裁判員制度に関する検討会(第12回)議事録 1 日 時   平成24年9月14日(金)13:30〜15:17 2 場 所   法務省第1会議室 3 出席者   (委 員)大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,残間里江子,        四宮啓,島根悟,土屋美明,前田裕司,山根香織                              (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      名取俊也刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題  1 論点整理のための検討   (1)裁判員裁判に関わるその他の手続(上訴審)   (2)裁判員の義務・負担に関わる措置等について  2 その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料3:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成24年5月末)   資料4:平成23年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料   資料5:平成23年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料       (ダイジェスト版) 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,予定の時間となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第12回会合を開催させていただきます。   なお,島根委員がお見えではありませんが,若干遅参されるとの御連絡を頂いております。   また,本日,井上座長より御連絡を頂き,御都合により,急遽御欠席されることとなりました。 ○稲田刑事局長 法務省の刑事局長の稲田でございます。本日は,お暑い中をお集まりいただきまして,ありがとうございます。   今,事務当局の方から申し上げましたように,井上座長が急に御欠席ということでございまして,せん越ではございますが,私の方で司会進行を務めさせていただくということで,よろしいでしょうか。   (「異議なし」との声あり)   それでは,恐縮でございますが,そのようにさせていただきます。   まず,恒例によりまして,事務当局から,本日の資料の御説明をさせていただきたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 本日お配りさせていただいております資料は,議事次第,配布資料目録及びインデックス付きの資料5点でございます。資料1として「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」と題する横書きのもの,資料2として「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」と題する円グラフ等を記載してございますもの,資料3として「裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成24年5月末)」と題するもの,資料4として「平成23年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料」と題するもの,資料5として,同資料のダイジェスト版となっております。   なお,資料3ないし5につきましては,最高裁判所の公表に係る資料でございます。   以上,御確認いただければと思います。 ○稲田刑事局長 御確認いただけましたでしょうか。よろしいでしょうか。特にございませんようでしたら,早速でございますが,議事に入らせていただきたいと思います。   これまでの検討会では,論点整理のための検討を3期日にわたって行いまして,多くの御意見を頂戴したところでございます。そこで,論点整理のための検討は,できる限り,本日でこれを終えまして,次回以降,論点整理の上で,各論点ごとの議論に入っていただきたいと考えているところでございます。   つきましては,本日は,まず,これまで御意見を頂いていない裁判員裁判に関わるその他の手続,これは主として上訴審を念頭に置いているということで結構かと思いますが,そのほか,裁判員の義務・負担に関わる措置等につきまして御意見を伺いたいと思いますが,そのような進行でよろしいでしょうか。   (「異議なし」との声あり)   それでは,まず,裁判員裁判に関わるその他の手続,主として上訴審等につきまして御意見を伺いたいと思います。   どなたからでも結構でございますが。 ○四宮委員 四宮です。   この検討会が,これ以前にも言いましたところですけれども,裁判員制度固有の問題だけを議論するのかどうかというのがありますけれども,一応,いろいろ論点整理のために議論し合うということですので,そういう意味でも申し上げようと思うんですけれども,議論したらどうかという点ですけれども,一つは,裁判員裁判による判決に対する控訴があった場合に,控訴審はいかにあるべきかと。   これは,既に最高裁判所が今年の2月だったでしょうか,事実誤認を理由とする控訴の場合ですけれども,一つの新しい規範を定立いたしまして,恐らくは今後はこの判例に従った運用が行われるものと期待されますし,私もそれについてどうこう言うつもりはありません。そういう形で,いろいろと裁判員制度にふさわしい訴訟全体の仕組みが整えられていくことは大変結構なことだと思っております。   一つは,その最高裁の判例では,一審の裁判員裁判の判決が,あのケースは無罪だったケースですけれども,有罪だったケースにどうなのかということは,判例の法廷意見からは,私の理解でははっきりしないわけです。ただ,あのケースはそうであったということもあって,裁判員裁判による無罪判決に対する事実誤認を理由とする控訴の在り方というものは,一つ議論をしたらどうかと思っております。   つまり,今まで控訴理由,控訴権者については,特に両当事者間で被告人がする場合と検察官がする場合とで分けてきませんでしたけれども,私の理解というか考えるところでは,今回の最高裁の判例は,無罪判決に対する検察官の事実誤認を理由とする控訴により適合するように私には読めました。   そういう意味もあって,これは長年来,一つ論点になっていたところでありますけれども,裁判員による無罪判決への事実誤認を理由とする検察官控訴について議論してみてはどうかというのが一つです。   もう一つは,これも裁判員制度だからというよりは,裁判員制度の下では,必ず裁判員裁判になる死刑求刑事件のことですけれども,死刑判決が出た場合の上訴は,特に制度改革の際にも変えられてはおりません。死刑判決については,やはり慎重の上にも慎重を期するという意味で,例えば死刑判決に限り,被告人の上訴権の行使に関わらず,自動的に上訴の効果が生ずるような仕組みと,少なくとも二つの審級での審理を被告人の意思に関わらずに受けるような仕組みと,そういうような制度も海外にはあると聞いておりますけれども,そういったものも検討してみたらどうかと。今日で先ほど稲田局長がおっしゃったように,今日,一応の論点出しみたいなものを終わるということもあって,お話ししたような次第です。 ○前田委員 四宮委員に口火を切っていただきましたので,私は日弁連で改革提言をしている内容で,この間,十分口頭で説明していなかった項目について,上訴審の問題に限らず,幾つか指摘させていただきます。   四宮委員御指摘の上訴審の在り方につきましても,日弁連内部で議論をいたしました。市民を入れた裁判員裁判の判断を尊重すると,その限りではほぼ一致するわけですが,それをどのように制度化するかに関しては議論が難しくて,最終的には日弁連としての意見はまとまっておりません。   ただ,無罪判決に対する検察官の控訴については議論をかなり進めておりまして,今年の3月までには最終結論に至りませんでしたが,一定の方向で整理を図ろうという方向で話が出ております。理屈としてはなかなか難しいところはありますが,立法政策的には検察官控訴の禁止もあり得るという方向です。最終的な結論はこれからです。   また,裁判員と裁判官との最終の評決要件について議論をしました。裁判員裁判における評決要件の改正の提案として,被告人を有罪とする場合には,裁判官の過半数でかつ裁判員の過半数の意見によることとするとの改革提言をしております。裁判員法は裁判官と裁判員とが一つの合議体として,一つの裁判体として判断するのが原則ではありますが,現行法でも,裁判官と裁判員のそれぞれの意見が合致しない場合には,一定の規制が働く構造になっています。そこで市民の感覚を生かした立場での検討でも有罪,法律専門家である裁判官の目から見た判断でも有罪と,それぞれが過半数に達したときに有罪にすることにして,無こを処罰するようなことがないようなシステムを作るべきではないかと,そのような立場からの提案をしています。   さらに,もう一つ,評決要件に関して,死刑の量刑判断を下すときには,裁判員と裁判官全員一致によるとの提案をしています。これは誤判の危険性を防ぐという観点が最大です。このように裁判員裁判における評決要件の改正を日弁連としては提案していますので,論点整理の一つの項目として説明をしておきます。   それから,これまでの議論でも触れてはいますが,日弁連は裁判員の負担軽減化に関する意見書を出しています。どのような提案かと申しますと,まず法律で一箇条,「裁判所は裁判員及び補充裁判員が審理,評議及び評決を行うことに伴う心理的負担を考慮して,裁判員等の任務終了時及び終了後において,心理的負担軽減のため別に規則で定める適切な措置を講じなければならない」という規定を置いて,あとは規則で様々な規定を置くことにしています。   その規則の中身としては,同じ裁判体の裁判員等同士が希望した場合には,互いに連絡先を交換することができること,事後的に希望があれば,裁判所が同じ裁判体の裁判員等同士の連絡のあっせんを行うこと,それから,同じ裁判体の裁判員等が希望した場合には,臨床心理士の立会いの下,グループワークを実施すること,守秘義務の範囲,それから裁判所が実施するメンタルヘルスサポート体制の説明及び利用促進を促す説明をすることなどです。   規則の中身は,裁判所によりましては既に実施されているところもありますが,規則で明確化するとの提案をしているものです。   以上,上訴審の問題以外の点もお話しいたしましたが,これらの問題につきましても,論点として検討いただきたいと思っております。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。今の前田委員からの御指摘は,一部,裁判員の負担や義務の問題にも関わりますので,またそれは,後ほどもう一度取り上げようとは思いますけれども,そのほかに,今のその他の手続上の問題等につきまして,いかがでございますか。では,酒巻委員お願いします。 ○酒巻委員 四宮委員の御意見の中身を議論するつもりはありませんが,言及されました最高裁判所の判例の事案は,第一審無罪判決を事実誤認の疑いで破棄し有罪とした控訴審の判断手法を誤りとしたものであり,新しいというよりは従来から学界で言われていた,控訴審は事後審査審であるという考えに基づいた事実誤認の意味についての法解釈を述べたものです。例えば第一審有罪を破棄して第二審が無罪判決をする場合はどうかというような事項については,特に何も触れたものではないと理解されます。   また,四宮委員の御意見は,裁判員が関与した無罪判決に対する検察官の上訴をどうするかという,そういう論点出しだったと思いますが,裁判員が関与した無罪判決と職業裁判官だけで出された無罪判決について,法律上,何か区別をする理由はないと思います。そうすると一回無罪が出た場合に検察官が上訴できるかどうかという話は,古典的な問題であり,その問題については,法制審議会部会において弁護士会から論点の提示がされていただろうと思います。 ○四宮委員 裁判員裁判と裁判官裁判の無罪判決を区別すべきではないというのは御指摘のとおりで,裁判員との関係で今申し上げただけで,そういうふうに限定して論点出しをしたわけではありませんので,それは酒巻委員の御指摘のとおり,無罪一般にということでございます。 ○上冨刑事法制管理官 四宮委員の御発言の趣旨の確認という意味でございますが,先ほど二点,無罪判決に対する上訴の問題と,それから死刑判決に対する言わば義務的というか自動的な再審理の問題とおっしゃいましたけれども,その死刑判決の方の問題についても同じように一般的な問題としての御提示というふうな御理解なんでしょうか。 ○四宮委員 理論的にはそうだと思いますけれども,少なくとも裁判員制度全体とする以上は,死刑求刑事件は裁判員裁判ですよね,ではないですか。 ○上冨刑事法制管理官 例えば,裁判員法第3条の決定があったような場合とか,一部の罪で地方裁判所に第一審の管轄がない罪もあります。 ○四宮委員 では,そういう意味では一般的と。 ○上冨刑事法制管理官 一般的な問題の御提示と理解していいですか。 ○四宮委員 そういう趣旨で御理解いただいて結構です。 ○稲田刑事局長 ほかにいかがでしょうか。 ○山根委員 この件については,裁判員による裁判の結果が尊重されるべきだとは思いますけれども,やはりケース・バイ・ケースというか,様々な論点があると思っています。   四宮委員からも御指摘がありましたけれども,死刑判決に関しましては,やはり誤審の防止とか,あと,裁判員の心の負担の軽減といったことのためにも,専門家による別の審議があることがある意味望ましいのではないかと私は考えておりますので,論点として残していただければと思います。 ○前田委員 先ほどの日弁連意見の指摘に漏れがありましたので追加します。この検討会での対象事件での議論のときに,日弁連では少年逆送事件が議論の対象となったものの結果的には意見がまとまらなかったことはお話ししましたが,別途,少年逆送事件の裁判員裁判に関する意見書を取りまとめていまして,この間,口頭での説明をしておりませんでしたので,これを検討会での議論の対象にしていただきたいとの趣旨で説明いたします。   資料は既に配布しておりますが,少年逆送事件につきまして,日弁連では次のような提起をしています。   少年逆送事件を裁判員裁判の下で審理するに当たっては,少年法の理念にのっとり,プライバシー保護の観点から,弁護人の請求により公開を停止することができること,少年の情操保護の観点から,弁護人の請求により少年の一時退廷を認めること,これを刑事訴訟法や裁判員法に設けるべきであるという提案をしております。   また,科学主義の理念を刑事訴訟法及び裁判員法に明記すべきであるという指摘をしています。内容としては,少年事件の審理は,少年,保護者又は関係人の行状,経歴,素質,環境,必要とされる処遇等について,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識,特に鑑別所による鑑別結果及び家庭裁判所調査官による調査結果や専門的知識を有する者による鑑定,証人尋問を活用して,これを行わなければならない。   少年事件の審理については,懇切を旨とし,かつ事案の真相を明らかにするため,家庭裁判所の取り調べた証拠は,努めてこれを取り調べるようにしなければならない。   さらに,少年法の理念とか科刑上の特則等の少年事件固有の規定について十分な説示を行うということにして,その内容については法曹三者が協議し,公開の法廷において説示を行うことを裁判員法に置くべきであると,少年逆送事件の審理の在り方について,以上の提案しております。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。いろいろと御意見を承っているところですが,主として上訴審の関係等につきまして,ほかに何かおありでしょうか。 ○酒巻委員 上訴の在り方については,裁判員制度を設計する検討会においてもかなり議論をした結果,現行法が本来予定していた事後審査審である控訴審が最も裁判員裁判に適合的な上訴の形態である。したがって,現行法について変更を加える必要はないという形で,裁判員制度の導入に伴って上訴審には一切手を加えるということはしなかったわけです。   最高裁判例があるかないかとは関わりなく,法制度としてはそういう形で裁判員制度と上訴審との関係は整理されて導入されたということでありまして,私としては,法改正を伴うような上訴審の変更は必要ないと考えています。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。 ○残間委員 直接そのことと関係ないかもしれないんですが,裁判員経験者のアンケートの中に,その後のことが全く知らされていないというのがあって,これは何か意味があるのかどうかというのと,こういう制度を広く知らしめるためにも,理解を得るためにも,その後,裁判員裁判に参加した御本人から要請があれば教えているとばかり思っていたものですから,「その後どうなったか分からない」というのが意見としてかなりの数あったので,ちょっと驚きました。この辺はどうなっているのかなと思いまして。 ○合田委員 その関係は,どこの裁判所も同じようにやろうというような申合せなどがあるわけではないんですけれども,例えば私がやっていたときにはどうしていたかといいますと,任務が終わってある程度の期間がたった段階で,仮名処理してプライバシーの関係が分からないようにした判決書の写しを,要るという方にお送りしていたのですが,それに添える文書に確定したか控訴になったかということも記載してお送りすることにしていました。   ただ,高裁に行ってから先どうなったかというのは,通知などが来ないので,私どもも事件が終わって確定記録が返ってこないと分からないんですね。ですから,最初の段階のことは書きますけれども,そこから後のことはお問い合わせいただいて調べるという格好になります。私のところではそういうふうにやっておりました。 ○残間委員 一律ではない。 ○合田委員 多分,その判決をお送りするときに,結果がどうなったかという辺りのお知らせは,他の裁判所でもやっているところがあるのではないかと思いますけれども,追跡のところまでお話をしているかどうかというのは,それはちょっとまちまちかもしれません。 ○残間委員 やはりその辺はきちんとフォローした方がいいと思うんですけれども,こういう制度をしっかり人々に定着させるという意味では。何かそのときだけ裁判員裁判で,いらっしゃいと言われて,その後,人々の生き死にに関わるような大事な場面にまで立ち会っているのに,そこで切れてしまっているというのはちょっと違和感を感じます。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。では,土屋委員,何かありますか。 ○土屋委員 控訴審の在り方については,酒巻委員が今おっしゃったようなことで私も記憶を新たにしているんですけれども,制度設計当時に控訴審というのは,事後審であるのか,それとも覆審であるのかという理論面のやり取りのあったことを覚えております。   その場合に,では,どういう構造にしたらいいのかという,これは私みたいな専門家でない者があれこれ言う話というよりは,もっと原則的な理論的な問題でもありますので,ちょっと余りその話に,私は今ここで踏み込むといいましょうか,それだけの力量もありませんのでそういうつもりはないんですが,恐らく,事後審としての控訴審の捉え方というのを前提にして制度設計がされていると,それは今の刑事裁判全体の在り方と裁判員裁判も異なることがないということだと理解しております。   私はそれで基本的にはいいのではないかという感じを持っているんです。制度設計当時の私の意見は,覆審的な考え方も取り入れることを考えるといいましょうか,検討したらどうだろうというような意見を述べてはおります。例えば,外国の例なんかでは,一審の裁判員が参加した,国民が参加した判決に対して控訴が行われたときに,それを控訴審段階で覆す,その理由付けをどういうふうにするかというところでいろいろな選択が行われていて,ある国では参加する国民の数を増やして,それで多数の人の目で見てチェックすることによって公正な判断を保障するというか,説得的な理由付けになるようにそういう構造をとっていると,そういう国もあるという,そういうこれは一種の立法政策的な話ですので,制度設計当時はそれも視野に入れて行われたということでいいと思うんですが,今この検討会で考えるときにそこまで遡ってもう一度考え直す,それはちょっと大変なことかなという気持ちもあります。   そうしますと,先ほどの四宮委員それから前田委員の提案を伺っていて,その趣旨もやはり今の控訴審は事後審だという位置付けを前提としたものであろう,それについて若干の修正を求めると,そういう内容の御意見かなというふうに私は思ったものですから特段何も述べなかったんですが,そういう趣旨であれば,更に論点としてここでいろいろ話していく,その意味合いはあろうかと思っています。そのことがまた,控訴審の在り方について重要な新しい姿を提示することにつながってくるかもしれないと,そういう可能性を感じるわけです。   今までの裁判員裁判をずっと見ていきまして,感じることの一つは,一番変わっていないのが控訴審だという感じです。裁判員裁判の現場といいましょうか,地裁レベルでの傍聴などをしていきますと,審理のやり方その他含めて,随分ドラスティックに変わったなという強い印象があるんですが,それほどの変化というのは高裁段階では感じられないときがあります。そして,それがまた裁判員裁判の判決に対する上訴の問題に対処するときの高裁の判断というものに反映されてきているんだろうというふうに思いまして,そういう意味では,高裁はこのままでいいのかなということになると,高裁も変わってほしいというのが私の意見です。   その辺りは最高裁の判決などで示された控訴審の判断の在り方についての原則といいましょうか,その辺りが更に徹底されていけば,かなり変化が生じてくるものであろうかなというふうに思っておりまして,もうちょっと見てみたいというのがあります。   ですから,そういう変わりつつある控訴審の姿というのを考える上で,四宮委員や前田委員の方から出た提案というのはやはり論点として考えていく問題ではあろうかなというふうに思っております。 ○四宮委員 補足させていただくと,今の御指摘のとおり,私が申し上げたのは,控訴審が事後審であるという基本構造を前提にした上でということですので,御指摘のとおりでございます。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。特に上訴審の関係等につきましてはこの辺りということにさせていただいてよろしいでしょうか。   それでは,引き続きまして,次の大きな論点といたしまして,先ほども若干話は出てきておりますが,裁判員の義務・負担に関わる措置などにつきまして御議論を頂ければと思います。いかがでございますか。 ○酒巻委員 様々な場面で何回となく裁判員の方の心理的な御負担のお話は出ますし,それからマスコミ等ではいつも,特に重要な判断をするような場合の心理的負担ということがステレオタイプのように毎回報道されるのですけれども,裁判員経験者の生の意見を記載したアンケートにこの心理的負担の話が頻出しているわけではない。それから後で合田委員に説明していただければと思いますが,私が知る限り,諸外国と比べても,裁判員をされた方に対する様々なケア,配慮を,これほど手厚く実施している国は私は見たことがないですね。もう既にいろいろな手当てはしてあると思うんです。そして,データとしてもそういう事後的手当てについて,どのぐらいの方が実際にこれを利用するよう求めているかという具体的な数字もかなりはっきりしている。   ですから,抽象的に心理的御負担が大変だという前提で議論するのはもうやめた方が良いように感じています。現在,制度とか運用でなされている負担軽減,あるいは特に心理的な問題についての配慮がなされている上で,更に何か具体的かつ切実な要請があるのか,実証的に検証すべきでしょう。そういう意味で,まずは現状がどうなっているかというのを説明いただければ有り難いかなと思うんですけれども。 ○合田委員 終わってから後のケアということの意味で酒巻委員おっしゃっていたと思うんですが,それについてだけ話しますが,一つは,先ほど申し上げた判決書の写しをお送りするときに,少なくともそのときに分かっている上訴の有無をお知らせしているという点が事件に関してはあります。   それから,もう一つ別の面で,裁判員をやっていただいたことによって,健康面やメンタル面において,不安を感じられたり,あるいは気になることがあるというような方が発生するだろうと,こういう具合に思いまして,それに関する相談の窓口を設けてございます。当然,その関係の対応ができる専門家の方にお願いをして受けていただくということになるわけですが,それにつきましては,そういう制度がありますということを記載したパンフレットがありまして,それを裁判員に選ばれた日にまずお渡しをして,必ずそのときにまず一回御説明申し上げる。また,二回目として,裁判員の任務が全て終了してお帰りになる日に,必ず繰り返してそのことを御説明申し上げるということにしております。   相談には,電話相談と電子メールによる相談,面接による相談という3種類がありまして,電話先や申込み先などもそのパンフレットに載っています。   任務が終わった後も使っていただけますからということで御説明申し上げておりまして,余りかちっと確定した数字として持っているわけではないんですが,例えば去年の4月から今年の8月までという期間ですと,おおむね全部合わせて,全国で90件前後の御利用があったという具合に聞いております。メンタル関係の御相談が80件ぐらいで,健康関係の御相談が10件ぐらいと,全国ですが,その期間では大体その程度の御相談を頂いておるということです。 ○酒巻委員 無料ですよね。 ○合田委員 もちろん無料です。取りあえず,任務が終わってから後の話というのはそういうことで。 ○大久保委員 その中で,継続性を必要とする方たちがどれぐらいの割合でいるのかが分かりますか。 ○合田委員 そこまでは分かりません。 ○四宮委員 面談を実施される方はどういう方々ですか。 ○合田委員 カウンセラーの方とかですね。資格等の詳細は承知していませんが,そちらの方の専門の方に委託していると,そういうことです。 ○稲田刑事局長 今,合田委員から御説明ございましたけれども,その辺りの質問も含めまして,また別の論点でも結構でございますので,裁判員の義務・負担の関係についていかがでしょうか。 ○前田委員 弁護人は裁判員経験者の方と接する機会は余りなくて,たまに接することがある程度ですが,その際の裁判員経験者のお話しとしては,守秘義務のことが結構多いのですね。   内容はいろいろですが,大きく整理すると,一つは,自分の貴重な体験を周りの人に話したいが,守秘義務があってしゃべれないので,それがつらいと。それから,もう一つは,何をしゃべることができて何をしゃべっちゃいけないのかがよく分からずに,そこが大変であるということです。   日弁連ではそのような裁判員の方の声を踏まえつつ,一方で刑事裁判の中での様々なプライバシーの保護,あるいは評議での自由な発言の確保という観点から検討を加えました。現行守秘義務は規定としては明確ではありますが,なかなか裁判員の方の理解が難しいということがあるのでしょう。それは別に検討するにしても,守秘義務の範囲をもう少し緩和したらどうかと提案しています。もちろん評議での自由な意見交換を確保しなければいけませんので,誰が何を言ったか特定につながる発言は禁止せざるを得ませんが,評議の中でどのような意見が多数を占めたか,その意見の多少ですとか,あるいは評議の経過などについては,罰則をもって禁ずる守秘義務から外したらどうかと提案しています。   あわせて,法律上は明確とは思いますが,裁判員の方が,守秘義務の範囲がよく分からないと言われるので,それを裁判所にきちんと説明していただく必要があると。もちろん,説明しておられるのだと思いますが,同じような話が出ていますので,それに関する運用上の手当はないのかという議論をした結果,先ほど申し上げたような心理的負担の軽減の中の一項目として,裁判官の裁判員に対する守秘義務の範囲の説明を入れたらどうかと,そういう提案につながったわけです。 ○合田委員 今の関係でございますけれども,運用面の関係で,どこまでが守秘義務に入って,どこからが守秘義務に入らないのかということですが,これについてはもちろん御説明申し上げております。裁判長によって説明の仕方の表現というのはいろいろあると思うんですけれども,事柄的にいいますと,要するに事件について評議室の中で話された事柄については,外部で話さないでくださいと。それから,それに対して,公開の法廷で見聞きした事柄であるとか,あるいは評議室の中の話ではなくて,裁判員を務められた感想とかそういうものについては話していただいて全然差し支えありませんと,それは守秘義務かぶりませんと,こういう御説明を申し上げています。   私どもの方で裁判員を経験していただいた方に集まっていただいて,意見交換会というのを,東京地裁では毎月1回ぐらいのペースでやっているんですが,そのときに,守秘義務のことについてもお尋ねしています。そうしますと,つい最近やった前回のときの方たちはみんな,評議室の中のことは話さないでください,外のことはいいんですということだったので,自分にはその範囲は非常によく分かったということだったのですが,その前の前ぐらいのときには,そういう説明は受けたんだけれども,やはり具体的には今一つはっきりしなかったというような御意見もあったんですね。   ですから,説明の仕方は今言ったようなことでやっているんですが,時々によって,それでなるほどこの辺で仕切りがあるのかなという具合にイメージしていただける場合と,そうではない場合があるということです。安心していただくためには,ここまでが入ってここからが入らないということの説明は必要だと思っておりますので,更に説明の仕方について工夫しなければいけないなという具合に思っております。   それから,守秘義務自体のことについては,法律制度的な意味での当否を申し上げるべき立場ではないのかもしれません。ただ,先ほど申し上げた意見交換会ですけれども,意見交換会に来ている方に,守秘義務のあることで負担感がありますかと聴くと,裁判所でやっている意見交換会のせいかもしれませんけれども,はっきり言いまして,私たちが聞いている中では,ほとんどの方が,別に負担感はありませんと,こういう具合におっしゃいます。それから,それは必要だと思いますかという質問には,やはり自分たちを守るためだから,それは必要だと思いますという答えがほとんどなんですね。   このように,範囲のところの御説明にやや不十分なところがあるのかなとは思っているのですが,守秘義務の趣旨だとか,あるいは守秘義務があること自体については,私どもの意見交換会に出る意見は,ほとんどが肯定的なものであることは事実でございますので,御紹介を申し上げておきたいと思います。   あと意見交換会では,自分が裁判員で呼出しを受けているということを会社に話さないと休めないんですけれども,候補者になったということも話さないでくださいみたいなことが書いてあるので,上司に話すときに,一体どこまで話していいのか,直属の係長でいいのか,それとももっと上の課長とか部長とかにしか話しちゃいけないのか。直属の上司に話さないとなかなかシフトとかそういうことも調整が利かないので,というようなことが,守秘義務自体よりも出てくる回数が多いかなと,そういう感じでございます。 ○前田委員 ほとんど合田委員と同じ認識を持っていますが,先日お会いした裁判員経験者の方に,守秘義務の範囲について裁判官からどのような説明を受けたか聞いたところ,この評議室の中のことは駄目です,それ以外は何でも自由にしゃべれますと,裁判官に説明されたと言われました。実際にそのような説明が多いのですか。 ○合田委員 基本的にはそうです。 ○前田委員 分かりました。それから最初の候補者に入りましたとの通知が来たときに,候補者になったことを周りの人に言っていいかどうかも本当に迷いましたと,同じことをおっしゃっていました。だから,その辺のことも事前に説明すれば,良いのかなと思いましたが,これは全て運用で賄えるということでしょうかね。 ○合田委員 あとは,意外だったのですが,周りの人に感想とかを話そうとしたのだけれども,周りの方が,裁判員やったんですよね,聞いちゃいけないんですよねとか言って,裁判員のことを話そうとしても聞いてくれないと,こういう具合に言われたという方が意見交換会で何人もいらっしゃったです。 ○前田委員 そういう話も裁判員経験者の方から聞きました。 ○大久保委員 今,委員のお話を聞きまして,その裁判員の負担軽減のために何らかの制度をもう少し縛りを強くするのかなというような印象を持っておりまして,ちょっと心配していたんですけれども,決してそうではなくて,結構現状のままで特別な問題はないというように受け取りましたけれども,それでよろしいわけですよね。 ○合田委員 私が意見を言うべき部分かどうかは分からないのですが,私自身はそういうお話を聞いていて,現状で特にそれは動かさなくても問題ないのかなと,また運用面では,私どもの御説明の仕方などに更に工夫がいるということなのかなという感想を持ちました。 ○大久保委員 分かりました。 ○前田委員 若しくは,もう少し守秘義務の範囲を緩めてもいいんではないかと弁護士会では提案しています。 ○大久保委員 やはりこういう検討会をしますと,メディアの口調もそうですけれども,どうしても裁判員の方たちの負担の軽減ですとか,そういうことばかりが取り上げられますけれども,ここでやはり皆さんに是非念頭に置いておいていただきたいのは,やはり被害者もこの裁判員裁判に参加するに当たりましては,大変な負担を負っているということを是非お忘れになっていただきたくないんです。私自身も,もちろん,今の裁判員の方たちの義務の負担を何らかの形で軽減をするというような意見検討については何も思いませんし,もちろんそうすべきだということの点では納得はしています。   ただ,被害者といいますのは,本当に何の落ち度もないのに犯罪に巻き込まれて,心身の健康ですとか命を奪われてしまいますので,普通の家庭生活も日常生活も社会生活も全て奪われてしまいます。   そういう中で,日本の中では,今まだ十分な支援体制もありませんので,国の制度,ひいては結構刑事裁判を恨んでいるという被害者もたくさんおりまして,分かってくれないのであればということで,結構社会にも背を向けて孤立している被害者がたくさんいるということを忘れないでいただきたいです。   そういう中で裁判員の中で,例えば昨年の6月には,最高裁の長官も,実は合田委員も東京地裁にいらっしゃるときに,裁判員裁判では争いのない事件とか,あと,同意された被害者調書については原則,被害者の証人尋問を行うのが裁判所の方針になっているということを発言なさっています。つまりは,その裁判員の方への分かりやすさのためには,被害者や証人の負担は劣後するという考え方だと思うんですが,でも,それは余りにもその被害者の人権のみならず,実状ですとか心情も無視をしているものなのではないかと私自身は思うわけです。   ですから,犯罪被害に遭った上に,刑事司法からも二次被害を受けたのでは被害者は社会復帰できなくなってしまいますので,被害者が安心して裁判員裁判に向き合えるような制度も併せて考えていく必要がありますので,必要な措置をしっかりと採っていただきたいということを,ここでまた改めてお願いをさせていただきたいと思います。   もちろん,裁判員の方の負担軽減も,被害者が刑事司法に関わることで被害からの回復に役立つものでなければ,やはりそれは納得のできないものだと考えております。   今も守秘義務の緩和ということも出てきましたけれども,この点につきましても,やはりある程度のというか,現段階のような守秘義務を,それを裁判員の方には負っていただかなければ,やはり被害者はプライバシーが侵害されたり,人格がおとしめられたりということが出てくる可能性というものもありますので,守秘義務ということも大切にしていっていただきたいと思います。   これは,ある傷害事件で複数の加害者から被害を受けた老人の方がおっしゃっていたんですけれども,何回も何回も呼び出さないでほしい,何回も何回も同じことを言わせないでほしい,その度に毎日寝込んでしまうということをおっしゃっていました。やはりこのような被害者の声にも応えるような裁判員制度にしなければいけないのではないかと私自身は考えておりますので,第9回検討会のときに4項目のことを,被害者やその支援の立場としてお話させていただきましたが,またそのことも思い浮かべてこの検討も進めていただければと考えております。 ○土屋委員 私が守秘義務について話すと,またいつも同じようなことを言っているなというふうにひんしゅくを買うかもしれませんが,私も守秘義務については,現在の包括的に禁止するような規定ぶりをもうちょっと緩和すべきだろうというふうに考えておりまして,それはずっと前から言っている意見です。   評議の悪影響を考えたりすると,その評議の中のコアの部分,中核的な部分について外部に出してはいけないのはもちろんですし,今,大久保委員がおっしゃったようなそういう個人のいろいろな問題,被害者の方の例えばプライバシーだとか,そういうことに関わる問題だとか,そういう問題について外に出していいとは私も思っておりませんが,ただ,現在の規定ぶりというのはちょっと強過ぎるんではないか。つまり全部禁止されているというふうに受け止められているからこそ皆さん戸惑いがあるんだと思うんです。だから,逆に考えて,こういう部分は話してもいいんだよということを出してもいいんではないかと思っているわけです。   例えば,裁判員の意見交換会みたいなこと,裁判所でやってらっしゃいますけれども,それは裁判所に限らずにほかの場でもあり得るんだと思うんです。弁護士会がやってもいいでしょうし,規定ぶりは難しいですけれども,学問研究のためというような正当な目的があるときは,そういう経験を話してもいいんだとか,そういうような規定の仕方というのは法律にあってもいいんではないかとも私は思ったりしております。こういう部分についてはしゃべってはいけないよということもまた書いておく一方,こういう部分は守秘義務に触れないんだよというような書きぶりができたらいいねと前から思っていたものですから,また繰り返しになりますけれども,申し上げます。   それから,裁判員の負担という意味で,先ほど合田委員から出ましたけれども,職場に対して休みを取ったりいろいろするときの説明に困っているという話は,記者会見でも何件も出ています。実際,休みを取るときに困る,それから終わった後にも困るというんでしょうか,そういうような話が出ております。最高裁判所の方でもまとめられたアンケートの中に,一つの提案がありまして,これは裁判所の方でやっていただいたらいいなと私が思った提案があるんですが,それは,裁判員候補者として呼出状が送られてくるときに,1枚の紙を入れておいてほしいというんです。職場に対して説明ができるように,あなたに裁判員の候補として名簿に載ったので,くじに当たった場合にはその仕事をしていただきたい,お願いしますという趣旨のことを,その人の所属する組織に対して説明できるように,裁判所の方から文書があると非常に説明しやすいという意見がありましたので,この辺りは紙を1枚挟むだけでも済む話かなとも思いますし,そういう運用をもうちょっと工夫して,職場の理解を得やすいようなやり方をもうちょっと進めていただいたらいいかなと思います。   それから,もう一つは,これもまた立法段階の話と同じことになっちゃうんですけれども,いろいろな経済団体その他の組織に対して,もう一度念のために,裁判員休暇の制度の趣旨,それを法務省辺りから言っていただいて,そして就業規則などできちんと定めていただくように,もう一度働きかけをしていただくのがいいのかなと思います。就業規則で,きちんと裁判員休暇を定められている企業もあれば,そういうのがない企業もありますので,就業規則がないところの人が実際候補者として呼出しを受けるようなときには,結構,社内的に手続が大変であろうと思います。注意喚起みたいなものをもう一度やっていただくと,出てきやすいし,職場でも無用な神経を使わないで済むというんでしょうか,そういうことになろうかと思いますので,お願いしたいと思います。 ○四宮委員 守秘義務の関係ですけれども,大久保委員がおっしゃったように,取り分け被害者の方のプライバシーなどは,正にその守秘義務のコアの部分だと思うんですね。それで,現行法でも職務上知り得た秘密ということで,その中の重要な部分を占めるということだと思います。   守秘義務そのものについて裁判員経験者のほとんどの方が理解をしていて,その趣旨と必要性も認めておられるということ,そのとおりですし,アンケートを見ても,それは会社でも当然にありますと,どんな仕事でもありますということで,何も初めて国民が負わされる義務ではなかったわけで,実際に裁判員の仕事をしていただくと,何を話しちゃいけないかというか,あるいは話してはいけないことがあるということは,どなたも御理解いただいていると思うんです。   裁判員経験者の方の感想を見ていて気が付いた点は,守秘義務との関係で裁判員の何人かの方が指摘されていたのは,一つは,話すことが負担軽減になる,精神的な,心理的な意味での負担軽減に役立つのだと。その意味で,裁判所がやっていらっしゃる意見交換会を高く評価する声が見られました。ですから,話すことが心理的な負担を緩和するという作用があるということが一つと,それからもう一つは,皆さん非常に大事な重要な経験をなさったとおっしゃっているわけで,話すことによって,その経験を社会で共有してほしいという気持ちも相当意見として出ていました。   そういう二つの裁判員経験者が話すことの意義といいますか意味を考えると,守秘義務の一つの手当てとして,もうちょっと話しやすいものにしたらどうかというのが今のところの私の意見です。   どういうふうに分かりやすくするのかということですけれども,これはもし論点として上げていただければこれから議論することになるんだと思いますけれども,今は非常に広く話してはいけないというのがあって,どこを話していいんですかという議論が多いです。全体として,一応話してもらっては困りますというのがあって,その理解が正しいかどうかは別にしてですけれども,では何を話したらいいかという,言わば話しちゃいけないことの中から,例外を作っていくというか解除していくというか,そういう発想が多いんです。けれども,そもそも守秘義務をなぜ設けたかという趣旨に立ち戻って,これは話してもらっては困りますというようなものを限定的に条文化すると。そして,そのほかは原則として話してもらって結構だというような規定ぶりにしたら分かりやすいのではないかと思うのです。これは制度設計のときにも,いろいろ議論したところですけれども,その後の3年の経過で,裁判員経験者の方々の感想を見る,そのことを踏まえて,そこはより発言しやすい形にしたらどうかと思います。   国民の方々は,この守秘義務の必要性を理解しておられることによく表れているように,仮に,守るべき秘密を限定したからといって,この3年の経験でもはっきりしていますけれども,べらべら話すわけではないわけです。自分の裁判員としての責務と立場,それから被害者,遺族,被告人,被告人の家族などなど関係者の立場に非常に配慮しておられるのはよく分かるわけです。ですから,そのようにこれから議論していったらどうかなと思っております。 ○酒巻委員 今の四宮委員の発言はよく分からなかったのですが,現在の守秘義務の範囲は,制度設計の段階で,なぜ裁判という公権的職務において守秘義務が必要であるかという趣旨に立ち返って設計されていると思います。正に,その趣旨と論理的に関係のある合理的に設計された範囲が法文として設定されていると思いますので,これをより狭くするというのは私は反対であり,現在の法律の守秘義務の範囲で必要十分,不可欠なものが規定されていると思うのです。僕の意見はそういうことでございまして,その範囲自体については,これは動かす必要はない。あとは,もうさっきから同じことの繰り返しですけれども,何がそこに入るのかということを具体的にいろいろな人が一生懸命説明をし,分かりやすくするということで足りるのではないかと思っております。   それから,裁判員経験者のアンケートでも,意見交換会でも出ているように,どんな職業でも職務である以上,職務上の守秘義務があるのは,ある意味で当たり前のことだということは,健全な社会常識を持った一般国民の方は皆理解している。これはもうほぼ明らかであろうと思います。守秘義務があって自由にしゃべれないので心理的負担という,この単線化したステレオタイプの浅薄な言説は,もういい加減にやめた方がいいのではないか。   要するに,健全な社会常識を持った人々は,そういうことはとっくの昔に理解しているのであって,その上で,あとは,どれだけそれを理解した上で,しかし疑いの生じがちな部分について不安にならないような手当てを関係者が常に心懸けていくというのが大事なことなんではないか。立証的修正の必要はないと思います。   それから,ついでにアフターケアではなくて,裁判員に選任された方がこれからできるだけ参加しやすい社会の在り方について一言申し上げます。一つは職場のこと,大学も全然駄目なんですけれども,お子さんがいらっしゃるお母さんが当たったときに,これも確か託児所のサービスもあるんですよね。あるんですけれども,本当に利用しやすい状態にあるのかどうか。これはもう全部日本社会の問題そのものなんですけれども,要するに子育て中の女性や,働いている女性の方が,本当は参加したいのにやむなく断念するという例ができる限りなくなるような,社会的な手当てが必要だろうと思います。これは立法とは関係ないですけれども,一言申し上げます。 ○山根委員 この裁判員の義務と負担というところで思い付くことを並べてみたいと思います。   今までの議論のある守秘義務の範囲に関しましては,やはり分かりづらいという声はたくさん出ておりますので,広げるとか狭くするとかいうこと以前に,何らかの改善の手立ては講じる必要があるというふうに思っています。   それから,アンケートなどからでもたくさん出てくることは,報道陣の在り方ということで,私も何度か裁判員裁判に関係なく傍聴などで裁判所の門をくぐるときに,マスコミの方からマイクを向けられて,裁判員裁判の方ですかというふうに聞かれたりとか,2回ほどそういうことを経験しています。どきどきして入るときに報道陣の多さに驚いたというような声もたくさんありますし,実際カメラで撮られて不安に思ったという声がありますので,いろいろと報道の関係の方でも協定を結んだりとかされているとは思いますけれども,まだまだ足りないのかなということも感じますので,その辺りもちょっと検討してほしいという思いがあります。   それから,裁判の日数なんですけれども,私は個人的には本来3日あるいは5日程度が素人から見たら限度なのではないかなというふうに感じています。仕事の調整とか家庭のこと,身体的にも長期間の裁判員ということは負担が多過ぎるのではないかというふうには思っていますが,その辺りをどう考えるのかであるとか,むごい場面の再現とか写真等々を見る必要も出てくると思いますけれども,その辺りも見せ方の工夫とか,配慮とか,随分なされているということは報道などでも聞こえてはきておりますが,まだ改善するようなところがないかということ,検証は十分かどうかということも思います。   それから,出ましたけれども,保育のことも,保育というとどうしても幼児というふうに思ってしまいますけれども,小学生も授業が終わった後,行く場所がなければ,母親等々にしてはとても不安で無理だということにもなりますので,小学生も預けるところがどうなのかということも検討の余地があるだろうと思います。あと,裁判員のメンバー構成,男女比であるとか,年齢の幅であるとか,別の回で議論がありましたけれども,そういったところも偏りみたいなのがあることで,結果が左右された影響されたというようなことをほかから言われたりすることも,ある意味裁判員の負担ということにもなりますし,そういった意味でも,端から見て公平な裁判だと見えるということも必要ではないかというふうにも思います。   あとは,やはり裁判員を務めた後,会話をできる場というのは必要であると思いますし,そういう場はあると良いと思っています。ですから,裁判員経験者のネットワークであるとか,経験が生かせる場というようなことは,積極的に各地域でも模索を続けていただきたいと思います。   それと,これも別の回で申しましたけれども,地域における課題がいろいろとそれぞれにあると思います。アンケートからも出ておりましたけれども,通う距離の問題であるとか,それぞれの地方における課題もあると思いますので,そういった課題の抽出にも配慮を頂ければというふうに思っています。 ○前田委員 行ったり来たりで恐縮ですが,先ほど私が御説明しました裁判員の負担軽減化に関して規則を作るという提案,その中身として,同じ裁判体の裁判員等同士が希望した場合には,互いに連絡先を交換すること,事後的に希望があれば裁判所が同じ裁判体の裁判員等同士の連絡のあっせんを行うことを挙げております。この議論をしたのは,約1年以上前のことなので今の実態がどうなっているかはよく分からないのですが,現在の状況を教えていただけませんか。   要するに,裁判所に行って,裁判員の方同士が顔合わせをしても,名刺交換をしていいのかどうかもよく分からないと。番号で呼ばれるので,名前を聞いてもいけないのかと思われる方がおられるようです。あるいはこれは具体的に事例があったらしいのですが,裁判終了後,同じ経験をした人同士で意見交換をして,自分の知識や経験を確認しようと考え,ほかの裁判員経験者の方の連絡先を裁判所に問い合わせたけれども,裁判所としてはそういうことはやりませんと断られたと,そういう話を前提に,弁護士会では議論した経過があります。ただ,私の聞くところによりますと,その後,裁判所も運用を改善されたという話ですので,実際,裁判所で今どうなっているか御説明いただければと思います。 ○合田委員 それでは,まず今,前田委員の方からお話のありました件ですが,どの事件でも皆さんそれぞれ抽選で選ばれるので初顔合わせということになるわけですけれども,そのときに,事件をやって任務終了までの間に,例えば名刺交換とかそういうあれですけれども,それはもうこちらの側では全く規制はしておりません。   したがいまして,裁判員同士で名刺交換する方もいらっしゃるし,それから任務が終わるときに,お互いに携帯電話の番号とか教え合っているというのも,私たちが目にする光景です。   それから,任務が終わった後,あのとき同じ事件を一緒に担当したほかの裁判員の方と話をしたいというので,ほかの裁判員の方の連絡先を教えてくれないかと,こういう申出がある場合もございまして,その場合は,ストレートに教えるわけにはいかないので,ではということで,そういうお申出があったということを,裁判所の方からそのときに一緒に組んでいたほかの裁判員の方にお伝えをして,あなたの連絡先をそうした方に教えていいですかとお尋ねをし,承諾された方について,最初に言ってきた方に連絡先をお教えするという格好でやっています。取次ぎといいますか,そういうところは今はやっているということです。それで,実際連絡取り合ったという話も幾つか聞いているところです。 ○前田委員 裁判所の運用がそのようになっているということですか。 ○合田委員 そうです。   それから,山根委員の方からもお話があって,ほかにもちょっと出ました託児とかそういうことの関係なんですが,事件で来ていただきたいという呼出しをするときに,小さなお子さんがいらっしゃる候補者の方へとか,介護が必要な御家族がいらっしゃる候補者の方へというチラシといいますか,説明の紙を同封しております。それには,介護サービスであるとか,保育施設を予約するのにどうするかという方法が書いてあるとともに,問合せ先として裁判所や区役所の電話番号も書いてあります。   それで,東京地裁の場合でいいますと,保育施設の利用希望につきましては,電話をかけてくる方は,年間5,6人程度であります。それらのお問い合わせにつきましては,私どもの方で,毎年東京都から一時保育が可能な保育所の一覧をもらっておりまして,それはホームページに載せておりますが,それに基づいて,ご希望の地域にある保育所の所在地,最寄り駅,電話番号,料金や保育時間,それから延長保育をやってくれるかどうかと延長料金,申込み方法などをお伝えをしております。   それから,学童といいますか,小学校に入った子供の関係ですが,私ども最初,未就学の子供さんの託児施設ということでやっていたんですけれども,実は小学校に入っている3年生以下ぐらいの,いわゆる学童保育の対象になるようなお子さんをお持ちの方からの問合せも,未就学の子供さんの関係と同じくらいあるのです。   それで,今は一時的に預かってくれる就学児童保育はどこが可能かというを23区全部に問い合わせて把握をしておりまして,何区かということに応じて,その区だとこことここがやっていますということを情報としてお伝えしております。   介護の方も,ホームページにそれぞれの窓口だとか連絡先を書いてあるんですが,ちょっと介護の方は東京地裁ではこの1年間に電話でお問合せをいただいたというのはどうもないようでございます。 ○前田委員 先ほどの質問の関連ですが,名刺交換などをすることについて,裁判所が別に何の制約もありませんよと,説明をされているのかどうかという点はいかがでしょうか。 ○合田委員 名刺交換は,自分からオープンにするかということですよね。こちらからオープンにすることを強制はしませんが,自分でオープンにされることについては,別に御自分の御意思でオープンにされたということにしか思わないです。 ○前田委員 ですから,そういうことまで制約されるものではありませんよと,裁判所が裁判員に,冒頭で説明をしていただくと良いのではないかと提案しているのです。 ○合田委員 例えば,私がやっていた事件では全件そうなんですが,最初に集まったときに,皆さんの名前とかが分からないように,法廷では一番の方,二番の方とお呼びすることにしますが,この評議室の中では,皆さん全員の御承諾がいただけるなら,お互いに名字で呼び合うということでどうでしょうかという御提案をします。お一人でも反対があったら番号にするのですが,皆さんこの部屋の中だけであれば,名字は明らかにしても良いとおっしゃっていただけるんですね。そこで,一番の方から,では名字だけで結構ですから自己紹介をとお願いし,以後はその部屋の中では誰々さんと名字で呼び合うようになります。その中で,その後に,名刺交換等に進んでいく方々もいらっしゃると,そういうことでございます。 ○四宮委員 あと,立法ではないと思いますけれども,環境整備の関係,参加しやすい環境整備ということで,今まで出ていないことで,アンケートを読んで気が付いたのは,一つは,辞退についてです。今,55,6%の辞退率があるんでしょうか。何人かの方のアンケートの中に,辞退が簡単に認められ過ぎてないかとか,辞退理由をもうちょっと明確にしてもらった方が公平ではないかという意見がありました。この公平ではないかというのは,私は大変大事な指摘だと思います。もちろん,辞退の理由はそれぞれに合理的な理由があることですし,また発足当初の裁判所の運用は,この制度の定着のために私はよかったと思っています。これからの問題として,そこは考えていただいたらどうかというのが一つです。   それから,もう一つは,意外に希望で多かったのが,裁判員の選任手続と第1回公判期日との間に時間を少しとってくれたならば仕事などの調整がしやすいと,選ばれるかどうか分からないのに,3日とか4日とかあるいは1週間とか調整を付けてきているので,という御意見が結構あったのに気が付きました。ここも運用ですけれども,なかなか裁判所のスケジュールとの関係でも考えなければいけないことはたくさんあるとは思いますけれども,そういう指摘があったということは申し上げておきたいと思いました。 ○合田委員 今の選任期日と,それから公判始める日の間隔をどうするかということについては,確かに最初は午前に選任して,午後から法廷という日程,ほとんどそこからスタートしたんですね。長い日程になってくるとそうもいかないので前にやるというのもあったんですが,それでも最初の頃は前の日に選任して,次の日から公判というようなことが多かったんです。それが次第に,例えば金曜日に選任をして,翌週の月曜から公判というような事例もだんだん出てまいりまして,今,東京地裁の中でも,裁判長の考え方によっては,1週間くらい空けるというやり方をしている事件もあります。   ただ,他方におきまして,職務従事期間の全体日数が何日ぐらいかということとの兼ね合いもあって,3日で済むような事件では,むしろ休んでいただく日を増やすよりは,午前に選任して,午後から審理に入るという格好で日程を組む方がいいと考えるケースもあるのです。確かに四宮委員からお話があったような空いていた方がいいという御意見がアンケートの中にあることは間違いないのですが,反対の意見の方もいらっしゃいます。特にビジネスマンの方に空けてほしいというご意見があるのですが,そうではない御職業とか立場の方には,空けなくたっていいから,ともかく期間を短くしてほしいという方も,結構いるのですよね。アンケートではなく,雑談みたいな感じで話していると,そういう印象を受けるんです。ですから,そこは悩ましいところで,試行錯誤の状態ですね。 ○前田委員 今の関連ですが,私が裁判員経験者から聞いた話によりますと,二つの面から選任と第1回の公判とを離した方がいいということでした。   一つは,午前に選任されて,午後審理に入っても,訳の分からないうちにというか,まだ十分理解できていないうちに,あっという間に審理が終わってしまい,午後の審理内容が本当に頭に残っていないことがあったということです。選ばれた後,心構えをし,刑事訴訟法の知識を多少なりとも得て,審理に入る方が良かったと。   もう一つは,当日選ばれるか選ばれないか分からないし,選ばれない数の方が多いということになると,そのためにあらかじめ仕事のやりくりをつけておくのは難しくて,選ばれなければそのままでよく,選ばれたら審理までの間に調整を図る方がいいと,そういう意味では選任と審理開始にある程度日にちを空けてもらった方がいいと,そういうことをおっしゃる裁判員経験者の方がおられました。 ○合田委員 難しいところで,何日か空けたら,既に6人の方が決まっている状態なのに,公判期日までの間に仕事の都合がつかなくなったという申し出があったこともありました。すぐ公判になれば会社の方ももうしようがないなということになるのでしょうけれども,空いていたので,何とか裁判員の方を辞めさせてもらってくれと言われたというのです。結局,補充を繰り上げざるを得ませんでした。   まあどの方法にしても,全部解決できるということはないので,どうやってやったら一番大多数の方にとっていいのかと言うことを更に検討するべきなのであろうと思っています。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。裁判員の義務・負担に関わる措置等のテーマで御意見を承っているところですが,特にほかにございませんか。 ○四宮委員 一つは,義務・負担の関係なんですけれども,どちらも合田委員に実情をお伺いして,御意見があればと思うんですけれども,一つは,先ほどの精神的な負担の軽減等のことなんですけれども,例えばこういうことはあるんでしょうか。あるいは,ないけれども,検討するに値するのかということですが,全部の事件でそういう必要があるかどうか分かりませんけれども,例えば,判決の言渡しが終わって評議室にお帰りになるわけですね。それで,例えば非常に残忍な証拠を見たケース等々のケースで,そこで裁判官を含めて裁判員全員で,言渡しが済んでいるので,場合によってメンタルヘルスケアの専門家が入るかどうか,これまた別の問題になりますけれども,全員でその事件を振り返る,あるいはひょっとしたら非常に精神的な負担を感じていらっしゃる方がいそうだというときには,そういうことは,例えば決してその方にとっての異常なこと,お一方にとっての異常なことではなくて,皆さんが経験することで,それはいろいろ専門家の話,裁判官と話をしたり,専門家と話をすることによって,改善されていくのだというふうな,裁判体としてのグループでの話し合いというのは,割合意味がありそうに思うんですけれども,そういうのは実情としてはどうかと,あるいは今後の運用としてどうだろうかというのが一つです。   もう一つは,インターネットの関係なんですけれども,日本の裁判員制度は,裁判員に対して裁判中に,これも実情をお聞きかせいただいたんですけれども,証拠以外の情報にアクセスすることを,私の理解では特にはっきりと禁止をしていないように受け止めておりました。例えば,この事件についての報道があるかもしれませんけれども,それにアクセスしないでくださいということは,恐らくおっしゃっていないという理解でおりました。   幾つかの報道で私が気になったのは,担当事件について,あるいはそこで問題となっている証拠の関連のものだったように記憶しますが,裁判員がインターネットで調べてみたという報道が幾つかあったように記憶しています。そして,これは国民参加,このIT時代に国民参加制度を採用している国ではどこでも問題になっているようですけれども,こういうのは実際には裁判長のお立場で御覧になっていてどうだったでしょうかということと,ここはやはり何らかの対応が必要なのではなかろうかという気が個人的にはしておりますけれども,いかがでしょうか。 ○合田委員 まず,最初の方は,みんなで話し合うということですよね。判決宣告が終わって部屋に帰ってきても,すぐ解散にはなりませんので,どの事件でも,20分か30分ぐらいいろいろお話をするんですね。そのときに,中身はいろいろありますけれども,裁判をする,人に有罪判決を言い渡すとか,刑を科すとかということについて感想を聞いたり,こちらの方からその内容に応じて,口幅ったいんですが,多少なりともフォローになるようなお話を申し上げるということはございます。   それから,私自身の経験ではないのですが,意見交換会で死刑判決に関与した方がいました。その方が,中身は具体的におっしゃらなかったんですけれども,判決が終わって評議室に帰ってきたときに,裁判長が,そういう結論になったことについて,事件によっては,こういうことをやらなければいけない場合もあって,あれだけ議論をして,いろいろ考えてそれでもこうだというようなことなわけだからというようなことをいろいろ話をしてくれて,それを聞いていて,大分気持ちが楽になりましたとおっしゃっていました。   それぞれ濃い薄いはあるかもしれませんけれども,何らかのお話はさせていただいているということです。ただ,それが四宮委員がおっしゃったような意味で十分か十分でないかというのは,また別な見方はあろうかと思いますけれども,そういうことが実態としてはあるということでございます。   それから,もう一つは,インターネットを調べるというようなことですが,それはもうおっしゃるように,それをやってはいけないという別に条文があるわけではございませんので,私どもの方では,特に見ないでくださいとか,何とかということは申し上げません。   ただ,裁判員に選任をされてから,宣誓をしていただく前の法39条の説明というのがございますが,この中で刑事裁判のルールについて説明をしていて,その中で,必ず法廷で取り調べた証拠だけに基づいて判断をするのだということを申し上げております。また,それに付け加えて,したがって,皆さんが新聞やテレビ,ラジオでこの事件のことを見聞きしたことがあるかもしれません。あるいは,この事件についてうわさ話を聞いた方もいらっしゃるかもしれません。でも,それらのものは全て証拠ではないので,判断をする材料にはしてはいけませんと,こういうことも,この最初の段階で申し上げます。   その前提がありますから,実際,審理をやっていますと,この事件は本当はこうだろうというような話が出る場合もありますが,そういう場合に,こちらからは,でもそれ証拠ありましたっけ,と申し上げます。この法廷で調べた証拠だけに基づいて判断するのだということは,耳にたこができるぐらい繰り返し言いますから,最終的には皆さん理解していただけます。最後の方は,いや,こういうように週刊誌出ていたけれども,証拠ありませんもんねと,もう御自分からおっしゃるような格好になっていきます。   法廷で調べた証拠以外の情報を御覧になって,それで何か引っ掛かっていると,必ずどこかで出るんですよね。で,その都度何に基づいて判断をするかというところを確認をし直していくということでやっておりますので,私はそこで問題が生じているというふうには思っておりません。 ○土屋委員 今の点は,記者会見でも出ているんですね。報道に対する批判ですけれども,報道ではこういうふうに書かれていたりしたけれども,そういう証拠は裁判では出ませんでしたよというようなことを言われた裁判員が実際いらっしゃいます。ですから,報道の方もいろいろ今までみたいなやり方とは違うというんでしょうか,自分たちの報道内容が刑事裁判の証拠でもって検証される,それが市民の目にも伝わってしまう,そういう状況がやはり生まれていて,それが記者会見でも出ているということです。   これは,また逆に言うと,そういう話をされた方は,新聞も読み,テレビも見,インターネットも見ているという裏付けだろうと思います。それを禁じることができるかどうかというのは,また別の問題だと思いますけれども,今の時代,ある意味しようがない部分もあろうかと思いますが,是非,裁判所の方からの注意喚起というのは徹底してやっていただきたいと思います。証拠になかったんですよということを言っていただく方がどれほどいいかと,私は思います。   それから,もう一つ,ちょっと裁判員のアンケートを読んでいて気になったことなので,また合田委員に御意見を伺いたいと思っているんですけれども,最高裁判所が今年の3月にまとめたアンケート調査結果報告書の中に,議論の充実等についての質問があって,十分に議論ができたという選択肢と不十分であった,分からない,不明という4つの選択肢があって,それに答えていただくという形ですが,十分に議論できたという答えの方が71%です。これはかなり高い数字だと思うんです。しっかり議論して判決が言い渡されているということだと思うんですけれども,気になったのは,ほかの答えなんです。不十分だったという人が7.4%です。それから,分からないと答えた方が19.7%です。合わせて27%,つまり4人に1人の割合で裁判員の方が評議が不十分だった,あるいは評議が本当に充実したものだったかどうか分からないという,そういう答えをしているんです。   この数値が高いと見るのか,低いと見るのか,見方はいろいろあろうかと思うんですけれども,私はちょっと心配になって,えっと思ったんです。つまり,4人に1人が積極的に評議の中身を評価していないんではないかという感じがちょっと出ているのかなと思ったりしまして,そうすると,それはどこに理由があるんだろうと。   評議に十分な満足度が得られなかったということは,その人個人の性格として,余り自分の意見を言いたがらない人というのももちろんいますし,いろいろな方がいて,意見の述べ方のうまい人もいれば,下手な人もいる。いろいろな個性のある人たちが集まっているわけなので,そこでばらつきが出てくるのかなという気もするんですけれども,もし評議の運営上の問題が絡んで充実度を感じられない,不十分であったという回答をしている,その7%の人たちがもしそこに問題を感じているようなことがあるとしたら,これは改善の余地があるのかなと思ったりするんです。ちょっとその辺りはこれ以上の材料がないので何とも言いようがないんですが,気になるんですね。実際,評議を運営されていらっしゃる立場からすると,こういうようなもうちょっと議論したかったみたいな話というのは,意見交換会なんかでも出ませんか,どうでしょうか。 ○合田委員 意見交換会だと大分時間がたつものですから,私の聞いた限りでは評議時間が十分ではなかったと思うという御意見は余り出てないと記憶しています。ただ,アンケートは終わった直後に書いていただくので,むしろそっちの方でそういう数字が出ているというのをどう見るかということで,考えなければいけないと思います。    それで,これはともかく私どもの立場としては,十分に議論をできたという方が100%に近付くようにというか,目標は100%にあるわけですから,そこに向けてやっていかなければならないので,その前提で考えるときに,7%という方,あるいは分からないとおっしゃる方を合わせると,先ほど御指摘のあったような数字があるということは,やはりまだやり方を考えなければいけないという反省の契機にするべきだと思っております。   率直に言って,やはり積極的に発言されるタイプの方と,それからそうでもないタイプの方というのはいらっしゃるんです。それで,私どもも最終評議に入る前に,何日か公判やっていますので,その間,評議室に帰ってきたときにいろいろお話をする中で,それぞれの裁判員の方について,割と言葉が出てきやすい方かなとか,あるいはこちらから持ちかけて,いかがですかと言わないとなかなかご意見が出にくい方かなという辺り,そういう意味でのどのようなタイプの方なのかということを,こちらの心づもりとして理解しようという具合に思ってやっていて,それに基づいて評議をやっていくわけなので,そういう意味での気配りと工夫はしているつもりはあるんですが。   やはりそれでも実際アンケートになってくると,そういう回答が出てきますので,更にどういう工夫ができるのかということを話し合っているところです。ともかく,それがなるべく小さくなるようにやらなければいけないということははっきりしておりますので,更に検討していきたいと思っております。 ○稲田刑事局長 いろいろと御議論いただいているところですが,最初にも申し上げましたように,一応今日で論点の整理のための議論は,ひとわたり終わりたいというふうに思っているところでございます。若干の時間がまだございますので,これまで特に取り上げられてこなかったような点で,今後の検討の中で,取り上げた方が良いのではないかというような点がございましたら,この際伺えればと思います。 ○前田委員 評決要件の提案は,若干観念的議論ですが,少年逆送事件の審理の在り方に関する提案は実務的な観点からのものです。裁判官裁判のときには書面を出して,その書面をじっくり裁判官に読んでいただくことが基本でした。特に少年事件の場合には,家庭裁判所の作った社会記録が処遇を決める上で重要な役割を果たしてきましたので,そのような認識の下に,裁判員裁判ではこれらの記録が十分に取り調べられないのではないかとの懸念が,付添人,弁護人にあることは間違いありません。   そのような懸念から,弁護士会では少年逆送事件について,良い審理の方策がないのかという観点から議論をいたしました。そこで,合田委員には裁判所の立場から,少年逆送事件,特に社会記録の取扱い,取調方法に関して,このような工夫をしているというようなことがあれば御紹介いただくと良いのではないかと思います。 ○合田委員 そこは,少年法の規定で科学的知見を活用するというのは,それ自体は条文が今までどおりあるわけですよね。ですから,裁判員裁判だからといって,違うやり方をするとか何とかということは条文上ないわけなので,科学的知見に基づいてやらなければいけないことは裁判員裁判だって同じだということは,それは裁判所もそういう前提で考えているわけです。   ただ,他方において,例えば鑑別結果とか,調査報告書でありますとか,そういうようなものについて,それを裁判員に理解していただけるような形で,どういう具合にお出しをするのかということとか,あるいはそれらの証拠には家族とか係累のプライバシーにわたるようなことまで書いてある場合もありますよね。それを公開の法廷で調べるわけですが,裁判員裁判では法廷で証拠の内容を理解していただくようにするというのが大方針ですので,それをどう調べたらいいのかという辺りが,もともと始まるときから悩ましい問題としてあったわけです。   そこから先は,一律にこういう具合なやり方をすれば,ほぼそこが乗り切っていけるんだというところまで安定しているかというと,まだなかなか考えなければいけないんではないかなと思っているんですね。今,前田委員のお尋ねを受けて,裁判所の方で議論がほぼ固まっているという具合にはなかなか申し上げにくいというのが私の状況認識です。 ○山根委員 特に論点うんぬんということとは違うと思うんですけれども,ネット社会ということで,誰もが発信者になれるという今の社会,時にとても怖いことがあると思っています。特定の人を攻撃するような力が働いて異常に盛り上がったりということが時々あるということがとても怖いと思っているわけで,裁判員を務めたことで,名前とか顔が載せられるようなことがないかと不安に思うことの負担ですよね,逆恨みが怖いとか言いますと,どうしても暴力団とかそういう関連の事件に対応してというふうにとられがちですけれども,それだけではなくて,やはり今の時代にそういうことで,何か自分がターゲットになってネットで攻撃されるということがありはしないかという不安もあるということも,ちょっと考えていただければと思います。 ○合田委員 名前は出ないんです。法廷ではもう全部,一番,二番と番号で呼びますから。   そこの不安に関しては,審理の始めのときに,裁判所の連絡先の電話番号を控えたカードを,急病とかの場合もありますから,お渡ししています。それで,任務が終わってからも,それは持って帰っていただくこととして,そんなことはないと思いますが,例えば家のそばを何か知らない人が歩き回っているとか,何か心配があった場合には,もちろん,警察に110番していただいても構わないんですけれども,裁判所に電話してくださって構いません,こういう具合に申し上げています。昼間はこの番号で夜はこうだという24時間誰かが対応できるような複数の番号を記載しています。そこから裁判所に何ができるかということは,また中身次第でいろいろかもしれませんけれども,御連絡をまずいただいてというようなことを申し上げているという実情はございます。 ○四宮委員 今のところは連絡はないということですか。 ○合田委員 1,2回そういうつきまといとか何とかとは違う話で来たってことは聞いたことがありますけれども,そういう方面での連絡は幸い今のところ受けたという話は聞いておりません。 ○前田委員 弁護士会でも,余り具体的な事例はないのが実情だと一応理解しております。 ○山根委員 ただ,ネットか何かで,この人はこういう判断をして,こんなやつだみたいなのがもし流れたら,もうちょっと出たら収集がつかないというか,そういう怖さを感じることはあると思います。 ○稲田刑事局長 ありがとうございました。そのほかに何か論点として取り上げるべき点,あるいは御意見等がございましたら伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。   それでは,2時間近く御議論いただいたところでございまして,おおむね論点整理の御議論はこの辺りということにさせていただければと思っているところでございます。   それで,今後についてでございますが,本日,最初に申し上げましたように,井上座長が御欠席ということでございますので,今日の御議論も併せて私どもの方から座長に御報告を申し上げて,座長にお諮りをした上で,できましたら次回の検討会の冒頭に,論点整理のペーパーというものをお出しし,御確認いただいた上で,論点整理を終えるような方向で考えていきたいと考えております。   なお,その後,早速実質的な議論に入っていきたいと考えておりますが,どのテーマからどのような順番で議論を進めていくかということにつきましては,その論点整理のペーパーの内容によるところもございますので,追ってまた次回までに,私どもの方から皆様方に御連絡を申し上げるということにしたいと思っておりますが,そのような形で次回10月9日を迎えさせていただきたいと考えておりますが,いかがでございましょうか。   (「異議なし」との声あり)   よろしいですか。どうもありがとうございました。    では,最後に,次回の予定の確認をさせていただきたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 次回でございますが,10月9日火曜日,午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等につきましては,追って御連絡申し上げます。 ○稲田刑事局長 それでは,これをもちまして,本日の第12回の検討会は終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。 —了—