法務大臣閣議後記者会見の概要

令和2年1月14日(火)

 今朝の閣議において,法務省案件はありませんでした。
 続いて,私から1件報告がございます。カルロス・ゴーン被告人が起訴されている事実につき,先日の会見(1月9日)において,私が,「ゴーン被告人は,我が国における経済活動で,自身の役員報酬を過少に記載した有価証券報告書虚偽記載の事実のほか,自己が実質的に保有する法人名義の預金口座に自己の利益を図る目的で日産の子会社から多額の金銭を送金させた特別背任の事実などで起訴されている。」と申し上げたところ,まだ立証されていないのに「事実」というのは疑問があるとの意見がありました。
 我が国においては,検察官が起訴状に記載して裁判所に審判を求める対象を「公訴事実」と言いますので,「事実」と申し上げたところです。検察当局が起訴した「事実」が認められて有罪となるか否かについては,裁判所において,推定無罪の下,法と証拠に基づいて判断されることになります。

カルロス・ゴーン被告人の逃亡に関する質疑について

【記者】
 レバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告人が,99%を超える日本の高い有罪率を批判しました。大臣が述べているとおり,この有罪率は的確な証拠によって有罪判決が得られる高度の見込みがある場合に初めて起訴しているためですが,こうした誤解や事実と異なる見方に対しては,丁寧に日本の刑事司法制度を説明していくことが必要かと思います。法務省として今後,例えば,英語やフランス語などで制度を説明するなどの対応はお考えでしょうか。

【大臣】
 我が国の刑事司法制度は,当然ながら,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相を明らかにするために適正な手続を定めており,また,これに基づいて適正に運用されていると承知しています。このような我が国の刑事司法制度について,正確な情報を提供し,国内外で正しい理解を醸成していくことは重要であると考えております。法務省においては,これまでも,例えば,我が国の刑事司法制度の概要について,英語版の法務省用パンフレットや犯罪白書といった紙媒体において説明しているほか,法務省ホームページ上でも日本語だけでなく,英語での説明も行っております。こうした日頃の取組に加え,例えば,条約交渉の際に,我が国の刑事司法制度について説明し,相手方の理解を得ているほか,特に,我が国の制度に対する指摘や批判が寄せられた場合には,国際会議の場を捉えて,必要に応じ,適切に説明しております。
 お尋ねのゴーン被告人による国外逃亡事案に関しては,法務大臣として,我が国の刑事司法制度が適正であることを世界中の人々に正しく理解していただくためのコメントを本年1月9日に出しておりますが,このコメントは,英語とフランス語に翻訳したものも法務省のホームページにも掲載しております。また,法務当局においても,当該事案に関して取材に来られた海外の報道機関の方々に対し,日本の刑事制度について積極的に説明をしているところです。
 今後とも,我が国の刑事司法制度について国内外で正確な理解を醸成していくため,その情報発信の在り方について,英語以外の外国語を用いた情報発信を含めて更に検討を進め,的確な情報発信に努めてまいりたいと思います。

【記者】
 レバノンに逃亡したゴーン氏の8日の会見直後の未明に森大臣が記者会見をした際,「無罪の主張」というところを「証明」と言い違え,「潔白だというのであるなら司法の場で正々堂々と無罪を証明すべき」と発言したことについてお伺いいたします。ゴーン氏の代理人弁護士で,フランスの元人権担当大使のフランソワ・ジムレ氏は,10日,この森法相の発言と訂正を取り上げて,「有罪を証明するのは検察であり,無罪を証明するのは被告ではないが,あなたの国の司法制度はこうした原則を無視しているのだから,あなたが間違えたのは理解できる」との声明を発表しました。さらにジムレ氏の声明では,「国連や主要なNGOは日本の司法制度を人質司法と見なしている,日本は賞賛されるべき近代的で先進的な国だ,罪のない人を人質にするような時代遅れの制度は似合わない,それを廃止するのはあなたの責任だ」と森法相に訴えかけています。この訴えに答えて日本の刑事司法制度を改革するのか,されないのかお答えいただければと思います。

【大臣】
 まず「無罪の主張」というコメントを言い違えて「無罪の証明」と言ってしまったところを,慎んで訂正させていただきたいと思います。その上で申し上げますと,「無罪の証明」と発言したところで,無罪推定原則を否定した訳ではないことは皆様御存じのとおりであると思います。無罪推定原則について申し上げますと,我が国の刑事裁判制度においては,被告人が罪を犯したことを証拠に基づいて立証することを検察官が負っており,被告人が自ら罪を犯していないことを立証する責任を負うものではございません。その上で,起訴された事実について,合理的な疑いを差し挟む余地のない立証がなされない限り,被告人を有罪にすることはできない原則のことでございます。このことは,個人の基本的人権を保障しつつ,事案の真相解明を明らかにすることを目的とする我が国の刑事司法手続上,極めて重要な原則であって,刑事裁判の実務においても当然の前提として運用されているものと承知しております。私自身も,無罪の推定の原則は,適正公正な刑事司法手続の根幹をなす,極めて重要な原則であると認識しておりますので,御指摘は全く当たらないと申し上げておきます。
 また人質司法というような御批判がございましたが,これまでも申し上げておりますとおり,我が国の刑事司法制度は人権を保障しているところはもちろんのことでございます。その中で各国の刑事司法制度には様々な違いがあります。それを一部のみを切り取って,比較をするということは適切ではないと思います。例えば,裁判官の発する令状なしに逮捕する「無令状逮捕」を広く認める国がある一方で,我が国では無令状逮捕というのは極めて限定的な,現行犯逮捕といった場合のみに認めるなど,厳格な手続でございまして,令状なしに逮捕をするといったことは難しいという形になっているわけでございます。それぞれの国において,制度全体として司法制度が機能するように成り立っているわけでございます。
 その上で,我が国の刑事司法制度について改めて申し上げますと,人質司法と批判をされている身柄拘束でございますが,被疑者,被告人の身柄拘束は法律上厳格な要件及び手続が定められておりますし,制度全体として人権保障に十分に配慮する適切なものになっています。具体的に申し上げますと,我が国の刑事訴訟法に定められておりますが,令状によらない逮捕を極めて限定的に認める,その被疑者の逮捕について厳格な手続を定めて,手続を踏んでから逮捕した後,被疑者の勾留についても捜査機関から独立した裁判官による審査を経て行われるようになっております。具体的な犯罪の嫌疑を前提に,罪証隠滅や逃亡のおそれなどがある場合に限って,勾留という身柄拘束が認められるようになっております。また,その勾留を受けた被疑者は,勾留等の裁判に対して,不服申立てをする手続もあります。被告人の勾留についてもこれと同様であります。罪証隠滅のおそれがある場合など除外事由に当たらない限り,保釈が許可される仕組みとなっております。実際に,ゴーン被告人も保釈中であったわけでございます。さらに一般論として申し上げますと,こういった被疑者や被告人の逮捕や勾留,そして保釈についての裁判所の判断は,刑事訴訟法の規定に基づき,個々の事件における具体的な事情に応じて不必要な身柄拘束がなされないように行われており,適正に運用されているものでございます。
 このように,制度全体として人権保障に十分に配慮した適切なものになっておりますので,人質司法との批判は全く当たらないと申し上げます。

【記者】
 日本の司法制度としては問題はなくても,現場での捜査のやり方とか,何か問題が起きた場合は,どういうふうに監視して,それを管理しているのですか。例えば,ゴーン氏は1日8時間夜も昼間も取調べを受けたという批判もしていました。8時間までは確かにつらいと思う人が多いのですが,その批判に対してはどう考えていますか。

【大臣】
 個々の事件の具体的なところには法務大臣としてお答えすることができませんが,東京地検の方が会見をしておりますが,8時間ではなく平均4時間弱までとなっており,取調べの状況は録画・録音されているというようなことを会見で述べておられたということを承知をしております。
 その上で,法務大臣として一般論として申し上げますと,検察当局においては,取調べの適性を確保するために,最高検察庁次長検事の通達において,やむを得ない理由がある場合のほか,深夜又は長時間にわたり被疑者の取調べを行うことを避けること,被疑者の取調べにおいては,少なくとも4時間ごとに休憩時間を取るように努めることなどを定めており,取調べの時間についても適切な配慮がなされているものと承知しております。
(以上)