法制審議会 担保法制部会 第31回会議 議事録 第1 日 時  令和5年3月14日(火) 自 午後1時30分                      至 午後6時05分 第2 場 所  法務省20階・第一会議室 第3 議 題 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第31回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は参考人の方に来ていただいておりまして、今日はすごくリアル出席メンバーが多い会になっています。本日は幹事の衣斐さんが御欠席で、委員の山本さんが一時離席予定と伺っております。   まず、事務当局から本日の配布資料と進行予定について説明をしていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 ○笹井幹事 それでは、本日もよろしくお願いいたします。   配布資料についてですけれども、本日もヒアリングを開催するということで、参考人のみなさまから資料を4部頂いております。ヒアリングの参考資料といたしまして、山川参考人提出の委員等提出資料31−1「担保法制の見直しと労働関係」、徳永参考人、松尾参考人提出の委員等提出資料31−2「法制審議会担保法制部会参考人ヒアリング」、堀内参考人提出の委員等提出資料31−3「First Priming Lienと金融実務」、最後に粟田口参考人御提出の委員等提出資料31−4「第31回会議参考人提出資料」を事前にお配りしておりますので、御確認いただければと思います。それぞれの内容につきましては、後ほど各参考人から御説明いただきたいと思っております。   本日の進行予定につきましては、まず、東京大学大学院法学政治学研究科教授の山川隆一様から、続きまして、国分グループ本社株式会社法務部長の徳永雅憲様及び同社法務部法務課主任の松尾聡子様から、続きまして、株式会社ゴードン・ブラザーズ・ジャパン代表取締役社長の堀内秀晃様から、最後に、ABL協会理事の粟田口太郎様から、それぞれ質疑応答を含めて50分程度のお時間を頂戴して御意見を頂く予定となっております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。   まず、東京大学大学院法学政治学研究科教授の山川隆一さんから御意見を頂きたいと思います。山川さんは会場に来ていただいておりまして、会場での御参加になります。   山川さん、よろしくお願いいたします。 ○山川参考人 御紹介いただきました東京大学の山川と申します。労働法を専攻しております。よろしくお願いいたします。担保法制は全くの門外漢でありまして、とんちんかんなことを言う可能性がかなりあるかと思いますが、御容赦、それから御教示をお願いいたします。レジュメを用意いたしました。柱は二つで、一つは労働債権について、もう一つは事業担保と労働関係についてというものになっております。   まず、労働債権の話から始めさせていただきます。労働債権の観点から見た担保法制の見直しにつきましては、幾つかの視点があり得るかと思います。まず、労働債権との関係で担保制度の拡充がどう捉えられるかという点につきましては、実行段階では責任財産の減少のおそれがあり得るということがありますけれども、他方で、特に設定の段階では、そうした担保を設定することによって融資が受けられて、企業の事業活動が存続して生き残れる場合もあり得るという、二つの面があるのではないかと思います。それから、設定から実行の段階まで、労働者側としてはいろいろな対応を考え得ると思いますけれども、その際に、労働者側への情報の提供とか、あるいは労働者側の意思の反映といった問題、あるいは視点が出てくることになります。それから、担保の実行の時点では、労働債権の取扱いの問題が中心になるということであります。さらに、やや次元の異なる問題ですけれども、担保制度の枠外で、いわゆる責任財産の減少に対して対応がとられ得るかというような点も、別の視点ではありますけれども、考慮に値するかと思います。以上がレジュメの1の(1)の話で、(2)に移ります。   一般先取特権、特に雇用関係の一般先取特権と担保権で、議論の焦点は、新たな規定に係る、例えば集合動産譲渡担保権のような場合の優先関係が焦点になっていると理解しております。これを考える際に、一つは、労働債権に係る一般先取特権がどの程度利用されているのかというある種、立法事実のようなことがやや関心のあるところです。倒産手続におきましては優先性が非常に活用されているということは明らかと思いますが、それ以外でどの程度使われているのかということが若干、私自身その実態をよく把握しておりません。むしろこの点は、一般先取特権の利用ということよりも、判例上、例えば集合動産譲渡担保が認められているということで、それが法制化された場合にどの程度利用が拡大するのかという、担保制度の利用状況の可能性に関わることでもあろうかと思いまして、なかなかその点の事実の把握はもちろん難しいことかなと思います。中心となりますのは、倒産の場面以外でどの程度活用されるかということかと思います。   この問題はそのくらいにしておきまして、担保権の実行と一般先取特権、特に雇用関係に基づくものと、例えば、新たな動産担保権の優先が問題になっておりますけれども、なかなかここは門外漢ということもあって、非常に難しい問題がいろいろあるという感じを抱いております。資料では図を用意しておりますけれども、新たな動産担保権を作るとして、その目的財産と労働債権、すなわち雇用関係に基づく一般先取特権の対象の言わばずれが出てくることになりまして、それが難しい問題を引き起こします。   すなわち、労働債権の相手方は雇用主、多くの場合は法人で、一般先取特権の対象はその総財産ということになりますけれども、新たな動産担保権については担保の目的財産は集合体であれ物とか債権とか、あるいは事業全体ということになろうかと思います。この点、事業担保が法人の事業全体が目的となるとすると、一応ずれは生じないということになるかと思いますが、この点は後でまた触れることになります。   このずれの問題ですけれども、そもそも企業の従業員の業務内容は多様でありまして、担保権の目的財産との関わりも多様になります。例えば、集合動産譲渡担保の実行の際に、その目的財産、例えば倉庫内の物件一切とかいうことでしょうか、それを含まない事業部門で就労する従業員はどうなるのかということがあります。それから、従業員の多様性とはまた別かもしれませんけれども、集合動産譲渡担保を実行する際に従業員としては、総財産が一般先取特権の目的になるわけですので、一般先取特権を利用する他の責任財産と新たな担保権の目的財産との関係はどうなるのかといった問題が発生することになります。この点についてはなかなか難しいということで、自分として特に今の段階では結論を持ち合わせているわけではありません。   Bになりますけれども、倒産時における対応というのは、これは元々優先権があるということで、明らかにそれが利用されているだろうと思いますけれども、一般先取特権が主に問題になるのが倒産時といえるかどうか、それ以外にどの程度問題になるのかというのは、先ほど@のところで触れたところでございます。倒産の場合は、手続の対象は特定の目的の財産というよりも、法人ないし事業の全体が一応の原則になると思いますので、ある意味、総財産との関係のずれは基本的には生じないのではないか。労働債権については一定の範囲で優先、随時弁済であれ、配当の際の優先であれ、取扱いが法定されておりますので、その限りでは現在のルールははっきりしていますが、担保権ということからすると、例えば破産の場合は別除権は担保目的財産については手続外で行使できるということだと思いますので、結局、目的財産のずれの問題は残るのではないか。担保権実行手続を中止するというような、あるいは手続外では行使できないような仕組みにすれば、そこの点は解消といいますか、ある程度対応はできるのかなと思っております。   さらに、(3)の最後のところで、別の制度によって対応が考えられるかどうかということがありまして、この点は余り私も詳しく知らないことが多いのですけれども、一つは、これは労働法制の中ですけれども、しばしば使われている賃金立替払制度というのがありますけれども、それの根拠法令であります、いわゆる賃金支払確保法がありますけれども、そこでは例えば、努力義務ですけれども、退職手当の保全措置といった規定がございます。これは、担保制度とか、あるいは民事法の枠とは別に、労働法の中で対応しているということであります。   ここで一定の保全措置みたいな規定を担保権との関係で設けられるかどうかということが問題になり得るかと思いますが、ここもなかなか難しくて、そもそも担保を設定するかどうかというのも、企業によって、するかどうか分からないですし、それから、担保権を実行するかどうかも分からないということで、退職金の場合ですと、退職することはいずれは明らかですし、また退職金規程等がありますから、ある程度、保全措置の中身もはっきりするわけですけれども、担保権に関しては不確実要素が非常に高いということがございますし、また、保全措置を求めるとした場合にどの範囲で保全をするのかといったようなことも問題になろうかと思います。   これが1点でありまして、もう1点は、例えば先取特権を一般先取特権とは別の性格のものにするということも理論的には考えられるのかなと思ったところです。この点で、言わば目的財産が特定できるようにするような仕組みということで、例としては船舶先取特権が商法上ございます。そこでは、雇用関係によって生じた船員等の債権は、その船舶について船舶抵当より優先するような先取特権を認められるという規定があります。これで一定程度は目的財産のずれの問題が解消し得るかもしれません。   つまり、船舶という対象についてこのような取扱いがなされているとすると、例えば集合動産譲渡担保について船舶と同じような形で、対象を特定ないし限定できるかというようなことは残りますけれども、かなりこれは、恐らく従来全く議論をされていないかと思いますので、単なる思い付きというと恐縮ですが、実はおととい教え子のOBと集まりがありまして、海事専門の弁護士の教え子がいまして、その弁護士の方から船舶先取特権というものがあるというお話をもらって、それで少し勉強して、思い付きをここで書いたという次第であります。   以上が労働債権についての話でございます。次が、事業担保制度と労働者、あるいは労働関係に係る論点の方に移らせていただきます。   まず、事業担保制度ということで、事業を目的とする担保ということですけれども、中間試案では、事業のために一体として活用される財産全体という定義になっております。つまり、事業イコール法人ないし、その法人の事業活動全体ということになるかと思います。これは当然のことの確認ですけれども、いわゆる会社法等の事業譲渡における事業とは定義が違っている。つまり、事業譲渡における事業は、競業避止義務うんぬんの点は除きますけれども、一定の事業目的のために組織化された財産という定義だと思いますけれども、そうすると一つの法人でも複数の事業が存在し得るということになります。実際にも、例えば建設業者が介護ビジネスに乗り出して複数の事業部門を持っているということなどが、最近割と目立っているように思われます。現在、会社法の会社分割法制ではなくなりましたけれども、労働契約承継法のルールの下では、なお事業という概念が生きておりまして、それはこちらと同じ、一つの法人に複数の事業部門、事業というものが存在するということかと思います。あとは、労働基準法にも事業という概念がありますが、こちらは強いて言えば事業譲渡に近いですが、もっと細かい感じがありまして、本店とか支店とか工場とか、場所ごとに一つの事業があるというのが原則になります。これは直接今回の話とは関係はございません。   ここでは労働契約の取扱いが、その目的財産との関係で問題になります。つまり、中間試案では一般に契約上の地位が目的財産としての事業に含まれるとされておりまして、注意書きでしょうか、労働契約ないし雇用契約について特別の扱いをするかが問題とされております。   そもそも契約上の地位も含むとして、労働契約上の地位を含むというのはどういうことかということがございまして、債権的な部分だけいうと、言わば労働契約上の使用者の労働者に対する労務給付請求権が基本的な債権ということになるのかなと思います。債務はどうかというと、基本的には債務は含まないというお話になっているかと思いますが、その中の債務といっても、さらに、恐らくここで対象から外れる債務というのは、既発生の賃金支払義務、賃金支払い債務であろうかと思われます。労働契約の場合は継続性があるものですから、労働契約上の地位として、将来賃金を支払うべき地位、差押えなどの場合には、そちらがむしろ対象になるわけですけれども、将来賃金を支払うべき地位というものがありまして、こちらは契約上の地位に含まれる。労働契約関係が移転すると、すなわち事業担保制度における換価により労働契約上の地位が移転すると、将来にわたって賃金を支払うべき地位は移転するということになるのであろうと理解しております。   もう一つ、法的な話にどれだけ関わるか分からないですけれども、この問題については、そもそも従業員というものが企業にとってどういう位置付けであるかという議論が、この審議会以外でも、特に最近なされておりまして、その点について少し触れてみたいと思います。つまり、労働契約上の地位が担保目的として財産になるというのはどういう意味か、労働契約上の労務給付請求権だけ考えればいいのかということでありますけれども、労働契約というのは一般に、使用者の指揮命令に基づいて労務給付義務を労働者が履行して、それが組織的に履行されて企業価値に貢献するということになります。   ただ、労働関係に係る無形の資産としてよく出てくるのが、特許を受ける地位とか、職務著作みたいなものがありますけれども、それらと一般の労働による価値というのは少し違っている感じがありまして、特許を受ける地位にしても、著作権にしても、それ自体が一個の財産権として切り離すことができるということになります。   しかし、一般のそれら以外の労務給付というのは、製品とかサービスになって現れるもので、それ自体が労働契約と結び付いて独自の価値を持つわけではないということになりますので、しかし、そういうものを含めた資産とか貢献というものを考えられているというのが現在の状況だろうと思います。また、その場合も貢献とは一体何かという問題がありまして、一つは、当然のことですが、労働力がなければ事業が存続できないのが普通であるという点での貢献というものが一つあります。もう一つは、恐らくこちらの方が最近言われているのかと思いますけれども、労務の給付によって企業の付加価値が向上するというような意味での貢献が考えられます。   ただ、これは目に見えにくいというものでありまして、本当に労務給付によって企業の付加価値が向上するかというのは、本人のスキルとか意欲の問題もありますし、また、指揮命令権を持つ使用者の育成とか活用にも掛かってくるという特性があるかと思います。その意味で、非常にこの2番目の意味での人的資産の価値というのは目に見えにくいところがあるかと思いますけれども、しかし、最近では人的資産が重視されるということがありまして、むしろこの場の先生方の方が御存じかと思いますけれども、この4月1日から有価証券報告書等への人的資産の状況、特に人材育成の方針等を記載することが義務化されるというような資本市場関係の動向もあるということであります。人材育成の仕組みとか方針とかも有価証券報告書等に記載しなければならないような状況になっております。要するに、先ほどの二つの意味での人的資源、あるいは人的資産の価値というものがいろいろな制度に組み込まれ始めているということであります。   以上が資産価値の話ですけれども、それ以外にも、もちろん生身の人間が労務を給付するわけですので、生命、身体、健康、人格といった要保護利益があって、それを配慮する必要がありますし、また、労働組合法制との関係では交渉力の格差への対応、それから団体交渉等の集団的な労働者の利益の実現にも配慮する必要があるということが労働関係の特殊性として挙げられます。   以上が担保の目的財産としての労働関係の意味ということでございますけれども、次に、やや制度的な話になりまして、(2)の事業担保権の設定の労働契約という項目に移ります。労働契約といいますよりも、より広く労働法上の問題と言った方がよろしいかと思います。   まず問題になりますのは、通常は労働法の場合は労働法上の責任を負うのは使用者であります。この場合に、債権者とか担保権者がそもそも使用者になるのかということがありまして、契約上は通常は、法人格の否認の法理が使われない限りは使用者になることはありません、契約上の雇用主にはならないわけですけれども、労働組合法上の使用者というのは必ずしも雇用主に限らないということがありまして、最高裁の朝日放送事件では、雇用主だけでなくて、基本的な労働条件について部分的に雇用主と同視できる程度に現実的な支配、決定を行う者も使用者になり得るとされています。   これが、現在では親子会社の親会社の使用者性を問題にする際にも使われております。朝日放送事件自体は請負先、言わば発注企業が実際には指揮命令を行っていたという事例でありますけれども、その射程がやや広がっています。ただ、現在の裁判例の動向では、親会社について労組法の使用者性が認められるということはなかなか難しいという状況でありますし、また、労働運動としては、かつてはメインバンク等が使用者であるというような主張もあったのですが、なかなかそちらも、労組法では、広いとはいえ、使用者性が認められるのは難しい状況にあります。ということで、この最高裁の判例の読み方として、いろいろ議論があるのですけれども、恐らくは雇用主と同視できる程度という表現の部分がかなり重要視されているのではないかと考えております。   次が、こちらはむしろ雇用主の団体交渉義務との関係でありまして、担保を設定するということがそもそも労働組合にとって、団体交渉を拒否すると労働委員会等が救済命令、団交命令等を下す、そういう義務的な団交事項に入るのかという、やや別の問題がございます。こちらは雇用主が使用者であるということを前提にしています。   義務的団交事項の定義はほぼ確立しておりまして、使用者の労働条件又は労使関係に関わる事項で、使用者の処分権限に属する事項という定義がとられております。そこで担保設定というのはどうなるかということですが、担保設定自体が団交事項に当たるかどうかということを明示的に争点にした判例は把握しておりませんけれども、なかなかこれもそれ自体として労働条件に関わるといえるかどうかは難しいように思われます。最近の高裁判例では、担保ではないのですけれども、工場の敷地の売却等が義務的団交事項ではないとした裁判例がございます。   そうすると、担保権者が使用者になる、あるいはそうでなくとも担保の問題が団交事項になるということ自体は難しい面があるわけですけれども、しかし、Bの情報提供となると若干、別の考慮が必要になるかと思われます。つまり、事業担保の設定に関して言えば、将来、換価に至れば事業譲渡がなされる可能性がある、それに伴って労働契約上の地位が移転する可能性があるということでありますし、また、そもそも一般の団体交渉でも、例えば賃上げをするときには、平均組合員当たり1人幾ら、それによって原資を幾ら確保する、その原資をどうやって出すかというようなことが実際上の団体交渉では議論されるということがありますので、財務状況それ自体は義務的団交事項ではなくても、情報提供の対象にはなるということで、通常、財務諸表等も出した上で団体交渉を行う、財務諸表そのものかどうかはともかくとして、団体交渉において財務状況は一般に情報提供の対象になるという理解がとられております。そうすると、担保設定等について労働者側への情報提供は、団交の問題とは別に、重要になろうかと思います。   ただ、どのように情報提供するかはまた別の問題でありまして、例えば、個別の労働者全員に詳細な情報を提供するというのはやや煩雑かもしれませんけれども、過半数代表といった労働者集団が情報提供先になるということは、その他の諸制度でもあり得ることでありますし、また、団体交渉といいますと、労働協約を締結してある種の共同決定的なことを行って、合意ができなければ争議行為に至ると、そういうルートで考えるわけですけれども、情報提供ということですので、必ずしもそのような一定程度の合意を目指してやり取り、協議を行うというような必要はないという、情報提供の水準と団体交渉の水準は違うということはあり得るかと思います。もちろん実際に賃上げ問題が発生したり、あるいは事業譲渡が実行されるような段階になった場合は、また別の話でございます。以上がBの問題になります。   Cは、やや担保制度の法的な問題を外れるかもしれませんけれども、事業担保制度におきましては、実行前のモニタリングのようなことも重要であるというようなお話を聞きまして、ある種のメインバンクの活動の延長かなとイメージを持ったところでございますけれども、この制度がうまく活用されるには、実行に至る前の債権者とか担保権者のモニタリングが重要ではないかと思われます。これまでもメインバンク等は経営上のアドバイスはされてきているのではないかと思います。その際は、先ほど述べました人的資産としての労働関係の理解、すなわち人的資産を有効に育成、活用すれば企業価値が向上するというようなことへの理解が重要になるのではないかと思われます。あまり法的な話ではないかもしれませんけれども。   先ほどの話に若干追加いたしますと、労働問題は現在でも企業価値の評価に影響を及ぼしております。M&A等をする際には、労働問題を抱えていないか、例えば巨額のサービス残業債務を抱えていないかとか、それが企業価値の算定に影響を与えるような現実が存在しておりまして、法律事務所の大きなところでは、労働デューディリジェンスといわれる労働問題のチェックの業務を行っていると理解しております。   また、先ほどの話のように、有価証券報告書等に書くということになりますと、コンプライアンス違反がないかどうかをチェックするというマイナス的なことのほかに、どの程度人的資産としての価値があるかという点が企業価値に影響を与えてくる状況になりつつあるのではないかと思います。ただ、先ほど申しましたように、基本的労働条件について雇用主と同視できる程度の支配、決定をするようになると、労組法上、使用者となり得るということですので、その点は留意が必要になります。   以上がモニタリングの話ですけれども、次は実行段階の話で、(3)の管財人による事業担保の実行と労働契約上の地位、これも労働契約上の地位に限らない話を含むことになります。事業担保の場合は、実行開始決定によって管財人が選任されるという方向と理解しておりまして、目的財産について管理処分権限を持つという方向かと理解しております。そうしますと、管理処分権限を持つ限りで使用者に該当し得る、特に労働組合法上の場合は、雇用主でなくても、その権限の範囲内に限り、部分的使用者性といいますけれども、部分的にも使用者性が認められ得るということであります。管財人自体は労組法7条の使用者性を持つということは、日本航空事件の判例を挙げましたけれども、一般に認められております。ここは現在の倒産法制でもそうであろうと思われます。権限の範囲が何かという問題は、また別にありますが。   Aが事業担保で特に出てくることが多い問題かと思います。ここは実は議論の経過も余り詳細を把握しておりませんので、教えていただきたい部分でもあるわけですけれども、管財人が選任されても換価に至るまで時間が掛かるというのは想像できることでして、そうすると、管財人がどのような権限でどのようなことを行うかという問題が出てきます。よく分からないのですけれども、スポンサーを見付けて、そのスポンサーを探すということもあり得るのかなと思います。そうすると、スポンサーを探す交渉の段階で、買い受けるけれども、その前提として、例えば人件費を減らせといったような要求が出てくるという場合があり得るかどうか、あるとしたら、管財人としてはそれに対してどう対応するかという問題が発生し得るように思われます。   つまり、換価前に管財人が、スポンサー候補が出てきたと、スポンサーという言葉は妥当でないかもしれませんので、言わば換価の際の買受人候補者といった方がよろしいかと思いますが、買受人候補者との交渉の過程で、人員削減のために整理解雇をするということが可能か、あるいはその効力がどうなるのかという問題です。一部を整理解雇するということになりますから、一部換価ということになりはしないか。と少し理屈の問題かもしれませんけれども、つまり、業員も目的財産に含まれるとしますと、一部を外して換価することになるわけですね。   問題は、整理解雇を行うことがあるとした場合に、その整理解雇の効力の判断枠組みはどうなるのかということで、レジュメに書きましたように、いわゆる4要件とか4要素という基準が整理解雇の裁判例では確立しております。人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性という4つです。この場合、人員削減の相当性というのは、要するに、買受人の要求に従って換価を実現するために人員を削減するということが人員削減の必要性として認められるかというのは、整理解雇の枠組みの中でもやや新しい問題になるのかなと思ったところでございます。   それから、換価前に、例えば人件費を引き下げるということでしたら、労働条件の不利益変更等が起こることもありますが、これは労働契約法ないし判例で一定のルールが設定されております。   それから、時間の関係でBの事業譲渡による換価の話に移らせていただきます。今の方向性ですと、事業の一部のみの担保権実行はできないのが原則であるということで、これは労働者側にとっては、換価するときに事業を解体して換価すると、これは雇用喪失に直結しますので、事業の一部のみの担保権実行はできないとするとそのような不利益は相対的に小さくなるということで、労働者に有利な面があると思います。理論面では、その場合の換価による財産承継を包括承継とするか特定承継にするかという議論がなされているとお伺いして、特定承継の方が議論としては有力なのかなと想像しておりますが、もし包括承継だとすると、労働契約承継法的な扱いをするかという論点が出てくるかと思いますし、特定承継の場合は、レジュメには書きませんでしたけれども、厚生労働省が事業譲渡に関する指針で、例えば、労働組合と協議すべしといったようなことがありますので、そちらが参考になるかと思います。   時間の関係で、事業譲渡一般の話は余り詳しくしない方がよろしいかと思いますけれども、事業譲渡というのは利害関係が状況によって多様でありまして、そのために一律の承継ルールを作ることが難しい状況にあります。例えば、有望な事業を譲渡する場合には、むしろ労働者としては承継された方が利益であるということで、承継されない不利益、つまり排除の不利益が大きいということになります。これに対して、不採算部門を譲渡するという場合には、譲渡先で雇用危機が発生するおそれがありますので、むしろ承継される不利益は大きいということになります。先ほど申しましたように、事業担保権の実行場面では、承継されない不利益が重要で、承継される場合は、解体されないということを前提にしますと、それほど不利益は大きくないということになります。承継されれば、その事業で就労継続が可能となります。   そうすると、特定承継とした場合に民法625条1項の適用があること、つまり、雇用が承継される場合には労働者の同意が必要となって、不利益なことでしたら、かなり同意の認定を慎重に行うということが、承継される不利益との関係では重要ですけれども、労働者としては、状況によって違いますけれども、承継を希望する場合がむしろ多いのかなと推測します。むしろ、例えば重要なエンジニアが集団的に不同意としたらどうなるのかなど、企業の譲渡される部分の人的な資産価値が下がるのではないかという問題の方が、この人手不足状況下では多いように思います。かといって、本人同意を不要としたところで、そのエンジニアが正規雇用であれば、民法627条により、辞める自由、退職の自由はあるわけですから、どのみち退職をされるということはあり得るので、むしろ同意が得られるような情報提供など重要ではないかなと思っております。   先ほど申しましたように、事業担保の場合、むしろ承継されない不利益の方が大きい、特に、全部が換価の対象となるとしますと、残っているのはもぬけの殻といいますか、何も残らないから倒産しかないのかというようなお話になるわけです。そうすると、承継されない不利益への話になりますけれども、一部労働者が排除されるという場合にどう対応するのかという問題になります。一部の労働者を排除して換価する、事業譲渡するということが、そもそも換価は事業全体が原則であるという関係から、どうなるのか。一部を除外するというのは結局、事業全体を換価することにならないのではないかというような問題が出てきます。ただ、ここは事業譲渡は裁判所の許可に係るようにするということですし、あるいは労働組合の意見を聴くといったような倒産法の規定も作ることも考えられると思いますので、そちらである程度のコントロールは可能かと思います。   しかし、もし一部の換価が可能であるとか、それから、許可はされたけれども、実は労働組合の活動家を排除すると、そういうような目的に基づくものが後から判明したという場合にどうするのかというと、これは現在でも、不当な排除の場合は、排除された労働者は排除が無効であるとして譲渡先に地位確認請求ができるという、勝英自動車学校事件高裁判決がございます。ただ、これは理屈の上では結構難しくて、個別の契約だけを考えると、排除するというのは結局、承継しないという不作為でありまして、譲渡先に雇用上の地位が移転する契約上の根拠が出てこないという問題があります。ただ、この勝英自動車学校事件判決は、従業員全体を承継するという合意、つまり譲渡するという合意があって、その中で特定の労働者を排除するというただし書が付いていて、そのただし書が無効になるために、原則的な全体譲渡の合意によって全員の労働契約が移転すると、そういう理屈を立てております。   ややテクニカルで難しいのですけれども、ロースクールの授業では、たとえばAKB48という従業員集団を原則として全員譲渡するという合意があると考えて、そのうち一部を排除するとしたら、その排除するという例外的な合意の部分が無効になるから、AKB48の全員が譲渡されるというような説明をしており、分かりやすいかなと思っているのですけれども、余り分かりやすくないかもしれません。そこで、もしそういうことでいろいろ問題があるとすると、換価に至る前の整理解雇の問題になるということであります。   時間の関係で、もうかなり時間が限られていますので、事業担保の実行と労働債権の話に移ります。裁判所が関わるということもありますし、対象が事業全体であって、管財人が出てくるということですので、かなり倒産手続との共通性が出てくると思われます。そこで、労働債権の優先問題も倒産時の話とかなり共通してくるかと思いますけれども、換価までは事業活動が継続しますので、賃金債権の原資があるということが前提になると思いますけれども、実行開始後の労働債権は随時弁済になるということかと思います。   問題は、実行開始前に発生した労働債権がどうなるのかということで、これはまだ議論が両論あるということなのでしょうか、中間試案の中で、随時弁済とするのか、換価代金から優先弁済とするのかという点、2通りのお話が書かれているような気がいたしまして、換価代金からの配当的の時に優先弁済をするとした場合には、いろいろ割付の仕方が難しいということが出てくるかと思います。   それから、やや労働法そのものの問題になってしまうかもしれませんけれども、優先弁済をする場合に、例えば、フリーランス等の非労働者はどうなるのかとかいう問題があります。また、何か月分といった量的、時期的範囲については、これは倒産法制でも考えられているので、こちらを事業担保の場面ではどうするのかということがあろうかと思います。先ほどの別除権うんぬんということは、また別の話で、それは手続外とするのか、手続内の配当の問題とするのかということに関わるかと思います。   それから、最後に近くなりますけれども、優先弁済の対象にならない労働債権があって、むしろこれは随時弁済の方かもしれません、一般先取特権ですと全額優先ですので、こちらは別かもしれませんけれども、既発生の労働債権は、これは先ほど申しましたように、そもそも原則として承継されないということになります。逆に、換価した買受人が債務の承継をするかどうかという問題になります。   それから、最後になりますけれども、そもそも事業の全体が担保の目的であることが原則のようですけれども、もし事業の一部を担保目的とし得る、ないし換価し得るとした場合には、最初に申しましたような複数の事業部門のうちの一部門の譲渡ということになりますので、先ほど申し上げたのと同じようなずれの問題が発生することになります。この点は時間ももう、ほぼ少なくなっておりますので、詳しくは省略したいとは思いますけれども、労働債権の相手方は法人でありますけれども、しかし事業部門について、そのうちの一部の事業部門だけ換価するということになるとすると、仮に共益債権的な随時弁済を求め得るとすると、その事業部門の換価代金について共益債権として弁済を求め得るのか、あるいは、ほかの残っている部門との関係ではどうなるのかといったような問題が出てきますし、また、労働債権の割付けのようなことを考える場合、事業部門との関わりというのも様々でありまして、週4日、その事業部門で働いていて、他の事業部門で週1日といったような場合にどうするのかという問題が、これのずれの問題を考える場合には、どうしても出てくることになります。ただ、この点については労働契約承継法で、複数の部門に所属している場合には、主として所属しているのはどの部門かという点について、厚生労働省で解釈指針がありますので、参考になり得るかと思います。   すみません、もう時間も限られておりまして、一応の整理で、しかも私見になっていない部分も多々あると思いますし、また、中間試案等、あるいは皆様方の御議論の誤解もあるかもしれませんので、いろいろ御教示ないし御指導をお願いしたいと思います。それでは、私の説明としては以上とさせていただきます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、山川さんからの御意見につきまして御質問等があれば、お願いいたします。 ○大塚関係官 ありがとうございます。調査員の大塚です。山川先生、たくさんの問題点の指摘、ありがとうございました。その中で、私からは1点、レジュメでいうと1ページ目の、担保目的財産が属する事業と従業員が従事している事業とのずれという問題について、その御趣旨を少し明確にしたいという質問をさせていただきます。   ずれというのは確かに生じるものだと思いますが、民法の一般先取特権では、そういったずれは余り考えていなかったと思います。つまり、全ての労働者が全ての財産について優先権を持っているということであったわけですけれども、山川先生のこの問題点の指摘というのは、その事業に従事している従業員はその事業に属している財産について優先権を持っていて、その他の事業、従事していない事業の財産に対する優先権というのは多少劣るものなのだという示唆を含むものなのでしょうか。つまり、事業ごとに労働債権の優先関係を決めて、例えば、その事業に属する従業員が有しているその事業財産に対する先取特権というのは、例えば動産譲渡担保権にも優先し得るものだけれども、他の事業部門に従事している労働者の先取特権というのはそこまでの優先性を持たせる必要はない、などといった御示唆がそこに含まれているのかどうかという点を御回答いただければ幸いです。 ○山川参考人 ありがとうございます。やや明確でない説明をしたかもしれません。申し訳ありません。もちろん一般先取特権の対象が総財産であるということを前提に、ずれがあると申しましたのは、事業担保等との関係の相対的な優先関係の問題でありまして、例えば、集合動産譲渡担保というのは、もちろん総財産の中の一部に担保権が成立するというものですので、その関係で、恐らくは新たな担保権というのは一般先取特権よりも優先するということですので、そういう相対的な意味での優先ということで、何もないレベルでは総財産ということで、関与する事業との関係で何か取扱いが違うということは想定しておりませんでしたが、そういう御説明でよろしいでしょうか。 ○大塚関係官 私も必ずしも理解し切れていないところはあるのですけれども、ずれが生じることの何が問題なのかというところなのですけれども、要は、政策的な利益衡量の中で、一般先取特権という仕組みだと、当該事業に従事しているかいないかということの判断、考慮ができないというところが問題だということでしょうか。 ○山川参考人 それも含まれるかと思います。具体的にどのようなシチュエーションかといいますと、それ自体を私も余り把握していないかもしれませんけれども、例えば、集合動産譲渡担保で倉庫の中の物件一切ということで、その担保権が実行された場合で、ほかに財産があればいいのですけれども、余り財産がなかった場合で、かつ、その担保権が実行されて、被担保債権がそれだけで全部、弁済が足りなかったらもうどうしようもないということなのですけれども、被担保債権を弁済してなお余剰があるような場合、ごめんなさい、優先債権を立法論としてもし優先するとしたら、余剰がない場合であってもなお、被担保債権の弁済に優先して一般先取特権を行使するような仕組みが考えられるかと、その辺りを議論しているのかなと少し私は想像していたのですけれども、勘違いだったかもしれません。 ○道垣内部会長 ずれという問題もそうですけれども、結局、本部会で議論をしているときに、例えば集合動産譲渡担保とか集合債権譲渡担保とかというものの設定及び実行その他が現在よりも安定してくるというふうにしたら、それが多く使われるようになって、そのことは、ひいては今まで、不安定だったがゆえにというのは変な言い方かもしれませんけれども、労働者の方に回っていっていたお金が回らなくなるのではないか、そうなると、集合動産譲渡担保、集合債権譲渡担保というものをきちんとして安定させるのは、一見よさそうなのだけれども、労働者保護という観点で何か手当てが必要なのではないかという意見などが出ていたわけなのですけれども、そういった考え方について山川さん自体はどのようにお考えになるか、また、例えば、それのための方策、こうやったら調整できるのではないのというふうなことがありましたら、お教えいただければ、先ほどの大塚さんのお話にもつながるのではないかと思うのですけれども。 ○山川参考人 ありがとうございます。正にその点が冒頭で申し上げた点で、要するに、安定的に運用されると担保権がもっと利用されるようになって、それで言わば責任財産が減少するということが問題点として考えられているかと思いますが、もう一方で、融資が得られることによって企業が生き残るというメリットもあるので、双方を考える必要があるのではないかというのが総体的なコメントになります。先ほどのずれの問題は、それに対する対応策として、雇用関係に基づく一般先取特権を事業担保権よりも優先するという提案があったので、それを考えるときにずれが生じて、どういうふうに割り付けるのかということが問題になるのかと思ったという、そういうことであります。 ○道垣内部会長 ありがとうございます、山川さん、もっと大胆に、こうしたらいいのではないのということはありますか。 ○山川参考人 それが難しいということで、極端に大胆なことを言えば、先ほど船舶先取特権の話をしましたけれども、一般先取特権ではない制度にしてしまって、そうすると先取特権の目的は特定されて、集合動産譲渡担保の目的と一致するみたいなことはあるかもしれませんが、それはおととい教え子から聞いた思い付きみたいな話で、余り深くはまだ考えておりません。 ○道垣内部会長 船舶先取特権のときには、その先取特権の目的物と船員の関係というのが非常に強い、当該船舶会社全体の財産というときよりも非常に強いということがあるのだろうと思うのです。ですから、それを普通の、船舶というふうな独立性の強いもの以外でどのような仕組みが考えられるのかというのは、私もよく分かりませんけれども、おっしゃっていることはよく分かる気がいたします。 ○山川参考人 あとは、やはり船員の場合、かなり社会政策的というか独自の考慮があるので、それを一般化できるかということはありますので、その意味でも単なる思い付きということになります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○尾ア幹事 山川先生、ありがとうございます。非常にいろいろな示唆に富む知見を頂きまして、ありがとうございます。   1点、担保設定と情報提供の2ページの2(2)Bのところなのですけれども、将来の事業譲渡の労働契約、労働条件への影響の可能性ということについてなのですけれども、まず、事業譲渡を行われる場合には、基本的に個々の労働者の承諾を得てということかなと思っていたのですが、もしその点がそもそも違って、設定時にもう契約上の地位が担保に入ってしまうのだから個々の労働者の承諾は要らないのだと、そういうことを前提にもしお話をされているのであれば、教えていただければ有り難いと思ったという点と、もし承諾が必要だというと、通常の事業譲渡と同じということかなと思いますので、デフォルトが起きれば通常、何らかの形で事業譲渡の形になるのか、あるいは、もし個別の担保ですと、実行すれば事業が解体されて、労働者は職を失ってしまうという形になる可能性があると思うのですけれども、そうすると、担保の設定の問題なのか、あるいは、多額の借金をすれば、返さなければそういう事態になるので、先生のお考えですと、そもそも多額の借金をしたりとかそういうことを含めて、全部労働者に対して情報提供を行うということが本来望ましいと、そういう趣旨でこういうふうにおっしゃっているのか、その辺のことについてもう少し教えていただければ有り難いと思います。 ○山川参考人 ありがとうございます。まず、事業譲渡の場合に労働契約関係が移転するには、やはり本人の同意が必要だということで、それは前提にしております。ただ、事業担保の実行の段階では、同意をする場合の選択というのがかなり限られてくるとか、あるいはその実行に至る前のレベルでも、例えば労働条件に変更が起きるとか、いろいろな影響が通常の場合より大きいのではないかということと、倒産法制全体の中で事業譲渡については、いろいろな労働組合等への関与が認められているということとか、あと、一般的な情報提供の努力義務が、あれは破産法だったでしょうか、課されているとか、そういうことを考慮して、本人の同意とは別に、情報提供はした方がいいのではないかと、そういう発想でございました。 ○尾ア幹事 設定時の話なのですけれども、設定するときには、もちろんデフォルトが起きなければ事業譲渡は起きないのだと、要するに、デフォルトが起きなければ、そもそも労働者の地位に影響はないし、デフォルトが起きればいずれにしても影響があるわけなのだと思います。あるいは、もしこういう担保がなければ、抵当権であれば、事業は解体してしまうので、もっと悪いことになる可能性が高いわけですけれども、それを踏まえると、御質問の内容というのは、そもそも借金するということ自体が、デフォルト、将来返せなければこういうことになるということになりかねないので、現在、借金をするということ自体、例えば労働組合に通知をすべき事柄だと、そういうお考えの下でおっしゃっているのでしょうか。 ○山川参考人 そうではありません。類型的に、事業譲渡というのはいろいろ、借金よりも、もちろんデフォルトの段階の話ではなく、設定時にいろいろなことが想定される類型ではないかということで、もちろん借金一般に広げるということではございません。 ○尾ア幹事 ありがとうございます。 ○道垣内部会長 このような事業担保の場合には、実行によって全部が移っていくという効果に結び付きやすいという意味で、個別的な債務負担というのとは異なるということなのだろうと思います。   もしよろしければ、もう一方ぐらいは時間があると思いますが、いかがでしょうか。   特によろしゅうございますか。私どもの部会におきましても、労働者、労働債権との関係とか、事業担保における労働問題とかについて、まだまだ議論が不足しておりまして、今後とも山川さんにはいろいろ御教示を頂きたくなることが多いと思います。今後とも、様々に御協力いただければとお願い申し上げます。   本日は大変お忙しい中、当部会の調査審議に御協力いただきまして誠にありがとうございました。 ○山川参考人 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 それでは、次の参考人の方にお願いをしたいと思います。   それでは、国分グループ本社株式会社法務部長の徳永雅憲様、同社法務部法務課主任の松尾聡子様から御意見を頂きたいと思います。   お二方も会場に来ていただいておりまして、よろしくお願いいたします。 ○徳永参考人 よろしくお願いします。改めまして、国分グループ本社の法務部の徳永と申します。よろしくお願いいたします。   まず自己紹介からということで、簡単にお話しさせていただきます。レジュメに書いてあるとおりではございますが、弊社は1712年、創業311年を迎える食品卸売業です。グループの連結売上高は1兆9,300億円となり、取り扱う商品アイテムは約60万アイテムです。仕入れ先様が約1万社、得意先様が3万5,000社と、多くの方々とお取引をさせていただいております。   弊社は上記のとおり、多数のお取引先様との債権債務の管理から端を発して法務部というものが組成されておりますので、与信状況の審査に非常に力を入れているところであります。取引に際しては、債権債務の支払はやはり掛け売りが中心になりますので、取引先の信用調査や保全対応を欠かさずやっております。   以上から、担保制度を利用して債権保全を行う立場であることや、仕入れ先を債務者とする第三債務者の立場から、担保法制には非常に接点が多いと思いますので、そういった実務の観点から、中間試案において当社でコメントできるところ、又はさせていただきたいポイントに絞ってお話しさせていただければと思います。逆を言うと、余り学術的なことは申し上げられないかと思うのですが、是非その点、御容赦いただければと思います。   それでは、第2、中間試案に対するコメントということで、最初は動産担保権の対抗要件のところについてお話をさせていただきます。以降、説明の方は松尾の方にバトンタッチして、適宜、私の方で補足することがあれば、させていただきたいと思いますので、何とぞよろしくお願いいたします。 ○松尾参考人 先ほど御紹介にあずかりました法務部法務課の松尾と申します。本日はよろしくお願いいたします。   それでは早速、中間試案に対するコメントについて、資料に沿ってお話しさせていただければと思います。弊社では、中間試案に関しまして全部で8点、コメント、意見の方を付させていただいております。   まず一つ目、中間試案第4の1のところからお話しさせていただければと思います。一つ目の中間試案第4の1、動産担保権の登記優先ルールについてのお話となっております。こちらに関しまして、現状、占有改定による対抗要件の具備がされていると思いますが、占有改定による引渡しについてはもう一度、どの程度活用されているのか、活用の実態、どの程度各企業が有用なものと思っているのか、確認をする必要があるのではないかと思っております。   次に、登記優先ルールを導入するということに関しまして、登記が実質的に義務化されるということと同義ではないかと考えております。そのため、動産担保権の登記が義務化されたときの影響について、手続的な面や、設定されるということに関するプラスの印象、マイナスの印象などについて幅広くヒアリングを行う必要があります。   先ほど徳永が申しましたように、弊社は与信判断というものも行っている部署になります。その際、会社の実務上、動産登記を設定されているということにつきましては与信に対してプラス評価にはなりません。むしろマイナスの評価を下す要素の一つとなっております。登記により動産担保の設定があることが明らかになることで、与信に懸念があると判断されてしまうことで、かえって資金調達が難しくなる、あるいは取引が難しくなるといったマイナスの影響が広がってしまうということであれば、逆に動産担保権を設定する意味というのも薄れていくのではないかと思っております。   動産譲渡登記の記載の方法、そういった制度的なことも追加でお話をいたしますと、現状、登記の確認ということで、すぐにできる動産譲渡登記というものについては、動産譲渡登記が設定されているか、また誰が設定されているかといったことのみしか簡易迅速に確認できず、利害関係人のみしか詳細を確認できない状態ですので、もし登記優先ルールを導入するのであれば、今後、動産譲渡登記の閲覧の状況については改めて検討する必要もあるのではないかと思います。例えば、倉庫を10個持っている会社があって、そのたった一つに動産の譲渡登記が付いているといった状況でも、今の状態だと動産譲渡ありというような書き方しか入りません。そのため、残りの9個の倉庫については何も担保を取られていない状態ということは登記を見る側には分かりませんので、検討の必要があると考えております。   次のページの方を御覧いただければと思います。今の話の繰り返しにもなるのですけれども、弊社は食品卸ということもありまして、取扱いのアイテムは基本的に食品になっております。また、取引先も食品を取り扱う卸業者であったりとか小売店といったものがほとんどになります。そのため、動産担保として求められるものも食品になりまして、賞味期限や消費期限というものがありますので、弊社の債権保全の実態としては、実は動産担保の利用というのはほとんど行ってはおりません。   繰り返しになりますが、ただ動産担保が設定されているか、いないかということは、与信管理について必須の確認事項となっております。動産担保が設定されているということが与信判断のマイナスになる可能性があるという事情、また今の動産譲渡登記の開示範囲、設定日や担保権者等をどのように今後開示していくのかといったことについて、確認や検討が必要ではないかと考えております。 ○徳永参考人 補足すると、弊社としては動産登記を優先するかしないかということは、正直あまり利用していないので意見が申し上げづらいのですが、もし登記優先ということでやっていくということであれば、逆にそれは登記の内容を広く多くの方にもう少し詳細に情報を知らしめた方が、より周りの人は安心になるだろうというのが主な意見です。この1週間の中でいろいろな人から話を聞いていると、集合動産は今までもやはりなかなか使い勝手が余りよくなかったですし、逆に言うと、個別動産というと動産譲渡登記はよく使われていて、その中でも特に占有改定が使われていると聞いております。これは少し想像の話になるかもしれないですけれども、個別動産については占有改定を必要としている事業者が多いのではないかと思います。逆に言うと、集合動産については必要性は少ないというように感じております。   この点については以上です。 ○松尾参考人 では、引き続きまして中間試案第4の2、留保所有権について述べさせていただければと思います。   むしろ弊社の方では保全としては、留保所有権の方を設定することが圧倒的に多い状況です。食品業界においても、弊社は特に、重要な保全の一つとして運用しております。与信状況にやや懸念がある取引先様でも、売契締結時に留保所有権を占有改定とともに定めておくことで、取引の開始をするという機会も実際、増えております。また、与信状況のよくないような取引先で、実際に倒産等された場合については、留保所有権に基づいて商品の引き上げというのを行っております。   留保所有権の設定について、申し上げましたとおり、売契締結時に占有改定とともに定めておりますので、占有改定による引渡しが引渡しとして認められるのであれば、弊社の都合ということにもなりますが、現在の実務に影響はないと考えております。   一方で、登記を求めるという見解の方も出ていらっしゃったかと思います。こちらにつきまして、現状の留保所有権について、売契で定めることで設定が可能であるという簡便さや、代金の支払によって留保所有権は消えるものですので、動産担保と比較しても短い期間で設定、消滅が繰り返されるという性質上を考えますと、登記は要件とせず、占有改定を含む引渡しのみで留保所有権の設定が可能であるという現行制度のままが望ましいと考えております。   また、補足説明等で留保所有権について、狭義の留保所有権と拡大された留保所有権の記載がございましたけれども、拡大された留保所有権につきましては、狭義の留保所有権との区別を明確にした上で、利用状況のヒアリング等を行った上での検討が必要かと思います。   動産担保の登記の話と、留保所有権についての登記の話に関して、先ほども申し上げましたとおり、設定時期や、設定と消滅のスパンといったものが動産担保の設定と留保所有権の設定で異なりますので、登記が必要かという論点については分けて考えるべきではないかと考えております。動産担保で登記を設定するからといって、留保所有権でも同じように登記を対抗要件として必要とするという見解は、性質上少しそぐわないと考えております。   引き続きまして、弊社の影響について御説明させていただきます。売買債権に基づく狭義の留保所有権は、貸倒れとなる売掛債権を減らすために、倒産時の商品引き上げの法的根拠として弊社は利用しております。そのため、売契のひな形で最初に定めているものになります。運用としては、狭義の留保所有権がある商品について、取引先の倒産時に、弊社が販売した商品を特定し、引き上げを申し入れる。引取り費用については弊社が負担していますので、御社の倉庫まで弊社が取りに行きますというような申入れをいつも行っております。一方で、留保所有権は現在、法律上明記されていないものですので、破産時の代理人や管財人の人によるといった状態が多くて、もめる、若しくは難色を示される場合もあれば、是非引取りに来てほしいと言われることもあります。そのため、担保法制の今回の見直しにより留保所有権について明記されるということは、倒産時の対応ということで混乱を防ぐという意味でも、必要なのではないかと考えております。留保所有権につきましては以上になります。   続きまして、中間試案の第9のところに移らせていただきます。3ページになります。こちらは少し抽象的な話になるのですけれども、担保設定者、また担保権者、それぞれの保護のバランスの話になります。担保実務はお金の調達というものが大事な目的の一つかと思いますので、担保設定することにより資金調達をより行いやすくすることが重要だと考えております。債務者有利の担保制度の場合は、債権者の方が恐らく利用を拒むことが多くなり、結果として債務者側の資金調達の手段の幅を狭めることになってしまうのではないかと思っております。一方で債権者有利の担保制度は、債務者の資金調達の手段となり得ないとも考えております。それで、債務者側の資金調達の有効な手段となるというのは、一方的に債務者側に有利な制度というわけではなくて、双方にとって使い勝手のよい制度であることが必要ではないのかなと思っております。   また、弊社としても卸という立場上、お金を払う立場にもなりますし、お金を受け取る立場にもなります。債権者と債務者、どちらの立場にもなりますので、担保制度の使い勝手がよいことが、弊社にとっても債権保全の手段がより増えますので、そのような使い勝手のよい制度であることが望ましいと考えております。また、債権保全の手段がより多いということは、より柔軟な与信管理につながりますので、柔軟な与信管理の下、より様々な取引先と取引もできると考えております。   引き続きまして、中間試案の第10番に参ります。資料3の真ん中辺りになります。こちらは、優先担保権者の同意なくされた劣後債権者の私的実行の効果について、幾つか案が出ております。中間試案の案10.2.2では、劣後債権者の私的実行の効力というのは認めてしまってもよいのではないかと書いてあるのですけれども、優先担保権付きの所有権といえども、劣後債権者の私的実行に効力が認められることで、実質的に私的実行が早い者勝ちとなるのではないかと懸念をしております。弊社は特に取り扱うのが食品ということが大きな要素でもあるのですけれども、食品など使用期限の短い担保物の回収が遅れると担保価値がゼロになる場合があり、優先担保権が付いていても担保権ゼロであった場合には何の保全にもなりませんので、優先担保権者の保護についての検討というのが、必要ではないかと思っております。   劣後債権者による私的実行の効果を認められてしまうことで、商品価値が劣化して、正味の回収金額が減少するおそれというのも、どうしても懸念になっております。第1順位で担保権を設定したことに意味がなくなるということであれば、担保制度が使いにくいものになりますので、私的実行の効果、特に劣後債権者の私的実行の効果については、御検討いただければと思っております。 ○徳永参考人 補足ですけれども、今お手元に賞味期限が10月のお茶があると思うのですが、3分の1ルールというものがあり、3分の2の賞味期限を残して納入しないと、スーパーは受け取ってくれないというような商慣習があります。大分改善されつつはあるものの、それでも賞味期限の半分を残した商品ではないとだめとなるというと、1か月、2か月すると、この商品は、元々の150円が100円、90円となっていきます。そういったことを少し懸念しております。 ○松尾参考人 引き続きまして、5番目のところ、中間試案第14のところに参りたいと思います。こちらは留保所有権の実行方法についての話になります。実務上、狭義の留保所有権を設定した場合、留保所有権を持つ売主というのは、留保所有権を持つ商品を引き取った後、新たな買主を探して、当該商品を改めて別の買ってくれる方に再販売をする形になります。一方で、売契の条項の記載で設定が可能という留保所有権の簡便さを踏まえますと、引き取った商品を別の買主の方に売るという販売の位置付けというのは、担保権の私的実行というよりは、代金未払の商品に関する売買契約の一部解除の後の再度の商品販売という性質に圧倒的に近いかなと考えております。   卸としての売り先を多数抱える弊社の考え方と言われてしまえばそれまでかもしれないですけれども、引き取った後の商品の第三者への販売につきまして、仮に元の買主への販売価格よりも高い価格での販売であったとしても、それは言ってしまえば、むしろ弊社の営業努力によるものという位置付けになりますので、清算金という考え方には余りなじまないと思っております。   また、留保所有権の実行に際して、法律的に画一的に帰属清算方式若しくは処分清算方式による私的実行又は競売という形で規定をして、通知等の手続を求めるというのは、契約書一つで設定可能な設定の際の簡便さと比較して、処分の際のバランスが少しとれないのではないかと思っております。そのため、留保所有権の設定者が留保所有権を設定した物を取り戻した後の換価処分につきましては、法律上というのは余り意識されていないことも多いかと思うのですけれども、どのような認識で、またどのような形で販売しているのかというのを、実務に即して定めるべきかと思いますし、そのためにも幅広いヒアリングが必要ではないかなと思っております。   留保所有権をよく使いますので、弊社の考え方をもう少し詳しく掘り下げて述べさせていただきます。狭義の留保所有権の根拠として倒産時の商品の引き上げを行った場合、引き上げ後の商品の新たな販売先を弊社の方で探します。そのため、実質的には商品代金を支払ってもらえないことを事由とした個別契約の解除に伴う原状回復に近い形での実行となります。そのため、最初の方に述べたように、引き上げ費用も弊社の方で負担することがほとんどです。引き上げ費用を負担して商品を引き上げて、新たな売り先へ販売を行うという流れについて、私的実行若しくは競売という枠に当てはめてしまうということは、狭義の留保所有権の実務には少し合っていないと思っております。   ただ、留保所有権の実行方法につきまして法律上明記する必要がないかというと、それはそれでまた、現在の管財人や代理人の見解は、考え方によって状況に幅があることが多いので、倒産時の混乱を招かないといったことを踏まえても、明記される必要もあると思っております。   ただ、一方で解除に伴う原状回復になりますと、倒産の後の手続として、否認といった可能性もありますので、最後の段落で一案の方を今回、書かせていただいたのですけれども、実行方法に関しましては帰属清算方式とする、その代わり、狭義の留保所有権が発生してから1年間以内等の短期間につきましては、売主と買主の間で留保所有権が付いたものの評価価格を定めておくことで、上のような原状回復に近い性質で実行というような、現在の流れに近い形の留保所有権の実行手続になるのではないかとも思っております。 ○徳永参考人 その点、少し補足させていただきますと、所有権留保が私たちの業界、若しくは日用雑貨のところでよく使われているかと思うのですけれども、その理由は、売り主が商品の取り扱い方を一番知っているからです。そのため、倒産したときに私たちであれば、売った価格150円で引き取らせていただいて、それを私たちのルートの中でまた同じ価格で販売できます。競売だったら、150円が多分10円とかになってしまうのだと思います。あとは取引先との関係の中で、これをそのまま私たちが150円で返すというようなこともできます。これはほかの日用雑貨のメーカーや、商品を取り扱っている方も同様かと思います。そうすると、翻っては、倒産したとき、少しこの会の趣旨から離れるかもしれないですけれども、倒産したときの債務者の債権は、10円で処分するより150円で処分できた方が配当が高まりますので、そういった効果もあるのではないかと思っています。 ○松尾参考人 引き続きまして、6番目、中間試案の第15のところに参りたいと思います。金銭債権における取立て可能な範囲ですけれども、金銭債権の全額を取立て可能とするのか、取立て権限の範囲内に限られるかどうかといった点につきましては、補足説明等でも指摘されていますように、二重払いの危険性というのが大いにありますので、こちらの方はより検討が必要ではないかと思っております。   一方で、弊社はどちらの立場になることが多いかといいますと、正直なところ、どちらの立場にもなり得る立場になります。金銭債権を取り立てる担保権者としての立場にもなりますし、また、仕入れ先の与信不安等によって第三債務者になることも多くございます。担保権者の立場としては、第三債務者に通知をしまして、弊社の債権分の金銭債権を受け取っております。実際の実務においては、通知をしても第三債務者の理解をなかなか得ることも難しくて、債権回収に時間が掛かることもございます。   中間試案の【案15.2.1.1】につきましては、設定者に到達したときから1週間は取立てができないというようになってしまっているのですけれども、倒産した設定者の詐害行為防止のためにも、猶予期間というのはない制度の方がよいのではないかと思っています。   一方で、申し上げたとおり、弊社が第三債務者になる機会はございます。仕入れ先に対する買掛金の債務が主に対象になります。現在、振込で支払をすることというのが圧倒的に多く、経理の支払の手続上、支払予定日の数日前に支払金額を確定させて、振込をセットする必要がございます。そのため、月末(31日)払いであれば、28日頃には債権を確定して、どこの支払い先に幾ら払うというのを経理の方と確定させて支払うということになります。そういった手続をとっている会社は多いようにも思いますし、そのような運用が行われている都合上、支払い先と支払金額というのは早期に決定されるというのが望ましいかなと思っております。   どちらか一方の立場だけであれば、今回のこの部分のコメントについて、しやすかったかと思うのですけれども、弊社は債権者、第三債務者、どちらの立場にもなり得ますので、金銭債権の取立て可能な範囲については、債権者の立場からは自己の債権の範囲内でのみの取立てとして、また第三債務者の立場としては、供託制度を利用しやすくすることで、債権者と第三債務者、どちらの立場も利用しやすい制度になるのではないかと考えております。   この点に少し関連をするのですけれども、中間試案第17の6のところを続けて説明させていただければと思います。第三債務者の保護に関しまして、第三債務者の保護がもしない場合、第三債務者は取引を行う際、自己の債権者の与信状況についても考慮した上で取引を行わなければいけなくなるかと思います。そのため、第三債務者の権利というのはある程度の保護が必要なものではないかと思っております。ただ、現状、供託という制度がございますので、供託をすることで第三債務者は債務を免れることが可能という効果がございます。そのため、供託事由の拡大であったりとか条件の緩和といった形での第三債務者保護により、第三債務者保護は十分に行えるのではないかとも思っております。   【案17.6.2】のところで、知っていたときは供託して債務を免れることができるものとするとあるのですけれども、こちらも、第三債務者がこれらが発令されたことを知っていたときということにつきまして、債務者にどの程度の調査確認義務を課すべきかというのはある程度の検討が必要かと思っております。余り調査確認義務が重いと、供託制度としても少々利用がしにくいものになるかと思います。また、調査確認義務について、どの程度の行為であれば義務を果たしたかというのは、ある程度具体的に例示される必要があるかと思います。そうでなければ、調査確認義務の程度が分からなくて供託できないといったことにもなりますし、また、供託を受けてもらえないといったおそれもあるかと思います。   弊社の立場について、また少し繰り返しになるのですけれども、少し掘り下げてお話しさせていただきます。得意先に関して与信管理を当然行っているのですけれども、弊社は仕入れ先についても与信管理をある程度、得意先ほど厳重ではございませんけれども、行っております。仕入れ先との関係では、圧倒的に買掛金債務について第三債務者になることが多いので、第三債務者の保護というのは必要になります。第三債務者として、そこの保護が何もない場合には、債権者から何らかの請求が行われるおそれがある取引というのは、そこから仕入れることは難しいというふうになってしまいますので、第三債務者の保護というのは必要ではないかと思いますけれども、供託制度の拡大や、利用しやすさというところで第三債務者の保護を図っていただければよいと思っております。   それでは、最後に8点目の、中間試案の第19のところに参りたいと思います。将来発生する債権の譲渡担保権の倒産手続開始後の効力というところになります。【案19.1.1】につきましては、補足説明等で、無制限とすることで事業の再生の妨げになるという見解はあります。一方で、将来債権に担保設定した担保権者の保護というのを併せて検討される事項ではないかと考えております。将来債権という未確定の債権を対象とするという性質がありますので、倒産手続開始した場合についてもある程度の効力というのを認めなければ、将来債権について担保権設定者が担保価値を見いだすことがそもそもできなくなるのではないかと、そのような場合、将来債権への担保権の設定というものの活用の妨げになるのではないかと思われます。   弊社としても、保全手段の一つとして将来発生債権に債権譲渡担保を設定して債権回収を行った事例は過去にもございます。倒産手続開始後も効力を有するということが、将来発生債権に債権譲渡を設定する理由の大きな一つとなっております。そのため、倒産後の債権に効力が生じない場合、将来発生債権がどのような債権であるのか、ある程度発生する可能性が高い債権であるのか、そういったことについて精査をする、また、誰に対する債権であるか、そういったことをより精査をする必要が発生してしまいますので、そうなってしまいますと、将来発生債権の保全手段としての有効性が薄れてしまうのではないかと考えております。   資料に基づいた説明は以上になります。 ○徳永参考人 随分、弊社の事業に即した話になって、皆様にはなかなか分かりづらいところがあったかと思うのですけれども、弊社の方からはこれで、御意見ということで、終わらせていただきたいと思います。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、徳永さん、松尾さんからの御意見につきまして御質問等があれば、お願いいたします。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。幹事をしております立教大学の藤澤でございます。徳永様、松尾様のお話を伺って、二つ質問をさせていただければと思います。   一つ目が対抗要件についてです。債務者について動産譲渡担保権が設定されていることが与信判断に大きく影響するというお話を伺って、よく分かりました。他方で、現行制度では占有改定による動産譲渡担保の対抗要件具備が可能だと思いますので、債務者の方でうそをついてしまうというか、設定していませんよ、みたいなことを言っていたのに、後から実は設定していたことが判明するとか、「見えない担保」から生じるトラブルはないでしょうか。   次に、二つ目は実行についてです。所有権留保の実行の際の清算義務が少し手続として重すぎるのではないかというお話を伺いました。他方で、所有権留保が使われる局面には、例えば建設機械の割賦販売などのように、とても価値の大きい動産の場合もあると思います。そういう場合には、割賦金が払われていく中で、例えば残債務は100万円ぐらいなのだけれども機械は500万円の価値があって、やはり清算義務を課さないと債務者にとって酷になるとか、少し不公平であるといったような場面が考えられると思うのですけれども、国分グループさんのお取引の中で、このように残債務額と留保所有権の目的物の価格とが大きく解離するというような場面は余り考えられないのでしょうか。   以上です。よろしくお願いいたします。 ○徳永参考人 私の分かる範囲でお答えさせていただきますと、占有改定による見えないトラブルというのは、途中で私も松尾も申したかと思うのですけれども、この食品業界の中で動産譲渡というと細かいものが対象になってきますので、正直、トラブルにはならないというか、あったらしようがないかというくらいのスタンスでいますし、食品を動産譲渡に取って取引をするということが余り考えにくいかとは思っております。   あと、所有権の実行について、割賦販売の場合、高額商品の場合、解離するというお話が今ありましたけれども、逆に言うと、私たちは先ほども言いましたように、賞味期限が短い中でやっていますので、余りそういったことは思考に入ってこないといいますか、先ほど松尾の方から一案ということで4ページのところで、実行方法を帰属清算方式として、その代わり狭義の所有権留保に関して発生してから1年以内の短期間においては当事者で物の価格を決めてはどうかと言ったのは、私たちのような賞味期限が短いようなものについては少し配慮していただきたいというようなことを込めて提案をさせていただきました。   そのため、おっしゃるとおり自動車や大きい機械というものについては、長いような商品価値のものですので、そういったものは、稚拙な提案ですけれども、こういった御提案で場合分けできるのかと思っております。お答えになっていますでしょうか。 ○藤澤幹事 ありがとうございました。よく分かりました。 ○道垣内部会長 ペットボトルのお茶なのですが、1万本売却するといったときに、国分グループでは普通、1回払いなのですか。 ○徳永参考人 通常の取引においてですか、そうですね。 ○道垣内部会長 与信は3か月なら3か月与えるけれども、1回払いであると。 ○徳永参考人 そうですね、締め制度というと分かりやすいのですけれども、毎月1日から月末で締めて、それで締めてから1か月後に回収とか、2か月後に回収といった約束をします。1か月間に1,000万円売っていいよといったら、その1,000万円分の商品を販売するということになります。 ○道垣内部会長 分かりました、どうも。 ○沖野委員 ありがとうございます。委員を務めております東京大学の沖野でございます。実務の観点から非常に現実的なお話を頂きまして、ありがとうございました。それで、私から少し項目があるのですけれども、教えていただきたいと思うことがございます。1点目は、藤澤幹事からも御指摘のあった、対抗要件関係で登記をどう評価するかという点なのですけれども、これに関連しまして2点ございます。   一つ目は、登記をしているということが次の与信に対してマイナス評価になる可能性があるということの理由なのですけれども、これは登記によって、こういう動産まで担保に入れてお金を借りているということが当該企業の財政状態に不安を引き起こすという、かつて債権についていわれた風評被害といえるようなところがあるためにこうなるのかという、マイナスを生み出す事由といいますか、それについて教えていただければというのが1点目です。   2点目は、仮に登記を入れるとすると、現在では誰もが見られる情報が非常に限定的であって、情報の公開の仕方について検討すべきではないかという御指摘につきまして、与信をしようかというときには、現在の立て付けは誰もがフルの情報を見られるということではなくて、一応、登記があるというようなことのアラートはした上で、フルに見ようと思えば、特に設定者、債務者と取引をしようと思うときは、その債務者、設定者から証明書を出してもらう、債務者、設定者は一番の利害関係人ですから、もちろん取れるわけで、そうするとうそもつけないと、ないというのであればないことの証明も出るという立て付けなのだと思います。それでバランスをとっているのだと思うのですけれども、そういう情報の取得の仕方ではなかなかうまく行かないという事情があるのでしょうか、というのが対抗要件関係での1点目になります。登記関係です。   一通りだけ申し上げてよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 ここで、まず第1点目の話をしましょう。その後、続けてお願いします。 ○徳永参考人 一つずつお答えさせていただきます。   まず、登記のマイナスの理由というのは、制度が始まって大分時間が経っているので、私たちも当初のものほどマイナスには見ないようになっています。一番マイナスに感じてしまうのは、金融機関であれば融資だというのは分かります。そうではない、例えば我々の同業他社が動産譲渡登記を付けているというと、先ほども申しましたように、担保価値としてなかなか見るのが難しい食品を担保に取っているのだというようなことがあったり、そういった登記をしている人という観点で見ていることはあります。   あと、登記の情報が今限定的で、その内容は相手方から頂けるのではないかという話ですが、正直、取引関係で行くと、売手の方から買手の方に対してその証明書を見せてと言ったら、正直なところ、信用が置けないからなのかという議論になってしまいますので、非常にそれは難しいです。私はこの実務を20年やっていますけれども、相手方のお取引先様から登記の内容を見せてもらったことは一度もないです。一方、中身を見せてもらえれば、この倉庫に誰が付けているのだと、幾らの債権を保全しているのだということが分かれば、私たちも安心する材料にはなるのかなと思っていますので、今回、登記を広げるのであれば、もう少し詳細な情報を頂けると有り難いなということで、意見を述べさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。沖野さん、続けてお願いいたします。 ○沖野委員 ありがとうございました。   留保所有権についての、占有改定で引渡しというのを維持するのが望ましいという御指摘についてです。それで、現在の実務を確認させていただきたいのですが、現在は留保所有権については引渡しで対抗要件を備えているという理解で、その引渡しというのは、現物自体は売主から買主に物が移動すると思いますので、買主に移動したその段階で、買主が以後は売主のために占有しますというようなことをあらかじめ合意しておくということで、全部もう引渡しを備えるというのが実務という理解でよろしいでしょうか。これは現在の確認なのですが、現在、実務的には占有改定で引渡しを備えているという御趣旨かと思ったのですが、こういう形だということでよろしいでしょうか。 ○徳永参考人 そのとおりです。売買契約書に所有権留保を付けるけれども、占有改定によって引渡しを受けているというのを明記しております。 ○沖野委員 ありがとうございます。   あと二つなのですけれども、一つは、これは先ほどの部会長とのやり取りで分かったように思うのですが、念のため確認させていただきたいという点が、実行のときの構成を、現在はむしろ契約を解除して、後はもう再売買であると、それに近いやり方をするなら帰属清算にした上で売買価格に当たるようなものをあらかじめ代金価格であると決めておくということで、藤澤幹事からも御指摘があり、部会長も確認されたのは、全額1回払いのみであれば余り出てこないのですけれども、ある程度の割賦になっていたり2回払いとかになっていると、既払い金が出ますので、その清算の話が出てきそうに思われます。より高い価格で再販売ができたときには、それは企業努力なのだから、取ればいいということなのですけれども、安かったらどうなのだろうかということがあって、それももうリスクを取っているということで行くのだろうかということが少し気になりまして、一つは、既払金清算部分があるのだろうかということでしたが、これは多分そういう仕組みにはなっていないということかと思います。それから、安くなったときも、それはもうしようがないということなのか、何らかの、それは損害賠償で行くということなのかというのが、もしよろしければ教えていただければという点でございます。 ○松尾参考人 先ほど徳永も申しておりましたとおり、基本的に弊社は締め日払いになりますので、既払いというのがほとんど発生はしない状況になっております。なので、売ったものについて一括で支払の時期にお支払をしていただく、その時点で留保所有権が当然、売掛債権、お支払いいただいておりますので、そこの時点で消滅する形になります。 ○徳永参考人 あと、評価が低いというのはしようがないと思っております。むしろお取引が長い取引先とは、本来であればそこにあるお茶は再販、私たちの販路を使っても150円がせいぜい90円で売れればいいかなと思っていますけれども、それはあえて、向こうも渡していただきやすいように、150円で返していただけますかというようなお話は常に付きまとっております。 ○沖野委員 ありがとうございます。   最後の点です。債権の関係で、第三債務者の供託についてなのですけれども、この供託のイメージを教えていただければと思っておりまして、第三債務者としては、担保が付いているのかとか、譲渡されているのかという確認と、それから、債権者としては自分の債権額しか取立てができないということになりますと、債務者の方からすれば、その債権額に間違いがないのかということも確認しなければならず、それが少し間違うと、また二重払いの可能性というのが出てくる、その点も供託によって免れようと考えるならば、もう全額供託して、あとはそちらでやってくださいということになります。それに対して、残りの部分は供託すればいいのだということも考えられるわけですけれども、供託によって第三債務者の負担を減らすということは、第三債務者としてはとにかく自分の債務全額を供託して、それで免れるということを構想されているというのでよろしいかという点です。それから、供託もそれなりに手間だと言われたりはするのですけれども、そこは十分取引的にとれるコストであると理解してよろしいでしょうか。 ○松尾参考人 供託に関しましては、第三債務者の立場としては全額供託というのが望ましいかと思っております。実際、弊社の事例として、債権譲渡の通知が飛んできたときで、その債権譲渡通知が有効だったとき、当然、債権譲渡通知が飛んでくるということは、その仕入れ先がほかにも不払が発生していたりということがございますので、後ほど債権譲渡よりも基本的に優先度が高いといわれている、いわゆる国税からの支払の請求であったりとかいうものが来るリスクといったものもございます。そのため、事例としまして、債権譲渡が来た後に、支払の期日ぎりぎりまで国税や年金といったものの支払請求の書類が弊社に来ないかぎりぎりのタイミングまで待った後、経理の方に支払の指示を出すといったことを運用した事例も過去にございます。そういった手間もろもろを考えますと、供託を行う際には全額をお支払いすることで第三債務者としての債務を完了させるといったことが望ましいと思っております。 ○徳永参考人 では、何で全額というような書き方を私たちがしていないかといいますと、私たちは債権譲渡に限っては、債権譲渡を使ってお取引をしたり、債権回収をしたりということも非常に経験として多いです。そうした場合に、誰かが先に全部持って行ってしまうと、持って行った譲受人がなかなか手ごわい相手だと、またこれも回収が難しくなるというようなことも思って、全額供託できるというと少しバランスを欠いてしまうかなと思っております。お答えになっていますでしょうか。大丈夫でしょうか。 ○沖野委員 ありがとうございます。ですので、供託自体はそれほど負担ではないという御回答も含んでいるものかと思いました。 ○徳永参考人 そうですね、はい。 ○沖野委員 ありがとうございます。 ○阿部幹事 ありがとうございます。幹事を務めております東京大学の阿部と申します。今の沖野委員とのやり取りに関して、幾つか補足的な質問をしたいと思うのですけれども、やはり少し項目が飛びますので、一つ一つ伺いたいと思います。 ○道垣内部会長 申し訳ないのですが、問題点を絞って、なるべく短時間でお願いいたします。 ○阿部幹事 すみません。登記に関して今第三者が得られる情報が限られているというのは、譲渡人つまり設定者の営業秘密に触れてしまうからだということだと思うのですけれども、仮にもっと情報を拡充して知らせるようにするとすると、設定者の営業秘密を守るという観点でのバランスをどういうふうにとるかということについて、もしお考えがあればお聞かせいただきたいというのが一つです。   もう一つ、簡単に聞いてもいいですか。違う点なのですけれども、もう一つは、債権譲渡担保に関する第三債務者保護の点なのですけれども、基本的な発想として、被担保債権額の限定がない方が第三債務者としても分かりやすい、要するに、何かよく分からなければ担保権者に払えばいいということになりますし、担保権者としてもその方がやりやすいのかなというふうに思っていたのですけれども、そうではなくて、被担保債権額の限定をした上で供託というのが望ましいとお考えになるのはどうしてなのかというのがよく分からなかったので、そこを御説明いただければ有り難いと思います。 ○徳永参考人 まず、動産譲渡登記の開示の範囲がどこまでかというと、正直どうしたらいいというのは持ち合わせていないのですけれども、集合動産であれば、何をどこの対象として設定しているのかというのは、こちら側の今の想定としては、開示していただきたいと。それを理解して、逆に、登記の契約をしていただくという前提を作った方がいいのではないかとは思っております。   二つ目の、第三債務者が全額払わないでいい理由というのは、先ほど説明がうまくできていなかったと思うのですけれども、私たちが債権譲渡登記をして譲受人の場合を想定していまして、私たちより先んじて譲り受けてお金を1億円回収した、だけれども実際の債権はその人は1,000万円だったとすると、その人は1,000万円だけ回収すればいいかと思うのですけれども、1億円を全部回収してしまった人が我々にとってお付き合いしにくい業界の人とかであると、そもそも債権譲渡を契約しようという私たちの思考回路がなかなか向きづらくなるかなというのが理由です。なので、そういう制度になれば割り切ってそういうふうに使わざるを得ないかなと思っていますけれども、今も実務としては自分の債権額を回収するというようになっているかと思いますので、その現行のやり方で十分ではないかと思って意見をさせていただいた次第です。意味は通じていますでしょうか。 ○阿部幹事 はい、分かりました。先ほど供託の額を全額にするかどうかという話でしたけれども、供託の額に限らず、債権者に全額払うかどうかというところでも同じようなことを考えていらっしゃるということですね。分かりました。 ○阪口幹事 阪口です。5ページに、仕入れ先についても与信管理を行っているということが書かれているので、確認させてください。仮に仕入れ先に動産譲渡登記が入っているということが分かったら、もう買わないのか、それとも、通常の事業の範囲内だったらいいだろうという判断基準で買うのか、仕入れ先について与信管理を行っているという、この辺りの実情について少しお教えいただけますでしょうか。 ○徳永参考人 仕入れ先にこういった登記が付いているときに、すぐ取引をやめるかというと、それはほとんどありません。私たちは得意先にこの商品をお届けすると約束をしていますので、あと、債権リスクはほとんどありませんので、それを見たからといってすぐに取引を停止するということはありませんが、仕入れ部門の社員に対しては、こういった登記が付いていて少し心配だから、このお茶をほかのメーカーのお茶に変えるようになるべく早く動いてくれというような会話をよくさせていただきます。   以上ですが、よろしいでしょうか。 ○阪口幹事 ありがとうございます。要するに、すぐにやめるわけではないけれども、やめる可能性が増えるというくらいのニュアンスでしょうか。 ○徳永参考人 はい。逆に倒産をしてしまってお茶が供給できなくなるということもいけませんので、絶えず私たちは同等の商品を供給し続けるという義務がありますので、その点を鑑みて判断しております。 ○阪口幹事 了解しました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 大変興味深いお話を頂いた後、大変興味深い議論が続いているのですけれども、時間の関係がございますので、徳永さん、松尾さんからの御意見を伺うというセッションはこれで終了させていただければと思います。   お二人におかれましては大変お忙しい中、当部会の調査審議に御協力いただきまして誠にありがとうございました。また今後も様々に実務的な面を中心にして御意見を伺ったり、御教示を頂いたりすることがあろうかと存じますが、よろしくお願いいたします。 ○徳永参考人 ありがとうございます。稚拙なお話ですみませんでした。 ○道垣内部会長 それでは、開始から長時間が経過しておりますので、ここで休憩を取らせていただければと思います。3時50分まで休憩といたします。堀内さん、粟田口さんには予定より少し遅くなってしまうかもしれませんが、お許しいただければと思います。では、3時50分に再開ということにさせていただきます。           (休     憩) ○道垣内部会長 それでは、15時50分になりましたので、会議を再開いたします。   株式会社ゴードン・ブラザーズ・ジャパン代表取締役社長の堀内秀晃さんから御意見を頂きたいと思います。   堀内さんは会場にお見えいただいております。堀内さん、よろしくお願いいたします。 ○堀内参考人 ありがとうございます。ただいま御紹介にあずかりましたゴードン・ブラザーズ・ジャパンの堀内と申します。本日はこのような名誉ある機会を頂きまして本当にありがとうございます。本日はというのは3月14日で、ちまたではホワイトデーなのですが、実は個人的には私、第58回の誕生日でございまして、誕生日にこのようなプレゼントを頂いたのは初めてで、大変有り難く思っている次第です。このプレゼントに即座に返すということで、プレゼンを返そうかなということで、プレゼントに対してプレゼンでお返しすることにさせていただきます。   ファースト・プライミング・リーエンというのは、お聞き及びの方も多いかなと思いますけれども、これはアメリカの制度で、私がアメリカにいたときに、これはなかなかいい制度だなと、いいというのは、DIPレンダーにとってというのもあるのですけれども、債務者や既存の担保権者にとってもいい制度だなと思って、是非日本に入れたいなと思って、個人的にはライフワークに考えているところです。誕生日にこれをプレゼンさせていただけるというのは非常に有り難いと思っている次第でございます。   それでは、2枚目に行きます。普通の人は、目次は余り説明しないのですが、本日のプレゼンの構成について簡単に説明しますと、まず、ファースト・プライミング・リーエンはアメリカから来ておりますので、アメリカのことについて1番と2番で簡単に御説明しまして、それを踏まえての3、4、5、6は全部日本の話と思っていただければと思います。特に4番、ファースト・プライミング・リーエンに対する懸念、これはアメリカでは懸念ではないので、日本でいわれている懸念ということで御理解いただければと思います。   あと、チャプター11はよく出てくるので、皆さん御存じかと思いますけれども、実は別にアメリカの倒産法はチャプター11だけではなくて、1、3、5、7、9、11、13、15という奇数から成り立っているという形になっています。後から12章が付け加えられたので、12章はあるのですけれども、それ以外は奇数から成り立っていまして、これは、時代とともにいろいろ変更して追加しないといけない可能性もあるからという、非常に謙虚な姿勢で作られているような感じでございまして、1、3、5が総則というか全般に関することで、7が清算、9が地公体の再生、11が企業再生、13が個人再生、15が皆さん御存じの国際倒産という形になっているということで、1条からあるわけではなくて、最初の章の番号プラス1条みたいな、だから101条から始まって、チャプター11の条項の番号というのも1101から始まるような、そのようなイメージです。したがって、二百何条とか四百何条という条項はないということになります。これだけ知っているわけでも少し通っぽく聞こえるかなと思いますので、是非覚えていただければと思います。   それでは、チャプター11とDIPファイナンスについて御説明申し上げますので、4ページをお願いします。大体、DIPファイナンスとかスーパー・プライオリティーやファースト・プライミング・リーエンについての説明だと、このパターンで進めていくのですが、これはなぜかというと、文字になっているから説明しやすい、分かりやすいということですね。   ここにありますように、364条に新規与信の獲得というのがあります。ちなみに一つ前の363条というのは非常に有名で、これは計画外事業譲渡ですね、363セールとかいわれていますけれども、計画外の事業譲渡で、GMのときとかに出てきて日本でも非常に有名になった条文で、その次の条文が新規与信の獲得ということです。ここのポイントは融資ではなくて与信ですので、融資以外のものも広く含めているということで御理解いただければと思います。   項としましては(a)、(b)、(c)、(d)まであります。(a)というのは読んで字のごとくで、これは普通に倒産した先が仕入れをするようなとき、特に掛けで仕入れてくるときのことですね。この条文のポイントというのは、通知と審尋を必要としないというところです。これは当たり前ですよね。倒産した企業が、いちいち、掛けで仕入れていいですかと裁判所に行ったら、裁判所はパンクしてしまいますので、これは通知と審尋は要らなくて、掛けで仕入れることも可能ですということです。   (b)項は、通常の営業以外ですね、何か少し大きな、例えばリースとかで、賃貸借とかで、それで債務を負ってもいいでしょうかみたいな話です。それは営業外だから、通知と審尋で、一応裁判所が関係者の意見を聞いてくださいねということですね。   (c)項は、割と有名なのですけれども、これは担保権の方ではなくて、債権として一番上に来るスーパー・プライオリティー・クレームという、日本語は超優先債権と訳されることが多いですが、定義としてはほかの共益債権より優先しますということです。つまり、共益債権の一種なのですが、ほかの共益債権に優先するということで、これも通知と審尋は必要です。これともう一つ、次のページに行きまして5ページですね、この(d)項がファースト・プライミング・リーエンです。   ファースト・プライミング・リーエンの(d)項で大事なポイントは、通知と審尋を得るということが1点と、適切な保護を与えるときに限りというのが2点、そして既存の担保権に優先するという、この3点となります。その理由については後で説明しますが、この三つが重要だということになります。   連邦倒産法第364条(d)項、(c)も(d)もそうなのですけれども、これらを導入するときにアメリカの法制審議会みたいなところでどんな議論があったのかなと思って、現地の倒産法の弁護士に確認してみました。賛成対反対でどれぐらいの比率だったかとか、いろいろ聞いてみたのですけれども、議論は特になかったとのことでした。日本だといろいろなことを述べて、割と反対するような意見というか、議論をされる方もおられるのに、何の議論もなかったというのは非常に驚きました。法律を新たに作るときに、既にそういうものだと思っていること、判例とかが出ているものを文字化するというのが結構あると思うのですけれども、それに相当していたのですね。つまり、判例法のアメリカでは既にスーパー・プライオリティーやファースト・プライミング・リーエンが法文化される前に実務上定着していたということです。裁判所の判断で、これはスーパー・プライオリティーやファースト・プライミング・リーエンが要るだろうと思ったときは、判例で認可をいっぱいされていたので、だから、こういうのを導入しても誰も文句を言わなかったという話を聞いたときに非常に驚きつつ、アメリカはそういうものなのかと思いました。   日本の倒産法制において、何の条文等の根拠もないのに、DIPファイナンスで、今回はファースト・プライミング・リーンやスーパー・プライオリティーが必要なので適用しましょうというふうになるかと言われると、少し疑問には思いますので、日本で導入するのであれば、やはり成文で入れる方がきれいなのではないかなと思って、私は制度として明確に入れるようにしたらどうでしょうかというのを言い続けているということです。アメリカと日本とではここは少し違うかなと思います。   では、DIPファイナンスの特徴についてですが、6ページに参ります。これも大体皆様御存じかと思いますけれども、1点は、チャプター11というのは企業の再建型の倒産というのですけれども、かつ、新聞とかもそうなのですが、「日本の民事再生に相当します」というような説明をしているところがあるのですが、アメリかでは企業規模的にはかなり大きな会社を対象にしています。売上高でいうと30億、50億円以上という感じではないかなと思います。それより小さいものには、そこに書いてありますように、サブチャプターXという簡易版ですね、簡易再生みたいな感じの制度が導入されていまして、確か総負債は今は7.5百万ドルですので、10億円ぐらいですかね、これ以下のものに適用されることになります。この制度は、コロナ用ではなく、単なる中小企業向けの制度であったのですけれども、コロナで傷んだ中小企業にたくさん適用されて、非常に効果を上げていると聞いています。したがって、普通のチャプター11は相当な大企業が対象で、かつ担保権が拘束されるという点では、どちらかというと会社更生法に近いのかなと思います。一般的にDIP型であるというところをとって日本で民事再生に相当すると訳されていますが、担保権の観点からは会社更生に近く、そういう意味で、日本の制度でいうとDIP型会社更生に割と近いのかなと思います。   対象企業の規模が大きいということもありまして、DIPファイナンスが付いていることが多いというふうに御理解いただいていいと思います。むしろDIPファイナンスがなければ、なしでもできるぐらい資金繰りに余裕のある形で倒産をしたのだなというぐらいで、普通はDIPファイナンスが付くと思います。加えて、ファースト・プライミング・リーエンとかスーパー・プライオリティーが付くケースが多いというか、ほとんどだということです。   したがって、チャプター11の際に通常はDIPファイナンスを利用することで運転資金が確保されるということです。何か大掛かりなM&Aをやる資金とかそういうのではなくて、普通にここから先、会社を運営していくための資金がこれで調達されているのだということで、必要でもあるし、あっても全然不自然ではない融資ということです。あとは、運転していくための資金だから、企業規模対比それほど巨額ではないということですね。これは日本でもそうだと思いますが、日本でDIPファイナンスの契約が超大型になるというのはかなり限られたケースだと思いますので、ここは日本と同様に、そういうふうに御理解いただければと思います。   DIPファイナンスについては、チャプター11を申請したその日に出るファースト・デイ・オーダーに入ることが多いです。ただ、初日に全額認可になるとは限らず、インテリムDIPオーダーといいまして、例えば債務者が100貸してください、100のDIPファイナンスが欲しいですと裁判所に言いに行っても、目先2週間は25ぐらいでいいだろうと裁判所が判断したら、25だけ認可になることになります。その後、本当に100必要かどうか等いろいろなことを検討して、それこそほかの既存担保権者等の意見も聴いて、2週間ぐらいしてから最終的に金額などが決まることになります。1日目に何らかの金額を出しておかないと1日目に資金不足になると困るので、取りあえず言ってきた金額の一部はすぐ出しますというのがインテリムDIPオーダーで、これが大体ファースト・デイ・オーダーになります。ファースト・デイ・オーダーはこれ以外にも、キャッシュ・コラテラル・オーダー、要は現預金を相殺しないで使わせてあげてくださいということです。そうでないとすぐお金がなくなってしまうので、そのようなオーダーが出て、1日目に資金不足にならないように手当てがされるということです。   その次のページに参りまして、あとは、先ほど言いましたように、DIPファイナンスに関して裁判所による既存債権者、既存担保権者を含めたヒアリングがありますので、そこで既存担保権者が、そのような担保権が上に来られたら困るというのだったら、そのときに言えばいいと思いますが、余り言わないのは、問題があるなら自分でやったらどうですかと多分言われるように思います。合理的な反対、例えば、それほどの金額は要らないときに大きな金額のDIPファイナンスを導入すると言ってきたら、そういうのは少しどうかというのはあるかもしれませんが、そもそも論としてという、DIPファイナンスに反対するというのは、余りないように思います。本当に反対したとしたら多分、裁判所も、それが合理的な反対であれば、条件を変えるか、少なくともDIPファイナンスなしという判断もあり得るかと思われます。   もう一つ、DIPファイナンスには大きく分けて、攻撃型DIPファイナンスと防御型DIPファイナンスというのがあります。攻撃型というのは、何か苛烈な取立てをするとかそういう意味ではなくて、ただ単に既存の債権を持っていない人がDIPファイナンスを実行するときにオフェンシブと呼び、これを和訳したものです。ディフェンシブというのは何かを守るという意味では、守るべき対象の既存の債権を持っている既存担保権者がDIPファイナンスをやるときにこれを防御型と和訳しています。実際どちらが多いかというと、防御型が非常に多いということです。これはなぜかというと、既存担保権者であれば、DIPファイナンスを検討するに際して、分析に必要な資料等を既に持っているので分析がやりやすいからです。オフェンシブの人は守秘義務契約を締結して資料をもらうところから始めないといけないですけれども、既存担保権者ですとその手間が掛からないということと、DIPファイナンスも最初やり出したときは日本と同じように、少し倒産先に対する危ないファイナンスのイメージがあったのですが、歴史を経たことによって、これはほとんど引っ掛からないにもかかわらず相応の金利も取れるし、いいファイナンスだというのが周知されるようになって、既存の融資でロスした分を一部ではありますがここで取り返せるチャンスがある、つまり、元本を損した分をDIPファイナンスの金利とか手数料で一部取り返せるチャンスがあると理解するレンダーが多いということです。   危ないファイナンスであると、二次ロスというか、最初の融資で損失して、またDIPファイナンスをやって損失を被ったとしたら、サラリーマンとしては大変なことになりますので、やりづらいところではあるのですが、1回目はロスしたけれども2回目は取り返せるチャンスがあると考えれば、もっとやるという考え方はあるかと思います。なぜ安全かというと、ファースト・プライミング・リーエンとスーパー・プライオリティー・クレームがあるからということです。   ただ、私が今回申し上げたいのは、制度によるお話と実務によるお話、このコンビネーションが金融では非常に大事だということです。制度だけでも駄目だし、制度の裏打ちのない実務だけだと、それはそれで少し不安だということで、制度があって、それを利用する実務家が、それを悪用もせず、ある意味、取扱説明書にある使い方をして、きちんと効果を出すと、この二つがコンバインするということが非常に大事で、倒産企業への新規融資と聞かれると、そこだけだと危ないのですが、法的安全性、これを制度の方で補完して、あと実務的安全性というのをストラクチャリングで補完することの二重のコンビネーションによって、安全なファイナンスを構築するという形になります。   その具体的な話がこの8ページ目になるのですが、法的安全性は、先ほど言いましたように、アメリカの場合、364条の(c)と(d)で、ファースト・プライミング・リーエンとスーパー・プライオリティー・クレーム、この二つがコンビネーションになっているのですが、それだけではなくて、実務的安全性にABLの特徴であるボローイング・ベースというのを入れております。DIPファイナンスの融資残高が常に担保資産の価値の総和よりも少なく維持されると。つまり、このボローイング・ベースを入れるという形をとることによって、理論上は担保価値でフルカバーになっているので、日本でいう牽連破産、つまりチャプター11の中での清算型再生計画、若しくは、一番極端な例でいうとチャプター7、破産に移行するといったケースでも、理論的にはフルカバーであるということになります。法的安全性と実務的なストラクチャリングによる安全性の二つがあいまって、非常に安全なファイナンスになっているというのが実情でございます。   では、その次のページで、既存融資の担保とファースト・プライミング・リーエンの関係について御説明申し上げます。10ページに参りまして、364条(d)項の中で大事なことの2番目で、既存担保権者に適切な保護を与えるときに限り、ファースト・プライミング・リーエンを認めますとなっております。これがなかなか難しい概念で、アデクエート・プロテクションをそのまま訳して適切な保護としています。チャプター11下では自動的停止、つまり担保権を行使できない状態に担保権者として置かれてしまうわけですが、そういう状態のときに、ぼうっと見ていて、もしかして担保価値が減っていったらどうしてくれるのですかと、例えば在庫担保の場合、在庫に対する担保権は行使できないから黙って見ておいてくださいと言われている間に在庫の量が減っていった場合です。担保価値が減っていくにも関わらず、そういうことに対して無策というのはかわいそうでしょうというので、担保権者に何らかの防御を与えてあげましょうというのがこの適切な保護という概念です。具体的には三つ書いてあるのですが、これに限られるものではないとも書いてあります。   最初の、定期的な若しくは1回の現金による弁済とは、具体的には、既存の融資が仮にフルカバーだと裁判所に認められたら、利払いが認められるケースです。倒産の中で普通に毎月金利が払われるということです。民事再生のケースだと別除権協定を結んで利払いを行うということはあり得るのですけれども、会社更生ではなかなかないように思います。いわゆる経過利息を債権として膨らませることはできるのですけれども、実際に現金払いされるというのは余りないと思いますけれども、アメリカではこれはよくあります。例えば今、日本でやろうとしている事業成長担保権みたいな全資産担保の部分はフルカバーですので金利を支払うが、無担保の部分は支払わないというケースです。支払不能になった場合は、第1順位のものがフルカバーだとみなされたら、その部分については金利の支払が認められるということです。金利については、デフォルトにはなっているのですが、デフォルト金利が適用されるケースというのは余りなくて、約定金利が適用されているケースが、私がいたときは、全部でした。   それ以外に、追加の若しくは代わりの担保物の提供、これはあることはあるのですが、それほど価値のあるものが与えられるかというと、元々、例えば全資産担保で調達している企業は、ほとんどの価値のあるものは担保に取られている形になりますので、後から何か追加の担保と言われても、余りないということになります。代わりのものというのは、あったとしてもそれほど価値はないと思います。   では、どうして普通のDIPファイナンスのときに適切な保護が与えられていると考えるかというと、ファースト・プライミング・リーエン付きでないとDIPファイナンスが仮に取れない場合を例にすると分かりやすいです。三つぐらい提案書を取ることが実務上行われているのですけれども、その提案書の全てがファースト・プライミング・リーエンが条件だったとしたら、ファースト・プライミング・リーエンなしだったらDIPファイナンスは取れないと言えます。そして、DIPファイナンスが付かなかったら多分清算、破産になるとします。破産になったときと再生した場合の既存担保権者の回収額を比較して、ファースト・プライミング・リーエン付きのDIPファイナンスを取った方が、仮にその分、上に担保権が来たとしても、ネットで回収額が破産の場合より増えるという形になれば、適切に保護されているとみなされるというのが現地の弁護士の見解でございます。それはそうだと私も思います。   これを図式化したのが次の11ページです。例えば、極端な例ですけれども、DIPファイナンスがあって再生する場合と、DIPファイナンスなしだったので破産するという、同じ会社でそういうケースが仮にあったとします。ここがポイントなのですが、既存担保権の融資が100としたら、必要DIPファイナンスの金額はそれほど多くなく、50とか100とかいうことはまずなくて、大体10とか15とかそれぐらいだということです。ここは法律とは関係なく、大体そんな感じだというふうに思っていただければいいかと思います。もし、既存担保権が100に対して同じぐらいの100乗ってくるようなケースを考えてしまうと、そのような巨額の担保債権が上に乗ってくるのはいかがなものか、といった意見になってしまうのですけれども、そういうことはほとんどないので、10ぐらいで考えた場合、再生したら企業価値が70で売却されたとしたら、仮にDIPファイナンスで得た、その10を全部費消してしまったとしましても、結局、既存担保権というのは60返ってきます。当たり前ですけれども、10のDIPファイナンスを丸々使っていなかったら単純に相殺して終わりなので、何も上に来たことにならないですけれども、仮に10のDIPファイナンスの代わり金を何かで使ってしまってゼロになりましたといっても、70で売れたら60ネット回収になります。一方で、DIPファイナンスがなくて清算されたら20しか返ってきませんが、どちらが得かというと、上に10が来たとしても、それは60の回収の方がいいのではないかという考え方です。これを数式化すると、企業価値と清算価値、ゴーイング・コンサーン・バリューとリクイデーション・バリューの差額の範囲内にDIPファイナンスが収まっていれば、ワークするということになります。ほとんどの場合はそういうふうにワークする金額にDIPファイナンスというのは収まっていて、その金額で十分運転資金は賄われるケースがほとんどだと御理解いただいて結構です。そうするとほとんどのケースで適切に保護されているというのが成り立ち得るということでございます。   では、今までアメリカの話の概要を説明申し上げましたので、それに基づいて日本の法制度におけるDIPファイナンスはどうなのかを考えてみたいと思います。私が自分で少し関与したケースもありますけれども、日本では、当然ながらスーパー・プライオリティー・クレームもファースト・プライミング・リーエンもありません。ボローイング・ベースもないケースがほとんどでした。法的には共益債権なのですが、ただ、ほかの共益債権と同順位なので、DIPファイナンスといえども牽連破産に行くと応分に損失を計上してしまうリスクが多分にあるという状況です。したがって、DIPレンダーとしてはそう簡単に破産に行ってもらっては困るので、そのために何をやるかといったら、会社の資金繰りを割とモニタリングしながらやっていくことになります。お金がなくなるということはないということを確認しつつ融資を実行、モニタリングを行うということです。究極的には、民事再生の場合は申立代理人、会社更生の場合は更生管財人、これらの先生方が倒産事件をリードしていく形になりますので、これの先生方の手腕に依存することになります。手腕というのは何かというと、牽連破産に行かせない手腕で、DIPレンダーとして、ここを見るということです。この論理というのは何かというと、牽連破産に行かなかったら共益債権は全額弁済される、共益債権が全額弁済されるということはDIPファイナンスが全額弁済されるというロジックで、したがって牽連破産にさえ行かなければ何とかなるだろうということです。   アメリカの場合は牽連破産に行っても大丈夫というロジックです。ファースト・プライミング・リーエンがありますし、しかも無担保部分に関してもスーパー・プライオリティー・クレームですので、英語ではアドミニスタティブ・エクスペンスというのですけれども、ほかの共益債権よりも優先するということで、かなり上の順位にあるので、破産へ行っても大丈夫ということになり、ここは日本と違うと思います。   ということで、日本では安全なDIPファイナンスがやりづらい環境にあるので、DIPファイナンスが付かない再生、更生事件が多くあります。更生の場合は少し大きいので、DIPファイナンスが付いているケースもありますけれども、民事再生の場合はDIPファイナンスが付かないケースも結構あると思います。あとは、例えば、全資産が担保に入っていたりすると、担保に出せるものがないので、DIPファイナンスの金額がほとんど出ない、または必要額に届かない、といった話になり得ると思います。また、DIPファイナンスのプライシング、つまり、金利とか手数料が非常に高くなりがちです。   アメリカは、今は金利が上がっているので、私もよく知らないですけれども、私がやっていたときにはスプレッドでいうと3%ぐらいでした。通常であればDIPファイナンスの金利はLIBORプラス3%台、どう見てもこのDIPファイナンスは安全だなという場合は2%台というレベル感でした。どう見ても安全だなというのはどういうケースかというと、倒産の理由がアスベストとか、そういう訴訟債務を飛ばすために倒産したケース等です。事業は余り問題ないのですけれども、過去のアスベスト訴訟といった負の遺産があったら、それはアスベストを切り離したらすぐ再生できそうだというようなケースです。この場合は2%台、それでも2%、3%は取れるので、まあまあいい採算であったということです。絶対引っ掛からないということを前提にすると、リスク、リワード的には非常にいいファイナンスだといえます。   14ページに行っていただいて、ここからは少し私見になるかと思うのですが、日本のDIPファイナンスの環境というのは、少し副作用みたいなものをもたらすように思います。DIPファイナンスが仮に付かなかったら倒産時の運転資金ニーズにどう対応するかというと、追加の金融債権でもって対応できないということは商取引債権で対応するしかないということになります。そうすると、商取引債権者に引き続き掛け売りでお願いしますということを言いに行くということになるのですが、商取引債権者としましては「引き続きと言われましても、元々の商取引債権、つまり倒産開始決定前に発生した商取引債権を払ってくれるのですか」ということになりますが、「いや、それは払えません」となると、引き続き掛け売りを行うと、商取引債権者にとっては与信を積み増すことになります。それを回避するためには、倒産前に発生した商取引債権は、本当は計画に基づいて支払わないといけないのですが、これを計画外で支払わざるを得ないということになるわけです。少額債権を保護するという名目でこういったことが行われるわけです。   大型の会社更生事件だと、一般人から考えてみるとかなり巨額なものも少額債権として商取引債権者を保護するというのが法的整理の下でも行われました。これは債権者間平等の問題につながるのではないかと思います。運転資金を融資した金融債権は支払わないけれども、金融機関が供与した運転資金目的の融資債権で商取引債権を払っているので、それは経済的には商取引債権を金融債権が代位したのに等しいのですが、それでも、それは金融債権だから支払いませんとなる一方で、商取引債権に分類されたらお支払いしますということです。手形が一番いい例です。商業手形の場合は払われるけれども、手形貸付だと払われないということになるのです。   また、商取引債権者というのは、売ったものの代金を払ってもらえばいいのです。商取引債権者というのは正にそうだと思います。別にこの会社が再生するかどうかは、よほどの主要商取引債権者でない限りは、どちらでもいいというか、「私が売った物の代金を払ってください」というのが商取引債権者で、そういった人に対して、「いや、そうではなくて、あなたが掛け売りすることによってこの会社が再生するのですよ、再生しなくていいのですか」ということを言って、与信を通じて会社の信用リスクをどんどん取らせていくということになると、少しひずみが生じるような感じがするということです。   ファースト・プライミング・リーエンを入れてDIPファイナンスがやりやすくなったとしたら、DIPファイナンスがあるから掛け売りをしてもらわなくても大丈夫ですということになります。これがアメリカでは相乗効果を生むのですが。DIPファイナンスがあるからこの会社は倒れないと思ったら、商取引債権者は掛け売りを始めるのです。なぜかというと、自分の債権を支払う資金が不足してくるとDIPファイナンスの空き枠を使って払ってもらえるということが分かっているので、DIPファイナンスの空き枠を見ながら掛け売りを始めるということです。掛け売りが始まると運転資金需要が少なくなるので、かえってDIPファイナンスは引き出さなくなります。そういう形になるので、アメリカのDIPファイナンスというのは、デイ1は少し混乱が生じて、キャッシュ・オン・デリバリーといって「現金払いでないと売りませんよ」と言われるので、纏まった金額の運転資金需要が発生して、纏まった金額のDIPファイナンスが引き出されるのですけれども、そのうちDIPファイナンスの空き枠があるなと思ったら、みんなが掛け売りを始めるので、運転資金需要が少なくなって、運転資金需要が少なくなると、余ったお金でDIPファイナンスが返済されるので、どんどんDIPファイナンスの残高というのが減っていくことになります。私がやっていた案件では、DIPファイナンスの残高が最後はゼロになっているという案件も結構ありましたので、そういう使われ方をしていたということです。   DIPファイナンスがやりやすくなると、運転資金も調達できるし、あとはDIPファイナンスのある種のマーケットができるのでプライシングも適正化されると、10%とかそういう金利ではなくて、2%、3%、1%台とか、もう少し普通の金利になるのではないかと思います。   次は、日本におけるファースト・プライミング・リーエンに対する懸念です。16ページに行っていただければと思います。まず、既存担保権者の懸念ですが、これは何となく分かると思うのですけれども、ファースト・プライミング・リーエンという自分より上に別の担保権が来てしまったら、自分の利益・インタレストが損なわれるという懸念です。まず1点目は、いや、大体は既存担保権者、若しくは既存担保権者がシンジケートローンを組んでいるのであればシンジケートローンの中の主要行がDIPファイナンスを提供しますので、既存担保権はどうでもいいという考え方にはならないと思われます。既存担保権の方が金額も大きいですので、これを犠牲にしてDIPファイナンスを有利に取り扱うという考え方には余りならないという点が一つと、先ほど言いましたように、では、なしで清算した方がいいかとなると、清算になったら悲惨なことになりますので、それは上に来ても、出してもらった方が有り難いということになるのではないでしょうか。   最後に、キャッチオールというか、全部をスイープするような形で、裁判所が意見を聴いてくれるので、どうしても嫌だったらとか、金額が大きすぎると思えば、そのときにそういうふうに言えば無理強いはしないと思うというのが現地の倒産法弁護士の意見でした。ここが大事なポイントで、法的には裁判所がいいと言ったら何でもできることになっているけれども、裁判所もやはりその辺りは良識があるので、既存担保権者が駄目だと言っているのを押し通してやるというようなことは余りしないということですので、ここは実務上のポイントだと思われます。   それでは、次のページに参ります。DIPレンダー側の懸念が日本ではあるのかなと思っています。例えば、会社更生法の下でファースト・プライミング・リーエンによって保全されたDIPファイナンスを持ったまま、当該事業者が牽連破産に行った場合、元々優先と言っていたから当然、牽連破産でも優先してもらわないと困ると思います。もし、破産に行ったら会社更生手続開始前の担保権と同順位だとかそれに劣後すると言われたら、DIPレンダーとしては困ると思います。もし、破産では既存の担保権と同順位になったり、劣後位になったりするのであれば、優先権を維持するには破産に行かないで更生法の下で清算的更生計画に限られるということになり、DIPレンダーとしては少し恐いですね。というのは、共益債権を払えないと思ったら破産に行く可能性はありますから、破産に移行するかどうかはDIPレンダーとしてウト・オブ・コントロールになります。  倒産開始前、破産に行ったとしたら、いわゆる更生担保権に相当していたものというのは、破産の下では別除権になるのではないかと思われます。そうすると、それに優先するファースト・プライミング・リーエンというのはどういう扱いになるのかというと、新しい概念で優先的別除権みたいなものにならないと困ってしまうなと思います。これがあるのかどうかというのはまだ分からないのですけれども、優先的別除権とか優先的共益債権にならないと、本当の意味で優先したことにならないと思います。若しくは牽連破産に行かないようにしないといけないということになると、今の日本のDIPファイナンスの課題と本質的に変わらない状態になってしまうかなと思うので、ここがどうなのかなというのが一つの課題ではないかと思います。   会社更生と民事再生の再建型法的整理が二つあるというのが、日本の特徴です。チャプター11の一本ではなくて、二つに分かれていますということです。資料の方は、19ページに行っていただければと思いますが、会社更生(管理型)、民事再生(DIP型)という、これは御存じのとおり大体がそうだというだけで、会社更生もDIP型が当然ありますし、民事再生も管理型があるのですが、会社更生(管理型)となっているケースの特徴は、担保権者を拘束するという点にあります。例えば全資産が担保になっているときに、担保権者が暴れるというか、もうこの会社は駄目だとかいって担保権の実行等をやり出すのを防ぐためには、この会社更生が向いていると思います。したがって、LBO等がそれに相当するのですけれども、事業成長担保権みたいな全資産担保付き融資で資金調達した企業が行き詰まったときは、セオリー的には会社更生の方が向いています。また、ファースト・プライミング・リーエンが仮にあるとすれば、DIPファイナンスもとりやすいということになります。一方、既存経営者に関しては、管理型だと管財人が任命されるので、当該企業の経営者として残れない形になるということになります。   それに対して、民事再生だと逆に、別除権になって、別除権協定が締結できればいいですけれども、締結できなければ破産してしまうリスクもあるし、ファースト・プライミング・リーエンが民事再生にはないとすれば、DIPファイナンスの調達が困難になることになります。その代わり既存経営者が残れるという形になります。既存経営者が残れるというのを売りにしている部分が少しDIP型にあるのですけれども、その観点でいうと、DIP型会社更生が主役になっていくかもしれないなと思います。主役になるというのは、事業成長担保権のような全資産担保付き融資で資金調達した企業が倒産、法的整理に行った場合は、どういった手法が選択されるのか考えますと、今は御存じのとおり、再生型の場合はDIP型民事再生がほとんどのケースなのですけれども、それに対して、管理型ではなくDIP型の会社更生になるのかなということですね。   この既存経営者が残れるというポイントは、日米でチャプター11と民事再生で少し違う部分がありまして、チャプター11で既存経営者が残れるというのはどういうことかというと、アメリカでは、大体、会社の業績を悪くした経営者は既にいなくなって再建屋が入っています。つまり、再建専門のターンアラウンド・マネジャーとかが既に会社に入っているのが大体の前提になっていまして、その人が法的整理になったら出ていかないといけないというのであれば法的整理を戦略的に使うことができなくなりますので、だから法的整理になっても残れるようになっているということです。会社の業績を悪くした経営者が残れるという意味でのDIP型ではないということです。日本の場合は、会社の業績が悪くなったところの、その経営者もずっと残っているみたいな感じのところがあるかなと思うのですけれども、そこは日米で違いがあるというふうに御認識いただければと思います。   最後になりましたけれども、私の個人的な示唆で、ここはもう完全に私の意見で、別にゴードン・ブラザーズの意見でも何でもないのですが、もし導入するのでしたら、アメリカのDIPファイナンスを勉強して、それを学んで、それを一旦はそのまま輸入するというのが一番いいと思います。変に日本版にしようとしたり、日本ではこうなのでと言って、色々修正するのが日本人は結構好きなのですけれども、余り良い効果が出ません。例えば、ABLがその典型です。日本では、ボローイング・ベースを入れないでABLをやって、当然ながら、借入人が行き詰まったときにボローイング・ベースが入っていないことからABLが毀損するということが起こり得ますので、ABLは借入人が行き詰まると損失を被ってしまうファイナンスということになります。一方、アメリカでABLがほとんど毀損しないというのは、ボローイング・ベースが入っているからなのですが、同じ、ABLでも借入人が行き詰まった際に毀損するかしないかで大きく異なります。そういう意味で、余りいろいろ日本では、みたいなことをやらない方がいいと思います。普通にそのまま、海外の制度を導入しても多分なじんでいくと思うので、どうしても日本の金融プラクティス上、これは少し合わないなというところは、後で実務上、調整をすればいいと思います。法制度をアメリカと大きく変えるほどの意味は多分ないと思います。   あと、法律や制度というのも、先ほど見ましたように、単純に四つの項目があるだけなので、あとは適切に保護されていること、みたいなぼやっとした感じでやっていますから、実務でカバーできる部分が倒産の場合は多いので、実務でカバーすることにすればよいと思います。日本の場合に、実務も割と倒産を得意とする弁護士、ベテランの弁護士がやられるケースも多いし、今ではいろいろなファイナンシャル・アドバイザーも洗練されてきているので、そういうプロフェッショナルがやっている限りにおいてそんなに変なことは起こらないと思いますので、何かあったら実務で調整すればいいかと思います。   次に、先ほど申し上げましたが、ファースト・プライミング・リーエンを入れた後は破産したときも優先するようにしないといけないと思います。この部分は、法制度で確立しておいた方がいいのではないかなと考えます。優先的別除権という概念が必要になるのではないかという点につきましては、個人的にはそのように思いますし、ここから更に論理が飛躍して、優先的別除権が認められたら民事再生でもファースト・プライミング・リーエンを認めてもいいのではないかというふうに考えております。意見としてはいろいろなのがあるかなと思いますけれども、そういうふうに考えたという次第でございます。   私の方からは以上です。御清聴どうもありがとうございました。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、堀内さんからの御意見につきまして御質問等がありましたら、お願いいたします。 ○松下委員 松下です。堀内さん、どうも今日は御説明ありがとうございました。実務のことがよく分かりました。   スライドの11ページについての質問です。ここでいう担保権の目的財産とはどんな財産なのかという質問です。この担保権者は100貸しているわけですが、破産になったら20しか回収できないということは、多分これは不動産ではないですよね。事業の価値と連動するような担保権を想定されていると理解してよろしいでしょうか、というのが私の質問です。よろしくお願いします。 ○堀内参考人 端的なお答えは、おっしゃるとおりで、基本的にはLBOのような全資産担保、つまり、不動産ではないという意味からすると、不動産も担保に入っていますけれども、不動産が主な担保ではなく、元々は事業価値を見て融資をしたケースです。それが破産になると事業が停止しますので、事業価値がなくなりまして、要は資産価値になってしまうということです。資産価値、つまり、各々の売掛債権、在庫、不動産等を足し上げていった価値よりも、法的整理に入った会社であってもゴーイング・コンサーンの方がバリューは高いというのが通常なのです。その差額を70と20というので表現したということでございます。したがって、元々の既存担保もそうですし、DIPファイナンスのファースト・プライミング・リーエンも、対象物は全資産、事業と考えていただければよろしいかと思います。 ○松下委員 分かりました。どうもありがとうございました。 ○道垣内部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○片山委員 慶應義塾大学の片山でございます。最先端のお話をありがとうございます。大変勉強になりました。   今の松下委員と同じところの質問となります。ここで企業価値70で売却と書いてありますが、結局、DIPファイナンスを入れた場合というのは最終的には事業譲渡がなされて、経営者も替わるということが多くの場合なのか、必ずしもそうではないのかというのが、まずお伺いしたい点でございます。   2番目は、DIPファイナンスでファースト・プライミング・リーエンを入れるという場合は、特に担保を取らなくても、最優先の先取特権的なもの、共益的な先取特権という形で債権回収ができるというモデルになるのか、それとも、既存の担保権とほぼ同じ内容の、ABLであれば動産債権担保、それから事業担保であれば事業担保権ということで、それと同じ担保権を第2順位で設定するという形になるのか、それでも順位が最上位で上がってくるということになるのか、その辺りを確認できればと思いました。よろしくお願いいたします。 ○堀内参考人 1点目ですが、事業譲渡かどうかという点では、圧倒的に事業譲渡か、または、事業譲渡が行われなくても自力再生がほとんどです。日本とアメリカで違うのは、再建を得意にしている経営者に替わっているのか、それとも業績を悪くした経営者がそのまま残っているかといいう点で、これは全然意味が違いまして、日本の民事再生の場合、そのまま経営者が残っているケースが多いです。そうすると申立代理人がどう考えるかといったら、「いや、この経営者で自力再生は無理だろう」と考えると思います。というのは、業績が悪くなってきた時の経営者がそのまま残っているのに、民事再生になったら急に心を入れ替えていい経営者になって、ターンアラウンドできますという説明というのは結構難しいと思うからです。したがって、どうするかというと、スポンサーを呼んでくるという形になっていくということです。   アメリカではどうなるかというと、一旦は自力再生を目指すことも多いです。というのは、ターンアラウンド・マネジャーが入っているので、ターンアラウンドさせるのがその仕事なので、自力再生も十分可能性があるということです。スポンサーはどういうときに募るかというと、企業価値がどんどん劣化している段階でチャプター11に入り、DIPファイナンスが入って、運転資金が調達できて落ち着いた状態でいろいろな再生の施策を打って、そうですね、3か月から半年ぐらいの間にそういう施策を打って、企業価値の底打ちを見て、企業価値が少し上向き加減になったところでスポンサーを募るという感じです。そうすると割と高く売れることがあるということです。そのスポンサーから来た価格と、そのまま自力再生で今後実現できる予想価値を比べて、スポンサーの価格が高ければ売るけれども、スポンサーの価格が低ければ、特に売りたいとは思わないというか、そのまま自力再生で行くという判断も会社側では十分あり得るということです。日本だとそうではなくて、取りあえずスポンサーを募って、その中で一番高い人に売りますということが多いと聞いています。つまり、スポンサーへの売却金額というのはどちらでもよく、とにかく一番高い人に売りますということです。あとは何かといったら清算価値保障原則を満たしていればよい、つまるり、清算価値以上であったら幾らでもいいですという感じですけれども、アメリカの場合はもう少し余裕がある形になります。   自力再生か事業譲渡かのどちらかで、清算はないかというと、私がいたときに1件だけありました。それはIT関係の企業で、ITバブルがはじけたときに倒産した会社でした。当初は当然、再生というか、スポンサーを見付けられると思ったので、DIPファイナンスを既存担保権者がいわゆる防御型、ディフェンシブDIPファイナンスを実行したのですけれども、結局スポンサーが見付かりませんでした。チャプター7に移行したかどうかは覚えていないですが、いずれにしろ清算になりまして、DIPファイナンスも毀損してしまったという珍しい例が1件ありました。対象会社は、割と大きなテレコム企業であって、話題になっていました。この案件の既存担保権者が大きな銀行だったのですけれども、そこに聞きに行ったら、これはDIPファイナンスを普段専門的にやっている部署でやったのではなくて、既存担保権を見ているリレーションシップの部署がやむを得ずスポンサーを見付けるためのつなぎで、見付かるからと言ってやって、見付からなかったケースとのことでした。DIPファイナンスの所管部署としてこれは大丈夫だと思ってやった案件ではありませんという説明を受けました。このような珍しいケースはありますけれども、大抵の場合は普通の会社というのは自力再生か事業譲渡になるということです。   それと、担保はどうなのかということですが、実は法的には、チャプター11の手続にある間だけがある意味、DIPファイナンスなのです。チャプター11を出たりとかチャプター11前の話というのは、日本ではDIPファイナンスと広義でいっていますが、アメリカではそういうふうにいわないので、DIPファイナンスはチャプター11の手続下でのファイナンス、それに対して364条が適用されるということです。   したがって、担保を特に正式に取る必要はないです。364条が適用される限りにおいては、ファースト・プライミング・リーエンが適用されていればファースト・プライミング・リーエンになります、先取特権が認められるのですが、では登記とかはどうするのかといったら、一応、登記もするみたいでした。私はエージェントをやっていなかったので分からないのですが、倒産法の弁護士に、登記を実際にやるのですかと聞いたら、普通はやるというような言い方をしていました。その場合にどういうやり方をするのか、私も正直言って、やったことがないから知らないのですけれども、「何故登記をするのか。364条があるので登記はいらないのではないか」と言ったら、「いや、それは違う。ケースがディスミスされるリスクもあるから。もしDIPファイナンスをやった後に、やはりこれは倒産するほどのことはないではないかみたいな話になって、万一ケースがディスミスされたら、やったはいいけれども無担保になってしまうので、念のためにいろいろな登記とかはしておくのだ」ということを言っていたので、それなりの保全というか、364条の適用がなされないケースにも備えたやり方はしているとのことでした。 ○片山委員 どうもありがとうございました。 ○井上委員 堀内さん、実務的なお話をどうもありがとうございました。また、誕生日おめでとうございます。 ○堀内参考人 ありがとうございます。 ○井上委員 私もついこの前58になったところなので、同い年ですね。それはどうでもいいことなのですけれども。   私も11ページについてお尋ねです。先ほど、御意見として、取りあえず日本でもまずはチャプター11のルールと同じように始めてはどうかということでしたけれども、そのルールを見ると、結局のところ、「適切な保護」というのがものすごく重要で、この中身が本当に大事なのだろうと思いました。それを全部ルール化していくのではなくて、実務で工夫しているとのお話で、その中身がこの11ページに書かれていることなのだろうと思うのですけれども、企業価値と清算価値の差額がDIPファイナンスの金額を上回っているといいますか、DIPファイナンスの金額がこの差額に収まっているということであれば、確かに既存の担保権は保護されているといえるのかもしれません。ただ、DIPファイナンスを出すという状況、すなわち結構緊迫している状況で、裁判所がこれを判断するときに、先ほどのお話からすると、基本的には事業全体が担保物だとすると、言わばM&Aの企業価値評価みたいなことをするのだろうと思うのですが、それを実務的にはどのぐらい細密にやっているのかということと、それをどんなステップでやっているのかということを、教えていただければと思います。それと、もう一つ聞きたいのは、事後的に、おおむね確かにこの範囲に収まっていたね、ということが検証されているのでしょうか。先ほどの御説明だと実際に取りっぱぐれることはまずないということでしたから、収まっているということなのかもしれませんが、その辺りの実務的なお話を伺えればと思います。よろしくお願いします。 ○堀内参考人 ありがとうございます。このモデルというのは、はっきり申し上げまして、私がこのプレゼン用に作ったモデルで、裁判所がこういうことを、数字を用いてやっているかというと、そういうふうなコート・ドキュメンツを私は見たことがないのですけれども、こういう考え方に基づいているというのは間違いないかなと思います。実際問題どうやっているかといいますと、インテリム・オーダーというのを出すと申し上げましたけれども、これも別に企業価値がどうのこうのとかいうよりも、当座2週間ぐらいにどれぐらい資金が要りますかという、日本でいう資金繰り表みたいなものをもらって、「ではこれぐらいの金額で当面は行けますね」とか、そんな少しの金額でいいのかと思うぐらいの金額で始めるということです。実際問題どれぐらい行くかというと、一番資金がピークになるのは季節性のある小売業なんかがそうだと思うのですけれども、仕入れがかさむときはこれぐらいになりますみたいな説明をして、ここまでは要りますねという形でやっていくということになります。本来はDIPファイナンスというのは11ページの概念プラス、ボローイング・ベースでカバーされているので、実際に破産に行っても資産価値ベースでカバーされているべきファイナンスなのです。   だから、この中に収まっているというのは当然そうなのですけれども、そもそも、仮にこれが途切れたとしても、まずDIPファイナンスの方はフルカバーなので大丈夫です。その次は、既存担保権者がアデクエートにプロテクトされているかどうかという観点からいうと、今破産したらどれぐらいの回収になるのですかというのは、当然ながら目の子でははじいています。それだったらいかした方がいいのではないかというのが大体の結論になります。もう一つは、理論上はDIPファイナンスが幾ら乗ったとしても、例えば、ファースト・プライミング・リーエン付きの負債が100乗ったとしても、初日は100のキャッシュが入るのです。そこの部分は少なくとも初日時点では相殺可能と考えれば、既存担保権者は事実上は痛んでいないことになります。問題は、その100を赤字補填みたいな感じでどんどん使い切ってゼロになった場合にどうなのかという点です。私が極端な話として、全部費消してしまっても大丈夫で、適切に保護されているというケースをお示ししただけで、全部使われなかったらというか、そのまま残っていたら、そのまま相殺して、何も上に来たことに実際にはなっていないという形になります。赤字でどんどんキャッシュバーンが起こって、お金がなくなっていっても、この形には大体収まるということです。   感覚的には、先ほど言いましたように、既存の担保権の融資というのが大体の会社の企業規模、元々の企業規模というか、元々の企業価値から算定されているので、ある種の企業規模的なものを指していることが多いのですが、それに対して大体どれぐらいの運転資金が普通、要るのでしょうかというのを考えて、それは大抵は非常に少ない金額であるということがほとんどのケースだということです。それで、理論的にはこの形に収まっていないといけないけれども、実務上これを超えるDIPファイナンスというのは、逆に、殆どないと思います。   実務上、これを超える巨額のDIPファイナンスが起こるケースが何かというと、この既存担保融資がフルカバーであるときに、DIPファイナンスでこの既存担保融資をリファイナンスするケースがあるのです。つまり、10のDIPファイナンスをこのケースでやるというふうになっていますけれども、この100がフルカバーのときに二つやり方があって、そのまま10だけDIPファイナンスを取って、100に対してフルカバーだから、約定金利を払うという方法、つまり、倒産の中でも金利を払っていきますというやり方をする方法と、面倒くさいから110のDIPファイナンスで100の既存融資を返してしまうという方法の二つのやり方があります。ネットの増額がものすごい金額になるというケースは余りなくて、DIPファイナンスの金額が巨額なケース、はっきり言って1,000億円を超えるケースもあるのですけれども、その場合は大抵、既存融資がリファイされているというケースです。これは「ロールアップ」というのですけれども、既存融資をリファイナンスしているというケースがほとんどだと思います。 ○井上委員 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 沖野さんから手が挙がっていたと思いますが、よろしいですか。 ○沖野委員 ありがとうございます。実は今のお話である程度分かったような気もしたのですが、もしお時間を頂けるならば1点、質問させていただきたいと思います。東京大学の沖野でございます。   21ページの破産の場合に、この制度は入れる必要があるということで出されている二つの点で、優先的別除権と優先的共益債権というのがあります。共益債権の中で更に優先順位を付けていくというのは比較的分かりやすく、正当性の問題はあるものの、制度としてイメージが湧くのですけれども、優先的別除権というものがどういうものかという点で、これが目的財産が何かに掛かっていると思われます。今のお話ですと、最初の松下委員の御質問に対する御回答から、全てその点で明らかになってきたかと思うのですけれども、プライミング・リーエンの方は全財産に付けるというか、事業全体に付けるというイメージで、既存の担保権融資も結局、事業に付いているということだと理解したのですけれども、そういうことでよろしいのかです。   少し話を変えますと、例えば、将来の在庫商品を担保に取っている担保権者があり、並行して債権、いわゆる売掛債権を取っている担保権者があるというようなときは、既存の担保は事業担保ではない形になるのですが、そういうときはこれは使えないというか、想定していないということでよろしいのでしょうか。仮に想定しているとすると、優先的別除権というのが結構いろいろ考えなければいけないのではないかという、言わば一般先取特権の約定版になるようなものと切り分けた担保権というのが競合する中で、優先させるというのはいろいろ考えることがあるのではないかと思われまして、さらに、それに適用があるとすると、将来の倒産手続開始後の財産にどこまで担保権が及んでいくかということについて、現在、債権だと4案、動産だと3案ぐらい出されているかと思いますが、これについて一定の立場が親和的であるのかどうかということも教えていただければと思っていたのですけれども、入口のところでそもそも事業担保だけの話ですということであれば、全部の問いが飛んでしまいますので、それで一旦手を下げさせていただいたのですが、もし確認させていただければ幸いです。 ○堀内参考人 一般論というよりは、まず、アメリカは日本と少し違っていて、ここは実務の話なのですけれども、大抵の場合は全資産担保が主流なのです。全資産に第1順位、全資産に、たまに第2順位、セカンド・リーエンというのがあるのですけれども、セカンド・リーエンも個別でなくて、全資産に対して第2順位ですので、あとは無担保と、非常に分かりやすいキャピタル・ストラクチャーになっています。日本だと不動産Aに第1順位とか、不動産Bに第2順位とか、担保がいろいろばらばらになっているとか、期限がばらばらになっている相対融資が主体です。したがって、イメージしているのは、おっしゃったように、既存の担保権が全資産担保、そして、その上に乗ってくるファースト・プライミング・リーエンも全資産担保、同じものを対象にして、その上に来るというのが基本的な考え方でいいと思います。   唯一あるとしたら、既存の融資が全資産ではなくて、在庫と売掛債権だけを担保にしているケースです。若しくは在庫と売掛債権と本当はキャッシュも担保として要るのですけれども、売掛債権の回収代わり金が入ってくる預金口座の質権設定なり、預金をコントロールするという感じですね、キャッシュ・ドミニオンと言われていますが、そういう形になっていて、不動産を事業に利用していなかったら、動産・債権・キャッシュだけで企業価値の源泉とほぼ等しくなるようなイメージになります。その場合は別に全資産でなくても、動産債権だけを担保にしているのが既存であったら、その上にプライミング・リーエンを付けるという手法があり得るかと思いますけれども、一般的には事業担保の上に来るというのがプライミング・リーエンだと御理解いただければと思います。 ○沖野委員 ありがとうございました。そうしますと、開始後の財産に対して及んでいくかということについて、アデクエイト・プロテクションとの関係で一定の親和性があるような考え方があるのか、そこは完全にもう何でもありということなのかだけ、少し確認させていただけるでしょうか。 ○堀内参考人 御存じのとおり、釈迦に説法ですが、アメリカの倒産法では当然には事後取得財産に担保権は及ばないというのが考え方なのですけれども、及ばないからといって固定化するかというと、そういう意味ではなくて、単純に和解を通じて実質は及んでいっているようになるということです。つまり、自動的に及ぶことはないというだけの話であって、基本的に一定時点で開始決定時にあったものだけが担保で、そこから取得したものには担保権は絶対及びませんという意味ではないので、担保権はそのまま実質は及んでいく代わりに、既存の担保物を売った代わり金は債務者が使えるようになりますということです。それがキャッシュ・コラテラル・オーダーの意味なのですけれども、既存の担保物を売ったら本来は担保権者に返さないといけないのだけれども、それは会社を運営するのに使わせてくださいと、その代わり後から入ってきたものは担保に差し出しますといったような和解が成立しているといことです。そういう形を通じて事後取得財産にも実質的には担保権が及んでいっている、回転していっているというのがアメリカのやり方で、そういう考え方でいいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まだまだいろいろなお話があろうかと思いますけれども、時間が過ぎておりますので、堀内さんに対する御質問はこの辺りにさせていただければと思います。   堀内さん、どうも大変お忙しい中、それも誕生日に、当部会の調査審議に御協力いただきまして誠にありがとうございました。また今後ともいろいろ御教示を頂くことがあろうかと思いますけれども、よろしくお願いいたします。 ○堀内参考人 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 それでは、随分お待たせいたしましたけれども、ABL協会理事の粟田口太郎さんに御意見を頂きたいと思います。   粟田口さんも会場にいらっしゃっていただいておりますので、よろしくお願いいたします。 ○粟田口参考人 ABL協会、理事・運営委員長の粟田口と申します。本日はお招きにあずかりましてありがとうございます。それでは、お話をさせていただければと思います。お手元に、昨日のお送りで申し訳ありませんでしたが、参考人提出資料を置いていただければと思います。   まず、「はじめに」というところでございます。ABL協会、それから私自身について御紹介を申し上げたいと思います。ABL協会でいう「ABL」は、アセット・ベースト・レンディングという意味でのABLのことでございます。「ABL」という用語は、アセット・バックト・ローンの略称といわれることもありますが、それは流動化・証券化スキームで使われるものでありまして、ここでいう「ABL」というのはアセット・ベースト・レンディングのほうでございます。その詳細は後ほど申し上げます。設立は2007年でございまして、金融機関のみならず、ABL事業者あるいは事業再生に関与する実務家の皆さん、それから研究者の先生方、こういった皆様で構成されているような一般社団でございます。それで、理事長は初代が坂井秀行弁護士、それから、初代運営委員長は中村廉平さんでございまして、現在は理事長は池田眞朗先生がお務めになられ、運営委員長は私が務めておるということでございます。   私自身でございますが、弁護士をしております。当初は倒産・事業再生にほぼ注力したような弁護士でございまして、担保との出会いというのも駆け出し1年目のときに、集合動産譲渡担保の設定をしていた会社が会社更生を申し立てようとするに当たって、担保権実行の禁止の保全処分の申立てを起案したというのが事の起こりでございまして、そこから20年ぐらいこれに付き合っているわけですが、他方で、事業再生側のみならず金融側の経験もしてきておりまして、本日は両方の立場からお話を申し上げたいと考えております。   2番目の「担保の本質と機能」というところでございますが、ここをもう一度、今回の担保法制の見直しに関する問題を考えるときに、振り返って考えてみたいということでございます。担保の本質というのは結局、無担保のままだと一般債権者平等の原則というものが働くということであって、それに対して優先権を持つためのものが担保であるというのが本質ではあるわけです。   しかし、実際の機能ということを考えてみようということでございます。これは優先弁済機能のみならず情報提供機能、あるいは事業維持機能というものが、今般の担保法制の見直しの対象とされているような、動産あるいは債権、あるいはその他の事業用財産、こういったものにとっては重要であろうということでございます。特に、「不動産や保証に過度に依存しない融資」ということが標榜されて、その結果、動産、債権が注目されるに至ったということだと思いますが、動産とか債権、特に流動する在庫、流動する売掛金、あるいは、更に言うと、売掛金が回収された場合の預金口座の内容、こういったものを担保に取得している場合には、その状況のモニタリングを通じて、現在、担保設定者の事業が、どのような状態にあるのかということを把握することができるということになります。このような意味で、情報提供機能あるいは実態把握機能といったことが期待できる、あるいは経営監視機能が期待できるということになります。   さらに、事業用流動資産を含め事業用財産について担保が設定されている、特にその全体について担保が設定されているという場合には、他の担保権者や差押債権者による事業の解体を防ぐという意味での保護ができるとか、あるいは、一部の事業用財産だけが取られるということによる事業の混乱を防ぐことができる。そのような担保を最優先で取得している者が、事業を保護してあげよう、支えてあげようという意思を有している限りは、そのような事業維持機能というものも期待できるということになります。これは、後ほど申し上げる事業担保との関係でも重要でありまして、総じてABLという言葉が日本で輸入されたころから、「生かす担保」という標語も作られておったわけでございます。本日のお話も、そのような観点に、ところどころ触れることがございます。   3番目の「流動資産担保の公示のあり方とその限界」という点、これは全体から見れば少しの時間で済ませますが、担保権の対抗要件の本質は優先弁済権の公示であると私は思っております。しかし、そこには様々な限界があるということでございます。ABLを進める上でも、この点は時々問題として取り上げられてきたものでありまして、先ほどの国分グループ様のお話にも出てきたことでございますが、とにかく我が国の商取引文化ですね、もともと文化的に奥ゆかしいというか、あるいは言葉を悪くいえば隠す文化というのもあるし、恥の文化ともいえる、体面重視ということもあるわけで、公示による信用への影響というのを特に気にするという意識があるだろうということでございます。   これが、今回の担保法制の見直しにあたって、占有改定を維持しましょうということにももちろんつながるわけですが、そこは、今回そうするにせよ、できる限り、公示に関しての国民の意識改革に向けた広報活動というか、啓蒙も必要なのではないかと思います。  他方、たとえば現在、自己信託と信託受益権の譲渡、あるいは譲渡担保という形をとることによって、実質的に、登記のような公示を避けて資金調達をするということも行われております。これはもともと債権法改正前に譲渡禁止特約付き債権を資金調達に用いるための弥縫策として作られた仕組みではありますけれども、実務上はあからさまな公示を避ける手法としても使われてきています。   それから、商取引の簡易・迅速・低コスト性の要請、これは申し上げるまでもございません。あるいは、債権譲渡担保については、債権の実在性を確認する手段、あるいは抗弁放棄の意思表示を取得する機会という観点から、承諾が有用であるというようなことです。  担保権の対抗要件の本質が優先弁済権の公示であるとすれば、本来は一般債権者に対して自分は優先しているのだということを対外的に明確に公示するということが重要なわけですけれども、他方で取引の内容を大っぴらに開示するということへの本質的な抵抗感であるとか、あるいは企業秘密や守秘義務上の問題なども手伝って、これはなかなか難しい問題であると思います。ただ、隠れた占有改定というものが動産・債権譲渡特例法の立法のころから問題とされてきたような経緯にも照らすと、今回、動産について登記優先ルールを入れるということについては、私個人としては、お進めいただければと考えているところでございます。   他方で、動産譲渡登記や債権譲渡登記については、この資料には書いておりませんが、前日登記所の前執務日までの登記情報しかタイムリーに見ることができないとか、土日祝日の対応ができないとか、あるいは、東京ならばまだしも、全国の方々の御利用に必ずしも適していないというようなことなどから、そのような体制については改善をしていただければと考えております。   それから、「担保の多様性」というところでございます。資料の2ページに移ります。私が今日申し上げたいことは、担保の目的、その実態というのは非常に多様であって、それを今回、立法するということに当たっては、そのように融通無碍ともいえるような広がり方をしている担保に対して、広く目配りをしていただきたいということでございます。   (1)番の「総財産」上の担保、これを「網掛け方式」と申し上げるとすると、例えば、現在でいう企業担保法上の企業担保ですとか、あるいは、企業担保法の前からあるのだと思いますが、特別法上の一般担保、こういったものは、総財産上に網を掛けるように、あるいはブランケット・リーエンというのでしょうか、毛布を掛けるように担保を取得するということだと思います。しかし、そのように財産を広げるということの対価というのか代償として、弱い効力しか認められてこなかったということだと思います。一般先取特権類似の担保を約定担保として認めるという実質があるのだろうと思います。ただ、この点については、事業担保が今回、そのような従前の網掛け方式よりは強い担保として認められるということだろうと思いますので、その点については後ほど時間があれば、申し上げたいと思います。   それから、2点目の「各種の財産上の担保」というところで、これが現在の実務上、まさに中心となっている担保であるわけです。これについては、もちろん財団抵当という制度もあるわけですが、財団抵当の場合にはこれを構成する財産の中身の入れ替えが難しいなどの問題があります。ですので、財団抵当によらずに、個別の財産を担保にとる。そこで、不動産を中心として、個別の担保の積み上げにならざるを得ないような実務が続いてきたわけです。動産なら動産を取得する、債権なら債権を取得する、それから預金なら預金を取得する。「刻む担保」という言葉がありますけれども、刻む担保の積み上げ方式ですね。いいかえれば個別担保の積み上げ方式で、全資産担保をやるにせよ、このような方式で行うことが続けられてきたわけです。   ですので、3点目の「実務の現状」のところのお話に入っているわけですが、そこで考えなければならないのは、担保価値といわれるものについては、一定の時点あるいは定点的なものと、あるいは時間軸を含めた線の担保というものがあるだろうと。点といっても、それは将来の一定時点ということを含めた意味での点ということなのですが、その「点の担保」と「線の担保」があるだろうと。今日は将来債権譲渡担保を中心にお話ししますけれども、将来債権譲渡担保一つ取っても、点の担保と線の担保があるということでございます。   つまり、点の担保というのは、将来の一定の時点で現存する担保目的財産の残高を、普通はこれぐらい残っているだろうというふうなことで残高を把握する、その価値を把握しようとするものでありまして、典型例は、適格担保在庫、適格担保売掛金に担保掛け目を乗じて行う融資でございます。これは、今日は、もともとはボローイング・ベースという言葉を使わないつもりだったのですが、先ほど来、堀内様がおっしゃっているボローイング・ベース型の融資というのはこれでございます。すなわち、在庫の中で不良在庫は除きましょうとか、海外在庫は除きましょうというようなことで、適格の在庫をまず選びましょうと。それから売掛金についても、昔であれば、やれ譲渡禁止特約付き債権があるねとか、相殺付きだねとか、あるいは海外の売掛先だねと、こういったものは除きましょうと。除いた後に残るもの、それを適格担保在庫、適格担保売掛金と呼ぶわけですが、それらについて適切な担保掛け目として70%とか何%とか、そういうものを掛けましょうと。それを掛け合わせた合計額というものが担保価値ですねと。その担保価値を常に維持させるということにポイントがあります。その担保価値が下がって、貸付けをした額が担保価値を上回ってしまったような場合には、貸付額とその担保価値の差額、すなわちボローイング・ベースとの差額について期限前弁済をしなさいと、こういうふうな仕組みでございます。すなわち、ボローイング・ベースという言葉は貸付限度額を意味することが多いわけでございますが、そういうことになります。   それに対して、線の担保とここで書いておりますのは、事業が生み出す長期間、一定の長期間のキャッシュフローを累積的に把握する類型のことでありまして、典型例としてはプロジェクトファイナンス、これは10年あるいは20年というふうな長期の場合もございます。ただ、長期といいましても、これは長い線の場合もあれば短い線の場合もあるわけで、例えば数か月分の診療報酬債権というものも線の担保に含めようと思えば含められるわけでございます。   ですので、中間型的なものもあるということなのですが、いずれにしましても、このような担保取引の実質的把握の重要性ということを申し上げたいということでございます。いかなる経済的実態の担保なのかということで、いろいろな要素をここに書いておりますけれども、これらを客観的に認定していくということが裁判、あるいは法的整理、あるいは和解をするということになった場合には、非常に重要なポイントになってくるということです。これらについて今回、立法するという場合に、様々な背景を持った、あるいは様々な実質を持った担保を、言葉は悪いですが十把一絡げに一刀両断的な対応をしようとしても、なかなか適切な解を得られにくいのではないかという問題意識を持っているということを申し上げたいと思います。   最初に後で説明すると言っていたABLというのも、脱線というか元に戻るのですが、このABLという言葉はどういう意味かということについて申し上げると、元々は米国で作られた概念です。アセット・ベースト・レンディングというのは、先ほど来、堀内様が御説明されているように、ボローイング・ベースというものをきちんと取って貸付限度額というのをきちんと定める、しかも、それは担保の残高から掛け目を掛けて、それで得られる値であるということであると。そのような約定をしているボローイング・ベース型、あるいは管理型といってもよいのですが、このようなものが、もともとの、本来のABLなのです。しかし、日本に輸入された後は、そのようなABLはごく少数にとどまり、むしろ広くリレーションシップ・バンキングのためのコーポレートローンに近いような、つまり、在庫が売掛金に換わる、売掛金が更に預金に換わるという、きちんとした事業サイクルが回っていれば、それが、これらの担保取得を通じて情報として提供されるだろう、経営の実態が把握できるだろう、そういった形で事業性の重視、あるいは着目に役立つだろうということで、ABLというのは、むしろリレーションシップ・バンキングのためのものだということで、これがいわゆる日本型ABLという形で行われてきております。   したがって、一番狭くABLという場合は米国型ABLですが、日本型ABLを含めて広く言葉を使う場合が多く、更に言うと、動産とか債権を取っていれば何でもABLと呼ぶというような最も広い使われ方までされているというのが実態でございます。   私が今日申し上げるABLというのは、全てこれらを含めたものでございますけれども、ABLという言葉が使われる場合に、これらのうち、いずれを指しているのか、あるいはいずれをも含んでいるのかということについて、誤解のないようにしていただきたいということもあって、少しここで触れさせていただきました。ABL1つとっても、様々な形態があるということでございます。   さて、2ページの4番の「資金調達と事業再生の調和」というところでございます。まず、「問題の所在」ということです。担保による資金調達の需要者というのは、無担保で借りられればそれでよろしいわけです。今、無担保低金利競争が行われているわけで、しかし、クレジットが弱い、事業を始めたばかりの方もそうかもしれませんが、クレジットが悪くなった、あるいは傾いたというような方々の場合が多いわけです。このようなときに、先に助ける、つまり担保で先に助けるということを行う、しかし、後でも助けてあげるということを考えなければならない。つまり、担保融資で先に助けた後も、その後に事業再生を要することになった場合には、後にも助けることも考える必要が生ずる。しかし、ここで重要なのは、後で助けることは大事だけれども、後のことだけ考えてはならないということでありまして、後のことだけ考えて、どんな場合にも助かるというか、助かりやすくするということは、担保権者にとっての担保の意味、先に担保で助けた意味というものが失われ、その結果、広い資金需要者に、かえって平時に担保融資が行き渡らなくなるというおそれがあるということであります。   事業用流動財産担保の特質と書きましたけれども、これは、要するに、事業の在庫とか売掛金とかという、事業それ自体でありますので、これを担保実行したりしますとそこで切断が起きてしまうということで、人体に例えれば血液ないし、それに近いものを預けるのに近いというような実態がございます。   実務の現状はどうかということですが、現状は、これは不動産担保も含めての話ですけれども、任意売却が法的な担保実行よりも優先して検討され、私的整理が法的整理に優先して検討され、スポンサー型が自主再建型よりも優先して検討されるというような傾向が、ここ10年、強まっていると申し上げてよいだろうと思います。これはどういうことかというと、結局、早く助けてあげると。つまり、病気になった患者さんが重病になる前に早い段階で、負担が少ない段階で助けてあげるというようなことを考えようとしているからでございます。事業譲渡というふうにいわれますけれども、これも事業の任意売却という実質があるわけでありまして、担保付きの財産を含めて売却をするという場合には事業の任意売却ということがいえるわけです。このような形で、法的な、強制的な仕組みによらない段階での救済ということが、第一に図られるという時代になっていると理解しております。ただし、そのような時代であっても、最後に控えている法的な規範、ルールというものがしっかりしている必要があると理解しておりまして、これが2ページの一番最後に、「法規範の重要性」として書いているところであります。すなわち、「後に控える法的実行・法的整理のルールがしっかりしていなければ、担保目的財産の任意売却や私的整理による事業再生はもちろん、平時における担保金融による資金調達も上手くいかなくなる」ということです。   さて、ここから本題で、もう時間があれなのですけれども、3ページのところですが、倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力という問題でございます。これはABL協会で最も重視されてきた問題でありますので、今日はこの問題に、ほぼ集中したいということでありますが、中間試案の第19の1に関するところでございます。なぜこれを取り上げるかというと、第19については四つの案が並列的に書いてあるわけでございますが、ここでの立法論を考えるときには、これまでの実務の歩み、議論の歩みということを、やはり一度おさらいをしておきたいと考えるからであります。   議論としてはどうであったかと、特に20世紀、前世紀は、古いと言ってはいけないですが、従前の考え方は、倒産手続開始時固定説であったというわけです。開始時固定というのは、要するに、担保権者は、倒産手続開始時の残高につき保護されるということで、その範囲で担保権者を保護しましょう、しかし、他方で、事業再生の必要があるわけです。そこで、その在庫とか売掛金というものはどう扱われるのかということになりますけれども、それは管財人が、開始時に現存している在庫や売掛金、つまり担保権者の担保権が及んでいる在庫や売掛金ですが、これを事業再生に使えなければしようがないわけですから、管財人は和解的な処理を目指す。通常は担保権者も、再建をできた方がいいだろう、その在庫を管財人に売らせてあげよう、管財人に回収してもらおうと考えるのが普通であるために、和解を図る。担保変換を通例は伴っていただろうと思いますけれども、和解的な処理をするということを行っていたと理解しております。   これに対して、現在どのような状況になっているかということですが、現在は倒産手続開始によっては当然には固定しないという扱いが一般的になっているし、学説上も有力になってきていると理解しております。これは、和解的処理といっても、集合動産譲渡担保あるいは集合債権譲渡担保の対象となっている在庫や売掛金というものについて、それに和解的な処理あるいは担保変換をすると考えても、それに要する時間が掛かるし、それから、デイ1つまり初日から担保権者の同意がない限り現存する在庫を売ったり売掛金を回収できなくなってしまうということであるとすると、それはそれで両者にとってリスクがある、担保権者にとっても、それから管財人側にとってもリスクがあるということになります。ですので、これを回避するという観点から、もう開始時には固定しないのだという扱いが実務上とられていると理解しております。そこではもちろん、回収金を利用してよいかどうかとか、回収金について別段保管をしておくべきかどうかとか、担保変換をするかしないかというようなことについて、様々な議論と実例がございます。しかし、いずれにしても重要なことは、担保目的財産の評価あるいはその取扱いということについては、担保の実態、いかなる債権譲渡担保であるかということが大事であるというのが私の考え方でございます。   4ページに移りますが、そこで、大きく分ければ「点の担保」と「線の担保」というのがあるのだということを申し上げたいということでありまして、点の担保については、要するに一定の時点における担保価値を把握しているということであるし、それは設定者も担保権者もそのつもりであるというわけですから、この場合には、たとえば民事再生であれば、開始時で合意できるなら開始時で合意すればよいし、担保実行時に存在する残高をもとに評価して合意するということもあるでしょう。私が民事再生手続中に集合動産譲渡担保の実行をした事例でも、担保実行時の残高をもとに評価をし、合意をしております。ですから、開始時というのが絶対ではないということは、点の担保であっても、申し上げたいということでございます。   それから、線の担保、プロジェクトファイナンスが典型と申し上げましたけれども、このプロジェクトファイナンスについては、事業再生の要請をできるだけ確保しながらも、更生手続開始後に発生する将来債権についてもきちんと評価をする、つまり、これをゼロ評価したりはしないというのが実務であると理解をしております。ここでわざわざ、資料4ページの(注9)に、実際のプロジェクトファイナンスの設定者の会社更生事件を踏まえた、極めて多くの裁判官の執筆文献を挙げているのは、このたびの立法の過程において、これらが踏まえられた議論がなされていないと、プロジェクトファイナンスをはじめとする線の担保にとって大きな支障になるということから、あえて記載をしているというものでございます。詳細は(注9)のとおりであり触れませんが、結局、更生手続開始後の将来債権についても、少なくとも割引現在価値を評価に加えるということでございます。   基本的な視点というところ、4ページの(2)ですが、このような実態に即した対応というものは、私は基本的には合理的だろうと。個別具体的な事案の実情に即して事業再生と担保金融の柔軟な調整を可能とする仕組みが私は重要であって、しかも、線の担保と書いた、累積型の担保金融とも一般にいわれるものですが、これはどういう場合に使われるかというと、再生可能エネルギーのための発電所を造りましょうとか、あるいはデータセンターとかいろいろありますけれども、そういったものに使われる場合が多く、そうすると、これは結局、今、SDGs、ESGの潮流の中で毎日のようにいわれるサスティナビリティーの中で、極めて重要な役割を果たしている担保形態でございます。   これをもし開始時固定だということにしてしまうと、どうなるでしょうか。例えば、100の債権が1か月にできますと、1年間だと1,200ですと。1,200が10年だと1万2,000ですか、20年だと2万4,000ですか、このような将来価値も含めた担保価値の設定が掛け算上はできるわけです。そのような担保価値の設定ができるわけですが、それに担保掛け目を乗じて、実際に、例えば1万や2万の貸付が行われるわけです。それが、例えばプロジェクトファイナンスをやってから数か月後に倒産しましたとか、1年後に倒産しましたとかという場合に、その倒産手続の開始時に実在している債権は、先ほど申し上げた、たかだか1か月分、100ですとか、2か月分、200にとどまるわけです。そうすると、倒産手続開始時の残高に固定されるとすると、その100とか200だけしか担保価値は認められない、あとは無担保一般債権として扱いますと、こういう結論になりますが、それは、私は適切でないと考えます。なぜならば、それでは被担保債権として融資をする金額との差、担保権者が本来把握していた担保価値との差が余りにも開きすぎるということで、かえって一般債権者に棚ぼたの利益をもたらすということになってしまうと。したがって、要は、実態に即した取扱いができるようにする仕組みを立法でも反映させておくべきだということになります。   5ページですが、ここで私が申し上げたいことは、原則と例外というか、点の担保から考える、【案19.1.4】というのはそうですが、点の担保を原則として考えるのであれば、先ほどのようなプロジェクトファイナンスのためのような例外の調整弁が必要であろうと。あるいは逆に、【案19.1.1】のように、線の担保を原則として出発するのであれば、点の担保のための例外、調整弁が必要であろうと、こういうことであります。   そこで、中間試案を拝見いたしますと、四つの案が併記されておるわけですけれども、線の担保を原則とする場合には、点の担保のための例外、調整弁は設けられている。すなわち、【案19.1.1】については、その調整弁として、第20の提案が設けられています。これに対して、【案19.1.2】から【案19.1.4】については、これは基本的には点の担保にしか使えないだろうという感じがしますけれども、線の担保の場合の調整弁がなく、線の担保の場合にどうしていくのかということが明らかでないと。線の担保の実務上の重要性に照らしますと、【案19.1.2】から【案19.1.4】というのは、これは線の担保にはワークしないだろうと、このままにしておくとワークしないだろうと考えるわけです。   しかも、それぞれの課題ということについてですけれども、【案19.1.1】から【案19.1.4】のそれぞれの民事再生あるいは会社更生、破産、特別清算、それぞれの帰結はどうなるのかと。例えば、【案19.1.3】というのは会社更生ではあり得ないだろうと、つまり、開始後の担保実行ということは、極めて例外的には条文があるのですけれども、それは事業用財産については実務上はあり得ないだろうと思います。これら四つの案の、それぞれの倒産手続における帰結がどうなるのか、あるいは現行実務との整合性、つまり、点の担保と線の担保がいずれもあるのだということとの整合性をどう考えるのか。あるいは、判例理論として平成19年の最高裁判例があるわけですけれども、これは【案19.1.1】に親和的だといえると思いますし、それを前提にプロジェクトファイナンスの仕組みも行われています。先ほどの(注9)で挙げた会社更生事件というのは、実はこれは平成19年最判よりも前、平成15年の会社更生事件でありまして、つまり、平成19年最判が起きる前からこのようなプロジェクトファイナンス、つまり、点ではない線の担保というものは行われているわけなのですけれども、それらを含む実務との整合性という問題が出てくると。   それから、経済的実態に適合した調整の必要性ということでいえば、先ほど来、申し上げたことと重複するわけですが、実に様々な形態があります。ニューマネーなくして、保全強化型で既存担保権者が既存債権を被担保債権として担保設定を受けるという、ニューマネーなし型というか保全強化型というものが一方ではあります。ただ、そのような場合も、無担保のままだと再生を支援できないから、支援するために、支えてあげるために、担保の設定を受ければ支えてあげるということを行うことも多いわけなので、これは一概に否定されるものではありません。もちろん偏頗行為否認の対象になるような場合は別ですけれども、そのような保全強化型というものが一方にあります。   それから、先ほどのリレーションシップ型というか、日本的ABLもあれば、さらに、ボローイング・ベース型のアセット・ベースト・レンディングもあるし、それから、短い線としての診療報酬債権の数か月分の担保価値をきちんと見たものがあって、最後に、長い線の担保としてのプロジェクトファイナンスがあるというわけで、一言で「担保」といっても、こういった様々なものがあるのだということを前提に考えないといけないだろうと。   それから、円滑な事業再生の要請というところでいえば、先ほど申し上げた、管財人が最初にデイ1からきちんと目的物を安心して売れるということは重要な仕組みであろうと思うわけです。  さらに改正後の実務も考えてみますと、担保権実行の禁止命令というものが導入されるということで、ある意味で、これは民事再生が部分的に会社更生化される、あるいは会社更生に接近するということにつながるわけですが、こういった実務がとられた場合に、例えば、申立ての時点で禁止命令が発令された後、開始決定までの間に担保目的財産が減った場合にどうなるのかということとの関係も考えなければならないと。   申立て時に100あった、担保権実行禁止の時点で100あったものが、開始決定時に80に減るということは考えられるわけです。そのときに、例えば【案19.1.4】のことを考えると、100のものが80になってしまったということになるとすると、【案19.1.4】を採ると、その80しか評価できないということになりますね。   それから、例えば担保価値維持義務とか補充義務との関係も考えなければならないと。担保価値維持義務とか補充義務が倒産手続開始後は全てコベナンツであって、管財人や保全管理人や再生債務者にその効力を主張できないのだというふうな考え方がとられますと、また、そもそもそれが実行禁止の後もそうなのだということになるとしますと、実行禁止後に、開始決定までの間に、担保価値維持義務も補充義務も負わない人たちによって担保が管理され、それが減り続けるということもリスクとしては考えておかなければならなくなる。   さらに、そういったことが不合理であると考えた場合に、公正な結論をとろうとして、100が80に減った場合に、開始時において80で評価するのはおかしいから、100が実行禁止時にあったのなら、少なくとも100を担保評価として認めてあげようと考えたときに、【案19.1.4】では、これはできないわけですね。なぜかというと、法律で開始時に実在した残高にしか及ばないとしている以上は、80なら80が開始時にあったのなら、81にすることすらできないはずです。これはなぜかというと、それをしてしまったら、公平誠実義務や善管注意義務に反する、一般債権者を害することだということになり、そうした義務に違反してしまうということになる。しかし、そんな窮屈なことでは妥当な結論は得られないだろうというのが私の懸念するところでございます。   更に言えば、【案19.1.2】というのは、担保権が及んでいるのに優先弁済権が及んでいないということは、担保権の本質が優先弁済権であることに照らすと、これは理解がし難いことでありますし、更に言うと、開始決定後、事業再生としての民事再生や会社更生手続が開始されたとしても、その後に破産をするというリスクを考えなければならない。そのような牽連破産時に別除権となるべき範囲がどうなるのかということが、【案19.1.2】は分からないわけです。   様々な担保形態があるわけでございますから、【案19.1.1】がよく当てはまるものもあれば、【案19.1.3】とか【案19.1.4】が当てはまるものもあるわけなので、そのような様々なものに対応できるような仕組みをきちんと入れておいていただきたいと。つまり、かちっと決めすぎてしまうと、遊びがないと、少し困ってしまうと。かちっと決めないことに価値があるというか、そんな感じがしております。   ですので、6ページのところに書いたのは、詳細を読み上げられませんけれども、私が考える妥当な結論というのは、ここに記載をしたとおりでございます。要するに、事業再生を確保しながら、点には点を、線には線の担保価値を認めるということでありまして、これこそが担保への信頼を確保することになり、あるいは、法的整理に行ってもきちんと裁判所がそのような観点から評価をしてくれるのだということであれば、法的整理が信頼を確保できるわけです。逆に言えば、裁判所に行っても担保権がその実質に見合った保護をされないという制度になってしまっては、法的整理も信頼を失い、担保制度も信頼を失ってしまうということになります。ですから、担保権者に不当な利益を与えることもならないし、それから、担保権者に不当な損害を与えてまで再建することも許されないということだと思っております。つまり、担保権者の犠牲の下で一般債権者が棚ぼたの利益を受けるということは、倒産の理念である衡平公正の概念から、許容されないだろうということになります。ですから、点の担保、線の担保のいずれを原則的な出発点としたとしても、衡平公正な結論を得られるように、このような例外規定、調整弁をきちんと設けておいていただきたいというのが、私が今日、申し上げたいことでございます。   6ページの真ん中より下の、「このような調整が生ずる場面は」というところですが、【案19.1.1】から出発した場合の調整弁としては、第20で提案されているもののほかに、(注14)の金融法学会の発表原稿、これは「動産・債権担保立法の座標軸」というものですが、そこで私が述べたものがあります。しかし、それにこだわるわけではなく、先ほどの日本型ABLなど、特に会社更生では【案19.1.4】がよく当てはまる融資形態があるわけですから、そういった点の担保を原則として出発をするということにした場合であっても、線の担保のために、その例外的な調整弁を設けておくということが大事だろうと考えるわけです。したがって、【案19.1.4】を原則とする場合においても、倒産法の趣旨、目的に反しないという場合には、裁判所が必ずチェックをするということを前提に、担保価値の評価を加えることができるというふうにしておくことが考えられるのではないかということでございます。   このような仕組みにするということは、予見可能性を犠牲にするということにはなるかもしれませんが、現在の実務は、実際のところ、これでやってきているわけであります。このような予見可能性、要するに、はっきり書いた方が、つまり、調整弁なんかを設けずにはっきり書いた方が分かりやすいのではないかというふうな考え方は、もちろんあるとは思います。しかしながら、それを犠牲にしてでも、現在の実務と同様に、結論の妥当性を維持できるような仕組みを設けておくべきではないかと。今後どのようなイノベーティブな担保形態が出てくるかも分からないわけで、そのような取引にも対応できるようにするためには、一定の遊びを設けておくということ、それが大事なのではないかと思っているということであります。   6ページの「その他」のところで書きましたのは、例えば診療報酬債権について、将来債権に及ばないとすることとした場合に、民事執行法151条の2第2項との関係はどう考えていくべきなのかという問題です。これは差押え、すなわち個別執行の場面の話ですから、倒産手続が包括差押えとみなされるとしても、倒産の観点からの別の制限が必要なのだという説明はできるかもしれませんが、これは一つ、考えなければいけないことではないかということです。  また、あるいは、7ページのチャプター11との関係が、よく【案19.1.4】との関係で、アメリカでは【案19.1.4】なのだぞと強調されることがあるわけですけれども、そんなことはないだろうというのが私の考えで、少なくともその違いを考えなければならないということであります。まず、アメリカの連邦倒産法では、プロシーズへの広範な効力を基本的に認めている、これは例外的に認めているということで、同じ条文の中で規定されているわけですが、そういうことですとか、あるいは、先ほど来、堀内様が御説明されているとおり、アデクエート・プロテクションですね、適切な保護、アデクエートという言葉は十分なという訳語が当てられることもございます、ですので、あえて「適切十分な」と書いておりますが、アメリカではこのような担保権の適切十分な保護が必要だということになっており、しかも、適切十分な保護が欠けるような場合には、リリーフ・フロム・ステイ、すなわち担保権のオートマチック・ステイが解除されるというふうなことになっているわけです。日本でもこれと同じような運用はできるかもしれません。きちんと保護されていなければ、つまり、担保権者に不当な損害があるのであれば、中止命令や禁止命令を一旦出したとしてもアデクエートでないから取り消すのだというやり方があるかもしれませんが、いずれにしても、【案19.1.4】とチャプター11とが単純に同じだという議論には、くみし得ないということでございます。   時間が押しておりますので、すみません、Spansion JAPANの件は一言だけ申し上げますと、損害賠償請求権と書いておりますが、これはSpansion JAPANがSpansion LLCという親会社に対して持っていた売買代金債権というものがあるわけです。親会社のSpansion LLCというのはチャプター11、子会社のSpansion JAPANというのは会社更生になったのですが、その売買代金債権の大もととなる売買契約が、親会社であるアメリカの会社がチャプター11の中で双方未履行契約として解除するというか、リジェクトするということをした場合に、解除された側であるSpansion JAPANが持つ損害賠償請求権に対して、もとの売買代金債権に対して設定されていた担保権の効力が及ぶ、つまり、その大もとの売買契約が解除された場合の損害賠償請求権にも及ぶとされたものです。これはカリフォルニア州法上の担保権で、日本の会社更生手続において、カリフォルニア州法上の担保権の効力やその評価が問題となったものです。これを日本法としての問題点に置き換えてみますと、例えば、損害賠償請求権というものの履行利益を考えた場合に、その履行利益というのは将来分の履行も含んだ概念だろうと思うのです。そうすると、一本の損害賠償請求権であっても、それが実は将来分の履行利益を含むという場合があり得るということでございまして、それとの関係も一つ、考えなければいけないのではないかということであります。ここでは、将来分まで含まれた保護がされた事例であるということを一言御紹介しておきたいと思います。   最後に、事業担保権についてですが、中間試案の第23から第26というところで事業担保権の構想が書かれており、実際に金融庁様におかれて事業成長担保権として立案される運びなのだろうと思いますけれども、ここで申し上げたいことは、事業維持機能の重要性ということでございます。集合動産にだけ譲渡担保が設定されたという事案で、私は担保実行したことがあるわけなのですが、それはなぜそうなったかというと、当時、譲渡禁止特約についての、平成29年の改正前でしたから、担保に取得することがそもそも難しいという中で、動産だけを担保に取るということが行われた。そうすると何が起きるかというと、動産しか担保に取っていないために、動産が減っていくと、もうそれで非常に焦るのですね。しかも、この会社は民事再生の申立てをしているのですが、民事再生の申立ての前に、お金が必要だったのだろうと思いますけれども、3割程度の在庫を無権限で売却をしてしまって、通常の営業の範囲外の売却を申立て直前に行っていた。しかし、その責任を問いたくても、申立て前の原因に基づく損害賠償債権になってしまうわけですね。そのようなことでありまして、結局のところ動産しか担保に取っていないということで焦る、債権も担保に取れていれば、そのような担保実行はしなくて済んだのではないかと思っているわけです。そうすると、要するに、担保を全体について持つということは、実は逆説的に保護になることがあるのだということを申し上げたいということであります。   そのようなことから、もちろん全資産担保ということについては、一般債権者に残されるものがないのではないかということも含めて、私はこの法制審の前の、担保法制研究会のときに、金融庁様の御提案に対しては、かなりいろいろな問題提起をさせていただいたわけなのですけれども、現在提案されている内容というのは、それらを踏まえて、強い効力を持つ担保でありながら、しかし優先する債権者に対して優先弁済を随時行うというようなことも含めて、事業再生手続としても機能し得るようなものとして立案をされようとしているということであります。ですので、これはそのような制度として、むしろ積極的に、事業再生のために位置付けていくということがあり得るのではないかということを最後に申し上げたいと思います。   「おわりに」のところは割愛をさせていただきますが、いずれにしても、平時の資金調達、有事の事業再生、いずれにも妥当な結論を得られるような、そういう舵取りを、今後、担保法制の立案にあたって、ぜひ、お運びいただければと思っているということを申し上げたいと思います。以上です、すみません。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、粟田口さんの御意見に対する御質問等があれば、お願いいたします。 ○井上委員 井上です。粟田口先生、どうもありがとうございます。1点だけお考えを確認させていただきたいところがあります。   6ページに、ほかのところでもいろいろ御説明いただいたのですけれども、点、線のいずれを原則として立案する場合においても、妥当な結論を導くための例外規定、調整弁を設けることが必要不可欠であるという記載がありますが、これは当事者が設定契約において選べるというイメージなのでしょうか。それとも、実際上の融資額から見て、この額で融資したということは残高ベースで与信をしたのだろうと客観的に判断して、ではこの担保は点の担保だという形で認定されるイメージなのでしょうか。別の言い方をすれば、融資額自体は結構少なく、担保目的財産の残高程度しか融資されないのだけれども、担保権者の交渉力が強いなどの理由で、設定契約上は線の担保という選択ができるというイメージなのでしょうか。   これが主たる御質問で、それに関連して、同じページの下の方に、【案19.1.4】から出発した場合の例外的な調整弁の例として、先ほど、正確には記憶していないのですが、倒産法の趣旨目的に反しない場合には線の効力を認める形での調整弁が必要ではないかという御説明だったと思うのですけれども、そこでおっしゃる、【案19.1.4】から出発しながらも、倒産法の趣旨目的に反しない場合としては、どういう場合が考えられるでしょうか。これについては、先ほどに関わりますけれども、例えば、融資額が担保目的財産の残高を十分に超えて融資がなされていたという客観的な認定によって、元々そういう融資がなされていたのだから、担保としてはそこは線として認めるということなのか、それとも、当事者がどういう契約を結んだかが重要なのか、あるいはそうではなくて、むしろ倒産手続開始時の状況、あるいはその資金繰りといった再生可能性などの観点から認定されるのか、この点についてお考えをお伺いしたいと思います。 ○粟田口参考人 ありがとうございます。この点は、井上先生がおっしゃられた中では、当事者が事前に決められるとか、そのときに決められるということよりも、客観的な認定によるというイメージで考えております。したがって、【案19.1.4】を原則的な規律として、例えば倒産手続開始時の残高が担保権が及ぶ限界であるというふうなことを原則的な規定として、本文として置いた場合においても、ただし書において、しかしそうすべきでない場合について規定を置く。つまり、客観的にみて、点の担保であると性質決定されるものについてはその本文で行けばよろしいわけですが、しかし、プロジェクトファイナンスのような場合、そのような認定はプロジェクトファイナンスの場合には容易にできると思いますが、そのような場合には、その例外的な規律として、これは先ほどの(注9)のような取扱いができるようにするということを意図しております。   ただ、その中間的な形態や、あるいは妥当な結論を導くために管財人が、この【案19.1.4】とは違う合意をしたい、あるいは裁判所もそうしたいというふうなことというのは、いろいろな事情によって考えられるだろうと思っております。6ページに書いてある、例えばと書いた事象というのは、いずれもそのような事象として考えておるところでございますが、こういった場合については、衡平公正の観点から修正を図れるような仕組みにすることが考えられるのではないかと。   以上とは逆に、【案19.1.1】を原則的な規律として出発した場合には、むしろ線の担保によく当てはまるケースが多くなるわけですけれども、しかし、それだと点の担保に対して見ると余りにも担保権者の保護が強すぎるということになってしまうので、点の担保には、それはそうではないのだというようなことを調整弁として対処しておく必要があるというふうな趣旨でございます。  結局、契約文言だけではなく総合的な事情、つまり、先ほど2ページに書いたような総合的な事情、実質的把握の重要性と、いかなる経済的実態の担保かということを認定していく中で、担保価値の調整が適切だということになれば、裁判所がそれを判断する、そして、裁判所が自ら判断することがなかなか難しいということであれば、監督委員や調査委員の意見を聴いて、それを踏まえて判断をするということができるような仕組みというのが最低限、置かれていなければならない。【案19.1.4】などの開始時固定を原則とするような仕組みで押し通すことでは、なかなか、世の中的にワークしなくなってしまうだろうというふうなことでございます。   すみません、お答えになっているかどうか分かりませんが、以上です。 ○井上委員 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 粟田口先生、ありがとうございました。今の点についてお伺いしたいのと、もう一つ、2点お伺いしたことがあります。一つは、今回のお話は再建型の手続により適合的にも思われるのですけれども、破産手続というか、清算か再建かという種類を問わず、規律としては一律ということでよろしいのかというのが一つです。もう一つは、今問題になりました、いずれの考え方を採るにしても、違うタイプのものを考えたときの調整というか例外というか、そういう規律を設ける必要があるということで、具体的な在り方についても例を出していただいたと思います。例えば、【案19.1.4】を原則としたときにも一定の別扱いということなのですが、ただ、他方でデイ1から財産が使えるようにする必要がある、あるいは、一定の協定などによると、そのための時間ロスということもおよそ無視できないということからすると、お考えとしては、【案19.1.4】を原則とするのではその問題がなお残るので、これはなかなか採れないということになりそうにも伺ったのですが、そうではなくて、このようなやり方も許容範囲ということで出していただいたというのでよろしいのでしょうか。何か誤解をしておりましたら、その点も御指摘を頂ければと思います。 ○粟田口参考人 ありがとうございます。不明確な点を御指摘いただきまして、ありがとうございます。   まず第1点の、再建型だけなのかということにつきましては、原則は再建型の手続、つまり民事再生や会社更生手続という場合に典型なのだろうとは思いますけれども、なぜ破産手続にも書いたかということについては、例えば牽連破産手続において保護を図る必要があるのではないかという点を考えております。  6ページの、「このような調整が」というところの一つ上の「・」のところですが、再生手続や更生手続開始後に破産をしてしまうという場合があるわけです。これは、例えば、民事再生の申立て時に担保が100ありました、そして、中止命令などでその実行を止めていました。開始でもいいのですね、開始時に100ありました、開始時に100あったものが、しかし破産手続においては70になってしまいましたという場合があると思います。民事再生で担保権実行が中止されている間に破産をしてしまうという、余りない例ではあるにせよ、そのような事案を考えた場合に、民事再生手続において、開始時に100あったものが、しかし破産手続で70になった場合には、破産手続開始時には70でしか評価できない、別除権としての破産手続開始時の残高は70になるのだろうというわけです。けれども、それだと、担保権者というのは、申立て時に100あった、あるいは開始時に100あったということなのに、それが止められたまま、実行が禁じられたまま、手足をもがれたまま付き合ってきたら、それが70になってしまった、ということについて、どうその担保権者は納得ができるのかという問題が出てくるのではないかと。そうすると、破産手続であっても、そこになお色を付けてあげるというか、30までは補って評価してあげるということも事案によってはできるようにしておく、そういったことができないかどうかという問題が一つあると思うのです。   また、民事再生のときに、回収金のことを先ほど申し上げましたけれども、民事再生のときに、裁判所によっては、債権譲渡担保の中止をした上で、その取立てをした回収金については、特別な口座に別途保管しましょうということが行われております。そのような場合に、しかしその口座というのは、破産した場合に、信託が設定されていたものだと解釈できない限りは、預金担保になっているわけでもなく、結局一般財団の中にコミングルするような性質のものなのだと。そうだとすると、そこで、例えば30なら30、取り置いた分があるとしても、70が破産手続開始決定時の残高だとすると、【案19.1.4】では、その30を70に加えてあげて100を満たすということすらできないではないかということです。そのような問題点を持っているのではないかということで、破産手続の開始というものも、対象に含めたらどうかということにしているのが、例えば一つです。   それから、もう一つは、私なども幾つか経験がありますけれども、破産手続の中で事業譲渡をするということが行われることがあり、そのような場合に、事業再生手続の一環として行われるという面があるので、そのような場合、通常は金額も低いですから、このような場面、しかも点の担保の場合が多いですから、そのような破産手続の中の事業譲渡で、破産法1条の観点から担保価値を見ていくというようなことは、多くはないだろうとは思いますけれども、そのようなことも念頭にはあって、破産手続を含めておくことにしてはどうかということでございます。   それから、2点目の御質問については、これはどういう御質問だったか、あれでしたけれども。すみません、どういうことでしたか、失礼しました。 ○沖野委員 私の方こそ不明確で申し訳ございません。最初に問題として指摘いただいたところからすると、粟田口先生のお考えを詰めていくと、四つの選択肢に、プラス何であれ調整を付ける形で、とにかく類型化をしていって考える必要があるのではないかというお考えに必ずしもならないのではないかというような気がいたしまして、特に【案19.1.4】から出発しますと、最初おっしゃった、一旦はある程度流れを止める合意なり、裁判所の許可なりのための期間がどうしても出てくるとすると、これはなかなか望ましくないという評価になりそうなのだけれども、しかし考え方としてはこういうこともあり得るということは出していただいているとすると、この程度あればミティゲートできるというか、そういう理解でよろしいのかというつもりでした。すみません。 ○粟田口参考人 失礼しました。申し訳ありませんでした、一番最初のご質問に回答している間に頭がこんがらがってしまって。   【案19.1.4】というのは、仮にということで私は申し上げたもので、元々私は【案19.1.4】を支持しているわけではないのですけれども、【案19.1.4】というのは、会社更生のことを考えると、更生手続開始時の時価でもって更生担保権を評価するということになっておるわけですので、担保権が将来債権にまで及び続けるかどうかという問題と、担保評価はいつの時点で評価すべきかという問題とは、例えば会社更生を考えると、切り分けることは可能なのだろうと。   すなわち、例えば将来債権の譲渡担保について、線の担保であれば、会社更生手続開始後にも及ぶ。開始決定後にも担保権の効力が及んだ上で、開始決定時の時価として評価するときに、将来債権分も含めた形で、開始決定時で割引現在価値を見るということができるということになるわけで、開始時に固定をさせるかどうかという問題、開始時に処分権限を失わせたりするかどうかという問題と、評価の問題は切り分けることができるのではないか、とも思います。   ただ、【案19.1.4】の提案内容というのは、担保権の効力は開始後には及ばないということをいっているので、少しそこは私と前提が違うかもしれません。私がご説明した際、【案19.1.4】から出発した場合にも、と申し上げましたが、開始時に存在をした残高で評価するということを原則的な規律とした場合にも、と言い換えた方がよかったかもしれません。その場合であっても開始後に発生した分を含めて評価することができる場合があるよということを認めていただきたいということで、【案19.1.4】を原則とした場合にもと書いている部分は、開始時残高で評価することを原則としても、と言い換えた方がよかったかもしれません、すみません。少し言い換えて回答して申し訳ありませんけれども、そのような趣旨で御理解いただければと思います。失礼しました。 ○沖野委員 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。有益なプレゼンを頂きまして、いろいろな、まだまだお伺いしたいことがあろうかと思うのですけれども、通常の時刻を30分以上既に過ぎておりますので、もしよろしければ、この辺りにさせていただければと思います。   粟田口さんにおかれましては大変お忙しい中、当部会の調査審議に御協力いただきまして誠にありがとうございました。粟田口さんは日本を代表する実務家の一人でございますので、今後もいろいろ御教示を頂くことがあろうかと思いますが、よろしくお願いいたします。   それでは、以上をもちまして本日の参考人の方々からのお話を伺うということは全て終了となります。   それでは、次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日もありがとうございました。次回は、令和5年4月25日火曜日午後1時30分から午後5時30分まで、場所は法務省地下1階大会議室でございます。   次回は、実質的な審議を再開したいと思っております。どの分野を扱うかということにつきましては事務当局で検討して、追ってお知らせいたします。また、パブリックコメントが終了しておりますので、全部が間に合うかどうか分かりませんけれども、その結果の概要についても、次回の会議の場において御報告させていただくことになろうかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   本日は山川さん、徳永さん、松尾さん、堀口さん、粟田口さんという5人の方にいろいろな御意見を伺うことができまして、大変有益な会合であったと思います。5人の方々は本当にお忙しい中、どうも本当にありがとうございました。   それでは、法制審議会担保法制部会の第31回会議をこれで閉会とさせていただきます。   どうもありがとうございました。 −了−