営業秘密保護のための 刑事訴訟手続の在り方研究会 第2回会議  日 時  平成22年11月18日(木)  自 午後5時00分                       至 午後8時10分  場 所  経済産業省本館17階国際会議室 ○事務局(法務省・杉山企画官) 大変お待たせいたしました。予定の時刻になりましたので,ただ今から,第2回営業秘密保護のための刑事訴訟手続の在り方研究会を開催いたします。 ○山口座長 本日は,御多忙のところお集まりいただきまして誠にありがとうございます。本日は第2回目の会議となりますが,前回,御欠席されました宮城委員と山下委員に御出席いただいておりますので,簡単に自己紹介をお願いしたいと思います。宮城委員,山下委員の順でお願いいたします。 ○宮城委員 日本商工会議所の常務理事の宮城でございます。よろしくお願いいたします。 ○山下委員 東京弁護士会に所属しております弁護士の山下です。よろしくお願いいたします。 ○山口座長 ありがとうございました。   なお,田中委員は所用のため,途中で退席される予定と伺っております。   それでは,本日も前回に引き続きまして,要綱(骨子)案について議論を続けたいと考えております。まず事務局より,前回の研究会で話題となりました統計資料について御説明があるということでございますので,お願いしたいと思います。 ○事務局(経産省・中原室長) それでは,お手元に配布しております配付資料4「技術情報の流出状況の実態等について」に基づいて御説明させていただければと存じます。   資料4の1ページ目ですが,まず,技術流出の状況についてであります。経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省がまとめました「平成21年度ものづくり基盤技術の振興施策」,通称「ものづくり白書」と呼ばれておりますが,そのものづくり白書においては,約18%の企業が「技術流出と思われる事象があった」と回答いただいているところでございます。「明らかに技術流出と思われる事象があった」,「恐らく技術流出ではないかと思われる事象があった」というパーセンテージを合計しまして,約18%の企業が,そうした事象があったと御回答いただいているところでございます。   2ページですが,そうした技術流出の状況の中で,ものづくり白書において,「技術流出と思われる事象があった」と御回答いただいた企業のうち,約73%の企業が,「流出した技術がその時点において自社にとって重要な技術であった」と御回答いただいているところでございまして,そうした事態の深刻さというものを裏付けているのではないかと思われます。   3ページですが,そうした技術流出の実態を踏まえた上で,刑事訴訟手続における営業秘密保護の必要性についてでございます。平成20年10月に行われた調査によりますと,実際に技術漏洩の経験を持つ約77%の企業が,「刑事訴訟手続において,営業秘密が一般傍聴人に知られてしまうおそれがあるため非公開審理にするなど,情報漏洩に対する措置を設けるべきである」と御回答いただきまして,さらに,こうした漏洩を経験した企業の中で,中小企業に限定させていただいた場合には,85%がこうした措置の改善を求める結果となっているという結果でございます。   以上でございます。 ○山口座長 ありがとうございました。   ただ今御説明いただきました内容について,何か御質問等ございましたらお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。   どうぞ。 ○山下委員 最後の3ページのことですが,平成20年10月に行われた調査ということで,2つ,下に小さい字で挙げられていますが,このN=336とN=107という分母だと思いますが,これはどういうふうに選定されて,どういう企業が入っているのか。数としては非常に少ないような気もするのですが,どういう形で選定されたのか,お聞きしたいと思います。 ○事務局(経産省・中原室長) それぞれの調査は,経済産業省が行った委託調査によるものと,外部の財団法人によって行われたものの2つでございまして,資料4の3ページの上の黄色の枠囲いの中に書いてあります,経済産業省と企業活力研究所が行った調査を示しております。   2番目の,中小企業における技術流出の実態に関する調査研究については,財団法人企業活力研究所で把握されている中小企業の,合計約1500社に対して調査して,そこから御回答いただいたものであると伺っております。   最初の,経済産業省の委託に基づいて行われた調査については,委託先の帝国データバンクの製造業の企業リストに掲げられた企業を対象とした結果でございます。 ○山下委員 この2つはいずれも,この公開された調査研究はホームページ等で,だれでも見れる状態になっているのでしょうか。 ○事務局(経産省・中原室長) 公開はされております。ホームページで見られるかどうかは確認しておりません。 ○山口座長 ほかにございますでしょうか。よろしゅうございますか。   それでは,続きまして,前回の研究会の御議論の中で委員の方より,今回の措置についての具体的なイメージを示してほしいという御意見がございました。そのことを踏まえまして事務局が資料を作成しておりますので,この資料について御説明をお願いしたいと思います。 ○事務局(法務省・杉山企画官) それでは,私の方から,資料5「手続運用イメージ」について御説明させていただきます。   前回の研究会の議論の中で,今回の措置についての具体的なイメージをという御意見がありましたことを踏まえまして,事務当局において,「手続運用イメージ」というものを作成させていただきました。議論の出発点とするため,理解しやすい仮想事例に基づくものであるということを御了解いただければと考えております。   まず事案の概要でありますが,被告人は,株式会社Xの技術部長Wのパソコンに不正にアクセスし,株式会社Xの営業秘密である製品Xの製造方法のデータをメールで自己所有のパソコンに送信させて,営業秘密を取得したという,不正競争防止法第21条第1項第1号に該当する事案を想定しております。   なお,製品Xの製造方法は,物質Aを3000度で10分熱した上で,薬品Qを混ぜた後,型に入れて成型するというものであります。   この点,製品Xの製造方法としては,物質Aを2000度で20分加熱し,薬品Pを混ぜることにより強度を増すという方法が知られておりますが,上記方法により,高価な薬品Pに代えて,安価な薬品Qを用いることにより,強度が高い製品を製造することができる。こういった事例でございます。   手続の流れでございます。まず公訴提起に当たって,公訴事実の概要は,次のとおりであります。   被告人は,不正の利益を得る目的で,平成23年何月何日ころ,株式会社Xの技術部長Wのパソコンに不正アクセス行為をし,同パソコンから製品Xの製造方法の営業秘密を取得した。  公訴提起に引き続いて,被害者である株式会社Xから,検察官の公訴提起に係る営業秘密を構成する情報の全部を特定させることとなる「本件営業秘密である製品Xの製造方法」を特定させることとなる事項を公判廷で明らかにされたくない旨の申出がございました。   これを受けた検察官は,捜査段階では被告人が犯行を認めていたことを踏まえ,公訴提起に係る営業秘密を構成する情報を特定させることとなる事項は,被害者の申出のとおりであり,同事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることが相当である旨の意見を付して,裁判所に通知したところであります。   次のページにまいりまして,公判前整理手続において,被告人側の争い方として,例示ということで2つ挙げております。例�@は,公訴事実を認めるというものでございます。例�Aとして,データの入手行為を否認し,被告人は,製品Xと同じものを製造しているが,その製造方法は独自に開発したものである旨主張する,などとして審理方針を示しました。   これ以降,例�@は,今申し上げた公訴事実を認める場合のこと,例�Aは,今申し上げように公訴事実を否認することを前提としております。   秘匿決定に関して被告人側の意見として,例�@については,しかるべく,との意見が述べられました。例�Aについては,製品Xの製造方法のうち,物質Aを用いることは公知のものであり,これについてまで秘匿決定するのは相当でない,旨の意見が述べられました。   なお,例�Aにおいて,検察官は,被告人側の意見を受けて,被害者との事前の相談に基づき,物質Aについて秘匿決定をしないことについては問題ないとの意見を述べました。  これを受けて裁判所は,次の秘匿決定を行いました。例�@の場合,本件営業秘密である製品Xの製造方法を構成する情報を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない。例�Aとして,本件営業秘密である製品Xの製造方法を構成する情報のうち,物質Aを加熱する温度,物質Aを加熱する時間,加工に用いる薬品,を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない。   続きまして,裁判所は,以下のような呼称等の定めを行いました。例�@の場合は,呼称等の定めを行いませんでした。例�Aの場合,「3000度」を「本件加工温度」,「10分」を「本件加工時間」,「薬品Q」を「本件薬品」とする呼称等の定めを行いました。  続きまして,公判期日外の被告人質問については,例�@は,これは特段行わないこととし,例�Aについては,裁判所は,被告人質問は公判期日外で行う旨決定いたしました。この被告人質問については,弁護人提出の陳述等の要領の記載を受けて,検察官から,相当詳細な質問を行うことになる旨の意見が出されるとともに,その場合には,被告人の供述が営業秘密特定事項にわたる蓋然性が非常に高いと考えられる旨の意見が示されたところであり,これを受けて,弁護人・検察官から,被告人質問については公判期日外で行ってほしいとの申立てがあったというものであります。   続きまして,公判廷の手続に移ります。起訴状の朗読ですが,例�@,例�Aともに,本件の起訴状には「製品Xの製造方法」の具体的な内容までは明示されておらず,営業秘密特定事項に係る名称等はなかったことから,起訴状はそのまま朗読されました。   以後の手続については,例�@については,公訴事実を認めている事案であり,特に触れる必要もないと考えられることから,以下は,例�Aについて御説明申し上げます。   検察官・弁護人の冒頭陳述でありますが,先ほど定められた,呼称等の定めに従って行われました。   また,Wの証人尋問についても,呼称等の定めに従って行われたところでございます。   念のため申し上げますと,この事例では,証人尋問が営業秘密の具体的内容に及ばないことから,期日外で行う必要がないということを想定したものでございます。例えばこの事例で,証人Wは,自らのパソコンに保存していた製品Xの製造方法のデータに何者かに不正アクセスされてデータを流出したという内容を証言することを想定しているところでございます。   続いて,被告人質問ですが,被告人質問は公判期日外において行われました。その手続の中で,被告人は,Wのパソコンから製品Xの製造方法のデータを不正に持ち出したことはありません。様々な実験を繰り返した結果,物質Aを3000度で加熱する方法で加熱時間を10分とすればある程度の強度を確保できることが判明し,さらに,加える薬品をいろいろと試していく中で,薬品Pよりもずっと安い薬品であって,国内ではC株式会社のみが製造している薬品Qにたどりつき,これを用いた場合には,物質Aの通常の加工方法で薬品Pを用いた場合と同程度の強度の製品を製造することができることがわかりました。などと供述しました。   呼称等の定めの追加として,検察官から,薬品Qの入手先である「C株式会社」については,薬品Qを特定させることとなることから,「α株式会社」という呼称等の定めを行うべきであるとの意見が示され,これに対し,弁護人も「しかるべく」との意見を述べたため,裁判所は,それらの意見を踏まえて,「C株式会社」を「α株式会社」とする呼称等の定めを行いました。   そして,これらの呼称等の定めに従って,公判廷において期日外の尋問調書が,次のとおり朗読されました。Wのパソコンから製品Xの製造方法のデータを不正に持ち出したことはありません。様々な実験を繰り返した結果,物質Aを本件加工温度で加熱する方法で加熱時間を本件加工時間とすればある程度の強度を確保できることが判明し,さらに,加える薬品をいろいろと試していく中で,薬品Pよりもずっと安い薬品であって,国内ではα株式会社のみが製造している本件薬品にたどりつき,これを用いた場合には,物質Aの通常の加工方法で薬品Pを用いた場合と同程度の強度の製品を製造することができることが分かりました。   それ以後の手続であります論告・弁論・最終意見陳述から判決については,呼称等の定めに従って行われたということを想定しております。   以上が,今回の法的措置の手続運用のイメージの説明でありますが,次のページから,営業秘密の内容が問題となり得る具体例を2例挙げておりまして,今回の法的措置に従った場合,どのような形で秘匿決定や呼称等の定めがなされるかを当てはめてみたものでございます。   事例�@として,航空機用アルミ板の強度試験に関するもの。この航空機用アルミ板の強度試験は,パンチングプレス器(打ち抜き型)でパンチして孔を開け,その時のパンチ圧力を測定することにより行う。本件営業秘密は,その測定値のばらつきを減らし,強度試験の精度を高めるというものでございます。   公訴事実に記載されている営業秘密としては,営業秘密である航空機用アルミ板の強度試験に用いるパンチングプレス器の製造方法。   秘匿すべき営業秘密を構成する情報としては,本件営業秘密のうち,パンチングプレス器の材質がニッケル・クロムモリブデン鋼であり,その形状が円筒であること。   秘匿決定の例として,本件営業秘密である航空機用アルミ板の強度試験に用いるパンチングプレス器の製造方法を構成する情報のうち,「航空機用アルミ板の強度試験に用いるパンチングプレス器の材質及び形状」を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない。   呼称等の定めの例として,「ニッケル・クロムモリブデン鋼」を「本件物質」,「円筒」を「本件形状」。   続きまして,事例の�Aでございます。腐食性の強い薬品(硫酸,過酸化水素水,塩酸等)を貯蔵するタンクに貼り付けるシートの溶接技術に関するもの。   この腐食性の強い薬品をタンクで貯蔵する場合には,当該薬品からタンク本体を保護する必要があるため,タンクの内面に,フッ素樹脂シート貼り付ける。タンクの缶体内面に合わせて複数のシートを貼り付けるにはシートとシートの継ぎ目を溶接する必要があるところ,この継ぎ目の溶接が不完全だと,継ぎ目から缶体内面に薬品が浸潤して危険となるため,完全,確実に溶接する必要があり,これには相当の確実な技術を要する。本件営業秘密は,この溶接を完全,確実に行うことを可能とするものであります。   公訴事実記載の営業秘密として,営業秘密である貯蔵タンクに貼り付けるシートの溶接方法。   秘匿すべき営業秘密を構成する情報として,本件営業秘密のうち,吹き出し口を縦横比が2:1のひし形に加工したノズルを取り付けた溶接機を用い,溶接前処理剤D(M化学株式会社製造)を塗布して,貯蔵タンクに貼り付けるシートを溶接する方法。  秘匿決定の例。本件営業秘密である貯蔵タンクに貼り付けるシートを溶接する方法を構成する情報のうち,「溶接機のノズルの形状及び塗布する薬品」を特定させることとなる事項を公開の法廷で明らかにしない。   呼称等の定めの例として,「吹き出し口の縦横比が2:1のひし形であること」を「本件形状」,「溶接前処理剤D」を「本件薬品」,「M化学株式会社」を「A株式会社」とするものでございます。   説明は以上でございます。 ○山口座長 ただ今事務局から,資料5に基づいて今回の措置の運用イメージについて御説明がございました。この点は前回の研究会でも御議論のあったところでございますので,本日はまずこの点について御議論をいただきたいと思います。ただ今の事務局の説明の内容に対する御質問でも結構ですし,あるいは,ただ今の御説明を踏まえた御意見でも結構ですので,よろしくお願いしたいと思います。   酒巻委員。 ○酒巻委員 酒巻でございます。営業秘密というもの,それ自体の具体的イメージが大分分かってきましたので,幾つか確認的な事柄を御説明いただければと思います。前回私は抽象的に,秘密に対する罪は営業秘密以外にもあるものですから,なぜ営業秘密についてだけ特別の刑事手続を設けなければならないか,立法の必要性について質問いたしました。1点だけ確認したいのは,刑事制裁を現実に発動しなければならんような実害・秘密侵害結果が生じてもなお,法廷において既に侵害されてしまっている営業秘密を保護する必要があるのかという点です。今お聞きしたような事柄が営業秘密だとすると,このような秘密侵害結果が発生した場合に,民事の世界でもたくさんの救済措置が既にある。 一般論としては,刑事法も既に実害が発生した場合の最後のサンクションでございますから,このような侵害について民事的な救済では足りないので,刑事実体法が設けられてかなり重く処罰できるとされていることはよくわかっております。   そこは認識しておりますが,一般の秘密侵害罪というのは,普通はひとたび秘密が侵害されますと,例えば国家機密がマスコミで報道されてしまったとか,個人の秘密プライバシーが公になるということになると,それで秘密としては保護に値しなくなる場合も大きいと思いますが,今日伺いますと,この営業秘密というものは,刑罰で制裁を加えなければならないような実害が発生したとしてもなお,法廷において,傍聴席にいるかもしれない同業他社の人々にその内容が漏れることを防ぎたい。ですから,個人の秘密が世間に広く知られてしまったとか,あるいは国家機密が漏れたというのとは秘密といっても大分違うように見える。特に法廷において,更に傍聴席からそれをプロテクションしなければならない。そういう固有の秘密であるという特性がだんだん分かってきました。そのような理解でよろしいでしょうか。御専門の方にお伺いできればと思います。 ○山口座長 高松委員。 ○高松委員 私からお答えさせていただきます。いろいろ事例はあるのですが,ここで書いてある,法廷では秘密にしておきたいというのは正におっしゃったとおりで,1社が10社に広がったらかなわないというのが真っ先に思い浮かぶことです。本来は,1社に対して秘密が漏れても,1社を差しどめすることができればその秘密も漏れなかったことに戻せる。一番のねらいはそこです。実態として今いろいろ企業が困っているのは,それができなくて,1社だけには安くライセンスをしたり,そういうところで1社が2社に広がらないように食い止めているというのが産業界の実情だと考えています。 ○山口座長 宮城委員。 ○宮城委員 日本商工会議所の宮城でございますが,私は中小企業の立場から発言を申し上げたいと思います。中小企業の営業秘密はたくさんあって,その1つが侵害されて,民事で例えば数千万円が救済されればそれで済むという,そういうものではございません。基本的に世界でオンリーワンと呼ばれている中小企業,世界シェアの8割とか6割を持っている会社であっても,この営業秘密というのはそうたくさんあるものではありません。   したがって,会社が存立できるかできないかというのは,当該営業秘密が世の中に出てしまうかどうかに大きく依存いたします。したがって,今回の私どもこの要綱案について,とりわけ中小企業の方は喜んでおります。これは自分の会社の存立の1つという言い方は,何をもって1つと言うのかというのは難しい議論ですが,営業秘密の中にすべてを込めている会社は非常に多くなっています。   そういう中で,自分の会社の生命財産と言われるような営業秘密が守られるために,エンフォースメントがきちんとできる。民事の世界でお金にかえられないと思っているという世界が,刑事の世界できちんとできて,かつ公判の中でも国がその会社の存立を守ってもらえることに対して,ものすごく高い評価の声があります。したがって,営業秘密について,国家機密と比べると余りにも質が違うので恐縮ですが,中小企業の立場から言うと,会社の存立そのものであると思っております。それを国家秘密とどちらが高いのか高くないのかと言われると私も困ってしまいますが,私どもは今回この制度について非常に推進していただきたいと思っているのは,まさに日本の中小企業の存立と営業秘密の問題が非常に密接に絡んでいる,そういう時代であるという認識でございますので,ぜひ御理解をいただきたいと思います。 ○山口座長 中戸川委員。 ○中戸川委員 中戸川でございます。経団連からという立場で参加させていただいております。私もやはり企業の立場で一番気にするのは,競争関係にある他社に情報が広がるところが一番大きいと思います。   それとは別の視点ですが,その事案自体ということもあるのですが,きちんとこういう事案について刑事責任が追及されるということ自体が,同様の犯罪に対する抑止効果という,後々の効果について企業としても期待しているところが大きいという側面もあると思いますので,それを申し上げたいと思います。 ○山口座長 酒巻委員。 ○酒巻委員 御説明よくわかりました。もし誤解があると恐縮ですが,国家機密の例を出したのは,価値を比べているという趣旨ではありませんで,秘密の性質が,あるいはそれが一度公になった場合の侵害の性質がだいぶ違うだろうという例で出したつもりでございます。   私自身も皆さん方がおっしゃるとおり,営業秘密の保護の必要性,それを刑事司法過程においても担保する必要性というのは,そのとおりだろうと思っております。先ほど具体的なイメージを示していただきましたので,その上で今度は,要綱案での呼称の定め,あるいは期日外の尋問というものを使って,今皆様がおっしゃった秘密の保護が的確に働くのだろうかという点についてお聞きしたいと思います。私は法律の専門家ではありますが,実際に刑事手続を実務で動かした経験はないのです。刑事訴訟法の研究者としては,この要綱案は,それ自体固有に完結して,立法目的に適切な法的技術で組み立ててあるとは思うのです。   しかし,これが本当に実務の場で具体的にうまく働いて,皆さんのおっしゃっている目的を的確に達成できるかどうか。もっと俗な言葉で言うと,現実に動くのかどうかという点に関心があります。この制度ができたときに実際にこれを動かすことになるであろう,例えば被告人を弁護する弁護士の山下さんや,これを運用しようとする裁判所の立場,あるいは検察官の立場から,制度を動かすことを想定したときに何か気になることがあるのかどうか,そういう点をお聞きしたいと思います。 ○山口座長 田中委員。 ○田中委員 最高検察庁の田中でございます。たまたま最近マスコミをにぎわしております国家機密の関係を扱っておりますが,まだあの例では検察官とすれば比較的秘密の内容等はわかりやすいのですが,先ほど資料で提示されたパンチングプレス,検察官は非常になじみがない言葉等がいっぱい出てきております。   そこで検察官の立場で御意見を申し上げますと,今回の法整備をなされた場合には,秘匿決定や呼称等の定めを行うに際しては,裁判所に対して適切な意見を検察官が述べたり,あるいは疎明する,こういう役割が検察官に求められることとなります。事務当局の御説明によりますと,秘匿決定や呼称等の定めがどの範囲か,いかなる範囲か,どのような事項か,それについて必要なのか,争点や攻撃防御の在り方などによって変わり得るものであるということでございます。   さらには,審理が続く中でも,呼称などの定め方を追加する場合もあるということでございます。検察官は,余りなじみのないこういう営業秘密の中で,さきに述べましたような役割を十分に果たすためには,被害者の方,企業の方が秘匿を求めておられる営業秘密の具体的内容や呼称など定めるべき事項等,検察官として十分に把握しておく必要があると考えます。   また,前回,酒巻委員から御指摘のありました記録の問題ですが,事件が確定した後でも,記録の閲覧等が求められた場合に,記録を保管する検察官として,いかなる範囲において閲覧を制限するか,こういうことについても適切に判断する必要があると思います。そこで営業秘密の保護を遺漏なく行うためには,秘匿決定等を行う場合において,当該営業秘密の保有者である被害者の方に,検察官に対して御協力をいただくことが不可欠であると思います。御協力と同時に,教えていただくことが不可欠であると思います。   すなわち被害者の方に対しては,検察官に対して,秘匿すべき営業秘密を構成する情報の範囲について具体的に明らかにしていただく必要があるだろう。営業秘密を構成する情報を特定させることとなる事項や公開の法廷で明らかにならないよう,呼称等定めるべき範囲やその具体的な呼称の候補を教えていただく,このような御協力が必要になると思います。   もちろんこれまでも検察官は,被害者の方と十分に意思疎通を図って訴訟遂行,公判遂行に当たってきたところですが,今回の措置については企業の方が対象になることが多いと考えられますので,企業の方でも検察官に対してそのような御協力がいただけるか,これが前提だろうと考えておりますので,念のためにこの点はお伺いしておきたいと思います。   また,被害者の方の協力が不可欠だということについて,営業秘密を保有されている企業の方々に対して広く周知していただく必要があるかと思っております。経済産業省におかれてもそのような措置を講じていただけると考えてよろしいでしょうか,併せてお伺いさせていただきたいと思っております。 ○山口座長 今,田中委員より2点お尋ねがございましたので,まずそれについて取り扱いたいと思います。最初の点ですが,産業界の方々でいかがでしょうか。   宮城委員。 ○宮城委員 日本商工会議所の宮城でございます。私どもでもその点——その点というのは秘匿決定のときの容易さの問題と,それから営業秘密を裁判所,あるいは検察官にきちんと提示するとの問題が出ました。私どもとして,この秘匿決定について,できるだけ速やかにしていただきたいということの裏腹の関係として,きちんとその営業秘密が何であるか,当然これは提訴する段階で,営業秘密が何であるかは特定されていないといけないし,それは金庫にきちんと保管されているとか,それが何であるかということがなされているという前提ですので,そういうものに対して被害者たる経営者は,協力しなければ多分秘匿決定については速やかに出されないのではないかと私どもも思いました。   したがいまして,秘匿決定について,今回この手続運用イメージの中で,全部を特定されることとなる事項を示すことによって秘匿決定がなされるような形で書かれておりますので,私どもとして,それは協力していかないといけないという議論を内部でしてまいりましたので,御披露申し上げたいと思います。 ○山口座長 中戸川委員。 ○中戸川委員 私も企業の立場,被害企業の立場という観点で申し上げますと,今回の事案は,刑事訴訟手続の中で営業秘密を取り扱うという事案になるわけで,そういう意味でもともと被害企業に情報が当然あって,情報の保有者という立場になるわけですから,その情報に関わる事案ということで,その被害企業がこの手続の中で,しかるべき協力をしないと営業秘密の保護が十全に図れないという,企業として協力の必要性ですね,そういう基本的な認識は当然あるだろうと思います。   結局,情報保有企業としては,営業秘密の保護を適正に図っていただくこと自体がその企業の利益ですから,そういう観点からも,今御質問のありました秘匿範囲をどうすべきかという明確化の側面であるとか,どういうふうに呼称を定めるべきかとか,そういうことについて企業として積極的な協力を図らないとうまく運用できないことになると思いますので,企業としては,そういう積極的な協力をするという姿勢で対応するだろうと考えます。   また,これは検察官との関係で申し上げますと,公訴提起の段階だけではなくて,審理のプロセス全体の中で協力が必要になり得るだろうという認識がございますので,そういう意味では検察官の方々におかれても,その被害企業との継続的な対話を維持していただくような姿勢をとっていただけると大変ありがたいと考えております。   以上です。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(経産省・中原室長) 経済産業省においても,宮城委員,中戸川委員から御指摘がありましたように,営業秘密が実効的に管理されるためには,被害者の皆様の協力が不可欠だろうと認識させていただいているところでございます。例えば経済産業省においては,営業秘密の適切な保護に資するように営業秘密管理指針を作成しているところであります。その中に刑事訴訟における営業秘密の保護についての項目を設けた上で,今回の措置による営業秘密の保護を実効あらしめるためには,その被害者の皆様の協力が不可欠であり,被害者において秘匿決定や,御指摘のありました確定記録などの閲覧等に関して,明らかにされると支障が生じる営業秘密の範囲を具体的に示すことを検察官に積極的に協力することが必要であるという記載を盛り込むことなどによりまして,周知を図ることができればと考えております。その具体的な周知の方法などについては,産業構造審議会等の場を通じてさらに検討させていただければと考えております。 ○山口座長 田中委員。 ○田中委員 お話をお伺いしまして,検察官とすれば正に知識の乏しい,なじみのない分野かと思います。それが多くなるかと思いますが,御協力を得ながら最大限努力していきたいと思っております。   以上です。 ○山口座長 林委員。 ○林委員 一言追加させていただきますと,民事の営業秘密の事件では,被害者側の原告の代理人弁護士は,営業秘密を構成する事実を特定することが基本的に必要な実務でございますので,日常的に行っておりますし,また記録の閲覧制限の申し立ては,書面を出す都度行っております。その際には田中委員がおっしゃられたような実務をやっておりますので,今回,極めて基本的な,秘密を保持するための手だてを刑事訴訟手続にも入れていただくようになりましたら,当然,告訴の段階から,そのような体制で代理人として臨むことになると思います。 ○山口座長 この運用のイメージをめぐりまして,ほかに何か御発言いただくことはございませんか。   山下委員どうぞ。 ○山下委員 これは確認ですが,本件の資料5の4ページの7番のWの証人尋問,これは公判期日において行われたということで,秘匿措置を踏まえた呼称によって行われたということだと思うのです。これも公判期日外に行われた場合には,その呼称等の定めに従うことなく,普通にやればいいということなのか。この被告人質問にはそうなっておりますが,そういう趣旨だと理解してよろしいのでしょうか。 ○山口座長 いかがですか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 御指摘のとおりでございます。この事例の場合,あくまで事例を単純化するためにそうさせていただいたわけでございます。 ○山口座長 酒巻委員どうぞ。 ○酒巻委員 先ほど攻撃側の検察官のお話は聞いたわけですが,想定している法律の要綱ですと,公判手続の最後の部分,論告弁論,最終意見陳述の部分を期日外で行うことはできませんので,必要であれば呼称の定めのシステムを使う。そうすると,防禦活動をする被告人・弁護人の立場から,正にこれが秘密かどうかという部分を徹底的に争うような事案の場合に,最後の弁論において秘密かどうかを争う意見を述べるときに,これは私のイメージですが,これを即興ではおよそ無理でしょうから,まずは生の形で書いて,それを呼称の定めに置き換えて,法廷で陳述するということになると思うのです。しかもその弁論の内容が,これは秘密ではないのだという議論をするときに,そんなことができるのだろうかというのが私の素朴な疑問なのです。どうなのでしょうか。   証人尋問とか被告人質問については公開の法廷でない期日外でやる場合には,これを実施した後にゆっくり落ち着いて,それを呼称の定めに置き替えて,法廷でそれを朗読するというのはできると思うのです。しかし最終弁論や被告人の最終陳述が本当にできるのかなというのが,やや気になっているところであります。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 弁護人の立場で言うと,まずは普通に弁論要旨を書いた上で置き替えていくという作業をしないと,恐らくその場でやってしまうと,ポロッと言ってしまう可能性が極めて高いわけです。これは論告も同じだと思います。そうなりますと,逆に言うと傍聴人はそこにいるわけですが,傍聴人は聞いているとちんぷんかんぷんになる。営業秘密で争う場合,聞いている方としては,恐らく呼称だけが出てきて何のことを言っているか全くわからない,傍聴人から見ればそういうようになるかなということなので,これが果たして公開の法廷での裁判なのかという問題も提起するのかという気がいたします。 ○山口座長 河本委員。 ○河本委員 第1回公判手続での被告事件に対する被告人の意見陳述,それから被告人の最終陳述なると,少し難しい問題になると思うのですが,弁護人の立場からはいかがでしょうか。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 特に第1回の場合は,恐らく初めてしゃべるときに,ポロッと言ってしまうこともあるわけです。かなり打ち合わせは必要ですが,被害者に関する規定が刑訴でできるときもそういう懸念があったのですが,弁護人はもちろん法律がよく分かっていますから,うまくできるとしても,被告人はどうしても生の発言をしてしまう。その中でポロッと出ることがあり得る。特に第1回の起訴状に対する認否においてポロッと出る可能性がある。そういうことは大いにあるわけでして,幾ら弁護人と打ち合わせしても,大変緊張している中でポロッと出るということはあり得るのかなと思っています。 ○山口座長 どうぞ。 ○河本委員 営業秘密の非常に高い要保護性,日本の産業にとって非常に大事であることは痛感しているところであります。一方で,法廷において被告人の権利を擁護しながら,真実を発見していかなければいけない。   今出てきたような問題点を考えたときに,本当に大丈夫なのかなという気が少ししています。営業秘密はしゃべったら終わりという性質のものであります。例えば,ライバル企業の方々が傍聴席にいるときに,一つの発言が予想外に秘密性を持つ,非常に大きな価値を持つことがあるのではないかと思っております。こうした実態に対処すべく何か実効性ある措置がとれないか,ずっと考えております。この点しっかりした議論をしていただきたいと思っております。   非常に分かりやすい例をいただいたことについてはありがたいと思っております。そこで,営業秘密侵害訴訟の実務の経験からして,秘密の構成要素がこれほどシンプルなものなのか,かなり複雑多岐にわたることもあるのではないかと思いますが,その辺りの御経験についても御紹介いただけませんか。 ○山口座長 どなたか,今の点について御紹介いただけますか。   林委員。 ○林委員 民事の場合に,事案によってはここに挙げたような3つにとどまらず,当然もっと読み替えなければいけない用語がたくさん増えるのが普通だと思います。すみません,御質問の趣旨がわかっていないところがあります。 ○河本委員 本事例では3つ・2つと,注意深くやっていけば置き替え可能なものが示されています。しかし実際は,かなり言い替えが必要となる。そういうタイプの営業秘密がそれなりにあるのか,という辺りはいかがでしょうか。 ○林委員 それはむしろ言い替えなければいけない用語が多い事件のほうが多いのではないかと思います。 ○河本委員 ありがとうございました。裁判員裁判をやっていて,報道機関が刑事訴訟を傍聴する機会が増えている。法廷での中身が新聞等に出る機会が増えている。そうした中で,被害者保護の観点から比較的単純な言い替え,氏名をAと,住所をBと置き替える事案でも,ちょっとしたミスで法廷で実名や住所が出てしまう事例はいまだ散見されます。   そういうことを考えると,かなりしっかりした措置をとらなければいけないということを感じています。それに加えまして,林委員から御紹介のあったような,複雑多岐にわたる多数の言い換えを守り切った上で訴訟を進めることは,田中委員から御紹介のあった当初の打ち合わせを綿密に行って,しっかりと呼称を定める以外に,訴訟指揮においてもかなり神経を使わなければいけないことがあろうと思っております。   通訳が必要となる事件に至りましては,その困難さは相当なものになるという気がしております。その辺りまた山下委員の方から,弁護人の立場からも御意見をいただければと思っております。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 結局そういう読み替えというか,呼称を使う場合を考えると,今回の要綱案では第1と第2と分けておられるのですが,弁護人の立場から見れば,まさに営業秘密で争う場合には,第2の公判期日外の手続を使うことを当然希望するようになると思うのですが,そこでカバーされていない。さっきから出ている冒頭手続における起訴状に対する認否,それから終結前の最後の被告人の意見陳述は,そこはカバーし得ない部分ですが,そこでどうしてもカバーし切れていない部分があるということなので,刑事訴訟全体とみると,どうしても第2の公判期日外の手続ではカバーできない部分をどういうふうにするのか。先ほど河本委員から問題提起がありましたが,そこについては,もう出てしまったら終わりだという営業秘密の重大性とか重要性との関係で,どうしても当事者本人,被告人本人をコントロールすることは実際には非常に難しい。幾ら弁護人が打ち合わせをしても,これは法律論ですから,なかなか理解していただけない。また理解していても,緊張の余りポロッと言ってしまう危険がある。そういう制度設計で本当によいのかどうか,そこが非常に私は疑問に思っております。 ○山口座長 井内委員。 ○井内委員 私は法律の手続,裁判の手続については素人ですので,それをお許しいただいた上でご発言させていただきます。最初に話がありましたように企業,特に中小企業にとっては非常に深刻な事態が片やあって,これに対して何らかの手だてをしようというときでございますので,こういう議論をしていただいているわけです。もちろん営業秘密の漏洩を100%完全に防止できるかという意味においては,それは例えば被告人が,もう意図的に全部しゃべってしまうとか,いろいろなことが想定し得ますので,その可能性はゼロではないと思います。   例えば先ほどお話があったように,いろいろな読み替えをしなければいけないということは,1つの営業秘密という問題は,必ずしも1つの言葉だけではなくて,いろいろな要素から成り立つ場合もかなりあるわけでございます。例えば先ほどの例でも3つぐらいの要素があったわけですから,仮にポロッと言ったといっても,それですべてが明らかになるとは必ずしも限らない場合があると思うのです。   そういった意味で,できる限りリスクを減らす努力を関係者の皆様さんでやっていただきながら,100%ではないにしても,99%を目指していくということをやっていただきたいというのが今回の政策の趣旨でございますので,リスクがあるからやらないということではなくて,リスクをミニマイズする努力はしつつ,関係各位の御協力をいただければありがたいというのが政策当局としての立場でございます。 ○山口座長 土肥委員。 ○土肥委員 るるこういう秘匿決定なり,あるいは期日外の手続,尋問手続,そういったものを想定した場合に,営業秘密に関する侵害罪の手続,刑事上の手続がうまくいくのかどうか,この辺について問題になっておるところであります。また,その点について実務的な知識,経験に基づいてどうかという御質問なものですから,私はその資格は十分ないのだろうと思うのですが,私の場合は判例とかそういう事案を見ながら,どういうケースが民事の場合の営業秘密において問題になっているということを知るわけであります。   おっしゃるような新規性,有用性,そういう非常にぎりぎりしたところが問題になるケースが基本的にあるかというと,むしろそれはどちらかというと全体からすると私は少ないのだろうと思うのです。全体が例えば営業秘密として扱う。あるいは,ここでいうところの,「しかるべく」というところで処理されておった部分です。つまり当該,その営業秘密そのこと自体はもう争わない。問題は,ほかのところで営業秘密を取得した経緯について争うとか,そういうところはあるのだろうと思いますので,結構ケースとしては多い。   例えば具体的にいいますと,厚労省に対する後発医薬品メーカーが出すところの製造承認関係書類全部とか,そこにおける特殊な検査方法とか,そういうことで民事においては問題になりますので,今回その提案になっている2つ,公判前成立手続を入れると3つになるのかもしれませんが,2つもしくは3つのこういう仕組みが入ることによって,現にある営業秘密侵害罪における刑事訴訟手続において,相当程度機能するということだけは確かだろうと思います。   おっしゃっておられるような数を挙げろと言われると難しいのですが,新規性,有用性の辺りのところでポロッと出てしまうことがあるのですが,その場合であっても,このペーパーで見ますと,これはよくできているなと思うのは,被告人質問を公判期日外においてやった。やったところ,どうもそれまでの秘匿決定においては入っていなかった,C株式会社のみが製造する薬品Qにたどりつきという部分ですね,これが期日外尋問をやっていたがゆえに,こういう部分がきちんと秘匿の手当てができるということになるわけです。私は御懸念のようなぎりぎりしたケースというのは多分あるのだろうと思います。思いますけれども,大局的な観点から見た場合には,私は相当程度機能するような仕組みが実現するのではないかという意見でございます。 ○山口座長 河本委員。 ○河本委員 前回事務局から,期日外手続が必要とされる事案は,営業秘密侵害のうち,侵害部分が問題になるケースではない,営業秘密性が問題となり,秘匿決定をしただけでは,丁々発止のやりとりの中で秘密に触れる事項が出てきてしまうような事案を想定されている趣旨の御説明をいただいた。そういう事案はそんなに多くないというのは分かるのですが,そうした期日外尋問を想定している事案においては,被告人の公判における主張においても秘密性を保護し切れるのか,不安に思っているところであります。   侵害行為の争いだけであって,この秘密はAと扱えばそれで済むという事案については非常に有効でしょう。そういう事案が少ないと申し上げるつもりはない。期日外尋問が想定している事案について,本当に大丈夫かなと考えている。そのあたりは御理解いただきたいと思っております。 ○山口座長 林委員。 ○林委員 先ほど来から河本委員,山下委員がおっしゃられている御意見は,むしろ秘匿決定と期日外尋問の措置だけでは足りず,公開停止のところまで行かないと意味がないのではないかという御意見になっていくのでしょうか。というのは,現在の法律の状況が平成15年に刑事罰を営業秘密について入れたにもかかわらず,営業秘密性を確保した,維持したままで裁判手続を進められないという,いわば矛盾のような状態できたということから,立法事実があるということはコンセンサスになっているところかと思います。   ただ,それでは,営業秘密という保護法益が失われてしまうことと,被告人の裁判を受ける権利との関係で,どこまでの措置を今回設けるかということで,今回の要綱ができているものと理解しております。そうしますと期日外尋問の要件について,現在の要綱案がこれでいいかどうかという議論のところで,今の河本委員の御質問というか,うまくいくのかという点はある程度解消されるのではないかと思いますし,それについてまた後で私も案を述べさせていただきたいと思っております。   それ以外で,初回,それから最終陳述の場面で,弁護人が既に読み替えの弁論要旨を用意しているにもかかわらず,被告人本人がうっかり言ってしまうような事態をどうするかというのは,この要綱の範囲外の公開停止のところまで行くかどうかという,いわばもう1つ別のポリシーというか,大きな判断のところになっていくと思います。裁判所や刑事弁護人のお立場から,憲法上の観点からも公序として,むしろ被告人の防御権を本当の意味で確保するためには,公開停止した方がいいんだということであれば別なのですが,そうでなければ,この要綱の範囲の中でその要件を充実させていくほうが,お話しいただいている趣旨はユーザー側のニーズと一致していると思いますので,そういう議論の方向がよろしいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 前回,私出席できなかったので発言できなかったのですが,私自身はそもそも立法理由というか,立法事実自体にも疑問を持っております。というのは,確かに秘匿されて裁判ができればいいと思うのは当然だと思うのですが,実際には,先ほど酒巻委員が言われたのですが,秘密というのはいったんそれが外に出てしまうと,それはそこである程度ダメージがあります。今の特にネット社会においては,それが転々流通する可能性もある。そういう意味で,いったん出たものについて企業が告訴する,そして刑事裁判を求めるということは,自分の会社が営業秘密を侵害されたということを公表することになりますから,ある意味ではそれ自体が非常にリスクのある,それによって会社の信用が棄損される,自ら棄損する行為をすることになってしまうかもしれない行為ですから,現在告訴等が少ないというのは,刑事裁判制度がそうだからだけではない理由があるのではないかと思っています。   したがって,今回のこういう制度をつくったからといって,それで告訴等が非常にやりやすくなると直ちにいえるのかどうかについて,私は疑問を持っております。特に民事手続に関して公開停止の規定を作ったわけですが,事務当局に聞いたところ,その運用状況は特に把握していない。ああいう制度ができたことによって,民事裁判が非常に活発に使われるようになったとか,当然そういう因果関係があるようなデータは特にないと思います。したがって,今回もこういう制度をつくったからといって,何か告訴がしやすくなったりするのかどうかについては私はよくわからないというか,そこは明確に立法事実として示されていないのではないかと思っております。   また,今回のこの制度を作ったとしても,その制度が非常に不完全である。先ほど出たように被告人の供述が,第1回公判とか最終意見陳述の段階でポロリと出るということがあり得る制度であるとしたら,企業としては,いったん出てしまったら困る営業秘密について,そういうリスクがあるような制度はあえて使おうと思うのかどうかということについても懸念が生じるところであります。私はそういう意味で,立法技術も含めて今回疑問を持っているところでございます。 ○山口座長 御議論が,運用のイメージから中身に入ってまいりました。今回の法的措置の要綱(骨子)案の全体的な考え方,例えばなぜ公開の停止まで行かないのかという辺りも含めた御議論になってきているように思いますので,その点について更に御議論をいただきたいと思います。本日はそれについて御議論いただいた後で,第1,第2,第3と具体的な要綱(骨子)案の内容について,更に細かい御議論をいただきたいと思います。もう既に御議論が始まっているところでございますので,この要綱(骨子)案全体のスキームというか,そういうことについて,公開停止までなぜ行かないのかという御議論もございましたけれども,その辺りに対して御意見をいただければありがたいと思いますが,いかがでしょうか。   どうぞ。 ○山下委員 公開停止との関係ですが,そもそも刑事訴訟法の281条についての議論をみますと,これについては公開停止とか,傍聴人の退廷とかをやってでも,まだ更に証人尋問がうまくいかないと考えられる場合にこれを使うという,限定的な解釈が恐らく多数説かと思います。そこにはだから公開停止してもだめな場合が書いてあるということは,公開停止よりもさらに厳格にこれは運用すべきなのが,公判期日外の証人尋問であると考えられると思われるところ,今回はあえてそれを逆転しているというか,公判期日外の尋問の方をあえて採用しているというのは,私は何か逆転しているのではないかと思っております。 ○山口座長 大澤委員。 ○大澤委員 今の点ですけれども,期日外尋問ができる場合には公開停止もできるという前提に立てば,今の山下委員の言われたようなことになるのかと思いますが,そういう前提に立てるのかどうかというところがまず1つの問題だろうと思います。  この点では御承知のとおり,民事の方では一定の公開停止の規定があるわけですが,そこでどんな理由で憲法との関係を整理しているのかというと,いろいろ書かれたもの等を拝見する限り,要するに,公開の法廷では当事者等が営業秘密に関する事項について十分な陳述を行うことができず,そのことによって適正な裁判を行うことができなくなる。そういう事態が生じると,権利の救済の場であるはずの裁判が裁判として機能しないという事態になって,それが公の秩序を害する。このような意味で憲法がいう「公の秩序」という文言の中に読めるのだという,多分そういう整理をしているのではないかと思います。   それで刑事の場合ですが,1つは前回も事務当局の御説明の中にも出てきましたが,82条だけではなくて,憲法37条1項で,被告人の権利としても公開裁判を受ける権利が保障されている。82条の問題だけではなくて,もう1つ載っていて,被告人にとっての公正な手続の保障の一環としても考えられている面がある。それから,憲法82条自体が,一定の刑事事件については絶対的な公開を定めているわけで,82条それ自体で見ても,民事と刑事とで単純に同じに考えてよいのかという問題があるのではないかという感じがいたします。   具体的な中身で見た場合に,刑事の場合何が問題となってくるのかというと,国家の刑罰権の実現なわけで,そこでは事案の真相を明らかにして,正しい裁判を行うことは非常に大切なことですが,その要請とともに,刑罰権の実現は公正な手続,公正な経路を経て行わなければいけない。そこにも非常に強い独自の価値があると考えられているわけです。公開が公正さの基本的な要素の1つだとすると,民事の場合と直ちに同じにように考えることができるのか,疑問もあるように思われます。   そうだとすると,ここで今回期日外尋問を考えていますが,その要件があれば当然に公開停止まで行けるのかというと,そこはそうとも断言できないところがあるのではないか。そこで山下委員の言われたような逆転があるとそう簡単に言えるのかというところは,私は疑問に思います。 ○山口座長 甲斐委員。 ○甲斐委員 どちら向きの話をされているのかという点には私も戸惑っています。最初に山下先生が,ポロッと言うかもしれないではないかという御指摘をされたときは,人権を擁護される山下先生におかれて,全部幕を閉じろというつもりなのかしらとかなり戸惑っていたのですが,いやいやそうではなくて,こんな制度を本当につくるのかという御疑念だということなので,それはそれで安心したわけであります。   ただ,ポロッと言うかもしれないから,全部公開せよというのはやはり話としては逆で,そういったニーズに対してどういうふうにこたえるのかということが今求められていることではないかと思うわけです。今回の要綱案についても,一応事前に準備できそうなものについてはきちんとやりましょう。それで事前になかなか準備できにくいもの,証人尋問などは,その場でやりとりがなされるわけなので,それについて必要な場合には期日外で十分やりとりをした上で,それである意味事前準備して,言い替えをして,公判廷に出せばいいのではないかという発想で作っているわけであります。そういう意味では一応の仕切りになっているのではないか。   ポロッと言うかもしれないというのは,もちろんそういうことがあり得ることを否定するつもりはありませんが,ある意味それは事実上の問題でありますし,それを完全に防ぐとすると,本当に全部非公開にしないと意味をなさないということになります。しかもそれは,ポロッと言うかどうかはだれも分からないわけなので,必要があるかどうかも分からない状況で,全部幕を閉じる。しかも冒頭手続のところから,最後の論告弁論のところまで,全部幕を閉じる。こういう仕掛けになるわけで,それで本当にいいんですかということになるわけだと思います。   ですから,これは一応そういった点も踏まえて,事前に準備できるところと,なかなかそうはいきにくいところとを区分けした上で作った制度である。もちろんこれについて,もうちょっとこうした方がいいのではないかという御意見はあろうかと思いますが,完璧を期すというのは,それは人間のやることですので,そこまで行くのはなかなか難しいのではないかと思います。 ○山口座長 酒巻委員。 ○酒巻委員 先ほどから公開停止の話題が出ていますので,大澤教授が憲法37条の点にも言及されましたので,意見と確認事項を述べます。現在も御承知のとおり刑事裁判では,刑事訴訟法に実定規定はありませんが,憲法とそれを受けた裁判所法の規定に基づいて,公序又は良俗に反する場合は,裁判所の決定で部分的な公開停止はやっているわけです。   それが憲法37条に違反するという議論は,今のところは余り表立ってないわけです。仮に今検討している要綱案が,営業秘密が公判期日に公になることを防ぐことを目的とした1つの技術,法律技術として,これが実定法化されたとします。そうであっても,このオプションがあるとともに,真にやむを得ない場合には,憲法と裁判所法に基づいて私は公序,つまり民事では公序だということで不正競争防止法に非公開審理を設けているわけですから,それとの整合的な解釈からいっても,公序に当たるということであれば,裁判所が公開停止の決定をすることは,憲法上も可能であろうと考えています。   さらに,例えば民事,刑事が共通に挙げてありますが,現に実定法の意味を持っているヨーロッパ人権条約とか,国際人権規約の中には,必ず裁判公開についての大原則はうたってありますが,公序とか特段の重大な利益を保護するためには,例外的に公開停止も可能であると,そういう人権規定があるわけです。日本国憲法にも類似の規定があり,一般的な憲法の原則として,37条は裁判公開を被告人の権利という形で書いていますが,しかし刑事裁判だからといって公開裁判を受ける基本権が絶対無制約になるわけではないという憲法解釈は十分成り立つと思われます。   そして現に刑事裁判では,例えば強姦の被害者の方が証人尋問でつらいことになる。あるいは非常に残虐な話が被告人の口から出るかもしれないというときは,現に憲法と裁判所法に基づいて公開停止をしているわけですから,この要綱案は私の整理では,営業秘密保護のために特別の審理手続として1つの具体的・技術的なオプションを作るのだけれども,最後の手段として公開停止も排除するものではない。それも可能なのではないかと理解しているのです。このような整理・理解でよろしいでしょうか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 事務当局の整理としては,先生おっしゃったとおりでございまして,憲法あるいは裁判所法に基づく公開停止というのは,今現在でもできる。それで今回の法的措置を設けたからといって,それができ得ないことになるわけではないという理解をしております。 ○酒巻委員 ありがとうございました。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 私は素朴に最初にこの要綱案を見たときに思ったのは,公開停止でなぜ対応できないのか。しかも民事では,公開停止という規定をわざわざ作ったのに,なぜ刑事ではそれと違うオプションを作ろうとしているのかというのが素朴な疑問でありました。特に,さっき酒巻委員が言われましたが,残虐なものとかそういうものは現在も公開停止をして,この間も裁判員裁判で公開停止されたという例が報道されていました。   例えば弁護人が,被告人は明らかに「俺はこの第1回でしゃべる,秘密を暴露する」みたいなことを言っているということが分かったときに,それを裁判所に事前に伝えれば,公開停止ということもあり得るかもしれない。いずれにしろ,そういう形で対応できるのであれば,それ以外のオプションをわざわざ作る必要があるのかどうかという点が疑問としてあります。   特に,第2の公判期日外の証人尋問等については,刑事訴訟法上は証人尋問しか認めていないのに,今回の要綱案では証人尋問以外の鑑定人とか,更に被告人質問も公判期日外において行うというふうにしようとしているわけですが,これは憲法37条の,被告人としての公開裁判を受ける権利との関係で,非常に大きな問題があろうかと思います。実際の運用上,営業秘密で争う事件は,ほとんどが第2の手続を使うことになろうかと予想されるところ,それがほとんどすべての手続,証人尋問を含め被告人質問まですべて非公開で行われるというやり方は,この営業秘密の事件は,そういう意味では営業秘密で争った場合には,ほとんど非公開になってしまう。これは憲法37条の,被告人の公開裁判を受ける権利との関係で,極めて大きな問題があるのではないかと思っております。 ○山口座長 大澤委員。 ○大澤委員 期日外尋問というのは,そこで証拠を収集して,その結果を公判廷に検出して証拠調べをするわけですから,非公開になってしまうというのは,いささか言い方として適切さに欠けるという感じがいたします。   実際に証人を調べている部分が,公開の法廷ではなくなるというのはそのとおりですけれども,しかしその結果については,公判廷で取り調べられます。また,公判期日外の尋問には当事者に立会いの権利等もあり,そこに立ち会えば尋問もできるということですから,尋問の実質も相当程度確保されるように思われます。公開の価値がそれなりに高いということを踏まえながら,その中で事案の真相を明らかにするという要請もあれば,被告人の防御を十分に図るという要請もある。そういうものをうまくバランスさせるにはどうするか,そのあたりをきめ細かく調整した1つのやり方ということではないか。少なくとも,この方法に対し,公開していないというのは,いささか言い過ぎかなという感じを受けます。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 若干先ほどの質問の中で出たことですけれども,期日外尋問の関係の規定は,証人尋問にだけ設けられておりますが,鑑定人と通訳人の関係でも一応準用はされておりますので,現行法でもそこは可能になっていると思います。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 ただ,確かに後で書証として調べるわけです。問題は,法廷では逆に言うと心証を取るのではなく,書証として調べるときに心証をとる。そういう意味では直接主義の原則には反するといいますか,その例外になってしまうということはあります。やはり公開の法廷で裁判を受ける権利というのは,傍聴人がいる状態で,傍聴人が監視する中で,裁判が緊張感のある状態で行われるということを言っているわけでありまして,後でその内容が傍聴人に分かればいいということではない。その同時性というか,同時に公開されている状態が重要なのであって,後でその内容が明らかになるだけでは,私は憲法37条の,被告人の公開裁判を受ける権利を侵害したことになる。   だから,そういう意味で限定的に解釈すべきで,現在の刑事訴訟法の解釈も,弾力的にやるべきだという意見もありますが,大方は,先ほど言ったように公開停止とか傍聴人の退廷とかやっても駄目な場合に,最後に使うという形で,非常に限定的にやるべきだという解釈が恐らく多数説でありまして,それは憲法の定める,被告人の公開裁判を受ける権利,それから直接主義,公判中心主義との関係で,これは例外的であるべきだと考えられていると思います。 ○山口座長 小木曽委員どうぞ。 ○小木曽委員 小木曽です。法律を専門にしている者としては,刑事手続では当事者の攻撃防御ということをいうわけですが,とりわけその被告人側から,公訴事実について十分に反論を加える機会が保障されることが,まず保障されることが大事なわけですが,今回の措置を入れたことで,その部分に障害が出ることはないのだろうと思います。   公開のお話ですが,これは攻撃防御の手続が闇から闇に行われて,被告人がいつか知らない間に葬り去られるという事態を防ぐための公開手続だろうと思いますので,その証人尋問の結果が法廷に検出されて,それが傍聴人の前で調べられる。傍聴人がその結果を,前回のお話で出た言葉で言いますと,虫食い状態になっていて,何だかよく分からないということになるかもしれないというのですが,だからといって,それで公開原則が侵されることになるのだろうかというと,私はそうではないのではないかという印象を持っています。 ○山口座長 ほかに御意見ございませんでしょうか。   山下委員。 ○山下委員 先ほどの御指摘で,鑑定人や通訳人は準用されているということですが,問題は被告人質問だと思うのです。被告人質問は,今回これを公判期日外で行うことを認めているわけですが,正に被告人から見れば,被告人として自分の尋問を受けるとき,被告人質問を受けるときに,まさに傍聴人のいる状態で,公開の法廷で受けるということを期待すると考えられますので,これは今回明らかに,刑訴の規定を超える部分が入っているということであります。   私が危惧するのは,こういう規定を今回特別法で作ってしまったときに,今度はそれが刑訴の本体の方にはね返って,そちらの方も改正しろということになるのではないか。つまり特別法が先に刑訴の原則を変えることによって,刑訴自体の解釈や立法が,それによって促されるのではないかということを大変危惧しております。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 今の被告人質問の点についての事務局の考え方を若干御説明させていただきますと,現行の刑事訴訟法311条で,被告人質問について規定しております。被告人が任意に供述する場合には,裁判長は,いつでも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができるという根拠規定がございます。そして,それ以上に現行の刑事訴訟法において,被告人質問の方法等について,具体的に定める規定はないということでございます。証人尋問等については,そういったものが詳細に定められておりますが,被告人質問についてはないということで,だから被告人質問は許されないということではないのだろう。実際問題として,被告人質問はさまざまな形で,裁判長の訴訟指揮に基づいて行われているところでございます。   したがいまして,公判期日外の被告人質問を禁止する規定がないということは,禁止する趣旨ではないとも解し得るわけだと思います。実際問題として,刑事訴訟法322条においても,被告人が公判準備手続においてする供述というものを前提としていることも,それを補足するものだろうと思われます。   また,現実問題として,被告人が病床で裁判所に出頭できないけれども,証拠手続の必要上,病床であれば受けられるという場合,現実的な必要性がある場合も考えられるところであります。実際に文献等を見ますと,期日外の被告人質問が行われたことを認めている文献もあるところでございます。そういった意味では,現行法においても,期日外の被告人質問が許されないということではないと理解しているところであります。 ○山口座長 河本委員。 ○河本委員 第2の1の公判期日外の証人尋問の要件。著しい支障,やむを得ないと,かなり限局的に書かれている。前回,林委員からも御指摘のあったところですが,このような要件と公開停止等の想定範囲をどのように考えるか。   また,公開停止をやったとしても,判決は非公開にできない。判決の中で営業秘密に触れることも,防止しなければいけないということは変わらない。虫食いという問題はいずれ出てくる ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 今の点に関して,あるいは今までの議論でも,たびたび「虫食い」という言葉が出てまいりました。御懸念は,ある意味非常によく分かります。呼称を使うことによって,いろいろなところが事実と異なる形で出るじゃないかということだろうと思います。   ただ,この呼称等を定めるに当たっては,あくまでも争点,被告人の争い方,すなわち,どのような主張,立証がなされるかということを踏まえて,その主張,立証に支障のない形で定めるからこそ意味がある。正に,争いに支障のない形で呼称が定められるのだということなのだろうと思っています。ですので,確かに呼称によって読み替えられた形で出た場合に,真実そのものは分かりませんが,何が争点となっていて,これについてどのような証言がなされた,ということは,それを朗読することによって,裁判官あるいは傍聴人に対しても,よく分かるということになるのだろうと事務局としては思っております。   以上です。 ○山口座長 川島委員どうぞ。 ○川島委員 2つ質問がありまして,今のお話の流れから沿わないかもしれませんが,まず1点目ですが,甲斐委員がおっしゃったのは,ポロッと言ったときのリスクを防ぐことに完璧を期すと,この仕組み自体がうまく機能しないのではないかという御指摘だったと思います。私も1回目のときに,被害者側がポロッと言ってしまう場合に,その人が会社の中で責められたらしんどいだろうなということ。もう一方で被告人の方が,例えば確信犯的に秘密にすべきことを言うことがあるのではないかと申しました。   私は今日の話を伺って,そこに対して何らかの牽制効果,牽制機能を持たせることができないのかなと思いました。秘匿決定がされた後,事前に言葉の置き替えをしていこうじゃないかというルールの中で進行するときに,被害者側であれ被告側であれそれを守っていくことに対して,今の法律上,既に牽制効果があるんだということであればそれでよいのですが,ないのであれば何らかの工夫ができないのか。今回,不正競争防止法の改正の際の国会の付帯決議を実現するために知恵を出そうという議論の中で,そういったことも検討する必要があるのではないかと思いました。   もう1点ですが,これは今この場で議論されるべきではないのかもしれないのですが,手続運用イメージの1ページ目,第2の3番目の検察官による意見を付した通知というところです。今回のケースでは,検察官は捜査段階では,被告人が犯行を認めていたことを踏まえ,というケースを題材にしているわけですけれども,被告人が犯行を認めなかった場合には,今後の議論なり検討するべき項目が変わるのか変わらないのかだけ教えていただければと思います。   以上です。 ○山口座長 1点目は御意見だったかと思いますので,2点目についてお願いします。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 2点目の点,ちょっと問題意識が私十分理解していないかもしれませんが,これは検察官が当初から否認事件だと認識していた場合には,1ページ目の3の意見も違ってくるのではないかという問題意識でよろしいのでしょうか。 ○川島委員 そうです。 ○事務局(法務省・杉山企画官) そうだとしますとおっしゃるとおりでございまして,検察官として事前に,被告人はこの点を争う。今回の事例に即していうならば,物質Aの製造方法について詳細に争ってくる。そうなると物質Aを使ってやること自体は,公知の事実でもあるというようなことであれば,当然被害者とも相談の上,その点に限って秘匿決定をするのが相当であるという意見を付することが想定されると思います。 ○山口座長 大澤委員どうぞ。 ○大澤委員 先ほど民事と同じような形で公開停止ができるかということについては少し疑問を持つという趣旨のことを申し述べましたけれども,それは要するに,秘密性について被害者が十分証言できない,そのことによって正しい裁判が必ずしもうまく実現できないということだけで,果たして民事とパラレルなやり方ができるかという点については,やや疑問を持つということを述べたつもりです。   他方,先ほど来時々例に出ている,被告人がいわば破滅型で何かれ構わずしゃべり始めたという場合,これは正に裁判を進めていくと,それによって直接秘密が害されてしまうという場合でありますので,こういう場合についてどう考えるのかは,また違った整理もあり得るのかという気もしております。そのような場合については,「公の秩序」に当たるかどうかというところで,私は憲法は専門ではありませんので,今きちっと結論を申し上げられませんが,少し違う考え方があるのではないかという気がしているところです。   それから,先ほど山下委員が言われた期日外にいくと直接主義が後退するだろうという御議論ですが,確かに後で調書の証拠調べをしますので,その点では公開だけれども,証人の生の証言という一番重要な部分から心証を取っていないのではないか,その点で直接主義から後退するのではないかという御指摘は,確かにおっしゃるとおりの面もあるかと思うのです。ただ,現在の公判期日外の尋問についても,これは裁判所外でやる場合と,それから281条で裁判所内でやる場合と2つあるわけですが,裁判所内でやる場合については,例えば受命裁判官とか受託裁判官による尋問というのは,できないということになっている。裁判所外でやるときは,できるということになっている。   その理由についてはいろいろな説明があるのかもしれませんけれども,ある代表的な本では,これは直接主義に配慮しているんだという説明をしています。直接主義に配慮しているというのは,法廷における調書の証拠調べから心証をとるという建前との関係では,ややごまかし的な感じもしなくはないのですが,しかし,当の審理を行う裁判所が正に公判期日外で証拠収集する。そのときに何か気がついたことがあれば,多分それを調書の中に記録として残す方法はあるのではないか。例えば職権で何らかの質問をすることによって,公判廷に検出するルートを作ることはできるのではないか。私は実務家ではないのでわからないところもありますが,そういう可能性もあるのだとすると,完全な意味での直接主義ではないのかもしれませんが,そこの部分も相当程度カバーした運用ができるのではないかという気がいたします。 ○山口座長 全体についてはいろいろな御議論をいただきまして,ありがとうございました。これから個別の問題についても,更に詳しい御議論をいただかなければなりません。今日は3時間程度を予定しておりますので,この辺りで10分程度休憩にさせていただければと思いますので,よろしくお願いいたします。 〔暫時休憩〕 ○山口座長 よろしければ,御議論を再開させていただきたいと思います。   次に,要綱(骨子)案の第1についての議論に入りたいと思います。第1についての御意見をいただきたいと思います。いかがでしょうか。   山下委員。 ○山下委員 前回出席できなかったので,基本的なスタンスを言えなかったのですが,もともと今回の第1の規定というのは,刑事訴訟法290条の2という被害者特定事項の秘匿に関する規定を,ほぼそのまま流用したものだと思います。犯罪被害者については,名誉とかプライバシーとかいわゆる人格権を侵害するということで,こういう措置がとられたというのは大変理解できるところなのですが,今回対象になっているのは,営業秘密という財産権であり,恐らく被害者もほとんどの場合は法人だろうと思われます。そして営業秘密についても,非常に高度なものから顧客名簿も含めて,いろいろな営業秘密の態様がありまして,そういう意味でこの規定は,営業秘密については,さっき言った犯罪被害者と同じような秘匿措置をとるという規定を流用しようとしているわけですが,どうも基礎が違うというのか,犯罪被害者の方は大変よく分かるのですが,営業秘密に関してこういう規定をここへ持ってくるという立法の在り方は,少し対象になっている権利が違うことから,無理があるのではないかと思っております。   私は公開停止とかそういうのもあり得ると思っているわけですが,この秘匿措置を,わざわざ犯罪被害者に関する被害者特定事項の秘匿の規定をここに持ってくるというやり方が,私は無理があったのではないかと考えております。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・杉山企画官) その点に関する事務局の考え方を申し上げますと,犯罪被害者に関するもの,今おっしゃられたように名誉,プライバシーといったものだと思いますが,公開の法廷で明らかにされることによる支障,弊害を考慮して設けられたものだろうと考えております。そういった意味では今回の営業秘密も,正に公の法廷で明らかになってしまう。そのことによって被害者が受ける弊害を除去するという意味では共通するものでありまして,そういった観点から,被害者特定事項に関する秘匿決定の制度に倣ったというつもりでございます。 ○山口座長 ほかに御意見ございませんでしょうか。   河本委員。 ○河本委員 規定を実効性あるものにしたいという趣旨からのお願いなのですが,先ほど田中委員の方からお話がありました,被害会社・被害者と検察官の間の協力,そしてまた検察官から裁判所に対する意見における秘匿事項の特定及び秘匿を必要とする事情に関する具体的な事実に基づく疎明をすべき旨規定しておいていただきたいと思っております。   これは当手続を円滑に進めるために,必要と思っております。定め方については,被害者の方々の事情,検察官の職務という観点からいろいろあるのは理解します。裁判所の方は,公判前整理手続では証拠が見られないから当事者の主張が頼りなのです。  秘密が複数の情報によって重層的に構成される場合も多い。また,当該事案の中で秘密として扱われることに関して十分理解しておかなければならない。そういうことを考えますと,今申し上げたようなところを明確に定めておかないと判断に困ります。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) 今おっしゃられた被害者の協力の点でございますが,これはそもそも法律で定める事柄なのかという疑問です。その効果の点も含めてですが。じゃあ協力しなかったときのサンクションがどういう形で出てくるのだろうかということになりますと,結果的に秘匿決定がされない,営業秘密の保護が守られないということから,先ほども産業界の方から御意見いただきましたように,自発的な積極的な御協力はいただけるものだと思うところでございます。   一方,疎明の話になりますと,当事者間のルールの話でございまして,これは当然お互い法曹3者が協力しつつ,当事者の間で適切な訴訟運営が行われていくだろうと思います。それも仮に定めるとしても法律事項なのかなという気がしまして,今の時点での感想までですが,申し上げさせていただきました。 ○山口座長 酒巻委員。 ○酒巻委員 非常に技術的なことで,おっしゃった趣旨はわかりますが,河本さんのおっしゃったようにうまく動かすためにはこういうことが必要だとすると,そのような手続ルールを定めるとすれば,最高裁判所の規則で当事者間の手続的事柄を定めることは可能だと思いますが,いかがでしょうか。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) そういうことも含めて申し上げたところですが,法律事項かなという意味も込めて申し上げました。 ○山口座長 河本委員。 ○河本委員 岩尾管理官のおっしゃることはそのとおりだと思っております。被害者側の事情によると私が申し上げたのは,そういう趣旨も入っております。なお,この制度が実効性あるものとして円滑に運用するために,法源についての議論はありましょうが,そういうことに関する具体的な定めに関しては,継続的に検討していただきたいと思っております。 ○山口座長 ほかに第1に関して,何か御意見ございませんでしょうか。   第1が定めている事項の具体的な内容について,何か御意見があればお聞かせいただきたいと思いますが,いかがでしょうか。   土肥委員。 ○土肥委員 秘匿措置に関する決定の要件を見た場合に,裁判所が公開の法廷で明らかにされることによって,被告人の事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあり,かつ相当と認めるときは,これは裁判所が相当と認めるときは,ということになるわけです。私はある程度裁判所の判断が,事案によって営業秘密と,それから事案の性質等によってある程度の裁量的な判断で,この秘匿措置ができるようにしていただいた方がいいのではないかと思っております。つまり余り著しい支障を生ずるおそれがあり,かつ相当というふうになると,裁判所としては,被告人の事業活動に著しい支障があるかないかということがかなり影響するのではないかという印象でございます。   要するに裁判所が,当該事案を検察官から申出を受けて,その中で,これはこういう秘匿措置をやったほうがいいと思い至るような仕組みの方がよくはないかということでございます。これはこの点に限らないわけですが,次の2にもつながるところでありますが,余り要件を絞り込んでしまうと,手続上,秘匿措置あるいは期日外尋問が利用されないおそれがあるのではないか。そうするとそれは結局,そもそも被害者が親告罪の前提で,自分の受けた被害をきちんと手続上守ってもらえる安心感,そういう担保になることが必要でありますので,そういったことの御配慮もいただければということでございます。   以上です。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 若干今の要件の点について御説明させていただきますと,第1の1の(1)と(3)で要件を分けているところでございます。まず(1)については,対象が被害者の営業秘密,正に営業秘密侵害罪として公訴提起されたその被害者の営業秘密ということで,これは,申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,決定することができるとしております。   それに対して(3)については,それ以外の営業秘密というものを想定しておりまして,被告人その他の者の保有する営業秘密を対象としているところでございます。そこに掲げられている要件は,当該事項が犯罪の証明又は被告人の防御のために不可欠であって,かつこれが公開の法廷で明らかにされることにより,営業秘密に基づく被告人その他の者の事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあり,かつ,相当と認めるときという形の要件をかけさせていただいているわけで,(1)と(3)が異なるわけですが,これは被害者の営業秘密というのは,正に公訴提起された営業秘密侵害罪の客体となる営業秘密でありますので,それ自体類型的にそれが明らかになった場合の支障が想定される,あるいはそれ自体立証の対象であるのに対して,その他の営業秘密というものは,やはり犯罪の証明に不可欠,あるいは防御のために必要だという縛りをかける必要があるとともに,一定程度保護する必要性があるものについて限定する必要があるだろうと考えられますので,こういった要件をかけさせていただいているという趣旨でございます。 ○山口座長 今,趣旨については御説明がございましたが。 ○土肥委員 分かりました。趣旨については了解いたしました。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 今,第1の1の(1)と(3)で要件が違うという御説明をいただいたのですが,逆に(3)の要件が厳し過ぎないかという感じもするわけです。特に最後の,「当該営業秘密に基づく被告人その他の者の事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあり,かつ,相当と認めるときは」とありますが,では,前半の,著しい支障を生ずる恐れがあるけれども,相当でないという場合は,どういう場合を想定されているのかをお聞きしたいと思います。 ○山口座長 いかがでしょうか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 具体的にどういう場合が当てはまるかというところ,なかなか今思いつく例が具体的に出るわけではございませんが,少なくとも(1)でも,「相当と認めるとき」という要件をかけておりまして,基本的にそれと同じ枠組みを(3)にも設けるべきであろう。さらに加えて(3)については,要件を絞る必要があるだろうという形で構成させていただいていることになろうかと思います。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 刑事訴訟法290条の2のこの部分に関する解説等を読みますと,秘匿措置によって得られる利益が,これを公開の法廷で明らかにすることにより得られる利益を上回る場合だという解説がされているところですが,この場合,今言ったように,当該事項が犯罪の証明又は被告人の防御のために不可欠で,かつ,公開法廷で明らかにされることによって,被告人その他の者の事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあれば,恐らくこれは常に上回るのではないかという気もするものですから,さらにそこに「相当」という要件を被せることの意味というか,そこは若干疑問に思うところです。 ○山口座長 今のは御意見ということでよろしいですね。   ほかに,第1に関してございませんでしょうか。   ないようでしたら,続きまして第2のほうに進ませていただきたいと思いますが,よろしゅうございますか。要綱(骨子)案の第2について,御意見がございましたらお聞かせいただきたいと思います。   河本委員。 ○河本委員 たしか前回,私の記憶では川島委員のほうから御質問があったように思われますが,これはかなり限定的に用いられるイメージなのかどうなのかというお話,御質問があったように思います。公開停止の射程範囲との関係はどうなのか。期日外尋問にはかなり厳しい要件が課されている。その具体的な運用イメージは,確かに厳格なのか限定的なのかどうなのか,印象論でもなかなか答えづらいところがあるのかもしれませんが,その辺りはいかがなのでしょうか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 具体的なイメージということですと,本日お配りした運用イメージにありますとおり,そこにも若干説明させていただいたところでございます。そこでいいますと,3ページ目の(5)の例�Aの下の※のところであります。被告人質問については,弁護人提出の陳述等の要領の記載を受けて,検察官から,相当詳細な質問を行うことになる。その場合には,被告人の供述が営業秘密特定事項にわたる蓋然性が非常に高いという意見が示され,弁護人・検察官双方から,公判期日外で行ってほしいという申出が出された。恐らくこういった場合について,実務上,公判期日外の尋問でやられるというのが通常の実務だろうと考えるところでございます。   その要件として,御指摘のありましたように公開の法廷で明らかにされることによって事業活動に著しい支障を生ずるおそれというのは,先ほどの1の(3)の要件と同じでございます。さらに,これを防止するためにやむを得ないと認めるときというのは,具体的には秘匿決定,あるいは呼称等の定めによっては,十分実効性を担保できない場合を想定しているということでありまして,この言葉だけから非常に限定していることにはならないのかなと思っているところです。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 今,要件が,第1と第2を比べて,第2の方が要件が必ずしも厳しくないということなのですけれども,この第2の1の要件を見ますと,最後のところで,「これを防止するためやむを得ないと認めるとき」というところは,恐らく第1のほうでは,「相当と認めるとき」に対応した記述だと思うのですが,この書きぶりはどう見ても,明らかに「相当と認める」場合よりは,かなり厳しい基準を書かれていると思うのです。   それで実際私は弁護人の経験で言うと,資料5のイメージを見ても思うのですが,弁護人であれば,特に営業秘密を争う事件であれば,当然,公判期日外の尋問をやりたいと思う。つまり第1の秘匿措置によって呼称を使うやり方は,非常にやりづらいわけですから,恐らく否認事件で,特に営業秘密を根本的に争うという事件では,弁護人から見れば当然第2の手続,公判期日外の手続を選びたくなると思うのです。そうなりますと,こういう余り厳しい基準を書きますと,逆に非常にハードルが高くなりますし,それを請求するに当たっても,当然疎明ではないですが,こういう事情があるという疎明をしないといけないというふうに形式的にはなるわけですから,非常にハードルが高くなる。   実際に使う側から見れば,弁護人から見れば,当然そこをきちっと争いたいのであれば,この第2の手続を使いたいのに,何か非常にハードルが高くなるという形で,使いづらさというものもあるのかなと。この第2は,どうしても公開主義の問題とか直接主義の問題があるので,例外だという位置づけで厳格な要件を課そうとしたというふうに思われるのですが,それが逆にあだになって,非常に使いづらい制度にならないかという疑問があるので,その点をどうお考えなのかお聞きしたいと思います。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 私の発言が誤解を与えたとすれば申し訳ないと思いますが,第1の点が「相当と認めるとき」となっておりまして,第2のところは,それより厳しい要件をかけているということは,委員御指摘のとおりでございます。ただ,その厳しい要件というのは,先ほど申し上げた「これを防止するためやむを得ないと認めるとき」といった要件でございまして,これは具体的には第1の秘匿決定,あるいは呼称等の定めによっては,十分実効的な証人尋問,被告人質問ができないときということを考えております。したがいまして,この文言から,要件が非常に厳格だということではないのだろうと理解はしているところです。 ○山口座長 林委員どうぞ。 ○林委員 今の山下委員の御意見に私も賛成です。実務を考えると,この期日外尋問が今回設ける措置の中では非常に重要な意味を持っていると思います。前回第1回のときの法務省からいただいた御説明においても,今の御説明でも,この期日外尋問の位置づけは,この期日外尋問措置を講じないと第1の秘匿決定の効果を全うできないおそれがあるという,必要性の観点から設けられているのではないかと思います。そうであれば,その必要性の要件を直接定めればよいのではないかと思います。   いろいろな文言の決め方は,法務省の御専門の方にお考えいただきたいと思うのですが,1つの案としては,まずこの「著しい支障」の「著しい」は,削除してよろしいのではないかと思います。この「著しい」というのは価値評価的な要件ですので,裁判所にとってもご判断の負担というものがあると思います。また,条文のバランスにおいても,刑罰の罰則もある,不正競争防止法上の秘密保持命令の規定10条1項2号ですが,この要件でも,「事業活動に支障を生ずるおそれ」と定められているだけで,「著しい」は入っておりません。 「著しい」というのが入っているのは,不正競争防止法13条で,当事者尋問などの公開停止の条文の方になっております。   そういったバランスを考えますと,この「著しい」というのは,この措置は,公開停止には至らない,公開の中で,という位置づけでありますので,外した方が妥当ではないかという点が1点目です。   第2点目の御提案なのですが,「これを防止するためやむを得ないと認めるときは」というところの,「やむを得ない」というのは,端的に「必要と認めるとき」としてはどうかと思います。刑事訴訟法158条の公判期日外証人尋問の要件も,「必要と認めるときは」とされております。このように,「これを防止するため必要と認めるときは」というふうに書く場合には,この必要と認める対象というのは,その後に続く,期日外尋問の措置ということになるかと思います。   ちなみに,先ほど申しました不競法の秘密保持命令の要件も,「これを防止するため当該営業秘密の使用又は開示を制限する必要があること」となっておりまして,同じく「必要」という言葉が用いられております。バリエーションの御提案としては,「これを防止する必要があると認めるとき」という言い方もあるかと思います。この場合には,「これ」というのは,第1回で土肥先生からも御質問されておりましたが,この場合は,先ほどの「おそれ」のほうを防止する必要という,かかり受け関係になるかと思います。   観点としては,要件は価値評価的な形でなく,手続的な観点でつくっていただいて,全体として期日外尋問の規定が使いやすく,実効性のある形になればという御提案でございます。 ○山口座長 土肥委員どうぞ。 ○土肥委員 前回確かに今,林委員がおっしゃったと同じような趣旨のことを質問しました。秘密保持命令と営業秘密の民事訴訟手続における公開停止で,「著しい」というのが入っているか入っていないかというのは御案内のとおりだと思うのですけれども,あれに関して実は当然新しいものが,プロテクティブオーダーのような全く日本になかったものが入りましたものですから,当然,裁判所においては相当慎重に議論なさったわけです。そのことを御承知だと思うのですが,そこで一貫して言われていることは,公開停止のようなものは現実には使わないのだと,裁判官の方はいろいろな場面でおっしゃるわけです。そういうところに使われている「著しい」という文言の並びで,期日外証人尋問手続のようなことが置かれると,裁判所に対するメッセージとして私は非常に心配するということなのです。補足させていただきます。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 今の御提案の,最初のほうの「著しい」を削除すべきだという提案についてですが,そうすると第1の1の(3)にも「著しい支障」というのがあるので,そちらはどうされるという御趣旨なのでしょうか。 ○山口座長 林委員どうぞ。 ○林委員 第1のとき申し上げなかったのですが,私は第1のほうも,(1)と(3)の要件を同じく,「相当と認めるときは」としてもよいのではないかと実は思っておりました。ただ,差を設けるという,第1の(3)の被告人その他の者の保有する営業秘密の,その他の者の営業秘密も,やはりこの裁判を機会に公開の法廷で開示されることによって,営業秘密としての該当性をなくしてしまって,保護法益がゼロになってしまうというリスクがあるわけですから,そういうところも考えますと,被害者の方と同様に(3)も要件を認めてもいいのではないかと思いながら聞いておりました。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) まず第1の方からでございますが,この第1の1の(3)がどういうときに使われるかというのは,被告人側から当該問題となっている営業秘密は,こういう形で自分がここに持っていたこの営業秘密から,こういった製品の製造ができたんだという主張が考えられると思うのです。要は今,本件で問題となっている営業秘密とは別の営業秘密が新たに主張されて,それが防御のために必要であるというような主張が行われる。そうすると,そもそもそういった場合にそれを保護する必要があるかどうか,秘匿する必要があるかどうかを考えるときには,まずその防御の必要性,当該営業秘密の侵害罪を防御するために,新しい別の営業秘密を主張することはどのように関連するのだろうかという吟味は当然必要ですし,その被告人が言い始めた営業秘密というのが,本当に保護すべき必要性があるようなものであるのかどうなのかというのは,全く主張されて初めて出てくるものでございますので,そういう観点で,防御のための不可欠性とか秘密の要保護性を表すために,「事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあり」という要件を設けるのが相当であろうと考えたわけでございます。   それから,第2の1の点でございますが,期日外尋問等の手続というのは,先ほどからも議論になっておりますが,公開の要請に反するものではないと考えております。これは後日,期日外で行われた尋問調書が調書として改めて公開の法廷で取り調べられるということで公開の要請は満たされると思っておりますが,ある意味調書の取調べの形になるということでは,例外的なものであると言わざるを得ないのではないか。そうした場合に,その要件をどう定めるべきであるかということを考えた結果であるということを御理解いただければと思います。   民事訴訟との比較でございますが,期日外で尋問することを認めるかどうかということと,秘密保持命令ということで,その秘密を新たに外に出さないという命令をかけるための要件は,それをパラレルに議論していいのかということについては,やや抵抗感がございます。それから民事の公開停止との要件については,事業活動に著しい支障を生ずるおそれがあるという面では確かに同等になっておりますが,民事の要件はそれだけではございませんで,そのことによって陳述ができなくなって,その裁判手続自体が適正に行われなくなるという要件も加わっておりますし,そもそも対象範囲もかなり限定されていると理解しておりますので,決して刑事の期日外尋問が民事の公開停止の要件より厳しくなっているとは思っておりませんで,これで十分保護できるのではないかと理解した上で立案しているところでございます。 ○山口座長 林委員どうぞ。 ○林委員 今の点ですが,そうすると刑事訴訟法158条の公判手続外の証人尋問の要件で,「必要と認めるとき」となっている点はいかがでしょうか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) その点については,158条あるいは281条が想定する期日外の証人尋問というのは,証人の重要性,あるいは証人のそこに掲げられている要素は,年齢,職業,健康状態その他の事情と事案の軽重等を勘案ということになっておりまして,証人の属性に着目して,実際にその場でできるのかどうかということも踏まえての判断なのだろうと思います。そういう意味で類型的に証人の属性に着目した形でありますが,今回のは,その証人尋問でしゃべられる内容に着目しているという意味では,やはり同列に扱うことはできないのではないか。公開の要請に対する制約ではないのですが,先ほど岩尾の方から述べたように,例外的な措置であることを考えると,ある程度限定はしておく必要があるのではないかと思っているところでございます。 ○山口座長 林委員どうぞ。 ○林委員 何度も申し訳ないのですが,類型と言えば,むしろ営業秘密の場合は公開の法廷で明らかにされることによって保護法益が失われているという類型が非常に明確なわけですから,そういった意味で,この「必要と認めるとき」という書き方でよろしいのではないかと思います。   それから,秘密保持命令とパラレルに論じているわけではありません。刑罰を科される秘密保持命令において「著しく」と,秘密保持命令においてすら,「著しい」が要求されていないにもかかわらず,刑罰の対象になっていないこの措置について,著しいという価値評価的な要件を設けるのはバランスが悪いのではないかということを申し上げたのであって,決してパラレルと申し上げたわけではございません。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 若干補足させていただきますと,我々は不正競争防止法の要件はもちろん検討させていただいているとともに,刑事訴訟法の中の要件も同じような形で考えさせていただいているところでございます。例えば証人の被害者保護のような措置をとったときの一環として,証人の付添いとか遮蔽措置というものを設けたときには,例えば証人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがあると認めるときはという形で,「著しく」という要件を入れております。   これも,今回の法整備と発想は似ているといいますか,本来,公開の法廷で何の制限もなく,やるものに対する例外であると。例外である措置だから,ある程度要件を厳格にするべきだろうという考え方が背景にあるのだろうと思っております。そういった意味でも,「著しく」という要件をかけることがそれほど過重なものなのか。刑訴法の並びで見たときに過重なものなのかという気がしているのが1点。   もう1点,現実にこの「著しい支障」というものは何の支障かというと,営業秘密が公になった場合に事業活動に与える支障でございます。つまり,その点は正に被害者なり,あるいは自分の営業秘密を保護してほしいという被告人なりの方から,十分その点は当然主張,立証いただける内容であろう。その点が争点になって,これが公になっても支障はあるけど,著しい支障ではないんですよということが争点になるというのは,なかなか考えがたいのではないかと思うところですが,いかがでしょうか。 ○土肥委員 私も実はそこは非常に興味があるところでありまして,その点は営業秘密を保有する事業者の方にとって,今おっしゃっておられるような著しい支障が生ずる場合,あるいは著しいかどうかということを判断できないことによって,訴えるということを萎縮するというか,そういうことがあるのかないのかという,私はそこが非常に興味を持っておるところで,その点をきちんと説明できないと,場合によって営業秘密が出てしまうのではないか。かえって,やったことがやぶへびになってしまうのではないか。そういう懸念を持たれないのかということを非常に興味深く私も思っておりますので,ぜひ御確認いただければと思います。 ○山口座長 今の点,何か発言ありますか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) そこは経済界の方からむしろお伺いしたいというか,つまり著しいかどうかという判断は,最終的には,裁判所が判断する事柄でございます。ただ,その前提として,この内容が出たらどれくらい困りますかということは,きょうの田中委員の発言にもありましたように,そこは具体的に言っていただく必要は当然あるだろう。この情報が出たら,類似の製品が出て,うちの利益はこれだけなくなります。そういった意味で,公に明らかになった場合に事業活動に著しい支障が生じる,しかも,おそれという形になっておりますので,それが非常に高いハードルなのかという気はしています。   先ほど申し上げましたように,被害者の遮蔽措置等では,著しく不安又は緊張を覚えるおそれということの要件を設けている中で,そこの要件について,著しくないからじゃあこれはやめようという議論はなされていないと私は承知しております。ですから,そこは刑訴法の問題になるのかもしれませんが,著しいという要件をかけることが,それほどハードルを上げることにはならないのではないかと思っているのです。 ○山口座長 どうぞ。 ○甲斐委員 議論をお聞きしていて,2つ問題があって,分けて考えたほうがいいのかなと思いました。1つは,どういう事例だったら期日外に回すのかというところの範囲の問題で,それはどう表現するかという前に,ある程度イメージを持っておく必要があると思います。もう一つは,それをどういう表現にするのかというのが2番目の問題ではないかと思います。   ここで,「著しい支障」とか「やむを得ない」と書いたときに,では,一般にこれまで産業界の方々から言われてきたような事例が対象外になるのかというと,恐らくこれを書いている人たちの頭の中ではそういうことになっていないと思うのです。重要な情報でこれを出すと営業上損害を受ける。その額が100万円だったら駄目で,1億を超えなければ駄目だとか,そういう話では全然なくて,それなりに営業上の被害が及ぶんだということであれば,こういう期日外尋問をするに足りるというふうに考えているのだろうと思うのです。   そうではなくて,営業上の被害というのはそんなにないけれども,ちょっと困惑するんですよねというぐらいの話だと,さすがにこれを期日外でやるというわけにはいかないでしょう。およそ何らかの支障があれば期日外に回すのかと言われれば,そうではなくて,実質的な被害があるようなものを想定しているのだろうと思うのです。   それから,やむを得ないとか必要とかと言われている中身についても,何かそこで実質的にものすごく絞り込んで言っているというよりは,ここで目指しているのは,秘匿決定して言い替えをする。それだけでは足りないのですか。足りないような場合ならまあしょうがないですね,という程度のことを想定しているのだろうと思います。   ですから,表現ぶりは別にこだわっているわけではないのですが,どう表現しようが,目指しているのはそういうものを多分目指しているので,産業界から見て保護してもらいたいと思われているところは,いずれにしろカバーするような形になる必要があるのだろうと思っています。   では,どう表現するかというのが2番目の問題になると思います。最終的には,実際に立案する段階でまた内閣法制局等ともよく協議しなければいけないので,ここでこう書いたからといって全部そうなるというわけではもちろんないのだと思います。こういう表現を使ったからといって,この立案段階での考え方として,今申し上げたような範囲のものを排除する趣旨ではない。そういう趣旨で書いているわけではないと少なくとも言えると思います。   それから,それはやはり気持ちが悪いから何とかしてくれという,あるいは,もうちょっと言いぶりでおまけをつけてよという,それはそれであると思いますが,実態として保護すべき範囲は多分そういうものなのだろうと思います。 ○山口座長 土肥委員どうぞ。 ○土肥委員 そういうことであれば,法制局でこれから詰めていかれるのだろうと思いますが,その際に十二分に今委員のおっしゃったようなことを受けて,おまとめいただければと私はお願いしたいと思います。 ○山口座長 中戸川委員どうぞ。 ○中戸川委員 確かに「著しい」という言葉のあるなしで,どういう場合は著しいと判断され,どういう場合はこれは著しいとは言えないという判断がされてしまう可能性もあるのかと,そういう読み方は企業として気になる部分だと思います。今の御説明は,例えば金額基準で,幾ら以上だったら著しく,幾ら以下だったら著しいとは言えない,そういう話ではないのだと。やはり営業秘密,一定の価値があって,それが流出,改めて公開されてしまった場合に,企業にとって事業遂行上大きなマイナスインパクトを与えるということをしかるべく疎明できれば,ここの要件を満たせるところが確保されるのであればいいのだと思います。言葉だけ見ると,気にならないかと言われたら,気になります。 ○山口座長 高松委員。 ○高松委員 私も産業界の目で見ると,今解説を聞いていてなるほどと思ったのですが,営業秘密の問題というのは,裁判でどちらの結果が出ようと企業としては秘密だと思っているのです。どんな結果が出ようと秘密だと思っているわけです。少なくとも社内のルールは,どのような秘密であっても秘密だったのです。   それから,裁判まで起こすわけですから,企業としては間違いなく著しいと思っているのです。ただし,言葉があるために,基準があると言われると,今中戸川委員がおっしゃったように気になるところではあります。ただ,企業のまず基本スタンスとしては,これは秘密であって,これは著しいと思っているから裁判を起こしているわけで。解説を聞くまでは私はそれほど気になって読んでいませんでしたけれども,なるほど,という感じはいたします。 ○山口座長 宮城委員どうぞ。 ○宮城委員 私も実はお二方と一緒でございます。内部で議論したときも,この表現について正直言って違和感はありませんでした。それから,今の法務省さんの御説明を聞いていて,または事例を見ていて,これは秘匿決定のところでも大分御配慮していろいろ考えておられるなと思います。したがって,我々が先ほど言いましたように,協力いたしますというお話をしたのも,「著しい」という表現というのは別として,この要綱とこの手続のイメージの中に流れる法務省さんのお考えになっている本件についての考え方は,かなり産業界の実情を踏まえていただいていると私どもはこの文章から読み取ったわけでございまして,それで協力というお話も直ちに申し上げたのは,そことのバランスを私どもは考えたということでございます。   今議論になっている「著しい」の部分については,正直申し上げて非常に困っていることは困っているんです。ただ私どもとしては,この「著しい」という言葉・単語だけを捉えるのではなくて,この要件の全体としての運用をどのように行うかということについて,先ほどの法務省さんの御発言を非常に重視したいと思っております,ということでございます。 ○山口座長 山下委員。 ○山下委員 先ほどの法務省の説明で,刑事訴訟法158条は人に着目した要件を立てていて,第2の1のほうでは営業秘密事項の秘匿の必要性,相当性に着目して決めたと思うのですが,先ほども言ったように実際の実務的に考えると,これはこう使いたい,つまり弁護人が証人に反対尋問するとか,被告人質問するときにどれだけ円滑にできるかというか,つまり防御権を円滑に行使できるかという観点で,恐らく弁護人から見れば使いたいでしょうし,検察官も恐らく立証活動に支障がないように立証したいというときに,これを使いたいと思うはずであって,本当の意味では視点としては,単なる営業秘密の秘匿の必要性,相当性だけではなく,立証活動というか,防御権とか,そういうものに着目した基準も入れておかないと,さっきの議論として著しい云々が議論になっていましたが,そこだけはなく,どういう場合にこれを使いたいとか,使う場面ですね,甲斐委員が先ほど「場面」と言われたのですが,どういう場面でこれを使いたいかというと,特に営業秘密で争う事件において,円滑に尋問とか被告人質問を行うときにこれを使いたいと思うはずであって,そういう視点,そういう観点を要件に入れておかないと,結局,営業秘密の秘匿の必要性,相当性だけで,これの規定だけだとすると判断されてしまうように見えるわけです。そういう観点もきちっとこの要件に入れないと,実際のニーズとの関係でいうと非常にずれたものになっているのではないかと思います。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) 防御権の観点ですが,その直前の第1の2の(3)のところと比較していただければ分かると思うのですが,結局,陳述制限をする場合,これは防御権に支障がない範囲で陳述制限をする。防御権に実質的な不利益を生ずるおそれが出てきた場合には,これは陳述制限できなくなる。そういった場面が期日外尋問を行うという典型的なケースではなかろうかと考えておりまして,期日外尋問というのは,十分なお互いの攻撃防御,これは丁々発止のやりとりの中でやっていただくことを目的とした仕組みと考えておりますので,この手続で十分防御権にも配慮されることになると思っております。 ○山口座長 河本委員どうぞ。 ○河本委員 期日外尋問に関する基本的なイメージですが,特に281条に定める裁判所内における期日外尋問というのは,かなり限定的に考えられている。昭和29年の最高裁の判断以来,281条の期日外尋問に関しては極めて慎重に運用している。特段の事情もないのにやってはいかんとされています。   例えば,どうしてもその日しか来られない証人が来ているのに,被告人がいないという場合に,当事者双方の意見を聴いて行う,そうしたかなり限定された場合になっています。通説的な見解では,公開停止を行い,被告人の退廷などの措置をとっても,なお問題がある場合に行うとされています。こうした281条の期日外尋問についての考え方からすると,第2の1に書いてある期日外の証人尋問は,今までの期日外尋問を営業秘密の場合に当てはめたというよりは,新しいものをつくり上げたというのに近いことになるのでしょうか。その辺りから考えると,今までの条文とのパラレルという議論も,それほど意味がなくなってくるわけですけれども,その辺りどんなお考えでつくられているのでしょうか。 ○山口座長 お願いします。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 現行の少なくとも281条で賄えるということではない。やはり趣旨,目的が異なるだろう。そういった意味で新たな規定を設けるのだろうということを今回考えさせていただいているわけで,そういった意味では,新たな手続を設けることになるのかな。ただ,実際の期日外尋問というのは,これまでもあった期日外尋問の手続と同様に行われるということなのだろうと思います。 ○山口座長 どうぞ。 ○河本委員 私は,公開停止を慫慂しているわけでは全くありませんが,これまでの281条の解釈上,公開停止等を尽くしてなおというところが,通説であることは疑いないところであります。第2の1に御記載になっている,産業界の皆様から見て非常に厳しいと見られる要件のところには,恐らく281条に置かれたような少し例外的な要素をかなり意識された規定なのかなと思われます。今甲斐委員がおっしゃられたような,実際に考えている場面は,実はこういうことが含んでいるんですよというところは,整合的に御説明できる話というふうに受けとめていくべきなのでしょうか。本当に例外的であるものですから,そこを御説明いただきたいし,我々も裁判官としてストンと落ちるところを持っておきたいと思います。 ○山口座長 甲斐委員お願いします。 ○甲斐委員 私も河本委員とほとんど似たような感想を持っていて,私が昔実務をやっていたころに,期日外でやってくださいとお願いしたら,裁判長にけられてしまい,すごく苦労したという経験があって,非常に大変だった思いがあります。   それはなぜかというと,解釈もあるのですが,期日外というツールが,その要件がしつかり書いていないと,むしろ逆に裁判所は自分たちの裁量判断だけでどんどん使っていくことにちゅうちょする傾向があるように思われます。今現在は社会事象が細分化されていて,それ専用のツールが幾つも求められている時代になっているのではないかと思うのですが,今回はこのような形でそれ専用のツールをちゃんと設けて,こういう要件があればどうぞやってくださいよと法律が言っているということであれば,それは安んじて裁判所においても判断していただけるであろう。もちろん「著しい」がいいとか,「やむを得ない」がいいとか,「必要がある」という表現ぶりについは,今後もよく考えなければいけない話だろうと思いますが,実質的において先ほど申し上げたような事例をカバーできるようなものであって,それが裁判所において判断できるようなものであれば,裁判所は十分使ってもらえるだろうと思うのです。   なお,付け加えて言うと,「必要と認めるときは」というプランというか,案もありましたが,我々的な感覚で言うと,「必要」という言葉が出ると,必ず後ろに「相当」というのが付かないとバランスを欠くような立法技術的な問題もあり,「必要」だけで本当に大丈夫ですかというところはあるので,そのバランスをよく見ないと,ここは難しいところだろうと思います。いずれにしろ,中身をどこを確保するかという,そこの問題意識の共有が大事ではないかと思っています。 ○山口座長 酒巻委員どうぞ。 ○酒巻委員 これまでのお話を聞いていて,刑事訴訟法の研究者としての意見ですが,ここで話題になっている公判期日外の手続は,従来,刑事訴訟法に存在している期日外尋問の法技術を使ってはいますが,不正競争防止法に設けられる,不正競争防止法上の犯罪類型の公判審理に対してのみ,新たに特別の法技術・制度を設定するものと位置づけで理解するのが,これまでのいろいろなお話との整合性もどっちかというときれいにとれるかなという,俗な言葉で失礼ですが,今のところはそのように理解しています。   その上で,皆さん御心配の用語の問題はそれほど気にすることはないと思います。刑事の専門家の方が皆さんおっしゃっていたように,従来,刑事訴訟法に存在している期日外尋問というのは確かに極めて例外的なものなので,それと同じ頭で対比して考えると混濁する。これは従来の法技術を使ってはいるものの,特別な犯罪類型に固有の法益を保護するため,特殊なオプションをつくり上げるのだと,そういうことなのではないかと考えます。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 先ほども述べたのですが,もともと刑訴281条は憲法の公開原則,特に被告人の公開裁判を受ける権利との関係で限定的に解釈する,または直接主義とか,公判中心主義とか,そういうものを踏まえて規定されているわけなので,特別法で同じ技術を使うからといってそれを否定するようなというか,つまり憲法の公開裁判を受ける権利を否定するような立法を特別法でやればできるというのは,法技術として私は間違っていると思います。   説明は確かにそういう説明が一番きれいだと思いますが,それはもともと憲法との関係で刑事訴訟法が規定して,限定的に運用されている公判期日外の証人尋問の規定がある以上,それとそれに反するような規定を特別法だから作っていいというのは,私はおかしいのではないかと思います。 ○山口座長 今の点でもほかの点でも結構ですけれども,御意見ございませんか。   小木曽委員どうぞ。 ○小木曽委員 話をまた元に戻すような気がするのですが,ほかの刑事訴訟法上の条文の書きぶりとの違いでいいますと,この御提案の基になった被害者特定事項の秘匿というのは290条の2ですけれども,そこでは「相当と認めるとき」と書かれている。これは,そもそも犯罪被害者の氏名や住所が出てこなくても訴訟はできるから,「相当と認めるとき」ということになっているのだろうと思います。例えば証人の遮蔽措置とかビデオリンクというのは,「著しい」という文言が使われているのは,反対尋問権との関係があるので,「著しい」という枠をあえて設けているのだろうと思います。そうすると御提案の今回のは,公開原則との関係でどういう言葉にするかということなのかなと思います。 ○山口座長 ほかに,第2に関して御意見ございますか。   大澤委員どうぞ。 ○大澤委員 281条の運用が非常に慎重であったというのはそのとおりで,それは公開原則があるし,公判期日で証人尋問するのが原則だということがあるからだろうと思います。それで公判期日外で証人尋問するのは,公開との関係では先ほど私も意見を言いましたが,しかし例外であることは確かで,例外である以上,簡単に何でもいきますよということでも困るのだろうと思います。その辺りの気持ちがあって,こういう書き方,やむを得ないという要件も出てきているのだろうと思います。   281条の運用が非常に謙抑的であったというのはそのとおりなのですが,では従来の運用を越えたら,憲法の限界線も越えるのかというと,それは必ずしもそうとも言えないわけで,改めて憲法の公開とさまざまな利益等を考えて,憲法の枠内の立法政策としてこういうことが妥当だと言えれば,刑訴法の281条の運用と少し違ったものができたとしても,おかしいことではないのではないかという気がいたします。   先ほど河本委員が言われたように,公開停止等の措置をとっても足りない場合ということが281条について言われていた,その種のことがいろいろ書かれていたというのは確かかもしれませんが,想定されていたのは多分,強姦事件で被害者が容易にしゃべらないというような,いわば公開停止に関する憲法82条の「公の秩序」,いや失礼,「善良の風俗」の方ですか,それに当たる典型的な事例であり,そのようなものを念頭に置きながら,議論してきたということかと思います。今回の問題は,それとは少し事案の類型が違うのではないかということだけ申し上げたいと思います。 ○山口座長 河本委員どうぞ。 ○河本委員 手続運用イメージに3ページの(5)の例�Aのところです。弁護人提出の陳述等の要領の記載を受けて,検察官から,相当詳細な質問を行うことになる旨の意見を出されるとともに,その場合には,特定事項にわたる蓋然性は非常に高いということでございます。これは,丁々発止のやりとりの中で,そういう事項に当たってしまうということだと理解しておるわけです。   実際の訴訟の運用を考えてみますと,公判前整理手続で,被害者の方から検察官が事情を聞き取って必要な秘匿措置はしっかり行われたという後の話になるわけですが,それだけやっても,なお秘匿措置だけでは足りない事象が生じてしまう。これは丁々発止というだけでは説明し切れないものがあるような気がしています。きちんとした秘匿措置を定めておれば,それで済む事象ではないのかなとも思うわけです。適切な秘匿措置・呼称を定めるべく,公判前整理で努力しなければいけないと思っているのですが,それでもなお足りないということは一体どういうことか。ここで書かれているのは,熱くなってしまってつい出てしまうとか,そういうことだけではない,そういうことではないと思うのです。ここで書いている相当詳細な質問,それから蓋然性の高さという辺りについて御説明いただければと思っております。 ○山口座長 お願いします。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 証人尋問,あるいは被告人質問の場合ですと,さまざまな事項に質問,あるいは供述なりが及ぶことが想定されるところです。そこは特に反対尋問等でやる場合には,予定調和的に,予定されている供述だけが出てくるということでは必ずしもないのだろうと思います。今回の事例では非常に簡略化した事例ではありますが,この事例でも,もともと薬品Qの入手先まで及ぶかどうかというところまでは,事前に想定できなかったということは考えられるだろう。あるいは,この事例をさらに敷衍するならば,薬品Qの入手先ではなく,薬品Qの性質についてもっと具体的なことが述べられるということも証人尋問や被告人質問で述べられることは十分考えられ,そういうことを考えると,すべてを網羅的に事前に秘匿決定,あるいは呼称等の定めを設けて対処するには,十分な攻撃防御方法を尽くすというところに支障が生じるのではないかと思うところでございます。 ○山口座長 どうぞ。 ○河本委員 例えば秘密性について深刻に争っている事案における証人尋問ということになりますと,そういう事案ではそれだけで秘密に関する間接事情等を含め,相当の質問,供述,証言ということが考えられる。そうした証人尋問・被告人質問そのものの特質により必要となるとお考えならば,少し広い感じになってしまうような気がします。   そうではなくて,本件で問題になる営業秘密の性質上,こういう質問を行うとこの分野の情報が出てしまう。そこまでのことを御説明いただいた上で,期日外尋問の要否の判断をするのだろうと。その辺りはいかがでございましょうか。要するに具体的な証言なり供述の予想,予測までの疎明をいただくのか,もしくは,これはかなり事情が細かく及ぶ可能性がある,抽象的なものだけでいけるとお考えなのか,その辺りいかがでしょうか。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・杉山企画官) この要綱案でも,事前に陳述等の要領を提出することを求めることができるとなっております。そこの中で証言なり被告人質問の大枠なりは見えてくる場合があるだろうと思います。ただ,そこからさらにいろいろな点に話が及ぶことになりますと,ある程度すべて具体的に予想した上で,この期日外の尋問の決定をしなければならないということではないだろう。そこは具体的に陳述が予想されている点について詳細な反対尋問を行う,いろいろな方面から行うということであれば,それは期日外尋問を行う必要性は十分認められることになるだろうと思っております。 ○山口座長 河本委員。 ○河本委員 期日外尋問の要否を判断する上で非常に大事なところなので,よく考えておきたいところではあります。弁護人提出の陳述等の要領を裁判所が見て,証人尋問,被告人質問では,こういう証言なり供述が出て,それが事業活動に支障を生じるような情報かどうか,きっちり聞いてから証人尋問に入る,被告人質問に入ることになるというイメージかと思います。   そうであれば,その段階で適切な秘匿措置をとっておけば,期日外尋問の登場が減っていくことを想定されているのか。それとも,交互尋問というのは,非常に発展性のある,流動性のある,将来の予測できないものであるということから,交互尋問を行う証人尋問,被告人質問では,もうそういう危険性が類型的にあるというお考えなのか。その辺りはいかがでしょうか。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) 類型的にあるというのは,そこは言い過ぎだろうと思います。何が争点になって,どういうポイントが質問され,それからさらに反対尋問されということになるかということではありますが,それだからといって,具体的にこういう話が必ず出ますよという高度の蓋然性まで要求しているわけではない。このペーパーに書いた蓋然性が非常に高いというのは,典型的な事案を書いたわけでありまして,蓋然性が非常に高いこと自体が要件ではないと思っております。 ○山口座長 林委員どうぞ。 ○林委員 河本委員の御質問に直接お答えしているかどうかわからないのですが,もっと単純に私は考えておりました。秘匿決定して,読み替えを決めます。(ア),(イ),(ウ)とここでは3つなっていますが,多分実際の事件ではもっと多いと思います。ただ,その秘匿決定をして,もちろん弁護人は読み替えを使って,本件加工温度云々という御質問をされると思います。しかし被告人が,「はい,本件加工温度とは」という答えをすることを期待できないと思います。たとえ読み替えを守ろうと被告人が努力したとしても,(ア),(イ),(ウ)の3つでなく4つ5つとなっていけば,現実的にはそのようなことは期待できないと。当然そういうようなところから,被告人の供述が営業秘密特定事項にわたる蓋然性が高いかどうかというのは,秘匿決定をした段階でわかることではないかと思います。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) (ア),(イ),(ウ)で書かれているような,温度等を質問する必要性があるのでしょうかというところが問題なのです。だから,被告人質問だからとか,証人尋問だから,類型的にこういった秘密,特定事項にわたる蓋然性があると認められるかというと,そうではありませんとお答えしたところでございます。だから,どういう事項についてこの被告人質問で聞こうとしているのかというところが,そういった多数にわたる呼称に関して話が及ぶのかどうなのかというところを陳述の要領を記載した書面を提出することによって,ある程度おそれの判断というのができるのではないかということだと思っています。 ○山口座長 いろいろ御意見いただきましてありがとうございました。第3についても御議論いただかなければなりませんので,第3について御意見があれば,ぜひお聞かせいただきたいと思います。   林委員どうぞ。 ○林委員 何度も申し訳ないのですが,第3の要件ですが,現在の要綱案は,前回の御説明によりますと,刑訴法の299条の3の被害者特定事項に関わる秘匿措置の文言を参考にされていることかと思います。この同条の想定しているのは,公訴事実とは別の,保護法益が何らかの形で侵害される場合についてでして,文言を拾い読みしますと,財産に害を加えるようなおそれがあると認めるときは,秘匿措置を求めることができる。但し,被害者特定事項のうちの起訴状に記載された事項以外のものに限る,という条文だと思います。   この点,本件についていいますと,公訴事実とは別の営業秘密を特定する事項が明らかになることによって,当該営業秘密が保護法益を喪失することになりますので,財産に害を加え,若しくはそれ以上の状態になるのではないかと思います。そうするとこの要綱案の第3の「検察官又は弁護人は,証拠開示に当たり」の次を,「被害者,被告人その他の者が保有する営業秘密が明らかになるおそれがあると認めるときは」として,「相手方に対し」に続けてしまって,「支障」云々という要件は,なくてもよろしいのではないかと思います。これが1つの案です。   もう1つ案があるのですが,これは証拠開示に当たり,どこを秘匿要請するかというお話だと思います。そうすると1つ参考になるのが,「訴訟記録の閲覧制限に関する民訴法の92条1項2号というのがございます。その2号では,訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密が記載され,又は記載されること」について疎明があったときには,裁判所は当該当事者の申立てにより,当該訴訟記録中,当該秘密が記載された部分について,秘密保護のための閲覧等の制限をすることができるという規定になっております。「記載されている」という書き方が本件にはなじまないかもしれませんが,代替案としては,「検察官又は弁護人は,証拠開示に当たり,被害者,被告人その他の者が保有する営業秘密が記載されていると認めるときは,相手方に対し,」という形でつなげる。   まとめますと,支障要件を削除して,「営業秘密が明らかになるおそれがあると認めるとき」はとするか,「営業秘密が記載されていると認めるときは」という形にしてはどうかという御提案でございます。 ○山口座長 どうぞ。 ○事務局(法務省・杉山企画官) この規定ですが,被害者特定事項の関係ですと299条の3がございまして,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉もしくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められるときという形で,この規定に倣っているわけであります。   これもまた,先ほどの議論に共通するところもあろうかと思うのですが,証拠開示に当たっても,こういった制限をかけるのも例外的な在り方なのだろうと思います。そういう意味で,むやみやたらに広げるということでなく,少なくとも現行法の刑訴法は,今申し上げた被害者特定事項のように,著しく害されるおそれという形で絞っているということでございます。そうすると今委員が御指摘のように,単に営業秘密の内容が明らかにされるおそれがあるとか,営業秘密が記載されているという要件だけでこれを制限するというのは,やはり適当ではないのではないかと思っているところでございます。   現実問題として,こういう場合は仮想事例になってしまいますが,既に営業秘密自体の内容が明らかになっている場合でも,例えば今言った2番目の案ですと入ってしまうようなところもあり得ると思いますので,一定の歯どめというか例外的な措置についての要件ですので,一定程度厳格に絞る必要はあるのかなと考えているところでございます。 ○山口座長 どうぞ。 ○林委員 2番目の場合の営業秘密というのは,非公知なものですから,入らないと思います。ただ,提案した中では,最初の方の「明らかになるおそれがあるとき」というほうが妥当ではないかと思います。299条の3との比較ですが,著しくという要件が,299条の3で入っているのは,保護法益を侵害するおそれとの関係で,著しくということが入っているのだと思います。営業秘密の方でいきますと,営業秘密が明らかになると保護法益が喪失してしまうという,もう「著しく」に勝るとも劣らないわけなので,そういう意味で,むしろ「明らかになるおそれがあるとき」と端的に書いてもよろしいのではないかと思いました。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 ただし書きなのですが,現在の案では,「営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項以外のものに限るものとする」という記載があります。問題は,「起訴状に記載された事項以外」というところですが,今日の資料5の手続運用イメージの第2の1の公訴事実の概要というところを見ると,「製品Xの製造方法の営業秘密を取得した」と非常に抽象的に書かれています。私は起訴状を通常どう書くかは知らないのですが,こう書いてしまうと,営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項以外のものは存在するのか,よく分からないものですから,教えていただきたいと思います。 ○山口座長 お願いします。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 今の点は前回も御指摘いただいたところかと思います。ただ,この点については,基本的に被告人に対しても制限することはできるけれども,そこは起訴上に記載された部分は,被告人に起訴状が送達されますので,その内容は被告人にとっても明らかですので,それは知られないようにすることを求めることができないということでございます。そういった意味で,被害者特定事項でもこれは全く同じ記載をしておりますし,文言上も,「営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項」という形に記載しておりますので,そういう形であれば誤解を生じるおそれはないのではないかと考えております。 ○山口座長 どうぞ。 ○山下委員 ただ,営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項というのが,こういうふうに抽象的に「製品Xの製造方法」と言ってしまうと,証拠はそれに関する証拠がほとんどで,先ほどの話からすると第三者のものもあるのかもしれないので,そこはここに入ると思うのですが,問題になっている営業秘密に関しての証拠は,すべてほとんどこれになるわけですから,起訴状に記載された事項以外のものというのは,第三者のもの以外には考えにくいと思うのです。それでいいのかということです。 ○事務局(法務省・岩尾管理官) ここの書き方の問題なんですが,まだ条文そのものではないので,ちょっとラフに書いて誤解を与えてしまったとしたら恐縮ですが,起訴状には「製造方法」と抽象的に書いているわけです。そうするとそれ自体からは,まだ被告人にはその中身は知られていないということで,じゃあここの例で言うと,加熱する温度や時間や薬品名が具体的に書かれている部分は保護の対象になる,こういう趣旨でございます。誤解を与えて恐縮でございます。 ○山下委員 これでも日本語の意味として,起訴状に記載された事項と言うと,「製造方法」というふうに広く書いてしまうと,恐らく全部入る。つまり2ページの例�Aにある,物質Aを加熱する温度,物質Aを加熱する時間,加工に用いる薬品,すべてそれは事項としては入っていると思うのです。日本語としては。これはそうではないというのは,非常におかしな解釈になるのではないかと思います。 ○事務局(法務省・杉山企画官) これは被害者特定事項のときにも同じような書きぶりでやっておりまして,そこも被害者特定事項というのは,名前が典型的ですが,ほかに住所であったり,勤務先であったり,いろいろな要素によって被害者を特定する事項があるわけでございます。ただし,そういったものについて被告人に対して知られないようにすることを求めることはできるけれども,起訴状に書いた名前,年齢は,被告人に知られないように求めることはできませんよという,いわば確認的なことを記載したものでございまして,それと同じような形で,今回営業秘密のことに関しても規定するということですので,特段誤解を与えることはないのではないかと思っております。 ○山口座長 山下委員どうぞ。 ○山下委員 被害者特定事項についての被害者の氏名,住所,これは明確だと思うのです。しかし,営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項というと,これは非常に多義的というか,私が最初に読んだとき,これはどう見ても営業秘密がすべてカバーしていて,第三者の営業秘密以外はあり得ないとしか読めないのですけれども,この被害者特定事項とはちょっとレベルが違う書きぶりになっていると思うので,これだと非常に誤解を与えるのではないかと思います。 ○山口座長 酒巻委員どうぞ。 ○酒巻委員 一言だけ,今のうちに聞いておきたいことがあります。もしこの要綱が法律になりまして,公判手続を動かしても,営業秘密がそれなりに保護されるという担保ができたとしたときに,この実体刑罰法令は非常に重い法定刑,特に10年以下の懲役で罰金は個人でもかなりの額に及ぶ財産犯ですね。この法定刑に現れているような重大な財産的保護法益の犯罪類型を親告罪のまま維持する理由というのはなくなるような気もするのですが,そこはどのように考えたらいいのでしょうかね。実務上は多分,被害者の被害届ないし告訴によって捜査が開始されることになると思いますが,親告罪にしておく積極的根拠はあるのか興味深い問題であろうと思います。 ○山口座長 御意見としてお伺いしますが,何か発言ありますか。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 若干今の時点での考えを申し上げますと,親告罪にしている趣旨は様々な要因があるんだろうと思います。この営業秘密の関係で親告罪にしている趣旨が,刑事手続の中で漏れてしまうこと。だから親告罪ということでは,必ずしもないのだろう。それは刑事手続にしなくても,こういう刑事手続の中ではなくても,告訴することによっていろいろな弊害が考えられる。刑事手続以外の場面で,例えば相手の被告訴人を刺激することによって逆にそこで公にされてしまうおそれとか,それは刑事手続外の話だと思うのですが,そういったことも考慮して,営業秘密を保有する被害者の方に告訴するかどうかの権利を与えているということだと思いますので,今回の措置ができたから親告罪を外すということにはならないのかなと,今の段階では思っているところでございます。 ○山口座長 林委員どうぞ。 ○林委員 1点だけ確認したいのですが,第3の秘匿要請に違反した場合,例えばこれはアトニーズアイズオンリーにするような手続だと思うのですが,弁護人が被告人に漏らしてしまった場合,これは第1回の際,第1の秘匿決定違反は刑訴法295条4項の弁護士会の措置請求で対応するという御説明をいただいて,刑罰の対象にはならないという御説明をいただいたと思うのですが,それと同様,第3の秘匿要請違反も刑罰対象ではないという理解でよろしいでしょうか。 ○事務局(法務省) この規定を受けまして,受けた相手方とすれば,これも他人に知られないように配慮すべき法的義務は当然負うのだろうと思います。ただ,これに違反した場合に刑事罰につながるかというと,そういった罰則は特段設けられているわけではございません。では具体的な効果とすれば,仮にこの義務に反して営業秘密が侵害されるような場合には,民法709条の不法行為等によって賄う。場合によっては,不正競争防止法上の営業秘密侵害罪が別途成立する場合があり得るだろう。そういった形での制裁ということになろうかと思います。 ○山口座長 いろいろ御議論いただきまして,ありがとうございました。司会のやや不手際もございまして時間を超過してしまいましたが,かなりの内容について御議論をいただくことができたかと思います。本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次回の御審議についてでありますが,本日,予定した時刻を超過しましたけれども,相当いろいろな面について御議論いただきまして,かなり議論の内容は熟してきたと考えられます。皆様方の御予定をお伺いしておりまして,次回予定されている日程としては12月7日になっておりますが,予備の日程として一応11月30日も確保していただいているところでございます。しかしながら,本日の審議の状況を判断させていただきますと,予備日は使用せずに,次回12月7日にもう一度,要綱(骨子)案について御議論いただいた上で,そこで可能であれば最終的に取りまとめをしたいと考えておりますが,そういうことでよろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。それでは,次回につきましては12月7日の火曜日とさせていただきまして,この研究会としての結論の取りまとめを行いたいと考えております。  なお,委員の皆様方からも,本日もいろいろな点について御意見をお述べいただきましたが,要綱(骨子)案に対する御意見,あるいは本日も御提示いただきましたけれども,具体的な修正案等がございましたら,事務局の方に事前に御提出いただければありがたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。   それでは,事務局の方より,次回の研究会の日時,場所について御説明をお願いします。 ○事務局(法務省・杉山企画官) 次回の研究会ですが,12月7日火曜日午前10時から,場所は法務省内で予定しております。法務省内の場所はまた後ほど改めて開催通知を送付させていただきますので,よろしくお願いいたします。 ○山口座長 それでは,本日は散会いたします。どうもありがとうございました。 —了—