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法務大臣臨時記者会見の概要

令和5年6月23日(金)

 まずは、今回の件は、受刑者の人権に配慮しながら、改善更生に向けて尽力すべき立場である刑務官によるものでありまして、極めて遺憾であり、法務省として深く反省するとともに、被害を受けた受刑者の方々に改めて心から深くお詫び申し上げます。
 さて、一昨日の21日、「名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案に係る第三者委員会」により、再発防止策を盛り込んだ「提言書~拘禁刑時代の新たな処遇の実現に向けて~」が取りまとめられ、座長の永井敏雄さんからこれを受け取りました。
 私は、昨年12月に本件事案を公表した際に、公正中立な第三者の目で背景事情を含めた全体像の解明と再発防止策の検討を行うことを目的として、外部有識者により構成される検討会の立ち上げを指示しまして、その後、11回にわたり、第三者委員会を構成する9名の有識者の方々に活発な御議論をいただいてまいりました。
 既に公表させていただいているとおり、提言書におきましては、職員の人権意識の希薄さや、規律秩序を過度に重視する組織風土の存在、風通しの悪い職場環境、受刑者の特性が把握・共有されていなかったことなどが、本件事案の原因・背景にあったと分析した上で、これに対し、処遇体制の充実、サポート体制・マネジメント体制の充実、組織風土の変革等を柱とする再発防止策が示されております。
 それに加えて、今般の事案を招くに至った施設運営上の問題を見逃し、適切に対応できなかった名古屋矯正管区、矯正局の責任も重大であるとの厳しい御指摘も頂いております。
 第三者委員会からの御指摘を重く受け止め、改めて深く反省した上で、名古屋刑務所のみならず、全ての刑事施設において、今回盛り込まれた再発防止策の一つ一つを着実に実施するため、本日、これを具体化した「アクションプラン」を全国の刑事施設に通知します。
 このアクションプランは、全国の刑事施設において実施すべき具体的な再発防止策を盛り込むとともに、その実施手順・時期等を工程表として示すことにより、取組の「見える化」を図っています。
 例えば、受刑者に対する不適切な呼称は直ちに禁止し、呼び捨ての廃止についても、直ちに改善に向けた検討を進めることや、受刑者の特性に応じたチーム処遇の確立に向けてガイドラインを作成し、モデル庁を設定していくことなど、具体的な取組と実施時期等が示されております。
 また、私自身、再発防止策のうち、刑事施設特有の「組織風土の変革」に特に強い問題意識を持っています。変革に当たっては、組織のトップがその必要性をしっかりと理解し、部下職員に浸透させていくことが非常に重要であるというふうに考えております。
 そこで、本日、その重要性が職員一人一人の胸にしっかりと刻まれるよう、私から直接全国の刑事施設の長に対し、オンラインでメッセージを発信することとしました。
 これらを通じ、刑事施設の組織風土の変革を進めるとともに、具体化した再発防止策を着実に実施することにより、同種事案の根絶と矯正行政に対する国民の信頼の回復に努め、犯罪をした人等の立ち直りを支えながら「安全・安心な社会」の実現に寄与するという、本来の役割・責務を果たしてまいりたいと考えております。

名古屋刑務所職員による暴行・不適正処遇事案を受けた再発防止策等に関する質疑について

【記者】
 今回の問題につきまして、改めて、取り分けどのような点に一番の根本的な要因があったというふうに考えていらっしゃるのか。第三者委員会のほうからは、大きく7項目に分けた提言を受けたわけですけれども、その中でもどのような点を重視されて取り組むのか、お考えを聞かせてください。

【大臣】
 まず、「この一つが」というふうには、なかなか申し上げられないものがあろうと思っています。第三者委員会の提言書では、本件事案が発生した原因・背景について、名古屋刑務所特有の事情と組織風土が存在していたという御指摘を頂いておりますし、また、受刑者の特性に応じた処遇方法が十分に検討・共有されていなかったこと、これも重要な御指摘だと思います。それから、若手職員が一人で処遇上の配慮を要する者に対応する勤務体制、ここも指摘されています。それから、監督職員が不適正処遇を早期に発見する仕組みが不備だったということも指摘されておりますし、不適正処遇を受けた受刑者を救済する仕組みが機能しなかったことという御指摘も挙げられておりまして、私は、これらの事情が相まって、今回の名古屋刑務所における暴行・不適正処遇事案が発生してきたということではないかと思っておりまして、何か「これが一つの要因だ。」ということではないのではないかと思っています。
 そして、今回、全国の矯正職員に対するアンケートを行いましたが、その結果によりますと、名古屋刑務所においては、「被収容者の人権に十分配慮する意識が感じられない」といった回答の割合、それから、「被収容者は刑罰などの理由があって収容されているのだから、多少つらい目にあっても仕方ない」との回答割合、それから、刑務官の役割について「被収容者の反則行為を見逃さず、施設の規律秩序を維持する強い存在」との回答割合、こういったものがいずれも名古屋の場合は他の施設よりも高いということでありましたので、人権意識が希薄であることや規律秩序の維持を過度に重視する傾向が特に強いことが明らかとなっていると思います。
 また、対人関係上のリスクがないと信じることができる状態を意味する「心理的安全性」が、名古屋刑務所は他の刑事施設よりも低い状況が認められたところが浮かび上がってきているわけであります。
 (約)20年前に発生した名古屋刑務所事件の当時は、過剰収容状態にあるなど、現在とは異なる特有の事情も認められるものの、少なくとも、名古屋刑務所においては、先に述べたような人権意識の希薄さや規律秩序の過度の重視といった組織風土が残されてきた結果、本件事案に結びついた可能性があると、私はそういうふうに捉えています。
 お尋ねの、どのような点を重視して再発防止を行うかにつきましては、この度の再発防止策は、どれがより重要かということではなくて、私はいずれも重要なものであると認識していますが、その中でも、私個人は、「組織風土の変革」は、それを達成しなければ、どの再発防止策も現場に定着し、浸透していくことは難しいのではないかという意味で、他の再発防止策を実施していくための前提となるようなものであると考えています。
 長い期間をかけて形成された組織風土の改革というものは、必ずしも容易ではありません。矯正組織全体で取り組んでいく必要がありますので、刑事施設の長を始めとする組織のトップが、率先垂範して自らの行動でそれを示していくことが重要だと思っていますので、先ほど申し上げたように、こういう問題意識から、私から全国の刑事施設の長に対しまして、組織のリーダーとして、率先して組織風土の変革を始めとする再発防止に取り組むよう、オンラインにて直接指示したいと思っています。

【記者】
 受刑者の呼称についてですけれども、不適切な呼称、すなわち呼び捨ての原則廃止のスケジュール感を「直ちに」と打ち出されていますが、現実的にはどのような呼称に見直すことを想定しているのかということと、第三者委員会の提言書では、「犯罪被害者ら様々な立場・観点を踏まえた議論がなされた」とあるように、刑務所は更生や社会復帰に向けた場であるとともに、刑執行の場でもあるということを踏まえますと、受刑者に例えば「さん」付けをするということは、被害者の方に抵抗感を抱かれるという指摘も出ております。こういった事情を踏まえて、大臣のお考えをお聞かせください。

【大臣】
 提言においては、受刑者の特性に応じた処遇を展開するために有効な関係性を形成するためには、保安上の問題から緊迫する場面を除いて、呼び捨てのように、上下関係を固定しやすい呼称は、原則として廃止されるべきであり、受刑者に刑務官を「先生」などと呼ばせていることについても、同様に廃止すべきとされております。
 このように、呼称の問題は、受刑者と刑務官の関係性に影響を与えるという意味で、これまでの矯正実務や組織風土の変革につながっていくものと考えています。
 他方で、御指摘のように、受刑者の呼称を変更することにつきましては、刑事施設内のみならず、犯罪の被害に遭った方などからも様々な御意見があることが想定されるわけであります。
 加えて、呼称の変更は、従来の実務の運用を大幅に変更し、職員一人一人の行動を変えなければ実現し得ない、これは要するに言い方だけを変えれば良いという問題でもないということだと思っていますので、十分な検討が必要だろうと思っています。
 そこで、例えば、女子刑務所等呼び捨てを行っていない施設の導入方法や運用状況を参考にするなどして、望ましい呼称の在り方が、職員が納得感を持ちつつ、確実に現場に定着するように検討を進めてまいりたいというふうに考えていますので、今、この瞬間、「こういう呼び方に変える」ということではないということは御理解いただきたいと思います。

【記者】
 2点伺います。
 アクションプランの中で、提言書でいうと1に「処遇体制の充実」において「集団編成の見直し」を挙げられたと思いますが、これについてどういうスケジュール感で実施される御予定かということと、集団編成を見直すに当たって、例えば、高齢者であったり、薬物事件の受刑者であったり、どういった特性のカテゴリーを分けるのかということに色々な御意見があるかと思いますが、もし、現時点で大臣のお考えがあればお伺いしたいです。
 二つ目の質問は、同じく提言の2で、「ウェアラブルカメラを使ったサポート体制」というものが挙げられていますが、このスケジュール感と、カメラの配備となってくると予算措置が必要で、そうすると財務省との折衝が、トップである大臣の役割になってくるかと思いますが、お気持ちをお聞かせいただければと思います。

【大臣】
 まず、集団編成の見直しについては、その在り方の検討、モデル庁の指定を令和5年内に行いまして、そのモデル庁での試行、検討を経て、令和7年6月頃を目途に新しい集団編成の基準を示すことを目指しています。
 その後、現在の集団編成基準により収容が区分されている受刑者を、どのように新しい基準で収容し直すかにつきましては、今後の検討を要するわけですが、今言ったようにモデル庁を作ったりして検討しますので、その検討が必要なわけですが、例えば、新入受刑者から新しい基準を適用するなどして徐々に実際の集団編成に切り替えていくなどの方法が考えられるわけであります。
 また、新しい集団編成については、御指摘のとおり、これも様々な御意見があると考えられます。それだけに、先ほど申し上げたモデル庁での試行なども経ながら、例えば、保安上の必要性の有無で分類した上で特性別に分類するといった考え方を軸に、特性に応じた処遇が効果的に行えるよう、今後検討してまいりたいと考えています。
 それから、ウェアラブルカメラにつきまして、第三者委員会の提言におきましては、若手職員にウェアラブルカメラを装着させて、映像及び音声を監督職員とリアルタイムで双方向通信するということができる環境を整備して、現場で勤務する若手職員をサポートできる運用を実現すべきであるという考え方が示されています。
 ウェアラブルカメラの活用によるサポート体制の実現に向けては、まずは、令和6年度中から一部の施設において試行を行うことを検討しています。
 御指摘のとおり、双方向通信することができる環境や機器の整備には、相応の予算措置も必要となるところ、本提言を踏まえた再発防止策の必要性を丁寧に説明して理解を得るべく、これに向けた検討・作業を着実に進めていきたいというふうに考えていますので、頑張っていきたいと思っています。

【記者】
 私は、ここにも何度か出ています行刑改革会議のメンバーでもありました。そういう者としては、またも名古屋で、というのは非常に衝撃的でありましたし、今回の提言を読んでも、行刑改革会議の提言がいきていない部分があるということは、分かってとても残念に思いましたが、そういうことがはっきり今回のことで示されたということが大きかったと思います。そして、先ほど大臣、「一つ一つ着実に」というふうに提言を実施していくとおっしゃっていましたけれど、今度こそ、全部ここに書いてあることは時間が掛かってもやるのかというところを、まず一つ目にお伺いしたいと思います。

【大臣】
 まず、御案内のように、平成15年に取りまとめた行刑改革会議提言を踏まえて、法改正までしてきたわけです。受刑者の権利義務・職員の権限の明確化、受刑者の社会復帰に向けた処遇の充実、不服申立制度の整備、それから視察委員会の創設といったものも御提言いただいて、法改正までして取り組んできたわけです。他方で、今回、第三者委員会によって明らかになったことは、本件事案の原因・背景事情として、提言を踏まえて創設された視察委員会制度、あるいは不服申立制度が十分に機能しなかったことも指摘されています。
 したがって、こういった提言の趣旨を踏まえた運用がなされていなかったという実態が明らかになったわけでありますので、我々は、こういった点を重く受け止めて取り組んでいきたいというふうに考えています。改善策も提案されています。
 今回の第三者委員会の提言につきまして、我々は重く受け止めていますので、この実現に向けて、全力で取り組んでいきたいということに尽きると思っています。

【記者】
 全力でということですが、全部やるという意気込みだというふうに受け止めたいと思いますけれども、その中には、先ほどお話もありましたけれども、非常に予算措置を伴うものもある、特に人的資源の問題は相当の予算措置を伴うわけですし、それから分類など、戦後のずっと行刑の今までのやり方を、根本から変えなければならないというようなこともあり、さらに、拘禁刑の導入というのも控えております。そういう中で、先ほど「工程表を作って」というのは、すごく大事なことだと思いますが、工程表を作っただけでは駄目で、それをちゃんと忠実にできているかどうかをチェックしたりとか、あるいは、予算措置が十分できているか、あるいは人事の異動が滞っていたということもあったわけですから、それができているのかというのを、やはり全庁的にやらないと駄目だと思うんですけれども、普段の矯正局の通常業務の中でやってくれと言っても、なかなか十分できるとは限らないと思います。これも提言を実現し、そしてなおかつ、拘禁刑にふさわしい行刑の体制作りみたいなものは考えていらっしゃいませんか。

【大臣】
 まず、拘禁刑との関係でいえば、この提言に基づく諸施策というのは、拘禁刑への移行に向けても、十分その意義を有するものだと全体として考えています。
 それから、アクションプランを作って工程表も作るわけでありますので、そのアクションプランに従って、必要となった段階できちんとした予算措置も当然必要になってきますので、そのプランに従って、しっかり予算措置も含めて努力をしていきたいというふうに考えているところであります。
 それから、やりっぱなし決めっぱなしということでは良くないと思っていますので、有識者会議(第三者委員会)そのものは解散となり、使命を終えたと思っていますが、その進捗状況については、有識者会議(第三者委員会)の委員の先生方にも御報告をして、御意見を承りながら進めていくということは是非やっていきたいというふうに考えています。

【記者】
 私が伺ったのは、法務省の中にこの提言を実現するための部署というか、担当者というか、そういうのを決めて責任を持たせてやるかどうかという話です。

【大臣】
 アクションプランに基づく取組の進捗状況を管理し、再発防止策を確実に実現するために、今日ですけれども、矯正局総務課長を議長とする「拘禁刑時代の矯正に向けた改革推進会議」を矯正局に設置したいというふうに思っています。そして、このアクションプランに掲げられた各種再発防止策については、この工程に基づいて、なし得るものは速やかに実施し、それ以外のものもできる限り早期に実施できるように、実効性のあるものとしてこれが各施設に浸透するように、その実施に向けても留意をしていきたいというふうに思っていますので、この会議で進捗状況を管理していくということになります。

【記者】
 先ほど大臣がおっしゃったように、組織風土の改革に向けて、やはり管理職の意識改革というものが非常に重要だということは重々理解していますが、それに向けた具体策、例えば、管理職に向けて具体的にどんな研修をするのかなど、そういった部分を計画時期も含めてお聞かせ願います。

【大臣】
 繰り返しになりますが、私は、上の人が意識が変わって、それが伝わっていくということは極めて大事だと思っています。幹部の方々の意識の改革というのは、やはり言っただけでは駄目で、各種研修というものが当然必要になるのだろうと思っていますので、研修の中において、そういうものは、新任でトップになる人の研修も行いますし、それから、既にトップになっている方も研修を実施していきたいというふうに思っています。各種研修計画ございますので。

【記者】
 先ほどお話もありましたが、拘禁刑が2年後に導入される予定となっております。2年後というところと、今回決めたアクションプランのスケジュール感については、何かリンクしたり何か検討されているところはあるのでしょうか。

【大臣】
 御案内のように、(拘禁刑は、)令和4年6月に成立した刑法等の改正によりまして、令和7年6月までの施行が予定されているわけであります。
 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるものとされ、作業と指導の組み合わせによりまして、個々の受刑者の特性に応じた柔軟な処遇を推進し、より効果的な改善更生を図ることが期待されています。
 拘禁刑の下では、これまで以上に、個々の受刑者の特性に応じた処遇の充実が求められることになるわけであります。この度の再発防止策においては、「処遇体制の充実」というものを掲げております。受刑者に対するチーム処遇の確立ですとか、処遇調査への多様な専門職の関与ですとか、集団編成の見直し等の方策を盛り込んでいるわけでありますので、これらの方策は、拘禁刑時代における新たな処遇の実現に資するものであると考えていますので、これらの具体化に取り組んで、着実に実施することによりまして、拘禁刑の実施に向けた体制整備にも大いに資するものであるというふうに考えています。

【記者】
 先ほど申し上げたように、予算措置が色々伴うわけですね。それをやっていくということは、安全な社会を作るために必要なんだということですが、先ほどの質問の中にもありましたように、被害者とか、あるいは国民一般ですよね。そこに、やはり適切にそれを理解してもらうというのはとても大事だと思いますが、例えば旭川の刑務所が全部個室になったときに、それは刑務官のすごく作業が減るし、それぞれの受刑者にとっても良いことだと思っていたわけですが、それが報道されると、「まるでホテルみたいだ。」みたいな言い方で、わっとなるわけですよね。そういうような、国民のある種、誤解や無理解みたいな部分がまだあるので、それについて、法務省として、あるいは大臣として、どういうふうに一般の人たちに啓蒙していくのかという、そういうところをお伺いしたいと思います。

【大臣】
 私も全く同じ問題意識を持っています。刑務所に限らず、入管の施設も同様であろうと思っています。我々としては、少なくとも私が大臣に就任してから、かなり色々な御説明はさせていただいてきていると思っています。国会においてもです。ですが、正直言って、なかなかそれが伝わらないもどかしさを、ずっと感じています。しかし、やはりこれは再犯防止をするためにも、拘禁刑をしっかりやって、そして社会に出て行って、そこでまた社会のために貢献してもらうということを作っていく上で、これは社会全体のためになる、そういう取組だと私は考えていますので、あらゆる機会に御理解いただく努力をしていきたいというふうに、今、考えているところであります。記者さんにおかれましても、もし良いアイデアがあれば教えていただければありがたいというふうに思います。
(以上)