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平成12年版犯罪白書のあらまし 〈第6編〉 経済犯罪の現状と対策

〈第6編〉 経済犯罪の現状と対策
1 経済犯罪の動向

(1 ) 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反・消費税法違反第4図参照
 所得税法違反の新規受理人員は,昭和30年代後半からおおむね増加傾向にあり,平成4年には最高の397人に達した。11年は711人で,前年より9人減少している。
 相続税法違反は,昭和60年以降は,平成元年及び5年を除いて,新規受理人員を計上しており,11年は66人で,前年と比べ64人の大幅増加を示している。
 法人税法違反の新規受理人員は,昭和30年代前半からおおむね増加傾向にあり,平成5年には最高の350人に達したが,11年は216人で,前年より52人減少している。
 消費税法違反は,平成7年以降は毎年新規受理人員を計上していたが,11年は,新規受理人員は1人のみであり,前年より20人減少している。
 平成11年度(会計年度)においては,国税庁から検察庁に告発された所得税法違反,相続税法違反,法人税法違反及び消費税法違反事件の総数は148件で,一件当たりの平均脱税額(加算税額を含む。)は,所得税法違反では約2億1,000万円(前年度比16.7%減),相続税法違反では約4億7400万円(同9.2%減),法人税法違反では約1億6,000万円(同14.9%減)となっている。なお,脱税額が3億円以上の事件は24件,5億円以上の事件は7件となっている。

(2 ) 商法違反・独占禁止法違反・証券取引法違反第5図参照
 商法違反の新規受理人員は,平成9年以降は3年連続して100人を上回っている。11年は148人で,前年より14人減少している。
 独占禁止法違反は,平成3年以降,隔年に新規受理人員を計上しており,11年は56人となっている。なお,公正取引委員会は,2年6月に,今後積極的に刑事処罰を求めて告発を行う方針を明らかにしており,3年から11年までに延べ146人を告発している。
 証券取引法違反の新規受理人員は,昭和56年から平成5年までは20人を下回っていたが,6年以降は,8年を除いて,20人を上回っており,9年には最高の89人に達した。11年は54人で,前年より20人増加している。なお,証券取引等監視委員会は,4年に新設された後,11年までに延べ129人を告発している。

(3 ) 特許法違反・商標法違反・著作権法違反・不正競争防止法違反第6図参照
 特許法違反の新規受理人員は,平成3年以降,10人を下回っており,11年は2人で,前年より3人減少している。
 商標法違反の新規受理人員は,昭和50年代から増加傾向を示し,61年には最高の592人に達した。その後は,おおむね200人台から300人台の範囲で推移しており,11年は261人で,前年より11人増加している。
 著作権法違反の新規受理人員は,おおむね増加傾向にあり,平成2年には最高の291人に達した。その後は,おおむね100人台で増減を繰り返しており,11年は157人で,前年より5人増加している。
 不正競争防止法違反の新規受理人員は,近年おおむね減少傾向にあったが,平成11年は19人で,前年より15人増加している。


2 経済犯罪の処理状況

(1 ) 検察庁における処理状況第5表参照
 最近5年間における経済犯罪の検察庁終局処理人員の推移を見ると,以下のとおりである。
 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反・消費税法違反
 所得税法違反,相続税法違反,法人税法違反及び消費税法違反の起訴率は,おおむね80%台から90%台で推移しており,起訴猶予以外の理由による不起訴人員は少ない。
 商法違反・独占禁止法違反・証券取引法違反
 商法違反の起訴率は,最近4年間,30%台から50%台で推移しているが,全体に公判請求人員の比率が高く,略式命令請求人員は少ない。
 独占禁止法違反については,不起訴処分に付されたのは公正取引委員会からの告発がなかった者であり,これを除くと,終局処理はすべて公判請求となっている。
 証券取引法違反の起訴率は,平成9年を除き,40%台から60%台で推移しており,同年及び11年においては,公判請求人員が終局処理人員総数の半数を超えている。
 特許法違反・商標法違反・著作権法違反・不正競争防止法違反
 商標法違反及び著作権法違反については,起訴率は,商標法違反が70%台から80%台で,著作権法違反が60%台から70%台で推移しているが,いずれも略式命令請求人員の比率が高い。

(2 ) 裁判所における処理状況
 懲役刑の科刑状況(第6表参照
 平成6年から10年までの5年間における経済犯罪の裁判所における処理状況を見ると,まず,所得税法違反及び法人税法違反については,実刑率は,おおむね10%未満にとどまっている。これに比して,相続税法違反及び消費税法違反については,実数は少ないものの,実刑率は高い。
 一方,独占禁止法違反,証券取引法違反及び不正競争防止法違反については,該当期間において,実刑に処せられた者はいない。
イ 独占禁止法違反及び証券取引法違反についての罰金刑の科刑状況
 独占禁止法及び証券取引法については,いずれも平成4年の一部改正により,法人等に対する罰金刑の上限の額が,行為者に対する罰金刑の上限の額と切り離されて大幅に引き上げられている。これらの改正規定の施行後,10年末までの期間において,公正取引委員会から独占禁止法違反により告発された法人及び証券取引等監視委員会から証券取引法違反により告発された法人に対する当該改正規定に基づく罰金刑の科刑状況を見ると,独占禁止法違反関係では,該当総数は34社であり,罰金額は最低500万円から最高6,000万円まで,証券取引法違反関係では,該当総数が5社であり,罰金額は最低1,000万円から最高1億円までとなっている。

3 企業活動をめぐる経済犯罪の実態と科刑状況

 法務総合研究所では,企業の活動をめぐる経済犯罪の実態,犯罪行為者及び所属企業の属性,科刑状況等を把握するため,法人税法違反,商法違反,贈賄,競売入札妨害,商標法違反,著作権法違反及び廃棄物処理法違反については平成6年1月1日から,証券取引法違反及び独占禁止法違反については昭和64年1月1日から,それぞれ平成10年12月31日までの間に有罪の言い渡しがなされた事件のうち,法人の事業活動に関連して,代表者又は従業者によりじゃっ起された事件を対象として,判決書及び事件記録に基づいて,調査を実施した。調査対象総数は,812件,1,114人,511企業である。

(1 ) 所属企業の業種及び資本金第7表参照
 有罪判決を受けた者が所属する企業を業種別に見ると,贈賄及び競売入札妨害では建設業が,証券取引法では金融・保険業が,それぞれ高い構成比を示している。
 所属企業の資本金を見ると,総数では,資本金1,000万円以上3,000万円未満の企業の構成比が41.5%と最も高い。

(2 ) 行為者の役職
 有罪判決を受けた行為者の役職を見ると,総数では,「代表取締役・会長・社長」の構成比が最も高いが,独占禁止法違反及び商法違反では,「役員以外の役職者」の構成比が最も高くなっている。
 行為者の役職を所属企業の資本金との対比で見ると,行為者が「代表取締役・会長・社長」であるものの構成比は,資本金が大きくなるに従って低下するものの,資本金50億円以上の大資本の企業では逆に高くなっている。

(3 ) 科刑状況第7―2表参照
 有罪判決を受けた行為者に対する科刑状況を見ると,総数では,1年以上2年未満の懲役刑につき執行猶予が付されたものが50%近くを占めており,実刑率は6.1%である。
 有罪判決を受けた者が所属する企業に対する罰金額を見ると,法人税法違反では,1,000万円以上5,000万円未満のものの構成比が全体の76.3%を占め,1,000万円未満のものは7.2%に過ぎない。独占禁止法違反では,7,000万円以上のものはなく,1,000万円未満のもの(80.4%)が最も多い(平成13年11月修正)。商標法違反では200万円以上250万円未満のもの(31.6%),著作権法違反及び廃棄物処理法違反では50万円以上100万円未満のもの(それぞれ62.5%,39.1%)が最も多い。

4 企業倒産をめぐる犯罪の実態と科刑状況

(1 ) 企業倒産をめぐる犯罪の動向第7図参照
 強制執行妨害の新規受理人員は,昭和33年に最高の163人に達した後,おおむね減少傾向にあったところ,平成8年に受理人員が9年ぶりに40人を上回った後は,30人台から40人台で推移し,11年は46人で,前年より7人増加している。
 競売入札妨害の新規受理人員は,昭和25年の317人をピークとして,その後はおおむね減少傾向にあったが,平成6年に受理人員が37年ぶりに200人を上回った後は,おおむね増加傾向にあり,9年には最高の469人を受理した。11年は279人で,前年より37人減少している。
 破産法違反の新規受理人員は,昭和43年に最高の57人に達した後,おおむね減少傾向にあったが,平成7年以降は増加に転じる兆しを示しており,11年は24人で,前年より15人増加している。

(2 ) 企業倒産をめぐる犯罪の処理状況
  検察庁における処理状況(第8表参照
 最近5年間の検察庁における終局処理人員の推移を見ると,まず,強制執行妨害では,起訴率はおおむね30%台から40%台で推移しているが,嫌疑不十分等,起訴猶予以外の理由による不起訴人員の比率が比較的高い。
 競売入札妨害では,起訴率は40%台から50%台の範囲で上昇傾向にある。
 破産法違反については,起訴率が上昇傾向にあり,平成11年には50.0%に達している。一方,嫌疑不十分等,起訴猶予以外の理由による不起訴人員の比率は,強制執行妨害における当該比率よりも,更に高くなっている。
 イ 裁判所における処理状況
 平成6年から10年までの5年間において,第一審で懲役刑の言渡しを受けた者に対する科刑状況を見ると,強制執行妨害においては,実刑に処された者はいないが,破産法違反においては,懲役3年の実刑に処された者を含め,実刑率は,平均で40%を上回っている。競売入札妨害については,7年以降,実刑率は10%台で推移している。

(3 ) 競売妨害事案の実態調査結果
 法務総合研究所では,企業倒産をめぐる犯罪の特質及び科刑状況を明らかにするため,競売妨害事案につき,平成6年1月1日から10年12月31日までの間に有罪の言渡しがなされた事件,被告人を対象として,判決書及び事件記録に基づいて,調査を実施した。調査対象総数は,68件,124人である。
  調査対象者の属性(第9表参照
 調査対象者の犯行開始時点における年齢は,40歳代の者が41.1%を占めるなど,全体に年齢層が高い。調査対象者の職業別構成比は,会社役員・団体役員(46.8%)や自営業者(22.6%)という企業の経営者的立場にある者が高い数値を示している。  一方,暴力団・右翼団体との関係を見ると,総数では,関係がある者とない者とが同数であり,暴力団員の構成比は29.8%に達している。
 イ 犯行の手口
 競売妨害の手口としては,担保物件に対する架空の賃借権等の主張によるものが最も多く,担保物件の物理的占拠によるもの,担保物件に暴力団の代紋を掲示したりするなど示威物件の掲示・設置等によるものがこれに続いている。
 調査対象事件のおよそ8割の事件において,暴力団・右翼団体関係者の関与が認められるが,被告人自身が暴力団・右翼団体の関係者であり,かつ,他にも暴力団・右翼団体関係者が関与している事案においては,犯行の手口として,物理的占拠(78.8%)及び示威物件の掲示・設置等(69.7%)が高い比率を示している。
ウ 科刑状況
 調査対象者のうち,競売入札妨害及びこれに関連する余罪のみにより判決を受けた107人(58件)について見ると,法律上は執行猶予が可能な者における実刑率は,13.4%である。
 これら107人について,暴力団・右翼団体との関係と科刑状況とのかかわりを見ると,実刑率は,暴力団・右翼団体との関係がない者が8.9%であるのに対し,暴力団首領が53.8%,その他の暴力団構成員が38.9%であるなど,被告人自身の暴力団等との関係が考慮されていることがうかがえる。

5 諸外国における経済犯罪への対策

(1 ) 企業に対する経済的制裁の強化
 アメリカにおいては,組織体に対する量刑ガイドラインが,企業に対して,極めて高額な罰金刑の量刑を制度化しており,ドイツにおいても,企業に対する過料の額は相当高額に定められている。また,フランスも,法人に対する罰金刑の上限を自然人に対する罰金刑の上限の5倍としている。これらに加え,金銭的制裁の上限額を犯罪による利得額等と連動させ,実質的に重い経済的制裁を加えている例も多い。

(2 ) 犯罪の予防や検挙に協力した者に対する制裁の減免措置
 アメリカでは,コンプライアンス・プログラムの存在が,刑の減軽事由になり得るものとされるほか,アメリカやドイツの独占禁止法の運用面においては,捜査への協力と免責とが実質的に結びつけられている。さらに,イギリス及び韓国においては,独占禁止法違反に関する違反行為者からの情報提供が,制裁についての減免事由になり得ることが明記されている。

(3 ) 違反者の処罰以外の組織規定その他の制度面における施策
 イギリスにおいては,外部の専門家と共同して,重大かつ複雑な経済事件に対する捜査及び訴追を一貫して行う機関として重大経済犯罪庁が設置されており,韓国においては,金融実名取引制度を設け,過料による制裁に税制をも連動させて,仮名口座の一掃を図っている。

● 目次
 
○ 〈はじめに〉
○ 〈第1編〉犯罪の動向
○ 〈第2編〉犯罪者の処遇
○ 〈第3編〉少年非行の動向と非行少年の処遇
○ 〈第4編〉各種の犯罪と犯罪者
○ 〈第5編〉犯罪被害者とその国家的救済
○ 〈第6編〉経済犯罪の現状と対策
○ 〈第7編〉暴力団犯罪の動向と暴力団関係者の処遇