裁判員制度に関する検討会(第15回)議事録 1 日 時   平成24年12月4日(火)15:30〜17:25 2 場 所   東京地方検察庁総務部会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,      残間里江子,四宮啓,島根悟,土屋美明,前田裕司,山根香織                              (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      名取俊也刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題 (1) 論点についての議論   ア 評議,評決について   イ 被害者等に対する配慮のための措置について   ウ 上訴について (2) その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:参照条文 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第15回会合を開会させていただきます。   残間委員がまだお見えではありませんが,20分程度遅参されるとの御連絡を頂いております。   それでは,井上座長,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございます。   議事に入ります前に,まず事務当局から本日の資料について説明ないし確認をお願いします。 ○東山刑事法制企画官 本日お配りさせていただいております資料は,議事次第,配布資料目録,インデックス付きの資料2点でございます。インデックス付き資料1といたしましては「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」と題する横置きの表のものでございます。また,資料2として「参照条文」と題しております書面を御用意しております。今回の会合で取り扱います「評議,評決」のテーマに関連する主要な法令の規定を取りまとめたものでございます。   以上,御確認いただければと存じます。 ○井上座長 よろしいでしょうか。それでは,御確認いただいたということで,早速議事に入りたいと思います。   本日は,最初に御議論いただくテーマは,論点整理の四つ目の大項目の「評議,評決」です。その一つ目の項目は,「評議の充実のための運用上の工夫は適切に行われているか。」という論点です。この検討会では,例えば,裁判官による誘導の心配はないと思うけれども,評議のまとめ方は気を使って工夫する必要があるといったような御意見,あるいは,評議の時間不足を指摘する声もあるので,評議の予定については運用上,柔軟に対応されるべきであるといった御意見などをいただいているところであります。   そこでまず,合田委員の方から評議の運用上の工夫について改めて御説明いただければと思います。お願いします。 ○合田委員 それでは,評議の工夫という点につきまして御説明を申し上げます。   充実した評議を行うために必要な事項というのは,大きく分けて二つあるだろうという具合に思っております。一つは,意見交換に入る前提となることですが,刑事裁判のルールでありますとか調べた証拠の内容,あるいはその事件で適用が問題となる法律用語だとか条文だとか法的概念,そういうものを理解していただくために必要なもの,もう一つは,実際に意見交換の場では皆さんにお考えを遠慮なく述べていただくために必要なものです。   そのための方策,工夫をどうしていくかということですが,私どもは裁判員制度実施前の模擬裁判のときの経験を持っており,また,司法研究などもやってもらっているわけなんですが,何といっても今の時点におけるほかの庁やほかの部の取扱いがどのようなものなのかということを聴いて,それを参考にしながら意見交換をしてやっていくというのが大切だと思っております。そのための場としては,全国レベルでは司法研修所での実務研究会,それから高裁単位での協議会もございます。さらに,特に東京地裁のように大きな庁になりますと,ほかの部のやり方がなかなか分かりませんので,例えば,現状でいいますと,刑事裁判を担当する裁判官が全部上から下まで経験年数を問わず集まる会もございますし,それとは別に,合議3人の裁判官の中での,裁判長クラス,右陪席クラス,左陪席クラスという具合に,割と期の近い人のグループを作りまして,その中でほかの部でどうやっているのか,どういう考えがあるのかというようなことの情報や意見を交換する場も設けています。これはかなり今活発にやっております。   具体的な工夫,方策についてはいろいろありますが,とにかく肝心なことは,評議に入る前のところが大切だということです。選任手続期日に,抽選で具体的に一緒にやる裁判員の方が決まった直後から,とにかく雑談であってもなるべく話す機会を多くして,話しやすい雰囲気を作っていく。それから,審理の過程におきまして何回も休憩がありますが,その折々で,例えば,これから法廷に行くときに行われる手続の着眼点はこういうところだと説明を行っています。例えば,犯人性が争われている事件の目撃証人でありましたら,要するに,具体的にどういうことを言うかは裁判官も分からないけれども,ともかく目撃証人のはずだから犯人性についてどういうことを言うか,そこが後で評議のポイントになるので,注意して聴いてくださいといった話をして法廷に行き,帰ってきたら,今終わった証拠調べについて何か分からない点はないですかと聴く。質問内容に応じて,評議に入る前でも必要な法律用語の説明をしたりして疑問の氷解を図る。その上で,評議のときに,それまで雑談を含めて作った雰囲気の下になるべく意見を言っていただくようにする。場合によっては積極的に口を開くのが苦手な方もいらっしゃると思いますが,それも雑談の中で何となく分かりますので,その場合にはこちらから御意見を求めるといったことをしながら,意見を出していただくようにするというふうなことをしております。   座長が御指摘になりました,例えば,誘導の排除の問題ですけれども,これについては,模擬裁判のときに誘導しちゃいけないということだけが強調されたので,何となく裁判官は何も言わんという,そんな感じがいいんじゃないかという雰囲気になったことも制度実施前の一時期にはありました。ただ,そうはいっても,裁判官も9人の構成員の一人なわけですから,言うべき意見は言わないとやっぱりおかしいんじゃないかというような話も出てきまして,結局,例えば,私のところなどでは,裁判長はともかくとして,若い裁判官については自然体でやってもらっていました。ただ,そうは言いましても,若い裁判官もその誘導の点についての懸念は分かっておりますので,例えば,ほかの方が何か言う前に裁判官の方から積極的に,これはこういう理由で結論はこうだというような言い方をすることはやっぱりないわけでありまして,むしろ何か裁判員の間で議論があったときに,こういう面はどうなんでしょうというような問題提起的な方向からしゃべる,順番も当然後の方にしゃべるというような格好で参加しており,全体的にも同様のスタイルが多いように思います。   なお,評議を最終的に取りまとめるわけですが,突然裁判長が「じゃ,こういうことですね」として,それまで皆さんが話していたのとは別の内容の取りまとめをすることは当然あり得ないことです。それだと何のためにそれまで議論してきたか分からなくなってしまうものですから,そういうことにならないように注意をしてやっているつもりでございます。   それからあと,時間不足の点につきましてですが,以前の意見交換会等で,もうちょっと評議時間があればというようなお話が出たことは,事実でございます。そういうことも受けまして,その後は,日程の組み方として,評議の予定時間に最初のころよりも余裕を持たせる,長目の時間を確保するようにしているのが全国的な傾向であろうという具合に認識しております。最終的にちょっと時間が余るという場合もあるわけですけれども,全体の職務従事予定期間が無駄に長くならないような中で,しかし最初にやったころよりは評議時間を余裕があるように組むという格好でやっていまして,最近の意見交換会ではそういうような御意見は大分減ってきたかなと,こういう印象を持っているところでございます。 ○井上座長 ありがとうございました。   それでは,今の御説明をも踏まえて御意見,御質問等がございましたら,どなたからでも御発言願います。   どうぞ,前田委員。 ○前田委員 これは評議の充実と直接関連はしないのかもしれませんが,つい最近,日弁連で議論をした折に,判決書の書き方が少し問題になりました。このような傾向があるのかどうか,私自身は全部当たっておりませんので,日弁連で判決書を収集して検討しておられる方の一つの御意見ではあるのですが紹介します。   それは,従前の裁判員裁判における判決書よりも,最近の判決書の方が簡潔になり過ぎているのではないかということです。どの辺りまでが従前になっているか分かりませんが,かつては判決書を見ると,評議の経過がある程度は推測できるような判決書もあったが,最近はなかなかそれが見えないような判決書が多いのではないかという指摘でした。そういう傾向が実際にあるのかどうか,それが評議とどう関係しているのかもはっきり分かりませんが,もし何かコメントがあれば,この機会にちょっと教えていただければと思います。 ○井上座長 合田委員,どうぞ。 ○合田委員 裁判員裁判の判決書ですが,最初のころと比べたら今の方がボリューム的に短くなっているのは事実だと思います。これは,裁判官の方で,最初の頃のああいう判決書で良かったのか,どのような書き方をすべきなのかということを意識的に検討した結果として,そのように動いてきているということです。現状の判決書の理由が,前田委員が紹介された意見のように足りないかというと,私は違う意見で,十分足りているという具合に思っております。   なぜそういうことをやっているかといいますと,特に変化があるのは量刑の理由なんですが,量刑評議というのはどういう事柄をどういう具合に議論すべきなのかという問題意識があるのです。判決書の理由は評議の反映ですから,判決書に理由をどう書くかというのは,小手先の表現の問題ではなくて,量刑評議においてどのような事柄をどういう具合に取り上げて,どういう議論をすべきなのかということに由来します。これは何回もあちこちで申し上げておりますが,私ども裁判官は,基本的に,行為責任というものが量刑の大枠を画し,そこに修正要素として一般予防とか特別予防が入ってくるという具合に考えておりまして,それが刑の決め方についての法律の考え方だという具合に理解しております。   ですから,そういう前提で,検察官,弁護人の御指摘を踏まえて,どこをどういう具合に議論していくべきなのかと,評議をしていくべきなのかということがありまして,そのような見地から評議で取り上げられた量刑上意味を持つ事実を判決書の量刑の理由として記載していくべきであって,総花的な記載はかえって理由を不明確にすると考えるに至っております。そのような見地からの理由の記載は,前の書き方と違ってきていることは事実ですが,それは今述べたような議論をした結論に基づいて意識的にやっているということでございます。 ○前田委員 裁判員裁判においては,評議がいわゆる評価型の評議で行うことは裁判所から宣明されておりまして,それは事実認定に関してはすっと落ちるのですが,量刑評議においても同じような考え方でやっておられるのか,あるいは少し別の観点で量刑評議をされるのか,その辺りはどうでしょうか。 ○合田委員 評価型と申し上げている視点は,事実認定も量刑も全部同じだと,こういうことであります。当事者の御主張というものを踏まえて,それをどう見るかということにつき,裁判員と裁判官で一緒に検討をしていく,何か裁判官が裁判員を説得するとか,裁判員が何とかとか,裁判員と裁判官を対立的に見ないで,同じ評議体の構成員として,当事者の言っていることをどう見るのかという,言わば横並びの見地で話をしていきましょうというのが,私の理解する評価型の理念というものですので,それは量刑についても基本的には同じことだという具合に思っております。 ○酒巻委員 私は熟読したんですけれども,弁護士の先生方も最近公刊された司法研究「裁判員裁判における量刑評議の在り方について」の分析をお読みになれば,今,合田委員が簡潔に御説明された点はよく理解できるのではないかと思います。 ○井上座長 一時期,むしろ判決書が詳密になり過ぎているのではないかという反対方向の指摘もありましたよね。 ○合田委員 判決の前に評議があって,その前として,じゃ証拠調べはどうあるべきなのかという問題があって,さらに,公判前整理がどうあるべきかという具合に全部つながっていくんですけれども,そういった辺りの検討をしている一つの表れが今おっしゃったところだという具合に御理解いただければと思います。 ○井上座長 この点について,ほかにいかがでしょうか。どうぞ。 ○四宮委員 実情を教えていただければと思うんですけれども,裁判員法では補充裁判員が評議を傍聴することができるということになっていて,そして裁判官はその合議で補充裁判員の意見を聴くことができるということになっているんですけれども,私の知る限り,恐らくは補充裁判員が選ばれないケースは多分ないのではないかと思うんです。そこも正しいかどうかを含めて,補充裁判員の方はやはり原則評議を傍聴しておられるのかということと,それから,補充裁判員の方の御意見を承るということは一般的なのかということについて教えていただければと思います。 ○合田委員 評議の秘密に抵触しないと思う範囲で,私の担当した事件について申し上げますと,まず,その中で補充裁判員を選ばなかったものはありません。したがいまして,評議のときには必ず補充裁判員がいらっしゃったわけです。それから,細かいことはちょっと差し障りがあるのかもしれませんけれども,要は,評議の中で,特に最初の方の意見交換をしているときの過程でですが,補充裁判員の方に一言も発言を求めなかったことは私自身はないです。例えば,いろんな角度からどう見るかという議論のときに,やっぱりせっかく同じ審理を見ていて,それで法律上も意見を求めることができるというのがありますから,補充裁判員の方に意見を述べていただく機会は,私自身は設けておりました。ただ,飽くまでも補充と正規というものの立場が違うことについては,最初から説明しておりますし,もちろん評決には入りません。 ○井上座長 確か統計資料では,補充裁判員の選任がゼロという例はなかったと思います。   どうぞ,山根委員。 ○山根委員 量刑を決める前に,裁判官の方から過去の判例というんでしょうか,具体的なこういう事件のときはこういう刑が今まで適当であったとされてきたというようなことを具体的な数値とかで示すとすれば,どの場面で示すのか,何かタイミングの目安のようなものがあるのであれば教えていただきたいと思います。 ○合田委員 さっき行為責任という言葉を使いましたけれども,量刑を決めるというのは,国民の方は,有罪無罪を決める,つまり事実認定をするよりも,むしろなじみがないところなんですね。   それで,どういう具合に考えるのかということで,最初に法律の量刑についての考え方の御説明をします。その中で,行為責任ということで,やったことに見合う刑罰というのが基本的な考え方になると説明しています。そして,そこから,同じような種類の犯罪で余りばらつきがあっていいかどうかという公平の問題ですね。そういう要請も出てくるということを説明するのですが,その話の延長線上で,これまでの同種事件の量刑の傾向を示すのが一つのやり方です。ただ,細かい内容を示すのではなくて,普通示すのはグラフなんですよね。例えば,傷害致死なら傷害致死ということで100件ありますと。で,その量刑を年数ごとにグラフにするとどの辺が山になっているかと。個々のケースじゃなくて,全体的にどうなっているかという分布,傾向なんですが,そういうグラフをその段階でお示しするわけです。もう一つのやり方は,それよりはもうちょっと後,具体的にそのケースの話に入り,そのケースで何がポイントかという話を具体的にしていって,そのポイントを条件として入力して,もう少し傷害致死全体よりは絞った,でも分布を示したグラフですが,それを見てもらうという人と,大体大きく分けるとその二つかなという感じがします。 ○井上座長 よろしいですか。 ○山根委員 特に,いつごろ示すという基準などがあるわけではなくて,ケース・バイ・ケース,その時々によって違いがあるのですね。 ○合田委員 そうですね。だから,大きく分けると,今言ったどちらかの時点だと思いますけれども。大体そんな感じかなと思いますね。 ○井上座長 ちなみに,そのデータは検察官も弁護人も利用できるものですよね。 ○合田委員 そうですね。データベースは検察官,弁護人には全部公開されているので。ですから,もし何か必要があるときは,検索条件をどうしますかという話をすれば,あとは誰が引いても同じものが出るという,そういうデータベースです。 ○井上座長 ほかによろしいですか。どうぞ,土屋委員。 ○土屋委員 合田委員に質問です。今のデータベースですけれども,それは全部の裁判員裁判で利用されていると言っていいですか。 ○井上座長 データベースの利用ですか。 ○土屋委員 ええ,利用です。 ○合田委員 裁判員裁判対象事件についての量刑の結果が入っているんですが……。 ○土屋委員 使わないケースもありますか。 ○合田委員 いや,それは多分ないと思います。 ○土屋委員 ないですか。 ○合田委員 検索すると,似たような先例がないケースがありますが,そういうときも多分,似たのがないんですということで,何かをお示しすると思います。また,しようがないからもっと幅広く検索をしてみましたが,グラフがフラットになってしまって参考になりませんよねという格好でお見せすることもあると思います。ま,全然示さないことがないとは断言できませんが。 ○土屋委員 そうしますと,最近,裁判員の特に量刑の部分で,裁判員裁判の特徴的な傾向が一定の類型の裁判にあるのではないかというような指摘が出たりしていますけれども,これもそういう過去の裁判官だけのときのデータベースの傾向なども踏まえた上で,裁判員の意見が反映された結論になっているというふうに受け取っていいんでしょうか。 ○合田委員 このデータベースには,裁判員裁判の結果も入ってきていますので,今引けば,裁判員裁判のデータもそれなりに,ここ3年半ですか,その蓄積は入っているということになるんですよね。ただ,最初のころは裁判員裁判の結果はなかったですから,職業裁判官のときにどうだったかというデータが入っていたのですが,そのころは意識的に,それは当然ですが,始まって何箇月なので,これは職業裁判官のときにどうかという分布ですということを,それは明確に御説明をした上で,いろんな要素について話し合ってきたと,そういうことだと思いますが。 ○土屋委員 分かりました。ありがとうございました。 ○井上座長 よろしいでしょうか。この点について,もしほかに御意見がなければ,次に移りたいと思いますけれども。 ○土屋委員 ちょっと一つ気になっている……。 ○井上座長 はいどうぞ。 ○土屋委員 気になったことがあるんですけれども,確か弁護士会の方で問題になったケースだと思うんですが,地方の裁判所でもって,ストップウオッチを使って,弁護人の弁論中にもう割当ての時間が来ていますよということで,いわば制止をするような動きがあったということで,抗議する動きもあったんですけれども,こういう時間の配分についてですね。 ○井上座長 それは公判審理のことですよね。評議,評決じゃなく。 ○土屋委員 評議ではなくて公判審理のときですね。それでちょっと気になっていまして,そういう時間の割振りというのを考えながら全体の審理を進めていくという考え方は,評議についてもあるんではないかと気になっていましてね。そうすると,評議の時間というのは,このくらいというふうにおしりを切ったりするような考え方というのはあるのでしょうか,それとももうないと受け取った方がいいんでしょうか。そういう時間の制約みたいなものが問題になったものだから気になっていまして。評議というのは,例えば,判決の言渡しを夕方やるとなれば,おしりが切られていますから,逆算していきますと,それまでにまとめなきゃいけないみたいなことにどうしてもなってきたりするんじゃないかと思うんですけれども,そういうのは。 ○井上座長 合田委員,いかがですか。 ○合田委員 日程を組むときに,事実認定が何時間何分で量刑が何時間何分と,そんな細かい時間を考えて日程を組む裁判官は恐らくいないと思います。ただ,これまでの3年半に実際に評議をしてきて,それらではどの程度の時間がかかったかを裁判官は知っているわけです。また,公判前整理などで,争点がどういうもので,証拠をどのぐらいのものを調べるか,証拠の直接の中身は分からないけれども,ボリュームの見当はつくわけですよね。そうすると,経験上,これくらいの証拠を調べると,事実認定の評議は,幾ら長くたって,このぐらいあれば大体はいくでしょうと,そうすると量刑もこのぐらいあればいくでしょうというところがあって,全体の日程を組んでいます。   もっとも,日程を組むときに大体の目安を置くとしても,実際やっているときに,もう時間ですからこれで決めましょうということは,まずないと思いますね。今は,さっきの話に関連しますが,そういうことで概算しつつ,余裕を持って日程を組んでいますから,融通がきくんですね。それとあと,今の裁判員裁判の判決は,基本的には裁判官は一晩で書きます。何日も判決に時間を取るなんていう裁判官は多分いないと思いますので。それはあらゆる場合にそうかと言われたら困りますけれども,基本的な普通の事件だとそういうことです。ですから,判決を書く時間の確保のために評議を短くするとかもないと思いますけれどもね。 ○土屋委員 何よりも中身の充実が一番だと思いますので,柔軟に運用してほしいというふうに思っているだけのことです。 ○井上座長 最初は全く経験がなかったので,大体このぐらいだろうと考えて設定し,それで実際にやってみて,調整してきたということだと思うのですね。その結果,余裕を持って設定しているところもあるということなのでしょう。それでも足りないというのであれば,判決の宣告期日を延ばせばよいことなので,宣告予定期日にこだわって評議が尽くされていない状況で判決を言い渡すということはないのではないでしょうか。 ○四宮委員 今,座長がお話しになったように,評議が長引いて判決期日を延期すると,そういう実例もありますか。 ○合田委員 評議が長引いたことを理由とする実例があるかは定かではないですけれども,当初組んでいた日程を変えたというのは,確か聞いたことがありますね。 ○井上座長 この前,報道されていたのは,東京地裁の裁判員裁判の審理の途中で追起訴があり,審理日程を延長したという事例でしたね。 ○合田委員 あの事案では保釈中に被告人が別の犯罪を犯したことが分かって判決を延期したんですね。 ○井上座長 評議が長引いて審理予定を変えたという例は・・・。 ○合田委員 証拠調べで一部が変わって,それで全体が変わったというのがあったと思うんですよ。ただ,おっしゃるように,確かに,ちょっとうろ覚えですが,まだ,評議自体の時間が足りなくて,延ばしてまたやりますかという理由での変更をしたという事例はなかったかもしれません。ただ,もちろん,必要があれば評議の時間を確保するために審理計画を変更することも行いますけれども。 ○井上座長 ほかによろしいですか。   それでは,この項目はこのぐらいにして,先に進ませていただきます。   次が,「被告人に不利な判断をする場合,特に,死刑を言い渡す場合における評決要件について」という論点でありまして,この点については前田委員の方から法改正を行うべきとの意見が示されておりますので,まずその御趣旨についてもう一度御説明願いたいと思います。 ○前田委員 既に論点整理の段階で御説明しておりますが,日弁連では評決に関して二つの提案をしております。   一つは,被告人に不利な判断をする,被告人に対して有罪の方向での判断をする場合には,裁判員の過半数でかつ裁判官の過半数を評決の要件にしたらどうかというのが一つでございます。これは現行法におきましても,双方の意見を含む合議体の人数の過半数ということになっておりまして,必ずしも単純多数決を採っていないのですが,その発想を踏まえながら,裁判官という法律専門家のチェックにおいても公訴事実に間違いないとの判断が過半数,一方で市民の常識や感覚を生かした判断においても公訴事実が間違いないとする方が過半数となる,このような判断が下されたときに,被告人を有罪とする制度を採ったらどうかということです。無実の人を有罪にしてはならないという刑事裁判のルールを徹底させる一つの方法として,提案をしています。裁判員裁判の評決でこれまで何か問題があったかと,こう言われますと,すぐに挙げられるわけではございませんが,この間,再審無罪事件などが幾つかありまして,そういう動向をも踏まえて新たに見直しを検討したらどうかという提案でございます。   それからもう一つは,死刑の量刑判断をする場合には,裁判官,裁判員は全員一致で評決を下すときのみ死刑判決を出せる制度にする提案でございます。死刑に関する評決要件の全員一致は,日弁連でも前から議論がございまして,その目的は,言うまでもなく究極の刑罰である死刑は,刑が執行されれば取り返しがつきませんので,誤判防止という観点から,評決要件においてもより厳しい要件を課すことによって,誤判が少しでも防止できないかと,そのような観点からの提案でございます。   以上です。 ○井上座長 ちょっと御趣旨を明らかにさせていただきたいのですが,これは裁判員裁判対象事件に限ってということですか。 ○前田委員 死刑に関しましては,裁判員裁判に限定せずに,裁判所法の改正をも含むものとして日弁連としては提案をしています。   ほとんどの死刑事件は裁判員裁判になるとは思いますけれども,除外の場合に裁判官だけで判断するということもあり得ますが,そういう場合も含めての提案です。 ○井上座長 分かりました。今,御提案の中に二つの論点が入っていますので,この二つを段階分けして議論したいと思います。   第一に,一般的に,被告人に不利な判断をする場合の評決要件,これは裁判官の過半数と裁判員の過半数,両方必要だというふうに改めるべきだという御意見です。第二に,死刑を言い渡す場合の評決要件で,こちらについては全員一致にすべきだとの御意見です。後者の方は,必ずしも裁判員裁判に限らず,非裁判員裁判の場合の死刑についてもそうすべきだということですが,まず一番目の,一般的に被告人に不利な判断をする場合の評決要件について御意見を伺いたいと思います。 ○菊池委員 私はその改革提案については消極の考えです。まず,現行法の定めをおさらいしておきたいと思います。事務局作成の資料�Aの参照条文を見ると,裁判所法第77条第1項では,「裁判は,過半数の意見による」と定められています。また,裁判員法第67条第1項では,「構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による」と定められております。平たく言うと,過半数の中に少なくとも裁判官が1人と裁判員1人が入っていないといけないと定められているところです。   このように現行の裁判所法は,裁判は過半数の意見によるとしているところであり,裁判員裁判の場合に異なる評決要件を定める合理的な理由はないと思います。また,裁判員法では,過半数のグループの中に,少なくとも裁判官1人と裁判員1人が入っていないといけないとされているわけですけれども,これは,裁判官と裁判員が責任を分担し,協働して裁判内容を決定するという,そういう制度趣旨を生かして,公平な裁判を受ける権利を保障する憲法の趣旨にも鑑みて,裁判官又は裁判員だけの多数では判断できないこととすべきとして,十分議論した上で現行の要件が定められたものだと思いますので,適切だと思います。   今これを改めるべき何か立法事実,事情の変化があるのかというと,私はないと思います。前田委員からは,再審無罪事件もあってというお話がありましたけれども,それらは評決要件が問題となった事例ではないと思いますので,評決要件を見直す理由にはならないのではないかと思います。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。島根委員。 ○島根委員 この評決要件というのは,恐らく合議体の意思決定の在り方ということで,最も基本的な事項だろうというように考えておりまして,まず,先ほど菊池委員もおっしゃいましたけれども,やはり合議体の意思決定の基本自体を直ちに変更する必要性というのが果たして現時点であるのだろうかということで,そこの点は疑問がある。やはり制度の安定性といいますか,そういう観点からいっても,直ちに変える必要があるというようには私としては考えていないというところがまずはございます。   それから,裁判員と裁判官のこの合議体での意思決定の基本というのは,制度を作る際に多分かなり議論されてのことだろうと思いまして,そこについて,先ほど前田委員御提案のような,それぞれの過半数ということになりますと,そこはやはり両者の在り方のある意味ではバランスを変えるということにもつながりかねないわけでして,そういった必要性があるのだろうかということで,私も結論としては消極ということで考えております。 ○井上座長 酒巻委員。 ○酒巻委員 確認ですが,御提案は,職業裁判官の過半数と裁判員の方の過半数だから,3人のうちの過半数は2人で,裁判員は6人だから4ですね。そうすると,9人のうち6人が賛成しないと有罪判決ができないということになりますね。ということは,これは3分の2の特別多数決を要請しているのと同じことです。裁判における合議体の意思決定の仕方は過半数ということに決まっているので,合計人数の3分の2で決定するというふうな特別多数決にするのは,これは検討会のときに徹底的に議論したと思いますけれども,適切でないだろうと思います。 ○井上座長 ほかにいかがですか。どうぞ,大久保委員。 ○大久保委員 私もその裁判員裁判だけが厳格になるというのは不合理だと考えます。有罪の判断などの被告人側に不利な判断をする場合だけ,そのような厳格な要件を課すというのは,ただ単に有罪の余地を狭くしたいというように考えているにすぎないように思われますので,被害者の立場からは,やはりこれは到底納得のできないことですので,反対です。 ○井上座長 ほかの方。土屋委員。 ○土屋委員 もう既に述べられていることなんですが,私も反対です。裁判官グループと裁判員グループというふうに二つに分けてそれぞれの評決要件を作るという発想は,裁判員制度という協働を旨とする制度趣旨から根本的に逸脱していると私は思います。   以上です。 ○井上座長 よろしいですか,この点は。   それでは,大体御意見はいただいたと思いますので,次に,特に死刑を言い渡す場合の評決要件について御意見を伺いたいと思います。どなたからでもどうぞ。 ○菊池委員 先ほど座長からの質問に対し,前田委員のお話では,この提案は裁判員裁判に限らずということであったと思うんですけれども,そうなると,そもそもこの場で議論するのがふさわしい問題なのだろうかと思います。裁判員制度固有の問題ではないので,この場は議論の場としてふさわしくないのではないかと思います。   確かに,法定刑に死刑がある事件というのは,基本的に裁判員裁判の対象になっているわけですけれども,いわゆる除外請求の場合ですとか,あるいは例外的に一部の事件については,法定刑に死刑がありながら裁判員裁判の対象になっていない事件もございますので,そういった意味でもこの場は議論するフォーラムとしてふさわしくないと考えます。 ○井上座長 ほかにいかがですか。どうぞ,合田委員。 ○合田委員 疑問点だけちょっと指摘させていただきたいんですが,この御提案が,死刑というのは結論,その中身に鑑みて慎重にやるべきだという意味であれば,それは除外された場合も全部含めないと話が一貫しないということになって,そうすると,ここで話すべきことなのかという問題になってきますし,それから,これが裁判員の負担軽減という切り口だとしますと,全員一致の場合は結局そこにいる裁判員は全員賛成したということが明らかになるので,その負担は軽減されるのかどうかと。ブラックボックスに入っていないで,もう裁判体の構成員みんなが賛成したということが要件上明らかになってしまうというところは,どうかなという疑問を持ちます。 ○前田委員 主として誤判防止の観点で提案をしています。また,必ずしも裁判員裁判で死刑判断が下されるとは限らないケースもあるので,併せて裁判所法も改正をすべきであると整理をしております。裁判員の負担軽減については様々な議論,むしろ逆に負担が重くなるのではないかという意見もございまして,必ずしもその点を重視して提案しているものではないと御理解ください。私も先ほどの説明では誤判防止の目的としか述べなかったのは,そういう趣旨でございます。誤判防止のためにより慎重な手続にするという観点からの提案であると御理解くださればと思います。 ○大久保委員 私は今でも死刑判決というのは法制度の下で慎重に,かつ非常に厳格に行われているような印象を持っています。犯罪内容が悪質で死刑を選択せざるを得なかったというような犯罪者にしか,日本では今死刑判決は出されていないように認識しています。死刑判決が出されたとき,国民の中からその判決に疑義を唱えるような論争が起きたということも全く聞きませんので,一般市民も現在の制度でよいと考えているからなのではないかと思います。   また,判例に照らしても,死刑相当であるにもかかわらず,裁判員裁判だった場合は無期懲役になってしまうというのもとても不公平だと思います。さらに,全員一致でなければ判決が出せないとなると,裁判員が初めから特殊な考えを持つ人がいた場合は,そのことでもう結論が左右されてしまうということは不当ですので,被害者の立場からはこれには納得ができないことです。 ○山根委員 裁判員裁判においての死刑判決に当たっては,より慎重にすべきだと思っています。裁判員を務める者の心理的負担ということも考えますと,やっぱり大変重大な問題だと思います。根本的にこの問題を解決するには,死刑求刑が予想される事件をこの対象事件から外すか,あるいはこの死刑制度そのもの在り方をきちんと議論するしかないと思われるわけで,そうなるとここの会議ではできないということであれば,裁判員の経験者の意見をもっともっと集めて,それできちんと議論すべきということを提案するしかないかなというふうに思っています。今の時点では特に変更する必要はないということを大半言われていると思いますけれども,今後またいろいろな事件,担当される方が増えていくと,死刑制度や量刑の在り方について課題も見えてくるかと思いますので,この議論は打ち切りというようなことでなくて,きちんとこれからも議論としては進めていくべきだというふうに思っています。   全員一致ということについても,私は個人的にはその方が少しでも負担が少ないのではないかという意見を持っていますけれども,ただ,もちろん両面ありまして,全員が同じ判断をしたということに特定されるということ,逆に言えば,そもそも無罪だというふうに主張していたり,ただ,有罪が決定して,死刑判決も,裁判員,無罪とも思っていた人が判決を迫られるような場面があったということがもしあれば,かなりの負担ではないかと思います。その辺りいろいろ考える必要もあるというふうに思いますので,今後広く議論ができればというふうに思っています。 ○四宮委員 私自身,日弁連の死刑は全員一致にという提案に反対するものではないんですけれども,少なくとも3分の2という特別多数に死刑事件に限ってはすべきではないかと思います。このテーマがこの検討会の論点の一つとして取り上げていただいた理由は,もちろん先ほど来,出ているように,死刑判決だから慎重にということだとすれば,裁判員裁判だけではないと,これはそのとおりだと思いますが,原則,裁判員裁判として問題になるという趣旨で取り上げていただいたものだと思うんですね。   私の特別多数にすべきではないかという意見の理由は,死刑判断は慎重の上にも慎重にということです。元裁判官の方がお書きになったものの中にも,死刑に反対する人がいるのに死刑にすることはないのではないかという御趣旨のことをお書きになっている方もおられて,死刑判断そのものが大変慎重に行われているということはそのとおりだと思います。そうであるとすると,慎重の上にも慎重にということで,評決要件を3分の2にすると。この3分の2というのは,現在の制度である裁判官,裁判員の少なくとも両方が1票ずつ入っているということを前提にした上ですけれども,そのようにしたらどうかということです。   評決要件が担当する事件によって変わるというのはいかがなものかという御意見があるかもしれませんけれども,重大な結果を招く議決については,それは合理的な理由があるんだろうと思うんです。例えば,検察審査会でも起訴相当議決や起訴議決については,検察審査会の議事は原則過半数とされているにもかかわらず,11人のうちの8名の賛成が必要であると加重されております。その結果,裁判員制度だからということではなくて,私の意見は,死刑判決だからという理由での加重ということになりますので,裁判員法の3条で除外される場合とか,あるいは上訴審についてもこのルールを適用すべきではなかろうかと考えております。   以上です。 ○井上座長 死刑が法定されている内乱罪については,法律上,裁判官による裁判の対象ですよね。 ○四宮委員 内乱罪については,そうですね。 ○井上座長 今のような議論を裁判員制度を立案する過程でもやったのではないでしょうか。評議要件を3分の2とするという提案も,そこで議論した結果,退けられたように記憶しているのですけれども,それを再度議論する必要があると言えるだけの立法事実はあるんですか。 ○四宮委員 いえ,死刑判決だけについてです。 ○井上座長 3分の2という提案もあったのではないですか。 ○四宮委員 ええ。あのときは裁判員裁判における評決全般についてですね。 ○井上座長 いや,死刑事件についてもあったと思うのですが。 ○四宮委員 そうですか。私の理解では…… ○井上座長 審議会だったかもしれませんけれども。 ○四宮委員 私の理解では,検討会では,これは確認していませんけれども,全体としての…… ○井上座長 司法制度改革審議会であったか裁判員制度・刑事検討会であったか,いずれかで議論したように記憶するのですが,確認しますけれども。 ○四宮委員 今私が申し上げているのは,立法事実が,例えばこういうことがあったとか,それは評議の中身ですので,分かりようがないわけですが,少なくともやっぱり慎重の上にも慎重にということからの提案をしています。 ○井上座長 分かりました。ほかにいかがですか。土屋委員。 ○土屋委員 私は3分の2の特別多数決についての話をするつもりではないんです。もともと,原理的に考えて,全員一致の要件を求めるということは,裁判の公平性という観点から考えて問題がありはしないかなと申し上げたいと思います。全員一致を要件とすると,誰か一人が決定的な拒否権を持つことになりますね,死刑に納得しない人が1人いれば。そういう制度設計が妥当なのかどうか考えてみたいと思うんです。   例えば,多数の共犯者がいるような事件で,それぞれがみんな分離されて別々の裁判をやるというようなことになったときに,ある裁判体の中には絶対自分は死刑の意見は述べないよという人が加わっていたとすれば,その裁判体が同じ公訴事実を前提として受ける裁判でありながら,死刑判決は言い渡せないわけですね。別の裁判体では,共犯者がそういう意見の持ち主がいないために死刑判決になるということも想定できるのではないかと思いまして。そうすると,これが公平な裁判に合致することになるのであろうかということを考えたりします。   それから,時間軸を長くとっていきますと,ほとんど同じ,例えば,殺人であるとかいうような事案で起訴された被告人が,ある裁判体ではたまたまその一人がいるために死刑判決にならずに,別の裁判体ではそういう人がいなかったので死刑になるというようなことも起きるのではないかと。そんなことを考えてしまって,そうすると,それは裁判が公平公正であるべきだという要請に反してくるんじゃないかと,そんなふうに思ったりするわけです。ですから,私はちょっと消極です。 ○井上座長 私も,座長の立場を離れて少しコメントさせていただきたいと思います。   今,土屋委員がお話しになったように,極刑ですので,裁判体の構成員は皆さん真剣にお考えになって,この被告人は死刑にすべきではないという意見の方が,裁判官の中におられるかもしれませんし,裁判員の中におられるかもしれない。それにとどまらず,やや突き詰めたことを申しますと,そもそも死刑制度そのものに反対であるという人もいるかもしれません。その場合,一人でもそういう人がいた場合,およそ死刑を選択することができなくなるわけですが,法律上死刑制度があるにもかかわらず,死刑は適用できないというのは,法律がその限りで失効させられるようなことになるので,それで本当によいのかが問題となるように思います。   もちろん,死刑制度そのものを考え直して,そういう制度の組み方をすることは不可能ではないと思います。法律の趣旨としてそういうことがあり得るということが含意されているのならよいのですけれども,現行の制度ではそういうふうになっているとは言えないように思います。したがって,そのようなことも可能にする方向に改めるのであれば,死刑制度全体についての見直しの中で議論して決めるべきだと私は考えるのです。   その意味で,結論としては,菊池委員が一番最初に言われた守備範囲の問題として,この検討会で扱える事柄かどうか疑問があります。また,山根委員のお話は,私も分かるのですけれども,裁判員にとって負担だから,あるいは,裁判員が加わったために確固とした判断ができないおそれがあるからという理由で評決要件を高めるというのは,裁判官に比べ裁判員に弱点があるという前提に立つような意味合いも持ちかねず,裁判員制度の基本趣旨から見て適切ではないと思うのですね。   確かに,裁判員裁判が始まり,裁判員として参加される人を含め,国民の間で,死刑の問題を身近な問題として考える人が多くなったので,そういう観点から,死刑制度自体を正面から見直す機会を持つということは考えられると思いますから,この評決要件の問題も,議論するとすれば,そういう中で検討するべきだろう。そういうふうに整理するべきだというのが,井上個人としての意見です。   ほかに御意見ございますでしょうか。 どうぞ。 ○前田委員 今,井上座長御指摘の点もそれから土屋委員が御指摘になった点も含めて,様々な議論をし,そのような意見の弁護士もたくさんいる中で,死刑の判断には誤判のないようなシステムを制度として確立しておく必要があるのではないかと提案しました。全員一致であれば全部誤判がなくなるということはありませんし,誰か一人,制度自体に反対するような人が入ったら死刑判決ができなくなるというようなことはあり得るわけですが,そういう問題をも考えた上で提案をしていると御理解をいただきたいと思います。 ○井上座長 分かりました。ほかに御意見はございますでしょうか。残間委員,どうぞ。 ○残間委員 これまでのやり方でやってきて特段問題があったというふうには思えないのと,それから死刑については廃止論者なのか存置論者なのかというのは,イデオロギーでそう思っている人にとっては,目の前の事件を分析あるいは判定を下すという以前に思想的な問題があるので,なかなかそこから先に行かないという気がするんですね。ですから,やはりこれは現行どおりのやり方でいいのではないかと思いますので,私も消極論者の一人です。 ○井上座長 更に御意見がございましたら。どうぞ。 ○四宮委員 先ほどの意見とは別になるんですけれども,山根委員がおっしゃったこの問題を引き続き議論してほしいと。それから,今,座長の整理で,死刑に関する別個の議論という整理がいいんじゃないかというような話がありましたけれども,私は先ほど申し上げた意見と併せて,是非是非そういう機会が今後持たれることを期待しております。希望です。 ○井上座長 分かりました。   ほかによろしいですか。おおむね皆さんの御意見,お伺いしたと思いますので,次に進ませていただきます。   次が五つ目の大項目の「被害者等に対する配慮のための措置」という点でございます。その中の一つ目の項目は,「被害者等の心情等への配慮のための運用上の工夫は適切に行われているか。」ということです。この点については,まず大久保委員の方から改めて御趣旨,御意見を伺いたいと思います。 ○大久保委員 ありがとうございます。   犯罪被害者等基本法の基本計画の中そのものにも,犯罪被害者が置かれている実相はなかなか理解されていないというように既に書かれているわけなんですね。犯罪被害者になるというショックは人の想像を超えていますので,被害者自身もその大きさに混乱をして,自分はこのままおかしくなってしまうのではないかというような恐怖さえも感じています。ですから,自分が被害者になったということも信じられません。多分,もしすぐに被害者になったということが分かれば,自殺をしてしまおうというようなことも考えてしまうかと思いますので,自殺企図を緩和するための生体反応として,全身にまるで天然の麻酔がかかったようになって,心身が麻痺状態になってしまいます。そのため,何も考えられず,自ら行動するということもできずに,日常生活も社会生活も普通には送れなくなってしまいますし,もちろん,そうなると人間関係も破壊して,そして自暴自棄となってしまいがちになります。   そのような中でも,被告人にはしっかりとした罰を与えてほしいと願って,捜査にも協力をして,証言台にも立っています。証言をするということは,まだ塞がっていない傷口をもう一度大きく開くのと同じことなんです。傷口を開いて倒れそうになっているので,ここなら大丈夫,話せるというような環境が整っていなければ,被害者は安心をして話をすることも証言もできません。裁判員裁判で更なる二次被害を受ければ,二度と人間らしい生活を取り戻すということもできなくなって,社会復帰もできなくなります。   裁判員裁判を体験した被害者からは,「裁判員から二次被害となる質問をされ,傷ついた」とか,「裁判官は裁判員ばかりに気を使っている」とか「検察官と打合せをしたけれども,十分ではなくて,不安だった」,あるいは「裁判所には被害者専用の待合室がなかったので,廊下をうろうろするしかなかった」など,被害者側から見れば,運用上の工夫はまだまだ不十分です。安心をして裁判員裁判に関わり,自分なりの役割を果たすことができたと思えたときに,被害者は国や社会を信じて,もう一度自分なりに生きていこうと思えるように回復をすることができますので,それには運用ではなくて,やはり規定を置くということが必要になると思いますので,またぜひ御検討のほどをお願いしたいと思います。 ○井上座長 どなたからでも御発言をいただければと思うのですけれども。 ○合田委員 今,大久保委員のお話の中で,証人で出た被害者の方が裁判員の質問等で更に二次被害といいますか,傷ついたという御指摘がございました。その点について裁判所の側でどのような配慮といいますか,なるべくそうならないようにということでやっているかということについて若干御紹介したいと思います。   前にも何かのときに申し上げたかもしれませんけれども,普通被害者の方は検察官証人の場合が多いと思うんですが,まず,検察官と弁護人の方の尋問があって,その後,裁判員,裁判官の補充尋問になるわけですが,その場合に,多くの裁判所では,いきなり,さあ今度はこちらから聴きますという形にはしないで,そこで休廷を取っていると思います。   それで,この休廷の間に何をやるかといいますと,裁判長から,休廷後に法廷に戻ったときにこちら側から質問をするんだけれども,どういった事柄を質問したいですかと,それを出してくださいと,こういう具合に話をします。これは,一つには,法廷でいきなりさあどうぞと言われても聴きにくい,あるいは,これを聴きたいんだけれども聴いていいかどうか分からない,あるいは,どのような聴き方をしたらいいか分からないといった裁判員の側の声もありまして,これに応えるという意味もありますけれども,同時に,今,大久保委員から御指摘があったような,そういう意味では不適切な質問内容,それの防止等に役立つ部分もございます。   その休廷時の打合せにおいて,こういうことを聴きたいんだけどという話が出てきたときに,事件の判断とは関係なく,関係者のプライバシーに踏み込み過ぎるのではないかと思われるような事柄,あるいは証拠に基づかない憶測を前提として質問することになるんじゃないかと思うような事柄,それから,その段階では評議の前ですから,それぞれの方の持っている心証というのは暫定的なもののはずなんですが,それをあからさまに法廷で出して質問をするというような格好になってしまうんじゃないかと思うような場合がありまして,そのような場合には,「それ,お聴きになりたい理由はどこにありますか」とか,いろんな言い方をしまして,本当にそれを聴くのが適切かどうかということを再考していただくということをやっています。それをやった結果として,やっぱりやめておきますということになるのが,私の経験ではかなり多いという具合に思います。   そのようなわけで,私自身の経験では,そういった機会を持つことでほとんど防止できていると思いますけれども,もし実際に法廷でそのような尋問が出てきたということになりますと,それは当然のことながら法令によって制限できる尋問ですので,裁判長が訴訟指揮権によって制限をすると,こういうことになります。さらに,それが余り程度が激しいということになりますと,法律上はその方にそのまま職務を続けていただけるかどうかという点でも問題となる余地があると,こういうことでございます。 ○井上座長 菊池委員,検察としてはどういう運用がなされているのでしょうか。 ○菊池委員 今,大久保委員の方から検察官との打合せが不十分な例もあってというお話がありました。そういう例があるというのは非常に残念なことだと思います。そもそも事件の被害者の方が裁判の手続の帰すうについて大変関心をお持ちになるというのは当たり前のことですし,証人として出廷するとなると大変不安を感じるというのは当然ですから,検察官としては,手続のいろいろな段階において,被害者の方ときめ細かく連絡をとって説明していくという姿勢が大事だろうと思います。また,証人出廷していただくに当たっては,十分な打合せ・準備を行い,事案に応じて,遮蔽やビデオリンク等の措置を求める必要があると思いますし,現に,そのように,被害者や御遺族の方の心情に配慮した運用に努めましょうということでやっているところです。 ○合田委員 お話の中で待合室の件があったと思うんですね。それにつきましては,東京地裁などでは部の方に,書記官室に来ていただいて,そこから一般の方とは別な通路,エレベーターなんかも別なものがあるものですから,裁判官なんかが使うものですけれども,そこを使って法廷に入ってきていただいて,またそこからお帰りをいただいてというようなことでやっています。ただ,大久保委員が述べられたのがどの庁の話かは分からないんですけれども,庁によって建物の構造がいろいろございますので,必ずしもそういうことが可能かどうかというと,できない場合ももしかしたらあるのかもしれないなとは思います。   ただ,その場合でも,例えば,移動していただく順番とか時間帯とか,そういうことによって別経路でなくても,遭遇する場面を防ぐということは可能じゃないかという具合に思っております。裁判所の中の動線の確保の問題というのは証人保護の側面も有するということだと思いますので,よく考えてみたいと思っております。 ○井上座長 大久保委員,更に何か御意見ございますか。 ○大久保委員 確かに検察も裁判所も,今おっしゃってくださったようにかなり配慮をしてくださって,一昔前から比べれば全くもって対応も違っていますので,それはとても評価をさせていただいております。ただ,運用となっていますと,その場所とか人によってかなりばらつきが出てしまうということも正直ある話ですので,その辺り何か無理のない規定を置いていただけると,被害者としては安心をして裁判に臨むこともできるわけなんですね。   それともう一つ,先ほど裁判員の方から二次被害となるような質問を受けると,その被害者は怖くて怖くてそのことが一生忘れられなくなってしまうほどダメージを受けると言いました。これは裁判員裁判特有のものだと思うんですね。裁判官からもしそういうような二次被害があったとしても,職業人だから仕方がないとあきらめることも多少はできますけれども,一般市民,同じ考えの市民からそう言われたということは,今度,自宅へ戻ったとき,周り中の地域の人たちがまるで敵のように,被害者は精神的にびりびりしているものですから,感じてしまって,そこで暮らすことさえもできなくなるほどの影響を与えてしまうわけなんですね。そういう辺りのことも考えて,何らかの被害者保護の規定という辺りを考えていただければ,大変有り難いと思うわけです。 ○井上座長 今の点は,被害者だけでなく,被害者でない証人との関係でも問題になり得るかと思うのですね。その意味では被害者に特有の問題ではないかもしれませんが,被害者の場合は特にそれが強く出るということだと思います。 ○大久保委員 裁判員の方たちと向き合うということと,職業裁判官でしたら人数も少ないですけれども,たくさんの人が前に座っているというだけで,やはり被害者にとってはとてもそれは負担にもなることなわけですね。 ○井上座長 質問の在り方は,裁判官についても問題のある質問であれば,裁判長がそれを制止したりコントロールするべきで,基本的にはそれと同じ問題ですね。その意味では,今の制度枠組みの中で更に配慮して運用していくということになるのだろうと思うのですけれども。 ○酒巻委員 弁護人に対しても不適切な質問の問題は当てはまるのではないかと思います。 ○大久保委員 私,今うっかりしていたのですが,弁護士さんには何を言ってもなかなか伝わらないと諦めている部分がありまして,触れませんでしたけれども,弁護士さんは本当にひどいことを言います。例えば,子供を殺されて死ぬ思いで証言台に立っているお母さんに向かって,「子供はまたいつでも産めるでしょう」と,「産めばいいでしょう」,本当にそういうことをおっしゃる方がいらっしゃいますので,そこは一人の人間としても是非今後とも考えていただきたいと思っています。こちらにいらっしゃる方は決してそういうことはない方だということはよく分かっております。 ○井上座長 特に被害者の場合に問題になるのでしょうけれども,証人についても,程度の違いはあれ問題になり得ることで,この点については,証人や被害者のための施策を別途,法務省において検討されていると聞いていますので,上冨刑事法制管理官の方からその検討状況を御説明願えればと思います。 ○上冨刑事法制管理官 現在,法務省では刑事司法に関して幾つかの場で並行して議論や検討を行っているところでありますけれども,その中でまず一つ,法制審議会の新時代の刑事司法特別部会という部会で現在審議が行われていますが,その中で論点の一つとして,「犯罪被害者や証人等の支援保護の在り方」というテーマが挙げられております。既にこのテーマについての議論,意見交換も行われていますが,今後,更に証人及び被害者の保護等のための施策という論点の形で,近くより重点的な議論を行っていくという予定でおります。   それから,被害者参加制度を始めとする犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための諸制度が平成19年の刑事訴訟法改正で導入されております。この法律は平成20年に施行されたわけですけれども,この法律の附則におきまして,法律施行後3年を経過した場合における検討というのが規定されております。この規定に基づきまして,現在,法務省では検討を進めているところですが,これまでに本年,犯罪被害者団体などから御意見を伺うなどしたところでありまして,現在,更にそれぞれ幾つかの制度の運用状況を踏まえた検討を進めているところでございます。こうした場でも更に犯罪被害者への対応の在り方について,より突っ込んだ議論をしていくことになるかと思っております。 ○井上座長 今の御説明があったような場で本格的な検討が集中的になされることになるのだろうと思います。それを念頭に置きながら,本検討会でどういう議論をするべきなのかということになるように思うのですが,更に御意見がございますか。   どうぞ,残間委員。 ○残間委員 多分,これは人間性の問題なので,被害者の方から見て心を傷つけるようなデリカシーのないような発言をするような人が法曹界にいなければいい話なんですが・・・。それはそれとして,事前に,こういうことについては特に被害者を傷つけるのだというようなことが,何らかの形で情報として相手側に伝えるということはできないのでしょうか。 ○井上座長 一般的な共通の事柄については,被害者団体の方々も声を上げられ,それをいろいろな関係方面に届けてきており,それを受けた方がそれを吸収するだけの構えがあるかどうかの問題になると思います。これに対し,おっしゃったような個別の事案にまで踏み込んで事前に情報提供をしておくということは,難しいかもしれませんね。 ○残間委員 でも,裁判長がそこである程度,さっきおっしゃった制するというところで,裁判長のかなり人間性とか人をどう見ているかという角度の問題でもあり…… ○井上座長 合田委員は立派な方だと思いますけれども・・・。 ○残間委員 ええ。それは私もそう思っておりますけれども,人間性の問題となると,教育の問題まで行ってしまいそうな気もしています。。 ○井上座長 恐らく,被害者団体の方々からすると,こんなに声を上げているのに何で聴いてくれないのということなのだと思うのですね。 ○大久保委員 被害者問題は,今ようやく社会にも浸透してきて,誰もが考えなければいけない当然のことだということが,表立って話がなされるようになりました。被害者もようやく,今まで何となく被害者は何か落ち度があるから被害に遭ったのではないかというようないわれなき偏見,それがすごく日本では根強いために声を上げられなかったのですが,ここにいらっしゃる皆様の関係者の方の努力によりまして,被害者はようやくちょっとだけ声を上げることができるようになってきました。でも,まだまだ広がっておりませんので,まずは法曹界の方あるいは警察の現場の方,弁護士さんにぜひ御理解をいただきたいと思っています。   被害者も,先ほど井上座長がおっしゃってくださいましたように,いろんな職種の中にもいろんな独特の考え方の方がいらっしゃるように,被害者もそのときの状況によって,被害直後と少し時間がたってからと何年かたったのでは,同じことを聴かれても傷つき度合いが全く違ってきてしまいますので,その辺りのところも感性豊かに人の痛みを分かるような,そういうような教育なども必要になってくると思います。とりあえずは,裁判官の方が先ほど裁判員の方になぜそういう質問をするのかということも聴きますよとおっしゃっていましたので,まずは候補者の方たち皆さんにも,被害者の心理とはこういうものですよという辺りを是非伝えていただけるようになれば,どんどん変わってくるとは思いますが。 ○井上座長 この点も,先ほど上冨刑事法制管理官が触れられた検討の場で突っ込んで議論してもらうべき事柄だろうと思います。   先に進んでよろしいでしょうか。   二つ目の項目は,「裁判員等選任手続における被害者等のプライバシー等の保護を通じたその負担への配慮の在り方」ということです。大久保委員より,御説明をいただければと思います。 ○大久保委員 先ほども申し上げましたように,犯罪被害者保護二法ですとか犯罪被害者等基本法もできまして,被害者保護が大変手厚くなってきたということは確かですので,それについてはとても有り難いことですし,私自身も大きく評価をさせていただいております。ただ,10月の13回の検討会でも述べましたように,裁判員候補者には守秘義務がありません。また,特定事項秘匿決定等の諸規定は選任手続には及ばないわけなんですね。もちろん,運用上様々な工夫がなされているということは,今,合田委員も菊池委員もおっしゃってくださったように,それは十分承知はしてはいますけれども,でも,それだけでは万全ではありませんので,是非被害者の心情への配慮を義務づける規定を置いていただきたいのです。   裁判員法には,裁判員や裁判員候補者への配慮が明文で規定されているのに,被害者への配慮に関する規定はありません。被害者としては置き去りにされているというような思いをとても強く持っていますので,このような観点からも被害者の心情への配慮に関する規定を是非置いていただきたいとお願いする次第ですので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上座長 どなたからでも御意見があれば。菊池委員。 ○菊池委員 今,選任手続の関係で大久保委員から御意見をいただいたところですけれども,私の意見を申し上げる前提として,検察において選任手続の際にどういう措置あるいは工夫を講じているかということについて申し上げたいと思います。   検察の現場では,犯罪被害者の方が氏名などの個人の特定につながる事項を裁判員候補者に開示してほしくないと希望する場合に,その御意向を踏まえて,被害者の方に裁判員候補者の氏名をお教えして,被害者の関係者が含まれていないかを確認しています。   また,被害者と日常の生活範囲や人間関係を共通にする者が含まれる可能性が高い一定の範囲が想定できる場合には,その範囲の裁判員候補者を特定して,理由を示さない不選任請求をするなどの措置を講じているところです。   大久保委員からもお話があったように,被害者特定事項の秘匿決定であるとか,証人の付添人制度など,公判審理,裁判の場で被害者の心情配慮のためにとり得る措置については刑事訴訟法の中に規定があるところですけれども,選任手続は言うまでもなく裁判員制度に固有の手続です。そして,裁判員法には,選任手続における裁判員候補者への配慮義務を定めた33条3項というものがございます。「裁判員等選任手続は,裁判員候補者の心情に十分配慮して行われなければならない」とする規定です。大久保委員の御意見については,この33条3項にならって,被害者に対する配慮義務を定めた規定を新たに設けるというのも,一つの解決策になるのではないかと思います。このような規定を設けることは,冒頭に申し上げました検察の運用について,明確な法律上の根拠を与えるという意味でも望ましいのかなと考えます。 ○合田委員 前にもどういう配慮をしているかということについては申し上げたと思います。ですから,あまり重複しないように申し上げます。   今,検察官の方でどういう配慮をされているかということについて菊池委員から御紹介がございました。それで,性犯罪を中心とする被害者のプライバシーに配慮を要する事件の場合には,これは今は,公開の法廷で特定事項を明らかにしてやることはないと言っても間違いないという具合に思います。そういう事件では,公判前整理の段階で,公判の審理においてこれは特定事項を明らかにしないで行うということの話が出まして,その方をAさんと呼ぶかどうかとか,つまり共通の呼称をどうするかといったことなども全部決めて,その前提で当事者に準備をしていただくということになります。   正式の決定が記録上どの段階で行われた形になっているかは別として,公判前整理の段階で,この事件は特定事項を出さない形でやるんだということを実質的に決め,その前提で手続を進めているわけでありまして,そういうケースにおきましては,選任手続において,候補者の方に,その被害者がどこの誰かということが分かるような運用をしていては,しり抜けになるという具合に思っております。そのようなことから,選任手続において事案の概要を説明するんですが,その場合にも,当然のことながら,氏名やあるいは住所等のどこのどなたかが被害者であるかが分かるというような事項につきましては明らかにしないということで,行政区画なんかも市区町村ぐらいですかね,そのぐらいまでしか明らかにしないということでやっております。   その上で,そういうある程度ぼやかした中身になりますから,逆に候補者の選任の方に問題がないかということがありますので,心当たりがある方については申し出ていただいて,個別質問という形でお聴きをすると。ただ,その場合も「こういう人を知ってますか」というようなことを裁判所から言うことはなく,その候補者の心当たりがどういうものかということを具体的に話していただくという格好で,こちらの側から被害者に関する情報が向こう側に出ていくというようにはしないということでございます。   あと,理由なし不選任請求権の行使との関係につきましては,選任手続期日の当日に,その行使をする前の段階で,裁判所の方から,被害者の住居とか犯行場所等のある地域に居住している方は何番であるということを,検察官と弁護人にお伝えすることもございます。   さらに,そういうことで進んでいきますので,結局名前とか住所が伝わることはないわけですが,これはちょっとこの前申し上げましたけれども,私は,選ばれた後,いろんな方々の名前を入れたリストをお示しして,それで実際にこの具体的な名前に心当たりがあるかどうかを確認をするという工夫をやっています。そのリストは,1人しか書かなかったら被害者のお名前が分かってしまいますから,他の名前も混ぜた格好のリストでして,もしそれで問題があれば,解任をして補充裁判員の繰り上げをすると。このような格好の配慮も併せてやっているわけでございます。   このようなわけで,現在も候補者の側に特定事項が伝わることがないという運用をしておりますので,被害者のプライバシー保護という関係での配慮は,現状適切に行われているものという具合に考えております。これは結局,平成19年改正により新設された刑訴法290条の2という,特定事項の秘匿の規定ですが,その規定の趣旨を踏まえると,公判廷における手続以外のあらゆる手続にもこれを及ぼす必要があると,こういう考えでやっているということでございまして,単なる事実上のものではなく,290条の2の趣旨を踏まえてやっている運用だということでございます。   大久保委員から御指摘のありましたそういう立法を更にするかどうかという点につきましてですが,私どもはそういう理解でやっておるということでございますが,それ以上に規定が要るかどうかということにつきましては,これは結局,立法判断の問題ということだろうという具合に思っております。   以上でございます。 ○前田委員 現状の運用については,私たちもそのように聞いておりますし,それで問題が生じたとは認識しておりませんが,法律の規定との関係で合田委員に御質問します。被害者の方の特定事項を秘匿すると,裁判員法17条の不適格事由とされている,被害者の親族又は親族であった者,法定代理人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人又は補助監督人,被害者の同居人又は被用者という方々の判明,このような方々がすぐに分かればそれでいいのですが,秘匿したために的確に運用できなくなるという事態は考えられないですか。 ○合田委員 そこが結局,不適格事由かどうかの関係は別としても,そこで選任を適切に行っていくということと,それからプライバシーを守るということとのバランスをどう採るかという問題なんですね。で,私としては,こちらから積極的に情報を明らかにしないで,候補者の側から具体的な話を聴いていくという格好でやっても見極められるという具合に思っています。ただ,最終的に選ばれた後,審理に臨むまでの間に,万が一ということがありますので,そこはやっぱり特定されない形でも具体名というものを示して,何か思い当たる節があったら言ってもらって,そこで更に,場合によっては解任して繰り上げるという手続で,言ってみれば選任手続自体ではないけれども,その後ろの段階まで含めたところで問題がないようにして,プライバシー保護とそれから実際の審理に携わる方がどういう方が入るかということのバランスを採ろうというのが現在の運用でございます。 ○前田委員 その点は裁判員選任手続と公開の法廷での秘匿の方法には違いがあるのではないかという気がします。 ○島根委員 以前,捜査の現場の話として御紹介もいたしましたけれども,私ども警察は,特に初期に被害者の方と接するわけでございまして,特に性犯罪の被害者の方につきましては,これはヒアリングのときにもそういう団体の方から御紹介がございましたけれども,非常にナーバスになっていて,被害は申告されてまいりますけれども,その後のいろいろな裁判手続,特に強姦致傷等の事件であれば裁判員裁判の対象ということになりますということを説明していくと,どうしても場所が限られてまいりますから,やはり自分の知っている人に出会うおそれもあるということで,非常にそこのところを説得というか,納得していただくということで,被害者に接している担当要員というのは,非常に不安の解消ということに苦労しているのが現状でございます。   それで,先ほど大久保委員から御提案がありました話でございますが,もちろんできることとできないことというのはあろうかとは思いますけれども,被害者に対する配慮に関しての一定の事項を法的に整理するということができるかどうかという問題について,多分,一番想定される場面としては選任手続の場面ということで,対国民との関係が出てくる場面でありますので,一般的な単なる配慮義務規定を超えた多分実質的な意味が出てくる仕組みになり得るのではないか。そういう意味で,法的に規律をするということは可能なのではないかと考えます。   現実にその任に当たる方に対しても,一定の,先ほどいろいろおっしゃられました運用についての支えというか根拠にもなるでしょうし,それから,それがひいては被害者に対しても裁判員裁判への信頼感を高めるということにもつながってくるのかなというように感じております。現実に,現在,被害者保護に関する規定というのが刑訴法自体にも幾つか入ってきてもいるという状況でありますので,選任手続という,この裁判員法固有の領域で一定の規定を置くということは,十分検討に値するのではないかというように考えております。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。どうぞ。 ○菊池委員 先ほど合田委員から裁判所における運用上の工夫について御紹介がありました。これは事件の特性に応じて適切になされているものだと思います。その際の御説明の中に,刑訴法290条の2が定める,被害者特定事項秘匿決定の制度の趣旨を踏まえてこのような運用をしているという御説明がございました。他方で,この被害者特定事項の秘匿決定というのは,あくまで「公開の法廷で明らかにしない」という定めになっているところですので,文理からして,その法的効果が選任手続,これは非公開で行われるわけですけれども,そこに及ぶとは言いづらい面があると思います。   他方,先ほど申し上げた検察官が選任手続の中で講ずる配慮については,明確な法令上の根拠が見出し難い面もあります。その意味では,この検察官の配慮などの措置について明確な根拠が与えられることが望ましいだろうと思います。そこで,選任手続における被害者配慮のための運用を明確かつ十分に根拠付けるものとして,配慮義務規定を設けておくことが適切だろうと思います。   また,そういった規定を置くこと自体が,被害者の方に幾ばくかでも安心感を与えることになるというのであれば,その観点からも規定を置く意義があるだろうと思います。 ○井上座長 山根委員,どうぞ。 ○山根委員 ちょっと質問なんですが,マスコミの取材とか報道の在り方というような視点で,この裁判員裁判における被害者の配慮の向上とか,その辺りを考える必要というのは特に今はないと考えてよろしいでしょうか。何か大久保委員に問題意識があれば。 ○井上座長 必要がないというわけでは恐らくないのだろうと思うのですが。検討すべき場面は違うと思いますけれども・・・。 ○大久保委員 現段階では,やはり何らかの規定を選任手続についてせめて置いていただきたいということですので,メディアのことはまた,裁判員だけに限らず,ほかの裁判であっても全てに共通することですので,この場では取り上げる必要はないと私自身は思っています。 ○前田委員 質問いいですか。 ○井上座長 どうぞ,前田委員。 ○前田委員 菊池委員の言われた配慮義務はよく理解できたのですが,島根委員はもう少し突っ込んだ規定を置くという御意見なのか,あるいは,菊池委員と同じことを述べておられるのか。同じという理解でよろしいですか。 ○島根委員 基本的には同じことを申し上げております。 ○前田委員 分かりました。 ○井上座長 特にお二人から,設けることに意味があるのではないか,あるいは必要性があるのではないかという御意見がございました。現在は,恐らく趣旨解釈でやっておられるのでしょうけれども,本当に法制上の根拠と言えるのかという疑義があるということだと思うのですが,逆に,設けた場合に何かは不都合があるのでしょうか。伺っていて,そこのところがよく分からなかったものですから。 ○合田委員 格別な不都合が生じるかと言われますと,それはどうかなと思いますけれども。 ○井上座長 実際にやっておられるわけですよね。 ○合田委員 要するに,現状は結局やっているということがありまして,これは290条の2の文言自体に選任手続が書いてあるかどうかではなくて,秘匿というものはどこかで漏れたらもう役に立たなくなってしまうんですよ。ですから,公判廷で秘匿をするということは,例えば,裁判員裁判では,公判が始まる前の選任手続の段階で,ほかの人も事案の概要に触れるわけですから,裁判所は当然そこでも漏れないようにする,そうしないとその規定の趣旨が守れないので,そこでも明らかにならないようにやっていると。それで漏れなく明らかにならないということが確保できているということを申し上げておるわけでございます。 ○井上座長 ほかに御意見ございますでしょうか。   合田委員も特に積極的に反対するという御趣旨ではないと理解してよろしいでしょうか。 ○合田委員 それは,ですから私どもの認識を申し上げているのでありまして,それ以上に規定を置くか置かないかというのは,立法判断としてどうするかと,そういうことだと思いますということでございます。 ○井上座長 分かりました。そういうことですので,おおむねそんなに大きく意見が食い違っているわけではないと思うのですね。更に御意見がなければ,そういう意味で,大久保委員の御提案の趣旨について,積極的な御反対はなかったと理解させていただければと思います。先に進めてよろしいでしょうか。 ○大久保委員 ありがとうございます。規定があるということを聞くだけでも,被害者はすごく安心感を持つことができますので,大変有り難いことだと思っています。 ○井上座長 論点整理の六つ目の大項目,「上訴」に移りたいと思いますが,これについては「死刑判決が言い渡された場合における上訴について」という項目を掲げております。四宮委員が御発言になって,こういう項目になったというふうに承知していますので,もう一度その趣旨を御説明いただければと思います。 ○四宮委員 ありがとうございます。   ここも裁判員裁判だけの問題かと言われれば,先ほど来議論があるように,それに限られないわけですけれども,主に裁判員裁判で出された死刑判決に関するものが多くなるだろうということでの,ここに取り上げていただいたものと理解をしております。私の提案の趣旨は,先ほどの評決と同じように,死刑判断は慎重の上にも慎重にという趣旨でございます。その点については恐らくはどなたも御異論はないんだろうと思うんですね。私の提案は,本人が上訴するという制度を変えるのかというと,そうではありません。当事者の被告人の上訴制度,上訴権というものを前提にした上でということでございます。   本人が上訴していないのに,なぜ上訴の効果を発生させるのかという疑問があるかもしれませんけれども,まず,特に死刑判決を受ける被告人については,裁判で争点となるかどうかは別にしても,意思等の能力にも疑問がある場合もあります。その意思が十分だったのか,控訴しないとか控訴を取り下げるとかいう意思が十分だったのかということは問題となり得ると思いますし,また,はたには分からない病気というのがどうもあるようでして,そういった可能性もあるだろうと。それから,仮に意思がしっかりしていたとしても,人間の意思というのは変わり得るものですので,そういった場合への配慮も必要ではないか。また,さらには,一審で弁護人の十分な援助を受けられないで死刑判決を受けるということもないではないと。ということなので,本人が上訴しない場合にも上訴の効果を発生させるというのがよろしいのではないかということです。   本人が上訴していないのに上訴の効果を発生させるということの2番目の理由は,生命の尊厳ということであります。もちろん,個人の権利は原則放棄が可能ではありますけれども,生命ばかりはやはり社会的あるいは国家的な価値というものがあるだろうと思います。その意味で,少なくとも手続的にも国家が後見的な役割を果たすということは合理的なことなのではないかと思うわけです。   じゃ,具体的にどうなるのかということですけれども,原則は被告人本人の上訴権の行使ということがあります。被告人が上訴期間内に上訴しなかった場合,あるいは上訴しても取り下げた場合については,どこに自動的な上訴の管轄にするかというのは,これはちょっと議論があると思いますが,例えば,少なくとも最高裁判所のレビューを受けるような制度にする必要があるのではないかと思います。   仮に本人が上訴しなかったと,あるいは上訴権を放棄した,上訴したけれども取り下げたというような場合について,仮に最高裁判所に自動的に上訴する,法定的に上訴すると,上訴の効果が発生するということになれば,そこで原則として国選弁護人を選任する,そしてその記録に基づいて主張すべきものは主張してもらう。そして,裁判所としては,主に今の法律でいえば刑事訴訟法第411条の規定,各号の事由,死刑判決を破棄しなければ著しく正義に反するかどうかというようなことを中心に,最高裁判所では記録をレビューしていただくというような制度を検討してみたらどうかという趣旨でございます。 ○井上座長 本人はもう争うつもりはない。もともとの弁護人もそういう意向であるという場合に,上訴審としてどうすればよいのでしょうか。高等裁判所か最高裁かは分からないですけれども,職権で記録を調査して審査するというイメージですか。 ○四宮委員 そういうイメージです。 ○井上座長 ということのようですけれども,いかがでしょうか。どうぞ。 ○菊池委員 私は四宮委員がおっしゃるような自動上訴というものについては消極です。被告人本人が判決に納得している場合でも弁護人には独立して上訴権があります。実際にも,ほとんど多くの事件では死刑判決に対して上訴がなされている現状にあると思います。そのような実情の下において,被告人本人も納得し,弁護人の方でも不服はないというときに,必ず上訴審の審理を行う合理性があるのか疑問です。さらに,当事者の不服申立てがなく,何らの主張がなされていない状態で,職権で審理するといっても,上訴審が審理する対象は何なのか,裁判所は何をどう審理するのかイメージがつかめません。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。   ちょっとコメントさせていただくと,恐らく四宮委員はアメリカの死刑を存置している州の法制などを念頭に置かれているのではないかと思います。そういうところの多くでは,死刑判決に対しては,自動的な上訴の制度を設けています。それを念頭に置くなり,参考にして提案なさっているのではないかと思うのですけれども。 ○四宮委員 参考にはしております。 ○井上座長 そのアメリカの法制について少しお話ししますと,そういう制度が設けられているのはそれなりの意味があります。御存じのように,アメリカの場合,一審判決に対しては事実誤認や量刑不当を理由にしては上訴できないというのが原則です。通常の上訴は,法律問題や手続上の過誤を理由にするものに限られます。しかも,特に最上級の裁判所への上訴は,憲法違反などのごく限られた事由による場合以外は,権利としては認められておらず,上訴審が受理するかどうかは裁量に委ねられております。我が国の最高裁による上告受理の制度と似たような仕組みなのです。そういう制度を前提にして,死刑判決に限ってオートマチックでダイレクトな上訴の制度を採るということは,一つには,事実認定と,量刑,つまり死刑を選択したのが相当かどうかについて上級審による審査を認めるという点で,特例とするという意味があります。また,もう一つには,オートマチックですので,上級審の裁量で受理してもらえるかどうかが決まるというものではなく,自動的に上級審に係属するという意味があるのです。   ところが,日本の場合は,そもそも,事実誤認でも量刑でも,いずれを理由にしても上訴できる。被告人の権利として上訴できることになっているので,前提がかなり違うわけです。 ○四宮委員 よろしいでしょうか。 ○井上座長 どうぞ。 ○四宮委員 アメリカの例を参考にしましたけれども,アメリカの例で参考にしたのは,実際に自動的な上訴になった場合にどういう手続になるかということです。私は飽くまでも今の日本の刑事訴訟法の仕組みの中で,そして最高裁判所は職権で事実の問題とか量刑の問題とか判断できるという形になっていますので,そこに組み込んではどうかという趣旨です。 ○井上座長 ここからは個人の意見ですけれども,今申したように,上訴制度として,救済の道が必ずしも十分でないことを前提にして自動的な上訴の制度を設けているのがアメリカなどの在り方ですが,日本の場合には,死刑を言い渡された被告人は権利として控訴でき,しかも,最上級審に跳躍してではなく,まず高等裁判所の審査を受け,その判決にも不服があるときは,最高裁への上告については事実問題とか量刑問題は裁量的ですけれども,実際の運用上,死刑事件の場合は最高裁も全て審査をしている。そのような制度が採られているのに,更にオートマチックな上訴というものを組み込まなければならない必要性ないし理由があるのかは,疑問と言わざるを得ません。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○上冨刑事法制管理官 すみません,よろしいですか。 ○井上座長 どうぞ。 ○上冨刑事法制管理官 自動的に最高裁がレビューをするという制度はかなり今までの現行制度からすると特殊な制度なので,なかなかイメージがつかみにくいところはあるのですが,そのことの当否はともかくとして,最高裁が管轄するということであるから上訴というネーミングになるのかもしれないのですけれども,自動的に必ずレビューしなければ効力が生じない判決というのは,そこで言うところの一審判決というのは,独立した判決として意味を持っている判決なのかどうかというのが私にはよく分からなくて,結局,最高裁の許可を得なければいけないという評決要件を一審判決に加えただけというのと,どこが違うのだろうかという気が最初に伺ったときに思ったのですが。裁判員裁判での裁判員が加わって行った判決が,それ自体では決して完結しないというような制度をあえて設けるという御趣旨になるのかなと思ったのですが,そういう理解でよろしいんでしょうか。 ○四宮委員 いいえ,私の申し上げた趣旨は違います。第一審の裁判員裁判での判決は,判決の言渡しによってそれで完結するわけです。ただし,その執行力がいつ出るのかという問題ですね。それは最高裁のレビューを経ないと執行力は出ないと,確定はしないという趣旨です。ですから,一審の判決としては言渡しで完結するという趣旨ですけれども。 ○上冨刑事法制管理官 言葉の問題なんでしょうけれども,第一審における裁判員裁判による判決が,それ自体執行できない判決としてしか存在できないということですか。 ○四宮委員 だから,今の制度でいえば,上訴期間内の判決のような状態ということですね。 ○井上座長 それを実質的に見ると,一審判決自体だけでは完結しないというふうにも見えるというのが上冨刑事法制管理官の御趣旨だと思うのですが。   ほかの方はいかがですか。よろしいですか。この点についても皆さんの御意見はほぼ尽きたということかと思いますので,この程度で終わらせていただきます。   そろそろ予定された時刻となりましたので,本日はこのぐらいにさせていただきたいと思います。   次回ですけれども,論点整理の七つ目の大項目の「裁判員等の義務・負担に関わる措置等」のテーマから議論を更に進めたいと思います。既に論点ごとの議論も終盤に差しかかっておりますけれども,次回の御議論の進み具合に照らし,可能であれば,これまでの検討で法制上の措置を行うべきとの意見が比較的多く見られたものの,更なる検討を要するというふうに考えられます「審理が極めて長期間に及ぶ事案を裁判員裁判の対象から除外することができる制度」,これについては,具体的なイメージを前提にしないと何とも言えないという御意見も少なくなかったものですから,どのような仕組みの在り方が適切かという観点から更に議論を行っていただくのが適切かと思います。そういうことでよろしいでしょうか。   (「異議なし」との声あり)   それでは,最後に事務当局から次回の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 次回でありますけれども,来年平成25年2月1日金曜日午後1時30分からとさせていただきたく存じます。場所等につきましては,追って御案内申し上げたいと思います。 ○井上座長 それでは,裁判員制度に関する検討会第15回の会合をこれで終了します。   どうもありがとうございました。 -了-