法制審議会 担保法制部会 第36回会議 議事録 第1 日 時  令和5年7月25日(火) 自 午後1時30分                      至 午後6時02分 第2 場 所  法務省20階・第1会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(4) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第36回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は間原さん、衣斐さんが欠席と伺っております。また、加藤さんが途中退席の予定と伺っております。   さらに、前回の部会の後に委員等の交代がございましたので、報告いたします。金子さんが退任されまして、新たに竹内さんが就任されました。また、尾アさんが退任され、新たに若原さんが就任されました。竹内さんは都合が許せば会議に途中参加する旨を伺っております。   若原さんはオンラインで御出席になってらっしゃいますので、簡単な自己紹介をお願いいたします。 (委員等の自己紹介のため省略) ○道垣内部会長 それでは、まず配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。今回新たにお送りした事務当局作成の資料はございません。前回お配りした部会資料32「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(4)」を使用いたします。また、大澤委員から資料の提出を頂きましたので、これを委員等提供資料36−1としております。これについては、後ほど大澤委員から御説明を頂く予定です。 ○道垣内部会長 それでは、審議に入りたいと思います。   前回は部会資料32の「第5 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力」まで議論を致しました。まず、前回の論点ではございますが、前回の論点につきまして大澤さんから委員等提出資料36−1というのが提出されておりますので、大澤さんから資料の説明をお願いいたします。 ○大澤委員 委員の大澤でございます。お手元の資料を御覧ください。前回議論がなされたところでございますので、長々と申し上げるつもりはございません。ただ、この案の第5のところにつきましては、なかなか難しい問題ということで説が分かれておりまして、また、いろいろな委員、幹事の方たちから様々な御意見と御見解を前回伺いまして、それを踏まえてもう一度考えてみて、資料として出させていただいたものでございます。御覧いただければと思いますが、絞って中間試案の【案19.1.2】と【案19.1.3】についての比較ということを考えました。前回もどちらかというと【案19.1.2】と【案19.1.3】についての考えということが多かったように思います。   結論から申し上げますと、【案19.1.2】というものがバランスがとれた案ではないかと個人的には考えておるところでございます。1ページ目の第1の1のところは、元々議論が出ていたところですので、改めて読み上げることはいたしません。ただ、やはり開始決定の時点で評価額の限度が決まるという形での設定があるということは、実務上は極めて、倒産手続における再生債務者の、特に民事再生手続における再生債務者の在り方という意味では、合理的だと考えますし、また、前回少し申し上げましたが、開始決定後、再生債務者の事業というのはシュリンクしていくのが通例ですので、開始決定時というものの評価の限度ということであれば、担保権者とのバランスもとれるのではないかと考えた次第です。   ただ、少し1ページ目から2ページ目辺りに書きましたとおり、私の今の発言は別除権協定が前提になった発言でございますけれども、では別除権協定が締結できなかったときにどうするのというか、特に価額の評価のところで争いが起きたときにどうするのというところが、やはり【案19.1.2】では難しいところであろうとも思っております。その点に関しては、平時の実行手続においても同じように、処分清算、帰属清算においても何らか評価というものが入ってくるわけですから、同じような形で評価というものは考えていってよいのではないかと。実際に評価が争いが起きたときに、では簡易な何らか手続を設けるのかと言われますと、平時においても特段というのもありますけれども、最終的には訴訟等で解決をしていけばよいのであって、特段、評価に関する簡易な手続までは要らないかなと考えた次第です。   一方で【案19.1.3】につきましては、こちらは担保権者の実行時期選択権というものの重視かなとも考えておりますけれども、開始決定後に関して言えば、やはり【案19.1.1】で問題となりましたようなコストの問題というのがまず、この【案19.1.3】でも起きるようにも思いました。加えて、実行時期の選択権というところにつきましても、既存の倒産法制等を拝見しても、絶対的にそれが尊重されるものでもないというデザインがされているようにも思いましたので、【案19.1.3】というよりは【案19.1.2】という方がバランスがとれた案ではないかと考えた次第です。そういった観点でこの資料を提出させていただきました。   以上でございます。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。今発言されたい方もいらっしゃるかもしれませんが、一応この論点は前回の論点であり、今後の回にこの論点を取り上げる際に、この大澤さんの資料も含めて、再度議論をさせていただければと思っております。   それでは、本日は部会資料32の「第6 否認」について議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○淺野関係官 それでは、「第6 否認」について御説明いたします。   中間試案では、(注)として、偏頗行為否認の対象とするのではなく、実体法上担保権の効力が及ばないこととすべきという考え方について記載をしていましたが、実体法上効力が及ばないこととすると、平時を含め、否認権等の行使がない場合であっても、一定の加入があった場合に担保権の効力が及ばないということとなり、法的安定性を害するように思われます。そこで、この1では、偏頗行為否認の対象とする形での御提案としております。  否認の対象としては、通常の事業の範囲を超える担保権の目的への加入及び専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた担保権の目的への加入としています。このうち@については、設定者の処分権限等に関する規律を踏まえて検討が必要であり、ペンディングという趣旨で【P】を付しています。また、Aについては、中間試案において、設定者の主観的要件に加えて担保権者の主観的事情を要件とすべきであるという考え方を注記していました。Aを@と別個に規定する必要性があるとすれば、通常の事業の範囲を超えないが専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた加入を否認するためであると考えられますが、その場合に、設定者の主観のみをもって否認の対象とすることが適当なのかという点が問題となります。この観点から、Aについても【P】を付しております。   本文2では、一般の偏頗行為否認の要件として、破産者の支払不能等を債権者が知っていたことが要件とされていることを踏まえ、動産や債権の加入等を偏頗行為否認の対象とする場合に、このような要件を課すかどうかを問題提起しています。この点について、加入行為は必ずしも担保権者の関与を要するものではなく、否認対象を悪質な加入行為に限定すれば、取引の安全を図る必要はなく、債権者の主観的要件を課す必要はないという考え方もありますが、他方で、担保の供与の否認一般の要件としてそのような要件が必要とされていることとの均衡を欠くようにも思われますし、担保権者においてその時々の加入による担保目的財産の状況を踏まえて担保管理を行うものと考えられることからすれば、担保権者の保護を図る必要性が低いとは必ずしもいえないとも思われるところです。   さらに、本文1のAの「専ら担保権者に債権を回収させる目的」を有していたことは設定者の主観的事情であり、担保権者が当然に認識しているとは限らないところ、取引の安定性の確保の観点から、問題となる行為がされた時点でそれが否認の対象であることを担保権者が認識することができるようにすべきだと考えると、この主観的事情についても担保権者が認識していることを要件とすることが考えられます。他方で、担保権者の認識を要件としますと、否認の対象が限定されすぎてしまうようにも思われるところです。   本文3は、否認により担保権が及ばないこととなる動産の特定の方法について問題提起しています。否認がされた後、否認対象である個別動産の特定ができなければ、担保権の効力が及ぶ範囲が不明確となってしまうため、検討が必要だと考えられます。また、否認対象の加入後に更に加入や処分があった場合、否認対象をどのように考えるかも問題となるところです。   否認について規定を設ける場合には、詐害行為取消しの範囲についても否認の範囲との整合性を考慮する必要があると考えられます。偏頗行為について詐害行為取消請求を行うためには、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図を持って行われたものであること(通謀要件)が必要とされています。そうであれば、それに加えて本文1の@やAの要件を問題とする必要はないと考えられることから、本文4では、個別の動産や債権の担保権の目的の範囲への加入を、民法第424条の3第1項の柱書に規定する担保の供与に含むこととすることを提案しております。   以上について御議論いただければと存じます。私からの御説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。 ○松下委員 松下です。まず、1Aについてで、現在【P】が付いていますけれども、このような形で規定を設けるのでよろしいのではないかと思います。つまり、専ら担保権者に債権を回収させる目的で加入行為をしたと、しかし、それがたまたま通常の事業の範囲の未満であったとしても、それはやはり債権者平等を害する不当な担保設定であると評価すべきであると考えます。参考とした破産法の71条1項2号も、あちらでは@がないという違いはありますけれども、通常の事業の範囲内であっても、担保権者の回収目的があれば相殺禁止になるというのとパラレルに考えるべきではないかと思います。   それから、本文の2についてで、設定者の支払不能に関する担保権者の主観的要件の要否の問題ですけれども、資料の20ページの10行目以下にあるとおり、一般的に担保の供与については否認の要件として債権者の支払不能についての悪意が必要とされるので、ここだけ外すというのは難しいのではないかと思います。確かに加入行為は担保権者の関与がなくてもできるものでありますが、受益者の関与がなくてもできる偏頗行為というのは、例えば振込による弁済とか、ほかにも例があって、ここだけの問題ではないですし、そこでもやはり、支払不能であることを債権者が知っていたときに振込で弁済を受ければ、やはりそれは否認の対象になるのではないかと思います。   それから、担保権者に債権を回収させる目的というのを担保権者が知っている必要があるかということですけれども、これは資料の同じく20ページの26行目以下にあるとおり、担保権者が知らなくても、結果的に言わば得をするのは同じなので、そういう不当な利得に対して是正を図るのが偏頗行為否認ですから、設定者が目的を持っていることを担保権者が認識していることまでは要らないのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございませんでしょうか。 ○山本委員 基本的には今の松下委員の御意見とほぼ同じです。少し違うのは、1のところなのですけれども、私もAがあっていいのではないかと思っているのですが、というか、Aがやはり基本なのではないかと私は思っています。つまり、このような否認の規定を作るのは、本来担保の供与が否認の対象になっている、それは法律行為であって、契約等で担保を提供すると、これはもう当然、否認の対象になるわけですが、本件は事実行為で事実上担保を供与できるという、この担保の特性に鑑みて、特別に否認の類型を作るということですから、これは担保の供与に匹敵するような、担保を増やすような事実行為というのが否認の対象になるのだろうと思います。それが何かというと、やはり結局、目的財産が増えたことが担保目的であるということが否認が規定されることの根幹にあるのだろうと思います。   ただ、その目的性を根拠にすると、やはり主観的なものなので、なかなか立証が難しいという問題があるとすれば、私はこの@のような、通常を外れたような担保が、その倉庫の物が増えているというのは、担保目的を言わば推認させるようなものなのではないかという位置付けで私は見ていました。したがって、これを事実上の推定にするのか、法律上の推定にするのかというのはあり得ると思います。事実上の推定では弱いということであれば、法律上の推定にすることはいいのではないかと思うのですが、この規律だと結局、みなし規定と同じになってしまうわけですよね。そこまでやる必要があるのかというのは、やや私は疑問に思っていて、担保権者の側が回収目的でないということを反対証明できるのであれば、それは通常でなくても否認の対象から外す余地はあるのではないかという感じを持っております。そういう意味では、Aを中心に規定するというのが、この規律からすれば筋ではないかというのが私の認識です。   あと、2につきましては松下さんと全く意見は同じです。まず、支払不能等の要件については、先ほど言ったみたいに、基本的にはこれは偏頗行為否認の一環ということになるので、主観的要件を排除するというのは難しいのではないか、無償行為否認に例があるわけですが、無償行為と同視するというのは、債務はあるわけですから、それは難しいのではないかと思っております。   他方、後段の目的についての悪意ということまでは必要ではない、そこまで求めるということはもちろん政策的にはあり得るかもしれませんけれども、そういうふうな形にしていない否認の例というのもありますし、御承知のように、債権法改正のときに転得者否認について二重の悪意というようなものが問題になって、それは過剰すぎるのではないかということで改正がされたというような経緯もありますので、そこまでは求める必要はないのかなという印象を持っています。   私からは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○片山委員 慶應大学の片山でございます。どうもありがとうございます。否認の規定をどう整備していくかということは、必ずしも私にはよく分からないところもあるのですが、そもそも論として、何度もお話ししたかもしれませんが、やはり事実行為を否認の対象とするというのは、かなり例外的な取扱いということになるのかとは思いまして、それは事実行為ということではなくして、やはり担保権設定に近いような実質的な行為があるということを前提に考えるということで理解していいのかというのが一つでございます。   第2は、否認をして、その原状回復をどう図るのかというところを、再度確認したいと思います。否認されると、枠の中にありながらも集合物からは外れるという効果が生じるのかと思いますが、原状回復をするということになりますと、搬出をせよと命じることになるのか、その辺りが分からなかったので、再度確認ができればと思います。   最後に、20ページの、80から120が通常の水準というところに、100だった在庫に50を入れて150になるという例で、特定性が必要かどうかという問題なのですけれども、これはそれほど神経質に考えなければいけないのかどうかがよく分からないところがございます。恐らく特定が困難なので、原状回復をする際に価額償還によらざるを得ない一例ということになるのではないかとは思いましたが、そのように考えてよいのか、その点も確認ができればと思います。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。多くは効果の問題かと思いますけれども、事務局の方から何かございましたら、お願いいたします。 ○笹井幹事 事務当局において現時点で考えておりましたのは、まず原状回復として搬出を命ずるのかという点につきましては、元々特定範囲の中に入ることによって担保権が及ぶというのが原則ですけれども、否認についての裁判所の判断によって、その一部については担保権が及ばなくなります。このこと自体が原状回復ですので、裁判所が搬出を命ずることになるわけではないと思っておりました。ただ、そうすると外形的にはよく分からないので、実務的にどういうふうな処理をしていくのかというところは、問題になるのかもしれません。   最後におっしゃった、特定性を神経質に考える必要があるのかというところなのですけれども、片山委員の方から価額償還の一場面ではないかという御指摘がありました。これは、例えば弁済がされて、その経済的な利益が受益者の方に帰属しているということであれば、価額償還をさせるということになろうかと思いますけれども、この段階ではまだ担保権だけがあり、既に弁済を受けているとかいうわけではありませんから、価額償還を命ずることができるかというと、この時点では難しいのかなと思っていたところです。   差し当たりは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。何か片山さんの方からございますでしょうか。 ○片山委員 原状回復で搬出をしなくても、集合の枠の中にあっても担保権の効果が及ばなくなるということですが、そうしますとまた、特定性が確保できていたにもかかわらず、それが失われるリスクが高いということになるわけですので、特定ができていて原状回復が可能な状況であれば、搬出をしておいた方がいいのではないかとは思いましたけれども、それはまた追って議論ができればと思います。どうもありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大西委員 大西です。これは質問なのか意見なのか分からないのですが、私は通常の事業の範囲を超えないが専ら担保権者に債権を回収する目的で行われた加入ということ自体が、余り想像が付かないと思っています。通常の業務の範囲内の行為は、基本的に担保権設定契約において担保権者が想定していた行為ですので、その範囲で行われる行為については、専ら担保権者のために行う行為という特別な行為は想定できないのではないかと思います。   この@とAというのは、@又はAということで御議論されていると思うのですが、私はどちらかというと@及びA、この両方の要件を満たした場合は否認になるという考え方もあるのかなと思っております。その理由は、先ほど申し上げたとおり、通常の事業の範囲でやるということは、設定者からすれば、別に回収目的があろうとなかろうと、やらなくてはいけない通常の行為であり、それは担保権者からすると、担保権設定契約上想定されたことなので、その行為において別の目的を仮に持ったとしても、それが否認の対象になるという結論には疑問があります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。実はこの否認場面ではなくて、目的物の処分の問題につきましても、通常の事業の範囲を超える、超えないというのが問題になってくるわけですけれども、そこにおいて、それが量的な概念なのかプロセスの評価の問題なのかというのがございます。私個人はプロセスの評価の問題ではないかと思うので、そうすると大西さんと全く同じになるのですけれども、全体として予定量を超えるみたいな概念、気持ちがどこかにあるような気がするのです。私は、予定量を超えていても、それはあるところから急に安く仕入れることができたのだということになりますと、予定量を超えて急に仕入れることは通常の事業の範囲だと思いますので、別にそれは構わないのではないかと思いますし、予定量が超えて売られるというときも構わないのだと思うのですが、そこと、最低限このくらいは持っておかないと駄目だよね、みたいな設定者の義務的な考え方みたいなのが量の概念との関係で出てきているところが微妙であり、多分クリアにならないままに生じている問題点ではないかという気がいたします。したがって、おっしゃるとおりの面を含んでいると思うのですが、何か事務局からございますか。 ○笹井幹事 そうですね、今、部会長がおっしゃったとおりで、恐らく通常の事業の範囲という言葉が平成18年7月の最高裁判例で使われたこともあって、その内容を深く検討していなかったというところもあろうかと思います。結論的に、@とAというのはかなり大きく重なるところはあろうかと思います。資料の立て付けとしては@あるいはAというつもりで書いておりましたけれども、今、松下委員、山本委員からは、Aが中心ではないかという御意見もあったところですので、@を独自に残しておくのか、大西委員の御指摘のように@かつAという形で残しておく必要があるのか、あるいは選択的なものとして残しておく必要があるのかについても、通常の事業の範囲の概念をどう捉えるかということと関連させて、もう少し検討してみたいと思います。 ○道垣内部会長 ただ、山本さんがおっしゃったのは恐らく、搬入行為なら搬入行為の合理性を否定できたならば、つまり、当該担保権者に特に担保価値を帰せしめるというふうな主観的な意図について、直接的にその存在を問題にすることはできなかったのだけれども、しかし、今の段階でこれだけ運び込むというのは通常の営業判断からすると合理性を欠いているよねというふうなことがいえれば、それは担保権者に利益を帰せしめる目的であったと推認されるというふうな構造になるのかもしれないということだろうと思うのです。   そうなりますと、Aで担保経営者に利益を得させるということを直接に主張立証していかなければならないというものだけに一本化するのが適当かというのは、また別の問題として考えなければいけないのだとは思うのですが、ただそのときに、やはり通常の事業の範囲という概念をもう少し明確化して議論をしないと混乱するかもしれません。それはもう大西さんのおっしゃるとおりかと思います。   山本さんの御発言の趣旨としては、私の理解で正しいでしょうか。 ○山本委員 全くそのとおりです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○日比野委員 私の方は、今もずっと議論になっておりました第1のAのところと、あと2のところですけれども、これはいずれも担保権者の立場としては、担保権者の主観的要件というのは必要だと考えております。特に1Aの方につきましては、もう今かなり議論が出たところではあると思うのですけれども、これは外形的には何ら問題がない通常の営業の行為なのだけれども、事後に突然その効力を否定されるということは、担保権者としてはなかなか納得し難い部分がございまして、もしそのようなことになるということであれば、設定者がそのような意図を持っていたということを認識している、そのような状況というのは事実上の通謀的なものに限られると思いますけれども、否認されるものとしては、そのぐらいのものを要求されるべきであろうと思っております。   あと、2点目のところは、項番2のところについては、否認の要件として通常求めている主観的要件をこの場だけ外す必要はないであろうということは、既に先にも意見を述べられた方がいらっしゃったとおりで、そのように考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阿部幹事 先ほどの片山委員の御質問と少し関わるのですが、中間試案第21の(注1)で、実体法上、担保権の効力が及ばないという考え方について注記していたけれども、それは担保権の効力が及ぶ範囲が不明確になって法的安定性を害するということで、この考え方は今回の資料では採らないということにされていて、それは確かにそうなのかもしれないと思ったのですけれども、元々この考え方というのは民法370条ただし書との並びで出ていたような気がします。抵当権が抵当不動産の付加一体物に及ぶかどうかについての370条ただし書の規定も、そういう意味では法的安定性を害しているような気がしたのですけれども、それにもかかわらず370条ただし書は認められているわけですよね。それとの並びでいうと、あちらはよくてこちらは駄目という理由は何かあるのでしょうか。法的安定性を害する程度が違うということなのか、その辺りについて、事務局の考え方を伺えればと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。事務局から何かございますでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、確かに370条ただし書との明確な差として申し上げられるということではないのですけれども、現行法との関係ということでいえば、集合動産とか集合債権についても一定の範囲では否認の対象になるという議論もありますし、現行法との連続性で考えていくならば、370条のただし書というよりも、現在既に整備されている否認という法的構成によることが考えられます。否認という決定を踏まえた方が安定性に資することは資するのだろうと思いますので、現行法上も否認の対象になると考えられていることとの関係を考えると、370条のただし書の構成をとるよりは、裁判所の判断を介在させた方が、より制度としては安定するのではないかというのが一つの説明かなと思います。 ○道垣内部会長 私は三歩歩むと全てを忘れるという鶏頭なのですけれども、中間試案の第1章の第1、つまり個別動産を目的とするところのルールというのは、中間試案と現在、要綱に向けてのたたき台というか、そういうふうなところで変わったのでしたっけ。つまり何が言いたいかというと、抵当権との関係という問題もあるけれども、個別動産の中間試案の内容は370条と同じ構造をとっているわけですよね。 ○笹井幹事 そうですね。 ○道垣内部会長 そうすると、抵当権との違いはともあれ、新しい規定に係る担保権に関して、個別動産に関しては実体的な効力が及ばないという規律になっているけれども、集合動産等に関しては否認を介するということになっている。この違いを考えるに当たっては、後者の場合には否認を介しないとその明確性が欠けるということになるのかどうかということを検討しないといけない。多分、民法370条の問題だけで考えるのではなくて、内部的なその中で考える必要があるのではないかという気がするのですが。   少し考えていただくことにして、大塚さん、お願いできますでしょうか。 ○大塚関係官 調査員の大塚です。今の点について、事務局の考え方を支持する理由付けを少し考えてみたいと思います。私自身、以前の部会で370条との並びで定めるべきという主張をした気もいたしますが、改めて考えてみますと、抵当権あるいは個別動産譲渡担保と今回の問題とは多少違いがあるかと思います。何かと申しますと、まず抵当権や個別動産譲渡担保について、何か物がその担保権の目的別に付加されるということは、必ずしもよくあることではありませんし、それが連続して続くということも余りないかなと思います。したがって、そういった付加がされた時点で担保権の効力が及ぶか及ばないかということを、担保権の効力の規定として定めることもできるかと思います。   これに対して集合動産の場合に、新たにその集合動産の特定範囲に動産が加入されるということになりますと、それは通常の過程でも多くありますし、出たり入ったりしていくということもあります。その中で、一回一回の出たり入ったりのところで、それが通常の事業の範囲を超えるかどうかとか、専ら債権回収をさせる目的であるかどうかということを検討して、一個一個どこに担保権の効力が及ぶか及ばないかということを考えていくと、かなり複雑になってしまう可能性があるということになります。そうすると、否認権の行使という形式的な一時点というところで区切って、その時点で通常の事業の範囲を超えていると全体として評価できるかとか、専ら担保権者に債権を回収させる目的であったかどうかということを一括して評価するということも、制度的には十分あり得るかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。大塚さんがおっしゃったことの前提に、片上さんがおっしゃった、否認権が行使された後どうなるのかということをどう決めるのか、価値的な概念でどこまで及んでいるのか、例えば今、100あるけれども80しか認められないというとき、どの20が欠けているというのではなくて、全体として担保権を有しているけれど、それに対して80の担保価値しか持っていないよねということで処理できるのか、それともやはり、ある20というものが担保権の目的になっていないというふうな処理をせざるを得ないのかということですね。そして、大塚さんがおっしゃったのは、価値的に20が欠けているというふうな処理ができるというのが前提になっているのだろうと思います。そこをどう考えるかというのが多分あるのかなと思いますが、いかがでしょうか。その点に限りませんが、ほかの方も御自由に御発言いただければと思います。 ○松下委員 松下です。今の点なのですけれども、担保設定をするときには、言わば一部だけ担保の効力が及ばないということがどう表現できるかという問題だと思います。この問題はここに限らず前からあった問題で、どういう問題かというと、融資と同時に担保設定する、いわゆる同時交換的行為の場合には否認できないというのが現在の破産法のルールですけれども、旧債務と新規融資、合わせて一本で担保を付けましたというときに、その効果をどう表すかということは前々から議論をされています。難しいという認識だけは共有されているのですが、どれという正解がない、つまり、例えば1個の担保設定行為の量的な一部だけ否認してそれをどう公示するのか、なんていうことはなかなか難しいということで、多分今でも解釈に委ねられている問題だと思うのです。だから、似ているような問題ではないかと思いますので、引き続き考えるということで、明文の規定を無理に設けるということをしなくてもいいのではないかという気もします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○井上委員 井上です。今の点でなくてもいいでしょうか。ありがとうございます。元の話に戻ってしまうのですけれども、今回、19ページですかね、第6の1の要件として@とAが挙げられていて、その二つは実際にはほぼ重なるだろうというのは、私もそうなのではないかと思います。   そもそも「通常の事業の範囲」をどう捉えるかによっては、もしかすると完全にAと重なるかもしれないということだと思いますが、一応重ならない場合があるという前提で申し上げると、Aを中心に考えるべきだという意見が強いようですけれども、もしそうだとすると、私は、Aのような形で否認すべき行為と評価する対象として、今回、法律行為に加えて事実行為を加える理由を考えると、むしろ@から外れている行為をAを要件として否認するというアプローチがよいのではないかと考えておりまして、そうすると、仮にこの@とAが別の要件だとした場合には、@かつAという大西委員と同じことを申し上げることになるのかもしれません。   具体的に少し考えてみますと、例えばA倉庫、B倉庫、C倉庫があって、「通常」概念の量的部分に着目すると、通常の事業の状況で80から120の間で在庫がそれぞれA倉庫もB倉庫もC倉庫も変動しているという状況で、窮境にある設定者が倒産直前に手元資金をかき集めるために叩き売りをして、大きく通常の水準を割る40ぐらいのレベルに倉庫AもBもCも在庫を売り払ってしまったという、とてもサステナブルな状況ではない中で、倉庫Aについては集合動産譲渡担保を設定していて、この担保権者に迷惑を掛けるわけにいかないと思った、あるいは、このような状況をモニタリングしていた集合動産譲渡担保権者が、これは担保価値維持義務違反であると認識して設定者に直ちに補充せよと迫った、そういった理由で倉庫Aのみ40を通常のレベルぎりぎりの80まで持っていきましたという行為は、これは否認すべきかという価値判断だと思うのです。この点、特定の担保権者に債権を回収させる目的を、それだけでダメだと、窮境にある以上は、それはもはや許されないとすれば、これも否認すべきだということになるわけですが、そもそも事実行為を担保設定と同視できるのは、通常の事業の範囲を踏み越えるような追加行為をした場合に、法律行為としての担保設定と同視すべきであって、今申し上げたような、元々設定者が求められ担保権者が期待している、そして、その他の一般債権者も基本的には覚悟している変動の範囲に戻す行為、あるいはその範囲で動かす行為については、これは有害性がないという表現をするのかどうか分かりませんけれども、そもそも法律行為として担保設定をするのと同視するには至らないと考えて、そこからはみ出ていない以上は、Aのような要件の有無を問うまでもなく、否認をしなくてもよいという考え方もあり得るのではないかと思いまして、少し形勢は悪そうですけれども、一言申し上げました。先ほど申し上げたように、担保権者の立場に立ちますと、モニタリングをして急激な在庫減少などを把握し、設定者に対応するように求める行為が、常に否認を招いてしまい、通常の状況に戻す行為であっても結果的に否認されるというのは、問題ではないかと考えた次第です。   あと、今度は質問といいますか、問題の確認になるのかもしれませんが、20ページの末尾に挙げてあるような事例、これは目的物の特定の関係で挙げられている事例ですけれども、80から120の水準で変動していた在庫が100だった状況で、一気に50加入されたというときに、Aの考え方によると、50全て否認するのが基本になるのだろうと思います。それが果たしてよいのかという考えもあり得て、よいのだという考えも十分あり得るわけですけれども、@とAを重ねて考えることになると、はみ出ている30を否認すればよいという考えもあり得るのではないかと感じました。   もう一つ、21ページに挙げてある否認対象行為が行われた後、更に変動した場合、例えば80から120で変動していたところ、100個だった在庫に一気に50が加入されたけれども、その後、実際に否認される前に30がまた持ち出され、処分されて120に戻った場合に、Aに着目すると、その後30を処分したからといって、悪い行為が別になくなるわけではないので、在庫が120に戻っていても、あるいは在庫が100まで減っていても、なお50を否認するというのが論理的な帰結ではないかと思いますけれども、果たしてそこまでする必要があるのかと思います。むしろ、120に戻ったのであれば、もはや否認できなくなる、あたかも、担保設定した後、否認される前にその担保を解除したのと同じように扱うこともあり得るとも思いまして、担保権者の立場からすると、Aだけで処断するのは酷な場合があると感じたということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○藤澤幹事 藤澤です。今の井上先生の御発言に関連してなのですけれども、この御提案に反対する趣旨ではなく、こうした規定ができた場合に、その解釈をどうするか、そして、効果をどのように考えるかということの参考になるかもしれないアメリカ倒産法の制度を少しだけ御紹介いたします。   アメリカでは、こういう主観的な要件によって否認するのではなくて、二時点比較法という客観的な基準で否認の範囲が決まってきます。その決まり方というのは、ある時点で被担保債権額と担保目的物の価額とを比べた場合に、担保目的物の価額が下回っていたかどうかというのを見るのです。つまり、担保に不足分が出てしまっているかどうかというところを見て、それを危機時期以降に改善させるような加入行為があった場合には、それが否認の対象となると考えます。さらに、その改善が他の債権者の損失の下に行われたのかということを見ますので、本来であれば担保目的物の範囲には入ってこないようなものをわざわざ倉庫に運んできたとか、担保目的物でない財産を売り払ってお金にして新しい物を買ったとか、そういった場合が否認の対象となります。こうした客観的な事実を見ることで、それが債権回収目的だったかというようなことを判断できる可能性があって、解釈の参考になるのではないかと思いました。   また、否認の範囲なのですけれども、倒産手続開始の時点で、一定の時点よりも改善していた部分だけを否認するということになりますので、例えば複数回の加入行為と複数回の処分行為とがあった場合にも、最終的に改善した部分だけが否認の対象となるので、加入行為が全部否認されてしまって、担保権者が必要以上に害されることはないということになっていて、それも参考になるかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございませんでしょうか。 ○片山委員 慶應大学の片山でございます。要件のところですが、この後、処分権限の範囲の問題で再度、通常の事業の範囲というワードを使うかどうかということを検討するということですので、ここで余りそのことを議論してもしようがないというのはあるのかもしれませんが、仮に通常の事業の範囲という要件を立てるのだとしましたら、その範囲では優先弁済権が担保権として確保されているという理論的な前提になりますので、その中で、Aの要件を満たすからといって平等に扱わなければいけないという話になってしまうと、偏頗行為というのは一般債権者の間で一部の債権者に優先弁済権を与えることが否認の根拠になるわけですけれども、担保権者が優先弁済権を確保している範囲では担保権者が優先するというのは大前提で、否認にならないということでなければいけないのかなとも思いまして、通常の事業の範囲ということをいってしまうと、Aの要件を併せて使うことに少し理論的な問題があるのではないかという印象は持っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。片山さんが最後におっしゃったのは、井上さんがおっしゃったところと重なる話かと思いますが、ただ、危機時期になった時点で予定された数より少ないというときに、通常の営業の範囲までは権利を持っているのだから、追加したものも当然にそこに効力が及ぶのだというのは、一つの価値判断であって、事実として危機時期に減っているにもかかわらず、いや、通常の営業の範囲においては常に優先権を持っているのだというふうに当該担保権の性格というのを見るというのは、当然ではないだろうという感じはします。   ほかにございますでしょうか。 ○山本委員 先ほどの井上さんの発言、今の片山さんの発言もそうかもしれませんが、確かに担保権者の立場から見れば、減ってしまっているのだから元に戻せという、その気持ちは分かるわけですし、また、それは担保価値維持義務の履行なのだというところも分かるのですが、ただ、この偏頗行為というのは当然のことながら義務的行為も偏頗の対象になると、むしろ非義務行為は証明責任を転換して、より否認しやすくするということですけれども、義務的行為も否認の対象になるということは大前提ですから、担保設定義務があるときに担保を設定しても、それは否認の対象になるわけですから、戻せというのにどの程度既得権的な地位を認めるのかということは、今、部会長の発言もありましたけれども、問題かもしれませんけれども、私はやはりそこは、もう危機時期にそこまで落ちていたのであれば、そこを戻さなければいけないからといって、戻したから否認の対象にならないということには、やはりなかなかなりにくいのではないかという印象を持っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。   大変有意義な議論がされていると思いますが、まず、出た問題は、否認の要件における@、Aの関係という問題、これはずっと最後まで出てきているわけで、そこに主観的要件というものをどこまで重んじるのか、先ほど出ましたように、どういう担保が設定されているか、担保権者というものがどこまでの優先権を確保していると考えるのかという問題が背後にはあるということかと思います。   ほかには、否認をすることの効果という話もずっと出ていまして、価値的に考える、もちろん藤澤さんがおっしゃったような考え方も価値的に考えているわけですが、ということなのか、それとも各動産なら各動産について考えるということなのか、後者だとすると、更に出入りがあった場合にどういうふうに考えるのかという問題がありまして、そこら辺が難しいところです。また、価値的に考えるということになりますと、では別にそれほど難しくないのだから、実体的な効力は及ばないと考えたっていいのではないのという話になるのかもしれません。そこは必然的につながりがあるかどうか分かりませんけれども。ということで、残された問題は多い。   さらに、松下さんがおっしゃったように、価値的に考えるというのかどうなのかというのは少し難しいから、決め打ちはやりにくいのではないのという話は、非常に説得力があるなと思いながら伺っていました。  まだ検討しなければいけない問題点が多々あるということは分かりましたが、ほかに本日のところで、いかがでしょうか。   笹井さんの方から何か、ここについては確認をしておきたいというふうなことがございましたら。特によろしいですか。 ○笹井幹事 部会資料の19ページの4のところで、詐害行為については、今までゴシックでは御提案しておりませんでしたけれども、新しくゴシックでの御提案しておりますが、この点については、何かもし御意見がございましたら承りたいと思います。ただ、4につきましては、詐害行為につきましては結局、通謀要件が必要になってきますので、否認と異なり、@、Aのような加重的な要件を付け加えるということではなく、単純に担保の供与の中に目的物を新たに加入させる行為というのを含むというだけの提案になっております。この点について、もし何かございましたら、御意見を承りたいと思います。 ○道垣内部会長 詐害行為のことは今回になって初めて出てきておりますので、何か御意見がございましたら、お願いいたします。今まで出てきたような問題点がいろいろあるのかもしれませんが。 ○片山委員 片山でございます。基本的に、否認権と違って簡略に書ける可能性はあるかと思うのですけれども、他方、今回、否認権の御提案もかなり通謀要件と重なるような要件枠組みの御提案がなされていますので、集合動産、集合債権の加入行為の否認に関しては、民法の規定の通謀のような要件が倒産法の否認権でも課されるというような、そういう要件枠組みの作り方も十分可能ではないかと逆に思った次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。それは、この集合動産の特異な規律としてですか、それとも。 ○片山委員 そうですね、正しく特異な規律として今、設けようとしているということですので、十分そのような可能性もあるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 分かりました。   ほかに何かございますでしょうか。よろしゅうございますか。   先ほど少し申しましたように、結構難しい問題を多々残していると思いますので、更に事務局等を中心に検討させていただきたいと思います。その間に、検討に当たりまして委員、幹事の方々にいろいろ御相談申し上げることがあるかもしれませんけれども、よろしくお願いいたします。それでは、本日のところは一旦ここで問題点を整理したということで、次に進みたいと思います。   「第7 担保権消滅許可制度の適用」について議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いします。 ○淺野関係官 それでは、「第7 担保権消滅許可制度の適用」について御説明いたします。   「1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用」のうち(1)については、中間試案から実質的な変更はありません。   (2)につきましては、中間試案において三つの案を併記していたところですが、対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認め、特段要件を課さないこととすると、担保権者に過大な交渉力を与えることになるのではないかという懸念があるところです。この懸念に対する対応としては、帰属清算における見積価額又は処分清算方式における見積価額や処分価額について、売得金以上の額、あるいはそれに5%を加えた額以上である必要があるとすることも考えられますが、それらは被担保債権の消滅の効果の発生をもたらしたり、最終清算金の計算に用いられたりするものではなく、基準とするのは適切でないと考えられます。   他方で、担保権の実行の申立てとして私的実行を認めない場合でも、担保権者は買受けの申出をすることで担保権消滅許可の申立てに対抗することができ、担保権者以外の者を買受希望者とすることも可能です。買受けの申出は、担保権消滅許可の申立書が送達されてから1か月以内に行う必要がありますが、破産管財人が既に売買契約を締結しているということからすれば、一定の制約を受けることはやむを得ないように思われます。  そこで、担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」としては、私的実行を認めないとする提案をしています。   「2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用」については、中間試案から実質的な変更はありません。   以上について御議論いただければと存じます。私からの御説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと存じます。 ○山本委員 1(2)は随分議論があったところですけれども、私自身はこの提案に異論はありません。少し質問というか、あるいは教えていただきたいところ、もっと基本的なところなのですが、1(1)で、あるいは2もそうかもしれませんけれども、この担保権消滅許可制度の適用対象にするというところなのですけれども、現行法の例えば破産法の担保権消滅許可の要件は、破産手続開始のときにおいて破産財団に属する財産につき担保権が存する場合ということになっていて、破産財団に属する財産について担保権がある場合ということが前提になっているわけですが、この譲渡担保とか留保所有権というのは、そういうふうに考えていいのかどうかということです。   これは私の理解では、今回は所有権の所在とか、あるいは譲渡担保とか所有権留保の法律構成については必ずしも明確な形にしないで立法しようとしているのかなという印象を持っているのですけれども、仮にそうだとすると、ここをもう少しぼかした、そもそもこれについて準用するとかというぼかした規定にするということかもしれませんけれども、その辺りが少しどうなのかということ、これは既に別除権の定義のところからそうなのですけれども、その辺りが一つです。   それからもう一つは、これはもう少し実質的な問題かもしれませんけれども、破産の担保権消滅というのは、破産管財人がその財産を任意に売却できるということ、任意売却権限というのが前提になっていて、その際に担保権を消滅させるという構造になっているわけですけれども、実体法のところの提案で、担保権設定者は担保権者の承諾がないと処分できないという方向が提案されていたように記憶しているのですが、管財人は任意に売却できるのか、担保権者の同意なしにですね、担保権付ということかもしれませんが、売却できるということが前提になるのかどうかというところです。仮にそれが前提にならないとすると、ここの規律も少し変わってくる、任意売却できるということが当然の前提にはならなくなってくるような気もするのですけれども、その辺りは一体どうなのだろうかというところで、かなり基本的なところの疑問で恐縮ですけれども、誰かに教えてもらえればと思います。 ○道垣内部会長 事務局から、ございますでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、破産財団に属するといえるかどうかというところは、確かにぎりぎり詰めていくと、所有権がどちらにあるのかということを明らかにするということになって、この部会での中間試案後の最初の議論のときには、所有権が基本的には設定者の方に残っているという理解を示される先生方が多かったのかと思っておりますので、そういう構成に従っていけば、それほど無理なく破産財団に属するという方向につながっていくのだろうと思います。 ○山本委員 所有権留保もそうでしょうか、設定者に所有権があるという前提が。 ○笹井幹事 そういう理解の余地というのは一応あり得るのではないかとは思っています。ただ、設定者に所有権が属しているという立場を、この立法全体について明確にいえるかというと、事務当局としては解釈の幅を残しておきたいと思っているところですので、そういった場合に、破産財団に属するといえるのかどうかという問題は、もしかするとあるのかもしれません。そこは少し、法制的な条文の書き方についてどのように捉えるのか、条文の書き方を検討するに当たって、また考えてみたいと思います。   もう一つの売却権限の点についてですけれども、この点については少し考えさせていただけますでしょうか。ここも、1(2)において、実質としては、譲渡担保権を担保権消滅許可制度の対象にするというところについては、それほど異論がないのかなと認識をしておりまして、あとは、そうだとすると条文の書き方とかそういうところに最終的には問題としては帰着するのかなと思っておりますので、その整理に当たりまして、また検討したいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。山本さんに少しお伺いしたいのですけれども、例えば破産法186条のところでは、担保権のところに定義があって、特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいうと書いてあるわけであって、ここには直接もちろん入らないわけですので、何らかの立法ないしは改正が必要になるというのは、これは明らかなのですけれども、仮に担保権消滅、例えば破産法186条の規定を新しい規定に係る担保についても準用すると書けば、準用されているのだからそうなるよねと考えていいのか、それとも、担保権消滅許可制度というものが破産手続開始のときにおいて破産財団に属する財産であるということを本質的な要素にしており、それが欠けているときに、ただ単に準用といえば済む問題ではないよということなのかというと、それはどちらなのでしょうか。 ○山本委員 私自身の理解は前者だと思っています。それ自体は本質的なものではなくて、それが実体法上、担保権というか、担保としての効力を持つものであると解されれば、それは別除権として処遇し、担保権消滅の対象になる、あるいは中止命令の対象になるという整理をする、それは今でも、いわゆる非典型担保についてはこれらの規定を類推適用するという議論があり、私もそういうことを書いたことがありますけれども、それはそういうことだと思いますので、そこは本質的な問題ではないので、そういう意味では笹井さんが言われた法制的な点が大きいのかとは思います。 ○道垣内部会長 次に、担保権の目的物というのは設定者が担保権付きで売却するということが可能であると一般的には考えられていて、それが担保権消滅請求において破産管財人が目的物を売却できるということの根拠を形成している、しかるに、平時にそういうふうな権限が設定者にないというときにはどうなるかという問題なのですが、これもやはり平時にそういう権限があるというのが担保権消滅請求制度の根幹というか、必須な性質を形成しているとお考えですか。それはどうですか。 ○山本委員 そこは非常に難しい問題のような気がしていて、いわゆる破産管財人の第三者性というような問題とも関係しているのかなと思うのですけれども、担保権者が担保権を実行しないときは、破産管財人は強制競売でそれを売却できるという規定があって、これは破産管財人が債権者の立場を引き継いでいることを表す規定かなと私は思っているのですが、任意売却は、やはり管財人が債務者、設定者の立場を承継して、それを処分するということなのではないかと私自身は理解しているので、そうだとすれば、何らかの特別な規定がないと、担保権付きで管財人がそれを売却するということはできなくなる可能性があるとは思っています。ただ、それと担保権消滅が更に結び付くのかどうかという、担保権消滅は消滅させて売るということですから、それは担保権者の同意がなくてもできるのだという見方はあり得るのかもしれないので、そこはひょっとすると、それがなくてもできるのかなと思うのですけれども、その辺りがまだ十分整理はできていません。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに何かございますでしょうか。   担保権消滅許可制度について、今、山本さんが御指摘になられたような理論的ないしは理念的な問題点というのがあり、それはどういうふうに法制上、仕組む必要があるのかという問題点はございますけれども、その適用があること自体は比較的皆さんの同意が得られてきたところではないかと思います。また、(2)といたしましての対抗手段として私的実行をするということは認めないということについては、これも大体御異論はないと考えてよろしゅうございますでしょうか。   よろしゅうございますか。それでは、また後でもちろん戻って御発言を頂いても構いませんので、先を急ぐようで恐縮でございますけれども、部会資料32の「第8 譲渡担保権設定者の処分権限に関する規律」について議論を行いたいと思います。   このうち「4 集合債権譲渡担保の目的である債権の取立権限・弁済受領権限の所在」ということにつきましては、前回の議論で、ここはどうしても関係してくるということで、議論を頂きましたので、「1 譲渡担保契約における設定者による目的である財産権の処分」と「2 動産譲渡担保権設定者による所在場所の変更」及び「3 集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲に属する動産の処分権限」について議論を行いたいと思いますが、まず1及び2について議論を行いたいと思います。そこを、まず事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 第8は、譲渡担保権設定者の処分権限等について取り上げるものです。   1は、譲渡担保権設定者が譲渡担保権者の承諾なく財産権を第三者に譲渡したときは、その譲渡は担保のためにするものを除き、譲渡担保権者に対抗することができないとの規律を提案するものでございます。部会資料28の第2の3では、設定者は譲渡担保権者の承諾を得なければ、金銭債務を担保する目的以外で、目的である財産権を譲渡することができないとの規律を提案していたところですが、部会の議論では、譲渡担保権が設定された財産権についても、設定者は使用収益することが認められるなど一定の財産権を有しており、その譲渡を一律に無効とするのは過剰ではないかとの指摘があったところでございまして、これらを踏まえ、本文の規律を提案するものでございます。この規律は、設定者による財産権の譲渡につき、相手方との関係では有効とした上で、担保権者に対してはその効力を主張することができないというものでございまして、譲渡担保権者としては、自らこれを承諾しない限り、目的である財産権が担保権付きでは変動していないものとして取り扱うことができるということとなります。   2は、動産譲渡担保権について動産の保管場所が定められた場合に、設定者が保管場所を変更することができるかどうかにつきまして、二つの案を提示するものでございます。部会資料28の第3の5におきましては、設定者は譲渡担保権者の承諾を得なければ目的である動産の保管場所を変更することができず、これに違反した場合には、担保権者は被担保債権の期限の利益を喪失させることができるとの規律を提案しておりました。これは、今回の【案8.2.1】に対応するものでございます。   しかし、設定者は動産の使用収益の権利を有しているとされていることと、保管場所を一律に禁止するとの規律は相反するのではないか、違反の効果が期限の利益の喪失であれば、当事者の約定で定めることが可能で、あえて規律として設ける必要性に疑問があるなどの指摘があったところでございます。そこで、動産の保管場所や保管方法については個々の動産の性質に応じて契約で定められるのが通例と考えられることも踏まえ、このような規律は設けないこととする【案8.2.2】を提示するものでございます。   以上について御議論いただければと思います。私からは以上でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。今、【案8.2.2】を提示するものですとおっしゃったけれども、両方が提示されていると理解してよろしゅうございますね。   それでは、これらの点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。 ○佐久間委員 第8の1について、譲渡担保権者に対抗することができないという意味を少し、補足説明に挙げられていることを例に伺いたいのですけれども、2点あります。  1点目は、24ページの11行目辺りからあります、Cが、これは譲渡担保権が設定されている財産、動産について設定者から譲り受けた人が、更にEのために譲渡担保権を設定した場合うんぬんというところです。これについて12行目で、CのEに対する譲渡に係る譲渡登記をAからBの譲渡の関連登記目録に記載することができるかどうかということがまず問題視され、それを肯定する場合には、実行通知をEにもしなければいけないとされています。理解がよくできていなくて、BはAC間の譲渡の効力を承諾することもできれば、対抗することはできないということで否定することもできるということだと思うのですけれども、ここで承諾をしなかった、つまり自分には対抗できないのだというふうにBがした場合には、それはC、譲受人は無権利だという、結局そこはそう扱われることになるのかなと。そうすると、CがEに対して真正譲渡をしても一緒だと思いますが、譲渡担保権設定契約をEとの間でしたとしても、それも無効というか、無権利の人から譲渡担保権を譲り受けることはできないので、効力を認められないのではないかと思うのです。   もしそこまでが合っていたとすると、先ほど申し上げた12行目のAからBの譲渡の関連登記目録に記載することができるかどうかというのは、どうやって決まるのか、Bの態度決定というのでしょうか。それがなくこの関連目録に記載されるのかどうか、もしBが承諾した場合だったら記載するということはあり得るとは思うのですけれども、Bが承諾しないのに勝手に記載されるということがあり得るのか、あっていいのかというのことを疑問に思いました。   制度上そういうことがうまくどうできるのか知りませんけれども、もしBが承諾したからこそ関連登記目録に記載したとなれば、Bは認めているのだから実行通知しなければいけないというのはあり得るのかなと思うのですけれども、Bと無関係にこのようなことが行われて、対抗の問題だというふうにしているから、効力がはっきりしないまま、場合によってはいつまでもどこまでも法律関係がはっきりしないまま続くというのは、あるのかないのか、あっていいのかということがよく分からないので、教えていただければと思います。   もう1点は、19行目からある、譲渡担保権者が複数いた場合に、先順位の人と後順位の人とで承諾等の効力は別個に判断されるというところです。これについて、例えば先順位のBは承諾したのだけれども、後順位のFは承諾はしないというか、効力を否定するというような場合に、別個に判断するというのは、Bは承諾しているから、Bとの関係ではCはBの譲渡担保権の負担付きで所有権を当該目的物について取得するのだけれども、Fとの関係ではそういうことが起こらずに、Aがなお設定者として、要するに所有権譲渡した、設定者の地位を持つということになるということでしょうか。反対に、Bが承諾しないときはBとの関係ではAC間の譲渡は無効だが、Fが承諾したときはFとの関係では有効だ、ということになるのでしょうか。   もしそうだとすると、そういう関係って処理できるのかなということを非常に疑問に思いました。もし処理できるのだったら、その処理をどうするかというのを教えていただきたいのと、処理できないとすると、余りいいとは思いませんけれども最先順位の人の承諾でもって承諾ありとするか、それか、全ての譲渡担保権者の承諾がないと最先順位の人との関係でも、何でそうなのかよく分かりませんが、対抗できないとか、そういうことになるのかなと。その辺りを少し、効果の理解がよくできませんでしたので、教えていただければと思います。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。私もA、B、C、D、Eといっぱい出てきますと、なかなか付いていけなくて、分からなくなるのですが、事務当局の方で確認をしながら、お願いしたいと思いますが。 ○笹井幹事 私たちも最初、いろいろとこういう問題が生ずるのではないかということで、無効だという御提案をしたところ、無効は過剰なのではないかということで、対抗できないというルールが部会の中で提案されたということもあって、仮にそう考えるとすればどうなるのだろうかということを部会資料の中で考えてみたということですので、部会資料の記載自体、もしかすると対抗することができないというお考えをおっしゃった方と一致しているかどうかも分からないのですが、部会資料でどのように考えたかということを御説明いたしますと、今、佐久間委員からは、Bが承諾しない限りはAC間の譲渡も無効になるということではないかとおっしゃったのですが、資料28において事務局から提案した考え方によれば無効になると考えていたのですが、ここでお示ししている考え方はそうではなくて、飽くまでAC間の譲渡というのはBの承諾、不承諾にかかわらず有効であるという考え方です。そういう考え方が以前に部会の中で御提案されたのだろうと理解をしました。   ですので、Bが承諾しない場合でもAC間は有効なので、目的物に関する物権的な、現行法上設定者留保権などと呼ばれているものはCの方に移転し、Aは全くの無権者になっていると、しかし、Bとの関係ではCはそれを主張することができない状態なので、Bが自分が実行する場合には、AC間の譲渡が本当はあるのだけれども、Bとしてはそれがなかったものとして、Aを設定者として、通知や清算金の提供をAに対してすれば足りると、こういう考え方ではないかと思います。ですので、今、佐久間委員がおっしゃったところでいうと、AC間が無効になるという前提が多分、この資料の考え方とは違っているのではないかと思います。   いずれにしても、客観的にはAC間の譲渡は有効になっているので、関連登記目録に記載することもできるのではないかと。仮に関連登記目録に記載された場合には、その通知の対象になってくるのではないかということを問題提起をしたのですけれども、そうすると結局、AC間の譲渡をBに対して対抗することができないという前提に立ったとしても、Bは結局Cに対して通知をするとか、一定程度Cの権利の存在を前提とする行動をとらないといけないので、結局Bにとっては手間が増えるといいますか、対抗することができないというふうなルールを作ったことの実効性が減殺されるのではないかということで、更に検討を要するのではないかと思います。   二つ目の問題も同じでして、BとFが、承諾するか承諾しないかということで別の対応を採ったということではあるのですけれども、しかし、承諾するかどうかにかかわらず、客観的にはAC間の譲渡というのは生じているということになりますので、ここで誰が権利者かというと、客観的にはCだけが権利者だということになります。ただ、B、Fのいずれかがそれを承諾しないということになった場合には、その承諾しない人は、この場合に考えていたのは実行の場面ですけれども、例えば、Fは承諾したけれどもBは承諾していなかった場合には、Bが実行する場合にはAさんに対して通知等をすればよいということになるし、承諾していたFが実行する場合には、今度は承諾していたので、Cに対して通知なり清算金の提供なりをしていくということになるのではないかと考えたということです。 ○道垣内部会長 佐久間さん、何かございますでしょうか。 ○佐久間委員 2点目は、実行の通知とかだけで話が済むのかなというので、よく分からないところが一杯あるというのは、そこから先は私も分かっていないので、そこはいいのですけれども、1点目は、私の言い方が悪かったかもしれません。Bが承諾しない、対抗要件の抗弁を出せばAC間の譲渡が無効になると言いましたのは、Cは、Bに対抗することができない結果、権利を取得したという主張がBに対してできないのではないか。それは相対的な効力ではなくて、Bに対してCが権利取得を主張することができないというのは、その後の法律関係にも利いてくるのではないかと。その意味で、私はCが結局無権利だということになるのではないのかということを申し上げたのです。そうしないと、対抗することができないということにした意味が失われてしまうと思うのです。   そのようなこととは違う作りにするというのはあり得る話で、またそれはそれで賛否を考えればよろしいと思うのですけれども、対抗することができないということの意味が、繰り返しますが、私は、Bに対抗することができなければ、CはたとえAとの間で譲受けの契約をしていても、それによる所有権の取得をBとの関係で対抗することができない以上、それに基づいて別の人に対して権利を譲渡したり設定したりすることはできないということではないのかと思いました。それが一つの整理の仕方だとは思うのです。   そのように考えるのか、そうでなくて、笹井さんがおっしゃったのは、飽くまでBとの関係ではCは自分の権利を主張できないけれども、Eのような人が出てきた場合には、そのCの権利は失われていないのだから、Eは権利を何らか承継する、これはまたBが対抗するしないの話になるのか、ならないのか。そこをはっきりしないと先に進めないのではないかという気が私はしました。ただ、理解が間違っているかもしれません。すみません、以上です。 ○道垣内部会長 私も伺っていてよく分からなかったのは、AC間では有効なのだから、Cが関連登記目録に登記ができるでしょうという話なのですが、その登記というか、AC間の、それが設定者留保権か何か知りませんけれども、その移転行為がBに対抗できないのだったらば、そこに関連登記目録の記載があろうがなかろうが、Bは放っておけばいいのではないですか。 ○笹井幹事 Bが放っておけばいいという考え方はあり得ると思います。ですので、そういう考え方で行くというのであれば、それも一つの立場かなと思うのですが、一方で以前、無効にしましょうということに対して比較的反対の意見が多かったのは、飽くまでBの権利が害されない範囲では有効性を認めればいいのではないかということだったと思います。ここでBの利益がなぜ害されるかというと、結局誰が設定者かが分からないというような状態になって、必要な通知などについても誰に通知すればいいのか分からないというようなことが生ずるからだと考えますと、特に関連登記目録なんかは、その登記を見れば誰かということが明確になるので、手間が増えるという意味では、無効である場合に比べてBの負担が増えることは増えるのですけれども、明確性という意味では確保されているので、関連登記目録に書いて通知をしてもらうと、その限度では物上代位の機会を保障してあげるという方向性もあり得るのかなと考えたということです。 ○道垣内部会長 なるほど。結構複雑で分からないところもあるのですが、水津さん、それでは、お願いいたします。 ○水津幹事 佐久間先生が先ほど後半に指摘された問題について、私も伺いたいことがあります。説明の5において、後順位譲渡担保権者Fは承諾したものの、先順位譲渡担保権者Bが承諾していないときの扱いが気になっております。   Bが設定者Aから目的である財産権が譲渡されていないものとして譲渡担保権の私的実行をしたときは、通知や清算金の提供等は、Aに対してすることとされておりますので、清算金債権は、Aに属するものと考えられそうです。そうであるとすると、Fは、Fとの関係では目的である財産権がCへと譲渡されているため、Aに属する清算金債権について物上代位をすることができないのではないかという疑問が生じます。また、BがAから目的である財産権が譲渡されていないものとして、譲渡担保権の実行としての動産競売を申し立てた場合において、Fは、Fとの関係では目的である財産権はCへと譲渡されているため、その動産競売手続において配当要求をすることができるのかどうかや、その動産競売手続において剰余金があったときに、その剰余金はどのように扱われるのかといった問題も生ずるかもしれません。私が御提案の趣旨をよく分かっていない気もいたしますが、目的である財産権が譲渡されているのかどうかが、先順位・後順位の関係にある譲渡担保権者ごとに異なるという扱いをすることについて、それにより問題が生じないのかどうかが、佐久間先生と同じように少し気になりました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。事務局としては、だから無効と言ったではないかというところかもしれません。少しほかの方の御意見も伺いたいと思います。 ○阿部幹事 私は以前の部会で「対抗できない」でいいのではないかと言った人間なのですけれども、しかし、どうもその中にもいろいろな考え方がありそうなので、私はどう考えているかということなのですけれども、4で書かれているところに関しては、少なくともある程度指針が出せるかなと思います。私が思ったのは、ABが真正譲渡だった場合の第二譲受人Cですね、ABの譲渡がCに対抗可能だということが前提ですけれども、そのCの地位と比較して、それ以下にする必要はないのではないかと私は考えたので、そのとき第二譲受人CはAC間の譲渡を第一譲受人Bに対抗できないというふうに普通いいますので、そういう関係と考えればいいのではないかと考えました。そうだとすると、Bには対抗できないがAとの関係で有効だからということで、その後、Cが更に譲渡担保を設定して、それがBとの関係で何か効力を持つかというと、それはやはり持たないということになるのではないかと思いました。   これに対して、5の話というのは、仮にAB間が真正譲渡だと、第一譲受人が第二譲渡を承諾するということはあり得ませんので、AB間が譲渡担保設定だからこそ出てくる問題なのだろうと思います。ただ、特定の誰かが承諾して一部が承諾しないというときに、別個に譲渡の効力を判断するというところまで相対性を貫くのは、やはり混乱を生ずるのかなと感じたというところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○水津幹事 第8の1についての意見があるものの、関連する事柄にも触れるので、今のところで御議論があれば、後にさせていただきます。 ○道垣内部会長 いかがですか、今のところで。 ○沖野委員 私も対抗しないでいいのではないかと言ったように思うのですけれども、前提としては、譲渡担保権者は担保目的に限定された権利を有していないのに、設定者がおよそあらゆる権能を処分できなくなってしまうということが、ややドラスティックではないかというところからスタートしており、担保権付きで譲渡するというか、担保権付きの所有権を、動産であればですけれども、あるいは担保権に制約された権利を譲受人が取得してくるということは、担保権者の承諾がなくてもできるということでいいのではないかと。   ただ、それによって特に動産のような場合に実行が困難になる、あるいは権利者が誰かの調査などのコストが掛かったり、相手方を別にせざるを得ないということがあるので、その部分については元の設定者を固定するというか、そうできれば十分ではないかという発想から、ここでの話をしていたと思います。そういう趣旨で、対抗することができないという表現になっているのだと思うのですけれども、ですので、意味合いとしては、担保権の行使については当初設定者を相手方とすることで足りるとか、そういうような内容で十分ではないのかと思っていました。   24ページの4の後半のところなのですが、この説明で少し確認だけさせていただきたいのですけれども、9行目から12行目にかけての説明の中で、特に11行目の後半で、Cが更にEのために譲渡担保権を設定した場合と書かれていて、更に譲渡したということではなくて、ですけれども、その後は、ただ、譲渡に係る譲渡登記となっているのですけれども、元々のゴシックの中では、担保の後順位を付けるというようなことは、それは承諾なくてもできるということなので、担保のために目的財産を利用するというのは承諾なくしてできるということから、一旦譲渡を経て、担保としての設定権能だけは残っているというような趣旨でここが書かれているのかというのが気になったのです。ただ、登記は譲渡に係る譲渡登記となっていて、特に譲渡担保だという趣旨ではないので、これは別に無視していいのかというのが、少し設例との関係では気になりました。   ただですが、そういうふうにいずれせよ考えるべきではなくて、担保設定権能は残っているので、それ自体は承諾なくしても行使ができる権能としてずっと付いていくというのでは、元々の、誰になるか分からないとか、あるいは調査のコストですとか、あるいは相手方として全然知らない人と交渉せざるを得ないというようなコストも増えてくるので、確かに情報として登記があれば、それでいいのではないかということもあり得るかもしれませんが、それには尽きない点があるのではないかと思っております。ですので、いずれにせよ、Cのところから更に行ったときは、ということにはならないと思うのですけれども、ここで書かれている趣旨が、あるいはそういうことを含んでいるのかというのは、気になったものですから、譲渡担保だということが非常に重要なのだということでなければ、特に結構ですけれども、この意味を確認できればという趣旨です。   それから、5のところが少し分からないのですけれども、だから無効だと言ったのにという点なのですけれども、これは無効だとしたら問題は解決するのかがよく分からなくて、結局、承諾を個別に取るかどうかによって無効であったり無効でなかったりするということだとすると、類似の問題は出てくるのではないかという気がしたものですから、この問題は別途、承諾というのに掛けるときには、その承諾をどうするかという問題として、その効果がどうかということと必ず連動する問題ではないのではないかと思ったものですから、一言申し上げたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。どうしますかね、4の後半のところからでしょうか。どこからでもいいですが。 ○笹井幹事 幾つか御質問を頂いていて、一つ目は、物上代位について水津幹事から頂いた質問です。ここは少し部会資料も実は書き方がまずかったかなというところもあって、24ページの15行目に、ここにはAのBに対する清算金請求権を差し押さえた場合と書いているのですけれども、これはBは承諾していないのでAに対して払えばいいということで、こういう表現をしておりますが、元々考えておりましたのは、AからCに対して、客観的にはもう設定者的な権利が移転しているので、本当にこの清算金請求権が誰の債権なのかというと、Cに帰属していると考えるべきではないかと思っておりました。ですので、物上代位としてと書いてありますのは、Cに対する担保権者がCの債権に対して物上代位をしていくというふうに理解をしておりました。それが正しいかどうかというのは、いろいろ議論があるかもしれません。   それから、沖野委員から、11行目辺りでしょうか、CのEに対する譲渡に係る譲渡担保ということなのですが、これは、元々はAがBに対して譲渡担保権を設定したと、一方で、AC間の真正譲渡によって、Cが設定者留保権というか、後順位の担保権を設定する権能を引き継いでいた場合に、同じ目的物についてAが設定したBのための譲渡担保権と、Cが設定したEのための譲渡担保権が先順位、後順位という形で併存することになるということがあり得るのではないかということで、CがEのために譲渡担保権を設定したと書いたものです。CのEに対する譲渡に係る譲渡登記という表現は、譲渡担保なので、譲渡という形式を採りますから、それで譲渡登記に登記することができるということになるのですけれども、単純にそのことだけを書こうということでしたので、この譲渡に係るというところに何か特段の強い意味があったわけではありません。   いずれにしても今、関連登記目録という制度を作ることが提案されていまして、それは先順位、後順位の複数の譲渡担保権が設定された場合に、それぞれを関連付けることによって、通知とかそういった機会を設けようとするものですけれども、今申し上げたように、同じものについての二つの譲渡担保権がそれぞれ別々の設定者の下で発生した場合に、同様に扱って、関連登記目録に記載するというような扱いをしてよいのかどうかというのがここでの問題提起でした。   それから、同じく沖野委員から、24ページ19行目の5というところで、それは無効にしたって生ずるではないかという御指摘がございました。ここはもしかすると、無効であるという提案をしたときに明示的に書くべきだったのかもしれませんけれども、こういう相対的に誰との関係で有効なのかという問題が生じてしまいますので、そのときの意図としては、全員の承諾がないと無効になるというつもりでした。したがいまして、仮にBが承諾をせずにFだけが承諾していたという場合には、結局AC間はいずれにしても、承諾をしたFとの関係でも、効力を生じないというのが元々の提案において意図していたところです。   もしかすると漏らしているものがあるかもしれませんので、漏らしている質問がございましたら、また御指摘を頂ければと思いますが、差し当たり以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。まだ説明不十分であるというお考えもあろうかと思いますが、また何人かの方からお手が挙がっておりますので、伺ってから、更に進みたいと思います。 ○大塚関係官 調査員の大塚です。基本的には沖野委員と同じです。まず、この規定のというか、真正譲渡を禁止するという制度の趣旨というのは、清算金の支払であるとか、各種の通知を行う相手方を固定することによって、コストを減らすということにあるのだろうと思います。この清算金の提供というのは当初の設定者に行えばよろしい、各種通知は当初の設定者及び、その設定者が後順位担保権を設定した場合には、後順位担保権者に対して行えばよいということだろうと思います。   そこで、まず4の後半につきましては、これは結論としては資料のとおりでよろしいのではないかと個人的には思っております。すなわち、CがEに対して後順位担保権を設定したということですが、Aが仮にEに対して後順位担保権を設定した場合には当然、担保権者BはEに対して通知を行う必要が出てくるということですので、Cが設定した場合には通知をしなくてよいということは余り期待できないのではないかと思います。   ただし、理論的には佐久間委員がおっしゃるとおり問題が残るのかと思います。つまり、Cが担保権付き所有権の取得というのを担保権者Bに対抗できないとすると、そのCから後順位担保権の設定を受けたEが、自分が後順位担保権者であることをBに対抗することができないというか、そういった主張をすることができないのではないかとも思われるわけです。この点、無効としてしまったら簡単ではあるのですけれども、しかし、部会資料で提案された実質的な結論を支持するのであれば、例えば、当初の設定者Aが後順位担保権の設定権限をCに移転したという、少し小さめの認定をすることによって、Cが後順位担保権を設定すること自体はBに対抗できるという余地はあるのではないかと考えました。   それから、5につきましては、確かに対抗できないとすることによって問題は複雑化しそうですが、水津幹事がおっしゃるような、Fが物上代位できないのではないかということは、できないとしても、したいときには承諾してしまえばいいのではないかとも考えられますので、必ずしもそこまで大きな問題が生ずるわけでもなさそうかなと考えています。  後順位担保権者であるFが承諾をしていなかったときに、先順位担保権者Bが担保権の実行をすると、BはCに清算金支払義務を負うわけです。Fは承諾していないので、その時点ではCに対して担保権を持っているとはいえないというのが水津幹事のおっしゃっていたことかと思うのですけれども、しかし、もしCが持っている清算金支払債権に物上代位をしたい場合には、そこで改めてAからCへの目的別の譲渡を承諾してしまえば、Cに対して担保権を持っているということになりますので、問題なく清算金支払債権に対する物上代位ができるのではないかということです。 ○道垣内部会長 いえ。ただ、それはBが承諾をしてFが承諾していない場合には成り立たない議論ですよね。BはCに対して清算金を支払う、FはAを譲渡担保権設定者として扱うということですから、逆の場合には成り立ちますけれども。いろいろ関係者が複雑ですので、少しその辺りは置いておきまして、大西さん、お願いいたします。 ○大西委員 大西です。少しお話をお聞きしていて、素人的な考えで大変恐縮なのですが、コメントを申し上げたいと思います。担保権者の同意を得ないで行った担保物の譲渡は、担保権者に対しては対抗できないという案は、担保権者の同意を得ないで行われた譲渡担保権の設定された集合物動産の譲渡の効力を単純に無効とする場合、譲渡担保の設定によって一切の処分権が失われるということが不合理であるため出てきた案と理解しています。しかしながら、一方でこの案は、やはり5に記載のように非常に複雑な法律関係が出てくるという問題があります。これを逆の考え方を採用して、譲渡担保権付きの集合物動産の譲渡を有効として、その代わり、次の8の2のところで【案8.2.1】を採って、保管場所の移動は担保権者の同意を必要とするのはいかがでしょうか。また、実行手続の相手方に対して通知をした上で譲渡ができるという手続にすると、担保権者にとっても、担保権実行の相手方を知ることができます。抵当権付き不動産の譲渡は可能とされていますが、不動産の譲渡は登記により公示されているため、担保権実行の段階になっても誰が相手方か分かることになっています。それと同様に、譲渡担保権付きの集合物動産については、譲渡の相手方の通知を担保権者に対して行うことを前提に、譲渡を有効とし、保管場所の変更についてだけ、担保権者の同意を要件とする手続きとする方法はいかがでしょうか。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。もちろん可能性としてはあろうかと思います。ただ、あわせて、どこまでの必要性があるのかも考えなくてはなりませんよね。理論的にはおっしゃっていることはよく分かるので、無効ではなくて対抗できないのではないのというのはおっしゃるとおりなのですが、それをどういうふうな具体的な実体的な効果にするのかということも、どういったことが実際上は望まれるのかということを考えて決定しなければいけないと思うのです。それはいかがなのですかね。大西さんも含めまして、皆さん、取り分け実務的な観点からお伺いできればと思うのですが。 ○大西委員 大西ですが、一般的にはそれほど頻度が多い事例ではないのですが、担保権付きで動産を売る場合は、よく知っている知人とか親戚に目的物を持ってもらうような場合が想定されます。また、譲渡担保権設定がされている集合物動産を含む事業を譲渡する場合、普通は担保を解除してから譲渡実行をすると思いますが、第二会社方式による事業再生を行う場合に、担保権付きのまま新会社に事業譲渡を行うケースは稀にあるように思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに何かございますでしょうか。 ○水津幹事 第8の1及び関連する問題について、意見を申し上げます。前で扱ったテーマについて、山本先生と部会長がおっしゃったこととも関連いたします。   第8の1では、譲渡担保権設定者が第三者に譲渡する対象は、目的である財産権であるとされております。ここでは、目的である財産権は、譲渡担保権設定者に帰属することが前提とされているようです。そうであるとすると、第8の1の規律については、担保物権の設定者が目的である財産権を譲渡したときとのバランスが問題となり、これと異なる扱いをするのであれば、そのことを正当化する理由を明らかにしなければならないこととなります。   これに対し、譲渡担保権が設定されたときは、目的である財産権は譲渡担保権者に移転し、譲渡担保権設定者には設定者留保権が残ると捉えるのであれば、譲渡担保権設定者が第三者に譲渡する対象は、目的である財産権ではなく、設定者留保権となりそうです。この理解によれば、第8の1の規律については、担保物権の設定者が目的である財産権を譲渡したときとのバランスは問題とならず、どのような権利が設定者に留保されるのかを問題とすればよいこととなります。つまり、目的である財産権の帰属の捉え方によって、問題の立て方が異なるのではないかと思います。   譲渡担保権は、動産と債権とのいずれを目的とするものであるかにかかわらず、譲渡担保権設定者がこれを重複して設定することができるとされていることや、譲渡担保権者は物上代位をすることができるとされていることなどは、目的である財産権が譲渡担保権設定者に帰属しているという理解と親和的です。   他方で、動産譲渡担保権の及ぶ範囲に関する規律を設ける必要性は、目的である動産所有権が担保目的に制限されて譲渡担保権者に移転するという立場があることから根拠付けられております。もっとも、その立場によれば、附属物は従物とはいえないのではないか、といった議論もありました。また、債権譲渡担保権の目的である債権の取立権限に関する規律については、目的である債権が譲渡担保権者に移転しているかどうかや、その意味をどのように捉えるかをめぐって、前回の会議でも議論がされました。留保所有権の実体的な効力に関する規律を譲渡担保権のそれに合わせるという方向性によれば、留保売主も物上代位をすることができることとなります。  所有権留保については、留保所有権の目的である動産についても、留保買主が重複して担保権の設定をすることができることが前提とされております。このような扱いは、目的である動産所有権は、留保買主に帰属しているとの理解と親和的であるように見えます。ただ、前々回の会議では、目的である所有権の帰属の捉え方については、態度決定をしていないということでしたし、先ほども、態度決定をするのは、余り望ましくないとのことでした。   譲渡担保権や留保所有権は、破産手続・民事再生手続において別除権として扱われるものとされております。別除権の定義の問題のほか、内容に関わることとして、譲渡担保権や留保所有権が別除権として扱われるとしても、目的である財産権の帰属が譲渡担保権や留保売主にあると理解するときは、別除権に関する全ての規律が当然に適用されるわけではないのではないかとの議論があります。そうであるとすると、せっかく非典型担保について立法を行い、別除権としての扱いに関する規定を設けたとしても、目的である財産権の帰属の捉え方をブランクにしたままでは、解釈運用が安定しないこととなりそうです。   以上に申し上げたことは、担保目的取引規律型によって規律を設けるか、担保物権創設型によって規律を設けるかという問題と関わります。担保目的取引規律型によって規律を設ける方向性を採るとしても、目的である財産権の帰属の捉え方の基本的な方針については、はっきりとさせた方がよいのではないかという気がいたします。明文によって定めるべきであるという趣旨ではなく、現在提案されている様々な規律を全体として見渡した上で、それらの規律の前提となる理解がどのようなものであるかを検討し、その前提となる理解を共有した方がよいのではないかという趣旨です。   発言が長くなりましたが、第8の1と関わるのは、発言の最初の部分となります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ごもっともな点はあろうかと思いますが、ほかにいかがでしょうか。   いろいろな議論が出ていますが、Aが設定者になってBが譲渡担保権者になってというふうな事例のときに、AがCに当該目的物を処分する、その中身が何かという問題はありますが、目的物を処分するといったときに、対抗できないだけであって、その処分自体は有効に成立しているのだと考えたときの事務局の理解の大前提になっているのは、Cが設定者になってBが譲渡担保権者になっているというふうな状況が実体的には生じていると考えるというところから始まるのだと思うのです。したがって、Cさんは第三者に対して譲渡担保権を設定することもできるし、Aが譲渡することができたのだったらCもできる、なぜならば、もはやAというのは実体的には法律関係から離脱していて、BC間で設定者と譲渡担保権者がいるという状況になっているから、そこからまた新たにスタートであると、そういう考え方なのだろうと思います。   しかし、それでいいのかというのがまた問題になるところであって、BとFがいたときにそれをどうするのかというふうな問題につきましては、全員が合意をしないと実体的な変更をその譲渡担保権者には対抗できないというふうにすべきであると考えることによって、実体的にはCとBの、Cが設定者、Bが譲渡担保権者という関係になっていても、Bさん、Fさんは素知らぬ顔をして、Aが設定者、BとFが譲渡担保権者であるという行動をとればよいという考え方もできるのだろうと思います。   どう整理するかということであって、若干現在の部会資料が揺れているというのは、そうなのかもしれないですけれども、一貫して何かを作ろうと思えば作れないわけではないような気がします。そこが余り、やりすぎなのではないのというふうなことを言われ始めますと、やりすぎでないようにしようとすると、どんどん複雑になるということを認識して議論をしていくべきかと思います。今の私の発言は整理しただけです。ほかに何かございますでしょうか。 ○井上委員 井上です。前回の資料28での議論を踏まえて今回の御提案になったということは先ほど御説明いただいたのですけれども、なかなか複雑な問題が残るし、その解決も容易ではないということだと理解しました。更に先立つ中間試案には二つの案が提示されていて、担保権の負担付きで譲渡できるという案と、譲渡できないという二つがありました。今回は、その間をとってといいますか、別の提案になっていると思うのですけれども、元々、担保物権の一般的なルールとしては、担保権の負担付きで目的物の譲渡ができるという方が自然な感じがします。ただ、それについては、非占有担保であり、かつ目的物が動産であるということで、利用形態が大きく変わったり、場所が移ったりすることには問題が大きいということで、無効にすべきではないかという議論と、それから、実行の際に誰を相手にしたらいいかよく分からない、通知をどうしたらいいかよく分からないということで、できるだけそれを固定化したいというニーズにより、譲渡を無効とするか、あるいは相対的に、対抗できないという形で、効力を主張できないという提案になっていると思うのですが、翻って、普通に、担保権の負担付きで譲渡できるというルールを採った上で、譲渡やその後の場所の移動については、担保権者は約定でそれを禁ずればよいという考えもあるように思います。目的物にも様々なものがあり、大きなもの、小さなもの、動かしながら使うもの、あるいは人に貸して使うもの、そういった意味では、所有権の移転を法律で無効にすればいいというわけではない場合がいろいろあるので、基本的には契約で禁ずる、契約で禁ずるだけでは十分でない点は、それをモニタリングなどを通じて補完するということで、対応することも考えられます。手続的な通知先の固定ニーズの問題は残るのですが、どのぐらい実務的に担保が使いにくくなってしまうのかという観点から、今議論されていた不都合と、どちらが不都合が大きいのかという比較で、場合によっては、担保権の負担付きで譲渡できるというルールを採用することもあり得るのかなと今、議論を伺っていて、思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。大西さんがおっしゃったところと結び付くところかと思いますが、ただ、特約でいろいろなことを決めていない場合にどうなるのかというルール自体は、法律としては考えておかざるを得ないわけで、それが余りに複雑になるということになりますと、どうかなという感じもしますので、どう整理するかというのは難しい問題かもしれません。 ○片山委員 慶應大学の片山でございます。私自身は無効論者で、井上委員がおっしゃられたとおり、担保の本来の姿というのは、もちろん公示制度がきちんと完備していることを前提とすると、当然、処分もできるし、第三取得者的な地位になるというのは大原則なのかもしれませんが、しかし、動産の担保に関していうと、現実には公示がそれほど機能していないことを前提とすると、占有が離れてしまうと基本的には担保の実行ができなくなるという現状を、やはり前提として考慮しなければいけないのかなと思っておりまして、そういう意味では、処分されてしまうと担保権侵害になってしまうということを前提に、原則として無効ということで、承諾があればそれが可能という規律にするという方がいいのではないかと、今更それを申し上げても、とは思いますけれども、そのように思っているところでございます。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 いえ、今更ということはないと思うのですが、承諾したときにどうなるかという問題は、今まで出てきたような複雑な問題があるということだろうと思います。   ほかに何かございませんでしょうか。先ほど大西さんの方から、どういった場合に処分が必要になるかということについて御意見を頂いたわけですけれども、ほかにもこういった場合というのが考えられる、こういった場合にはニーズがあるというのもあるというご意見を踏まえて論じていかなければいけないテーマだと思います。委員、幹事の方々におかれましては、事務局に対して、こういうふうな場合、こういうふうな場合という形でいろいろなインフォメーションを与えていただければと思います。   その上でどういうふうに処理をするのがすっきりするのかということにつきましては、更に事務局において考えていただくということにしたいと思いますけれども、差し当たって事務局の方から何か、更にこの点については部会のみなさんに聞いておきたいということがございますでしょうか。   それでは、対抗するとか対抗しないとかいう議論というのは概して楽しいところでございまして、幾らでもできるのですけれども、これは更に次の回に回させていただくことにいたしまして、部会資料32の第8、譲渡担保権設定者の処分権限等の「3 集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲に属する動産の処分権限」について議論を進めたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 第8の3について御説明いたします。   3は、集合動産譲渡担保契約における設定者による特定範囲に属する動産の処分権限について、通常の事業の範囲に関連して、三つの案を提示するものでございます。通常の事業の範囲を超える処分については、その典型例としては、特定範囲に属する動産の無償譲渡や低廉な価格での投売りなどが文献等で挙げられているところでございますが、部会におきましては、その具体的内容が不明確であり、処分の相手方が通常の事業を超える処分であることにつき善意無過失であるとは具体的にどのようなことかイメージができないなどといった指摘が従来よりされてきたところでございまして、これらの指摘を踏まえて三つの案を提示するものでございます。   【案8.3.1】は、通常の事業の範囲という文言を残しつつ、その考慮要素を列挙するものでございます。どのような考慮要素を列挙するかについては様々な考え方があり得るところではございますが、ここでは過去の部会における議論におきまして、動産の流出は流入とセットであり、設定者の処分についても動産の補充が見込まれていることが重要であるなどといった指摘もあったところでございまして、このような補充の可能性等を考慮要素として列挙することとしております。もっとも、これによっても具体的な適用の在り方については明確とはいえないとの指摘も考えられるところでございます。   【案8.3.2】は、通常の事業の範囲という文言を使用せず、設定者の処分のうち相当とはいえないものについて主観的、客観的要件、またそのいずれかの要件を定立する規律の方向性を提案するものでございます。例えば、設定者の主観的要件として、担保権者を害する意図を持ってすることといった要件を客観的な要件と併せて、又は独立の要件として定立し、処分の相手方については処分行為に関する客観的要件、設定者の主観的要件の認識や、設定者との通謀を要件とすることなどが考えられる旨を説明においては記載しております。   【案8.3.3】は、設定者の処分権限についてその線引きを図ることは現実には容易でないことなども踏まえまして、設定者の処分権限については特段の制約を設けないものとしつつ、担保権者との関係については担保価値維持義務によって図るというものでございます。この規律によりますと、取引の安定が図られる一方で、担保権者との関係では担保価値維持義務がより重要となってくると考えられることから、担保価値維持義務の内容やその効果等について更に検討の必要が生じると考えられます。   以上について御議論いただければと思います。私からは以上でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○阪口幹事 阪口です。第32回会議において、もう少し具体的に議論した方がいいのではないかということを申し上げたところ、このような形で部会資料で取り上げていただいてありがとうございます。現在出ているこの三つの案だけでいえば、【案8.3.2】はまだ具体的ではないし、【案8.3.3】は担保権者の利害としてなかなか難しいものがあるので、この三つの中でいうと【案8.3.1】になるのだろうと思います。ただ、私としてはこの【案8.3.1】をもう少し深掘りしていかなければいけないと考えていますので、少し発言させていただきます。   まず、部会資料の25ページ以下に幾つかの学説が書かれておりますけれども、最終的にまとめられているとおり、基本的には補充の可能性などの観点から判断されるという点は、おっしゃるとおりなのだろうと思います。その関係で、まずUCCの方では、例えば代物弁済などはバイヤー・イン・オーディナリー・コース・オブ・ビジネスに入らないといわれているようですけれども、補充の可能性等があるのであれば、別に代物弁済しても、それは通常の事業の範囲内でいいという理解でいいのかどうかの確認が、まず1点です。   次に、倒産局面で、特に民事再生などの場合には、常務に属するという概念があり、監督委員の同意を要するか要しないかという局面でよく使われる概念ですけれども、実際上はそれとほぼニアリーなものだという理解でいいかどうかです。これは、観点的には違うと思うのです。つまり、そこでいう常務に属するかどうかというのは、再生債務者の一般的な処分権限を画する範囲であり、ここでいう通常の事業の範囲は担保権者という特定の債権者との利害の問題なので、観点は大分違うのですけれども、実際上はほぼニアリーなものだということでいいのかどうか、という問題です。なぜこんな問題が起きるかというと、担保権者の利害という観点から考えると、例えば特約すると通常の事業の範囲が狭くなることもあり得るのかどうかという問題があり、契約の解釈が通常の事業の範囲の判断において考慮され得るという話が途中に書いてありますけれども、しかし、そうすると今度、買主さんからすると監督委員が何も文句を言っていないから常務の範囲内なのだろうと思っていたところ、後日、いや、それは担保権者の目では通常の事業の範囲内ではないのだという議論が起きるのかどうかということです。以上のような少し具体的な局面、代物弁済と民事再生における常務との関係、この2点について質問というか確認をさせていただきたいのですが、いかがでしょうか。 ○道垣内部会長 事務局からあればお答えいただきたいと思いますが、それは確認できないと思います。阪口さんが出されたものが、例えば常務というふうな概念をどういうふうに判断するのかということと依存しているのであって、その二つの考え方について、片方を確実に決めることができなければ、その片方との間の比較というのはできませんので、それを答えるというのはどうかと思います。代物弁済につきましては、恐らく阪口さんがおっしゃるように、代物弁済は普通だよねという状況の下であるのか、これで代物弁済するのは異常だよねというので変わってくるのであって、およそ代物弁済というのが異常だとはならないというのは、それはそのとおりではないかと思います。そういったとき、今ここで個々具体的な事例を出して、そのシチュエーションをほかのものから切り離して、これが通常の事業の範囲内かどうかという議論をしても、余り私は建設的ではないと思います。もっとも、以上は私の意見でありまして、事務局から何かありましたら、お願いいたします。 ○笹井幹事 そうですね、基本的には部会長がおっしゃったとおりだと思いますが、2点目に関していうと、常務は、破産法、再生法、更生法なんかである概念ですし、今まで通常の事業の範囲内といっていましたのは、平成18年の最高裁判決を踏まえたものですので、その両者がどういう関係にあるのかということについて私が答える立場なのか分かりませんが、私の個人的な理解ということでいいますと、通常の事業の範囲内というのは、基本的には平時においても問題になる概念で、様々な経営判断の中で、担保取引の趣旨に照らして許されるのか許されないのかという問題を画する概念だと思いますので、やはりその機能は違っているものなのではないかと思いました。   1点目の代物弁済についても、これも部会長がおっしゃったとおりだと思いますけれども、これも様々なシチュエーションの中で判断されることだとは思いますけれども、やはり補充されるという余地があるのであれば、代物弁済であるということから直ちに事業の範囲内だとか、範囲外であるとかということがいえるというような性質ではないのかなと理解をしておりました。   差し当たりは以上です。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。まだ不明確だといって、まだいろいろ、阪口さんも含めまして、御意見があろうと思いますが、何人かの方から手が挙がっておりますので、まずお話を伺いたいと思います。 ○片山委員 慶應義塾大学の片山でございます。先ほどの個別の動産と違って集合動産譲渡担保においては、基本的には設定者に処分権が与えられているのを大前提としている担保形態なのだと思います。今回、部会資料において、この三つの可能性をお出しいただいたのは、議論が深まってよかったのではないかと思います。おそらく通常の事業の範囲という言い回しが判例法理でも定着していますので、それによるべきであるというのは一つの方向性だとは思います。ただその場合も、通常の事業の範囲であるということを主張立証させるのではなくして、通常の事業の範囲を超えた処分だということを担保権者の側で主張立証していくという枠組みが絶対に必要だとは思っております。更にその際に、何らかの判断要素を書き込むということであれば、しばしば井上委員がおっしゃっておられましたとおり、出の問題よりも入りの問題だという点がこの担保の特徴かと思いますので、やはり補充の可能性という点を中心に書き込んでいただければと思っております。   私自身は、改めて考えさせていただくと、【案8.3.3】という新しい御提案は魅力的な御提案だと思った次第です。基本的に多く売れるに越したことはないわけですから、一応処分権限は全部与えられているということを前提としつつ、担保価値維持義務で規律をしていくということかと思います。担保価値維持義務という形で一般的な規定をどこか別のところに置くかどうかは別としまして、集合動産譲渡担保における担保価値維持義務に関する規定を置くならば、その規定の中で、具体的な効果を明記する必要があると考えています。その一つは、補充義務ということでしょうが、あるいは更に、譲渡担保権を害するような処分については、譲渡担保権者に対抗できないというような、逸脱した行為の効力を制限するような効果を明記するという形で、具体的に担保価値維持義務違反の内容を明記していくという規律の仕方はもう一つの方向性ではないかと思った次第でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阿部幹事 私は、【案8.3.1】、【案8.3.2】に関しては、アプローチの違いではあるが、基本的には似たようなところを目指しているのかなと思いました。これに対して【案8.3.3】は、やはり大きく方向が異なるのかなと思います。【案8.3.3】は、処分権限自体は制約しない、したがって、担保価値維持義務によって担保権者の利益を図るというけれども、担保価値維持義務違反があったからといってその処分の効果には一切影響しないと、そういう趣旨だと理解しました。(説明)の中には最後の方で、特段の合意があるような場合に、その特約によって処分権限を制約できるのか、という話はあったのですけれども、これも特段の合意をしなければ処分権限を制約できないという話なのかなと思いました。ですが、その前提となっているところにやはりやや乱暴なところがあるかなと思いました。   まず、説明の中で、設定者の処分権限を制約することの実質的な利点は、集合動産から処分の相手方の下に逸出した財産に引き続き担保権が及び、ここから優先弁済を受けることができる点にあるが、現実に逸出した財産を対象として実行を行うのは困難であるとも考えられる、ということが書かれています。処分の相手方に引き渡されてしまうと、これを対象とした実行を行うのは実質的に困難が生ずる、というのは確かにそうかなと思いますけれども、通常の営業の範囲を超える処分権の制約を説いた最高裁平成18年7月20日判決では、設定者が処分の相手方に対して引渡しの履行を拒絶できるかという問題との関係で、通常の営業の範囲の中か外かということが重要になると最高裁は判示したわけでありまして、このように、設定者が処分はしたけれども、結局また寝返って、担保権者の利益のために引渡しを拒むというような行動をしたときには、それは認められるというのが平成18年判決だったのだと思います。そういった形で、設定者が最終的に担保権者のために拒んでくれるのであれば、拒めるようにするという限度では、処分権限を制約するということにやはり意味は残るのではないかと思いましたので、意味はないと言ってしまうと、平成18年判決のような事案もあったということを軽視しすぎているのではないかと思いました。   それから、もう一つ上のところで例として、在庫を保持しても今後より高い価格で売却することを期待することができない場合など、どのような分量、価格であっても処分した方が事業の継続にとって合理的な場合もあると書かれていまして、こういう場合には確かにその処分自体は認めた方がいいのかなと思いましたが、その代わりに物上代位等による債権回収を担保権者に認めることが必要になるかなと思いました。というのも、「事業の継続にとって」と書かれていますけれども、在庫一切を売り払ってしまって今後補充しないというような形での事業の継続というのは、恐らく事業形態が担保権設定時とは大きく変わっていて、これを単なる事業の継続とはいい難いのではないかと、設定時に担保権者が想定していた事業とは大きく異なっていると言わざるを得ないのではないかと思いますので、これは一回、事業が変わっていると評価して、その清算をするというような方向に流していくべきなのかなと思いました。ただ、そうだとしても、担保権者に債権回収を認めつつ、しかし設定者による処分自体は認めるというふうな方向も、こういう場合にはあるのかなと思いまして、そうだとすると、補充を予定していないかどうかということは絶対視すべきではなく、考慮要素にしておくというのが穏当かというような気もしました。そういう意味でいうと、【案8.3.1】の方が、補充は一考慮要素という位置付けですので、そちらの方が穏当かなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。【案8.3.2】について一言だけ私から申しますと、今、【案8.3.1】と似通ったところがあると阿部さんはおっしゃって、そもそものところ、これは検討方向が示されているだけですので、今ここでは賛否が述べられないと阪口さんのおっしゃるのには誠にごもっともな点があります。ただ、恐らく【案8.3.2】の趣旨というのは、【案8.3.3】に逆に近いところがありまして、客観的ないろいろな要素によっては決められないよねと、それはばっとたくさん売るという場合もあれば安く売るという場合もあって、そうなると担保権者を害するような形をもって売却をする、処分をするというふうな主観的意図を持っていて、そして、それを相手方が分かっているというふうな場合には、それはさすがに相手方を保護する必要はないよねと、ある種の共同不法行為みたいなものですから、その場合には否定しましょうというものですね。恐らく逆に【案8.3.3】に近いのかもしれないという点はあるだろうと思います。そういうものとして【案8.3.2】というのを理解して、客観的ないろいろな、客観的とは限りませんが、状況から判断していくのか、もう主観的に侵害するという気持ちを持ってやるということを捕捉しようとするのかというふうな違いであるとお考えいただいた方がいいのかなという気がしております。今のは私の理解であって、必ずしも事務局の理解とは違うかもしれませんが。 ○佐久間委員 今、道垣内部会長がおっしゃった【案8.3.2】の理解を前提に、そういう考え方がいいのではないかということ申し上げようと思っていました。結局のところは片山委員にもかなり近い考え方なのですけれども、片山委員が最初におっしゃったのは、集合動産譲渡担保の場合は設定者に処分権があるということを出発点とするということで、それはそのとおりだと私も思っております。そのように処分権が設定者に基本的にあるということを前提とすることが、最終的には債権回収の点で担保権者にとっても望ましいことになると考えています。そのように設定者の処分権を基本的には確保するということ、あるいはかなり自由に取引させるということを実現しようと思いますと、第三者、相手方の信頼を害する、相手方の利益を害することがあっては好ましくないと思います。相手方が取引にちゅうちょするようでは、設定者による処分が事実上制約されることになるからです。   そのような観点から今、【案8.3.1】を見ますと、多分【案8.3.1】は一定の基準を立てて処分権の範囲を画し、その範囲を超えるものについては無効な処分であるから、相手方は即時取得によって保護されるにとどまるという考え方だと思うのです。そうであるところ、【案8.3.1】のただし書の別段の定めというのは、これは設定者と譲渡担保権者との間でされる合意であって、第三者からすると極めて見えにくいというか、分からないことが一般的だろうと思います。   通常の事業の範囲の方はどうかといいますと、【案8.3.1】で記されている通常の事業の範囲という定め方自体は、私は大変穏当ではないかと思っているのですが、そこで挙げられている3要素のうち取引上の社会通念は、取引社会に生きるものだったら分かっていて当然だといえるのかもしれませんけれども、設定者の事業活動の態様というのは、これは様々であって、取引相手だったら簡単に分かりますねという性格のものではないと思います。更には動産の補充の可能性、これも通常の事業の範囲かどうかを判断するには必要だろうと思うのですけれども、補充の可能性に至っては、取引時には第三者からはおよそ分からないというのが正直なところなのではないかと思うのです。そうだとすると、この【案8.3.1】というのは即時取得頼りだということを前提とすると、第三者の利益の保護を必ずしも十分に図れなくて、その結果、基本的には設定者に処分権があるのだということを十分に生かし切れない結果になるのではないかと思います。   そうであるところ、では処分権があるのだから設定者は何だってできるかというと、それはやはりそうではなくて、【案8.3.3】に表れている担保価値維持義務が設定者にはあるわけなので、一定の範囲でしか、少なくとも内部的には処分することはできないというふうな考え方を採るべきであると思います。そして、これは内部関係なのだけれども、ではおよそ相手方には影響を及ぼさないのかというと、言わば処分権の濫用に当たるようなものについて相手方が加担しているというような場合であれば、それは処分の効力を否定するという意味で、言わば対外的効力を認めてもいいのではないかと私は考えました。   そうすると、補足説明にある27ページの6行目以降に、こういうことが考えられるということが書いてあって、ここからが道垣内先生がおっしゃったことに正に当たるのですけれども、今私が申し上げたような観点からしますと、基本的には設定者がした処分の効力は認められるのだけれども、担保権者を害する意図を持って行われており、かつ相手方がそのことを知っていた悪意、又は通謀でもいいのかもしれません、通謀していたと認められるときは、これは譲渡担保権者が主張、証明しなければいけないと思うのですけれども、そのときは例外的に効力を否定するということが穏当なのではないかと私は思います。だから、結局のところ【案8.3.2】の中でそのような立場を採ることはどうか、というのが意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。代理権の濫用とかそういうのと近い考え方をするという話だと思いますが、沖野さん、お願いいたします。 ○沖野委員 ありがとうございます。この【案8.3.1】と【案8.3.2】と【案8.3.3】の違いというか、関係がどうなっているのかという点なのですけれども、私は、今、佐久間委員がおっしゃったのと同じような形になるのかなと思っております。といいますのは、【案8.3.1】は通常の事業の範囲内という概念を維持しつつ、その考慮要素を明らかにしていくことで絞り込むという形になっている、それに対して【案8.3.2】はその概念は採らずに、どういうものであればできないのかということを具体的に書いておく、【案8.3.3】はもう制約を設けないと、そういう対比になっていると思うのですけれども、他方で【案8.3.1】は、こういう範囲なら処分ができるという形になっており、【案8.3.2】はこれであるとできないという形になっていて、【案8.3.3】はおよそ制約はないという形になっていると。   これは最初に片山委員がおっしゃったところなのですけれども、どういう形で範囲を切り出していくか、そこに通常の事業の範囲内という概念を立てるかどうかというのも確かに一つではあるのですが、結局似たようなところに帰着するとすると、その概念を一つ枠組みとして立てるか立てないかだけの話のようにも思えて、こういうものであればできるという書き方をするのか、これはできませんという形で書いていくのか、それともう一つ、【案8.3.1】であれ【案8.3.2】であれ、相手方の保護というのはやはり必要になってくるので、通常の事業の範囲との書き方で、かなり内部的な話が、あるいは別段の定めというのが入ってくると、どうしても相手方の利益考慮のための要件設定がもう一つ出てくる、【案8.3.2】でも同じではないかと思うのです。   そうすると、例えば、本当に概念として明確かというのはあると思いますけれども、担保権者の利益を害するような処分であるということを相手方が知っているとか、あるいは通謀してやったというような場合まで【案8.3.3】でも制約されないのかというと、それは【案8.3.3】でも制約はされるのではないかと思いまして、【案8.3.1】と【案8.3.2】と【案8.3.3】の対比がそれほどきれいなのだろうかという、通常の事業の範囲という概念を立てますかというのは違いますけれども、むしろそれを超えたものができないという形で整理した上で、事業の範囲内という客観だけで行くのか、主観も加えるのか、でも、ここはやはり主観は加えざるを得ないのではないかと、害することというのが立てられるのであれば、とは思っております。だから、それほどきれいに三つ並列するということではない形で整理ができるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   私と事務局とは一心同体ではありませんけれども、事務当局の気持ちをそんたくいたしますと、それは分かってはいるのだが、通常の事業の範囲という言葉が判例上もずっと使われてきたので、それを生き延びさせる形で、皆さんが言っているような結論をどうやって導くのかと工夫するということなのだと思うのです。【案8.3.3】のように、もうそれから離れてしまうというのは、沖野さんがおっしゃるように、その場合だって通謀してやった場合は駄目でしょうというのはそのとおりなのですが、やはり気持ちとしては、通常の事業の範囲という言葉を残しながらうまくそこら辺を表現できないか、というのが事務局の事柄なのだろうと思います。   結論として皆さんがおっしゃっていることはそれほど違うわけではないような気もいたしますし、最初の阪口さんがおっしゃったような、【案8.3.1】だけで行くと判断はなかなかできないではないかというふうなことに対しては、皆さんがおっしゃるように、通謀したような場合は、第三者は保護されませんよねというふうな主観的要件に落とし込んでしまえば、恐らく阪口さんの御懸念というのもなくなるのではないかという気もするのですけれども、それをどういうふうに書くかということなのだと思います。 ○阪口幹事 ありがとうございます。阪口です。私は、元々、部会資料28の17ページで、通常の事業の範囲外での処分という問題と、相手方の主観的要件という枠組みであったので、今回、部会資料32で、その前半の部分について議論されていると理解して、だからこそ、私はこの後、相手方の主観的要件は善意無過失ではなく、善意無重過失か何か広くしてくださいという提案をしたいと考えていました。私自身は、通謀だけが効力を否定されるという、そこまで狭くする気もないのですが、【案8.3.1】を採りつつ、善意無重過失なのか、悪意の人が排除されるのか、より通謀的な害意的なものまで要求するのか、次の相手方の主観的要件とミックスした議論をすべきだと思っていて、仮に買主保護は民法192条適用だけではないというところがもしこの場の皆さんの大勢であれば、私は別にそれ以上、異論はありません。元々の部会資料28の提案が善意無過失、どちらかというと即時取得一本主義というか、それに寄せた御提案であったものだから、それは少しまずいですよということを次に言おうと思っていました。今日の皆さんの認識が大体よければ、それで何の異論もないということだけ言わせてもらいます。 ○道垣内部会長 即時取得のときにも、設定者の側の処分権限のあるなしに関する善意無過失の問題になりますので、その処分権限というのをどういうふうに考えるのかという問題で、例えばそれが、たくさん売ったって構わないけれども、担保権者の利益を害する目的を持って売るという権限はないよねということになると、悪意の対象、不知の対象が、担保権者の権利を害するという事実、ないしは意図に関する知、不知の問題になりますので、それはそういうことかなと思います。また、無重過失とおっしゃったのですが、無重過失にしているという法制度というのは、信託法も含めて多々ありますので、無重過失も考えられるのですが、流れを、即時取得の話の一応は適用である、しかしそれは権限の問題の善意無過失の問題であるとか、あるいは佐久間さんがおっしゃったように代理権の濫用に近い問題というふうに捉えますと、無重過失というふうなものが素直には出てこないところがあります。ただ、無重過失になるか、無過失になるかというのは運用の問題ともいえますので、更にその点は全体のバランスで検討しなければならないのだろうと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○藤澤幹事 藤澤です。道垣内先生が「通常の事業の範囲」という言葉を生かしつつという御意見をおっしゃった後に、すごく言いづらいところなのですけれども。 ○道垣内部会長 意見ではございません。そんたく。 ○藤澤幹事 そんたくがあったところ、すごく申し上げづらいのですけれども、「通常の事業の範囲」という言葉を処分権限の範囲を画する言葉として使うのは、少しどうかなと思うところがあります。   というのも、この言葉が使われる背景にはUCC第9編の規定があると思うのですけれども、UCC第9編がどういう枠組みになっているかというと、まず、処分権限がある場合には当然、第三者は設定者の処分によって承継取得することができます。このことはどの国でも同じだと思うのですけれども、では処分権限がない場合にどうしますかというところで出てくる言葉が「通常の営業の範囲」なのです。処分権限がない場合にどうするかというと、第三者は基本的には即時取得で保護されるのですけれども、それ以上の保護を与えるために「通常の営業の範囲」という言葉が出てきて、即時取得の要件には当てはまらないのだけれども、通常の営業の範囲内で売買がされた場合には、その買主は保護されます、悪意であっても保護されますというルールになっているのだと思うのです。   ですから、「通常の営業の範囲」というのは非常に客観的な概念で、だから具体例が列挙されているというか、代物弁済なら第三者は保護されませんよ、即時取得でないと保護されませんよというふうになっているし、バルクセールのような場合も、即時取得の要件を満たさないと第三者は保護されませんよというふうになっている。そういう客観的な概念だろうと思うのです。「通常の営業の範囲」の概念を継受したほかの立法でも、やはりそういう使われ方をしていて、例えば、中国法でもそういうルールとして登場しています。   ところが、日本ではむしろ処分権限の範囲を画する言葉として使おうとしているのが、少し混乱するところなのではないかと思っております。ですから、処分権限の範囲は別途、違う言葉を使って規定し、それが、もしかしたら通常の事業の範囲として【案8.3.1】で説明されている事柄なのかもしれないのですけれども、そういうふうに定めて、第三者保護の要件が即時取得以外に必要なのかどうかということは、またそれとは別途考えるということで進められたらいいのではないかな、なんていうふうに思いました。なので、この中でいえば【案8.3.2】がいいのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ほかにございませんでしょうか。構造の問題ですから、即時取得の各国における位置付けの問題でもありますので、なかなか難しいところもあろうかと思いますけれども、枠組みの整理としては非常に分かりやすいお話だったと思います。ほかにございませんでしょうか。   では、恐らく客観的な要件が欠けているからといって第三者が保護されないという御意見はなく、第三者がかなり広く保護されるということを前提としながら、それを先ほど藤澤さんがおっしゃったような権限の問題、及び通常の事業の範囲という今まで使われてきた言葉との関係等々と併せて、どういうふうに仕組んでいくかというふうな問題かと思いますので、更に事務局に検討していただくということでよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございました。それでは、少し長くなりましたので、ここで休憩を取りたいと思います。16時35分に再度お集まりいただければと思います。どうもお疲れ様でございますが、よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○道垣内部会長 それでは、16時35分になりましたので、審議を再開したいと思います。   通常の営業の範囲の問題につきましては、まだまだ議論は尽きないところと思いますけれども、少し先に進ませていただきまして、「第9 根譲渡担保権の極度額の定め及び根譲渡担保権の処分」について議論を行いたいと思います。   先ほど申しましたように、「4 集合債権譲渡担保の目的である債権の取立権限・弁済受領権限の所在」というのは、前回させていただいたということを前提にしまして、「第9 根譲渡担保権の極度額の定め及び根譲渡担保権の処分」についての議論に入りたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 第9は根譲渡担保権の処分について取り上げるものです。部会資料28では、元本確定前の根譲渡担保権の処分を認めないことを提案しておりましたが、部会の審議やパブリック・コメントでは、根譲渡担保権の分割譲渡などを認めるニーズがあるとの意見があったため、根譲渡担保権の処分の導入について改めて提案するものです。   まず、(2)では、根譲渡担保権について実務上のニーズが大きいと考えられる全部譲渡と分割譲渡を認めることとしております。なお、一部譲渡については、分割譲渡を認めればニーズには対応できると考えられること、元本確定前の根譲渡担保権の共有という複雑な権利関係を創出するのは好ましくないことから、認めないこととしております。   次に、極度額の定めのない根譲渡担保権の分割譲渡を認めると、実質的に極度額の定めのない新たな根譲渡担保権が創出されることとなり、適当でないと考えられます。そこで、(1)のとおり、根譲渡担保権について極度額を任意で定められることとし、その定めがある場合に限って分割譲渡を認めることとしています。これに対し、全部譲渡については根譲渡担保権の数が変わるわけではないので、極度額の定めを要件とはしておりません。(3)では、根譲渡担保権の全部譲渡と分割譲渡を登記できることとすることを提案しています。これに対し、極度額の定めや元本確定事由は登記事項としないことを提案しています。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御質問、御意見等をお願いいたします。 ○井上委員 井上です。今の御説明からも、今回の御提案は、資料の31ページの13行目ぐらいからありますように、分割譲渡については極度額の定めがある場合に限って許すと、そうでなければ競合する他の後順位などの担保権者の利益を害するという一方で、根譲渡担保の全部譲渡はこのような問題が生じないという整理だと思います。これは、先順位担保権者の数が増えるのは後順位担保権者にとって害があるけれども、人数が変わらなければ、それが誰になっても害はないという価値判断に立っているのだと思うのですが、実務的にはやや違和感があるところで、上位の担保権者がそっくり替わるというのも、それなりに後順位者に対する影響が実際にはあるように思います。   一般的に、後順位担保権者などの利益を害さないようにするためには、御提案のように、極度額の定めを設けた上で、その極度額の範囲で分割したり譲渡したりするということであれば、これは害さないということだと思いますが、もう一つ、極度額の定めがなくても、後順位者全員の承諾があれば、その場合も害さないといいますか、問題ないということになると思うのです。しかし、今回の御提案は、全部譲渡についてはいずれも不要とされる一方で、分割譲渡については後順位者全員の承諾があってもできないということになるのでしょうか。極度額の定めがない分割譲渡というのは、分割譲渡という言葉が分かりにくいのかもしれませんけれども、同順位の根譲渡担保権者をもう1人呼び込むことを意味するわけですが、それは、後順位者全員の承諾があってもできないという御提案のように思うのですけれども、私としてはむしろ、全部譲渡であれ分割譲渡であれ、極度額があり、その範囲で行われるか、あるいは、後順位者全員の承諾があるか、いずれかであれば認めてもよいのではないかと感じました。 ○道垣内部会長 一つのシチュエーションに対する御意見でございますので、少しほかの方の御意見も伺ってから、まとめて事務局等からお答えいただきたいと思います。 ○日比野委員 この部分は、金融機関の融資実務において、集合動産譲渡担保を複数の担保権者が共有するという状況があるという実務について御理解を頂いた上で、今回御提案いただいたということで、まず、その点に感謝申し上げます。御記載いただいた内容であれば、金融機関の実務において、支障なく運用はできるのかなと基本的には考えているところでございます。   1点、今回(2)ウのところで、共有状態を作り出す一部譲渡は認めないということとされておりますけれども、現在の実務においては、むしろこの根譲渡担保の一部譲渡が行われているという事情がございます。これは、現在の法制度を前提とすると、実務的にはこの方法をとらざるを得ないということで、このような運用しているのですけれども、そうしますと、例えば、改正前に取得した譲渡担保権は新法施行後でも一部譲渡ができるといった、経過措置の設計を御検討いただきたいと思います。そうしないと、改正間際に取り組んだファイナンスが改正後に一部譲渡の登記ができないといったことになると、それはそれで、その後の対応が困難になるように思われますので、この点だけ御理解いただければということでございます。 ○道垣内部会長 井上さんの質問に戻る前に、少し日比野さんの発言を確認したいのですけれども、現在の実務において根譲渡担保権者がいるといったところに、もう1人債権者がそこに入ってくるということが行われるという意味でございましょうか。 ○日比野委員 はい、そうなります。 ○道垣内部会長 それはそれで結構なのですが、それが新法ができた後は、なくてもやっていけるのではないのというのは、どういう御趣旨というか、意味なのでしょうか。 ○日比野委員 新法ができた後に新法の枠組みの中で契約をして登記をするということであれば、そこは問題なく運用できると思うのですけれども、恐らく新法が施行されるときに、登記制度も新法に合わせて整備されるものと理解しますので、旧法のときに実行した取引に関する登記というのは、法施行後も旧法の実務に従った登記ができるということになっていないと、実務が混乱してしまうのではないか、ということになります。 ○道垣内部会長 もう1個伺いたいのですけれども、その根譲渡担保権を共有にするという、担保権者を1人加えるという現在の実務においては、後順位の方がいらっしゃることが前提ですか、いらっしゃる場合も含めてですか。 ○日比野委員 現状においては、個々の取引によって、もしかすると異なる考え方を採っているケースがあるかもしれませんが、後順位がいる場合も考えられますし、順位の設定に疑義があると考えている場合には、後順位設定ではなくて、先順位担保権が実行した後の清算金の返還請求権を担保として取得するという取引もあると思います。 ○道垣内部会長 なるほど。井上さんのお話とも関係するのですけれども、この事務局から出てきた案の根本は、ある人が極度額のない根譲渡担保権を持っていて、それを一部譲渡できたりいろいろするというのは、被担保債権を他者のものまで含めてどんどん増やすことができるということを結局意味することになるわけであって、後順位がいなければ、まだそれはそれでもいいのですけれども、後順位者がいるときにはそれはむちゃでしょうという考え方なのだろうと思うのです。井上さんは、後順位全員のオーケーを取ればいいのではないのという、それは一つの考え方なのですが、極度額のない根譲渡担保権がまず設定されているというときの利益状況というのを考えたときに、それはもう幾らになるか分からないし、どんな債権者がそこに更に付け加わってくるか分からないと、だから後順位はほとんど意味がないよねというふうなものだというふうに現在は動いているのかということを確認したいのです。 ○日比野委員 ありがとうございます。この議論の中で専ら念頭に置いていたのは、いわゆるシンジケートローンのような枠組みの取引ですので、債権者は債権の一部譲渡で増えてはいくのですけれども、だからといって、いろいろな人が入ってくるとか、あるいは被担保債権が無尽蔵に増えていくというようなことは、そのファシリティーの中では想定していないといえます。ですので、現在の実務においても合意による極度額の設定というのをすること自体は基本的には問題はないということなのだろうと思います。 ○道垣内部会長 途中で話しまして、申し訳ございません。   ほかにございませんでしょうか。 ○伊見委員 伊見でございます。まず、極度額に関する点が一つと、それから一部譲渡に関する点が一つ、分割譲渡に関する点を一つ申し上げたいと思います。   まず、今、部会長からの御発言もあったかと思うのですが、極度額の定めを任意とするということにしますと、担保権設定時には極度額を定めていないけれども、分割譲渡をするに際して極度額の定めが必要なので、後から極度額を定めるというようなケースが出てくることが考えられると思います。そのような場合の極度額を後から定めるという行為は、縮減的な変更に当たるという理解でよいのかというところが一つ確認でありました。というのは、第9の1(1)イのところで、利害関係を有する者の承諾を要するということになっておりますので、誰が利害関係人になるのかというところの判断において、縮減的な変更として扱われるのかどうかというところの確認が必要だと思いました。   2点目なのですけれども、一部譲渡に関しまして、これは譲渡担保権の設定当初からの共有も消極と解する趣旨なのかどうかということの確認をさせていただければと思いました。先ほどの日比野委員の御発言と若干重なるところもあるのかと思いますけれども、現行の実務においては同順位の設定というのがなかなかしづらいというところにおいて、設定時に複数の担保権者の共有の譲渡担保権を設定するということで同順位の処理に近い形で扱われているということと承知しておりますので、今後は登記制度の見直し等を含めて、同順位設定が可能化していくということを想定し、当初からの共有の譲渡担保権も消極と解する趣旨も含めた御提案なのかどうかということの質問であります。   3点目、分割譲渡についてなのですけれども、実務上のニーズが高いというところについては承知をしておりますが、一方でこれを登記できるとした際に、登記の際の公示がどうなるのかというところが、私なりに考えてみて、なかなかイメージが持ちづらかったということであります。同順位の別の担保権を新たに創設するという御説明が先ほどありましたが、そうであれば、新たな譲渡担保の登記を起こすようなイメージになるのか、それとも、これまでの部会の中で御提案があったような、担保目録等の中で公示をされていくのかというところが、もし何か具体的な案があるのであれば、お示しいただけるとよいかなと思いました。   いずれにしましても、この分割譲渡に関しましては、ニーズというところも重要ではありますけれども、登記による公示が適切になされるかどうかという観点から、その採否を決定していくべきだとも思っておりますので、よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。井上さんのお話から始まりまして、幾つか質問も出ていると思いますが、もしよろしければ事務局の方からお願いいたします。 ○笹井幹事 井上委員からの御指摘で、確かに現在のこのゴシックの提案においては、後順位全員の同意があったときというのは書いておりませんので、今のゴシックを形式的に見れば、極度額がある場合だけ分割譲渡ができるということになっております。そこについて、後順位全員の合意があった場合にはという規律を設けるべきだという御指摘かと思いますので、そちらについてはまた検討させていただきたいと思います。少し気になるのは、登記がされていない後順位担保権者もいますので、後順位の全員の合意があったことを認定できるのかどうかというところが一つ、ハードルにはなってくるのかなとは思いますが、そこはもう効力の問題として事後的に解決するのだと、そういう解決の方法はあり得るかもしれません。   全部譲渡については、先ほど井上委員が正におっしゃったとおり、いずれにしても、元々極度額を任意、必要的なものとしておりませんので、被担保債権額がどれだけになるのかというのは基本的には余り予測できないという状態で、後順位の担保権が設定されていくという制度を考えておりまして、ただ、そうはいっても、分割譲渡ということになりますと、元々の担保権者との間の取引に基づいて発生した債務に加えて、もう1個別の人との取引に基づく債務を丸々被担保債権として抱えないといけないということになるので、それは事後的に先順位の担保権を設定するのとほぼ同視できるということで、特別な要件を設けたというのが元々の意図ではありますけれども、ただ、全部譲渡によって債権者が全く異なる人に替わってしまうという場合には、大分後順位の人に対する影響も大きいのではないかという御指摘だと思います。それも確かに一つの考え方としてあり得る考え方かと思いますので、検討させていただきたいと思います。   それから、伊見委員の方から、元々何もなかったところで極度額を定めるのは縮減的な変更だということで理解してよいのかという御指摘がありましたが、これは十分に精査していたわけではありませんけれども、今御質問を受けて考えますと、そのとおりかなと思います。   当初からの準共有の否定というところも、今、仕方がないから準共有にしているというところは実務的にはあるのかと思いますけれども、元々同順位で設定できるということを前提にすれば、ここでの提案としては、当初から準共有という形で登記をするということも認めないというつもりで考えておりました。   それから、最後の分割譲渡のところですけれども、ここは関連登記目録を使うのではなくて、元々の設定者から譲渡されたという新しい登記を起こすと、全く同じもののような形で作った上で、ただ極度額がそれぞれ分割されて記載されていると、そういうイメージかなと思います。   これで一応全部お答えしたでしょうか。もし何か欠けておりましたら、と思います。 ○道垣内部会長 伊見さんに伺いたいのですけれども、今、Aが持っている動産をB、Cに共有として移転するというときの、178条にいう引渡しに代わる登記というのはできるのですか、できないのですか。 ○伊見委員 現状、しております。できます。 ○道垣内部会長 そうすると、分割一部譲渡、つまり共有の状態になるというのが最初から認められないというのは、通常の譲渡のときにできることと少しコンフリクトがあるような気がするのだけれども。 ○笹井幹事 今の譲渡というのは、元々の譲渡人からAさん、Bさんに対して譲渡するという、それで共有状態になるということですね。ですので、それは準共有というより、二つの譲渡担保ができるということではないのでしょうか。 ○道垣内部会長 動産の単純真正譲渡の場合は当該動産が共有になるわけでしょう。その共有になるという状態が登記に反映されているわけだから、それを共有持分を登記していると考えるのか、なるほど。 ○笹井幹事 ここでの譲渡担保権の準共有とは違うのかなと思っていたのですが、そこはもう一度、整理をした方がよいかもしれません。 ○道垣内部会長 所有権の共有のときにはできるのだけれども、譲渡担保権を共有するという場合はできないということになると、また先ほどの、そもそも譲渡担保権と所有権の関係はどうなるのという問題に戻ってきてしまって、ある一定の判断をしないと、一方が否定されて他方が肯定されるということにはならないのではないかという気もしないではないけれども。   その辺りのことは、登記の手続と併せて、井上さんがおっしゃった同意をどういうふうにして調達するのか、同意ができれば、本来的には一番後ろに順位を付けたって、順位の変更で上に上がろうと思えば上がれるはずですよね、それを後順位譲渡担保権者が全部オーケーしたときに、一番上に持ってきて共有にするというのが認められないとする必要はないのではないかというのは、ごもっともな点もあろうかと思います。ただ、この問題は、仕組んだときにどこまで登記手続等が複雑になってしまうのかという問題と密接に関係しておりますので、余りに複雑になるようだと実体法的に認めていない方がすっきりするということにもなりますので、伊見さん等の御協力を頂きながら、少し事務局に検討していただきたいと思います。   ほかにございませんでしょうか。実体的にこういうものも認めるべきだという御意見も頂きましたし、技術的な問題についても幾つか話が出ておりますので、そういう方向でまとめていただければと思います。   そこで、先を急ぐようで恐縮でございますけれども、「第10 動産譲渡担保権が他の動産担保権と競合する場合の優劣」という部分のうち「1 占有改定による隠れた動産譲渡担保権への対処方法」と、「2 集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合の優劣」ということについて議論をさせていただければと思います。事務局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 第10の1は、占有改定の方法により対抗要件を具備した隠れた動産譲渡担保権への対処方法について取り上げるものです。   【案10.1.1】は、占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権を、占有改定以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権に劣後させる占有改定劣後ルールを提案するもので、部会資料30から変更はありません。なお、この案による場合には、(説明)の@からBまでの事実関係のように、占有改定以外の方法によって対抗要件を具備した後に、設定者の下に目的である動産の占有が移り、その後に当該動産について譲渡担保権が設定された場合に、占有改定劣後ルールが適用されるのか、適用されない場合の優劣のルールをどう定めるべきか、などが問題になるように思われますので、この点を(説明)で問題提起しております。   これに対し、【案10.1.2】は、動産譲渡登記を備えた動産譲渡担保権を動産譲渡登記以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権に優先させる、完全登記優先ルールを新たに提案するものです。部会の審議でもこのルールを提案する意見がありました。この案によると、先ほど述べた問題は生じず、順位関係も明確になりますが、動産譲渡登記が事実上強制されることになりかねず、融資における登記に要するコストが上乗せされるなどの問題が生じ得ると考えられます。   第10の2は、集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合の優劣について取り上げるものです。実質的な提案内容は部会資料30から変更はありませんが、ルールの全体像が分かりにくいとの意見がありましたので、これを明確にしております。   (1)では、集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権が競合する場合に、占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールが適用される事実関係の下では、そのルールによって優劣を決めることにしています。これに対し、(2)では、これらのルールが適用されない事実関係の下では、その優劣は、「集合動産譲渡担保権の対抗要件具備時と個別動産が集合動産に加入した時のいずれか遅い時」と、「個別動産譲渡担保権の対抗要件が具備された時」の前後によるという、いわゆる加入時説によることを提案しております。   なお、部会資料30の説明では、集合動産譲渡担保権と個別動産譲渡担保権の双方に動産譲渡登記が備えられている場合には、優劣は登記の先後によるとする加入時説の修正案も提案しておりましたが、加入時説の考え方と一貫しないとの意見もあったため、この場合も一律に加入時説によって優劣を決することとしております。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等をお願いいたします。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。今回の御提案で、占有改定の方法で対抗要件を具備した集合動産譲渡担保について、加入時説を採っていて、集合動産譲渡担保の対抗要件である、一部の動産の引渡しがあっても、その時に遡及して優先効が認められるというわけではないということが、かなりはっきりしたかと思います。ただ、それと平仄を合わせる形で、登記によって対抗要件を具備した集合動産譲渡担保についても、加入前の構成部分につき第三者のために個別動産譲渡担保の設定があり、そちらについて集合物への加入の前に登記がなされたという場合に、個別動産譲渡担保が勝ってしまうという結論になるのだという御説明があったかと思います。しかし、これを採用してしまうと、要するに、譲渡担保の競合のときに、登記の先後で優劣を決めるというルールの大きな穴になってしまわないかと思いますので、この点について個人的に疑問を持っております。 ○道垣内部会長 考え方としては、集合動産譲渡担保のときに、その登記が効力を発生するのが集合動産に当該動産が加わったときであるという考え方で、効力発生時期を入れると、先後で決まっているという発想ではないかと思うのですが、それは私の間違いですか。 ○笹井幹事 いえ、結論的には、どう説明するかというのはあるかもしれませんけれども、集合動産について登記が既にされているということを前提にすると、そこに加入した時と、当該個別物について登記がされた時との先後によるということになりますので、そこは今、部会長がおっしゃったとおりなのではないかと思います。ただ、青木幹事がおっしゃったのは、加入時ではなくて、集合動産についての登記と個別動産についての登記の先後で決めると、いずれも登記によって決めるということにすべきだという御指摘だったと思います。 ○道垣内部会長 ポリシーの問題としては、青木さんのおっしゃっていることはよく分かるのだけれども、それで穴が空いていることになるのかというのがよく分からなかったのだけれども。 ○青木(則)幹事 登記で対抗要件を具備した譲渡担保の競合なのに、登記の日付では優先関係が決まらない事態が生じるという問題を意識しておりました。加入のために集合物について特定された場所に搬入する際の引渡し自体が公示だという考え方もあるかもしれませんが、いずれにしましても登記という形では公示されない要素が入ってきてしまうということで、穴になるのではないかと申し上げた次第です。 ○道垣内部会長 それは、実体的な物権変動がないうちに対抗要件を具備しても効力がないという、全体的な対抗要件法制に従っているというふうに多分考えているのだと思うのですが、おっしゃる問題の出方として、登記面の日付を見ることによっては決まらないということになるのは、確かにおっしゃるとおりだと思います。   そこの善し悪しはまた後で議論することとして、阿部さん、お願いいたします。 ○阿部幹事 見落としがあるのか、あるいは過去の資料をよく覚えていないだけか分からないのですけれども、第10の2では、集合と個別が競合する場合で、占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールが適用されない場合には、集合動産の側は対抗要件具備又は個別動産が集合動産に加入したときのいずれか遅いときと、個別動産の方については対抗要件が具備されたときの前後によるとなっていますが、集合対集合の場合や個別対個別の場合で、両方とも登記は備えていますという場合はどうやって優劣を決めるのかというのは、どういう理解を前提にしてこの第10の2というのは書かれているのでしょうか。 ○道垣内部会長 恐らく、適用されない場合という言葉遣いの問題で、これでは優先劣後が決まらない場合という意味だと思うのですが。 ○阿部幹事 そうですよね。 ○道垣内部会長 完全登記優先ルールが採用されて、登記が優先するということになったら、それは個別対個別は登記の先後で決まると、そういうことではないかと思うのですが。 ○阿部幹事 個別対個別の場合は、一方が登記とは別に、例えば占有改定で先に対抗要件を備えていたとしても、登記の日付で一本で決まる、でいいのですかね。 ○道垣内部会長 はい。 ○阿部幹事 集合対集合の場合は、それも登記の日付。 ○笹井幹事 集合対集合の場合も、個別対個別の場合も、原則としては対抗要件具備の先後ですけれども、第10の1の32ページのルールの適用がありますので、登記とそれ以外だったら登記が勝つとか、占有改定だったら劣後するとか、そこは第10の1でどちらを採用するかによりますけれども、いずれにしても対抗要件具備の先後という原則があって、それが第10の1によって修正されるということです。 ○阿部幹事 分かりました。個別対個別の場合にせよ、集合対集合にせよ、両方の譲渡担保権者が両方占有改定を備え、かつ登記もしているという場合もあって、占有改定を基準にした場合と登記を基準にした場合で優劣が逆転するということがあり得ると思うのですけれども、たとえば、占有改定は先だけれども登記は遅かった、ということがあり得ると思うのですけれども、そういう場合でも、集合対集合あるいは個別対個別では、対抗要件具備時ではなく登記具備時を基準とするということでよろしいのでしょうか。 ○笹井幹事 結論的には、登記の先後によることになると思います。 ○阿部幹事 分かりました。ありがとうございました。 ○井上委員 今の点なのですけれども、この後、3のところで牽連性のある金銭債務について別途議論されると思うのですが、それがない場合、すなわち被担保債権と目的動産の間に牽連性がないような個別動産譲渡担保について、ここで提案されている(2)のような加入時説で、集合動産譲渡担保よりも優先するべき場合があるのかということについて、やや疑問を感じています。   逆に、集合動産譲渡担保権者の立場からすると、集合動産譲渡担保の設定を受けて登記を備えた場合は、将来にわたってずっと通常の事業の範囲で中身が流出することを覚悟せざるを得ないことと引き換えに、通常の事業サイクルで入ってくる個別動産を把握できるということで与信判断をするので、それにもかかわらず、将来入ってきたときに初めて対抗力が備わるということになると、集合動産譲渡担保権者の期待が損なわれるのではないかということが気になります。すなわち、中身が入れ替わる集合動産であって、おおよそ通常の事業の範囲で変動するもの全体を、現時点で把握して、登記を備えた集合動産譲渡担保権者の立場からすると、その後、個別動産の譲渡担保が加入前に設定されて、登記が備わったときに、逆転という言葉は価値判断を含んでいるかもしれませんが、負けるというのは、よくないのではないかと思います。   どういう場合があるかということなのですけれども、例えば、電力会社のA発電所の発電設備一式に集合動産譲渡担保を設定して、その後、例えば10年、20年にわたって、設備機械が陳腐化して入れ替わったり、故障して入れ替わったりしても、入れ替わった設備機械に担保権を及ぼすという前提で、その事業活動を見て与信をしているときに、その後、長い期間にわたってA発電所に運び込まれるリプレース対象の設備機械を次々に加入直前に個別に譲渡担保を取って登記を備えることによって、A発電所内の設備が集合動産譲渡担保権者の把握している価値から失われていくということが、担保権者としては防げないという問題があるように思います。   他方で、個別譲渡担保を取る側の立場に立つと、ある意味、それはA発電所の事業活動に用いられるものとして既に集合動産譲渡担保権者に取られているものを、横からといいますか、担保に取るような性格がやはりどうしてもあるので、登記を調べて、そういう先順位の集合動産譲渡担保権者がいれば、そこで使われるべき設備機械については別途、先順位担保権者と交渉して、個別に担保を外してもらうとかすれば格別、そうでない場合には、代金債権などの牽連性が強い債権を担保する場合を除いて、後に出てくる個別担保権者を保護すべきではないように思います。 ○道垣内部会長 ずっと井上さんの一貫した御主張ですが、ただ、現行法でもそうなのですよね。現行法でも個別動産譲渡担保権者が勝つのですよね。 ○井上委員 そこは、意見が分かれているのかと思っておりました。 ○道垣内部会長 分かれないと思いますよ。というのは、先に個別動産譲渡担保権が設定されて、占有改定で対抗要件を備えて、その後に集合動産譲渡担保権が設定されている倉庫に搬入されても、占有改定によっては即時取得が生じませんから、前の譲渡担保が吹っ飛んでいくというふうな理由はないのではないかと思いますけれども。そうすると、もちろんそれが集合動産譲渡担保をこういうふうに立法して、よりうまく使えるようにしようというときに妥当な判断かというふうなことは問題があって、井上さんがおっしゃるように、個別動産を担保に取る人の方が自衛手段があるのではないですかという理屈は十分にあり得ると思いますから、今私が現行法の理解として申し上げたところが将来においても維持されるべきであるというふうにいうつもりは、もちろん全然ないのですけれども。今のは重要な御意見として伺いましたが、ほかに。 ○片山委員 片山です。【案10.1.1】の占有改定劣後ルールか、それとも【案10.1.2】の完全登記優先ルールか、どちらがいいのかという問題を考えるときに、33ページの1行目以下のところの、まず、現実の引渡しを受けておきながら一度戻してしまって、その後、登記がなされるという場合に、占有改定劣後ルールだと占有の方が勝ってしまって、登記が負けるというのはやはりおかしいのではないかという点についてです。確かにそのとおりなのですが、実質的に占有改定に近いケースが想定されているからおかしいということになるのであって、他方、恐らくこの例でも、占有を戻さないで現実の引渡しを受けて、ずっと占有継続しているようなケースであれば、登記に優先してもおかしいとは感じないのではないかと思いました。もちろん、譲渡担保では占有担保のニーズがないということであれば、それはそれでもう無視していいのかもしれませんが、とはいえ、諸外国の立法例を見ますと、いわゆる占有担保に関していうと、現実の引渡しがなされて占有継続しているとか、あるいは指図による占有移転がなされて占有継続がなされているということになれば、登記と対等に扱っているようです。そのニーズがどこまであるのか計りかねるのですけれども、仮にそういう占有担保を一応公示もなされているということで優先するとしたら、占有改定劣後ルールをベースとしつつ、かつ、現実の引渡しとか指図による占有移転があって、その後占有を継続していないという場合については登記に劣後するというもう一つのルールを加えるような形で、実質的な占有担保は登記と対等という取扱いを、すべきなのかどうなのかがよく分からないのですけれども、少なくとも公示は備えているということですと、対等に扱ってもいいという気はいたしました。この点はいかがなのでしょうか。 ○道垣内部会長 いかがなのでしょうか。質権はどうなるのかね。 ○片山委員 質権みたいな感じです。 ○道垣内部会長 質権は勝つのですよね。 ○片山委員 質権は質権で。 ○道垣内部会長 質権が勝つのだったらば、占有型の譲渡担保権だって勝つのではないかというふうな論理だろうと思うのですけれども、それは十分に考えられるところで、質権だと性質決定すればいいではないかという考え方もあるかもしれませんが。何かありますか。 ○笹井幹事 いえ、今の時点では特にございません。 ○道垣内部会長 お考えは十分に分かりますし、質権との関係というのは考えなければいけないだろうと思います。   ほかに。 ○阿部幹事 阿部です。先ほど井上委員からのご指摘もありましたけれども、第10の2(2)で、いわゆる加入時説を採ったときに、早くから登記を取得していた集合動産譲渡担保権者を害することにならないかというところは、私もやはり気になっております。  私は以前から、集合動産譲渡担保権は、いわゆる第一順位先取特権、特に不動産賃貸先取特権と結構似ているところがあると申し上げていたのですけれども、不動産賃貸先取特権に関しては319条で即時取得の規定の準用がありまして、わざわざこういう規定が設けられているのは、不動産賃貸人が動産について占有を取得しているといえるかどうかが疑わしいためだといわれていたりしますので、即時取得の要件を満たしているかどうかにかかわらず、担保権の成立を認めるべき場合があるのではないかと思います。  また、そういう形で集合動産譲渡担保権と第一順位先取特権をパラレルに考えていきますと、やはり330条2項前段が参考になるように思いました。つまり、集合動産譲渡担保権者が個別動産担保権を知っているときには優先できなくてもよいかもしれないけれども、知らない個別動産譲渡担保権との関係では優先できないと困るということは、やはりあり得るのではないかと思いました。  というのも、本来、集合動産譲渡担保権の設定者は、きれいな動産を補充しないといけないのだと思うのです。補充義務は、何でもいいから補充すればいいわけではなくて、他人のものではないもの、あるいは他の権利が付いていないものを補充しなければいけないというものであるところ、他の担保権が付いているものを補充する場合は、それに違反しているのだと思うのです。ですので、補充される動産に他人の権利が付着しているということが分かっていれば、集合動産譲渡担保権者は、優先を認められなくても、設定者の補充義務違反などをてこにして自分の利益を守ることができると思うのですけれども、補充義務違反が行われているのに、それに気付かないような状態で進行してしまうと、集合動産譲渡担保権者の利益が著しく害されることになるのではないかと思います。   ですので、最低限、個別動産に譲渡担保権が設定されていることを集合動産担保権者が通知されているといったことを条件として、個別動産譲渡担保権が勝つというようなことを認めることはあり得るかなと思うのですけれども、加入時説を採る場合には、そういった集合動産譲渡担保権者の利益保護の仕組みを、別途何か設ける必要があるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。通知義務に関しては、青木さんもずっと、そこで通知義務というものを課すことによってバランスをとるという可能性も示唆されているところでございますので、考えなければならない問題かもしれません。 ○沖野委員 沖野です。ありがとうございます。これも繰り返しのようなのですけれども、加入について、青木先生が以前から御指摘の、登記で備えたときに、あらかじめ登記で取っておいても全く安心できないというところと、それから、牽連性がないような個別の動産について、集合動産にする代わりに逐一、個別に取る形にして登記なりをしてから入れましょうということができてしまうというのが、何とか対抗措置が要るのではないかと考えております。   対抗措置というのは、もう(2)の加入時説をやめてしまうか、それが問題であるならば、今言われた通知の形で、そういうおかしな処分ではないかということに認識ができて、いち早く行動がとれるような仕組みというのが組み込まれ、それがあれば、後は放置するのは、もうその部分はリスクをとっているのですね、ということになるのだろうと思います。毎日登記をチェックしてとかいうことはなかなか難しいと思いますし、加入というのも完全には把握できないと思いますので、プラスアルファか、(2)を考え直すかの措置が必要ではないかと思っております。   それから、部会長は現行法でもそうですとおっしゃったのですが、現行法ではまた違うのではないかと思っておりまして、一定の場所について、占有改定や登記を備えたというときに、個別の動産について別途譲渡担保がされて、それがその場所に運び込まれたときには、集合物の構成部分となって、対抗要件具備時から対抗要件をそれは備えていたと、飽くまで構成部分なので、それを含めた全体かつ個々の動産に及ぶという考え方だと、最初の対抗要件の時点で既にその部分についても集合物の一部として効力も及んでいて、対抗を備えたということになるので、現行法のもとでもそちらがやはり勝つのではないかと思うのですけれども、少なくとも井上委員が言われたように両論があり得るのではないかと思っております。   もう一つ、加入についてなのですけれども、以前に登記との関係で、場所的な特定というのがどのくらい要るのかという問題がありまして、東京都内とか日本全国というふうにして、それでも十分かと、登記もできるのかという点が問題になりました。それでも可能だとなると、加入という概念に拠って、これで行くならば、なるべくその範囲を広く、加入ということに余り意味がないような形にすることも考えられます。これが牽連性のあるようなものですと、およそ占有とかを移す前に所有権留保を付けるとか、対抗要件を備えるとか、あると思うのですが、そういうことでなければ、設定者がまず一旦権利を取得した上で、新たな担保設定、その代金等とは関係ない債権についての担保設定ということになりますから、加入のところをある意味、無意味にするようなというか、そういうような形での範囲設定をすることができるのかどうかですけれども、できるのであれば、むしろそちらをなるべく広くやることで対抗措置にするということも考えられるのですが、それが健全なやり方なのかという気がしまして、少しその点の副次効果も、集合動産担保権者の利益保護をしておかないと、気になるところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。現行法の捉え方は、他人物が入ってきたものと同じというふうに捉えるのだと思います。担保的な構成がそこまで貫かれていませんから、他人のものが倉庫に入ってきたら、その倉庫の登記が備えられた時点に遡ってその人が取得することになるのかといったら、それは他人の権利は害されないはずなのですね。そうすると、個別動産譲渡担保がその前に設定され対抗要件が具備されているというのを、所有権が個別動産譲渡担保権者に移っていると考えるならば、それは他人物が入ってくるわけですから、幾ら一般的に対抗要件具備の効力が集合物自体について対抗要件が具備されたときに及んでいますということになっても、勝てないのではないかというのが私の理解なのです。そういった考え方の善し悪しについて述べているわけではありません。   2番目の、通知とかでバランスをとるというのが一つの方法だよねというのは何人かの方から出ている話で、重要な話なのですが、そのとき沖野さんがおっしゃった、範囲について広くするという対抗手段は健全ではないよねというのは、それはおっしゃるとおりなのだけれども、通知義務を負わせても、通知されたら負けるのだったら範囲を広くしておこうと、搬入を広くしておこうというふうな話にもなりますよね。そうすると、バランスをとるためには、範囲についてそれほど広くしちゃ駄目だよというのがもう1個ないと、バランスがとれないということになるので、それは沖野さんの責任でも何でもないのですが、そこも併せて考える必要があるかなという気がいたしました。   単純な加入時説は、ずっとですが、評判が比較的よくないと、少なくとも通知でバランスをとるというふうなところが必要なのではないかというのが今日の御意見かなという気がしますけれども、ほかにございますでしょうか。   井上さんのような例を考えますと、いかにも個別動産譲渡担保権者が悪いやつみたいな感じになりますけれども、必ずしもそうでない場合もありそうな気もするのと、次にやっている牽連性の場合がそうでない場合だよというのが多分、井上さんのおっしゃるところだと思いますが、いかがでしょうか。   今の時点で事務局の方から何か。よろしいですか。   では、2のところは、今日の御意見を踏まえて再度検討していただくということにしたいと思います。   そこで、先ほどから出ております、動産譲渡担保権が他の動産担保権と競合する場合の優劣のうち、「3 牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の特別の優先ルール」というのと、「第11 留保所有権に関する規律内容」について議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 第10の3は、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の特別の優先ルールについて取り上げるものです。   (1)は、特別の優先ルールの対象となる金銭債務の範囲についての提案です。部会の審議では、優先ルールの適用を合理的かつ明確な範囲に限定するために、融資会社から債務者への責任財産の混入なく売主に動産の購入代金が支払われたことを要件に加えるべきなどの意見があったことを踏まえて、「目的である動産の代金債務」のほかに、「目的である動産の代金債務の債務者から委託を受けて当該代金債務を支払った金員」に限って、特別の優先ルールの対象とすることとしています。   (2)は、特別の優先ルールの効果についての提案です。【案10.3.1】は、牽連性のある金銭債務を担保する部分は競合する他の動産担保権に優先することとするもので、部会資料30で提案したものです。しかし、この案に対しては、事後的に設定された担保権が被担保債権の牽連性を理由として先行する担保権よりも優先するということに反対する意見もあったため、【案10.3.2】では、譲渡担保権のうち牽連性のある金銭債務を担保する部分は、占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールの対象から除外する案を提案しています。これによると、集合動産譲渡担保権について動産譲渡登記が備えられており、その集合動産に牽連性のある金銭債務を担保する個別動産譲渡担保権が設定された動産が加入した場合には、占有改定劣後ルール又は完全登記優先ルールではなく、いわゆる加入時説によって優劣が決められることになります。もっともこの案によると、集合動産譲渡担保権について動産譲渡登記をするに当たり、場所的方法によらない方法による特定を認める案を採用した場合に、その特定の在り方によっては、個別動産譲渡担保権者が動産の集合動産への加入前に優先権を確保する手段が事実上存在しない場面が生じ得るという問題があります。   第11は、留保所有権の実体的な効力について取り扱うものです。留保所有権の実体的な効力に関する規律を譲渡担保権に関する規律と同一とすることを提案するものです。部会資料30では、(説明)において、留保所有権について、集合動産譲渡担保権、転担保、担保権の順位の変更等には準用しないことも考えられると記載しておりましたが、両者の規律内容はできる限り同一とすることが望ましいと考えられますので、これらも含めて準用することを提案しております。なお、この考え方を押し進めると、狭義の留保所有権を第三者に対抗するために特別の要件を不要とするルールを牽連性のある金銭債務を担保する譲渡担保権についても適用し、当該譲渡担保権については引渡しをすることなく第三者に対抗できるとすることも考えられますので、その旨を(説明)に記載しております。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは御自由に、どなたからでもお願いいたします。 ○横山委員 横山です。前から申し上げていることの繰り返しになるのかもしれませんけれども、【案10.3.1】について、結論よりも、なぜ牽連性がある場合に牽連性を理由として約定担保権である譲渡担保が優先されるのかという、その理屈がよく分からないという基本的な疑問があります。というのは、ほかの担保権については、被担保債権が売買の目的物であることを理由にして特別な優先ルールというのはないと思います。ここで優先ルールが必要だという背景事情があるのか、あるのかもしれないのですけれども、なぜ牽連性があれば優先されるのか、動産売買先取特権のような場合と違って、なぜここで約定担保の場合にもそれが適用されるのかが基本的な疑問としてあります。【案10.3.2】は、先ほどの悪いやつではない、いい人について加入時説を修正する方法としてはあり得るかもしれないのですけれども、この特別の優先ルールの正当性が何かについて疑問に思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。根本的な話ですが、少しほかの方の意見も伺ってからにしたいと思います。 ○阿部幹事 私は【案10.3.1】と【案10.3.2】の対置では、【案10.3.1】でよいのではないかと思ったのですけれども、【案10.3.1】の下で問題だと指摘されている場面、ある動産が所有権を留保することなく売買され、買主の事業の運転資金を担保するために設定されていた集合動産譲渡担保権の特定範囲に属した後に、未払になっていた当該動産の売買代金債務を担保するために、売主が当該動産を目的とする個別動産譲渡担保権の設定を受けた場合に、売主の個別動産譲渡担保権を優先する必要はないのではないかということなのですけれども、これに関しては、牽連性を理由に優先させるのが変だとかそういう話というよりは、元々所有権留保することなく信用売買していて、売買の時点では言わば動産売買先取特権に甘んずるという態度決定をしていた人が、後になって自分の代金債務の保全のために担保設定を受けているという、そこがやはり問題なのではないかと思います。   この種の牽連性のある金銭債務を保護するのはなぜかというと、それをすることによって信用売買などをできるようにするというか、もちろん動産売買先取特権等で代金は保護されるのですけれども、より代金債権がきちんと確保されていなければ売買に応じないというような慎重な売主であっても、信用売買に応じることができるような条件を整えることが目的だと思いますので、そもそも売買のときの条件として、あるいは信用を供与するときの条件として担保設定しているというような場合であれば、それを保護するということができるのだと思うのですけれども、信用供与の段階で担保を設定しなくて、後になって既存の債権のために担保権を設定するという場合の担保にまで優先性を認める必要はないのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○水津幹事 幹事の水津です。3点、意見を申し上げます。   第1は、牽連性ある金銭債務の意味やその定式についてです。ここでの牽連性は、大きく2つに区別することができるかと思います。  所有権留保において特別のルールが適用されるのは、被担保債権である金銭債権の取得原因と、担保目的財産の取得原因とが同一のものであるときです。つまり、被担保債権である金銭債権の取得と担保目的財産の取得との双方の原因となる売買契約が、留保売主と留保買主との間でされたときです。この場合には、牽連性は、直接のものであるということができます。これに対し、債権者が債務者に対し、ある財産の購入資金を融資し、債務者が購入したその財産について、債務者から譲渡担保権の設定を受けるときは、被担保債権である金銭債権の取得原因と、担保目的財産の取得原因とは別のものとなります。すなわち、被担保債権である金銭債権の取得原因は、債権者と債務者との間でされた金銭消費貸借契約であるのに対し、担保目的財産の取得原因は、債務者と第三者との間でされた売買契約です。この場合には、牽連性は、余りうまくいえませんが、直接のものではないという意味で、間接のものということができます。直接の牽連性が認められるかどうかは、原因が一つであるため、明確に判断することができる一方で、間接の牽連性が認められるかどうかは、原因が別個であるため、はっきりとしないことがあります。   (1)の提案のアでは、特別なルールが適用されるのは、譲渡担保権が担保する金銭債務が目的である動産の代金債務であるときであるとされております。この定式によれば、直接の牽連性があるときしか含まれないように見えます。間接の牽連性があるときは、被担保債権に係る債務は、代金債務ではなく、購入資金の融資に係る借入金債務であるからです。もっとも、これまでの議論では、輸入ファイナンスの事例が想定されておりましたので、間接の牽連性があるときについても特別な優先ルールを適用する趣旨ではなかったかと思います。仮にそうであるとすると、(1)の提案のアの定式は、表現を修正する必要があるのではないかという気がいたしました。   第2は、抵当権に関するルールとの関係です。抵当権も、目的である不動産の代金債務や、目的である不動産の購入資金の融資に係る借入金債務を担保するために設定されることがあります。牽連性を根拠として競合する担保権に優先するという特別なルールを設けるのであれば、抵当権についてもそのような特別なルールを設けなければ、首尾一貫しないような気がいたします。抵当権についてはそのような特別なルールが適用されないのであれば、同じく牽連性があるにもかかわらず、そのような特別なルールが抵当権については適用されないのはなぜかを説明する必要がありそうです。この点は、横山先生の問題意識とつながるかもしれません。   第3は、動産を目的とする先取特権に対する影響です。動産売買先取特権は、狭義の所有権留保と同じように、直接の牽連性があるときに生ずるものとされています。動産売買先取特権と狭義の所有権留保との違いは、担保に関する合意があるかどうかです。この違いが、狭義の所有権留保と動産売買先取特権との効力の強弱の違いにつながっているものと考えられます。これに対し、動産譲渡担保権についての特別なルールは、間接の牽連性があるときについても適用されるものとすると、次の問題が生じそうです。動産売買先取特権を拡張して、動産を目的とする先取特権は、間接の牽連性があるとき、つまり、債権者が債務者に対しある財産の購入資金を融資し、債務者がその財産を購入したときについても、民法のレベルで一般的に生ずるものとすべきではないかという問題です。約定担保物権についての特別なルールの話と法定担保物権の発生原因の話とは別ではあるものの、牽連性つながりの問題ということで申し上げました。  私が御提案について勘違いをしているおそれがありますが、以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。不動産売買の代金債権との関係においては、どれだけ実際の融資の現場で金銭消費貸借の成立と抵当権の設定契約及び登記を近接させることができるか、現実には、例えば住宅ローンのときには売主と買主と司法書士さんがいて、そこで一気にされるわけですけれども、そういうことが動産においてどれだけ期待できるのかということとの関係があるのだろうと思いますが、目的である動産の代金債務という言葉はおかしいのではないのというのは、これはどうなのですか。 ○笹井幹事 そうですね、ここは資料の意図としては、水津幹事の言葉をお借りすると、直接の牽連性だけを念頭に置いたものだということになりますので、金融機関からの融資を受けて、その返済債務をアの中で捉えようとしていたわけではありません。その間接的なものに近いのはイだということになりますけれども、これも余り広げることに対しては前回、否定的な意見が多かったので、代金債権をそのまま支払ったという場合の求償債務に限定するということにしております。 ○道垣内部会長 水津さん、いかがですか、今の話は。 ○水津幹事 やはり、わたしが勘違いしておりました。思い込みをしておりましたが、説明を読むと、確かにそのように書いてありますね。大変申し訳ございませんでした。  そういたしますと、第2で述べた問題は、次の内容のものとなります。抵当権については、(1)の提案のア及びイに相当する不動産に係る債務、つまり目的である不動産の代金債務や目的である不動産の代金債務の債務者から委託を受けて当該代金債務を支払った金員の償還債務を担保するために設定されたときであっても、牽連性を根拠として競合する担保権に優先するという特別なルールを設けないのか、抵当権についてはそのような特別なルールを設けないとしたら、その理由はどこにあるのか。 ○沖野委員 3(2)についてなのですけれども、牽連性のあるものについて特別に優先するのはなぜかという点ですが、それがあって初めて財産を取得できるという、元々は所有権留保型の売主の地位からスタートして、しかし、それと並ぶものに同等の保護を与えようという政策判断があって、それでむしろ来ているのではないかと。今回は譲渡担保についての法律関係を明らかにするということがあって、制度的にはそれを留保所有権についても及ぼしていこうという方向ですが、優先関係の、特にこの牽連性のある金銭債務というものと、その目的財産との関係については、むしろ逆方向から来ているのだと思います。   ですから、所有権留保型の、それがなければ本来は財産権自体もまだ完全には取得できていないのではないかという状況における、売主の約定で手当てをした売主の保護というものをどう考えるか、そこ自体がもう優先する必要がないということであれば、大本からないということだと思うのですが、そこがあるとしたときに、それとパラレルなものというのがどこまで入ってくるかと、それを譲渡担保でいったときにどうなのかという、あえて所有権留保を使わずにしたときにはどうかというのと、あとは時期の問題という形なのかなと、それで理由が十分に付いているかということはあるかと思いますが。   それで、仮に優先するとしたときに、【案10.3.1】で割り切ってもいいのではないかという気もしているのですが、ただ、最初はそのような無担保での信用供与をしておいて、劣後する地位にあったのを、劣後するというか、一般の譲渡担保を使う形でしかない地位であるにもかかわらず、その後の担保設定・担保取得によって覆せることの問題があるとすると、手当てをすることになるとは思うのですけれども、【案10.3.2】の手当ての仕方が意味がよく分からず、譲渡担保のうち牽連性のある金銭債務を担保する部分は、この手法による優先ルールの対象から除外することになりますと、仮に運転資金融資者の金融債権者が最初に集合的に占有改定で取っておいて、次に代金融資者がそれを構成することになる個別動産について登記をしたときには、ルール1によれば後からの登記の方が勝つわけですよね、占有改定よりも登記優先で。ところが、牽連性のある金銭債務を担保する部分はそのルールの対象から除外すると、対抗要件の具備順になるので、占有改定の方が勝つわけですよね。そうすると、継続的な取引を考えた場合に、将来の代金債務融資についてクロスコラテラル型で牽連性を超えて対象財産を譲渡担保で担保化すると、牽連性のある金銭債務を担保する方が弱いということに、つまり、そういうものでなく普通に譲渡担保の設定を受ければ、登記の方の優先の利益を得られるのに、牽連性があるとなったとたんにそうでないというのは、何か、元々の趣旨から外れた結果が出ないかというのが気になっております。むしろそもそもが、最初に譲渡担保の形であれ、あるいは留保所有権の形であれ、担保設定をしていなくて、一旦入った後は駄目なのだということであれば、あるいは入る前の段階で、例えば引渡し前に設定されたものに限るとか、担保設定の時期自体に制限を掛ける方が、この1のルールをおよそ適用しないとするよりは適切な範囲設定になるのではないかと思っています。【案10.3.2】の理解を間違っているのかもしれません。 ○道垣内部会長 沖野さんのおっしゃったことを完全に理解できているわけではないのだけれども、【案10.3.2】だと、牽連性のない金銭債務を担保する譲渡担保権が一瞬でも早く設定されて対抗要件を具備されれば、そちらが勝つ。 ○笹井幹事 簡単にいうと、牽連性のある部分については占有改定さえしておけば、後から別の被担保債権を担保する担保権が登記を具備したとしても、占有改定だけで勝てるというのが【案10.3.2】の元々の意図です。 ○道垣内部会長 そうなのだけれども、【案10.3.1】というのが、牽連性のある金銭債務を担保する譲渡担保権が設定される直前に、その短い間隔を利用して他の債権者が譲渡担保権を取得したときにも、牽連性のある金銭債務に係る債権を被担保債権とする人が勝つというのに対して、【案10.3.2】は、短い期間かもしれないけれども、ほかの人が先に譲渡担保を取得して対抗要件を具備したら、その人が勝つということになるのですね。 ○笹井幹事 それはそうです。 ○道垣内部会長 かなり実質的には違うわけだよね。 ○笹井幹事 実質は全く違います。ただ、【案10.3.2】は、今の道垣内部会長がおっしゃったような、非常に短い時間に別の債権者が担保を設定するということはあるかもしれませんけれども、被担保債権が代金債権ですから、基本的には売買と同時に設定されていて、その前にほかの人たちが入ってくるということは想定しておりませんでした。   いずれにしても、今日の議論では、加入時説に対しては否定的な意見が多かったので、見直しを検討せざるを得ないのですけれども、【案10.3.2】というのは基本的には加入時説を前提にした考え方ですので、加入時説を採らずに対抗要件具備時説を採るということになりますと、【案10.3.2】では全く不十分だということになりますから、加入時説を採らないということを前提にすると、【案10.3.2】というのは提案から外さないといけないといいますか、その両者は両立はしないという関係になるのかと思います。 ○道垣内部会長 分かりました。【案10.3.1】の場合には、逆に今度はどれだけゆっくりしてもいいみたいに読めるよね。それはまずいのだよね。 ○笹井幹事 はい。先ほど、阿部幹事も、そこは優先させる必要がないとおっしゃっていたかと思いますので、【案10.3.1】を採るのであれば何らかの制約というのを付けないといけないということではないかと思います。 ○道垣内部会長 分かりました。どうもありがとうございました。   ほかに。 ○井上委員 井上です。3(1)イについて、二つコメントを申し上げたいと思います。   一つは広すぎるかもしれないという話と、もう一つは狭すぎるかもしれないという話なのですが、一つ目は、これがルール化されると、在庫も売掛も全部譲渡担保に入れてしまって、なお窮境にある事業者向けに、在庫や原料の代金を立替払いしますよ、というビジネスがはやるのではないかと思うのです。つまり、とにかく代金を立替払いさえすれば、既に債務者がその財産全部を担保に入れてしまっていても、後から在庫や原料に担保を設定すれば、最優先順位に入っていけるし、登記もしなくてもいいわけです。それなら、すごい窮境にある事業者であっても、ほぼ無審査で貸しますよといいますか、代金を払いますよというビジネスは、現在は余り行われていないと思うのですけれども、こういうルールができると、出てくるのではないかということが気になります。   それについては、ただ、そういうビジネスは恐らく荒っぽい利益を狙うでしょうから、動産担保を最優先で取れるとしても、その価値全額を融資する気は恐らくなくて、その意味では、当の困っている事業者本人に手金を例えば3割ぐらい出させて、代金の7割だったら立替払いしてやる、という種類の話になるのではないかと勝手に推測します。そうだとすると、ここのイの御提案を、飽くまでも当該代金を全額支払った場合の償還債務に限定すれば、そういった問題は起きないのかなと思ったのですが、ここでの御提案の趣旨を、そういうように理解していいのでしょうか。それとも、代金を立替払いする場合は、例えばその半額であっても最優先になるという御趣旨なのでしょうか。これが一つ目のコメントといいますか、質問です。   二つ目は、他方、真っ当な輸入ファイナンスなどをイで何とか救いたいというニーズがあると理解しているのですけれども、弁護士会で伺った意見の中には、これによってL/Cの償還債務を被担保債務とする輸入ファイナンスは救われるけれども、その償還債務をリファイナンスする際の融資は救われないことになるのではないかという問題提起がありました。そこまでは優先すべきでないという価値判断ももちろんあると思うのですが、そういう前提で検討すべきかなと思いました。 ○道垣内部会長 何かありますでしょうか。 ○笹井幹事 1点目が御質問だったと思うのですけれども、一応ここでは100パーセントということまでは考えておりませんでした。井上委員がおっしゃったような変なビジネスが出てくるかもしれないという御懸念は理解を致しましたので、何か考えてみたいと思いますけれども、変なビジネスではないけれども、取りあえず自分は3割は出せるので、自己資金で3割出して7割は融資というか、金融機関に立替払いをしてもらうという場合も通常の取引としてはあり得ると思いますので、ここでの提案の内容としては10割でないといけないとかということではございません。 ○道垣内部会長 ほかに、いかがでしょうか。 ○藤澤幹事 時間が押しているところ申し訳ないのですけれども、一言だけ申し上げたいと思いました。現行法上、先ほど登場した集合動産と個別動産とが競合した場合に個別動産の方が優先するという考えですとか、あと、判例の集合動産と所有権留保とが競合した場合に所有権留保が優先するという判断は、基本的に法形式に由来する判断だろうと思うのです。所有権がまだこちらに来ていないのだから、他人物に集合動産譲渡担保を設定できるはずがないという、その法形式によって作られた現行法上のルールが、その法形式を離れて合理的なのかどうかということは、横山先生が最初に問題提起されたように、やはり残るのだろうと思います。   法形式を離れて考えるのだとすれば、政策判断としてどちらを優先させるべきかを考えることになりそうですが、そのときには結局どれくらい集合動産譲渡担保に期待するかというようなことが関わってくるのだろうと思います。後から登場する個別動産譲渡担保に負けるとか、後から登場する所有権留保に負けるということですと、結局集合動産譲渡担保というのはその程度のものだということになるのだろうと思います。それが立法の趣旨と合致するのかということを考えなくてはいけないのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。趣旨と合致しないとも私は思わないのですけれども、それは考え方の問題だと思います。私は集合動産譲渡担保権を一番重要視しなければならないという考え方に立っていません。それは個人的な考え方ですけれども、部会が一致しているわけではないと思います。   ほかに、いかがでしょうか。   若干、2のところで先ほど、取り分け(2)のところで笹井さんがおっしゃいましたように、集合動産譲渡担保と個別動産譲渡担保との関係についてどういうふうに考えるのかというところと結び付いたところがありまして、どういうルールを作るのかというのは少しそことも関係してきますので、更に事務局で検討していただきたいと思いますけれども、大体そういうふうなところで、今日出たようなことを踏まえながら、いわゆる動産売買代金担保融資というものをうまく定義をすれば何とかなりそうという感じですかね。本日のところはよろしゅうございますか。   まだまだ御意見もあろうと思いますし、今日新たにいろいろな問題が出まして、事務局に対する宿題というのも多々あると思います。また、だんだん時間も押してきて、時間も押してきているというのは、今日6時になっているという意味ではなくて、時間も押してきておりますので、この部会の場に限らず、事務局に対して文書を提出するなりメールで御意見を頂くなり、あるいは御教示いただくなり、是非とも積極的に御活動いただければと思います。よろしくお願いいたします。   ほかに御質問、御意見がございませんようでしたら、本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。   次回の議事日程等につきまして、事務局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 次回は9月19日火曜日、午後1時30分から午後6時まで予定しております。場所は法務省地下1階大会議室、次回は正式な開催になりますので、新しい資料をお送りいたします。倒産のところまで一巡しましたので、動産債権以外の財産権の担保、ファイナンス・リース等について、資料で扱うことを予定しております。 ○道垣内部会長 それでは、法制審議会担保法制部会の第36回会議を閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして、ありがとうございました。次回は少し空きます、2か月ぐらい空きますが、またよろしくお願いいたします。どうも失礼いたします。 −了− - 1 -