秋田県人権啓発活動ネットワーク協議会
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平成14年度最優秀賞 秋田地方法務局長賞 空の青

能代市立能代第二中学校3年 篠田 知世

ついこの間まで「死にたい」とばかり思っていた。自分は本当に不幸な子だと感じていた。

私は耳の聞こえが悪い。いわゆる難聴というやつだ。全く聞こえないわけではない。それでも普段の生活に支障が出ることには変わりないのだ。

一日に五回,休み時間が来る。友達と話していても,何を言っているのか聞こえない時がしばしばある。「えっ?もう一回言って。」と,一回程度繰り返してもらったところで,聞こえないものは聞こえない。毎日友達は,私のために同じことを何度も言う羽目になる。そのたびに「やっぱりイライラしてくるよなあ。」と自分に対して,嫌悪感を抱いては,憂鬱な空を教室から眺めるのである。

「耳さえ良かったら,もっと幸せな人生を送れた。これからだってきっと送れる。」朝,昼,晩,いつにしても泣きたかった。家,学校,トイレ,どこにいてもギュウギュウと私を締めつけ続ける「何か」に,押しつぶされそうだった。「今日優しかったあの子が明日は私の存在に嫌気が差して,離れていくのではないか。」と思うと,不安で不安で仕方が無かったのだ。

ある日,友達の一人に,

「やめちゃおっかなあ。部活。」

と,出来る限り素っ気なく打ち明けた。

「だって今どんなに頑張って,例えば優勝したとしても,嬉しいのはその時だけじゃない?結局,みんないつか死ぬ日が必ずやってくるんだよ。死んだら過程も結果も意味を持たないガラクタに変わるよ。一生懸命やったって,つまんない。」

それが私の考えだった。本気でそう思っていた。そんな私にその子は,

「それはそうかも知れないけど,でも今しか出来ないんだよ?だからそんなことは考えなくていいと思う。」

本当に真剣な顔で答えてくれた。私は息が詰まり,その後に,肩の力がスゥッと抜けていくのがよく分かった。大切なことに気が付いた。涙が出そうだった。そう。「考えなくてもいい」のだ。私は,「耳が悪いから」だの「やめたい」だのと,余計なことばかりうじうじ考えていた。その言葉は,「耳が悪くたって気にせず,有りのまま生きていきなさい。」と,私を認めてくれたような気がしたのだ。

記憶を掘り返してみれば,いつも助けてくれたのは周りにいたみんなだ。部活の試合,音楽のテスト直前,体育祭…。緊張して胸がいっぱいな時,嫌で嫌で逃げ出したい時,失敗して落ちこんだ時。何度も何度もみんなから,笑顔と勇気をもらった。今回だって同じだ。

「ねぇ,お母さん。私,耳が悪いじゃん。そのことで,私のこと嫌いにならない?」少しためらったが,思い切って聞いてみた。母を信じていた。信じてはいたのだが,家族ということが私を嫌いにならない理由になるのだろうか。視線を上げられず,うつむいている私に,母は言った。

「じゃあ,もし私が耳が悪かったり,手足が不自由だったら,あんたは私を嫌いになるの?」 最後まで聞き終わる前に私は泣いていた。「ううん。それでも好きだよ。」と言葉に出来ず,思いっきり首を横に振った。止まらなかった。次から次へとあふれ出る幸せの涙が,私の握りこぶしを濡らしていった。

人は,お互いに支え合い,お互いを認め合うことで成長出来るのだろう,私は心からそう思う。「一人一人の存在が大切なんだ。」そう思っていつもの空を見ると,いつもとは全てが違っていて,青く,深く澄んだ色をしていた。

私たちは,きっとたくさんの幸せを身に付けて生まれて来たのだろう。どれほど苦しみ,自分の居場所がわからなくなっても,たくさんの人に支えられて生きてきた自分がちゃんとそこにいるものだ。これからの私たちには,個人の尊さを理解し,共に精一杯生きるということが大切なのではないかと思った。

「耳が良かったら…。」という私の現実逃避から生まれた多くの可能性。どうやら,その希望に満ちた世界よりも,耳が悪かったがために,放り込まれた,たった一つの石っころが輝き出し,空の色をも変えてしまったようだ。

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