裁判員制度に関する検討会(第16回)議事録 1 日 時   平成25年2月1日(金)13:26〜15:45 2 場 所   東京地方検察庁総務部会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,      四宮啓,島根悟,土屋美明,前田裕司                              (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      久木元伸刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題 (1) 論点についての議論   ア 裁判員等の義務・負担に関わる措置等について   イ その他について (2) 審理が極めて長期間に及ぶ事案について (3) その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料3:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成24年10月末・速報)   資料4:裁判員裁判実施状況の検証報告書   資料5:参照条文等   資料6:公判審理に極めて長期間を要する事案の除外制度について検討       すべき事項   山根委員提出資料 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,予定の時間より多少早いところではございますが,裁判員制度に関する検討会の第16回会合を開会させていただきます。   なお,本日は残間委員及び山根委員が,所用によりやむを得ず御欠席されるとの御連絡を頂いております。   それでは,井上座長,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,御参集いただきましてありがとうございます。   議事に入ります前に,事務当局において人事異動に伴う交代がございましたので,一言お願いします。 ○久木元刑事課長 昨年の12月21日から刑事局刑事課長をしております久木元と申します。よろしくお願いいたします。 ○井上座長 では,まず事務当局から本日の資料について説明をお願いします。 ○東山刑事法制企画官 本日お配りさせていただいております資料は,議事次第,配布資料目録,インデックス付きの資料6点のほか,本日御欠席の山根委員御提出の資料1点でございます。まず,資料1として「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」と題する横置きの表のもの,資料2として「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」と題する円グラフ等を記載したもの,資料3として「裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成24年10月末・速報)」と題します最高裁判所の公表に係る資料,資料4として「裁判員裁判実施状況の検証報告書」と題する最高裁判所作成に係る報告書,資料5として「参照条文等」と題する資料で,本会合で御検討いただくことを予定しております守秘義務等に関する規定を取りまとめたもの,資料6として「公判審理に極めて長期間を要する事案の除外制度について検討すべき事項」と題する資料で,審理が極めて長期間に及ぶ事案の取扱いについての御検討のためのものを配布させていただいております。   なお,資料4の検証報告書につきましては,後ほど合田委員より概要について御説明いただく予定となっております。また,御欠席の山根委員から,本日の議事に関する委員の御意見を記載した資料の提出を受けておりますので,併せて机上配布させていただいております。   資料については以上でございます。 ○井上座長 よろしいでしょうか。   それでは,議事に入りたいと思います。   本日はまず,今の説明の中にありましたが,配布資料にもなっている裁判員裁判実施状況に関する検証報告書について,合田委員の方から概要を御説明いただけるということですので,お願いいたします。 ○合田委員 今,御紹介ありましたように,今日は資料4ということで席上配布していただいておりますけれども,去年の12月に最高裁の方で公表いたしました「裁判員裁判実施状況の検証報告書」につきまして簡単に説明します。   まず,この報告書の作成された趣旨ですが,「はじめに」の部分にありますように,最高裁事務総局におきまして,裁判員法附則9条の趣旨を考慮しまして,裁判員裁判の運営に当たってきた裁判所の立場から実施状況を実証的に検証するために作成したということであります。   次に,この報告書には図表や文章がいろいろ載っておりますが,その結論的なところといいますと,42,43ページの「あとがき」という部分に,まとめ的なことが書いてあり,次の2点に集約されると理解をしております。   1点目は,この裁判員制度ですけれども,国民の方々の高い意識に支えられて,3年間比較的順調に運営できたということでございます。   以前にもこの場で,選任手続期日における候補者の方々の出頭率等についてお話ししたことがあったという記憶ですけれども,この報告書ですと,48ページの図表5にそれが載っております。制度施行からの3年間を通じますと,呼出が取り消されたりせず,選任手続期日に来ていただくことになっていた方々のおおむね8割の皆さんが裁判所に来てくださっています。   また,120ページの図表86のところの,まず上のグラフですけれども,裁判員に選ばれる前にどうお考えだったかというと,「積極的にやってみたい」「やってみたい」と考えていた方が,事前段階でも約3割おられました。さらに,下のグラフですが,これは任務終了後の感想をお尋ねしているのですけれども,約95%の方が「非常によい経験と感じた」あるいは「よい経験と感じた」と回答されています。   これらは先ほど触れました「あとがき」の部分に記載がございますように,参加された国民の意識,感覚,生活実態等を含む全体としての日本の国民の受け容れ能力の高さということの現れであるという具合に理解されるところでありまして,そのような国民の方々に支えられて,この3年間は比較的順調に運営できたと,こういうことでございます。   また,この報告書の結論的なところの2点目ですが,これは制度はそう運用されてきたんですけれども,しかし,法曹の側としてはまだまだ努力すべき点があるということです。「あとがき」の表現ですと,43ページのところに,「しかし,先に述べたような国民の高い意識を維持し,制度を定着させていくためには,本文中でも指摘したように,様々な面で,法曹の側が裁判運営の技術の向上を図ることが必要である」という記載がありますが,そういう点が課題として残るということでございます。   この報告書の文章の部分には,そのような法曹の側で努力すべき点の代表的なものとして,二つのことが挙げられております。それは公判前整理手続の長期化の問題と,それから公判審理の在り方の問題であります。   最初の公判前整理手続の長期化につきましては,本文部分で,統計数値を検討して,起訴から判決までの期間が裁判官裁判時代と比べて長くなっていることが指摘され,では長くなっている原因がどこにあるかというと,公判前整理手続の長期化にあるという具合に分析がされております。この問題につきまして,この報告書は,「関係者の相互理解のもとに健全な運用を重ね短縮化の努力を続けていくことが必要である」,13ページでございますが,自白事件に関して,そのように記載しておりまして,また否認事件につきましても,14ページからのところでございますけれども,同様の趣旨,「特に,弁護人の予定主張記載書面の提出,法曹三者の打合せについては,今後,合理化,短縮化に向けた努力が払われる必要があろう」という指摘をしているところでございます。   あと一つの公判審理の在り方につきましては,72ページから75ページにあります裁判員経験者へのアンケートの結果において,審理内容の理解のしやすさ,あるいは法曹三者の法廷での説明などの分かりやすさという点について「分かりやすかった」などとする回答の割合が年々低下しているということがまず指摘されております。そして,この点に関連して,意見交換会において,裁判員経験者が書証と人証について述べた感想,これは図表の41,42にございますが,それを検討して,本文部分で,「人証については,「尋問者,証人によって左右されるけれども,臨場感があって記憶によく残る」というのが全体的評価である。これに対し,「調書は論理的で理解しやすい」という意見もあるけれども,「その朗読による証拠調べでは集中力が続かない,印象に残らない」といった評価が多い」という具合に記載しています。   これらを踏まえまして,この報告書では,公判審理における今後の課題について,自白事件につきましては,「主要な事実については公判廷で証人尋問を行うというのが一般的なものとして定着していくことが必要である」,20ページでございますが,そのようにまとめています。また,否認事件につきましても,同じ20ページで,「審理に個別性の強い,事実関係に争いのある事件については,今後の運用を通じて望ましい審理方式を検討していく必要がある」という具合にまとめているところでございます。   今回の報告書の趣旨は,今述べたところでございますが,あとこの検討会におきまして既に話が出た点に関連しまして,2,3点だけ付加して述べますと,一つは,実際に選ばれて職務に従事していただいた裁判員の方の構成についてです。53ページから55ページの図表の14から16というところに,実際に選任された裁判員の方の年代別,職業別,性別の比率というのが載っており,それぞれについて,国勢調査の結果がどうなっているかということも記載がございます。全体としては年代,職業,性別の分布は,国勢調査の結果と大きく変わらず,全体としてはということですが,おおむねバランスがとれたものになっているという分析がされているところです。   それから,裁判員裁判の判決結果,これにつきましても前に一度ここで御報告をした記憶がございますが,全体としていいますと,これまでの裁判官裁判と極端に異なってはいないというものの,やはり罪名によって若干重くなったものがある一方,執行猶予になるものが増えるなど幅が広がっているということが示されております。この報告書ですと,図表の52,53ですね,52は枝番がたくさん付いているので,ページ数では83から91ページになりますけれども,前にここでお示ししたのと同様の罪名別の表が載っておりまして,その分析によれば,今言ったようなことが言えるとなっています。   あと一つ,裁判員裁判対象事件の保釈の許可率でございますが,110ページから111ページの図表74から76というのが統計でございまして,裁判員制度施行後の裁判員裁判対象事件の保釈率,これはそれぞれの罪名の事件の勾留された人員中の保釈により釈放された人員と,こういう割合でございますが,それを総数・自白・否認の別で見ますと,いずれも保釈の許可される割合が上昇していることが示されております。   私の方からの説明は以上でございます。 ○井上座長 ありがとうございました。   何か御質問等がございましたら,どなたからでもどうぞ。 ○前田委員 御指摘の点,弁護士会や弁護人の立場からも,もっともだと思われる点がございます。公判前整理手続の長期化,公判審理における当事者としての説明の分かりにくさなどは,これまでも随所に,いろんな場で御指摘を受けてきておりますが,弁護人として,公判前整理手続が長くあれば良いとか,あるいは公判審理の説明が分かりにくくてよいなどと思っているわけではありません。ただ,それなりに努力はしておりますが,求められる水準までなかなか追い付いていかないという実情がございます。   特にこの検証報告書で,弁護人が公判前整理手続の中で行われる証拠開示の手続等に習熟していないのではないかという趣旨の御指摘がありまして,それに関しましては,更に弁護士会等でも,研修等を重ねまして,未習熟による遅延などがあれば,そのようなことは何とか克服をしていきたいと検討しておるところでございます。 ○井上座長 ありがとうございます。   ほかの方はいかがですか。 ○土屋委員 今の報告書の8ページに,裁判員候補者の出席率について検討課題の指摘があるんですが,今後を考える上で少し気になる話かなと実は思っておりました。出席率が若干低下してきているのではないかという指摘です。「辞退率の上昇と出席率の低下という傾向が現れてきている」と書いてあるんですが,今日,配布されました資料で見ますと,出席率はまた回復して78%まで来ています。傾向を言うには早いと思うんですけれども,実際の裁判員の確保という点から考えますと,出席率が50%を割るような傾向が出てきた場合にはイエローサインが出ているというふうに捉えるべきだと思っておりまして,そのくらいのところ,水域に近づいてきたときには,具体的な確保の対策について,もっと真剣に考えなきゃいけないという気がしております。   以上です,感想ですが。 ○合田委員 それはもう50%台といいますと,今より大分数字のかい離がございますが,万一そういったことになれば,当然,私どもの方も深刻に受け止めることになります。今は上がったり下がったりする部分もあるので,ある程度の期間の傾向として,どう見ることになるのか,もうちょっと見なければ分からないところもあるのかもしれませんが,ただ,制度開始のころと比べると,下がってきている部分があるのは事実だと思うんですね。その原因を確実につかんでいるわけではないのですが,やはり職務従事予定期間が長いと,どうしても辞退率も上がりますし,それから,来ていただくことになっていても実際には選任期日に来ていただけない方の率も上がっているようなんですね。ある意味当たり前ですが,来ていただきたい日数が長くなると,都合がつかない方などが増えるということだと思います。制度開始当初は,そんな長い期間のものはなかったんですが,その後,だんだん否認事件等で長い期間の事件が入ってきているので,それが影響しているのかなと思います。   ですから,事件の内容に応じて,公判審理に必要な期間は当然取らなければなりませんし,評議期間も不足のないように取らなければいけないわけなんですが,他方において適切な審理期間や職務従事予定期間はどうあるべきなのかを考えていくというのも課題なのです。出席率の関係では,今はまずそこを考えていって,その上で更にまた職務従事予定期間の長短とは別の傾向が現れてくれば,その原因は多分違うところにあるのでしょうから,それをまた分析して対応策を考えていくと,こういうようなことになろうかと思っております。 ○土屋委員 今の点なんですけれども,経済的な不況がちょっと影響しているのかなという感じを持っております。つまり企業も自営業者も,裁判員として出ていくには前よりも仕事がきつくなって,経済状況の悪化の影響で出席しにくい事情が生まれているのかなということを心配しております。その点も数字に大きな変化が現れるときには意識して調べていただけるといいかなと思います。   以上です。 ○合田委員 分析のときの視点のことですので,そういった視点も持っておく必要があるのではないかという御指摘は,承らせていただきたいと思います。 ○井上座長 あとは地域差がどれだけあるかということだろうと思いますね。   ほかによろしいですか。   それでは,この点はこのくらいにしまして,論点についての議論に入りたいと思います。   本日,最初に御議論いただくテーマは,論点整理の七つ目の大項目,すなわち,「裁判員等の義務・負担に関わる措置等」であります。中項目が幾つかありますが,一つ目の中項目は,「裁判員やその経験者の負担に対する措置について」ということであり,小項目として,「裁判員等の心理的負担への対応その他のケアの在り方について」と「守秘義務の範囲等について,裁判員等に十分な説明がなされているか」という運用上の問題点が挙げられております。   これらの点について,御意見等がありましたら,御発言いただきたいと思います。 ○前田委員 これに関しましては,日弁連で意見書を取りまとめておりますので,その意見書の内容について,若干説明をさせていただきます。   先に資料として配布をしておりますが,日弁連では,裁判員等の心理的負担を軽減させるための措置に関する裁判員法の新設を提起しております。その内容は,「裁判所は裁判員及び補充裁判員が,審理,評議及び評決を行うことに伴う心理的負担を考慮して,裁判員等の任務終了時及び終了後において,心理的負担軽減のため別に規則で定める適切な措置を講じなければならない」という,一条項を設けまして,あとは規則に委ねていますが,規則といたしましては,以下の項目について裁判所が裁判員等に説明する旨を規定するべきであるとしております。   一つ目は,同じ裁判体の裁判員等同士が希望した場合には,互いに連絡先を交換することができること。2番目は,事後的に希望があれば,裁判所が同じ裁判体の裁判員等同士の連絡のあっせんを行うこと。3番目は,同じ裁判体の裁判員等が希望した場合には,臨床心理士の立会いの下,グループワークを実施すること。4番目として,守秘義務の範囲,5番目として,裁判所が実施するメンタルヘルスサポート体制の説明及び利用促進を促すことでございます。   裁判員裁判が始まりまして,今年で4年を迎えるわけですが,裁判員裁判が国民的基盤を持ってきちんと運営されていくためには,裁判員に係る情報を国民が共有化することが望ましく,そのためには現在の裁判員法に規定されている守秘義務を前提としつつも,その罰則規定を変更したらどうかという提案をしているのが日弁連でございますが,その守秘義務の規定との絡みもございまして,裁判員の負担軽減に関する措置を提案しております。裁判員の守秘義務と,負担軽減の措置というのは連動するところがあるわけでございます。   それで,弁護士会で議論をしておりましたときには,裁判員等同士の連絡先の交換につきましては,各裁判体によって違っていたようですが,全体として必ずしも徹底していないのではないかと見受けられました。   ただ,その後,既に私が今指摘しました五つの項目のうち,一や二に関しましては裁判所においてほぼ実施されているというようなこともございますし,その他の項目につきましても,裁判所の方で十分配慮しながら運用されているということでございますので,我々の議論の中でも規則化するまでの必要があるのかという議論はございました。現実になされているのであれば,そこまでする必要はないという議論でございましたが,この意見書の中にも書いておりますように,現状の運用が悪いというわけではございませんが,運用を徹底させるために規則化を図るという提案になっているわけでございます。   趣旨としては以上でございます。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○四宮委員 私は,裁判所が裁判員あるいは裁判員経験者の心理的な負担の軽減のために,いろいろと御尽力いただいていることを高く評価したいと思います。前回もちょっと申し上げたんですけれども,個別の裁判員経験者の相談に応じるだけではなくて,同じ事件を担当した裁判員と裁判官,グループとして何か対応というものができないだろうかと。今回の検討会の直前に事務局から頂戴したハワイ大学のマーク・レヴィンさんたちの論文を拝読しましたけれども,その中では,アメリカでは陪審員の心的外傷の問題に取り組むための様々な方策が実施されていて,幾つかの法廷では裁判官が精神衛生の専門家とともに,公判後に陪審員と事案について話し合う機会を持っているというような報告があります。   前回,合田委員から,事件によっては判決言渡しの後で評議室に戻って,そして意見交換をすることが一般に行われていると伺いました。それは大変いいことだと私,思いますけれども,こういう精神衛生の専門家も,個別に相談するルートは開いていらっしゃるということもありますので,そういった方々の協力も頂きながら,ケースによっては,もちろん裁判所の裁量で,そのような方策を運用として採っていく方向を御検討いただけないかと思います。 ○井上座長 合田委員,いかがですか。 ○合田委員 まず,前田委員の御指摘の関係ですが,もう既に前田委員の方のお話の前提となっておりましたけれども,別な機会にも申し上げましたように,運用上の工夫としてはいろいろやっているところでございます。余り繰り返しになってもどうかと思いますので,大まかなところで言いますと,一つは,選ばれた直後の段階で,ともかく夜間でも連絡が付くような連絡先というものをお伝えします。東京の場合では連絡先を書いたカードをお渡しをします。それでいつでも連絡が付けられるようになっていることが前提となって,さらに,審理や評議の場面では,何か気にかかることとか,おつらいことがあればいつでも言ってくださいという話もいつもしていますし,それから結論はみんなで出していくものなので,一人で抱え込むというものではありませんというようなことも,折に触れてどの事件でもお話をする。   それから何よりも大切なのは,一緒にいる間に,私どもはなるべく個々の方の御様子に目を配っているつもりでありまして,おっしゃらなくても,やっぱり何か引っかかるところがあるのではないかというところをなるべく見ているつもりです。何かちょっと気になれば,やはりこちらから声をおかけする。皆さんの前がいいのか個別がいいのかというのは,また選ばなければいけないんですけれども,ともかくなるべくアンテナを広げ,分かる範囲において素早く対応していく。   あるいは,証拠調べのところで,よく話が出ますが,例えば,御遺体の写真等について,本当に必要なものは,やっぱり調べなきゃいけませんし,だけれども,どのぐらいの範囲にするのか,あるいはどういう格好でやるのかといったような辺りについては,いろいろ工夫をするというようなこともございます。   あと,事後的な点としましては,先ほどの連絡先を裁判員の方同士で,その場でやり取りしているという場面があっても,それは全然止める必要はないので,御本人たちがそうするというのであれば,やっていただいています。終わった後に他のメンバーに連絡を取りたいという場合は,これもこの間,お話ししたような形で中継ぎをしているところです。   あと,メンタルヘルスの関係も,先日お話ししたとおり,後でも使える制度にして,その点も含めて説明をしています。このように,思い当たるところについては,できる範囲で手を打って,運用の工夫をしてきているつもりでございます。規則等の要否につきましては,私の立場としてはなかなか意見を言いにくいのですが,ただ,今後もそういった裁判員の方々の心理的負担をなるべく軽減してやっていくというための努力だとか,そういう視点というのは忘れずにやっていきたいと思います。   それから,四宮委員からお話のあった点ですけれども,その場面で,そういう心理面とか,そういう方の専門家にすぐ来ていただくことが可能かどうか,どういう準備をして,どうやってやるのかとか,いろいろ検討課題がございますし,アメリカの場合ですと,陪審員制度なので,裁判官が評議に入っておらず,終わった後ということになるのでしょうけれども,日本の裁判員制度の場合は,ずっと裁判官が一緒にいるということもございまして,その差もあろうかと思います。そういった御提言もあるということは承らせていただいてという具合に思っております。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○菊池委員 今,合田委員からお話がありましたように,実際の運用として,様々な工夫がなされているというところでもございますし,個々の事案や裁判員に応じて,臨機応変あるいは柔軟な対応が求められるべきものであって,これとこれとこれを説明しておけばいいんだと,そういう話でもないと思いますので,法律等に何か規定を設けなければいけないという類の話ではないのかなと思います。 ○井上座長 分かりました。 ○前田委員 そういう御意見があることはもちろん分かります。ただ,裁判員の選任手続における被害者のプライバシー等に関する保護の問題でも若干議論になりましたが,これに関しましても,現状としては,裁判所が運用の上で相当に配慮してやっておられるので必要性は高いとは思えないが,配慮義務の一文を法律に置くこと自体には,特に反対する理由もないという,そういう御意見もございましたので,そのような観点を含めて御検討いただければと思います。 ○井上座長 ほかにこの点,御意見ございますでしょうか。   なお,本日,御欠席ですけれども,山根委員から,このテーマに関係する御意見も頂いておりますので,事務当局の方から簡単に御紹介いただけますか。 ○東山刑事法制企画官 机上配布しております山根委員提出資料の中身でございますが,この論点につきましては,概要,「裁判員経験者の体験談がもっと伝わるような工夫が求められる」,「量刑や更生について学習する機会が少ないのではないか」,「守秘義務の範囲について,何を話してはいけないのかについて,分かりやすく説明してほしい」,「専門的な事項について知識のないことが裁判員にとって過度な負担となることはないか」というような御意見が述べられております。   以上です。 ○井上座長 今の点も含めて,更に御意見があればお伺いしたいと思いますが。   よろしいですか。   では,次の項目に移ってよろしいでしょうか。   次は,「守秘義務の範囲等の在り方について」という論点でございます。   これも山根委員からは,提出資料にありますように,「今後の改善に生かすため,あるいは裁判員の心理的負担の軽減のため,評議の内容についても義務を緩和できるところがないか検討いただきたい」という御意見を頂戴しております。   この点は,前田委員が法改正を行うべきであるという御意見を既に述べられていたと思いますので,御趣旨等について,改めて簡潔に御説明いただければと思います。 ○前田委員 日弁連では守秘義務に関する立法提言を取りまとめ,裁判員の経験の共有化をできるだけ国民的にするという意味合いで,現行の守秘義務規定の中から,罰則で禁じている項目を減らすべきであるとの提案をしております。   内容といたしましては,評議の秘密のうち,裁判官又は裁判員の意見を,当該意見を述べた者の特定に結び付く形で漏らす行為,これは罰則の対象にする。   裁判員の職にあったものが,裁判員の任務が終了した日から10年が経過する前に,事実の認定又は刑の量定の当否を述べる行為も罰則の対象にする。さらに,評議の秘密とは別個の職務上知り得た秘密を漏らす行為については,現行法どおり罰則の対象にするが,それ以外は罰則の対象から除外してもいいのではないかという意見です。   評議の秘密のうちの当該意見を述べた者の特定に結び付かない形での意見の表明,多少の数と評議の経過,これらはいずれも現行法では罰則の対象になっていますがこれを除外する。それから,事実の認定又は刑の量定の当否に関しては,裁判員が10年という期間が経過した後に述べる行為について罰則の対象から外すという意見です。   裁判員裁判の経験を共有化して,裁判員裁判を国民的な基盤の下に運営するためには,もう少し評議を含めて,自由な裁判員の意見表明ができていいのではないかと,こういう趣旨から提案をしているものです。そのことが裁判員の負担をある程度軽減する,そういう方向にも働くのではないかと考えての提案です。   以上でございます。 ○井上座長 それでは,今の御説明も含めまして,この論点について,皆様の御意見をお伺いしたいと思います。どなたからでも結構ですが,どうぞ。 ○大久保委員 私は,その緩和をするという考え方自体に反対をしたいと思います。裁判員裁判が被害者にとって何が負担になるのかということのその一つの中に,被害者の名誉やプライバシーが本当に守られるんだろうかという辺りがとても不安に思うからなんですね。ですから,その守秘義務というのは万全な範囲としておくべきものだと思います。   例えば,大都会では,確かに事件が次から次へと起きまして,人々の記憶にもそんなにも残りませんし,隣の人がそれに関与していたというようなことが事細かにささやかれるというようなことはないと思いますけれども,地方では,自分が発言したことが回り回って,また自分に戻ってくるということがよくあることなわけなんですね。ですから,そういう地方の実態もしっかりと考えていただきたいと思いますし,また地方ほど人間関係も濃密ですので,匿名性が保たれるというようなことは全くありませんで,口コミでどんどん広がってしまいまして,被害者が事件に遭う前に住んでいたその場所で住み続けることができなくなるということがよくあることですので,この守秘義務というのは緩和をすべきではないと思います。   それと,前田委員が今,10年,30年後ということもおっしゃいましたけれども,被害者にとりましては10年たとうが30年たとうが,自分が被害に遭って,そういう刑事裁判があったということは,つい先ほど起きた出来事であって,死ぬまでそのことから逃れることができないわけなんですね。ですから,裁判員の現職であろうが元職であろうが,やはり守秘義務というのはしっかりと義務として守っていっていただきたいと思いますので,緩和には反対です。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。 ○島根委員 幾つかの守秘義務の対象から除外すべきではないかとの前田委員の御意見がありましたが,その前提というか,そもそもどうしてこの守秘義務の問題が出てくるのかということで,考えてみたいと思います。私も,立法当時に,かなり国会等でもいろいろな議論があったというのは聞いておりますが,まず前提として,確かに国民にとっては裁判員という全く新しい仕事をやらされて,なおかつそれに罰則というような制裁があるということで,感情的にはちょっと重いなというように受け取られているんだろう,そういうお気持ちというのはある程度分かりますが,やはりこうやって守秘義務という形で担保しようというのは,恐らくこの裁判の制度的な運用の保障ということを図るために,そういう義務規定が必要であろうということで置かれているものと思います。   一国民が一国民として,例えば,ある判決内容について意見を持つ,そしてそれを表明するということはあるのだろうと思いますけれども,やはり一時的にではあれ,裁判員という一定の法的にも重要な位置を与えられる,そういう立場に就かれた方が,一定の必要性の下に制約を課されるということは,先ほどのようなこの守秘義務の目的からすると,やむを得ないのかなというように考えております。   それから,先ほど一般的な話として,経験の共有を妨げるようなおそれがあるのではないかと言われた,そこの部分も,言葉としては分かるのですけれども,今一つどういうことをイメージされておられるのかなというのがよく分からないところがあります。先ほどの最高裁の方からお示しになられました資料の中でも,裁判員がそれぞれ自らの経験について語り合うというようなことは一定の範囲で行われているわけなので,そういう意味であれば,今後の裁判の制度の在り方とか,刑事手続の在り方について,一定の実となるものに結び付けるという意味での経験と共有というのは大事なのかもしれないですけれども,個別個別の一件一件のそのケースについてのやらなければいけないということが何かあるのかなというところで,ちょっと疑問を感じるというところがございます。各論のこういうところは外すべきではないというような意見まで申し上げるところまではありませんが,ちょっと全体的な印象として感じているところを,初めに申し上げさせていただきます。 ○井上座長 もう一つ,制度設計のときの議論では,この守秘義務を設ける趣旨として,裁判員になられた人,あるいは将来なられる人自身を守るということがありました。つまり,お互いに守秘義務を負うことによって,評議で自由かっ達な議論ができるようにする。思い付きの議論であっても自由に述べられるようにするということです。そして,守秘義務についてのアンケートなども,どっちのサイドから質問するかによって答えが違ってくるということがあります。「守秘義務をなくし,議論の中身などが外に明らかにされるということで良いですか」という聞き方ですと,「嫌です」という答えが返ってくるけれども,「裁判員を務めた後もずっと守秘義務が課され,罰則もついているというので良いですか」という問い方ですと,「それも嫌だ」という答えが多くなる。こういうふうに振れるので,アンケートというものの評価もなかなか難しかったのです。そういう面もあるということを念頭にお置きくださればと思います。   ほかの方は御意見いかがでしょう。 ○四宮委員 この3年,もう4年目になるんでしょうか,守秘義務に関する運用というのは,裁判員,補充裁判員等の皆さんによく理解されて,またその必要性を御理解いただいていると思います。   今,座長からお話がありましたように,この守秘義務の趣旨というのは,一つは裁判の公正と,それに対する信頼を確保すると。それからもう一つ,これも重要ですが,評議における自由な意見交換を確保すると。そして3番目に,事件関係者のプライバシーを保護するという,この3点ぐらいかなと思います。   もう一つは,国民的基盤の確立という趣旨から作られた裁判員制度,今日,山根委員も御指摘のとおり,経験者が語る,経験を語ることの重要性ということもあるだろうと思います。   その守秘義務の現状について,裁判員等の方々からの御理解をいただいているんですけれども,なお,最高裁で集められたアンケートを見ますと,他にいろいろな御意見も出ていると。一つは,守秘義務の範囲が分かりづらいという御意見が結構ございます。定義や範囲が曖昧で,何を,どこまで話していいのかが判別し難いとか,公表してよいことといけないことについての明確なガイドラインがあると負担が減るとか,ちょっと気になったのは,守秘義務の説明が一部難しく,黙っているのが一番というような意見もあって,これはちょっと心配なところでした。   それからもう一点は,精神的な負担の軽減ということが守秘義務との関係で語られているということです。ここは酒巻委員からは,もうそういうステレオタイプな議論はやめたらどうかという御提案もございましたけれども,現に裁判員等の方々のアンケートの中に,友人などに裁判員のことについて話せれば心理的な負担も減らせるので,もう少し踏み込んだ情報があるといいとか,精神的な負担感の解消というものは,公判で明らかになった内容や経験した感想などを他人に話してねぎらってもらうことで,気持ちが徐々に落ちついたとか,どこまで言っていいのかの線引きをはっきりさせれば,裁判員の精神的な負担も軽くなるのではないかなどの御意見がございました。   それでは,この点,どう考えるべきかということでございますけれども,先ほどの守秘義務の趣旨から考えますと,どの価値を優先させるのかという考量の問題になるんだろうと思います。やはり裁判員が評議で自由に発言できることということが非常に重要だし,プライバシーを守るということも大変重要だと思います。ですから,評議の秘密というものが一定程度で確保されることは当然のことであろうと思います。   問題は,その趣旨から守るべき評議の秘密というものの中身だろうと思います。現在の解釈では,また立法と解釈では,評議の秘密というのは評議の経過,それぞれの裁判官,裁判員の意見,その多少の数ということになっております。このうちそれぞれの裁判官,裁判員の意見というものと,その多少の数というのは非常に明確ですし,自由な評議を確保する上で秘密を守る必要性が極めて高いものだと私は思います。ですから,これが守秘義務の内容とされていることは当然だろうと思うんですね。ただ,問題はその「評議の経過」というもので,これが非常に漠然としているために,裁判員等の経験者の方々に,先ほども申し上げたような不安があるのではないかと思います。   そこで,その評議の秘密の中から,「評議の経過」というものを外すということが検討できないだろうかと思うのです。「評議の経過」とは何かというのがまたあると思いますけれども,例えば,立法当時に議論されていた紹介としては,評議で議題とされた事項の内容,例えば,被告人は現場にいたかどうかが議題にされたというようなものも,これに入ると説明されておりましたし,評議における審議過程,例えば,議題を審議した順序はこうだったというようなものも含まれると説明をされていました。ただ,私はそのようなことが個々の裁判員,裁判官の自由な意見表明を具体的にどのように阻害するのだろうかと思うわけです。もちろん,今,私が申し上げている,「評議の経過」を評議の秘密から外してはどうかという提案は,繰り返しますけれども,各人の意見や,その多少の数は秘密事項であるということが前提であります。例えば,いろいろ様々な意見があったというようなこと,裁判官からのこの点についての説明は分かりやすかったなど,それらは,「評議の経過」ではあっても余り弊害はないのではないかということであります。   裁判員の経験者の意見の中でも,ある程度評議の中身を外部に明かした方が,国民にとって裁判員制度は分かりやすくなるという御意見や,評議の流れだけでも話せれば,これから裁判員になる人の参考になるという御意見もありました。また山根委員のペーパーの中にも,評議の中身でしたか,評議の内容においても緩和できる部分がないかという御指摘もあります。   ですので,長くなって恐縮ですけれども,私の提案は,評議の秘密の中から「評議の経過」を除く方向での検討,立法的な検討をされてはどうかということであります。また,このことは裁判員法が審議された際に,衆議院と参議院のそれぞれの法務委員会で,守秘義務の範囲の明確化に配慮する旨の附帯決議がなされましたけれども,これらにも応えることになるだろうと思います。   なお,最後に一つだけ加えますと,判決の当否については,評議の秘密ではありませんけれども,話してはいけないということは現行法のとおりという意見であります。   長くなって恐縮です。 ○井上座長 という御意見ですけれども,いかがでしょうか。 ○酒巻委員 私の意見は現行法を変更する必要はないということですけれども,関連して合田委員に質問があります。評議の秘密に関する現行法の枠組みそれ自体は適切・妥当な設計だと思っておりますし,その制度趣旨も,これまで多くの方々が言ってくださったとおりであると思いますが,最大の問題は,普通の人にこれが,これをしゃべるとどっちに入るんだというのが分かりにくいという点であろうと思います。ですから,もう施行の前から,これをできる限り具体的に,普通の人に分かりやすく,これはしゃべっていい,これはしゃべるのはだめよということを,できる限り詳細,具体的に説明してほしいということは言い続けておるところです。それで,四宮委員の御意見は,意見の内容,多少の数,これは分かると。だけど,評議の経過というこの文言が分かりにくいところがあるだろうということでした。そこで質問は,この評議の経過ということについては,裁判所は裁判員の方々に,どんな説明をしておられるのかなというのを,まずお聞きしたいと思うのです。   それからついでに言いますと,裁判員,裁判官の意見の内容,多少の数,評議の経過,この三つの要素は全て私は同格だと思います。区別する理由はない。例えば,審議の順序とか,何を論点に取り上げたかということ,これは評議の経過に当たると思いますが,これ自体が表に出るということは,守秘義務というものの最も核心的な制度趣旨である,評議の場で,何事にもとらわれず自由な意見交換をするということに対する妨げになる。もしかすると外に出るかもしれないという懸念が自由な評議の妨げになるという意味では,意見の内容や多少の数と全く同じで,法的に区別する理由はないと思います。   もし,評議の経過という文言の意味が,すっと分かりにくいんだとすれば,その説明をどうやって具体的に普通の人に伝わるように,今後も運用上努力するのが望ましいかという,そういう問題だろうと思っておりますので,大前提として経過というものについては,どういうふうに裁判所は御説明になっているのかなというのをちょっと教えてもらえば有り難い。 ○合田委員 この守秘義務部分について,感想も含めて申し上げますが,私は裁判員法39条の説明のときに,なぜ守秘義務が必要なのかについては,将来の裁判員裁判における自由な意見交換を確保するためと,今その事件に参加している裁判員の方たち等のプライバシーを保護するため,その二つを中心に説明していました。私もこれまで一緒にやった方が多分200人弱ぐらいになると思うのですが,守秘義務がある理由について,そのような説明をした上で実際にやっていただいた過程において,守秘義務の存在自体が問題じゃないかということを直接言われたことは,今まで1回もないんですよね。   それで,先ほど御説明した検証報告書の図表83に守秘義務に関する意見・感想の統計が載っていますが,これも事前に一般的に裁判員は守秘義務を負っているがどう思うかと尋ねたのではなく,実際に裁判員になった方が,評議を経験された後で,守秘義務というものについて述べたものですので,実際に御経験になると,やっぱり自分が評議のときに述べた内容が外へ出ていくのは困るなと,あるいは将来の事件との関係でも問題だなということを,御自分の御経験で実感していただいたからこその結果だと思うのです。私が東京地裁の意見交換会で直接聞いた方の感想でも,そういう場所に来ていただける方ということを割り引いても,大方の方については,実際の経験をされると,やはりその守秘義務の存在意義でありますとか,それがあるということについては受け容れていただいているという具合に認識しています。ですから,現状の守秘義務の細かい内容について個別にどうかという話ではないんですけれども,やっぱり全体として,今は法定の様々な事項に関するものがセットとして守秘義務という形になっていますから,それについては受け容れていただいているという実感を一裁判官としては持っていると,こういうことでございます。   次に,酒巻委員がおっしゃった点なんですが,何が守秘義務の対象かという話をするときに,私の場合にどのような説明をしているかといいますと,その評議において,それぞれの裁判員や裁判官がどういう意見であったのかとか,それから一人一人のことは言わないまでも何対何であったのか,そういったことは,もちろん当然秘密ですと言います。また,それだけではなくて,それぞれの方の意見も途中で変わるような場合もあって,それも外部に出るのは問題なので,そういうところも秘密ですと言います。さらに,評議の全体の流れ,私はよく流れという言い方をするのですが,流れについても,やはり出していただいては問題か起きると考えられますと言っています。私の場合は,評議の経過は,評議の流れという言葉で説明しているということです。   他方において,39条の説明のときから,法廷において見聞きしていただいたこと,関係者のプライバシーをほかに出すかどうかということについては,また別な観点から注意をするのですけれども,守秘義務の説明との関係でいうと,法廷で見聞きしたこと,それから裁判員をやられたことについての感想等については,これはもうしゃべっていただいて全然構いませんからという言い方をしています。   ただ,そういうのはなかなか区別しづらいので,要するにどういうことかというと,この評議室の中で話したことは基本的に秘密にしていただく必要がある。それ以外のことについては,守秘義務の対象にならないと,場所で区別をしてイメージしていただくと,比較的分かりやすいと思うんですけれどもというような説明の仕方も併せてするんですね。   本当は厳格に言っていくと,評議室の中では休憩中に雑談もするので,雑談はどうなのか,休憩中はどうなのかということがあるのですけれども,休憩中にしている雑談でも,結局,事件との兼ね合いがあることについて話すこともあるんですね。ですから,休憩中のことだからいいと言っちゃうと,誤解を招くおそれもあるのです。その辺を何とか分かりやすくと考えると,そういう評決数や流れとかの個別の説明をした上で,大まかに言うと,この評議室の中での話については守秘義務があるという具合に区別していただくと分かりやすいんじゃないでしょうかという,そういう説明をしております。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○菊池委員 私も一般論としては,評議の場における自由な意見表明の機会を確保するという意味で,守秘義務は必要であるし,現行法の守秘義務について,これを改める必要はないと考えております。その立場から,幾つかの細かい点について申し上げたいと思います。   まず,意見を述べた者の特定に結び付く形で漏らす行為に限って罰則の対象とするという内容があったかと思いますが,これについては,例えば,複数の人が,それぞれ発言者は特定されない形で,裁判員の意見を明らかにしたと。ただ,1人の説明からは,どの人が言ったかは分からないけれども,2人の人あるいは3人の人の説明を総合すると,誰が言ったかが分かってしまうというような場合があると思うんですね。そういう形で発言者の特定に結び付くということも考えられるので,そうなると,一番守るべきコアの評議の秘密が,発言者を特定した形で明らかになってしまうことにつながらないかと心配されます。   「発言者の特定に結び付かない方法」というのは,どこまでを想定しているのか,よく分からないところがありますが,例えば,女性の裁判員が2人,若い方と年配の方であるというときに,1人が「女性の裁判員がこう言っていました。」と言い,もう1人が,「年配の裁判員がこう言っていました。」と言うと,その2人の話を総合すると,年配の女性の裁判員が言っていたということが分かってしまうのではないかと思います。そのように考えていくと,特定に結び付かない方法のものについて罰則の対象から外すことについては消極です。   それから,10年程度の経過により解除するという見解についてですが,やはり評議の場で自由に意見を言えることを可能にするためには,10年間は保障されるけれども,10年たったら,評議での意見が明らかになる場合があるよというのでは,やはり安心して話ができないと思います。特に世間が評議の中身に関心を示すとするならば,それは判決の直後であるか,そうでなければむしろ20年,30年たってから再審などによって問題になって,そのときに,どういう評議がなされたのかと関心を持たれるのでしょうから,そういう意味でも,何か期間的な制限を設けて,10年たったら解除だよというのはふさわしくないと思います。   以上です。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。 ○前田委員 提案をした立場ですので若干付言します。守秘義務は,弁護士の職業を成り立たせている重要な柱ですから,弁護士が守秘義務にはかなりセンシティブで,いろいろ気を遣っております。裁判員裁判に関しましても,大久保委員がおっしゃった,被害者及び関係者の方のプライバシーを守る必要があるとの観点から,職務上知り得た秘密を漏らす行為は罰則でもって制限することは肯定しています。   一方で,井上座長が指摘された,現在の裁判員の評議での自由な意見表明,あるいはその後に裁判員となるかもしれない人たちの自由な意見の表明を妨げるようなことがあってはいけない。それを守るために守秘義務が必要だとも言っています。この考え方は,共通基盤を持っていると思います。ただ一方で,裁判員裁判における裁判員の経験を,もう少し広く共有すべきではないかという山根委員の御意見等もありまして,そのための守秘義務の緩和の線引きをどうしたらいいのかということでいろいろ頭を悩ませました。現行法もよくできていまして,合田委員がおっしゃいましたけれども,評議室の中のことは話しては駄目だが,評議室の外のことは話していいですよという区分けは分かりやすいと思います。我々が検討の上,出した案は,今,菊池委員から御批判がありましたように,線引きが非常に難しいという難点は持っていますが,ここでのコンセプトは,誰が何を言ったかという意見を特定して述べることで線を引いて,発言者の特定がなければ,評議における自由な意見の表明は守れるのではないかと,考えての提案です。それでも,自由な意見の表明の妨げになるという評価であれば,そのような線引きでは駄目だということになりますが,誰が何を言ったかが特定できなければ,評議に関わる裁判員,あるいは将来,裁判員となろうとする方の自由な意見の表明は妨げられないであろうという理念の下に,このような提案をしています。その評価自体が間違いであるという考えはあり得るところで,御批判があることは承知しておりますけれども,守秘義務に関する日弁連のコンセプトは,以上のようなものです。 ○井上座長 先ほど島根委員が疑問を呈された点が,私もよく分からないものですから,私からもお伺いしますけれども,そういうふうに線引きすれば,どういう情報等が外に出て,経験の共有ということに結び付くのでしょうか。その経験の共有というのが一般論にとどまっていて,具体的な提案として,守秘義務を解除される部分によって,どういうことが明らかになり,どういうメリットがあると考えられるのか,それが果たして,そしてどういう意味で経験の共有に結び付くのか,そういった各論の御説明がないように思うのです。   しかも,御説明には二つのことが混在しており,自由な意見の交換を確保するためという視点で区切ったのだということでしたけれども,最初の方のお話は,経験を共有するためにここで線を引く,守秘義務を解除するのだということでしたので,御説明の筋がずれてしまっている気がするのですね。   もう一つの点は,皆さんの御意見の中で,分かりやすいか分かりにくいかということが問題にされていたと思うのですが,今の前田委員の説明ですと,こういうふうに区切ってしまうと,かえって分かりにくくなるというように聞こえるところもありましたので,三つの目的ないし趣旨が整合しなくなっているのではないかという感じがするのです。少なくとも島根委員の提起された疑問点については,私も御説明がよく分からなかったものですから,もし,更に御説明があれば,お願いしたいと思います。 ○前田委員 ストレートにこうなるはずだということはありませんが,我々の提案だと,裁判員経験者の方が,評議の秘密のうちの,誰がその評議の中で,どういう意見を言ったかということだけは,言っては駄目ですよという縛りで,それ以外はしゃべれるということになります。分かりにくいところが最大の難点かもしれませんが,それだけの縛りであって,評議の経過や,多少の数について,評議の内容を漏らしても罰則の対象にはしませんということになると,評議の内容が今よりも自由に言えることになり,ストレートというわけにはいかないけれども,そのことが広く裁判員自身の経験を共有化することになるんじゃないかという,そういうことです。 ○井上座長 今のお話を伺っても,まだよく分かりませんね。もう一つ付け加えますと,推進本部の検討会で出た議論として,おっしゃるような守秘義務が解除された範囲で裁判員を務めた一部の人がこうだったと話した場合,他の人がそれは違うとして発言しだしたら,結局,暴露合戦になって,守秘義務が及び守る必要があるところまで切り崩されてしまうのではないかという懸念もあるわけです。裁判官は守秘義務があるので,何も言えないわけです。そういうこともあるので,結局,評議の経過についても守秘義務の対象にしなければならないのではないかということで,そういう結論になったものですから,その点も結構重要な点ではないかと思うのですね。 ○酒巻委員 私が手を挙げたのは,「経験の共有」という点について,井上座長がおっしゃったとおりです。経験の共有というのは何のことを言っているのか分からないから,具体的に説明してくれというのが,私のさっき手を挙げた理由です。   それからもう一点,よく出てくるキャッチフレーズは,しゃべれないからつらい,心理的負担というんですけれども,しゃべったら楽になるというのが私はよく分からないのです。それも具体的に説明していただけると有り難いのですが。 ○合田委員 ちょっとさっき,言わなければいけないことを言い忘れました。その心理的負担の話なんですけれども,心理的負担があるとおっしゃる方が,どういう意味でおっしゃっているかは,いろんな場合があろうかとは思うんですけれども,私が幾つか話を伺っていると,実は裁判員裁判で見聞きしたことは,法廷のことも評議室のことも一切しゃべっちゃいけないんだという具合に思われていて,それで何も言えないものだからつらい,こんなことぐらいは言えたらと思うという方が多い印象です。よく聞くと,他の人に話したいのは,評議室の中のことではなくて,法廷のことであったり感想であったりするわけです。実はそれは話していただいて全然構わない事柄であり,それを話すことによって,その心理的な御負担が軽くなるのであれば,それは守秘義務のどこの範囲かという問題ではなくて,もともと守秘義務がかかっていないところを,説明の仕方の問題で,それがうまく裁判所から伝えられていないということで御負担をお感じになっているということになります。守秘義務を肯定的に受け止めていただいている方の中にも,最高裁の報告書にもありますけれども,具体的な線引きについては,もっと分かりやすく説明してほしいという御意見はたくさんあるわけでありまして,さっき,私の説明の例は御紹介しましたけれども,ほかの工夫はないのかという格好での検討というのは,私どものこの部分における運用面での大きな課題だと受け止めておりますので,努力していきたいと思っております。 ○大久保委員 私はその守秘義務は,とにかく現状を維持するということにしていただきたいと思うんですが,その中に人の心理的な面ということで,少し説明をさせていただきたいと思いますけれども,人間の心理の特徴として,その職業上の訓練ですね,先ほど前田委員がおっしゃった,弁護士さんは守秘義務を課せられているので,よく分かっている,そうおっしゃっていましたけれども,人というのは,その他人のプライバシーを知っているとか,あるいは世間が注目をしている事件に,今,自分が裁判員として直接関わっているということは,ちょっととても品の悪い言い方になりますけれども,何となくのぞき見的な高揚感を感じるものでもあるんですね。それはいい悪いではなくて,人の心理としてあるものなわけなんです。ですから,そのことを聞かれたときに,ついつい人にしゃべってしまいたいと思うような気持ちになりますので,そういうときに,また,周りの人も聞きたいという気持ちが出てくると思うんですね。報道などされると,「あなた,あの,もしかしたら裁判員,これどういうこと」と,そう聞かれたときに,私は,先ほどしゃべれないとつらいとかということはなぜかということは,酒巻委員の方から,おっしゃいましたけれども,反対に守秘義務があるから話せないのと言ってしまうことができたら,またどんなに楽なのかと思うんですね。   ですから,人というのは,ついついしゃべってしまいたいという思いに駆られるものだということを,やはり知っておかなければいけないと思いますので,やはり現状のまま維持するということは,とても大事なことだと思います。 ○土屋委員 私だけ意見を言っていない形になっておりますけれども,私の意見は繰り返しになりますが,もう一度言ってしまいます。   私は基本的に,前の検討会でも話したことですが,裁判員は自分の意見は言ってもいいだろうというふうに考えております。あの人の意見はこうだった,この人の意見はどうだったというのはいけないけれども,自分はこういうふうに思っていると,この事件についても,こういう感想を持っていると,こういう心証を持っているということは言っていいのではないかと,私は基本的に思っているのです。   ただし,そういうことをフリーで野放しにしてしまうと弊害が,皆さん,御指摘になっているような弊害が起きますので,その点については一定のコアの部分については義務を課すという方向がいいだろうというふうに考えておりました。そのために,以前お話ししたことですけれども,三つの事項に限って秘密を守るという規定の仕方をすることがいいのではないかという意見を述べておりました。その点について,今も変わりがないかというふうに聞かれますと,非常に悩ましいんですが,基本的には,意見を変更する必要はないと思っております。   そういうことを話しますと,なぜそんなことを言うのか,報道の仕事をしているから,人にしゃべらせて,それを書くのがメリットがあるから,おまえ,そんなことを言っているのではないかというような言い方をされたこともあるんですけれども,決してそういう趣旨じゃありません。何が現実に起きているのか,何が非常にこだわりを持って,自分が言わなきゃいけないと思っていることなのかということは,社会に対して基本的に言えるという状況がなければいけないんだと思っているんです。   それは,記者会見だとか,そういう場でしゃべるとかいうことに限らない,普通の社会人として,基本的に否定されてはいけないことだと私は思っています。自分の意見を言えるという状況を作っても,今の,幸いにして守秘義務違反が起きていない状況というのは,恐らく変わらないんじゃないか。先ほど裁判員制度全体についての国民の受け止めの能力の高さという最高裁の報告書がありましたけれども,守秘義務についてもそういうことがあって,それで殊更ぺらぺらしゃべったりする人がいないということなんだと思います。   ですから,基本的には,そんなにぎちぎちに固めなくても大丈夫かなという,それは楽観的過ぎるだろうと言われてしまえばそれまでなんですけれども,そういう感じを私は持っておりまして,そういう,一人の市民としての在り方を保障する上での守秘義務の在り方というものも考えなきゃいけないことであり,その意味では,守秘義務の範囲について何も設けないというのは一つの選択肢としてあり得ましょう。裁判員法の規定は,不都合な事態が何も起こらないことを求めるならば,十分に理由のある制度の作り方だと思いますけれども,ただ,今の制度がどこがまずいのか,あるいはどこを改めてほしいのか,そういうことを議論するためには,やはり経験の蓄積というのは必要だと思うんですね。   被害者のことが出ましたけれども,例えば,被害者の方の写真を調べるときに,こういうふうにしてもらった方がいいよというような意見というのは,裁判員になった方などにはあろうかと思いますね。そういった意見というのは,一般論として言うことも可能ですけれども,具体的な経験として,法曹の皆さんの研修の機会だとか勉強会だとか,そういうものを想定していますけれども,そういうところで出して議論していくとかいうようなことができた方が,ずっと社会のためになるんだろうと私は思っておりますので,そういう範囲の明確性みたいなことをもっと考えてもいいのかなという意見であります。 ○井上座長 私だけが意見を言ってないのですけれども,個人として意見を言うことをお許しください。   土屋委員が今言われた,個人の自由な在り方ということは一つのお考えであるとは思うのですけれども,例えば,アメリカの例などを見ますと,陪審員経験者みんなが無制約に話すというわけではありませんが,一部の人があらゆることを暴露してしまう,本まで出してしまうという例がまれではありません。しかし,それは事実かどうか分からないのですね,そういうことがないわけではないのですが,陪審でも参審でも,参加した人に守秘義務がかけられていないのは,アメリカだけで,特殊なのです。ほかの国は例外なく,守秘義務がかかっていますので,やはりそれにはそれなりの理由があるのだろうと思うのですね。   もう一つは,経験の蓄積により制度の改善に資するという御意見ですが,守秘義務を部分的に解除ないし緩和することにより具体的にどのような効果があるのか,私にはどうもそこがよく分かりません。現行制度で守秘義務がかかっている中でも,いろいろ経験を話して,例に挙げられた御遺体の写真などについても,別に当の事件でこうだったということまで言わなくても,取扱いを工夫してもらいたいという意見は十分言えるはずで,それで十分制度改善につながっていくと思うのですね。   ですから,今以上にどこか守秘義務を解除しなければ,そういう改善につながるような経験の共有ができないということがどうもピンと来ないということと,そのような点を含め,いろいろな主張があったところを,制度設計する際に議論した。その結果,今のような制度にしたわけですので,それでどういう不都合が現実に起きているのかというと,どうもそれが見えないのです。だとすると,制度施行からまだ4年近くしかたっていない段階で,大きく変える必要はないのではないかというのが,私個人の意見です。   ほかに御意見ございませんでしょうか。ひとわたり御意見を伺ったので,この点はこのぐらいでよろしいでしょうか。   それでは,最後の「その他」に移りたいと思います。   これは本検討会において議論の対象とすべきか否かを含め御議論いただくべきものと整理させていただいているもので,具体的には,証拠開示の問題等があるわけですが,この点については論点整理の議論において,前田委員及び四宮委員から御意見があったと思いますので,更に補足して御説明いただけますか。 ○前田委員 よろしいですか。   以前,証拠開示の問題について意見を述べました。これに関しましては,法制審議会の特別部会でも議論の対象になり,先日の部会の基本構想の中でもテーマに上がっておりますので,その制度改革については私も触れません。ただ運用については,一定の話をここでしておいて,制度改革につながるような議論の素材を提供しておくことは,この検討会の役割ではないかと思って申し上げます。日弁連では証拠開示に関しては,リストの開示を制度化すべきではないかという提案をしておりますが,その背景にありましたのは,公判前整理手続の過程で弁護人が証拠開示請求をしたところ,検察官において,そのような証拠は不存在であるという回答がなされたが,その後の経過の中で,その証拠が存在するということが判明したという事案が,少なからず存在をしていることです。このような経験は私自身も2回しておりまして,最近も東京地裁立川支部の事件で,控訴審でそれが明らかになったという例もございました。   そこで,リスト開示が,そういう事態を防ぐのではないかという提案でしたが,リスト開示を制度化するかどうかは別として,運用でも,そのような事態の回避が相当にできるのではないかと考えております。事案を見ておりますと,検察官が故意に隠したというケースではなく,検察官の手元になかったが後で警察に問い合わせて調査したところ,警察にはあったというようなケースが多いわけです。そういうことを防止する手だてとして,リストによる証拠の管理ができないのだろうかと。そういうことがきちんと実務で確立していれば,現行の方法もよく分からないので恐縮でございますけれども,今,私が指摘し,制度改革の理由となったような事態は,相当程度に回避されるのではないかと思っております。捜査機関において,証拠をリストに基づいて管理すると。そして警察と検察の間で,それを共有化するというようなことが運用上できないのだろうかと考えておりまして,その辺の話を島根委員とか菊池委員に,お聞きできないかということでございます。 ○酒巻委員 もう同じことを何度も言うのは嫌ですが,今のお話は裁判員制度とは直接の関連性がない。島根委員や菊池委員から警察や検察のお話を聞く場所は,ここではないように思います。この問題は,日本の刑事司法全体に関わる問題ですので,ここで議論するのは適切ではないと考えます。 ○井上座長 本検討会の守備範囲外だという御意見ですが,ほかの方はいかがでしょうか。 ○前田委員 よろしいですか,今の意見で。 ○井上座長 どうぞ。 ○前田委員 具体的な数値は忘れましたけれども,公判前整理手続が実施されている事件のうちで裁判員裁判の占める比率は,裁判員裁判の場合必須でございますので,全体の中で相当程度の割合になることは数字的にも現れております。ですから,公判前整理手続の中で起きる問題でございますので,公判前整理手続が必ず行われる裁判員裁判の検討会の運用としてお話をするということは一向に差し支えないし,検討会の趣旨でもあるというふうに思います。 ○酒巻委員 刑事訴訟法の専門家として申し上げますが,正に証拠開示制度とその運用は公判前整理手続の問題であり,公判前整理手続は刑事訴訟手続,日本の刑事訴訟手続一般の問題なので,裁判員裁判の問題点を検討するこの検討会の守備範囲ではないと考えます。 ○四宮委員 理論的には酒巻委員のおっしゃるとおりだと思いますけれども,今,前田委員からお話があったように,裁判員制度では公判前整理手続が必要的とされていること,それから証拠開示の拡大が,私の意見では公正な公判審理に資することは当然だと思います。充実した審理や正しい裁判をしたいと願っている裁判員の期待にも沿うものだと思います。現にこの検討会で頂戴した裁判員経験者有志の提言というものでも,証拠開示を進めることが提言をされております。ですから,私はここで議論することは問題はないと思っております。   ただ他方,法制審の特別部会で,この点に関してはいわゆるリスト開示について,採否を含めた具体的な検討を行うという基本構想の取りまとめがなされたと伺いました。議論の場がどこかということはありますけれども,もし仮に特別部会でその議論が行われるということは,これは決まっているようですので,そこでは是非,いわゆるリスト,証拠の標目等を記載した一覧表を交付する仕組みについて,前向きな方向で議論していただきたい,これは希望でございます。 ○井上座長 今の御説明は,私自身もちょっと理解しかねますね。確かに充実した裁判を実現するということは必要です。必要ですけれども,それは裁判官裁判でも同じことなので,それを超える裁判員裁判特有の問題点というものであるのだろうかというのが,酒巻委員の御質問だろうと思うのです。それにはお答えになっていないような気がするのですよ。 ○前田委員 特有ではないが,裁判員裁判では必ず行われる手続だからということですね。 ○井上座長 それでは説明には恐らくなっていないと思うのですが。 ○四宮委員 そこがこの検討会の使命との関わり合いだと思いますけれども,全く特有,100%ピュアに特有でなければ議論の対象にならないと考えるのかどうかですよね。 ○井上座長 いや,ピュアでなくてもいいんですけれども,裁判員裁判に特化した部分がないと,ここでの議論の対象にはやはりならないのではないでしょうか。そうでなければ,刑事裁判に関することは何でもここで議論してよいということになってしまうでしょう。その事柄自体が重要でないということではなくてですね。 ○前田委員 ですから,制度改革議論としては,しなくともいいと言っているわけです,それは法制審議会で議論されるということで。ただ,最初に合田委員の説明の中にあった最高裁の検証報告書の中にも,公判前整理手続の話が出てきておりますし,そういうことを踏まえて,運用に関しては,ここで議論をしておいてもいいのではないかと,こういう趣旨で言っておるわけでございます。 ○井上座長 御趣旨は分かるのですけれども,他の委員の納得が得られるかどうかだと思いますね。 ○菊池委員 前田委員からは,制度論ではなくて運用論としてというお話ではあるんですけれども,運用論としても,そういうリストを作成して,それを開示することに伴うメリット,デメリットの議論というのは,制度論と同じように当てはまるのではないのかなと思われます。例えば,供述調書とか鑑定書というような標題だけのリストでは余り意味がないと思われる一方,中身を盛り込んでいこうとすると,それは全ての証拠を開示することに等しいことになってしまう。そういった議論が制度論についてなされていると思いますが,そのような議論は,運用として議論しても,やはり同じように当てはまることですので,そういう意味で,制度論と運用論を切り分けて,運用論だけ,しかも裁判員裁判に限った証拠開示ということで議論することができるんだとは,ちょっと考えにくいと思います。   いずれにしても,検察官の方で証拠の開示漏れがあったというのは,ちょっと恥ずかしい事態で,そういうことがないように,個別の事案においては十分証拠の存否を確認して回答するということを,今後とも励行していかないといけないなとは思いますけれども,証拠開示の問題をここで運用論として議論することについては反対です。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○大久保委員 この検討会では,裁判員制度に関わる検討のみをするということを,今までも多分全員で何回か確認しながら,今日まで来たと思いますので,やはりこのことをこの場で今取り上げるということは,ほかの委員の方もおっしゃいましたように適切ではないと思います。 ○島根委員 先ほど幾つか前田委員の方から開示漏れの関係でちょっとどうなんだというような御指摘もございましたが,まず一般的な問題として申し上げますと,私どもの方としては適正な証拠品の管理,それから検察官の方から問合せがあったときに,きちんとそれを調べた上で回答するということをしなければいけないというのは当然なんですけれども,警察庁としてしっ皆で承知しているわけではありませんが,確かに幾つか問題事例があったということも承知しております。それはそれとして,きちんと先ほどの証拠品の管理の問題,それから検察との連携の在り方の問題について,きちんと対処していかなければいけないということは当然として考えておりますけれども,ここから後は,皆様がおっしゃった意見と同じでございまして,この場でそういう全般的な話をするということは,いかがなものかということでございます。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。 ○合田委員 前にこの場でその話が出たときに申し上げましたけれども,この場を,ほかの部会との関係でどういう具合に設定するかというのは,設定された法務省の側で,どういう振り分けでお考えになるかという問題だと思うんですね。   それと,裁判員制度にもほかの事件にも共通に適用される刑訴法の問題の中で,今ここで出てきている論点について,裁判員制度における運用の場合の固有の問題として何かがあるのかというと,どうもそうも思えないんですよね。そうであれば,やはりほかの部会の方において,既に,もう検討事項として出ているということでもありますので,そちらでやっていただくというのがすみ分けとしては適切なのかなという具合に思います。 ○井上座長 法制審特別部会の方で検討するときも,裁判員裁判にも適用があるということは,当然,念頭に置いて検討がなされると思います。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○土屋委員 ここですみ分けをして,法制度の在り方として法制審の方で決めるというのは,それはもう当然だと思うんですね。この裁判員制度に関する検討会の役割としては,裁判員制度との関わりで固有の問題を議論すべきだというのにも異論はありません。けれども,ここでやっぱり大事な問題の一つとして証拠開示があることは間違いはないので,しかも公判前整理を必ず経なければいけないわけですから,そこで証拠開示が適正に行われるというのが,裁判員制度を動かしていく上での基本的な前提になるんだろうと捉えておりますので,そうしますと,そこを素通りしてしまって,全部法制審にお任せするということでいいのか疑問に思います。   少なくとも裁判員制度の在り方を考えていく検討会として,その前提となる部分については意見交換ぐらいしておくべきであろうと考えます。つまり細かい制度の在り方にまで踏み込んで法改正がどうあるべきかというところまで成案を得て提案をするというのは,ここの検討会の役割じゃないと思いますけれども,裁判員制度がきちんと動いて,将来的にも不安がない形で行われるようにするためには,関連する制度も含めて,どういう制度でなければいけないのかということは,十分この検討会のテーマになる話でしょう。証拠開示についてもこういうふうにあるべきだというふうな御意見を持っていらっしゃる方があれば,そういう意見をこの場で述べることは何ら差し支えないと思います。 ○井上座長 御意見は分かりました。   証拠開示の点に集中しましたけれども,それ以外でも結構ですが,更に御意見があれば・・・。 ○四宮委員 これも「その他」でということで区別をされた「手続を二分する」という論点です。事実関係に関する,つまり有罪無罪に関する審理と,それから量刑に関する審理とを分けたらどうかと。また,そのことをこの検討会で議論すべきではないかと以前に申し上げましたが,それも裁判員制度の特有な問題ではないということで,「その他」の方でということになりました。   この点は確かに裁判員制度特有ではないけれども,ベテランの裁判官たちの中にも,特に裁判員制度で検討すべきテーマであるとの御意見がある。実際に実践されてそういうお考え,実践されたのは裁判員裁判ではなかったとしても,特に裁判員裁判で必要な,考慮すべき手続であるという御意見を含めて,ベテランの裁判官が少なくとも3名,私の目にした限りではおっしゃっておられるということで,ここでもそのことを議論すべきではないかということを,もう一度申し上げたいと思います。 ○前田委員 前にも,申し上げましたけれども,制度論としての手続二分論を,弁護士会で意見としてまとめています。これも確かに裁判員裁判特有の問題ではありませんが,裁判員裁判における責任能力が争われる事案ですとか,犯人性が争われる事案等においては,効率的でかつ事実認定に影響を及ぼさないという形での審理ができるのではないかと提案をしておりまして,運用上の問題として議論をするということはあってもいいと思います。 ○井上座長 法制審議会特別部会の方で私自身意見を述べておりますので,詳しくはその議事録を見ていただければと思うのですけれども,個人的意見を述べさせていただきますと,現行法で手続を二分していないことによって,御提案の理由とされているような裁判員の心証形成とか評議に臨む態度とかに非常に悪い影響が及んでいるという事実は認められないように思うのですね。確かに裁判官ないし元裁判官の一部にはその点を懸念して二分論を採られる方もおられますけれども,私が直接聞いた限りでは,むしろ多くの裁判官は,そういうふうに改めないといけないとは考えておられないようです。むしろ,今のように,個々の事件の事情に応じて運用で対応するのが良いという意見の方が圧倒的に多いと思います。   というのも,有罪・無罪の判定と量刑とを区分して審理や評議をした方が良いという事件もあれば,有罪・無罪の判定に関する論点でも幾つかあり,犯人性もあれば責任能力問題もあり,あるいは正当防衛かどうかという問題もある。それらを区分して審理したり評議した方が良い事件もある。他方しかし,犯情の部分は犯罪事実とも密接なわけで,同じ証人がその双方にわたって証言する場合,二度に分けるよりは,一体として証言してもらう方が適切なことも少なくない。そのように,個々の事件の事情に応じて柔軟に運用で対応していく方が良いだろうと思われるわけです。どのような運用をするかについては,当然,公判前整理手続で,両当事者も入って協議して決めることで,それで十分対応できるし,その方が適切なのではないか。そのような意見を法制審特別部会では申した次第です。裁判員裁判を念頭に置いてもです。 ○四宮委員 私の意見は,全て法制度論として,かつ義務的な制度として申し上げたのではなくて,法制度論としても,仮に法制度論として論じるとしても裁判所の裁量にかからせるということになるだろうと思いますし,運用としても,今,座長がおっしゃったような形でやる必要がある,あるいはその長所が,手続を分けることのメリットが活かせる事件もあるでしょうから,それは運用としても是非やっていただきたいと,そういうことを是非検討いただきたいという趣旨でございます。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○大久保委員 このような,もし手続二分というようなことになりますと,被害者としては複数回出廷をするということになりますので,それは大変負担が大きくなりますので,到底受け入れることのできない制度だと思います。人としての尊厳を保つような扱い方ではなくて,正に単に証拠品として,また出てきなさいという形で扱われるような制度になって,それは被害者に新たな二次被害を与えるものではないのかということを大変危惧いたします。 ○井上座長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○合田委員 二分論の話は,前にも申しましたように,運用論のレベルで考えたとして,ではいつもそうやるべきかというと,そうは思っていません。今までやったという例も,運用でやっているわけでありますが,有罪・無罪が争われている事件では,まずその点を決めて,有罪となれば量刑の判断に進むのですが,その場合でも犯情というのが量刑を決める基本になるわけです。事実認定と量刑を分けるといっても,その有罪・無罪の事実認定レベルで検討する内容は,もし有罪ならば,次に量刑を決める際の一番大きなベースになるんだというところがいつも予備的に含まれている事柄としてやるという意味での二分以上ではないということになろうかと思うんですね。   そのような二分ということの性質,あとは今,大久保委員からもありましたけれども,実際に来ていただく証人とかほかの証拠との関係で,二つに分けた場合に,うまく切り分けられるのかという点ですね。被告人はいつも来ていますので,それを二つに分けることはできるかもしれませんけれども,ほかは証人の負担とかを考えますと,二つに分けて2回来てくださいというわけにはいかない場合が多いと思います。そのようなことを思い巡らすと,私などは,その辺はやはりフレキシビリティーがあった方がやりやすいと思います。   四宮委員も運用という面も含めてということでありましょうけれども,そういうやり方も一つのやり方としてはあるということは,今はもう実務家,裁判官はみんな知っておりますので,そういうようなことも踏まえて,個別事件でどうやっていくかという検討をする。選択肢の一つだという具合に踏まえてやっていくし,また,逆に言うと,硬直化させずにそのような扱いでやる方がうまくやっていけるのではなかろうかと思っております。 ○井上座長 ほかの方はよろしいですか。   これらの問題点は刑事訴訟全般にわたる問題であって,法制審特別部会の方で議論がなされていることもあり,ここで取り上げること自体が疑問だという御意見も少なからずありましたし,中身としても,特に手続二分の問題については,現在の運用状況に特に問題があるわけではないという御発言もありました。ここでの議論としては,この程度で終わりにさせていただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。   もう一つテーマがありまして,既に議論をいただいたところですけれども,対象事件の範囲等の中で,「審理が極めて長期間に及ぶ事案を例外的に裁判員裁判の対象から除外する制度の基本的な在り方について」,更にもう一度御議論いただきたいと思います。   事務当局の方から,ここでの議論の趣旨等について補足して説明することがあれば伺いたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 それでは,事務当局から若干説明をさせていただきます。   この「公判審理に極めて長期間を要する事案の除外制度」につきましては,昨年10月の第13回会合で一定程度御議論いただいたところでありまして,そのような制度を設けることに肯定的な御意見がかなり多く見られたと認識しております。ただ一方で,この論点につきましては,具体的な要件等を前提にしないと確定的な意見を述べられないといった意見もあったところでございます。   そこで事務当局といたしましては,この検討会の性格,つまり裁判員法附則第9条により法務省が行う検討作業について,事務当局と密接に意見交換を重ねながら,その作業に必要な協力をしていただくものであることを踏まえまして,まずは,むしろこの除外制度の基本的な在り方,あるいは創設するとした場合に,どのような考慮を払うべきか,そういう観点等をお示しして,自由にまず御議論いただくのが妥当ではないかと考えました。そして,それをまとめたものが本日の配布資料の�E「公判審理に極めて長期間を要する事案の除外制度について検討すべき事項」と題する書面であります。この書面に記載いたしましたように,大きな項目として,「具体的にどのような事案を除外せざるを得ないのか」,「新たな除外制度を設ける趣旨をどのように考えるか」,「どのような観点から除外の対象となる事案を決める制度とすべきか」及び「その他検討すべき事項」というふうに掲げました。   二つ目の大項目には,「裁判員の負担」及び「被告人の裁判を受ける権利」という二つの小項目を,三つ目の大項目には,「公判審理に要する日数」,「公判前整理手続との関係」,「区分審理制度との関係」及び「その他」という四つの小項目をそれぞれ掲げさせていただきました。   もとより事務当局といたしましては,これらの項目に限られずに,委員の皆様に様々な観点から幅広く御意見を伺いますと,正に今後の法務省が行う検討作業にとりまして非常に有益であろうと考えておりますので,御議論の方,よろしくお願いいたします。   事務局の説明は以上です。 ○井上座長 ありがとうございました。   山根委員からも,このテーマについて御意見をお示ししていただいていると思いますので,この点も簡潔に御紹介いただけますか。 ○東山刑事法制企画官 山根委員からの提出資料にも書かれておりますが,概要といたしましては,「公判審理が長期に及ぶと負担は重く,務めることが可能な人が限られ偏った裁判になりはしないかという心配がある」,あと「状況によって裁判官のみの裁判とするなど柔軟・適切に判断することになろうかと思う」,そういった御意見を頂戴しております。 ○井上座長 それでは,一応このペーパーに沿って議論したいと思いますけれども,最初の二つのマルは相互に密接に関連しているように思います。ですから,まずこの二つを併せて議論していただき,その後で3番目のマルを議論していただく。そして,「その他」ということにしたいと思います。まず1番目,2番目のマルですが,これらについて,どなたからでも御意見を伺えればと思います。 ○酒巻委員 この問題を提案したのは私だったと思いますので,考えるところを申しますと,どんな事件を想定するかというイメージは,そう頻繁にあることではない極限的な場合です。関係者全てがどう頑張って争点と証拠を整理しても,著しく長期に及ぶ審理期間が見込まれる,そのような事件です。そしてその結果として何が起こるかというと,一つは今の法律のままでは関与せざるを得ない裁判員,一般国民の方の負担が尋常でない著しいことになる。しかし,国民に一方的義務を課する制度として余りにも過重負担をかけることは適当でないので,それを回避する手段として,法律上,裁判員裁判対象事件ではあるけれども,裁判所の決定によりそれを個別に対象から除外して職業裁判官だけで裁判できるようにする制度が必要であろうということです。   それからもう一つは,資料には被告人の裁判を受ける権利と書いてありますけれども,私はちょっと違う感覚で,被告人それ自体の裁判を受ける権利も含んだところの,やはり刑事裁判制度というものが健全,的確に作動するという,やや抽象的ですけれども,そういう観点があるだろう。その中にはもちろん重要なのは被告人の権利ではありますけれども,単にそれだけではなくて,やはり一定の犯罪事実について,その事案の真相を解明して的確な裁判をするという刑事裁判制度それ自体の健全な作動確保という観点があろうと思います。関係者全員がどれだけ頑張っても,著しく複雑で審理期間が膨大になることが見込まれる場合に,一般国民の方をそこに巻き込んで,著しい負担を負わせるのは適当でないという点と,それから,刑事裁判の円滑な進行に非常に困難が見込まれるため,やむを得ずプロフェッショナルだけで行うのが適当と認められる事案を考えております。   具体的なイメージを,ここで述べることはなかなかできませんけれども,確かに,これまで100日とか,相当長期間の審理・評議に参加された裁判員の方々が非常に頑張っていただいて,うまくいったと皆さんが思っている事件はありますけれども,どんなに頑張っても,気持ちは一生懸命であっても,個人の努力ではどうにもならないということはやはり起こり得るので,制度としてそれはやはり無理があるから極限的な事態を想定して法制度的手当をしておく必要がある。何らかの要件を設ける形で,この問題を具体的に立法化するのが望ましいと思っております。 ○井上座長 ほかの方は,いかがでしょう。 ○四宮委員 確認ですけれども,今ちょうどお話に出た,今までの長期のものというのは,さいたま地裁の100日,鳥取地裁の75日,それから大阪地裁の60日だったと思いますが,これは今,酒巻委員からもお話があったように,裁判員が一生懸命お務めいただいたと。この今まで経験した程度のケースは,今のこの除外制度の対象としては考えないという前提で議論すればよろしいのですか。 ○井上座長 それは個々の方が,どういうものをイメージしているのかにかかっているので,出発点で皆さんが共通認識だということを確認する必要は必ずしもないのではないでしょうか。むしろ除外するとして,どういう場合を除外するということを議論した方が良いのではないでしょうか。 ○四宮委員 なかなかそうするとイメージしづらいので,酒巻委員のおっしゃる極限的な場合というものの中に,今まで経験済みのものは入るんですか。 ○酒巻委員 井上座長が今おっしゃったように,単に私は日数の問題だけが問題だとは思っていないので,ですから,これまで起こったのは,100日とか何日とか,そういうふうに言われましても,もしかすると,もっと短い期間でやったら終わったかもしれない事案であっても,別の理由で,私のイメージしている極限的場合に当たる場合もあるかもしれない。結局,これまで結果としてうまくいったとか,何日かかったとかいうのがポイントではなくて,いずれにしろ著しい負担が裁判員にかかってくるようなタイプの事案を極限的な場合というふうに今のところは考えております。単に見込み審理期間の日数の問題ではないだろうと思っております。 ○前田委員 今の話とかみ合わないかもしれませんが,最初に酒巻委員がこれに関する意見を出されたときに,私がすぐに酒巻委員に質問したのは,当時,さいたま地裁で行われていた100日の職務従事期間の事案については,どういうふうにお考えですかということでした。それについては,特に除外の対象になるともならないとも,検討していないというお話だったと思います。   私自身は,少なくともこれまで実際に行われた事案が除外されるのであれば,そういう規定の仕方は,問題があるのではないかと思っております。ただ,正に極限的状況の事案が生じて,最終的には期間になるのかなと私は思うのですが,年の単位で裁判員の方が拘束されるというようなことがあれば,連日的開廷を前提にすると,それはなかなか裁判員になること自体ができないことになりますが,そういう事案はあり得ないとは言い切れないので,そのような事態に備えて,国家が法制度を整備しておくということに,特に反対するものではないと,こういう意見を述べたと思います。   そういうことで,その後事務局の方との打合せもありましたので,つらつら考えてみました。昨年新たにオウム真理教の事件が係属しましたが,私もオウム真理教の信者の弁護人を経験したことがあります。11の訴因がありまして,全部が裁判員裁判対象事件でした。1996年に起訴をされ,一審が2003年に終了したという,一審が7年ぐらいかかった事案です。あれを裁判員裁判として連日的開廷でやったら,どのくらいの期間で審理できるのだろうかと自分なりに考えました。   当時は公判前整理手続がありませんで,証拠開示も検察官による任意の開示しかなかったという中で,手探りでやったという経緯があります。裁判員裁判を目前にした司法研修所の司法研究報告に,「裁判員制度の下における大型否認事件の審理の在り方」というのがありまして,実は,その対象になった大型否認事件が,たまたま私が担当した強盗殺人事件でしたので,関心を持って読みました。当事者としては,そこで書かれたとおりにはなかなかいかないのではないかという思いもありましたが,適切な争点整理と証拠の整理をすれば,相当に審理期間が短縮されることは間違いないと,これは私も全く同じ感想を抱きました。   そういう観点でいきますと,私が経験した足かけ7年,訴因が11,全て裁判員対象事件,背景事情もかなり共通するものがあり,区分審理もなかなか難しい事案で,どうだろうかと考えました。108回全日の公判をやっていました。11の訴因を全部争っているわけではなくて,認めている事件もあり,全体の中の一部しか争っていない事件もあり,あるいは全面的に争っている事案もありで,いろいろ事件によって認否が異なりました。   それで審理期間はどうなるだろうか,公判前整理手続の中で,証拠開示がきちんとなされ,争点と証拠の整理がなされることを前提に,あれを三箇月でやれというと,なかなか厳しいものがあるかもしれませんが,四,五箇月,あるいは半年ぐらいであればやれたのかなと,記録をざっと振り返りながら,思いました。年の単位でなく,月の単位でやれるものであれば,一応裁判員裁判対象事件でやれるのではないかとの感想を持ちました。法的要件をどのように規定するか,なかなか難しいことではありますけれども,私自身の経験では,公判前整理手続における争点整理と証拠の整理がきちんとなされれば,相当に審理期間が短縮できるということは言えると思います。 ○井上座長 既に3番目のマルにもわたって議論していただいていると思うのですが,私の感想を申すのを許していただければ,今,半年ぐらいなら大丈夫だとおっしゃったのですけれども,それは恐らく法曹三者として張りついて仕事をしている人の見方であって,国民の方がそう思うかどうかはまた別ではないでしょうか。   もう一つ,日数の問題は確かに大きいのですけれども,これにも地域差があって,我々は大都市に住んでいるので,多分分からないと思うのですけれども,地方の方の負担というのは,はるかに大きいものがあるのではないかと思います。裁判員裁判が開かれるのは県庁所在地か大きな都市ですので,住んでいる所が相当離れていて,交通の便も良くないため,裁判所まで行くのも大変な人も少なからずおられる。また,時期の問題もあり,例えば,漁業とか農業の繁忙期に当たると,たとえ1〜2週間でもほかのことに割くというのはものすごい負担になるわけです。当然辞退も多くなるわけで,どんどん辞退者が出ると,人集めが難しくなり,適正な選任ということが確保できにくくなるかもしれない。そういうことも考えていかなければならないと思うのですね。一律に,期間の長短だけで線引きをするというのでは恐らく済まないような印象を持っています。 ○菊池委員 ここに上がっている幾つかの論点について意見を申し上げたいと思います。まず最初の,どんな事案を想定して制度を考えるのかというところですけれども,私自身の認識を申し上げますと,これまで裁判員裁判が実施されてきた事案を念頭に,こういう制度を考えているものではございません。酒巻委員の言葉で言うと,極限的な事例ですか,そういうものを念頭に置いて考えております。   では,そういう極限的な事例として,どんなものが想定されるのかというところですが,これも全く例えばの話ですけれども,テロ犯罪組織がビルを爆破し,1,000名の人が一度に亡くなったという事件で,被告人は全面的に関与を否定していると。当然,組織的な背景があって,関係する人は大勢であると。被害者も膨大,遺族も膨大,そういう中において,膨大な数の証人尋問をせざるを得ないと,例えば,そんな事例が想定されます。あるいは,特定のコミュニティーの中で,連続して発生している殺人や傷害致死事件で,そのコミュニティーの中でのいろんな派閥抗争であったりあつれきであったりというものが背景にあると。被告人は否認しており,そのコミュニティーの形成とか事件に至るいきさつなどについて,やはり非常に大勢の方を証人尋問しなければいけないという事件が想定されます。そういう事件を考えたときに,その被告人あるいは被告人の所属する組織は,別に裁判員自体は攻撃の対象とはしていないと。裁判員自体を攻撃の対象としているような事件であれば,3条の除外請求というような話になるんでしょうけれども,そうではない。だけれども,非常に証人も多数いるものだから,審理日数もかなり長期にわたることが想定される。そのため,そもそも裁判員を選任し,裁判体を構成すること自体が困難になることが見込まれるとか,何とか裁判体を構成できたとしても,選ばれた裁判員には非常に多大な負担をかけることになってしまうと。そういう事態を避けるための制度として位置付けられるのかなというふうに,制度の趣旨については,そのように考えています。   では,そのときに,どういう観点から対象を決めるかというと,井上座長からもお話があったように,日数だけを考慮要素にするわけにはいかないと思います。公判前整理手続との関係でいうと,確かに公判前整理手続によって争点を整理して濃密な審理を行うようにするという観点は大事ですけれども,それでもやはりなお長期間の審理をせざるを得ないという事件は想定されるわけですので,公判前整理手続をしっかりやれば解消されるというものでもないだろうと思います。区分審理についていうと,区分審理が適当でない事件というのもありますし,私が申し上げたビルを爆破して1,000名亡くなったというような事件の場合には,これは事件は一つですので,区分審理の対象にならないと思いますので,そういう問題もあるのかなと,以上思い付くまま申し上げました。 ○井上座長 ほかの方,御意見いかがでしょう。 ○大久保委員 まず,その被害者の立場からは,裁判員の選任が困難なために,裁判自体がなかなか行われないというような事態は,やはり許容できないことでもあります。そして,今回の震災を一つの契機といたしまして,今までよく想定外だったからということが,そういう言葉が使われましたけれども,これからはやはりそういうような言い訳というものは通用しない世の中だと考えますので,一般常識に照らして,特に例外的な事案に備えて,やはり今から手当てを講じる必要性というものがあると思います。   そのいろいろな様々な事件の内容につきましては,今ほど酒巻委員あるいは井上座長,そして菊池委員の皆様からの発言がありましたので,そういうような内容を基本として,今後,立法を目指すべきものなのではないかなということを感じました。 ○島根委員 ちょっと一般論で恐縮ですけれども,捜査段階の難しさというものと,恐らく公判段階での難しさというのは,必ずしもリンクしているものではないだろうと思いまして,先ほどどのような事案を除外するイメージとして考えるかという際に,やはり私もこれまで実際にやってきた,裁判で100日かかった,70数日かかったというもの,そういうものまでを外すということは,多分必要ないのだろうとは思いますけれども,まずは事例として既にある,100日かかった,70数日かかったものが,どうしてそこまで長くかかっているのかというところを分析しつつ,裁判員の負担というものを,日数の面,それ以外のいろいろな難しさの面というものを考慮していくというのが,最初の出発点なのかなというように思っております。   いずれにしても,10年に一遍,20年に一遍,起こるかどうか分かりませんけれども,起きたときでは,やはり対処できないという事態もあろうかと思いますので,せっかくのこういう見直しの機会ですので,そういった見直しの一つの項目として,前向きに考えていけばいいのではないだろうかというように考えております。 ○井上座長 分かりました。 ○四宮委員 私は,あえて消極の意見を述べたいと思うんですけれども,確かに特に国民の負担というものは大きなものになっていく,極限的なケースの場合ですけれども。ただ,裁判員制度は重大事件について創設され,適用されている趣旨,国民の関心が高く,社会的影響の大きい事件からスタートしたという趣旨は,やはり大きなものがあるだろうと思います。   あとは公判前整理とか,区分審理制度とかを工夫していくべきだと。更に踏み込むと,訴追の在り方についても,そのようなケースの場合には,新しい考え方も必要になってくるのではないかと。1995年でしたか,アメリカでオクラホマ連邦ビル爆破事件というのが,さっき菊池委員がお示しになられたような事件があって,160人以上が亡くなって,500人以上がけがをしたというテロがありましたが,あのケースの場合には,私が聞く限り,私の記憶が正しければ,起訴は確実に死刑対象事件になる,法の執行に携わる公務員の殺害と,公務員を火器によって殺害したというもの,それ以外に爆発物などの訴因があったと思いますけれども,そういう形で行われていたと思います。そういうやり方が,日本の社会にマッチするのかということがあるかもしれません。しかし,新しい刑事司法の在り方というものが議論されているようですので,そういう在り方も検討対象にしてみてはどうかという気がいたします。   それからもう一つは,裁判員の側からすれば,例えば100日の埼玉のケースでは,記者会見にお出になった,2人の方がお出になったと思いますが,そのうちのお一方はお勤めの方と聞きました。つまり会社などのサポート体制というものの整備というものも課題になってくるのではないかと思います。そういう意味で,私はあえて消極の意見を述べたいと思います。 ○井上座長 最初の点についてコメントさせていただくと,例えば地下鉄サリン事件でも,訴因変更して被害者の数を絞ったということがあったわけですが,それに対しては,訴因から削られてしまった被害者やその関係者から,憤りの声が寄せられたのです。そういうことも考えないといけないので,そう簡単に割り切ることは多分できないのではないかと思いますね。 ○合田委員 訴因の設定の問題というのは,地下鉄サリンのときも,結局,途中で一部縮小したというのもありましたが,それはいろんな考え方があると思うんですね。ただ,私の方は裁判所なので,設定された訴因でどうするかということで考えていくことになります。これは前の機会にも申し上げましたけれども,裁判所の方としても,裁判員制度があって,それは私どもとしてはすばらしい制度として機能していると思っていますから,その適用範囲を裁判所の方で縮めていくということを意図しているということは全くないんですね。   ただ,そうであっても,他方で今,3条しか除外規定がないということで,それで,ですからもともとそういう意味では,私どもも適用される場合は,ある意味でやはり極限的な場合だろうという具合に思うんですが,極限的な場合は生じ得る可能性はあるわけでありまして,その場合に,一切規定がないからできないんだと。3条に当たらないからできないんだということになると,そういう意味では法制度としては不自由だというか,その部分が残ってしまうのかなと思うんですね。   ただ,そうは言いましても,極限的というと,やっぱり要件が書けるのかという問題に最終的にはなると思うんですけれども,私どもも要件がうまく書けるのであれば,そういう極限的な場合に使える規定というのは,設けておく意味はあるだろうという具合に思っております。   じゃ,極限的な場合は,どうなのかということで,なかなかそれは皆さんと同じように言いづらいんですが,2番目のマルとの関係でいうと,軸足は裁判員の負担というところからどうなのかということで考えるのが現在の3条の規定との整合性という意味でも妥当なのかなと思うんですね。   それで,公判前整理で証拠調べを必要にして十分な範囲にきちんと設定することが一つ前提となっておって,それから後は,そのほかの制度,例えば,代表は区分審理ですけれども,区分審理が使えるか使えないかというような検討もやると。だけど,それが例えば一罪だから使えないという場合でありますとか,あるいは現実に日本において多数の日数を要したのは,結局,併合罪関係にある数罪があって,相互の関連性があるので,検察官が考えている立証構造から考えて,区分審理には検察官は反対であるというようなことで,その制度を使えないというような場合であって,かつその場合に,補充裁判員も考えるわけですけれども,それでやってもらうとして,でも証拠調べと評議をやっていただくというのが,過重な負担になるかどうかということですよね。   日数という意味では,座長もおっしゃったように,地方の特性もあるとは思うんですけれども,ただ,少なくとも例えば鳥取地裁で75日,鳥取の地域で75日はやれたと。あるいはさいたま地裁で100日はやれたというのがあるわけですので,その地域特性を似たような場合で考えても,それはできているわけですから,そういうものが,少なくともあの75日とか100日の事件が外れてくるような基準である必要はないだろうと。もっと厳しくてもいいだろうという具合に思っているところでございます。   確かに被告の裁判を受ける権利との兼ね合いでいうと,結局,裁判員の負担が重いと,さっきの出席率の関係ですけれども,結局オーケーと言ってくれる人がいないので,なかなか裁判員を選ぶことができなくて,あるいは名簿が費えてしまうとかという問題もあって始まらないので,そういうので遅延が生じるという問題もあろうかと思いますが,しかし,軸足はやはり裁判員の負担ということを考えていって,どういう制度にするかということを考えるべきだと思います。   以上でございます。 ○井上座長 ひとわたり御意見を伺ったと思いますが,その他,何かこのテーマについて検討しておくべき問題点があれば,御発言いただけますか。 ○酒巻委員 一つは,最初に極限的場合という言葉を私,使いながら,やっぱりこの言葉も不明確だとは思うんですけれども,頭にあったのは,ちょっと局面は違いますけれども,憲法上の迅速な裁判を受ける権利の保障についての有名な最高裁判例が,著しく長期審理となり迅速な裁判を受ける憲法上の権利が侵害されたために何とかしなきゃいけない極限的場合のことを「異常な事態」と確か言っていたと思いますので,局面は違いますけれども,ちょっとそれが思い浮かんだということです。   現行法の想定しているありとあらゆる手を尽くしても,どうにもならん尋常ならざる長期審理になるというようなことを言いたかったので,「極限的」という表現を使ったところです。   それからもう一点は,以前に前田委員と議論した記憶がありますが,仮にそういう場合を要件として設定したとき,それを誰が,どの裁判体が判断するのかという技術的な問題があります。現在の除外規定である法3条は,これから裁判をする裁判体とは別の裁判体が除外決定をすることになっています。考え方としては,同じような仕組みを採るというのもあるでしょうし,しかし,今言ったように,公判前の準備を尽くしてもどうしようもないというような判断をするのであるとすると,その公判前整理手続を担当した裁判体それ自体が,そういう判断をするという制度の作り方もあるのではないか。技術的なことではありますけれども,この問題はやっぱり大事な問題なので,要件を作るとともに,誰がそれを,どの裁判体が決めるのかという,そういう論点もあります。 ○井上座長 それでは,この点についての議論は,この程度で終了させていただきたいと思います。   以上で本日予定された議事は全て終了いたしました。   一応,本日までに,論点整理に掲げられた論点全てについての検討を終えることができましたので,いよいよ最終段階ということになります。   御承知のように,本検討会は,法制審議会のように要綱等の策定が求められているわけではなく,取りまとめの方法等については,特段の定めはありませんけれども,これまでの皆様の御議論等については,法務省における今後の検討に当たって参考にしていただくだけでなく,ここでの御議論等についても取りまとめた上,適切な形で公表することが適切ではないかと考えております。   そこで,次回は,そういう議論の取りまとめのための文章案のようなもの,仮に「取りまとめ報告書(案)」と呼んでおきますと,そういう報告書(案)を用意していただいて,これをもとに総括的な意見交換を行っていただきたいと考えておりますけれども,そういうことでよろしいでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,最後に事務当局から,次回の予定の確認をお願いしたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 次回会合でございますが,平成25年3月15日金曜日,午後2時45分からとさせていただきたく存じます。場所等につきましては,追って御案内申し上げます。   以上です。 ○井上座長 それでは,第16回会合をこれで終了したいと思います。   どうもありがとうございました。 −了−