法制審議会 担保法制部会 第37回会議 議事録 第1 日 時  令和5年9月19日(火) 自 午後1時31分                      至 午後6時15分 第2 場 所  法務省地下1階・大会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(5) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第37回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は横山さん、家原さん及び片山さんが御欠席と伺っております。また、参考人といたしまして明治大学法学部教授の山川隆一さんにも御出席いただいております。   前回の部会後に委員等の交代がございましたので、御報告いたします。門田委員が退任され、新たに福田さんが委員として御就任になられました。また、今回の会議には中小企業庁の全関係官及び経済産業省の山井関係官に参加いただきます。つきましては、先日新たに就任されました民事局の竹内さんを加えまして、福田さん、全さん及び山井さんに簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。   竹内民事局長はまだお見えになっていませんので、福田さんからお願いします。 (委員等の自己紹介のため省略) ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   それでは、竹内さんにつきましては後でいらっしゃったときに、場合によっては御発言いただくということにいたしまして、まずは配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。資料につきましては、事前に部会資料33「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(5)」及び部会資料29−5をお送りさせていただきました。部会資料33については、後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。部会資料29−5は、パブリック・コメントして頂いた御意見のうち、中間試案第27から第30までを対象としており、中間試案第23から第26までにつきましては次回以降、部会資料29−6以下として随時送付いたします。   また、亀山幹事及び村上委員から資料の提出を頂きましたので、これらをそれぞれ委員等提出資料37−1及び37−2としております。これらについては、後ほど亀山幹事及び村上委員から御説明を頂く予定です。   資料については以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、審議に入りたいと思います。部会資料33の「第1 個別動産の利用権を担保の目的とする契約についての取扱い」について議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 「第1 個別動産の利用権を担保の目的とする契約についての取扱い」について御説明いたします。   まず、部会において従来議論されてきましたファイナンス・リース契約につきましては、担保としての性格を有し得ることが指摘されてきたところですが、その約定は様々なものがあるとされていることに加え、担保の性格を有する取引がどのようなものであるかを検討するに当たり、ファイナンス・リース契約を定義付ける必要は必ずしもないと考えられますことから、本文では、まず前提として、ファイナンス・リース契約の定義や、それを基にした規律を設けることはしないということを示しております。   他方で、動産の利用権に一定の財産的価値がある場合につきまして、これを担保の目的として利用するということは考えられるところでして、その方法としては、権利質又は譲渡担保権を設定するということが考えられますが、本文では譲渡担保権を設定する場合の規律として、(1)から(4)までを挙げております。   (1)は、動産利用権を目的とする譲渡担保権が設定された場合の対抗要件についての規律です。利用権が債権であるといたしますと、その対抗要件としては民法第467条の通知又は承諾が必要となりますが、その被担保債権がその利用権を取得するための対価の支払に係る債権であるときは、被担保債権と目的である利用権との牽連性が高いと考えられますことから、このような場合の対抗要件を不要とするという規律を提案するものです。   (2)は、動産利用権の譲渡担保権の実行に当たっての評価に関する規律です。動産の利用権を目的とする譲渡担保権も私的実行することが可能と考えられますが、利用権の評価には困難が伴うと考えられますことなどから、実行しようとするときの目的動産の価額から利用期間満了時の残存価格として見積もられた額を控除した額をもって、その評価額と推定するとの規律を設けることを提案するものでございます。   (3)は、動産利用権の譲渡担保権について、設定者についての再生手続開始の申立て等がされたことを解除事由とする特約の取扱いについて、所有権留保契約における規律と同様のものを設けるという規律を提案するものです。   (4)は、動産利用権について、これを明示的に担保権の設定の合意がされていない場合でありましても、実質的に担保権を設定したと認められる取引について譲渡担保権を設定したと推定する旨の規律です。具体的には、相手方に動産利用権の対価の支払義務がある場合に、相手方の動産の使用収益の有無や可否にかかわらず、その対価の支払義務が残り、かつ、その対価の支払義務の不履行があったときは、その動産の所有者においてその動産の利用権を消滅させ、利用権の負担のない動産をもって対価の支払義務の充当に充てる旨の合意がされているときは、通常、当該対価をもって被担保債権とし、動産利用権を担保の目的とする譲渡担保権が設定されているとみることができると考えられることから、その推定規定を設けることを提案するものでございます。   私からの説明は以上となります。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。この論点につきまして、経済産業省の亀山さんの方から委員等提出資料37−1というので文書の提出がございますので、亀山さんから資料の説明をお願いしたいと思います。 ○亀山幹事 これまでも申し上げてきていますけれども、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リースについては、特に資金力の乏しい中小企業、それからスタートアップ企業にとって設備投資の重要な手段であると認識をしてございます。中小企業庁とも議論しておりますけれども、今回の資料の今の(4)の部分、典型的なファイナンス・リースが利用権担保と整理される場合には、リースを通した設備投資が縮小し、本部会が意図している資金調達の円滑化、多様化に沿わない結果を招くのではないかという点を懸念してございます。   今回、昨年末の中間試案に基づきまして、法制化による中小企業への影響についてリース事業協会にて試算した結果を資料として提出をしてございます。   こちらの資料のポイントを申し上げますと、民事再生手続におけるファイナンス・リースの取扱いについては、リース事業協会のヒアリングベースではありますけれども、共益債権的に取り扱われた事例が3割程度存在をしてございます。典型的なファイナンス・リースがその利用権担保として整理された場合に、リース事業者はユーザー倒産時に共益債権的に取り扱われないリスクをリース料に転嫁する可能性が高く、こちらもリース事業協会のヒアリングベースでありますけれども、リース料金が平均して2割、最大で5割上昇するという試算もなされてございます。現在の物価高の局面におきまして、特に資金力の乏しい中小企業においては大きな影響を与え得ると示唆をされております。   それから、リース料金の値上げだけではなくて、ユーザーへの与信厳格化により、これもリース事業協会のヒアリングベースでございますが、2万社以上の中小企業がリース取引を断られる可能性ということが示唆されてございます。   本日の議論におかれましては、是非こういった実態、声があるということを御認識おきいただいた上で、中小企業、スタートアップ企業への影響を踏まえながら慎重に御議論を頂ければと考えてございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。 ○山崎委員 山崎でございます。ただいま亀山様から御説明のあったところに関して、申し添えさせていただきます。   やはり御存じのようにファイナンス・リースは中小企業が設備投資を行う際の一つの重要な手段として普及しておりまして、多くの中小企業からも、経営の状況に合わせて金融機関からの融資と組み合わせて設備投資資金として活用しているとの声が多く聞かれます。先ほど御提示の資料の中にあるような影響が強く生じ得るような場合には、慎重な対応が必要ではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、中小企業庁の全さんからも手が挙がっておりますけれども、お願いいたします。 ○全関係官 中小企業庁の全でございます。これまでの部会において、ファイナンス・リースの法的構成に関し、会計ですとか税制上の取扱いも含めて変更されるといった場合には、中小企業の実務への影響を懸念してきたところでございます。今回の部会資料第1の2において提案されております利用権を担保の目的とする契約につきましても、仮に資料37−1にあるような影響が生じ得るような場合には、高騰する原材料費など価格転嫁に課題を抱える中小企業さんがいる中で、中小企業の資金繰りに更なる負担を求めることになりかねないことから、そのような場合には慎重な検討を頂ければ幸いに思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに、御自由に御議論いただければと思います。   お二人とも、37−1のような効果が生じるのであればとおっしゃったのですが、生じるという御見解を、中小企業庁にせよ、山崎さんにせよ、お持ちなわけではないということですね。総じて5割アップすれば大変だろうと、それは誰でも分かることなのですが、37−1のような効果が生じるとすればという留保が付いていると理解させていただいてよろしゅうございますか。 ○全関係官 御指摘のとおりです。 ○道垣内部会長 結構です。それでは、お願いいたします。 ○阪口幹事 意見を述べます。委員等提出資料37−1の2枚目に、見積残存価額として予定されている1%から5%の部分がなくなる、ということによって、リース料率が1.98%から2.67%に上がるというのは、計算が全く合っていないと思うのです。また、3枚目において、民事再生において27.5%のものが共益債権となっているとされており、それはオペレーティングリースのようなもので共益債権となるべきものがなっているのだったら、当たり前のことです。ところが、37−1の1枚目になると突然、リース料は2割から5割アップすると書かれています。しかし、民事再生の案件なんて統計的に見るとおよそ無視していいほどの件数しかないわけですから、このような数字が出てくること自体が通常は考えられない。申し訳ないけれども、このような結果が本当に生じると、経産省はお考えなのでしょうか。あくまでリース事業協会さんが資料を出したから委員等提出資料として出されたということであれば分かりますけれども、むしろ便乗値上げは許さないという立場を示すべきなのではないかと思っていますが、いかがでしょうか。 ○亀山幹事 今回の資料は、飽くまでリース事業協会の資料でございますが、協会が事業者に対してヒアリングをした結果という意味においては、もちろんこのとおりになるかというのは、やってみないと分からないところがありますけれども、飽くまで事業者側としてはそう考えているということでありますので、それを踏まえて政府としてどう判断をするべきかということだと思います。 ○阪口幹事 今のお話というのは、先ほど申し上げたとおり計算が全く合いませんけれども、事業者側が本気でこう考えているということが、本当なのかという問題があり、仮に本当であれば、それは正に中小企業庁等の立場であれば、それはおかしいのではないですかと言うべきではないかと申し上げているのです。更に言えば、法制審というのは、事業者団体から、こう言われたからこうするという問題ではないのではないか、こういう資料が出てくること自身どうなのかという考え方もあり得るのではないのかと思うのですが、いかがですか。 ○亀山幹事 判断するのはこの法制審の場でありますが、事業者側の声も踏まえた上で御判断いただかないと適切な判断ができないと思います。なので、我々は事業者側の声をお届けしているということでございまして、この計算の詳細は、我々も協会の出てきた数字を精査しているわけではありません。ただ、これは見積残存価額だけではなくて、清算したときの様々なリスクなりを踏まえた上で計算をしているということだと思いますので、この見積残存価額1%から5%をそのままなくしているというだけではないと思います。いずれにせよこれは業界としての声でございますので、これも踏まえて、この場でどう判断するかということだと思います。 ○道垣内部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○井上委員 井上です。今回の御提案は、前回まで私もリースに関してはいろいろ発言してまいりましたけれども、元々私が想定していたイメージに大変近い提案になっているような印象を受けておりまして、その点で私は全体としては賛成したいと思います。   我々は、典型契約を作るとか契約法の改正をするということではなくて、担保法をどうするかを議論していますので、その意味では、ファイナンス・リース契約とは何かを定義する必要はありませんし、そもそも、リース業界の方も言っておられたように、ファイナンス・リースと一口に言っても様々なものがある、あるいはオペレーティングリースとセットのものがある、境界が曖昧だということですから、それを定義した結果として、その全てを担保扱いにすることなどできるはずもなく、それが適切でないというのは、何度も業界の方から御指摘を頂いたとおりなので、その点で、むしろその定義から離れて、私たちの目的である、担保とすべきものは何かという観点でルールを設けるとどうなるのか、を議論すべきという意味で、今回の提案には、そのアプローチの仕方として共感、賛成するものです。   具体的には、こういったものを担保として扱いましょうということとともに、特則を設ける必要があるという観点で、対抗要件あるいは利用権の評価額についてのルールを置いていただいているのですが、もう一つ特則といいますか、この利用権を担保とする場合の取引に関してルールを置いてもいいかもしれないのが、実行に当たっての簡易な引渡し制度についてのルールをここに準用するという考えもあるのかなと思いました。   ここは、動産の担保ではなく、利用権の担保なので、その実行は、利用権の債務者であるリース会社あるいは貸主が、利用権の担保の設定者から利用権を召し上げて、これは帰属清算的に考えるのですかね、利用権が混同により消滅することによって、利用権の負担のない動産所有権がリース会社あるいは貸主に戻ってくることで、実行が終わるのだと思いますけれども、そうすると、その後の引渡しといいますか、物を実際に取り戻すところは、普通の物権的返還請求権を行使することになるのかもしれないですけれども、そこについては、動産の譲渡担保の実行一般における、簡易に引渡しを実現するニーズが同様に当てはまる可能性があるので、この手の利用権担保について、実行時に簡易な引渡し制度を設けるかどうかも、検討の対象になるのではないかと思いました。   あと、もう1つ重要な点としては、このタイプの取引の当事者間の契約の内容といいますか、意思表示の内容として、必ずしも「利用権を担保にする」とか、「利用権の対価をその被担保債権とする」という明示的な合意がなされないのが普通なので、今回(4)のような規定を置くことが提案されていると思うのですけれども、ここで、何が合意されたら何を推定するかという問題なのですけれども、今の御提案の(4)の4行目の終わりの方、「(利用権の負担の消滅による)当該動産の価額の増加をもって未払の対価の弁済に充てる」という合意まで本当に必要があるのかは疑問に思っておりまして、ここは合意の対象に入っていなくても、対価の支払の不履行があったときは、所有者は利用権を消滅させることができることが合意されるだけで、ここに提案されている推定を及ぼしてもよいのではないかと思いました。   もう1点検討すべき事項としては、「推定」なのか、「みなす」なのかということですけれども、ここで推定と書かれているのは、具体的にいうと、当事者がこれは利用権の担保ではないと明示的に意思表示をしたらひっくり返るという意味ではなくて、法性決定の問題だから、仮に当事者の契約の中に、「これは利用権の担保ではない」と明示的に書いたとしても、それは一つの事情として考慮するだけで、それによって推定が当然にひっくり返るというわけではないと理解していいでしょうか。そうではなく、当事者が契約に書いただけでひっくり返る可能性が十分にあるというのであれば、「みなす」という考え方もあり得るのかもしれず、その辺りも検討すべき事項なのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。差し当たって、事務局から何かございますか。 ○笹井幹事 まず、引渡しにつきましては、確かにそういったものが利用できるようにしておいた方が担保権の実行に当たっては有益だと思いますので、そういう方向で少し考えてみたいと思います。   「推定」なのか「みなす」のかというのは、少し難しいところです。この(4)が本当に必要なのかということについて今、様々な議論があったところですけれども、事務当局としてこれを作成した段階では、様々な契約がある中で、一番骨になる部分だけを取り出してきているということですので、これに加えて様々な合意事項がある契約について、本当にみなしてしまっていいのかというところは、ややちゅうちょがあって、「推定」にしております。   ただ、一言これは担保ではないと書けば覆るかというと、そうではなくて、実質としてどういう契約内容になっているのかということを考慮して、推定が維持されるのか、覆されるのかということが判断されるのだろうと思いますので、担保ではないと書くことによって、当然に覆るものではないのかなとは考えております。   差し当たりは以上です。 ○道垣内部会長 井上さんの御発言について確認したいのですが、第1のことについて確認をしたいのですが、目的物そのものが譲渡担保権の目的であるならば、引渡しについて特定動産譲渡担保について用意しようとしている条文が適用されるけれども、担保の目的を利用権だと考えると、動産そのものが目的物であるときの規定が当然には適用されないので、何らかの規定が必要なのではないかと、こういう理解でよろしゅうございますか。 ○井上委員 はい。 ○道垣内部会長 よく理解できました。 ○大西委員 大西です。よろしくお願いします。私は一つ質問と、一つはコメントですが、先ほど阪口先生がおっしゃられた疑問については私も全く同意見です。先ほどの37−1の1ページ目に記載がある通り、今回のリース取引の担保法制化によって、リース契約における見積残存価額がなくなることによってリース料が上がってしまうということですが、リースの場合は、あくまで物の利用権が担保対象であり、その物自体の価値は依然としてリース会社に残っているはずなので、本当にそのように見積残存価額がつかなくなってしまうのかは疑問です。また、2ページ目にあるように、実際、リース債権の3割が倒産時に共益債権として扱われていますということですが、先ほどの阪口先生のお話のとおり、まず倒産自体がそれほど多くないことと、それから、最高裁の判例があるにもかかわらず、実務的に共益債権として扱う運用が一定割合、3割のケースでなされていることだけを根拠として、そのような実務的扱いを期待収益若しくは回収価値として見積もった上で本当にリース料が算定されているのかどうかは疑問を感じます。よって、仮に現在の倒産案件において、リース債権の共益債権としての扱いの運用がなくなることによって、本当にそのような影響があるのかは、疑問を感じます。   それから、2点目は質問ですが、今回ファイナンス・リースを定義することを回避するとの結論を出した要因として、ファイナンス・リースといっても、オペレーティングリースその他のいろいろな態様があるので、それをきちんと定義するのは難しいこと、及びファイナンス・リースの定義を策定して法的枠組みに当てはめると、現在の実務に即さないような取り扱いをするケースが出てくること、等を指摘されています。しかしながら、今回のように、ファイナンス・リースの定義を設けてそれを基礎とした法的な枠組みを回避し、物の利用権を対象とした非典型担保類型を定義して担保権として定めた場合でも、実務的に該当する多くのケースは現在のファイナンス・リースだと思われますが、これは、これまでのリース業界による法制度化への反対意見に対する対応策として有効な策となるのでしょうか。また、ファイナンス・リース以外でこの非定型担保の定義によってカバーされるケースを何か想定されているのか、についてお伺いします。2(4)のような推定規定があるので、結局今のファイナンス・リースは全部この非定型担保の定義に当てはまるということであれば、ファイナンス・リース自体の定義化を回避した効果というのがそれほどないということになると思います。また、今回の御提案された方式による物の利用権を対象とした担保権の法制化が、実際上リース業界にどのような影響を与えるのかについても検証をする必要性があるのではないかと思っております。少しその辺についてのお考えをお伺いしたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。案の作り方としては、申し上げることもないと思いますが、ファイナンス・リースというものを直接に何らかの文言で定義をしようとすると、どうしても出入りがあると。そこで、出入りがあるかもしれないのだけれども、これは担保だよねとなったときには譲渡担保の規定を適用しましょうというふうにして、ファイナンス・リースの定義ではなくて、ある取引が担保目的の取引であるかどうかということを直接に判断するという、そういう枠組みにしようというのが今回出させていただいた案の枠組みだろうと思うのです。そうはいっても、それでうまくいくのかという問題もあるのかもしれませんが。すみません、私、要らないことを申しましたが、事務局から何かありましたら。 ○笹井幹事 ありがとうございます。譲渡担保権ですので、譲渡することができるものであれば基本的には何でも譲渡担保権の対象になるのだろうと思っておりますので、物である動産、それから債権などを中心的に考えてきましたけれども、そういうものの中で、債権の一類型として、金銭債権ではなくて、こういった物の利用権限というものについても譲渡担保が設定し得るのではないか、少なくとも一般論として可能であるという中で、牽連性から出てくる特則というのを設ける必要があるのではないかというのがここでの提案ですけれども、現実の社会においてどういうものが想定されるのかと言われると、それは今までファイナンス・リースと呼ばれてきたものが中心になってくるのだろうと思います。   ただ、これもここで何度も既に御指摘がございますように、ファイナンス・リースという捉え方をした場合には、ファイナンス・リースの中にもいろいろありますよねということが直ちに問題となってきますし、これも申し上げましたように、ファイナンス・リースとは何かということを検討する必要は必ずしもなく、ある契約が利用権の担保取引であると性質決定された場合に、先ほど申し上げた牽連性についての特則を妥当させるという限りで、こちらでは御提案をしているということです。ファイナンス・リース以外に何か想定しているものがあるかというと、直接的に想定しているものがあるわけではありません。   ただ、ファイナンス・リースということで今まで議論してきた、その全てに当然これが妥当するのかというと、そこはそうではなくて、飽くまで動産の利用権を担保に取っているのだということが、それが当事者の意思から認定できる場合を取り出して、ここでの規定を適用しようということを意図しているということです。今日頂いた資料の中に、共益債権と扱われているのがどれだけあるのかという御指摘がありましたけれども、仮に共益債権として扱われているということがあるのであれば、それは担保取引ではないという性質決定がされたのかもしれませんので、そういったものについてはこの規定の適用対象から外れていくということになるのではないかと考えております。   差し当たりは以上です。 ○道垣内部会長 大西さん、よろしゅうございますでしょうか。 ○大西委員 ありがとうございます。御趣旨は分かりました。私自身はこの原案に従った制度を設ける方向性については異論ございません。ただ、実務上このような制度をつくることが、基本的にファイナンス・リース取引全体をくくることと同義であるのであれば、やはりリース業界に与える影響をもう少し実質的に議論すべきだと思います。今回のリース業界作成の資料の中には、個別の論点ですが疑問なしとしない部分もいくつかありますし、一方で、今回の法制化がリース取引実務に与える影響というものはきっちり見るべきですので、こちらはこちらで法理論として正しく設計すれば影響は関係ないという世界でもないように思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○山本委員 この点につきまして、私自身はかねてから、特に倒産手続との関係で、このファイナンス・リース契約というものの担保性を明らかにして、その効力についてもやはり法律で規定をすべきではないかということを考え、申し上げてきました。ただ、本日の資料の中身についてはいろいろな議論があり得ると思いますし、私自身もそうかなと思うところはあるわけですけれども、業界団体からはファイナンス・リースを法制化することについて反対の意見が出されていることもあり、他方でこの法制審の目的を考えれば、必ずしもファイナンス・リース自体を定義付けて、それについて直接規定を設けるということまでの必要はないようにも思われますので、この第1の1については、そういうことで仕方ないというか、そういうことでいいかなと思います。   他方で第1の2、動産利用権を担保にするような担保についての特則を設けるということについては賛成で、是非このような方向でお考えを頂きたいと思っているところであります。   (4)については、私も井上委員と同じような感触を持っていて、要するに、利用をしたかどうか、使用収益をしたかどうかにかかわらず、対価を支払う義務を全面的に負っているということであるとすれば、これはもう信用供与の契約と考えざるを得ず、そういう意味では倒産手続においては倒産債権になると、これは最高裁の判例がいっているところの中心的な趣旨だろうと思いますので、そういうことであり、その利用権を消滅させるというのが実質的に見れば担保権実行であるということも、そうなのかなと思いますので、このような性格を持っていれば、私ももう担保権とみなすということでもいいような気もするのですけれども、ただ、先ほど笹井さんがおっしゃられたように、ほかの付加的な合意等を総合考慮したときに、例外的には担保に当たらないということがあり得なくはないのだという場合があるとすれば、推定するということでも私はいいのかなと。相手方が、それがこういう合意にもかかわらず担保ではないのだと、譲渡担保権の設定ではないのだということを本証、証明責任をもって証明しなければいけないということであるとすれば、それはそういうことでもよいのかなと思いました。   それから、ほかの特則との関係で、これも井上さんが言われたことと関連するのですけれども、これはそれ自体は動産の譲渡担保ではないということですので、どこまでこの動産譲渡担保の規定について準用等をしていくのかということが問題になると思いますけれども、私が気になったのは受戻権の話です。これは受戻権自体を設けるかどうか、まだ決まっていないので、何とも言えないのですが、仮にこれが動産譲渡担保権に入った場合には、これはこのリースにも入れてよいものになるのではないだろうかと思うところです。前回議論があったとおり、この受戻権を前提とした中止命令みたいなものが、また倒産手続との関係であるかどうか、これもまだ決まっていないところですけれども、もし動産の方でそれが入るのであれば、この利用権担保との関係においても、そのような規定はあってもよいのではなかろうかという印象を持っているということを申し上げたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大西委員 すみません、先ほど少し言い忘れたことですが、37の資料の2ページのところです。先ほど、共益債権としての運用が3割のケースでなされているというものを本当にリース会社は期待してリース料率等を算定しているのかというコメントをしました。ただ、もう一つのコメントしてあるのは、この共益債権扱いの3割という運用は、会社更生の場合であれば、今回の法制化によって大きく変わると思いますが、民事再生だとすれば、これは別除権であるため、新しい法制になっても当然、事業に供されるリース物件に関して別除権協定を締結することにより、結果的に共益債権としてリース料が支払われることになるので、変化はないのではないかと考えます。再建型法的倒産の多くは会社更生ではなく民事再生のケースですので、それを前提とした場合、ここで議論されている、3割の共益債権扱いの運用は、利用権に関する担保制度が法制化されたとしても余り影響がないようにも思います。37の資料の2ページ部分が、どういう資料を根拠にしているのか分からないのですが、民事再生手続における別除権協定に基づく共益債権化部分も含んだ、3割の共益債権扱いの運用ということであれば、今回の法制化によって、余り変化はないと思いますが、いかがでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、事務局もどういうエビデンスからこういう資料になっているのかということまで把握しているわけではありませんので、そこは少しお答えしかねるところもあるのですけれども、もしこれが別除権協定の結果として共益債権になったということであれば、今、大西委員が御指摘のとおりだと思います。ただ、一応事務局においてリース事業協会から伺ったところによると、これは別除権協定ということではなくて、共益債権として扱われているのだということをおっしゃっておりましたので、そういう資料として提出されているということのようです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 阪口です。先ほどは委員等提出資料のことを言っていて、賛成か反対かを言わなかったので、原案賛成ということをまず申し上げさせていただきます。その上で、先ほど井上先生、山本先生から御指摘あった2(4)の合意の対象について、少し確認をしたいと思います。   2(4)の、価格の増加をもって未払の対価の弁済に充てる、という部分なのですけれども、昭和57年10月19日の最判は、この部分を要件として判示したのではなくて、効果としてこの部分を判示したと思います。あの最判の感覚からすると、合意が明確に書いていなくても、事実上、実務では合意を認定するのではないかと思うけれども、そうは言いながらも、一応、最判が効果として判示したものを、今回は要件に上げている理由が何か、お教えいただきたいと思いました。よろしくお願いします。 ○笹井幹事 (4)については、この第1の2自体、新しい枠組みだということもあり、推定ということが本当によいのか、できるのかというところもありましたので、その要件についてきちんと詰めたということではないのですけれども、ただ、最初だということもありまして、どうしてそれが担保になるのかということができるだけ明確になるような書き方をした方が理解を得やすいのではないか、これがこのまま条文になるとか、このまま法律の要件になるというよりは、資料の出し方として、なぜそれが推定されるのかということが分かった方が分かりやすいのではないかということも少し意識をしたということもあって、こういうふうに書いております。   確かに効果なのかもしれませんけれども、一定の財産権を担保にするということは、その財産権の経済的な価値を自分の被担保債権の弁済に充てるということですので、それがどういうメカニズムで被担保債権の回収に充てられるのかということを少し説明的に書くと、こういうことなのかなということで、資料の作り方としてはこういう書き方をしているということです。 ○阪口幹事 昭和57年最判の関係でいうと、2(2)も同じ最判が判示している部分ですよね。利用権担保なのだったら、理屈でいうと、ここは利用権の価格で調整しなければいけないところが、最判が物の価格で議論しているので、そのまま物の価格を控除するとしている。飽くまで推定ですし、あの最判も特段の事情ない限りといっているので。だから、僕は(2)と(4)は最判を意識して作ったのかなと思って、ただ、逆に(4)の方は効果が要件に上がるというか、変わっているので、理由は何かと思ったのです。今の法務省の御説明としては、別に最判を意識しているというよりは、今の段階で少し固めに作ってみたという感じですかね。 ○笹井幹事 (4)は、そうですね、その担保取引であるということがより明確になるように、一番固そうなところを採ってみたということになります。(2)は、昭和57年最判はもちろん意識はしておりますけれども、もちろん利用権の価格というものを直接算出することができるということであれば、それがより正確だろうと思いますし、そういった市場価値のようなものがある財産というのもあるのかもしれませんけれども、そういうものばかりではありませんので、そういう場合に私的な実行をしていく、しかも今議論されているような私的実行のシステムの中でやっていこうとすると、その評価額をどういうふうに算出するのかということが問題になってきて、実際上何らかのこういう手掛かりになるものがあった方が、その後、実際の実行手続を進めるためには、いいのではないかと考えたということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   私の個人的な意見を申し上げますと、(4)に関して、利用権の負担の消滅により当該動産の価格の増加をもって未払の対価の弁済に充てることが合意されているという要件がないということになりますと、少し不分明になるのかなという気がします。というのは、留置権については、引き渡さないことによって間接的に履行を促すと言われますが、それ以外の担保は、その目的物の交換価値によってその債権を回収するというわけです。しかるに、債務不履行によって、利用権がなくなって、かつ全部を払わなければならないというだけを書かれますと、利用権がなくなるぞと、債務不履行すると利用できなくなるのだぞというふうなことによる間接強制型の担保であると読めないわけではなくなるように思います。これは優先的に価値を取得するという形の担保であるという場合だけこの規定を適用するのだということを明らかにする。そうなると、先ほど私が述べた部分、井上さんや阪口さんから、なくてもいいのではないのと言われた部分というのがありませんと、少し不分明になるのかなという気がしております。   しかし、それに対しては更に、そうならば利用権の価値でしょうと、交換価値の差額になるわけではないですよねという批判があるかもしれません。昭和57年の最高裁の判決は、確かに、予定された交換価値と早めに引き揚げたときの交換価値との差額という言い方をしていますが、交換価値なのだけれども、本当は利用権の差額ではないかという議論はその当時からあったわけですね。そもそも、利用権の価値というものを交換価値の差額によって算定しているにすぎないのではないかという見解ですね。したがって、そこをどういうふうに書くのかというのは、論理的に正確に利用権の価値の話として書くのか、笹井さんがおっしゃったように、交換価値でないと実際には算定がなかなか難しいよねというところで書くのかというのは、選択肢として残っているのではないかと思います。   ほかに何かございますでしょうか。   今、多くの方々からは、原案の方向性について余り異論はなくて、(4)に関してどのような要件を入れるのかという問題と、阪口さんから、昭和57年最判を意識しすぎというのは変ですが、それとの関係があるのかという話が出ておりまして、更にその2点は検討しなければいけないわけですが、もう1点、山本和彦さんから、債務不履行になってすぐに実行ができて、債務者としてもはやその利用権を回復することができないということになってしまうのか、それとも、ある一定の期間、あるいはある一定の手続が行われるまではなお、約定された金銭の支払を復活させることによってその利用権を確保するということが可能なのか、可能であるならば、そういった内容のルールをきちんと置くべきではないかという話なのですが、その点については皆さんのお考えはいかがでしょうか。 ○阪口幹事 阪口です。必要性は極めて高いものと思いますので、是非お願いしたいと思います。 ○大澤委員 私も同じです。基本的には、倒産手続に入ったときに、こういったリース等が非常に重要な役割を果たしている、あるいは利用権なり何なりというものが重要な役割を果たしている場合があるわけで、それが事業再生という意味では非常に必要だということになることだとすると、そこで中止命令なり何なりという倒産手続の中での別除権としての扱いというものを入れていくというような形が必要になると考えております。   ただ、これはほかとも関連するところなのかもしれませんけれども、少し議論が別になってしまうのかもしれませんが、受戻権を入れます、それが倒産手続との関係で中止命令の対象になってきて、しかるべき支払等を行っていくのですというような仕組みそのものの大枠には全く異論はございませんけれども、その中でお支払をする、再生債務者なり何なりがお支払をするべき金額というのは、結局その利用権の価値、イコール、今回の場合はその動産の価値になるのでしょうかというところに収れんされていくように思います。つまり、リース債権を全額払うという話ではなさそうに思いますけれども、その点まではまだ議論が詰まっていないとは思いますが、事務局の方ではどこまでお考えでしょうか。 ○笹井幹事 すみません、今の御質問ですけれども、そのとき、受戻権というものを入れるかどうかは別として、中止命令の対象になると、中止命令の中で別除権協定がされるということになりますよね。その別除権協定でどういうふうに算出されるかということでしょうか。 ○大澤委員 はい、そうです。それは多分ほかとも関連するので、ここでお話しする話ではないのかもしれませんけれども、利用権とその動産というものとの関係でどう考えるのかというところまでも踏み込む必要があるのかなと少し思いましたので、御質問させていただきました。 ○笹井幹事 これについて何か特別な規定を設けるということは考えておりませんでしたので、結局その利用権というものの民事再生手続上というか、再生に当たっての必要性、あるいはその物を利用することができるということの価値を再生債務者側でどういうふうに評価するかということと、担保権者との間の…。 ○大澤委員 利用権を貸した側とのお話合いということになるということでしょうか。 ○笹井幹事 ということだろうと思います。その中で、もちろん残債務がどれだけあるのかということにもよってくると思いますけれども、残債務を上回るだけの価値があるのだということであれば、全額払われるという形で別除権協定が締結されるということになるだろうと思いますし、そこまででもないと、あるいは物の価値自体は大分低いのだということであれば、そういったことが別除権協定の内容に反映されるのではないかと思いまして、そのこと自体は現行法上の別除権協定と全く変わらないのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 大澤さんが今の回答でよろしければ、それでよろしいのですが、月々の支払がなされているといったときに、例えば9月の段階で債務不履行が起こって、倒産でもいいのですが、実行が行われましたとします。それを回復するために、今11月だとして、払うべき額というのは2か月分の支払額なのか、それとも、その9月の段階で債務不履行により全額の弁済義務が到来して、別除権協定とかそういうことで特別な合意があればともかく、原則としては全額支払わないとその実行をストップするということができないのか、どちらなのだろうということなのかなと思って伺っていました。 ○大澤委員 いえ、私は平時においては、やはり全額の弁済が必要なのではないかと思いましたけれども、倒産手続との関係では、別除権という扱いになる以上、利用権の価格というか目的物の価格というか、そこに弁済額が縮減されるのではないか、縮減なのか、価値によっては満額なのかというところで、対象物で連動するのではないかと考えておりまして、今回、利用権の譲渡担保ということですから、利用権の評価ということになってくると、またそこで、では動産の評価なのかなとかいう話を確認したいと思って、質問をさせていただきました。 ○笹井幹事 十分に理解できたかどうか分かりませんけれども、おっしゃるとおり基本的に利用権の譲渡担保だという性質決定をすれば、それは別除権協定に当たってというか、財産権の価格が問題になるとするとむしろ担保権消滅許可の方ではないかと思いますけれども、その場合にはもちろん利用権の価格をベースにして考えていくということになるのではないかと思いますし、別除権協定をするに当たっては利用権の価値を考えながら決めていくということになるのではないかと思っておりました。 ○道垣内部会長 山本さん、何かございますか。 ○山本委員 ここで詳細に論じる話ではないのかもしれませんけれども、今の点は非常に大きな問題で、つまり、受戻権というのは私の理解では、それは前にも申しましたけれども、中止命令を仮に作るとしても、それは担保権実行の中止命令ではなくて、実質上は取戻権の中止命令ということになるのではないかということを申し上げたのと同じことで、受戻権が仮に認められたとしても、それは別除権に別になるわけではないのだと思うのです。つまり、被担保債権の弁済ではなくて、担保債権相当額を弁済して物が戻ってくるという制度だと思いますので、既に所有権、本件でいえば利用権ですが、それはもう移転してしまっていると考えざるを得ないということだとすれば、担保の目的の価格を弁済すれば返ってくるという話ではなくて、やはり被担保債権を弁済して初めて受け戻せるというのが基本なのだろうと思っています。   仮に、既に担保権実行が終了しているにもかかわらず、担保目的物価格を返せば返ってくるという制度を作るというのは、それは結局、やはり取戻権消滅制度という新しい制度になるのだろうと思う。それを作るという政策決断はあり得るのだろうと思うわけですが、私の理解では、これまでの資料ではそこまでのことは言われていないし、言えないのではないかということからすれば、私が先ほど受戻しと申し上げたのは、飽くまでも被担保債権を弁済して、それで初めてこの利用権が戻ってくると、そういうことで受戻しということを申し上げたということです。 ○笹井幹事 すみません、先ほどの大澤委員の質問を多分私が誤解しておりまして、私はまだ、受戻権になる前といいますか、実行が完了する前を想定しながら、中止命令が発令されたということを念頭に置きながら、回答を申し上げたのですけれども、確かに一旦実行が終了して、受戻権を行使するために幾らの提供が必要かということになると、今、山本委員がおっしゃいましたように、資料上も、もし被担保債権が消滅しなかったら、利息や遅延損害金を含めて、幾ら払わないといけなかったかということを算出して、それを提供することによって受け戻せるということになります。先ほど利用権の価格どうのこうのと申し上げましたけれども、受戻権を行使するためであれば、被担保債権が存続していた場合の全額というのが、今の資料等でお示ししている立場であると思います。 ○大澤委員 ありがとうございます。そこの議論が多分はっきりしていなかったところが少しあったので、質問させていただきました。ただ、倒産法的な考え方で考えると、平時における受戻しの時期を後ろに延ばしたということは、基本的には倒産手続の中で、評価額の中でということを、別除権協定を結ぶということも併せて考えるのがセットかなとも思っておりますので、この点はまた、だからこそ、私はどちらかというと、処分清算についても帰属清算についても、消滅時期を後ろに倒していただく必要があるのではないかと常々申し上げているところではございますので、今ここでその議論をまた蒸し返すつもりはございませんけれども、同じ議論が残るということは理解できましたので、よく分かりました。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   譲渡担保というのは、動産等の譲渡担保について用意されているルールを更に精緻化するとともに、利用権の担保の場合に、それを若干変容する必要があるのかということを更に考えていくということが残される課題になるのかもしれないと思います。倒産手続のときの問題については、もう少し検討をするということにしたいと思います。   ほかに何か、この第1について、ございますでしょうか。   もちろん今日でこれで内容が決定したというわけではございませんので、また御発言をいただく機会があろうかと思いますけれども、差し当たっては、幾つかの問題は指摘されてはいるものの、こういう方向が多くの支持は得たと考えさせていただいて、次に進みたいと思います。よろしゅうございますか。   そこで、次に「第2 普通預金を目的とする担保」について議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○淺野関係官 それでは、4ページの「第2 普通預金を目的とする担保」について御説明いたします。   普通預金を目的とする担保権については、その法的な取扱いが明らかになることで法的安定性や予測可能性が確保されることは実務的に有益であるとする御指摘がある一方で、現状においても普通預金を目的とする担保権の設定が可能であること等については大きな異論は見られないところであり、また、限定的な局面での活用にとどまっていることから、規定を設けるニーズは必ずしも大きくないという御指摘もあるところです。また、普通預金口座の中には個人の生活費の決済用の口座や事業者の決済用の口座も含まれ、これらについては担保設定による個人の生活や事業者の資金繰りへの影響も懸念されるところです。さらに、一般事業者の利用が増加しますと、預金取扱金融機関の立場からは、犯収法に基づく取引時確認等に負担を生じる可能性もあるという御指摘もあります。   そこで、本文では、普通預金を目的とする担保について特段の規定を設けないことを御提案しております。この提案に従えば、普通預金を目的とする担保の法的構成、その要件、その倒産手続における取扱い等につきましては、引き続き解釈に委ねられるということになります。   以上について御議論いただければと存じます。私からの御説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構ですので、御意見等を頂ければと存じます。 ○日比野委員 日比野です。金融機関の立場からは、この第2の提案、特段の規定を置かないこととするという内容に賛成いたします。説明に書いていただいていますとおり、明確化のメリットと、これを法文に明確に書くということによるデメリットの両方を考えたときに、現状の利用の仕方であれば、特段の規定を置くことなく現状維持ということでよいのではないかというところを中間試案のときにも意見させていただきまして、そのとおりだと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかにございますでしょうか。   これは御異論がないということでよろしゅうございますか。   御異論がないということは、これで結構なのですが、ただ、1点申し上げますと、UCCを始め幾つかの国では、口座の担保化とかそういうものについての規定があり、かつ要件があり、金融取引がそれを利用してうまくいっていると評価している国々や、評価している論者というのも世界的には多々存在しているわけです。そのような中で、日本が普通預金を目的とする担保について特別な規定を置かないという選択をするといったときに、なぜ置かないのか、置かなくてもできるのだというふうなところとか、実務的に世界で行われているようなことについて、日本は特別な規定がなくても対応できるのだということを、補足説明や、今後要綱、要綱試案となっていくに当たり、外部的に発信していく必要があるのだろうと思います。相殺や、あるいは自分を債務者とする債権についての質権設定の可否とかが世界各国でいろいろ違いますので、同じくアカウントの担保化といっても各国法で異なる状況が存在しているのでして、アカウントが担保ができるよね、できないよねというふうなことでは本当は済まないはずなのです。そこら辺も含めて、丁寧に海外に向けても発信していく必要があるということを指摘して、それをお願いしておきたいと思います。   ほかにございませんでしょうか。   よろしゅうございますか。それでは、先を急ぐようで恐縮でございますけれども、次に「第3 譲渡担保権の目的財産の設定者による処分権限について」を議論したいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 「第3 譲渡担保権の目的財産の設定者による処分権限について」、御説明いたします。   譲渡担保形の目的である財産についての設定者の権利の担保目的以外の譲渡につきましては、これまでも部会で御議論いただいてきたところでございます。【案3.2】は、以前より御提案しているもので、原則としてこのような譲渡は無効とする規律でございまして、これを引き続き選択肢の一つとして示させていただいております。   他方で【案3.2】は、設定者による譲渡を一律に無効とすることは規律として過剰であるといった意見も出されてきたところで、前回の部会におきましては、原則として譲渡を有効としつつ、譲渡担保権者には対抗できないとの規律を提案したところです。これについては、適用が複雑になるといった御意見が出されたほか、さらに、譲渡を有効としつつ、実行との関係で必要な規律の修正を行うといった制度設計の案についても提案されたところでございます。   【案3.1】は、このような御意見を踏まえまして、本文(1)において、設定者による譲渡を有効とする規律を提案するものでございます。譲渡担保権者の権利が害されないようにするという観点から、譲渡担保契約による別段の定めを許容するか否かについては、隅付き括弧として提案しております。   (2)は、仮にこのような別段の定めに反する譲渡が行われた場合には、それは無効なものと考えられますが、このような制限について、善意無過失の第三者についてはこれを対抗できないということといたしまして、その保護を図ることとしております。   (3)は、第三者に有効に譲渡された場合における実行の場面については、譲渡担保権者は設定者から第三者への譲渡は知り得ないのが通常でありますから、実行について一定の規律を設けることとしております。   その具体的な規律については、6ページの(2)以下で記載しておりますけれども、動産譲渡担保権の実行について、譲渡担保権者は当初の設定者に対し通知及び清算金等の提供を行えば足り、また、受戻権については、譲渡を受けた第三者についてもこれを行使することができるなどとしておりまして、債権譲渡担保権の実行についても基本的にこれと同様の規律とすることを提案しております。   私からの説明は以上となります。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと存じます。 ○阪口幹事 どなたからも意見が出ないので、取りあえず私から。まず、私は【案3.1】をベースに考えたいと思っています。その上で5ページの別段の定めによる制限に関して、2点、確認というか質問をしたいと思います。   まず、善意で無過失の第三者に対抗することができないという、この基準時は譲渡時を想定しておられるのか、それとも、即時取得のように引渡し時を考えておられるのかというのが一つの質問です。私自身は譲渡時でいいのではないかと思っています。   もう一つは、後順位担保設定にもこの問題が響いてこないのかということの確認です。元々、部会資料28や32では、後順位担保設定はできる、ということを前提に、真正譲渡ができるかどうかを議論しましょうという枠組みになっていました。今回、真正譲渡はできるのだけれども、別段の定めによってその禁止が物権的にできるとなったときに、後順位担保設定ができないという別段の定めをしたら、それが物権的効力を持つという波及が生じたら、これまたややこしくなるようにも思うので、そこは全く考えていないということでいいのかどうかの確認をしたいと思っています。 ○道垣内部会長 事務局、いかがでしょうか。 ○笹井幹事 一つ目は(2)の善意無過失ですね。ここは即時取得と同じように考えていたのですけれども、阪口幹事は以前からもう少し広げる方向でおっしゃっているということは承知していますので、また少し考えてみたいと思いますが、基本的には即時取得と同じように考えていたというのが今までの考え方です。   もう一つは、(1)の別段の定めで、そうですね、ここは制約する趣旨というのが、やはり担保の管理みたいなところにありますので、後順位の担保権設定について何か制約をするとか、当事者の意思表示によってそれができなくなるとか、そういうことは今のところ考えておりません。 ○阪口幹事 例えば、後順位の質権設定であれば物は動くわけですよね。そういうことも含めて、その影響があるかないかということです。それはもう後順位担保設定で真正譲渡ではないのだから、これを禁止する別の定めは債権的合意にすぎませんよということなのか、それとも、いや、そういう対象物の占有が移転するものは駄目だよということか、どういうイメージなのかを確認したくて質問いたしました。僕自身はそれには全く影響しないという考えでいいのではないかと思ってはいるのですけれども、書き方も含めて、確認したかったということです。 ○笹井幹事 そういう意味では、実質的な内容としては担保権設定については制約はせず、真正譲渡の場合についてだけ、こういう規定を置いているということです。 ○道垣内部会長 ただ、既に譲渡担保が設定されている目的物について、債務者が別の債権者に対して質権を設定して、当該動産の占有を質権者に移転したら、それは質権の設定だから有効だよねということにはならなくて、やはり占有を移転するということのよしあしの問題がいずれにしても出てくるわけで、質権設定だからといって占有移転が正当化されるということにはならないですよね。 ○笹井幹事 そこはおっしゃるとおりです。 ○阪口幹事 もちろん、それが駄目だと書いてあったら、譲渡担保権者と設定者の間の合意に違反していることは間違いないのですけれども、ただ、ここで言われているのは、物権的効力というか、およそそういう真正譲渡によって物上保証人的地位になることも許しませんよという別段の定めです。仮に、質権設定を許さないと書いても質権設定はできるという理解でいいのか、いや、その質権設定自身も物権的に禁止する定めをしていたら無効なのだということなのかの確認で、僕は、動かすことは債務者の合意違反だけれども、別に質権設定自身は無効になっているわけではないと思ったのですが、それでいいでしょうかという。 ○笹井幹事 それでいいと思います。 ○道垣内部会長 動産についてですか、債権についてですか。 ○阪口幹事 僕が念頭に置いていたのは動産で、債権は今すぐ分かりませんけれども。 ○道垣内部会長 動産について、質権者に占有を移すことが質権の成立要件なのか、それとも、質権は合意によって設定されて、占有の現実的な移転が効力発生要件になるのかというのは議論があって、仮に成立要件であると考えると、目的物の占有を移転することが事実としてできなければ、そもそも後順位の質権も成立しないということになりますよね。 ○阪口幹事 僕のイメージしているのは、実際に動かした場合のことを申し上げています。ここでの真正譲渡は、動かしても、別段の定めについて悪意若しくは有過失であれば、物上保証人的地位にすらならず、単に無権利者ということになる。他方、質権設定であれば、実際に動かしたときに一応、質権は持っているということでいいのかどうかという確認だったのですけれども。笹井さんのお答えは、質権自身は持っているよという。 ○道垣内部会長 質権自身を持っていっても、仮に占有の移転が禁止されているならば、例えば譲渡担保権者が占有を元に戻せという主張をしたときに、占有を有している質権者が、私は質権を有しているのだから占有を戻さなくていいと言えるかというと、どうなのでしょうか。占有の移転を受けた人の善意悪意問題も絡んできますね。少し分からなくなってきました。ごめんなさい、発言をストップします。 ○笹井幹事 基本的には設定者と担保権者との間の問題なのかなと思っておりまして、もちろん担保権者との関係で設定者の義務違反があるということになると、例えば期限の利益を喪失して実行されてしまうとかいうことになると、それは劣後する担保権者も実行に対しては抵抗できないけれども、そこまで行かなければ、質権者は質権の効力として占有を確保できるということかなと思っておりました。 ○道垣内部会長 少し分からない感じもしますが。 ○大西委員 ここにつきましては、前回もコメントしたのですが、1の案に沿って考える方がいいのではないかと私自身は思っておりました。その中で、譲渡担保権者にとって、誰に譲渡したか分からないということは(3)で救済されていると思いますが、承諾なく保管場所を移してはならないという点については、設定契約に委ねるという御趣旨ですか、それとも何か別途、承諾なく保管場所を変更できないという規定を入れることを想定されているのでしょうか。その点のお考えをお伺いしたいと思います。 ○笹井幹事 以前、この保管場所につきましては、移動してはいけないという規定を設けるということを資料上は提案したことがあったのですけれども、ただ、その点については、別にそれは契約に委ねればいいではないかと、もちろん仮に規定を設けたとしても、当事者が包括的に承諾するとか、こういう範囲では承諾するとかということはあり得る、いろいろなバリエーションがあって、それ自体は担保権者と担保権設定者の間で自由に合意できてよいのではないかという観点からだと思いますけれども、それはもう要らないのではないかという御指摘もあったかと思います。そういう状況の中で今、事務局の中では、それは設定者と設定契約の中で規定するということに委ねてもよいのではないかという方向で考えております。 ○大西委員 ありがとうございます。そうすると、仮に善意取得が成立する場合を想定すると、法文にそういう規定があったのだけれども知らない場合の話と、契約上の規定を知らなかったということでは、過失の認定の点で差があるようにも思います。仮に、この点の認定について差があるとすると、法文に規定が設けられるのかどうかで譲渡担保者の立場も変わると思うのですが、この辺についてはどのようにお考えでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、法律上、動かしてはいけないという規定が設けられれば、それはその条文を知らなかったことについて無過失で免責されるということはないのではないかと思います。そういう意味では、契約に委ねた場合に、過失なくその制約を知らなかったという人の保護をどう図るかという問題は出てくるのかもしれません。 ○大西委員 分かりました。ありがとうございます。そうすると、私は銀行協会側の人ではないので、後ほど日比野さんがコメントがあるのかもしれませんが、担保権実行者にも悪影響を与えないという意味では、法律上、担保権者の承諾なく保管場所を移してはならないという規定を入れるという案もあるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。箇所は別のところになると思いますが、またその点を検討したいと思いますが。 ○佐久間委員 私も【案3.1】がよいと思っているのですけれども、その上で、(1)の隅付きの部分は要らないのではないかと思うということと、(2)についても、即時取得の規定に任せればよくて、不要なのではないかと思うということを申し上げたいと思います。   まず、動産の譲渡担保が設定された場合に真正譲渡をしてよいかということがずっと議論されてきたと思いますけれども、そこで真正譲渡を認めるべきではなかろうというときの一番の論拠になっていたと思うのが、その真正譲渡がされ、引渡しがされてしまうと、譲渡担保権が実質的に害されることになって、そのようなことは譲渡担保権という一種の物権に当たるものを認めたことと矛盾するのではないかということではなかったのかと思います。先ほども出てきましたけれども、では質権の場合にどうなのかと、占有が質権者の方に移ったらどうなのかということも同じような問題ですねということがあったのだろうと思います。   私は、実質的に言うと、動産譲渡担保権が設定されているときに、設定者が当該動産の保管場所を移すようなことをする、その原因となる契約をし、それに基づいて占有を移すということは、ほとんどの場合において譲渡担保権の妨害に当たる、侵害に当たるのではないかとは思っています。   ただ、例えば抵当権でも抵当権に基づく妨害排除請求というものが、優先弁済権の行使を妨げるような事態になったら認められるという考え方があるわけですので、譲渡担保の場合にも、譲渡担保権というものは被担保債務の不履行があるまでは基本的に優先弁済権に特化した担保権であると捉えますと、そのような事態があれば、法律上の条文がなかったとしても、妨害排除の請求として、元の保存場所に戻せという請求を、私は譲渡担保権者ができるのではないかと思っています。もしそのように考えられるのであるとすると、合意がなくてもそれができると考えますので、わざわざ合意によって、そもそも譲渡の権限、設定者における権利移転の制約まで譲渡担保権者に認める必要があるかというと、そこまではないのではないか。実際に優先弁済権の行使が妨げられている状態になれば、妨害排除請求をすればよくて、元に戻せと言って、元に戻ってきたときには、その契約は無効になっていないということだといたしますと、保管は元の場所でされるし、設定者が結局管理をすることになるのだけれども、所有者は真正譲渡だったら別の人になっていますという、ただそのような状態になるだけではないかと。譲り受けた人からすると、それでは意味がないからということで、例えば契約の解除をするということだってあるかもしれませんが、それは譲渡担保権者には関係ないことではないかと考えています。   そのようなことを考えているものですから、(1)の隅付きの部分は不要ではないか、仮にこういう合意をしたところで、一応それは債権的な合意にすぎないのではないかと考えればいいのではないかと思っています。   (2)に関しましては、その延長上で、だから要らないというふうなことも思うと同時に、仮に隅付きの部分があったとしても、これと即時取得の差というのは実際上はほとんどないような感じがするので、この(2)は必要なのかなと感じるということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。少し分からないところがあるのですが、【案3.1】の(1)で、隅付きパーレンの部分を除いて、設定者は譲渡担保契約の目的財産について有する権利を第三者に譲渡することができるというルールだけあったときに、実際に第三者に譲渡して、その譲渡の性質上、所有権移転にせよ質権設定にせよ、占有を譲受人ないしは質権者に移転しましたと、こういう条文があるのに、そうすることは先順位譲渡担保権者の権利の妨害であるといって、先順位譲渡担保権者がそれを排除する、ないしは戻せと言えるというのは、できると書いておきながら、やったら、本当はできなかったのだよねと言われているみたいで、すごく変な感じがするのですが、そんなことはないのですか。 ○佐久間委員 いや、そうだと思います。少し言い忘れました。だから、隅付きを除いて、することができるという条文をわざわざ作る必要はないということで、できることを前提に、でも(3)は残ってくるのかなと思ったのです。譲渡したところで、それは仮に妨害とかはなくて有効だと、それで戻ってきたらかな、やはり戻ってきて、権利者は変わっていたとしても、(3)で元の設定者を相手に実行等の手続がとれるという、それだけでいいのではないかということです。本来そういう言い方をすべきでした。そのようなことを考えています。 ○道垣内部会長 分かりました。どうも。   ほかにございませんでしょうか。今まで頂いた意見は、【案3.2】ではなくて【案3.1】だろうと。 ○阿部幹事 今の佐久間委員の意見に関してですけれども、もしそういうことであるのであれば、譲渡できるということを明文で書かないだけではなくて、その場合には妨害排除ができるということをむしろ明文で書く必要があるのかなと思います。譲渡担保権に基づく妨害排除請求権の一般論に委ねますというのでは、少し弱い、分かりにくいということになると思いますので、分かりやすさという点からは、こういう場合にはできますということを、例示であろうと、しっかりと示すということが必要になるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   今まで頂いた御意見としては、【案3.2】で行こうという人は、少なくとも御発言はなかったですね。【案3.1】で行って、実際上の問題としての(3)というのは認めるべきであり、譲渡担保権者は元の所有者というか、譲渡人というか、処分者を相手にして手続ができるのだということは、そうだということでしたが、その上で、(1)、(2)の辺りが、占有の問題とか、契約と処分と特約との関係とか等々につきまして、皆さんが言っている内容が違うというわけではなさそうなのですが、それを技術的にどう整理するのかということについて幾つか御意見があり、あるいは分かれがあったということかなと思います。ほかに何か御意見はございませんでしょうか。 ○山本委員 意見というより質問なのですけれども、(3)の今のところなのですけれども、この実行というのは、主としては私的実行が念頭に置かれているように思うのですけれども、裁判所での実行のときも同じことがいえるのか、つまり譲渡人、当初の設定者が執行債務者になるのかどうか、当初の設定者が執行債務者になるとすれば、当初の設定者に対する債権者が配当要求等もできるのか、この辺りを少しお伺いしたかったのですけれども。 ○笹井幹事 (3)の規定というのは、飽くまで手続的に当初の設定者を設定者として扱えば足りるということですので、今、山本委員がおっしゃったような、当初設定者に対する債権者が実際に配当要求してくるとかということは、あってはいけないのかなと思っておりました。そのときに、民事執行法上どういうふうに扱うべきなのかというところは、まだ少し検討が及んでおりませんでしたので、改めて考えてみたいと思いますが、実態としては今申し上げたとおりで、(3)は主として私的実行を念頭に置きながら今、提案しているような通知とか、清算金とかの提供をこの人に対してやればよいということでしたけれども、飽くまで手続上の登場人物にすぎず、その実態として、その人が実際に担保権設定者そのものではありませんので、この手続上で配当を受けられるとすると、それはむしろ新しい所有者の債権者なり、そういう人たちに限られるのではないかと思います。 ○山本委員 ありがとうございました。その点、更に御検討いただきたいと思うところですけれども、執行法上は執行債務者と、その配当要求ができる債権者の債務者を分ける、つまり、Aを執行債務者としながらBに対する債権者が配当要求ができるというような仕組みは、少しラジカルな感じがするものですから、やってできないことはないのかもしれないけれども、実務的に対応できるのかとかも含めて、少し精査を頂ければと思います。 ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。 ○阿部幹事 先ほどの話の続きみたいになってしまうかもしれないのですけれども、佐久間委員のお話を伺っていて、抵当権者が賃借人に対して妨害排除請求をするときの話を思い出しまして、あのときも、要件の設定の仕方などから、賃借権の設定を言わば詐害行為取消し的に否認するものなのではないかとういう議論もあったような気がします。そういうことを考えると、譲渡の効力を妨害排除の問題に収めるというのは、既存のそういった議論との整合性もとれるような気がしますし、譲渡が有効なのか無効なのかという問題よりも、誰が何をできるのかという形の規定を置いて、譲渡の効力に関しては言わば棚上げするというような形もあり得るのかなと思いました。私はこの問題についてはずっと、譲渡の効力は認める必要がない、否定すべきだというふうな感じで申し上げてきましたけれども、譲渡が有効か無効かという問題ではなくて、誰が何をできるかという形で規定を置いて、譲渡が有効か無効かということについては、解釈に委ねるということでよろしいのではないかとも思いました。そうすると、【案3.1】なのか【案3.2】なのかと、そういう問いは立てなくてもよいということになるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかにございますでしょうか。   頂いた方向で、何とかもう少し精緻化できるということでしょうか。 ○笹井幹事 はい。 ○道垣内部会長 それでは、いろいろな問題点を御指摘いただきましたので、それを踏まえてもう一度、どこまで書き込む必要があるのか、阿部さんがおっしゃったように、結論だけというのは変ですが、効果だけ書く、佐久間さんも(3)だけで足りるかもしれないというのは、ある意味ではそういう方向性だと思いますけれども、そういうふうにした方がいいのかといったことも含めまして、再度事務局で検討していただくということにしたいと思います。   御発言がこの第3について、ございませんようでしたら、ここで休憩を取らせていただければと思います。15分というのが基本ですが、そこは少し大盤振る舞いして16分ぐらいにして、3時25分まで休憩をしたいと思いますので、3時25分にはお戻りいただければと思います。           (休     憩) ○道垣内部会長 時間がまいりましたので、審議を再開したいと思います。   第4の「約定動産担保権と他の動産担保権との競合」について議論を行いたいと思います。   ただし、その前に、民事局長がお入りになっておりますので、最初御挨拶をしていただくことができませんでしたので、竹内さんの方からお願いいたします。 (委員等の自己紹介のため省略) ○道垣内部会長 竹内さん、よろしくお願いいたします。   先ほど言いました第4の「約定動作担保権と他の動産担保権との競合」について、事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○森下関係官 第4は、約定動産担保権と他の動産担保権とが競合する場合の規律についての提案になります。これまでは、動産担保権同士が競合する場合の優劣の基準等について、個別的に検討を行ってまいりましたが、今回はその全体像をお示しするものです。   1は約定動産担保権と先取特権とが競合する場合についての規律です。   (1)では、動産担保権者等と先取特権とが競合した場合の順位について、二つの案をお示ししています。いずれの案も、原則として動産譲渡担保権等を第1順位の先取特権と同様に取り扱うこととしていますが、後に取り上げる占有改定劣後ルールを第1順位の先取特権との関係でも適用するかが異なっております。【案4.1.1】は、占有改定劣後ルールを約定動産担保権同士の競合の場合のルールと考えて、これを適用しないとする案です。【案4.1.2】は、第1順位の先取特権が目的動産の占有を基礎に置いた黙示の動産質のような性質を有することを踏まえて、占有改定劣後ルールを適用し、占有改定によって対抗要件を具備した動産譲渡担保権等を、第1順位の先取特権に劣後させるという案になります。   (2)は、複数の約定動産担保権と先取特権とが競合する場合、例えば、複数の動産譲渡担保権が設定され、さらに動産先取特権も競合する場合のルールについてお示しするものです。具体的には、約定動産担保権グループと先取特権グループを分けた上で、それぞれのグループで弁済を受けるべき額の合計額を民法第332条の規定に従って算出し、約定動産担保権グループ内の優劣については、2以下の基準に従って決めるということを提案しております。   2は、動産譲渡担保権等と他の約定動産担保権とが競合する場合の規律です。   (1)は占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等を、占有改定以外の方法により対抗要件を具備した約定動産担保権に劣後させるという、占有改定劣後ルールを採用することを提案するものです。部会資料32では、いわゆる完全登記優先ルールも提案しておりましたが、現実の引渡しのように、外部から認識可能な方法による引渡しを、動産譲渡登記により劣後させる必要はないのではないかなどの意見もあったため、今回は採用しておりません。   占有改定劣後ルールを適用する範囲ですが、見えない占有改定による動産譲渡担保権等は、後の動産質権の設定の場面でも問題となることから、(1)では動産質権との関係でも占有改定劣後ルールを適用することとしております。   (2)は、いずれも占有改定以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等と約定動産担保権が競合した場合、又は占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等同士が競合した場合の順位を、対抗要件具備時の前後によることとするもので、これまでの案と実質的な変更はございません。   (3)は、集合動産譲渡担保権等と個別動産を目的とする約定動産担保権とが競合する場合の順位についての提案になります。部会資料32では、この優劣の基準について、いわゆる加入時説を採ることを提案しておりましたが、部会の審議では、加入前の個別動産に担保権を設定することで、集合動産譲渡担保権の価値が毀損されるおそれがあることなどを理由にこれに反対する意見が多かったため、今回は対抗要件具備時説に立場を改めております。   3は、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等の取扱いについての提案です。   (1)は、牽連性のある金銭債務の範囲をお示しするもので、部会資料32から実質的な変更はございません。   (2)は、牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権等は、目的である動産の引渡しがなくても、これを第三者に対抗できるとするものです。狭義の留保所有権が引渡しなくしてこれを第三者に対抗できるとされていることを踏まえ、これと同様の金銭債務を担保する動産譲渡担保権についても、政策的に引渡しを不要としています。   なお、1及び2の規律の適用に当たっては、譲渡担保権等の成立時に占有改定以外の方法により引渡しを受けたものとみなすこととしています。このような規定を設ける帰結といたしましては、11ページ目の36行目から12ページ目の1行目にまとめて記載しているところです。   (3)は、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等は、当該金銭債務を担保する限度において、他の動産担保権に優先するというルールです。前回の部会では、競合する他の担保権者が、担保価値を把握した場合にまで遡ってこれを優先させることは、適当でないのではないかとの意見もございました。そこで今回は、(3)のただし書で、特別優先を受けるための時期的な限界を設けることとしております。具体的には、競合する他の担保権者が担保価値を把握したと認められるアからエまでに掲げる時よりも前に、動産譲渡担保権等の対抗要件、これは政策的保護の観点から占有改定でも足りることとしておりますが、これを備えることを求めております。ア、ウ及びエでは、各担保権を第三者に対抗できるようになった時を基準としています。これに対し、集合動産譲渡担保権等については、イでこの基準を修正しており、いわゆる加入時説を採用することとしています。これは、集合動産譲渡担保権等の対抗要件具備時を基準としますと、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等が優先する範囲が大幅に狭まり、保護に欠けるためです。   なお、ア及びイの対抗要件は、占有改定劣後ルールの趣旨を踏まえて、占有改定以外の方法によることを必要としています。   以上、御説明した内容のポイントにつきましては、13ページの1行目から9行目にまとめて記載させていただいております。   以上について御審議お願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので御意見等を頂ければと思います。 ○青木(則)幹事 9ページの2の(3)でもよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 はい、結構です。 ○青木(則)幹事 集合動産、個別動産の加入に関する議論についての意見でございますけれども、こちら、加入時説の方から対抗要件具備時説に改めていただくということで、その方向性には賛成でございますが、この対抗要件具備時説の内容についてちょっと疑問というか分からないところがあるものですから、発言させていただきます。   10ページの21行目を見ますと、現に属する動産全部の引渡しを受けた時に対抗要件が具備されるという、そういうふうなルールとして捉えておられるようにも見えます。もしそうだとしますと、処理自体は、実は加入時説と余り変わらないようにも思います。つまり、先行する集合動産譲渡担保が、例えば、登記で対抗要件を具備して、その後に構成部分について設定者が所有権を取得するなどをして、引渡しをしない間に個別動産譲渡担保を後順位の担保権者のために設定をして登記をする、その後に引渡しをするというときには、やはり登記の先後ではなくて、その引渡しの時点と集合動産譲渡担保の登記の先後になってしまうというとこになるのかと思いますので、それであれば、加入時説と同じ優劣の基準になるのではないかと思います。   そういう理解になるのであれば、登記をされた担保権の競合は、登記の先後で決めたいというようなポリシーが、なかなか実現し難いのかなと思い、そうだとすれば残念に思います。 ○道垣内部会長 ちょっと待ってください。それは誤解ではないかと思うんですが。というのは、集合動産譲渡担保の設定のときに、現に属する、現にその集合物を構成するものを引き渡し、プラス、将来のものについて占有改定の合意をするというふうな言い方をしますよね。つまり、ここで現に存在するというのは、集合動産譲渡担保の設定契約があったときに、その集合物を構成している物、例えば第1倉庫内の物ということになると、設定契約時に第1倉庫内にあったものという意味ですので、将来入ってくるものについての対抗要件の具備について、それは現に来たときだよねというふうなことを意味しているわけではないんですが。 ○青木(則)幹事 ということは、前の部会資料30の第3の2あるような、要するに、一部の引渡しによって、全体について対抗力が及ぶというルールとほぼ平仄が取れたルールになっているという理解でよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 一部という言葉遣いが問題かとも思いますが。 ○青木(則)幹事 当初にあるものということ、それを現にとおっしゃっている。 ○道垣内部会長 そういう意味です。 ○青木(則)幹事 分かりました、私の誤解でございました。そのような理解でよろしければ異存はございません。どうもありがとうございます。 ○道垣内部会長 青木さんから更に御発言はありますか。 ○青木(則)幹事 こちらはこれで結構です。 ○道垣内部会長 私、どこからでも結構だと申し上げたものの、やはり第4の1の辺りからやっていったほうが整理はつきやすいと思いますので、もちろん今の発言は、私がお願いをしたわけですので全然構わないんですが、阿部さん、比較的前の方からお願いします。 ○阿部幹事 第4の1でも、占有改定劣後ルールが前提となっていて、その占有改定劣後ルールについて御意見を申し上げたいと思ったのですが。 ○道垣内部会長 第4の1のそのルールの前提でも結構です。 ○阿部幹事 そうすると、それは、第4の1というよりは第4の2の話になってしまうのですが。 ○道垣内部会長 すみません、分けられないのかもしれませんので、どうぞ、結構です。お願いします。 ○阿部幹事 第4の1でも第4の2でも第4の3でも、占有改定劣後ルールを採るということは前提となった形になっておりまして、以前の議論では、占有改定劣後か完全登記優先かが論じられていましたが、そのうちの占有改定劣後ルールを採るというようなことになっております。   その理由として、二つのことが資料の9ページから10ページにかけて挙げられておりますけれども、そのうちの後者、完全登記優先ルールを他の約定動産担保権との関係でも適用すると、動産譲渡登記によって対抗要件を具備することができない動産質権が、動産譲渡登記により対抗要件を具備した譲渡担保権に優先する余地はなくなるといった問題なども生ずると書かれていますが、これに関しては、動産質権も動産譲渡担保権も約定担保権なので、債権者としては、本当に優先したいのであれば質権ではなく譲渡担保を取ればよく、譲渡担保は非占有担保だから占有は取れなくなるかというと別にそんなことはなく、譲渡担保でも担保権者が占有するような特約をすることは可能だと思いますので、さほど問題ないのではないかなと思いました。先ほどの口頭での説明でもこちらは省略されていたので、こちらはあまり重要な理由ではないのかなと思いました。 そうすると、重要なのは、恐らくその前に書いてある、9ページの最後の方に書かれている理由で、前回の部会において、現実の引渡しや指図による占有移転のように、外部から認識可能な方法による引渡しを動産譲渡登記よりも劣後させる必要はないのではないかという意見があったという、その部分なのではないかなと思いました。   ただ、外部からの認識可能性という話をしたときには、この占有改定劣後ルールのような単純なルールにはならないような気がします。例えば、現実の引渡しをした場合でも、引渡しをしてすぐに元に戻すということは論理的には可能なわけですよね。こういった場合、外部からの認識可能性という意味では、その動産は、設定者から1回担保権者の下に行って、直ちに戻っていますので、その戻った後からすると、外部からの認識可能性の点で占有改定と変わらないといった問題が、現実の引渡しを1回されたとしても起こるのではないかなと思いました。   こういう場合に、1回現実の引渡しをされているのだから、占有改定劣後ルールによって劣後しないと考えるのか、それとも、一旦得られた現実の引渡しによる優先順位が消滅すると考えるのか、という問題が生じてきて、外部からの認識可能性という観点からすると、現実の引渡しはずっとされていないといけない、というふうな話になってくるのではないかなと思いました。   仮に、そのように元に戻した場合には占有改定と同じ扱いにするとすると、しかし、今度は更に基準時はどうなるのかという問題が出てきます。他の約定動産担保権と優劣を決めますので、比較される他の約定動産担保権の設定時において、認識可能かどうかということを問題にすることになりそうですけれども、そうすると、複数他の約定動産担保権が存在する場合に、一方の設定時においては戻っていなかったけれども、その後に設定者の元に戻されましたという事態が起こったときに、三すくみ問題が生ずるとか、そういうことがあるかなと思いました。   また、指図による占有移転に関しても、平成29年5月10日の最高裁決定のように倉庫に預けているような場合に、あのケースでは、間接占有者による占有改定ができるかどうかということが問題になりましたけれども、あのケースにおいて、占有改定だろうと指図の占有移転であろうと、外部からの認識可能性という点でそれほど差はあるだろうかというと、ないような気がいたします。このように、外部からの認識可能性が劣るものを劣後させるという観点からすると、占有改定を劣後させればいいという単純な話ではなく、もっと複雑なルールが必要になってきますし、だからといって、複雑なのは困るから占有改定か否かで区別するんだという、そういう単純なルールにしようとすると、ここで書かれているような外部からの認識可能性といった説明は困難になるという問題があるのではないかと思いました。   ですので、私としては、完全登記優先ルールの方が説明しやすいのではないかなと思いますけれども、そういう問題が占有改定劣後ルールにはあるのではないかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   差し当たって何かありますか。続けて伺ってからにしますか。 ○笹井幹事 そうですね、はい。 ○道垣内部会長 ほかの方、いかがでしょうか。   別に順番を指定するわけではないんですが、先ほどの阿部さんおっしゃるように、占有改定劣後ルールとか、そういう話が全体にかかっているというのはそのとおりなんですが、第4の1に関して、330条の規定による1項1号の先取特権と基本的に同じにすると、同順位にするとしているところについて、まずはいかがですか。占有改定を除いて考えて。 ○阪口幹事 すみません、1番について、この二つの案の優劣は分からないんですが、確認したいのは、2項前段の適用、不適用に関してです。部会資料30では二つ案がありましたが、それがここで書かれていないのは、結局どうされるのかということです。要するに、知っていたら順序が逆転するどうかというところです。部会資料30では案が二つに分かれていて、第三十三回議事録では、強い御意見はないということでしょうかと、部会長から確認されていたかと思いますけれども、その後、その問題が、ここでは消えてしまって、後段のことは書かれているんですけれども、前段のことは書かれていないので、結局どちらのスタンスなのかを確認したいということです。 ○笹井幹事 ここは、中間試案の段階では、民法第330条2項前段について適用除外しようという案もあるということをお示ししていたのですけれども、他方で、330条の1項1号の第1順位の先取特権者と同一の権利を有するとされている約定担保権はほかにもたくさんありまして、それらとの整合性についても検討する必要があるように思っております。   以前の部会での議論としては、ほかの動産抵当法において330条の1項1号の第1順位と同じ権利を有すると書いてあるところも、2項の適用があるのかないのかということについては、別に明示的に書かれていないということもあって、解釈に委ねるということもあり得るのではないかというような御指摘がありまして、基本的には条文上はそこを明示的には書かないということになるのかなと思っています。   ただ、各種の動産抵当法では、一般的には民法330条2項の適用もあるということを前提に議論がされているのではないかと思いますので、解釈の余地は残るのかもしれませんけれども、今、事務当局としては、2項前段、後段も含めて適用があるということになるのではないかと考えております。 ○阪口幹事 確かに、部会資料30について強い意見が出ず、かつ、そこは解釈論ではないのかという話も出ていました。ただ、普通に読んだら恐らく適用されるので、今日のテーマとはちょっと違うけれども、本当にそれでいいんだろうかということだけは、再度申し上げておきます。本来の部会資料33からちょっと外れて申し訳ありません。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。そこには、確かに微妙な問題があって、動産譲渡担保権を担保権であると、質権と同等の効力にしよう、だから、330条1項の1号というのとも同等であると考えて、担保の並びと考えると2項は適用されてくるわけですが、これまで動産の特定動産譲渡担保権にせよ集合動産譲渡担保権にせよ、333条が適用されることによって、先取特権が消滅するということは前提になっていたわけですよね。それを、担保権の優劣であるとすることによって2項の前段も適用しますということになると、もう333条でなくなる、先取特権はなくなってしまうというルールは否定されるということになるんですが、そこで判例からは立場を変更することになるわけですけれども、それでいいのかということですよね。   いかがですか。いい、悪い。何か前回もあんまり意見が出なかったですねという話になってしまうと思うんですが。 ○阪口幹事 一応問題提起した者としては、基本的に、優先ルールを決めましょう、登記にしましょう、いや、占有改定劣後ルールにしましょうとか議論している中で、そこに知、不知というのが入ってくるのが非常に違和感があり、かつ、実務的にも何か支障が生じないかとも思っているというのが、消極的な意見の根拠です。 ○道垣内部会長 それは、2項の前段の適用についてそうですが、後段はいかがなんですか。 ○阪口幹事 検討不十分です。申し訳ございません。 ○道垣内部会長 後段は適用されて当然だと、私は思っているのですけれども。また、譲渡担保が設定されて、当該譲渡担保目的物を、例えば修繕する、保存するという行為をして、そういう債権を債務者、設定者に対して取得をしたとします。そのとき、その人が有する動産保存先取特権は、その人が修理をすることによって、当該動産の価値を保存し、又は増加させ、動産譲渡担保権者にその価値を与えているわけですから、動産譲渡担保権者よりもその価値部分については優先するというのは、比較的、私はスムーズなのではないかなという気がしていますが。   2項の前段については、では、動産が保存されていたものを、後で譲渡担保に取ったという場合に、知、不知で分けるかという、そういうことで、知、不知が出てくるというのは、ちょっと不安定なのではないのというのが、一つ御意見としてあるわけなんですが、いかがですか。   先取特権同士の競合が、私的実行の場面で出てくるということはほぼあり得ませんから、多分、それは裁判所の手続においてどう処理するかの問題として行っているということであるのに対し、動産譲渡担保権との関係で言えば、私的実行が行われ得るということも念頭に置きながら、考えていかなければいけないのかなと思いますが。 ○阿部幹事 私も、この問題についてはずっと、知、不知は原則としては考慮すべきではないと、約定担保権の方の優先を認めつつ、特別な場合、以前少し申し上げましたけれども、集合物譲渡担保のような場合において、入ってくる動産が先取特権の目的物であるということを通知されているような形で、それを知っていると。通知がなくても、それを知っていればそれはいいという形で、そういう場合には、知っていれば、集合物担保権者は先取特権に優先するという以外の方法で自分の利益を守ることができるので、そういった場合に限り、通知を受けた人や先取特権を知っている人は優先されないということはあり得るかなと思ったんですけれども、そう言いながら、他の法令でも解釈に委ねられている事柄なので、ここではっきりと一石を投ずると、ほかの法律の解釈にも必然的に影響は及ぶだろうということは申し上げました。   それがちょっと消極的な空気を帯びてしまっていて、それで結局、今回の事務局の提案のようになったように思いますけれども、私も、ですので、原則論としては、先ほどの阪口幹事の御意見に共鳴するものではあります。 ○道垣内部会長 その問題には限りませんが、1の部分はほかにいかがでしょうか。占有改定のときにどうなるかという問題も含まれておりますけれども、それも含めてなんですが。   【案4.1.2】というのは、第1順位の動産先取特権者にも劣後させるということなんだけれども、ちょっとよく分からないのは、そのときには、どうして第2順位より上に来るんだろう。1.5位になるということですよね。 ○笹井幹事 そうですね、はい。 ○道垣内部会長 でも、2より上だというのは、どういうふうにして正当化されているんだろう。 ○笹井幹事 譲渡担保権は基本的に330条の第1順位と同じように扱うというのが、一応出発点としてあり、占有改定によって対抗要件を具備したときでも、譲渡担保権という大きなグループの中には入っているんだけれど、ほかの330条の第1順位の人たちとの間の分配にあずかれるかというと、そこには入れてあげない、その限度で劣後させているというのが、【案4.1.2】だということです。 ○阿部幹事 この【案4.1.2】のイに関してもやはり、これは、恐らくこの譲渡担保権と第2順位の先取特権の優劣を、330条の2項に従って決めるかどうかということが多分先決問題になっていて、2項をそのまま適用すると考えるのであれば、イのような書き方ではなくて、330条の2項に従って優劣を決めるということになるのではないかなと思います。   そもそも330条の2項の後段は必然的に適用されると私も思うんですけれども、前段について適用除外するというのであれば、適用除外して、その限りでは優先するということになると思いますけれども、330条の2項の後段のように、担保権の設定後に物が保存された場合においては、その担保権者のために物は保存されていますので、そういう人にはやはり劣後することになるのではないかなと思いますので、そういう意味でも、【案4.1.2】のイというのは、このままだとやはりちょっと、少なくとも誤解を生ずるかなというような気はいたしました。 ○道垣内部会長 面倒な箇所ではありますが、それでも、きちんと考えて話を進めなければならない箇所でもございますので、ほかにも御意見を頂ければと思いますが。   質権は約定担保権だから、約定担保権である質権が1号と同じになっているので、譲渡担保も1号だよねという理解をするか、質権は占有担保権だから、不動産賃貸や旅館の宿泊や運輸みたいな占有先取特権の場合と同等になっていると考えるのかで、後の論理が全然変わってくるように思います。私は、これは本来は占有だからだと思うんだけれどもね。だから、譲渡担保をこのルールに当てはめると、異質のものを入れ込んでいる感じは拭えませんけれども。かといって、ゼロから作ればいいかというと、そうはいかなくて、全体のバランスを考えなければいけませんので、一つのあるべきというか、あり得る結論だと思いますから、結論が悪いと言っているわけではないんですが。   御意見はいかがでしょうか。   そうなりますと、やはり阿部さんがおっしゃったように、1について語ろうとしても、結局占有改定とか、そういうふうなものによって対抗要件が備えられたものの場合の効力を、どの順番に位置付けるかというのが密接に関係していますという話になりまして、2の話に必然的に移ってまいりますので、1のところはちょっと、その意味で少しおいて、占有改定以外の方法を、占有改定だけを悪くするとか、そういうふうな話についてちょっと御意見を頂ければと思うのですが、いかがでしょうか。沖野さん、お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。占有改定劣後ルールに対して、完全登記優先ルールとの優劣を改めて考えた方がいいのではないかということについて、言わば最弱の者は弱いという話か、最強の者は強いということで考えるのかということかと思いますけれども、一方で、占有改定と現実の引渡しということを考えたときには、やはり現実の引渡しを優先したほうがいいだろうと考えると、最弱の者は弱いという観点から、占有改定劣後ルールというのは十分あり得るのではないか。確かに公示の機能という点ではもっと段階があるということですけれども、それはそれで割り切るというのは、一つの在り方として十分考えられるのではないかと思います。   それからもう一つ、完全登記優先ルールを採ることによって、なるべく登記へ、登記へと誘導するという面もあると思うのですけれども、例えば、現実の引渡しを受けるという者が、では、それで登記をするか、あるいは登記をすることが期待されるか、質権のような場合ですけれども、ということを考えると、そこまで要求するというのは必ずしも適切ではないのではないかということを考えますと、占有改定劣後ルールを基本とすることでよろしいのではないかと考えております。   それから、戻りまして、1の方の先取特権との競合ということですけれども、部会長がおっしゃいましたように、元々の現行法というのが、占有に着目しているのか、約定に着目しているのかというのがあって、元々の第1順位は占有に着目してできているのだと思いますが、確かに当初はそうだったと思いますけれども現在本当にそれが維持されているのかというのがもう一つはあります。それから、今回提案されているものの中に、動産売買先取特権と、例えば留保所有権との間で大きく違うということを、どう説明するのかという問題が出されており、13ページの35行目以下ですけれども、結局、約定担保で説明するしかないのではないかという話が、所詮法定担保はこの程度のものという考え方が、ここに出されています。   これを考えるならば、約定かどうかということで線を引くというのは、一つの説明としてはあるのだと思いますが、必然かというと、更地で造り直すならとおっしゃって、もし造り直せるならば、330条1項の第1、第2、第3順位自体が現在これでいいのかというと、むしろ動産保存は第1順位で、動産売買第2順位ぐらいで、ほかは第3順位でもいいのではないか、運輸の先取特権はかなり物も握っていますので特別だといったように、これ自体を現在の社会における動産先取特権の順位付けとして見直すべきではないかと、その下で約定の担保との優劣をどう考えるかということが、本来ではないかと思うものですから、それが根底にあるので、2項も問題だとは思いますけれども、1項自体がこれを前提に語るともう何とも言えないみたいなところがどうしても出てくるというのは、そこに原因があるのではないかと、実は考えております。しかし、この段階にそれを言いますかというのも、自分で突っ込んで何ですけれども、ということがあるので、結局、占有の方に着目するか、約定に着目するかで、どこかで切らざるを得ないのだと思います。動産売買先取特権ぐらいは少し順位を上げてはどうか、外国の法制ですと、留保所有権をより高く見ることによって、動産売買先取特権も同様に扱うという立法例もあり、逆のものもあるわけですけれども、現在の取引の重要性からいって、同じように代金の提供をしながら、担保までは約定で取れないような、債権者の保護としていいのかという問題はあるとは思うのですけれども、そこは、本当はそうしたいというのはありますけれども、難しいようならば仕方がないのかなと思っております。   すみません、まとまりもなく、方向性もなくて恐縮ですけれども、以上です。 ○道垣内部会長 旅店宿泊の先取特権というのは、どこまで使われているのかというのは調査したことはございませんけれども、多分、別に旅館の人が手荷物を期待して泊めているとはとても思えないんで、どうかなという気はします。逆に、処分権限を基礎付けるというふうな意味があるのかもしれませんけれどもね。そうすると、別に優先の関係とは関係ないかもしれませんが。   沖野さんがおっしゃった中で、占有改定をやはり劣後させるというルールはあり得るという話だったんですが、それに対しては阿部さんから、現実の引渡しといっても、質権のように現実の占有の継続が効力の存続要件となっていない譲渡担保においては、現実の引渡しを一瞬行って、それで元に戻しても、現実の引渡しで対抗要件が備えられたことになるのではないかという話がありまして、それはなるほどなというところがあるわけなんですが、沖野さんが占有改定劣後でいいのではないのというときには、やはり現実の引渡しの場合には、優先するための対抗要件としての現実の占有の継続の要求、そういうのがあるとお考えですか、それとも、そこまで、一旦倉庫のそばまで行って、ちょっと触って、現実の引渡しだねといって、またすぐに元に戻してしまうというふうなことまでやって写真撮った人は、そんな人はめったにいないんだからいいではないかと考えて、別段、現実の占有の継続を要件とするほどのことまでは考えてなくていいのではないかとお考えになるか、沖野さんは、個人的にはいかがですかね。 ○沖野委員 今の例というのは、実質、占有改定の潜脱ということですよね。 ○道垣内部会長 まあね。 ○沖野委員 だから、そういう潜脱を許しますかという話で、元々占有改定が178条の引渡しとして認められるというのは、一旦現実の引渡しをして、また戻したら同じだから、しようがないという、そういうところから始まっていて、今そういう占有改定はなるべくやめましょうということであれば、そういう潜脱は許さないというので、継続性が維持されていると、現実の引渡しについては、それが維持されているときに限ると。あと、占有侵奪とかの場合は別にあるとか、そういうような規律を設けるということは、十分考えられるとは思います。なぜなら、それは潜脱だからということで規律するということはあり得ると思います。元々占有改定自体が、しようがないというところからきているんだと思います。そういうものは弱い効力しか認めないということであれば、潜脱防止の規定が置けるならば、より望ましいとは思います。 ○道垣内部会長 だけど、潜脱だったら、潜脱としての処理を行えば足りるではないか、特に条文がなくてもという、そういう言い方もできるわけですね。 ○沖野委員 そうですね、そういう言い方はできると思います。   ただ、それを明確にするためには、より明文化するということもあり得るかとは思いますけれども。 ○道垣内部会長 いかがでしょうか。今の後の部分のアディショナルな部分の肯定否定はまた別ですが、占有改定を劣後させるという話なのか、登記を優先するという話なのか、いろいろありますが、この辺りについてはいかがでございましょうか。 ○阪口幹事 この2番のところで、今議論に出ているのは、占有改定劣後ルールか登記完全優先ルールかという話ですけれども、元々どちらかというと、完全でない登記優先ルールが検討されていて、それに対して、部会資料30で、単なる登記優先ルールだと三つどもえのようなややこしい問題も起きるので、占有改定劣後ルールか、完全登記優先ルールかという問題提起をされて、その後、その二つが議論になっていると。   ここの9ページの(3)でもそうなんですけれども、集合も個別も全部含めて、このルールで服するとなると、どちらにしてもそうなりますが、特に占有改定劣後ルールというのは、占有改定による個別動産担保というのは、死滅するとまでは言いませんけれども、かなり苦しい立場になる。その後に現実の占有移転を伴う譲渡担保なり質権設定なりがされると覆るものになる。元々は登記されたら負けるということは、登記コストを掛けてやるかやらんかという判断があったわけですけれども、特に占有改定劣後ルールでは、かなり占有改定に対して冷遇することになる。   先ほどの第3のところで真正譲渡ができるかという話もありましたけれども、真正譲渡であれば、優劣の問題ではなくて、占有改定でも勝つということも含めて考えたときに、本当に占有改定はここまで冷遇していいのかなという気持ちもあります。かといって、完全登記優先ルールは、これはまたこれで、コストの問題が響いてくる。これはもう、最後は腹決めだろうと思います。占有改定による個別動産担保というのはもうなくすんだという価値判断の下、占有改定劣後ルールを入れるということはあるのかなとは思っていますけれども、実務で、今でも占有改定による個別動産担保がある、集合動産担保はともかく、個別動産担保は一定数ある中で、今後それが使えなくなるというのが、本当にいいのかなという気持ちは残っています。   ただ、この二つの、登記優先ルールか占有改定劣後ルールかどっちかと言われたら、占有改定劣後ルールになってもやむを得ないのかなというぐらいの意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   沖野さんと私と話をした話ですが、設定者に現実の占有が戻っている段階は、現実の引渡しないしは指図による占有移転によって対抗要件を備えても、そのときには、占有改定に対する優先権は失うというふうなことは1個入れないと、やはりどうもうまくいかず、阿部さんが指摘されたような問題点がちょっと明らかになり過ぎるかなという感じはしますけれどもね。たくさん条文を入れる必要はないんですけれども、そして、効力存続要件ではないんですけれども、結局、コンフリクトで優先劣後を決めるという段階で、そういう状態にあったときには、だめであり、その占有改定以外の方法による対抗要件具備であるとして優先権が与えられるという、その特権が、一旦設定者に戻されていたら、その時点で働かないとはした方がいいかなと思いますけれどもね。ちょっとよく分かりませんが。 ○阿部幹事 阿部です。先ほどの真正譲渡のときに、佐久間委員の御意見で、とにかく妨害排除ができるのではないかという話がありまして、それは、もしかすると担保権の設定に伴って現実の占有を移転するような形で後順位の担保を備えた場合も、やはり同じような問題が生じてくるのではないかというような気はいたしました。   だから、占有改定劣後ルールといっても、その占有改定を打ち砕いてしまうような現実引渡しをしたことは、その前の動産譲渡担保に対する妨害になって、対抗要件を具備してしまえば、その時点では勝てるのかもしれないですけれども、対抗要件を具備しようとしている段階では、まだ先に設定された譲渡担保権の方のみが対抗要件を具備している状態というのが多分、一瞬なりともあるはずですので、その段階では妨害になってしまって、とすると、1回現実の引渡しをしても、それは妨害状態だということになって、それで戻されるというようなことは起こるんですか。佐久間委員がどういうふうにお考えだったのか、ちょっと伺いたいなと思ったんですけれども。 ○道垣内部会長 一応聞くけれども、後順位の譲渡担保権の設定は認める。現実の引渡しと占有改定が競合した場合は、現実の引渡しが勝つ。その上で、後順位の人が現実の引渡しを受けたら妨害排除されると、それはおかしくないですか。 ○阿部幹事 やはり価値判断として、後順位の担保権設定は認めて、現実の引渡しをしたら、そっちを勝たせるという価値判断があるから、そこは妨害にならないという、そういうふうに考えざるを得ないとは思うんですけれども。 ○道垣内部会長 私は、価値判断の問題ではなくて論理の問題だと思うけれども、そこで妨害排除はできるというのは、私にとっては違和感があるというだけの話で、あり得ない考え方ではもちろんないと思うけれども。 ○阿部幹事 私は、例えば質権のような、占有担保みたいなものを後から設定するというのにも、真正譲渡に基づいて現実に引渡しするのと同じような問題はあるのではないかなと思いはするので、そこで本当に区別できるのかなと思ったりします。 ○道垣内部会長 なるほど。 ○佐久間委員 どう思うかを聞きたいとおっしゃったので、考えていたところを申し上げますけれども、まず、後順位の担保権で、私が発言したときに、念頭に特に置いていたのは、質権が設定された場合です。質権の場合は一般には現実の引渡しがされることになるので、それは、やはり妨害になるのではないか。真正譲渡で引き渡された場合と何ら、譲渡担保権者から見たら変わらないだろう。だから妨害になるのではないかと、まず思いました。   後順位の譲渡担保権が設定された場合も、それは質権と、やはり現実に引き渡された場合は何ら変わりはないので、占有移転を現実に伴う形での後順位の譲渡担保権の設定は、飽くまで一般的にであって、およそ例外はないとまでは申しませんけれども、先順位の譲渡担保権に対する妨害になるのではないかと思いました。   道垣内部会長は、それは論理的におかしいのではないかとおっしゃったんですが、私は、占有改定で当初、後順位の譲渡担保権が設定されても、それは優先弁済権の行使に対する妨害にならないからセーフなんだけれども、占有を移転するというその行為、現実に移転するという行為自体が妨害に当たる場合は、先順位の譲渡担保権の妨害に当たる場合が出てくることは、何ら不思議ではないと思っていました。   そうすると、その限りでは、占有改定劣後ルールをとるとしても、占有改定であっても優先できる場合というのは残ってくるのかなとは思っていました。   取りあえず、どう考えていたのかということに対しては、以上です。 ○道垣内部会長 しかし、そうすると、最初に占有改定による動産譲渡担保権が設定された後に、登記でも現実の引渡しでもいいんだけれども、それを受けて、次に譲渡担保の設定を受けた人が前の人に勝つということはもうないわけですか。 ○佐久間委員 譲渡担保同士だったら、基本的には即時取得でなければ勝てないのかなと。ただ、登記優先ルールを作るんだったら、そこは登記優先なのか、占有改定劣後なのかで変わってき得るのかもしれませんが、僕はそう思っていましたけれども。   あとは、妨害に当たるかどうかなんですかね。飽くまで妨害に当たる場合の話だから。それを思ったのは、ずっと、この部会で御発言があった、先順位の人が順位を確保した後に、その順位を覆すような行為を設定者がした場合に、その効力認めるかという話が出発点にあったので、その先順位の人が確保したはずの順位を覆すという形での妨害があった場合は、その限りでは効力全部を否定されても仕方がないということかなと思っていました。   引渡しを受けるということに関して言うと、実行と対して変わらない場合がありますよね。後順位の人が実行できるのかという話もある。それは、基本的にはできないということが判例だったし、この部会でもそれは踏襲するのではないんですかね。そうすると、実行では引渡しを受けられないけれども、実行前に単に引渡しさえ受ければいいということになるんですかね。それは違うのではないかなという気が、私はするんですけれども。 ○道垣内部会長 いや。別にいろいろな考え方があるのはいいけれども、佐久間さんのように考えたときには、別に登記優先でも占有改定劣後でも何でもなくて、基本的には、先に設定を受けたほうが勝つというルールなのではないの。 ○佐久間委員 いや。それは、占有改定であっても対抗要件備わっているから、一応先に対抗要件まで備えたら勝つというのが、原則なのではないでしょうか。違うんですかね。 ○道垣内部会長 だから、そうですよね、佐久間さんのお考えですと。 ○佐久間委員 はい。 ○道垣内部会長 分かりました。相容れないことがよく分かりましたが、意見として。 ○阿部幹事 佐久間委員の考え方からするとですが、今御発言になったのとは違って、登記をするか現実の占有を受けるかで異なる、という考え方も成り立ち得るかなと思いました。登記を受けた場合には単に順位を逆転していくだけですけれども、現実の占有移転を受けるのは、実行を困難にするという、そういう要素もありますので、そちらだけ妨害排除で拾って、登記によるオーバーライドには妨害排除は効かないという、そういう区別の仕方は一つの線引きの仕方としてあるかなと思います。   そうすると、結局のところ、完全登記優先ルールとそれほど変わらなくなるのかもしれませんが、妨害の取り方として、現実の占有移転のみを妨害と捉えるという捉え方もあるかなと思いました。 ○道垣内部会長 悩んでいる顔をされている沖野さん、いかがですか。 ○沖野委員 すみません、悩んでいたので発言ができなかったのですが、機会を与えていただいてありがとうございます。   私は、占有自体が設定者の下から離れていくことが、実行を困難にするという形で優先弁済の実現を困難にするというのが、恐らく阿部先生の御説明で、だから、離れていかなくて、実行がそのままできる限りにおいては、占有を戻せとか、やるなとか、やるなはともかく、占有を戻せとは言えないということになりそうです。それに対して、優先弁済権というのが害されるからということであれば、優先するような対抗要件具備方法をするものは全て事前にブロックする、更に言うと、後までブロックできるというのはちょっと、幾らなんでも行き過ぎではないかと思いますので、恐らくあり得るとすると、その実行を困難にするという意味での占有のところだと思うのですが、ただ、第3の(3)のような実行が難しくなるということについて、一定の手当があるということを前提にして、なお妨害排除で戻さなければいけないかということを考えていくということになるのではないかと、もしそれを入れるのならば、ということかと思っておりましたけれども。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございます。無理やり発言させてしまいまして、申し訳ございません。   何かちょっと、大前提がみんな違うような気がしてきたな。 ○井上委員 私、まだあっけにとられているんですけれども、井上です。   そもそも動産担保権の利用を促進することがいいかどうかも議論の対象にはなるのでしょうが、程度問題は別として、いい担保制度にしようということを議論するときに、占有改定をして備えた担保権が端から見えないことを理由に、その後に、その動産に担保を設定して行われるファイナンスが阻害されているという認識は共通かなと思っていました。その意味では、私は占有改定による対抗要件具備に冷たいのかもしれないんですけれども、基本的に、占有改定で対抗要件を具備した担保権が設定されている動産について、その後、それを特に知らない場合が典型ですけれども、現実の引渡しを受けて担保権を取得したり、登記を具備して担保権を取得した人が、現行のルールの下で占有改定がいきなり現れて優先されるほうがかわいそうだと思っていまして、現実の引渡しを受けた人や登記を備えた人が占有改定で対抗要件を備えた担保権を妨害したという評価を受けるなど、占有改定の方をより守るべきだという価値判断は、有力ではない前提でここでは議論していたので、その意味では、ちょっと今の議論には違和感があります。 ○阪口幹事 井上先生の発想そのものは、私も是としています。優劣ルールがあり、その優劣ルールの下で、妨害かどうかを判断するという議論をしていたのであって、妨害が先にあって、優劣ルールが後にあるんではないと思っていますので、優先するというルールを別に決めたんだったら、それは妨害ではないと思います。   ただ、僕自身は、占有改定による譲渡担保の存在を知っている債権者、知って後順位で入ってくる人もあり得て、そのときに、占有改定だったらその人は負けるんだけれども、持っていったら俺の勝ちねという、何かそれも変やなという思いがあります。   また、他方、登記まで取る、もっと言うと集合譲渡担保を取る人、これはもう融資の大きさも違いますし、占有改定があることによって、大きなロットの融資ができないんだと言われたら、それもある程度は分かるので、価値判断というか政策的考慮として、占有改定劣後という優劣ルールを決めたら、後から入ってきても、それは別に妨害でも何でもないというのは分からなくもないというぐらいの意見です。   だから、発想そのものは、それほど変えているつもりはないです。 ○道垣内部会長 その善意、悪意が問題になるという考え方と、330条2項の前段を適用するのはよくないという阪口さんのお考えとの間に、どういう整合性があるのだろうかというふうな気もいたしますが。   妨害排除とかいう話が出ていて、妨害排除自体に反対しているわけではなくて、設定しようとしている人に対して、処分禁止の仮処分ではありませんけれども、そういうふうな形の何らかの妨害排除ないしは妨害予防請求というふうなことを行うというのは分かるし、それは、通常の要件、通常の物件の妨害予防請求権の要件に従って、粛々とやれば済む問題なのではないかという気がするのに対して、悪意だろうが何であろうが占有改定に優先する、それは登記だけかもしれませんし、現実の引渡しもそうかもしれないですが、優先するルール、そういう形での引渡しを受けたといったときに、悪意だろうが何だろうが、それは勝つのは当たり前だろうって、私はずって考えてきまして、今になってそこが議論になっていることは、井上さんと同じようにちょっと呆然として聞いているという感じがします。ただ、必ずしもそういう考え方だけではないと、複数の方がそうおっしゃっていますんで、私が正しいとは全く限らないとは思いますが。   ほかに。笹井さんの方から何かありますか、今までの御議論で。 ○笹井幹事 ちょっと考えます。 ○道垣内部会長 ほかに何か、この辺りにつきまして。   では、今、佐久間さんとか阿部さん、阿部さんがどうかはちょっと微妙なところがありますが、どこまでの状態でストップがかけられるのかと、妨害排除等ができるのかという問題については、意見の分かれがあるということを前提にした上で、三つの可能性というのがあるということですね。占有改定を劣後させるというのと、占有改定とか何とか触れないで、登記を劣後させるという考え方と二つあって、占有改定を劣後させるというものの中には、それは現実の引渡しとか指図による占有移転とかは強いというのを前提としながら、債務者に、設定者に戻した場合には、優先権がその時点では、その期間内は優先権が失われるというふうな特則を付けるというのと、それを付けないというのがあると思うんですけれども、その辺りのことにつきましては、皆さんの御感触といいますか、お考えはいかがなんでしょうか。   何人かの方々からは御意見いただきますけれども。 ○井上委員 一言だけ、占有改定劣後ルールを採用すると、占有改定が死滅するかどうかは、将来の予測の問題なので必ずしも分からないところではあるんですけれども、私自身は死滅しないのではないかと思っています。占有改定に意味がなくなってしまうという声もよく聞くんですけれども、しかし、担保権の設定に対抗要件を備えることの最も大きな意味は、貸付先といいますか、借主が倒産したときに、担保権として保護されるかどうかというところだと思いますので、その意味では、占有改定でも十分に意味があるのではないでしょうか。   もちろん、他の担保権を設定されて、ほかの方法で対抗要件を具備されると負けるんですけれども、占有改定で金を貸すということは、その人を信じて貸しているわけで、それが裏切られて、ほかの方法で対抗要件を具備されたときに、どちらの担保を保護するかという問題に関して、信じた人がそのとおりには動いてくれなかったことについて、先に占有改定で対抗要件を具備した人がリスクを引き受けるのは、ある意味やむを得ないところもなくはないのかなという気がするとともに、そういう信頼が裏切られない限り、信じた人が倒産したときでも管財人には勝てるというところで、なお意味があるという評価もあるのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   今の問題は、なかなか今、ここでどこかに収れんするということはないかもしれないんですけれども、今回この4の約定動産担保権と他の動産担保権との競合というところにおきましては、まだ幾つかの論点が出ておりまして、その中には、まとまるものもあるかもしれないと思っております。   そこで、その論点に移っていきたいんですが、その前に、大西さんの方から御発言お願いいたします。 ○大西委員 すみません。部会長から先ほど、当初引渡しをして、その後、戻した場合にどう考えるかみたいな御質問がありましたが、その点に関してコメントをしてもよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 お願いします。 ○大西委員 まず、引渡しをして、その後戻すという行為は、そこに何らかの理由とそれに基づく当事者の意思があると思います。それは、要するに、単純に引渡しを撤回するということなのか、それとも、単純に引渡しの撤回ではなくて、その後は物を戻した後は占有改定の状態にしておくかのどちらかの意思があるはずです。引渡しだけを撤回する特段の事情がない限り、後者の場合が通常の合理的意思として想定されるため、引渡しの効力は、戻した後も維持し、対抗要件としての占有改定が存続するものとして捉えるべきなのではないかと考えます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。意思の問題としては、大西さんのおっしゃるとおりだろうと思いますので、沖野さんもおっしゃったことかもしれませんが、それは、大西さんの今の分析ですと、一旦対抗要件具備した行為を撤回するということもしれませんし、沖野さんが出された例ですと、最初から対抗要件を具備するというふうな、現実の引渡しによって対抗要件を具備するという意思はなかったんだということかもしれません。そういうふうな一般論として処理をするということも可能かもしれませんし、また、一般論であるけれども、しかし、それについては、確認的なルールを置くというのもあるかもしれない。動産質権について、継続的な占有というのを存続要件と規定していることとのバランス上、その優先権の継続要件として、類似した条文を置くというのもあるかもしれないとは思いますが、そこら辺は更に考えていただきたいと思います。   さて、先ほど申しましたように、この他の動産担保権との競合というところにおきましては、まだ幾つかの問題点が挙げられているところでございます。   まず、4の1に関しても、意見はいろいろ分かれており、どう考えるかという問題もあるのですけれども、仮に、大体第1順位の動産先取特権でやるんだよといったときに、(2)として、1の場合において、第1順位の動産先取特権者のほか、約定動産担保権者が数人あるときは、各約定担保権者は、332条の規定に従ってこれらの者が弁済を受けるべき額の合計額について、2及び3の規律に従って受けるという。つまり、これ、約定動産譲渡担保権者と先取特権者をグループ分けするという考え方で、かつ、約定担保権者については2以下の規律を適用するということなんですが、何かちょっと自分で説明しながら、分かったような分からないような気持になってしまいました。自分が分からないままにこういうことを言うのは大変恐縮ですが、いかがですか。これはこれでいいでしょうということでしょうかね。   これ、ポイントはどこにあるのでしょうかね。 ○笹井幹事 これは、現行法上民法330条の第1順位の先取特権と質権とが競合する場合があるかどうかについては見解が分かれているようですけれども、仮に競合するということになった場合に、質権が複数あった場合に332条が適用されるとどうなるかという形で、現行法上もある問題だと思います。   そのときに、332条がそのまま形式的に適用されると、債権額によって割り付けるということになるんですが、そうすると、質権については質権相互間の優先劣後関係というのが別途ルールとしてあるにもかかわらず、332条で同順位のものとして割合によって分配されるということになるとおかしいので、現行法上も、もし質権が二つあるのであれば、その質権に配当される部分については、優先劣後を付けないといけないのではないかと思います。   もし譲渡担保権について規定を設けると、譲渡担保権についてはより一層、第1順位の先取特権と複数の譲渡担保権、あるいは質権と先取特権と譲渡担保権が競合するということが生じやすいので、その場合に、332条で単純に割り付けちゃっていいのか、やはり別途約定担保権について優先劣後関係があるので、それをここでも反映させるべきだというのが(2)の提案です。 ○道垣内部会長 分かりました。これは、332条の解釈論でできないわけではないと思うのですが、というのは、平等な人たちが数人いるときには、債権額で分けるというわけですから、平等ではない人がいるときには勝つ。そして、そのときに、質権というものと動産担保権というものとでグループ分けをして考えるというのは、332条の解釈でできないわけではないかもしれないんですが、そこを明確にしたほうがいいだろうということだと思うんですが、これはよろしいですね。これしか方法はないような気がしますけれども。   さて、そういたしますと、順番にいきますと、2の1にはいろいろ御意見があったところですが、2の3につきまして、青木さんから、基本的にはこれでいいでしょうと、前回も対抗要件具備時説というのが主流というか多数であったので、これでいいでしょうということなんですが、これはいかがですか。   よろしゅうございますか、これで。 ○阿部幹事 すみません、現に属する動産全部の引渡しを受けた時というのは、例えば、倉庫内の動産という形になっていて、倉庫に動産がない場合は、占有改定の合意のみで対抗要件を具備するという、そういう理解でいいんでしょうか。 ○道垣内部会長 現行法も、解釈論として存在し得るところですよね。ゼロのときどうなるかということなんですが、事務局はどのようにお考えですか。 ○笹井幹事 正しく現在ある問題だと思うんですが、少し前の部会資料に書いたかもしれませんけれども、譲渡登記制度においては、目的物が存在しない時点でも譲渡登記をすることができるというような立場が取られており、目的物が存在しなくても譲渡登記によって対抗要件を具備することができるようですけれども、やはり引渡しというものを考えた場合には、現実の占有を移転するためには、現実の物がないといけないので、現実の物がない限りは、引渡しの方法による対抗要件の具備はできないのではないかと考えております。 ○阿部幹事 ありがとうございます。最初に青木幹事が問題にされたのは、そこだったのではないかなと思ったんですけれども、誤解ですかね。 ○道垣内部会長 そうではないですね。誤解だと思います。 ○阿部幹事 すみません。 ○道垣内部会長 ちなみに、私は登記のときも駄目だと、一つもないときには、そう思います。引渡しとみなしているんだから、登記だったら空っぽでも、その時点で対抗要件具備の効力が発生するとは、私は思わない。それは意見が違うというだけで、現行法の解釈問題なんですが。   いかがでしょうか。よろしゅうございますか。   皆さん、よろしいとおっしゃっているところに、私だけが反対するのは何なんですが、実はいまだに根本的には反対です。というのは、対抗要件、個々の目的物、動産について着目するときに、集合物全体について対抗要件が備えられていたからといって、その物がその集合物に加入する前に、対抗要件が具備された状態になるというのはおかしくて、当該物に着目したときには、個別動産譲渡担保の方が先に設定された対抗要件が具備されるといふうに、私は思います。   ただ、入ったところで、両方ともが対抗要件が具備されたという状態になったときに、いずれを優先させるのかということを、対抗要件具備の先後の問題ではなくて、ポリシーの問題として考えたときに、集合動産譲渡担保が先に設定されていたならば、そちらの方が、当該個別動産について譲渡担保権設定後に集合物に加入したものについても、集合動産譲渡担保権が勝つというふうな仕組みにした。それは先ほどの登記優先ルールというのと同じで、対抗要件具備としては占有改定によってなされているけれども、優劣の問題として、登記の方がやっているときには勝つとするのとある種同じ問題であり、ポリシーの問題として、こういう(3)のルールを採るのだということには反対しません。反対しませんが、対抗要件が先に具備されているから勝つんだというルールではないと、私は今でも思っています。結論として反対しないということで、理論的には、皆さんのおっしゃっている説明には、私は全く納得していないということは申し上げておきたいと思います。全く部会長としての立場を理解していない発言という感じもしますが。   よろしゅうございますかね、一演説させていただきましたけれども。   さて、そうなりますと、あとまだ本当は幾つか確認しておきたいのですけれども、目的物と牽連性のある金銭債務ということについて、まず、範囲について、アとイで代金債務というのと、直接に当該物を融資した、その代金債務だけではなくても、それを立替払いした求償権についても、その牽連性のある債務として認めるべきではないかというふうなことについて、これはよろしゅうございますか。所有権留保でも委託、第三者弁済というか、弁済を委託してクレジット会社が取った場合どうなるかとか、そういう問題がいろいろあるわけですけれども、そういうのも含めて、代金債務を担保する譲渡担保であると考えるということ、これはよろしゅうございますか。   どなたか。 ○阪口幹事 3の枠組みについて質問ですけれども、ここでは、動産譲渡担保権等の取扱いと書いてあって、「等」は、定義上は所有権留保も含むことになっています。元々、所有権留保に関しては、対抗要件が要るとか要らんとか、幾つかのルールを部会資料30で議論していましたが、あれは全部ここに放り込むという意味なのか、それはもうそっちのルールで考えますということなのか、今、部会資料33はどちらの考え方で作られているのか。つまり、所有権留保で対抗要件要るとか要らんとかいった問題は全部すっ飛ばして、部会資料33だけの一つのルールで運用するということをお考えなのかどうかを確認したいんです。 ○笹井幹事 そういう意味では、この中にもう入れてしまうということです。 ○阪口幹事 そうなんですか。そうすると、今、部会長がおっしゃった(1)のイについても、所有権留保ではないけれども、所有権留保の代位構成との関係がありますよね。ちょっとそこら辺が理解できていないので確認ですけれども、所有権留保の代位構成も(1)のイに入るし、代位構成ではなく、求償権を端的に被担保債権とする譲渡担保を設定した場合もイに入ると、こういうことですか。   いや、代位構成はアか。代位構成はアの代位をしているだけだと、こういうことですか。 ○笹井幹事 その場合には、元々の債務を保証債務として支払って、弁済による代位によることなので、アの方に入るということです。 ○阪口幹事 中身の問題ではなく表現の問題ですが、できればもう、所有権留保は別に規定していただいたほうが、分かりやすいのではないのかなと思います。弁護士会で議論していても、所有権留保の場合がどうなるのかなという議論もあって、例えば、(2)にその成立の時とありますけれども、所有権留保でいう成立とはいつかなど、何か非常に分かりにくくなっているんで、どちらかというと、ここは譲渡担保について規定して、所有権留保は所有権留保として規定していただいたほうが、分かりやすいのではないのかなと思います。私だけかもしれませんけれども、ちょっと読んでいてうまく理解できないので、要望です。 ○道垣内部会長 考えていただきたいと思います。取り分け、これを単行法として作るときに、最初の方でいろいろな定義をして、「○○等」という言葉の定義に含めれば入っているだろうという話になりますと、最近の複雑で、よく分からない立法に近づいてきます。そういうと、最近の他の立法がすごい悪いみたいだけれども、そういう意味で言ったわけではなく、会社法を読むときも、信託法を読むときも、どこで定義されているんだろうって、これは等が入ったら意味が違うんだとか、正確に読むのが大変ですのです。そこで、なるべくならば明快になるようにしていただければと思います。もっとも、二重に規定しなければいけないかというと、阪口さんのようにおっしゃっても、所有権留保について3のこういった規定というのを準用するといって済ませることもできるのでして、よく考えながら、しかし分かりやすく書くということには、留意していただければと思います。   ほかにはよろしゅうございますか。   それで、最後というわけではないんですが、3の金銭債務の範囲はいいのですけれども、引渡しなくして第三者に対抗できるということを前提にして、優先権に時的な限界を付けようというものです。(3)で、前記1の規定にかかわらず、そういった動産譲渡担保権等は共益費用の先取特権を除く他の先取特権また約定特権に優先するんだけれども、次に掲げる時のうち最も早いもの以前に動産譲渡担保権の対抗要件を具備した場合に限るということで、競合する個別動産譲渡担保権等の対抗要件具備時というのと、競合する集合動産譲渡担保権のときには、当該集合動産譲渡担保権の目的である集合動産特定範囲に属した時のいずれか遅い時ということで、競合する動産質権の設定時、競合する330条の規定による第1順位の先取特権の成立時ということで、イに関しましては、集合動産譲渡担保を詐害するような目的をもって、その個別動産譲渡担保を設定して、その後に倉庫に運び込まれるといったものではなくて、最初から所有権留保とかそういうものとして入ってきて、購入代金債権と牽連性のあるものなので、こちらについては、いわゆる加入時説みたいな形のものが採られているということになっておりますが、この各時間区分につきましては、何か御意見はございますでしょうか。 ○井上委員 時間の区分についてですけれども、今回の御提案によると、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等が優先されるのは、ただし書によれば、「次に掲げる時のうち最も早いもの以前に」と書いてあるので、同時の場合は、この牽連性のある金銭債務を担保するほうが勝つということを、ここで確認しておきたいと思います。   具体的に申し上げると、集合動産譲渡担保について、場所的な特定を不要という立場に立ったときに、例えば「果物在庫」とかいった形で集合動産譲渡担保を取ると、設定者が果物の所有権を概念的に取得した瞬間に集合動産の範囲に入ってくるので、それよりも先に個別動産担保の対抗要件を備えることは不可能なわけですけれども、同時で良いのであれば対抗要件を占有改定によって具備することはできるように思われ、想定しているのは輸入ファイナンスですけれども、輸入ファイナンスにおいて同時に占有改定で対抗要件を具備した場合には、輸入ファイナンスの方が、集合動産譲渡担保よりも優先するという御提案と理解したんですが、その理解でいいのかどうかを確認したいと思います。 ○笹井幹事 おっしゃるとおり、同時の場合には、牽連性のある担保権の方を優先させようという趣旨です。「以前に」としたのは、そういう趣旨でございます。 ○井上委員 ありがとうございます。 ○道垣内部会長 けれども、きちんとした作りをして、輸入と同時に、引渡しと同時に対抗要件が具備されて譲渡担保が設定されるというふうな、きちっとした約定が行われていれば、同時ならば何とかなるという話になりますけれども、一旦入ってきたものについて、代金債務を融資するという形でそのファイナンスをし、他方で、それは、例えば、井上さんが出されたように敷地だけ考えていて、倉庫とかそういうのを考えていないときに、敷地に入った段階で、集合動産譲渡担保の目的物になると考えると、集合動産譲渡担保の方が勝つんですね、購入代金担保権よりも。 ○笹井幹事 集合の方が早く入ったときですね。 ○道垣内部会長 ということになるわけですね。 ○笹井幹事 早く入った後に、特に対抗要件が要るものについて、その後に対抗要件が具備されたようなケースですか。対抗要件の要否の問題も若干あるかもしれません。 ○道垣内部会長 そうですね。そうすると、やはり成立のときに引渡しを受けたものとみなすという(2)だから、入ってきたものについて、さあ、融資しましょうと言ったのでは、やはり駄目だと。幾ら代金担保権であっても、そちらが勝つわけではないと、購入代金担保権だからということですね。それはそれで仕方がないのかな。 ○青木(則)幹事 こちらは、集合動産の担保権が設定された後に購入代金担保権が設定されたというときに、購入代金担保権の対抗要件具備が先でなければ優先できないということを前提に、集合動産譲渡担保に勝たせるためには、確かに3のイのような加入時説のような構成を採らざるを得ないのかなとは思います。しかし、そもそも購入代金担保権を優先させるルールが必要だということを考えれば、登記が遅れても勝てるというルールがすなおであるようにも思うんですけれども、そこはそういう形に、要するに、対抗要件が遅れても優先できるというような意味での優先を与えるという形にはできない、難しいということなのでしょうか。これが、まず1点です。   もう1点、それが難しいということであれば、集合動産譲渡担保の登記の後に購入代金担保権の登記があって、加入がその後であれば、購入代金担保権を勝たせるという構成にするというのは、たしかに一つの方策であると思います。ただ、そのときに、次の第5で提案されていますように、動産の種類だけで特定することが認められる場合には、加入がどういうタイミングになるのかが分かりにくくなり、購入代金担保権を優先させる機会が減ってしまわないかという気がしたのですけれども、この辺りはいかがでしょうか。   この2点、質問でございます。 ○笹井幹事 一つ目の点は、制度的に難しい、難しくないということではないと思いますので、以前の事務当局からの提案では、今青木幹事がおっしゃったように、後から対抗要件を具備した場合でも勝てるというような提案もしていたのですが、これに対し、既にほかの人が担保権を取得している場合に、それを覆してまで後から出てきた購入代金担保権を優先させる必要はないのではないかというのが、部会での強い立場だったのかなということで、そういう認識の下で、今はこういう提案にしております。   それから、二つ目の御質問がちょっと十分に理解ができなかったんですが、もう一度お願いできますでしょうか。 ○青木(則)幹事 加入時説が意味を持つというのは、やはり場所で特定されたところに、搬入のための引渡しをするという、この時点を優先の基準にしていて、それよりは、購入代金担保権の個別動産の対抗要件の方が早いから、実質上購入代金担保権を優先させることかできるんだと、こういうことなのだと思います。そうだとすると、ここは集合動産譲渡担保の行き過ぎを防ぐために、加入時説を維持する必要があると思います。   加入時説を、この枠組みで維持するということになると、搬入という要素で加入の時点を説明しなければいけないと思うのですが、集合動産の特定のルールが、場所を問わずに種類だけで特定できるという方向に行くとすると、その搬入・引渡しによって加入があったとすることを正当化できるかどうか、あるいはその要件を入れることができるかどうかという点について、気になっているということでございます。 ○笹井幹事 ちょっと先になりますけれども、第5の1も、種類だけでほか何も要らないということではなくて、種類に加えて何らかの特定手法が必要だというのは、今の昭和54年最判と同じ立場ですので、何らかの「一定の範囲」というものがあって、そこに加入してくるということが多いのではないかとは思います。   ただ、その目的物が生じた瞬間に、その範囲の中に入っているというような特定の仕方というのもあり得るかもしれなくて、その場合には、加入時説をここで導入したことによる効果というのが小さくなるのかもしれませんが、ただ、先ほど井上委員からも御質問があったように、同時であれば、購入代金担保の方が優先するということになりますし、その際に、何が被担保債権になっているのかということにもよりますけれども、いわゆる狭義の所有権留保のように、購入代金債権だけが被担保債権の場合には、それが成立した瞬間に引き渡されたものとみなすというようなルールにしてはどうかということも、併せて提案しておりますので、そういうものと組み合わせることによると、特に狭義の所有権留保のようなケースでは、牽連性のある担保権の方が勝つケースの方が多いのではないかとは思います。 ○阿部幹事 この特別な優先ルールの適用範囲の限定について、時期的な限界を設定するというアプローチされていますけれども、これと並んででもいいのかもしれないですけれども、被担保債権を発生させるような融資が、担保権設定と同時交換的に行われているということも必要なのではないかなと思いました。所有権留保は正にそういう取引だと思います。融資して後から保全的に担保権設定するのではなくて、担保を設定してもらえるから信用売買するという、そういう取引だと思いますので、そういう同時交換性が、特別の優先を認めるときの一つの根拠になるものなのではないかなと思いました。   今回の提案ですと、時的な限界というアプローチになっていますので、被担保債権の発生と担保権の設定、対抗要件の具備とがたとえ離れていたとしても、この時的な限界を守っていれば勝てるということになっていますけれども、その必要はそれほどないのではないかという、そういう気もいたしましたので、同時交換的に担保権設定を行われているということも必要なのではないかなと思いました。 ○阪口幹事 阪口です。所有権留保も含めて考えたときのことを、ちょっともう一遍確認しますけれども、(2)では、これこれのみを担保すると規定していて、広義の所有権留保はここでいう牽連性のある金銭債務に入らないので、(3)の優遇措置が受けられないと。そうすると、従前、部会資料30の書き方は、所有権留保は優先すると書いた上で、ただ、当該代金債権分を除く部分は、通常の対抗要件の先後等で決めると書いていたから、広義のものでも代金債務部分とそれ以外で勝ち負けが変わることになっていたと思うんですけれども、今回のこのルールだったら、広義は代金債務部分だけ勝つということはあり得なくて、純粋に負けるときは負けると、こういう割り切りルールになるんですね。 ○笹井幹事 いや、そこはそうではなくて、(3)で当該金銭債務を担保する限度においては優先すると書いてあるので、広義の場合も、その限度では優先して弁済を受けることができます。ただ、牽連性のある被担保債権のみを担保する場合に関する(2)は対抗要件も要りませんというルールですが、広義の場合は原則どおり対抗要件が必要だということになっています。そのこと自体はずっと一貫して同じルールを提案していると思います。 ○阪口幹事 すみません。では、私の読み方が間違っているのですかね。もう一遍確認します。申し訳ない。   (2)は、飽くまで対抗要件が要らないというルールだけであって、(3)とは直接はリンクしない。(3)は、飽くまで牽連性のある金銭債務を担保するというのは、一部分でもいいけれども、担保していればいいんだと、こう読むわけですか。 ○笹井幹事 そうですね。(2)は対抗要件の要否で、(3)は優先劣後のルールになっていて、その適用範囲はそれぞれ違っているということです。 ○阪口幹事 そうだとすると、(3)のただし、次に掲げる時のうち、これこれに対抗要件を具備した場合に限るというのは、広義の場合は当然、対抗要件という(2)の適用がないから、別個にきちんと対抗要件を備えなさいよと、こうなりますよね。別個に備えたら、勝つ部分と負ける部分がある。別個に備えていなかったら、全部負ける。 ○笹井幹事 はい。 ○阪口幹事 そうなるんですか。元々のルールとはちょっと違う、だから、30の場合とは少し違うんですね、その限度では。 ○笹井幹事 そこは変わっていないと思います。 ○阪口幹事 広義の所有権留保でも、常に代金債権部分の限度では何もしなくても勝つわけですよね。 ○笹井幹事 広義は、対抗要件は要らないというルールの対象外になっていたと思います。対抗要件が要らないのは、牽連性のある被担保債権のみのもの、狭義のものだけです。 ○阪口幹事 了解しました。ちょっともう一遍、過去の部会資料と一緒に見直して考えます。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   これ、以前は、購入代金担保権が優先するのは、購入代金担保権であるがゆえであるということから、少し遅れても勝つというふうなことだったけれども、皆さんの反対意見があったと、今、笹井さん御説明になられましたけれども、判例法理によれば、特定動産の所有権の移転は売買契約時であるというわけですが、それに対する特約は、いかなる意味でも担保なんですかね。だから、いかなる意味でも担保になるという前提なんですかね。 ○笹井幹事 担保の目的であるときには。 ○道垣内部会長 例えば、引渡しを受けて、検査をする。検査をして、1週間以内に言わないときには所有権が移りますと。しかし、そのところを入れたものは、その集合動産譲渡担保の範囲内になっているというときには、所有権がそもそも担保目的ではなくて、検査のためにまだ売主に存在しているというふうな場面において、幾ら集合動産譲渡担保権の目的物の範囲内に加入したって、集合動産譲渡担保権の目的物になるわけがないですよね、他人のの物ですから。  では、検査が済んだときに、別の所有権留保をする。そうすると、どっちが先に、そうか、所有権が移ったときだから。 ○井上委員 今の議論は、代金債務の弁済とはどうリンクしているのですか。私は、「代金の完済まで所有権を留保する」という合意がなされると、それは担保目的だと、一律考えていいのではないかと思っているんですけれども、代金の弁済とリンクさせずに、例えば、検収終了時点というだけであれば、それは担保目的の認定ができないのではないかとは思うんですが。 ○道垣内部会長 そうか、それでいいのかな。 ○井上委員 「代金の完済時に所有権が移転する」という合意をしても、担保目的でないことがあるかどうかは、もしかすると意見が分かれるのかもしれないんですけれども、個人的には、代金を全額払わなければ所有権移転しないぞ、という意味合いの合意をする中には、多かれ少なかれ担保目的が入っているような気がするので、そこがポイントになり、それをもって担保目的が認定される場合には、狭義の場合はこのルールが適用されるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 分かりました。 ○井上委員 続けて、ちょっとよろしいですか。阪口先生が先ほどおっしゃったことで、分からなくなったところがあるので、確認したい点が1点あるんですけれども。 ○道垣内部会長 どうぞ。 ○井上委員 ありがとうございます。   私は、これを最初拝見したときに、譲渡担保と所有権留保を一緒にして、同じルールを適用することになったのかなとは思ったのですが、十分に深く読んでいなかったせいで、先ほどの議論を聞いていて分からなくなりつつあるんですけれども、私自身が過去に何度か、これは譲渡担保であって所有権留保ではないのではないかと申し上げた第三者型の所有権留保と呼ばれるカテゴリーは、ここでいうとイに入るということでよいでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね。第三者が出てきて、先ほどの保証契約をして、保証債務の履行としてではなくて、第三者に立替払いしてもらうみたいなものは、イの中に入ると想定しております。 ○井上委員 そうすると、代金債務と牽連性があることになるので、(2)、(3)のルールも適用されるということですね。分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 時間ないところに、私が時間使って申し訳ないんですが、売主が所有権留保売買をした。しかし、10日間放っておいた。その10日間のときには、それは集合動産譲渡担保権の目的物の範囲に属している。しかし、所有権留保になっているので、所有権留保が勝つ。その後に、第三者が当該代金債務を融資して求償権を取得した。それを被担保債権にして、当該動産の所有権の移転を受けた。こうなると、10日間はアで、11日目からはイで、しかし、いずれにせよ勝つんですよね、多分。所有権留保というか、購入代金担保権の方が。 ○笹井幹事 10日間は放っておいて、そのときは、別に第三者は出てくることは想定していなかったんだけれども、そうですね、いずれにしても勝つと思います。 ○道垣内部会長 アとイとで変えて、イになったんだから、イの担保権は10日後だろうと、それは集合動産譲渡担保権の目的物に入って以降ではないかというふうなことにはならない。アからイに途中で移転したときには、(3)のルールの適用において、以前アの段階で得た優先権を、イのタイプの求償権を被担保債権とする所有権留保というか、譲渡担保、動産担保権も引き継ぐということですよね。   井上君はそうではないとおっしゃっているように思うのですが。 ○井上委員 私はそうではないと読めるように思っていました。井上です。 ○笹井幹事 実は、アとイというのは、私は極端に言うと、余り区別する必要もないと思っていまして、というのは、ちょっと先ほど阪口幹事からも御指摘いただいたところですけれども、イの場合も、特に求償債務なのでちょっと別物のように書いてありますけれども、イの場合も弁済による代位というのは生ずるわけですから、そのときに、弁済による代位によって移転した元々の債権に担保権が付着しているので、そこは、優先権がそのまま維持されてもいいのではないかと思ったのですけれども。 ○道垣内部会長 私もそう思いました。アとイって、個人的には連続的に考えたほうがいいと思うんだけれども、ちょっとその辺りのことは、井上さんの意見もあるので、いずれにせよはっきり、少なくとも説明にははっきりさせたほうがいいかもしれませんね。   ほかに何か。 ○藤澤幹事 3のルールにちょっと加えてはどうかという提案です。集合動産譲渡担保権者の側から見てみると、例えば、ある倉庫の中にある在庫に集合動産譲渡担保権を設定して、運転資金を融資しつつ、倉庫の中の物を見守っていると、いつもきちんと補充されているから安心だなと思っていたところ、実は所有権留保が行われていて、対抗要件が占有改定でも可能ということになっていますので、それが全然分からない状態で、ある日、倉庫の中の物は全部自分よりも優先する担保権者の物になっていたというようなことが起こり得るのが、このルールではないかと思うんですね。   そうすると、やはり集合動産譲渡担保権者の期待が害されるので、譲渡担保権者に通知をしたら優先できるというルールにしてはどうかなと思いました。 ○道垣内部会長 自分が売却された動産がどこに運び込まれるのかを、どうして売主は分かるんですか。全ての在庫というふうな特定の仕方をしたときには、なるほど、おっしゃることはよく分かるんですけれども、現在の実務を引き継いで、場所の特定というのを行ったときに、なぜそれが所有権留保売主に分かるのかというのが、ちょっと私には分からないんですが。 ○藤澤幹事 債務者の名前で検索することになりますので、売主としては、買主の名前で検索すれば、誰かが譲渡担保権を設定しているということは分かるわけですので、その人に対して通知をするということが必要なのではないかと思うわけです。 ○道垣内部会長 自分のものがそこに入るかどうかはともかく、ということですね。   いかがでしょうか。 ○阪口幹事 藤澤先生に質問なんですけれども、UCCで求められている通知というのは、売る度に通知するんですか。それとも今月、来月と通知するんですか。頻繁に通知するのは現実には耐えられないですよね、実務的には。1回こっきりのイメージなのか、毎回なのか、教えていただけたらと思うんですけれども。 ○藤澤幹事 これが継続的な所有権留保であるということでしたら、継続的に担保権を設定するということが予定されているわけですので、それをそのように通知するのではないかなと思います。 ○阪口幹事 そうすると、所有権留保の特約は基本契約書に付けることがほとんどですから、ある与信者というか売主がいて、今後私は設定者に対して、所有権留保の特約を付けたよということを担保権者に連絡するという実務を作るべきだということですか。 ○藤澤幹事 それで十分だと思います。それが、集合動産譲渡担保権者にとっての与信の判断になるのではないかなと思うからです。 ○阪口幹事 それは、設定者からすると、買えなくなるリスクというか、そんな通知をせないかんのやったら売らんわということは起きないですかね。   今の感覚で言うと、そんなことを当該設定者の担保権者に連絡せないかんと言われたら、それによって信用不安を引き起こすのではないかとか、いろいろなことを思うので、その通知を感覚的に嫌がってややこしくならへんかなという気がします。飽くまでイメージなので、正しいかどうか全然分かりませんけれども、日本の慣行に合うのかなと思いました。 ○大澤委員 大澤です。私もちょっと阪口先生の感覚と同じでして、所有権留保売主というのが、基本取引契約等というものがないような形でも、今実際に、いわゆるPOというか、パーチェスオーダーみたいなものだけでぐるぐる回るものもたくさんございまして、それが、売主側は大きい企業であると、あるいは中小企業でもあったりもするというときに、そこまでの通知を要求すると、いや、そこまで耐えられませんというものが、売主側としてはまずあるのではないかなと。現在もそういうものはないというところとの関係で。   一方で、金融機関側からすると、そういう所有権留保があるという現状の、少なくとも何らかの形で所有権留保がされている実例というのは結構あるということは把握した上で、融資等をしておられるんではないかとも考えておりますので、ここでバランスの観点で、あえてそこまで、通知を要求するというところまでは要らないようにも思いました。 ○日比野委員 日比野です。まず輸入ファイナンスとの関係では、このような形で整理をしていただいて感謝申し上げます。いろいろな要件、特に(3)では時的限界の制約要素は入れられてはいるのですけれども、一応この内容であれば、輸入ファイナンスの実務、現行既に確立されている仕組みとしての輸入金融の枠組みに影響を与えるものではないということが言えるのかなと考えておりまして、金融機関の立場として、何か強く申し上げることはないのかなと考えております。   2点目は、今ちょうどお話が出たところなのですけれども、牽連性ある動産譲渡担保権等の通知というものに関して、藤澤先生の御発言は、(1)のアの方を念頭に置いておられたような気がしたのですけれども、イの方についても念頭に置いていらっしゃるのかどうなのか。もしイの方も対象になってくるとしますと、輸入ファイナンスはこちらの方になると理解しておりまして、この通知を個別動産譲渡担保で要求されると、実務的にはかなり手間とコストが掛かることになると思います。   一方、金融機関として、集合動産譲渡担保権者の方の立場から、そのような通知があることが、そういう制度的なコストを加味してもメリットがあるかどうかと考えますと、これは、阪口先生、大澤先生からのお話が出ておりますとおり、そこまで強い意味を有するものではないのだろうという気がいたします。   もうお話が出ているところ以外の観点で申し上げますと、集合動産譲渡担保権者というのは、反復継続する運転資金を融資していることが多い立場になりますので、その目的物に所有権留保があるものが含まれうることは分かっておりますし、所有権留保がされているものというのがあるということは、逆に言うと、それだけ運転資金のニーズが設定者の側で減っているということにもなりますので、そのこと自体で、集合動産譲渡担保権者の何か不当な制約を受けているということにはならないだろうと考えます。私は米国の制度とか実務について全く存じ上げないので大変恐縮なのですけれども、日本の実務においては、集合動産譲渡担保権者としても、このような通知で何らかの保護を受けられるとは余り考えていないのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○青木(則)幹事 少し関連する話かと思います。こちらの部会の議論で、従来、いわゆる広義の所有権留保は優先を与えないというような議論があったかと思いますが、このルールになると、たとえ広義の所有権留保であれ、あるいは後発の集合動産譲渡担保だけれども、ある程度購入した目的物との牽連性がある場合はどうなんでしょう。その場合にも、牽連性が証明される範囲で、(3)の優先が及ぶということになるんでしょうか。そこが、もしかすれば、今の通知の話にも関わってきて、そういうふうな広義の所有権留保のように、購入代金担保権も集合動産譲渡担保であるというふうな状況のときに、後ろの人に乗っ取られないように通知をするというような話があったかと思いますので、そことも関係するのかと思うのですが。   あとは、もし集合動産譲渡担保みたいなもの、あるいは広義な所有権留保にも一定の優先を与えるという場合に、(3)のイの加入時説みたいなものがどう働くのかというのも少し疑問に思っておりました。そういった明確な、一個一個の購入代金みたいなものではない、ある程度流動的なものであっても、牽連性さえ証明されれば、このルールに乗ってくるのかどうかが気になるのですけれども、ここはどうお考えでしょうか。 ○道垣内部会長 牽連性さえ証明されればという、その言葉の意味内容がまず問題になるわけであって、個別動産と現在残存している被担保債権の中の債権との間の1対1対応が、どこまで明確でなければならないのかということなんだろうと思います。それは多分、一応明確であることは予定されているんで、AからZまで26個のものが順々に交付されていったといったときに、全部で26単位のお金、26万円であるといったときに、13万円払っているといったときには、やはりAとかBとか、そういうものに充当されていくはずであって、充当されなくて、まだ13万円残っているから、AからZの26全部残っていると計算するわけではないんだろうと思いますが、事務局で何かありましたらお願いいたします。 ○笹井幹事 基本的には牽連性のあるものなので、余り集合的な譲渡担保権とかいうものは想定はしていなかったのですけれども、これまでの部会でも何度か御指摘があったように、物1個と金銭債権が必ず1対1対応しているかというと、例えば、平成30年12月の最高裁判決は、一定の期間で締めて、その期間中に生じた代金債権を担保するためにその期間中に取引された商品の所有権を留保するというようなことも、牽連性のあるものとして扱っていたかと思います。そこでは、1対1、物1個と金銭債権を一個一個結びつけているわけではないけれども、1か月分のものに対して1か月分のお金を払うということで、牽連性を認めているということがありますので、そういった牽連性の幅というか、一定の枠内のものに対して、全体に対して1回お金を払うというときに、牽連性を認めるということは、それはあり得るのではないかとは思っています。   広義のというか、冒頭確定された所有権留保についても(3)の適用があるのかという御質問だったかと思いますけれども、これも、先ほど阪口幹事にもお答えしましたけれども、牽連性がある部分に関して言うと、(3)の適用があるというのが、こちらの提案ということになっております。 ○青木(則)幹事 そのときの対抗関係について、加入時説との関係で疑問をもっております。以前に対抗要件一般について加入時説を採るということになっていたときに、集合動産譲渡担保同士の競合については、加入ではなくて集合動産譲渡担保の対抗要件の先後によるといったルールがあったように思うのですけれども、後発の購入代金担保権の方も集合物である場合には、同じように考えるという話にはならないのでしょうか。つまり、後発の購入代金担保権が、集合物上のものである場合には、先発の対抗要件を具備した集合動産譲渡担保の構成部分の加入前に登記したからといっても、優先する余地はない、と考えていくことにはならないのでしょうか。 ○道垣内部会長 それは、先ほど笹井さんがおっしゃったように、牽連性の幅というのをどう捉えるかという大問題があって、具体的に一個一個の、動産として、有体物としての一個一個のものでなければならないと考えるのか、1か月の一定量のものとして売買がされていると考えるのか、いろいろな評価の仕方は個々具体的にもあると思います。   そうなったときに、青木さんのお話は、集合物の所有権留保であると性質決定された後の話になっているんだけれども、性質決定されるというのを、牽連性が否定される場合と捉えると、それはおっしゃるとおりだろうと思います。しかし、それが、牽連性が一定の範囲で肯定されると考えると、片方が、青木さんのおっしゃるところの集合物であるということは、牽連性が肯定される限りにおいては、その購入代金担保権が優先するということの支障にはならないんだと思いますが。 ○青木(則)幹事 そうであれば、やはり本来は通知が必要なのではないかと思います。ただ、先ほどの実務の先生方の御意見があるので、基本的には難しいというように理解いたしました。 ○道垣内部会長 そうであるならばというのは、やはりある種のひっくり返しが起こるわけだから、ひっくり返しという利益を得るためには、それなりのことをしておけよということがあるのではないかという話ですよね。藤澤さんがおっしゃったときには、比較的集合動産譲渡担保権者がびっくりするという話が中心になっていたわけですが、青木さんの話というのは、どちらかといえば、特典を与えるための権利保護資格要件としての通知というか、そういうタイプの議論ですね。ちょっとその辺りの可能性につきましては、実務の状況も勘案しながら、もう一度考えていただくことにしたいと思います。 ○阿部幹事 私も通知に関する話なんですけれども、藤澤幹事が通知義務を課してはどうかとおっしゃったのに対して、かなり実務的な拒否反応が示されたと思います。そこでは、通知を課すということが手続的にコストが掛かり過ぎるということが表立っては言われていたと思うんですけれども、その背景として、どうも所有権留保売買のような形で信用売買を買主が行うということが、集合動産譲渡担保契約における設定者の義務違反になるという意識が、日本の取引だと余りないのかなというような感触も持ちました。   私も詳しくは存じませんが、米国法だと多分そこが違っていて、信用売買で購入代金担保を取って購入するということが、本来であれば、担保取引で融資された運転資金を使って購入すべきところ、担保権設定時の想定どおりに設定者が事業をしていないという、何かそういう問題があるという話を見たことかはありまして、だから、元々担保権設定契約側の義務違反的なところがあるので、きちんと知らせてもらって、知らせてもらったら設定者が義務違反しているということが分かるので、そこでコベナンツとかで引っ掛けて、担保権者が自衛するという、そういう枠組みだというふうなことを伺ったことがあります。それに比して、日本はどうなのかと考えると、今の話を伺っていると、集合物譲渡担保権者も、設定者が所有権留保のような形で信用売買で動産を購入してくるということは、想定しているというか、許容しているというか、そういうところがありまして、そうだとすると、信用売買することは許容しているけれども、売主が優先権を主張してくることは許さない、というのは虫のいい話でありまして、信用売買で購入しているということを許容しているということは、売主が優先権を行使するというところも、まとめて許容しているというのが、日本の現状なのかなと思いました。なので、通知を課すまでもないということなのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ちょっとその辺りのことは、更に実務的な調査を踏まえまして、法務省に更に検討していただきたいと思います。   第4のところで検討するべき事項というのは多々あるんですけれども、大体話は出たかなと思いますが、よろしいでしょうか。   ちょっと御相談申し上げたいんですが、第5、第6と残っておりまして、一応18時までということになっているんですが、ちょっと18時では終わらない。第6について準備をしていらっしゃる方、第5について準備をしていらっしゃる方というのがきちんといらっしゃいまして、やはりある程度進めなければいけないと思いますので、まずは第6の方を先にやらせていただくことにいたしまして、第6の「労働債権を有する者その他の一般債権者を保護するための規律」について議論を行いたいと思います。   事務当局において、部会資料の説明をお願いいたします。 ○森下関係官 第6は、労働債権を有する者その他の一般債権者を保護するための規律についての提案になります。   これまでは、保護のための規律を、譲渡担保権と一般先取特権との優劣の問題として提案しておりました。しかし、一版先取特権に一定の優先権を認めたとしても、優先する一般先取特権者に配当するための手続をどのように設計するかなどの困難な問題が生じます。   そこで、本文1及び2では、労働債権を有する者を含む一般債権者に適切な配当等を実施することのできる法定の倒産手続を念頭に置いて、保護のための規律を設けることとしています。具体的には、設定者の財産を一括して担保に取る集合動産譲渡担保権等や集合債権譲渡担保権の実行があった場合に、元本の額及び最後の2年分の利息や遅延損害金等に相当する額の合計額を超える額について被担保債権が消滅したときは、その超過分の金銭を破産財団等に組み入れなければならないこととしています。   この規律の実効性を確保するためには、2の破産手続の開始後の実行の場面のみならず、破産手続の開始前の実行の場面についても規律の対象とする必要があると考えられますので、1でこれを明記しております。もっとも、実行後長期にわたって譲渡担保権者等の地位が不安定となるのは望ましくないと考えられますので、実行後1年以内に破産手続等の開始があったことを要件としています。   また、3では、組入れに係る超過分の金銭に相当する金額の被担保債権は消滅しなかったものとみなすこととし、譲渡担保権者等は、一般債権者の立場で破産手続等で配当等を受けられることとしております。   以上について、御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 それでは、どなたからでも結構でございますが、最初に村上委員から委員等提出資料の37−2というものが提出されておりますので、これも含めましてちょっと御発言いただければと、村上さんの方から御発言いただければと思います。 ○村上委員 ありがとうございます、村上です。委員提出資料の説明と、委員としての意見を述べたいと思います。   部会資料30を議論した際に、提案内容についての受止めを述べさせていただきましたが、同時に、労働側の弁護士の先生方の提案内容についても、そ上にのせて議論いただきたいと申し上げたところです。そこで、本日は、9月15日付の日本労働弁護団の幹事長談話を資料として提出させていただきました。   日本労働弁護団は私どもとは別の団体ではございますが、労働組合や労働者側の代理人として実務に携わっている皆さんで構成されております。この間、担保法制の見直しの議論も連携して取り組んでいただいておりまして、その観点から、この幹事長談話に書かれている方向性は、おおむね私どもの考え方と共通するものでございます。   幹事長談話では、労働債権は要保護性が高く、かつ、労働者の労働が企業の財産形成や維持に貢献しているとしています。その上で、一定範囲でその優越性を確保することは、債権者間の公平を失するものではないとして、労働債権のうち、一部について担保財産の一定割合を限度に譲渡担保権等の約定担保権に優先して配当を受けられるものとする、優越的一般先取特権(仮称)の創設や、賃確法を改正して国による労働債権補償制度の拡充の検討の必要性を指摘しております。なお、こうした考え方は、部会資料30を議論した際に、私からも触れたところです。さらに、今回の担保法制の見直しに際して、譲渡担保権との関係で、労働債権の優先権の確保を図ることが急務であるとしています。   そして、2ページ目では、部会資料30での提案内容についての評価がなされております。この点は、本日部会資料33の第6のところでより具体的な提案を頂いておりますので、これをベースに委員としての意見を述べたいと思います。   部会資料33の第6の提案内容ですが、労働債権等の一般債権を優先させる範囲は、部会資料30の内容を維持したままで、法定の倒産手続が取られる場合において、被担保債権の額のうちのごく一部を破産財団等に組み入れる方法によって、一般債権を担保権より優先させようというものでございます。労働債権の要保護性の高さからすれば、政策的にも広く優先権を認めていただき、担保財産の換価額等の一定割合を限度に、労働債権の特別な先取特権を認める制度の創設によって、実現を図っていただきたいと考えております。   こうした原則的な考え方を持ちつつも、今回の担保法制の見直しに当たって、まずは譲渡担保権との間で労働債権の優先権を認めるということについては、部会資料のとおり、ほかの約定担保権にはない譲渡担保権の特殊性もあることから、その必要性は極めて高いと考えております。   また、新たな規律そのものも、現行法制との整合性を重視せざるを得ないとすれば、今回資料で提案されたスキーム自体はあり得る考え方と思います。しかし、一般債権を優先させる範囲そのものが極めて限定的であり、労働債権を始め一般債権者それぞれの一定の弁済額を確保することが可能な水準の額とはならないと考えます。法定の倒産手続では、例えば破産の場合、破産財団に組み入れられた後は管財人によって配当いただきますが、財団債権のうち、財団の管理、換価等の費用の優先はやむを得ないとしても、租税債権の一部も含まれているため、労働債権に充てられる部分は更に限られてしまい、十分な返済は期待できないところです。したがいまして、今回のスキームを前提に検討を進めるとすれば、労働者保護の実効性を高めるという意味でも、少なくとも一般債権を優先させる範囲を一層拡大させる方向で、考え方を再整理いただきたいと考えます。   なお、第6の1にも関わりますが、実際の運用においては、労働債権が優越する部分について、担保権者に供託を義務付け、その後に労働者が権利行使を可能とできるような制度をつくることも考えられるため、法務省を始め政府におかれては、是非検討いただきたいと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。村上さんのお話も踏まえまして、更に御議論いだければと思いますけれども、山川さんに来ていただいておりますので、山川さんからも何かありましたらお願いいたします。 ○山川参考人 ありがとうございます。今回の御提案は、民法375条を参考とする点で、部会資料30と共通していますけれども、ただ、適用場面を倒産時に限定する一方で、担保物権間の優劣の問題ではなくて、破産財団等への組入れの問題として位置付けし直している点、そこで倒産手続における労働債権の優越性によって対応しようとするものになっています。こうした今回の案は、適用場面を倒産に限定していますけれども、破産手続等の開始前の一定期間、取りあえず1年以内とされていますが、そうした期間以内の譲渡担保権実行の場合にも組入れを求めるものになっています。   この場合は、譲渡担保権実行の時点では、その後1年以内に破産手続等が開始するかどうかは分かりませんので、結果的に譲渡担保権の実行時に一定金額を取り分けることを求めるスキームになるのではないか、つまり、ある種倒産時に備えた基金の拠出のような、宛先は財団ですけれども、そのようなスキームを導入する結果になりまして、また、その限りで、別除権等の行使のプロセスから外れるということになるように思われます。   ここで、部会資料にあります「組み入れる」とは何かということですけれども、倒産手続開始後であれば、管財人が請求できるということになると思われます。しかし、倒産手続開始前の場合は、それはもちろんできませんので、担保権者が供託をして、期間内に倒産手続が開始された場合には、管財人が供託金の払渡しを請求できて、開始されない場合には、担保権者が取戻しをできる、そういうことになるのではないかと理解しております。   こうした破産財団等への組入れの結果、破産法上の財団債権、また民事再生法上の共益債権と一般優先債権等につきましては、配当を待たずに随時弁済を受けられることになりますし、また破産法上、優先的破産債権であります給料請求権、破産法101条ですけれども、裁判所の許可を得て、配当前の弁済も可能になります。資料の説明にもありますように、担保権の実行の場面における配当要求を通じた弁済では、特に私的実行の場合などに種々困難な課題がありましたけれども、今回の提案では、倒産手続内で管財人がこのような形で随時弁済とか優先弁済ができる形になります。   ここは、労働債権の優先性が現実に要請されるのはどういう場面かということで、実際に問題になるのが、倒産時のことが多いのであれば、以前の提案で指摘されていたような手続上の困難に対応できるとともに、労働債権の優先性が特に認められている倒産時の取扱いを生かす案として、また、譲渡担保権実行時に一定金額を取り分けるというスキームを導入する案として、今回の御提案はセンシブルなものとして評価できると思われます。   他方、先ほど村上委員からもお話ありましたけれども、破産財団等に組み入れる範囲が、超過部分、被担保債権の元本と利息等の2年を超える部分に限るという点については、どの程度実効性があるのか、例えば、清算や換価の結果、超過部分の金額がどの程度になるのかという点は、個々のケースにもよるかと思いますし、研究者として譲渡担保の実務の運用状況にも詳しくありませんので、判断がつきかねるところがあります。ただ、利息等の2年を超える部分という点については、抵当権に関する民法375条は、ある種参考にされたものにとどまっていますので、また、抵当権と譲渡担保の違い、一般債権者への影響の違いについては、今回の案の理由でも言及されているところですので、この期間をどう設定するかについては、将来的な対応も含めて、一定の政策的な調整の余地はあるのではないかと思われます。また、倒産手続開始までの期間を、今回ペンディングで1年とされていますけれども、その点についても同様のことが言えます。   最後になりますが、なお、この提案の下でも、優先権を主張できるのは、倒産手続が開始された企業に雇用されている全従業員ということになります。そのため、例えば、以前お話をしたときに申し上げましたが、ある会社の札幌支店の倉庫にある商品に集合動産譲渡担保権が設定された場合に、日本全国の会社の従業員全員が、1人当たりどのくらいの支払を受けられるのかという問題は残るところであります。ただ、遠隔地での担保権実行を認識し難いという点は、今回の提案では回避されることになります。   この点は以前にも紹介しました船舶先取特権とか、あるいは特別先取特権的なスキームを導入して、担保財産と労働債権に一定の牽連性を要求すれば、対応は可能となるということはありますけれども、その点はともかくとしまして、今回の御提案は、他の債権者に比べて労働債権の優先性が認められて、配当手続を待たずにその都度財団からの随時弁済等が可能になるという倒産の場面での利用を想定したものでありますので、先ほどの実効性の問題は分からない点はあるのですが、一般の担保権実行の場面に比べると、先ほど挙げたような問題点は、相対的には小さくなるのではないかと理解しております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。分析と御意見を頂いたわけですが、ほかの方も御自由に御発言いただければと思います。 ○松下委員 松下です。時間がないところ恐縮です。   この37−2の資料でも述べられていますが、確かにこの提案で、労働債権の保護の程度というのはどの程度大きいかというのは議論の余地がある、あんまり大きくないのかもしれないですけれども、それでも、労働債権保護を進める一歩として、この点に賛成したいと思います。   今、事務局からも、それからも山川先生の御指摘の中でもありましたとおり、この提案のみそは、倒産手続内の優先順位の議論に踏み込まない点がポイントだと思います。一般先取特権付債権の倒産手続内における処遇というのは、御提案に挙がっている4種類の動産手続の中で2つに分かれて、破産と更生では手続内のものとされるのに対して、再生と特別清算では手続外だということになるんですが、この提案は、優先順位に踏み込まないという提案なので、これらを通じて共通の手当ができるというのが、みそではないかと思います。   この37−2の資料にもあるとおり、正面から議論するとすれば、抵当権との関係なども含めて一緒に議論する必要があるわけですけれども、それは、この部会では不動産担保には踏み込めないということなので致し方がないと。今回できることをするとすれば、こういう御提案がよいのではないかということで、できる範囲のものとしては、私は評価をしたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○増田幹事 幹事の、厚生労働省の増田でございます。幾つか御発言をさせていただければと思います。   今回の第6の御提案につきましては、労働債権の保護に資する方向の内容で、5月に御議論のございました配当に当たっての手続等の観点も踏まえた上で、実行面も考慮されて御提案された内容と受け止めているところでございます。   労働債権は、労働者、家族の生活の糧でございまして、また、労働者の交渉力の弱さといった特性があり、その部分は大変重要であると考えております。今回の提案が、先ほどからの御意見にもございましたように、実際に労働債権の保護にどの程度資するかにつきましては、関係者の皆様方からの意見も想定されるところでございまして、譲渡担保権者との関係もあると存じますが、労働債権がより保護される方向で、更に検討いただければ有り難いと考えております。   また、超過分の金銭について、確実に確保されるということも重要であると認識をしているところでございます。   また、先ほどもございましたように、今回の議論との関係等もあると思いますし、また、広範な観点からの議論が必要とされるということについては承知をしているところでございますけれども、今回御提案の内容以外にも、労働債権保護に関しては、これまでもいろいろ皆様からいただいた意見等も踏まえまして、引き続きの御議論を頂ければと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかの方、どなたでも御自由に御発言ください。 ○青木(哲)幹事    第6の2の破産手続開始後については、集合動産譲渡担保権の効力が被担保債権のうちの超過分に及ぶことを、破産手続との関係で制約しようとする趣旨であると理解しました。その上で、第6の1については、その趣旨を破産手続開始前に担保権の実行がされた場合にも及ぼそうとするものだと思われます。   破産手続開始前であれば、担保権者は私的実行の方法で担保権を実行した場合に、担保権者はその担保権により担保されていない債権であっても、それを清算金支払債務との相殺により回収することが、破産法上の相殺禁止に抵触しなければできるのではないかと思います。また、仮に提案されている立法がされたとすると、担保権者として被担保債権のうち、超過部分をあらかじめ被担保債権の範囲から外しておいて、手続開始の1年前以内であっても、支払不能とか支払停止を知る前であれば、担保権の実行後の清算金支払債務と相殺することで、破産財団への組入れを回避することができるように思われます。そうだとすると、破産法上の相殺禁止の規律との整合性を考慮する必要があるのではないかと思います。   あるいは、労働債権や一般債権者の保護という、そのために、担保権者が設定者に対する債権を清算金支払債務と相殺することについても、破産手続が開始された場合には、その効力を否定するというように、相殺の方を拡張するという方向でそろえるべきなのかもしれません。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに。先ほど、山本和彦さんから手が挙がっていたような気がしたけれども。 ○山本委員 よろしいでしょうか。   この規律の内容については、基本的には今まで御発言いただいた皆さんと同じで、私も賛成したいと思います。   私自身がコメントしたいのは、今、隅括弧に入っているこの1年、1年以内にという部分です、第6の1のですね。これは、資料の説明にあるとおり、期間制限を設けた理由というところですけれども、譲渡担保権の実行後、相当期間内に破産手続等への移行がなかった場合には、設定者の資金繰りが一旦回復したと考えられるため、相応の破産手続で破産財団に組み入れられる実績に乏しいという、その行為の時期と破産手続との間の因果関係というのか牽連性というか、それが欠けるという説明になっているかと思います。   現行破産法等にもそのような説明がされているところが、例えば、破産法の166条などに、支払の停止を要件とする否認についての制限の規定があって、支払停止後になされた行為でも、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為については否認の対象にならないということになっていて、この1年以上ということについては、その行為の時期の支払停止と当該破産手続との間との連続性が欠けている、その間に資金状況が回復したという場合があり得るということを前提とした、このような期間制限が設けられているということがあろうかと思います。その意味では、この1年というのを、その牽連関係の期間として設定するというのは、現行法制上も正当化することは可能なのかなと思っています。   ただ、1点、細かい点ですけれども、この倒産手続の場合は、倒産手続開始申立ての日と1年以内ということになっていて、これ、私はちょっと記憶が定かではないですが、破産法を改正する前は、開始決定から1年以内となっていたのではないかと思うんですけれども、ただ、申立てと開始決定の間の期間というのは、それが短くなったり長くなったりするというのは、ある種非常に偶然的な事柄なので、申立ての日というのを基準にした、ちょっと私、きちんと調べてこなかったんで、間違っていたら後で直してほしいんですが、そうだったのではないかと思うんですね。そういうことからすると、この場合も、1年以内に申立てがなされて、その後開始された破産手続、再生手続とすると。要するに、開始決定から1年ということではなくて、その開始に至る申立てから1年という起算点にするということは、考えられるかなというようなことを思いました。   細かな点ですけれども、1点コメントさせていただきます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はいかがでしょうか。   多くの方々は、これで労働債権の保護に十分であるとは言えないとは思われるが、動産債権担保の改正手続において、不動産等も含めた一般先取特権の規定を、労働債権について置く、現在よりも大きな形のものを置くというのは、この部会の諮問された事項との関係では、多少難しいかもしれないと思われる。そうなったときに、集合動産譲渡担保と集合債権譲渡担保というところの効力の問題として、被担保債権の範囲を限定することになる。それを、現行法の抵当権を参考にしながら行う。これによって、不十分とはいえ、少し労働債権に対して配慮をするという第一歩ができるのではないか。こういうことかなと思います。   また、手続の在り方として、供託とかそういう具体的な方法なんですね。組入れの方法が難しいところであるんですけれども、いずれにせよ、譲渡担保権者に配当義務を負わせるというわけにはいきませんので、管財人に対して、財団に対して組み入れていくという方法でやるしかないだろうという話かなと思います。いかがでしょうか。   枠組みとしては、倒産手続における効力の限定ということ以外は、なかなかちょっと難しいかなと思いますが、何かありますか。 ○村上委員 先ほど意見を述べさせていただきましたが、最後の部分で、第6の1に関することを申し上げました。   今回の提案は、法的な倒産手続に入ったときに配当を行うものですけれども、実際に困っている部分としては、私的整理などがございまして、そうしたことも視野に入れていただけないかというところが、先ほど最後に申し上げたところです。したがいまして、供託を義務付けた上で、倒産には至っていないけれども、私的整理が進められているときに、労働者が権利行使できるといったような制度、枠組みも、法務省だけでは難しいかもしれませんけれども、検討いただきたいということを発言申し上げたところです。 ○道垣内部会長 この点についてはいかがでしょうかね。   私が気になっているのは、実は実行によりというときに、同じような話なんですけれども、実行がきちんと法にのっとっていないという、非常に、話合いがなされているときに、この枠組みが適用され得るのか、実行ときちんと書いちゃうことによって制約されないのかというのが、若干気にはなっているんですが、同じような、いずれにせよ、オフィシャルな方法ではないときに、どういうふうにうまくこれを適用していくのかという問題がありそうだということなんですが、何かアイデアみたいなのありますか、こうすればいいのではないのという。   オフィシャルな倒産時においても、担保権の範囲を制限するという形で、差し当たっては特別な先取特権というものを、およそ否定するというわけではないのですが、現在やっている立法との関係では、担保権の範囲、被担保債権の範囲というか優先弁済権の範囲ですね、優先弁済権の範囲を限定するという方法で対処するということで、私的整理等につきまして、これがどこまで類推可能か、それをどういうふうに手続に乗せていけるのかということにつきましては、倒産弁護士の方や倒産法の先生方にもお願いをしながら、もう少し法務省で検討していただくということにしたいと思います。   第5は積残しになって、伊見さんには申し訳ないお話なんですけれども、今日ももう6時を過ぎておりますので、本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。どうもありがとうございました。   次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日も長時間にわたり御議論、ありがとうございました。   次回日程は、今年10月10日火曜日午後1時30分から午後6時までです。場所は、今日と同じく法務省地下1階大会議室となっております。   次回も、新しい資料として、取りまとめに向けた検討(6)をお送りしたいと思っております。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   10月10日は休日ではないかと思う人は一定年齢以上の人でございまして、以前は体育の日でフィックスだったんですけれども、今はそうではございませんので、10月10日は平日でございます。次回またよろしくお願いいたします。   それでは、法制審議会の担保法制部会の第37回会議を閉会にさせていただきます。   どうも熱心な御審議をありがとうございました。また10月10日によろしくお願いいたします。 −了− - 1 -