法務大臣閣議後記者会見の概要(平成21年6月5日(金))
平成21年6月5日(金)
おはようございます。
【足利事件に関する質疑】
Q:昨日,菅家さんが刑の執行を停止されまして,釈放されました。事件から19年経過しまして,長い時間を経て再審無罪となる可能性が高まりましたけれども,この事件の検証ですとか再発防止も含めて大臣の受け止めをお願いします。
A:検察当局においては,いわゆる足利事件について種々検討してまいりましたが,再審請求人が犯人でない蓋然性が高くなったとして,同人の刑の執行を停止して,釈放することとしたものと承知をしています。個人的には,いろいろと思うところがありますけれども,法務大臣として所感を述べることは差し控えさせていただきたいと思います。なお今,御質問にありましたとおり,検察当局はこの事態を誠に重く受け止めていまして,今後の刑事裁判手続に適切に対処するものと思います。既に報道されていますとおり,この事件についての検証チームを最高検において立ち上げ,またこの前後のDNA鑑定のサンプルとなる証拠については,きちんと保管するように改めて指示がなされたということを聞き及んでいます。
Q:今後の話ですが,無罪が仮に確定するということになれば,菅家さん自身やってもいない自白をしたという可能性も強まることになります。供述を引き出す過程という意味で,現在取調べの可視化法案も提出されていますけれども,こういった可視化との関連でお考えというのはありますでしょうか。
A:取調べの可視化,いわゆる全面録音・録画については,かねてから私の考えを申し述べているとおりでして,法務大臣としてそのことについてコメントするというのはいかがかと思いますが,一般論として申し上げれば,被疑者の取調べは事案の真相を解明するためには不可欠な捜査手法であり,裁判において客観的な事実を追及し発見しようとする立場をとる我が国の刑事司法の下で極めて重要な役割を果たしているわけです。そこにおいて,被疑者の取調べの全面的な録音・録画を義務付けることについては,被疑者に供述をためらわせる要因となるとともに,関係者のプライバシーに関わることを話題とすることが困難になり,取調べの機能を損ない,真相解明に支障をきたすというような重大な問題があると考えています。もちろん,この件についてもいろいろな御意見があることは承知していまして,その御意見を真摯に受け止めるべきとは存じますけれども,そのことを考えるにあたりまして,各国においても例えば免責ですとか,司法取引,あるいは広範な通信傍受ですとかそういった様々な捜査手段の組み合わせで捜査が行われているわけでして,そういった捜査手段の総合的な検討の中で検討すべきことであろうと思っています。
Q:特にこの事件を受けて,可視化の方向に少し傾かざるを得ないとか,そういった現状としての御認識ではないということでしょうか。
A:当然そういったことも考えていく必要があるとは思いますけれども,この事件を契機にというよりも,むしろ日本の捜査手法というか,より良い捜査手法を検討するにあたって,先ほど申し上げたように総合的な検討が必要であろうということを申し上げています。
Q:昨日から菅家さんも会見などをされまして,釈放された後,「人生を返してほしい。」ということを訴えまして,警察・検察に謝罪というものを求めておりますが,これについて受け止めというのはございますでしょうか。
A:先ほど申し上げましたとおり,検察としては極めてこの事態を重く受け止めていると承知をしていまして,いずれ検察当局においてしかるべき時期に適切に対処するものと思っています。
Q:今回の事件の発生から19年ということで,殺人罪でも公訴時効が成立しているということになろうかと思います。公訴時効の問題はかねてから勉強会などで議論されていると思いますが,こういった事件のことについても勉強会の中で考慮することになるのでしょうか。
A:既に省内の勉強会でも様々な観点から,様々な要素を勘案して検討がなされているところでありまして,こういった事態が当然検討すべき要素の中に入っていると思いまして,そういったことを踏まえてさらに検討を深掘りしていくということをしたいと思っています。
Q:今の菅家さんのことと関連して,大臣は一般論として述べられたわけですけれども,しかしながらこの時期は裁判員制度も一方で導入されているわけでして,もし菅家さんが無罪というふうになった場合,無実の人が法廷に出てきて,その人たちを裁かなければいけないという,かなりの重責を裁判員は担うわけです。裁判員制度とのからみの中で,このことが一つの事件を考える契機にされるとか,この事件の位置付けを裁判員制度とどうからめるかとか,そういうお考えというのはないのでしょうか。
A:裁判員制度とこの事件とは,直接的には結びつけて考えることはないのではないかと思います。現に菅家さんも自分が裁判員に選ばれたらきちんとした判断をしたいということを言っておられます。そういう意味で,この個別の事件について申し上げるということはいたしませんけれども,いずれにしても,既に5月21日からスタートした裁判員制度でありますので,これが国民の皆様方の十分な理解を得て,日本の司法にしっかりと定着することを願っていますし,またそうなるように,私どもも努力をしなければいけないと思っています。
Q:今回,無罪ということになっていけば,当時の捜査,公判のあり方も問われてくるかと思うのですが,今回の事件から汲み取るべき教訓というのは,大臣御自身はどういうことだとお考えでしょうか。当時の捜査,公判に問題があったということなのか,当時としては最善の努力を尽くしたけれども,それでも間違いは起きるということを認めないといけないということなのか,あるいはほかに何かお考えはありますか。
A:私が捜査の内容についてコメントするのは差し控えたいと思いますけれども,先ほど申し上げたように最高検でこのケースについて検証するチームが立ち上げられて,これから検証されることになると思いますので,そこで十分な成果をあげてもらいたいと思っていますし,またその結果を今後の司法手続に反映するようにしてもらいたいと期待をしています。私の立場で現時点において,あれこれ申し上げることは差し控えたいと思います。
Q:最高検の検証チームで,発足と同時に全国の各地検に証拠の保全を命じていると思うのですけど,今後,最新のDNA鑑定技術を使って過去の事件の証拠の洗い直しのようなことについて,積極的に指示をしたりとか,そういうふうにすべきであるというようなお考えをお持ちでいらっしゃいますか。
A:個人としては,当然,必要に応じてそういうことが求められれば,できる限り対応しなければいけないと思っています。ただそのやり方についても,これからその検証チームにおいて,検討された結果に基づいて対処されることになろうと思っています。
Q:もし無罪になった場合,検察側から菅家さんに対して謝罪等の対応も何かあると思うのですけれども,大臣の方から何か対応はありますか。
A:今の時点では先ほど申し上げたとおりです。検察としては,この事態を重く受け止めていまして,しかるべき時期に適切に対処するであろうと思っています。私がどうこうということは今の時点では申し上げません。
Q:最高検の検証チームが古い事件の一定の資料はとりあえず残すようにとの指示をするということなのですけれども,今回の足利事件と同じ鑑定方法で行われて,それが有罪の決め手になった事件ということで92年に起きた飯塚事件が取り上げられています。これは奇しくも昨年10月に,既に死刑が執行されているわけですけれども,この事件について改めて再検討するつもりというのはありますでしょうか。
A:個別のケースについて,コメントすることは差し控えたいと思います。
Q:死刑執行の指揮をされる立場にある大臣として,今後,再審請求をされている死刑確定者について,死刑執行にあたっての判断で,今回の事件というのが何らかの影響をもってくる,あるいは判断の材料の一つとして考えるというようなことはあるのでしょうか。
A:判断については,これまでも万事遺漏のなきように対処したわけでありまして,これからも引き続き人知の及ぶ限りの十分な精査をして望むことになろうと思います。
Q:先ほど可視化について,総合的な検討が必要だとおっしゃっていましたが,それは例えば法務省の中で,今後総合的な面から検討をするお考えがあるということなのか,どのようなあり方を考えてらっしゃるのでしょうか。
A:法務省というか,現在の我が国の捜査においては,取調べというのは極めて重要な位置付けにあって,そういう意味においてその効果を十分にあげるためには,やはり全面的な録画・録音というのはいささかの支障になるだろうと思っていることに変わりはありません。しかしながら,いろいろな御意見があって,どうしても全面録音・録画の方向という御意見もありますけれども,そういう御意見に対しては,やはり先ほど申し上げたように,総合的な検討が必要ではないかということを申し上げています。仮に,そういった様々な捜査手段を取り入れたとしても,各国に比べて我が国の捜査における取調べの重要性というのは極めて高いという状況には変わりはないと思いますので,現時点においては私どもとしては容認する方向の検討というのはしにくいというのは事実であります。
Q:全面録音・録画の意見に対して法務省としてそれ単体で取り出す問題ではないというポイントとあるいは取調べというのは非常に重要性があって供述を引き出すのにためらわせるおそれがある,その御主張は分かるのですけれども,今回の事件を受けて,例えば一般論としてのやり取りではなくて,総合的なほかの捜査手段も含めて,プロジェクトチームを立ち上げて検討するとか,何らかの具体的なアクションとして検討について話を進めるというかそういったお考えというのは今のところおありなんでしょうか。
A:既に裁判員裁判の対象事件については,一部の録音・録画の試行が行われ,今実際に行われているわけです。それでもってそれなりの目的を達しているという立場でして,手法というか今の一部ではありますけれども,録音・録画がなされることによって相当な目的を達することができると思っていまして,現時点においてはその手法を定着させることがまず当面の目標ではないかと思います。
Q:ただ,これも個別事件になりますけれども,現在の一部の録音・録画のやり方ですと,例えば認めて供述で自白がおきてから確認の段階で録音・録画するというケースが非常に多いと思うのですけれども,今回のケースだと,結局自白が強要されたかどうかは分かりませんけれども,結果的に虚偽の自白というものが現在の制度でも,要するに歯止めにならなかったのではないかなと想像するのですけれども。
A:今回の件がどうだったかというのも実際には分かりませんし,またコメントする立場にありませんが,少なくとも,一部録音・録画があっても,そこでその取調べの内容についての,おそらくかなりの部分の目的を達成することができるというのが私どもの立場です。
Q:菅家さんはその当時の警察・検察への謝罪を求められたり,あるいは今後その補償ということが問題となってくると思うのですが,大臣は謝罪や補償のあり方についてはどういうかたちが適正か,ありうるべきかという考えはお持ちでしょうか。
A:まだ再審が行われる前の段階でありますので,いずれにしても私の立場でそこまで踏み込んだ発言をするのは差し控えたいと思います。
(以 上)