法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  令和5年3月14日(火)   自 午後1時30分                        至 午後4時46分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第8回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。   本日は、池田委員、安田委員、吉崎委員、くのぎ幹事は、オンライン形式により出席されています。   それでは、事務当局から配布資料について、説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料12として、「検討のためのたたき台(諮問事項「二」関係)」をお配りしています。配布資料の内容については、後ほど御説明します。   また、参考資料として、配布資料11「検討のためのたたき台(諮問事項「一」関係)」を配布しています。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   前回の会議においては、配布資料11の「検討のためのたたき台(諮問事項「一」関係)」のうち、9ページから11ページまでの「第1-4 電子的方法による証拠開示等」の検討課題の「(2)証拠の一覧表の電子的方法による作成・オンラインによる交付」まで議論を行ったところですので、本日は、引き続き、検討課題の「(3)」以降について、順次議論を行いたいと思います。   配布資料11の9ページから11ページまでの「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」については、前回事務当局から説明してもらっていますので、早速、検討課題の「(3)電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等のオンラインによる閲覧・謄写」について御意見を伺いたいと思います。   検討課題「(3)」の「①」、「②」は、相互に関連すると思われますので、分けずに併せて御意見を伺います。   いずれについてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明確にした上で、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 検討課題「(3)」「①」の電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等を裁判所外からオンラインにより閲覧・謄写することに関する規律を検討する前提として、点線枠内の規律案の趣旨について、事務当局に改めて御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 それでは、事務当局から趣旨について御説明いたします。   電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等を裁判所外からオンラインにより閲覧・謄写することに関しては、これまでの当部会の議論において、現行の刑事訴訟法第40条第1項は、訴訟に関する書類等の閲覧・謄写は「裁判所において」すると規定しているが、オンラインによる閲覧・謄写を可能とするのであれば、場所を限定する文言は不要ではないかとの御意見があったところであり、そのような閲覧・謄写を可能とする制度を設けるとすれば、その旨の新たな規律を設けることが考えられます。   その場合、電磁的記録である訴訟に関する書類等について、電気通信回線を通じて、これを送信し、あるいは、これにアクセスすることとなりますが、オンラインによる証拠の閲覧等については、それ自体の過程においてその内容が電磁的記録の形で流出するリスクを伴うことから、その適否については、当該電磁的記録が万が一流出したり流用されたりした場合に事件関係者のプライバシー等に及ぼし得る影響の程度等を勘案し、慎重に判断されるべきとの御意見もあったことから、御指摘の規律案は、そうした御意見も踏まえ、訴訟に関する書類等のオンラインによる閲覧・謄写について、個々の事件において、裁判長が、個々の書類等ごとに、その適否を判断して許否を決するものとするものであります。   また、裁判所が管理する訴訟に関する書類等をオンラインにより閲覧・謄写する場合には、当該裁判所において、それに必要な設備やシステムが整備されていることが前提となると考えられることからすれば、その点も含めて、裁判長の許可に係らしめることとするものです。 ○成瀬幹事 丁寧に説明してくださり、ありがとうございました。   ただいまの御説明を踏まえて、検討課題「(3)」の「①」と「②」について、私の意見を申し上げます。   事務当局の御説明で言及されたとおり、当部会のこれまでの議論においても、オンラインによる証拠開示については、開示それ自体の過程において証拠の内容が流出するリスクが伴うため、その適否について慎重な検討を要するという御意見が示されていました。そのような慎重な検討は、訴訟に関する書類等をオンラインにより閲覧・視聴・複写させる場合にも同様に必要であると思われますので、検討課題「(3)」「①」の点線枠内の規律案のように、裁判所外からオンラインにより訴訟に関する電磁的記録を閲覧・視聴・複写することについて裁判長の許可を要するものとするという規律を設けることはあり得ると思います。   他方、検討課題「②」のように、電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等を裁判所において複写する場合には、複写それ自体の過程において、訴訟に関する書類等の内容が流出するリスクはありません。もっとも、弁護人が、訴訟に関する書類等の内容を電磁的記録として裁判所外に持ち出した後に、当該電磁的記録を電気通信回線に接続している電子計算機等で利用する過程において流出させてしまうリスクはなお存在します。このような流出リスクは、例えば、当該電磁的記録の内容が性犯罪の被害状況に関するものであった場合を想定すれば、決して軽視することはできないと思われます。よって、電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等を裁判所において複写する場合にも、何らかの規制が必要ではないかという問題意識は理解できます。   しかしながら、現行刑事訴訟法第40条第1項は、「弁護人は、公訴の提起後は、裁判所において、訴訟に関する書類・・・を閲覧し、且つ謄写することができる」と規定しており、裁判長の許可は謄写の要件とされていません。この規定の趣旨は、弁護人が公判廷における防御活動のため、裁判所が保有する訴訟に関する書類を点検して、その証明力等を十分に吟味できるようにすることにあります。このような趣旨に鑑みますと、さきに申し上げた裁判所外に電磁的記録を持ち出した後の流出リスクを踏まえても、電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類の全ての複写について、一律に裁判長の許可を要するものとするのは、やや行き過ぎであるように思われます。例えば、裁判長の許可を要する範囲を、流出してしまった場合の被害が特に大きいものに限定するなど、弁護人の防御活動を過度に制約しないような工夫が求められると考えます。 ○久保委員 「(3)」「①」、「②」のいずれにつきましても、反対の立場で意見を4点申し上げます。   1点目に、刑事訴訟法第40条の趣旨から、このような規律を設けることは許されないということです。   元々、刑事訴訟法第40条による閲覧・謄写権は、弁護人の固有権の一つとされております。大コンメンタール刑事訴訟法の第1巻等によれば、弁護人が被告人の代理人たるにとどまらず、法廷の構成員として重要な公共的役割を背負うことを前提に、弁護人がその固有の権利として行う閲覧・謄写を規定するものとされており、その対象には同法第310条によって提出を受けた証拠書類や証拠物のほか、身柄関係書類も含まれるとされております。さらに、証拠調べ前のものであっても、取寄せ決定に基づき取り寄せた他の事件の記録や提出命令に基づき押収した証拠物等も閲覧・謄写できるとされているところでありまして、このような規律を設けることによる影響は甚大なものとなります。   同法第40条は、これまでは、そうした記録を謄写できることを前提に場所を裁判所に制限するものであったところ、オンライン化により、そうした場所的制限をもなくすという位置付けであるべきです。   この点、向井委員は第3回の部会において、小木曽委員からの質問に対し、オンラインによる閲覧・謄写を認める場合において、「裁判所において」という場所の要件を定めないことについて、現時点では特段問題はないと回答されていました。   例外的に証拠物につき謄写に許可を要するとした場面を設定した趣旨は、証拠物には代替性がないことから、破損などがあったときに困るというものであり、極めて例外的なものです。証拠物以外につき、裁判長の許可に係らしめることは、この刑事訴訟法第40条の趣旨から、正当化する理由はありません。刑事手続のIT化のために弁護人固有の権利を後退させるのであれば、そもそもIT化するべきではないということになりかねません。   2点目に、先ほど事務当局から、これまでの議論の状況について御紹介いただきましたが、たたき台には、必ずしもここまでの議論の経過が適切に反映されていないということについてです。   例えば、これまで、私から、現在の運用の状況に鑑み、検察官からの証拠の開示につき、全ての事件において弁護人に謄写の権利を認める規定を置くべきと申し上げてきましたが、そうした議論については無視しつつ、このように弁護人の権限を制限する方向の案が入っていることに強い違和感を覚えます。   前回の部会で議論となりました証拠開示制度も、それ自体、検察官の裁量を大きく認めるかのような規定ぶりとなっており、情報通信技術を活用して刑事裁判全体を適正なものにするということに反するものであり、長い時間を掛けて議論された上で導入された証拠開示制度を後退させることにもなりかねないものでした。   こうした弁護人の固有権を制限しようとすること自体が、これまでの部会の議論を必ずしも適切に反映していないと考えます。検討会におきましても、被告人を含む国民全体のための制度づくりであることが確認されたはずであり、当部会でもそれは変わるものではないはずです。弁護人の権利や被告人の権利を片面的に制限する方向で情報通信技術を活用しようとすることには反対です。   性犯罪の動画等、配慮を要する証拠が含まれることは当然あり得ますが、その場合に、一部の証拠のみ紙媒体の閲覧若しくはUSBの交付によることとして、オンライン開示の対象から除外すればよいのであり、一律に裁判長の許可が必要とする理由はございません。𠮷澤委員も、例外的にそのような除外ができるようにするという観点で意見を述べたものと思われます。   3点目に、実際の訴訟の流れをイメージしたときに、刑事裁判が著しく遅延する可能性があるということです。   期日と期日の間が狭い場面において、例えば調書の閲覧・謄写について、その都度許可を要することとなれば、その分だけ審理にタイムラグが生じかねません。また、控訴審の場合、一審弁護人から協力を得られず、控訴審で初めて選任された弁護人が全部の記録を謄写し直した上で準備を始めるという場面もあります。   もちろん、証拠開示がオンライン化した場合には、一審弁護人に開示された記録が全て控訴審弁護人にもオンラインで開示されることが前提であるべきと思いますし、それに対して否定的な意見は、これまで聞いておりませんが、そうだとしても、一審の尋問調書が一審の弁護人の段階では出来上がっておらず、開示されていないため、控訴審で謄写する必要が生じるなどといった場面もあるかもしれません。   そもそも、どこまでの記録をどこで入手できるか、システム構築にも関係して、確たることが決まっていないところもあります。そうしたことも踏まえますと、このような規律を置くことで、刑事裁判が著しく遅延する可能性があると言わざるを得ません。   最後に、4点目に、被疑者・被告人のための制度づくりという観点で、在宅の被疑者・被告人、身体拘束中の被疑者・被告人による閲覧・謄写の問題には一切触れられていませんが、オンラインでの閲覧・謄写の機会が与えられるべきです。   当部会では、様々な場面で民事訴訟法の改正にも触れられておりますが、その要綱案によりますと、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、オンラインで自分の端末から訴訟記録の閲覧ができるようになったこと、及び、それと併せて氏名及び住所の秘匿措置が設けられたこと、すなわち、原則としてオンラインによる閲覧ができるとしつつ、例外的に秘匿措置が講じられた場合に限り、住所・氏名などが秘匿されることとされたことにつきましては、参考になると思われます。 ○保坂幹事 久保委員の御発言に関連して、趣旨を確認したいのですけれども、今回の規律案に反対だという趣旨はよく分かったんですが、弁護人の第40条の固有権を後退させるという御発言がありましたが、紙の書類での閲覧・謄写の要件は何一つ変わらないので、それに加えてオンラインでの閲覧・謄写を認めるかどうかというところの要件立ての議論の話だと思うんです。   久保委員もおっしゃったように、流出したときにリスクの大きい一定の証拠、性犯罪の動画などについては、オンラインの対象外という言い方をされましたけれども、その趣旨というのは、裁判長の許可・不許可に係らしめるのではなくて、どう書くのか分かりませんが、一定のこういう類いの証拠についてはオンラインによる閲覧・謄写できないとするのか、その部分について、裁判所の判断で、裁判所が許可したときはいいけれども、許可しなかったときは駄目だとするのか、それはどちらのイメージでしょうか。 ○久保委員 まず、1点目ですが、そもそも今回の諮問は、刑事裁判の手続全体をオンライン化することで、全体についての利便性を高めるという目的があったものと承知しております。   仮に弁護人に限って紙の謄写ということを継続しますと、せっかくペーパーレス化を促進していく中で、弁護人のみが紙の記録の謄写を受けるということになりかねません。全体としてペーパーレス化をするのであれば、弁護人においても当然にオンラインで閲覧・謄写をするべきものと思いますし、取り分け民事訴訟においては、刑事裁判の後に引き続き手続が行われるものですとか、刑事事件に関わるものとして民事裁判になるということもあります。刑事手続に関わる証拠が民事訴訟の中でも提出されるということが想定されておりまして、民事訴訟の中ではオンラインで閲覧・謄写をすることができ、刑事裁判については弁護人のみオンラインでの閲覧・謄写が裁判長の許可に係らしめるということは整合しないように思います。   2点目につきまして、結論として、性犯罪の被害に関わるものなどセンシティブな証拠につき、何らかの形で規制ができるようにするものとすることについて、積極的に反対するものではないという趣旨になります。その限りで、規定の内容において、そうしたことが明確になるような規定であれば、具体的に御提案いただければ、それについては検討したいと思っています。 ○向井委員 訴訟の記録の閲覧・謄写に関して意見を申し上げます。   現在の実務では、訴訟に関する書類等の閲覧・謄写を弁護人が希望する場合、裁判所に対して閲覧等を申請し、裁判所書記官がその申請を確認した上で、弁護人に訴訟記録等を交付することになっております。   電磁的な訴訟記録をオンラインにより閲覧・視聴・複写する場合であっても、取り扱う情報の機微性や情報流出の防止等の観点を踏まえますと、当事者からの閲覧等の申請を受けた上で、裁判所書記官において、電磁的な訴訟記録をオンラインで閲覧等が可能な状態に置くという仕組みを採ることが適切と考えております。   このような枠組みに加えて、オンラインによる閲覧等に当たって、裁判長の許可を要件とするか否かにつきましては、その必要性・相当性について、慎重に検討する必要があると考えております。裁判所設置端末から複写をする場合に、裁判長の許可を要するかについても同様に考えております。 ○𠮷澤委員 やはり、流出した場合に名誉・プライバシーの関係で取り返しのつかない甚大な被害、回復困難な被害が発生してしまうような証拠、具体的には性犯罪の被害状況を撮影・録音した動画や音声などといった証拠は、オンラインによる開示というのは認めるべきではないと思います。   あと、先ほどのこの規律案の趣旨の説明にもありましたけれども、必要な設備が整っているのかどうかというところも、裁判所としては気になるところではないかとも思いますので、この丸括弧のように裁判長の許可という形で、その一事で制限するかどうかは別として、何らかの制限をするというか、自由には認めない方向での立て付けが必要ではないかと思っております。 ○近藤幹事 向井委員の御発言に関連して、私からも発言させていただきます。   刑事訴訟に関する書類等の閲覧・謄写に関しまして、現行の刑事訴訟規則第301条はその第1項で、裁判長又は裁判官は、訴訟に関する書類等の閲覧・謄写については、日時、場所及び時間を指定することができるとしております。また、第2項で、書類の破棄その他不法な行為を防ぐため必要があると認めるときは、裁判所職員を立ち会わせるなどの適当な措置を講じなければならないと規定しております。   同条の定めをオンライン閲覧等に直接当てはめることには疑義もございますため、オンライン閲覧等の場面で適用し得る同趣旨の規定を設けることも視野に入れて検討する必要があると考えております。   そして、この閲覧・謄写につきまして、前回の部会で久保委員から、少年事件の記録に関して御発言がありました。少年事件において、裁判所の記録の閲覧・謄写の取扱いをどうするかという問題もございます。   少年事件におきましては、少年審判規則第7条第1項・第2項が、審判開始決定後の付添人は記録の閲覧権があるとする一方で、謄写には裁判所の許可を要するとしているなど、閲覧と謄写に関する規律が区別されております。また、運用上も、例えば社会記録については謄写を許可しないことが一般的であるなど、閲覧と謄写を区別しております。   さらに、付添人にも弁護士である付添人とそうでない付添人がいるなど、少年事件特有の問題もございます。このような少年事件の特質を踏まえて、慎重に検討していく必要があると考えております。 ○酒巻部会長 裁判所の委員・幹事の方にお聴きしたいのですが、現行の刑事訴訟法第40条で、証拠物の謄写についてだけ裁判長の許可が必要と定められており、その趣旨は、先ほど久保委員が述べられたところですが、実際にどのように運用されているのか、証拠物の謄写の許可は、実際にどのようにやっているのか、もし分かれば教えてください。 ○向井委員 証拠物の謄写を不許可にした経験がないので、お答えをしかねますが、それほど実務例があるというわけではないと考えております。それから、付け加えて発言させていただくと、一般的に、証拠物以外の証拠書類の閲覧・謄写申請があった場合に、裁判所書記官において、申請要件を欠くと判断した場合や、訴訟記録の保存又は裁判所の執務に支障がある、あるいは申請自体が権利の濫用に当たると判断した場合には、閲覧・謄写を拒絶する、許可しないとお答えすることがあると承知しております。 ○酒巻部会長 ありがとうございます。ほかにこの件につきまして、御意見、御質問等ございますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「(4)情報セキュリティの確保」について御意見のある方は、挙手などした上で、御発言をお願いします。 ○佐久間委員 これまでも何度も申し上げてきたことですが、オンラインによる証拠書類等の開示や訴訟に関する書類等の閲覧・謄写には、電子データがやり取りされることとなることに伴う特有の情報流出リスクがあり、取り返しのつかない事態を引き起こすおそれもありますことから、開示をする側、受ける側の双方において必要かつ適切な情報セキュリティ措置が講じられることが不可欠であると思っております。   その具体的な内容は、関係機関の間で実務的・技術的な観点から行われております協議の場において検討すべきことではありますが、開示をする側、受ける側の双方において、必要な措置が採られることが確保されないのであれば、情報セキュリティの確保に関する規律を別途設けることについても、検討せざるを得なくなることを重ねて強調しておきたいと思います。 ○久保委員 「(4)」につきまして、今、佐久間委員から御指摘があったことについては、実務者協議において、一般的な、合理的な水準のセキュリティが確保されることなどが協議されればよいという趣旨であれば、そのとおりだと思っておりますが、もし法律レベルで規律をするのではなく、別の関係省令等において具体的に規律するという趣旨であれば、それについては反対します。 ○酒巻部会長 ほかに、セキュリティ関係について、御意見、御質問ございますか。よろしいですか。   それでは、これで「第1-4 電子的方法による証拠開示等」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、これまでのところで検討課題として明記されていない点に関するものも含めて、ほかに御意見等がありましたら承りたいと思いますが、よろしいですか。   それでは、先に進みます。   次に、「第1-5 電子的方法により作成・管理される証拠書類等に対する公判廷における証拠調べの方式」について議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料11の「第1-5」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の12ページを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」から「(3)」までとして、「文字の言語的情報」、「視覚的情報」あるいは「聴覚的情報」が証拠となる電磁的記録の取調べの方法として、請求者に、それぞれ「朗読」、「表示」あるいは「再生」をさせるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   ここでは、証拠となる電磁的記録の取調べの方法についての規律の在り方について、電磁的記録を証拠とする場合、どのような情報が対象となるか、証拠となる電磁的記録の取調べの方法について、どのような規定ぶりとするのが適切かなどの点が、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明に関して、御質問等ございますか。よろしいですか。   それでは、議論に入ります。検討課題の「(1)証拠となる電磁的記録の取調べの方法についての規定の在り方」について御意見を伺いたいと思います。   「(1)」の「①」と「②」は相互に関連しますので、併せて御意見を伺います。   いずれについても結構ですので、御意見等のある方は、挙手などした上で、どの点についてかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 検討課題「(1)」の「①」と「②」の両方について意見を申し上げます。   電磁的記録に記録される情報は多様ですが、公判廷において証拠として取り調べられることを念頭に置くと、それは、モニター等に表示され、人の視覚によって認識される視覚的情報と、スピーカー等から音として出力され、人の聴覚によって認識される聴覚的情報の二つに大きく分けることができます。さらに、前者の視覚的情報は、文字の言語としての内容や意義を把握するものと、それ以外の、目で見てその状態を認識するものに分けることができると思われます。   現行刑事訴訟法が第305条第1項において、証拠書類の取調べについて「朗読」させることを規定し、それを耳で聞いてその内容を理解する方法によることとし、第306条第1項において、証拠物の取調べについて「示させ」ることを規定し、それを目で見てその状態を観察する方法によることとしているのは、有体物に含まれる2種類の視覚的情報を取り調べる方法をそれぞれ定めたものと理解することができます。このほか、刑事訴訟法第305条第5項において、ビデオリンク方式による証人尋問の状況を録音・録画した記録媒体であって公判調書の一部とされたものの取調べについて、これを「再生」することを規定しており、再生された映像と音声を見聞きしてその状態を観察することとしています。   これらの規定ぶりも参考としつつ、電磁的記録を証拠とする場合の取調べの方法を整理すると、第1に、文字の言語的情報であって、朗読させて取り調べるもの、第2に、その他の視覚的情報であって、電子計算機の映像面等に表示させて取り調べるもの、第3に、聴覚的情報であって、音として再生させて取り調べるものの三つ、そして、証人尋問の状況を録音・録画した音声付きの映像など、これらの取調べ方法を組み合わせるものを想定しておけば十分であるように思われます。このような考え方によれば、「考えられる制度の枠組み」に記載されている内容は、一つの合理的な案ということができるでしょう。   その上で、文字の言語的情報や視覚的情報、聴覚的情報といった分類を、条文上でどのように表現するのが適切かについては、これまでも指摘されているように、既存の用語との整合性にも留意しつつ、法制技術的な観点から検討する必要があると思います。   なお、第4回会議において酒巻部会長から御指摘があったとおり、「朗読」や「再生」という文言は現行の刑事訴訟法でも用いられている一方で、「表示」という文言の用例は見当たりません。もっとも、「表示」という言葉は、証拠の状態を人が目で見て取り調べることを含意する点で、刑事訴訟法第306条第1項が規定する証拠物を「示させ」る方法と共通する面を持ちつつも、電磁的記録がそれ自体としては可視性がないことに着目し、人がその内容を目で見て認識できるようにさせることをも意味するものと考えられ、日本語の語義としても特に違和感はありませんので、適切な選択肢の一つであると思います。 ○酒巻部会長 「表示」という法律用語は、もう民事訴訟法では使っているのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 現時点で未施行の条文ですけれども、民事訴訟法等の一部を改正する法律による改正後の民事訴訟法第91条の2第1項において、電磁的訴訟記録の内容を「最高裁判所規則で定める方法により表示したものの閲覧を請求する」という規定があるものと承知しております。 ○久保委員 2点申し上げます。   1点目に、以前指摘させていただいたことの繰り返しですので、簡単に申し上げますが、提出された証拠のプロパティ情報が証拠となるのかということについて、現時点でも明確ではないように思われます。   書証であれば、文字情報のみが証拠となるといえそうですが、画像や動画の場合には、一見して認識し得るとはいえない情報が含まれ得ます。それが公判廷において被告人に提示されていない場合に、それも含めて証拠とすることは、不意打ちとなりかねませんので、配慮が必要だと考えます。   運用の問題となるかもしれませんし、今御紹介いただいた民事訴訟法の規律からすれば、最高裁判所規則に委ねるという形になるのが適切なのかもしれませんが、どの範囲で証拠とするのかが明確になるように記録される必要があると考えます。先ほど御紹介いただいたような「表示」の言葉の意味からすれば、実際に表示されていない部分は証拠としないといった規律も考えられるのではないかと考えます。   2点目に、裁判所の事件管理システムのログが公判調書のように証拠となるのかどうか、現時点では明確ではございません。公判調書の作成自体は、電磁的記録で作成するということでよいように思いますが、そういった電磁的記録を管理するシステムのログが保存され、訴訟行為が録音・録画されるようになれば、刑事訴訟法第52条に規定する公判調書の証明力といった問題はなくなりますし、同法第50条第1項に基づく調書異議も出しやすくなるように思われますので、公判調書に関わる情報をどう記録していくかといったことについても検討が必要だと思います。 ○酒巻部会長 今の御意見について、あるいは、それ以外についてでも、ほかに御意見はありますか。   それでは、これで「第1-5 電子的方法により作成・管理される証拠書類等に対する公判廷における証拠調べの方式」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、ほかに、これまで検討課題として明記されていない点に関するものを含めて、御意見があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○久保委員 2点申し上げます。   1点目に、刑事確定訴訟記録法の改正に関しても議論をするべきだという点です。   第4回会議でも述べましたが、議題にはございません。刑事確定訴訟記録法の趣旨は、記録がペーパーレス化した後に当然に妥当するものではありません。記録自体がペーパーレス化するのであれば、検察庁で保存する必要もなくなりますし、本来的に確定記録は裁判所が保管するべきものです。   この点、日本弁護士連合会では、令和2年9月10日付けで、「刑事確定訴訟記録の保管、保存及び閲覧等に関する法改正及び運用改善に関する意見書」を発出しております。その中には、「刑事確定訴訟記録の保管主体を裁判所とする法改正を検討すべきこと」という要望が含まれておりました。その理由としましては、「現在の記録法では、刑事確定訴訟記録の管理主体は、刑事訴訟の一方当事者という法的地位にある検察官になっているが、訴訟終結後の文書の保管・保存であることからすれば、検察官が管理主体であるべき制度上の必然性はない。「歴史資料として重要な公文書」の保存が課題であることからすれば、将来的には、民事確定訴訟記録と同様に、訴訟の一方当事者ではない一審裁判所が保管・保存の主体となるという制度改正が検討されるべきである」としております。   意見書は、それ以外にも、現在の刑事確定訴訟記録法の問題点を指摘するものとなっておりますが、その最大の問題点は、どのような記録をいつまで保存するかの判断が法務省ないし検察庁の裁量にあまねく委ねられている点にあります。   現在は、紙という物理的形状を伴い、1個しかないことから、その物理的な移動ということを観念せざるを得ませんでした。しかし、確定記録がペーパーレス化した上で、データは原本と同じように扱い、コピーと原本の区別がないのだとすれば、裁判所から検察庁に記録を戻すという概念はもはや存在しなくなります。かえって、裁判所にそのまま記録を保管する形とすればそれで足りるものを、検察庁に引き継ぐための作業が発生したり、データ移行の過程でプロパティ情報が変更したりするといった事態にもなりかねません。   この部会の議論全体を通じていえることとして、データ化、オンライン化により紙やリアルと同様の機能を果たせるのかという視点と同時に、データ特有の問題を無視してはならないという視点がございます。データ化、オンライン化特有の問題は、弊害となる面には対処方法を考え、長所についてはそれをいかすことを考えることが適切です。データ化することにより、1個しかなくて物理的に移動する紙の書類とは違うことになるわけですから、本来的な保管庁であるべき裁判所の保管とするべきです。   この議題につきましては、1巡目の議論の際に鷦鷯幹事から、オンラインの発受は川上の議論であり、確定記録の議論は川下ですから、川上の議論を先行という御説明がございました。まだ不十分な議論の点はございますが、1巡目の議論を終えたということを踏まえ、確定記録についての議論も行うべき段階だと考えます。   更に言えば、民事訴訟記録の保存期間及び判決書の利用につきましては、いわゆるオープンデータベース化が予定されておりまして、民事訴訟法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議にも、事件記録の保存期間の延長及び判決書を調査・分析しやすいものとするよう努めるということが定められております。   付随する問題として、2点目に、刑事確定記録以外の記録も含めた記録や証拠品の扱いについても簡単に申し上げます。   裁判所不提出記録や証拠品につきましては、その保管及び保存に関する法令上の根拠はなく、法務大臣訓令に基づいて行われていること、保管及び保存の要否及び期間並びに閲覧請求に関する許否の判断も全て検察官に委ねられていること、現在の実務では、全ての証拠が警察から検察官に送致されておらず、そもそもいかなる証拠がどこでどのように保管されているのかも統一的に把握されていない状況にあることといった問題がございます。   この点につきましても、日本弁護士連合会は、令和5年2月17日付けで、「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」を発出しており、その中で指摘させていただいている問題点です。   ペーパーレス化を考えたときに、仮に警察から検察官に対して、データをコピーする形で事件を送致するとすれば、警察にも検察庁にもデータが残ることになります。そのいずれが、いつまでどの範囲で記録を保管することになるかといったことも決めておかなければ、必要な記録が保存されず、反対に廃棄すべき記録が残り続け、他の目的で使用されるという事態も想定されます。   記録の廃棄が問題となり、記録の保存に関心が高まっている今だからこそ、確定記録を含めた刑事手続全般の記録及び証拠品の保管・保存について、法令によって明確な規定を設けることが必要だと考えます。 ○保坂幹事 久保委員がおっしゃった2点については、広い意味での立法課題としては重要な問題なんだろうとは思いますけれども、法制審議会の諮問事項というのは、刑事の基本法に関してその意見を承るというのがマンデートになっておりますので、確定記録法等については、これまで法制審議会に対して諮問した例もございませんので、この部会で取り扱えるのか、この部会のメインは刑事手続そのもの、訴訟法周りということになりますので、確定記録法を取り扱うかどうかについては、この部会の法制審議会のマンデートの関係で検討が必要だろうと思います。 ○樋口幹事 ただいま久保委員から指摘があったもののうちの1点目、保坂幹事からも御指摘があった点について、研究者として意見を述べさせてください。   刑事確定訴訟記録法第2条は保管期間を定めておりまして、期間経過後は、研究者からすれば一次資料になる記録が廃棄可能になっております。   この保管期間の定めの趣旨としまして、大コンメンタール刑事訴訟法の初版の第8巻の古田佑紀先生の解説におかれまして、刑の執行が終わって相当年月がたつと、社会や関係人の関心も失われ、裁判の公開を補充する趣旨も希薄になる一方、子孫の心情や保存の場所の確保の問題も考慮したものなどと論じられているところです。ただ、研究者からしますと、社会や関係人の関心が失われた後に、改めて研究関心を抱き、資料を探索するということは間々あるわけです。   ペーパーレス化された記録につきましては、保管に関する利益考慮のうち場所の確保の問題が、データの保存容量の問題に変化します。一方、研究という観点からしますと、データ化によって研究が大きく推進することが期待されます。今後はAI技術の発展により、記録に含まれるプライバシー情報は匿名化しながら、刑事裁判をより円滑にする補助ツールの誕生を期待することもできます。   そうしますと、ペーパーレス化された記録をこれまでの紙媒体と同様の保管期間を適用すれば足りると考えてよいかは、検討の余地があるのではないでしょうか。   保坂幹事から、刑事確定訴訟記録法を扱うことができるかという御指摘がございましたが、この法律を定める根拠になるのは刑事訴訟法第53条でございますので、この部会において、刑事訴訟法第53条の問題として扱う余地がもしかしてあれば、研究者としては大変うれしいなと思うところでございます。 ○久保委員 今、樋口幹事から御指摘のありましたとおり、刑事訴訟法第53条の問題として議論することもできますし、やはり刑事確定訴訟記録法につきましては関連する法規であり、今回の部会に関連する、当然に出てくる問題に関わるものですので、この部会で議論できないということはないと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに御意見がございますか。よろしいですか。   それでは、諮問事項「一」に関する考えられる制度の枠組みや検討課題についての審議は、ひとまずこの程度にさせていただきまして、次に、諮問事項「二」についての議論に入りたいと思います。   時間は限られておりますけれども、できる限り進めていきたいと思います。   まず、配布資料12の「第2-1 勾留質問・弁解録取・取調べの手続」について、議論を行います。   議論に先立ち、配布資料12の「第2-1」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局からの説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の1ページ及び2ページを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)留置施設等との間における映像・音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続」には、「ア」として、裁判所にいる裁判官が、「イ」として、検察庁にいる検察官が、留置施設等にいる被疑者等に対して、映像・音声の送受信により、それぞれ、勾留質問、弁解録取の手続を行うことができるものとすることを記載しています。   次に、「(2)映像・音声の送受信又は対面による取調べの際の供述調書の電子的方法による作成等に関する規律」には、「ア」として、映像・音声の送受信又は対面により行われる取調べにおける供述を録取した調書を電子的方法に作成することができるものとし、その作成方法についての規律を設けること、「イ」として、刑事訴訟法第321条第1項第2号の「検察官の面前」に、映像・音声の送受信による場合を含むことを明示することを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の「ア」及び「イ」に関して、それぞれ「①」・「②」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   また、「(2)」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(2)」の「ア」に関して、「①」の点線枠内のような規律を設けるか、「①」の点線枠内の「ウ」の規律のほかに、電磁的記録をもって作成された調書の改ざんを防止するための措置に関する規律を設ける必要があるか、「考えられる制度の枠組み」の「(2)」の「イ」に関して、「③」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関しての御質問等はありますか。よろしいですか。   それでは、議論に入ります。   検討課題の「(1)留置施設等との間における映像・音声の送受信による勾留質問・弁解録取の手続」について御意見を伺います。   この項目については、「①」と「②」を分けて議論するのが効率的だと思いますので、順に御意見を伺いたいと思います。   まず、検討課題の「①」につきまして、御意見のある方は、挙手などした上で、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 では、「(1)」「①」について申し上げます。   これまでの議論で、勾留質問は、捜査機関とは独立した裁判官が勾留の適否を判断する点に意義があるということが強調されてきました。すなわち、被疑者が留置施設等を出て裁判官の面前に物理的に引致されることには、勾留質問が捜査活動とは別個・独立のものとして行われることを施設の移動という外形を通じて示すという側面があるため、被疑者が警察署の留置施設にいる状態のまま、映像・音声の送受信により勾留質問を行うことは、原則として許されず、許されることがあるとしても、特に必要が高い場合に限定するという考え方もあり得るとか、映像・音声の送受信によって勾留質問をするとすれば、被疑者としては、画面越しの裁判官が警察官とは別の立場にある者であることが実感しにくく、心理的に捜査機関の影響が残ったまま質問が実施されて、手続の趣旨を損なうこととなるおそれがあるので、勾留質問をする裁判官が、その立場や手続の意味について被疑者に説明することも考えられるといった御意見があったところです。   これを踏まえて、考えられる制度の枠組み、それから検討課題を見ますと、そこには、勾留を請求された被疑者に対して勾留質問の手続を行うに当たり、被疑者を留置施設等に在席させ、裁判所にいる裁判官との間をオンラインで結んで行うことができる場合の要件や、その際に講じるべき措置について記載されておりますので、これまでの議論が反映されたものとして、今後の検討の出発点になるものと考えます。 ○向井委員 事務当局に確認させていただきたいところがございます。   映像・音声の送受信の方法により勾留質問手続を行う場合に、捜査機関とは別の主体が手続を行っていることを被疑者に認識させるための措置としては、様々な方法があると思われますが、その中でも、手続の冒頭において被疑者に対して、刑事訴訟法第207条第1項の裁判官として手続を行うものであることを告げるという方法を選んで規律案とした理由は何かありますか。そこの点をお尋ねしたいと思います。 ○鷦鷯幹事 先ほど小木曽委員から御指摘があったように、これまでの議論において、画面越しでは捜査機関とは別の立場の者が別の手続を行っているというところが分かりにくいのではないかという観点から、裁判官がそれを説明することが考えられるという御議論があったところから、方法の一つとしてお示ししたものです。 ○向井委員 勾留質問の実施に当たって、捜査機関の影響を排除して、被疑者の陳述の任意性を担保する必要があるという趣旨だと思いますが、その点には異論はありません。   ただ、現在の実務におきましても様々な工夫が行われており、本規律案のように、手続の冒頭で自らが裁判官であることを被疑者に伝えている例もあるほか、勾留質問手続室の机上に被疑者に見えるように裁判官と書かれたネームプレートを置いたり、裁判所の控室に勾留質問手続の内容を説明した文章を掲示したりといった例があると承知しております。このように、現行の勾留質問手続において、捜査機関の影響を排除して被疑者の陳述の任意性を担保する措置としては、様々なものが考えられるところです。   そうしますと、映像・音声の送受信により勾留質問手続を行う場合につきましても、捜査機関の影響を排除し、被疑者の陳述の任意性を担保する方法としましては、規律案のほかにも様々なものが想定できるのではないかと思います。 ○吉田幹事 今の御発言の趣旨を確認させていただきたいのですが、今後、条文化していくことを視野に入れて、要綱の作成に向けて議論を進めていくことになるわけですけれども、そのように法制化するということを踏まえて考えたときに、今回の規律案では、手続の冒頭で告げるということを記載しているわけですが、例えば、勾留質問室に裁判官であることを表示する何らかのものを置くといったことを、条文としてどういうふうに表現することをお考えになるのか、あるいは、そうした裁判所の工夫をする余地を認めるために、より抽象的な規律を設けるべきだとお考えになるのか、その辺りはいかがでしょうか。 ○向井委員 今おっしゃられたもののうちの後者、つまり、より抽象的な規定の仕方で規律することが望ましいのではないかという意見です。 ○保坂幹事 この規律案の趣旨というのは、先ほど説明もあったように、通常行われている勾留質問とは2点の点で違う、つまり、場所の物理的移動がなくて、警察署にいたままビデオ越し、つまり物理的移動がないことに加えて画面越しという二つの要素が重なるので、相手が裁判官ですよということをはっきり分からせるためにとらなければならない手続として、裁判官が告げるということを規律案として書いているわけですが、今、向井委員がおっしゃったのは、二つの要素が重なるけれども、リアルでやっている勾留質問での様々な工夫程度のことをやれば法律上の要請として足りるはずではないかという御趣旨でしょうか。 ○向井委員 明確化する措置としては、裁判官であることを告げる以外のやり方もあり得ると、そういう趣旨です。 ○酒巻部会長 もしこの条文があったときに、それ以上のことをやったとしても、趣旨には反しないですね。 ○保坂幹事 これが仮に条文となったときに、プラスアルファとして、さらにネームプレートを置くなり説明紙を貼るなりしても何の問題もないわけですが、口頭で告げなければならないという規律、つまり、一番確実に相手に伝わるだろう方法として、こういう規律を設けることについて、その方法がまずい理由というのがよく分からなくて、逆に言うと、一律にここまでしなくてもいいのではないかという理由があるんだったら教えていただきたいという、そういう趣旨です。 ○向井委員 この規律では困るというのではなく、様々な工夫をする余地があることが法文上も分かる方が望ましいのではないかという趣旨です。 ○酒巻部会長 今の点も含めて、ほかに勾留質問につきまして、御意見はございますか。 ○久保委員 勾留質問につきまして4点申し上げます。   1点目に、たたき台では、「引致して行うことが困難」という表現を採られていますが、要件として、緩やかすぎると考えております。   被疑者の側から見て、場所の移動には、捜査機関の影響を遮断する上で重要な意味があるということについては、これまでにも指摘させていただきましたが、裁判官が被疑者の全体の挙動を観察して、勾留するか否かを決定するということ自体もまた重要です。   そうした重要性に鑑み、勾留質問を対面で行うことは困難という程度で認められるべきではありません。コロナ禍と同様の極めて例外的な状況を想定し、かつ、それが一義的に明確となる規定とするべきです。   この点、裁判所の庁舎外における勾留質問と憲法第32条の関係が論点となった昭和44年7月25日決定の最高裁判所判例解説におきましても、「ことに、捜査段階では、捜査官と裁判官とを混同している被疑者が多い実情にかんがみれば、裁判官の公正に対する世人の信頼を保つためにも、警察署や検察庁における勾留質問は極力避けるようにし、必要やむをえない事情のあるときだけ例外的に行なうよう配慮すべきではないであろうか」と指摘されております。   このような勾留質問の場所の重要性に関する考え方も踏まえると、引致して行うことが困難という要件とすることは不適切だと考えます。   2点目に、仮にこのような制度を導入するのであれば、裁判官であることを告げるだけでは足りず、あるべき配慮について確認規定を置くべきだと考えます。   先ほど向井委員から、現に行われている工夫があるという御説明もありましたので、それについて更に御意見を頂き、抽象化することができないかといった検討こそなされるべきです。   検討会も含め、法律では禁止されていないが確認規定を置くといった視点での議論というものは、これまでにもなされておりました。例えば、場所について、取調室などは利用することなく、一見して違う手続であることが分かるものでなければならないということを抽象化したり、その場に捜査担当の警察官が立ち会うことが許容されるものではないということを抽象化したり、影響を遮断するための丁寧な説明を尽くすといったことを抽象化するなどという方法も考えられるのではないかと思います。   こうした点を踏まえて、かつ実際の事件において判断のばらつきが生じないように、単に裁判官であることを告げるということのみ法律に規定するのではなく、それ以外の要素も含めて法律に規定することにより、具体的な事例において、ばらついた判断が行われ、任意性に疑義が生じるといった事態を未然に防ぐということが重要だと考えます。   3点目に、そもそも勾留質問をオンラインで行うことのニーズがどこまであるのかという疑問もあります。コロナ禍においても工夫しながら裁判所において勾留質問が行われており、具体的に特に問題が生じた事例が紹介されているわけでもありません。   また、以前の会議では、松田幹事から、警察署内の実施場所の確保が必要となるという指摘もございました。   勾留質問をオンラインにするということは、オンライン接見と同様に、警察においても人的・物的負担を伴うことが想定されております。仮に勾留質問をオンラインでできるようにした場合に、どのような人的・物的態勢を想定しているのか、つまり警察署において、捜査機関の影響を遮断するための工夫として、どのような態勢が考えられるのかといったことも前提として議論が必要だと考えます。   4点目に、勾留質問をオンラインでできるようにするのであれば、国選弁護人の選任請求の手続もまた、オンラインでできるようにする必要があります。被疑者本人が準抗告や勾留取消請求、勾留理由開示を申し立てる場合もございますので、そうした手続もオンラインでできるようにするべきです。 ○酒巻部会長 1点目と2点目について、裁判所に引致して行うことが困難であるときと、条文かどうかは別にして、これよりも厳格な要件とするというのは、例えば具体的にどのような表現を考えているのですか。 ○久保委員 少なくとも、著しく困難であり、やむを得ないといった規定も考えられるほか、コロナ禍ということを抽象化して例示として列挙することにより、それにどういったものが該当するのかということをできるだけ判断しやすくするというような試みも考えられるのではないかとは思います。 ○酒巻部会長 ほかに御意見、勾留質問についてはよろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「(1)」の「②」について、御意見、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 検討課題「(1)」の「②」の弁解録取について意見を申し上げます。   点線枠内の規律は、被疑者を留置施設等に在席させ、検察庁にいる検察官との間をオンラインで結んで、刑事訴訟法第205条第1項の弁解録取の手続を行う場合に講じるべき措置について記載しています。この点について、私は、第4回会議において、大要、以下のような意見を申し上げました。   弁解録取の手続は、捜査機関である検察官が、同じ捜査機関である司法警察員から送致を受けた被疑者について行う手続であり、勾留質問の手続のように、捜査活動とは別個・独立のものであることを外形的に示すことは要請されないから、被疑者の外形的な移動がないまま弁解録取を行うことが原則として許されないとまではいえない。もっとも、被疑者を留置施設等から出して物理的に移動させないだけではなく、検察官が映像・音声の送受信によって弁解録取の手続を行う場合には、被疑者が画面越しに映し出された人物を見ただけでは、自分が現在する警察署の者とは別の立場にある者であることが実感しにくい場合もあるので、検察官が被疑者に対して自らの立場をきちんと説明し、被疑者に理解させる措置を採ることが必要である。   以上のような意見を申し上げました。   「②」の規律案は、このような従前の私の意見も踏まえて作成してくださったものであると理解しております。   なお、第4回会議において申し上げたとおり、検察官が被疑者に対して自らの立場をきちんと説明することは、対面で弁解録取を行う場合を含めた検察官による弁解録取一般に妥当する要請であると思われますので、点線枠内の規律のように、オンラインによる弁解録取につき、手続の冒頭において、検察官として行うものである旨を告げる措置を明文で定めたとしても、確認規定としての意味合いが強くなると考えています。 ○久保委員 弁解録取について意見を申し上げます。   勾留質問のオンライン化の方がより問題は大きいとしても、当然のことながら、弁解録取に際し、警察による影響を遮断する必要がないということは意味しません。警察からの影響の遮断の有無は、弁解録取の際の供述の任意性の判断に直接影響する重要な問題です。   例えば、法務省のウェブサイトには、取調べの可視化に関する省内勉強会における調査・検討結果及びそれを踏まえた被疑者取調べ可視化の実現に向けた取組というものが公表されておりまして、法務省作成の平成23年8月付け「取調べに関する国内調査結果報告書」には、「検察官は上記の警察官による違法、不当な取調べの影響を遮断するために特段の積極的措置を講じたとはいえない。したがって、そのような中で作成された本件調書もまた、警察段階における違法、不当な取調べの影響が遮断されておらず、やはりその任意性に疑いがあるといわざるを得ない」として、検察官の取調べの任意性が否定された例が紹介されておりました。   弁解録取は、警察署内で行われることが想定され、物理的な移動を伴わず、画面越しで様子が判断しづらい上に、場所が警察署内であるということになれば、その影響を遮断することは極めて困難になります。   したがって、弁解録取につきオンライン化するに際しても、勾留質問と同様、場所については取調室などは利用することなく、一見して違う手続であることが分かるものであること、その場に捜査担当の警察官が立ち会うことは許容されるものではないこと、影響を遮断するための丁寧な説明を尽くすことが当然の前提となるべきだと考えます。   先ほど成瀬幹事からは、確認規定となるという趣旨の御発言がございましたが、確認規定であっても、その重要性に鑑み、法律上の規定として置くべきだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに、検察官の弁解録取について、御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、先に進みまして、検討課題の「(2)映像・音声の送受信又は対面による取調べの際の供述調書の電子的方法による作成等に関する規律」について御意見を伺います。   検討課題の「(2)」の「①」から「③」までは相互に関連すると思いますので、併せて御意見を伺います。   どれについてでも結構ですので、挙手などした上、どの点についてのものかを明示した上で、御発言をお願いします。 ○池田委員 検討課題の「(2)」の「①」から「③」までについて意見を申し上げます。   まず、「①」についてですけれども、この点線枠内に示されている規律は、いずれも紙媒体の調書に供述を録取する手続に関する刑事訴訟法第198条第3項から第5項までに相当する規律を、電磁的記録をもって調書を作成する場合に即して記載したものであって、合理性を認め得るものではないかと思います。   その上で、検討課題の「(2)」の「②」についてですが、これまでの議論において、久保委員から、書類が電子データで作成される場合には改ざんの危険性が高まるから、それを防止するための措置に関する規律が必要ではないかとの御意見が示されていたところです。   もっとも、現行法の条文上は、録取の正確性を担保するための手段として署名押印を求める一方で、その後の改ざんを防ぐことについて特段の規律を置いているものではありません。電子データについてだけ特別の規律を置くということについては、調書の作成方法としては、等価値であるべき紙媒体による作成と電子データによる作成との間に、利用に当たってのハードルの高さに差を生じさせることになりかねないという意味で、問題があるのではないかとも思われるところです。   あわせて、そもそも、具体的にどのような規律を設けるのかといったことや、さらに、その必要性や合理性について、なお検討の余地が残るものと思われます。   最後に、検討課題「(2)」の「③」の規律について申し上げます。   これまでの議論でも示されてきたように、現行の刑事訴訟法第321条第1項第2号の解釈として、同号の「検察官の面前」における供述に、映像・音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によってなされた取調べにおける供述が含まれることは、問題なく認められるものと考えております。   ただ、同項第1号の文言と比較することによって生じる解釈上の疑義をなくす必要があると考えられることから、さきに述べた旨を明示するということをこちらの点線枠内の規律は提案するものであって、その意味において合理性を認め得るのではないかと思います。   なお、この点に関連して、久保委員から、第4回会議において、映像・音声の送受信の場合、捜査官には分からない方法で第三者の成り済ましのおそれ、あるいは同席した第三者からの不当な影響のおそれがあり、これに対処するために、この場合には録音・録画を義務付けるべきだとの御意見がありました。そのような御懸念自体には理由があると思いますけれども、他方で、映像・音声では認識できない方法で影響が及ぼされるということも当然考えられ、その場合には、その状況を録音・録画したとしても不当な影響の検出にはつながらないという意味で、それが一律に義務付けるほどの合理性を有する方策といえるかには、なお疑問の余地があるのではないかと思います。   そのため、映像・音声の送受信を通じた取調べについて、特に録音・録画の実施を義務付ける理由はないと思われます。 ○𠮷澤委員 今、池田委員が述べられた「③」について、私からも付け加えて意見を申し上げます。   私も池田委員と同じ理由で、理論上、刑事訴訟法第321条第1項第2号にオンラインの場合も含むというのは、当然に認められるものであると考えています。それに付け加えまして、必要性等についても述べたいと思います。   オンラインによる事情聴取というのは現在でも可能であり、運用例もあります。被害者には限られませんが、参考人など供述者にとっては有用なものだと思っています。   オンラインによる事情聴取が特に有用だと思われるのが、供述者が遠方に住まれている場合です。被害者や御遺族は、捜査中は何度も警察や検察庁に足を運ぶこととなります。検察庁についても、複数回、事情聴取が必要となることもよくありますが、例えば、被害者が亡くなられて御遺族が遠方にいらっしゃる場合や、被害者が遠方から来られたときに被害に遭われた場合、被害者が被害に遭われた後に実家に戻ったり、同じ場所に住むことがつらいという事情などで遠方に引っ越された場合など、捜査を担当している場所と被害者らがお住まいの場所が離れているというケースは多々あります。   そういった場合に、逮捕勾留されている事件だと、限りある身柄拘束中に何度も遠方の検察庁に足を運ぶというのは非常に負担が大きいものでありますので、オンラインによる事情聴取がなされるということ、そして、そこで作成された供述調書が刑事訴訟法第321条第1項第2号に含まれるということが非常に大事になると考えています。   このオンラインによる事情聴取によって作成された検察官の面前調書が同法第321条第1項第2号に該当しないとなりますと、結局、オンラインによる事情聴取がなされるということに全く意味がないと考えます。結局同じ、先ほど述べましたような負担を強いることになるからです。   先ほど池田委員からも言及がありましたが、これまでの会議において、久保委員から、オンラインによる事情聴取であれば、その場に誰か同席している可能性であったり、成り済ましの可能性を排斥できないという御懸念が示されましたが、その会議の際にも指摘があったように、そういった状況は、対面による事情聴取の場合も同じ状況であり、実際は身分証明書を提示してもらうなどして成り済ましを防いでいるでしょうし、同じようにオンラインでの事情聴取においても、何らかの方法で身分確認はするはずであると思います。   また、第三者が同席しているかどうか、影響を受けていないかという点についても、もちろんオンラインでの事情聴取をするからといって、被害者がどこにいてもいいというわけではなく、いきなり場所も特定しないまま、オンラインで接続して事情聴取をするということは考えにくいですし、現実的なところで言いますと、被害者に最寄りの検察庁や警察署等に来てもらって、被害者の所在する場所に同席している者がいるのかどうかなどといった点も含め、検察官が把握するなどしながら、事情聴取がなされることが想定されます。   そして、そういった供述人の場所の問題や同席者の有無を把握した上で事情聴取をしたのかなどといった問題は、全て刑事訴訟法第321条第1項第2号に規定する相対的特信状況の判断において考慮されるものに尽きるといえ、類型的に伝聞例外に該当しないなどというものではないと考えます。   また、もう1点、オンラインで作成された調書と実際に完成された調書の同一性が担保できないのではないかといった御懸念も示されていたかと思いますが、正にその問題を解決するために、電子署名などといった方策が検討されるべきということであり、それは他の電子データで作成された証拠一般の問題と変わることはないと思います。   また、電子データであれば、1ページずつ指印を押すことができない点なども御懸念があったかと思いますが、元々紙ベースで作成された調書に1ページずつ供述者の指印や押印をしているのは、紙ベースで作成された調書は1枚ずつばらばらのものをホチキス留めした形状であったりしますので、物理的にそれを1枚ずつばらばらにして差し替えが容易であるという点にも配慮して、運用上なされていたものではないかと思われますところ、電子データで作成されたものは、1ページずつばらばらの電子データというわけではなく、一体として作成されるものですので、そのうちの1ページ分を切り出して、他のものと差し替えるということは容易ではないと思いますし、それを防ぐために、電子データ一般に言われる改ざん防止の手立てが必要という問題に帰着するのではないかと思っています。   ですので、刑事訴訟法第321条第1項第2号に、オンラインによりなされた事情聴取によって作成された調書を含むとすることは認められるべきだと思います。 ○久保委員 「①」から「③」ということでしたが、質問もございますので、まず「①」、「②」について申し上げます。   まず、事務当局に2点質問があります。   1点目に、「①」「ア」につき、オンライン上で供述調書を作成するということにつきましては、現に海外にいる者も対象としているのか、お伺いできればと思います。   2点目に、仮に海外にいる者も対象としているという場合には、取調べを行い供述調書を作成することは、当該国との関係で主権の問題を生じることになると思われますが、共助などを得た上で実施するということを前提としているのか、お伺いできればと思います。 ○鷦鷯幹事 事務当局からお答えいたしますが、供述調書を作成するということと、被聴取者が海外にいらして、その方がいらっしゃる国との関係でその国の主権の問題が生じるというのは、別個の問題ですので、御指摘のとおり、海外にいらっしゃる方に何らか聴取を行う場面には、別途主権の問題があるということになろうかと思います。 ○吉田幹事 若干補足しますと、刑事訴訟法上、捜査権限を行使する場合に、その対象者が国外にいる場合をわざわざ条項に書くかというと、基本的に書かれていないと思います。例えば、捜索差押許可状の記載事項に関しても、海外にいる場合というのを特記しているわけではなくて、そこは、刑事訴訟法の解釈上、賄われているということだろうと思います。   ですので、取調べに関する規律についても、わざわざ書く必要はないだろうと思われ、その点については、飽くまで主権との関係を解釈としてどのように考えていくかということになるのではないかと考えています。 ○久保委員 質問に対する回答としては分かりました。その上で意見を申し上げたいと思います。   「①」の「ウ」の署名押印に代わる措置につきまして、2点意見を申し上げます。   1点目に、この措置につきまして、裁判所の規則で定める署名又は押印に代わる措置という限りでの検討では不十分だと考えます。   システム設計について検討中であるということは承知しておりますが、令和4年に法務省においてコンサルタントを入れて意見を聴いているはずですので、既に何らかの見通しは見えているはずだと考えております。また、そもそもシステム設計において留意するべき点を共有しておくということも必要だと考えます。   被疑者の署名押印に代わる措置により供述調書の内容が確定され、その後、差し替え、改ざんなどができないということが保証される仕組みと、それを事後的に検証できる仕組みが必要です。さもなければ、供述調書の作成の真正をめぐった争いが増えるということが想定されます。   そうした争いが増えることは、裁判の迅速化を害します。仮に、システム設計の結果、改ざんを防止することはできない仕組みしか無理だったなどということになるのであれば、そもそもオンラインによる調書の作成はすべきではないということになりかねません。   この点につき、先ほどお二人から御意見を頂きましたが、録音・録画しておくことにより、少なくとも解消される問題というものもあるはずです。録音・録画があれば当然、その調書を作成する場面の読み聞けの場面も映されます。それにより、調書の内容と聴取した際の内容が合致しているということが確認でき、その限りでの紛争を未然に防ぐことができます。   2点目に、弁護人が作成する弾劾証拠の取扱いについて申し上げます。   1点目の質問に関連して、仮に、検察官が国外所在証人をビデオリンクにより取り調べて供述調書を作成した場合に、弁護人が国外所在証人にZoomなどでビデオ通話をして、供述調書又は録音・録画記録媒体を作ったとすると、この弁護人が作成したものにつきましては弾劾証拠になるはずです。   例えば、裁判所や検察庁のシステムに登録することをもって署名押印とみなすなどという制度になれば、私人である弁護人はその措置を利用できないことにもなりますので、弁護人において弾劾証拠を作成することも可能とされなければなりません。録音・録画記録媒体それ自体を請求すれば、署名押印不要ということになるかもしれませんし、実際、疑義が生じないよう、弁護人については録音・録画記録媒体を作成するということは考えられると思います。   ただ、取り分け国外所在証人につき、いわゆる弁護人面前調書の作成のハードルが警察官、検察官より上がるということは適切ではありません。   結論として、本質的な問題としては、供述調書であれ、弁護人面前調書であれ、改ざんなされないことを、制度としても、そしてシステムとしても担保されることが重要ですし、捜査機関と被疑者・被告人、弁護人が武器対等であることも重要であるということです。   「①」については以上です。引き続き、「②」についても意見を申し上げます。   結論として、措置を法律上、規則上設けることの必要性・合理性はあると考えております。   1点目に、紙とデータでは改ざんの容易さと発見の困難さが異なるという事実は、やはり前提として検討するべきだということです。調書の機能をデータに置き換えることができるという問題とデータ特有の問題に配慮しなければならないという問題は全く別物であり、紙において規制していなかったからといって、データで規制しなくてもよいということを正当化するものにはなりません。   第4回の部会において、吉田幹事から、現在の運用で供述調書のページごとに指印を押すというのは、飽くまでも運用上そうしているだけの話だという御指摘がありましたので、私なりに改めて、現在の指印制度が持つ意味について考えてまいりました。   まず、現在の制度は心理的効果が大きいという点です。紙の各ページに指紋を押す場合には、警察官や検察官の心理においても、現に指紋が目に見える形でそこに押されていることにより、改ざんしにくいという構造にあります。その改ざんのしにくさに影響する点として、紙の供述調書を弁護人に開示する際には、必ず指紋部分も含めて開示されます。指紋を対照しようと思えば、いつでも弁護人において、民間業者で指紋を対照することができますし、改ざんをする場合には、捜査官自身の指紋によってするのでしょうから、改ざんが露呈したときには、改ざんの犯人もセットで容易に判明するということになります。   つまり、紙の証拠を開示することが、同時に改ざんの有無を検証できる状態という構造になっているといえるのであり、改ざんに関する証拠も開示されているといえます。そうであるにもかかわらず、今なお捜査官が指紋を偽造したというケースもあるのですから、少なくともそれと同等の改ざん防止措置が必要です。   これに対し、データになった場合には、どういう形でデータが作成されるかによっては、紙より改ざんの可能性が高まり、かつ、改ざんを発見することが困難となりかねません。誰が改ざんしたのかも分かりにくいという可能性もございます。これはデータ自体の改ざんのしやすさの問題です。もちろん、プロパティ情報を削除した上で弁護人に証拠開示されるなどということは論外ですが、紙と同等であるということを前提とすればこそ、データの捜査書類を開示されたときに、それ自体で改ざんの有無を検証できるということが必要です。   2点目に、検証を容易にするということは、改ざんを防止するだけではなく、刑事裁判において争点を減らすということにもつながるということです。事後的に検証しやすい仕組みとすることで、心理的に改ざんしにくいということにもつながります。そのためには、メタデータの開示が必要であるということは当然の前提としても、制度として改ざんの可能性を排除できない限り、オンラインにより開示された供述調書の、データとして作成された供述調書の信用性を争う件数は格段に増えるということになりかねません。   以前の部会で発言したと思いますが、主張関連証拠として、そうした証拠が出てくるという場面は想定されます。ただ、そうすると、録音・録画記録媒体が作成されていない中で作成された多くの供述調書について、一旦、予定主張で違法に改ざんされた可能性を主張し、主張関連証拠としてそれを確認し、その上で違法の主張を撤回するといった、う遠なことをしないといけないことになりかねません。そうした争点を増やすことは、かえって被害者の方を無用な紛争に巻き込むということにもなりかねないと考えます。   そのような無用な紛争を防ぐためには、制度として改ざんの余地をなくし、システムとしても改ざんの余地をなくし、かつ、録音・録画や証拠開示制度を充実させて事後的な検証ができるようにすることが重要であり、それは刑事手続全体の質を向上させるはずです。   3点目に、各ページの指印は、単に善意で運用により行っているものでも事実上のやりやすさで行っているものでもなく、過去のえん罪を踏まえた運用であるということです。   まず、警察において作成する供述調書につきましては、犯罪捜査規範の第179条第3項に、「被疑者の供述について前項の規定による措置を講ずる場合において、被疑者が調書の毎葉の記載内容を確認したときは、それを証するため調書毎葉の欄外に署名又は押印を求めるものとする」と規定されております。同規範第56条第3項には、「書類(裁判所又は裁判官に対する申立て、意見の陳述、通知その他これらに類する訴訟行為に関する書類を除く。)には、毎葉に契印するものとする」とされています。   犯罪捜査規範に、供述調書や各書面につき、途中で改ざんなどができないようにする措置が定められているということが前提になりますが、取り分けこの第179条第3項は、富山事件及び志布志事件における警察捜査の問題点を踏まえた再発防止策の一つとして、警察庁が平成19年7月23日付けで、事務連絡「被疑者供述調書等における各葉指(押)印制度の実施について」というものを発出し、さらに、犯罪捜査規範が改正されたという形になっております。この過程は、現在も警察庁のホームページにおいて、「富山事件及び志布志事件における警察捜査の問題点等について」という書面がアップされており、確認することができました。   実際、例えば東京地裁平成29年5月30日判決というGPSの違法捜査が問題となった無罪判決において、その違法捜査の違法性を判断する過程で犯罪捜査規範にも言及されておりますし、捜査の違法性が問題となった国家賠償請求訴訟でも犯罪捜査規範に言及されることは多々あり、犯罪捜査規範の存在を軽視するべきではありません。   そして、検察官による供述調書につきましては、今申し上げた犯罪捜査規範の改正とほぼ同じタイミングである平成19年7月17日付けの「「検察官調書作成要領(指針)」の実施について」という次長検事依命通達によるものとされています。   つまり、これらはいずれも、刑事訴訟法で不十分な点について法改正を待つことなく速やかに対応するための措置ですので、こうした紙に関する規律も含めて法律を改正するといったことを議論することはあるにしても、紙についても法律がないからデータには法律が不要という論理は成り立たないはずです。また、現行法でも禁止されておらず、運用でできるものを確認的に規定するという趣旨で議論されている議題もあるということは、先ほども指摘させていただいたとおりであり、運用であるということは、その規定を作らない理由にはならないはずです。   えん罪事件を踏まえて再発防止策を採るということは重要なことであり、こうした再発防止策が採られたという現在の運用は評価すべきことですが、そもそもえん罪はあってはならないことであり、供述調書がオンライン上で作成されるようになったことを契機に、新たなえん罪を生むようなことがあってはなりません。データ化することにより新たな改ざんの可能性が生じるという現実を前提とし、歴史を正しく将来にいかすという観点からすれば、新しい制度を作ろうとしているこの部会において、未然にそのような行為を防ぐ方策こそ考えるべきです。   もちろんシステムにおいて、改ざんの余地がないものとすることが担保されれば、そのような心配は減る可能性がありますが、現時点ではシステムの状況は不明であり、法律上の規定も置かないということになれば、最低でもデータの改ざんの危険性を前提とした対応につき依命通達が出ることが保証されなければ、紙と同等であることは保証されないはずですが、現時点において、そのような依命通達が出ることを保証するということは難しいはずですので、法律で規定することこそが適切だと考えます。   この「①」、「②」につきましては以上です。 ○保坂幹事 久保委員がおっしゃる改ざん防止の方策の前提としては、今、紙媒体で供述調書を作る場合に、改ざんというか差し替えですかね、その防止策として各葉に指印を押させているというのが、よく機能しているという趣旨だろうと思うんですが、それを前提とすると、実際にできるかどうかよく分かりませんが、一番シンプルな方法としては、データで供述調書を作成するときに、末尾に署名指印するのと同じように、画面上で各葉に指印をぺたぺたぺたと押していくようなことができれば、それがベストということになるんでしょうか。   そうだとすれば、紙の調書については、犯罪捜査規範なり次長検事の依命通達で行われているのだから、同じような規範、つまりデータで調書を作成するときの同じような規範が普通作られるのではないかと想像されるわけですが、それでは足りなくて、法律上の保証が要るというのがちょっとよく分からなかったんですが、どういう意味でしょうか。 ○久保委員 まず、1点目につきまして、システム設計の問題になるのかもしれませんが、各ページに今おっしゃったような指印をするような仕組みを採り、かつ、ただデータですので、指印自体をコピーして貼り付けるといったことも、またシステム上、簡単なものではありますので、そういったことが事後的にできないようにするというシステムであることも含めて、各ページに指印を押すということであれば、一つの在り方だと考えます。   その上で、データであれば、やはり指印するというだけで分からないという場面もありますので、メタデータが証拠開示として出てくることが担保されるということ、事後的な検証が容易であるということも、また重要なことだと考えます。   2点目に、犯罪捜査規範につきましては、保証するという表現が適切かどうかは難しいところはありますが、この部会において、データ特有の改ざんのしやすさを前提とした犯罪捜査規範が定められるべきといった指針を確認しておくということは重要だと思いますし、その限りで確認がなされれば、恐らくそういった適切な改正がなされるのではないかと期待できますので、その点もまた重要なことだとは考えます。 ○吉田幹事 改ざん防止措置について、今後、技術的にどういう措置を採るかということにもよるかもしれませんけれども、例えば、調書を作成したときにハッシュ値を取って、それが確定されれば、1文字でも変更すれば、事後的に変更が加わったことが確認されるわけですので、各ページに指印を押すというようなことよりも、むしろ改ざん防止としては機能性が高いのではないかという気がするのですけれども、そうしたことを否定される趣旨なのかどうかというのがよく分からなかったのが一つと、それから、犯罪捜査規範、あるいは検察庁においては依命通達によって、調書の各葉に指印を押すということが行われているとして、それは正に犯罪捜査規範や依命通達で行っていることであり、法律上求められるべきことが法律の規定として足りていないので、それを補っているという趣旨ではもとよりないわけですので、それを法律に取り込まないといけないというのが、趣旨としては分からないのですけれども、そこはどういう理屈なのでしょうか。 ○久保委員 まず、1点目のハッシュ値による確認という点につきましては、現状システムの状況が分からないという中で、可能な限り改ざんの余地がなくなるシステム設計であるべきということをこの部会において確認しておきたいという趣旨です。   その上で、システム設計がなされた際には、どのような意味で改ざんの余地がないシステム設計になっているのかということが弁護人に正しく開示されることによって、そのような紛争を防ぐという機能もございますので、ハッシュ値による確認というものを排除する趣旨ではなく、現在ある情報通信技術で極力改ざんの余地をなくすということが適切だと考えております。   2点目に、規律の在り方につきまして、法律とするのか犯罪捜査規範とするのかについて、犯罪捜査規範で現在規定されているものであるから、法律に規定してはいけないということにはならないと考えております。   現在、犯罪捜査規範に書かれているものは、適切な捜査の在り方という観点で書かれているはずですので、供述調書をオンラインで作成されることになったということを契機として、法律の中にその趣旨を取り込むということは一つの在り方だと考えます。   また、現状、そういった点も含めて、法律ではない部分でどのような規律の仕方があり得るのかといった点は、全く共有されていないところですので、法律ではないけれども、犯罪捜査規範でこのような規律がなされるということが前提になっているのだということがこの部会で共有されるのであれば、その点も重要なことだと考えているという趣旨で発言をさせていただきました。   続いて、「③」について質問をさせていただきたいのですが、先ほどのところとも重なるのですが、2号書面の問題についても、海外に所在する者に対する事情聴取や取調べも含めて、そのように海外にいる者について作成された供述調書も2号書面として取り込むという趣旨なのか、まず確認をさせていただきたいと思います。   2点目の確認になるのですけれども、仮に供述者が海外に所在する際に作成された供述調書も含むという趣旨であれば、それに賛同される方は、後で出てくる外国所在証人のビデオリンクとの関係で、どのような考えに立っておられるのか、もしお話しいただける方がいれば、御意見を伺いたいと思います。   といいますのも、海外にいる方について、供述調書を作成し、それを2号書面として採用するということになるのであれば、これはビデオリンクの要件と切り離して考えることはできないように思います。   つまり、2号書面になるような供述調書の作成は容易であるにもかかわらず、後で出てくる議題では、やむを得ないような事由があるような場合に限られておりまして、この点は合理的ではないように思っておりますので、2号書面とビデオリンクの要件を異にするような場面があるということについて、どのようにその整合性を考えればよいのか、御意見を伺いたいと思っております。 ○酒巻部会長 海外にいる参考人、被疑者以外の第三者についての取調べの話と、後で出てくる、海外にいる人について、映像と音声で証人尋問をやるかどうかという話は似ていますけれども、法律的には全然違う話なので、証人尋問の方は後でやりましょう。   それで、まず最初に、御質問があった点が二つありました。その点について、事務当局からお願いします。 ○鷦鷯幹事 御質問の1点目については、先ほど供述調書の作成のところでお答えしたところと同じです。   2点目のビデオリンク方式による証人尋問については、今も、部会長から御指摘がありましたが、証人尋問のところで御議論いただく内容かと思います。 ○久保委員 海外に所在する者についてどうするかということはまとめて後で申し上げますが、その前提として、刑事訴訟法第321条第1項第2号の検察官の面前における供述を録取した書面に当たるかどうかは別として、どこまでいっても重要となるのは、反対尋問権が保障されるということだと考えております。   2号書面についても、実際にどのような形で反対尋問権が保障されるのかといったことが重要となりますので、その限りで、この時点では意見を申し上げておきます。 ○池田委員 先ほどから久保委員から、供述調書の改ざんの話を御指摘いただいて、危険性があるということについてはよく承知をしたところなのですけれども、電子データで作成された書面に改ざんの危険性があるというのは、恐らく供述調書に限った話ではないのではないかと思っております。   𠮷澤委員が既に御指摘されたことですけれども、これは電子データで作成される書面全般にわたる一般的な課題でありまして、そのために改ざんを防ぐ方策としては、これは吉田幹事から御指摘があったように、タイムスタンプとか電子署名を取って、ハッシュ値を比較するという形で、紙以上に容易に検出することができる、そういう技術もあって、それが活用されることが期待されているところです。   それが有効に機能するのであれば、供述調書に改ざんが生じたとしても、対処し得る問題ということになると思われますし、逆に供述調書に特有の、そういった技術的な方策が通用しないという課題があるのであれば、それを御指摘いただくというのが、この場面では必要ではないかと思います。   ただ、今までの御議論を伺っている限り、そういう指摘はなされていなかったのではないかと私は理解しております。 ○久保委員 供述調書以外の書類も含めて改ざんの可能性があるというのは御指摘のとおりでして、そういった点もあって、先ほどは、犯罪捜査規範第179条第3項だけではなく、第56条第3項に各ページに契印をするという規律も置かれているということを御紹介したところです。   まずはシステム設計において、およそ改ざんの余地がないものとされること、そして、それが事後的に検証しやすいものとなることが重要であり、その点をまずはこの部会において確認をさせていただきたいということです。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題「(2)」についての御意見、御質問等ございますか。よろしいですか。   それでは、ここで10分間休憩を取りたいと思います。              (休     憩) ○酒巻部会長 それでは、再開します。   「第2-1」については、ほかに御意見はもうないでしょうか。   それでは、「第2-2 被疑者・被告人との接見交通」についての議論に入ります。   議論に先立ち、配布資料12の「第2-2」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局からの説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の3ページ及び4ページを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」には、案を対比するため、「(1)」では「接見を映像・音声の送受信により行うこと」について、「(2)」では「書類の授受をオンラインにより行うこと」について、それぞれ、刑事訴訟法第39条第1項によるものとして位置付けるとするA案と、同項とは別の外部交通の方法として位置付けるB案を記載し、また、それらの場合についての規律を設けるとするA案と、法制上の措置を講じないとするB案を記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   この項目についてのこれまでの御議論を踏まえ、更に検討すべき課題として、「(1)被疑者等と弁護人等との接見」及び「(2)被疑者等と弁護人等との書類の授受」について、それぞれ「①」から「⑤」までを記載しています。   「(3)その他」では、「(1)」及び「(2)」以外の検討課題について御議論いただければと考えております。 ○酒巻部会長 まず、ただいまの説明内容に関して、御質問等がありましたら、どうぞ。よろしいでしょうか。   それでは、議論に入りますが、まず、検討課題の「(1)被疑者等と弁護人等との接見」について、御意見を伺います。   検討課題は「(1)」の「①」から「⑤」までありますが、相互に関連すると思いますので、まとめて御意見を伺います。   どこからでも結構ですので、御意見のある方は挙手などした上、どの点についての御発言かを明確にした上でお願いいたします。 ○成瀬幹事 検討課題「(1)」の「①」と「②」について、私の問題意識を申し上げた上で、久保委員に質問をさせていただきたいと思います。   刑事訴訟法第39条第1項は、「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者・・・と立会人なくして接見・・・することができる」と規定しています。この規定により、身体の拘束を受けている被疑者等には、希望したときは、立会人なくして弁護人等と接見することができる権利が保障され、これに対応して、留置等をする側には、逃亡や罪証隠滅等を防止するための措置を講じつつ、被疑者等と弁護人等の接見を実現することができる人的・物的体制を確保することが求められています。   仮に、考えられる制度の枠組み「(1)」「ア」の「A案」のように、ビデオリンク方式による接見を刑事訴訟法第39条第1項の「立会人なくして接見」として行うものと位置付けるとすると、対面による接見と同じ取扱いをすべきことになり、被疑者等が留置される全国の各施設において、被疑者等が希望したときはビデオリンク方式による接見を実現することができる人的・物的体制を確保することが求められることになるでしょう。   もっとも、検討課題「(1)」「②」に関してこれまで繰り返し指摘されてきたとおり、成り済ましや弁護人等以外の第三者の同席等、対面で接見を行う場合には起きないはずの罪証隠滅等を確実に防止しつつ、ビデオリンク方式による接見を実現することができる人的・物的体制を全国の留置施設等で整えるには、大規模な予算の裏付けと長い年月を必要とすると思われます。   こうした事情を踏まえると、ビデオリンク方式による接見を同法第39条第1項の「立会人なくして接見」として行うものと位置付けるべきかどうかを検討する前提として、そもそも、ビデオリンク方式による接見について、同程度のニーズが全国各地であまねく存在しているのか、それとも、特にニーズが高い地域とそれほどニーズが高いとはいえない地域に分けられるのかといった点を確認する必要があるように思われます。   対面による接見とビデオリンク方式による接見のいずれかを選択できる状況においては、被疑者等にとっても弁護人等にとっても、対面による接見の方が望ましいのだとすれば、ビデオリンク方式による接見の現実的なニーズは、長時間の移動や厳しい気象条件等に照らして、対面による接見のメリットを犠牲にしてでもビデオリンク方式による接見を選択せざるを得ない地域に偏在している可能性もあるように思われます。   以上のような問題意識から、久保委員に対して、ビデオリンク方式による接見にはどのようなメリット・デメリットがあり、対面による接見とどのように使い分けることが想定されるのかについて質問させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○久保委員 回答させていただきます。   前提として、法律事務所等からのビデオリンク方式の接見が実現するべきだと考えておりますし、現に外国ではそうした制度が実現できている以上、日本でもそれを実現することは可能なはずだと考えております。   ただ、それを前提とすると、様々な問題、例えば今御指摘のあった成り済ましといった問題に派生しますので、少しでも議論を前に進めるという観点で、現在のように検察庁や法テラスのほか警察署など、身分確認をすることが容易で、第三者がいないことも確保できる場で接見を行うということを想定して、今回の部会では発言をさせていただきたいと思います。   今、成瀬幹事から御指摘を頂いたメリット・デメリットという表現を採りますと、オンライン接見、ビデオリンク方式の接見をできるようにすること自体のデメリットというものは想定できないものと考えております。   もっとも、オンライン取調べができたとしても、対面での取調べが原則となるのと同様に、オンラインによる接見ができるようになったとしても、御指摘のとおり対面での接見がまずは原則であり、その権利が保障されることが最も重要だと考えております。   例えば、オンライン接見ができるようになったことを理由として、拘置所などが廃止されるようなことがあってはならないと考えております。その上で、取り分け早期の面会が、重要な局面で面会ができないという現実が多々ございます。つまり、対面での接見よりも迅速さが重要となる場面というものがあります。   例えば、判例は、逮捕直後の初回接見の重要性を認めてまいりました。逮捕後間もなく接見ができない場合において、オンライン接見により現在より迅速に接見し、最低限必要な助言をし、その上で、後に対面での接見をするといったことが可能となることが考えられます。   現在は、勾留されるまで国選弁護人が付きませんが、逮捕直後の弁護活動が最も重要となりますので、当番弁護士制度を作り、あるいは法律援助制度を作って、法律がカバーしてくれない被疑者の利益を弁護士会が金銭面も含めてカバーをしてまいりました。それは、前回も申し上げたように、被疑者の立場に置かれた者にとって、一日も早く適切な助言を経て、身体拘束から解放されることが重要だからです。   そして、単に形式的に弁護人を選任できるだけではなく、実際に速やかな助言を得られることを実質的に促進するものとして、オンライン接見が活用できると考えます。   また、本来であれば、20日間の勾留期間中に10回接見に行くべきところを5回しか行けないという場合において、オンライン接見によりその間を補充するということも可能となります。   取り分け事件を否認している依頼者にとっては、日々の弁護人の接見は重要です。それが短時間顔を見せるというだけでも意味がある場合があります。弁護人が接見できない結果、虚偽の自白をするという事態とならないよう、適切な助言を受ける機会を増やす効果もあります。   さらに、起訴後においても、簡単な事項の確認をするにも、接見の時間を往復時間も含めて確保することを考えれば、接見に行くまでに時間を要するというような場合でも、オンライン接見があることにより速やかに打合せをする見通しが立つ結果、裁判手続の迅速化にもつながりますし、突発的な事態にも対応しやすくなります。   現在できていないことを埋めるものがオンライン接見であり、その点で、弁護人からの助言を受ける権利をより実質的に保障するものとなることを期待しています。   つまり、オンライン接見を導入することにより実現したい利益としては、対面の接見ができる環境を維持した上で、今より適切なタイミングで助言ができるようにし、被疑者・被告人が防御を適切に行えるように、憲法により保障された弁護人依頼権をより実質的に保障するということです。   その上で、長くなり恐縮ですが、成瀬幹事から、全国にあまねくニーズがあるかという点についても言及いただきましたので、ここから全国のニーズについて説明をさせていただきます。   単に北海道のように、法律事務所から刑事施設までが極端に遠いという場合だけがニーズを支えるものではありません。例えば、全国に共通する問題として、弁護士が不足する支部で事件を受任し切れない結果、他の支部、他の市町村、あるいは本庁の弁護士が事件を配点され、遠距離接見を余儀なくされる場合や、女性の被疑者・被告人については、特定の留置施設に集中して留置されることになる結果、どのような地域でも遠方になるということはよくあることであり、コロナ禍の間は、これに対応するために、女性に限らず、集中収容されるといったこともございました。   少年事件が移送されたり、共犯者がいる事件において、分散留置をするなどというために遠方に移送された被疑者を担当弁護人が追い掛けるようにして、管内外を問わず遠隔地の接見が必要になるという場合は、どのような地域でもございます。   関東近郊でいえば、千葉県の八日市場支部では、匝瑳市、香取郡、山武郡、東金市、山武市、大網白里市といった複数市で構成され、そのいずれにも所属弁護士は0人から3人程度と少なく、全体で10名程度の支部人員のため、千葉本庁の弁護士が応援をしなければなりません。また、離島は弁護士数が少なく、他支部、他市町村も弁護士数が乏しいか存在しないために、基本的に本庁が対応せざるを得ない場合がございます。   また、支部で発生した裁判員裁判事件や法廷合議事件等の重大事件で、被疑者が遠方の本庁や支部に起訴される場合や、支部管内の刑事施設の廃止・不存在などの理由で、被告人が遠方の刑事施設に移送される場合などもあります。その中には、当初近距離の刑事施設に勾留されていた事案で、一方的に突然、遠距離下に置かれるということもあります。直近では、いわゆる安倍晋三元首相銃撃事件の被告人が、警備の問題を理由に、奈良拘置支所ではなく大阪拘置所に移送されたという事例がございました。具体的に調べてみると、奈良地方裁判所から大阪拘置所までは、スムーズに進んでも1時間15分掛かります。裁判の期日が終わると、通常、大阪拘置所に戻されることになりますので、裁判が終わってから大阪拘置所に弁護人が移動すると、その時点でまず面会のための時間が1時間半削られます。奈良地方裁判所と奈良拘置支所は15分も掛からない距離ですが、それが1時間以上、面会の時間が失われることになりかねません。連続する開廷の中で、その日の期日を踏まえて打合せをし、翌日の裁判準備をするということが想定されるにもかかわらず、そのような打合せが十分にできないということにもなりかねないことになります。   これは、全国全ての都道府県において、いつでも一方的に遠距離下に置かれるという可能性があることを端的に示す事例だといえます。   北海道以外の距離の問題の事例としては、沖縄県では、那覇の弁護士が離島である宮古島へ接見に行く場合、事務所から那覇空港に行き、宮古島空港に行き、宮古島警察署へというルートを往復することになりますが、移動時間だけでも往復3時間程度、費用は4万円程度掛かり、これが国選の場合は、当然国の負担ということになりまして、発着便の本数も限られているため、非常に負担が大きいものとなっております。   もちろん、東京も例外ではありません。例えば、小笠原など離島で逮捕された被疑者と早期に接見するため、本土の警察署と島しょ部の警察署を接続するといったニーズがございます。あるいは、立川から東京都の23区内の警察署、町田警察署等までには1時間から2時間程度を要することから、立川支部近郊から23区内の警察署等にオンライン接見できるようにする高いニーズがあります。その逆も同様です。私自身が経験した事案では、五日市警察署の少年事件を国選で受任した際に、片道で2時間以上掛かりました。上訴審の関係で、立川支部の会員が東京拘置所に1時間半程度掛けて接見に行っていることもございますし、取り分け東京三弁護士会は、上告審の国選事件を原則受任としておりますので、全国の遠方の被告人と外部交通するために、全国の刑事施設とオンライン接見をする高いニーズがあります。   現在、日弁連において、各地から具体的なニーズのヒアリングを実施中でありますので、今紹介したのはそのごく一部ですが、既に各弁護士会において声明が出されている地域もあります。   2021年11月8日付けでは、北海道弁護士会連合会、旭川弁護士会、釧路弁護士会、札幌弁護士会及び函館弁護士会が共同声明を出したほか、札幌、鹿児島、沖縄、京都、秋田、長崎、岩手、広島、三重、旭川、兵庫、富山など、北から南まで各地で声明が出されており、その中には切実なオンライン接見のニーズについての声が記載されており、今回の改正に大きな期待が寄せられていることが分かりますので、是非一度インターネットにおいて、「オンライン接見」というキーワードで検索していただき、各地にどのようなニーズがあるのかを御確認いただきたいと思っております。   このように、弁護人の最寄りの留置施設や検察庁、法テラス等のアクセスポイントから被疑者・被告人が現にいる留置施設や拘置所等にアクセスすることができるようになると、はるかに利便性が高まり、弁護人依頼権を実質的に保障することにつながります。   つまり、結論として、全国に共通の高いニーズがあるということであり、もちろんその中には、極端に重要性が高い北海道のようなエリアがあるとしても、ニーズのある地域が偏っているということはなく、共通の高いニーズがあるということになります。 ○保坂幹事 確認的質問です。   久保委員がおっしゃったのは、つまるところ、全国あまねく、急いで会いたいときには急いで会えるというニーズがあるんだと、それは弁護人依頼権を実質的に保障するものでもあるんだという御趣旨で理解しましたが、オンライン接見と言われるものの位置付けとして、39条1項の「立会人なくして接見」という権利として位置付けるということは前から御主張されているわけですが、そこでおっしゃりたい権利として保障するというのは、被疑者・被告人がオンライン接見を望む、あるいは弁護人がそれを望んだときには、選択権がある、つまり対面での接見を選択することもできるし、オンラインでの接見も選択することができることを前提として、その上で選択権があるということだとすると、オンライン接見を選択したときに、それを実現する設備を全国あまねく整備する施設運営側の反射的な義務があると、こういう位置付けで御主張されているということなんでしょうか。   そういたしますと、全国一律、十分な選択権を実現するために十分な設備・システムが整わなければ、弁護人依頼権にもとるということになって、権利が実現されないということになるので、全国くまなく、必要な設備が整わなければならないということになるのだと思うんですが、そういう御主張ということでしょうか。 ○久保委員 そもそも権利性というものの趣旨が何だろうかということについては、私なりに考えてきたところを申し上げたいと思っておりますが、その前提として、今御質問いただいた点について、仮に権利性を求めたからといって、当然の論理的な帰結として、全ての留置施設に直ちにオンライン接見の設備を整えないといけないことになるのかというと、それはそうではないのではないかと考えております。   現状のオンライン接見ではない接見においても、接見室のない警察署において接見ができる必要があるかというと、一定の要件の下で面会接見としてできるようにしなければならないといった視点はあったとしても、接見室がないから設けよという、国務請求権的な権利まで主張できるのかというと、そうではなく、物理的な設備による一定の制約を受けるのではないかと考えております。   その意味で、権利と位置付けたとして全国的に全ての留置施設でそういったオンライン接見ができる設備が置かれるべきというところまで直結するのかというと、そうではないのではないかと考えております。   その上で、先ほど刑事訴訟法第39条第1項に含める趣旨についてもお尋ねいただきましたので、引き続き、その考えについて御説明をさせていただきます。   まず、今回「A案」として示していただいたものとしては、刑事訴訟法第39条第1項の接見に、ビデオリンク方式、あるいは電話による外部交通等も含まれるという解釈を採るというものになりますが、確認規定として、何らか括弧書きを付記することが考えられるように思います。   その上で、最高裁判所の判例は、憲法第34条前段を、被疑者に弁護人を選任し、また助言を受ける機会を持つことを実質的に保障した規定と解しております。そして、刑事訴訟法第39条第1項の定める接見交通権は、これらを具体的に保障するために設けられた規定であるとされております。   例えば、平成11年3月24日の最高裁大法廷判決では、「憲法34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と定める。この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。刑訴法39条1項が、「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」として、被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのは、憲法34条の右の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定は、憲法の保障に由来するものであるということができる。」とされております。   弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものだという観点からすれば、オンライン接見を利用して即時に助言できるようになれば、弁護人の援助を受ける権利をより一層充実させるものになるということは、先ほども申し上げたとおりです。そして、情報通信技術の発展とともに、様々な事象に対処しなければならないということが当部会の目的だと思いますが、情報通信技術の発展により、今やオンライン接見をすることは容易となっているということは、諸外国の制度からも明らかです。   接見の実質的な内容の保障が何を意味するかということ自体が時代とともに変容するはずであり、情報通信技術の発展を踏まえると、弁護人の援助を受ける権利を充実させるために刑事訴訟法第39条第1項に含まれるものと解すべきであり、少なくとも捜査も含めた刑事裁判手続全体に情報通信技術を活用するという議論が行われている以上は、それが実現するのであれば、接見だけそれを実現しないということは正当化されず、弁護人の援助を受ける権利の実質的な内容を構成していくものと解釈すべきだと考えます。   検討会においても、河津委員からは、国連被拘禁者処遇最低基準規則にも定められた国の責務であり、情報通信技術の活用に伴って新たに対応しなければならない業務も生じるのは刑事手続全体についていえることであって、接見・書類の授受の場面に限られないことから、ビデオリンク方式による接見や電子データを送受信する方法による書類の授受について、権利として位置付けた上で必要な予算措置が講じられるべきであるなどの意見が出され、それは取りまとめ報告書にも反映されていたかと思います。   その上で、刑事訴訟法第39条第1項の接見にオンライン接見が含まれるとすると、先ほど成瀬幹事からも御指摘のありましたように、立会人なくして接見することが可能になるという効果が発生するとともに、日時、場所及び時間を指定することはできるが、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならないという効果が発生するものと考えられます。   やはりこの立会人なくして接見することが可能となるという効果は、接見交通権の根幹となる重要な要素です。これが、現在試行的に行われている外部交通を単に運用において増やせばよいということでは足りない実質的な理由です。   現在行われている外部交通は、秘密性という点ではまだ不十分です。現在の外部交通には、法務省との取決めによる電話による外部交通と警察庁との取決めによる電話連絡がありますが、法務省の電話による外部交通は接見室に入ることができて、扉を閉めることができますので、通常、声が漏れることはないとされております。他方で、警察庁の電話連絡制度は、相手側の接見室のドアを開けたままにしておくものとなっているほか、通信状況が悪く、廊下から弁護士が電話を掛けなければならないといった地域もございます。相手の状況が分からず、相手のすぐそばに留置職員がいるということも想定されるようなケースもあり、制度として秘密性を守れるようにするということは重要です。   他方で、先ほども申し上げたとおり、現行法は、憲法に裏付けされた接見交通権の重要性を前提としても、なお一定の制約を許容しております。むしろ、行き過ぎた制約と闘う中で様々な判例や裁判例が生まれ、接見交通権は確立されてまいりました。また、拘置所廃止問題からも分かるとおり、接見交通権があるとしても、一方的に設備を廃止されることはあります。   刑事訴訟法第39条第1項の接見に当たれば、接見の設備がある場合には刑事施設は立会人なく接見させる義務を負いますが、物理的に設備がない場合には接見を実現することはできないという側面はあるように思います。   問題は、そのような設備がない警察署の留置場や拘置所、拘置支所に勾留することは許されるのか、全国一律というのが同時に全ての留置施設、刑事施設にオンライン接見の設備を設置することまで意味するのかということではないかと考えます。   もちろん、設備がある場合に、合理的な根拠なく拒否することが許されるわけではありませんが、少なくとも全国一律実施が不可能であるということは、段階的な措置を採ることでカバーできるのではないかと思いますので、「A案」を採用して、刑事訴訟法第39条第1項の接見に該当するものとすることを否定する根拠にはならないように思っております。 ○佐久間委員 私は、検討課題「(1)」の「③」と「④」について発言したいと思います。   当部会におけるこれまでの、また、ただいまの久保委員の御発言からいたしますと、ビデオリンク方式による接見について、実際に高いニーズがあるのは、弁護士の事務所等と被疑者等が収容されている施設との間の距離やその間の交通事情等によって、弁護人等が留置場所まで移動するのに時間を要する場合がほとんどではないかと思われます。   そうであるならば、仮にビデオリンク方式による接見の段階的実施を検討するにしても、ニーズの高い地域の留置施設等から順に実施できるようにすることをまず模索することになるのだろうと思われるのでありまして、事件そのものの内容や法定刑を基準として優先度を付けるということは、ニーズに関する御説明との関連性において合理性はないように思われます。   また、身柄を拘束されている被疑者等としては、できる限りビデオリンクではなく、弁護人がじかに会いに来てくれるということを望んでいるのではないかと思われますので、そのような被疑者等の立場や心情に照らしても、どうなのだろうかという懸念があります。   ただ、これに関しましては、今、久保委員は対面が原則だとおっしゃいましたので、その点については納得いたしました。   いずれにせよ、ここで申し上げたいのはビデオリンク方式による接見を権利として位置付けることによって、かえって、ニーズがある地域での実現が遅れる結果となるよりも、刑事訴訟法第39条第1項によるものとは別の外部交通の方法としてできるものと位置付けて、ニーズが高い地域から弾力的に対応していくというのが適切ではなかろうかということです。 ○久保委員 今の佐久間委員の御発言の趣旨を確認させていただきたいのですが、私としては、法律に規定する形とした上で、段階的な実施とすることについては異存がございません。   そのため、私があるべき姿だと考えておりますのは、法律で規定するということをこの部会で議論をした上で、何年以内に実現するという経過措置を採ることは可能ではないかと思っております。   そういう措置を採った場合にも、どの施設からオンライン接見の設備を整えるのかということが問題になりますので、法律で規定したとしても、実務者協議のような場で議論したとしても、結局は同じことを議論することになるはずであり、先ほどおっしゃったようなニーズの高いところから設置をするということと、法律上規定するかどうかということは、リンクしないのではないかと考えております。   なぜ法律で規定することと実務者協議で議論することに差異が出てくるのか、お伺いできればと思います。 ○保坂幹事 質問に質問で返すようですけれども、久保委員がおっしゃったのは、39条1項の「立会人なくして接見」で位置付けられている、立会人がないという権利と、あと接見指定が制限されない、制限に限界がある、接見指定に制限があるという、そういう二つを捉まえて権利だとした上で、実現は、段階的でよく、全国一律一斉でなくても構わないんだということをおっしゃったと理解しましたが、段階的というのは、どんなふうにやっていく意味なんでしょうか。 ○久保委員 いずれにしても、どの施設から設置していくのかというのは、例えば都道府県の警察署においての実情ですとかも含めて、実際に議論をしていくということになろうかと思います。それが実務者協議で行うことと、実際に法律で規定することによって差異が生じるものとすれば、それがどういう趣旨なのかということが私はちょっと理解ができないので、質問をさせていただいております。   例えば、民事訴訟の関係では、Teamsやmintsを利用できる裁判所と利用できない裁判所がありますが、そのことが裁判を受ける権利等の民事訴訟の当事者に保障される権利との関係で違法になるとは考えられていないように思います。   法律で何らかの制度を導入した上で、それをどの地域から導入していくかといったことは、実際に現場のレベルで議論し、例えば何年以内にという、そこの最終目標に到達するようにできればよいというものではないかと考えておりますので、その点について、お伺いできればと思います。 ○保坂幹事 元々の出発点は、39条1項の「立会人なくして接見」する権利として定めるべきという久保委員の御意見の趣旨というのは、権利性を認めることにより予算措置を講じさせていくように方向付けをしていくんだという趣旨であり、オンライン方式で接見するということを求めた場合には、設備側としてそれを実現しなければいけない反射的な義務が生じるという前提に立っての御意見だと理解した上で、もし仮にそれを待っているとすると、本当にニーズの高い地域で実現できず、全国一斉になるのを待たなければいけないというのが、佐久間委員の御発言だと理解します。久保委員がおっしゃった、弁護人選任権を実質的に保障するものだと言いつつ、設備があるときはやればいいんだというのが、オンラインで、今このタイミングで接見しなければいけないという真に差し迫った状況のときも、設備がなければしようがないねと本当になるのか、たまたまこの留置施設には設備がないから仕方ないねとなるのか、それはやはりきちんと設備を用意しなさいとなるのかというところが理屈がよく分からなかったんですが、いずれにしても、全国一律に設備ができなくてもいいという共通基盤に立つのであれば、それをどの範囲で、どこのどんなところから実現していくかというところは、ニーズを踏まえて検討していくことにはなるんだろうと思います。   他方で、久保委員がおっしゃった「立会人なくして」というところが正に肝になると思いまして、39条1項の権利として位置付けるとすると、立会人なしで弊害が本当に防止できるのかというところで、さらにワンランク上の設備なり手当てが恐らく必要になってくるだろうと思いますので、さらに実現に向けてのハードルは上がってくるんだろうとは思いますが、どうでしょうか。 ○久保委員 今の発言に対しての応答になりますが、まず設備と接見交通権との関係性につきまして、例えば、現実に接見室の備え付けられていない警察署に勾留されている場合には接見が実施できないという問題がございますが、最高裁第3小法廷平成17年4月19日の判決は、「検察庁の庁舎内において、弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても、被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ、戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等が存在しない場合には、上記の申出を拒否したとしても、これを違法ということはできない」と判示しておりまして、接見を実施できないということ自体を違憲ないし違法とは判断していないように思われます。   そのため、私としてはもちろん、本来は全国一律に設けられるべきだとは考えていますが、必ずしもそれを法律に規定したことによって、論理的な帰結として、同時に全国一律での実施となるということにはならないはずではないかと考えているということになります。   予算についておっしゃったのですけれども、一方でオンライン接見について、あまねくあるニーズあるいは地方の実情に応じたオンライン接見の設備を導入するという指摘がありまして、その場合であったとしても、予算措置が必要となるということは前提となるはずであり、予算の問題は、法律上に規定するとしても、現在のアクセスポイントを増やすという事実上のものとしたとしても、実質的には同じであるはずであり、一方で、先ほど保坂幹事が御指摘になったように、法律に規定することで予算措置が採れるということにつながるのであれば、やはりこの部会で、法律上規定するという方策を模索するべきだと考えております。   既に現在のテレビ電話や電話による外部交通が施行されて15年が経っておりますが、その間に予算措置も含めて、十分に準備ができたはずだと考えております。しかしながら、現時点においては、現在の外部交通は、弁護士会で予算を費やし、そして設備を作っている状況にありますので、実務者協議に委ねるということになる結果、結局は全国でのオンライン接見は、今後将来にわたって、ずっと実現しない可能性もあるのではないかと懸念しております。   一方では拘置所が廃止され、一方ではオンライン接見が実現できないということになると、対面接見の重要性を前提としてもなお、対面接見も十分にできず、オンライン接見さえできないということにもなりかねません。刑事訴訟法第39条第1項に含めるという前提での議論を行いましたが、「B案」を採用した上で、なお法律に規定するという選択肢もあるのではないかと考えております。   仮に、いずれにせよ、法律に規定するのであれば全国一律ということになるのであれば、そこにおいて帰結に違いはないのかもしれませんが、接見と全く同じという規律にすることによって、実現に向けた制約がかえってより大きくなるのであれば、秘密性を担保するということを前提とした現在の刑事訴訟法第39条第1項の接見等とは別の類型として、オンライン接見を法律に規定するという選択肢は、同様に検討されてもよいように思います。   日本でも既に、刑務所においてTeamsが利用されています。海外のオンライン接見でも同様ですし、いろいろな弊害につきましては、現在の外部交通、刑務所で行われているTeamsによる面会、あるいは海外のオンライン接見でも共通しているはずであり、日本においてそれが実現できないという理由はないと考えております。現在の外部交通を確認的に規定するという意味として、新たな外部交通制度を法律に規定するということが除外されるべき理由はないように思っております。   仮に、「B案」に立ってオンライン接見というものを法制化する場合には、刑事訴訟法の改正の要否と刑事収容施設法の改正の要否という二つの問題がありますが、現在の刑事訴訟法第39条第1項の接見にオンライン接見は含まれないという前提に立ったとしても、現在でも既に行われていますので、刑事訴訟法や刑事収容施設法で禁止されているものではないということが前提となっているはずです。   ですから、別の規定としてオンライン接見を規定し、一定の設備的な制約も含めた規定をするということで同意を得られるのであれば、一歩前に進めるという観点で、「B案」を採用し、かつ、法律上の規定とするということは考えられるのではないかと考えております。   1巡目の議論の際に、被疑者国選の対象事件の限定という点の議論がありました。もちろん、今回のオンライン接見にそのまま妥当するとは考えておりません。ただ、改めて被疑者国選につき、対象事件が限定された経過を自分なりに調べて考えてみたところ、司法制度改革推進本部の公的弁護制度検討会で議論がなされておりました。   平成15年10月3日の会議において、対象事件を限定するに至った過程の議論がありましたが、その中では、憲法第37条第3項に基づく弁護人依頼権を実質的に担保するとの観点で公的弁護制度が議論されておりました。   例えば、弁護人依頼権の趣旨や司法制度改革審議会意見書が掲げた公的弁護制度導入の目的のほか、公的弁護制度検討会において、被疑者に対する公的弁護制度は、理想的には身柄拘束された全被疑者を対象とするべきことにほぼ異論はなかったと言ってよいと思われることから、公的弁護制度のあるべき姿としては、逮捕又は勾留された全被疑者に国選弁護人選任請求権が与えられるべきである。しかしながら、多くの委員から、専ら弁護士の対応能力の観点から、身柄拘束された全被疑者を対象とすることは困難ではないかと指摘され、公判段階の必要的弁護制度の趣旨は、被告人の利益を擁護するとともに、国家刑罰権の公正な行使を確保することにあると解されており、法定刑に照らし、弁護人の援助が必要とされる事件をおおむね網羅できるのではないかと思われる。制度施行後5年以内に逮捕・勾留された全被疑者を対象とする旨明記されることを望むところであるが、立法技術上の問題もあるとすれば、少なくとも制度発足時点において、対象事件の範囲として必要的弁護事件プラス少年事件を法律の本則に明記し、制度施行後3年以内に、その範囲に対象を拡大するべきであるといった意見ですとか、全国的に画一的な運用可能な制度として施行されなければならないので、その意味で、第1段階を短期1年以上の部分とすることには賛成であるといった意見がございました。   つまり、全国一律にしなければならないことと弁護人の数が足りないということなどの調和として事件を限定し、その限りで全国一律にするといった工夫が議論されておりました。   言うまでもなく、被疑者国選弁護制度は、憲法第37条第3項が規定する弁護人依頼権を実質的に担保するものです。予算の確保の困難さについても議論され、その上でなお、国民に必ずしも理解されにくい被疑者の弁護費用を公費で賄うという制度につき、刑事司法の公正さを確保するとともに、充実し、かつ迅速な刑事裁判の実現を可能にする上で大変重要であるという大きな理念が共有されていたように思いました。   また、経過措置についての議論もなされており、対象事件の限定等が行われたという経緯がございました。オンライン接見については、全国のどこでどのような重大事件が起こるかはあらかじめ予測できませんので、対象事件による限定ということは難しいという局面があるかもしれませんが、それは経過措置を採れない理由とはならないように思います。   オンライン接見においても、その重要性と設備の準備の問題を調和するために、経過措置を採るといった選択肢も議論されるべきです。遅くともこの時点までに整えるといった期間を長めにとるというような経過措置を採ることは可能なように思いますので、そういった点を含めて議論をしていただかないと、オンライン接見は重要であることを前提としつつ、調和を取るための方策を考えるという前向きな議論がなされず、重要であるがゆえにゼロということは本末転倒だと考えます。 ○酒巻部会長 被疑者国選弁護制度に関連する条文は、憲法第37条ではなくて、第34条だと思います。 ○久保委員 そこは訂正させていただきます。 ○酒巻部会長 先に進んでよろしいでしょうか。   次に、検討課題の「(2)被疑者等と弁護人等との書類の授受」について、御意見を伺いたいと思います。   検討課題は「(2)」の「①」から「⑤」までは、相互に関連すると思われますので、併せて御意見を伺います。   挙手などをした上で、どの点についての御意見かを明示の上、御意見を頂ければと思います。 ○佐久間委員 最初に、検討課題「(2)」の「①」について申し述べます。   刑事訴訟法第39条第1項の「書類の授受」として、オンラインによる書類の授受をすることができるものと位置付けるとしますと、先ほど、久保委員は、必ずしもそうではないと、そこまでは求めていないとおっしゃいましたが、同項で規定する権利としての「書類の授受」として位置付ける以上は、被疑者等が留置される全国の施設においてそれを実現できる人的・物的体制を確保しなければならない、いずれはそれが求められることになるのだと思われます。   そして、そのような人的・物的体制を具体的に考えると、例えば、授受がなされた電子データを扱うタブレット端末を留置中の被疑者・被告人に貸与すれば、不正な通信に使用されたり、自傷他害行為に使用されたりするおそれがありますので、これらを防止しつつ、被疑者等が操作できるような独自の設備が必要となってきます。また、一度に大量のデータが送信されたり、送受信が短時間のうちに繰り返されたりした場合も想定する必要があり、その膨大なデータについての必要な点検作業のため、施設の業務全体を圧迫することにもなりかねないという弊害も生じ得ます。   このように、オンラインによる書類の授受の実現に当たっては、紙媒体でなされる場合には必要とされない物的設備・人的体制の整備が必要となり、これを全国の留置施設等にあまねく、かつ、全ての被疑者等が平等に利用できるように整備することは、およそ容易ではなく、大規模な予算の裏付けと長い年月を必要とすることは、ほぼ明らかであろうと思われます。   また、オンラインによる書類の授受を、刑事訴訟法第39条第1項によるものとすることができる事件を限定することで事件の総数を絞ったとしても、その類型の事件により留置される被疑者等が1人でも想定される留置施設等においては、その者がそこでオンラインによる書類の授受をすることができるように、人的・物的体制を確保しなければならないこととなります。このことは、全国の全ての留置施設等において同様なことですので、先ほど久保委員もおっしゃられたような、段階的に実施の範囲を拡大することには意味がないように思います。   そもそも、紙媒体での書類の授受が権利として保障されているところ、被疑者等にとっては、紙媒体での書面を読んで内容を検討するのに支障がないのであれば、紙媒体での書類の授受に加えて、オンラインでの書類の授受をも権利として選択的に認めなければならないほどの必要性が現在示されているとはいえないと思います。言い換えれば、オンラインにすれば、弁護人の業務の効率化、労力の削減は図れるのだろうとは思いますが、被疑者側の視点に立ってみれば、オンラインによる授受の必要性が高いというべき事情は、見いだしにくいのではなかろうかと思います。   このような観点から、オンラインによる書類等の授受については、刑事訴訟法第39条第1項によるものとは別の外部交通の方法として位置付けて、まずは、特にニーズがあり、物的設備・人的体制を整えやすい地域について、その実現の可否を検討していく方が相当ではないかと思います。 ○久保委員 刑事訴訟法第39条第1項等の関係につきましては、先ほどのところで申し上げましたので、ごく簡単に、今、佐久間委員が触れたところについて申し上げたいと思います。   先ほど、被疑者・被告人の側で必要性がないのではないかといった指摘がございましたが、やはり証拠の中には、紙で代用できるものもあれば、映像といった証拠もありますので、映像の証拠につきましては、やはりタブレット端末で証拠を直接確認できるといったニーズは間違いなくございます。   また、弁護人の利便性とおっしゃいましたけれども、刑事手続全体について利便性を高めるといった観点でいえば、ペーパーレス化する中で、せっかくペーパーレス化した証拠をわざわざプリントアウトして被告人に差し入れをするといったことは合理性がなく、書類の授受につきましても、やはりオンライン化するということが適切だと考えております。 ○酒巻部会長 ほかに御意見等ございますか。   もしなければ、ほかに検討課題の「(2)」全体につきまして、御意見がありましたら承りたいと思います。よろしいでしょうか。   それでは、次に、検討課題の「(3)その他」について、何か御意見はありますか。 ○久保委員 簡単に3点申し上げます。   1点目に、家族との一般面会についても、オンライン化が検討されるべきだと考えます。   一般面会は、立会人がいるということがありますので、罪証隠滅の防止は容易なはずです。   諸外国では、家族とのオンライン接見は実現しておりますので、日本においてもそれは実現できるはずだと考えております。既に受刑者について、Teamsの利用がなされているということは先ほども指摘したとおりであり、刑事施設の秩序維持ですとか人的・物的体制の確保ということは理由にならないように思います。抽象的なおそれにすぎないことでありますので、必要な場合に限りオンライン接見禁止の決定をすれば足りると考えます。   二つ目に、専門家との一般面会です。刑事手続において必要となる専門家による聴取をオンラインでできるようにするということが必要だと考えております。   一巡目の議論でも申し上げたとおり、精神鑑定の医師のほか、更生支援計画を作成する社会福祉士等の専門家は、面会が最も重要となるものであり、その方法を充実させることは重要です。これが利用できるようにすることは、弁護人の利便性を高めるものにはとどまりません。専門家の多忙さや、遠隔地であることを理由としたビデオリンクが提案されるところですが、起訴前鑑定であれ、いわゆる裁判員法の50条鑑定を含む公判での鑑定であれ、専門家による面談が必要となる場面は多数あります。   様々な場面で適切にオンライン面会を可能とする仕組みを作ることは、裁判手続全体の迅速化はもちろん、充実した聴取を基にした鑑定の実現にもつながり、裁判手続全体の適正さ、公正さにも資するものだと考えます。   3点目に、接見時の通訳との関係です。少数言語の通訳などを前提に、通訳をオンラインでできるようにすることの重要性は証人尋問の際の通訳についても議論されており、それ自体に異論は出されておりません。   オンラインによる通訳ができるようになることは、当然、接見の場面でも重要です。この点についても、議論がなされるべきだと考えております。 ○酒巻部会長 「(3)その他」につきまして、ほかに御意見、ございませんね。   それでは、これで「第2-2 被疑者・被告人との接見交通」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、さらに全体的に、検討課題として明記されていない点に関するものを含めて、ほかに御意見等はありますか。よろしいですね。   それでは、次に、「第2-3 裁判所の手続への出席・出頭」についての議論に入りたいと思います。   議論に先立ちまして、「第2-3」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局からの説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料12の5ページから9ページまでを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の「公判前整理手続期日等への出席・出頭」については、「ア」及び「イ」に、それぞれ、検察官・弁護人・裁判長ではない裁判官、被告人を、映像・音声の送受信により公判前整理手続期日等に出席・出頭させることができるものとすることを記載しています。   また、「(2)」の「公判期日への出席・出頭」については、「ア」及び「イ」に、それぞれ、被告人、弁護人、被害者参加人、その委託を受けた弁護士を、映像・音声の送受信により公判期日に出頭・出席させることができるものとすることを記載しています。   さらに、「(3)」の「裁判員等選任手続期日への出席・出頭」については、「ア」及び「イ」に、それぞれ、裁判員候補者、被告人を、映像・音声の送受信により裁判員等選任手続期日に出頭・出席させることができるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)」の「公判前整理手続期日等への出席・出頭」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の「ア」及び「イ」に関して、それぞれ、「①」・「②」の点線枠内のような規律を設けるか、他にどのような規律を設けるべきかなどの点が、検討課題となります。   また、「(2)」の「公判期日への出席・出頭」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(2)」の「ア」及び「イ」に関して、それぞれ、「①」・「③」の点線枠内のような規律を設けるか、他にどのような規律を設けるべきかなどの点が、検討課題となります。   さらに、「(3)」の「裁判員等選任手続期日への出席・出頭」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(3)」の「ア」及び「イ」に関して、それぞれ、「①」・「④」の点線枠内のような規律を設けるか、他にどのような規律を設けるべきか、「考えられる制度の枠組み」の「(3)」の「ア」に関して、裁判官等が在席する場所とそれ以外の場所のいずれに出頭するかを裁判員候補者が選択できるものとするかなどの点が、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関しての御質問等はございますか。   それでは、議論に入りたいと思います。まず、検討課題の「(1)映像・音声の送受信による公判前整理手続期日等への出席・出頭」についての御意見を伺いたいと思います。   検討課題の「(1)」は、「①」から「③」まであり、これはそれぞれ分けて検討するのがいいと思いますので、順に御意見を伺います。   まず、「①」について、御意見のある方は、挙手をお願いいたします。 ○成瀬幹事 検討課題「(1)」「①」のうち、「ア」の規律について意見を申し上げます。   「ア」の規律は、検察官・弁護人を公判前整理手続期日等にビデオリンク方式により出頭させて手続を行う場合の要件等を記載しています。   そこで、この点に関する従前の議論を振り返ってみますと、第4回会議において、小木曽委員から、公判前整理手続期日等において必要となる争点や証拠に関する意見交換は、ビデオリンク方式によっても支障なく行うことができる、また、非公開で行われるこれらの手続において、訴訟当事者間の率直な意見交換が妨げられるおそれのない状態が確保されるか否かについては、手続の主宰者である裁判所が、個々の事案ごとに、訴訟関係人の意見を聴いた上で、諸事情を踏まえて判断するのが適当である、との御意見が示されました。私も、この御意見に賛同するものです。   検討課題「(1)」「①」「ア」の規律は、このような従前の議論を踏まえ、裁判所は、ビデオリンク方式での出頭を求める当事者の意見及び反対当事者の意見の双方を聴いた上で、検察官・弁護人がビデオリンク方式で出頭することを柔軟に認めることができるとするものであり、迅速な公判準備に資する要件を記載したものとして、合理性を認め得ると考えます。   この「ア」の規律は、裁判所が、検察官・弁護人を「裁判所が指定する」場所に在席させることのみを記載していますが、ビデオリンク方式による出頭は、検察官・弁護人から申出がなされてその適否が判断されるのが通常と考えられますので、裁判所は、検察官・弁護人をどのような場所に在席させるかについて判断するに当たり、当該申出をした当事者である検察官・弁護人から、必要な情報の提供を受けることになると思われます。   なお、「ア」の規律の後段において、裁判所が指定した場所に在席した検察官・弁護人を公判前整理手続期日等に出頭したものとみなすものとされているのは、刑事訴訟法第316条の7が検察官又は弁護人が出頭しないときは公判前整理手続期日等における手続を行うことができないと規定していることとの関係で、ビデオリンク方式により出頭した者もこれらの期日に出頭したものとみなすものとする趣旨と思われます。立法技術的な問題ではありますが、同法第316条の7のような既存の規定との関係を整理するため、必要に応じて、このようなみなし規定を設けることも考えられるでしょう。 ○向井委員 今の「(1)」「①」「ア」と、それから「③」に関しまして意見を申し上げます。   今、成瀬幹事からも御指摘がありました所在場所に関するところです。   第4回会議でも述べましたように、当事者が映像・音声の送受信により公判前整理手続に参加する場合の所在場所等につきましては、当事者が申し出た場所等が非公開手続への参加にふさわしい場所であるかどうか、非公開手続にふさわしい条件が整っているかなどについて、裁判所が検討して判断を行うといったことが考えられますので、映像・音声の送受信による参加を希望する当事者からは、裁判所がそのような判断を行うことが可能となるような情報を疎明してもらうことになるのではないかと考えられます。   この点、民事訴訟における争点整理手続である弁論準備手続期日を音声の送受信による方法で行うときは、民事訴訟規則第88条第2項第1号・第2号により、裁判所又は受命裁判官は、通話者及び通話者の所在する場所の状況が当該方法によって手続を実施するために適切なものであることを確認しなければならないとされており、刑事訴訟法におきまして規律化するに当たっては参考になるのではないかと考えております。 ○久保委員 「(1)」の「②」について、意見を3点申し上げます。   1点目に、この点線枠内の内容を見ますと、被告人の意思に反してビデオリンクが強制される場面が生じるのではないかと思いますが、被告人の意思に反してビデオリンク方式による公判前整理手続への参加あるいは期日間整理手続への参加を強制するといったことは妥当ではないと考えます。打合せ期日や公判前整理手続について、弁護人や検察官がビデオリンク方式により手続の迅速化を図るということ自体には期待できますが、それは被告人の権利を害するようなものであってはならないと考えます。   公判前整理手続については、被告人に出頭の権利が現在保障されておりまして、手続の迅速化という点が大きいものである以上、被告人の意思において迅速さを放棄し、現実の出頭ができるまで待つということであれば、被告人の意思に反してビデオリンク方式による出席を強制することは適切ではないと考えます。   2点目に、この制度を導入することに伴い、どのような設備が整えられるべきか、それにより何が実現できるのかといった視点も、無視すべきではないという点です。   仮にこのような制度を導入する場合、当然のことながら、被告人は第三者から不当な影響を受けない環境下において、公判前整理手続等にオンライン接続するということが必要となりますので、必然的に刑事施設において、閉ざされた部屋でのオンライン接続が可能となるということが前提となるものと思われます。また、弁護人がそばに立ち会うか、少なくともオンラインによる弁護人とのコミュニケーション手段が確保されなければなりません。   そうすると、この制度を導入することは、必然的に、刑事施設においてオンライン接見にも利用できる部屋及び機器が備え付けられることが前提となるはずです。   3点目に、被告人にオンラインによる出頭を強制するといったことが行われると、かえって裁判手続の迅速化が害されるといった可能性があるということです。   現在、実務の運用において、まず法曹三者のみの打合せ期日を行い、そのまま引き続き公判前整理手続をして、そこには被告人を出頭させるといった場面もございますが、仮に弁護人のみが公判前整理手続において、刑事施設内において被告人のそばにいるようにしたという形になれば、そういった打合せ期日に引き続いて公判前整理手続をオンラインで行うといったことができなければ、現在よりも裁判の迅速化というものが害されるのではないかと懸念しております。 ○酒巻部会長 ほかに、「(1)」の「①」につきまして、御意見はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、「(1)」の「②」について、御意見があればお願いします。 ○池田委員 「②」について意見を申し上げます。   まず、配布資料に示されている点線枠内の規律ですけれども、これまでのこの点についての議論を踏まえて要件を記載したものであって、十分な合理性を認め得るのではないかと思っております。   先ほどの久保委員の御指摘にも通じるのですけれども、第4回会議において、部会長からも、「公判前整理手続期日への出頭は被告人の権利であると明記されているにもかかわらず、「関係者の意見を聴いて裁判所が相当と認めるとき」というのは、よくある要件設定なのですけれども、そのレベルで被告人の出頭の権利を制約できるというのが、私には若干違和感があります」という御指摘を頂いているところです。   そこで、御指摘を踏まえて考えたことを以下申し上げたいと思います。   公判前整理手続期日への被告人の出頭は、被告人が自ら望んで出頭する場合と裁判所に出頭を求められる場合がありますが、いずれにしても公判期日とは異なりまして、期日における手続を実施するための要件とまではされておりません。それは、これまでの部会における御指摘にも表れておりますように、公判前整理手続が裁判所の主宰の下、公判準備として検察官と弁護人を関与させ、争点及び証拠の整理をする手続であって、公判手続のように証拠の取調べなど心証形成に向けた手続が行われるものではないことから、被告人の権利を保障するという観点を踏まえても、その出頭を手続の絶対的な構成要素とするまでの必要はないことによると考えられます。   そして、これを前提に、被告人の出頭を前提とすることなく機動的な期日指定を優先させる一方で、ただ被告人の求めがあれば、その内容を知る機会を与え、あるいは手続の進行上必要があれば、出頭を求めることとすれば足りるとの考えによるものと解されます。   さらに、手続そのものが、刑事訴訟法第316条の2第3項にありますように、書面を提出させる方法による、期日の手続を経ることのない実施方法も認められていることにも表れているように、現実の対面を経ることが絶対的に必要であるとはされていないことを併せて考えれば、被告人に、その求めによって手続の内容を知る機会が認められることが必要ではあっても、手続を主宰する裁判所の判断のいかんにかかわらず、それが現実の対面を経て行われることを求める利益までが保障されていると解する理由はないものと考えられます。   以上を踏まえて、条文に即して申し上げれば、第316条の9第1項の「出頭」というのは、飽くまで期日を指定する裁判所の判断を前提に、その期日との関係で認められるにとどまると理解されます。そして、期日の手続そのものをオンラインで実施することが手続の性質上認められると考えるのであれば、被告人の出頭の対応も、その前提の下で決せられることになると思われます。   したがって、被告人の対面を実現するためだけに期日を指定し、かつ、対面で出頭する機会を確保しなければならないものではないと考えます。   以上より、被告人の出頭をオンラインとするかどうかは、関係人の意見のほか、実施すべき手続の内容、被告人の状況等を踏まえて相当と認めるときに、裁判所が決し得る事柄と考えます。そのため、被告人の出頭の態様を裁判所の判断により決するものとする現在の提案内容は適切なものと考えます。   次に、在席する場所についてですけれども、この「②」の規律は、裁判所が、被告人を「裁判所が指定する」場所に在席させるものとしております。勾留中の場合には、刑事施設がその場所として指定されることが多いと考えられる一方で、在宅の場合には、先ほど向井委員から御指摘があったように、適切な場所であるかどうかということは疎明してもらうという規律が民事では設けられているとのことですが、それを踏まえてもなお、所在場所において非公開の状況の確保が可能であるかということを判断することが難しい場合が多く、希望する場所にそのまま在席するということが困難な場合が多いのではないかと考えております。   その上で、最後に、被告人の在席場所に弁護人を同席させる必要があるかどうかについて、この規律案では特に言及されておりませんけれども、これも裁判所が個別に判断すべき事柄であって、それをオンライン出頭の必要的な要件とする必要はないと考えます。   以前に、久保委員から、被告人と弁護人が横にいるということの影響は本当に大きなものがあるという御意見を、考えられる具体的な状況とともにお示しいただいておりまして、そのことには理由があるものと考えておりますが、これも繰り返しになるのですけれども、公判前整理手続期日の手続をどのような形態で実施するかは、手続の目的に照らして裁判所が判断すべき事柄であって、そのことからすれば、弁護人の同席の要否も、オンラインとすることの相当性の判断や関係人の意見を考慮した上で決せられるものであるとしても、弁護人の同席をあえて被告人のオンライン出頭の要件とする必要まではないものと思われます。 ○向井委員 所在場所について、先ほど述べたことと重なりますけれども、検察官・弁護人に関して述べましたところと同様に、被告人が映像・音声の送受信により手続に参加する場合の所在場所につきましては、先ほど池田委員からの御指摘もありましたけれども、被告人等が申し出てきた場所というものが本当にふさわしい場所なのか、非公開手続への参加にふさわしい場所であるかどうか、その判断が必要となります。ですので、検察官及び弁護人の場合と同様、そのような判断が可能となるような情報を当事者から疎明していただくことになると考えます。   この場面におきましても、先ほど述べました民事訴訟規則の定める規定が参考になるのではないかと考えます。 ○久保委員 今、池田委員から御指摘あったのですけれども、やはり公判前整理手続であったとしても、被告人がこれから自らの有罪・無罪、あるいは量刑を決める上で、争点ですとか証拠を整理する手続に参加する、そして、それに現実に出頭するということが現在保障されているにもかかわらず、IT化することによってそれを後退させるということは、IT化の議論の趣旨からも反すると考えます。   その点について、被告人の意思に反してまでオンラインを強制することができるといった規律を設けるということに合理性はなく、例えば裁判所からそのようなニーズがあるのかどうかといった点も判然といたしません。先ほどコミュニケーションの点についても言及いただき、それについても一定の理解を頂いたということは承知しておりますが、即座にコミュニケーションができるということが現在の制度である以上、その点が確保されないとすれば、それは現在の手続よりも後退するということは明らかです。   公判前整理手続は、形式的に証拠の整理ですとか主張を整理する場ではなく、被告人の立場からすれば、その場に出席することで、今、自分を裁こうとしている裁判官がどのような人物であるのかといったことを観察する場としての意味もございます。自分が希望している証拠がなぜ採用されるのか、あるいはなぜ採用されないのか、自分が納得がいかないと考えている証拠がなぜ採用されるのか、あるいはそうならないのかといった判断の過程も含めて、公判前整理手続において観察するという重要な場であり、公判前整理手続であるから権利を制約してもよいということにはならないものと考えます。   もちろん、オンライン参加をすることができれば、その議論の過程を一部了解するということはできますが、裁判官を観察するといった面では劣りますし、何かトラブルが生じたときに即座に弁護人とコミュニケーションできなければ、恐らくその公判前整理手続は直ちに終了し、改めて打合せができなければ、このまま公判前整理手続は続行できませんと弁護人は主張し、公判前整理手続が重ねられて、かえって裁判の迅速化を害するといったことも考えなければなりません。   被告人の意思に反してビデオリンク出頭を強制させるような必要性はないものと考えます。 ○酒巻部会長 御意見ありがとうございました。   既に「③」についても伺っていると思いますが、一応確認のために検討課題の「(1)」の「③」、つまり、他にどのような規律を設けるべきかということについても、もし御意見があれば承りたいと思いますが、全体として、考えられる制度の枠組みの「(1)映像・音声の送受信による公判前整理期日等への出席・出頭」に関して、何か御意見がございますか。   まだ少し時間はあるのですが、次の公判期日にはまたいろいろ議論すべき問題がありますので、本日はこの辺で区切りを付けたいと思います。次回は、配布資料12の「第2-3 裁判所の手続への出席・出頭」の中の検討課題「(2)映像・音声の送受信による公判期日への出席・出頭」から議論を始めたいと思います。   さらに、「二」の残りの議論を全部終えましたら、「三」に関する議論にも移りたいと思います。   諮問事項の「三」についても、これまでと同様に、資料を事務当局に準備していただきそれに沿って進めていく手順になりますので、皆さんどうぞよろしくお願いいたします。   それでは、次回の予定について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回第9回会議は、令和5年4月24日午前10時からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細については、また別途御案内を申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開するということにさせていただきたいと思います。   また、今日の配布資料につきましても公開することとしたいと思います。そのような取扱いでよろしいですね。              (一同異議なし) 〇酒巻部会長 ありがとうございます。   それでは、そのようにさせていただきます。   本日は、これにて閉会します。   皆さん、ありがとうございました。 -了-