裁判員制度に関する検討会(第5回)議事録 1 日 時   平成23年3月1日(火)13:15〜15:03 2 場 所   東京高等検察庁第2会議室 3 出席者   (委 員)井上正仁,大久保恵美子,酒巻匡,残間里江子,四宮啓,      土屋美明,前田裕司,松並孝二,室城信之,山根香織 (敬称略)  (事務局)西川克行刑事局長,甲斐行夫大臣官房審議官,和田雅樹刑      事局刑事課長,岩尾信行刑事局刑事法制管理官,西山卓爾刑事      局参事官 4 議 題  (1) 裁判員制度の実施状況等について(報告)  (2) 今後の検討会の検討議題,検討方法等について  (3) その他 5 配布資料   議事次第   委員名簿   資料1:地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数   資料2:裁判員裁判の実施状況について       (制度施行〜平成22年11月末・速報)   資料3:裁判員裁判の実施状況等について(要約)   資料4:調査票の返送・回答状況等について   資料5:調査票の回答状況等について(要約)   資料6:裁判員経験者の意見交換会について   前田委員説明資料:「裁判員制度に関して日弁連で議論している項目」 6 議 事 ○西山参事官 予定の時刻となりましたので,裁判員制度に関する検討会の第5回会合を開会させていただきます。   それでは,井上座長,お願いいたします。 ○井上座長 本日もお忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございます。   議事に先立ちまして,委員の交代があったということで,それについて御報告があります。   人事異動に伴いまして,裁判所の角田委員に代わり河合委員が,また,検察の白木委員に代わり松並委員が新たに委員になられました。   河合委員につきましては,残念ながら本日公務のため欠席されると伺っております。   それでは,松並さん,簡単に自己紹介をお願いできますか。 ○松並委員 昨年10月に最高検の裁判員公判部に参りました松並と申します。本日から委員を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ○井上座長 よろしくお願いします。   続きまして本日の資料について,御確認をお願いしたいと思います。 ○西山参事官 刑事局参事官の西山でございます。   本日の資料は,議事次第,インデックス付きの資料が1から6まで,それから,前田委員から配布の御希望がありました資料でございます。資料の1から6については,後ほど詳しく御説明いたします。 ○井上座長 それでは,早速議事に入りたいと思います。   お手元の議事次第に沿って進行させていただきます。   まず,最初に裁判員制度の実施状況等について,事務当局の方から御説明をいただきます。お願いします。 ○西山参事官 それでは,裁判員制度の実施状況等につきまして,お配りした資料に基づき御説明いたします。   まず,本日お配りしているインデックス付きの資料1から6までについて,まずどのような資料かを簡単に御説明した上で,各資料を御覧いただきながら,裁判員制度の実施状況等を御説明したいと思います。   資料1「地検別 裁判員裁判対象事件罪名別起訴件数」は,平成21年5月21日の裁判員制度施行後,本年1月末までの約1年8か月間における,地検別,罪名別の起訴件数をまとめたものです。   資料2は,最高裁判所作成に係る裁判員裁判の実施状況に関する資料です。   最高裁判所で行われました裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において公表されており,制度施行から昨年11月末までの裁判員裁判の実施状況に関する各種統計資料となっています。   続いて,資料3「裁判員裁判の実施状況等について(要約)」は,ただいま御説明いたしました資料2と前回の検討会においてお配りいたしました昨年1月から4月までの間に実施された裁判員裁判の裁判員等に対して行ったアンケート調査の結果について,主な内容を法務省において要約して1枚にまとめたものです。   資料4「調査票の返送・回答状況等について」は,平成23年の裁判員候補者名簿記載通知に同封された辞退事由等の有無に関する調査票の回答状況に関する資料であり,本年1月に最高裁判所から公表されたものです。   資料5「調査票の回答状況等について(要約)」は,ただいま御説明した資料4のうち,定型的辞退事由に関する表2−1の内容につき,法務省において円グラフ化し,平成21年,22年の状況と対比できるよう,これらの円グラフも併せて掲載したものです。   最後に,資料6「裁判員経験者の意見交換会について」は,昨年10月から全国の地方裁判所で実施されております裁判員経験者の意見交換会に関する資料です。こちらも最高裁判所で行われた裁判員制度の運用等に関する有識者懇談会において公表されており,2頁以下に,別紙として裁判員経験者の感想等をまとめたものが載せられております。   続いて,それぞれの資料の内容について,更に御説明いたします。   まず,裁判員裁判の起訴件数・判決人員等について御説明します。   資料1を御覧ください。   左から2番目の列に,赤字で罪名別起訴件数が記載されており,その一番下が合計欄で,本年1月末まで約1年8か月間の全国の起訴件数は,合計3,149件となっています。これを1か月平均に直しますと,約157件が起訴されているということになります。罪名別では,多い順に,1強盗致傷775件,2殺人653件,3現住建造物等放火285件,4覚せい剤取締法違反247件,5傷害致死226件となっております。また,検察庁別に見ますと,多い順に千葉が331件,東京が288件,大阪が262件などとなっており,これらの順序は,いずれも前回の検討会で報告させていただいたところと変わりはございません。   一方,裁判員裁判の判決人員については,資料1の右にある二つの青枠の下の方を御覧いただきたいと思いますが,本年1月末までで,判決言渡し人員は合計1,745人となっています。判決言渡し人員を件数に直しますと1,918件になります。人員数と差が出るのは,1人の被告人が複数の事実について起訴されている場合があるためです。起訴件数は3,149件ですので,判決件数と比べてみますと,約61%について判決まで至っていることになります。前回,昨年10月末までの件数について御報告した際には約53%でしたので,判決件数の割合が大きく上がっており,審理の迅速化が進んでいると言えるのではないかと思われます。   次に,資料2に基づき,裁判員裁判の実施状況について御説明いたします。これは,先ほども申し上げたとおり,昨年11月末までの統計です。   まず,裁判員候補者の選任については,資料2の5頁の表4に掲載されております。裁判員候補者名簿に登録された方,約35万人の中から,実際に個別の事件で裁判員裁判を行う段階で選定された裁判員候補者の数は,表4の上段にあるとおり,12万3,914人となっています。そして,調査票の回答により,欠格事由等がある方や辞退が認められる方を除いた9万2,427人に呼出状が送付され,さらに,呼出状の送付後に辞退が認められたなどで,実際に選任手続期日に出席された方は4万8,545人,平均すると裁判員裁判1回当たり33人となっています。出席率は81.2%となっており,この出席率は,前回報告のとおり,昨年7月末まででは82.2%でしたので,ほぼ横ばいの状況と言えます。   次に,5頁の表3によると,選定された裁判員候補者のうち,辞退が認められた候補者数は6万4,862人であり,辞退が認められた割合は52.3%となっています。昨年7月末までの辞退率は51.5%であり,大きな変化はありません。   また,6頁の表5によれば,辞退の理由については,70歳以上などの定型的辞退事由を除くと,辞退が認められた事由として,「事業における重要用務」,「疾病障害」,「介護養育」の順に多くなっています。この順序も前回御報告した本年7月末までと同様です。   次に選任手続となりますが,資料2の7頁の表7を御覧いただきますと,昨年11月末までで選任された裁判員は8,498人,補充裁判員は3,054人となっています。   続いて,裁判員裁判のために要する期間等について,資料2の7,8頁を御覧ください。7頁の表9では,公判前整理手続期間が自白否認別にまとめられており,昨年11月末現在で,公判前整理手続の平均期間は全体で5.2か月,自白事件で4.5か月,否認事件で6.5か月となっています。また,公判前整理手続期間が6か月を超えている事件が405件ありますが,この中で最も長いものは535日,すなわち約1年6か月であるとのことです。   開廷回数については,7頁の表10にあるとおり,昨年11月末現在の平均開廷回数が全体で3.7回となっており,開廷回数が3回又は4回の判決人員数が全体の約82.5%を占めています。昨年7月末までの平均開廷回数は3.6回でしたので,全体としては少し延びております。なお,自白否認別の平均開廷回数を見ますと,自白事件では3.4回,否認では4.3回となっております。   資料2の8頁では,表11−1が受理,すなわち起訴から終局までの期間である審理期間,表11−2が第1回公判から終局までの期間である実審理期間,表12が評議時間について,それぞれ自白否認別にまとめられています。表11−1によりますと,昨年11月末現在の平均審理期間は全体で7.8か月であり,自白事件につき7.0か月,否認事件につき9.3か月となっています。また,表11−2によりますと,昨年11月末現在の実審理期間は,最も多い3日が555人で約37.7%,次に多い4日が403人で約27.4%となっています。この順位は,昨年7月末までのものと変わっておりません。   さらに,表12によりますと,評議時間については,昨年11月末現在,全体の平均評議時間が480.3分,すなわち約8時間であり,前回御報告した昨年7月末現在では,全体の平均評議時間が451.1分,すなわち約7時間半でしたので,全体的に少し長くなっていると言えます。   最後に,資料2の9頁表13に,「罪名別・量刑分布別(終局区分別を含む)の終局人員及び控訴人員」が掲げられています。これによりますと,昨年11月末までで終局人員は1,501人です。右から2列目に「その他」とありますのは,公訴棄却決定や移送決定がなされたものです。無罪が1人,有罪判決では,死刑は2人で,7年以下5年超が一番多く,326人となっています。なお,本年2月10日現在では,無罪は6人,死刑は3人に対して言い渡されています。   続いて,資料4を御覧ください。これは,「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」の発送日である平成22年11月12日以降,同年12月7日までに返送された調査票の回答状況等を,最高裁判所でとりまとめたものです。   調査票は,就職禁止事由や定型的辞退事由などの有無を調査するもので,これら調査事項に該当しない場合には,返送する必要のないものです。   年齢70歳以上や学生・生徒であるなどの定型的辞退事由についてのみ申し上げますと,5枚目の「表2−1」と書かれている資料に,その内訳が記載されており,資料5に円グラフで示しております。平成21年,22年の結果と比べてみますと,いずれも「年齢70歳以上」が最も多く,定型的辞退事由の申出者の約3分の2を占め,次に「重い病気,ケガ」が多くなっており,この2つで大半を占める結果となっております。   そして,資料4に戻りますが,最終頁の「図2」は,1年のうち参加が困難な月の回答状況を示しており,年度末である3月,その前月の2月,年度始めである4月,年始めの1月,年末である12月,夏休み期間である8月の順に多くなっております。この順序は,平成22年の調査票の回答状況と同じです。   最後に,資料6により,裁判員経験者が参加した地方裁判所主催の意見交換会の概要を御説明いたします。   平成22年中に,東京地裁,大阪地裁を始めとする8つの地方裁判所において,意見交換会が実施されました。それぞれ6名から8名の裁判員経験者と法曹三者から各1名が参加して行われたとのことです。   2頁以下の別紙の中から,項目ごとに裁判員経験者の感想や意見をいくつか御紹介いたします。   まず,裁判員裁判に参加しての全般的な感想・印象としては,「自分がしっかり社会の一員として,何かしてあげたいなというふうに非常に強く思いました。本当に,犯罪をなくすために何をしたらいいのかというところを割と真剣に考えるようになってきたのかなというふうに思っています。」,それから,「人が人を裁く,量刑とかを決めなくてはいけないということは,とても難しいと思いました。今までは,いろいろな裁判のニュースを見ても,自分たちで好き勝手なことを言っていたのですが,こういう経験もしてみて,ちょっと意見も変わって,やっぱりいろいろな立場の考えも少しできるようになった気がします。」というように,裁判員を経験したことで自分自身も変わったという感想が述べられました。   また,精神的な負担に関して,「メンタルヘルスに関しても紹介していただき安心しました。」,それから,「精神的な負担感の解消は,公判で明らかになった内容や経験した感想などを他人に話し,労ってもらうことで気持ちが徐々に落ち着きました。」という声がある一方で,「審理が4日間で終わりましたが,それ以上になると,気分的にギリギリだと思います。」,ほかに,「仕方がないことだと分かっているのですが,傍聴されている方もおり,この人が裁判員だというのも分かっている中で裁判をするのに大変抵抗がありました。」といった感想もありました。   次に,選任手続については,「せっかく裁判所まで来たのだから選んで欲しいと思っていました。大半の人が選ばれずに帰りましたが,それだけ多くの人員を確保する必要があるのかと感じました。」という指摘もありました。   審理については,「検察側の方も弁護側の方も画面を使っての説明があって,分かりやすかったです。」,あるいは,「しっかりと自分たちを見て,目を合わせてくれていたので,非常に説得力があり,納得できる感じがしました。」などと検察官・弁護人それぞれの工夫を評価する意見とともに,「裁判員になること自体が初めてであり,その場での緊張感があるので,多くのことについて説明を受けても頭に入ってこないことが多々ありました。」といった指摘もなされています。   証拠についても,「適量だったと思います。これ以上多くあると無理だと思います。」という方もあれば,「プライバシーや人権の保護のため,明らかにされていない部分が多く,証拠が少ししぼられ過ぎているという感じを受けました。」という意見もありました。   手続や法律用語については,「どこが異議ありで,何が誘導尋問なのかと悩んでいるうちに,どんどん話が進んで行き,ついて行けなくなるときがありました。難しい言葉が出てきて理解できないこともありましたので,分かりやすい説明があると良かったです。」との指摘がありました。   また,裁判員から証人や被告人への質問について,「『質問はありますか』と促されましたが,頭の中で考える時間や整理する時間が足りませんでした。評議になってからあの時あの質問をしておけばよかったなと思うことがありました。」,あるいは,「裁判中に,聞いてもすぐ分からないことを自分たちがその場で聞いて,裁判を止めるのは気が引けました。」といった戸惑いの声もありました。   評議・判決言渡しについては,「感情とかに左右されずに,出てきた証拠に照らし合わせて,評議をしました。」,あるいは,「評議では押しつけられることもなく,良かったと思います。」という感想もあれば,「裁判長がまとめよう,簡潔にしようと,時間を気にしたり,時間内に終わらせようとしている雰囲気があり,納得できるまで話し合えなかったと思う。」,それから,「量刑について最終的に裁判官の考えている落としどころに引っ張られている感覚があった。」といった指摘もなされています。   期日指定については,「9日日程でした。当初長いと感じましたが,要通訳事件でもあり,審理を進めるうちに,これだけの日程は必要だと思いました。」,あるいは,「午前中に選ばれて午後から法廷という状況よりも,午後選ばれて,次の日という方がまだ心の準備ができるのではないでしょうか。」,それから,「選任された日の午後からすぐに公判が始まりました。そのときは,『もうやるのか。』という気持ちがありましたが,自分の中でテンションが上がっていたので,このままいったほうがいいかという感じもありました。また,時間の短縮になります。」,それから,「中日のようなものを入れていただいて,もう少し冷静に頭を冷やして,翌日からというような日程が私はいいのではないかと思っています。」など,様々な意見がありました。   守秘義務については,「迷ったことはないです。」という声がある一方で,「やはり評議が始まる前に,言っていいことや悪いことを具体的にお聞かせいただいたほうがよかったんじゃないかなというように思います。」といった意見もありました。   以上,概観いたしましたように,大変幅広い御意見・感想が述べられたものとなっております。   なお,このような意見交換会は,本年も引き続き各地で行われております。   以上で,私からの御説明を終わらせていただきます。 ○井上座長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの説明につきまして,御質問等がございましたら,どなたからでも御発言いただきます。いかがでしょうか。   四宮さん,どうでしょうか。 ○四宮委員 いろいろな御意見が参考になりました。 ○井上座長 ほかの方は,いかがですか。 ○大久保委員 イメージがまだ一つ分からない部分があるのですが,その場にまで出かけてきて,そして選ばれなかった方たちに対しましては,どのような形でお帰りをいただいているのでしょうか。そういうときに何か不満ですとか,いろいろ御意見は出ないものでしょうか。 ○井上座長 直接的に答えられる方はおられないように思いますけれども,西山さん,分かる範囲でお願いします。 ○西山参事官 選ばれなかった方に対しては,例えば法廷見学や,裁判の傍聴をするプログラムを準備したというような工夫をされている裁判所も個々にはあると聞いています。   ただ,私が知る限り,最高裁判所などで選ばれなかった人にはこのようなことをするというような全国的・統一的な取扱いがあるというふうには聞いていません。 ○井上座長 酒巻さんは,最高裁の方の有識者懇談会にも出ておられますが,何か聞いておられますか。 ○酒巻委員 今,西山さんがおっしゃった程度しか知りませんけれども,これは庁によっていろいろ御配慮しているというのは聞いています。   それで,その一つの例として,御希望の方に,当該裁判員裁判は無理ですけれども,それ以外の現にやっている刑事裁判の法廷傍聴を御案内するというような例はあると聞いています。   選ばれなかった方の中には,休暇をまとめて取っておられるような方もいるらしいですが,そのフォローまではなかなか難しいでしょうね。ただ,各庁においていろいろな御配慮をされているというのは聞いております。 ○井上座長 私も,ちょっと伺ったら,やはり職場との関係で日程調整をされて来られた方はがっかりされるというか,せっかくそういうふうに調整したのにと思うということはあるようですね。   ただ,ここのところは難しくて,適正な選任をするためにはやはり一定数の候補者に来ていただかなければならないという要請と,余り多くの方に御負担をおかけしてはいけないという正反対の要請とがあり,どのぐらいの数の方に来ていただくべきかは,まだ試行錯誤の状況ではないかと思います。だんだん定着するにつれ,その母数の方についてある程度の見通しをつけ,過度に御負担をかけないような運用に,徐々になってきているのではないかと思うのですが。今,酒巻さんもおっしゃったのですけれども,アメリカの陪審員の場合などでも,選ばれないとがっかりする一方,選ばれるとまいったと思う,そういう裏腹な心理がやはり働くようでして,なかなか難しいなと思います。 ○大久保委員 ありがとうございました。 ○井上座長 残間さん,何か御質問ありませんか。 ○残間委員 やはり時間とともに随分みんなこなれてきたなという感じがあって,スピードも内容もよい具合になってきたと思います。それから,それぞれ感想をおっしゃる方たちの意見も明確になってきていて,いいふうに進捗しているなと感じております。 ○井上座長 山根さんは,いかがですか。 ○山根委員 私も順調に推移しているなと思っています。   先ほどの選任の件について,どうして選ばれなかったのか,どうしても理由が知りたいと言ってこられる方はいらっしゃるのかなと思いました。それから,経験者の意見交換会が何回も開かれてきているようですけれども,これは,ここにありますように無作為に抽選されて,やりましょうという方が出ていらっしゃったということですよね。 ○西山参事官 私が聞いているところでは,この意見交換会を実施することに決めた以降に,各地裁で,裁判員裁判で裁判員になられた方に,後に意見交換会をやりたいのだけれども御出席いただけますかということを改めて問い合わせ,集まっていただいた方で意見交換会を開催しているというふうに聞いています。 ○前田委員 東京地裁で私が聞いた範囲でもそのとおりですけれども,あらかじめ同意された方が何人かおられて,その中でくじ引きで選んで,来ていただいたというふうに聞いております。 ○井上座長 裁判員裁判が終わってしまってからフォローアップして裁判員経験者をお呼びするというのは非常に難しいといいますか,適切でないところもあるのですね。裁判員裁判が終わる段階で,そういう予告をし,同意していただいた方のリストからお呼びしているということのようです。 ○大久保委員 そうしますと,その場合,同意をする方というのは何パーセントくらいの方が意見交換会に出てみたいという意思表示をなさるものでしょうか。 ○西山参事官 そこまでのデータは分かりません。 ○井上座長 次回にでも,河合さんに分かる範囲でお話しいただきましょうか。  土屋さん,何かありますでしょうか。 ○土屋委員 判決言渡しが終わった後,裁判員の記者会見をやっているんですけれども,その記者会見に出てくださる方も,評議の最終段階で,記者会見に出てもよいかどうかということを,裁判所の方から聞いていただくことになっているんです。そのうち「記者会見へ出てもいいです」という返事をした方が記者会見に出てきているということですね。   現実には,裁判員と補充裁判員を合わせた総数の大体50%ぐらいの方が記者会見へ出ても結構ですという返事をされていて,実際,そのとおりほとんど出てきてくださっていると聞いています。   ですから,恐らくこれも同じようなやり方を,その場でされているのではないかと,推測しておりました。 ○井上座長 ありがとうございます。   ほかに,御質問がなければ,この点についてはよろしいでしょうか。   それでは,次に進めさせていただきます。   次は,今後の検討会の検討課題,検討方法等についてでございますけれども,この点について,各委員から御意見をいただきたいと思います。   まず,順次それぞれの方から御発言をいただきまして,お互いの意見に対する意見等は,一巡めぐってから御発言いただければと思います。   それでは,席順で恐縮ですけれども,まず,大久保さんからお願いできますか。 ○大久保委員 私がちょっとお話をさせていただきます中で,被害者といいますのは,被害者本人とその遺族を指しているということを御理解いただきまして,お聞きいただければと思います。   現在のメディアの報道内容や今回の資料の6番,それと,昨年2月23日に四宮委員がこの検討会で提出なさいました裁判員経験者の意見ですとかアンケート結果におきましても,被害者について触れている裁判員の方がとても少なかったということに,私自身は衝撃を受けました。   犯罪被害者等基本法もできたことで,もちろん法曹三者の方々や警察の皆様が,被害者に接するときの配慮ですとか言動,そういうものはとても改善されてきたと感じておりまして,それは大変有り難いことだと思っています。   けれども,一方では,国民一般の被害者への理解は遅々として進んでいませんので,内閣府が行いました国民の意識調査の結果におきましても,被害者は一般の人たちから二次被害を受けているという率が一番高いという結果も出ております。   私が,様々な場で少し被害者の話をさせていただくときに,皆さんに,加害者に関する言葉として,「罪を憎んで人を憎まず」とか,「泥棒にも三分の理」という言葉を聞いたことがありますかと聞きますと,100%の人が聞いたことがあると答えてくださいます。   でも反対に,「被害に遭った人たちは余りにもショックが大き過ぎるので,一人では回復できないので温かい支援の手を必要としているということを聞いたことがある方」と聞きますと,見事に誰も手を挙げてはくれないのですね。   こういうことからも,加害者の人権が大切にされているということは,国民一般の方たちも皆さん御存じなんだと思うんですね。でも,だからこそ被害者は加害者以上に国や社会から守られている,そのように思い込んでいる国民の皆さんが多いので,また被害者への無関心という形で表れるのではないかと思っています。   それと,日本では,被害者は,被害に遭うには被害者自身に何か問題があったのではないか,落ち度があったからではないかというようないわれなき偏見に,今も苦しめられているわけなんですね。   そのためにも,犯罪被害者等基本法の,今ちょうど第二次計画が出されるときですけれども,その中でも国民の理解の増進ということが課題となっております。ということは,実は裁判員になった皆さんも,被害者については,今まで余り聞いたことも考えたこともないのではないでしょうかと思うわけです。   一般常識として,その被害者の現状を知っていなければ,私は正しい判断はなかなかできないのではないかと思うんですね。裁判員経験者の声として,被告人の更生ですとか社会復帰を応援する内容が圧倒的に多いということは,やはり被害者のことを知らないからなのではないでしょうか。   メディアの方たちの取り上げ方も,被告人の面に偏りがちだというのは,やはり被害者への理解が少ないからなのではないかと感じています。   もちろん,日本の刑事司法は被告人への手厚い支援体制を法律で保障しています。ですけれども,是非考えていただきたいのは,まず,初めに支援を必要としているのは,その被告人によって被害を受けた被害者たちなのではないでしょうか。   裁判員裁判において,被害者は傷ついたり,納得できないと思うことが多々ありますので,少しここでその内容の紹介をさせていただきたいと思います。   まず,公判前手続についてなんですけれども,もちろん口頭で説明はされてはいますけれども,被害者は,精神的な状態が悪いがために,その状況が理解できるような状況にはありません。ようやく自分が受けた被害について考えられるようになったときには,既に争点が絞られてしまっていて,納得できないまま被害者を置き去りにして手続が進められているということがあります。   また,ビデオリンク等はありますけれども,被害者は裁判員に自分の顔をさらさなければいけないということに抵抗を感じています。また,証言の様子は自動的にビデオ撮影されて,評議の際に使うこともできるシステムになっていると聞いております。もちろん了解を得てということではありますけれども,被害者は自分の映像が残るということに負担を感じていますし,また,それが外に出ないと聞かされてはいても安心できない,そのように言っています。   特に,性犯罪におきましては,プライバシーが保護されるかどうかへの不安ですとか,顔をさらすことへの抵抗が強いために,例えば強姦致傷を強姦にしてと訴える被害者が出ている現実を考えますと,その制度の意義も問われるということもあるのではないでしょうか。   また,公判日程がどうしても集中して行われるために,傍聴を希望していても被害者の心身がその負担に耐えられないということもありますので,後で,耐えられなかった自分は精神的に弱いからだということで,被害者は自分を責めることで被害回復できなくなるということもあります。   裁判員裁判は注目されがちですので,報道関係者ですとか一般の傍聴の方の人数も多いため,被害者が安心して傍聴できるような環境には,現在ではまだなっていないと思います。   それと,裁判員の方に対しては,制度として保育体制ですとか,カウンセリング制度等がありますけれども,被害者へのこのような配慮はありません。   また,判決結果につきましては,納得できなくても,職業裁判官によって出された判決でしたら,法律の壁もあるしというような気持ちで諦めもつきますけれども,市民感覚の判決だと言われてしまいますと,納得できずに,社会の中で孤立感がとても深まってしまいます。   また,中には裁判員に配布する資料が最近はカラフルで分量も多いということがありますけれども,それだけ裁判員の方は手厚く処遇されているという様子を目の前にしますと,怒りを感じる被害者もいらっしゃいます。また,裁判官は,どちらかといいますと裁判員の方ばかりに気を使っていると感じると訴える被害者の方もいらっしゃいます。   以上のことは,被害者ですとか被害者支援都民センターの相談員の方たちが日ごろから訴えているごくごく一部に過ぎません。被害者が被害に遭った上に,更に裁判員裁判で二次的被害を受けて,被害回復ですとか,社会復帰ができなくなるような状況は,どうしても改善していかなければいけないと思います。そのためには,裁判員裁判になった事件の被害者の方へのアンケート調査等を行っていただきたいと思います。   それと,この検討会でも,被害者の方,あるいは被害者支援センターの相談員の方たちから直接話を聞く機会を持っていただきたいと思っています。被害者が安心して裁判員裁判に関わることができて,司法や社会への信頼感を取り戻すことによって,その後の人生を自分らしく,もう一度生きて行けるような制度にしていっていただきたいと思います。   裁判員制度は,確かに関係者も理解を深め,一般市民の方たちも理解を深めてきていると思います。でも,その中にあって,被害者だけがまだまだ取り残されているというように感じてしまいますので,是非その点の辺りも検討の課題に入れていただければと願っておりますので,よろしくお願いいたします。 ○井上座長 ありがとうございました。   それでは,続きまして酒巻さん,お願いします。 ○酒巻委員 裁判員制度の,これまでの運用状況を踏まえ,また,専門家として制度設計段階に関与した立場から若干の意見を述べます。   結論としては,現行制度の基本構造について,致命的な不具合があり根本的な修正を要する点は特に認められないと考えております。   その上で,微調整ではあり,やや技術的なことではありますけれども,法の改正によって修正を検討することが考えられる点を若干申し上げます。また,制度の修正ではなく,運用上の工夫で対処すべき事項や,むしろ変更すべきではないと考える事柄についても,付随的に触れたいと思います。   まず最初に,裁判員裁判の対象事件の範囲に関することです。御承知のとおり,現行法では人の死を引き起こした罪,つまり一般国民による判断を求めるのが適切であり,意味があるというふうに考えられた重大事件に加えて,法定刑の重い一定の犯罪類型が対象事件になっております。   この結果として,覚せい剤等の密輸入の罪や通貨偽造の罪が対象事件に含まれています。これらの犯罪類型について,その事実の認定と量刑判断に国民の社会常識を反映させて多角的な判断を求めることが果たして適切であるかどうかという点については,再検討の余地があるかと考えております。   次に,現在は,対象事件でありましても,裁判員に危害が加えられるおそれなどが具体的に認められる場合には,当事者の意見も踏まえ,裁判所の慎重な判断を経て,個別に裁判員裁判から外すという制度がございます。実例も凶悪な暴力団の関与した事件で1件あったと承知しています。このような裁判員の負担に対する配慮から設けられた除外措置は,今後も必要と考えております。   そこで,やや視点は違いますけれども,公判前整理手続を経て争点と証拠を整理してみたけれども,やはり著しく長期間の審理期間が見込まれる,あるいは非常に複雑な審理が予想される特殊例外的事案について,やはり裁判員の負担という観点から,これを個別的に除外する制度が必要かどうかということは検討の余地があるだろうと考えております。   なお,このような観点からの除外措置とは異なり,被告人の意見によって対象事件に該当する罪を職業裁判官だけで審理することができるようにする,あるいは,もともと裁判員対象事件でない罪を被告人の意見によって裁判員裁判の対象事件にするといった考え方は,裁判員制度が被告人の権利あるいはその利益のみのための制度ではなくて,むしろ被告人の意見,利害に関わらず,これが在るべき望ましい刑事裁判制度,司法制度として設計導入されたという基本的な考え方に反しますので,望ましくないと考えます。   次に,選任手続につきましては,関係者の工夫によって適切に運用されておりまして,制度的な修正点は余りないのではないかと思っています。特に性犯罪の事案につきましては,選任手続の段階から関係者による様々な運用の工夫が行われて,被害者情報の秘匿や保護が図られていると承知しております。この点は,今後も運用上の工夫を続けることで対処するのが適切であろうと考えます。   また,母数がまだ少ないので確たることは言えませんが,私が今まで見たところでは,これまでの裁判官裁判の量刑と裁判員裁判の量刑で,大きな変化の兆しというのは余り認められないのですが,性犯罪についてだけは量刑がやや重くなる傾向が見て取れる点は,やはり注目すべき点ではないかと思っております。   次に,いろいろな議論があります守秘義務の範囲について,裁判員の守秘義務については設計段階で十分な議論の上,要するに裁判員が評議と評決に安心して全力で臨めるようにという観点から設定されており,現在の守秘義務の範囲は必要十分で適切なものと考えております。その範囲自体を変更修正する必要があるとは思われません。むしろ大事なのは,裁判員経験者に対して,具体的にどのような事柄が守秘義務に触れ,何が触れないのかという具体的な実例を挙げてガイドラインをつくるといったような形で,運用上の努力を積み重ねることにより裁判員経験者の不安解消に努めるのが適切だろうと思います。   それから,やはり裁判員制度に関連するとして,司法制度改革で新たに設計導入されました公判前整理手続における証拠開示制度について,いろいろな意見があるところは承知しております。しかしながら,公判前整理手続というのは,刑事訴訟事件のごく一部である裁判員制度のみならず,日本の刑事裁判制度全体の基本設計と運用に関わる制度でございます。したがいまして,より広い多角的な観点から,その運用状況を検討し分析すべき領域であって,裁判員制度との関連のみで問題を捉えるのは適切でないと思います。   最後に,今後の検討方法について,やはり何よりもこれまでの運用実績と状況をつぶさに把握して,想像や希望的観測ではなくて,何よりも具体的なデータに基づいて議論を進めていくのが重要だと考えております。そのような具体的データの多くは,最高裁判所が逐次把握集積し,また,これまでも随時公表されていると承知しております。   そのような具体的,客観的データの利用を,今後も,この検討会でも進めて,これに基づいて物を考えていくのが重要だと思います。   そのようなデータの中でも,特に貴重だと考えられますのは,各裁判員裁判ごとに実施されている裁判員のアンケート結果,特に,その自由記述欄の記載であると思います。   このような生の意見につきましては,裁判員経験者の一部の意見に偏ることなく,まずは,この検討会でもそのようなアンケートを網羅的に全部読んで,これを委員が認識するのが望ましいし,今後の検討の大前提になるだろうと考えております。   私からは,以上でございます。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   それでは,残間さん,お願いいたします。 ○残間委員 私は,ずっと皆さんとの話し合いの中でも申し上げてきたことなんですが,現行はまあいいのではないかと思うのですが,この先いろいろなことを,ここで出てきた御意見も含めてですが,相当先まで見据えていかないといけないと思っています。やはり今は緊張感もありますし,それから,世の中の裁判員の方たちに対する興味と関心も含めて,大きいものがあると思うのですが,どうしても人間というのは刺激が強くなるとどんどんエスカレートしていくし,一方で,それも平準化してくる。そうなったとき,つまり,多分この制度というものが熟してくるときだと思うのですが,そこに向かってあらかじめ想定して,どのくらい時間がたったときに,どういうふうになるのか,慣れが表れて,欠席する人たちの率も高くなってくるのではないかとか,あるいはメディアの取り上げ方も変わってくるのではないかとか,考えておく必要があると思います。それから,今,大久保さんがおっしゃったような,なかなかそこまで細やかに配慮がなされていないと思われる方たちの意見も反映された新しい形が,ちゃんとできてくるべきであろうとも思います。   ですから,ここまでのことは,おおむね皆さんもいいという御判断だと思うのですが,この先のマップについて,世の中というのは本当にあっと言う間に変わってしまう,人の思いというのは変わってしまうものですから,人の思いとか時代の気分,そういうことが犯罪が引き起こされる要因の中にも,大いに反映されているわけですから,きちんとした中立的な立場で公正に判断しなければいけないということを機軸に,この先のパブリックリレーションも含めて,3年後とか5年後とか,そのぐらいまで当事者の注意事項として項目立てをしておくというぐらいがいいのではないかと思います。少し取り越し苦労ぐらいまでやっておいたほうがいいような気がいたします。   以上でございます。 ○井上座長 どうもありがとうございます。   では,次に,四宮さん,お願いします。 ○四宮委員 かねがね申し上げていますように,今までの経過を見ますと,非常に順調な経過をたどっていると思います。これについては,国民の皆さんの御協力と,それに携わる専門家たちの努力もあると思います。   議論をしておいたらどうかという意味での,私の意見ということなんですけれども,先ほど酒巻先生は制度論と制度の運用を一緒に議論されて,そして,関連制度ということで御意見をおっしゃったのですけれども,分かりやすく手続の流れに応じてその都度,例えば,これは裁判員法の問題に関わるとか,これは運用でやっていくべきではないかというような点を申し上げながら,お話ししたいと思います。   まず,対象事件ですけれども,スタートとして現在のカテゴリーは大変によくできている,よく考えられている制度だと思いますし,私自身はこれを今変える,少なくとも今の対象事件のうちいずれかを裁判員制度から外すということは考えるべきではないと思います。   特に,その罪質に関する御意見が先ほどもありましたけれども,私自身の理解としては,やはり覚せい剤にしろ通貨偽造にしろ無期刑というのが国民の合意としてあるわけですので,そういった重い刑罰を国民に科するプロセスには,やはり裁判員として関与していく理由と必要があると私は思います。   ただ,もう一つ,むしろ事件の種類によって国民に判断に加わっていただいたらどうかと思うのは,争っている事件です。この争っているというのをどの範囲にするかというのは,技術的な問題もあるとは思いますが,罪質として重大事件ではなくても,争う事件については範囲を広げていくということも一つ議論されたらどうかと思います。   次に,公判前整理手続ですが,これは裁判員制度特有というわけではありません。しかし,裁判員制度は必ずこのプロセスを経なければいけないということになっておりますので,ここで議論をしておいたほうがいいのではないかと私は思いました。   特に証拠開示ですけれども,最近あった鹿児島の無罪判決を読むと,正しい事実認定を行うために,というところでわざわざ一項目を設けて,証拠開示について触れています。特に被告人のほうに有利に働く証拠についての開示について述べています。おそらくは,裁判員の皆様も正しい事実認定をしたいと,もちろん思っていらっしゃるわけで,そのための証拠開示の在り方ということが,やはり避けては通れないのではないかと私は思います。   次が,選任手続と裁判長の説明の部分です。最近,裁判長の説明に当事者が立ち会わなかったというケースがあったようですけれども,今回の裁判員の方の資料6の御意見などを伺うと,例えば,検察官と弁護人の役割が違うことが手続の最後の方で分かったという御意見とか,刑事裁判とは何をするところかというのが,これも手続の最後のほうで分かったという御意見がそれぞれございました。これは運用の問題だと思いますけれども,裁判長のいわゆる法39条の説明の内容について,やはりもう少し理解が深まる方向での運用が検討されるべきではないかと。最高裁判所が一つのサンプルをお示しになって,私も大変よく工夫されたものだと思いますけれども,それでも分からない方がいらしたということですので,運用として御検討をいただけたらと思います。   それから,審理の計画ですが,これも運用ですけれども,今回の資料6の御意見の中でも,十分な時間があったという御意見があると同時に,納得できるまで話ができなかったという御意見もあります。もちろん,これはケースによっていろいろだと思いますけれども,もし裁判員の皆さんがもうちょっと議論をしたいというようなことがあれば,審理計画は柔軟に見直していくということも,運用として必要ではなかろうかと思います。   私個人としては,公判がスタートする前に判決の言渡しの日時まで決まっていることには,個人的には少し違和感を感じておりました。そのために十分な評議が損なわれるようなことがあってはならないと思います。そもそも審理計画は,裁判員のためにも立てられているのではないかと思います。   それから,公判の在り方ですけれども,なかなか当事者に,特に弁護人に厳しい御意見がたくさんあって参考になりました。   ここでは,これも裁判員制度特有のものではないのですけれども,関連するものとして,公判審理の在り方として,特に無罪を争うケースの場合に,有罪・無罪を争うプロセスと,有罪を前提にして刑を決めるプロセスとを分ける手続を真剣に検討すべきときに来ているのではないかと思います。   これは,裁判員にとっての分かりやすさという点から特に強調したいと思いますけれども,最近は裁判所によっては,運用としてこのような手続をなさっている裁判官が複数いらっしゃると聞いておりますけれども,これを手続論として検討されたらどうかと思います。   それから,次は公判の記録なんですけれども,私自身この点についてはまだ十分な情報がないのかもしれません。先ほど大久保さんから御紹介があったように,公判での法廷の審理の様子がすべて映像と音声で記録をされて,それが評議でどのように活用されているのかという点についての情報が私にはありませんので,まだ何とも言えませんが,議論の中でその情報をいただいて,公判記録の在り方,特に速記の在り方などについても議論されたらどうかと思います。   そして,評議・評決ですけれども,ここは先ほど審理計画の中で申し上げたことと同じであります。ただ,これも関連ということですが,最近国会の方でも死刑事件に関する評決についての議論が,また始まっているようです。具体的な法律案等の報道もありました。だとすると,死刑事件は必ず裁判員裁判対象事件になりますので,この点も議論されてはどうかと思います。   次に,守秘義務ですが,先ほど酒巻先生からの御意見を承りました。私が今回,資料6を拝読して特に印象深かったのは,裁判員の中に「経験してよかったと心から思うので,それを皆様に伝えていきたい」という御意見とか,「今後ともこの制度を広めるためにできる限り話していきたい」とか,「裁判員を経験した人の,それは役目だろう」という御意見もあり,大変に感銘を受けたところです。   今回の資料6の中には,その限界の不透明さということの御意見は全くありませんでした。迷うことはなかったと,むしろおっしゃっておられました。 ただ,いろいろな記者会見からの情報として,先ほど大久保さんも触れていただいた私が提出した資料においても,守秘義務の限界がよく分からなくて苦労したという意見がかなりありました。   このように,特に裁判員としての経験を語っていきたいと思ってくださっている方のためにも,守秘義務の範囲,特にその評議の経過とか,評議の秘密と言われている抽象的な文言を使った守秘義務の対象範囲については,もっと明確な範囲に改める必要があるのではないかと思います。したがって,この点についても議論を是非していただきたいと思います。   そして,最後にメンタルヘルスケアの点です。これは既に最高裁判所がサポート窓口をお作りになっておられまして,制度としてはあるわけですけれども,私の知る限り,ちょっと古いですが,昨年の4月末現在で利用件数が23件ということで,大変少のうございます。これはなぜかということです。23人だけが問題を抱えたということでは,多分ないのではないかと思いますので,何らかの手当て,例えば,今後は追跡をすることが可能かどうか,あるいはグループでのカウンセリングを受ける方法なども,検討していただけたらと思います。   制度あるいはそれに関する意見はそれだけですが,最後にこの検討会の議論の進め方の方法として,私としては,この資料6のようにやはり経験者の意見が大変に重要だと思います。   それで,どのように集めるのかということですが,先ほど酒巻先生からは,裁判所の客観的なデータに基づくのが一番いいという御意見もありました。それはそのとおり,一つの御意見だと思いますが,やはり私たちは,この検討会では直接お話を聞く必要があるのではないかとずっと思っておりました。では,どうやって裁判員経験者を集めるのかというのがあるので,それは知恵をこれから絞るということですが,司法制度改革審議会のときにも,全国で4か所だったでしょうか,意見を聞くという機会を持ったことがあります。   先ほど,西山参事官のお話ですと,この資料6の場合には,これから裁判所にいらっしゃる方に,今後こういう意見交換の場があるから参加していただけるでしょうかと問い合わせましたというふうに伺いました。もし,この検討会がそういった声を聞くということであれば,全国何か所かを決めて,これから行われる事件で,裁判員としてお越しになる方々にあらかじめお尋ねをして,お話を聞くということも可能なのではないかと,私の希望も含めてですけれども,申し上げたいと思います。   以上でございます。長くなりました。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   それでは,土屋さん,お願いします。 ○土屋委員 制度が実施されてから2年間の感想というところから話してみたいと思うのですが,スタート前にいろいろと懸念していた点がありました。それは,まず裁判員選任手続に候補者の人が実際出てきてくれるのかどうかということだったのです。大変高い出席率だということで,これなら大丈夫だなというところを今感じております。   制度に対する理解の深まりがあるのではないかということなんですが,ただ,現状について,ちょっと提案というと変ですけれども,感じるところがあるのは,各地裁が呼び出す人数を,もう少し減らしてもいいのではないかということです。先ほど座長が言われましたけれども,発足当初は慎重な構えで,事件ごとに100人を呼び出すというやり方をしておりましたけれども,今後も高い出席率が続くのであれば,70人,50人と減らしてもよいのではないかと思います。国民の負担を軽減するという意味合いで考えたらどうかなと思うのですが。   実際,イタリアに行きまして話を聞いたときに,「イタリアでは30人呼び出せば十分である」と裁判長が言っていらっしゃいました。裁判に参加する国民の数は日本と同じ6人ですけれども,「8年間やって,それで一度も足りなかったことはありません」と言っていました。そこまでいくかどうか分かりませんけれども,運用が定着してくれば考えていっていいのではないかということを感じます。   公判前整理手続は私がとやかく言う話ではありませんが,とりあえず今のところはうまく機能しているのではないかと感じます。ただし,証拠開示の点は今後もいろいろと検討を望みたいところがあります。   審理の面では格段に分かりやすくなりました。2009年の9月に大阪地裁で,裁判長が検察官に業界用語は使わないようにというふうに注意をした場面もありまして,言わば専門家だけで通用するというような今までのやり方を意識的に改めるという方向性がはっきり出ていると思いました。これはいいなと思うんですが,逆に,ある裁判所では,裁判長の席の前にタイマーといいましょうか,時計が置かれていて,それを見ながら,時間を気にしながら裁判長が審理している風景が傍聴人にも見えておりまして,これはよろしくないなという気がします。   審理計画を立てたのですから,それにこだわるというのは分かるのですが,そういうことに余り注意を向け過ぎると,審理が粗雑になるのではないかという印象を与えてしまうマイナス面があるということを感じます。   評議については,それほど大きな不満は聞きません。ただ,共同通信社が裁判員経験者のアンケートというのを2010年7月にやったのですが,その中では評議の進め方について,いろいろと今日の配布資料の中にあるような内容のことがもう出ております。「もっと話し合いたかった」と言う裁判員も16%いて,評議の充実感というのがいま一つだったのかなという感じを持たせる結果が出ております。   次は,市民参加の充実化,現実感の問題なのですが,判決文の変化がまた非常に目立っております。「常識」という言葉が判決文の中に登場したりして,これは今年の1月24日に東京地裁で言い渡された無罪判決の中に出ているのですが,「常識に照らしてなお疑いを残す」とかいう表現,これは千葉地裁でも出ていますけれども,そういう常識というのが判決文の中に登場して,やはり市民参加というのはこういう形で表れているんだということを,正に実感させられたという感じです。   先ほど四宮委員がお話しになられた鹿児島地裁の判決なんですが,これを見ると,検察官は主張していないがと言って一種の仮説を示して,その仮説の可能性をつぶすという作業を判決文の中で書いている。これなども非常に印象的です。評議の中身がこういう形で見える判決文になっています。これは非常にいいことだなと思っています。   それから,裁判員経験者の記者会見ですけれども,ここでも大変貴重な意見が出ておりますので,多くはアンケート結果と重なってくる部分があるのですが,是非,裁判実務に生かしてほしいと感じます。   ここでいつも問題になるのは守秘義務の関係です。評議の中身にわたるような質問が出たとき,裁判所は,それは守秘義務に関わる可能性があるというので制止をかけますので,トラブルになったケースが発足当時は結構ありました。   守秘義務についての私の考え方を言ってしまえば,ずっと以前から言っているのは,守秘義務の範囲を具体的に三つぐらいに絞ったらどうであろうかということです。評決の内容は何対何だったかということと,裁判員の人がどんな意見を言ったのかということ,それからその審理の中で分かった職務上知り得た秘密,プライバシー,そういったものについて公にしないということ。そういう範囲をはっきりさせればトラブルの根っこを断てるのではないかというふうに,今も考えております。   地裁とのトラブルというのは,最近は報告が非常に減っております。去年の夏ごろから,記者会見を巡るトラブルというのは,耳にすることがなくなりました。それは,恐らく慣行が成立して,各地裁のそれぞれのやり方が定着してきているんだろうと思います。   気になるのは,裁判員経験者との間のトラブルで,2009年10月に起きたことなのですが,法廷内のイラストを書いて新聞に載せたところが,非常によく似ていたせいか,個人が特定されるということで御本人から申し出があって,それが原因で記者会見の写真撮影が中止になったというケースがあります。   検討課題としてはいろいろ挙がっているのですが,裁判員とのトラブルが起きないように,これは心掛けていかないといけないと思っています。   その次は,ちょっとお願いでもあるのですが,広報活動の重要性の問題です。裁判員になると,我が社もそうなんですが,特別な休暇申請を出して,それで休暇を得て仕事をするということになるんですけれども,こういう休暇制度がどこまでいろいろ組織の中で設けられているのかという実態調査を何らかの形でしていただけないかなと思うのです。   厚生労働省で把握している部分もありますし,日本経団連,その他の経済団体,日本商工会議所も含めてですけれども,そういうような諸団体で把握している場合もありますので,特に中小企業などの関係で調査をしてみる必要があろうかなと思います。   そうすると,この制度について,どの程度まで認識度が広がっているのかとか,どういう問題があるのかということも,また出てくるのだと思いますので,そういうデータを何らかの形で調査していただけないかなと思います。   最後は我々報道の問題なんですが,前回御質問がありましたので,ちょっと私が勝手に説明したようなところがあるんですけれども,繰り返しになってしまいますが,今,日本新聞協会を始めとするプリントメディア,それから放送メディア,そういったところでそれぞれ業界の指針というのを定めているほかに,それを受けて各社が細かい事件,事故,裁判の報道についてのガイドラインを決めて,それに基づく報道をしております。   そういう自主的なルールが機能していると思っておりますので,この段階で法的な対処を考える必要はないというのが基本的な立場です。その内容については,もうちょっと御説明した方がよかったのかなというふうに前回は思ったのですけれども,大きなトラブルは起きていないと思います。   ただ,メディアの内部では,具体的な個別の事件について,それがガイドラインに整合したものになっているかどうかという点は,問題がないわけではなくて,例えば共同通信も指摘を受けたりするようなことがございます。   以上です。 ○井上座長 どうもありがとうございます。   それでは,前田委員,続いてお願いします。 ○前田委員 前田でございます。   私は,裁判員裁判で弁護人の役割を担います弁護士の団体であります,日本弁護士連合会の推薦を受けている立場ということもございまして,弁護士会における裁判員制度に関する現在の議論状況を御紹介しておきたいと思います。   ただ,議論している場所といたしましては,日弁連では,裁判員本部という組織をつくっており,その裁判員本部の小委員会というレベルです。小委員会で議論をして一定の結論を得ましても,更に裁判員本部での議論があり,更に日弁連の理事会等での議論があるということでございます。まだその小委員会レベルでの議論であるということを御了解いただきたいと思います。   既に,酒巻さんや,四宮さんなどからも出ておりますことと重なるかも知れませんけれども,一応どういう項目について議論をしているのかということに限って御説明をしたいと思います。   今日はペーパーを用意しておりますので,御参照いただきたいと思います。   一つは,裁判員法に関するもので,まず,対象事件の範囲について議論をしております。これは,減らす方向と増やす方向と二つございまして,一つは,除外する事件はないのだろうかという観点での議論をしております。例えば,冒頭に大久保さんのほうで御指摘のありました性犯罪を裁判員裁判の対象事件としていることに伴う様々な問題点がいろいろ指摘されておりまして,これについて取り上げました。   また,酒巻先生のほうから御指摘のありました覚せい剤取締法違反の事件ですとか,通貨偽造の事件についても,議論がなされております。また,制度設計の段階からもいろいろ議論がございましたけれども,少年の逆送事件について,議論もしております。   また,一方で,対象事件に加える事件としては,例えば否認事件で被告人が求める事件を加えてもいいのではないかという議論が出ております。   ただ,この除外する方向での意見に関しましても,また,対象事件に加える事件に関しましても賛否両論がございまして,弁護士会の内部である小委員会で意見がまとまるかどうか,全く方向性が出ていないということでございます。   それから,二つ目は裁判員の権限に関する問題でございまして,現在の裁判員法は,裁判員に加わっていただいた方に,その有罪か無罪かという事実認定とともに,有罪である場合の量刑判断をしていただくという制度設計になっているのですけれども,裁判員の関与を量刑から外すという意見があります。ただ,これにつきましても,また賛否両論ございまして,弁護士会で一定の方向でまとまるかどうか,方向性が見えている段階ではございません。   それから,裁判員の選任手続,これは若干技術的な問題として弁護士会で議論をしております。現行法では,不公平な裁判をするおそれのある裁判員の方の排除申立てをすることができる,あるいは,理由を示さなくても排除することができるという,そういう制度設計になっているわけではございますけれども,当事者の立場からしまして,その権利を行使するにしては余りにも材料が少な過ぎるのではないかと,そういう問題意識から,当事者に候補者に対する直接の質問を認めるべきではないのかとか,あるいは,東京地裁などでは裁判員候補者全体への質問を行っているのに対し,大阪あたりではグループ質問がなされているということで,不選任の請求等をする立場からすると,グループ質問がいいのではないかという議論も一方ではなされています。   また,質問票に自由記載欄を設けるなどして,工夫する必要はないかというようなことが議論されておりますが,これは,いずれも立法的手当てというよりも運用で解決するべきだということもございまして,この点も何らかの立法的手当てをすべきだという方向でまとまるかどうか全く方向性は出ておりません。   それから,裁判員への刑事裁判のルールの説明方法ということに関しましては,裁判員法の39条の説明をどうするかということです。最高裁判所においても議論をされて,一定の説明内容が示され,それに基づいて裁判員に対して,それぞれの裁判体が説明をしているわけですけれども,その説明内容や説明方法を法律や規則等できっちり規定するのはどうだろうかという意見が出されておりまして,これについて議論を進めております。   それから,先ほども出ておりましたが,裁判員の守秘義務に関しましては,現行の規定が厳格過ぎないかと,もう少し緩和できないだろうかと,こういう観点で問題が提起されておりまして,これについて議論を進めているところでございます。守秘義務に関しましては,日弁連は最も議論が先行して進んでおるところでございまして,既に日弁連の理事会レベルで議論をされている状況でございます。   それから,6番目といたしましては,裁判員の心理的負担を軽減する方策を議論しておりまして,もちろん運用面での改善が最もメインの方法ということになるわけでございますけれども,裁判官に対して法律上の努力義務規定を設けたらどうかという趣旨の議論をしております。   それから,7番目といたしましては,評決の要件についても検討を加える必要はないか,一つは,有罪の要件について更に厳格化を図る必要がないのか, また,死刑判決の評決要件に関しましては,特別にその要件を加重する,全員一致を要件としてもいいのではないかという議論をしておりますが,これもまだ議論の途中でございまして,一定の結論を出すという段階には至っておりません。これが裁判員法に関する議論の対象項目でございます。   それから,裁判員裁判の事件につきましては,公判前整理手続が実施されるわけですが,公判前整理手続に関しましては,先ほど各委員から意見が出ておりましたけれども,証拠開示制度を改革する必要はないのかということです。例えば,弁護人への証拠リストの交付をした上で,全面的な証拠開示につなげる方法は必要ではないかという議論が出ております。   また,立証制限の規定をもう少し緩和する方向で見直すべきではないのかという意見も出されております。さらに,公判前整理手続が余りにも重い手続になってはいないかという観点から,全体としての構造の見直しについても検討すべきではないかという意見が出ておりまして,これも議論をしておりますけれども,テーマがかなり大きいところもございまして,一定の結論を出すには相当の時間を要するのではないかと考えております。   それから,もう一つは,四宮さんのほうからも触れておられましたけれども,裁判員裁判の公判では,事実が争われる事件などにおいては,罪責認定手続と量刑手続を分ける工夫が必要ではないかということです。これを運用によって行うか,あるいは立法的手当てをするかという議論もしておりますけれども,これらについても,簡単には結論が出ないテーマであると認識しながら議論を進めているというところでございます。   また,最後に,裁判員裁判での控訴審の在り方について議論を立てておりまして,事実誤認を理由とする検察官控訴の制限が必要ではないかなどという観点から,議論を始めたところでございます。これも裁判員裁判に限らない,裁判手続全体の構造の問題でございますので,容易に結論が出るテーマではございませんけれども,一つのテーマとして議論をするというような状況でございます。   まだ日弁連としてまとまった意見は何一つございません。議論が進む過程で追々議論状況を説明するということがあるかもしれませんが,一定の方向が出たものについては,逐次御紹介しつつ,私個人の見解も付加して意見を申し上げたいと思っております。   以上です。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   大分時間が長くてお疲れだと思いますが,松並さん,続いてお願いします。 ○松並委員 検察といたしましても,裁判員制度の実施準備の段階から模擬裁判等を通じまして,裁判員裁判のための訴訟活動の在り方をいろいろ検討し,裁判が始まってからも,分かりやすく迅速で,しかも重要な点を漏らさない,そういう的確な主張立証を実践するよう努力してきているつもりでございます。   また,被害者等の心情などに配慮した実務の運営などにも努めてきておりますが,先ほど大久保委員からの貴重な御意見をいただきましたので,今後も,これらに万全を期するよう,最大限努力をしてまいりたいと思っております。   この検討会では,裁判員裁判の実施状況,とりわけ検察活動の実情について,今後も御説明申し上げる機会があろうかと思いますが,その上で,この検討会におかれて制度の運用状況について幅広く御議論をいただければ,私ども検察といたしましても,今後の運用に役立てることができると思っておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   私からは,以上です。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   では,室城さん。 ○室城委員 前回,裁判員裁判を傍聴した感想について,時間が押し迫っていたということもあって申し上げなかったものですから,ちょっと今後の進め方にも関連してお話し申し上げようと思います。   私が傍聴しました公判では,亡くなった被害者の御遺族が被害者参加人として出席して,意見陳述の場で非常に率直に被告人に対する思いや,情状に関する意見などを述べておられました。   被害者参加制度は,裁判員裁判に限られるものではないわけでありますが,このように被害者御遺族の方が裁判所に対して,自らの心情などを直接述べる状況というのを拝見いたしまして,刑事裁判における被害者の思いに応えるということが,一定程度ではありますが果たされるようになったのかということを改めて認識した次第であります。   そこで,今後の検討会についてでございますが,被害者保護や支援については,近年,警察におきましても様々な取組を進めているところでありますが,被害者や御遺族の立場への配慮が,裁判員制度の運用の中で,実際にどのようになされているのかについて関心を持っております。いろいろな運用上の工夫がなされていると聞いておりますので,今後,その実情について御紹介いただいたり,あるいは,他の委員の皆様の御意見等も伺うことができればなと思っております。   それから,第一次捜査機関であります警察といたしましては,証拠の内容が正確であることはもとより,裁判員裁判においては,その内容が一般の方にも分かりやすいものであることが重要だということを認識しております。   他方,例えばDNA型鑑定の結果などといった専門性の高い科学的な証拠などが含まれてきますと,裁判員の皆さんにとって,内容の理解が容易でないという面も出てこようかと思います。   そこで,この裁判員制度に関する検討会において,裁判員裁判における証拠調べの在り方や工夫などについて,実際の様子を御紹介いただいたり,御議論をいただくことは,第一次的に捜査に携わって証拠収集活動に従事しております警察にとっても有益なことではないかと考えておりますので,よろしくお願い申し上げます。   以上でごさいます。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   最後になりましたけれども,山根さん,お願いします。 ○山根委員 順調に進んでいると思いますけれども,安心することなく,よい見直しが図られて,より参加しやすい,みんなが納得する制度として定着が進むことを期待しております。   課題としては,私の立場からは,誰でも参加しやすい制度にすること,それから,やはり負担の軽減や様々な配慮についてということになります。   裁判に参加する数日間,仕事や家事などに支障が出ないように準備や手配をすることも大変です。多くのお立場の人が参加できるようにすることが制度をよくすると思いますので,いろいろな手立てを考えることがまだまだ必要かと思います。   例えば,医療や介護の現場で起こる事件とか,DVなどの問題に関してなど,法律の専門家による裁判ではなかなか気が付かない事件の背後にある問題などに,やはり多様な職業の人,多様な経験のある人が別の視点から気付くということがあったりすることの意義は大きいと思いますので,仕事を休めないとか,家事,育児,介護を頼める人がいないとか,障害がある等々の人がどうすれば参加できるかということをもっと考えていくことが必要かと思います。   それから,負担ということについては,大きな事件になればなるほど,裁く負担に加えて,マスコミなどからの注目にも耐えなければならないということになりまして,また期間も長くなることから,考えていくことはいろいろとあると思います。   関心はあって,参加する意義も理解しつつも,やはり残虐で生々しい写真や証拠物を確認して,人の命を左右する決断をしなければならないということを余りにも負担だとして,参加を拒むと言っている人は,私の周りにも少なくないのは事実です。   今後の参加の様子なども見ながら,また,日本の量刑制度の在り方そのものの議論なども見ながら考えていく必要があると思っています。   それから,裁判で結論を出すのに十分な時間が取れているかの検証もやはり大事で,後でもっと議論が必要だったという気持ちが残らないようにすることが重要だと思います。負担は少なく,かつ十分な話し合う時間をということで,難しい課題ですけれども,向かっていかなければと思います。   それから,一方で,被告人の立ち直りに関して,参加者の多くが関心を持って,刑務所の中での生活や社会に出てからの更生,保護観察の仕組みなどを知りたいという人が多くなっているということは,とてもいいことだと思っています。制度の実施の大きな成果であるとも思います。再犯防止ということにも少しでも効果があるといいと期待しますし,そういった関心に応えること,また日ごろから司法の理解を広げることに努めてほしいと思っています。   裁判員制度の理解とか定着は,法教育の推進ともセットで考えるべきだと思います。学校教育の中で,ある程度カリキュラムとしても進んできているというふうに聞いていますけれども,どの程度なのか知りたいと思います。   今,社会貢献とか新しい公共とか,持続可能な社会のために,そうした市民教育とか,そういったことが進んできていると思いますので,その中の大きな位置にも,この裁判員制度もあると思っています。   犯罪被害者支援と加害者の社会復帰支援,両方に市民の理解とか協力が進むことを望んでいます。   模擬裁判は,制度の開始の前に全国でたくさん,盛んに実施されていましたけれども,その後はどうなっているのかと思います。裁判を傍聴する機会も勧める仕組みも必要かなと思います。   それから,経験を伝えたい,あるいは経験した者同士で語り合いたいといったことに,どう答えるかというのも,また考えていくべきです。   守秘義務の範囲は理解されているのか,見直す必要がないのか,会見などで戸惑う人が多くいないのか,語り合う会の設置などはどういうふうになされるべきかなども,検討していく必要があると思います。   私自身も傍聴して感じたことですけれども,検察の方のほうが手際がよくて,弁護士の方のほうがやや不慣れで苦労しているような印象がありました。研修など,弁護士に対しても何か国による支援ができないのか感じています。   そのほか,性犯罪に関する裁判について十分な配慮がなされているのか,DVなどに関してもですけれども,社会全体にこうした問題の理解が進むような努力も必要ではないかと思っています。   それから,最後に最高裁判所の方で多くの資料を取りまとめたり,先ほどの意見交換会の開催なども指揮したりされていると思います。法務省,又はこの検討会と十分に連携をとって,見直しの議論を進めていけるとよいなと思っています。 ○井上座長 どうもありがとうございました。   ひとわたり御意見を伺いました。新しい論点もあれば,何か大分前に検討したときの論点がまた出てきているようなところもありますね。それぞれ御疑問等があると思いますので,御発言いただければと思います。 ○残間委員 大久保さんに対しての質問なのですが,罪を犯した人に対する更生してほしいというような気持ちがあるということから,被害者の方たちが二重に傷つくということがあるというお話は分かるのですが,逆に,裁判員制度を通したからこそ被害者の家族の思いがより深く,ちょっと変な言い方ですが,思いが少しは遂げられたというようなケースというか,そういう報告というのはないのでしょうか。   裁判員制度を通したがゆえに,少しは無念の気持ちが晴れたというか,そういう,先ほどのお話と逆の例というものの報告というのは全くないのでしょうか。 ○大久保委員 そうですね。そういう意見が入ればいいんですけれども,今のところ全く入ってはきませんし,裁判員裁判ではなくて,参加制度を使った被害者の方たちは,やはりそこで一定の役割を果たせた,言いたいことは言えたということで,その後少し次の一歩が踏み出すことができたということで,よかったという話はよく聞きますが,裁判員裁判だからよかったということは,現段階ではまだ入っておりません。 ○残間委員 そうですか,分かりました。 ○井上座長 ほかの方も,どうぞ。 ○前田委員 数値があるかどうか分からないのですけれども,通常の事件の被害者参加の割合と,裁判員裁判における被害者参加の割合って何か数字が出ていますか。分かりますか。   私がざっと見た記憶では,一般の事件は3,4%だけれども,裁判員裁判は十何%だったようです。うろ覚えだけで正確ではないのですけれども。 ○西山参事官 すみません,そのパーセントというのは。 ○前田委員 裁判員裁判において被害者参加がされる割合,それから,それ以外の事件において被害者が参加される割合ということですね。 ○井上座長 裁判所のデータにはあるかもしれませんね。ただ,難しいのは今の時点で二つを比べてみても,多分余り意味がない。罪種が違いますので。 ○前田委員 もちろん。 ○井上座長 時系列でみても被害者の方たちの意識とか制度整備も進んできているので,単純な比較は難しいと思うのですけれども,とにかくデータがあれば,出していただこうということですね。 ○前田委員 私の感想ですけれども,数字を見て,被害者サイドの方も,裁判員裁判にはそれなりに期待されている思いが何かあるのかなという気がしたものですから。 ○井上座長 大久保さん,何かその辺はつかんでおられますか。 ○大久保委員 実際に裁判員裁判等で裁判に関わった被害者の方たちといいますのは,現段階の制度の中では,被害者支援ですとか,被害者を手厚く被害直後からその裁判に関わるまで,裁判中もサポートをするという明確な制度というのはないわけなんですよね。配慮という形で,検察庁の皆さん,警察の皆さんというのは,かなり以前よりは,進んだ形で被害者の方の傷つきを予防しよう,心情を配慮しようということで動いてはくださっていますけれども,でも,それに比べても,やはり被告人の様々な何重にも保護されているような権利があったり,あるいは裁判員制度におきましても,裁判員の方たちへは大変気を使った形で様々な制度ができ上がって裁判員裁判も始まっておりますので,どうしても裁判所へ行ってしまいますと,その違いに圧倒されてしまってショックを受けるというのが,現段階での被害者の方たちの偽らぬ心情だと思います。   ですから,被害者も裁判員裁判に出てよかった,それによって,また次に生きていく力を得ることができたというような形に,どのようにすればいいのか,まだ明確には分かりませんけれども,是非そういうような方向性も忘れずに考えていっていただきたいと思っています。 ○井上座長 データについては,もし可能ならば補充していただければと思います。 ○西山参事官 分かりました。 ○井上座長 ほかの方はいかがですか。 ○残間委員 今のに関連します。私が見た裁判も,やはり被害者のお父さんがしっかりしていて,ちゃんと話をなさったことで,傍聴している私もすごく気持ちが揺れて,被害者側に対する思いの方が強くなったんですね。それが結果に反映されたとは言い難いところもあったのですが,多分傍聴席もみんなそう思ったのではないかと思います。   それまでは,被告人に対して,まだ更生し得るのではないかというのが,その傍聴席に蔓延していた空気でしたが,被害者のお父さんの言葉が大変冷静で沈着で,かつ,とてもきちんとしたお話だったので,傍聴席はおそらくみんなそちら側に気持ちが向いたというような感じがしたものですから,それは,お話をなさっている被害者の家族の方も少しは感じ取っていただけたのではないかとも思うのです。不幸に遭っているわけですから,明日を生きる糧にはならないにせよ,でも,何かそういうことを感じてくれたような,感じてほしいという思いでいたものですから。   多分そういうことがあって,裁判員裁判に被害者の家族が出て,それなりのことがきちんと言えると,ひょっとすると,それは大久保さんが思っていらっしゃるようなことの何分の一かには響くかなというように思いました。 ○大久保委員 確かに,裁判に関わることができたという被害者の方たちは,それで一歩踏み出すことができたということにもなりますので,被害回復には大きく役に立つと思います。   ただ,現段階では被害直後からサポートする体制というのは十分にはできていませんので,裁判所に行く,あるいは証言をするとか,参加制度を使う,意見陳述をする,それだけでも,何をどう言えばいいのかが分からないということで,なかなか制度を使える被害者の方もいらっしゃいませんので,そのあたりでは,参加制度を使う被害者には弁護士さんを公的費用で簡単に依頼できるようにする必要があると思います。今は資力要件等も結構厳しものですから,そういうようなところをしっかりと改善をしていくことです。   それから,先ほど公判前整理手続のことが出ましたけれども,被告人は弁護士とともに黙秘権も保障されながらその場に出ることができるのですけれども,被害者はその場に出ることさえできないわけなのですね。 そうしますと,何が行われたのか分からない。もちろん検察官はきちんと説明はしてくれますけれども,やはり百聞は一見にしかずで,全然想像ができない中で,何か言わなければいけないといいましても,何をどう言えばいいのかが全く分かりません。それが被害者の現状でもありますので,やはり,そういう意味におきましても,被害直後からの手厚い体制を,この日本でも本当に作り上げていかないといけないと思うのですね。 ○井上座長 分かりました。   ほかに御意見等ございますか。   主要な論点は大体網羅的に拾い上げられたと思いますけれども,ほかに従来から問題があるかもしれないと言われているのは,精神鑑定の関係ですね。   これについて,今のところ大きな問題が生じているというようにも承知していませんし,幾つかの事件をフォローしてみましたが,裁判員の方々も非常に真剣に向き合っておられ,素人ながらちゃんとした判断ができているというような感想を経験者の方が語っておられますけれども,一つの検証のポイントではあろうかと思います。その辺もまた含めて議論をしていければと思います。   皆さんの御意見をお聞きしますと,関心事項が大変多岐にわたっており,それぞれ重要な論点だと思いますが,今後の裁判員裁判の実施状況を見ていく中で,また新たな事項が出てくるかもしれません。   そういうことを考えますと,今回出された各事項を含めて,全体を丹念に点検しながら,丁寧に論点を拾って順次議論していくことにしたいと思いますが,そういう方向でよろしいでしょうか。   ただ,勝手な感想を申しますと,先ほどちょっと触れたことですが,制度設計のときかなり突っ込んで議論した論点も挙がっており,同じ議論をもう一度繰り返すのは建設的ではないので,そういう議論の経過は,それぞれの御専門の方は十分御承知だと思いますから,それを踏まえながら,更にこういうことがあるので,この点はもう一度見直さないといけないとか,あるいは進めていかないといけないとか,そういう議論をしていく必要があるように思います。   そういうことにも御留意いただいて,よろしくお願いいたします。 ○前田委員 進め方は,私自身としては何の異議もございません。 ○井上座長 次に,検討方法としてはヒアリングを行ったらどうかという御意見も複数いただきました。どの時期に,どういう方について,どういう形でヒアリングを行うべきかという点についても,今日いただいた御意見を踏まえて,引き続き皆さんと御相談して決めていくことにしたいと思うのですが,それでよろしいでしょうか。   そのほか,全般にわたって何か御意見,御注意等がございましたらお伺いしたいと思いますけれども。   どうぞ,山根さん。 ○山根委員 今お話に出ました古い議論かどうかというのは,ちょっと私の中では十分な理解ができておりませんので,その都度教えていただくか,あるいは何か整理したものをいただかないとと思うのですが。古くても必要な議論もあると思いますし。 ○井上座長 山根さんが今日おっしゃったことは,決して古い議論ではございません。  むしろ関係者の方々が,分かっておられながら前にもしたような議論をちょっと出されたものですから,申したのです。 ○山根委員 では,恐れずに何でも言ってよろしいということですね。 ○井上座長 はい,もちろん,これまでの経緯を分かっているはずの方達にお願いしたいというだけのことですから。山根さんなどには,率直にこれはおかしいのではないかとか,ここをもっと考えた方がいいのではないか,そう言っていただくことこそ重要だと思います。それについては,過去にもしかなり議論をしているとすれば,こういう議論がありましたという経緯を御紹介することはできますので。 ○山根委員 経緯は教えていただければと思います。 ○井上座長 はい。私を含め何人かは制度設計にかなり当初から関わっていますので,御説明は十分できると思います。あまりお気になさらないでください。   それでは,次回の検討会ですけれども,本日の御意見の中にも出ておりましたけれども,一つは,土屋さんがこれまで自分の説明が十分でなかったかもしれないというふうにおっしゃってくださいましたので,裁判員制度を定着させる上での一つの論点である,報道とのかかわりについて,少し突っ込んでお話しいただければと思っています。   また,今までは法曹三者の関わりという視点からのお話が多かったのですけれども,もう一つ,捜査の段階の問題もありますので,先ほど室城さんが分かりやすい立証との関係で証拠の収集の在り方というものに警察としても関心を持っておられるということをおっしゃっておられましたので,審理の分かりやすさとその前提としての警察捜査といった点に関して,少し突っ込んでお話しいただければと考えます。そういうことで,お二人からそれぞれお話しいただくということを中心に,次回は組み立てたいと思いますけれども,それでよろしいでしょうか。 お二人には御負担かけますけれども。 ○土屋委員 私は業界を代表する立場ではないのですが,どうでしょう。 ○井上座長 いや,一マスコミ人としてということでお願いできればと思いますが。 ○土屋委員 現場にいる者として,こういうことになっておりますというお話でしたら。 ○井上座長 それで結構です。 ○土屋委員 それでしたら,お話しさせていただきます。 ○井上座長 それでは,そういうことでよろしくお願いします。   本日はこのぐらいで終えたいと思います。   何か,ほかに御意見等ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,次回の予定について,西山さんから。 ○西山参事官 次回でございますが,委員の皆様の日程調整をさせていただきました結果,6月8日水曜日午後4時30分からとさせていただきたく存じます。場所等は追って御案内申し上げます。   以上です。 ○井上座長 大変お忙しい方々ですので,調整の結果そういうことになりました。よろしくお願いしたいと思います。   それでは,本日はどうもありがとうございました。