裁判員制度に関する検討会(第9回)議事録 1 日 時   平成24年3月14日(水)13:34〜15:41 2 場 所   東京地方検察庁会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,酒巻匡,残間里江子,      四宮啓,島根悟,土屋美明,栃木力,前田裕司,山根香織 (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,名取俊也刑事      局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事局参      事官 4 議 題  1 裁判員制度の実施状況等について(報告)  2 論点整理のための検討   (1)審理・公判前整理手続等   (2)評議等  3 その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成23年12月末・速報)   資料3:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料4:調査票の返送・回答状況等について   資料5:調査票の回答状況等について(要約)   資料6:裁判員裁判対象事件の累積起訴・未判決件数   資料7:裁判員裁判の実施状況の概要(年別比較)   資料8:裁判員裁判の実施状況の推移   資料9:裁判員等経験者に対するアンケート結果(年別比較)   前田委員説明資料:「日弁連で裁判員裁判に関して検討した項目」 6 議 事 ○西山参事官 それでは,裁判員制度に関する検討会の第9回会合を開会させていただきます。 井上座長,お願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,皆様には御参集いただきまして,ありがとうございます。 まず議事に先立ちまして,事務当局の方で人事異動による交代がございましたので,御報告させていただきます。甲斐官房審議官から岩尾官房審議官に,また,和田刑事課長から名取刑事課長にそれぞれ交代されましたので,よろしくお願いしたいと思います。では,次に事務当局から本日の資料について御確認をお願いします。 ○西山参事官 本日の資料は,議事次第,インデックス付きの資料が1から9までと,前田委員から配布の御希望がありました,「日弁連で裁判員裁判に関して検討した項目」と題する1枚ものの資料,以上でございます。 ○井上座長 不足がありましたら,お申出いただければと思いますが,よろしいですか。 それでは,早速ですが議事に入りたいと思います。 ○菊池委員 すみません,その前に資料について,確認の意味で1点御質問をさせていただきたいと思います。 ○井上座長 どうぞ。 ○菊池委員 この資料の中に,自白あるいは否認という言葉が出てまいります。これは,自白事件,否認事件という意味だと思いますけれども,この統計でいう自白事件,あるいは否認事件というのは,どういうものを指しているのか質問したいと思います。 例えば,起訴する時点では否認していたけれども,公判前整理手続の間に否認しなくなった,自白に転じたといったものは,自白事件としてカウントされているんでしょうか。 ○西山参事官 今の御質問の趣旨からいたしますと,自白,否認をいつの段階で見るのかという御質問だと思いますので,その趣旨でお答えいたしますと,自白,否認とも終局段階においての自白か否認か,そのような統計になっていると承知しております。 ○井上座長 よろしいですか。 ○菊池委員 ありがとうございます。 ○井上座長 資料等については,ほかによろしいですか。 それでは,議事に入りたいと思います。 まず,最初に裁判員制度の実施状況等について,事務当局から御説明頂きたいと思います。 ○西山参事官 裁判員制度の実施状況等につきまして,本日お配りした資料に基づいて御説明いたします。 まず,各資料の概要を御説明します。 資料1は,毎回お示ししている地検別罪名別の起訴件数をまとめた資料で,裁判員制度施行後,本年2月末までのものです。 資料2は,制度施行から昨年12月末までの裁判員裁判の実施状況に関する各種統計資料であり,本年2月に最高裁判所で行われた裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において公表されたものです。 資料3は,ただいま御説明しました資料�Aと,前回の検討会でお配りしました昨年1月から6月までの間に実施された裁判員裁判の裁判員等に対して行ったアンケート調査結果について,主な内容を要約して1枚にまとめたものです。 資料4は,平成24年の裁判員候補者名簿記載通知に同封された辞退事由等の有無に関する調査票の回答状況に関する資料であり,本年1月に最高裁判所から公表されたものです。 資料5は,ただいま御説明した資料�Cのうち,定型的辞退事由に関する内容につき,円グラフ化し,平成21年,22年及び23年の各数値と対比できるよう,これらを一覧表にして併せて記載したものです。 資料6は,制度施行から本年2月末までの間における起訴件数及び未判決件数を各月ごとに累計してグラフ化した,最高検察庁作成の資料です。 資料7から9は,これまで最高裁判所から公表されてきた裁判員裁判の実施状況に関する各資料のデータの推移を一覧できるよう,法務省においてグラフや一覧表にまとめた資料です。 続きまして,それぞれの資料の内容について更に御説明いたします。 まず,裁判員裁判の起訴件数,判決人員等について,資料�@を御覧ください。本年2月末までの全国の起訴件数は,合計5,056件となっています。罪名別では,強盗致傷ないし強盗傷人,殺人,現住建造物等放火の順に多く,検察庁別では,千葉地検,東京地検本庁,大阪地検本庁の順に多くなっております。これらの順序は,前回の検討会で御報告しましたところと変わりはありません。 裁判員裁判の判決人員については,本年2月末までで,判決言渡し人員は合計3,423人となっており,これを判決言渡し件数に直しますと,3,841件になります。起訴件数のうち約76%について,判決まで至っていることになります。 次に,資料2に基づき裁判員裁判の実施状況について御説明いたします。まず,裁判員候補者の選任状況について,5ページの表4を御覧いただきますと,個々の裁判員裁判を行う段階で選定された,裁判員候補者の総数は27万1,748人,呼出状が送付された方が19万7,967人,実際に選任手続期日に出席された方が9万7,987人となっています。そして,裁判員候補者の出席率は,79.8%となっております。 次に,その上の表3によりますと,選定された裁判員候補者のうち,辞退が認められた候補者数は,15万2,020人であり,辞退率は55.9%となっています。辞退の理由については,6ページの表5のとおり,70歳以上などの定型的辞退事由を除くと,「事業における重要用務」,「疾病傷害」,「介護養育」の順に多くなっており,従前と同様です。 次に7ページの表7を御覧いただきますと,昨年12月末までに選任された裁判員は1万8,326人,補充裁判員は6,401人となっております。終局件数は3,003件ですので,終局件数1件当たりの補充裁判員の数は約2.1人となり,この数は,前回御報告した昨年7月末までとほぼ同数となっております。 続いて,裁判員裁判に要する期間等について御説明します。 7ページの表9を御覧いただきますと,昨年12月末現在で,公判前整理手続の平均期間は,全体で5.6月,自白事件で4.8月,否認事件で7.0月となっています。なお,公判前整理手続期間が1年を超えている事件が169件ありますが,この中で最も長いものは841日,すなわち約2年4か月であるとのことです。 開廷回数については,8ページの表10にあるとおり,昨年12月末現在の平均開廷回数が全体で3.9回,自白で3.5回,否認で4.7回となっております。なお,開廷回数が3回又は4回の判決人員の数が全体の約76.2%を占めております。 次に,その下の表11−1にありますように,起訴から終局までの審理期間の平均は,昨年12月末現在で全体で8.4月であり,自白事件につき7.2月,否認事件につき10.3月となっています。また,表11−2によりますと,第1回公判から終局までの実審理期間は,昨年12月現在で最も多い3日が953人で約30.0%,次に多い4日が794人で約25.0%となっています。さらに,9ページの表12は評議時間についてですが,昨年12月末現在,全体の評議時間が528.3分,すなわち約8時間48分です。 続いて,資料4ですが,これは「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」の発送日である平成23年11月11日以降,同年12月7日までに返送された調査票の回答状況等を最高裁判所で取りまとめたものです。そのうち,定型的辞退事由については,3枚目の表2−1に内訳が記載されておりますが,資料�Dに円グラフで示しておりますので,そちらを御覧ください。資料�Dの下の段の一覧表にもありますように,平成21年,22年,23年の各結果を比較しますと,いずれも「年齢70歳以上」が最も多く,定型的辞退事由の約3分の2を占め,次に「重い病気・けが」が多く,この二つで辞退事由の大半を占めております。 次に資料4に戻っていただきまして,最終ページの図2には,1年のうちの参加困難な月の申出数が棒グラフで示されております。最も多いのが年度末の3月,続いてその前月の2月,年度初めの4月,年始の1月,年末の12月,夏休み期間に当たる8月の順に多くなっています。この順序は平成22年,23年の調査票の回答結果と同じです。 次に資料6は,制度施行から本年2月末までの間における,各月ごとに累積起訴件数及び未判決件数が棒グラフで示されております。これによりますと,未判決件数が制度施行から増加傾向にあったものが,平成22年8月をピークに減少に転じた後,若干の増減はあるものの,おおむね横ばいの状況であり,本年2月末現在においては,1,183件となっております。 続いて資料7の,「裁判員裁判の実施状況の概要(年別比較)」と題する資料は,以前の検討会においてお配りした最高裁判所公表の平成21年及び22年における「裁判員裁判の実施状況等に関する資料」,いわゆる103条公表の資料のうち,主な内容を年別で比較できるよう,法務省で一覧表にまとめたものです。 実施状況の概要,裁判員等の選任に関する実施状況,裁判員の参加する公判手続の実施状況,その他の各項目から,主なものを平成21年,22年と並べて比較しております。 なお,この表にも記載されているとおり,終局人員が平成21年では149人,平成22年では1,530人と大きな差があり,単純に比較して傾向を見るには困難な面もあることには御留意いただいた上,参考にしていただければと存じます。 まず,上から2段目の「裁判員等の選任に関する実施状況」では,ナンバー4に記載のとおり,出席率が平成21年では83.9%であったのが,22年では80.6%に減少しています。また,ナンバー6に記載の辞退が認められた割合は,ほぼ同率です。 次に,上から3段目の「裁判員の参加する公判手続の実施状況」では,ナンバー1の「平均審理期間」を御覧いただくと,総数は平成21年では5.0月であったのが,平成22年では8.3月と長期化し,この傾向は自白,否認ともに同様です。また,その下のナンバー3の「平均取調べ証拠数」では,総数が平成21年の23.8個から,平成22年では29.5個と増加していますが,自白,否認ともに証拠数の増加傾向が見てとれます。 他方,ナンバー5の「平均証人尋問時間」を見ますと,総数の長期化が見られますが,そのうち自白事件の長期化がわずかなのに対し,否認事件の長期化が顕著なのがわかります。さらに,その下のナンバー9の「平均評議時間」を御覧いただきますと,平成21年の総数は397.0分から平成22年では504.4分と,約1時間47分長くなっており,自白,否認にかかわらず,評議時間も長くなる傾向が見てとれます。 次の資料8の「裁判員裁判の実施状況の推移」と題する資料は,これまでの検討会で随時お配りしてきました,最高裁判所公表の「裁判員裁判の実施状況について」の速報版のうち,主な項目について,制度施行後からの累積の数値の推移を一覧できるよう法務省でグラフ化した資料です。 まず1ページ目ですが,上から裁判員選任手続における辞退率,裁判員候補者の出席率,平均職務従事日数の推移をそれぞれ折れ線グラフで示したものです。そのうち,裁判員候補者の出席率の推移の折れ線グラフを御覧いただきますと,制度施行当初は85.3%であったのが徐々に低下し,平成23年12月末まで穏やかながら,なお減少傾向が続いています。 続きまして,2ページ目では,上が平均公判前整理手続期間,下が平均開廷回数の推移を総数,自白及び否認別にそれぞれ棒グラフで示しています。さらに3ページ目では,上が平均審理期間,下が平均評議時間の推移を,同じく総数,自白及び否認別にそれぞれ棒グラフで示しております。いずれについても,全体的に増加傾向が続いていることが見てとれます。 次に資料9の「裁判員等経験者に対するアンケート結果(年別比較)」と題する資料は,これまでの検討会でお配りした最高裁判所公表の「裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書」の平成21年,22年及び23年1月から6月分の各資料から主な項目の数値を比較できるように,法務省で一覧表にまとめた資料です。これを御覧いただきますと,「審理内容の理解のしやすさ」について,徐々に減少していること,また,「裁判員として,裁判に参加した感想」については,「非常によい経験と感じた」と「よい経験と感じた」を合わせた合計が,95%以上の非常に高い割合を保っていることなどが分かります。 私からの御説明は以上になります。 ○井上座長 ありがとうございます。 ただいまの説明につきまして,何か御質問等,ございましたら御発言願います。 ○酒巻委員 資料の作り方についての意見です。平均審理期間という言葉,それから平均開廷回数,それからもう一つ,実審理期間というのがあります。それで,さっき見た棒グラフのところは,そのうちの実審理期間は表示されていない。そして結果としては,平均審理期間は徐々に伸び,平均開廷回数はちょっと増えて,1回分ぐらい増えている。しかし,実審理期間は多分,4日から5日ぐらい,ちょっと伸びているんですけれども,いずれにしろ平均審理期間というのは,事件が起訴されてからおしまいになるまでの話なので,それだけだと公判審理が裁判員制度導入前に比べて非常に集中され,公判手続は緊密に3回か4回連続的に行われ,それで済んでいるということが,グラフの上では表れにくいんですよね。でも,実態はそうなんです。 もっとはっきり言えば,伸びているのは裁判員が関与する前の公判前整理手続の期間であり,それがちょっとずつ伸びていて,結果として,平均審理期間が伸びている。多分,そういうことだと思うので,裁判員が選任されてから職務が済むまでの審理の部分をグラフとして反映するとすれば,実審理期間の部分を入れていただくと,より実態に即すのではないかと思います。 ○井上座長 そのとおりだと思います。「審理期間」という言葉自体が適切であったかどうか,起訴から終局までをその言葉で表しているのですが,日常的な用語とややずれがあるのですね。実審理期間の方が,公判審理の期間を表すものなので,その点,配慮が必要ですね。 ○西山参事官 1点よろしいでしょうか。本日まとめさせていただいた資料は最高裁判所で随時お出しいただいています,速報版にのっとっているんですけれども,速報版においては実審理期間の累積が出ておりませんので,それでちょっと横並びでお示しできなかったという事情がございますので,その点は御了解いただければと存じます。 ○井上座長 確か最初のころは実審理期間の平均値も出ていたと思うのですけれども,最近の資料には出ていないですね。 ほかにいかがですか。よろしいですか。 それでは,次に,前回も申し上げたところですけれども,今回から主に論点の抽出や整理のための議論を行うということにしたいと思います。前回,議論のテーマの範囲について,皆様から御一任を頂きまして,その後,事前に事務局を通じて御連絡したところですけれども,初回である本日は,裁判員裁判手続の中核をなす公判審理を取り上げ,併せてこれと密接な関係に立つ公判前整理手続及び公判審理を踏まえて行われる評議,その辺りについて議論していただきたいと思います。 進行方法ですけれども,論点の抽出及び整理のための議論ということであり,それぞれ項目について,より突っ込んで議論をするのはその先のことですので,ここでは余り限定せずに,審理,公判前整理手続,評議,この三つの手続段階の全体について自由に御意見を言っていただくというのがよいのではないか。あっちへ行ったり,こっちへ行ったりしてもよいのではないかというふうに思います。 ということで,今日は自由に,こんな点もあるのではないかということで御議論いただければと思います。どなたからでも結構ですので,口火を切っていただければと思いますが。 では山根さん,お願いします。 ○山根委員 ありがとうございます。ちょっと論点がころころ動くかもしれませんけれども,そこは素人ということで御勘弁いただいて。この裁判員制度によって,以前は,長期間かかっていた裁判が連日開廷ということで,また,争点とか証拠を三者の方がきっちり絞り込むという作業があって,短期間の開廷というのが実現されているというふうに聞いています。大変な御努力があって,また,結果としては評価もいいというふうに感じていますけれども,その連日開廷ということに関してや,準備としての作業,争点とか証拠の絞り込みというところに何か課題があるのかどうか,その辺りのことを教えていただきたいと思います。裁判の日数とか実際の裁判の中身が,公判前整理手続でもうほぼ決まるのだと思うのですけれども,ちょっと私なんかには,全くどういうふうにされているのか見える場所ではないんですが,そこでもいろいろ課題が見えているのかどうか教えてほしいと思います。 それと,連日開廷ということが基本ですけれども,例えば,場合によっては1日おきにやるとか,1週間に1回やるとか,そういうことも考えられるのかどうか。その辺りもちょっと質問ですけれども,お願いします。 ○井上座長 2番目の点については,「連日的開廷」ということで,「的」という語を意図的に入れてあるのですけれども,それは柔軟な運用の余地を認めようという趣旨であったと思います。実際の運用について,栃木さん,お教えいただけますか。 ○栃木委員 これは連日的開廷ということで,必ずしも毎日続けるというわけではないのですが,審理期間が通常2日とか3日程度であれば,大体,連日行うのが通常ではないかと思います。 ただ,審理期間が4日,5日と長期にわたる場合は,やはり間にちょっと休憩というか,休みの期間を入れるので,そのときは2日やって,1日休みを入れて,また2日とか,木金とやって,土日を入れてから,月火水という形です。それはひょっとしたら連日ということになってしまうのかもしれないですけれども,土日とか休みを入れるとか,そういう形での工夫はしております。よろしいでしょうか。 ○山根委員 ほかにもアンケートなどから見ると,やはり連日で短期で終わってしまった方が,負担的には少ないという結果ではあるわけですよね。 ○井上座長 恐らく,個人差もあるのではないかと思いますね。 ○酒巻委員 私の知る限りのことで,既に行われているのは,今,栃木さんから説明があったように,公判前整理手続で大体期日回数が通じて3日とか4日ということが予定されると,3日ぐらいですと,例えば,月火水連続してですが,4日,5日ぐらいになると,裁判員の方のアンケートの中でも,感想が二つに分かれるんです。「一遍にやってよかった。」という人と,「間に休みが入ってよかった。」という人もいます。ですから,今おっしゃったように,例えば,土日を挟んで間に休みを入れるとか,土日でなくとも月火やって,水曜日は間をおいて木金やるとか,そういう工夫は各裁判所でやっておられると聞いております。それは井上座長がおっしゃったとおり,制度設計のとき「連日的」という表現をしたのは,まさにそういう工夫の余地も残すという考えがあったと承知しています。 ○井上座長 御参考までに申し上げると,去年,韓国に国民参与裁判の実情を調査に行ったのですが,韓国は試行している段階なので裁判所の裁量でそういう扱いが可能になっているのですけれども,審理の期間は2日までが限度で,それ以上は参加する国民が耐えられないだろうという想定に基づいてやっていて,3日以上かかりそうな事件は,対象から排除しています。その結果,ほとんどの事件は1日で終わるように設定されているのですが,その代わり,証人尋問などが長引いても,その日のうちにすべてを終わらせるため夜中までやる。結審すると直ぐ評議に移りますので,日付が変わり,午前2時とかに判決が下るということも時々あるとのことです。1日に集約した方が,何日かにわたるよりはいいだろうという想定なのですけれども,本当に国民がそういうふうに感じているのかどうかは分かりません。それと比べますと,我が国の場合,普通でも3〜4日かかっているわけですが,長過ぎるという感想を抱く人は今のところ余りないようですね。 ○前田委員 昨日,さいたま地裁で行われた裁判がありました。あの事件は実質審理日数35日間で,裁判員選任から判決言渡しまで100日間のようです。弁護人の話によりますと,3日連続で審理をすると1日空けて審理を進めたということです。理由は裁判員の方々の集中力とか体力の問題もございますが,裁判所は裁判所で,裁判員裁判以外の事件を抱えている,弁護人は弁護人で,ほかの事件を抱えている事情があり,休みなしに3週間も4週間もやると,ほかの業務が動かないので,週に何回かは開廷しない期日を設けて継続的に行うことになったようです。大阪で行われた放火事件でもトータルで60日間の事件がありましたが,これも同じような方法をとったと聞いています。 私は10日間の事件をやりましたが,その場合は,土日挟んだ10日間でしたので,実質審理日数はもっと短いものでした。 ○井上座長 確か大阪の放火殺人事件の裁判も,公判審理に充てられた日数は10日ぐらいでしたよね。 ○大久保委員 そのような長期の場合でも,裁判員の方は最初から最後までずっと同じメンバーの方がなさいますか。 ○前田委員 そのようですね。 ○井上座長 補充裁判員に替わるということは,統計的に見ると,それほど多くはないようです。 ○栃木委員 その点,ちょっと私の方から。統計は,103条公表というか,多分,3年間のまとめの数字が近々出ると思うんですけれども,中にはやっぱり裁判員の方に不都合が出てくる。やっぱり1人か2人ぐらいは出てくることがあるので,大体全体の平均をとると,補充裁判員は大体2人選んでいるのが通常だと思います。非常に長い事件になりますと,やっぱり不都合が出てくる可能性が高くなるので,6人とか,そういう多くの補充裁判員を選ぶことになるのが通常だと思います。 ○井上座長 今の論点でも結構ですし,ほかの論点でもけっこうですが。 ○大久保委員 是非論点として取り上げて議論していただきたいことが4点ほどございますので,よろしくお願いいたします。 まず,裁判員裁判の対象事件の被害者には,その裁判で被害者が必要とする情報を,その事件に応じて,適切に提供するような制度の在り方を検討してくださるようにお願いしたいと思います。その際,裁判制度等について情報提供できるだけという方では,やはり不十分だと思うんですね。裁判員裁判では,被害者は裁判員である一般の人の目にもさらされるということで,過大な精神的なストレスを感じます。また,検察官も,被告人も,弁護人も,裁判官も,裁判員の方の理解を得ようとして,例えばちょっと衝撃的な写真を見せたり,あるいは争いがなくても,今まででしたら,書類だけで終わっていることであっても,被害者が証言台に立つということが増えておりますので,なおストレスを感じるわけなんですね。そのために,被害者の心理面に対する理解があって,その被害者の心理状態を判断しながら情報提供できる,そういう人材の方が必要だと思います。被害者は精神的な衝撃がとても大きいものですから,感情とか感覚が麻ひしてしまいまして,自分自身が被害者になった,どこか,けがをしているという感覚さえ持つことができないんですね。それとともに,PTSDといいまして,心的外傷後ストレス障害といわれるような,様々な精神症状を持っておりますので,何かその場で聞かれても正常な判断ができるような状況にはありません。そのような被害者の心理状態を正しく理解した上で情報提供をして,被害者自身が適切に判断できるということがとても重要だと思います。そのようになれば,よりスムーズに審理も進むと思いますし,また,裁判員裁判も充実するのではないかと思います。そして,被害者の刑事司法への不信感も軽減されて,被害回復にもつながるのではないかと,そのように思います。 二つ目は,裁判員裁判では被害者担当弁護士を公費で付ける制度が必要だと思いますので,その点も議論してくださるようにお願いいたします。 今ほどもお話に出ていましたように,裁判員裁判は,短期間に公判日程が集中してしまいますので,法律の素人である,また,精神的にも大変な状況にある被害者だけで対応するということは,これはもう到底無理なことです。審理日程も限られますので,その中で被害者の意見を十分に聞く時間がなかなか取れないのではないでしょうか。このことにつきましては,前回,被害者団体からのヒアリングの中で,少年犯罪被害当事者の会の方からも,「時間を取っていただけなくて,特別に交渉をしてお願いをした。」というようなことをおっしゃっていたことからも分かると思いますので,なお法律の専門家のサポートが必要なんだと思います。サポートがありませんと,訳が分からないまま終わってしまい,後から自分は何もできなかったというような後悔ばかりが大きくなり,被害回復もなかなか難しくなってしまいます。 三つ目に,被害者と証人保護の在り方ですけれども,保護の徹底を図るための制度の在り方を更に検討して,議論をしていただけないでしょうか。刑事司法では,言葉だけではなくて,例えば,表情とか声とかも心証として考えるということを聞きましたけれども,この考え方そのものが被害者を証拠物として見ているということの象徴のような気がするんですね。その保護の対象は,性被害につきましてはよく議論されていますけれども,性被害に限ることなく,また,罪名で区切るということではなくて,被害者の個々の事情に応じて決めていただきたいと思います。 例えば,一例としては,証言のときに音声を変えるマイクの導入ですとか,ビデオの画面も工夫をして,その顔が分からないようにするなどというものがあると思います。証言をするとき,9人もの裁判官と裁判員から見られるプレッシャーはとても大きいですし,裁判員裁判では被害者や証人の負担が増しているように感じています。でも,一方では裁判員の方への気遣いはとてもきめ細かく,例えば休憩の時間の取り方,あるいは開廷日時への配慮も丁寧に行われて,その負担軽減のために保育へのサポートですとか,精神的なケアも行われています。でも,被害者や証人に対しましては,日程ですとか,精神状態,あるいは日常生活状況等について配慮されることはありませんので,裁判員裁判では,裁判員の方と同等のサービスを適用していただきたいと思います。 さらに,裁判員裁判は注目されがちであり,大きな法廷で行われるために,報道関係者や一般の傍聴人の数がとても多いので,被害者が安心して傍聴できる環境にはありません。裁判員裁判では,欧米先進国並みに傍聴する環境も整えていただけるような検討をお願いしたいと思います。 最後に,土屋委員の前でちょっと申し上げにくいんですけれども,メディアからの二次的被害を防止するための方策の検討も是非お願いしたいと思います。裁判員裁判であるが故に,マスコミに騒ぎ立てられたり,あるいは自宅にも取材関係者が押しかけて,被害者が不快に思ったり,苦痛に感じるということだけではなくて,近隣の方にもメディアによって迷惑をかけてしまいますので,その結果,その地域に住み続けるということが困難になりまして,引っ越しせざるを得なくなるような被害者の方たちもいます。そのため,被害者が安心をしてその地域に住み続けながら裁判員裁判に関わることができるような議論も是非併せてお願いしたいと思います。 以上でございます。 ○井上座長 大久保委員からそういう御意見ですが,いかがですか。 ○土屋委員 今の点なんですけれども,私を前にしてお話ししにくいということは全く気になさらないでください。というのは,私も個人的な体験として,親類の子供が殺されて,それこそ我々の同業者の人たちから集中取材を受けて困った経験が実際にあります。そういうことの事態の改善というのをずっと求めてきていて,もう20年ぐらい前から新聞協会では,集団的加熱取材とか,集中豪雨的取材とか言っていますけれども,そういうものについては,相手方の立場も考えて行動するようにという申合せを作っております。それでもなかなか事態としては改善されなくて,困ったことだというふうに私も中にいて随分思ったんですが,一応そういうガイドラインみたいなものは作ってはいるんです。けれども,そこからはみ出した行動というのはどうしてもあるということで,これについては,内部的にいろいろ議論をしたり,例えば,いろいろな社で研修などの機会に話をしたり,そういうことをしてやっておりますので,かつてよりはまだ改善されているんだろうとは思います。ただ,そういうことはどんどん言ってくださいというふうに,逆にお願いしたいと思います。 それで,裁判員裁判の評議と同じで,素人の人から発言が続いていますので,私も最後の素人になりますが,ちょっとお話ししたいと思うんですけれども,時々暇なときというか,時間があるときに東京地裁に裁判の傍聴に行くんですが,随分様子が変わっています。山根さんからさっきお話がありましたけれども,かつてでしたら,ずっとぶっ続けで審理をするような時間を,区分して区切りいいところで休憩を随時入れて,場合によったら30分,1時間足らずで休憩に入ってしまうという,こま切れで裁判員の負担を避けようとするような,そういう配慮を裁判所がしております。実質的な審理時間がどのくらいかということと絡む話とは思うんですけれども,現実的な負担感というのは時間の長さだけで図れない部分もありますから,そういう配慮がされていて,随分変わっているなという感じは受けております。 そういうことの中から,ちょっと感じていることをお話ししたいと思うんですけれども,様変わりしたというのはそうなんです。けれども,いろいろ気になることがやっぱりいっぱいあります。それぞれが法改正が必要な話なのかというと,必ずしもそうではなくて,関係者が努力すれば改善できるだろうというような話もいっぱいあると思うんですね。前回もちょっと触れたような,例えば,被告人と事件関係者が顔を合わせないような,そういう構造的な問題,庁舎の構造みたいなものを変えるとか,そういう配慮をしていく必要があるのではないかというようなことも言いました。けれども,そういった部分というのは別に法改正が必要な話でもないし,それを捉えて事態の改善をしていただければいいと思うんです。 裁判員制度の絡みで言うと,裁判員制度自体の仕組みを,どういじっても仕方がないといいましょうか,変えようがない刑事司法全体の骨格をなしている仕組みがあって,それは法制審議会の方で議論しておりますから,そこの辺りまで踏み込んでしまうと,際限のない話になってしまうだろうという気がしますから,ちょっと話としては難しいのですが,ただ,裁判員制度に関係する範囲で留意しておきたい,あるいはこの検討会で専門家の方たちの意見をお聞きしておきたいというようなことがありますので,まとめて挙げてみたいと思います。 まず,一種の準備手続ですけれども,公判前整理手続については,三つほど感じていることがあります。一つは,検察側,弁護側とも証拠申請の量が増えているけれども,これをもっと絞るべきなのではないかというふうに思います。よくベストエビデンスと言いますけれども,一番いい証拠で立証できるならば,それで足りるわけなので,そういう証拠の吟味を徹底して,裁判員の負担を軽くすることに意を用いていただけたらというふうに思うんですね。それが一つです。 2点目は,今お話しした刑事司法全体を通じた問題なんですけれども,証拠の開示です。これをもっと進めたいということです。公判前整理のキーポイントになるのはやはり証拠開示だと思いますので,その点,今回の刑事訴訟法の改正でもって,争点関連証拠だとか,そういう請求の仕方が新しく導入されて,それによって,今までだったら出なかったような証拠が随分,当事者の元に出ているということを聞いておりますけれども,それで足りるのかどうかということですね。まだ後になって,こういう証拠もあったんだというようなことで出てくることがありますから,そういう事態がないように,全体を目配りして,適切な判断ができるような,そういう構造にしておかないといけないのではないかというふうに思います。それが2点目です。 それに関連するんですけれども,争点の明確化というのにもっと意を用いてほしいと言うのでしょうか,傍聴していてよく感じるのは,どこを実質的な争点として争っているんだろうか,というのが見えないときが結構あるんです。これはまた証拠調べなどを聞いていて気になる部分でありまして,訴訟の仕方としては,効果的にやっていくために,あえて狭く絞り込んだような争点にせずにやった方が得策だというようないろいろな方針もあろうかと思うし,それがまた結果的に成功した例というのもきっとあるんだろうと思うんですけれども,ただ,それでいいのかなということですね。国民参加を求めて裁判をやるときにはやはり,「あなたたちに判断してもらいたいのはこのことです。」というふうに,明確に輪郭がきちっと分かるような形で提示するようにしてもらわないと,裁判員は当惑するだろうということを,まだ感じるときがあります。それが三つ目です。 審理についてもやはり三つぐらい感じることがあります。一つ目は,見て聴いて分かる審理ということを最高裁などは言っていらっしゃいますし,また,そういう審理が必要だと思うんですけれども,それをもっと徹底してほしいという感じを持ちます。それが法廷で取り調べた証拠によって,犯罪事実の有無を判断していくという,そのことをもっと重視して,公判中心の審理を徹底させるということがまだ足りないような気もするんですね。証人調べをもっと重視すべきだと私は時々感じます。 例えば,これは必ずしも悪いとは言えないし,事件独特の性格も関係してくると思うんですが,検察官の取調べ調書の朗読が最近は長時間にわたる例もあります。ほとんど1日が朗読で終わってしまって,恐らく一般市民の人が何も話もせずに一日中人がしゃべるのを身動きせずに聞いているなんていう体験は恐らくないと思うんですね。耐え切れないと思うんですけれども,そういうような審理もあるように聞いています。これはちょっと,国民生活の実態と離れているから,そういうことが起きないように,やっぱり書面審理から距離を置いて,証人調べに徹底するという方向性をもっと徹底していただきたいということを感じます。 二つ目は証拠申請の量が増えているように感じます。検察側,弁護側ともです。これは刑事裁判特有の性格があろうとは思うんですけれども,やっぱり証拠の絞り込みということをもっと考えていただきたいということですね。 三つ目は鑑定の問題です。素人にも分かりやすいように,鑑定内容が理解できる工夫をもっと望みたいということです。 それから,大きなお話として2点目は,いたずらな長期化の回避です。ちょっと先ほどの事務局の方の説明に出ていたデータから見ても,少なくとも複雑な事件で長期化する傾向というのが,傾向というより兆しと言ったらいいのか,そういうものがあるように感じるんですね。先ほど前田委員からさいたま地裁の裁判の例がありましたけれども,これよりもっと長い裁判というのがあるんですよね。60日ぐらいかかっている裁判。実質的にはどのくらいの日数なのか分からないですけれども,結構長い裁判があって,長いから悪いと単純には言えない話なんですけれども,仕方がない場合もあるんですが,時にはそれほど争いがないのではないかと思うケースでも,割と時間を取って,裁判が行われている事例もあるようです。国民が参加するに当たって,やっぱり審理時間だとか,拘束される期間だとかいうものに対しては非常に敏感ですので,その辺りはちょっと留意していただきたいと思うところです。工夫によって乗り越えられる部分が結構あるのではないかと思うんですけれども,そんな感じです。 それから,もう一つ,3点目は,性犯罪が典型ですけれども,事件の性格によって審理方法の工夫をもっと考えてほしいということです。大久保さんがおっしゃったような,例えば,性犯罪の証人調べの場合なんかでも,今の法廷で傍聴していると,ちょっと耳を覆いたくなるような場合もありますから,これはかつてほど,ひどくはなくなってきていて,事態は改善されているとは思うんですけれども,それでもまだもっと配慮をいろいろしなければいけないのではないかと思ったりします。例えば,証人調べについては,別室で行って,その間,法廷には音声だけが流れるとか,いろいろなやり方があろうかと思うんですよね。証言の内容にもよると思いますけれども。そういうものを考えながら,審理の仕方に工夫をしていくということが,もっとあってもいいのかなと思ったりもしています。 それから,次は評議だとか評決の話なんですけれども,評議については,やはり裁判官がいろいろ気を遣って,素人の裁判員の方から意見を述べて,まとめる方向に努力されているというのはよく分かります。そういう意味で,評議で強い不満があるというようなことは,私が記者会見に先月も出たりしていますけれども,そういう席では余り聞かれませんね。ですから,評議の問題として,例えば,かつて心配されたような,裁判官の強烈な誘導があるのではないかとか,そういうようなことは避けるべきだというような意見だとかいろいろありましたけれども,その点もやはり工夫がされていて,うまく皆さん納得して,結論に至っているケースが多いのかなというふうに思います。ただし,時にはこれはやっぱりスプリット・デシジョンではないけれども,反対意見も結構あったようだなと思わせる,そういう会見内容になっていることもありまして,簡単に言うことはできないとは思うんですが,運用上の評議のまとめ方の工夫みたいなものというのは,やっぱりこれまで以上に気を遣ってやっていただきたいというふうに感じるところです。 それから,これは評決の仕方だとか,いろんな意見が今は聞こえてきます。例えば,死刑判決するときには全員一致にすべきであるとか,皆さん,いろんなお考えがあろうとは思うんです。けれども,私は制度的に現在の多数決という制度を変更する必要はないのかなと思って見ていますが,議論としては,この検討会でもやはりすべきテーマなんだろうと思っています。 それから,もう一つ,これが最後ですけれども,裁判員が加わって下した結論に対しての控訴の問題ですね。先日,2月に最高裁判所でもって判決がありまして,基本的に裁判員裁判の結果を尊重すべきであるという内容でしたけれども,この方向というのを現場でもっと徹底していただきたいというふうに私は思います。せっかく苦労して出した結論が,よほど見当違いの的外れの内容だというなら別ですけれども,それを控訴審の裁判官だけで簡単にひっくり返してしまうことに対しては,私は非常に違和感を覚えていますので,最高裁が示したその内容が,これからもっと徹底されていくようにしてほしいというふうに思っています。 以上です。 ○井上座長 ありがとうございました。1点,長期事件ですが,現時点までで,裁判員の選任から判決までの日数(裁判員の職務従事日数)の最長は,前田委員が言及された,さいたま地裁のいわゆる首都圏連続不審死事件の100日でして,その次が大阪地裁のいわゆるパチンコ店放火殺人事件の60日,次が広島地裁のいわゆるマツダ暴走事件の45日だったと思います。60日の方が長いというのではありません。 ○土屋委員 ではないんですかね。 ○前田委員 始まってから終わるまでの日数が,さいたま地裁の事件が100日。その次が60日ですね。 ○土屋委員 そうですね。確かありましたですね。 ○前田委員 ただし,実審理日数ではないです。 ○井上座長 さいたま地裁の事例では公判期日は確か判決宣告期日を含めて36回,大阪地裁の事例でも15回だったと思います。 ○酒巻委員 まとめて意見を言う前提として,まず,先ほどの土屋さんの御意見に関連して私の論点整理に関する考えを申します。おっしゃったことのほとんどは,いわゆる運用や法解釈,現在ある法律の運用の改善等に関わる事柄だったと思います。それで,この検討会は基本的にはこれまで動いてきた裁判員制度そのものについて,法改正によって,何か補正変更すべき事柄があるかどうかを検討するのが基本的な枠組み,仕事であろうと私は認識しています。その上で申しますと,まず,この裁判員制度自体を,残間さんがかつておっしゃったかと思いますが,やめてしまうかどうかということも検討の対象にはなる。見直す。全部を見直しする。見直しの中には,これはそもそもよかったのか,悪かったのか,やめるという事も検討の対象にはなると思います。まず,この点につきまして,私はこの制度は基本的な設計思想,基本的な構造について,やめるどころか導入して大変よかったと思っておりますので,その点をまずは申し上げておきたいと思います。 その上で今日のテーマである公判前整理手続,審理,評議の部分について,これは前にまとめて申し上げたとおり,法制度として重大な変更を加えるべき点はないと思っています。対象事件とか,またその辺は別ですけれども,現在はそう思っています。先ほど土屋さんがおっしゃった多くの事柄はほとんど全て運用面の事柄だろうと思います。 しかし,その中で2点,特に意見を申します。一つは土屋さんは,公判前整理手続と証拠開示の問題に触れられました。証拠開示については,法改正に関わることをおっしゃったのではないかと思います。確かに裁判員制度は法律上,必ず公判前整理手続,そして,それに組み込まれている証拠開示制度を必要的に作動させるということになっております。しかし,公判前整理手続と証拠開示というシステムは,裁判員制度に限ったものではなく,刑事裁判手続,日本の刑事司法手続全体の基本的骨格に関わる非常に重要な法制部分でありますから,この点について立法的な問題を検討するのは,裁判員制度の検討を行うこの検討会の領分ではないと思います。 もう1点,これは今日提出された前田委員のペーパーにも1番として書いてあることですけれども,これについても私の意見は同じで,これはここで検討すべき事柄ではないだろうと思います。 それから,もう1点,先ほど土屋さんは評決の仕方についてもおっしゃいましたが,これも裁判員裁判であるかどうかにかかわらず,裁判体・合議体で刑事裁判の判決を行う場合の決定方法というのは,やはり刑事司法についての最も根源的な一つの重要な制度問題であり,これについては,裁判員裁判であろうが,そうでなかろうが,刑事裁判についてのこれまでの基本的なやり方を変えるのか,変えないのかという,そういう話になります。それは死刑判決であろうが,他の有罪判決であろうが,無罪判決であろうが,同じことですから,これもやはり刑事司法全体に関わることとして,ここで取り上げる事柄とはちょっと違うのではないかと考えます。要するにまとめますと,まず裁判員制度それ自体について,全面的に見直す必要はないと思っております。さらに,今日のテーマである公判前整理手続,審理,評議についても,基本的な構造について,法改正を必要とする点はないだろうというのが私の意見です。 ○井上座長 ちょっとコメントしますと,法改正の点については,現在並行して進行中の法制審の新時代の刑事司法制度特別部会で,今論点整理が行われているところですけれども,それに先立つ検察の在り方検討会議での提言の中でも,証拠開示の点なども含めて幅広く検討するべきだというふうになっており,また既に弁護士会などからはそういう意見書も出ていますので,それも一つの論点になっていくだろうと思われます。 あと,土屋さんがさっき証拠開示について,新しいこの制度で前に出てこなかった証拠がかなり出てきたんだけれども,出ていなかった証拠が後で出てくる例もあるとおっしゃったのですけれども,その例というのは,新しく制度になってからのものなのか,それとも,この制度ができる前の事件なのか,その辺も注意深く見ていく必要があり,その辺も含めて,特別部会の方で論点とされれば,突っ込んで議論がなされるのではないかと思います。 また,評決方法については,この裁判員制度の具体的設計を議論する過程でもいろいろな意見が出,検討がされたのですけれども,死刑事件における評決方法というのは議論の性質が異なるところがあるのです。死刑については,その特別の重大性から,それ以外の場合より評決方法を厳しくすべきだという意見が出されたのですが,しかし,それは,裁判員制度だから,これまでの職業裁判官のみによる裁判の場合と異なった評決方法にすべきかどうかという問題なのではなく,むしろ死刑というものそれ自体について,それを選択する際の決定をどういう手続で行うのが適切なのかという問題であり,むしろ死刑制度についての議論の中で考えていくべき事柄ではないかという整理をしたのです。 ○前田委員 酒巻委員が私のペーパーに触れられましたので,お話しいたしますと,確かにここで議論すべきことか,あるいは法制審議会で議論をすべきことか,切り分けは必要だとは思いますが,酒巻委員と私の意見が違うのは,この検討会は3年間の裁判員裁判における検証をする場ですから,それについては,この場できちっと議論をしておく必要はあるのではないかということです。その結末として,証拠開示の制度設計について,どの場で議論するかは別ですが,問題点がどこにあるのかをここで議論をしておく必要はあると思います。そこで,私は日弁連推薦の委員でございますので,日弁連が何を議論したのかを説明致します。 日弁連が裁判員裁判の検証についての議論を始めたときには,法制審議会特別部会は存在しなかったので,我々は,この検討会で議論をされる前提で議論を進めてまいりました。今日の審議事項である審理や公判前整理手続,評議・評決につきましては,四つの事項につき検討しました。評議・評決につきましては,井上座長がご指摘の,検証を踏まえてという観点からはやや離れるところはありますが,そのほかの配布資料記載の三つにつきましては,弁護人の立場で関わってきた者の検証の結果として意見を整理をしています。 一つが公判前整理手続における証拠開示の問題です。 先ほど事務当局の説明にもありましたが,公判前整理手続がやや長期化する傾向があります。要因についてはいろいろ評価がありますが,その一つに証拠開示手続が遅延しているという指摘が出されており,これは弁護人の実感でもあります。その理由は検察官の対応の問題とか,弁護人が手続に不慣れであるとか,あるいは弁護人の証拠請求自体が遅れているなどの意見があって,正確に分析はできておりませんが,証拠開示手続が相当長期化しているというところに,公判前整理手続全体の長期化の要因があると考えております。 そこで,今の制度の下で,検察官が開示請求を受けた証拠について「存在しない。」といったん回答をしたけれども,その後に,開示請求した証拠が存在することが分かった事例が幾つか報告されていますが,現行規定ではそのようなことが起こりうる。私自身も2回経験をしていて,そのために改めて期日間整理手続を入れたケースがあります。類型証拠開示請求,主張関連証拠開示請求という2段階の証拠開示請求制度には,それなりに意味があり,証拠開示請求の制度が全くなかったときに比べると,格段に証拠開示の範囲が広がったという意味で,弁護人の立場から,現行制度を評価はしていますが,なお,存在・不存在の問題が生じて一部混乱が生じている事例もあることは事実です。そうすると,最初に検察官の手持ちの証拠の一覧表を弁護人の側にも開示することが必要ではないか。現行法にも裁定請求の段階で,裁判所に検察官が提示するシステムがありますが,それを前倒しで,弁護人の証拠開示請求の前の段階で出すことはどうか,という議論を進めております。最終的な意見がまだ出ておりませんが,その方向で議論をしています。 もう一つは,今の規定の下でも,裁判長が裁判員に対して,その選任直後に刑事裁判は証拠によること,誰に立証責任があるかということ,有罪とするにはどのような証明の程度が必要かということを説明しておられます。私の立ち会った経験によれば,裁判長によって説明の仕方は違いますが,いろいろ工夫をされて,説明をしておられる。その内容自体に私が文句をつける筋合いはありません。しかし,裁判員の方の裁判終了後の記者会見などによりますと,裁判長の説明が裁判員に選任された直後に行われますから,皆さん方が緊張しておられて,裁判長の説明の意味がよく理解できなかったと感想を述べた方もおられたようです。裁判官にお聞きすると,「評議の場面でも何遍も繰り返し説明している。裁判員法39条と規則に規定しているが,それにこだわらず実際には何回もやっているから,裁判員には分かってもらっています。」という答えが返ってきます。そのとおりだろうとは思いますが,当事者の立場からすると,本当に裁判員の方が刑事裁判のルールを理解され,その上で評議をしておられるのか見えてきません。そこで,それを見える形にするためには,裁判が始まる段階,つまり,冒頭手続が終了した後証拠調べが始まる前に公開の法廷で裁判長が説明するのも一つの方法ではないか。あるいは,被告人の最終意見陳述が終わった後に,改めて裁判長が刑事裁判のルールを説明することもあるのではないかと。このように裁判長による裁判員に対する刑事裁判のルールに関する説明の方法と場所について検討を進めています。 それから,もう一つは,被害者の参加とも関連をする事項ですが,事実認定に関する審理と量刑に関わる審理とは,区分するということが必要なのではないかという意見が,特に被害者参加の下で行われる裁判員裁判を経験した弁護人から相当多数出てきています。被害者参加による事実認定への影響はなかなか数字的に示せませんし,実感みたいなものですから,主観的な色彩が強い側面があることは私自身も認めますし,大久保さんの被害者の立場の方からすると,また全く違う意見があるということも承知はしております。ただ,少なくとも,罪体の審理に,被害者の在廷,被害者の方の質問,あるいは被害者の方の意見陳述などが影響しないかという懸念がないわけではない。そうすると,罪体審理と量刑審理を切り分けて手続二分をやったらどうか。事実認定の審理が行われる間は,被害者の参加の方はできない形で制限するというのも方法としてあるのではないだろうか,そういう議論をしているところです。 さらに評決・評議の要件につきましては,先ほど出ていましたが,有罪の要件についても,検討したらいいのではないか,量刑として死刑を選択する場合にどうだろうかということを検討しています。井上座長がおっしゃったとおり,死刑判決に限らず裁判体における判断は刑事司法全体に関連しますので,裁判員法自体をいじっただけで解決する問題ではないことは承知していますが,裁判員法の枠組みの中で解決できることはないだろうかという議論をしているところです。 いずれにしても,日弁連で意見がまとまりましたら改めて説明をさせていただきたいと思っております。 ○井上座長 前田委員からの配布資料の1番目のところの公判前整理手続ですが,確かに裁判員裁判の場合には必要的な手続なのですけれども,さっき酒巻さんが言われたように,刑事事件一般に適用可能なものですよね。今言われた検証というのがどちらの意味なのか。証拠開示が遅れているので公判前整理手続も長期化していると言われたのですが,それは裁判員裁判対象事件に特有のことなのか,それとも一般の事件についてもそうなのかですね。後者だとすると,刑事手続一般についての検討課題と位置づけるべきではないかというように思うのですが。 ○前田委員 これはもちろん私の実感だけで,栃木さんの方が詳しいかもしれません。裁判員裁判が実施される前は,裁判員裁判対象外の事件についても公判前整理手続が積極的に行われたというか,裁判員裁判に備えてのトレーニングという意味で積極的でした。しかし,実際に裁判員裁判が始まりますと,それ以外の事件についての公判前整理手続の回数が減ったという実感が我々にはあります。ですから,検証の対象として圧倒的に多いのは,裁判員裁判の対象事件ではないだろうかという認識です。それ以外もたくさんあるとは思いますが,まず対象とすべきは裁判員裁判ではないかという前提です。もちろん,全体をひっくるめて議論しなければいけないというのは,承知はしておりますが,取りあえず裁判員裁判で検証の対象にしていいだろうという考えです。 ○井上座長 その切り分け方がまだはっきり分からないのですけれども,検察の在り方検討会議のときにも議論があり,裁判員裁判対象事件以外の事件で公判前整理手続が開かれることがどれだけあるかですが,なかなか開かれないというのが実態なのですか。 ○前田委員 私の単なる感覚的なものですから,減っていないかもしれません。 ○井上座長 検察の在り方検討会議の方で,証拠開示が問題になったときに,公判前整理手続が開かれないと,新たな証拠開示の手続に乗らないので,問題があるという指摘をされた方もおられましたけれども,これが実態としてそうなのかどうかというところまでまだ確認できなかったものですから,お尋ねした次第です。 それと,手続二分の点なのですが,手続を二分して,中間で有罪・無罪の評決をするということをお考えなのか,それとも,中間評決をしないけれども,審理を2段階に分けるというお考えなのか,どちらですか。 ○前田委員 制度設計はいろいろありますが,中間判決をすることを検討しています。 ○酒巻委員 付随的に質問ですけれども,今,弁護士会としておっしゃった前田委員の配布資料の3番目の手続二分も,私の頭の整理では,裁判員裁判とは関係ないですね。やはりこれは刑事司法,刑事訴訟手続全体の罪責認定手続と量刑手続を分解するかどうかという問題であり,そうすると,酒巻理論によれば,この検討会で検討すべき事柄とは関係ないのではないかという気もしますが,いかがでしょうか。 ○前田委員 刑事手続全体の問題であることを前提に我々も議論はしておりますが,取りあえず裁判員裁判に顕著に現れているのではないかということです。 ○酒巻委員 それは裁判員の方が職業裁判官と違って,事実の認定について,適切でない影響を受けやすいということを前提にされるということですか。 ○前田委員 そういうことです。職業裁判官よりは影響を受けやすいのではないかという前提です。その前提が正しいかどうかの議論はあるかもしれませんが。 ○井上座長 特別部会の方でも手続二分を論点にすべきだという意見が出ています。 ○前田委員 ええ。ですから,切り分けの問題があることは分かっています。ただ,先ほど申し上げましたけれども,我々の議論は特別部会の存在がないときから議論を始めており,ここで議論されることを前提にしておりました。 ○井上座長 現時点では,既に特別部会が設けられていますので,それを前提に再度整理し直していただければと思うのですが。 ○大久保委員 今までのこの議論の中で,皆さん,この場というのは刑事手続全般に関わるものではなくて,裁判員制度そのものの検討会だということをおっしゃいまして,それは皆さん共通の認識だと思いまして,私も先ほど発言させていただきましたのは,裁判員裁判だからこそ,先ほどお願いしました四つの項目を論点に挙げてくださいということをお願いしましたが,そこら辺が,どなたも何もおっしゃってくださらないものですから,私としましては,見当違いの発言をしたのではないかということを先ほどから大変気にしておりますが,大丈夫でしょうか。 ○井上座長 それは賢明な御判断だと思いますね。 ○土屋委員 ちょっと前田委員に伺いたいと思ったんですけれども,手続二分の話なんですけれども,一部の裁判所でやっていらっしゃったんですよね。 ○井上座長 一つの裁判所において一つの事件で行った例があるということだと思います。 ○前田委員 大阪で行われました。 ○土屋委員 それはどういう形ですか。 ○前田委員 いや,私は余り詳しく知らないです。 ○井上座長 あれは運用として行われたもので,審理の段階を2段階に分けたけれども,中間評決を行い,それを公にしたということではなかったように記憶していますが。 ○栃木委員 大久保委員から被害者の関係でいろいろ御提案があったので,その関係で,ちょっと被害者保護の現状について,ちょっと御理解いただいた方が多分議論しやすいのではないかと思いますので,ちょっと現状について,私が理解している範囲内でここでお話ししたいと思います。被害者の方が特に性犯罪の被害者等について,PTSDを負った被害者の方がいたりとか,証言をすることによって二次被害を受けるとかといった問題があるのは,多分,法曹三者全員が当然認識していることだとは思います。それで,自白事件の場合,やはり二次被害等の問題がありますので,無理やり被害者に証言台に立ってもらうということは,多分多くの裁判所ではしていないのではないかと思います。ただ,否認事件の場合は,それはどうしても被害者の方に証言してもらわなければならないという状況でありまして,その場合も被害者保護の観点から,既にもう制度化していることではあるのですけれども,付添人が付くことが可能となったり,遮蔽をしたりとか,あとは別室でビデオリンク方式で証言を得るという方向で,証人の保護を図っているという状況です。 また,傍聴の関係なんですけれども,被害者の方が被害者参加制度で被害者参加人となれば,裁判所の方から期日の通知等が行って,そこでいろいろ傍聴についての配慮等の申出があれば,裁判所の方でも当然その配慮をすることになっております。多くの場合は,検察官が被害者の方とコンタクトを取って,そこで希望を聞いて,被害者の方の配慮をしているのが実情です。どのような配慮をしているかということになるんですが,被害者の方が傍聴したいというときには,特別傍聴席というものを用意して,被害者の傍聴ができるように,席の関係はありますけれども,通常,被害者の数はそんなに多くないですから,必ず確保しているようにはいたしておりますし,傍聴席で一般の方からの視線がどうしても気になるという場合には遮蔽ということで,周りの方から見えないような措置も採っております。また,どうしても一般の方と接触する可能性が高いという場合には,一般の方とは区別した動線を確保するために,別の控室に来ていただいて,別の通路から被害者を席までお送りするというふうなこともしておりまして,そういう限度での被害者の配慮というのはなされているのが一般だと思います。前回のヒアリングの際にいろいろ話があったので,多分そういうことがあったのかもしれないんですけれども,一般的にはそういう形をとって,基本的には被害者の方が検察官と一応コンタクトを取っていただいて,そこから希望を裁判所に言っていただいて,そのような,先ほど言いましたような配慮をするという状況になっているというのが現状だと思います。 以上でございます。 ○大久保委員 どうもありがとうございました。確かに数年前から比べましても被害者保護という観点から様々な形での保護がされていることは十分承知しておりますし,大変感謝もしているところです。でも,先ほど私が発言させていただきましたのは,それでもまだまだ落ちている部分がありまして,足りませんし,さらに裁判員裁判の場合は,裁判員の方たちからもたくさん見られて大変な状況になるので,なお,もっとしっかりとした保護の在り方の検討をこの場でしていただきたいという意味での発言をさせていただきました。 ○四宮委員 意見を申し上げる前に質問なんですけれども,この検討会は酒巻理論で貫かれることになるんですか。酒巻委員の御意見だと,まず一つは刑事システム全体に関わるものは議論すべきではないと。2番目に,立法手当を必要としない運用で解決するものは議論すべきではないというふうに承りましたが。 ○井上座長 2番目の点で,酒巻委員がそこまで言われたかどうか,本来的には,制度に関わることを中心に検討すべきだという趣旨だと思うのですが。 ○四宮委員 私は酒巻委員の基本的な御認識とは共通なんです。つまり,この制度は作ってよかったと,施行後,運用を見ていても,大変にうまくいっていると思っていますし,これは常々申し上げていることですけれども,関係者の努力も大きなものがあると思っています。 ただ,あの法律が施行3年後に,法律の言葉そのものではありませんけれども,この制度がこの刑事司法の基盤として,よりよいものになっていくように政府は議論すべきであるということを言っているのは,当時の議論ももちろん尊重すべきですけれども,その議論に基づいて作られた仕組みが,その後の3年の検証を経て,どのようになってきているかを見て,そして,よりよくなるものであれば,その議論をしていくべきだと私は思っています。その基本的な立場から,こういう点もここで議論したらどうかという点について申し上げたいと思います。 今日のテーマである審理,公判前整理手続,それから評決という点についての課題というものは,次のようなものも挙げたらどうかと思います。一つは先ほどから議論がされている,公判前整理手続との関係で言えば証拠開示ですけれども,これはおっしゃるとおり,公判前整理手続という仕組みの中の一つの仕組みですから,裁判員裁判以外でも,私自身も経験したのが裁判員裁判でない事件での公判前整理手続でしたけれども,しかし,やはりこれは裁判員制度を前提に,大きく意識をして作られたものだと思います。それで,裁判員との関係で言うと,やはり分かりやすい公判審理というものを考えると,やはり充実した公判審理を継続的,計画的かつ迅速に行うことと,そして,それが分かりやすくなることという点で見ると,証拠開示をやはり一歩進めたほうが,そういう公判審理になるのではないかと思います。 これは先ほど,後から出てきた,開示されずにいたものがあるのは,新制度かどうかというお尋ねがありましたけれども,これもここで私が,以前に御紹介しましたけれども,裁判員裁判で行われた鹿児島地裁の死刑求刑事件では,その判決文の中に,検察官に対して被告人に有利な証拠の開示を促す指摘をする姿勢,読み様によっては,検察官の姿勢を批判する認定が行われています。 ですから,この証拠開示制度は,私も使ってみて,今までと比べものにならないほど開示が進んだということは,弁護士の大体の共通の認識ではありますけれども,より公平あるいは公正な公判審理に資するために,私も日弁連と別に打合せをしているわけではありませんけれども,その証拠リストの開示がいいとは思っています。しかし,それでないとしても,例えば,開示すべき類型証拠の類型の中に,その鹿児島地裁の判決が言っている,被告人に有利と思慮される証拠を加えるというようなことなどを,つまり土屋委員のおっしゃる開示を一歩進めるということを議論していったらどうかと思います。 それから,あと分かりやすい審理と評議との関係で言えば,先ほどの手続二分も私は,裁判員裁判の関係でもやはり議論すべきだと思います。これは何も日弁連だけが言っているのではなくて,裁判官でいらした原田國男元東京高裁判事や,大阪地裁の杉田判事なども,裁判員裁判を意識した上での手続二分ということを提案,そして実施をしておられるわけです。その意味で,やはりここで,これは法改正を必要とすると思いますけれども,議論したらどうかと思います。また,裁判員の意見などを見ていても,取調べの関係も出てきていますので,分かりやすい審理を行うという意味では,実は取調べの可視化の問題も,ここに関係するのではないかと個人としては思っております。 それから,あとは立法との関係で言うと評決ですけれども,私は死刑事件については,評決要件を特別にする。私の個人の意見は全員一致にしたらどうかと思いますけれども,そのように死刑事件の評決要件についても議論したらどうかと思います。これは実は評決がどのように行われているかというのは,これは守秘義務の範囲内ですので,出てきていないわけですけれども,しかし,幾つかのティップはあるように思います。 一つはというか,一つだけですけれども,千葉地裁で昨年の6月30日に出た死刑判決について,新聞報道によると裁判員が,これは守秘義務との関係が出てくるかもしれませんけれども,本当にこれでよかったのか,まだ疑問を持っているという感想が持たれ,述べられている。このようなことは,実は裁判員だからというよりは,やはり死刑判決だからという気がします。というのは,例の袴田事件の第一審の判決,これも当時の主任裁判官が発言をされましたけれども,いずれにしても,やはり死刑というものの重みからその判断の慎重化というものを考えていく必要がある。これはですから,死刑制度の問題ではあるわけですけれども,しかし,今,新しい制度では死刑事件は,すべからく裁判員裁判になるわけですので,そのことを議論したらどうかと。また同時に,政治の方でも超党派の死刑廃止を推進する議員連盟が法務省内の勉強会でもヒアリングを受けたと。具体的に同じような提案があったと聞いておりますし,それも公開をされております。 あとは,特に裁判員の方々の感想を読んでのことですが,これは運用での,ですから,これは酒巻理論では議論の対象にならないかもしれません。一つの感想をこの機会ですので,申し上げたいと思うんです。一つは,裁判所が大変いろいろと努力していらっしゃるということはよく分かります。そして,ただ同時に,裁判所の裁判官の議論のファシリテーターという役割が,まだこれからよりよくなっていく余地がまだあるように思います。例えば,さっきも議論になりました検察官と弁護人の役割ですとか,刑事裁判というのはどういうものなのかとか,あるいは,法廷で異議が出たり,調書が却下されたりする,そのときに何が起こっているのかが分からないとか。 ○井上座長 ファシリテーターというのは,議論を円滑に分かりやすくする役目の人という意味ですね。 ○四宮委員 そうです。議論の調整役と申しますか,そんな役割ですね。裁判所の中でそのようなトレーニングが行われているかどうか分かりませんけれども,これはトレーニングをやることで,かなり向上することが知られていますので,そういうこともやってみたらどうかということが一つ。 それから,裁判員経験者の感想には,日程と申しますか,スケジュールに対して,結構私がびっくりするぐらい御不満が出ていました。先に日程在りきではないかとか,全体のスケジュールが短いとか,もっと時間が欲しかった,これは審理にも評議にも両方出ておりましたので,このスケジューリングというのは,スケジュールはもっとフレキシブルに定め,そして運用していかれたらどうかなと思っています。 あとは,ただ,多くは先ほどのいつも御紹介いただいているように,大変に経験に満足しておられる方が多いわけで,例えば,判決書などについても,自分たちの意見が盛り込まれたということで,非常に達成感を得たというような御意見もあります。その意味でも,全体的には大変にいいスタートを切っていると私は思います。しかし,今後よりよいものにするために,以上のような点についても御議論いただけたらと思います。 ○井上座長 酒巻理論が二つあると言われたんですけれども,1番目のところは酒巻委員独自のお考えというのではなくて,本検討会の使命に関わることで,やはり裁判員制度に焦点がある。法制審特別部会の方でも,裁判員裁判が行われている状況ですので,裁判員裁判絡みの話が結構出るのですが,刑事司法全体についての見直しにおいても,当然,裁判員裁判にも適用されることを視野に入れていろいろな制度や手続を考えなければならないのですけれども,ただ,裁判員裁判に特有の問題はこちらの検討会の守備範囲だろうという趣旨の意見を私などは申しました。逆に裁判員裁判にも適用されるので,そのことは十分視野に入れて議論する必要があるとしても,裁判員裁判対象事件以外の事件をも含め刑事手続全体に通じる事柄は,主として刑事司法特別部会で検討すべきものだろうと考えています。そこの切り分けをうまくやっていかないと,議論が非常に錯そうしてしまいます。だぶってよいというお考えもあるかもしれませんが,この検討会ではやはり,特に裁判員制度に関係して問題になる点に重点を置いて議論すべきだと思うのです。 例えば,最初に言及された証拠開示なども,前提がちょっと違って,あれは裁判員裁判のみに限らず,刑事裁判一般の公判審理を充実し,迅速なものにするために公判前整理手続の一環として整理するいうことで検討し,採り入れられたものですので,そういった位置づけを念頭に置いて問題を整理する必要がある。むろん,裁判員裁判対象事件に必ず適用されますので,そのことは十分視野に置いて議論しなければいけないのですけれども,やはり裁判員裁判特有の事柄とでは議論の仕方が違ってくるのではないでしょうか。これも裁判員裁判に関連する,あれも関連すると言い出したら,ほとんどすべて関連するわけですけれども,そういうふうに議論を拡散してしまうのは適切ではなく,本検討会の使命というものにはやはり限定があるのではないかというのが,私の捉え方です。そうしないと,肝心の裁判員制度について集約した議論をすることが難しくなってしまうように思うのです。 ○四宮委員 よく分かります。しかし,それらの問題が重要であるからこそ裁判員制度に大きな影響があるわけですね。それで,もちろん法制審の特別部会で議論していただくことは大変重要なことですし,私もそちらの議論をいつも期待しているわけですけれども,そうであれば,さっき座長がおっしゃったように,特別部会の議論が裁判員にも影響する,恐らくそうですね。だとすれば,そういう問題については,非常に根源的な問題については,あるということを・・・。 ○井上座長 刑事手続の主要な部分は当然,裁判員裁判対象事件にも適用されるので,そういう言い方をすれば全部関連してくるのですよ。 ○四宮委員 ですから,さっき座長もおっしゃったように,分かりやすい審理と,裁判員にとっても分かりやすい審理という点で重要だと思われるものについては意思疎通を会議相互間でも図ってほしいというふうに思いますけれども。 ○井上座長 それは分かりましたけれども,論点整理の方向としては,やはり焦点というものを意識して絞っていかざるを得ないということを申し上げたわけなんですね。 ○酒巻委員 度々しゃべって恐縮ですが,制度の設計,法改正に絡むこととして,1点言い忘れましたので発言します。どう公判前整理手続を行っても,極めて長期の審理が見込まれる,いわゆる複雑困難事件,これは対象事件の話なのかもしれませんが,むしろ審理に関わりますので,一応論点として申し上げておきますけれども,現在の制度では,例えば,1人の被告人がたくさんの事件を,犯罪を犯している疑いがあるということで起訴されているときは,これを順次審理しなければなりませんので,それなりに長くかかる。そこで区分審理手続という制度が設けられ,幾つか実例もあり,何とかうまくいっているようです。区分審理制度の基本趣意は裁判員の方々の負担を軽減しようということです。ただ,この区分審理では対応しにくいタイプの事件があり得る。例えば,1人の被告人がたくさんの殺人事件を犯しているという疑いで起訴されたような事件で,全事件を一括して審理する必要があり,かつ,それが否認事件であるということになりますと,公判前に証拠を整理し,審理日程を組んでも,極めて長期間が見込まれるということは今後も想定される。これは制度設計のときにも議論しましたが,現在は,このような場面に対応する制度はない。当事者の御意見を聞き,裁判所の決定で対象事件ではあるんだけれども,特別の例外として裁判員の方にはやっていただかないで,職業裁判官だけでやることにする制度はあります。 ただ,これは例えば,非常に凶悪な暴力団の組織犯罪が絡んでいるということで,裁判員の方が恐怖を感じて安心して審理に臨めないということが明白であるような,そういう場合を想定した制度です。しかし,その条文では,今私が申し上げたような,非常に長期間,同一の裁判員の方々に審理・評議を行っていただかなければならないことが見込まれるという事件を外すことはできません。私の意見はまだ決まっておりませんが,このような問題について,特別なごく例外的理由,かつ,趣旨としては裁判員の方々の御負担を余り過剰なものにしないという観点から,裁判員裁判からの除外をする制度を設けるべきかどうかというのは,公判審理に関わる論点として検討すべきだろうと思います。 以上です。 ○前田委員 酒巻委員に質問です。その議論をする前提で,例えば,さいたまの事件だと酒巻委員の分類だとどっちになりますか。 ○酒巻委員 それは一つの例ですね。あれは今まだ進行中ですから,具体的にどうこう評価することはできませんけれども。 ○前田委員 中身の話ではなくて,ああいうタイプは外すという選択肢があっていいのではないかと,こういう意味ですかということです。 ○酒巻委員 それを制度としてどうするのかということを検討しておく必要があると思います。 ○井上座長 そういった長期に及んだ事例なども一つの素材にして検証し,問題があると思われれば,どうすべきか検討していくということだろうと思いますね。 ちなみに,区分審理が行われたのは,まだ10件もないのではないかと思います。区分審理の事例で一番長くかかったのは仙台地裁の事件で,別々の殺人等被告事件を三つに区分して審理した。これは私も注目してフォローしていたのですが,三つの審理に要した日数をトータルして40日ぐらいだったと記憶します。 それから,裁判員裁判の対象から除外する決定が行われたのは1件だけです。 ○酒巻委員 今まであったのは。 ○前田委員 福岡地裁小倉支部であった1件です。 ○井上座長 ほかにいかがでしょうか。さっき土屋さんのご発言の中で,請求される証拠の量が目立って増えているのではないかという指摘がありましたが,実際にそうなのでしょうか。 ○栃木委員 ちょっと今,現実の裁判から離れたから分からないんですが,ただ,統計等そのほか,私がそく聞するところによると,やはり公判前整理手続が長引いているものは請求証拠が多いものだと。そこは相関関係があるので,公判前整理手続が長期化,少しずつ伸びているのは,請求証拠が増えているというのと関連があるのかもしれません。 ただ,ちょっと今の現段階では,私はやっていないんですけれども,従前と比べれば,かなり検察官も証拠を絞ってきているのではないかと思うんですけれども,追起訴事件が増えてきたりとかになってくると,どうしてもやっぱり請求証拠が増えてくるという傾向があるのではないかと思います。 ○井上座長 原因の分析はなかなか難しいですね。事件自体が複雑化・困難化してきているということもあるのかもしれません。他方,裁判員経験者の感想とか意見を見ますと,証拠が足りないということを言っておられる人も少なからずいるのです。もっと証拠を出してもらわないと十分判断できないではないかというのですね。そちらの観点からいくと,逆に今,証拠を絞り過ぎているのではないかということになりそうです。土屋さんの目から見ると多過ぎるのではないかということなのですが,その辺はやはり両面あるということも頭に入れておく必要があるように思います。 ほかにいかがでしょうか。 ○山根委員 今,もうまとめられたので,それでいいんですけれども,一番最初に私が質問したのもその辺りがちょっといろいろ,どう判断すればいいのかなと思ったということがありまして,裁判員経験者のアンケートの結果なんかでも,プライバシーとか人権保護ということの理由で,十分な証拠が絞られ過ぎているような気がして,十分に判断できなかったとか,被告の生い立ちとか,環境とか,職場での評価とか,そんなのも教えてほしかったんだけれども,それは教えてもらえなかったとか,そういうのが幾つかあるので,私も単純に考えて,裁判員だったらいろいろなるべく広く状況を知りたいんだろうなというのを思ったものですから,その辺り,日程の計画や何かともいろいろ関わるものがあるのかなと思って,ちょっと伺ったんですけれども,これからもいろいろとまた議論ができればと思います。 ○井上座長 そうですね。その辺も実態を検証するというか,明らかにした上で議論するということになろうかと思いますね。 菊池さん,検察の方として何かありますか。 ○菊池委員 全体を通して,特に運用の観点でも幾つか御指摘を頂いたので,詳細な中身にわたる議論をするつもりではないんですけれども,こんなことを考えてやっていますということでお話をさせていただきます。裁判員制度が始まる前に,検察として,裁判員裁判にどういう姿勢で臨むのかということについて,「裁判員制度における検察の基本方針」というものを策定して,これを対外的にも明らかにしたところです。その中で,裁判員裁判における検察官の主張,立証はこうあるべきだと言っているところがありまして,それは,一つ目に,分かりやすくなければいけない。二つ目に,迅速でなければいけない。三つ目に,事案の本質を浮き彫りにする的確なものでなければならないという,分かりやすく,迅速,的確ということをいわばキャッチフレーズとして取り組んできたところです。 そういう意味では,この裁判員裁判が始まる前に比べれば,随分分かりやすさのために努力をしているつもりですし,迅速さということについても,平成13年ころに司法制度改革の議論がされ始めたころから比べると,当然のこととして速くなっていると思います。的確さということについても,その事件の争点が何なのかということを踏まえて,その争点についてどういう証拠で立証するのか,そういうことを常に意識して立証しましょうということでやってきたところです。その努力は分かるけれども,まだ不十分な面があるのではないのかというのが,例えば,土屋委員からの御指摘だったんだろうと思います。 そして,具体的な問題点について,例えば,請求証拠が増えているのではないのかということについて言うと,こういう言い方が適当かどうか分かりませんけれども,裁判員裁判が始まったときは,いわばスロースタートといいますか,余り争点も多くない,争いの少ない事件から始まっていったので,請求証拠も少なくて済んでいました。その後,大規模否認事件や,あるいは認めているけれども事実が複数あって,事実関係が複雑だという事件も扱うようになりました。そうすると,勢い,請求する証拠は増えざるを得ないというのが現状だろうと思います。 また,書面を読み上げるよりも,証人尋問の方が分かりやすいのではないか,もっと証人尋問を活用してはどうかというような趣旨のお話もあったと思いますが,栃木委員からもお話がありましたように,性犯罪の事件で,被告人が認めているにもかかわらず,被害者の方を法廷に呼ぶことには問題があると思います。また,性犯罪以外の事件であっても,被害者の方は警察に呼ばれ,検察庁に呼ばれ,それで「もう一度,今度は裁判所に来てください。」ということになります。「じゃあ,犯人は否認しているんですか。」と聞かれると,「いや,否認はしていません。」という答えになります。「じゃあ,何でもう一度行かなくてはいけないの。」ということになります。このように,証人に出る方の負担というのも考慮しないといけないだろうと思います。一方で分かりやすさの追求,他方で,被害者を始めとする関係者に及ぼす負担,この中で,どこにバランスの調和を見出していくのかを,常に考え,苦労しながらやっているというのが検察の現場ではないかなと思います。 ○井上座長 調書の使用が増えているため,人証の方に戻すべきではないかということが話題になっているわけですけれども,それは現実にそうなんですか。それと,主たる理由は検察官にあるといってよいのですか。 ○菊池委員 調書については,常に簡にして要を得た調書ということを心がけるように現場ではしていると思いますし,また,例えば,5枚,6枚にわたる調書のうちでも,本当に必要な部分が3ページ分であれば抄本にして請求をするということもやっています。 ○井上座長 それはそうなのでしょうが,人証と調書と両方あって,証人を呼ぶことも可能だという場合にも,それに代えて,調書が出ていくというときに,証拠請求する検察官がまずイニシアチブを持つので,そこのところで調書依存が増えているということなのか,そうではなく,証人の負担なども考えて,弁護人の方と話をして,同意書面として調書が出てくるというのが実態なのか,その辺をお聞きしたいのですよ。 栃木さんに伺ってもいいのですけれども。 ○栃木委員 最近,書証から人証へという動き,今,裁判所の方が一応問題提起して,そういう方向に動いているんですが,その一番の原因は,裁判員経験者に対するアンケートの結果です。分かりやすさというのが年々低下しているということが分かってきた。それともう一つは,やはり裁判員経験者との意見交換会等をみますと,調書というのが全く,全くと言ったらちょっと言い過ぎですけれども,頭に残っていないと。証人尋問の方がよほど印象的であるというのが実態として浮かび上がってきたからなんですね。 昨日も意見交換会をさせていただいたんですが,結局,最初に取調べが行われた供述調書については,ほとんど頭に残っていなかったというのが裁判員経験者からの意見として出てきております。それで,やっぱり証人の場合は,目の前で非常にヴィヴィッドに状況を思い浮かべられる。それは当然でありまして,やっぱり人間の会話は問いと答え,そういうやりとりを通して理解していくものですから,証人も,尋問してそれに対する答えというものが出てくるわけですから,非常に日常的にも理解しやすい。つまり,日常会話と同じような会話で進んでいくからです。私の経験から言いますと,供述調書を朗読されますと,15分が限度で,20分になると,もうほとんどもう集中力が途切れてしまうということです。 それで,土屋委員から「一日中供述調書を読まれているようなのを見た。」ということですけれども,非常にそれについては裁判所も反省しているところであります。そういう観点から,人証化の方に進んでいったということでありまして,先ほど言いましたように,人証化をすると,当然PTSDを負った性犯罪の被害者等の問題があるので,その方に更に来ていただいて,証言をなさるということは,更に被害を拡大するという懸念もありますので,そこまでは裁判所もやることはないんですが,そこにおける証人の負担ということを,では何なのかということを考えていただいたときに,警察署で調べられたから,では裁判所に来るのが負担なのかと,これは多分間違いだと思うので,本来,公判中心主義というものは,公判廷で犯罪の黒白を決すべきものでありますから,そこで調べるのが本来の刑事訴訟法の予定しているところでありまして,そこは法律でも当然予定しているのではないかと思います。というのは,証人喚問して証人が出廷を拒否すれば,勾引もできますが,捜査段階で証人が出廷を拒否しても,それに対する強制手段がないわけですから,そういうことを考えても,やはり公判中心主義ということを考えると,やはりそこに来る証人の負担というのは,警察で調べられた,検察で調べられたということが負担ということではなくて,やはり証言台で証言することによって,更に性犯罪の被害者のように二次被害を被る恐れが高いとか,そういうものをやっぱり負担として考えて,そういう人たちはなるべく除くようにして,やはり分かりやすい裁判の実現をするために基本は人証で考えていくべきではないないかという視点で今は人証化の方向に進んでいるということなんです。 ○井上座長 全然争いがない事項に関することで,10分くらいしかかからない証人尋問であっても,それを基本にするということですか。 ○栃木委員 そうですね。全てが人証化で分かりやすいのかという問題はありますね。実況見分調書等について,ではそれは人証化の方がいいのかとか,被害届について,何を盗まれて,それは被害額が幾らだったかと,それが人証化がいいのかというと,それは必ずしもそうではなくて,やっぱり分かりやすい証拠は何かという視点から考えていったときは,書証の方が分かりやすい場合もあります。特に被害届の場合とか,実況見分調書とか,図面とか,写真の方は証言より分かりやすいものもありますので,基本的には被害者の方の証言とか,そういうふうな重要証人を中心に,要するにベストエビデンスは何か,という観点から見ているということだと。 ○井上座長 ベストというのは裁判員にとってベストだということですね。 ○栃木委員 そう,全くそのとおりです。 ○井上座長 通常言われるベストエビデンスとちょっと違うものですから。分かりました。 ○前田委員 この問題は当事者の立場で弁護人にも関係があると思います。今の検察官の証拠請求の仕方は,供述証拠はまずは供述録取書で請求される。いきなり証人請求されるケースはほとんどないと思います。ですから,弁護人サイドが同意しなければ,検察官が供述録取書にこだわるケースは,私の知る範囲では余りありません。どちらかというと,裁判所が公判期日の長期化を避けたいがために,弁護人に同意をしたらどうかと迫るケースが何件かあるとの報告の方が多いと思います。そうなると,弁護人の姿勢が問題で,余りに同意し過ぎているのではないかということになります。その観点からもう1回検証し直す必要があります。私自身の最初の裁判員裁判でも,重要な証人の方が2人おられて,1人は海外に行かれた,もう1人は真夜中の勤務をしている方で,出頭できないと拒否されたことがあります。そのため2人の証人尋問の予定が,1人は刑訴法227条による裁判官調書,もう1人は警察官調書が取り調べられるということになりました。後で反省会をやって,裁判所から聞きましたところ,裁判員の方々も異口同音に,「証人尋問できちんと心証を取りたかった。」と述べておられたようです。私たちも,公判での証人尋問を中心に,裁判員裁判は進められるべきではないかと思っております。一部の弁護人が証人尋問の負担が大きくなることを理由に,安易に同意し過ぎているという面もあるのではないかと,我々としては反省をしているところです。 ○井上座長 三者それぞれ,どこに原因があるか,ということで捉え方が違うようですけれども。 ○菊池委員 誤解があるといけないので申し上げますが,検察官としても自白事件において,調書に代えて証人尋問で立証するということについて,特に慎重な考えでいるということでは全くありません。分かりやすくするためにはどうしたらいいのかということを大事に考えていると思います。確かに一般論として,長い調書を読み上げられるよりも生の人間が目の前でどういう話をするか聞いた方が分かりやすいという場合もあると思います。しかし,実際に被害者といっても,あるいは目撃者といってもいろいろで,「どっちの手で殴られたんですか。」と聞いても,「いやあ,痛かったんだよ。」と答え,「顔を殴られたんですか,おなかを殴られたんですか。」と聞いても,「いやあ,あの痛さは誰にも分からないよ。」と答えるなど,質問と答えがかみ合わない人もいます。取調べでは,そういう方に対しても時間をかけてじっくり話を聞いて,それを簡潔な調書にする場合があるわけです。そういう場合は,生の人間が法廷に証人として出てくるよりも,調書を読んでいただいた方が分かりやすいのではないかと検察官の方で考える場合もあるということです。性犯罪の場合は別として,被害者の方に,「証人に出てもらえませんか。」とお願いして,協力していただける方であって,この人は証人としてお話をしてもらった方が裁判員にも分かりやすいのではないのかと考えられるような場合には,自白事件であっても,裁判所の申出に沿って証人で対応するんだろうと思います。 ○栃木委員 その要領を得ない証人の場合には,調書の方が分かりやすいのではないかということなんですけれども,それはちょっと誤解があると思うんです。あくまでも心証を取るのは裁判所であって,裁判員の方であります。その方が,「どこを殴られたんですか。」,「ああ,うう。」というそういう証言態度そのものがこの人の証言が信用できるかどうかという判断の一材料になってくるわけです。 ですから,「右で殴ったんですか,左で殴ったんですか。」,「いや,覚えておりません。」とか,そういう答え一つ一つ,態度と表情一つ一つが心証としてなってくるわけですから,もしもそのことによって,調書が20分で終わるところを証言が1時間かかると言うんだったら,それは的確な心証を取るためには1時間かけるべきであって,むしろ調書は余り取り調べない方がいいと思うんです。 ですから,今,菊池さんが言われたのは,検察官がとった心証の調書,それを裁判所の前で,結局それを裁判所が受け継いでほしいというようなふうにも,ちょっと聞こえてしまうのですが。 ○井上座長 今の場面は,2号書面として検察官調書が出てき得る場合ですよね。 ○栃木委員 それは当然あります。 ○菊池委員 私が申し上げたのは,「右で殴られたんですか,左で殴られたんですか。」という質問に対して,「分からない。」と言っている人の話ではなくて,「まず痛かったんだ。」と答えてしまう方がいること,まずはその方と人間関係を作らないと,「ああ,あのときは右だったよ。」という話が出てこないような方がおられるということを申し上げたのです。 ○栃木委員 それはよく分かっているんです。まさにそういうふうな応答の仕方をすること自体が,信用性を判断する際の非常に重要な判断資料になるんだということなんです。 ○井上座長 どういうところに立場や認識の違いがあるのか,聞いている方はよく分かったと思うのですが。 ○大久保委員 今のお話を伺っているだけで,PTSDなどの症状に苦しんでいる被害者の方が的確に聞かれたとしても,答えることができないのが当たり前だと思うんですよね。ですからこそ,そこできちっと答えることができるような情報提供を心理的な面も分かりつつ行える,そういう人材がやはり裁判員裁判の対象の被害者の方にはやはり必要なのだということを,私は今,改めて確認させていただきました。 ○井上座長 御発言のない方,よろしいですか。 ○残間委員 何か聞いているうちに混乱してきたんですが,つまり制度としては大分時間もたってこなれてきたように思うし,委員の方々がおっしゃったように,総じてうまくいっていると思うんですね。ただ,やはり幾つかの問題点があるのは,避けては通れないところもあるので,これも論点の中に一部は入れなければいけないのではないかと思います。 それで,では,これがもう少し制度としてこなれてというか,更に浸透してうまくいくためには,もう裁判員制度というのが,一般の人たちに意識的に残る方がいいのか。それとも,制度として,無意識の領域に入った方がいいのか,そろそろ時間がたったので,3年後,5年後を見据えて,どこに着地するといいのか,今,出てきている問題点をどの段階で解決すべきかを考えた方がいいと思います。つまり,もう少しビジョンが先に行ったところの時系列,願わくば7年後とか,10年後には,このぐらいまで制度がこなれてきて,大久保さんがおっしゃるように,被害者の方たちの思いも,環境的にもあるいは内実としても遂げられるようになるにはどうするかというような,少し振り戻って,最初の理想から逆算してくるような構図にならないと,今あるものをずっと論じていくと,多分これは全部事実だろうと思うんですが,そうすると何だか一般に聞くと面倒くさい制度で。でも,今,かなり一般の中でも犯罪に関してとか,犯罪抑止力のことも含めて,そのことも含めてかなりうまくいっていると思うんです。これは一方的な言い方かもしれませんが。人によっては「裁判員裁判はある種の興行だ。」というような言い方も出てきていたり,しかし,これも悪いことかというとそうとばかりは言えないわけで,いろんなことがいろんなところで論じられてるという意味での裁判員裁判だと思うので,過渡的状況の中ではそれでいいのではないかと思っています。ですので,議論が,5年後,7年後,10年後になるのか分かりませんが,時系列で今出てきている,抽出すべき問題点を当てはめていった方が論点が見えやすくなるかなと思いながら伺っておりました。 ○井上座長 是非その面でも,より具体的に御提言いただければと思います。 ほかに御意見ございますでしょうか。これで終わりというわけではなく,本日までに出していただいた意見を整理し,その上でまた漏れがないか御議論も頂くことになると思います。今日はこの検討会としては,珍しくややヒートアップしましたが,この勢いで中身についての議論も充実したものにしていければと思います。 それでは,本日はこのくらいにさせていただきたいと思います。その他全般について,何か御意見等がございませんか。よろしいですか。 次回の検討会ですけれども,論点整理のための議論のテーマの範囲につきましては,また私に一任していただき,事前に皆様に御連絡するという形にしたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。次回の日程は,事務局において調整させていただいたところ,6月1日に開催するということで皆様の御了解も得られたということですが,5月21日に裁判員制度施行3年を迎え,その直後の開催ということになりますので,次回は法曹三者の各委員からそれぞれ,この3年を振り返って,実情やそれについての意見あるいは感想のようなことを報告をしていただこうと考えておりますけれども,それでよろしいでしょうか。 それでは,そういうことで,前田さん,栃木さん,菊池さんの方から御報告をお願いしたいと思います。 本日こちらで予定しました議事は以上でございますけれども,何かつけ加えることはございますでしょうか。 それでは,最後に事務当局から次回の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 次回でございますが,先ほど座長からもお話がございましたとおり,6月1日金曜日,午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等については,追って御案内申し上げます。 ○井上座長 それでは,どうもありがとうございました。本日はこれで終了させていただきます。 —了—