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福島県人権啓発活動ネットワーク協議会
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優秀賞 「温かい微笑みを」

いわき市立草野中学校三年 草野 楓

私の祖父母は、専業農家のため毎日仕事に追われている。だから、毎週休みの日は祖父母の家に行き、ふろ洗いや食器洗い、食事の仕度など私に出来る事はやっている。

ある日、昼食を食べ、昼寝をしようとした時に見たことのない一人の男の人が玄関に入って来た。その人は、耳が不自由なので、身ぶり手ぶりで何かを伝えようと必死だった。そんな男の人を見て私の祖母は微笑みを浮かべ「うんうん」とうなずいていた。が、私は、その人が何を伝えようとしているかすら知ろうともしなかった。その人が帰ってから、私は祖母に聞いてみた。

「ねぇ、さっきの人何て言ってたの。」

すると祖母は「分かんねぇ」と答えた。

数日後、あのおじさんは祖母に釣りの道具を見せに来たそうだ。そして、釣りざおの穴に糸を通してあげたそうだ。私は、この話を聞いた時は、見知らぬ人に優しく微笑む祖母の姿を思うと驚きが隠せなかった。そのおじさんは、次の日も、その次の日も祖父母の家に来たという。そして、身ぶり手ぶりで言いたいことを伝え、その話を微笑みながら聞いている祖母がいる。私は「祖母は心が広くて優しすぎるから、あのおじさんは何度も来るんだ」という、耳に障害を持っているからといって、冷たい視線で見るようになっていた。

それから一週間後、私はまた祖父母の家に行き、祖父母を少しでも助けようと家事を手伝った。この日は、私の母も一緒だったのでいつもより早く終わった。だから、母と二人で近くのお店に自転車で買い物をしに行った。母と二人で話をしながら買い物をしていると、後ろから「あ、う」と言って私の肩をポンとたたいて来た。誰かと思ったら、あの時のおじさんで、私の顔を覚えていたらしく、私の顔を見てニコニコと微笑みを浮かべていた。買い物も終わり、祖父母の家に帰ると、今度は、昼食の準備が待っていた。母と私は急いで昼食を作り、祖父母達と一緒に昼食を済ませた。そこに、さっきのあのおじさんが汗をかきながら釣りざおを持って自転車に乗ってここまで来たのだ、と身ぶり手ぶりで一生懸命私達に伝えていた。この日は日が照っていてとても蒸し暑かった。このおじさんは疲れているようだったので祖母は私に「水、持って来てあげな」と言ってきた。私はあわててコップに氷をたくさん入れ、コップから溢れそうなくらい水を注いで、そのおじさんに渡した。そのおじさんは私に笑みを浮かべて、「もう一杯」というように指を一本立てた。私は、すぐにもう一杯水をあげた。すると、そのおじさんは私に身ぶり手ぶりで何かを伝えようとしていた。私には「暑くて汗もかいたからのどがかわいてたんだ」「ありがとう」「ありがとう」「おいしい」と何度も何度も繰り返して伝わってきた。私は、このおじさんを見ていて、涙が出そうなくらい嬉しかった。

あのおじさんは、私や祖母の顔を覚え、私の顔を見るとあの時の事を思い出して「ありがとう」という言葉を一生懸命表現してくれる。今では、店で買い物している時でも、散歩している時でも、私の顔を見るとニコニコと微笑んでくれる。また、何度も何度も祖父母の家に来て、祖母に釣りの道具を直してもらったり、糸を通してもらったりしている。そんな時も、微笑んで「ありがとう」という言葉を表現して何度も何度も頭をさげてから帰るらしい。

私は、この一人のおじさんに大切なものを教えてもらったような気がする。今までの私は、障害のある人を「かわいそう」とか「え!?」という冷たい目で見ることが多かった。でも、あのおじさんに出会ってからの私は、障害者として見るのではなく、同じ人間として見るようになったのではないかと思う。だから、一人の人間として、温かい目で微笑みを忘れないようにしたいと思う。私は、あのおじさんの名前や年齢は知らないけれど、あの微笑みと「ありがとう」という感謝の言葉はいつまでも忘れない。

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