裁判員制度に関する検討会(第14回)議事録 1 日 時   平成24年11月6日(火)13:27〜15:01 2 場 所   東京地方検察庁総務部会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,      残間里江子,四宮啓,島根悟,土屋美明,前田裕司,山根香織                              (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      名取俊也刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題  (1)論点についての議論    ア 裁判員等選任手続について    イ 公判・公判前整理手続について  (2)その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料3:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成24年7月末)   資料4:「裁判員等経験者に対するアンケート」調査結果報告書       (平成24年1月〜6月分)   資料5:裁判員等経験者に対するアンケート結果の推移   資料6:参照条文 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,裁判員制度に関する検討会の第14回会合を開会させていただきます。   それでは,井上座長,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,また雨模様にもかかわらず,皆様には御参集いただきましてありがとうございます。   議事に入ります前に,まず事務当局から,本日の資料について説明をお願いします。 ○東山刑事法制企画官 本日お配りさせていただいております資料は,議事次第,配布資料目録,インデックス付きの資料6点でございます。資料1は「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」と題する横書きの表のものです。資料2は「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」と題する円グラフ等を記載しておりますものです。資料3は「裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成24年7月末)」と題するものです。資料4は「「裁判員等経験者に対するアンケート」調査結果報告書(平成24年1月〜6月分)」と題するものです。資料5は「裁判員等経験者に対するアンケート結果の推移」と題するものです。資料6は「参照条文」という表題が付いておりますが,本会合において御議論いただくテーマと関連する主要な法令の規定を取りまとめたものであります。   なお,これらのうち資料3ないし5につきましては,最高裁判所の公表に係る資料です。   以上,御確認いただければと思います。 ○井上座長 よろしいでしょうか。   それでは,議事に入りたいと思います。   本日,最初に御議論いただくテーマは,論点整理の二つ目の大項目である「裁判員等選任手続」でありまして,ここでは「甚大な災害発生等の非常事態時における裁判員等候補者の呼出しの在り方について」という問題を御議論いただきたいと思います。   御承知のように,このテーマは昨年の東日本大震災の発生を受け,裁判所において採られた裁判員等選任手続に関する措置と大きく関連しておりますので,議論の前提として,まず合田委員の方から,その際に実際に採られた措置の内容等について御紹介いただければと思います。 ○合田委員 それでは,今,座長から御紹介のありました東日本大震災の後,裁判所の方で呼出しにつきまして採った措置,一部現在継続中でございますが,その内容について簡単に説明させていただきます。   東日本大震災を受けまして,具体的には,仙台地裁,福島地裁,同地裁郡山支部,盛岡地裁の4庁でありますけれども,それらの庁の個々の裁判体におきまして,震災,それから原発事故の被災地域の方々に過重な御負担を求めることがないように配慮し,呼出状の送達や質問票の返送が困難である,あるいは選任手続期日に出頭していただくことが困難であると認められる地域に住所を有する裁判員候補者の方々に対しましては,仙台地裁,福島地裁,盛岡地裁は平成23年4月から,郡山支部では同年7月から,当面の措置として,呼出状を送付しないということにいたしました。この措置を採るにつきましては,検察庁,弁護士会及び地方自治体に御説明の上でそのような措置を採ったということでございます。   その後,津波によりまして深刻な被害を受けた地域の裁判員候補者の方々につきましては,震災から一定期間が経過し,被災地域の郵便事情や交通事情が回復してきたということに照らしまして,平成24年1月以降,各裁判体において呼出しをしない取扱いを解除するということで,以前のようにくじに当たれば呼出状をお出しするという運用にしております。   ただ,他方におきまして,原発事故によって深刻な被害を受けている地域の候補者の方々につきましては,現在も呼出しをしない措置を続けております。具体的には,福島地裁本庁と郡山支部の当初の措置対象地域のうち一部の地域につきまして,原発事故の関係で,現在も呼び出さない措置を採り続けておるということでございます。   なお,呼び出さない措置を解除した部分につきましても,具体的な事件の呼出しの回答として震災の影響で来ることが難しいと,こういうお返事がありました際には,当然,裁判体において柔軟に対処しているところでございます。   なお,関連いたしまして,このような措置を採りましたことの適法性が具体的な事件で,問題になって,高裁の裁判例の中で判断が示されたものがありますので,それについても触れさせていただきます。   これは,仙台高等裁判所の平成24年9月13日の判決でありまして,この控訴審の中で,今申し上げた呼び出さない措置をしたことに関連して,法律に従って裁判所を構成しなかった違法であるとの主張が出ました。これにつきまして,仙台高裁の判決は,結論におきまして,これは原審,仙台地裁でありますが,その措置を適法と判断しております。   その理由を簡単に申し上げますが,まず,前提として,このような措置を認める明文の規定はないということを認めた上で,考え方として,裁判員法27条1項ただし書,これはそこの各号に掲げている方を呼出しの対象から除いているわけですが,それがなぜなのかという点につきまして,これらの方々は呼び出しても,就職制限事由とかそういうことがある方ですから,裁判員になれないということで無益である。それから,特に辞退を求めている辞退事由該当者の方に選任手続期日に来ていただくのは過重な負担になる。こういうことを避けるために,そもそも27条1項ただし書は呼出しの対象から除くという条文を置いているのだと判示しております。   そして,この趣旨に照らすと,天災等の例外的な事情によって甚大な被害を受けた一定の地域にお住まいの方について,呼び出すことが明らかに意味がないという事情があったり,あるいは多くの方が辞退を申し出たりする高い蓋然性があるということを合理的に推認できる場合には,過料の制裁を伴う出頭の法的義務を生じさせる呼出しの措置を採ることは意味がないということになるか,あるいは窮境にある方に対して,更なる過重な負担を負わせるものと言うべきであるから,一律に呼び出さない措置を採ることを裁判員法27条1項は許容していると解されるんだと,こういう具合に言いまして,更に具体的な東日本大震災の場合につきまして,被災地域に居住する候補者の方については,呼出状の送達が功を奏さなかったり,あるいは送達ができても多くの方が辞退を申し出る蓋然性が高い。それから,そもそも辞退の申出をすることすら容易でないという状況に置かれていたものと合理的に推認できるので,今回,仙台地裁が一律に呼び出さない措置を採ったのは適法である,こういう理由付けをしております。   今のところ私どもで分かっている,この点が問題になった裁判例はこれ1件でございますが,そういうものが出ておりますので,併せて御紹介させていただきました。 ○井上座長 ありがとうございました。   それでは,皆様から御意見をお伺いしたいと思います。 ○菊池委員 ただいま合田委員から,どういう対応をしたかということについての御説明がありましたが,未曽有の大震災に遭遇した中において,裁判所が採った措置は,私は適切だったと思います。   他方で,こうして一定の地域を限って呼出状を送付しないという取扱いについては,明確な法的根拠がないわけで,そのことを問題視する向きも一部にはあったと記憶しております。そういうことを考えると,やはり何らかの法整備,法的な手当てが必要なのではないかと思います。   では,具体的にどうするんだという話になるわけですけれども,2点ございます。   1点目は,甚大な災害などによって,一定範囲の候補者が辞退の申出をした場合には辞退が許可されるということがおよそ明らかであるものの,他方で,そういう辞退したいという申出自体が著しく困難であるというときには,裁判所において,例外的に,そういった候補者について呼出状を送付しないと,そういう扱いを可能にする根拠規定を法律に設ける必要があるのではないかと思います。   2点目ですけれども,辞退事由を定める政令(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第16条第8号に規定するやむを得ない事由を定める政令),の1号から5号までは,個別具体的な事情を掲げて,それが辞退事由に当たることを明らかにしており,6号が,言わばバスケット的にその他の辞退事由を定めておりますが,この6号は,やはり包括的なものですので,非常事態にあるがために出頭が困難であると,そういった辞退事由を類型化して,この政令の中に独立したものとして規定することが必要なのではないかと思います。 ○井上座長 ほかの方,御意見いかがでしょうか。 ○前田委員 弁護士会でも若干議論をいたしましたので,基本的なスタンスのお話をします。   日弁連としては,震災のときに裁判所が採られた対応について,そのこと自体を問題視することは基本的にはございませんでした。ただ,一部,先ほど菊池委員から御指摘がありましたように,法的な根拠がない中で,裁判所の裁量で実施することについて,一定の疑議を唱える意見があったことも確かでございます。   基本的には,法律に明記をすることでは異論はないと思います。   その際のアプローチとしては,裁判所が呼出状を発しないという,呼出しの方から規制をするやり方もありますし,呼出しを受ける裁判員候補者の立場からの辞退理由の中で整理する方法もあり,両方あって,どちらからやるか,あるいは両方やるかということがありますが,今のところ,私個人の意見では両方からのアプローチがいいのではないかと思っております。ただ,日弁連での議論では,法律上の要件をきちんとしておくべきで,裁判所の裁量が余りに大きくなり過ぎるというのは問題ではないのだろうかというのが一つと,もう一つは,裁判員候補者の方には,どんな事情があっても是非やりたいという方もおられるはずですので,裁判員をやってみたいと思う方をできる限り排除することがないような,これは非常に難しいですけれども,そういうことも配慮した上で立法化するべきではないか,そんな議論がなされました。 ○井上座長 分かりました。   ほかの方いかがでしょうか。 ○四宮委員 私も今回の震災に際して行われたことについて,特に問題とするものではありません。ただ,これを法制度として検討するときに,私としては,今,前田委員からもお話があったように,裁判員候補者になる一般国民の人たち,私の理解では,裁判員となることは国民の義務であると同時に,国民の権利でもあると思いますので,一律に呼び出さない措置というものには疑問を感じております。今回の呼び出さなかった措置が,もし仮に行政,自治体単位で行われたとすると,地域によっては被災している所と,そうでない所とがあるのかもしれません。これは私自身は詳しくは分かりませんけれども。そうだとすると,権利でもある裁判員となることについては,やはりならないことの判断は,その候補者にお任せするのが筋ではなかろうかと思うのです。ですから,方法としては,先ほど菊池委員の御提案でいけば,2点目の辞退事由政令の中に新たにそういうものを設けるという方法の方がよろしいのではないかと思います。 ○井上座長 ほかの方いかがですか。 ○合田委員 今出ている御議論もよく分かるのでありまして,裁判所としては,これを乱用しようというつもりは全くございませんので,要件は厳格に決めていただいて,それで手続をしていく,そういう格好でよろしいのではないかと考えております。   ただ,辞退事由の側だけで定めることで十分なのかどうかということですが,さっき申し上げましたように,ともかく辞退の申出をしていただければ,それは対応の仕方はあるわけですけれども,郵便事情等が不安定ですと,例えば,呼出状は届いたけど,今度返事を出そうとすると,まだそれがなかなかうまく出せるかどうか分からないというような場合もあり得ます。最初から届かない場合は返送されてくるだけですけれども,そういうことも考えますと,辞退の申出ができるかどうかという辺りもあるんですよね。ですから,果たして辞退事由だけで全ての場合が適切に賄えるかということはあると思いますので,立法に当たってはその辺のところも考えた上で決めていただければという具合に思っております。 ○山根委員 今回の震災時の措置は私も適切だったと思いますし,また今後,混乱等が起こらないためにも明確な根拠を示す必要があるということも納得はいたします。ただ,やはり皆さんおっしゃるように,乱用という言葉はおかしいですけれども,そのような心配があったり,そう受け取られないように,国民の権利と考えた場合の法律の文言の工夫であるとか配慮はしていただきたいと思います。   1点お伺いしたいのは,4庁において昨年,呼出状を送らない決定をして,弁護士会や自治体に説明をして,その後,平成24年にはその解除をして,そのときにも関係者に説明をしたということを伺いましたけれども,その説明の場において何か意見等が出たことはなかったでしょうか,お伺いしたいと思います。 ○井上座長 合田委員,お分かりでしょうか。 ○合田委員 すみません,お話ししたときに,どういう反応があったかというところまでは私の方で聞いておりませんので,申し訳ありません。 ○山根委員 分かりました。 ○島根委員 特別にこうすべきだという考えを持っているわけではないですが,基本的には裁判員法の関係は,非常に手続も法律,政令できちんとかなり詳細に決めているというように思われますので,今回はかなりけ有な例ではあると思いますけれども,一度あった以上はきちんとした手続を決めておいた方がいいのかなということはまず第一に考えております。   それから,どういう形で規定すべきかということは,先ほどお話があったように,裁判員として一種の権利的に考えるという考え方に立つのか,それですとかなり辞退事由の方の整理ということになるでしょうし,もう一つ別に,手続の安定性ということで,郵便事情,それから交通事情等々,行政の実務をやっている側からすると,やはりその辺がかなりああいう事態のときに大変だなということも一方で分かりますので,そちらの方からのアプローチで,最初の,そもそも呼出しをしないという措置がある程度定型的に決められるのであれば,そういったことも十分検討してみる価値はあるのかなというように考えております。 ○大久保委員 先ほど御説明のありました合田委員の説明のような内容が既に今回の震災においては採られたということは大変よかったと思います。   今後もこのような大きな甚大な災害が起きないという保障は全くありませんので,それに向けての法整備はやはり誰もが納得ができる形で行われている方がいいと思うんです。多分震災を受けたそこの地域に住んでいる方たちに対して,裁判所から呼出しが来たとすると,自分たちはこれだけひどい目に遭って,日常生活さえ送れなくなっているときに,国は何も考えてくれていないのかということで,被災者の方たちもいろいろな怒りで一杯だと思いますので,そういう怒りの気持ちとして国の方に向いてしまうということも十分考えられることだと思いますので,そういう場合は事前に全体のことを考えて法整備をして,余り負担をかけないというような形,あるいは呼出しをしないというような形を前もってしっかりと決めておいて,そして,それも国民に周知をされているということであれば,どなたからも何もクレームも付きませんし,国は,こんな大変な中で分かってくれていて呼出状を出していないんだというように被災者の方も考えられることだと思います。これをごり押しして無理強いして出してしまいますと,裁判員制度そのものに対する不信感のようなものももしかしたら芽生えてしまうのかもしれませんので,その点は各委員の皆さんから問題点の指摘も今ございましたので,その辺りのところを生かしたような法整備をしていただけることが一番よろしいのではないかと考えます。 ○井上座長 土屋委員,よろしいですか。 ○土屋委員 私,前回随分しゃべり過ぎましたので,少し遠慮していました。   私は,前回お話ししたみたいに,何らかの明確な立法的な手当てが要るだろうと考えています。大規模な自然災害,前回いろいろなことを申し上げてしまって,余り焦点が絞られていませんでしたけれども,いろいろなことが想定できます。いわゆる未曽有の非常事態,そういうものを考えたときに,定型的に,もう呼出状を送らないという規定を置いてもいいのではないかと考えたりもします。被災地の裁判所のお話を伺うと,とてもではないけれども事務的にできる状況ではない。その中で職員の方が奮闘されたということも分かりますので,そういった場合に,どういう事態が起きたら,そういう非常事態的なものの規定を発動するかというところの,概念的には難しいと思うんですけれども,そういう立法技術的な問題は事務局の方でいろいろ検討していただければいいと思いますが,基本的に根拠となる規定というのはやはり裁判員法に置きたいなと思います。   それから,前回申し上げたことでもう一つは,名簿の調製も関係してくるだろうということがあったんですが,それは総務省などでお話を伺いますと,公職選挙法の関係でいろいろありますものですから,裁判員制度だけの話ではなくなってしまう面があるので,そこもまた立法技術的に問題があるのかなと思いますけれども,ただ,名簿の提出期限というのを前回問題にしまして,裁判員法の中に10月15日という日付が書かれていますけれども,そういう日限を切った対応というのが場合によってはできないかもしれない。つまり大地震が発生した時期がそれに非常に接近した時期であると,法律上10月15日と書かれていても,実際,市町村の選挙管理委員会はそんなことはできないというようなこともありましょうから,そういう辺りも余り窮屈な規定にしてしまっておくと,また難しい面もあろうかと思いますので,名簿の調製関係についてはそこら辺り個人的にはお考えいただいた方がいいのかなと思ったりします。 ○井上座長 他の方はよろしいですか。   では,このテーマについては,このくらいにして,次に移りたいと思います。   次は,論点整理の三つ目の大項目「公判・公判前整理手続」についてですが,そのうちのまず一つ目の中項目が「迅速かつ充実した分かりやすい審理に関する運用上の問題について」であり,さらに小項目がありまして,その最初が「主張及び証拠の整理等は適切に行われているか。」という論点です。   これまで当検討会では,裁判員裁判において,証拠が絞られ過ぎているのではないかという御意見や,逆に,書証の使用が増加しているのではないかといった御意見など,いろいろな御意見がありましたけれども,この点について御意見があれば御発言いただきたいと思います。 ○前田委員 座長がおっしゃった範囲で,そのほかでもよろしいですか。 ○井上座長 まず,今例示したような点について御意見があれば御発言いただき,ほかのことも何かありましたら,その後で付け加えていただければと思います。 ○前田委員 これは正に運用の問題でして,裁判所の運用ですから,個々の裁判体で大変差があるということは承知しておりますが,裁判所が公判の期日での分かりやすさなどを相当意識する余り,主張や証拠について過度に当事者に介入しているのではないかと思われるケースが幾つか弁護士会の議論の中で報告されています。   一つは,既に申し上げたかもしれませんが,弁護人の予定主張について,更に詳細な主張を求めることがあります。当初のころ,検察官の証明予定事実記載書について,一つ一つの認否を求めるような裁判官も中にはいたという報告がありました。このようなことは最近の弁護士会の報告ではなくなってはいますが,弁護人の立場としては,審理計画を策定するには必要な範囲での予定主張だと判断していても,もう少し詳細な主張,場合によっては,被告人質問の先取りとも思われるようなものを,裁判所が求めてくるケースがある。それほど多くはありませんが,そのようなケースがあるということでございます。   次に,弁護人の検察官請求証拠についての意見,これは書証の取調べをするかどうかということとも関連をしますが,裁判所の中には,書証の同意を弁護人に迫ることがあり,弁護人と裁判所の間での意見の対立が生ずるという,そういう例も,それほど多くではありませんが,一定数見受けられるということがございます。この辺りは個々の事件の弁護人や検察官,裁判所の在り方・運用ですが,そういう例が弁護士会で議論をいたしますと何件か上がってくるということは一応お知らせしておきたいと思います。 ○井上座長 合田委員,何か御発言がありますか。 ○合田委員 今の前田委員のお話が,それぞれの裁判体のことだしということと,件数はそうは多くないという,既にそういう前提でのお話ですし,今おっしゃったような報告例が上がってはきているんでしょうが,私たちがやっていることからすると違和感があります。例えば書面を同意できないかという具合に裁判官が言うという辺りとの関係では,多分ここで前にもお話が出たと思うんですけれども,今は,書証か人証かということも含めてどういう格好,証拠方法で出すのがいいのかとか,あるいはどのぐらいのボリュームのものにして出すのがいいのかといった議論をむしろ裁判所ではしているという具合に思います。そういう意味で,同意を取り付けて書証で調べようというのは,今は多くにおいて行われているところとは違うやり方なのではないかなという具合に認識しております。   それから,予定主張のところも,結局こちらの方では,公判前整理を進める際に考えているのは,その事件の裁判員,裁判官が判断するときに,判断のポイントとなるのがどこなのか,それとの関係で,当事者双方の主張の中で争点になるのはどこなのか,言い換えると真の争点という意味なんですが,そのことです。当事者の立場からいろいろ言いたいことがあるのは分かるんですけれども,審理計画を立てる上では,そういうレベルで争いがあるかどうかは抜きにして,まず第一に,この事件で,事実認定あるいは量刑を含めて,判断のポイントとなるのはどこなのか。そして,それとの関係で争点となるのはどこなのかということを主張整理の面で考えているんです。それからあとは証拠整理の方では,その主張整理に基づいて必要にして十分な証拠,それはどういう形で法廷に証拠を出すのかということも含めて,何が適切かということで証拠整理をしていこうと,そういうつもりでやっておりまして,それが結局ここで問題となっておりますような適切な審理を行うための整理ということの在り方だろうという具合に,恐らく大多数の裁判所はそう思ってやっているのではないかなと思っております。 ○井上座長 この点について,ほかに御意見ございますか。   検察の方は特に何もありませんか。 ○菊池委員 前田委員から,個別の裁判体の中には,裁判所が過度に介入してくる例があるとか,あるいは書証の同意を迫った例があるとの御紹介がありましたが,逆の事例も報告されていますということで御紹介させていただくと,裁判所が仕切り過ぎるのではなくて,もうちょっと裁判所が仕切ってくれるといいのになと思われる事案であるとか,あるいは正しく合田委員からお話があったように,書面の同意を迫るのではなくて,同意している書証に係る立証事項についても証人尋問でやったらどうですかと,証人尋問を促される例もあると聞いております。 ○井上座長 この点について何かほかの方で御意見ございましたら。よろしいですか。   では,今の論点でなくても結構ですので,ほかに御意見があれば・・・。 ○前田委員 証拠開示に関する問題について制度設計の議論はここでするつもりはございませんが,弁護士会が証拠開示の制度改革提案をした理由の一つとなった点について触れたいと思います。類型証拠開示請求などにおいて弁護人が検察官に証拠の開示を求め,検察官が一旦「不存在」と回答される。しかし,その後調べてみたところ存在したというケース,これが少なからず存在します。私自身も二つの経験をしています。   その理由はいろいろありますが,私が体験したケース,あるいはほかの弁護人が体験したケースの少なからずは検察と警察における証拠のやりとりの問題であると整理できます。検察の手元には確かになかったが,調べてみると警察には存在したというケースがあります。そこで,私も詳しくは分かりませんが,刑事訴訟法や,あるいは犯罪捜査規範などによると,警察の捜査記録は検察に送ることになっている。全て物理的に送るという理解ではないかもしれませんが,少なくとも観念的には全ての記録が検察に送られるということで,我々としては,検察に請求すれば,検察が把握して保管しているものだと,認識しております。しかし,聞いてみますと,必ずしも検察が警察の証拠を全て把握しているわけではない,そもそも送られないものも現実にはたくさんあるということでございました。そこで,物理的に送るかどうかは別として,検察に送致する記録のリストを警察がお作りになった上で,少なくともリスト付きで検察に送致するというようなことができないのだろうか。そんな膨大な作業をすることができないとの実務的な反論はあるかもしれませんが,証拠開示の問題を考えるとき,捜査機関においてリストできちんと証拠を管理・保管することが必要なのではないかと考えています。その辺りは,島根委員もいらっしゃることですので,実務でどうなっているのか,改善の余地は運用上ないのだろうかという辺りをお話しいただけると幸いでございます。 ○井上座長 今この段階で議論しないといけないですか。 ○前田委員 今この段階,いや,この段階ではなくても,この検討会の中で議論をすることができればということですが・・・。 ○井上座長 御承知のように,証拠開示の問題は制度論として「その他」のところで扱うことになっている。その問題は本検討会の守備範囲ではないという御意見もあるので,その点をも含めて,まとめて議論しようということになっているわけですね。そして,今お話に出たリスト開示ということもそこでの一つの論点として出されていますので,運用論と制度論との違いはあるといっても,結局同じような議論をすることになると思われますし,その議論の前提として,実務でどうなっているかということもお伺いする必要があるかもしれません。ですから,そのところでまとめて議論したらどうかと思うのですが。制度論と運用論の別はありますが,ほとんど接合した問題ですよね。議論しないというわけではなくて,二度同じ議論をすることになりかねないので,「その他」のところでまとめて議論することにさせていただきたいと,座長としては考えるのですけれども。 ○前田委員 この時点でやらなければならないという理由はございませんので,いずれこの検討会できちんと議論をしていただくということであれば,座長にお任せしても構いませんが,先ほどは,制度を設計する上での前提となった今の運用状況をお話ししたわけです。 ○井上座長 ですから,その辺の運用状況も当然お伺いすることになるかと思うのですけれども,「その他」のところでまとめてやらせていただいた方が議論がふくそうしたりすることにならなくてよいように思うのです。 ○前田委員 ここでしなければいけないという理由はございませんので,それは座長に一任いたしますけれども。 ○大久保委員 今までも何回かこの会議では,裁判員裁判のことに特化してやるということを皆さんで周知して今まできたと思いますので,それは今御指摘がありました問題は,裁判員裁判であっても裁判官裁判であっても多分共通するものだと思いますので,やはり重複しないという意味においても,「その他」のところで議論するというのが適切なのではないかなと思いますが。 ○前田委員 今日,ここでしなければいけないかどうかは別ですが,裁判員裁判の中では公判前整理手続が必ず行われるわけですから,公判前整理手続における運用の問題は,議論する価値は十分あるし,それをこの検討会でやるべきであるというのは私の考えでございます。 ○井上座長 分かりました。ただ,何度も申すようですけれども,この検討会の使命からしますと,その際も,やはり,裁判員裁判であるから特にこういう問題がある,あるいはこういう点に気を付けないといけないといった角度でなるべく議論をすべきではないかと思うのですね,それでは,運用の問題も含めて,「その他」のところでまとめて議論するということにさせていただきたいと思います。よろしいですか。 ○四宮委員 私も議論の仕方についてはスケジュールというか,それは結構なんですけれども,今,前田委員から運用としてお話のあった証拠開示ですけれども,私の経験でも大分任意開示という形で検察官からの開示が進んでいるというのが私の経験ではあります。そして,その証拠の開示は,私の理解では,きちんと行われることが公判前整理手続を充実させて,それから争点を的確に整理できる。そのことは,ひいては裁判員がおられる法廷での審理というものを分かりやすくしていくということになると思いますので,運用としても証拠開示,今の進めている方向をより積極的に検察の方では進めてほしいと希望したいと思います。 ○井上座長 その中身についてはまた,「その他」のところで御開陳いただければと思います。   そのほかに,この論点について御発言いただくことはありますか。 ○四宮委員 「分かりやすい審理」というところでよろしいですか。 ○井上座長 はい。 ○四宮委員 私はかねてこの検討会でも申し上げているように,争いのある事件,つまり有罪と無罪かが争われている事件の場合には,手続を二つに分けたらどうか。有罪,無罪の証拠調べをまず行って,その点について評議を行い,そして有罪であるという結論に達したときに,刑罰を決める手続をそこから始めるというふうにしたらどうかとお話をしておりました。これは実際に運用でもかなり行われているということでありますけれども,手続を二つに分けるということがどういうことなのかが,特に専門家でいらっしゃらない委員の皆さんに分かりにくいということもあるかと思って,今日は実際に大阪地裁での実例をなさった元大阪地裁判事の杉田宗久さんの実例に基づく公判のスケジュールというのがあるんですけれども,これをお示ししてもよろしいでしょうか。 ○井上座長 今お話のあった問題も,証拠開示の問題と同じで,制度論としては「その他」のところで議論するということになっています。運用論としても,制度論に接合した問題であり,結局実質的に同じような議論をせざるを得ないと思いますので,これも,そこのところでまとめて議論した方が良いのではないかと思われます。資料等についても,もしございましたら,そこで出していただいた方が議事の整理としてはよろしいかと座長しては考えるのですけれども。 ○四宮委員 では,資料はともかく,運用として実際に行われているものを御紹介すると,少なくとも杉田さんのお書きになったものによると,まずその実例というのは責任能力が争われるケースで,責任能力に関する証拠調べを先に行う。責任能力に関する論告弁論を行って,一旦評議に入る。そして,その責任能力があるかないか,つまり有罪か無罪かという結論が出た後で有罪という結論になったことから量刑に関する審理に入ったという御報告です。杉田さんの報告によれば,責任能力が争われた事案かどうかは定かではありませんが,このような二段階の審理方法は大阪地裁だけではなくて,東京地裁や東京地裁の立川支部,さいたま地裁などでも行われたそうです。杉田さんによれば,手続を分けることで心証にめり張りが付けられるとのことです。   それで,運用として手続を二つに分けると,これは争いのある事件だけの,有罪,無罪を争っている事件の場合だけですけれども,分けるということは,公判前整理手続における争点と証拠の整理をより徹底させて,争点整理が一層的確に行われるようになるのではないか。その結果,公判審理もより分かりやすくなって,裁判員の方々の心証形成にもめり張りが出るのではないか。ということで,運用として手続を二つに分けると,争いのある場合に限ってですけれども,そういう運用を是非実務では御検討いただけないかと思います。 ○井上座長 これも,「その他」のところでまとめて取り上げるということでよろしいですか。 ○四宮委員 それはお任せします。 ○井上座長 では,そうさせていただきます。御意見は,そこで開陳していただければと思います。   1点,事実の確認ですけれども,私が承知している限りでは,杉田判事のところで行った実例は2件であり,そのうち1件は裁判員裁判でなく,制度施行の前に行ったものであったと思います。東京地裁,さいたま地裁の例というのは,私自身は承知していませんが,それも確認した上でまた御議論いただければと思います。   ほかにこの点で御発言ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,次の小項目の「審理の長期化防止のため,運用上の工夫は適切に行われているか。」ですが,これまでの審議の中で,こういう御疑問が出たものですから,小項目として取り上げております。この点について御発言ございましたら。法曹三者の委員の方で,何かこの点について御紹介いただけるようなことがございますか。 ○合田委員 公判前整理につきまして先ほど申し上げたので重複してしまう部分があるんですが,結局,審理の長期化ということについては,事件の内容でどうしてもある程度期間がかかるというのは,それはそういう事件なので仕方がないと思うんです。ただ,必ずしもそういう事情がないのに,ちょっと言葉はきついんですが,無駄に長期化しているというような場合が生ずるということになりますと,それ自体で職務従事予定期間が延びて国民の御負担を増加させるということに加え,さらに,裁判所にとって見逃せないのは,そういう審理をやっていますと,審理のポイントがぼやけるんですね。その結果として,当事者の本当に主張立証したい点はどこなのかということについての理解を十分に得ることができなくなるおそれが生ずるのが問題なんです。それがひいては,裁判の質に影響してくると非常に困るという具合に思っております。   その意味で,やはり主張立証の理解のしやすさという点から,要するに,必要十分な証拠調べで,そこではやはり本当に必要なものにということで,今までのやり方との関係でいいますと,必要十分といいましても,どちらかというと,そもそも必要な範囲がどこなのかというところからまずアプローチしていくべきだと考えておりますが,そういう点からの,そういう無駄に長期化することがないようにという,その防止ということが,裁判所だけではなくて法曹三者にとって非常に大きな課題だという具合に思っております。   具体的には,先ほど公判前整理でどのようなことを考えているかということを申し上げましたので,そこは重ねて申し上げませんけれども,さっき申し上げたような見地からの主張の整理と,それから証拠の厳選ということを行って,本当に必要で,かつ十分なものだけが法廷で調べられると,こういうところを目指しておるということでございます。 ○井上座長 何か付け加えることはありますか。 ○前田委員 弁護人の立場からは無駄に長期化したという認識は余り持ってはおりません。 ○酒巻委員 この話題はどこから出てきたのか忘れてしまったんですけれども,長期化と言っているのは,昔の長期化というのは本当にすごいことでしたけれども,裁判員裁判の公判審理が異様に長期化という事態は…… ○井上座長 「長期」というのが何をいうかにもよると思いますね。 ○酒巻委員 平均開廷回数だけ見れば4回ぐらいですからね,本当の問題は多分法曹三者だけがやっている公判前整理が自白事件でじわじわと長くかかっているかなというところで,裁判員の方にとっての実際の職務従事期間が異様に長いというのは,マスコミで話題になった数件はあると思いますけれども,それ以外は,それ自体が深刻な問題になっているとは私自身は思っていないのです。 ○井上座長 確かに全体的に見ると,実審理期間はそれほどではない。一部の事件では,かなり長くなっているので,それを長期と言えば長期だと思いますが,そういう例を想定してのことなのか,それとも起訴されてから判決が出るまでの期間が問題とされているのか,ちょっと漠然としていますね。 ○酒巻委員 さっき合田委員が言われましたとおり,それなりに長期間裁判員裁判の公判審理をやっている事件は若干ありますけれども,これは前回やったところで,これまで何とかうまく乗り切ってはいますものの,本当に大丈夫かということはありますので,それについては前回も皆さんで議論したとおり,対象事件から特別に除外する立法的な手当てが必要だと思います。 ○井上座長 ほかにこの点で御意見ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,次の小項目の「公判手続の更新が適切に行われているか。」という論点ですけれども,これについてのこれまでの議論の中では,東日本大震災の影響によって審理が中断した裁判員裁判の再開に当たって,DVDを再生するなどの方法で公判手続の更新が行われたことについて御発言があったと記憶しております。そういうことを含めてこの公判手続の更新,それほどたくさん行われているわけではないと思いますけれども,運用の実情についてどなたかからか御紹介いただければと思います。 ○合田委員 私の方で把握している更新というのが,今,座長からお話のありました仙台地裁の例で,裁判員裁判をやっている途中に震災が起きたものですから,全員解任になったんですね。3月14日に全員解任になりまして,それで8月22日に新しく裁判員を全部選び直しているんです。ですから,皆さん初めてということになるんですが,ただ,そこまでは審理を進めておりますので,刑事訴訟法上はそれはそこまで有効な証拠調べが行われているということですから,それをどういう具合に新しい裁判員の方に理解していただくかということで,裁判員法に負担のない方法で工夫しろというような条文がありまして,そういうことも踏まえて証人の供述等は録画しておるわけでありますので,そこでDVDを御覧いただいたと,それで更新をした,そういうケースです。私が把握しているのはその1件だけでございます。 ○井上座長 確か重要な訴訟行為はもう一度やり直す一方,被告人質問や証人尋問のかなりの部分をDVDを再生し,新しい裁判員の方々に見ていただくという形で更新手続を行ったということであったように記憶しますが,そうですね。 ○合田委員 そういうことです。 ○前田委員 弁護士会で把握しているのは1件だけですが,1件と理解していいんですか。 ○合田委員 私の方でも1件しか把握しておりませんので,多分そうだと思いますけど。 ○前田委員 更新手続をどうすべきか,私個人も弁護士会としての意見も,この時点では持っておりません。ただ,その1件を経験された検察官とも,また弁護人ともお話をする機会があったのですが,少なくとも裁判員にとってはビデオを見るのはすごく辛くて,評判は全くよくなかったと両方ともおっしゃっていました。だから,ビデオがいけないというわけではないのですが,そういう感想を述べられていたということでありまして,なかなか難しいところがあると思いました。 ○井上座長 「辛い」というのは,再生にかかる時間が長過ぎるということですか。 ○前田委員 延々とそのビデオを見続けることが苦痛であると,こういう趣旨ですね。実際に法廷での証言を見聞きするのとは全然違うんでしょうね。 ○井上座長 恐らくその問題と再度裁判所に来て証言してもらう場合の証人などの負担とのバランスから,そういう措置を採られたのではないかと思うのですけど。 ○合田委員 それはそうだと思います。それから,1件しかないという理由なんですけれども,一言だけ申し上げておけば,ほとんどの場合,補充裁判員が選ばれておりますから,ですから,裁判員6名の方に一部,続きをやれない方が生ずる場合,それはほかにもあると思うんですが,ほとんどの場合は補充裁判員の繰り上げということで済んでしまいます。補充裁判員の方は最初からいますから更新は要らないわけですね。ですから,実際更新まで行ったのはその1件だけだと思うんです。   あと,今の前田委員からお話のあった件なんですけれども,休憩をどのくらい取るかというやり方の問題もあると思うんですが,画面をずっと見ているというのはなかなか大変だったという感想があることは伺っているんです。そこで,もう1回証人を呼んだらどうなのかという御意見も聞いたことがあるんですが,証人に来ていただく方の負担の問題もあり,それから,もしその2回目の証人尋問のときに証言内容が変わった場合にどうなるのか。刑事訴訟法上は,前の証言も証拠能力があるわけでありまして,後の証言も証拠能力がある。仮に前の証人尋問の結果を調べないで,再度の証人尋問をやったとしても,もし証言内容が変わると,前の証言の方が自分の主張を支えるのに有利だという当事者の側は,前の方も調べてくれという具合に当然言うことになると思います。再度証人尋問をやるとすると,そういった今までなかなか起きなかったことが起きる可能性も考えておく必要があろうかと思います。 ○井上座長 土屋委員は,確かこの点で御意見を言われたと思いますが。 ○土屋委員 懸念を表明した部分であります。今,仙台地裁で行われた内容の紹介がありましたけれども,それが問題だという意味で言ったわけではありません。ただ,更新手続が必要な状態が起きたときに,どういうふうな審理の整理をして,それを裁判員に伝えるのかというのはとても大事な問題だと思うのです。それで,その辺りの工夫というのが仙台地裁で行われたやり方でいいんだろうかとなると,今,DVDの話もありましたけれども,やはり延々とDVDをずっと見るというのは大変だなと実は思いまして,うまい工夫がないだろうかと気になったわけです。いろいろと議論が出ることを想定している話ではありますけれども,例えば,調書要旨の朗読みたいな形で行われるようなDVDの編集などをすると,これは証拠上いろいろ問題だという話が出てくる可能性がありますから難しいとは思うんですけれども,そういう新たな工夫みたいなものがもっと必要ではないかなと思うんです。その辺りは実際の運用としても目配りしておく必要があるのではないかと思います。   そういう意味でお話していたことなんですが,実はその関係でもう一つ気になっているのは,例えば,これから新たな鑑定が必要になるとか,いろいろなことが起きて長期間審理が中断するというようなことが仮にあったとしたら,何か月も後になって審理が再開されると,恐らく素人の裁判員というのは,以前行われた審理内容について忘れてしまうというと変ですけれども,記憶が乏しくなってしまって,そのことが原因でひょっとすると適切な判断ができないということになるかもしれない。そういうことも考えると,案外更新の問題というのは,現実には起きているケースは少ないにしても,考えておかなければいけないのかな,そういう趣旨で以前ちょっとお話ししたわけです。 ○井上座長 分かりました。ビデオを編集して要所だけ再生するというのも難しいところがあるというか,かえって問題が大きくなるかもしれないですね。考えておかなければならない問題であることは確かだと思いますけれども。   ほかにこの点,御意見ございますでしょうか。よろしいですか。   それでは,次に移らせていただきます。   次は,二つ目の中項目である「公判・公判前整理手続に関するその他の問題点について」でありますけれども,その一つ目の論点が「裁判員法第39条の説明方法等について」でございます。   このテーマは,確か前田委員の御提案に関わる論点ですので,議論の前提として,改めて御趣旨等を説明していただけますか。 ○前田委員 この点については弁護士会が提案をしている項目でございまして,現在の裁判員法39条に基づく説明を,法廷において冒頭手続終了後と,審理が終わった段階と,この二つの時期に行ったらどうかという提案をしています。   この提案をした一つの理由としては,裁判員経験者の方で,これは初期の頃でございましたけれども,記者会見の中で,「確かに裁判長から刑事裁判に関するルールなどの説明を受けたけれども,選任の直後で非常に緊張していてよく分からなかった」と話された方がいることが一つの契機でございました。ただ,実際に様々な裁判員経験者の方にお聞きをしたり,あるいは裁判官の方にお聞きをする限りでは,評議の過程でその説明は繰り返しなされている,また,裁判官によっては評議室に刑事裁判のルールを張り出しているというケースもある,こういうお話を伺いました。したがって,これをしなければならないというほどの立法事実があるかと言われると,必ずしもそうではないようにも思われますが,当事者の立場からは,裁判所が適切に刑事裁判における事実認定は証拠によること,立証責任が検察官にあること,証拠を検討して間違いないと,こういうときに初めて有罪にできるということを法廷で言われるということは,非常に安心をするということもあって,このような規定があってもよいのではないかと提案をしておるところでございます。 ○井上座長 丁寧に周知させるということに重点があるのか,法廷で言うということに重点があるのか,どちらですか。 ○前田委員 丁寧に説明していただくということが重点で,それが当事者にとって分かるようにするには,法廷でも言っていただく。法廷で言えばいいという趣旨ではないです。ですから,もちろん評議の過程できちんとおっしゃっていただくことは,もちろん我々の前提ですけれども,それが見える形にもしていただいたらどうかということでございます。 ○井上座長 ということですけれども,この点について御意見を伺いたいと思います。 ○酒巻委員 裁判員法39条の説明の内容はよく承知していますけれども,合田委員にお尋ねしたいのは,39条の説明というのはまずどこで,どういう場面で行うことになっているのでしょうか。 ○合田委員 裁判員法39条の説明は,選任手続期日の一番最後にやります。要は,選任のくじが終わって,どなたが選任されたかを発表した直後におきまして,宣誓の前に,裁判長が,検察官と弁護人が同席する場所,普通は質問手続室でしょうが,そこで,選任された方に対して,裁判のルールとかいろいろ説明をするわけです。それを理解した上で宣誓をしていただくということになります。実際に告げる場面を検察官,弁護人に見ていただいていると,そういうことでございます。 ○酒巻委員 そのように両当事者の面前で行われているということだったと思うので,更に法廷でやるのは無意味ではないですか。というか,法廷でやるという理由がよく分からない。当事者もいるところで御説明をし,あとはもちろん,実際は様々な機会に何度も御説明し,分からなければ質問していただきということで行われていますので,法廷で儀式みたいにやるという理由が皆目分からない。 ○井上座長 当事者にとって安心だという意味では,今御指摘のように,両当事者がいる場で現に行われているということですね。 ○前田委員 今御説明ありましたとおり,選任手続には私自身も立ち会った経験がありまして,裁判長によってはそれぞれいろいろ工夫をされて丁寧にやっておられるということは重々承知しておりますが,法廷で重ねて告げることも一つの方法ではないかということでございます。無意味ではないのではありませんか。意味はあるが,そこまで重ねてする必要があるかと言われると,そこは意見の分かれるところだと思います。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。   検察官や弁護人は,そういった点について公判廷で裁判員に向けて話すということはしないのですか。 ○前田委員 もちろん弁護人の立場で弁論などの機会に述べる,あるいは冒頭陳述で述べるということがございますので,当事者の立場で説明すればよいではないかという意見もあり,弁護士会でもそういう意見の方が相当おられることは確かでございます。 ○井上座長 ほかにいかがですか。 ○合田委員 刑事裁判のルール等の説明の実情についてですが,当然ながら,裁判員法39条の説明のところしか行わないということではありません。   まず,評議に入る前の証拠調べの過程においてですが,証拠調べがあって評議室に帰ってくると,裁判官としては,裁判員の方がそれに関係して,主張と証拠と混同していたり,証拠にない憶測を持っていたりすることがないか,雑談等をしながら,意識的に確認し,それは証拠の中にありましたかというような話をします。後で評議のときに,証拠だけに基づいて判断するということになることとの兼ね合いでお話をするわけです。それから評議のところが一番大切ですが,冒頭に改めてルールの説明をまとめて行います。また,評議の段階になりますと,もう証拠調べは終わっていますので,それぞれの事件の内容に応じて,例えば,本件の問題点はこの事実が認定できるかどうかなんだけれど,関係する証拠は,皆さんと見てきたとおり,これとこれとこれなので,要は,これとこれとこれで,この事実が常識に照らして間違いないという具合に言えるかどうかという判断をするということなんですよといった説明をします。その件で行った審理に即して具体的に言えばそういう問題なんですよというような説明は必ずしております。そうした方が,実際の問題として,ルールの内容を把握しやすいんだろうと思っているからです。総体的に説明をする場面と,具体的にこの証拠とこの証拠とこの証拠で十分かどうかという問題なんですよというレベルでお話をする場面と,その2段階でやっているのが一番多いやり方だという具合に思っております。 ○菊池委員 今,合田委員からもお話があったように,法廷で説明するとなると,どうしても一般的,抽象的なルールについて,そつのないところを説明するということになると思いますが,大事なのは個別の事案において,その証拠関係に照らした上で,一般的,抽象的ルールがどう当てはめられるのかということを裁判長から説明していただくことだと思います。評議の中身は知りませんけれども,適宜裁判長から説明がなされているということですので,それに加えて公開の法廷での説明というものを特に規定する必要はないと思います。 ○井上座長 ほかに御意見ございませんか。よろしいですか。   それでは,この論点についてはこれくらいにさせていただき,次に移りたいと思います。   次は,「少年の被告人につき裁判員裁判を実施する場合の審理方法等について」という論点ですが,これも前田委員の御提案に係る問題ですので,前提としてその趣旨を御説明願えますか。 ○前田委員 弁護士会で「少年逆送事件の裁判員裁判に関する意見書」を取りまとめております。制度設計的にはいろいろと御批判を受ける余地のある内容になっていますが,ここでの狙いは何かを申し上げます。   二つありまして,一つは,少年事件は必ず家庭裁判所を経由するわけでございまして,家庭裁判所では,いわゆる社会記録と言われている記録を作成します。それには鑑別所における鑑別意見とか,家庭裁判所調査官が直接に少年と接して,その少年から聴取した事情,あるいは家族から聴取した事情,あるいは学校関係者から聴取した事情などを取りまとめた調査官の意見書などがあるわけです。そのような家庭裁判所で取り調べられた証拠を少年逆送事件における裁判員裁判においても十分に取調べをしてもらいたい,裁判員裁判の中でも,裁判員が加わって少年法55条に規定をされております家庭裁判所への移送決定ができるということですので,特に少年法55条の移送決定をするかどうかという局面では,その社会記録を十分に調査してもらいたいとの趣旨から出てきた制度設計の提案でございます。   もう一つは,先ほどの刑事裁判に関するルールと関連をいたしますが,少年法の理念というのは必ずしも刑事裁判の理念とは一致しないところもございまして,少年法における少年の更生可能性に期待をして,その更生のために手続を進めていくという,その側面を裁判員の方にもよく理解をしていただきたい,そのための制度的な保障としての少年法の理念に関する説明について,法律上の規定を置いてもらいたいということです。   私自身が少年事件には余り多く関わっておりませんし,この意見書作成にも直接関わっておりませんので,詳しい経過までは理解はしておりませんが,裁判員裁判ですと,法廷で見て聞いたことによって心証を形成するということが原則になっておりまして,裁判官裁判ですと,裁判官が社会記録等を直接読んで,それで理解をするということができるけれども,裁判員の場合には,そういう記録を読み込んで事情を理解するということが困難であろう,そういう裁判員裁判における審理の在り方は,少年の刑事事件に真剣に取り組んでこられた弁護士の方にすると,懸念が非常に強い。その観点からこのような制度設計の提案がなされているということでございます。 ○井上座長 その2点だけですか。 ○前田委員 メインはそうです。制度設計としては,法廷で裁判所の判断で公開の停止をする,あるいは被告人である少年自身の退廷を認める,少年法の理念等に関する規定を刑事訴訟法や裁判員法にも明記するべきである等です。刑事訴訟規則には,少年の逆送事件においても家庭裁判所で取り調べた証拠はできる限り調べなければいけないという規定がありますが,それを裁判員法や刑事訴訟法にも明記をしてほしいということもあります。ただ,あらかじめ申し上げておきますと,公開停止の問題に関しても憲法上の問題がありますとか,少年を一時退廷させる根拠に関しましても,弁護士会の内部でもいろいろ議論がございましたが,少年の問題に熱心に取り組んでおられる方々の先ほど申し上げた趣旨を体現した形で提案しているということでございます。 ○井上座長 メインは社会記録の十分な取調べということと,少年法の理念について法廷で説明してほしいということですね。 ○前田委員 そうです。 ○井上座長 それがメインであり,加えて,少年事件の公開停止や,少年被告人の退廷,刑事訴訟法中に少年法に絡む規定を置くこと,そういうことですね。 ○前田委員 そうです。 ○井上座長 それでは,これらの点について御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○島根委員 今の議論の前提として,先ほど前田委員のおっしゃった社会記録が,今,裁判員裁判の際にどのように,先ほど,刑事訴訟規則で一般的な規定はあるという御紹介もありましたけれども,実際どのように行われているのかという前提事実がよく分からないので御説明いただければと思います。 ○井上座長 合田委員,いかがでしょうか。 ○合田委員 以前この件の話が出たときに,少年被告人の裁判員裁判における社会記録の取調べ方が必ずしも一つに確立されているといった状況にはないと思うと申し上げました。今回,改めて経験のある他の何人かの裁判長にも聞いてみたのですけれども,やはり一つに固まっているということではないんですね。もちろん,先ほどから御指摘があった点も含めて,科学的知見を活用するという趣旨の条文はあるわけですから,それをどう具体的にその事件でやるのかということについて,公判前整理手続で検察官,弁護人等と話をするわけです。   それで,今までもそうですけれども,社会記録を取り寄せるんですが,その中からどこを証拠として法廷に出そうとするのかというのは,裁判官裁判のときも,まず当事者,主としては弁護人なんですが,弁護人の方でこの中のどこをということを考えてもらうんです。そうしますと,裁判員裁判の場合において,結局,弁護人も検察官もその社会記録の中からここを法廷で裁判員の前に出したいという具合におっしゃらない事件もそれなりにあるんだそうです。それは,結局当事者サイドがその中身を見た上で,分かった上で,でも,この事件で特に出すという事項はないという具合に判断されているわけですから,その場合に,さらに裁判所がそれを調べるかというと,それは調べないわけです。   それから,あとそれを調べる場合も,社会記録の調査官意見の部分を採用して読んだということもあるようですけれども,別な方法として,検察官なり弁護人が,その中の要点をまとめた書面や,ほかのものと併せて内容をまとめた書面を作りまして,その書面を調べるということもあるようです。その中に,社会記録の内容の必要部分が情報として入っているわけです。   それから,少年法の理念の説明につきましては,少年法55条の移送決定の要件といったことだけではなく,そもそも,法が少年の可塑性の問題をどう考えているかとか,いろいろ説明すべきことがあります。それは当然のことながら,その事件事件に応じて裁判長の方でいろいろ工夫をしています。具体例も聞きましたが,細かい話なので,ここでは省略します。ともかく,工夫して,それでお伝えをしておるということでございます。これは評議室の中で行われていることですので,裁判員法39条の説明のように,当事者公開という格好ではありませんけれども,ただ,少年法55条の適用が問題となるような事案では,公判前整理手続において,この部分はこういう具合に説明するということを検察官,弁護人に伝えておくといった配慮はしているようであります。 ○井上座長 島根委員,それでよろしいですか。 ○島根委員 はい,結構です。 ○井上座長 それでは,そういうことを前提にして御議論いただければと思いますが,どの点からでも結構ですけれども,御意見を伺えればと思います。公開停止については憲法上の問題もあると前田委員自身がおっしゃったのですけれども,酒巻委員,何か御意見ありますか。 ○酒巻委員 公開停止は憲法違反だと思いますので,無理でしょう。 ○井上座長 被告人の退廷の方はどうですか。 ○酒巻委員 それも刑事訴訟法で被告人が公判廷に出頭しているというのは権利であると同時に義務であり,司法手続の適正担保のためにという側面もありますので,被告人自身が居たくないから退出できるという,そういう筋合いの話ではそもそもない。もちろん少年については全件送致で,家庭裁判所でまず処遇が決まるわけですけれども,家裁が審判し刑事処分相当ということで起訴・刑事裁判の場になった以上は,もちろん少年であるということで様々な配慮は当然必要ですけれども,刑事裁判の基本原則としての裁判の公開という憲法上の原則をおろそかにすることはできない。例外があったらいいなというお気持ちだけで例外規定を作るというような話ではないということだと思います。 ○前田委員 酒巻委員,誤解がないように言っておきますと,本人が退廷したいから,それを許すということではなくて,弁護士会の提案は,少年事件では,少年自身にも聞かせたくない情報があり,そういう場合に,一時的に少年を退廷させる,そのような提案になっています。直接の規定は今のところありませんし,刑事訴訟法の解釈も難しいと思いますので,恐らく立法しかないと思いますけれども,そういう提案になっています。ですから,本人が出ないから,それを認めるという趣旨ではないということでございます。 ○酒巻委員 質問ですが,少年が起訴されて刑事裁判になるというのは,もとより裁判員対象事件に限られないので,これは,ありとあらゆる少年の刑事裁判についての御提案ですか。裁判員裁判についてだけそういうふうにするのか,それとも少年が逆送されて刑事裁判になる場合一般についての提案かどうかというのも,これは大事な問題で,後の方だとすれば,これは刑事司法制度全体や少年司法手続全般に関わる非常に大きな問題だと思われます。まずそれはどっちなんだということを教えてください。 ○前田委員 この提案自体は裁判員法に限定した提案になっております。逆送事件は,おっしゃるとおりでございまして,裁判員裁判に限られませんので,私の個人的な意見として申し上げさせていただくと,裁判官裁判と裁判員裁判とを貫く少年逆送事件の審理の在り方をまず基本的には議論をして,その中で社会記録の取調べの方法とか,一定のルールを決めることが先なのでないかと思います。また,逆送事件の運用上の方法を確立していくことも一つの解決方法であると私自身は個人的に考えております。酒巻委員御指摘のとおり,この問題は裁判員裁判に限られない問題であることは重々承知しておりますが,提案自体は,先ほど申し上げました社会記録の取調べが,従前の裁判官裁判ですと,書面自体を裁判所が読み込むことが可能だけれども,裁判員裁判ではそれができないので,そこをどうクリアするかという観点から提案がされているということでございます。 ○井上座長 公開停止と退廷というのは,御趣旨からしても,裁判員裁判のみに限らず,刑事裁判一般にかかわる問題ですよね。裁判員がいるから公開停止にすべきだとか,少年被告人を退廷させるべきだということではなく,むしろ,公開停止の方は傍聴人との関係で問題になるものですし,退廷の方は,今おっしゃったような御趣旨だとすると,中身について被告人に知らせるべきでない,そういう趣旨だとすると,これも裁判員裁判であることとは無関係の事柄ですよね。しかも,憲法上の問題等非常に難しい問題を生じさせるということも重々御承知のはずだと思います。   社会記録の問題も,特異といえば特異な問題ですけれども,実際上配慮されているということです。 ○残間委員 すみません。その聞かせられないことというのは,どんなことですか。 ○前田委員 私は,詳しく説明できるほどの経験がないのですが,社会記録には,家族関係ですとか学校の少年に対する評価とか,第三者の少年に対する評価とか,そういう事項が結構書かれてあることは間違いないですね。それを少年自身に直接聞かせるのが少年にとって良いのかという観点からの配慮です。 ○合田委員 結局,少年被告人ですから,将来成人して,その後も先がたくさんあるものですから,プライバシー保護の要請をどう考えるのかという辺りです。それから,あとは情操保護というのもありまして,その辺のところは,裁判員裁判に限らず,これまでもいろいろと配慮をしているということなわけです。   例えば,前に新聞に出たこともありますけれども,被告人の顔が直接傍聴席から見えないように衝立等で遮蔽をするというようなこともありますし,それから,座る位置ですね,普通ですと弁護人の横とか,その前に座ることが多いんですけれども,傍聴席を背にするような着席位置にするとか,そういうようなことです。   それから,あとは,裁判所の法廷の前の廊下に開廷表といって,何時から,この罪名でこの被告人という具合に出るんですけれども,少年の場合には少年としか書かないといった方法で名前を分からないようにするとか,あるいは審理の最初に裁判長が名前などを被告人に聞くんですけれども,そのときに,紙に書いたものを示して,ここに書いてあるとおりで間違いないかという形で確認をしてもらうといったようなこともしております。それから,少年なものですから,やはり発達の度合いがいろいろあって,成人よりも法廷の審理に疲れやすいんですよ。ですから,休廷回数を増やす,これも配慮しています。裁判員裁判ですと結構頻繁に休廷を取るので,それは両方の意味でということになるんですが,少年の場合は,やはりそちらの関係で休廷回数を増やす,あるいは被告人質問を,時間的には今日の夕方までやれば終わる見込みの場合でも,弁護人の質問と検察官の質問を日を分けて次の日にするとか,そういう配慮もしております。   それから,さっきの社会記録といいますか,どういう格好を採るにしろ,家族のプライバシーとかいろいろなことが出てくる場合がありますけれども,そこが本当にどうしても必要だということであれば,例えば,支障のない部分を読み上げて,支障のある部分については紙でお配りをして黙読という格好で裁判員の方に見ていだたく。これは性犯罪の場合でもあることなんですけれども,公開の法廷で心証をとっていただくんですが,その部分は黙読をしていただいて,それで心証をとっていただく,こういった配慮もしておるところでございます。 ○大久保委員 昨年の12月に開催されました第8回の検討会のときに,被害者団体のヒアリングがありまして,そのときに少年犯罪被害当事者の会の方がお二人お出になってお話をくださったと思うんです。そのときのお話によりますと,少年の被告人は,少年法によって十分過ぎるぐらい守られているように感じたとおっしゃいますし,私自身も今,合田委員の説明を聞きまして,そこまで本当に細かく配慮されているということを改めて分かりました。その少年当事者の会の方がおっしゃるには,決して少年だからといってそこの場に出て萎縮しているようには全く見えなかった。それなのに,これだけ守られているあの少年法のルールなのに,なおかつ,先ほど酒巻委員もおっしゃったように,憲法に反するような法改正などを考えるということは,やはり常識的に考えても,私はその必要性はないのではないかと思います。少年被告人が,これからも将来もあることですので,更生をするためには,自分の犯した罪にしっかりと向き合うということが私は基本だと思うんです。手厚く保護することだけが決して少年のためになるということは言えないと思いますので,そういうような本当の少年被告人の更生とはどこにあるのかというような視点も加えながら対処をして考えていかなければいけない問題なのではないかと思います。 ○井上座長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○山根委員 説明方法等についてのことでもよろしいですか。 ○井上座長 どうぞ。 ○山根委員 前田委員からお話がありまして,裁判員法39条の先ほどのところとも関連すると思いますが,先ほどでしたら39条の説明,今回少年法の理念について十分な説明をということだと思うんですが,やはり折に触れて繰り返し説明をして,十分理解が進むようにということは必要だと思います。ただ,先ほども思いましたけれども,それを法的に法廷できちんと読み上げるというようなことで形式的に文言を読み上げるということを定めることが必要かどうかというのは疑問に思っていたわけなんですが,ちょっと思いましたのは,御提案が,ただその場で裁判員に読み上げるということではなくて,当事者のいる,全員参加している法廷で行うということに意義がある。もっと言えば,傍聴の方もいるあの場で全員で共有をして確認をするという,それに大きな意味があるんだということの御提案であれば,意味のあることなのかなと思いました。 ○井上座長 分かりました。傍聴人を含めて共有するという趣旨ではないですよね。 ○前田委員 弁護士会の趣旨としては,裁判長が法廷で述べることを通じて,裁判員に対する丁寧な説明をやっていただくための一つの方法として位置付けています。確かにあってもいいかもしれないが,そこまで規定する必要性はあるのかという議論はあります。我々の提案は,法廷で述べることを通じて裁判官が評議の過程でも意識的に丁寧に裁判員に対する説明をするようになることを目指しているものだと理解をしていただきたい。 ○井上座長 制度設計の議論の過程では,裁判員に対する説明は公開の法廷で行う,法廷でしか説明してはいけないものとすべきだという意見もあったのですけれども,さすがにそういう意見は今はもう聞かれなくなっているのではないかなと思います。それとは趣旨が違うということですかね。   ほかに御意見ございますか。よろしいですか。 ○大久保委員 今回のことではなくて,公判前整理手続のことに関連してでもよろしいでしょうか。 ○井上座長 どうぞ。 ○大久保委員 私は今まで公判前整理手続といいますのは,裁判員裁判であっても裁判官裁判であっても共通のものだという認識がありましたので,発言はしてこなかったんですけれども,それでもなおかつ何人かの委員の方は,公判前整理手続の御意見をおっしゃいましたので,私の方でも論点整理(案)の「5」の,つまり最後の方に「被害者等に対する配慮のための措置」,そちらの方で討論していただけますので,それはそこでも生かしていただきたいということで一言だけお願いいたします。   公判前整理手続には,被告人は弁護人とともに出席をすることができますが,被害者はそこに出席することもできません。そこで何が話し合われたのかもよく分からずに証言をしたり,あるいは被害者参加制度を使って,被害者参加制度にも限らないですけれども,意見陳述をしたりということに向き合わなければいけないわけなんですね。ですから,その公判前整理手続に,もちろん被害者も,代理人の弁護人とともにそこに出席することができるということが一番いいことだと思いますけれども,まだそこまでいくには幾つかのハードルもあると思いますので,せめて公判前整理手続でどのような話合いがなされたのかということが被害者に十分に説明がなされて,被害者はそれを理解した上で裁判員裁判に向き合うことができるというような制度に作り上げていただきたいと思いますので,それを「5」の「被害者等に対する配慮のための措置」のところに生かしていただければと思います。 ○井上座長 その点についても,厳密に言うと,本検討会の守備範囲の問題が出てくる。大久保委員も既に意識されていると思いますけれども… ○大久保委員 それで今まで遠慮していました。 ○井上座長 そういうことを含めてまた「5」のところで議論させていただければと思います。   よろしいですか。  (「異議なし」との声あり)   予定した時刻より大分早いのですけれども,予定した論点は全てカバーしましたので,本日はこのくらいにさせていただきたいと思います。   次回は,四つ目の大項目の「評議,評決」以降のテーマを取り上げたいと思います。   最後に,事務当局の方から次回の会合の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 次回でございますが,12月4日火曜日,午後3時30分からとさせていただきたく存じます。場所等につきましては,追って御案内申し上げます。 ○井上座長 それでは,第14回の会合を終了させていただきます。どうもありがとうございました。 −了−