再犯防止推進白書ロゴ

第1節 高齢者又は障害のある者等への支援等

3 高齢者又は障害のある者等への効果的な入口支援の実施

(1)刑事司法関係機関の体制整備【施策番号42】

 法務省は、保護観察所において、起訴猶予等となった高齢者又は障害のある者等の福祉的支援が必要な者に対して専門的な支援を集中して行うことを目的として、2018年度(平成30年度)から、入口支援(【施策番号34】参照)に適切に取り組むための特別支援ユニットを設置し、更生緊急保護対象者に継続的な生活指導や助言を行っている。

 2020年(令和2年)4月現在、23庁に特別支援ユニットを整備しており、2019年度(令和元年度)に特別支援ユニットを設置していた保護観察所が行った入口支援対象者数は90人、うち検察庁との事前協議があった者は81人となっている。

 また、検察庁は、社会復帰支援を担当する検察事務官の増配置や社会福祉士から助言を得られる体制整備などにより、社会復帰支援の実施体制の充実を図っている。

(2)刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方の検討【施策番号43】

 法務省及び厚生労働省は、2018年度(平成30年度)から、一層効果的な入口支援(【施策番号34】参照)の実施方策を含む刑事司法関係機関と保健医療・福祉関係機関等との連携の在り方について検討会を開催した。

 同検討会においては、地域再犯防止推進モデル事業(【施策番号105】参照)における地方公共団体の取組を含め地域のネットワークにおける取組状況等も参考として検討を行い、2020年(令和2年)3月、刑事司法関係機関の機能強化のための取組や、刑事司法関係機関と福祉関係機関等との連携強化のための取組等に関する今後の方向性等についての検討結果※5を取りまとめ、これを公表した。

Column3 女子施設地域連携事業による高齢受刑者を対象とした「いきいき体操(ロコモ体操)」の実施

西条刑務支所 理学療法士  瀧本 康弘

 全国の女子刑務所では、女子施設地域連携事業として地域の医療・福祉等の専門職種の協力を得ながら、女子受刑者特有の問題点を勘案し、受刑中や出所後の生活改善を図る取組を行っている。西条刑務支所は、2014年(平成26年)から女子受刑者約70名の収容を開始した小規模施設で、開所当初は、60歳以上の高齢受刑者が3分の1を占める状況であった。そのような中、2016年(平成28年)から同支所における女子施設地域連携事業を開始するに当たって、高齢受刑者を対象として身体機能向上を図るよう、愛媛県理学療法士会を通じて依頼を受けた。

 受刑者の高齢化が顕著になってから久しいとのことだ。刑務官は、受刑者の改善更生に向けた指導のほか、動静の視察等の「戒護」が本来の仕事だが、受刑者の高齢化に伴って「介護」面での対応業務が増えてきている。さらに、出所後にも介護が必要となれば、介護サービス等の手続や本人・家族への理解を求める必要が生じ、社会復帰にも時間を要する場面が多くなる。また、同支所は、居室から工場までの距離が長くても50メートルほどしかないため、日々の移動距離もわずかで受刑者の運動量の不足は明らかであった。私たち理学療法士への依頼は、これら問題の改善策の一環であった。そこで、高齢受刑者の身体機能の向上、特に転倒防止のための身体の柔軟性の回復を目標に「いきいき体操」を行うこととなった。

 私たちが行っている「いきいき体操」は、高齢者のほかに医師が必要と判断した者(摂食障害で骨粗しょう症が疑われる者など)に対して週2回各30分程度、マットに横になって全身の筋肉・腱をしっかり伸ばす伸張運動が基本である。負荷運動量は、速歩や軽いジョギング並みであり、終了後には心地良い疲労を感じる程度で、それ以降の工場での作業等に支障を来たさないようにしている。最初は私たちも受刑者も不慣れであったため、1つ1つの運動の指導に時間を要してしまい、効果の実感が得難かった。しかし、今では、簡単な声掛け程度で実施できるようになり、新しく参加した受刑者に対してもスムーズに導入できるようになった。

 受刑者を見ると、「いきいき体操」実施前と比較して、実施後は、歩幅が大きくなって歩く速さが増したり、片脚で立っていられる時間が延びたりと、明らかに良い影響が確認されている。また、「いきいき体操」を楽しみにしてくれる受刑者が増えてきており、身体機能改善だけでなくストレス緩和にもつながっているようだ。実際に「歩きやすくなった」、「腰痛が治った」、「次の体操の日が楽しみ」等の肯定的な声が得られたのは嬉しい。

 私たちの「いきいき体操」の取組が、高齢受刑者の生活面における身体機能の向上や刑務官の介護面での業務量の軽減につながり、ひいては、出所後の再犯防止につながってくれれば有難い。これからも色々と試行しながら継続することとしているが、今後の課題として、「いきいき体操」は一般社会と違って自ら希望して参加するものではないため、中には意欲が低く積極的な姿勢が見受けられない者もおり、そういった人へのアプローチ方法を考えてみたいと思っている。

「いきいき体操」の様子【写真提供:西条刑務支所】
「いきいき体操」歩行訓練の様子【写真提供:西条刑務支所】
  1. ※5 入口支援の実施方策等の在り方に関する検討会検討結果報告書URL
    http://www.moj.go.jp/content/001318666.pdf入口支援の実施方策等の在り方に関する検討会検討結果報告書URLのqr