやるかどうか。そういうシンプルな話になるのではないかなと思っています。   それこそ20年、30年前であれば、金融機関が知らないところでサイレントでやって、何かうまいことやって交渉して回収しようと思いましたが、もうそれは20年前、30年前の話で、そこでもう本当に昔の切った張ったの債権回収の時代だと、特に商社というのはそういうような回収をやっていましたが、今はそういう時代でもないので、明確化した方がいいのではないかなと、個人的にはちょっと考えておりました。 ○阿部幹事 ありがとうございました。   では、別の質問にいかせていただきたいのですけれども、資料の8ページのところで、動産譲渡担保と所有権留保の使い分けについて御説明いただきましたが、基本的には余り所有権留保には期待していないということで、与信供与の裏付けとして担保を取得する場合には、所有権留保を取れるものであっても譲渡担保を利用するという御説明だったと思うんですけれども、その中で、所有権留保の目的物と他社商品との峻別が難しくて、混在することで無効化してしまう可能性があるからということをおっしゃっていました。それは、譲渡担保であればそういう問題は生じないというお考えなのでしょうかというのが二つ目です。 ○橋本参考人 そうです。ええ、やはり譲渡担保であれば、基本的には交ざってしまうと一緒なんですけれども、譲渡担保の方がより担保の契約がしっかりしているので、実務上。所有権留保だと、単に売買契約書で所有権留保を留保しますと、その程度なので、明認方法がどうだとか、いわゆる担保契約みたいなものは実務では結ばないんですよね。でも、譲渡担保という形にすれば、担保保存義務であったりだとか、あるいはもうほかに担保を入れないだとか、いわゆる売買契約上で所有権留保するのに比べて、ものすごくうるさく、当然我々にとって有利な、あれしてはいけない、これしてはいけないというコベナンツを入れますので、そういった意味では、商品がなくなる、損害賠償という理屈で請求するとかいろいろあるので、そういったこともあって、実際には混在してしまうと見分けが付かないではないかというのは御指摘のとおりです。   ただ、契約上、よりしっかりした契約が結べるし、より明認方法を施しなさいよという契約上、根拠があるので、そういったことで譲渡担保を取るという趣旨でございます。 ○阿部幹事 分かりました。ありがとうございます。   他方で、資料の9ページで、動産譲渡登記が利用されていないというところの話で、資料上明文では書かれていませんが、先ほど口頭で、動産譲渡登記すると、それが同業他社の所有権留保を誘発してしまって、それで負けてしまうことがあって、かえってやぶ蛇になるというような御説明もあった気がするのですけれども、こういう御説明を伺っていると、何か今、中間試案などで、なるべく所有権留保を譲渡担保に勝たせようというような案があったりもするのですけれども、所有権留保だから特別に扱うというような議論は、かえって総合商社にとっては迷惑だということにもなってくるのでしょうか。それともやはりそこまではいかないのでしょうか。 ○橋本参考人 いや、それは、そこまではいかないですね。これは最後の資料の方で、どの目線で見るかと、この議論でいろいろな方がいますけれども、どの立場で見るかで当然変わってくると思うんですが、いわゆる当社の立場で言えば、商取引を行う担保権者、すなわち譲渡担保権者の立場の場合には譲渡担保を勝たせてほしいですし、取れなくて単に商取引を行う一般の債権者であれば、当然所有権留保を勝たせてほしいと思いますし、これはケース・バイ・ケースですね。   冒頭に述べたとおり、では、所有権留保と譲渡担保、どっちを勝たせてほしいですかと言われると、少なくともどっちになっても大勢に影響はないと冒頭申し上げましたが、所有権留保が勝てるのであれば所有権留保をより活用していきますし、もう所有権留保が負けるのであれば、では、しっかり譲渡担保を取っていこうと、そういういうふうに実務を合わせるだけなのかなと、特に商社の目から見ればと考えています。 ○阿部幹事 ありがとうございました。質問は以上です。 ○道垣内部会長 それでは、尾アさん、お願いいたします。 ○尾ア幹事 幹事の金融庁の尾アです。   商社の実務につきまして教えていただきまして、ありがとうございます。これからいろいろな議論をしていく際に、非常に有益であると考えております。   3点ほど質問させてください。   1点目は、今、阿部先生がおっしゃったことと近いんですけれども、所有権留保ではなくて譲渡担保にするのはなぜかというと、他社製品との区別が付きにくいといったような場合もあり得るからということでした。他社製品が入っている可能性があるということは、逆に言うと、御社が担保に取る場合、その他社さんは担保が取れないということになるんでしょうか。そうすると、同じものを争って取るような、ゼロサムゲームをやっておられるようなイメージになるように見えますが、そういうことでよろしいのかどうかということをお伺いできますでしょうか。   それから、金融機関との関係の比較もあったので教えていただきたいんですけれども、例えばデフォルトが起きた場合、御社は、どういう形で相手先を支援したりするかというのを教えていただけますでしょうか。   最後の3点目が、皆が事業担保を使うと、全部プロファイみたいになってしまうのではないかという点です。例えばスタートアップに関する事業担保を使って貸す場合とか、あるいは中小企業に対して貸す場合、これもプロファイみたいになってしまうという、そういう趣旨でおっしゃっておられるのか教えていただけますでしょうか。   以上3点、よろしくお願いします。 ○橋本参考人 分かりました。   所有権留保と、まず譲渡担保のところですが、これは、例えば同業他社と何かそれを取り合っているのかというお話ですけれども、まず、我々がこの商品、例えば取引先に納入する場合に、譲渡担保が取れるケースというのは、メインサプライヤーで多額の与信をしているケースです。分かりやすく言うと、例えばジュエリーなんかを作っている会社さんがあって、メーカーがあって、そこに金だとかプラチナを商社が納入するということがあるとします。金とかプラチナを我々が納入する。当然メインサプライヤーである我々が売らなくなったら、その会社さんはジュエリーが作れなくて潰れるということになります。その見返りとして、金融機関とは別に、例えば数億円以上の与信をするときには、そういった自社が売った金とかプラチナに譲渡担保を設定してもらうとか、そういうものもあります。   では、他社さんが売って、譲渡担保を設定できない人がいるんですかというと、います。同じように、我々と同じ同業他社で、金とかプラチナを、例えば、今金とプラチナとか、そういう商売をやっていませんが、昔はやっていたんですけれども、例えばそれを売ると、別の会社さんが同じように売っているものがあります。そういうときには、我々よりも取っているリスクが少ない場合には、我々と同じようにやはり集合物譲渡担保では取らせてもらえないので、そういう同業他社さんは所有権留保をすることになります。そういった場合に、我々は、もし有事の場合には所有権留保を主張されるのと、我々の集合物譲渡担保で競合の場面が生まれるということになります。   今、何で金とかプラチナの話をしたかというと、非常に分かりやすくて、金とかプラチナというのは誰が売ったかというのは、はっきり色が付いていないから分からないんですよね。そうすると、やはり保管場所で分けるしかなくて、でも、これは丸紅が売った分だとか、これは何とか商社が売った分だと明確に分からないので、そういったところで明認方法がどうだとかということは重要になってきます。   ちょっとお答えになっているか分からないんですが、一応所有権留保と譲渡担保のところの回答としては、取りあえずそういう回答にさせていただきます。   二つ目のデフォルトが起きた場合の支援の方法というか、どういったことをするのかというお話ですが、取引先に、いわゆる信用不安が出たりだとか、倒産した場合には、まあもちろん何パターンかあって、簡単に言うと支援するケースと、もうしないケースがあります。それはどういうふうに考えるかというと、当たり前ですけれども、これは金融機関さんと同じで、支援した方が損失が少なくなって、回収確度が高まるのかどうか。それとももう支援をやめて、今ここで手を引いた方が焦げ付きが少なくなるとか、その観点で基本的には判断します。   支援するとなった場合には、もちろん期日繰延べ延長するだとか、昔だったら手形をもらっていたら手形ジャンプに応じるとか、その見返りに何か追加で担保をもらえるなら担保をもらうとか、そういった交渉をすることになります。   あとは、再生の現場だと、当然共益債権化してもらえば、その追加納入には応じますけれども、その辺はもう申立代理人の先生との協議の中で、世間一般で言われているような、やり取りをするだけです。   それから、三つ目のプロファイのところ、すみません、ちょっと説明が分かりづらかったようで。これは簡単に言うと、レンダーとか何か片仮名で言うから分かりづらいところがあるんですけれども、要はプロファイの担保に取られて、プロファイというか事業担保に取られてプロファイ化すると、要は一つ一つの契約の変更に担保権者である金融機関の承諾が要ることになるのではないですかと、実務上。そこだけの懸念です。そうすると、例えば今までは担保に入っていないから、金融機関と知らないところで、金融機関さんとは関係ないところで、取引先と我々みたいな納入業者と契約変更できたものが、あらゆる契約について金融機関の承諾を取っていかなければいけないということが出てくるのではないかと、それだけのお話です。   ちょっとすみません、回答になっているか自信がないんですが、もしちょっと分かりづらかったら更問していただければと思いますが。 ○道垣内部会長 尾アさん、よろしいでしょうか。納得されていない点もあるように拝察いたしますが、それではまたの機会にお願い、何人か手が挙がっておりますので、先に進ませていただきます。   青木さん、お願いいたします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。   中間試案に入っていませんので、仮定の話のようで申し訳ないのですが、1点教えていただければと思います。   先ほどのお話では、所有権留保は余り期待されていないのが現状であるということでした。この点、海外の法制度には、所有権留保か譲渡担保かという形式を問わず、商品金融の担保であれば購入代金担保権として他の先行する担保権に優先させる、その代わり、その優先を主張するには先行するほかの担保権者に通知しておかなければいけないとすることで歯止めをかけるといった制度があるかと思います。仮にこういうふうな制度が立法によって入るとすれば、それは所有権留保の活性化といいますか、所有権留保を使うような商品信用の場面での担保制度の利用蓋然性を上げることにつながると思われますか。   それとも、そうではなくて、そんな制度を導入してもどうせ期待されることはないというような状況だという方が近いでしょうか。そのあたりの感触を伺えればと思います。 ○橋本参考人 そういう方向になれば、所有権留保の活用をより考えると思います。もちろん。   例えば国によっては、私も各国いろいろ調べたことがありますけれども、実務上で。所有権留保で登録ができたり登記ができたりだとか、そういったところもありますし、そういった国では実際所有権留保で登録してやっているというものもあります。例えばインドネシアとかはそうだったと思いますけれども、やっていますね。   それから、登録と登記までいかなくても、いわゆるアメリカでいうところのリーエンだとか、日本語だと先取特権とか訳されていますけれども、州法とかだとかなり強いものもあるので、そういった国によっては第一の担保権としてやはり考えているものもあるので、そういう形で導入されれば、実務をそっちに合わせていくことになると思います。 ○道垣内部会長 よろしいでしょうか。 ○青木(則)幹事 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 松下さん、手が挙がっていませんでしたか。よろしいですか。 ○松下委員 挙げていましたが、すみません、ちょっと私の誤解でした。手を下ろします。 ○道垣内部会長 阪口さん、お願いいたします。 ○阪口幹事 弁護士の阪口と申します。今日は貴重なお話をどうもありがとうございます。   私の実感でも、二十数年前は商社のトラックが乗り付けて物を運んでいっていたが、今は乗り付けてこないというのが正直な実感です。なので、なかなか答えにくいかも分かりませんけれども、集合物譲渡担保の実行の局面についてお伺いしたいと思います。   今回の中間試案では、評価のために、簡易迅速に、対象動産の占有を移す制度を導入しようと考えています。今現在の評価の実務について、つまり債務者の手元にあるけれども、実行せないかんというときに、どうやって評価しているのか。そもそも評価できていないのかということを、まず1点お伺いしたい。   もう一つは、そういう中で、処分清算というのが、今、本当にできているんですかという点です。つまり引き揚げてからは処分清算できるかもしれないが、引き揚げてくる前に処分清算というのはできているのかどうかという、この実行の実務について、ちょっとお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○橋本参考人 ありがとうございます。   実際、私も処分を何度かやったことはあるんですが、まず、評価のところはできているかと言われると、できています。何でかというと、我々はやはり金融機関さんと違って、その取っている商品というのは自分たちでも扱っていることが多いので、いわゆる目利きとか価値は分かっていますので、そういう意味では自分たちでもできますし、では、それが正当な価格なのかと言われると、これもいろいろなところで申し上げて、ある意味ほかの方も言っていましたが、処分できた価格が適正価格というところが実務の感覚としてあるので、実際には実行の局面になると、我々当然帰属清算というより処分清算するんですが、集合物譲渡担保の場合には。転売先ですよね、同業他社とか。そこを連れてきて、そこと我々の目線で合わせて価格を決めてということをやります。もちろん我々自身も商品の価値は分かっているので、変に買い叩かれるということもないですし、そういう意味では現実的には私ももう二十数年見て、ずっとこの集合物譲渡担保の実行というのは何度もやったことがありますが、そこでもめたケースというのは余りないですね。   それから、処分清算の処分が本当にできるのかというところですが、これもちょっと今のお話とも被りますが、実際、実行の局面になって、やはりきちんと商品があれば、その処分清算という形で第三者にきちんと転売してやっています。本当にできるのかと言われると、これは我々商社特有なので、別に、昔でいうとバッタ屋と、言葉は悪いですけれども、そういう人に頼まなくても、自分たちの既存の取引ルートで商品を処分できる。逆に言うと、処分の局面まで念頭に置いて担保を取っていますので、自分たちで処分できないものは担保に取らないということはあります。   ということで、御質問に対する回答としては、処分はできています。 ○阪口幹事 すみません、阪口です。   処分できるというのは、その占有を移転しているからできるのか、債務者の手元にあるところのまま買主を見付けることができるのかという質問なんですけれども。 ○橋本参考人 分かりました。   それは両方ともあります。特に再生事案の場合なんかで、しっかりと申立代理人の先生とか管財人の先生なんかで管理されるような場合には、債務者の手元において処分できていますし、それ以外のケースでそういった再生型ではない場合には、やはり信用不安が流れたときに、ちょっと実務のところでもお話ししましたが、自分たちの占有下に置いておいたがために処分できたというケースもありますし、両方のケースがあると。 ○阪口幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、尾アさんがやはり分からないということなので、お願いします。 ○尾ア幹事 先ほどミュートのままになっていて、しゃべり始めたんですけれども、マスクをしていたので分からなくて、申し訳ありません。   プロファイというのは元々かなり目的が限定されていて、かつ明確になっているということなので、契約書も詳細に作られるんだと思いますけれども、これに対し、スタートアップとか中小企業に対する融資が、似たような形で詳細な契約を結ばれるという形になるということは通常考えられません。中小企業融資の中で、仮にこの事業担保を使ったとしても、一つ一つ取引先との契約について銀行が介入してくるということであれば、事業をやっていられませんから、それはあり得ないことかなと考えています。   元々の契約の性質に応じて契約書類が結ばれることになりますので、契約書の変更についてどういったような対応を取るかというのも、それぞれの融資の状況に応じて変わってくるということだと思います。したがって、中小企業融資であるとか、あるいはスタートアップに対する融資とか、そういったようなものについて、何か彼らの事業の遂行上負担になるといったようなことが、契約上結ばれるということというのは、ないのではないかなと考えています。   それから、もう1点、所有権留保と譲渡担保の話が、示唆的なんだと思いますけれども、自分がファイナンスしたものに対して担保を取ると、所有権留保というのはそういう考え方だと思いますし、それについて優先権を得るというのはもっともであるし、理屈上も正しいんだと思います。他方、譲渡担保の場合、他社が納入したようなものもまとめて取ってしまって、それをある意味で、争うような形になってしまうというのは、全体として余り効率的ではないのかなというように思います。そうであれば、先ほど共益権化というような話が出ましたけれども、事業担保にして、その中で商取引債権を共益債権化して優先させるという形にした方が、互いにやや不毛な争いをして、ゼロサムゲームの中で取り合うというよりも合理的なのかなとは考えておりまして、事業担保の場合はそういったような制度設計ということも当然考えられると思いますし、実際にこの法制審の中の議論でも商取引債権や労働債権を優先してはどうかといったような話も出ています。担保を金融機関や他の納入業者と取り合うというよりは、そういう形でより事業をいかすために、事業を成長させるために、どういったような優先順位が望ましいのかということを考える方が合理的ではないかなと思いました。   感想になってしまいましたけれども。 ○橋本参考人 ありがとうございます。正にそのとおりだと思います。   まず、事業担保のところ、私の不勉強もあって、事業担保がプロファイ化していって、別に今の中間試案に対する制度を批判するつもりは全くなくて、今、尾ア様が申し上げたような形でやっていただけるのであれば、非常に活用される余地があるのではないかと考えていますので、そこは現行の事業担保のところを批判するつもりは毛頭ございませんので、そこは誤解なきようにお願いします。   それと、もう一つの所有権譲渡と譲渡担保のところ、これも私の説明が悪かったのですが、競合することはありますけれども、例えば他社が所有権留保しているものを、例えば当社が集合物譲渡担保に取って、それもあれば取ってしまおうと。これは20年前、30年前であれば、不毛な、先ほどのトラックで乗り付けられた時代であればあったかもしれませんが、今ではもう他社さんが、例えば所有権留保していれば、その権利を侵してまで担保に取ろうと毛頭考えていませんので、少なくとも当社はそういう不毛な30年前の争いみたいなことは今はやっていませんし、やろうともしていません。   おっしゃったとおり、その辺、特にやはり中小企業とか債務者の方のより効率的なファイナンスに資するような制度設計をしてもらって、不毛なこの争いが減るということが、私らにとっても一番望んでいることですので、そこも尾ア様が今説明してくださったところと全く同じ考えでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは片山さん、お願いいたします。 ○片山委員 慶應大学の片山でございます。   商社金融の取引実務に関して、大変興味深いお話をお伺いさせていただいて、本当にありがとうございます。大変勉強になりました。   特に動産譲渡担保で、登記一本化の方がむしろいいのではないかという御実感を、実務家の方からお伺いしたのは恐らく初めてかと思いまして、その点については衝撃を受けております。   それとの関係で、債権譲渡担保、集合債権譲渡担保の方をお伺いしたいんですけれども、先ほど沖野委員からの御質問の際に、第三債務者承諾型が広く用いられているが、むしろ確定日付は取っていないケースが多いんだというお話をされておりましたけれども、そうしますと、第三者対抗要件が取れていないということになりますが、それはそれで大丈夫とお考えなのかということが一つでございます。   それから、動産の譲渡担保で登記一本化もいいのではないかというお考えを御提示いただきましたけれども、それとの関係で、債権譲渡担保に関しても、やはり登記一本化というようなことが可能であれば、それはそれで一つの方向性だというようにお考えなのかということもお伺いできればと思います。   最後になりますけれども、動産譲渡担保と、それから債権譲渡担保を、両方一緒に取るというようなことも実際に実務ではおありなのかどうかという点を、確認させていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○橋本参考人 ありがとうございます。   まず、承諾のところ、これ、すみません、説明したつもりだったんですが、確定日付ある承諾で取っています。承諾書のところに、公証役場へ行って、公証人で確定日付印を押してもらっていますので、そこでやっております。公正証書までは作っていないというお話です。確定日付は取っています。   通知するケースもたまにはあります。ほとんどないと言いましたが。そういう場合には、当然内容証明で出して、確定日付ある通知ということでやっています。   それから、債権譲渡の登記一本化、これも個人的意見になりますけれども、その方が分かりやすいのではないかなという気はしています。やはり2000年頃の、それこそこれも全部商社がいろいろ編み出して、債権、いわゆる登記しない形で、予約完結権行使型とかいろいろやってきましたが、あの手この手で。やはりルールは分かりやすくしていただくと、もう時代も変わっていますし、その方が我々にとっても分かりやすいのではないかなという実感としてはあります。ということで、譲渡担保と同じ債権譲渡等についても、登記一本化をされるということであれば、それに対して実務を合わせるだけかなと考えております。   それから、三つ目が、債権譲渡担保と集合物譲渡担保を一緒に取るケースがあるのか。答えを言いますと、これはあります。やはり別々に取って、どっちが多いのかと言われると、ちょっと数字では言えませんが、私も実務の中で債権譲渡担保も取って、集合物譲渡担保も取ってというのは、併用しているケースはあります。 ○片山委員 どうもありがとうございました。   先ほどの登記一本化の話なんですけれども、よく言われるところですと、やはり登記費用の問題があるということをお伺いしますけれども、その点に関しては、余り負担感はないということですかね。 ○橋本参考人 負担感はないですね。実際、今まで債権譲渡登記も、導入されたときから私も自分で何回も登記したことがありますけれども、やはりその辺はこっちの、特に当社の場合だと担保権者の費用でやっていますし、それほど件数が多いというのは、それはまた金融機関さんとかになると、多分取った件数が全然違うので負担になると思いますが、少なくとも私どものような商取引を行っている債権者からすると、そんな負担にはならないと考えています。 ○片山委員 どうもありがとうございました。大変勉強になりました。 ○道垣内部会長 橋本さんの話、大変面白くて、まだまだいろいろお伺いしたいところもあるんですけれども、ちょっと時間が。   沖野さん、それではお願いします。 ○沖野委員 申し訳ありません。何回も、時間がないところ。   今の片山先生がお尋ねになった債権譲渡について、登記一元化をする可能性についてなんですけれども、仮に現在、債権譲渡そのものについてが通知承諾と譲渡登記の2本立てになっているんですけれども、担保の方は登記に一本化するという、両者で法制がずれるようなことがあると、それはやはりさすがによくないというか、それなら担保の方も2本立ての方がいいというようなことになるのでしょうか。すみません、その点だけ、個人のお考えということだったと思いますけれども、御感触をお伺いできればと思います。 ○道垣内部会長 それにもう一個付け加えるならば、今のお話は譲渡についても登記一本化でいいのではないかという御主張を含んでいらっしゃることになるかと思います。 ○沖野委員 ありがとうございます。それを前提としていたのですが、仮にいろいろな事情から両方がずれるということがやむを得ないような場合はどうかという両方を含んでいたつもりです。ありがとうございます。 ○橋本参考人 私の債権譲渡の話、すみません、ちょっと分かりづらかったかもしれません。担保目的だけです。いわゆる真正譲渡とかというそっちの方は念頭に置いていなかったので、そういう意味では、私の発言のポイントは、もう制度、ルールのシンプル化ということから一本化と言っているので、そういう意味ではその通知と登記が2本残ると不便ですかというと、まあ不便ではないですが、よりシンプルな方が望ましいのではないかとは考えております。   いずれにしましても、私がお話しするのは、どっちかというと真正譲渡とかそっちのお話ではなくて、担保目的での債権譲渡のお話ということで御理解いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まだまだ質問もある方もいらっしゃると思いますけれども、大体時間がまいっておりますので、橋本さんとのお話と質疑応答はこの辺りにさせていただければと思います。   橋本さんにおかれましては、大変お忙しい中、当部会の調査・審議に御協力いただきまして、本当にありがとうございました。どうもお忙しいところありがとうございました。 ○橋本参考人 いえ、こちらこそお時間ありがとうございました。貴重な機会をどうもありがとうございました。 ○道垣内部会長 本日、参考人からのお話を何人か伺って、幾つか伺ってまいりましたけれども、最後に金融庁の尾アさんから皆様に御報告があると伺っております。   尾アさん、よろしくお願いいたします。 ○尾ア幹事 お時間を頂きありがとうございます。   以前に申し上げていた金融審議会でのワーキンググループの事業担保について議論していたものですけれども、この報告書が先週の10日に公表されましたので、皆様方にも情報をシェアしたいと思っております。   事業担保につきましては、金融庁においてこれまで推進してきました経営者保証に過度に依存しない、事業を見た融資実務の促進に合致するものであるということや、新しい資本主義実現計画とか、スタートアップ5か年計画において、早期の法制化が求められたことから、法制審での御議論も踏まえて御議論いただいたものでございます。   ただ、金融審議会でございますので、現行の枠組みを前提とする特別法となると考えております。このため、ちょっと細かい話になりますけれども、信託を用いる制度として設計することを考えております。法制審におきましても一般法としての事業担保権を御議論していただいているということだと考えておりますので、引き続き御指導いただければと思っております。   なお、ワーキンググループの報告書の内容につきまして、もしお気付きの点がございましたら、私まで御連絡いただければと思っております。   以上です。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   以上をもちまして、本日の予定は終了ということになります。   そこで、次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 次回は令和5年3月14日火曜日、時間は本日と同じく午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。   次回も参考人の方々からヒアリングを行うことを予定しておりますが、詳細については追ってお知らせいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、法制審議会担保法制部会の第30回会議を閉会にさせていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。 −了−