裁判員制度に関する検討会(第11回)議事録 1 日 時   平成24年7月13日(金)13:30〜15:01 2 場 所   法務省第1会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,      残間里江子,四宮啓,島根悟,土屋美明,前田裕司,山根香織                              (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      名取俊也刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題  1 論点整理のための検討   (1)裁判員等選任手続について   (2)対象事件等について  2 その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料3:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成24年4月末)   資料4:控訴審結果(平成24年4月末まで) 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,予定の時間となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第11回会合を開会させていただきます。   なお,山根委員は,御都合により20分程度遅参されるとの御連絡をいただきましたので,御報告させていただきます。   それでは,井上座長,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 委員の皆様には,お暑い中お集まりいただきましてありがとうございます。   議事に入ります前に,まず事務当局から本日の資料についての説明をお願いしたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 本日お配りさせていただいている資料は,議事次第,配布資料目録,インデックス付きの資料4点でございます。資料1として「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」と題する横書きのもの,資料2として「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」と題する円グラフ等を記載しておりますもの,資料3として「裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成24年4月末)」と題するもの,資料4として「控訴審結果(平成24年4月末まで)」と題する1枚紙のものとなっております。   以上,御確認いただきたいと思います。 ○井上座長 よろしいでしょうか。   それでは,議事に入らせていただきます。   本日の議事ですけれども,前回に引き続いて,論点整理のための検討を行うということになっており,本日は,前回に引き続き,裁判員等の選任手続についてまず御意見を伺い,次いで,裁判員裁判の対象事件等について,今後検討を行うべき事項を拾い上げていくことにしたいと思います。こういう進め方でよろしいでしょうか。   (「異議なし」との声あり) ○井上座長 それでは,まず裁判員等の選任手続について御意見等があれば,御発言願います。   既に前回取り上げたテーマであり,ある程度御発言いただいておりますけれども,更に追加して御意見等をいただければと思います。   どなたからでもどうぞ。 ○四宮委員 特に制度改正ということではなくて,運用の面で,取り分け裁判所に今後御考慮いただけたらなと思っていることを一つだけ申し上げたいと思います。   候補者として裁判所に来ていただいた方々の接遇の問題なんですけれども,公正な裁判員を選ぶために,やはりある程度の数の候補者の方には来ていただく必要があると。そうすると,裁判員や補充裁判員に選任されない方というのが必ず出ると。そして,裁判所におかれては,その接遇について,大変に御尽力いただいていると理解しております。それは,裁判員の方々,特に候補者の方々などのアンケートや記者会見などを伺っても,それははっきりしていると思うんですね。   それで,ある程度の方に来ていただいて,選ばれない方も出るということですけれども,その選ばれない方々について,余りマイナスなことというよりは,裁判所にいらしていただいて,やはり来てよかったと。選ばれなかったけれども,来てよかったというようなお気持ちになっていただくことはとても大事だと思うんです。   いろいろ伺っていますと,例えば,その接遇に関して,特別な研修をしておられるということも伺っておりますし,あるいは選ばれなかった方を法廷にお連れをして,刑事裁判の裁判員の法廷を見ていただく,それは大変によかったというふうにおっしゃっている方々も多うございます。   これから裁判員制度をより定着させていくためには,国民の理解が不可欠ですので,そのとき必要なのは,やはりそういう方々が,歓迎されたと,裁判所にいらして歓迎されたということと,それから帰るときに感謝されたということだろうと思います。   例えば,アメリカの陪審員たちも,たくさん選ばれない人が出るわけですけれども,多くの人たちは,もちろん選ばれないこと自体を喜ぶ方もたくさんおられるわけですけれども,そのことのほかに,裁判所に来て,例えば,いろいろその州の刑事システムについて勉強できたとかいうようなことをおっしゃる方もいらっしゃるわけですね。そうすると,そのときにどんなことをやっているかというと,これはもちろん州によって違うわけですけれども,例えば,刑事裁判に関するビデオを見てもらうと。これは日本でもDVDを御覧いただいているということですけれども,これはお送りしているものと同じものを見せられたという意見もありました。   例えばアメリカの例などで言えば,刑事裁判の歴史から説き起こしたビデオなど,そして現在の州の裁判システムというようなものを見ていただくと。あるいは,最も評判がいいのは,裁判官が直接待合室にいらして,直接語りかけるというようなことも,州によってはやっているようです。   そういったものを,つまり選ばれないことを決してマイナスの事象として捉えるのではなくて,やはり貴重な時間を割いて裁判所に来ていただいたけれども,来たかいがあったと。選ばれなかったけれども,来たかいがあったというように思っていただくような方向で,今もいろいろと御尽力いただいていると思いますけれども,なお一層,運用面で御尽力いただけたらなと思った次第です。 ○井上座長 この検討会で論点にするというよりは,そういうふうに運用するよう要望したいということですね。   一言だけコメントさせていただきますと,アメリカとはやや事情が違うところがあり,アメリカの場合には,刑事事件だけではなく民事事件も陪審裁判の対象になりますので,選任が行われる週の初めのころに,事件別にではなく,開始が予定される事件全てをまとめて,大量の候補者が呼び出されて,裁判所にやってくる。その人達の中から,具体的な事件の陪審員選任手続のために順次必要な人数だけ無作為に選ばれ各法廷に呼び出されるわけですが,その順番が回ってくるまで大分待ち時間があるので,その間に四宮委員がおっしゃったようなことを含め,裁判所の方でいろいろやっているのがほとんどだと思います。これに対し,日本の場合には,最初から特定の事件のために候補者を呼び出して選任手続を行うというやり方ですので,時間的に限界もあろうかと思いますね。 ○合田委員 今,四宮委員がおっしゃった御趣旨ですね,来ていただいた方で選任されなかった方についての関係ですけれども,御指摘のあったような視点というのは,大変大切なことだと思っていまして,制度が始まるときから,裁判所の方でも,そこにきちんと気を配っていかなきゃいけないと思ってやってきているところでございます。   例えば,私自身のやっていた件で言いますと,東京では全体質問をやりますから,裁判長は,必ず候補者の皆さんの前に1回顔を出すことになるんですが,その後,抽選で選任される方が決まった段階で,裁判長である私自身が待合室の方に行って,その番号を発表し,そこで不選任になった方については,どうしても法律の制度上,その日になって外れる方というのが出るのは避けられないということを御説明し,選任された場合に備えてスケジュール調整して来ていただいた方もたくさんいらっしゃると思いますので,その面のおわびも含めて,御協力いただいたことにお礼を申し上げております。それから東京地裁の場合は,お時間がある方については,法廷を御案内して見ていただくという簡単な見学みたいなことを実施しておりますし,さらに,午前中に選任期日をやったような場合で,今日1日休んでいるので午後は法廷を傍聴してみたいというようなお話があった場合には,法廷傍聴の方法なども御説明しております。   今後も一層何ができるかということを考えてやってまいりたいと思っています。 ○井上座長 ほかに裁判員等の選任手続に関連して御発言ございましたら。 ○土屋委員 ちょっと心配なことがありますもので。選任の無作為抽出のくじの抽選ですね,これについてきちんと無作為で行われているかどうか心配だということを言う方がいらっしゃるんです。つまり,コンピューターで抽選する場面を実際に見ていない。別の部屋で抽選が行われているというような場合のことですね。取り越し苦労だと思うんですが,抽選のコンピューターのキーを押すだけでしょうけれども,その場面に,例えば,選任手続に呼ばれた方のどなたかに立ち会ってもらうとか,もし要望があれば,そういうようなことも考えてもいいのかななんて思ったりします。 ○井上座長 心配だというのは,何か根拠があって言っておられるんですかね。 ○土屋委員 根拠があって言っていらっしゃる方もいらっしゃいますね。 ○井上座長 どういう根拠ですか。 ○土屋委員 ちょっと言いにくいこともいろいろありますので,控えた方がいいかなと思います。 ○井上座長 例えば,結果として選ばれた裁判員の性別や年齢層が偏ったりするということはある。それは,しかし,何段階かのプロセスを経た結果としてそうなることもあるということにすぎず,そのことから直ちに選任のプロセスが無作為でないとか,不公正だということにはならないわけですから,その点をもし取り上げて議論をするとするならば,どういうことを根拠にそういう疑いが持たれているのかということは,やはり明らかにし,詰めて検討する必要があるのではないかと思うのですね。土屋委員の御趣旨は,そこには立ち入らないで,開かれたところでやれば良いということですか。 ○土屋委員 何か不祥事があったとかいう話じゃないので,そこまで事実がこうだから,こういう場合にはこうしてというようなことを議論する必要はないと思うんですけれども,私が言いたいことは,選任手続の透明性というのは,非常に大事なことなので,どなたからも疑念を持たれないようなやり方を裁判所の方でも工夫していただけたらいいなと思うところがありますというだけです。要望だけです。 ○井上座長 コンピューターのキーを操作して,名前を抽出するところが見えれば,そういった疑念が晴れるということですか。 ○土屋委員 恐らく私はそうだと思います。 ○四宮委員 裁判員等経験者の方々の感想には,選任手続に関する中に,結構今のような御意見があったんですね。その趣旨は,座長がおっしゃったような趣旨とは違って,土屋委員がおっしゃったように,最後に決めるところを見たいというだけの話だと思いました。その数が結構あったので,私も,ああ,そうなのかなと思った次第です。 ○合田委員 今のシステム,確かにそれは見えないような格好になっており,皆さんの前ではボタンは押していないということなんですけれども,今のシステムを作るときに,どういうやり方をするかと考えたんですが,裁判員法の33条3項という規定がありまして,それは,理由ありとか,理由なしの不選任請求は候補者の面前で行われないようにする他,候補者の心情に十分配慮して手続をやれと,こういう内容になっております。   率直に言って,例えば25名の方が来ていて,それでもって抽選の対象が,いろいろな不選任があって10名であるというようなことで,10名の中から選びますということが明らかになると,残りの15名の方は一体どうしたんだろうかと,そういうことが出てくるわけです。私どもとしては,心情をおもんばかれという規定が求めているのは,自分がどうして不選任なのだというようなことを悩まなくてもいいやり方をよく考えろという意味だと理解していましたので,むしろそういうようなところが明らかにならないような格好でくじを実施しようということで,今までやってきたというわけでございます。 ○井上座長 ほかの点でも結構ですが,どうぞ。 ○前田委員 弁護人は,選定のときには立ち会うことができますので,私自身初めての裁判員裁判のときに,どのようなものか見たことがありますが,ボタンを押して,一瞬で終わりました。 ○合田委員 最初の選定ですよね,候補者を選ぶという。 ○前田委員 最初の選定に一度立ち会いましたが,実情がよく分かりましたので,もうそれ以上立会いはしていません。とにかく機械的というか,コンピューター操作なので瞬時に終わりました。くじ引きなら,少し面白味もあるのでしょうが,ボタン一つで数字がパッと画面に出るだけなので,何の面白味もなかったです。 ○井上座長 さっき合田委員が言われた点は,配慮しなければならないところだと思いますね。理由付き不選任と理由なし不選任,あるいは,くじで不選任になる。そのどれなのかは,不選任になった候補者の方には分からない形にするという現行のやり方は,呼出に応じてわざわざ来られたのに選任されなかった候補者の方々に対する影響ということを考えたもので,それが法の趣旨でありますので。   まだ論点整理の段階ですので,これ以上突っ込んで,どうするかということまで議論する必要はないですから,論点出しとして伺っておきたいと思います。 ○土屋委員 今の点は要望です。単なる要望で,そういう立会いのことも考えてみたらどうでしょうかというだけのことです。   次,ちょっとお話ししたいなと思っていることは,これはやはり選任手続からは,枠をはみ出してしまうことなので,この場でもって話した方がいいのかどうか,ちょっと迷っているところもあるんですけれども,審理ですとかそういうものに踏み込んでも,お話ししておきたいなと思うことが一つあります。   それは,去年3月11日に起きました東日本大震災のことなんですね。大地震だとか津波に見舞われて,岩手,宮城,福島のそれぞれの裁判所が大きな被害を受けましたし,現実に裁判員裁判が中断されたり延期されたりしたというような大きな影響が出ました。   そのときに感じていたことなんですけれども,こうした大きな自然災害が起きたときに,どのような対応を講じることができるのかというようなことを定めた規定というのが,裁判員法にはないですね。いわば平時を想定した仕組みになっているんですけれども,実際に去年いろいろ起きてみますと,何らかの規定を置いた方がいいんじゃないかというふうに考えるところがあります。   実際に仙台地裁では,審理中の公判が休廷中に地震が起きて,それで裁判が中断してしまって,裁判員を全員解任して,その後,もう一度,裁判員を選び直して再開したという事例が報道されています。半月ぐらいたった後に,どのくらい起きているのかということを,私自身が調べたことがあるんですが,仙台で3件,福島地裁で本庁が1件,郡山支部が4件,これだけ裁判員裁判の中断,延期という事態が起きているわけです。   そういう被害が大きかった沿岸部ですとか,原子力発電所の周辺だとか,そういう市町村については,裁判員候補者への呼出状の発送が見送られたりしています。選任手続の関係では,そういう呼出状の見送りという手続がとられたわけですけれども,これは私は当然だと思っているんですが,そういう見送りが可能な根拠って一体どこにあるのかと考えると,これはないと思うんですね。   裁判員候補者名簿に同じように登載されて,無作為抽出で選ばれるという,そういう仕組みの中で,実際,個別の事件について呼び出される人と,呼び出されなかった人がいるということについては,弁護士会の中から,公平性に疑問があるんじゃないかという指摘もあるようです。   選任手続について言うと,被害の大きい市町村の候補者というものは,呼出状の発送対象としないというふうに例えば定めておくとか,そういうことが考えられると思うんですよね。   どういった基準でそういう措置を採る対象にするかどうかという辺りは,いろいろと考えなきゃいけないでしょうし,公平性が問題になるとしたら,そういう具体的な事案に即して公平性について判断するような何らかの仕組みを設ける必要もあるかもしれない。大規模な自然災害ですね,地震だとか津波だとか,これは被害の想定自体が,新しい基準に従って見直されていますから,それと連動するような形で,大きな被害が起きたときに,どういうことができるのか,すべきなのかということも考えておいた方がいいかなというふうに思うわけです。   審理の話にいきますと,仙台ですとか福島県の裁判所が採った審理の中断だとか延期だとかいう措置ですね。これは水戸なんかでも,確かそういうふうなことがあったように思うんですけれども,緊急避難的にそうせざるを得なかったという意味では仕方がないし,おおむね妥当だったと私は思うんですけれども,結果的にそれでよかったということでいいのかなということですね。   裁判員法ができていく過程の議論を思い起こしているんです。けれども,裁判員制度・刑事検討会では,一つの地方の平穏が害されるというような事態が起きたときにどうするかというような議論がされた記憶があります。   いろいろな緊急事態の発生というか,想定外の事態の発生というか,そういうことが全く念頭になかったわけではないとは思うんですね。   ただ,裁判員法の中で何か関連しそうな規定を見てみると,対象事件からの除外規定,第3条にありますけれども,これなんかは,身辺に危害が及ぶような場合,そういう恐れがあって,安全の確保が非常に難しいというような場合には,裁判員裁判でなくて,裁判官だけの裁判をすることができるんだという仕組みになっていますけれども,自然災害だとかそういうのは,裁判官も裁判所の職員の方も,いわば被害者ですから,そういう枠組みで考えるわけにもいかないだろうと思いますし,ちょっと違う考え方が要るのかなと思うんですね。   それから,やはり立法段階の話として,刑事訴訟法で定めがあるような,ほかの地裁への移送だとか管轄の移転だとかという手続に基づいて,ほかの地裁で審理ができるようにできないかというような議論も確かされた記憶があります。しかし,よその地域の住民の人たちにとっては,ほかの県で起きたことが持ってこられるということは,その地域の人たちにとっては負担の増加という問題にもなりましょうし,なかなか簡単には受け入れてくれない部分もありましょうし,そういった問題があるだろうと思うんですね。   大震災を踏まえた法的な手当てがどこかに要るのかなという議論をしておく必要が今あるんだろうと私は思うんです。   裁判員法だとか関連した規則を眺めていきますと,例えば選任に関する手続の中には,期限を設けたものがありますけれども,その妥当性が問われるんじゃないかと思うようなものもあるように思います。例えば,裁判員候補者の予定者名簿の調製なんですけれども,裁判員法の22条に,各市町村の選挙管理委員会は,10月15日までに予定者名簿を裁判所へ送らなきゃいけないと書いてあります。10月15日までにという日付が特定されているわけですよね。   しかし,東日本大震災のことを考えますと,市町村の庁舎が流されたりして,選挙管理委員会自体が機能しなくなっている。建物もない,職員もいないという事態が起きたわけです。戸籍の原簿すら無くなっている,そういう自治体もありました。   そうすると,たまたま大震災が起きたのが3月でしたから,こういう条件はクリアできているわけでしょうけれども,例えばこれが9月なり10月だったら,どういうことになるのかと。10月15日までに名簿を出せと言われても,できるわけないじゃないかと私は思うんですね。そういう期限が法律に載っているということはどうなのかな。ここまで限定しなくてもいいんじゃないかと,思ったりもするんですね。   守れるような期限の定めならいいですけれども,そこら辺り,もう一度考え直す部分もあるのかな,なんて思ったりもしているわけです。   また,呼出状の話についても,原則的に裁判員選任手続の6週間前までに発送すると決まっていますけれども,これなども,やはり期限としてきちんと守れというと,こういう大災害のときに守れるのかなという疑問を呼ぶ規定でもあろうかと思うんですね。   審理についても,ちょっと枠をはみ出しちゃいますが,気になることがあるんです。それは,裁判員を選任し直して再開された仙台地裁の例で言いますと,前に行われた証人調べだとか,そういうものを全部DVDに撮っておいて,新しく選ばれた裁判員がそれを法廷で上映されるのを見て,それでその後の審理に臨んだという経緯ですね。ですけれども,その後の記者会見なんかでは,ある裁判員が,一番肝心な殺害したときの状況を直接被告人に質問したかったと話しています。質問ができていれば,判断に確証を持てたんだと思うというような言い方をしていまして,これは審理が不当だという意味じゃないんですけれども,もっと意を尽くしたような審理にするためには,DVD上映だけじゃなくて,例えば重要な証人については,簡単にでももう一度出てきていただいて,新しい裁判員の前で前回証言したことの要点だけでも述べてもらうというような,場合によったら質問も受けるというような,そういう手続がとれたらベストなんだろうなと思ったりもするんですね。そういう審理についても考えるところがあるということです。   緊急事態という意味では,話が飛び過ぎちゃうんですけれども,物騒な話で考えれば,国境地帯の周辺で紛争が起きたり,ミサイルが飛んできたりというようなことが仮にあったとしたら,突拍子もない話ですけれども,あったとしたら,やはり同じようなことが起きるんじゃないだろうかと思うんですね。そういうひっくるめて言うのが妥当かどうか分からないんですけれども,平時でない,非常事態がある地域で突出して起きるようなことがあったら,そのときにはどうするかと,そういうアングルからこの制度を考え直すことも必要なのかなと思ったりしております。 ○井上座長 非常に大きな問題ですけれども,裁判員法に専ら関わるものと,今挙げられた例のように,ほかのいろいろな制度などについても,名簿をいつまでに調製しなければならないといった定めが置かれているが,大震災のような場合の手当てが法律上はほとんどされておらず,今回の震災の場合は,その期限がまだ来ていなかったので,たまたま表面化しなかったけれども,表面化していたら,恐らく当然解釈のような形で対応せざるを得なかったというものは多々ある。そのような問題とを整理して考える必要があるように思いますね。   もう一つ,一番最後に言われた裁判員全員の交替による更新手続のことですが,既に行われた公判手続の全てをDVDの再生のみによって更新したということではなくて,重要性に応じて,再度やり直した部分と,DVDの再生で済ませた部分とがあったと承知しています。そして,それは個々の事案についての裁判所の判断なので,それが妥当だったかどうかについては,なかなか踏み込みにくいように思うのですが,おっしゃっているような指摘もあることは事実です。   また,裁判員制度・刑事検討会で一つの地方の平穏が害されたときにどうするかという議論が行われたと言われたのは,ちょっと違う文脈であった。裁判地の変更というか事件を他の地の裁判所に移送するといったことに絡んで話が出たのではなかったかと思いますので,同じような枠組みで議論することはできないように思うのですけれども,確かに大震災のような事態への備えはほとんど考えていなかったということは,そのとおりです。 ○土屋委員 あのときはやはり除外なども,非常事態を想定しての除外というよりは,ちょっと別の視点からの除外の話…… ○井上座長 除外という形にはなりにくい。除外ですと,裁判員裁判ではなく職業裁判官によって裁判するということになってしまうわけですが,そうではなく,飽くまで裁判員裁判の対象とはするけれども,裁判地をどこかに移す,あるいは公判の時期をずらす,そういった対応になるように思うのですね。 ○酒巻委員 別に議論するつもりはないんですが,民事訴訟法には,130条で,「天災その他の事由によって裁判所が職務を行うことができないときは,訴訟手続は,その事由が消滅するまで中止する」という規定があって,天災が想定されている一方で,刑訴の場合は,公判手続を停止するというような条文はありません。しかし刑事でも,事実上公判ができるわけはないので,天災後にどうするか。この間のときは,個々の裁判体の判断で,裁判員候補者の呼出し等について様々な臨機応変の対応をされたと承知しております。   そのときの裁判所の措置について,どこかの弁護士会が不公平というようなことを言ったと聞きましたけれども,そもそも津波でお家さえ無くなっている住所に呼出状を送るかという,そういう問題なので,非常識な法律家の典型だと感じました。大災害等の緊急事態に際しどうするかということについては,確かに条文は無くても,個々の裁判体の判断で例えば1回全部解任して,再度,裁判員を選んでやり直すなど個別具体的な措置はいろいろ考えられます。土屋委員が最後におっしゃったのは,公判手続の更新のやり方一般の問題だと思いますけれども,現状の制度で,それぞれ個別具体的な事案について最善の努力をされたということだろうというふうに私は思っています。   ただ,場合によっては,刑事裁判というのは,やはりそれでもやらなければいけないということになれば,天災等の非常事態で,そこの住民の方がとても裁判員の義務を果たせないという状況であれば,今,現状の法律と同じ趣旨で,要するに裁判員の御負担を回避するための一つの手段として,緊急に裁判官だけで裁判できるというようなことも,これは思いつきですけれども,そういう制度設計だってないわけじゃないでしょう。緊急的な条文としては。あといろいろな期間が設定してあるのは,それぞれ立法理由があって条文化してあるので,基本的な立法理由と非常事態との兼ね合いというのは,やはりまず基本的な立法理由から,どうしてもこれは必要だということであれば,それは仕方がないんじゃないかと,そういう印象を持ちました。 ○井上座長 最後の点は,そうするだけの理由があるからこそ期間が法定されているわけですが,しかし,それを守ることが不可能な事態が生じたら,合理的な手当てをしなければならない。そういうものはたくさんあると思うのですね,裁判員法に限らず。それらを総じて考えれば,非常事態法みたいなものになってしまうので,隅から隅まで全てにわたって法律的な手当てができるかどうか。一般的な規定を設けることはできても,細かな手当までは難しく,最終的には,合理的な解釈によって対応していくしかないのかもしれません。   先ほど申した点を若干補足しますと,裁判員裁判の対象から除外するというのも論理的には可能だと思うのですけれども,別の土地で裁判するということは当然可能であり,犯罪が行われた地方で必ず裁判が行われないといけないということではなく,また実際行われているとは限らないのです,現行の制度でも。犯罪やその裁判ということは,犯罪が行われた地域の住民だけの利害関心事ではなく,国民全般の利害関心事ですので,別の地方で裁判を行うということも,別におかしなことではない。他の地方で発生した事件の裁判に携わらせられるのは余計な負担で不当だと思う人もいるかもしれませんが,もっと広い目で見れば,そういう場合は国民みんなが負担しようという考え方もあり得るのではないかと思います。 ○前田委員 震災後に裁判所が一定の地域についての呼出状を送付しなかった問題に関して,弁護士会の対応について触れられましたので,私自身が弁護士会の実情を全部把握しているわけではありませんが,できるだけ正確に御説明します。確かに土屋委員がおっしゃったとおり,法的な根拠がない中で,一定の地域に呼出状を送付しないという判断を裁判所がしてよいのかという指摘が地元の弁護士会からなされました。   しかし,日弁連総体としては,あのような事態で呼出状を送付しなかったことは,法律に根拠はないが,やむを得ない措置ではなかったのか,その行為を改めて問題にすることはしないというスタンスでした。   ただ,その後,立法化を図ることについては意見が分かれまして,土屋委員御指摘のように,非常事態が生じたときに一定地域に呼出状を送付しないことを法律に定めるとのアプローチもあるのですが,裁判員になるのは,義務ではあるが,権利でもあるのではないか。そうすると,呼出状を,裁判所の判断で一定の地域には出さないということではなくて,呼出状は機械的に出すが,辞退理由のところで,そのことを明確にしておく,辞退の方で整理をする方が合理的だとの意見がありました。   現行法でもやや曖昧ですけれども,政令の最後の条文でも処理できないことはないのではないかという意見もありました。   弁護士会としては,あの事態で裁判所が一定地域について呼出状を発付しなかったのは,地域の皆さんの心情等を考えると,やむを得なかったとの考えでしたが,立法化に関しては,以上のように,意見が固まってはいません。そういう状況です。 ○井上座長 ほかの論点でも結構ですが。よろしいでしょうか。   それでは,裁判員等選任手続については一応締めくくらせていただいて,次のテーマに移りたいと思います。   次のテーマは,対象事件等ということですけれども,どなたからでも結構ですので,御発言をお願いします。 ○前田委員 前回も御説明しておりますが,日弁連で取りまとめた対象事件についての意見を説明させていただきます。   日弁連の結論は,公訴事実等を争う事件については,被告人が求める場合に,これを対象事件にしたらどうかという提案です。   対象事件に関する議論は,日弁連内部で結構様々ございまして,裁判員を経験された方の御意見等にもありますが,性犯罪に関する議論,死刑事件に関する議論,覚醒剤事件や通貨偽造事件に関する議論,それから少年逆送事件をどうするかという議論があり,弁護士会の中でも項目ごとに意見交換をいたしました。しかし,結論として,いずれも意見がまとまりませんで,対象事件を増やす方向での議論の中で,唯一,公訴事実等に争いがあって,被告人が求める事件に落ち着いたものです。必ずしも全員一致でというわけではありませんが,ほぼ一致した見解としてまとまったということです。   この議論の際に,公訴事実に争いがある事件を,全部対象事件にするべきではないかという意見もございました。そもそもの制度設計の段階から,否認事件のみを対象にするとの考えが弁護士会内には強くありました,否認事件を全部対象にとの意見がありました。ただ,これにつきましては,否認事件は,最高裁の統計によっても,相当数あり,中身も千差万別であると。中には公訴事実のほんの一部を争うにすぎない事件もあり,これらも含めて裁判員裁判の対象事件にすると,対象事件の数が相当広がってしまわないか。そうすると,今の態勢の中で,こなし切れるか。これまでは順調に進んできたが,大幅な増加で倍になるような数になると,無理がありはしないかという意見や,被告人の立場からしても,裁判員裁判は,重装備の態勢での審理であって,従来の裁判官裁判に比べても,争いのない事件は逆に期間が長くかかってしまうとの懸念を表明する意見もありました。それで,それらを考慮して,否認事件での被告人の求めるものを対象にするとの意見でまとめたのが実情です。   ただ,そうなると,否認事件の被告人に裁判員裁判と裁判官の裁判とを選ばせることになります。弁護士会の中でも,そのような制度設計は好ましくないという意見がありますが,裁判員裁判が3年間で定着して,対象事件を広げる方向で検討するのは,基本的には間違っていないのであり,辞退を認めない方向での制度であれば良いのではないかということになりました。   確かに裁判員制度・刑事検討会のときに,被告人の選択権について議論があり,制度としては採用しないとなりましたが,増やす方向であるならば,これは必ずしも当時の議論を無視するものではないとの考え方で整理をしたということでございます。 ○酒巻委員 法律論なので,弁護士会の御意見なので,筋が通っているかどうかは,やはり大事だと思いますが,全く筋が通っていないと思いますね。裁判員制度・刑事検討会の議論というよりは,現在の法制度は,少なくともアメリカ,イギリスとは違って,被告人の裁判員裁判を受ける権利というのは考えていない。十分議論した上で,そういう権利的な構成ではなく,一定範囲の事件については,一般国民の関与した刑事裁判を行うのが妥当であるという大きな政策決定があって,その上でどのような事件がそういうものにふさわしい事件かということを決めて,否認であろうが,自白であろうが,この範囲の事件については,裁判員裁判が適切であるのだという決定を立法者が行った。そこには,例えば,被告人,あるいは検察官,あるいは被害者参加される被害者の方ですね,そういう訴訟関係者が望むからとか望まないからという判断は入る余地がない,そういうものとして制度が作られているというのが基本です。   ですから,被告人がやってほしいから裁判員裁判の対象事件になる。やってほしくないからならない,あるいは後で出てくるかもしれませんけれども,性犯罪の被害者の方が裁判員裁判にしてほしい,あるいはしてほしくないというような関係者の選択で決まるという基本的な枠組み自体が,現在の法制度とは根本的に相容れないというのが私の理解です。制度設計のときの資料を全部お読みになれば,そのような議論はとらなかったというふうになっていると思います。   それから,否認事件は対象にすべきだという御意見について。世界中の裁判制度で,裁判員制度の基本的なモデルに近いヨーロッパ大陸では,否認事件であろうが,自白事件であろうが,一定範囲のものについては裁判をやるんですね。他方,一定範囲に入らなければ自白であろうと否認であろうと裁判員裁判にはならない。否認についてだけ裁判をやって,自白している場合は違う扱いをするという国は,アメリカ,イギリスなので,そちらは自白している事件は,もう裁判はしない。否認の場合は,裁判員裁判にしてほしいという御意見の方は,自白事件は,どうするつもりなのか。例えば,殺人でも殺人未遂でも,それは裁判員対象事件にはしないという,そういうお考えなら一貫すると思うんですけれども,そうでなければ,制度としてやはり一貫性が全然ないだろうと私は思います。否認だったら裁判員裁判という考えは,自白だったら,もうそもそも裁判員裁判もやらないというふうにならないと,筋が通らないように私は思います。 ○前田委員 当初の制度設計がそのようなものであることは理解した上での,提案だと御理解いただきたいと思います。 ○酒巻委員 日弁連のお考えである,被告人がそうしてほしいというときにという,その発想自体は,やはり根本的に今の制度の基本とは全然違っている,それは間違いないところだろうと思います。 ○前田委員 全然かどうかは分かりませんが,制度設計の考え方が違うことは前提になっています。そこを変えていこうという提案だと,増やす方向では変えましょうという提案だと,こう御理解いただければ良いと思います。 ○井上座長 制度全体として整合性が保てるかどうかは,中身に入ってまた議論したいと思います。   あと一点,制度設計の段階で,私なども申した点ですけれども,弁護士会の御提案では,公訴事実に争いのある事件で,被告人が選べば裁判員裁判の対象にするということですが,例えば,脱税事件とか大規模な経済事犯など,大量の帳簿等の書証が出てくるような事件では,それらの書証を丹念に照らし合わせ,読み込まないと,心証形成ができない。そのようなことを裁判員に求めることはできませんから,この種の事件は対象として適さないだろうと思うのですね。しかし,弁護士会の御提案を貫けば,被告人が求めれば,裁判員裁判の対象としなければならないことになるわけです。本当に対応できるのか疑問に思うのですが,その辺について弁護士会の中で突っ込んだ議論をなさったのでしょうか。 ○前田委員 余り具体的に突っ込んだ議論はしておりません。いずれにせよ,そのような重い事件があることも想定し,それも含めて対象事件にしましょうという結論です。 ○井上座長 そのようなことで良いのでしょうか。もっと突っ込んで,本当に適切なのか議論した上で結論を出していただかないと・・・。イギリスなどでも,その点は陪審裁判との関係で大分前から議論がありますし,例えば韓国などでは,一応形式的には国民参与裁判の対象の範囲に入っているものもあるのですけれども,裁判所の裁量で不適切なものは排除できるので,今のところ問題は生じていないけれども,問題とはなり得るという話を韓国の裁判官から聞いたことがあります。   だから,その辺も突っ込んで議論する必要があり,ただ,抽象的,一般的に拡げようということでは,実際にもかなり無理が出てくるのではないかと思うのですね。論点として,そういう角度からも議論する必要があるということで,あえて指摘させていただきました。 ○酒巻委員 私は,現在の対象事件の基本形は維持されていいと思いますし,その制度趣旨は,先ほど述べたように理解しています。より良い刑事裁判制度として,こういう枠でやるということにした以上,訴訟関係人の意見で,その対象が拡大したり縮減したりするのは,根本的に適切でないと思っています。   その上で,現在,対象事件からの除外というのは,主として裁判員の方々の安全・安心ということ。安心して裁判員を務められないのではないか,無作為抽出で国民に義務を課すわけですから,その反面として,できる限り御負担を少なくする。そして,この負担が余りにも過剰な場合,それから公正な裁判の観点からも,お任せするのは余りにも大変だという場合には,両当事者の意見を聴いて,裁判所の決定で,対象事件には入っているけれども,個別具体的に除外するという制度枠組みがあります。   ほかにもそういう場合があり得るのではないか。今の要件ですと,主として裁判員の方々の安全の観点からの除外ですけれども,余りにも事案が複雑で,争点が多数で,公判前の争点整理をし,証拠を整理しても,著しく長期間の審理が見込まれるような事件について,訴訟関係人の意見を聴いた上で,裁判所の決定で,対象事件から例外的に除外するような場合を考えておく必要があるということを論点として御提案申し上げます。 ○大久保委員 例えばよくメディアでも取り上げられますし,アンケート調査の結果にも数多く出ていました性被害の方たちをどのように今後していくのかという辺りでは,ちょっと入り口で,そこまではと言われてしまいますと,なかなか意見として…… ○酒巻委員 どうぞ,それを論点としておっしゃるのは問題ないと思います。 ○大久保委員 言いにくいのですが,よろしいでしょうか。 ○井上座長 どうぞ。 ○大久保委員 ありがとうございます。そうしましたら,そういうようなことを決めるに当たりましても,やはりいろいろな視点を持って決めていかなければいけないと思いましたので,私自身がその被害者に多く接する立場でもありますので,例えば性被害の事案についてちょっとお話しさせていただきたいと思います。   確かに性被害については,様々な問題が提起されていまして,このまま対象にするのか,あるいは外すのか,あるいはヒアリングの中でもありましたように,被害者の選択制を取り入れるのかというようなことが検討する必要があるのではないかということが言われています。   私自身,もしこのまま対象にするという考え方であれば,性被害の場合は,警察に被害届を出さない暗数もかなりありますし,あるいは裁判員裁判をあえて避けるために,強姦致傷を強姦に落としてほしいと懇願する被害者の方もいるわけですね。こういうような実態を考えますと,これ以上,被害者に負担をかけてはいけないのではないか,そういうような思いがあります。   では,その対象から外せば良いのかと考えたときに,刑事裁判への民意の反映ですとか,裁判とか司法への信頼性の向上という裁判員裁判の目的が果たせなくなると思うんですね。魂の殺人とも言われるような性犯罪の悪質さですとか,あと悲惨さ,あるいは被害者が被る深刻な現状を広く国民にも理解をしてもらうという,その大切な機会をも失うということだけではなくて,更にそのことが性犯罪に対する社会の偏見を助長することにもつながりかねないという懸念を持ちます。   それなら被害者の選択制にしてはいいのかと考えますと,それもやはり難しいことだと思うんですね。理由は,多くの被害者の人たちは,被害を受けた後,感情とか感覚が麻痺してしまいまして,自分自身が被害者になったというような自覚さえも持つことができません。それにプラス,PTSDと言われるような心的外傷後ストレス障害,そういう症状にも苦しんでいるために,正常な判断をするということもできなくなります。それと,被害者は,被害に遭って初めて司法にも接するわけですので,その司法に対する知識も,また事件に対する情報も,被害者にはほとんどない中で選択を迫られ,そしてその刑事司法の責任の一端を背負わせるということも,これまたとても酷なことだと思います。とにかく被害者は,どちらを選択しても,多分自分の判断はこれでよかったんだろうかとずっと悩み続けることにもなると思うんですね。   ですから,いろいろ以上の3つの考え方の中から,いずれの方法にするにしましても,私は,そこに共通する必要な事項といたしまして,刑事裁判で被害者に与える苦痛を最小限にして,二次被害を与えないで,安心して刑事司法に向き合えるような制度にして,一層プライバシーの保護の徹底を図るということがとても重要なことだと考えています。   被害者が安心して刑事裁判に関わることができて,司法や社会への信頼感を取り戻して,その後の人生を自分らしく生きていけるような制度を構築するための方策についても,この論点と並行して検討されなければ,適切な答えは出ないのだと思います。   また,今回の多分この議論,メディア等も同じですけれども,議論そのものが性被害に限定されているかのような論点整理になりがちですけれども,でも,性犯罪に限らず,殺人事件等においても,被害者や遺族が受ける精神的な苦悩やプライバシーが侵害される不安というものは,性犯罪の被害者と何ら変わりはありません。そのため,罪名で対象にするとかしないとかを決めるのではなくて,被害者の被害の程度なども考慮して,個別の事案に応じて決める必要があるということも,この論点の中に是非入れて検討を進めていっていただきたいと思っています。 ○前田委員 酒巻委員の現在の裁判員法3条の除外事件についての,御提案の趣旨の確認ですが,3条の要件を再検討するという御提案と,それから新たに,実際に審理をする裁判体が公判前整理手続を行って,その結果,その裁判体が困難な事件については除外の決定をする規定を設けるということですか。 ○酒巻委員 違います。3条は現在あって,この要件はこれで特に変更の必要はないと思いますし,こういう場合というのは当然ありましょうから,維持されるべきだと。   私が申し上げたのは,この3条と全く同じではないけれども,趣旨として共通するという観点,つまり裁判員に余りにも過剰な負担をかけるのは行き過ぎだろうというのは同じ観点ですよね,3条の制度趣旨と。そういう趣旨で著しく長期間の審理が見込まれる事件については,やはり裁判所の決定で対象から外すという制度設計の余地があるんじゃないかという,そういう提案でございます。だから,条文としては別なのかもしれません。 ○井上座長 御質問の趣旨は,誰が決定するかということですか。 ○酒巻委員 それは裁判所しか考えられなくて,公判前整理手続を実施した結果として,両当事者の意見を聴いてですから,多分その事件の公判前整理手続を担当した裁判体,まだ裁判員いませんから,いずれにせよ,裁判所というのが一番合理的だと思いますけれども。 ○前田委員 3条の除外の判断主体は,私の理解では,地方裁判所であって,審理する裁判体とは違うところを想定していたと思ったものですから。 ○合田委員 多分,裁判所のところに話が来て,もう事件はそのときに配点されていますから,そこに話が来て,そこで判断すると思いますけれども。 ○前田委員 そうではないのではないですか。 ○井上座長 福岡地裁小倉支部で1件,除外決定がなされたことがありましたけれども,あれは公判担当の裁判体が決定したのでしょうか。 ○合田委員 うろ覚えですみません,多分そうだったと思います。 ○前田委員 余りこだわっているわけではありません。 ○井上座長 手続の段階だとか,そういうものは技術的な話ですね。   3条とはちょっと趣旨が違い,3条は公平な裁判ができるかどうかという点に重きを置いているのですが,酒巻委員が提案されたのは,負担の問題ですよね。 ○酒巻委員 広い意味では,裁判員の過剰な負担の問題だと思います。 ○井上座長 別のアイデアとしては,十分な数の候補者が確保できず,選任が著しく困難であることを理由にするという切り口もあり得るように思いますね。いろいろその趣旨によって作り方が違ってき得ると思うのですけれども,合理的というか,相当でない範囲を超えて長期に及ぶような場合は外すという可能性についても,検討すべきだという御趣旨ですね。 ○酒巻委員 前これをしゃべったら,誤って報道されたので,正確に言いますけれども,私はそのような除外制度を設けるべきだと言っているんではないのです。そういう場合を考えておく必要がある,今,論点を出すためにそう言っているのであって,どうか誤解無きよう願います。この間はうまくいったではないかとか,そういう話が出てくるんですが,この間は何とかなったかもしれませんけれども,本当に1年もかかるような事件が出てきたときどうするんだということは,やはり想定して議論しておくのが良いと思うのです。 ○井上座長 分かりました。酒巻委員が発言されると重みがあるので,そういうふうに受け取られるかもしれませんが,飽くまで論点出しだということですね。 ○島根委員 すみません,私も,飽くまでも論点の頭出しということで,余り制度の整合性としてどうかとか,利害関係者の意見に制度が左右されるのは適当でないということでの整理はこれからのこととして出てまいりますが,やはり裁判員裁判という仕組みは,国民の皆さんに,時間的にも,精神的にも,相当の負担をかけているというのは事実でありましょうから,そういった方々の御意見というのは,やはり議論のそ上に上げて考えてみるべきなのではないかということで申し上げたいと思います。先ほど大久保委員の方からも性犯罪の例が出ておりましたが,裁判員制度施行後3年経過を契機として,各紙で幾つか裁判員制度についてのアンケートを実施した中で,対象から除外すべきではないかという御意見として,例えば暴力団の抗争事件,それから性犯罪,覚醒剤の密輸事件というのが,大体各紙で挙がっておりました。暴力団の抗争事件などは,裁判員法3条で多分除外というような制度的な担保があるのでしょうけれども,性犯罪については,先ほど大久保委員の御指摘になったような問題,それから薬物の密輸事件については,どうしてそうすべきなのかというところはなかなか難しいですが,幾つかの御意見として,市民感覚を取り入れるような事件ではないのではないかというようなことが紹介されている。余り分析的に記述されているわけではないので,中身はよく分からないけれども,一応そういう御意見が出ているということは,やはり一つ考えてみる必要があるのかと考えております。現在の考え方というのは,基本的に法定刑の重さということで,余り市民の方の判断になじむかなじまないかということでの切り方というのは,してはいないのだろうと思いますが,やはり一定の思想に基づく制度設計ですので,どういう形でそういった合理的な説明として,ある罪種は入れて,ある罪種は入れないということの判断ということになってくると思いますけれども,やはり3年たって,そういった経験者の方の御意見があるということを踏まえて,もう一度議論をするということはやってみてもいいのではないかということで,意見として申し上げさせていただきます。 ○井上座長 分かりました。今挙げられた新聞各紙のアンケートも拝見したのですけれども,ちょっと用心する必要があるのは,その答えの前提としてどういう質問の仕方をしているのかです。恐らく,こういう罪種は外した方が良いと思いますか,といった聞き方をしていて,それに対する回答ではないかと思うのですが,そうではなく,今の対象事件の中で不適切なものがありますか,あるいはこういうものも対象にした方が良いと思うものがあれば挙げてください,といった聞き方だと,また答えが違ってくるのかもしれません。その意味で,なかなか読み方は難しいと思うのですけれども,そういう御意見が一定程度あるということは間違いないので,一つの論点として検討する必要はあると思います。   裁判員制度・刑事検討会で対象事件の範囲を議論したときも,法定刑の重さだけで決めるのではなく,例えば通貨偽造とか,そういうものは,法定刑は重いけれども,裁判員制度の対象とするのは適切かどうか,そういった議論もしたのですね。結論としては対象の範囲に含めるということになり,実際やってみると,通貨偽造事件は結構あるのですね。そして,それで何か不都合が生じているとも聞いていませんので,あのときにいろいろ懸念したのとは違っている感じがします。 ○山根委員 新聞ですとかテレビ等々でも,いろいろと見直しが近づいているということで,たくさん取り上げられてきていると思います。その辺りですとか,あと私の周りでいろいろ聞こえてくること等々から考えまして,ちょっと簡単に3つ申し上げたいんですが,一つは,先ほどから出ている性犯罪の問題。そこに関しては,私は個人的には,選択制の方が望ましいのではないかなと思っています。   それともう一つは,対象事件の範囲拡大ということにもなるんですが,新聞等でも出ていますように,薬害や公害であるとか,行政裁判であるとか,大きな製品事故や食品事故等々,そういった国民生活,日頃の生活に直結しているようなものを裁判員裁判で取り上げるということは,やはり私どもの感覚としては望ましいと思います。制度設計のときに,いろいろ議論はあったのだとは思いますが,もう一度,議論として取り上げていただければというふうに思います。   あともう一つは,どうしても避けて通れないのは,やはり死刑求刑のある場合の裁判員の負担ということは,どうしても挙がってきます。やはり人の生死を市民が決めることの是非というのは,議論はすべきでありますし,死刑制度の在り方の議論というのも,今後,具体的に進められると思いますので,考えていかなければならないというふうに思っています。   やはりえん罪の可能性というのが,どうしても,もちろんゼロにはならないというところで,一般の市民が決めるということについて,それを否定するというか,とても受け入れられないという声は多く届いています。   そういう覚悟ができて,相当の精神力があって,耐えられる人しか受け付けないというような裁判になってしまうというのもどうかという声もあります。その辺りは考えていく必要はあるのではないかというふうに思っています。 ○井上座長 最初におっしゃったことの中で刑事事件以外にも拡げるという点は,かなり大がかりな議論になると思うのですが,論点の指摘というふうに伺っておきます。 ○四宮委員 対象事件が論点として提起されるということは,必要なことだと思います。   ただ,どういう方向で議論をすべきか,今の私の意見ですけれども,確か審議会の意見書は,裁判員制度の円滑な導入ということを掲げて,そのためには国民の関心が高くて,社会的な影響も大きい重大事件から始めるべきであるという言い方をされて,私はその制度設計は,この3年間の運用を見る限り,極めて正しい制度設計であったと思います。ですから,現在の対象事件の基本的な枠組みは維持すべきであると考えています。   この審議会がおっしゃっていた国民の関心が高くて,社会的影響が大きいというのは,私なりの表現をさせていただくと,要するに社会の一大事だということですね。   それで,その社会の一大事ということから考えると,私が弁護士だからかもしれませんけれども,やはり国と個人との意見の対立がある事件,簡単に言えば,否認している事件ですけれども,これはやはり私は,一大事の事件に入るのだろうと思います。   酒巻委員がおっしゃっている当初の制度設計が,意思に係らせないというのはそのとおりだと思いますが,ただ,審議会が意思に係らせないとおっしゃったのは,辞退させない方向での確か議論だったと私は思うんですね。つまり,戦前の陪審制度の反省も考えて,辞退を認めて,裁判官の裁判を受けさせるようなことはしないようにすべきであるというふうに確か書かれていたと思いますけれども。 ○井上座長 それはちょっと違うと思います。 ○四宮委員 私の理解です。   それで,ですから,今,日弁連が言っている提案というのは,辞退させるのではなくて,むしろ裁判員の裁判を受ける方向なので,少し事情が違うのではないかというのが今の私の考えです。   酒巻委員がおっしゃるように,意思にかからせないというのが,基本構造だというのは,当初はそうだったかもしれませんけれども,これは3年間の運用を踏まえて議論しましょうということですから,新たな仕組みが必要だということであれば,それはそれで議論してもいいのではないかと思います。   あと長期間のケースは,先ほど酒巻委員がおっしゃったように,そういう議論もしたらどうかという点では,それはそれで結構なことだと思いますけれども,それは運用を十分に参酌して,さいたまのケース,大阪のケースなども参酌して議論していったらいいと思います。 ○井上座長 飽くまで四宮委員が理解した審議会意見書の趣旨ということで伺っておきますけれども,意見書自体はそういうふうには書いていないと思います。私なども関与して,その点は十分注意して書きましたので,そういうふうには書いていないはずです。審議の過程で,一部の委員から断片的にそういう趣旨の御意見も出たような記憶もありますけれども,最終的にまとまった意見書には,そう書いていないはずです。 ○四宮委員 それは私とちょっと理解が違うということです。 ○井上座長 中身の検討に入って,また御議論いただければと思います。もちろん見直しですので,全て御破算にして作り直すということも論理的にはあり得るわけですけれども,酒巻委員の御意見は,現行の枠組みを基本に考えると,御提案のような拡大は基本的に異なった考え方が入ってくるので,それで制度として整合するのかということだろうと思います。形式論理的には,排他関係には立たないのでしょうが。 ○四宮委員 私は,御破算とは言っていません。基本的な枠組みは,今のままがいいと,維持すべきであるという意見です。 ○井上座長 酒巻委員の言われるのは,基本の部分と考え方として不整合になり,一つの制度として成り立つのかということだと思います。それに対して,四宮委員は,別の考え方を入れたって良いのではないかとお考えのようですが,その点は,中身に入ってまた御議論いただければと思います。 ○四宮委員 是非そうしてほしいと思います。 ○酒巻委員 先ほど山根委員のおっしゃった対象事件に関して,これは確認ですが,行政訴訟とか民事訴訟じゃなくて,刑事事件になっているものということでしょうか,あるいは,大規模な事故とか薬害とかおっしゃったのは,やはり刑事事件ではないものという,そういう御趣旨でしょうか。 ○山根委員 両方含めてです。特にきっかり分けるわけじゃなくて。 ○酒巻委員 今の仕切りだと,薬害とか事故は,普通は業務上過失致死とか致傷になるので,対象事件には入らないんですよね。でも,そこは考えた方がいいんじゃないかという,そういう御趣旨も入っているということでしょうか。 ○山根委員 はい。 ○酒巻委員 分かりました。 ○井上座長 そういう意見が周りにかなりあるという御紹介だったと思います。 ○山根委員 はい。 ○土屋委員 弁護士会の方の態勢についての質問になってしまうので,ここで取り上げるのがいいのかどうか分からないんですが,対象事件を,基本的には,将来的に広げていくのが望ましいんだろうと思っているんです。けれども,広げていくためには,事件を担う弁護士の数が足りるかどうかという問題がありまして,これ制度づくりのときも,実は弁護士の方の態勢が整っていないと言うと変ですけれども,いきなり多くの事件を裁判員制度の対象にしてしまうと,なかなか刑事弁護を担い切れないのではないかという心配も一面であって,これは私自身がそう思ったということです。   それでいわば二段階の対象事件の拡大というんでしょうかね,弁護士会の方の態勢をにらみながら,対象事件も考えていくというようなことは,私自身考えたりもしたわけです。   質問というのは,随分,弁護士会の方の態勢も整ってきていて,刑事弁護を担う登録をされている弁護士の数もずっと増えましたから,枠を広げる議論をしても,以前ほど無理があるという話にはならないのかなという気もするんですが,その辺りの条件としてはどうなんでしょうか。事件の対象を拡大する議論をするだけの余地が弁護士会の中にあるかどうかですね。 ○井上座長 答えにくいと思うのですけれども。 ○前田委員 裁判員裁判対象事件を,弁護人の対応態勢で絞ったという認識は,弁護士会にはないと思います。被疑者国選の場合は,間違いなく,弁護士を送れるか送れないかということですので,正に弁護士会の対応態勢で二段階になって,現在に落ち着いているということがありますが,裁判員裁判の場合は,弁護人が新たな裁判に対応できるかという質の問題はありましたが,弁護人を出すというレベルでは,問題にはなりませんでした。   ですから,質をも伴った態勢が本当に作れますかと言われると,なかなか回答が難しいところはありますが,弁護士の数を増やさなければ対応できないという議論は,今のところ我々の内部ではありません。対象事件を増やす方向では弁護士会では合意ができていると思いますが,中身は様々な意見があって,否認事件で被告人が求めるものを対象事件とするという結論で落ち着きました。一方で,一定の事件については対象から外せという意見もあることは確かです。 ○井上座長 そこは多分,二つが混同されているのでは…… ○土屋委員 今の私の質問は,被疑者国選の態勢の問題がベースにあって,それは,しかし,裁判員裁判の対象事件にもやはり影響してくる話なので,そういうことも後ろの方では考えておりましたという趣旨です。 ○井上座長 大方の考えは,むしろ,参加してくださる国民にとっての負担を過剰なものにしないというもので,弁護人となり得る人の数の問題ではなかったと思います。事件数からいっても,今,年間の起訴人員で1,700人,終局人員で1,500人くらいですから,前田委員がおっしゃったように,質の問題は別にすれば,弁護人の数が確保できないということではないと思いますね。   先ほど挙げられた死刑の問題は,確かに大きな事柄なので,もちろん論点として取り上げる必要があると思うのですが,死刑制度そのものに関わる問題点と,裁判員制度に特有の,あるいはそれに密接に絡む問題点とを適切に切り分ける必要があり,中身を議論する中で整理をしていくべきだと思うのですね。 ○大久保委員 山根委員から先ほど死刑が想定される裁判員裁判の場合は,裁判員の方の負担を考えて,少し検討する余地があるのではないかということでしたが,その一方では,実は死刑の判決が出る可能性のある,そういう事件の場合は,かなりたくさんの人たちが殺害されているという背景もあるかと思うんですね。そうしますと,そこには必ず家族を殺された被害者や遺族がその何倍もいるわけなんですね。ですから,そこも慎重に考えていただきたいと思います。   それだけ悲惨な事件があって,そういう死刑判決も考えられるような事件の内容だということを裁判員の方たちも,あの場で本当に真剣に夜も寝ずに考えてくださっているんだと思うんですね。   そういうようなことがまた社会に伝わるということは,大変重要なこと だと思っています。また同じような事件を防ぐという意味においても役に 立つことだと思いますので,やはり対象事件としてしっかりと考えていっ て,その判決も出していただければと思っております。 ○井上座長 一言付言しますと,現行の制度では死刑事件が裁判員裁判の対象になっていることから,今,大久保委員がおっしゃったように,裁判員として参加された人達は,本当に真摯に真剣に向かい合っておられ,それを通して死刑問題,あるいは刑罰の問題を我がこととして考えるようになっておられると承知しています。刑罰制度とか刑事司法制度をずっと研究してきた者として,こんなことっていまだかつて無かった。恐らく学者だとか刑事司法に携わっている者とはまた異なる角度,フレッシュな目で,真剣に考えてくださるようになってきている。それは一つの大きなメリットだと思うのですね。 ○山根委員 それは納得できるところです。ただ,いろいろな意見があると いうふうに思いますので,これから十分な議論は必要だと思っています。 ○井上座長 広く注目を集めている論点ですので,真剣な議論をする必要があると思っています。 ほかによろしいですか。 ○残間委員 国民の関心が高くて,社会的な影響が大きくて,重大犯罪というのは,一見すると,すっと通ってしまう文言なんですが,よく考えてみればこれは抽象的で,はっきりした範囲はありません。ただこれまでのところは,関心を喚起するようなものが対象になっていたように感じます。それはある意味では,この裁判員裁判の普及にも,啓発にもなったと思うんですが,やり過ぎると,慣れとか,食傷とか,それから逆に犯罪というものに対する抑止力と違うものを生むような可能性もあるので,これはこの言葉自体の意味するところとか,範囲とかというのは,もう少しきちんと突き詰めていった方がいいように思います。刺激的なことは,次々に更なる刺激を生んでいく傾向があります。   私は何度も言いましたように,この制度がこなれていくのは,結構なんですが,例えば芸能人みたいなのだと,必ず裁判員裁判になっているような印象というのが,みんなに植え付けられると,やはり少し考えた方がいいと思います。 ○井上座長 恐らくそこの部分は,制度を入れるときの理由付けに使われた言葉であり,それが基準になっているわけではありません。基準としては,法定刑で客観的に決まっていますので。むしろ,御発言の実質は,それが社会の状況だとか時代の推移によって変わってき得るので,それに応じて適宜見直していくべきだということですね。 ○残間委員 メディアの動きとも関係があることで,やはり傍聴に並んだ人が何人だったみたいな話になりがちではないかと思うのです。 ○井上座長 芸能人の事件を全部取り上げますと,そういうことには恐らくなり得ないので,類型的な基準で切っていくということにならざるを得ないと思いますね。 ○残間委員 ただ,制度側からすると,その辺のことも勘案しないと,やはりメディアは有名人で,亡くなった人が有名であればあるほど,メディアの注目度が高くなるので,この辺のことは,3年たったということで言うと,検討の余地があるような気はいたします。 ○井上座長 実際問題として,報道されにくくなりつつある。特に地方での裁判員裁判終了直後の記者会見などでは,記者もなかなか集まらなくなっていると聞いたことがあります。報道されるのは,セレブと言ったら語弊があるかもしれませんけれども,アメリカなどではそういう言い方される,事件の性質・内容や被告人等が世間の注目・興味を特に集める類いの裁判員裁判に限定されるようになりつつあるということは事実だと思います。   予定した時間よりかなり早いのですが,論点整理について予定した段階まで議論していただいたということで,本日はこのくらいにしたいと思います。   本検討会の運営全体について何か御議論や御意見がございましたら。よろしいですか。   次回の検討会ですけれども,もう1回,本日に引き続き論点整理のための議論を行っていただきたいと考えています。   本日までに3回にわたって論点整理の議論を行ってきたところですので,次回,もう1回引き続き議論していただいた上で,適切な時期に,それを締めくくって,論点ごとの議論に進んでいくことが必要だと思っております。   いずれにせよ,次回,更に論点整理の議論をしていただくわけですけれども,それを締めくくって,どういう形にしていくかということを私の方で考えさせていただいて,また追って,次回の議事をどうするのか,その先の見通しについてどうするのかということについて御連絡するということにさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。   (「異議なし」との声あり) ○井上座長 それでは,次回予定について当局の方から確認をお願いします。 ○東山刑事法制企画官 次回でございますが,9月14日金曜日,午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等につきましては,追って御案内申し上げます。 ○井上座長 そういうことで,ちょっと夏を挟みますけれども,英気を養っていただいて,秋以降の本格的な議論に備えていただきたいと思います。   どうもありがとうございました。 -了-