裁判員制度に関する検討会(第10回)議事録 1 日 時   平成24年6月1日(金)13:30〜16:15 2 場 所   法務省第1会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,      残間里江子,四宮啓,島根悟,土屋美明,前田裕司,山根香織 (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      名取俊也刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題  1 施行後3年間の裁判員制度の実施状況等について  2 論点整理のための検討    裁判員等選任手続について  3 その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料3:裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書       (平成23年度)   資料4:裁判員制度の運用に関する意識調査   合田委員説明資料   前田委員説明資料 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会第10回会合を開会させていただきます。  それでは,井上座長,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中御参集いただきまして,ありがとうございます。  議事に先立ちまして,委員の交代がございましたので,御報告いたします。栃木委員に代わりまして,新たに合田委員が委員に就任されました。  合田委員,簡単に御挨拶をお願いします。 ○合田委員 東京地裁の合田でございます。栃木委員と交代いたしまして,今日からこちらに出席させていただくことになりました。裁判員制度施行から現在まで,東京地裁で裁判長として裁判員裁判に関わっております。よろしくお願いいたします。 ○井上座長 では,よろしくお願いします。  また,事務当局においても人事異動に伴う交代がありましたので,一言御挨拶を願います。 ○東山刑事法制企画官 本年4月から裁判員制度調査PT室長となりました刑事法制企画官の東山太郎と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上座長 次に,事務当局から本日の資料について御説明をお願いします。 ○東山刑事法制企画官 本日の資料でございますが,机上に配布させていただきました資料を御確認いただきたいと存じます。  まず議事次第,配布資料目録に続きまして,配布資料といたしまして,資料1から4まで4点の資料を配布させていただいております。併せて,合田委員御説明用の資料でございますが,資料1として「裁判員裁判の実施状況について」と題するもの,資料2ないし6としてそれぞれ「特別資料」とタイトルがされたもの5点の合計6点でございます。さらに,前田委員御説明用の資料でございますが,資料1として「3年経過後の検証と検討課題」と題するレジュメ及び資料2として日弁連の「裁判員法施行3年後の検証を踏まえた裁判員裁判に関する改革提案について」と題する書類の2点を配布させていただいております。   ○井上座長 それでは,議事に入りたいと思います。  本日の議事ですが,御承知のように,裁判員法附則第9条が,制度の施行から3年経過後にその実施状況について検討を加えるよう定めておりますけれども,この5月21日で裁判員制度施行から3年が経過したことになります。本検討会では,これまで裁判員制度の実施状況について,様々な形,方法で把握に努めてまいりましたけれども,今後,そういうこれまでの成果をも踏まえて,実施状況の検討のための議論等を行っていくことになるわけですが,引き続き活発な御意見を頂きますようにお願いしたいと思います。  本日はまず,裁判員裁判の実務に携わっておられる法曹三者それぞれの委員の方々から,施行3年の実施状況について御報告を頂く予定になっておりますが,その後で論点整理のための検討として,裁判員等の選任手続を中心に論点整理の議論をするということにさせていただきたいと考えております。  では,法曹三者の方々から,それぞれのお立場から見た実施状況について御報告を承りたいと思います。御就任早々で恐縮ですけれども,合田委員より裁判所の立場から,施行3年後の実施状況について御報告をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○合田委員 承知いたしました。それでは,私の方から御説明,御報告をさせていただきます。  先ほど御紹介いただきましたように,本日席上に私の説明資料ということで,資料6点から成っておりますものを配布していただいておりますので,それを御参照いただきながらお聞き願いたいと思います。  まず,全体の実施状況の概略について御報告を申し上げます。「資料1」 は,裁判員制度施行から今年の3月末までの状況につきまして,通算のデータとしてお示ししたものでございます。  まず1ページの表1でございますが,これは裁判員裁判事件がどのように起訴されているか,裁判所から見れば新受事件がどうなっているかという資料です。総数は5,133人となっており,これは既遂・未遂の双方を含んだ数でございます。  罪名別に見ますと,上から多い順に強盗致傷,殺人と並んでおりますが,人数だけ書いておりますので,パーセンテージも併せて申し上げますと,強盗致傷の1,253人が24.4%に当たります。それから殺人の1,073人というのが20.9%。現住建造物等放火の480人が9.4%。覚せい剤取締法違反の438人が8.5%。傷害致死も同じような数字ですが8.1%。あとは強姦致死傷あるいは準強姦致死傷の361人が7.0%となっております。  ちなみに,性犯罪というくくりで申し上げますと,この表の今申し上げました(準)強姦致死傷,それからその次の(準)強制わいせつ致死傷,次の強盗強姦,それから幾つか下に下がりまして,人数でいくと34と書いてあるところですが,集団(準)強姦致死傷というところを合わせますと,これが938人ということで,全体の割合では18.3%となっております。これらの主要罪名及び性犯罪が新受事件全体に占める割合は従前とほとんど変わっていないという状況でございます。  次に,3ページの表2−1という,こちらは裁判の結果の方でございますが,そこを御覧いただきたいと思います。そこの一番上の方に総数というのがございますが,終局人員3,685人ということになっております。そのうち有罪といいますのは,これは全部有罪ということですが,3,575人。それから,その次の有罪・一部無罪というのは,一部無罪を含んでおりますが,判決自体は有罪のところもありますから,有罪判決の範ちゅうに入るもので9人。足しますと3,584人です。また,全部無罪は,17人ということでございます。なお,家裁へ移送した事件というのは,少年法55条により,裁判員裁判からまた家裁に移送したもので,3人です。それから,その他の81人 は,例えば,被告人が亡くなったということで公訴が棄却になったようなもの,それから裁判所の統計上は,ある裁判所から別の裁判所に事件が移送されたので,その裁判所としては既済になったという形で計上されてきているもの,そういうものでございます。  以上が新受事件と終局事件の概要でございます。  次に,選任の点ですが,5ページの表3というところを御覧ください。表3の一番上にありますように,本年3月末までに選定されました裁判員候補者の総数は31万4,647人となっております。そのうち辞退が認められた方ですが,二つ下の欄の数字,17万9,238人ということになっておりまして,選定された候補者数に対する辞退が認められた方の割合は,その表の一番下の数字の57%ということになっております。昨年12月末までの数字が55.9%,それから平成22年12月末までの数字が53.0%でございましたので,50%をちょっと超えるぐらいで推移しているというところでございます。  次に,その下の表4でございますが,これは選定されてから実際に選任手続期日に出席していただくまでの間にどのように人数が動いているかということを表したものでございます。ここで特に見ていただきたいと思っておりますのは,実際に選定された候補者の中から,呼び出さない措置ということで呼出状をお送りしなかった方,それから呼出取消し,これは呼出状をお送りしたけれども,結局来ていただく前に前倒しで辞退を認めた方ですが,そういう方を除きまして,裁判所に当日来ていただくことになっていた方の中で,現実にどのぐらいの方に来ていただいているかということでございます。それが左側の一番下の79.0%という数字になっております。約8割の方に実際に裁判所に来ていただいているということでございます。これも過去の数字を申し上げますと,昨年の12月末までの時点では79.8%であり,平成22年12月末までの時点では80.9%でございまして,おおむね8割程度の方にお越しいただいているというところも余り変わらなく推移しているという状況になっております。  次に,1枚めくっていただきまして,6ページの表5を御覧いただきたいと思います。これは辞退の関係の表でございまして,選任手続期日前というのは,要するに当日来ていただかないで前倒しで辞退を認めたという方であり,選任手続期日当日というのは,来ていただいて,その日に辞退ということになった方のことです。さらに,選任手続期日前の部分には,呼出状を出さなかった方と,呼出状を出したけれども,質問票を返送していただいて,来ていただく前に呼出しを取り消した方の数字を別々に示しております。  それで,真ん中辺りの「総数」と書いてあるところの上から3番目の数字にありますように,辞退が認められた裁判員候補者の方の総数は17万9,238人ということになっており,このうち,合計では書いていませんが,8万5,259人と8万80人という数字を合わせた16万5,339人については,実際に来ていただく前に辞退が認められているということになります。また,選任手続期日当日にお越しいただいてから辞退を認めた方が1万3,899人ということでございます。したがいまして,辞退の申出が認められた方のうち92.2%の方につきましては,実際に裁判所にお越しいただくことなく,いわゆる前倒しで辞退の判断をしているということになります。この数字も,昨年の12月末までの時点で92.1%,平成22年の12月末までの時点で91.5%ということで,90%をちょっと超える辺りで推移しており,これも余り大きくは変わっていないということでございます。  それから,もう1枚めくっていただきまして,7ページの表7を御覧いただきたいと思います。一番上の表です。これは,実際に事件を担当していただいた裁判員・補充裁判員の方がどのぐらいになっているかということでございます。これまでに,裁判員の方と補充裁判員の方を合わせますと2万8,074人という数字になるのですが,その方々に職務を行っていただいているということです。  それから,今度は審理の状況につきまして御説明申し上げます。そのページの一番下ですが,表9でございます。これは,公判前整理手続期間に関する表です。この一番右側に平均の公判前整理手続期間というのが書いてあります。全事件,つまり自白・否認を問わず全体で平均しますと,総数のところの5.7月,そのうち自白事件では4.8月,否認事件では7.1月ということになっております。昨年の12月末の段階では,この総数のところが5.6月,自白事件が4.8月,否認事件が7.0月ということでありました。それから,平成22年の12月末の段階では,総数のところが5.3月,自白事件が4.6月,否認事件が6.6月ということでございました。短縮傾向が現れているという状況ではないということでございます。  それでは,次に8ページ,真ん中の表11−1を御覧いただきたいのですが,これが平均審理期間に関する表です。起訴から判決まで,つまり事件受理から終局までの期間がどのぐらい掛かっているかということです。右側にありますように,事件全体ですと平均で8.5月,それから自白事件で7.2月,否認事件で10.5月ということでございます。これも過去の数字と比較いたしますと,昨年の12月末現在では,総数が8.4月,自白事件は7.2月,否認事件が10.3月ということでございました。それから,平成22年12月末では,総数が8.0月,自白事件が7.1月,否認事件が9.6月ということでございまして,こちらも先ほどの公判前整理手続期間の平均と同様に,短縮傾向というものが見受けられないところでございます。裁判所といたしましては,公判前整理手続期間及び審理期間の動向につきまして,今後とも注視したいと考えております。  次に,判決結果について御報告を申し上げます。10ページを御覧いただきたいと思います。表13でございます。有罪・無罪につきましては先ほども一部触れましたが,全部無罪というのが,一番の上の右側から五つ目の欄ですが,17人ということでございまして,あと,有罪の方が,その総数のところの左から二つ目の数字でございますが,3,584人ということでございました。3,584人のうち,先ほどの表にありました9人は一部無罪ということでございます。それから,その行の死刑と書いてあるところに13とあるとおり,死刑の判決が出た者が13人ということになっております。なお,こちらで把握しているところでは,死刑が求刑されて判決が無期となった者は今年の3月末までに3人ということです。それから,その総数の一番上の数字の欄の右側でございますが,控訴した人数が1,241人,割合にいたしまして34.5%という状況でございます。  以上が実施状況でございます。  続いて,それ以降の「特別資料」という名前の付いております資料の説明をさせていただきます。資料2としてあります紙をめくっていただきますと,上の方に特別資料1(罪名別終局結果)という表題の表がございます。これは,罪名別の終局結果を,裁判員制度施行から今年の3月までの裁判員裁判と,平成18年から平成20年までの裁判官裁判で対比して見たものでございます。この総数の欄を御覧いただきたいのですが,裁判員裁判のところの無罪に17(0.5)と書いてありまして,これが0.5%ということでございます。それをずっと右の方に追っていきますと,裁判官裁判のところの無罪の括弧の中が0.6%ということでございまして,0.1%ほど裁判官裁判の方が大きくなっております。ただ,裁判員裁判の終局人員は3,685人で,裁判官裁判の方は7,522人でございますので,その母数の隔たりを考えますと,ほぼ同水準と評価できるものと考えております。  左側の裁判員裁判の方で見ていきますと,罪名別のところの上から三つ目が覚せい剤取締法違反でございますが,そこの無罪が2.1%ということでありまして,裁判官裁判と対比いたしますと,この罪名につきましては高めになっております。  次に,量刑分布につきまして御報告を申し上げます。資料3と書いてあるところをめくっていただきますと目次のようなものがございますが,更にめくっていただきますとグラフと表がございます。これから何枚かグラフと表があるのですけれども,これは,裁判員裁判による終局人員が多い罪名のものを対象として,裁判官裁判と対照させながら量刑分布を見たものです。  別紙1と書いてあるところに載っているグラフと表が殺人既遂ということになっております。これで申し上げますと,右側の表は,裁判官裁判には青色,裁判員裁判には赤色がついておりますが,それをそれぞれ刑期別に区切って,どのくらいの数があるかということを書いております。3年以下のものにつきましては,執行猶予と実刑がございますので,それぞれの数が書いてあります。その他の区分については,例えば「5年以下」とあるのは,3年を超えて5年以下という意味で,以下同様に下の方に続いていき,殺人ですので,無期,死刑という区分も入っております。この資料の裁判官裁判は,平成20年4月1日から平成24年3月31日のもので,裁判員裁判の方は,施行から今年の3月末までの分です。こちらの資料を使ったものにつきましては,ほとんどの罪名において裁判員裁判と裁判官裁判の終局人員がほぼ同規模ということのようでございまして,その前提で比較してみたということです。  そして,全体の中で,その刑期の区分の量刑の割合はどうなっているかということをグラフにしたのが,左側のグラフでございます。青い線が裁判官裁判で,赤い線が裁判員裁判です。このグラフは,右側に行けば行くほどその刑が重いということになりますから,グラフの山が右に寄っているほど重い刑が言い渡された事件の割合が高いと読むことができるわけです。   あとはざっと申し上げますが,この1枚目の殺人既遂では,全体としては余り顕著な差は見られません。しかし,一番左の3年以下の部分,一番左が執行猶予で,その右側の単に「3年以下」と書いてあるのは,執行猶予ではなくて,その期間刑務所に入れるという実刑の判断でございますが,ここを見ますと,3年以下の部分では,実刑と執行猶予のいずれにおいても,裁判員裁判の赤い線の方が裁判の青い線よりも上にいっておりますから,その3年以下のところでは,そこの割合が裁判官裁判よりはやや高いと見ることができるところでございます。  2枚目が殺人未遂の表でございます。それから,3枚目が傷害致死の表でございます。さらにその次が強姦致傷です。それから,1枚飛ばしていただいて,別紙6が強盗致傷ということになっております。この辺りの罪名につきましては,共通した特徴として,裁判官裁判では5年以下というところの割合が一番高くなっているのですけれども,裁判員裁判ではその一つ上のランク,つまり7年以下というところが割合的には一番高くなっているということでございます。  それから,別紙5の強制わいせつ致傷のところでは,実刑になったものでは,裁判官裁判では3年以下というのが一番多いんです。猶予はもっと多いんですけれども,実刑では3年以下のものが割合的には一番多いわけなんですけれども,裁判員裁判の方では5年以下というところにピークが来ている。こういう違いが見受けられるところでございます。  これらの罪名につきましては,裁判官裁判よりも裁判員裁判の方がやや重い量刑がなされている傾向があると,このグラフからは言えるように思っております。  もっとも,別紙6の強盗致傷につきましては,執行猶予の割合は裁判員裁判の方が高い。このようなこともこのグラフの中に現れております。  それから,別紙7が現住建造物等放火,次の別紙8が営利目的の覚せい剤輸入です。裁判員裁判の対象となる事件でございますが,これらはいずれも,赤い線と青い線が似通った線になっているのですが,別紙7の現住建造物等放火では,一番左側の執行猶予が付く割合が裁判官裁判よりも裁判員裁判の方で高くなっております。  これが資料3の御説明でございます。  次に,資料4ですが,これは保護観察率でございます。これにつきましては,執行猶予にした中で保護観察官なり保護司の指導監督を受けるという措置を採るか,採らないかということでございますが,下の円グラフにありますように,裁判官裁判の方は保護観察を付けたものが30.6%であるのに対しまして,裁判員裁判では55%を超える数字となっておりまして,裁判員裁判の方が執行猶予付きの判決を言い渡す場合に保護観察を付する割合が高くなっているということが分かるところでございます。  資料5には,控訴審の結果を書いてございます。この中で上の方の表は,右側の注の3に15の罪名が書いてありますが,その罪名につきまして,控訴審でどうなったかということを,破棄されたか,破棄されなかったか,それから破棄されたものの結論は有罪か無罪か,破棄事由はどのようなものであったかといったことで分けて表にしてあります。上の表の数字のところは,裁判官裁判と裁判員裁判で比較するように作ってあります。上の方が平成18年〜20年の裁判官裁判です。これですと,その欄のすぐ右側の控訴審終局人員の数字が2,455人なんですが,その右側,破棄されたのは431人ということで,割合で17.6%ということになっております。他方で,その下でございますが,制度施行以来平成24年3月末までの裁判員裁判の方は控訴審終局人員が758人ですが,破棄が51人でございまして,裁判員裁判の方の破棄率は6.7%となっております。  それから,その下の表も,裁判官裁判と裁判員裁判でそれぞれの事由でどのぐらい破棄されているかということですが,上の裁判官裁判の数字よりも下の裁判員裁判の数字の方がそれぞれいずれも大分小さくなっているところでございます。  最後に,資料6につきまして申し上げます。これは,裁判所の方で裁判員や補充裁判員をやっていただいた方にアンケートを実施しておりまして,その中で審理内容の理解しやすさ等についての回答をまとめたものでございます。  まず,右上に別紙1と書いてあるところが,全体的な分かりやすさについてのもので,上が事件全体,真ん中が自白事件,下が否認事件,事件についてグラフにしたものです。それから別紙2が,検察官の説明の分かりやすさが,事件全体,自白事件,否認事件でどうなっているか。別紙3が,同様に弁護人の説明の分かりやすさがどうなっているか。別紙4は,同様に裁判官の説明がどうなっているかというところです。  ほとんどの図表におきまして,「分かりやすかった」とお答えいただいた方の割合が低下する傾向があるということが分かります。  1枚めくっていただきまして,別紙5の問5と書いてあるところのグラフは,手続が理解しにくかった理由をお尋ねしているものでございます。このうち2番目に書いてあります「調書の朗読が長かった」というのは,最初の方では調査項目に入っておらず,直近のアンケートから入れたものでございますので,そこはほかの年度とは比較できない格好で出ておりますが,他は経年変化が分かります。  この審理の内容の理解のしやすさにつきましては,先ほど述べたような低下傾向があるところ,その具体的な原因につきましては,なお現状では断定的に申し上げることができませんが,私ども,日常裁判員裁判をやっている立場から見ますと,例えば冒頭陳述の段階で内容がかなり詳細にわたっているようなこと,あるいは証拠調べのやり方につきまして,供述調書が多様化されているのではないかといったこと,結局書面に依存した審理になっているということが,分かりにくい要因の一つとなっているのではないかと感じているところでございます。  事実認定や量刑のポイントとなる事項を的確に把握して,口頭主義あるいは公判中心主義という原則に立ち返った審理を実現する必要があると,日々同僚と話し合っているところでございます。  以上でございます。 ○井上座長 ありがとうございました。  皆様の方で御質問等があるかもしれませんけれども,まず3名の方から御報告を伺った上で,まとめて御意見とか御質問をお伺いするということにさせていただきたいと思いますので,御了解ください。  それでは続きまして,菊池委員の方から,検察の立場から見た実施状況について御報告をお願いいたします。 ○菊池委員 私の方からは,検察の現場における3年間の取組を中心に申し上げたいと思います。特に配布資料はございません。口頭で御説明申し上げます。  裁判員制度が施行されてから本年5月21日に3年を経過いたしました。本日の法務省の配布資料の中にもございますが,制度の施行以来本年4月末までの約3年間に合計で5,305件の裁判員裁判対象事件を起訴しております。  裁判員裁判に参加された裁判員・補充裁判員の皆様は,真摯かつ誠実に職務に取り組まれ,その健全な感覚が裁判結果に反映されているものと感じております。裁判員・補充裁判員を経験された方々には,改めて深い敬意を表したいと思います。  裁判員制度の意義は,広く国民が裁判の過程に参加し,その感覚が裁判の内容に反映されることによって,司法に対する国民の理解や支持が一層深まり,司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようになるところにあります。このような裁判員制度の意義や趣旨は着実に実現されており,裁判員制度は,制度として定着しつつあると評価することができるものと考えております。  裁判員制度の円滑な実施のために,これまで検察としても様々な取組を行ってまいりました。検察の取組の概要につきましては,これまでにも当検討会において稲葉元委員や白木元委員から紹介させていただきましたので,本日は簡潔に紹介させていただきます。  検察においては,裁判員制度の施行に先立つ平成21年2月,裁判員裁判の下における捜査・公判活動や態勢整備の在り方全般についての検察としての基本的な方向性について,「裁判員裁判における基本方針」を取りまとめ,公表いたしました。検察においては,この「基本方針」に基づいて,裁判員裁判対象事件の捜査・公判を行っております。この基本方針では,裁判員裁判における主張・立証の要諦は,分かりやすく,迅速で,的確なものであることとしております。  公判においてこのような主張・立証を行うため,捜査段階においても,いたずらに枝葉末節にとらわれることなく,事案の核心と全体像を解明し,公判における主張・立証を見据えた捜査を行うこととしております。特に供述調書につきましては,公判において争点に沿った分かりやすい立証が可能となるよう,立証に必要な部分に限定した抄本による立証を行うことを念頭に置いて,捜査段階から公判における争点を想定しつつ,争点ごと,事項ごとに項目を別にした供述調書を作成することを心がけています。また,鑑定書についても,簡潔で,後の抄本化に適した形式の鑑定書を作成したり,写真に代えてイラストを用いることなどを法医学者や精神科医にお願いしております。  次に,裁判員裁判において充実した迅速な審理を行うためには,主張を具体的に明らかにすることにより争点及び証拠を十分に整理する必要がありますが,その意味で,公判前整理手続は,法律上はもとよりのこと,実際上も裁判員裁判の不可欠の前提であると考えております。その公判前整理手続を迅速かつ適切に行うため,検察は証明予定事実記載書面を早期に提出するよう努め,弁護人への証拠開示については迅速かつ誠実に行うよう努めるなどの取組を行っております。また,公判前整理手続では,当事者が公判に提出する予定の証拠を請求した上で,公判で取り調べる証拠を整理しますが,検察は立証のために最良の証拠を厳選し,一つの証拠の中に立証に必要な部分と不要な部分とが含まれている場合には,必要な部分のみを抄本化したり,複数の証拠を一つにまとめた統合捜査報告書を作成するなどしています。  次に,公判においては,連日的開廷の下で,裁判官・裁判員が法廷で適切に心証を形成することができるよう,「分かりやすく,迅速で,的確な主張・立証」を行うため,工夫を行っています。  例えば,冒頭陳述あるいは論告につきましては,従来の裁判官裁判では,あらかじめ書面を作成して配布し,これを読み上げておりました。また,それらの内容は大変詳細であり,数十ページに及ぶことも少なくありませんでした。しかし,裁判員裁判においては,関係者の相関関係,現場見取図,時系列などの図表やカラー印刷等を用いたA3判又はA4判で1,2枚程度のメモを作成してお手元に配布し,これに基づいて口頭での説明を行っています。  また,書証の取調べに当たりましては,実況見分調書などのように図面や写真を含むものはスクリーンに映して内容を説明するなどしており,また供述調書については,抄本を作成して取調べを請求し,項目ごとに区切って全文を朗読するなどの工夫をしております。  証人尋問につきましても,争点に即して,その証人尋問によって何を立証しようとするのかを十分に検討し,裁判員が適正な心証を形成できるよう,ポイントを際立たせる尋問を行うことが重要であると考えております。特に,司法解剖を行った法医学者や精神鑑定を行った精神科医などの専門家・鑑定人の証人尋問については,その証言内容が専門的,難解であることが多いわけですけれども,この場合も裁判員が公判廷において心証を形成することが可能な尋問を行う必要があります。そのために,例えば,当検討会での鑑定人経験者からのヒアリングの際にも御紹介がありましたように,証人尋問では,証人にできるだけ平易な用語を用いてもらったり,専門用語の解説をまとめた用語集を配布したりするほか,鑑定人の立場から裁判員と裁判官に対して講義・講演をするような形で説明するという,いわゆるプレゼンテーション方式での尋問方法を適宜取り入れるなどの工夫をしております。  分かりやすく的確な証人尋問を行うため,検察では従来から研修等を通じて尋問技術の向上に努めているところではありますが,裁判員経験者等のアンケートの結果,「証人尋問が分かりにくかった」という声も寄せられていることも謙虚に受け止めて,今後とも一層の尋問技術の向上に努めていく必要があると考えています。  また,被告人が外国人であるなどして,通訳人を介して公判審理を行う場合についても,通訳人が適切に通訳を行い,分かりやすい審理となるよう,通訳人に必要な書面等を事前に交付し,また証人尋問等においては,短く適切な表現を用いて明瞭かつ適切な速度での尋問等を行うなどの工夫をしております。  検察では,裁判員制度を円滑に実施するために,このような取組を行ってまいりましたが,続いて,最近指摘されることのある問題点とその対応について申し上げます。  まず,裁判員等経験者へのアンケートの結果,「法廷での説明が分かりやすかった」とするものの割合が減少していることが指摘されております。先ほども合田委員からの御説明の中にあったとおりでございます。  その原因としては,様々なことが考えられて,一概に申し上げることはできませんけれども,この問題に関連して,検察官が取調べを請求する証拠が増加しているということを指摘されることがあります。  検察においては,先ほども申し上げましたとおり,立証のための最良の証拠に絞って公判での取調べを請求するという,いわゆる「証拠の厳選」を行っています。この「証拠の厳選」については,従来の裁判官裁判において散見されたように,念のための立証などとして,類似した証拠を多数請求することが不適切であることは言うまでもありません。  しかし,他方で,刑事裁判の目的は手続の適正を確保しつつ真相を解明し,刑罰法令を適正に実現することにありますから,取り調べる証拠の絞り込みもこれを損なうものであってはならないと思います。裁判員が加わってなされた第一審の判断が一層重要なものとなっていくことは明らかで,第一審の審理を充実したものとしなければならないと思っております。 検察としては,裁判員等の経験者から,証拠の量が足りずに分かりにくかったなどという意見が寄せられていることや,当検討会における犯罪被害者の方からのヒアリングにおいても,「証拠を事前に厳選し過ぎてしまい,充実した審理,真相の解明がおろそかになり,利害関係人に不満が残ることもしばしばある。」といった指摘がなされたことなどにも十分に留意する必要があると考えております。検察としては,取り分け,複雑困難な否認事件や,自白事件であっても重要な情状事実に実質的な争いがあったり,重い求刑が予定されたりする事件においては,適切な事実認定と量刑を実現するために,必要な証拠は十分に請求しつつ,それでいて分かりやすい立証に努めることが重要であると考えております。  また,裁判員等経験者のアンケートの結果,自白事件においても,「検察官の立証が「分かりやすかった」とするものの割合が減少していることが指摘されています。  この点についても,原因・背景等については,様々なことが考えられ,一概には申し上げられませんが,これまで当検討会においても委員から,争点や証拠の整理が不十分である事件が見られることなどを指摘する御意見もございました。また,検察の部内でも,検察官の主張・立証について,ポイントが整理できていないため,総花的でメリハリのないものになっている事例があることや,請求証拠の検討・絞り込みが十分でなく,不要と思われる証拠まで請求している事例もあるなどとの指摘もなされております。  検察においては,このような意見や指摘も踏まえ,捜査段階から速やかに事案の核心と全体像を把握することに努め,証拠関係を十分に検討して主張を整理し,その立証のために適切な証拠を選択するなどして,分かりやすく,かつ要点を漏らさない的確な立証に一層努めてまいりたいと考えております。  なお,自白事件の審理を分かりやすいものとするなどのために,自白事件においても,供述調書の朗読によるのではなくて,証人尋問を実施すべきであるとの指摘がございます。この点は,前回のこの検討会の場でも若干の議論があったところでございます。  調書の朗読を聞くよりも証人から直接話を聞いた方が分かりやすい場合も当然あるとは思いますが,時間の経過による記憶の減退や変容,証人自身の表現能力などの特性等により,証人尋問を行えば分かりやすい立証となるとは必ずしも言えないと思いますし,被害者等に証人出廷の負担を負わせるという側面があることは明らかです。  したがって,個別具体的な事案の内容や,証人の特性,負担等を考慮し,いかなる立証方法を採るべきかを適切に判断することが重要であると考えています。すなわち,検察官が被害感情等の重要な情状事実について証人による立証が望ましいと判断する事案はもちろんですが,そのような事案でなくても,被害者等が証人出廷に応じる意向を示し,あるいは出廷を希望していて,証人尋問をすることに特段の支障も認められないような事案では,証人尋問による立証も考慮すべきであろうと考えています。他方,例えば被害者が出廷を望まない性犯罪事件等,証人尋問によることが適切ではない事案があることも考慮する必要があると考えております。  いずれにいたしましても,公判前整理手続において的確な争点整理を行い,それを踏まえて立証方法に関する三者の合意を得ることが望ましいと考えておりますし,供述調書を取り調べる場合に,供述調書の朗読が必要以上に長くなり,分かりにくくなることのないようにするため,今後も,争点ごと,事項ごとに項目を別にした供述調書を作成し,公判段階では,争点に応じて供述調書を抄本化するなどの対応を積極的に行っていく必要があると考えています。  次に,公判前整理手続の期間が長期化しているという指摘があります。  検察としては,公判前整理手続を迅速かつ適切に行うため,様々な工夫をしており,例えば,証明予定事実記載書面については,遅くとも起訴後2〜3週間で提出するよう努めることとしています。  また,検察官が証拠調べを請求しようとする証拠については,起訴後できるだけ速やかに開示するとともに,弁護人の証拠開示請求に対して迅速かつ適切に対応することはもちろんのこと,弁護人からの類型証拠開示請求が十分に予想され,かつ,その場合には当然開示することになる一定の証拠については,弁護人からの証拠開示請求を待たずに,請求証拠を開示する際に同時に任意に開示するよう心掛けているところです。  さらに,こうして柔軟に証拠開示を行っていながら弁護人から主張予定事実の提示がなされないようなときには,弁護人に対して主張予定事実を明らかにするよう促すことも,公判前整理手続の迅速化のためには必要であろうと考えております。  次に,検察の現場における苦労等として指摘されている点について申し上げます。  まず,被害者保護の関係です。被害者保護は,検察にとって当然の職務であり,組織を挙げて様々な配慮を行っていますが,限界があることは否定できません。  例えば,性犯罪において,被害者の方が,プライバシーを守るため,知人等が裁判員や補充裁判員に選任されないことを希望される場合が多くあります。このような場合,検察においては,裁判員等選任手続の前に,裁判所から開示を受けた裁判員候補者名簿の写しを被害者にお示しするなどして裁判員候補者の氏名をお伝えして,知人等の関係者と同名の者が含まれていないかということや,その個人を特定するための情報を被害者から教えていただいています。そして,裁判員等選任手続での裁判員候補者に対する質問等の結果,被害者から御指摘いただいた関係者と同一人であると判明した候補者等について,理由なき不選任請求権を行使するなどして,被害者の知人等の関係者が裁判員等に選任されることがないよう配慮しています。  しかし,被害者が御存じである情報や,検察が入手できる情報にも限界があり,被害者の知人等が裁判員等に選任される可能性を完全に排除することには難しい面のあることは否定できません。  検察としては,このような問題も踏まえた上で,今後も引き続き被害者のプライバシー,名誉等の保護について,一層の配慮をしなければならないと考えています。  また,複雑困難な否認事件等における分かりやすく的確な立証に苦心しているところもございます。例えば,覚醒剤等の違法薬物の密輸事件については,被告人が当該対象物が違法薬物であることの認識を否認した場合には,これを直接立証する証拠はなく,関係者の多くが外国に所在するなどの特殊な状況下で,間接事実を積み上げて立証しなければならない場合がほとんどですが,薬物密輸事件の実態は,一般の国民の皆様にとってなじみが薄く,身近で現実的な事柄として捉えにくいところもあるのではないかと思われます。このような事案において,どうしたら分かりやすく的確な立証を行い,適切な心証形成を行っていただけるか,現場の検察官は日々大変苦心しているところです。  さらに,裁判員裁判への対応に当たっての業務の負担が大変重くなっているという指摘も内部ではなされております。裁判員制度がおおむね定着してきた今後は,問題のない比較的単純な自白事件等については思い切った業務の効率化を図る一方,事実関係の複雑な事件,薬物密輸事件における否認事件,争点が多岐にわたる複雑困難な否認事件等においては,捜査段階から適切に問題点を把握し,起訴後は早期に事件の主張・立証方針を策定するなど,十分な準備をした上,公判において適切な主張・立証を行うなどの手厚い対応をするなど,裁判員裁判に臨むに当たって,メリハリのある業務遂行を行っていくことも大きな課題であろうと考えているところです。  以上,現在までの裁判員制度に関する検察の取組と現状などについて御報告いたしました。冒頭でも申し上げましたとおり,裁判員制度はおおむね順調に推移し,制度として定着してきたものと考えております。  他方で,裁判員制度施行から3年が経過し,様々な問題点等についての指摘もなされているところです。検察としては,今後とも,創意工夫を凝らして,可能な限りの対応をし,裁判員裁判をより良いものにするよう努めてまいりたいと考えております。以上です。 ○井上座長 どうもありがとうございました。  最後になりましたけれども,前田委員より弁護人のお立場から御報告をお願いいたします。 ○前田委員 弁護人あるいは弁護士会の立場で,裁判員裁判の3年に対する評価と今後の検討課題について述べさせていただきます。  裁判員裁判は,施行される前の市民に対するアンケート等によりますと,参加する市民の方が限定されるのではないか,あるいは参加された後に否定的な評価をする人がいるのではないかとの懸念がありました。しかし,私自身の経験でも,裁判員候補者の選任手続で,非常に積極的にこの裁判を担おうという方が大変多く見受けられましたし,審理の中でも,熱心に証人に質問し,あるいは証言や被告人の供述に耳を傾けるという方が相当数見受けられました。また,裁判員経験者のアンケートなどを拝見しますと,ほぼ全ての人が「よい経験をした」と答えられています。施行前の危惧は杞憂に終わりました。裁判員制度は,徐々に市民の間に着実に定着しつつあると評価できます。  また,裁判員裁判の導入により法廷の状況が一変したのは御承知のとおりです。供述調書中心の裁判が,公判中心の裁判に変わりました。以前は傍聴席で刑事裁判を傍聴しても,何をしているのかさっぱり分かりませんでしたが,裁判員裁判の場合には,傍聴席にいて法廷を見聞きするだけで,何が審理され,何が争点になっているのかが分かるようになりました。  また,裁判員制度の下で,17件の無罪判決が3月末までに出ていますが,その判決内容などを見ますと,無罪の推定という刑事裁判の原則がより忠実な形で反映されているのではないかと評価しています。裁判員の方々に,証拠に基づく事実認定,立証責任が検察官にあること,あるいは合理的な疑問を残さない程度の証明が必要であることなど刑事裁判のルールが相応に浸透してきている,理解を得ていることを示すものと考えます。  さらに,裁判員裁判を契機として,証拠開示が拡充されました。請求証拠が厳選されるようになりました。また,供述調書に依拠しない裁判が実現するなど,弁護人の立場で従来から求めていた刑事手続の改革も,一定程度進んだと評価することができます。  以上のように,裁判員裁判の施行3年の経過を振り返りますと,この制度を日本社会に定着させる意義は十分に存在し,それを更に一層定着させるための方策を検討しなければならないとの結論になります。そのためには,対象事件をより広い方向にできないかが検討されるべきであり,市民が裁判員裁判に参加しやすい環境を整えるということも必要だと思います。  一方で,裁判員制度全体を評価しつつも,更により良い刑事裁判の実現のために行うべき刑事手続の改革課題があることも,弁護人の立場からは幾つか指摘できます。日弁連では,裁判員裁判が1年を経過した時点で,日弁連裁判員本部の中に「3年後検証小委員会」を設置して,それ以降,裁判員裁判の現状に対する実務的な検証を行ってまいりました。そして,2012年3月15日に「裁判員法施行3年後の検証を踏まえた裁判員裁判に関する改革提案について」を取りまとめました。それが私の説明資料のうち,資料2で配布されているものです。  この日弁連意見書は,全部で6本の意見書を一つにまとめて提案したもので,順番に申し上げますと,「裁判員の参加する公判手続等に関する意見書」,「裁判員の負担軽減化に関する意見書」,「死刑の量刑判断における評決要件に関する意見書」,「少年逆送事件の裁判員裁判に関する意見書」,「裁判員法における守秘義務規定の改正に関する立法提言」,「裁判員制度を検討するための検証機関設置を求める提言」となっております。今日は,これを逐一御説明する時間的余裕はございませんので,その中から,対象事件の拡大,証拠開示制度の更なる拡充,そして守秘義務の規定の改正内容について御説明します。  日弁連は,対象事件の拡大を提案しています。現在の対象事件は,死刑や無期懲役刑が法定刑と定められている重大事件等に限定されています。裁判員裁判の対象事件を重大事件に絞ったのは,新たな市民参加の制度を円滑に導入するためでした。導入時点で対象事件を限定することは,やむを得ない,妥当な判断であったと思います。しかし,3年を経過して,円滑な導入という所期の目的はほぼ達成されたと言えます。そこで,この市民参加の裁判員裁判が評価できる制度であることが明確になってきている以上,更に多くの事件で市民参加を実現することが検討されるべきだと思います。日弁連の提案では,公訴事実等に争いがあって,かつ,被告人が請求した場合には,その事件を裁判員裁判の対象にするとの提案をしています。有罪か無罪かが争われる事件は,国民の関心が高く,また社会的影響も大きいと言えます。また,事実認定の領域は,刑事裁判の原則にのっとり,市民の常識が反映されるにふさわしい場面だと考えられます。  このような理由から公訴事実に争いがある事件を全部対象にするとの意見も弁護士会の内部にはありました。ただ,そのような事件でも,法定刑が軽くて,実行行為の一部しか争わない事件もあり,それを裁判員裁判という重装備の裁判体で行う必要まではないとの意見や,また,確かに順調な滑り出しではあるものの運用面の問題を配慮すると,更に多くの事件に一気に拡大するのではなく,少しずつ増やしていく方が良いとの意見があり,当面は有罪・無罪の判断に最も重大な影響を受ける被告人が求めた事件とすることが合理的だとして,この提案になった次第です。  なお,この提案は,従前の対象事件を維持することを前提としており,対象事件を拡大する方向での被告人側の請求権を認める提案です。司法制度改革審議会等では,被告人の選択権を否定した制度設計をしたわけですが,それとは必ずしも矛盾しないと考えております。  二つ目に,証拠開示制度の拡充について御説明いたします。公判前整理手続が導入されたことにより,証拠開示に関する被告人・弁護人の権利が明記されました。これにより,従前との比較で格段に証拠開示が広まったことは,弁護人の共通した認識です。弁護人が是非とも開示を受けたい証拠のかなりの部分が検察官によって開示されている実態があります。それでもなお,証拠開示の更なる拡充が必要であるとするのが,日弁連の提案です。  その骨子は,証拠標目一覧表,我々が証拠リストと呼ぶものですが,そのリスト開示をまず検察官に行っていただきたい。そのリストに基づいて,弁護人の請求する証拠を検察官としては原則開示というスタンスで対応していただきたい。大雑把に言いますと,そのような制度設計です。証拠リストは,証拠の特定が明確になる標題あるいは呼称を一覧化したもので,証拠の内容とかその要旨の記載を求めるものではありません。標題や呼称を記載するのであれば,捜査機関の負担も過度に重くなることはないと考えています。むしろ,証拠管理の在り方が問題にされている昨今では,効果的な証拠管理の方法ではないかとも言えます。  実際に裁判員裁判の公判前整理手続の過程で,検察官が弁護人の求める証拠は存在しないと一旦回答したにもかかわらず,その後,その証拠が存在したことが分かったという事例が幾つか報告されています。そのため証拠の存否に関する疑義などが生じ,公判前整理手続が延びる一因になっていると言われています。リストを開示すれば,このような事態は解消されるはずです。また,不当な証拠開示逃れの防止にもつながると考えます。大阪地検特捜部の検事がフロッピーディスクを改ざんして,これを関係者の家族に返したという事件がございましたが,リスト開示の制度が存在すれば,このようなことは防止できるのではないかと思われます。  現行の証拠開示制度は,弁護人・被告人の側が,ある一定の要件の下で特定した証拠を検察官に対して開示請求する制度ですが,我々が提案する証拠開示制度は,リストをまず検察官に出していただいて,そのリストに基づいて被告人・弁護人側が開示を請求し,検察官が原則的にはその証拠を開示する,検察官が開示をすれば著しい弊害があると思料するときには,それについての判断を裁判所に委ねるという制度です。証拠開示に関し,国際人権規約委員会が日本の政府報告書に対して勧告したこともありました。世界的な傾向からすると,証拠開示の更なる拡充は必要な制度であると思います。  三つ目に,守秘義務の問題について御説明いたします。裁判員裁判は,よりよい裁判,より良い社会の実現のために,市民に一定の負担を負わせる制度です。したがって,市民の負担を理由として,逆に刑事裁判などの理念等を曲げることは許されません。しかし,裁判員の方々に必要以上の負担を掛けることも,制度そのものの運用を危うくしますので,この観点から日弁連は「裁判員の負担軽減化に関する意見書」を取りまとめています。また,裁判員における守秘義務規定の改正を提案しております。そこで守秘義務規定の中身について少し触れたいと思います。大きく二つの提案をしています。  一つは,罰則の対象となる行為の範囲を限定することです。守秘義務は,評議において裁判員の方々が自由な意見表明ができるようにするためですから,守秘義務を置くこと自体には誰も反対いたしません。しかし,評議での自由な意見表明ができるとの観点からすると,現行法で守秘義務の対象とされている「評議の秘密」は,「裁判官又は裁判員の意見」,「多少の数」,「評議の経過」,「事実の認定又は量刑の当否」であり,これらが一律に刑罰の対象となっているのは,やや広過ぎるのではないかとの意見が多数を占めました。そこで ,まず「多少の数」,「評議の経過」を漏らす行為を刑罰の対象とする必要はないとしました。また,「裁判官又は裁判員の意見」を漏らす行為については,誰が意見を述べたのか,特定に結び付くおそれが乏しい形で漏らした場合には,刑罰の対象から除外する。また,「事実の認定又は量刑の当否」 を述べる行為は,裁判員の任務が終了して10年を経過した後には,刑罰の対象から外す,としました。これらの行為を罰則の対象から外しても,評議における自由な意見表明が妨げられるおそれはないとの考えで意見を取りまとめております。  それから2点目は,裁判員制度の運用に関する調査研究の機関を設置して,その調査研究のためであれば,守秘義務の適用除外をして,そこで評議の内容等についての意見を述べてもらうことはあってよいのではないかという提案をしております。  この改正提案というのは,裁判員制度が我が国の司法制度の基盤としての役割を十全に果たすことができるという観点からの提案で,特に制度施行が行われてまだ間もない時期には是非とも必要なことではないかと考えて提案するものです。  最後になりますが,私も30数年以上刑事裁判に関わってきましたが,裁判員裁判は,私の経験した最も大きな刑事司法の改革でした。そして,裁判員制度の導入とその後の実施状況も高く評価し,裁判員制度が日本の社会に定着することを期待しております。そういう観点から,改革するべき課題については,時期を失することなく行うべきであるとの基本的なスタンスで,この検討会での今後の議論にも加わっていきたいと思っております。  以上でございます。 ○井上座長 どうもありがとうございました。  それでは,以上3人の方の御報告について,御質問あるいは御意見等がございましたら,御発言願います。  では,手始めに,せん越ですが私の方から,資料等について,ちょっと分かりにくいところがありましたので,お伺いしたいと思います。合田委員から説明していただいた実施状況についての資料の8ページのところにある実審理期間ですが,「6月を超える」あるいは「6月以内」という項目については,注の2を見ると,108人という人数には,第1回公判を開いた後,裁判員の参加する合議体で審理されて終局したものを含むと書かれています。この点が,おそらく事情を余り御存じない方には分かりにくくて,先日さいたま地裁で判決が出た事件がこれまで最長で,初公判から判決まで100日かかったということが広く報道されていますので,一見すると「6月以内」とか「6月を超える」というものが何件もあるため齟齬しているようにも見られかねない。非常に紛らわしいところがあると思われるのです。ここには,その「6月以内」ないし「6月を超える」期間のうち,裁判員の参加する合議体で審理されるようになった後の期間がどれくらいであったのかは示されていませんが,それ以前の期間がほとんどだと理解してよろしいでしょうか。 ○合田委員 今御質問があった点につきましては,そのように理解していただきたいと思います。例えば,最初に裁判員裁判ではない形で起訴されまして,そちらの方で審理が進んでいて,途中から別の事件が起訴されて,そちらが裁判員裁判になって,そちらの方については今度は公判前整理をやって,それで最終的には裁判員裁判で全部併合して審理して判決に至るものとか,あるいは,ここにもう一つ区分審理というのがございますが,これは複数の事件を幾つかのグループに分けて別々に審理していって,最後に一つに集めて判決をするという手続です。これらについては,全体の最初の公判を開いた日から終局まで全部通算した期間を計上してあるので,「6月を超える」というものも出てきているということでございます。裁判員裁判事件だけで区分審理をしていない事件の最長が100日というのとは別の類型が入っているわけです。 ○井上座長 希望としては,その辺をもう少し区分して統計をとっていただければと思いますね。 ○合田委員 御指摘は踏まえさせていただいて,検討させていただきます。 ○井上座長 もう一点,裁判官裁判の場合との量刑の比較ですけれども,裁判官のみの裁判と裁判員裁判との間では,起訴の時期が恐らくずれていると思いますけれども,事件の性質・内容についてはずれは特にないという理解に立って,単純に両者を比較するということで大丈夫なのでしょうね。また,前には,裁判所から検察官の求刑についてのデータも出ていたので,その求刑に見られる傾向と対照してみると,罪種によっては求刑もやや変化している形跡があるところも部分的にはあったように思います。それに引きずられて量刑が変化しているという面もあるかもしれないわけですけれども,検察官の求刑は余り変わっていなくて,やはり裁判員が入ったために量刑が変化していると受け取ってよろしいものなのでしょうか。 ○合田委員 その点については,自分がやった事件の印象で申し上げることになりますが,前提として,そもそもこの表自体は事件の質が同じなのかというお尋ねについては,飽くまでも同じような時期に判決が出された罪名が共通のものについてこうだという以上のものではないということで御理解いただきたいと思います。  その上で言えば,3年という裁判員裁判の期間の中での印象からすると,最初のころと最近で求刑の内容が変わらないものがずっと多いとは思っておりますけれども,幾つかについては,どのぐらいかははっきりは分かりませんけれども,実際の裁判員裁判の動向が求刑に反映されてきているのかなと感じるものも事件によってはあるわけでございます。ただ,それぞれの事件の判決は,結局,その事件の求刑と,それから最近は弁護人の方も具体的な年数等で科刑意見をおっしゃる場合が多いんですけれども,そういうことを参考に,過去の量刑動向も踏まえながら,いろいろ評議をしながら決めていった結果でございますので,求刑動向の変化を感じる場合についても,それが判決にどう影響しているかというと,それ以上にはちょっと分析はしかねます。 ○井上座長 山根委員,どうぞ。 ○山根委員 合田委員に二つお伺いしたいんですけれども,お願いします。  一つは,5ページで,辞退が認められた裁判員候補者の割合が57%と御説明いただいたのですが,この数字をどのように受け取ればいいのかというのをお伺いしたいと思います。当日,出席されて,明確な理由で辞退が認められるという人と,例えば,単に体調に自信がないとか,仕事の具合がちょっとはっきりしないといった場合で,いろいろ面談等でお話しするのかもしれないのですが,その辺り,どの程度そういうものが受け入れられるのかというか,57%という数の受け止め方についてちょっとアドバイスを頂きたいということ。  それともう1点は,御説明とか新聞等々でも,裁判員裁判の方が執行猶予が多め,あと保護観察が付くような場合が多いと聞いていまして,それは,やはり一般の市民が社会の中である意味で立ち直りを専門家の指導などを受けながらやるのがいいといった判断があるのかと思います。そういうのが増えますと,一方で社会の側の受入れ態勢が十分なのかなと思うわけですけれども,その辺りは十分なのか,あるいは十分でなければ,何か手立てが進みつつあるのかについてもし伺えれば,お願いします。 ○合田委員 まず,1点目の選任手続の関係でございますけれども,この5ページの表3の一番上の「選定された裁判員候補者の総数」というのは,何人呼び出すかを決めてくじをやったときに,くじで選ばれた人の数なんです。その中には,くじで選ばれても呼出状を発送しない方が含まれています。これは,毎年,11月頃に「次の年の候補者名簿に載りました」という通知を差し上げるのですが,例えば,「もう自分は70歳以上で,1年間を通じて辞退したい」とか「学生で,1年間を通じて辞退したい」という方については,先にそれを伺っておいて,呼出状を出しても辞退申出があり,それが認められることが確実なので,呼出状を出さないことにしているのです。それから,呼出状を出した後で,質問票を返していただきますが,そこで辞退事由があるということがはっきりすれば,呼出しを取り消して,当日お越しいただかないという格好でやってまいります。ここまでがいわゆる「前倒し」の判断です。他方で,そこまでの手続で辞退のお申出がないので,当日来ていただくということになっている方の中にも,やはりその期間は行けなくなったという方もおられて,そのような方は,当日来られて,「明日から都合が悪い」などと申し出られ,当日辞退となるわけです。  そのようにして辞退が認められる方の総数が,くじで呼び出すべき人として選ばれた候補者の57%という数字なんです。私どもとしては,制度が始まるときに,法律上の辞退事由は,限定列挙という形で規定されておりますけれども,他方において,辞退事由はそうだとしても,どういう場合がそれに当たるのかという当てはめについては,業種とかお立場においていろいろな御事情があるのだろうから,それを考えながら判断しなければならないと考えました。裁判官にも,一人の人間としての社会生活はございますが,そこから見当が付く範囲というのはおのずから限りがあろうと思いますので,いろいろな調査もいたしましたし,それからなるべく,お申出がある場合には,そういう事情はあるのだろうという前提で,ではどう考えるのかを検討しようというスタンスに立つというわけです。もちろん,それでも,そのお申出の内容であると,もう少し事情を伺いたいという場合も残りますが,ともかくそういう形でかなり柔軟に辞退事由の判断をしていただいているつもりでございます。  その結果が57%という数字でありますが,これは選んだ方の半分以上の方が辞退という形になっているわけです。自分は辞退事由がないので来ましたという方もたくさんいらっしゃるわけで,そういう方たちも存在することを考えますと,これが7割,8割とか,そういう数字になることは恐らくはないのだろうと思っております。ここ3年について,先ほど申し上げたように同じような数字になっておりますこともあり,率直に言って,このぐらいの数字なのかなと思っております。  あとは,この57%のうちでほとんどの部分は,実際に来ていただかないで事前に辞退をお認めしているというのは,第5表の説明で先ほど申し上げたとおりでございます。そのような運用でございます。  その点はよろしゅうございますか。 ○山根委員 はい,分かりました。 ○合田委員 それから,保護観察のところでございますね。この保護観察がどうして裁判官裁判よりも裁判員裁判の方が多いのかということについては,いろいろな事件の集合の統計でもあり,なかなか断定的にこうだからとは言いにくいんですけれども,裁判員裁判の場合,犯罪が基本的にいわゆる重罪と言われるものです。有罪になった場合に,法律上,執行猶予がない犯罪もありますし,法律上は可能でも実際問題としては執行猶予の余地も乏しいケースもあります。執行猶予になるケースは,そのような中で,その事件における様々な具体的事情を踏まえて話し合った評議の結果として,この人は刑務所に入れないで,まず立ち直りの機会をあげたらいいのではないかという結論になった事案なわけです。そのような経緯を経て執行猶予にするわけですから,ではこの人の立ち直りのために何が必要かを考えたときに,本人が,反省して,今後立ち直りたいと言っているということに任せておいていいのか,心配だという意見が出てくることがあります。結局保護観察を付けることが多いように,私は受け止めております。裁判官との比較は置きますが,裁判員の方は,罪名からすると,ある意味ではかなりの例外的な扱いだけれども社会の中で立ち直る機会を与えようという以上は,それをケアするのにできる手段はなるべく採っておきたいといったお考えをお持ちになるのではなかろうかと思っております。  結果において保護観察になっているということは,結局裁判員の方だけがそうおっしゃっただけではなくて,裁判官もそれに賛成しているからそういう結論になっているわけでありまして,いろいろ評議をする中で,結局裁判員も裁判官も賛成する形で,この事件についてはそういう措置を採りましょうということでこうなっていると理解しております。  以上でございます。 ○酒巻委員 今の保護観察に関係することですが,私の知る限り,保護観察付執行猶予が裁判員裁判になってからかなり顕著に増えているのはそのとおりで,興味があります。今の合田委員の御説明もそれなりに理解できるのですけれども,ここにいるプロの方はお分かりだと思いますが,保護観察付執行猶予になると,次はもう後がない,つまり実はきついんです。裁判員の方々のお気持ち的の中核には何とか立ち直ってほしいということがあり,それが保護観察の増加に結び付いているのだと思うのですけれども,保護観察付執行猶予の次に何かやってしまった場合は,もう執行猶予の余地はないという仕組みになっているということは,評議において裁判員の方に御説明の上なのでしょうね。 ○合田委員 もちろん説明しております。保護観察を付けることの意味について,保護観察において何が行われるのかという説明をしますが,同時に,そこまでケアをするわけですから,それでうまくいかなかった場合には,次は,法律上,実刑しか選択の余地がなくなるという面も併せ持っているとも説明します。 ○酒巻委員 さらによろしいですか。別の方への質問ですけれども。 ○井上座長 はい,どうぞ。 ○酒巻委員 前田委員の御説明の中で,証拠開示につきましては,これは私の考えによれば,この検討会の場で議論することではなく,刑事司法手続全体に関わることであろうと思いますので,今は申し上げません。お聞きしたかったのは,最後の方におっしゃられた,守秘義務を例外的に解除する場合の調査研究機関,それから説明資料の最後にも検証機関というのがあります。これはいったい何を調査して何を検証するのか,そのターゲットがよく分からないので,もし分かれば御説明いただきたいと思います。 ○前田委員 この提言の日付を見ていただくとお分かりのとおり,日弁連では,2008年11月19日,裁判員制度施行前に,この提言を出しています。それは,裁判員法附則の9条をにらんで,新しい制度ができた以上はきちんと検証してくださいという意図でした。これは私の認識ですが,この提言が本検討会の設置につながっているとも 考えておりますので,このような場を一応想定していたと御理解いただきたい。  ただ,その後,もう少し異なる形の調査研究機関を設置するべきだとの意見を述べる方もおり,どのような具体的な機関とするかは,正直申し上げて,弁護士会の中で進んでいるわけではございません。私自身に個別のイメージがあるわけでもないので,今日の段階ではその程度しかお答えはできません。ただ調査研究機関ができたときには,その場では守秘義務を解除して,話をしていただくのは一つの方法であると考えられる,その程度でこの段階では御理解いただければと思います。 ○四宮委員 二つ,簡単というか,短い質問です。  一つは,先ほど裁判官裁判との比較の中で,井上座長からも,求刑もいろいろ動いているのではないかというお話がありましたけれども,そもそも起訴の段階で,裁判員裁判対象事件の罪名の起訴というものが,裁判官裁判時代と裁判員裁判が始まってからとで何か動きがあるのかどうか。そこは何か統計があるのか。と申しますのは,始まる前に,一般に予想されていたのは,1年間に3,000件程度ではないかということでした,それは当時の統計に基づいてですけれども,それが先ほどの資料によると,3年間で5,300件ぐらいということになっていたので……。 ○井上座長 年間1,700件ぐらいですね。 ○四宮委員 1,700件ぐらいですか。ということなので,そこを何かもし統計等があれば教えていただきたい。これは裁判所か検察庁か,ちょっと分かりませんが,お分かりになればということです。  それから,裁判所の方には,3年間でこれだけの実績があるんですけれども,私が聞く限りでは,裁判体の構成の問題で,法律上は裁判官が1人で裁判員が4人という構成もオプションとしてあるわけですけれども,それは3年の間に行われたというお知らせには私はちょっと接していないのですが,それは事実かどうかということと,それについて裁判所では,これはもちろん個々の裁判官のお考えによることですけれども,何か評価あるいは今後の対応などについて検討等をしておられるのか,その辺をお聞かせいただけたらと思います。 ○井上座長 最初の点は,調べて,可能ならば報告していただくということでよろしいですか。 ○四宮委員 それで結構です。 ○稲田刑事局長 少し統計的に検討してみる必要があると思いますけれども,今知っているところから概括的に言いますと,刑事裁判の第一審終局人員については,平成16年ないし17年ころが,実は特に重大事件のピークの時期だったのです。その10年ぐらい前と比べてもかなり件数が増えていた時期でありまして,その後ずっと下がってきていて,特にこの数年,この4,5年ですか,減少率が非常に著しいのです。検察庁の受理件数で見ても,10年前を100としますと,60,70という数字になってきているというのが,実態としてあります。ですから,起訴の基準については,基本的には変化があるとは思っておりませんけれども,いずれにしても,母数となる犯罪の発生件数というところが大分違ってきているというのが実態だろうと思います。 ○井上座長 二つ目の質問はゼロでいいんですね。 ○合田委員 それは,私も聞いたことがありません。確実にゼロかと言われると,統計を確認しないとなりませんが,聞いたことがありませんし,自分でやったこともありません。多分ゼロだと思います。 ○四宮委員 では,裁判所の中で,今後に向けて何かということは特にはないわけですね。 ○合田委員 これは,多分それを行う要件が具備するのがどの段階かということが関係していると思います。公判前整理手続で整理していって,争いがないことが判明し,もう一つの要件である「適当と認められる」,そもそもこれが何を意味するのかという問題が更にあるのですが,それは置いて,その要件もあるとなった場合に,ではそこから裁判員の数も減らして,裁判官の数も減らしてやるかどうかということになるのですけれども,そこまで裁判官3人で公判前整理手続を進めていることであり,もう概ね整理が付いたところまで来た段階で,あえて減らすような方向を考える発想にはならなかった,裁判員の数も含めて,その必要性も格別感じなかったということだと思います。 それから,最初のころは,公判前整理手続をやって,日程が細部まで全部かちっと固まってから呼出しを掛けていたんです。しかし,今は,第一審に要する期間を合理的なものにする工夫の一つとして,東京地裁などでは,整理を進めていって,審理期間は日数的にはこれ以上動かないが主張や証拠の整理の細部にはもう少し時間が掛かるという段階になると,そこでスケジュール調整をして公判期日を決め,そこからは,公判前整理手続をやりながら候補者の呼出手続にも入って,2つの手続を並走させる格好でやっています。その呼び出す候補者を何人にするかということを決めるときに,4人でやるか,6人でやるかを決めなければいけないのですが,その段階では,まだ整理が続いていますので,多少主張や証拠で動く余地が残っていることもあり,そこですぐに4人にしてしまって,呼出人数を決めていくということに踏み切るのがなかなか難しいというところもありまして,原則どおり6人でやっているという面もあるとと思います。 ○四宮委員 ありがとうございました。 ○井上座長 大久保委員。 ○大久保委員 前田委員に一言お尋ねしたいのですが,前田委員が出してくださいました説明資料あるいは日弁連が出されております改革提案の方には,被告人側の権利とか,被告人側により良い形でという提言ばかりですが,被害者側に何か配慮するとか,あるいは被害者側に関する提言というものについては日弁連の中では全く話し合いはなされていないわけでしょうか。日弁連の中にも犯罪被害者支援委員会もあるのですけれども,そこがいつもバランスが悪いと感じるものですから,お願いいたします。 ○前田委員 内部のことですが,日弁連には被害者支援委員会がございます。日弁連の提案する裁判員裁判の制度改革の議論の段階でも,裁判員本部の「3年後検証委員会」に被害者支援委員会委員の方も入って議論をいたしました。そして議論の結果として各委員の合意できる範囲で意見を取りまとめましたので,被害者委員会の方とも相当意見交換を積み重ねた上での結果です。 ○大久保委員 でも,こういう書類になって出ませんと,全く周りの人に対する認識あるいは日弁連としての提言という形にはならないわけですよね。 ○前田委員 今回の裁判員制度の改革提案の中で被害者問題が挙がっているかというと,結論としてはありません。ただ,裁判員裁判の問題以外の課題での被害者の方の様々な意見は,相当数,日弁連の意見書に取りまとめられています。 ○井上座長 少なくともこの裁判員との関係では,結論としてはないということですね。 ○前田委員 はい。 ○井上座長 今後,論点整理のための検討の中で,今日の御報告を踏まえて,更に御質問あるいは御意見を伺えればと思います。  ここで10分程度ちょっと休憩を入れさせていただいて,それで続行したいと思います。           (休     憩) ○井上座長 それでは,再開いたします。  これから論点整理のための検討に移りたいと思います。冒頭に申し上げましたように,裁判員の選任手続についての論点整理の検討から始めるわけですが,それに先立って,前回,論点整理の議論に関連して話題になりました,本検討会で検討を行うべき事項の範囲をどのように考えるのかという点につき,事務当局の方で改めて考え方を整理したということですので,まずそれについて事務当局からの説明をしていただいた上で御意見を伺い,そして具体的な論点整理についての検討に移るということにさせていただきたいと思います。  では,お願いします。 ○東山刑事法制企画官 御説明申し上げます。  前回の会合で,本検討会の検討事項の範囲をどのように考えるかという点が話題となりまして,現在,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会での調査審議が進行中であることにも関連して御意見を頂きました。これを受け,事務当局において,本検討会で御議論いただく事項の範囲をどのように考えるのかについて改めて検討・整理をさせていただきました。  既に御承知のとおり,本検討会は,裁判員法附則第9条の趣旨に従い,施行後3年経過後の検討作業について,法務省事務当局と密接に意見交換を重ねながら,その作業に必要な協力をしていただくものでございます。現に当検討会ではこれまでも,裁判員制度の実施状況について,議事のテーマとさせていただいてきた次第であります。これに対し,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会は,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,広く刑事司法手続の全般にわたって調査・審議を行っているものでございます。  このように,両者の趣旨や目的の違いに即し,御議論いただく事項も異なってくるものと思われますところ,本検討会におきましては,裁判員法附則第9条の趣旨に照らしまして,裁判員制度の実施状況等を踏まえ,制度特有の法制や運用の在り方について御議論いただきたいと存じております。他方,裁判員制度の法制や運用に関連しない事項は,当検討会の守備範囲には当たらないものと考えております。また,裁判員制度の法制や運用と一定の関連を有する事項でありましても,一般の刑事裁判手続等にも広く関連するなどして,本検討会の趣旨のみによってその議論等を支えられないものについてまで御議論いただくことは,やはり本検討会の守備範囲を超えてしまうものと思われます。事務当局といたしましては,このような観点を踏まえて,今後,論点整理を行わせていただきたいと考えているところでございます。  私からは以上です。 ○井上座長 ありがとうございました。  今の御説明について御意見を伺うためのもう一つの前提として,法制審の特別部会の開催の趣旨やそこでの審議経過についても併せて説明しておいていただければと思います。 ○上冨刑事法制管理官 御説明いたします。特別部会の幹事もしておりますので,その関係で私の方から御説明させていただきます。  法制審の特別部会は,昨年6月から開催されておりますが,元々は法務省でおととし平成22年10月に,外部の有識者に委員になっていただきまして検察の在り方検討会議というものを設けて,検察の在り方についての御議論を頂きました。この検討会議では,翌23年3月に提言を頂いております。「検察の再生に向けて」という題名の提言でございますが,その中に,刑事司法の在り方について議論する場を設けるべきであるという趣旨の御提言がございました。この提言を受けまして,昨年の4月に法務大臣が「検察の再生に向けての取組」という方針を示しまして,その中でその検討の場として法制審議会の諮問を行うという方針を示しております。さらに,それを受けまして,法務大臣が昨年の5月に,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため,取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直し,それから被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など,刑事の実体法及び手続法の整備の在り方について御意見を賜りたいという内容の諮問を法制審議会に対して行ったところです。  この諮問を受けまして,法制審議会では,先ほどから出ております特別部会を設けることにして,その特別部会での調査・審議が昨年6月から開始され,本年の5月24日に第10回の会議が開かれております。現在もこの特別部会での審議が進んでいるという状況でございます。これまでの10回の会議では,まず警察,検察庁あるいは弁護士の方が働いておられる法律事務所などの現場の視察を行ったり,あるいは警察官,刑事の弁護士,それから犯罪被害者の遺族といった方々からのヒアリングを行ったりしたほか,議論としては,論点整理に関する議論を行ってまいりました。そして論点整理がなされて,現在その論点に従った議論をして進行しているところでございます。  論点整理の中身としましては,時代に即した新たな刑事司法制度の在り方に関する総論のほか,各論として,おおむね6項目,その他を含め7項目ほどの論点が整理されております。  各論の論点としては,まず供述調書の収集の在り方,それから客観的証拠の収集の在り方,それから公判段階の手続の在り方,これは,公判段階ということで,例えば自白事件と否認事件との手続上の区別,あるいは公判準備や公判審理の在り方といったテーマも含むものとされております。また,捜査・公判の両方の段階を通じての手続の在り方という論点も整理されておりまして,この中では,被疑者・被告人の身柄拘束と国選弁護の在り方,あるいは犯罪被害者や証人などの支援・保護の在り方といったテーマがこの項目に含まれると理解されております。さらに,刑事の実体法の在り方といった項目が論点として挙げられているところです。  先ほど申し上げましたように,現在この論点について順次一通りの議論を進めているという状況でございます。  以上です。 ○井上座長 ありがとうございました。  それでは,今の御説明を踏まえまして,皆様から御意見を伺いたいと思います。どうぞ。 ○菊池委員 私は,この検討会が設けられている趣旨に照らしますと,この検討会では,裁判員制度に特有の問題に限って議論していくのが適切ではないかと思います。前回の会合でも,証拠開示の問題とか,あるいは事実審理と量刑判断の分離,手続二分といったことについて,この場で議論する必要があるのではないかといった趣旨の御発言があったと思いますけれども,証拠開示の問題あるいは手続二分の問題というのは,裁判員裁判に特有の問題ではなくて,刑事裁判あるいは刑事訴訟手続はどうあるべきかという問題の一環として議論されるべきではないかと思いますので,この場での議論にはふさわしくないのだろうと思います。  そういう仕切りをしないと,刑事訴訟手続の中で問題となっているあらゆることが,これは裁判員裁判にも適用されるからという理由でこの場で議論されることになってしまい,言わば歯止めが効かなくなると思います。ですので,この検討会では,裁判員制度に特有な問題に限って議論していくべきだろうと考えております。  以上です。 ○井上座長 ほかの方。四宮委員。 ○四宮委員 私は前回,もう少し広く議論したらどうかという意見を申し上げましたけれども,今日も同じ趣旨です。もちろん,この検討会が裁判員法の附則の9条に基づいて発足している趣旨を損なうべきではないとは思います。ですから,その制度特有の事項が検討対象になることはもちろんなのです。そして,関連しない事項にまで議論が及ぶべきでないと,それもそのとおりだと思います。ただ,裁判員裁判に非常に密接に関連するような事項,これは,例えば,今菊池委員がおっしゃったような事項などは,特に手続二分の在り方とか証拠開示の在り方,それから死刑事件に関する評決の在り方などは,裁判員裁判と非常に密接に関連すると思います。また,実際に裁判員裁判の経験者の中からもそのような提案等がなされていることは,この委員会にも届けられているとおりだと思います。  そこで,もちろん菊池委員がおっしゃるように,野放図に拡大すべきではないと思いますし,また特に今,上冨管理官からお話があった法制審の特別部会の方で集中的に濃密に,言わば中心的な課題として議論していること,特に取調べの在り方等なんですけれども,そこもこちら側で同じように議論すべきだと申すつもりはありません。しかし,裁判員裁判に非常に密接に関連する事項,それをどの範囲にするかは皆さんで知恵を出していただいて限定することはもちろん必要だと思いますけれども,そういう部分について議論しないと仕切るべきではないというのが私の意見でございます。 ○井上座長 ほかの方,いかがでしょうか。どうぞ。 ○前田委員 前回も申し上げていますが,裁判員裁判に一定関連する事項については,少なくともこの場で3年間の運用状況をきちんと検証していただきたい。法制審の特別部会で多岐にわたる議論が行われていることは十分承知しております。そこで,裁判員裁判とそれ以外の裁判とに共通する刑事手続全般に関わる事項に関し,法制審議会特別部会でどのような制度改革とするか,その具体的な制度設計部分を特別部会に委ねることは私も異論はありませんが,3年間の裁判員裁判における運用状況を検証することは,この検討会の果たすべき役割だと思います。  例えば,先ほど合田委員の説明の中に,公判前整理手続の期間に関わる説明がありました。これはやや長くなる傾向があるとのことでした。しかし,その原因については,議論をしておく必要があります。証拠開示手続が一つの要因ではないかというのが弁護士会の意見であり,公判前整理手続の運用状況をきちんと検証することは是非必要ではないかと思っています。最後の制度設計の部分は法制審特別部会に譲っていいというのが私の意見ですので,この検討会で運用を踏まえて改革の要があるかどうかまで詰めることにするか否かは別としても,少なくとも運用状況を検証の対象にして議論を行うのが検討会設置の趣旨にかなうと考えます。裁判員裁判に一定は関連するが,特有でない事項は議論の対象から外すという考え方には,私は異論がございます。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。どうぞ。 ○島根委員 本検討会と法制審の特別部会の両方に参加させていただいておりまして,そういう立場からも少し申し上げたいと思います。そもそも,今議論になっている検討事項の設定,土俵を設定するということがどうして必要になるかということを考えてみますと,もちろん時間に限りがあるということもあるでしょうが,検討会として一定の結論というか,方向性というものを出すことが期待されているものが検討事項なのかなと理解しております。当然,そうしますと,それを受けた政府として尊重すべきものとして位置付けられる。そういう意味では,この検討会の提言という考えを受けた政府において対処できる範囲のものということでまずは考えるべきなのではないか,ということが一つございます。  それから,法制審の特別部会と本検討会というのは,同じく法務省の審議会・検討会ということでありますので,同じ事項についてそれぞれの会が意見を出すということは,結論が同じか,同じでないかということには関係なく,会の運営の在り方としては望ましくないのではないかと考えております。そういう意味で,守備範囲といいますか,検討事項については,やはり一定の切り分けを行うべきではないかと考えておりまして,そういう意味で,先ほどの事務局のような考え方で私はいいのではないかと考えております。  ただ,当然ながら,議論する前提とか,あるいは問題点の指摘ということで,先ほどおっしゃられました密接に関連する事項あるいは一定の関連する事項ということで,そうした御意見を発言されることを否定するものではないということは,念のために申し添えたいと思います。 ○井上座長 合田委員,どうぞ。 ○合田委員 こちらに参加させていただくときに,これがどういう性質の検討会なのかということにつきまして引継ぎを受けているわけですが,先ほど御紹介がありました裁判員法の附則9条というところを基にして,それについての検討をする会であると承ってきております。今ほかの方の御意見にもありましたけれども,法務省の中でそういう問題について検討するところが複数あるときに,それぞれにどういう土俵を設定するのか,最終的に取り上げる部分の問題という意味においてですが,その仕切りは,設置された側でどういう目的で設置したのかというところを重視すべきだろうと思っております。  それと,議論の過程で参考になる事柄としていろいろなことが出てくるというのはいいのですが,それ以上に,結局どうするかという部分において裁判員制度特有のものではないものまで取り込むことになりますと,かなり間口が広がる可能性があって,それについて実情を調査してやっていくのでは時間との関係がどうなるのか,それにより本来裁判員制度の中の問題について掘り下げて検討するというところがどうなるのかということもございますので,私は事務当局の先ほどの御説明の線に従って進めるのが適切ではないかと考えております。 ○前田委員 質問,いいですか。 ○井上座長 どうぞ。 ○前田委員 公判前整理手続に付されている事件のうち,裁判員裁判は全部手続に付されるので,その数がはっきり分かっていますが,それ以外の事件ではどの程度か,数字的にはお分かりですか。 ○合田委員 今は持ってきておりませんが,それは,多分後で調べれば分かると思います。 ○前田委員 裁判員裁判の場合には公判前整理手続が必須で,裁判員裁判の数だけ公判前整理手続があって,その数が全体に占める割合は相当数になるのではないか。そこで,その現実を踏まえて裁判員裁判における公判前整理手続の状況をいろいろな角度から議論をすることは,この検討会の場しかないのではないかというのが私の意見です。 ○井上座長 今の前提となる数字については,それは調べれば,司法統計などで出ているように思いますので,それはまた補充させていただきます。  ほかの方,いかがですか。どうぞ。 ○山根委員 私はそもそも,裁判員制度特有の課題とそうでないものというのを明確に分けるというのができるのかなと思いますし,私もちょっとどこまでがどうなのかということは自分の中でもよく分かりません。それで,いろいろアンケートなども見ましても,幅広く意見が出ているわけで,例えば死刑における評決の在り方なども,とても裁判員制度の問題の大きな部分を占めていると思います。対象事件の範囲等々と併せて議論に出てくる問題だと思いますし,私は,明確にはっきり分けて,ここからここまでということは難しいだろうと思うので,少し自由な議論の場を頂ければとは思います。 ○大久保委員 実は私も法制審とこちらと両方に出ておりますので,法制審の方ではかなり広い刑事司法全体,これからの新たな刑事司法はどうあるべきかということを現状踏まえてという形で今進んでおりますので,ここはやはり裁判員裁判特有の問題を取り上げるということで進めていくのが一番妥当なのではないかと思います。その目的等につきましては事務局の皆さんが一番よくお分かりですので,そちらの方で整理して出していただいて,そこをしっかりと詰めていくということがこの検討会に与えられた役割なのではないかと感じています。 ○井上座長 どうぞ,残間委員。 ○残間委員 これは多分最終的にはまとめ方の問題にもなるのではないかと思うのですが,「特有」という範囲が,役所の世界の特有という範囲と一般の特有の範囲がちょっと違うので,つまり,余り自分たちにとって論じてほしくないことを特有という枠の中に入れているように見えてはいけないので,そこはきちんと記すべきだと思います。事実かなり多岐にわたった議論が行われたわけですから,先ほどの大久保委員の話にもあるように,どこをどのように文字化して,どこにどうアクセントを置いてこの検討会がなされたかということが世にどう広く,あるいはマスコミの皆さんに分かりやすく伝わるかという,まとめ方も大切だと思います。論点整理も大事なんですが,論点を整理した上で,どこに収れんさせるかという編集力が,重要という気がします。 ○井上座長 御趣旨はよく分かりまして,最後のまとめということになりますとそうなのでしょうけれども,現段階では,これから論点整理をし,論点を絞り込んで,その個々の論点について立ち入った議論をしていくことを目指しているわけで,その前提として,どのような考え方で論点を絞っていくべきなのかを考えておかなければならないのです。 ○残間委員 これは書いてみないと分からないことだと思うんです。論点というのはみんなの中で宙に浮いているので,文字化したときに論点がどう整理されているかが分かるので,たたき台はやはり事務当局がお作りになった方がよろしいのではないかと思います。 ○井上座長 山根委員がおっしゃったように,抽象的に言うだけでは,具体的に個々の問題がそれに当たるのかどうかは分からず,個々の具体的な論点についてここで議論の対象とすべきものかどうかを検討する必要がありますので,それは今後論点整理をやっていく中で,議論していただく必要があることは確かです。 ○土屋委員 前回私の意見は大分述べましたので,余り長々と話をするつもりはないんですが,裁判員制度というのは,刑事裁判の中で最も象徴的にいろいろな制度の関わりが出てくる場面だと思うんです。それを切り捨ててしまって,ある程度議論を絞ってしまうという方向には,私は前回も言いましたように賛成でありません。むしろ,今の段階はもうちょっと幅広な議論をして,裁判員制度とこういう問題が法制度上も,それから実際の裁判の運用上も関わりがあるのではないかと思われることはどんどん出して,そこを意見交換によって整理していく作業が今は必要なんだと思うんです。今,土俵を狭めてしまって,制度特有の問題といった区切り方をしてしまうと,出るべき問題も出ずに,その結果,実務の改善にもつながらず,法改正の問題にもつながらずといった結論になってしまう,そのことが私はちょっと危惧されるわけです。ですから,いずれは論点整理ということで焦点を絞らなければならないことは分かっておりますので,その段階で絞り込みになるのは仕方ないと思うんですが,今の段階で特有な問題だけを議論するということになると,失うものの方が大きいのではないかという気がしておりまして,気になることは取りあえず論点整理に向けた議論の中では委員の皆さんが御自分の判断でどんどん出していただいて,それを事務局の方で集約して,ほかの委員会との関係で,ここはこういう論点に絞って議論しましょうという提案をしていただければ,それはそれでいいんだと思います。  やはり議論の重複は避けなければいけないし,それから,私はかつて区分審理のときの法制審議会の委員もしたことがあるのですが,法制審の方はかなり専門的な議論を専門家が集まってやりますので,ちょっとここの場と違うと思うんです。メンバー構成の内容から見ても,できる範囲というのがおのずから違ってくるということは理解できるんです。ですから,そういう刑事法の根幹に関わるような法改正の部分というのは法制審議会の特別部会でやられるということには私は異論はありません。けれども,そうしてここの検討会の議論から外してしまうと,むしろこの検討会の議論が充実したものにならないのではないかということが懸念されると私は思っております。  以上です。 ○井上座長 事務当局が説明したのはそういう趣旨ではなく,論点整理で絞り込んでいく際の視点についての考え方だと思うのです。論点整理のための議論の入口のところで,あるカテゴリーのもの以外は一切言ってはいけないという趣旨ではない。しかも,一定の基準を設けたとしても,具体的に個々の問題がそこに入るのかどうかについても人によって意見が違い得ると思います。しかし,論点を整理する上での視点については,委員の多くの御意見はそれほど異なっているわけではなく,その視点から過度に絞り込んでかかると,関連する問題点も落ちてしまうのではないかという心配されている方と,限界はかなりはっきりしているというイメージを持っておられる方と,その違いではないかと思うのです。その辺も今後の論点整理の中で具体的な問題ごとに更に議論していただければと思うのですが,ただ,関連するといっても,やはりどのような視角から取り上げるべきかという点で違いがあると思います。前田委員のお話でも,例えば,証拠開示の問題を挙げられましたけれども,この検討会でもし議論するとすれば,公判前整理手続が特に裁判員裁判との関係で何らかの問題ないし課題のある状況にあるのかどうか,そしてそこに証拠開示の在り方が果たして,かつ,どのように影響しているのか,そういった角度から議論するということでなければならないはずであり,前田委員の御趣旨からしても,証拠開示制度それ自体について一般的に議論すべきだということではないように思うのです。そうですよね。  一方,法制審特別部会でも裁判員裁判関連の問題点に言及される方が少なくないのですが,例えば,控訴制度について言えば,切り口がやはり違ってくる。裁判員制度との関係では,第一審に裁判員が加わって判決を下している以上,国民の意見が反映したその第一審判決を尊重する必要があり,それとの関係で控訴の在り方はどうあるべきかという角度からの議論でなければならないはずですけれども,例えば,二重の危険の禁止という点から無罪判決に対する検察官控訴は不可とすべきではないかといった,控訴審自体についての一般論が混入してくると,それはここで議論すべき話ではないのではないかということになると思うのです。そういう切り分けを最終的にはしていく必要があり,議論すれば多分,かなりのところは意見が一致するのではないかという感じがするのですけれども,今の段階で特定の結論を採るつもりはございませんので,以上の議論を踏まえ,これからの論点整理におきまして,その点を意識しながら御議論いただければと思います。事務当局においても,論点の整理に当たっては,今の皆さんの議論を踏まえて作業をしていただければと思います。  そして,個々の論点についてのこれからの論点整理の議論の中で,ここで取り上げるべき問題かどうかについても検討し,共通の理解を得るように努力していきたいと思いますので,そういうことでよろしいでしょうか。  それでは,時間が残り少なくなってきたのですけれども,本論に入っておきたいと思います。まず裁判員等の選任手続についてですけれども,これについても今回だけで議論を完了するのはおそらく無理ですし,適切でもないと思いますので,次回に更に続けて議論したいと思うのですが,今日の段階で御発言いただける方は発言していただきたいと思います。ただ,念を押しますと,今回はあくまで論点整理のための議論ですので,白黒を付けるような議論は先の本格的な検討を行うときまで取って置いていただき,問題提起としてこういう論点もある,こういう視点も必要ではないかといった形で御発言いただければと思います。どなたからでも,どうぞ。 ○土屋委員 発言というよりはちょっと質問なんですけれども,合田委員にちょっと伺いたいんですが,それぞれの事件で呼び出す裁判員候補者の人数なんですけれども,制度が発足した当初は,一つの事件で大体100人ぐらいという感じで,若干慎重な多めの数字を選んで最高裁の方では対処されていたようなんですけれども,現状はもっと少なくなっているやに聞いているのですが,どのぐらいの候補者の方たちに来ていただけるように実務上行われているのでしょうか。 ○合田委員 すぐ統計の数字が出ないので申し訳ないのですが,実際に呼出状をどのくらい出しているのかという数は,始まったころも,平均すると100人はいっていなくて,多分70人とか80人ぐらいだったと思うんです。それで,全事件の平均の数字は多分今もそれほど大きくは変わっていないと思うのですが,職務従事予定期間ごとで見ると,多分一番多い4日前後のところは,平均でもかなり人数が減っていると思います。もう少し具体的に東京地裁で私がやっている内容を申し上げますと,職務従事予定期間が4日前後の事案では,制度が始まったときには,最初に選定する数は70人か80人ぐらいでしたが,今は最初の選定は60人か65人ぐらいです。  私どもの方では,現在は,当日裁判所に来ていただく人数が概ね20人台の半ばになることを目標値として日々やっております。と申しますのは,選任手続期日当日には,当日になって辞退が認められる候補者や,質問の結果によって不公平な裁判をするおそれがあるということでくじの対象から除外される候補者が法律上出てくる可能性があります。また,それらの方を除いた候補者に対して,当事者がいわゆる理由なし不選任請求権を行使できるわけですけれども,例えば,多くの場合は裁判員6人に補充裁判員2名を置きますので,理由なし不選任請求権行使の対象となる候補者の数,検察官・弁護人合わせて最大10名ということになります。そうしますと,理由なし不選任請求権行使の直前の段階で18人残っていないと,この請求権行使が最大数になった場合,候補者が足りなくなってしまうという問題があるのです。このようなことを前提に,当日お越し願う人数は何人ぐらいがいいのだろうかと考えると,やはり20人台の半ば,ともかく20人台の中に収まるようにするのが適当だと考えられるわけなのです。 そこで,そこを実現するための方策になるのですが,事前の辞退の申し出がどのくらいあるかは,結局はやってみないと分かりませんから,最初に余り大きな人数で出してしまいますと,結果的に辞退したいという方が予想よりも少なくて,30人とか40人の方に来ていただくということになってしまう事態もあり得ます。実際,最初のころは,そういう例も生じたわけです。 そこで私どもは,現在は,最初の段階で発送する呼出状を50通ぐらいにすることにしています。学生とか70歳以上の方で辞退したいという表明がある方には呼出状を出しませんので,そういう方を除いて50通ぐらい出すためには,大体経験上は60人とか65人ぐらいを選定する候補者数に必要があります。この辺は,やはり経験を積めばだんだん見当が付くようになります。それで出しておいて,実際は予想よりも前倒しの辞退が認められる方が多くて,当日20人台半ばに達するのは難しいかなというときには追加選定をやります。そのときには,8人にするか,7人にするか,それとも9人か,そんな感じの議論をすることもあるのですが,そうやって,要するに最初にどんと大きくやらないで,ある程度確実な数でやっておいて,後は小まめに修正していって,20人台半ばの方の御出頭はお願いするけれども,他方でできるだけ過大にならないようにと,そういう運用をしております。 ○井上座長 ちなみに,各暦年ごとの実施状況報告があるのですけれども,そこでは,そういったデータも報告されてたと思います。 ○前田委員 選任手続の問題について,弁護士会でどういう議論をしたかを簡単に御紹介しておきます。  合田委員の説明資料の資料1の6ページの表6にありますように,法34条4項が理由のある不選任で,排除の申立てをすることが弁護人や検察官の立場ではできる。もう一つは,法36条で理由なしの不選任を検察官・弁護人がすることができるとなっています。法律上は,検察官も弁護人も不選任の申立てなどができる権限を持っている。しかし,その権限を行使するにあたっての情報の入手については,2日前に名前だけの名簿が来る,当日裁判所で事前の連絡票の閲覧をする,最後に当日質問票を閲覧する程度です。それで理由あり不選任が本当に適切にできるか,あるいは理由なし不選任ができるか,裁判所での説明の際,外貌を見ることはできますが,法34条4項の申立てや理由なし不選任をするには,現行法の規定では裁判員候補者の情報が少な過ぎるのではないかという意見がありました。  しかし実際にどうしたらいいのかということになりますと,なかなか難しいのです。一つ議論が出ましたのは,私自身は東京のことしか知らないのでよく分かりませんが,大阪では,裁判員候補者に対して,小グループで説明をする。東京は40何人一遍にやりますが,大阪では7〜8人か10人ぐらいでやる。少ない人数だと裁判所とのやり取りなどをする候補者が結構出てくるらしい。40何人もだと質問してくださいと言ってもなかなか手が挙がらないのですが,少人数になると手を挙げやすくなるので,そこでのやり取りが増える。そういう機会に,裁判員候補者の情報が得られる。そこで,質問を何人ぐらいの規模でやるかについて検討はできないかという意見がありました。  東京三会で模擬裁判をやったときには個別の質問方式が実施されて検討されましたが,個別質問は時間が掛かり過ぎて効果的ではないという理由で採用されませんでした。日弁連の議論過程でも個別質問するべきだとの意見はありませんでしたが,説明対象の候補者の人数を絞るということは一つの方法ではないかとの意見がありました。  もう一つは,質問事項につき,当事者からも事前にこういう質問をしてもらいたいということを裁判所に申し立てることはできますが,直接は聞けない。そこを改善できないかという意見もございました。  ただ,具体的に,どこを変更すればどういう結果が出るのか検証もできておりませんし,現在の運用で困ったとか悪い事態になったという報告も上がっていないので,今のところは,運用状況を見守ったらいいのではないかという結論になりました。以上が,弁護士会での議論状況です。 ○大久保委員 私は,この選任手続に関する問題について,今まで過去2年間のも含めましてアンケート調査結果を少し被害者の視点からひも解いてみましたら,一応三つのことを質問させていただきたいと言いますか,要望として出したいということがありました。  まず一つは,裁判員にはもちろん終生守秘義務がありますけれども,裁判員候補者には全くありませんので,これはとても問題なのではないかということを考えています。論点として,裁判員候補者にも守秘義務を課していただきたいと思っているのですが,まだ今はそういうことを言う段階ではなくて,その前の段階だということですのでよろしいんですけれども,守秘義務のない現状の中で,例えば,裁判所とか検察庁の方たちは結構いろいろ努力をなさってくださっておりまして,被害者のプライバシー保護に関してもいろいろな対応あるいは努力もなさっていらっしゃるかと思いますので,それをまず教えていただきたいということが一つ。  もう一つは,性犯罪の場合,アンケート結果から見ますと,「裁判員の男女比は同数に」,「年代のバランスも考えた方がよい」という意見が多数出ておりました。第8回のこの検討会のとき,被害者団体のヒアリングにおいて,性暴力禁止法をつくろうネットワークからも同様の意見も出されていますので,そういう選任手続のとき,前田委員の意見とも重なる部分があるかと思いますけれども,その点につきましてどのように工夫をなさっているのでしょうかということです。  あと,私自身は,男女比とか年代とか職業というものは,バランスのよい選任の方がより市民感覚を反映するのではないかと考えますので,性被害とは限らずに,ほかの裁判員裁判の対象事件でも,これは大切な基準になると思いますので,併せてどのような工夫なり配慮をしているのかを教えていただきたいと思いました。  それともう一つは,性犯罪を男性裁判員だけで担当したとか,改善するには女性を入れるということが一番大事な点だとかということが,このアンケート調査の結果の中にもあったんです。同じく第8回のヒアリングのときに,性暴力禁止法をつくろうネットワークの望月弁護士さんが,「被告人の弁護人は,女性の方が被害者の味方になるとの懸念から,候補者から女性を排除する傾向にあると思う」とおっしゃっていたんです。今回改めて私自身もこの裁判等経験者の声のアンケートを読み込んでみた結果,望月弁護士さんが指摘したことというのは,やはり同じような懸念があるということを感じました。私は,候補者の中に,例えば,挙動不審のような人たちがいる場合は,裁判員になったときにその役割を果たせないということで,理由なき不選任になるのだろうと自分なりに漠然と解釈していましたけれども,望月弁護士から指摘されたことを今踏まえて考えてみますと,これはとても大きな問題なのではないかと思いますので,この点についても本当のところを教えていただければと思った次第です。  一応,質問という形ではこの三つです。 ○合田委員 今おっしゃったうち,候補者に守秘義務がない現状における選任手続の段階での性犯罪被害者のプライバシーへの配慮の点ですが,検察官もいろいろ考えていると思いますが,裁判所の方でも当然配慮して手続を進めているところでございます。例えば,候補者に対して選任手続期日において事案の概要を説明いたしますが,当然のことながら,そこで被害者の名前を明らかにすることはいたしません。それから,犯行場所といったものにつきましても,それが例えば被害者の方の住まいであるなど被害者の特定に関係することになる場合等には,東京23区の場合は何々区どまりにしており,それ以上は明らかにしません。要するに候補者に入る情報自体について,そういう被害者との関係を配慮したものにしてやっております。不公平な 裁判をするおそれがあるかどうかを判断するところとのバランスをどう取るのかということにつきましては,元々今の法の下での不公平な裁判をするおそれというのがどのようなものかということを考えますと,そこは明らかにしなくても,十分判断ができると思っております。  それから,例えば,被害者を知っている方が裁判員に入る可能性というところですが,これを完全に排除し切るというのは,先ほどちょっとほかの方のお話にもありましたけれども,こちらで持っている情報に限りがあるものですから,なかなかいかないかもしれませんけれども,例えば,法律によりますと,2日前までに明らかにできるのは候補者の名前ということでありまして,それ以上の住所とか生年月日とか,そういう情報については明らかにしないことになっております。これは,候補者のプライバシー保護その他の理由によるものですが,その方面での要請との兼ね合いも考えまして,例えば,今被害者が住んでいる場所あるいは事件があった場所とか,当時の住所ということに関して,選任当日に,それが何区という場合であるとすれば,何区にお住まいの方は何番と何番の方ですというのを不選任請求権の行使の前の段階で当事者に対して,それ以上,何区のどこどことは申し上げませんが,そういう形で情報提供するということもやっているところだと思います。  今述べたのは私自身の事件でやっているということでございますけれども,更に具体的にということであれば,この後,議論が進むときに,また実情を調べて御報告申し上げたいと思っております。  次に,男女比あるいは年齢比といったことのお尋ねでございますが,手元に持っております資料では,裁判員の男女比というものにつきまして,例えば全事件で男性と女性の比率がどのようになっているかといいますと,これは期間が余りはっきりしないのですが,男性が54.8%で,女性が43%。アンケート結果に基づいているので,回答がないと性別が分からないものもあるのですけれども,はっきり分かっているのはそういう比率です。そして,性犯罪について見ますと,男性が57%ぐらいで,女性が40%ぐらいということですから,性犯罪についてと全体とでそれほど大きく比率が変わっているということはないんです。一件一件を見ていくとどうかという問題はありますが,統計的にはそのぐらいの構成比になっているということであります。自分でやった事件を思い出しても,大体そんな感じかなと思っております。  それで,あとは,御紹介のありました弁護士さんの御意見ですね。その当否に関する意見につきましては,ここでは申し上げません。ただ,御参考までに紹介しておきますと,正式の裁判員裁判が始まる前に模擬裁判というのをやった時期がありますが,そこで同じ性犯罪の記録を使って,たくさんの方に裁判員役で御協力を願って,いくつもの合議体を作って,そのときは模擬裁判ですから,評議の模様も全部オープンにしてやったことがございます。私もそれを傍聴していたのですが,その評議のときに裁判員役の一般国民の方がおっしゃる意見を聞いておりますと,男性であるから加害者に甘く,被害者に厳しい,あるいは女性ならその逆だという傾向は,それは全くないのではないかという印象を持ったのです。やはり,結局は,男女に関係なく,お一人お一人がどのようにお考えかということで,それは,男性でも性犯罪に厳しい方もいれば,女性でも逆だという場合もあり得ますので,男女だからこうだとは言えないのではないかということです。それまでは私も男女の差があるのではないかと漠然と受け止めていましたので,そうではないことに強い印象を受けました。  さらに,実際の事件について申し上げますと,性犯罪ではない事件を含めて,年齢層あるいは男女比は,くじを実施するときに,そこを調節するようなことはやってはいけないことになっておりますので,無修正でくじを実施した結果として,事件によっては,偏りが生ずる場合もございます。ただ,守秘義務に触れない範囲で申し上げますが,実際にそれで担当される方は,裁判長から,法廷で調べた証拠だけに基づいて判断してくださいと何回も説明を受け,更に何人もの人で意見交換をし,他の人の考え方も知りながら考えて,全体で一つの結論を出していきます。率直に言って,裁判員・補充裁判員の方は,非常に真面目に熱心に取り組んでくださいます。自分が特定のとらわれたような考え方をしていないかどうかということをむしろ意識的に非常に気を遣って,そうならないように,どう見たらいいのだろうか,公平にやろうということで意見を述べていただいているという実感を持っております。そういう意味でも,構成の偏りというのが結論に影響するかといいますと,私は自分の経験によれば,それはないと思っております。  以上でございます。 ○前田委員 確かに望月弁護士が,個別の性犯罪事件で,ある弁護人が女性候補者を理由なき不選任にしたと述べられましたので,そのケースでは多分あったのかもしれません。ただ,日弁連裁判員本部や刑事弁護センターでの議論を聞く限り,性犯罪事件で女性候補者を排除するとの不選任権行使をしている弁護人は,いないと思われます。先ほど合田委員が述べられたように,女性が非常に厳しいかというと,必ずしもそうではないし,男性ならいいかというと,そんなことはなくて,正にそれぞれの個性によるところがありますので,刑事弁護の方針として,こういう事件のときにはこういう人を不選任するなどという議論は,我々のサイドでは全くございません。個別には弁護人の考えがあるかもしれませんが,弁護人全体の傾向ではないというのが我々の認識です。 ○井上座長 合田委員が言われたように,男性だからこういう事件の被害者に厳しいというのは根拠のないことで,例えばアメリカの陪審などについてもそういう議論は昔からあるのですけれども,実態は必ずしもそうではなく,むしろ女性の方が被害者に厳しい場合があるといったことが指摘されています。  また,我々の被害者団体の方々に対するヒアリングにおいても,具体的にそれによって弊害が起きているのかお聞きしたら,そこまでは言えないというお答えだったと記憶しますので,慎重に考えなければならないと思います。  理由なき不選任請求の制度については,御承知とは思いますが,不公平な裁判をするおそれがあることを理由にして不選任請求をすることももちろんできるのですけれども,「不公平な裁判をする」とはよほどでないと認定し得ないだろう。どれだけ質問しても,そういい得るだけの事情が明らかになる場合は稀だろう。しかし,当事者としてやはり公正さに不安ないし疑いが残るという場合に,一定数は理由なしでも不選任にしてもらえるという仕組みとしたわけです。ですから,理由なし不選任の判断をするためにもっと情報をといわれても,制度趣旨からすると限度があるように思います。 ○酒巻委員 私自身は,選任手続の法制度の部分について,何か根本的な不具合が生じているとは認識しておりません。それから,これまでも紹介されたとおり,特に裁判所が,多分ほかの国では考えられないぐらいのきめ細かい配慮で,最後の抽選前に残る人数まで想定勘案するということまでをやっておられることには敬意を表します。もっとも,その点についてはちょっとやり過ぎではないかぐらいにさえ思うんですけれども,一つは,これは運用についての質問です。裁判所におかれては,選任手続期日に呼び出したけれども,結局裁判員にならずに帰る人がたくさんになるというのは,申し訳ないという,そのような配慮でこのような努力をされているわけですか。私がいい加減なのかどうか分かりませんけれども,もう少し,そんなところまで細かく気を配るより,ほかにもっと気を配る……。ごめんなさい。つまり,何事においてもわが国の仕事の極め方・水準は精緻ですごいなという印象を持ちます。  あとは,むしろ裁判所が一番選任手続に携わっている中核なので,どうしてもこれは今の法律ではものすごくやりにくい,それを運用でクリアしているのだといったことがあれば教えてほしいなというのが質問でございます。 ○合田委員 最初の方のことにつきましては,おっしゃったとおり,せっかく来ていただいたけれども選ばれなかったという方がたくさんになるということは,この制度について将来にわたって国民に広く御理解と御協力をいただくという見地からも適切ではないと思っております。国民に掛ける御負担はなるべく最小限に,しかし手続は進められるようにということで,来ていただく人数の目標値を先ほど述べたように設定してやっているということでございます。  それから,裁判所の側から見て,今の制度が制度面においてどうかということですが,今日は論点整理という話だったので,後でまた述べさせていただきますけれども,やっている中で,立法的手当がないと困るといった不都合は多分ないのではないかと思うんです。私自身は,ここに立法的手当が要るなというのは,少なくとも選任に関しては感じたことはありません。 ○山根委員 アンケートなどを見ますと,「法廷の見学などを企画していただいていて,とても有意義だった」という声もたくさんあったので,そういう取組は是非進めていただければと思いました。  それと,私が感じたのは,朝というか午前中にその選任の手続に行って,昼を挟んで午後すぐに裁判が始まるという,それは時間の短縮という意味では有意義なんだと思います。ただ,私などからすると,いきなりその日のお昼からというのは,ちょっと心の準備等々を考えると,無理がある人が多くないかなとは感じます。ですから,まず,その日は一旦帰って翌日からぐらい,半日はちょっと仕事の片付けとか心の準備の時間が必要かなというのは個人的に思っています。  それと,これは選任手続だけではなくて全般にだと思うのですけれども,地方と東京のような都会とでアンケート等の結果の意見にもいろいろ違いがあるように思えますので,私などは東京しか知らないわけですが,地方では地方なりの問題点がいろいろあるというのを感じますので,その点も,一緒くたにではなく,考えていく必要があるのかなというのは感じています。 ○井上座長 今の点は,地方により差がある。その土地ごとの産業の有りようによって繁閑期に違いがあったり,裁判所までの距離や交通手段の状況なども随分違うものですから,きめ細かく見ていかなければならないと思います。  予定された時刻はもう過ぎていますので,今回はこのくらいにさせていただき,次回にまた裁判員等の選任についての論点整理のための議論を続行したいと思っていますが,よろしいでしょうか。  その他,全体について何か特に御意見がございましたら。よろしいですか。  では,次回の検討会ですけれども,今申しましたように,本日に引き続き,裁判員等の選任手続について,論点整理のための議論を行っていただきたいと思います。  それに加えて,どのような事項を議論の対象にするかについては私に一任していただき,追って皆様に御連絡するということでよろしいでしょうか。  それでは最後に,事務当局から,次回についての予定の確認をお願いしたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 次回でございますが,7月13日金曜日午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等につきましては,追って御案内申し上げます。  以上です。 ○井上座長 それでは,これで第10回目の検討会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。 −了−