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最優秀作品
一つの体験から学んだこと

岡山白陵中学校三年 渡邊 真衣

「この人,障害者なんですよ。」

登山口のレストハウスで偶然隣に座った女の人の言葉に,私は驚きました。見るとすぐ横の椅子には,夫らしき人が座っています。 『障害があるようには見えないけど…。』と思っていると,女の人は話を続けました。

「脳梗塞の後遺症で,下半身が動かないの。この人はいいって言うんだけど,白根山頂の景色を一目見せてあげたくて,息子達と連れてきたんですよ。」

男の人の横には,車椅子を持った若い男性が二人,寄りそうように立っていました。

そこは群馬県にある白根山への登山口。頂上の「湯釜」までは,ここから急な登山道を登ること二十分。杖を持つ人がアリのように連なって登っているのが,私達の座っているところからもはっきり確認できました。「えっ,あんな上までこの道を登るのか。」体力自慢の祖父でさえ絶句したあの道を,この家族は登ろうとしていたのです。

―草津の白根山に家族で登りたい―

祖母の長年の夢を実現させるために私達家族もここを訪れていました。でも,倉敷から十時間以上の長旅の直後の登山。

『ひざや腰を痛めているおばあちゃんを連れて,無事ゴールできるだろうか…。』

という一抹の不安を感じていた私達は,この家族に大いに励まされたのです。

「頂上まで,お互いにがんばりましょう。」

「あちらで会えるといいですね。」

あいさつを交わした後,両家族ともいよいよ出発する時が来ました。

道は想像以上に険しく,長く続く急な坂は元気な私達の体力も奪います。初めは自分の足で登っていた祖母の足取りもだんだん重くなり,とうとう足が前に出なくなりました。

「あんたらだけ行かれぇ。私は引き返すわ。」

そういう祖母を励ましながら,母が前から手を引き,私達が後ろから押して標高二千メートル以上の高地を進みました。空気も薄くなる中,祖母も最後の力を振り絞ります。何度も休みながら,時間をかけて私達は何とかゴールまでたどり着くことができました。

そこで見たものは,エメラルドグリーンの湖と真っ青な空,純白の雲。自然美に圧倒された私と祖母は,しばらくそこを動くことが出来ませんでした。

「これが見たかったんよ。これを,あなた達にも見せたかったのよ。」

祖母の言葉に,私は自然と頷いていました。

ほどなくして,あの家族も車椅子を担いでゴールしてきました。

「家族のおかげでここまで来れました。」

「父さんが登る間中『大丈夫か』って私達を気遣ってくれたから登れたんです。」涙ながらに話す二人に祖母も,

「私も,この子達のおかげで登れました。」

と答え,再会を喜び合いました。この時私は,

「違うよ,おばあちゃん。私達の方こそ,おばあちゃんのおかげで登れたんだよ。」

と言いたい衝動にかられました。そして気づいたのです。今まで健常者の苦労だけが気になって,助けを受ける側のがんばりや心持ちには目が向いていなかった自分に。

今回,どちらの家族も,支える側だけでは登山口に立つことすら無かったでしょう。体力は無くても,相手に感謝しがんばろうとする大きな存在は,支える者の心を強くし家族を登山口・絶景の頂上へと導きました。祖母はきっと,人の話を聞かず失敗しがちな私に,『自分だけががむしゃらに進むのではなく,人と助け合って進むんだ。人と交われば自分一人では得られない宝物に出逢えるよ。』ということを伝えたくて,家族での登山にこだわっていたのだと,この時気づきました。

今まで私は『ハンディのある人にはこちらが一方的に何かしてあげなければ。』と思っていました。でも,人との関係ってそういうものではなく,相互活動なのだという大切なことを,この登山から教わりました。

―互いに助け合い,前に進むこと―

それは,とても難しいことです。最近はバリアフリー化が進んでいますが,自然の中にはまだ段差も多く,体は健康でも心の壁で前に進めない人もいます。また,支える側も余裕が無くうまくいかない時だってあるでしょう。でも,私は悲観はしていません。それは,この体験から「あきらめなければ,周りとの関わりの中で成長する自分に出逢えるんだ」ということを学んだからです。

旅行から帰った私は,一枚の写真を机上に立てました。山頂でとった,二つの家族の姿です。これから生きていく中で,成功,失敗,停滞と様々なことがあるでしょう。道に迷い,がむしゃらに一人で突っ走ろうとする時がまた来るかもしれません。そんな時,この写真が『あの日の体験』を呼び覚まし,私の道標になってくれる―私はそう信じています。

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