裁判員制度に関する検討会(第18回)議事録 1 日 時   平成25年6月21日(金)16:02〜17:55 2 場 所   東京地方検察庁総務部会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,菊池浩,合田悦三,酒巻匡,      残間里江子,四宮啓,土屋美明,露木康浩,前田裕司,山根香織                              (敬称略)   (事務局)稲田伸夫刑事局長,岩尾信行大臣官房審議官,      久木元伸刑事局刑事課長,上冨敏伸刑事局刑事法制管理官,      東山太郎刑事局刑事法制企画官 4 議 題 (1)裁判員等の精神的負担に対する配慮の在り方について (2)取りまとめのための検討 (3)その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   着席図     資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料3:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成25年4月末・速報)   資料4:裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書       (平成24年度)   資料5:裁判員制度の運用に関する意識調査   資料6:裁判員メンタルヘルスサポート窓口パンフレット   土屋委員説明資料   四宮委員説明資料 6 議 事 ○東山刑事法制企画官 それでは,予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第18回会合を開会させていただきます。   それでは,井上座長,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます。   議事に先立ちまして,委員の交代がありましたので御報告します。   人事異動に伴いまして,島根委員に代わり露木委員が新たに委員となられました。それでは一言御挨拶願います。 ○露木委員 警察庁刑事企画課長の露木でございます。   刑事企画課長着任自体が,実は今日付でございまして,右も左も分かりませんけれども,何とぞよろしくお願い申し上げます。 ○井上座長 次に,事務当局から本日の資料についての説明をお願いします。 ○東山刑事法制企画官 本日お配りさせていただいております資料は,議事次第,配布資料目録のほか,配布資料としてインデックス付きのもの6点,さらには,土屋委員御提出の資料及び四宮委員御提出の資料でございます。資料1として,「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」と題する横置きの表のもの,資料2として,「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」と題する円グラフ等を記載したもの,資料3として,「裁判員裁判の実施状況について(制度施行〜平成25年4月末・速報)」と題するもの,資料4として,「裁判員等経験者に対するアンケート調査結果報告書(平成24年度)」と題するもの,資料5として,「裁判員制度の運用に関する意識調査」と題するもの,資料6として,「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」と題するものを配布させていただいております。なお,資料3ないし6までは,最高裁判所の公表に係る資料です。また,土屋委員及び四宮委員から,本日の議事に関する各委員の御意見を記載した資料の提出を受けておりますので,併せて配布させていただいております。   以上です。 ○井上座長 それでは,本日の議事に入りたいと思います。   本日は,前回の議論を踏まえ,本検討会の取りまとめのための議論を行っていただくことを予定しておりますけれども,その前に,事務当局から進行について提案があるということですので,説明をお願いしたいと思います。 ○東山刑事法制企画官 前回3月に行われました第17回検討会後の今年5月に,裁判員の職務を務めた際に,証拠を見聞きしたことが原因で精神的損害を受けた方がいるなどという報道がなされたところでございます。   本検討会におきましては,裁判員又は補充裁判員の方々の負担に対する配慮の在り方について,これまでも御議論いただいたところではございますが,今回,取りまとめのための議論をするに先立ちまして,裁判員等の精神的負担に対するケアの在り方について,実務の扱いを御紹介いただくとともに,御意見等がございましたら,委員の皆様において改めて御議論を行ってはいかがかと考えております。 ○井上座長 今説明のあったとおりですけれども,座長としましても,裁判員等の精神的負担に対するケアの在り方について,この段階で改めて議論するのが適切と考えますが,いかがでしょうか。   (「異議なし」との声あり)   それでは御賛同いただけましたので,裁判員等の精神的負担に対するケアの在り方について議論することとさせていただきます。   ただ,御留意いただきたいのは,当検討会の趣旨に鑑みますと,個別具体的な事件における運用の在り方を取り上げるのは妥当でないと思われますので,その点十分御理解の上,御発言いただければと思います。   このテーマにつきましては,土屋委員の方から御意見をおまとめになったペーパーを出していただいておりますので,まず,土屋委員から御発言をお願いしたいと思います。 ○土屋委員 配布していただいた資料というのは,私の発言予定メモという形でありまして,大体こういう内容のことをお話ししたいという,そういうつもりで作ったものです。   今回,なぜそういう発言を求めるのかということなのですが,それは今事務局の方から御報告がありましたように,福島地方裁判所郡山支部で言い渡された死刑判決の強盗殺人事件で,裁判員として現場のカラー写真を見たり,被害者の声の録音を聞いたりした女性が,急性ストレス障害と診断されて,国に慰謝料などの損害賠償を求めて提訴するということが起きました。残虐な事件を審理する裁判員の精神的負担が極めて大きいことを改めて痛感させられる残念な出来事だと思っております。裁判員の職務に専念した結果,心に深い傷を負われたことに対して,心からお見舞い申し上げたいと思います。   この検討会では,裁判員・補充裁判員の保護について議論された中で,心理的ケアなどの問題が既に取り上げられました。一定の方向性は出ていると理解しておりますけれども,ただ,現実に提訴という深刻な事態が新たに生じたことを踏まえますと,更に突っ込んだ検討が必要だと感じます。   司法関係者からは,「裁判員制度そのものの廃止」を求める意見も公表されました。   共同通信社の加盟社である,ある地方の新聞社には,法律専門家からの投書も寄せられまして,「裁判員制度そのものの廃止を求める」という主張が展開されております。そこまでは言及しなくても,今後,関係法令の改正などを強く要求する意見が出てくることも十分予想できると思っています。   私の考え方は既に述べさせていただいておるとおりですけれども,この新しい事態を踏まえましても,現行制度の廃止はもとより,過酷な事件を裁判員裁判の対象事件から除外するといった基本的枠組みの変更までは必要がないと考えております。けれども,検察官の立証や弁護人の反証,裁判官の訴訟指揮といった運用面では更なる改善が必要です。また,訴訟の外の部分での裁判員・補充裁判員の支援策も強化していかなければいけないのだと考えております。   それで,このペーパーに沿って,「望まれる配慮」というものを,ここでは主に裁判の進行手順を念頭に置きながら,かいつまんでお話ししたいと思います。   「具体的な改善の提案」というのをしたいと思っておりまして,2ページの一番下から書いてありますけれども,これはもう既に裁判員経験者の団体から最高裁判所へ出されている提案として,裁判所での臨床心理士や,そういった専門家の待機する態勢をとっていただきたいという要望です。これは真剣に検討していただきたいと思います。休憩中ですとか裁判の終了後に裁判員経験者あるいは補充裁判員の経験者が相談をしやすいような裁判所にしていく,そういう必要があると考えております。   3ページのところに「医務官の配置」と書きましたけど,これはまだ思い付きの段階なので,制度的に妥当なのかどうか提案するのを少し迷ったところでありますが,東京家庭裁判所には,精神科医の医務室技官がおられます。成年後見の判断に必要な精神鑑定などを担当されていて,大変お忙しい。部屋の入口のところには,「ここは診察室ではありません」という張り紙が出されておりまして,そういう意味での仕事の内容が刑事事件などに対応するような形になっておるかというと,決してそうではなくて,家庭の事件の裁判所の判断を支える意味での科学的な役割を果たす技官として配置されているわけですけれども,そういうような形の専門家の配置というのを考えてもよいのではないかと思ったりしております。   これはもちろん適任者の採用や,公務員ですから,公務員の採用という話になりますけれども,人件費負担の問題があって,直ちに全ての本庁や支部に配置するのは難しいでしょうけれども,少なくとも高等裁判所の本庁・支部の所在地には,そういう医務官のような方を配置して,専門的な医師が裁判員・補充裁判員と直接面接をして治療・助言などをしていただければ,裁判員・補充裁判員の経験者たちの気持ちも軽くなるのではないかと考えたりもしております。   次は,「裁判の進行面での配慮」なのですが,「裁判員の選任手続」で,辞退制度を弾力的に運用することを考えていただきたいと思います。   裁判員には個性の違いというのが随分あって,精神的にタフな方もいらっしゃれば,精神的にナーバスな方ももちろんいらっしゃる。そういう候補者は,選任手続のときに,裁判所の方に適切な配慮をしてもらえるように求める機会を設けるのが必要ではないかと思います。その結果,この人が精神的なダメージを受けやすいと思われれば,その人からの辞退を弾力的に認めるような運用を心懸けていただきたいということです。   それから,「公判前整理手続」ですけれども,その段階で裁判員になる方たちに対する予告といいましょうか,注意喚起といいましょうか,そういうものをしましょうというような判断をする,そういう仕組みも考えるというんでしょうか,そういうこともしていただいたらどうだろうと思います。   証拠整理の段階で「予断の排除」との関係で微妙な問題があることは分かっておりますけれども,心理的なダメージの大きいことが予想される証拠調べ,例えば,写真を見たり,凶器を見たりということですけれども,そういったものについては整理段階で,こういうことが行われますということをある程度予告する,注意喚起をする,そういうことがもっと意識的に行われる,そういうものであってほしいと思ったりします。もし,裁判員候補者として決まった人たちが,その公判前整理の結果について,実際に裁判が始まる前に,そういう予告を受けることができれば,心構えを持って審理に臨むことができると思うのです。   それから,「公判審理」の面で,体の変調の訴えがあったときに,こまめに休憩を挟んだりしてチェックをするという裁判官の気配りが必要だろうと思います。   また「証拠の吟味」ですね,これも難しい選択だと思いますけれども,できるだけ「最良の証拠」と言われる証拠でもって立証する工夫をしていただきたいと思います。   「裁判後のケア」の問題として,最高裁判所の「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」がありますけれども,これも回数制限だとか,ほかの医療機関の紹介だとかという制度がもっと活用できるような,そういう積極的な運用と態勢の充実を図っていただきたいと思います。   「外部組織との連携」というところですけれども,裁判員経験者らの協会みたいなもの,そういう組織を設けて対応している,そういう国があります。日本でもそういうような国の例を参考にして,裁判所の中に経験者らの組織を置くというようなことがあってもいいのではないかと思ったりします。   それで,最後に,裁判員の経験者から提起された問題,これは考えていけば,非常に広いエリアにまたがる話だと思うのです。だから,社会全体の理解が必要ですし,対処方法もそういう面から考えなければいけないと思っています。   裁判員・補充裁判員の秘密を守る義務というものにも関係してくると私は思っていて,ここで議論を繰り返すことは避けますけれども,一定の条件の下では,互いに経験者たちが話し合うことができるような,そういう場を設けてもいいのではないかと思っております。 ○井上座長 ありがとうございました。   ただ今土屋委員から,問題提起あるいは御指摘がありましたけれども,それをも踏まえて,御議論いただきたいと思います。 ○合田委員 ただ今土屋委員から御指摘もございましたので,私の方からも時間を頂きまして,この問題に関連して現状や今後のことに関して述べさせていただきたいと思います。   具体的なケースにつきましては,座長からお話があったように,個別に直接触れるということはいたしませんので,御了承ください。   裁判員の心理的負担の軽減を念頭に置いた裁判所の対応につきましては,既に第12回と第16回の各会議において取り上げられておりまして,そのときに連絡先カードの交付でありますとか裁判官の対応,メンタルヘルスの関係等について御説明を申し上げ,また,御遺体の写真等の関係についても工夫をしているということを申し上げました。   私どもとしては,裁判員に参加していただいて裁判を行っていく以上は,どこかで精神的負担をお掛けすることは避け難いという考えの下に,様々な次元,段階における対応,配慮を考えてきたつもりでございます。   第12回の会議のときに,酒巻委員の方から,裁判員をされた方に対する様々なケア・配慮をこれほど手厚く実施している国は私は見たことがないという御発言を頂いておりますが,私どもとしましても,取り分け専門家によるメンタルヘルスサポート制度につきましては,日本は,陪審や参審を採用している諸国と比較しても,かなり手厚い手配をしている国の一つであって,ほかの国よりも遅れているものではないということを理解していただけるに足りるものと認識をしております。   しかしながら,今回の件を教訓として,今までの対応・配慮で更に検討しておくべきところはないかということを考えるべきことはもちろんでございまして,実際に同僚裁判官と話を重ねているところでございます。   今後の問題として考えますときに,まず最初に触れたいのは,出血の跡がある現場や御遺体の写真を証拠とすることについて,改めて必要性の観点から議論をしていくことの重要性ということでございます。   職業裁判官の時代には,人が亡くなった事件では,解剖の様子も含めて御遺体の写真を証拠として調べることは普通に行われてきたことでありまして,私自身も数限りなくそのような写真を見てまいりましたし,職業裁判官である以上,当然であるという具合に考えておりました。   今振り返りますと,そのときは,そのような事件ではそのような写真を証拠とする必要性が肯定されるということを,言わば自明の理のように捉えていたかのように思います。しかし問題は,こうした証拠がいかなる意味を持つのか,つまりその証拠によって立証しようとする実体は何なのかという点にあると思います。そこを突き詰めて検討することによって,その事件でそれを証拠として調べる必要があるのかどうか,あるいはその証拠でなければ立証できないのかということを吟味する。国民にそのような証拠を見ていただく以上は,その点の検討が不可欠であるという具合に思っているところでございます。   実際,裁判員制度が導入されるときにもその議論がございまして,そのような写真を証拠とするかどうかについては,公判前整理手続において,請求者である検察官に必要性を確かめる。それから,弁護人は開示を受けているはずでございますので,必要性に関する弁護人の意見を聞く。必要があれば,提示命令をかけて,裁判官が現物を確認するといったようなことをし,あるいは調べる際も,図面とか白黒写真という形でできないのか,あるいは表示される写真は小さいものにできないのかといったようなことも含めていろいろな工夫,配慮の余地も念頭に置きながら検討すべきである。こういう共通認識ができておりまして,実際,ほとんどの裁判所においては,そのような考え方で臨んできたと思います。   その結果,職業裁判官だけの時代と比べると,調べる写真の枚数は大幅に減っておりますし,それから,白黒写真を調べるといったケースも増えております。しかし,そこで止まってしまったという感もございます。職業裁判官だけの時代と比べれば大幅な変化があったとしても,これからは,今行われている到達点について,更に先ほど述べたような意味での必要性の吟味が十分行われた結果になっているかどうかを検討していかなければならないと,このように考えております。   具体的には,そのような写真の取調べ請求があった場合に,検察官と弁護人の双方に裁判員等の精神的負担という観点も踏まえた適切な説明や意見をお願いする。必要に応じて提示命令を発するなどした上で,三者で十分な議論をして,最後に裁判所が,その証拠の採否や取調べの際の工夫,配慮を決めるというプロセスを経たいということでございます。   証拠の採否や証拠調べの方法について,裁判所が最終的に責任を負うのは当然でございますけれども,裁判員の精神的負担の軽減というのは,刑事裁判に携わる法曹三者に共通の課題であるという具合に考えておりますので,意見交換や議論への当事者の積極的な関与について御協力いただけるものと信じております。   調べるべき証拠は調べるというのは変わりませんし,調べるときに白黒であるとか,図面の利用等の工夫,配慮も当然維持しますけれども,まず調べるべき証拠であるかどうかという必要性の面から十分な吟味に一層努めていきたいと,このように考えております。   ちなみに,そのような写真を調べることになった場合の予告ですが,遅くともその写真を調べる手続の直前の休廷時間に,裁判官から,法廷に戻ると,今度はそういう写真があるということは告げております。また,実際に証拠調べをする直前には,通常その手の写真は検察官が請求者ですが,検察官から,これからそういうような写真を皆さんに示しますということの説明があるのが普通だと思っております。   次に,写真の問題に限りませんが,裁判員の負担の軽減方策ということについてですが,先ほど,選任段階で配慮をという話がございました。選任手続期日に来ていただいた候補者の方々に,その日に,もし選ばれたら担当していただく事件の概要というのを御説明いたします。人が亡くなった事件であれば,そのときに,その事件の概要によって,そういうことが候補者の方々に分かるということでございます。   私が,これまで選ばれた多くの候補者の方々と話したり,あるいはアンケートの結果,あるいは経験者の意見交換会の結果などから見聞きしているところでは,この説明を受けた段階で人が亡くなった事件であると分かると,かなり多くの割合の方々が,もしかしたら凄惨な話が出てくるかもしれないと,このようにお考えになるようでございます。したがって,辞退の申出が出てくるという場合も,これも実際にあるわけでございます。   裁判所としては,負担を感じるのであれば,無理をしないで辞退をしていただくということには全く異論はございません。これまでも辞退の申出に対して柔軟な対応に心懸けておりますし,今後も同様でございます。   今話しているような場合は,いわゆる辞退政令の6号該当性というものが問題になりますので,個別質問でどのようなことを心配されているかを確認しまして,柔軟なスタンスで判断をしていくということになります。   それから,選任後も負担を抱えられていることが分かっているのに,無理に裁判員の職務にとどまらせるということもあり得ないところでございます。現在も,公判審理や評議の段階で,どうしても精神的に耐えられないという申出があった場合や,裁判員の方の変調に裁判官が気付いた場合には,その方の様子を確認し,無理をして大丈夫とおっしゃっているのではないかと思われる場合には,「辞任申出をお考えになってはどうか」と促す場合もございます。そのようにして結果的に辞任申出に至れば,解任をして補充裁判員を繰り上げると,こういうことにしております。精神的負担によるものかどうかは明確ではございませんが,東京地方裁判所でも,途中で体調が不調になった方は複数これまでにもおられます。様子を見まして回復されて続行を希望されたので,辞任申出に至らなかったという例もございますけれども,辞任申出があったので解任をして補充裁判員の繰上げをしたケースも実際にあるところでございます。   今回の件を踏まえますと,それはそれで維持するとして,問題は,熱心かつ真摯に取り組んでおられて,およそ精神的負担を感じておられるように私どもの方から思えなかった方が,実は負担を抱えながら,それを外に出さないという場合があるということでございます。   今後は,裁判官のみならず,裁判員と接触する裁判所職員も含めまして,そのような方がおられるということを改めて念頭に置いた上で,いわゆるアンテナの張り方に工夫をするとともに,積極的な声がけに努めたいという具合に考えております。場合を見ながら,「つらかったらいつでも辞任できますよ」と呼び掛けることなども考えたいという具合に思っております。   関係しまして,先ほどお話をしました凄惨な写真を取り調べたときには,評議室に戻ったときに,「大丈夫ですか」といったような声がけをしておりますが,裁判長によっては,更に翌日の朝に,「夕べは眠れましたか」といったような形で話題を持ち出して,ほかの裁判員の方も含めて話をすることで気持ちが楽になる方がそれなりにいらっしゃるという経験をした者もございます。ほかの裁判長の参考になろうかということで,いろいろな話合いでそういう共有を図っているところでございます。   次に,メンタルヘルスサポートの関係ですが,本日,資料6ということで,裁判員に配布しているパンフレット,電話番号等を一部削っておりますけれども,それを配布しております。裁判員の皆さんにお渡しするのは,実際は電話番号等もきちんと記入したものをお渡ししているのですが,それを選任の日にお渡しをして説明しておりまして,「任務中何かあったら電話できます。もちろん任務終了後もできます」という話をし,また,最終日にも,任務終了後も利用可能であるということを改めて御説明を申し上げております。   全体として言えば,専門家が裁判員等からの電話,インターネットの相談に無料で応ずる態勢を整えていて,その相談の際に利用者の方の希望がある場合,あるいはその相談を受けた臨床心理士等が症状により必要と判断した場合は,対面によるカウンセリングを受けていただくというものでございます。   電話,インターネットによる無料相談は,これはもう全国どこからでも24時間365日受付けということでございまして,回数制限はございません。また,対面カウンセリングを行うようになっても,この電話,インターネットによる相談というのは利用可能ということになっております。   それから,無料対面カウンセリングですが,東京にある受託業者の直営相談室のほか,全国47都道府県の217か所の提携機関において対応可能ということでございます。   今回の報道の中で,東京でしか受けられないかのような報道がございましたので,私は改めて確認をいたしましたけれども,今述べた規模の態勢が敷かれているということでございました。   ちなみに,この無料対面カウンセリングの回数の5回ということについても,いろいろ報道等では取り上げられております。これは聞いている話では,その制度を作るときに,最高裁判所の事務局が,5回以内のカウンセリングで症状が改善しない場合は医師に引き継ぐといいますか,医療の方に引き継ぐのが相当な事案であると考えられるといった回答を専門業者から得たようでありまして,それを踏まえて定めたものという具合に聞いております。   このメンタルヘルスサポートの態勢につきましては,今後も詳細が十分に伝わるように努力をしていきたいと思っております。   また,この制度を作るときに,大体こんな位置付けということで複数の方法がある態勢を作ったのですが,それがきちんと働いているかどうかということにつきましては,裁判所としてもよく見ていく必要があるという具合に思っております。   そのほか,任務終了後のケアとして,裁判員同士の連絡の仲介,橋渡しをするとか,あるいは判決言渡し後に裁判官が感想を伺って,内容に応じて,「話合いの末にみんなで決めたことであるから,一人で抱え込むといった話ではありませんよ」,「みんなで決めたんですから」といったようなフォローをするというようなこと,それから,任務終了後も相談できる裁判所の連絡先をお伝えしているといったようなことはこれまでも触れております。   この最後の点でございますが,電話番号をお伝えしているんですが,なかなか電話しにくいというようなこともあろうかと思いますので,ともかくこの裁判所の電話番号に,何かあったら裁判長である私のところに,私の名前を言って電話してくださいと,こういう具合にお話ししている裁判長も,今回聞いてみましたら,東京地方裁判所でも何人もいるところでもございます。   ちょっと長くなって恐縮なのですが,ケアについてあと一つ述べさせていただきたいと思います。   それは,私どもは,これまでの経験に基づきまして,裁判員の感じている精神的負担の軽減という観点から,最も重要なのは,裁判員と裁判官の関係だと思っているということでございます。   裁判員と裁判官に円滑な意思疎通がされて,負担や疑問,不安や不満など,あらゆることが裁判員と裁判官の間で気軽に議論をされて共有されていることが何よりも重要である。同じ苦労を味わった裁判員同士や裁判官によるケアこそが最善のものという具合に思っております。   今回の件の報道があった後にも,裁判員裁判は行われております。ほとんどの裁判員の方は,任務終了後に充実感を持たれた様子で帰宅をされておりまして,その様子を見ている私ども現場の感覚としましては,やはり第1段階としては,この実際に一緒に担当した裁判官のところで構築した関係を前提にケアをすべきであると確信しておりますし,今までもそういうつもりで対応してきたつもりでございます。   そこで採り得る手段を尽くした上で,なお精神的負担が問題となる場合に,第2段階として,メンタルヘルスサポート態勢ということによってしっかりケアをしていくというのが本来の順序であろうと思っております。したがいまして,第2段階のところばかりがクローズアップをされるというのは,率直なところ,やや現場の者としては違和感があるところでございます。   このような見地から,第1段階のところで更に何かできないかということについて,東京地方裁判所でもいまだ実例は一,二例でございますけれども,事件によっては,裁判が終わった後に,裁判官も参加する同窓会的な会合,これをやるということが負担軽減の面で大きな効果が期待できるのではないかということも考えておりまして,それも今後のケアのやり方の一つに加えてやっていきたいと思っております。   以上,お時間を頂戴していろいろ述べてまいりましたけれども,裁判員の精神的負担に対しましては,十分なケアが行われる必要がありますが,法的枠組みやサポート態勢といった大枠は基本的に既に整っていると考えておりまして,重要なのは運用上の配慮だという具合に考えております。裁判所としましては,これまでの経験者の御感想などを参考にしながら,またそれぞれの裁判官の工夫,配慮の仕方の共有ということも図りながら,なるべくきめ細かい運用上の配慮をするように努めてきたつもりではございますけれども,今後も態勢整備の必要も含めた配慮の在り方について更に検討を続け,よりよい配慮に努めていかなければならないと,一層の努力をしていくと,こういうつもりでおります。   長くなって恐縮ですが,以上です。 ○井上座長 ただ今お二人から御発言,御指摘があったところですけれども,ほかの方はいかがでしょうか。 ○山根委員 精神面のケアは大変努力されていることはよく分かります。また,報道に今回間違いがあったというようなことも今伺いましたけれども,ただ,私自身の反省として,今までアンケート結果に「貴重なよい経験だった」,「様々な配慮が行き届いていた」という声がとても多かったということで,ちょっと安心してしまったところがあると思っています。やはり裁判を終えた直後の感想ということでは,満足感,達成感,安ど感がいっぱいなのは当然であって,やはり少し時間が経ってから体の不調が現れたり,いろいろ課題に気付いたり,もっとこうすれば良い制度になるといったような意見を持ったりということもあると思いますので,そこに焦点を当てた意見の収集なども丁寧にすべきではなかったかというふうな思いがあります。   ただ,今回のこの訴えの後,私もそうだ,病気だというような声が幾つも上がってくることを心配はしたんですけれども,そういったことはないということでほっとはしております。ただ,その一方,声を上げないところに実は問題が埋もれているのではないかという気にもなっております。   本日の説明でも,遺体の写真や凶器等については白黒にするなどの配慮はしておりますであるとか,前置きもしているという説明であって,また,カウンセリングの態勢についても十分やっているという説明であるわけなんですけれども,必ずしもそういった配慮が全体で徹底されていたわけではなくて,不足していたところもあったのではないか。今回の事例は,もしかしたらそれを証明しているのではないかとも思います。   裁く者としては,証拠はしっかり目や耳で確認しなければなりませんし,その一方で,求められる十分な配慮との両立というのが難しいのは確かですけれども,今回のような健康被害の発生は,ある程度想定できることでありましたので,負担には耐えられるはずだとか,耐えるべきだというような考えには全く立たないで慎重な対応を全国どこでもすべきと思っています。   法曹の方がやはり慣れてしまうというのが一番怖いと思っています。ほかの方はみんなきちんと務めていますよというような態度が少しでもあれば,真面目な方であればあるほど我慢をして追い詰められる可能性はあると思いますので,精神的負担が重過ぎるというような場合には,意見として出ていますように,途中辞退の認可の在り方であるとか,メンタルヘルスサポートの窓口の数とか場所とか回数制限ですか,その辺りはやはり検討されるべき点なのかなと思っています。 ○大久保委員 私も今の問題につきましては,新聞報道で知る限りですけれども,裁判員として参加なさった方が,審理の過程において精神的に傷つかれたということであれば,それは本当にお気の毒なことだったと思いますし,また,その裁判員の精神的損害に対する手当てというものは十分になされる必要があると思います。   また,司法関係者の皆様には,今後とも裁判員の方の精神的負担軽減のためには,一層努力をお願いしたいと思いますが,今,合田委員の方からも発言がありましたように,精一杯の努力をしているということがこちらの方にも分かりましたので,また今後とも続けていただければと思います。   ただ,その一方で,今まで裁判員として選任された方が大体3万人,補充裁判員として選任された方が大体1万人ぐらいいらっしゃいまして,その方たちが職責を全うされてきたわけですので,この実績というものはやはり軽視してはいけないことだと思います。ですから,今回の件があったからといって法改正等をする必要は全くなく,やはり飽くまで運用の問題として関係者の方々に裁判員の精神的負担軽減のためにも頑張っていただくという方向性が正しいものと思います。   殺人事件などでは,確かに御遺体の写真ですとか傷の状況ですね,それを御覧になることもあると思いますけれども,それは吟味されて,やはり事実関係や量刑判断に必要だからこそ見せることになるのだと思います。   第14回の検討会でも発言させていただきましたけれども,被害者やその遺族は,事件のショックで急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害に,そういう状態にありながらも,やはりしっかりと犯人を適切に罰してほしいという思いで,必死で事情聴取も受けて証言台にも立っているわけです。もちろん裁判員の方の精神的ケアは重要ですし,負担が大きいこともよく分かりますけれども,やはり社会の一員としてそれを受け止めていっていただきたいと願っております。   それと,重ねまして,合田委員の方からも,例えばカウンセリングの回数ですとか対応のことにつきましてお話がございましたので,私自身も被害者支援センターで,裁判員の方ではありませんが,事件事故を直接目撃をした方たちに対するケアというものもやってまいりましたので,それに関連しまして少し体験の中からお話しさせていただきたいと思います。   まず,回数ですけれども,回数を5回なら5回とあらかじめ決めておくということは,カウンセリングの場合はとても大切なことだと思います。裁判員として今回のように受けた精神的な不調に対する面接回数を無制限に,あるいはもっと回数を多くしたりするということになってしまいますと,カウンセリングの内容が今回裁判員として職務を行った上で起きてきた心理的負担への対処だけではなくて,ほかに抱えていた心理的な問題の蓋も開けてしまうということにもなりかねなくて,その方の混乱をなお助長してしまう結果になるということが言えないわけではありませんので,その辺りはとても懸念いたしますので,慎重にしなければいけないと思います。   被害者支援センターでは,事件事故の目撃者の相談も受けています。裁判員の方は直接の目撃者ではなくて,写真とか声を通してなので,もっと距離を置いている方たちであると考えます。実際の目撃者が多数出た事件がありまして,そのときは,電話相談がたくさんありました。そして,その中から,電話相談だけでは無理という方の面接もたくさんの方に行いましたが,ほとんどの方は,大体1回で終了しました。多い方で2回です。そのときにしっかりと,このような衝撃を受けたときに起きてくる症状があっても,それは誰にでも起きてくる症状であり,通常数箇月で消えていく。しかし,1年後ぐらい,またその事件の日が巡ってきたときには思い出すことがあるかもしれないが,それも当たり前なんですよ。でも,またつらいことがあったらいつでも御連絡くださいねということを伝え,パンフレットに沿ってしっかりと教育をいたしますと,皆さん安心をして,それ以上のカウンセリングを必要とするという方はいらっしゃいませんでした。また,こういう心理教育は,専門家でなければできないとお思いになる方が多いのかもしれませんが,決してそうではなくて,専門家から教育を受けた素人であっても,例えば,裁判所の職員でも,簡易なパンフレット等を渡して裁判員の方たちに,教育をするということは十分可能だと思います。何か目で見て分かる,自分の症状と当てはまるものが書いてあると,それだけで人は安心できますので,また,その辺りのところも工夫をなさいますと大変良い結果が出るのではないかということを今感じました。 ○井上座長 ほかに御意見おありでしょうか。 ○四宮委員 今日,説明資料ということで意見要旨を配らせていただきましたが,その要旨ということで,今までの御意見を踏まえて意見を申し上げたいと思います。   この問題に国として,あるいは専門家としてどう対応すべきかということは,個々のストレスを感じられた裁判員の方,経験者の方の問題であるだけではなくて,これまで幸いにして裁判員の任務についてポジティブな考え方を国民の間で持っていただいている,その傾向をより向上させるという視点からも大変重要なポイントだと思います。   今回の福島のケースで意識すべきだと私が考えるのは,一つは,先ほど来,出ています,正しい情報,特にメンタルヘルスサポートに関する正しい情報が裁判員経験者あるいは補充裁判員経験者に伝えられるということと,それから,孤立しないということが大事なのではないか,そういうことを示しているのではないかと思います。   ストレスへの対応ですけれども,まず訴訟手続内での対応。ここは既に合田委員,土屋委員などからも出たところでありまして,私が付け加えるべきものはほとんどございません。   メンタルヘルスサポート窓口については問題点が指摘されていることも事実であります。説明の分かりやすさとその正確性の問題,それから,一人で申し出て,一人で対応しなければならないということ。それから,今ちょっと話題になりましたカウンセリングの回数の問題です。これらはいろいろと検討の余地があるのではないかと思っております。   今日私が紹介したい,そして是非裁判所に運用としてで結構なんですけれども,考えていただければと思うのは,先ほどの合田委員のお話によると,第1段階と第2段階の間の,言わば中二階的な仕組みを考えられないかということです。   それは,通称デブリーフィングと呼ばれているもので,なかなか訳が難しいのですけれども,例えば,災害の体験者など特異な経験をした人々の心理の特性ですとか行動の特徴を説明して,それらが誰にでもある自然な反応であるということを知らせてストレスを軽減させるというものです。ここは,今,大久保委員がおっしゃった情報を提供する,ストレスというものがどんなものであるのかという情報を提供するということとも重なる点があります。   これは,カウンセリングですとか,その後の専門的な治療とは異なって,それらの前段階としてのグループによる,あるいはグループに対する情報の提供というものであります。   アメリカで行われているのは,このデブリーフィングにおいて精神衛生の専門家が,ストレスというものが陪審員あるいは陪審員の経験をした者には誰でも起こり得る正常な反応であるというようなことなど,ストレスに関する教育と情報を提供するというプロセスです。実際にアメリカでも行われている州があるわけですけれども,そのことによってアメリカでいえば陪審員たちには,陪審員である間に遭遇した感情を表現したり検討する機会が与えられて,特に重要なことは,ほかの人も同じような経験をしているんだということを知ることができる,このことが大変プラスだと言われております。   そして,ストレス関連の症状についても学ぶ機会が与えられて,更なる支援が必要であれば,日本でも行われているように,より高度な専門機関が紹介されていくということであります。   説明資料に,シアトルのあるキング・カウンティーの例を紹介してありますけれども,ここでは省略をいたします。   アメリカで行われているこのデブリーフィングというものがどのような評価を得ているかということを説明資料の4ページに記載しておりますけれども,参加した陪審員はプログラム自体,それからその担当者に対しても,いずれに対しても高い評価を与えておりますし,また,裁判官も大変高い評価を与えております。デブリーフィングが適用されるのは,全てのケースではなくて,もちろん今,日本でも問題になっているような,ストレスを生ずるであろう証拠調べが行われたようなケースに限られているわけですけれども,陪審員,裁判官いずれからも高く評価されているということであります。   デブリーフィングの開催時期については,評決後がいいという人と,しばらく経ってからがいいという人で意見が分かれているそうです。また,開催場所については,むしろ評議室ではない方がいいというような意見も出ているようです。   このプログラムそのものは裁判所のプログラムでありますけれども,コーディネートするのは,実際に運用するのはカウンセリングの専門家だそうです。そこではパンフレットなど,情報が記載された資料も手渡されているということであります。   このプログラムに参加した陪審員たちによると,二つの点が大変重要であると言われています。一つは,裁判官が出席するということです。これは,先ほど合田委員のお話でも,終わった後に裁判官を含めての話合い,あるいは同窓会的なものというものも御紹介がありましたけれども,裁判官がどのように考え,感じたかということを共有できることは大変にプラスとの評価が出ております。また,デブリーフィングを担当するコンサルタント,カウンセラーに対してもきちんとした知識を与えてくれているということで,組立てもしっかりしているということで高い評価が与えられております。我が国でもそのような活動を目指している民間団体があるということですので,そういうところとも連携していったらいかがかと思います。   最後に,裁判員の心理的負担の軽減については,私自身は守秘義務の在り方も併せて検討されるべきだと思っておりますが,これは既に述べましたので,ここでは繰り返しません。   また,裁判員等の経験者のグループも民間に幾つかでき始めているようです。さらに検察審査会については,御案内のとおり,経験者によって構成される検察審査協会という団体が裁判所の協力もあって大変に活発な広報啓発活動を続けておりますけれども,裁判員等の経験者にもそのような団体ができないかと思っております。   いずれにしろ,この問題にはやはり誠実に向き合うということが必要ですし,そのことは今ようやく,私たちの社会の新しい基盤・インフラになりつつあるこの裁判員制度を,より定着,発展させていくためにも必要なことであろうと思っております。 ○井上座長 ありがとうございました。   まだ先に予定された議事もありますので,その辺も念頭に置きながら簡潔に御発言いただきたいと思います。 ○酒巻委員 一つは,今までのお話を伺った印象というか感想ですけれども,専ら裁判所の対応が話題にはなっておりますけれども,基本的に法律専門家全員が,もちろん審理中は,直接弁護士さんや検察官が裁判員に直接何かということは難しいとは思いますけれども,やはり専門家は全員常に裁判員の方の状態に配慮するというのは当然のことだろうと思います。   それで,我々はどうしても法律家で,合田委員が先ほど最初の方に言ったとおり,毎日毎日刑事裁判に関わっているので,どうしても麻ひするんですけど,何しろ裁判員は多分一生に一遍,初めて来たという人だということを常に思って対応するというのが一番基本だと,当たり前ですけれども,ちょっと忘れてしまうんですね,我々ここにいる人のかなりの多くは刑事裁判にかなり深く関与しているものですから。でも,それを忘れないようにするというのが大事なことだろうと思っています。   それからもう1個は質問ですけれども,今回大変気の毒な思いをされた方がいるわけですけれども,これは裁判員のお仕事をするというのは,その間は,いわゆる公務員と同じ扱いになるので,例えば,その過程で病気になったりということですと,いわゆる損害賠償ではなくて,いわゆる補償ですね,病気やけがの補償,それは公務員と同じように受けられるのではないかと思っているんですけれども。 ○井上座長 公務災害に当たるのではないかということですね。 ○酒巻委員 公務災害は,当然それは対象になりますか。 ○合田委員 裁判員は,非常勤の裁判所職員という扱いでございます。したがいまして,国家公務員災害補償法という規定の適用を受けるということでございまして,裁判員の職務に関連して精神的に大きなショックを受けるなどして精神疾患を発症した場合も,裁判員の職務を行ったことがその精神疾患の主要な原因と認められるという前提でありますが,そうであれば補償を受けることができるということでございます。   補償されますのは,当該精神疾患の治療,それから療養のために必要かつ相当であると認められる範囲の診療費,通院交通費等であるということでございます。   また,後遺症が障害等級に該当すると判断された場合には,一時金の支給等も行われるということでございますが,慰謝料というのは,これは補償の範囲には入っていないと,そういう制度であると聞いております。 ○酒巻委員 ありがとうございました。 ○菊池委員 裁判員の精神的負担への配慮の問題につきまして,検察の取組について申し上げたいと思います。   若干前置きの話となりますけれども,最高裁判所事務総局が,昨年12月に,「裁判員裁判実施状況の検証報告書」を取りまとめて公表しております。この会議でも紹介されているところです。   そこでは,「この3年間,裁判員制度は比較的順調に運営されてきたということができる」としておりまして,その理由として,「参加した国民の意識,感覚,生活実態等を含む全体としての受け容れ能力の高さ」ということが指摘されております。具体的には,「裁判員が熱心に審理に臨み,裁判を理解しようと努め,評議でも率直に意見を述べているという点」が挙げられております。   また,裁判員経験者との意見交換会などの場では,御遺体の写真などについて,「写真から目を背けてはいけないと思った。そういう写真だからこそ,しっかり見なければいけないと思った。」という感想が述べられることもあります。   こうした裁判員の真摯な,誠実な姿勢によって裁判員裁判が支えられているということを考えますと,法曹三者はそれに甘えていてはいけないのでありまして,裁判員の負担に対する配慮を求める裁判員法第51条の規定を待つまでもなく,裁判員となる方に必要以上の御負担をお掛けすることがないよう一層の努力と配慮を積み重ねる必要があると考えております。   遺体の写真等精神的衝撃の大きい証拠の取調べという問題も,そういった問題の一つではないかと考えております。   そのような観点から,検察における取組を申し上げますと,これまでの会議でも,裁判員の負担に配慮した立証上の工夫について申し上げてきたところではございますが,検察においては,引き続き,公判前整理手続において必要かつ十分な証拠の取調べ請求を行うよう留意するとともに,凄惨な写真等を示すに当たっては,裁判員等に対する事前の注意喚起に努めることや,例えば,カラー写真の代わりに白黒写真,イラスト,CGなどを用いることなど,事案に応じて,裁判員等の負担軽減の観点からの工夫をした立証活動に一層努めることとしております。   今回の件を切っ掛けに,検察の現場では,裁判員の精神的負担への配慮の必要について改めて自覚したところと思いますが,最高検察庁においても,必要に応じて,適宜会議等の機会を利用するなどして配慮を促すことになるだろうと考えております。   具体的に工夫の例を申し上げますが,まず,あらかじめ告げるということについて言うと,いきなり見せられることでショックを受けるということもあるので,予測可能性と言ってはなんですけれども,見る側が心の準備ができるようにすることに意味があると考えております。そこで,単に「次に御遺体の写真を御覧いただきます」とアナウンスするだけではなくて,写真の内容ですとか大きさ,カラーと白黒の別などを説明するとか,あるいは遺体写真の提示が終わった段階で,「これ以降の証拠には遺体の写真はありません」とアナウンスする,そういう例もあります。   また,裁判員は,言わば覚悟した上で,しかも,「しっかり見なければ」と思って御覧になるので,回避余地といいますか,「目のやり場」を準備する工夫もあります。例えば,A4の紙いっぱいに写真を載せるとか,モニター画面いっぱいに映すのではなくて,人体図を中央に配置して,写真は小さいサイズのものを周辺部分に配置する,そうすることによって目のやり場を作る例もあります。この場合は,事前のアナウンスのときにも,「画面の中央に人体図面が,左下に御遺体の写真が出ます」とアナウンスするなどしています。また,遺体の全身写真については,アップのものではなくて,可能であれば遠景の写真を利用するという例もございます。   もちろん,裁判所の示唆を受けてこのような措置を講ずることもあるわけですけれども,いずれにしても,こういったきめ細かい工夫を今後ともしていかなければいけないと考えております。 ○前田委員 裁判所,検察官の立場からお話がありましたので,弁護人の立場からも一言申し上げます。弁護人の立場としては,公判前整理手続の段階で,証拠の採否でありますとか証拠調べの方法について意見を述べることができるわけでございますので,少なくとも私の知る限りは,弁護人の立場でも,裁判員の心理的負担を考慮した意見を述べてきたとは思っております。もちろん個別の事件がどうなっているかまでは知りませんが・・・・・・。それで,証拠の必要性について徹底して吟味をする。あるいは証拠調べの方法についても工夫をしてもらうということは言ってまいりました。   私自身も,殺人既遂事件を2件と,殺人未遂事件を2件,裁判員裁判として経験をしておりますが,いずれも御遺体の写真でありますとか傷口の写真につきましては,検察官の証拠請求にはございましたけれども,証拠調べをしたのはただ1件,傷口がどうやってできたかということについて争いがあった事件だけでございました。それは,なぜこういう傷ができたのかということが正に争点であり,写真を示し,かつ専門家の鑑定人の方がお話をされる場面が必要でしたので,弁護人も必要性ありということで同意はしました。それ以外は,代わり得る方法でできないかという提案をして,結局は,写真そのものではなくて,イラストなどに代えて検察官が証拠請求され,それだけで立証するということになった経緯があります。公判前整理手続の段階で,弁護人の立場としていろいろ意見を述べることによって,今回生じたような事態は回避できるのではないだろうかとは思っております。 ○井上座長 さらに,特に発言されたいという方がおられなければ,この点についてはこの程度で終了させていただければと思いますが。 ○残間委員 先ほどの郡山のことが起きたときに,メディアであのように報じられますと,思っていたよりももっとすごいことが行われているのではないかと考えるのが一般の人たちの反応だと思うんです。ですから,ここでの議論ではないと思いますが,やはりああいうことが起きたときに,それに対して何らかの形できちんと,ただ事件が起きましたとか,女の人がこんなふうなことを訴えましたという話ではなくて,現在進行形という形でも構いませんので,その都度,広報活動すべきなのではないでしょうか。また,3年9か月にわたって,いろいろなことが議論されているというのがほとんど伝わっていないというのが,一番問題なのではないかと思います。 ○井上座長 ありがとうございます。   よろしいでしょうか。この点についての議論はこれで終了させていただきたいと思います。   続いて,本検討会の取りまとめのための議論をしていただくことになるわけですけれども,その前に,ただ今行われました,裁判員等の精神的負担に対するケアの在り方についての議論を踏まえ,「取りまとめ報告書(案)」を修正する必要があると考えます。修正は事務当局の方にお願いすることになりますけれども,修文をし,それをプリントアウトして皆様にお示しする準備をしなければなりませんので,ここで30分程度休憩を取らせていただきたいと思います。           (休     憩) ○井上座長 それでは,議事を再開させていただきます。   「取りまとめ報告書(案)」については,前回の検討会で示された御意見や,その後に各委員から頂いた御意見を踏まえまして修正がなされ,さらに,この休憩の間に,先ほどの議論を踏まえた修正作業をしてもらいました。   そこで,まず,前回の検討会の時点からの修正点について,修正の趣旨やその内容等を事務当局の方から説明していただきます。 ○東山刑事法制企画官 それでは,前回の検討会において御議論いただきました「取りまとめ報告書(案)」からの修正の内容及び趣旨などについて御説明いたします。   まず,第1点目といたしまして,本日行われました裁判員等の精神的負担に対するケアの在り方についての御議論を踏まえた修正点について御説明いたします。   お配りいたしました「取りまとめ報告書(案)」の本文の23ページ以下を御覧いただければと思います。   この23ページ以下に,「裁判員やその経験者の負担に対する措置について」という項を設けてございます。本日御議論いただいた内容は,そこに関わることでございますので,この項に議論の内容を追加することといたしました。   具体的に追加したところは24ページ以下でございますが,24ページの下段に「オ」という項目を設けております。   こちらを見ていただければと思うのですが,さらに,裁判員等の精神的負担に対するケアの在り方について,改めて議論が行われたということで,そこから合計五つの○につきまして,委員の皆様から御指摘のあった点を加筆しております。   その後,25ページの中段やや上のところで,「裁判所における取組について」というところで,本日,合田委員から御発言がありました点を書いてございます。   そして,26ページのやや上段のところに,「検察における取組について」ということで菊池委員の御発言を,その更に下の「弁護人における取組について」ということで前田委員の御発言を,それぞれ踏まえて加筆いたしました。   そして,最終的にこの議論のまとめといたしまして,裁判員等の負担に対する措置につき,裁判官,検察官等の訴訟関係者には運用上より一層の努力が求められるとの認識で一致したという結びを記載いたしました。   なお,本日,四宮委員からは,裁判所において判決宣告後に,精神衛生の専門家の協力を得て,裁判官と裁判員とが事案についてグループとして話し合う機会を持つことを検討すべきではないかという御趣旨の御発言を頂きました。この件につきましては,四宮委員から,第16回の検討会においても御意見を頂きまして,本日の御意見はそれを敷えんしたものと理解いたしましたので,遡って恐縮ですが,24ページの「エ」の一つ目の○のところに記載させていただいております。   本日行われました御議論を踏まえた修正は以上となります。   次に,本日行われた御議論に関する修正以外の修正について御説明いたします。   まず,前回,四宮委員や前田委員から,「少数意見の理由を簡潔かつ合理的な範囲で紹介してもらいたい」との御意見に関連し,例えば,第4の1「対象事件の範囲等について」において,7ページの二つ目の○に被告人の請求する否認事案を対象事件に加えるべきであるとする理由,第4の4の(2)「被告人に不利な判断をする場合における評決要件について」において,18ページの冒頭に法改正すべきであるとする理由,あるいは第4の8「その他について」において,29ページの一つ目の○と二つ目の○に証拠開示や手続二分の論点について積極的に行うべきであるとする理由,これらをそれぞれ追加するなどの修正をいたしました。   それから,四宮委員から第4の7の(2),これは26ページの下段の部分ですが,「守秘義務の範囲等の在り方等について」につきまして,「守秘義務の必要性については共通認識がおおむね得られた」ということを冒頭に記載した上で,その範囲の在り方等についての議論を記載するように構成を変更いたしました。   さらに,前田委員から前回御指摘があった点に関連しますが,第4の9の(1)「対象事件の範囲等」について,これはまとめの部分になろうかと思いますが,30ページのなお書のところに,「これまで裁判員裁判が実施された長期審理事案のような場合まで,例外的に裁判官のみによる裁判を実施することができることとすべきであるとの意見は特に見られなかった」ということを追加しております。   最後に,第5の「終わりに」の項の記載についてでありますけれども,32ページ,一番最後のページでございますが,菊池委員から前回御指摘があった点に関連して,「留意が重ねられ」とあるところを「配慮が重ねられ」,この32ページの本文の下から4行目のところ,「留意」が「配慮」になっております。   それから,山根委員からの御指摘を踏まえて,最後の文章について,「裁判員制度がより良く運用され」という部分を変更しております。   そのほか,誤字,脱字,あるいは前回【P】というペンディングで数字を書いていなかった部分について補充するなどの所要の修正を加えております。   前回の検討会においてお示しした「取りまとめ報告書(案)」からの修正についての説明は以上となります。 ○井上座長 以上でございますが,前回の御議論,それ以後の御指摘及び本日頂いた御意見が反映されていると思われますけれども,これについて特に何か御注意等がございましたら御発言願います。   よろしいでしょうか。   修正案についての御意見は特にないということでございますので,これを本検討会のこれまでの検討状況を取りまとめたものとして採択するということにしたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。   (「異議なし」との声あり)   ありがとうございます。   それでは,この「取りまとめ報告書」については,事務当局の修正案のとおり採択されたものとさせていただきます。   採択されました「取りまとめ報告書」については,会議終了後,事務当局から法務大臣の方に提出していただくことにしたいと思います。   以上をもちまして,当検討会における検討は終了いたしました。   ここで,谷垣法務大臣の方から御挨拶があるとのことでございます。 ○稲田刑事局長 谷垣法務大臣は所用がございまして,やむなくまいれません。そこで,大臣から直接挨拶を頂戴してまいりましたので,代読をさせていただきます。   井上座長を始めとする委員の皆様におかれましては,平成21年9月の第1回会合以来,本日の第18回会合までの間,約3年9か月の長きにわたり,大変お忙しい中,御出席を賜り,活発な御議論を重ねていただきました。ここに厚く御礼申し上げます。   皆様には,裁判員制度に関する幅広い論点につきまして,多角的な観点からの検討を行っていただき,本日,その結果を取りまとめていただきました。                               裁判員制度を所管する法務大臣といたしましては,委員の皆様から頂きました御意見,御議論を踏まえまして,裁判員法附則第9条に基づく検討を適切に行い,法務省としての考え方を取りまとめてまいりたいと考えております。   裁判員制度は,国民の感覚を裁判の内容に反映させ,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資するものとして創設されたものであり,我が国の刑事司法制度において非常に重要な意義を有するものと認識しておりますが,法務省といたしましては,この制度を我が国により一層定着させるよう,引き続き努めてまいる所存です。   委員の皆様におかれましては,今後も,裁判員制度の在り方について御関心をお寄せいただき,同制度の発展のため,御支援,御協力をお願いしたいと存じます。   最後に,これまでの委員の皆様の御労苦に対しまして,重ねて御礼を申し上げて,私の挨拶とさせていただきます。   代読させていただきました。ありがとうございました。 ○四宮委員 ちょっとよろしいでしょうか,希望があるんですが。本当は谷垣大臣の御挨拶の前に申し述べるべきだったと思いますが。 ○井上座長 どうぞ。 ○四宮委員 座長の御挨拶は最後が位置付けがよろしいかと思いまして。今日で裁判員法の附則第9条による検討は終わるということになりました。ただ,この制度はこれからでございますので,是非是非定期的な検討・検証をこれからも続けていってほしいと思います。   司法制度改革審議会の意見書も,提案した制度について,「何より重要なことは,司法制度の利用者の意見・意識を十分酌み取り,それを制度の改革・改善に適切に反映させていくことであり,利用者の意見を実証的に検証していくために必要な調査等を定期的・継続的に実施し,国民の期待に応える制度等の改革・改善を行っていくべきである。」と述べています。   また,先日,裁判員制度が合憲であるとした最高裁判所大法廷の判決も,「長期的な視点に立った努力の積み重ねによって,我が国の実情に最も適した国民の司法参加の制度を実現していくことができるものと考えられる。」と述べています。ですので,今日で附則第9条の検討は終わりますけれども,これからも引き続き政府におかれては定期的・継続的な検証を是非是非実施していってほしいと希望いたします。 ○井上座長 それでは,検討会を閉じるに当たり,一言御挨拶させていただきます。   本検討会は,平成21年9月から本日まで3年9か月,合計18回の会合を重ねてまいりました。この間,座長として行き届かない点が多々あったと思いますけれども,皆様から貴重な御意見,活発な御議論を頂き,また議事進行にも御協力頂きまして,何とか最終取りまとめを行うことができました。誠にありがとうございます。   裁判員制度はおおむね順調に実施され,定着しつつあるという点で,私も委員の皆様と認識を同じにするものでありますけれども,本日確定していただいた「取りまとめ報告書」に盛り込まれた提言や指摘のみならず,本検討会の過程で各委員から示された御意見や議論は,裁判員制度の一層の定着や運用面を含めた更なる整備の上で役立てていただけるものと期待しますし,また,そう確信するものであります。   裁判員制度は,施行されてからまだ4年を経過したにすぎません。制度が定着し日常化する中で,当初の緊張感が失われたり,様々な問題や課題が生じてくることは十分考えられますので,委員の皆様も,これからも息長く裁判員制度の歩みを注意深く見守り,様々な形で御意見や御指摘を頂くようお願いしたいと思います。   以上をもちまして,この検討会は終了させていただきます。   どうもありがとうございました。 -了-