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和歌山県人権啓発活動ネットワーク協議会
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最優秀賞(和歌山県人権擁護委員連合会長賞) 『人間らしく生きる』

和歌山県立古佐田丘中学校 三年 村上 幸輝

僕の祖父は二年前の秋に亡くなりました。病名は下咽頭ガンで、三月に病院で告知を受け、半年間の闘病生活でした。病状がすすんで、まず食べ物がのどを通りにくくなり、水さえ飲めなくなってきて鼻からチューブで栄養を入れるようになりました。大好きなビールも口から飲めなくなり、かわいそうでした。最終的にはお腹に穴を開けて、そこから直接栄養を入れるようになりました。祖父は食事の時間になると、
「これを入れんと生きられへんけど、これは人間としての食事とちがうなぁ。」
と言い、時にはいらないと言うこともありました。病気だから仕方ないけれど、口から物を食べることができないなんて本当に辛かっただろうと思います。好きなものも嫌いなものも、口から食べて自分の舌で味わうからこそおいしいとかまずいとか言えるんだし、チューブからの栄養では自分が食べているという感覚もなかったと思います。

さらに、五月頃にはガンが大きくなってきて気管を塞ぐ危険があるという理由で、気管切開をしました。医師が気管切開の手術の同意書を持って、突然病室に来ました。その日は土曜日で、祖母と母は週明けまで考えさせてほしいと言ったのですが、手術室のスタッフがいなくなるので今すぐ手術に同意するよう言ったのです。気管切開によってその後の祖父の生活がどれほど過酷なものになるかわかっていたはずなのに、どうして医師はそんな大事なことを、すぐに決断しろと言ったのだろうか、医師は患者の人権を考えていないのだろうかと、悔しくて胸がつぶれそうになりました。声が出なくなる前に、家族に言っておきたいことがあったかも知れないし、僕ももっと祖父と話をしておきたかったです。病気が進んだので仕方がなかったかも知れないけれど、患者やその家族の立場にたって考えてほしかったです。そんな余裕もなく、手術をしないと今後の治療はできないと言われた祖父は結局、手術を受けその日のうちに声を失いました。僕は、人間が声を失うのはこんなにもあっけないものなのかと、ぼう然としてしまいました。

全く声が出なくなった祖父は、周りの人とのコミュニケーションをとるためにA4サイズのホワイトボードに書いて、自分の気持ちやしてほしいことを表現しました。僕にもいろいろなことを書いてくれ、勉強や野球のことではげましてくれました。僕は、健康な時は口数が少なく、自分の意見もめったに言わなかった祖父がこんなに強い意志を持っていたことに驚かされました。口から食べるという、あたりまえのことをするために辛い治療を選びました。祖父は、痛いとはいつもボードに書いたけど、辛いとか、もう治療をやめたいとは一度も書かなかったそうです。そして、痰の吸引も祖父を苦しめた原因の一つです。祖父はボードに
「これほど医療が進歩しているのに、痰の吸引がなぜこんなに苦痛なのか。自分はまだ若いが、もっと年をとった人達はたえられないだろう。」
と書きました。そして
「自分も気管切開などしなかったら、こんなこと知らないままやった。医師や技術者は、もっと弱者の立場にたって、頭を使ってほしい。」
とも書きました。僕はその時、
「じいちゃん、すごいな。」
と思い、涙が出ました。自分の辛さから、もっと弱いお年寄りのことを心配できる祖父に感動しました。人間の本当の優しさに触れたような感覚でした。

僕は今、看護師をめざしています。患者さんの立場にたって、少しでも患者さんの苦痛をやわらげることのできる看護師になりたいと思っています。そして、祖父の最後の願いに応えるため、痰の吸引を楽にできる取り組みをしていきたいと思っています。そして、患者さんの人権を守ることのできる看護師になります。

じいちゃん、僕に人としての本当の強さ、優しさとは何かを教えてくれてありがとう。

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